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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1323049
審判番号 不服2014-18368  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-16 
確定日 2016-12-22 
事件の表示 特願2010- 4322「情報処理装置、プログラム、および情報処理システム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月10日出願公開、特開2011- 30404〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年1月12日(優先権主張平成21年6月22日)の出願であって、平成26年6月11日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成26年6月17日)、これに対し、平成26年9月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出され、当審により平成27年8月31日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成27年9月1日)、これに対し、平成27年11月2日付で意見書及び手続補正書が提出され、当審により平成28年2月16日付で最後の拒絶の理由が通知され(発送日:平成28年2月23日)、これに対し、平成28年4月25日付で意見書及び手続補正書が提出されたものである。


2.平成28年4月25日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年4月25日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
バッテリと;
コイルからなるアンテナであって、所定周波数の搬送波を用いて外部の充電装置と前記コイルによる電磁結合に基づく通信を行うための、および前記搬送波を用いて前記バッテリへの前記コイルによる電磁結合に基づく充電を行うための、Q値が可変するアンテナと;
前記バッテリへの充電に関する情報を取得する取得部と;
前記取得部が取得した前記バッテリへの充電に関する情報に基づいて、前記バッテリへの充電の要否を判定する判定部と;
前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要でないとき又は充電中に前記充電装置からの電力の送信が途切れたときに、前記アンテナのQ値を前記充電装置との間の通信に応じた第1の値に設定し、前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記アンテナのQ値を前記第1の値よりも大きい第2の値であって前記充電装置との間の充電に応じた第2の値に設定する設定部と;
を備える、情報処理装置。
【請求項2】
前記取得部は、
前記充電装置から送信される前記バッテリへの充電に関する情報としての充電認証情報を取得する充電認証情報取得部と;
前記充電認証情報取得部が前記充電認証情報を取得した際、または前記バッテリへの充電中に、前記バッテリへの充電に関する情報としての前記バッテリの電池残量情報を取得する電池残量情報取得部と;
を備え、
前記判定部は、前記電池残量情報取得部が取得した前記バッテリの電池残量情報に基づいて、前記バッテリへの充電の要否を判定する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記バッテリへの充電が行われていない場合に、前記判定部による判定の結果、前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記充電認証情報に応答する応答信号を前記充電装置へ送信する応答信号送信部と;
前記バッテリへの充電中に、前記判定部による判定の結果、前記バッテリへの充電が必要であるときに、間欠的に充電継続情報を前記充電装置へ送信する充電継続情報送信部と;
を備える、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記充電継続情報送信部は、データ伝送レートを低減させて前記充電継続情報を送信する、請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記アンテナは、
所定のインダクタンスを有するコイルと所定の静電容量を有するキャパシタとを有する共振回路と;
Q値を変更するための負荷を選択的に有効化する、または前記負荷の抵抗値を変化させるQ値変更回路と;
を備える、請求項1?4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記アンテナは、
所定のインダクタンスを有する第1のコイルと所定の静電容量を有するキャパシタとを有する共振回路と;
前記共振回路の近傍に配置され、Q値を変更するために選択的に有効化される、前記共振回路とは電気的に絶縁された、第2のコイルを有する回路と;
を備える、請求項1?4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記設定部は、前記バッテリの電池が消耗して前記情報処理装置の電源がオフになったときに、前記アンテナのQ値を、前記第1の値から前記第2の値に設定する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記設定部は、前記バッテリの電池が消耗して前記情報処理装置の電源がオフになった後に、前記バッテリの電池残量が所定の閾値以上になったときに、前記アンテナのQ値を、前記第2の値から前記第1の値に設定する、請求項7に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記アンテナに入力される電圧を検知する電圧検知部と;
一端がグラウンドに接続された抵抗と;
前記電圧検知部の検知結果に基づいて、前記アンテナと前記抵抗の他端との接続を制御する接続制御部と;
をさらに備える、請求項1?8のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記接続制御部は、前記アンテナのQ値が前記第1の値に設定されている場合において、前記アンテナに入力される電圧が所定の第1の閾値以上であるときに、前記アンテナと前記抵抗の他端とを接続する、請求項9に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記接続制御部は、前記アンテナに入力される電圧が所定の第2の閾値以上でない場合に、前記アンテナと前記抵抗の他端との接続を遮断する、請求項10に記載の情報処理装置。
【請求項12】
コイルからなるアンテナであって、所定周波数の搬送波を用いて外部の情報処理装置と前記コイルによる電磁結合に基づく通信を行うための、および前記搬送波を用いて前記情報処理装置が有するバッテリへの前記コイルによる電磁結合に基づく充電を行うための、Q値が可変するアンテナと;
前記情報処理装置から前記バッテリへの充電に関する情報を取得する取得部と;
前記取得部が取得した前記バッテリへの充電に関する情報に基づいて、前記バッテリへの充電の要否を判定する判定部と;
前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要でないとき又は前記情報処理装置からの前記バッテリへの充電に関する情報の送信が途切れたときに、前記アンテナのQ値を前記情報処理装置との間の通信に応じた第1の値に設定し、前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記アンテナのQ値を前記第1の値よりも大きい第2の値であって前記情報処理装置との間の充電に応じた第2の値に設定する設定部と;
を備える、充電装置。
【請求項13】
前記取得部は、
前記情報処理装置から送信される、前記情報処理装置へ送信した充電認証情報に応答する前記バッテリへの充電に関する情報としての応答信号を取得する応答信号取得部と;
前記バッテリへの充電中に、前記情報処理装置から間欠的に送信される前記バッテリへの充電に関する情報としての充電継続情報を取得する充電継続情報取得部と;
を備え、
前記判定部は、前記応答信号取得部が取得した前記応答信号、または前記充電継続情報取得部が取得した前記充電継続情報に基づいて、前記バッテリへの充電の要否を判定する、請求項12に記載の充電装置。
【請求項14】
前記情報処理装置へ前記バッテリへの充電用の電力を伝送する電力伝送部と;
前記充電継続情報取得部において、間欠的に取得していた前記充電継続情報の取得が停止したときに、前記電力伝送部による前記電力の伝送を中止させる電力伝送中止部と;
を備える、請求項13に記載の充電装置。
【請求項15】
バッテリと、コイルからなるアンテナであって、所定周波数の搬送波を用いて外部の充電装置と前記コイルによる電磁結合に基づく通信を行うための、および前記搬送波を用いて前記バッテリへの前記コイルによる電磁結合に基づく充電を行うための、Q値が可変するアンテナと、を備える情報処理装置のプロセッサに、
前記バッテリへの充電に関する情報を取得するステップ;
前記取得した前記バッテリへの充電に関する情報に基づいて、前記バッテリへの充電の要否を判定するステップ;
前記判定の結果前記バッテリへの充電が必要でないとき又は充電中に前記充電装置からの電力の送信が途切れたときに、前記アンテナのQ値を前記充電装置との間の通信に応じた第1の値に設定し、前記判定の結果前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記アンテナのQ値を前記第1の値よりも大きい第2の値であって前記充電装置との間の充電に応じた第2の値に設定するステップ;
を実行させる、プログラム。
【請求項16】
コイルからなるアンテナであって、所定周波数の搬送波を用いて外部の情報処理装置と前記コイルによる電磁結合に基づく通信を行うための、および前記搬送波を用いて前記情報処理装置が有するバッテリへの前記コイルによる電磁結合に基づく充電を行うための、Q値が可変するアンテナ、を備える充電装置のプロセッサに、
前記情報処理装置から前記バッテリへの充電に関する情報を取得するステップ;
取得した前記バッテリへの充電に関する情報に基づいて、前記バッテリへの充電の要否を判定するステップ;
前記判定の結果前記バッテリへの充電が必要でないとき又は前記情報処理装置からの前記バッテリへの充電に関する情報の送信が途切れたときに、前記アンテナのQ値を前記情報処理装置との間の通信に応じた第1の値に設定し、前記判定の結果前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記アンテナのQ値を前記第1の値よりも大きい第2の値であって前記情報処理装置との間の充電に応じた第2の値に設定するステップ;
を実行させる、プログラム。
【請求項17】
バッテリと;
第1のコイルからなるアンテナであって、所定周波数の搬送波を用いて外部の充電装置と前記第1のコイルによる電磁結合に基づく通信を行うための、および前記搬送波を用いて前記バッテリへの前記第1のコイルによる電磁結合に基づく充電を行うための、Q値が可変する第1のアンテナと;
前記バッテリへの充電に関する第1の情報を取得する第1の取得部と;
前記第1の取得部が取得した前記バッテリへの充電に関する第1の情報に基づいて、前記バッテリへの充電の要否を判定する第1の判定部と;
前記第1の判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要でないとき又は充電中に前記充電装置からの電力の送信が途切れたときに、前記第1のアンテナのQ値を前記充電装置との間の通信に応じた第1の値に設定し、前記第1の判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記第1のアンテナのQ値を前記第1の値よりも大きい第2の値であって前記充電装置との間の充電に応じた第2の値に設定する第1の設定部と;
を備える、情報処理装置と;
第2のコイルからなるアンテナであって、前記搬送波を用いて前記情報処理装置と前記第2のコイルによる電磁結合に基づく通信を行うための、および前記搬送波を用いて前記バッテリへの前記第2のコイルによる電磁結合に基づく充電を行うための、Q値が可変する第2のアンテナと;
前記バッテリへの充電に関する第2の情報を取得する第2の取得部と;
前記第2の取得部が取得した前記バッテリへの充電に関する第2の情報に基づいて、前記バッテリへの充電の要否を判定する第2の判定部と;
前記第2の判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要でないとき又は前記情報処理装置からの前記バッテリへの充電に関する情報の送信が途切れたときに、前記第2のアンテナのQ値を前記情報処理装置との間の通信に応じた第3の値に設定し、前記第2の判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記第2のアンテナのQ値を前記第3の値よりも大きい第4の値であって前記情報処理装置との間の充電に応じた第4の値に設定する第2の設定部と;
を備える、前記充電装置と;
を備える、情報処理システム。」

これに対し、本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
バッテリと;
コイルからなるアンテナであって、所定周波数の搬送波を用いて外部の充電装置と前記コイルによる電磁結合に基づく通信を行うための、および前記搬送波を用いて前記バッテリへの前記コイルによる電磁結合に基づく充電を行うための、Q値が可変するアンテナと;
前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;
前記バッテリへの充電に関する情報を取得する取得部と;
前記取得部が取得した前記バッテリへの充電に関する情報に基づいて、前記バッテリへの充電の要否を判定する判定部と;
を備え、
前記設定部は、前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要でないとき又は充電中に前記充電装置からの電力の送信が途切れたときに、前記アンテナのQ値を前記充電装置との間の通信に応じた第1の値に設定し、前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記アンテナのQ値を前記第1の値よりも大きい第2の値であって前記充電装置との間の充電に応じた第2の値に設定する、
情報処理装置。
【請求項2】
前記取得部は、
前記充電装置から送信される前記バッテリへの充電に関する情報としての充電認証情報を取得する充電認証情報取得部と;
前記充電認証情報取得部が前記充電認証情報を取得した際、または前記バッテリへの充電中に、前記バッテリへの充電に関する情報としての前記バッテリの電池残量情報を取得する電池残量情報取得部と;
を備え、
前記判定部は、前記電池残量情報取得部が取得した前記バッテリの電池残量情報に基づいて、前記バッテリへの充電の要否を判定する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記バッテリへの充電が行われていない場合に、前記判定部による判定の結果、前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記充電認証情報に応答する応答信号を前記充電装置へ送信する応答信号送信部と;
前記バッテリへの充電中に、前記判定部による判定の結果、前記バッテリへの充電が必要であるときに、間欠的に充電継続情報を前記充電装置へ送信する充電継続情報送信部と;
を備える、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記充電継続情報送信部は、データ伝送レートを低減させて前記充電継続情報を送信する、請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記アンテナは、
所定のインダクタンスを有するコイルと所定の静電容量を有するキャパシタとを有する共振回路と;
Q値を変更するための負荷を選択的に有効化する、または前記負荷の抵抗値を変化させるQ値変更回路と;
を備える、請求項1?4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記アンテナは、
所定のインダクタンスを有する第1のコイルと所定の静電容量を有するキャパシタとを有する共振回路と;
前記共振回路の近傍に配置され、Q値を変更するために選択的に有効化される、前記共振回路とは電気的に絶縁された、第2のコイルを有する回路と;
を備える、請求項1?4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記設定部は、前記バッテリの電池が消耗して前記情報処理装置の電源がオフになったときに、前記アンテナのQ値を、前記第1の値から前記第2の値に設定する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記設定部は、前記バッテリの電池が消耗して前記情報処理装置の電源がオフになった後に、前記バッテリの電池残量が所定の閾値以上になったときに、前記アンテナのQ値を、前記第2の値から前記第1の値に設定する、請求項7に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記アンテナに入力される電圧を検知する電圧検知部と;
一端がグラウンドに接続された抵抗と;
前記電圧検知部の検知結果に基づいて、前記アンテナと前記抵抗の他端との接続を制御する接続制御部と;
をさらに備える、請求項1?8のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記接続制御部は、前記アンテナのQ値が前記第1の値に設定されている場合において、前記アンテナに入力される電圧が所定の第1の閾値以上であるときに、前記アンテナと前記抵抗の他端とを接続する、請求項9に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記接続制御部は、前記アンテナに入力される電圧が所定の第2の閾値以上でない場合に、前記アンテナと前記抵抗の他端との接続を遮断する、請求項10に記載の情報処理装置。
【請求項12】
バッテリと、コイルからなるアンテナであって、所定周波数の搬送波を用いて外部の充電装置と前記コイルによる電磁結合に基づく通信を行うための、および前記搬送波を用いて前記バッテリへの前記コイルによる電磁結合に基づく充電を行うための、Q値が可変するアンテナと、を備える情報処理装置のプロセッサに、
前記アンテナのQ値を所定の値に設定するステップ;
前記バッテリへの充電に関する情報を取得するステップ;
前記取得した前記バッテリへの充電に関する情報に基づいて、前記バッテリへの充電の要否を判定するステップ;
前記判定の結果前記バッテリへの充電が必要でないとき又は充電中に前記充電装置からの電力の送信が途切れたときに、前記アンテナのQ値を前記充電装置との間の通信に応じた第1の値に設定し、前記判定の結果前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記アンテナのQ値を前記第1の値よりも大きい第2の値であって前記充電装置との間の充電に応じた第2の値に設定するステップ;
を実行させる、プログラム。」

本件補正前後では、情報処理装置に係る請求項が共に11項あり、従属項の引用形式も同じであるから、本件補正前の請求項1が本件補正後の請求項1に対応している。
本件補正により、本件補正後の請求項1には、「前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;」との事項が加えられた。設定部が設定する所定の値のQ値は2つ以上設定できなければならないから、(a)第1の値と第1の値よりも大きい第2の値の場合、(b)複数の任意の値を所定の値とする場合、の2つの場合が考えられるので、場合分けして補正要件を検討する。


(2)第1の値と第1の値よりも大きい第2の値の場合
(2-1)目的要件
本件補正前の請求項1でも、設定部はQ値を第1の値と第1の値よりも大きい第2の値に設定していたから、「前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;」が、設定部がQ値を第1の値と第1の値よりも大きい第2の値に設定することを意図するのであれば、既に記載されていた事項を記載し直しただけであり、請求項の削除にも、特許請求の範囲の減縮にも、誤記の訂正にも、明りょうでない記載の釈明にも該当しない。請求項12も同様である。
なお、請求人は、平成28年4月25日付意見書において、「上記指摘事項(i)を受けまして、本願出願人は、上記(3)で説明いたしましたように補正前の請求項1を補正いたしました。当該補正により、補正後の請求項1に係る発明は、「設定部がアンテナのQ値を所定の値に設定する」という構成を有するものとなりました。従いまして、補正後の請求項1に係る発明におきましては、設定部が判定部による判定結果によらずに独立してQ値を設定する機能を有するものとなりましたので、「判定部が判定しなければ設定部は動作しないこととなる」との審判官殿の指摘事項には該当しないものとなったと思料いたします。」と主張するが、「前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;」との記載では、設定部がQ値をどの様な値とするか、Q値をどのタイミング(何時)で設定するか特定がないから、仮に設定部がQ値を第1の値と第1の値よりも大きい第2の値に設定するとしても、設定部が判定部による判定結果によらずに独立してQ値を設定する機能を有すると解することはできず、請求人の上記主張は採用できない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


(2-2)独立特許要件
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項に記載されたものが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(ア)特許法第36条第4項及び第6項
本件補正後の請求項1の、「前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;」が、設定部が設定する所定の値のQ値が第1の値と第1の値よりも大きい第2の値であるとしても、当該設定部の設定動作は「前記設定部は、前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要でないとき又は充電中に前記充電装置からの電力の送信が途切れたときに、前記アンテナのQ値を前記充電装置との間の通信に応じた第1の値に設定し、前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記アンテナのQ値を前記第1の値よりも大きい第2の値であって前記充電装置との間の充電に応じた第2の値に設定する」と記載されているから、判定部が判定しなければ設定部は動作しないこととなるが、明細書等を参照すれば、情報処理装置は電源を投入したことによって判定部とは無関係にアンテナのQ値を第1の値である低いQ値に設定しており、又、この様に設定しなければ起動時等に動作できず、起動時等にQ値をどの様な値に設定するのか不明である。請求項12も同様である。
しかも、請求人が平成28年4月25日付意見書において主張するように、設定部が判定部による判定結果によらずに独立してQ値を設定する機能を有するとしても、「前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;」には第1の値ではなく第2の値に設定するものが含まれ、起動時にアンテナのQ値を第2の値である高いQ値に設定することは、発明の詳細な説明には何等記載が無く示唆も無い。請求項12も同様である。
更に、本件補正後の請求項1の、「前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;」が、設定部が設定する所定の値のQ値が第1の値と第1の値よりも大きい第2の値であるとすると、Q値の大小に関係なく通信も充電もできるから、第2の値が第1の値より微量でも大きければ良いこととなる(例えば、第1の値を10、第2の値を10.000001)が、この場合所望の作用効果を奏することができず、何故この様な構成とするのか不明であり、また、当該記載ではアンテナのQ値を設定するタイミングが何ら特定されていないから、設定するタイミングは任意となるが、判定部による判定結果によらずに独立してQ値を設定することは発明の詳細な説明には記載も示唆も無い。請求項12も同様である。
更に、本件補正後の請求項1を引用する本件補正後の請求項7は、「前記設定部は、前記バッテリの電池が消耗して前記情報処理装置の電源がオフになったときに、前記アンテナのQ値を、前記第1の値から前記第2の値に設定する」とあり、バッテリが消耗して情報処理装置の電源がオフになったときにアンテナのQ値を第2の値に設定(なお、バッテリが消耗して情報処理装置の電源がオフであるにもかかわらず、情報処理装置のQ値設定スイッチを何故動作させることができるのかも不明。)すれば、情報処理装置の起動時にはアンテナのQ値は第2の値のままであり、本件補正後の請求項1が意図する起動時にアンテナのQ値を第1の値に設定することと矛盾するため、構成が特定できず不明である。なお、仮に、本件補正後の請求項1の、「前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;」が、設定部が設定する所定の値のQ値が第1の値と第1の値よりも大きい第2の値のどちらの値でも良いことを意味するならば、本件補正前の請求項1に既に記載されていた事項を記載し直しただけであり、(2-1)で述べたように目的要件違反となる。

したがって、本件補正後の請求項1-12の記載は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、かつ、本件補正後の請求項1、12の記載は明確ではないので、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。


(3)複数の任意の値を所定の値とする場合
(3-1)新規事項
本件補正後の請求項1の「前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;」が、設定部がアンテナのQ値を設定する際、複数の任意の値を所定の値とするものとする。
そこで、当該補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

当初明細書等には、
a「所定周波数の搬送波を用いて非接触式に外部装置と通信を行うための、および前記搬送波を用いて非接触式にバッテリへの充電を行うための、Q値が可変するアンテナと;
前記バッテリへの充電に関する情報を取得する取得部と;
前記取得部が取得した前記バッテリへの充電に関する情報に基づいて、前記バッテリへの充電の要否を判定する判定部と;
前記判定部による判定の結果に応じて、前記アンテナのQ値を、第1の値、または前記第1の値よりも大きい第2の値に選択的に設定する設定部と;
を備える、情報処理装置。」(【請求項1】)

b「Q値調整回路226は、アンテナ202のQ値を調整する役目を果たす。また、Q値調整回路226は、後述する通信/充電制御部203が備える制御部218から伝達される設定信号によって制御される。図6では、Q値調整回路226の抵抗R1が接続(有効化)させることにより、アンテナ202のQ値が低いQ値、例えば10?20(第1の値の一例)に調整される。すなわち、Q値調整回路226の抵抗R1が接続(有効化)されないときは、アンテナ202のQ値が高いQ値、例えば50?数100(第2の値の一例)に調整される。ここで、図6では、Q値調整回路226が抵抗R1と、制御部218から伝達される設定信号の信号レベル(ハイレベル/ローレベル)に応じて抵抗R1(負荷)を接続(有効化)するスイッチング素子SW1とで構成された例を示しているが、上記に限られない。例えば、Q値調整回路226は、伝達される設定信号(例えば、電圧信号)の大きさに応じて抵抗値が変化する可変抵抗(負荷)で構成することもできる。また、Q値調整回路226は、複数の抵抗(抵抗値が異なる抵抗、または、抵抗値が同一の抵抗)と、当該複数の抵抗を選択的に接続する(いずれか一つ、または複数の抵抗を接続する)スイッチング素子で構成することもできる。上記スイッチング素子は、例えば、制御端子に設定信号が伝達される1または2以上のMOSFET(例えば、pチャネル型のMOSFETや、nチャネル型のMOSFET)で構成することができるが、上記に限られない。」(【0101】)

c「設定部264は、情報処理装置200の電源が入れられた後、Q値調整回路226へアンテナ202のQ値を低いQ値、例えば10?20(第1の値の一例)に設定するための設定信号を送信する。取得部260の充電認証情報取得部は、充電認証用パケットを受信(取得)する。取得部260の充電認証情報取得部が充電認証用パケットを受信した際に、取得部260の電池残量情報取得部は、充電IC220からバッテリ222の電池残量情報を取得する。判定部262は、取得部260が取得したバッテリ222の電池残量情報に基づいて、バッテリ222への充電の要否を判定する。バッテリ222への充電が必要であるときに、送信部266の応答信号送信部は、負荷変調部230を制御して、充電認証用の応答パケットを充電装置300へ送信する。その後、設定部264は、Q値調整回路226へアンテナ202のQ値を高いQ値、例えば50?数100(第2の値の一例)に設定するための設定信号を送信する。制御部218は、充電IC220がバッテリ222への充電用の電力を受信した際に、充電IC220にバッテリ222への充電を行わせる。すなわち、制御部218は、図2における充電部206の受信部208としての役割を担う。そして、取得部260の電池残量情報取得部は、バッテリ222の充電中において、所定の時間おきに、充電IC220からバッテリ222の電池残量情報を取得する。判定部262は、取得部260が取得したバッテリ222の電池残量情報に基づいて、バッテリ222への充電の要否を判定する。バッテリ222への充電が必要であるときに、送信部266の充電継続情報送信部は、負荷変調部230を制御して、充電継続用パケットを充電装置300へ送信する。このようにバッテリ222への充電が必要である間は、送信部266の充電継続情報送信部は、負荷変調部230を制御して、充電装置300へ間欠的に充電継続用パケットを送信する。一方、バッテリ222への充電が必要でないときは、送信部266の充電継続情報送信部は、負荷変調部230を制御することなく、充電継続用パケットを充電装置300へ送信しない。そして、制御部218は、所定の時間の経過後に、充電IC220がバッテリ222への充電用の電力を受信しているか否かを判定する。充電IC220がバッテリ222への充電用の電力を受信していないときは、設定部264は、Q値調整回路226へアンテナ202のQ値を低いQ値に設定するための設定信号を送信する。」(【0109】)

等にみられるように、アンテナのQ値を、第1の値、または第1の値よりも大きい第2の値に選択的に設定する設定部しか開示がなく、設定部がアンテナのQ値を設定する際、複数の任意の値を所定の値とすることは、図面を参照しても記載も示唆もない。
したがって、「前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;」は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


(3-2)目的要件
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。また、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。

上述のように、本件補正前の請求項1が本件補正後の請求項1に対応している。
本件補正前の請求項1は、設定部について、「前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要でないとき又は充電中に前記充電装置からの電力の送信が途切れたときに、前記アンテナのQ値を前記充電装置との間の通信に応じた第1の値に設定し、前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記アンテナのQ値を前記第1の値よりも大きい第2の値であって前記充電装置との間の充電に応じた第2の値に設定する設定部」の構成のみを有していたので、アンテナのQ値を、第1の値、または第1の値よりも大きい第2の値に選択的に設定する設定部しか有していなかったものが、本件補正後の請求項1は、更に「前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;」を有しているから、設定部がアンテナのQ値を、第1の値、または第1の値よりも大きい第2の値に選択的に設定するのに加え、複数の任意の値を所定の値として設定することができることとなる。
そうすると、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1の設定部が有する機能に加えて、新たな機能を有することとなるから、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものには該当せず、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。
なお、請求項12も同様である。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


(3-3)独立特許要件
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反し、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項に記載されたものが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(ア)特許法第36条第4項及び第6項
本件補正後の請求項1に、「前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;」とあるが、(3-1)で述べたように、アンテナのQ値を、第1の値、または第1の値よりも大きい第2の値に選択的に設定する設定部しか開示がなく、設定部がアンテナのQ値を設定する際、複数の任意の値を所定の値とすることは、図面を参照しても記載も示唆もないから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。請求項12も同様である。
本件補正後の請求項1の、「前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;」が、設定部がアンテナのQ値を設定する際、複数の任意の値を所定の値とするとしても、どのタイミング(何時)で設定するかは特定されておらず、設定タイミングを特定しているのは、「前記設定部は、前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要でないとき又は充電中に前記充電装置からの電力の送信が途切れたときに、前記アンテナのQ値を前記充電装置との間の通信に応じた第1の値に設定し、前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記アンテナのQ値を前記第1の値よりも大きい第2の値であって前記充電装置との間の充電に応じた第2の値に設定する」との記載だけであるから、判定部が判定しなければ設定部は動作しないこととなるが、明細書等を参照すれば、情報処理装置は電源を投入したことによって判定部とは無関係にアンテナのQ値を第1の値である低いQ値に設定しており、又、この様に設定しなければ起動時等に動作できず、起動時等にQ値をどの様な値に設定するのか不明である。請求項12も同様である。
しかも、請求人が平成28年4月25日付意見書において主張するように、設定部が判定部による判定結果によらずに独立してQ値を設定する機能を有するとしても、「前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;」には複数の任意の値を所定の値に設定するものが含まれ、起動時にアンテナのQ値を第2の値を含む任意のQ値に設定することは、発明の詳細な説明には何等記載が無く示唆も無い。請求項12も同様である。
更に、本件補正後の請求項1に、「前記設定部は、前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要でないとき又は充電中に前記充電装置からの電力の送信が途切れたときに、前記アンテナのQ値を前記充電装置との間の通信に応じた第1の値に設定し、前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記アンテナのQ値を前記第1の値よりも大きい第2の値であって前記充電装置との間の充電に応じた第2の値に設定する」とあり、Q値の大小に関係なく通信も充電もできる(「応じて」は様々な応じ方が考えられ、構成を特定したことにはならない。)から、第2の値が第1の値より微量でも大きければ良いこととなる(例えば、第1の値を10、第2の値を10.000001)が、この場合所望の作用効果を奏することができず、何故この様な構成とするのか不明である。請求項12も同様である。
更に、本件補正後の請求項1を引用する本件補正後の請求項7は、「前記設定部は、前記バッテリの電池が消耗して前記情報処理装置の電源がオフになったときに、前記アンテナのQ値を、前記第1の値から前記第2の値に設定する」とあり、バッテリが消耗して情報処理装置の電源がオフになったときにアンテナのQ値を第2の値に設定(なお、バッテリが消耗して情報処理装置の電源がオフであるにもかかわらず、情報処理装置のQ値設定スイッチを何故動作させることができるのかも不明。)すれば、情報処理装置の起動時にはアンテナのQ値は第2の値のままであり、本件補正後の請求項1が意図する起動時にアンテナのQ値を第1の値に設定することと矛盾するため構成が不明である。なお、仮に、本件補正後の請求項1の、「前記アンテナのQ値を所定の値に設定する設定部と;」が、設定部が設定する所定の値のQ値が複数の任意の値を所定の値を意味するならば、本件補正前の請求項1に記載されていなかった事項を記載しており、(3-1)で述べたように新規事項となる。

したがって、本件補正後の請求項1-12の記載は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、かつ、本件補正後の請求項1、12の記載は明確ではないので、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-17に係る発明は、上記した平成27年11月2日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1-17に記載された事項により特定されるとおりのものである。


(1)当審の最後の拒絶の理由
当審の平成28年2月16日付の最後の拒絶の理由で、次の事項を通知している。
a「請求項1に「前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要でないとき又は充電中に前記充電装置からの電力の送信が途切れたときに、前記アンテナのQ値を前記充電装置との間の通信に応じた第1の値に設定し、前記判定部による判定の結果前記バッテリへの充電が必要であるときに、前記アンテナのQ値を前記第1の値よりも大きい第2の値であって前記充電装置との間の充電に応じた第2の値に設定する設定部」とあり、判定部が判定しなければ設定部は動作しないこととなるが、明細書等を参照すれば、情報処理装置は電源を投入したことによってアンテナのQ値を第1の値である低いQ値に設定しており、又、この様に設定しなければ起動時等に動作できず、起動時等にQ値をどの様な値に設定するのか不明である。請求項12、15-17も同様である。」
b「更に、請求項17に「第1の値」、「第2の値」、「第3の値」、「第4の値」とあり、名称が異なるから、各々異なる値となるが、「第1の値」と「第3の値」を異ならせ、「第2の値」と「第4の値」を異ならせることは、明細書の何処に記載があるのか不明であり、所望の効果を奏するのか否か不明であり、又、「第2のコイル」が充電装置に設けられているが、【0016】には、第2のコイルは情報処理装置に設けられることが記載されており、両者は矛盾し、したがって発明の構成が不明である。」


(2)当審の拒絶の理由
当審の平成27年8月31日付の拒絶の理由で、次の事項を通知している。
c「更に、請求項1に、「前記アンテナのQ値を、第1の値、または前記第1の値よりも大きい第2の値」とあり、第2の値は第1の値より微量でも大きければ良いこととなるが、この場合所望の効果を奏するのか否か不明であり、【0238】には「低いQ1値」、「低いQ2値」とあり、Q値は第1の値と第2の値の大小関係だけ決定できるのか否か不明である。」


(3)拒絶の理由についての判断
(ア)理由a、cについて
請求項1、12、15-17の記載は、平成28年4月25日付意見書を参照しても、平成27年8月31日付及び平成28年2月16日付の拒絶の理由及び上記「2.(2-2)」、「2.(3-3)」に示したとおり明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(イ)理由bについて
請求項17において、情報処理装置は、Q値として、第1の値と、第1の値よりも大きい第2の値を有し、充電装置は、第3の値と、第3の値よりも大きい第4の値を有している。各々名称が異なるから、各々異なる値となり、「第1の値」と「第3の値」が異なり、「第2の値」と「第4の値」が異なることとなる。
しかし、明細書には、充電装置に関し、
g「図4の通信/充電処理によれば、充電装置300から充電認証用パケットなどのパケットを受信するときは、アンテナ202のQ値が低いQ値に設定され、充電装置300からバッテリ222への充電用の電力が伝達されるときは、アンテナのQ値が高いQ値に設定される。アンテナのQ値が低い場合、帯域幅が広いため、データ伝送を効率的に行うことができ、アンテナのQ値が高い場合、搬送波の振幅を大きくすることができるため、充電用の電力の伝達を効率的に行うことができ、もって1つのアンテナを用いて、非接触通信と非接触充電とを効率的に行うことができる。」(【0083】)

h「図5において、まず、充電装置300の制御部318は、Q値設定スイッチ304へアンテナ302のQ値を低いQ値、例えば10?20(第1の値の一例)に設定するための設定信号を送信する。その設定信号を受信したQ値設定スイッチ304はアンテナ302のQ値を低いQ値に設定する(ステップS201)。」(【0086】)

i「受信した充電認証用の応答パケットが有効であるときは(ステップS204でYES)、Q値設定スイッチ304へアンテナ302のQ値をステップS201で設定したQ値よりも高いQ値、例えば50?数100(第2の値の一例)に設定するための設定信号を送信する。その設定信号を受信したQ値設定スイッチ304はアンテナ302のQ値を高いQ値に設定する(ステップS205)。」(【0090】)

j「また、Q値調整回路326は、制御部318により制御され、例えば、制御部318から伝達される設定信号に応じて、アンテナ302のQ値を調整する。図7では、Q値調整回路326の抵抗R3が接続(有効化)させることにより、アンテナ302のQ値が低いQ値、例えば10?20(第1の値の一例)に調整される。すなわち、Q値調整回路326の抵抗R3が接続(有効化)されないときは、アンテナ302のQ値が高いQ値、例えば50?数100(第2の値の一例)に調整される。ここで、図7では、Q値調整回路326が、抵抗R3とスイッチング素子SW3で構成された例を示しているが、上記に限られない。例えば、Q値調整回路326は、様々な構成をとることができる。」(【0125】)

等の記載があり、情報処理装置に関し、
k「Q値調整回路226は、アンテナ202のQ値を調整する役目を果たす。また、Q値調整回路226は、後述する通信/充電制御部203が備える制御部218から伝達される設定信号によって制御される。図6では、Q値調整回路226の抵抗R1が接続(有効化)させることにより、アンテナ202のQ値が低いQ値、例えば10?20(第1の値の一例)に調整される。すなわち、Q値調整回路226の抵抗R1が接続(有効化)されないときは、アンテナ202のQ値が高いQ値、例えば50?数100(第2の値の一例)に調整される。ここで、図6では、Q値調整回路226が抵抗R1と、制御部218から伝達される設定信号の信号レベル(ハイレベル/ローレベル)に応じて抵抗R1(負荷)を接続(有効化)するスイッチング素子SW1とで構成された例を示しているが、上記に限られない。例えば、Q値調整回路226は、伝達される設定信号(例えば、電圧信号)の大きさに応じて抵抗値が変化する可変抵抗(負荷)で構成することもできる。また、Q値調整回路226は、複数の抵抗(抵抗値が異なる抵抗、または、抵抗値が同一の抵抗)と、当該複数の抵抗を選択的に接続する(いずれか一つ、または複数の抵抗を接続する)スイッチング素子で構成することもできる。上記スイッチング素子は、例えば、制御端子に設定信号が伝達される1または2以上のMOSFET(例えば、pチャネル型のMOSFETや、nチャネル型のMOSFET)で構成することができるが、上記に限られない。」(【0101】)
等の記載がある。
上記記載によれば、充電装置、情報処理装置とも、第1の値をQ値を10?20とし、第2の値を50?数100とし、値を揃えている。Q値の具体的数値は、これ以外には開示が無いから、充電装置と情報処理装置の低いQ値、高いQ値を揃えて電磁結合を行うものしか開示がない。また、非接触通信と非接触充電とを効率的に行うことが発明の目的であることから考えて、充電装置、情報処理装置のQ値を敢えてずらすことは考えがたい。アンテナのQ値があればQ値の大小に関係なく通信も充電もできる(「応じて」は様々な応じ方が考えられ、構成を特定したことにはならない。)から、Q値が、第1の値<第2の値<第3の値<第4の値であっても、通信も充電も可能ではあるが、非接触通信と非接触充電とを効率的に行うことはできず、しかもQ値をこの様に設定する開示も無い。
そうすると、「第1の値」と「第3の値」を異ならせ、「第2の値」と「第4の値」を異ならせることは、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものではなく、何故所望の効果を奏するのか否か不明である。

また、「第2のコイル」が充電装置に設けられているが、【0016】には、第2のコイルは情報処理装置に設けられることが記載されており、両者は矛盾するため、発明の構成を特定できず不明である。

したがって、請求項17の記載は、平成28年4月25日付意見書を参照しても、平成28年2月16日付の最後の拒絶の理由に示したとおり、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、且つ、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(4)むすび
したがって、請求項1、12、15-17の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、請求項17の記載は、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。
そうすると、本願を拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-03 
結審通知日 2016-10-04 
審決日 2016-11-09 
出願番号 特願2010-4322(P2010-4322)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H02J)
P 1 8・ 572- WZ (H02J)
P 1 8・ 536- WZ (H02J)
P 1 8・ 561- WZ (H02J)
P 1 8・ 121- WZ (H02J)
P 1 8・ 537- WZ (H02J)
P 1 8・ 537- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 明紀  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 堀川 一郎
矢島 伸一
発明の名称 情報処理装置、プログラム、および情報処理システム  
代理人 亀谷 美明  

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