• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1323528
異議申立番号 異議2016-700685  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-04 
確定日 2017-01-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第5865466号発明「シリカ粒子材料及びフィラー含有樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5865466号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5865466号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成22年3月31日に出願した特願2010-81844号の一部を平成26年11月17日に新たな特許出願(特願2014-232615号)としたものであって、平成28年1月8日に特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、平成28年8月4日付けで特許異議申立人 青島真由美(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年10月31日付けで特許権者から上申書が提出されたものである。

第2 本件発明及び本件明細書の記載事項
特許第5865466号の請求項1?7の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項1?7の特許に係る発明を、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」という。)。
そのうち、独立形式請求項である本件発明1?3は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
式(1):-OSiX^(1)X^(2)X^(3)で表される官能基と、式(2):-OSiY^(1)Y^(2)Y^(3)で表される官能基とがシリカ粒子の表面に結合し乾燥してなる一次粒子径3nm?200nmのシリカ粒子の集合体であり、メチルエチルケトンに再分散できるシリカ粒子材料であり、
前記シリカ粒子材料とメチルエチルケトンとを、前記シリカ粒子材料:メチルエチルケトン=1:1または1:4の割合で配合し攪拌して分散試料を調製し、前記分散試料の粒度分布を粒度分布測定装置により測定すると、粒子径100nm以上の位置にピークがみられない、ことを特徴とするシリカ粒子材料。
(上記式(1)、(2)中;X^(1)はフェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基であり;X^(2)、X^(3)は-OSiR_(3)及び-OSiY^(4)Y^(5)Y^(6)よりそれぞれ独立して選択され;Y^(1)はRであり;Y^(2)、Y^(3)はR及び-OSiY^(4)Y^(5)Y^(6)よりそれぞれ独立して選択される。Y^(4)はRであり;Y^(5)及びY^(6)は、R及び-OSiR_(3)からそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1?3のアルキル基から独立して選択される。なお、X^(2)、X^(3)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(5)、及びY^(6)の何れかは、隣接する官能基のX^(2)、X^(3)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(5)、及びY^(6)の何れかと-O-にて結合しても良い。)」

「【請求項2】
式(1):-OSiX^(1)X^(2)X^(3)で表される官能基と、式(2):-OSiY^(1)Y^(2)Y^(3)で表される官能基とがシリカ粒子の表面に結合し乾燥してなる一次粒子径3nm?200nmのシリカ粒子の集合体であり、メチルエチルケトンに再分散できるシリカ粒子材料であり、
前記シリカ粒子材料とメチルエチルケトンとを、前記シリカ粒子材料:メチルエチルケトン=1:1または1:4の割合で配合し攪拌して分散試料を調製し、前記分散試料にさらに発振周波数39kHz、出力500Wの超音波を10分間照射したものの粒度分布を粒度分布測定装置により測定すると、粒子径100nm以上の位置にピークがみられない、ことを特徴とするシリカ粒子材料。
(上記式(1)、(2)中;X^(1)はフェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基であり;X^(2)、X^(3)は-OSiR_(3)及び-OSiY^(4)Y^(5)Y^(6)よりそれぞれ独立して選択され;Y^(1)はRであり;Y^(2)、Y^(3)はR及び-OSiY^(4)Y^(5)Y^(6)よりそれぞれ独立して選択される。Y^(4)はRであり;Y^(5)及びY^(6)は、R及び-OSiR_(3)からそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1?3のアルキル基から独立して選択される。なお、X^(2)、X^(3)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(5)、及びY^(6)の何れかは、隣接する官能基のX^(2)、X^(3)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(5)、及びY^(6)の何れかと-O-にて結合しても良い。)」

「【請求項3】
式(1):-OSiX^(1)X^(2)X^(3)で表される官能基と、式(2):-OSiY^(1)Y^(2)Y^(3)で表される官能基とがシリカ粒子の表面に結合し乾燥してなる一次粒子径3nm?200nmのシリカ粒子の集合体であり、メチルエチルケトンに再分散できるシリカ粒子材料であり、
前記シリカ粒子材料を121℃で24時間浸漬した抽出水の電気伝導度が50μS/cm以下である、ことを特徴とするシリカ粒子材料。
(上記式(1)、(2)中;X^(1)はフェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基であり;X^(2)、X^(3)は-OSiR_(3)及び-OSiY^(4)Y^(5)Y^(6)よりそれぞれ独立して選択され;Y^(1)はRであり;Y^(2)、Y^(3)はR及び-OSiY^(4)Y^(5)Y^(6)よりそれぞれ独立して選択される。Y^(4)はRであり;Y^(5)及びY^(6)は、R及び-OSiR_(3)からそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1?3のアルキル基から独立して選択される。なお、X^(2)、X^(3)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(5)、及びY^(6)の何れかは、隣接する官能基のX^(2)、X^(3)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(5)、及びY^(6)の何れかと-O-にて結合しても良い。)」

そして、本件明細書には、本件発明1?3のシリカ粒子材料の表面処理方法に関して、以下の記載がある。

「【0033】
本発明のシリカ粒子の表面処理方法は、水を含む液状媒体中で、シランカップリング剤およびオルガノシラザンによってシリカ粒子を表面処理する工程(表面処理工程)を持つ。シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基(すなわち上記のX^(1))とを持つ。
【0034】
シランカップリング剤で表面処理することで、シリカ粒子の表面に存在する水酸基がシランカップリング剤に由来する官能基で置換される。シランカップリング剤に由来する官能基は式(3);-OSiX^(1)X^(4)X^(5)で表される。式(3)で表される官能基を第3の官能基と呼ぶ。第3の官能基におけるX^(1)は式(1)で表される官能基におけるX^(1)と同じである。X^(4)、X^(5)は、それぞれ、アルキコキシ基である。オルガノシラザンで表面処理することで、第3の官能基のX^(4)、X^(5)がオルガノシラザンに由来する-OSiY^(1)Y^(2)Y^(3)(式(2)で表される官能基、第2の官能基)で置換される。シリカ粒子の表面に存在する水酸基の全てが第3の官能基で置換されていない場合には、シリカ粒子の表面に残存する水酸基が第2の官能基で置換される。このため、表面処理されたシリカ粒子材料の表面には、式(1):-OSiX^(1)X^(2)X^(3)で表される官能基(すなわち第1の官能基)と、式(2):-OSiY^(1)Y^(2)Y^(3)で表される官能基と(すなわち第2の官能基)が結合する。なお、シランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比は、シランカップリング剤:オルガノシラザン=1:2?1:10であるため、得られたシリカ粒子材料における第1の官能基と第2の官能基との存在数比は理論上1:12?1:60となる。
【0035】
表面処理工程においては、シリカ粒子をシランカップリング剤及びオルガノシラザンで同時に表面処理しても良い。または、先ずシリカ粒子をシランカップリング剤で表面処理し、次いでオルガノシラザンで表面処理しても良い。または、先ずシリカ粒子をオルガノシラザンで表面処理し、次いでシランカップリング剤で表面処理し、さらにその後にオルガノシラザンで表面処理しても良い。何れの場合にも、シリカ粒子の表面に存在する水酸基全てが第2の官能基で置換されないように、オルガノシラザンの量を調整すれば良い。なお、シリカ粒子の表面に存在する水酸基は、全てが第3の官能基で置換されても良いし、一部のみが第3の官能基で置換され、他の部分が第2の官能基で置換されても良い。第3の官能基に含まれるX^(4)、X^(5)は、全て第2の官能基で置換されるのが良い。」

「【0043】
本発明のシリカ粒子の表面処理方法は、表面処理工程後に固形化工程を備えても良い。固形化工程は、表面処理後のシリカ粒子材料を鉱酸で沈殿させ、沈殿物を水で洗浄・乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得る工程である。 ・・・ なお、洗浄工程においては、シリカ粒子材料の抽出水(詳しくは、シリカ粒子材料を121℃で24時間浸漬した水)の電気伝導度が50μS/cm以下となるまで、洗浄を繰り返すのが好ましい。
【0044】
固形化工程で用いる鉱酸としては塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などが例示でき、特に塩酸が望ましい。 ・・・
・・・
【0046】
その後、洗浄して懸濁させたシリカ粒子材料をろ取した後、水にて洗浄する。使用する水はアルカリ金属などのイオンを含まない(例えば質量基準で1ppm以下)ことが望ましい。 ・・・
【0047】
シリカ粒子材料の乾燥は、常法により行うことができる。例えば、加熱や、減圧(真空)下に放置する等である。」

「【実施例】
【0052】
以下、本発明のシリカ粒子材料および本発明のシリカ粒子の表面処理方法を具体的に説明する。
【0053】
(実施例1)
(材料)
シリカ粒子として、コロイダルシリカの一種であるスノーテックスOS(日産化学工業株式会社製、平均粒径10nm、水中に分散されており固形分濃度20%)を準備した。
【0054】
アルコールとして、イソプロパノールを準備した。
【0055】
シランカップリング剤として、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-103)を準備した。
【0056】
オルガノシラザンとして、ヘキサメチルジシラザン(HMDS、信越化学工業株式会社製、HDMS-1)を準備した。
【0057】
(表面処理工程)
(1)準備工程
シリカ粒子が20質量%の濃度で水に分散したスラリー100質量部にイソプロパノール60質量部を加え、室温(約25℃)で混合することで、シリカ粒子が液状媒体に分散されてなる分散液を得た。
【0058】
(2)第1工程
この分散液にフェニルトリメトキシシラン1.8質量部を加え、40℃で72時間混合した。この工程により、シリカ粒子の表面に存在する水酸基をシランカップリング剤で表面処理した。なお、このときフェニルトリメトキシシランは、必要な量の水酸基(一部)が表面処理されず残存するように計算して加えた。
【0059】
(3)第2工程
次いで、この混合物に、ヘキサメチルジシラザン3.7質量部を加え、40℃で72時間放置した。この工程によって、シリカ粒子が表面処理され、シリカ粒子材料が得られた。表面処理の進行に伴い、疎水性になったシリカ粒子が水およびイソプロパノールの中で安定に存在できなくなり、凝集・沈殿した。なお、フェニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比は2:5であった。
【0060】
(固形化工程)
表面処理工程で得られた混合物全量に35%塩酸水溶液を5質量部を加え、シリカ粒子材料を沈殿させた。沈殿物をろ紙(アドバンテック社製 5A)で濾過した。濾過残渣(固形分)を純水で洗浄した後に100℃で真空乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得た。」


第3 特許異議申立て理由の概要
特許異議申立人は、証拠として下記甲第1,2号証(以下、それぞれ「甲1」,「甲2」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 理由
(1)特許法第29条第1号第3号について
本件発明1?3は、甲2を参酌すると、甲1に記載された発明である。
(2)特許法第29条第2項について
本件発明1?7は、甲2を参酌すると、当業者であれば甲1に記載された発明に基いて容易に発明することができたものである。

2 証拠方法
甲1:特表2009-511737号公報
甲2:【図1】ST-OSの顕微鏡写真
【図2】ST-O-40の顕微鏡写真
【図3】ST-OSとST-O-40の混合コロイダルシリカの顕微鏡写

【図4】Nalco 1034Aの顕微鏡写真
【図5】追試で得られたシリカ粉の20質量%のMEKスラリ
ーの写真
(当審注:MEKはメチルエチルケトンを意味する。)
【図6】シリカ粉:MEK=1:4の混合物の粒度分布をマイ
クロトラックにて測定した結果

第4 甲1,2の記載事項及び甲1に記載された発明
1 甲1
甲1には、次の事項が記載されている。

1a「【請求項1】
プラスチック物品の耐摩耗性を向上させる方法であって、
(a)少なくとも1種の電子ビーム活性ナノ粒子と、少なくとも1種の熱可塑性ポリマー材料とを含む組成物を準備する工程;
(b)工程(a)の組成物から物品を成形する工程;および
(c)工程(b)で成形した物品を電子ビーム源に曝す工程
を含む方法。」

1b「【0004】
したがって、元の熱可塑性ポリマーの耐磨耗性、特に元のPCおよびSLXポリマーの耐磨耗性を向上させることは非常に望ましい目標である。さらに、改良された磨耗特性を有するこれら熱可塑性ポリマーから作られるプラスチック物品も同様に望ましい。」

1c「【0015】
本明細書において「電子ビーム活性ナノ粒子」という用語は、電子ビーム(e-ビーム)に曝すと、それ自体または他の有機成分に対して架橋結合することができるナノサイズの粒子をいう。いかなる理論にも束縛されないが、電子ビーム源に曝されると、電子ビーム活性ナノ粒子は、安定な遊離ラジカルを生じると考えられる。電子ビーム活性ナノ粒子は、電子ビーム源に曝されると、架橋促進剤として作用し、熱可塑性ポリマー材料に対して架橋結合すると考えられる。
・・・
【0019】
電子ビーム活性ナノ粒子は、電子ビームに曝すと、それ自体または他の有機成分に対して架橋結合することができるナノサイズの粒子を含む。このナノサイズの粒子、すなわちナノ粒子は、電子ビームに曝すとそれ自体架橋結合することができ、あるいは電子ビームに曝すと架橋可能な官能基で表面修飾され得る。電子ビーム活性ナノ粒子は、有機または無機のナノ粒子を含んでいてよい。
【0020】
一実施態様において、電子ビーム活性ナノ粒子は、少なくとも1種の電子ビーム活性官能基で表面修飾された少なくとも1種の無機ナノ粒子を含む。
・・・
【0022】
電子ビーム活性官能基は、電子ビームに曝すと、架橋結合を形成することができる。一実施態様において、電子ビーム活性官能基は、少なくとも1種の電子ビーム活性官能基を有する有機官能化剤を用いて無機粒子を表面修飾することによって無機粒子に結合される。・・・一実施態様において、電子ビーム活性官能基には、少なくとも1種の有機シランが含まれる。別の実施態様において、電子ビーム活性官能基を有する電子ビーム活性ナノ粒子は、無機粒子を有機シランと接触させることによって製造する。本明細書において「シラン」という用語は、有機シランおよび無機シラン(例えば、SiH_(4))の両方を含み、さらに無機ポリシラン(例えば、H_(3)SiSiH_(3))を含む。
【0023】
電子ビーム活性官能基で表面修飾された無機ナノ粒子を含む電子ビーム活性ナノ粒子は、当業者に公知の任意の方法で製造することができる。一実施態様において、電子ビーム活性ナノ粒子は、少なくとも1種の無機ナノ粒子を、式(I):
【化1】
(I) R^(1)_(a)SiX_(b)
〔式中、「a」および「b」は、各場合において独立に1?3の整数であり(但し、「a+b」=4であることを条件とする);R^(1)は、各場合において独立に、C_(1)?C_(20)脂肪族基、C_(3)?C_(40)脂環式基、C_(3)?C_(40)芳香族基、またはオルガノシロキサン部分であり;Xは、ハロゲン、C_(1)?C_(10)アルコキシ基、またはNHSiR^(2)_(3)基(式中、R^(2)は、各場合において独立に、C_(1)?C_(20)脂肪族基、C_(3)?C_(40)脂環式基、またはC_(3)?C_(40)芳香族基である)である〕
を有する少なくとも1種のシランと接触させることによって形成される。一実施態様において、式(I)のR^(1)は、電子ビームに曝すと、安定な遊離ラジカルを生成することができる官能基を含む。
【0024】
一実施態様において、電子ビーム活性ナノ粒子は、その表面上にヒドロキシル基を含む無機粒子と、少なくとも1種の式(I)のシランとを接触させることによって製造する。別の実施態様において、電子ビーム活性ナノ粒子は、その表面上にヒドロキシル基を含む無機粒子と、種々の構造を有する種々のシランとを接触させることによって製造する。この場合、電子ビーム活性ナノ粒子は、まず無機粒子を第一のシランに接触させた後他のシランに接触させることによって、あるいは無機粒子を種々のシランと同時に接触させることによって製造する。
【0025】
一実施態様において、電子ビーム活性ナノ粒子は、その表面上にヒドロキシル基を含む無機粒子と、少なくとも1種の式(I)のシランとの縮合反応によって製造する。縮合反応は、SiO-結合の形成によって、無機粒子の表面の官能化をもたらす。一実施態様において、電子ビーム活性ナノ粒子は、無機ナノ粒子に単一のSiO-結合を介して結合したシラン部分を有する。別の実施態様において、電子ビーム活性ナノ粒子は、無機ナノ粒子に1つ以上のSiO-結合を介して結合したシラン部分を有する。さらに別の実施態様において、電子ビーム活性ナノ粒子は、少なくとも2種の異なるシラン部分を有する。
【0026】
一実施態様において、前記電子ビーム活性ナノ粒子は、酸化ケイ素・・・からなる群から選択される少なくとも1種の無機ナノ粒子を、式(I)を有するシランと接触させることによって形成される。」

1d「【実施例】
【0076】
[材料]:実施例で使用したポリマー材料は、ポリマー中でのITRブロックとポリカーボネートブロックとの重量分率が90:10に等しいITR-ポリカーボネートコポリマー(SLX90/10)であった。・・・ コロイダルシリカ(20 nm、34%水溶液)は、Nalco Company社から購入した。・・・電子ビーム活性ナノ粒子の合成のための合成実験の詳細を、実施例1?5に提示した。・・・
【0077】
[実施例1]:フェニルトリエトキシシランとヘキサメチルジシラザンとを用いたコロイダルシリカの表面修飾
コロイダルシリカ(Nalco 1034A、20 nm)(100 g)およびイソプロパノール(195 ml)を、凝縮器および滴下漏斗を備えた2 Lの三口フラスコに入れた。このコロイダルシリカおよびイソプロパノールの混合物に、フェニルトリエトキシシラン(2.10 g、8.74 mmol)を滴下により添加した。混合物を80℃にて3時間還流させ、室温に冷却した。冷却後、100 mlの溶媒(イソプロパノール)を減圧下、80℃にて除去した。減少した体積をメトキシプロパノールを添加することによって補った。溶媒置換を繰り返すことによって、溶媒を合計500 ml除去した。次いで、この混合物に、ヘキサメチルジシラザン(5.07 g、31.4 mmol)を室温で滴下により添加した。得られた混合物を、さらに1時間還流させ、室温に冷却し、濾紙を通して濾過した。濾液を集め、溶媒を除去し、減圧オーブンを用いて乾燥した。・・・」

摘記1dによれば、溶媒と平均一次粒子径が20nmであるコロイダルシリカの混合物に対して、フェニルトリエトキシシラン、及びヘキサメチルジシラザンを順次添加することにより、コロイダルシリカの表面修飾をして、得られた混合物から溶媒を除去し、乾燥を行っているから、これによりシリカナノ粒子乾燥物を得ているといえる。
そして、技術常識に照らして、このシリカナノ粒子乾燥物は、シリカナノ粒子の凝集体であるといえる。
そうすると、甲1には、
「シリカナノ粒子を、フェニルトリエトキシシラン及びヘキサメチルジシラザンを順次用いて表面修飾をした後、乾燥して得られた、平均一次粒子径が20nmであるシリカナノ粒子の凝集体である、シリカナノ粒子乾燥物。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

2 甲2
甲2には、上記「第3 2 証拠方法」に列挙された事項が記載されており、そのうち図5、6は、以下のとおりであって、追試で得られたシリカ粉の20質量%のMEKスラリーの写真、及びシリカ粉:MEK=1:4で超音波処理をして撹拌し、粒度分布を測定した結果が、それぞれ示されている。

「【図5】


「【図6】




第5 判断
1 特許法第29条第1項第3号について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
本件発明1のシリカ粒子材料の製造方法は、上記第2に摘記した本件明細書【0033】?【0035】,【0043】?【0047】,【実施例】によると、シリカ粒子をシランカップリング剤及びオルガノシラザンで表面処理する工程を含むものである。 そして、例えば、実施例1では、シリカ粒子が分散した分散液に、フェニルトリメトキシシランを加えてシリカ粒子を表面処理して混合物を得て、次いで、この混合物にヘキサメチルジシラザンを加えてさらにシリカ粒子を表面処理した後、乾燥などを行ってシリカ粒子材料を得るものである。
そうすると、甲1発明のシリカナノ粒子乾燥物は、シリカ粒子のシランカップリング剤及びオルガノシラザンによる表面処理を順次行った後、乾燥工程を行うという本件発明1のシリカ粒子材料の製造工程と同様の工程により得られるものであるから、甲1発明のシリカナノ粒子乾燥物においても、シリカナノ粒子の表面は、本件発明1で特定する「式(1):-OSiX^(1)X^(2)X^(3)で表される官能基と、式(2):-OSiY^(1)Y^(2)Y^(3)で表される官能基とがシリカ粒子の表面に結合」しているといえる。
そして、甲1発明の「シリカナノ粒子」、「凝集体」、「シリカナノ粒子乾燥物」は、それぞれ本件発明1の「シリカ粒子」、「集合体」、「シリカ粒子材料」に相当するといえる。

してみると、本件発明1は、甲1発明と、少なくとも以下の点において相違しているといえる。

相違点1
本件発明1が、メチルエチルケトンに再分散できるシリカ粒子材料であり、前記シリカ粒子材料とメチルエチルケトンとを、前記シリカ粒子材料:メチルエチルケトン=1:1または1:4の割合で配合し攪拌して分散試料を調製し、前記分散試料の粒度分布を粒度分布測定装置により測定すると、粒子径100nm以上の位置にピークがみられないものであることを特定しているのに対し、 甲1発明は、メチルエチルケトンに再分散でき、上記粒度分布を有しているか否かは不明である点

上記相違点1について検討する。
上記相違点1に係る事項を甲1発明が充足するか否かについて、特許異議申立人は、特許異議申立書において、以下のように、甲1の実施例1の追試を行うことにより検証している。

「ウ 異議申立人の追試
異議申立人は、コロイダルシリカ Nalco 1034A、20nmを入手し、引例1の実施例1を以下の通り、追試した。
工程1:Nalco 1034A、20 nm(100 g)およびイソプロパノール(195 ml)を、凝縮器および滴下漏斗を備えた2 Lの三口フラスコに入れた。
工程2:このコロイダルシリカおよびイソプロパノールの混合物に、フェニルトリエトキシシラン(2.10 g、8.74 mmol)を滴下により添加した。
工程3:混合物を80℃にて3時間還流させ、室温に冷却した。
工程4:冷却後、100 mlの溶媒(イソプロパノール)を減圧下、80℃にて除去した。減少した体積をメトキシプロパノールを添加することによって補った。溶媒置換を繰り返すことによって、溶媒を合計500 ml除去した。
工程5:次いで、この混合物に、ヘキサメチルジシラザン(5.07 g、31.4 mmol)を室温で滴下により添加した。得られた混合物を、さらに1時間還流させ、室温に冷却し、5Cろ紙にて濾過した。
工程6:ろ液をシャーレに薄く入れ、真空乾燥機(減圧乾燥機)60℃・3hrの条件で乾燥させた。」

そして、特許異議申立書において、「エ 異議申立人の追試結果の評価」として、上記追試で得られたシリカ粉を用いて20質量%のMEKスラリーを調製したところ、甲2の図5に示すとおり、透明液が得られたから、MEKに再分散できるものであり、また、シリカ粉:MEK1:4で混合して超音波処理をして撹拌し、粒度分布をマイクロトラックで測定した結果は、甲2の図6に示すとおり、100nm(0.1μm)以上の位置にピークが見られないものであるから、甲1の実施例1に記載のシリカ粉は、本件発明1のシリカ粒子材料と同じものである旨主張している。

これに対して、特許権者は、平成28年10月31日付けで上申書を提出し、新たに甲1の実施例1に記載のコロイダルシリカ(Nalco 1034A)を用いて試験を行って、当該上申書に添付した実験成績証明書(「特許権者実験成績証明書その2」)(以下、「実験2」という。)を提出した。
上記実験2では、上記「ウ 異議申立人の追試」と工程1から工程5までは同一であり、工程6においては、工程5で得られたろ液に対して、一部を、真空乾燥機60℃で3時間減圧加熱により乾燥して、特許異議申立人の追試と同様に乾燥し、また、他に、「棚式乾燥機105℃で一晩(16時間)乾燥」、及び「ドラフトで室温一晩放置して乾燥」、をそれぞれ行い、各乾燥品に対して、10wt%のMEKスラリーを調製し超音波照射後に分散状態を観察したところ、各シリカ粉は、MEKに分散せずに凝集沈殿したことが、以下のとおり示されている。
ここで、上記実験2のスラリーの濃度は10wt%であるから、これより濃度の高い本件発明1で特定する「シリカ粒子材料:メチルエチルケトン=1:1または1:4の割合」の濃度のMEKスラリーも、同様に凝集沈殿するといえる。


「 60℃3時間減圧加熱品



「105℃一晩(16時間)乾燥品



「室温一晩(16時間)乾燥品



そこで、特許異議申立人の追試と特許権者の追試2の結果をみると、甲1の実施例1で得られたシリカ粉がメチルエチルケトンに再分散できるかどうかについて、前者は「再分散できる」ものであり、後者は「再分散できない」というものであって、それぞれで異なる結論が得られている。
そして、両者の各実験の実施方法については、上記のとおりであって、いずれかの実施方法に明らかな疑義があるとはいえない。
また、一方で、甲1の実施例1のように、シランカップリング剤及びオルガノシラザンによる表面処理を順次行うことにより得られたシリカ粉について、特許異議申立人が主張する上記追試の結果のとおりにメチルエチルケトンに再分散できることを認めるべき技術常識が別途あるわけではない。
そうすると、特許異議申立人が主張するように、甲1の実施例1によってメチルエチルケトンに再分散できるシリカ粉が得られることを合理的な確実性をもって認めることはできないから、甲1発明が、上記相違点1に係る事項を充足しているか否かは真偽不明といわざるを得ない。
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1と同様に特定された分散試料について、さらに発振周波数39kHz、出力500Wの超音波を10分間照射したものについて粒度分布を粒度分布測定装置により測定すると、粒子径100nm以上の位置にピークがみられないことを特定したものである。
これに対して、甲1発明は、上記(1)に記載したように、「メチルエチルケトンに再分散できるシリカ粒子材料であり、前記シリカ粒子材料とメチルエチルケトンとを、前記シリカ粒子材料:メチルエチルケトン=1:1または1:4の割合で配合し攪拌して分散試料を調製し、前記分散試料の粒度分布を粒度分布測定装置により測定すると、粒子径100nm以上の位置にピークがみられないものである」とはいえず、また、上記超音波の照射によって、当該粒度分布を得られるものであるともいえない。
したがって、本件発明2は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(3)本件発明3について
本件発明3と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違している。

相違点2
本件発明3は、「メチルエチルケトンに再分散できるシリカ粒子材料であり、前記シリカ粒子材料を121℃で24時間浸漬した抽出水の電気伝導度が50μS/cm以下である」ことが特定されているのに対し、甲1発明は、メチルエチルケトンに再分散でき、上記電気伝導度を有しているか否かは不明である点。

上記相違点2について検討すると、本件発明3の電気伝導度は、上記第2で摘記した本件明細書【0043】?【0046】によれば、表面処理した後のシリカ粒子材料を鉱酸で沈殿させ、沈殿物を水で洗浄することにより得られるものであり、実施例では、塩酸により処理して得られた沈殿物を濾過して、濾過残渣を純水で洗浄しているものである。
しかし、甲1では、シリカナノ粒子を洗浄することは、実施例1やその他の箇所を参照しても記載されていないし、特許異議申立書の追試においても、電気伝導度は測定されていない。
また、上記(1)と同様に、甲1発明がメチルエチルケトンに再分散できるともいえない。
したがって、本件発明3は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

2 特許法第29条第2項
(1)本件発明1について
甲1は、摘記1bによれば、熱可塑性ポリマーの耐摩耗性を向上させることを課題とし、摘記1a、1cなどによれば、電子ビーム活性官能基で表面修飾された電子ビーム活性ナノ粒子と熱可塑性ポリマーとを含む物品を電子ビームに曝すと、電子ビーム活性官能基が架橋結合を形成して、物品の耐摩耗性が向上するというものである。しかし、甲1には、電子ビーム活性ナノ粒子の分散性を向上させることについては何ら記載されていない。
そうすると、甲1は、本件明細書【0006】に記載された、「取り扱い性に優れるシリカ粒子材料」を提供するという本件発明1の課題を有するものではなく、甲1発明に基いて、いかにして上記相違点1に係る特性を有するシリカ粒子材料を得るかについては何ら示唆するものではない。
これに対して、本件発明1は、本件明細書【0012】,【0013】に記載のように、凝集し難く、樹脂との親和性に優れ、樹脂材料中に均一分散できるという顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2について
上記(1)と同様に、本件発明2は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明3について
表面修飾したシリカ粒子を洗浄することは慣用手段であるとはいえるが、上記1(3)に指摘したように、甲1は、シリカナノ粒子を洗浄することは記載されていないし、また、慣用手段の洗浄を行ったとしても、本件発明1で特定した電気伝導度が得られるとは必ずしもいえない。
さらに、甲1には、シリカナノ粒子をメチルエチルケトンに再分散できることを示唆する記載もない。
よって、本件発明3は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明4?7について
本件発明4は、本件発明1又は2を引用する発明であり、また、本件発明5?7は、本件発明1?3を直接的又は間接的に引用する発明であるから、これらの発明も本件発明1?3と同様に、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 むすび
以上のとおりであるから,特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許請求の範囲の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-12-28 
出願番号 特願2014-232615(P2014-232615)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C01B)
P 1 651・ 121- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山口 俊樹  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 萩原 周治
後藤 政博
登録日 2016-01-08 
登録番号 特許第5865466号(P5865466)
権利者 株式会社アドマテックス
発明の名称 シリカ粒子材料及びフィラー含有樹脂組成物  
代理人 大川 宏  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ