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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:567  A61B
審判 全部申し立て 発明同一  A61B
管理番号 1319178
異議申立番号 異議2015-700256  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-03 
確定日 2016-07-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5727197号発明「波面補償付眼底撮影装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5727197号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項6について訂正することを認める。 特許第5727197号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5727197号(以下,「本件特許」という。)の請求項1?請求項6に係る特許についての出願は,平成22年11月4日に特許出願され,平成27年4月10日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許について,東京総合コンサルティング株式会社(以下,「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ,平成28年2月10日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である同年4月13日に特許権者から訂正の請求及び意見書の提出があり,申立人から同年5月27日に意見書の提出があったものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項6に
「前記フィードバック制御を介して取得された波面制御情報を記憶手段に記憶させ,予め前記記憶手段に記憶された前記波面制御情報にて波面補償デバイスを制御した後,前記フィードバック制御を再開させる制御手段」
とあるところ,
「前記フィードバック制御を介して取得された波面制御情報を記憶手段に予め記憶させ,予め前記記憶手段に記憶された前記波面制御情報を復帰させ,復帰させた前記波面制御情報にて波面補償デバイスを制御した後,前記フィードバック制御を再開させる制御手段」(下線は,訂正箇所を示す。以下,同様である。)に訂正する。

(2) 訂正事項2
本件明細書の【0008】に
「(6)・・・前記フィードバック制御を介して取得された波面制御情報を記憶手段に記憶させ,予め前記記憶手段に記憶された前記波面制御情報にて波面補償デバイスを制御した後,前記フィードバック制御を再開させる制御手段」
あるところ,
「(6)・・・前記フィードバック制御を介して取得された波面制御情報を記憶手段に予め記憶させ,予め前記記憶手段に記憶された前記波面制御情報を復帰させ,復帰させた前記波面制御情報にて波面補償デバイスを制御した後,前記フィードバック制御を再開させる制御手段」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は,「制御手段」による「制御」の内容をより具体的に特定し,限定するものであるから,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものである。

かかる訂正事項は,本件明細書の
「【0060】
具体的に説明すると,円32が外周31b内に収まっている状態において,検者又は制御部80が所定のトリガ信号を出力し,波面補償デバイス72の収差補償量のデータを記憶部81に記憶しておく。例えば,円32が外周31bに収まってから数秒経過後の波面補償デバイス72の収差補償量が記憶部81に保存される。また,常時,収差補償量が記憶部81に記憶され,記憶させたデータの中から,収差補償量が任意に選択されるようにしてもよい。
【0061】
その後,外周31a内から円32が外れた場合,制御部80は,フィードバック制御を一時的に停止させ,再びハルトマン像31内に円32が収まるように撮影部500を移動させる。そして,制御部80は,アライメントが再調整され,復帰信号が出力されると,記憶部81に予め保存していた波面補償デバイス72の収差補償量のデータを呼び出し,それを用いて,波面補償デバイス72を制御する。」(下線は,当審にて付記したものである。)
との記載に照らし,新規事項の追加に該当しないから,特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

さらに,実質上特許請求の範囲の拡張・変更するものではないから,特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2は,訂正事項1の訂正に伴い,本件明細書の記載との整合を図るものであり,特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,特許法第120の5第9項において準用する第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3) むすび
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項6について訂正を認める。

第3 訂正後の本件発明
上記「第2 訂正の適否についての判断」で述べたように,訂正後の請求項6について訂正は認められることとなった。
そうすると,本件特許の請求項1?請求項5に係る発明及び訂正後の請求項6に係る発明(以下,請求項1?請求項5に係る発明を,それぞれの発明を「本件発明1」などという。また,訂正後の請求項6に係る発明は,「本件訂正発明6」という。)は,その特定事項を当審で分節して整理すると,以下の事項により特定される発明であると認める。

「【請求項1】
(A) 被検眼眼底からの反射光を受光して眼底像を撮像する眼底撮像光学系と,
(B) 前記眼底撮像光学系の光路中に配置され,入射光の波面を制御して被検眼の波面収差を補償する波面補償デバイスと,
(C) 被検眼眼底に向けて測定光を投光し,その眼底からの反射光を波面センサにより検出する波面収差検出光学系と,
(D) 前記波面センサ上に設定された前記波面補償デバイスの補償可能領域と前記波面センサによる眼底反射光束の検出領域とのずれ情報を検出する検出手段と,
(E-1) 前記波面センサからの検出信号に基づく被検者眼の波面収差の検出と,その検出結果に基づく前記波面補償デバイスの制御とを繰り返すフィードバック制御を行う制御手段であって,
(E-2) 前記検出手段により検出されるずれ情報が許容範囲内を外れた場合に,フィードバック制御を一時的に停止させ,前記ずれ情報が許容範囲内に復帰した場合にフィードバック制御を再開させる制御手段と,を備えることを特徴とする
(F) 波面補償付眼底撮影装置。
【請求項2】
請求項1の眼底撮影装置において,
(G) 眼底撮像光学系により連続的に撮像される眼底像を動画として出力する表示手段を備えることを特徴とする波面補償付眼底撮影装置。
【請求項3】
請求項1又は2の眼底撮影装置において,
(H) さらに,前記ずれ情報が許容範囲内に収まるように前記検出光学系と被検眼との位置関係を相対的に調整する位置調整手段を備えることを特徴とする波面補償付眼底撮影装置。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかの眼底撮影装置において,
(I) 前記制御手段は,フィードバック制御を停止させるとき,前記波面収差補償デバイスによる収差補償量を,前記ずれ情報が許容範囲内を外れた前の収差補償量で保持することを特徴とする波面補償付眼底撮影装置。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかの眼底撮影装置において,
(J) 前記制御手段は,前記ずれ情報が許容範囲内に収まっている場合の波面制御情報を記憶手段に記憶させ,前記ずれ情報が許容範囲内に復帰した場合,前記波面補償デバイスの波面制御情報を前記波面補償デバイスへ反映させることを特徴とする波面補償付眼底撮影装置。
【請求項6】
(A) 被検眼眼底からの反射光を受光して眼底像を撮像する眼底撮像光学系と,
(B) 前記眼底撮像光学系の光路中に配置され,入射光の波面を制御して被検眼の波面収差を補償する波面補償デバイスと,
(C) 被検眼眼底に向けて測定光を投光し,その眼底からの反射光を波面センサにより検出する波面収差検出光学系と,
(E-1) 前記波面センサからの検出信号に基づく被検者眼の波面収差の検出と,その検出結果に基づく前記波面補償デバイスの制御とを繰り返すフィードバック制御を行う制御手段であって,
(E-3) 前記フィードバック制御を介して取得された波面制御情報を記憶手段に予め記憶させ,予め前記記憶手段に記憶された前記波面制御情報を復帰させ,復帰させた前記波面制御情報にて波面補償デバイスを制御した後,前記フィードバック制御を再開させる制御手段と,を備えることを特徴とする
(F) 波面補償付眼底撮影装置。」

第4 特許異議の申立てについて
申立人は,甲第1号証?甲第5号証(当審注:以下,甲各号証を「甲1」などと略記する。)を提出し,次の(申立理由1)?(申立理由4)を主張する。
甲1:特開2011-104125号公報
甲2:特開2012-24363号公報
甲3:Yan Zhang, Jungtae Rha, Ravi S. Jonnal, and Donald T. Miller, Indiana University AO-OCT System, Adaptive Optics for Vision Science, p.447-476, 2006 及び抄訳
甲4:特開2006-6362号公報
甲5:米国特許出願公開第2007/0252951号明細書及び抄訳

(申立理由1)
本件特許の請求項1?請求項6に係る発明は,本件特許に係る出願前の特願2009-262383号の特許出願(以下,「先願1」という。)であって,本件特許の出願の後に出願公開(甲1:特開2011-104125号公報)がされた先願1の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許の出願1の発明者が先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本件特許の出願の時において,本件特許の出願人が先願1の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができないものであるから,本件請求項1?請求項6に係る特許は,特許法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

(申立理由2)
本件特許の請求項6に係る発明は,本件特許に係る出願前の特願2010-166502号の特許出願(以下,「先願2」という。)であって,本件特許の出願の後に出願公開(甲2:特開2012-24363号公報)がされた先願2の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許の出願の発明者が先願2に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本件特許の出願の時において,本件特許の出願人が先願2の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができないものであるから,本件請求項6に係る特許は,特許法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

(申立理由3)
本件特許の請求項1?請求項6に係る発明は,本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲3?甲5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本件請求項1?請求項6に係る特許は,特許法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

(申立理由4)
本件特許の請求項1?請求項6は,発明の詳細な説明に記載された事項の範囲を超えるものであり,本件請求項1?請求項6に係る特許は,特許法第36条第6項1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,特許法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

第5 甲各号証記載の事項
1 先願1(甲1)明細書等に記載の事項
(甲1ア)「【請求項1】
被検査物に測定光を照射し,該被検査物で発生する収差を補償光学系で補正し,該被検査物の光画像を撮像する光画像の撮像方法であって,
前記被検査物で発生する収差を測定する収差測定工程と,
前記被検査物で発生する収差の補正を行う収差補正工程と,
前記収差測定工程の測定結果に基づいて,前記被検査物で発生する収差を補正するために前記収差補正工程をフィードバック制御する制御工程と,
前記被検査物の位置の変化を検知する検知工程と,
を備え,
前記制御工程において,前記検知工程で前記被検査物の位置の変化が検知された際に,その時点における収差の補正状態を維持して前記フィードバック制御を中断することを特徴とする光画像の撮像方法。
【請求項2】
前記制御工程において,
前記検知工程で前記被検査物が元の位置に戻ったことが検知された際に,前記維持された収差の補正状態から前記フィードバック制御を再開することを特徴とする請求項1に記載の光画像の撮像方法。」

(甲1イ)「【請求項9】
被検査物に測定光を照射し,該被検査物で発生する収差を補償光学系で補正し,該被検査物の光画像を撮像する光画像撮像装置であって,
前記被検査物の位置の変化を検知する位置変化検知手段と,
前記被検査物で発生する収差を測定する収差測定手段と,
前記被検査物で発生する収差の補正を行う収差補正手段と,
前記収差測定手段の測定結果に基づいて,前記被検査物で発生する収差を補正するために前記収差補正手段をフィードバック制御すると共に,フィードバック制御をしている際に,
前記位置変化検知手段による前記被検査物の位置の変化の検知によって,その時点での収差の補正状態を維持して前記フィードバック制御を中断する制御手段と,
を有することを特徴とする光画像撮像装置。」

(甲1ウ)「【技術分野】
【0001】
本発明は,補償光学系を備えた光画像の撮像方法および光画像撮像装置に関し,特に被検眼の収差を測定して補正する機能を有する眼底撮像方法に関する。」

(甲1エ)「【実施例】
【0011】
[実施例1]
実施例1として,図1を用いて本発明を適用した補償光学系を備えたSLOによる被検査物の光画像を撮像する光画像撮像装置および光画像の撮像方法の構成例について説明する。
・・・
【0016】
眼111の網膜から反射散乱された光は,入射した時と同様の経路を逆向きに進行し,ビームスプリッタ106によって一部は波面センサー115に反射され,光線の波面を測定するために用いられる。
・・・
【0018】
そして,この各スポット140の位置から,入射した光線の波面を計算する。例えば,図3(e-1),(e-2)に球面収差を持つ波面を測定した際の模式図を示す。
光線135は141で示すような波面で形成されている。光線135はマイクロレンズアレイ136によって,波面の局所的な垂線方向の位置に集光される。
この場合のCCDセンサー137の集光状態を図3(e-2)に示す。
光線135が球面収差を持つため,スポット140は中央部に偏った状態で集光される。この位置を計算することによって,光線135の波面が分かる。
ビームスプリッタ106を透過した反射散乱光はビームスプリッタ104によって一部が反射され,コリメータ112,光ファイバー113を通して光強度センサー114に導光される。光強度センサー114で光は電気信号に変換され,画像処理手段125によって眼底画像として画像に構成される。
【0019】
また,実施例1は,取得した画像の時間変化を検出することによって,被検査物の位置の変化を検知する位置変化検知手段として,眼の動きを検知する眼球運動検知部148を具備する。
なお,眼球運動検知部148はこのような構成に限られるものではなく,例えば眼の位置の変化を直接検知するように構成してもよい。
眼球運動検知部148は,眼で発生する収差を補正するため波面補正デバイス108をフィードバック制御する制御手段である補償光学制御機116に接続されている。
そして,補償光学制御機116は眼球運動検知部148の検知結果(測定結果)である眼球運動の情報に基づいて,波面補正デバイス108のフィードバック制御の中断を決定する。
眼の動きを検知する別の構成としては,角膜に光を当てて視線を検知する方法や,干渉計を用いて眼の特定位置を測定することにより動きを検知する方法等を利用した眼球運動検知装置を用いることも可能である。
このような構成においては,接眼部の光学系が複雑になるが,位置検出のための画像処理が必要ないために高速化が可能で,位置検出の精度も向上する。
波面センサー115は補償光学制御機116に接続され,受光した光線の波面を補償光学制御機116に伝える。
波面補正デバイス(可変形状ミラー)108も補償光学制御機116に接続されており,補償光学制御機116から指示された形状に変形する。
補償光学制御機116は,波面センサー115から取得した波面を基に,収差のない波面へと補正するような形状を計算し,可変形状ミラー108にその形状に変形するように指令する。
このような波面センサー115による波面の測定と,その波面の補償光学制御機116への伝達と,補償光学制御機116による収差の補正の可変形状ミラーへの指示は,繰り返し処理されて常に最適な波面となるようにフィードバック制御が行われる。」

(甲1オ)【図1】


(甲1カ)「【0013】
本実施例では,波面補正デバイス108として可変形状ミラーを用いた。
可変形状ミラーとは,局所的に光の反射方向を変えることができるものであり,様々な方式のものが実用化されている。
例えば,波面補正デバイス108として,図3(a)に示すようなデバイスを用いることができる。
図3(a)に示されるように,入射光を反射する変形可能な膜状のミラー面127と,ベース部126と,これらに挟まれて配置されたアクチュエータ128から構成されている。
アクチュエータ128の動作原理としては,静電力や磁気力,圧電効果を利用したものがあり,動作原理によってアクチュエータ128の構成は異なる。
アクチュエータ128はベース部126上に二次元的に複数配列されていて,それらを選択的に駆動することにより,ミラー面127を自在に変形できるようになっている。」

(甲1キ)「【0028】
[実施例3]
実施例3として,図7を用いて本発明を適用した補償光学系を備えたSLOによる光画像撮像装置および光画像の撮像方法の構成例について,実施例1とは異なる形態について説明する。
・・・
【0029】
本実施例においては,眼球運動検知部148が,収差測定手段である波面センサー115の情報によって眼球運動を検知することが特徴である。
上記したように,眼が大きく動いた場合には,波面センサー115で測定される波面は大きく変化するので,この変化をモニタリングすることによって眼球運動を検知することができる。」

[先願1(甲1)明細書等に記載の発明]
(1) 「被検眼の収差を測定して補正する機能を有する眼底撮像方法」(甲1ウ)の記載に照らし,甲1明細書等の請求項9(甲1イ)に記載の「被検査物」には,「眼底」が包含されることが理解される。
そこで,請求項9の「被検査物」を「眼底」に置き換えて分節すると,次のように整理される。以下,かかる事項により特定される発明を「請求項9発明」という。
「【請求項9】
(a) 眼底に測定光を照射し,該眼底で発生する収差を補償光学系で補正し,該眼底の光画像を撮像する光画像撮像装置であって,
(b) 前記眼底の位置の変化を検知する位置変化検知手段と,
(c) 前記眼底で発生する収差を測定する収差測定手段と,
(d) 前記眼底で発生する収差の補正を行う収差補正手段と,
(e) 前記収差測定手段の測定結果に基づいて,前記眼底で発生する収差を補正するために前記収差補正手段をフィードバック制御すると共に,フィードバック制御をしている際に,
(f) 前記位置変化検知手段による前記眼底の位置の変化の検知によって,その時点での収差の補正状態を維持して前記フィードバック制御を中断する制御手段と,
(h) を有することを特徴とする光画像撮像装置。」

(2) 請求項9発明の「手段」を「工程」と言い換えた請求項1(甲1ア)が甲1明細書等に記載されている。そして,請求項1を引用する請求項2(甲1ア)が甲1明細書等に記載されていることから,請求項9発明に,請求項2で特定される工程を手段と言い換えたものに相当する「(g)前記制御手段において,
前記検知手段で前記眼底が元の位置に戻ったことが検知された際に,前記維持された収差の補正状態から前記フィードバック制御を再開すること」 を加えた発明もまた,甲1明細書等に記載されていると当業者が認識できることは明白である。

(3) (甲1エ)の【0016】には,「眼111の網膜から反射散乱された光は,入射した時と同様の経路を逆向きに進行し,ビームスプリッタ106によって一部は波面センサー115に反射され,光線の波面を測定するために用いられる。」と記載されている。
そうすると,請求項9発明の「収差測定手段」は,「(c-1) 前記収差測定手段は,光源から眼に向けて投光し,眼の網膜から反射散乱された光の一部を,波面を測定するための波面センサに届く光学系で構成され」ていることが理解される。
そうすると,上記(c-1)を請求項9発明に加えた発明も,甲1明細書等に記載されていると当業者が認識できることは明白である。

(4) 「波面補正デバイス(可変形状ミラー)108も補償光学制御機116に接続されており,補償光学制御機116から指示された形状に変形する。」((甲1エ)の【0019】)と記載されており,図1(甲1オ)からみて,波面補正デバイス(可変形状ミラー)は,眼底の光画像を撮像する光画像撮像光学系の光路中に配置されていることが理解される。
そうすると,請求項9発明の「収差補正手段」は,「(d-1) 前記収差補正手段は,光画像撮像光学系の光路中に配置され,補償光学制御機から指示された形状に変形する波面補償デバイス(可変形状ミラー)で構成され」ていると理解され,(d-1)を請求項9発明に加えた発明も,甲1明細書等に記載されていると当業者が認識できることは明白である。

(5) 上記(4)で述べた「波面補償デバイス(可変形状ミラー)」について,甲1明細書等の(甲1カ)には,「アクチュエータ」により「変形可能な膜状のミラー面」を有するものであることが記載され,「アクチュエータ128の動作原理としては,静電力や磁気力,圧電効果を利用したものがあり,動作原理によってアクチュエータ128の構成は異なる。」ことが記載されている。
そうすると,請求項9発明の「収差補正手段」には,「(d-2)前記波面補償デバイス(可変形状ミラー)は,圧電効果を利用したアクチュエータによって変形可能な膜状のミラー面を有する」ものが含まれるものと理解され,(d-2)を請求項9発明に加えた発明も,甲1明細書等に記載されていると当業者が認識できることは明白である。

(6) 「波面センサー115による波面の測定と,その波面の補償光学制御機116への伝達と,補償光学制御機116による収差の補正の可変形状ミラーへの指示は,繰り返し処理されて常に最適な波面となるようにフィードバック制御が行われる。」(甲1エ)と記載されているから,上記請求項9発明の「(e) 前記収差測定手段の測定結果に基づいて,前記眼底で発生する収差を補正するために前記収差補正手段をフィードバック制御する」ことは,「(e) 前記収差測定手段の測定結果に基づいて,前記眼底で発生する収差を補正するために前記収差補正手段をフィードバック制御することを繰り返す」ことを意味することは明白である。

(7) 小括
以上の事項を,請求項9発明に加えて整理すると,先願1(甲1)明細書等には,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「(a) 眼底に測定光を照射し,該眼底で発生する収差を補償光学系で補正し,該眼底の光画像を撮像する光画像撮像装置であって,
(b)前記眼底の位置の変化を検知する位置変化検知手段と,
(c) 前記眼底で発生する収差を測定する収差測定手段と,
(c-1) 前記収差測定手段は,光源から眼に向けて投光し,眼の網膜から反射散乱された光の一部を,波面を測定するための波面センサに届く光学系で構成されており,
(d)前記眼底で発生する収差の補正を行う収差補正手段と,
(d-1) 前記収差補正手段は,光画像撮像光学系の光路中に配置され,補償光学制御機から指示された形状に変形する波面補償デバイス(可変形状ミラー)で構成され,
(d-2) 前記波面補償デバイス(可変形状ミラー)は,圧電効果を利用したアクチュエータによって変形可能な膜状のミラー面を有するものであり,
(e)前記収差測定手段の測定結果に基づいて,前記眼底で発生する収差を補正するために前記収差補正手段をフィードバック制御することを繰り返す共に,フィードバック制御をしている際に,
(f)前記位置変化検知手段による前記眼底の位置の変化の検知によって,その時点での収差の補正状態を維持して前記フィードバック制御を中断する制御手段と,
(g) 前記制御手段において,
前記検知手段で前記眼底が元の位置に戻ったことが検知された際に,前記維持された収差の補正状態から前記フィードバック制御を再開することを有することを特徴とする
(h)眼底の光画像撮像装置。」

2 甲2記載の事項
(甲2ア) 【図7】


3 甲3記載の事項
なお,翻訳は申立人によるものである。
(甲3ア)
「17.4.6 補正器の安定性の改良
瞬き,システムからの被検眼の突然の移動,及び,(フラッシング多量照射やOCTビームのような)システム中の他の光源によるSHWS検出器の飽和はいずれも,波面測定に重大な悪影響を引き起こす。これらの要因は,波面測定と補正の重大な不安定状態を引き起こしうる。我々は,このような測定を無視するロバストなソフトウエアフィルタを開発した。それは,波面測定結果は取得し格納するが,補正は実行しない。フィルタは,特定の実験条件に合わせることができる。図17.9は,瞬きの直後のRMS波面エラーにおける不安定性を抑制するフィルタ効果を示している。」(461頁9?19行)

(甲3イ)「本AOシステムは,Hofer ら[8]により報告されたシステムの拡張に対してセクション17.4において説明した修正及び改良を付加したものであり,付加物のうちいくつかはOCTと同時に動作させる必要がある。本AOシステムは,デスクトップコンピュータを介したクローズドループ方法で制御されるシャックルハルトマンセンサ(SHWS)と可変形状ミラー(Xinζtics社)からなる。・・・」(451頁下から2行?452頁4行)

4 甲4記載の事項
(甲4ア)「【0026】
コンピュータ14は,眼のアライメントをする(S109)。眼のアライメントには,別光源でアライメント用のスポットを用いても良い。本実施の形態では,例えば,前眼部に投影した光束の反射光束を前眼部イメージセンサ41に入射させ,前眼部の中心が前眼部イメージセンサ41の原点となるように,操作者により装置全体又は眼を移動させ,眼のアライメントを行う。なお,眼のアライメントは,適宜のタイミングで行ってもよい。
次に,瞳移動量演算部14-2は,瞳移動量演算処理を実行する(S111)。例えば,瞳移動量演算部14-2は,前眼部観察系の前眼部イメージングセンサ(例えばCCD)からのデータに基づき,瞳中心の光軸からのずれ位置(被検眼の変位,例えばx方向のずれXd及びy方向のずれYd)を検出する(図9(b),(c))。また,瞳移動量演算部14-2は,検出したずれ位置に基づき,移動位置補正ずれ量hを求める。なお,瞳移動量演算処理の詳細は後述する。
・・・」

5 甲5記載の事項
翻訳は,申立人によるものである。
(甲5ア)「[0086] 図8は,頭の動きのために画像処理システムを調節するためのシステムを示す。波面センサー176からの画像は,眼の平行移動と回転運動のために追跡するように使われることができる。・・・」

第6 取消理由の概要
当審の取消理由の概要は,概ね,本件特許の請求項6に係る発明は,本件特許に係る出願前の特願2009-262383号の特許出願(以下,「先願1」という。)であって,本件特許の出願の後に出願公開(甲1:特開2011-104125号公報)がされた先願1の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許の出願の発明者が先願1に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本件特許の出願の時において,本件特許の出願人が先願1の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから,本件請求項6に係る特許は,特許法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものであるというものである。

第7 取消理由について
本件訂正発明6(E-3)の特定事項と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「(d-2)前記波面補償デバイス(可変形状ミラー)は,圧電効果を利用したアクチュエータ」により駆動するものであり,圧電効果は,電圧信号を加えないと変形状態を維持できないものであることは技術常識である。

イ 甲1発明においては,(c-1)「波面を測定するための波面センサ」である「(e)前記収差測定手段の測定結果に基づいて,前記眼底で発生する収差を補正するために前記収差補正手段をフィードバック制御することを繰り返す」ことになる。
そして,(d-2)「前記波面補償デバイス(可変形状ミラー)」の(f)「補正状態を維持」し続けるためには,(d-2)「前記波面補償デバイス(可変形状ミラー)」を,駆動制御情報により「圧電効果を利用したアクチュエータ」を補正状態に駆動させ続ける必要があり,該駆動制御情報が何らかの記憶手段に記憶されているものと解される。そして,該記憶手段からは,該駆動制御情報が継続して出力されることとなる。

ウ 他方,本件訂正発明6の(E-3)「前記フィードバック制御を介して取得された波面制御情報」は,前記フィードバック制御を介して取得されていれば,どのようなものでもよく,その(E-3)「予め前記記憶手段に記憶された前記波面制御情報を復帰させ」,そして,(E-3)「復帰させた前記波面制御情報にて波面補償デバイスを制御」し,「前記フィードバック制御を再開させる制御手段」を具備するものである。

エ 以上のことから,甲1発明の(c-1)「波面を測定するための波面センサ」の測定結果に基づく(d-2)「前記波面補償デバイス(可変形状ミラー)」の駆動制御情報は,フィードバック制御中に取得され記憶されるが,(f)「前記位置変化検知手段による前記眼底の位置の変化の検知」されると,その時点から該取得された駆動制御情報が継続して出力され続けるものであることから,本件訂正発明6の「波面制御情報」を「復帰」させることに相当する構成を具備していない。
よって,甲1発明は,本件訂正発明6の(E-3)「予め前記記憶手段に記憶された前記波面制御情報を復帰させ」,そして,(E-3)「復帰させた前記波面制御情報にて波面補償デバイスを制御」する点を具備していないから,両発明はこの点において相違する。そして,この相違点は,課題解決のための具体化手段の微差であるとすることを認めるに足る証拠はないから,他の特定事項について対比するまでもなく,同一であるとはいえない。
したがって,本件訂正後の請求項6に係る特許は,特許法第29条の2の規定に違反してなされたものということはできない。

オ 以上のことから,取消理由によって,本件訂正後の請求項6に係る特許を取り消すことはできない。

第8 申立理由について
1 (申立理由1)について
取消理由の対象となった本件請求項6を除く請求項1?請求項5に係る特許に対する(申立理由1)について検討する。

本件発明1?本件発明5は,「(D) 前記波面センサ上に設定された前記波面補償デバイスの補償可能領域と前記波面センサによる眼底反射光束の検出領域とのずれ情報を検出する検出手段」(以下,「本件発明1?本件発明5(D)」という。)とする特定事項を具備する発明である。

そこで,甲1に,本件発明1?本件発明5(D)の事項が記載されているか検討する。
甲1の(甲1キ)には,[実施例3]として,「眼球運動検知部148が,収差測定手段である波面センサー115の情報によって眼球運動を検知することが特徴である。」という実施例が記載されているが,本件発明1?本件発明5(D)の「前記波面センサ上に設定された前記波面補償デバイスの補償可能領域」を開示するものではない。さらに,甲1に記載の他の記載を精査しても,本件発明1?本件発明5(D)と対応する記載はない。

申立人は,この点に関して「センサの測定値に基づき対象物の変位の有無を検出する場合に,センサの測定値を予め設定された比較対象と比較することは当然」(特許異議申立書27頁12?13行)であると主張するが,比較対象を本件発明1?本件発明5(D)の「前記波面センサ上に設定された前記波面補償デバイスの補償可能領域」とすることまでが,自明であるとはいえない。

よって,甲1には,本件発明1?本件発明5(D)の事項を具備した発明は記載されておらず,本件発明1?本件発明5と同一の発明が記載されているといえないから,他の特定事項を対比するまでもなく,本件請求項1?請求項5に係る特許は,特許法第29条の2の規定に違反してなされたものということはできない。

以上のことから,申立理由1によって,本件請求項1?請求項5に係る特許を取り消すことはできない。

2 (申立理由2)について
甲2の図7(甲2ア)には,本件訂正発明6(E-3)の「予め前記記憶手段に記憶された前記波面制御情報を復帰させ,復帰させた前記波面制御情報にて波面補償デバイスを制御した後,前記フィードバック制御を再開させる制御手段」は記載されていないし,他にも該本件訂正発明6(E-3)の制御手段を示唆する記載もない。
よって,甲2に,本件訂正発明6と同一の発明が記載されているといえないから,他の特定事項を対比するまでも無く,本件訂正後の請求項6に係る特許は,特許法第29条の2の規定に違反してなされたものということはできない。

以上のことから,申立理由2によって,本件訂正後の請求項6に係る特許を取り消すことはできない。

3 (申立理由3)について
(1) 本件発明1?本件発明5について
本件発明1?本件発明5の「(D) 前記波面センサ上に設定された前記波面補償デバイスの補償可能領域と前記波面センサによる眼底反射光束の検出領域とのずれ情報を検出する検出手段」は,以下に検討するように,甲3?甲5に記載されているということはできない。

ア 甲3には(甲3ア)で摘記したように「瞬き,システムからの被検眼の突然の移動」により「波面測定に重大な悪影響を引き起こ」すことについて記載はあるが,本件発明1?本件発明5(D),特に,「波面センサによる眼底反射光束の検出領域」を検出するものではないし,「補償可能領域」と該「検出領域」のずれ情報を検出するものではない。

イ 甲4には,「瞳移動量演算部14-2は,前眼部観察系の前眼部イメージングセンサ(例えばCCD)からのデータに基づき,瞳中心の光軸からのずれ位置(被検眼の変位,例えばx方向のずれXd及びy方向のずれYd)を検出する」(甲4ア)との記載はあるが,本件発明1?本件発明5(D),「波面センサによる眼底反射光束の検出領域」を検出するものではないし,「補償可能領域」と該「検出領域」とのずれ情報を検出ものではない。

ウ 甲5には,「波面センサー176からの画像は,眼の平行移動と回転運動のために追跡するように使われることができる。」(甲5ア)と記載されているが,補償可能領域とのずれ情報を検出することについては記載が無い。

以上のように,甲3?甲5のいずれにも本件発明1?本件発明5(D)について記載も示唆も無く,他の特定事項について対比するまでもなく,本件発明1?本件発明5は,甲3?甲5に記載の事項から,当業者が容易に発明できたものとはいえないから,申立理由3によって本件請求項1?請求項5に係る特許を取り消すことはできない。

(2) 本件訂正発明6について
ア 本件訂正発明6の「(E-3) 前記フィードバック制御を介して取得された波面制御情報を記憶手段に予め記憶させ,予め前記記憶手段に記憶された前記波面制御情報を復帰させ,復帰させた前記波面制御情報にて波面補償デバイスを制御した後,前記フィードバック制御を再開させる制御手段」について,甲3に記載されたものとを対比する。

イ 甲3には「クローズドループ方法で制御されるシャックルハルトマンセンサ(SHWS)と可変形状ミラー」(甲3イ)と記載されおり,クローズドループとはフィードバック制御を意味することから,甲3に記載のものも本件訂正発明6の「前記フィードバック制御を介して取得された波面制御情報」を得る構成を備えているものと理解される。

ウ 甲3には,「波面測定結果は取得し格納する」(甲3ア)と記載されていることから,甲3に記載のものも本件訂正発明6の「波面制御情報を記憶手段に予め記憶させ」るという構成を備えているものである。

エ 甲3(甲3ア)には,「瞬き,システムからの被検眼の突然の移動」等に伴い,「波面測定結果は取得し格納するが,補正は実行しない。」とあるから,波面測定は継続して行われ,前記「クローズドループ方法」(甲3イ)による制御は,中断され,その後,制御が再開するものと理解される。
そして,制御が中断しても,「波面測定」は継続し,「波面測定結果」は格納され続けるから,制御を再開する際には,制御再開時の新たに測定された「波面測定結果」により制御されると解するのが自然であり,過去に記憶された波面測定結果による制御情報を復帰させ,制御を再開するようなものではない。

よって,甲3に記載のものは,本件訂正発明6(E-3)の「予め前記記憶手段に記憶された前記波面制御情報を復帰させ,復帰させた前記波面制御情報にて波面補償デバイスを制御した後,前記フィードバック制御を再開させる制御手段」を具備していない。

オ 甲4及び甲5にも,前記本件訂正発明6(E-3)の「予め前記記憶手段に記憶された前記波面制御情報を復帰させ,復帰させた前記波面制御情報にて波面補償デバイスを制御した後,前記フィードバック制御を再開させる制御手段」について記載はなく,他の特定事項について対比するまでもなく,本件訂正発明6は,甲3?甲5に記載の事項から,当業者が容易に発明できたものとはいえないから,申立理由3によって本件訂正後の請求項6に係る特許を取り消すことはできない。

(3) 小括
以上のことから,申立理由3によって,本件発明1?本件発明5及び本件訂正発明6は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできず,本件請求項1?請求項5及び本件訂正後の請求項6に係る特許を取り消すことはできない。

4 (申立理由4)について
ア 申立人は,次の3つの主張をする。
(主張1)
本件請求項1?請求項6の「波面収差検出光学系」が「被検眼眼底に向けて」投光することについて,発明の詳細な説明に具体的な記載がないことを根拠に,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。(特許異議申立書58頁「ア.構成Cについて」の項)
(主張2)
本件請求項1?請求項5の「ずれ情報」を検出する「検出手段」に様々な検出手段が包含されるところ,発明の詳細な説明には,波面センサにおいて測定される波面の変化を利用した構成しか記載されていないから,本件請求項1?請求項5に係る発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるといえ,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。(特許異議申立書58頁「イ.構成Dについて」の項)
なお,本件訂正後の請求項6には,「ずれ情報」に関する規定は無いから,請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?請求項5に対する特許異議申立と理解した。
(主張3)
本件請求項1?請求項5には,「眼底像を撮像」することに関して,何ら規定が無く,ずれ許容範囲を外れた場合であっても,フィードバック制御が停止された状態で「眼底撮像光学系」による「眼底像」の「撮像」が継続し,波面収差の補正がなされない良好では無い眼底の撮像が行われることとなる。
しかしながら,「【発明の効果】【0009】 本発明は,上記問題点を鑑み,波面収差が補正された状態の良好な眼底画像を撮影できる。」と記載されているから,本件請求項1?請求項5の特許請求の範囲は,かかる効果を奏するための構成を備えておらず,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。(特許異議申立書59頁「ウ.発明の作用・効果について」の項)
なお,本件訂正後の請求項6には,「ずれ情報」に関する規定は無いから,請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?請求項5に対する特許異議申立と理解した。

イ 主張1について
波面収差光学系について,本件特許明細書の【0022】?【0023】に記載がある。具体的には,「収差検出用光源(第3光源)である光源76」(【0022】)が設けられ,「光源76から出射したレーザ光は,レンズ77により平行光束とされ,偏光板78により光源1からの照明光と直交する偏光方向(P偏光)とされ,ビームスプリッタ75により第1照明光学系の光路に導かれる。」(【0022】),そして,「ビームスプリッタ75により反射したレーザ光は,第1照明光学系100aの光路を経て被検眼Eの眼底に集光される。」(【0023】)と記載されており,収差検出用光源76から被検眼の眼底に至るまでの光路の記載があるから,発明の詳細な説明に具体的な記載がないとの申立人の主張は根拠が無く,本件請求項1の特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないということはできない。
本件請求項2?請求項5及び本件訂正後の請求項6の特許請求の範囲の記載についても同様の理由で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないということはできない。

ウ 主張2について
本件特許明細書には,次のような従来技術の問題点の指摘がある。
[問題点]
「位置あわせの完了後において,被検眼の固視状態が十分に保持されず,良好な眼底画像が得られない場合」があり,「例えば,波面センサ上には,波面補償デバイスによる波面補償領域32が設定されており,ハルトマン像31が形成されていない領域Sにおいては,波面の状態が検出され」ず,「波面測定データの一部が欠損」する(【0004】)。
そして,「波面全体の情報が得られないため,波面補正領域における波面収差が適正に測定されない。そして,このような状態で得られた検出結果に基づいて波面補償制御が行われた場合,波面補償デバイスは誤った収差補償量にて制御」(【0004】)されることが起きる。
また,「波面測定データの欠損が解消されたとしても,誤った収差補償量で制御された波面補償デバイスを適正な制御状態に戻すには時間が必要であり,良好な眼底像の観察を再開するまでに多くの時間(例えば,約3秒)を要していた。」(【0005】)

そのため,「本発明は,上記問題点を鑑み,波面収差が補正された状態の良好な眼底画像を撮影できる波面補償付眼底撮影装置を提供することを技術課題とする。」(【0006】)と記載されている。

以上のことから,本件発明1?本件発明5が解決しようとする課題は,被検眼の固視状態が十分に保持されず,波面収差が適正に測定されない状況で,波面補償デバイスが誤った収差補償量にて制御され,誤った収差補償量で制御された波面補償デバイスを適正な制御状態に戻すのに多くの時間を要するという従来技術の問題を解決することにあると認められる。

そして,それを解決する手段として,本件発明1?本件発明5は,「(D) 前記波面センサ上に設定された前記波面補償デバイスの補償可能領域と前記波面センサによる眼底反射光束の検出領域とのずれ情報を検出」することで,誤った収差補正量を検出しているかを検出し,「(E-2) 前記検出手段により検出されるずれ情報が許容範囲内を外れた場合に,フィードバック制御を一時的に停止させ,前記ずれ情報が許容範囲内に復帰した場合にフィードバック制御を再開させる制御手段」を設けたものであって,波面補償デバイスが誤った収差補償量にて制御されることを防ぐものである。

そうすると,ずれ情報を検出する手段がどのようなものであっても,「波面補償デバイスが誤った収差補償量にて制御されることを防ぎ,波面収差が補正された状態の良好な眼底画像を撮影できる波面補償付眼底撮影装置を提供する」という上記発明の課題を解決できると理解できるから,本件請求項1?請求項5の特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないということはできない。

エ 主張3について
申立人の指摘する,本件特許明細書記載の「【発明の効果】【0009】 本発明は,上記問題点を鑑み,波面収差が補正された状態の良好な眼底画像を撮影できる。」における「上記問題点」とは,上記「ウ 主張2について」に記した従来技術の「波面測定データの一部が欠損」する(【0004】),「誤った収差補償量で制御された波面補償デバイスを適正な制御状態に戻すには時間が必要」(【0005】)という問題点であり,この問題点は上記「ウ 主張2について」に記したように本件請求項1?請求項5の特許請求の範囲の記載で解決できると認識できるから,かかる効果を奏するための構成を備えていないとはいえない。

仮に,申立人の主張するように,フィードバック制御が停止された状態で「眼底撮像光学系」による「眼底像」の「撮像」が継続し,良好でない画像が含まれることになったとしても,従来技術よりも「波面収差が補正された状態の良好な眼底画像を撮影できる」機会は増え,上記従来技術の問題点が解決できたといえる。

そうすると,本件特許の請求項1?請求項5の特許請求の範囲には,発明の詳細な説明により,前記発明の課題(上記「ウ 主張2について」参照)を解決できると当業者が認識できる発明が記載されていることは明白である。
よって,申立人の主張は失当であり,本件請求項1?請求項5の特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないということはできない。

第9 むすび
以上のことから,上記取消理由によっては,本件請求項1?請求項5及び本件訂正後の請求項6に係る特許を取り消すことはできない。
また,申立人の主張する申立理由によっては,本件請求項1?請求項5及び本件訂正後の請求項6に係る特許を取り消すことはできない。
さらに,他に本件請求項1?請求項5及び本件訂正後の請求項6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
波面補償付眼底撮影装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検眼の波面収差を補正した状態で被検眼の眼底像を撮影する波面補償付眼底撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シャックハルトマンセンサーなどの波面センサを用いて眼の波面収差を検出し、その検出結果に基づいて波面補償デバイスを制御し、波面補償後の眼底画像を細胞レベルで撮影する装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このような装置は、被検眼と装置との位置合わせの完了後、眼の波面収差の検出と、その検出結果に基づく波面補償制御を繰り返し行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 特表2001-507258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、位置あわせの完了後において、被検眼の固視状態が十分に保持されず、良好な眼底画像が得られない場合がある。図4(a)は、固視がずれた状態の波面センサの受光結果を示す例である。例えば、波面センサ上には、波面補償デバイスによる波面補償領域32が設定されており、ハルトマン像31が形成されていない領域Sにおいては、波面の状態が検出されない。このように波面測定データの一部が欠損している場合(図4(a)参照)、波面全体の情報が得られないため、波面補正領域における波面収差が適正に測定されない。そして、このような状態で得られた検出結果に基づいて波面補償制御が行われた場合、波面補償デバイスは誤った収差補償量にて制御されてしまう。
【0005】
そして、波面測定データの欠損が解消されたとしても、誤った収差補償量で制御された波面補償デバイスを適正な制御状態に戻すには時間が必要であり、良好な眼底像の観察を再開するまでに多くの時間(例えば、約3秒)を要していた。
【0006】
本発明は、上記問題点を鑑み、波面収差が補正された状態の良好な眼底画像を撮影できる波面補償付眼底撮影装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0008】
(1) 被検眼眼底からの反射光を受光して眼底像を撮像する眼底撮像光学系と、前記眼底撮像光学系の光路中に配置され、入射光の波面を制御して被検眼の波面収差を補償する波面補償デバイスと、被検眼眼底に向けて測定光を投光し、その眼底からの反射光を波面センサにより検出する波面収差検出光学系と、前記波面センサ上に設定された前記波面補償デバイスの補償可能領域と前記波面センサによる眼底反射光束の検出領域とのずれ情報を検出する検出手段と、前記波面センサからの検出信号に基づく被検者眼の波面収差の検出と、その検出結果に基づく前記波面補償デバイスの制御とを繰り返すフィードバック制御を行う制御手段であって、前記検出手段により検出されるずれ情報が許容範囲内を外れた場合に、フィードバック制御を一時的に停止させ、前記ずれ情報が許容範囲内に復帰した場合にフィードバック制御を再開させる制御手段と、を備えることを特徴とする。
(2) (1)の眼底撮影装置において、眼底撮像光学系により連続的に撮像される眼底像を動画として出力する表示手段を備えることを特徴とする。
(3) (1)又は(2)の眼底撮影装置において、さらに、前記ずれ情報が許容範囲内に収まるように前記検出光学系と被検眼との位置関係を相対的に調整する位置調整手段を備えることを特徴とする。
(4) (1)?(3)のいずれかの眼底撮影装置において、前記制御手段は、フィードバック制御を停止させるとき、前記波面収差補償デバイスによる収差補償量を,前記ずれ情報が許容範囲内を外れた前の収差補償量で保持することを特徴とする。
(5) (1)?(4)のいずれかの眼底撮影装置において、前記波面補償デバイスの波面制御情報を記憶する記憶手段と、を備え、前記制御手段は、前記ずれ情報が許容範囲内に収まっている場合の波面制御情報を前記記憶手段に記憶させ、前記ずれ情報が許容範囲内に復帰した場合、前記波面補償デバイスの波面制御情報を前記波面補償デバイスへ反映させることを特徴とする。
(6) 被検眼眼底からの反射光を受光して眼底像を撮像する眼底撮像光学系と、
前記眼底撮像光学系の光路中に配置され、入射光の波面を制御して被検眼の波面収差を補償する波面補償デバイスと、
被検眼眼底に向けて測定光を投光し、その眼底からの反射光を波面センサにより検出する波面収差検出光学系と、
前記波面センサからの検出信号に基づく被検者眼の波面収差の検出と、その検出結果に基づく前記波面補償デバイスの制御とを繰り返すフィードバック制御を行う制御手段であって、前記フィードバック制御を介して取得された波面制御情報を記憶手段に予め記憶させ、予め前記記憶手段に記憶された前記波面制御情報を復帰させ、復帰させた前記波面制御情報にて波面補償デバイスを制御した後、前記フィードバック制御を再開させる制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上記問題点を鑑み、波面収差が補正された状態の良好な眼底画像を撮影できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を説明する。図1は、本実施形態の眼底撮影装置の外観図を示しており、本装置は、基台21と、基台21に取り付けられた顔支持ユニット20と、基台21の上に移動可能に設けられたモーター等からなる駆動機構505と、駆動機構505の上に後述する光学系を収納する撮影部500を備える。駆動機構505は、図無きジョイスティック等の操作により、基台21上を左右方向(X方向)、上下方向(Y方向)及び前後方向(Z方向)に移動される。
【0011】
図2は、本実施形態の眼底撮影装置の光学系を示した模式図である。本実施形態の眼底撮影装置は、大別して、眼底撮像光学系100と、波面収差検出光学系(以下、収差検出光学系と記載する。)110と、収差補償ユニット10,72と、第2撮影ユニット200と、トラッキング用ユニット(位置検出部)300と、を備える。眼底撮像光学系100は、被検眼Eの眼底からの反射光を受光して被検眼の眼底像を撮像する。波面収差検出光学系は、波面センサ73を有し、被検眼眼底に測定光を投光し、その眼底からの反射光を波面センサ73にて指標パターン像として受光する。収差補償ユニット10,72は、被検眼の収差を補正するために眼底撮像光学系100に配置される。第2撮影ユニット200は、眼底撮像光学系100で得られる眼底画像(以下、第1眼底画像と記す)の撮影位置を指定するための眼底の観察画像(以下、第2眼底画像と記す)を得る。トラッキング用ユニット300は、撮影される被検眼Eの固視微動等による位置ずれの経時変化を検出し、移動位置情報を得る。
【0012】
ここで、眼底撮像光学系100は、被検眼Eの眼底を高解像度(高分解能)・高倍率で撮影する。また、収差補償ユニットは、被検眼の低次収差(視度:例えば、球面度数)を補正するための視度補正部10と、被検眼の高次収差を補正するための高次収差補償部(波面補償デバイス)72と、に大別される。
【0013】
眼底撮像光学系100は、被検眼Eに照明光(照明光束)を照射し眼底を2次元的に照明する第1照明光学系100aと、眼底に照射された照明光の反射光(反射光束)を受光して第1眼底画像を得るための第1撮影光学系100bと、収差補償部72と、を備える。眼底撮像光学系100は、例えば、共焦点光学系を用いた走査型レーザ検眼鏡の構成とされる。
【0014】
第1照明光学系100aは、眼底を照明するための照明光を出射する光源1(第1光源),照明光(スポット光)を眼底上で2次元的に走査する走査部15を有する。光源1は、被検眼に視認されにくい近赤外域の照明光を出射する。本実施形態では光源1は、波長840nmのSLD(Super Luminescent Diode)光源が用いられる。なお、光源としては、収束性の高い特性を持つスポット光を出射するものであればよく、例えば、半導体レーザ等であってもよい。
【0015】
はじめに、第1照明光学系100aを説明する。光源1から眼底に到るまでの光路には、レンズ2、ビームスプリッタ3、偏光板4、レンズ5、ビームスプリッタ71、レンズ6、波面補償デバイス72、レンズ7、ビームスプリッタ75が配置される。そしてさらに、レンズ8、走査部15、レンズ9、2次元状に走査される照明光の走査位置を補正するための偏向部400、2枚のプリズムからなる視度補正部10、レンズ11、第2撮影ユニット200等の光路を第1照明光学系と略同軸にするビームスプリッタ90が配置される。なお、ビームスプリッタ3は、本実施形態では、ハーフミラーとされている。
【0016】
光源1から出射された照明光は、レンズ2により平行光とされた後、ビームスプリッタ3を介し、本実施形態では偏光板4によりS偏光成分のみの光束とされる。偏光板4を経た照明光は、レンズ5により一旦集光し、ビームスプリッタ71を介してレンズ6により平行光束とされ、波面補償デバイス72に入射する。波面補償デバイス72にて反射した照明光は、レンズ7、レンズ8によりリレーされ、走査部15に向かう。
【0017】
走査部15は、照明光を眼底上で2次元的に走査する構成とされ、ここでは、図示するように、眼底でXY方向に照明光を走査する。本実施形態では、照明光を眼底にて水平方向(X方向)に偏向させ走査するための偏向部材となるレゾナントミラーと、水平方向の走査方向に対して垂直方向(Y方向)に偏向させ走査するための偏向部材となるガルバノミラーと、各ミラーを駆動する駆動部を備える。走査部15を経た照明光は、レンズ9にて再び集光される。偏向部400は、走査部15を経た照明光を水平方向及び垂直方向に対して所定量だけさらに偏向させる役目を持ち、本実施形態では2枚のガルバノミラーにより構成されている。偏向部400を経た照明光は、視度補正部10、レンズ11、ビームスプリッタ90を経て被検眼Eの眼底に集光し、走査部15によって眼底上を2次元的に走査することとなる。なお、視度補正部10は、駆動部10aを有し、一方のプリズムが図示する矢印方向に移動することにより、光路長を変えることができ、視度補正の役目を果たしている。なお、視度補正部10は、駆動部と、駆動部の駆動によって光軸方向に移動可能なレンズからなる構成であってもよい。また、ビームスプリッタ90は、本実施形態ではダイクロイックミラーであり、後述する第2撮影ユニット200、及びトラッキング用ユニット300からの光束を反射させ、光源1及び後述する光源76からの光束を透過させる特性を持つ。なお、光源1及び光源76の出射端と被検眼Eとは共役とされている。このようにして、照明光を眼底に2次元的に照射する第1照明光学系が形成される。
【0018】
次に、第1撮影光学系100bを説明する。第1撮影光学系100は、第1照明光学系100aにて説明したビームスプリッタ90からビームスプリッタ3までの光路を共通とし、さらにレンズ51、眼底と共役な位置に置かれるピンホール板52、集光レンズ53、受光素子54を含む。なお、本実施形態では、受光素子54はAPD(アバランシェフォトダイオード)が用いられている。
【0019】
光源1から出射された照明光における眼底からの反射光は、前述した第1照明光学系100aを逆に辿り、偏光板4にてS偏光の光だけ透過された後、ビームスプリッタ3により一部の光束が反射される。この反射光は、レンズ51を介してピンホール板52のピンホールに焦点を結ぶ。ピンホールにて焦点を結んだ反射光は、レンズ53を経て受光素子54に受光される。なお、照明光の一部は角膜上で反射されるが、ピンホール板52により大部分が除去され、角膜反射の画像への悪影響が低減される。このため、受光素子54は、角膜反射の影響を抑えて、眼底からの反射光を受光できる。なお、ビームスプリッタ3は、ホールミラーとされてもよい。この場合、ホールミラーのホールは、角膜反射光を第1撮影光学系100bに入射することを抑制する。
【0020】
このようにして、第1撮影光学系100bが形成される。第1撮影光学系100bで受光された処理された画像が第1眼底画像となる。なお、第1撮影ユニット100で取得する眼底画像(眼底像)の画角が所定の角度となるように走査部15におけるミラーの振れ角(揺動角度)を定める。ここでは、眼底の所定の範囲を高倍率で観察、撮影する(ここでは、細胞レベルでの観察等をする)ために、画角を1度?5度程度とする。本実施形態では、1.5度とする。被検眼の視度等にもよるが、第1眼底画像の撮影範囲は、500μm角程度とされる。
【0021】
次に、第2撮影ユニット200を説明する。第2撮影ユニットは、第1撮影ユニットの画角よりも広画角の眼底画像(第2眼底画像)を取得するためのユニットであり、取得される第2眼底画像は、前述した狭画角の第1眼底画像を得るための位置指定、及び位置確認用の画像として用いられる。このような第2眼底画像を取得するための第2撮影ユニット200は、被検眼Eの眼底画像を観察用として広画角(例えば20度?60度程度)でリアルタイムに取得できればよい。したがって第2撮影ユニット200は、既存の眼底カメラの観察・撮影光学系や走査型レーザー検眼鏡(Scanning Laser Ophthalmoscope:SLO)の光学系、及び制御系を用いることができる。
【0022】
次に、収差検出光学系110について説明する。前述のように、収差検出光学系110は、一部の光学素子を第1照明光学系100aの光路上に持ち、第1照明光学系100aと光路を一部共用している。収差検出光学系110は、波面センサ73、偏光板74、光源76、レンズ77、偏光板78、レンズ79、を含み、第1照明光学系の光路上に置かれるビームスプリッタ71からビームスプリッタ90までの光学部材を共用することにより構成されている。なお、波面センサ73は、例えば、多数のマイクロレンズからなるマイクロレンズアレイと、マイクロレンズアレイを透過した光束を受光させるための二次元撮像素子73a(2次元受光素子)からなる。また、収差検出用光源(第3光源)である光源76は、光源1と異なる赤外域の光を発する光源とされる。本実施形態では光源76は波長780nmのレーザ光を出射するレーザダイオードを用いている。光源76から出射したレーザ光は、レンズ77により平行光束とされ、偏光板78により光源1からの照明光と直交する偏光方向(P偏光)とされ、ビームスプリッタ75により第1照明光学系の光路に導かれる。なお、レンズ7、8の間に眼底共役位置があり、光源76の出射端はこの眼底共役位置と共役な関係とされる。なお、ビームスプリッタ75は、本実施形態ではハーフミラーとされている。偏光板78は、眼底へと照射される第3光源の光を所定の偏光方向とする役割を持ち、波面補償部が備える第1偏光手段の役割を持つ。
【0023】
ビームスプリッタ75により反射したレーザ光は、第1照明光学系100aの光路を経て被検眼Eの眼底に集光される。眼底で反射されたレーザ光は、第1照明光学系100aの各光学部材を経て波面補償デバイス72にて反射し、ビームスプリッタ71により第1照明光学系100aの光路から外れ、レンズ79、S偏光成分のみを通す偏光板74を経て波面センサ73へと導かれる。偏光板74は、波面補償部に備えられた第2偏光手段であり、眼底へと照射される第3光源の光が持つ偏光方向(P偏光光)を遮断し、この偏光方向に直交する偏光方向(S偏光光)を透過し、波面センサ73へと導光する役割を持つ。なお、ビームスプリッタ71は、光源1の波長の光(840nm)を透過し、収差検出用の光源76の波長の光(780nm)を反射する特性とされる。従って、波面センサ73では、照射したレーザ光の眼底での散乱光のうちS偏光成分を持つ光が検出される。このようにして、角膜や光学素子で反射される光が波面センサ73に検出されることを抑制している。また、走査部15、波面補償デバイス72の反射面、及び波面センサ73のマイクロレンズアレイは、被検眼の瞳と略共役とされる。また、波面センサ73の受光面は被検眼Eの眼底と略共役とされる。波面センサ73には、低次収差及び高次収差を含む波面収差が検出できる素子、例えば、ハルトマンシャック検出器や光強度の変化を検出する波面曲率センサ等を用いる。
【0024】
また、波面補償デバイス72は、例えば、液晶空間光変調器とし、反射型のLCOS(Liquid Crystal On Silicon)等を用いるものとしている。そして、波面補償デバイス72は、眼底撮像光学系100の光路中に配置され、入射光の波面を制御して被検眼の波面収差を補償する。なお、波面補償デバイス72は、光源1からの照明光(S偏光光)、照明光の眼底での反射光(S偏光光)、波面収差検出用光の反射光(S偏光成分)等の所定の直線偏光(S偏光)に対して収差を補償することが可能な向きに配置される。これにより、波面補償デバイス72は、入射する光のS偏光成分を変調できる。また、波面補償デバイス72は、その液晶層内の液晶分子の配列方向が入射する反射光の偏光面と略平行であり、さらに、液晶分子が液晶層への印加電圧の変化に応じて回転する所定の面が、波面補償デバイス72に対する眼底からの反射光の入射光軸及び反射光軸と、波面補償デバイス72が持つミラー層の法線と、を含む平面に対して略平行になるように、配置されている。
【0025】
なお、本実施例においては、波面補償デバイス72は、液晶変調素子とし、反射型のLCOS(Liquid Crystal On Silicon)等を用いるものとしているが、これに限るものではない。反射型の波面補償デバイスであればよい。例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の一形態であるデフォーマブルミラーを用いてもよい。また、反射型の波面補償デバイスではなく、眼底からの反射光を透過させて波面収差を補償するような透過型の波面補償デバイスを用いることもできる。
【0026】
なお、以上の説明では、収差検出用光源として、第1光源とは異なる波長の照明光を出射する光源を用いたが、第1光源を収差検出用光源として用いてもよい。
【0027】
なお、以上説明した本実施形態では、波面センサ及び波面補償デバイスを被検眼の瞳共役としたが、被検眼の前眼部の所定部位と略共役な位置であればよく、例えば、角膜共役であってもよい。
【0028】
次に、眼底撮影装置の制御系を説明する。図3は、本実施形態の眼底撮影装置の制御系を示したブロック図である。装置全体の制御を行う制御部80には、光源1、駆動機構505、走査部15、受光素子54、波面補償デバイス72、波面センサ73、光源76、第2撮影ユニット200、トラッキング用ユニット300、偏向部400、偏向部410、視度補正部10、が接続される。また、記憶部81、コントロール部82、画像処理部83、モニタ85、が接続される。
【0029】
画像処理部83は受光素子54、第2撮影ユニット200にて受光した信号に基づきモニタ85に画角の異なる被検眼眼底の画像、つまり、第1眼底画像及び第2眼底画像を形成する。記憶部81には種々の設定情報や撮影画像が保存される。なお、モニタ85には、例えば、外部のパ-ソナルコンピューターのモニタや装置に備えられているモニタが考えられる。モニタ85には、所定のフレームレートにて更新される眼底画像(第1眼底画像、及び第2眼底画像)が表示される。フレームレートとしては、例えば、10?100Hzとされる。このようにして、動画として眼底画像が表示される。本実施形態では、制御部80は、モニタ85の表示制御部80、偏向部400、410の駆動制御部80、光源1、76等の出射制御部80の機能を兼ねる。
【0030】
なお、波面補償デバイス72を制御する場合、波面センサ73で検出された波面収差に基づいて、波面補償デバイス72が制御され、光源76の反射光のS偏光成分と共に、光源1から出射される照明光とその反射光の高次収差が取り除かれる。このようにして、光源1から出射された照明光とその反射光が持つ収差が取り除かれる。言い換えると、被検眼Eの高次収差が取り除かれた(波面補償された)高解像度の第1眼底画像が得られることとなる。この場合、視度補正部10によって低次収差が補正される。
【0031】
<指標パターン像と補償可能領域の説明>
図4は、波面センサ73上の指標パターン像と補償可能領域の具体例について説明する図である。図5はモニタ85の画面上に表示された収差補償画面40を示した図である。収差補償画面40には、波面センサ73の二次元撮像素子73aに受光された指標パターン像(本実施例においては、ハルトマン像とし、以下、ハルトマン像と記載する)と、収差補償の補正度合をグラフィック表示した収差補償グラフィック41と、が表示されている。
【0032】
ハルトマン像(ドットパターン像)31は、波面センサ73上に受光された複数の点像31aの集まりを示す。レンズアレイを通過した眼底反射光は、波面センサ73の二次元撮像素子73aに受光され、ハルトマン像として撮像される。そして、ハルトマン像31は、モニタ85上に表示される。なお、波面センサ73によって点像31aが検出された領域では、収差検出が可能である。
【0033】
円32は、二次元撮像素子73a上において、波面補償デバイス72によって収差補償可能な領域を仮想的に示したものである。そして、円32に対応するグラフィックが、モニタ85上のハルトマン像に重合されて表示される。
【0034】
そして、円32の外周、領域、波面センサ73上におけるその位置情報が予め記憶部81に設定されている。これらは、キャリブレーション又はシミュレーションなどにより予め求めておけばよい。なお、波面補償デバイス72において、補償可能領域は、入射光全体の内、ある一部の領域(例えば、瞳孔上における直径4mm領域)の光束に制限される。このため、他の入射光については、受光素子54に向けて反射されるが、波面は補償されない。
【0035】
ここで、収差補償は、波面センサ73による収差検出結果に基づいて行われる。すなわち、円32の領域内においてハルトマン像31が形成された領域では、波面の状態が検出可能である(図4(b)参照)。一方、円32の領域内において、ハルトマン像31が形成されていない領域Sにおいては、波面の状態が検出されない。ここで、波面データの一部が欠損している場合、波面全体の情報が得られないため、波面補正領域における波面収差が適正に測定されない(図4(a)参照)。よって、図5(a)に示すように、収差補償が実行されても、収差補償グラフィック41に示されるように適正に収差が除去されない。
【0036】
<動作説明>
以上のような構成の眼底撮影装置において、その動作を説明する。検者により、初めに、モニタ85の画面上に表示された図示無き前眼部画像を観察しながら、図無きジョイスティック等の操作により、撮影部500の位置調整を行い、粗くアライメントを行う。また、検者は、被検者が図示無き固視標を固視するように指示する。アライメントが完了し、検者により図示無き測定スイッチが選択されると、制御部80により、視度補正部10を用いて視度補正が行われ、次いで、収差補償に必要な波面検出を行う。
【0037】
次に、制御部80は、波面センサ73上に設定された波面補償デバイス72の補償可能領域(例えば、円32)と波面センサ73による眼底反射光束(例えば、ハルトマン像31)の検出領域とのずれ情報を検出(取得)する。そして、制御部80は、検出結果に基づいて駆動機構505を駆動させ、撮影部500の位置調整を行い、そのずれ情報が許容範囲内に収まるように撮影部500を移動させる。
【0038】
例えば、初めに、制御部80は、波面センサ73で受光されたハルトマン像31の内で最も外側で受光された点像位置を順に検出していきハルトマン像外周31bの位置情報を検出する。これにより、ハルトマン像31の検出領域が求められる。
【0039】
次いで、制御部80は、ハルトマン像外周31bの位置情報と円32(収差補償可能領域)の位置情報を比較して、その比較結果に基づいて波面測定領域が収差補償可能領域を許容範囲以上満たしているかを判定する。
【0040】
より具体的には、制御部80は、ハルトマン像外周31bに囲まれた領域(点線参照)と円32に囲まれた領域を比較する。ここで、制御部80は、円32の成す領域がハルトマン像外周31bの成す領域内に収まっている場合には、十分である(OK)と判定する(図4(b)参照)。また、制御部80は、円32の成す領域が外周31bの成す領域内に収まっていない場合には、不十分である(NG)と判定する(図4(a)参照)。そして、不十分である(NG)と判定した場合、ずれ情報が許容範囲内に収まるように撮影部500を移動させ、円32の成す領域がハルトマン像外周31bの成す領域内に収まるように位置を調節する。これにより、図5(b)に示されるように、収差補償が実行された場合、収差グラフィック41に示されるように、適正に収差が除去される。
【0041】
なお、上記判定において、指標パターン像が補償可能領域を100%満たしていなくてもよく、一定の精度にて波面収差が測定されればよい(例えば、95%の領域)。そして、判定結果にてずれが検出された場合、制御部80は、駆動機構505を駆動させ、補償可能領域内におけるある許容範囲(例えば、一定の割合以上)を超えて指標パターン像が受光されるように、撮影部500を移動させる。
【0042】
<波面検出開始/眼底撮影開始/フィードバック制御>
撮影部500の位置が調整された後、制御部80は、円32の成す領域がハルトマン像外周31bの成す領域内に収まっているか判定をする。制御部80は、円32の成す領域がハルトマン像外周31bの成す領域内に収まっている場合に、波面センサ73の検出結果に基づいて被検眼Eの波面収差を検出するとともに、眼底撮像光学系100による眼底撮影を開始する。
【0043】
制御部80は、その収差検出結果に基づいて、収差補償量を算出し、その算出結果を用いて、波面補償デバイス72を制御し、波面収差を補償する。そして、制御部80は、波面センサ73から出力されるハルトマン像を新たに取得し、波面収差を検出する。そして、その収差検出結果に基づいて、収差補償量を算出し、その算出結果を用いて、波面補償デバイス72を制御し、波面収差を補償する。以上のように、制御部80は、収差検出と、その結果に基づく波面補償の制御と、を繰り返すフィードバック制御を行う。
【0044】
例えば、LCOSの場合、波面センサ73による波面収差の検出と、この検出結果に基づくLCOSの位相パターンの算出と、この算出結果に基づくLCOSの各画素への電圧印加と、を含むループ処理において補償用位相パターンはフィードバック制御される。これにより、波面収差の検出に基づいてLCOSの液晶層の屈折率が随時変化され、眼底反射光の波面の歪みが補正される。
【0045】
また、デフォーマブルミラーの場合、波面センサ73による波面収差の検出と、この検出結果に基づくミラー形状の算出と、この算出結果に基づくデフォーマブルミラーの各駆動部への電圧印加と、を含むループ処理においてミラー全体の形状はフィードバック制御される。これにより、波面収差の検出に基づいて、ミラー全体の形状が随時変化され、眼底反射光の波面の歪みが補正される。
【0046】
上記のフィードバック制御は、波面収差が補償される間に、同時に取得されている眼底動画像に反映される。すなわち、上記のように、フィードバック制御を行うことにより、眼底反射光の波面が補償されていくため、眼底動画像のぼけを減らすことができる。したがって、被検眼の固視状態や位置の変化によって、眼底撮影装置に対する被検眼の収差状態が変化しても、鮮明な眼底像を得ることができる。
【0047】
なお、フィードバック制御は、撮影終了時まで行われる。また、フィードバック制御が行われ、眼底動画像を取得している間に、所定のトリガ信号が出力されると、そのときに取得された眼底の細胞像が動画像又は静止画像として記憶部81に記憶される。
【0048】
<位置合わせ終了後の位置ずれ>
ここで、位置合わせを調整した後においても、例えば、被検眼Eの固視状態が十分に保持できない等の理由により、被検眼Eと装置間で位置ずれが生じ、ずれ情報が許容範囲内から外れてしまうことがある。そのため、ずれ情報が許容範囲内から外れた場合には、制御部80は、ずれ情報が許容範囲内に収まるように波面収差検出光学系110と被検眼Eとの位置関係を相対的に調整する。
【0049】
<フィードバック制御の一時停止>
以下に、位置ずれが生じた場合の制御動作について、図6のフローチャートを用いて説明する。制御部80は、上記のように波面補償動作が開始された後、ずれ情報が許容範囲内を外れた場合(例えば、外周31a内から円32が外れたことが検出された場合)、上記フィードバック制御を一時的に停止させる。そして、制御部80は、波面補償デバイス72による収差補償量を、ずれ情報が許容範囲内を外れる前(例えば、円32が外れる前)の収差補正量で保持させる。また、制御部80は、ずれ情報が許容範囲内に収まるように(例えば、円32が外周31a内に収まるように)アライメントの再調整を行う。
【0050】
例えば、制御部80は、円32が外れた後の収差検出結果に基づく駆動信号を波面補償デバイス72に送信せず、円32が外周31a内に収まっていたとき(外れる直前又はそれより前)の駆動信号を引き続き波面補償デバイス72に出力する。そして、制御部80は、円32が外周31a内に収まるまでは、同じ駆動信号にて波面補償デバイス72を動作させる。なお、円32が外れる前の収差検出結果が反映された補償量にて波面補償デバイス72が動作されればよく、円32が外れる前と同程度の駆動信号が印加されればよい。
【0051】
LCOSの場合、制御部80は、LCOSの各画素への電圧印加量を外周31a内から円32が外れる前の印加量のまま保持させ、LCOSの屈折率を一定とすればよい。デフォーマブルミラーの場合、制御部80は、同様に、各駆動部への電圧印加量を外周31a内から円32が外れる前の印加量のまま保持させ、ミラー全体の形状を一定とすればよい。
【0052】
なお、制御部80は、円32が外れた後においても、眼底撮像光学系100を動作させることにより眼底の高倍率画像を連続的に取得し、取得される高倍率画像を動画像としてモニタ85に随時出力する。
【0053】
<アライメントの再調整>
また、制御部80は、駆動機構505を制御し、円32が外周31a内に収まるように、撮影部500を移動させる。なお、眼Eの固視状態によっては、自然にアライメントが適正な状態に復帰する場合もありうる。
【0054】
<フィードバック制御の再開>
このようにしてアライメントが再調整され、円32が外周31a内に復帰したことが検出されると、制御部80は、フィードバック制御を再開させるための復帰信号を出力する。ここで、制御部80は、波面センサ73によって波面収差を検出し、アライメント復帰後の収差検出結果に基づく駆動信号を波面補償デバイス72に送る。そして、制御部80は、円32が外周31a内に収まっている間は、波面センサ73による収差検出/検出結果に基づく波面補償デバイス72による波面補償の動作を繰り返す。これにより、リアルタイムで検出される収差検出結果が波面補償デバイス72に反映され、ぼけの少ない良好な高倍率眼底像が取得される。
【0055】
以上のように、フィードバック制御の開始後に位置ずれが生じた場合、フィードバック制御が一時的に停止されるため、位置ずれ発生時の収差検出結果に基づく波面補償が行われない。したがって、固視ずれ発生時の収差検出結果によって波面補償デバイス72(例えば、LCOSであれば屈折率、デフォーマブルミラーであればミラーの形状)が誤った収差補償量で動作されてしまうのが回避される。そして、位置ずれが調整された後、適正な波面補償に復帰するまでの時間が短縮される。
【0056】
また、アライメント復帰後、前回のアライメント完了状態における波面補償デバイス72の収差補償量から、収差補償のフィードバック制御が再開されるため、波面補償デバイス72の駆動が少なくて済み、スムーズに良好な眼底画像が得られる。また、位置ずれが生じた場合においても、波面補償デバイス72の制御状態が位置ずれ発生前のままで保持されているため、アライメントずれが微小であれば、円32が外周31aから外れている状態であっても、ぼけの少ない良好な高倍率眼底像が継続的に取得される。
【0057】
なお、フィードバック制御の再開後、再度アライメントずれが生じた場合、制御部80は、同様に、フィードバック制御の停止、復帰動作を行えばよい。
【0058】
なお、本実施例においては、制御部80は、外周31a内から円32が外れる前の収差補償量にて波面補償デバイス72の制御状態を保持したが、これに限るものでなく、波面収差が適正に検出された状態での検出結果に基づいてフォードバック制御が再開されればよい。
【0059】
例えば、制御部80は、ずれ情報が許容範囲内に収まっている場合の波面制御情報を記憶部81に記憶させ、ずれ情報が許容範囲内に復帰した場合、波面補償デバイス72の波面制御情報を波面補償デバイス72へ反映させる。
【0060】
具体的に説明すると、円32が外周31b内に収まっている状態において、検者又は制御部80が所定のトリガ信号を出力し、波面補償デバイス72の収差補償量のデータを記憶部81に記憶しておく。例えば、円32が外周31bに収まってから数秒経過後の波面補償デバイス72の収差補償量が記憶部81に保存される。また、常時、収差補償量が記憶部81に記憶され、記憶させたデータの中から、収差補償量が任意に選択されるようにしてもよい。
【0061】
その後、外周31a内から円32が外れた場合、制御部80は、フィードバック制御を一時的に停止させ、再びハルトマン像31内に円32が収まるように撮影部500を移動させる。そして、制御部80は、アライメントが再調整され、復帰信号が出力されると、記憶部81に予め保存していた波面補償デバイス72の収差補償量のデータを呼び出し、それを用いて、波面補償デバイス72を制御する。
【0062】
なお、以上の説明において、検出光学系110と被検眼Eとの位置関係が相対的に調整される構成であればよい。例えば、ずれ情報が許容範囲内に収まるように顎台を眼Eに対して移動する構成であってもよい。また、検出光学系110の光路中に、測定光束の進行方向を変更する光偏向部を設け、光偏向部の駆動により位置関係が調整されてもよい。
【0063】
なお、本実施例において、波面補償デバイス72の補償可能領域と波面センサ73による眼底反射光束の検出領域とのずれ情報を波面センサの出力信号に基づいて検出したが、これに限るものではない。例えば、前眼部観察系を設け、前眼部観察系によって検出されるアライメント検出結果と前述のずれ情報を予め対応づけておく。そして、アライメント検出結果に基づいて、ずれ情報が許容範囲内か否かを判定してもかまわない。また、前眼部観察カメラ上に補償可能領域が設定され、前眼部像から画像処理により瞳孔部分が抽出され、補償可能領域の位置情報と瞳孔外周の位置情報とが比較されることにより各領域間のずれが検出されてもよい。
【0064】
なお、以上の説明においては、眼底撮像光学系100として、被検眼眼底と略共役な位置に配置された共焦点開口を介して被検眼眼底で反射した光束を受光して被検眼眼底の共焦点正面画像を撮影する共焦点光学系(SLO光学系)を用いるものとしたが、これに限るものではない(例えば、特表2001-507258号公報参照)。
【0065】
例えば、被検眼眼底で反射した光束を二次元撮像素子により受光して被検眼の眼底正面画像を撮影する眼底カメラ光学系であってもよい。また、被検眼眼底で反射した光束と参照光による干渉光を受光して被検眼の断層画像を撮影する光干渉光学系(OCT光学系)であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】 本実施形態の眼底撮影装置の外観図を示した図である。
【図2】 本実施形態の眼底撮影装置の光学系を示した模式図である。
【図3】 本実施形態の眼底撮影装置の制御系を示したブロック図である。
【図4】 波面センサ上の指標パターン像と補償可能領域の具体例について説明する図である。
【図5】 モニタの画面上に表示された収差補償画面を示した図である。
【図6】 位置ずれが生じた場合の制御動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0067】
1 光源
10 視度補正部
15 走査部
20 顔支持ユニット
21 基台
40 収差補償画面
54 受光素子
72 波面補償デバイス
73 波面センサ
76 光源
80 制御部
81 記憶部
85 モニタ
100 眼底撮像光学系
110 波面収差検出光学系
200 第2撮影ユニット
300 トラッキング用ユニット
400、410 偏向部
500 撮影部
505 駆動機構
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼眼底からの反射光を受光して眼底像を撮像する眼底撮像光学系と、
前記眼底撮像光学系の光路中に配置され、入射光の波面を制御して被検眼の波面収差を補償する波面補償デバイスと、
被検眼眼底に向けて測定光を投光し、その眼底からの反射光を波面センサにより検出する波面収差検出光学系と、
前記波面センサ上に設定された前記波面補償デバイスの補償可能領域と前記波面センサによる眼底反射光束の検出領域とのずれ情報を検出する検出手段と、
前記波面センサからの検出信号に基づく被検者眼の波面収差の検出と、その検出結果に基づく前記波面補償デバイスの制御とを繰り返すフィードバック制御を行う制御手段であって、前記検出手段により検出されるずれ情報が許容範囲内を外れた場合に、フィードバック制御を一時的に停止させ、前記ずれ情報が許容範囲内に復帰した場合にフィードバック制御を再開させる制御手段と、を備えることを特徴とする波面補償付眼底撮影装置。
【請求項2】
請求項1の眼底撮影装置において、
眼底撮像光学系により連続的に撮像される眼底像を動画として出力する表示手段を備えることを特徴とする波面補償付眼底撮影装置。
【請求項3】
請求項1又は2の眼底撮影装置において、 さらに、前記ずれ情報が許容範囲内に収まるように前記検出光学系と被検眼との位置関係を相対的に調整する位置調整手段を備えることを特徴とする波面補償付眼底撮影装置。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかの眼底撮影装置において、
前記制御手段は、フィードバック制御を停止させるとき、前記波面収差補償デバイスによる収差補償量を,前記ずれ情報が許容範囲内を外れた前の収差補償量で保持することを特徴とする波面補償付眼底撮影装置。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかの眼底撮影装置において、
前記制御手段は、前記ずれ情報が許容範囲内に収まっている場合の波面制御情報を記憶手段に記憶させ、前記ずれ情報が許容範囲内に復帰した場合、前記波面補償デバイスの波面制御情報を前記波面補償デバイスへ反映させることを特徴とする波面補償付眼底撮影装置。
【請求項6】
被検眼眼底からの反射光を受光して眼底像を撮像する眼底撮像光学系と、
前記眼底撮像光学系の光路中に配置され、入射光の波面を制御して被検眼の波面収差を補償する波面補償デバイスと、
被検眼眼底に向けて測定光を投光し、その眼底からの反射光を波面センサにより検出する波面収差検出光学系と、
前記波面センサからの検出信号に基づく被検者眼の波面収差の検出と、その検出結果に基づく前記波面補償デバイスの制御とを繰り返すフィードバック制御を行う制御手段であって、前記フィードバック制御を介して取得された波面制御情報を記憶手段に予め記憶させ、予め前記記憶手段に記憶された前記波面制御情報を復帰させ、復帰させた前記波面制御情報にて波面補償デバイスを制御した後、前記フィードバック制御を再開させる制御手段と、を備えることを特徴とする波面補償付眼底撮影装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-06-27 
出願番号 特願2010-247900(P2010-247900)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (A61B)
P 1 651・ 567- YAA (A61B)
P 1 651・ 121- YAA (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 後藤 順也  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 渡戸 正義
郡山 順
登録日 2015-04-10 
登録番号 特許第5727197号(P5727197)
権利者 株式会社ニデック
発明の名称 波面補償付眼底撮影装置  
代理人 水越 邦仁  
代理人 水越 邦仁  

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