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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1318769
審判番号 不服2015-18861  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-20 
確定日 2016-09-20 
事件の表示 特願2014-507014「炭化珪素半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月 3日国際公開、WO2013/145022、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月30日を国際出願日とする日本語特許出願であって、平成26年5月28日に国内書面が提出され、平成27年3月3日付けで拒絶理由が通知され、これに対して同年4月24日に手続補正書及び意見書が提出されたが、同年7月30日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月20日に拒絶査定不服の審判請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年10月20日付け手続補正について
1 補正の内容
平成27年10月20日に提出された手続補正書によりなされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、同年4月24日付け手続補正による補正後の特許請求の範囲の記載をさらに補正するものであり、その内容は、請求項1の「前記キャップ材が形成されていた前記炭化珪素層にプラズマ酸化による犠牲酸化膜を形成し、前記犠牲酸化膜を希釈フッ酸で除去する犠牲酸化の工程を繰り返した後に、」との記載を、「前記キャップ材が形成されていた前記炭化珪素層にプラズマ酸化による犠牲酸化膜を形成し、前記犠牲酸化膜を希釈フッ酸で除去する犠牲酸化の工程を繰り返して前記キャップ材の炭素と前記炭化珪素層が反応して形成された炭素化合物を除去した後に、」と補正するものである。(当審注.下線は補正箇所を示し、当審で付加したもの。)

2 補正の適否
(1)特許法第17条の2第3項
本件補正により追加された事項は、特許法第184条の6第2項の規定により本願の願書に添付して提出された明細書とみなされた国際出願日における明細書の段落【0032】に記載されているから、本件補正は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

(2)特許法第17条の2第4項
平成27年3月3日付け拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と、本件補正後の請求項1ないし5に係る発明とは、特許法第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合する。

(3)特許法第17条の2第5項
本件補正は、本件補正前の請求項1ないし5に係る発明を限定的に減縮し、犠牲酸化の工程においてキャップ材の炭素と炭化珪素層が反応して形成された炭素化合物を除去するものに限定するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当するから、同項柱書の規定に適合する。

(4)特許法第17条の2第6項
上記(3)のとおり、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、本件補正が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、すなわち、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、更に検討する。

ア 本件補正発明
本件補正後の請求項1ないし5に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載される事項により特定されるとおりであって、そのうち請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
炭化珪素層の上にゲート酸化膜を備えた炭化珪素半導体装置の製造方法において、
前記炭化珪素層に不純物イオンを注入する工程と、
前記炭化珪素層上に炭素を含むキャップ材を形成した後、アニールをする工程と、
前記キャップ材を除去する工程と、
前記キャップ材が形成されていた前記炭化珪素層にプラズマ酸化による犠牲酸化膜を形成し、前記犠牲酸化膜を希釈フッ酸で除去する犠牲酸化の工程を繰り返して前記キャップ材の炭素と前記炭化珪素層が反応して形成された炭素化合物を除去した後に、ゲート酸化膜を形成する工程とを備えた炭化珪素半導体装置の製造方法。」

イ 引用例1の記載事項と引用発明1
(ア)引用例1
原査定の理由に引用され、本願の出願の前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である国際公開第2011/158533号(以下「引用例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(当審注.下線は、参考のために、当審において付したものである。以下において同じ。)。
「[0051] 図2は、本発明の実施の形態1におけるSiC半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。図3?図10は、本発明の実施の形態1におけるSiC半導体装置の各製造工程を概略的に示す断面図である。続いて、図1?図10を参照して、本発明の一実施の形態におけるSiC半導体装置の製造方法を説明する。本実施の形態では、図1に示すSiC半導体の製造装置10を用いて、SiC半導体装置の一例としてMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:電界効果トランジスタ)を製造する。
・・・
[0056] これにより、図3に示す表面2aを有するSiC基板2を準備することができる。このようなSiC基板2として、たとえば導電型がn型であり、抵抗が0.02Ωcmの基板を用いる。
[0057] 次に、図2および図4に示すように、SiC基板2の表面2a上に、気相成長法、液相成長法などにより、エピタキシャル層120を形成する(ステップS2)。本実施の形態では、たとえば以下のようにエピタキシャル層120を形成する。
[0058] 具体的には、図4に示すように、SiC基板2の表面2a上に、バッファ層121を形成する。バッファ層121は、たとえば導電型がn型のSiCからなり、たとえば厚さが0.5μmのエピタキシャル層である。またバッファ層121における導電性不純物の濃度は、たとえば5×10^(17)cm^(-3)である。
[0059] その後、図4に示すように、バッファ層121上に耐圧保持層122を形成する。耐圧保持層122として、気相成長法、液相成長法などにより、導電型がn型のSiCからなる層を形成する。耐圧保持層122の厚さは、たとえば15μmである。また耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×10^(15)cm^(-3)である。
[0060] 次に、図2および図5に示すように、エピタキシャル層120にイオン注入する(ステップS3)。本実施の形態では、図5に示すように、p型ウエル領域123と、n^(+)ソース領域124と、p^(+)コンタクト領域125とを、以下のように形成する。まず導電型がp型の不純物を耐圧保持層122の一部に選択的に注入することで、ウエル領域123を形成する。その後、n型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってソース領域124を形成し、また導電型がp型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってコンタクト領域125を形成する。なお不純物の選択的な注入は、たとえば酸化膜からなるマスクを用いて行われる。このマスクは、不純物の注入後にそれぞれ除去される。
[0061] このようなイオン注入するステップS3の後、活性化アニール処理が行われてもよい。たとえば、アルゴン雰囲気中、加熱温度1700℃で30分間のアニールが行われる。
[0062] またイオン注入するステップS3の後、さらに、有機洗浄、酸洗浄、RCA洗浄などの表面洗浄化を行ってもよい。
[0063] これらの工程により、図5に示すように、SiC基板2と、SiC基板2上に形成されたエピタキシャル層120とを備えたエピタキシャルウエハ100を準備することができる。
[0064] 次に、エピタキシャルウエハ100(SiC半導体)の表面100a(第1の表面)を洗浄する。具体的には、図2および図6に示すように、エピタキシャルウエハ100の表面100aに、第1の酸化膜3を形成する(ステップS4)。第1の酸化膜3は、たとえば酸化シリコンである。本実施の形態のステップS4では、図1に示す製造装置10の第1の形成部11で第1の酸化膜3を形成する。
[0065] 第1の酸化膜3の形成方法は、特に限定されず、たとえばOを含む溶液、Oプラズマ、Oガスを含む雰囲気での熱酸化などを用いて、エピタキシャルウエハ100の表面100aを酸化する方法が用いられる。
・・・
[0068] また、Oプラズマとは、酸素を含むガスから生成されるプラズマを意味し、たとえば酸素ガス(O_(2))をプラズマ発生装置に供給することにより発生させることができる。「Oプラズマにより第1の酸化膜3を形成する」とは、酸素を含むガスを用いたプラズマにより第1の酸化膜3を形成することを意味する。言い換えると、酸素を含むガスから生成されるプラズマによって処理されることにより、第1の酸化膜3を形成することを意味する。
[0069] このステップS4において、表面100aに付着した不純物、パーティクルを除去することを目的とする場合には、たとえば1分子層以上10nm以下の厚み(表面100aからSiC基板2に向けた方向の厚み)の第1の酸化膜3を形成する。1分子層以上の厚みを有する第1の酸化膜3を形成することで、表面100aに付着している不純物、パーティクルなどを第1の酸化膜3の表面や内部に取り込むことができる。10nm以下の厚みの酸化膜を形成することで、後述するステップS5で第1の酸化膜3は除去されやすくなる。表面100aの不純物、パーティクルを取り込んで酸化する場合には、液相による洗浄(ウエット洗浄)および気相による洗浄(ドライ洗浄)を用いることができる。
[0070] エピタキシャルウエハ100にイオン注入や活性化アニール処理などにより表面100aがダメージを受け、エピタキシャルウエハ100の表面100aに形成されたダメージ層を除去することを目的とする場合には、このステップS4においてダメージ層を酸化する。この場合、たとえば10nmを超えて100nm以下の厚みを有する第1の酸化膜3を形成する。ダメージ層を酸化することで、表面100aに付着した不純物、パーティクルなどを第1の酸化膜3に取り込むこともできる。ダメージ層を酸化する場合には、気相による洗浄(ドライ洗浄)を採用する。ここで、ダメージ層は、他の領域に比べて表面荒れなどが生じているので、たとえばSIMS分析を行なうことで、非注入領域に比べて過剰に珪素もしくは炭素(C)が存在していることにより特定される。
・・・
[0072] 次に、図2および図7に示すように、第1の酸化膜3を除去する(ステップS5)。本実施の形態のステップS5では、図1に示す製造装置10の除去部12で第1の酸化膜3を除去する。
[0073] 第1の酸化膜3の除去方法は、特に限定されず、たとえばウエットエッチング、ドライエッチング、熱分解、Fプラズマなどを用いることができる。
[0074] ウエットエッチングは、たとえばHF、NH_(4)F(フッ化アンモニウム)などの溶液を用いて第1の酸化膜3を除去する。
・・・
[0078] このステップS5を実施することにより、ステップS4で不純物、パーティクルなどを取り込んだ第1の酸化膜3を除去するので、エピタキシャルウエハ100の表面100aの不純物、パーティクルなどを除去できる。これにより、図7に示すように、不純物、パーティクルなどが低減された表面101a(第2の表面)を有するエピタキシャルウエハ101を形成することができる。
[0079] また、ステップS4でダメージ層を酸化させた第1の酸化膜3を形成した場合には、ステップS5を実施することにより、ダメージ層もさらに除去できる。これにより、図7に示すように、不純物、パーティクルなどが低減された表面101aを有するエピタキシャルウエハ101を形成することができる。これにより、図7に示すように、不純物、パーティクルなどが低減され、かつダメージ層が除去された表面101aを有するエピタキシャルウエハ101を形成することができる。
[0080] なお、上記ステップS4およびS5を繰り返してもよい。・・・
・・・
[0082] 次に、図2および図8に示すように、エピタキシャルウエハ101において第1の酸化膜3が除去されることにより露出した表面101a(第2の表面)に、SiC半導体装置を構成する第2の酸化膜としてのゲート酸化膜126を形成する(ステップS6)。具体的には、図8に示すように、耐圧保持層122と、ウエル領域123と、ソース領域124と、コンタクト領域125との上を覆うように、ゲート酸化膜126を形成する。この形成はたとえば熱酸化(ドライ酸化)により行なうことができる。熱酸化は、たとえばO_(2)、O_(3)、N_(2)Oなどの酸素を含む雰囲気中で高温に加熱する。熱酸化の条件は、たとえば、加熱温度が1200℃であり、また加熱時間が30分である。なお、ゲート酸化膜126の形成は、熱酸化に限定されず、たとえばCVD法、スパッタリング法などにより形成してもよい。ゲート酸化膜126は、たとえば50nmの厚みを有するシリコン酸化膜からなる。
・・・
[0092] 以上の工程(ステップS1?S8)を実施することにより、図10に示すSiC半導体装置としてのMOSFET102を製造することができる。」

(イ)引用発明1
上記(ア)の引用例1の記載と当該技術分野における技術常識より、引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「SiC半導体装置の製造方法において、
SiC基板の表面上に導電型がn型のSiCからなるエピタキシャル層を形成し、前記エピタキシャル層に導電型がp型の不純物をイオン注入し、活性化アニール処理を行うことにより、エピタキシャルウエハを準備する工程と、
前記エピタキシャルウエハの表面に酸素を含むガスを用いたプラズマにより第1の酸化膜を形成し、当該第1の酸化膜をHFの溶液を用いたウエットエッチングにより除去する工程を繰り返して、前記エピタキシャルウエハの表面の不純物、パーティクル、又はイオン注入や活性化アニール処理により前記エピタキシャルウエハの表面に形成されたダメージ層を除去する工程と、
前記エピタキシャルウエハにおいて前記第1の酸化膜が除去されることにより露出した表面に第2の酸化膜としてのゲート酸化膜を形成する工程と、
を備えたSiC半導体装置の製造方法。」

ウ 引用例2の記載事項と引用発明2
(ア)引用例2
原査定の理由に引用され、本願の出願の前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2011-23431号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【0018】
<実施の形態1>
<製造方法>
本発明に係る実施の形態1の炭化珪素半導体装置の製造方法について、一例として、パワーMOSFET(Power Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)100の製造工程を順に示す図1?図8を用いて説明する。なお、パワーMOSFET100の構成は、最終工程を説明する図8に示される。
・・・
【0022】
まず、図1に示す工程において、n型(第1導電型)不純物を比較的高濃度(n^(+))に含む半導体基板1の一方主面上に、エピタキシャル結晶成長法を用いて、n型不純物を比較的低濃度(n^(-))に含む炭化珪素層2を形成する。ここで、半導体基板1としては、例えば、炭化珪素基板が好適である。この半導体基板1と炭化珪素層2とで、炭化珪素ウエハWFが構成される。
【0023】
次に、図2に示す工程において、炭化珪素ウエハWFの表面内、具体的には炭化珪素層2の表面内に、レジスト(図示せず)をマスクとしてp型(第2導電型)の不純物をイオン注入して、互いに離間した複数のウェル領域3を選択的に形成する。イオン注入後、レジストは除去される。ここで、炭化珪素層2内でp型となる不純物としては、例えばボロン(B)あるいはアルミニウム(Al)が挙げられる。
【0024】
次に、それぞれのウェル領域3の表面内に、レジスト(図示せず)をマスクとしてn型の不純物をイオン注入して、ソース領域4を選択的に形成する。イオン注入後、レジストは除去される。ここで、ウェル領域3内でn型となる不純物としては、例えばリン(P)あるいは窒素(N)が挙げられる。
【0025】
次に、レジスト(図示せず)をマスクとして、ソース領域4が周囲に接するようにp型の不純物をイオン注入して、p型不純物を比較的高濃度(p+)に含むコンタクト領域5を形成する。イオン注入後、レジストは除去される。ここで、コンタクト領域5の不純物濃度は、ウェル領域3の不純物濃度より相対的に高くなるように設定される。このp型不純物としては、例えばボロン(B)あるいはアルミニウム(Al)が挙げられる。
【0026】
次に、図3に示す工程において、ソースガスとして一酸化炭素を使用し、CVD(Chemical Vapor Deposition)などの化学気相成長法によって、炭化珪素ウエハの全表面にカーボン保護膜6を形成する。
・・・
【0037】
次に全表面にカーボン保護膜6が成膜された炭化珪素ウエハWFをアニール処理装置に入れて、不活性ガスの雰囲気中でアニール処理を行う。
・・・
【0045】
アニールは、具体的には、アニール炉41内を排気後に、アルゴンガスをガス導入管42から導入し、所定の圧力に設定されたアルゴン雰囲気中で、コイル46により誘導加熱されたヒータ44の熱で予備加熱(1000℃程度)を行った後、所定の温度(1500℃以上,好ましくは1700℃程度)で所定の時間加熱し、その後速やかに冷却する。これにより、注入イオンが電気的に活性化され、かつイオン注入により形成された結晶欠陥が回復する。
・・・
【0047】
アニール処理の後、カーボン保護膜6を、950℃程度の酸素雰囲気中で30分程度曝すことにより除去する。あるいは、レジスト除去に用いられる酸素プラズマを用いたアッシングにより除去する。
【0048】
ここで、炭化珪素ウエハWFは、全表面にカーボン保護膜6が形成されているために、アニール処理の際に炭化珪素ウエハWFの表面にステップバンチングが発生することがない。
【0049】
カーボン保護膜6を除去した後の炭化珪素ウエハWFの表面の凹凸をAFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscopy)で測定したところ、カーボン保護膜6を設けなかった場合は、数10nm程度の凹凸が炭化珪素ウエハの全面に発生するのに対して、カーボン保護膜6を用いた場合は、1nm以下の凹凸しか発生せず、その効果が確認できた。
【0050】
また、本発明に係る製造方法によれば、不純物の少ない高純度なカーボン保護膜6が形成されるため、炭化珪素半導体装置を汚染することがない。さらに、炭化珪素ウエハWFの全表面にカーボン保護膜6を形成するので、アニール処理の際に炭化珪素ウエハWFに生じる不均衡な熱応力が改善され、炭化珪素ウエハWFに生じる歪みが低減される。その結果、炭化珪素ウエハWFの結晶に生じる欠陥が増大することを防止できる。
【0051】
次に、図4に示す工程において、カーボン保護膜6が除去された炭化珪素ウエハWFの一方主面、具体的にはイオン注入によりウェル領域3等が形成された側の主面上に、熱酸化法によって二酸化珪素(SiO_(2))で構成されるゲート酸化膜7を形成する。この工程で形成されるゲート酸化膜7は熱酸化膜である。
・・・
【0059】
以上の工程を経て、図8に示すようにパワーMOSFET100の主要部が完成する。」

(イ)引用発明2
上記(ア)の引用例2の記載と当該技術分野における技術常識より、引用例2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「炭化珪素半導体装置の製造方法において、
炭化珪素基板上に炭化珪素層を形成し、炭化珪素ウエハを構成する工程と、
前記炭化珪素層に不純物をイオン注入する工程と、
前記炭化珪素ウエハの全表面にカーボン保護膜を形成する工程と、
前記炭化珪素ウエハをアニール処理する工程と、
前記カーボン保護膜を除去する工程と、
を備えた炭化珪素半導体装置の製造方法。」

エ 引用例3の記載事項
原査定の理由に引用され、本願の出願の前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2005-286339号公報(以下「引用例3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【0065】
図3は、SiC基板上にSiO_(2)を成長させる本発明の方法を示すフローチャートである。本発明は、ステップ300から始まる。ステップ302は、360℃以下で、SiC基板を提供する。ステップ304は、酸素を含む雰囲気を供給する。ステップ306は、HDプラズマ酸化プロセスを実行する。HD酸化プロセスを受けて、ステップ308は、反応酸素種を作成する。ステップ310は、SiC基板のSi?C結合はずし、SiC基板に遊離SiおよびC原子を形成する。ステップ312は、SiC基板の遊離Si原子をHDプラズマ生成反応酸素種と結合し、SiO_(2)層を成長させる。」

オ 引用例4の記載事項
原査定に引用され、本願の出願の前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2010-140939号公報(以下「引用例4」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【0016】
<A.実施の形態1>
以下、本実施の形態1に係る炭化珪素半導体装置の製造方法の一例として、炭化珪素ショットキダイオード(SiC-SBD)の製造工程を、図1?図7に基づき説明する。
【0017】
<A-1.p型終端構造の形成方法>
まず図1の様に、(0001)シリコン面を有する4H-SiCからなる例えば高濃度のn型の炭化珪素(SiC)基板1を準備する。炭化珪素基板1の抵抗率は、例えば0.02Ω・cm程度である。
【0018】
次に炭化珪素基板1の(0001)シリコン面において、炭化珪素層である不純物濃度が5×10^(15)/cm^(3)程度の低濃度n型のエピタキシャル層(以後、エピ層と呼ぶ)2を成長させる。尚、エピ層2の形成後、そのエピ層2の表面に、加熱処理により熱酸化膜(SiO_(2)熱酸化膜)を形成しても良い。その場合は、その熱酸化膜がプロセス保護膜として機能する。
【0019】
次にkV超級の耐圧を確保するp型終端構造を作成するために、エピ層2の表層に、p型ドーパントである例えばAl(アルミニウム)イオンを注入して、イオン注入された領域であるp型イオン注入層3を0.8μm程度の深さで選択的に形成する。この形成には、写真製版によりフォトレジストで注入パターンを形成して行えば良い。
【0020】
尚ここでは、p型イオン注入層3は、p型終端構造となる環状のGR(Guard Ring)と、そのGRの外側に連続して形成され、表面電界を低減するためのJTE(Junction Termination Extension)とから構成される。JTEのAlイオン濃度は、GRのそれよりも若干薄く設定されている。
【0021】
p型終端構造として完成させるためには、p型イオン注入層3を活性化する必要がある。そのため、例えばRTA(Rapid Thermal Anneal)タイプのアニール炉を用いて、エピ層2全体を、常圧Ar(アルゴン)雰囲気で1600℃、10分程度、高温熱処理(活性化アニール)する。
【0022】
そして、活性化アニールされたエピ層2の表層には、活性化アニールによる変質層(活性化アニール後最表面変質層)4が発生する。変質層4の厚みは、100?200nm程度であると考えられる。良好なショットキ接合を形成するには、この変質層4を除去する必要がある。
【0023】
<A-2.変質層の除去方法>
次にこの変質層4を除去する方法を説明する。以下では、説明の便宜上、変質層4の厚さが150nmの場合を想定する。
・・・
【0028】
変質層6bの除去について図4の様に、プラズマ・アッシング装置またはアセトン溶液でフォトレジスト5を除去し、表面を硫酸で洗浄する。
【0029】
次に、図5の様に、エピ層2の新たな表面の表層を犠牲酸化して、その表層に厚さ20nm程度の犠牲酸化膜(SiO_(2)酸化膜)7を形成する。犠牲酸化膜7はエピ層2の表面の全面に形成されるので、p型イオン注入層3の表面にも形成される。この時の犠牲酸化の条件は、乾式酸化で、1150℃で、酸化時間2時間とする。この犠牲酸化により、エピ層2の表層には、新たな変質層6bを取り込む様にして犠牲酸化膜7が形成される。
【0030】
次に図6の様に、この犠牲酸化膜7を例えば10倍希釈のフッ酸中で例えば5分間ウエットエッチングして除去することで、その犠牲酸化膜7と共に新たな変質層6bを除去する。ただしこの時、p型イオン注入層3の表面もまた除去される。
【0031】
この様に、ドライエッチングによって変質層4を除去し、その後ドライエッチングによって新たに発生した変質層6bを、犠牲酸化膜7の形成およびウエットエッチングによって除去することにより、エピ層2の表面は変質層の無い状態にされる。」

カ 対比
(ア)本件補正発明と引用発明1とを対比する。
a 引用発明1の「SiC半導体装置」は、本件補正発明の「炭化珪素半導体装置」に相当するといえる。また、引用発明1の「エピタキシャル層」は、SiCからなる層であるから、本件補正発明の「炭化珪素層」に相当するといえる。また、引用発明1の「第2の酸化膜としてのゲート酸化膜」は、本件補正発明の「ゲート酸化膜」に相当するといえる。そして、引用例1の[図8]の記載から、引用発明1の「第2の酸化膜としてのゲート酸化膜」は、「エピタキシャル層」の上に形成されるといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明1とは、「炭化珪素層の上にゲート酸化膜を備えた炭化珪素半導体装置の製造方法」である点において共通するといえる。
b 引用発明1の「エピタキシャル層に導電型がp型の不純物をイオン注入」する工程は、本件補正発明の「炭化珪素層に不純物イオンを注入」する工程に相当するといえる。
c 引用発明1の「活性化アニール処理を行う」工程は、本件補正発明の「アニールをする工程」に相当するといえる。
d 引用発明1の「第1酸化膜」は、エピタキシャルウエハの表面の不純物、パーティクル、又はダメージ層を除去する目的で形成され、「第1酸化膜」自体も、後工程のウエットエッチングにより除去される。したがって、引用発明1の「第1酸化膜」と本件補正発明の「犠牲酸化膜」とは、「犠牲酸化膜」である点において共通するといえる。
また、引用例1の図6から、引用発明1の「第1酸化膜」は「エピタキシャル層」に形成されるといえ、引用発明1の「酸素を含むガスを用いたプラズマにより第1の酸化膜を形成」する工程は、本件補正発明の「プラズマ酸化による犠牲酸化膜を形成」する工程に相当するといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明1は、「炭化珪素層にプラズマ酸化による犠牲酸化膜を形成」する点において共通するといえる。
e 引用発明1の「第1の酸化膜をHFの溶液を用いたウエットエッチングにより除去する」工程と、本件補正発明の「犠牲酸化膜を希釈フッ酸で除去する」工程は、「犠牲酸化膜を除去する」工程である点において共通するといえる。
f 引用発明1では、「第1の酸化膜」を形成する工程と、当該「第1の酸化膜」を除去する工程を繰り返し行っている。
そうすると、引用発明1と本件補正発明とは、「犠牲酸化の工程を繰り返」す点において共通するといえる。
g 引用発明1の「エピタキシャルウエハにおいて第1の酸化膜が除去されることにより露出した表面に第2の酸化膜としてのゲート酸化膜を形成する工程」は、本件補正発明の「ゲート酸化膜を形成する工程」に相当するといえる。

(イ)以上から、本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は、以下のとおりであると認められる。
a 一致点
「炭化珪素層の上にゲート酸化膜を備えた炭化珪素半導体装置の製造方法において、
前記炭化珪素層に不純物イオンを注入する工程と、
アニールをする工程と、
前記炭化珪素層にプラズマ酸化による犠牲酸化膜を形成し、前記犠牲酸化膜を除去する犠牲酸化の工程を繰り返した後に、ゲート酸化膜を形成する工程とを備えた炭化珪素半導体装置の製造方法。」

b 相違点
・相違点1
本件補正発明は、アニールをする工程の前に炭化珪素層の上に炭素を含むキャップ材を形成する工程を備え、アニールをする工程の後に当該キャップ材を除去する工程を備えるのに対し、引用発明1は、炭化珪素層の上に炭素を含むキャップ材を形成する工程、及び当該キャップ材を除去する工程を備えない点。
・相違点2
本件補正発明では、プラズマ酸化による犠牲酸化膜を形成し、当該犠牲酸化膜を除去する犠牲酸化の工程において、キャップ材の炭素と炭化珪素層が反応して形成された炭素化合物を除去するのに対し、引用発明1では、エピタキシャルウエハの表面の不純物、パーティクル、又はイオン注入や活性化アニール処理によりエピタキシャルウエハの表面に形成されたダメージ層を除去する点。
・相違点3
本件補正発明では、犠牲酸化膜を「希釈フッ酸」で除去するのに対し、引用発明1では「HFの溶液を用いたウエットエッチング」により除去しており、「希釈フッ酸」を用いるとは特定されていない点。

キ 判断
(ア)本件補正発明の進歩性について
上記相違点1及び2について検討する。
引用発明2は上記ウ(イ)において認定したとおりのものであって、引用例2の図3から、引用発明2のカーボン保護膜は、炭化珪素層の上に形成されるものと認められる。そうすると、引用発明2は、アニールをする工程の前に炭化珪素層の上にカーボン保護膜(本件補正発明の「炭素を含むキャップ材」に相当)を形成する工程を備え、アニールをする工程の後に当該カーボン保護膜を除去する工程を備えているから、上記相違点1に係る構成を備えたものであるといえる。しかしながら、引用発明2は、上記相違点2に係る構成を備えていない。
また、引用例1ないし4の記載事項は上記イ(ア)、ウ(ア)、エ及びオに摘記したとおりであって、上記相違点1及び2に係る構成を備えたものについては、記載も示唆もされていない。
そして、本件補正発明は、上記相違点1及び2に係る構成を備えることにより、「キャップ材の炭素と前記炭化珪素層が反応して形成された炭素化合物を除去するための犠牲酸化の工程をプラズマ酸化に置き換えることで、高いチャネル移動度と高いVthを両立することができる」という、引用例1ないし4に記載された発明にはない格別の効果を奏するものである(本願明細書段落[0002]、[0009]、[0010]、[0013]、[0037]ないし[0040])。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件補正発明は引用例1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件補正後の請求項2ないし5に係る発明の進歩性について
本件補正後の請求項2ないし5はいずれも請求項1を引用しており、本件補正後の請求項2ないし5に係る発明は本件補正発明の発明特定事項を全て有する発明である。
してみれば、本件補正発明が引用例1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件補正後の請求項2ないし5に係る発明も、引用例1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ク 特許法第17条の2第6項についてのまとめ
以上のとおり、本件補正後の請求項1ないし5に係る発明は、引用例1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、他に本件補正後の請求項1ないし5に係る発明を拒絶すべき理由を発見しない。
したがって、本件補正後の請求項1ないし5に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するものである。

(5)補正の適否についてのまとめ
以上から、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項に規定する要件を満たす適法なものである。

第3 本願発明について
上記第2の2(5)のとおり、本件補正は特許法17条の2第3項ないし第6項に規定する要件を満たす適法なものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものとはいえない。
したがって、本願の請求項1ないし5に係る発明は、本件補正後の請求項1ないし5に記載されたとおりのものである。
そして、上記第2の2(4)クのとおり、本件補正後の請求項1ないし5に記載された発明は、原査定の理由に引用された引用例1ないし3に記載された発明、及び原査定に引用された引用例4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 結言
上記第3のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-09-05 
出願番号 特願2014-507014(P2014-507014)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 市川 武宜  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 加藤 浩一
須藤 竜也
発明の名称 炭化珪素半導体装置の製造方法  
代理人 井上 学  

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