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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E03F
審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許  E03F
管理番号 1326587
審判番号 無効2014-800066  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-04-28 
確定日 2017-04-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第5432814号発明「浄化槽保護用コンクリート体の構築方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の手続の経緯は以下のとおりである。
平成22年 5月12日 本件出願(特願2010-109899号)
平成25年12月13日 設定登録(特許第5432814号)
平成26年 4月28日 本件無効審判請求
平成26年 7月20日 被請求人より審判事件答弁書提出
平成26年 7月22日 参加人より参加申請書提出
平成26年 8月19日 請求人より意見書提出
平成26年 8月26日 請求人より上申書提出
平成26年 10月3日 参加決定(起案日10月1日)
平成26年12月17日 審理事項通知(起案日12月15日)
平成27年 1月16日 請求人より証人尋問申請書、尋問事項書提出
平成27年 1月30日 請求人より当事者尋問申請書、尋問事項書提出
平成27年 2月 6日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成27年 2月19日 被請求人より上申書提出
平成27年 2月24日 口頭審理・証拠調べ期日延期通知書
(起案日2月20日)
平成27年 3月 2日 請求人より上申書提出
平成27年 5月22日 被請求人より当事者尋問申請書、
尋問事項書提出
平成27年 5月29日 参加人より口頭審理陳述要領書提出
平成27年 6月15日 請求人より上申書提出
平成27年 6月23日 口頭審理及び証拠調べ
平成27年 6月24日 被請求人より上申書提出(6月23日付け)
平成27年 6月25日 被請求人より録音テープ等の書面化申請書、
録音テープ等の交付申請書提出
平成27年 6月29日 請求人より録音テープ等の交付申請書提出
平成27年 7月 2日 参加人より上申書提出
平成27年 7月 6日 請求人より上申書提出
平成27年 7月21日 請求人より上申書提出
平成27年 7月31日 請求人より上申書提出
平成27年 7月31日 被請求人より上申書提出
平成27年 8月 4日 請求人より上申書提出
平成27年 9月18日 参加人より上申書、証拠差出書提出
平成27年10月16日 参加人より上申書、証拠差出書提出
平成27年10月23日 審理終結通知(起案日10月21日)


第2 本願発明について
本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明3」といい、また全体をまとめて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
A.地中に埋設する浄化槽を土圧や地下水圧から保護する箱型の保護用コンクリート体の構築方法であって、
B.保護用コンクリート体となるコンクリート板を高さ方向に複数段に分割して製作しておき、
C.地盤を保護用コンクリート体の最下段のコンクリート板の高さと同じ深さに且つ保護用コンクリート体の長さ及び幅と同じ長さ及び幅に掘削し、
D.その掘削穴に最下段のコンクリート板を建て込み、
E.そのコンクリート板で囲まれた内側領域の下方及び建て込み済みのコンクリート板直下の地盤を次段のコンクリート板の高さと同じ深さに掘削し、
F.その掘削箇所に建て込み済みのコンクリート板を落とし込み、
G.その落とし込まれたコンクリート板の上端に次段のコンクリート板を建て込んで上下のコンクリート板同士を水密状に接続し、
H.これらの掘削とコンクリート板の落とし込みとコンクリート板の建て込みの工程を必要深さに応じて繰り返し、
I.その後内底にコンクリート基礎を形成するようにしたことを特徴とする、浄化槽保護用コンクリート体の構築方法。
【請求項2】
J.コンクリート板を左右に分割して製作しておき、落とし込んだ左右のコンクリート板同士とその上方の次段のコンクリート板同士を水密状に接続するようにした、請求項1記載の浄化槽保護用コンクリート体の構築方法。
【請求項3】
K.コンクリート板が、その上端に吊下げ用のアイボルトを螺合するためのアンカーを備えた構造である、請求項1又は2記載の浄化槽保護用コンクリート体の構築方法。」
(なお、A.?K.の分説は、口頭審理陳述要領書で請求人が示したものである。)


第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、特許第5432814号発明の特許請求の範囲の請求項1乃至3に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として、甲第1?53号証を提出し、以下の主張を行った。

[無効理由]
(1)本件特許発明は、その発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第6号に該当し、無効とすべきである。
(2)本件特許発明は、甲第3号証に示された、特許出願前に日本国内において公然実施された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(第1回口頭審理及び証拠調べ調書を参照。)

(1)無効理由1について
冒認出願
(ア)本件特許発明が冒認出願であること
本件特許発明は、本件審判請求人である祐徳設備株式会社の代表者、高橋國治氏(以下「発明者」という。)によってなされ、本件特許発明について特許を受ける権利は発明者に帰属するものであり、権利者である石橋一志氏(以下「権利者」という。)は本件特許発明について特許を受ける権利を有しない者である。
また、発明者は、本件特許発明の権利化について、「株式会社水系」が出願人及び特許権者となることを前提に準備を進めていたものであり、権利者の名義とすることを許容していたものではない。
また、発明者から権利者に対して、本件特許発明に関する特許を受ける権利を譲渡したとの事実は存在しない。なお、前述したような前提はあったが、発明者は株式会社水系に対しても、本件特許発明についての特許を受ける権利を譲渡した事実は存在しない。
よって、本件特許発明に係る出願は、特許を受ける権利を有しない者による出願、いわゆる冒認出願にあたるものである。(審判請求書3頁下から6行?4頁8行)
(イ)冒認出願についての主張立証責任について
審判請求人は、審判請求人の代表者である高橋國治氏が真の発明者であるとし、本件特許発明の先行技術、本件特許発明が属する分野における社会的な背景等や着想のきっかけを含む発明の詳細な経緯を説明し、かつ、発明の過程を示すコンクリート製品の図面、関係各者からの書面等を提出し、冒認を裏付ける事情を、具体的かつ詳細に指摘してきたものである。
一方、被請求人は、本件特許発明に関する発明の経緯について、具体性に欠ける主張のみを行い、被請求人が発明を行ったことを示すような図面や書証の提出はなされていない。また、被請求人が発明にあたって参考にしたとする(株)ヘキサプラントヘの工場見学の日程も、書面ごとに主張する日付が異なり、見学したこと自体に疑義が生じる主張を行っている。
また、平成27年6月22日付けの被請求人の証人等の陳述においても、発明の経緯については、「異業種の枠を超えて協力する」や、コンクリート体の強度計算等については協力者と「すべて口頭でやりとりをしてきた」といったような曖昧かつ不明確な主張を繰り返し、被請求人が発明をしたことを裏付ける具体的な事実は確認されなかったのが現状である。
また、発明の属する技術分野に関して被請求人が専門的な技術や知識を有するものであることも示されていない。
ここで、過去の裁判例においては、冒認出願を理由として請求された特許無効審判において、「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は、特許権者が負担すると解されている(甲第51号証)。また、無効審判請求人が冒認を裏付ける事情を具体的詳細に指摘し、その裏付け証拠を提出するような場合は、特許権者において、これを凌ぐ主張立証をしない限り、主張立証責任が尽くされたと判断されることはないといえるものとされている。(平成27年7月31日付け上申書2頁9行?3頁13行)
(ウ)被請求人が浄化槽の開発・工事・管理に関与したことについて
被請求人が浄化槽開発、公共下水道事業に関与した旨主張するのであれば、同事業に必要な佐賀県知事による浄化槽工事業の登録または国への登録の記録の提出を求めるものである。
また、被請求人は「平成19年頃まで浄化槽の管理、工事に関与した」と主張するが、審判請求人の知るところ、浄化槽の管理の業務は被請求人が勤務していた有限会社小城新生興業社の社員が行っているものであり、被請求人は関与しているものではない。(平成27年6月15日付け上申書5頁25?31行)
(エ)本件特許の発明者について
被請求人本人に対して行われた証拠調べ期日平成27年6月22日の証人等の陳述を記載した書面(以下「被請求人陳述書面」という。)の[0098]の質疑応答に記載のように、本件特許発明において「工事が重要であること」を被請求人は認めている。また、被請求人陳述書面の[0101]?[0103]に記載された質疑応答にて、戸島特許事務所での弁理士の説明の際に、「工事について審判請求人の代表者である高橋國治氏が説明した」と証言している。
ここで、本件特許発明の請求項1?3に係る発明が「浄化槽保護用コンクリート体の構築方法」であり、「工事」の方法に関する発明である点と、被請求人による上述した内容の証言を考慮すると、高橋氏が戸島特許事務所で弁理士に説明した「工事」の内容が、まさに本件特許発明の技術的特徴に相当することを被請求人自身が認識していることが明らかである。また、「工事」に関して、弁理士に対して技術的な説明が可能であったのは高橋國治氏であり、施工や工事に関して経験のない被請求人が説明できなかったことが類推される。即ち、上述した内容は、本件特許発明の工事の方法に関する発明の発明者が高橋國治氏であることを強く示すものである。(平成27年7月31日付け上申書3頁23行?4頁2行)

イ 発明者と権利者・水系との関係について
発明者と権利者は、過去に権利者が有限会社小城新生興業社(以下「小城新生興業社」という。)に勤務していた際からの知人であり、業務の関係上面識があった。
その後、権利者が小城新生興業社を退職し、平成19年4月2日に株式会社水系(以下「水系」という。)を設立した後の、平成20年?平成21年頃から、審判請求人の事務所や作業現場に現れるようになった。
その際、発明者は既に、本件特許発明の具体化に着手して、コンクリート体の図面を作成し、具体的な作業を進めていた。
権利者は、発明者の作成した図面を見て、本件特許発明についての知見を得た。
権利者は、発明者の技術,知識,施工経験,資格等に着目し、発明者に対して、水系の取締役就任の依頼を行い、発明者がそれに承諾したものである。なお、発明者が水系で取締役の地位にあった点は、意見書(甲第8号証)に添付された水系の登記簿写し(甲第10号証)から明らかである。
発明者は自身が発明した本件特許発明に係る方法について、水系に対して技術提供を行うこと、審判請求人が水系とは別途独立して本件特許発明に関わる施工方法を行うこと、及び水系の名義で権利形成を行っていくことを権利者に伝え、権利者もその旨を認識した上で、本件に関する準備は進められていたものである。(審判請求書4頁12行?5頁23行)

ウ 水系による権利形成
戸島弁理士により作成された甲第11号証の「特許調査報告書」は、その表紙の頁に報告対象として、「株式会社水系 御中」と明記されている。
特許庁から通知された識別番号通知の内容は、水系の当時の住所に対して識別番号が付された事実が存在し(甲第12号証)、また、甲第12号証は、特許事務所から「株式会社水系 御中」を宛先として、識別番号が付与された旨を知らせる通知書となっている。
また、特許出願控え(甲第14号証)と、書類送付案内(甲第15号証)を同封し、水系を郵送先の名称として記載した封筒(甲第16号証)が送られた事実が存在する。
更に、本件特許発明の権利取得と併せて、工法の名称を保護すべく、水系を出願人として、商標に関する権利形成を進め、水系を権利者として「テクサイド工法」の商標登録がなされた事実がある。(甲第17号証?甲第20号証)
このように、特許出願の検討と同時期に、同事務所に対して、本件特許発明だけでなく、商標に関しても水系の名義で権利に関する手続を依頼し、登録まで行った事実に鑑みると、本件特許発明についも水系を出願人として手続を行う流れであったことが明らかであり、そうなることを前提として発明者は、水系に技術提供を行っていたものである。
しかしながら、結果として、権利者は水系の代表者としての立場を利用し、特許を受ける権利を有さない者であるにも関わらず、本件特許発明の出願人となり、出願手続及びその後の権利化に関する手続を進め、本件特許を成立させた経緯が存在する。即ち、本件特許発明に係る出願は冒認出願に該当するものである。(審判請求書7頁6行?9頁20行)

エ 発明者による事業化への準備
本件特許発明の実施には、浄化槽保護用コンクリート体を構成するコンクリート製品を製造するにあたってコンクリート製造用の「型枠」が必要となる。この型枠を製造するためには、コンクリート製品の製造のたたき台となる「1.平面図」、この平面図を基に、型枠を分解した状態を示す「2.詳細図」、この詳細図を基に、型枠を製造する際の参考となる「3.施工図」が必要となる。
甲第21号証の「1.平面図」を平成21年8月に発明者が設計し、審判請求人の図面担当者である坂本氏が図面作成を行った。また、発明者は、「1.平面図」を基に有明コンクリート工業株式会社(以下「有明コンクリート」という。)に依頼し、甲第22号証の「2.詳細図」を作成してもらった。なお、甲第22号証の「2.詳細図」の作成に関して、有明コンクリートの試験室担当者から、平成22年4月6日及び同年4月8日の2度に亘り、審判請求人に図面に関するメールと図面データが送付されており(甲第23号証及び甲第24号証)、これらの図面データを組み合わせると甲第22号証の「2.詳細図」が作成可能となっている。更に、発明者は、森山工業株式会社(以下「森山工業」という。)に対して、本件特許発明に係る浄化槽用コンクリート体の型枠の製造を依頼し、「2.詳細図」を基に、甲第25号証の「3.施工図」を作成してもらった。
また、この段階で、事業用のコンクリート製品の製造の依頼に水系が登場している。その点は、森山工業から審判請求人宛てに送られたメール(甲第26号証)、同メールに添付された森山工業から水系宛てに作成された製品の製造の支払に関する新規取引条件の写し(甲第27号証)や、森山工業から水系宛てに作成された型枠及びコンクリート製品に関する見積書(甲第28号証)から明らかである。また、森山工業が製造した型枠を使用して、有明コンクリートがコンクリート製造を行う関係にあったため、甲第28号証の見積書データを審判請求人が、電子メールにて有明コンクリートに送付を行っている(甲第29号証)。
上記の事実から、本件特許発明に係る事業用のコンクリートの製造には発明者及び審判請求人が主体となって準備を進めていたことが明らかである。また、甲第21号証の図面を発明者が設計したのは、遅くとも平成21年8月であり、これは、発明者が水系の役員に就任するよりも前の時期である。即ち、本件特許発明の具体化を行っていたのが発明者であることを示す資料といえる。
準備作業を進めることができたのは高橋國治氏が本件特許発明の発明者であったからに他ならない。よって、権利者は、特許を受ける権利を有さないものであると判断すべきであり、本件特許発明に係る出願は冒認出願に該当するものである。(審判請求書10頁3行?11頁末行)

オ 本件発明を発案するに至った動機について
(ア)背景技術について
合併処理浄化槽の設置工事には、甲第42号証に主な手順が記載された「仮設矢板4方向切梁工法」と呼ばれる工法を用いて、審判請求人は15年以上、浄化槽の設置工事を行ってきたものであり、発明者は常に、矢板を使用せずに、安全かつ効率よく浄化槽を設置可能方法の検討を続けていた。(口頭審理陳述要領書27頁10?22行)
(イ)本件特許発明の着想と具体化の流れ
発明者は、平成16年頃、従来方法の四角枠状の切梁の組立状況を見て、矢板の代わりに略長方形のコンクリート体を箱型に形成し、浄化槽を覆うという構造を着想した。発案当初は、高さ方向に複数のコンクリート板を分割して、箱型に形成していくことは既に思い描いていた。しかしながら、当時の合併浄化槽のサイズが大きく、複数段に分割しても相当な重量があり、また、当時の浄化槽の5種類の型式に統一的に対応する箱型コンクリート体のサイズを決定することが難しい状況にあった。
平成18年発売のフジクリーン社製の浄化槽新製品についてそのサイズがコンパクト化される情報を得て、また、浄化槽の型式が3種類へと変更されていたことが転機となった。発明者は、フジクリーン社製の浄化槽新製品のパンフレット(甲第43号証)と、その図面(甲第44号証)を入手し、再度、箱型コンクリート体の具体化を進めるものとなった。なお、甲第44号証の各ページ右下には設計年月日「201310」の記載があり、2013年10月に設計された記載となっているが、甲第44号証に記載と同一の図面を発明者は平成18年当時に受領したものである。
ここでは、3種類の型式の浄化槽のうち、最もサイズの大きな10人槽が収容可能な箱型コンクリート体のサイズとし、高さ方向に4分割しても、まだ自社のバックホーでの作業が困難であったため、1段のコンクリート板を更に短辺方向で左右に分割した部材とした。ここまでの内容を元に、箱型コンクリート体を形成するための平面図を作成し、秋冨設備設計事務所の秋冨氏に相談した。ここでは、箱型コンクリート体の構造やサイズ、重量や構築の仕方を説明し、内容を理解してもらった上で、コンクリート板の壁厚、コンクリート板の接続に用いる金属プレートの情報、各段のコンクリートの端部にパンチを設ける点のアドバイスを受け(甲第47号証)、甲第45号証の図面を作成した。これが平成19年5月の段階であり、さらに同時期に発明者は、甲第45号証の図面に、「スラブ差筋用インサート」、「施工用(アイボルト用)のインサート」、「最上段に流入管、流出管用のノックアウト」の箇所を書き入れ、ベースコンクリートに「水中ポンプ用の筌場のカット」を入れ込み、詳細な寸法を書き入れて、甲第46号証の図面として完成させた。
また、甲第46号証の図面部分の記載は、既出の甲第21号証の図面部分の記載と同一のものである。即ち、甲第21号証自体は、平成21年8月に作成されたものであるが、図面の内容自体は平成19年5月の時点で完成していたものである。(口頭審理陳述要領書27頁24行?29頁23行)
(ウ)甲第45号証及び甲第46号証の存在が確認できる資料について
現在、請求人は、甲第45号証及び甲第46号証の電子データを所有していない。本件審判の提出にあたっては、秋冨氏の秋冨設備設計事務所から電子データのコピーの提供を受けたものである。また、同号証の電子データの存在が確認できる情報については、設備設計事務所という業種上、情報を開示できない。(平成27年7月21日付け上申書3頁7?13行)

カ 戸島特許事務所での弁理士に対する説明について
本件特許発明の出願前の打ち合わせにおいて、戸島特許事務所での説明内容について、以下、記載する。なお、弁理士に対する技術的事項の説明は全て権利者ではなく、発明者である高橋國治氏が行ったものである。(口頭審理陳述要領書39頁1?3行)
(ア)第1回目(平成22年1月22日)
まず、発明者が弁理士に対して、従来工法(甲第42号証)とその問題点を説明し、その後、従来工法に変わるものとして、本件特許発明の内容を考えている旨を伝えた。この際は、手書きの図面を書いて「コンクリートで枡を作成し、その中に浄化槽の据付工事をしたい」といった程度の内容説明を行った。
なお、当時説明に用いた手書きの図面説明資料は、その際、弁理士に渡しているため、現在発明者の手元には存在していない。(口頭審理陳述要領書39頁6?20行)
(イ)第2回目(平成22年2月25日)
発明者が作成した「保護用コンクリート体の平面図」、「保護用コンクリート体を4段に分割した状態の立面図」と、「工事施工手順を文書化した書類」を持参して、発明者が説明を行った。
なお、これらの資料は全てを弁理士に渡しているため、現在発明者の手元には存在していない。(口頭審理陳述要領書40頁1?4行)
(ウ)戸島特許事務所で伝えた「発明者」と「出願人の名義」について
発明者は弁理士に対し、本件特許発明の発明者が自分であることと、出願人の名義を「株式会社水系」にすることを依頼し、その上で、くれぐれも個人名義の出願としないことを伝えていたものであり、この点を弁理士が意識していたことは、弁理士事務所から株式会社水系宛てに送られた書面(甲第11号証、甲第12号証等)からも容易に推認される。(口頭審理陳述要領書42頁11?15行)
(エ)2回目より後の経緯
2回目の打ち合わせ後、当時株式会社水系の役員であった田崎増男氏が、権利者と共に特許事務所に行った事実が存在する。そこでは、権利者と弁理士の間で、明細書の内容についての話は既に終わっているようで、田崎氏は、本件特許発明についての主導的立場である高橋氏が同席していないことについて、違和感を覚えたというものである。
その後、権利者名義による出願を知った高橋氏は、平成23年4月に株式会社水系の役員を辞める旨を伝えるべく、高橋氏、田崎氏及び権利者の3名で面会した事実が存在する。その際、発明者は権利者に本件特許発明の出願人名義を無断で変更したことを問うと、権利者は終始、平身低頭し、「すみません」の一点張りで回答し、全く話し合いにならなかった。(口頭審理陳述要領書43頁1?12行)
(オ)打ち合わせ時の高橋氏の同席について
参加人は、本件特許発明の発明者が被請求人であると主張しながら、何故、高橋國治氏を戸島特許事務所での打ち合わせに同席させる必要があったのかが疑問である。参加人の主張するように、本件特許発明の着想を被請求人が行い、その内容を高橋氏に教示し、本件特許発明に使用するコンクリート体の製作を高橋氏に指示したに過ぎないのであれば、特許出願前の弁理士との打ち合わせに高橋氏を同席させる必要はないはずである。
参加人が主張する、特許事務所での打ち合わせの説明は被請求人が行いながら、その場所には高橋氏が同席していたという点には矛盾が存在する。(平成27年6月15日付け上申書3頁下から3行?4頁12行)
(カ)陳述の要領(1-1)に対して
被請求人は、弁理士との1回目の打ち合わせにおいて、本件特許発明のA?Kの工程について大略説明があったと主張し、その内容については、被請求人側陳述要領書の第6頁目に記載したとおりであるが、これらは、本件特許発明の請求項1や明細書中における組立手順の全体を引き写した内容に過ぎず、各分説の詳細な説明を弁理士に行った内容とは到底言えないものである。(平成27年6月15日付け上申書7頁下から5行?8頁11行)

キ 被請求人による本件特許発明に関する発明の経緯について
被請求人側陳述要領書には、被請求人が主張する事実関係の時系列説明に始まり、種々述べられているが、本件審判の争点の1つである本件特許権者がどのような経緯で本願発明の内容に至ったかという点については、不明確にしか記載がなされていない。即ち、本件特許発明の請求項A?Kの分説に対応した発明の動機、発明に至った時期については何ら触れられておらず、従来の矢板工法と、環境創社における工場見学、テクサイド製品が発明の動機になった点だけが述べられている。
従って、被請求人側陳述要領書の内容は、本件特許権者が本件特許発明を発明するに至った経緯が現れたものではなく、そのような経緯が一切存在しないことの裏付けに他ならないものと考えられる。(平成27年6月15日付け上申書3頁17?25行)

(2)無効理由2について
ア 瀬戸邸工事の公然実施について
(ア)本件特許出願前の工事であること
審判請求人が審査段階で提出した刊行物提出書及び各種資料(甲第1号証?甲第7号証)では、本件特許の出願日である平成22年5月12日より以前に行われた瀬戸義之邸に浄化槽を設置するための工法として、本件特許発明に係る方法が使用された事実(以下「本件工事」という。)が存在することが明らかとなっている。
本件工事は、審判請求人が、水系の事業とは独立して受注した請負工事である。また、本件工事には、前述した、本件特許発明の事業化に向けたコンクリート製品製造用の型枠及びコンクリート製品の製造が間に合わなかったため、別途、審判請求人が有明コンクリートに依頼し、型枠及びコンクリート製品の準備を行っている(甲第30証)。(審判請求書13頁4?14行)
(イ)本件工事の立ち会い
本件工事に関する浄化槽設置工事が行われた平成22年4月6日及び4月7日の期間中に権利者は、施工現場を訪れ、本件工事の見学を行っている。権利者が現場を訪れて本件工事を見学していたことを証するものとして、本件工事を審判請求人と共に行った中川内設備の中川内氏からの書面の写し(甲第31号証)と、権利者に誘われ、権利者と共に本件工事の現場を訪れた、権利者の知人である川口克己氏からの書面の写し(甲第32号証)を提出する。(審判請求書14頁3行?14頁15行)
(ウ)瀬戸邸工事の請け負いについて
平成22年4月6日?4月7日に行われた瀬戸義之邸の浄化槽設置工事は、審判請求人が、株式会社水系及び本件特許権者とは全く無関係に請け負った工事であり、審判請求人は株式会社水系のグループ会社でもなく、全くの別法人である。これを、当該工事があたかも本件特許権者の指示に基づくもの、または株式会社水系のために行ったかのような被請求人側の主張は甚だ失当である。(平成27年6月15日付け上申書4頁下から10?7行)
(エ)瀬戸邸工事の公然実施性について
平成22年4月の瀬戸邸工事は、本件特許出願の出願日前になされたものであり、工事状況を、守秘義務を有さない第三者が確認可能な状態で実施されたものである。また、現に、被請求人の知人である川口氏が見学していた事実が存在する。
ここでは、発明内容を第三者が確認可能な状況におかれること自体が公然実施に該当するものであり、発明内容を理解しうるほど第三者が確認していたか否かという点は、公然実施の判断に影響するものではない。
従って、平成22年4月の瀬戸邸工事は、本件特許出願の出願日前に公然実施されたものである。(平成27年8月4日付け上申書7頁21?28行)

イ 本件特許発明の容易想到性について
(ア)甲第3号証の各写真
甲第3号証には、本件特許の出願前である平成22年4月6日及び4月7日に行われた本件特許発明に相当する浄化槽の保護用コンクリート体の構築方法を利用した浄化槽設置工事の工事状況を示す写真である。甲第3号証の各写真には、本件特許発明の請求項の構成が記載されている。 (口頭審理陳述要領書15頁7?10行)
(イ)甲第3号証の記載事項
A.地中に埋設する浄化槽を土圧や地下水圧から保護する箱型の保護用コンクリート体の構築方法である点。
B.保護用コンクリート体となるコンクリート板を高さ方向に複数段に分割して製作しておく点。
C.地盤を保護用コンクリート体の最下段のコンクリート板の高さよりもやや浅めの深さに且つ保護用コンクリート体の長さ及び幅よりやや広めに掘削する点。
D.その掘削穴に最下段のコンクリート板を据え付ける点。
G.最下段コンクリート板の上端に次段のコンクリート板を据え付けて上下のコンクリート板同士を接続する点。
E.そのコンクリート板で囲まれた内側領域の下方及び据付け済みのコンクリート板直下の地盤を少しずつ下方に掘削する点。
F.その掘削箇所に据付け済みのコンクリート板を落とし込む点。
H.次段コンクリート板の据付けと、掘削とコンクリート板の落とし込みの工程を必要深さに応じて繰り返す点。
I.その後内底にコンクリート基礎を形成する点。
J.保護用コンクリート体となる左右に分割したコンクリート板を制作しておく点。分割した左右のコンクリート板同士を接続用プレートで連結する点。下段と上段のコンクリート板同士を接続用プレートで連結する点。
K.コンクリート板の上端に吊下げ用のアイボルトがアンカーボルトに取り付けられている点。(口頭審理陳述要領書 2-1)の表の「証拠」の欄)
(ウ)請求項1に係る発明と甲第3号証に示される公然実施された発明との相違点
請求項1に係る発明と公然実施された発明は、請求項1に係る発明が、E要件、F要件という順番の後に、G要件という点で、G要件,E要件,F要件の順である公然実施された発明と相違する(相違点1)。
また、請求項1に係る発明が、最下段のコンクリート板を据え付ける際に、地盤を保護用コンクリート体の最下段のコンクリート板の高さと「同じ深さ」に且つ保護用コンクリート体の長さ及び幅と「同じ長さ及び幅」に掘削する点(相違点2)と、そのコンクリート板で囲まれた内側領域の下方及び据付け済みのコンクリート板直下の地盤を次段のコンクリート板の高さと「同じ深さ」に掘削する点(相違点3)で相違する。(口頭審理陳述要領書 2-1)の表の「理由の要点」の欄の9頁2行?10頁6行)
(エ)相違点の判断
(a)相違点1
順序の違いは、公然実施された発明においては、掘削後のコンクリート板の落とし込みの作業効率を考慮して採用されたものである。具体的には、掘削及びコンクリート板の落とし込みの前に、次段のコンクリート板を下段のコンクリート板に据え付けることで、コンクリート板全体の重量が増し、掘削後の自重を利用した落とし込みがスムーズに行うことが可能となる。これは、重量のあるコンクリート体等を地中に埋めていく際に利用される土木分野における極一般的な方法であり、例えば、潜函工法等の既存の土木工法でも見られるものである。公然実施された発明では、請求項1と同様に、高さ方向に分割したコンクリート板の自重を利用して、コンクリート板の内側と板直下を掘削して、高さ方向に段階的にコンクリート板を落とし込んでいく点は共通し、請求項1の発明と公然実施された発明の両方から導かれる「一度に保護用コンクリート体の高さに相当する必要深さを掘削する必要がなく」「作業中に土砂崩れが起きにくい」という作用、効果も同一のものと言える(本件特許発明の特許公報の段落[0008]参照)。従って、相違点1は、請求項1の発明と、公然実施された発明に技術的な違いはなく、単なる作業上の差異にすぎないものである。
(b)相違点2
公然実施された発明においては、最下段のコンクリート板の高さよりもやや浅めの深さに掘削しているが、これは、前述の記載と同様に、その後に据付けした最下段のコンクリート板の内側及び板直下の地盤を掘削して、最下段のコンクリート板の自重で下方に少しずつ落とし込んでいくことができるため、コンクリート板の高さと同じ深さまで掘削をしていないものである。ここでの掘削深さは、コンクリート板の高さと全く同じではないが、コンクリート板が、高さ方向において大部分が地中に埋まる程度の深さであり、掘削深さが大きく異なるものではない。また、公然実施された発明においては、保護用コンクリート体の長さ及び幅よりやや広めに掘削しておくことで、上下段のコンクリート板の外周面を接続プレートで接続しやすくなる点から採用したものであり、ここで、保護用コンクリート体の長さ及び幅と同じ範囲で掘削することと、それよりもやや広めの範囲で掘削することには、掘削した範囲に保護用コンクリート体を収容可能とする点は共通し、甲第3号証の掘削範囲は保護用コンクリート体の長さ及び幅の範囲よりも極端に広いものではないため、土砂崩れの起きやすさについても、請求項1の発明と大きく変わるものではなく、この点において、請求項1の発明と公然実施された発明は実質的に同一であると考えられる。
(c)相違点3
公然実施された発明においては、コンクリート板の内側と板直下の地盤を次段のコンクリート板の高さと同じ深さになるように、厳密に掘削していくものではないが、下から2段目のコンクリート板が最上段に据付けられた際の高さ位置(甲第3号証の(e)第2頁(口))、下から3段目のコンクリート板が最上段に据付けられた際の高さ位置(甲第3号証の(g)第3頁(イ))及び最上段のコンクリート板が据付けられた際の高さ位置(甲第3号証の(h)第3頁(ロ))がそれぞれ同程度の高さにあることから、掘削の深さが、各段の掘削で同程度であり、また、1段のコンクリート板の高さから大きく外れるような掘削深さでないことから、コンクリート板の高さ方向以下の深さで段階的にコンクリート板が落とし込まれるものとなっており、この点において、請求項1の発明と公然実施された発明は実質的に同一であると考えられる。(口頭審理陳述要領書19頁19行?21頁7行)

[証拠方法]
甲第1号証 納品書の写し
甲第2号証 浄化槽設置届出書の写し
甲第3号証 平成22年4月6及び平成22年4月7日に実施された工事の進行状況を示す写真の写し
甲第4号証 分割状とされた保護用コンクリート体を示す図面(2010年2月8日付けファクシミリによる送信)の写し
甲第5号証 テクサイド計算書に添付の図面(2010年2月14日付け電子メール)の写し
甲第6号証 株式会社ヘキサプラントからファクシミリにより送信されてきた浄化槽保護用コンクリート体の寸法・定価表の写し
甲第7号証 刊行物等提出書の写し
甲第8号証 意見書の写し
甲第9号証 浄化槽設備士免状の写し
甲第10号証 株式会社水系の履歴事項全部証明書の写し
甲第11号証 特許調査報告書の写し
甲第12号証 株式会社水系に対する識別番号通知の通知書の写し
甲第13号証 本件特許の出願前の明細書案の写し
甲第14号証 本件特許の出願控えの写し
甲第15号証 本件特許の出願に関する特許事務所からの書類送付案内の写し
甲第16号証 株式会社水系宛に送られた封筒の写し
甲第17号証 商標調査報告書の写し
甲第18号証 商願2010-024089号願書控えの写し
甲第19号証 商願2010-024089号の登録に関する通知の写し
甲第20号証 商標第5337231号登録証の写し
甲第21号証 コンクリートの型枠製造用の平面図の写し
甲第22号証 コンクリートの型枠製造用の詳細図の写し
甲第23号証 有明コンクリート工業(株)からの電子メールの印刷及び図面データの写し
甲第24号証 有明コンクリート工業(株)からの電子メールの印刷及び図面データの写し
甲第25号証 コンクリートの型枠製造用の施工図の写し
甲第26号証 森山工業(株)からの電子メールの印刷の写し
甲第27号証 新規取引条件の写し
甲第28号証 森山工業(株)作成の見積書の写し
甲第29号証 有明コンクリート工業(株)へ送信した電子メールの印刷の写し
甲第30号証 有明コンクリート工業(株)作成の請求書の写し
甲第31号証 中川内氏からの書面の写し
甲第32号証 川口氏からの書面の写し
甲第33号証 (株)水系のパンフレットの写し
甲第34号証 (株)古川総合印刷からの書面
甲第35号証 (株)古川総合印刷の過去の売上伝票の写し
甲第36号証 特許第5432814号登録原簿の写し
甲第37号証 特許第5432814号の特許公報の写し
甲第38号証 特許法概説 第12版 吉藤幸朔著 有斐閣 の写し
甲第39号証 浄化槽使用開始報告書の写し
甲第40号証 甲第3号証の各写真を1枚ずつ印刷した写真データの写し
甲第41号証 フジクリーン工業株式会社の担当者からの書面の写し
甲第42号証 仮設矢板4方向切梁工法の説明資料の写し
甲第43号証 平成18年発売のフジクリーン社製の浄化槽新製品のパンフレットの写し
甲第44号証 平成18年発売のフジクリーン社製の浄化槽新製品の図面の写し
甲第45号証 平成19年5月作成の浄化槽用コンクリート枠(インサート等の表記なし)の図面の写し
甲第46号証 平成19年5月作成の浄化槽用コンクリート枠(インサート等の表記あり)の図面の写し
甲第47号証 秋冨設備設計事務所の秋冨氏からの書面の写し
甲第48号証 被請求人が請求人に送達した警告書の写し
甲第49号証 特願2013-127148号に対する刊行物等提出書の写し
甲第50号証 被請求人と審判請求人との関係に関する書面の写し
甲第51号証 平成20年(行ケ)第10427号審決取消請求事件の写し
甲第52号証 有明コンクリートから請求人宛に送られたメール及び構造計算書の写し
甲第53号証 甲52のメールの送り主である中原氏の名刺の写し

2 被請求人の主張
これに対し、被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として、乙第1?38号証を提出し、以下の主張を行った。
(1)無効理由1について
冒認出願
(ア)発明者
本件特許発明の発明者は、本件特許の請求項1に記載する工法を発案した被請求人である。
請求人の代表取締役でもある高橋國治(以下「高橋」という。)は、単に被請求人の指示を受けて、本件特許発明の実施に用いるコンクリートブロックを発注する際の作図・連絡等の一部に従事したものにすぎず、本件特許発明の課題や解決の方法を考案した者ではない。(審判事件答弁書2頁下から10?5行)
(イ)高橋が異議を述べた時期と内容
高橋は平成22年5月の本件特許出願後、平成23年4月に水系の取締役を退任するまで、何ら異議を唱えていない。
高橋が審判請求書の記載のように真に発明者であり、かつその発明の帰属に強いこだわりを有していたのであれば、出願時に確認せず、また退任時にもその帰属について何ら意見を述べないのは極めて不自然である。
そして、高橋が本件特許出願についてはじめて異議を述べたのは、請求人による情報提供(甲7)である。
その内容も、甲第7号証の刊行物等提出書の説明と今回の審判請求書の記載では、水系の取締役就任の事実等に何ら触れていない、その根拠も刊行物等提出書では新規性を中心としており、審判請求書では発明者性を中心とするなど、説明内容が大幅に変遷しており一貫していない。
高橋ないし請求人が、このような不自然な経過で、かつ一貫しない説明を行っていることは、請求人の説明内容が、請求人が本件特許発明を利用した競合品の製造を決定してから、単に後付けの理由として生み出されたことを強く示唆するものである。(審判事件答弁書23頁15行?24頁5行)

イ 高橋と石橋及び水系との関係について
(ア)株式会社水系の設立について
被請求人は、株式会社水系設立以前より、有限会社小城新生興業社の取締役・代表取締役として、屎尿汲み取り等の衛生事業に従事している(乙31)。
株式会社水系は、被請求人が100%の出資者となり、平成19年4月2日に設立された会社である(乙1,2)。
株式会社水系は、設立当初から浄化槽の維持管理、設計・施工等を目的としており、被請求人の人脈等を通じて、浄化槽の施工・維持管理等の業務を受注し、下請に出すなどしてきた。
同社の取締役としては、被請求人のほか、高橋國治、田崎増男の2名が平成21年10月1日より取締役の地位にあったが(乙1)、それぞれ平成23年4月、同年8月に辞任している(乙26,30)。なお、田崎増男は同社入社以前より浄化槽工事に従事していた。(審判事件答弁書13頁1?16行)
(イ)水系の事務所について
被請求人が小城新生興業社を退職したこと、請求人の事務所に出入りすることとなった事実は認める。
また、平成20、21年ころは水系が設立当初であり、単独で事務所を賃借する負担が大きかったことから、前記事業と並行して水系の事業についても、一時的に請求人の事務所を連絡場所として用いていたことは事実である。
そして、請求人が提出する書類中(甲5、甲6ほか)に、本件特許発明に用いる部材の仕様等について、ヘキサプラント、有明コンクリート、森山工業株式会社等の関連会社から、請求人(高橋)宛に連絡がなされているが、これもかかる事情によるものであって、請求人が水系ないし被請求人と別個に、ヘキサプラント等からの技術情報の提供を受けて開発したものではない(このことは、甲26・27号証において、森山工業株式会社から水系に対して発信された新規取引条件の文書も、請求人(高橋)のメールアドレスに送信されていることからも明らかである)。(答弁書3頁下から5行?4頁16行)
(ウ)請求人(祐徳設備)及び高橋と水系及び被請求人との関係
(a)高橋と被請求人は、被請求人が水系を設立する以前から、小城新生興業社等を通じて浄化槽清掃・保守等の業務を発注していた(乙17)。
被請求人が水系を設立した後は、被請求人が環境創社よりジョイフルの浄化槽施設の設置工事を受託した際に、その一部を請求人に下請に出したり(乙18,19)、その他にも高橋の関連会社に業務を発注するなどしていた(乙20)。
さらに、平成22年6月には高橋が代表取締役として経営する有限会社佐賀総合メンテナンスにおいて、浄化槽管理士の資格を有する被請求人が、同社の役職員として登録に協力したこともあった(乙21)。(審判事件答弁書13頁18行?14頁2行)
(b)高橋氏の技術を導入するとの一事のために役員就任を依頼したものではなく、前述の通り共同で事業を実施する関係にあったことから、相互に役員となったものである。それゆえ、石橋も祐徳設備の役員に就任している。(答弁書7頁3?6行)
(c)本件特許発明の開発においては、水系(被請求人)においてコンクリートブロック型枠製作等の費用・出願費用・パンフレットの作成費用等を全て支出するなどのコストを全て負担している反面、請求人は一切支出をしていない。(答弁書7頁13?16行)
(d)高橋の株式会社水系の辞任と金銭交付
テクサイドの製造・販売が順調に行われていたが、平成23年4月に、高橋から水系の取締役の辞任の意向が急遽伝えられることとなった。
田崎取締役より、事前に辞任の意向が伝えられ、本人と協議を行ったが、高橋が退任したい理由は不明であり、被請求人が慰留したものの高橋の辞任の意向が固かったことから、同月30日に辞任届を受理した(乙26)。
なお、辞任に至るまでの間に、本件特許発明に関して、冒認出願であるといった指摘を受けたことはなかった。
また、被請求人は、田崎から高橋が従前の自身の水系に対する活動に対しての報酬を求めているとの意向を伝えられた。被請求人としては、工事の発注等による見返りにより、高橋に実質的に相当額の報酬を付与してきたとの認識を有していたが、かかる意向をふまえ、水系から高橋に対し、これまでの取締役としての活動についての対価として60万円を支払った(乙27)。
なお、高橋の辞任からほどない同年8月8日、同じく水系の取締役をしていた田崎増男も辞任した(乙30)。(審判事件答弁書20頁14行?21頁3行)
(e)60万円の授受について
請求人らは被請求人の高橋に対する60万円の授受が、本発明の出願権の譲渡の対価であるかのよう主張する。
しかし、田崎は口頭審理において、かかる60万円の授受は、特許の譲渡費用などではなく、取締役を退任する際に必要となる対価だと供述するところ(田崎67,68)、そのような金銭は一般的には退職金ないし退職慰労金(役員報酬)である。
(平成27年7月31日付け上申書11頁下から3行?12頁3行)
(エ) 水系の事務所の移転
高橋の辞任に伴い、水系は請求人の事務所から他の場所に事務所を移転することとなった。
しかし、その際に高橋が管理していた資料については、その全てを網羅的に引き継いでいなかったことから、本件特許発明に関連する資料の一部は請求人の事務所に留め置かれたままとなってしまった。
それゆえ、本件では本来水系しか持ち得ないはずの資料についても、請求人から提出されるに至っている。(審判事件答弁書21頁5?11行)
(オ)請求人による競合品の製造及び本件特許出願にかかる情報提供
平成25年6月、請求人が本件特許出願に対して刊行物等提出書(甲7。添付資料は甲1ないし6)の提出を行った。
この情報提供と前後して、請求人は本件特許発明と同内容の技術につき、「ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金」の申請を行っている(乙29)。
その後、平成25年9月3日には、本件特許発明を用いたコンクリートブロック製品「フェロBOX」について、佐賀建設新聞に一面広告を掲載し、大々的に製造・販売を試みている(乙28)。
以上によれば、請求人による前記情報提供行為は、高橋が水系の取締役の職にあり、水系のために特許出願に従事したにもかかわらず、競合品を請求人において扱いたいと考えたことから、その特許成立を阻止しようとして実施されたものに他ならない。(審判事件答弁書21頁下から3行?22頁17行)

ウ 出願人の名義
(ア)水系による権利形成に対して
本件の発明者は被請求人であるところ、水系は被請求人が100%出資し、その代表取締役を務める中小企業(株式の譲渡制限のある閉鎖会社)であることから、出願人が代表者個人たる被請求人か、事業を行う法人たる水系かどうかは、水系が本件特許発明を実施する際に何ら影響を与えるものではない。
そして、被請求人が戸島弁理士に出願名義人について協議したところ、「どちらでも変わらない」との説明を受けたことから、代表取締役である被請求人名義で出願したものである。
この点、請求人は商標については水系名義で取得されていることから、特許も法人名義での取得が予定されていた、特許出願にかかる文書の発信先が法人たる水系であることなどから、当然に本件特許発明についても水系の名義で出願するはずであったなどと指摘する。
しかし、商標は事業の実施者が取得する必要があるため、事業者たる法人名義で取得する必要があるのは当然である。
また、特許出願文書についても、本件のような場合において、出願人が代表取締役個人となるとしても、その費用を法人が支出することも何ら不自然なものではないことから、本件特許出願に関する各種文書の送付が水系宛になされていても何ら不自然とは言えない。(審判事件答弁書8頁15行?9頁6行)
(イ)出願の名義の決定経過について
被請求人は口頭審理において、被請求人においては、共同出願も検討していたような供述をしている(石橋72)。
しかし、被請求人と高橋との間では、前記のとおり明示した合意がなされたものでないうえ、供述によれば、被請求人において、特許法上の共同出願の意義について十分な理解がないことがうかがわれるものがあることや(石橋115)、「共同」の内容については、異業種間での協力関係として位置付けているような供述もあること(石橋92)からすれば、同供述は、高橋と被請求人との間に、共同出願の合意があったことを意味するものではない。(平成27年7月31日付け上申書12頁7?14行)

エ 高橋による事業化への準備に対して
(ア)甲第21号証の作成時期について
請求人は、本件特許発明の具体化に着手していた時期の最大の根拠として、甲第21号証の図面の作成が平成21年8月になされている点を指摘する。しかしながら、同図が作成されたのは平成21年8月ではなく、有明コンクリート等により詳細図等が作成された平成22年4月以後に作成されたものであり、本件特許発明の出願準備前に、高橋において独自に本件特許発明の具体化がなされていたものではない。
(a)同図は写しが提出されているにすぎず、作成時期や作成目的、単独で作成・利用される図面であるのか、他の図面とあわせて作成、利用されたものか等が何ら明確でない。
(b)同図と対をなす甲22,23,24号証の詳細図については、平成22年4月以降に有明コンクリートにより作成されており、平面図のみが半年以上も前に詳細に完成しているのは極めて奇異である。
(c)請求人は本件特許発明に関し、ヘキサプラントとの間で、平成21年11月11日にまずは株式会社環境創社を通じて、本件特許発明の改良元となる「テクサイド」の図面・価格等を入手しているうえ(甲6)、平成22年2月8日の段階で請求人が作成し外部(ヘキサプラントと思われる)に発信したFAX(甲第4号証4頁)に記載された図面は、甲21号証の平面図に比して極めて大雑把なものである。
(d)かかる図面が出願前に存在していたならば、当然本件特許出願において、参考資料として弁理士に交付されているはずである。
しかし、本件特許発明に関しては、詳細な図面はコンクリートブロック型の発注後に作成されたものであり(甲22,23等)、本件特許出願の相談時、明細書原案作成時には弁理士に提供されていない。(審判事件答弁書4頁19行?6頁6行)
(イ)図面(図面データ)については、成立経過が不明であること
(a)作成経過についての証拠の不存在
高橋の主張のうち、自身が発明をしたことの客観的な記録は、甲21,甲45,甲46の各図面の写し(正確には電子データのプリントアウトと思われる)のみであり、他に存在しない。
この点、高橋は口頭審理の期日において、(i)甲21については作成した図面のデータ(原本)が存在しないと説明しており(高橋128)、また、(ii)甲45,46については、同様に高橋は口頭審理において、秋冨勲氏がデータを保有していると説明したが(高橋130)、その後、請求人においてはデータが存在せず、設計事務所からも開示できないとして、データのプロパティを提出しない。
この点、電子データについては、改ざんが容易であることから、成立の真正に争いがあるものについては、成立の経過について具体的な立証がなされない限り、証拠として採用できるものではない。
(b)甲21の図面はヘキサプラントとの協議後に作成された可能性があること
加えて、甲21の図面と、高橋が作成したとされる甲4号証4頁目の手書き図面を比較すると、甲第4号証においてベースコンクリートの長辺の長さが2500と印字されているものが、手書きで2430に修正されたうえで、さらにベースコンクリートの2つの角について、切り欠きを設ける修正が施されている。
そして、これらの修正は、いずれも甲21に記載されている数値等に合致する。
かかる記載によれば、甲21は、高橋が水系の発明経過において、水系の役員としてヘキサプラントと設計について協議し、その過程で作成されたものである可能性が強く疑われる。(平成27年7月31日付け上申書2頁20行?3頁22行)

オ 被請求人が本件特許発明の発明者であること
(ア)被請求人が本件発明に至る経緯
(a)従来技術
浄化槽の工事の際に広範囲の開削を行い、矢板を建てて周辺地盤の崩落を防止しながら、コンクリートの基礎・柱を設置する等の工法が従来より行われていた(乙10)。
しかし、この方法では工事が大規模となり多額の費用を要すること、小規模の土地・浄化槽の工事では実施が難しいこと、土砂の崩落等に伴う工事の危険があるなどの課題を抱えていた。(審判事件答弁書14頁22行?15頁1行)
(b)環境創社の製品の確認
平成21年11月ころ、岐阜県環境会館において浄化槽協会の会合が開かれた際に、株式会社環境創社において浄化槽のためのコンクリートブロックを製造しているとの説明を受けたことから、会合後に現物を現地で確認した。見学したコンクリートブロックの写真が乙第11号証である。なお、この現物は後日株式会社水系宛に送付を依頼しており、現時点においても、株式会社水系にて保管している。
同社の製品は、コンクリートブロックが重厚であること、工法が矢板の設置等を伴うこと等において、なお被請求人の課題を解決するものではなかった。(審判事件答弁書15頁9?25行)
(c)被請求人による本件特許発明の特徴的部分の着想
被請求人は、平成21年12月から平成22年1月上旬ころまでの間に、検討を重ね、前記株式会社環境創社の製品について、全体の重量を減らし、現時点で2段となっているブロックを、さらに細分化して、部材を軽量化することにより、ユンボ等の小型の重機により作業を可能とし、さらに、ブロックを1段ずつ建て込んでいき、建て込んだ後にその底部を掘削して順次重ねていくことで、矢板等による土留め工事も必要としない工法により設置することにより、前記課題を解決する製品になると考えるに至った。
前記本件特許発明の特徴的部分の着想後、着想の具体化のために、環境創社に対して依頼した構造計算等については、当時水系の連絡場所として利用していた請求人の事務所に届いている(甲4,甲5等)。(審判事件答弁書16頁9?25行)
(イ)本件特許発明の特徴的部分の着想が被請求人によること
被請求人は浄化槽に関する業務に長期間従事し、高橋退任後も継続的に開発に従事している
加えて、請求人は被請求人に施行等についての知識経験がなく、具体的・技術的な事項は何ら指示・説明がなかったと主張する。
しかしながら、被請求人は元々浄化槽の維持管理について豊富な知見を有し、下請等により工事を受託し(乙18,19)、資格も取得しているのであるから(乙21),土木工事そのものを自ら行っていないとしても、工事についての知識・経験は十分に有している。(審判事件答弁書28頁末行?29頁7行)

カ 高橋の本件特許発明への関与
(ア)請求人の提出資料等からも寄与が認められないこと
請求人が本手続において提出する資料には、請求人を名宛て人として送付された環境創社、有明コンクリート株式会社等の資料があるが、これらは単に水系が事務所を請求人の事務所においていた為に請求人方に送付されたにすぎないから、かかる資料の授受ないし管理をもって、本件特許発明の特徴的部分の創作に寄与したとは言えない。
加えて、かかる資料においても、発明を製品に具体化する設計プロセスは、いずれも水系や請求人以外の第三者が行っているものであり、請求人が具体的な設計に関与した資料は何ら存在しない(甲第21号証については、作成時期等に疑義があり、第三者の製図したものを反映して、平成22年4月以降に作成された可能性が極めて高い)。(審判事件答弁書27頁11?21行)
(イ)図面の作成は設計事項についての具体化にすぎないこと
仮に請求人が設計図面の一部を作成していたとしても、本件特許発明の特徴的部分は、前記のとおり単に分割されたコンクリートブロックを利用するだけではなく、その施工方法にある。
したがって、図面を作成して分割されたコンクリートブロックの詳細な仕様を決定することは、コンクリートブロックについては単なる設計事項の具体化にすぎない(本件においても、浄化槽の規模に応じて設計がなされている)うえ、施工方法についての着想を高橋が行ったことを何ら示すものではない。(審判事件答弁書27頁23行?28頁4行)
(ウ)高橋の行為
そもそも、請求人ないし高橋の行為は、既に存在する着想を前提に、図面の設計についての細部について、外部のコンクリートブロック製造業者の設計についての連絡調整をしているものにすぎない。
かかる高橋の行為は、本件特許発明の特徴的部分についての創作的寄与がなされたものとはいえない。(審判事件答弁書10頁16?21行)

(2)無効理由2について
ア 瀬戸邸工事の公然実施について
(ア)工事の実施による本件特許発明の公知化
甲第1ないし3号証の工事についても、請求人が水系または被請求人の指示により実施した工事であり、関与する施工業者、材料業者もすべて本件特許発明の完成に関与するものである。したがって、同工事の実施によって、本件特許発明が公知となったものとはいえない。(審判事件答弁書11頁10?13行)
(イ)特許出願と本件特許発明に基づく工事(瀬戸邸の工事)の実施
請求人が甲第2号証で提示する工事(瀬戸邸の工事、以下「本件工事」という)が、平成22年4月から5月ころに行われたことは間違いない(この点、請求人は同工事のうち、浄化槽設置工事を4月6日から7日にかけて実施したと主張するが、現時点では被請求人の手許に何ら資料が存在せず、記憶においても定かではない。ただし、同工事が本件特許発明を利用した最初の工事であり、試作品の製造、ならびに試験的な施工として行われたことは間違いなく、有明コンクリート株式会社からの納品書作成時期(4月6日 甲1)、森山工業株式会社に対する型枠の見積書等受領時期(4月8日、15日 甲26,甲28)からすれば、4月上旬に工事がなされたことを強く争うものでもない)。
本件工事の実施については、被請求人も立ち会っており、本件特許発明の実施状況、効果等について、実際の施工状況をみて確認していた。
ところで、本件工事やコンクリートブロックの製造に関係していたのは、水系や発明者たる被請求人のほか、共に本件特許発明に関与した請求人・高橋ならびにこれらの下請会社、有明コンクリート株式会社に留まる。また、本件工事は一般私人の住居敷地内で行われているのであり、一般人が本件工事の実施状況を確認することはできなかったうえ、注文者である瀬戸氏に対してこれらの工法を具体的に説明をしたものでもない。(審判事件答弁書18頁8?25行)
(ウ)本件工事(甲1?3)により公知化されたとの主張について
請求人は、被請求人が前記瀬戸邸工事(本件工事)に立ち会ったことを理由として、本件特許発明が公知・公用となったものと主張する。
しかし、本件工事の詳細は、前記のとおり請求人・被請求人・有明コンクリート株式会社、請求人の下請業者等のごく少数の者しか認識しえないものであり、かつ、請求人や被請求人・有明コンクリート株式会社においては、本件特許発明のための試作品・試験的工事であると認識して実施されたものである。
このような態様での実施については、発明の内容の周知の程度としても、2,3人に示しただけでは公知とならないとの大審院判決(大判昭和3年9月11日民集21巻10号560頁)、及び社会通念上ないし慣習上秘密とされることが期待される関係にある場合にも公知に当たらないとする裁判例(東京高判平成12年12月25日特許判例百選[第3版]10事件)から、公知と認定されないことは明らかである。
また、公用についても、そもそも本件特許発明は施工方法であるから、施工の具体的状況が外部から確認できない住宅敷地内の工事については不特定の者にその内容が知られるおそれがあるとは言えないし、注文主(瀬戸氏)との関係においても、施工の方法を具体的に説明したり、常時立会をしていたものではないから、同人に本件特許発明の内容が知られたともいえない。工場内等でせまい領域でしか認識していない場合には公用とはならないとの見解(新・注解特許法[上巻]245頁)や、第三者の立ち入りが禁止され、発明の核心的部分の様子を第三者が見ることができない場合には公用とならないとの下級審裁判例(知財高判平成17年9月8日(裁判所ウェブサイト))に照らしても、かかる状況における本件工事の実施が公用とならないことは明らかである。
また、公知と同様、公用か否かにおいても秘密を保持することが期待される極めて少ない人々が知ったとしても公然実施にならないとの下級審裁判例(東京高判昭和30年8月9日行集6.8.2007)に照らし、工事関係者の認識により公用となったとはいえない。
以上から、本件工事の実施により、本件特許発明が公知・公用となったとはいえず、本件特許発明に新規性喪失事由は存在しない。(審判事件答弁書30頁2行?31頁5行)
(エ)本件発明が出願前に公然実施されたものでないこと
瀬戸邸工事において実施された工事については、特に工事関係者(請求人や、被請求人が連れてきた者を含む)以外の不特定多数人が見ていたものではなく(田崎65)、公然実施されたものとはいえない。
加えて、本発明は、施工の方法に関するものであるところ、本件工事において4段のブロックについての掘削等が完了するまでには2時間を要するものであった(田崎51)。言い換えれば、本発明について把握するためには、本件工事の状況が、2時間近く継続的に確認する必要があったこととなる。
請求人側の証人である田崎の証言によれば、注文主の瀬戸氏ですら、そのような長時間にわたり、工事の状況を確認していたとの証言はなく、その他に工事関係者以外の者で、そのよう者が存在しないことも認めている(田崎65)。
なお、請求人は注文主や被請求人と同行した川口氏などが確認していることを公然実施の根拠であるかの如く指摘するが、これらの者や、請求人祐徳設備は、本発明の出願を認識して本件工事を行っているのであり、株式会社水系と密接な関係にあることから、これらの者が本発明を実施していたとしても、それが公然実施となり得ないことは明白である。(平成27年7月31日付け上申書12頁22行?13頁11行)

[証拠方法]
乙第1号証 株式会社水系の登記情報のプリントアウトの写し
乙第2号証 株式会社水系定款(認証文言付謄本)の写し
乙第3号証 浄化槽清掃業者との連絡に関する証明願の写し
乙第4号証 施設管理委託契約書の写し
乙第5号証 FAX送付状の写し
乙第6号証 岐阜県浄化槽生涯機能舗装制度と題するスライドの写し
乙第7号証 議事録の写し
乙第8号証 有限会社小城新生興業社の登記情報プリントアウトの写し
乙第9号証 名刺
乙第10号証 写真の写し
乙第11号証 写真の写し
乙第12号証 継続的取引に関する覚書
乙第13号証 出願・登録特許等一覧の写し
乙第14号証 登録実用新案第3163592号公報の写し
乙第15号証 登録実用新案第3183291号公報の写し
乙第16号証 浄化槽水質維持管理体制確立と小城市財政課題解決の御提案の写し
乙第17号証 浄化槽設置状況検査依頼書の写し
乙第18号証 見積書の写し
乙第19号証 見積書の写し
乙第20号証 注文請書
乙第21号証 浄化槽保守点検業者登録済通知書の写し
乙第22号証 請求書の写し
乙第23号証 テクサイド(7人槽・10人槽)出荷実績の写し
乙第24号証 御見積書の写し
乙第25号証 請求書の写し
乙第26号証 辞任届の写し
乙第27号証 (仮)領収書
乙第28号証 佐賀建設新聞2013年9月3日付け記事掲載広告の写し
乙第29号証 「ものづくり中小企業・小規模事業者試作品開発等支援補助金」と題するウエブサイトの写し
乙第30号証 辞任届
乙第31号証 共立産業株式会社 会社案内のプリントアウトの写し
乙第32号証 テク・シリーズの写し
乙第33号証 照会申立書の写し
乙第34号証 照会申立書に対する回答書
乙第35号証 状況写真の写し
乙第36号証 一般社団法人佐賀県建築士事務所協会 会員紹介 佐賀支部のプリントアウトの写し
乙第37号証 佐賀銀行 普通預金通帳の写し
乙第38号証 2012年版電話帳の検索結果のプリントアウトの写し

3 参加人の主張
また、参加人である株式会社水系も、証拠方法として丙第1?7号証を提出して、以下の主張を行った。
なお、株式会社水系は、被請求人が代表を務める株式会社であって、被請求人と利害関係を有する者であるから、合議体は平成26年10月1日付け参加許否の決定により、株式会社水系が被請求人を補助するために本件審判に参加することを許可した。

(1)事実関係の時系列説明のまとめの陳述
(a)石橋氏は、昭和42年から小城地区の衛生業に従事し、昭和58年から合併浄化槽開発に関与した。それ以降、平成19年頃まで浄化槽の管理・工事に関与した。
(b)平成19年4月に(株)水系を設立し、平成20年1月頃における(株)水系と(株)環境創社・(株)ヘキサプラントグループとの商売上の関係は、(株)環境創社の九州でのジョイフルの下水道切替工事を(株)水系が請負い、(株)水系は環境創社側から浄化槽の保護コンクリート体に関する技術導入と技術指導を受けることであった。
(c)石橋氏は、環境創社側に浄化槽を保護するコンクリート枠(箱形コンクリート保護体)の製品「テクサイド」があるとの情報を得て、平成21年7月に環境創社側のテクサイドシリーズ工場に行き、工場見学を行った。
石橋氏は、この見学により本件特許発明の構想を得た。
この構想のアイディアは、環境創社側の承諾の上で(株)水系側で特許出願するようにして、戸島特許事務所へ平成22年1,2月に依頼に行った。
(d)平成21年9月に環境創社側から(株)水系に、「テクサイド」製品2基が送られ、石橋氏は上記構想に沿って設計・試作に入った。強度計算は(株)ヘキサプラントに作成強力と改良開発の指導を得られることを確約した。
(e) 平成21年10月頃、高橋國治氏を(株)水系の取締役にして、改良テクサイド工法の浄化槽保護のコンクリート体の技術に関与・担当させた。
(f)「テクサイド工法」のブランドは、(株)環境創社の同意のもとで(株)水系が商標出願して第5337231号として登録商標とした。(株)水系の浄化槽の保護のコンクリート製品は、有明コンクリート工業株式会社に製造させていた。
(g)平成22年1月22日に、石橋一志氏、高橋國治氏と、戸島特許事務所で1回目の特許相談。
(h)平成22年2月25日に2回目の面接。
(i)平成22年4月6?7日に、瀬戸邸の工事実施。
(j)平成22年5月12日に特許出願。(口頭審理陳述要領書2頁下から11行?5頁15行)

(2)面接内容の陳述
(a)石橋・高橋両氏は、平成22年1月22日に一緒に事務所に来所し(株)水系の関係の発明として、まず発明相談として面接した。
石橋氏は発泡樹脂製の箱体模型を持参し、これを使って発明の技術的内容を説明した。
弁理士戸島は、石橋氏の発明の大略の技術内容を理解した。
(b)(株)水系の石橋氏と高橋氏がー緒に再度同年2月25日に来所し、説明は主に石橋氏からなされ、一部について高橋氏から補助的な説明があった。この2回目の面接では、発泡樹脂製の模型による説明はなかったと記憶している。その代わり、(株)水系から資料として丙第1?5号証のものが弁理士戸島へ提供され、これを参考にして行程の聞き取りと質問とから各A?I行程及びJ,K行程の詳細をメモして、(株)水系の発明の特徴はその施工行程にある、と弁理士戸島は理解した。
この丙号証と石橋氏の施工の行程説明の聞き取りと質問とから本件特許発明の特許出願は作成された。(口頭審理陳述要領書5頁20行?8頁18行)

(3)瀬戸邸工事について
請求人は、平成22年4月6?7日に行われた瀬戸義之邸の浄化槽設置の工事(以下瀬戸邸工事という)が、公然実施であると主張する。この点に対する参加人は公然実施ではないと陳述する。その理由は、下記(a),(b)の通りである。
(a)瀬戸邸工事は、一個人の住宅での浄化槽工事であり、工事期間は2日間に過ぎない。
・そして、個人宅でのこのような一回の施工でもって「公然実施」と判断できない。
・「公然実施」とは、非特定人がその技術内容を理解できる程度の実施でなくてはならない。
・狭い個人宅でクレーン・コンボ(シャベル)の重機を使っての、住宅地での通行がかなり制限した状況での工事と判断されるので、工事関係者以外の近接した通行人はほとんどないと判断される。
・しかも、本件特許発明のA?I行程の土木作業であり、各行程とも数時間必要であり、A?I行程の全行程を見るにしても2日間の観察時間が必要であり、非特定人が技術的内容が分かるように観察できないと判断される。本件特許発明の各行程単独には特許性がある訳でなく、各行程単独は土木・建築の工事としてありふれた公知の工事技術である。従って、一行程の工事状況を見ただけでは本件特許発明の技術は理解できない。本件特許発明の技術内容は、各A?I行程の手順を観察しなければ理解されない。その為には、少なくとも半日以上且つ掘削の状況組立の状況は掘りこまれた凹所内の作業が中心であり、工事現場のかなり近くで見なければ分からないものである。
・このような長時間の観察ができるのは工事関係者以外は少なく、非特定人が長時間現場にいて現場近くで観察できた状況とは判断できない。むしろ、狭い場所での工事であるので、非特定人は工事の安全の為に通行も遮断されることで現場に近づけないと判断される。
(b)瀬戸邸の写真撮影は(株)水系のカタログに使用するための関係者の写真撮影であるので、写真撮影があっても何ら公然実施といえるものではない。祐徳設備(株)は(株)水系のグループ会社であり、(株)水系で本件を担当されたものであり、工事関係者であり、又その写真は(株)水系のカタログ写真となったものである。そのカタログの発行は、本件特許発明の出願日(平成22年5月12日)後である。
・請求人の証拠とする業者は(株)水系の関連会社(祐徳設備(株)、有明コンクリート工業、森山工業、カタログ印刷会社)、その内部商取引は公然実施の証拠とはならない。(口頭審理陳述要領書9頁21行?11頁6行)

[証拠方法]
丙第1号証:テクサイド計算書FRP浄化槽用土留めの写し
丙第2号証:テクサイドの利点と特長(他社製品との比較)の写し
丙第3号証:FRP浄化槽土留め用テクサイド設計計算書CE-5型用の写し
丙第4号証:7人槽浄化槽及びテクシリーズ構造図の写し
丙第5号証:FRP浄化槽土留め用テクサイド設計計算書CE-7型用の写し
丙第6号証:出願打合わせ用原案の連絡文書の写し
丙第7号証:発明者・特許出願人リスト(1/2)の返信書面の写し
丙第8号証:陳述書
丙第9号証:陳述書

第5 当審の判断
1 無効理由1
まず、本件特許出願時の願書には、出願人及び発明者として石橋一志と記載され、その後、本件特許出願が特許第5432814号の設定登録された以上、本件特許発明の発明者は、石橋一志(以下「石橋」という。)と解するのが妥当である。
本件特許に対して、冒認出願であるとの無効理由を含む本件無効審判請求がなされ、冒認出願に関する請求人の主張は、請求人代表者の高橋國治(以下「高橋」という。)が本件発明の真の発明者である旨の主張であるが、そのような心証を抱かせるに足る具体的かつ明白な主張及び立証はなされていない。
その理由を、請求人の主張に沿って、以下に述べる。

(1)本件発明を発案するに至った経緯について
ア 請求人は、上記「第3 1(1)」の「エ」及び「オ(イ)」のとおり、高橋が本件発明を着想した時期について、甲第21号証が作成されたとする平成21年8月の時点、もしくは甲第45号証及び甲第46号証が作成されたとする平成19年5月の時点であると主張しているので、甲第21号証,甲第45号証及び甲第46号証の作成日について、甲第4号証との関係に基づき検討する。

イ まず、甲第21号証の作成日について検討する。
甲第21号証には、コンクリートブロック体の平面図が記載されており、設計者として高橋、作成者として坂本、設計年月日として平成21年8月と記載されている。
まず、甲第21号証の原本に関し、電子データは存在していないことが、請求人の代表者である高橋の陳述から明らかとなっている(「証人等の陳述を記載した書面」の127,128参照。)。
次に、2010年(平成22年)2月8日付けで祐徳設備株式会社から外部に発信したと認められるファクシミリの写しである甲第4号証の4頁には、4段及び左右に分割されたコンクリート体とベースコンクリートの図が記載されているが、このコンクリート体及びベースコンクリートの図は、当該ファクシミリの発信よりも前である、平成21年8月に完成していたとされる甲第21号証の図面と比較して、非常に大雑把なものである。
また、上記4頁に記載されたベースコンクリートの長さが2500で幅が1400を、見え消しでそれぞれ2430と1260に修正している。この2430と1260は、当該ファクシミリの発信より前に完成していたとされる甲第21号証に記載されているベースコンクリートの長さ及び幅である。
仮に、設計年月日としての平成21年8月の記載が正しいとすれば、甲第4号証の図面が作成される前に、甲第21号証の図面が存在したことになり、甲第4号証の図面を作成する必要はないし、寸法を修正することにも妥当性はない。
そうすると、当該ファクシミリの発信以降に、甲第21号証の図面が完成したとみることが自然である。

ウ 次に、甲第45号証及び甲第46号証の作成日について検討する。
請求人は、甲第45号証及び甲第46号証には、設計者として高橋、その隣の欄に秋冨、設計年月日として平成19年5月と記載されているが、甲第45号証及び甲第46号証は写しであって、電子データの存在が確認できる情報を開示していない。(上記第3 1(1)オ(ウ)参照。)。
そして、甲第46号証は、甲第45号証に、「スラブ差金用インサート」、「施工用(アイボルト用)のインサート」、「最上段に流入管、流出管用のノックアウト」、の箇所を書き入れ、ベースコンクリートに「水中ポンプ用筌場のカット」を入れ込んだものと主張する(上記第3 1(1)オ(イ)参照。)。
しかしながら、上記アで説明した甲第4号証の4頁目のコンクリート体及びベースコンクリートの図も、甲第45号証及び甲第46号証と比較して、非常に大雑把なものであって、さらに甲第4号証の4頁目には、最上段にノックアウトを、ベースコンクリートにカットが手書きで加えられていることからみて、甲第4号証よりも後に、甲第45号証及び甲第46号証が完成したと見るべきである。

エ 以上のことから、甲第21号証、甲第45号証及び甲第46号証の完成は、請求人が主張する平成21年8月や平成19年5月ではなく、甲第4号証の第4頁がファクシミリとして発信された2010年2月8日以降と考えるのが妥当である。

(2)水系による権利形成について
上記「第3 1(1)ウ」において、高橋は水系に技術提供を行って、水系を出願人として手続を進めていたにも関わらず、権利者が出願人となって手続きを進めたことが冒認出願に該当すると主張している。
しかしながら、本件特許の出願人を会社名とするか、当該会社の代表者とするかは、当該会社の事情によるものであって、そのどちらを出願人として手続を進めたかどうかと冒認出願の判断とは何ら関係はない。
また、仮に、技術提携を行ったとしても、発明の実施を支援したにすぎないと言うべきである。

(3)本件発明の事業化について
上記「第3 1(1)エ」のとおり、請求人は、甲第21号証?甲第29号証を提示して、本件発明を事業化を高橋及び請求人が主体となって進めていたものであることが、本件発明の発明者が高橋であることを示しており、石橋(権利者)は、特許を受ける権利を有さない者である、と主張している。
しかしながら、そもそも、事業化を進めることが、発明を発想したことを示すものではない。
ここで一応、事業化を進めた証拠と請求人が主張する上記甲第21号証?甲第29号証の内容について検討する。
まず、甲第21号証?甲第25号証は、工事に用いるコンクリート体を製造するにあたって必要とされる詳細な設計図面であって、詳細な寸法や付加的な部材等のコンクリート体の仕様を表しているので、構築するための当該コンクリート体を具体化したものといえる。
なお、上記(1)で検討したとおり、甲第21号証の作成日に疑義があり、甲第22号証も、その記載内容から作成日は不明であり、また甲第23号証?甲第25号証は、弁理士事務所での相談の後であって、工事直前の平成22年4月であることから、甲第21号証?甲第25号証は、高橋が本件発明を着想した証拠となるものとはいえない。
また、それら甲第26号証?甲第29号証は、それぞれ平成22年4月に送付若しくは受領したコンクリート体の取引に関するファクシミリ、メール又は書面である。
そうすると、これら証拠からみて、高橋及び請求人が、発注する予定のコンクリート体の仕様を詰め、さらに業者と連絡を行う業務に従事していたとしても、本件発明を着想した証拠、つまり本件発明の主要な特徴である、箱状のコンクリート体であることや、さらにコンクリートブロックを落とし込み、据え付ける順序を、導き出す証拠となるものではない。
よって、上記甲第21号証?甲第29号証を証拠とした、請求人の主張を採用することはできない。

(4)請求人が冒認の主張を行った時期について
請求人は、請求人の代表者である高橋が水系を退職する際に、石橋が出願人を水系として出願したことに対して不服を申し述べた旨の主張をしている(上記第3 1(1)カ(エ)参照。)。しかしその際に、発明者が石橋となっていることに対して不服を述べたとは、請求人は主張していない。もし発明者に関して不服があるならば、出願書類が確認できた時点の早い段階で、不服を申し立てることができたはずである。
また、平成25年6月7日に刊行物等提出書を特許庁に送付することによって、本件発明が、公然実施された発明であることを主張しているが、この時点においても冒認出願の主張を行っておらず、本件発明が冒認出願であることは、本件無効審判事件で初めて主張したものである。
冒認出願の主張が、時機に遅れたものであることに鑑みると、本件発明が冒認出願であるとの無効理由は、妥当性、信頼性を欠くというべきである。

(5)戸島特許事務所での説明について
戸島特許事務所での計2回の相談において、高橋が本件発明を説明したと主張しているが(上記第3 1(1)カ参照。)、当該説明時に用いた証拠は提出されておらず、また参加人の陳述をみても、そのような事実があったかどうか明らかではない。
なお、特にその(オ)では、被請求人が発明者であると参加人が主張していながら、発明者ではない高橋を戸島特許事務所での打ち合わせに同席していることについて、請求人は疑問を示しているが、説明に同行する者は、発明者に限られるものではなく、その説明の内容やその他の事情によって、必要とされる者が同行するものである。
共同事業者として、あるいは、詳細な設計または施工を担当する者として高橋が同席したと考えられるから、同席したことをもって、真の発明者であることにはならない。

(6)冒認出願の主張立証責任とその主張の程度について
ア 請求人は、高橋が真の発明者である理由を、コンクリート製品の図面や関係者からの書面等を提出し、具体的詳細に指摘したのに対し、被請求人は、具体性に欠ける主張のみを行い、発明を行ったことを示すような図面や書証の提出はなされていないこと、被請求人は曖昧な主張を繰り返していること、冒認出願の立証責任は権利者が負担するものであることを、また、その(ウ)において、本件発明は工事が重要であって、浄化槽設置工事を経験している高橋が発明者であることを示していると主張している(上記第3 1(1)ア(イ)参照。)。

イ 請求人の主張並びに証拠を検討したところ、結局、コンクリートブロックを箱状とする点、及び据え付けたコンクリートブロックの下方を掘削して落とし込む点について、主要な証拠とみられる甲第21号証,甲第45号証及び甲第46号証の作成日に疑義があり(上記(1)参照。)、その他の証拠についても高橋が発明の特徴的部分を想起したことを推認させるものではない。

ウ そもそも本件発明の主要な特徴である、箱状のコンクリートブロックや、コンクリートブロックの掘削と据え付けの工程であれば、本件発明の技術レベルを勘案すれば、浄化槽の設置を直接施工する者でなくとも、当該施工に関連する業務や、浄化槽の管理業務等を行う者であれば、思い付くことが可能と推測できる。
そして、本件発明は、石橋一志が発明者として出願され、その後設定登録されたものであって、請求人代表者である高橋國治は、水系を退職する際に、発明者が石橋一志となっていることを知っていながら、本件無効審判事件で初めて冒認出願の主張がなされたものであることを考慮すれば、被請求人及び参加人の主張が、具体的ではなかったり、記憶が曖昧なところや、また特許制度を充分理解していないところがあるとしても、本件発明の発明者が石橋(権利者)でないとは判断できない。

(6)無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法では、本件発明の真の発明者が、石橋ではなく、高橋であると判断することはできない。

2 無効理由2
(1)公然実施について
請求人は、本件特許の出願日前の平成22年4月6日及び4月7日に瀬戸邸で行われた工事(以下「本件工事」という。)が公然実施にあたると主張するので、当該工事の公然実施性について、以下に検討する。

ア 本件工事の工事日について、被請求人も、「ただし、同工事が本件特許発明を利用した最初の工事であり、試作品の製造、ならびに試験的な施工として行われたことは間違いなく、有明コンクリート株式会社からの納品書作成時期(4月6日 甲1)、森山工業株式会社に対する型枠の見積書等受領時期(4月8日、15日 甲26,甲28)からすれば、4月上旬に工事がなされたことを強く争うものでもない)。」(上記第3 2(2)ア(イ)参照。)と主張し、また参加人も、事実関係の陳述において、平成22年4月6日及び4月7日に行われたことに反論はないことから(上記第3 3(1)(i)参照。)、本件工事が4月6日及び7日に行われたものと認める。

イ 続いて、本件工事の実施が、公然実施に該当するか否かについて検討する。
本件工事には、少なくとも、高橋、田崎氏、祐徳設備社員1名、中川内設備の中川内氏、石橋、石橋の知人の川口氏が、工事の施工に従事または見学していたことが、甲第31号証及び甲第32号証から分かる。(この点について、被請求人側からの反論はない。)
ところで、本件工事について、請求人が水系または被請求人の指示により実施した工事であり、関与する施工業者、材料業者もすべて本件特許発明の完成に関与するものである(上記第3 2(2)a(ア)参照。)、請求人・被請求人・有明コンクリート株式会社、請求人の下請業者等のごく少数の者しか認識しえないものであり、かつ請求人や被請求人・有明コンクリート株式会社においては、本件特許発明の試作品、試験的工事であると認識して実施されたものである(上記第3 2(2)a(ウ)参照。)、工事関係者(見学者を含む)以外の不特定多数人が見ていたものではなく、4段のブロックについての掘削等が完了するまでには2時間を要するものであった(上記第3 2(2)a(エ)参照。)ことから、公然実施されたものではない旨、被請求人は主張している。
しかしながら、真の発明者であると主張する高橋及び石橋(権利者)については、本件工事の内容に関して、守秘義務があったか、もしくは秘密を保持することが期待された者であったとしても、その他の工事関係者、つまり祐徳設備社員1名、中川内設備の中川内氏、石橋の知人の川口氏については、本件特許出願に直接関与する者ではなく、さらに本件工事の内容に関して守秘義務があったとも主張されておらず、また、本件工事には石橋が知人を連れてきているように、公開されたものであったことからみて、本件工事の施工にあたって、その内容に秘密を保持するような意図があったとは認められず、その他の工事関係者が秘密を保持することが期待された者にあたるともいえない。

ウ 以上のとおり、本件工事は、本件工事に関して守秘義務を有さない者が数人関与していることから、公然実施された工事と認める。

(2)本件発明の容易想到性について
続いて、本件特許発明が、甲第3号証に示される本件特許出願前に公然実施された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものかどうか、以下検討する。
ア 甲第3号証の記載事項
甲第3号証は、請求人が本件特許発明に相当すると主張する、本件特許の出願前である平成22年4月6日及び4月7日に行われた浄化槽の保護用コンクリート体の構築方法を利用した浄化槽設置工事の工事状況を示す写真の写し(上記第3 1(2)イ(ア)参照。)であって、全11頁からなり、各頁に上下方向に3枚の写真が並んでいる。
(ア)1?11頁の写真から、以下の事項が読み取れる。
(a)第1頁上段:工事着工前の工事現場。
(b)第1頁中段:短手方向略半分の位置で左右に分割された最下段のコンクリート板が、最下段のコンクリート板の高さよりもやや浅めの深さに埋設されている。また、重機があり、地面が最下設のコンクリート板の長さ及び幅よりやや広めに掘削された痕がある。
(c)第1頁下段:最下設コンクリート板の内側を重機で掘削している。最下段のコンクリート板は、最下段のコンクリート板の高さと略同じ深さに埋設されている。
(d)第2頁上段,中段:最下段のコンクリート板の上端に2段目のコンクリート板が載せられ、上下のコンクリート板が金具により連結され、2段目のコンクリート板の上端にアイボルトが取り付けられている。コンクリート板の内側の土砂は掘削されている。
(e)第2頁下段:さらに2段目のコンクリート板の上に、3段目のコンクリート板が載せられている。下から略2段分程度のコンクリート板の高さまで埋設されている。2段目のコンクリート板及び3段目のコンクリート板は、それらの左右が金具により連結されている。表示板には、「3段目組立」と記載されている。
(f)第3頁上段:3段目の左右のコンクリート板を金具で接続作業をしている。コンクリート板の内側の土砂は掘削されている。
(g)第3頁中段:さらに3段目のコンクリート板の上に、4段目のコンクリート板が載せられて、4段全体で箱型のコンクリート体となっている。下から略3段分程度のコンクリート板の高さまで埋設されている。コンクリート板の内側の土砂は掘削されている。表示盤には「4段目組立」と記載されている。
(h)第3頁下段,第4頁上段:コンクリート板の内側が、最下段のコンクリート板の略高さ程度まで土砂で埋められている。
(i)第4頁中段,下段:上記(h)の土砂上に栗石を敷き詰め転圧している。
(j)第5頁上段,中段:上記(i)の栗石を土砂で目潰しして転圧している。
(k)第5頁下段:上記(j)の土砂の高さを確認している。
(l)第6頁上段:上記(k)の土砂の上にモルタルを打設し、水平調整を行った。
(m)第6頁中段,下段:基礎コンクリート底盤を吊り込んで、コンクリート板の内側底面に据付けている。
(n)第7頁上段:基礎コンクリート底盤がコンクリート板の内側底面に据付られた。
(o)第7頁中段,下段:浄化槽。
(p)第8頁?第11頁:4段のコンクリート板で構成された箱型のコンクリート体の内部への浄化槽の据付、内部の埋戻、スラブコンクリート打設、かさ上げ、完了の状況。

(イ)上記(ア)からみて、以下の事項が明らかである。
・上記(p)からみて、4段の左右のコンクリート板で構成された箱型コンクリート体が、地中に埋設する浄化槽を土圧から保護する箱型の保護用コンクリート体であることは自明であって、上記(ア)の工程全体は、保護用コンクリート体の構築方法といえる。
・上記(ア)全体からみて、2段目のコンクリート板にアイボルトが設けられ、基礎コンクリート底盤及び浄化槽が釣り込んで設置しているので、各コンクリート板は、釣り込んで設置していることが明らかであり、また現場打ちコンクリートではなく、4段に分割して製作しておくことも明らかである。
・上記(b),(c)からみて、まず、地面を最下段のコンクリート板の高さよりもやや浅目の深さで、かつ、最下段のコンクリート板の長さ及び幅よりやや広めに掘削し、その後最下段のコンクリート板を建て込み、その後、最下段のコンクリート板で囲まれた内側領域の下方及び建て込み済みのコンクリート板直下の地盤を掘削して、最下段のコンクリートをその高さと同じ深さまで埋設することが明らかである。
・上記(d),(e)からみて、2段目のコンクリート板を建て込んだ後に、最下段のコンクリート板で囲まれた内側領域の下方及び建て込み済みのコンクリート板直下の地盤を、2段目のコンクリート板の高さと同じ深さに掘削することが、明らかである。
・上記(e)?(g)からみて、3段目のコンクリート板又は4段目のコンクリート板をそれぞれ直前のコンクリート板に建て込んだ後に、最下段のコンクリート板で囲まれた内側領域の下方及び建て込み済みのコンクリート板直下の地盤を、3段目又は4段目のコンクリート板の高さと略同じ深さまで掘削して、コンクリート板を落とし込んでいることが明らかである。

(ウ)以上のことからみて、甲第3号証の各写真から読み取れる発明(以下「甲3発明」という。)は、次のとおりである。
「a.地中に埋設する浄化槽を土圧から保護する箱型の保護用コンクリート体の構築方法であって、
b.保護用コンクリート体となるコンクリート板を高さ方向に4段に分割して製作しておき、
c.地面を保護用コンクリート体の最下段のコンクリート板の高さよりもやや浅めの深さに且つ保護用コンクリート体の長さ及び幅よりも大きい長さ及び幅に掘削し、
d.その掘削穴に最下段のコンクリート板を建て込み、そのコンクリート板で囲まれた内側領域の下方及び建て込み済みのコンクリート板直下の地盤を最下段のコンクリート板の高さと同じ深さまで掘削し、その掘削箇所に建て込み済みの最下段のコンクリート板を落とし込み、
e.落とし込まれたコンクリート板の上端に次段のコンクリート板を建て込んで上下のコンクリート板同士を接続し、
g.最下段のコンクリート板で囲まれた内側領域の下方及び建て込み済みのコンクリート板直下の地盤を、建て込んだコンクリート板の高さと同じ深さまで掘削し、
f.その掘削箇所に建て込み済みのコンクリート板を落とし込み、
h.これらのコンクリート板の建て込みと、掘削と、コンクリート板の落とし込みの工程を、2段目から4段目のコンクリート板まで繰り返し、
(h)その後、コンクリート板の内側が、最下段のコンクリート板の略高さ程度まで土砂で埋められ、土砂上に栗石を敷き詰め転圧し、栗石を土砂で目潰しして転圧し、土砂の上にモルタルを打設し、基礎コンクリート底盤を吊り込んで、コンクリート板の内側底面に据付けた、浄化槽保護用コンクリート体の構築方法。」

イ 本件発明1
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(a)甲3発明の「a.落とし込まれたコンクリート板の上端に次段のコンクリート板を建て込んで上下のコンクリート板同士を接続し、
g.最下段のコンクリート板で囲まれた内側領域の下方及び建て込み済みのコンクリート板直下の地盤を、建て込んだコンクリート板の高さと同じ深さまで掘削し、
f.その掘削箇所に建て込み済みのコンクリート板を落とし込み、
h.これらのコンクリート板の建て込みと、掘削と、コンクリート板の落とし込みの工程を、2段目から4段目のコンクリート板まで繰り返」すことと、
本件発明1の「E.そのコンクリート板で囲まれた内側領域の下方及び建て込み済みのコンクリート板直下の地盤を次段のコンクリート板の高さと同じ深さに掘削し、
F.その掘削箇所に建て込み済みのコンクリート板を落とし込み、
G.その落とし込まれたコンクリート板の上端に次段のコンクリート板を建て込んで上下のコンクリート板同士を水密状に接続し、
H.これらの掘削とコンクリート板の落とし込みとコンクリート板の建て込みの工程を必要深さに応じて繰り返」すこととは、
本件発明1及び甲3発明が共に、「E.そのコンクリート板で囲まれた内側領域の下方及び建て込み済みのコンクリート板直下の地盤を次段のコンクリート板の高さと同じ深さに掘削し、」,「F.その掘削箇所に建て込み済みのコンクリート板を落とし込み、」,「G.その落とし込まれたコンクリート板の上端に次段のコンクリート板を建て込んで上下のコンクリート板同士を接続」する工程を備え、必要深さに応じて繰り返す点で共通している。

(b)甲3発明の「その後、コンクリート板の内側が、最下段のコンクリート板の略高さ程度まで土砂で埋められ、土砂上に栗石を敷き詰め転圧し、栗石を土砂で目潰しして転圧し、土砂の上にモルタルを打設し、基礎コンクリート底盤を吊り込んで、コンクリート板の内側底面に据付けた」ことは、本件発明3の「その後打ち即にコンクリート基礎を形成するようにしたこと」に相当する。、

(c)以上のことから、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致している。
〔一致点〕
A.地中に埋設する浄化槽を土圧から保護する箱型の保護用コンクリート体の構築方法であって、
B.保護用コンクリート体となるコンクリート板を高さ方向に複数段に分割して製作しておき、
C’.地盤を掘削し、
D’.その掘削穴に最下段のコンクリート板を建て込み、そのコンクリート板で囲まれた内側領域の下方及び建て込み済みのコンクリート板直下の地盤を次段のコンクリート板の高さと同じ深さに掘削し、
G’.その落とし込まれたコンクリート板の上端に次段のコンクリート板を建て込んで上下のコンクリート板同士を水密状に接続し、
F’.その掘削箇所に建て込み済みのコンクリート板を落とし込み、
H’.必要深さに応じて繰り返し、
I.その後内底にコンクリート基礎を形成するようにしたことを特徴とする、浄化槽保護用コンクリート体の構築方法。」

そして以下の3点で相違している。
〔相違点1〕本件発明1は、地下水圧から保護し、上下のコンクリート板同士を水密状に接続するのに対し、甲3発明は、地下水圧から保護するかどうか不明であって、上下のコンクリート板同士を水密状に接続するかどうかも不明な点。
〔相違点2〕最初の地盤の掘削の範囲は、本件発明1は、保護用コンクリート体の最下段のコンクリート板の高さと同じ深さに且つ保護用コンクリート体の長さ及び幅と同じ長さ及び幅であるのに対し、甲3発明は、最下段のコンクリート板の高さより若干浅めの深さに且つ保護用コンクリート体の長さ及び幅よりも大きい長さ及び幅であって、さらにその後、そのコンクリート板で囲まれた内側領域の下方及び建て込み済みのコンクリート板直下の地盤を最下段のコンクリート板の高さと同じ深さに掘削する点。
〔相違点3〕必要深さに応じて繰り返す工程が、本件発明1は、掘削とコンクリート板の落とし込みとコンクリート板の建て込みの順番であるのに対し、甲3発明は、コンクリート板の建て込みと掘削とコンクリート板の落とし込みの順番である点。

(イ)相違点の検討
上記相違点1?3について検討する。
(a)相違点1
地下構造物において、まず土圧の影響を受け、さらに地下水位によっては、水圧の影響を受けることは自明な事項であって、かつ、土圧だけではなく、地下水圧の影響も含めて設計・施工すべきことは、当業者が常に考慮していることであるから、甲3発明の保護用コンクリート体を地下水圧から保護するものとし、さらに上下のコンクリート板同士を水密状に接続することは、当業者が適宜なし得た程度のことに過ぎない。

(b)相違点2
甲3発明の最初の掘削範囲は、最下段のコンクリート板の高さより若干浅い深さに且つ保護用コンクリート体の長さ及び幅よりも大きい長さ及び幅であって、さらにその後、コンクリート板で囲まれた内側領域の下方及び建て込み済みのコンクリート板直下の地盤を最下段のコンクリート板の高さと同じ深さに掘削するが、そもそもそのような範囲を2段階で掘削を行う理由については、深く掘削すると埋設する前に掘削穴がくずれるおそれがあるからと推測される。したがって、最下段のコンクリート板の高さと同じ深さに且つ保護用コンクリート体の長さ及び幅と同じ長さと幅に掘削して、最下段のコンクリート板が埋設されるまでの掘削を1回で行う動機付けが存在しない。したがって、甲3発明に基づいて、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(c)相違点3
相違点3は、要するに、2段目以降のコンクリート板を建て込んで上下のコンクリート体を接続する際に、当該建て込み及び接続の工程を先に行うか、それとも、下方を掘削して落とし込む工程を先に行うかである。
甲第3号証の各写真から、コンクリート板の建て込みを先に行うのは、掘削穴がくずれるのを防ぐとともに、コンクリート板の重量を利用して、コンクリート体の落とし込みを行うためと推測されるから、当該工程を逆にする動機付けは存在しない。したがって、甲3発明に基づいて、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(ウ)請求人の主張について
まず、請求人は、相違点2(請求人の主張における相違点2)について、「最下段のコンクリート板の高さよりもやや浅めの深さに掘削しているが、これは、前述の記載と同様に、その後に据付けした最下段のコンクリート板の内側及び板直下の地盤を掘削して、最下段のコンクリート板の自重で下方に少しずつ落とし込んでいくことができるため、コンクリート板の高さと同じ深さまで掘削をしていないものである。」、「保護用コンクリート体の長さ及び幅よりやや広めに掘削しておくことで、上下段のコンクリート板の外周面を接続プレートで接続しやすくなる点から採用したものであり、」、「甲第3号証の掘削範囲は保護用コンクリート体の長さ及び幅の範囲よりも極端に広いものではないため、土砂崩れの起きやすさについても、請求項1の発明と大きく変わるものではなく、」と主張している(上記第3 1(2)イ(エ)(b)参照)。
また、相違点3(請求人の主張における相違点1)について、「順序の違いは、公然実施された発明においては、掘削後のコンクリート板の落とし込みの作業効率を考慮して採用されたものである。具体的には、掘削及びコンクリート板の落とし込みの前に、次段のコンクリート板を下段のコンクリート板に据え付けることで、コンクリート板全体の重量が増し、掘削後の自重を利用した落とし込みがスムーズに行うことが可能となる。」、「公然実施された発明では、請求項1と同様に、高さ方向に分割したコンクリート板の自重を利用して、コンクリート板の内側と板直下を掘削して、高さ方向に段階的にコンクリート板を落とし込んでいく点は共通し、請求項1の発明と公然実施された発明の両方から導かれる「一度に保護用コンクリート体の高さに相当する必要深さを掘削する必要がなく」「作業中に土砂崩れが起きにくい」という作用、効果も同一のものと言える(本件特許発明の特許公報の段落[0008]参照)。従って、相違点1は、請求項1の発明と、公然実施された発明に技術的な違いはなく、単なる作業上の差異にすぎないものである。」と主張している(上記第3 1(2)イ(エ)(a)参照。)。
請求人が主張するように、甲3発明は、上記したとおり自重を利用して落とし込むことができるとの効果を有する一方、本件発明はその逆であるから、甲3発明の効果を減殺するような上記相違点2及び3に係る構成を採用することには、阻害要因があるというべきである。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。

(エ)本件発明1のまとめ
以上のとおり、本件発明1は、本件特許出願前に当業者が甲3発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明2ないし3
本件発明2ないし3は、本件発明1を直接又は間接的に引用しているので、少なくとも本件発明1を全て含み、さらに限定を加える発明である。
そうすると、上記イのとおり、本件発明1は、本件特許出願前に当業者が甲3発明に基いて容易に発明をすることができたものではないことから、本件発明2ないし3も,同様の理由により、本件特許出願前に当業者が甲3発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(2)無効理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲第3号証に示された特許出願前に公然実施された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由及び提示する証拠方法によって、本件請求項1ないし3に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-21 
結審通知日 2015-10-23 
審決日 2015-11-16 
出願番号 特願2010-109899(P2010-109899)
審決分類 P 1 113・ 152- Y (E03F)
P 1 113・ 121- Y (E03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 郁磨  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 住田 秀弘
小野 忠悦
登録日 2013-12-13 
登録番号 特許第5432814号(P5432814)
発明の名称 浄化槽保護用コンクリート体の構築方法  
代理人 青山 隆徳  
代理人 戸島 省四郎  
代理人 有吉 修一朗  
代理人 遠藤 聡子  
代理人 森田 靖之  

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