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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 特39条先願  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
管理番号 1327843
異議申立番号 異議2016-700266  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-31 
確定日 2017-03-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5799917号発明「熱間圧延棒鋼または線材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5799917号の明細書、及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第5799917号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯

特許第5799917号(請求項の数3)に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2012-189394号)は、平成24年 8月30日の出願であって、平成27年 9月 4日にその特許権の設定の登録がなされ、その後、本件特許に対し、平成28年 3月31日に特許異議申立人 井上 潤 より特許異議の申立てがなされ、同年 8月24日付けで当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月27日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。

第2.訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア?ウのとおりである。

ア 訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「AlNとして析出しているAlの量が0.030%以下」とあるのを、「AlNとして析出しているAlの量が0.011?0.030%」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、並びに請求項1及び請求項2の記載を引用する請求項3についても同様に訂正する。)。

イ 訂正事項2

上記訂正事項1に係る訂正に伴い、明細書の表3、表5および表6において関連する記載を訂正する。

ウ 訂正事項3

明細書の表3の鋼Aの製造条件番号<3>および<4>、ならびに、表5の鋼Eの製造条件番号<3>を削除により、訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(a)訂正事項1について

訂正事項1は、訂正前の請求項1において、AlNとして析出しているAlの量について「0.030%以下」と特定されていたのを、「0.011?0.030%」に減縮するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書の【表5】における、鋼Hの製造条件番号<1>の「Al as AlN(%)」、及び、【表6】における、鋼Jの製造条件番号<1>の「Al as AlN(%)」が、それぞれ「0.011」であるという記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

さらに、訂正事項1による訂正は、「熱間圧延棒鋼または線材」の「AlNとして析出しているAlの量」の範囲を限定するものであるから、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(b)訂正事項2について

訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正によって生じる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。

(c)訂正事項3について

訂正事項3は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載の不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。

(d)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?3は訂正前の請求項1を引用するものであり、本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。

3 小括

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1?3〕について、訂正することを認める。

第3.特許異議申立について

1 本件特許発明

上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められたので、本件特許第5799917号の請求項1?3に係る発明(以下「本件特許発明1?3」という。)は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
質量%で、
C:0.1?0.3%、
Si:0.05?1.5%、
Mn:0.4?2.0%、
S:0.003?0.05%、
Cr:0.5?3.0%、
sol.Al:0.020?0.060%および
N:0.010?0.025%を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のP、TiおよびOがそれぞれ、
P:0.025%以下、
Ti:0.003%以下、
O(酸素):0.002%以下、
の化学組成を有し、
AlNとして析出しているAlの量が0.011?0.030%であり、
横断面内において、前記断面の中心位置を基準に、中心角45°置きに表面からの深さ1mm位置までの8領域を線分析したときに、下記の式[1]で表されるDIの最小値が2.0以上、かつ、最大値が5.0以下であることを特徴とする、
熱間圧延棒鋼または線材。
DI=0.311×C^(0.5)×(1+0.64×Si)×(1+4.10×Mn)×(1+2.83×P)×(1+2.33×Cr)×(1+0.27×Cu)×(1+0.52×Ni)×(1+3.14×Mo)…[1]
ただし、式[1]中の元素記号は、その元素の含有量(質量%)を表す。

【請求項2】
Feの一部に代えて、質量%で、
Cu:0.4%以下、
Ni:1.5%以下および
Mo:0.8%以下
のうちから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の熱間圧延棒鋼または線材。

【請求項3】
Feの一部に代えて、質量%で、
Nb:0.08%以下および
V:0.2%以下
のうちから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の熱間圧延棒鋼または線材。

2 申立理由の概要

特許異議申立人は、証拠として甲第1号証?甲第8号証を提出し、以下の申立理由1?7により、請求項1?3に係る特許を取り消すべきである旨主張している。

申立理由1
本件特許発明3は、先願に係る発明と同一であるから、その特許は特許法第39条第1項の規定に違反して特許されたものである。
(特許異議申立書第5頁「イ 特許法第39条第1項違反について」を参照。)

申立理由2
本件特許発明1?3は、甲第2号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるか、甲第2号証に記載の発明、及び技術常識に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
(特許異議申立書第10頁「ウ 特許法第29条第1項又は2項違反について(その1)」を参照。)

申立理由3
本件特許発明3は、甲第6号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるか、甲第6号証に記載の発明、及び技術常識に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
(特許異議申立書第15頁「エ 特許法第29条第1項又は2項違反について(その2)」を参照。)

申立理由4
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を充足しない。
(特許異議申立書第16頁「(ア)特許法第36条4項1号(実施可能要件)違反(その1)」を参照。)

申立理由5
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を充足しない。
(特許異議申立書第17頁「(イ)特許法第36条6項1号(サポート要件)違反」を参照。)

申立理由6
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を充足しない。
(特許異議申立書第18頁「(ウ)特許法第36条1項2号(明確性要件)違反」(当審註:「特許法第36条1項2号」は「特許法第36条第6項第2号」の意か。)を参照。)

申立理由7
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を充足しない。
(特許異議申立書第18頁「(エ)特許法第36条4項1号(実施可能要件)違反(その2)」を参照。)

[証拠方法]

甲第1号証:特許第5397247号公報
甲第2号証:特開2011-225897号公報
甲第3号証:2004.7NIPPON STEEL MONTHLY
P.5?8
「鋼を生み出す その3 連続鋳造の役割と挑戦」、
2004年発行
甲第4号証:新日鉄技報第394号「連続鋳造技術の進展と今後の展望」、
2012年発行
甲第5号証:神戸製鋼技報/Vol.61 No.1(Apr.2011)
「ブルーム連続鋳造機3基における高品質鋼の効率的生産体制
の確立」、2011年発行
甲第6号証:特開2011-157597号公報
甲第7号証:特開2000-63992号公報
甲第8号証:特許第5250609号公報

3 取消理由の概要

本件訂正前の請求項1?3に係る発明に対して、平成28年 8月24日付けで当審より通知した取消理由の概要は、上記申立理由2、3、7に基づく、次のとおりのものである。

取消理由1(申立理由2に基づく取消理由)
本件特許発明1?3は甲第2号証に記載された発明と同一と認められ、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないし、仮に相違するところがあるとしても、本件特許発明1?3は、甲第2号証に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

取消理由2(申立理由3に基づく取消理由)
本件特許発明3は甲第6号証に記載された発明と同一と認められ、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないし、仮に相違するところがあるとしても、本件特許発明3は、甲第6号証に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

取消理由3(申立理由7に基づく取消理由)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?3のそれぞれを実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとは解されず、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しない。

4 刊行物に記載された事項

(1)甲第2号証の記載

甲第2号証には、次の記載がある(下線部は当審にて付与した。以下同様。)。

(1a)
「【請求項1】
熱間圧延棒鋼または線材であって、
質量%で、
C:0.1?0.3%、
Si:0.05?1.0%、
Mn:0.4?2.0%、
S:0.003?0.05%、
Cr:0.5?3.0%、
N:0.010?0.025%および
Al:0.02?0.05%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
不純物中のP、TiおよびO(酸素)がそれぞれ、
P:0.025%以下、
Ti:0.003%以下および
O(酸素):0.002%以下
である化学組成を有し、
フェライト・ベイナイト組織またはフェライト・ベイナイト・パーライト組織からなり、ベイナイトの組織分率が70%を超え、フェライトの平均粒径が40μm以下の、金属組織を有し、
棒鋼または線材の表面から半径の1/5までの領域および中心部から半径の1/5までの領域において、AlNとして析出しているAl量が0.005%以下、かつ、直径100nm以上のAlNの個数密度が5個/100μm^(2)以下である、ことを特徴とする熱間圧延棒鋼または線材。
【請求項2】
Feの一部に代えて、質量%で、
Cu:0.3%以下、
Ni:1.0%以下、
Mo:0.8%以下
のうちから選ばれる1種以上を含有する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の熱間圧延棒鋼または線材。
【請求項3】
Feの一部に代えて、質量%で、
Nb:0.08%以下、
V:0.2%以下
のうちから選ばれる1種以上を含有する、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の熱間圧延棒鋼または線材。」(【特許請求の範囲】)

(1b)
「本発明は、熱間圧延棒鋼または線材に関し、詳しくは、引抜き、球状化焼鈍後の冷間鍛造性に優れ、かつ、浸炭または浸炭窒化時のオーステナイト粒粗大化防止特性に優れた熱間圧延棒鋼または線材に関する。」(【0001】)

(1c)
「【0065】
(C)表面から半径の1/5までの領域および中心部から半径の1/5までの領域において、AlNとして析出しているAl量および直径100nm以上のAlNの個数密度
鋳片および鋼片は大断面であるため、中心部まで所定の温度になるのに長時間を要する。したがって、鋳片および鋼片を加熱した際、表層部に較べて、中心部は温度が低かったり、所定の温度に保持される時間が短いことが一般的である。そのため、熱間加工した状態である熱間圧延棒鋼または線材の段階では、表層部と中心部とでAlNの析出量および分散状態が異なることとなり、冷間鍛造後の浸炭加熱時のオーステナイト粒の粗大化にも差異が生じる。
【0066】
しかしながら、熱間圧延棒鋼または線材の表面から半径の1/5までの領域および中心部から半径の1/5までの領域において、AlNとして析出しているAl量が0.005%以下であり、かつ、直径100nm以上のAlNの個数密度が5個/100μm^(2)以下であれば、表層部から中心部の全域において、冷間鍛造後の浸炭加熱時のオーステナイト粒粗大化を抑制することができる。
【0067】
したがって、本発明においては、棒鋼または線材の表面から半径の1/5までの領域および中心部から半径の1/5までの領域において、AlNとして析出しているAl量が0.005%以下、かつ、直径100nm以上のAlNの個数密度が5個/100μm^(2)以下であることと規定した。
【0068】
上記2つの領域において、AlNとして析出しているAlの量は0.004%以下であることが好ましい。」(【0065】?【0068】)

(1d)
「【実施例】
【0078】
(実施例1)
表1に示す化学組成を有する鋼αおよび鋼βを70トン転炉で成分調整した後、連続鋳造を行って、400mm×300mm角の鋳片(ブルーム)を作製し、600℃まで冷却した。なお、連続鋳造の凝固途中の段階で圧下を加えた。上記の鋼αおよび鋼βはいずれも、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。
【0079】
このようにして作製した鋳片を、上記の600℃から1280℃に加熱した後、分塊圧延して180mm×180mm角の鋼片を作製し、室温まで冷却した。さらに、上記180mm×180mm角の鋼片を加熱した後、熱間圧延を行って直径30mmの棒鋼を得た。
【0080】
表2に、製造条件<1>?<7>として、400mm×300mmの鋳片から直径30mmの棒鋼に仕上げるに際しての、鋳片の加熱条件、分塊圧延後の冷却条件、鋼片の加熱条件、棒鋼圧延の圧延仕上げ温度と圧延後の冷却条件の詳細を示す。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】



(1e)
「【0094】
表3に、上記の各調査結果を、棒鋼の製造条件とともにまとめて示す。なお、表3における製造条件は、前記表2に記載した製造条件に対応するものである。
【0095】
【表3】



(1f)
「【0098】
(実施例2)
表4に示す化学組成を有する鋼a?iを70トン転炉で成分調整した後、連続鋳造を行って、400mm×300mm角の鋳片(ブルーム)を作製し、600℃まで冷却した。なお、連続鋳造の凝固途中の段階で圧下を加えた。
【0099】
上記の鋼のうち、鋼a?gは化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。一方、鋼hおよび鋼iは化学組成が本発明で規定する範囲から外れた比較例の鋼である。
【0100】
このようにして作製した鋳片を、上記の600℃から1280℃に加熱した後、分塊圧延して180mm×180mm角の鋼片を作製し、室温まで冷却した。さらに、上記180mm×180mm角の鋼片を加熱した後、熱間圧延を行って直径30mmの棒鋼を得た。
【0101】
400mm×300mmの鋳片から直径30mmの棒鋼に仕上げるための製造条件は、各鋼について、前記表2に記載の製造条件<1>および製造条件<2>?<7>のうちのいずれかの1つの計2条件とした。
【0102】
表5に、各鋼を400mm×300mmの鋳片から直径30mmの棒鋼に仕上げた製造条件を、表2に記載の製造条件を用いて示す。
【0103】
【表4】

【0104】
【表5】

【0105】
上記のようにして得た直径30mmの各棒鋼について、前記の(実施例1)におけるのと同じ方法で、AlNとして析出しているAl量および直径が100nm以上のAlNの個数密度、ならびに、金属組織における「相」、ベイナイトの組織分率およびフェライトの平均粒径を調査した。
【0106】
本実施例においても、冷間鍛造性およびオーステナイト粒粗大化防止効果に関して、前記の(実施例1)に示したのと同じ目標を設定した。
【0107】
表5に、上記の各調査結果を、棒鋼の製造条件とともにまとめて示した。」

(2)甲第6号証の記載
甲第6号証には、次の記載がある。

(2a)
「【請求項1】
熱間圧延棒鋼または線材であって、
質量%で、
C:0.1?0.3%、
Si:0.05?1.0%、
Mn:0.4?2.0%、
S:0.005?0.05%、
Cr:0.5?2.0%、
Al:0.01?0.06%、
N:0.005?0.025%および
Nb:0.02?0.08%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
不純物中のP、TiおよびO(酸素)がそれぞれ、
P:0.025%以下、
Ti:0.003%以下および
O(酸素):0.002%以下
である化学組成を有し、
棒鋼または線材の表面から半径の1/5までの領域および中心部から半径の1/5までの領域において、AlNおよびAlN-Nb(CN)として析出しているAl量が0.010%以下、Nb(CN)およびAlN-Nb(CN)として析出しているNb量が0.020%以下であり、かつ、直径100nm以上の、AlN、Nb(CN)およびAlN-Nb(CN)の合計の個数密度が50個/100μm^(2)以下であり、
フェライト・ベイナイト組織の面積率が80%以上、ベイナイトの面積率が30?70%およびフェライト平均粒径が15?40μmの、金属組織を有する、ことを特徴とする熱間圧延棒鋼または線材。
【請求項2】
Feの一部に代えて、質量%で、
Cu:0.5%以下、
Ni:1.5%以下および
Mo:0.8%以下
のうちから選ばれる1種以上を含有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の熱間圧延棒鋼または線材。
【請求項3】
Feの一部に代えて、質量%で、
Pb:0.3%以下、
Te:0.08%以下、
Ca:0.01%以下および
Bi:0.3%以下
のうちから選ばれる1種以上を含有する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の熱間圧延棒鋼または線材。」(【特許請求の範囲】)

(2b)
「【0001】
本発明は、熱間圧延棒鋼または線材に関し、詳しくは、球状化焼鈍後の冷間鍛造性に優れ、かつ、浸炭あるいは浸炭窒化時のオーステナイト粒粗大化防止特性に優れた熱間圧延棒鋼または線材に関する。」

(2c)
「【0079】
(C)表面から半径の1/5までの領域および中心部から半径の1/5までの領域において、それぞれ、AlN、Nb(CN)およびAlN-Nb(CN)として析出しているAl量およびNb量、ならびに、直径100nm以上の、AlN、Nb(CN)およびAlN-Nb(CN)の合計の個数密度
鋳片および鋼片は大断面であるため、中心部まで所定の温度になるのに長時間を要する。したがって、鋳片および鋼片を加熱した際、表層部に較べて、中心部は温度が低かったり、所定の温度に保持される時間が短いことが一般的である。そのため、熱間加工した状態である熱間圧延棒鋼または線材の段階では、表層部と中心部とでAlN、Nb(CN)およびAlN-Nb(CN)の析出量、ならびにAlN、Nb(CN)およびAlN-Nb(CN)の分散状態が異なることとなって、冷間鍛造後の浸炭加熱時のオーステナイト粒の粗大化にも差異が生じる。
【0080】
しかしながら、熱間圧延棒鋼または線材の表面から半径の1/5までの領域および中心部から半径の1/5までの領域において、AlNおよびAlN-Nb(CN)として析出しているAl量が0.010%以下、Nb(CN)およびAlN-Nb(CN)として析出しているNb量が0.020%以下であり、かつ、直径100nm以上の、AlN、Nb(CN)およびAlN-Nb(CN)の合計の個数密度が50個/100μm^(2)以下であれば、表層部から中心部の全域において、冷間鍛造後の浸炭加熱時のオーステナイト粒粗大化を抑制することができる。
【0081】
したがって、本発明においては、棒鋼または線材の表面から半径の1/5までの領域および中心部から半径の1/5までの領域において、AlNおよびAlN-Nb(CN)として析出しているAl量が0.010%以下、Nb(CN)およびAlN-Nb(CN)として析出しているNb量が0.020%以下であり、かつ、直径100nm以上の、AlN、Nb(CN)およびAlN-Nb(CN)の合計の個数密度が50個/100μm^(2)以下であることと規定した。」(【0079】?【0081】)

(2d)
「【実施例】
【0091】
(実施例1)
表1に示す化学組成を有する鋼αおよび鋼βを70トン転炉で成分調整した後、連続鋳造を行って、400mm×300mm角の鋳片(ブルーム)を作製し、600℃まで冷却した。なお、連続鋳造の凝固途中の段階で圧下を加えた。上記の鋼αおよび鋼βはいずれも、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。
【0092】
このようにして作製した鋳片を、上記の600℃から1280℃に加熱した後、分塊圧延して180mm×180mm角の鋼片を作製し、室温まで放冷した。さらに、上記180mm×180mm角の鋼片を加熱した後、熱間棒鋼圧延を行って直径36mmの棒鋼を得た。
【0093】
表2に、製造条件<1>?<8>として、400mm×300mmの鋳片から直径36mmの棒鋼に仕上げるに際しての、鋳片の加熱条件、分塊圧延後の冷却条件、鋼片の加熱条件、棒鋼圧延の圧延仕上げ温度と圧延後の冷却条件の詳細を示す。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】



(2e)
「【0108】
表3に、上記の各調査結果を、棒鋼の製造条件とともにまとめて示す。なお、表3における製造条件記号は、前記表2に記載した条件記号に対応するものである。
【0109】
【表3】



(2f)
「【0111】
(実施例2)
表4に示す化学組成を有する鋼a?mを70トン転炉で成分調整した後、連続鋳造を行って、400mm×300mm角の鋳片(ブルーム)を作製し、600℃まで冷却した。なお、連続鋳造の凝固途中の段階で圧下を加えた。
【0112】
上記の鋼のうち、鋼a?iは化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。一方、鋼j?mは化学組成が本発明で規定する範囲から外れた比較例の鋼である。
【0113】
このようにして作製した鋳片を、上記の600℃から1280℃に加熱した後、分塊圧延して180mm×180mm角の鋼片を作製し、室温まで放冷した。さらに、上記180mm×180mm角の鋼片を加熱した後、熱間棒鋼圧延を行って直径36mmの棒鋼を得た。
【0114】
400mm×300mmの鋳片から直径36mmの棒鋼に仕上げるための製造条件は、各鋼について、前記表2に記載の製造条件記号<1>および製造条件記号<2>?<8>のうちのいずれかの1つの計2条件とした。
【0115】
表5に、各鋼を400mm×300mmの鋳片から直径36mmの棒鋼に仕上げた製造条件を、表2に記載の製造条件記号を用いて示す。
【0116】
【表4】

【0117】
【表5】

上記のようにして得た直径36mmの各棒鋼について、前記の(実施例1)におけるのと同じ方法で各種の調査を実施した。」

5 判断
(1)取消理由1について
(ア)
記載事項(1a)?(1e)の内容(特に、記載事項(1d)の【表1】においては鋼α、記載事項(1e)の【表3】においては試験番号1を、それぞれ参照されたい。)を本件特許発明1の記載ぶりに則して整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる(なお、鋼αのS量「00.10」質量%という記載は、「0.010」質量%の誤記と認められる(例えば【請求項1】の「S:0.003?0.05%」を参照。))。

「質量%で、C:0.19%、Si:0.20%、Mn:0.79%、S:0.010%、Cr:1.15%、Al:0.031%およびN:0.0165%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のP、TiおよびOがそれぞれ、P:0.015%、Ti:0.001%、O(酸素):0.0010%、の化学組成を有する、熱間圧延棒鋼。」

(イ)
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。

甲2発明の「C:0.19%」は本件特許発明1の「C:0.1?0.3%」に含まれ、甲2発明の「Si:0.20%」は本件特許発明1の「Si:0.05?1.5%」に含まれ、甲2発明の「Mn:0.79%」は本件特許発明1の「Mn:0.4?2.0%」に含まれ、甲2発明の「S:0.010%」は本件特許発明1の「S:0.003?0.05%」に含まれ、甲2発明の「Cr:1.15%」は本件特許発明1の「Cr:0.5?3.0%」に含まれ、甲2発明の「N:0.0165%」は本件特許発明1の「N:0.010?0.025%」に含まれ、甲2発明の「P:0.015%」は本件特許発明1の「P:0.025%以下」に含まれ、甲2発明の「Ti:0.001%」は本件特許発明1の「Ti:0.003%以下」に含まれ、甲2発明の「O(酸素):0.0010%」は本件特許発明1の「O(酸素):0.002%以下」に含まれる。

してみると、両者は、
「質量%で、C:0.19%、Si:0.20%、Mn:0.79%、S:0.010%、Cr:1.15%、およびN:0.0165%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のP、TiおよびOがそれぞれ、P:0.015%、Ti:0.001%、O(酸素):0.0010%、の化学組成を有する、熱間圧延棒鋼。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:
本件特許発明1においては、棒鋼に含有される「AlNとして析出しているAlの量が0.011?0.030%」であるのに対して、甲2発明においては、質量%で、表面部の「Al as AlN」が0.001%、中心部の「Al as AlN」が0.002%である点。

相違点2:
本件特許発明1においては、棒鋼に含有されるAlの量が「sol.Al:0.020?0.060%」であるのに対して、甲2発明においては、質量%で、棒鋼が「Al:0.031%」を含有し、且つ表面部の「Al as AlN」が0.001%、中心部の「Al as AlN」が0.002%である点。

相違点3:
本件特許発明1においては、棒鋼の「横断面内において、前記断面の中心位置を基準に、中心角45°置きに表面からの深さ1mm位置までの8領域を線分析したとき」に「式[1]で表されるDIの最小値が2.0以上、かつ、最大値が5.0以下である」のに対して、甲2発明においては、かかる発明特定事項を有していない点。

そこで、上記相違点について検討する。

(ウ)相違点1について
甲2発明においては、表面部のAl as AlNが0.001%、中心部のAl as AlNが0.002%であることからみて、「AlNとして析出しているAlの量」は、測定箇所に依らず、多くとも0.002%であると解されるから、甲2発明は、本件特許発明1の「AlNとして析出しているAlの量が0.011?0.030%」と相違する。

よって、本件特許発明1は、相違点2?3を検討するまでもなく、甲2号証に記載された発明とはいえない。

(エ)
そして、本件特許発明1が、甲2発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるか否かについて検討すると、前記(1c)に照らし、甲2発明においては、冷間鍛造後の浸炭加熱時のオーステナイト粒粗大化を抑制する観点から「AlNとして析出しているAlの量が0.005%以下」とするものであるから、甲2発明の「AlNとして析出しているAlの量」を「0.011?0.030%」とすることは、決して動機付けられるものではない、ということができる。

したがって、相違点1に係る構成は、甲2発明、及び技術常識に基づき当業者が容易になし得るものではない。

(オ)
よって、相違点2?3を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲2発明、及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(カ)本件特許発明2?3についての検討
そして、本件特許発明2?3は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項として含むものであるから、上記(3)の(ア)?(オ)で述べたものと同じ理由により、これら発明は、甲第2号証に記載された発明ではないし、甲2発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)取消理由2について
(ア)
記載事項(2a)?(2f)の内容(特に、記載事項(2d)の【表1】においては鋼α、記載事項(2e)の【表3】においては試験番号1を、それぞれ参照されたい。)を本件特許発明3の記載ぶりに則して整理すると、甲第6号証には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。

「質量%で、C:0.21%、Si:0.08%、Mn:0.81%、S:0.008%、Cr:1.02%、Al:0.032%、N:0.018%、Mo:0.16%、Nb:0.037%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のP、TiおよびOがそれぞれ、P:0.009%、Ti:0.001%、O(酸素):0.0008%、の化学組成を有し、表面部のAlNとして析出しているAlが0.006%、中心部のAlNとして析出しているAlが0.007%である、熱間圧延棒鋼。」

(イ)
本件特許発明3と甲6発明とを対比する。

甲6発明の「C:0.21%」は本件特許発明3の「C:0.1?0.3%」に含まれ、甲6発明の「Si:0.08%」は本件特許発明3の「Si:0.05?1.5%」に含まれ、甲6発明の「Mn:0.81%」は本件特許発明3の「Mn:0.4?2.0%」に含まれ、甲6発明の「S:0.008%」は本件特許発明3の「S:0.003?0.05%」に含まれ、甲6発明の「Cr:1.02%」は本件特許発明3の「Cr:0.5?3.0%」に含まれ、甲6発明の「Mo:0.16%」は本件特許発明3の「Cu:0.4%以下、Ni:1.5%以下およびMo:0.8%以下のうちから選ばれる1種以上」に含まれ、甲6発明の「Nb:0.037%」は本件特許発明3の「Nb:0.08%以下およびV:0.21.5%以下およびMo:0.8%以下のうちから選ばれる1種以上」に含まれ、甲6発明の「N:0.018%」は本件特許発明3の「N:0.010?0.025%」に含まれ、甲6発明の「P:0.009%」は本件特許発明3の「P:0.025%以下」に含まれ、甲6発明の「Ti:0.001%」は本件特許発明3の「Ti:0.003%以下」に含まれ、甲6発明の「O(酸素):0.0008%」は本件特許発明3の「O(酸素):0.002%以下」に含まれる。

してみると、両者は、
「質量%で、C:0.21%、Si:0.08%、Mn:0.81%、S:0.008%、Cr:1.02%、N:0.018%、Mo:0.16%、Nb:0.037%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のP、TiおよびOがそれぞれ、P:0.009%、Ti:0.001%、O(酸素):0.0008%、の化学組成を有し、AlNとして析出しているAlの量が多くとも0.007%である、熱間圧延棒鋼。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点4:
本件特許発明3においては、棒鋼に含有される「AlNとして析出しているAlの量が0.011?0.030%」であるのに対して、甲6発明においては、質量%で、表面部の「AlNとして析出しているAl」が0.006%、中心部の「AlNとして析出しているAl」が0.007%である点。

相違点5:
本件特許発明3においては、棒鋼に含有されるAlの量が「sol.Al:0.020?0.060%」であるのに対して、甲6発明においては、棒鋼が、質量%で「Al:0.032%」を含有し、且つ表面部の「AlNとして析出しているAl」が0.006%、中心部の「AlNとして析出しているAl」が0.007%である点。

相違点6:
本件特許発明3においては、棒鋼の「横断面内において、前記断面の中心位置を基準に、中心角45°置きに表面からの深さ1mm位置までの8領域を線分析したとき」に「式[1]で表されるDIの最小値が2.0以上、かつ、最大値が5.0以下である」のに対して、甲6発明においては、かかる発明特定事項を有していない点。

そこで、上記相違点について検討する。

(ウ)相違点4について
甲6発明において、表面部のAlNとして析出しているAlが0.006%、中心部のAlNとして析出しているAlが0.007%であることからみて、「AlNとして析出しているAlの量」は、測定箇所に依らず、多くとも0.007%であると解されるから、甲6発明は、本件特許発明3の「AlNとして析出しているAlの量が0.011?0.030%」と相違する。

(エ)
そして、本件特許発明3が、甲6発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるか否かについて検討すると、前記(2c)に照らし、甲6発明においては、冷間鍛造後の浸炭加熱時のオーステナイト粒粗大化を抑制する観点から「AlNおよびAlN-Nb(CN)として析出しているAl量が0.010%以下」とするものであるから、甲6発明の「AlNとして析出しているAlの量」を「0.011?0.030%」とすることは、決して動機付けられるものではない、ということができる。

したがって、相違点4に係る構成は、甲6発明、及び技術常識に基づき当業者が容易になし得るものではない。

(オ)
よって、相違点5?6を検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲6発明、及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)取消理由3について
訂正により、本件特許明細書の【表3】における、鋼「A」を製造条件番号<3>の条件に適用して得られた鋼についての記載、及び、同じく鋼「A」を製造条件番号<4>の条件に適用して得られた鋼についての記載が削除され、発明の詳細な説明の記載における不整合は解消した。

よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?3のそれぞれを実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号の規定に適合する。

なお、特許異議申立人は、平成28年12月28日付け提出の意見書(以下、「意見書」という。)において、以下のとおり主張する。

「…鋼C、鋼D、鋼I、鋼Mは、本件特許発明の化学組成を有するのであるから、これら鋼が『AlNとして析出しているAlの量と、DI値とをいずれも本件特許発明の範囲内に収めることができる』製造条件を発明の詳細な説明の欄に提示しない限り、訂正後の本件特許発明を容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは到底言えない。」(意見書第4頁第8?12行)

しかし、本件特許発明1は、請求項1に特定される「化学組成」を有する「熱間圧延棒鋼または線材」のうち、さらに「AlNとして析出しているAlの量」の規定、及び「DI値」の規定を共に満足する「熱間圧延棒鋼または線材」に係るものであって、請求項1に特定される「化学組成」を有する「熱間圧延棒鋼または線材」全てを包含するものではないから、特許異議申立人の上記主張のような製造条件が明示されていなくとも、実施できないということにはならない。
また、本件特許発明2?3についても、同様である。

したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

(1)申立理由1について
本件特許発明1?3においては、「横断面内において、前記断面の中心位置を基準に、中心角45°置きに表面からの深さ1mm位置までの8領域を線分析したとき」に、「DIの最小値が2.0以上、かつ、最大値が5.0以下であること」を発明特定事項としているのに対し、甲第1号証の特許請求の範囲においては、「熱間圧延棒鋼または線材」を、その横断面に上記「線分析」を行って得た「DI」により特定することが記載されていないし、記載されているに等しいともいえない。

したがって、本件特許発明1?3は、甲第1号証の特許請求の範囲に記載された発明と同一の発明ではない。

(2)申立理由4について
特許異議申立人は、「請求項1の鋼種の化学組成から計算されるDI値」が「0.586?182.018」であること、発明の詳細な説明において実施例として開示された鋼種の合金組成から算出したDI値が「2.257?3.730」であることを前提として、
「…鋼種自体のDI値が2.257?3.730以外のDI値を有する本件特許発明の化学成分を有する鋼種から、本件特許発明にかかる棒鋼又は線材を製造しようとしたとしても、本件特許明細書の記載に基づいて当業者が実施することができる棒鋼又は線材の範囲が、本件特許発明の広い範囲のDI値を有する鋼種にかかわらず、極めて狭い範囲の棒鋼又は線材に限定されてしまうことは明白である。」
と主張し、
「よって、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号で規定する実施可能要件を充足していない。」
と結論付けている。

しかし、本件特許発明1に係る「熱間圧延棒鋼または線材」は「DIの最小値が2.0以上、かつ、最大値が5.0以下」であるものに特定されており、それ以外のDI値を有する「熱間圧延棒鋼または線材」は 本件特許発明1に係る「熱間圧延棒鋼または線材」に該当しないから、特許異議申立人の上記主張は、前提において誤っている。
また、本件特許発明2?3においても、同様である。

したがって、特許異議申立人の上記主張、及び結論は採用できず、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を充足しないとはいえない。

(3)申立理由5について

特許異議申立人は、「実施可能要件違反の主張と重複するが、本件特許発明の鋼種自体のDI値が0.586?182.018と広範囲に亘る」ことを根拠に、発明の詳細な説明において実施例として開示された鋼種の合金組成から算出したDI値が「2.257?3.730」であることを前提として「特許法第36条1項1号で規定するサポート要件を充足していない。」と結論付けている(当審註:「特許法第36条1項1号」という記載は、「特許法第36条6項1号」とすべきところを誤って記載したものと認める。)。

しかし、本件特許発明1は、請求項1に記載された組成範囲の化学組成を有する「熱間圧延棒鋼または線材」のうち、さらに「横断面内において、前記断面の中心位置を基準に、中心角45°置きに表面からの深さ1mm位置までの8領域を線分析したとき」に、「DIの最小値が2.0以上、かつ、最大値が5.0以下」である「熱間圧延棒鋼または線材」に係るものであり、それ以外のDI値を有する「熱間圧延棒鋼または線材」は 本件特許発明1に係る「熱間圧延棒鋼または線材」に該当しないから、特許異議申立人の上記主張は、前提において誤っている。
また、本件特許発明2?3においても、同様である。

したがって、特許異議申立人の上記主張、及び結論は採用できず、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を充足しないとはいえない。

(4)申立理由6について
特許異議申立人は、「本件特許発明の化学組成を有する棒鋼、言い換えると鋼種自体のDI値が0.586?182.018である本件特許発明に係る棒鋼のうち、DI値のばらつきを2.0?5.0の範囲にすることができる棒鋼は鋼自体がどのようなDI値を有する棒鋼か不明であり、明細書及び図面を斟酌しても明細書の実施例に記載された化学組成の棒鋼以外は特定することができない。」と主張し、
「よって、この特許発明の技術的範囲は明確でなく、特許法第36条項2号で規定する明確性要件を充足していない。」
と結論付けている(当審註:「特許法第36条項2号」という記載は、「特許法第36条6項2号」とすべきところを誤って記載したものと認める。)。

しかし、本件特許発明1は、請求項1に記載された組成範囲の化学組成を有する「熱間圧延棒鋼または線材」のうち、さらに「横断面内において、前記断面の中心位置を基準に、中心角45°置きに表面からの深さ1mm位置までの8領域を線分析したとき」に、「DIの最小値が2.0以上、かつ、最大値が5.0以下」である「熱間圧延棒鋼または線材」に係るものであり、それ以外のDI値を有する「熱間圧延棒鋼または線材」は 本件特許発明1に係る「熱間圧延棒鋼または線材」に該当しないから、特許異議申立人の上記主張は、前提において誤っている。
また、本件特許発明2?3においても、同様である。

したがって、特許異議申立人の上記主張、及び結論は採用できず、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を充足しないとはいえない。

7 むすび

以上のとおり、上記取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.1?0.3%、
Si:0.05?1.5%、
Mn:0.4?2.0%、
S:0.003?0.05%、
Cr:0.5?3.0%、
sol.Al:0.020?0.060%および
N:0.010?0.025%を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のP、TiおよびOがそれぞれ、
P:0.025%以下、
Ti:0.003%以下、
O(酸素):0.002%以下、
の化学組成を有し、
AlNとして析出しているAlの量が0.011?0.030%であり、
横断面内において、前記断面の中心位置を基準に、中心角45°置きに表面からの深さ1mm位置までの8領域を線分析したときに、下記の式[1]で表されるDIの最小値が2.0以上、かつ、最大値が5.0以下であることを特徴とする、
熱間圧延棒鋼または線材。
DI=0.311×C^(0.5)×(1+0.64×Si)×(1+4.10×Mn)×(1+2.83×P)×(1+2.33×Cr)×(1+0.27×Cu)×(1+0.52×Ni)×(1+3.14×Mo)・・・[1]
ただし、式[1]中の元素記号は、その元素の含有量(質量%)を表す。
【請求項2】
Feの一部に代えて、質量%で、
Cu:0.4%以下、
Ni:1.5%以下および
Mo:0.8%以下
のうちから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の熱間圧延棒鋼または線材。
【請求項3】
Feの一部に代えて、質量%で、
Nb:0.08%以下および
V:0.2%以下
のうちから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の熱間圧延棒鋼または線材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-02-28 
出願番号 特願2012-189394(P2012-189394)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C22C)
P 1 651・ 537- YAA (C22C)
P 1 651・ 536- YAA (C22C)
P 1 651・ 121- YAA (C22C)
P 1 651・ 4- YAA (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 陽一  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 河野 一夫
板谷 一弘
登録日 2015-09-04 
登録番号 特許第5799917号(P5799917)
権利者 新日鐵住金株式会社
発明の名称 熱間圧延棒鋼または線材  
代理人 千原 清誠  
代理人 千原 清誠  
代理人 杉岡 幹二  
代理人 杉岡 幹二  
代理人 特許業務法人ブライタス  
代理人 特許業務法人ブライタス  

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