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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1315548
審判番号 不服2014-24813  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-04 
確定日 2016-06-07 
事件の表示 特願2011-177557「アナライトセンサからのセンサデータを受信する受信機の作動方法およびアナライトセンサを較正するためのコンピュータシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月26日出願公開、特開2012- 16597〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年7月27日に国際出願した特願2006-522016号(パリ条約による優先権主張 2003年8月1日 (US)アメリカ合衆国)の一部を、平成19年11月13日に新たな特許出願とした特願2007-294586号の一部を、更に平成23年8月15日に新たな特許出願としたものであって、平成25年8月6日付けで拒絶理由が通知され、同年12月12日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年7月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年12月4日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)について
本件補正は、特許請求の範囲について、以下のように補正するものである。
1 請求項の削除
本件補正前の請求項9、11を削除するものである。また、請求項9、11の削除にともなって、請求項10以降の請求項を繰り上げるとともに各請求項で引用する請求項についても繰り上げた請求項に対応するように補正するものである。
この補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。
2 請求項1について
本件補正前の請求項1の「アナライトセンサを較正するための方法において」を「アナライトセンサからのセンサデータを受信する受信器の作動方法において」と補正するものである。
この補正事項は、請求項1に係る発明が、人間を手術する方法に該当しない事を明確にするための補正であり、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するといえる。
なお、当該補正事項が平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものとしても、補正後の請求項1に係る発明が独立して特許を受けることができるもの(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するもの)であるか否かにかかわらず、原査定がなされた請求項12に係る発明(本件補正前後で同じ発明である。)については、下記第3のとおりである。
3 請求項4、15について
本件補正前の請求項4、17の「前記臨床的費用関数は、クラークエラーグリッド、コンセンサスグリッド、または平均絶対相対差分を含む」を「前記臨床的費用関数は、クラークエラーグリッド、またはコンセンサスグリッドを含む」と補正し、請求項4、15とするものである。
この補正事項は、平成25年8月6日付け拒絶理由の[理由2](エ)で「請求項15に、『前記変換モジュールは、臨床的受容性分析に応じて変換関数を修正するように構成されている』と記載され、請求項15を引用する請求項16に、『前記臨床的受容性分析は、臨床的費用関数の使用を含む』、請求項16を引用する請求項17に、『前記臨床的費用関数は、クラークエラーグリッド、コンセンサスグリッド、または平均絶対相対差分を含む』とそれぞれ記載されているが、クラークエラーグリッド、コンセンサスグリッド、または平均絶対相対差分を含む臨床的費用関数の使用を含む臨床的受容性分析に応じて変換関数を修正する、というのが、修正された変換関数を具体的に如何にして形成することを意味しているのか不明確である。」と指摘し、平成26年7月28日付け拒絶査定で「請求項17に、『平均絶対相対差分』と記載されているが、どのような処理であるのか明らかでない。」とされたものに対応するために、請求項17に記載の選択肢から『平均絶対相対差分』を削除するものであり、同様の記載が存在した本件補正前の請求項4についても同様の補正をするものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

第3 本願発明
本願の請求項12に係る発明は、平成26年12月4日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項12に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下請求項12に係る発明を「本願発明」という)。
「 【請求項12】
アナライトセンサを較正するためのコンピュータシステムにおいて、
1つ以上のセンサデータ点を含むセンサデータを受信するように構成されたセンサデータ受信モジュールと、
1つ以上の基準データ点を含む基準データを受信するように構成された基準データ受信モジュールと、
1つ以上の基準データ点と1つ以上の時間に対応するセンサデータ点とのマッチングを行うことによって、1つ以上のマッチするデータ対を形成するように構成されたデータマッチングモジュールと、
1つ以上のマッチするデータ対を含む較正集合を形成するように構成された較正集合モジュールと、
前記較正集合に基づいて、基準データとセンサデータとの間の関係を定義する変換関数を形成するように構成された変換関数モジュールとを備えていて、前記変換関数モジュールは、更に、1つ以上のマッチするデータ対を含む較正集合を更新して、更新された較正集合を使用して、変換関数を再形成するように構成されていて、
更に、再形成された変換関数を使用して、センサデータを較正されたセンサデータに変換するように構成されたセンサデータ変換モジュールと、
較正の品質を評価するように構成された品質評価モジュールとを備えていて、
前記変換関数モジュールは、較正の品質に応じて変換関数を再形成する
ことを特徴とするコンピュータシステム。」

第4 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表2002-541883号公報(以下、「引用例1」という)には、次の事項が記載されている。
(摘記中の下線部は引用例1に記載の発明の認定に関連する箇所として当審が付したものである。)

(1) 「 【0016】
本発明の他の実施形態によれば、グルコースモニタデータを校正する装置は、グルコースモニタデータを獲得する手段を備える。この校正装置は、少なくとも1つのグルコースモニタデータ値と仮に関連づけられる少なくとも1つの血糖基準値を他の血糖測定装置から得る手段を備える。少なくとも1つの血糖基準値と、対応する少なくとも1つのグルコースモニタデータ測定値と、を用いて校正式を計算する手段が備えられる。また、校正式を用いて、グルコースモニタデータを校正する手段も備えられる。」

(2) 「 【0034】
初期化処理によって開始され、グルコースモニタ100は、利用者の身体の皮下組織に存在するグルコースの濃度に関してグルコースセンサ12によって生成される連続電流信号(ISIG)を測定する。・・・」

(3)「 【0045】
各メモリ記憶値は、以下に記す校正取り消しイベントの1つが発生しない限り、有効であると見なされる(有効ISIG値)。これらの校正取り消しイベントは、不安定信号警告(前述したような)、センサ初期化イベント(前述したような)、センサ非接続警告、電力オン/オフイベント、範囲外警告(前述したような)、または校正誤り警告である。有効ISIG値のみを用いて、図10に示すように、グルコースモニタ100またはポストプロセッサ200によって、血糖値が計算される。校正取り消しイベントが発生すると、後続のメモリ記憶値は有効ではなく、したがって、グルコースモニタ100またはポストプロセッサ200が再校正されるまで、通常、血糖値は計算されない。図10は、コンピュータスクリーンの例を示すものであり、セルP3に、センサ非接続警告が省略形“SeDi”として示されている。図に示すように、血糖値はK列、名称「センサ値」に認められず、またセンサが初期化された後、セルN17に“ESI”フラグによって示されるまで、有効ISIG値はJ列に認められない。しかし、1つの例外は、電力オン/オフイベントである。グルコースモニタ100が、相当に短い時間、通常30分まで、電源を切られた場合は、電源が復旧されると直ぐ、メモリ記憶値は有効ISIG値であると見なされる。電源が30分より長い時間切断された場合、グルコースモニタが再校正された後でなければ、ISIG値は有効と見なされない。あるいは、電力が30分から無期限まで切断され復旧された場合、メモリ記憶値は有効ISIG値と見なされる。センサ非接続警告は、グルコースモニタ100が信号を検出しない場合に作動される。好適な実施形態によれば、所定のメモリ記憶割合内において収集される5間隔値のうち2つ以上が1.0ナノアンペア未満である場合、非接続警告が起動される。別の実施形態によれば、許容範囲またはセンサ測定値およびセンサ信号の安定性に応じて、非接続警告を起動する値は、多少、特定のアンペア数より低いことが必要とされる。残りの2つの校正取り消しイベントは、校正誤りと、範囲外警告に関する別の実施形態とであり、以下に、校正処理と関連して述べる。」

(4) 「 【0047】
グルコースモニタ100を校正するため、感度比(SR)と呼ばれる校正係数(血糖値/有効ISIG値)が、特定のグルコースセンサ12に対して計算される。感度比(SR)は、有効ISIG値(ナノアンペア)を血糖値(mg/dlまたはミリモル/l)に変換するために用いられる校正係数である。別の実施形態によれば、SRの単位は、センサから入手可能な信号の形式(周波数、振幅、移相、デルタ、電流、電圧、インピーダンス、キャパシタンス、フラックス、など)、信号の大きさ、モニタされる特性を表す単位、などに応じて変えることができる。」

(5) 「 【0048】
好適な実施形態によれば、利用者は、一般のグルコースメータ、または他の血糖測定装置から血糖基準値を得て、この血糖基準値をグルコースモニタ100に即時に入力する。血糖基準値は、正確であると仮定され、校正のための基準として用いられる。グルコースモニタ100、またはポストプロセッサ200は、血糖基準値と有効ISIG値との相関関係を仮に求めて、対校正データ点を設定する。間質体液中のグルコース濃度は血糖値より遅れる傾向があり、グルコースモニタ100またはポストプロセッサ200は、図11に示すように、遅延時間を適用し、次に、血糖基準値を有効ISIG値と対にする。好適な実施形態によれば、実験によって導かれた10分遅延が用いられる。有効ISIG値は平均されて5分ごとに記憶されるので、グルコースモニタ100は、血糖基準値と、血糖基準値を入力後メモリに記憶された第3の有効ISIG(結果として10分から15分の有効遅延となる)との相関関係を明らかにする。図11は例を示すものであり、図11によれば、90mg/dlの血糖基準値600が、127分においてグルコースモニタ100に入力される。次の有効ISIG値602は、130分において記憶される。10分遅延を仮定すると、グルコース基準値600は、30ナノアンペアの値を有し140分において記憶される有効ISIG値604と対にされる。1つの対校正データ点を設定するため、2つの数、すなわち、血糖基準値と有効ISIGが必要とされることに注意されたい。」

(6) 「 【0052】
好適な実施形態は、1つの対校正データ点のみが利用可能である場合、たとえば初期化/安定化直後、単独点校正法(図13のブロック図に示す)を用いて、感度比(SR)を計算する。また、2つ以上の対校正データ点が利用可能な場合、変形線形回帰法(図15のブロック図に示す)が用いられる。特定の実施形態においては、1つ以上の対校正データ点が利用可能であるか否かに関係なく、単独点校正法が用いられる。」

(7) 「 【0080】
好適な実施形態によれば、特定のグルコースセンサ12について最初の校正が実施された後、後続の校正には、最新の校正以後に収集されたデータから計算された感度比(SPSR、MSPSR、LRSR、またはMLRSR)を用いる重み付き平均と、直前の校正について計算される直前の感度比と、が用いられる。そのように、第1の感度比(SRI)は、対校正データ点を用いて初期化/安定化の直後に計算され、第2の感度比(SR2)が計算されるまで、グルコースモニタ100またはポストプロセッサ200によって用いられる。第2の感度比(SR2)は、SR1と、最初の校正以後の対校正データ点を用いて計算される感度比(SRday1)と、の平均である。SR2は、下式によって表される。」

(8) 「 【0091】
特定の実施形態によれば、校正が完了すると、有効ISIG値は、特定のバージョンの感度比に基づいて血糖値に変換され、得られる血糖測定値は範囲外限界と比較される。得られる血糖値が200mg/dl(すなわち3600mモル/lと同等)の最大範囲外限界より大きい場合、範囲外警告が発動される。これは校正取り消しイベントであり、したがって、この警告が発動されると、ISIG値は有効ではなくなる。グルコースモニタ100またはポストプロセッサ200が再校正されるまで、血糖測定値は計算されないか、または少なくとも信頼性があるとは見なされない。利用者は、警告の発動および再校正が必要とされることを通知される。別の実施形態によれば、センサ特性、測定中の特性、利用者の身体特性、などに応じて、より高いまたはより低い最大範囲外限界を用いることができる。特定の実施形態によれば、最大範囲外限界を用いることができるし、または最大および最小範囲外限界の両者を用いることもできる。他の特定の実施形態によれば、範囲外限界によって、血糖測定値が非有効とされることおよび/または再校正が必要とされることはないが、警告は提供される。さらに別の実施形態によれば、校正取り消しイベントが発生していることに関する警告が発動される前に、1つ以上のISIG値が範囲外限界を超えなければならない。範囲外であるISIGは、血糖値を表示するために用いられない。」

(9) 上記(1)?(8)の摘記及び引用例1全体を総合すると、引用例1には、「グルコースモニタデータを校正する装置において、グルコースモニタデータを獲得する手段、少なくとも1つのグルコースモニタデータ値と仮に関連づけられ、校正のための基準として用いられる少なくとも1つの血糖基準値を他の血糖測定装置から得る手段、少なくとも1つの血糖基準値と、対応する少なくとも1つのグルコースモニタデータ測定値と、を用いて校正式を計算する手段、校正式を用いて、グルコースモニタデータを校正する手段とを備えており、
血糖測定装置から得た血糖基準値と、グルコースセンサによって生成され、有効であると見なされる連続電流信号(ISIG)である有効ISIG値との相関関係について、遅延時間を適用し、血糖基準値を有効ISIG値と対にして、対校正データ点を設定するものであり、
対校正データ点を利用して、1つの対校正データ点のみが利用可能である場合には、単独点校正法を用い、2つ以上の対校正データ点が利用可能な場合には、変形線形回帰法を用いて、有効ISIG値(ナノアンペア)を血糖値(mg/dlまたはミリモル/l)に変換するために用いられる校正係数である感度比を算出し、
有効ISIG値を感度比に基づいて血糖値に変換し、得られる血糖値が200mg/dlの最大範囲外限界より大きい場合、範囲外警告が発動され、再校正されるまで、血糖測定値が計算されないものであり、
後続の校正には、最新の校正以後に収集されたデータから計算された感度比を用いる重み付き平均と、直前の校正について計算される直前の感度比と、が用いられる装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1 本願発明と引用発明の対比
(1) 引用発明の「グルコースモニタデータを校正する装置」は、「対校正データ点を利用して、単独点校正法や変形線形回帰法を用いて感度比を算出」する機能を有しており、計算を行うものであるから、「コンピュータシステム」であることは明らかであり、「グルコースモニタ」は、本願発明の「アナライトセンサ」に一種である(例えば、本願の明細書の段落【0289】には、「埋め込み型グルコースセンサ」が「アナライトセンサ」の実施例として記載されている。)。また、引用発明における「校正」と本願発明における「較正」は同義である。そうすると、引用発明の「グルコースモニタデータを校正する装置」は、本願発明の「アナライトセンサを較正するためのコンピュータシステム」に相当する。

(2) 引用発明は、「グルコースモニタデータを獲得する手段」によって、「対校正データ点」の「設定」に用いる「有効ISIG値」をグルコースモニタから得るものであるから、引用発明の「グルコースモニタデータを獲得する手段」は、本願発明の「1つ以上のセンサデータ点を含むセンサデータを受信するように構成されたセンサデータ受信モジュール」に相当する。

(3) 引用発明の「少なくとも1つのグルコースモニタデータ値と仮に関連づけられ、校正のための基準として用いられる少なくとも1つの血糖基準値を他の血糖測定装置から得る手段」は、本願発明の「1つ以上の基準データ点を含む基準データを受信するように構成された基準データ受信モジュール」に相当する。

(4) 引用発明は、「血糖測定装置から得た血糖基準値と、グルコースセンサによって生成され、有効であると見なされる連続電流信号(ISIG)である有効ISIG値との相関関係について、遅延時間を適用し、血糖基準値を有効ISIG値と対にして、対校正データ点を設定するものであり」、これは、血糖基準値と有効ISIG値を時間的な対応関係を有するように対校正データにするものである。そして、引用発明が、この対校正データ点を設定する機能を担う手段を備えていることは明らかであり、その手段は、本願発明の「1つ以上の基準データ点と1つ以上の時間に対応するセンサデータ点とのマッチングを行うことによって、1つ以上のマッチするデータ対を形成するように構成されたデータマッチングモジュール」に相当する。

(5) 引用発明は、「対校正データ点を利用して、1つの対校正データ点のみが利用可能である場合には、単独点校正法を用い、2つ以上の対校正データ点が利用可能な場合には、変形線形回帰法を用いて、有効ISIG値(ナノアンペア)を血糖値(mg/dlまたはミリモル/l)に変換するために用いられる校正係数である感度比を算出」するものであるから、1つ以上の対校正データ点を利用して感度比を算出するためには、1つ以上の対校正データ点を配列等の集合として取り扱うことは、電子計算において技術常識である。そうすると、引用発明において「1つ以上の対校正データ点を配列等の集合として取り扱う」ための手段を有していることは自明であり、この手段が、本願発明の「1つ以上のマッチするデータ対を含む較正集合を形成するように構成された較正集合モジュール」に相当する。

(6) 引用発明の「感度比」は、「有効ISIG値(ナノアンペア)を血糖値(mg/dlまたはミリモル/l)に変換するために用いられる校正係数である」から、本願発明の「基準データとセンサデータとの間の関係を定義する変換関数」に相当するものである。そうすると、引用発明の「血糖測定装置から得た血糖基準値と、グルコースセンサによって生成され、有効であると見なされる連続電流信号(ISIG)である有効ISIG値との相関関係」を示す対校正データ点を利用して「感度比を算出」する手段は、本願発明の「前記較正集合に基づいて、基準データとセンサデータとの間の関係を定義する変換関数を形成するように構成された変換関数モジュール」に相当する。
そして、引用発明は、「後続の校正には、最新の校正以後に収集されたデータから計算された感度比を用いる重み付き平均と、直前の校正について計算される直前の感度比と、が用いられる」ことから、「感度比」の算出に利用される対校正データを更新すること、及び「感度比」を再算出することは明らかであるから、引用発明の上記事項は、本願発明の「1つ以上のマッチするデータ対を含む較正集合を更新して、更新された較正集合を使用して、変換関数を再形成するように構成されて」いることに相当する。

(7) 引用発明は「有効ISIG値を感度比に基づいて血糖値に変換」するものであり、「最新の校正以後に収集されたデータから計算された感度比を用いる重み付き平均と、直前の校正について計算される直前の感度比を用いて」「後続の校正」を行うものであるから、これらの動作を行うための手段を備えていることは明らかであり、「後続の校正」に使用する「感度比」が、本願発明の「再形成された変換関数」に相当するものである。そうすると、引用発明が備えている上記手段が、本願発明の「再形成された変換関数を使用して、センサデータを較正されたセンサデータに変換するように構成されたセンサデータ変換モジュール」に相当する。

(8) 引用発明は、「有効ISIG値を感度比に基づいて血糖値に変換し、得られる血糖値が200mg/dlの最大範囲外限界より大きい場合、範囲外警告が発動され」るものであり、これは、「有効ISIG値を感度比に基づいて血糖値に変換」、つまり「校正」により得られた血糖値の評価を行うことであるから、校正の品質を評価するものといえる。また、引用発明が上記動作を行うための手段を備えていることは明らかであるから、この手段が、本願発明の「較正の品質を評価するように構成された品質評価モジュール」に相当する。

してみると、本願発明と引用発明は、
(一致点)
「アナライトセンサを較正するためのコンピュータシステムにおいて、
1つ以上のセンサデータ点を含むセンサデータを受信するように構成されたセンサデータ受信モジュールと、
1つ以上の基準データ点を含む基準データを受信するように構成された基準データ受信モジュールと、
1つ以上の基準データ点と1つ以上の時間に対応するセンサデータ点とのマッチングを行うことによって、1つ以上のマッチするデータ対を形成するように構成されたデータマッチングモジュールと、
1つ以上のマッチするデータ対を含む較正集合を形成するように構成された較正集合モジュールと、
前記較正集合に基づいて、基準データとセンサデータとの間の関係を定義する変換関数を形成するように構成された変換関数モジュールとを備えていて、前記変換関数モジュールは、更に、1つ以上のマッチするデータ対を含む較正集合を更新して、更新された較正集合を使用して、変換関数を再形成するように構成されていて、
更に、再形成された変換関数を使用して、センサデータを較正されたセンサデータに変換するように構成されたセンサデータ変換モジュールと、
較正の品質を評価するように構成された品質評価モジュールとを備えているコンピュータシステム。」
で一致し、以下の点で相違している。

(相違点)
変換関数モジュールについて、本願発明は、「較正の品質に応じて変換関数を再形成する」のに対して、引用発明は、その点が不明である点。

2 判断
引用発明においても、上記1(8)で記載したとおり、本願発明と同じように校正の品質の評価を行うものであるから、感度比を算出する際に、この「得られる血糖値が200mg/dlの最大範囲外限界より大きい」ことに応じて、「後続の校正」を行う、すなわち、本願発明のように校正の品質に応じて変換関数を再形成することは、当業者が容易になし得たことである。
加えて、本願発明の「較正の品質に応じて」に関して、本願の発明の詳細な説明の段落【0403】では、図11中で示されるステップ117で較正の品質を評価した後、較正の品質が十分であるとみなされない場合について「較正の品質が十分であるととみなされない場合、フェールセーフモジュール(118)は、フェールセーフモードの初期段階を開始するが、これは図8を参照しつつ詳しく説明されている。いくつかの実施形態では、フェールセーフモードの初期段階は、推定センサデータがユーザに対し表示されないようにユーザインターフェイスを変更することを含む。いくつかの実施形態では、フェールセーフモードの初期段階は、さらに、ユーザに更新された基準アナライト値を供給することを求めることを含む。更新されたアナライト値は、その後、上述のように処理され、繰り返された基準アナライト検査から得られた更新された変換関数は、もしあれば、統計に基づく正確さについて評価される。」と説明されており、この動作は、コンピュータシステム上で行われることを踏まえると、品質が十分であるとみなされない場合に、自動的に変換関数を再形成すると認められる。してみると、本願発明の「較正の品質に応じて変換関数を再形成する」という特定事項は、「較正の品質に応じて操作者の指示の必要なく自動的に変換関数を再形成する」ものとも解しうるものである。
そのように解した場合でも、引用発明は、「有効ISIG値を感度比に基づいて血糖値に変換し、得られる血糖値が200mg/dlの最大範囲外限界より大きい場合」に「再校正」することを前提とするものであり、技術分野を問わず装置一般において、装置の動作を自動化させることは、極めて一般的な改良にすぎないから、引用発明において、必要とされる再校正を自動的に行うこと、つまり、「最新の校正以後に収集されたデータ」を用いて「感度比」を自動的に再計算するように改良を加え、本願発明の「前記変換関数モジュールは、較正の品質に応じて変換関数を再形成する」ことに相当する構成を具備させることは当業者が容易になし得ることである。

そして、本願発明が奏する効果は、引用例1の記載事項から当業者が予測できる範囲のものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-24 
結審通知日 2016-01-04 
審決日 2016-01-22 
出願番号 特願2011-177557(P2011-177557)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門田 宏  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 信田 昌男
松本 隆彦
発明の名称 アナライトセンサからのセンサデータを受信する受信機の作動方法およびアナライトセンサを較正するためのコンピュータシステム  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  

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