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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1319904
審判番号 不服2014-9509  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-22 
確定日 2016-09-10 
事件の表示 特願2012-203313「半導体発光装置に成長させたフォトニック結晶」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月10日出願公開、特開2013- 9002〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年6月16日(パリ条約による優先権主張2005年6月17日,米国)を出願日とする特願2006-193365号(以下「原出願」という。)の一部を,平成24年9月14日に新たな出願としたものであって,平成25年8月13日付けで拒絶理由が通知され,同年11月20日に手続補正がされ,平成26年1月20日に拒絶査定がされ,これに対して同年5月22日に審判請求がされるとともに同時に手続補正がされたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年5月22日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲の補正を含むものであり,このうち特許請求の範囲の請求項32は,本件補正の前後で以下のとおりである。

〈補正前〉
「【請求項32】
n型領域とp型領域の間に配置されて波長λの光を放出するように構成された発光層を含み,上面と下面を有する半導体構造と,
第1の屈折率を有する半導体材料の複数の領域,及び
前記第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する材料の複数の領域,
を含み,
前記第2の屈折率を有する材料の領域が,前記半導体材料の領域の間にアレイの形に配置され,第2の屈折率を有する材料の各領域が,第2の屈折率を有する材料の最も近い隣の領域から5λ未満に位置している,
前記半導体構造内に配置されたフォトニック結晶と,
を含み,
前記発光層は,前記フォトニック結晶内に配置され,
前記半導体構造の前記上面と前記下面は,前記フォトニック結晶によって割り込まれていない,
ことを特徴とする装置。」

〈補正後〉
「【請求項32】
n型領域とp型領域との間に配置されて波長λの光を放出するように構成された発光層を含み,上面と下面を有する半導体構造と,
第1の屈折率を有する半導体材料の複数の領域であって,複数の半導体ポストを有する当該半導体材料の複数の領域,及び
前記第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する材料の複数の領域,
を含み,
前記半導体材料の領域は,前記第2の屈折率を有する材料の複数の領域の間にアレイの形に配置され,前記半導体材料の各領域の中心が,前記半導体材料の最も近い隣の領域の中心から5λ未満に位置している,
前記半導体構造内に配置されたフォトニック結晶と,
を含み,
前記発光層は,前記フォトニック結晶内に配置され,
前記半導体構造の前記上面と前記下面は,前記フォトニック結晶によって割り込まれていない,
ことを特徴とする装置。」

2 補正事項の整理
特許請求の範囲の請求項32についての本件補正を整理すると以下のとおりとなる。
〈補正事項1〉
補正前の請求項32の「n型領域とp型領域の間に配置されて波長λの光を放出するように構成された発光層を含み,」を,補正後の請求項32の「n型領域とp型領域との間に配置されて波長λの光を放出するように構成された発光層を含み,」と補正すること。
〈補正事項2〉
補正前の請求項32の「第1の屈折率を有する半導体材料の複数の領域」を,補正後の請求項32の「第1の屈折率を有する半導体材料の複数の領域であって,複数の半導体ポストを有する当該半導体材料の複数の領域」と補正すること。
〈補正事項3〉
補正前の請求項32の「前記第2の屈折率を有する材料の領域が,前記半導体材料の領域の間にアレイの形に配置され,前記半導体材料の各領域の中心が,前記半導体材料の最も近い隣の領域の中心から5λ未満に位置している」を,補正後の請求項32の「前記半導体材料の領域は,前記第2の屈折率を有する材料の複数の領域の間にアレイの形に配置され,前記半導体材料の各領域の中心が,前記半導体材料の最も近い隣の領域の中心から5λ未満に位置している」と補正すること。

3 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討
(1)補正事項1について
補正事項1は,補正前の「n型領域とp型領域の間」を,補正後の「n型領域とp型領域との間」として,その記載を明りょうにしようとするものであるから,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。また当該補正が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすことは明らかである。

(2)補正事項2及び3について
補正事項2は,補正前の請求項32の発明特定事項である「第1の屈折率を有する半導体材料の複数の領域」について,それらが「複数の半導体ポストを有する当該半導体材料の複数の領域」であることを限定しようとするものであり,これに伴い,補正事項3は,補正前の「前記第2の屈折率を有する材料の領域が,前記半導体材料の領域の間にアレイの形に配置され」を,補正後の「前記半導体材料の領域は,前記第2の屈折率を有する材料の複数の領域の間にアレイの形に配置され」と補正し,また,補正前の「第2の屈折率を有する材料の各領域が,第2の屈折率を有する材料の最も近い隣の領域から5λ未満に位置している」を,補正後の「前記半導体材料の各領域の中心が,前記半導体材料の最も近い隣の領域の中心から5λ未満に位置している」とするものである。
ここで,補正前の請求項32においては,「前記第2の屈折率を有する材料の領域が,前記半導体材料の領域の間にアレイの形に配置され,第2の屈折率を有する材料の各領域が,第2の屈折率を有する材料の最も近い隣の領域から5λ未満に位置している」から,「前記半導体材料の領域の間」に「第2の屈折率を有する材料の各領域が」離間するように配置されたものが記載されているといえるのに対して,補正後の請求項32においては,「前記半導体材料の領域は,前記第2の屈折率を有する材料の複数の領域の間にアレイの形に配置され,前記半導体材料の各領域の中心が,前記半導体材料の最も近い隣の領域の中心から5λ未満に位置している」から,「前記第2の屈折率を有する材料の複数の領域の間」に「半導体材料の領域」が離間するように配置されたものが記載されているといえる。
すなわち,本件補正前の請求項32の記載と本件補正後の請求項32の記載とでは,離間して配置されているものが入れ替わっている。それゆえ,補正事項2および3は,補正前の請求項32に記載された発明特定事項を限定するものとはいえない。よって,補正事項2および3は,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。また,補正事項2および3が,同法第17条の2第4項第1号,第3号及び第4号に掲げる請求項の削除,誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれの事項を目的とするものにも該当しないことは明らかである。

(3)まとめ
よって,本件補正は,特許法第17条の2第4項の規定を満たしていないものであるので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

上記のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第4項の規定を満たしていないものであるが,以下においては,前記補正事項2及び3が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとして,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかを,補正後の請求項32に係る発明について検討する。

4 独立特許要件についての検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項32に係る発明は,特許請求の範囲の請求項32に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(再掲。以下「本願補正発明」という。)。
「【請求項32】
n型領域とp型領域との間に配置されて波長λの光を放出するように構成された発光層を含み,上面と下面を有する半導体構造と,
第1の屈折率を有する半導体材料の複数の領域であって,複数の半導体ポストを有する当該半導体材料の複数の領域,及び
前記第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する材料の複数の領域,
を含み,
前記半導体材料の領域は,前記第2の屈折率を有する材料の複数の領域の間にアレイの形に配置され,前記半導体材料の各領域の中心が,前記半導体材料の最も近い隣の領域の中心から5λ未満に位置している,
前記半導体構造内に配置されたフォトニック結晶と,
を含み,
前記発光層は,前記フォトニック結晶内に配置され,
前記半導体構造の前記上面と前記下面は,前記フォトニック結晶によって割り込まれていない,
ことを特徴とする装置。」

(2)刊行物(特開平10-284806号公報)に記載された発明
ア 本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平10-284806号公報(以下「引用例」という。)には,図1?4とともに,以下の記載がある(下線は当審において付加。以下同様。)。

イ 発明の属する技術分野
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,所定波長の光の発生や伝播が二次元ないし三次元の空間において制御される構造,即ち光の波長程度の周期の屈折率周期構造であるフォトニック結晶のいわゆるフォトニックバンド構造を利用して,光放射特性を制御したレーザ光源等に関するものである。」

ウ 発明の実施の形態
「【0013】
【発明の実施の形態】本発明の実施形態を説明する前に,本発明の原理の技術背景を説明する。近年,誘電率の三次元的周期構造を人工的に創生して,あたかも結晶中の電子の振る舞いと同様に,電磁波の振る舞いを制御する材料構造が注目されている。上述した様に,このような人工構造はフォトニック結晶と呼ばれ,この構造に起因する光波長に相当する電磁波バンドをフォトニックバンドと称している。
・・・(中略)・・・
【0014】ただし,三次元フォトニック結晶として光波長に合わせた誘電率変化をたとえば面心立方格子状などに形成するとなると,現在の微細加工技術,選択成長技術などをもってしても困難である。それと比較して,二次元のフォトニック結晶,すなわち直交する3方向のうち1方向へは誘電率が一様な構造は,二次元平面の微細加工や選択成長で実現できる。本発明はこのことに着目したものである。」

エ 実施形態の構成及び動作原理
「【0015】本発明によるフォトニックバンド構造を有する垂直共振器レーザの実施形態の構成,動作原理について,図1および図2を用いて説明する。
【0016】二次元結晶構造では,5種の異なる型のブラベ格子が存在するが,面内のどの方向へも共通にフォトニックバンドギャップを開けることが可能な構造としては,六方格子もしくは正方格子が適する。たとえば,六方格子においては,図2に示すように,菱形を基本とした各格子点に,ロッド(中実のもの)もしくはホール(中空のもの)21を作り付けることで誘電率変化を与える。光波長λでのバンドギャップ構造を得るため,格子点(ロッドもしくはホールの中心点)の間隔aは以下の(1)式で表される。ここで,誘電率は屈折率で置き換え,n_(eff)は平均の屈折率を示している。
a=λ/(2n_(eff)) (1)
ここで,ロッドもしくはホール21の断面形状を円形とすると,平均の屈折率n_(eff)は,円形領域の屈折率n_(c)とその周囲を占めている領域22の屈折率n_(d)とで(2)式のように表される。ここで,パラメータfは円形領域の占有率であり,rを円形領域の半径とすると,(3)式のように表される。
n_(eff)=n_(c)f+n_(d)(1-f) (2)
f=(2πr^(2))/(√3a^(2)) (3)
この六方格子構造を用いて,二次元フォトニック結晶のブリルアンゾーンのあらゆる方向にわたって光波のモードが生じないエネルギ領域,すなわち,フォトニックバンドギャップを形成する。上記仮定の下では,円形領域21の占有率,および,円形領域21とその周囲領域22の屈折率差によってフォトニックバンドギャップは決定される。フォトニックバンド構造は等方的でないため,光波の偏光に依存するが,上記各パラメータの設定で各偏光に対して共通のフォトニツクバンドギャップを形成可能である。
【0017】以上のような二次元構造によるフォトニックバンドギャップを活性層の光学的利得帯域に合致させて創生することで,活性層面内方向への自然放出は抑制される。この状態で,図1に示すように,活性層を含む半導体層11に垂直な方向への自然放出を一対の多層膜反射鏡12,13などで制御し,任意の波長の光波のみを誘導放出すれば,完全に放出制御したレーザが実現できる。多層膜反射鏡12,13は,屈折率の異なる一組の膜を積層したもので,周期性の強いものは,分布ブラッグ反射鏡(distributed Bragg reflector: DBR)とも呼ばれる。この周期的層構成は,言ってみれば,一次元のフォトニックバンド構造を形成している。従って,本発明による二次元フォトニックバンド構造と多層膜反射鏡の組み合わせによる構造は,擬似的な三次元フォトニックバンド構造をなしていると言える。
【0018】多層膜反射鏡12,13の各層厚d_(i)は,波長λ,屈折率n_(i)に対して,以下のように表される。但し,下付きiは高屈折率膜(H)もしくは低屈折率膜(L)を示している。
d_(i)=λ/(4n_(i)) (4)
一対の多層膜反射鏡12,13は,二次元フォトニックバンド構造を有する活性層を含む半導体層11を間において向かい合っていて,活性層を含む半導体層11の間隙の位相差に応じて透過波長が決定され,そのほかの波長においては,光の放出が許されない。従って,基板垂直方向の透過波長に,活性層の全エネルギーが集中して誘導放出が実現される。」

オ 第1実施例
「【0019】第1実施例
図3を用いて製造法を説明しながら第1実施例の構造を説明する。先ず,本発明による第1の実施例のレーザは,InP基板上に,200nm厚のInGaAsエッチングストップ層,130nm厚のInPクラッド層31,6nm厚のInGaAsP(エネルギーバンドギャップ波長λ_(g)=1.4μm)井戸と10nm厚のInGaAsP(λ_(g)=1.15μm)障壁の7ペアからなる量子井戸活性層32,130nm厚のInPクラッド層33を成長する。
【0020】次に,クラッド層33表面にSiO_(2)を成膜した後,フォトレジストを塗布し,図2に示すような半径130nmの円形パターンを間隔325nmの六方格子状に形成するための電子ビーム露光を行う。現像後,形成されたフォトレジストマスクをSiO_(2)膜に反応性イオンエッチングで転写する。こうしてできたSiO_(2)マスクをもとに反応性イオンビームエッチングを用いて活性層32およびクラッド層31,33のホールエッチングを行う。二次元ホール列を形成後,SiO_(2)膜を除去する。このホールには,活性層の発光波長に応じて(即ち,この波長がフォトニックバンドギャップ内に来る様に)窒素,高分子材料,誘電体などを充填してもよい。
【0021】一方,別個に用意したガラス基板34上に200nm厚のAl_(2)O_(3)層,90nm厚のSi層のペア6組からなる多層膜反射鏡35を高周波スパッタリングで成膜する。
【0022】以上のようにして成膜を行ったInP基板とガラス基板34とを膜面を向かい合わせに圧着接合する。基板接合は,印加荷重100kg/cm2で160℃加熱の下,4時間の圧着を施して得られた。
【0023】InP基板裏面を研磨してInP基板を100μm程度の厚さに薄くした後,選択エッチングにより,InP基板,つづいてInGaAsエッチングストップ層までエッチングを行い,InPクラッド層31を露出させる。露出したInPクラッド層31上に,先程のガラス基板上へ施したと同様の多層膜反射鏡36を成膜する。
【0024】こうして作製した図3に示すようなレーザに対して,光励起を行なったところ,基板垂直方向へ波長1.3μmのレーザ発振が観測された。」

カ 第2実施例
「【0025】第2実施例
図4によって第2実施例を説明する。本発明による第2の実施例のレーザは,n-GaAs基板41上に各層がλ/4厚のn-GaAs/AlAs20.5ペア(最終層AlAs)からなる多層膜反射鏡42,100nm厚のn-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層43,アンドープの8nm厚のIn_(0.2)Ga_(0.6)As井戸層/10nm厚のGaAs障壁層の5層からなる歪み多重量子井戸活性層44,100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層45を成長する。ついで,前記実施例と同様,二次元ホール列46を活性層44およびそれを挟んだクラッド層43,45に形成する(図4に示す様に,クラッド層43の途中でホールは止まっている)。
【0026】上記と同様にして別個のアンドープのGaAs基板上に100nm厚のAlAsエッチングストップ層,50nm厚のp-GaAsキャップ層47,各層がλ/4厚のp-GaAs/AlAs20.5ペアからなる多層膜反射鏡48,100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層49を成長する。
【0027】以上のようにして成長を行ったアンドープのGaAs基板およびn-GaAs基板41を10%弗素水に数秒浸漬し,水洗,乾燥した後,成長面同士の結晶軸を揃えて向かい合わせに圧着する。基板接合は,印加荷重100kg/cm^(2)で160℃加熱の下,4時間の圧着を施して得られた。
【0028】次に,n-GaAs基板41裏面をSiO_(2)膜で保護した後,アンドープGaAs基板側を研磨して100μm程度の厚さに薄くする。硫酸+過酸化水素+水からなるエッチング液でアンドープGaAs基板をエッチング除去した後,AlAsエッチングストップ層を除去し,p-GaAsキャップ層47を露出させる。
【0029】次に,直径15μmの円筒状にp-GaAsキャップ層47からp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層49の途中までを反応性イオンビームエッチングで除去する。SiN_(x)膜401を絶縁層として施し,ポリイミド402で埋めた後,セルフアラインメントの手法で円筒上部のp-GaAsキャップ層47を露出させて,電極403を成膜する。同様に,n-GaAs基板41裏面の一部にも電極404を成膜した後,オーミック接触を得るための熱拡散を行う。
【0030】こうして作製したレーザは,閾値1mA以下で発振し,平均出力光強度は数mW程度であった。発振光の近視野像を観察したところ,ほぼ上面電極の円形パターンと同様であり,周囲からの光の漏出は観測できなかった。」

キ 第3実施例
「【0031】第3実施例
本発明の第3の実施例では,活性層を含む半導体層をロッド列に微細加工してその周囲をポリイミドで埋めている。ただし,円形領域(活性層を含む半導体層の部分)が高屈折率で,周囲(ポリイミドの部分)が低屈折率であるため,それに合わせて発光波長がフォトニックバンドギャップ内に来る様にロッド間隔および円形領域の半径は調整してある。また,半導体ロッド頭部が露出するように,酸素プラズマによる周囲のポリイミドのアッシングを軽く行う。その他の構成は,第2実施例と同様である。」

ク 図4は次のものである。


ケ ここで,上記キの第3実施例については「その他の構成は,第2実施例と同様である。」と記載されているから,段落【0031】に記載された事項以外は,上記カの第2実施例と同じ構成を備えることは明らかである。

コ 上記カの第2実施例においては,「前記実施例と同様,二次元ホール列46を活性層44およびそれを挟んだクラッド層43,45に形成する」(段落【0025】)としているところ,「前記実施例」すなわち上記オの第1実施例は,「半径130nmの円形パターンを間隔325nmの六方格子状に形成するための電子ビーム露光を行う。現像後,形成されたフォトレジストマスクをSiO_(2)膜に反応性イオンエッチングで転写する。こうしてできたSiO_(2)マスクをもとに反応性イオンビームエッチングを用いて活性層32およびクラッド層31,33のホールエッチングを行う。二次元ホール列を形成後,SiO_(2)膜を除去する。」(段落【0019】)ものであるから,第2実施例における二次元ホール列は六方格子状であることがわかる。
また,上記キの第3実施例は,「円形領域(活性層を含む半導体層の部分)が高屈折率で,周囲(ポリイミドの部分)が低屈折率であるため,それに合わせて発光波長がフォトニックバンドギャップ内に来る様にロッド間隔および円形領域の半径は調整してある」ものであるが,当該「調整」は,前記第2実施例と同じく,六方格子状に配列されたもの,すなわち,六方格子状のロッド列についてされるものであることは明らかである。
ここで,上記エの段落【0016】には,六方格子におけるロッド間隔および円形領域の設定にかかわる数式が記載されており,前記第3実施例においても当該各数式によって六方格子におけるロッド間隔および円形領域の設定がなされることは明らかである。この際,上記エの「以上のような二次元構造によるフォトニックバンドギャップを活性層の光学的利得帯域に合致させて創生することで,活性層面内方向への自然放出は抑制される」(段落【0017】)及び上記オの「活性層の発光波長に応じて(即ち,この波長がフォトニックバンドギャップ内に来る様に)」(段落【0019】)との記載に照らして,上記エの段落【0016】に記載された各数式における波長λが,活性層の発光波長を指すことも明らかである。

サ 上記カ及びキの記載とともに図4を参照すると,n-GaAs基板41及び多層膜反射鏡42,並びにクラッド層49,多層膜反射鏡48及びp-GaAsキャップ層47にはホール列は形成されておず,また,n-GaAs基板41の下面及びp-GaAsキャップ層47の上面はともに平面となっていることが見て取れる。そして,上記キの第3実施例においても同様の構成であることは,「その他の構成は,第2実施例と同様である」(段落【0031】)との記載から明らかである。

シ 以上を総合すると,引用例には,「第3実施例」に関して以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「フォトニックバンド構造を有する垂直共振器レーザであって,
n-GaAs基板41上に各層がλ/4厚のn-GaAs/AlAs20.5ペア(最終層AlAs)からなる多層膜反射鏡42,100nm厚のn-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層43,アンドープの8nm厚のIn_(0.2)Ga_(0.6)As井戸層/10nm厚のGaAs障壁層の5層からなる歪み多重量子井戸活性層44,100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層45が成長され,
ついで,活性層44およびそれを挟んだクラッド層43,45について,六方格子状のロッド列に微細加工してその周囲をポリイミドで埋め,
この上に,100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層49,各層がλ/4厚のp-GaAs/AlAs20.5ペアからなる多層膜反射鏡48及び50nm厚のp-GaAsキャップ層47が形成され,
次に,直径15μmの円筒状にp-GaAsキャップ層47からp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層49の途中までが除去され,SiN_(x)膜401を絶縁層として施し,ポリイミド402で埋めた後,セルフアラインメントの手法で円筒上部のp-GaAsキャップ層47を露出させて,電極403を成膜し,同様に,n-GaAs基板41裏面の一部にも電極404を成膜した後,オーミック接触を得るための熱拡散を行うことによって作成されたものであり,
n-GaAs基板41及び多層膜反射鏡42,並びにクラッド層49,多層膜反射鏡48及びp-GaAsキャップ層47にはロッド列は形成されておらず,また,n-GaAs基板41の下面及びp-GaAsキャップ層47の上面はともに平面となっており,
前記六方格子状のロッド列は,円形領域(活性層を含む半導体層の部分)が高屈折率で,周囲(ポリイミドの部分)が低屈折率であって,活性層の発光波長λでのバンドギャップ構造を得るため,格子点(ロッドの中心点)の間隔aは以下の(1)式で表され,
a=λ/(2n_(eff)) (1)
ここで,平均の屈折率n_(eff)は,円形領域の屈折率n_(c)とその周囲を占めている領域の屈折率n_(d)とで(2)式のように表され,パラメータfは円形領域の占有率であり,rを円形領域の半径とすると,(3)式のように表されるものであり,
n_(eff)=n_(c)f+n_(d)(1-f) (2)
f=(2πr^(2))/(√3a^(2)) (3)
前記六方格子状のロッド列を用い,二次元構造によるフォトニックバンドギャップを活性層の発光波長に合致させて創生することで,活性層面内方向への自然放出を抑制させた,
フォトニックバンド構造を有する垂直共振器レーザ。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明1とを比較する。

ア 引用発明1の「アンドープの8nm厚のIn_(0.2)Ga_(0.6)As井戸層/10nm厚のGaAs障壁層の5層からなる歪み多重量子井戸活性層44」は,「n-GaAs基板41」,「各層がλ/4厚のn-GaAs/AlAs20.5ペア(最終層AlAs)からなる多層膜反射鏡42,100nm厚のn-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層43」からなるn型の半導体の部分と,「100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層45」,「100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層49,各層がλ/4厚のp-GaAs/AlAs20.5ペアからなる多層膜反射鏡48及び50nm厚のp-GaAsキャップ層47」からなるp型の半導体の部分の間に設けられており,「発光波長」で発光するものであるから,本願補正発明の「n型領域とp型領域との間に配置されて波長λの光を放出するように構成された発光層」に相当し,引用発明1の「n-GaAs基板41上に各層がλ/4厚のn-GaAs/AlAs20.5ペア(最終層AlAs)からなる多層膜反射鏡42,100nm厚のn-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層43」からなるn型の半導体の部分,及び「100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層45」,「100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層49,各層がλ/4厚のp-GaAs/AlAs20.5ペアからなる多層膜反射鏡48及び50nm厚のp-GaAsキャップ層47」からなるp型の半導体の部分は,それぞれ,本願補正発明の「n型領域」及び「p型領域」に相当する。
そして,引用発明1においては,「n-GaAs基板41の下面及びp-GaAsキャップ層47の上面はともに平面となって」いるから,引用発明1の「n-GaAs基板41上に各層がλ/4厚のn-GaAs/AlAs20.5ペア(最終層AlAs)からなる多層膜反射鏡42,100nm厚のn-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層43」,「多重量子井戸活性層44」及び,「100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層45」,「100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層49,各層がλ/4厚のp-GaAs/AlAs20.5ペアからなる多層膜反射鏡48及び50nm厚のp-GaAsキャップ層47」は,本願補正発明の「上面と下面を有する半導体構造」に相当する。

イ 引用発明1の「活性層44およびそれを挟んだクラッド層43,45について,六方格子状のロッド列に微細加工してその周囲をポリイミドで埋め」たものであって,「前記六方格子状のロッド列は,円形領域(活性層を含む半導体層の部分)が高屈折率で,周囲(ポリイミドの部分)が低屈折率であ」るものにおける,「活性層44およびそれを挟んだクラッド層43,45について,六方格子状のロッド列に微細加工し」たものは,半導体材料に形成された複数のロッドからなるものであり,また,当該ロッドの各々が「円形領域」を占めるから,本願補正発明の「第1の屈折率を有する半導体材料の複数の領域であって,複数の半導体ポストを有する当該半導体材料の複数の領域」に相当する。また,引用発明1の前記「その周囲をポリイミドで埋め」たものは,本願補正発明の「前記第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する材料の複数の領域」に相当する。

ウ 引用発明1の,「前記六方格子状のロッド列は,円形領域(活性層を含む半導体層の部分)が高屈折率で,周囲(ポリイミドの部分)が低屈折率であって,活性層の発光波長λでのバンドギャップ構造を得るため,格子点(ロッドの中心点)の間隔aは以下の(1)式で表され,
a=λ/(2n_(eff)) (1)
ここで,平均の屈折率n_(eff)は,円形領域の屈折率n_(c)とその周囲を占めている領域の屈折率n_(d)とで(2)式のように表され,パラメータfは円形領域の占有率であり,rを円形領域の半径とすると,(3)式のように表されるものであり,
n_(eff)=n_(c)f+n_(d)(1-f) (2)
f=(2πr^(2))/(√3a^(2)) (3)
前記六方格子状のロッド列を用い,二次元構造によるフォトニックバンドギャップを活性層の発光波長に合致させて創生することで,活性層面内方向への自然放出を抑制させ」との構成において,「六方格子状のロッド列」は「周囲(ポリイミドの部分)」の間にアレイ状に配列されているといえ,また,「二次元構造によるフォトニックバンドギャップを活性層の発光波長に合致させて創生する」ものであるから,フォトニック結晶を構成することは明らかである。よって,引用発明1の前記構成と,本願補正発明の「前記半導体材料の領域は,前記第2の屈折率を有する材料の複数の領域の間にアレイの形に配置され,前記半導体材料の各領域の中心が,前記半導体材料の最も近い隣の領域の中心から5λ未満に位置している,前記半導体構造内に配置されたフォトニック結晶」とは,「前記半導体材料の領域は,前記第2の屈折率を有する材料の複数の領域の間にアレイの形に配置されている,前記半導体構造内に配置されたフォトニック結晶」である点で一致する。

エ 引用発明1は,「活性層44およびそれを挟んだクラッド層43,45について,六方格子状のロッド列に微細加工してその周囲をポリイミドで埋め」た構成を備えるところ,上記ウのとおり「六方格子状のロッド列」は「フォトニック結晶」を構成するものである。よって,引用発明1の前記構成は,本願補正発明の「前記発光層は,前記フォトニック結晶内に配置され」ることに相当する。

オ 引用発明1においては,「n-GaAs基板41及び多層膜反射鏡42,並びにクラッド層49,多層膜反射鏡48及びp-GaAsキャップ層47にはロッド列は形成されておらず,また,n-GaAs基板41の下面及びp-GaAsキャップ層47の上面はともに平面となって」いるから,当該構成は,本願補正発明の「前記半導体構造の前記上面と前記下面は,前記フォトニック結晶によって割り込まれていない」ことに相当する。

カ 引用発明1の「フォトニックバンド構造を有する垂直共振器レーザ」は,本願補正発明の「装置」に相当する。

キ よって,引用発明1と本願補正発明とは以下の点で一致する。
「n型領域とp型領域との間に配置されて波長λの光を放出するように構成された発光層を含み,上面と下面を有する半導体構造と,
第1の屈折率を有する半導体材料の複数の領域であって,複数の半導体ポストを有する当該半導体材料の複数の領域,及び
前記第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する材料の複数の領域,
を含み,
前記半導体材料の領域は,前記第2の屈折率を有する材料の複数の領域の間にアレイの形に配置されている,
前記半導体構造内に配置されたフォトニック結晶と,
を含み,
前記発光層は,前記フォトニック結晶内に配置され,
前記半導体構造の前記上面と前記下面は,前記フォトニック結晶によって割り込まれていない,装置。」

ク 一方,両者は以下の点で相違する。
《相違点1》
本願補正発明においては,「前記半導体材料の各領域の中心が,前記半導体材料の最も近い隣の領域の中心から5λ未満に位置している」が,引用発明1においては,そのような限定はされていない点。

(4)判断
上記相違点1について検討する。

引用発明1においては,「活性層44およびそれを挟んだクラッド層43,45について,六方格子状のロッド列に微細加工してその周囲をポリイミドで埋め」たものについて,「円形領域(活性層を含む半導体層の部分)が高屈折率で,周囲(ポリイミドの部分)が低屈折率であって,活性層の発光波長λでのバンドギャップ構造を得るため,格子点(ロッドの中心点)の間隔aは」「a=λ/(2n_(eff))」で表され,「平均の屈折率n_(eff)は,円形領域の屈折率n_(c)とその周囲を占めている領域の屈折率n_(d)とで」「n_(eff)=n_(c)f+n_(d)(1-f)」と「表され,パラメータfは円形領域の占有率であり,rを円形領域の半径とすると,」「f=(2πr^(2))/(√3a^(2))」「と表されるものであ」る。
ここで,「六方格子状のロッド列」の配列から見て,「f=(2πr^(2))/(√3a^(2))」との式において,r(円形領域の半径)の2倍の値がa(格子点の間隔)よりも大きくなることはないから,式f=(2πr^(2))/(√3a^(2))の値は,a=2rとした(2πr^(2))/(4√3r^(2))=2π/4√3,すなわち高々0.91程度となることは明らかである。その上,各屈折率n_(c)及びn_(d)は,いずれも1よりも小さくなることはないから,式n_(eff)=n_(c)f+n_(d)(1-f)の値が1を下回ることがないことも明らかである。そうすると,前記格子点間隔a=λ/(2n_(eff))の値は,最大でもλ/2程度となる。
ところで,引用発明1では,格子点間隔の式a=λ/(2n_(eff))におけるλは活性層の発光波長であり,当該λは真空中での波長と解されるのに対して,本願補正発明におけるλは,本願明細書の段落【0017】の記載によれば「活性領域によって放出された光の装置内の波長である」と解される。そこで,当該「活性領域によって放出された光の装置内の波長」(これをλ_(e)とする。)と,引用発明1において前記格子点間隔a=λ/(2n_(eff))の最大値であるλ/2とを比較する。引用発明1において用いられている各半導体材料の屈折率は高々5程度であり,半導体材料以外の材料(ポリイミドなど)の屈折率はそれよりも低いことから,装置内の屈折率が5を超えることはなく,λ_(e)は,少なくともλ/5以上の値を有するといえる。それゆえ,λ/2÷λ/5=2.5から,λ/2はλ_(e)の2.5倍を超えることはない。
よって,引用発明1においては,格子点間隔が,活性領域によって放出された光の装置内の波長の2.5倍を超えることはないから,「活性層44およびそれを挟んだクラッド層43,45について,六方格子状のロッド列に微細加工してその周囲をポリイミドで埋め」たものについて,「円形領域(活性層を含む半導体層の部分)が高屈折率で,周囲(ポリイミドの部分)が低屈折率であって,活性層の発光波長λでのバンドギャップ構造を得るため」の「格子点(ロッドの中心点)の間隔aは」,活性領域によって放出された光の装置内の波長の5倍未満の値を持つといえる。
以上のとおり,引用発明1は,相違点1に係る「前記半導体材料の各領域の中心が,前記半導体材料の最も近い隣の領域の中心から5λ未満に位置している」構成を備えるから,前記相違点1は実質的なものではない。

(5)小括
よって,本願補正発明は,引用発明1と同一であり,特許法第29条第1項第3号に該当するから,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 まとめ
以上のとおりであるから,前記補正事項2及び3に係る補正事項を含む本件補正は,特許法第17条の2第4項の規定を満たしていないので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また,本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,前記補正事項2及び3の目的の可否にかかわらず,特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年5月22日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項32に係る発明は,平成25年11月20日にされた手続補正により補正された請求項32に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「【請求項32】
n型領域とp型領域の間に配置されて波長λの光を放出するように構成された発光層を含み,上面と下面を有する半導体構造と,
第1の屈折率を有する半導体材料の複数の領域,及び
前記第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する材料の複数の領域,
を含み,
前記第2の屈折率を有する材料の領域が,前記半導体材料の領域の間にアレイの形に配置され,第2の屈折率を有する材料の各領域が,第2の屈折率を有する材料の最も近い隣の領域から5λ未満に位置している,
前記半導体構造内に配置されたフォトニック結晶と,
を含み,
前記発光層は,前記フォトニック結晶内に配置され,
前記半導体構造の前記上面と前記下面は,前記フォトニック結晶によって割り込まれていない,
ことを特徴とする装置。」

2 引用例に記載された発明
ア 本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である引用例(特開平10-284806号公報)には,図1?4とともに,前記第2 4(2)イ?キに摘記したとおりの記載がある。

イ 前記第2 4(2)カの第2実施例においては,「前記実施例と同様,二次元ホール列46を活性層44およびそれを挟んだクラッド層43,45に形成する」(段落【0025】)としているところ,「前記実施例」すなわち前記第2 4(2)オの第1実施例は,「半径130nmの円形パターンを間隔325nmの六方格子状に形成するための電子ビーム露光を行う。現像後,形成されたフォトレジストマスクをSiO_(2)膜に反応性イオンエッチングで転写する。こうしてできたSiO_(2)マスクをもとに反応性イオンビームエッチングを用いて活性層32およびクラッド層31,33のホールエッチングを行う。二次元ホール列を形成後,SiO_(2)膜を除去する。」(段落【0019】)ものであるから,第2実施例における二次元ホール列は六方格子状であることがわかる。
ここで,前記第2 4(2)エの段落【0016】には,六方格子におけるホール間隔および円形領域の設定にかかわる数式が記載されており,前記第2実施例においても当該各数式によって六方格子におけるホール間隔および円形領域の設定がなされることは明らかである。この際,前記第2 4(2)エの「以上のような二次元構造によるフォトニックバンドギャップを活性層の光学的利得帯域に合致させて創生することで,活性層面内方向への自然放出は抑制される」(段落【0017】)及び前記第2 4(2)オの「活性層の発光波長に応じて(即ち,この波長がフォトニックバンドギャップ内に来る様に)」(段落【0019】)との記載に照らして,前記第2 4(2)エの段落【0016】に記載された各数式における波長λが,活性層の発光波長を指すことも明らかである。

ウ 前記第2 4(2)のカの記載とともに図4を参照すると,n-GaAs基板41及び多層膜反射鏡42,並びにクラッド層49,多層膜反射鏡48及びp-GaAsキャップ層47にはホール列は形成されておず,また,n-GaAs基板41の下面及びp-GaAsキャップ層47の上面はともに平面となっていることが見て取れる。

エ 前記第2 4(2)のカの第2実施例における「二次元ホール列46」は,前記第2 4(2)のオの第1実施例と同様に「窒素,高分子材料,誘電体などを充填」するとしても,周囲の半導体材料が比較的屈折率が高く,「二次元ホール列46」は比較的屈折率が低いことは明らかである。

オ 以上を総合すると,引用例には,「第2実施例」に関して以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「フォトニックバンド構造を有する垂直共振器レーザであって,
n-GaAs基板41上に各層がλ/4厚のn-GaAs/AlAs20.5ペア(最終層AlAs)からなる多層膜反射鏡42,100nm厚のn-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層43,アンドープの8nm厚のIn_(0.2)Ga_(0.6)As井戸層/10nm厚のGaAs障壁層の5層からなる歪み多重量子井戸活性層44,100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層45が成長され,
ついで,六方格子状のホール列46を活性層44およびそれを挟んだクラッド層43,45に形成し,
この上に,100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層49,各層がλ/4厚のp-GaAs/AlAs20.5ペアからなる多層膜反射鏡48及び50nm厚のp-GaAsキャップ層47が形成され,
次に,直径15μmの円筒状にp-GaAsキャップ層47からp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層49の途中までが除去され,SiN_(x)膜401を絶縁層として施し,ポリイミド402で埋めた後,セルフアラインメントの手法で円筒上部のp-GaAsキャップ層47を露出させて,電極403を成膜し,同様に,n-GaAs基板41裏面の一部にも電極404を成膜した後,オーミック接触を得るための熱拡散を行うことによって作成されたものであり,
n-GaAs基板41及び多層膜反射鏡42,並びにクラッド層49,多層膜反射鏡48及びp-GaAsキャップ層47にはホール列は形成されておらず,また,n-GaAs基板41の下面及びp-GaAsキャップ層47の上面はともに平面となっており,
前記六方格子状のホール列は,円形領域(ホールの部分)が低屈折率で,周囲(活性層を含む半導体層の部分)が高屈折率であって,活性層の発光波長λでのバンドギャップ構造を得るため,格子点(ホールの中心点)の間隔aは以下の(1)式で表され,
a=λ/(2n_(eff)) (1)
ここで,平均の屈折率n_(eff)は,円形領域の屈折率n_(c)とその周囲を占めている領域の屈折率n_(d)とで(2)式のように表され,パラメータfは円形領域の占有率であり,rを円形領域の半径とすると,(3)式のように表されるものであり,
n_(eff)=n_(c)f+n_(d)(1-f) (2)
f=(2πr^(2))/(√3a^(2)) (3)
前記六方格子状のホール列を用い,二次元構造によるフォトニックバンドギャップを活性層の発光波長に合致させて創生することで,活性層面内方向への自然放出を抑制させた,
フォトニックバンド構造を有する垂直共振器レーザ。」

3 対比
本願発明と引用発明2とを比較する。

ア 引用発明2の「アンドープの8nm厚のIn_(0.2)Ga_(0.6)As井戸層/10nm厚のGaAs障壁層の5層からなる歪み多重量子井戸活性層44」は,「n-GaAs基板41」,「各層がλ/4厚のn-GaAs/AlAs20.5ペア(最終層AlAs)からなる多層膜反射鏡42,100nm厚のn-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層43」からなるn型の半導体の部分と,「100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層45」,「100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層49,各層がλ/4厚のp-GaAs/AlAs20.5ペアからなる多層膜反射鏡48及び50nm厚のp-GaAsキャップ層47」からなるp型の半導体の部分の間に設けられており,「発光波長」で発光するものであるから,本願発明の「n型領域とp型領域との間に配置されて波長λの光を放出するように構成された発光層」に相当し,引用発明2の「n-GaAs基板41上に各層がλ/4厚のn-GaAs/AlAs20.5ペア(最終層AlAs)からなる多層膜反射鏡42,100nm厚のn-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層43」からなるn型の半導体の部分,及び「100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層45」,「100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層49,各層がλ/4厚のp-GaAs/AlAs20.5ペアからなる多層膜反射鏡48及び50nm厚のp-GaAsキャップ層47」からなるp型の半導体の部分は,それぞれ,本願発明の「n型領域」及び「p型領域」に相当する。
そして,引用発明2においては,「n-GaAs基板41の下面及びp-GaAsキャップ層47の上面はともに平面となって」いるから,引用発明2の「n-GaAs基板41上に各層がλ/4厚のn-GaAs/AlAs20.5ペア(最終層AlAs)からなる多層膜反射鏡42,100nm厚のn-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層43」,「多重量子井戸活性層44」及び,「100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層45」,「100nm厚のp-Al_(0.4)Ga_(0.6)Asクラッド層49,各層がλ/4厚のp-GaAs/AlAs20.5ペアからなる多層膜反射鏡48及び50nm厚のp-GaAsキャップ層47」は,本願発明の「上面と下面を有する半導体構造」に相当する。

イ 引用発明2の,「六方格子状のホール列46を活性層44およびそれを挟んだクラッド層43,45に形成し」たものであって,「前記六方格子状のホール列は,円形領域(ホールの部分)が低屈折率で,周囲(活性層を含む半導体層の部分)が高屈折率であ」るものにおいて,当該ホールの各々が「円形領域」を占め,また各「円形領域」の周囲にはそれぞれ半導体領域が存在するから,当該半導体領域は,本願発明の「第1の屈折率を有する半導体材料の複数の領域」に相当し,引用発明2の「六方格子状のホール列46」は,本願発明の「前記第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する材料の複数の領域」に相当する。

ウ 引用発明2の,「前記六方格子状のホール列は,円形領域(ホールの部分)が低屈折率で,周囲(活性層を含む半導体層の部分)が高屈折率であって,活性層の発光波長λでのバンドギャップ構造を得るため,格子点(ホールの中心点)の間隔aは以下の(1)式で表され,
a=λ/(2n_(eff)) (1)
ここで,平均の屈折率n_(eff)は,円形領域の屈折率n_(c)とその周囲を占めている領域の屈折率n_(d)とで(2)式のように表され,パラメータfは円形領域の占有率であり,rを円形領域の半径とすると,(3)式のように表されるものであり,
n_(eff)=n_(c)f+n_(d)(1-f) (2)
f=(2πr^(2))/(√3a^(2)) (3)
前記六方格子状のホール列を用い,二次元構造によるフォトニックバンドギャップを活性層の発光波長に合致させて創生することで,活性層面内方向への自然放出を抑制させ」との構成において,「六方格子状のホール列」は「周囲(活性層を含む半導体層の部分)」の間にアレイ状に配列されているといえ,また,「二次元構造によるフォトニックバンドギャップを活性層の発光波長に合致させて創生する」ものであるから,フォトニック結晶を構成することは明らかである。よって,引用発明2の前記構成と,本願発明の「前記第2の屈折率を有する材料の領域が,前記半導体材料の領域の間にアレイの形に配置され,第2の屈折率を有する材料の各領域が,第2の屈折率を有する材料の最も近い隣の領域から5λ未満に位置している,前記半導体構造内に配置されたフォトニック結晶」とは,「前記第2の屈折率を有する材料の領域が,前記半導体材料の領域の間にアレイの形に配置されている,前記半導体構造内に配置されたフォトニック結晶」である点で一致する。

エ 引用発明2は,「六方格子状のホール列46を活性層44およびそれを挟んだクラッド層43,45に形成し」た構成を備えるところ,上記ウのとおり「六方格子状のホール列」は「フォトニック結晶」を構成するものである。よって,引用発明2の前記構成は,本願発明の「前記発光層は,前記フォトニック結晶内に配置され」ることに相当する。

オ 引用発明2においては,「n-GaAs基板41及び多層膜反射鏡42,並びにクラッド層49,多層膜反射鏡48及びp-GaAsキャップ層47にはホール列は形成されておらず,また,n-GaAs基板41の下面及びp-GaAsキャップ層47の上面はともに平面となって」いるから,当該構成は,本願発明の「前記半導体構造の前記上面と前記下面は,前記フォトニック結晶によって割り込まれていない」ことに相当する。

カ 引用発明2の「フォトニックバンド構造を有する垂直共振器レーザ」は,本願発明の「装置」に相当する。

キ よって,引用発明2と本願発明とは以下の点で一致する。
「n型領域とp型領域の間に配置されて波長λの光を放出するように構成された発光層を含み,上面と下面を有する半導体構造と,
第1の屈折率を有する半導体材料の複数の領域,及び
前記第1の屈折率とは異なる第2の屈折率を有する材料の複数の領域,
を含み,
前記第2の屈折率を有する材料の領域が,前記半導体材料の領域の間にアレイの形に配置され,第2の屈折率を有する材料の各領域が,第2の屈折率を有する材料の最も近い隣の領域から5λ未満に位置している,
前記半導体構造内に配置されたフォトニック結晶と,
を含み,
前記発光層は,前記フォトニック結晶内に配置され,
前記半導体構造の前記上面と前記下面は,前記フォトニック結晶によって割り込まれていない装置。」

ク 一方,両者は以下の点で相違する。
《相違点2》
本願発明においては,「第2の屈折率を有する材料の各領域が,第2の屈折率を有する材料の最も近い隣の領域から5λ未満に位置している」が,引用発明2においては,そのような限定はされていない点。

4 判断
上記相違点2について検討する。

引用発明2においては,「六方格子状のホール列46を活性層44およびそれを挟んだクラッド層43,45に形成し」たものについて,「円形領域(ホールの部分)が低屈折率で,周囲(活性層を含む半導体層の部分)が高屈折率であって,活性層の発光波長λでのバンドギャップ構造を得るため,格子点(ホールの中心点)の間隔aは」「a=λ/(2n_(eff))」で表され,「平均の屈折率n_(eff)は,円形領域の屈折率n_(c)とその周囲を占めている領域の屈折率n_(d)とで」「n_(eff)=n_(c)f+n_(d)(1-f)」と「表され,パラメータfは円形領域の占有率であり,rを円形領域の半径とすると,」「f=(2πr^(2))/(√3a^(2))」「と表されるものであ」る。
ここで,「六方格子状のホール列」の配列から見て,「f=(2πr^(2))/(√3a^(2))」との式において,r(円形領域の半径)の2倍の値がa(格子点の間隔)よりも大きくなることはないから,式f=(2πr^(2))/(√3a^(2))の値は,a=2rとした(2πr^(2))/(4√3r^(2))=2π/4√3,すなわち高々0.91程度となることは明らかである。その上,各屈折率n_(c)及びn_(d)は,いずれも1よりも小さくなることはないから,式n_(eff)=n_(c)f+n_(d)(1-f)の値が1を下回ることがないことも明らかである。そうすると,前記格子点間隔a=λ/(2n_(eff))の値は,最大でもλ/2程度となる。
ところで,引用発明2では,格子点間隔の式a=λ/(2n_(eff))におけるλは活性層の発光波長であり,当該λは真空中での波長と解されるのに対して,本願発明におけるλは,本願明細書の段落【0017】の記載によれば「活性領域によって放出された光の装置内の波長である」と解される。そこで,当該「活性領域によって放出された光の装置内の波長」(これをλ_(e)とする。)と,引用発明2において前記格子点間隔a=λ/(2n_(eff))の最大値であるλ/2とを比較する。引用発明2において用いられている各半導体材料の屈折率は高々5程度であり,半導体材料以外の材料(ポリイミドなど)の屈折率はそれよりも低いことから,装置内の屈折率が5を超えることはなく,λ_(e)は,少なくともλ/5以上の値を有するといえる。それゆえ,λ/2÷λ/5=2.5から,λ/2はλ_(e)の2.5倍を超えることはない。
よって,引用発明2においては,格子点間隔が,活性領域によって放出された光の装置内の波長の2.5倍を超えることはないから,「六方格子状のホール列46を活性層44およびそれを挟んだクラッド層43,45に形成し」たものについて,「円形領域(ホールの部分)が低屈折率で,周囲(活性層を含む半導体層の部分)が高屈折率であって,活性層の発光波長λでのバンドギャップ構造を得るため」の「格子点(ホールの中心点)の間隔aは」,活性領域によって放出された光の装置内の波長の5倍未満の値を持つといえる。
以上のとおり,引用発明2は,相違点2に係る「第2の屈折率を有する材料の各領域が,第2の屈折率を有する材料の最も近い隣の領域から5λ未満に位置している」構成を備えるから,前記相違点2は実質的なものではない。

5 まとめ
よって,本願発明は,引用発明2と同一であり,特許法第29条第1項第3号に該当するから,特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-18 
結審通知日 2015-03-02 
審決日 2015-03-13 
出願番号 特願2012-203313(P2012-203313)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 57- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金高 敏康  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 近藤 幸浩
星野 浩一
発明の名称 半導体発光装置に成長させたフォトニック結晶  
代理人 特許業務法人M&Sパートナーズ  

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