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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1316575
審判番号 不服2014-17148  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-29 
確定日 2016-06-29 
事件の表示 特願2010-504151「ポリカルバゾリル(メタ)アクリレート発光組成物」拒絶査定不服審判事件〔2010年10月30日国際公開、WO2008/130805、平成22年 7月22日国内公表、特表2010-525111〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、2008年4月2日(パリ条約に基づく優先権主張:2007年4月17日、米国)の国際出願日に出願されたものとみなされる特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成21年10月 2日 国内書面(願書・明細書等の翻訳文)
平成23年 3月30日 手続補正書
同日 出願審査請求
平成24年12月25日付け 拒絶理由通知
平成25年 7月 5日 意見書・手続補正書
平成26年 4月21日付け 拒絶査定
平成26年 8月29日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成26年 9月 8日付け 手続補正指令(方式)
平成26年10月 8日 手続補正書(審判請求理由補充)
平成26年10月15日付け 審査前置移管
平成26年12月25日付け 前置報告書
平成27年 1月 9日付け 審査前置解除

第2 平成26年8月29日付け手続補正の却下の決定

<結論>
平成26年8月29日付け手続補正を却下する。

<却下の理由>
I.補正の内容
上記手続補正(以下「本件補正」という。)では、特許請求の範囲につき下記の補正がされている。

1.補正前(平成25年7月5日付け手続補正後のもの)
「【請求項1】
1種以上のりん光性有機金属化合物と下記式Iのモノマーの1種以上から導かれる構造単位を含むポリマーとを含んでなる組成物であって、上記1種以上のりん光性有機金属化合物が式L_(2)MZを有する、組成物。
【化1】


式中、
R^(1)はH又はCH_(3)であり、
R^(2)はH又はC_(1)?C_(5)アルキルであり、
R^(3)はH又はCH_(3)であり、
R^(4)及びR^(5)は独立にH、CH_(3)、t-ブチル、トリアリールシリル、トリアルキルシリル、ジフェニルホスフィンオキシド又はジフェニルホスフィンスルフィドであり、
mは1?20であり、
nは1?20である。
L及びZは、独立に、フェニルピリジン、トリルピリジン、ベンゾチエニルピリジン、フェニルイソキノリン、ジベンゾキノザリン、フルオレニルピリジン、ケトピロール、ピコリネート、アセチルアセトネート、ヘキサフルオロアセチルアセトネート、サリチリデン、8-ヒドロキシキノリネート、サリチルアルデヒド、イミノアセトネート、2-(1-ナフチル)ベンゾオキサゾール、2-フェニルベンゾオキサゾール、2-フェニルベンゾチアゾール、クマリン、チエニルピリジン、フェニルピリジン、ベンゾチエニルピリジン、3-メトキシ-2-フェニルピリジン、チエニルピリジン、フェニルイミン、ビニルピリジン、ピリジルナフタレン、ピリジルピロール、ピリジルイミダゾール、フェニルインドール、これらの誘導体又はこれらの組合せから導かれる二座配位子であり、
MはGa、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Lu、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Ga、Ge、In、Sn、Sb、Tl、Pb、Bi、Eu、Tb、La、Po又はこれらの組合せである。
【請求項2】
ポリマーが次式のモノマーの1種以上から導かれる構造単位を含む、請求項1記載の組成物。
【化2】


式中、R^(1)はH又はCH_(3)である。
【請求項3】
ポリマーがさらに、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アミド、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アミド又はこれらの組合せから導かれる構造単位を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
MがIrである、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
Lがシクロメタレート化配位子である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
Lが2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジンから導かれる、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
Zがピコリネートから導かれる、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
1種以上のりん光性有機金属化合物が次式の化合物である、請求項1記載の組成物。
【化3】


式中、
R^(11)及びR^(12)は一緒に置換又は非置換の単環式又は二環式ヘテロ芳香環を形成し、
R^(13)及びR^(14)は各々独立にハロ、ニトロ、ヒドロキシ、アミノ、アルキル、アリール、アリールアルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、置換アルキル、置換アリール又は置換アリールアルキルであり、
p及びqは独立に0又は1?4の整数である。
【請求項9】
1種以上のりん光性有機金属化合物が次式の化合物である、請求項1記載の組成物。
【化4】


【請求項10】
1種以上のりん光性有機金属化合物が青色りん光色素、緑色りん光色素又は赤色りん光色素である、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
りん光性有機金属化合物が次式の化合物であり、
【化5】


ポリマーが次式のモノマーから導かれる構造単位を含む、請求項1記載の組成物。
【化6】


【請求項12】
りん光性有機金属化合物が次式の化合物であり、
【化7】


ポリマーが次式のモノマーから導かれる構造単位を含む、請求項1記載の組成物。
【化8】


【請求項13】
1以上の電極と、
1以上の電荷注入層と、
請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の組成物を含む1以上の発光層とを含んでなる有機発光デバイス。」
(以下、「旧請求項1」ないし「旧請求項13」という。)

2.補正後
「【請求項1】
1種以上のりん光性有機金属化合物と下記式Iのモノマーの1種以上から導かれる構造単位を含むポリマーとを含んでなる組成物であって、上記1種以上のりん光性有機金属化合物が式L_(2)MZを有する、組成物。
【化1】


式中、
R^(1)はCH_(3)であり、
R^(2)はH又はC_(1)?C_(5)アルキルであり、
R^(3)はH又はCH_(3)であり、
R^(4)及びR^(5)は独立にH、CH_(3)、t-ブチル、トリアリールシリル、トリアルキルシリル、ジフェニルホスフィンオキシド又はジフェニルホスフィンスルフィドであり、
mは1?20であり、
nは1?20である。
L及びZは、独立に、フェニルピリジン、トリルピリジン、ベンゾチエニルピリジン、フェニルイソキノリン、ジベンゾキノザリン、フルオレニルピリジン、ケトピロール、ピコリネート、アセチルアセトネート、ヘキサフルオロアセチルアセトネート、サリチリデン、8-ヒドロキシキノリネート、サリチルアルデヒド、イミノアセトネート、2-(1-ナフチル)ベンゾオキサゾール、2-フェニルベンゾオキサゾール、2-フェニルベンゾチアゾール、クマリン、チエニルピリジン、フェニルピリジン、ベンゾチエニルピリジン、3-メトキシ-2-フェニルピリジン、チエニルピリジン、フェニルイミン、ビニルピリジン、ピリジルナフタレン、ピリジルピロール、ピリジルイミダゾール、フェニルインドール、これらの誘導体又はこれらの組合せから導かれる二座配位子であり、
MはGa、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Lu、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Ga、Ge、In、Sn、Sb、Tl、Pb、Bi、Eu、Tb、La、Po又はこれらの組合せである。
【請求項2】
ポリマーが次式のモノマーの1種以上から導かれる構造単位を含む、請求項1記載の組成物。
【化2】


式中、R^(1)はCH_(3)である。
【請求項3】
ポリマーがさらに、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アミド、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アミド又はこれらの組合せから導かれる構造単位を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
MがIrである、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
Lがシクロメタレート化配位子である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
Lが2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジンから導かれる、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
Zがピコリネートから導かれる、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
1種以上のりん光性有機金属化合物が次式の化合物である、請求項1記載の組成物。
【化3】


式中、
R^(11)及びR^(12)は一緒に置換又は非置換の単環式又は二環式ヘテロ芳香環を形成し、
R^(13)及びR^(14)は各々独立にハロ、ニトロ、ヒドロキシ、アミノ、アルキル、アリール、アリールアルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、置換アルキル、置換アリール又は置換アリールアルキルであり、
p及びqは独立に0又は1?4の整数である。
【請求項9】
1種以上のりん光性有機金属化合物が次式の化合物である、請求項1記載の組成物。
【化4】


【請求項10】
1種以上のりん光性有機金属化合物が青色りん光色素、緑色りん光色素又は赤色りん光色素である、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
りん光性有機金属化合物が次式の化合物であり、
【化5】


ポリマーが次式のモノマーから導かれる構造単位を含む、請求項1記載の組成物。
【化6】


【請求項12】
1以上の電極と、
1以上の電荷注入層と、
請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の組成物を含む1以上の発光層とを含んでなる有機発光デバイス。」
(以下、「新請求項1」ないし「新請求項12」という。)

II.補正事項に係る検討

1.新規事項の追加の有無
まず、本件補正に係る各事項が、特許法第184条の6第2項の規定により、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面とみなされる国際出願日における明細書、請求の範囲又は図面の中の説明の各翻訳文並びに図面(以下「本願当初明細書」という。)に記載した事項の範囲内のものかにつき検討すると、本件補正に係る各事項は、全ての事項につき本願当初明細書に記載しているか、本願当初明細書に記載した事項に基づき当業者に一応自明な事項のみである。
したがって、本件補正は、本願当初明細書に記載した事項の範囲内で行われたものと認められる。

2.補正の目的の適否
次に、本件補正は、上記I.のとおり、特許請求の範囲に係る補正事項を含むので、平成23年法律第63号による改正前の特許法(以下「特許法」という。)第17条の2第5項各号に掲げる事項を目的とするものか否かにつき検討する。
本件補正では、旧請求項1及び2において、それぞれ、「R^(1)はH又はCH_(3)であり」とされていたものを、新請求項1及び2においては、「R^(1)はCH_(3)であり」と補正されている。
そして、旧請求項12を削除すると共に、旧請求項13における「請求項1乃至請求項12の」なる引用事項につき「請求項1乃至請求項11の」なる引用事項にした上で、新請求項12に項番を繰り上げている。
しかるに、旧請求項1及び2に係る上記補正は、本件補正前の「R^(1)」基に係る並列的選択肢の一部を削除するものであるから、当該補正は、特許請求の範囲を実質的に減縮するものと認められる。
また、上記旧請求項12の削除は、請求項の削除を目的とすることが明らかであるし、旧請求項13に係る補正は、当該旧請求項12の削除に伴い、引用関係が不明瞭となったものを単に正しているものと認められるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
なお、旧請求項1又は2をそれぞれ引用する旧請求項3ないし11については、引用関係を維持したままで、新請求項1又は2をそれぞれ引用する新請求項3ないし11とされており、新旧の請求項1及び2を引用する引用関係については変化していない。
以上を総合すると、本件補正により、新請求項1ないし11及び12に係る各発明は、旧請求項1ないし11及び13に係る各発明との間で、解決しようとする課題及び産業上の利用分野をそれぞれ一にするものであることが明らかであるから、旧請求項1ないし13を新請求項1ないし12とする本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。

3.特許請求の範囲の実質的拡張・変更の有無
上記2.で説示したとおり、本件補正における新旧の請求項1及び2に係る補正は、特許請求の範囲を実質的に減縮するものと認められるから、新請求項1又は2を引用する新請求項3ないし12についても、本件補正により特許請求の範囲を実質的に減縮するものと認められ、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

4.独立特許要件
上記2.のとおり、上記特許請求の範囲に係る手続補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、新請求項1に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かにつき検討する。

(1)新請求項に係る発明
新請求項1に係る発明は、新請求項1に記載された事項で特定されるとおりのものであり、再掲すると以下のとおりの記載事項により特定されるものである。
「1種以上のりん光性有機金属化合物と下記式Iのモノマーの1種以上から導かれる構造単位を含むポリマーとを含んでなる組成物であって、上記1種以上のりん光性有機金属化合物が式L_(2)MZを有する、組成物。
【化1】


式中、
R^(1)はCH_(3)であり、
R^(2)はH又はC_(1)?C_(5)アルキルであり、
R^(3)はH又はCH_(3)であり、
R^(4)及びR^(5)は独立にH、CH_(3)、t-ブチル、トリアリールシリル、トリアルキルシリル、ジフェニルホスフィンオキシド又はジフェニルホスフィンスルフィドであり、
mは1?20であり、
nは1?20である。
L及びZは、独立に、フェニルピリジン、トリルピリジン、ベンゾチエニルピリジン、フェニルイソキノリン、ジベンゾキノザリン、フルオレニルピリジン、ケトピロール、ピコリネート、アセチルアセトネート、ヘキサフルオロアセチルアセトネート、サリチリデン、8-ヒドロキシキノリネート、サリチルアルデヒド、イミノアセトネート、2-(1-ナフチル)ベンゾオキサゾール、2-フェニルベンゾオキサゾール、2-フェニルベンゾチアゾール、クマリン、チエニルピリジン、フェニルピリジン、ベンゾチエニルピリジン、3-メトキシ-2-フェニルピリジン、チエニルピリジン、フェニルイミン、ビニルピリジン、ピリジルナフタレン、ピリジルピロール、ピリジルイミダゾール、フェニルインドール、これらの誘導体又はこれらの組合せから導かれる二座配位子であり、
MはGa、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Lu、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Ga、Ge、In、Sn、Sb、Tl、Pb、Bi、Eu、Tb、La、Po又はこれらの組合せである。」
(以下、「本件補正発明」という。)

(2)検討
しかるに、本件補正発明については、下記の理由により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

・本件補正発明は、本願の出願(優先日)前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。



引用刊行物:
1.特開2005-285381号公報(原審における「引用例A」)
2.CHEMISTRY OF MATERIALS,Vol.18,No.2,P.386-395(2006)(同「引用例B」)
3.JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,Vol.44,No.6A,P.4182-4186(2005)(同「引用例C」)
4.CHEMISTRY OF MATERIALS,Vol.14,No.1,P.89-95(2002)(同「引用例D」)
5.MACROMOLECULES,Vol.35,No.9,P.3686-3689(2002)(同「引用例E」)
6.SYNTHETIC METALS,Vol.121,No.1-3,P.1733-1734(2001)(同「引用例F」)
7.SYNTHETIC METALS,Vol.111-112,P.489-491(2000)(同「引用例G」)
(以下、上記「1.」を「引用例」といい、上記「2.」ないし「7.」を「周知例1」ないし「周知例6」という。)

ア.引用例及び各周知例に記載された事項

(ア)引用例
上記引用例には、以下の事項が記載されている。

(1a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する有機電界発光素子であって、該発光層がりん光発光材料と、ホール移動度が電界強度1×10^(5)(V/cm)で1×10^(-6)(cm^(2)V^(-1)s^(-1))以上でありかつ最低励起三重項エネルギー準位が276kJ/mol(66kcal/mol)以上314kJ/mol(75kcal/mol)以下の値を有するホストポリマーとを含有することを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記発光層に、さらに最低励起三重項エネルギー準位が251kJ/mol(60kcal/mol)以上314kJ/mol(75kcal/mol)以下である電子輸送性化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記ホストポリマーが下記の一般式(I)で表されるカルバゾール骨格を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の有機電界発光素子。
一般式(I)
【化1】


(R_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(4)、R_(5)、R_(6)、R_(7)、R_(8)及びR_(9)は同一であっても異なってもよく、単結合、水素原子又は置換基を表し、このうち少なくとも一つが主鎖に連結する。)」

(1b)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギーを光に変換して発光する有機電界発光(EL)素子に関する。」
(1c)
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低電圧駆動、高効率、及び高耐久性を有する有機電界発光素子の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、高いホール移動度と高い最低励起三重項エネルギー準位を有するポリマーを用いることにより、低電圧駆動、高効率である有機電界発光素子を見出した。
さらに高い最低励起三重項エネルギー準位を有する電子輸送材料とを併用することにより、駆動電圧及び効率において顕著な効果を奏する有機電界発光素子を見出した。さらに従来にない高い耐久性を有する有機電界発光素子を発見し本発明に至った。
・・(後略)」

(1d)
「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、りん光発光をする、高発光効率、低駆動電圧、かつ高い耐久性を有する有機電界発光素子を提供することができる。」

(1e)
「【0013】
(ホストポリマー)
本発明における発光層に含有されるホストポリマーは、駆動電圧を低下させることから、そのホール移動度は25℃で電界強度が1×10^(5)(V/cm)の時、1×10^(-6)(cm^(2)V^(-1)s^(-1))以上の値を示す必要があるが、さらに同条件で1.1×10^(-6)(cm^(2)V^(-1)s^(-1))以上であることが好ましく、1.2×10^(-6)(cm^(2)V^(-1)s^(-1))以上であることがよりが好ましく、1.3×10^(-6)(cm^(2)V^(-1)s^(-1))以上であることが特に好ましい。
・・(中略)・・
【0015】
本発明におけるホストポリマーは、該ポストポリマーからりん光発光材料に励起子エネルギーを移動させる機能を果たす。したがって、ホストポリマーの最低励起三重項エネルギー準位(T1)は、りん光発光材料より高くすることが必要であり、具体的には、可視光の中でも最も短波長である青色りん光発光材料のT1より高くする必要があり、その範囲は276kJ/mol(66kcal/mol)以上314kJ/mol(75kcal/mol)以下である。
・・(中略)・・
【0016】
本発明におけるホストポリマーにおいて、ホール輸送を担うクロモフォアの骨格は、とくに限定されないが、カルバゾール、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、イミダゾール、ポリアリールアルカン、ピラゾリン、ピラゾロン、フェニレンジアミン、アリールアミン、アミノ置換カルコン、スチリルアントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、シラザン、芳香族第三級アミン、スチリルアミン、芳香族ジメチリディン、ポルフィリンなどが挙げられるが、この中でもカルバゾール、芳香族第三級アミンがより好ましく、カルバゾールがが最も好ましい。カルバゾールは下記の一般式(I)で表される骨格である。
【0017】
【化2】


【0018】
R_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(4)、R_(5)、R_(6)、R_(7)、R_(8)及びR_(9)は同一であっても異なってもよく、単結合、水素原子又は置換基を表し、このうち少なくとも一つが直接あるいは間接的に主鎖に連結する。
【0019】
該主鎖としては、ポリエチレン、ポリオキシエチレン等があげられ、本発明に用いられる一般式(I)と連結が可能であれば、特に限定されず用いることができる。
・・(中略)・・
【0022】
以下に本発明におけるホストポリマーの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
【化3】


【0024】
以下に、本発明で用いるポストポリマーの製法を具体例で記す。
【0025】
【化4】


【0026】
工程1:9-エトキシカルバゾール(シグマアルドリッチ社製)13.0g、トリエチルアミン20mLを塩化メチレン260mLに仕込み、氷浴で冷却した。さらに塩化アクリロイル6.73gを塩化メチレン26mLに溶かした溶液を15分かけて滴下し、室温で2時間攪拌した。水を加え、分液抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。これをろ過し、得られたろ液をエバポレーションした。カラムクロマトグラフィーで精製し、得られた留分を熱ヘキサンで再結晶し、ろ取後、乾燥して、中間体Aの白色結晶7.4gを得た。
【0027】
工程2:前記中間体A1.6gをトルエン10mLに溶かし、アゾビスイソブチロニトリル47mgを添加した。この溶液を80-90℃で9時間攪拌した。得られた溶液をろ過し、メタノール中に加え、再沈殿した。さらに再沈殿を2回繰り返し、得られた白色固体を吸引ろ過し、乾燥して、P-1の白色固体1.0gを得た。数平均分子量=16000、重量平均分子量=32000。
・・(中略)・・
【0031】
(物性データ)
(ホール移動度測定)
ポリビニルカルバゾール(シグマアルドリッチ社製)の移動度を、「シンセティック メタルズ(Synth.Met.)111/112,(2000) 331ページ」を参考に、タイム オブ フライト法により測定したところ、25℃電界強度1×10^(5)(V/cm)で1×10^(-6)(cm^(2)V^(-1)s^(-1))であった。
【0032】
(T1測定)
ポリビニルカルバゾール(シグマアルドリッチ社製)をクロロホルムに溶かし、石英基板上にスピンコートし、この膜のりん光測定をした。その立ち上がり波長よりT1を算出したところ、276kJ/mol(64kcal/mol)であった。
前記りん光測定の具体的な操作法は、前記の膜を日立製作所製分光蛍光測定装置(T-4500)を用いて77Kで測定するものである。
【0033】
同様の測定を前記P-1とP-2に対し行った。結果を以下の表1に示す。
【0034】
【表1】




(1f)
「【0040】
(発光材料)
本発明で用いられるりん光発光材料は、りん光発光性化合物であるオルトメタル化金属錯体及びポルフィリン金属錯体の少なくとも一つが好ましく用いられ、オルトメタル化金属錯体がより好ましく用いられる。
【0041】
本発明で用いられるオルトメタル化金属錯体について説明する。
オルトメタル化金属錯体とは、例えば「有機金属化学 基礎と応用」p150,232裳華房社 山本明夫著 1982年発行、「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」 p71-p77,p135-p146 Springer-Verlag社 H.Yersin著1987年発行等に記載されている化合物群の総称である。
前記金属錯体の中心金属としては、遷移金属であればいずれも使用可能であるが、本発明では、中でもロジウム、白金、金、イリジウム、ルテニウム、パラジウム等を好ましく用いることができる。この中でより好ましいものはイリジウムである。
オルトメタル化金属錯体の金属の価数は特に限定しないが、イリジウムを用いる場合には3価が好ましい。
オルトメタル化金属錯体の配位子は、オルトメタル化金属錯体を形成しうるものであれば特に問わない。例えば、アリール基置換含窒素芳香族へテロ環誘導体(アリール基の置換位置は、含窒素芳香族へテロ環窒素原子の隣接炭素上であり、アリール基としては例えばフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピレニル基などが挙げられ、含窒素芳香族へテロ環としては、例えば、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、フタラジン、キナゾリン、ナフチリジン、シンノリン、ペリミジン、フェナントロリン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、フェナントリジンなどが挙げられる)、ヘテロアリール基置換含窒素芳香族へテロ環誘導体(ヘテロアリール基の置換位置は含窒素芳香族へテロ環窒素原子の隣接炭素上であり、ヘテロアリール基としては例えば前記の含窒素芳香族へテロ環誘導体を含有する基、チオフェニル基、フリル基などが挙げられる)、7,8-ベンゾキノリン誘導体、ホスフィノアリール誘導体、ホスフィノヘテロアリール誘導体、ホスフィノキシアリール誘導体、ホスフィノキシヘテロアリール誘導体、アミノメチルアリール誘導体、アミノメチルヘテロアリール誘導体等が挙げられる。このうちアリール基置換含窒素芳香族ヘテロ環誘導体、ヘテロアリール基置換含窒素芳香族ヘテロ環誘導体、7,8-ベンゾキノリン誘導体が好ましく、フェニルピリジン誘導体、チオフェニルピリジン誘導体、7,8-ベンゾキノリン誘導体がより好ましく、チオフェニルピリジン誘導体、7,8-ベンゾキノリン誘導体が更に好ましい。」

(1g)
「【実施例】
【0063】
以下に本発明を実施例を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明に用いるりん光発光材料G-1を以下に示す。
【0064】
【化7】


【0065】
(実施例1)
25mmx25mmx0.7mmのガラス基板上にITOを150nmの厚さで製膜したもの(東京三容真空(株)製)を透明支持基板とする。この透明支持基板をエッチング、洗浄する。このITOガラス基板上に、ホール輸送層のBaytron P(PEDOT-PSS溶液(ポリエチレンジオキシチオフェン-ポリスチレンスルホン酸ドープ体)/バイエル社製)をスピンコートした後、100℃で1時間真空乾燥し、ホール輸送層とする(膜厚約100nm)。この上に発光層ホストポリマーP-1 40mg、りん光発光材料G-1(上記構造)1mg、電子輸送性化合物ET-2 6mgを1,2-ジクロロエタン3mLに溶解した溶液をスピンコートし、発光層とする(膜厚約50nm)。次いで、電子輸送材料ET-2を蒸着し、電子輸送層とする(膜厚約36nm)。さらにLiFを膜厚約3nmを順に10-3?10-4Paの真空中で、室温の条件下で蒸着する。この上にパターニングしたマスク(発光面積が5nmx4nmとなるマスク)を設置し、アルミニウムを膜厚約400nm蒸着して素子を作製する。なお、作製した素子は乾燥グローブボックス内で封止する。
【0066】
(実施例2)
実施例1の素子において、ホストポリマーP-1の代わりにP-2を用いる以外は実施例1と全く同様にして素子を作製する。
【0067】
(実施例3)
実施例1の素子において、電子輸送性化合物ET-2を発光層中に用いない以外は実施例1と全く同様にして素子を作製する。
【0068】
(比較例1)
実施例1の素子において、ホストポリマーP-1の代わりにPVKを用いる以外は実施例1と全く同様にして素子を作製する。
【0069】
(比較例2)
【0070】
比較例1の素子において、電子輸送性化合物ET-2を発光層中に用いない以外は実施例1と全く同様にして素子を作製する。
【0071】
(素子評価)
東陽テクニカ製ソースメジャーユニット2400を用いて、直流電圧を上記で得られた各素子に印加し、発光させる。輝度が5cd/m^(2)を超えたときの電圧を駆動開始電圧とする。さらに電圧を上げ、輝度をトプコン社製輝度計BM-8を用い、発光スペクトルと発光波長を浜松ホトニクス社製スペクトルアナライザーPMA-11を用いて測定する。これらの数値をもとに、輝度が200cd/m^(2)付近の外部量子効率を輝度換算法により算出する。さらに、以後約6時間ごとに、トプコン社製輝度計BM-8を用い、輝度を測定する。これらの数値をもとに、約100cd/cm^(2)となる時間を算出し、輝度半減期とする。
【0072】
以上の結果を下の表にまとめる。
【0073】
【表3】


【0074】
上記表から明らかなように、実施例1?3は、比較例に比べて、外部量子効率が高く、駆動開始電圧が低く、輝度半減期が長いことがわかる。」

(イ)周知例1ないし6
上記周知例1ないし6には、それぞれ、以下の事項が記載されている。

(a)周知例1
上記周知例1には、2-(9-カルバゾリル)エチルアクリレート(「式23」)のホモポリマー又は当該アクリレートモノマーと他のモノマーとのコポリマー及び有機金属錯体ドーパント(発光材料)を組み合わせた組成物を発光層として有機電界発光素子(OLED)を構成したことが記載されている(全文参照。特に388頁右欄?390頁右欄の「Homopolymers」及び「Copolymers」の各欄、「Scheme3」、「Table1」及び「Table2」の各図表並びに395頁左欄の「OLED Fabrication」の欄を参照。)

(b)周知例2
上記周知例2には、3-(9-カルバゾリル)プロピルアクリレートをIAD法で重合して、燐光発光型又は蛍光発光型の有機発光ダイオード(OLED)の正孔輸送材料層を構成することが記載されており(4182頁右欄29行?4183頁左欄3行、特に「Fig.1」参照。)、さらに当該材料をトリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq_(3))なる発光材料と組み合わせてOLEDを構成することも記載されている(4185頁左欄6行?4186頁左欄図下14行「3.4 OLED fabrication」の欄参照)。

(c)周知例3
上記周知例3には、2-(9-カルバゾリル)エチルメタクリレート(CEM)のホモポリマー及びCEMと3-フェニル-7-メタクリロイルオキシエトキシ-1-メチル-1H-ピラゾロ[3,4-b]キノリン(MEPQ)とのコポリマーを正孔輸送発光材料層としてEL素子を構成したことが記載されている(全文参照。特に、89頁右欄19行?90頁左欄6行、93頁右欄表下24行?35行「Experiment」の欄参照。)。

(d)周知例4
上記周知例4には、N-ドデシルアクリルアミドと2-(9-カルバゾリル)エチルアクリレートとの共重合体からなるLB膜とAlq_(3)の薄層とを組み合わせてEL素子を構成することが記載されている(全文参照。特に3686頁右欄24行?3687頁左欄図下13行「Experimental Section」の欄参照。)。

(e)周知例5
上記周知例5には、2-(9-カルバゾリル)エチルメタクリレート(CEM)のホモポリマー及びCEMと3-(2-メタクリロイルエトキシカルボニル)-7-ジエチロクマリン(MK)とのコポリマーを発光材料層としてEL素子を構成したことが記載されている(全文参照。特に1733頁「2.Materials」の欄及び1734頁「3.3.Electroluminescence」の欄参照。)。

(f)周知例6
上記周知例6には、2-(9-カルバゾリル)エチルメタクリレートと特定の置換基をカルバゾリル基の3位に有する2-(9-カルバゾリル)エチルメタクリレート誘導体とのコポリマーを発光材料層としてEL素子を構成したことが記載されている(全文参照。特に489頁右欄?490頁左欄の「2.Experimental」の欄及び「Fig.1」参照。)。

イ.検討

(ア)引用例に記載された発明
上記引用例には、「一対の電極間に発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する有機電界発光素子であって、該発光層がりん光発光材料と、・・ホストポリマーとを含有することを特徴とする有機電界発光素子」が記載され、「前記ホストポリマーが・・一般式(I)で表されるカルバゾール骨格を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の有機電界発光素子」も記載されている(摘示(1a)【請求項1】及び【請求項3】参照)。
そして、上記引用例には、上記「ホストポリマー」として、「P-1」なるポリマー、すなわちポリ-2-(9-カルバゾリル)エチルアクリレートが使用でき、当該ポリマーが高いホール移動度を有すること(摘示(1e)参照)及び上記「りん光発光材料」としてのオルトメタル化金属錯体として、金属がイリジウム、配位子がフェニルピリジン誘導体などのアリール基置換含窒素芳香族ヘテロ環誘導体であるものが使用でき(摘示(1f)参照)、具体的には「G-1」なる化合物、すなわち、イリジウム(III)ビス(2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C_(2))モノピコリナトが使用できること(摘示(1g)参照)がそれぞれ記載されるとともに、上記「P-1」なるホストポリマーと「G-1」なるりん光発光材料とを組み合わせた組成物で発光層を構成することにより、発光波長503nm、外部量子効率9.0%、駆動開始電圧4V及び輝度半減期120時間を示す電界発光素子に係る実施例(実施例1)についても記載されている(摘示(1g)参照)。
してみると、上記引用例には、上記(1a)ないし(1g)の記載からみて、
「イリジウム(III)ビス(2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C_(2))モノピコリナトなどのオルトメタル化金属錯体であるりん光発光材料と、ポリ-2-(9-カルバゾリル)エチルアクリレートなどのカルバゾール骨格を含むホストポリマーとを含有する有機電界発光素子の発光層形成用の組成物。」
に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものといえる。

(イ)対比・検討

(a)対比
本件補正発明と上記引用発明とを対比すると、引用発明における「オルトメタル化金属錯体であるりん光発光材料」及び「有機電界発光素子の発光層形成用の組成物」は、本件補正発明における「1種以上のりん光性有機金属化合物」及び「組成物」に相当することが明らかである。
そして、本件補正発明における「下記式Iのモノマーの1種以上から導かれる構造単位を含むポリマー」が、カルバゾール骨格を有するポリマーであることは、当業者に自明であるから、引用発明における「カルバゾール骨格を含むホストポリマー」は、本件補正発明における「ポリマー」に相当することも明らかである。
してみると、本件補正発明と上記引用発明とは、
「1種以上のりん光性有機金属化合物とポリマーとを含んでなる組成物」
の点で明らかに一致し、下記の2点で相違するものといえる。

相違点1:「ポリマー」につき、本件補正発明では、「下記式Iのモノマーの1種以上から導かれる構造単位を含むポリマー」であるのに対して、引用発明では、「ポリ-2-(9-カルバゾリル)エチルアクリレートなどのカルバゾール骨格を含むホストポリマー」である点
相違点2:「1種以上のりん光性有機金属化合物」につき、本件補正発明では、「式L_(2)MZを有する」のに対して、引用発明では、「イリジウム(III)ビス(2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C_(2))モノピコリナトなどのオルトメタル化金属錯体である」点

(b)相違点に係る検討

(b-1)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、本件補正発明における「式Iのモノマー」は、末端に(置換された)カルバゾール基を有する炭素数2以上のアルキルメタクリレートであり、当該「モノマー」「から導かれる構造単位を含むポリマー」は、メタクリレートの部分が付加重合した構造単位を含むポリマーであるものと理解される。
それに対して、引用発明における「ポリ-2-(9-カルバゾリル)エチルアクリレート」なる「ホストポリマー」は、末端にカルバゾール基を有する炭素数2のアルキルアクリレートから導かれ、アクリレートの部分が付加重合した構造単位からなる(ホモ)ポリマーであるから、本件補正発明における「ポリマー」と引用発明における「ホストポリマー」との間には、「メタクリレート単位」を含むものであるか、「アクリレート単位」を含むものであるかの点についてのみ、具体的に相違しているものと認められる。
しかるに、上記周知例1ないし6にもそれぞれ記載されているとおり、EL素子を構成する正孔輸送性を有する発光材料又は正孔輸送材料として、ポリ-2-(9-カルバゾリル)エチルアクリレートなどの「アクリレート単位」を含む(9-カルバゾリル)アルキルアクリレートポリマー及び2-(9-カルバゾリル)エチルメタクリレートなどの(9-カルバゾリル)アルキルメタクリレートを構成単位とする「メタクリレート単位」を含む(9-カルバゾリル)アルキルメタクリレートポリマーがいずれも使用できることは、当業者の周知技術であるものといえる。
そして、上記引用例には、「P-1」を含む各ポリマーにつき「ホール移動度」を測定することが記載されている(摘示(1e)参照)のだから、引用発明における「ポリマー」については正孔輸送性が要求されているものと認められる。
してみると、引用発明における「ホストポリマー」として、正孔輸送性を有する「P-1」なるポリ-2-(9-カルバゾリル)エチルアクリレートなどのアクリレート単位を含むものに代えて、正孔輸送性を有する材料として当業者に周知であり、化学構造も極めて類似する2-(9-カルバゾリル)エチルメタクリレートなどの(9-カルバゾリル)アルキルメタクリレートを構成単位とする「メタクリレート単位」を含むポリマー、すなわち本件補正発明における「下記式Iのモノマーの1種以上から導かれる構造単位を含むポリマー」を使用することは、当業者が適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点1は、当業者が適宜なし得ることである。

(b-2)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、引用発明において具体的に使用されている「イリジウム(III)ビス(2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C_(2))モノピコリナト」なる化合物は、「2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C_(2)」なる配位子が2個と「ピコリナト」なる配位子が1個とが、「イリジウム(III)」なる金属に配位した金属錯体であることが当業者に自明であり、特に「2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C_(2)」は、フェニルピリジン誘導体であることも当業者に自明である。
そして、「2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C_(2)」なる配位子が本件補正発明における「L」、「ピコリナト」なる配位子が本件補正発明における「Z」及び「イリジウム(III)」が本件補正発明における「M」にそれぞれ該当することが当業者に自明であるから、引用発明における「イリジウム(III)ビス(2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C_(2))モノピコリナト」なる化合物は、本件補正発明における「式L_(2)MZ」に相当することが明らかである。
(ちなみに、上記化合物は、本件補正発明に係る実施例でりん光性有機金属化合物として使用されている「イリジウム(III)ビス(2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C_(2))(FIrpic)」であると認められる。)
してみると、引用発明において、「式L_(2)MZを有する」「1種以上のりん光性有機金属化合物」とした点は、実質的な相違点であるとはいえないか、当業者が適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点であるとはいえないか、当業者が適宜なし得ることである。

(c)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果につき検討すると、引用例には、ホストポリマーとして、「P-1」を使用した場合(実施例1及び3)に、ホストポリマーとして「PVK」(ポリ-9-ビニルカルバゾール)を使用した場合(比較例1及び2)に比して、外部量子効率、駆動開始電圧及び輝度半減期の点で優れることが記載されている(摘示(1g)参照)から、上記(b-1)で示したとおり、引用発明におけるアクリレートポリマー(「P-1」)に代えて、当該ポリマーと同様に正孔輸送性を有する材料として当業者に周知の本件補正発明におけるメタクリレートポリマーを使用した場合、「PVK」を使用した場合に比して上記の各特性・効果において優れ、引用発明の場合と同程度の各特性・効果を有するであろうことは、当業者が予期し得る範囲のものと認められる。
(なお、本件補正後の明細書の発明の詳細な説明を参酌すると、りん光性有機金属化合物が同一で、ポリ-2-(9-カルバゾリル)エチルメタクリレートを使用した場合(実施例1及び3、【図2】)とポリ-2-(9-カルバゾリル)エチルアクリレートを使用した場合(実施例2及び3、【図3】)との間で、経時的PL強度変化(時間分解PLプロファイル)の点で実質的に同一の傾向となることが記載されており、その点の効果につき実質的な差異があるものとはいえない。)
してみると、本件補正発明が、引用発明に係る効果に比して、当業者が予期し得ない効果を奏するものとも認められない。

(d)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び当業者の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

ウ.検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(3)独立特許要件に係るまとめ
よって、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、その余につき検討するまでもなく、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているものではない。

III.補正の却下の決定のまとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項の規定に違反しているものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願についての当審の判断
平成26年8月29日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願について、平成23年3月30日付け及び平成25年7月5日付けの各手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載内容に基づき、原審の拒絶査定における下記1.の拒絶理由と同一の理由が成立するか否かにつき、以下検討する。

1.原審の拒絶査定の概要
原審において、平成24年12月25日付け拒絶理由通知書で以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。

<拒絶理由通知>
「理由1
この出願の請求項1?15に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物A?Bに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2
この出願の請求項1?15に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物A?Gに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

A.特開2005-285381号公報([特許請求の範囲][0023][実施例]等)
B.CHEMISTRY OF MATERIALS,Vol.18,No.2,P.386-395(2006)
C.JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,Vol.44,No.6A,P.4182-4186(2005)
D.CHEMISTRY OF MATERIALS,Vol.14,No.1,P.89-95(2002)
E.MACROMOLECULES,Vol.35,No.9,P.3686-3689(2002)
F.SYNTHETIC METALS,Vol.121,No.1-3,P.1733-1734(2001)
G.SYNTHETIC METALS,Vol.111-112,P.489-491(2000)
・・(後略)」

<拒絶査定>
「この出願については、平成24年12月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
1 理由1について
拒絶理由通知書で引用した引用例Aの[特許請求の範囲][0025][0040][0041][0064][0065]参照。引用例Aにおける「発光層ホストポリマーP-1」は、本願請求項1中の「式Iのモノマーの1種以上から導かれる構造単位を含むポリマー」、本願請求項2中の「次式のモノマーの1種以上から導かれる構造単位を含む」ポリマー、及び本願請求項12中の「次式のモノマーから導かれる構造単位を含む」ポリマーに相当し、引用例Aにおける「りん光発光性化合物であるオルトメタル化金属錯体」及び「りん光発光材料G-1」は、本願請求項1中の「式L2MZを有する」りん光性有機金属化合物及び請求項4?12で規定されるりん光性有機金属化合物に相当する。
したがって、この出願の請求項1?10、12?13に係る発明は、拒絶理由通知書で引用した引用例Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、依然として先の拒絶理由1が解消していない。

2 理由2について
拒絶理由通知書で引用した引用例D、F、Gには、本願請求項11中の「次式のモノマーから導かれる構造単位を含む」ポリマーに相当するポリマー(2-(9-カルバゾリル)-エチルメタクリレートから導かれる構造単位を含むポリマー)が記載されており、引用例Aに記載されている2-(9-カルバゾリル)-エチルアクリレートから導かれる構造単位を含むポリマーに代えて、このようなポリマーを用いることは、当業者が容易に想到することであり、また、共重合し得る化合物として周知の(メタ)アクリル系化合物を用いてポリマーを構成することも、当業者が容易に想到することである。
本願請求項1?13に係る発明の効果を検討しても、格別顕著な効果が奏されているとはいえない。
この出願の請求項1?13に係る発明は、拒絶理由通知書で引用した引用例A、D、F、Gに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、依然として先の拒絶理由2が解消していない。」

2.当審の判断
当審は、
本願は、原査定における上記「理由1」及び「理由2」と同一の理由により、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである、
と判断する。以下、詳述する。

(1)本願の特許請求の範囲の記載及び本願発明
本願特許請求の範囲の請求項1ないし13には、平成25年7月5日付け手続補正書により補正されて記載されたとおりの事項が記載されており、特に請求項1には、再掲すると以下のとおりの事項が記載されている。
「1種以上のりん光性有機金属化合物と下記式Iのモノマーの1種以上から導かれる構造単位を含むポリマーとを含んでなる組成物であって、上記1種以上のりん光性有機金属化合物が式L_(2)MZを有する、組成物。
【化1】


式中、
R^(1)はH又はCH_(3)であり、
R^(2)はH又はC_(1)?C_(5)アルキルであり、
R^(3)はH又はCH_(3)であり、
R^(4)及びR^(5)は独立にH、CH_(3)、t-ブチル、トリアリールシリル、トリアルキルシリル、ジフェニルホスフィンオキシド又はジフェニルホスフィンスルフィドであり、
mは1?20であり、
nは1?20である。
L及びZは、独立に、フェニルピリジン、トリルピリジン、ベンゾチエニルピリジン、フェニルイソキノリン、ジベンゾキノザリン、フルオレニルピリジン、ケトピロール、ピコリネート、アセチルアセトネート、ヘキサフルオロアセチルアセトネート、サリチリデン、8-ヒドロキシキノリネート、サリチルアルデヒド、イミノアセトネート、2-(1-ナフチル)ベンゾオキサゾール、2-フェニルベンゾオキサゾール、2-フェニルベンゾチアゾール、クマリン、チエニルピリジン、フェニルピリジン、ベンゾチエニルピリジン、3-メトキシ-2-フェニルピリジン、チエニルピリジン、フェニルイミン、ビニルピリジン、ピリジルナフタレン、ピリジルピロール、ピリジルイミダゾール、フェニルインドール、これらの誘導体又はこれらの組合せから導かれる二座配位子であり、
MはGa、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Lu、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Ga、Ge、In、Sn、Sb、Tl、Pb、Bi、Eu、Tb、La、Po又はこれらの組合せである。」
(以下、上記請求項1の記載事項で特定される発明を「本願発明」という。)

(2)各引用例に記載された事項及び引用発明
原審で引用された「引用例A」、「引用例B」、「引用例C」、「引用例D」、「引用例E」、「引用例F」及び「引用例G」は、それぞれ、上記第2のII.4.で引用した「引用例」、「周知例1」、「周知例2」、「周知例3」、「周知例4」、「周知例5」及び「周知例6」であるから、上記「引用例A」ないし「引用例G」には、上記第2のII.4.(2)ア.(ア)及び(イ)(a)ないし(f)で示したとおりの事項が記載されている。
そして、上記「引用例A」には、上記「引用例」に基づき上記第2のII.4.(2)イ.(ア)で認定したとおりの「引用発明」が記載されている。

(3)対比・検討
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「カルバゾール骨格を含むホストポリマー」である「ポリ-2-(9-カルバゾリル)エチルアクリレート」に係る「2-(9-カルバゾリル)エチルアクリレート」なるモノマーは、本願発明における「式Iのモノマー」のR^(1)ないしR^(5)がいずれもHであり、mが1であり、nは1である場合であることが当業者に自明であるから、引用発明における「ポリ-2-(9-カルバゾリル)エチルアクリレート」は、本願発明における「式Iのモノマーの1種以上から導かれる構造単位を含むポリマー」に相当する。
また、引用発明における「オルトメタル化金属錯体であるりん光発光材料」及び「有機電界発光素子の発光層形成用の組成物」は、本願発明における「1種以上のりん光性有機金属化合物」及び「組成物」に相当することが明らかである。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「1種以上のりん光性有機金属化合物と式Iのモノマーの1種以上から導かれる構造単位を含むポリマーとを含んでなる組成物。」
の点で一致し、下記の点でのみ相違する。

相違点a:「1種以上のりん光性有機金属化合物」につき、本願発明では、「式L_(2)MZを有する」のに対して、引用発明では、「イリジウム(III)ビス(2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C_(2))モノピコリナトなどのオルトメタル化金属錯体である」点

しかるに、上記相違点aは、上記第2のII.4.(2)イ.(イ)(a)で指摘した「相違点2」と同一の事項であるから、上記第2のII.4.(2)イ.(イ)(b)(b-2)で説示した理由と同一の理由により、実質的な相違点であるとはいえないか、当業者が適宜なし得ることである。
また、上記第2のII.4.(2)イ.(イ)(c)で説示した理由と同一の理由により、本願発明が引用発明及び当業者の周知技術のものから予期し得ないような顕著な効果を奏するものとも認められない。
してみると、本願発明は、引用発明と同一であって、引用例に記載された発明であるか、引用発明及び当業者の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができるものではない。

(4)まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条の規定により特許を受けることができるものではないから、その他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し拒絶すべきものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願は、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-29 
結審通知日 2016-02-02 
審決日 2016-02-15 
出願番号 特願2010-504151(P2010-504151)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C09K)
P 1 8・ 121- Z (C09K)
P 1 8・ 575- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達也  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 冨士 良宏
橋本 栄和
発明の名称 ポリカルバゾリル(メタ)アクリレート発光組成物  
代理人 黒川 俊久  
代理人 小倉 博  
代理人 荒川 聡志  
代理人 田中 拓人  

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