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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A63B
審判 全部無効 2項進歩性  A63B
管理番号 1325658
審判番号 無効2014-800007  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-01-10 
確定日 2017-02-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第3924467号「管状格子パターンを有するゴルフボール」の特許無効審判事件についてされた平成26年8月12日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成26年(行ケ)第10219号平成27年4月13日判決言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は,請求人が,被請求人が特許権者である特許第3924467号(以下「本件特許」という。)の請求項1から請求項8に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。

第2 手続の経緯の概要
本件特許第3924467号に係る手続の経緯の概要は以下のとおりである。
平成12年11月16日 国際出願
(PCT/US2000/031777号)
(優先権主張:平成11年11月18日 米国)
平成19年 3月 2日 設定登録(特許第3924467号)
平成22年11月 4日 無効審判請求
(無効2010-800200号 )
平成23年 9月27日 審決(平成23年6月16日付けでした訂正を認めない。無効とする。)
平成24年 1月25日 審決取消訴訟(平成24年(行ケ)第10034号)の提起
平成24年 4月10日 訂正審判請求(訂正2012-390047号)
平成24年 6月25日 平成23年9月27日付け審決の取消決定の判決
平成24年 9月14日 上申書・訂正請求書
平成24年11月21日 訂正拒絶理由通知書・通知書
平成25年 1月11日 意見書・補正書
平成25年 3月12日 補正書(方式)
平成25年 5月 9日 審決(平成25年3月12日付け手続補正書で補正された平成24年9月14日付け訂正は認める。無効としない。)

平成26年 1月10日 本件無効審判請求,甲第1?17号証提出
(無効2014-800007号)
平成26年 4月30日 審判答弁書
平成26年 6月19日 口頭審理陳述要領書(請求人),甲第18?22号証提出
平成26年 7月 3日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成26年 7月 3日 口頭審理
平成26年 7月10日 上申書(請求人),甲第23?27号証提出
平成26年 8月12日 審決(無効としない。)
平成26年 9月18日 審決取消訴訟(平成26年(行ケ)第10219号)の提起
平成27年 4月13日 平成26年8月12日付け審決の取消決定の判決

第3 審判請求の概要,被請求人の主張
1 請求人が審判請求書において主張する無効理由の概要は,以下の(1),(2)のとおりである。

(1)無効理由1
本件特許の請求項1乃至8に係る発明は,甲第1号証記載の発明と甲第2号証の事項及び周知事項あるいは設計事項から,または,甲第10号証記載の発明と甲第2号証の事項及び周知事項あるいは設計事項から,当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,本件特許の請求項1乃至8に係る発明の特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,同法123条第1項第2項の規定により無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件特許の請求項1乃至8に係る発明の特許は,同法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものであり,同法第123条第1項第4号の規定により,無効とすべきものである。

2 請求人提示の証拠方法
請求人が本件審判請求にあたり提示した証拠方法は,以下のとおりである。

平成26年1月10日提出の審判請求書に添付されたもの
甲第 1号証:米国特許第4991852号明細書
甲第 2号証:特開昭58-25180号公報
甲第 3号証:特開平4-314462号公報
甲第 4号証:特開昭62-192181号公報
甲第 5号証:特開昭60-96272号公報
甲第 6号証:特開平8-80360号公報
甲第 7号証:特開平6-170015号公報
甲第 8号証:特開昭48-63835号公報
甲第 9号証:実願昭51-143608号
(実開昭53-60965号)のマイクロフィルム
甲第10号証:特開平7-289662号公報
甲第11号証:特開平6-182002号公報
甲第12号証:特開平8-47553号公報
甲第13号証:特開平9-308709号公報
甲第14号証:特開平11-299930号公報
甲第15号証:特開昭61-22871号公報
甲第16号証:特開昭53-115330号公報
甲第17号証:特開平4-347177号公報

平成26年6月19日提出の口頭審理陳述要領書に添付されたもの
甲第18号証:新村 出編,“広辞苑”,株式会社岩波書店,
2008年1月11日,第6版,1910頁
甲第19号証:Conforming Golf Balls,米国,USGA,
Effective September 01,2004,1of25?3of25
甲第20号証:計測報告書,エイキット株式会社,平成20年12月25日
甲第21号証:計測報告書,エイキット株式会社,平成22年8月27日
甲第22号証:特許第3478303号公報

平成26年7月10日提出の上申書に添付されたもの
甲第23号証:特開平3-198875号公報
甲第24号証:特開平1-268580号公報
甲第25号証:特開平2-68077号公報
甲第26号証:特開平2-295573号公報
甲第27号証:特開昭60-163674号公報

3 被請求人の主張の概要
被請求人は,「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め,請求人が主張する上記無効理由は,いずれも理由がない旨の主張をした。

第4 本件発明
本件請求項1乃至8に係る発明(以下,それぞれを「本件発明1」乃至「本件発明8」といい,これらを総称して「本件発明」という。)は,平成25年1月11日付け手続補正書及び同年3月12日付け手続補正書(方式)で補正された平成24年9月14日付けで訂正された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至8(以下,それぞれを「本件請求項1」乃至「本件請求項8」という。)に記載されたとおりの次のものと認める。
「【請求項1】
表面を有し,4.06cm?4.32cm(1.60in?1.70in)の範囲の直径を有する内側球体と,
前記内側球体の表面から延びる格子構造であって,該格子構造は複数の相互に連結した格子部材からなり,各格子部材は,第1の凹部分と第2の凹部分と,前記第1の凹部分と第2の凹部分の間に設けられた凸部分を有する曲線の断面を持ち,前記凸部分は頂部を有し,前記格子部材の底部から前記頂部までの距離が0.0127cm?0.0254cm(0.005in?0.010in)の範囲であり,
前記第1の凹部分と第2の凹部分は0.38cm?0.51cm(0.150in?0.200in)の範囲の曲率半径を持ち,前記凸部分は0.07cm(0.0275in)?0.0889cm(0.0350in)の曲率半径を持ち,
前記相互に連結された格子部材の頂部はゴルフボールの最外部であり,
前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の6角形状の領域と,複数の5角形状の領域とを形成し,前記複数の5角形状の領域は前記複数の6角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されている,
ディンプルを伴わないゴルフボール。
【請求項2】
ゴルフボールはポリウレタン材料のカバーを持ち,前記内側球体の直径は4.24cm(1.67in)以上である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
ゴルフボールの最外部から0.005cmの範囲の体積は0.03491cm^(3)未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
ゴルフボールの最外部から0.0102cmの範囲の体積は0.08162cm^(3)未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項5】
ゴルフボールの最外部から0.0152cmの範囲の体積は0.13784cm^(3)未満である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項6】
前記ゴルフボールは,ソリッドコア,中空コア又は流体コアのいずれかを持つ請求項1乃至5のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項7】
レイノルド数が70,000で回転数が毎分2000回のときの揚力係数が0.18以上であり,レイノルド数が180,000で回転数が毎分3000回のときの流体抵抗が0.23未満である請求項1乃至6のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項8】
ゴルフボールの表面の全体が複数の相互に連結された格子部材と内側球体によって画成されている請求項1乃至7のいずれかに記載のゴルフボール。」

第5 無効理由1について
1 甲号証
(1)甲第1号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に頒布された甲第1号証(米国特許第4991852号明細書)には,以下の記載がある(なお,和訳については,無効審判請求人が提出した「甲第1号証訳文」によった。)。
ア「1. Field of the Invention
This invention relates generally to golf balls, and more particularly to a multi-purpose golf ball having a large number of dimples of predetermined size and shape arranged in a dimple pattern to impart more accurate putting and flight characteristics.」(1欄5?10行)
(1.本発明の技術分野
本発明は,全体としてゴルフボールに関し,より特定的には,ディンプルパターンとして配列した所定のサイズと形状を有する多数のディンプルを持ち,より正確なパットと飛距離を与えることのできる多目的ゴルフボールに関する。」(2頁6?9行))

イ「2. Brief Description of the Prior Art
Golf balls are designed with individual depressions, or dimples, in the surface of the ball. The dimple or depression pattern and the depth and width of the dimples are designed to aerodynamically assist the travel distance and accuracy of the golf ball flight.
Conventional golf balls are formed with from 384 to 492 dimples, or concave depressions, in the surface of the ball. Conventional golf balls also utilize various dimple patterns such as; icosahedral (20 triangles), octahedral (8 triangles), dodecahedral (12 pentagons), double-dimple triangular design, icosahedral multiple parting line (12 pentagons within 20 triangles, and an interlock (80 small triangles within 20 large triangles).
These same conventional balls are used in both putting and driving strokes, and often a ball which has superior flight characteristics will have inferior putting characteristics. It would therefore be desirable to provide a multi-purpose golf ball having the optimum dimple pattern and also having dimples of the optimum width and depth for both putting accuracy and for driving distance and accuracy.」(1欄11?32行)
(2.従来技術の概要
ゴルフボールは,ボール表面に分離した窪み,即ちディンプルを持つように設計される。ディンプル又は窪みのパターンとディンプルの深さと幅はゴルフボールの飛行の距離と正確性を空気力学的に助けるように設計される。
従来のゴルフボールはボール表面に384個から492個の凹んだ窪みが形成される。従来のゴルフボールは,また,20面体(20三角形),8面体(8三角形),12面体(12三角形),二重ディンプル三角形設計,20面体多数分割ライン(20の三角形内に12の五角形),及びインターロック(20の大三角形の中に80の小三角形)のような種々のディンプルパターンを用いている。
これらの従来のゴルフボールはパッティングとドライビングストロークの両方に使用され,優れた飛距離特性を持つボールは,しばしばパッティングにおいては劣る場合がある。
したがって,最適のディンプルパターンと,また,パッティングの正確さと飛距離と正確さを得るための最適の幅と深さを持つディンプルを持つ多目的ゴルフボールを提供することが望まれている。)(2頁10行?3頁3行)

ウ「SUMMARY OF THE INVENTION
It is therefore an object of the present invention to provide a multi-purpose golf ball having the optimum dimple pattern and also having dimples of the optimum width and depth for both putting accuracy and for driving distance and accuracy.
It is another object of this invention to provide a multi-purpose golf ball which will more accurately and consistantly position the club force to the ball surface contact area center point of resistance in line with the stroke direction to the center of mass of the ball.
Another object of this invention is to provide a multi-purpose golf ball having a relatively large number of dimples of optimum width and depth for both putting accuracy and for driving distance and accuracy and which will conform the standards of the United States Golf Association for weight, size, symmetry, initial velocity, and overall distance.
A further object of this invention is to provide a multi-purpose golf ball having a relatively large number of dimples of optimum width and depth which will reduce the deviation of the ball flight path relative to the center line of the club swing path, resulting in more accuracy in putting and driving with very little loss in ball travel distance.
A still further other object of this invention is to provide a multi-purpose golf ball having a plurality of dimples arranged in a nine-frequency icosahedral pattern over the surface of the ball.
Other objects of the invention will become apparent from time to time throughout the specification and claims as hereinafter related.
The above noted objects and other objects of the invention are accomplished by a multi-purpose golf ball having 812 concave hexagonal surface depressions arranged in a regular geodesic nine-frequency icosahedral pattern over the surface of the ball and each depression having a surface diameter in the range of from 0.090 inches to 0.140 inches and a depth in the range of from 0.002 inches to 0.014 inches.」(2欄39行?3欄11行)
(本発明の概要
したがって,本発明の目的は,正確なパッティングと飛距離及び正確性を与えるための最適のディンプルパターンと,また,最適のディンプルの幅と深さを持つ多目的ゴルフボールを提供することにある。
本発明の他の目的は,クラブの力を,ボールの重心に向かうストローク方向に一致させて,ボール表面接触抵抗領域の中心に正確に且つ一貫して位置付けることのできる多目的ボールを提供することにある。
本発明の他の目的は,パッティングの精度とドライブの飛距離と精度の両方のための,最適の幅と深さを持ち比較的多い数のディンプルを有する多目的ゴルフボールであり,重量,サイズ,対称性,初速度及び総飛距離において米国ゴルフ協会の基準を満たす多目的ゴルフボールを提供することにある。
本発明の更なる目的は,クラブのスイングの軌道の中心に対し,ボールの軌道の偏りを抑制し,結果としてパッティングのより高い精度とボールの飛距離のロスを非常に少なくドライブを可能とする,比較的多数の最適の幅と深さを持つディンプルを持つ多目的ボールを提供することにある。
さらに,本発明の他の目的は,ボール表面に9周期の正20面体パターンで配置した複数のディンプルを持つ多目的ボールを提供することにある。
本発明の他の目的は,以下の明細書及びクレームの記載を通じて,順次明らかになるであろう。
上述の本発明の目的は,ボール表面に規則的な測地学の9周期20面体パターンで配列した812個の凹んだ六角形の表面窪みを持つゴルフボールにより達成され,各窪みは0.090インチから0.140インチの範囲の表面直径と0.002インチから0.014インチの範囲の深さを持つ。)(4頁下から3行?5頁下から6行)

エ「BRIEF DESCRIPTION OF THE DRAWINGS
FIG. 1 is an elevation of the multi-purpose golf ball in accordance with the present invention.
FIG. 2 is an illustration of a portion of the cover of a conventional golf ball of the prior art projected in a flat plane.
FIG. 3 is an illustration of a portion of the cover of the present multi-purpose golf ball projected in a flat plane.
FIG. 4 is an enlarged cross sectional view of one depression of the present golf ball.
FIG. 5 is a schematic illustration of a sphere divided into a regular geodesic nine-frequency icosahedron.
FIG. 6 is a diagramatic illustration of a sphere divided into twenty main triangles based on an inscribed icosahedron pattern.
FIG. 7 illustrates one of the twenty main icosahedral triangles having each side divided into nine parts to produce a total of 812 vertices uniformly distributed over the entire spherical surface of the ball.」(3欄13行?3欄32行)
(図面の簡単な説明
図1は,本発明による多目的ゴルフボールの立面図である。
図2は,従来技術の通常のゴルフボールカバーの一部を平面として示した図である。
図3は,本発明の多目的ゴルフボールのカバーの一部を平面として示した図である。
図4は,本発明のゴルフボールの一つの窪みの拡大断面図である。
図5は,測地学の9周期の正20面体に分割された球面を模式的に示す図である。
図6は,内接する20面体パターンに基づく20の主三角形に分割された球面を図式的に示す図である。
図7は,20面体の主三角形の一つを示し,各辺は,ボールの球面全体に均一に分散する総数812個の頂点を形成するように9つの部分に分割される。)(5頁下から5行?6頁8行)

オ「DESCRIPTION OF THE PREFERRED EMBODIMENT
Referring to the drawings by numerals of reference, there is shown in FIG. 1, a preferred multi-purpose golf ball 10. The multi-purpose golf ball 10 is a sphere which has a plurality of concave surface depressions, or dimples, 11 equally spaced over the ball surface. The ball 10 has an inner ball of elastomeric material which may be hollow center, solid center, liquid filled, and wrapped with elastic winding, as is well known in the art. The preferred center is formed of hard rubber polymer. The outer covering of the ball 10 is a tough polymeric material, also as known in the art. The preferred cover is formed of Surlyn plastic (Du Pont Co.).
The depressions, or dimples 11 may be stamped on the surface of the ball, or cast thereon, however, the preferred ball surface configuration is injection molded in two hemispheres and bonded together by conventional means to form the complete sphere.
As shown in FIGS. 2 and 3, the conventional golf ball of the prior art (FIG. 2) has a plurality of dimples, however, they are much larger in diameter and deeper than those of the present invention (FIG. 3). Conventional golf balls are formed with from 384 to 492 dimples. FIG. 2 illustrates a conventional golf ball having 384 dimples. The surface diameter of the dimples of conventional golf balls is much larger than that of the present invention.
As seen in FIG. 3, the present golf ball 10 has 812 small dimples equally spaced over the surface of the ball. However, it should be understood that the number may range from 500 to 900 dimples, and may cover from 20% to 90% of the surface area of the ball.
Referring now to FIG. 4, the depressions or dimples of the present golf ball 10 have a surface diameter in the range of from 0.090 inches to 0.140 inches, and may be round, square, octagon, or hexagon. A hexagonal shaped dimple having sloped sides is preferred, with the diameter in the stated range being measured across the flats AB and having a depth CD of not less than 0.002 inch or greater than 0.014 inch.
Conventional golf balls utilize various dimple patterns such as; icosahedral (20 triangles), octahedral (8 triangles), dodecahedral (12 pentagons), double-dimple triangular design, icosahedral multiple parting line (12 pentagons within 20 triangles, and an interlock (80 small triangles within 20 large triangles).
The dimples of the present ball 10 are arranged in a geodesic icosahedral pattern over the surface of the ball, and more particularly, in a pattern known as a geodesic nine-frequency icosahedral pattern (FIG. 5). It has been determined through testing that the most accurate multi-purpose golf ball is produced with a combination of 812 concave hexagonal surface depressions arranged in a regular geodesic nine-frequency icosahedral pattern over the surface of the ball and each depression having a surface diameter in the range of from 0.090 inches to 0.140 inches and a depth in the range of from 0.002 inches to 0.014 inches.
In other words, as illustrated in FIGS. 6 and 7, there are twenty (icosahedral) main triangles, only one of which is shown in FIG. 7, and each side of each main triangle is divided into nine parts 1-9 (hence nine-frequency). The division points are connected by lines to form a series of intersecting vertices to produce a total of 812 vertices uniformly distributed over the entire surface of the sphere in accordance with known principles of mathmatics. Each of the dimples is preferrably centered on each of the vertices intersections. The term geodesic pertains to the geometry of curved surfaces, wherein the lines of the triangles are actually curved lines rather than straight lines, as would be the case in plane geometry. However, for purposes of illustration and ease of understanding the lines of FIG. 7 are represented as straight lines.」(3欄34行?4欄40行)
(好ましい実施例の記載
図面番号により図面を参照すると,図1には,好ましい多目的ゴルフボール10が示されている。この多目的ゴルフボール10は,ボール表面に亘り等間隔で配置された複数の凹状表面窪み,即ち,ディンプル11を有する球体である。ボール10は弾性体からなる内側ボールを有し,この内側ボールは,既に当分野でよく知られているように,中空体,ソリッド芯体,液体充填体,又は弾性糸巻被覆体とすることができる。好ましい芯は固いゴム性ポリマーで造られる。(甲第1号証訳文では「造れられる。」と記載されているが,当審で誤記と認めて,上記のとおり記載した。)ボール10の外側カバーは,これもまた当分野でよく知られているように,強靱なポリマー材料からなる。好ましいカバーはサーリン樹脂(Du Pont Co)で造られる。
窪み,即ちディンプル11がボール表面に刻印,又は鋳造により形成されるが,好ましいボールの表面形状は,二つの半球内に注入形成され,通常の手段によりそれらを一体に接合して完全な球体を形成する。
図2及び図3に示すように,従来のゴルフボール(図2)は複数のディンプルを持つが,それらは本発明のもの(図3)よりかなり大きくて深いものである。従来のゴルフボールは384?492個のディンプルを持つ。図2は384個のディンプルを持つ。従来のゴルフボールのディンプルの表面直径は本発明のものよりかなり大きい。
図3に示されるように,本発明のゴルフボール10はボール表面に均等な間隔を置いて812個の小さいディンプルを有している。しかしながら,その数は500から900の範囲にすることができ,ボールの表面の20%から90%をカバーするようにすることができる。
図4を参照すると,本発明のゴルフボール10の窪み即ちディンプルは0.090インチから0.140インチの範囲の表面直径を持ち,円形,四角形,八角形,又は六角形とすることができる。フラットABをよぎって測定される上述の範囲の直径と0.002インチ以上,或いは0.014インチより大きい深さを持つ,傾斜した側壁を持つ六角形ディンプルが好ましい。
通常のゴルフボールは20面体(20の三角形),8面体(8の三角形),12面体(12の三角形),二重ディンプル三角形設計,20面体多数分割ライン(20の三角形内に12の五角形,及び20の大きい三角形の内部に80の小さい三角形)のような種々のディンプルパターンを用いている。(甲第1号証訳文では「20面体多数分ライン」と記載されているが,当審で誤記と認めて,上記のとおり記載した。)
本発明のボール10のディンプルはボールの表面に渡り測地学の20面体パターンで配置されており,特に,測地学の9周期20面体パターン(図5)で配置されている。最も正確な多目的ゴルフボールは,ボールの表面全体に渡り規則的な測地学の9周期20面体パターンで配置された812個の六角形表面の窪み又はディンプルが配置され,各ディンプルは0.090インチから0.140インチの範囲の表面直径と0.002インチから0.014インチの範囲の深さの組み合わせにより造られるということがテストを通じて決定された。
即ち,図6及び図7に示されるように,20の(20面体)主三角形があり,そのうちの一つが図7に示されており,各主三角形の各辺は9の部分1-9に分割されている(従って,9周期)。その分割点は線で連結されて一連の1点で交わる頂点を形成して,既知の数学法則に従って全体で812個の頂点が均一に球面全体に分布する。各ディンプルは好ましくは各測地学の頂点の交差部に中心がくるようにされる。「測地学」の用語は,曲面のジオメトリーに関連するものであり,三角の線が実際は,平面における場合のような直線でなく,曲線である。しかしながら,説明のためと理解を容易にするため,図7においては直線で示している。)(6頁9行?8頁4行)

カ「1. A multi-purpose golf ball having 812 concave hexagonal surface depressions uniformly arranged over the surface thereof,
each of said hexagonal depressions having a surface diameter in the range of from 0.090 inches to 0.140 inches and having a depth in the range of from 0.002 inches to 0.014 inches,
said 812 hexagonal depressions being uniformly arranged over the surface of the ball in a nine frequency geodesic or curved icosahedral pattern defined by twenty main triangles with each side of each main triangle divided into nine parts to form a total of 812 intersecting vertices uniformly distributed over the entire surface of the ball, and
each of said depressions being centered on the point of intersection of each of the vertices.」(6欄36?51行)
(1.812個の凹んだ六角形の表面の窪みが表面全体に均一に配置された多目的ゴルフボールであって,
前記各六角形の窪みは0.090インチから0.140インチの範囲の表面直径と,0.002インチから0.014インチの範囲の深さを有し,
前記812個の六角形窪みは,20個の主三角形とその各辺が9つの部分に分割されて総数が812個の交差する頂点がボール表面の全体に均一に分散して配列されることにより画成される,9周期の測地学又は曲面の正20面体パターンで配列され,
前記各窪みは前記各頂点の交差部分に中心が配置される,
多目的ゴルフボール。)(11頁12行?末尾)

上記記載を含む甲第1号証全体の記載から,甲第1号証には,以下の発明が開示されていると認められる。
「ボール表面に亘り等間隔で配置された複数の凹状表面窪み,即ち,ディンプル11を有する球体であって,
ボールの表面全体に渡り規則的な測地学の9周期20面体パターンで配置された812個の六角形表面の窪み又はディンプルが配置され,
該ディンプルは0.090インチから0.140インチの範囲の表面直径と0.002インチから0.014インチの範囲の深さの組み合わせにより造られるゴルフボール。」(以下,「甲第1号証に記載された発明」という。)

(2)甲第2号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に頒布された甲第2号証(特開昭58-25180号公報)には,250?500のディンプルを備えた球面を備えたゴルフボールが記載され,その4頁左上欄表1には,h(ディンプルのくぼみの深さ)が,0.237mm,0.256mmである旨の記載及び,「個々のくぼみは,浅いくぼみの形を保ちながら個々の体積を増やす弓形または角のあるふちのへこみを周辺付近に備えたことを特徴としている。」(2頁左下欄12?15行),「くぼみ図形は第2図に示すように弓形弯曲であってもよい」(5頁右上欄3?5行)との記載がある。

(3)甲第3号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に頒布された甲第3号証(特開平4-314462号公報)には,表面にディンプルを有するゴルフボールが記載され,その【0013】段落には,ディンプルの深さは0.1mm?0.2mmの範囲である旨の記載がある。

(4)甲第4号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に頒布された甲第4号証(特開昭62-192181号公報)には,ボール球面上に複数種類のディンプルが配置されたゴルフボールが記載され,その5頁の第1表及び6頁の第2表には,ディンプルの深さが,0.18mm?0.33mmの範囲である旨の記載がある。

(5)甲第5号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に頒布された甲第5号証(特開昭60-96272号公報)には,正多面体ディンプル配列パターンを有するゴルフボールが記載され,その3頁の表には,ディンプル深さ0.119mm?0.255mmの範囲である旨の記載がある。

(6)甲第6号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に頒布された甲第6号証(特開平8-80360号公報)には,ゴルフボールに関し,「【0003】・・・公式のUSGAボールの場合,その径は少なくとも42.67mm(1.680インチ)であり・・・」と記載されている。

(7)甲第7号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に頒布された甲第7号証(特開平6-170015号公報)には,ゴルフボールのディンプルに関し,「【0035】通常ゴルフボールのディンプルの曲率半径は,4.0?25.0mm程度・・・」と記載されている。

(8)甲第8号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に頒布された甲第8号証(特開昭48-63835号公報)には,表面に多数の凹みを含むゴルフボールに関し,「凹みの縁部の曲率が約0.020?0.080インチ(0.508?2.032mm)であるなら,ゴルフボールは尚一層よく飛ぶことを見いだした。」(2頁左上欄6?9行)と記載されている。

(9)甲第9号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に頒布された甲第9号証(実願昭53-60965号[実開昭53-60965号]のマイクロフィルム)には,ゴルフボールのディンプルに関し,「ゴルフボールのディンプル20と周辺14との間の上縁辺部は丸みづけられそして丸みづけられた上縁辺部の曲率半径は0.020?0.080インチ,好ましくは0.030?0.040インチである。」(14頁4?8行)と記載されている。

(10)甲第10号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に頒布された甲第10号証(特開平7-289662号公報)には,以下の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】球表面の少なくとも一部の範囲に,隣合う六角形ディンプルの辺同志が略一定幅のランドをおいて略平行に並ぶように複数の六角形ディンプルを稠密に配設したことを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】球表面を仮想区画線によって複数のエリアに区画し,仮想区画線上の少なくとも一部の範囲に,隣合う六角形ディンプルの辺同志が略一定幅のランドをおいて略平行に並ぶように複数の六角形ディンプルを列状に配設するとともに,全てのエリア内の少なくとも一部の範囲に,隣合う六角形ディンプルの辺同志が略一定幅のランドをおいて略平行に並ぶように複数の六角形ディンプルを稠密に配設した請求項1記載のゴルフボール。
【請求項3】前記六角形ディンプルの内縁部に,前記六角形ディンプルの最深部より浅い少なくとも一段のディンプル内段部を隆起形成した請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項4】前記ディンプル内段部の内縁は略円形である請求項3記載のゴルフボール。」
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,新しいディンプル・ランド理論に基づくゴルフボールに関するものである。なお,本明細書において「ランド」とは,球表面にディンプルを設けたときにディンプル間に残る陸部分をいう。」
「【0008】六角形ディンプルの配設の仕方に関しては前記条件以外の限定を受けないが,球表面のできる限り多くの範囲に,六角形ディンプルを稠密にかつ均一に配設することが望ましい。そのためには,例えば,球表面を仮想区画線によって複数のエリアに区画し,仮想区画線上の少なくとも一部の範囲に,隣合う六角形ディンプルの辺同志が略一定幅のランドをおいて略平行に並ぶように複数の六角形ディンプルを列状に配設するとともに,全てのエリア内の少なくとも一部の範囲に,隣合う六角形ディンプルの辺同志が略一定幅のランドをおいて略平行に並ぶように複数の六角形ディンプルを稠密に配設するとよい。各「少なくとも一部の範囲」については,前記と同じである。さらに,仮想区画線上の六角形ディンプルとエリア内の六角形ディンプルの辺同志も略一定幅のランドをおいて略平行に並ぶとよい。」
「【0010】また,ランドの合計面積は,ゴルフボールの仮想球表面積(ディンプルが無いと仮想したときの球表面積をいう。本明細書において同じ。)の40%以下にするのが好ましいが,さらに好ましくは30%以下であり,特にプロや上級アマチュア向けのゴルフボールのように飛距離性を高めたいときには20%以下にすることが重要である。
【0011】ランドの幅は,0.0?2.5mm位の範囲から適宜設定できるが,ランドの合計面積を小さくするために好ましくは0.1?1.5mmの範囲,特にプロや上級アマチュア向けのゴルフボールのように飛距離性を高めたいときには0.2?1.0mmの範囲から設定する。なお,ランドの幅が0.0mmとは,隣合う六角形ディンプル同志が辺を共有するように配設された場合をいう。但し,その場合でも,現実に形成されるディンプルの辺及び角にはアールが不可避的に付くから,そのアール分の幅・面積のランドはあることになる。」
「【0021】(2)周期特性の改善作用について本明細書でいう周期特性とは,ゴルフボールの任意の切断面においてディンプル及びランドがディンプル→ランド→ディンプル→ランド→……と周期的に現れ,その周期とディンプル及びランドの幅が,どの切断面をとっても均一に近い性質をいう。従来例のゴルフボールは,前記の通り円形ディンプル間のランドが円弧状に広がり,切断位置によってランドの幅が異なることから,周期特性が理想的とはいえない。これに対し,本発明のゴルフボールは,ランドが略一定幅で,しかもランド全体が略ハニカム網形状になるので,周期特性が改善される。そして,回転方向が特定されないゴルフボールは,あらゆる方向の均一性が要求されるが,本発明では周期特性の改善によってこの均一性を満足でき,安定性を向上できる。
【0022】図6は上記周期特性を説明するもので,
(a)は円形ディンプル51が形成された従来例,
(b)は六角形ディンプルが稠密に配設された本発明,
(c)は四角形ディンプル53が形成された比較例をそれぞれ示している。 従来例(a)では,いずれの切断線A?Eで切断しても,必ず円形ディンプル51及びランド52が周期的に現れるが,それらの間隔と幅は均一ではない。つまり,切断線Aではランド52の幅が狭いが,切断線B,Dではランド52の幅が広い。これに対し,本発明(b)では,勿論いずれの切断線A?Eで切断しても,必ず六角形ディンプル5及びランド6が周期的に現れるとともに,それらの間隔と幅は,円形ディンプルのレベルを越えて,常に均一に近い。つまり,切断線Dを除くいずれの切断線A,B,C,Eでも,ランド6の幅は略一定で狭い。なお,比較例(c)では,切断線Cで切断したときに,ランド54が永遠に続いてしまい,周期特性の観点で,上記3種類の中では最も望ましくない。」
「【0029】
【実施例】以下,本発明を具体化したゴルフボールの実施例について,図面を参照して説明する。・・・
【0033】なお,図11に示すように,本実施例の六角形ディンプル4,5の底部形状は浅い六角錐状の凹部であるが,最深部は球面状になっている。・・・
【0037】1(なお,公報において,前記「1」は,丸囲み数字である。)正多面体(正四面体,正六面体,正十二面体,正二十面体)図12は,この正二十面体の各辺を球表面に投影した仮想区画線2によって,球表面を二十の球面三角形エリア3に区画したゴルフボール1を示している。そして,前記実施例と同様に,仮想区画線2上には多数の六角形ディンプル4をランド6をおいて一列に配設し,仮想区画線2同志の交点Pには五角形ディンプル7を配設し,球面正三角形エリア3内には多数の六角形ディンプル5をランド6をおいて稠密に配設したものである。」

上記記載を含む甲第10号証全体の記載から,甲第10号証には,以下の発明が開示されていると認められる。
「球表面にディンプルを設け,ディンプル間に残る陸部分をランドとしたゴルフボールであって,
該ディンプルは,正二十面体の各辺を球表面に投影した仮想区画線2によって,球表面を二十の球面三角形エリア3に区画し,前記仮想区画線2上には多数の六角形ディンプル4をランド6をおいて一列に配設し,前記仮想区画線2同志の交点Pには五角形ディンプル7を配設し,球面正三角形エリア3内には多数の六角形ディンプル5をランド6をおいて稠密に配設し,
ゴルフボールの任意の切断面においてディンプル及びランドがディンプル→ランド→ディンプル→ランド→……と周期的に現れるゴルフボール。」(以下,「甲第10号証に記載された発明」という。)

(11)甲第11乃至12号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に頒布された甲第11号証(特開平6-182002号公報)【0001】,【0037】段落と,甲第12号証(特開平8-47553号公報)【0001】,【0006】段落には,ゴルフボールのコアにポリウレタンカバーを形成する旨と,ゴルフボールのコアはソリッドコアである旨が記載されている。

(12)甲第13号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に頒布された甲第13号証(特開平9-308709号公報)の【0001】,【0006】段落には,ゴルフボールのコアが「中空コア」である旨が記載されている。

(13)甲第14号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に頒布された甲第14号証(特開平11-299930号公報)【0020】段落には,ゴルフボールのコアが「液体コア」である旨が記載されている。

(14)甲第15号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に頒布された甲第15号証(特開昭61-22871号公報)には,「ゴルフボールの場合,一般的には風洞実験で得られる揚力係数と効力係数のうち揚力係数が大きく効力係数が小さい程,良好な空力特性を有すると考えられている。」(6頁左欄7行?10行)と記載されている。

(15)甲第16,17号証は,平成26年1月10日付け審判請求書において,
「9.付言
甲10発明は補正のうえ特許第3478303号として,特許されたが,甲10発明についての無効審判(無効2008-800191)の2次審決は,甲1に記載の発明の隣合う六角形表面のディンプル間の断面形状として甲第16号証(特開昭53-115330号公報)に記載の正弦波状よりなる断面形状を採用することは当業者が適宜なし得る設計事項である,また,甲第17号証(特開平4-347177号公報)にはランド部の面積を小さくすると空力特性が高くなることが記載されており,ランドの幅を0.0mmとすることは当業者が容易になし得る程度のことである等と判断し,甲10発明は進歩性を欠如するとして無効とした。
知財高裁も審決取消訴訟(平成22年(行ケ)第10120号)で上記判断を支持し,同審決は確定している。
上記判断は本件請求項1発明にも当てはまるものであり・・・」との主張とともに,請求人が提出したものである。

(16)甲第18号証について
請求人が提出し,「ディンプル」という語句の辞書における定義,意味が記載されている。

(17)甲第19号証について
請求人が提出し,被請求人が本件の優先権主張日後に,くぼみの底部に内側球体の表面があると思われるゴルフボールを,USGA(全米ゴルフ協会)に登録したと主張するものである。

(18)甲第20号証について
請求人が提出し,甲第19号証に係るゴルフボールの計測報告書である。

(19)甲第21号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に市販されていたと主張するゴルフボールの計測報告書である。

(20)甲第22号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に出願された,ランドを0(ゼロ)としたゴルフボールに係る特許公報である。

(20)甲第23?27号証について
請求人が提出し,本件の優先権主張日前に出願された,ゴルフボールのくぼみの底部形状を示す公開公報である。

2 本件発明1についての検討
無効理由1は,本件特許の請求項1乃至8に係る発明は,甲第1号証記載の発明と甲第2号証の事項及び周知事項あるいは設計事項から当業者が容易に発明をすることができたというものと,甲第10号証記載の発明と甲第2号証の事項及び周知事項あるいは設計事項から当業者が容易に発明をすることができたというものとの,2つの理由から成り立っているため,前者を「無効理由1-1」,後者を「無効理由1-2」と分けて検討することとする。
ア 無効理由1-1について
(1)対比
上記甲第1号証に記載された発明をさらに検討する。
甲第1号証に記載された発明におけるゴルフボールは「ボール表面に亘り等間隔で配置された複数の凹状表面窪み,即ち,ディンプル11を有する球体」であるから,表面を有する球体と,この球体の表面から窪んだ凹状表面窪みを有する。
さらに,この凹状表面窪みは,「ボール表面に亘り等間隔で配置され」るものであり,図1及び図4の記載も踏まえると,ボールの表面には複数の凹状表面窪みが形成され,隣り合う凹状表面窪み同士の間には,窪みの生じていない部分(以下,この部分を「非窪み部分」という。)が形成されることは明らかである。
そして,凹状表面窪み部分は図4の記載からみて曲線で形成されることが明らかであるから,非窪み部分の両側の凹状表面窪みの一方の凹状表面窪みを第1の凹状表面窪みとし,他方を第2の凹状表面窪みとすると,甲第1号証記載のゴルフボールは,第1の凹状表面窪みと第2の凹状表面窪みと,上記第1の凹状表面窪みと第2の凹状表面窪みの間に設けられた非窪み部分を有し,かつ,第1及び第2の凹状表面窪みが曲線である断面を持つといえる。
次に,甲第1号証に記載された発明におけるゴルフボールは「ボールの表面全体に渡り規則的な測地学の9周期20面体パターンで配置された812個の六角形表面の窪み又はディンプルが配置され」ていることから,凹状表面窪み,すなわちディンプルは六角形表面の窪みが形成されるように配置されており,これは格子構造であるといえる。そして,複数の非窪み部分は,凹状表面窪みの間に設けられていることから,相互に連結した格子部材を形成するといえる。
また,甲第1号証記載のゴルフボールの「ディンプルは…0.002インチから0.014インチの範囲の深さの組み合わせにより造られる」ことから,凹状表面窪みの底部から非窪み部分の頂部までの距離が0.002インチ?0.014インチの範囲であるといえる。
さらに,図4の記載から,相互に連結された非窪み部分の頂部はゴルフボールの最外部であることが明らかである。
以上のことより,甲第1号証には,以下の発明が開示されていると認められる。
「表面を有する球体と,
前記球体の表面から窪んだ格子構造であって,該格子構造は複数の相互に連結した格子部材からなり,各格子部材は,第1の凹状表面窪みと第2の凹状表面窪み部分と,前記第1の凹状表面窪み部分と第2の凹状表面窪み部分との間に設けられた非窪み部分を有する第1及び第2の凹状表面窪み部分が曲線である断面を持ち,前記非窪み部分は頂部を有し, 各格子部材の底部から前記頂部までの距離が0.002インチ?0.014インチの範囲であり,
前記相互に連結された格子部材の頂部はゴルフボールの最外部であり,
前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の六角形状の領域を形成している
ディンプルを伴うゴルフボール。」(以下「甲第1号証発明」という。)

本件発明1と甲第1号証発明とを比較すると,本件発明1と甲第1号証発明は,
「表面を有する球体と,
前記球体の表面に形成された格子構造であって,該格子構造は複数の相互に連結した格子部材からなり,各格子部材は第1の窪み部分と第2の窪み部分と,前記第1の窪み部分と第2の窪み部分との間に設けられた隆起部分を有する第1及び第2の窪み部分が曲線である断面を持ち,前記隆起部分は頂部を有し,
前記相互に連結された格子部材の頂部はゴルフボールの最外部であり,
前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の六角形状の領域を形成しているゴルフボール。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
相違点1
格子構造について着目すると,本件発明1の格子構造は4.06cm?4.32cmの範囲を有する内側球体の表面から延びる格子構造であるのに対し,甲第1号証発明の格子構造は,球体の表面から窪んだ格子構造である点,において相違する。
相違点2
格子部材の断面に着目すると,本件発明1の格子部材は,第1の凹部分と第2の凹部分と凸部分を有する曲線の断面を持ち(すなわち,二つの凹部分と凸部分が曲線で形成されている。),格子部材の底部から前記頂部までの距離が0.0127cm?0.0254cmの範囲であり,第1の凹部分と第2の凹部分は0.38cm?0.51cmの範囲の曲率半径を持ち,凸部分は0.07cm?0.0889cmの曲率半径を持つ,ディンプルを伴わないゴルフボールであるのに対し,甲第1号証発明の格子部材は,第1及び第2の凹状表面窪み部分が曲線である断面を持ち,各格子部材の底部から前記頂部までの距離が0.005cm?0.0356cmの範囲であることは特定されるものの,各部分の曲率半径は不明であり,第1及び第2の凹状表面窪みと非窪み部分の間は曲線の断面ではない点,において相違する。
相違点3
格子部材の球の表面方向の形状に着目すると,本件発明1の格子部材は,複数の六角形状の領域と,複数の五角形状の領域とを形成し,前記複数の五角形状の領域は前記複数の六角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されているのに対し,甲第1号証発明の格子部材は複数の六角形の領域は形成しているものの,五角形状の領域については特定がない点,において相違する。

(2)判断
相違点1についての検討
甲第1号証発明における「ディンプル」は,甲第18号証に記載されるように「ゴルフボールの表面のくぼみ」として,ゴルフボールの技術分野において周知の構造である。
また,ゴルフボールの表面に設けられたディンプルが「飛んでいるゴルフボールの表面の空気の境界層を捕捉し,より大きい浮揚と流体抵抗を抑制するように設計され」ていることも周知である。
さらに,本件訂正明細書の段落【0049】に「本発明のゴルフボール20は飛んでいるゴルフボール20の表面の周りに空気の境界層を捕捉する管状格子構造を有する。」と記載されているとおり,本発明のゴルフボール20の表面の周りに設けられた管状格子構造も,従来より周知のディンプルと,同じ作用効果を奏しているものである。
つまり,本件発明1と甲第1号証発明とは,「ゴルフボールの表面の周りに空気の境界層を捕捉する構造」を設ける点で共通しており,構造上,前者は「凸部状の構造」であり,後者は「凹部状の構造」である点で相違しているといえるが,ゴルフボールの最外部を基準面として見た場合,本件発明1と甲第1号証発明とは「凹部状の構造」であるといえる。
後者において「ディンプル」は,均等な間隔を置いて配置されているから,その底部である「C」を結んで得られる仮想的な球体を基準面として見た場合,「内側球体の表面から延びる格子構造」であるともいえ,本件発明1も甲第1号証発明も「凸部状の構造」を有しているともいえる。
つまり,本件発明1の「格子構造」も,甲第1号証発明の「ディンプル」も,ゴルフボールの表面に存在する実質的に同じ構造であることは明らかである。
次に,甲第1号証発明における内側球体の直径について検討する。
甲第1号証発明が,本件発明1における「内側球体」に相当する構造を有するかについては,上述したとおり,均等な間隔を置いて配置されているディンプル11の底部である「C」を結んで得られる仮想的な球体が,本件発明1における「内側球体」に相当することは自明であるが,甲第1号証において,内側球体の直径についても,本件発明1の「外側球体の直径」に相当するゴルフボールの直径についても,なんら数値限定は記載されていない。
しかしながら,ゴルフボールである以上,米国ゴルフ協会(USGA)やセントアンドリウスロイヤルエイシャントゴルフクラブ(R&A)が定めるゴルフ規則を遵守しているとするのが妥当であると考えられ,その場合,該規則におけるボールの直径(外側球体)の下限値が1.680インチ(4.267cm)である。
そして,甲第1号証発明の「格子部材の底部から前記頂部までの距離」が,「0.005cm?0.0356cmの範囲」とされているから,内側球体の直径の採り得る範囲は,4.196cm?4.257cmとなり,本件発明1と甲第1号証発明の内側球体の直径は,一部重複する。
よって,本件発明1の相違点1に係る構成については,甲第1号証発明に実質的に記載されているか,甲第1号証発明から当業者が容易に想到し得たものである。

相違点2についての検討
「格子部材の底部から前記頂部までの距離」について検討する。
前者が「0.0127cm?0.0254cmの範囲」,後者が「0.005cm?0.0356cmの範囲」であるから,後者の数値限定は,前者の数値限定を包含している。
第1の凹部分と第2の凹部分の曲率半径について検討する。
甲第7号証には,ディンプルの曲率半径を4.0?25.0mm程度,つまり0.4cm?2.5cmとしたゴルフボールが記載されており,これは,本件発明1の「第1の凹部分と第2の凹部分」に対応する箇所の曲率半径であることは明らかであって,数値限定としては前者の数値限定と一部重複している。
凸部分の曲率半径について検討する。
甲第3号証の【図2】には,本件発明1の「第1の凹部分と第2の凹部分の間に設けられた凸部分を有する曲線の断面」に相当する構成が記載されているが,その凸部分の曲率半径について具体的な数値限定は記載されない。
甲第4号証の第11図及び第12図には,ディンプルエッジ6とボール仮想球面8が接する箇所の近傍を曲面で構成する点が記載されており,本件発明1の「第1の凹部分と第2の凹部分の間に設けられた凸部分を有する曲線の断面」に相当する構成が記載されているが,その凸部分の曲率半径について具体的な数値限定は記載されない。
甲第8号証には,凹み20とゴルフボール周縁14との間の丸みづけられた上縁辺部の曲率半径を約0.020?0.080インチ,つまり0.0508cm?0.2032cmとしたゴルフボールが記載されているが,凹みと凹みの間に設けられた凸部分の頂部はゴルフボール周縁14にあり,凸部分の曲率半径が0.07cm(0.0275in)?0.0889cm(0.0350in)の範囲にあるものではない。
甲第9号証には,ディンプル20と周面14との間の丸みづけられた上縁辺部の曲率半径を0.020?0.080インチ,つまり0.0508cm?0.2032cmとしたゴルフボールが記載されているが,ディンプルとディンプルの間に設けられた凸部分の頂部はゴルフボール周縁14にあり,凸部分の曲率半径が0.07cm(0.0275in)?0.0889cm(0.0350in)の範囲にあるものではない。
また,甲第3,4,8及び9号証に記載された,本件発明1の凸部分の頂部に相当する部位は,ゴルフボールの外周部にあるため,凸部分の曲率半径としては,ゴルフボールの半径に等しくなることは自明である。
そして,本件発明1の凸部分は,内側球体の表面から延びる格子構造であるため,格子部材の頂部はゴルフボールの最外部,つまり,ゴルフボールの外周部を構成することになるが,その曲率半径は,請求項1に限定されたとおりの0.07cm(0.0275in)?0.0889cm(0.0350in)の範囲であって,該数値範囲は,甲第3,4,8及び9号証に記載はなく,甲第3,4,8及び9号証の記載から,当業者が容易に想到し得たとすることはできず,他の甲号各証にもこの点については,記載も示唆もない。

相違点3についての検討
甲第1号証において,図7では三角形エリアの全ディンプルが六角形とされているが,図6では該三角形エリアの交点は5つの三角形エリアが互いに接するようにゴルフボールの球面を内接する20面体パターンに基づく20の主三角形に分割されているから,各交点(主三角形の頂点が対応する)に配されるディンプルの外形は,六角形のディンプルに代えて五角形のディンプルにすることで,ゴルフボールの球面に合理的にディンプルが収まることは,当業者にとって容易に想到されうる技術事項である。
また,甲第10号証には,正二十面体の各辺を球表面に投影した仮想区画線によって,球表面を二十の球面三角形エリアに区画し,仮想区画線上には多数の六角形ディンプルをランドをおいて一列に配設し,仮想区画線同志の交点には五角形ディンプルを配設し,球面正三角形エリア内には多数の六角形ディンプルをランドをおいて稠密に配設する発明が記載されており,甲第1発明における主三角形の分割の態様を考慮すると,甲第10号証に記載された五角形と六角形ディンプルの組み合わせからなるディンプルの配列の態様を用いて,相違点3に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になしえたことである。
よって,本件発明1の相違点3に係る構成については,甲第1号証発明から当業者が容易に想到し得たか,甲第1号証発明と甲第10号証発明とから当業者が容易に想到し得たものである。

(3)小括
以上によれば,[相違点2]について容易想到とすることができないから,本件発明1は,甲第1号証発明と甲第2号証の事項及び周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとすることはできず,本件発明1の特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

イ 無効理由1-2について
(1)対比
上記甲第10号証に記載された発明をさらに検討する。
甲第10号証に記載されたゴルフボールは,球体の表面からディンプルを窪ませてゴルフボール表面にディンプルとランドを形成したものであり,これによりゴルフボール表面に格子構造を形成したものであることは明らかである。
そして,ランドとディンプルによって格子部材を形成し,ディンプルには六角形ディンプルと五角形ディンプルがあり,「ゴルフボールの任意の切断面においてディンプル及びランドがディンプル→ランド→ディンプル→ランド→……と周期的に現れ」ることから,格子部材であるランドが互いに辺を共有して連結されたものであるといえる。さらに,図12の記載からみて,複数の五角形ディンプルは複数の六角形ディンプルの一部と互いに辺を共有して連結している。
そして,切断面において周期的に表れるディンプル→ランド→ディンプルのうち,一方のディンプルを第1のディンプルとし,他方のディンプルを第2のディンプルとすると,ランドは第1のディンプルと第2のディンプルとの間に設けられることとなる。また,図11の記載からみて,第1及び第2のディンプルが曲線である断面を持つものといえる。
さらに,図12の記載から,ランドの頂部はゴルフボールの最外部であることが明らかである。
以上のことより,甲第10号証には,以下の発明が開示されていると認められる。
「表面を有する球体と,
前記球体の表面から窪んだ格子構造であって,該格子構造は複数の相互に連結した格子部材からなり,各格子部材は,第1のディンプルと第2のディンプルと,前記第1のディンプルと第2のディンプルとの間に設けられたランドを有する第1及び第2のディンプルが曲線である断面を持ち,前記ランドは頂部を有し,
前記相互に連結された格子部材の頂部はゴルフボールの最外部であり,
前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の六角形状の領域と,複数の五角形状の領域とを形成し,前記複数の五角形状の領域は前記複数の六角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されているディンプルを伴うゴルフボール。」(以下「甲第10号証発明」という。)
本件発明1と甲第10号証発明とを比較すると,本件発明1と甲第10号証発明は,
「表面を有する球体と,
前記球体の表面に形成された格子構造であって,該格子構造は複数の相互に連結した格子部材からなり,各格子部材は第1の窪み部分と第2の窪み部分と,前期第1の窪み部分と第2の窪み部分との間に設けられた隆起部分を有する第1及び第2の窪み部分が曲線である断面を持ち,前記隆起部分は頂部を有し,
前記相互に連結された格子部材の頂部はゴルフボールの最外部であり,
前記複数の格子部材は互いに辺を共有して連結された複数の六角形状の領域と,複数の五角形状の領域とを形成し,前記複数の五角形状の領域は前記複数の六角形状の領域の一部と互いに辺を共有して連結されている,ゴルフボール。」の点で一致し,以下の点で相違する。
相違点イ
格子構造について着目すると,本件発明1の格子構造は4.06cm?4.32cmの範囲を有する内側球体の表面から延びる格子構造であるのに対し,甲第10号証発明の格子構造は,球体の表面から窪んだ格子構造である点,において相違する。
相違点ロ
格子部材の断面に着目すると,本件発明1の格子部材は,第1の凹部分と第2の凹部分と凸部分を有する曲線の断面を持ち(すなわち,2つの凹部分と凸部分が曲線で形成されている),格子部材の底部から頂部までの距離が0.0127cm?0.0254cmの範囲であり,第1の凹部分と第2の凹部分は0.38cm?0.51cmの範囲の曲率半径を持ち,凸部分は0.07cm?0.0889cmの曲率半径を持つ,ディンプルを伴わないゴルフボールであるのに対し,甲第10号証発明の格子部材は,第1及び第2のディンプルが曲線である断面を持つことは特定されるものの,格子部材の底部から頂部までの距離及び各部分の曲率半径は不明であり,第1及び第2のディンプルとランドの間の断面形状は明確ではない点,において相違する。

(2)判断
相違点イについての検討
甲第10号証発明における「ディンプル」は,甲第18号証に記載されるように「ゴルフボールの表面のくぼみ」として,ゴルフボールの技術分野において周知の構造である。
また,ゴルフボールの表面に設けられたディンプルが「飛んでいるゴルフボールの表面の空気の境界層を捕捉し,より大きい浮揚と流体抵抗を抑制するように設計され」ていることも周知である。
さらに,本件訂正明細書の段落【0049】に「本発明のゴルフボール20は飛んでいるゴルフボール20の表面の周りに空気の境界層を捕捉する管状格子構造を有する。」と記載されているとおり,本発明のゴルフボール20の表面の周りに設けられた管状格子構造も,従来より周知のディンプルと,同じ作用効果を奏しているものである。
つまり,本件発明1と甲第10号証発明とは,「ゴルフボールの表面の周りに空気の境界層を捕捉する構造」を設ける点で共通しており,構造上,前者は「凸部状の構造」であり,後者は「凹部状の構造」である点で相違しているといえるが,ゴルフボールの最外部を基準面として見た場合,どちらも「凹部状の構造」であるといえる。
後者において「ディンプル」は,稠密に配置されているから,その最深部である「球面状部の頂点」を結んで得られる仮想的な球体を基準面として見た場合,「内側球体の表面から延びる格子構造」であるともいえ,どちらも「凸部状の構造」であるともいえる。
つまり,本件発明1の「格子構造」も,甲第10号証発明の「ディンプル」も,ゴルフボールの表面に存在する実質的に同じ構造であることは明らかである。
次に,甲第10号証発明における内側球体の直径について検討する。
甲第10号証発明が,本件発明1における「内側球体」に相当する構造を有するかについては,上述したとおり,稠密に配置されているディンプルの底部である「球面状部の頂点」を結んで得られる仮想的な球体が,本件発明1における「内側球体」に相当することは自明であるが,甲第10号証において,内側球体の直径についても,本件発明1の「外側球体の直径」に相当するゴルフボールの直径についても,なんら数値限定は記載されていないものの,ゴルフボールである以上,米国ゴルフ協会(USGA)やセントアンドリウスロイヤルエイシャントゴルフクラブ(R&A)が定めるゴルフ規則を遵守しているとするのが妥当であると考えられ,その場合,該規則におけるボールの直径(外側球体)の下限値が1.680インチ(4.267cm)であるが,甲第10号証発明において「格子部材の底部から前記頂部までの距離」は,なんら記載されておらず,内側球体の直径の採り得る範囲を甲第10号証のみからは,定めることはできない。
しかしながら,ディンプルの深さのことである「格子部材の底部から前記頂部までの距離」を,甲第3号証においては「0.1mm?0.2mmの範囲」,甲第4号証においては「0.18mm?0.33mmの範囲」,甲第5号証においては「0.119mm?0.255mmの範囲」とすることがそれぞれ記載されている。
上記各甲号証の数値を,外側球体の直径がから1.680インチ(4.267cm)のゴルフボールに当てはめると,内側球体の直径はそれぞれ以下のとおりとなる。
「4.227cm?4.247cm(甲第3号証)」,「4.201cm?4.231cm(甲第4号証)」,「4.216cm?4.243cm(甲第5号証)。
上記の各甲号証から得られる内側球体の直径は,本件発明1の内側球体の直径4.06cm?4.32cmと一部重複する。
また「無効理由1-1について」で検討したとおり,甲第1号証から得られる内側球体の直径は,本件発明1の内側球体の直径と一部重複しており,本件発明1の相違点イに係る構成のうち数値限定については周知技術にすぎない。
さらに,本願発明1において当該数値範囲を採ったことによる臨界的効果について記載も示唆もされないから,本件発明1の相違点イに係る構成のうち数値限定については,甲第10号証発明と周知技術とから当業者が容易に想到し得たものである。

相違点ロについての検討
格子部材の底部から前記頂部までの距離について検討する。
「相違点イについて」で検討したように,「格子部材の底部から前記頂部までの距離」を「0.0127cm?0.0254cmの範囲」を含むようにすることは周知技術である。
第1の凹部分と第2の凹部分の曲率半径について検討する。
甲第7号証には,ディンプルの曲率半径を4.0?25mm程度,つまり0.4cm?2.5cmとしたゴルフボールが記載されており,これは,本件発明1の「第1の凹部分と第2の凹部分」に対応する箇所の曲率半径であることは明らかであって,数値限定としては前者の数値限定と一部重複している。
凸部分の曲率半径について検討する。
甲第3号証の【図2】には,本件発明1の「第1の凹部分と第2の凹部分の間に設けられた凸部分を有する曲線の断面」に相当する構成が記載されているが,その凸部分の曲率半径について具体的な数値限定は記載されない。
甲第4号証の第11図及び第12図には,ディンプルエッジ6とボール仮想球面8が接する箇所の近傍を曲面で構成する点が記載されており,本件発明1の「第1の凹部分と第2の凹部分の間に設けられた凸部分を有する曲線の断面」に相当する構成が記載されているが,その凸部分の曲率半径について具体的な数値限定は記載されない。
甲第8号証には,凹み20とゴルフボール周縁14との間の丸みづけられた上縁辺部の曲率半径を約0.020?0.080インチ,つまり0.0508cm?0.2032cmとしたゴルフボールが記載されているが,凹みと凹みの間に設けられた凸部分の頂部はゴルフボール周縁14にあり,凸部分の曲率半径が0.07cm(0.0275in)?0.0889cm(0.0350in)の範囲にあるものではない。
甲第9号証には,ディンプル20と周面14との間の丸みづけられた上縁辺部の曲率半径を0.020?0.080インチ,つまり0.0508cm?0.2032cmとしたゴルフボールが記載されているが,ディンプルとディンプルの間に設けられた凸部分の頂部はゴルフボール周縁14にあり,凸部分の曲率半径が0.07cm(0.0275in)?0.0889cm(0.0350in)の範囲にあるものではない。
また,甲第3,4,8及び9号証に記載された,本件発明1の凸部分の頂部に相当する部位は,ゴルフボールの外周部にあるため,凸部分の曲率半径としては,ゴルフボールの半径に等しくなることは自明である。
そして,本件発明1の凸部分は,内側球体の表面から延びる格子構造であるため,格子部材の頂部はゴルフボールの最外部,つまり,ゴルフボールの外周部を構成することになるが,その曲率半径は,請求項1に特定されたとおりの0.07cm(0.0275in)?0.0889cm(0.0350in)の範囲であって,該数値範囲は,甲第3,4,8及び9号証に記載はなく,甲第3,4,8及び9号証の記載から,当業者が容易に想到し得たとすることはできず,他の甲号各証にもこの点については,記載も示唆もない。

(3)小括
以上によれば,[相違点ロ]について容易想到とすることができないから,本件発明1は,甲第10号証記載の発明と甲第2号証の事項及び周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとすることはできず,本件発明1の特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

よって,甲第1号証発明または甲第10号証発明に,甲第2号証の事項及び周知事項を適用しても,本件発明1は導きだせないものである。
さらに,甲第3号証乃至甲第17号証,平成26年6月19日提出の陳述要領書に添付された甲第18号証乃至甲第22号証,平成26年7月10日提出の上申書に添付された甲第23号証乃至甲第27号証のいずれにも,「格子部材の凸部分の曲率半径を0.07cm?0.0889cmとすること」について示されていない。
したがって,甲第1号証発明または甲第10号証発明において,本件発明1との相違点に係る構成を導きだすことは,当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

3 本件発明2乃至8について
本件発明2乃至8は,本件発明1を引用するものであって,上記2のとおり,本件発明1が,当業者にとって容易に発明できるものとはいえないものであるから,同様に本件発明2乃至8も当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

第6 無効理由2について
(1)無効請求人の主張の概要
本件請求項1には,「ディンプルを伴わない」と記載されているが,格子部材によって相対的にくぼみが生じているから,「格子部材だけがあってくぼみはない」ということはできない。
本件請求項1発明において,格子部材の第1と第2の凹部分が曲率半径を有し,その格子部材によって相対的に生じたくぼみは湾曲したものであるから,周知の湾曲したディンプルと区別できない。
とすれば,請求項1発明はディンプルを伴うものであり,上記「ディンプルを伴わない」との記載は矛盾した記載であるから,請求項1発明は不明確であり,同様に請求項2乃至8発明も不明確である。
(2)判断
ディンプルは,一般には「ゴルフボールの表面のくぼみ」を意味すること(甲18),及び,本件訂正明細書の背景技術の項に記載されたディンプルを有するゴルフボールの例に照らすと,本件訂正明細書ないしは本件請求項1における「ディンプル」とは,ゴルフボールの表面側(外側)から窪んでいるものを意味するものと解される。
そして,本件発明1が,内側球体の表面から延びる,複数の相互に連結した格子部材からなる格子構造を設け,各格子部材が凹部分を有することを発明特定事項としていることにも照らすと,本件請求項1の「ディンプルを伴わない」とは,上記の意味のディンプルを伴わないことを意味するものと理解でき,本件請求項1の記載は明確である。
また,本件請求項2乃至8についても同様である。
よって,本件発明1乃至8の記載は明確であるから,無効理由2を理由があるものとすることはできない。

第7 むすび
請求人の主張する無効理由についての当審の判断は,以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり決定する。
 
審理終結日 2016-03-03 
結審通知日 2016-03-07 
審決日 2016-03-22 
出願番号 特願2001-538041(P2001-538041)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (A63B)
P 1 113・ 121- Y (A63B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 藤本 義仁
山本 一
登録日 2007-03-02 
登録番号 特許第3924467号(P3924467)
発明の名称 管状格子パターンを有するゴルフボール  
代理人 大貫 進介  
代理人 佐々木 定雄  
代理人 北浜 壮太郎  
代理人 松原 等  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 山口 昭則  

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