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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  D04B
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D04B
管理番号 1314074
審判番号 無効2015-800087  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-03-30 
確定日 2016-05-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第5596886号発明「布帛および繊維製品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5596886号の請求項1ないし3、5ないし17、19、21ないし24に係る発明についての特許を無効とする。 特許第5596886号の請求項4、18、20に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その24分の3を請求人の負担とし、24分の21を被請求人の負担とする。 
理由 第1.請求及び答弁の趣旨
審理の全趣旨から見て、請求人は、特許第5596886号の請求項1ないし24に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、被請求人は、本件審判の請求は、成り立たない、審判費用は、請求人の負担とする、との審決を求めている。


第2.手続の経緯
主な手続の経緯を示す。
平成25年12月11日 本件国際特許出願(優先権主張 平成24年12月17日)
平成26年 8月15日 設定登録(特許第5596886号)
平成27年 3月27日付け 審判請求書
平成27年 6月22日付け 答弁書
平成27年 7月 8日付け 審理事項通知
平成27年 8月 7日付け 請求人及び被請求人・口頭審理陳述要領書
平成27年 8月12日付け 審理事項通知(2)
平成27年 9月 1日付け 請求人及び被請求人・口頭審理陳述要領書(2)
平成27年 9月 8日付け 請求人及び被請求人・口頭審理陳述要領書(3)
平成27年 9月 8日 口頭審理
平成27年 9月17日付け 被請求人・上申書
平成27年10月 2日付け 請求人・上申書
平成27年12月 7日付け 審決の予告


第3.本件発明
本件の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項24に記載された各事項の有する技術的な意味は、後記第5.で述べるように、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき理解されるものである。
そして、上記各事項を発明特定事項とする本件の請求項1ないし24に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明24」という。)は、特許請求の範囲に記載されたとおりのものである。
以下に、本件発明1を示す。

《本件発明1》
撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとを含む布帛であって、
前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内である
ことを特徴とする布帛。


第4.当事者の主張及び証拠方法
1.請求人の主張及び証拠方法
(1)主張の要旨
請求人は、本件発明1ないし本件発明24は、以下に示す理由により、無効とすべきものであると主張している。(第1回口頭審理調書の両当事者欄1)
なお、以下において、甲第1号証等を甲1等といい、口頭審理陳述要領書等を要領書等という。

ア.無効理由1:特許法第29条第2項違反
(ア)本件発明1は、甲1、甲21、甲22の各々から容易
(イ)本件発明2は、甲1、甲21、甲22の各々を主たる証拠(以下、甲1、甲21、甲22の各々を「主たる証拠」という。)とし、さらに、従たる証拠である甲1から容易
(ウ)本件発明3は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲14から容易
(エ)本件発明4は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲1から容易
(オ)本件発明5は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲21から容易
(カ)本件発明6は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲6から容易
(キ)本件発明7は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲19から容易
(ク)本件発明8は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲1から容易
(ケ)本件発明9は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲5から容易
(コ)本件発明10は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲1から容易
(サ)本件発明11は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲4から容易
(シ)本件発明12は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲7から容易
(ス)本件発明13は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲1から容易
(セ)本件発明14は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲5から容易
(ソ)本件発明15は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲1から容易
(タ)本件発明16は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲7から容易
(チ)本件発明17は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲21から容易
(ツ)本件発明18は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲18から容易
(テ)本件発明19は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲12から容易
(ト)本件発明20は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲17から容易
(ナ)本件発明21は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲9から容易
(ニ)本件発明22は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲22から容易
(ヌ)本件発明23は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲22から容易
(ネ)本件発明24は、主たる証拠に加えて、従たる証拠である甲19から容易

イ.無効理由2:特許法第36条第6項第1号違反
(ア)本件発明1の「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内」は、発明の詳細な説明の裏付けがないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(イ)本件発明2ないし4、6ないし18、20ないし24は、本件発明1を引用しているから、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(ウ)本件発明5は、ポリエステル繊維には撥水性のあるものも、ないものも存在することを踏まえると、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。また、本件発明5は、本件発明1を引用しているから、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(エ)本件発明19は、本件特許明細書の実施例1ないし3及び5において、布帛の表面に繊維Bが露出していない構造が示されているにも関わらず、「吸収性と撥水性に優れ、かつ水に浮きやすい」という作用効果が得られているから、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。また、本件発明19は、本件発明1を引用しているから、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(2)証拠
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
なお、甲2、甲3、甲8、甲10、甲11、甲13、甲15、甲16、甲20については、撤回された。(請求人要領書(2)5.[5-1])
甲1:特開2011-256495号公報
甲4:特開2011-47068号公報
甲5:再公表特許2008/001920号
甲6:特開2011-132643号公報
甲7:特開2012-122144号公報
甲9:特開2008-63700号公報
甲12:特開2001-279507号公報
甲14:特開2012-7272号公報
甲17:特開2012-1849号公報
甲18:特開2012-184520号公報
甲19:特開2010-201811号公報
甲21:特開2006-225784号公報
甲22:特開2009-299201号公報

(3)主張の要点
請求人の主張の要点は、以下のとおりである。
なお、行数は、空行を含まない。丸数字は「丸1」等と表記する。
ア.無効理由1
(ア)本件発明1
(ア-1)甲1について
(ア-1-1)甲1の記載事項
甲1には、表面層と裏面層を含む複層の編物または織物からなる吸水性生地であって、表面層は親水性糸で構成され、裏面層は疎水性糸と親水性糸が混在して構成され、生地の裏面から水滴を滴下したときに瞬時に吸水して表面層に拡散することを特徴とする吸水性生地が記載されている(要約、請求項1)。また、裏面層において、疎水性糸の本数をAとし、親水性糸の本数をBとした場合、疎水性糸と親水性糸の混在割合が、A:B=1:5?5:1であることが記載されている(請求項6、段落【0022】)。
(ア-1-2)甲1発明
(a1)表面層と裏面層を含み、表面層は親水性糸で構成され、裏面層は疎水性糸と親水性糸が混在して構成される吸水性生地であって、
(b1)前記裏面層において、前記疎水性糸の本数をAとし、前記親水性糸の本数をBとした場合、前記疎水性糸と前記親水性糸の混在割合が、A:B=1:5?5:1である
(c1)ことを特徴とする吸水性生地。
(ア-1-3)本件発明1と甲1発明との一致点
(丸1)撥水性のない繊維(親水性糸)と撥水性のある繊維(疎水性糸)とを含む布帛である点。
(丸2)疎水性糸と親水性糸の混在割合が、A:B=1:5?5:1である点。
(ア-1-4)本件発明1と甲1発明との相違点
(丸1)本件発明1が撥水性のない繊維と撥水性のある繊維とを含む布帛であるのに対して、甲1発明は、裏面層は疎水性糸と親水性糸が混在しているが表面層は親水性糸で構成される点。
(丸2)本件発明1は「重量比率」が50:50?87:13であるのに対して、甲1発明は「本数の混在割合」が1:5?5:1である点。
(丸3)本件発明1の構成要素は「撥水性のない」繊維と「撥水性のある」繊維であるのに対して、甲1発明の構成要素は「疎水性」糸と「親水性」糸である点。
(ア-1-5)相違点は容易想到とする具体的理由
相違点(丸1)について
本件発明1は「撥水性のない繊維と撥水性のある繊維とを含む」布帛であり、布帛全体において両繊維が混在しているとは規定していないので、甲1発明の構成も本件発明1の構成の範囲内に含まれる。よって、甲1発明の「裏面層は疎水性糸と親水性糸が混在している」という記載から、「撥水性のない繊維と撥水性のある繊維とを含む布帛」という発明に想到するのは、当業者にとって容易である。
相違点(丸2)について
本件発明1の実施例と甲1の実施例とで、同じ種類の高分子化合物からなる同じ繊度の合成繊維が用いられている。したがって、「本数の混在割合」は「重量比率」と同義であるといえる。
そして、甲1には本数の混在割合すなわち重量比率が1:5?5:1という記載があることから、数値範囲が重複する「重量比率が50:50?87:13の範囲」という発明特定事項は、甲1に実質的に記載された事項である。
相違点(丸3)について
甲1の実施例においては、疎水性糸としてフッ素系撥水剤で撥水加工された糸やポリプロピレン仮撚捲縮糸が用いられている。すなわち、甲1発明の「疎水性糸」が「撥水性のある繊維」を意味することは明らかである。よって、「甲1の『疎水性糸』は積極的に『撥水性』であることまでは意味しない」という被請求人の反論は失当である。
なお、「撥水性のない繊維」と「親水性糸」とが異なるという主張は被請求人もしておらず、本件発明1の効果に「吸水性と撥水性に優れた編地が得られる」とあることから、「撥水性のない繊維」と「親水性糸」とが同義であることは明らかである。
よって、甲1発明の「裏面層は疎水性糸と親水性糸が混在して構成される裏面層は疎水性糸と親水性糸が混在している」という記載から、「撥水性のない繊維と撥水性のある繊維とを含む布帛」という発明に想到するのは、当業者にとって容易である。
(以上、請求人要領書第7頁第12行ないし第9頁第7行)
(ア-1-6)撥水性の有無、本件発明1と甲1発明との一致点の認定について
撥水性の有無は、接触角が「120度」未満、または「120度」以上、という特定の数値に限定されるべきものではなく、種々の角度が接触角の基準とされるというべきである。また、接触角を基準としない撥水性を発明特定事項とした特許が多数存在する。したがって、本件発明1と甲1発明との一致点は、「撥水性のない繊維と撥水性のある繊維とを含む布帛」とすべきである。(請求人要領書(2)第8頁[5-4A])
(ア-1-7)本件発明1の「水に浮きやすい性質」について
本件発明1における「水に浮きやすい性質」とは、評価方法によって変動するものであり、例えば特開平06-228809号公報の段落【0016】の記載等から、撥水性の高い繊維を用いることによって「水に浮きやすい性質」を有する布帛に想到することは、当業者にとって容易である。また、「吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備える」という作用効果も、上記特開平06-228820号公報の段落【0016】の記載等から、予測可能な事項である。(請求人要領書(2)第11頁[5-4B]、15頁[5-4F])
(ア-1-8)本件発明1と甲1発明の数値範囲について
本件発明1は『撥水性のない繊維と撥水性のある繊維とを含む』布帛であり、布帛全体において両繊維が混在しているとは規定していない。本件発明1の布帛中には、甲1発明における「表面層」に相当する重量または体積を有する「繊維以外の材質」を含む「布帛」が包含される。「布帛」には「樹脂層」等の、繊維素材以外の材質を含有するものも含まれることは、本件特許に係る特許出願の優先日当時における当業者の常識的事項である。したがって、「撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとのみからなり、それらの重量比率が50:50?87:13の範囲内である」場合だけでなく、繊維以外の材質からなる部分をも含有する布帛であり繊維のみからなる部分において「撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとの重量比率が50:50?87:13の範囲内である」という場合をも包含する、という構成が、発明構成要件から導かれる本件発明1の本質である。したがって、「甲1発明の『A:B=1:5?5:1』は、裏面層における疎水性糸と親水性糸の混在割合」であるが、同様に、本件発明1にも布帛の一部のみにおいて『繊維の重量比率が50:50?87:13』である場合が含まれることから、本件発明1と甲1発明の数値範囲は重複するといえる。(請求人要領書(2)第12頁[5-4D])
(ア-1-9)「撥水性」と「疎水性」について
甲1の実施例においては、疎水性糸としてフッ素系撥水剤で撥水加工された糸やポリプロピレン仮撚捲縮糸が用いられており、甲1発明の「疎水性糸」が「撥水性のある糸」を意味することは明らかである。よって、「甲1号証の『疎水性糸』は積極的に『撥水性』であることまでは意味しない」、「『疎水性』と『撥水性』の用語は、文言的に異なることに加え、実質的にもその概念は明らかに異なっている」という被請求人の反論は失当である。(請求人要領書(2)第14頁[5-4E])

(ア-2)甲21について
(ア-2-1)甲21の記載事項
甲21には、水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条Aと、水との接触角が80度以上の撥水性繊維からなる糸条Bとで構成される編地であって、該編地の表面に前記糸条Aのみからなる領域SAと前記糸条Bのみからなる領域SBが存在し、かつ領域SBが縞状のパターンで存在していることを特徴とする異方的な吸水拡散性を有する編地が記載されている(要約、請求項1、段落【0014】)。
また、領域SBの面積割合が編地全体の10?50%の範囲内であることが記載されている(請求項5、段落【0020】)。
また、糸条Aが、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、綿、絹からなる群より選択されるいずれかの繊維からなること、なかでも、繊維強度などの点でポリエステル繊維が好ましいことが記載されている(請求項6、段落【0014】)。
また、糸条Bが、フッ素樹脂繊維またはポリオレフィン繊維であることが記載されている(請求項7、段落【0015】)。
(ア-2-2)甲21発明
(a1’)水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条Aと、水との接触角が80度以上の撥水性繊維からなる糸条Bとで構成される編地であって、
(b1’)編地の表面に前記糸条Aのみからなる領域SAと前記糸条Bのみからなる領域SBが存在し、領域SBの面積割合が編地全体の10?50%の範囲内である
(c1’)ことを特徴とする異方的な吸水拡散性を有する編地。
(ア-2-3)本件発明1と甲21発明との一致点
(丸1)撥水性のない繊維(水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条A)と撥水性のある繊維(水との接触角が80度以上の撥水性繊維からなる糸条B)とを含む布帛である点。
(丸2)糸条Bのみからなる領域SBの面積割合が編地全体の10?50%の範囲内である点。
(ア-2-4)本件発明1と甲21発明との相違点
本件発明1は「重量比率」が50:50?87:13であるのに対して、甲21発明は「面積割合」が編地全体の10?50%の範囲内である点。
(ア-2-5)相違点は容易想到とする具体的理由
本件発明1の実施例と甲21の実施例とで、同じ種類のポリマーからなる同じ繊度の合成繊維が用いられている。したがって、「面積割合」は「重量比率」と同義であるといえる。
そして、甲21には糸条Bのみからなる領域SBの面積割合、すなわち重量比率が10?50%の範囲内であるという記載があることから、数値範囲が重複する「重量比率が50:50?87:13の範囲」という発明特定事項は、甲21に実質的に記載された事項である。
よって、甲21発明の「撥水性のある繊維糸条Bのみからなる領域SBの面積割合が編地全体の10?50%の範囲内である」という記載から、「撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとの重量比率が50:50?87:13の範囲内である」という発明特定事項に想到するのは、当業者にとって容易である。
(以上、請求人要領書第9頁第9行ないし第10頁第13行)

(ア-3)甲22について
(ア-3-1)甲22の記載事項
甲22には、特定の変性シリコーン化合物をポリマー重量に対し2.0?20.0重量%含有するポリエステルからなる撥水性ポリエステル繊維を含む速乾性に優れた編地が記載されている(要約、請求項1)。また、撥水性ポリエステル繊維と他の繊維とで構成する場合、他の繊維としては、撥水剤を含有しないこと以外は前記ポリエステル繊維と同様のポリエステル繊維が好ましいことが記載されている(段落【0033】)。また、撥水性ポリエステル繊維が、編地の全重量に対して30重量%以上含まれることが記載されている(請求項5、段落【0033】)。
(ア-3-2)甲22発明
(a1’’)特定の変性シリコーン化合物をポリマー重量に対し2.0?20.0重量%含有するポリエステルからなる撥水性ポリエステル繊維を含む編地であって、
(b1’’)撥水性ポリエステル繊維が、編地の全重量に対して30重量%以上含まれる
(c1’’)ことを特徴とする編地。
(ア-3-3)本件発明1と甲22発明との一致点
(丸1)撥水性のない繊維(撥水性ポリエステル繊維以外の繊維)と撥水性のある繊維(撥水性ポリエステル繊維)とを含む布帛である点。
(丸2)撥水性ポリエステル繊維が、編地の全重量に対して30重量%以上含まれる点。
(ア-3-4)本件発明1と甲22発明との相違点
本件発明1は撥水性のない繊維と撥水性のある繊維との重量比率が50:50?87:13であるのに対して、甲22発明は撥水性のある繊維の重量比率が編地の全重量に対して30重量%以上である点。
(ア-3-5)相違点は容易想到とする具体的理由
甲22には撥水性のある繊維の重量比率が編地の全重量に対して30重量%以上であるという記載があることから、数値範囲が重複する「重量比率が50:50?87:13の範囲」という発明特定事項は、甲22に実質的に記載された事項である。
したがって、甲22の当該記載から撥水性のない繊維と撥水性のある繊維との重量比率が50:50?87:13であるという発明に想到するのは、当業者にとって容易である。
(以上、請求人要領書第10頁第15行ないし第11頁第7行)

(ア-4)本件発明1の課題について
「撥水性」と「吸水性」とを兼ね備えた布帛については、以下の従来技術がある。
特開2012-001849号公報(参考資料6)(段落【0005】等)
特開2010-174403号公報(参考資料7)(段落【0001】等)
特開2004-156174号公報(参考資料8)(段落【0053】等)
特開2000-256940号公報(参考資料9)(請求項1、段落【0001】、【0035】等)
特開平06-116816号公報(参考資料10)(段落【0003】、【0006】等)
被請求人のこれまでの主張から、「撥水性」と「水に浮きやすい性質」とは相伴って生ずる特質であると考えられるから、これらの従来技術が記載された文献には、本願発明の「吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えた布帛を得る」という課題が記載されていると判断される。(請求人上申書第7頁[x]、[xi])

(イ)本件発明2
(イ-1)従たる証拠甲1の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
表面層と裏面層を含む複層の編物または織物からなる吸水性生地であり(要約、請求項1、段落【0007】、【0011】)、具体的には、編物の場合は両面編(二重編、スムース編、インターロック編、ダブルリブともいう。)があり、織物の場合は二重織がある(段落【0011】)。「撥水性のない繊維」と「親水性糸」とが同義であり、「疎水性糸」が「撥水性のある繊維」を意味することは明らかであるから、撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとを用いて製編または製織してなる布帛は周知技術である。(請求人要領書第11頁第13行ないし第22行)

(ウ)本件発明3
(ウ-1)従たる証拠甲14の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
吸水性を有する繊維布帛の片面に撥水剤を有する汗しみ抑制布帛であり(要約、請求項1、段落【0015】)、吸水性を有する繊維布帛とはJIS L1907 滴下法にて測定した吸水時間が60秒以下のものをいい、快適性の観点からは、好ましくは30秒以下、より好ましくは10秒以下がよい(段落【0020】)。 JIS L1096 6.26吸水速度A法 滴下法で測定した吸水速度は、JIS L1907 滴下法で測定した吸水速度とほぼ同じ値を示す。よって、布帛の少なくともどちらか一方の表面において、JIS L1096 6.26吸水速度A法 滴下法で測定した吸水速度が30秒以下であることは周知技術である。(請求人要領書第11頁第24行ないし第33行)

(エ)本件発明4
(エ-1)本件発明4の容易想到性
JIS L1907-2010 7.1.3沈降法により測定した沈降時間が10秒以上であることは機能的要件であり、甲1の記載事項からJIS L1907-2010 7.1.3沈降法により測定した沈降時間が10秒以上であるという発明に想到するのは、当業者にとって容易である。(請求人要領書第12頁第11行ないし第14行)
(エ-2)本件発明4における機能的要件
本件発明1の構成要件によって「水に浮きやすい性質を有する布帛」が得られるとすれば、本件発明4の上記機能的要件の示す機能は、本件発明1の構成要件を有する布帛であることによって得られるものであるから、本件発明4は、本件発明1と同様に、甲1発明、甲21発明、甲22発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものである。(請求人要領書(2)第21頁[5-7B])

(オ)本件発明5
(オ-1)従たる証拠甲21の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条Aと、水との接触角が80度以上の撥水性繊維からなる糸条Bとで構成される編地(要約、請求項1、段落【0014】)において、糸条Aが、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、綿、絹からなる群より選択されるいずれかの繊維からなり、なかでも、繊維強度などの点でポリエステル繊維が好ましい(請求項6、段落【0014】)。撥水性のない繊維(水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条A)がポリエステル繊維であることは周知技術である。(請求人要領書第12頁第16行ないし第24行)

(カ)本件発明6
(カ-1)従たる証拠甲6の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
表外面層が主として、親水性樹脂加工が施されている単糸繊度が0.4?2.0dtexの合成繊維マルチフィラメント(A)からなり、裏外面層が主として、合成繊維マルチフィラメント(A)よりも太く親水性樹脂加工が施されていない単糸繊度が1.1?3.7dtexのポリオレフィンマルチフィラメント(B)からなる多層構造織編物(要約、請求項1、段落【0013】、【0016】)。合成繊維マルチフィラメント(A)の単糸繊度は0.4?2.0dtex、好ましくは0.4?1.8dtex、より好ましくは0.5?1.5dtex、特に好ましくは0.5?1.2dtexである(段落【0016】)。撥水性のない繊維Aの単糸繊度が1.5dtexであることは周知技術である。(請求人要領書第12頁第26行ないし第34行)

(キ)本件発明7
(キ-1)従たる証拠甲19の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
基布を構成する単繊維の単糸繊維繊度、総繊度、フィラメント数は特に限定されないが、ソフトな風合いを得る上で、それぞれ単糸繊維繊度0.1?2.0dtex、総繊度30?200dtex、フィラメント数30?200本の範囲内が好ましい(段落【0020】)。撥水性のない繊維Aが単糸数30本以上のマルチフィラメントであることは周知技術である。(請求人要領書第13頁第1行ないし第8行)

(ク)本件発明8
(ク-1)従たる証拠甲1の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
裏面層の糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度84dtex、構成本数36本、捲縮率:20%)を使用した。この糸は、裏面層の親水性糸となる糸としても使用した。(段落【0029】乃至【0042】)。親水性糸(撥水性のない繊維A)が、仮撚捲縮糸であることは周知技術である。(請求人要領書第13頁第10行ないし第15行)

(ケ)本件発明9
(ケ-1)従たる証拠甲5の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
複合糸を含む編地であって、前記複合糸が、2種以上の仮撚捲縮加工糸で構成されかつ30T/m以下のトルクを有する(要約、請求項1、段落【0003】、【0005】、【0006】)。撥水性のない繊維Aが30T/m以下のトルクを有する仮撚捲縮加工糸であることは周知技術である。(請求人要領書第13頁第17行ないし第23行)

(コ)本件発明10
(コ-1)従たる証拠甲1の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
裏面層の疎水性糸が、ポリプロピレン糸、ポリエステル撥水加工糸、アクリル系撥水加工糸、ナイロン撥水加工糸、アセテート撥水加工糸及びエチレンビニルアルコール撥水加工糸からなる群から選ばれる(請求項5、段落【0018】)。疎水性糸(撥水性のある繊維B)が、撥水性ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、及びポリエチレン繊維からなる群から選ばれることは周知技術である。(請求人要領書第13頁第25行ないし第31行)

(サ)本件発明11
(サ-1)従たる証拠甲4の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
ポリエステル繊維製品への撥水性を付与する方法として、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂を含有する分散液等で布帛を処理して布帛表面にこれらの樹脂を付着させ、撥水処理を施すことが広く行われていること。後加工での撥水処理に対し、フッ素系樹脂を溶融混練して得られた繊維や、フッ素系重合体微粒子を練り込んで得られた繊維。テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフルオリドの共重合体を撥水成分としてポリエステルに含有した繊維が提案されていること(段落【0002】乃至【0004】、【0016】、【0020】)。撥水性ポリエステル繊維が、フッ素系化合物を溶融混練して得られたポリエステル繊維、フッ素系化合物を練り込んで得られたポリエステル繊維、フッ素系化合物を共重合してなるポリエステル繊維、またはフッ素系撥水剤、シリコーン系撥水剤を用いて撥水加工が施されたポリエステル繊維であることは周知技術である。(請求人要領書第13頁第33行ないし第14頁第8行)

(シ)本件発明12
(シ-1)従たる証拠甲7の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の濃度が0?5ng/gのフッ素系撥水剤が付着してなる撥水性織物(要約、請求項1、段落【0006】、【0011】、【0012】)。フッ素系撥水剤として、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸を合計した濃度が5ng/g以下のフッ素系撥水剤を用いることは周知技術である。(請求人要領書第14頁第10行ないし第17行)

(ス)本件発明13
(ス-1)従たる証拠甲1の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
裏面層の疎水性糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸、またはフッ素系撥水剤で撥水加工したポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸を用いること(段落【0029】乃至【0042】)。撥水性のある繊維Bが仮撚捲縮加工糸であることは周知技術である。(請求人要領書第14頁第19行ないし第24行)

(セ)本件発明14
(セ-1)従たる証拠甲5の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
複合糸を含む編地であって、前記複合糸が、2種以上の仮撚捲縮加工糸で構成されかつ30T/m以下のトルクを有すること(要約、請求項1、段落【0003】、【0005】、【0006】)。撥水性のある繊維Bが30T/m以下のトルクを有する仮撚捲縮加工糸であることは周知技術である。(請求人要領書第14頁第26行ないし第32行)

(ソ)本件発明15
(ソ-1)従たる証拠甲1の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
裏面層の糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:33dtex、構成本数:12本、捲縮率:20%)と、ポリプロピレン仮撚捲縮糸(トータル繊度:110dtex、構成本数:48本、捲縮率:10%)を用いたこと(段落【0036】)。繊維B(撥水性繊維)の単糸繊度が繊維A(撥水性のない繊維)の単糸繊度よりも大であることは周知技術である。(請求人要領書第14頁第34行ないし第15頁第4行)
(タ)本件発明16
(タ-1)従たる証拠甲7の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
ポリエステルフィラメントAにおいて、単繊維の横断面形状は特に限定されず、丸、三角、扁平、くびれ付扁平などいずれでもよい(段落【0016】)。ポリエステルフィラメントBにおいて、単繊維の横断面形状は特に限定されず、丸、三角、扁平、くびれ付扁平などいずれでもよい(段落【0020】)。繊維Aおよび繊維Bのうち少なくともどちらか一方が異型断面繊維であることは周知技術である。(請求人要領書第15頁第6行ないし第13行)

(チ)本件発明17
(チ-1)従たる証拠甲21の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条Aと、水との接触角が80度以上の撥水性繊維からなる糸条Bとで構成される編地(要約、請求項1、段落【0001】、【0031】、【0034】)。撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとで構成される布帛が編地であることは周知技術である。(請求人要領書第15頁第15行ないし第21行)

(ツ)本件発明18
(ツ-1)従たる証拠甲18の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等などが例示され、織物組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される(段落【0014】)。この布帛は「(3)布帛がシングルデンビーたて編組織、シングルアトラスたて編組織である。」及び「(6)布帛が平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織等の多重織物である。」との要件を満たす。よって、布帛が(1)?(6)のうち少なくともいずれかの要件を満たすのは周知技術である。(請求人要領書第15頁第23行ないし第35行)

(テ)本件発明19
(テ-1)従たる証拠甲12の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
外部面全体に撥水性繊維糸が表出しているとともに、内部面全体に吸水性繊維糸が表出している(要約、請求項1)。布帛の一方表面において繊維A(吸水性繊維糸)が露出しており、布帛の他方表面に繊維B(撥水性繊維糸)が露出している構造は周知技術である。(請求人要領書第15頁第37行ないし第16頁第5行)

(ト)本件発明20
(ト-1)従たる証拠甲17の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
甲17には、「実施例2で得られた撥水加工生地のオモテ面およびウラ面のSEM写真をそれぞれ図1(A)および図1(B)に示す。実施例3で得られた撥水加工生地のオモテ面およびウラ面のSEM写真をそれぞれ図2(A)および図2(B)に示す(撥水加工生地を横方向から撮影したSEM(電子顕微鏡)写真図1(A)、(B)、図2(A)及び(B)から見ると横方向の空隙率は50%以上であるものと判断される。したがって、糸断面空隙率が50%以上であることは明らかである)。」と記載されている(段落【0010】、【0076】、図1(A)、(B)、図2(A)及び(B))。布帛の断面から繊維Bの断面写真を電子顕微鏡で撮影し、写真中の単糸断面の合計面積(SF)と空隙部の合計面積(SA)を測定し「、式:糸断面空隙率(%)=SA/(SA+SF)×100 」により算出した糸断面空隙率が50%以上である布帛は周知技術である。(請求人要領書第16頁第7行ないし第21行)

(ナ)本件発明21
(ナ-1)従たる証拠甲9の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
布帛の少なくとも一方の片面に吸水剤を付与して乾燥させることで少なくとも一方の片面に吸水性の機能を持たせる吸水加工工程(要約、請求項1、段落【0017】、【0030】乃至【0033】)。布帛に吸水加工が施されることは周知技術である。(請求人要領書第16頁第23行ないし第28行)

(ニ)本件発明22
(ニ-1)従たる証拠甲22の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
編地の目付けが150g/m^(2)以下である(請求項7、段落【0012】、【0037】)。布帛の目付けが200g/m^(2)以下であることは周知技術である。(請求人要領書第16頁第30行ないし第34行)

(ヌ)本件発明23
(ヌ-1)従たる証拠甲22の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
編地の厚さが1mm以下である(請求項8、段落【0012】、【0037】)。布帛の厚さが1mm以下であることは周知技術である。(請求人要領書第16頁第36行ないし第17頁第2行)

(ネ)本件発明24
(ネ-1)従たる証拠甲19の記載事項、この記載事項から認定される技術的事項
請求項1?11のいずれかに記載の透湿防水性布帛を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品(請求項12、段落【0010】、【0041】)。布帛を用いてなる、衣料、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートの繊維製品は、いずれも周知技術である。(請求人要領書第17頁第4行ないし第11行)

イ.無効理由2
(ア)本件発明1について
(ア-1)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、請求項1に係る発明の構成要件である「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内である」という事項の裏付けとなる、具体的な実施例及び比較例が記載されていない。よって、本件発明1に係る構成要件のうち「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内である」という要件は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。そうすると、本件特許の請求項1の記載には、本件発明1が当該発明の課題を解決する手段が反映されているとはいえないので、本件発明1はサポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)の無効理由を有する。(審判請求書第43頁(6-4b-3)[1])
(ア-2)本件特許明細書の段落【0015】及び【0029】におけるこれらの記載は、単に特許出願に係る発明の概要を述べたもの、及び本件発明1の内容を引き写したものに過ぎない。これらの記載をもって、「発明の詳細な説明において数式又は数値を用いて規定された物の発明について該数式又は数値の範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例や説明が記載されている」という事項を満たす、という被請求人の主張は失当である。(請求人要領書第3頁[5-A5-2])
(ア-3)実施例1ないし5によって一体、なぜ、繊維Aと繊維Bとの重量比率が50:50?87:13の範囲内であれば確実に課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例が記載されているといえるのか、についての具体的な説明がされていない。(請求人要領書第4頁[5-A5-5])
(ア-4)「複数の具体例から拡張ないし一般化できる程度がより広くなる傾向にある。」、「単なる数値限定発明は、いわゆるパラメータ発明とは異なり、その具体例から拡張ないし一般化できる程度は、より広くなることが知られている。」とする理由や根拠がどこにも示されていない。(請求人要領書(2)第2ないし3頁[5-3A]、[5-3B])
(ア-5)(繊維A:繊維B)の重量比率が実施例1?5のいずれについても「65:35」?「85:15」の範囲内に入っているからといって、本件発明1の「(繊維A:繊維B)の重量比率が『65:35?50:50』であること」を裏付けることにはならない。また、本件明細書の段落【0029】、第2?5行目の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たす根拠にはならない。(請求人要領書(2)第5頁[5-3C])

(イ)本件発明2ないし4、6ないし18、20ないし24について
これらの発明は、本件発明1を引用しているから、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(審判請求書第45頁[2]、第46頁[3]及び[4]、第48頁[6]ないし第55頁[18]、第57頁[20]ないし第60頁[24])

(ウ)本件発明5について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、繊維Aの要件を広く「ポリエステル繊維」とすることについての、具体的な裏付けが示されていない。一口にポリエステル繊維といっても、撥水性のないポリエステル繊維もあり、撥水性のあるポリエステル繊維もあり、ポリエステル繊維が全て撥水性のない繊維であるという根拠は、本件特許明細書のどこにも示されていない。よって、本件特許発明5に係る構成要件の「前記繊維Aがポリエステル繊維である」という要件は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。また、本件発明5は、本件発明1を引用しているから、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(審判請求書第47頁[5])

(エ)本件発明19について
本件特許明細書の実施例1ないし3及び5において、布帛の表面に繊維Bが露出していない構造が示されているにも関わらず、「吸収性と撥水性に優れ、かつ水に浮きやすい」という作用効果が得られている。よって、本件発明19に係る構成要件の「布帛の一方表面において前記繊維Aが露出しており、布帛の他方表面に前記繊維Bが露出している」要件は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。また、本件発明19は、本件発明1を引用しているから、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(審判請求書第56頁[19])


2.被請求人の主張及び証拠方法
(1)主張の要旨
被請求人は、本件特許の請求項1ないし24に係る発明には、無効理由はないと主張している。

(2)証拠
被請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
乙1:特許第4598929号公報

(3)主張の要点
被請求人の主張の要点は、以下のとおりである。
ア.無効理由1
(ア)本件発明1
(ア-1)甲1について
(ア-1-1)甲1の「疎水性糸」は「親水性糸」と対になって用いられており、積極的に「撥水性」であることまでは意味しない用語であることがわかる。このことは甲1に記載の発明の目的が「本発明は、主に多量発汗時に快適な吸水性生地及びこれを用いた衣類に関する」、すなわち「吸水性」の確保をその主目的とすることからも明白である。それに対し本件発明1の「撥水性のある繊維B」は、「撥水性のない繊維A」と対になって用いられており、「撥水性」の程度が高いことが要求されている。甲1のような「疎水性糸」では、本件発明の目的とする「吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えた布帛」を得ることはできない。すなわち「疎水性」と「撥水性」の用語は、文言的に異なることに加え、実質的にもその概念は明らかに異なっている。さらに、甲1では「疎水性糸と親水性糸の混在割合がA:B=1:5?5:1である」のに対し、本件発明1では、「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内であることを特徴とする」と大きく数値範囲が異なっており、到底「実質的に同一」ということはできない。甲1発明と本件発明1とでは数値限定自体がそもそも異なった概念であって、数値限定の数値を比較することに、何ら意味を見出すことはできない。すると甲1には、請求人の主張とは異なり少なくとも本件発明1の「撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとを含む」及び「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内であることを特徴とする布帛」の要件が、文言的にも実質的にも記載されていない。すなわち例え当業者が甲1に接したとしても、本件発明を想起することはできない。(答弁書第12頁第4行ないし第13頁第4行)
(ア-1-2)甲1における「本数の混在割合」と本件発明1における「重量比率」とは、明らかに意味が異なる。請求人の「実施例8乃至14でも本件特許明細書の実施例と類似の糸を使用している。このように本件発明1の実施例と甲1の実施例とで、同じ種類の高分子化合物からなる同じ繊度の合成繊維が用いられている。したがって、『本数の混在割合』は『重量比率』と同義であるといえる。」との主張のうち、そもそも「類似の糸」「同じ繊度」との認定が誤りである。本件明細書の実施例の繊度は33dtex?110dtexと3倍以上の差があるし、甲1の実施例にしてもその表1の「親水性糸:疎水性糸の繊度比」に明記されているように、「0.3:1」?「1.5:1」の幅広い繊度が用いられている。ちなみにこのように繊度が異なる場合には「類似の糸」とは言えないし、「『本数の混在割合』は『重量比率』と同義」とも到底言えない。(被請求人要領書(2)第11頁第13行ないし第25行)

(ア-2)甲21について
(ア-2-1)例えば、甲21では「糸条Bのみからなる領域SBの面積割合が編地全体の10?50%の範囲内である」と「糸条Bのみからなる領域」の面積比率であるのに対し、本件発明1は「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内であることを特徴とする」との異なった定義(「面積比率」と「重量比率」)を用いており、文言的にも実質的にも異なった要件であることは明白である。すると甲21には、請求人の主張とは異なり少なくとも本件発明1の「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内であることを特徴とする布帛」の要件が、文言的にも実質的にも記載されていない。そして例え当業者が甲21に接したとしても、本件発明を想起することはできない。(答弁書第17頁第11行ないし第23行)
(ア-2-2)「撥水性のない繊維」と「水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条A」、「撥水性のある繊維」と「水との接触角が80度以上の撥水性繊維からなる糸条B」は、全くの別概念の用語である。また、「同じ種類のポリマーからなる同じ繊度の合成繊維」であれば、なぜ「したがって、『面積割合』は『重量比率』と同義であるといえる。」のであるかが理解不能である。ちなみに請求人は「同じ繊度の合成繊維」と主張するが、先に述べたように本件明細書の実施例の繊度は33dtex?110dtexと3倍以上の差がある。また、甲21の実施例にしても56dtexと79dtexの繊度の繊維が用いられており、そもそも「同じ繊度」ですらない。(被請求人要領書(2)第12頁第15行ないし第13頁第8行)

(ア-3)甲22について
(ア-3-1)例えば、甲22では、「撥水性ポリエステル繊維が、編地の全重量に対して30重量%以上含まれる」とあり、本件発明1では「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内であることを特徴とする」と記載されており、その数値範囲は明らかに大きく異なる。
すると甲22には、請求人の主張とは異なり少なくとも本件発明1の「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内であることを特徴とする布帛」の要件が、文言的にも実質的にも記載されていない。すなわち例え当業者が甲22に接したとしても、本件発明を想起することはできない。(答弁書第19頁第3行ないし第14行)
(ア-3-2)甲22の「撥水性」と本件発明1の「撥水性」はその定義が異なり、数値範囲を比較することに何ら技術的意味は無い。さらに「30重量%以上」と「重量比率が50:50?87:13」の範囲は、明らかに異なっている。(被請求人要領書(2)第14頁第2行ないし第5行)
(ア-3-3)発明としての評価(課題、構成、作用効果からなる技術思想としての評価)を考慮した場合、明らかに本件発明1と甲22発明は別発明である。そして特許請求の範囲としては先願の甲22発明と本件発明1は重なる範囲が存在するとしても、本件発明1は別思想の発明であって、重なる部分に関しては選択発明に該当する発明である。なお、甲22の実施例1に使用された繊維は水接触角が118°である点において本件発明の「撥水性のある繊維」(接触角が120度以上の繊維)に該当しない。そして甲22には、本件発明1の「撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとを含む布帛であって、前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内であることを特徴とする布帛。」に関する具体的な記載は何ら存在しない。(被請求人要領書(2)第14頁第9行ないし第19行)

(ア-4)組み合わせについて
いずれの引用文献にも少なくとも「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内であることを特徴とする布帛」との要件は記載されていない。また引用文献である甲1ないし甲22を結び付ける動機付けも存在しない。たとえ甲1ないし甲22の記載に触れた当業者といえども、本件発明1を想起することはできない。(答弁書第22頁第28行ないし第23頁第7行)

(イ)本件発明2ないし24について
(イ-1)本件発明2ないし24全般について
本件発明2ないし24は、「請求項1に記載の布帛」を必須要件とする引用請求項である。請求項1に係る発明(本件発明1)は、甲1号証ないし甲22号証の存在に関わらず、進歩性を有する発明である。したがって、請求項1を引用する請求項である本件発明2ないし24もまた進歩性の要件を満たし、特許法第29条第2項の規定に該当しない。また、甲1ないし甲22を結び付け、本件発明2ないし24に至る動機付けも存在しない。(答弁書第23頁第13行ないし第17行、第26頁第6行ないし第28頁第24行)

(イ-2)本件発明3、本件発明4について
本件発明3の「布帛の少なくともどちらか一方の表面において、JIS L1096 6.26吸水速度A法 滴下法により測定した吸水速度が30秒以下である」、本件発明4の「JIS L1907-2010 7.1.3沈降法により測定した沈降時間が10秒以上である」は、機能・特性を用いて物を特定する記載であることは明白であり、これらの記載は本件発明3、本件発明4の発明特定要件として記載されていないに等しいと判断する余地は全く無い。(答弁書第24頁第18行ないし第24行、第25頁第6行ないし第12行)

(イ-3)本件発明15について
そもそも「[i]従たる証拠甲1の記載事項」における繊維B(撥水性のある繊維)の単糸繊度は、ポリプロピレン仮撚捲縮糸の(トータル繊度;110dtex、構成本数;48本)の値から計算すると、110dtex/48本=2.29dtex/本であり、繊維A(撥水性のない繊維)の単糸繊度は、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸の(トータル繊度;33dtex、構成本数;12本)の値から計算すると、33dtex/12本=2.75dtex/本である。すなわち甲1には繊維B(撥水性のある繊維)の単糸繊度が2.29dtex/本であり、繊維A(撥水性のない繊維)の単糸繊度が2.75dtex/本であることしか記載されていない。ここで明らかに(撥水性のある繊維)2.29dtex/本<(撥水性のない繊維)2.75dtex/本であるから、請求人の主張と異なり甲1には、「繊維B(撥水性繊維)の単糸繊度が繊維A(撥水性のない繊維)の単糸繊度よりも大である」ことすら記載されていない。またこの事項は「周知技術」であるとも言えない。(被請求人要領書(2)第15頁第24行ないし第16頁第11行)

(イ-4)本件発明20について
甲17の図1や図2は、オモテ面およびウラ面のSEM写真である。請求人のいう「撥水加工生地を横方向から撮影したSEM(電子顕微鏡)写真」は、甲17には存在しない。甲17記載のオモテ面およびウラ面のSEM写真から、どのようにして請求人のいう「横方向の空隙率」である「糸断面空隙率」(本件特許発明20の構成要件)を測定することもできるのか、理解することができない。(答弁書第25頁第19行ないし第24行)

イ.無効理由2
(ア)本件発明1について
(ア-1)サポート要件を満たす理由
本件特許明細書の詳細な説明においては、その第【0015】第2行目にて「本発明の布帛は、撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとを含む」と記載され、同第【0029】項、第1、2行目には「本発明の布帛において、前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内であることが肝要である。」と明確に記載されている。さらに実施例1ないし5によって具体的にその効果が確認され、本件明細書第【0029】項、第2?5行目には「前記繊維Aの重量比率が該範囲よりも小さいと、布帛の吸水性が低下するおそれがあり好ましくない。逆に、前記繊維Bの重量比率が該範囲よりも小さいと、撥水性や水に浮きやすい性質が低下するおそれがあり好ましくない。」との記載がある。これらの記載により、請求項1に係る発明が、「発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されており、かつ当業者が認識できる範囲を超えていない」ことは明白である。原則として「請求項は、発明の詳細な説明に記載された一又は複数の具体例に対して拡張ないし一般化した記載とすることができる」ことは特許法第36条第6項第1号の解釈として妥当なものであり、実務としても定着している。すなわち、本件の請求項1に関する特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号の規定を満たす。(答弁書第29頁第17行ないし第30頁第17行)
(ア-2)実施例の記載
本件明細書の詳細な説明には、その表1に「B糸の重量混率(%)」の数値が記載されており、その数値から計算すると各実施例の(繊維A:繊維B)の重量比率が、実施例1;「65:35」、実施例2;「80:20」、実施例3;「75:25」、実施例4;「82:18」、実施例5;「85:15」であることが明らかである。そしてこれらの各実施例の数値は、本件の特許請求の範囲に記載された「50:50?87:13」の範囲内であって、かつ各実施例において発明の課題が解決されることが具体的に確認されている。(被請求人要領書第3頁第15行ないし第21行)
(ア-3)「重量比率(繊維A:繊維B)」の意味
本件発明にて用いられている繊維は全て「撥水性のない繊維A」と「撥水性のある繊維B」のいずれかに分類されるため、「撥水性のない繊維A」と「撥水性のある繊維B」の合計量は「用いられた繊維の総重量」に等しい。すなわち「重量比率(繊維A:繊維B)」は、「繊維の総重量中の撥水性のある繊維Bの存在比率」を単に言い換えたものに過ぎない。(被請求人要領書第7頁第1行ないし第7行)
(ア-4)「吸収性」
本件特許明細書のその詳細な説明には、布帛の吸水性に関し、主に「撥水性のない繊維Aは、本発明において吸水性に寄与する繊維」(本件特許明細書、段落【0011】)であることが明記されている。またその繊維Aの好ましい条件としては、例えば本件特許明細書、段落【0019】には、「前記繊維Aの形態としては、・・・。特に、前記繊維が、単糸繊度が1.5dtex以下・・・であると、優れた吸水性が得られ好ましい。」と記載されている。すなわち布帛を構成する繊維が「細い」場合に吸水性が向上することが示されている。本件発明の布帛は多数の細い繊維から構成されたものであり、このような本件発明の布帛は基本的には吸水性を有するものである。すなわち本件発明1の布帛は、多数の細い「撥水性のない繊維A」を有する布帛であるので基本的には吸水性を有し、その効果は「撥水性のない繊維A」の重量比率に大きく関係する。(被請求人要領書(2)第6頁第1行ないし第12行)
(ア-5)「撥水性」と「水に浮きやすい性質」
本件発明においては、「撥水性と水に浮きやすい性質の代用特性として、JIS L1907-2010 7.1.3沈降法により測定した沈降時間」(本件明細書、段落【0036】)を用いている。すなわち本件発明においては基本的に「撥水性」と「水に浮きやすい性質」は、「沈降時間」という特性にて代表される類似の性質である。そして本件明細書には布帛の「撥水性と水に浮きやすい性質」に関し、主に「撥水性のある繊維Bは、本発明において撥水性および水に浮きやすい性質に寄与する繊維である」(本件特許明細書、段落【0022】)ことが明記されている。またその好ましい条件を選択した際に「繊維Bと繊維Bとの間に空隙ができやすく、吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質が得られやすく好ましい」ことが本件特許明細書中では繰り返し説明されている(段落【0031】1ないし3行、その他「水に浮きやすい性質」に関し段落【0028】4ないし6行、段落【0032】4ないし5行、段落【0034】6ないし7行)。本件発明においては、その構成要素の一つである「撥水性のある繊維B」間に「空隙」が存在した場合、水等に沈降させた場合にも布帛内に空気が残存しやすくなる。沈降テスト前に布帛内に存在する空気が、沈降テストによっても水に置換されずに、そのまま空気として残存するためである。そのため布帛の沈降法による沈降時間が長くなり、「撥水性と水に浮きやすい性質」の布帛が得られることになる。布帛に「空隙」が存在する場合には、「撥水性と水に浮きやすい性質」が向上するのである。この「空隙」は、「撥水性のある繊維B」の周辺に発生するため、「撥水性のある繊維B」の重量比率が本発明の効果に大きく関係する。(被請求人要領書(2)第6頁第13行ないし第7頁第5行)
(ア-6)「空隙」の存在
本発明の効果の発現に関しては、「撥水性のある繊維B」によって生まれる「空隙」の存在が重要なのであるが、この「空隙」の効果は、繊維の撥水性の程度に大きく影響を受ける。そのため「撥水性のある繊維B」の撥水度(本件発明の『撥水性のある繊維』とは接触角が120度以上の繊維である)が効果に関連する要素の一つであって、本発明のこれらの効果が、同じ撥水度でさえあれば繊維の種類にはそれほど影響を受けないこともまた、容易に理解できよう。(被請求人要領書(2)第7頁第15行ないし第20行)
(ア-7)「繊維A:繊維B」の重量比率が「50:50」の意味
「繊維A:繊維B」の重量比率の範囲の下限の実施例としては、実施例1に重量比率「65:35」が本発明の効果を有することが、明確に記載されている。すると、上記の実施例で確認された下限と、公知例にて確認された上限の中心に特許請求の範囲の境界を設定する手法を用いた場合、特許請求の範囲の下限は上記の「65:35」と「0:100」の中間点の「32.5:67.5」となろう。そして本件の特許権者である被請求人は、効果の確認された「65:35」により近い「50:50」を、最終的に本件発明1の特許請求の範囲として採用したものである。この「50:50」の範囲は、実施例と公知例の中間点よりも実施例により近く、効果がより発揮されることが予想されるからである。一方、「吸水性」については、「繊維B」に代えて「繊維A」に着目すると、特許請求の範囲は、「撥水性のない繊維A」が50%以上あるということを意味する。そしてこのような「50%以上」の場合には、通常の構成では布帛の裏表のいずれの面にも「撥水性のない繊維A」が存在することになり、本件発明の吸水性の効果が得られるのである。すなわち特許請求の範囲に記載された「撥水性のない繊維A:撥水性のある繊維Bが50:50」の布帛は、本件発明の「吸水性」と「撥水性と水に浮きやすい性質」の両方を「兼ね備えた」布帛であって、「本件発明の効果が否定されるとの懸念も存在しない」。(被請求人要領書(2)第8頁第11行ないし第9頁第26行)
(ア-8)「繊維A:繊維B」の重量比率が「87:13」の意味
(繊維A:繊維B)の重量比率の範囲の上限として、実施例5「85:15」と比較例1「88:12」の間の重量比率である「87:13」を特許請求の範囲の記載に採用することは、当業者にとっては、容易に拡張ないし一般化することができる事項に過ぎない。(被請求人要領書第8頁第16行ないし第19行)
(ア-9)「水に浮きやすい性質」の意味
本件発明1の「水に浮きやすい性質」とは、布帛の沈降時間が長く「水面に浮かせた場合に沈みにくい」ことを意味する。「水に浮きやすい性質」は、繊維製品である布帛においては、繊維間には微小な空隙が多数存在することに起因する。そのような布帛の構成要素として「撥水性のある繊維」を用いることにより、布帛の表面が水面に接した後でも微小な空隙が水に置換されずに空気を保持し続けるため、本発明の布帛は「水に浮きやすい性質」を発揮する。このことは例えば本件明細書第【0034】項にて「前記のような布帛構造を有すると、繊維Bが水を吸収しないだけでなく、繊維Bと繊維Bとの間に空隙ができやすく、かかる空隙により水に浮きやすい性質が向上する。」と説明されている。(被請求人要領書(2)第10頁第10行ないし第22行)
(ア-10)「撥水性」、「浮力」、「空隙」の関係
「浮力」を向上させるために「撥水剤を塗布」する技術は、乙1の段落【0002】の記載等から知られており、そのメカニズムは撥水性が低下した材料に対しては「水分が浸透し」すなわち空気が水に置換されて、言い換えると「空隙が減少する」ことに起因している。逆にいうと、撥水性のある材料に対しては、「水分が浸透」しにくくなるために「空隙」が保持され、「浮力」が高い状態が持続する。本件発明は布帛に関するものであって、布帛は羽毛等と同様に多くの気体、多くの空隙を含むものである。そして本件特許発明の布帛は「撥水性のない繊維A」と「撥水性のある繊維B」から構成されているため、「空隙」が消失する度合が高い部分が「撥水性のない繊維A」の周辺で有ることは明らかであるし、逆に考えると「空隙」は、「撥水性のある繊維B」の周辺により多く残存する。以上の事実を前提に本件特許明細書に接した当業者であれば、「空隙」は、「撥水性のある繊維B」の周辺に発生することや、この「空隙」の効果は、繊維の撥水性の程度に大きく影響を受けることを、容易に認識することができる。(被請求人要領書(3)第2頁第16行ないし第3頁第18行)
(ア-11)繊維A、繊維Bを重量比率で特定した理由
本発明の効果に関し、「撥水性のある繊維A」や「撥水性のある繊維B」の存在比率自体が密接に関連していることは、本件明細書に接した当業者であれば、容易に認識可能である。繊維の存在比率を工業的に特定するためには、重量比率がもっとも効率的かつ経済的である。例えば「重量計」はどのような研究設備や工場にも必ずあって「重量比率」は工程管理にも汎用的に使用されているが、「体積比率」等の他の存在比率については測定方法が複雑になるばかりでなく、正確な値を求めることすら困難な場合が多い。本件特許発明に関し、その構成繊維の「存在比率」を「重量比率」にて特定することは、極めて妥当な方法であると、被請求人(特許権者)は考える。ちなみに、布帛は繊維からなるものであって、「密度の異なる様々な繊維」が存在するとしてもそれほど大きな密度変化が生じるものではない。(例えば同じ浮力を利用する船舶用の材料では、鉄の比重(約7.9)と木材の比重は(例えば杉の場合は約0.38)約20倍もの差があるが、布帛を構成する繊維には、それほどの大きな差異は存在しない。)(被請求人要領書(3)第3頁第20行ないし第4頁第7行)
(ア-12)撥水性のあり/なしを「接触角120度を基準」とした根拠
撥水性のあり/なしを「接触角120度を基準」としたことは、本件発明の段落【0074】の【表1】に記載の「実施例5」の「135°」、「比較例3」の「115°」の間から決定した。(第1回口頭審理調書 被請求人欄 1)
(ア-13)本件発明における「接触角」により規定される「撥水性」、「沈降時間」により測定された「撥水性」
本件発明における「繊維に関する」「接触角」により規定された「撥水性」は、発明の構成要件である「撥水性のない繊維A」「撥水性のある繊維B」に主に関連する特性であり、本件発明にて得られた「布帛」に関する「沈降時間」により測定された「撥水性」は、発明の効果である「吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質」に主に関連する特性である。本件発明は「吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えた布帛」(本件段落【0006】等)との課題の発見に比重のある発明であるが、本件明細書の詳細な説明にはそのような優れた性質を兼ね備えた本件発明の布帛に関し、例えば「かかる表面は撥水性であるので、吸汗速乾、汗冷え紡糸、べとつき防止などの効果を有する」、「繊維Bと繊維Bとの間に空隙ができやすく、かかる空隙により水に浮きやすい性質が向上する」(段落【0034】)などの、さらなる効果が記載されている。本件発明の布帛のこのような優れた効果は、本件特許発明が「布帛の撥水性」として「布帛の沈降時間」に着目したことに負うところが大きい。(被請求人上申書第2頁第23行ないし第3頁第16行)

(イ)本件発明2ないし4、6ないし18、20ないし24について
請求項1を引用する請求項2ないし24の記載についても、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。(答弁書第32頁第10行ないし第14行)

(ウ)本件発明5について
請求項5は「前記繊維A」である「撥水性のない繊維A」を「ポリエステル繊維」に限定しているに過ぎない。例え「ポリエステル繊維」として「撥水性のある繊維」が存在していたとしても(例えば撥水処理した繊維や、撥水性の第3成分が添加された繊維などが想定されうる)、それは請求項5の「ポリエステル繊維」にはそもそも該当しないのであって、何ら問題は無い。本件明細書の請求項5に係る発明については、その特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。(答弁書第31頁第4行ないし第11行)

(エ)本件発明19について
「布帛の一方表面において前記繊維Aが露出しており、布帛の他方表面に前記繊維Bが露出している」ことは本件特許明細書第【0032】項、第1、2行目に「特に、布帛の一方表面において前記繊維Aが露出しており、布帛の他方表面に前記繊維Bが露出していることが好ましい。」と明確に記載されており、またその効果は、本件特許明細書の実施例においても確認されている。ちなみに請求人は、「実施例1乃至3及び5においては、布帛の表面に繊維Bが露出していない構造が示されている。」と主張するが、本特許明細書記載の実施例1,2,3及び5については、使用された繊維種とその組織図から、布帛の表面に繊維Bが露出しているのは明白である(本件特許明細書、第【0041】項、第【0046】項、第【0051】項、第【0061】項、【図1】、【図2】、【図3】、【図5】)。またそれらの各実施例においても「該編地(布帛)を、前記繊維Bが配された面が人体側に位置するように用いて・・・」(本件特許明細書、第【0044】項、第【0049】項、第【0054】項、第【0064】項)とあるように、その効果は明確に確認されている。本件明細書の請求項19に係る発明については、その特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである。(答弁書第31頁第15行ないし第32頁第8行)


第5.無効理由1についての判断
1.甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明
(1)甲1の記載事項及び甲1発明
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲1には、以下の事項が記載されている。
ア.「【課題】圧力がかからなくても瞬時に液体の水分は吸収され、大気側の表面層に拡散・移動し、多量発汗時にも快適な吸水性生地及びこれを用いた衣類を提供する。
【解決手段】本発明の吸水性生地(5,6)は、表面層(1)と裏面層(4)を含む複層の編物または織物からなり、表面層(1)は親水性糸で構成され、裏面層(4)は疎水性糸(2)と親水性糸(3a,3b)が混在して構成され、生地の裏面(4)から水滴を滴下したときに瞬時に吸水して表面層(1)に拡散する。この吸水性生地は、肌に直接接触する衣類に縫製する。」(要約)
イ.「表面層と裏面層を含む複層の編物または織物からなる吸水性生地であって、
前記表面層は親水性糸で構成され、
前記裏面層は疎水性糸と親水性糸が混在して構成され、
前記生地の裏面から水滴を滴下したときに瞬時に吸水して前記表面層に拡散することを
特徴とする吸水性生地。」(請求項1)
ウ.「前記裏面層において、前記疎水性糸の本数をAとし、前記親水性糸の本数をBとした場合、前記疎水性糸と前記親水性糸の混在割合が、A:B=1:5?5:1である請求項1?5のいずれか1項に記載の吸水性生地。」(請求項6)
エ.「本発明は、主に多量発汗時に快適な吸水性生地及びこれを用いた衣類に関する。」(段落【0001】)
オ.「本発明は、前記従来の問題を解決するため、圧力がかからなくても瞬時に液体の水分は吸収され、大気側の表面層に拡散・移動し、多量発汗時にも快適な吸水性生地及びこれを用いた衣類を提供する。」(段落【0006】)
カ.「本発明の吸水性生地は、生地の裏面(肌面)から水滴を滴下したときに瞬時に吸水して表面層に移動し拡散する性質を有することにより、通常の着用状態において多量発汗しても肌面にはべたつき感も濡れ感も冷感もなく、快適な吸水性生地及びこれを用いた衣類を提供できる。」(段落【0009】)
キ.「本発明の吸水性生地は表面層と裏面層を含む複層の編物または織物で構成される。具体的には、編物の場合は両面編(二重編、スムース編、インターロック編、ダブルリブともいう。)があり、織物の場合は二重織がある。この吸水性生地の表面層(大気面)は親水性糸で構成され、裏面層(肌面)は疎水性糸と親水性糸が混在して構成される。この構成により、生地の裏面から水滴を滴下したときに瞬時に吸水して表面層に拡散する。本発明において「瞬時」とは、5秒以内を言う。」(段落【0011】)
ク.「表面層の親水性糸及び裏面層の親水性糸は、特に限定されないが、ナイロン糸、アセテート糸、エチレンビニルアルコール糸、親水化処理したポリエステル糸及び親水化処理したアクリル糸からなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。これらの糸を構成する繊維は水分率が低く、乾きやすいからである。乾きやすい糸を使用することにより、大量の液体汗を瞬時に生地内に吸収し、表面層に拡散し、大気側で乾燥することができる。それゆえ、肌側の繊維はさらに乾いた良好な状態を保つことができる。各繊維の水分率は下記表1のとおりである。水分率の低い繊維は一般的に速乾性も高い。したがって、水分率の低い繊維を使用して、表面のみ親水化した繊維を使用するのが好ましい。」(段落【0012】)
ケ.「裏面層の疎水性糸は、特に限定されないが、ポリプロピレン糸、ポリエステル撥水加工糸、アクリル系撥水加工糸、ナイロン撥水加工糸、アセテート撥水加工糸及びエチレンビニルアルコール撥水加工糸から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。これらの繊維は公定水分率が低く吸水しないからである。中でも、ポリプロピレン糸が好ましい。ポリプロピレン糸は公定水分率がもっとも低く(0%)、吸水しないからである。ポリプロピレン糸以外の糸については、撥水加工するのが好ましい。」(段落【0018】)
コ.「前記裏面層において、前記疎水性糸の本数をAとし、前記親水性糸の本数をBとした場合、前記疎水性糸と前記親水性糸の混在割合が、A:B=1:6?6:1であることが好ましく、A:B=1:5?5:1であることがさらに好ましい。この範囲であれば吸水性を高く保てる。また、裏面層の疎水性糸の繊度を1としたとき、親水性糸の繊度が0を超えて1以下であることが好ましく、0.3?1であることがより好ましい。この範囲であれば同様に吸水性を高く保てる。」(段落【0022】)
サ.「(実施例1)
(1)表面層の糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)を使用した。この糸は、裏面層の親水性糸となる糸としても使用した。
(2)裏面層の糸として、フッ素系撥水剤で撥水加工したポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)と、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)とを、1:1の本数割合で混在するようにした。
(3)編立
前記糸を用いて、図2に示す編物組織図のように両面編物に編みたてた。編み機は福原精機製作所製のセミジャガードを使用し、ゲージ数28/インチとした。なお、裏面層における撥水処理したポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸とポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸のニッティングテンションは同様であった。
(4)後処理
得られた両面編生地を、親水化剤としてポリエステル系吸汗剤を3%o.w.f(生地重量あたりの親水化剤の使用量)添加した処理液(130℃)に60分間浸漬し、親水化処理した。その後乾燥し、テンターで所定の幅出しをし、吸水性生地を得た。得られた吸水性生地の目付けは140g/m^(2)、ウエールは40/インチ、コースは48/インチであった。」(段落【0029】)
シ.「裏面層の糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:33dtex、構成本数:12本、捲縮率:20%)と、ポリプロピレン仮撚捲縮糸(トータル繊度:110dtex、構成本数:48本、捲縮率:10%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、吸水性生地を得た。」(段落【0036】)

上記の記載事項を、本件発明1に照らして整理すると、甲1には次の甲1発明が記載されている。
《甲1発明》
表面層と裏面層を含み、表面層は親水性糸で構成され、裏面層は疎水性糸と親水性糸が混在して構成される吸水性生地であって、
前記裏面層において、前記疎水性糸の本数をAとし、前記親水性糸の本数をBとした場合、前記疎水性糸と前記親水性糸の混在割合がA:B=1:5?5:1である、
吸水性生地

なお、甲1発明の認定について、当事者間に争いはない。(第1回口頭審理調書 両当事者の2)

(2)甲21の記載事項及び甲21発明
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲21には、以下の事項が記載されている。
ア.「【課題】汗などの水分を異方的に拡散することにより、スポーツ用衣料やインナー用衣料として用いた際、汗によるぬれ感やベトツキ感を低減することができる、着用快適性に優れた編地および衣料を提供する。
【解決手段】水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条Aと、水との接触角が80度以上の撥水性繊維からなる糸条Bとで構成される編地であって、該編地の表面に前記糸条Aのみからなる領域SAと前記糸条Bのみからなる領域SBが存在し、かつ領域SBが縞状のパターンで存在していることを特徴とする異方的な吸水拡散性を有する編地を編成し、該編地を用いて衣料を得る。」(要約)
イ.「水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条Aと、水との接触角が80度以上の撥水性繊維からなる糸条Bとで構成される編地であって、該編地の表面に前記糸条Aのみからなる領域SAと前記糸条Bのみからなる領域SBが存在し、かつ領域SBが縞状のパターンで存在していることを特徴とする異方的な吸水拡散性を有する編地。」(請求項1)
ウ.「領域SBの面積割合が編地全体の10?50%の範囲内である、請求項1?4のいずれかに記載の異方的な吸水拡散性を有する編地。」(請求項5)
エ.「糸条Aが、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、綿、絹からなる群より選択されるいずれかの繊維からなる、請求項1?5のいずれかに記載の異方的な吸水拡散性を有する編地。」(請求項6)
オ.「本発明は、汗などの水分を異方的に拡散することにより、スポーツ用衣料やインナー用衣料として用いた際、汗によるぬれ感やベトツキ感を低減することができる、着用快適性に優れた編地および衣料に関するものである。」(段落【0001】)
カ.「本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その課題は、汗などの水分を異方的に拡散することにより、スポーツ用衣料やインナー用衣料として用いた際、汗によるぬれ感やベトツキ感を低減することができる、着用快適性に優れた編地および衣料を提供することにある。」(段落【0004】)
キ.「以上のことから、ぬれ感やベトツキ感を低減させるためには、衣服の体幹上部(胸や背中上部)で吸った汗をいかにして衣服の体幹下部(腹や背中下部)に移動させるかが重要であることが分った。」(段落【0008】)
ク.「本発明の編地において、経方向および緯方向のうち、どちらか一方向の吸水拡散性が他方向の2倍以上であることが好ましい。
ただし、吸水拡散性とは、JISL1907-5.1.1(滴下法)により編地に水滴1滴を摘下し3分経過した後の、経方向または緯方向の拡散距離(mm)のことである。」(段落【0011】)
ケ.「まず、本発明の編物は、水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条Aと、水との接触角が80度以上の撥水性繊維からなる糸条Bとで構成される。
ここで、糸条Aを形成する、水との接触角が80度未満の繊維としては、綿や絹などの天然繊維、レーヨン繊維やアセテート繊維などの半合成繊維、ポリエステル繊維やナイロン繊維などが例示される。なかでも、繊維強度などの点でポリエステル繊維が好ましい。」(段落【0014】)
コ.「一方、糸条Bを形成する撥水性繊維としては、フッ素樹脂繊維、ポリオレフィン繊維、撥水加工を施したポリエステル繊維などが例示される。
これらの繊維中には、本発明の主目的が損なわれない範囲内であれば、微細孔形成剤、カチオン可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、帯電防止剤、吸湿剤、無機微粒子等が1種又は2種以上含まれていてもよい。」(段落【0015】)
サ.「次に、本発明の編物において、編地表面に前記糸条Aのみからなる領域SAと前記糸条Bのみから領域SBが存在し、かつ領域SBが縞状のパターンで存在している。
かかるパターンの具体的な例としては、図1に模式的に示す経縞(ストライプ)状パターン、図2に模式的に示す緯縞状パターン、および斜め縞状パターンなど、経方向または緯方向のどちらか一方に連続するパターンが例示される。格子パターンや市松パターンでは十分な異方的拡散性が得られず好ましくない。かかるパターンにおいて、吸汗した汗は、糸条Aのみからなる領域SAに沿って異方的に拡散するため、汗によるぬれ感やベトツキ感を低減することができる。」(段落【0017】)
シ.「本発明の編地において、領域SBの面積割合は編地全体の10?50%の範囲内であることが好ましい。また、該編地の表面が前記糸条Aのみからなる領域SAと前記糸条Bのみから領域SBが存在し、かつ領域SBが縞状のパターンで存在している限り、糸条Aと糸条Bとで構成される領域SCが存在していてもさしつかえない。なお、領域SBは、編地の経方向または緯方向のどちらか一方の方向に編地の端から端まで連続していることが好ましいが、本発明の主目的である異方的な吸水拡散性が得られる限り、不連続な個所があってもさしつかえない。」(段落【0020】)
ス.「[実施例1]
28ゲージのトリコット編機を用いて、糸条Aとして通常のポリエチレンテレフタレート捲縮加工糸条(総繊度56dtex/36fil、捲縮率:30%、水との接触角が80度未満、帝人ファイバー(株)製)をフルセットでフロント筬に通し、一方、糸条Bとして四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂マルチフィラメント(総繊度79dtex/12fil、水との接触角が115度、東洋ポリマー(株)製)をフルセットでバック筬に通し、フロント10-01、バック22-00の編組織、機上密度100コース/2.54cmの編条件で編地を編成し、この編地に通常の染色仕上げ加工を施し、密度68コース/2.54cm、49ウエール/2.54cmの編地を得た。その際、吸水加工剤(ポリエチレンテレフタレート-ポリエチレングリコール共重合体)を染液に対し2ml/lの割合にて、染色加工時に同浴処理を行うことにより、吸水加工を施した。」(段落【0031】)

上記の記載事項を、本件発明1に照らして整理すると、甲21には次の甲21発明が記載されている。
《甲21発明》
水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条Aと水との接触角が80度以上の繊維からなる糸条Bとで構成される編地であって、
編地の表面に前記糸条Aのみからなる領域SAと前記糸条Bのみからなる領域SBが存在し、領域SBの面積割合が編地全体の10?50%の範囲内である、
編地

なお、甲21発明の認定について、当事者間に争いはない。(第1回口頭審理調書 両当事者の2)

(3)甲22の記載事項及び甲22発明
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲22には、以下の事項が記載されている。
ア.「【課題】速乾性に優れた編地および該編地を用いてなる繊維製品を提供する。
【解決手段】特定の変性シリコーン化合物をポリマー重量に対し2.0?20.0重量%含有するポリエステルからなる撥水性ポリエステル繊維を含むことを特徴とする速乾性に優れた編地、および該編地を用いてなる繊維製品。」(要約)
イ.「本発明は、速乾性に優れた編地および該編地を用いてなる繊維製品に関する。」(段落【0001】)
ウ.「本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、速乾性に優れた編地および該編地を用いてなる繊維製品を提供することにある。」(段落【0006】)
エ.「本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の変性シリコーン化合物を含有するポリエステルからなる撥水性ポリエステル繊維を用いて編地を得ると、撥水性ポリエステル繊維の撥水性と編地の通気性との相乗効果により優れた速乾性が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。」(段落【0007】)
オ.「本発明の編地において、前記撥水性ポリエステル繊維が、編地の全重量に対して30重量%以上含まれることが好ましい。また、編地のループ密度が7200以下であることが好ましい。ただし、ループ密度は前記CoとWeとの積である。また、編地の目付けが150g/m^(2)以下であることが好ましい。また、編地の厚さが1mm以下であることが好ましい。また、編地の通気性が100cc/cm^(2)/s以上であることが好ましい。また、編地に吸汗加工が施されていることが好ましい。」(段落【0012】)
カ.「また、本発明によれば、前記の編地を用いてなる、スポーツ用衣料、インナー用衣料、おしめや介護シーツの医療・衛生用品、および寝装寝具からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。」(段落【0013】)
キ.「本発明に係る撥水性ポリエステル繊維は、それ自体公知の方法で製造することができる。・・・繊維の断面形状は特に限定されるものではなく、円形断面のほか、楕円形断面、三角断面、星型断面であってもよい。また、本発明における撥水性ポリエステル繊維は、前述の変性シリコーン化合物を含有するポリエステル組成物だけを用いて紡糸した繊維に限られず、該変性シリコーン化合物を含有するポリエステル組成物が得られる繊維の表面配置するように、例えば該変性シリコーン化合物を含有するポリエステル組成物が鞘に、該変性シリコーン化合物を含有しないか鞘のポリエステル組成物よりも含有量が少ないポリエステル組成物を芯に配置した芯鞘構造の複合繊維であってもよいし、芯が多数ある海島型の複合繊維であってもよい。このような複合繊維化は、繊維の機械的物性をさらに保持しやすいことから好ましい。」(段落【0029】)
ク.「前記撥水性ポリエステル繊維は、変性シリコーン化合物を含有することにより優れた撥水性を有する。特に編地とした際に、十分な撥水性を発現させる観点からは、ポリエステル繊維の表面の水との接触角は110°以上、さらに好ましくは115°以上であることが好ましい。このような高い接触角をポリエステル繊維自体に具備させることで、編地にしたときに優れた撥水性を発現させることができる。」(段落【0032】)
ケ.「本発明の編地は、前記の撥水性ポリエステル繊維を含む編地である。ここで、編地の全重量に対して前記撥水性ポリエステル繊維が30重量%以上含まれることが好ましい。前記撥水性ポリエステル繊維の含有量が30重量%未満では、十分な速乾性が得られないおそれがある。なお、本発明の編地を、前記の撥水性ポリエステル繊維と他の繊維とで構成する場合、他の繊維としては、撥水剤を含有しないこと以外は前記ポリエステル繊維と同様のポリエステル繊維が好ましい。」(段落【0033】)
コ.「本発明の編地において、編組織は特に限定されず、通常の編機で製編された編物でよい。例えば、よこ編組織(丸編組織)としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等などが例示されるがこれらに限定されない。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。さらには、表層と裏層とが結接糸で結接されたダブルニットでもよい。
本発明の編地には、常法の起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。」(段落【0035】、【0036】)
サ.「かくして得られた編地において、前記の撥水性ポリエステル繊維が含まれることと、密度が小さいことによる大きな通気性との相乗効果により優れた速乾性が得られる。ここで、編地の目付けとしては速乾性の点で150g/m^(2)以下(好ましくは30?150g/m^(2))であることが好ましい。該目付けが150g/m^(2)よりも大きいと十分な速乾性が得られないおそれがある。また、編地の厚さとしては速乾性の点で1mm以下(好ましくは0.1?1mm)であることが好ましい。該厚さが1mmよりも大きいと十分な速乾性が得られないおそれがある。また、編地の通気性としては速乾性の点で100cc/cm^(2)/s以上(好ましくは100?500cc/cm^(2)/s)であることが好ましい。該通気性が100cc/cm^(2)/sよりも小さいと十分な通気性が得られないおそれがある。さらには、編地に吸汗加工が施されていると編地中の前記撥水性ポリエステル繊維以外の繊維からなる部分に吸汗性が向上し、編地中に吸汗性の低い部分と吸汗性の高い部分を作れる点で好ましい。」(段落【0037】)
シ.「(3)接触角:
後述の(6)撥水性の試験において、アルカリ減量する前の試験片から単糸を採取し、協和界面科学(株)社製 自動微小接触角測定装置「MCA-2」を使用し、蒸留水500ピコリットルを使用して単糸表面の接触角を測定した。接触角が大きいほど、撥水性に優れると判断した。」(段落【0042】)
ス.「[参考例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、変性シリコーン化合物(一般式(1)で示され、Xが水酸基、R1乃至R3がメチル基、R4がトリメチレン基、R5及びR7がメチレン基、R6がエチル基、n=9である化合物:チッソ株式会社製、商品名:FM-DA11、平均分子量:1000)2重量部、酢酸マンガン4水塩0.031部を反応器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で3時間かけて140℃から240℃まで昇温して、生成するメタノールを系外に留出しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応を終了させた後、安定剤としてリン酸0.024部及び重縮合反応触媒として三酸化アンチモン0.04部を添加した後、285℃まで昇温して、減圧下で重縮合反応を実施してポリエステル組成物を得た。このポリエステル組成物の固有粘度を測定した所、0.654dl/gであった。」(段落【0052】)
セ.「[参考例2および3、参考例8および9]
変性シリコーン化合物の含有量を表1に記載の量となるように変性シリコーン化合物(FM-DA11)の添加量を調整したこと以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られたポリエステル組成物、ポリエステル繊維および布帛の特性を表1に示す。」(段落【0053】)
ソ.「 [実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エステル反応性シリコーン化合物(一般式(1)で示され、Xが水酸基、R1乃至R3がメチル基、R4がトリメチレン基、R5及びR7がメチレン基、R6がエチル基、n=9である化合物:チッソ株式会社製、商品名:FM-DA11、平均分子量:1000)10重量部、酢酸マンガン4水塩0.031重量部を反応器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で3時間かけて140℃から240℃まで昇温し、精製するメタノールを系外に除去しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応を終了させた後、安定剤としてリン酸0.024重量部および重縮合反応触媒として三酸化アンチモン0.04重量部を添加した後、285℃まで昇温して、減圧下で重縮合反応させ、シリコーン含有ポリエステルを得た。得られたポリエステルの固有粘度は0.65であった(35℃、オルソクロロフェノール中)。」(段落【0063】)
タ.「このポリエステルを、水分率70ppm以下となるまで乾燥した後、溶融温度300℃で押出機にて溶融し、48孔の円形の吐出孔を有する口金を用い、紡糸速度1000m/分にて引き取った後、一旦巻き取ることなく、予熱温度90℃、熱セット温度120℃、延伸倍率3.7倍で延伸し、3700m/分の速度で巻き取り、延伸糸を得た。得られた撥水性ポリエステル繊維は、繊度56dTexであった。この撥水性ポリエステル繊維に仮撚り加工を行い56dTex48フィラメントの仮撚捲縮加工糸とした。」(段落【0064】)
チ.「次いで、46ゲージのシングル丸編み機を用いて、上記撥水性ポリエステル仮撚捲縮加工糸56dTex48フィラメントと通常のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸33dTex36フィラメントにて、図1のニットミス組織にて編地を編成し、この編地に通常の染色仕上げ加工(130℃かつ30分間の高圧染色、最終セットとして170℃の乾熱セット)を施した。得られた編地には撥水性ポリエステル加工糸が39重量%含まれており、密度がタテ66コース/2.54cm、ヨコ90ウェール/2.54cm、編地のループ密度5940、目付けが74g/m^(2)で、厚さが0.14mm、カバーファクターが39624、通気性が180cc/cm^(2)/sで、乾燥速度が21分で、速乾性に優れた編地であった。
次いで、該編地を用いてスポーツ用衣料(Tシャツ)を得て着用したところ、発汗してもすぐに乾燥し着用快適性に優れるものであった。」(段落【0065】)
ツ.段落【0062】の【表1】において、「特定の変性シリコーン化合物をポリマー重量に対し2.0?20.0重量部含有するポリエステル」に該当する、参考例1ないし7、10ないし12の接触角が122度から105度の範囲内にあることが看取される。

上記の記載事項を、本件発明1に照らして整理すると、甲22には次の甲22発明が記載されている。
《甲22発明》
特定の変性シリコーン化合物をポリマー重量に対し2.0?20.0重量部含有するポリエステルからなる撥水性ポリエステル繊維を含む編地であって、
撥水性ポリエステル繊維が、編地の全重量に対して30重量%以上含まれる、
編地

なお、甲22発明の認定について、当事者間に争いはない。(第1回口頭審理調書 両当事者の2)

(4)甲4の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲4には、以下の事項が記載されている。
ア.「従来よりポリエステル繊維製品への撥水性を付与する方法として、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂を含有する分散液等で布帛を処理して布帛表面にこれらの樹脂を付着させ、撥水処理を施すことは広く行われている(特開平5-106171号公報)。また織編物を高密度の緻密化構造とし、さらに撥水後加工処理を施す方法も提案されている(特公昭63-36380号公報、特公昭63-58942号公報)。」(段落【0002】)
イ.「後加工での撥水処理に対し、特開昭62-238822号公報にはフッ素系樹脂を溶融混練して得られた繊維が提案され、特開平2-26919号公報にはフッ素系重合体微粒子を練り込んで得られた繊維が提案されている。また、特開平9-302523号公報および特開平9-302524号公報ではテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフルオリドの共重合体を撥水成分としてポリエステルに含有した繊維が提案されている。」(段落【0003】)
ウ.「一方で、フッ素系化合物を用いない方法として、特開2005-105424号公報では鞘成分に特定の反応性シリコーンを共重合したポリエステルを使用した芯鞘型複合繊維が開示されている。」(段落【0004】)

(5)甲5の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲5には、以下の事項が記載されている。
ア.「複合糸を含む編地であって、前記複合糸が2種以上の仮撚捲縮加工糸で構成されかつ30T/m以下のトルクを有することを特徴とする編地。」(要約)
イ.「複合糸のトルクとしては、30T/m以下(好ましくは10T/m以下、特に好ましくはノントルク(0T/m))であることが肝要である。かかる低トルクの複合糸を用いて編地を構成することにより、ソフトな風合いやストレッチ性を損なうことなく優れた抗スナッギング性が得られる。トルクは小さいほど好ましくノントルク(0T/m)が最も好ましい。このようにノントルクとするには、S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向の仮撚捲縮加工糸とを合糸する際、トルクの方向が異なること以外は同じトルクを有する2種の仮撚捲縮加工糸を使用するとよい。」(段落【0005】)
ウ.「前記複合糸において、単糸繊度が4dtex以下(好ましくは0.00002?2.0dtex、特に好ましくは0.1?2.0dtex)であることが好ましい。該単糸繊度は小さいほどよく、ナノファイバーと称せられる単糸繊維径が1000nm以下のものでもよい。該単糸繊度が4dtexよりも大きいとソフトな風合いが得られないおそれがある。また、複合糸の総繊度としては33?220dtexの範囲内であることが好ましい。さらに、複合糸のフィラメント数としては50?300本(より好ましくは100?300本)の範囲内であることが好ましい。」(段落【0005】)
エ.「また、前記複合糸の単糸断面形状としては、通常の丸断面でもよいが、丸断面以外の異型断面形状であってもよい。かかる異型断面形状としては、三角、四角、十字、扁平、くびれ付扁平、H型、W型などが例示される。これらの異型断面形状を採用することにより、編地に吸水性を付与することができる。」(段落【0005】)

(6)甲6の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲6には、以下の事項が記載されている。
ア.「【課題】特殊な断面のポリエステル繊維を使用することなく、多量に発汗しても肌面側から外表面側に積極的に水分が移動し、べとつき感や湿潤感を感じ難く、かつソフトで肌触りの着用感が快適な衣類に好適な織編物を提供する。
【解決手段】表外面層が主として、親水性樹脂加工が施されている単糸繊度が0.4?2.0dtexの合成繊維マルチフィラメント(A)からなり、裏外面層が主として、合成繊維マルチフィラメント(A)よりも太く親水性樹脂加工が施されていない単糸繊度が1.1?3.7dtexのポリオレフィンマルチフィラメント(B)からなる多層構造織編物である。」(要約)
イ.「合成繊維マルチフィラメント(A)の単糸繊度は0.4?2.0dtex、好ましくは0.4?1.8dtex、より好ましくは0.5?1.5dtex、特に好ましくは0.5?1.2dtexである。これら範囲の各下限値は、着用時のピリング発生防止の点で意義が有る。また各上限値より低い値であることは、裏外面層に用いる繊維との太さの差が大きくなり毛管吸水効果が向上し、裏外面層から表外面層への水分の移動と表外面層での拡散性を向上する点で意義が有る。」(段落【0016】)

(7)甲7の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲7には、以下の事項が記載されている。
ア.「【課題】環境に配慮した撥水性織物であって、優れた撥水性を有する撥水性織物、および該撥水性織物を用いてなる衣料を提供する。
【解決手段】パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の濃度が0?5ng/gのフッ素系撥水剤が付着してなる撥水性織物であって、前記織物に、単糸繊度が1.0dtex以上のポリエステルフィラメントAと単糸繊度が0.4dtex以下のポリエステルフィラメントBとを用いて得られた複合糸が含まれ、かつ下記で定義する糸足差が5%以上である。」(要約)
イ.「従来、スポーツ衣料、カジュアル衣料、傘地などの用途で撥水性を有する布帛が求められており、フッ素系撥水剤などの撥水剤を布帛に付着させることが行われている(例えば、特許文献1、2参照)。
また、近年では、パーフルオロオクタン酸(以下「PFOA」ということもある。)やパーフルオロオクタンスルホン酸(以下「PFOS」ということもある。)など、生物に影響を及ぼす可能性のある化合物を含まないかあるいはできるだけ含有量の小さいフッ素系撥水剤を布帛に付着させることが提案されている(例えば、特許文献3参照)。」(段落【0002】)
ウ.「本発明の撥水性織物には、パーフルオロオクタン酸(PFOA)およびパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の濃度(すなわち、PFOAの濃度とPFOSの濃度との合計)が0?5ng/g(ナノグラム/グラム)のフッ素系撥水剤が付着している。」(段落【0011】)
エ.「ここで、PFOAおよびPFOSの量は高速液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)で測定したときに5ng/g以下であり、好ましくは1ng/g未満である。該濃度が5ng/gよりも大きい場合、環境上好ましくない。かかる撥水剤は、市販されているものでもよく、例えば、旭硝子(株)製のフッ素系撥水撥油剤であるアサヒガードEシリーズAG-E061、住友スリーエム(株)製のスコッチガードPM3622、PM490、PM930などが好ましく例示される。」(段落【0012】)
オ.「前記ポリエステルフィラメントAにおいて、単繊維の横断面形状は特に限定されず、丸、三角、扁平、くびれ付扁平などいずれでもよい。また、繊維形態も特に限定されず、紡績糸、長繊維(マルチフィラメント)いずれでもよい。さらには、仮撚捲縮加工や空気加工が施されていてもさしつかえない。」(段落【0016】)
カ.「前記ポリエステルフィラメントBにおいて、単繊維の横断面形状は特に限定されず、丸、三角、扁平、くびれ付扁平などいずれでもよい。また、繊維形態も特に限定されず、紡績糸、長繊維(マルチフィラメント)いずれでもよい。さらには、仮撚捲縮加工や空気加工が施されていてもさしつかえない。」(段落【0020】)

(8)甲9の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲9には、以下の事項が記載されている。
ア.「【課題】本発明は、・・・薄地の布帛において撥水剤を裏抜けすることなく外表面全体に水分の滲み防止に必要な量を付与できるとともに繊維製品としての吸水性の機能を確保することが可能な布帛の表面加工処理方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】布帛の少なくとも一方の片面に吸水剤を付与して乾燥させることで少なくとも一方の片面に吸水性の機能を持たせる吸水加工工程と、・・・ロータリスクリーン捺染機により撥水剤を含む捺染糊を・・・印捺した後、乾燥及び熱処理させることで他方の片面に撥水性の機能を持たせる撥水加工工程とを行う。」(要約)
イ.「本発明は、薄地の布帛に対して片面に撥水加工処理を行う表面加工処理方法に関する。」(段落【0001】)
ウ.「布帛に対する表面加工処理方法としては、種々の物理的処理及び化学的処理が施されているが、汗に対する吸水性及び発散性を向上させるために吸水性及び撥水性を兼備した布帛の表面加工処理方法が提案されている。」(段落【0002】)
エ.「薄手の繊維製品に用いられる薄地の布帛の場合には、表面に液状の撥水剤を処理する際に裏抜けして、片面のみの撥水剤付与が困難であった。こうした撥水剤の裏抜けは、衣料品等では快適性のファクターの1つである吸水性を阻害することになり、使用時の不快感を招くようになる。」(段落【0008】)
オ.「吸水加工工程で用いられる吸水剤としては、布帛に使用される繊維と親和性のある吸水剤であれば、いずれも用いることができる。一般には、吸汗剤、親水化剤と称される薬剤も含め、親水性を有する薬剤を繊維に付着させて親水性を有する皮膜を形成する。」(段落【0017】)
カ.「[実施例1]
厚さ0.75mmで目付け302g/m^(2)のポリエステル繊維90%及びポリウレタン繊維10%からなる編物製布帛を用いて以下の表面加工処理を行った。
<吸水加工工程>
吸水加工剤として、高松油脂株式会社製の吸水加工剤(製品名SR-1000)を用いた。吸水加工剤を布帛の単位重量当り5重量%用い、浴中処理を125℃で30分間行った後180℃で1分間乾燥処理した。」(段落【0030】)

(9)甲12の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲12には、以下の事項が記載されている。
ア.「【課題】 本発明は、使用中に付着した水分に対して撥水性を発揮するのは勿論、さらに、使用者の発汗した汗を吸収し、使用時において快適な装着感が得られる手袋及びその手袋の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 撥水性繊維糸2と吸水性繊維糸3とを編織手段により添え糸編し、外部面4全体に撥水性繊維糸2が表出しているとともに、内部面5全体に吸水性繊維糸3が表出していることを特徴とする。」(要約)
イ.「撥水性繊維糸(2)と吸水性繊維糸(3)とを編織手段により添え糸編し、外部面(4)全体に撥水性繊維糸(2)が表出しているとともに、内部面(5)全体に吸水性繊維糸(3)が表出していること
を特徴とする手袋。」(請求項1)
ウ.「【発明の属する技術分野】本発明は、おもに作業や家事、あるいは園芸や防寒などに使用される手袋とその手袋の製造方法に関するものである。」(段落【0001】)
エ.「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような合成ゴムやナイロン製の手袋においては、この手袋の使用中に、外部から降りかかる水分の浸入は防げるものの、手袋の素材自体が非常に緊密な構造をなしているので、通気性がほとんど皆無であり、この手袋を使用するうちに発汗した手の汗が全く吸収されず、よって、手袋内が蒸れた状態となるので、使用者が不快感を感じる問題点があった。一方、綿などの吸湿性繊維のみで形成された手袋においては、使用中に外部の水が付着した際に、付着した水分が手袋内に急速に浸透し、使用時の不快感が伴うのは勿論のこと、使用者の手の保護という本来の手袋としての機能を喪失する問題点もあった。」(段落【0003】)
オ.「【発明の効果】本発明によれば、使用時に付着した水が内部に浸入しない撥水性を有し、また、使用者が発汗した汗も吸収できる吸湿性をも有するので、機能的且つ快適な手袋を提供することが可能となる。」(段落【0014】)

(10)甲14の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲14には、以下の事項が記載されている。
ア.「吸水性を有する繊維布帛とは、JIS L1907 滴下法にて測定した吸水時間が60秒以下のものをいう。快適性の観点からは、好ましくは30秒以下、より好ましくは10秒以下がよい。」(段落【0020】)

(11)甲17の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲17には、以下の事項が記載されている。
ア.「【課題】優れた撥水性を有しながらも、温度上昇により吸水性が向上する撥水性繊維集合体、および該撥水性繊維集合体を製造するための繊維集合体の撥水加工方法を提供すること。
【解決手段】0?100℃の範囲内で可逆的に固液相転移する撥水剤を含有する被膜で繊維表面が被覆されてなることを特徴とする撥水性繊維集合体。0?100℃の範囲内で可逆的に固液相転移する撥水剤を含む溶液を繊維集合体に適用し、乾燥することを特徴とする撥水加工方法。」(要約)
イ.「【図1】(A)および(B)はそれぞれ実施例2で得られた撥水加工生地のオモテ面およびウラ面のSEM写真を示す。
【図2】(A)および(B)はそれぞれ実施例3で得られた撥水加工生地のオモテ面およびウラ面のSEM写真を示す。」(段落【0010】)
ウ.「(実施例1)
綿100%の生地(目付240g/m^(2))全体を、10重量%のステアリルアクリレートおよび90重量%のイソプロパノールの混合液に浸漬し、マングルで絞って、70℃で1分間加熱乾燥させ、表3に記載の付着率(審決注:付着率=1.6重量%)を達成した。当該生地を165℃、105秒間加熱した後(加熱硬化処理)、未反応の薬剤を除去するために70℃の温水で20分間洗浄をし、ついで150℃で90秒間乾燥して撥水加工生地を得た。」(段落【0068】)
エ.「(実施例2)
混合液の薬剤およびその濃度ならびに付着率を表3に記載(審決注:薬剤およびその濃度=ステアリルアクリレート(10重量%)+バインダーKM(5重量%)、付着率=3.3重量%)のように変更したこと以外、実施例1と同様の方法により撥水加工生地を得た。」(段落【0069】)
オ.「(実施例3?7)
混合液の薬剤およびその濃度ならびに付着率を表3に記載(審決注:実施例3については、薬剤およびその濃度=ステアリルアクリレート(10重量%)+架橋剤(2.5重量%)、付着率=5.0重量%)のように変更したこと、および165℃で105秒間の加熱硬化処理の代わりに、以下に示す電子線照射処理を行ったこと以外、実施例1と同様の方法により撥水加工生地を得た。」(段落【0070】)
カ.「実施例2で得られた撥水加工生地のオモテ面およびウラ面のSEM写真をそれぞれ図1(A)および図1(B)に示す。
実施例3で得られた撥水加工生地のオモテ面およびウラ面のSEM写真をそれぞれ図2(A)および図2(B)に示す。」(段落【0076】)
キ.「生地のオモテ面とは、電子線照射処理を行った場合は、電子線を照射した面を意味するものとする。また、加熱硬化処理を行った場合、又は加熱硬化処理も電子線照射処理も行わなかった場合は、生地のオモテ面およびウラ面は任意の面であってよい。」(段落【0078】)
ク.上記ウ.及びエ.に記載された方法により得られた撥水加工生地のオモテ面及びウラ面のSEM写真である【図1】の(A)及び(B)から、複数の繊維ないし糸状のものが接触した状態でまたは間を空けた状態で位置していることが看取される。
ケ.上記ウ.及びオ.に記載された方法により得られた撥水加工生地のオモテ面及びウラ面のSEM写真である【図2】の(A)及び(B)から、複数の繊維ないし糸状のものが接触した状態でまたは間を空けた状態で位置していることが看取される。

(12)甲18の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲18には、以下の事項が記載されている。
ア.「【課題】優れた赤外線遮蔽性を有するだけでなく優れた通気性および着用快適性をも有する赤外線遮蔽性布帛および該赤外線遮蔽性布帛を用いてなる繊維製品を提供すること。
【解決手段】基布の少なくとも片面上に、酸化チタンなどの赤外線反射剤を含む樹脂を部分的に付着させて赤外線遮蔽性布帛を得た後、必要に応じて該赤外線遮蔽性布帛を用いてスポーツウエアなどの繊維製品を得る。」(要約)
イ.「ここで、織物組織および編物組織としては特に限定されないが、よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等などが例示され、織物組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示されるがこれらに限定されない。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。なお、これらの織物や編物は常法により製造することができる。」(段落【0014】)

(13)甲19の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲19には、以下の事項が記載されている。
ア.「【課題】軽量性に優れた透湿防水性布帛および該透湿防水性布帛を用いてなる繊維製品を提供すること。
【解決手段】基布の片面に透湿防水層を積層し、さらにその上に、総繊度が16dtex以下の加工糸を用いてなる布帛Aを積層して透湿防水性布帛を得る。」(要約)
イ.「請求項1?11のいずれかに記載の透湿防水性布帛を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品。」(請求項12)
ウ.「本発明によれば、前記の透湿防水性布帛を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品が提供される。」(段落【0010】)
エ.「基布を構成する繊維形態は特に限定されないが、透湿防水層との接着性の点で長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。単糸繊維繊度、総繊度、フィラメント数は特に限定されないが、ソフトな風合いを得る上で、それぞれ単糸繊維繊度0.1?2.0dtex、総繊度30?200dtex、フィラメント数30?200本の範囲内であることが好ましい。」(段落【0020】)


2.本件発明1について
2-1.本件発明1の発明特定事項
(1)本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、本件発明1の発明特定事項に関して以下の記載がある。
ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えた布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品に関する。」
イ.「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えた布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品を提供することにある。」
ウ.「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、撥水性のない繊維および撥水性のある繊維を用いて布帛を構成し、これらの重量比率や配置を工夫することにより、吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えた布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。」
エ.「【0009】
ただし、撥水性のない繊維Aは接触角が120度未満の繊維であり、撥水性のある繊維Bは接触角が120度以上の繊維である。」
オ.「【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えた布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品が得られる。」
カ.「【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の布帛は、撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとを含む。ただし、本発明でいう「撥水性のない繊維」とは接触角が120度未満の繊維であり、一方、「撥水性のある繊維」とは接触角が120度以上の繊維である。なお、接触角は、蒸留水を使用して繊維の単糸表面上に500plの蒸留水を滴下したときの繊維と水滴との接触角をθ/2法にて測定するものとする。」
キ.「【0016】
ここで、撥水性のない繊維Aは、本発明において吸水性に寄与する繊維であり、繊維の種類としてはポリエステル繊維、ナイロン繊維、木綿やウールなどの天然繊維など特に限定されないが、ポリエステル繊維であることが好ましい。」
ク.「【0017】
かかるポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどからなるポリエステル繊維が好ましい。・・・」
ケ.「【0022】
一方、撥水性のある繊維Bは、本発明において撥水性および水に浮きやすい性質に寄与する繊維である。繊維Bの種類としては、撥水性ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維などが好適である。これらの繊維はいずれも優れた撥水性を有するので、かかる繊維Bと前記繊維Aとを用いて、特定の構造を有する布帛を製編または製織することにより吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えた布帛が得られる。」
コ.「【0023】
ここで、撥水性ポリエステル繊維としては、シリコーン系化合物もしくはフッ素系化合物、炭化水素系化合物を共重合もしくはブレンドしてなるポリエステル繊維、シリコーン系、炭化水素系、フッ素系いずれかの撥水剤を用いて撥水加工が施されたポリエステル繊維であることが好ましい。・・・」
サ.「【0029】
本発明の布帛において、前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内であることが肝要である。前記繊維Aの重量比率が該範囲よりも小さいと、布帛の吸水性が低下するおそれがあり好ましくない。逆に、前記繊維Bの重量比率が該範囲よりも小さいと、撥水性や水に浮きやすい性質が低下するおそれがあり好ましくない。」
シ.「【0030】
本発明の布帛において、布帛組織としては特に限定されない。・・・層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。」

(2)解決すべき課題及び作用効果について
上記2.2-1.(1)のア.?ウ.の記載のからみて、本件発明1の解決すべき課題は、「吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えた布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品を提供すること」であり、その作用効果は、「吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えた布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品が得られる」ことである。
そして、本件発明1を引用する本件発明3、本件発明4において「吸水性」、「水に浮きやすい性質」の程度が規定されていることを踏まえると、本件発明1の作用効果において、「吸水性」、「撥水性」、「水に浮きやすい性質」の程度は不問であると解するのが相当である。

(3)「撥水性のない繊維A」、「撥水性のある繊維B」について
「撥水性」とは、一般に「織物などの布地が,表面で水をはじく性質」を意味する(大辞林 第三版)が、本件特許明細書には、本件発明1における「撥水性のない繊維」とは、「接触角が120度未満の繊維」であり、「撥水性のある繊維」とは接触角が120度以上の繊維」であるとその定義が説明されている(上記2.2-1.(1)のエ.及びカ.を参照)。
しかし、撥水性のあり/なしを「接触角120度を基準」として定義した理由について、本件特許明細書には、直接的な記載がなく、被請求人は、「【表1】に記載の「実施例5」の「135°」、「比較例3」の「115°」の間から決定した。」と述べている(第4.の2.(3)イ.の(ア-12)を参照)。
ゆえに、上記「120度」という値自体には、本件発明1の解決すべき課題や作用効果に関する臨界的な(「120度」の前後で、「吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質」を備えるか否かが大きく異なる)意味はなく、上記「接触角が120度」とは、「接触角が120度程度(135度から115度の間の値)」という意味であると解するのが相当である。
以上を踏まえ、本件発明1における「撥水性のある」とは、「撥水性」の一般的な意味である「水をはじく性質」が「ある」ということに加えて、撥水性の程度(水をはじく程度)が「接触角が120度程度(135度から115度の間の値)以上」を意味するものと認める。

(4)「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内」であることについて
(4-1)「50:50」、「87:13」という数値の意味
本件特許明細書には、「前記繊維Aの重量比率が該範囲よりも小さいと、布帛の吸水性が低下するおそれがあり好ましくない。逆に、前記繊維Bの重量比率が該範囲よりも小さいと、撥水性や水に浮きやすい性質が低下するおそれがあり好ましくない。」との説明がある(上記2.2-1.(1)のサ.を参照)が、撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとの重量比を「50:50」とした実施例、及び「87:13」とした実施例は記載されていない。
被請求人は、「50:50」の決め方について、「吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えた布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品が得られる」という作用効果が奏されることを実際に確認して決めたわけではなく、「65:35」とした実施例1と公知例「0:100」の中間点の「32.5:67.5」よりも実施例により近く、効果がより発揮されることが予想されるという理由で決めた旨を述べている(第4.の2.(3)イ.の(ア-7)を参照)。
また、「87:13」の決め方についても、上記作用効果が奏されることを実際に確認して決めたわけではなく、実施例5「85:15」と比較例1「88:12」の間の重量比率であるという理由で決めた旨を述べている(第4.の2.(3)イ.の(ア-8)を参照)。
ゆえに、上記「50:50」や上記「87:13」という値自体に、本件発明1の解決すべき課題や作用効果に関する臨界的な意味、すなわち、これらの値の前後で、「吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質」を備えるか否かが大きく異なるという意味はないものと解するのが相当である。
(4-2)「重量比率」で規定した意味
被請求人は、繊維Aと繊維Bとの重量比率で規定したことについて、その存在比率自体が、本発明の効果に密接に関連しており、繊維の存在比率を工業的に特定する上でもっとも効率的かつ経済的である「重量比率」で規定した旨を述べている(第4.の2.(3)イ.の(ア-3)、(ア-11)を参照)。
ゆえに、繊維Aと繊維Bとの重量比率で規定したことは、繊維Aと繊維Bの存在比率を規定すること以上の特別な意味(重量比率で規定したゆえの特別な技術的意味)はないものと解するのが相当である。
(4-3)課題の解決、作用効果との関係
撥水性の繊維状物からなるものが撥水性に加え、浮力、すなわち、水に浮きやすい性質をも有することは、請求人が参考資料として提示した特開平6-228820号公報や、被請求人が提示した乙1(特許第4598929号公報)の他にも、例えば、特開平6-228852号公報(【要約】、【特許請求の範囲】、段落【0001】?【0003】、【0004】、【0008】、【0048】等を参照)にも記載されているように、本願の優先日前に周知の技術的事項である。
この周知の技術的事項を踏まえると、撥水性のある繊維状物を含むものは、撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えることが当業者にとって明らかである。
また、撥水性のない繊維を含む布帛は、吸水性を備えることも明らかである。
ゆえに、撥水性のない繊維と撥水性のある繊維の双方を含む(撥水性のない繊維のみではなく、撥水性のある繊維のみでもない)布帛は、その存在比率、すなわち、「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内」にあるかないかにかかわらず、吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えることが、当業者にとって明らかである。

2-2.甲22発明に基づく容易想到性について
事案に鑑み、甲22発明に基づく本件発明1の容易想到性から検討する。

2-2-1.本件発明1と甲22発明との対比
上記1.(3)に摘記した甲22の記載事項エ.、ク.、及びケ.と、上記2.の2-1.(3)に摘記した本件特許明細書の記載事項キ.ないしケ.と、を踏まえると、甲22発明の「特定の変性シリコーン化合物をポリマー重量に対し2.0?20.0重量部含有するポリエステルからなる撥水性ポリエステル繊維」は、本件発明1の「撥水性のある繊維B」に対応する。
また、甲22発明において、編地中に、上記「撥水性ポリエステル繊維」を除く繊維が編地の全重量に対して70重量%未満存在することが明らかであり、そのような繊維は前記「撥水性ポリエステル繊維」の撥水性を基準とした場合に、「撥水性のない繊維」ということができる。
そして、甲22発明の「特定の変性シリコーン化合物をポリマー重量に対し2.0?20.0重量部含有するポリエステルからなる撥水性ポリエステル繊維」について、本件発明1と同様の測定方法(上記1.(3)シ.を参照)で測定した場合の接触角が、122度から105度の範囲内である(上記1.(3)ツ.を参照)ことも明らかである。
以上を踏まえると、甲22発明の「特定の変性シリコーン化合物をポリマー重量に対し2.0?20.0重量部含有するポリエステルからなる撥水性ポリエステル繊維を含む編地」は、「撥水性のない繊維と撥水性のある繊維とを含む布帛」という限りにおいて、本件発明1の「撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとを含む布帛」との要件を満たす。
してみると、本件発明1と甲22発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
撥水性のない繊維と撥水性のある繊維とを含む布帛。
《相違点1》
「撥水性のない繊維」、「撥水性のある繊維」が、本件発明1では、「(接触角120度を基準とした場合の)撥水性のない繊維A」、「(接触角120度を基準とした場合の)撥水性のある繊維B」であるのに対し、甲22発明では、「撥水性のない繊維」が具体的に特定されておらず、また、「撥水性のある繊維」が「特定の変性シリコーン化合物をポリマー重量に対し2.0?20.0重量部含有するポリエステルからなる撥水性ポリエステル繊維」である点。
《相違点2》
本件発明1では、前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内であるのに対し、甲22発明では、「特定撥水性ポリエステル繊維」が、編地の全重量に対して30重量%以上含まれる点。

なお、甲22発明と本件発明1との対比、一致点、相違点について、当事者間に争いはない。(第1回口頭審理調書 両当事者の2)

2-2-2.本件発明1と甲22発明との相違点の検討
(1)《相違点1》について
上記2.2-1.(3)で述べたように、本件発明1において、撥水性のあり/なしの基準となる「接触角」は120度程度(135度から115度の間の値)である。
一方、上記2.2-2-1.で述べたように、甲22発明の「特定撥水性ポリエステル繊維」の接触角は、122度から105度の範囲内であり、さらに、甲22には、接触角は115度以上であることが好ましく、このような高い接触角をポリエステル繊維自体に具備させることで、編地にしたときに優れた撥水性を発現させることができる旨の記載がある(上記1.(3)ク.を参照)。
そして、撥水性のあり/なしの基準となる「接触角」を120度とすることは、本願の優先日前に様々な技術分野で行われていた技術常識であり(例示が必要であれば、特開平9-195983号公報(【要約】、【請求項1】、段落【0020】等を参照)、特開平10-28918号公報(段落【0020】等を参照)、特開平10-35791号公報(【請求項5】、段落【0014】等を参照)、特開2005-260899号公報(段落【0005】等を参照)、特開2005-314492号公報(段落【0037】等を参照))、何ら新規なことではない。
してみると、甲22発明の「特定撥水性ポリエステル繊維」の接触角を、120度程度以上とすること、すなわち、甲22発明の「特定撥水性ポリエステル繊維」を、本件発明1の「撥水性のある繊維B」と同様の(接触角120度を基準とした場合の)撥水性のある繊維とすることは、当業者が適宜決定し得た設計的な事項というべきである。
そして、これに伴い、甲22発明において、「特定撥水性ポリエステル繊維」ではない繊維の接触角(撥水性の程度)を120度程度未満とすること、すなわち、甲22発明において、「特定撥水性ポリエステル繊維」ではない繊維を、本件発明1の「撥水性のない繊維A」と同様の(接触角120度を基準とした場合の)撥水性のない繊維とすることは、当然のことにすぎない。

(2)《相違点2》について
本件発明1において、「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内である」ことは、布帛に含まれる繊維Bが全体に対して13?50%であることを意味するが、前記13%に下限値としての意味や、50%に上限値としての臨界的な意味はない。(上記2.2-1.(4)を参照)。
一方、甲22には、「編地に吸汗加工が施されていると編地中の前記撥水性ポリエステル繊維以外の繊維からなる部分に吸汗性が向上し、編地中に吸汗性の低い部分と吸汗性の高い部分を作れる点で好ましい。」ことが記載されている(上記1.(3)サ.を参照)。
そして、この記載における「吸汗性」とは、「汗」という「水分」を吸収する性質、すなわち、「吸水性」と同義であると解されることを踏まえると、この記載に基づき、甲22発明において、「特定撥水性ポリエステル繊維」ではない繊維に吸水性を持たせ、所望する吸汗性に応じて、その重量比率を、編地の全重量に対して70%未満の適宜範囲に設定し、これに伴い、「特定撥水性ポリエステル繊維」の重量比率を、編地の全重量に対して30%以上の適宜範囲に設定することは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、このように設定された範囲は、結果的に、13?50%の範囲内となることが、明らかである。

(3)本件発明1の作用効果の予測性
甲22発明は、「特定撥水性ポリエステル繊維」の撥水性と編地の通気性との相乗効果により優れた速乾性を有する繊維製品を提供し得るものであり(上記1.(3)ア.?エ.を参照)、吸汗性を向上させ得るものでもある(上記1.(3)シ.を参照)ことから、甲22発明の奏する作用効果は、「吸水性と撥水性とを兼ね備えた布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品が得られる」ことであると言える。
一方、甲22には、「水に浮きやすい性質」をも兼ね備えることについては記載されていない。
しかしながら、撥水性の繊維状物からなるものが撥水性に加え、浮力、すなわち、水に浮きやすい性質をも有することは、請求人が参考資料として提示した特開平6-228820号公報や、被請求人が提示した乙1(特許第4598929号公報)の他にも、例えば、特開平6-228852号公報(【要約】、【特許請求の範囲】、段落【0001】?【0003】、【0004】、【0008】、【0048】等を参照)にも記載されているように、本願の優先日前に周知の技術的事項である。
してみると、甲22発明も、吸水性と撥水性に加え、水に浮きやすい性質をも兼ね備えるという本件発明1と同様の作用効果を奏し得ることは、当業者が十分予測し得たことというべきである。

2-2-3.小括
以上のことから、本件発明1は、上記技術常識及び周知の技術的事項を踏まえると、甲22発明及び甲22に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


2-3.甲1発明に基づく容易想到性について
2-3-1.本件発明1と甲1発明との対比
上記1.(1)に摘記した甲1の記載事項ク.ないしケ.と、上記2.の2-1.(3)に摘記した本件特許明細書の記載事項キ.ないしケ.と、を踏まえると、甲1発明の「親水性糸」、「疎水性糸」は、各々、本件発明1の「撥水性のない繊維A」、「撥水性のある繊維B」に対応する。
しかしながら、本件発明1における「撥水性のない繊維A」とは、「接触角が120度未満の繊維」であり、「撥水性のある繊維B」とは、「接触角が120度以上の繊維」である(上記2.の2-1.(3)エ.及びカ.を参照)ところ、甲1には、甲1発明の「親水性糸」、「疎水性糸」の接触角についての記載がない。
また、本件発明1における「布帛」は、「単層でもよいし、2層以上の多層でもよい」(上記2.の2-1.(3)シ.を参照)とされている。
以上を踏まえると、甲1発明の「表面層と裏面層を含み、表面層は親水性糸で構成され、裏面層は疎水性糸と親水性糸が混在して構成される吸水性生地」は、「撥水性のない繊維と撥水性のある繊維とを含む布帛」という限りにおいて、本件発明1の「撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとを含む布帛」との要件を満たす。
してみると、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点’》
撥水性のない繊維と撥水性のある繊維とを含む布帛。
《相違点1’》
「撥水性のない繊維」、「撥水性のある繊維」が、本件発明1では、「(接触角120度を基準とした場合の)撥水性のない繊維A」、「(接触角120度を基準とした場合の)撥水性のある繊維B」であるのに対し、甲1発明では、「親水性糸」、「疎水性糸」である点。
《相違点2’》
本件発明1では、前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内であるのに対し、甲1発明では、前記裏面層において、前記疎水性糸の本数をAとし、前記親水性糸の本数をBとした場合、前記疎水性糸と前記親水性糸の混在割合がA:B=1:5?5:1である点。

なお、甲1発明と本件発明1との対比、一致点、相違点について、当事者間に争いはない。(第1回口頭審理調書 両当事者の2)

2-3-2.本件発明1と甲1発明との相違点の判断
(1)《相違点1’》について
「疎水性」とは、一般に「水となじみにくいこと。物質・分子・原子団の水分子との親和力が小さいこと,およびその結果としてのさまざまの性質」を意味する(大辞林 第三版)のに対し、「撥水性」とは、一般に「織物などの布地が,表面で水をはじく性質」を意味する(大辞林 第三版)ものであり、「疎水性」と「撥水性」とは、異なる概念を持つ用語である。
そして、甲1発明は、「表面層は親水性糸で構成され、裏面層は疎水性糸と親水性糸が混在して構成される吸水性生地」とすることで、「生地の裏面(肌面)から水滴を滴下したときに瞬時に吸水して表面層に移動し拡散する性質を有することにより、通常の着用状態において多量発汗しても肌面にはべたつき感も濡れ感も冷感もなく、快適な吸水性生地及びこれを用いた衣類を提供できる」(上記1.(1)カ.を参照)という作用効果を奏するものであり、裏面層の疎水性糸には、文字通り「疎水性」であることが求められる一方で、撥水性である(水をはじく性質を持つ)ことまでは求められていないことが明らかである。
ゆえに、甲1に、疎水性糸の例示として、ポリエステル撥水加工糸等の撥水加工糸が記載されている(上記1.(1)ケ.を参照)からといって、その撥水性の程度を、例えば、接触角が120度程度以上というふうに、特定する動機付けはないものといわざるを得ない。
してみると、甲1発明の「疎水性糸」の接触角を、120度程度以上とすること、すなわち、甲1発明の「疎水性糸」を、本件発明1の「撥水性のある繊維B」と同様の(接触角120度を基準とした場合の)撥水性のある繊維とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
ゆえに、甲1発明の「親水性糸」の接触角(撥水性の程度)を120度程度未満とすること、すなわち、甲1発明の「親水性糸」を、本件発明1の「撥水性のない繊維A」と同様の(接触角120度を基準とした場合の)撥水性のない繊維とすることも、当業者が容易になし得たこととはいえない。

これに関し、請求人は、撥水性の有無は、接触角が「120度」未満、または「120度」以上、という特定の数値に限定されるべきものではなく、種々の角度が接触角の基準とされるというべきであり、また、接触角を基準としない撥水性を発明特定事項とした特許が多数存在する旨を主張している(上記第4.1.(3)ア.(ア-1-6)を参照)。
しかしながら、本件発明1において、「撥水性のある」とは、「撥水性」の一般的な意味である「水をはじく性質」が「ある」ということに加えて、撥水性の程度(水をはじく程度)が「接触角が120度程度(135度から115度の間の値)以上」を意味するものである(上記2-1.(3)を参照)から、上記請求人の主張は根拠がない。

(2)《相違点2’》について
上記(1)で述べたように、甲1発明の「親水性糸」、「疎水性糸」を、「撥水性のない繊維」、「撥水性のある繊維」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえないが、以下では、仮に、《相違点1’》を容易になし得たこととして、《相違点2’》についての検討を進める。

本件発明1において、「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内である」ことは、布帛に含まれる繊維Bが全体に対して13?50%であることを意味するが、前記13%に下限値としての意味や、50%に上限値としての臨界的な意味はない。(上記2.2-1.(4)を参照)。
一方、甲1発明における、「裏面層において、前記疎水性糸の本数をAとし、前記親水性糸の本数をBとした場合、前記疎水性糸と前記親水性糸の混在割合がA:B=1:5?5:1である」ことは、「表面層と裏面層を含」む「吸水性生地」の裏面層での疎水性糸が裏面層全体に対して1/6(17%程度)から5/6(83%程度)存在することを意味し、吸水性生地全体に対して疎水性糸がどの程度存在するかについては不問とされていることが明らかである。
つまり、甲1発明における「裏面層において、前記疎水性糸の本数をAとし、前記親水性糸の本数をBとした場合、前記疎水性糸と前記親水性糸の混在割合がA:B=1:5?5:1である」ことは、本件発明1における「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内である」こととは全く概念の異なる事項である。
したがって、甲1発明において、上記作用効果を奏する範囲内で疎水性糸と親水性糸の混在割合を種々調整することにより、結果として、吸水性生地全体に対する疎水性糸の存在割合が13?50%の範囲内に入ることがあったとしても、そもそも概念が異なる事項であることを踏まえると、もはや当業者が容易になし得たこととはいえない。

これに関し、請求人は、甲1発明の『A:B=1:5?5:1』は、裏面層における疎水性糸と親水性糸の混在割合」であるが、同様に、本件発明1にも布帛の一部のみにおいて『繊維の重量比率が50:50?87:13』である場合が含まれることから、本件発明1と甲1発明の数値範囲は重複するといえる旨を主張している(上記第4.1.(3)ア.(ア-1-8)を参照)。
しかしながら、この主張は、実際に重複する場合があることを具体的に示す等、具体的根拠に基づく主張ではない。
なお、例えば、甲1発明の吸水性生地が表面層と裏面層の2層のみからなるものであり、表面層と裏面層の親水性糸と同じ糸とし、裏面層の疎水性糸と親水性糸とは同程度の太さであるとの条件を仮に設定した場合には、疎水性糸が吸水性生地全体に対して1/12(約8%)から5/12(約42%)となり、本件発明1における布帛に含まれる繊維Bの全体に対する存在割合の範囲(13?50%)と重なることがあり得る。
しかし、甲1には、前記条件を設定すべき動機付けとなることが一切記載されていないし、その余の甲号証にも記載されていない。
したがって、この主張を考慮したとしても、甲1発明において、吸水性生地全体に対する疎水性糸の存在割合が13?50%の範囲内に入るようにすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

2-3-3.小括
以上のことから、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。


2-4.甲21発明に基づく容易想到性について
2-4-1.本件発明1と甲21発明との対比
上記1.(1)に摘記した甲21の記載事項ケ.及びコ.と、上記2.の2-1.(3)に摘記した本件特許明細書の記載事項キ.ないしケ.と、を踏まえると、甲21発明の「水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条A」、「水との接触角が80度以上の繊維からなる糸条B」は、各々、本件発明1の「撥水性のない繊維A」、「撥水性のある繊維B」に対応する。
ゆえに、甲21発明の「水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条Aと水との接触角が80度以上の繊維からなる糸条Bとで構成される編地」は、「撥水性のない繊維と撥水性のある繊維とを含む布帛」という限りにおいて、本件発明1の「撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとを含む布帛」に相当する。
してみると、本件発明1と甲21発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点”》
撥水性のない繊維と撥水性のある繊維とを含む布帛
《相違点1”》
「撥水性のない繊維」、「撥水性のある繊維」が、本件発明1では、「(接触角120度を基準とした場合の)撥水性のない繊維A」、「(接触角120度を基準とした場合の)撥水性のある繊維B」であるのに対し、甲21発明では、「水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条A」、「水との接触角が80度以上の繊維からなる糸条B」である点。
《相違点2”》
本件発明1では、前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内であるのに対し、甲21発明では、編地の表面に前記糸条Aのみからなる領域SAと前記糸条Bのみからなる領域SBが存在し、領域SBの面積割合が編地全体の10?50%の範囲内である点。

なお、甲21発明と本件発明1との対比、一致点、相違点について、当事者間に争いはない。(第1回口頭審理調書 両当事者の2)

2-4-2.本件発明1と甲21発明との相違点の判断
(1)《相違点1”》について
上記2.2-1.(3)で述べたように、本件発明1において、撥水性のあり/なしの基準となる「接触角」は120度程度(135度から115度の間の値)である。
一方、甲21には、水との接触角を115度と、80度よりも大きな値にした実施例が記載されている(上記1.(2)ス.を参照)。
さらに、撥水性のあり/なしの基準となる「接触角」を120度とすることは、本願の優先日前に様々な技術分野で行われていた技術常識であり(例示が必要であれば、特開平9-195983号公報(【要約】、【請求項1】、段落【0020】等を参照)、特開平10-28918号公報(段落【0020】等を参照)、特開平10-35791号公報(【請求項5】、段落【0014】等を参照)、特開2005-260899号公報(段落【0005】等を参照)、特開2005-314492号公報(段落【0037】等を参照))、何ら新規なことではない。
してみると、甲21発明の「水との接触角が80度以上の繊維からなる糸条B」の接触角を、120度程度以上とすること、すなわち、甲22発明の「水との接触角が80度以上の繊維からなる糸条B」を、本件発明1の「撥水性のある繊維B」と同様の(接触角120度を基準とした場合の)撥水性のある繊維とすることは、当業者が適宜決定し得た設計的な事項というべきである。
そして、これに伴い、甲21発明において、「水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条A」の接触角を120度程度未満とすること、すなわち、甲21発明において、「水との接触角が80度未満の繊維からなる糸条A」を、本件発明1の「撥水性のない繊維A」と同様の(接触角120度を基準とした場合の)撥水性のない繊維とすることは、当然のことにすぎない。

(2)《相違点2”》について
本件発明1において、「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内である」ことは、布帛に含まれる繊維Bが全体に対して13?50%であることを意味するが、前記13%に下限値としての意味や、50%に上限値としての臨界的な意味はない。(上記2.2-1.(4)を参照)。
一方、甲21発明における、「編地の表面に前記糸条Aのみからなる領域SAと前記糸条Bのみからなる領域SBが存在し、領域SBの面積割合が編地全体の10?50%の範囲内である」ことは、「編地」の表面において「水との接触角が80度以上の繊維からなる糸条B」が表面全体に対して10%から50%存在することを意味し、編地全体に対して「水との接触角が80度以上の繊維からなる糸条B」がどの程度存在するかについては不問とされていることが明らかである。
つまり、甲21発明における「編地の表面に前記糸条Aのみからなる領域SAと前記糸条Bのみからなる領域SBが存在し、領域SBの面積割合が編地全体の10?50%の範囲内である」ことは、本件発明1における「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内である」こととは全く概念の異なる事項である。
したがって、甲21発明において、糸条Bのみからなる領域SBの面積割合を種々調整することにより、結果として、編地全体に対する疎水性糸の存在割合が13%程度から50%程度の範囲内に入ることがあったとしても、そもそも概念が異なる事項であることを踏まえると、もはや当業者が容易になし得たこととはいえない。

2-4-3.小括
以上のことから、本件発明1は、甲21発明に基づいて、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。


2-5.本件発明1の容易想到性についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明に基づき、本願の優先日前に当業者が容易に発明し得たものである。

一方、本件発明1は、甲1発明、甲21発明に基づき、本願の優先日前に当業者が容易に発明し得たものとはいえない。
そして、本件発明1に従属する本件発明2ないし本件発明24についても、甲1発明、甲21発明に基づき、本願の優先日前に当業者が容易に発明し得たものとはいえない。
したがって、以下では、甲22発明を主たる引用発明とした場合の容易想到性について検討する。


3.本件発明2について
3-1.本件発明2の発明特定事項
本件発明2は、本件発明1に係る布帛が、「撥水性のない繊維Aと撥水性のある繊維Bとを用いて製編または製織してなる」ことを発明特定事項とするものである。

3-2.本件発明2と甲22発明との対比、一致点、相違点
甲22発明は編地であるから、製編してなるものである。
本件発明2と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》に加え、「製編してなるものである」点で一致し、《相違点1》及び《相違点2》で相違する。

3-3.本件発明2と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。

3-4.小括
以上のことから、本件発明2は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明及び甲22に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


4.本件発明3について
4-1.本件発明3の発明特定事項
本件発明3は、本件発明1に係る布帛が、「布帛の少なくともどちらか一方の表面において、JIS L1096 6.26吸水速度A法 滴下法により測定した吸水速度が30秒以下である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

4-2.本件発明3と甲22発明との一致点、相違点
本件発明3と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点3》
本件発明3は、上記4-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記4-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

4-3.本件発明3と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点3》について検討する。
甲22には、吸汗性、すなわち、吸水性の向上を示唆する記載があり(上記1.(3)サ.を参照)、甲22発明において、「特定撥水性ポリエステル繊維」ではない繊維に吸水性を持たせ、所望する吸水性に応じて、その重量比率を、編地の全重量に対して70%未満の適宜範囲に設定し、これに伴い、「特定撥水性ポリエステル繊維」の重量比率を、編地の全重量に対して30%以上の適宜範囲に設定することは、当業者が容易に想到し得たことである。(上記2-2-2.(2)を参照)。
一方、布帛や繊維製品について、所望する吸水性を特定するための評価指標や試験法として、JIS等の標準規格を採用することは、例えば、甲14にも記載されている(上記1.(10)を参照)ように本願の優先日前に周知の技術である。
してみると、甲22発明についても、上記所望する吸水性を特定するための試験法や指標として、JISを採用し、上記4-1.に示した事項に想到することは、当業者にとって容易である。

4-4.小括
以上のことから、本件発明3は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明、甲22に記載された事項、及び、一例として甲14にも記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


5.本件発明4について
5-1.本件発明4の発明特定事項
本件発明4は、本件発明1に係る布帛が、「JIS L1907-2010 7.1.3沈降法により測定した沈降時間が10秒以上である」なる事項を、発明特定事項とするものである。
この事項に関して、本件特許明細書には以下の説明がある。
「撥水性と水に浮きやすい性質の代用特性として、JIS L1907-2010 7.1.3沈降法により測定した沈降時間が10秒以上(より好ましくは10?300秒)であることが好ましい。」(本件特許明細書の段落【0036】を参照)

5-2.本件発明4と甲22発明との一致点、相違点
本件発明4と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点4》
本件発明4は、上記5-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記5-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

5-3.本件発明4と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点4》について検討する。
本件発明4において、「JIS L1907-2010 7.1.3沈降法」は、繊維製品の吸水性試験方法に係る標準規格であるが、本件発明4は、これを「撥水性と水に浮きやすい性質の代用特性」として採用されたものである(上記5-1.を参照)。
そして、「撥水性と水に浮きやすい性質の代用特性」として、「JIS L1907-2010 7.1.3沈降法」を採用することは、従たる証拠とされる甲1には記載されておらず、前記採用することが、本願の優先日前に知られていたことを示す証拠を請求人は何ら示していないし、さらに、そのような証拠を発見していない。
ゆえに、「甲22発明が、吸水性と撥水性に加え、水に浮きやすい性質をも兼ね備えるという作用効果を奏し得ることは、当業者が十分予測し得たことというべきである(上記2-2-2.(3)を参照)」が、「水に浮きやすい性質」を特定するための評価指標や試験法として、「JIS L1907-2010 7.1.3沈降法」を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

これに関し、請求人は、上記5-1.に示した事項は機能的要件であり、本件発明1の構成要件によって「水に浮きやすい性質を有する布帛」が得られるとすれば、本件発明4の上記機能的要件の示す機能は、本件発明1の構成要件を有する布帛であることによって得られるものである旨を主張している(上記第4.1.(3)(エ-2)を参照)。
しかしながら、上記5-1.に示した事項が機能的要件であり、本件発明1の構成要件を有する布帛であることによって得られるものであるとしても、その機能を「JIS L1907-2010 7.1.3沈降法」を用いて特定することが容易であるとすべき、合理的理由はない。
したがって、請求人の主張は失当であり、採用できない。

5-4.小括
以上のことから、本件発明4は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえたとしても、甲22発明、甲1に記載された事項及び甲22に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。


6.本件発明5について
6-1.本件発明5の発明特定事項
本件発明5は、本件発明1に係る布帛について、「前記繊維Aがポリエステル繊維である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

6-2.本件発明5と甲22発明との一致点、相違点
本件発明5と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点5》
本件発明5は、上記6-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記6-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

6-3.本件発明5と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点5》について検討する。
甲22には、編地における、「撥水性ポリエステル繊維」を除く繊維(本件発明5の前記繊維Aに対応)を、ポリエステル繊維とすることが記載されており(上記1.(3)ケ.及びタ.を参照)、甲22発明において、前記「「撥水性ポリエステル繊維」を除く繊維」を、ポリエステル繊維とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

6-4.小括
以上のことから、本件発明5は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明及び甲22に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


7.本件発明6について
7-1.本件発明6の発明特定事項
本件発明6は、本件発明1に係る布帛について、「前記繊維Aの単糸繊度が1.5dtex以下である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

7-2.本件発明6と甲22発明との一致点、相違点
本件発明6と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点6》
本件発明6は、上記7-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記7-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

7-3.本件発明6と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点6》について検討する。
吸水性を担う繊維の吸水性を高めるために、当該繊維の単糸繊度を1.5dtex以下とすることは、例えば、甲6(上記1.(6)ア.及びイ.を参照)の他、特開2010-216061号公報(段落【0002】、【0015】等を参照)にも記載されているように、本願の優先日前に周知の技術であり、その採否は当業者が適宜決定し得たことである。
してみると、甲22には、吸汗性、すなわち、吸水性の向上を示唆する記載があり(上記1.(3)サ.を参照)、甲22発明において、「特定撥水性ポリエステル繊維」ではない繊維に吸水性を持たせる際に、上記甲6等に記載された周知技術を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

7-4.小括
以上のことから、本件発明6は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明、甲22に記載された事項、及び、甲6等にも記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


8.本件発明7について
8-1.本件発明7の発明特定事項
本件発明7は、本件発明1に係る布帛について、「前記繊維Aが、単糸数30本以上のマルチフィラメントである」なる事項を、発明特定事項とするものである。

8-2.本件発明7と甲22発明との一致点、相違点
本件発明7と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点7》
本件発明7は、上記8-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記8-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

8-3.本件発明7と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点7》について検討する。
吸水性を担う繊維を、単糸数30本以上のマルチフィラメントとすることは、例えば、甲1(上記1.(1)サ.を参照)、甲19(上記1.(13)エ.を参照)にも記載されているように、本願の優先日前に周知の技術であり、その採否は当業者が適宜決定し得たことである。
してみると、甲22発明において、「特定撥水性ポリエステル繊維」ではない繊維に吸水性を持たせる際に、上記甲1、甲19等に記載された周知技術を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

8-4.小括
以上のことから、本件発明7は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明、甲22に記載された事項、及び、甲1、甲19等にも記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


9.本件発明8について
9-1.本件発明8の発明特定事項
本件発明8は、本件発明1に係る布帛について、「前記繊維Aが仮撚捲縮加工糸である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

9-2.本件発明8と甲22発明との一致点、相違点
本件発明8と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点8》
本件発明8は、上記9-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記9-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

9-3.本件発明8と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点8》について検討する。
甲22には、編地における、「撥水性ポリエステル繊維」を除く繊維(本件発明5の前記繊維Aに対応)を、仮撚捲縮加工糸とすることが記載されている(上記1.(3)チ.を参照)。
また、吸水性を担う繊維を、仮撚捲縮加工糸とすることは、例えば、甲1(上記1.(1)サ.を参照)、甲19(上記1.(13)エ.を参照)にも記載されているように、本願の優先日前に周知の技術であり、その採否は当業者が適宜決定し得たことである。
してみると、甲22発明において、前記「「撥水性ポリエステル繊維」を除く繊維」を、仮撚捲縮加工糸とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

9-4.小括
以上のことから、本件発明8は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明、甲22に記載された事項、及び、甲1、甲19等にも記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


10.本件発明9について
10-1.本件発明9の発明特定事項
本件発明9は、本件発明1に係る布帛について、「前記繊維Aが30T/m以下のトルクを有する仮撚捲縮加工糸である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

10-2.本件発明9と甲22発明との一致点、相違点
本件発明9と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点9》
本件発明9は、上記10-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記10-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

10-3.本件発明9と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点9》について検討する。
甲22には、編地における、「撥水性ポリエステル繊維」を除く繊維(本件発明5の前記繊維Aに対応)を、仮撚捲縮加工糸とすることが記載されている(上記1.(3)チ.を参照)。
甲5には、ソフトな風合いやストレッチ性を損なうことなく優れた抗スナッギング性が得るために、編地を構成する複合糸を、30T/m以下のトルクとした仮撚捲縮加工糸とすること(以下、「甲5に記載された事項」という。)が記載されている(上記1.(5)ア.及びイ.を参照)。
ソフトな風合いやストレッチ性を損なうことなく優れた抗スナッギング性を得ることは、衣類等に用いられる布帛に共通した一般的要求である。
してみると、甲5に記載された事項に基づき、甲22発明においても「「撥水性ポリエステル繊維」を除く繊維」を30T/m以下のトルクとした仮撚捲縮加工糸とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

10-4.小括
以上のことから、本件発明9は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明、甲22に記載された事項、及び、甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


11.本件発明10について
11-1.本件発明10の発明特定事項
本件発明10は、本件発明1に係る布帛について、「前記繊維Bが、撥水性ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、およびポリ塩化ビニル繊維からなる群より選択される少なくとも1種である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

11-2.本件発明10と甲22発明との一致点、相違点
甲22発明の編地において、撥水性を担う繊維は、撥水性ポリエステル繊維である。
本件発明10と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》に加え、「撥水性ポリエステル繊維」である点で一致し、《相違点1》及び《相違点2》で相違する。

11-3.本件発明10と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。

11-4.小括
以上のことから、本件発明10は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明及び甲22に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


12.本件発明11について
12-1.本件発明11の発明特定事項
本件発明11は、本件発明10に係る布帛について、「前記撥水性ポリエステル繊維が、シリコーン系化合物、フッ素系化合物、炭化水素系化合物を共重合もしくはブレンドしてなるポリエステル繊維、またはフッ素系撥水剤、シリコーン系撥水剤、炭化水素系撥水剤を用いて撥水加工が施されたポリエステル繊維である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

12-2.本件発明11と甲22発明との一致点、相違点
甲22発明の編地における撥水性ポリエステル繊維は、特定の変性シリコーン化合物をポリマー重量に対し2.0?20.0重量部含有するポリエステル繊維、すなわち、シリコーン系化合物を共重合もしくはブレンドしてなるポリエステル繊維である。
本件発明11と甲22発明とは、上記11-2.で示した《一致点》に加え、「シリコーン系化合物を共重合もしくはブレンドしてなるポリエステル繊維で」である点で一致し、《相違点1》及び《相違点2》で相違する。

なお、本件発明11に関し、シリコーン系化合物、フッ素系化合物、炭化水素系化合物を共重合もしくはブレンドし、またはフッ素系撥水剤、シリコーン系撥水剤、炭化水素系撥水剤を用いて撥水加工を施して、撥水性ポリエステル繊維を得ることは、例えば、甲4にも記載されている(上記1.(4)を参照)ように、本願の優先日前に周知の技術である。

12-3.本件発明11と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。

12-4.小括
以上のことから、本件発明11は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明及び甲22に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


13.本件発明12について
13-1.本件発明12の発明特定事項
本件発明12は、本件発明11に係る布帛について、「前記のフッ素系撥水剤が、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸を合計した濃度が5ng/g以下のフッ素系撥水剤である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

13-2.本件発明12と甲22発明との一致点、相違点
本件発明12と甲22発明とは、上記12-2.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》、《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点10》
本件発明12は、上記13-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記13-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

13-3.本件発明12と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》、《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点10》について検討する。
甲22には、編地に対して、撥水加工を施し得ることが記載されている(上記1.(3)コ.を参照)。
一方、甲7には、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸を合計した濃度が5ng/g以下のフッ素系撥水剤を用いて、撥水性織物を得ること(以下、「甲5に記載された事項」という。)が記載されている(上記1.(7)ア.ないしエ.を参照)。
してみると、甲22に記載された事項及び甲5に記載された事項に基づき、甲22発明の編地に対して、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸を合計した濃度が5ng/g以下のフッ素系撥水剤を用いて撥水加工を施すことは、当業者が容易に想到し得たことである。

13-4.小括
以上のことから、本件発明12は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明、甲22に記載された事項、及び、甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


14.本件発明13について
14-1.本件発明13の発明特定事項
本件発明13は、本件発明1に係る布帛について、「前記繊維Bが仮撚捲縮加工糸である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

14-2.本件発明13と甲22発明との一致点、相違点
本件発明13と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点11》
本件発明13は、上記14-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記14-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

14-3.本件発明13と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点11》について検討する。
甲22には、編地における、「撥水性ポリエステル繊維」(本件発明12の前記繊維Bに対応)を、仮撚捲縮加工糸とすることが記載されている(上記1.(3)チ.を参照)。
また、撥水性を担う繊維を、仮撚捲縮加工糸とすることは、例えば、甲7(上記1.(7)オ.及びカ.を参照)にも記載されているように、本願の優先日前に周知の技術であり、その採否は当業者が適宜決定し得たことである。
してみると、甲22発明において、前記「撥水性ポリエステル繊維」を、仮撚捲縮加工糸とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

14-4.小括
以上のことから、本件発明13は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明、甲22に記載された事項、及び、甲7にも記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである


15.本件発明14について
15-1.本件発明14の発明特定事項
本件発明14は、本件発明1に係る布帛について、「前記繊維Bが30T/m以下のトルクを有する仮撚捲縮加工糸である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

15-2.本件発明14と甲22発明との一致点、相違点
本件発明14と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点12》
本件発明14は、上記15-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記15-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

15-3.本件発明14と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点12》について検討する。
甲22には、編地における、「撥水性ポリエステル繊維」(本件発明12の前記繊維Bに対応)を、仮撚捲縮加工糸とすることが記載されている(上記1.(3)チ.を参照)。
甲5には、ソフトな風合いやストレッチ性を損なうことなく優れた抗スナッギング性が得るために、編地を構成する複合糸を、30T/m以下のトルクとした仮撚捲縮加工糸とすること(以下、「甲5に記載された事項」という。)が記載されている(上記1.(5)ア.及びイ.を参照)。
ソフトな風合いやストレッチ性を損なうことなく優れた抗スナッギング性を得ることは、衣類等に用いられる布帛に共通した一般的要求である。
してみると、甲5に記載された事項に基づき、甲22発明においても「撥水性ポリエステル繊維」を30T/m以下のトルクとした仮撚捲縮加工糸とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

15-4.小括
以上のことから、本件発明14は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明、甲22に記載された事項、及び、甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


16.本件発明15について
16-1.本件発明15の発明特定事項
本件発明15は、本件発明1に係る布帛について、「前記繊維Bの単糸繊度が前記繊維Aの単糸繊度よりも大である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

16-2.本件発明15と甲22発明との一致点、相違点
本件発明15と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点13》
本件発明15は、上記16-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記16-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

16-3.本件発明15と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点13》について検討する。
甲22には、撥水性ポリエステル仮撚捲縮加工糸56dTex48フィラメント(本件発明15の前記繊維Bに対応)と、通常のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸33dTex36フィラメント(本件発明15の前記繊維Aに対応)を用いて編地を編成することが記載されている(上記1.(3)チ.を参照)。
この記載において、撥水性ポリエステル仮撚捲縮加工糸56dTex48フィラメントの単糸繊度は、約1.2(=45/48)であり、通常のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸33dTex36フィラメントの単糸繊度は、約0.9(=33/36)であるから、甲22には、上記16-1.に示した事項が記載されているといえる。
また、親水性加工等が施された吸水性繊維と、親水性加工等が施されていない繊維とからなる布帛等において、吸水性繊維の単糸繊度を、そうでない繊維の単糸繊度よりも小さくすることで、吸水効果等を向上させることは、例えば、甲6(上記1.(6)ア.及びイ.を参照)にも記載されているように、本願の優先日前に周知の技術であり、その採否は当業者が適宜決定し得たことである。
してみると、甲22発明において、「撥水性ポリエステル繊維」の単糸繊度を、「「撥水性ポリエステル繊維」を除く繊維」の単糸繊度よりも大とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

16-4.小括
以上のことから、本件発明15は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明、甲22に記載された事項、及び、甲6等にも記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


17.本件発明16について
17-1.本件発明16の発明特定事項
本件発明16は、本件発明1に係る布帛について、「前記繊維Aおよび繊維Bのうち少なくともどちらか一方が異型断面繊維である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

17-2.本件発明16と甲22発明との一致点、相違点
本件発明16と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点14》
本件発明16は、上記17-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記17-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

17-3.本件発明16と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点14》について検討する。
甲22には、撥水性ポリエステル繊維(本件発明16の前記繊維Bに対応)の断面形状は、円形断面のほか、楕円形断面、三角断面、星型断面であってもよいこと、すなわち、異型断面であってもよいことが記載されている(上記1.(3)カ.を参照)。
また、撥水性繊維の断面形状を異型断面とすることは、例えば、甲7(上記1.(7)オ.及びカ.を参照)にも記載され、吸水性繊維の断面形状を異型断面とすることは、例えば、甲5(上記1.(5)エ.を参照)にも記載されているように、本願の優先日前に周知の技術であり、その採否は当業者が適宜決定し得たことである。
してみると、甲22発明において、「撥水性ポリエステル繊維」及び「「撥水性ポリエステル繊維」を除く繊維」のうち少なくともどちらか一方を異型断面繊維とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

17-4.小括
以上のことから、本件発明16は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明、甲22に記載された事項、及び、甲5、甲7等にも記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


18.本件発明17について
18-1.本件発明17の発明特定事項
本件発明17は、本件発明1に係る布帛が、「布帛が編地である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

18-2.本件発明17と甲22発明との一致点、相違点
甲22発明は、編地の発明である。
本件発明2と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》に加え、「編地である」点で一致し、《相違点1》及び《相違点2》で相違する。

18-3.本件発明17と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。

18-4.小括
以上のことから、本件発明17は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明及び甲22に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


19.本件発明18について
19-1.本件発明18の発明特定事項
本件発明18は、本件発明1に係る布帛が、「下記(1)?(6)のうち少なくともいずれかの要件を満たす」なる事項を、発明特定事項とするものである。
(1)布帛が緯編地であり、該布帛の両面に前記繊維Bが露出し、かつ該布帛の両面において繊維Bのループ占有率がともに25?75%の範囲内である。
(2)布帛が緯編地であり、該布帛の片面にのみ前記繊維Bが露出し、かつ該面において、繊維Bのループ占有率が40?100%の範囲内である。
(3)布帛がシングル緯編地であり、全針組織に繊維A、ニットミスおよびタックニット組織に繊維A及び繊維Bを用いて布帛内で10ウエールあたり1ウエール以上、コース方向に繊維Aのループ同士が連結している箇所が存在する。
(4)布帛がリバーシブル緯編地であり、繊維Aに繊維Bをプレーテイングしている。
(5)布帛がリバーシブル経編地であり、ニードル面が繊維Aのみで構成され、シンカー面が繊維B、または繊維Aと繊維Bの両方で構成されている。
(6)布帛が多重織物であり、繊維Bが該多重織物の片面にのみ配されている。

19-2.本件発明18と甲22発明との一致点、相違点
本件発明18と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点15》
本件発明18は、上記19-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記19-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

19-3.本件発明18と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点15》について検討する。
甲22には、編組織は特に限定されず、通常の編機で製編された編物とし得る旨が記載されている(上記1.(3)コ.を参照)。
また、甲18には、優れた通気性および着用快適性をも有する赤外線遮蔽性布帛に関し、織物組織および編物組織としては特に限定されず、層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよく、常法により製造することができる様々な織物や編物で布帛を構成し得ることが記載され(上記1.(12)ア.及びイ.を参照)、甲1には、吸水性生地を、表面層と裏面層を含む複層の編物または織物であって、具体的には、編物の場合は両面編(二重編、スムース編、インターロック編、ダブルリブともいう。)で、織物の場合は二重織で構成することが記載されている(上記1.(1)キ.を参照)。
しかしながら、甲22、甲18、甲1、及び、その余の甲号証には、上記(1)?(6)の何れもが記載されておらず、また、上記(1)?(6)は、甲22、甲18、甲1に記載されたことから容易とする理由もない。
そして、本件発明18は、上記19-1.に示した事項により、「繊維Bと繊維Bとの間に空隙ができやすく、吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質が得られやすい」(本件特許明細書の段落【0031】を参照)という格別の作用効果が奏されるものと認める。

19-4.小括
以上のことから、本件発明18は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえたとしても、甲22発明、甲22に記載された事項、及び、甲18、甲1等に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。


20.本件発明19について
20-1.本件発明19の発明特定事項
本件発明19は、本件発明1に係る布帛について、「布帛の一方表面において前記繊維Aが露出しており、布帛の他方表面に前記繊維Bが露出している」なる事項を、発明特定事項とするものである。

20-2.本件発明19と甲22発明との一致点、相違点
本件発明19と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点16》
本件発明19は、上記20-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記20-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

20-3.本件発明19と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点16》について検討する。
甲12には、使用時に付着した水が内部に浸入しない撥水性を有し、また、使用者が発汗した汗も吸収できる吸湿性をも有するようにするために、撥水性繊維糸と吸水性繊維糸とを編織手段により添え糸編し、外部面全体に撥水性繊維糸を表出させるとともに、内部面全体に吸水性繊維糸3を表出させること(以下、「甲12に記載された事項」という。)が記載されている(上記1.(9)ア.ないしオ.を参照)。
してみると、甲12に記載された事項に基づき、甲22発明においても、編地の一方表面において「「撥水性ポリエステル繊維」を除く繊維」(本件発明19の前記繊維Aに対応)が露出し、他方表面において「撥水性ポリエステル繊維」(本件発明19の前記繊維Bに対応)が露出するように編地を構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。

20-4.小括
以上のことから、本件発明19は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明、甲22に記載された事項、及び、甲12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


21.本件発明20について
21-1.本件発明20の発明特定事項
本件発明20は、本件発明1に係る布帛について、「布帛の断面から繊維Bの断面写真を電子顕微鏡で撮影し、写真中の単糸断面の合計面積(SF)と空隙部の合計面積(SA)を測定し、下記式により算出した糸断面空隙率が50%以上である」なる事項を、発明特定事項とするものである。
(式)糸断面空隙率(%)=SA/(SA+SF)×10

21-2.本件発明20と甲22発明との一致点、相違点
本件発明20と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点17》
本件発明20は、上記21-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記21-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

21-3.本件発明20と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点17》について検討する。
甲17の記載事項(上記1.(11)ア.ないしケ.を参照)から、以下の(1)及び(2)が把握される。
(1)綿100%の生地(目付240g/m^(2))全体を、ステアリルアクリレート(10重量%)、バインダーKM(5重量%)及びイソプロパノールの混合液に浸漬し、マングルで絞って、70℃で1分間加熱乾燥させ、付着率3.3重量%とした前記生地を加熱硬化処理して得た撥水加工生地(実施例2)の一方の面(オモテ面)及び他方の面(ウラ面)のSEM写真である【図1】の(A)及び(B)において、複数の繊維ないし糸状のものが接触した状態でまたは間を空けた状態で位置していること。
(2)綿100%の生地(目付240g/m^(2))全体を、ステアリルアクリレート(10重量%)、架橋剤(2.5重量%)及びイソプロパノールの混合液に浸漬し、マングルで絞って、70℃で1分間加熱乾燥させ、付着率5.0重量%とした前記生地を電子線照射処理して得た撥水加工生地(実施例3)の電子線照射面(オモテ面)及び非電子線照射面(ウラ面)のSEM写真である【図2】の(A)及び(B)において、複数の繊維ないし糸状のものが接触した状態でまたは間を空けた状態で位置していること。
しかしながら、甲17には、そもそも、(実施例2)や(実施例3)の撥水加工生地(本件発明20の布帛に対応)の断面から、当該生地を構成する繊維(本件発明20の繊維Bに対応)の断面写真を電子顕微鏡で撮影したものが記載されておらず、その余の甲号証にも記載されていない。
また、上記21-1.に示した事項は、上記(1)、(2)から自明な事項であるともいえない。
そして、本件発明20は、上記21-1.に示した事項により、「繊維Bの単糸間に空隙ができやすく、かかる空隙により水に浮きやすい性質が得られやすい」(本件特許明細書の段落【0032】を参照)という格別の作用効果が奏されるものと認める。

請求人は、甲17について、「撥水加工生地を横方向から撮影したSEM(電子顕微鏡)写真図1(A)、(B)、図2(A)及び(B)から見ると横方向の空隙率は50%以上であるものと判断される。したがって、糸断面空隙率が50%以上であることは明らかである」と主張している(上記第4.1.(3)ア.(ト-1)を参照)。
しかし、【図1】の(A)、(B)及び【図2】の(A)、(B)は、撥水加工生地を横方向から撮影したSEM(電子顕微鏡)写真ではないし、【図1】の(A)、(B)及び【図2】の(A)、(B)をどのように見れば横方向の空隙率が50%以上であるものと判断されるのかについて、請求人は全く説明していない。
したがって、請求人の主張は失当であり、採用できない。

21-4.小括
以上のことから、本件発明20は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえたとしても、甲22発明、甲22に記載された事項、及び、甲17に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。


22.本件発明21について
22-1.本件発明21の発明特定事項
本件発明21は、本件発明1に係る布帛について、「布帛に吸水加工が施されている」なる事項を、発明特定事項とするものである。

22-2.本件発明21と甲22発明との一致点、相違点
本件発明21と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点18》
本件発明21は、上記22-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記22-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

22-3.本件発明21と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点18》について検討する。
甲22には、吸汗加工を施すことが記載されている(上記1.(3)サ.を参照)。
また、吸水性と撥水性を兼備した布帛に吸水加工を施すことは、例えば、甲9(上記1.(8)ア.ないしカ.を参照)にも記載されているように、本願の優先日前に周知の技術であり、その採否は当業者が適宜決定し得たことである。
してみると、甲22発明において、吸水加工を施すことは、当業者が適宜なし得たことである。

22-4.小括
以上のことから、本件発明21は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明、甲22に記載された事項、及び、甲9等にも記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


23.本件発明22について
23-1.本件発明22の発明特定事項
本件発明22は、本件発明1に係る布帛について、「布帛の目付けが200g/m^(2)以下である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

23-2.本件発明22と甲22発明との一致点、相違点
本件発明22と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点19》
本件発明22は、上記23-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記23-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

23-3.本件発明22と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点19》について検討する。
甲22には、布帛の目付けが150g/m^(2)以下であることが好ましいことが記載されている(上記1.(3)オ.及びサ.を参照)。
してみると、甲22発明において、布帛の目付けを200g/m^(2)以下の範囲内にあることが自明な150g/m^(2)以下の範囲とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

23-4.小括
以上のことから、本件発明22は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明及び甲22に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


24.本件発明23について
24-1.本件発明23の発明特定事項
本件発明23は、本件発明1に係る布帛について、「布帛の厚さが1.0mm以下である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

24-2.本件発明23と甲22発明との一致点、相違点
本件発明23と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点20》
本件発明23は、上記24-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記24-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

24-3.本件発明23と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点20》について検討する。
甲22には、布帛の厚さが1.0mm以下であることが好ましいことが記載されている(上記1.(3)オ.及びサ.を参照)。
してみると、甲22発明において、布帛の厚さを1.0mm以下とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

24-4.小括
以上のことから、本件発明23は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明及び甲22に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


25.本件発明24について
25-1.本件発明24の発明特定事項
本件発明24は、「本件発明1に係る布帛を用いてなる、衣料、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品である」なる事項を、発明特定事項とするものである。

25-2.本件発明24と甲22発明との一致点、相違点
本件発明24と甲22発明とは、上記2-2-1.で示した《一致点》で一致し、《相違点1》及び《相違点2》の他に以下の点で相違する。
《相違点21》
本件発明24は、上記25-1.に示した事項を、発明特定事項としているのに対し、甲22発明は、上記25-1.に示した事項を、発明特定事項としていない点。

25-3.本件発明24と甲22発明との相違点の判断
《相違点1》及び《相違点2》についての判断は、上記2-2-2.で示したとおりである。
《相違点21》について検討する。
衣料、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、およびカーシートは、いずれも吸水性と撥水性の一方または双方が求められる繊維製品であることは、当業者に周知の事項である。
また、甲22には、甲22発明の編地を用いてなる、スポーツ用衣料、インナー用衣料、おしめや介護シーツの医療・衛生用品、および寝装寝具からなる群より選択されるいずれかの繊維製品を提供することが記載されている(上記1.(3)キ.を参照)。
してみると、甲22発明の編地を用いてなる、衣料、人工皮革、履物、鞄、カーテン、テント、寝袋、防水シート、カーシート等を繊維製品を構成することは、当業者が適宜なし得たことである。

25-4.小括
以上のことから、本件発明24は、上記技術常識及び周知の技術的事項(上記2-2-2.(1)及び(3)を参照)を踏まえると、甲22発明及び甲22に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。


26.無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3、5ないし17、19、21ないし24は、上記技術常識及び周知の技術的事項を踏まえると、甲22発明、甲22に記載された事項、その他の各甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものであるから、無効理由1により特許を受けることができないものである。
一方、本件発明4、18、20は、上記技術常識及び周知の技術的事項を踏まえたとしても、甲22発明または甲1発明または甲21発明等に基づいて、当業者が容易に発明し得たものとはいえないから、請求人の主張する無効理由1によっては、無効とすることはできない。


第6.無効理由2についての判断
1.本件発明1?24について
請求人の主張は、要すれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「繊維A:繊維B」が、「50:50」である実施例、及び、「87:13」である実施例が記載されておらず、また、「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内」であれば、必ずや課題が解決され所期の作用効果が奏される理由について記載されていないから、本件発明1?24は、課題を解決し得ないものをも含むものであり、発明の詳細な説明に記載されたものではないというものである(上記第4.1.(3)イ.(ア-1)ないし(イ)を参照)。
たしかに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「繊維A:繊維B」が、「50:50」である実施例、及び、「87:13」である実施例は記載されておらず、また、「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内」であれば、必ずや課題が解決され所期の作用効果が奏される理由について明記されていない。
しかしながら、上記2-1.(4-3)で述べたとおり、「前記繊維Aと前記繊維Bとの重量比率が(繊維A:繊維B)50:50?87:13の範囲内」にあるかないかにかかわらず、本件発明1が「吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えた布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品を提供すること」という課題を解決し、「吸水性と撥水性と水に浮きやすい性質とを兼ね備えた布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品が得られる」という作用効果を奏することは、明らかであるから、本件発明1?24は、課題を解決し得ないものをも含むとはいえない。
したがって、本件発明1?24は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。

2.本件発明5について
請求人の主張は、ポリエステル繊維には撥水性のあるものも、ないものも存在し、また、ポリエステル繊維が全て撥水性のない繊維であるという根拠は、本件特許明細書のどこにも示されていないから、本件特許発明5に係る構成要件の「前記繊維Aがポリエステル繊維である」という要件は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないというものである(上記第4.1.(3)イ.(ウ)を参照)。
しかしながら、前記「前記繊維Aがポリエステル繊維である」という要件は、本件発明1の「撥水性のない繊維A」が、「ポリエステル繊維である」ことを特定しているだけであり、仮に、撥水性のあるポリエステル繊維が存在したとしても、そのようなポリエステル繊維をも「撥水性のない繊維A」とすることを意味するものではないことが明らかである。
ゆえに、請求人の上記主張は失当である。
そして、本件発明5は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。

3.本件発明19について
請求人の主張は、本件発明19は、本件特許明細書の実施例1ないし3及び5において、布帛の表面に繊維Bが露出していない構造が示されているにも関わらず、「吸収性と撥水性に優れ、かつ水に浮きやすい」という作用効果が得られているから、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないというものである(上記第4.1.(3)イ.(エ)を参照)。
しかしながら、本件発明19の「布帛の一方表面において前記繊維Aが露出しており、布帛の他方表面に前記繊維Bが露出している」という要件は、本件発明1の「布帛」が、前記要件を満たすものであることを特定しているだけであり、また、本件発明19は、前記要件を満たすことで、はじめて、「吸収性と撥水性に優れ、かつ水に浮きやすい」という作用効果が得られるというものでもない。
ゆえに、請求人の上記主張も失当である。
そして、本件発明19は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。

4.無効理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由2によっては、本件特許を無効とすることはできない。


第7.むすび
以上のとおり、本件発明1ないし3、5ないし17、19、21ないし24に係る特許は、無効理由1により特許を受けることができないものであるから、無効とする。
一方、本件発明4、18、20に係る特許は、請求人の主張する無効理由及び証拠によっては無効とすることはできないから、本件発明4、18、20に係る特許についての審判の請求は、成り立たない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その24分の3を請求人の負担とし、24分の21を被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-04 
結審通知日 2016-03-08 
審決日 2016-03-22 
出願番号 特願2014-517271(P2014-517271)
審決分類 P 1 123・ 121- ZC (D04B)
P 1 123・ 537- ZC (D04B)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 中村 勇介  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 渡邊 豊英
三宅 達
登録日 2014-08-15 
登録番号 特許第5596886号(P5596886)
発明の名称 布帛および繊維製品  
代理人 為山 太郎  
代理人 中嶋 和昭  
代理人 中嶋 和昭  

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