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審決分類 |
審判 全部無効 一時不再理 G01N |
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管理番号 | 1329857 |
審判番号 | 無効2014-800126 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2014-07-24 |
確定日 | 2017-07-20 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3998184号発明「有精卵の検査法および装置」の特許無効審判事件について,平成26年10月24日付け審判請求書の却下決定に対し,東京高等裁判所において決定取消の判決(平成26年(行ケ)第10262号 平成27年7月15日判決言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯等 1 本件特許 本件無効審判事件に係る特許第3998184号の特許(以下,「本件特許」といい,本件特許に係る請求項1ないし9の発明を,それぞれを「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」という。)は,発明の名称を「有精卵の検査法および装置」とし,平成14年9月4日の出願であって,平成15年1月31日付け手続補正により発明者の変更がなされ,同年2月3日付けで発明者相互の宣誓書および発明者変更の理由を記載した書面が手続補足書として提出され,その後,平成16年4月2日に特開2004-101204号公報として出願公開がされ,平成17年11月1日に本件審判請求における請求人と同じ坪井 條一郎より刊行物等提出書が提出され,平成19年5月8日付け拒絶理由通知に対し,指定された期間内の同年7月5日付けで特許請求の範囲の補正がなされ,同年8月17日に特許権の設定登録がされたものである。 2 一次審決に至る経緯 平成20年10月16日付けで,本件審判請求における請求人と同じ坪井 條一郎より無効審判(無効2008-800209号事件,以下,「一次審判」という。)の請求がなされ,その後請求人により平成21年2月10日付けで上申書が提出された。そして無効審判の請求に対し,被請求人により同月20日付けで答弁書が提出され,その後,請求人により同年3月31日付けの弁駁書および同年5月19日付けの上申書および手続補足書が提出された。そして同年6月30日付けで,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下,「一次審決」という。)がなされ,東京高等裁判所における請求棄却の判決(平成21年(行ケ)第10213号,平成22年4月27日判決言渡)の後,同審決は同年5月11日に確定し,同月21日に確定登録された。 3 二次審決に至る経緯 平成24年3月14日付けで,本件審判請求における請求人と同じ坪井 條一郎より無効審判(無効2012-800026号事件,以下,「二次審判」という。)の請求がなされ,その後請求人により同年4月12日付け手続補正書,同年5月10日付け上申書,同月24日付け上申書,同月31日付け上申書(2),および同年6月7日付け上申書(3)が提出された。そして無効審判の請求に対し,被請求人により同年8月31日付けで答弁書が提出され,その後,請求人により同年9月20日付けの上申書(4)が提出された。そして,同年11月2日付けで審尋がなされ,その後請求人により同年12月4日付けで回答者および同日付けで弁駁書が提出された。そして,平成25年2月14日付けで,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下,「二次審決」という。)がなされ,東京高等裁判所における請求棄却の判決(平成25年(行ケ)第10082号,平成25年12月9日判決言渡)の後,同審決は平成26年5月9日に確定し,同月16日に確定登録された。 4 本件審判の経緯 本件無効審判事件は,平成26年7月24日付けで,坪井 條一郎より請求されたものであって(無効2014-800126号事件,以下,「本件審判」という。),特許庁長官により指定された審判長は,同年9月5日,請求人である坪井 條一郎に対し,同月4日付け手続補正指令書(以下,同補正書による指令を「本件補正指令」という。)を発送し,請求人は,同年10月1日付け手続補正書(以下「本件補正書」といい,同補正書による補正を「本件補正」という。)及び同日付け上申書を提出したが,審判長は,同月24日付けで,「本件審判の請求書を却下する。」との決定をし,その謄本を,同年11月4日,請求人に送達した。 その後,東京高等裁判所において決定取消の判決(平成26年(行ケ)第10262号,平成27年7月15日判決言渡)があった。 第2 請求人の主張 本件審判は,「特許第3998184号発明の特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」を請求の趣旨とし,審判請求書の請求の理由,本件補正書及び上申書によれば,次の理由および証拠に基づいて,本件特許を無効にすべきであると主張する。 1 本件審判における主な証拠について 審判請求書において提出された主な証拠は,以下のとおりである。 なお,本審決においては,甲第1号証の1又は甲第1号証1を「甲1の1」のように表記する。また,一次審決及び二次審決の甲号証をいうときには,一次審決甲1及び二次審決甲1のようにいい,単に「甲1」というときには,本件審判において提出された甲号証をいうものとする。 特開2002-153262号の公開特許公報(甲2の2)は,出願人を澁谷工業株式会社及び財団法人阪大微生物病研究会,出願日を平成12年11月20日,公開日を平成14年5月28日とし,発明の名称を「鶏卵の処理方法および処理装置」とする発明(請求項の数2)に係る公開特許公報(全6頁)である(以下「引用公報」という。)。 上述のとおり,甲2の2は,次の文書である。 甲2の2:特開2002-153262号の「公開特許公報」 甲3の1は,株式会社熊本アイディーエム(以下「熊本アイディーエム」という。)作成の「検卵機開発経過報告書」と題する原告宛ての文書であり,同社が請求人から依頼を受けて設計したとする「自動検卵機」の開発経過について記載した報告文書(2枚)及びその添付書面として,同文書中に引用されている打合せ議事録(1枚),検卵装置の構想図及び当初設計図(2枚),下請会社からのファックス文書(1枚),検卵装置の全体図及びライトガイド外観図(各1枚),平成14年10月8日付の同社作成に係る「坪井種鶏孵化場」宛の設備見積仕様書(全11枚)が添付されたものである(以下併せて「本件報告書」という)。 上述のとおり,甲3の1には,別途作成された複数の文書が含まれている。当審において以下に示すような枝番を付して整理することとする。 甲3の1の1:本件報告書の1?2頁の「検卵機開発経過報告書」と題する文書 甲3の1の2:本件報告書の3頁の「打合せ議事録」と題する文書 甲3の1の3:本件報告書の4頁の右下の名称の欄に「たまご検卵シリンダー機構 構想図」と記載された文書 甲3の1の4:本件報告書の5頁の右下の名称の欄に「たまごけ検卵器」と記載された文書 甲3の1の5:本件報告書の6頁の送信先 (株)熊本アイディエム高倉社長,発信元 林時計工業株式会社福岡営業所山中幸久の「FAX送付状」と題する文書 甲3の1の6:本件報告書の1の7頁の,右下の名称の欄に「検卵装置 全体図」と記載された文書 甲3の1の7:本件報告書の8頁の,右上の図面名称の欄に「ライトガイド外観図」と記載された文書 甲3の1の8:本件報告書の9?19頁の「設備見積仕様書」と題する文書 甲3の2は,株式会社坪井種鶏孵化場へのアクセス情報等が記載されたインターネットサイトを印刷した書面及び同社の履歴事項全部証明書である。 上述のとおり,甲3の2には,別途作成された複数の文書が含まれている。当審において以下に示すような枝番を付して整理することとする。 甲3の2の1:甲第3号証の2の1頁の「株式会社坪井種鶏孵化場 七城種鶏場」の地図が掲載されたインターネットURL情報 甲3の2の2:甲第3号証の2の2頁の「株式会社坪井種鶏孵化場 玉名農場」の地図が掲載されたインターネットURL情報 甲3の2の3:甲第3号証の2の3頁の「株式会社坪井種鶏孵化場 賢木種鶏場」の地図が掲載されたインターネットURL情報 甲3の2の4:甲第3号証の2の4頁の「株式会社坪井種鶏孵化場 鹿北種鶏場」の地図が掲載されたインターネットURL情報 甲3の2の5:甲第3号証の2の5頁の「株式会社坪井種鶏孵化場 鶏病センター」の地図が掲載されたインターネットURL情報 甲3の2の6:甲第3号証の2の6頁の「株式会社坪井種鶏孵化場 十三部分場」の地図が掲載されたインターネットURL情報 甲3の2の7:甲第3号証の2の7頁の「株式会社坪井種鶏孵化場 平小城分場」の地図が掲載されたインターネットURL情報 甲3の2の8:甲第3号証の2の8頁の「株式会社坪井種鶏孵化場」の地図が掲載されたインターネットURL情報 甲3の2の9:甲第3号証の2の9頁の「株式会社坪井種鶏孵化場 米野種鶏場」の地図が掲載されたインターネットURL情報 甲3の2の10:甲第3号証の2の10頁の株式会社坪井種鶏孵化場の登記簿謄本の写しであって,2頁にわたる登記簿謄本のうち1頁目のみ。 甲4の1は,四国計測作成の「自動検卵機」という表題の広告宣伝用の文書(全1頁)と,四国計測の従業員作成に係る「有精卵の検査手法」と題する研究論文(全9頁)の二つの書面を一括して綴ったものである(以下「甲4の1文書」という。)。 上述のとおり,甲4の1には,一つの文書といえるか不明な複数の文書が含まれている。当審において以下に示すような枝番を付して整理することとする。 甲4の1の1:甲4の1文書の1頁の「自動検卵機」 甲4の1の2:甲4の1文書の2?10頁「有精卵の検査手法」 甲4の2:本件特許の公開公報である特開2004-101204号公報 甲5の1は,本件特許に係る出願(特願2002-259297号)の平成15年1月31日付け手続補正書と平成16年5月10日作成の職権訂正履歴(職権訂正)の二つの書面を一括して綴ったものである。 上述のとおり,甲5の1には,複数の文書が含まれている。当審において以下に示すような枝番を付して整理することとする。 甲5の1の1:本件特許に係る出願(特願2002-259297号)の平成15年1月31日付け手続補正書 甲5の1の2:平成16年5月10日作成の職権訂正履歴(職権訂正) 甲5の2は,本件特許に係る出願(特願2002-259297号)の平成15年2月3日付け手続補足書と添付書類である。 上述のとおり,甲5の2には,複数の文書が含まれている。当審において以下に示すような枝番を付して整理することとする。 甲5の2の1:本件特許に係る出願(特願2002-259297号)の平成15年2月3日付け手続補足書 甲5の2の2:添付書類(本件発明者の宣誓書) 甲5の2の3:添付書類(本件追加発明者の宣誓書) 甲5の2の4:添付書類(発明者変更の理由を記載した書面) また,本件補正書において提出された主な証拠は,以下のとおりである。 別紙2-1:「本件特許の公開時と公告時の請求項対比一覧」と題する文書 別紙2-2:請求人代理人作成の「検卵方法・装置の関連発明一覧」と題する文書 別紙3-1:甲4の1文書と同じ文書(ただし,甲4の1文書の7?10頁の卵の画像は提出されていない。) 別紙3-2:請求人代理人作成の「本件特許製品の広告宣伝記事一覧」と題する文書 別紙4-1:甲3の1の8と同じ文書 別紙4-2:「検卵装置開発経過の補充説明について」と題する文書 2 本件審判における無効理由について 本件特許を無効にすべきであると主張する理由は,以下のとおりである。 なお,請求人は,審判請求書の「(3)特許無効審判の根拠」の欄及び「(4)本件特許を無効にすべき理由」の欄において,「本件特許発明」とのみ記載し,具体的な請求項を特定していないところ,本件審判は,「特許第3998184号発明の特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された発明についての特許を無効とする。」(審判請求書「6 請求の趣旨」の欄)との記載に鑑み,すべての無効理由は,「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」を無効にすべきというものと理解する。 (1)無効理由1の1の1 ア 請求人の主張の概要 請求人は, 「特許法第29条第1項第1号(特許法第123条第1項第2号) 本件特許発明は,特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるから,特許法第29条第1項第1号の規定に該当し,特許法第123条第1項第2号の特許要件を満たしていないので,特許無効の審判請求によって本件特許権は無効にすべきである。」(審判請求書3頁7?11行) と述べた上で, 「理由1:本件特許発明は,いわゆる公知の発明である。 本件特許出願は,平成14年9月4日付で出願されたものであり,その出願日以前の平成14年5月28日に公開されている特開2002-153262号の「公開特許公報」で公開されている発明(鶏卵の処理方法及び処理装置)の「発明の詳細な説明」によって開示された発明から容易に発明することができた特許発明と解すべきである。それは別紙2-1と2によって明らかである。」(審判請求書3頁22?28行及び本件補正書2頁14?20行) と主張する。 イ 請求人の主張の整理 無効理由1の1の1についての審判請求書及び本件補正書の記載には,「本件特許出願は,・・引用公報記載の発明から容易に発明することができた特許発明と解すべきである」という部分があり,請求人は,本件補正指令においてこの点についての釈明を求められたにもかかわらず,同記載を補正していないことからすると,同主張部分は,特許法第29条第2項による無効をも主張するかのように解する余地はある。しかし,請求人が,明確に同条1項1号を根拠条文として挙げ,特許法第29条第2項による無効理由の具体的な主張も無く,本件特許発明1?9は,「いわゆる公知の発明である」と主張しているという無効理由1の1の1の記載全体からみれば,同記載部分は,単なる誤記であると解される。 ウ 無効理由1の1の1の小括 以上のことから,無効理由1の1の1は次のように理解できる。 [無効理由1の1の1] 「本件特許出願は,平成14年9月4日付で出願されたものであり,その出願日以前の平成14年5月28日に公開されている特開2002-153262号の「公開特許公報」(甲2の2)で公開されている発明(鶏卵の処理方法及び処理装置)の「発明の詳細な説明」によって開示された発明である。それは別紙2-1と別紙2-2によって明らかである。 よって,本件特許発明1?9は,特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるから,特許法第29条第1項第1号の規定に該当し,特許法第123条第1項第2号の特許要件を満たしていないので,特許無効の審判請求によって本件特許発明1?9の特許権は無効にすべきである。」 (2) 無効理由1の1の2 上記「第2 2(1)イ 請求人の主張の整理」で述べたように,「第2 2(1)ア 請求人の主張の概要」に記した請求人の主張については,誤記があると解されるが,念のため,誤記ではないとして,次の理由についても検討する。 [無効理由1の1の2] 「本件特許出願は,平成14年9月4日付で出願されたものであり,その出願日以前の平成14年5月28日に公開されている特開2002-153262号の「公開特許公報」(甲2の2)で公開されている発明(鶏卵の処理方法及び処理装置)の「発明の詳細な説明」によって開示された発明から容易に発明することができた特許発明と解すべきである。それは別紙2-1と別紙2-2によって明らかである。 よって,本件特許発明1?9は,特許出願前に日本国内において公然知られた発明に基づいて容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に該当し,特許法第123条第1項第2号の特許要件を満たしていないので,特許無効の審判請求によって本件特許発明1?9の特許権は無効にすべきである。」 (3) 無効理由1の2 ア 請求人の主張の概要 請求人は, 「特許法第29条第1項第1号(特許法第123条第1項第2号) 本件特許発明は,特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるから,特許法第29条第1項第1号の規定に該当し,特許法第123条第1項第2号の特許要件を満たしていないので,特許無効の審判請求によって本件特許権は無効にすべきである。」(審判請求書3頁7?11行) と述べた上で, 「また,本件特許出願人が広告宣伝用の冊子「有精卵の検査方法」において使用されている「自動検卵機」(甲第4号証の1)の「装置概要説明」に特開2004-101204(2004年4月2日公開)と明記されており,この公開されている発明は本件出願の公開公報(甲第4号証の2)に記載されている発明と同一の発明である。その論拠は次のとおりである。 その1は,「その課題は,「本件特許発明は甲第2号証の2の公開特許公報に記載されている「検卵の処理方法および処理装置」(発明の名称)の「要約」の課題に明記されている「鶏卵2にワクチンを接種する際に,卵殻に開けられた孔2aを簡単な作業で封止し,しかもその封止材が鶏卵2内に入らないようにする。」(別紙2-2参照) その2は,「その解決手段は鶏卵2はトレイ4内に収容されて保持される。鶏卵2を保持したトレイ4は,第1搬送コンベヤ30によって搬送され,プッシヤ38によってワクチン接種部Pに搬入される。ワクチン接種部Pには昇降手段によって昇降される注射針20が設けられており,鶏卵2を安定した姿勢で保持した後,注射針20を下降させて卵殻を押通し,鶏卵2内にワクチンの原液を接種する。ワクチン接種後の鶏卵2を収容したトレイ4は,第2搬送コンベヤ32によって搬送された後,インデックスプッシヤ40,50によって鶏卵一列分ずつ移動されてシール部Qに停止される。シール部Qには鶏卵と同じ配置で噴射ノズル60が配置されており,これらノズル60からホットメルト接着剤が噴出され前記卵殻に開けられた孔2aが塞がれる。」ところにあり,特許請求の範囲に明記されている請求項1と請求項2のとおりである。」旨と,「その具体的な内容は「発明の詳細な説明」に明記されている「発明が属する技術分野」(0001)と「従来の技術」(0002?4)と「発明が解消しようとする課題](0005)と「課題を解決するための手段(0007と8)と「発明の実施の形態1(0009?28)と「発明の効果」(0030)とによって明記されているとおりである。(別紙2-2参照) その3は,図面の簡単な説明欄に記載されているように「検卵処理装置」の基本的な構成図(甲第2号証の1と2の「図面の簡単な説明」参照)は同一図面と解する。それは本件特許発明(公開特許発明)と,表記の甲第1号証の3とは発明者が財団法人阪大微生物病研究会の研究者だからである。(別紙2-1の発明者と出願人参照)」(審判請求書3頁末行?4頁4行及び本件補正書2頁21行?3頁23行) と主張する。 イ 請求人の主張の整理 審判請求書及び本件補正書の記載自体からは,請求人が本件特許発明と同一であると主張する発明が,「特開2004-101204」(本件公開公報)記載の発明自体をいうのか,甲4の1文書のうち広告宣伝用の文書(甲4の1の1)に記載されている「自動検卵機」をいうのかが一見して明らかではないが,本件公開公報(甲4の2)記載の発明は,有精卵内部のカラー画像を撮像し,その情報に基づいて正常卵を判定する有精卵の検査法及びそのような検査法を実現するための検査装置に関するものであることからすれば,請求人が本件特許発明1?9と同一であると主張する発明は,甲4の1文書の広告宣伝用の文書(甲4の1の1)に記載されている上記装置が本件公開公報(甲4の2)記載の発明を備えるものであるとして,これと本件特許発明1?9との同一性を主張しているものと善解することができる。 また,請求人は,本件補正において,無効理由1の2の末尾に,「その論拠は次のとおりである。」として,別紙2-2記載の引用公報記載の発明の課題,解決手段等についての記載を加えている。上記のとおり,無効理由1の2は,甲4の1文書記載の発明を理由とするものであるから,これと相矛盾する内容の本件補正による記載の意味するところは不明であるといわざるを得ない。もともと,同記載は,請求人が主張する発明と本件特許発明とが同一であることの論拠を追加しようとするものにすぎず,その論拠の追加の意味するところが不明な場合なのであるから,無効理由1の2の根拠となる発明の特定自体を左右する趣旨のものであるとは解されない。 ウ 無効理由1の2の小括 そうすると,無効理由1の2の請求人の主張は,次のように理解できる。 [無効理由1の2] 「本件特許発明1?9と同一であると主張する発明は,甲4の1文書の広告宣伝用の文書(甲4の1の1)に記載されている「自動検卵機」が本件公開公報「特開2004-101204」(甲4の2)記載の発明を備えるものであるとして,これと本件特許発明1?9との同一性を主張している。 これらの事実を立証する証拠として甲4の1文書及び本件公開公報(甲4の2)を提出したものである。 よって,本件特許発明1?9は,特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるから,特許法第29条第1項第1号の規定に該当し,特許法第123条第1項第2号の特許要件を満たしていないので,特許無効の審判請求によって本件特許発明1?9の特許権は無効にすべきである。」 (4) 無効理由2 ア 請求人の主張の概要 請求人は, 「特許法第29条第1項第2号(特許法第123条第1項第2号) 本件特許発明は,特許出願前に日本国内において公然実施された発明であるから,特許法第29条第1項第2号の規定に該当し,特許法第123条第1項第2号の特許要件を満たしていないので,特許無効の審判請求によって本件特許 権は無効にすべきである。」(審判請求書3頁12?16行) と述べた上で, 「理由2:本件特許発明は,いわゆる公用の発明である。 本件特許発明の「自動検卵機」(甲第4号証の1)は,2004年4月2日に公開された特開2004-101204(当審注:本件公開公報)と同一の発明であり,しかも本件被請求人が公開した「自動検卵機」とも全く同一の装置である。(別紙4-1の装置概要に赤文字で記入されているのと,それに添付されている「有精卵の検査方法」の冊子によって明らかである。 すなわち,甲第3号証の1によって熊本アイディーエム(株)から坪井種鶏孵化場の坪井社長に報告されている「検卵機開発経過報告書」(甲第3号証の1)に記載されている開発経過,打合せ議事録,設定見積仕様書などによって明らかにされている。・・・ この設備見積仕様書に基づいて,坪井種鶏孵化場において直ちに試作品を製造するとともに甲第3号証の2に示されている各孵化工場で何回かのテストを繰り返して市場化が開始されているので,本件特許発明は,特許出願前に公然実施されていた発明と解するべきである。(別紙2-1と2参照)」(審判請求書4頁5?18行及び本件補正書3頁24?4頁10行 なお,下線は当審が付記したものである。以下,同様である。) と主張する。 イ 請求人の主張の整理 無効理由2についての審判請求書及び本件補正書には,「本件特許発明の「自動検卵機」(甲第4号証の1)は,2004年4月2日に公開された特開2004-101204(当審注:本件公開公報)と同一の発明であり,」という記載部分もあるが,同部分は,無効理由1の2と同じ記載を繰り返したものであり,別個の無効理由を主張したものとは解しがたいが,念のために,「自動検卵機」(甲4の1文書)に基づく無効理由(以下,「無効理由2の1」とする。)と,甲3の1の8の「設備見積仕様書」に基づく無効理由(以下,「無効理由2の2」とする。)の2つの別個の無効理由を含むものとして整理する。 ウ 無効理由2の1の1及び無効理由2の1の2 (ア) 請求人の主張 請求人は, 「理由2:本件特許発明は,いわゆる公用の発明である。 本件特許発明の「自動検卵機」は,2004年4月2日に公開された特開2004-101204と同一の発明(当審注:本件公開公報)であり,しかも本件被請求人が公開した「自動検卵機」と全く同一の装置である。(別紙4-1の装置概要に赤文字で記入されているのと,それに添付されている「有精卵の検査方法」の冊子によって明らかである。」(本件補正書3頁24?30行) と主張する。 (イ) 請求人の主張の整理 「本件特許発明の「自動検卵機」は,2004年4月2日に公開された特開2004-101204(当審注:本件公開公報)と同一の発明であり」と主張する点については,本件特許発明が,本件特許に係る出願の公開公報である特開2004-101204号公報に開示があるという当然のことを述べているものと解される。 また,上記本件補正書3頁24?30行の主張にある「別紙4-1」について,別紙4-1には,「有精卵の検査方法」なる冊子は貼付されておらず,別紙3-1には,「有精卵の検査方法」なる冊子が貼付されているところからして,「別紙4-1」とあるのは,「別紙3-1」の誤記であると解される。(「別紙3-1」は,「甲4の1文書」と同じ証拠であるので,以下「甲4の1文書」と読み替える。) この点を踏まえると,「しかも本件被請求人が公開した「自動検卵機」と全く同一の装置である。」と主張するところ,被請求人が公開した「自動検卵機」が何を指すのか一見明らかでないが,括弧書き内で,甲4の1文書のうち,甲4の1の1の「装置概要」に記載の赤字で記入されているのと,それに添付,すなわち,甲4の1文書のうち,甲4の1の2の「有精卵の検査方法」の冊子によって明らかである旨を主張するので,被請求人が公開した「自動検卵機」は,甲4の1の1の「装置概要」に記載されている「自動検卵機」又は甲4の1の2に記載されている「自動検卵機」をいうものと善解できる。 (ウ) 無効理由2の1の1及び無効理由2の1の2の小括 以上のことから,次の無効理由が理解できる。 [無効理由2の1の1] 「本件特許発明1?9は,いわゆる公用の発明である。 本件特許発明1?9の「自動検卵機」は,本件被請求人が甲4の1の1で公開した「装置概要」に記載されている「自動検卵機」と全く同一の装置である。(甲4の1の1の装置概要に赤文字で「特開2004-101204(2004年4月2日公開)」と記入されていること明らかである。) したがって,本件特許発明1?9は,特許特許法第29条第1項第2号に反し,無効である。」 [無効理由2の1の2] 「本件特許発明1?9は,いわゆる公用の発明である。 本件特許発明1?9の「自動検卵機」は,本件被請求人が甲4の1の2で公開した「自動検卵機」と全く同一の装置である。(「有精卵の検査方法」の冊子(甲4の1の2)によって明らかである。) したがって,本件特許発明1?9は,特許特許法第29条第1項第2号に反し,無効である。」 エ 無効理由2の2 (ア) 請求人の主張 請求人は, 「理由2:本件特許発明は,いわゆる公用の発明である。 ・・・ すなわち,甲第3号証の1によって熊本アイディーエム(株)から坪井種鶏孵化場の坪井社長に報告されている「検卵機開発経過報告書」(甲第3号証の1)に記載されている開発経過,打合せ議事録,設定見積仕様書などによって明らかにされている。・・・ この設備見積仕様書に基づいて,坪井種鶏孵化場において直ちに試作品を製造するとともに甲第3号証の2に示されている各孵化工場で何回かのテストを繰り返して市場化が開始されているので,本件特許発明は,特許出願前に公然実施されていた発明と解するべきである。(別紙2-1と2参照)。」(審判請求書4頁5?18行及び本件補正書3頁24?4頁10行) と主張する。 (イ) 無効理由2の2の小括 以上のことから,請求人の主張は,次のように理解できる。 [無効理由2の2] 「本件特許発明1?9は,いわゆる公用の発明である。 本件特許発明1?9と同一の発明であると主張する発明を,本件報告書(甲3の1)の記載から,甲3の1の8の設備見積仕様書に記載されたものと具体的に特定した上で,本件特許発明1?9は,同仕様書(甲3の1の8)に基づいて製造した試作品を請求人の孵化工場(該孵化工場の所在地は甲3の2の1?甲3の2の9)でテストを繰り返して市場化が開始されたことをもって,本件特許出願前に公然実施をしたものである。 したがって,本件特許発明1?9は,特許特許法第29条第1項第2号に反し,無効である。」 (5) 無効理由3 ア 請求人の主張 請求人は, 「特許法第38条(特許法第123条第1項第2号) 本件特許発明は,他の共有者と共同で特許出願されていないから,特許法第38条の共同出願の規定に違反しているので,特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,特許無効の審判請求によって本件特許権は無効にすべきである。」(審判請求書3頁17?20行) と述べた上で, 「理由3:本件特許発明は,いわゆる共同開発による共同出願である。 本件特許出願は,発明者を追加補正するとともに共同発明に補正して認められた特許権である。 よって,この追加発明と共同発明に発明者を補正しながら特許を受ける権利を承継することを証明する書面(譲渡書等)の提出をされいないのに,担当審査官がこの補正を職権でこの補正を認めていることは,無効な手続による補正であるから本件特許出願は無効な特許出願と解すべきである。 すなわち,特許法に違反する特許出願の手続であるから,特許無効の審判請求によって無効な特許と解すべきである。なお,本件特許発明と先行技術発明との対比説明は,必要に応じて追加補充する。 以上の理由によって,本件特許は特許法第123号第1項の第2号の規定により無効にすべき特許権と云わざるを得ない。」(審判請求書4頁19?31行) と主張する。 イ 無効理由3の小括 以上のことから,請求人の主張は,次のように理解できる。 [無効理由3] 「本件特許発明1?9は,他の共有者と共同で特許出願されていないから,特許法第38条の共同出願の規定に違反しているので,特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,特許無効の審判請求によって本件特許権は無効にすべきである。」 3 本件審判における無効理由のまとめ 以上のことから,無効理由は次のように整理される。 [無効理由1の1の1] 「本件特許出願は,平成14年9月4日付で出願されたものであり,その出願日以前の平成14年5月28日に公開されている特開2002-153262号の「公開特許公報」(甲2の2)で公開されている発明(鶏卵の処理方法及び処理装置)の「発明の詳細な説明」によって開示された発明である。それは別紙2-1と別紙2-2によって明らかである。 よって,本件特許発明1?9は,特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるから,特許法第29条第1項第1号の規定に該当し,特許法第123条第1項第2号の特許要件を満たしていないので,特許無効の審判請求によって本件特許発明1?9の特許権は無効にすべきである。」 [無効理由1の1の2] 「本件特許出願は,平成14年9月4日付で出願されたものであり,その出願日以前の平成14年5月28日に公開されている特開2002-153262号の「公開特許公報」(甲2の2)で公開されている発明(鶏卵の処理方法及び処理装置)の「発明の詳細な説明」によって開示された発明から容易に発明することができた特許発明と解すべきである。それは別紙2-1と別紙2-2によって明らかである。 よって,本件特許発明1?9は,特許出願前に日本国内において公然知られた発明に基づいて容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に該当し,特許法第123条第1項第2号の特許要件を満たしていないので,特許無効の審判請求によって本件特許発明1?9の特許権は無効にすべきである。」 [無効理由1の2] 「本件特許発明1?9と同一であると主張する発明は,甲4の1文書の広告宣伝用の文書(甲4の1の1)に記載されている「自動検卵機」が本件公開公報「特開2004-101204」(甲4の2)記載の発明を備えるものであるとして,これと本件特許発明1?9との同一性を主張している。 これらの事実を立証する証拠として甲4の1文書及び本件公開公報(甲4の2)を提出したものである。 よって,本件特許発明1?9は,特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるから,特許法第29条第1項第1号の規定に該当し,特許法第123条第1項第2号の特許要件を満たしていないので,特許無効の審判請求によって本件特許発明1?9の特許権は無効にすべきである。」 [無効理由2の1の1] 「本件特許発明1?9は,いわゆる公用の発明である。 本件特許発明1?9の「自動検卵機」は,本件被請求人が甲4の1の1で公開した「装置概要」に記載されている「自動検卵機」と全く同一の装置である。(甲4の1の1の装置概要に赤文字で「特開2004-101204(2004年4月2日公開)」と記入されていること明らかである。) したがって,本件特許発明1?9は,特許特許法第29条第1項第2号に反し,無効である。」 [無効理由2の1の2] 「本件特許発明1?9は,いわゆる公用の発明である。 本件特許発明1?9の「自動検卵機」は,本件被請求人が甲4の1の2で公開した「自動検卵機」と全く同一の装置である。(「有精卵の検査方法」の冊子(甲4の1の2)によって明らかである。) したがって,本件特許発明1?9は,特許特許法第29条第1項第2号に反し,無効である。」 [無効理由2の2] 「本件特許発明1?9は,いわゆる公用の発明である。 本件特許発明1?9と同一の発明であると主張する発明を,本件報告書(甲3の1)の記載から,甲3の1の8の設備見積仕様書に記載されたものと具体的に特定した上で,本件特許発明1?9は,同仕様書(甲3の1の8)に基づいて製造した試作品を請求人の孵化工場(該孵化工場の所在地は甲3の2の1?甲3の2の9)でテストを繰り返して市場化が開始されたことをもって,本件特許出願前に公然実施をしたものである。 したがって,本件特許発明1?9は,特許特許法第29条第1項第2号に反し,無効である。」 [無効理由3] 「本件特許発明1?9は,他の共有者と共同で特許出願されていないから,特許法第38条の共同出願の規定に違反しているので,特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,特許無効の審判請求によって本件特許権は無効にすべきである。」 第3 一次審判における無効理由の概要 1 本件審判に関連する主な証拠について 請求人の提出した証拠のうち本件審判に関連する主な証拠は,一次審決4?5頁の[証拠]の欄の記載からみて,以下のとおりである。 一次審決刊行物2:特開2002-153262号公報 一次審決甲9の1:「有精卵の検卵装置に関する経過説明」(全1頁)平成17年10月25日 一次審決甲9の2:「打合せ議事録」(全1頁)平成13年9月15日 一次審決甲9の3:「たまご検卵シリンダー機構 構想図」(全1頁)平成14年1月5日 一次審決甲9の4:「たまごけ検卵器」(全1頁) 一次審決甲9の5:「FAX送付状」(全1頁)平成13年12月3日 一次審決甲9の6:「検卵装置 全体図」(全1頁)平成14年10月12日 一次審決甲9の7:「ライトガイド外観図」(全1頁)平成13年11月28日 一次審決甲9の8:「設備見積仕様書」(全11頁)平成14年10月8日 (なお,一次審判甲9の枝番は,一次審決の合議体が付記したものである。) 一次審決甲10の1:「自動検卵機」(全1頁) 一次審決甲10の2:「有精卵の検査手法」(全11頁) (なお,一次審判甲10の枝番は,一次審決の合議体が付記したものである。) また,平成21年3月31日付け弁駁書において,一次審決甲9の追加補充資料として,追加された証拠は,一次審決4?5頁の[証拠]の欄の記載からみて,以下のとおりである。 一次審決甲9の9:「検卵機開発経過報告書」(全2頁)平成21年3月25日 一次審決甲9の10:「四国計測工業株式会社」(全1頁)平成21年3月17日 一次審決甲9の11:「四国計測工業/製品紹介/自動検卵機」(全2頁)平成21年3月17日 一次審決甲9の12:「四国計測工業/製品紹介/産業用製品」(全2頁)平成21年3月17日 なお,「甲第10号証として添付されている「自動検卵機」の各資料が本件特許に係る出願前に公知公用であった」とする主張について,一次審決の当審が平成21年3月6日付けで請求人に対して弁駁を求めたところ, 請求人は, 「なお,パンフレット・チラシ・インターネット等により宣伝する場合は,具体的な発行日を記載しないのが一般的であるから,このホームページがいつ発表されたかは不明である。 そこで,甲第10号証の「自動検卵機」が公知公用であったことを甲第9号証の追加補充資料(検卵機関発経過報告書)と合わせて立証する。」(平成21年3月31日付け弁駁書 第3頁29行?第4頁第4行) ために提出されたものである。 2 本件審判に関連する無効理由の概要 請求人は,一次審判における平成21年2月10日付け上申書において, 「理由1は,請求人が平成17年11月1日付けの「刊行物等提出書」で提出しました先行技術文献(・・・,特開2002-153262,・・・)について,審査段階において参考にされていないように思われます。」(1頁20?25行) と主張した。 平成17年11月1日付け刊行物等提出書において,請求人は平成21年2月10日付け上申書に記した複数の刊行物からなる先行技術文献を示し, 「別紙記載のとおり(別紙)提出理由(1)公知の発明 本願発明は下記先行技術文献(公開公報)により公知の発明である。」(1頁19?20行) と述べている。 このことから,本件審判の[無効理由1の1の1]及び[無効理由1の1の2]に関連する,追加された以下の職権による審理の理由1及び理由2がある。 また,本件審判の[無効理由1の2],[無効理由2の1の1],[無効理由2の1の2]及び[無効理由2の2]に関連する,請求人が一次審判において主張する無効理由には,以下の無効理由4が含まれている。 以上のことから,無効理由は次のように整理できる。 (1)[職権による審理の理由1] 「職権による審理の理由1として,本件発明1?9が,請求人が平成21年2月10日付け上申書において提示した刊行物1?8に基づいて,特許法第29条第1項第3号に該当するかについて検討する。」(一次審決7頁24?26行) としており,職権による審理の理由1には,一次審決刊行物2に基づく次の理由が包含される。 「職権による審理の理由1として,本件発明1?9は,請求人が平成21年2月10日付け上申書において提示した刊行物2に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。」 (2)[職権による審理の理由2] 「職権による審理の理由2として,本件発明1?9が,請求人が平成21年2月10日付け上申書において提示した刊行物1?8に基づいて,特許法第29条第2項に該当するかについて検討する。」(一次審決7頁27?29行) としており,職権による審理の理由2には,一次審決刊行物2に基づく次の理由が包含される。 「職権による審理の理由2として,本件発明1?9は,請求人が平成21年2月10日付け上申書において提示した刊行物2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 (3)[無効理由4] 「無効理由4として,本件発明1?9が,請求人が理由3-1として挙げている甲第9号証の1?甲第11号証のそれぞれに基づいて,特許法第29条第1項第1号または第2号に該当するかについて検討する。」(一次審決7頁18?20行) としており,無効理由4には,以下の[無効理由4-1]?[無効理由4-4]の理由が包含されている。 [無効理由4-1] 一次審決甲9の2?甲9の8に基づく,特許法第29条第1項第2号違反の理由 [無効理由4-2] 一次審決甲10の1に基づく,特許法第29条第1項第1号違反の理由 [無効理由4-3] 一次審決甲10の1に基づく,特許法第29条第1項第2号違反の理由 [無効理由4-4] 一次審決甲10の2に基づく,特許法第29条第1項第2号違反の理由 第4 二次審判における無効理由の概要 1 本件審判に関連する主な証拠について 請求人の提出した証拠のうち本件審判に関連する主な証拠は,二次審決5?8頁の「(2)証拠方法」の欄の記載からみて,以下のとおりである。 二次審決甲4:手続補正書(本件特許出願の補正書) 二次審決甲5の1:手続補足書(本件特許出願の補足書) 二次審決甲5の2:宣誓書(本件発明者の宣誓書) 二次審決甲5の3:宣誓書(本件追加発明者の宣誓書) 二次審決甲5の4:発明者変更理由書面(本件特許出願人の代理人提出) 二次審決甲5の5:認定 二次審決甲6:職権訂正 2 本件審判に関連する無効理由の概要 本件審判の[無効理由3]に関連する,請求人が二次審判において主張する無効理由には,以下の無効理由3が含まれている。 請求人は,「本件特許出願人は発明者の変更の手続補正書と同時に提出した「発明者相互の宣誓書」(甲第5号証の2と3参照)と,「発明者変更の理由を記載した書面」(甲第5号証の4参照)とによって,真の発明者は「四国計測」の従業員である林高義・三島靖史・大西英希・林亜希子の4名と,「阪大研究会」の研究員である安藤隆章・杉本裕一郎の2名を併せた6名による共同研究による「共同発明」の同宣誓に基づき「職権訂正」(甲第6号証参照)によって,本件特許出願の真の発明者と認定(甲第5号証5参照)されている。これは本件特許出願発明が四国計測と阪大研究所の「共同発明」であることを事実誤認されて,「発明者]と「特許出願人」であることを認めたものである。よって,この手続補正書(甲第4号証参照)は不受理処分にすべきものである。」(二次審決3頁1?11行) と述べた上で,無効理由3として,「〔理由3〕 本件特許出願は,「四国計測」の従業員4名と「阪大研究会」の研究員2名との共同発明であるから,特許法第38条の規定により,四国計測のみで単独出願できないものであり,本件特許出願は特許法第123条第2項の特許無効審判により,本件特許は無効にすべきである。」(二次審決3頁26?30行) と主張している。 第5 一事不再理についての当審の判断 1 適用法令 (1)特許法167条は,「特許無効審判」「の審決が確定したときは,」「同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」と,いわゆる一事不再理の原則を規定するものであるが,この法条は,平成23年6月8日法律第63号により改正され,確定審決の効力たる一事不再理効の及ぶ範囲が「何人」から「当事者及び参加人」とされた(以下,同法律による改正前後の特許法167条をそれぞれ,「改正前167条」,「改正後167条」という。)。 そして,同法律の附則2条22項により,改正後167条の規定は,同法律の施行日である平成24年4月1日以後に確定審決の登録があった審判と「同一の事実」及び「同一の証拠」に基づく審判について適用し,同施行日前に確定審決の登録があった審判と同一の事実及び同一の証拠に基づく審判については,改正前167条が適用される。 ここでの「同一の事実」とは,同一の無効理由に係る主張事実を指し,「同一の証拠」とは,当該主張事実を根拠付けるための同一の証拠を指すものと解される。 (2)一次審決の確定効(一事不再理効)について 一次審決は,平成22年5月21日に確定登録されているから,本件審判との関係においては,上記改正前167条の規定が適用され,その確定効は,何人に対しても及ぶところ,本件審判の当事者(請求人)は,一次審判と同じ,坪井 條一郎である。 よって,一次審決の一事不再理効は,本件審判に及ぶものである。 (3)二次審決の確定効(一事不再理効)について 第二次審決は,平成26年5月16日に確定登録されているから,本件審判との関係においては,上記改正後167条の規定が適用され,その確定効は,当事者及び参加人にのみ及ぶところ,本件審判の当事者(請求人)は,二次審判と同じ,坪井 條一郎である。 よって,二次審決の一事不再理効も,本件審判に及ぶものである。 (4)以上のとおり,既に確定した一次審決及び二次審決の効力たる一事不再理効はともに,本件審判に対しても妥当するものである。 2 [無効理由1の1の1]について 本件審判の[無効理由1の1の1]における証拠及び主張事実と,一次審決の[職権による審理の理由1]における証拠及び主張事実との同一性について検討する。 (1) 証拠について 本件審判における[無効理由1の1の1]に係る証拠は,甲2の2:特開2002-153262号の「公開特許公報」であり,一次審決の[職権による審理の理由1]における証拠である一次審決刊行物2:特開2002-153262号公報と同一であることは明白である。 (2) 主張事実について ア 本件審判における[無効理由1の1の1]に係る主張事実について 本件審判における[無効理由1の1の1]に係る主張事実として,審判請求書及び本件補正書の記載によれば,平成26年(行ケ)10262号判決15頁12?22行で教示されているごとく,特許法第29条第1項第1号違反による無効の根拠となる事実とは,特許発明と同一の発明が存すること及び当該発明が特許出願前に日本国内又は外国において公然知られたことであるところ,請求人は,本件審判請求書において,自己の主張の根拠となる発明として本件特許に係る出願日よりも前の平成14年5月28日を公開日とする引用公報記載の発明を挙げ,その引用公報(甲2の2)を書証として提出している。そして,引用公報(甲2の2)は,全6頁と比較的短いものであり,基本的な発明の実施の形態としては一つしか記載されていない上,請求人は,本件補正の際に,別紙2-2を提出し,引用公報記載の発明の要約として,その実施形態の要約を「解決手段」として記載している。 そして,別紙2-2には,引用公報(甲2の2)記載の発明の要約として,「鶏卵2はトレイ4内に収容されて保持される。鶏卵2を保持したトレイ4は,第1搬送コンベヤ30によって搬送され,プッシャ38によってワクチン接種部Pに搬入される。ワクチン接種部Pには昇降手段によって昇降される注射針20が設けられており,鶏卵2を安定した姿勢で保持した後,注射針20を下降させて卵殻を挿通し,鶏卵2内にワクチンの原液を接種する。ワクチン接種後の鶏卵2を収容したトレイ4は,第2搬送コンベヤ32によって搬送された後,インデックスプッシャ40,50によって鶏卵一列分ずつ移動されてシール部Qに停止される。シール部Qには鶏卵2と同じ配置で噴射ノズル60が配置されており,これらノズル60からホットメルト接着剤が噴射され前記卵殻に開けられた孔2aが塞がれる。」 ことが記載されている。 また,請求人は,[無効理由1の1の1]に記載のごとく,「発明の詳細な説明」によって開示された,すなわち,甲2の2に記載された発明であるという事実を述べているものの,公然と知られたことについての具体的な事実については「公開特許公報」(甲2の2)で公開されている発明としか主張していない。 イ 一次審決における[職権による審理の理由1]に係る主張事実について 一次審決における[職権による審理の理由1]に係る主張事実として,一次審決においては,刊行物2発明を,一次審決刊行物2の請求項1の記載から「刊行物2には,「鶏卵の殻に開けられた孔を塞ぐ鶏卵の処理方法。」の発明(以下,「刊行物2発明」という。)が記載されていると認められる。」(一次審決68頁28行?末行)と認定して,「6-2-1.本件発明1について」の「(2)刊行物(2)との対比・判断」(一次審決76頁21?28行)において,刊行物2発明と本件発明1とを対比し,「両者はその構成を異にするものであり,両者を同一ということができない。」と判断している。 そして,本件発明2?9については,一次審決の「6-2-2.本件発明3について」の「(2)刊行物(2)との対比・判断」(一次審決82頁15?25行),「6-2-3.本件発明4について」の「(2)刊行物(2)との対比・判断」(一次審決88頁36?89頁7行),「6-2-4.本件発明8について」(一次審決94頁5?15行),「6-2-5.本件発明2,5?7,9について」(一次審決94頁16?23行)において,刊行物2発明と本件発明2?9とを対比し,両者を同一ということができないとの判断をしている。 その上で,一次審決においては,「6-3.まとめ」(一次審決94頁24?31行)において,「本件発明1?9は,いずれも,本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である刊行物1?8(当審注:一次審決刊行物2)に記載された発明とはいえない。」と判断しているものであって,本件発明1?9を,特許法第29条第1項第3号の規定により無効にできないことは確定している。 ウ 検討・判断 甲2の2の発明の要約は,甲2の2の請求項1の内容も反映しているものであることからすれば,発明の要約であれ,請求項1であれ,本件特許発明1?9と対比するために必要な発明としては,一次審決のごとくの「鶏卵の殻に開けられた孔を塞ぐ鶏卵の処理方法。」という同じ発明しか認識できないから,一次審決における[職権による審理の理由1]に係る主張事実を構成する刊行物2の請求項1から認定した発明と,本件審判における[無効理由1の1の1]に係る主張事実を構成する甲2の2:特開2002-153262号の「公開特許公報」記載の発明の詳細な説明から認定した発明とに実質的な違いはない。 また,本件審判では,「特許法第29条第1項第1号」を主張するものの,請求人は,刊行物である特開2002-153262号の「公開特許公報」(甲2の2)の公開を根拠に特許法第29条第1項第3号の主張をしているのであるから,上記「イ 一次審決における[職権による審理の理由1]に係る主張事実について」で述べた特許法第29条第1項第3号の主張事実と実質的に相違するところはない。 よって,本件審判の[無効理由1の1の1]における主張事実と,一次審決の[職権による審理の理由1]における主張事実は,同一であるといえる。 (3) 小括 以上のことから,本件審判の[無効理由1の1の1]と一次審決における[職権による審理の理由1]は,同一の証拠及び同一の事実に基づくものであり,特許法第167条の規定により審判を請求することができないものである。 3 [無効理由1の1の2]について 本件審判の[無効理由1の1の2]における証拠及び主張事実と,一次審決の[職権による審理の理由2]における証拠及び主張事実との同一性について検討する。 (1) 証拠について 本件審判における[無効理由1の1の2]に係る証拠は,甲2の2:特開2002-153262号の「公開特許公報」であり,一次審決の[職権による審理の理由2]における証拠である一次審決刊行物2:特開2002-153262号公報と同一であることは明白である。 (2) 主張事実について ア 本件審判における[無効理由1の1の2]に係る主張事実について 上記「第5 2(2) ア 本件審判における[無効理由1の1の1]に係る主張事実について」で述べたとおりである。 イ 一次審決における[職権による審理の理由2]に係る主張事実について 一次審決における[職権による審理の理由2]に係る主張事実として,一次審決においては,刊行物2発明を,一次審決刊行物2の請求項1の記載から「刊行物2には,「鶏卵の殻に開けられた孔を塞ぐ鶏卵の処理方法。」の発明(以下,「刊行物2発明」という。)が記載されていると認められる。」(一次審決68頁28行?末行)と認定して,「7-2.対比・判断 」の「(1)本件発明1について 」(一次審決95頁5?18行)において,刊行物2発明と本件発明1とを対比し,「本件発明1は,本件出願前に,刊行物1?8(当審注:一次審決刊行物2)に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。」と判断している。 そして,本件発明2?9については,一次審決の「(2)本件発明3について」(一次審決95頁19?末行),「(3)本件発明4について」(一次審決96頁1?17行),「(4)本件発明8について」(一次審決96頁18?29行),「(5)本件発明2,5?7,9について」(一次審決96頁30行?97頁2行)において,刊行物2発明と本件発明2?9とを対比し,刊行物1?8(当審注:一次審決刊行物2)に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないとの判断をしている。 その上で,一次審決においては,「7-3.まとめ」(一次審決97頁3?8行)において,「本件発明1?9は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物(当審注:一次審決刊行物2)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない」と判断しているものであって,本件発明1?9を,特許法第29条第2項の規定により無効にできないことは確定している。 ウ 検討・判断 一次審決における[職権による審理の理由2]に係る主張事実を構成する刊行物2発明と,本件審判における[無効理由1の1の2]に係る主張事実を構成する甲2の2:特開2002-153262号の「公開特許公報」記載の発明とに実質的な違いがないことは,上記「第5 2(2) ウ 検討・判断」で述べたとおりである。 また,[無効理由1の1の2]についての審判請求書の記載には,「本件特許出願は,・・引用公報記載の発明から容易に発明することができた特許発明と解すべきである」という部分があるものの,具体的に容易に発明することができたとする理由は本件補正書をみても明らかでなく,一次審決の[職権による審理の理由2]と主張事実において実質的な違いはない。 よって,本件審判の[無効理由1の1の2]における主張事実と,一次審決の[職権による審理の理由2]における主張事実は,同一であるといえる。 (3) 小括 以上のことから,本件審判の[無効理由1の1の2]と一次審決における[職権による審理の理由2]は,同一の証拠及び同一の事実に基づくものであり,特許法第167条の規定により審判を請求することができないものである。 4 [無効理由1の2]について 本件審判の[無効理由1の2]における証拠及び主張事実と,一次審決の[無効理由4-2]における証拠及び主張事実との同一性について検討する。 (1) 証拠について 本件審判における[無効理由1の2]に係る証拠は,甲4の1文書及び甲4の2:本件特許の公開公報である特開2004-101204号公報であり,甲4の1の1:甲4の1文書の1頁の「自動検卵機」は,一次審決の[無効理由4-2]における証拠である一次審決甲10の1:「自動検卵機」(全1頁)と同一であることは明白である。 また,甲4の2:本件特許の公開公報である特開2004-101204号公報は,一次審判において証拠として提出されていないが,一次審決において,[18b](下記「(2)イ 一次審決における[無効理由4-2]に係る主張事実について」参照。)で摘記しているように,甲4の1の1の「装置概要」の欄に「特開2004-101204(2004年4月2日公開)」と記載されているところの本件特許に係る出願の公開公報を提出し補充した,甲4の1の1の補助的資料といえるものであるから,甲4の2が,本件審判における[無効理由1の2]に係る主張事実を根拠付けるための実質的に新たな証拠であるとはいえない。 よって,本件審判における証拠は,一次審決における証拠と同一証拠の範疇のものといえる。 (2) 主張事実について ア 本件審判における[無効理由1の2]に係る主張事実について 本件審判における[無効理由1の2]に係る主張事実として,本件審判請求書及び本件補正書の記載によれば,平成26年(行ケ)10262号判決16頁末行?17頁11行で教示されているごとく,請求人は,無効理由1の2についても,特許法第29条第1項第1号を根拠条文として挙げ,本件特許発明1?9はいわゆる公知の発明であると主張しているところ,その具体的な理由として,甲4の1文書のうち広告宣伝用の冊子の「自動検卵機」(甲4の1の1)の「装置概要」に「特開2004-101204」(甲4の2)と明記されている発明が,本件特許発明1?9(ただし,本件公開公報記載の発明)と同一の発明であるとの主張をしている。そして,甲4の1の1の「装置概要」と題する部分には,「特開2004-101204(2004年4月2日公開)」「本装置は,インフルエンザワクチン用有精卵を良卵と死卵に選別する装置です。専用トレイ(36個詰)に乗せられた卵を装置に供給すると,トレイ毎に画像判定を行い死卵を抜き取り,良卵をトレイに残して排出します。排出したトレイは死卵のところが空席になっています。手詰めで36個詰めに直します。死卵は,回収用の空トレイに乗せて排出します。」と記載されていることが認められる。 また,[無効理由1の2]についての本件審判においては,「本件特許発明1?9は,特許出願前に日本国内において公然知られた発明である」との主張はあるものの,本件特許に係る出願前に公然と知られていたことに関する具体的な主張はない。 イ 一次審決における[無効理由4-2]に係る主張事実について 一次審決における[無効理由4-2]に係る主張事実として,一次審決においては,「(13)甲第10号証の1」の欄(一次審決49頁28行?50頁9行)にあるように, 「[18a]「自動検卵機」(表題) [18b]「装置概要 特開2004-101204(2004年4月2日公開・・・ [18c][画像撮影部のシステム構成」の図」の内容を摘記すると共に,「(5)甲第10号証の1に記載された発明について」の欄(一次審決55頁14?32行)で,甲第10号証の1発明を,一次審決甲10の1の記載事項である[18a]?[18c]の記載(一次審決49頁28行?50頁9行)から「専用トレイに乗せられた卵を装置に供給し,トレイ毎に,トレイに整列された有精卵を照射し,内部状態をCCDカメラで撮影し,色あい,血管の分布状況などから発育状態を画像処理で判定を行う画像判定を行い,死卵を抜き取り,良卵をトレイに残して排出する,有精卵を良卵と死卵に選別する自動検卵方法。」の発明(以下,「甲第10号証の1発明」という。)」と認定した上で,「しかし,上記[18b]には,本件特許第3998184号に係る出願の,出願公開番号および公開日が記載されている。本件特許に係る出願の出願公開番号および公開日は,本件特許の出願前に知り得ることができないものであるから,甲第10号証の1は本件特許出願前に頒布された刊行物とはいえない。また,甲第10号証の1発明が,本件出願前に知られていたこと,または公然実施されていたことを示す証拠はない。 したがって,甲第10号証の1発明が,本件特許に係る出願前に公然と知られていた発明または公然実施されていた発明ということはできない。」と判断しているものであって,本件発明1?9を,特許法第29条第1項第1号の規定により無効にできないことは確定している。 ウ 検討・判断 一次審決の甲第10号証の1発明は,上記「イ 一次審決における[無効理由4-2]に係る主張事実について」で述べたように,一次審決甲10の1は本件特許出願前に頒布された刊行物とはいえないし,本件出願前に知られていたこと,または公然実施されていたことを示す証拠はなく,本件特許に係る出願前に公然と知られていた発明または公然実施されていた発明ということはできないことは一次審決において確定している。 他方,本件審判の[無効理由1の2]についても,一次審決における[無効理由4-2]同様,甲4の1の1に記載されている装置が「特許出願前に日本国内において公然知られた発明」であると主張するだけで,本件特許に係る出願前に公然と知られていた事実についての具体的な主張はない。 そうすると,一次審決の甲第10号証の1発明が,本件審判で請求人の主張するとおり本件公開公報「特開2004-101204」(甲4の2)記載の発明を備えているか否かにかかわらず,本件特許に係る出願前に公然と知られていた発明または公然実施されていた発明というはできないということについては変わりはなく,本件審判の[無効理由1の2]における主張事実と,一次審決の[無効理由4-2]における主張事実は,同一であるといえる。 (3) 小括 以上のことから,本件審判の[無効理由1の2]と一次審決における[無効理由4-2]は,同一の証拠及び同一の事実に基づくものであり,特許法第167条の規定により審判を請求することができないものである。 5 [無効理由2の1の1]について 本件審判の[無効理由2の1の1]における証拠及び主張事実と,一次審決の[無効理由4-3]における証拠及び主張事実との同一性について検討する。 (1) 証拠について 本件審判における[無効理由2の1の1]に係る証拠は,甲4の1の1:甲4の1文書の1頁の「自動検卵機」であり,一次審決の[無効理由4-3]における証拠である一次審決甲10の1:「自動検卵機」(全1頁)と同一であることは明白である。 (2) 主張事実について ア 本件審判における[無効理由2の1の1]に係る主張事実について 本件審判における[無効理由2の1の1]に係る主張事実として,本件審判請求書の記載によれば,請求人は,無効理由2の1の1については,特許法第29条第1項第2号を根拠条文として挙げ,本件特許発明1?9はいわゆる公用の発明であると主張しているところ,その具体的な理由として,甲4の1の1で公開した「装置概要」に記載されている「自動検卵機」が,本件特許発明1?9と同一の発明であるとの主張をしている。そして,甲4の1の1の「装置概要」と題する部分には,「特開2004-101204(2004年4月2日公開)」「本装置は,インフルエンザワクチン用有精卵を良卵と死卵に選別する装置です。専用トレイ(36個詰)に乗せられた卵を装置に供給すると,トレイ毎に画像判定を行い死卵を抜き取り,良卵をトレイに残して排出します。排出したトレイは死卵のところが空席になっています。手詰めで36個詰めに直します。死卵は,回収用の空トレイに乗せて排出します。」と記載されていることが認められる。 また,[無効理由2の1の1]についての本件審判においては,本件特許に係る出願前に公然と実施されていたことに関する具体的な主張はない。 イ 一次審決における[無効理由4-3]に係る主張事実について 一次審決における[無効理由4-3]に係る主張事実として,上記「第5 4(2)イ 一次審決における[無効理由4-2]に係る主張事実について」で述べたとおり,一次審決において,「甲第10号証の1発明が,本件特許に係る出願前に公然と知られていた発明または公然実施されていた発明ということはできない。」と判断しているものであって,本件発明1?9を,特許法第29条第1項第2号の規定により無効にできないことは確定している。 ウ 検討・判断 上記「第5 4(2)ウ 検討・判断」で述べたとおり,甲4の1の1に記載されている装置が,本件特許に係る出願前に公然と知られていた発明または公然実施されていた発明ということはできないことは,一次審決において確定している。 そして,本件審判の[無効理由2の1の1]においても,一次審決における[無効理由4-3]同様,甲4の1の1に記載されている装置が,本件特許に係る出願前に公然と実施されていた事実についての具体的な主張はない。 よって,本件審判の[無効理由2の1の1]における主張事実と,一次審決の[無効理由4-3]における主張事実は,同一であるといえる。 (3) 小括 以上のことから,本件審判の[無効理由2の1の1]と一次審決における[無効理由4-3]は,同一の証拠及び同一の事実に基づくものであり,特許法第167条の規定により審判を請求することができないものである。 6 [無効理由2の1の2]について 本件審判の[無効理由2の1の2]における証拠及び主張事実と,一次審決の[無効理由4-4]における証拠及び主張事実との同一性について検討する。 (1) 証拠について 本件審判における[無効理由2の1の2]に係る証拠は,甲4の1の2:甲4の1文書の2?12頁「有精卵の検査手法」であり,一次審決の[無効理由4-4]における証拠である一次審決甲10の2:「有精卵の検査手法」(全11頁)と同一であることは明白である。 また,一次審決甲10の2に記載された甲第10号証の2発明が,公然と知られた及び公然実施されたことを立証する証拠として,一次審決甲9の9?甲9の12が提出されている(一次審決甲9の10?甲9の12について,本件審判においては未提出の資料である。)ものの,下記「(2)イ 一次審決における[無効理由4-4]に係る主張事実について」で述べたとおり,一次審決甲9の9?甲9の12が,一次審判における[無効理由2の1の2]に係る主張事実を根拠付けるための実質的な証拠であるとはいえない。 よって,本件審判における証拠は,一次審決における証拠と同一証拠の範疇のものといえる。 (2) 主張事実について ア 本件審判における[無効理由2の1の2]に係る主張事実について 本件審判における[無効理由2の1の2]に係る主張事実として,審判請求書の記載によれば,請求人は,無効理由2の1の2については,特許法第29条第1項第2号を根拠条文として挙げ,本件特許発明1?9はいわゆる公用の発明であると主張しているところ,その理由として,甲4の1の2:甲4の1文書の2?12頁「有精卵の検査手法」で使用する「自動検卵機」が,本件特許発明1?9と同一の発明であるとの主張をしていると認められるが,本件審判において,[無効理由2の1の2]に係る具体的な主張事実はない。 イ 一次審決における[無効理由4-4]に係る主張事実について 一次審決における[無効理由4-4]に係る主張事実として,一次審決においては,「(14)甲第10号証の2」の欄(一次審決50頁10行?51頁30行)にあるように,一次審決甲10の2における「有精卵の検査方法」の冊子の内容を[19a]?[19h]に分けて摘記すると共に,「(6)甲第10号証の2に記載された発明について」の欄(一次審決55頁33行?58頁8行)で,甲第10号証の2発明を,[19a]?[19h]のうち,[19b]?[19g]の記載から「画像検出部の遮光性構造物内において,気室側から卵内部に光を照射し,内部に散乱した光を,カラーCCDカメラにて撮影し,画像処理装置にて,撮影したカラー画像のR成分を用いて卵全体を,気室と血管分布領域のコントラスト差が大きいG成分を用いて気室の領域を抽出し,両者の排他的論理和をとることで血管分布領域を抽出し,気室付近における出血の状態,気室境界付近の濃度勾配,血管分布領域の面積,血管長の計測結果をもとに,良卵/死卵を判定する発育状態を検査する有精卵の検査法。」の発明(以下,「甲第10号証の2発明」という。)」と認定するとともに,「また,[19a]の記載によると,甲第10号証の2は,本件特許の発明者の一部とされている林亜希子,大西英希,林高義,三島靖史の4名が作成し,頒布したものといえるが,公知となった日時は不明である。」とし,「甲第10号証の2発明と,甲第9号証の9?甲第9号証の12に記載された発明とが同一であるかについて検討すると,甲第9号証の9には,請求人等の発明した有精卵の検卵装置に関する開発経緯が記載されているが,有精卵の検査法についての具体的な記載はない。・・・甲第10号証の2発明と甲第9号証の10?甲第9号証の12に記載された発明とが同一であるとはいえない。したがって,仮に甲第9号証の10?甲第9号証の12に記載された発明が公知公用であったことが立証されたとしても,甲第10号証の2発明が本件特許に係る出願前に公然知られていたまたは公然実施をされていたとはいえない。」と判断している。その上で,一次審決においては,「よって,甲第10号証の2発明は,甲第9号証の1?甲第9号証の12を考慮しても,本件特許に係る出願前に公然知られていたまたは公然実施されていたとはいえないものである。」と判断しているものであって,本件発明1?9を,特許法第29条第1項第2号の規定により無効にできないことは確定している。 ウ 検討・判断 本件審判における甲4の1の2で公開した「自動検卵機」,すなわち「有精卵の検査方法」の冊子は,6?9頁に卵の画像例が記載されている全9頁と比較的短いものであり,「有精卵の検査方法」で使用する「自動検卵機」をその記載全体から把握することは容易であるが,本件審判の甲4の1の2で公開された発明がどのようなものであれ,一次審決において,「甲第10号証の2発明は,甲第9号証の1?甲第9号証の12を考慮しても,本件特許に係る出願前に公然知られていたまたは公然実施されていたとはいえないものである。」(一次審決58頁6?8行)ことが判断され,確定している。 よって,本件審判の[無効理由2の1の2]における主張事実と,一次審決の[無効理由4-4]における主張事実は,同一であるといえる。 (3)小括 以上のことから,本件審判の[無効理由2の1の2]と一次審決における[無効理由4-4]は,同一の証拠及び同一の事実に基づくものであり,特許法第167条の規定により審判を請求することができないものである。 7 [無効理由2の2]について 本件審判の[無効理由2の2]における証拠及び主張事実と,一次審決の[無効理由4-1]における証拠及び主張事実との同一性について検討する。 (1) 証拠について 本件審判における[無効理由2の2]に係る証拠を,一次審決の[無効理由4-1]における証拠と対比する。 甲3の1の1:本件報告書の1?2頁の「検卵機開発経過報告書」と題する文書は,一次審決甲9の9:「検卵機開発経過報告書」(全2頁)平成21年3月25日と同一である。 甲3の1の2:本件報告書の3頁の「打合せ議事録」と題する文書(甲第9号証の2)は,一次審決甲9の2:「打合せ議事録」(全1頁)平成13年9月15日と同一である。 甲3の1の3:本件報告書の4頁の右下の名称の欄に「たまご検卵シリンダー機構 構想図」と記載された文書は,一次審決甲9の3:「たまご検卵シリンダー機構 構想図」(全1頁)平成14年1月5日と同一である。 甲3の1の4:本件報告書の5頁の右下の名称の欄に「たまごけ検卵器」と記載された文書は,一次審決甲9の4:「たまごけ検卵器」(全1頁)と同一である。 甲3の1の5:本件報告書の6頁の送信先 (株)熊本アイディエム高倉社長,発信元 林時計工業株式会社福岡営業所山中幸久の「FAX送付状」と題する文書は,一次審決甲9の5:「FAX送付状」(全1頁)平成13年12月3日と同一である。 甲3の1の6:本件報告書の1の7頁の,右下の名称の欄に「検卵装置 全体図」と記載された文書は,一次審決甲9の6:「検卵装置 全体図」(全1頁)平成14年10月12日と同一である。 甲3の1の7:本件報告書の8頁の,右上の図面名称の欄に「ライトガイド外観図」と記載された文書は,一次審決甲9の7:「ライトガイド外観図」(全1頁)平成13年11月28日と同一である。 甲3の1の8:本件報告書の9?19頁の「設備見積仕様書」と題する文書は,一次審決甲9の8:「設備見積仕様書」(全11頁)平成14年10月8日と同一である。 一次審決甲9の1:「有精卵の検卵装置に関する経過説明」(全1頁)平成17年10月25日(本件審判においては未提出の資料である。),及び一次審決甲9の9:「検卵機開発経過報告書」(全2頁)平成21年3月25日(甲3の1の1:本件報告書の1?2頁の「検卵機開発経過報告書」と題する文書と同一である)は,下記「(2)イ 一次審決における[無効理由4-1]に係る主張事実を構成する発明について」で述べたとおり,甲第9号証の1発明の認定に用いた資料でなく,また,下記「(2)エ 公然実施された事実について」で述べたとおり,公然実施された事実を裏付けるための資料でもないから,一次審決における[無効理由4-1]に係る主張事実を根拠付けるための証拠とはいえない。 また,甲3の1の1:本件報告書の1?2頁の「検卵機開発経過報告書」と題する文書(一次審決甲9の9)は,下記「(2)ア 本件審判における[無効理由2の2]に係る主張事実について」で述べたとおり,本件審判における[無効理由2の2]に係る主張事実を具体的に特定するための資料でないから,本件審判における[無効理由2の2]に係る主張事実を根拠付けるための証拠とはいえない。 さらに,甲3の2の1?甲3の2の9の株式会社坪井種鶏孵化場所有の各地の孵化場や種鶏場の所在を示すの文書,及び,甲3の2の10の株式会社坪井種鶏孵化場の登記簿謄本の写しは,一次審判においては未提出の資料である。 これに対して,一次審判において,請求人は,「理由3:日本国又は外国において公知公用の発明である。」(一次審判請求書第8頁第11行)と主張するものの,具体的に公然実施された事実を述べていない。その上で,下記「(2)エ 公然実施された事実について」で述べたとおり,一次審決においては,どのような公然実施の事実があっても,第9号証の1発明と本件発明1?9とは同一ではなく,本件発明1?9を無効にできないことは確定しているのであって,実質的にあらゆる公然実施の事実について審理対象としている。 そして,請求人が新たに追加した甲3の2の1?甲3の2の9の株式会社坪井種鶏孵化場所有の各地の孵化場や種鶏場の所在を示すの文書,及び,甲3の2の10の株式会社坪井種鶏孵化場の登記簿謄本の写しは,上記審理対象となった公然実施の事実の範囲内の事実を示そうとする証拠であって,あらゆる公然実施の事実について一次審決で判断がなされている以上,実質的に新たな証拠とはいえない。 なお,一次審決甲9の10?一次審決甲9の12については,上記「6(1) 証拠について」で述べたとおり,一次審決の[無効理由4-1]における証拠ではない。 よって,本件審判における[無効理由2の2]に係る証拠は,一次審決の[無効理由4-1]における証拠と同一証拠の範疇のものといえる。 (2) 主張事実について ア 本件審判における[無効理由2の2]に係る主張事実について 本件審判における[無効理由2の2]に係る主張事実として,審判請求書及び本件補正書の記載によれば,平成26年(行ケ)10262号判決18頁12行?19頁4行で教示されているごとく,請求人は,無効理由2の2については,特許法第29条第1項第2号を根拠条文として挙げ,本件特許発明1?9は,いわゆる公用の発明であると主張している。同号違反による無効の根拠となる事実とは,特許発明と同一の発明が存すること及び当該発明が特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされたことであるところ,請求人は,本件特許発明1?9は,請求人が公開した「自動検卵機」と同一の装置であると主張して,本件報告書を書証として提出している。該報告書は,報告文書及びその添付書面という複数の書面から構成されているが,これらの添付書面は,請求人から依頼を受けて熊本アイディーエムが設計した「自動検卵機」の一連の開発経緯を説明するための資料であり,報告文書の記載からすれば,その最終的な開発結果として平成14年10月8日付の設備見積仕様書(甲3の1の8)が添付されているのであるから,請求人は,同設備見積仕様書(甲3の1の8)記載の装置が本件特許発明1?9と同一であると主張しているものと理解できる上,請求人は,本件補正の際に,本件特許発明1?9と同一の装置であることは上記設備見積仕様書(甲3の1の8)の「1.装置概要」の記入によって明らかである旨の記載及びこの設備見積仕様書(甲3の1の8)に基づいて製造された試作品を請求人の孵化工場(該孵化工場の所在地は甲3の2の1?甲3の2の9)でテストを繰り返して市場化が開始されたことをもって公然実施と解するべきであるとの記載も加えている。そして,同設備見積仕様書(甲3の1の8)の「1.装置概要」には,「卵トレーを,装置内にセットし,そのトレーを1個毎に搬送させ,整列・検卵・不良取出しを行うもので,検卵部でライトアップを行い,目視によって,良否判定を行い,次工程で不良品を自動的に取り出す装置です。」との記載がされている。 イ 一次審決における[無効理由4-1]に係る主張事実を構成する発明について 一次審決における[無効理由4-1]に係る主張事実を構成する発明として,一次審決においては,一次審判甲9の1?甲9の9の記載から, 「以上より,坪井條一郎,株式会社熊本アイディーエムの高倉信,林時計工業株式会社福岡営業所の山中幸久の3名または上記3名がそれぞれ所属する法人が作成したと推定できる甲第9号証の2?甲第9号証の6および甲第9号証の8の記載事項は,甲第9号証の1発明に関する記載事項であるといえる。 また,甲第9号証の5の[10a],[10g]および甲第9号証の7の[12b]の記載によると,甲第9号証の7「ライトガイド外観図」は,甲第9号証の5「FAX送り状」に,別紙として添付された外観図であると認められるから,甲第9号証の7の記載事項も,甲第9号証の1発明に関する記載事項であるといえる。」(一次審決53頁2?11行)と判断し,甲第9号証の1発明を,一次審判甲9の1?甲9の9のうち,一次審判甲9の1及び一次審判甲9の9を除く一次審判甲9の2?甲9の8の記載から「投入部,整列部,検査部(1),検査部(2),排出部,良品供給,予備スペース(1),予備スペース(2),取出部を備えた検卵装置において,卵トレーを,装置内にセットし,そのトレーを1個毎に搬送させ,整列・検卵・不良取出しを行うもので,6分岐のライトガイドφ3および150W光源を有する検卵用照明を用い,卵トレーの下部より,各卵毎にゴム製カップを持ち上げ上部にある光ファイバー先端にジャバラパットを介して押し当てて,検卵部でライトアップを行い,目視によって,良否判定を行い,不良の位置のスイッチを押すことによって,次工程で不良品を自動的に取り出し,バケツ等に落下させて排出し,不良品をカウントする検卵方法。」と認定して,「4-2-1.本件発明1について」の「(1)甲第9号証の1発明との対比・判断」(一次審決58頁21行?59頁10行)において,第9号証の1発明と本件発明1とを対比し,「両者はその構成を異にするものであり,両者を同一ということができない。」と判断している。 そして,本件発明2?9については,一次審決の「4-2-2.本件発明3について」の「(1)甲第9号証の1発明との対比・判断」(一次審決60頁21行?61頁9行),「4-2-3.本件発明4について」の「(1)甲第9号証の1発明との対比・判断」(一次審決62頁32行?63頁18行),「4-2-4.本件発明8について」(一次審決64頁32行?65頁8行),「4-2-5.本件発明2,5?7,9について」(一次審決65頁9?18行)において,第9号証の1発明と本件発明2?9とを対比し,両者を同一ということができないとの判断をしている。 その上で,一次審決においては,「4-3.まとめ」(一次審決65頁19?31行)において,「甲第9号証の2?甲第9号証の8・・・に記載された発明(当審注:第9号証の1発明)・・・は・・・本件発明1?9と同一ではないから,本件発明1?9は,その出願前に日本国内又は外国において,公然知られた発明または公然実施をされた発明であるとはいえない。また,甲第9号証の1(当審注:本件審判において未提出の資料),甲第9号証の9(当審注:甲3の1の1),・・・には,検査法または検査装置に関する発明が記載されていない。」と判断しているものであって,本件発明1?9を,特許法第29条第1項第2号の規定により無効にできないことは確定している。 ウ 検討・判断 設備見積仕様書(甲3の1の8)は,甲3の1の2?甲3の1の8(一次審決甲9の2?甲9の8)に記載の文書の最終的な発表結果であるから,その設備見積仕様書(甲3の1の8)の「1.装置概要」は,一次審決甲9の2?甲9の8に記載された発明(当審注:第9号証の1発明)の要旨であることからすれば,本件特許発明1?9と対比するために必要な発明としては,一次審決と同じ発明しか認識できない。 よって,一次審決における[無効理由4-1]に係る主張事実を構成する第9号証の1発明は,一次審決甲9の8(甲3の1の8)に記載された発明でもあるから,本件審判の設備見積仕様書(甲3の1の8)に記載されたものと,主張事実を構成する発明において実質的な違いはない。 エ 公然実施された事実について 公然実施された事実として,本件審判の[無効理由2の2]においては,上記「ア 本件審判における[無効理由2の2]に係る主張事実について」で述べたとおり,設備見積仕様書(甲3の1の8)に基づいて製造した試作品を請求人の孵化工場(該孵化工場の所在地は甲3の2の1?甲3の2の9)でテストを繰り返して市場化が開始された旨の事実を主張している。 これに対して,請求人は,一次審判の[無効理由4-1]において,甲第9号証の1発明における具体的な公然実施の事実についての主張はしていないところ,上記「イ(ア) 甲第9号証の1発明について」で摘記したとおり,一次審決の「4-3.まとめ」(一次審決65頁19?31行)において,「甲第9号証の2?甲第9号証の8・・・に記載された発明(当審注:甲第9号証の1発明)が,本件特許に係る出願前に公然知られたか,および,本件特許に係る出願前に公然実施をされたかについて検討するまでもなく,上記発明は・・・本件発明1?9と同一ではない」と判断しているものであって,本件発明1?9は,どのような公然実施の事実があっても,特許法第29条第1項第2号の規定により,本件発明1?9を無効にできないことは確定している。 よって,上記「ウ 検討・判断」で述べたように,本件審判と一次審判とで主張事実を構成する発明が異なることはなく,また,上記したように一次審判で主張事実を構成する発明が,どのような公然実施の事実があっても本件発明1?9を無効にできないと判断している以上,本件審判の[無効理由2の2]の証拠及び主張事実と,一次審決の[無効理由4-1]における証拠及び主張事実は同一の事実関係に基づくものといえる。 (3) 小括 以上のことから,本件審判の[無効理由2の2]と一次審決における[無効理由4-1]は,同一の証拠及び同一の事実に基づくものであり,特許法第167条の規定により審判を請求することができないものである。 8 [無効理由3]について 本件審判の[無効理由3]における証拠及び主張事実と,二次審決の[無効理由3]における証拠及び主張事実との同一性について検討する。 (1) 証拠について 特許法第38条違反は,特許を受ける権利が共有に係るときに,各共有者が共同で特許出願をしなかった場合が該当するものであり,補正についての瑕疵があっても同条違反に該当するとは解されないから,本来的には,発明者の追加手続きに関する文書である甲5の1及び甲5の2は,特許法第38条違反を主張する本件審判における[無効理由3]に係る主張事実を根拠付けるための証拠とはいえず,特許法第38条違反に関係する証拠は,本件審判及び二次審決とも提出されていない。 ここで,下記「(2) 主張事実について」の主張内容に鑑み,甲5の1及び甲5の2を,当該主張に関連する二次審決の証拠と対比しておく。 甲5の1の1:本件特許に係る出願(特願2002-259297号)の平成15年1月31日付け手続補正書は,二次審決甲4:手続補正書(本件特許出願の補正書)と同一である。 甲5の1の2:同年5月10日作成の職権訂正履歴(職権訂正)は,二次審決甲6:職権訂正と同一である。 甲5の2の1:本件特許に係る出願(特願2002-259297号)の平成15年2月3日付け手続補足書は,二次審決甲5の1:手続補足書(本件特許出願の補足書)と同一である。 甲5の2の2:添付書類(本件発明者の宣誓書)は,二次審決甲5の2:宣誓書(本件発明者の宣誓書)と同一である。 甲5の2の3:添付書類(本件追加発明者の宣誓書)は,二次審決甲5の3:宣誓書(本件追加発明者の宣誓書)と同一である。 甲5の2の4:添付書類(発明者変更の理由を記載した書面)は,二次審決甲5の4:発明者変更理由書面(本件特許出願人の代理人提出)と同一である。 また,二次審決甲5の5:認定(本件特許出願の方式審査官)は,本件審判においては未提出の資料であるが,発明者相互の宣誓書(二次審決甲5の2,二次審決甲5の3)及び発明者変更の理由を記載した書面(二次審決甲5の4)を提出されたことを特許庁が認定した補助的資料であるので,二次審決における[無効理由3]に係る主張事実を根拠付けるための証拠ではない。 よって,本件審判の[無効理由3]における証拠は,二次審決の[無効理由3]における証拠と同一証拠の範疇のものといえる。 (2) 主張事実について ア 本件審判における[無効理由3]に係る主張事実について 本件審判における[無効理由3]に係る主張事実として,審判請求書の記載によれば,平成26年(行ケ)10262号判決20頁15?24行で教示されているごとく,請求人は,無効理由3については,特許法第38条を根拠条文として挙げている。そして,請求人が主張する無効理由3についての具体的な理由は,請求人が提出した書証(甲5の1及び甲5の2)を併せて読めば,本件特許発明1?9は四国計測内の社員及び財団法人阪大微生物病研究会内の社員が共同発明者である共同発明であるのに,出願時には四国計測の社員のみが発明者とされ,四国計測が単独出願をしていたものであり,その後,四国計測が,特許を受ける権利を承継することを証明する書面(譲渡書等)の提出をしていないのに,担当審査官が共同発明として発明者を追加する補正を認めたことは違法であり,このような手続違背があることをもって無効な出願と解すべきであるとの主張をするものと解することができる。 イ 二次審決における[無効理由3]に係る主張事実について 二次審決における[無効理由3]に係る主張事実として,二次審決においては,請求人は,「本件特許出願人は発明者の変更の手続補正書(当審注:二次審判甲4)と同時に提出した「発明者相互の宣誓書」(甲第5号証の2と3参照)と,「発明者変更の理由を記載した書面」(甲第5号証の4参照)とによって,真の発明者は「四国計測」の従業員である林高義・三島靖史・大西英希・林亜希子の4名と,「阪大研究会」の研究員である安藤隆章・杉本裕一郎の2名を併せた6名による共同研究による「共同発明」の同宣誓に基づき「職権訂正」(甲第6号証参照)によって,本件特許出願の真の発明者と認定(甲第5号証5参照)されている。これは本件特許出願発明が四国計測と阪大研究所の「共同発明」であることを事実誤認されて,「発明者]と「特許出願人」であることを認めたものである。よって,この手続補正書(甲第4号証参照)は不受理処分にすべきものである。」(二次審決3頁1?11行)と,発明者の追加手続きに関する補正に瑕疵がある旨述べた上で, 「〔理由3〕 本件特許出願は,「四国計測」の従業員4名と「阪大研究会」の研究員2名との共同発明であるから,特許法第38条の規定により,四国計測のみで単独出願できないものであり,本件特許出願は特許法第123条第2項の特許無効審判により,本件特許は無効にすべきである。」(二次審決3頁26?30行) との主張している。 この主張を受けて,二次審決においては,「被請求人の従業員である林高義,三島靖史,大西英希,及び林亜希子と微研の研究員の安藤隆章,及び杉本有一郎の6名が本件特許を発明し」たと認定した上で, 「本件出願は,四国計測工業株式会社の単独出願ができるものであり,本件特許出願が,特許法第38条の「特許を受ける権利が共有に係るときは,各共有者は,他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができない。」の規定に違反するものでないことは明らかである。」と判断しているものであって,本件発明1?9を,特許法第38条の規定により無効にできないことは確定している。(二次審決23頁3?26行)。 ウ 検討・判断 本件審判の[無効理由3]は,直接的には,発明者を追加する補正の瑕疵を理由として特許法第38条違反を主張しているものであるが,この点,特許法第38条違反は,特許を受ける権利が共有に係るときに,各共有者が共同で特許出願をしなかった場合が該当するものであり,補正についての瑕疵があっても同条違反に該当するとは解されないから,請求人の主張は同条についての独自の理解を前提とするものであり,失当であるというべきであることに鑑みると,本件審判における請求人の同条に関係する主張事実は,「本件特許発明1?9は四国計測内の社員及び財団法人阪大微生物病研究会内の社員が共同発明者である共同発明であるのに,出願時には四国計測の社員のみが発明者とされ,四国計測が単独出願をしていたものであ」るので,特許法第38条の規定により,本件特許1?9は無効にすべきであると解することができる。 他方,二次審決では,上述のとおり,「本件出願は,四国計測工業株式会社の単独出願ができるものであり,本件特許出願が,特許法第38条の「特許を受ける権利が共有に係るときは,各共有者は,他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができない。」の規定に違反するものでないことは明らかである。」と判断しているものであって,本件発明1?9を,特許法第38条の規定により無効にできないことは確定している。 よって,本件審判の[無効理由3]と二次審決の[無効理由3]は,主張の仕方は異なっているとしても,基礎となる主張事実は同一であるといえる。 なお,本件審判の[無効理由3]のなかで主張する発明者を追加する補正の瑕疵についても,確定している二次審決において,上記「イ 二次審決における[無効理由3]に係る主張事実について」のなかで摘記したとおり,「被請求人の従業員である林高義,三島靖史,大西英希,及び林亜希子と微研の研究員の安藤隆章,及び杉本有一郎の6名が本件特許を発明し」たものと認定し,実質的に,発明者の追加手続きに関する補正に瑕疵がない旨の判断をしているので,本件審判における新たな主張事実とはいえない。 (3) 小括 以上のことから,本件審判請求の[無効理由3]と二次審決における[無効理由3]は,同一の証拠及び同一の事実に基づくものであり,特許法第167条の規定により審判を請求することができないものである。 第6 結論 以上のとおりであるから,本件審判において,本件特許発明1?9につき主張される無効理由1の1の1,無効理由1の1の2,無効理由1の2,無効理由2の1の1,無効理由2の1の2,無効理由2の2,及び無効理由3はそれぞれ,一次審判及び二次審判において既に審理が尽くされたものであって,これら先の審判と同一の事実及び同一の証拠に基づく蒸し返し請求にあたる本件審判は,特許法第167条に規定された一事不再理の原則に違反してされた不適法な審判請求であるから,被請求人に答弁書を提出する機会を与えるまでもなく,特許法第135条の規定により却下すべきものである。 審判費用については,特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条により,請求人の負担とする。 よって結論の通り審決する。 |
審理終結日 | 2015-11-24 |
結審通知日 | 2015-11-26 |
審決日 | 2015-12-11 |
出願番号 | 特願2002-259297(P2002-259297) |
審決分類 |
P
1
113・
07-
X
(G01N)
|
最終処分 | 審決却下 |
前審関与審査官 | 西村 仁志 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
藤田 年彦 ▲高▼見 重雄 |
登録日 | 2007-08-17 |
登録番号 | 特許第3998184号(P3998184) |
発明の名称 | 有精卵の検査法および装置 |
代理人 | 須藤 晃伸 |
代理人 | 唐木 浄治 |
代理人 | 須藤 阿佐子 |