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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01J
管理番号 1327458
審判番号 不服2015-9522  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-22 
確定日 2017-04-27 
事件の表示 特願2011-143206「分光光度計」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月17日出願公開、特開2013- 11473〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年6月28日の出願であって、平成26年8月13日付けで拒絶理由が通知され、同年10月20日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成27年2月19日付けで拒絶査定がなされたのに対し、同年5月22日に拒絶査定不服審判が請求され、それと同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年5月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年5月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。

「少なくとも2つのセクタ部を有し、測定光を各セクタ部に対応する少なくとも2つのモードに振り分ける回転セクタ鏡と、各モードの光強度を測定して光強度信号を生成する光検出器と、を備える分光光度計において、
前記回転セクタ鏡の駆動源にブラシレスDCモータを用い、
測定する際の分析条件に応じて、前記ブラシレスDCモータの回転速度を制御する回転数制御部と、
前記モード毎に設定された前記回転セクタ鏡の回転位置を検出する回転位置検出部と、
前記モード毎の遅延時間を設定する遅延時間設定部と、
前記モード毎の遅延時間を記憶する遅延時間記憶部と、
前記モード毎の測定期間を設定する遅延時間設定部と、
前記モード毎の測定期間を記憶する測定期間記憶部と、
前記回転位置検出部からの検出信号を受信した時点から、その検出信号に対応するモードの前記遅延時間だけ遅延した後に、該対応するモードの前記測定期間の間だけ前記検出器からの光強度信号を測定値として取得する測定制御部と、
を備えることを特徴とする分光光度計。」

2 本件補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1における「分光光度計」について、「前記回転セクタ鏡の駆動源にブラシレスDCモータを用い、測定する際の分析条件に応じて、前記ブラシレスDCモータの回転速度を制御する回転数制御部」「を備える」ことを追加して限定するものである。
したかって、本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的するものに該当するものといえる。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、本件の特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(1)補正発明
上記「1 本件補正の内容」に記載した請求項1の記載のうち、「前記モード毎の測定期間を設定する遅延時間設定部」は、「測定期間を設定する」ことと「遅延時間設定部」とが対応しておらず、また、補正前の請求項1の記載に照らせば、「前記モード毎の測定期間を設定する測定期間設定部」の誤記と認められる。
よって、補正発明は、上記「1 本件補正の内容」に記載したもののうち、「前記モード毎の測定期間を設定する遅延時間設定部」を「前記モード毎の測定期間を設定する測定期間設定部」と読み替えたとおりのものと認められる。

(2)刊行物の記載事項
ア 本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭56-150305号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面の図示と共に、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

(ア)「今から説明ようとする実施例は、マイクロプロセツサに基づいた公開済みのマイクロコンピユータが組み込まれた2光束、比記録、赤外分光光度計へ適用したこの発明を詳しく示す。」(8頁右上欄6?9行)

(イ)「 第1図に概略図で示した光学系統では、トロイダル・ミラーすなわち凹面鏡1,2および3並びに平面鏡4は協働して分光回転鏡(以後プレサンプル・チヨツパと称する)6の動作面と一致する平面に光源5の像を投射する。プレサンプル・チヨツパ6は大体円板上の光束切換器であつて、切欠き(straight-through-air)扇形片(sector)、反射扇形片および非反射扇形片を持つている。」(8頁左下欄5?13行)

(ウ)「第1図において、光度検知器25および信号処理装置27はパルス発生器28および29と一緒に信号発生手段の一部を形成する。この信号発生手段は、プレサンプル・チヨツパ6、ポストサンプル・チヨツパ12によつてそれぞれ行われる分光、再結合の結果として光電信号を発生する。この光電信号では、サンプル透過(または吸収)を表わす信号成分の微小部分が基準透過(または吸収)を表わす信号成分の微小部分に対して所定の時間関係で交互に生じる。光電信号は従つて2組の微小部分すなわちサンプル組および基準組から成る。サンプル組の微小部分は、サンプル・チヤネルを通つて光度検知器25へ達する光路が開いている時に基準組と同様に生じる。一方または他方の光路が開いている期間は2個のサンプル・チヨツパの扇形片によつて当然左右される。光度検知器に当たる光とこれに対応して発生される微小信号との時間遅れのために、サンプル組の微小部分と基準組の微小部分との間で漏話が生じ、これは移相変動の結果として変化し両組の微小部分に影響する。」(10頁左上欄9行?同頁右上欄10行)

(エ)「第4図のプレサンプル・チヨツパ6には孔6D1をあけた不透明な環6Dが固着され、孔6D1の前縁は先頭の扇形片6A3の前縁の延長線上にある。孔6D1は第5図(それに第1図)に示した固定光源すなわちランプ29Aおよび光電管29Bと協働するので、孔の前縁がランプ29Aから光束(これはもちろんデータを表わす)を横切ると光電管29Bはチヨツパ・サイクルの開始を知らせる鋭い電気パルスを発生する。孔6D1の内側の円上には6つの別な孔6D2?6D7があけられており、各孔の前縁は6分割サンプル・チヨツパがサイクル開始位置にある時扇形片の前縁の延長線上にある。各孔がランプ28Aおよび光電管28B(第5図および第1図に示した)と協働するので、6つの孔の各々の前縁がランプ28Aからの光束を横切ると、光電管28Bは現在使用中の孔と関連した扇形片の開始を知らせる鋭い電気パルスを発生する。
孔6D1について説明した構成では、ランプ29Aおよび光電管29Bはサイクル開始パルス発生器29と協働する検知手段を表わし、そして孔6D2?6D7について説明した構成では、ランプ28Aおよび光電管28Bは扇形片開始パルス発生器28と協働する検知手段を表わす。各検知手段が開始機能を行うために関連したパルス発生器と協働する仕方は当業者には周知であるので、もつと詳しく説明する必要はないと思われる。
」(11頁右下欄最終行?12頁右上欄7行)

(オ)「第7図のブロツク図は第1図の信号処理装置27の詳細を示し、光度検知器25によつて発生された微小信号は、増幅器27Aによつてまず増幅され、その後積分器兼アナログ/デイジタル(A/D)変換器27Bによつて積分されかつA/D変換される。各微小信号の積分完了時、積分器兼A/D変換器27Bは“レデイ(ready)”信号をルート(route)27C(なお、矢印をつけたこのラインおよび他のラインは機能ルートであつて個々の導体ではない。)を通してマイクロプロセツサ27Dへ送り、このマイクロプロセツサ27Dの内部デイジタル記憶器にルート27Eを通して積分値を取り込ませる。上述した電子的計数用に必要なタイミング・パルスもサイクル開始パルス発生器29、扇形片開始パルス発生器28からそれぞれルート27F,27Gを通してマイクロプロセツサ27Dへ供給される。ルート27Gから分れたルート27G1は扇形片開始パルスを、遅延ユニツト27Hを通して積分器兼A/D変換器27Bへ供給する。遅延ユニツト27Hからの各パルスは、従つて関連扇形片開始パルスの発生時点から後で詳しく説明する所定の時間遅れて微小信号の積分開始のタイミングをとる。」(14頁右上欄3行?同頁左下欄6行)

(カ)「6分割サンプル・チヨツパ6および12(第1図)を駆動するための定速モータ30(第1図)は、実際には、50Hzの交流電源30Aから運転される時毎分500回転する同期モータである。従つて、各チヨツパ・サイクルは丁度6サイクルで完了され、そして各扇形片はその前縁が細長片SI(第4図)に入つた瞬間からその後縁が細長片SIから出る瞬間まで丁度20ミリ秒かゝる。
遅延ユニツト27H(第7図)は漏話を打消するために必要などをな(当審注:「どをな」は「どんな」の誤記と認められる。)遅延も提供するように構成されるが、平均値としては10ミリ秒が良いので、本図面はこの説明のため、特に第6A図について仮定される。上述した遅延は、従つて関連積分開始限界線の延長線によつて各微小信号波形を二分することを考慮する。積分器兼A/D変換器27Bの内部では積分が約18ミリ秒継続するように時間がきられ、これは関連微小信号波形を大体二分する積分終了限界線の延長線を考慮する。」(14頁右下欄下から5行目?15頁左上欄15行)

上記の記載事項(ア)?(カ)から、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「分光回転鏡(プレサンプル・チヨツパ)6が切欠き扇形片、反射扇形片および非反射扇形片を持つており、
光度検知器25および信号処理装置27がパルス発生器28および29と一緒に信号発生手段の一部を形成し、この信号発生手段が、プレサンプル・チヨツパ6によつて行われる分光の結果として光電信号を発生するものであり、
プレサンプル・チヨツパ6には孔6D1をあけた不透明な環6Dが固着され、孔6D1の内側の円上には6つの別な孔6D2?6D7があけられており、各孔の前縁が6分割サンプル・チヨツパがサイクル開始位置にある時扇形片の前縁の延長線上にあり、各孔がランプ28Aおよび光電管28Bと協働するので、6つの孔の各々の前縁がランプ28Aからの光束を横切ると、光電管28Bは現在使用中の孔と関連した扇形片の開始を知らせる鋭い電気パルスを発生し、ランプ28Aおよび光電管28Bが扇形片開始パルス発生器28と協働する検知手段を表わすものであり、
信号処理装置27の詳細は、光度検知器25によつて発生された微小信号は、増幅器27Aによつてまず増幅され、その後積分器兼アナログ/デイジタル(A/D)変換器27Bによつて積分されかつA/D変換されるものであり、
電子的計数用に必要なタイミング・パルスが、扇形片開始パルス発生器28からルート27Gを通してマイクロプロセツサ27Dへ供給され、ルート27Gから分れたルート27G1は扇形片開始パルスを、遅延ユニツト27Hを通して積分器兼A/D変換器27Bへ供給し、遅延ユニツト27Hからの各パルスが、関連扇形片開始パルスの発生時点から所定の時間遅れて微小信号の積分開始のタイミングをとるものであり、
6分割サンプル・チヨツパ6を駆動するための定速モータ30が、50Hzの交流電源30Aによつて運転される時毎分500回転する同期モータであり、
遅延ユニツト27Hが漏話を打消すために必要などんな遅延も提供するように構成されるが、平均値としては10ミリ秒が良いものであり、
積分器兼A/D変換器27Bの内部では積分が約18ミリ秒継続するように時間がきられている、2光束、比記録、赤外分光光度計。」(以下「引用発明」という。)

イ 本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-3165号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面の図示と共に、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

(ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ビートによるノイズを解消するために用いる同期誘導電動機では、上記の振動によるノイズを逃れることはできない。また、DCブラシレスモータは容易に回転数を変えることができるが、特許文献2においてはモータの回転数とノイズを取り除くノッチフィルタの周波数を調整することによりノイズを低減しようという提案であり、モータにより発生するノイズ自体を小さくすることはできない。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、振動などセクタミラーの回転数と因果関係のあるノイズを可能な限り改善することができる二光束分光光度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するため、本発明の分光光度計は、光源と被測定試料および参照試料との間の光路上に設けられた、ミラー、開口部、遮蔽部のいずれかが介在するように切り替える回転可能なセクタミラーと、該セクタミラーを回転させるモータと、被測定試料または参照試料からの光を検出する光検出器を備えた二光束分光光度計において、光検出器におけるノイズが最小になるようにモータの回転数を調整する調整手段を設けたものである。」

(イ)「【0016】
次に動作について説明する。光源31からの光はモノクロメータ32により単色化された後、セクタミラー41に達する。セクタミラー41は光路に対して45度の角度で、図2に示す開口部42、43およびミラー44、45が光路上に来るように配置され、モータ2により一定速度で回転される。モータ2には速度可変と長寿命が必要なので、DCブラシレスモータを用いており、マイクロプロセッサ22からの指令によりモータコントローラ3により速度を制御される。セクタミラー41が回転することにより、開口部42が光路上に来たとき、光源31からの光はセクタミラー41を通過し、試料側セルホルダ7に保持された試料を透過した後ハーフミラー10で一部は反射するものの、残りは直進して検出器13で検出される。」

(3)補正発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「切欠き扇形片、反射扇形片および非反射扇形片を持つ」「分光回転鏡(プレサンプル・チヨツパ)6」と、「プレサンプル・チヨツパ6によつて行われる分光の結果として光電信号を発生する」「光度検知器25」と、を備える「2光束、比記録、赤外分光光度計」は、補正発明の「少なくとも2つのセクタ部を有し、測定光を各セクタ部に対応する少なくとも2つのモードに振り分ける回転セクタ鏡と、各モードの光強度を測定して光強度信号を生成する光検出器と、を備える分光光度計」に相当する。

イ 引用発明の「各孔の前縁が6分割サンプル・チヨツパがサイクル開始位置にある時扇形片の前縁の延長線上にある」「孔6D2?6D7」と、「ランプ28A」と、「6つの孔の各々の前縁がランプ28Aからの光束を横切ると」「現在使用中の孔と関連した扇形片の開始を知らせる鋭い電気パルスを発生する」「光電管28B」は、補正発明の「前記モード毎に設定された前記回転セクタ鏡の回転位置を検出する回転位置検出部」に相当する。

ウ 引用発明では「遅延ユニツト27Hが漏話を打消すためにどんな遅延も提供するように構成されるが、平均値としては10ミリ秒が良い」のであるから、遅延時間を記憶する遅延時間記憶部を備えることは自明である。よって、引用発明と、補正発明の「前記モード毎の遅延時間を記憶する遅延時間記憶部」とは、「遅延時間を記憶する遅延時間記憶部」を備える点で共通する。

エ 引用発明では「積分器兼A/D変換器27Bの内部では積分が約18ミリ秒継続するように時間がきられ」ているのであるから、測定期間を記憶する測定期間記憶部を備えることは自明である。よって、引用発明と、補正発明の「前記モード毎の測定期間を記憶する測定期間記憶部」とは、「測定期間を記憶する測定期間記憶部」を備える点で共通する。

オ 上記イの検討を踏まえれば、引用発明の「電子的計数用に必要なタイミング・パルスが、扇形片開始パルス発生器28からルート27Gを通してマイクロプロセツサ27Dへ供給され、ルート27Gから分れたルート27G1は扇形片開始パルスを、遅延ユニツト27Hを通して積分器兼A/D変換器27Bへ供給し、遅延ユニツト27Hからの各パルスが、関連扇形片開始パルスの発生時点から所定の時間遅れて微小信号の積分開始のタイミングをとる」「信号処理装置27」と、補正発明の「前記回転位置検出部からの検出信号を受信した時点から、その検出信号に対応するモードの前記遅延時間だけ遅延した後に、該対応するモードの前記測定期間の間だけ前記検出器からの光強度信号を測定値として取得する測定制御部」とは、「前記回転位置検出部からの検出信号を受信した時点から、前記遅延時間だけ遅延した後に、前記測定期間の間だけ前記検出器からの光強度信号を測定値として取得する測定制御部」の点で共通する。

そうすると、両者は
「少なくとも2つのセクタ部を有し、測定光を各セクタ部に対応する少なくとも2つのモードに振り分ける回転セクタ鏡と、各モードの光強度を測定して光強度信号を生成する光検出器と、を備える分光光度計において、
前記モード毎に設定された前記回転セクタ鏡の回転位置を検出する回転位置検出部と、
遅延時間を記憶する遅延時間記憶部と、
測定期間を記憶する測定期間記憶部と、
前記回転位置検出部からの検出信号を受信した時点から、前記遅延時間だけ遅延した後に、前記測定期間の間だけ前記検出器からの光強度信号を測定値として取得する測定制御部と、
を備える分光光度計。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
補正発明では「前記回転セクタ鏡の駆動源にブラシレスDCモータを用い、測定する際の分析条件に応じて、前記ブラシレスDCモータの回転速度を制御する回転数制御部」を備えるものであるのに対し、引用発明ではそのようなものではない点。

(相違点2)
補正発明では「前記モード毎の遅延時間を設定する遅延時間設定部」と、「前記モード毎の測定期間を設定する測定期間設定部」と、を備えるのに対し、引用発明ではそのようなものか否か不明な点。

(相違点3)
遅延時間を記憶する遅延時間記憶部と、測定期間を記憶する測定期間設定部について、補正発明ではそれぞれ「前記モード毎」の遅延時間、測定期間を記憶する記憶部であり、また、測定制御部が前記回転位置検出部からの検出信号を受信した時点から、遅延時間だけ遅延した後に、測定期間の間だけ検出器からの光強度信号を測定値として取得するのは、補正発明ではその遅延時間、測定期間が「その検出信号に対応するモードの」ものであるのに対し、引用発明ではそのようなものか否か不明な点。

(4)相違点についての検討・判断
(相違点1について)
刊行物2には、「ミラー、開口部、遮蔽部のいずれかが介在するように切り替える回転可能なセクタミラーと、該セクタミラーを回転させるモータと、被測定試料または参照試料からの光を検出する光検出器を備えた二光束分光光度計において」、「振動などセクタミラーの回転数と因果関係のあるノイズを可能な限り改善する」ために、「光検出器におけるノイズが最小になるようにモータの回転数を調整する調整手段を設け」、「モータ2には速度可変と長寿命が必要なので、DCブラシレスモータを用い」るという技術事項が記載されている。ここで、ミラーの回転数と因果関係のあるノイズを可能な限り改善するために、モータの回転数を調整することは、測定する際の分析条件に応じたものということができる。
そして、引用発明においても、ノイズを可能な限り改善するために、定速モータ30に代えて、刊行物2に記載された上記技術事項を適用して、相違点1に係る補正発明の構成に想到することは当業者が容易になし得たというべきである。

(相違点2及び3について)
引用発明では、「遅延ユニツト27Hが漏話を打消すために必要などんな遅延も提供するように構成されるが、平均値としては10ミリ秒が良いものであり、積分器兼A/D変換器27Bの内部では積分が約18ミリ秒継続するように時間がきられている」ものであるが、上記(相違点1について)で検討したように、刊行物2に記載された上記技術事項を引用発明に適用した場合、モータの回転数に応じて適切な遅延時間及び積分時間を選択すべきことは明らかなことであるから、そのために遅延時間及び積分時間を設定する設定部を設けて相違点2に係る補正発明の構成に想到することは当業者が容易になし得たというべきである。
そして、刊行物1の8頁左上欄下から3行目?同頁右上欄1行に「同一組の微小部分は等しい時間々隔で発生されることが予期されるけれども、一方の組の微小部分と他方の組の微小部分との間で異なる発生時間を使用してもよい。」と記載されているように、それぞれの関連扇形片における遅延時間及び積算時間を、一律のものとして扱うか、あるいは、それぞれの関連扇形片における遅延時間及び積算時間として扱うかは、設計の便宜や必要な精度等を考慮して当業者が適宜選択し得る設計的事項であり、後者のように構成して、相違点2及び3にかかる補正発明の構成に想到することは当業者が容易になし得たというべきである。

そして、補正発明の効果も、当業者であれば引用発明、刊行物1の記載事項及び刊行物2に記載された技術事項から予測し得る範囲内のものであり、格別顕著なものとはいえない。

(5)小括
以上のとおり、補正発明は、引用発明、刊行物1の記載事項及び刊行物2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明に対する判断
1 本願発明の認定
平成27年5月22日付けの手続補正は、上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1に係る発明は、平成26年10月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであると認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「少なくとも2つのセクタ部を有し、測定光を各セクタ部に対応する少なくとも2つのモードに振り分ける回転セクタ鏡と、各モードの光強度を測定して光強度信号を生成する光検出器と、を備える分光光度計において、
前記モード毎に設定された前記回転セクタ鏡の回転位置を検出する回転位置検出部と、
前記モード毎の遅延時間を設定する遅延時間設定部と、
前記モード毎の遅延時間を記憶する遅延時間記憶部と、
前記モード毎の測定期間を設定する測定期間設定部と、
前記モード毎の測定期間を記憶する測定期間記憶部と、
前記回転位置検出部からの検出信号を受信した時点から、その検出信号に対応するモードの前記遅延時間だけ遅延した後に、該対応するモードの前記測定期間の間だけ前記光検出器からの光強度信号を測定値として取得する測定制御部と、
を備えることを特徴とする分光光度計。」

2 刊行物
原査定の拒絶理由で引用された刊行物1及び刊行物2、並びに、その記載事項は、前記「第2」の「3」の「(2)」に記載したとおりである。

3 判断
本願発明は、補正発明における「分光光度計」について、「前記回転セクタ鏡の駆動源にブラシレスDCモータを用い、測定する際の分析条件に応じて、前記ブラシレスDCモータの回転速度を制御する回転数制御部」「を備える」という構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する補正発明が、前記「第2」の「3」の「(3)補正発明と引用発明との対比」に記載したとおり、引用発明、刊行物1の記載事項及び刊行物2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明、刊行物1の記載事項及び刊行物2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物1の記載事項及び刊行物2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-01 
結審通知日 2016-06-07 
審決日 2016-06-20 
出願番号 特願2011-143206(P2011-143206)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横尾 雅一  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 信田 昌男
藤田 年彦
発明の名称 分光光度計  
代理人 喜多 俊文  
代理人 江口 裕之  

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