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審決分類 審判 査定不服 特39条先願 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1330758
審判番号 不服2016-3050  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-29 
確定日 2017-07-26 
事件の表示 特願2013-514773「アクロレインをグリセロールまたはグリセリンから調製するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月22日国際公開、WO2011/157959、平成25年 8月29日国内公表、特表2013-533862〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2011年6月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年6月17日(FR)フランス)を国際出願日とする出願であって、平成27月1月23日付けで拒絶理由が通知され、同年4月22日に意見書および手続補正書が提出され、同年10月20日付けで拒絶査定され、平成28年2月29日に拒絶査定不服審判が請求され、同年4月28日付けで、拒絶理由が通知され、同年10月26日付けで意見書および手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の発明は、特許請求の範囲及び明細書(以下「本願明細書」という。)の記載からみて、平成28年10月26日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
アクロレインをグリセロールから調製するための方法であって、
グリセロールの脱水が、酸化ジルコニウムに基づく触媒の存在下で実現され、その活性相が、か焼により生じ、少なくとも、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、ならびに少なくとも、酸化タングステンから成ることを特徴とする、方法。」

第3 審判合議体が通知した拒絶の理由
平成28年4月28日付けで審判合議体が通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という)は概略以下のとおりである。

理由:この出願の請求項1,4?14に係る発明は、同一出願人がこの出願前にした下記の出願の請求項1,3?13に係る発明と同一と認められるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができない。

先願:特許法第184条の3第1項に基づき国際出願日(2009年12月16日)に特許出願したとみなされた特願2011-541561号

上記当審拒絶理由の対象となった請求項1に係る発明は、本願発明に対応するものである。

第4 当審の判断
当審は、当審拒絶理由のとおり、本願の請求項1に係る発明は、同一出願人がこの出願前にした上記先願の請求項1に係る発明と同一と認められるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 先願発明
当審の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前の出願に係る特願2011-541561号の請求項1に係る発明(以下「先願発明」という。)は、平成29年1月16日付けの誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
なお、上記出願は、平成29年2月6日付けで特許すべき旨の審決がされている。
また、特願2011-541561号の明細書を、以下「先願明細書」という。

「グリセロールからアクロレインを調製する方法であって、前記グリセロールの脱水が、
a)ジルコニウムと金属との混合酸化物であり、前記金属は、ニオブと、必要に応じてバナジウムから選択される混合酸化物;
b)酸化ジルコニウムと金属の酸化物であり、前記金属は、ニオブと、必要に応じてバナジウムから選択される酸化物;
c)ジルコニウムと金属との混合酸化物であり、前記金属は、タングステンとシリコンから選択される混合酸化物;
d)ジルコニウムとチタンと金属との混合酸化物であり、前記金属は、タングステンとシリコンから選択される混合酸化物、
の何れか1つの触媒の存在下で達成されることを特徴とする方法。」(下線は当審にて追加。以下同様)

2 本願発明と先願発明との対比
本願発明と先願発明とを対比すると、
先願発明の「グリセロールからアクロレインを調製する方法」とは、本願発明の「アクロレインをグリセロールから調製するための方法」であって、先願発明の「前記グリセロールの脱水が、」「触媒の存在下で達成される」「方法」とは、本願発明の「グリセロールの脱水が、」「触媒の存在下で実現され」る「方法」である。
そして、アクロレインをグリセロールから調製するための方法に使用される触媒について、先願発明の何れか1つの触媒の例であるc)の「ジルコニウムと金属との混合酸化物であり、前記金属は、タングステンとシリコンから選択される混合酸化物」とは、ジルコニウムとタングステンとシリコンからなる混合酸化物の場合を含むのであるから、本願発明の「酸化ジルコニウムに基づく触媒」であって、「その活性相が、か焼により生じ、少なくとも、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、ならびに少なくとも、酸化タングステンから成る」ものとの間で、両者は、「酸化ジルコニウム、酸化タングステン、酸化シリコンからなる酸化物」である点で少なくとも一致している。

したがって、両者は、
「アクロレインをグリセロールから調製するための方法であって、
グリセロールの脱水が、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化タングステンから成る酸化物の触媒の存在下で実現される方法。」の点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点:本願発明においては、触媒が、「酸化ジルコニウムに基づく触媒の存在下で実現され、その活性相が、か焼により生じ、少なくとも、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、ならびに少なくとも、酸化タングステンから成る」との特定があるのに対して、先願発明では、「ジルコニウムと金属との混合酸化物であり、前記金属は、タングステンとシリコンから選択される混合酸化物」とされている点

3 相違点の判断
上記相違点について検討する。
(1)本願発明の「酸化ジルコニウムに基づく触媒」について
触媒において、「酸化ジルコニウムに基づく触媒」であることの特定は、酸化物の混合成分として、酸化ジルコニウムが主要な成分として混合されていることを表すものの、具体的な組成を限定しているものではなく、先願発明においても、酸化ジルコニウムが添加されており、「ジルコニウムと金属との混合酸化物」との特定をしていることから、少なくとも酸化ジルコニウムが主要な成分としてその他の金属酸化物とともに混合されているといえる。

そして、先願明細書の【0059】には、先願発明のc)の場合に対応する実施例として、
「例5:触媒Gの作製および特徴付け
シリカでドープされたタングステン化ジルコニア(tungstated zirconia)型の本発明に係る触媒を作製する。この固体の作製は3つの工程を含む。第1工程は、pH=8.8におけるオキソ硝酸ジルコニウムZrO(NO_(3))_(2).xH_(2)O(Aldrich、99%)の溶液と29%アンモニア溶液との共沈殿による、水酸化ジルコニウム水和物の合成である。第2の工程は、Nahas et.al (Journal of Catalysis 247 (2007), p51-60)に記述される手順にしたがった、ケイ素の種による水酸化ジルコニウム水和物の安定化から成る。水酸化ジルコニウム水和物は、pHが11に調節されたアンモニア溶液を含むガラスフラスコに入れられる。その混合物は72時間還流され、その後、ろ過され、変更された水で洗浄される。最後の工程は、過酸化水素に溶解されたタングステン酸H_(2)WO_(4)(Aldrich99%)と水酸化ジルコニウ(審決注:「水酸化ジルコニウム」の誤記と認める。)との交換である。タングステン酸は60℃で35%の過酸化水素溶液に溶解される。溶液のタングステン酸濃度は0.04Mである。その後、タングステン酸溶液は室温に冷却され、シリカでドープされた水酸化ジルコニウムがゆっくり添加される。得られた固体はろ過され、次に、650℃で空気において焼成される。この比表面積は40m_(2)/gである。固体のニオブ、シリコンおよびジルコニウムの含有量はICP-OESにより決定した。この触媒のW/Si/Zrモル組成は4.7/1.4/93.9である。」と記載され、先願発明の混合酸化物において、ジルコニウムの酸化物が主要な成分であることが確認できる。
一方、本願明細書の【0045】には、本願発明に対応する実施例として、
「例1:触媒Aの調製および特徴付け
シリカでドープされたタングステン酸ジルコニア(tungstated zirconia)型の本発明による触媒を調製する。この固体の調製は、3つのステップを含む。第1のステップは、オキシ硝酸ジルコニウム(zirconium oxonitrate)の溶液ZrO(NO_(3))_(2).xH_(2)O(Aldrich、99%)と、pH=8.8の28%アンモニア溶液との共沈殿による、水酸化ジルコニウム水和物の合成である。第2のステップは、Nahasら(Journal of Catalysis 247(2007)、51?60ページ)により記載されている手順に従って、水酸化ジルコニウム水和物をシリカ種により安定させることからなる。水酸化ジルコニウム水和物を、pHを11に調整したアンモニア溶液を含有するガラスフラスコの中に入れる。混合物を72時間還流し、次いで、濾過し、交換水(permuted water)で洗浄する。最後のステップは、過酸化水素に溶解したタングステン酸H_(2)WO_(4)(Aldrich 99%)と、水酸化ジルコニウムとの間の交換である。タングステン酸を、60℃の35%過酸化水素溶液に溶解する。溶液のタングステン酸濃度は、0.04Mである。次いで、タングステン酸溶液を、室温に冷却し、シリカでドープされた水酸化ジルコニウムを、ゆっくり添加する。得られた固体を濾過し、次いで、空気中、650℃でか焼する。それの比表面積は、40m^(2)/gである。固体のニオブ、ケイ素、およびジルコニウム含有量を、ICP-OESによって決定した。この触媒のW/Si/Zrモル組成は、4.7/1.4/93.9である。」と記載され、先願発明の実施例と実質的に同一の記載で同一の結果を記載しており、本願発明の酸化ジルコニウムに基づく触媒が、先願発明の酸化ジルコニウムと酸化タングステンと酸化シリコン(シリカ)からなる混合酸化物と相違するものではないことが理解できる。

(2)活性相がか焼により生じていると特定している点について
次に本願発明の触媒が、「その活性相が、か焼により生じ、少なくとも、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、ならびに少なくとも、酸化タングステンから成る」ことを特定している点について検討する。

本願発明においては、触媒が、か焼によって酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化タングステンから成る活性相を形成している状態を特定しているところ、空気中で焼成することで、原料成分の各酸化物を触媒の活性成分として機能するように、混合酸化物の状態とすることを特定しているにすぎず、すべての酸化物成分が触媒活性に関与していることを表しているものにすぎない。

そして、上記の先願発明に対応した先願明細書の実施例(例5)と本願発明に対応した本願明細書の実施例(例1)をみても、ともに最終的に650℃で空気中で焼成(か焼)することで、触媒を作成しており、同一の混合酸化物の状態となった触媒を合成していることから、本願発明の、活性相が、か焼により生じ、少なくとも、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、ならびに少なくとも、酸化タングステンから成ると特定される触媒と、先願発明の、ジルコニウムとタングステンとシリコンからなる混合酸化物の場合の触媒とは、相違するものではないことが理解できる。

(3)本願発明と先願発明の触媒活性について
次に、念のため本願発明の方法で使用された触媒と先願発明の方法で使用された触媒の性能を比較すると、先願明細書の【0081】の表4の触媒Gの評価結果(例17)と、本願明細書の【0057】の表2の触媒Aの評価結果(例9)は、まったく同じ結果であり、本願発明の方法で使用された、か焼により生じ、少なくとも、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化タングステンから成る酸化ジルコニウムに基づく触媒と先願発明のジルコニウムとタングステンとシリコンからなる混合酸化物の触媒とが同じ性能を有し、結果としてアクロレインをグリセロールから調製するための方法としても相違するところがないことを示している。

(4)小括
したがって、本願発明においては、酸化ジルコニウムに基づく触媒であることを特定し、すべての酸化物成分による活性相が、か焼によって形成されていることを特定しているにすぎず、先願発明においても、酸化ジルコニウムは主要な成分として添加され、触媒を調製する工程で焼成され混合酸化物となっており、すべての酸化物成分が触媒活性に関与する状態になっているのであるから、両者に実質的な相違点はない。
本願明細書と先願明細書に記載された両発明に対応した具体例である実施例の記載は同一であり(なお、本願明細書の実施例で記載された、「空気中、650℃でか焼する。」との記載と、先願明細書の実施例で記載された「650℃で空気において焼成される。」との表現は、か焼と焼成には厳密な区別が存在しないという技術常識からみて、同じ処理を表現したものである。)、触媒としての同一の結果を得ているのであるから、先願発明の混合酸化物からなる触媒と本願発明の活性相がか焼によって形成されている複数の酸化物からなる触媒とを異なるものと理解する理由は存在しない。
よって、上記相違点は形式的な相違点であり、実質的な相違点ではない。

(5)請求人の主張について
請求人は、平成28年10月26日付け意見書III 3.(b)において、「本願発明1(本願発明)は、「酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、ならびに少なくとも酸化タングステンから成る」となりましたので、酸化ケイ素、ならびに、ジルコニウムとタングステンとの混合酸化物である先願発明とは相違するものとなりました。」と主張している。
しかしながら、上記検討のとおり、本願発明は、活性相がか焼により生じたもので、少なくとも単なる酸化物の混合物を表したものではなく、活性相がか焼により生じた混合酸化物であるのだから、先願発明の混合酸化物と明確に区別できるものではなく、本願明細書と先願明細書において、全く同一の具体例が記載され、同一の触媒活性を得ていることも考慮すると、実質的に相違するものとはいえないことは、上述のとおりである。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

4 まとめ
してみると、本願発明は、先願発明と実質的に相違するところはない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、先願発明と同一であるので、その余の請求項について検討するまでもなく、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-21 
結審通知日 2017-02-28 
審決日 2017-03-13 
出願番号 特願2013-514773(P2013-514773)
審決分類 P 1 8・ 4- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 春日 淳一瀬下 浩一  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 加藤 幹
瀬良 聡機
発明の名称 アクロレインをグリセロールまたはグリセリンから調製するための方法  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 蔵田 昌俊  

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