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審決分類 審判 一部無効 発明同一  C07J
管理番号 1327212
審判番号 無効2015-800137  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-06-15 
確定日 2017-03-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3310301号発明「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3310301号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔27、28〕について訂正することを認める。 特許第3310301号の請求項27ないし28に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は,1997年9月3日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 1996年9月3日 米国(US))を国際出願日とし,ザ・トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク及び中外製薬株式会社(以下「被請求人」という。)を出願人として,名称を「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」とする発明について特許出願(特願平10-512795号)がされ,平成14年5月24日に,特許第3310301号として設定登録がなされた(請求項の数30。以下,その特許を「本件特許」といい,その明細書を「本件特許明細書」といい,本件特許明細書中の特許請求の範囲を「本件特許請求の範囲」という。)。
その後,本件特許に対して,本件無効審判の請求と異なる無効審判の請求(無効2013-800080号,以下「先の無効審判」という。)がなされ,平成26年8月4日に「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決が送達され,本件特許の請求項29,30を削除する訂正が部分確定し,同年11月7日にその原簿登録がなされた。さらに,この無効審判の審決取消訴訟(平成26年(行ケ)第10263号)について,平成27年12月24日に請求棄却の判決があり,平成28年2月8日に当該判決が確定するとともに,本件特許の請求項1?28についての訂正を認める旨の審決も確定し,同年2月19日にその原簿登録がなされた。

本件の請求項27,28についての特許について,利害関係人であるDKSHジャパン株式会社(以下「請求人」という。)から,本件無効審判の請求がなされた。その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 6月15日 審判請求書・甲第1?7号証提出(請求人)
同年10月 5日 答弁書(被請求人)
同日 訂正請求書(被請求人)
同年11月16日 審理事項通知書
同年12月15日 上申書・甲第8?13号証提出(請求人)
同日 上申書・乙第1号証提出(被請求人)
平成28年 1月 8日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 1月26日 口頭審理
同年 1月27日 上申書・乙第1号証再提出(被請求人)
同年 4月 1日 審決の予告
同年 6月27日 訂正請求書(被請求人)
同年 8月 2日 弁駁書(請求人)
同年 9月27日 答弁書(被請求人)
同年10月27日 審理終結通知

第2 訂正について
被請求人は,特許法第164条の2第2項の規定により指定した期間内である平成28年6月27日に訂正請求書を提出して,本件特許明細書を,訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり,その本件特許請求の範囲を訂正後の請求項27,28からなる一群の請求項ごとに訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。
なお,被請求人が平成27年10月5日付けでした訂正請求は,特許法第134条の2第6項の規定により取り下げられたものとみなす。

1 訂正の内容
本件訂正は,訂正前の請求項27に,「上記工程(a)および(b)が溶媒としてのテトラヒドロフランの存在中で行われる、請求の範囲第26項記載の方法。」とあるのを,
訂正後の請求項27の
「上記工程(a)および(b)が溶媒としてのテトラヒドロフランの存在中で行われる、請求の範囲第26項記載の方法。但し、Zが式:

のいずれかで表される場合を除く。」と訂正するものである。

ところで,上記「第1」で述べたとおり,先の無効審判において本件特許の請求項1?28についての訂正を認める旨の審決が平成28年2月8日に確定しているので,特許法第134の2第9項で準用する同法第128条の規定により先の無効審判で請求された訂正後の明細書及び特許請求の範囲により特許権の設定の登録がなされたものとみなされる。
そして,請求項27は,請求項26を引用し,その請求項26は請求項13を引用して記載されているので,訂正前の請求項27を他の請求項を引用せずに書き下すと以下のとおりとなる。
「【請求項27】 下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1であり;R_(1)およびR_(2)はメチルであり;WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;YはOであり;そしてZは、式:

のステロイド環構造、または式:

のビタミンD構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)
(a)下記構造:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

または

(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて、下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む方法であって、
上記工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われ、
上記工程(a)および(b)が溶媒としてのテトラヒドロフランの存在中で行われる方法。」
そして,訂正後の請求項27は,以下のとおりとなる。
「【請求項27】 下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1であり;R_(1)およびR_(2)はメチルであり;WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;YはOであり;そしてZは、式:

のステロイド環構造、または式:

のビタミンD構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)但し、Zが式:

のいずれかで表される場合を除く。
(a)下記構造:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

または

(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて、下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む方法であって、
上記工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われ、
上記工程(a)および(b)が溶媒としてのテトラヒドロフランの存在中で行われる方法。」

2 訂正の適否
(1)訂正の目的
本件訂正は,本件発明27において,
「下記構造を有する化合物

」における「Z」が,訂正前は
「Zは、式:

のステロイド環構造、または式:

のビタミンD構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)」であったところ,訂正後には,


」であるものがその範囲から除かれたものである。
そして上記の「Z」から除かれる一般式の構造は明確であるから,本件訂正は特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)新規事項について
ア 特許法第126条の2第5項の解釈
特許法第134条の2第9項の規定により準用される同法第126条第5項の訂正要件を満たすか否かは,新規事項か否かの判断基準(平成18年(行ケ)第10563号)に準拠し,当該訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「特許登録時の明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したか否かによって判断すべきと解される。

イ 判断
特許登録時の明細書等には,「下記構造を有する化合物

」において,
「Zは、式:

のステロイド環構造、または式:

のビタミンD構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)」ことについて記載されている(特許請求の範囲請求項13)。
そして,上記「Z」が採り得る範囲から,


」が除かれたこととなる。
訂正前の本件発明27、28の課題は,上記発明特定事項で特定される製造方法を提供することにあると認められるところ,「Z」の範囲から上記一般式が除かれることによって,製造対象化合物の範囲が狭まったことを除き,その技術的事項に何らかの変更があったとは認められないから,本件訂正が本件特許明細書に記載された技術的事項に新たな技術事項を付加したものでないことは明らかである。
そうすると,
「Zは、式:

のステロイド環構造、または式:

のビタミンD構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)但し、Zが式:

のいずれかで表される場合を除く。」との発明特定事項については,特許登録時の明細書等に明記はないものの,本件特許明細書に記載したすべての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから,本件訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえ,特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更
本件訂正は,上記(1)で述べたとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,明らかに特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものに当たらず,特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)一群の請求項
訂正前の請求項28は,請求項27を引用するところ,訂正後の請求項28も請求項27を引用しており,本件訂正に係る請求項27,28は,特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項であるといえ,特許法第134条の2第4項の規定に適合する。

第3 本件発明
上記「第2」で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項27,28に係る発明(以下「本件発明27」,「本件発明28」といい,合わせて「本件発明」という。)は,訂正後の特許請求の範囲の請求項27,28に記載された事項によって特定されるのものであるが,上述のとおり,請求項27は,請求項26を引用し,その請求項26は請求項13を引用して記載されているので,本件発明27を請求項を引用せずに書き下すと以下のとおりのものと認める。

【請求項27】 下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1であり;R^(1)およびR^(2)はメチルであり;WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;YはOであり;そしてZは、式:

のステロイド環構造、または式:

のビタミンD構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)但し、Zが式:

のいずれかで表される場合を除く。
(a)下記構造:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

または

(式中、n、R^(1)およびR^(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて、下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む方法であって、
上記工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われ、
上記工程(a)および(b)が溶媒としてのテトラヒドロフランの存在中で行われる方法。」
また,本件発明28は,以下のとおりである。
「上記還元剤が、リチウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド、カリウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド、リチウムトリエチルボロハイドライド、およびリチウム9-BBNハイドライドから成る群から選択される、請求の範囲第27項記載の方法。」

第4 請求の趣旨並びにその主張の概要及び請求人が提出した証拠方法
1 審判請求書,上申書,口頭審理陳述要領書,弁駁書に記載した無効理由の概要
請求人が主張する請求の趣旨は,
「特許第3310301号の特許請求の範囲の請求項27及び28に係る発明についての特許を無効にする。審判請求費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(審判請求書第2頁「第6 請求の趣旨」,第1回口頭審理調書「請求人 1」参照)。

そして,請求人が主張する無効理由は,概略以下のとおりである(審判請求書第14頁第10行?第15頁第8行,審理事項通知書「第1 2」,平成27年12月15日付け上申書第3頁「第7 3」,口頭審理陳述要領書第3頁第9?27行,第1回口頭審理調書「請求人 3」参照)。

本件発明27,28は,パリ条約による優先権主張の基礎出願の出願書類である甲第3号証に記載されておらず.パリ条約による優先権の利益を受けることができず,本件の特許出願日が基準日となる。
他方,本件の特許出願の日前の優先日を持つ国内優先権主張を伴う特許出願の願書に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第2号証)に記載された発明のうち,その優先権の基礎となる出願の願書に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第1号証)に記載された発明については,特許法第41条第3項の規定により当該特許出願の公開がされた時に,優先権主張の基礎となる出願について公開されたものとみなして,特許法第29条の2の本文の規定が適用される。
そうすると,本件発明27,28は,本件特許の出願前の他の特許出願であって本件特許の出願後に公開がされたとみなされる甲1号証出願の出願当初の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であって,当該他の特許出願に係る発明者が本件特許出願に係る発明者と同一の者ではなく,かつ,本件特許出願の時に本件特許出願の出願人と当該他の特許出願の出願人が同一の者ではないから,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。
よって,本件発明27,28の特許は,特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

2 請求人の提出した証拠方法
請求人の提出した証拠方法は,以下のとおりである。

(1)審判請求書とともに提出した証拠方法
甲第1号証 平成8年特許願341786号の願書及び願書に最初に
添付された明細書,図面,要約
甲第2号証 特開平10-231284号公報
甲第3号証の1 米国特許出願第60/25361号の出願書類
甲第3号証の2 甲第3号証の1の訳文(部分)
甲第4号証 特開昭49-13162号公報
甲第5号証の1 米国特許第3471515号明細書
甲第5号証の2 甲第5号証の1の訳文(部分)
甲第6号証の1 米国特許第5380755号明細書
甲第6号証の2 甲第6号証の1の訳文(部分)
甲第7号証 特開昭50-18458号公報

(2)平成27年12月15日付け上申書とともに提出した証拠方法
甲第8号証 日本化学会編, 標準化学用語事典,
表紙,第683頁,奥付, 丸善株式会社,
平成3年3月30日
甲第9号証 化学用語辞典編集委員会編, [第三版]化学用語辞典,
表紙,第439,463,514,748頁,奥付,
技報堂出版株式会社, 1992年5月16日
甲第10号証の1 Heterocycles, Vol.35, No.2, pp.619-622, 1993
甲第10号証の2 甲第10号証の1の訳文(部分)
甲第11号証 特開昭62-212354号公報
甲第12号証 特開平3-200753号公報
甲第13号証の1 Journal of Medicinal Chemistry, Vol.23, No.6,
pp.620-624, 1980
甲第13号証の2 甲第13号証の1の訳文(部分)

第5 答弁の趣旨並びにその主張の概要
1 審判事件答弁書,上申書,口頭審理陳述要領書に記載した答弁の趣旨
被請求人が主張する答弁の趣旨は,「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(平成27年10月5日付け審判事件答弁書第3頁「7.答弁の趣旨」,第1回口頭審理調書「被請求人 1」参照)。
そして,被請求人は請求人が主張する上記無効理由は,平成27年10月5日付け審判事件答弁書(以下「第1回答弁書」という。),平成27年12月15日付け上申書,口頭審理陳述要領書,平成28年9月27日付け答弁書(以下「第2回答弁書」という。)において,理由がない旨の主張をしていると認める。

2 被請求人が提出した証拠方法
被請求人の提出した証拠方法は,平成27年12月15日付け上申書(以下「被請求人第1回上申書」という。)に添付され,平成28年1月27日付け上申書(以下「被請求人第2回上申書」という。)で再提出された(第2回被請求人上申書における「甲第1号証」との記載は「乙第1号証」の誤記と認める。)以下のとおりである。

乙第1号証 1990?1991年アルドリッチ ファインケミカル
カタログ/ハンドブック, 見開き,略語表,内表紙,
F2?F3頁,第798,1098頁

第6 無効理由についての当審の判断
当審は,以下に示すとおり,上記無効理由は,理由があるものと判断する。

1 パリ条約の優先権の利益について
(1)判断基準
本件発明27,28について,パリ条約による優先権主張の利益が認められるか否かの判断は,そのことが優先権主張の基礎となる出願書類に記載されているといえるか否かにより判断されるところ,その判断基準は新規事項の判断基準(平成18年行(ケ)第10563号知財高裁判決参照)に準拠して,優先権主張の基礎となる出願の明細書,特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものと解されるか否かによって,判断する。

(2)本件特許の優先権の基礎となる出願の記載事項
本件特許の優先権の基礎となる出願書類である甲第3号証の1(以下「甲第3号証」という。)には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。

(3a)「17.下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1?5の整数であり;R_(1)およびR_(2)は各々独立に、所望により置換されたC_(1)-C_(5)アルキルであり;WおよびXは各々独立に水素またはC_(1)-C_(5)アルキルであり;YはO、SまたはNR_(3)であり、ここでR_(3)は水素、C_(1)-C_(5)アルキルまたは保護基であり;そしてZは、

,

,または

(式中、R_(4)、R_(5)、R_(8)、R_(9)、R_(10)、R_(11)、R_(12)、R_(13)、R_(14)、R_(15)、R_(16)およびR_(17)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、または保護されたヒドロキシルであり;そしてR_(6)およびR_(7)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、保護されたヒドロキシルであるか、または一緒になって二重結合を形成する)である)
(a)下記構造:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

または

(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて、下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む方法。」(請求項17)
(3b)「28.還元剤が、LiAlH_(4)、Li(s-Bu)_(3)BH、またはLiEt_(3)BHである、請求の範囲第17項記載の方法。」(請求項28)
(3c)「本発明はまた、下記構造:

,

,あるいは

(式中、ZはCD環構造、ステロイド構造またはビタミンD構造を示し、これらは各々、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよい)を有する化合物を提供する。本発明に関するCD環構造、ステロイド構造およびビタミンD構造は各々、特には下記する構造を意味し、これらの環は何れも1以上の不飽和結合を所望により有してもよい。
CD環構造:

ステロイド構造:

ビタミンD構造:

CD構造、ステロイド構造、またはビタミンD構造であるZ上の置換基は特に限定されず、・・・これらの置換基は保護されていてもよい。」(明細書第12頁第21行?第14頁第20行)
(3d)「 本発明はさらに、ビタミンD又は他のステロイド中間体の製造方法に関する。この反応の概略を以下の反応図Iに示す。
反応図I:

」(明細書第16頁第12?22行)
(3e)「本発明による上記反応(図I)は、塩基の存在下で実施される。使用できる塩基の例としては、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ金属アルコキシドが挙げられ、アルカリ金属水素化物が好ましく、水素化ナトリウムが特に好ましい。
反応は好ましく不活性溶媒中で実施される。使用できる溶媒の例としては、エーテル系溶媒、飽和脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、およびそれらの組み合わせを挙げることができ、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、およびDMFとジエチルエーテルの混合物が好ましく、ジメチルホルムアミドおよびテトラヒドロフランがより好ましい。」(明細書第18頁第13?28行)
(3f)「本発明は、本明細書中上記した新規な中間体を経てビタミンDまたはステロイド誘導体を製造する方法に関する。この反応の概略を以下の反応図IIに示す。
反応図II:

本発明による上記2工程の反応の工程(1)の反応は、本明細書中に既に記載した反応図Iの方法と同様に実施できる。
工程(2)の反応は工程(1)で得られたエポキシ化合物中のエポキシ環を開環する反応であり、これは還元剤を使用して実施される。工程(2)で使用できる還元剤は、工程(1)で得られたエポキシ化合物の環を開環して水酸基を生成できるもの、好ましくは第3アルコールを選択的に形成できるものである。 還元剤は、LiAlH_(4)、Li(s-Bu)_(3)BH、LiEt_(3)BH、NaBH_(4)、NaBH_(3)CN、K(Sia)_(3)BH、およびK(C_(6)H_(5))_(3)BHであってよい。
工程(2)の反応は好ましくは不活性溶媒中で実施される。使用できる溶媒の例としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ベンゼンおよびトルエンが挙げられ、ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランが好ましい。」(明細書第30頁第36行?第31頁末行)
(3g)「工程(2)の反応は工程(1)の後に、より具体的にはシリカゲルクロマトグラフィーなどの適切な方法によって工程(1)の反応生成物を精製した後に実施することができ、あるいはまたそれは、工程(1)の反応生成物を精製することなくそれを含む混合物に還元剤を直接添加することによって実施することもできる。工程(2)を工程(1)の後に生成物を精製することなく実施する方法は「ワンポット反応」と称され、この方法は操作上の冗長さが少ないので好ましい。」(第32頁第11?21行)
(3h)「実施例2:1α,3β-ビス(t-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(S)-2,3-エポキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5,7-ジエンの合成

氷水浴で冷却した20mlのDMF/ジエチルエーテル(1:1)の溶液中のアルコール化合物3(0.5g、0.89mmol)の激しく撹拌した溶液に、アルゴン下で水素化ナトリウム(80%オイル分散物、0.2g、5.0mmol)を添加した。一定の1:1DMF/ジエチルエーテル混合物を維持するために(蒸発のため)30分後に追加のジエチルエーテル(?5ml)を添加した。1時間撹拌した後、反応混合物を室温まで暖め、強流のアルゴンを激しく撹拌した反応混合物上に吹き付け、ジエチルエーテルを除去した。ジエチルエーテルの除去後、アルゴン流を低レベルまで減少させ、実施例1で得た化合物2(1.5g、8.9mmol)を一度に添加した。反応混合物を50?55℃の間に加熱した。30分後、さらに1gの化合物2を添加した。薄層クロマトグラフィー(TLC)は1時間後に反応の終結を示した。反応混合物を飽和NaCl水溶液に注入し、酢酸エチルで抽出し、有機層を無水MgSO_(4)で乾燥した。溶媒を濃縮した後、ヘキサン:酢酸エチル(19:1)を使用するシリカゲルクロマトグラフィーにより0.58g(90%)の標題化合物(化合物4)が無色のオイルとして得られた(ジアステレオマーの混合物)。」(明細書第41頁第20行?第42頁第17行)
(3i)「実施例3:1α,3β-ビス(t-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(S)-(3-ヒドロキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5,7-ジエンの合成

20mLの乾燥ジエチル(審決注:反応式からみて「ジエチルエーテル」の誤記と認める。)中のエポキシステロイド化合物4(実施例2で得たもの、200mg、0.3mmol)の撹拌溶液に、アルゴン下で室温でリチウムアルミニウム水素化物(LiAlH_(4)、22mg、3.0mmol)を添加した。薄層クロマトグラフィー(TLC)は数時間後に出発物質(化合物4)の完全かつ明白な転換を示した。反応混合物を100mLの酢酸エチル/飽和NaCl水溶液(1:1)の間で分画した。有機層を分離し、無水MgSO_(4)で乾燥した。濃縮およびヘキサン/酢酸エチル(9:1)を使用するシリカゲルクロマトグラフィーにより582mg(90%)の標題化合物(化合物5)が無色固体として得られた。」(明細書第42頁第29行?第43頁第13行)

(3)判断
ア 本件発明27について
本件発明27は,「下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1であり;R^(1)およびR^(2)はメチルであり;WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;YはOであり;そしてZは、式:

のステロイド環構造、または式:

のビタミンD構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)但し、Zが式:

のいずれかで表される場合を除く。
(a)下記構造:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

または

(式中、n、R^(1)およびR^(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて、下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む方法であって、
上記工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われ、
上記工程(a)および(b)が溶媒としてのテトラヒドロフランの存在中で行われる方法。」をその発明特定事項とするものであるが,甲第3号証には,この発明特定事項のうち,Zが


,

・・・
(式中、R_(4)、R_(5)、R_(8)、R_(9)、R_(10)、R_(11)、R_(12)、R_(13)、R_(14)、R_(15)、R_(16)およびR_(17)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、または保護されたヒドロキシルであり;そしてR_(6)およびR_(7)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、保護されたヒドロキシルであるか、または一緒になって二重結合を形成する)である)」である場合の製造方法について記載される(摘記3a参照)とともに,Zが,


」のステロイド環構造,または,


」のビタミンD構造であって,「1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよい」こと,「これらの環は何れも1以上の不飽和結合を所望により有してもよい」ことも記載されている(摘記3c参照)から,甲第3号証に記載された上記の製造方法において,Zが


」のステロイド環構造または


」のビタミンD構造であって,「Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい」としたものについてもこれらの記載から導くことができるといえる。
そして,そこから


」が除かれることについては,上記「第2 2(2)」で検討したとおり,新たな技術的事項を導入するものとはいえない。

次に,本件発明27の「工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われ、
上記工程(a)および(b)が溶媒としてのテトラヒドロフランの存在中で行われる」との発明特定事項について検討する。
甲第3号証には,「工程(2)の反応は工程(1)の後に、より具体的にはシリカゲルクロマトグラフィーなどの適切な方法によって工程(1)の反応生成物を精製した後に実施することができ、あるいはまたそれは、工程(1)の反応生成物を精製することなくそれを含む混合物に還元剤を直接添加することによって実施することもできる。工程(2)を工程(1)の後に生成物を精製することなく実施する方法は「ワンポット反応」と称され」ることが記載されている(摘記3g参照)。
甲第3号証の「工程(1)」,「工程(2)」は,本件発明27における「工程(a)」,「工程(b)」にそれぞれ対応することは甲第3号証の記載(摘記3d,3f参照)から明らかであって,甲第3号証の「シリカゲルクロマトグラフィーなどの適切な方法によって工程(1)の反応生成物を精製する」ことは,「工程(1)の反応生成物」である本件発明27の「エポキシド化合物」を精製することを意味することも明らかである。そして,「精製」は「分離」の一態様であるから,「精製することがない」という範囲に「分離することがない」という範囲がすべて包含されるので,本件発明27の「工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われ」ることも甲第3号証の記載から導くことができるといえる。
その一方,本件発明27の「工程(a)および(b)が溶媒としてのテトラヒドロフランの存在中で行われる」との発明特定事項についてみると,甲第3号証には,工程(1)の「使用できる溶媒の例としては、エーテル系溶媒、飽和脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、およびそれらの組み合わせを挙げることができ、ジメチルホルムアミド(DMF)、・・・テトラヒドロフラン(THF)・・・およびDMFとジエチルエーテルの混合物が好ましく、ジメチルホルムアミドおよびテトラヒドロフランがより好ましい」ことが記載される(摘記3e参照)とともに,工程(2)の「使用できる溶媒の例としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ベンゼンおよびトルエンが挙げられ、ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランが好ましい」ことが記載されている(摘記3f参照)が,工程(1)の反応生成物を精製することなく工程(2)を実施するワンポット反応において,2つの工程とも溶媒として「テトラヒドロフランの存在中で行われる」ことは記載されていないし,特定の溶媒が好ましいとされているその技術的な意味も記載されていない。
また,ワンポット反応とは,「二段階以上の反応過程によって目標化合物を合成する場合、途中の各段階の生成物(中間生成物)を単離精製することなしに,一つの反応容器の中で,次の段階の反応物を加えて反応させるという方法を次々行って,目標化合物を得る合成操作」のことである(甲第8号証参照)から,中間生成物を単離精製することなし次の段階の反応物を加えて反応させる限りワンポット反応といえ,第1段階と次の段階で同じ溶媒を使用するものに限られているわけではない。
さらに,甲第3号証の実施例は,工程(1)に当たる実施例2及び工程(2)に当たる実施例3が記載されている(摘記3h,3i参照)のみで,実施例3では,実施例2で精製されたエポキシド化合物を原料としていることから,本件発明27の「工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われ」る「ワンポット反応」には当たらず,実施例2の工程(1)の反応の溶媒はDMFとジエチルエーテルの混合物が使用され,実施例3の工程(2)の反応の溶媒はジエチルエーテルが使用され,いずれの反応の溶媒もテトラヒドロフランは使用されていない。
そうすると,甲第3号証の記載から,ワンポット反応において,2つの工程とも溶媒として「テトラヒドロフランの存在中で行われる」ことを導くことができるとはいえない。

次に,本件発明27の「工程(a)および(b)が溶媒がテトラヒドロフランの存在中で行われる」ことの技術的な意味についてさらに検討する。
本件特許明細書には,甲第3号証と同様に工程(1),(2)で使用できる溶媒が記載される(訂正明細書第31頁第5?9行,第41頁第12?15行)とともに,甲第3号証にも記載されている「工程(2)を工程(1)の後に生成物を精製することなく実施する方法は「ワンポット反応」と称され、この反応は操作上の冗長さが少ないので好ましい。」との記載に続いて,「比較的少量の式Vの反応物質並びに比較的少量の塩基を使用して、中間体化合物IVを最初に精製することなく、化合物Iから直接化合物VIを高い収率で得ることができる、非常に好ましく意外なほど優れたワンポット反応が見い出された。この改良された方法は、THFを溶媒として使用することによって得られる。DMFやDMFとジメチルエーテルの組み合わせではワンポット転換は生じない。」と記載されている(訂正明細書第41頁第25?32行)が,この後段の記載については甲第3号証には記載されていないし,むしろ,甲第3号証には,工程(1),工程(2)に共通する溶媒としてテトラヒドロフランとともに,ワンポット転換が生じないとされるジメチルホルムアミド(DMF)も記載されている(摘記3e,3f参照)。
また,本件特許明細書には,本件発明27を裏付けるワンポット反応においてテトラヒドロフランを溶媒として使用した実施例5?7も記載されている(訂正明細書第52頁第7行?第54頁第1行)が,甲第3号証には上記のとおり,ワンポット反応もテトラヒドロフランを溶媒とする実施例すら記載されていない。
そうすると,本件発明27の「工程(a)および(b)が溶媒がテトラヒドロフランの存在中で行われる」との技術的な意味は,「工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われ」る「ワンポット反応」において,適切にワンポット反応が進行する溶媒としてテトラヒドロフランを見出したことにあると解するのが自然であって,そのような技術的な意味については甲第3号証の記載から導くことができるとはいえない。
したがって,本件発明27の「工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われ、
上記工程(a)および(b)が溶媒としてのテトラヒドロフランの存在中で行われる」との発明特定事項については,甲第3号証にそのことを導く記載がないばかりでなく,仮に,甲第3号証のワンポット反応において,工程(1),工程(2)の溶媒としてともにテトラヒドロフランを選択する態様が一応想定し得るとしても,本件発明27の上述の技術的な意味からみて,甲第3号証の記載からは導くことのできない新たな技術的事項が加わることになるから,甲第3号証の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものといわざるを得ない。

イ 本件発明28について
本件発明28は,本件発明27において,「還元剤が、リチウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド、カリウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド、リチウムトリエチルボロハイドライド、およびリチウム9-BBNハイドライドから成る群から選択され」るとの限定がなされたものであって,本件発明27が甲第3号証の記載から導くことができるとはいえない以上,本件発明28も甲第3号証の記載から導くことができるとはいえない。
さらに,本件発明28の「還元剤が、リチウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド、カリウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド、リチウムトリエチルボロハイドライド、およびリチウム9-BBNハイドライドから成る群から選択され」との発明特定事項も含むのでこの点も検討する。
甲第3号証には,還元剤がLiAlH_(4),Li(s-Bu)_(3)BH,またはLiEt_(3)BHであること(摘記3b参照),LiAlH_(4),Li(s-Bu)_(3)BH,LiEt_(3)BH,NaBH_(4),NaBH_(3)CN,K(Sia)_(3)BH,およびK(C_(6)H_(5))_(3)BHが使用できることが記載されている(摘記3e参照)。
本件発明28の「リチウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド」は,甲第3号証の「Li(s-Bu)_(3)BH」のことであり,本件発明28の「リチウムトリエチルボロハイドライド」は,甲第3号証の「LiEt_(3)BH」のことであるが,「カリウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド」,「リチウム9-BBNハイドライド」については,いずれも甲第3号証に記載がない。
そして,「カリウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド」,「リチウム9-BBNハイドライド」は水素化アルミニウム化合物又は水素化ホウ素化合物の還元剤ではあるが,甲第3号証に記載されるその他の還元剤とは全く別の化合物であるから,これらの記載から導くことができるとはいえず,甲第3号証の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものといわざるを得ない。

(4)被請求人の主張について
ア 本件発明27について
(ア)被請求人の主張の概要
被請求人は,優先権の基礎出願の出願書類(審決注;甲第3号証)には,工程(1)の溶媒としても工程(2)の溶媒としてもテトラヒドロフランが好ましく使用できることが記載され,ワンポット反応では,工程(1)の反応生成物を精製することなく,それを含む混合物に還元剤を直接添加するのであるから,必然的に工程(1)と工程(2)で同じ溶媒が使用されることになるので,本件発明27の工程(a)及び工程(b)を,溶媒としてテトラヒドロフランの存在中で行われることが記載されていると主張している(第1回審判事件答弁書第8頁第7行?第10頁第1行)。
また,甲第3号証には,本件特許明細書にワンポット反応において使用を控えるべきジメチルホルムアミド(DMF)と,テトラヒドロフラン(THF)が併記されているが,甲第3号証には,工程(1)に使用し得る溶媒として「ジメチルホルムアミドおよびテトラヒドロフランがより好ましい」と記載され,工程(2)に使用し得る溶媒として「ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランがより好ましい」と記載され,工程(1)と工程(2)とをワンポットで行うには,両工程に共通した好適な溶媒であるテトラヒドロフランを使用することは必然であること,リチウム系の還元剤を使用して還元反応を行うに当たり,テトラヒドロフランを溶剤として慣用することは当業者の技術常識であったと主張している(被請求人第1回上申書第4頁第10行?第5頁第12行)。
さらに,優先権の基礎出願の出願書類には,ワンポット反応の溶媒としてテトラヒドロフランは明記されていないが,明細書中のある項で使用し得る溶媒が記載され,その後の項で反応がワンポット反応で行い得ると記載されていれば,ワンポット反応に使用し得る溶媒を改めて記載することは通常行わないし,この常識を念頭に置けば,両工程に共通する好適な溶媒であるテトラヒドロフランを使用することは自明であって,ワンポット反応が冗長さを少なくするために行われるため,工程(1)と工程(2)とで同じ溶媒が使える以上あえて異なる溶媒を使用することは考えにくいと主張している(口頭審理陳述要領書第2頁末行?第3頁下から第2行)。

(イ)検討
上記(3)アで述べたとおり,ワンポット反応の溶媒としてテトラヒドロフランを使用することは甲第3号証に記載がない。そして,甲第3号証には,工程(1)及び工程(2)の溶媒としてテトラヒドロフランが好ましく使用できることは確かに記載されているが,「好ましく使用できる」その技術的な意味については何ら記載されておらず,テトラヒドロフランがワンポット反応の両工程に共通して使用できる溶媒という意味で「好ましく使用できる」と理解できるとはいえない。
さらに,ワンポット反応には,第1段階に使用した溶媒をそのまま次の段階でも使用する態様を一応含み得るものではあるが,上記(3)アで述べたとおり,中間生成物を単離精製することなしに次の段階の反応物を加えて反応させるものはワンポット反応であるといえ,ワンポット反応であれば,必然的に第1段階と次の段階で同じ溶媒を使用するとはいえない。甲第3号証には,「ワンポット反応」は「操作上の冗長さが少ないので好ましい」と記載されているが,この記載は,その前段の「シリカゲルクロマトグラフィーなどの適切な方法によって工程(1)の反応生成物を精製した後に実施することができ、あるいはまたそれは、工程(1)の反応生成物を精製することなくそれを含む混合物に還元剤を直接添加することによって実施することもできる」との記載(摘記3g参照)からすれば,クロマトグラフィーなどの精製操作をしないですむので操作上の冗長さが少なくなるという意味に解するのが自然で,ワンポット反応において同一の溶媒を使用する意味であると直ちに理解できるものではない。ワンポット反応とは,第1工程の反応終了後に,反応生成物の精製を行わないことを意味するものであって,必ずしも溶媒の留去などの操作を一切含まないものに限定されないことは甲第8号証に記載されるワンポット反応の定義からも明らかであり,この点については被請求人も主張を撤回している(第1回口頭審理陳述要領書「被請求人 5(2)」参照)。
そして,上記(3)アで述べたとおり,本件特許明細書と甲第3号証の記載からみて,本件発明27の「工程(a)および(b)が溶媒がテトラヒドロフランの存在中で行われる」との技術的な意味は,「工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われ」る「ワンポット反応」において,ワンポット反応が適切に進行する溶媒としてテトラヒドフランを見出したことにあると理解するのが自然であって,甲第3号証に両工程で好適に使用できる共通の溶媒としてテトラヒドロフランが記載されているからといって,そのような技術的な意味を有する「工程(a)および(b)が溶媒がテトラヒドロフランの存在中で行われる」との技術的事項を導くことができるとはいえず,新たな技術的事項を導入するものというほかはない。
なお,リチウム系の還元剤を使用して還元する際にテトラヒドロフランを使用することが技術常識であったか否かはさておき,甲第3号証の実施例3では,リチウム系の還元剤であるLiAlH_(4)を使用して還元反応をしているが,溶媒はジエチルエーテルであってテトラヒドロフランではなく,テトラヒドロフランをワンポット反応の両工程の溶媒として使用することが甲第3号証の記載から導けないことに変わりはない。
また,明細書中のある項で使用し得る溶媒が記載され,その後の項で反応がワンポット反応で行い得ると記載されていれば,ワンポット反応に使用し得る溶媒を改めて記載することは通常行わないと主張するが,上記(3)アで述べたとおり,本件特許明細書では,ワンポット反応の際に使用する溶媒が,工程(1),工程(2)に使用される溶媒とは別に改めて記載されており,少なくとも,甲第3号証における工程(1),工程(2)で使用し得る溶媒についての記載をそのままワンポット反応で使用できる溶媒と理解できるものではないことは上記(3)アで述べたとおりである。
よって,被請求人の主張は採用できない。

イ 本件発明28について
(ア)被請求人の主張の概要
優先権の基礎出願の出願書類には,工程(2)で使用できる還元剤は,エポキシ化合物の環を開環して水酸基を生成できるものであればよいこと,好ましくは第3アルコールを選択的に形成できるものであることが記載され,還元剤の具体例として水素化リチウムアルミニウムに加えて,種々の水素化ホウ素化合物が例示的に記載されており,当業者であれば通常用いられる水素化アルミニウム化合物及び水素化ホウ素化合物が使用できることを容易に理解できたはずであり,カリウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド,リチウム9-BBNハイドライドについて具体的に記載がないとしても,実質的に記載されているということができる。事実,カリウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド,リチウム9-BBNハイドライドは本件優先日当時周知慣用の還元剤であったことは乙第1号証の記載からも明らかである(第1回答弁書第12頁第21行?第13頁24行,被請求人第1回上申書第2頁第22行?第3頁第10行)。

(イ)検討
上記(3)イで述べたとおり.還元剤として「カリウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド」,「リチウム9-BBNハイドライド」は,いずれも甲第3号証に記載がない。
そして,「カリウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド」,「リチウム9-BBNハイドライド」が本件優先日当時に周知慣用の還元剤であるとしても,甲第3号証に記載されるその他の還元剤とは全く別の化合物であって,甲第3号証の記載を総合しても導けるものではない。甲第3号証には,還元剤として,エポキシ化合物の環を開環して水酸基を生成できるものであればよいことは記載されているが,還元剤の種類を特定するものではなく,甲第3号証に記載のない「カリウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド」,「リチウム9-BBNハイドライド」を当然に導けるものではない。
よって,被請求人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから,本件発明27,28は,パリ条約による優先権主張の基礎出願の出願書類である甲第3号証に記載されておらず,パリ条約による優先権の利益を受けることがでない。
よって,本件発明27,28については,本件の特許出願日が基準日となる。

2 特許法第29条の2について
(1)先願明細書等の記載事項
本件の特許出願の日前の優先日を持つ国内優先権主張を伴う特許出願の願書に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第2号証)の記載事項であって,かつ,その優先権の基礎となる出願の願書に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(甲第1号証)にも記載された事項は以下のとおりである。なお,摘記箇所は甲第1,2号証とも同じである。
(1a)「【0050】
このようにして得られた20S-および20R-アリルアルコール中間体に一般式(1)または一般式(4)で示される化合物に対応する側鎖を導入して、一連の反応に付すことにより、下記に示すように一般式(23)で示される本発明化合物を得ることができる。

(式中、TBSはt-ブチルジメチルシリル基を意味し、R_(1a)は水酸基または保護された水酸基で置換されていてもよい飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基を示し、R_(1b)は水酸基で置換された飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基を示す)」
(1b)「【0051】
一般式(20)で示される20S-または20R-アリルアルコールに側鎖を導入することにより、一般式(21)で示される化合物を得ることができる(工程6)。側鎖導入の方法としては側鎖に対応する一般式(13):R_(1a)-Y(式中、R_(1a)およびYは前記と同一の意味を示す)を塩基存在下、前述のアリルアルコール中間体と反応させることにより達成できる。
【0052】
上記工程6で用いる塩基としてはアルカリ金属水素化物、アルカリ金属アルコキシド、金属ジアルキルアミド、アルキル金属などがあげられ、好ましくは水素化ナトリウム、水素化カリウム、t-ブトキシカリウム、リチウム ジイソプロピルアミド、リチウム ビストリメチルシリルアミド、メチルリチウム、n-ブチルリチウム、エチルマグネシウムブロミド等が挙げられ、さらに好ましくは水素化ナトリウム、水素化カリウムが挙げられる。また、本反応は触媒量のクラウンエーテル存在下で反応を行ってもよい。クラウンエーテルとしては15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6等が挙げられ、好ましくは15-クラウン-5が挙げられる。
【0053】
上記工程6で用いられる溶媒としては炭化水素系、エーテル系、アミド系溶媒が挙げられ、たとえばベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン等が挙げられ、好ましくはテトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられ、さらに好ましくはテトラヒドロフランが挙げられる。
上記工程6の反応温度は0℃?使用する溶媒の沸点または分解点以下で行なわれ、好ましくは室温?100℃、さらに好ましくは50?80℃程度である。
【0054】
また側鎖導入に際しては上記方法のほか、アルキルハライドとしてたとえば1-ブロモ-2,3-エポキシ-3-メチルブタンを用い、上記塩基存在下にてアルキル化を行った後還元剤、たとえば水素化リチウムアルミニウムヒドリド、水素化ホウ素リチウム、水素化トリ-s-ブチルホウ素リチウム、水素化トリエチルホウ素リチウム等によりエポキシドを開環することによっても行うことができる。この方法は2段階で行っても1段階で行ってもよい。
また、側鎖導入に際してはアルキルハライドのかわりに、イソブチレンオキサイド、1,2-エポキシ-2-エチルブタン、1,2-エポキシ-3-メチルブタン、1,2-エポキシ-3-エチルペンタン等のエポキシドを用いてもよい。
反応条件は、例えば、特開平6-80626号(特願平4-158483号)に記載されている条件を使用することができ、好ましくは、カリウムt-ブトキシドを塩基として用い、ジベンゾ-18-クラウン-6存在下、トルエン中100?110℃で行うことができる。
【0055】
一般式(21)で示される化合物も本発明化合物に含まれるが、さらに脱保護反応を付すことにより、一般式(22)で示される化合物に変換することができる(工程7)。このt-ブチルジメチルシリル基の除去は常法により行われる。
すなわち、反応に用いる試薬としては塩酸、酸性イオン交換樹脂、テトラブチルアンモニウムフルオリド、フッ化水素/ピリジン、フッ化水素/トリエチルアミン、フッ化水素酸が用いられ、好ましくはテトラブチルアンモニウムフルオリドが用いられる。溶媒としては通常エーテル系溶媒が用いられ、好ましくはテトラヒドロフランが用いられる。反応温度は基質によって異なるが、通常、室温?65℃の範囲で行われる。」
(1c)「【0056】
さらに一般式(22)で示される化合物は常法の光反応・熱異性化を行うことにより、一般式(23)で示される化合物を得ることができる(工程8)。
なお、工程6、7、8は上記の順で反応を行うほか、工程6→工程8→工程7あるいは工程8→工程6→工程7の順で行っても良い(つまり、順序については特に限定しないが、工程7が工程6より先に行われることはない)。」
(1d)「【0181】
実施例62
1α,3β-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(S)-(3-ヒドロキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5,7,16-トリエンの製造
1α,3β-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(S)-ヒドロキシプレグナ-5,7,16-トリエン(97mg,0.175mmol)、水素化ナトリウム(50mg,2.08mmol)及び4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタン(145mg,0.877mmol)のテトラヒドロフラン(2ml)溶液を12時間加熱還流後、1M-水素化トリ-s-ブチルホウ素リチウム テトラヒドロフラン溶液(1.8ml,1.80mmol)を加え45分間加熱還流した。反応溶液に3N-水酸化ナトリウム水溶液及び30%-過酸化水素水を加え室温で30分間撹拌後、酢酸エチルで希釈、飽和食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下溶媒を留去し得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)により精製し、無色油状の標記化合物(113mg,100%)を得た。」
(1e)「【0192】
実施例68
1α,3β-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(R)-(3-ヒドロキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5,7,16-トリエンの製造
1α,3β-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(R)-ヒドロキシプレグナ-5,7,16-トリエン(51mg,0.0911mmol)、水素化ナトリウム(50mg,2.08mmol)及び4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタン(75mg,0.455mmol)のテトラヒドロフラン(2ml)溶液を1.5時間加熱還流し、1M-水素化トリ-s-ブチルホウ素リチウム テトラヒドロフラン溶液(0.9ml,0.900mmol)を加え20分間加熱還流した。反応溶液に3N-水酸化ナトリウム水溶液及び30%-過酸化水素水を加え室温で30分間撹拌後、酢酸エチルで希釈、飽和食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下溶媒を留去し得られた残渣を分取用薄層クロマトグラフィー(0.5mm×1枚、ヘキサン:酢酸エチル=10:1、2回展開)により精製し、無色油状の標記化合物(48.6mg,83%)を得た。」

(2)先願発明
甲第1号証には,工程(6)として,一般式(20)で示される20S-および20R-アリルアルコールに側鎖を導入して,一般式(21)で示される化合物を得ることが記載され(摘記1a,1b参照),その側鎖の導入方法として,塩基の存在下,1-ブロモ-2,3-エポキシ-3-メチルブタンを用い,アルキル化を行った後,還元剤として水素化リチウムアルミニウムヒドリド,水素化ホウ素リチウム,水素化トリ-s-ブチルホウ素リチウム,水素化トリエチルホウ素リチウムによりエポキシを開環すること,この工程を2段階でも1段階でも行ってよいことが記載され(摘記1b参照),工程(6)の溶媒としてテトラヒドロフランが好ましいことも記載されている。
そして,甲第1号証の実施例62,68の記載(摘記1d,1e参照)からみて,1-ブロモ-2,3-エポキシ-3-メチルブタンを側鎖導入試薬として用い,アルキル化を行った後,還元剤でエポキシを開環して得られる化合物は,以下の構造をもつ化合物(21)になることは明らかである。


(ただし,20R,20Sとも含む。)」
そして,甲第1号証には,このようにして得られた化合物(21)を,工程(7)で,脱保護反応に付して,以下の構造をもつ化合物(22)とし,


(ただし,20R,20Sとも含む。)」
この化合物(22)を,工程(8)で,光反応・熱異性化反応を行うことにより,以下の構造をもつ化合物(23)を得る方法も記載されている(摘記1a,1b,1c参照)。


(ただし,20R,20Sとも含む。)」

そうすると,甲第1号証には,
「工程(6)として,以下の一般式(20)で示される20Sまたは20R-アリルアルコールを,
一般式(20)

(式中、TBSはt-ブチルジメチルシリル基を意味する)
塩基の存在下,1-ブロモ-2,3-エポキシ-3-メチルブタンを側鎖導入試薬として用い,アルキル化を行った後,還元剤でエポキシを開環して,以下の一般式(21)で示される化合物を得
一般式(21)

(式中、TBSはt-ブチルジメチルシリル基を意味する)
工程(7)として,一般式(21)で示される化合物を,脱保護反応に付して,以下の一般式(22)で示される化合物を得,
一般式(22)

工程(8)として,一般式(22)で示される化合物を光反応・熱異性化反応を行うことにより,以下の一般式で示される化合物(23)を得る方法において,
一般式(23)

工程(6)において,溶媒としてテトラヒドロフランを用い,還元剤として水素化リチウムアルミニウムヒドリド,水素化ホウ素リチウム,水素化トリ-s-ブチルホウ素リチウム,水素化トリエチルホウ素リチウムを用い,1段階または2段階で行う方法。」の発明(以下「先願発明1」という。)が記載されているといえる。

次に,甲第1号証の実施例62は,20S-アリルアルコールを,実施例68は20R-アリルアルコールをそれぞれ上記一般式(21)の化合物とし,4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタンと反応させた後に還元剤で還元して上記一般式(22)の化合物を製造する上記工程(6)に対応する方法であって,還元剤として,水素化トリ-s-ブチルホウ素リチウムを用いたものが記載されている(摘記1c,1d参照)。
そうすると,甲第1号証には,
「1α,3β-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(S)又は(R)-ヒドロキシプレグナ-5,7,16-トリエン、水素化ナトリウム及び4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタンのテトラヒドロフラン溶液を加熱還流後、水素化トリ-s-ブチルホウ素リチウムの還元剤のテトラヒドロフラン溶液を加えて加熱還流し、1α,3β-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(S)又は(R)-(3-ヒドロキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5,7,16-トリエンを製造する方法」の発明(「先願発明1’」という。)も記載されているといえる。

(3)対比・判断
(3-1)本件発明27について
ア 先願発明1との対比
先願発明1の「一般式(21)で示される化合物

」は,本件発明27の


(式中、nは1であり;R_(1)およびR_(2)はメチルであり;WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;YはOであり;そしてZは、式:

のステロイド環構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)」に相当し,本件発明27から除かれるとされている


」のいずれにも当たらない(先願発明1の「Z」のステロイド環にはA環とB環の間の炭素(C-10位という)にメチル基が置換されているが,上記除くとされている化合物は対応するメチル基が存在しない)。
また,先願発明1の「一般式(20)で示される20Sまたは20R-アリルアルコール

」は,本件発明27の
「下記構造:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物」に相当する。
さらに,先願発明1の「1-ブロモ-2,3-エポキシ-3-メチルブタン」は,本件発明27の


(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)を有する化合物」に相当する。
そして,先願発明1の「工程(6)において,溶媒としてテトラヒドロフランを用い」,「1段階で行う」ことは,その実施例62,68で,4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタンのテトラヒドロフラン溶液を加熱還流後,水素化トリ-s-ブチルホウ素リチウムの還元剤のテトラヒドロフラン溶液を加えて加熱還流していることからみて,側鎖を導入する反応に引き続き,反応生成物を分離することなく,次のエポキシ環を開環する還元反応をしているものと解されるから,本件発明27の「工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われ」,「工程(a)および(b)が溶媒がテトラヒドロフランの存在中で行われること」に相当する。
さらに,先願発明1においては,工程(6)の後に,「工程(7)として,一般式(21)で示される化合物を,脱保護反応に付して」いるので,工程(6)で得られた一般式(21)で示される化合物が回収されていることは明らかであって,本件発明27の「(c)かくして製造された化合物を回収すること」に相当する。

そうすると,本件発明27と先願発明1とは,
「下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1であり;R_(1)およびR_(2)はメチルであり;WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;YはOであり;そしてZは、式:

のステロイド環構造、または式:

のビタミンD構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)但し、Zが式:

のいずれかで表される場合を除く。
(a)下記構造:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

または

(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて、下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む方法であって、
上記工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われ、
上記工程(a)および(b)が溶媒としてのテトラヒドロフランの存在中で行われる方法。」である点で一致し,相違点はない。

よって,本件発明27と先願発明1とは同一である。

イ 先願発明1’との対比
先願発明1’の「1α,3β-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(S)又は(R)-(3-ヒドロキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5,7,16-トリエン」は,本件発明27の


(式中、nは1であり;R_(1)およびR_(2)はメチルであり;WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;YはOであり;そしてZは、式:

のステロイド環構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)」に相当し,本件発明27から除かれるとされている


」のいずれにも当たらない。
また,先願発明1’の「1α,3β-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(S)又は(R)-ヒドロキシプレグナ-5,7,16-トリエン」は,本件発明27の
「下記構造:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物」に相当する。
さらに,先願発明1’の「水素化ナトリウム」は本件発明27の「塩基」に相当し,先願発明1’の「4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタン」は,本件発明27の


(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)を有する化合物」に相当する。
そして,先願発明1’の「4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタンのテトラヒドロフラン溶液を加熱還流後,水素化トリ-s-ブチルホウ素リチウムの還元剤のテトラヒドロフラン溶液を加えて加熱還流していること」は,側鎖を導入する反応に引き続き,反応生成物を分離することなく,次のエポキシ環を開環する還元反応をしているものと解されるから,本件発明27の「工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われ」,「工程(a)および(b)が溶媒としてのテトラヒドロフランの存在中で行われること」に相当する。
さらに,先願発明1’においては,得られた1α,3β-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(S)又は(R)-(3-ヒドロキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5,7,16-トリエンを,精製している(摘記1d,1e参照)ことから,製造された化合物が回収されていることは明らかであって,本件発明27の「(c)かくして製造された化合物を回収すること」も含まれているといえる。
そうすると,本件発明27と先願発明1’とは,
「下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1であり;R_(1)およびR_(2)はメチルであり;WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;YはOであり;そしてZは、式:

のステロイド環構造、または式:

のビタミンD構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)但し、Zが式:

のいずれかで表される場合を除く。
(a)下記構造:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

または

(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて、下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む方法であって、
上記工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われ、
上記工程(a)および(b)が溶媒としてのテトラヒドロフランの存在中で行われる方法。」である点で一致し,相違点はない。

(3-2)本件発明28について
ア 先願発明1との対比
先願発明1の還元剤である「水素化トリ-s-ブチルホウ素リチウム」,「水素化トリエチルホウ素リチウム」は,それぞれ,本件発明27の「リチウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド」,「リチウムトリエチルボロハイドライド」に相当する。
そうすると,本件発明28は,本件発明27において,還元剤が「リチウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド、カリウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド、リチウムトリエチルボロハイドライドおよびリチウム9-BBNハイドライドから成る群から選択される」との限定がなされたものであるから,この限定は本件発明28と先願発明1との間において新たな相違点とはならない。
よって,本件発明28と先願発明1とは同一である。

イ 先願発明1’との対比
先願発明1’の還元剤である「水素化トリ-s-ブチルホウ素リチウム」は,本件発明27の「リチウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド」に相当する。
そうすると,上記アと同様に,本件発明28と先願発明1’との間において新たな相違点は存在しない。
よって,本件発明28と先願発明1’とは同一である。

(4)被請求人の主張
ア 被請求人の主張の概要(第2回答弁書第2頁第1行?第7頁下から第3行)
訂正後の請求項27の


」には,誤記が存在し,正しくは


」である。
すなわち,本件訂正の目的が,審決の予告で指摘された特許法第29条の2の無効理由を解消して,特許を維持するためのものであって,先願発明1の一般式(21)で示される化合物


」を除くため,Zの定義を訂正したものであることは明かである。
そして,本件発明27において,「Z」は,


ステロイド環構造」と定義されているところ,本件発明27で除かれる


」(以下「除外一般式」という。)は,C-10に結合するメチル基が存在しないため,Zで定義されるステロイド環構造ではないものの,C-10に結合するメチル基が記載されていれば,Zの定義におけるステロイド環構造となり,本件訂正の目的に適うことは明らかである。
また,甲第1号証には,先願発明1の一般式(21)をはじめとして,シクロペンタノペルヒドロフェナントレン骨格のC-10にメチル基を有する化合物のみが記載され,C-10にメチル基を有さない化合物は存在しないのであるから,本件訂正の目的に適うには,上記除外一般式において,C-10にメチル基が記載されたものでなくてはならないことは明らかである。
さらに,本件特許明細書には,ビタミンD誘導体の合成方法が記載されているところ,シクロペンタノペルヒドロフェナントレン骨格のC-10にメチル基を結合した構造がビタミンD誘導体のエキソメチレン部分の合成に必須であることは技術常識であり,上記除外一般式において,C-10にメチル基が記載されていれば,ビタミンD誘導体のエキソメチレン部分の合成に必須の構造となり得るのは明らかである。
そうすると,当業者であれば,上述のとおり,上記除外一般式においてC-10のメチル基が記載されていないことは明白な誤記であり,その正しい内容を一義的に理解できるといえる。
したがって,


」を


」に補正することは明白な誤記の補正に該当するものであり,本件訂正請求書の要旨を何ら変更するものではない。
明白な誤記は,当業者にとって正しい意味が理解できるから,その意味は誤記に従って解釈すべきではなく,正しい意味に解釈すべきである。
そうすると,先願発明1の一般式(21)に示される化合物は本件発明27,28の式の範囲から除かれているため,本件発明27,28は,甲第1号証の出願当初の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一ではない。
しかし,本件審判手続の明確性の観点から,上記明白な誤記を補正によって正して進める方が好ましいので,特許法第134条の3第5項の規定に基づき,職権審理を行って訂正拒絶理由を通知し,被請求人に訂正明細書の補正の機会を与えることを求める。

イ 被請求人の主張の検討
(ア)本件発明27,28の解釈について
特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきとされている(昭和62年(行ツ)第3号)ので,この観点に立って検討する。
本件発明27の
「下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1であり;R_(1)およびR_(2)はメチルであり;WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;YはOであり;そしてZは、式:

のステロイド環構造、または式:

のビタミンD構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)但し、Zが式:

のいずれかで表される場合を除く。」との記載は,
「下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1であり;R_(1)およびR_(2)はメチルであり;WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;YはOであり;そしてZは、式:

のステロイド環構造、または式:

のビタミンD構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)」ものであって,そこから,「Z」が


」である場合が除外されたものであって,「Z」の範囲は一般式によって明確に特定できるから,その範囲は明確であって,これ以外の意味には解せない。
確かに,Zから除くとされている「

」は,Zである「

のステロイド環」に含まれず,上記除外一般式の記載がなくても同じ意味となるので不要な記載ではあるが,あくまでも特許請求の範囲から除かれる対象であるから,この記載によって特許請求の範囲の記載が不明確とはならない。

次に,発明の詳細な説明には,
「下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1であり;R_(1)およびR_(2)はメチルであり;WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;YはOであり;そしてZは、式:

のステロイド環構造、または式:

のビタミンD構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)」ことは記載されているが,その中から何が除外されているのかについては記載がない。
そして,上記除外一般式の化合物がビタミンD誘導体にはなり得ないとしても,なり得ないものが特許請求の範囲から除かれているのであるから,特に,発明の詳細な説明と特許請求の範囲の記載に不整合が生じるわけではなく,特許請求の範囲の記載が一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかともいえない。
そうすると,特許請求の範囲の記載に基づいて解釈しない特別な事情があるとは認められない。

被請求人は,本件訂正は甲第1号証に記載される先願発明1の一般式(21)で示される化合物を本件発明27,28から


」を除くためにしたものであり,甲第1号証に上記除外一般式に当たるものが記載されていないことからも,本件発明27の上記除外一般式においてC-10のメチル基が記載されていないことは明白な誤記であると主張している。
しかしながら,特許請求の範囲の記載の解釈は,上記判示のとおり,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであって,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができるにもかかわらず,当該特許における無効審判事件の手続経緯を踏まえて,その文言の意味と別の意味に解すべき理由はない。
被請求人は,本件訂正が甲第1号証に記載される先願発明1の一般式(21)で示される化合物等を除くためになされたと主張するが,本件訂正がなされた時点ではそのような主張は一切されておらず,請求人からの指摘を受けてからこのような主張をするに至ったものである。その点はさておくとしても,本件無効審判手続において,少なくとも2回の訂正請求の機会が被請求人に与えられていたところ,その際にどのような訂正をするかは被請求人が自らの責任において決定すべきことであって,無効理由を解消するための訂正内容は,必ずしも,先願発明1の一般式(21)で示される化合物等を除く形式に限られず,訂正要件を満たす範囲で自由にできたにもかかわらず,本件訂正を被請求人が選択したものである。
さらにいえば,本件発明27のZのステロイド環は,


」構造を有するが,「Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)」のであるから,どのような保護基も含んでいるところ,甲第1号証には,先願発明1における式(21)において,保護基としてTBS(t-ブチルジメチルシリル基)以外にも様々な保護基が開示されている(【0022】?【0025】参照)ことからすれば,単に,先願発明1における式(21)の化合物のみを本件発明27のZから除くことで無効理由が解消すると当業者が当然に理解するともいえない。
これらの事情を踏まえれば,本件発明27において,「Z」から


」の場合を除くと訂正したのは,被請求人が自らが招いた結果であり,かつ,その正しい記載が,


」であることは,それ自体や本件特許明細書の特許請求の範囲や発明の詳細な説明の記載をみても当業者が直ちに理解できるとはいえないのであるから,本件訂正後の本件発明27,28の除外一般式が,そのC-10にメチル基が存在するものの明らかな誤記として特許請求の範囲を解すべきと主張することは,訂正の効力が請求人以外の第三者にも及ぶことも考慮すれば,特許請求の範囲の記載を信じる第三者との公平性に照らしても許されるものではない。
よって,被請求人の主張は採用できない。

(イ)訂正拒絶理由の通知について
被請求人は,当審が訂正拒絶理由を通知すべきことを求めているが,職権による訂正拒絶理由は,本件訂正に特許法第134条の2第1項各号のいずれをも目的としない場合や同法同条第9項において準用する同法第126条第5項から第7項までの規定に適合しない場合に通知することができるもののであって,上記「第2」で述べたように,本件訂正はこれらの規定に適合するものであるから,訂正拒絶理由を通知することはできない。
よって,被請求人の主張は採用できない。

3 小括
以上のとおり,本件発明27,28は,パリ条約による優先権主張の基礎出願の出願書類である甲第3号証に記載されておらず.パリ条約による優先権の利益を受けることができず,本件の特許出願日が基準日となる。
そうすると,本件発明27,28は,本件特許の出願前の他の特許出願であって本件特許の出願後に公開がされたとみなされる甲1号証出願の出願当初の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であって,当該他の特許出願に係る発明者が本件特許出願に係る発明者と同一の者ではなく,かつ,本件特許出願の時に本件特許出願の出願人と当該他の特許出願の出願人が同一の者ではないから,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり,本件発明27,28の特許は,特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。
審判費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1であり;R_(1)およびR_(2)はメチルであり;WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;YはOであり;そしてZは、式

のステロイド環構造、または式

のビタミンD構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)
(a)下記構造:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:


(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて化合物を製造すること;並びに
(b)かくして製造された化合物を回収すること、
を含む方法。
【請求項2】Zが

(式中、R_(4)、R_(5)、R_(8)、R_(9)、R_(10)、R_(11)、R_(12)およびR_(13)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、または保護されたヒドロキシルであり;そしてR_(6)およびR_(7)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、保護されたヒドロキシルであるか、または一緒になって二重結合を形成する)
である請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項3】下記構造を有する化合物を製造するための方法であって:

(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

を有する化合物と反応させて化合物を製造すること;並びに
(b)かくして製造された化合物を回収すること、
を含む、請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項4】下記構造を有する化合物を製造するための方法であって:

(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

を有する化合物と反応させて化合物を製造すること;並びに
(b)かくして製造された化合物を回収すること、
を含む、請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項5】下記構造を有する化合物を製造するための方法であって:

(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

を有する化合物と反応させて化合物を製造すること;並びに
(b)かくして製造された化合物を回収すること、
を含む、請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項6】下記構造を有する化合物を製造するための方法であって:

(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

を有する化合物と反応させて化合物を製造すること;並びに
(b)かくして製造された化合物を回収すること、
を含む、請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項7】化合物の回収が濾過またはクロマトグラフィーを含む、請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項8】脱離基がハロゲン、メシル、トシル、イミデート、トリフルオロメタンスルホニル、またはフェニルスルホニルである、請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項9】ハロゲンが臭素である、請求の範囲第8項記載の方法。
【請求項10】塩基がアルカリ金属水素化物、アルカリ金属水酸化物、またはアルカリ金属アルコキシドである、請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項11】アルカリ金属水素化物がNaHまたはKHである、請求の範囲第10項記載の方法。
【請求項12】塩基がNaOR_(20)、KOR_(20)、R_(20)Li、NaN(R_(21))_(2)、KN(R_(21))_(2)、またはLiN(R_(21))_(2)であり;R_(20)はアルキルであり;そしてR_(21)はイソプロピルまたは(CH_(3))_(3)Siである、請求の範囲第1項記載の方法。
【請求項13】下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1であり;R_(1)およびR_(2)はメチルであり;WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;YはOであり;そしてZは、式:

のステロイド環構造、または式:

のビタミンD構造であり、Zの構造の各々は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく、Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)
(a)下記構造:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて、下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む方法。
【請求項14】Zが

(式中、R_(4)、R_(5)、R_(8)、R_(9)、R_(10)、R_(11)、R_(12)およびR_(13)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、または保護されたヒドロキシルであり;そしてR_(6)およびR_(7)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、保護されたヒドロキシルであるか、または一緒になって二重結合を形成する);
である、請求の範囲第13記載の方法。
【請求項15】下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

を有する化合物と反応させて、下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項16】下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

を有する化合物と反応させて、下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項17】下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

を有する化合物と反応させて、下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項18】
下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

を有する化合物と反応させて、下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項19】化合物の回収が濾過またはクロマトグラフィーを含む、請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項20】脱離基がハロゲン、メシル、トシル、イミデート、トリフルオロメタンスルホニル、またはフェニルスルホニルである、請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項21】ハロゲンが臭素である、請求の範囲第20項記載の方法。
【請求項22】塩基がアルカリ金属水素化物、アルカリ金属水酸化物、またはアルカリ金属アルコキシドである、請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項23】アルカリ金属水素化物がNaHまたはKHである、請求の範囲第22項記載の方法。
【請求項24】塩基がNaOR_(20)、KOR_(20)、R_(20)Li、NaN(R_(21))_(2)、KN(R_(21))_(2)、またはLiN(R_(21))_(2)であり;R_(20)はアルキルであり;そしてR_(21)はイソプロピルまたは(CH_(3))_(3)Siである、請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項25】還元剤が、LiAlH_(4)、Li(s-Bu)_(3)BH、またはLiEt_(3)BHである、請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項26】上記工程(b)が工程(a)の反応生成物から工程(a)で生成したエポキシド化合物を分離することなく行われる、請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項27】上記工程(a)および(b)が溶媒としてのテトラヒドロフランの存在中で行われる、請求の範囲第26項記載の方法。但し、Zが、式:

のいずれかで表される場合を除く。
【請求項28】上記還元剤が、リチウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド、カリウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド、リチウムトリエチルボロハイドライド、およびリチウム9-BBNハイドライドから成る群から選択される、請求の範囲第27項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
本出願を通じて、各種刊行物が引用される。これらの刊行物の開示はその全てが、本発明が属する技術の水準を十分に記載するために本出願中に引用により取り込まれる。
発明の背景
0ビタミンDおよびその誘導体は、重要な生理学的機能を有する。例えば、1α,25-ジヒドロキシビタミンD_(3)は、カルシウム代謝調節活性、増殖阻害活性、腫瘍細胞等の細胞に対する分化誘導活性、および免疫調節活性などの広範な生理学的機能を示す。しかし、ビタミンD_(3)誘導体は高カルシウム血症などの望ましくない副作用を示す。
特定の疾患の治療における効果を保持する一方で付随する副作用を減少させるために、新規ビタミンD誘導体が開発されている。
例えば、日本特許公開公報昭和61-267550号(1986年11月27日発行)は、免疫調節活性と腫瘍細胞に対する分化誘導活性を示す9,10-セコ-5,7,10(19)-プレグナトリエン誘導体を開示している。さらに、日本特許公開公報昭和61-267550号(1986年11月27日発行)は、最終産物を製造するための2種類の方法も開示しており、一方は出発物質としてプレグネノロンを使用する方法で、他方はデヒドロエピアンドロステロンを使用する方法である。
1α,25-ジヒドロキシ-22-オキサビタミンD_(3)(OCT)、即ち、1α,25-ジヒドロキシビタミンD_(3)の22-オキサアナログ体は、強力なインビトロ分化誘導活性を有する一方、低いインビボカルシウム上昇作用(calcemicliability)を有する。OCTは、続発性上皮小体機能亢進症および幹癬の治療の候補として臨床的に試験されている。
日本特許公開公報平成6-072994(1994年3月15日発行)は、22-オキサコレカルシフェロール誘導体およびその製造方法を開示している。この公報は、20位に水酸基を有するプレグネン誘導体をジアルキルアクリルアミド化合物と反応させてエーテル化合物を得て、次いで得られたエーテル化合物を有機金属化合物と反応させて所望の化合物を得ることを含む、オキサコレカルシフェロール誘導体の製造方法を開示している。
日本特許公開公報平成6-080626号(1994年3月22日発行)は、22-オキサビタミンD誘導体を開示している。この公報はまた、出発物質としての1α,3β-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-プレグネ-5,7-ジエン-20(S又はR)-オールを塩基の存在下でエポキシドと反応させて20位からエーテル結合を有する化合物を得ることを含む方法を開示している。
さらに、日本特許公開公報平成6-256300号(1994年9月13日発行)およびKubodera他(Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,4(5):753-756,1994)は、1α,3β-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-プレグナ-5,7-ジエン-20(S)-オールを4-(テトラヒドロピラン-2-イルオキシ)-3-メチル-2-ブテン-1-ブロミドと反応させてエーテル化合物を得て、それを脱保護し、そして脱保護されたエーテル化合物をシャープレス酸化することを含む、エポキシ化合物を立体特異的に製造する方法を開示している。しかし、上記方法は、ステロイド基の側鎖にエーテル結合およびエポキシ基を導入するのに1工程より多くの工程を必要とし、従って所望の化合物の収率が低くなる。
さらに、上記文献のいずれにも、アルコール化合物を末端に脱離基を有するエポキシ炭化水素化合物と反応させて、それによりエーテル結合を形成する合成方法は開示されていない。また、上記文献には、側鎖にエーテル結合およびエポキシ基を有するビシクロ[4.3.0]ノナン構造(本明細書中以下においてCD環構造と称する)、ステロイド構造またはビタミンD構造は開示されていない。
発明の概要
本発明は、以下の式Iの構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1?5の整数であり;R_(1)およびR_(2)は各々独立に、所望により置換されたC1-C6アルキルであり;WおよびXは各々独立に水素またはC1-C6アルキルであり;YはO、SまたはNR_(3)であり、ここでR_(3)は水素、C1-C6アルキルまたは保護基であり;そしてZは、


であり、R_(4)、R_(5)、R_(8)、R_(9)、R_(10)、R_(11)、R_(12)、R_(13)、R_(14)、R_(15)、R_(16)およびR_(17)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、または保護されたヒドロキシルであり;そしてR_(6)およびR_(7)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、保護されたヒドロキシルであるか、または一緒になって二重結合を形成する);
(a)以下の式IV:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を塩基の存在下で以下の式VまたはV’:

(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
の構造を有する化合物と反応させて式Iの化合物を製造すること;並びに
(b)かくして製造された化合物を回収すること、
を含む方法を提供する。
本発明はまた、式Iの構造を有する化合物を提供する:

(式中、nは1?5の整数であり;R_(1)およびR_(2)は各々独立に、所望により置換されたC1-C6アルキルであり;WおよびXは各々独立に水素またはC1-C6アルキルであり;YはO、SまたはNR_(3)であり、ここでR_(3)は水素、C1-C6アルキルまたは保護基であり;そしてZは、

であり、R_(4)、R_(5)、R_(8)、R_(9)、R_(10)、R_(11)、R_(12)、R_(13)、R_(14)、R_(15)、R_(16)およびR_(17)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、または保護されたヒドロキシルであり;そしてR_(6)およびR_(7)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、保護されたヒドロキシルであるか、または一緒になって二重結合を形成する)
本発明はさらに、以下の式VIの構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1?5の整数であり;R_(1)およびR_(2)は各々独立に、所望により置換されたC1-C6アルキルであり;WおよびXは各々独立に水素またはC1-C6アルキルであり;YはO、SまたはNR_(3)であり、ここでR_(3)は水素、C1-C6アルキルまたは保護基であり;そしてZは、

であり、R_(4)、R_(5)、R_(8)、R_(9)、R_(10)、R_(11)、R_(12)、R_(13)、R_(14)、R_(15)、R_(16)およびR_(17)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、または保護されたヒドロキシルであり;そしてR_(6)およびR_(7)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、保護されたヒドロキシルであるか、または一緒になって二重結合を形成する);
(a)以下の式IV:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を塩基の存在下で以下の式Vまたは式V’:

(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
の構造を有する化合物と反応させて式I:

の構造を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して式VIの化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む方法を提供する。
本発明はさらに、以下の構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1?5の整数であり;R_(1)およびR_(2)は各々独立に、所望により置換されたC1-C6アルキルであり;WおよびXは各々独立に水素またはC1-C6アルキルであり;YはO、SまたはNR_(3)であり、ここでR_(3)は水素、C1-C6アルキルまたは保護基であり;そしてZ’は、1以上の保護された未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有するビタミンD構造であり、ここでZ’は好ましくは:

であり、R_(10)、R_(11)、R_(12)およびR_(13)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、または保護されたヒドロキシルである);
(a)下記構造:

(式中、W、XおよびYは上記定義の通りであり、そしてZ”は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有するステロイド構造を示し、Z”は最も好ましくは:

であり、ここでR_(4)、R_(5)、R_(8)、およびR_(9)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、または保護されたヒドロキシルであり;そしてR_(6)およびR_(7)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、保護されたヒドロキシルであるか、または一緒になって二重結合を形成する);
を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:


(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)かくして得られたエポキシド化合物を還元剤で処理して還元された化合物VIを製造すること;
(c)かくして得られた還元されたステロイド化合物を、Z”のステロイド構造をZ’のビタミンD構造に転換させるような条件下で紫外線照射および熱異性化に付すること;および
(d)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む方法を提供する。
本発明はさらに、下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1?5の整数であり;R_(1)およびR_(2)は各々独立に、所望により置換されたC1-C6アルキルであり;WおよびXは各々独立に水素またはC1-C6アルキルであり;YはO、SまたはNR_(3)であり、ここでR_(3)は水素、C1-C6アルキルまたは保護基であり;そしてZ’は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有するビタミンD構造であり、ここでZ’は好ましくは:

であり、R_(10)、R_(11)、R_(12)およびR_(13)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、または保護されたヒドロキシルである);
(a)下記構造:

(式中、W、XおよびYは上記定義の通りであり、そしてZ’’’は、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有するCD環構造を示し、Z’’’は最も好ましくは:

であり、ここでR_(14)、R_(15)、R_(16)、およびR_(17)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、または保護されたヒドロキシルである)
を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)かくして得られたエポキシド化合物を還元剤で処理して還元された化合物を製造すること;
(c)かくして得られた還元されたCD環化合物をビタミンDの環構造を製造できる構築ブロックとZ’’’のCD環構造をZ’のビタミンD構造に転換させるような条件下で反応させること;および
(d)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む方法を提供する。
発明の詳細な説明
本発明は、下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1?5の整数であり;R_(1)およびR_(2)は各々独立に、所望により置換されたC1-C6アルキルであり;WおよびXは各々独立に水素またはC1-C6アルキルであり;YはO、SまたはNR_(3)であり、ここでR_(3)は水素、C1-C6アルキルまたは保護基であり;そしてZは、

であり、R_(4)、R_(5)、R_(8)、R_(9)、R_(10)、R_(11)、R_(12)、R_(13)、R_(14)、R_(15)、R_(16)およびR_(17)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、または保護されたヒドロキシルであり;そしてR_(6)およびR_(7)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、保護されたヒドロキシルであるか、または一緒になって二重結合を形成する);
(a)下記構造:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて化合物を製造すること;並びに
(b)かくして製造された化合物を回収すること、
を含む方法を提供する。
本明細書で使用する「脱離基」という用語は、上記定義した-YH基と反応してHEを脱離して-Y-結合を形成することができる基を意味する。脱離基の例としては、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素などのハロゲン原子、トシル基、メシル基、トリフルオロメタンスルホニル基、メタンスルホニルオキシ基、p-トルエンスルホニルオキシ基、およびイミデート基が挙げられ、ハロゲン原子が好ましく、臭素原子が特に好ましい。
下記構造:

を有する化合物の製造方法は新規であり、細胞に対する分化誘導活性および増殖阻害活性などの多様な生理学的活性を有することができるビタミンD誘導体の合成に有用である。
本発明はまた、下記構造:

(式中、ZはCD環構造、ステロイド構造またはビタミンD構造を示し、これらは各々、1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよい)
を有する化合物を提供する。本発明に関するCD環構造、ステロイド構造およびビタミンD構造は各々、特には下記する構造を意味し、これらの環は何れも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい。ステロイド構造においては、1個または2個の不飽和結合を有するものが好ましく、5-エンステロイド化合物、5,7-ジエンステロイド化合物、またはそれらの保護された化合物が特に好ましい。


CD構造、ステロイド構造、またはビタミンD構造であるZ上の置換基は特に限定されず、水酸基、置換または未置換の低級アルキルオキシ基、置換または未置換のアミノ基、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアルキリデン基、カルボニル基およびオキソ基(=O)などを例示することができ、水酸基が好ましい。これらの置換基は保護されていてもよい。有用な保護基は特に限定されないが、アシル基、置換シリル基および置換または未置換アルキル基を挙げることができ、アシル基および置換シリル基が好ましい。アシル基の例としては、アセチル基、ベンゾイル基、置換アセチル基および置換ベンゾイル基、並びにカーボネート型およびカルバメート型のものが挙げられ、アセチル基が好ましい。アセチル基およびベンゾイル基上の置換基の例としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基およびアリール基が挙げられ、フッ素原子、塩素原子、メチル基、フェニル基およびエチリデン基が好ましい。置換されたアセチル基の好ましい例としては、クロロアセチル基、トリフルオロアセチル基、ピバロイル基およびクロトノイル基が挙げられる。置換ベンゾイル基の好ましい例としては、p-フェニルベンゾイル基および2,4,6-トリメチルベンゾイル基が挙げられる。置換シリル基の例としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル(TBS)基およびtert-ブチルジフェニルシリル基が挙げられ、tert-ブチルジメチルシリル(TBS)基が好ましい。置換または未置換のアルキル基の例としては、メチル基、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、tert-ブチルチオメチル基、ベンジルオキシメチル基、p-メトキシベンジルオキシメチル基、2-メトキシエトキシメチル基、テトラヒドロピラニル基、tert-ブチル基、アリル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、およびo-またはp-ニトロベンジル基が挙げられる。
ステロイド構造における不飽和結合のための保護基の例としては、4-フェニル-1,2,4-トリアゾリン-3,5-ジオンおよびマレイン酸ジエチルが挙げられる。そのような保護基を有する付加物の例は以下のものである:

さらに、ビタミンD構造はSO_(2)の付加によって保護されていてもよい。そのような保護されたビタミンD構造の例を下記に示す:

本発明による式I、V、V’およびVIにおいて、R_(1)およびR_(2)は、同一でも異なっていてもよく、各々置換された未置換の低級アルキル基を示し、未置換の低級アルキル基が好ましい。R_(1)およびR_(2)の定義において、低級アルキル基とは、1?6個の炭素原子を有する直鎖または分枝のアルキル基を意味する。低級アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基が挙げられ、メチル基およびエチル基が特に好ましい。R_(1)およびR_(2)の定義において、置換されたアルキル基上の置換基の例としては水酸基およびアミノ基を例示することができ、水酸基が好ましい。
本発明による式I、IVおよびVIにおいて、WおよびXは、同一でも異なっていてもよく、各々水素原子または直鎖または分枝の低級アルキル基を示す。好ましくは、WおよびXの一方はアルキル基、最も好ましくはメチル基であり、他方は水素原子である。特に好ましくは、Wはメチル基であり、Xは水素原子である。
本発明による式I、IVおよびVIにおいて、YはO、SまたはNR_(3)を示し、ここでR_(3)は水素原子または保護基を示す。R_(3)における保護基の例としては、置換または未置換のカルバメート基、置換または未置換のアミド基および置換または未置換のアルキル基が挙げられ、アルキルは好ましくはC1-C6アルキルであり、メチルカルバメート基、エチルカルバメート基、トリクロロエチルカルバメート基、t-ブチルカルバメート基、ベンジルカルバメート基、アセトアミド基、トリフルオロアセトアミド基、メチル基およびベンジル基が好ましい。Yは好ましくはOまたはSであり、Oが特に好ましい。
本発明による式I、V、V’およびVIにおいて、nは1、2、3または4であり、好ましくは1または2であり、特に好ましくは1である。好ましくは、nが1であり、R_(1)およびR_(2)の一方がメチル基である場合、他方はヒドロキシメチル基ではない。
本発明による式Iで表される化合物の特に好ましい態様は、式Iにおいて、R_(1)およびR_(2)は同一であり、各々メチル基またはエチル基を示し、WおよびXは異なり、各々水素原子またはメチル基を示し、YはOを示し、そしてnは1または2を示すものである。
本発明による式Iで表される化合物のより好ましい例は、以下の式II AおよびII B:

(式中、R_(18)およびR_(19)は、同一でも異なっていてもよく、各々水素原子または保護基を示す)
または以下の式III AおよびIII B:

(式中、R_(18)およびR_(19)は、同一でも異なっていてもよく、各々水素原子または保護基を示す)
で表される。
本発明による式Iで表される化合物の最も好ましい例は、上記式II AおよびII Bで表される。
式Iの化合物の製造について本明細書に開示した反応の概略を以下の反応図Aに示す。

本発明による上記方法で出発化合物として使用される化合物の幾つかは、公知化合物である。例えば、「Y」がOである場合、以下のものを出発化合物として使用することができる:日本特許公開公報昭和61-267550号(1986年11月27日発行)に記載された1α,3β-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-プレグナ-5,7-ジエン-20(S)-オール;日本特許公開公報昭和61-267550号(1986年11月27日発行)および国際特許公開公報WO90-09991(1990年9月7日)およびWO90/09992(1990年9月7日)に記載された所望により水酸基が保護されている9,10-セコ-5,7,10(19)-プレグナトリエン-1α,3β,20β-トリオール;J.Org.Chem.,57,3173(1992)に記載されたオクタヒドロ-4-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)-7-メチル-1H-インデン-1-オール;並びにJ.Am.Chem.Soc.,104,2945(1982)に記載されたオクタヒドロ-4-(アセチルオキシ)-7-メチル-1H-インデン-1-オール。
「Y」がSである場合、20位にチオール基(-SH-基)を有する出発化合物(式IV)を20位に水酸基を有する上記化合物の代わりに使用することができる。そのような化合物は、例えば、先に記載された方法(Journal of the American Chemical Society,102:10[1980]pp.3577-3583)に従ってケトン化合物をチオール化合物に転換することによって得ることができる。より具体的には、ケトン化合物を触媒の存在下で1当量の1,2-エタンジチオールと反応させて対応するエチレンチオケタール化合物を製造し、次いでかくして得られたエチレンチオケタール化合物を3?4当量のn-ブチルリチウムと反応させて対応するチオール化合物を産生させる。あるいは、そのようなチオール化合物は、国際特許公開公報WO94/14766(1994年7月7日)に記載された方法に従って20位にアルデヒド基または保護された水酸基を有する化合物から合成することができる。
さらに、「Y」がNR_(3)(ここでR_(3)は水素原子または保護基を示す)である出発化合物もまた公知であり、開示されている(Chem.Pharm.Bull.Vol.32,pp.1416-1422[1984])。
本発明による上記方法で反応物質として使用される下記構造:

を有する化合物の幾つかは公知化合物であり、末端に脱離基を有するアルケニル化合物をm-クロロ過安息香酸(m-CPBA)などの有機過酸と不活性有機溶媒中で反応させることにより公知の方法に従って製造することができる。「E」は脱離基を示す。本明細書で使用する「脱離基」という用語は、式IVの-YH基と反応してHEを脱離して-Y-結合を形成することができる基を意味する。脱離基の例としては、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素などのハロゲン原子、トシル基、メシル基、トリフルオロメタンスルホニル基、メタンスルホニルオキシ基、p-トルエンスルホニルオキシ基、およびイミデート基が挙げられ、ハロゲン原子が好ましく、臭素原子が特に好ましい。
本発明による上記反応(図A)は、塩基の存在下で実施される。使用できる塩基の例としては、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ金属アルコキシドが挙げられ、アルカリ金属水素化物が好ましく、水素化ナトリウムが特に好ましい。
反応は好ましく不活性溶媒中で実施される。使用できる溶媒の例としては、エーテル系溶媒、飽和脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、およびそれらの組み合わせを挙げることができ、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、およびDMFとジエチルエーテルの混合物が好ましく、ジメチルホルムアミドおよびテトラヒドロフランがより好ましい。
反応温度は適切に調節することができ、一般的には25℃から溶媒の還流温度、好ましくは40℃から65℃の範囲内である。
反応時間は適切に調節することができ、一般的には1時間から30時間、好ましくは2時間から5時間の範囲内である。反応の進行は薄層クロマトグラフィー(TLC)で監視することができる。
本発明の一態様では、下記構造:

を有する化合物の製造方法は、(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:


を有する化合物と反応させて化合物を製造すること;および
(b)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む。
本発明の別の態様では、下記構造:

を有する化合物の製造方法は、(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:


を有する化合物と反応させて化合物を製造すること;そして
(b)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む。
本発明のさらに別の態様では、下記構造:

を有する化合物の製造方法は、
(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

を有する化合物と反応させて化合物を製造すること;そして
(b)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む。
本発明の別の態様では、下記構造:

を有する化合物の製造方法は、
(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

を有する化合物と反応させて化合物を製造すること;そして
(b)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む。
本発明のさらに別の態様では、化合物の回収は濾過またはクロマトグラフィーを含む。
本発明の別の態様では、脱離基はハロゲン、メシル、トシル、イミデート、トリフルオロメタンスルホニル、またはフェニルスルホニルである。
本発明のさらに別の態様では、ハロゲンは臭素である。
本発明の別の態様では、塩基はアルカリ金属水素化物、アルカリ金属水酸化物、またはアルカリ金属アルコキシドである。
本発明のさらに別の態様では、アルカリ金属水素化物は、NaHまたはKHである。
本発明の別の態様では、塩基はNaOR_(20)、KOR_(20)、R_(20)Li、NaN(R_(21))_(2)、KN(R_(21))_(2)、またはLiN(R_(21))_(2)であり;R_(20)はアルキルであり;そしてR_(21)はイソプロピルまたは(CH_(3))_(3)Siである。
本発明はまた、下記構造を有する化合物を提供する:

(式中、nは1?5の整数であり;R_(1)およびR_(2)は各々独立に、所望により置換されたC1-C6アルキルであり;WおよびXは各々独立に水素またはC1-C6アルキルであり;YはO、SまたはNR_(3)であり、ここでR_(3)は水素、C1-C6アルキルまたは保護基であり;そしてZは、

であり、R_(4)、R_(5)、R_(8)、R_(9)、R_(10)、R_(11)、R_(12)、R_(13)、R_(14)、R_(15)、R_(16)およびR_(17)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、または保護されたヒドロキシルであり;そしてR_(6)およびR_(7)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、保護されたヒドロキシルであるか、または一緒になって二重結合を形成する)
下記構造:

を有する化合物は新規化合物であり、細胞に対する分化誘導活性および増殖阻害活性などの多様な生理学的活性を有することができるビタミンD誘導体の合成のための有用な中間体である。
本発明の一態様では、本化合物は下記構造:

を有する。
本発明の別の態様では、本化合物は、下記構造:

を有する。
本発明のさらに別の態様では、本化合物は、下記構造:

を有する。
本発明の別の態様では、本化合物は、下記構造:

を有する。
本発明はさらに、下記構造を有する化合物の製造方法であって:

(式中、nは1?5の整数であり;R_(1)およびR_(2)は各々独立に、所望により置換されたC1-C6アルキルであり;WおよびXは各々独立に水素またはC1-C6アルキルであり;YはO、SまたはNR_(3)であり、ここでR_(3)は水素、C1-C6アルキルまたは保護基であり;そしてZは、


であり、R_(4)、R_(5)、R_(8)、R_(9)、R_(10)、R_(11)、R_(12)、R_(13)、R_(14)、R_(15)、R_(16)およびR_(17)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、または保護されたヒドロキシルであり;そしてR_(6)およびR_(7)は各々独立に水素、置換または未置換の低級アルキルオキシ、アミノ、アルキル、アルキリデン、カルボニル、オキソ、ヒドロキシル、保護されたヒドロキシルであるか、または一緒になって二重結合を形成する);
(a)下記構造:

(式中、W、X、YおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

(式中、n、R_(1)およびR_(2)は上記定義の通りであり、そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む方法を提供する。
本発明は、本明細書中上記した新規な中間体を経てビタミンDまたはステロイド誘導体を製造する方法に関する。この反応の概略を以下の反応図Bに示す。

本発明による上記2工程の反応の工程(1)の反応は、本明細書中に既に記載した反応図Aの方法と同様に実施できる。
工程(2)の反応は工程(1)で得られたエポキシ化合物中のエポキシ環を開環する反応であり、これは還元剤を使用して実施される。工程(2)で使用できる還元剤は、工程(1)で得られたエポキシ化合物の環を開環して水酸基を生成できるもの、好ましくは第3アルコールを選択的に形成できるものである。
還元剤の例を下記に列挙する:
リチウムアルミニウムハイドライド[LiAlH_(4)];
リチウムトリエチルボロハイドライド[LiEt_(3)BH、スーパーハイドライド];
リチウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド[Li(s-Bu)_(3)BH、L-セレクトライド);
カリウムトリ-sec-ブチロボロハイドライド[K(s-Bu)_(3)BH、K-セレクトライド);
リチウムトリシアミルボロハイドライド[LiB[CH(CH_(3))CH(CH_(3))_(2)]_(3)H、LS-セレクトライド);
カリウムトリシアミルボロハイドライド[KB[CH(CH_(3))CH(CH_(3))_(2)]_(3)H、KB[Sia]_(3)H、KS-セレクトライド);
リチウムジメチルボロハイドライド[LiB(CH_(3))_(2)H_(2)];
リチウムテキシルボロハイドライド[Li[(CH_(3))_(2)CHC(CH_(3))_(2)]BH_(3)];
リチウムテキシルリモニルボロハイドライド;

リチウムトリ-tert-ブトキシアルミノハイドライド[LiAl[OC(CH_(3))_(3)]_(3)H];
カリウムトリス(3,5-ジメチル-1-ピラゾリル)ボロハイドライド;

KB(C_(6)H_(5))_(3)H;
リチウム9-BBNハイドライド;

NaBH_(4);
NaBH_(3)CN:
さらに、特に還元剤がカリウムを含む場合には、リチウム塩、好ましくは臭化リチウム(LiBr)およびヨウ化リチウム(LiI)などのハロゲン化リチウム、特に好ましくはLiIなどの添加剤を還元剤に添加してもよい。
還元剤の好ましい例を下記に列挙する:
リチウムアルミニウムハイドライド[LiAlH_(4)];
カリウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド[K(s-Bu)_(3)BH、K-セレクトライド)+LiI;
リチウムトリエチルボロハイドライド[LiEt_(3)BH、スーパーハイドライド];
リチウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド[Li(s-Bs)_(3)BH、L-セレクトライド);
リチウム9-BBNハイドライド:
還元剤の特に好ましい例を下記に列挙する:
リチウムトリエチルボロハイドライド[LiEt_(3)BH、スーパーハイドライド];
リチウムトリ-sec-ブチルボロハイドライド[Li(s-Bu)_(3)BH、L-セレクトライド);
リチウム9-BBNハイドライド:
例えば、ジイソブチルアルミニウムハイドライド(DIBAL-H)などの好適な還元剤を選択することによってビタミンD化合物の24位に水酸基を有する化合物を優先的に得ることもできる。
工程(2)の反応は好ましく不活性溶媒中で実施される。使用できる溶媒の例としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ベンゼンおよびトルエンが挙げられ、ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランが好ましい。
工程(2)の反応温度は適切に調節することができ、一般的には10℃から100℃、好ましくは室温から65℃の範囲内である。
工程(2)の反応時間は適切に調節することができ、一般的には30分から10時間、好ましくは1時間から5時間の範囲内である。反応の進行は薄層クロマトグラフィー(TLC)で監視することができる。
工程(2)の反応は工程(1)の後に、より具体的にはシリカゲルクロマトグラフィーなどの適切な方法によって工程(1)の反応生成物を精製した後に実施することができ、あるいはまたそれは、工程(1)の反応生成物を精製することなくそれを含む混合物に還元剤を直接添加することによって実施することもできる。工程(2)を工程(1)の後に生成物を精製することなく実施する方法は「ワンポット反応」と称され、この方法は操作上の冗長さが少ないので好ましい。
比較的少量の式Vの反応物質並びに比較的少量の塩基を使用して、中間体化合物IVを最初に精製することなく、化合物Iから直接化合物VIを高い収率で得ることができる、非常に好ましく意外なほど優れたワンポット反応が見い出された。この改良された方法は、THFを溶媒として使用することによって得られる。DMFやDMFとジメチルエーテルの組み合わせではワンポット転換は生じない。還元剤の選択も最高のワンポット収率を達成するためには重要である。好ましいワンポット方法のためには、好ましい還元剤はL-セレクトライド;添加剤としてLiIを含むK-セレクトライド;リチウム9-BBNハイドライドまたはスーパーハイドライドである。LiALH_(4)もまた改良されたワンポット反応の還元剤として使用できるが、後者の還元剤を使用した場合、所望の生成物への転換率はそれほど高くはないであろう。好ましい塩基および溶媒(THF)を使用することによって、反応で使用する塩基のモル当量を1.5まで低下させることができ、基質に対する式Vの試薬のモル当量をわずか1.3まで低下させることができ、この場合でも所望の立体特異的生成物へのほぼ100%の転換が得られる。
以下の反応図Cは、本発明の化合物および方法を使用する反応経路を示す。対応するステロイド化合物からのビタミンD化合物の合成方法は、紫外線照射および熱異性化などの慣用的方法によって実施できる。対応するCD環化合物からのビタミンD化合物の合成方法もまた慣用的である。そのような方法は、例えば、E.G.Baggiolini他、J.Am.Chem.Soc,104,2945-2948(1982)およびWovkulich他、Tetrahedron,40,2283(1984)に記載されている。反応図Cに示した方法の一部または全部は本発明の範囲内であるものと理解すべきである。

(式中、W、X、Y、O、R_(1)およびR_(2)は上記定義と同一であり、構造の環は何れも1または2個の不飽和結合を所望により有していてもよい)
本発明を利用して得ることができる最終生成物のビタミンD誘導体の特に好ましい例は、以下の式VIIおよびVIIIで表される:

最も好ましい例は、式VIIで表される。
本発明の一つの好ましい態様では、下記構造:

を有する化合物の製造方法は:
(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

を有する化合物と反応させて下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)エポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること:
を含む。
本発明の別の態様では、下記構造:

を有する化合物の製造方法は、
(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

を有する化合物と反応させて下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)エポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む。
本発明のさらに別の態様では、下記構造:

を有する化合物の製造方法は、
(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:


を有する化合物と反応させて下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)エポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む。
本発明のさらに別の態様では、下記構造:

を有する化合物の製造方法は、
(a)下記構造:

を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:

を有する化合物と反応させて下記構造:

を有するエポキシド化合物を製造すること;
(b)エポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
(c)かくして製造された化合物を回収すること;
を含む。
本発明のさらに別の態様では、化合物の回収は濾過またはクロマトグラフィーを含む。
本発明のさらに別の態様では、脱離基はハロゲン、メシル、トシル、イミデート、トリフルオロメタンスルホニル、またはフェニルスルホニルである。
本発明の別の態様では、ハロゲンは臭素である。
本発明のさらに別の態様では、塩基はアルカリ金属水素化物、アルカリ金属水酸化物、またはアルカリ金属アルコキシドである。
本発明の別の態様では、アルカリ金属水素化物は、NaHまたはKHである。
本発明のさらに別の態様では、塩基はNaOR_(20)、KOR_(20)、R_(20)Li、NaN(R_(21))_(2)、KN(R_(21))_(2)、またはLiN(R_(21))_(2)であり;R_(20)はアルキルであり;そしてR_(21)はイソプロピルまたは(CH_(3))_(3)Siである。
本発明の別の態様では、還元剤は、LiAlH_(4)、Li(s-Bu)_(3)BH、またはLiEt_(3)BHである。
本発明は以下の詳細な実験からさらに良く理解されるであろう。しかし、当業者は記載した具体的方法および結果が実施例の後に続く請求の範囲においてより十分に記載される本発明の単なる例示にすぎないことを容易に理解するであろう。
実施例1:4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタンの合成

300mLの塩化メチレン(CH_(2)Cl_(2))中の市販の(96%)4-ブロモ-2-メチルブテン(化合物1)(10g、0.064モル)の撹拌溶液にm-クロロ過安息香酸(mCPBA)(80-85%)(20g、0.093-0.099モル)を室温で徐々に添加した。反応混合物を1時間撹拌し、得られた固体を濾過によって除去した。5%Na_(2)S_(2)O_(4)溶液(100mL)を濾液に添加し、30分間撹拌した。塩化メチレン層を分離し、飽和NaHCO_(3)(200mL、2回)水溶液、飽和NaCl水溶液で洗浄し、無水MgSO_(4)で乾燥した。溶媒の蒸発後、残存する液体を蒸留して8.9g(85%)の標題化合物(化合物2)を純粋な生成物として得た(無色液体、bp55℃/29mmHg)。
標題化合物(化合物2)のプロトン核磁気共鳴スペクトルは以下のシグナルを与えた。
400MHz^(1)H NMR(CDCl_(3)):
δ 3.52(dd,J=10.3,6.0Hz,1H),3.27(dd,J=10.3,7.5Hz,1H),3.09(dd,J=7.5,6.0Hz,1H),1.37(3,3H),1.33(s,3H).
エポキシドは塩基条件下でジブロモ化合物から製造できる(Journal of American Chemical Society,76,p.4374;1954)。以下の反応図は例示のものである。

従って、反応が塩基条件下である場合は上記反応図のジブロモ化合物をエポキシド化合物の代わりに使用することができる。上記定義した他の脱離基を、ブロモヒドリンの一方または両方のBr原子の代わりに使用してもよい。
実施例2:1α,3β-ビス(t-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(S)-2,3-エポキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5,7-ジエンの合成

氷水浴で冷却した20mlのDMF/ジエチルエーテル(1:1)の溶液中のアルコール化合物3(0.5g、0.89mmol)の激しく撹拌した溶液に、アルゴン下で水素化ナトリウム(60%オイル分散物、0.2g、5.0mmol)を添加した。一定の1:1DMF/ジエチルエーテル混合物を維持するために(蒸発のため)30分後に追加のジエチルエーテル(?5ml)を添加した。1時間撹拌した後、反応混合物を室温まで暖め、強流のアルゴンを激しく撹拌した反応混合物上に吹き付け、ジエチルエーテルを除去した。ジエチルエーテルの除去後、アルゴン流を低レベルまで減少させ、実施例1で得た化合物2(1.5g、8.9mmol)を一度に添加した。反応混合物を50?55℃の間に加熱した。30分後、さらに1gの化合物2を添加した。薄層クロマトグラフィー(TLC)は1時間後に反応の終結を示した。反応混合物を飽和NaCl水溶液に注入し、酢酸エチルで抽出し、有機層を無水MgSO_(4)で乾燥した。溶媒を濃縮した後、ヘキサン:酢酸エチル(19:1)を使用するシリカゲルクロマトグラフィーにより0.58g(90%)の標題化合物(化合物4)が無色のオイルとして得られた(ジアステレオマーの混合物)。
標題化合物(化合物4)のプロトン核磁気共鳴スペクトルは以下のシグナルを与えた。
400MHz^(1)H NMR(CDCl_(3)):
δ 5.57(1H),5.31(1H),4.01(1H),3.65(2H),3.42-3.20(2H),2.90(1H),2.90(1H),2.77(1H),2.31(2H),1.31(sx2,3H),1.28(sx2,3H),1.19(dx2,3H),0.88(3Hx7),0.59(sx2,3H),0.10(3H),0.06(3H),0.05(3H),0.00(3H).
実施例3:1α,3β-ビス(t-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(R)-(2,3-エポキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5-エンの合成

アルコール化合物5(5.0g、8.88mmol)、4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタン(2.2g、13.32mmol)、次いで水素化ナトリウム(乾燥95%、561mg、22.2mmol)を100mlの丸底ナス型フラスコに加えた。次いでTHF(20ml)をそれに添加した。反応を還流下で2時間行った。反応混合物を冷却後、反応を飽和NH_(4)Cl水溶液の添加により停止した。混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層をMgSO_(4)で乾燥して濃縮した。n-ヘキサン/酢酸エチル(20:1)を使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる単離および精製により、5.5g(95.7%)の標題化合物(化合物6)を白色粉末として得た。
標題化合物(化合物6)のプロトン核磁気共鳴スペクトルは以下のシグナルを与えた。
270MHz^(1)H NMR(δ:ppm)
5.42-5.44(m,1H),3.99-3.95(m,1H),3.75(br,1H),3.71-3.61(m,1H),3.41-3.28(m,2H),2.96-2.92(t,1H,J=5.61),2.28-2.06(m,3H),1.32(S,3H),1.28-1.27(3H),1.10-1.06(3H),0.95(3H,s),0.86(18H,s),0.72-0.63(3H),0.04,0.03,0.02,0.01(12H,Si-CH_(3)):
実施例4:1α,3β-ビス(t-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(S)-(3-ヒドロキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5,7-ジエンの合成

20mLの乾燥ジエチルエーテル中のエポキシステロイド化合物4(実施例2で得たもの、200mg、0.3mmol)の撹拌溶液に、アルゴン下で室温でリチウムアルミニウム水素化物(LiAlH_(4)、22mg、3.0mmol)を添加した。薄層クロマトグラフィー(TLC)は数時間後に出発物質(化合物4)の完全かつ明白な転換を示した。反応混合物を100mLの酢酸エチル/飽和NaCl水溶液(1:1)の間で分画した。有機層を分離し、無水MgSO_(4)で乾燥した。濃縮およびヘキサン/酢酸エチル(9:1)を使用するシリカゲルクロマトグラフィーにより582mg(90%)の標題化合物(化合物7)が無色固体として得られた。
標題化合物(化合物7)のプロトン核磁気共鳴スペクトルは以下のシグナルを与えた。
400MHz^(1)H NMR(CDCl_(3)):
δ 5.56(1H),5.30(1H),4.02(1H),3.82(1H),3.73(1H,OH),3.67(1H),3.47(1H),3.24(1H),2.75(1H),2.33(2H),1.22(3H),1.21(3H),1.18(d,3H),0.88(s,3H),0.86(s,3Hx6),0.59(3H),0.08(s,3H),0.04(s,3H),0.03(s,3H),0.00(s,3H).
実施例5:1α,3β-ビス(t-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(S)-(3-ヒドロキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5-エンのワンポット合成

容器にアルコール化合物8(0.5g、0.89mmol)、水素化ナトリウム(60%オイル分散物、71.2mg、1.78mmol)、THF(3ml)および4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタン(220mg、1.34mmol)を順番に添加した。混合物を50?60℃の反応温度で4時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、混合物を精製することなく、1.8ml(1.8mmol)のLi(s-Bu)_(3)BH(L-セレクトライド、THF中1.0M溶液)を添加し、反応を室温で2時間行った。反応を飽和NH_(4)Cl水溶液の添加により停止した。有機層を飽和NaHCO_(3)水溶液、次いで飽和NaCl水溶液で洗浄し、有機層を無水MgSO_(4)で乾燥した。有機層の濃縮およびn-ヘキサン/酢酸エチル(8:1)を使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製により537mg(93%)の標題化合物(化合物9)が得られた。
270MHz^(1)H(CDCl_(3)):
δ 6.43(1H),3.97(1H),3.82(1H),3.77(1H),3.75(1H,OH),3.46(1H),3.23(1H),2.27-2.14(2H),1.21(6H),1.17(d,3H,J=6.3Hz),0.94(3H),0.86(9H),0.65(3H),0.054(3H),0.036(3H),0.026(3H),0.006(3H):
実施例6:1α,3β-ビス(t-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(S)-(3-ヒドロキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5-エンのワンポット合成

容器に水素化ナトリウム(アッセイ95%、179.5g、7.10mol)、THF(8L)、アルコール化合物8(2kg、3.55mol)次いで4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタン(762g、4.62mol)を順番に添加した。反応を還流下で3時間行った。反応混合物を室温まで冷却した後、Li(s-Bu)_(3)BH(L-セレクトライド、9.9L、8.88mol)をこれに添加し、反応を還流下で3時間行った。次いで、3NのNaOH水溶液および35%の過酸化水素水溶液を反応混合物に順番に添加し、反応を室温で2時間行った。この反応混合物をNa_(2)S_(2)O_(3)水溶液に注入し、反応を1時間行った。反応混合物を飽和NaHCO_(3)水溶液、次いで飽和NaCl水溶液で洗浄した。洗浄後、有機層を濃縮し、メタノールから再結晶して標題化合物(2.16kg、収率93.7%)が得られた。
実施例7:1α,3β-ビス(t-ブチルジメチルシリルオキシ)-20(R)-(3-ヒドロキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5-エンのワンポット合成

アルコール化合物5(25g、44.4mmol)、水素化ナトリウム(2.24g)、4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタン(9.5g)、次いでTHF(100ml)をナス型フラスコに添加し、混合物を2.5時間還流した。混合物を冷却した後、L-セレクトライド(THF中1.0M溶液、100ml)をこれに添加し、反応を還流下で2時間行った。反応混合物を冷却した後、3NのNaOH水溶液(50ml)をこれに徐々に添加し、次いで35%のH_(2)O_(2)溶液(150ml)を徐々に滴加した。添加後、混合物を1時間撹拌した。次いで20%Na_(2)S_(2)O_(3)水溶液(100ml)を添加し、混合物を1時間撹拌した。
混合物の分離後、有機層を飽和NaCl水溶液(100mlで3回)で洗浄し、無水MgSO_(4)で乾燥した。MgSO_(4)を濾去し、有機層を減圧下で濃縮した。アセトニトリル(300ml)をこれに添加した。混合物を還流し、次いで室温まで冷却し、結晶化させた。得られた結晶を濾過し、乾燥して25.0g(86.7%)の標題化合物(化合物10)を白色結晶として得た。
270MHz^(1)H NMR(δ:ppm)
5.45-5.43(1H,m),4.02-3.94(1H,m),3.85-3.76(1H,m),3.78-3.76(1H,m),3.48-3.41(1H,m),3.29-3.23(1H,m),1.23(3H,s),1.22(3H,s),1.12-1.09(3H,d,J=5.94Hz),0.95(3H,s),0.87(9H,s,t-Bu-Si),0.86(9H,s,t-Bu-Si),0.69(3H,s),0.05(3H,s,Si-CH_(3)),0.04(3H,s,Si-CH_(3)),0.03(3H,s,Si-CH_(3)),0.01(3H,s,Si-CH_(3))
実施例8-21:エポキシ化合物と各種還元剤との反応の試験

実施例5と同様に、アルコール化合物8(0.5g、0.89mmol)、水素化ナトリウム(60%オイル分散物、71.2mg、1.78mmol)、THF(3ml)および4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタン(220mg、1.34mmol)を順番に容器に添加した。混合物を50?60℃の反応温度で4時間撹拌した。反応を飽和NaCl水溶液の添加により停止した。反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水MgSO_(4)で乾燥した。有機層の濃縮およびn-ヘキサン/酢酸エチル(20:1)を使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製により化合物8’が得られた。
次いで、試験用の各還元剤を、上記で得たエポキシ化合物(化合物8’)(100mg、0.155mmol)を充填した容器に添加し、反応を以下の表1に記載した条件下で行った。反応混合物を後処理した後、生成物への転換率(%)および25-ヒドロキシ化合物(化合物9、最終生成物)および24-ヒドロキシ化合物(化合物11、副生物)の生成比を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。
得られた結果を表1に示す。

a)所望化合物(化合物9):副生物(化合物11)の生成比
b)HPLCにより測定
c)所望化合物9が約5%の収率で産生し、副生化合物11も僅かに産生した。
d)副生化合物11が28.3%の収率で産生し、所望化合物9は産生しなかった。2種類の他の未知物質が産生した。
e)副生化合物11は42%の収率で産生し、所望化合物9は産生しなかった。他の未知物質が31.2%の収率で産生した。
f)シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる単離および精製後に、得られた化合物が所望化合物9であることをNMR測定により確認した。
注:r.t.は室温を意味する。
上記データから分かるように、本発明の方法により、反応を完結して、還元の位置に関して高い選択性を有する所望化合物を合成することができた。
実施例22:(1S,3R,20S)-1,3-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-(2,3-エポキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5-エンの合成

DMF:Et_(2)O=1:1(40ml)中のアルコール(8)(1.0g、1.78mmol)の溶液に、水素化ナトリウム(67mg、2.66mmol)および4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタン(3.5g、21.3mmol)を室温で添加した。反応混合物を激しく撹拌しながら5時間80℃で加熱し、次いでブラインで停止した。転換率を逆相HPLCで測定した(8’;20.7%)。
実施例23:(1S,3R,20S)-1,3-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-(2,3-エポキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5-エンの合成

DMF(5ml)中のアルコール(8)(1.0g、1.78mmol)の溶液に、水素化ナトリウム(67mg、2.66mmol)および4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタン(0.38g、2.31mmol)を室温で添加した。反応混合物を激しく撹拌しながら5時間80℃で加熱し、次いでブラインで停止した。転換率を逆相HPLCで測定した(8’;15.1%)。
実施例24:(1S,3R,20S)-1,3-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-(2,3-エポキシ-3-メチルブチルオキシ)プレグナ-5-エンの合成

DMF(5ml)中のアルコール(8)(1.0g、1.78mmol)の溶液に、水素化ナトリウム(90mg、5.34mmol)および4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタン(0.44g、2.67mmol)を室温で添加した。反応混合物を激しく撹拌しながら2時間80℃で加熱した。2時間後、追加量の4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタン(0.44g、2.67mmol)を添加した。さらに1時間後、0.88gの4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタン(5.34mmol)を80℃で添加した。さらに1時間後、1.76gの4-ブロモ-2,3-エポキシ-2-メチルブタン(10.7mmol)を80℃で添加した。反応混合物を激しく撹拌しながら2時間80℃に加熱し、次いでブラインで停止した。転換率を逆相HPLCで測定した(8’;44.8%)。
具体的態様の上記記載は本発明の一般的性質を十分に明らかにするので、他者は現在の知識を適用することによって、過度の実験なしにかつ一般的概念から離れることなく上記のような具体的態様を多様な応用のために容易に改良および/または改造できるであろう。従って、そのような改造および改良は開示した態様の均等の意味および範囲内のものであるべきであり、またそのように意図される。各種の開示した機能を実施するための手段および材料は本発明から離れることなく多様な代替形態を取ることができる。本明細書で使用した表現または用語は説明のためのものであり限定のためのものではないことを理解すべきである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-10-27 
結審通知日 2016-10-31 
審決日 2016-11-15 
出願番号 特願平10-512795
審決分類 P 1 123・ 161- ZAA (C07J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 冨永 保  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 瀬良 聡機
中田 とし子
登録日 2002-05-24 
登録番号 特許第3310301号(P3310301)
発明の名称 ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 向畑 元博  
代理人 江黒 早耶香  
代理人 篠田 淳郎  
代理人 津国 肇  
代理人 日野 英一郎  
代理人 日野 英一郎  
代理人 小國 泰弘  
代理人 小國 泰弘  
代理人 江黒 早耶香  
代理人 尾崎 英男  
代理人 日野 英一郎  
代理人 小國 泰弘  
代理人 津国 肇  
代理人 尾崎 英男  
代理人 ▲柳▼下 彰彦  
代理人 津国 肇  
代理人 江黒 早耶香  
代理人 尾崎 英男  

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