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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04L
管理番号 1322128
審判番号 不服2015-22635  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-24 
確定日 2016-12-20 
事件の表示 特願2013-205854「逆方向リンクデータに対する順方向リンク肯定応答チャネルの操作」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月20日出願公開,特開2014- 53910,請求項の数(2)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2003年12月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2003年1月10日 米国)を国際出願日とする出願である特願2004-566625号の一部を,平成21年7月17日に新たな特許出願とした特願2009-168749号の一部を,平成25年9月30日に新たな特許出願としたものであって,平成26年10月28日付けで拒絶理由(以下,「原審拒絶理由」という。)が通知され,これに対し,平成27年5月7日に手続補正がなされ,同年8月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ,その後,当審より,平成28年8月5日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,これに対し,同年11月16日に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は,平成28年11月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものと認められる。
そして,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 無線通信システム用の基地局であって,
1又は複数の遠隔端末から逆方向補足チャネル(R-SCH)フレームを受信及び適切に増幅,フィルタリング,及び処理するように構成されているRFフロントエンドと,
前記受信したR-SCHフレームを復調及びさらに処理するように適合されているディジタル信号プロセッサ(DSP)と,
前記受信したR-SCHフレームの品質に応じて,遠隔端末へ否定応答(NAK)信号または肯定応答(ACK)信号を送信する手段と,
を備え,
(a)前記基地局が遠隔端末に対する経路損失が最小である最良の基地局である場合,前記送信する手段は,
前記受信したR-SCHフレームの品質が不良であると示されているとき,NAK信号を送信し,ACK信号を送信しないように構成されており,
NAC信号およびACK信号の不在は,前記遠隔端末に対し,前記基地局における前記R-SCHフレームの受信の肯定応答を示し,
(b)前記基地局が前記最良の基地局でない場合,前記送信する手段は,
前記受信したR-SCHフレームの品質が良好であると示されているとき,ACK信号を送信し,NAK信号を送信しないように構成されており,
NAC信号およびACK信号の不在は,前記遠隔端末に対し,前記基地局における前記R-SCHフレームの受信の否定応答を示す,
前記基地局。」

ただし,「NAC信号」は,「NAK信号」の誤記と認める。

第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
原審拒絶理由の概要は,次のとおりである。

「理由1
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

請求項:1-3
引用文献等:1-5
引用文献1(特に第45-62段落,第5-7図(なお,第62段落の「メッセージ176」は「メッセージ156」,第5,6図の「SUP」は「SCH」,第7図の「F-SUP」は「R-SCH」が正しいものと認められる。))には,R-SCHを利用してデータ送信を行うシステムが開示されており,また,引用文献2(特に第1023-1026段落,第1,2図)や引用文献3(特に第10頁第3段落,第1図)にも同様に,R-SCHを利用したシステムが開示されている。
当該技術分野において,引用文献1(確認応答プロトコル,否定確認応答プロトコル)や引用文献4(特に第15,34-36段落)に開示されるように,応答として肯定応答のみ,もしくは,否定応答のみを利用する,肯定応答の不在により再送する(すなわち,否定応答と認識する),また,否定応答の不在により再送しない(すなわち,肯定応答と認識する)等,種々の再送技術が周知であり,上記R-SCHを利用したシステムにおける,該R-SCHで送信されるデータについても種々の再送技術を利用する再送制御を適用することは,当業者が容易に想到し得たものであって,本願発明に格別な点は認められない。
なお,引用文献2-4や引用文献5(特に第1,2図及びその説明)に示されるように,遠隔端末と通信する基地局として,1つ以上の基地局と通信することはよく知られており(ハードハンドオーバ(通信対象(にしようとする)の基地局が遠隔端末にとって最良の基地局か判断し,最良の基地局が通信対象となる),ソフトハンドオーバやダイバーシチ技術等),通信対象の基地局が,最良のもの,もしくは最良でないものであることは当該技術分野において一般的なことに過ぎないことにも留意されたい。

引 用 文 献 等 一 覧

1.特表2002-539672号公報
2.国際公開第03/003592号
3.国際公開第02/045327号
4.特表2001-523918号公報
5.国際公開第02/037872号


理由2
(以下省略)」

原査定の理由の概要は,次のとおりである。
なお,原査定時の請求項1は,原審拒絶理由通知時の請求項4に対応し,原査定時の請求項2は,原審拒絶理由通知時の請求項2を前記請求項4に記載した事項により限定したものである。

「 この出願については,平成26年10月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって,拒絶をすべきものです。
なお,意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
●理由1(特許法第29条第2項)について

・請求項 1-3
・引用文献等 1-5
本願出願人は意見書中で,本願請求項1-3に記載された構成により,「順方向リンクACKチャネルの効率的な操作を可能とする…必要性がある」(本願明細書の段落[0012]を参照して下さい。)を解決する観点は,引用文献1-5には開示も示唆もされておらず,本願発明において,基地局は最良の基地局と最良でない基地局に区別されているのに対し,引用文献1-5には開示も示唆もされていない旨主張しているので,以下,検討する。

まず,上記手続補正書によって,「否定応答信号および肯定応答信号の不在」というような補正がなされている。ここで,例えば,請求項1において,「最良の基地局」が否定応答信号を送信しうることは明記されているものの,肯定応答信号が送信されうるか否かは明記されていない。(なお,肯定応答信号も送信されうるのであれば,基地局として「最良」か「最良でない」かによって何が変わるのか不明である。また,そもそも(a4)において,「・・(ACK)信号として前記遠隔端末が認識できるように構成されている」という定義は遠隔端末に係る限定であって,そのために(最良の)基地局がどのような構成をとっているのかを具体的に限定しているものと認められないことにも留意されたい。)また,請求項2,3においても,基地局が最良の基地局か最良でない基地局かをそれぞれ別の独立請求項として請求しているものとは認められるものの,請求項2において最良の基地局に対しての処理,請求項3において最良でない基地局に対しての処理は何ら定義されておらず,区別した対処を行うものであるかは明確でない。

ここで,少なくとも引用文献1においては,R-SCHでの送信に対する否定応答信号のみを利用した再送制御が開示されており,否定応答信号が不在の場合(当然,肯定応答信号は送信されないため不在である。),再送されない(実質的に肯定応答信号としての認識がなされる)ということができる。

また,前記拒絶理由通知書でも述べたとおり,基地局として最良のものや最良でないものが存在することは周知の事実に過ぎず,肯定応答信号,否定応答信号等を利用した再送制御も種々知られたものであるから,当該請求項に係る発明は,引用文献1-5の記載に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであって,格別なものではない。

従って,本願出願人の上記主張は,採用されない。

なお,審判請求の際には本願関連出願の出願経過も十分考慮されたい。

<引用文献等一覧>
1.特表2002-539672号公報
2.国際公開第03/003592号(周知技術を示す文献)
3.国際公開第02/045327号(周知技術を示す文献)
4.特表2001-523918号公報(周知技術を示す文献)
5.国際公開第02/037872号(周知技術を示す文献)
(以下省略)」

そうすると,原査定の拒絶の理由の趣旨は,補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,当業者が引用文献1に基づいて,引用文献2乃至5に記載された周知技術を参酌することにより容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
ただし,原審拒絶理由及び原査定の理由において,引用文献3及び引用文献4に対する参照箇所に記載されている事項は,実質的に引用文献1又は引用文献2に含まれているので,以降では,参照を省略する。

2.当審における原査定の判断
(1)引用発明及び周知事項
ア 引用発明
原査定で引用された引用文献1(特表2002-539672号公報)には,「通信システムにおける利用可能な容量の使用を最大化するための方法及び装置」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「 【0010】
上記した特性はフォワードリンクに関連して記載されたが,同様の特性はリバースリンクにもまた適用される。」(第12ページ)

(イ)「 【0040】
図5は,本発明の方法の実行に適した通信システムの基地局と移動局間の確認応答プロトコルのスケジューリング時間ラインを示すグラフィックな表示90である。グラフィックな表示90の確認応答プロトコルは上記したパワー制御方法において使用可能である。グラフィックな表示90の方法の好ましい実施形態は,IS-95第3世代のシステムにおいて実行される。IS-95第3世代のシステムにおいて,フォワードリンクに関するABRトラフィックストリームの送信には追加チャネル(F-SCH)が使用可能である。追加チャネルは概してスケジューリングチャネルである。しかしながら,それは固定あるいは可変チャネルであってもよい。F-DCCHとR-DCCHはそれぞれフォワード及びリバース制御チャネルである。本発明に従ってフォワードリンクに関するABRトラフィックストリームの送信に追加チャネル(F-SCH)が使用されるとき,DCCHチャネルのエラーレートは概して追加チャネル(F-SCH)のエラーレートよりも低い。グラフィックな表示90の確認応答プロトコルにおいて,基地局はメディアアクセス制御(MAC)メッセージ94及び98におけるスケジュールを移動局に送信する。スケジュールは送信されるフレームの数,送信レート,フレーム番号(これらに限定されない)を含む送信に関する多くの状況を移動局に知らせる。本発明の一実施形態において,MACメッセージ94は移動局に使用される送信レートを提供する。この実施形態では,移動局はF-SCHを受信する試みを継続的に行なう。
【0041】
基地局は,2つの無線リンクプロトコル(RLP)フレーム102,106を移動局に送信しなければならないことを示す。RLPは通信システムの上位層フレーミングプロトコルである。TIA標準IS-707に記載されたそれと類似のRLPが使用可能であるが,多くの異なる上位層フレーミングプロトコルが使用可能である。次に,RLPフレームはまさに物理層フレームにマッピングするものと仮定されるが,これは必ずしも本発明の一部ではない。RLPフレーム102,106のシーケンス番号はそれぞれ,k及びk+1である。RLPフレーム102,106はそれぞれ,物理的フレームi+1及びi+2の間に送信される。移動局がRLPフレームk+1(106)の送信を正しく受信するとき,それはメッセージ112を使用するフレームを確認する。基地局はRLPフレームk(102)の確認応答を受信しないので,基地局は,RLPフレームkは物理的フレームi+5(110)の間に再送されることになっていることを示す,MACメッセージ98における新たなフォワードリンク割り当てを送信する。移動局はMACメッセージ98から,それはフレームi+5(110)の間に受信した信号と,フレームi+1(102)の間に受信した信号とを組み合わせなければならないことを把握する。物理的フレームi+1が物理的フレームi+5の間に再送された後,移動局は,再送された物理的フレームi+5において各シンボルに対して受信したエネルギと,フレームi+1(上記のようにバッファに蓄積されている)の間における元の送信の受信エネルギとを組み合わせ,以下に述べるようにフレームの組み合わされた受信エネルギを復号する。
【0042】
移動局は,確認応答メッセージ114を使用してフレームi+6の間にRLPフレームkを確認する。この確認に基く方法では,エネルギ不足は基地局に送信されない。さらに,さらなる実施形態において,エネルギ不足はRLPフレームk+2の確認応答とともに基地局に送信される。すなわちこの実施形態では,確認応答はいつも,エラーであった第1のフレーmから要求される余分の(Et/No)kの量の推定を含んでいる。しかしながらこの方法は,フレームシーケンスの最後のフレームが移動局によって正しく受信されなかった場合にはうまくいかない。
【0043】
基地局が確認応答が移動局から受信されなかったことを決定し,そのメッセージを再送することを望んだとき,基地局はメッセージを送信するときのレベルを決定する。基地局は,移動局によって必要とされたエネルギの量に関するフィードバック情報に基づいてレベルを選択することができる。あるいは,基地局は,移動局がすでに受信したエネルギの量を推定し,これを再送するときのレベルを決定するのに使用する。一実施形態では,再送のために選択されたパワーレベルは,元のメッセージのシンボルエネルギと再送されたメッセージが受信バッファ内で組み合わされるときに,正しい復調のために必要な最小パワーレベルに対応する。基地局は,フォワードパワー制御からの情報と,送信レートと,伝播状態と,フレームを送信するのにすでに使用されたパワーの量と,伝送路損失を用いて,移動局がすでに受信したエネルギ量を推定することができる。この推定を行なうのに用いられる実際の情報は,基地局で利用可能なこれらのあるいは他の任意のパラメータを含む。他方,基地局は単に固定パワー(あるいはフォワードパワー制御レベルに関して固定のパワー)を移動局に送信することが可能である。この固定パワーレベルは基地局によって予め決定される。
【0044】
再送フレームの身元を提供するために基地局がメッセージ98を移動局に送信する明示的な方法に代わって,移動局は,送信データからまずまずの正確さで再送されたフレームの身元を暗黙のうちに決定することができる。例えば,フレームi+5が,フレームi+1などの確認応答されなかった以前のフレームにおいて受信したデータに一致するかどうかを決定するのにユークリッド距離が使用される。すなわち,メッセージ98の明示的な再送はこの発明では必要とされない。この代わりの実施形態では,移動局は,現在のフレームから受信したシンボルと,移動局のバッファに蓄積されているすべての以前のフレームからのシンボルと比較する。移動局が,再送されたフレームがすでにバッファ内にあるフレームに対応すると決定したのなら,移動局は,各シンボルに対するエネルギを組み合わせて当該フレームを復号することを試みる。
【0045】
図5に示すプロトコルの代わりの実施形態においては,メッセージ94は必要とされない。メッセージ94は上記の実施形態では,フレーム102及び106が送信されることを移動局に示すために使用される。この代わりの実施形態において,移動局は,現在のフレームが新たなフレームであるか再送されたフレームであるかを,上記したユークリッド距離解析を用いて送信されたデータからまずまずの正確さで暗黙のうちに決定する。
【0046】
図6は,基地局と本発明のシステムにおける実行に適した移動局の間の否定の確認応答プロトコルのスケジューリング時間ラインを示すグラフィックな表示120である。グラフィックな表示120の否定確認応答プロトコルは上記したパワー制御方法において使用される。
【0047】
グラフィックな表示120の否定の確認応答プロトコルにおいて,基地局は,RLPフレーム102,106を送信すべきであること,及びMACメッセージ94によって物理層フレームを送信すべきであることを移動局に知らせる。基地局は次にフレーム102,106を移動局に送る。移動局がRLPフレーム102を正しく受信しなかったときに,移動局は否定の確認応答116を基地局に送る。基地局は次に前記した方法によりメッセージ98を送り,フレーム102の情報はフレーム110として再送される。
【0048】
否定確認応答に基くプロトコルの欠点の一つは,基地局は否定の確認応答が移動局から受信されなかったときに,フレーム102を再送するための行動を起こすことができないということである。ABRトラフィックでは,フォワードリンクに関して送信されるフレームがエラーとなる確率は,リバースリンクに関して送信される否定の確認応答がエラーとなる確率よりもはるかに大きい。これは,フォワードリンクに関して多数ビットでフレームを送信するのに要するパワーの量は,確認応答を送信するのに必要となるパワーの量よりもかなり高いためである。否定の確認応答プロトコルは,フレームが再送されていることを示すためにMACメッセージ98を使用することができる。MACメッセージ98は,図5に示される確認応答プロトコルのために用いられるそれと類似している。否定の確認応答プロトコルは,図5に示す確認応答プロトコルに対して述べられたプロトコルに類似する再送フレームの身元を決定するための暗黙の方法としても使用できる。
【0049】
否定確認応答に基くプロトコルのいくつかの他の実施形態が可能である。その1つの実施形態では,基地局は,元の送信のフレームについては移動局に通知せず,フレームが送信される時間間隔について移動局に通知する。移動局は全ての物理的フレームを復調する。移動局がRLPフレームk+1を正しく受信できなかった場合には,R-DCCHに関して(k番目のフレームを含む)喪失フレームに対する否定確認応答を送信する。このプロトコルの欠点は,移動局が,種々のフレームからのシンボルエネルギを蓄積するのに用いられるメモリをいつ開放するのかを知らないことである。この欠点はいくつかの方法により克服できる。1つの方法は,固定された量のメモリを提供し,移動局がさらなるメモリが必要になったときには,最も前に受信した物理層フレームシンボルエネルギを廃棄させることである。他方,移動局は,所定時間よりも過去に受信した物理層フレームに対応するメモリを廃棄することができる。
【0050】
このプロトコルのさらなる欠点は,移動局は,エラーの状態で受信したフレームに対する迅速な否定確認応答をいつ送信するのかを知らないことである。この欠点は,2,3のフレームのみが第1の送信に関して正しく受信されるという事実により助長される。この欠点は,基地局がF-DCCHに関する移動局に対して第2の完了(done)メッセージをしばしば送信することにより克服できる。この完了メッセージは,基地局が一連のフレームを送信したことを移動局に知らせて,移動局が受信すべきだったフレームを決定することを可能にする。移動局は次に受信しなかったフレームに対する否定の確認応答を送信する。任意の完了メッセージは,フレームが送信されることを示すメッセージなど,他の任意のメッセージと組み合わせることが可能である。」(第25-30ページ)

(ウ)「 【0060】
図7は,グラフィックな表示150を示している。グラフィックな表示150は,本発明に使用するのに適した通信システムの基地局及び移動局間のリバースリンクに関する否定の確認応答プロトコルである。グラフィックな表示150の否定の確認応答プロトコルが上記したようなパワー制御方法において使用可能である。
【0061】
リバースリンクのタイミング及び確認応答構造の多くがフォワードリンクに関して上記したのと同じ方法で動作する。ただし以下の例外がある。リバースリンクにおいて,移動局は,要求176によって高レートABRフレーム164,168を送信するための許可を要求する。基地局は,割り当てメッセージ152によってABRフレーム164,168をいつ送信するのかを移動局に知らせる。グラフィックな表示150の移動局は,エラーフレーム164の再送を要求する必要がない。しかしながら,基地局は,フレーム164がエラーであり,リバースリンクが利用可能な容量を有するときに再送を予定することを知る。さらに,基地局によって送信された否定の確認応答メッセージ156は,リバースリンクパワーフレーム172と送信するためのスロットを再送するための許可を含む。
【0062】
フォワードリンクに関して上記した他の実施形態はリバースリンクに対しても適用可能である。例えば,リバースリンクの一実施形態において,移動局はMACメッセージ176を用いて送信を要求する必要がない。さらに,基地局はMACメッセージ152を用いてチャネルに対するアクセスを許可する必要がない。他の実施形態において,基地局は,メッセージ176を使用してメッセージを再送すべきフレームについて移動局に明示的に知らせる必要がない。」(第33ページ)
(ここで,【0062】に記載の「MACメッセージ176」は,「MACメッセージ156」の誤記と認められる。)

(エ)「

」(第42ページ)
(ここで,「SUP」は「SCH」の誤記と認める。)

(オ)「

」(第43ページ)
(ここで,「SUP」は「SCH」の誤記と認める。)

(カ)「

」(第44ページ)
(ここで,「F-SUP」は,「R-SCH」の誤記と認める。)

前記(イ),(エ)及び(オ)より,引用文献1には,移動局が,基地局から送信されるF-SCHフレームを受信すると,
a. 正しく受信した場合には確認応答を送信し,一方,正しく受信しなかった場合には何も送信しないで,基地局は,何も受信しないと再送する,確認応答プロトコルと,
b.正しく受信しなかった場合には否定の確認応答を送信して,基地局は,何も受信しないと再送し,一方,正しく受信した場合には何も送信しない,否定の確認応答プロトコルと,
が記載されているといえる。
また,前記(ア)及び(ウ)の【0062】には,F-SCHフレームについて記載した事項が,リバースリンクにおいて送信されるR-SCHフレームに対しても適用できることが記載され,前記(ウ)の【0060】及び【0061】及び(カ)には,リバースリンクにおいて送信されるR-SCHフレームについて,前記bに相当する否定の確認応答プロトコルを実施することが記載されている。
そうすると,引用文献1には,基地局が,移動局から受信するR-SCHフレームについて,前記aに相当する確認応答プロトコルと,前記bに相当する否定の確認応答プロトコルを実施することが記載されているといえる。また,確認応答プロトコルと,否定の確認応答プロトコルとは,相反するものであるから,基地局が何れか一方を実施することは自明である。

以上の検討より,前記(ア)ないし(カ)及び本願の出願時における技術常識を参酌すると,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 基地局であって,
移動局からR-SCHフレームを受信した場合,
正しく受信した場合には確認応答を送信し,一方,正しく受信しなかった場合には何も送信しないで,基地局は,何も受信しないと再送する,確認応答プロトコルと,
正しく受信しなかった場合には否定の確認応答を送信して,基地局は,何も受信しないと再送し,一方,正しく受信した場合には何も送信しない,否定の確認応答プロトコルと,
のいずれかを実施する前記基地局。」

イ 周知事項
原査定で引用された引用文献2(国際公開第03/003592号)には,「METHOD AND SYSTEM FOR GROUP CALL SERVICE」(発明の名称,当審仮訳:グループコールサービスのための方法及びシステム)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

(キ)「[1023] FIG. 2 is a simplified block diagram of an embodiment of base station 204 and remote terminal 206, which are capable of implementing various aspects of the invention. For a particular communication, voice data, packet data, and/or messages may be exchanged between base station 204 and remote terminal 206, via an air interface 208. Various types of messages may be transmitted, such as messages used to establish a communication session between the base station and remote terminal and messages used to control a data transmission (e.g., power control, data rate information, acknowledgment, and so on). Some of these message types are described in further detail below.
[1024] For the reverse link, at remote terminal 206, voice and/or packet data (e.g., from a data source 210) and messages (e.g., from a controller 230) are provided to a transmit (TX) data processor 212, which formats and encodes the data and messages with one or more coding schemes to generate coded data. Each coding scheme may include any combination of cyclic redundancy check (CRC), convolutional, turbo, block, and other coding, or no coding at all. The voice data, packet data, and messages may be coded using different schemes, and different types of messages may be coded differently.
[1025] The coded data is then provided to a modulator (MOD) 214 and further processed (e.g., covered, spread with short PN sequences, and scrambled with a long PN sequence assigned to the user terminal). The modulated data is then provided to a transmitter unit (TMTR) 216 and conditioned (e.g., converted to one or more analog signals, amplified, filtered, and quadrature modulated) to generate a reverse link signal. The reverse link signal is routed through a duplexer (D) 218 and transmitted via an antenna 220 to base station 204.
[1026] At base station 204, the reverse link signal is received by an antenna 250, routed through a duplexer 252, and provided to a receiver unit (RCVR) 254. Receiver unit 254 conditions (e.g., filters, amplifies, down converts, and digitizes) the received signal and provides samples. A demodulator (DEMOD) 256 receives and processes (e.g., despreads, decovers, and pilot demodulates) the samples to provide recovered symbols. Demodulator 256 may implement a rake receiver that processes multiple instances of the received signal and generates combined symbols. A receive (RX) data processor 258 then decodes the symbols to recover the data and messages transmitted on the reverse link. The recovered voice/packet data is provided to a data sink 260 and the recovered messages may be provided to a controller 270. The processing by demodulator 256 and RX data processor 258 are complementary to that performed at remote terminal 206. Demodulator 256 and RX data processor 258 may further be operated to process multiple transmissions received via multiple channels, e.g., a reverse fundamental channel (R-FCH) and a reverse supplemental channel (R-SCH). Also, transmissions may be simultaneously from multiple remote terminals, each of which may be transmitting on a reverse fundamental channel, a reverse supplemental channel, or both.
[1027] On the forward link, at base station 204, voice and/or packet data (e.g., from a data source 262) and messages (e.g., from controller 270) are processed (e.g., formatted and encoded) by a transmit (TX) data processor 264, further processed (e.g., covered and spread) by a modulator (MOD) 266, and conditioned (e.g., converted to analog signals, amplified, filtered, and quadrature modulated) by a transmitter unit (TMTR) 268 to generate a forward link signal. The forward link signal is routed through duplexer 252 and transmitted via antenna 250 to remote terminal 206.」(第5-6ページ)
([当審仮訳]
[1023] 図2は,本発明の多様な態様を実現できる基地局204と遠隔端末206の実施形態の簡略化したブロック図である。ある特定の通信の場合,音声データ,パケットデータ,及び/またはメッセージはエアインタフェース208を介して基地局204と遠隔端末206間で交換されてよい。基地局と遠隔端末間で通信セッションを確立するために使用されるメッセージ,及びデータ伝送(例えば,出力制御,データ転送速度情報,肯定応答等)を制御するために使用されるメッセージなど多様な種類のメッセージが送信されてよい。これらのメッセージ種類のいくつかは以下にさらに詳細に説明されている。
[1024] 逆方向リンクの場合,遠隔端末206で,(例えば,データソース210からの)音声及び/またはパケットデータ及び(例えば,コントローラ230からの)メッセージが,コーディングされたデータを生成するために1つまたは複数のコーディング方式でデータとメッセージをフォーマットし,符号化する送信(TX)データプロセッサ212に提供される。各コーディング方式は,巡回冗長検査(CRC),畳み込み符号化,ターボコーディング,ブロックコーディング及び他のコーディングの任意の組み合わせ,あるいはまったくコーディングなしを含んでよい。音声データ,パケットデータ及びメッセージは様々な方式を使用してコーディングされてよく,様々な種類のメッセージは違う方式でコーディングされてよい。
[1025] コーディングされたデータは,次に変調器(MOD)214に提供され,さらに処理される(例えば,短いPN系列でカバーされ,拡散され,ユーザ端末に割り当てられる長いPN系列でスクランブルされる)。それから,変調されたデータは送信機装置(TMTR)216に提供され,逆方向リンク信号を発生させるために調整される(例えば,1つまたは複数のアナログ信号に変換され,増幅され,濾波され,直角変調される)。該逆方向リンク信号はデュプレクサ(D)218を通して転送され,アンテナ220を介して基地局204に送信される。
[1026] 基地局204では,逆方向リンク信号はアンテナ250によって受信され,デュプレクサ252を通して送られ,受信機装置(RCVR)254に提供される。受信機装置254は受信された信号を調整し(例えば,濾波し,増幅し,ダウンコンバートし,デジタル化する),サンプルを提供する。復調器(DEMOD)256はサンプルを受信し,処理し(例えば,逆拡散し,デカバリング(decover)し,パイロット復調する),再生された記号を提供する。復調器256は受信信号の複数のインスタンスを処理し,結合された記号を生成するレーキレシーバを実現してよい。受信(RX)データプロセッサ258は,次に記号を復号し,逆方向リンクで送信されたデータとメッセージを回復する。回復された音声/パケットデータはデータシンク260に提供され,回復されたメッセージはコントローラ270に提供されてよい。復調器256及びRXデータプロセッサ258による処理は遠隔端末206で実行される処理に補完的である。変調器256及びRXデータプロセッサ258は,逆方向基本チャネル(R-FCH)及び逆方向補足チャネル(R-SCH)を介してなど,複数のチャネルを介して受信される複数の送信を処理するためにさらに操作されてよい。また,伝送は複数の遠隔端末から同時であってよく,それぞれが逆方向基本チャネル,逆方向補足チャネル,あるいは両方で送信してよい。
[1027] 順方向リンク上では,基地局204において,(例えば,データソース262からの)音声及び/またはパケットデータ及び(例えば,コントローラ270からの)メッセージが,送信(TX)データプロセッサ264によって処理され(例えば,フォーマットされ,符号化される),変調器(MOD)266によってさらに処理され(例えば,カバーされ,拡散される),順方向リンク信号を発生させるために送信機装置(TMTR)268によって調整される(例えば,アナログ信号に変換され,増幅され,濾波され,直角変調される)。該順方向リンク信号はデュプレクサ252を通して転送され,アンテナ250を介して遠隔端末206に送信される。)

前記(キ)より,次の事項は,周知のものと認める。(以下,これを「周知事項1」という。)

「 基地局が,
逆方向補足チャネル(R-SCH)を介して受信する逆方向リンク信号を,受信し,増幅,フィルタリング,及び処理するように構成されている手段と,
前記受信した信号を復調及びさらに処理するように適応されている手段とを備えること。」

原査定で引用された引用文献5(国際公開第02/037872号)には,「CLOSED LOOP METHOD FOR REVERSE LINK SOFT HANDOFF HYBRID AUTOMATIC REPEAT REQUEST」(発明の名称,当審仮訳:リバースリンク・ソフトハンドオフ・ハイブリッド自動再送要求方式のための閉ループ方法)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

(ク)「Background of the Invention

Interim Standard IS-95-A (IS-95) has been adopted by the Telecommunications Industry Association for implementing CDMA in a cellular system. In a CDMA system, a mobile station communicates with any one or more of a plurality of base stations dispersed in a geographic region. Each base station continuously transmits a pilot channel signal having the same spreading code but with a different code phase offset. Phase offset allows the pilot signals to be distinguished from one another, which in turn allows the base stations to be distinguished. Hereinafter, a pilot signal of a base station will be simply referred to as a pilot. The mobile station monitors the pilots and measures the received energy of the pilots.
IS-95 defines a number of states and channels for communication between the mobile station and the base station. For example, in the Mobile Station Control on the Traffic State, the base station communicates with the mobile station over a Forward Traffic Channel, and the mobile station communicates with the base station over a Reverse Traffic Channel. During a call, the mobile station must constantly monitor and maintain four sets of pilots collectively referred to as the Pilot Set-the Active Set, the Candidate Set, the Neighbor Set, and the Remaining Set. The Active Set are pilots associated with the Forward Traffic Channel assigned to the mobile station. The Candidate Set are pilots that are not currently in the Active Set but have been received by a particular mobile station with sufficient strength to indicate that the associated Forward Traffic Channel could be successfully demodulated. The Neighbor Set are pilots that are not currently in the Active Set or Candidate Set but are likely candidates for handoff. The Remaining Set are all possible pilots in the current system on the current CDMA frequency assignment, excluding the pilots in the Neighbor Set, the Candidate Set, and the Active Set.
The mobile station constantly searches a Pilot Channel of neighboring base stations for a pilot that is sufficiently stronger than a threshold value. The mobile station signals this event to the base station using the Pilot Strength Measurement Message. As the mobile station moves from the region covered by one base station to another, the base station promotes certain pilots from the Candidate Set to the Active Set, Neighbor Set to the Candidate Set, and notifies the mobile station of the promotions via a Handoff Direction Message. When the mobile station commences communication with a new base station in the new Active Set before terminating communications with the old base station, a "soft handoff' has occurred. For the reverse link, typically each base station demodulates and decodes each frame or packet independently. It is up to the switching center to arbitrate between the two base station's decoded frames. Such soft-handoff operation has multiple advantages. Qualitatively, this feature improves and renders more reliable handoff between base stations as a user moves from one cell to the adjacent one. Quantitatively soft-handoff improves the capacity/coverage in a CDMA system.」(第1-2ページ)
([当審仮訳]
発明の背景

米国電気通信工業会(Telecommunications Industry Association)は,セルラー方式においてのCDMAの実施に,暫定標準IS-95-A(IS-95)を採用している。CDMAシステムでは,地理的な領域内に分散した複数の基地局のうちの任意の一つ以上の基地局と通信する。各基地局は,異なる符合位相差を有する同一の拡散符号を備えたパイロットチャネルシグナルを継続的に送信する。位相差はパイロットシグナル同士を相互に区別することを可能に,続いて基地局を区別することを可能にする。以下において,基地局のパイロットシグナルを単にパイロットと称する。移動局はパイロットを監視して,受信したパイロットのエネルギーを測定する。
IS-95は,移動局と基地局との間の通信のために,多数の状態およびチャネルを定義する。例えば,トラフィック状態(Traffic State)に関する移動局制御(Mobile Station Control)では,基地局は,フォワードトラフィックチャネル(Forward Traffic Channel)を介して移動局と通信し,移動局は,リバーストラフィックチャネル(Reverse Traffic Channel)を介して基地局と通信する。呼の間,移動局は,集合的にパイロットセットと称される4つのセット,すなわち,アクティブセット(Active Set ),候補セット(Candidate Set) ,隣接セット(Neighbor Set),および残りのセット(Remaining Set) を常時監視しかつ保持しなければならない。アクティブセットは,移動局に割り当てられたフォワードトラフィックチャネルに関連したパイロットである。候補セットは,現在はアクティブセット内にはないが,特定の移動局によって十分な強度をもって受信されていて,特定の移動局に関連するフォワードトラフィックチャネルが首尾よく復調され得ることを示すパイロットである。隣接セットは,現在アクティブセットおよび候補セットのいずれでもないが,ハンドオフの候補になり得る。残りのセットは,現在のシステムにおいて,CDMA周波数割当てにおいて,隣接セット,候補セット,およびアクティブセット内のパイロットを除く,可能なパイロットの全てである。
移動局は,隣接した基地局のパイロットチャネル(Pilot Channel) において,強度が閾値よりも十分大きいパイロットを常時探査している。移動局は,パイロット強度測定メッセージ(Pilot Strength Measurement Message)を使用してその結果を基地局へ信号送信する。移動局が,一つの基地局によってカバーされる領域から他の領域へ移動するにつれ,基地局は特定のパイロットを候補セットからアクティブセットへ,隣接セットから候補セットへと進展させて,この進展をハンドオフ方向メッセージ(Handoff Direction Message)を介して移動局に通知する。新しいアクティブセット内で新しい基地局との通信を開始する場合,移動局が古い基地局との通信を終了する前に,「ソフトハンドオフ」が発生している。リバースリンクにおいては,一般に,各基地局が独立して,各フレームまたはパケットを復調およびデコードする。二つの基地局によってデコードされたフレーム間の仲介は,交換局に依存している。このようなソフトハンドオフの作動は,複数の利点を有する。品質的にはこの機能は,利用者が一つのセルから隣接するセルへ移動する際の,基地局間のハンドオフの信頼性を向上させる。量的には,ソフトハンドオフはCDMAシステムにおける容量/カバレージを向上させる。)

前記(ク)より,次の事項は,周知のものと認める。(以下,これを「周知事項2」という。)

「 移動局が,常時,複数の基地局から受信する各々のパイロットの受信強度を測定して基地局に送信することにより,各基地局が送信するパイロットのセット(アクティブセット,候補セット,隣接セット又は残りのセット)を判別し,必要に応じてソフトハンドオフを行うこと。」

(2)対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「基地局」は,「無線通信システム用」のものであることは自明であるから,本願発明の「無線通信システム用の基地局」に相当する。
また,引用発明の「移動局」は,本願発明の「1又は複数の遠隔端末」に含まれる。

b.引用発明の「R-SCHフレーム」は,本願発明の「逆方向補足チャネル(R-SCH)フレーム」に相当する。

c.引用発明において,「確認応答」及び「否定の確認応答」は,いずれも,「受信したR-SCHフレームの品質に応じて」送信されることは自明である。
よって,引用発明の「確認応答」及び「否定の確認応答」はそれぞれ,本願発明の「肯定応答(ACK)信号」及び「否定応答(NAK)信号」に相当する。
そして,引用発明が,本願発明の「前記受信したR-SCHフレームの品質に応じて,遠隔端末へ否定応答(NAK)信号または肯定応答(ACK)信号を送信する手段」に相当する手段を備えることは自明である。

d.引用発明の「正しく受信した場合には確認応答を送信し,一方,正しく受信しなかった場合には何も送信しないで,基地局は,何も受信しないと再送する,確認応答プロトコル」は,本願発明の「前記送信する手段」が,「前記受信したR-SCHフレームの品質が良好であると示されているとき,ACK信号を送信し,NAK信号を送信しないように構成されており,NAC信号およびACK信号の不在は,前記遠隔端末に対し,前記基地局における前記R-SCHフレームの受信の否定応答を示す」こと(以下,「事項A」という。)に等しい。
同様に,引用発明の「正しく受信しなかった場合には否定の確認応答を送信して,基地局は,何も受信しないと再送し,一方,正しく受信した場合には何も送信しない,否定の確認応答プロトコル」は,本願発明の「前記送信する手段」が,「前記受信したR-SCHフレームの品質が不良であると示されているとき,NAK信号を送信し,ACK信号を送信しないように構成されており,NAC信号およびACK信号の不在は,前記遠隔端末に対し,前記基地局における前記R-SCHフレームの受信の肯定応答を示」すこと(以下,「事項B」という。)に等しい。
そして,引用発明と本願発明とは,「送信する手段」が,事項A又は事項Bのいずれかである点において共通する。

イ 一致点及び相違点
以上を総合すれば,本願発明1と引用発明とは,以下の点において一致ないし相違する。

[一致点]
「 無線通信システム用の基地局であって,
前記受信したR-SCHフレームの品質に応じて,遠隔端末へ否定応答(NAK)信号または肯定応答(ACK)信号を送信する手段と,
を備え,
前記送信する手段は,
A 前記受信したR-SCHフレームの品質が不良であると示されているとき,NAK信号を送信し,ACK信号を送信しないように構成されており,
NAC信号およびACK信号の不在は,前記遠隔端末に対し,前記基地局における前記R-SCHフレームの受信の肯定応答を示し,
B 前記受信したR-SCHフレームの品質が良好であると示されているとき,ACK信号を送信し,NAK信号を送信しないように構成されており,
NAC信号およびACK信号の不在は,前記遠隔端末に対し,前記基地局における前記R-SCHフレームの受信の否定応答を示す,
のいずれかである,前記基地局。」

[相違点1]
本願発明が,「1又は複数の遠隔端末から逆方向補足チャネル(R-SCH)フレームを受信及び適切に増幅,フィルタリング,及び処理するように構成されているRFフロントエンド」及び「前記受信したR-SCHフレームを復調及びさらに処理するように適合されているディジタル信号プロセッサ(DSP)」を備えるのに対し,引用発明は,この点について具体的に言及がない点。

[相違点2]
本願発明は,事項Aが,「前記基地局が遠隔端末に対する経路損失が最小である最良の基地局である場合」のものであり,事項Bが,「前記基地局が前記最良の基地局でない場合」のものであるように,具体的に場合分けされているのに対し,引用発明において,事項Aと事項Bとをどのように使い分けているのか具体的に特定していない点。

ウ 判断
事案に鑑みて,まず[相違点2]について検討する。

周知事項2にあるように,
「 移動局が,常時,複数の基地局から受信する各々のパイロットの受信強度を測定して基地局に送信することにより,各基地局が送信するパイロットのセット(アクティブセット,候補セット,隣接セット又は残りのセット)を判別し,必要に応じてソフトハンドオフを行うこと。」
は,周知であることから,ソフトハンドオフを実行する場合においては,複数の基地局は,アクティブセットに属するものとそれ以外のものとが存在することは周知技術といえる。そして,一般的に,アクティブセットは,パイロットの受信強度が最大のものと解されるから,基地局には,「パイロットの受信強度が最大のもの」と「パイロットの受信強度が最大のものではないもの」とが存在することは周知技術といえる。
仮に,「パイロットの受信強度が最大」であることと,「遠隔端末に対する経路損失が最小」であることとが同義であるとしても,ソフトハンドオフを実行することを前提としない引用発明に対し,「前記基地局が遠隔端末に対する経路損失が最小である最良の基地局である場合」に事項Aを適用し,「前記基地局が前記最良の基地局でない場合」に事項Bを適用することの動機付けが存在しない。
また,「パイロットの受信強度が最大」であることと,「遠隔端末に対する経路損失が最小」であることとが同義でない場合には,当該周知技術を引用発明1に適用しても,本願発明とはならないことは明らかである。
よって,周知事項2を参酌しても,引用発明に基づいて,本願発明に係る前記「相違点2」の構成を想到することはできない。

エ 小括
したがって,[相違点1]について検討するまでもなく,本願発明は,当業者が引用発明に基づいて,引用文献2ないし5に記載された周知事項を参酌することにより容易に発明することができたものではない。
本願の請求項2に係る発明は,本願発明を「遠隔端末」として特定したものであり,本願発明に係る技術的特徴のすべてを実質的に包含するものであるから,同様に,当業者が引用発明に基づいて,引用文献2ないし5に記載された周知事項を参酌することにより容易に発明することができたものではない。
よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由1の概要は,次のとおりである。

「 理 由

1.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.(サポート要件)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(明確性)について
(1)請求項1及び3に係る発明は,「基地局」が,「遠隔端末に対する経路損失が最小である最良の基地局」である場合についてのみ特定するものであり,「遠隔端末に対する経路損失が最小である最良の基地局ではない基地局」である場合についての処理を具体的に特定していない。
よって,請求項1及び3に係る発明は,「遠隔端末に対する経路損失が最小である最良の基地局ではない基地局」である場合,
ア 「遠隔端末に対する経路損失が最小である最良の基地局」である場合と同じ処理を行う,又は,
イ 「遠隔端末に対する経路損失が最小である最良の基地局」である場合と異なる処理を行う,
のいずれであるのか明確でない。
請求項2に係る発明は,これとは逆に,「基地局」が,「遠隔端末に対する経路損失が最小である最良ではない基地局」である場合についてのみ特定するものであるから,同様の点において明確でない。
(請求項1に係る発明は,「遠隔端末に対する経路損失が最小である最良の基地局」に係る発明であるのに対し,請求項2に係る発明は,「遠隔端末に対する経路損失が最小である最小ではない基地局」に送信する「無線遠隔端末」に係る発明であるため,出願の単一性の要件を満たしていない疑義があることにも留意されたい。)
(2)請求項1に記載の「前記DSPは,否定応答信号および肯定応答(ACK)信号の不在により,前記基地局における前記R-SCHフレームの受信の肯定応答を示す肯定応答(ACK)信号として前記遠隔端末が認識できるように構成されている,前記DSP」との構成は,「否定応答信号および肯定応答(ACK)信号の不在により,前記基地局における前記R-SCHフレームの受信の肯定応答を示す肯定応答(ACK)信号として前記遠隔端末が認識できる」ように「DSP」が「構成されている」というように,「遠隔端末」側の構成により,「基地局」の「DSP」の構成を特定しようとするものである。
しかしながら,明細書(特に,「基地局」の構成について記載された段落【0028】,「DSP」について記載された段落【0066】)及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても,遠隔端末が,基地局から送信される特定の信号の不在により,特定の信号として認識できるようにするために,基地局のDSPがどのように構成されるのかを明確に把握することができない。

よって,請求項1ないし3に係る発明は,明確でない。

●理由2(サポート要件)について
(1)請求項1に係る「RFフロントエンド」は,明細書及び図面には記載されていないものの,請求項1に記載の「受信および適切に増幅,フィルタリング,及び処理するように構成されているRFフロントエンド」,及び,明細書の段落【0028】に記載の「基地局104では,逆方向リンク信号はアンテナ250で受信され,デュプレクサ252を介してルーティングされ,受信器ユニット(RCVR)254に提供される。受信器ユニット254は受信信号を調整(例えば,フィルタリング,増幅,ダウンコンバート,及びディジタル化)し,サンプルを提供する。」からして,明細書及び図面に記載の「受信器ユニット」(254)に相当するものと解される。
同様に,請求項1に係る「DSP」は,請求項1に記載の「前記受信したR-SCHフレームを復調及びさらに処理するように適合されているディジタル信号プロセッサ(DSP)」,並びに,明細書の段落【0066】に記載の「本明細書に開示される実施形態と関連して述べた,様々な例示的な論理ブロックとモジュールとは,…ディジタル信号プロセッサ(DSP),…によって実現もしくは実行されてもよい。」及び段落【0028】に記載の「復調器(DEMOD)256は,回復されたシンボルを提供するためにサンプルを受信及び処理(例えば,逆拡散,デカバー(decovers),及びパイロット復調)する。復調器256は,複数インスタンスの受信信号を処理及び結合されたシンボルを生成するレーキ(rake)受信機を導入してもよい。次に,受信(RX)データプロセッサ258は,逆方向リンク上で送信されたデータとメッセージを回復するためにシンボルを復号化する。」からして,明細書及び図面に記載の「復調器」(256)及び「受信(RX)データプロセッサ」(258)に相当するものと解される。
しかしながら,請求項1に係る発明において,「DSP」が,「前記受信したR-SCHフレームの品質が不良であると示されている場合,否定応答(NAK)信号を送信し,肯定応答(ACK)信号を送信しないようにするように前記RFフロントエンドに対して指示する」ように構成されること,すなわち,「受信器ユニット」(254)が,「復調器」(256)及び「受信(RX)データプロセッサ」(258)に対して,所定の信号を送信し,又は,送信しないように指示することは,明細書及び図面には記載も示唆もなく,出願時の技術常識から自明ともいえない。
(そもそも,「復調器」(256)及び「受信(RX)データプロセッサ」(258)は,信号の受信に関する機能手段であるから,信号の送信に関する指示を受けることはあり得ない。)
(2)請求項2及び3に係る「RFフロントエンド」は,明細書及び図面には記載されていないものの,請求項2及び3に記載の「…信号を受信および適切に増幅,フィルタリング,及び処理するように…構成されている,前記RFフロントエンド」,及び,明細書の段落【0030】に記載の「遠隔端末106においては,順方向リンク信号がアンテナ220で受信され,デュプレクサ218を介してルーティングされて,受信器ユニット222に提供される。受信器ユニット222は,受信信号を調整(例えばダウンコンバート,フィルタリング,増幅,直交復調,及びディジタル化)して,サンプルを提供する。」からして,明細書及び図面に記載の「受信器ユニット」(222)に相当するものと解される。
しかしながら,請求項2及び3に係る発明において,「RFフロントエンド」が,「否定応答信号及び肯定応答信号の不在を,前記基地局で受信された前記R-SCHフレームの前記品質が不良であることを示す否定応答(NAK)信号として認識する」ように構成されていること,すなわち,「受信器ユニット」(222)が,所定の信号の不在を,NAK信号又はACK信号として認識するように構成されていることは,明細書及び図面には記載されておらず,出願時の技術常識から自明ともいえない。
(「受信器ユニット」(222)は,受信した信号を,増幅,フィルタリング等して,「復調器」(222)において適切に復調できるようにしているにすぎないから,所定の信号が不在であることを認識し,かつ,そのことを,NAK信号又はACK信号として認識し得るようなものではない。)

よって,請求項1ないし3に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものではない。
(請求項1ないし3は,「基地局」全体,又は,「無線遠隔端末」全体の処理として記載してはどうか。)

●理由3(進歩性)について
・請求項1ないし3について
引用文献1,2

引用文献1(特に,【0040】ないし【0050】,図5,図6)には,
基地局から送信されるF-SCHフレームに対し,
a.移動局は,正しく受信した場合には確認応答を送信し,一方,移動局は,正しく受信しなかった場合には何も送信しないで,基地局は,何も受信しないと再送する,確認応答プロトコルと,
b.移動局は,正しく受信しなかった場合には否定の確認応答を送信して,基地局は,何も受信しないと再送し,一方,移動局は,正しく受信した場合には何も送信しない,否定の確認応答プロトコルと
が記載されている。
また,引用文献1の【0010】及び【0062】には,フォワードリンク(F-SCH)に記載した事項が,リバースリンク(R-SCH)に対しても適用できることが記載され,さらに,引用文献1の【0060】ないし【0061】及び図7には,リバースリンク(R-SCH)について,前記bに相当の否定の確認応答プロトコルを実施することが記載されている。そうすると,引用文献1には,リバースリンク(R-SCH)について,否定の確認応答プロトコルのみならず,前記aに相当の確認応答プロトコルを実施することも記載されているといえる。
本願請求項1ないし3に係る発明は,前記理由1(1)のアの態様,すなわち,「基地局」が遠隔端末(移動局)に対する経路損失が最良であるか否かにかかわらず,同じ処理を行う態様を含むから,基地局が,前記a.又はb.のいずれかの処理を行う点において,引用文献1に記載のものとの差異がない。
引用文献2(FIG.2とその説明)には,受信した信号を,受信器(222,254)が増幅,フィルタリング等し,復調器(224,256)が復調し,RXデータプロセッサ(226,258)がさらに処理すること,並びに,[1085]には,各モジュールをDSPにより実現できることが記載されているところ,引用文献1に記載の基地局及び移動局が,受信した信号を適切に増幅,フィルタリング及び処理する「RFフロントエンド」と,復調及びさらに処理する「DSP」(復調器及びRXデータプロセッサ)とを用いて,受信した信号を処理するよう構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。

拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。

<引用文献等一覧>
1.特表2002-539672号公報
2.国際公開第03/003592号
(以下省略)」

2.当審拒絶理由の判断
(1)理由1(明確性)及び理由2(サポート要件)について
平成28年11月16日付けの手続補正により,請求項1の記載において,「基地局」が「最良の基地局ではない場合」における処理が明確となり,また,DSPとは別に「送信する手段」が存在することが明確となり,請求項2の記載において,「基地局」が「最良の基地局である場合」における処理が明確となり,また,「RFフロントエンド」とは別に「認識する手段」が存在することが明確となったことにより,補正後の請求項1及び2に係る発明は,明確となり,かつ,発明の詳細な説明に記載したものとなった。
よって,当審拒絶理由の理由1(明確性)及び理由2(サポート要件)はいずれも解消した。

(2)理由2(進歩性)について
ア 本願発明
本願発明は,前記「第2 本願発明」の項において認定したとおりである。

イ 引用発明及び周知事項
当審拒絶理由において引用した引用文献1及び2はそれぞれ,原査定の拒絶の理由において引用した引用文献1及び2と同一である。
そして,引用発明及び周知事項はそれぞれ,前記「第3 原査定の理由について」の「2.当審における原査定の判断」の「(1)引用発明及び周知事項」の項において認定した引用発明及び周知事項1のとおりである。

ウ 判断
前記「第3 原査定の理由について」の「2.当審における原査定の判断」の「(2)対比・判断」の項で述べたことと同じ理由により,本願発明及び本願の請求項2に係る発明は,当業者が引用発明に基づいて,引用文献2に記載された周知事項を参酌することにより容易に発明することができたものではない。

第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-05 
出願番号 特願2013-205854(P2013-205854)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H04L)
P 1 8・ 121- WY (H04L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 谷岡 佳彦  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
林 毅
発明の名称 逆方向リンクデータに対する順方向リンク肯定応答チャネルの操作  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 福原 淑弘  
代理人 奥村 元宏  
代理人 井関 守三  

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