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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1323906 |
審判番号 | 不服2015-6482 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-04-06 |
確定日 | 2017-01-12 |
事件の表示 | 特願2012-173985「ドライエッチングガスおよびドライエッチング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月 6日出願公開,特開2012-238891〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2001年9月5日(優先権主張2000年9月7日,日本国)を国際出願日とする特願2002-525909号の一部を,平成24年8月6日に新たな特許出願としたものであって,平成26年3月27日付けで拒絶理由が通知され,同年6月2日に意見書及び手続補正書が提出され,同年12月22日付けで拒絶査定がなされた。 その後,平成27年4月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,同年11月11日に上申書が提出され,平成28年1月15日付けで拒絶理由が通知され,同年3月17日に意見書及び手続補正書が提出され,同年5月19日付けで最後の拒絶理由(以下「当審拒絶理由通知」という。)が通知され,同年8月23日に意見書及び手続補正書が提出された。 第2 補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成28年8月23日に提出された手続補正書による補正を却下する。 [理 由] 1 補正の内容 平成28年8月23日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1,2を補正して,補正後の請求項1,2とするものであって,補正前後の請求項1,2は,各々次のとおりである。 (補正前) 「【請求項1】 CF_(3)CF=CF_(2)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスであって, CF_(3)CF=CF_(2)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなり,酸化シリコン膜を被エッチング部材とし,放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下,電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃の条件でエッチングする際に使用される,ドライエッチングガス。 【請求項2】 CF_(3)CF=CF_(2)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスのガスプラズマで,酸化シリコン膜を放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下,電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃の条件でエッチングすることを特徴とするドライエッチング方法であって, 前記ドライエッチングガスは,CF_(3)CF=CF_(2)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなることを特徴とする,ドライエッチング方法。」 (補正後) 「【請求項1】 CF_(3)CF=CF_(2)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスであって, CF_(3)CF=CF_(2)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなり,酸化シリコン膜を被エッチング部材とし,放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下の条件でエッチングする際に使用される,ドライエッチングガス。 【請求項2】 CF_(3)CF=CF_(2)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスのガスプラズマで,酸化シリコン膜を放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下の条件でエッチングすることを特徴とするドライエッチング方法であって, 前記ドライエッチングガスは,CF_(3)CF=CF_(2)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなることを特徴とする,ドライエッチング方法。」 2 補正事項の整理 本件補正の補正事項を整理すると次のとおりである。 (1)補正事項1 補正前の請求項1及び請求項2の「放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下,電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃の条件でエッチングする」を補正して,補正後の請求項1及び請求項2の「放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下の条件でエッチングする」にすること。 3 補正の目的の適否についての検討 (1)補正事項1について 補正事項1は,補正前の請求項1及び請求項2において特定するエッチング条件から,「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃」を削除するものである。 すなわち,上記補正事項1は,直列的に記載された発明特定事項を削除するものであるから,上記補正事項1を含む請求項1及び請求項2についての補正は,特許請求の範囲の減縮を目的としたものとは認められない。 さらに,「電子密度」,「電子温度」,「ウェハー温度」,及び,「チャンバー壁温度」は,いずれも,技術的に明確な事項であるから,補正前の請求項1及び請求項2の,「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃」というエッチング条件に係る記載そのものが,文理上,意味が不明りょうでであるとは認められず,また,請求項1及び請求項2の記載が,前記エッチング条件に係る記載を含むことによって,他の記載との関係において不合理を生じているとも,あるいは,これら請求項に記載した発明が技術的に正確に特定されず不明りょうであるとも認めることはできない。 したがって,補正前の請求項1及び請求項2が,「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃」という発明特定事項を含むことによって,「明りょうでない記載」を含むという記載上の不備が生じているとは認めることはできないから,当該記載を削除する補正を,明りょうでない記載の釈明を目的とした補正であると認めることはできない。 そして,補正事項1が,請求項の削除,誤記の訂正のいずれを目的とするものに該当すると認めることもできない。 したがって,補正事項1を含む本件補正は,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たさない。 なお,審判請求人は,平成28年8月23日に提出した意見書において,「補正前の請求項1?2において,電子密度,電子温度,ウェハー温度,チャンバー壁温度についての規定を削除しました。当該補正は,拒絶理由通知書において指摘された記載不備に対して,不明りょうな記載の釈明を目的とした補正であり,補正要件を満たすと確信いたします。」と主張する。 しかしながら,審判請求人の前記主張は採用することができない。その理由は,以下のとおりである。 特許法第17条の2第4項第4号は,最後の拒絶理由通知後に特許請求の範囲についてする補正は,「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものに限ると規定する。 そして,当審拒絶理由通知は,「請求項1には,複数種類のエッチング条件について,それぞれ広範な範囲を含むように特定された発明が記載されているが,発明の詳細な説明には,請求項1において特定される複数種類のエッチング条件のうちの一部のエッチング条件を満たすことのみが明示された実施例が一つ記載されているにすぎず,出願時の技術常識に照らしても,請求項に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない」から「特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるという要件を満たすものとは認められない。」とするものである。 これに対して,上記補正事項1は,「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃」という,直列的に記載された発明特定事項を削除するものであるから,請求項に記載された発明の範囲を更に拡げるものである。 してみれば,当審拒絶理由通知において,「請求項に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない」とした拒絶理由に対して,請求項に記載された発明の範囲を更に拡げる上記補正事項1を含む本件補正は,「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。」とする要件を満たすものとは認められない。 したがって,審判請求人の前記主張は採用することはできない。 4 むすび したがって,本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,結論のとおり決定する。 〔予備的判断〕 なお,仮に,審判請求人が,平成28年8月23日に提出した意見書で主張するように,本件補正が,不明りょうな記載の釈明を目的とした補正であり,補正要件を満たすものであったとしても,本件補正後の発明は,以下に示すように,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 5 進歩性についての検討 (1)補正後の発明 本件補正後の請求項1及び請求項2に係る発明(以下「本願補正発明1」及び「本願補正発明2」という。)は,つぎのとおりとなる。 ・本願補正発明1 CF_(3)CF=CF_(2)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスであって, CF_(3)CF=CF_(2)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなり,酸化シリコン膜を被エッチング部材とし,放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下の条件でエッチングする際に使用される,ドライエッチングガス。 ・本願補正発明2 CF_(3)CF=CF_(2)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスのガスプラズマで,酸化シリコン膜を放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下の条件でエッチングすることを特徴とするドライエッチング方法であって, 前記ドライエッチングガスは,CF_(3)CF=CF_(2)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなることを特徴とする,ドライエッチング方法。 (2)引用例とその記載事項,及び,引用発明 当審拒絶理由通知で引用した,本願のもとの出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である下記の引用例1-3には,図面とともに,以下の事項が記載されている。(下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。) ア 引用例1:特開平5-62940号公報 (引1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 エッチング室内に発生させた高密度プラズマの拡散成分よりなる拡散プラズマで,当該エッチング室内に載置した矩形基板をエッチングするドライエッチング装置であって, 前記矩形基板の両側にかつ当該矩形基板の対向する2辺のうちの一組に対してほぼ平行に前記高密度プラズマを発生させるプラズマ発生器を,前記エッチング室に設けたことを特徴とする矩形基板のドライエッチング装置。」 (引1b)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,主としてフィールドエミッションディスプレーや液晶ディスプレー等の大型の矩形基板をエッチングする矩形基板のドライエッチング装置に関する。」 (引1c)「【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら,平行平板型プラズマエッチング装置では,矩形基板にダメージが生じやすい。ダメージを低減するために矩形基板に加えるバイアス電流を小さくすると,エッチング速度が低下して,エッチング均一性が低下する。またマグネトロン型プラズマエッチング装置では,発生するプラズマに密度が高い部分と低い部分とを生じる。このため,矩形基板に電流が発生して,矩形基板を損傷する。また矩形基板上に生じる磁場によって,イオンの入射角が一定方向に定まらないので,加工精度が低下する。ECR型プラズマエッチング装置では,矩形基板を覆う状態に大口径のプラズマを均一に生成することが困難である。このため,エッチング均一性が低くなる。上記DECR型プラズマエッチング装置では,スプリッターで分配したマイクロ波を同軸ケーブルでアンテナに伝播するために,十分なマイクロ波電力を伝播することができない。このため,エッチング速度が遅くなるので,エッチングに時間がかかる。またエッチング速度の低下は,矩形基板が大形化すれば更に顕著になる。したがって,いずれのドライエッチング装置を用いても,大型の矩形基板を高精度にエッチング加工することは困難である。 【0006】本発明は,大型の矩形基板を高精度にエッチングする矩形基板のドライエッチング装置を提供することを目的とする。」 (引1d)「【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明は,上記目的を達成するためになされた矩形基板のドライエッチング装置である。すなわち,エッチング室内に発生させた高密度プラズマの拡散成分よりなる拡散プラズマで,当該エッチング室内に載置した矩形基板をドライエッチングする装置である。この装置のエッチング室に,矩形基板の両側にかつ矩形基板の対向する2辺のうちの一組に対してほぼ平行に高密度プラズマを発生させるプラズマ発生器を設けたものである。 【0008】 【作用】上記構成の矩形基板のドライエッチング装置では,エッチング室に,矩形基板の対向する2辺のうちの一組の両側にかつほぼ平行に高密度プラズマを発生させるプラズマ発生器を設けたことにより,高密度プラズマの拡散荷電粒子やラジカル等の拡散成分で生成される拡散プラズマは,矩形基板上で均一な密度分布になる。また高密度プラズマを矩形基板の側方に発生させたので,高密度プラズマが矩形基板に直接かからない。このため,矩形基板にはエッチングダメージを生じない。」 (引1e)「【0009】 【実施例】本発明の第1の実施例を図1の概略構成断面図および図2に示す部分破砕斜視図により説明する。図では矩形基板のドライエッチング装置1の一例として,磁界圧着型のマグネトロンエッチング装置を説明する。図に示すように,エッチング室11は直方体状の箱体に形成されている。このエッチング室11には,矩形基板71を静電チャック(図示せず)によって保持するサセプタ12が設けられている。またエッチング室11の底壁側には排気管13が接続されている。 【0010】上記エッチング室11の側壁14の内側には,絶縁板15(例えば石英ガラス板)が設けられている。また側壁14(14a,14b)の外側には,側壁14a,14bの奥行き方向に沿って,磁石16(16a,16b)が設けられている。各磁石16のそれぞれは,側壁14a,14bの奥行き以上の長さに形成された通常の永久磁石よりなり,エッチング室11側にN極が配設される。さらにエッチング室11の各側壁14a,14b側には,側壁14aと磁石16a,側壁14bと磁石16bをそれぞれに覆う状態にかつ当該エッチング室11の天井と底壁とに接続する状態に,透磁体17(17a,17b)が設けられている。各透磁体17は,コバルトフェライトやマグネタイト等の高透磁性材料で形成される。 【0011】上記エッチング室11の側壁14a側と14b側との外周には,当該エッチング室11の底壁側と天井側とを取り巻く状態にかつ矩形基板71の辺72,73にほぼ平行にソレノイドコイル18(18a,18b)が設けられている。各ソレノイドコイル18は,当該各磁石16の極性に反発する方向,すなわち各矢印方向に磁束81を発生させる。また側壁14a,14bは,透磁率が低く電気抵抗が小さい材料,例えばアルミニウムで形成される。上記の如くに,ソレノイドコイル18aと磁石16aとによってプラズマ発生器19(19a)が構成され,ソレノイドコイル18bと磁石16bとによってプラズマ発生器19(19b)が構成される。 【0012】またエッチング室11の天井側には,当該エッチング室11内にエッチングガスを導入するためのガスノズルシャワー20が設けられている。さらにエッチング室11の前面側の側壁(図示せず)には通常のゲートバルブ(図示せず)を介して通常のロードロックチャンバ(図示せず)が設けられている。 【0013】上記サセプタ12には,ブロッキングコンデンサー21を介してバイアス印加用高周波電源22が接続されている。矩形基板71にバイアスを印加する場合には,インピーダンス整合が取られる。また上記各側壁14には,上記各磁石16とブロッキングコンデンサー23を介してプラズマ発生用高周波電源24が接続されている。 【0014】次に上記構成の磁界圧着型のマグネトロンエッチング装置のプラズマの生成を説明する。エッチング室11の各側壁14の内側は,各ソレノイドコイル18より発生する磁束81で,広範囲にわたって覆われる。プラズマ発生用高周波電源24より13.56MHzの高周波を各側壁14に供給して,放電を起こさせる。すると,電界82に直交する磁束83によって2次電子がトラップされ,棒状の高密度プラズマ84(84a,84b)が側壁14a,14bに沿って発生する。このとき,各磁石16のN極より発生する磁束83は,各当該透磁体17の内部を通って再びもとの磁石16のS極に到達する。よって,磁束83は発散しない。 【0015】上記の如くに発生した各高密度プラズマ84によって,矩形基板71の上方を覆う状態に拡散プラズマ85を発生する。拡散プラズマ85は,各高密度プラズマ84の拡散荷電粒子やラジカル等の拡散成分で生成される。そしてバイアス印加用高周波電源22より矩形基板71に2MHzの高周波を印加することにより,拡散プラズマ85中の荷電粒子を矩形基板71に引き付けて,当該矩形基板71を異方性エッチングする。このとき,電界82と直交する各磁束83が側壁14a,14bの広範囲にわたって,いわゆるミラー磁場を形成するので,大きなイオン電流値が得られる。またプラズマ発生用高周波電源24とバイアス発生用高周波電源22とが独立しているので,エッチングの制御性が高い。このため,高選択比で高エッチング速度のエッチングが可能になる。しかもエッチング室11内のエッチング雰囲気が低圧力でも各高密度プラズマ84を安定して生成できる。さらに各高密度プラズマ84が矩形基板71に直接に触れないので,矩形基板71にエッチングダメージを与えない。」 (引1f)「【0016】次に上記矩形基板のドライエッチング装置1で各種薄膜をエッチングするときのプロセス条件の一例を説明する。例えば多結晶シリコンの薄膜をエッチングする場合には,エッチングガスに,70sccmの流量の臭化水素(HBr)と30sccmの流量の六フッ化イオウ(SF_(6 ))とを混合したガスをエッチング室11に供給して,エッチング室11内の圧力を0.13Paに保つ。そしてプラズマ発生電力として4kW,バイアス発生電力として20Wを印加する。 【0017】また例えば酸化シリコン(SiO_(2 ))の薄膜をエッチングする場合には,エッチングガスに,46sccmの流量の六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))と20sccmの流量の二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))とを混合したガスをエッチング室11に供給して,エッチング室11内の圧力を0.13Paに保つ。そしてプラズマ発生電力として4kW,バイアス発生電力として50Wを印加する。」 イ 引用発明 そうすると,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明1」,及び,「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 ・引用発明1 六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))と二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))とを混合したドライエッチングガスであって, 46sccmの流量の六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))と20sccmの流量の二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))とを混合したガスからなり,前記混合したガスをエッチング室11に供給して,エッチング室11内の圧力を0.13Paに保ち,プラズマ発生電力として4kW,バイアス発生電力として50Wを印加する条件で,酸化シリコン(SiO_(2 ))の薄膜をエッチングする際に使用される,ドライエッチングガス。 ・引用発明2 六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))と二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))とを混合したドライエッチングガスで,酸化シリコン(SiO_(2 ))の薄膜を,エッチング室11内の圧力を0.13Paに保ち,プラズマ発生電力として4kW,バイアス発生電力として50Wを印加する条件でエッチングするドライエッチング方法であって, 前記ドライエッチングガスは,46sccmの流量の六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))と20sccmの流量の二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))とを混合したガスからなる,エッチング方法。 ウ 引用例2:特開平4-170026号公報 (引2a)「2.特許請求の範囲 (1)分子内に少なくとも1個の不飽和結合を有するフルオロカーボン系ガスを含むエッチング・ガスを用いて被エッチング基体の温度を50℃以下に制御しながら基板上に形成されたシリコン化合物層のエッチングを行うことを特徴とするドライエッチング方法。」 (引2b)「〔従来の技術〕 VLSI,ULSI等の半導体装置にみられるように高度な微細化および集積化が進行するに伴い,酸化シリコン等のシリコン化合物層をエッチングする方法についても技術的要求がますます厳しくなってきている。」(第2ページ左上欄第8-13行) (引2c)「〔作用〕 本発明では,シリコン化合物層のエッチングにおいて,分子内に少なくとも1個の不飽和結合を有するフルオロカーボン系ガスを含むエッチング・ガスが使用される。このようなガスは,当然のことながら1分子内の炭素数が2以上であるから,本願出願人が先に提案した高次フルオロカーボン・ガスと同様に1分子からのCF_(x)^(+)の生成量が多くなる。したがって,エッチングの高速化が可能となる。また,かかるガスがプラズマ放電により解離されると,モノラジカル,あるいは場合によってはカルベン等の高活性なビラジカル(二端遊離基)も生成し,これらが不飽和結合中のπ電子系を攻撃することにより炭素系ポリマーの重合が促進される。この炭素系ポリマーは,単結晶シリコンや多結晶シリコン等のシリコン系材料層の表面やレジスト・パターンの表面に堆積すると,イオン衝撃等によっても容易には除去されないが,酸化シリコン等のシリコン化合物層の表面では層内に含まれる酸素がスパッタ・アウトされて炭素系ポリマーの分解に寄与するため容易に除去される。したがって,炭素系ポリマーの堆積が増加すれば,対レジスト選択性および対シリコン下地選択性が向上する。」(第3ページ左下欄第8行-同ページ右下欄第12行) (引2d)「実施例2 本実施例は,本発明の第1の発明を適用し,C_(3)F_(6)ガスを用いて酸化シリコンからなる層間絶縁膜のエッチングを行うことにより,シリコン基板中に形成された不純物拡散層に臨むコンタクト・ホールを形成した例である。」(第4ページ右下欄第7-12行) (引2e)「なお,以上の三実施例では,フルオロカーボン系ガスとして分子内に1個の二重結合を有するC_(4)F_(8)およびC_(3)F_(6)を使用したが,本発明ではこれらに限られず,二重結合を2個以上有する化合物,三重結合を1個または2個以上有する化合物,二重結合と三重結合の双方を有する化合物の中から広く選択することができる。」(第5ページ左下欄第16行-同ページ右下欄第2行) エ 引用例3:国際公開第99/16110号(日本語訳については,対応する公表特許公報である特表2001-517868号公報参照) (引3a)「One compound related to octafluoropropane is hexafluoropropylene (C_(3)F_(6)). This compound is a unsaturated analog of C_(3)F_(8) and has one double carbon bond. Yanagida has reported in the aforecited U.S.patent the cyclic analog hexafluoropropane c-C_(3)F_(6) as an oxide etching gas and has promoted the use of hexafluoropropylene in the aforecited Japanese applications.」(第13ページ第15-20行)(対応する日本国公表特許公報である特表2001-517868号公報に基づいて作成した日本語訳:オクタフルオロプロパンに関係する一つの化合物は,ヘキサフルオロプロピレン(C_(3)F_(6))である。この化合物は,C_(3)F_(8)不飽和類似体であり,一つの二重炭素結合を有する。Yanagidaは前記米国特許において,酸化エッチングガスとして,環式類似体ヘキサフルオロプロパンc-C_(3)F_(6)を報告している。そして前記日本特許出願において,ヘキサフルオロプロピレンを使用することを薦めている。) (引3b)「Example 12 An example used a similar SAC structure with a critical dimension of 0.35 μm with a varying among of C_(3)F_(6) in the second step in the presence of a substantial among of CH_(2)F_(2) as summarized in TABLE 7.」(第30ページ第1-4行)(実施例12 臨界寸法0.35μmのSAC構造を用い,表7に纏められているように,CH_(2)F_(2)の量の存在のもとで,第2ステップのC_(3)F_(6)の量を変えた例である。) (引3c)「38. A method of etching an oxide layer formed in a substrate and comprising silicon and oxygen overlying a non-oxide layer comprising silicon but substantially no oxygen , comprising the steps of : placing said substrate in a plasma reaction chamber ; admitting into said chamber an etching gas comprising a fluoropropylene with at least one unsaturated carbon bond and octafluoropropane ; and exciting said etching gas into a plasma.」(第40ページ第10-16行)(38.基板に形成され,ケイ素を含有するが実質的に酸素を含まない非酸化層の上に置かれた,シリコン及び酸素を有する酸化層をエッチングする方法であって,前記基板をプラズマ反応室に置くステップと,前記反応室に少なくとも1つの不飽和炭素結合を有するフルオロプロピレンとオクタフルオロプロパンを含むエッチングガスを導入するステップと,前記エッチングガスをプラズマに励起するステップとを含む,エッチング方法。) (3)本願補正発明1の進歩性について 本願補正発明1と引用発明1とを対比する。 ア 引用発明1の「六フッ化三炭素(C_(3 )F_(6 ))」は,本願補正発明1の「CF_(3)CF=CF_(2)」とは,「C_(3) F_(6)」である点で共通する。 さらに,引用発明1は,「46sccmの流量の六フッ化三炭素(C_(3 )F_(6 ))と20sccmの流量の二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))とを混合」したものであるから,六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))を流量比で69.7%含み,二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))を流量比で,30.3%含んでいると認められ,この比率はそれぞれ本願補正発明1の「45?95%」,「5?55%」との範囲内である。 しかも,引用発明1の「六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))と二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))とを混合したドライエッチングガス」は,六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))及び二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))のみからなるドライエッチングガスといえる。 してみれば,引用発明1の「『六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))と二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))とを混合したドライエッチングガスであって,46sccmの流量の六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))と20sccmの流量の二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))とを混合したガスからなり,前記混合したガスをエッチング室11に供給して,』『酸化シリコン(SiO_(2 ))の薄膜をエッチングする際に使用される,ドライエッチングガス。』」と,本願補正発明1の「『CF_(3)CF=CF_(2)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスであって,CF_(3)CF=CF_(2)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなり,酸化シリコン膜を被エッチング部材とし,』『エッチングする際に使用される,ドライエッチングガス。』」とは,以下の相違点1を除き,「『C_(3)F_(6)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスであって,C_(3)F_(6)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなり,酸化シリコン膜を被エッチング部材とし,』『エッチングする際に使用される,ドライエッチングガス。』」である点で一致する。 イ 引用発明1は,「エッチング室内の圧力を0.13Paに保ち」,「バイアス発生電力として50Wを印加」して,エッチングするものである。 そして,前記「0.13Pa」は,略1mTorrであるから,前記各条件は,本願補正発明1の,「圧力30mTorr以下」,「バイアス電力25?2000W」との範囲内である。 したがって,引用発明1におけるエッチング条件と,本願補正発明1におけるエッチング条件とは,以下の相違点2を除き,「バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下の条件」である点で一致する。 ウ よって,本願補正発明1と引用発明1とは,以下の点で一致し,また,相違する。 ・一致点 C_(3)F_(6)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスであって, C_(3)F_(6)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなり,酸化シリコン膜を被エッチング部材とし,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下の条件でエッチングする際に使用される,ドライエッチングガス。 ・相違点 ・相違点1:本願補正発明1では,「C_(3) F_(6) 」が,「CF_(3)CF=CF_(2)」という構造を有することが特定されているのに対して,引用発明1では,このような特定が明記されていない点。 ・相違点2:本願補正発明1では,「放電電力」が,「200?3000W」と特定されているのに対して,引用発明1では,「プラズマ発生電力」が,「4kW」とされている点。 上記相違点についての検討 ・相違点1について 引用例2の上記摘記(引2a)ないし(引2e)の記載から,引用例2に,分子内に1個の二重結合を有するC_(3)F_(6)を,プラズマ放電により解離して,酸化シリコン等のシリコン化合物のエッチングガスとして用いることが示されていることが理解できる。 さらに,引用例3の上記摘記(引3a)ないし(引3c)の記載から,引用例3に,一つの二重炭素結合を有するC_(3)F_(6)を,シリコン及び酸素を有する酸化層をプラズマエッチングするエッチングガスとして用いることが示されてことが理解できる。 そして,分子内に1個の二重結合を有するC_(3)F_(6),すなわち,一つの二重炭素結合を有するC_(3)F_(6)は,「CF_(3)CF=CF_(2)」といえる。 してみれば,本願のもとの出願の優先権の主張の日前に,「CF_(3)CF=CF_(2)」は,プラズマ放電により解離して,酸化シリコン等のシリコン化合物のエッチングに用いるガスとして,普通に用いられていたガスの1つであるといえる。 そうすると,エッチング室11内の圧力を0.13Paに保ち,プラズマ発生電力として4kW,バイアス発生電力として50Wを印加する条件で,酸化シリコン(SiO_(2 ))の薄膜をエッチングする際に使用されるドライエッチングガスに含まれる,引用発明1の「六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))」を,前記普通に用いられていたガスの一種である「CF_(3)CF=CF_(2)」という構造を有するガスであると理解することは自然なことと認められるから,上記相違点1は,実質的なものではない。 また,仮に,引用例2,3の上記摘記の記載からは,引用発明1の「六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))」が,「CF_(3)CF=CF_(2)」であるとまでは認めることができなかったとしても,引用例2,3の上記摘記の記載から,一つの二重炭素結合を有するC_(3)F_(6),すなわち,「CF_(3)CF=CF_(2)」を,プラズマ放電により解離して,酸化シリコン等のシリコン化合物のエッチングに用いるガスとして用いることが,本願のもとの出願の優先権の主張の日前において知られていたことが明らかであり,しかも,引用例2の上記摘記(引2c)の「シリコン化合物層のエッチングにおいて,分子内に少なくとも1個の不飽和結合を有するフルオロカーボン系ガスを含むエッチング・ガスが使用される。このようなガスは・・・1分子からのCF_(x)^(+)の生成量が多く・・・エッチングの高速化が可能となる。また,かかるガスがプラズマ放電により解離されると・・・炭素系ポリマーの重合が促進され・・・対レジスト選択性および対シリコン下地選択性が向上する。」との記載,及び,引用例3の上記摘記(引3a)の「ヘキサフルオロプロピレン(C_(3)F_(6))である。この化合物は,C_(3)F_(8)不飽和類似体であり,一つの二重炭素結合を有する。・・・ヘキサフルオロプロピレンを使用することを薦めている。」等の記載に基づいて,引用発明1において,「六フッ化三炭素(C_(3) F_(6) )」として,「CF_(3)CF=CF_(2)」を用いること,すなわち,相違点1について本願補正発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。 ・相違点2について ア 引用発明1の「プラズマ発生電力」は,本願補正発明1の「放電電力」に相当する。 イ そして,被処理部材の寸法が大きい場合に,容積が大きいエッチング室を有するプラズマエッチング装置を使用することを選択して,当該容積が大きいエッチング室を有するプラズマエッチング装置を用いてエッチングを行い,あるいは,被処理部材の寸法が小さい場合に,容積が小さいエッチング室を有するプラズマエッチング装置を使用することを選択して,当該容積が小さいエッチング室を有するプラズマエッチング装置を用いてエッチングを行うこと,すなわち,被処理部材の寸法に応じて,適切な容積を備えたエッチング室を有するエッチング装置を使用することを選択して,当該適切な容積を備えたエッチング装置を用いて,エッチングを行うことは,当業者が普通に考えることである。 さらに,プラズマエッチング装置におけるエッチング室の容積の違いによって,良好なプラズマを生成することができる,好適な放電電力が異なることは,自明なことであって,エッチング室の容積が小さい場合に,良好なプラズマを生成することができる好適な放電電力が小さいものとなることは,当業者にとって明らかである。 ウ してみれば,引用例1の上記摘記(引1f)においてエッチングすることが想定されている被処理部材よりも小さい寸法を備えた被処理部材をエッチングするにあたり,引用例1で使用したものよりも小さい容積を備えたエッチング室を有するエッチング装置,例えば,好適な放電電力が「放電電力200?3000W」の範囲に含まれるようなプラズマエッチング装置を選択して,引用発明1に係るドライエッチングガスを使用することは,当業者が容易になし得たことである。また,その効果も当業者が予測する範囲内のものである。 したがって,引用発明1において,上記相違点2について本願補正発明1の構成を採用することは,格別のこととはいえない。 エ なお,審判請求人は,平成28年8月23日に提出した意見書において,「審判官殿は・・・被エッチング対象物の大きさによって特定されるチャンバーの大きさに応じて変更して,「放電電力200?3000W」の範囲に含まれる値を採用することは当業者が適宜なし得たことである。』と認定されています。しかしながら,引例1の課題は,「大型の矩形基板を高精度にエッチングする矩形基板のドライエッチング装置を提供する」ことです。つまり,エッチング対象となる矩形基板としては,大型の矩形基板を使用しても,高精度にエッチングするエッチング装置を提供することを課題としていますから,被エッチング対象物の大きさを種々変えることは一切想定されていませんし,そのような場合には引例1の課題解決に深刻な影響を与えます。そうすると,審判官殿の認定される,「被エッチング対象物の大きさによって特定されるチャンバーの大きさに応じて変更」することは一切想定されていませんし,前提となる「被エッチング対象物の大きさ」が極端に変わることも想定されていませんし,その必要性も審判官殿はご指摘されていません。そうすると,引例1に記載された条件は単なる一例ではなく,大型の矩形基板を高精度にエッチングするのに適した条件でありますから,これを変更することはたとえ当業者であっても容易なことではないと確信いたします。」と主張する。 しかしながら,引用例1の特許請求の範囲に記載された発明は,引用例1の上記摘記(引1a)及び(引1d)の記載に照らして,高密度プラズマを矩形基板の側方に発生させたので,高密度プラズマが矩形基板に直接かかることがなく,矩形基板にはエッチングダメージを生じないという効果を奏することを目的とした発明であり,矩形基板の大きさを限定しない発明であると理解することが自然といえる。そして,このことは,引用例1の上記摘記(引1e)の実施例において,矩形基板の大きさが具体的に明記されていないこととも整合する。 したがって,「これを変更することはたとえ当業者であっても容易なことではないと確信いたします。」とする審判請求人の主張は採用することはできない。 (4)本願補正発明2の進歩性について 本願補正発明2と引用発明2とを対比すると,上記(3)アないしイでの検討に照らして,両者は,以下の点で一致し,また,相違する。 ・一致点 C_(3)F_(6)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスのガスプラズマで,酸化シリコン膜をバイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下の条件でエッチングするドライエッチング方法であって, 前記ドライエッチングガスは,C_(3)F_(6)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなる,ドライエッチング方法。 ・相違点 ・相違点3:本願補正発明2では,「C_(3) F_(6) 」が,「CF_(3)CF=CF_(2)」という構造を有することが特定されているのに対して,引用発明2では,このような特定が明記されていない点。 ・相違点4:本願補正発明2では,「放電電力」が,「200?3000W」と特定されているのに対して,引用発明2では,「プラズマ発生電力」が,「4kW」とされている点。 上記相違点についての検討 ・相違点3について 上記「(3)・相違点1について」と同様の理由により,上記相違点3は,実質的なものではない。 また,仮に,引用例2,3の上記摘記の記載からは,引用発明2の「六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))」が,「CF_(3)CF=CF_(2)」であるとまでは認めることができなかったとしても,引用例2,3の上記摘記の記載から,一つの二重炭素結合を有するC_(3)F_(6),すなわち,「CF_(3)CF=CF_(2)」を,プラズマ放電により解離して,酸化シリコン等のシリコン化合物のエッチングに用いるガスとして用いることが,本願のもとの出願の優先権の主張の日前において知られていたことが明らかであるから,引用発明2において,「六フッ化三炭素(C_(3) F_(6) )」として,「CF_(3)CF=CF_(2)」を用いること,すなわち,相違点3について本願補正発明2の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。 ・相違点4について 上記「(3)・相違点2について」と同様の理由により,引用発明2において,上記相違点4について本願補正発明2の構成を採用することは,格別のこととはいえない。 (5)むすび 以上のとおり,仮に,本件補正が,不明りょうな記載の釈明を目的とした補正であり,補正要件を満たすものであったとしても,本願補正発明1及び本願補正発明2は,引用例1に記載された発明と引用例2,3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成28年8月23日に提出された手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-2に係る発明(以下「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は,平成28年3月17日に提出された手続補正書により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-2に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。 【請求項1】 CF_(3)CF=CF_(2)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスであって, CF_(3)CF=CF_(2)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなり,酸化シリコン膜を被エッチング部材とし,放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下,電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃の条件でエッチングする際に使用される,ドライエッチングガス。 【請求項2】 CF_(3)CF=CF_(2)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスのガスプラズマで,酸化シリコン膜を放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下,電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃の条件でエッチングすることを特徴とするドライエッチング方法であって, 前記ドライエッチングガスは,CF_(3)CF=CF_(2)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなることを特徴とする,ドライエッチング方法。 2 進歩性について (1)当審拒絶理由通知の概要 平成28年5月19日付けで当審から通知した拒絶理由のうち,進歩性に係る理由の概要は,次のとおりである。 「この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・請求項 1-2 ・引用文献 1.特開平5-62940号公報 2.特開平4-170026号公報 3.国際公開第99/16110号(日本語訳については,対応する公表特許公報である特表2001-517868号公報参照) 4.特開平11-329792号公報 5.特開平9-87851号公報 6.特開平11-297679号公報 7.特開平9-275093号公報 8.特開2000-100798号公報 9.特開平11-330049号公報 ・備考 (1)引例1を主引例とした進歩性の検討(その1) ア 引例1には,以下の事項が,図面とともに記載されている。 (引1a)「【0009】 【実施例】本発明の第1の実施例を図1の概略構成断面図および図2に示す部分破砕斜視図により説明する。図では矩形基板のドライエッチング装置1の一例として,磁界圧着型のマグネトロンエッチング装置を説明する。図に示すように,エッチング室11は直方体状の箱体に形成されている。このエッチング室11には,矩形基板71を静電チャック(図示せず)によって保持するサセプタ12が設けられている。またエッチング室11の底壁側には排気管13が接続されている。 【0010】上記エッチング室11の側壁14の内側には,絶縁板15(例えば石英ガラス板)が設けられている。また側壁14(14a,14b)の外側には,側壁14a,14bの奥行き方向に沿って,磁石16(16a,16b)が設けられている。各磁石16のそれぞれは,側壁14a,14bの奥行き以上の長さに形成された通常の永久磁石よりなり,エッチング室11側にN極が配設される。さらにエッチング室11の各側壁14a,14b側には,側壁14aと磁石16a,側壁14bと磁石16bをそれぞれに覆う状態にかつ当該エッチング室11の天井と底壁とに接続する状態に,透磁体17(17a,17b)が設けられている。各透磁体17は,コバルトフェライトやマグネタイト等の高透磁性材料で形成される。 【0011】上記エッチング室11の側壁14a側と14b側との外周には,当該エッチング室11の底壁側と天井側とを取り巻く状態にかつ矩形基板71の辺72,73にほぼ平行にソレノイドコイル18(18a,18b)が設けられている。各ソレノイドコイル18は,当該各磁石16の極性に反発する方向,すなわち各矢印方向に磁束81を発生させる。また側壁14a,14bは,透磁率が低く電気抵抗が小さい材料,例えばアルミニウムで形成される。上記の如くに,ソレノイドコイル18aと磁石16aとによってプラズマ発生器19(19a)が構成され,ソレノイドコイル18bと磁石16bとによってプラズマ発生器19(19b)が構成される。 【0012】またエッチング室11の天井側には,当該エッチング室11内にエッチングガスを導入するためのガスノズルシャワー20が設けられている。さらにエッチング室11の前面側の側壁(図示せず)には通常のゲートバルブ(図示せず)を介して通常のロードロックチャンバ(図示せず)が設けられている。 【0013】上記サセプタ12には,ブロッキングコンデンサー21を介してバイアス印加用高周波電源22が接続されている。矩形基板71にバイアスを印加する場合には,インピーダンス整合が取られる。また上記各側壁14には,上記各磁石16とブロッキングコンデンサー23を介してプラズマ発生用高周波電源24が接続されている。 【0014】次に上記構成の磁界圧着型のマグネトロンエッチング装置のプラズマの生成を説明する。エッチング室11の各側壁14の内側は,各ソレノイドコイル18より発生する磁束81で,広範囲にわたって覆われる。プラズマ発生用高周波電源24より13.56MHzの高周波を各側壁14に供給して,放電を起こさせる。すると,電界82に直交する磁束83によって2次電子がトラップされ,棒状の高密度プラズマ84(84a,84b)が側壁14a,14bに沿って発生する。このとき,各磁石16のN極より発生する磁束83は,各当該透磁体17の内部を通って再びもとの磁石16のS極に到達する。よって,磁束83は発散しない。 【0015】上記の如くに発生した各高密度プラズマ84によって,矩形基板71の上方を覆う状態に拡散プラズマ85を発生する。拡散プラズマ85は,各高密度プラズマ84の拡散荷電粒子やラジカル等の拡散成分で生成される。そしてバイアス印加用高周波電源22より矩形基板71に2MHzの高周波を印加することにより,拡散プラズマ85中の荷電粒子を矩形基板71に引き付けて,当該矩形基板71を異方性エッチングする。このとき,電界82と直交する各磁束83が側壁14a,14bの広範囲にわたって,いわゆるミラー磁場を形成するので,大きなイオン電流値が得られる。またプラズマ発生用高周波電源24とバイアス発生用高周波電源22とが独立しているので,エッチングの制御性が高い。このため,高選択比で高エッチング速度のエッチングが可能になる。しかもエッチング室11内のエッチング雰囲気が低圧力でも各高密度プラズマ84を安定して生成できる。さらに各高密度プラズマ84が矩形基板71に直接に触れないので,矩形基板71にエッチングダメージを与えない。」 (引1b)「【0016】次に上記矩形基板のドライエッチング装置1で各種薄膜をエッチングするときのプロセス条件の一例を説明する。例えば多結晶シリコンの薄膜をエッチングする場合には,エッチングガスに,70sccmの流量の臭化水素(HBr)と30sccmの流量の六フッ化イオウ(SF_(6) )とを混合したガスをエッチング室11に供給して,エッチング室11内の圧力を0.13Paに保つ。そしてプラズマ発生電力として4kW,バイアス発生電力として20Wを印加する。 【0017】また例えば酸化シリコン(SiO_(2))の薄膜をエッチングする場合には,エッチングガスに,46sccmの流量の六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))と20sccmの流量の二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))とを混合したガスをエッチング室11に供給して,エッチング室11内の圧力を0.13Paに保つ。そしてプラズマ発生電力として4kW,バイアス発生電力として50Wを印加する。」 イ そうすると,引例1には,46sccmの流量の六フッ化三炭素(C_(3) F_(6) )と20sccmの流量の二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))とを混合したエッチングガスを,エッチング室に供給して,前記エッチング室内の圧力を0.13Paに保ち,プラズマ発生電力として4kW,バイアス発生電力として50Wを印加して,酸化シリコン(SiO_(2))の薄膜をエッチングする発明が記載されているものと認められる。 ウ 本願の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)と,引例1に記載された発明とを対比する。 (ア)引例1に記載された発明の「六フッ化三炭素(C_(3) F_(6) )」は,本願発明の「CF_(3)CF=CF_(2)」と,C_(3) F_(6) である点で共通する。 (イ)引例1に記載された発明は,「46sccmの流量の六フッ化三炭素(C_(3) F_(6) )と20sccmの流量の二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))とを混合」したものであるから,六フッ化三炭素(C_(3) F_(6) )を流量比で69.7%含み,二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))を流量比で,30.3%含んでいると認められ,この比率はそれぞれ本願発明の「45?95%」,「5?55%」との範囲内である。 (ウ)引例1に記載された発明は,エッチング室内の圧力を0.13Paに保ち,バイアス発生電力として50Wを印加して,酸化シリコン(SiO_(2))の薄膜をエッチングするものであり,これらの条件は,本願発明の,「圧力30mTorr以下」,「バイアス電力25?2000W」,及び,「酸化シリコン膜を被エッチング部材」との範囲内である。 (エ)よって,本願発明と,引例1に記載された発明とは, 「C_(3) F_(6)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスであって, C_(3) F_(6)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなり,酸化シリコン膜を被エッチング部材とし,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下の条件でエッチングする際に使用される,ドライエッチングガス。」 である点で一致し,以下の点で相違している。 ・相違点1:本願発明は,「CF_(3)CF=CF_(2)」を含むものであるのに対して,引例1に記載された発明は,「六フッ化三炭素(C_(3) F_(6) )」を含むものである点。 ・相違点2:本願発明が,「放電電力200?3000W」,「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3)」,「電子温度2?9eV」,「ウェハー温度-40?100℃」,「チャンバー壁温度-30?300℃」の条件でエッチングする際に使用されるのに対して,引例1に記載された発明では,上記各条件が特定されていない点。 エ 上記相違点についての検討 ・相違点1について 引例2には,分子内に1個の二重結合を有するC_(3) F_(6)を,酸化シリコン等のシリコン化合物のエッチングガスとして用いることが示されている。(第5ページ左下欄16-18行等参照) また,引例3には,「One compound related to octafluoropropane is hexafluoropropylene (C_(3)F_(6)). This compound is a unsaturated analog of C_(3)F_(8) and has one double carbon bond.(訳:オクタフルオロプロパンに関係する一つの化合物は,ヘキサフルオロプロピレン(C_(3)F_(6))である。この化合物は,C_(3)F_(8)不飽和類似体であり,一つの二重炭素結合を有する。)」(第13ページ第16行?第17行),及び,第30ページ第1-12行に「Example 12」等の記載があり,分子内に1個の二重結合を有するC_(3 )F_(6)を,エッチングガスとして用いることが示されている そして,分子内に1個の二重結合を有するC_(3) F_(6)は,「CF_(3)CF=CF_(2)」ということができ,当該分子内に1個の二重結合を有するC_(3) F_(6)を,エッチングガスとして用いることが,引例2-3の記載から認められるから,引例1の「六フッ化三炭素(C_(3 )F_(6) )」は,分子内に1個の二重結合を有するC_(3) F_(6),すなわち,「CF_(3)CF=CF_(2)」であると理解することが自然である。 したがって,相違点1は,実質的なものではない。 また,仮に,引例2-3の記載からは,引例1の「六フッ化三炭素(C_(3) F_(6) )」が,「CF_(3)CF=CF_(2)」であるとまでは認めることができなかったとしても,引例2-3の記載から,分子内に1個の二重結合を有するC_(3) F_(6)を,エッチングガスとして用いることが本願の優先日前において知られていたことが明らかであるから,引例1に記載された発明において,「六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))」として,「CF_(3)CF=CF_(2)」を用いること,すなわち,相違点1について本願発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。 ・相違点2について ア 引例1の「プラズマ発生電力」は,本願発明の「放電電力」に相当する。 そして,所定のプラズマを発生させるのに必要とされるプラズマ発生電力が,被エッチング対象物の大きさによって特定されるチャンバーの大きさによって異なることは当業者にとって自明な事項であるから,「プロセス条件の一例」として引例1に例示されたプラズマ発生電力が4kWである場合に,被エッチング対象物の大きさによって特定されるチャンバーの大きさに応じて変更して,「放電電力200?3000W」の範囲に含まれる値を採用することは当業者が適宜なし得たことである。 イ そして,以下に示す引例4-9の記載に照らして,「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3)」,「電子温度2?9eV」の条件は通常用いられている程度の値であると解されるから,引例1に記載された発明においても,これらの範囲に含まれる条件が採用されているものと理解することが自然であり実質的な相違点とは認められない。 また,仮に,上記のように認めることができないとしても,「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3)」,「電子温度2?9eV」の条件は通常用いられている程度の値であるから,引例1に記載された発明において,これらの範囲に含まれる程度の条件を採用することは当業者が適宜なし得たことである。 ・引例4の記載事項 (引4a)「【0019】このようなマイクロ波プラズマ処理装置を用いることにより,マイクロ波パワー1kW以上で,直径200mm程の空間に±3%以内の均一性をもって,電子密度10^(12)/cm^(3) 以上,電子温度3eV以下,プラズマ電位20V以下の高密度低電位プラズマが発生できるので,ガスを充分に反応させ活性な状態で被処理体に供給でき,かつ入射イオンによる被処理体の表面ダメージも低減するので,低温でも高品質で高速な処理が可能になる。」 (引4b)「【0055】このようなプラズマ処理装置を用いることにより,マイクロ波パワー1kW以上で,直径300mm以上の大口径空間に±3%以内の均一性をもって,電子密度10^(12)/cm^(3) 以上,電子温度3eV以下,プラズマ電位20V以下の高密度低電位プラズマが発生できるので,ガスを充分に反応させ活性な状態で被処理面に供給できる。しかも,圧力2.7Pa,マイクロ波電力2kWとした時,誘電体窓内面から8?10mm離れた位置でマイクロ波による電流は検出できなくなる。これは非常に薄いプラズマの層が出来ることを意味する。よって,入射イオンによる基板表面ダメージも低減するので,低温でも高品質で高速な処理が可能になる。」 (引4c)「【0130】本発明のマイクロ波プラズマ処理方法におけるプラズマ処理室内の圧力は0.1mTorr(約0.133Pa)乃至10Torr(約1330Pa)の範囲,より好ましくは,CVDやプラズマ重合や表面改質の場合1mTorr(約0.133Pa)乃至100mTorr(約13.3Pa),エッチングの場合0.5mTorr(約0.067Pa)から50mTorr(約6.67Pa),アッシングの場合範囲100mTorr(約13.3pa)から10Torr(約1330Pa)の範囲から選択することができる。又,クリーニングの場合は0.067Pa?13.3Paにするとよい。」 ・引例5の記載事項 (引5a)「【請求項9】前記処理は,エッチングである請求項8に記載のマイクロ波プラズマ処理方法。」 (引5b)「【0009】このようなマイクロ波プラズマ処理装置を用いることにより,大口径空間に均一な電子温度3eV以下,電子密度10^(12)/cm^(2)台の低温高密度プラズマが発生でき,ガスを充分に反応させ活性な状態で基板に供給できるので,低温でも高品質で高速な処理が可能になる。」 (引5c)「【0040】図1に示したマイクロ波プラズマ処理装置を使用して,Ar流量500sccm,圧力1mTorr,マイクロ波パワー3.0kW,最大磁束密度90mTの条件でプラズマを発生させ,得られたプラズマの計測を行った。プラズマ計測は,シングルプローブ法により以下のようにして行った。プローブに印加する電圧を-50から+50Vの範囲で変化させ,プローブに流れる電流をI-V測定器により測定し,得られたI-V曲線からラングミュアらの方法により電子密度,電子温度,プラズマ電位を算出した。その結果,電子密度は2.7×10^(12)/cm_(3)^( )(原文ママ)(φ200面内),電子温度3.6eVであり,低圧にも関わらず高密度なプラズマが形成されていることが確認された。」 ・引例6の記載事項 (引6a)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は試料の表面処理方法および装置にかかわり,特にプラズマを用いて試料表面のエッチングを行なうのに適した表面処理方法および装置に関する。」 (引6b)「【0052】次に,本発明を適用できる装置の構造について述べる。本発明は,最小加工寸法1μm好ましくは0.5μm以下の素子の加工を目的とするために,いわゆるプラズマの電子密度が1×10^(10)個/cm^(-3)以上,好ましくは1×10^(11)個/cm^(-3)以上の高密度タイプの機種での適用で効力を発揮する。このタイプの装置には,主に誘導結合型の装置とECR型の装置がある。なお,古くから知られている容量結合型の装置は,高密度プラズマを生成できないのでスループットが低い,またプラズマ密度が低いためシースが厚くなりシース内でのイオン散乱により異方性の面で劣る,ガス圧力が低い領域でプラズマを発生できないのでやはりイオンの散乱が多いなどの問題があり,本発明には適さない。」 (引6c)「【0079】プラズマの電子密度を1×10^(10)個/cm^(-3)以上の高密度プラズマとすることにより,スループットの高い加工をすることができる。」 ・引例7の記載事項 (引7a)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明はプラズマ処理装置,特にドライエッチング装置,プラズマCVD装置,スパッタリング装置,表面改質装置などに関するものである。」 (引7b)「【0012】通常,プラズマ処理装置では,プラズマ中の電子密度は10^(9) cm^(-3)?10^(12)cm^(-3)程度であり,電子温度は10^(4) K?10^(5 )K程度であることから,・・・」 ・引例8の記載事項 (引8a)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法に係る。より詳細には,負イオンを大量に発生させるとともに,当該負イオンを被処理体に入射させることによって,被処理体に対してエッチングやクリーニング等不要物の除去を行うことが可能なプラズマ処理装置に関する。本発明に係るプラズマ装置は,半導体に代表される薄膜を利用する分野の製造プロセスにおいて好適に用いられる。」 (引8b)「【0017】通常,半導体製造プロセスに使用されるプラズマの電子温度は,5eV程度である。」 ・引例9の記載事項 (引例9a)「【従来の技術】半導体等の電子デバイスの微細化に対応するために,高密度プラズマの利用が重要であることについて,特開平8-83696号公報に述べられているが,最近は,電子密度が高くかつ電子温度の低い,低電子温度プラズマが注目されている。 【0003】Cl_(2)やSF_(6)等のように負性の強いガス,言い換えれば,負イオンが生じやすいガスをプラズマ化したとき,電子温度が3eV程度以下になると,電子温度が高いときに比べてより多量の負イオンが生成される。この現象を利用すると,正イオンの入射過多によって微細パターンの底部に正電荷が蓄積されることによって起きる,ノッチと呼ばれるエッチング形状異常を防止することができ,極めて微細なパターンのエッチングを高精度に行うことができる。 【0004】また,シリコン酸化膜等の絶縁膜のエッチングを行う際に一般的に用いられるC_(x)F_(y)やC_(x)H_(y)F_(z)(x,y,zは自然数)等の炭素及びフッ素を含むガスをプラズマ化したとき,電子温度が3eV程度以下になると,電子温度が高いときに比べてガスの分解が抑制され,とくにF原子やFラジカル等の生成が抑えられる。F原子やFラジカル等はシリコンをエッチングする速度が早いため,電子温度が低い方が対シリコンエッチング選択比の大きい絶縁膜エッチングが可能になる。 【0005】また,電子温度が3eV以下になると,イオン温度も低下するので,プラズマCVDにおける基板へのイオンダメージを低減することができる。 【0006】電子温度の低いプラズマを生成できる技術として現在注目されているのは,電磁波を用いるプラズマ源である。これは,真空容器内に電磁波を放射することによってプラズマを発生させるもので,電磁波を放射するためのアンテナや誘電体窓の形態としてさまざまなものが用いられている。」 (引9b)「【0032】平板状アンテナ5から放射される電磁波は,誘電体窓6を介して導体板12の周囲から真空容器1内に導入されるが,導体板12の直下にも十分回り込むことができるため,均一なプラズマを発生させることができる。図2に,イオン飽和電流密度を,基板8の直上20mmの位置において測定したものを示す。プラズマ発生条件は,ガス種とガス流量がCl_(2)=100sccm,圧力が1Pa,高周波電力が1kWである。図2から,極めて均一性に優れたプラズマが発生できていることがわかる。また,図5と比較すると,平板状アンテナ5の外形寸法が100mmの場合の中央部の密度よりも若干低下しているものの,外形寸法が150mm以上のいずれの場合よりも高いプラズマ密度が得られていることがわかる。すなわち,本発明の第1実施形態においては,従来例に比べて,均一なプラズマを発生させることができ,かつ,電力効率に優れたプラズマ処理が可能であることがわかる。」 ウ さらに,引例1の上記(引1a)の記載,及び,引例1の図面の記載に照らして,引例1に記載された発明は,ウェハー,及び,チャンバー壁を,特に加熱あるいは冷却することを要する発明であるとは認められないから,引例1に記載された発明において,ウェハー,及び,チャンバー壁の温度は,「ウェハー温度-40?100℃」,「チャンバー壁温度-30?300℃」の範囲に含まれる程度の温度であると理解することが自然であり,仮に,そうでないとしても,ウェハー,及び,チャンバー壁の温度を,「ウェハー温度-40?100℃」,「チャンバー壁温度-30?300℃」の範囲に含まれる程度の温度とすることに特段の困難は認められない。 エ そして,本願発明において,エッチングの各条件を請求項において規定する数値範囲にすることによる効果は,当業者が予測する範囲内のものであり,本願の発明の詳細な説明の記載からは,各数値限定の上限及び下限に,臨界的な意義を見出すことはできない。 オ したがって,本願の請求項1に係る発明は,引用文献1-3に記載された発明,及び,引例4-9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 カ また,本願の請求項1に係る発明と同様の事項によって特定される請求項2に係る発明も,同様の理由によって引用文献1-3に記載された発明,及び,引例4-9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (2)引例1を主引例とした進歩性の検討(その2) ア 引例1の上記摘記(引1b)には,酸化シリコン(SiO_(2 ))の薄膜をプラズマ処理装置を用いてエッチングする場合に,エッチングガスとして,46sccmの流量の六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))と20sccmの流量の二フッ化メチレン(CH_(2)F_(2))とを混合したガスを用いることが記載されている。(なお,引例1の六フッ化三炭素(C_(3 )F_(6 ))は,引例2-3の記載から,「CF_(3)CF=CF_(2)」と解される。仮に,そうでないとしても,引例1の六フッ化三炭素(C_(3) F_(6) )を,引例2-3の記載から,「CF_(3)CF=CF_(2)」とすることは容易になし得たことと認められる。) イ 一方,引例4-9の各引例には,それぞれ,「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3)」,「電子温度2?9eV」等の条件でエッチングをするプラズマ処理装置が記載されている。 ウ そして,引例1に記載された上記エッチングガスを,引例4-9の各引例のいずれかに記載されたプラズマ処理装置を用いて酸化シリコンの薄膜をエッチングする際に使用することは当業者が容易に想到し得たことである。 エ なお,引例1,及び,引例4-9のいずれにも記載されていないウエハー温度等の条件については,当業者が適宜決定し得た設計事項であり,本願の請求項1において特定するこれらの条件の数値範囲の上限及び下限に臨界的な意義を見いだすこともできない。 オ したがって,本願の請求項1に係る発明は,引用文献1-3に記載された発明,及び,引例4-9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 カ また,本願の請求項1に係る発明と同様の事項によって特定される請求項2に係る発明も,同様の理由によって引用文献1-3に記載された発明,及び,引例4-9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 」 (2)引用例,その記載事項,及び,引用発明 当審拒絶理由通知で引用した本願のもとの出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用例1-9のうち,引用例1-3に記載されている事項,及び,引用発明1,引用発明2は,上記「第2〔予備的判断〕 5 進歩性についての検討 (2)引用例及びその記載事項,及び,引用発明」の項で指摘したとおりであり,さらに,引用例4-9には,図面とともに,以下の事項が記載されている。 ア 引用例4:特開平11-329792号公報 (引4a)「【0019】このようなマイクロ波プラズマ処理装置を用いることにより,マイクロ波パワー1kW以上で,直径200mm程の空間に±3%以内の均一性をもって,電子密度10^(12)/cm^(3) 以上,電子温度3eV以下,プラズマ電位20V以下の高密度低電位プラズマが発生できるので,ガスを充分に反応させ活性な状態で被処理体に供給でき,かつ入射イオンによる被処理体の表面ダメージも低減するので,低温でも高品質で高速な処理が可能になる。」 (引4b)「【0055】このようなプラズマ処理装置を用いることにより,マイクロ波パワー1kW以上で,直径300mm以上の大口径空間に±3%以内の均一性をもって,電子密度10^(12)/cm^(3) 以上,電子温度3eV以下,プラズマ電位20V以下の高密度低電位プラズマが発生できるので,ガスを充分に反応させ活性な状態で被処理面に供給できる。しかも,圧力2.7Pa,マイクロ波電力2kWとした時,誘電体窓内面から8?10mm離れた位置でマイクロ波による電流は検出できなくなる。これは非常に薄いプラズマの層が出来ることを意味する。よって,入射イオンによる基板表面ダメージも低減するので,低温でも高品質で高速な処理が可能になる。」 (引4c)「【0130】本発明のマイクロ波プラズマ処理方法におけるプラズマ処理室内の圧力は0.1mTorr(約0.133Pa)乃至10Torr(約1330Pa)の範囲,より好ましくは,CVDやプラズマ重合や表面改質の場合1mTorr(約0.133Pa)乃至100mTorr(約13.3Pa),エッチングの場合0.5mTorr(約0.067Pa)から50mTorr(約6.67Pa),アッシングの場合範囲100mTorr(約13.3pa)から10Torr(約1330Pa)の範囲から選択することができる。又,クリーニングの場合は0.067Pa?13.3Paにするとよい。」 イ 引用例5:特開平9-87851号公報 (引5a)「【請求項9】前記処理は,エッチングである請求項8に記載のマイクロ波プラズマ処理方法。」 (引5b)「【0009】このようなマイクロ波プラズマ処理装置を用いることにより,大口径空間に均一な電子温度3eV以下,電子密度10^(12)/cm^(2)台の低温高密度プラズマが発生でき,ガスを充分に反応させ活性な状態で基板に供給できるので,低温でも高品質で高速な処理が可能になる。」 (引5c)「【0040】図1に示したマイクロ波プラズマ処理装置を使用して,Ar流量500sccm,圧力1mTorr,マイクロ波パワー3.0kW,最大磁束密度90mTの条件でプラズマを発生させ,得られたプラズマの計測を行った。プラズマ計測は,シングルプローブ法により以下のようにして行った。プローブに印加する電圧を-50から+50Vの範囲で変化させ,プローブに流れる電流をI-V測定器により測定し,得られたI-V曲線からラングミュアらの方法により電子密度,電子温度,プラズマ電位を算出した。その結果,電子密度は2.7×10^(12)/cm_(3) (原文ママ)(φ200面内),電子温度3.6eVであり,低圧にも関わらず高密度なプラズマが形成されていることが確認された。」 ウ 引用例6:特開平11-297679号公報 (引6a)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は試料の表面処理方法および装置にかかわり,特にプラズマを用いて試料表面のエッチングを行なうのに適した表面処理方法および装置に関する。」 (引6b)「【0052】次に,本発明を適用できる装置の構造について述べる。本発明は,最小加工寸法1μm好ましくは0.5μm以下の素子の加工を目的とするために,いわゆるプラズマの電子密度が1×10^(10)個/cm^(-3)以上,好ましくは1×10^(11)個/cm^(-3)以上の高密度タイプの機種での適用で効力を発揮する。このタイプの装置には,主に誘導結合型の装置とECR型の装置がある。なお,古くから知られている容量結合型の装置は,高密度プラズマを生成できないのでスループットが低い,またプラズマ密度が低いためシースが厚くなりシース内でのイオン散乱により異方性の面で劣る,ガス圧力が低い領域でプラズマを発生できないのでやはりイオンの散乱が多いなどの問題があり,本発明には適さない。」 (引6c)「【0079】プラズマの電子密度を1×10^(10)個/cm^(-3)以上の高密度プラズマとすることにより,スループットの高い加工をすることができる。」 エ 引用例7:特開平9-275093号公報 (引7a)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明はプラズマ処理装置,特にドライエッチング装置,プラズマCVD装置,スパッタリング装置,表面改質装置などに関するものである。」 (引7b)「【0012】通常,プラズマ処理装置では,プラズマ中の電子密度は10^(9) cm^(-3)?10^(12)cm^(-3)程度であり,電子温度は10^(4) K?10^(5) K程度であることから,・・・」 オ 引用例8:特開2000-100798号公報 (引8a)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法に係る。より詳細には,負イオンを大量に発生させるとともに,当該負イオンを被処理体に入射させることによって,被処理体に対してエッチングやクリーニング等不要物の除去を行うことが可能なプラズマ処理装置に関する。本発明に係るプラズマ装置は,半導体に代表される薄膜を利用する分野の製造プロセスにおいて好適に用いられる。」 (引8b)「【0017】通常,半導体製造プロセスに使用されるプラズマの電子温度は,5eV程度である。」 カ 引用例9:特開平11-330049号公報 (引9a)「【従来の技術】半導体等の電子デバイスの微細化に対応するために,高密度プラズマの利用が重要であることについて,特開平8-83696号公報に述べられているが,最近は,電子密度が高くかつ電子温度の低い,低電子温度プラズマが注目されている。 【0003】Cl_(2)やSF_(6)等のように負性の強いガス,言い換えれば,負イオンが生じやすいガスをプラズマ化したとき,電子温度が3eV程度以下になると,電子温度が高いときに比べてより多量の負イオンが生成される。この現象を利用すると,正イオンの入射過多によって微細パターンの底部に正電荷が蓄積されることによって起きる,ノッチと呼ばれるエッチング形状異常を防止することができ,極めて微細なパターンのエッチングを高精度に行うことができる。 【0004】また,シリコン酸化膜等の絶縁膜のエッチングを行う際に一般的に用いられるC_(x)F_(y)やC_(x)H_(y)F_(z)(x,y,zは自然数)等の炭素及びフッ素を含むガスをプラズマ化したとき,電子温度が3eV程度以下になると,電子温度が高いときに比べてガスの分解が抑制され,とくにF原子やFラジカル等の生成が抑えられる。F原子やFラジカル等はシリコンをエッチングする速度が早いため,電子温度が低い方が対シリコンエッチング選択比の大きい絶縁膜エッチングが可能になる。 【0005】また,電子温度が3eV以下になると,イオン温度も低下するので,プラズマCVDにおける基板へのイオンダメージを低減することができる。 【0006】電子温度の低いプラズマを生成できる技術として現在注目されているのは,電磁波を用いるプラズマ源である。これは,真空容器内に電磁波を放射することによってプラズマを発生させるもので,電磁波を放射するためのアンテナや誘電体窓の形態としてさまざまなものが用いられている。」 (引9b)「【0032】平板状アンテナ5から放射される電磁波は,誘電体窓6を介して導体板12の周囲から真空容器1内に導入されるが,導体板12の直下にも十分回り込むことができるため,均一なプラズマを発生させることができる。図2に,イオン飽和電流密度を,基板8の直上20mmの位置において測定したものを示す。プラズマ発生条件は,ガス種とガス流量がCl_(2)=100sccm,圧力が1Pa,高周波電力が1kWである。図2から,極めて均一性に優れたプラズマが発生できていることがわかる。また,図5と比較すると,平板状アンテナ5の外形寸法が100mmの場合の中央部の密度よりも若干低下しているものの,外形寸法が150mm以上のいずれの場合よりも高いプラズマ密度が得られていることがわかる。すなわち,本発明の第1実施形態においては,従来例に比べて,均一なプラズマを発生させることができ,かつ,電力効率に優れたプラズマ処理が可能であることがわかる。」 イ 当審の判断 (ア)本願発明1の進歩性について 本願発明1と引用発明1とを対比すると,上記「第2〔予備的判断〕 5 進歩性についての検討 オ(ア)?(イ)」での検討に照らして,両者は,以下の点で一致し,また,相違する。 ・一致点 C_(3)F_(6)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスであって, C_(3)F_(6)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなり,酸化シリコン膜を被エッチング部材とし,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下の条件でエッチングする際に使用される,ドライエッチングガス。 ・相違点 ・相違点5:本願発明1では,「C_(3) F_(6) 」が,「CF_(3)CF=CF_(2)」という構造を有することが特定されているのに対して,引用発明1では,このような特定が明記されていない点。 ・相違点6:本願発明1では,「放電電力」が,「200?3000W」と特定されているのに対して,引用発明1では,「プラズマ発生電力」が,「4kW」とされている点。 ・相違点7:本願発明1では,エッチング条件が,「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃」と特定されているのに対して,引用発明1では,このような特定が明記されていない点。 上記相違点についての検討 ・相違点5について 上記「第2〔予備的判断〕5(3)・相違点1について」と同様の理由により,上記相違点5は,実質的なものではない。 また,仮に,引用例2,3の上記摘記の記載からは,引用発明1の「六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))」が,「CF_(3)CF=CF_(2)」であるとまでは認めることができなかったとしても,引用例2,3の上記摘記の記載から,一つの二重炭素結合を有するC_(3)F_(6),すなわち,「CF_(3)CF=CF_(2)」を,プラズマ放電により解離して,酸化シリコン等のシリコン化合物のエッチングに用いるガスとして用いることが,本願のもとの出願の優先権の主張の日前において知られていたことが明らかであるから,引用発明1において,「六フッ化三炭素(C_(3) F_(6) )」として,「CF_(3)CF=CF_(2)」を用いること,すなわち,相違点5について本願発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。 ・相違点6について 上記「第2〔予備的判断〕5(3)・相違点2について」と同様の理由により,引用発明1において,上記相違点6について本願発明1の構成を採用することは,格別のこととはいえない。 ・相違点7について 引用例4-9の上記摘記した記載に照らして,「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3)」,「電子温度2?9eV」の条件は通常用いられている程度の値であると解される。 さらに,引用例1の上記摘記(引1a),(引1e)及び(引1f)の記載,及び,引用例1の図面の記載に照らして,引用発明1は,ウェハー,及び,チャンバー壁を,特に加熱あるいは冷却することを要する発明であるとは認められないから,引用発明1の,ウェハー,及び,チャンバー壁の温度は,「ウェハー温度-40?100℃」,「チャンバー壁温度-30?300℃」の範囲に含まれる程度の温度であると理解することが自然といえる。 したがって,上記相違点7は,実質的なものではない。 また,仮に,上記のように認めることができないとしても,「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3)」,「電子温度2?9eV」という範囲に含まれるエッチングの条件は,引用例4-9の記載から通常用いられている程度の値であると認められるから,引用発明1において,引用例4-9において用いられている,前記各範囲に含まれる程度の条件を採用することは当業者が適宜なし得たことであり,さらに,「ウェハー温度-40?100℃」,「チャンバー壁温度-30?300℃」という範囲に含まれるエッチングの条件を選択することに格別の困難も認められない。 したがって,仮に相違点7が実質的なものであったとしても,引用発明1において,相違点7について,本願発明1の範囲に含まれる程度の値を用いることは,当業者が適宜なし得たことである。 そして,引用発明1において,エッチングの各条件を,本願発明1において規定する数値範囲に含まれる値とすることによる効果は,当業者が予測する範囲内のものであり,本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは,各数値限定の上限及び下限に,臨界的な意義を見出すことはできない。 (イ)本願発明2の進歩性について 本願発明2と引用発明2とを対比すると,「第2〔予備的判断〕5(3)アないしイ」での検討に照らして,両者は,以下の点で一致し,また,相違する。 ・一致点 C_(3)F_(6)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスのガスプラズマで,酸化シリコン膜をバイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下の条件でエッチングするドライエッチング方法であって, 前記ドライエッチングガスは,C_(3)F_(6)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなる,ドライエッチング方法。 ・相違点 ・相違点8:本願発明2では,「C_(3) F_(6) 」が,「CF_(3)CF=CF_(2)」という構造を有することが特定されているのに対して,引用発明2では,このような特定が明記されていない点。 ・相違点9:本願発明2では,「放電電力」が,「200?3000W」と特定されているのに対して,引用発明2では,「プラズマ発生電力」が,「4kW」とされている点。 ・相違点10:本願発明2では,エッチング条件が,「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃」と特定されているのに対して,引用発明2では,このような特定が明記されていない点。 上記相違点についての検討 ・相違点8について 上記「第2〔予備的判断〕5(3)・相違点1について」と同様の理由により,上記相違点8は,実質的なものではない。 また,仮に,引用例2,3の上記摘記の記載からは,引用発明2の「六フッ化三炭素(C_(3) F_(6 ))」が,「CF_(3)CF=CF_(2)」であるとまでは認めることができなかったとしても,引用例2,3の上記摘記の記載から,一つの二重炭素結合を有するC_(3)F_(6),すなわち,「CF_(3)CF=CF_(2)」を,プラズマ放電により解離して,酸化シリコン等のシリコン化合物のエッチングに用いるガスとして用いることが,本願のもとの出願の優先権の主張の日前において知られていたことが明らかであるから,引用発明2において,「六フッ化三炭素(C_(3) F_(6) )」として,「CF_(3)CF=CF_(2)」を用いること,すなわち,相違点8について本願発明2の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。 ・相違点9について 上記「第2〔予備的判断〕5(3)・相違点2について」と同様の理由により,引用発明2において,上記相違点9について本願補正発明2の構成を採用することは,格別のこととはいえない。 ・相違点10について 上記「・相違点7について」と同様の理由により,相違点10は実質的なものでないか,あるいは,引用例4-9の記載から当業者が適宜なし得たことと認められる。 (4)小括 以上のとおり,本願発明1及び本願発明2は,引用例1に記載された発明と引用例2-9に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 4 記載要件について (1)当審拒絶理由通知の概要 平成28年5月19日付けで当審から通知した拒絶理由のうち,記載不備に係る理由の概要は,次のとおりである。 「1 この出願は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号,及び,第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について ア 請求項1に記載された発明は,「CF_(3)CF=CF_(2)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスであって,CF_(3)CF=CF_(2)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなり,酸化シリコン膜を被エッチング部材とし,放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下,電子密度109?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃の条件でエッチングする際に使用される,ドライエッチングガス。」というものである。 イ 一方,発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。 「【発明が解決しようとする課題】 【0003】本発明は,地球温暖化の影響が非常に小さいエッチングガスを用いて,ホールあるいはラインなどのサイズが微細であってもエッチング速度が低下せずエッチング速度のパターンサイズ依存性が小さい,エッチストップのない高アスペクト比微細パターンを形成できるドライエッチングガスおよびエッチング方法を提供することを目的とする。」 「【0034】 酸化シリコン膜及び/又はシリコンを含有する低誘電率膜などのシリコン系材料は,SiOFなどの酸化シリコン膜中にFを含有する膜や窒化シリコン膜などであっても良い。シリコン系材料とは,膜や層構造を持った材料に限らず,シリコンを含む化学的組成を持つ全体がその材料そのもので構成される物質である。例えば,ガラスや石英板などの固体物質がこれに相当する。 【0035】本発明のドライエッチングガスによれば,エッチングする酸化シリコン膜及び/又はシリコンを含有する低誘電率膜などのシリコン系材料を,レジスト,ポリシリコンなどのマスク,シリコン,窒化シリコン膜,シリサイド,金属窒化物などの下地,窒化シリコン膜,炭化シリコン膜などのストッパー膜などに対して選択的にエッチングすることが可能である。 【0036】好ましいエッチング条件を以下に示す: * 放電電力200?3000W,好ましくは400?2000W; * バイアス電力25?2000W,好ましくは100?1000W; * 圧力30mTorr (3.99Pa)以下,好ましくは2?10mTorr (0.266?1.33Pa); * 電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),好ましくは10^(10)?10^(12)cm^(-3) * 電子温度2?9eV,好ましくは3?8eV * ウェハー温度-40?100℃,好ましくは-30?50℃ * チャンバー壁温度-30?300℃,好ましくは,0?200℃。 【0037】 放電電力とバイアス電力はチャンバーの大きさや電極の大きさで異なる。小口径ウエハー用の誘導結合プラズマ(ICP)エッチング装置(チャンバー容積3500cm^(3))で酸化シリコン膜及び/又は窒化シリコン膜及び/又はシリコンを含有する低誘電率膜などにコンタクトホールなどのパターンをエッチングする際のこれらの好ましいエッチング条件は, * 放電電力200?1000W,好ましくは300?600W * バイアス電力50?500W,好ましくは100?300Wである。 【0038】なお,ウェハーが大口径化するとこれらの値も大きくなる。」 「【0044】実施例1及び2並びに比較例2 ICP(Inductive Coupled Plasma)放電電力400W,バイアス電力25W,圧力5mTorr (0.665 Pa)のエッチング条件で,CF_(3)CF=CF_(2)(CF_(3)CF=CZ_(2-m)(CnF_(2n+1))_(m)おいてm=0,Z=F)単独のガス,CF_(3)CF=CF_(2)/CH_(2)F_(2)混合ガス(流量比45%/55%)およびCF_(3)CF=CF_(2)/CH_(2)F_(2)混合ガス(流量比20%/80%)でコンタクトホールをエッチングした場合と,既存エッチングガスであるc-C_(4)F_(8)/CH_(2)F_(2)/O_(2)混合ガス(流量比17%/76.6%/6.4%)の最適エッチング条件であるICP放電電力400W,バイアス電力25W,圧力7.5mTorr (9.975 Pa) でコンタクトホールをエッチングした場合との,エッチング速度と平面に対する直径0.2μmのエッチング速度の低下率を比較し表3に示した。」 【0045】の【表3】には,実施例1として,CF_(3)CF=CF_(2)/CH_(2)F_(2)混合ガス(流量比45%/55%)をエッチングガスとして用いた場合の「SiO_(2)膜エッチング速度」が,「375nm/min)」と速く,「エッチング速度低下率」が「7%」と低いことが示されている。 「【0046】 CF_(3)CF=CF_(2)/CH_(2)F_(2)混合ガスの場合はO_(2)を添加しなくても,最適条件でのc-C_(4)F_(8)/CH_(2)F_(2)/O_(2)混合ガスよりもエッチング速度の低下率が小さい。従って,異なった大きさのパターンをほぼ同じエッチング速度でエッチングでき,下地をエッチングする時間が少なくなりダメージの少ない半導体デバイスの製作に好ましく利用できる。」 ウ そうすると,発明の詳細な説明には,「CF_(3)CF=CF_(2)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスであって,CF_(3)CF=CF_(2)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなり,酸化シリコン膜を被エッチング部材」としたエッチングについて,実施例1として,「ICP(Inductive Coupled Plasma)放電電力400W,バイアス電力25W,圧力5mTorr (0.665 Pa) のエッチング条件」でエッチングした場合に,「SiO_(2)膜エッチング速度」が,「375nm/min)」と速く,「エッチング速度低下率」が「7%」と低いことが示されていることは認められる。 エ しかしながら,発明の詳細な説明には,実施例1の「電子密度」,「電子温度」,「ウェハー温度」及び「チャンバー壁温度」に係るエッチング条件は記載されていないから,前記実施例1が,請求項1に記載された「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃の条件」という条件を満たすものであるか明らかでない。 オ そして,請求項1に記載された発明は,「ホールあるいはラインなどのサイズが微細であってもエッチング速度が低下せず」(【0003】)という課題を,CF_(3)CF=CF_(2)/CH_(2)F_(2)混合ガス(流量比45%/55%)をエッチングガスとして用いることで,「SiO_(2)膜エッチング速度」が,「375nm/min」と速く,「エッチング速度低下率」が「7%」と低くなるように解決したものであるところ,本願の請求項1において特定する「放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下,電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃」という各エッチング条件に含まれる範囲の全てにおいて,前記「ホールあるいはラインなどのサイズが微細であってもエッチング速度が低下せず」という課題を,「SiO_(2)膜エッチング速度」が,「375nm/min」であり「エッチング速度低下率」が「7%」程度となるように解決することができることは,発明の詳細な説明の記載,及び,出願時の技術常識に照らして認めることはできない。 カ すなわち,請求項1には,複数種類のエッチング条件について,それぞれ広範な範囲を含むように特定された発明が記載されているが,発明の詳細な説明には,請求項1において特定される複数種類のエッチング条件のうちの一部のエッチング条件を満たすことのみが明示された実施例が一つ記載されているにすぎず,出願時の技術常識に照らしても,請求項に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。 キ したがって,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるという要件を満たすものとは認められない。 ク 請求項2に記載された発明も,同様の理由によって,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるという要件を満たすものとは認められない。 (2)第36条第4項第1号(実施可能要件)について ア 本願の請求項1及び請求項2に係る発明は,それぞれ,「放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下,電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃の条件」を発明特定事項として備えた発明である。 イ 一方,発明の詳細な説明には,実施例1として,CF_(3)CF=CF_(2)/CH_(2)F_(2)混合ガス(流量比45%/55%)をエッチングガスとして用いて,「SiO_(2)膜エッチング速度」が,「375nm/min」と速く,「エッチング速度低下率」が「7%」と低いエッチングをすることが記載されているが,当該実施例1の「電子密度」,「電子温度」,「ウェハー温度」及び,「チャンバー壁温度」が特定されていない。 ウ そうすると,当業者が請求項1及び請求項2に記載された発明を実施して,「SiO_(2)膜エッチング速度」が,「375nm/min」と速く,「エッチング速度低下率」が「7%」と低いエッチングをするためには,「電子密度」,「電子温度」,「ウェハー温度」及び,「チャンバー壁温度」の各エッチング条件を,請求項1,2で特定される「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃の条件」の範囲内において最適化することを要するところ,「エッチング速度」及び「エッチング速度低下率」について,前記「電子密度」,「電子温度」,「ウェハー温度」,及び,「チャンバー壁温度」は,互いに関連して影響を及ぼすものといえるから,前記エッチング条件の最適化には,当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤を行う必要があると認められる。 したがって,本願の発明の詳細な説明の記載は,当業者が請求項1及び2に記載された発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認めることはできない。」 (2)当審の判断 ア 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (ア)請求項1に記載された発明は,「CF_(3)CF=CF_(2)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスであって,CF_(3)CF=CF_(2)を流量比で45?95%,CH_(2)F_(2)を流量比で5?55%のみからなり,酸化シリコン膜を被エッチング部材とし,放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下,電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃の条件でエッチングする際に使用される,ドライエッチングガス。」というものである。 (イ)一方,発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0003】本発明は,地球温暖化の影響が非常に小さいエッチングガスを用いて,ホールあるいはラインなどのサイズが微細であってもエッチング速度が低下せずエッチング速度のパターンサイズ依存性が小さい,エッチストップのない高アスペクト比微細パターンを形成できるドライエッチングガスおよびエッチング方法を提供することを目的とする。」 ・「【0034】 酸化シリコン膜及び/又はシリコンを含有する低誘電率膜などのシリコン系材料は,SiOFなどの酸化シリコン膜中にFを含有する膜や窒化シリコン膜などであっても良い。シリコン系材料とは,膜や層構造を持った材料に限らず,シリコンを含む化学的組成を持つ全体がその材料そのもので構成される物質である。例えば,ガラスや石英板などの固体物質がこれに相当する。 【0035】本発明のドライエッチングガスによれば,エッチングする酸化シリコン膜及び/又はシリコンを含有する低誘電率膜などのシリコン系材料を,レジスト,ポリシリコンなどのマスク,シリコン,窒化シリコン膜,シリサイド,金属窒化物などの下地,窒化シリコン膜,炭化シリコン膜などのストッパー膜などに対して選択的にエッチングすることが可能である。 【0036】好ましいエッチング条件を以下に示す: * 放電電力200?3000W,好ましくは400?2000W; * バイアス電力25?2000W,好ましくは100?1000W; * 圧力30mTorr (3.99Pa)以下,好ましくは2?10mTorr (0.266?1.33Pa); * 電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),好ましくは10^(10)?10^(12)cm^(-3) * 電子温度2?9eV,好ましくは3?8eV * ウェハー温度-40?100℃,好ましくは-30?50℃ * チャンバー壁温度-30?300℃,好ましくは20?200℃。 【0037】 放電電力とバイアス電力はチャンバーの大きさや電極の大きさで異なる。小口径ウエハー用の誘導結合プラズマ(ICP)エッチング装置(チャンバー容積3500cm^(3))で酸化シリコン膜及び/又は窒化シリコン膜及び/又はシリコンを含有する低誘電率膜などにコンタクトホールなどのパターンをエッチングする際のこれらの好ましいエッチング条件は, * 放電電力200?1000W,好ましくは300?600W * バイアス電力50?500W,好ましくは100?300Wである。 【0038】なお,ウェハーが大口径化するとこれらの値も大きくなる。 【発明の効果】 【0039】 本発明のドライエッチングガスに由来するガスプラズマでは,CF_(3)CFフラグメントからCF_(3)^(+)イオンを選択的に発生し,CF_(3)CFフラグメントに由来するラジカルを発生する。CF_(3)^(+)イオンはエッチング効率を向上させ,低いバイアス電力でのエッチングが可能となるので,レジストやシリコンなどの下地に与えるダメージも少ない。CF_(3)CFフラグメントから発生するラジカルは,密度の高い平坦なフルオロカーボンポリマー膜で構成されるエッチング反応層や保護膜を形成し,エッチング物質の反応効率の向上や,レジスト,シリコンなどの下地,および窒化シリコン,炭化シリコンなどのストッパー膜の保護を可能とする。エッチング効率の高いCF_(3)^(+)イオンを,CF_(3)CF由来のラジカルにより形成される平坦で密度の高い膜に入射させることにより,エッチングのバランスをとり,ホールあるいはラインなどのサイズにエッチング速度の依存が小さく,エッチストップのないエッチングを実現する。」 ・「【0044】実施例1及び2並びに比較例2 ICP(Inductive Coupled Plasma)放電電力400W,バイアス電力25W,圧力5mTorr (0.665 Pa)のエッチング条件で,CF_(3)CF=CF_(2)/CH_(2)F_(2)混合ガス(流量比45%/55%)およびCF_(3)CF=CF_(2)/CH_(2)F_(2)混合ガス(流量比20%/80%)でコンタクトホールをエッチングした場合と,既存エッチングガスであるc-C_(4)F_(8)/CH_(2)F_(2)/O_(2)混合ガス(流量比17%/76.6%/6.4%)の最適エッチング条件であるICP放電電力400W,バイアス電力25W,圧力7.5mTorr (9.975 Pa) でコンタクトホールをエッチングした場合との,エッチング速度と平面に対する直径0.2μmのエッチング速度の低下率を比較し表3に示した。」 ・【0045】の【表3】には,実施例1である,CF_(3)CF=CF_(2)/CH_(2)F_(2)混合ガス(流量比45%/55%)の「SiO_(2)膜エッチング速度」が,「375nm/min)」,「エッチング速度低下率」が「7%」であること,及び,比較例2の「SiO_(2)膜エッチング速度」が,「319nm/min)」,「エッチング速度低下率」が「17%」であることが示されている。 ・「【0046】 CF_(3)CF=CF_(2)/CH_(2)F_(2)混合ガスの場合はO_(2)を添加しなくても,最適条件でのc-C_(4)F_(8)/CH_(2)F_(2)/O_(2)混合ガスよりもエッチング速度の低下率が小さい。従って,異なった大きさのパターンをほぼ同じエッチング速度でエッチングでき,下地をエッチングする時間が少なくなりダメージの少ない半導体デバイスの製作に好ましく利用できる。」 (ウ)そうすると,上記発明の詳細な説明の記載からは,本願発明の解決しようとする課題が,「地球温暖化の影響が非常に小さいエッチングガスを用いて,ホールあるいはラインなどのサイズが微細であってもエッチング速度が低下せずエッチング速度のパターンサイズ依存性が小さい,エッチストップのない高アスペクト比微細パターンを形成できるドライエッチングガスおよびエッチング方法を提供すること」(【0003】)であって,当該課題を,「CF_(3)CFフラグメントから発生するラジカルは,密度の高い平坦なフルオロカーボンポリマー膜で構成されるエッチング反応層や保護膜を形成し,エッチング物質の反応効率の向上や,レジスト,シリコンなどの下地,および窒化シリコン,炭化シリコンなどのストッパー膜の保護を可能とする。エッチング効率の高いCF_(3)^(+)イオンを,CF_(3)CF由来のラジカルにより形成される平坦で密度の高い膜に入射させることにより,エッチングのバランスをとり,ホールあるいはラインなどのサイズにエッチング速度の依存が小さく,エッチストップのないエッチングを実現する。」(【0039】)という作用機序に基づいて解決しているものと理解できる。 (エ)しかしながら,本願明細書の発明の詳細な説明に,実施例1として記載された,「CF_(3)CF=CF_(2)及びCH_(2)F_(2)のみからなるドライエッチングガスであって,CF_(3)CF=CF_(2)を流量比で45%,CH_(2)F_(2)を流量比で55%のみからなり,酸化シリコン膜を被エッチング部材とし,ICP(Inductive Coupled Plasma)放電電力400W,バイアス電力25W,圧力5mTorr (0.665 Pa) の条件でエッチングする際に使用される,ドライエッチングガス」は,「電子密度」,「電子温度」,「ウェハー温度」及び「チャンバー壁温度」が特定されていないから,当該実施例1に係るドライエッチングガスは,「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃の条件」というエッチング条件を発明特定事項として含む本願の請求項1に係る発明の実施例であるとは認められない。 (オ)すなわち,請求項1には,複数種類のエッチング条件について,それぞれ広範な範囲を含むように特定された発明が記載されているが,発明の詳細な説明には,請求項1において特定される複数種類のエッチング条件のうちの一部のエッチング条件を満たすことのみが明示された実施例が一つ記載されているにすぎない。 (カ)そして,本願のもとの出願の出願時の技術常識に照らしても,請求項1に記載された,「放電電力200?3000W,バイアス電力25?2000W,圧力30mTorr以下,電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃」という各エッチング条件に含まれる広範な範囲の全てにおいてまで,前記「CF_(3)CFフラグメントから発生するラジカルは,密度の高い平坦なフルオロカーボンポリマー膜で構成されるエッチング反応層や保護膜を形成し,エッチング物質の反応効率の向上や,レジスト,シリコンなどの下地,および窒化シリコン,炭化シリコンなどのストッパー膜の保護を可能とする。エッチング効率の高いCF_(3)^(+)イオンを,CF_(3)CF由来のラジカルにより形成される平坦で密度の高い膜に入射させることにより,エッチングのバランスをとり,ホールあるいはラインなどのサイズにエッチング速度の依存が小さく,エッチストップのないエッチングを実現する。」という作用機序に基づいて,前記「ホールあるいはラインなどのサイズが微細であってもエッチング速度が低下せずエッチング速度のパターンサイズ依存性が小さい,エッチストップのない高アスペクト比微細パターンを形成できる」という課題を解決することができるとまでは,発明の詳細な説明において開示された内容を,請求項に記載された発明の範囲まで,拡張ないし一般化できるとは認められない。 すなわち,本願の請求項1に記載された発明は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものと認められる。 (キ)したがって,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるという要件を満たすものとは認められない。 (ク)請求項2に記載された発明も,同様の理由によって,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるという要件を満たすものとは認められない。 イ 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について (ア)発明の詳細な説明には,実施例1として,CF_(3)CF=CF_(2)/CH_(2)F_(2)混合ガス(流量比45%/55%)をエッチングガスとして用いて,「SiO_(2)膜エッチング速度」が,「375nm/min」と速く,「エッチング速度低下率」が「7%」と低いエッチングをすることが記載されているが,当該実施例1の「電子密度」,「電子温度」,「ウェハー温度」及び,「チャンバー壁温度」が特定されていない。 (イ)そして,当業者が請求項1及び請求項2に記載された発明を実施して,本願の発明の詳細な説明に記載された,「ホールあるいはラインなどのサイズが微細であってもエッチング速度が低下せずエッチング速度のパターンサイズ依存性が小さい,エッチストップのない高アスペクト比微細パターンを形成できる」という課題を解決すること,すなわち,例えば,実施例1に記載された,「SiO_(2)膜エッチング速度」が,「375nm/min」であり,「エッチング速度低下率」が「7%」であるような,比較例2に記載される従来の技術によるエッチングよりも優れたエッチングを行うために,請求項1及び請求項2において特定される「電子密度10^(9)?10^(13)cm^(-3),電子温度2?9eV,ウェハー温度-40?100℃,チャンバー壁温度-30?300℃の条件」の範囲内において,各エッチング条件をいかにして最適化すべきか,本願の発明の詳細な説明には,その最適化のための指針が示されておらず,しかも,「エッチング速度」及び「エッチング速度低下率」の値には,「放電電力」,「バイアス電力」,「圧力」,「電子密度」,「電子温度」,「ウェハー温度」,及び,「チャンバー壁温度」のエッチング条件が,互いに関連して影響を及ぼすものといえるから,これらのエッチング条件を最適化して,本願発明の課題が解決された実施例として例示されている「SiO_(2)膜エッチング速度」が,「375nm/min」であり,「エッチング速度低下率」が「7%」である数値と同等の「エッチング速度」及び「エッチング速度低下率」を得るエッチングを実施するには,当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤を行う必要があると認められる。 したがって,本願の発明の詳細な説明の記載は,当業者が請求項1及び2に記載された発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認めることはできない。 (3)小括 以上から,本願の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の記載は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するとはいえない。 さらに,本願の発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 5 むすび 以上のとおり,本願の請求項1及び請求項2に係る発明は,引用例1に記載された発明と引用例2-9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 さらに,本願の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の記載は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合せず,本願の発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-11-08 |
結審通知日 | 2016-11-15 |
審決日 | 2016-11-29 |
出願番号 | 特願2012-173985(P2012-173985) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01L)
P 1 8・ 574- WZ (H01L) P 1 8・ 575- WZ (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 宮崎 園子 |
特許庁審判長 |
河口 雅英 |
特許庁審判官 |
鈴木 匡明 加藤 浩一 |
発明の名称 | ドライエッチングガスおよびドライエッチング方法 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |