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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 全部無効 2項進歩性  G01N
管理番号 1312395
審判番号 無効2015-800050  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-03-03 
確定日 2016-03-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第5479018号発明「異物検査装置及び方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許5479018号は、平成21年10月9日に出願され(特願2009-235000号)、平成26年2月21日に特許権の設定登録がなされた。
これに対して、平成27年3月3日に、本件無効審判請求人(以下、「請求人」という。)により本件無効審判(無効2015-800050号)が請求され、本件無効審判被請求人(以下、「被請求人」という。)により指定期間内の同年5月18日付けで審判事件答弁書が提出された。
その後、同年7月1日付けで審理事項が通知され、同年8月13日付けで請求人及び被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、同月27日付けで請求人より上申書が提出され、同日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書の手続補正がなされ、同日に口頭審理が行われ、同年9月1日付けで被請求人より上申書が提出され、同月10日付けで被請求人より上申書が提出され、同月30日付けで請求人より上申書が提出され、同年10月14日付けで被請求人より上申書が提出された。

第2 本件特許発明
本件特許5479018号の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」といい、これらを併せて「本件特許発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(下記記載中の(1A)?(1C)は、後の便宜のために当審により構成要件を分節し、付記した記号である。)

【請求項1】
(1A)薬剤ビン内の混入異物を検査する異物検査装置であって、
(1B)薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する駆動手段と、
(1C)前記駆動手段で交互に回転駆動して薬剤ビンが停止した直後における前記薬剤ビン内の混入異物の移動を時系列で検出する検出手段と、
を有することを特徴とする異物検査装置。

【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記駆動手段は、前記正方向と逆方向の回転時間あるいは回転速度の少なくともいずれかを変化させることで回転条件を変化させて前記薬剤ビンを回転駆動し、
前記検出手段は、前記駆動手段の回転条件毎に前記混入異物の移動を時系列で検出する
ことを特徴とする異物検査装置。

【請求項3】
薬剤ビン内の混入異物を検査する異物検査方法であって、
(a)薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動するステップと、
(b)前記回転駆動を停止した直後における前記薬剤ビン内の混入異物の移動を時系列で検出するステップと、
を有することを特徴とする異物検査方法。

【請求項4】
請求項3記載の方法において、
前記(a)ステップでは、前記正方向と逆方向の回転時間あるいは回転速度の少なくともいずれかを変化させることで回転条件を変化させ、
前記(b)ステップでは、前記回転条件毎に前記混入異物の移動を時系列で検出する
ことを特徴とする異物検査方法。

第3 当事者の主張
1 請求人の主張及び証拠
請求人は、本件特許発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、以下のとおりの無効理由1?3を主張し、証拠方法として甲第1号証?甲第14号証を提出している。

(無効理由1)
本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明と技術常識とに基づいて、または、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証もしくは甲第3号証に記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(無効理由2)
例えば、「高粘度薬剤の場合」や「混入異物がガラス状の異物のように重い場合」に、(例1)本件図3のv1が小さい場合や、加減速が緩やかである場合、(例2)“正方向回転⇒逆方向回転⇒正方向回転⇒最後の逆方向回転⇒停止”の最後の“逆方向回転”の際に一定速度の期間がある場合、(例3)“正方向回転⇒逆方向回転⇒正方向回転⇒最後の逆方向回転⇒停止”の最後の“逆方向回転”から“停止”に至るまでの減速が緩やかである場合には、薬剤に対する相対的な動きがほとんどなくなることから、所期の作用効果が得られない。よって、本件特許明細書は、薬剤ビンを一方向に回転させる従来技術では検出できない場合(「高粘度薬剤の場合」や「混入異物がガラス状の異物のように重い場合」)に、本件特許発明が「薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する」ことにより「任意の溶液あるいは薬剤が収容された薬剤ビン内の混入異物を確実に検査すること」ができると当業者が認識できるように記載したものではない。
また、本件特許明細書には、課題を解決し得る具体例(実験データ)が全く記載されておらず、また、理論的な具体的説明もない。
以上のとおり、本件特許発明は、解決しようとする課題を解決できると認識することができず、本件特許明細書に記載したものでない。
したがって、本件特許発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(無効理由3)
本件特許明細書は、薬剤ビンを一方向に回転させる従来技術では検出できない場合(「高粘度薬剤」や「混入異物がガラス状の異物のように重い場合」)に、本件特許発明を実施するに際して「正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動」することしか記載されておらず、この条件だけでは任意の溶液が収納されて薬剤ビン内の混合異物を確実に検査するよう実施する方法を発見するには、当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤を行う必要があり、当業者が発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかが理解できない。よって、本件特許発明について、本件特許明細書の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
したがって、本件特許発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(証拠方法)
甲第1号証:西岡雅夫、「アンプル・バイアル自動検査機の開発事例について」、ファームテクジャパン、第17巻、第11号、第45頁?第50頁、平成13年10月1日発行
甲第2号証:特開2005-321306号公報
甲第3号証:特開昭64-18432号公報
甲第4号証:特開平10-19799号公報
甲第5号証:特開2009-156607号公報
甲第6号証:特開2005-98832号公報
甲第7号証:特開2005-70013号公報
甲第8号証:特公昭47-10466号公報
甲第9号証:特開2003-107011号公報
甲第10号証:拒絶理由通知書(平成25年6月25日付け発送)
甲第11号証:手続補正書(平成25年8月9日付け提出)
甲第12号証:意見書(平成25年8月9日付け提出)
甲第13号証:請求人の実験の条件および結果を纏めた報告書
甲第14号証:請求人の実験の結果を示す動画データを記録したCD-R

2 被請求人の主張及び証拠
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として、下記に示した乙第1号証?乙第3号証を提出している。

(証拠方法)
乙第1号証:異物検査の実験データ(パターン1?4)を示す書面(平成27年8月27日付け手続補正)
乙第2号証:異物検査の実験データ(パターン1’)を示す書面
乙第3号証:乙第1号証に対応する異物検査の動画を含む実験データ(パターン1?4)と、乙第2号証に対応する動画を含む異物検査の実験データ(パターン1’)についての電子データを格納したCD-R

第4 無効理由についての当審の判断
1 各甲号証に記載された事項
(1)甲第1号証に記載された事項(下線は当審により付加した。)
ア 「1.注射剤用異物検査機の原理
機械による異物検査は、カメラ視野内に現れた異物を的確に捕らえる光学的な検知機能と、異物を巻き上げて確実にカメラ視野内に浮遊させるスピン機能および捕らえた映像を高速かつ適切に行う画像処理技術が、バランス良くマッチすることにより、高精度かつ安定した検査が実現できるものである。」(第46頁左欄第1?7行目)

イ 「次にスピン機能であるが、上記いずれの検査方法でも異物を巻き上げて確実にカメラ視野内に浮遊させることはもとより、微小な異物を検出するためには正常な部分との光学的な相違がなければ検出は困難である。例えば容器の外観に異物が付着している場合、文字が印刷されている場合、容器自体が照明反射等により陰影・光沢を持つ場合、いずれも良品であるが異物との差異を判定しなければ誤検知となるか、異物の検出性を低下させることになる。現在、微小な異物の検査において一般的に用いられているのが容器を回転させた後に急停止し、内溶液に混入された異物のみを浮遊移動させて異物の動きを利用して検出する方法である。」(第46頁左欄第38行目?同頁右欄第10行目)

ウ 「しかし、さまざまな容器の形状、液剤の性質、異物の特性等により適正な回転条件は多様であり、高い検出率を得るためには単なる回転速度・回転時間のみならず、加減速条件・正逆転などきめ細かなコントロールが要求されている。」(第46頁右欄第10?14行目)

エ 「また、容器を回転させた後に急停止し、CCDで複数の映像を撮り込み、その映像間の差分を取ることにより、静止した映像を除去し、移動する異物のみの変化量を捕えらえる。このことにより、非常に微細な異物の検出が可能となる。」(第46頁右欄第30?37行目)

オ 「最近の異物検査機の動向を、新たにリッカーマンと日立エンジニアリングが共同開発したアンプル・バイアル高精度自動検査機『OCTO(Optical Control Tracking Operation)シリーズ(写真1)』を例にとり、以下に解説する。」(第47頁左欄第17?21行目)

カ 「最近の傾向としてシステムのコンパクト化が図られているが、本システムも100万画素CCDエリアセンサを内蔵した高精細超小型デジタルカメラを搭載している。また、CCDから出力された映像信号は、カメラ内でデジタル変換されてから画像処理部に高速伝送(デファレンシャル平衡伝送)されるため、映像信号が周囲の電気的ノイズに影響されにくいという特長を持つ。画像処理においては、大量のデータの高速処理がユーザーから求められているが、専用の高精細高速画像処理エンジンを開発・搭載しているため大量の高精細画像データの高速処理が可能となっている。」(第48頁左欄第2?12行目)

キ 「まる2(当審注:数字の丸囲いを「まる(数字)と表す。以下、同様。)透過法と反射法の併用
従来機の液中異物検査システムは、通常、透過法または反射法のいずれかであったが、本シリーズでは図4に示すように両法の併用が可能である。これにより、光透過性の高い異物、低い異物の双方に対して、より確実な検査が実現できる。さらにこの検査を2ヵ所で行っているので、同一容器に対して4回の液中異物検査をしていることになり、検出特性の高い安定した検査が可能になった。」(第48頁右欄第5?13行目)

ク 「まる1個別スピン制御
従来機の場合はワークのスピニングは外部ベルトで行っていたためスリップが発生したり、各ワークに対する細やかなスピン制御、正逆転を含めた加減速制御等ができなかった。本シリーズは図5に示すように、ワークごとにモーターを取付け、あらかじめシステムに登録したスピン条件に従い、各モーターを正確に制御する方法を採用しているほか、内蔵エンコーダの信号を取り込み、スピン監視を行っている。これにより外部ベルト駆動では不可能であったスリップのない、ワークに最適で細やかなスピンを正確に実施することが可能となった。」(第49頁左欄第2?12行目)

ケ 図5によれば、スピン機構による異物巻き上げについて、従来方式の外部ベルト駆動では加減速制御不可であったのに対し、OCTOおいては、検査ステーション毎に最適なスピンパターンが設定可能であるとともに、そのスピンパターンは、停止状態から、t1時間の加速、t2時間の回転数Nでの等速、t3時間の減速により正転させ、停止期間をはさんで、正転と同様の加速、等速、減速により逆転させ、停止させるものであって、t1とt3に対して加減速時間設定との文言が指し示されていることがみてとれる。




上記ア?ケから、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。

「容器を回転させた後に急停止し、CCDで複数の映像を撮り込み、その映像間の差分を取ることにより、静止した映像を除去し、移動する異物のみの変化量を捕える、注射剤用異物検査機であって、
CCDから出力された映像信号を画像処理部に高速伝送して高速処理するものであり、
透過法と反射法の両方を併用した検査を2ヶ所で行い、同一容器に対して4回の液中異物検査をするものであり、
ワークごとにモーターを取付け、あらかじめシステムに登録したスピン条件に従い、各モーターを正確に制御するものであり、
検査ステーション毎に最適なスピンパターンが設定可能であり、そのスピンパターンは、停止状態から、t1時間の加速、t2時間の等速、t3時間の減速により正転させ、停止期間をはさんで、正転と同様の加速、等速、減速により逆転させ、停止させるものである、アンプル・バイアル高精度自動検査機である注射剤用異物検査機。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)甲第2号証に記載された事項(下線は当審により付加した。)
ア 「【0001】
本発明は、円筒状の試料容器内の試料を撹拌する装置に関し、より詳細には、回転撹拌により採血管等の試料容器に採取された血液試料等の試料を撹拌するための撹拌装置に関する。」

イ 「【0003】
これらの装置では患者等から採血された血液の入った採血管を測定に用いるが、複数本の採血管を1列状に並べて保持する1列多架型の採血管ラックが用いられることが多い。そして、採血管ラック内の採血管を、上記全血を分析する分析装置に供する場合には、血液試料を均一にするために撹拌することが望ましい。なぜなら、このような血液中のグリコヘモグロビンA1cをHPLCにより測定する場合、グリコヘモグロビンA1cの多くが血液中の血球部分に存在しており、また、グリコヘモグロビンA1cは血球の老若により差があることが知られており、血球寿命の影響をさけるためにサンプリング前に採血管を撹拌することが望ましいとされている。」

ウ 「【0011】
上記課題を解決するために検討した結果、回転駆動部を有する回転ディスクを採血管ラックのわずかな隙間をもって載置させている採血管本体外周に接触させ、回転駆動力を採血管に伝導することで、採血管内の血液試料を撹拌することができることを見出し、また、低速な回転でも正逆回転を行うことで、採血管内部の血液試料の飛散を伴わずに、血液試料を撹拌できることをみいだして、本発明を完成した。」

エ 「【0039】
本発明の撹拌装置は、特に血液の撹拌において有用である。以下に示す実施例において認められるように、色素等で着色された水溶液と血液(全血)とでは、その有する性状、殊に粘性において相違があり、撹拌時に十分な制御をしないと血液の撹拌の場合には試料が容器より飛散したり、十分な撹拌効果が得られないことがある。このため本発明においては、上記の制御手段による回転駆動源の制御条件として回転速度及び同一回転方向への回転時間が重要であることをつきとめ、さらに回転を正逆方向に反転させつつ行うことで、十分な撹拌効果及び試料飛散抑制効果があることが分かった。」

オ 「【0040】
より具体的には、血液試料を飛散させず、充分に撹拌する回転条件を検討したところ、試料の飛散に影響する因子は、回転速度と、同一方向への回転時間(以下、移動距離という。)であり、さらに正逆回転を行うことで回転速度と移動距離の低減が可能となる。また、血液試料の撹拌に影響する因子は、回転速度と正逆回転を行う回数(以下、反復数という。)である。このような知見から、回転速度を抑えて、反復数を増やすことで飛沫物を発生させることなく、十分に撹拌することが可能となる。」

上記ア?オから、甲第2号証には、以下の発明が記載されていると認められる。

「回転撹拌により採血管等の円筒状の試料容器に採取された血液試料等の試料を均一にする撹拌装置であって、
低速な回転でも正逆回転を行うことで、採血管内部の血液試料の飛散を伴わずに、血液試料を撹拌できるものであり、
色素等で着色された水溶液と血液(全血)とでは、その有する性状、殊に粘性において相違があり、撹拌時に十分な制御をしないと血液の撹拌の場合には試料が容器より飛散したり、十分な撹拌効果が得られないことがあるため、制御条件として回転速度及び同一回転方向への回転時間が重要であり、さらに回転を正逆方向に反転させつつ行うことで、十分な撹拌効果及び試料飛散抑制効果があるものであり、
回転速度を抑えて、反復数(正逆回転を行う回数)を増やすことで飛沫物を発生させることなく、十分に撹拌することが可能となる撹拌装置。」(以下、「甲2発明」という。)

(3)甲第3号証に記載された事項(下線は当審により付加した。)
ア 「2.特許請求の範囲
(1)容器内に充填された液体または液体及び固体を撹拌する撹拌装置において、前記容器を回転自在に位置決めしほぼ垂直方向に支持する支持部材と、該容器の上部開放端を着脱自在に密閉する弾性部材よりなるキャップと、駆動源により回転駆動され前記容器に装着されたキャップに当接して摩擦力により該容器を回転する駆動手段とを具備し、該駆動手段を一定の周期をもって回転方向を逆転させることを特徴とする撹拌装置。」(第1頁左欄第4?13行目)

イ 「(産業上の利用分野)
本発明は容器内に充填された液体または液体及び固体を撹拌する撹拌装置に係り、特に血液などの試料を撹拌するに好適な撹拌装置に関する。」(第1頁右欄第3?6行目)

ウ 「(作用)
上記の構成によると、容器は支持部材によりほぼ垂直に支持された状態でキャップを介して駆動手段により回転駆動され、容器内に密閉充填された試料を撹拌することができる。しかも駆動手段の回転方向が一定の周期をもって逆転するので、試料同志が衝突して撹拌を均一に確実に行うことができる。」(第2頁左下欄第12?19行目)

エ 「この状態で第1のモータ22の回転を停止し第2のモータ33の回転を開始すると、駆動軸29が回転し係合部31とゴムキャップ40との間の摩擦力によって容器38が回転する。そして第2のモータ33の回転方向を一定の周期で逆転させることにより、試料39を確実に撹拌する。」(第3頁左下欄第5?10行目)

上記ア?エから、甲第3号証には、以下の発明が記載されていると認められる。

「容器内に充填された液体または液体及び固体を撹拌する撹拌装置に係り、特に血液などの試料を撹拌するに好適な撹拌装置において、
前記容器を回転自在に位置決めしほぼ垂直方向に支持する支持部材と、
該容器の上部開放端を着脱自在に密閉する弾性部材よりなるキャップと、
駆動源により回転駆動され前記容器に装着されたキャップに当接して摩擦力により該容器を回転する駆動手段とを具備し、
該駆動手段を一定の周期をもって回転方向を逆転させることで、試料同志が衝突して撹拌を均一に確実に行うことができる攪拌装置。」(以下、「甲3発明」という。)

(4)甲第4号証に記載された事項(下線は当審により付加した。)
ア 「【請求項1】 容器内に充填した液体を撹拌した状態で、容器の一方から光を偏光素子を経て照射し、容器内の気泡と固形異物との偏光角の相違により容器とカメラの間に配設し偏光角を制御する検光素子にて固形異物からの偏光のみを透過させ、この透過光をカメラにて撮影して混入異物の有無の検出を行うようにしたことを特徴とする容器内の混入異物検査方法。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、容器内の混入異物検査方法、特に容器内の液体中に混入した固形異物と気泡とを光の屈折率の相違にて識別し、該異物の有無を検出するようにした容器内の混入異物検査方法及びその装置に関するものである。」

ウ 「【0002】
【従来の技術】従来、点滴、その他の液体薬剤(以下薬液という)は透明な合成樹脂製の袋、或いは容器に充填している。しかしこの容器内には薬液の製造工程中にこの容器の破片やその他の不純物である固形異物が誤って混入することがある。この混入異物の有無の検査をカメラを用いて行っている。この検査方法は、容器内に混入した固形異物は比重によって容器底部に沈殿することがあるので、この容器をそのまま検査装置に挿入してカメラで透視検査しても沈殿した固形異物の有無を正確に検査することはできない。そこで検査する前に容器を上下方向に振動させるか、或いは回転、又は反転させて容器底部に沈殿した固形異物を薬液とともに動かして薬液中に浮遊させ、この固形異物が再び底部に沈降するまでの間に、かつ固形異物の浮遊状態をカメラにて撮影して検査するようにしている。」

エ 「【0025】本発明における容器内の混入異物の検出方法を次に示す。図1、図2においてターンテーブルの定位置で容器支持具に液体が充填密閉された各容器を供給して保持するとともに、このターンテーブルの回動にて、光源・カメラの対向位置に該容器がくる。このとき、各容器は回転手段にて回動され、容器内の液体は撹拌状態となっている。光源6から発せられた光は、偏光素子7、コンデンサレンズ8を経て平行光線となって、この光源・カメラを結ぶ一直線上位置にある容器に照射されるとともにこの位置の容器は回転手段にて回転されていた状態から容器回動をストッパーで停止した状態とする。これにより、容器内の液体中にもし固形異物が混入していると容器は停止しても液体は依然撹拌されているので異物が舞い上がり、液体中を浮遊している状態となる。なお、気泡は比較的早い時期に水面位置まで浮上する。」

(5)甲第5号証に記載された事項(下線は当審により付加した。)
ア 「【0001】
本発明は、容器台上に載せた容器を、容器台とその上方のトップロケータとで挟持した状態で回転させて所定の処理を行うロータリー式容器処理装置に係り、例えば、容器を回転させることにより容器内に充填された液体中に混入している異物を浮揚させて検出する異物検査装置等のようなロータリー式容器処理装置に関するものである。」

イ 「【0027】
…このように容器4を一方向に回転させると容器4内の液体も同方向に回転を始め、その後、容器4の回転を停止させても容器4内の液体が慣性により回転を続ける。この状態から容器4を逆方向に回転させると、容器4内の液体が回転していた方向と逆方向に回転する力が加えられ、攪拌された状態になる。液体がこのような状態になると、液中に異物が混入していた場合には、この異物が踊らされて浮き上がる。その後、容器4の逆転状態を継続させたまま、カメラ78、80、82の設置されている検査区間Dに容器4が入ると、3台のカメラ78、80、82によって連続的に複数回の撮影が行われる。この撮影を行う検査区間Dでは、容器の搬送経路の下方に設置した照明84によって容器4を下方側から照らしており、液中に異物があった場合には、カメラ78、80、82によって確実に検出することが可能である。」

(6)甲第6号証に記載された事項(下線は当審により付加した。)
ア 「【0002】
…載置台上で、容器を拘束して回転・停止を行う目的は、液体中に存在する異物が小さく、カメラでの撮影でも見つけにくく、それ故に容器を強制的に回転させて異物を強制的に動かして、画像処理で異物の有無やサイズ等を効果的に判定できるようにするためである。」

イ 「【0016】
…図4は、回転パターンと2つの異物検査例(液中、液底)との関係の一例を示す図である。モータ#1、#2、#3は検査ロータ1上での3つの連続配置したモータを示す。パターンP_(1)は、容器20の向き(角度)を検出するための回転パターンを示し。この回転パターンに従って容器を回転させて複数の撮像画像を得、向き検出を行う(図5)。回転パターンP_(2)は容器の向きを最適角度に設定する回転パターンであり、これによって容器毎に回転(θ_(i1)、θ_(i2)、θ_(i3)、…)制御をはかり最適角度の設定を行う。その後で液中異物検査を行う。これは、図1でみるに、検査部8での検査に相当する。更に第2の検査部をその下流(例えば270°位置)に設けておき、その直前の位置で回転パターンP_(3)で回転を行い、液体内部撹拌を行い、第2の検査部で液底検査を画像処理にて行う。」

(7)甲第7号証に記載された事項(下線は当審により付加した。)
ア 「【発明の名称】容器充填液体の異物検査方法」

イ 「【0001】
本発明は、容器に液体を充填した製品について充填液体中に混入の異物を検出する異物検査方法に関し、特に光透過性の容器に高粘性の光透過性の液体が充填された製品の検査に適した異物検査方法に関する。」

ウ 「【0015】
以下では本検査装置でなされる異物検査について説明する。図3に異物検査処理の流れを示す。異物の検査においては、図1における製品Mつまり図2における容器Bの回転と容器Bが非回転状態における検査画像の取得とを交互に繰り返す。そのために、まず容器Bを回転させない状態で検査画像(1枚目の検査画像)の取得を行う(処理101)。検査画像の取得は、容器Bを透かして充填液体Liを図1におけるカメラ21で撮影して行う。この撮影は、検査処理部24からの制御を受けてカメラ21を搬送ロータ2による容器Bの搬送に追従させる状態に動かしながら行う。またこのカメラ21との動きに対応させて照明光源22も動かすようにするのが好ましい。
【0016】
処理101に続いて図2の回転ユニット11により容器Bに回転を与える(処理102)。この回転は、容器Bと充填液体Liとの間に相対的な回転を生じさせることのできるような加速を加えて行うものとする。つまり充填液体Liが容器Bの回転に取り残され、容器Bに遅れて回転するかあるいは充填液体Liが回転せず、その結果として容器Bと充填液体Liとの間に相対的な回転を生じて容器Bと充填液体Liとの間にずれを生じるような急速な加速を加えて回転させる。この回転の回転量は、処理時間の短縮ということから必要最小限にとどめるのが好ましい。必要量の回転をなさせたら容器Bを停止させ(処理103)、それから処理101での検査画像の取得と同様にして検査画像(2枚目の検査画像)の取得を行う(処理104)。検査画像は、処理101?処理104を繰り返してn(n≧2)枚取得するものとし、そのnが大きいほど検査の精度を高めることができる。処理104に続く処理105では、検査画像がn枚になったかを判断し、否定的(NO)であれば処理101に戻って処理104までを繰り返し、肯定的(YE)であった場合にはn枚の検査画像間の差分を取得する処理を画像間差分取得処理手段25で行う(処理106)。それから検査画像間差分取得処理の結果に基づいて異物の有無を異物検出処理手段26で判定する(処理107)。そして最後に異物有無の判定結果に基づいて製品の選別を行う(処理108)。この選別処理で不良品とされた製品は、搬出ロータ3により機械的に選別されて不良品コンベア5へ向けられる。」

エ 「【0019】
図5に、検査画像取得のようすを模式化して示す。図5における(a)?(c)は、いずれも、円筒状の容器Bに液体Liが充填さている状態を断面にして示す図であり、図4中における(a)?(c)に対応している。(a)は、容器Bに回転を与える前の状態を示しており、充填液体Li中に異物ALが混入しており、容器Bに汚れSTがあり、異物ALと汚れSTには相対的な位置にθaの差があるものとしてある。この状態で容器Bは、図中には四角で囲んだA?Dとして示す容器Bの各部位中の特定部位、図の例でA部位を図1のカメラ21による撮影方向Diに向けている。(b)は、急加速で所定回転速度まで上昇させた後にその回転速度を保って所定時間の定速回転(回転方向は図中に矢印で示す方向)を容器Bになさせている状態を示しており、その回転中でのある一瞬の状態を示している。この定速回転状態では、充填液体Liも容器Bとともに回転しており、したがって充填液体Li中の異物ALも汚れSTと同様に回転している。しかし、回転開始時においては急加速による容器Bの回転に充填液体Liが取り残されることで容器Bと充填液体Liの間に相対的な回転を生じており、この相対的回転により、異物ALと汚れSTの相対的な位置差がθbに変化している。(c)は、容器Bが回転前と同じ部位(A部位)を撮影方向Diに向けるようにして容器Bを停止させた状態を示している。(b)の定速回転状態から容器Bを停止させる際には減速の仕方にもよるが、通常は容器Bの動きに充填液体Liが追随できずに、回転開始時と同様に容器Bと充填液体Liの間に相対回転を生じる。この結果、撮影方向Diに関して(a)の状態と同じ位置にある汚れSTに対する異物ALの相対的な位置差がθcに変化しているものの、その異物ALの位置は撮影方向Diに関して(a)の状態とは異なる位置にある。
【0020】
以上のことから分るように、各検査画像の撮影にあって、撮影方向Diに関する汚れSTの位置は常に同じであり、一方、撮影方向Diに関する異物ALの位置は撮影の都度異なることになる。つまり複数の検査画像において異物ALはその位置を変化させ、汚れSTはその位置を変化させない、というように、異物ALと汚れSTはそれぞれに特有な現れ方で検査画像中に像を与える。したがってこのような異物ALと汚れSTそれぞれの像の検査画像中における現れ方の特徴を利用して異物ALと汚れSTを区別して異物ALを検出することができる。すなわち、容器Bと充填液体Liとの間に相対的な回転を生じさせるような急加速による容器Bの回転と容器Bの非回転状態においての検査画像の取得とを交互になすようにしたことにより、充填液体Liが高粘性で、容器Bの回転停止後に異物ALに動きを与えるための回転を充填液体Liに残すことができない条件の場合でも、急加速での回転による容器Bと充填液体Liとの相対回転により、異物ALに動きを与えたのと同じ状態を得るとともに、この状態を容器Bの非回転状態における検査画像の取得により捉えることができるようになり、この結果として効果的に異物ALの検出を行えるようになる。なお検査装置は異物検査の他にもいくつかの検査をなせるようにされるのが通常であるが、それらについては図示を省略し、説明も省略する。」

オ 「【0022】
図6に示すのは容器の回転に関する他のパターンの例である。このパターンでは、まず一つの方向(正転方向)に急加速で容器を回転させ、次いでその回転を停止させた後に逆方向(逆転方向)に必要量(これは容器が回転前と同じ部位を撮影方向に向けるようにするのに必要な回転量とするのが通常である)だけ回転させて容器を停止させるようになっている。このパターンにおける必要最小限の回転量の例は、正転方向と逆転方向それぞれについて容器の1/4回転程度である。」

カ 図6から、正転と逆転の回転パターンは異なるが、それらの間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイルが示されているのがみてとれる。




(8)甲第8号証に記載された事項(下線は当審により付加した。)
ア 「【発明の名称】自動検液法および装置」

イ 「本発明は従来の方法に比べて見逃しのおそれが全くなく、従って信頼性を増し、かつ検査精度の水準が適当に選定でき、さらに数倍?数十倍の能力を有する完全自動アンプル検液装置を提供しようとするにある。
すなわち本発明の特徴はアンプル等の透明容器に、たとえば3000回転程度の自転をあらかじめ与え、光学的検査の直前にこれをたとえば600回転程度の低速の逆回転に変更し、この際の内容液に生ずる渦流により混入異物をアンプル中央部に柱状に舞い上がらせるとともに急速に液面を復帰させるようにする。このように混入異物はアンプル中心部だけ柱状に集中するので検出が容易になる。特に、はげしい渦流によりガラスの破片等の大きな異物でも中心に浮き上り、見逃しのおそれがない。また液面は光学的検査時には充分安定するので液面の不規則反射による誤作動のおそれがない。さらに光学的検液の際続行する低速回転は管壁のきず、よごれ等の存在による影響を消去し、これによる誤作動を生じさせない。」(第1頁右欄第2?22行目)

ウ 「さらにアンプルがその供給位置からターレットの回転によつて移動するにつれ、セル9が板カムによつてターレットの中心方向に後退し、ターレット外周に設置された回転台駆動ベルト12,13,14と回転台のホイール15が接触してアンプルをのせた回転台8を回転させる。16,17はアンプル駆動用変則モーターである。アンプルの自転はたとえば3000回転程度の高速回転とするので、まずベルト12は予備の回転を与え、次にベルト13により加速して所望の高速回転を得る。一旦このように高速回転させたアンプルは次いで直ちにベルト14によつてたとえば600回転程度の低速度の逆回転を与えられる。
前述の高速回転中にはアンプルの内容液は旋回し、遠心力により第4図aのような液面形状になる。すなわち遠心力で液が外周上方まで押し上げられ中心の液面が極端に降下する。この際にたとえ液の中に気泡があつてもこの程度で消失する。これに引続いて今度は逆回転の過程にうつると、第4図bのように液面は急速に復帰する。アンプル管壁部附近の内容物はこの逆回転に追従しようとするが、中心部に向うにつれ、前回の高速回転の影響はなお続き、結果として求心的な渦流が生ずる。混入異物はこの求心渦流により中心部に舞い上がり、柱状の異物集中区域を生ずるのである。逆回転による急激な変化が与えられるのでこの渦流は比較的短時間ではあるが非常に激しいもので相当大形の異物でも充分に中心部で舞い上がらせることができる。この時期に次の光学的検査を行なうのである。
光学的検査部分はアンプルの底部下方に設けた光源系と、アンプル側面に配置した検光系とから成る。すなわちビーム光源より出た光線はアンプル底部からその中心部に進入する。このように異物が柱状に舞い上つた中心部を上方に光線が向うので、異物があれば、これら異物により乱反射される。この乱反射光をアンプル側面において、検光系20すなわち光電池、フォトトランジスタ、二次電子増倍管、撮像管等で捕捉する。この捕捉した光線は電子機構を通して処理され良、不良の判別信号を出す。21は液面の反射をさけるためのマスクである。」(第2頁左欄第28行目?同頁右欄第24行目)

エ 「本発明の特徴はアンプル等容器に与える高速回転と逆回転との組合せにある。すなわち逆転の効果としては次のことがあげられる。
(1)液面の復帰を早くする。小径アンプルではアンプル頭部に液が残つて戻らなくなる傾向があるが逆転により簡単に液位を復帰させ安定させる効果がある。この液位が復帰しないと光学的検査時に液面反応が生じ誤作動を生じ易いのである。
(2)異物の浮上りをよくする。逆回転を与えずに回転停止だけではたとえ高速回転を与えても充分に激しい渦流を生ぜずガラスの破片等の大きなものでは浮き上がらないで見逃すこととなる。しかし本発明によれば高速回転と低速回転との組合せにより充分に激しい求心的渦流が生じ相当の大きさの異物でも中心に舞い上らせることができる。
(3)管壁のキズ、ヨゴレを消す。すなわち検査中にもアンプルは低速で回転しているのでこれらのキズ、ヨゴレがあつても実質的に見えなくなり、誤作動を生じない。アンプルの場合、異物は製造工程中に入るもので、濾紙の繊維、ガラス破片、フレークス、結晶、変質物その他のゴミ等である。それぞれ浮上り方が異り、検出し易いもの、検出し難いものと多少条件がかわり得るが、高速回転と逆回転の回転数の組合せ、回転の時間、逆転のタイミング等を選定することによつてすべてその特性に合せて良好な検出状態にすることができる。」(第3頁左欄第3?31行目)

オ 「特許請求の範囲
1 液体で充填された透明容器をまず高速で一方向に回転し、次いでこの回転を逆回転に切替えることにより液面を急速に復帰させると同時に前記液体中に混在することのありうる異物を容器の中心部に集中的に舞い上らせそれに光線を照射することにより異物の検出を容易にすることを特徴とする自動検液法。」(公報第3頁第4?11行目)






(9)甲第9号証に記載された事項(下線は当審により付加した。)
ア 「【発明の名称】被検体検査装置及び透明容器の充填液体中の異物検査装置」

イ 「【請求項1】 検査対象の被検体を載置台上に次々に載置して移送する移送手段と、
各載置台又は複数の載置台対応に取り付けたモータと、
検査に先立って、回転パターンに従って載置台上の被検体を回転させるようにモータを制御するモータ制御手段と、回転中又は回転終了後の被検体を検査する検査手段と、
を備える被検体検査装置。」

ウ 「【0002】
【従来の技術】薬や栄養剤や清涼飲料水等の液体を充填した瓶やプラスティックボトル(被検体)等は、大量生産工程で次々に大量に得られる。充填液体中の異物の有無等の検査は不可欠であって、その一例としての従来例を図4に示す。図4で、回転ロータ50は、検査のために設けたものであり、他の搬送ラインから次々に送られてくる被検体を、次々に取込み回転・停止を行わせて異物検査を行う。回転ロータ50は、その円周上に被検体載置台を持ち、この載置台上に被検体を載置拘束する。回転ロータ50に設定した2つの回転角度位置に、カメラ52と照明54、センサ(カメラ)53と照明55とより成る2つの撮映手段を持つ。回転ロータ50の円周外部に沿ってベルト駆動部56を持つ。このベルト駆動部56を図の下部に示す加減速パターンに従って駆動させる。これによって、被検体51は一時的に回転し、回転を停止させることで、充填液体のみが慣性回転する。この慣性回転中の充填液体内の異物は観察しやすく、そこでセンサ52、53で撮映し、画像処理で異物検査を行う。」

エ 「【0008】更に本発明は、検査対象の内部に液体が充填されている透明容器を、円周上に順次配置された載置台上に、次々に載置して移送回転する回転ロータと、各載置台又は複数の連続する載置台対応に連結するモータと、回転ロータの回転角度を検出する角度検出器と、回転ロータの円周に沿う複数の個所に設置した、光の反射又は透過を用いて通過中の透明容器を撮映可能な複数のカメラと、各カメラ対応の回転パターンを設定する設定手段と、上記角度検出器の検出回転角度に従って各カメラの視野に入る直前のモータを特定し、各カメラ対応の上記回転パターンに従って、各直前のモータの回転制御を行って、載置台上の透明容器を回転させるモータ制御手段と、視野内に入った円筒状透明容器を各カメラに撮映させるカメラ制御手段と、各カメラ毎の撮映画像に基づいて、それぞれ異なる異物検査法で、透明容器の充填液体中の異物検査を行う検査手段と、を備える透明容器の充填液体中の異物検査装置を開示する。」

オ 「【0013】検査項目に対応する、モータMの回転パターンとは、各カメラ2、3、4の位置の直前(即ち検査直前)に到達したモータMに対して与える回転パターンのことであり、そのモータM対応の載置台上に拘束している被検体20を強制的に回転・停止させるときの回転パターンを云う。カメラ位置の直前位置(オフセット値)とは事前に設定されており、この直前位置に到達したか否かは、角度検出器9の検出値を監視することでわかる。かくして、被検体20内の充鎮液体中の異物の検出のために、被検体を回転させその後回転の停止を行い、充填液体中の動きまわる異物を検出する。動き回ることで異物を見つけられやすくするために利用したものである。この場合、検査目的に応じて回転数(正転、逆転を含む)及びその加減速パターンが与えられる。回転パターンは検査ロータ1の回転角度との関係に基づいて与えられている。」

カ 「【0018】図3は、回転パターン例を示す。図は、3つの連続配置の#1、#2、#3モータMに対する回転パターン例である。#1、#2、#3モータ共に回転パターンは同一であって、異なるのはタイミング(オフセット)である。このタイミングのずれはカメラ(2、3、4)に送達する時間の差である。図3で、横軸が検査ロータ1の回転角度、縦軸が回転数である。カメラ2による液面異物検査では、パターンP_(1)を使う。パターンP_(1)は角度θ_(1)で立上がりで示す加速部P_(11)と一定値で示す定速部P_(12)と立下りで示す減速部P_(13)とより成る。パターンP_(2)は、液中異物検査のパターンであり、角度θ2で立上がる立上がり部P_(21)、定速部P_(22)、減速部P_(23)、定速部P_(24)、減速部P_(25)、加速部P_(26)を持つ。P_(25)、P_(26)の中での回転数が負になっているのは逆転駆動を示す。パターンP_(3)は角度θ_(3)で立上がる液底異物検査用であり、パターンP_(1)に似ているが、定速部の値が大きく、立上り立下りが若干急にとってある。そして、各パターンP_(1)、P_(2)、P_(3)による回転そして停止後に対応する各検査のための撮映をカメラ2、3、4で行う。尚、図3の横軸の角度は検査ロータ1の基準点からの回転角度(即ち、該当モータの検査ロータ上での回転角度)である。この角度は角度検出器9で検出でき、これをモータ制御部16が取り込むことで、角度θ_(1)、θ_(2)、θ_(3)を検出し、回転パターンP_(1)になるようにモータ制御を行う。以上の図3は一例であり、検査目的や被検体20の構造や液体の種類や異物の種類によって種々設定可能である。」

キ 図3に、正方向回転と逆方向回転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイルであるパターンP_(2)が示されているのがみてとれる。




(10)甲第10号証の記載
甲第10号証は、本件特許に係る出願の審査段階で被請求人である特許出願人に対して通知された拒絶理由通知書である。甲第10号証には、請求項1及び3に係る発明が、特開2005-70013号公報(甲第7号証)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないこと、請求項1?4に係る発明が、特開2005-70013号公報(甲第7号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項により特許を受けることができないこと、請求項1の「回転駆動した直後」という表現が不明りょうであり、請求項1及び2に係る発明は明確でなく、この出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことが記載されている。

(11)甲第11号証の記載
甲第11号証は、平成25年8月9日付け提出の手続補正書である。甲第11号証には、明細書の内容の変更として、段落【0011】、【0012】、【0013】、【0014】及び特許請求の範囲の変更として、請求項1?4が記載され、それらの「複数回連続して」、「て薬剤ビンが停止した」及び「時系列で」の個所に下線が引かれている。

(12)甲第12号証の記載
甲第12号証は、平成25年8月9日付け提出の意見書である。
甲第12号証には、補正の根拠として明細書の段落【0018】、【0023】?【0028】、【0034】及び図3が挙げられている。
また、本願発明と引用文献との対比の欄において、補正後の請求項1及び3に係る発明は、薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動することで、薬剤ビン内の混入異物を確実に薬剤ビン内で相対移動させ、薬剤ビンが停止した直後に混入異物の移動を時系列で検出することで、停止した直後での混入異物の移動を確実に検出することができることが記載されている。
また、拒絶理由通知及び補正内容に対する出願人(当時)の意見として、引用文献(甲第7号証)には、本願発明(本件特許発明)の特徴的な要件である「薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する」との要件、及び「交互に回転駆動して薬剤ビンが停止した直後における薬剤ビン内の混入異物の移動を時系列で検出する」との要件のいずれも開示されておらずその示唆もなく、しかも引用文献(甲第7号証)と比較して容器の汚れや傷等の影響を受けずに確実に混入異物を検出できるという顕著な効果を奏する旨、記載されている。

(13)甲第13号証の記載
甲第13号証は請求人の実験の条件及び結果を纏めた報告書である。
ア 第1頁
「製品解析報告書 資料No.15H-0467-1 内容:異物検査の検証実験」という題目に加えて、注意事項と、「株式会社エルテック」という名称とともに住所・電話番号等の連絡先が記載され、エルテック使用欄内に責任者として中川豪章の記載と「中川」の押印、担当として上貝隆晴の記載と「上貝」の押印がある。

イ 第2頁
異物検査の検証事件の実験条件として、環境条件(温度25.3℃、湿度46%)、代表実験者((株)エルテック 上貝隆晴)、サンプル(ヒアルロン酸ナトリウム0.1%水溶液、バイアル 胴径25mm、液量5ml)、異物(ガラス異物 約0.5mm 1個)、回転条件(次頁以降で説明)、検証方法(1.画像処理装置で撮影した画像を動画化し異物の動きを観察・比較する。2.容器底面から異物の上昇した距離・回数を撮影画像から測定する。)が記載されている。また、スライドの右上辺には、スケール付きのガラス異物とみられる写真が示されている。
さらに、異物検査の検証実験の使用機器として、カメラ(CIS VCC-G22V31CL、640*480、絞り:8、ピント0.46、レンズ35mm、接写リング2mm、距離200mm、画角H26*W34mm 0.053mm)、ハロゲン照明(モリテックス LMF-D100LR)、サーボモータ(オリエンタル PKP544N18AL)が記載されている。

ウ 第3頁
回転パターン1の回転条件として、加速と減速からなる正転時間200msecと、加速と減速からなる逆転時間200msecが最大回転速度を800rpmとして交互に2.5サイクル繰り返されるものであり(正転→逆転→正転→逆転→正転)、各回転間の休止時間を可変(0ms、10ms、50ms、100ms)とする波形が記載されている。
また、回転パターン1’の回転条件として、加速時間100msec→等速時間400msec→減速時間100msecが最大回転速度を800rpmとして、正転と逆転からなるサイクルが2.5サイクル繰り返されるものであり(正転→逆転→正転→逆転→正転)、各回転間の休止時間を可変(0ms、10ms、50ms、100ms)とする波形が記載されている。

エ 第4頁
回転パターン1-0(休止なし)として、加速と減速からなる正転時間200msecと、加速と減速からなる逆転時間200msecが最大回転速度を800rpmとし、各回転間の休止時間がない交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)が記載されている。
また10回の異物上昇距離mmとその平均と、上昇回数が記載され、液面高さ15.2mmが写真とともに示されている。

オ 第5頁
回転パターン1-10(休止時間10ms)として、加速と減速からなる正転時間200msecと、加速と減速からなる逆転時間200msecが最大回転速度を800rpmとし、各回転間の休止時間が10msで、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)が記載されている。
また10回の異物上昇距離mmとその平均と、上昇回数が記載され、液面高さ15.2mmが写真とともに示されている。

カ 第6頁
回転パターン1-50(休止時間50ms)として、加速と減速からなる正転時間200msecと、加速と減速からなる逆転時間200msecが最大回転速度を800rpmとし、各回転間の休止時間が50msで、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)が記載されている。
また10回の異物上昇距離mmとその平均と、上昇回数が記載され、液面高さ15.2mmが写真とともに示されている。

キ 第7頁
回転パターン1-100(休止時間100ms)として、加速と減速からなる正転時間200msecと、加速と減速からなる逆転時間200msecが最大回転速度を800rpmとし、各回転間の休止時間が50msで、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)が記載されている。
また10回の異物上昇距離mmとその平均と、上昇回数が記載され、液面高さ15.2mmが写真とともに示されている。

ク 第8頁
回転パターン1’-0(休止なし)として、加速時間100msecと等速時間400msecと減速時間100msecが最大回転速度800rpmからなる正転と、同様の加速と等速と減速及び最大回転速度からなる逆転が、各回転間の休止0msで、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)が記載されている。
また10回の異物上昇距離mmとその平均と、上昇回数が記載され、液面高さ15.2mmが写真とともに示されている。

ケ 第9頁
回転パターン1’-10(休止時間10ms)として、加速時間100msecと等速時間400msecと減速時間100msecが最大回転速度800rpmからなる正転と、同様の加速と等速と減速及び最大回転速度からなる逆転が、各回転間の休止時間を10msecとして、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)が記載されている。
また10回の異物上昇距離mmとその平均と、上昇回数が記載され、液面高さ15.2mmが写真とともに示されている。

コ 第10頁
回転パターン1’-50(休止時間50ms)として、加速時間100msecと等速時間400msecと減速時間100msecが最大回転速度800rpmからなる正転と、同様の加速と等速と減速及び最大回転速度からなる逆転が、各回転間の休止時間を50msecとして、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)が記載されている。
また10回の異物上昇距離mmとその平均と、上昇回数が記載され、液面高さ15.2mmが写真とともに示されている。

サ 第11頁
回転パターン1’-100(休止時間100ms)として、加速時間100msecと等速時間400msecと減速時間100msecが最大回転速度800rpmからなる正転と、同様の加速と等速と減速及び最大回転速度からなる逆転が、各回転間の休止時間を100msecとして、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)が記載されている。
また10回の異物上昇距離mmとその平均と、上昇回数が記載され、液面高さ15.2mmが写真とともに示されている。

シ 第12頁
結果として、回転パターン1の異物平均上昇距離について、休止0msは9.22mm、休止10msは9.91mm、休止50msは8.73mm、休止100msは7.95mm、回転パターン1’の異物平均上昇距離について、休止0msは5.57mm、休止10msは5.19mm、休止50msは5.21mm、休止100msは5.4mmと記載されている。
また、回転パターン1の異物上昇回数について、休止0ms、休止10ms、50ms、100msのいずれも10回、回転パターン1’の異物上昇回数について、休止0ms及び休止10msは7回、休止50msは8回、休止100msは9回であったことが、値とグラフにより記載されている。
さらに、下辺に「休止時間の有無に技術的差異なし」との文言が記載されている。

ス 甲第13号証による事実認定
上記ア?シから、甲第13号証から、以下の事実が認定できる。

(ア)実験は株式会社エルテックの上貝隆晴が行った。

(イ)実験は、温度25.3℃及び湿度46%で、各パターンについて10回行われた。

(ウ)サンプルは、ヒアルロン酸ナトリウム0.1%水溶液のバイアル(胴径25mm)で、異物は約0.5mmのガラス異物1個である。

(エ)使用機器として、カメラ(CIS VCC-G22V31CL、640*480、絞り:8、ピント0.46、レンズ35mm、接写リング2mm、距離200mm、画角H26*W34mm 0.053mm)、ハロゲン照明(モリテックス LMF-D100LR)、サーボモータ(オリエンタル PKP544N18AL)が用いられた。

(オ)回転パターン1-0(休止なし)は、加速と減速からなる正転時間200msecと、加速と減速からなる逆転時間200msecが最大回転速度を800rpmとし、各回転間の休止なしで、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)である。

(カ)回転パターン1-10(休止時間10ms)は、加速と減速からなる正転時間200msecと、加速と減速からなる逆転時間200msecが最大回転速度を800rpmとし、各回転間の休止時間が10msecで、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)である。

(キ)回転パターン1-50(休止時間50ms)は、加速と減速からなる正転時間200msecと、加速と減速からなる逆転時間200msecが最大回転速度を800rpmとし、各回転間の休止時間が50msecで、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)である。

(ク)回転パターン1-100(休止時間100ms)として、加速と減速からなる正転時間200msecと、加速と減速からなる逆転時間200msecが最大回転速度を800rpmとし、各回転間の休止時間が50msecで、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)である。

(ケ)回転パターン1’-0(休止なし)は、加速時間100msecと等速時間400msecと減速時間100msecが最大回転速度800rpmからなる正転と、同様の加速と等速と減速及び最大回転速度からなる逆転が、各回転間の休止なしで、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)である。

(コ)回転パターン1’-10(休止時間10ms)として、加速時間100msecと等速時間400msecと減速時間100msecが最大回転速度800rpmからなる正転と、同様の加速と等速と減速及び最大回転速度からなる逆転が、各回転間の休止時間を10msecとして、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)である。

(サ)回転パターン1’-50(休止時間50ms)として、加速時間100msecと等速時間400msecと減速時間100msecが最大回転速度800rpmからなる正転と、同様の加速と等速と減速及び最大回転速度からなる逆転が、各回転間の休止時間を50msecとして、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)である。

(シ)回転パターン1’-100(休止時間100ms)として、加速時間100msecと等速時間400msecと減速時間100msecが最大回転速度800rpmからなる正転と、同様の加速と等速と減速及び最大回転速度からなる逆転が、各回転間の休止時間を100msecとして、交互に2.5サイクル繰り返される波形(正転→逆転→正転→逆転→正転)である。

(ス)回転パターン1の異物平均上昇距離について、休止なしは9.22mm、休止時間10msecは9.91mm、休止時間50msecは8.73mm、休止100msecは7.95mm、回転パターン1’の異物平均上昇距離について、休止なしは5.57mm、休止10msecは5.19mm、休止50msecは5.21mm、休止100msecは5.4mmであった。
また、回転パターン1の異物上昇回数について、休止なし、休止10msec、50msec、100msecのいずれも10回で検出確率は100%、回転パターン1’の異物上昇回数について、休止なし及び休止10msecは7回、休止50msecは8回、休止100msecは9回で検出確率は70?90%であった。

(セ)請求人の実験の結果は、回転パターン1と1’の両者において、休止時間なしの場合と、休止時間が10msec、50msec、100msecとの場合とで、検出確率に大きな差異がないことを示している。

(14)甲第14号証の内容
甲第14号証は請求人の実験の結果を示す動画データを記録したCD-Rである。
CD-Rには、甲第13号証の4頁の回転パターン1-0(休止なし)、5頁の回転パターン1-10(休止時間10ms)、6頁の回転パターン1-50(休止時間50ms)、7頁の回転パターン1-100(休止時間100ms)、8頁の回転パターン1’-0(休止なし)、9頁の回転パターン1’-10(休止時間10ms)、10頁の回転パターン1’-50(休止時間50ms)、11頁の回転パターン1’-100(休止時間100ms)に対応する動画データが記録されている。

(15)乙第1号証の記載
乙第1号証は異物検査の実験データ(パターン1?4)を示す書面である。
ア 表紙
「異物検査実験データを示す書面」という題目に加えて「作成日:平成27年7月30日」、「作成者:ボッシュパッケージングテクノロジー株式会社 ITP事業本部 研究開発部 開発グループ1 清水克己」が記載され、「清水」の押印がある。

イ スライド1
異物検査の検証事件の実験条件として、環境条件(ボッシュパッケージングテクノロジー(株)むさし工場、1回目:温度24.3℃、湿度82%、2回目:温度24.1℃、湿度78%、3回目:温度25.2℃、湿度79%)、実験者(ボッシュパッケージングテクノロジー(株)清水克己)、サンプル(高粘度溶液 ヒアルロン酸ナトリウム0.1%水溶液、バイアル 胴径25mm、液量5ml)、異物(ガラス異物 約0.5mm、1個)、回転条件(本件特許及び甲第1号証を含む4条件)、検証方法(1.画像処理装置で撮影した画像を動画化し異物の動きを観察・比較する。2.容器底面から異物の上昇した距離・回数を撮影画像から測定する。)が記載されている。また、スライドの右辺には、1000.00μmのスケール付きのガラス異物とみられる写真が示されている。

ウ スライド2
異物検査の検証実験の使用機器として、カメラ(SONY HR-50、640*480、Exposure 2ms、絞り:6、ピント0.28、レンズ25mm、接写リング2mm、距離184mm、画角H22*W29mm 0.046mm)、マイクロスコープ(KEYENCE VW-9000 VW-600C)、LED照明(日進電子工業WDL-13215)、LED電源(日進電子工業LPR-50W A-2)、サーボモータ(KEYENCE MV-M100、プーリー比 モータ:台座=2:1 ※容器回転数はモータ回転数の2倍)が記載されている。

エ スライド3
異物検査の検証実験の回転条件として、パターン1(本件特許のパターンであり正転と逆転が8サイクル繰り返されるもの)、パターン2(甲第1号証のパターンであり正転→停止→逆転→停止が1サイクルのもの)、パターン3(甲第1号証の攪拌バージョンとしてパターン2が2サイクルのもの)、パターン4(一般的回転条件としてパターン3の逆転部分を正転として、正転→停止が4回行われるもの)のパターン形状が時間軸0?3.0sにおける波形として示されている。

オ スライド4
異物検査の検証実験のパターン1(本件特許)の回転条件として、加速時間と減速時間からなる正転と加速時間と減速時間からなる逆転をそれぞれ200msecとし、最大回転速度を800rpmとして、正転及び逆転をそれぞれ8回ずつ繰り返したものが記載されている。スライド右下には、サーボモータの駆動波形が記載されている。

カ スライド5
異物検査の検証実験の回転条件パターン1でのサンプル内の異物の様子を示す画像が示されている。

キ スライド6
異物検査の検証実験の回転条件パターン1での、1回目、2回目、3回目のそれぞれに対し10回行ったときの、測定座標と異物上昇距離mmの値及び平均値が記載されている。また、「異物上昇距離=(349-測定座標)×0.046mm」の式と「1画素当たりの実際のサイズを0.046mm」との説明ともに異物上昇距離を示す容器の図が記載されている。

ク スライド7
異物検査の検証実験のパターン2(甲第1号証)の回転条件として、それぞれ100msecの加速時間と減速時間との間に400msecの等速時間を含み、最大回転速度を800rpmとした正転の後、停止時間を200msecとして、その後、正転の波形と同様の逆転を行うものが記載されている。スライド右下には、サーボモータの駆動波形が記載されている。

ケ スライド8
異物検査の検証実験の回転条件パターン2でのサンプル内の異物の様子を示す画像が示されている。

コ スライド9
異物検査の検証実験の回転条件パターン2での、1回目、2回目、3回目のそれぞれに対し10回行ったときの、測定座標と異物上昇距離mmの値及び平均値が記載されている。また、式と容器の図は上記キと同様である。

サ スライド10
異物検査の検証実験のパターン3(甲第1号証、攪拌バージョン)の回転条件として、上記クで述べたパターン2が停止時間200msecを介して2サイクル繰り返されるものが記載されている。スライド右下には、サーボモータの駆動波形が記載されている。

シ スライド11
異物検査の検証実験の回転条件パターン3でのサンプル内の異物の様子を示す画像が示されている。

ス スライド12
異物検査の検証実験の回転条件パターン3での、1回目、2回目、3回目のそれぞれに対し10回行ったときの、測定座標と異物上昇距離mmの値及び平均値が記載されている。また、式と容器の図は上記キと同様である。

セ スライド13
異物検査の検証実験のパターン4(一般的回転条件)の回転条件として、上記サで述べたパターン3の逆転部分を正転として、正転→停止が4回行われるものが記載されている。スライド右下には、サーボモータの駆動波形が記載されている。

ソ スライド14
異物検査の検証実験の回転条件パターン4でのサンプル内の異物の様子を示す画像が示されている。

タ スライド15
異物検査の検証実験の回転条件パターン4での、1回目、2回目、3回目のそれぞれに対し10回行ったときの、測定座標と異物上昇距離mmの値及び平均値が記載されている。また、式と容器の図は上記キと同様である。

チ スライド16
異物検査の検証実験の結果として、パターン1、パターン2、パターン3、パターン4での、1回目、2回目、3回目の異物上昇距離mmと異物上昇回数の値及びグラフが記載されている。
パターン1では、1回目、2回目、3回目の全てで異物が上昇し、パターン2では、1回目及び3回目においてそれぞれ2回ずつ異物が上昇し、2回目の異物上昇回数は0であり、パターン3では、1回目に1回異物が上昇し、2回目及び3回目では異物上昇回数は0であり、パターン4では、1回目、2回目、3回目の全てで異物上昇回数は0であったことが記載されている。
また、スライドの下部に、「パターン1の有効性が認められた。」との文言が記載されている。

ツ 乙第1号証による事実認定
上記ア?チの記載から、乙第1号証には以下の事実が認められる。

(ア)乙第1号証である異物検査実験データを示す書面は、平成27年7月30日に、ボッシュパッケージングテクノロジー株式会社 ITP事業本部 研究開発部 開発グループ1の清水克己により作成された。

(イ)実験は、ボッシュパッケージングテクノロジー株式会社の、むさし工場内で、清水克己により行われた。

(ウ)実験は、それぞれの温度条件及び湿度条件下で、第1回?第3回の3回行い、各回においてそれぞれ10回行った。

(エ)サンプルは高粘度溶液のヒアルロン酸ナトリウム0.1%水溶液5mlのバイアル(胴径25mm)で、異物は約0.5mmのガラス異物1個である。

(オ)使用機器としてカメラ(SONY HR-50、640*480、Exposure 2ms、絞り:6、ピント0.28、レンズ25mm、接写リング2mm、距離184mm、画角H22*W29mm 0.046mm)、マイクロスコープ(KEYENCE VW-9000 VW-600C)、LED照明(日進電子工業WDL-13215)、LED電源(日進電子工業LPR-50W A-2)、サーボモータ(KEYENCE MV-M100、プーリー比 モータ:台座=2:1 ※容器回転数はモータ回転数の2倍)が用いられた。

(カ)パターン1(本件特許)の回転条件は、加速時間と減速時間からなる正転と加速時間と減速時間からなる逆転をそれぞれ200msecとし、最大回転速度を800rpmとして、正転及び逆転をそれぞれ8回ずつ繰り返したものである。

(キ)パターン2(甲第1号証)の回転条件は、それぞれ100msecの加速時間と減速時間との間に400msecの等速時間を含み、最大回転速度を800rpmとした正転の後、停止時間を200msecとして、その後、正転の波形と同様の逆転を行うものである。

(ク)パターン3(甲第1号証、攪拌バージョン)の回転条件は、パターン2が停止時間200msecを介して2サイクル繰り返されるものである。

(ケ)パターン4(一般的回転条件)の回転条件は、パターン3の逆転部分を正転として、正転→停止が4回行われるものである。

(コ)パターン1では、1回目、2回目、3回目の全てで異物が上昇し、検出確率は100%である。

(サ)パターン2では、1回目及び3回目においてそれぞれ2回ずつ異物が上昇し、2回目の異物上昇回数は0であり、検出確率は4/30=13%である。

(シ)パターン3では、1回目に1回異物が上昇し、2回目及び3回目では異物上昇回数は0であり、検出確率は1/30=3%である。

(ス)パターン4では、1回目、2回目、3回目の全てで異物上昇回数は0であり、検出確率は0%である。

(セ)本件特許のパターン1が、甲第1号証のパターン2、3、一般的回転条件のパターン4に比べて、異物の検出確率が高い。

(16)乙第2号証の記載
乙第2号証は異物検査の実験データ(パターン1’)を示す書面である。
ア 表紙
「異物検査実験データを示す書面 回転条件(パターン1’)」という題目に加えて「作成日:平成27年8月28日」、「作成者:ボッシュパッケージングテクノロジー株式会社 ITP事業本部 研究開発部 開発グループ1 清水克己」が記載され、「清水」の押印がある。

イ スライド1
異物検査の検証実験のパターン1’(本件特許)の回転条件として、それぞれ100msecの加速時間と減速時間との間に400msecの等速時間を含み、最大回転速度を800rpmとした正転と、正転と同様の波形である逆転とを、停止期間をおくことなく、正転→逆転→正転→逆転→正転とさせたものが記載されている。スライド右下には、サーボモータの駆動波形が記載されている。

ウ スライド2
異物検査の検証実験の回転条件パターン1’でのサンプル内の異物の様子を示す画像が示されている。

エ スライド3
異物検査の検証実験の回転条件パターン1’での、1回目、2回目、3回目のそれぞれに対し10回行ったときの、測定座標と異物上昇距離mmの値及び平均値が記載されている。また、「異物上昇距離=(349-測定座標)×0.046mm」の式と「1画素当たりの実際のサイズを0.046mm」との説明ともに異物上昇距離を示す容器の図が記載されている。

オ スライド4
異物検査の検証実験の結果として、パターン1’、パターン2、パターン3、パターン4での、1回目、2回目、3回目の異物上昇距離mmと異物上昇回数の値及びグラフが記載されている。
パターン1’では、1回目で9回、2回目で8回、3回目で7回異物が上昇したことが記載されている。パターン2?4の異物上昇回数は、乙第1号証である上記(15)の(チ)と同様に記載されている。
また、スライドの下部に、「パターン1’の有効性が認められた。」との文言が記載されている。

カ 乙第2号証による事実認定
上記ア?オの記載から、乙第2号証には以下の事実が認められる。

(ア)乙第2号証である異物検査実験データを示す書面 回転条件(パターン1’)は、平成27年8月28日に、ボッシュパッケージングテクノロジー株式会社 ITP事業本部 研究開発部 開発グループ1の清水克己により作成された。

(イ)パターン1’(本件特許)の回転条件は、それぞれ100msecの加速時間と減速時間との間に400msecの等速時間を含み、最大回転速度を800rpmとした正転と、正転と同様の波形である逆転とを、停止期間をおくことなく、正転→逆転→正転→逆転→正転とさせたものである。

(ウ)パターン1’では、1回目で9回、2回目で8回、3回目で7回異物が上昇し、検出確率は80%である。

(エ)本件特許のパターン1’が、甲第1号証のパターン2、3、一般的回転条件のパターン4に比べて、異物の検出確率が顕著に高い。

(17)乙第3号証の内容
乙第3号証は乙第1号証に対応する異物検査の動画を含む実験データ(パターン1?4)と乙第2号証に対応する動画を含む異物検査の実験データ(パターン1’)についての電子データを格納したCD-Rである。
CD-Rには、乙第1号証のスライド5(パターン1)、スライド8(パターン2)、スライド11(パターン3)、スライド14(パターン4)、乙第2号証のスライド2(パターン1’)に対応する異物検査の動画を含む実験データについての電子データが格納されている。

2 無効理由1(特許法第29条第2項)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。

(ア)本件特許発明1の構成要件(1A)について
本件特許発明1の構成要件(1A)と甲1発明を対比する。
甲1発明の「アンプル・バイアル高精度自動検査機である注射剤用異物検査機」の「アンプル・バイアル」は、「注射剤用」であるから、薬剤ビンであるといえる。
そうすると、甲1発明の「アンプル・バイアル高精度自動検査機である注射剤用異物検査機」は、本件特許発明1の「薬剤ビン内の混入異物を検査する異物検査装置」に相当する。

(イ)本件特許発明1の構成要件(1B)について
a 「複数回連続して」の意義について
(a)「連続して」について
本件特許に係る明細書及び図面には、「連続して」に関連して以下の記載がある。
「【0023】
図3に、本実施形態における薬剤ビン40を回転駆動する際の速度プロファイルの一例を示す。図において、横軸は時間、縦軸は速度を表す。速度は、正方向の回転をプラス、逆方向の回転をマイナスとする。
【0024】
まず、時間t=0において正方向の回転駆動を開始し、時間t=t1において正方向の最大速度v1となるまで加速する。
【0025】
次に、時間t=t1から時間t=t2まで減速し、時間t=t2で速度0となり、その後、時間t=t3まで逆方向に加速して時間t=t3において最大速度-v1に達するまで加速する。
【0026】
次に、時間t=t3からt=t4まで減速し、時間t=t4で速度0となり、その後、時間t=t5まで正方向に加速して時間t=t5において最大速度v1となるまで加速する。
【0027】
次に、時間t=t5から時間t=t6まで減速し、時間t=t6で速度0となり、その後、時間t=t7まで逆方向に加速して時間t=t7において最大速度-v1に達するまで加速する。
【0028】
次に、時間t=t7から時間t=t8まで減速し、時間t=t7において速度0として停止する。」





上記の段落【0023】?【0028】及び図3には、薬剤ビンを回転駆動する際の速度プロファイルの一例が示されており、そこで、時間t=0から時間t=t2までの正転と、時間t=t2から時間t=t4までの逆転と、時間t=t4から時間t=t6までの正転と、時間t=t6から時間t=t8までの逆転が時間的な間隔をおくことなく連続していることが示されているといえる。そして、一般に「連続」とはつらなりつづくという意味であること(広辞苑第五版参照。)、及び、被請求人が答弁書、口頭審理陳述要領書及び上申書等の手続で「連続して」については一貫して停止期間をおくことなく複数回の正転と逆転が交互につらなっていることを主張していることに鑑みれば、「正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する」ことにおける「連続して」とは、停止期間をおくことなく複数回の正方向と逆方向の回転駆動が交互につらなっていることを意味するものと解すべきである。
請求人は、口頭審理陳述要領書の第3頁第22行?第4頁第10行において、「複数回連続して」なる文言は、平成25年6月25日付け発送の拒絶理由通知書(甲第10号証)で示された拒絶理由を解消することを意図して手続補正書により挿入されたもので、この拒絶理由通知書で挙げられた引用文献1(甲第7号証)には、容器を回転させることにより容器内の液体中の異物を移動させて異物検査を行う異物検査方法の発明が開示されており、図6に示された容器の回転プロファイルの一例では、逆転とこれに続く正転との間に停止期間を設けて撮影を行う一方で、正方向回転とこれに続く逆方向回転との間に停止期間がないことから、本件特許発明1の「連続」は、正転と逆転との間に停止期間がないことを意味するのではなく、正方向回転と逆方向回転との間で撮影を行わないことを意味し、正方向回転と逆方向回転との間の停止期間の有無を問わないものであって、正方向回転と逆方向回転との間に停止期間がある場合を含む、という解釈が可能である旨、主張する。
しかしながら、正方向回転とこれに続く逆方向回転との間で撮影を行わないことは、「連続」という文言がなくても、「前記駆動手段で交互に回転駆動して薬剤ビンが停止した直後における前記薬剤ビン内の混入異物の移動を時系列で検出する」(下線部は拒絶理由に対して補正により追加された個所である。)との記載から十分に把握できることに鑑みれば、請求人の上記解釈の主張には根拠がない。
また、請求人は、本件明細書の段落【0029】の「正方向及び逆方向に回転駆動する…言い換えれば、薬剤ビン40に対して正方向の回転と逆方向の回転を短時間に切り替えることで、薬剤ビン40に振動を与え、混入異物に動きを与える」という記載は、正転と逆転との間の切り替えの際に短時間の停止期間があること、または、短時間であれば停止期間があってもよいこと、が記載されているといえるから、「連続」とは、正転と逆転との間に停止期間がある場合を含む、という解釈が可能であるとも主張する。
しかしながら、段落【0029】は段落【0023】?【0028】における図3の説明を受けて「このように…正方向及び逆方向に回転駆動する…言い換えれば、薬剤ビン40に対して正方向の回転と逆方向の回転を短時間に切り替えることで、薬剤ビン40に振動を与え、混入異物に動きを与えるものといえる。t1?t8及びv1は任意に設定できるが、例えば…に設定する。」と、図3に示される速度プロファイルを説明しているのであるから、この「正方向と逆方向の回転を短時間に切り替える」とは、図3における0?t2の正方向の回転の時間、それに続くt2?t4の間の逆方向の回転の時間、それに続くt4?t6の正方向の回転の時間及びそれに続くt6?t8の逆方向の回転の時間のいずれもが短時間であることをいうものと解すべきであり、図3に示された速度プロファイルから離れた請求人の解釈は取り得ない。

(b)「複数回」について
本件特許明細書の段落【0038】の「本実施形態において、正方向及び逆方向に交互に回転駆動する際の駆動サイクルは任意でよい。例えば、本件特許に係る図3においては正方向の回転と逆方向の回転を併せて1サイクルとして合計2サイクルとしているが、1サイクルでもよく、あるいは3サイクル以上、例えば10サイクルとしてもよい。」との記載によれば、本件特許明細書においては正転と逆転を併せて「1サイクル」と表記していることは明らかであるから、「正方向と逆方向に交互に複数回」「回転駆動する」ことは、「正方向と逆方向に交互に複数」「サイクル」「回転駆動する」こと、すなわち、「複数回」とは、正転と逆転を併せた1サイクルが「複数」行われること(以下、「解釈1」という。)をいうものと解するのが相当である。
請求人は、「複数回」とは、正転及び逆転それぞれの繰り返し回数を複数とすることを意味し、正転の繰り返し回数と逆転の繰り返し回数とが相違している場合も含む、という解釈(以下、「解釈2」という。)も可能であり、例えば、正転→逆転→正転→逆転→正転→停止という回転駆動プロファイルは解釈1による「複数回」には含まれないが、解釈2による「複数回」には含まれることになると主張する。
これを検討するに、上述したように、本件特許明細書の段落【0038】の記載から解釈1が導かれることが明らかであり、本件特許明細書を離れた解釈2は取り得ない。なお、正転→逆転→正転→逆転→正転→停止という回転駆動プロファイルは、正転と逆転を併せた1サイクルが2回行われるのであるから、「複数回」といいえるものである。
さらに、請求人は、「複数回」とは、正転および逆転のうち少なくとも一方の繰り返し回数を複数とすることを意味する、という解釈(以下、「解釈3」という。)もあり得ることから、正転→逆転→正転→停止というような回転駆動プロファイルも「正方向と逆方向に交互に複数回」と言える可能性があると主張する。
しかしながら、請求人による解釈3は、本件特許明細書の段落【0038】の記載から離れた解釈であり取り得ない。そして、正転→逆転→正転→停止という回転駆動プロファイルは正転と逆転を併せた1サイクルは1回であるから「複数回」とはいえない。

b 本件特許発明1の構成要件(1B)と甲1発明との対比
上記aの「複数回連続して」の意義に基づいて、本件特許発明1の構成要件(1B)と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「あらかじめシステムに登録したスピン条件に従い」「制御される」「各モーター」が「注射剤用」の「アンプル・バイアル」である「容器を回転させ」ることは自明である。
そして、上記aの「複数回連続して」の意義に照らせば、甲1発明の「停止状態から、t1時間の加速、t2時間の等速、t3時間の減速により正転させ、停止期間をはさんで、正転と同様の加速、等速、減速により逆転させ、停止させる」ことは、正転と逆転との間に停止時間があるから「連続して」いるとはいえず、また、正転と逆転の1サイクルのみで「複数回」繰り返されるか否かは不明であるものの、このような「スピン条件に従い」「注射剤用」の「アンプル・バイアル」である「容器を回転させ」る「モーター」と、本件特許発明1の「薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する駆動手段」とは、「薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に回転駆動する駆動手段」という点で共通する。

(ウ)本件特許発明1の構成要件(1C)について
甲1発明は、「容器を回転させた後に急停止し、CCDで複数の映像を撮り込み、その映像間の差分を取ることにより、静止した映像を除去し、移動する異物のみの変化量を捕える」ものであるから、「CCDから出力された映像信号を」「高速処理」する「画像処理部」は、本件特許発明1の「前記駆動手段で交互に回転駆動して薬剤ビンが停止した直後における前記薬剤ビン内の混入異物の移動を時系列で検出する検出手段」に相当するものといえる。

(エ)よって、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違している。

(一致点)
「薬剤ビン内の混入異物を検査する異物検査装置であって、
薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に回転駆動する駆動手段と、
前記駆動手段で交互に回転駆動して薬剤ビンが停止した直後における前記薬剤ビン内の混入異物の移動を時系列で検出する検出手段と、
を有する異物検査装置。」

(相違点)
薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に回転駆動する駆動手段が、本件特許発明1が「複数回連続して」行うものであるのに対して、甲1発明はそのようなものではない点。

イ 相違点についての判断
(ア)甲1発明と技術常識の組合せについて
a 「複数回連続して」が設計的事項との請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、甲第1号証の第49頁左欄の「まる1個別スピン制御」欄に、ワークに応じて正逆転を含めた加減速制御を行うことが記載されており、また、甲第1号証の第46頁右欄第10行?第14行に記載されているとおり、駆動手段による薬剤ビンの回転駆動(スピン機能)に関して、検査対象(容器の形状、液剤の性質、異物の特性等)に応じて適正な回転条件が設定されるべきこと、高い検出率を得るためには単なる回転速度・回転時間のみの条件設定では不十分であること、および、加減速条件・正逆転などきめ細かなコントロールが要求されていることは、本件出願時において当業者に知られていた課題であり、この課題の記載は、薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に回転駆動する回数である「反復数」を含む薬剤ビンの回転条件を、測定対象の液剤の性質等に応じて適宜調整する必要性があることを示唆していると主張し、また、「反復数」を1回よりも2回、更に3回と複数回に増加させれば、異物巻き上げによる移動量も増加するのは自明であり技術常識であるから、単に異物の巻き上げの効果を高めるために「反復数」を1回から複数回に増加させるのは、当業者の採用する単純な設計的事項に過ぎないと主張し、そして、甲1発明において、上記の技術常識を適用し、「薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する」ようにして本件特許発明1とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないと主張する。
しかしながら、上記1の(1)のケのとおり、甲第1号証の図5に示されるスピンパターンは、t1時間の加速、t2時間の回転数Nでの等速、t3時間の減速により正転させ、停止期間をはさんで、正転と同様の加速、等速、減速により逆転させ、停止させるものであって、t1とt3に対して加減速時間設定との文言が指し示されているものであるので、請求人が主張するようにワークに応じて正逆転を含めた加減速制御を行い、きめ細かなコントロールを行おうとすれば、加減速時間設定との文言が指し示す加速時間t1と減速時間t3を調整するか、その他の具体的記載されているパラメータ変数である等速時間t2や回転数Nを調整しようとするのが自然であることからすれば、そのような指示や具体的な記載のないパラメータである停止期間について最適化しようとすることが当業者に容易に想起し得るとする根拠はない。たとえ想起し得るとしたとしても、停止期間のある程度の伸縮ならともかく、回転駆動プロファイルとして明確に記載されている停止期間をなくすことが測定対象に応じて適宜なし得る設計的事項ということはできない。
また、「反復数」を1回よりも複数回に増加させれば異物巻き上げによる移動量も増加することについては、それが自明であり技術常識であるとする根拠が不明であり、それを裏付ける証拠も見当たらず、異物の巻き上げの効果を高めるために「反復数」を1回から複数回に増加させることが当業者の採用する単純な設計的事項ということはできない。
したがって、甲1発明において、技術常識を適用し「薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する」ようにして本件特許発明1とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎないとの請求人の主張は採用できない。

b 停止期間が適宜調整され得るものであるとの請求人の主張について
請求人は、口頭審理陳述要領書の第9頁の(1-5-2)で、被請求人が提出した答弁書の第13頁第20行?第24行の「…一定速度の期間が適切な程度の時間であれば相対的な動きは依然として残存する…当該一定速度の期間における混入異物の相対的な動きも一定確度で担保される」とのことは、容器内の液体及び混入異物の慣性によるもので、一定速度の期間の場合と同様に、停止期間が適切な程度の時間であれば、容器内の液体及び混入異物の慣性により、その停止期間において混入異物の相対的な動きが残存し担保されるとし、一定速度の期間が適切な程度の時間に適宜調整されるのと同様に、停止期間も適切な程度の時間に適宜調整されればよく、停止期間の存否は技術的に大きな意味を持つものではなく、たとえ、「連続」の点に関する相違点があったとしても、本件特許発明1は進歩性を有しないと主張する。
しかしながら、上記aで述べたとおり、甲第1号証には、停止期間について最適化しようとすることが当業者に容易に想起し得る根拠はなく、たとえ想起し得るとしたとしても、停止期間のある程度の伸縮ならともかく、回転駆動プロファイルとして明確に記載されている停止期間をなくすことが適宜調整され得るものであるということはできない。

c 停止期間が存在しないプロファイルが周知であり採用することが容易であるとの請求人の主張について
(a)請求人は、口頭審理陳述要領書において、異物検査技術において容器内の液体中の異物を移動させるために正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイルを採用することは周知であると主張し、それを根拠づける証拠として、容器を回転させることにより容器内の液体中の異物を移動させて異物検査を行う装置または方法の発明において正方向回転と逆方向回転との間に停止期間が存在しない回転プロファイルが記載されている甲第7号証?甲第9号証をあらたに提出している。
この甲第7号証?甲第9号証を口頭審理陳述要領書とともに提出することが、請求の理由の要旨変更にあたるか否か検討するに、これらは、異物検査技術において容器内の液体中の異物を移動させるために正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイルを採用することが周知技術であることの立証のために提出されたものであるから(口頭審理調書の陳述の要領の審判長の5の【請求人】の(2)欄参照。)、請求の理由の要旨変更にはあたらない。

(b)請求人は、甲第7号証?甲第9号証に記載されているような周知技術、すなわち、「異物検査技術において容器内の液体中の異物を移動させるために正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイル」を採用することは当業者にとって容易であると主張するが、請求人は、この周知技術を甲1発明に適用することがなぜ容易なのか、すなわち、周知技術の適用の動機付けを説明していないので、以下で、甲第7号証?甲第9号証に記載された「異物検査技術において容器内の液体中の異物を移動させるために正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイル」の技術内容を検討する。

(c)甲第7号証は、発明の名称を「容器充填液体の異物検査方法」とする発明を開示しており、図6から「正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイル」がみてとれるから、「異物検査技術において正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイル」を開示するものといえる。
しかしながら、甲第7号証には「充填液体Li中に異物ALが混入し」「容器Bに汚れSTがあり、異物ALと汚れSTには相対的な位置にθaの差がある」とき、「回転開始時においては急加速による容器Bの回転に充填液体Liが取り残されることで容器Bと充填液体Liの間に相対的な回転を生じ」「この相対的回転により、異物ALと汚れSTの相対的な位置差がθbに変化し」、「容器Bを停止させる」と「容器Bの動きに充填液体Liが追随できずに」「容器Bと充填液体Liの間に相対回転を生じ」「汚れSTに対する異物ALの相対的な位置差がθcに変化」することが記載されているから、「異物検査技術において容器内の液体中の異物を移動させるために正転」させるものではあっても、ここでの「容器内の液体中の異物を移動させるための正転」は、その正転により回転前と回転後における異物の位置差を生じさせるためであって、甲1発明のように、回転停止後に異物を移動させてその変化量を捕えるための回転ではない。
また、甲第7号証には「逆方向(逆転方向)に必要量(これは容器が回転前と同じ部位を撮影方向に向けるようにするのに必要な回転量とするのが通常である)だけ回転させ」ることが記載されているところ、この逆方向の回転の目的は、容器が回転前と同じ部位を撮影方向に向けるようにするためのもので、「異物検査技術において容器内の液体中の異物を移動させるために」回転させるものとはいえず、甲1発明のような、回転停止後に異物を移動させてその変化量を捕えるための回転とはいえない。
さらに、甲第7号証の図6から、正転と逆転の回転パターンが異なることがみてとれ、これは正転と逆転が同様の回転パターンである甲1発明とは異なるものである。
したがって、甲第7号証に開示される「異物検査技術において容器内の液体中の異物を移動させるために正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイル」は、甲1発明とその目的が異なるものであり、正転と逆転の回転パターンが同様でない点においても甲1発明とは異なるものであるから、甲第7号証に記載の技術が、甲1発明に採用できる回転駆動プロファイルとして正逆回転を連続的に行うことが周知であるとする根拠ということはできない。

(d)甲第8号証には、「3000回転の高速回転」「させたアンプルは次いで直ちに」「600回転程度の低速度の逆回転を与えられる」と記載されているから、「正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイル」を開示するものといえる。
しかしながら、甲第8号証には、「高速回転中にはアンプルの内容液は旋回し」、「遠心力で液が外周上方まで押し上げられ中心の液面が極端に降下」し、「これに引続いて600回転程度の低速度の逆回転の過程にうつると、液面は急速に復帰」し、「アンプル管壁部附近の内容物はこの逆回転に追従しようとするが、中心部に向うにつれ、前回の高速回転の影響はなお続き、結果として求心的な渦流が生」じ、「混入異物はこの求心渦流により中心部に舞い上がり、柱状の異物集中区域を生ずるのであ」り、「ビーム光源より出た光線はアンプル底部からその中心部に進入し、異物が柱状に舞い上つた中心部を上方に光線が向うので、異物があれば、これら異物により乱反射され、この乱反射光をアンプル側面において、検光系20」「で捕捉し、この捕捉した光線は電子機構を通して処理され良、不良の判別信号を出す」と記載されており、「異物検査技術において容器内の液体中の異物を移動させるために正転と逆転」させるものといえるが、正転と逆転は、求心的な渦流を生じさせ、混入異物がこの求心渦流により中心部に舞い上がり、柱状の異物集中区域を生じさて、アンプル底部からその中心部に進入した光線が異物により乱反射され、この乱反射光を補足するためのものであって、甲1発明のように回転停止後に異物を移動させてその変化量を捕えるための回転ではない。
また、「3000回転の高速回転」に「次いで」「600回転程度の低速度の逆回転を与えられる」のであるから、正転と逆転とで回転パターンは異なり、甲1発明のような正転と逆転が同様の回転パターンではない。
したがって、甲8発明に開示される「異物検査技術において容器内の液体中の異物を移動させるために正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイル」は、甲1発明とその目的が異なるものであり、正転と逆転の回転パターンが同様でない点においても甲1発明とは異なるものであるから、甲第8号証に記載の技術が、甲1発明に採用できる回転駆動プロファイルとして正逆回転を連続的に行うことが周知であるとする根拠ということはできない。

(e)甲第9号証には、「角度θ_(2)で立上がる立上がり部P_(21)、定速部P_(22)、減速部P_(23)、定速部P_(24)、減速部P_(25)、加速部P_(26)を持ち、P_(25)、P_(26)の中で回転数が負になっている逆転駆動を示す液中異物検査のパターンP_(2)を有し、被検体内の充鎮液体中の異物の検出のために、被検体を回転させその後回転の停止を行い、充填液体中の動きまわる異物を検出する」ことが記載されており、「異物検査技術において容器内の液体中の異物を移動させるために正転と逆転」を有する「回転駆動プロファイル」が開示されているといえる。また、図3から、「正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイル」がみてとれる。
しかしながら、甲第9号証には逆転についての説明がなくその技術的意義が不明である。
また、図3から、P_(2)の回転プロファイルは、大部分が正転であり次いでわずかな逆転が行われるものであって、甲1発明のような正転と逆転が同様の回転パターンではなく、正転と逆転の回転パターンが著しく異なるものである。
したがって、甲9発明に開示される「異物検査技術において容器内の液体中の異物を移動させるために正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイル」は、逆転の技術的意義が不明であり、正転と逆転の回転パターンが著しく異なる点で甲1発明と相違するから、甲第9号証に記載の技術が、甲1発明に採用できる回転駆動プロファイルとして正逆回転を連続的に行うことが周知であるとする根拠ということはできない。

(f)上記(c)?(e)に記載したように、甲第7号証?甲第9号証によっては、甲1発明に採用できる回転駆動プロファイルとして「異物検査技術において容器内の液体中の異物を移動させるために正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイル」が周知であるとする根拠とはいえず、また、これを甲1発明に採用することが容易であるともいえない。
また、甲第7号証?甲第9号証から、異物検査技術において容器内の液体中の異物を移動させるために正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイルを採用すること自体は技術的に可能といえるので、念のため、甲1発明に「正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイル」を採用することが当業者が適宜なし得る設計的事項といえるか否かを検討するに、乙第1号証?乙第3号証によれば、「正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイル」を採用したパターン1、1’が、甲1発明に相当するパターン2、3に比べて異物の検出確率が高いことは上記1(15)ツ(セ)及び同(16)カ(エ)で認定したとおりであって、甲1発明に「正転と逆転との間に停止期間が存在しない回転駆動プロファイル」を採用すれば格別顕著な作用効果を奏するのであるから、その採用は当業者が適宜なし得る設計的事項とはいえないというべきである。

d 被請求人の実験結果に対する請求人の主張について
(a)請求人は、平成27年9月30日付けの上申書において、パターン1の決定に際して、パターン1が1サイクルの回転駆動のみで混入異物を巻き上げることができることが被請求人により確認されているのであるから、「複数回」の点が技術的に大きな意味を持つものではなく適宜調整されるものであると主張する。
しかしながら、被請求人の平成27年9月10日付けの上申書の第2頁第5?11行には、「まず、本件特許発明のパターンとして、本件特許の図3に示されたパターンを選択した。本件特許明細書の段落0029には、正方向の回転時間及び逆方向の回転時間として200msecが例示されているので、これに従って正方向の回転時間と逆方向の回転時間を200msecに設定した。他方、回転速度v1については、この種の異物検査装置において通常使用されると想定される程度の800rpmに設定し、この回転速度で試行し異物が巻き上がることを確認した上で最終的に800rpmに決定した。」と記載されており、また、本件特許発明1が複数回(2サイクル以上)の回転駆動が必須であるのであるから、「図3に示されたパターンを選択し」て「異物が巻き上がることを確認した」とは、図3に示された2サイクルの回転駆動で異物が巻き上がることを確認したものと解するのが妥当であり、被請求人も平成27年10月14日付けの上申書でそのように述べている。よって、1サイクルの回転駆動のみで混入異物を巻き上がることを確認してパターン1を決定しているという請求人の主張は誤りであるから、それを前提にした、「複数回」の点が技術的に大きな意味を持つものでなく適宜調整されるものであるという請求人の主張は採用できない。

(b)請求人は、パターン3の総回転時間は3000msecという長時間となり、異物検査において通常設定される数百msecと比べると1桁も長い時間となっており、3000msecという総回転時間は妥当でなく、パターン3は等速期間及び停止期間が長く、これらの期間に混入異物の動きがなくなってしまうことから、当業者が採用することのない無意味な条件であると主張する。
しかしながら、被請求人の平成27年9月10日付けの上申書の第2頁第3行?第3頁第19行によれば、甲第1号証のパターン3を決定するに際し、甲第1号証の図5は、加速時間t1と減速時間t3がほぼ等しく、加速時間t1と等速回転時間t2の比率が1:4であり、加速時間t1と停止期間の比率がほぼ1:2であるように記載され、具体的な数値については記載されていないことから、パターン1の加速時間・減速時間及び回転速度をそのまま適用して、加速時間t1と減速時間t3を100msec、等速回転時間t2を400msec、停止期間を200msecとし、本件特許発明1と対比するために2サイクルとした結果、総回転時間が3000msecとなったことが説明されており、この総回転時間の3000msecのパターン3は、本件特許発明1のパターン1と対比しかつ甲第1号証に示された回転パターンを忠実に再現させる上で合理的なものというべきである。

(c)請求人は、パターン1とパターン3とは、停止期間の有無の点で相違するだけでなく、等速期間の有無の点でも相違し、1サイクル当たりの時間及びサイクル数の点でも相違するから、停止期間の有無と効果の程度(検出確率の大きさ)との間の関係を示すためにこのような様々な相違点が存在するパターン1、3を設定したことは疑問であり、「総回転時間を一致させる必要がなぜあるかも疑問であり、また、パターン1とパターン3との間には様々な相違点が存在するにもかかわらず、そのうちの停止期間の有無の相違点のみが検出確率の相違に寄与していると結論づけているから、パターン1、3の実験結果の比較は無意味であり、様々な相違点が存在するパターン1、3の実験結果から、停止期間の有無と検出確率の大きさとの間の関係を論じることはできないこと、及び、仮にパターン3として1サイクル当たりの時間及びサイクル数がパターン1と同じであるパターンを採用すれば、高い検出確率が得られる結果となるであろうことは容易に推測することができる旨主張している。
しかしながら、パターン3の停止期間及び等速期間は、上記(b)で述べたとおりパターン1と対比しかつ甲第1号証に示された回転パターンを忠実に再現させる上で合理的なものであるし、請求人が主張するように仮にパターン3として1サイクル当たりの時間をパターン1と同一とするならば、パターン3の加減速度はパターン1の4倍にもなってしまいその影響が大きいことが予想され、パターン1の比較の対象として妥当なものとはならない。
してみると、パターン3を不適切とする請求人の主張は採用することができない。

(d)請求人は、本件特許発明1が属する技術分野は、「薬剤ビン内の混入異物の検査」という極めて高い安全性が要求される分野であるから、本件特許発明1の課題「任意の溶液あるいは薬剤が収容された薬剤ビン内の混入異物を確実に検査する」とは、高粘度薬剤を含む任意の薬剤が収容された薬剤ビン内にガラス状の異物のように重い混入異物が存在する場合であっても100%(または、これに極めて近い値)の確率で混入異物を検出することを意味することは明らかであるのに、被請求人の実験によればパターン1’では検出確率が80%(=100×異物上昇回数24/試行回数30)であり、薬剤ビン内に混入異物が存在する場合に混入異物を検出できないまま「医薬品の最終製品」として出荷してしまう確率が20%もあり、「医薬品の最終製品」に要求される極めて高い安全性を担保することができず、パターン1’の実験結果は、本件特許発明1が解決しようとする課題を解決し得ないパターンを請求項の文言上含むことを示すと主張する。
しかしながら、そもそも発明は技術的思想の創作であり、一定の確実性をもって同一結果を反復できるものであれば足り、その確実性は100%である必要はないというべきである。本件特許明細書における従来技術(図5)に相当するパターン4では検出率が0%であるのに対し、パターン1’では検出確率が80%に顕著に増大しており、パターン1’では従来以上に確実に混入異物を検出しているといえ、本件特許発明1が解決しようとする課題(任意の溶液あるいは薬剤が収容された薬剤ビン内の混入異物を確実に検査する)を解決しているものといえる。請求人の主張は、技術思想の創作たる発明と、現実に医薬品を流通させる場面とを混同しているものであって採用することができない。

(e)請求人は、パターン1’、3の実験結果から直接的に言えることは、停止期間が0msecであるパターン1’の検出確率は80%、停止期間が200msecであるパターン3の検出確率は3%であって、これら2つの特定のパターンで実験した限りでの事項に留まり、パターン1’、3の実験結果は、様々な条件のパターンで実験したときに停止期間がない場合と停止期間がある場合との間で効果に差が生じることを示すものではないと主張し、もし、パターン3を基本としつつ停止期間を0?200msecの範囲内の各値に設定したパターンで実験を行うと、停止期間が0?200msecの範囲内であれば、検出確率は数%から80%程度までの間の値になること、停止期間が長いほど検出確率は低いこと、停止期間が短いほど検出確率は高いこと、停止期間が短ければ(数?数十msecであれば)検出確率は80%程度またはこれに近い値になることは容易に推測することができるのであるから、被請求人が行ったパターン1’、3の実験結果は、停止期間の存否は技術的に大きな意味を持つものではなく、停止期間は適切な程度の時間に適宜調整されればよいことを示しているにすぎないし、また、パターン1’は、上記(d)の請求人の主張のとおり課題を解決し得ないパターンであり、このようなパターン1’の実験結果とパターン3の実験結果とを比較することは無意味であると主張する。
しかしながら、被請求人の平成27年9月10日付けの上申書の第4頁第9?19行の記載によれば、パターン1’は、甲第1号証と可能な限り回転時間及び回転速度が同一となるように、正転加速時間100msec、正転等速時間400msec、正転減速時間100msecとし、逆転加速時間、逆転等速時間、逆転減速時間も正転時と同一として、さらに、総回転時間もパターン3と同一の3000msecとして、正方向と逆方向に交互に2.5サイクル繰り返すものに決定したと説明されており、このパターン1’は、甲第1号証と対比するために本件特許発明1の回転パターンを忠実に再現させる上で合理的なものというべきである。また、上記(b)で述べたように、パターン3も甲第1号証に示された回転パターンを忠実に再現させる上で合理的なものといえる。そして、パターン1’、3の実験結果は、2つの特定のパターンで実験したものであるが、停止期間が0msecであるパターン1’の検出確率は80%、停止期間が200msecであるパターン3の検出確率は3%であることは、少なくとも、本件特許発明1と甲1発明とで停止期間の有無により効果に差が生じることを十分推認させるものというべきである。さらに、請求人が主張するように、もし、パターン3を基本としつつ停止期間を0?200msecの範囲内の各値に設定したパターンで実験を行った場合に、停止期間が0?200msecの範囲内で検出確率は数%から80%程度までの間の値になり、停止期間が長いほど検出確率は低くなり、停止期間が短いほど検出確率は高くなり、停止期間が短ければ(数?数十msecであれば)検出確率は80%程度またはこれに近い値になることがあったとしても、これらのパターンは、甲1発明に相当するものではなく、本件特許発明1を知った上での仮想の発明という他なく、本件特許発明とこのような仮想の発明を比較して停止期間の存否による差異を比較しても、本件特許発明と甲1発明の停止期間の存否による技術的意義を論ずることはできず、請求人の主張は採用できない。

(f)請求人は、パターン1、3、4、1’の動画において、回転駆動の総回転時間は、3000msec又は3200msecより明らかに長く、略2倍の時間となっており、パターン2の動画においても総回転時間は設定値より長く疑問であると主張する。
しかしながら、被請求人の平成27年10月14日付けの上申書の第6頁第5?12行によれば、動画の時間は実時間ではなく、混入異物の動きがはっきり分かるスローモーションの動画となっており、実際の回転駆動時間はパターン1では3200msecとのことであり、被請求人の回答は合理的な説明であるから、総回転時間に疑問は生じない。

(g)請求人は、パターン1,1’の動画に比べて、他のパターン2、3、4の動画では、回転駆動中及び停止直後の混入異物の動きが速く軽快であり疑問であると主張する。
しかしながら、乙第3号証においてパターン1,1’の動画に比べて他のパターンの動画について回転駆動中及び停止直後の混入異物の動きが速く軽快であるか否かは明確にみてとることはできず、被請求人の平成27年10月14日付けの上申書の第6頁第13?17行の、全てのパターンは同一サンプルを用いて行ったものであるという主張に鑑みれば、パターン1、1’の動画に比べて、他のパターン2、3、4の動画の回転駆動中及び停止直後の混入異物の動きが速く軽快であるとの疑問は生じない。

e 請求人の実験結果に基づく請求人の主張について
(a)請求人は、平成27年9月30日付けの上申書において、あらたに、甲第13号証(請求人の実験について纏めた報告書)と甲第14号証(その実験の動画データ)を提出している。
この甲第13号証及び甲第14号証を提出することが、請求の理由の要旨変更にあたるか否か検討するに、これらは、被請求人が本件特許発明1と甲1発明の相違点に係る「複数回連続して」回転駆動することによる顕著な効果を乙第1号証?乙第3号証を用いて主張立証したのに対し、請求人がその顕著な効果を否定するための証拠として提出したものであるから、請求の理由の要旨変更にあたらない。

(b)請求人は、甲第13号証と甲第14号証に基づいて、パターン1-0、パターン1-10、パターン1-50、パターン1-100の実験によれば、停止期間0?100msecの範囲で検出確率は100%であって、パターン1’-0、パターン1’-10、パターン1’-50、パターン1’-100の実験によれば、停止期間がない場合に検出確率は70%であり、停止期間10?100msecの範囲で検出確率は70?90%であったことから、これらの実験結果は、停止期間がない場合と停止期間がある場合との間で検出確率に大きな差異がないことを示しており、すなわち、停止期間の存否は技術的に大きな意味を持つものではなく、停止期間は適切な程度の時間に適宜調整されればよいことを示していると主張する。
しかしながら、停止期間を有するパターン1-10、1-50、1-100、1’-10、1’-50、1’-100は、停止期間が200msecに相当する甲1発明に比べて、停止期間が半分以下である仮想の発明であって、本件特許発明1とこのような仮想の発明を比較して停止期間の存否による効果の差異を比較しても、本件特許発明1と甲1発明の停止期間の存否による効果の差異を論ずることはできないというべきである。
したがって、請求人の提出する各パターンにおける実験結果が上記の判断を左右するものではない。

(c)「複数回」の意義について
請求人は、平成27年9月30日付けの上申書において、請求人のパターン及び被請求人のパターン1、1’では、第1サイクル終了の時点の画像を見ると、第1サイクルの回転駆動のみで混入異物が巻き上げられており、1サイクル及び複数サイクルのいずれにおいても停止直後に混入異物が降下していく様子をカメラで撮像することができる点で差異はなく、本件特許明細書の段落【0038】にサイクルの繰り返し回数が任意であって1サイクルでもよく適宜設定し得る旨が記載され、本件図4において1サイクルに満たない最初の正方向回転のみにより既に混入異物が相対的に移動するとしているから、「複数回」の点は、技術的に大きな意味を持つものではなく、適宜調整されるものであると主張する。
しかしながら、パターン1、1’は、本件特許発明1に相当するパターンであり、これらのパターンの1サイクルと複数サイクルとの巻き上げの差異を論じてみても、甲1発明の回転パターンを複数回とすることによる効果が否定されるものではないから、請求人の主張は採用できない。

f 数値限定発明の効果について
請求人は、平成27年9月30日付けの上申書において、本件特許発明1は、回転駆動プロファイルにおいて「複数回(サイクル数≧2)」かつ「連続(停止期間=0)」という数値範囲に限定した点に特徴を有するものであるから、数値限定を用いて発明を特定しようとするものであるが、数値範囲内において所期の効果を奏しない部分があり、数値限定の臨界的意義を有しておらず、効果が異質でもなく、また、効果が当業者の予測を超えるものでもないから、本件特許発明は何ら格別の効果を奏するものではないと主張する。
しかしながら、数値限定発明とは、一般に、公知技術と比較し、公知の数値範囲の一部に特段の作用効果が奏することをもって成立する発明と解されるところ、本件特許発明における「複数回」はともかく、「連続して」は公知の数値範囲の一部を数値で限定したものではなく回転駆動の状態を断続的に回動するのではなくつらなり続くように回転駆動することを規定しているものであって、数値を限定したものではないことは明らかであるから、本件特許発明1が数値限定発明であるとの請求人の主張は採用できない。

(g)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1が、甲1発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(イ)甲1発明と甲2発明または甲3発明の組合せについて
請求人は、審判請求書において、甲第2号証には、「低速な回転でも正逆回転を行うことで…血液試料を攪拌できる」(段落【0011】)、「性状、殊に粘性において相違があり、攪拌時に十分な制御をしないと…十分な攪拌効果が得られないことがある。このため本発明においては…回転を正逆方向に反転させつつ行うことで、十分な攪拌効果…がある」(段落【0039】)、「血液試料の攪拌に影響する因子は、回転速度と正逆回転を行う回数(以下、反復数という。)である。…反復数を増やすことで…十分に攪拌することが可能となる」(段落【0040】)と記載され、甲第3号証にも、一定の周期をもって容器の回転方向を逆転させることでより確実に攪拌することができる旨が記載されており、甲2発明及び甲3発明は、固体が混入された液体(血球を含む血液)を攪拌する際に、「正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する」ものであるところ、甲第4号証、甲第5号証及び甲第6号証で容器内の混入異物を検査する異物検査技術において容器を回転させて混入異物を移動させることを「攪拌」と称しているとおり、甲1発明における「異物を巻き上げて確実にカメラ視野内に浮遊させるスピン機能」は「攪拌」に他ならないから、甲1発明において混入異物の移動量を大きくしてより確実に異物検出をするために甲2発明または甲3発明の「正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する」という周知の攪拌技術を適用して本件特許発明1に想到することは、当業者が容易になし得たものであると主張する。
しかしながら、甲1発明の「異物を巻き上げて確実にカメラ視野内に浮遊させるスピン機能」を課題とする「異物検査機」と、甲2発明の「血液試料等の試料を均一にする」ことを課題とする「攪拌装置」及び甲3発明の「試料同士が衝突して攪拌を均一に確実に行う」ことを課題とする「攪拌装置」は、技術分野及び課題を異にしていることは明らかであり、それは、甲第4号証?甲第6号証で容器内の混入異物を検査する異物検査技術において容器を回転させて混入異物を移動させることを「攪拌」と称しているとしても変わるものではないから、甲1発明に甲2発明、甲3発明またはそれらから把握される周知の攪拌技術を適用することが容易であるということはできない。
さらに、甲2発明及び甲3発明は、正転→逆転→正転→逆転の各回転間に停止期間がないものか、すなわち、「連続的に」行われるものか不明であり、仮に甲1発明に適用したとしても「連続的に」行う点が相違点として残るのである。
したがって、本件特許発明1が、甲1発明と、甲2発明、甲3発明またはそれらから把握される周知の攪拌技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

ウ 小括
したがって、本件特許発明1は、甲1発明と技術常識に基づいて、または、甲1発明と甲2発明もしくは甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件特許発明1は無効理由1によって無効にされるべきものではない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を追加したものであるから、上記(1)で検討したとおり、本件特許発明1と同様に、甲1発明と技術常識に基づいて、または、甲1発明と甲2発明もしくは甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件特許発明2は無効理由1によって無効にされるべきものではない。

(3)本件特許発明3及び4について
本件特許発明3及び4は、それぞれ本件特許発明1及び2の「異物検査装置」に対応する「異物検査方法」であってそれ以外に発明特定事項に差がないものであって、請求人も本件特許発明1及び2と同じ理由を主張するのみであるから、上記(1)及び(2)で検討した本件特許発明1及び2と同様に、甲1発明と技術常識に基づいて、または、甲1発明と甲2発明もしくは甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件特許発明3及び4は無効理由1によって無効にされるべきものではない。

3 無効理由2(特許法第36条第6項第1号)について
(1)本件特許発明に適用されるサポート要件について
ア 特許制度は、明細書に開示された発明を特許して保護するものであり、明細書に開示されていない発明までも特許として保護することは特許制度の趣旨に反することから、特許法第36条第6項第1号のいわゆるサポート要件が定められたものである。したがって、同号の要件については、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載によって十分に裏付けられ、開示されていることが求められるものであり、同要件に適合するものであるかどうかは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるか、すなわち、発明の詳細な説明の記載と当業者の出願時の技術常識に照らし、当該発明における課題とその解決手段その他当業者が当該発明を理解するために必要な技術事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かを検討して判断すべきものと解される。

(2)本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は異物検査装置及び方法に関し、特に、薬剤ビン内の混入異物の検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液の薬剤や凍結乾燥製剤は、通常、ガラス容器に収容した状態で販売される。これら溶液や凍結乾燥前の液剤については、製造工程において混入異物の検査が実施される。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス容器を回転させて混入異物を検査する場合、ガラス容器の回転により混入異物が確実に溶液内で移動する必要がある。
【0007】
しかしながら、高粘度薬剤の場合には、ガラス容器を回転させても混入異物が移動しない、あるいは移動距離が極めて小さいため検査精度が低下してしまう。
【0008】
図5に、高粘度薬剤の混入異物を検査する様子を示す。高粘度薬剤を収容するガラス容器を所定時間だけ一方向に回転させ、その後、ガラス容器をCCDカメラで撮影して画像処理することで混入異物を検出するものとする。図5(a)はガラス容器の回転を開始した直後の状態、図5(b)がガラス容器の回転中の状態、図5(c)はガラス容器の回転が停止した直後の状態、図5(d)は停止した状態をそれぞれ示す。
【0009】
図5(a)に示すように、ガラス容器の回転を開始すると、混入異物はこの回転に伴って一瞬、移動する。ところが、図5(b)に示すように、回転中は混入異物は同じ回転速度で回転してしまうため、薬剤に対する相対的な動きはほとんどなくなる。そして、図5(c)に示すように、停止直後には混入異物は遅れて停止するため相対的な動きが生じるが、図5(d)に示すようにその動きはすぐに停止してしまう。特に、混入異物がガラス
状の異物のように重い場合には、ガラス容器の底に沈んだ状態でほとんど移動せず、CCDカメラで撮影してもその動きがほとんどないため、得られた画像を処理しても混入異物を検出することは困難となる。
【0010】
本発明の目的は、任意の溶液あるいは薬剤が収容された薬剤ビン内の混入異物を確実に検査することができる装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、薬剤ビン内の混入異物を検査する異物検査装置であって、薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する駆動手段と、前記駆動手段で交互に回転駆動して薬剤ビンが停止した直後における前記薬剤ビン内の混入異物の移動を時系列で検出する検出手段とを有することを特徴とする。」

ウ 「【0023】
図3に、本実施形態における薬剤ビン40を回転駆動する際の速度プロファイルの一例を示す。図において、横軸は時間、縦軸は速度を表す。速度は、正方向の回転をプラス、逆方向の回転をマイナスとする。
【0024】
まず、時間t=0において正方向の回転駆動を開始し、時間t=t1において正方向の最大速度v1となるまで加速する。
【0025】
次に、時間t=t1から時間t=t2まで減速し、時間t=t2で速度0となり、その後、時間t=t3まで逆方向に加速して時間t=t3において最大速度-v1に達するまで加速する。
【0026】
次に、時間t=t3からt=t4まで減速し、時間t=t4で速度0となり、その後、時間t=t5まで正方向に加速して時間t=t5において最大速度v1となるまで加速する。
【0027】
次に、時間t=t5から時間t=t6まで減速し、時間t=t6で速度0となり、その後、時間t=t7まで逆方向に加速して時間t=t7において最大速度-v1に達するまで加速する。
【0028】
次に、時間t=t7から時間t=t8まで減速し、時間t=t7において速度0として停止する。
【0029】
このように、本実施形態では、モータ46を用いて薬剤ビン40を正方向及び逆方向に回転駆動することで、混入異物を薬剤ビン40内で移動させる。言い換えれば、薬剤ビン40に対して正方向の回転と逆方向の回転を短時間に切り替えることで、薬剤ビン40に振動を与え、混入異物に動きを与えるものといえる。t1?t8及びv1は任意に設定できるが、例えば正方向の回転時間t=t1?t2を200msec、逆方向の回転時間t=t2?t4を200msec等に設定する。
【0030】
図4に、本実施形態における検査の様子を示す。図4(a)は正方向(正転)に加速している状態を示す。図3におけるt=0からt=t1の間の状態である。薬剤ビン40内に混入異物が存在する場合、混入異物は薬剤に対して相対的に移動する。
【0031】
図4(b)は正方向に減速している状態を示す。図3におけるt=t1からt=t2の間の状態である。混入異物はこの減速時においても相対的に移動する。
【0032】
図4(c)は逆方向(逆転)に加速している状態を示す。図3におけるt=t2からt=t3の間の状態である。混入異物はこの加速時において再び相対的に移動する。
【0033】
図4(d)は逆方向に減速している状態を示す。図3におけるt=t3からt=t4の間の状態である。混入異物はこの減速時においても再び相対的に移動する。
【0034】
図4(e)は回転駆動が完了して停止した直後の状態を示す。図3におけるt=t8の状態である。薬剤中を相対的に移動していた混入異物がその重量に従って徐々に薬剤ビン40の底に向かって移動していく。このとき、カメラ42で薬剤ビン40を撮影すると、移動している混入異物を確実に検出することができる。」

エ 「【0039】
また、本実施形態において、回転条件を種々変化させて検査を実行してもよい。特に、薬剤ビン40内の薬剤の粘性等が不明の場合、回転条件を種々変化させて各回転条件毎に
検査を行うのが好適である。いずれかの回転条件において混入異物が検出された場合、当該薬剤ビン40には混入異物が存在すると判定できる。回転条件を変化させるには、正方向及び逆方向の回転時間あるいは回転速度の少なくともいずれかを変えればよい。」

(3)本件特許発明におけるサポート要件の充足の有無について
ア 前記(2)ア?エの本件特許明細書の記載によれば、本件特許発明は、ガラス容器を回転させて混入異物を検査する場合、ガラス容器の回転により混入異物が確実に溶液内で移動する必要があるが、高粘度薬剤の場合にガラス容器を回転させても混入異物が移動しない、あるいは移動距離が極めて小さいため検査精度が低下してしまうという課題があったため、この課題を、(ア)薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動することと、(イ)駆動手段で交互に回転駆動して薬剤ビンが停止した直後における薬剤ビン内の混入異物の移動を時系列で検出することにより、薬剤ビンに対して正方向と逆方向の回転を切り替えることで薬剤ビンに振動を与え、混入異物に動きを与え、回転駆動停止直後に重量に従って徐々に薬剤ビンの底に向かって移動していく混入異物を確実に検出することにより解決するものであると理解することができる。

イ そして、前記(1)ウの段落【0023】?【0029】及び図3には、本件特許発明の「薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する」ことの具体的な構成として、速度プロファイルの一例、すなわち、時間t=0において正方向の回転駆動を開始し、時間t=t1において正方向の最大速度v1となるまで加速し、次に、時間t=t1から時間t=t2まで減速し、時間t=t2で速度0となり、その後、時間t=t3まで逆方向に加速して時間t=t3において最大速度-v1に達するまで加速し、次に、時間t=t3からt=t4まで減速し、時間t=t4で速度0となり、その後、時間t=t5まで正方向に加速して時間t=t5において最大速度v1となるまで加速し、次に、時間t=t5から時間t=t6まで減速し、時間t=t6で速度0となり、その後、時間t=t7まで逆方向に加速して時間t=t7において最大速度-v1に達するまで加速し、次に、時間t=t7から時間t=t8まで減速し、時間t=t7において速度0として停止するものが示され、モータ46を用いて薬剤ビン40を正方向及び逆方向に回転駆動することで、混入異物を薬剤ビン40内で移動させる、言い換えれば、薬剤ビン40に対して正方向の回転と逆方向の回転を短時間に切り替えることで、薬剤ビン40に振動を与え、混入異物に動きを与えることが記載され、t1?t8及びv1は任意に設定できるが、例えば正方向の回転時間t=t1(当審注:「t1」は「t0」の明らかな誤記と認められる。)?t2を200msec、逆方向の回転時間t=t2?t4を200msec等に設定するものであることが理解できる。

ウ また、前記(1)ウの段落【0030】?【0034】及び図4には、本件特許発明の「薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する」ことの具体的な構成として、図4(a)がt=0からt=t1の間、正方向(正転)に加速している状態を示し、薬剤ビン40内に混入異物が存在する場合、混入異物は薬剤に対して相対的に移動し、図4(b)がt=t1からt=t2の間、正方向に減速している状態を示し、混入異物はこの減速時においても相対的に移動し、図4(c)がt=t2からt=t3の間、逆方向(逆転)に加速している状態を示し、混入異物はこの加速時において再び相対的に移動し、図4(d)がt=t3からt=t4の間、逆方向に減速している状態を示し、混入異物はこの減速時においても再び相対的に移動し、図4(e)がt=t8で回転駆動が完了して停止した直後の状態を示し、薬剤中を相対的に移動していた混入異物がその重量に従って徐々に薬剤ビン40の底に向かって移動していき、このとき、カメラ42で薬剤ビン40を撮影すると、移動している混入異物を確実に検出することができることが理解できる。

エ さらに、前記(1)の段落【0039】には、回転条件を種々変化させて検査を実行してもよいこと、薬剤ビン内の薬剤の粘性等が不明の場合に回転条件を種々変化させて各回転条件毎に検査を行うのが好適であることが理解できる。

オ 以上によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者において、特許請求の範囲に記載された本件特許発明の課題とその解決手段その他当業者が本件特許発明を理解するために必要な技術的事項が記載されているものといえる。

(4)請求人の主張について
ア 請求人は、例えば、「高粘度薬剤の場合」や「混入異物がガラス状の異物のように重い場合」に、以下の例1?例3のような回転駆動プロファイルであると、「回転駆動により混入異物を薬剤ビン内で確実に移動させ、これにより混入異物を確実に検出できる」(段落【0015】)という所期の作用効果が得られるとは到底考えられず、本件特許発明は解決しようとする課題を解決できると認識することができず、発明の詳細な説明に記載したものではないと主張する。
(例1)本件図3の回転プロファイルにおいて、v1が小さい場合や、加減速が緩やかである場合には、「混入異物が同じ回転速度で回転してしまうため、薬剤に対する相対的な動きはほとんどなくなる」(段落【0009】)ことから、所期の作用効果が得られるとは到底考えられない。
(例2)一般に“正方向回転⇒逆方向回転⇒正方向回転⇒最後の逆方向回転⇒停止”と言うような回転駆動プロファイルにおいて、“最後の逆方向回転”の際に一定速度の期間がある場合には、その一定速度の期間に「混入異物は同じ回転速度で回転してしまうため、薬剤に対する相対的な動きはほとんどなくなる」ことから、所期の作用効果が得られないことは明らかである。
(例3)一般に“正方向回転⇒逆方向回転⇒正方向回転⇒最後の逆方向回転⇒停止”と言うような回転駆動プロファイルにおいて、“最後の逆方向回転”から“停止”にいたるまでの減速が緩やかである場合には、その減速の期間に「混入異物は同じ回転速度で回転してしまうため、薬剤に対する相対的な動きはほとんどなくなる」ことから、所期の作用効果が得られないことは明らかである。

しかしながら、例1について、本件特許明細書の段落【0039】に「本実施形態において、回転条件を種々変化させて検査を実行してもよい。特に、薬剤ビン40内の薬剤の粘性等が不明の場合、回転条件を種々変化させて各回転条件毎に検査を行うのが好適である。いずれかの回転条件において混入異物が検出された場合、当該薬剤ビン40には混入異物が存在すると判定できる。回転条件を変化させるには、正方向及び逆方向の回転時間あるいは回転速度の少なくともいずれかを変えればよい。」と記載されており、当業者であれば合理的な範囲内でv1や加減速を調整するのであって、正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動させるのは混入異物に相対的な動きを与えるためであるから、例1のように極端にv1を小さくしたり加減速を緩やかにして異物の動きがなくなるような回転条件を当業者は採用しないことは明らかであるから、これをもって所期の作用効果が得られないとする請求人の主張は採用できない。
同様に、例2について、当業者であれば合理的な範囲内で一定速度の期間を調整するのであって、一定速度の期間が適切な時間であれば、回転駆動により混入異物を薬剤ビン内で確実に移動させ、これにより混入異物を確実に検出できることは、乙第2号証(回転パターン1’)に開示されるとおりであり、一定速度の期間を不必要に長く設定するなどして例2のように異物の動きがなくなるような回転条件を当業者は採用しないことは明らかであるから、これをもって所期の作用効果が得られないとする請求人の主張は採用できない。
さらに、例3についても、当業者であれば合理的な範囲内で減速の傾きを調整するのであるから、極端に減速を緩やかにして混入異物の動きがなくなるような回転条件を当業者は採用しないことは明らかであるから、これをもって所期の作用効果が得られないとする請求人の主張は採用できない。

イ また、請求人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、課題を解決し得る具体例(実験データ)がまったく記載されておらず、また、理論的な具体的説明もないと主張する。
しかしながら、上記(3)で述べたように、本件特許明細書の【0023】?【0029】及び図3には具体的に正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する速度プロファイルの一例が示されており、正方向と逆方向の回転を短時間に切り替えることで薬剤ビンに振動を与えて混入異物に動きを与えるとの作用効果の説明も記載されており、【0030】?【0034】及び図4には正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動したときの混入異物の相対的な動きも具体的に示されているのであるから、請求人の主張は理由がない。

ウ 請求人は、口頭審理陳述要領書及び平成27年9月30日付けの上申書において、本件特許発明は、最初の正方向回転のみでは混入物が巻き上げることができない場合に、「薬剤ビンを正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する」ことにより初めて混入異物の巻き上げを可能としているにもかかわらず、最初の正方向回転の終了時に異物が巻き上げられなければ、その後の逆方向回転、正方向回転及び逆方向回転を行っても、混入異物は巻き上げられず、所期の作用効果は得られないから、課題を解決し得ないと主張する。
しかしながら、本件特許発明の「高粘度薬剤の場合には、ガラス容器を回転させても混入異物が移動しない、あるいは移動距離が極めて小さいため検査精度が低下してしまう」という課題の例として、図5(a)に示すように、ガラス容器の回転を開始すると、混入異物は一瞬移動するものでも、図5(b)の回転中、図5cの停止を経過して図5(d)の停止後において、動きがすぐに停止してしまい、撮影した画像を処理しても混入異物が検出することは困難であるということが記載されているのであるから、本件特許発明の課題である「高粘度薬剤の場合には、ガラス容器を回転させても混入異物が移動しない、あるいは移動距離が極めて小さいため検査精度が低下してしまう」のは、図5(d)の停止後の撮影時であることは明らかであり、図5(a)の回転開始時には混入異物は一瞬移動するものについても本件特許発明の課題が生じることを請求人は正解しておらず、請求人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件特許発明1?4の解決しようとする課題を本件特許発明1?4の構成により解決できるものと認識することができ、本件特許の請求項1?4の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものであるから、本件特許発明1?4は、無効理由2によって無効とすることはできない。

4 無効理由3(特許法第36条第4項第1号)について
(1)本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、上記3(2)で摘記したとおりの記載がある。

(2)本件特許発明における実施可能要件の有無について
本件特許明細書には、段落【0023】?【0029】及び図3において正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動する速度プロファイルの一例が示されており、段落【0029】には正方向の回転時間と逆方向の回転時間の具体的な数値(200msec)も記載されている。そして、段落【0030】?【0034】及び図4において具体的に正転・加速、正転・減速、逆転・加速、逆転・減速、停止時の混入異物の相対的な移動の様子が示されている。さらに、段落【0039】には、薬剤ビンの薬剤の粘性等が不明の場合に、回転条件を種々変化させて各回転条件毎に検査を行い、いずれかの回転条件において混入異物が検出された場合に当該薬剤ビンに混入異物が存在すると判定できることが記載されている。
したがって,本件特許明細書の記載は,当業者が本件特許発明を容易に実施することができる程度に記載されているといえ,実施可能要件を満たすものである。

(3)請求人の主張に対して
請求人は、本件特許明細書は、薬剤ビンを一方向に回転させる従来技術では検出できない場合(「高粘度薬剤」や「混入異物がガラス状の異物のように重い場合」)に、本件特許発明を実施するに際して「正方向と逆方向に交互に複数回連続して回転駆動」することしか記載されておらず、この条件だけでは任意の溶液が収納されて薬剤ビン内の混合異物を確実に検査するよう実施する方法を発見するには、当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤を行う必要があり、当業者が発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかが理解できないから、本件特許発明について、本件特許明細書の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないと主張する。
しかしながら、当業者であれば、例えば、図3において正方向と逆方向の回転時間を200msecとし、最大速度v1を適当な値に設定して薬剤ビンを回転駆動して混入異物を検査し、混入異物が検出されればそこで混入異物が存在すると判定でき、仮に混入異物が検出されなければ、最大速度v1を所定量だけ増大させて再び薬剤ビンを回転駆動して混入異物を再検査するという作業を繰り返せば容易に混入異物を検出できることが期待でき、このような調整作業は単に最大速度v1を増大させる、あるいは回転時間を短くする程度の作業であるから、格別の工夫を要するものとはいえないというべきである。薬剤ビンの粘性が既知であれば過去のデータ等からその粘性に応じた適切な回転条件で検査すればよく、薬剤ビンの粘性が不明(勿論、不明といっても薬剤ビン内の溶液あるいは薬剤である以上はその粘性は一定の範囲内にあることは予期し得るものであるが)であれば、回転速度を増大させ、あるいは回転時間を短くすることで回転駆動がより急峻となるとの一般的な技術常識の下に合理的な範囲内で回転速度あるいは回転時間を調整して数回?数十回程度の試行錯誤を繰り返せば足りるのであって、格別の工夫を要するものではなく、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を行う必要があるとまではいえないというべきである。
また、本件特許発明はこの種の異物検査装置に通常使用されると想定される最大回転速度800rpmで実施することができ、このような最大回転速度については、例えば、本件特許明細書の先行技術文献として記載された特開平6-258254号公報の第3頁右欄(第4欄)第16行に記載されている1000?1100rpmの範囲と比較して想定外の最大回転速度ではないものであり(平成27年9月10日付けの被請求人の上申書の第2頁第8?17行参照。)、そもそも甲第1号証においても最大回転速度について特段示されていないことからみても、これらの数値が特段示されていないことが実施を妨げるものとまではいえない。

(4)小括
したがって、本件特許の請求項1?4に係る発明について、本件特許明細書の記載が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないということはできないから、本件特許の請求項1?4に係る発明の特許は、無効理由3によって無効にされるべきものではない。

第5 結び
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1?4に係る発明の特許を無効とすることができない。審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-13 
結審通知日 2016-01-18 
審決日 2016-02-01 
出願番号 特願2009-235000(P2009-235000)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (G01N)
P 1 113・ 537- Y (G01N)
P 1 113・ 536- Y (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越柴 洋哉  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤田 年彦
▲高▼橋 祐介
登録日 2014-02-21 
登録番号 特許第5479018号(P5479018)
発明の名称 異物検査装置及び方法  
復代理人 志賀 明夫  
代理人 柴田 昌聰  
代理人 谷澤 恵美  
代理人 城戸 博兒  
代理人 阿部 寛  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  
代理人 長谷川 芳樹  

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