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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2010800088 審決 特許
無効2014800135 審決 特許
無効2012800042 審決 特許
無効2011800071 審決 特許
無効2012800032 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1315946
審判番号 無効2009-800236  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-11-17 
確定日 2013-04-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3254219号「安定な経口用のCI-981製剤およびその製法」の特許無効審判事件についてされた平成23年2月8日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成23年(行ケ)第10091号 平成24年5月7日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3254219号の請求項1、2、6、7、11及び12に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3254219号は、平成5年(1993年)12月20日(パリ条約による優先権主張 1993年1月19日、米国)を国際出願日として出願され、平成13年11月22日に特許権の設定の登録がされたものである。
これに対して、請求人は、平成21年11月18日に無効審判を請求し、被請求人は平成22年3月8日に特許請求の範囲の訂正を請求した。
平成23年2月8日付けで「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がされたが、知的財産高等裁判所において同審決を取消す判決がされ(平成23年(行ケ)10091号、平成24年5月7日判決言渡)、同判決は確定した。
被請求人は、平成24年8月17日付けで特許請求の範囲の訂正を請求するとともに、同日付けで上申書を提出した。

第2 訂正請求について
平成22年3月8日付け訂正請求のうち、特許権設定登録時の請求項2?4を削除する訂正、及び、請求項6?8、11?13、16?20についての訂正は確定した。
平成24年8月17日付け訂正請求(以下、「本件二次訂正という」)について検討する。
(1)本件二次訂正の請求の内容
本件二次訂正の請求は、いずれも無効審判の請求がされた請求項である特許権設定登録時の請求項1、5、9、10、14、15を、以下のように訂正することを求めるものである(下線部が訂正事項である)。

ア.訂正事項1
「【請求項1】 混合物中に、活性成分として構造式


〔式中、
Xは、-CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)CH_(2)-または-CH_(2)CH(CH_(3))-であり;R_(1)は、1-ナフチル;2-ナフチル;シクロヘキシル;ノルボルネニル;2-、3-または4-ピリジニル;フェニル;弗素、塩素、臭素、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、1?4個の炭素原子のアルキル、1?4個の炭素原子のアルコキシまたは2?8個の炭素原子のアルカノイルアルコキシにより置換されたフェニルであり;
R_(2)またはR_(3)の一方は、-CONR_(5)R_(6)(式中、R_(5)およびR_(6)は、独立して水素;1?6個の炭素原子のアルキル;2-、3-または4-ピリジニル;フェニル;弗素、塩素、臭素、シアノ、トリフルオロメチルまたは3?8個の炭素原子のカルボアルコキシにより置換されたフェニルである)でありそしてR_(2)またはR_(3)の他方は、水素;1?6個の炭素原子のアルキル;シクロプロピル;シクロブチル;シクロペンチル;シクロヘキシル;フェニル;または弗素、塩素、臭素、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、1?4個の炭素原子のアルキル、1?4個の炭素原子のアルコキシまたは2?8個の炭素原子のアルカノイルオキシにより置換されたフェニルであり;
R_(4)は、1?6個の炭素原子のアルキル;シクロプロピル;シクロブチル;シクロペンチル;シクロヘキシル;またはトリフルオロメチルであり;そしてMは、医薬的に許容し得る金属塩である〕の化合物および少なくとも1種の医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤を含有する改善された安定性によって特徴づけられる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の医薬組成物。」

「【請求項1】 混合物中に、活性成分として、〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウム塩および、少なくとも1種の医薬的に許容し得る塩基性の安定化金属塩添加剤を含有する改善された安定性によって特徴づけられる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の固体の医薬組成物。」
と訂正する。

イ.訂正事項2
「【請求項5】 医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤がアルカリ土類金属塩である請求項1記載の安定な医薬組成物。」

「【請求項2】 混合物中に、活性成分として、〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウム塩および、少なくとも1種の医薬的に許容し得る塩基性の安定化アルカリ土類金属塩添加剤を含有する改善された安定性によって特徴づけられる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の固体の医薬組成物。」
と訂正する。

ウ.訂正事項3
【請求項9】の項番号を6と訂正する。

エ.訂正事項4
「【請求項10】 活性成分の使用量が組成物の1?50重量%である請求項1、2または8のいずれか1項に記載の安定な医薬組成物。」を
「【請求項7】 活性成分の使用量が組成物の1?50重量%である請求項1に記載の安定な医薬組成物。」と訂正する。

オ.訂正事項5
「【請求項14】 請求項1、2または8のいずれか1項に記載の活性成分1?50重量%を医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤5?75重量%と十分に混合する工程からなる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の安定な医薬組成物の製法。」を
「【請求項11】 請求項1に記載の活性成分1?50重量%を医薬的に許容し得る塩基性の安定化金属塩添加剤5?75重量%と十分に混合する工程からなる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の安定な固体の医薬組成物の製法。」と訂正する。

カ.訂正事項6
「【請求項15】 さらに、少なくとも1種の結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤または抗酸化剤を含有する混合物を加える工程からなる請求項14記載の方法。」を
「【請求項12】 さらに、少なくとも1種の結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤または抗酸化剤を含有する混合物を加える工程からなる請求項11記載の方法。」と訂正する。

(2)訂正請求の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1に活性成分として記載されていた「構造式(I)の化合物」を「〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウム塩」と、「医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤」を「医薬的に許容し得る塩基性の安定化金属塩添加剤」と、「医薬組成物」を「固体の医薬組成物」と、それぞれ限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2のうち、請求項の項番号の訂正は、先行する請求項の削除に伴い生じる不整合を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、訂正前の請求項5において請求項1を引用する形式で記載されていた事項のうちの「構造式(I)の化合物」を「〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウム塩」と限定する訂正、及び訂正前の請求項5に記載されていた「医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤がアルカリ土類金属塩である」を「医薬的に許容し得る塩基性の安定化アルカリ土類金属塩添加剤」と限定し、「安定な医薬組成物」を「安定な固体の医薬組成物」と限定する訂正は、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3、6のうち、請求項の項番号及び引用する請求項の項番号の訂正は、先行する請求項の削除に伴い生じる不整合を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、引用する請求項の訂正に伴って実質的に限定された点は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4のうち、請求項の項番号の訂正及び引用する請求項2を削除する訂正は、先行する請求項の削除に伴い生じる不整合を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、引用する請求項8を削除する訂正及び引用する請求項1の訂正に伴って実質的に限定された点は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項5のうち、請求項の項番号の訂正及び引用する請求項2を削除する訂正は、先行する請求項の削除に伴い生じる不整合を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、訂正前の請求項14に記載されていた「医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤」を「医薬的に許容し得る塩基性の安定化金属塩添加剤」と、「安定な医薬組成物」を「安定な固体の医薬組成物」とする訂正、引用する請求項8を削除する訂正及び引用する請求項1の訂正に伴って実質的に限定された点は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記いずれの訂正事項も、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件二次訂正は、平成23年法律第63号改正前特許法第134条の2第1項ただし書の規定及び同条第5項で準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 当事者の主張の概要
1.請求人の主張の概要
請求人は、訂正前の請求項1?5、9、10、14及び15に対して無効理由1?3を主張していたが、上記のとおり訂正を認めるので、無効理由の対象となる請求項は、訂正後の請求項1、2、6、7、11及び12となる。請求人が主張する無効理由の概要は、次のとおりであり、甲第1号証?甲第21号証(以下、「甲1」?「甲21」ということがある)及び参考資料1?3を提出している(なお、平成24年9月28日に提出された「甲第12?14号証」、「参考資料」は、それぞれ「甲第19?21号証」、「参考資料3」と表記する)。

(1)無効理由1
本件請求項1、2、6、7、11及び12に係る発明は、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号に違反し、特許を受けることができない。
(2)無効理由2
本件請求項1、2、6、7、11及び12に係る発明は、平成6年改正前特許法第36条第5項第1号に違反し、特許を受けることができない。
(3)無効理由3
本件請求項1、2、6、7、11及び12に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<証拠方法>
甲第1号証:特開平2-6406号公報
甲第2号証:特開平3-58967号公報
甲第3号証:岩波理化学辞典第4版,岩波書店,1987年10月12日,1328頁
甲第4号証:化学大辞典第1版,東京化学同人,1989年10月20日,2438頁
甲第5号証:特開平2-73078号公報
甲第6号証:薬物動態, vol.7, No.5, 1992, 45?54頁
甲第7号証:Tetrahedron Letters, Vol.33, No.17 , 1992, p.2279-2282
甲第8号証:Tetrahedron Letters, Vol.33, No.17 , 1992, p.2283-2284
甲第9号証:新総合薬剤学<I>,医歯薬出版,昭和56年10月20日,101-109頁
甲第10号証:製剤学,南江堂,1992年4月10日,199-207頁
甲第11号証:医薬品インタビューフォーム HMG-CoA還元酵素阻害剤?高脂血症治療剤?メバロチン(登録商標)錠,メバロチン(登録商標)錠10,メバロチン(登録商標)細粒,メバロチン(登録商標)細粒1%(1992年1月改訂)
甲第12号証:新総合薬剤学<II>,医歯薬出版,昭和57年3月27日,177-185頁
甲第13号証:現代医療, Vol.23, No.4, 1991, 121-126頁
甲第14号証:現代医療, Vol.22, No.1, 1990, 149-153頁
甲第15号証:現代医療, Vol.24, No.7, 1992, 187-192頁
甲第16号証:医薬品インタビューフォーム HMG-CoA還元酵素阻害剤?高脂血症治療剤?リポバス(登録商標)錠5(1997年12月改訂)
甲第17号証:動脈硬化, Vol.18, No.2, 1990, 165-171頁
甲第18号証:Biochimica et Biophysica Acta, 1123, 1992, p.133-144
甲第19号証:Prog. Med., Vol.11, 1991, p.2353-2360
甲第20号証:クリニカ, Vol.19, No.7, 1992:7, p.11-18
甲第21号証:薬学雑誌, Vol.111, No.9, 1991, p.469-487

参考資料1:岩波理化学辞典第5版,岩波書店,1998年4月24日,159頁
参考資料2:廣川薬科学大辞典第2版,廣川書店,1990年,175頁
参考資料3:無効2010-800150号の無効理由通知書

2.被請求人の主張
被請求人は、請求人の主張する無効理由1?3はいずれも理由がないと主張し、乙第1号証?乙第25号証(以下、「乙1」?「乙25」ということがある)を提出している。

<証拠方法>
乙第1号証:岩波理化学辞典第5版,岩波書店,1998年10月24日,352?353頁,「金属」及び「金属元素」の項
乙第2号証:化学大辞典2,共立出版,昭和56年10月15日,「金属」の項
乙第3号証:特許第2829274号公報 1-5頁
乙第4号証:特許第3419958号公報 1-3頁
乙第5号証:特許第4343987号公報 1-3,9-10頁
乙第6号証:特許第3004297号公報 1-2,15頁
乙第7号証:特公平7-116047号公報 1-2,6頁
乙第8号証:特公平6-88968号公報 1,9頁
乙第9号証:特公平7-64825号公報 1-7,29頁
乙第10号証:スタチンQ&A,医薬ジャーナル社,2001年7月25日,12-15頁
乙第11号証:標準化学用語辞典,日本化学会編,平成3年3月30日,「水酸化カリウム」、「水酸化ナトリウム」、「酸」、「塩基」、「塩基性塩」及び「塩」の項
乙第12号証:特公平6-67882号公報 1,5頁
乙第13号証:特許第2563754号公報 1,4頁
乙第14号証:特許第3225087号公報 1-3頁
乙第15号証:ウィキペディアの「水酸化物」の項
URL=http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%89%A9
乙第16号証:ウィキペディアの「水酸化物イオン」の項
URL=http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%89%A9%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3
乙第17号証:Pharmaceutical Research, Vol.10, No.10, 1993, p.1461-1465
乙第18号証:EP89105625の欧州特許庁における審査段階で提出された意見書
乙第19号証:FDAに提出した資料 55頁
乙第20号証:医薬品インタビューフォーム,リポバス(登録商標)錠 5,リポバス(登録商標)錠10,リポバス(登録商標)錠20(2010年3月改定(新様式第14版))フロントページ,p.1,22
乙第21号証:陳述書(市川林)
乙第22号証:リピトール(登録商標)錠5mg,10mgの添付文書
乙第23号証:特開平3-163018号公報
乙第24号証:特開昭59-167587号公報
乙第25号証:スタチンQ&A,医薬ジャーナル社,2001年7月25日,28-29頁

第4 本件発明
上記のとおり訂正が認容されたので、本件特許第3254219号の請求項に係る発明は、平成24年8月17日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?17に記載されたとおりのものであって、そのうち無効審判の請求がされた請求項1、2、6、7、11及び12に係る発明は、次のとおりである。

【請求項1】 混合物中に、活性成分として、〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウム塩および、少なくとも1種の医薬的に許容し得る塩基性の安定化金属塩添加剤を含有する改善された安定性によって特徴づけられる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の固体の医薬組成物。
【請求項2】 混合物中に、活性成分として、〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウム塩および、少なくとも1種の医薬的に許容し得る塩基性の安定化アルカリ土類金属塩添加剤を含有する改善された安定性によって特徴づけられる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の固体の医薬組成物。
【請求項6】さらに、結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤および抗酸化剤の形態の他の成分を含有する請求項1記載の安定な医薬組成物。
【請求項7】 活性成分の使用量が組成物の1?50重量%である請求項1に記載の安定な医薬組成物。
【請求項11】 請求項1に記載の活性成分1?50重量%を医薬的に許容し得る塩基性の安定化金属塩添加剤5?75重量%と十分に混合する工程からなる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の安定な固体の医薬組成物の製法。
【請求項12】 さらに、少なくとも1種の結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤または抗酸化剤を含有する混合物を加える工程からなる請求項11記載の方法。

以下、これらの請求項に係る各発明をそれぞれの請求項の番号に対応させて「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明6」・・・「本件発明12」という。

第5 当審の判断
事案に鑑み、まず無効理由3について検討する。
1.甲各号証に記載された事項
本件優先日前に頒布された甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審による)。
(1a)(特許請求の範囲)
「1.安定性を増大した医薬組成物であって、低pH環境に対して変質し易い薬物、1種以上の増量剤、1種以上の結合剤、1種以上の崩壊剤、1種以上の滑剤および当該医薬組成物の水性分散液に9以上のpHを付与する1種以上の塩基性化剤から成ることを特徴とする安定性良好な医薬組成物。
2.薬物の配合量が組成物全量中約1?60重量%である請求項第1項記載の医薬組成物。
3.薬物がプラバスタチンである請求項第1項記載の医薬組成物。
4.塩基性化剤の配合量が組成物全量中約1?75重量%である請求項第1項記載の医薬組成物。
5.塩基性化剤が、水酸化アルカリ金属、酸化もしくは水酸化アルカリ土類金属または水酸化アンモニウムである請求項第1項記載の医薬組成物。
6.塩基性化剤が、MgO、Mg(OH)_(2)、Ca(OH)_(2)、NaOH、KOH、LiOH、NH_(4)OH、Al(OH)_(3)またはマガルドレートである請求項第5項記載の医薬組成物。・・・」

(1b)(公報第2頁左上欄下から4行?右上欄下から3行)
「産業上の利用分野
本発明は安定性良好な医薬組成物、更に詳しくは、低pH環境に対して変質し易い薬物、たとえばプラバスタチン(pravastatin)を含有するが、優れた安定性を有する、好ましくは錠剤形状の医薬組成物に関する。
従来技術と発明の解決しようとする課題
酸性環境で不安定な薬物を含有する医薬組成物は、貯蔵安定性を増大するため塩基性賦形剤を必要とする。
テラハラらのU.S.特許第4346227号に開示のHMG-CoAレダクターゼ抑制剤である、式;


のプラバスタチンは、低pH環境に対して変質し易く、分解してそのラクトンおよび各種異性体を形成する。」

(1c)(公報第4頁右上欄第11行?左下欄下から4行)
「実施例1
下記組成を有する錠剤形状のプラバスタチン配合製剤を,以下の手順に従って製造する。
成分 重量%
プラバスタチン ・・・ 6.7
ラクトース ・・・67
微結晶セルロース ・・・20
クロスカルメロース・ナトリウム・・・ 2
ステアリン酸マグネシウム ・・・ 1
酸化マグネシウム ・・・ 3.3
上記プラバスタチン,酸化マグネシウムおよび一部(30%)のラクトースを,適当なミキサーを用いて2?10分間混合する。得られる混合物を#12?40メツシュのスクリーンに通す。微結晶セルロース,クロスカルメロース・ナトリウムおよび残りのラクトースを加え,混合物を2?10分間混合する。その後,ステアリン酸マグネシウムを加え,混合を1?3分間続ける。
次いで,得られる均質混合物を打錠して,それぞれ5mg,10mg,20mg,または40mgのプラバスタチンを含有する錠剤を得る。
この錠剤の水分散液のpHは約10である。
このように形成した錠剤を60℃,または40℃/75%相対湿度の安定性試験に2ケ月間供したところ,プラバスタチンを含有する錠剤は実質的に安定状態に維持され,ラクトンの形成は見られなかった。」

本件優先日前に頒布された甲2には、以下の事項が記載されている(下線は当審による)。
(2a)(特許請求の範囲)
「1)〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸または(2R-トランス)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドおよびその薬学的に許容しうる塩。
2)〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フエニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸である請求項1記載の化合物。
・・・
6)請求項2記載の化合物のヘミカルシウム塩。
・・・
11)血中コレステロールを低下させるのに有効な量の請求項1記載の化合物および薬学的に許容しうる担体を含有する高コレステロール血症治療用の医薬組成物。」

(2b)(公報第3頁左下欄1行?次頁左上欄2行)
「本発明の薬学的に許容しうる塩は、遊離酸またはラクトン好ましくはラクトンを適当な塩基とともに水性もしくは水性アルコール溶媒またはその他の適当な溶媒中に溶解しついで溶液を蒸発させて塩を単離することにより、または塩を直接分離させるかまたは塩を溶液の濃縮によって得ることができる有機溶媒中において遊離酸またはラクトン好ましくはラクトンおよび塩基を反応させることにより一般的に誘導される塩である。
実際には、塩形態の使用は酸またはラクトン形態の使用に等しい。本発明の範囲内にある薬学的に許容しうる適当な塩は、塩基例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、1-デオキシ-2-(メチルアミノ)-D-グルシトール、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化第一鉄もしくは水酸化第二鉄、水酸化アンモニウムまたは有機アミン例えばN-メチルグルカミン、コリン、アルギニン等から誘導される塩である。好ましくは、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムおよび第一鉄もしくは第二鉄の各塩は、そのナトリウム塩またはカリウム塩から該塩の溶液に適当な試薬を加えることによって製造される。すなわち、式Iの化合物のナトリウム塩またはカリウム塩の溶液に塩化カルシウムを加えるとそれのカルシウム塩が得られる。
遊離酸は式IIのラクトン体の加水分解によりまたは塩を陽イオン交換樹脂(H+樹脂)に通しついで水を蒸発させることによって製造され得る。
本発明の最も好ましい態様は〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フエニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸,ヘミカルシウム塩である。」

2.本件発明1について
(1)甲1記載の発明
(1a)(1b)の記載事項から、甲1には次の発明が記載されていると認められる。
「低pH環境に対して変質し易い薬物としてのHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるプラバスタチン、及び、1種以上の塩基性化剤を含有する安定性良好な錠剤形状の医薬組成物。」(以下、「引用発明1」という。)

(2)本件発明1と引用発明1との対比
本件発明1における〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウム塩(以下、「CI-981半カルシウム塩」という。)はHMG-CoAレダクターゼ阻害剤である(例えば、本件特許公報第8欄13?26行等)。
引用発明1におけるHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるプラバスタチンが高コレステロール血症または高脂質血症の治療に用いられることは、本件優先権日前、当業者に周知であった。また、本件発明1に係る「医薬的に許容し得る塩基性の安定化金属塩添加剤」は水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムを含み(請求項10参照)、引用発明1における「塩基性化剤」も水酸化マグネシウムMg(OH)_(2)や水酸化カルシウムCa(OH)_(2)を含む((1a)の請求項6)ことから、引用発明1における「塩基性化剤」と本件発明1の「医薬的に許容しうる塩基性の安定化金属塩添加剤」は重複する。さらに、引用発明1における「錠剤形状の医薬組成物」が「経口治療用の固体の医薬組成物」に相当することは明らかである。

そうすると、本件発明1と引用発明1とは、「活性成分として、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤および少なくとも1種の医薬的に許容し得る塩基性の安定化金属塩添加剤を含有する改善された安定化によって特徴づけられる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の固体の医薬組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]HMG-CoAレダクターゼ阻害剤が、本件発明1では「CI-981半カルシウム塩」であるのに対して、引用発明1では「低pH環境に対して変質し易い薬物としてのプラバスタチン」である点。

(3)相違点についての検討
甲2には、〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸または(2R-トランス)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドおよびその薬学的に許容しうる塩が、高コレステロール血症治療に用いられることが記載されており((2-a)の請求項1、11)、知財高判平成24年5月7日(平成23年(行ケ)第10091号)に判示されているとおり、〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 ヘミ-カルシウム塩、すなわち、CI-981半カルシウム塩に該当する化合物が「最も好ましい態様」であることも記載されている((2-b))。ここで、CI-981半カルシウム塩は、その化学名から、β,δ-ジヒドロキシ-5-ヘプタン酸塩の構造を有すると認められ、また、HMG-CoA還元酵素阻害剤であることが、本件優先日前に知られていた(甲7、8、18のいずれも標題参照)。
一方、甲1には、HMG-CoA還元酵素阻害剤であるプラバスタチンが低pH環境に対して変質し易く、分解してそのラクトンおよび各種異性体を形成するという問題点を有することが記載され(1b)、実施例として、プラバスタチンに酸化マグネシウムを添加した錠剤においてラクトンの形成がみられなかったことが記載されている(1c)。そして、(1b)に示された構造式からみて、プラバスタチンがβ,δ-ジヒドロキシ-5-ヘプタン酸又はその塩の構造を有することが認められる。
ところで、甲5に、HMG-CoA還元酵素を阻害することによりコレステロール生合成を制限するβ,δ-ジヒドロキシ-5-ヘプタン酸構造を有する一群の化合物、そのアンモニウム塩、又はその金属塩のラクトン化が、酸の存在によって触媒作用を受けることが記載されている(2頁左下欄8行?3頁左上欄最下行)ように、HMG-CoA還元酵素阻害剤であるβ,δ-ジヒドロキシ-5-ヘプタン酸構造を有する化合物やその金属塩が酸の存在によってラクトン化されることは、本件優先日前に知られていた。そして、ヒドロキシカルボン酸のラクトン生成と加水分解とが可逆反応であり(甲3)、塩基性条件下ではカルボン酸の塩として存在するが、反応系を酸性にすると速やかに閉環してラクトンになること(甲4)も、本件優先日前に技術常識であった。これらのことから、HMG-CoA還元酵素阻害剤である、甲2に記載されたCI-981半カルシウム塩も、β,δ-ジヒドロキシ-5-ヘプタン酸塩の構造を有するものである以上、甲1に低pH環境に対して変質し易い薬物として具体的に記載されたプラバスタチンと同様に、酸の存在下、すなわち低pH環境でラクトン化が生じることは、本件優先日前、当業者にとって自明であったといえる。
加えて、医薬品において、治療効果の安定性が保たれるための必要条件の一つとして、有効成分が化学的に変化を起こさず安定であることが要求されることも、本件優先日前の技術常識であった(甲9の101頁下から6行?102頁7行)
そうすると、引用発明1において、「低pH環境に対して変質し易い薬物としてのHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるプラバスタチン」に代えて、プラバスタチンと同様のβ,δ-ジヒドロキシ-5-ヘプタン酸塩の構造を有するために低pH環境でラクトン化を生じることが自明な、HMG-CoA還元酵素阻害剤である甲2記載のCI-981半カルシウム塩を採用し、ラクトンを形成することなく改善された安定性を有する医薬組成物とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

次いで、本件発明1の効果について検討する。
本件明細書には、以下の記載がある(下線は当審による)。
「しかしながら、これらの化合物は、これらの化合物が熱、湿気、低pH環境および光に感受性であるという点において不安定である。特に、酸性の環境において、ヒドロキシ酸は、ラクトンに変化(degrade)する。さらに、ヒドロキシ酸は、UVまたは蛍光光線にさらしたときに、急速に分解する。 錠剤、粉末、顆粒の形態中にまたはカプセル中に包み込んだ場合、化合物は、さらに、他の成分の分子部分と接触することにより不安定化される。結合剤、希釈剤、抗粘着剤、表面活性剤などのような医薬使用成分は活性成分化合物と不利に相互作用するので、有効な医薬投与に対しては安定化手段が必要である。」(特許公報7欄41行?8欄39行)、
「特に、CI-981 半-カルシウムは、湿式-顆粒法により製造された組成物において急速に劣化する。それ故に、炭酸カルシウムを加えることによって、この薬剤に対する固形製剤を、薬剤の安定性を低下させることなしに、湿式顆粒法により製造することができるということは、驚くべき発見である。」(特許公報21欄37?42行)
そして、本件明細書の実施例には、CI-981半カルシウム塩及び塩基性の安定化金属塩添加剤としての炭酸カルシウムを含有する粉末混合物、カプセル、被覆錠剤と、CI-981半カルシウム塩は含有するが炭酸カルシウムは含有しない粉末混合物、カプセル、被覆錠剤を、精製水を添加した状態で造粒する工程(湿式-顆粒法)を含む方法で製造し、上昇した温度で高度に加速されたストレス条件下で、活性薬剤の残留割合を試験した結果、試験開始時からの活性薬剤の残留割合が、炭酸カルシウムを含有する粉末混合物、カプセル、被覆錠剤の方が、それぞれ、含有しない粉末混合物、カプセル、被覆錠剤と比較して高かったことが記載されている。しかし、本件明細書に記載された、熱、湿気、低pH環境、光、他の使用成分との相互作用、湿式-顆粒法による不安定化のいずれの要因による不安定化が防止されたのかまでは記載されていない。
CI-981半カルシウム塩に塩基性の安定化金属塩添加剤を添加することにより、上記の不安定化要因のうち、熱、湿気、光、他の医薬使用成分との相互作用、湿式-顆粒法による不安定化については、実際にこれらを防止できたことが本件明細書に具体的に記載されておらず、また、これらの不安定化要因はpH環境と直接関係するものではないから、「塩基性の」金属塩添加剤を添加しさえすればこれらの不安定化要因が防止され、安定性が改善されると理解することもできない。
他方、CI-981半カルシウム塩に塩基性の安定化金属塩添加剤を添加することにより、上記の不安定化要因のうち、低pH環境による不安定性、すなわちラクトン化を防止できるという効果は、甲1、甲2の記載及び本件優先日当時の技術常識から、当業者が予測できたものにすぎない。

(4)被請求人の主張について
被請求人は、平成24年8月17日付け上申書において、甲1の安定化技術の対象となり得る化合物は、[1]プラバスタチンのように通常の賦形剤が配合された固体製剤中で、低pH環境が生じることで不安定化される化合物、[2]水性分散液に9以上のpHを付与する塩基性化剤が存在しても安定性に影響を受けない化合物、[3][1]及び[2]が不明であってもプラバスタチンと極めて類似し、その安定性に関し同様の予測が可能な化合物であるところ、以下(ア)のとおり、CI-981半カルシウム塩が[1]及び[2]の性質を有することは予測できず、(イ)のとおり、CI-981半カルシウム塩は[3]の類似の化合物ともいえないから、CI-981半カルシウム塩に甲1の安定化技術を応用することは当業者にとって容易であったとはいえない、という趣旨の主張を行っている。
(ア)甲2にはCI-981半カルシウム塩の安定性について何ら記載されておらず、当業者は、CI-981半カルシウム塩が[1]及び[2]の条件に該当する化合物であるかどうかを予測できない。甲3、甲5は、溶液中での反応に関しラクトン化には酸性環境が生じることが必要とされているから、微量の水分は存在し得るが酸性触媒の存在しない固体製剤中では、薬物自体が酸性触媒として作用する性質を持っていることが必要であると解されるところ、CI-981半カルシウム塩はアルカリで中和され塩の形態となっており、水への溶解性も低いことから、固体の製剤中に少量の水分が存在してもラクトン化反応が起こるに十分な包囲酸性度が生じるか否かは明らかでない。遊離の形態では不安定で塩基性無機塩の安定化剤を必要とする化合物が、アルカリ塩の形態とすることで安定化されることが知られている(乙23、24)ことから、アルカリによって中和されているCI-981半カルシウム塩はすでに安定化されていると考えるのが自然である。
(イ)CI-981半カルシウム塩は[3]の要件を満足するともいえない。すなわち、(i)全合成で得られるCI-981半カルシウム塩は、天然スタチンであるプラバスタチンとは構造が類似するとはいえず、その安定性について構造から予測することはできない。(ii) 甲1(1b)記載の式におけるCOO-部分に対応するカチオンがH+であることは、その化合物の名称が「プラバスタチン」であることから明白であり、プラバスタチンは遊離のヒドロキシカルボン酸を有しているために、製剤中で微量の水分に接したときにラクトン化に十分な包囲酸性度を与えるのに対し、CI-981半カルシウム塩はアルカリで中和された塩であり、この形態の相違は固体製剤中での包囲酸性度に影響する。(iii) プラバスタチンは親水性が高く、吸湿性を有し、水の影響を受けやすいのに対し、CI-981半カルシウム塩は親水性が低く、極めて水に溶けにくく、水の影響を受けにくいことが予測されるから、両者の安定性を同様に論じることは困難である。(上申書16?22頁)

(ア)について検討する。
甲2にCI-981半カルシウム塩の安定性について記載されていないとしても、上記(3)で述べたとおり、本件優先日前の技術常識を考慮すれば、甲2に記載されたCI-981半カルシウム塩が、甲1に低pH環境に対して変質し易い薬物として具体的に記載されたプラバスタチンと同様に、酸の存在によってラクトン化が生じることは、当業者にとって自明であったといえる。そして、甲1は、「低pH環境に対して変質し易い薬物」を安定化の対象としており、薬物自体が酸性触媒として作用しなくとも、固体製剤中にラクトン化を生じるpH環境を提供する成分が存在する場合には安定化の対象になると解すべきであるから、[1]に関して「微量の水分は存在し得るが酸性触媒の存在しない固体製剤中では、薬物自体が酸性触媒として作用する性質を持っていることが必要である」という前提を置くことは妥当でない。
また、甲1は、「低pH環境に対して変質し易い薬物」の安定化を目指すものであり、特にプラバスタチンにおいて着目されているのは低pH環境におけるラクトン化であって、医薬組成物の水性分散液に9以上のpHを付与する塩基性化剤が存在する場合の安定性への影響を問題とするものではないから、[2]の前提を置くことも妥当とはいえない。仮に[2]の前提を置いたとしても、CI-981半カルシウム塩が塩基性化剤の存在によって不安定になることが知られていたわけでもない。
さらに、被請求人が言及する乙23及び乙24は、CI-981半カルシウム塩とは構造が全く異なる化合物である上、アルカリで中和されているCI-981半カルシウム塩であっても、酸が存在すればラクトン化が生じることは、上記(3)で述べたように甲4、甲5から明らかであるから、アルカリによって中和されたCI-981半カルシウム塩がすでに安定化されているということはできない。

(イ)について検討する。
(i)上記(3)で述べたとおり、CI-981半カルシウム塩とプラバスタチンとは、低pH環境において容易にラクトン化するβ,δ-ジヒドロキシ-5-ヘプタン酸又はその塩の構造を有する点で類似しているといえる。
(ii)「プラバスタチン」の用語がしばしば塩形態のものについての呼称としても用いられること(甲13の図1、図7、甲14の図1、甲18のFig.1、甲19の図5,甲21の470頁下から2行、乙10の図2)、甲1(1b)で引用されている「テラハラらのU.S.特許第4346227」のクレームには、構造式中COOR^(1)の部分におけるR^(1)がHのもののみならずその塩やアルキル基のものも記載されている上、実施例にはR^(1)がアルキル基であるもの又はNa塩であるものは記載されているが、Hであるものは記載されていないことからみて、甲1(1b)記載の式におけるCOO-部分に対応するカチオンがH+であると限定解釈することは妥当でない。したがって、被請求人の主張は前提において誤りである。また、塩の形態であっても酸が存在すればラクトン化が生じることは、(3)で述べたとおりである。
(iii) プラバスタチンもCI-981半カルシウム塩も、低pH環境を提供する成分が存在する場合にはラクトン化が生じるという点で共通しており、両者が、水の影響の受け方の点で異なっているとしても、そのことは、CI-981半カルシウム塩がラクトンを形成しないように安定化しようという動機づけの妨げにはならない。なお、CI-981半カルシウム塩に塩基性の安定化金属塩添加剤を添加することにより、水の影響、すなわち湿気や湿式-顆粒法による不安定化を実際に防止できたことが、本件明細書に具体的に記載されていないことは、(3)において述べたとおりである。
以上のとおり、被請求人の主張は、いずれも採用できない。

3.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の「塩基性の安定化金属塩添加剤」という特定に代えて「塩基性の安定化アルカリ土類金属塩添加剤」と特定されたものである。
本件発明2と引用発明1とは、「活性成分として、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤および少なくとも1種の医薬的に許容し得る塩基性の安定化アルカリ土類金属塩添加剤を含有する改善された安定化によって特徴づけられる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の固体の医薬組成物」である点で一致するから、両発明の相違点及びその検討は、上記2.で認定、検討したのと同じである。

4.本件発明6について
本件発明6は、本件発明1に「さらに、結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤および抗酸化剤の形態の他の成分を含有する」との特定を加えたものである。
甲1には、増量剤(希釈剤に相当)、結合剤、崩壊剤、滑剤(滑沢剤に相当)を含有することが記載されており、さらに、周知の添加剤である表面活性剤や抗酸化剤も含有させることは、当業者が容易に想到することである。

5.本件発明7について
本件発明7は、本件発明1に「活性成分の使用量が組成物の1?50重量%である」との特定を加えたものである。
甲1には、薬物の配合量が組成物全量中約1?60重量%であることが記載されており((1a)の請求項2)、活性成分の使用量をこの範囲内の適当な範囲とすることは、当業者が容易になし得ることである。

6.本件発明11について
(1)甲第1号証記載の発明
(1a)(1b)(1c)の記載事項から、甲第1号証には次の発明が記載されていると認められる。
「低pH環境に対して変質し易い薬物としてのHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるプラバスタチン約1?60重量%、及び、塩基性化剤約1?75重量%と十分に混合する工程からなる安定性良好な錠剤形状の医薬組成物の製法。」(以下、「引用発明2」という)

(2)本件発明11と引用発明2との対比
本件発明11と引用発明2とは、「活性成分として、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤および少なくとも1種の医薬的に許容し得る塩基性の安定化金属塩添加剤を十分に混合する工程からなる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の安定な固体の医薬組成物の製法」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]HMG-CoAレダクターゼ阻害剤が、本件発明11では「CI-981半カルシウム塩」であるのに対して、引用発明2では「低pH環境に対して変質し易い薬物としてのプラバスタチン」である点。
[相違点2]活性成分、塩基性の安定化金属塩添加剤の含有割合が、それぞれ、本件発明11では「1?50重量%」、「5?75重量%」であるのに対し、引用発明2では「約1?60重量%」、「約1?75重量%」である点。

(3)相違点についての検討
相違点1については、上記2.で検討したとおりである。
相違点2については、活性成分、塩基性の安定化金属塩添加剤の含有割合を、引用発明2で特定された範囲内の適当な範囲とすることは、当業者が容易になし得ることである。

7.本件発明12について
本件発明12は、本件発明11に「さらに、少なくとも1種の結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤または抗酸化剤を含有する混合物を加える工程からなる」との特定を加えたものである。
甲1には、増量剤(希釈剤に相当)、結合剤、崩壊剤、または滑剤(滑沢剤に相当)を含有する混合物を加えることが記載されているから、この点において、本件発明12と引用発明2とは相違しない。

8.小活
以上検討したところによれば、本件発明1、2、6、7、11及び12は、甲1及び甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1、2、6、7、11及び12に係る発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当するから、他の無効理由について検討するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
安定な経口用のCI-981製剤およびその製法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 混合物中に、活性成分として、〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウム塩および、少なくとも1種の医薬的に許容し得る塩基性の安定化金属塩添加剤を含有する改善された安定性によって特徴づけられる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の固体の医薬組成物。
【請求項2】 混合物中に、活性成分として、〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウム塩および、少なくとも1種の医薬的に許容し得る塩基性の安定化アルカリ土類金属塩添加剤を含有する改善された安定性によって特徴づけられる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の固体の医薬組成物。
【請求項3】 混合物中に、活性成分として構造式

〔式中、
Xは、-CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)CH_(2)-または-CH_(2)CH(CH_(3))-であり,
R_(1)は、1-ナフチル;2-ナフチル;シクロヘキシル;ノルボルネニル;2-、3-または4-ピリジニル;フェニル;弗素、塩素、臭素、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、1?4個の炭素原子のアルキル、1?4個の炭素原子のアルコキシまたは2?8個の炭素原子のアルカノイルアルコキシにより置換されたフェニルであり;
R_(2)またはR_(3)の一方は、-CONR_(5)R_(6)(式中、R_(5)およびR_(6)は、独立して水素;1?6個の炭素原子のアルキル;2-、3-または4-ピリジニル;フェニル;弗素、塩素、臭素、シアノ、トリフルオロメチルまたは3?8個の炭素原子のカルボアルコキシにより置換されたフェニルである)でありそしてR_(2)またはR_(3)の他方は、水素;1?6個の炭素原子のアルキル;シクロプロピル;シクロブチル;シクロペンチル;シクロヘキシル;フェニル;または弗素、塩素、臭素、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、1?4個の炭素原子のアルキル、1?4個の炭素原子のアルコキシまたは2?8個の炭素原子のアルカノイルオキシにより置換されたフェニルであり;
R_(4)は、1?6個の炭素原子のアルキル;シクロプロピル;シクロブチル;シクロペンチル;シクロヘキシル;またはトリフルオロメチルであり;そしてMは、医薬的に許容し得る金属塩である〕の化合物および少なくとも1種の医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤を含有する改善された安定性によって特徴づけられる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の医薬組成物であって、医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤がアルカリ土類金属塩であり、アルカリ土類金属塩が、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、珪酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウムおよび水酸化マグネシウムアルミニウムからなる群から選択されたものである安定な医薬組成物。
【請求項4】 混合物中に、活性成分として構造式

〔式中、
Xは、-CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)CH_(2)-または-CH_(2)CH(CH_(3))-であり;
R_(1)は、1-ナフチル;2-ナフチル;シクロヘキシル;ノルボルネニル;2-、3-または4-ピリジニル;フェニル;弗素、塩素、臭素、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、1?4個の炭素原子のアルキル、1?4個の炭素原子のアルコキシまたは2?8個の炭素原子のアルカノイルアルコキシにより置換されたフェニルであり;
R_(2)またはR_(3)の一方は、-CONR_(5)R_(6)(式中、R_(5)およびR_(6)は、独立して水素;1?6個の炭素原子のアルキル;2-、3-または4-ピリジニル;フェニル;弗素、塩素、臭素、シアノ、トリフルオロメチルまたは3?8個の炭素原子のカルボアルコキシにより置換されたフェニルである)でありそしてR_(2)またはR_(3)の他方は、水素;1?6個の炭素原子のアルキル;シクロプロピル;シクロブチル;シクロペンチル;シクロヘキシル;フェニル;または弗素、塩素、臭素、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、1?4個の炭素原子のアルキル、1?4個の炭素原子のアルコキシまたは2?8個の炭素原子のアルカノイルオキシにより置換されたフェニルであり;
R_(4)は、1?6個の炭素原子のアルキル;シクロプロピル;シクロブチル;シクロペンチル;シクロヘキシル;またはトリフルオロメチルであり;そしてMは、医薬的に許容し得る金属塩である〕の化合物および少なくとも1種の医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤を含有する改善された安定性によって特徴づけられる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の医薬組成物であって、医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤が炭酸カルシウムである安定な医薬組成物。
【請求項5】 混合物中に、活性成分として構造式

〔式中、
Xは、-CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)CH_(2)-または-CH_(2)CH(CH_(3))-であり;
R_(1)は、1-ナフチル;2-ナフチル;シクロヘキシル;ノルボルネニル;2-、3-または4-ピリジニル;フェニル;弗素、塩素、臭素、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、1?4個の炭素原子のアルキル、1?4個の炭素原子のアルコキシまたは2?8個の炭素原子のアルカノイルアルコキシにより置換されたフェニルであり;
R_(2)またはR_(3)の一方は、-CONR_(5)R_(6)(式中、R_(5)およびR_(6)は、独立して水素;1?6個の炭素原子のアルキル;2-、3-または4-ピリジニル;フェニル;弗素、塩素、臭素、シアノ、トリフルオロメチルまたは3?8個の炭素原子のカルボアルコキシにより置換されたフェニルである)でありそしてR_(2)またはR_(3)の他方は、水素;1?6個の炭素原子のアルキル;シクロプロピル;シクロブチル;シクロペンチル;シクロヘキシル;フェニル;または弗素、塩素、臭素、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、1?4個の炭素原子のアルキル、1?4個の炭素原子のアルコキシまたは2?8個の炭素原子のアルカノイルオキシにより置換されたフェニルであり;
R_(4)は、1?6個の炭素原子のアルキル;シクロプロピル;シクロブチル;シクロペンチル;シクロヘキシル;またはトリフルオロメチルであり;そしてMは、医薬的に許容し得る金属塩である〕の化合物および少なくとも1種の医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤を含有する改善された安定性によって特徴づけられる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の医薬組成物であって、活性成分が、〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸の医薬的に許容し得る金属塩である、式(IA):

の CI-981 半-カルシウムでありそして医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤が炭酸カルシウムである安定な医薬組成物。
【請求項6】 さらに、結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤および抗酸化剤の形態の他の成分を含有する請求項1記載の安定な医薬組成物。
【請求項7】 活性成分の使用量が組成物の1?50重量%である請求項1に記載の安定な医薬組成物。
【請求項8】 安定剤炭酸カルシウムが、組成物の5?75重量%の範囲にある請求項4記載の安定な医薬組成物。
【請求項9】 混合物中に、活性成分として構造式

〔式中、
Xは、-CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)CH_(2)-または-CH_(2)CH(CH_(3))-であり;
R_(1)は、1-ナフチル;2-ナフチル;シクロヘキシル;ノルボルネニル;2-、3-または4-ピリジニル;フェニル;弗素、塩素、臭素、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、1?4個の炭素原子のアルキル、1?4個の炭素原子のアルコキシまたは2?8個の炭素原子のアルカノイルアルコキシにより置換されたフェニルであり;
R_(2)またはR_(3)の一方は、-CONR_(5)R_(6)(式中、R_(5)およびR_(6)は、独立して水素;1?6個の炭素原子のアルキル;2-、3-または4-ピリジニル;フェニル;弗素、塩素、臭素、シアノ、トリフルオロメチルまたは3?8個の炭素原子のカルボアルコキシにより置換されたフェニルである)でありそしてR_(2)またはR_(3)の他方は、水素;1?6個の炭素原子のアルキル;シクロプロピル;シクロブチル;シクロペンチル;シクロヘキシル;フェニル;または弗素、塩素、臭素、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、1?4個の炭素原子のアルキル、1?4個の炭素原子のアルコキシまたは2?8個の炭素原子のアルカノイルオキシにより置換されたフェニルであり;
R_(4)は、1?6個の炭素原子のアルキル;シクロプロピル;シクロブチル;シクロペンチル;シクロヘキシル;またはトリフルオロメチルであり;そしてMは、医薬的に許容し得る金属塩である〕の化合物および少なくとも1種の医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤を含有する改善された安定性によって特徴づけられる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の医薬組成物であって、さらに、結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤および抗酸化剤の形態の他の成分を含有し、当該他の成分が、全体の固体の組成物の5?75重量%の微小結晶セルロース;1?80重量%の含水ラクトース;1?15重量%のクロスカルメロースナトリウム;0.5?6重量%のヒドロキシプロピルセルロース;0.1?4重量%のトゥイーン 80;0.25?2重量%のステアリン酸マグネシウムおよび3重量%までのアスコルビン酸ナトリウムまたはブチル化ヒドロキシアニソールからなる安定な医薬組成物。
【請求項10】 固体の単位使用形態中に、活性成分〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウム塩および炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、珪酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウムおよび水酸化マグネシウムアルミニウムからなる群から選択された安定剤を含有する高コレメテロール血症または高脂質血症の経口治療用の安定化された固体の医薬組成物。
【請求項11】 請求項1に記載の活性成分1?50重量%を医薬的に許容し得る塩基性の安定化金属塊添加剤5?75重量%と十分に混合する工程からなる高コレステロール血症または高脂質血症の経口治療用の安定な固体の医薬組成物の製法。
【請求項12】 さらに、少なくとも1種の結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤または抗酸化剤を含有する混合物を加える工程からなる請求項11記載の方法。
【請求項13】 (a)式IA

の薬剤 CI-981 半-カルシウムの過剰を微粉砕化し;
(b)少なくとも1種の結合剤添加物を、表面活性剤水溶液に溶解し;
(c)微粉砕化した薬剤を、チョッピング装置を具備した回転混合容器中において、少なくとも1種の薬剤-安定化金属塩添加剤および該薬剤-安定化金属塩添加剤と一緒に少なくとも1種の希釈剤添加物および崩壊剤添加物の半量と混合し;
(d)チョッパーを具備した混合容器中において、工程(c)の混合した薬剤混合物を徐々な増加量の工程(b)の表面活性剤/結合剤溶液で造粒し;
(e)造粒した薬剤混合物を50℃で一夜乾燥し;
(f)乾燥した造粒薬剤混合物をふるいにかけ;
(g)ふるいにかけた薬剤混合物を残りの量の崩壊剤添加物と回転混合し;
(h)工程(g)の薬剤混合物のアリコートを別個にステアリン酸マグネシウムと混合し、これをふるいにかけそしてこれを工程(g)の薬剤混合物に戻しそして全体の薬剤混合物を回転混合し;そして工程(h)の薬剤混合物のアリコートを圧縮して適当な薬剤濃度を有する錠剤を得ることからなる高コレステロール血症または高脂質血症の経口的治療のために処方された安定化された医薬組成物の製法。
【請求項14】 工程(c)において、薬剤安定化金属塩添加剤がカルシウムまたはマグネシウムの塩基性無機塩からなりそして希釈剤添加物が微小結晶セルロース、含水ラクトース、とうもろこし殿粉、スクロース、無水珪酸または多糖類からなる請求項13記載の方法。
【請求項15】 工程(b)において、結合剤添加物がメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールまたは殿粉からなりそして表面活性剤がトゥイーン 80またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体からなる請求項13記載の方法。
【請求項16】 工程(c)において、崩壊剤添加剤がクロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウムまたは殿粉からなる請求項13記載の方法。
【請求項17】 1日につき体重1kg当り0.1?8.0mgの範囲の投与量において、炭酸カルシウムにより安定化されたエナンチオマー〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β-,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウムの有効なコレステロール合成阻害量を含有する高コレステロール血症を治療するための経口用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
発明の分野
本発明は、高コレステロール血症または高脂質血症の治療に有用な置換されたピロリルカルボキサミドの酸-感受性の置換されたピラン開環された酸形態の安定な経口用の医薬製剤に関するものである。このような製剤を製造する方法も、また、開示される。
発明の背景
過度に高いレベルの血中のコレステロールおよび脂質の高コレステロール血症および高脂質血症の病態は、アテローム性動脈硬化症および冠動脈心疾患の発病においてよく認められている危険因子である。血中のコレステロールプールは、一般に腸からのコレステロールの食餌摂取および身体、特に肝臓におけるコレステロールの生合成に依存する。コレステロールは、実際にすべての細胞膜系の欠くことのできない成分、ならびに、種々なステロイドホルモンおよび胆汁酸のプレカーサーである。
コレステロールの細胞内合成を接触する重要な酵素である3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-コエンザイムAレダクターゼ(HMG-CoA レダクターゼ)の阻害剤が、特に低比重リポ蛋白形態のコレステロールの点からの血中コレステロールの減少したレベルを引き起すということはよく知られている。それ故に、HMG-CoA レダクターゼ酵素阻害剤は、抗高コレステロール血症剤または抗高脂質血症剤として効能的に有効であるとみなされる。
あるトランス-6-〔2-(3-または4-カルボキサミド-置換されたピロール-1-イル)アルキル〕-4-ヒドロキシピラン-2-オンおよびそれから誘導された相当するピラン開環されたヒドロキシ酸は、HMG-CoA レダクターゼの強力な阻害剤として、Rothに対して発行された米国特許第4,681,893号に記載されている。該特許における説明を、参照として本明細書に引用する。ラクトン化合物の合成における中間体であるピラン開環ヒドロキシ酸は、遊離酸としてまたは医薬的に許容し得る金属またはアミン塩として使用することができる。特に、これらの化合物は、以下の式I

により示すことができる。
上記式において、
Xは、-CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)CH_(2)-または-CH_(2)CH(CH_(3))-であり;
R_(1)は、1-ナフチル;2-ナフチル;シクロヘキシル;ノルボルネニル;2-、3-または4-ピリジニル;フェニル;弗素、塩素、臭素、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、1?4個の炭素原子のアルキル、1?4個の炭素原子のアルコキシまたは2?8個の炭素原子のアルカノイルアルコキシにより置換されたフェニルであり;
R_(2)またはR_(3)の一方は、-CONR_(5)R_(6)(式中、R_(5)およびR_(6)は、独立して水素;1?6個の炭素原子のアルキル;2-、3-または4-ピリジニル;フェニル;弗素、塩素、臭素、シアノ、トリフルオロメチルまたは3?8個の炭素原子のカルボアルコキシにより置換されたフェニルである)でありそしてR_(2)またはR_(3)の他方は、水素;1?6個の炭素原子のアルキル;シクロプロピル;シクロブチル;シクロペンチル;シクロヘキシル;フェニル;または弗素、塩素、臭素、ヒドロキシル、トリフルオロメチル、1?4個の炭素原子のアルキル、1?4個の炭素原子のアルコキシまたは2?8個の炭素原子のアルカノイルオキシにより置換されたフェニルであり;
R_(4)は、1?6個の炭素原子のアルキル;シクロプロピル;シクロブチル;シクロペンチル;シクロヘキシル;またはトリフルオロメチルであり;そしてMは、医薬的に許容し得る塩である。この塩は、医薬的に許容し得る金属塩または医薬的に許容し得るアミン塩を包含する。
立体-特異的異性体のうち、HMG-CoA レダクターゼ阻害活性を有する一つの特定の化合物、CI-981 半-カルシウムが、現在、中程度?重度の家族性または非家族性の高コレステロール血症(IIa型)の治療に対して開発中である。このもっとも好ましい化合物は、(2R-トランス)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドの開環形態、すなわちエナンチオマー〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル)-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウム塩である。その化学構造は、式IA:

によって示すことができる。
特異的異性体(CI-981)は、同時係属中の米国特許出願07/660,976に記載されている。
しかしながら、これらの化合物は、これらの化合物が熱、湿気、低pH環境および光に感受性であるという点において不安定である。特に、酸性の環境において、ヒドロキシ酸は、ラクトンに変化(degrade)する。さらに、ヒドロキシ酸は、UVまたは蛍光光線にさらしたときに、急速に分解する。
錠剤、粉末、顆粒の形態中にまたはカプセル中に包み込んだ場合、化合物は、さらに、他の成分の分子部分と接触することにより不安定化される。結合剤、希釈剤、抗粘着剤、表面活性剤などのような医薬使用成分は活性成分化合物と不利に相互作用するので、有効な医薬投与に対しては安定化手段が必要である。
それ故に、本発明の目的は、高コレステロール血症または高脂質血症を治療するための、置換されたピロリル置換ピランの開環されたヒドロキシ酸を含有する安定な固体の経口用医薬製剤を提供せんとするものである。さらにくわしくは、本発明の目的は、活性成分として上述した CI-981 半-カルシウムのような HMG-CoA レダクターゼ阻害剤を含有する安定な固体の経口用医薬製剤を提供せんとするものである。
発明の要約
したがって、本発明は、高コレステロール血症または高脂質血症を経口的に治療するための、少なくとも1種の医薬的に許容し得る安定化添加剤と合した活性成分としての7-置換ピロリド-3,5-ジヒドロキシ-ヘプタン酸塩の改善された安定性により特徴づけられる医薬製剤を提供する。
本発明の一見地は、活性成分として、少なくとも1種の医薬的に許容し得る金属塩添加剤と合することにより安定化された上記式Iによる HMG-CoA レダクターゼ酵素阻害剤を含有する高コレステロール血症または高脂質血症を治療するための安定な経口用医薬製剤を提供することである。
本発明の他の見地は、活性成分として、少なくとも1種の医薬的に許容し得るアルカリ土類金属塩、例えば炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、珪酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウムまたは水酸化マグネシウムアルミニウムと合することにより安定化された HMG-CoA レダクターゼ阻害剤、例えば CI-981 半-カルシウムまたは提案された異性体構造式IAを有するそのエナンチオマー〔R(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウム塩を含有する高コレステロール血症または高脂質血症を治療するための安定な経口用医薬製剤を提案することである。
さらに、本発明の好ましい実施化は、安定化添加剤としての炭酸カルシウムと合した上述した構造式IAによる提案された構造を有する HMG-CoA レダクターゼ阻害剤である CI-981 半-カルシウムを含有する高コレステロール血症または高脂質血症を治療するための安定な経口用医薬製剤を提供する。
さらに、本発明の好ましい実施化は、安定化添加剤である炭酸カルシウム以外に、少なくとも1種の他の成分、例えば結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤および場合によっては抗酸化剤を含有する組成物中に活性成分として HMG-CoA レダクターゼ阻害剤である CI-981 半-カルシウムを含有する高コレステロール血症または高脂質血症を治療するための安定な経口用医薬製剤を提供する。
さらに詳しくは、本発明は、活性成分使用量が組成物の約1重量%と約50重量%との間にある安定な固体の経口用医薬組成物を提供する。
本発明は、また、組成物の約5?75重量%の安定剤、炭酸カルシウムを含有する安定な固体の経口用医薬組成物を提供する。
本発明の他の好ましい実施化は、上述した活性成分および安定化成分以外に、全体の固体組成物の約5?75重量%の微小結晶性セルロース;約1?80重量%の含水ラクトース;約1?15重量%のクロスカルメロースナトリウム;約0.5?6重量%のヒドロキシプロピルセルロース;約0.1?4重量%のトゥイーン 80;約0.25?2重量%のステアリン酸マグネシウムおよび約0.0?3重量%のアスコルビン酸ナトリウムまたはブチル化ヒドロキシアニソールを含有する安定な固体の経口用医薬組成物である。
本発明は、また、高コレステロール血症または高脂質血症を経口的に治療するための、安定化添加剤を含有する式Iによる活性成分の安定な固体の組成物を製造する方法に関するものである。
本発明の好ましい実施化は、また、式IAによる活性成分である CI-981 半-カルシウムを炭酸カルシウムで安定化しそして結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤および場合によっては抗酸化剤を混合することを包含する固体の経口用組成物を製造する方法を提供する。
発明の詳細な説明
あるトランス-6-〔2-(3または4-カルボキサミド-置換されたピロール-1-イル)アルキル〕-4-ヒドロキシピラン-2-オンに相当するピラン開環ヒドロキシ酸は、HMG-CoA レダクターゼの有用な阻害剤でありそして遊離酸形態で使用することができる。ラクトンおよび遊離酸形態の何れも、米国特許第4,681,893号に記載された方法によって製造することができる。この特許は、本明細書中に参照として引用する。遊離酸は、ラクトン形態の加水分解によって、または塩を陽イオン性交換樹脂(H^(+)樹脂)で処理しそして水部分を蒸発することによって製造することができる。これらの遊離酸は、また、医薬的に許容し得る金属またはアミン塩を形成するために反応させることができる。“医薬的に許容し得る金属塩”なる用語は、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄または亜鉛塩などを企図する。“医薬的に許容し得るアミン塩”なる用語は、水酸化アンモニウムまたは有機アミン塩または例えばメチルグルカミン、コリン、アルギニン、1-デオキシ-2-(メチルアミノ)-D-グルシトールなどとの反応によって形成される塩を企図する。
式Iによるヒドロキシ酸化合物またはその金属またはアミン塩が HMG-CoA レダクターゼ阻害剤である限りにおいて、これらの化合物は、高コレステロール血症または高脂質血症の治療に有用である。特に重要な化合物は、現在高コレステロール血症または高脂質血症の治療に対する薬剤として開発下にある HMG-CoA レダクターゼ酵素阻害剤、CI-981 半-カルシウム(式(IA))である。
本発明による好ましい化合物、特に化合物 CI-981 または〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)-カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウム塩は、米国特許第4,681,893号に開示されているCSIスクリーン検査において測定した場合、コレステロールの生合成を阻害する。該特許は、本明細書において参照として引用する。さらに詳しくは、ラットに5%のコレスチラミンを含有する食餌を4日間与えることによって標準の実験室ラットにおける HMG-CoA レダクターゼ酵素活性のレベルを増加させ、その後ラットを犠牲にする。ラットの肝臓を解剖しそして均質化しそしてラットの肝臓ホモジネートによる非鹸化性脂質へのコレステロール-^(14)C-アセテートの取り込み(incorporation)を測定する。1時間の期間にわたるステロール合成の50%阻害に対して必要な化合物のミクロモル濃度を測定しそしてIC_(50)値として示す。化合物 CI-981 半-カルシウム、そのエナンチオマーおよび両者の化合物のラセミ体の代表的例の活性データは、上述した係属中の米国特許出願660,676に開示されている。この米国特許出願は、本明細書中に参照として引用する。

本発明のもっとも好ましい化合物 CI-981(構造式IA)は、エナンチオマー〔R-(R^(*)R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-(フェニルアミノ)-カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸 半-カルシウム塩であるこのキラル形態は、既知の出発物質からまたは以下に示すような上述したおよび本明細書中に参照として引用した同時係属中の特許出願のスキーム2によって既知の方法と同様な方法により製造された物質から合成することができる。

さらに、好ましいキラル形態は、米国特許第4.681,893号、特に例1および2に記載されている方法により製造されたラセミ混合物から製造することができる。該米国特許の説明は、参照として本明細書に引用する。
ラセミ体の言及および好ましい異性体の分離は、同時係属米国特許出願07,660,976の例1?5に例示されているような該米国特許出願に開示されているキラル合成の方法によって遂行することができる。この米国特許出願の説明は、参照として本明細書に引用する。
本発明は、好ましくは式(I)またはより好ましくは式(IA)による抗高コレステロール血症化合物また抗高脂質血症化合物を含有する医薬組成物を提供する。本発明の好ましい有効な立体異性化合物は、1日当り約10?500mgまたは1日につき体重1kg当り約0.1?8.0mgの成人投与レベルで患者に投与される。より好ましい1日当りの投与量は、約0.5?1.0mg/kgの範囲にある。経口的または非経口的投与のために本発明により与えられる単位投与治療実施化は、効力または適用によって、10?500mg、好ましくは20?100mgに変化または調節することができる。
式Iによるヒドロキシ酸化合物は、酸性環境においてラクトン形態に変化し易いので、医薬製剤においてその構造完全性を安定化することが必要である。さらに、化合物は、UVおよび蛍光光線の衝撃下において急速に分解することが測定されている。
本発明の安定な経口用製剤の製造に対して、医薬的に許容し得る不活性担体は、固体であっても液体であってもよい。本発明のもっとも好ましい実施化は、粉末、錠剤、分散性顆粒、カプセルおよびカシエ剤を包含する経口用の固形製剤である。固体の担体は、希釈剤、風味剤、結合剤または錠剤崩壊剤として作用することもできる1種または2種以上の物質であることができる。封入物質も、また、本発明の範囲内にある。
粉末製剤においては、担体は、微細な活性成分との均質な混合物を形成する微細な固体である。錠剤においては、活性成分を、圧縮を容易にする結合性を有する担体物質と混合し、望ましい形状および大きさにする。本発明による経口用粉末または錠剤は、一般に、活性成分約1?50重量%を含有するように企図される。
当業において普通であるように、医薬製剤は、適当な単位使用形態にありそしてこれは、カプセル、カシエ剤または錠剤または適当である場合はこれらの何れかの適当な数である。使用量は、当業者の熟練の範囲内にありそして特定の必要条件および活性成分の生物学的利用能によって変化することができる。
実際に、塩形態の使用は、酸またはラクトン形態の使用に等しい。本発明の範囲内の適当な医薬的に許容し得る塩は、塩基、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、1-デオキシ-2-(メチルアミノ)-D-グルシトール、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄、水酸化アンモニウム、または有機アミン、例えばN-メチルグルカミン、コリン、アルギニンなどから誘導されたものである。好ましくは、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムおよび第一鉄または第二鉄塩は、ナトリウムまたはカリウム塩の溶液に適当な試薬を加えることによってナトリウムまたはカリウム塩から製造される。例えば式Iの化合物のナトリウムまたはカリウム塩の溶液に塩化カルシウムを添加してカルシウム塩を得ることができる。
式(I)または好ましくは式(IA)による構造を有する異性体化合物である本発明の活性なヒドロキシ酸金属塩成分は、以下の例Aに示されるように、ナトリウム塩またはラクトンから製造することができる。
例 A
ナトリウム塩および(または)ラクトンからのカルシウム塩
ラクトン1モル(540.6g)を、MeOH 5lに溶解し、溶解後 H_(2)O 1lを加える。撹拌しながら、NaOH 1当量を加えそして反応を、HPLCによって、2%またはそれ以下のラクトンおよびジオール酸のメチルエステルが残るまで追跡する(Ca(OH)_(2)がCaCl_(2)の添加によって形成するので、過剰のNaOHを使用することはできない)。普通、NaOHは、苛性アルカリ(51.3ml,0.98当量)としてまたはペレット(39.1g,0.98当量)として添加する。
上記操作は、以下の通り示される。

略号“Ph”は、フェニル基の用語に対するものである。加水分解の完了後、H_(2)O 10lを加え、それから生成物を、EtOAc/ヘキサンの1:1混合物で少なくとも2回洗浄する。それぞれの洗浄液は、それぞれEtOAc/ヘキサン 10lを含有しなければならない。もしナトリウム塩が純粋である場合は、MeOH 15lを加える。もしそれが不純でありそして(または)着色している場合は、G-60 木炭 100gを加え、混合物を2時間撹拌し、スーパーセル上で濾過しそして MeOH 15lで洗浄する。検査分析(重量/容量%)を、HPLCにより反応混合物に対して遂行して、溶液中の正確な塩の量を測定する。
その後、約1/2当量または僅かに過剰のCaCl_(2)2H_(2)O(73.5g)を、H_(2)O 20lに溶解する。反応混合物およびCaCl_(2)溶液の両方を、60℃に加熱する。CaCl_(2)溶液を、よく撹拌しながら徐々に加える。添加完了後に、徐々に15℃に冷却しそして濾過する。フィルターケーキを、H_(2)O 5lで洗浄しそして真空かま中で50℃で乾燥する。
生成物をEtOAc(50℃)4lに溶解し、スーパーセル上で濾過し、EtOAc 1lで洗浄し、それから50℃の反応溶液にヘキサン3lを加えることによって、生成物を再結晶することができる。
上記操作は、以下の通り示される。

本発明は、カルシウムの塩基性の無機の医薬的に許容し得る塩、例えば炭酸カルシウムおよび水酸化カルシウムまたはマグネシウムの塩基性の無機の医薬的に許容し得る塩、例えば炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、珪酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウムおよび水酸化マグネシウムアルミニウム、またはリチウムの塩基性の無機の医薬的に許容し得る塩、例えば水酸化リチウムおよび同様なリチウム化合物または他の同様に適当したアルカリ土類金属を使用して、活性成分、例えば CI-981 半-カルシウムを安定化した好ましい組成物を提供する。カルシウム、リチウムまたはマグネシウムのこれらの塩基性の無機塩は、約0.1:1?約50:1の塩化合物:活性成分の間の範囲内の重量比で利用することができる。
本発明の安定化された固体の経口用医薬製剤は、抗高コレステロール血症薬剤または抗高脂質血症薬剤、例えば式IAの CI-981 半-カルシウム(上述した)を何れかの変化または処理環境から保護しそしてまたこれらの薬剤を貯蔵中の光化学分解から保護することを企図するものである。特に、もっとも好ましい活性な化学成分は、式(IA)の化合物 CI-981 半-カルシウムである。本発明による固形製剤は、また、安定化金属またはアルカリ土類金属塩以外に、以下に記載するような組み合わせおよび濃度からなる当該技術において適当な剤として知られているいくつかの添加剤を含有することができる。
本発明は、限定することなしに、さらに、希釈添加剤、例えば微小結晶性セルロース、含水ラクトース、とうもろこし殿粉、スクロース、無水珪酸、または多糖類(当該技術において適当であるとして知られているような);結合剤、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールまたは殿粉;崩壊剤、例えばカルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムまたは殿粉;表面活性剤、例えばトゥイーン 80またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体を含有することができる。
また、薬剤化合物の酸化を防止するために、抗酸化剤を処方と混合することもできる。例えば、使用することのできる抗酸化剤は、ブチル化ヒドロクスアニソール、アスコルビン酸ナトリウム、ブチル化ヒドロキシトルエン、メタ重硫酸ナトリウム、リンゴ酸、クエン酸およびアスコルビン酸である。
本発明のもっとも好ましい実施化は、活性成分としての CI-981 半-カルシウム、安定化成分としての炭酸カルシウムおよび他の添加剤を含有する固体の経口用組成物に関するものである。
塩基性賦形剤である炭酸カルシウムは、組成物の微環境の有効な調節を与えることが見出された。さらに本発明に対して、微小結晶性セルロースおよび含水ラクトースを適当な希釈剤として適用することができる。さらに、本発明の組成物は、機能的崩壊剤として適当な量のクロスカルメロースナトリウムを含有する。非イオン性の洗浄剤であるトゥイーン 80が表面活性剤として使用される。組成物は、また、例えばポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシメチルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースのようないくつかの適用できる物質から選択された結合剤としてヒドロキシプロピルセルロースを含有する。場合によっては、抗酸化剤として、ブチル化ヒドロキシアニソール、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸または他の抗酸化剤のような試薬を、組成物に混合することができる。ステアリン酸マグネシウムは、ステアリン酸、パルミチン酸、タルクまたは同様な滑沢化合物のような他の物質を包含する群から選択することができる。
場合によっては、当業者に普通のものとして知られている防腐剤、乾燥剤、滑走剤または着色剤のような他の可能な補助成分を、本発明の組成物に含有させることができる。
本発明の好ましい実施化によれば、製剤は、重量で次の成分の濃度範囲を含有する。活性成分すなわち薬剤の濃度は、約1?50%の範囲にある。炭酸カルシウムは約5?75%;微小結晶性セルロースは約5?75%;含水ラクトースは約1?80%;クロスカルメロースナトリウムは約1?15%;ヒドロキシプロピルセルロースは約0.5?6%;トゥイーン 80は約0.1?4%;ステアリン酸マグネシウムは約0.25?2%そしてアスコルビン酸ナトリウム(またはアスコルビン酸)は約0.0?3%の範囲にある。
本発明による製剤の好ましい組成は、重量で次の成分の濃度を含有している。薬剤6.91%;炭酸カルシウム22%;微小結晶性セルロース40%;含水ラクトース22.19%;クロスカルメロースナトリウム6%;ヒドロキシプロピルセルロース2%;トゥイーン 80 0.4%;およびステアリン酸マグネシウム0.5%;さらに場合によってはアスコルビン酸ナトリウムのような抗酸化剤0.02%。
特に、CI-981 半-カルシウムは、湿式-顆粒法により製造された組成物において急速に劣化する。それ故に、炭酸カルシウムを加えることによって、この薬剤に対する固形製剤を、薬剤の安定性を低下させることなしに、湿式顆粒法により製造することができるということは、驚くべき発見である。
医薬組成物の製法
本発明による固体の医薬組成物を製造する方法は、(a)式Iまたは式IA(CI-981 半-カルシウム)の化合物である過剰の薬剤を微粉砕化し;(b)少なくとも1種の結合剤添加物を水性表面活性剤溶液に溶解し;(c)上記の微粉砕化した薬剤を、チョッピング装置を具備した回転混合容器中において、少なくとも1種の薬剤-安定化添加剤および該薬剤-安定化添加剤と一緒に少なくとも1種の希釈剤添加物および崩壊剤添加物の半量と混合し;(d)チョッパーを具備した混合容器中において、工程(c)の混合した薬剤成分混合物を徐々な増加量の工程(b)の表面活性剤/結合剤溶液で造粒し;(e)造粒した薬剤混合物を約50℃で一夜乾燥し;(f)乾燥した造粒薬剤混合物をふるいにかけ;(g)ふるいにかけた薬剤混合物を残りの量の崩壊剤添加物と回転混合し;(h)工程(g)の薬剤混合物のアリコートを別個にステアリン酸マグネシウムと混合し、この混合物をふるいにかけそしてこれを工程(g)の薬剤混合物に戻しそして全体の薬剤混合物を回転混合しそして工程(h)の薬剤混合物のアリコートを、適当な薬剤濃度を有する錠剤に圧縮する工程を包含する。
さらに詳しくは、本発明の好ましい実施化は、以下の実施例に示すバッチ操作によって製造することができる。
実施例1(プロトコール)
経口的治療のために処方された組成物1.5kgを製造するために、次の工程を実施した。
(a)約5重量%過剰の CI-981 半-カルシウムを、Number 0 RHスクリーン(0.027″)を具備したModel D Fitzmillを通して通過させる。ミルは、前進衝撃をもって高速度で操作する。工程(c)のために、微粉砕化した薬剤103.65gを正確に計量する。
(b)適当な量(6.0g)のトゥイーン 80を、約50℃に加熱した精製水100mlに溶解しそして約5分混合する。同様に、ヒドロキシプロピルセルロース(30.0g)をこの温トゥイーン 80溶液に分散しそして約5分混合し、残りの精製水(500ml)を加えそしてそれから、全体の混合物を少なくとも4時間水和化させる。
(c)その後、微粉砕化した薬剤 CI-981 半-カルシウム(103.65g)、炭酸カルシウム(330.0g)、微小結晶性セルロース(600.0g)、含水ラクトース(332.85g)およびクロスカルメロースナトリウムの50%(45.0g)を、300rpmおよびショッパー速度1で操作するミキサーを使用して10lのCollette Gral中で約5分間混合する。
(d)300rpmで操作されるミキサー上で30?60秒にわたって工程(b)の溶液を加えることによって、工程(c)の混合製剤を工程(b)の溶液で造粒し;それから混合を、300rpmのミキサー速度およびチョッパー速度1を使用して混合を全体で3分までつづけ;そしてボウルを低下しそして物質を、混合装置の羽根および頂部から削り落す。その後、必要に応じて十分な顆粒硬度を得るために、追加量の精製水および3分の時間増加混合を使用して、300rpmおよびチョッパー速度1で操作されるミキサーでさらに3分再混合する。
(e)造粒した製剤を、紙-裏張りしたトレー上に拡散し、約2%のLODまで50℃で一夜乾燥する。
(f)乾燥した頼粒を、0.032″スクリーンを具備したQuadromill(Comill)を通して通過させる。
(g)微粉砕化した顆粒の約半量、次いでクロスカルメロースナトリウムの残りの50%(w/w)(45.0g)そして最後に残りの微粉砕化した顆粒を、4qt.のツゥイン シェル ブレンダー(twin shell blender)に移す。全体の混合物を10分回転混合する。
(h)工程(g)から得られた混合物約50gを取出しそしてステアリン酸マグネシウム(7.50g)と混合し;この側混合物を、#40 メッシュスクリーンを通過させそして4qt.のツゥイン シェル ブレンダーに戻しそして全体の混合物を、5分間回転混合する。
(i)最後に、最終混合物の適当なアリコートを圧縮して所望の薬剤濃度を含有する錠剤を得る。
実施例2
工程(b)を以下の通り実施することを除いては、実施例2における工程は、すべて実施例1におけると同じである。
(2b) 第一に、トゥイーン 80(6.0g)を5℃に加熱された精製水100mlに溶解し;第二に、5分の機械的撹拌後に、ヒドロキシプロピルセルロース(30.0g)をトゥイーン 80溶液に分散しそしてさらに約5分混合し;第三に(そして場合によっては)、アスコルビン酸ナトリウム(0.3g)を残りの容量の精製水に溶解しそしてトゥイーン 80-ヒドロキシプロピルセルロース混合物に加える。その後、混合物を、少なくとも4時間水和化させる。
実施例3
工程(b)を以下の通り実施することを除いては、この実施例の実施化における工程は、すべて実施例1に記載した通りである。
第一に、トゥイーン 80を、50℃に加熱された精製水100mlに溶解する。
第二に、ブチル化ヒドロキシアニソールを、エタノール10mlに溶解し、この溶液をトゥイーン 80混合物に加えそして5分撹拌する。第三に、ヒドロキシプロピルセルロースを上記混合物中に分散しそして約5分撹拌する。残りの精製水を混合物に加え、それから、これを少なくとも4時間水和化させる。
上述した実施例で製造された錠剤は、すべて、約3%重量増加までフィルム被覆した。
CI-981を含有する好ましい抗高コレステロール血症または抗高脂質血症製剤の比較安定性を、上昇した温度で高度に加速されたストレス条件下で試験した。特に、CI-981処方の安定性は、炭酸カルシウムの存在(実施例4)下または不存在(実施例5)下、2.5mgの活性成分使用量において、実施例3の方法により製造された粉末混合物を比較することにより試験した。試料は、45℃または60℃で2週間および4週間二重に貯蔵しそしてそれから逆相高性能液体クロマトグラフィー

カラム〔長さ8cm,ビード(bead)5-μ〕およびpH4.0に調節されたトリエチルアミン、酢酸ナトリウムを含有する水性緩衝液中のアセトニトリル(35:65)の移動相を使用する。244nmの検出波長を使用した。
結果は、実施例4の炭酸カルシウム含有製剤は、60℃で2週間後においては薬剤CI-981の検出できる喪失はなくそして45℃で4週間後においては約0.25重量%の無視できる喪失があるにすぎずそして60℃で4週間後においては約0.5重量%の喪失があるにすぎないことを示す。これに反して、炭酸カルシウムを含有していない実施例5の処方は、45℃で4週間の貯蔵後においては約2.45重量%の成分を喪失し、60℃で2週間後においてはCI-981の約4.12重量%そして60℃で4週間後においてはCI981の約5.3重量%を喪失する。

第二のセットの比較データ(表II参照)は、組成物を、炭酸カルシウムを使用して(実施例6)および炭酸カルシウムを使用しないで(実施例7)2.5mgの濃度でカプセル中に充填した、実施例3のプロトコールによって製造された実施例6および実施例7の製剤に関するものである。HPLCにより測定した場合、実施例6の処方は、45℃で4週間後にCI-981の約0.5重量%そして60℃で2週間後にCI-981の約2.2重量%を喪失する。実施例7のカプセル製剤は、45℃で4週間後に約4.4重量%減少したCI-981含量を有す。60℃で2週間後においては、HPLC により測定して、CI-981 半-カルシウムの約14重量を喪失した。

最後に、本発明による好ましい製剤の安定性を、炭酸カルシウムを含有する被覆された錠剤(実施例8)の形態で試験した(表III参照)。特に、実施例8の製剤を、45℃で4週間貯蔵しそしてCI-981の約0.5重量%を喪失した。60℃で2週間後においては、組成物(実施例8)は、約0.9重量%少ない活性成分を含有しそして60℃で4週間後においては、約1.7重量%少ない活性成分を含有する。明らかに、炭酸カルシウムを含有する好ましい実施化による製剤は、安定な固体の組成物を製造する方法の湿式造粒工程中および粉末混合物、カプセルまたは被覆錠剤の形態におけるその後の貯蔵中の両方において、活性化合物の完全性を有効に保護する。

結果として、上述した本発明の何れの剤形変化も、請求の範囲に記載された発明の精神および範囲から離脱するものとみなされるべきではない。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-11-13 
結審通知日 2012-11-19 
審決日 2012-12-05 
出願番号 特願平6-517015
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 内藤 伸一  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 中村 浩
横尾 俊一
登録日 2001-11-22 
登録番号 特許第3254219号(P3254219)
発明の名称 安定な経口用のCI-981製剤およびその製法  
代理人 高木 千嘉  
復代理人 宮澤 純子  
代理人 森田 ひとみ  
復代理人 結田 純次  
復代理人 室伏 良信  
代理人 結田 純次  
代理人 竹林 則幸  
代理人 室伏 良信  
代理人 高木 千嘉  
復代理人 森田 ひとみ  
代理人 生田 哲郎  
代理人 佐野 辰巳  
復代理人 竹林 則幸  
代理人 高橋 隆二  
代理人 宮澤 純子  

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