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審決分類 |
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) G02B 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 G02B 審判 全部申し立て 6項4号請求の範囲の記載形式不備 G02B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G02B 審判 全部申し立て 2項進歩性 G02B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G02B |
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管理番号 | 1324849 |
異議申立番号 | 異議2016-700465 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-05-23 |
確定日 | 2017-01-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5822006号発明「光学フィルム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5822006号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲及び図面のとおり,訂正後の請求項〔1ないし16〕について訂正することを認める。 特許第5822006号の請求項1,4ないし16に係る特許を維持する。 特許第5822006号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5822006号(請求項の数16。以下,「本件特許」という。)に係る特許出願は,平成26年8月7日(優先権主張 平成25年8月9日,平成25年9月10日,平成26年1月31日)に出願され,平成27年10月16日に特許権の設定登録がされたものである。 これに対し,平成28年5月23日に特許異議申立人藤江桂子により請求項1ないし16に係る特許について本件特許異議の申立てがされ,同年7月13日付けで特許権者に取消理由が通知され,特許権者により同年9月20日に意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下,当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がされ,同年11月30日に異議申立人より意見書が提出された。 第2 本件訂正の適否についての判断 1 本件訂正の内容 (1)訂正前後の記載 本件訂正請求は,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし16について訂正することを求めるものであるところ,一群の請求項〔1ないし16〕ごとに請求するものであるから,特許法120条の5第4項の規定に適合して請求されたものである。 しかるに,本件訂正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。) ア 本件訂正前の特許請求の範囲 「【請求項1】 少なくとも2つの位相差層を有し,第一の位相差層と第二の位相差層とを有する位相差フィルムであって, 第一の位相差層が, 式(4),(6)及び式(7)で表される光学特性を有する層Aと, 式(5),(6)及び式(7)で表される光学特性を有する層Bと,を有し, 100nm<Re(550)<160nm (4) 200nm<Re(550)<320nm (5) Re(450)/Re(550)≧1.00 (6) 1.00≧Re(650)/Re(550) (7) 第二の位相差層が式(3)で表される光学特性を有し, 該位相差フィルムが式(30),(31),(1)及び(2)で表される光学特性を有する位相差フィルム。 -2.0≦ a* ≦0.5 (30) -0.5≦ b* ≦5.0 (31) Re(450)/Re(550)≦1.00 (1) 1.00≦Re(650)/Re(550) (2) nx≒ny<nz (3) (式中,a*及びb*は,L*a*b*表色系における色座標を表す。Re(450)は波長450nmにおける面内位相差値を表し,Re(550)は波長550nmにおける面内位相差値を表し,Re(650)は波長650nmにおける面内位相差値を表す。nxは,位相差層が形成する屈折率楕円体において,フィルム平面に対して平行な方向の主屈折率を表す。nyは,位相差層が形成する屈折率楕円体において,フィルム平面に対して平行であり,且つ,該nxの方向に対して直交する方向の屈折率を表す。nzは,位相差層が形成する屈折率楕円体において,フィルム平面に対して垂直な方向の屈折率を表す。) 【請求項2】 層Aが1以上の重合性液晶を重合させることにより形成されるコーティング層である請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項3】 層Bが1以上の重合性液晶を重合させることにより形成されるコーティング層である請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項4】 層Aの厚さが5μm以下である請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項5】 層Bの厚さが5μm以下である請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項6】 層A及び層Bの厚さがそれぞれ5μm以下である請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項7】 基材上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され,該層Aの上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され,該層Bの上に,配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項8】 基材上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され,該層Bの上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され,該層Aの上に,配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項9】 基材上に,配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成され,該第二の位相差層の上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され,該層Aの上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項10】 基材上に,配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成され,該第二の位相差層の上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され,該層Bの上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項11】 基材の一方の面に,配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され,該層Aの上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され,基材の他方の面に,配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項12】 基材の一方の面に,配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され,該層Bの上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され,基材の他方の面に,配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項13】 層Aと,層Bとの間に保護層を有する請求項7?12のいずれかに記載の位相差フィルム。 【請求項14】 請求項1?13のいずれかに記載の位相差フィルムと偏光板とを備える円偏光板。 【請求項15】 請求項14に記載の円偏光板を備える有機EL表示装置。 【請求項16】 請求項14に記載の円偏光板を備えるタッチパネル表示装置。」 イ 本件訂正後の特許請求の範囲 「【請求項1】 少なくとも2つの位相差層を有し,第一の位相差層と第二の位相差層とを有する位相差フィルムであって, 第一の位相差層が, 式(4),(6)及び式(7)で表される光学特性を有する層Aと, 式(5),(6)及び式(7)で表される光学特性を有する層Bと,を有し, 100nm<Re(550)<160nm (4) 200nm<Re(550)<320nm (5) Re(450)/Re(550)≧1.00 (6) 1.00≧Re(650)/Re(550) (7) 第二の位相差層が式(3)で表される光学特性を有し, 該位相差フィルムが式(30),(31),(1)及び(2)で表される光学特性を有し, -1.5≦ a* ≦0.5 (30) 0.0≦ b* ≦3.0 (31) Re(450)/Re(550)≦1.00 (1) 1.00≦Re(650)/Re(550) (2) nx≒ny<nz (3) (式中,a*及びb*は,L*a*b*表色系における色座標を表す。Re(450)は波長450nmにおける面内位相差値を表し,Re(550)は波長550nmにおける面内位相差値を表し,Re(650)は波長650nmにおける面内位相差値を表す。nxは,位相差層が形成する屈折率楕円体において,フィルム平面に対して平行な方向の主屈折率を表す。nyは,位相差層が形成する屈折率楕円体において,フィルム平面に対して平行であり,且つ,該nxの方向に対して直交する方向の屈折率を表す。nzは,位相差層が形成する屈折率楕円体において,フィルム平面に対して垂直な方向の屈折率を表す。) 前記層A,前記層Bおよび前記第二の位相差層が,それぞれ,1以上の重合性液晶の重合体から形成されたコーティング層であり, 前記重合性液晶が,それぞれ下記式(X)で表される基を含む重合性液晶である位相差フィルム。 P11-B11-E11-B12-A11-B13- (X) [式(X)中,P11は,下記式(P-11)?(P-15): 〔式(P-11)?(P-15)中,R^(17)?R^(21)はそれぞれ独立に,炭素数1?6のアルキル基または水素原子を表す〕 のいずれかで表される重合性基を表す。 A11は,2価の脂環式炭化水素基または2価の芳香族炭化水素基を表す。該2価の脂環式炭化水素基および2価の芳香族炭化水素基に含まれる水素原子は,ハロゲン原子,炭素数1?6のアルキル基,炭素数1?6アルコキシ基,シアノ基またはニトロ基で置換されていてもよく,該炭素数1?6のアルキル基および該炭素数1?6アルコキシ基に含まれる水素原子は,フッ素原子で置換されていてもよい。 B11は,-O-,-S-,-CO-O-,-O-CO-,-O-CO-O-,-CO-NR^(16)-,-NR^(16)-CO-,-CO-,-CS-または単結合を表わす。R^(16)は,水素原子または炭素数1?6のアルキル基を表わす。 B12およびB13は,それぞれ独立に,-C≡C-,-CH=CH-,-CH_(2)-CH_(2)-,-O-,-S-,-C(=O)-,-C(=O)-O-,-O-C(=O)-,-O-C(=O)-O-,-CH=N-,-N=CH-,-N=N-,-C(=O)-NR^(16)-,-NR^(16)-C(=O)-,-OCH_(2)-,-OCF_(2)-,-CH_(2)O-,-CF_(2)O-,-CH=CH-C(=O)-O-,-O-C(=O)-CH=CH-または単結合を表わす。 E11は,炭素数1?12のアルカンジイル基を表わし,該アルカンジイル基に含まれる水素原子は,炭素数1?5のアルコキシ基で置換されていてもよく,該アルコキシ基に含まれる水素原子は,ハロゲン原子で置換されていてもよい。また,該アルカンジイル基を構成する-CH_(2)-は,-O-または-CO-に置き換わっていてもよい。] 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 層Aの厚さが5μm以下である請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項5】 層Bの厚さが5μm以下である請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項6】 層A及び層Bの厚さがそれぞれ5μm以下である請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項7】 基材上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され,該層Aの上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され,該層Bの上に,配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項8】 基材上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され,該層Bの上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され,該層Aの上に,配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項9】 基材上に,配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成され,該第二の位相差層の上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され,該層Aの上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項10】 基材上に,配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成され,該第二の位相差層の上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され,該層Bの上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項11】 基材の一方の面に,配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され,該層Aの上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され,基材の他方の面に,配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項12】 基材の一方の面に,配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され,該層Bの上に,配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され,基材の他方の面に,配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項13】 層Aと,層Bとの間に保護層を有する請求項7?12のいずれかに記載の位相差フィルム。 【請求項14】 請求項1および4?13のいずれかに記載の位相差フィルムと偏光板とを備える円偏光板。 【請求項15】 請求項14に記載の円偏光板を備える有機EL表示装置。 【請求項16】 請求項14に記載の円偏光板を備えるタッチパネル表示装置。」 (2)訂正事項 本件訂正は,次の訂正事項からなる。 ア 訂正事項1 請求項1に「光学特性を有する位相差フィルム。」とあるのを,「光学特性を有し,」に訂正するとともに,請求項1の末尾に「前記層A,前記層Bおよび前記第二の位相差層が,それぞれ,1以上の重合性液晶の重合体から形成されたコーティング層であり,前記重合性液晶が,それぞれ下記式(X)で表される基を含む重合性液晶である位相差フィルム。」という記載,及び式(X)並びにその定義を追加する訂正を行う。 イ 訂正事項2 請求項1に記載された「式(30)」におけるa*の下限を「-2.0」から「-1.5」に訂正するとともに,請求項1に記載された「式(31)」におけるb*の下限及び上限を「-0.5」及び「5.0」から「0.0」及び「3.0」に訂正する。 ウ 訂正事項3 請求項2及び3を削除するとともに,請求項14が引用する請求項を「請求項1?13」から「請求項1及び4?13」に訂正する。 2 訂正の目的の適否について 訂正事項1は,層A,層B及び第二の位相差層について,その材質等が訂正前には特段規定されていなかったものを,式(X)で表される基を含む1以上の重合性液晶の重合体から形成されたコーティング層に限定する訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また,訂正事項2は,a*及びb*の数値範囲を,訂正前の数値範囲内のより狭い数値範囲に限定する訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また,訂正事項3は,請求項2及び3を削除するとともに,請求項14が引用する請求項を当該削除に整合させる訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 したがって,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる事項を目的とするものである。 3 新規事項の追加の有無について 訂正事項1における限定事項のうち,層A,層B及び第二の位相差層が,「1以上の重合性液晶の重合体から形成されたコーティング層」である点は,本件訂正前の願書に添付された特許請求の範囲(特許された時点での特許請求の範囲である。以下,本件訂正前の願書に添付された特許請求の範囲,明細書及び図面を総称して,「特許明細書等」という。)の請求項2及び3,特許明細書等の発明の詳細な説明の【0078】に記載されており,訂正事項1における限定事項のうちの残余の,重合性液晶が「式(X)で表される基を含む」点は,特許明細書等の発明の詳細な説明の【0011】ないし【0013】,【0015】,【0019】,【0023】,【0026】,【0030】,【0033】,【0073】,【0078】等に記載されているから,当該訂正事項1は,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 また,訂正事項2における限定事項は,特許明細書等の発明の詳細な説明の【0009】に記載されているから,当該当該訂正事項2は,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 また,訂正事項3は,請求項2及び3を単に削除する訂正であって,当該訂正事項3が,特許明細書等の記載のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものでないことは明らかであるから,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 したがって,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。 4 特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否について 訂正事項1ないし3が,いずれも,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかであるから,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。 5 小括 前記2ないし4のとおりであって,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1ないし16〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件特許の請求項1,4ないし16に係る発明 前記第2 5で述べたとおり,本件訂正は適法になされたものであるから,本件特許の請求項1,4ないし16に係る発明(以下,それぞれを「本件特許発明1」,「本件特許発明4」ないし「本件特許発明16」という。)は,それぞれ,前記第2 1(2)において,本件訂正後の特許請求の範囲として示した請求項1,4ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。 2 平成28年7月13日付けで通知された取消理由の概要 本件訂正前の請求項1ないし16に係る特許に対して平成28年7月13日付けで通知された取消理由は,概略次のとおりである。なお,取消理由1及び2で引用された甲第1号証及び甲第4号証は,それぞれ特開2005-70098号公報及び特開2006-215221号公報である。 (1)取消理由1 本件特許の請求項1,9,10,13ないし16に係る発明は,甲第1号証に記載された発明と同一であるか,又は当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条1項又は2項の規定に違反してされたものであって,同法113条2号に該当する。 (2)取消理由2 本件特許の請求項1ないし16に係る発明は,甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであって,同法113条2号に該当する。 (3)取消理由3 本件特許の請求項1ないし16に係る特許は,次のアないしウの点で,特許法36条4項1号,6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって,同法113条4号に該当する。 ア 明確性要件違反 本件特許の請求項1に記載された,位相差フィルムが,「-2.0≦ a* ≦0.5」(式(30))及び「-0.5≦ b* ≦5.0」(式(31))で表される光学特性を有するという発明特定事項については,光学フィルムに期待される光学特性を述べるだけのものであり,特許明細書等の発明の詳細な説明を参酌してもどのような材料や条件を用いれば当該光学特性が達成されるのかが記載されていないから,当該発明特定事項が記載された請求項1や当該請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2ないし16は,一の請求項から発明が把握されることが必要である,という特許請求の範囲の機能を担保しているといえない。 したがって,本件特許の請求項1ないし16に係る発明は明確でない。 イ 実施可能要件違反 前記アで述べた発明特定事項について,特許明細書等の発明の詳細な説明には,【0296】の表2に記載された特定材料を特定の割合で調整し,【0297】ないし【0299】に記載された特定条件の下で光学フィルムを製造したことのみ記載されており,当業者が上記特定されたもの以外のどのような材料を用いてどのような条件で製造したときに前記発明特定事項の光学特性が得られるのかが開示されていないため,当該光学特性を満足するか否か判断するに際し,当業者に過度な試行錯誤を強いることになる。 したがって,特許明細書等の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許の請求項1ないし16に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。 ウ サポート要件違反 前記アで述べた発明特定事項について,特許明細書等の発明の詳細な説明には,【0296】の表2に記載された特定材料を特定の割合で調整し,【0297】ないし【0299】に記載された特定条件の下で光学フィルムを製造したことのみ記載されており,また,請求項1に対応する実施例は【304】の表2の光学フィルム(2)のみであって,a*=-1.2,b*=1.8の1点のみの色度値が記載されているにすぎず,出願時の技術常識に照らしても,請求項1ないし16に係る発明の範囲まで,特許明細書等の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 したがって,本件特許の請求項1ないし16に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。 3 引用例 (1)甲第1号証 ア 甲第1号証の記載 甲第1号証(特開2005-70098号公報。以下,「甲1」という。)は,本件特許の優先権主張の日のうちの最先の日である平成25年8月9日(以下,「本件特許の優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲1には次の記載がある。(下線部は,後述する「引用発明」の認定に特に関連する箇所を示す。) (ア) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも,ホメオトロピック配向液晶層(1)と, フィルム面内の屈折率が最大となる方向をX軸,X軸に垂直な方向をY軸,フィルムの厚さ方向をZ軸とし,それぞれの軸方向の屈折率をnx_(2) ,ny_(2) ,nz_(2) とした場合に,nx_(2) >ny_(2) ≒nz_(2) ,を満足する光学フィルム(2)とが積層されていることを特徴とする積層光学フィルム。 【請求項2】 光学フィルム(2)が,ノルボルネン骨格を有するポリマーから形成されたフィルムであることを特徴とする請求項1記載の積層光学フィルム。 【請求項3】 ホメオトロピック配向液晶層(1)が,面内の屈折率が最大となる方向をX軸,X軸に垂直な方向をY軸,厚さ方向をZ軸とし,それぞれの軸方向の屈折率をnx_(1) ,ny_(1) ,nz_(1) とした場合に, 厚み方向の位相差:{((nx_(1) +ny_(1) )/2)-nz_(1) }×d(厚さ:nm)が,-10nm?-500nmであることを特徴とする請求項1または2記載の積層光学フィルム。 ・・・(中略)・・・ 【請求項5】 光学フィルム(2)が,2枚以上積層されていることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の積層光学フィルム。 ・・・(中略)・・・ 【請求項7】 2枚以上積層されている光学フィルム(2)は,λ/4板とλ/2板を積層したものであることを特徴とする請求項5または6記載の積層光学フィルム。」 (イ) 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,積層光学フィルムに関する。本発明の積層光学フィルムは,単独でまたは他の光学フィルムと組み合わせて,位相差板,視角補償フィルム,光学補償フィルム,楕円偏光板,輝度向上フィルム等の各種光学フィルムとして使用できる。特に,本発明の積層光学フィルムは,偏光板と積層して楕円偏光板として用いる場合に有用である。また本発明は前記積層光学フィルム,楕円偏光板等を用いた液晶表示装置,有機EL(エレクトロルミネセンス)表示装置,PDP等の画像表示装置に関する。本発明の積層光学フィルム,楕円偏光板は,上記の通り,各種液晶表示装置等に適用できるが,特に携帯型情報通信機器,パーソナルコンピュータなどに実装され得る反射半透過型液晶表示装置等に特に好適に利用される。 【0002】 【従来の技術】 従来より,反射半透過型液晶表示装置等には,広帯域の波長領域を有する入射光(可視光領域)に対してλ/4板やλ/2板として機能する広帯域位相差板が好適に利用されている。かかる広帯域位相差板としては,複数の光学異方性を有するポリマーフィルムを光軸を交差させて積層してなる積層フィルムが提案されている。これら積層フィルムでは2層または複数枚の延伸フィルムの光軸を交差させて広帯域化を実現している・・・(中略)・・・ 【0003】 しかしながら,前述の特許文献1乃至3に記載の広帯域位相差板を用いた場合であっても,表示装置の画面の法線方向に対して上下左右の斜め方向から画像を見た場合には,一表示画面の色見が変化したり,白画像と黒画像が反転したりする諧調反転する欠点を有している。 ・・・(中略)・・・ 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は,画像表示装置の画面の法線方向に対して上下左右の斜め方向から画像を見た場合にも,表示画像の色味変化が抑制されており諧調反転領域の少ない画像を表示することができる積層光学フィルムを提供することを目的とする。 ・・・(中略)・・・ 【0007】 【課題を解消するための手段】 本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果,以下に示す積層光学フィルム等により,前記目的を達成できることを見出し本発明を完成するに至った。 【0008】 すなわち本発明は,少なくとも,ホメオトロピック配向液晶層(1)と, フィルム面内の屈折率が最大となる方向をX軸,X軸に垂直な方向をY軸,フィルムの厚さ方向をZ軸とし,それぞれの軸方向の屈折率をnx_(2) ,ny_(2) ,nz_(2) とした場合に,nx_(2) >ny_(2) ≒nz_(2) ,を満足する光学フィルム(2)とが積層されていることを特徴とする積層光学フィルム,に関する。 【0009】 上記本発明の積層光学フィルムは,ホメオトロピック配向液晶層(1)によって厚み方向の位相差も制御が可能であり,斜めから見たときの色見の変化を抑制することができる。上記本発明の積層光学フィルムは,広視野角を補償する位相差板として有用である。当該積層光学フィルムを適用した液晶表示装置などの画像表示装置は広視野角化を実現でき,かつ表示画面を斜めから見た場合にも表示画像の色味変化が抑制されており諧調反転領域の少ない画像を表示することができる。本発明の積層光学フィルムは,位相差板として要求される広帯域も満足できる。 【0010】 前記積層光学フィルムにおいて,光学フィルム(2)としては,ノルボルネン骨格を有するポリマーから形成されたフィルムを用いるがの好ましい。ノルボルネン骨格を有するポリマーから形成されたフィルムは,高温,高温高湿条件下での耐久性に優れるなどの点から好ましい。 【0011】 前記積層光学フィルムにおいて,ホメオトロピック配向液晶層(1)が,面内の屈折率が最大となる方向をX軸,X軸に垂直な方向をY軸,厚さ方向をZ軸とし,それぞれの軸方向の屈折率をnx_(1) ,ny_(1) ,nz_(1) とした場合に, 厚み方向の位相差:{((nx_(1) +ny_(1) )/2)-nz_(1) }×d(厚さ:nm)が,-10nm?-500nmであることが好ましい。 【0012】 斜めから見たときの色見の変化を抑制するには,前記ホメオトロピック配向液晶層(1)の厚み方向の位相差は,-10nm?-500nmであることが好ましく,-30nm?-300nmであるのがより好ましい。さらには-50nm?-200nmが好ましい。 ・・・(中略)・・・ 【0014】 前記積層光学フィルムにおいて,光学フィルム(2)は2枚以上積層することができる。光学フィルム(2)は,2枚以上積層する場合には,ホメオトロピック配向液晶層(1)を,2枚以上積層されている光学フィルム(2)の間に位置するように積層するのが好ましい。前記のように光学フィルム(2)を2枚以上積層し,また前記配置で積層した場合には,より視野角が広がり好ましい。 【0015】 また,2枚以上積層されている光学フィルム(2)は,λ/4板とλ/2板を積層することができる。光学フィルム(2)は,λ/4板やλ/2板を2枚以上積層することにより,全体としてλ/4板として機能させることができる。」 (ウ) 「【0018】 【発明の実施の形態】 以下に本発明の積層光学フィルムおよび楕円偏光板を図1乃至図6を参照しながら説明する。いずれの図面も積層光学フィルムと偏光板(P)を積層した楕円偏光板として示されている。 ・・・(中略)・・・ 【0021】 図1乃至図2では,光学フィルム(2)を1枚用いた場合を例示したが,本発明の積層光学フィルムでは,光学フィルム(2)を2枚以上用いることができる。この場合,積層した2枚以上の光学フィルムは,全体としてλ/4板として機能するように,用いる光学フィルム(2)の波長特性に応じて,それら光軸の積層角度を変えて配置する。図3乃至図5は,光学フィルム(2)として,λ/4板(2(1))とλ/2板(2(2))が積層されている場合を例示している。光学フィルム(2)を2枚積層する場合には,図3に示すように,2枚の光学フィルム(2)の間にホメオトロピック配向液晶層(1)を配置するのが,広視野角の点から好ましい。一方,図4,図5に示すように,2枚の光学フィルム(2)を順に積層することができる。 ・・・(中略)・・・ 【0023】 なお,図1乃至図5において,ホメオトロピック配向液晶層(1),光学フィルム(2),偏光板(P)は粘着剤層(a)を介して積層されている。粘着剤層(a)は1層でもよく,また2層以上の重畳形態とすることができる。」 (エ) 「【0024】 ホメオトロピック配向液晶層(1)は,液晶材料を,たとえば,垂直配向剤により配向させることにより得られる。・・・(中略)・・・ 【0025】 またホメオトロピック配向液晶層(1)の液晶材料としては,たとえば,正の屈折率異方性を有する,液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(a)と非液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(b)を含有する側鎖型液晶ポリマーにより形成することができる。前記側鎖型液晶ポリマーは,垂直配向膜を用いなくても,液晶ポリマーのホメオトロピック配向を実現することができる。 【0026】 前記モノマーユニット(a)はネマチック液晶性を有する側鎖を有するものであり,たとえば,一般式(a): 【化1】 (ただし,R^(1) は水素原子またはメチル基を,aは1?6の正の整数を,X^(1) は-CO_(2) -基または-OCO-基を,R^(2) はシアノ基,炭素数1?6のアルコキシ基,フルオロ基または炭素数1?6のアルキル基を,bおよびcは1または2の整数を示す。)で表されるモノマーユニットがあげられる。 【0027】 またモノマーユニット(b)は,直鎖状側鎖を有するものであり,たとえば,一般式(b): 【化2】 (ただし,R^(3) は水素原子またはメチル基を,R^(4) は炭素数1?22のアルキル基,炭素数1?22のフルオロアルキル基・・・(中略)・・・)で表されるモノマーユニットがあげられる。 ・・・(中略)・・・ 【0035】 前記側鎖型液晶ポリマーには,光重合性液晶化合物を配合して液晶性組成物として用いることができる。光重合性液晶化合物は,光重合性官能基として,たとえば,アクリロイル基またはメタクリロイル基等の不飽和二重結合を少なくとも1つ有する液晶性化合物であり,ネマチック液晶性のものが賞用される。かかる光重合性液晶化合物としては,前記モノマーユニット(a)となるアクリレートやメタクリレートを例示できる。光重合性液晶化合物として,耐久性を向上させるには,光重合性官能基を2つ以上有するものが好ましい。・・・(中略)・・・ 【0036】 上記光重合性液晶化合物は,熱処理により液晶状態として,たとえば,ネマチック液晶層を発現させて側鎖型液晶ポリマーとともにホメオトロピック配向させることができ,その後に光重合性液晶化合物を重合または架橋させることによりホメオトロピック配向液晶フィルムの耐久性を向上させることができる。 ・・・(中略)・・・ 【0038】 前記液晶性組成物中には,通常,光重合開始剤を含有する。光重合開始剤は各種のものを特に制限なく使用できる。光重合開始剤としては,たとえば,チバスペシャルティケミカルズ社製のイルガキュア(Irgacure)907,同184,同651,同369などを例示できる。光重合開始剤の添加量は,光重合液晶化合物の種類,液晶性組成物の配合比等を考慮して,液晶性組成物のホメオトロピック配向性を乱さない程度に加えられる。通常,光重合性液晶化合物100重量部に対して,0.5?30重量部程度が好ましい。特に3重量部以上が好ましい。 【0039】 ホメオトロピック配向液晶層(1)の作製は,・・・(中略)・・・前記側鎖型液晶ポリマーと光重合性液晶化合物を含有してなるホメオトロピック配向液晶性組成物を用いる場合には,これを基板に塗工後,次いで当該液晶性組成物を液晶状態においてホメオトロピック配向させ,その配向状態を維持した状態で光照射することにより行う。 【0040】 前記・・・(中略)・・・液晶性組成物を塗工する基板は,ガラス基板,金属箔,プラスチックシートまたはプラスチックフィルムのいずれの形状でもよい。プラスチックフィルムは配向させる温度で変化しないものであれば特に制限はなく,たとえば,ポリエチレンテレフタレート・・・(中略)・・・等の透明ポリマーからなるフィルムがあげられる。基板上に垂直配向膜は設けられていなくてもよい。基板の厚さは,通常,10?1000μm程度である。 ・・・(中略)・・・ 【0043】 次いで,支持基板上に形成された側鎖型液晶ポリマー層または液晶性組成物層を液晶状態とし,ホメオトロピック配向させる。たとえば,側鎖型液晶ポリマーまたは液晶性組成物が液晶温度範囲になるように熱処理を行い,液晶状態においてホメオトロピック配向させる。・・・(中略)・・・ 【0044】 熱処理終了後,冷却操作を行う。・・・(中略)・・・前記側鎖型液晶ポリマーのホメオトロピック配向層は,側鎖型液晶ポリマーのガラス転移温度以下に冷却することにより配向が固定化される。 【0045】 液晶性組成物の場合には,このように固定化されたホメオトロピック液晶配向層に対して,光照射を行い光重合性液晶化合物を重合または架橋させて光重合性液晶化合物を固定化して,耐久性を向上したホメオトロピック配向液晶層を得る。光照射は,たとえば,紫外線照射により行う。紫外線照射条件は,十分に反応を促進するために,不活性気体雰囲気中とすることが好ましい。・・・(中略)・・・ 【0046】 ・・・(中略)・・・ホメオトロピック配向液晶層(1)は,基板から剥離して,または剥離することなく用いることができる。」 (オ) 「【0047】 光学フィルム(2)は,フィルム面内の屈折率が最大となる方向をX軸,X軸に垂直な方向をY軸,フィルムの厚さ方向をZ軸とし,それぞれの軸方向の屈折率をnx_(2) ,ny_(2) ,nz_(2) とした場合に,nx_(2) >ny_(2) ≒nz_(2) ,を満足するものを用いる。すなわち,三次元屈折率楕円体において一方向の主軸の屈折率が他の2方向の屈折率よりも大きい,光学的に正の一軸性を示す材料が用いられる。 【0048】 光学フィルム(2)は,たとえば,高分子ポリマーフィルムを,面方向に一軸または二軸延伸処理することにより得られる。光学フィルム(2)を形成する高分子ポリマーとしては・・・(中略)・・・ノルボルネン系ポリマーが好適である。 【0049】 また,棒状ネマチック液晶性化合物を利用することもできる。・・・(中略)・・・ 【0052】 光学フィルム(2)として,λ/4板,λ/2板を用いる場合には,正面位相差が,それぞれ所定位相差になるように適宜に調整されたものが用いられる。」 (カ) 「【0081】 可視光域等の広い波長範囲で1/4波長板として機能する位相差板は,例えば波長550nmの淡色光に対して1/4波長板として機能する位相差層と他の位相差特性を示す位相差層,例えば1/2波長板として機能する位相差層とを重畳する方式などにより得ることができる。従って,偏光板と輝度向上フィルムの間に配置する位相差板は,1層又は2層以上の位相差層からなるものであってよい。」 (キ) 「【0094】 【実施例】 以下に実施例をあげて本発明の一態様について説明するが,本発明は実施例に限定されないことはいうまでもない。 【0095】 なお,各光学フィルムの屈折率,位相差の測定は,フィルム面内と厚さ方向の主屈折率nx,ny,nzを自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製,自動複屈折計KOBRA21ADH)により,λ=590nmにおける特性を測定した。 【0096】 (ホメオトロピック配向液晶層(1)) 【化6】 上記の化6(式中の数字はモノマーユニットのモル%を示し,便宜的にブロック体で表示している,重量平均分子量5000)に示される側鎖型液晶ポリマー5重量部,ネマチック液晶相を示す重合性液晶(Paliocolor LC242,BASF製)20重量部および光開始剤(イルガキュア907,チバスペシャルティケミカルズ社製)を前記重合性液晶に対して3重量部を,シクロへキサノン75重量部に溶解した溶液を調製した。そして,当該溶液を,レシチンを塗布したポリエチレンテレフタレート基材にバーコーターにて塗布し,100℃で10分間,乾燥配向させた後,メタルハライドランプにて1mJ/cm^(2) の光を照射し,厚さ約0.7μmのホメオトロピック配向液晶層を得た。ホメオトロピック配向液晶層の厚み方向位相差は,-70nmであった。 【0097】 (光学フィルム(2)) 厚さ100μmのノルボルネン系無延伸フィルム(JSR株式会社製,製品名アートン)を,170℃で1.3倍に一軸延伸した。得られた延伸フィルムは,厚さ:80μm,正面位相差:140nm,厚み方向の位相差:140nmであった。この延伸フィルムを光学フィルム(2(1))とした。 【0098】 また,厚さ100μmのノルボルネン系無延伸フィルム(JSR株式会社製,製品名アートン)を,170℃で1.6倍に一軸延伸した。得られた延伸フィルムは,厚さ:70μm,正面位相差:280nm,厚み方向の位相差:280nmであった。この延伸フィルムを光学フィルム(2(2))とした。 【0099】 実施例1 (積層光学フィルム) 上記で得られたホメオトロピック配向液晶フィルム(1)と,光学フィルム(2(1))および光学フィルム(2(2))とを,図3に示すように,粘着剤層(アクリル系粘着剤,厚さ30μm)を介しに積層して積層光学フィルムを得た。なお,貼り合わせは,光学フィルム(2(1))および光学フィルム(2(2))板の遅相軸が75°に交差するように行った。 ・・・(中略)・・・ 【0101】 実施例2 実施例1において,フィルムの積層順を図4に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして,積層光学フィルムおよび楕円偏光板を得た。 【0102】 実施例3 実施例1において,フィルムの積層順を図5に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして,積層光学フィルムおよび楕円偏光板を得た。」 (ク) 「【0108】 ・・・(中略)・・・ 【図面の簡単な説明】 ・・・(中略)・・・ 【図3】本発明の楕円偏光板の断面図の一態様である。 【図4】本発明の楕円偏光板の断面図の一態様である。 【図5】本発明の楕円偏光板の断面図の一態様である。 ・・・(中略)・・・ 【図3】 【図4】 【図5】 」 イ 甲1に記載された発明 前記ア(ア)ないし(ク)の記載から,甲1には,実施例1ないし3に対応する発明として,次の発明が記載されていると認められる。 なお,甲1の【0046】には「ホメオトロピック配向液晶層(1)は,基板から剥離して,または剥離することなく用いることができる。」と記載されているところ,【0099】に記載された「ホメオトロピック配向液晶フィルム(1)」が,【0096】に記載された方法により得られる積層体から剥離することにより得られる「ホメオトロピック配向液晶層」単独のフィルムであるのか,それとも「ポリエチレンテレフタレート基材」と「ホメオトロピック配向液晶層」からなる積層体であるのかについて,甲1には明記がないから,「ホメオトロピック配向液晶フィルム(1)」については,前記のうちのいずれかである旨の表現をした。 「下記式(1)に示される重量平均分子量5000の側鎖型液晶ポリマー5重量部,ネマチック液晶相を示す重合性液晶であるPaliocolor LC242(BASF製)20重量部,及び光開始剤であるイルガキュア907(チバスペシャルティケミカルズ社製)3重量部を,シクロへキサノン75重量部に溶解した溶液を,レシチンを塗布したポリエチレンテレフタレート基材に塗布し,乾燥配向させた後,光を照射することで前記Paliocolor LC242を重合又は架橋させて固定化することによって,厚さが約0.7μmで厚み方向位相差が-70nmのホメオトロピック配向液晶層を形成し,前記ポリエチレンテレフタレート基材から当該ホメオトロピック配向液晶層を剥離して得られる前記ホメオトロピック配向液晶層からなるホメオトロピック配向液晶フィルム(1),又は剥離しないで得られる前記ポリエチレンテレフタレート基材と前記ホメオトロピック配向液晶層からなるホメオトロピック配向液晶フィルム(1)と, 厚さ100μmのノルボルネン系無延伸フィルムであるアートン(JSR株式会社製)を,170℃で1.3倍に一軸延伸して得られる,厚さが80μmで正面位相差が140nmで厚み方向の位相差が140nmの光学フィルム(2(1))と, 厚さ100μmのノルボルネン系無延伸フィルムであるアートン(JSR株式会社製)を,170℃で1.6倍に一軸延伸して得られる,厚さが70μmで正面位相差が280nmで厚み方向の位相差が280nmの光学フィルム(2(2))とを, アクリル系粘着剤からなる厚さ30μmの粘着剤層を介して積層して得られ,前記光学フィルム(2(1))と前記光学フィルム(2(2))の遅相軸が75°に交差している, 積層光学フィルム。 [側鎖型液晶ポリマーを示す式(1)] (式(1)中の数字はモノマーユニットのモル%を示す。) 」(以下,「引用発明」という。) (2)甲第4号証 ア 甲第4号証の記載 甲第4号証(特開2006-215221号公報。以下,「甲4」という。)は,本件特許の優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲4には次の記載がある。(下線部は,後述する「甲4記載事項」の認定に特に関連する箇所を示す。) (ア) 「【技術分野】 【0001】 本発明は,偏光子,ポジティブAプレートおよびポジティブCプレートを備える偏光素子に関する。また本発明は,上記偏光素子を備える液晶パネル,液晶テレビおよび液晶表示装置に関する。」 (イ) 「【0028】 《C.ポジティブAプレート》 本明細書において,ポジティブAプレートとは,面内の主屈折率をnx(遅相軸方向の屈折率),ny(進相軸方向の屈折率)とし,厚み方向の屈折率をnzとしたとき,屈折率分布がnx>ny=nzを満足する正の一軸性を示す光学素子(理想的には,正の一軸性を示す光学素子は,面内の一方向に光学軸を有する)をいう。なお,本明細書において,ny=nzとは,nyとnzが完全に同一である場合だけでなく,nyとnzとが実質的に同一である場合も包含する。ここで,「nyとnzとが実質的に同一である場合」とは,例えば,面内の位相差値(Re[590])と,厚み方向の位相差値(Rth[590])との差の絶対値:|Rth[590]-Re[590]|が10nm以下であるものを包含する。 【0029】 《C-1.ポジティブAプレートの光学特性》 本明細書において,Re[590]とは,23℃における波長590nmの光で測定した面内の位相差値をいう。Re[590]は,波長590nmにおける面内の遅相軸方向,進相軸方向の屈折率をそれぞれ,nx,nyとし,d(nm)を光学素子(又は位相差フィルム)の厚みとしたとき,式:Re[590]=(nx-ny)×dによって求めることができる。なお,遅相軸とは面内の屈折率の最大となる方向をいう。 ・・・(中略)・・・ 【0031】 本明細書において,Rth[590]とは,23℃における波長590nmの光で測定した厚み方向の位相差値をいう。Rth[590]は,波長590nmにおける光学素子(又はフィルム)の遅相軸方向,厚み方向の屈折率をそれぞれnx,nzとし,d(nm)を光学素子(又は位相差フィルム)の厚みとしたとき,式:Rth[590]=(nx-nz)×dによって求めることができる。なお,遅相軸とは,面内の屈折率の最大となる方向をいう。 ・・・(中略)・・・ 【0039】 《C-3.ポジティブAプレートの構成》 ・・・(中略)・・・好ましくは,ポジティブAプレートは,単独のホモジニアス配列に配向させた液晶性組成物の固化層または硬化層からなる位相差フィルムである。・・・(中略)・・・ 【0042】 《C-4.ポジティブAプレートに用いられる位相差フィルム》 ・・・(中略)・・・本明細書において,「ホモジニアス配列」とは,液晶性組成物に含まれる液晶化合物がフィルム平面に対して平行に,かつ同一方位に配列している状態をいう。また,「固化層」とは,軟化,溶融または溶液状態の液晶性組成物が冷却されて,固まった状態のものをいう。「硬化層」とは,上記液晶性組成物の一部または全部が,熱,触媒,光および/または放射線により架橋されて,不溶不融または難溶難融の安定した状態となったものをいう。なお,上記「硬化層」には,液晶性組成物の固化層を経由して,硬化層となったものも包含する。 【0043】 また,「液晶性組成物」とは,液晶相を呈し液晶性を示すものをいう。液晶相としては,ネマチック液晶相,スメクチック液晶相,コレステリック液晶相,カラムナー液晶相などが挙げられる。本発明に用いられる液晶性組成物として好ましくは,ネマチック液晶相を呈するものである。透明性の高い位相差フィルムが得られるからである。 【0044】 上記液晶性組成物は,液晶化合物を含み,液晶性を示すものであれば特に制限はない。・・・(中略)・・・ 【0048】 上記液晶化合物として・・・(中略)・・・更に好ましくは,分子構造の一部分に,1つ以上のメソゲン基と,2つ以上の重合性官能基を有する低分子液晶である。配向性に優れ,光学均一性や透明性の極めて高い位相差フィルムが得られるからである。また,重合反応によって,重合性官能基を架橋させれば,位相差フィルムの機械的強度が増し,耐久性,寸法安定性に優れた位相差フィルムが得られ得る。分子構造の一部分に,1つ以上のメソゲン基と,2つ以上の重合性官能基を有する低分子液晶の具体例としては,BASF社製 商品名「Paliocolor LC242」・・・(中略)・・・などが挙げられる。 ・・・(中略)・・・ 【0052】 《C-5.ポジティブAプレートに用いられる位相差フィルムの製造方法》 ホモジニアス配列に配向させた液晶性組成物の固化層または硬化層からなる位相差フィルムの製造方法として好ましくは,(工程A-1)基材(仮支持体ともいう)の表面に,水平配向処理を施す工程,(工程A-2)当該水平配向処理が施された基材の表面に,液晶性組成物の溶液または分散液を塗工し,当該液晶性組成物をホモジニアス配列に配向させる工程,および(工程A-3)当該液晶性組成物を乾燥させて,固化させる工程を含む。更に好ましくは,本発明の製造方法は,上記(工程A-1)?(工程A-3)の後に,(工程A-4)紫外線を照射して,当該液晶性組成物を硬化させる工程,を含む。なお,通常,基材は位相差フィルムを実用に供する前に,剥離される。」 (ウ) 「【実施例】 【0130】 本発明について,以上の実施例および比較例を用いて更に説明する。・・・(中略)・・・ 【0137】 《ポジティブAプレートの作製》 [参考例2]・・・(中略)・・・ 【0140】 [参考例4] 液晶化合物[BASF(株)製 商品名「PaliocolorLC242」]を100重量部,光重合開始剤[チバスペシャリティケミカルズ(株)製 商品名「イルガキュア907」]を3重量部,およびレベリング剤[ビックケミー社製 商品名「BYK361」]を0.05重量部混合した液晶性組成物(上記液晶性組成物100に対して,液晶化合物を97(重量比)含むもの)を,シクロペンタノン(沸点131℃)200重量部にして溶液を調整した。次いで,上記溶液を,参考例2と同様の方法で塗工・乾燥・硬化させて,ホモジニアス配列に配向させた液晶性組成物の硬化層を形成した。このホモジニアス配列に配向させた液晶性組成物の硬化層を位相差フィルムCとした。上記位相差フィルムCの特性は,表1の通りである。 ・・・(中略)・・・ 【0142】 [参考例6] ポリノルボルネンを主成分とする市販の高分子フィルム[日本ゼオン(株)製 商品名「ゼオノア」(厚み:100μm)]をテンター延伸機でフィルムの長手方向を固定して,175℃の空気循環式恒温オーブン内(フィルム裏面から3cmの距離の温度を測定,温度バラツキ±1℃)で,幅方向に1.40倍に横一軸延伸し,位相差フィルムQを作製した。得られた位相差フィルムQの特性は,表1の通りである。なお,上記高分子フィルム(延伸前)のRe[590]は5nm,Rth[590]は9nmであった。 【0143】 【表1】 ・・・(中略)・・・ 【0165】 [評価] ・・・(中略)・・・また,上記ポジティブAプレートに,ホモジニアス配列に配向させた液晶性組成物の硬化層からなる位相差フィルムを用いることによって,薄型の偏光素子が得られ,結果として液晶パネルおよび液晶表示装置の厚みを薄くすることができた。・・・(中略)・・・これに対し,参考例6に示すように,高分子フィルムをテンター延伸機で,横一軸延伸した位相差フィルムでは,(フィルム巾方向に遅相軸を有するものであるが)分厚いことに加え,Rth[590]がRe[590]よりも大きくなり,ポジティブAプレートを得ることさえもできなかった。」 イ 甲4に記載された技術的事項 前記ア(ア)ないし(ウ)の記載から,甲4には,次の技術的事項が記載されていると認められる。 「基材の表面に水平配向処理を施し,当該水平配向処理が施された基材の表面に,液晶性組成物の溶液または分散液を塗工し,当該液晶性組成物に含まれる液晶化合物が前記基材の表面に対して平行にかつ同一方位に配列した状態であるホモジニアス配列に配向させ,当該液晶性組成物を乾燥,固化し,紫外線照射により硬化させた後,前記基材を剥離することによって得られるポジティブAプレートは,高分子フィルムをテンター延伸機で横一軸延伸したポジティブAプレートに対して,厚みを薄くすることができ, 具体的には,前記液晶性組成物に含まれる液晶化合物としてPaliocolor LC242(BASF(株)製)を用いたポジティブAプレートでは,面内位相差Re(590)が160nmとなるものの厚さが1.22μmとなるのに対して, ポリノルボルネンを主成分とする高分子フィルムである厚み100μmのゼオノア(日本ゼオン(株)製)をテンター延伸機により175℃の空気循環式恒温オーブン内で1.40倍に横一軸延伸したポジティブAプレートでは,面内位相差Re(590)が140nmとなるものの厚さが70μmとなること。」(以下,「甲4記載事項」という。) 4 取消理由1及び2についての判断 (1)本件特許発明1について ア 対比 (ア) 引用発明は,厚み方向位相差が-70nmの「ホメオトロピック配向液晶層」を有するホメオトロピック配向液晶フィルム(1)と,正面位相差が140nmの「光学フィルム(2(1))」と,正面位相差が280nmの「光学フィルム(2(2))」とを積層した「積層光学フィルム」であるところ,それぞれの正面位相差(本件特許発明における「面内位相差」と同義である。以下,「面内位相差」と表現する。)の大きさからみて,「光学フィルム(2(1))」がλ/4板であり,「光学フィルム(2(2))」がλ/2板である。 しかるに,甲1の【0021】や【0081】の記載によれば,λ/4板である「光学フィルム(2(1))」とλ/2板である「光学フィルム(2(2))」とが,「全体としてλ/4板として機能する」ところ,「λ/4板」とは1/4波長の面内位相差を与える位相差板に他ならないから,「光学フィルム(2(1))」と「光学フィルム(2(2))」とにより「位相差層」が構成されているといえる。 また,ホメオトロピック配向液晶フィルム(1)中に存在する「ホメオトロピック配向液晶層」は,厚み方向位相差の値が-70nmであって,ゼロではないから,当該「ホメオトロピック配向液晶層」は「位相差層」といえる。 したがって,引用発明において,「光学フィルム(2(1))と光学フィルム(2(2))とにより構成された層構成」と「ホメオトロピック配向液晶層」のうちのいずれか一方を「第一の位相差層」と,他方を「第二の位相差層」ということができる。 以上によれば,引用発明は,「少なくとも2つの位相差層を有し,第一の位相差層と第二の位相差層とを有する位相差フィルムであ」るという本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成を具備している。 (イ) アートン部/筑波研究所,「アートン薄膜位相差用フィルム」,JSRテクニカルレビューNo.110(2003/03)の28ページに記載された「図9 位相差の波長分散性」によると(URL:http://www.jsr.co.jp/rd/report.shtmlにおいて,対応する号をクリックすることで表示可能。),アートンフィルムを延伸して得られる位相差フィルムが,400ないし800nmの波長範囲(可視光領域に相当)において,いわゆる正常分散(波長が大きくなるにつれて位相差が小さくなる特性。一般に「負の波長分散性」や「正分散」と表現されることもあるが,本決定では「正常分散」と表現する。)を示すことが明らかであるところ,引用発明の「光学フィルム(2(1))」及び「光学フィルム(2(2))」は,いずれも,アートン(JSR株式会社製)を一軸延伸して得られたフィルムであるから,400ないし800nmの波長範囲において,波長が大きくなるにつれて位相差(面内位相差を指していることは明らかである。以下,「面内位相差」という。)が小さくなるものと認められる。 したがって,引用発明の「光学フィルム(2(1))」及び「光学フィルム(2(2))」は,いずれも,「Re(450)/Re(550)≧1.00」(本件特許発明1の式(6))及び「1.00≧Re(650)/Re(550)」(本件特許発明1の式(7))という光学特性を有している。 また,引用発明の「光学フィルム(2(1))」及び「光学フィルム(2(2))」の面内位相差値はそれぞれ「140nm」及び「280nm」であり,その測定波長は590nmであるところ(【0095】を参照。),前述した「アートン薄膜位相差用フィルム」の28ページに記載された「図9 位相差の波長分散性」によると,アートンフィルムを延伸して得られる位相差フィルムにおいて,550nmにおける面内位相差値(すなわち「Re(550)」)は,590nmにおける面内位相差値と比べて,1ないし2%程度増加するものと認められるから,引用発明の「光学フィルム(2(1))」及び「光学フィルム(2(2))」のRe(550)はそれぞれ「141ないし143nm程度」及び「283ないし286nm程度」と推認される。 したがって,引用発明の「光学フィルム(2(1))」は,「100nm<Re(550)<160nm」(本件特許発明1の式(4))という光学特性を有しており,「光学フィルム(2(2))」は,「200nm<Re(550)<320nm」(本件特許発明1の式(5))という光学特性を有していると認められる。 以上によれば,引用発明の「光学フィルム(2(1))」及び「光学フィルム(2(2))」は,それぞれ,本件特許発明1の「式(4),(6)及び式(7)で表される光学特性を有する層A」及び「式(5),(6)及び式(7)で表される光学特性を有する層B」に相当し,「光学フィルム(2(1))と光学フィルム(2(2))とにより構成された層構成」が,本件特許発明1の,層Aと層Bとを有する「第一の位相差層」に相当するから,引用発明は,「第一の位相差層が,式(4),(6)及び式(7)で表される光学特性を有する層Aと,式(5),(6)及び式(7)で表される光学特性を有する層Bと,を有」する(式中の各パラメータの定義については省略して表現した。以下,「ア 対比」の欄(一致点の認定を除く)において同様。)という本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成を具備している。 (ウ) 引用発明の「ホメオトロピック配向液晶層」は,「式(1)に示される重量平均分子量5000の側鎖型液晶ポリマー」と,「Paliocolor LC242」を重合又は架橋させたポリマーとから構成されているところ,「式(1)に示される重量平均分子量5000の側鎖型液晶ポリマー」については,式(1)中の2つのモノマーユニットのうち上段のもの(65モル%のもの)が,甲1の【0025】に記載の「液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(a)」であって,【0026】に記載の「ネマチック液晶性を有する側鎖を有するもの」に該当し,当該ネマチック液晶性を有する側鎖が垂直配向(ホメオトロピック配向)しており,「Paliocolor LC242」を重合又は架橋させたポリマーについては,甲1の【0036】に記載された「光重合性液晶化合物を重合または架橋させ」たものに該当し,ネマティック液晶性の主鎖が垂直配向(ホメオトロピック配向)していることから,「ホメオトロピック配向液晶層」の3次元屈折率が,面内方向に等方性を有していること(すなわち,「nx_(1) ≒ny_(1) 」であること)が,技術的に自明である。 しかるに,「ホメオトロピック配向液晶層」の「厚み方向位相差」(=「{((nx_(1) +ny_(1) )/2)-nz_(1) }×d」)が「-70nm」であるのだから,「nz_(1) 」が,「nx_(1) 」や「ny_(1) 」より大きいことは,自然法則から自明である。 以上によれば,引用発明の「ホメオトロピック配向液晶層」は,「nx≒ny<nz」(本件特許発明1の式(3))という光学特性を有しているから,本件特許発明1の「式(3)で表される光学特性を有」する「第二の位相差層」に相当する。 よって,引用発明は,「第二の位相差層が式(3)で表される光学特性を有」するという本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成を具備している。 (エ) 正常分散を示すλ/4板と正常分散を示すλ/2板とを積層することにより,いわゆる異常分散(波長が大きくなるにつれて位相差が大きくなる特性。一般に「正の波長分散性」や「逆分散」と表現されることもあるが,本決定では「異常分散」と表現する。)を示すλ/4板として機能させることができることが,本件特許の優先日より前に当業者において技術常識であったところ,甲1の【0081】に記載された「1/4波長板として機能する位相差層」と「1/2波長板として機能する位相差層」とを重畳して得られる「可視光域等の広い波長範囲で1/4波長板として機能する位相差板」とは,「可視光域等」で異常分散を示すものであることが明らかである。 しかるに,引用発明においては,λ/4板である「光学フィルム(2(1))」とλ/2板である「光学フィルム(2(2))」とにより構成される層構成が,全体としてλ/4板として機能するものであるところ,可視光領域(概ね400ないし800nm)においては異常分散を示すように設計されていると推察されるから,引用発明の「積層光学フィルム」の450nm,550nm,650nmにおける面内位相差値Re(450),Re(550),Re(650)は,「Re(450)/Re(550)≦1.00」(本件特許発明1の式(1))及び「1.00≦Re(650)/Re(550)」(本件特許発明1の式(2)という光学特性を有していると推認される。 したがって,本件特許発明1と引用発明は,「位相差フィルムが式(1)及び(2)で表される光学特性を有」する点で共通する。 (オ) 引用発明の「ホメオトロピック配向液晶層」(本件特許発明1の「第二の位相差層」に相当。)は,溶液を,レシチンを塗布したポリエチレンテレフタレート基材に塗布し,乾燥配向させた後,光を照射することで前記Paliocolor LC242を重合又は架橋させて固定化することによって,形成されたものであるから,「コーティング層」である。 また,引用発明の「ホメオトロピック配向液晶層」は,重合性液晶である「Paliocolor LC242」を重合又は架橋させたポリマーと,「式(1)に示される重量平均分子量5000の側鎖型液晶ポリマー」とから形成されているところ,特許明細書等の【0296】の記載によれば,「Paliocolor LC242」の構造式は, であって,特許明細書等の【0041】に,本件特許発明1の「式(X)で表される基を含む重合性液晶」の具体例としてあげられた式(III-6)においてk_(2)=4とした化合物であり,また,「式(1)に示される重量平均分子量5000の側鎖型液晶ポリマー」は,式(1)中の2つのモノマーユニットのうち上段のもの(65モル%のもの)に対応するモノマーが,本件特許発明1の「式(X)で表される基を含む重合性液晶」(ただし,式(X)において,P11として「(P-11)」を選択し,B11として「-CO-O-」を選択し,E11として「炭素数2のアルカンジイル基」を選択し,B12として「-O-」を選択し,A11として「2価の芳香族炭化水素基」であるp-フェニレン基を選択し,B13として「-C(=O)-O-」を選択したもの)に該当する化合物であるから,引用発明の「ホメオトロピック配向液晶層」を,1以上の「式(X)で表される基を含む重合性液晶」の重合体から形成されているということができる。 したがって,本件特許発明1と引用発明は,「第二の位相差層が,1以上の重合性液晶の重合体から形成されたコーティング層であり,前記重合性液晶が,それぞれ式(X)で表される基を含む重合性液晶である」点で共通する。 (カ) 前記(ア)ないし(オ)に照らせば,本件特許発明1と引用発明は, 「少なくとも2つの位相差層を有し,第一の位相差層と第二の位相差層とを有する位相差フィルムであって, 第一の位相差層が, 式(4),(6)及び式(7)で表される光学特性を有する層Aと, 式(5),(6)及び式(7)で表される光学特性を有する層Bと,を有し, 100nm<Re(550)<160nm (4) 200nm<Re(550)<320nm (5) Re(450)/Re(550)≧1.00 (6) 1.00≧Re(650)/Re(550) (7) 第二の位相差層が式(3)で表される光学特性を有し, 該位相差フィルムが式(1)及び(2)で表される光学特性を有し, Re(450)/Re(550)≦1.00 (1) 1.00≦Re(650)/Re(550) (2) nx≒ny<nz (3) (式中,Re(450)は波長450nmにおける面内位相差値を表し,Re(550)は波長550nmにおける面内位相差値を表し,Re(650)は波長650nmにおける面内位相差値を表す。nxは,位相差層が形成する屈折率楕円体において,フィルム平面に対して平行な方向の主屈折率を表す。nyは,位相差層が形成する屈折率楕円体において,フィルム平面に対して平行であり,且つ,該nxの方向に対して直交する方向の屈折率を表す。nzは,位相差層が形成する屈折率楕円体において,フィルム平面に対して垂直な方向の屈折率を表す。) 前記第二の位相差層が,1以上の重合性液晶の重合体から形成されたコーティング層であり, 前記重合性液晶が,それぞれ下記式(X)で表される基を含む重合性液晶である位相差フィルム。 P11-B11-E11-B12-A11-B13- (X) [式(X)中,P11は,下記式(P-11)?(P-15): 〔式(P-11)?(P-15)中,R^(17)?R^(21)はそれぞれ独立に,炭素数1?6のアルキル基または水素原子を表す〕 のいずれかで表される重合性基を表す。 A11は,2価の脂環式炭化水素基または2価の芳香族炭化水素基を表す。該2価の脂環式炭化水素基および2価の芳香族炭化水素基に含まれる水素原子は,ハロゲン原子,炭素数1?6のアルキル基,炭素数1?6アルコキシ基,シアノ基またはニトロ基で置換されていてもよく,該炭素数1?6のアルキル基および該炭素数1?6アルコキシ基に含まれる水素原子は,フッ素原子で置換されていてもよい。 B11は,-O-,-S-,-CO-O-,-O-CO-,-O-CO-O-,-CO-NR^(16)-,-NR^(16)-CO-,-CO-,-CS-または単結合を表わす。R^(16)は,水素原子または炭素数1?6のアルキル基を表わす。 B12およびB13は,それぞれ独立に,-C≡C-,-CH=CH-,-CH_(2)-CH_(2)-,-O-,-S-,-C(=O)-,-C(=O)-O-,-O-C(=O)-,-O-C(=O)-O-,-CH=N-,-N=CH-,-N=N-,-C(=O)-NR^(16)-,-NR^(16)-C(=O)-,-OCH_(2)-,-OCF_(2)-,-CH_(2)O-,-CF_(2)O-,-CH=CH-C(=O)-O-,-O-C(=O)-CH=CH-または単結合を表わす。 E11は,炭素数1?12のアルカンジイル基を表わし,該アルカンジイル基に含まれる水素原子は,炭素数1?5のアルコキシ基で置換されていてもよく,該アルコキシ基に含まれる水素原子は,ハロゲン原子で置換されていてもよい。また,該アルカンジイル基を構成する-CH_(2)-は,-O-または-CO-に置き換わっていてもよい。]」 である点で一致し,次の点で相違する。 相違点1: 本件特許発明1が,「-1.5≦ a* ≦0.5」(式(30))及び「0.0≦ b* ≦3.0」(式(31))で表される光学特性を有するのに対して, 引用発明におけるa*及びb*の値が定かでないことから,式(30)及び式(31)を満足するのか否かは不明な点。 相違点2: 本件特許発明1の「層A」及び「層B」が,それぞれ,1以上の「式(X)で表される基を含む重合性液晶」の重合体から形成されたコーティング層であるのに対して, 引用発明の「光学フィルム(2(1))」及び「光学フィルム(2(2))」は,それぞれ,アートン(JSR株式会社製)を一軸延伸して得られたフィルムである点。 イ 判断 (ア)新規性欠如について 少なくとも,相違点2は実質的な相違点であるから,本件特許発明1は引用発明と同一発明とはいえない。 (イ)進歩性欠如について a 甲1の【0049】には,「光学フィルム(2(1))」及び「光学フィルム(2(2))」の材質として,「棒状ネマチック液晶性化合物」を用いることができることが記載されているところ,引用発明において,甲4記載事項に基づいて,引用発明を薄型化するために,「光学フィルム(2(1))」及び「光学フィルム(2(2))」として,アートン(JSR株式会社製)を一軸延伸して得られたフィルムを用いることに代えて,基材の表面に水平配向処理を施し,当該水平配向処理が施された基材の表面に,「棒状ネマチック液晶性化合物」に該当する「Paliocolor LC242(BASF(株)製)」の溶液を塗工し,当該「Paliocolor LC242(BASF(株)製)」が前記基材の表面に対して平行にかつ同一方位に配列した状態であるホモジニアス配列に配向させ,当該「Paliocolor LC242(BASF(株)製)」を乾燥,固化し,紫外線照射により硬化させた後,前記基材を剥離することによって得られるポジティブAプレートであって,面内位相差値がそれぞれλ/4及びλ/2となるポジティブAプレートを用いること,すなわち,引用発明を,相違点2に係る本件特許発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすること(以下,「構成の変更」と表現することがある。)は,当業者が容易に想到し得たことといえる。 しかるに,引用発明におけるa*及びb*の値が,「ホメオトロピック配向液晶層」,「光学フィルム(2(1))」及び「光学フィルム(2(2))」の材質に依存することは,自然法則から自明であるから,引用発明の容易想到性を判断するにあたっては,前記構成の変更を行った引用発明におけるa*及びb*を検討する必要がある。 そこで,材質の変更を行わない「ホメオトロピック配向液晶層」と,材質を「Paliocolor LC242(BASF(株)製)」に変更した「光学フィルム(2(1))」と,材質を「Paliocolor LC242(BASF(株)製)」に変更した「光学フィルム(2(2))」とを積層した積層光学フィルムのa*及びb*について,特許明細書等の発明の詳細な説明に記載された実施例2のa*及びb*等を参考にして推定できるのかについて,以下で検討する。 b 特許明細書等の発明の詳細な説明の【0300】ないし【0304】には,本件特許発明1の実施例として,BASF社製の「LC242」(引用発明の「ホメオトロピック配向液晶層(1)」で用いている「Paliocolor LC242(BASF製)」や甲4記載事項における「Paliocolor LC242(BASF(株)製)」と同一物である。以下,単に「LC242」という。)を水平配向させた「層A」と,「LC242」を水平配向させた「層B」と,「LC242」を垂直配向させた「第二の位相差層」(【0298】の「位相差フィルム(2)」に関する記載を参照。)とを積層した「実施例2」が記載されており,【0304】の【表3】によると,当該「実施例2」のa*の値は「-1.2」であり,b*の値は「1.8」である。 c 一方,前記aで述べた「構成の変更」を行った引用発明における「光学フィルム(2(1))」及び「光学フィルム(2(2))」はいずれも「LC242」を水平配向させた層であり,「ホメオトロピック配向液晶層(1)」は,4:1の重量比で混合した「LC242」及び「式(1)に示される重量平均分子量5000の側鎖型液晶ポリマー」(以下,単に「側鎖型液晶ポリマー」という。)を垂直配向させた層である。 したがって,「構成の変更」を行った引用発明における「光学フィルム(2(1))」及び「光学フィルム(2(2))」の材質は,特許明細書等に記載された「実施例2」における「層A」及び「層B」の材質と同一であるものの,「構成の変更」を行った引用発明における「ホメオトロピック配向液晶層(1)」の材質は,「側鎖型液晶ポリマー」を20重量%含有している点で,特許明細書等に記載された「実施例2」における「第二の位相差層」の材質と異なっている。 異なる化合物の色度(a*及びb*)が完全に一致することはないと考えられるところ,技術的にみて,20重量%という含有量の「側鎖型液晶ポリマー」の色度を無視できるとは考え難いから,「構成の変更」を行った引用発明における「ホメオトロピック配向液晶層(1)」単独のa*及びb*の値と,特許明細書等に記載された「実施例2」における「第二の位相差層」単独のa*及びb*値の間には,その大きさは別として,差異があることは明らかである。 しかるに,甲1及び甲4を始めとして異議申立人が提出した全証拠を考慮しても,「側鎖型液晶ポリマー」を20重量%含有することによる色度の差異を特定することができないから,たとえ特許明細書等に記載された「実施例2」を考慮しても,前記構成の変更を行った引用発明におけるa*及びb*を推定することはできない。 したがって,前記構成の変更を行った引用発明におけるa*及びb*が,それぞれ「-1.5≦ a* ≦0.5」(式(30))及び「0.0≦ b* ≦3.0」(式(31))を満足するとはいえない。 d 特許異議申立人は,特許異議申立書において,「ホメオトロピック配向液晶層(Paliocolor LC242(甲1段落96))は,光透過率が高くかつ極めて薄いことから(厚み0.7μm),その色味は無視できる。」(25ページ2ないし3行)などと主張するが,「層A」,「層B」及び「第二の位相差層」の全てが「LC242」で形成され,その膜厚の合計値が約3.7μmである,特許明細書等に記載された「実施例2」のa*の値が「-1.2」であり,b*の値が「1.8」であるから,たとえ「0.7μm」という膜厚であったとしても,「LC242」の色度を無視できるわけではなく,ましてや4:1の重量比で混合した「LC242」及び「側鎖型液晶ポリマー」の硬化物の色度を無視できるわけではない。 当該特許異議申立人の主張は採用できない。 (2)本件特許発明4ないし16について 本件特許の請求項4ないし16は,いずれも,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであるから,本件特許の請求項4ないし16と引用発明とは,少なくとも,前記(1)ア(カ)で認定した相違点1及び2で相違することになる。 したがって,前記(1)イ(ア)及び(イ)で述べたのと同様の理由で,本件特許の請求項4ないし16は,いずれも,引用発明と同一発明ではなく,かつ,引用発明に基づいて,又は引用発明及び甲4記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)小括 前記(1)及び(2)のとおり,本件特許の請求項1,4ないし16に係る特許は,特許法29条1項及び2項の規定に違反してされたものではないから,取消理由1及び2によって,本件特許の請求項1,4ないし16に係る特許を取り消すことはできない。 5 取消理由3についての判断 (1)明確性要件違反について 本件訂正によって,本件特許発明1,4ないし16において,位相差フィルムの層A,層B及び第二の位相差層の材質が,1以上の「式(X)で表される基を含む重合性液晶」の重合体であることが限定されたところ,請求項1,4ないし16が,一の請求項から発明が把握されることが必要である,という特許請求の範囲の機能を担保していないとはいえなくなった。 したがって,本件特許の請求項1,4ないし16が,明確性要件に違反するとはいえない。 (2)実施可能要件違反及びサポート要件違反について 前記(1)で述べたように,本件訂正によって,本件特許発明1,4ないし16において,各層の材質が,1以上の「式(X)で表される基を含む重合性液晶」の重合体であることが限定されたところ,特許明細書等には,「式(X)で表される基を含む重合性液晶」として「LC242」を用いた「実施例2」が式(30)及び(31)で表される光学特性を有していることが示されている。 そうすると,特許明細書等の記載から,当業者は,「式(X)で表される基を含む重合性液晶」の中から「LC242」と同程度以下の色度a*及びb*を有する重合性液晶を選択し,これを用いて,各層を形成すればよいことをただちに理解できるというべきであるから,特許明細書等の記載が,実施可能要件に違反するとはいえないし,本件特許発明1,4ないし16がサポート要件に違反するともいえない。 (3)小括 前記(1)及び(2)のとおり,本件特許の請求項1,4ないし16に係る特許は,特許法36条4項1号,6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから,取消理由3によって,本件特許の請求項1,4ないし16に係る特許を取り消すことはできない。 6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は,本件特許の請求項2ないし6に係る特許について,特許法29条1項の規定に違反してされたものであるから,取り消すべきである旨主張しているが,本件特許発明4ないし6と引用発明とは,少なくとも,前記4(1)ア(カ)で認定した相違点1及び2において相違するのであって,かつ,相違点2は実質的な相違点であるから,本件特許発明4ないし6と引用発明が同一発明であるとはいえない。 また,本件特許の請求項2及び3は,訂正により削除された。 したがって,特許申立人の主張は採用できない。 第4 むすび 以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許の請求項1,4ないし16に係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許の請求項1,4ないし16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項2及び3に係る特許は,訂正により削除されたため,本件特許の請求項2及び3に対して,特許異議申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも2つの位相差層を有し、第一の位相差層と第二の位相差層とを有する位相差フィルムであって、 第一の位相差層が、 式(4)、(6)及び式(7)で表される光学特性を有する層Aと、 式(5)、(6)及び式(7)で表される光学特性を有する層Bと、を有し、 100nm<Re(550)<160nm (4) 200nm<Re(550)<320nm (5) Re(450)/Re(550)≧1.00 (6) 1.00≧Re(650)/Re(550) (7) 第二の位相差層が式(3)で表される光学特性を有し、 該位相差フィルムが式(30)、(31)、(1)及び(2)で表される光学特性を有し、 -1.5≦ a* ≦0.5 (30) 0.0≦ b* ≦3.0 (31) Re(450)/Re(550)≦1.00 (1) 1.00≦Re(650)/Re(550) (2) nx≒ny<nz (3) (式中、a*及びb*は、L*a*b*表色系における色座標を表す。Re(450)は波長450nmにおける面内位相差値を表し、Re(550)は波長550nmにおける面内位相差値を表し、Re(650)は波長650nmにおける面内位相差値を表す。nxは、位相差層が形成する屈折率楕円体において、フィルム平面に対して平行な方向の主屈折率を表す。nyは、位相差層が形成する屈折率楕円体において、フィルム平面に対して平行であり、且つ、該nxの方向に対して直交する方向の屈折率を表す。nzは、位相差層が形成する屈折率楕円体において、フィルム平面に対して垂直な方向の屈折率を表す。) 前記層A、前記層Bおよび前記第二の位相差層が、それぞれ、1以上の重合性液晶の重合体から形成されたコーティング層であり、 前記重合性液晶が、それぞれ、下記式(X)で表される基を含む重合性液晶である位相差フィルム。 P11-B11-E11-B12-A11-B13- (X) [式(X)中、P11は、下記式(P-11)?(P-15): 〔式(P-11)?(P-15)中、R^(17)?R^(21)はそれぞれ独立に、炭素数1?6のアルキル基または水素原子を表わす〕 のいずれかで表される重合性基を表わす。 A11は、2価の脂環式炭化水素基または2価の芳香族炭化水素基を表わす。該2価の脂環式炭化水素基および2価の芳香族炭化水素基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1?6のアルキル基、炭素数1?6アルコキシ基、シアノ基またはニトロ基で置換されていてもよく、該炭素数1?6のアルキル基および該炭素数1?6アルコキシ基に含まれる水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。 B11は、-O-、-S-、-CO-O-、-O-CO-、-O-CO-O-、-CO-NR^(16)-、-NR^(16)-CO-、-CO-、-CS-または単結合を表わす。R^(16)は、水素原子または炭素数1?6のアルキル基を表わす。 B12およびB13は、それぞれ独立に、-C≡C-、-CH=CH-、-CH_(2)-CH_(2)-、-O-、-S-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-O-C(=O)-O-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、-C(=O)-NR^(16)-、-NR^(16)-C(=O)-、-OCH_(2)-、-OCF_(2)-、-CH_(2)O-、-CF_(2)O-、-CH=CH-C(=O)-O-、-O-C(=O)-CH=CH-または単結合を表わす。 E11は、炭素数1?12のアルカンジイル基を表わし、該アルカンジイル基に含まれる水素原子は、炭素数1?5のアルコキシ基で置換されていてもよく、該アルコキシ基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。また、該アルカンジイル基を構成する-CH_(2)-は、-O-または-CO-に置き換わっていてもよい。] 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 層Aの厚さが5μm以下である請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項5】 層Bの厚さが5μm以下である請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項6】 層A及び層Bの厚さがそれぞれ5μm以下である請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項7】 基材上に、配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され、該層Aの上に、配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され、該層Bの上に、配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項8】 基材上に、配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され、該層Bの上に、配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され、該層Aの上に、配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項9】 基材上に、配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成され、該第二の位相差層の上に、配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され、該層Aの上に、配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項10】 基材上に、配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成され、該第二の位相差層の上に、配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され、該層Bの上に、配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項11】 基材の一方の面に、配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され、該層Aの上に、配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され、基材の他方の面に、配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項12】 基材の一方の面に、配向膜を介するかまたは介さずに層Bが形成され、該層Bの上に、配向膜を介するかまたは介さずに層Aが形成され、基材の他方の面に、配向膜を介するかまたは介さずに第二の位相差層が形成されている請求項1に記載の位相差フィルム。 【請求項13】 層Aと、層Bとの間に保護層を有する請求項7?12のいずれかに記載の位相差フィルム。 【請求項14】 請求項1および4?13のいずれかに記載の位相差フィルムと偏光板とを備える円偏光板。 【請求項15】 請求項14に記載の円偏光板を備える有機EL表示装置。 【請求項16】 請求項14に記載の円偏光板を備えるタッチパネル表示装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-12-21 |
出願番号 | 特願2014-161218(P2014-161218) |
審決分類 |
P
1
651・
851-
YAA
(G02B)
P 1 651・ 113- YAA (G02B) P 1 651・ 537- YAA (G02B) P 1 651・ 841- YAA (G02B) P 1 651・ 538- YAA (G02B) P 1 651・ 121- YAA (G02B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 池田 博一 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
渡邉 勇 清水 康司 |
登録日 | 2015-10-16 |
登録番号 | 特許第5822006号(P5822006) |
権利者 | 住友化学株式会社 |
発明の名称 | 光学フィルム |
代理人 | 森住 憲一 |
代理人 | 中山 亨 |
代理人 | 森住 憲一 |
代理人 | 中山 亨 |
代理人 | 梶田 真理奈 |
代理人 | 坂元 徹 |
代理人 | 梶田 真理奈 |
代理人 | 坂元 徹 |