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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 全部無効 1項2号公然実施  B23K
審判 全部無効 2項進歩性  B23K
審判 全部無効 1項1号公知  B23K
管理番号 1330843
審判番号 無効2013-800145  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-08-01 
確定日 2017-08-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第3309245号「プロジェクションナットの供給方法とその装置」の特許無効審判事件についてされた平成26年9月9日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成26年(行ケ)第10230号,平成27年6月24日判決言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 主な手続の経緯
平成 8年12月28日 本件特許出願
(特願平8-359913号)
平成14年 5月24日 特許権の設定登録
(特許第3309245号)
平成14年12月20日 特許異議申立書提出
(異議2002-73160号)
平成15年 6月23日 特許権者青山好高による訂正請求書提出
平成15年 8月19日付け 異議の決定(訂正認容,特許維持)
平成24年 8月 1日 特許権者青山好高による
訂正審判請求書提出
(訂正2012-390099号)
平成24年 8月28日付け 審決(訂正認容)
平成25年 2月14日 請求人セキ工業株式会社による
無効審判請求書提出
(無効2013-800024号
(以下「第1事件」という。))
平成25年 7月31日 第1事件の請求取下げ
平成25年 8月 1日 請求人セキ工業株式会社による
本件無効審判請求書
(以下「請求書」という。)提出
(無効2013-800145号)
平成25年10月28日 被請求人青山好高による審判事件答弁書
(以下「答弁書」という。)提出
平成25年12月 4日付け 審理事項通知
平成26年 1月 7日 請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成26年 1月 7日 被請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成26年 1月17日 第1回口頭審理
平成26年 1月21日 請求人による手続補正書提出
(甲第24ないし26号証の差し替え)
平成26年 1月24日 被請求人による上申書提出
平成26年 1月30日 請求人による当事者尋問申出書及び
当事者尋問事項書提出
平成26年 2月20日 請求人による検証申出書及び
検証指示説明書提出
平成26年 2月20日 被請求人による検証申出書及び
検証指示説明書提出
平成26年 2月20日 参加申請人株式会社テクノアオヤマによる
参加申請書提出
平成26年 2月28日 被請求人による上申書提出
平成26年 3月 5日付け 審理事項通知
平成26年 3月 6日 請求人による上申書提出
平成26年 3月12日 請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成26年 3月19日付け 参加許否の決定(参加の申請を許可)
平成26年 3月20日 第2回口頭審理及び証拠調べ
(当事者尋問及び検証)
平成26年 4月 2日付け 通知書
平成26年 5月 9日 請求人による上申書提出
平成26年 5月 9日 被請求人による上申書,検証申出書及び
検証指示説明書提出
平成26年 5月16日 請求人による上申書提出
平成26年 5月23日 被請求人による上申書提出
平成26年 6月 4日付け 書面審理通知
平成26年 6月27日付け 審決の予告
平成26年 8月20日 被請求人による上申書提出
平成26年 8月25日付け 審理終結通知
平成26年 9月 9日付け 審決(以下「1次審決」という。)
平成26年10月15日 被請求人による1次審決取消訴訟
(平成26年(行ケ)第10230号)
訴状提出
平成27年 6月24日 判決(1次審決取消)
(以下「1次審決取消判決」という。)
平成27年 7月 8日 請求人による上告及び上告受理申立て
平成27年 8月31日 請求人による上告及び
上告受理申立ての取り下げ
平成27年 9月25日 請求人による上申書提出
平成27年10月28日付け 審尋
平成27年12月 4日 請求人による回答書提出
平成27年12月 4日 被請求人による回答書提出
平成28年 1月14日 請求人による上申書提出
平成28年 1月14日 被請求人による上申書提出
平成28年 3月18日付け 審尋
平成28年 4月21日 請求人による回答書提出
平成28年 4月22日 被請求人による回答書提出


第2 本件発明
本件特許に係る発明は,明細書及び図面の記載からみて,平成24年8月1日付けの訂正審判請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載されたとおりのものであるところ,これを,請求人が請求書で示す符号の順序で構成要件に分説して記載すると,次のとおりである。(以下,本件特許に係る発明を「本件発明」といい,その内の各請求項に係る発明を「特許発明1」などという。また,この審決では,読点は全てコンマ(,)で表記する。)

【請求項1】
M:円形のボウルに振動を与えてプロジェクションナットを送出するパーツフィーダと
N:このパーツフィーダからのプロジェクションナットをストッパ面に当てて所定位置に停止させ,
O:その後,供給ロッドのガイドロッドをプロジェクションナットのねじ孔内へ串刺し状に貫通させてプロジェクションナットを目的箇所へ供給する形式のものにおいて,
P:パーツフィーダに設置した計測手段により正規寸法よりも大きいプロジェクションナットを排除して正規寸法あるいはそれ以下のプロジェクションナットだけを通過させ,
Q:ガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されており,
R:ストッパ面に位置決めされた正規寸法よりも小さいプロジェクションナットを供給ロッドの進出時にそのガイドロッド先端部で弾き飛ばす
S:ことを特徴とするプロジェクションナットの供給方法。

【請求項2】
A:円形のボウルに振動を与えてプロジェクションナットを送出するパーツフィーダと
B:このパーツフィーダからのプロジェクションナットをストッパ面に当てて所定位置に停止させ,
C:その後,供給ロッドのガイドロッドをプロジェクションナットのねじ孔内へ串刺し状に貫通させてプロジェクションナットを目的箇所へ供給する形式のものにおいて,
D:正規寸法よりも大きいプロジェクションナットを排除し正規寸法あるいはそれ以下のプロジェクションナットを通過させる計測手段をパーツフィーダの送出通路に設置し,
E:ストッパ面に位置決めされた正規寸法よりも小さいプロジェクションナットを供給ロッドの進出時にその先端部で弾き飛ばすガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されている
F:ことを特徴とするプロジェクショナットの供給装置。

【請求項3】
G:請求項2において,
H:ストッパ面に当たって一時係止されている正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔軸心とガイドロッドの軸心とが同軸とされていることによりプロジェクションナットの所定位置が設定されている
I:ことを特徴とするプロジェクションナットの供給装置。

【請求項4】
J:請求項3において,
K:計測手段は送出通路に閉断面状の形態で設置され,プロジェクションナットの高さあるいは幅が正規寸法またはそれ以下のものだけを通過させる構造とされている
L:ことを特徴とするプロジェクションナットの供給装置。

なお,上記請求項2の末尾の「プロジェクショナットの供給装置。」という記載は,「プロジェクションナットの供給装置。」の誤記と認める。


第3 請求人が主張する請求の趣旨,無効理由の概要及び提出した証拠方法
1 請求の趣旨及び無効理由の概要
請求人が主張する請求の趣旨は,特許発明1ないし4についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求める,というものである。
また,その無効理由の概要は,以下のとおりである。

(1)無効理由1.(特許法第29条第1項第1号又は第2号)
特許発明2は,甲第1号証の1に示される,本件特許出願前の平成5年に製造され,平成5年12月に請求人に公然と譲渡された株式会社電元社製作所(以下「電元社」という。)製ナットフィーダ(以下「甲1装置」という。)と同一であり,出願前に日本国内において公然知られた発明,あるいは日本国内において公然実施された発明であるから,特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当し,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(2)無効理由2.(特許法第29条第1項第1号又は第2号)
特許発明2は,甲第13号証の1に示される,本件特許出願前の昭和56年に電元社により製造され,その後株式会社オオサキに公然と譲渡された電元社製ナットフィーダ(以下「甲13装置」という。)と同一であり,出願前に日本国内において公然知られた発明,あるいは日本国内において公然実施された発明であるから,特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当し,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(3)無効理由3.(特許法第29条第2項)
特許発明2と甲1装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲1装置に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(4)無効理由4.(特許法第29条第2項)
特許発明2と甲13装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲13装置に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(5)無効理由5.(特許法第29条第2項)
特許発明2は,本件特許出願前に頒布された甲第14号証に記載された発明(以下「甲14発明」という。他の甲号証についても同じ。),甲第15及び16号証記載の事項並びに甲第20号証に示す従来周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。


(6)無効理由6.(特許法第29条第2項)
特許発明2は,甲1装置及び甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(7)無効理由7.(特許法第29条第2項)
特許発明2は,甲13装置及び甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(8)無効理由8.(特許法第29条第1項第1号又は第2号)
特許発明3は,甲1装置と同一であり,出願前に日本国内において公然知られた発明,あるいは日本国内において公然実施された発明であるから,特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当し,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(9)無効理由9.(特許法第29条第1項第1号又は第2号)
特許発明3は,甲13装置と同一であり,出願前に日本国内において公然知られた発明,あるいは日本国内において公然実施された発明であるから,特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当し,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(10)無効理由10.(特許法第29条第2項)
特許発明3と甲1装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲1装置に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(11)無効理由11.(特許法第29条第2項)
特許発明3と甲13装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲13装置に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(12)無効理由12.(特許法第29条第2項)
特許発明3と甲1装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(13)無効理由13.(特許法第29条第2項)
特許発明3と甲13装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(14)無効理由14.(特許法第29条第2項)
特許発明3と甲1装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲1装置及び甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(15)無効理由15.(特許法第29条第2項)
特許発明3と甲13装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲13装置及び甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(16)無効理由16.(特許法第29条第2項)
特許発明4は,甲1装置及び甲16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(17)無効理由17.(特許法第29条第2項)
特許発明4は,甲13装置及び甲16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(18)無効理由18.(特許法第29条第2項)
特許発明4は,甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(19)無効理由19.(特許法第29条第2項)
特許発明4は,甲1装置及び甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(20)無効理由20.(特許法第29条第2項)
特許発明4は,甲13装置及び甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(21)無効理由21.(特許法第29条第2項)
特許発明1は,甲1装置に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(22)無効理由22.(特許法第29条第2項)
特許発明1は,甲13装置に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(23)無効理由23.(特許法第36条第6項第2号)
特許発明1の「わずかに小さく設定されている」との表現,及び「正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されている」との表現は,比較の基準,又は程度が不明確な表現であり,特許発明1の記載は,特許を受けようとする発明が明確でなく,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていないから,その特許は同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。

(24)無効理由24.(特許法第36条第6項第2号)
特許発明2の「わずかに小さく設定されている」との表現,及び「正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されている」との表現は,比較の基準,又は程度が不明確な表現であり,特許発明2,並びに特許発明2を引用する特許発明3及び4の記載は,特許を受けようとする発明が明確でなく,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていないから,それらの特許は同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。

以下では,これらの無効理由の内,無効理由1,3,6,8,10,12,14,16,19及び21をまとめて「甲1装置を主たる証拠とする無効理由」といい,無効理由2,4,7,9,11,13,15,17,20及び22をまとめて「甲13装置を主たる証拠とする無効理由」といい,無効理由5及び18をまとめて「甲14を主引用例とする無効理由」といい,無効理由23及び24をまとめて「発明の明確性の無効理由」という。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は,以下のとおりである。
[書証]
<請求書添付のもの>
甲第1号証の1 事実実験公正証書(平成25年第2号)の写し
甲第1号証の2 「平成25年1月8日,平成5年製ナット・
フィーダ公証人事実実験記録」と題するDVD
甲第2号証 電元社のナットフィーダを掲載した同社の
ホームページのハードコピー
甲第3号証の1 平成元年装置を写した写真
甲第3号証の2 平成元年装置のヒンジ板部分及び
ストッパ部分を写した写真
(片側のヒンジ板を開いた状態)
甲第3号証の3 平成元年装置のヒンジ板部分及び
ストッパ部分を写した写真
(両側のヒンジ板を開いた状態)
甲第4号証 ナットフィーダ取扱説明書
(表紙に赤鉛筆の手書きで
「AF-VMUC20/12DL1989-12月」
と記載されたもの)の写し
甲第5号証 陳述書(請求人会社代表取締役社長三浦誠司)
甲第6号証 平成5年製ナットフィーダのスピンドル及び
ノーズピンを写した写真
甲第7号証の1 平成5年製ナットフィーダの送給装置を
反転させて撮影した写真
甲第7号証の2 平成5年製ナットフィーダのシリンダーの
シール貼付部分を拡大して撮影した写真
甲第8号証 CKD株式会社の1996年8月版のカタログの写し
甲第9号証 CKD株式会社の81-4版のカタログの写し
甲第10号証 有限会社エヌアイシーのロゴ・マークギャラリーを
掲載した同社のホームページのハードコピー
甲第11号証 CKD株式会社の沿革を掲載した
同社のホームページのハードコピー
甲第12号証 陳述書(請求人会社代表取締役会長三浦正明)
甲第13号証の1 事実実験公正証書(平成25年第91号)の写し
甲第13号証の2 「平成25年5月22日,本件ナットフィーダ
公証人事実実験記録」と題するDVD
甲第14号証 特開平7-215429号公報
甲第15号証 特公昭47-41655号公報
甲第16号証 実願昭59-38479号
(実開昭60-151821号)のマイクロフィルム
甲第17号証 JISハンドブック 4-2 ねじII
(第489ページ等抜粋)の写し
甲第18号証 大阪地方裁判所平成24年(ワ)第10746号
特許権侵害差止等請求事件の訴状の写し
甲第19号証 エアロッドフィーダー説明書
(上記事件の甲第7号証)の写し
甲第20号証 「機械設計」日刊工業新聞社発行,
1973年11月号,第17巻 第11号
(目次,第17?25ページ,第27ないし
29ページ,第34ページ,第53ないし
54ページ,第92ページ,奥付)の写し
甲第21号証 異議2002-73160号における
平成15年6月23日付け意見書の写し
甲第22号証 JISハンドブック 4-1 ねじi
(目次,第188ないし189ページ,奥付)の写し

<平成26年1月7日付け請求人口頭審理陳述要領書添付のもの>
甲第23号証 平成5年製ナットフィーダの手順表の写し
甲第24号証 電元社の「AUTOMATIC NUT
FEEDER AFV-N-S-S8-DLH」
(DG No.04-2300,
SERIAL NO.14111)の取扱説明書の写し
甲第25号証 平成5年製ナットフィーダのスピンドル及び
ノーズピン各々のナットによる擦過痕を撮影した写真
(撮影者 三浦正明,
撮影日 平成25年12月27日)
甲第26号証 平成5年製ナットフィーダのスピンドルの
ナットによる圧痕を撮影した写真(撮影者 三浦正明,
撮影日 平成25年12月25日)
甲第27号証 セキ工業株式会社定款(抜粋)の写し
甲第28号証 中古物件売買契約書(平成11年)の写し
甲第29号証 三浦工業株式会社社長・三浦壽と
セキ工業株式会社社長・三浦正明との間の覚え書き
(平成11年1月)の写し
甲第30号証 請求人宛の平成18年12月8日付け
被請求人書簡の写し
甲第31号証 実願昭52-031083号
(実開昭53-126272号)のマイクロフィルム
甲第32号証 電元社宛の平成18年4月24日付け
被請求人書簡の写し
甲第33号証 被請求人宛の2006年5月29日付け
電元社書簡の写し
甲第34号証 電元社宛の平成18年6月15日付け
被請求人書簡の写し

なお,甲第24ないし26号証については,平成26年1月21日付け手続補正書により補正された。

<平成26年5月9日付け請求人上申書添付のもの>
甲第35号証 独立行政法人 国立高等専門学校機構
呉工業高等専門学校機械工学分野教授・西坂強による
調査報告書「ナット・フィーダ・ユニットにおける
ロックナットの取付痕の解析調査」
(平成26年3月31日)
甲第36号証 DVD(甲第35号証調査報告書の
調査対象物の開封の経過を撮影したもの)
甲第37号証 弁護士法第23条の2に基づく照会に対する
電元社の回答(平成5年製ナットフィーダ)
甲第38号証 弁護士法第23条の2に基づく照会に対する
電元社の回答(昭和56年製ナットフィーダ)

<平成26年5月16日付け請求人上申書添付のもの>
甲第39号証の1 検甲第1号証の送給装置を撮影した写真
(撮影者 竹内弘,撮影日 平成26年5月14日)
甲第39号証の2 検甲第1号証の送給装置のチューブ接続管の
刻印を撮影した写真
(撮影者 竹内弘,撮影日 平成26年5月14日)
甲第39号証の3 甲第1号証の1のナットフィーダ本体を撮影した
写真(撮影者 竹内弘,
撮影日 平成26年5月14日)
甲第39号証の4 甲第1号証の1のナットフィーダ本体の
ナット送り管の刻印を撮影した写真
(撮影者 竹内弘,撮影日 平成26年5月14日)

<平成27年9月25日付け請求人上申書添付のもの>
甲第40号証 陳述書(電元社 元愛知工場長 吉田哲雄)
甲第41号証の1 甲第33号証書簡に添付された資料2
(1993.9.29付けのノーズピンの図面)の写し
甲第41号証の2 甲第33号証書簡に添付された資料3
(88.8.3付けのノーズピンの図面)の写し
甲第41号証の3 甲第33号証書簡に添付された資料4
(88.8.3付けのノーズピンの図面)の写し
甲第42号証 件名を「アキツ溶材/巽熔工所向ナットフィーダー
81-0347」とする報告書
(作成者 電元社 神原)の写し
甲第43号証 電元社の「FEEDER製作台帳(39)」ないし
「FEEDER製作台帳(47)」の写し
甲第44号証 電元社の「スピンドル Sq
SPINDLEASSY」
(図番PFU-0028-10.12)の図面の写し
甲第45号証 電元社の自働供給装置のパンフレットの写し
甲第46号証 電元社の「Serial No-7793
95-7846」の「INSTRUCTION
MANUAL AUTOMATIC NUT
FEEDER」の写し及び抄訳
甲第47号証 電元社の「AFVWU-6/8形 ナット・フィーダ
取扱説明書」の写し

<平成27年12月4日付け請求人回答書添付のもの>
甲第48号証 電元社の「AF-R(V)-M型
スピンドルノーズピン」
(図番NFD-1004)の図面の写し
甲第49号証 甲13装置のノーズピンの根元の直径を示す写真
(撮影者 三浦誠司,
撮影日 平成27年11月27日)

これらの証拠方法のうち,少なくとも,甲第1号証の1ないし甲第34号証について,当事者間に成立の争いはない(第1回口頭審理調書の「被請求人」欄2,第2回口頭審理・証拠調べ調書の口頭審理中断前の「被請求人」欄2)。

[人証](第2回口頭審理・証拠調べ)
請求人セキ工業株式会社代表者である,本人 三浦正明

[検証](第2回口頭審理・証拠調べ)
検甲第1号証 電元社製作所平成5年製ナットフィーダ
(「形式AF-VMU-H10」,「SERIAL
No.6582」)の送給装置
検甲第2号証 電元社製作所昭和56年製ナットフィーダ
(「AFVM-6/8形,
「製造番号NO.81-0356」)のM6の送給装置


第4 被請求人が主張する答弁の趣旨及び提出した証拠方法
1.答弁の趣旨
被請求人が主張する答弁の趣旨は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める,というものである。

2.証拠方法
被請求人が提出した証拠方法は,以下のとおりである。
[書証]
<答弁書添付のもの>
乙第1号証 特公昭56-10134号公報
乙第2号証 異議2002-73160号の決定
乙第3号証の1 請求人宛ての平成18年4月24日付け
被請求人書簡の写し
乙第3号証の2 被請求人宛ての平成18年5月11日付け
請求人書簡(連絡書)の写し
乙第3号証の3 被請求人宛ての平成18年6月1日付け
請求人書簡(回答書)の写し
乙第3号証の4 請求人宛ての平成18年6月15日付け
被請求人書簡の写し
乙第3号証の5 被請求人宛ての平成18年7月5日付け
請求人書簡(回答書)の写し
乙第3号証の6 請求人宛ての平成18年9月28日付け
被請求人書簡の写し
乙第3号証の7 被請求人宛ての平成18年10月12日付け
請求人書簡(回答書)の写し

<平成26年1月7日付け被請求人口頭審理陳述要領書添付のもの>
乙第4号証 電元社宛ての平成18年4月24日付け
被請求人書簡(特許第3309245号
「プロジェクションナットの供給方法とその装置」
に関する件」)の写し
乙第5号証 被請求人に宛ての2006年5月29日付け
電元社書簡の写し
乙第6号証 大阪地方裁判所平成24年(ワ)第10746号
特許権侵害差止等請求事件で提出された乙第34号証
(電元社のナットフィーダのスピンドル及び
ノーズピンの写真)

<平成26年5月9日付け被請求人上申書添付のもの>
乙第7号証 特公昭49-22747号公報

これらの証拠方法について,少なくとも,乙第1号証ないし乙第6号証について,当事者間に成立の争いはない(第1回口頭審理調書の「請求人」欄3)。

[検証](第2回口頭審理・証拠調べ)
検乙第1号証 プロジェクションナットの送給装置
(永久磁石の供給方式のもの)


第5 両当事者の主な主張
両当事者の主な主張は,おおむね以下のとおりである。なお,この審決において,記載箇所を行数により特定する場合,空白行を含まない。また,以下では,甲号証や乙号証を「甲1」,「乙1」などのように記載する。

1.1次審決取消判決について
[被請求人]
1次審決取消判決からすれば,甲1装置の送給装置のスピンドルは平成5年11月に製造されたものと認められず,その他,本件特許発明の出願日に製造されたことをうかがわせる主張も証拠も存在しないことから,スピンドルについては,公知,公用又は進歩性欠如の引用発明とはなり得ない。
また,1次審決取消判決の拘束力を踏まえれば,甲1装置を引例とする,無効理由1,3,6,8,10,12,14,16,19,21は,理由のないものであることは自明である。(平成27年12月4日付け被請求人回答書第3ページ第10行ないし第4ページ第13行)

[請求人]
1次審決取消判決の拘束力は,甲1装置の送給装置のスピンドルについては,公知,公用又は進歩性の引用発明にならないという限りにおいて及ぶものであり,甲1装置のその他の要素,特に,甲1装置のナットフィーダ本体(送給装置を除く)に及ぶものではないから,甲1装置を引例とする,無効理由3,6,10,12,14,16,19,21は,理由がない旨の被請求人の主張は誤りである。(平成28年1月14日付け請求人上申書第2ページ第9ないし18行)


2.昭和56年に引用発明が公然実施されたことについて
[請求人]
(1)甲40の陳述書によれば,吉田氏は,平成27年9月2日の午後に請求人会社において甲13装置を現認している。吉田氏によれば,ナット送給装置の仕様は,昭和51年から現在に至るまで実質的には変わっていないとのことであり,昭和57年のパンフレット(甲45)の第3ページ右上に甲13装置と同機種の写真が掲載され,甲13装置とはシューターが異なる装置の写真が甲4の表紙及び甲46の第6ページ右上に掲載されている。(平成27年9月25日付け請求人上申書第9ページ第18行ないし第10ページ第13行)

(2)ナット送給装置の説明図について,甲4の第7ページ及び甲46の第13ページに掲載されているところ,ヒンジ板を閉じるスプリングとして,甲4のものが引きバネを採用し,甲46のものがキックバネを採用している。甲13の1の写真45に示すように,ナット送給装置では,引きバネとキックバネを択一的に採用できるようになっている。(平成27年9月25日付け請求人上申書第10ページ第14ないし21行)

(3)甲13装置を現認した吉田氏によれば,甲13装置は,スピンドル及びノーズピンだけでなく,ヒンジ板やストッパ,M6用シューター,ナット選別機を含めて,電元社によって製造された,昭和56年式「AF-VMW-6/8L」のナットフィーダの真正品であることに間違いはないということである。
甲13装置は,ナット選別機,M6用シューター及びM6用送給装置の全てが,電元社によって製造された,昭和56年式「AF-VMW-6/8L」のナットフィーダの真正品であるから,仮に,部品の一部が交換されていたとしても,真正品である限りは昭和56年当時と同様に作動するものであり,甲13の1の事実実験に基づいて昭和56年に公然実施された発明を認定することができる。(平成27年9月25日付け請求人上申書第10ページ下から第3行ないし第11ページ第9行)

(4)昭和56年製ナットフィーダに関連する証拠について,電元社に依頼したところ,図面等を発見することは難しいという回答があった。
また,電元社の「型式AFV-6/8」,「製品番号 N2058」及び「製造番号 NO.81-0356」の装置が,昭和56年5月時点で備えていた構造や構成を直接認定する根拠となるような図面等の証拠の有無について問い合わせたところ,発見された図面が甲48の設計図である。(平成27年12月4日付け請求人回答書第2ページ第11ないし26行)

(5)被請求人は,甲13装置について,部品交換の可能性を主張するが,請求人は部品の交換を行っていない。仮に,請求人が甲13装置を入手する以前に部品の一部が交換されていたとしても,その部品が真正品である限りは昭和56年当時と同様に作動する。(平成28年1月14日付け請求人上申書第6ページ第2ないし7行)

(6)甲13装置のバネは,平成25年5月22日に,それまで取り付けられていたキックバネが引きバネに交換された。請求人は,昭和56年に製造されたナットフィーダのバネの寸法,材質,バネ定数等を示す図面等を所有しておらず,平成25年5月22日に交換したバネが,同じ寸法,材質,バネ定数のものであることを示すことはできない。(平成28年4月21日付け請求人回答書第2ページ第9行ないし第3ページ最終行)

(7)ナット選別機,送給装置及びシューターの構造や構成を直接認定する根拠となるような図面について,請求人は,甲48のほかには所有していない。(平成28年4月21日付け請求人回答書第4ページ第1ないし5行)

(8)甲48の図面の承認欄にサインがないことについて釈明すると,当該図面では,設計欄と製図欄にまたがって「吉田」のサインがされているところ,甲40の陳述書によれば,電元社の元工場長である吉田哲雄氏は,昭和50年4月から平成19年7月まで自働供給装置の設計を担当しているから,甲48図面のサインは,吉田哲雄氏のものである。甲48図面の作成当時,吉田哲雄氏は設計図を承認する立場にあり,甲48図面はその吉田哲雄氏自身が設計,製図したために,承認が省略されたものである。事業規模が小さい段階では,上層部に属するものが設計,製図をしたときに,承認等を省略することは普通に行われることである。(平成28年4月21日付け請求人回答書第5ページ第13ないし最終行)

[被請求人]
(1)甲13装置は,昭和56年5月頃に小沢溶接に納入された(甲43)後,整備の履歴も不明であり,甲13装置の実験日である平成25年まで32年もの間,消耗品であるスピンドル及びノーズピンが交換されていないとは考えられない。(平成27年12月4日付け被請求人回答書第8ページ第2行ないし第10ページ第6行)

(2)甲40の陳述書の吉田氏が,図面等を参照もせずに昭和56年当時の製品と同一であるかどうかを記憶しているとは考えにくく,不自然である。ましてや,甲13装置は昭和56年製品に用いられていた引きバネ(甲13の1 資料1 第3ページ右下図)からキックバネに交換されている(甲13の1 写真44及び45)のであり,甲40の陳述書には信用性がない。(平成27年12月4日付け被請求人回答書第12ページ第14ないし25行)

(3)甲41の1ないし3は,昭和56年より後の日付に作成されたものであり,昭和56年製品の構成を証明するものではない。
また,甲42の図からはノーズピンの内径が不明であり,甲42は甲13装置の構成を開示するものではない。
甲44も昭和56年より後の日付に作成されたものであり,昭和56年製品の構成を証明するものではない。(平成27年12月4日付け被請求人回答書第12ページ下から第2行ないし第13ページ下から第6行)

(4)甲48の図面には,製図欄に「吉田」の記載があるものの,承認欄は空白であり,電元社において採用に至らなかったことが強く推認される。(平成28年1月14日付け被請求人上申書第3ページ第7行ないし第4ページ第5行)

(5)被請求人は,甲13装置のナット選別機及びシューターについては,昭和56年末に公知・公用となっていたことを認め,甲13装置の送給装置について,昭和56年に製造されたか(甲13装置の送給装置が,昭和56年に製造されたナットフィーダの送給装置と同一であるか)否かを争う。(平成28年4月22日付け被請求人回答書第3ページ第7行ないし第4ページ第11行)

3.甲14を主引用例とする無効理由について
[請求人]
(1)構成要件Eに相当する構成について
甲14には,送出杆11の先端部の外径についての具体的な記載はないものの,送出杆11の先端部は,ナットwが「係合されて全体が保持」されるような寸法であり,さらには,ナットwのねじ孔12に隙間がほとんどなく嵌ることからすると,その外径は正規寸法のナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていることがわかる。
このような正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径と送出杆11の先端部の外径の関係からすると,この送出杆11の先端部の外径は必然的に正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されていることになる。
そして,甲14において,正規寸法よりも小さく,かつねじ孔の内径が送出杆11の外径よりも小さいナットは,送出杆11の先端部がねじ孔に嵌らないのであるから,送出杆11の進出時にその先端部で弾き飛ばされることになる。
したがって,甲14には,構成要件Eに相当する構成が記載されている。(請求書第19ページ第12行ないし第20ページ第18行及び平成28年1月14日付け請求人上申書第2ページ第20行ないし第4ページ第11行)

[被請求人]
甲14には,特許発明2の構成要件Eに相当する構成が記載されていない。(答弁書第15ページ第2ないし19行及び平成27年12月4日付け被請求人回答書第4ページ下から第3行ないし第5ページ第16行)

4.発明の明確性の無効理由について
[請求人]
特許発明1の構成要件Q及び特許発明2の構成要件Eには,「ガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定され」と記載されている。この記載に関して,本件特許の異議2002-73160号における平成15年6月23日付け意見書(甲21)の被請求人の説明を参酌すると,「正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定され」という記載は,ガイドロッドの外径の上限を規定したものであり,「正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定され」という記載は,ガイドロッドの外径の下限を規定したものである。
しかし,「わずかに小さく」は,比較の程度が不明確な表現であるし,「正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径」がどのような寸法を意味するのか,明細書に説明されていない。M6ナットが正規寸法であるとき,M5ナット及びM4ナットは共に正規寸法より小さいナットに該当するが,M4ナットの内径よりも大きい3.5mmの外径のガイドロッドでは,M5ナットを弾き飛ばさず,発明の効果が得られない。また,M5ナットを正規寸法とすると,M4.5ナットの内径よりも大きい3.960mmの外径のガイドロッドでは,M5ナットの内径と0.174mmの隙間しかなく,M5ナットを串刺し状に貫通させることは難しい。(請求書第35ページ第2行ないし第37ページ第10行)

[被請求人]
M6ナットを正規寸法とすると,M5ナットは正規寸法より小さいナットになるから,M5ナットの内径よりも小さい3.5mmを外径とするガイドロッドは,特許発明1の構成要件Q及び特許発明2の構成要件Eを備えていない。
また,請求人は,M4.5ナットの内径よりも大きい3.960mmの外径のガイドロッドでは,M5ナットを串刺し状に貫通させることは難しいと主張するが,そのことと,発明の明確性や明細書の記載要件とは無関係である。(答弁書第23ページ第2行ないし第25ページ第9行)


第6 当審の判断
1.甲1装置を主たる証拠とする無効理由について
(1)1次審決取消判決の拘束力について
特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において,審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法第181条第2項の規定に従い,当該審判事件について更に審理を行い,審決をしなければならないが,再度の審理ないし審決には,行政事件訴訟法第33条第1項の規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,当合議体の事実認定及び法律判断は,1次審決取消判決の事実認定及び法律判断に拘束される。

(2)1次審決取消判決の内容について
1次審決取消判決において,知的財産高等裁判所は,以下のとおり判示した。
ア.「審決は,本件発明が,出願当時公然実施されていた発明と同一である(あるいは,公然実施されていた発明から容易に想到することができる)として本件特許を無効とした。そして,取消事由1において問題となっているのは,審決の上記判断の前提となった,「本件ナットフィーダと出願当時の公然実施品である平成5年製ナットフィーダは同一であるから,本件ナットフィーダ(本件ナットフィーダ送給装置も含む。)は,本件特許出願当時の公然実施品であったと認められる。」との判断が正しいかどうかであり,特に,両者のスピンドルとノーズピンが同一であって,スピンドルの先端に取り付けられたノーズピンが,ナットを貫通する長さを有する構成になっているとの判断が正しいかどうかが問題となる。」

イ.「『本件ナットフィーダと平成5年製ナットフィーダが同一であること。』についても,本件特許が無効であると主張する側が立証責任を負うべきである。したがって,この立証が尽くされたと判断される場合に初めて,特許無効の判断をすることができる筋合となるが,・・・次の点を考慮する必要があると思われる。まず,平成5年製ナットフィーダについては,その構造や構成を直接認定する根拠となるような図面等の証拠は存在しない・・・そのため,間接事実に基づいて,・・・同一かどうかを判断しなければならないことになる。しかし,・・・次のような問題点が存在することを考慮する必要がある。第1に,・・・本件ナットフィーダと平成5年製ナットフィーダも異なる構成であった一般的可能性を否定することができない・・・。第2に,・・・平成5年製ナットフィーダが,その同一性を完全に保持したまま保管されていた・・・と認定することができないことは明らかである。・・・本件審決には,少なくとも,スピンドル交換の可能性はない・・・と判断した点において,誤りがあったと考えざるを得ない。」

ウ.「以上によれば,被告が平成5年に電元社から購入した平成5年製ナットフィーダの送給装置のスピンドルと,本件ナットフィーダ送給装置のスピンドルとが同一であることを認めることはできない。したがって,本件ナットフィーダが平成5年製ナットフィーダと同一であるとした審決の認定には誤りがある。」

(3)甲1装置を主たる証拠とする無効理由について
甲1装置を主たる証拠とする無効理由は,いずれも,甲1装置が,本件特許に係る出願の出願前に日本国内において公然知られ,あるいは日本国内において公然実施されたことを前提とした,特許法第29条第1項第1号若しくは第2号又は同法同条第2項に係る無効理由であるところ,上記(1)のとおり,当合議体の事実認定及び法律判断は,1次審決取消判決の事実認定及び法律判断に拘束されるから,請求人が平成5年に電元社から購入した平成5年製ナットフィーダの送給装置のスピンドルと,甲1装置のナットフィーダ送給装置のスピンドルとが同一であることを認めることはできず,甲1装置が,請求人が平成5年に電元社から購入した平成5年製ナットフィーダと同一であるということはできない。
したがって,甲1装置が,本件特許に係る出願の出願前に日本国内において公然知られ,あるいは日本国内において公然実施されたということはできない以上,甲1装置に基づいて認定される発明についても,本件特許に係る出願の出願前に日本国内において公然知られ,あるいは日本国内において公然実施された発明ということはできない。
そうすると,特許発明2が,甲1装置と同一であり,出願前に日本国内において公然知られた発明,あるいは日本国内において公然実施された発明であるという無効理由1,特許発明2と甲1装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲1装置に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由3,及び特許発明1が,甲1装置に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由21は,いずれも理由があるものとすることはできない。
また,後述する「4.甲14を主引用例とする無効理由について」で述べるように,甲14ないし16には,特許発明2の構成要件Eに相当する構成が示されていないから,特許発明2が,甲1装置及び甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由6は,理由があるものとすることはできない。
そして,特許発明3及び4は,特許発明2を引用する発明であるところ,上記のとおり,特許発明2が,甲1装置と同一であり,出願前に日本国内において公然知られた発明,あるいは日本国内において公然実施された発明であるということ,特許発明2と甲1装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲1装置に基づいて当業者が容易に発明できたものであるということ,及び特許発明2が,甲1装置及び甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるということはできないから,特許発明3が,甲1装置と同一であるという無効理由8,特許発明3と甲1装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲1装置に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由10,特許発明3と甲1装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由12,特許発明3と甲1装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲1装置及び甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由14,特許発明4が,甲1装置及び甲16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由16,及び特許発明4が,甲1装置及び甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由19は,いずれも理由があるものとすることはできない。

(4)請求人の主張について
請求人は,1次審決取消判決の拘束力について,甲1装置の送給装置のスピンドルについては,公知,公用又は進歩性の引用発明にならないという限りにおいて及ぶものであり,甲1装置のその他の要素,特に,甲1装置のナットフィーダ本体(送給装置を除く)に及ぶものではない,などと主張している(上記第5の1.[請求人])が,1次審決取消判決における法律判断は,「本件ナットフィーダが平成5年製ナットフィーダと同一であるとした審決の認定には誤りがある」というものであり,そこでいう「本件ナットフィーダ」とは,「本件ナットフィーダ(本件ナットフィーダ送給装置も含む。)」をいうから,甲1装置のナットフィーダ送給装置だけでなく,甲1装置のナットフィーダ本体を含む甲1装置の全体について「平成5年製ナットフィーダと同一であるとした審決の認定には誤りがある」との法律判断がなされたものである。
また,仮に請求人が主張するように,1次審決取消判決の拘束力が,甲1装置の送給装置のスピンドルのみに及び,甲1装置のその他の要素に及ばないとしても,上記(3)に示したように,甲14ないし16には,特許発明2の構成要件Eに相当する構成が示されていないのであるから,甲1装置を主たる証拠とする無効理由は,いずれも理由があるものとすることはできない。
したがって,請求人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によって,無効理由1,3,6,8,10,12,14,16,19及び21について,いずれも理由があるものとすることはできない。


2.甲13装置を主たる証拠とする無効理由について
(1)甲13装置が公然知られ,あるいは公然実施されたかについて
ア.甲13装置を主たる証拠とする無効理由は,いずれも,甲13装置が,本件特許に係る出願の出願前に日本国内において公然知られ,あるいは日本国内において公然実施されたことを前提とした,特許法第29条第1項第1号若しくは第2号又は同法同条第2項に係る無効理由であるから,その前提である,甲13装置が本件特許に係る出願の出願前に公然知られ,あるいは公然実施されたか,すなわち,甲13装置が昭和56年に電元社により製造されたナットフィーダ(以下「昭和56年製ナットフィーダ」という。)と同一であるかどうかを検討する。
イ.まず,昭和56年製ナットフィーダについて,その構造や構成を直接認定する根拠となるような図面等の証拠は,甲48の図面を除いて存在しない(上記第5の2.[請求人](7))。そのため,間接事実に基づいて,甲13装置と昭和56年製ナットフィーダが同一かどうかを判断しなければならないことになるところ,この同一性の認定に当たっては,次のような問題点が存在することを考慮する必要がある。
ウ.第1に,甲13装置は,ナットフィーダ送給装置のスピンドル先端に付けられたノーズピンが,ナットを「串刺し」にして貫通する長さを有する構成(以下「串刺し方式」という。)になっている(第2回口頭審理・証拠調べ調書添付の検証写真の写真39及び40))。これに対し,昭和56年製ナットフィーダを製作したのは電元社であるところ,電元社は,もともと,電元社発明(乙1)の実施品としてナットフィーダの製造を始めた可能性がある。そして,電元社発明は,串刺し方式の場合の,ナットが串刺しロッドを回転しながらすべり落ちるために生じる降下速度のばらつきの問題を解消すべく,ナットをロッドで串刺しにして保持する代わりに,磁石で吸着して保持することを特徴としていた(これを「磁石吸着方式」という。)のであるから,電元社がもともと製造していたナットフィーダも,串刺し方式ではなく,磁石吸着方式を採用していた可能性があることは否定できない。
また,このことは,甲13装置の銘板(甲13の1の写真23)に「製品番号 N2058(特許申請中)」との記載があることと符合する。すなわち,乙1に示す電元社発明は,昭和51年6月30日に出願され,昭和56年9月30日に特許第1065339号として設定登録されているから,当該電元社発明は,甲13装置が製造された昭和56年5月当時は銘板の記載のとおりに「特許申請中」ということになる。
エ.甲48の図面は,1980年(昭和55年)2月22日付けの「AF-R(V)-M型 スピンドルノーズピン」の図面であるところ,当該図面には,「設計」「製図」欄にまたがるように「吉田」のサインがされているものの,「承認」欄にサインがない。一般に,承認がなされていない図面のとおりに部品の製造が行われるとは考え難いから,甲48の図面のとおりに昭和56年製ナットフィーダのノーズピンが製造されたことについて,疑いを否定できない。この点に関して請求人は,「吉田」のサインは,「吉田哲雄」氏のものであり,その当時に,「吉田哲雄」氏は図面を承認する立場にあったことから,「承認」欄のサインが省略された旨を主張している(上記第5の2.(8))。しかし,請求人は,「吉田」のサインが「吉田哲雄」氏のものであることを認めるに足りる証拠を示していない上,「吉田哲雄」氏の陳述書(甲40)を参照しても,昭和55年2月22日当時に,図面を承認する立場にあったとまでは認められないから,請求人の当該主張は採用できない。
また,昭和56年製ナットフィーダに関する図面として,甲48の図面しか証拠として提出されておらず,例えば,甲48の図面に記載された図番「NFD-1004」に対して,「NFD-1003」や「NFD-1005」等の関連する図面との比較において,甲48の図面を検討することもできない。このため,提出された甲48の図面のみからでは,甲48の図面のとおりに昭和56年製ナットフィーダのノーズピンが製造されたということはできない。
このように,甲13装置と電元社がもともと製造していたナットフィーダとは,異なる構成であった可能性を否定することができないのであって,このことは甲13装置と昭和56年製ナットフィーダも異なる構成であった一般的可能性を否定することができないことを意味する。
オ.第2に,甲13装置は,昭和56年5月頃に製造され(甲13の1の写真23),小沢溶接に納入された(甲43)後,平成25年3月に株式会社オオサキから請求人が購入しているところ,製造から請求人が購入するまでの間,甲13装置に対して部品交換や変更が発生していないかを示す証拠,例えば小沢溶接における整備の履歴や,小沢溶接から株式会社オオサキに至るまでの間の整備の記録も不明であるから,小沢溶接やその他の会社において,甲13装置の部品交換や変更等が全くされていないとまではいえない。さらに,甲13装置におけるM6ナットの送給装置のヒンジバネについては,平成25年5月22日に交換したことを請求人が認めている(第5 2.[請求人](6))ところ,当該交換が真正品による交換であるかについて,交換前のヒンジバネ,交換後のヒンジバネのいずれについても,昭和56年5月頃に電元社で製造されたものと認めることのできる証拠はないから,甲13装置が,昭和56年5月頃に製造された後,平成25年5月にその形状等の確認が行われる(甲13の1)まで,その同一性を完全に保持していたと認定することができないことは明らかである。
カ.したがって,甲13装置と昭和56年製ナットフィーダが同一かどうかを判断するに当たっては,以上のような事情を考慮してもなお同一といえるだけの証拠や根拠があるかという観点からの検討が必要であるため,当審において,請求人に対して証拠や根拠の提示を求めたものの,甲13装置と昭和56年製ナットフィーダとの間の同一性を立証するに足るだけの証拠や根拠は無いというほかない。
キ.請求人は,甲40の陳述書を挙げて,電元社の元愛知工場長の吉田哲雄氏が甲13装置を現認し,甲13装置が昭和56年製ナットフィーダの真正品であることに間違いはない旨,陳述したことを根拠として,甲13装置が,本件特許に係る出願の出願前に日本国内において公然知られ,あるいは日本国内において公然実施された旨を主張している(上記第5の2.[請求人](3))。
しかし,甲40の陳述書には,甲13装置について電元社が昭和56年当時製造していたナットフィーダの真正品であるという旨の吉田氏の陳述が記載されているものの,当該陳述を確からしくする根拠,すなわち甲13装置におけるどのような構成から,どのような判断により,昭和56年製ナットフィーダの真正品であるというのかが記載されておらず,具体性を欠くから,当該甲40の陳述書の記載をもって,甲13装置と昭和56年製ナットフィーダとが同一であることを裏付けるものとすることはできない。
ク.したがって,甲13装置を,電元社により昭和56年に製造されたナットフィーダと同一であるということはできず,そうである以上,甲13装置が,本件特許に係る出願の出願前に日本国内において公然知られ,あるいは日本国内において公然実施されたということはできない。

(2)甲13装置を主たる証拠とする無効理由について
上記(1)ク.のとおり,甲13装置が,本件特許に係る出願の出願前に日本国内において公然知られ,あるいは日本国内において公然実施されたということはできない以上,甲13装置に基づいて認定される発明についても,本件特許に係る出願の出願前に日本国内において公然知られ,あるいは日本国内において公然実施された発明ということはできない。
そうすると,特許発明2が,甲13装置と同一であり,出願前に日本国内において公然知られた発明,あるいは日本国内において公然実施された発明であるという無効理由2,特許発明2と甲13装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲13装置に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由4,及び特許発明1が,甲1装置に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由22は,いずれも理由があるものとすることはできない。
また,後述する「4.甲14を主引用例とする無効理由について」で述べるように,甲14ないし16には,特許発明2の構成要件Eに相当する構成が示されていないから,特許発明2が,甲13装置及び甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由7は,理由があるものとすることはできない。
そして,特許発明3及び4は,特許発明2を引用する発明であるところ,上記のとおり,特許発明2が,甲13装置と同一であり,出願前に日本国内において公然知られた発明,あるいは日本国内において公然実施された発明であるということ,特許発明2と甲13装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲13装置に基づいて当業者が容易に発明できたものであるということ,及び特許発明2が,甲13装置及び甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるということはできないから,特許発明3が,甲13装置と同一であるという無効理由9,特許発明3と甲13装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲13装置に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由11,特許発明3と甲13装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由13,特許発明3と甲13装置に係る発明の細事に差異があるとしても,甲13装置及び甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由15,特許発明4が,甲13装置及び甲16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由17,及び特許発明4が,甲13装置及び甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるという無効理由20は,いずれも理由があるものとすることはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によって,無効理由2,4,7,9,11,13,15,17,20及び22について,いずれも理由があるものとすることはできない。


3.発明の明確性の無効理由について
事案に鑑みて,甲14を主引用例とする無効理由よりも先に,発明の明確性の無効理由,すなわち無効理由23及び24を検討する。

(1)特許明細書の記載
平成24年8月28日付けの審決により訂正が認容された特許明細書には,以下の記載がある。
ア.「【0003】
【発明が解決しようとする問題点】
パーツフィーダのボウル内へ入れられるプロジェクションナットは,常に同一寸法の正規のものばかりであればよいのであるが,搬送中に何等かの原因で正規寸法以外のものが混入することがある。たとえば,ねじ孔内径が8mmの正規寸法のナットを入れた部品箱とねじ孔内径が6mmの異常寸法のナットを入れた部品箱とを並べて自動車の荷台に積載しているようなときには,走行中に荷台が振動するとナットが跳ねて隣の部品箱に入ることがある。あるいは,作業車がまちがって異常寸法のものを正規寸法のところへ入れることもある。このような現象により異常である6mmのものがストッパ面に停止しても,ガイドロッドが細すぎるために串刺しにしてしまって通常通りに供給し,目的箇所の鋼板部品上に載置されてプロジェクション溶接がなされてしまう。このような現象が生じると,後工程でボルトを捩じ込もうとしても正規の8mm用ボルトが入らないというトラブルが発生する。
【0004】
プロジェクションナットは製品の種類によって色々な寸法のものが採用されるのであるが,たとえば,自動車のドアーであればねじ孔内径が6mm,8mm,10mmといった3種類のナットが採用され,各ナットの高さや幅がねじ孔内径に応じて大きくなっており,ある箇所へのナットは8mmが正規のもので,他派異常寸法ということになる。このような状況であるので上記のようなトラブルに対処しなければならないことになるのである。
【0005】
さらに,従来のプロジェクションナットの供給をシステムとして見てみると,パーツフィーダ側の送出コントロールと供給ロッドの構造・寸法との有機的な関連性が設定されていないので,異常寸法のナットに対する解決策が満足にとれていないという問題がある。」

イ.「【0015】
ガイドロッドの外径は,正規寸法のナットのねじ孔内径よりもわずかに小さく設定してあるので,正規寸法よりも小さいナットに対してガイドロッドの先端部が確実に干渉して弾き飛ばしがなされ,信頼性の高い作動が実現する。
これは実施例について述べることのできる効果であるが,ストッパ面とガイドロッドの軸心との距離が,正規寸法のナットに合致させて設定してあるから,正規寸法よりも小さいナットは上記距離を下回り,しかもねじ孔の内径も正規のものよりも小さくなるので,ガイドロッドの先端部はナットを確実に弾き飛ばすことになるのである。
【0016】
さらに,ガイドロッドの外径は,正規寸法よりも小さいナットのねじ孔内径よりも大きく設定してあるから,仮にねじ孔の軸心とガイドロッドの軸心とが同軸になったとしても,串刺し作用はなされずに確実に弾き飛ばしがなされる。」

(2)特許発明1の構成要件Q及び特許発明2の構成要件Eにおける,「ガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定され」という記載の技術的な意味について
上記(1)ア.の記載を参照すると,本件発明の解決課題は,パーツフィーダのボウル内へ正規寸法以外のプロジェクションナットが混入すること,とりわけ正規寸法よりも小さいナットが混入すると,当該ナットをガイドロッドが串刺しにしてしまって通常通りに供給されてしまうことを解決しようとするものといえる。
そして,(1)イ.の記載を参照すると,その課題に対して,ガイドロッドの外径を,正規寸法のナットのねじ孔内径よりもわずかに小さく,また,正規寸法よりも小さいナットのねじ孔内径よりも大きく設定することで,ガイドロッドの先端部が確実に干渉して弾き飛ばす作用を実現することを理解できる。
これらを考慮すると,特許発明1の構成要件Q及び特許発明2の構成要件Eにおける,「ガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定され」という記載の技術的な意味は,正規寸法よりも小さいナットを,ガイドロッドが串刺しにしてしまうことを解決しようとするものであって,ガイドロッドの先端部が確実に干渉してナットを弾き飛ばす作用を実現させようとするものであるといえる。

(3)特許発明1の構成要件Q及び特許発明2の構成要件Eにおける,「ガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定され」という記載の明確性について
当該記載の「ガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されている」という記載は,ガイドロッドの外径の上限の設定値を意味することは明らかであるし,「正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定され」という記載は,ガイドロッドの外径の下限の設定値を意味することは明らかである。
そして,ガイドロッドの外径を,これらの上限及び下限で規定される範囲内に設定することの技術的な意味は,上記(2)で説示するとおり,正規寸法よりも小さいナットにガイドロッドが干渉して弾き飛ばす作用を実現させることであるところ,当該ガイドロッドにより,正規寸法のナットが串刺しされて通常通りに供給されることが期待されていることは当然である。
そうすると,当業者であれば,正規寸法のナットが通常通りに串刺しされるように,ガイドロッドの外径の上限値を設定し,正規寸法よりも小さいナットを弾き飛ばすように,ガイドロッドの外径の下限値を設定すればよいことを当然に理解できる。
したがって,特許発明1の構成要件Q及び特許発明2の構成要件Eにおける,「ガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定され」という記載は明確であり,無効理由23及び24について,理由があるものとすることはできない。

(4)請求人の主張について
請求人は,「わずかに小さく」は,比較の程度が不明確な表現であり,「正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径」がどのような寸法を意味するのか,明細書に説明されていないことや,M5ナットを正規寸法とすると,M4.5ナットの内径よりも大きい3.960mmの外径のガイドロッドでは,M5ナットの内径と0.174mmの隙間しかなく,M5ナットを串刺し状に貫通させることは難しいこと等を主張している(上記第5の4.[請求人])が,上記(2)で説示するとおり,当業者であれば,それらの記載による技術的な意味を明確に理解できるから,請求人の主張は,いずれも採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によって,無効理由23及び24について,いずれも理由があるものとすることはできない。


4.甲14を主引用例とする無効理由について
(1)各甲号証の記載
甲14ないし16,甲20及び甲31には,以下の事項及び発明が記載されている。

ア.甲14の記載事項及び甲14発明
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 整列手段より送り出された表裏を有する物品を,物品加工機へ送り込むための供給手段へ搬送する物品自動供給装置用シュートにおいて,整列手段と供給手段との間へ着脱自在に設けた所定長さの主体と,この主体の長さ方向に設けて前記物品が内部に収容されて移動自在となる移送空間と,該主体の移送空間内に設けて物品の表側または裏側のみが干渉する位置決め部材とを備えさせたことを特徴とする物品自動供給装置用シュート。
【請求項2】 主体の端部と,整列手段および供給手段の一方またはその両方に設けた取付位置合わせ手段とを備えさせたことを特徴とする請求項1記載の物品自動供給装置用シュート。」
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,産業機械の部品製造業界において用いる物品自動供給装置用シュートに関する。」
(ウ)「【0005】したがって,通常のナットの供給状態においては,支障なく,該ナットは一定方向に整列されて次々と前記各部材を経て移送されるものであるが,ナットに付着したり,装置内に混入した異物等により,前記した送出部材や検出手段,あるいは,シュート内にナットが詰まったりしたとき,更には,装置の保守・点検時等には,送出手段と供給ヘッドとの間に設けたシュートを取り外し,故障箇所の復旧や清掃等を行なっていたもので,これらの作業の終了後は,再び,シュートをもとの状態に戻す取り付けを行なっていた。
【0006】しかし,このシュートの再取り付けにあってその取付位置を間違えると,ナットが逆向き,すなわち,板材に対してナットの突起が上に向いた状態の供給となる。
【0007】この状態での上下電極による溶接は,板材に対するナットの接触が平滑面状となるので,電極による加圧・通電は,電流の通過する面積が過大となって溶接が不能または不十分となって,ナットが剥れ落ちる不良品となってしまう問題点を有するものであった。」
(エ)「【0017】
【実施例】次に本発明に関する物品自動供給装置用シュートの実施の一例を図面に基づいて説明する。
【0018】図1および図6においてAは,物品加工機Bへ物品wを送り込む物品自動供給装置で,例えば,自動車工業界において,図4に示すような自動車部品cの製造に採用されるものであって,整列手段1と,供給手段2と,シュート3とによりなる。
【0019】この装置Aおよび加工機Bにおいて供給・加工される物品wは,例えば,図5に示すような自動車部品cにおけるナットであり,図4に示すような,成形板材dに溶着されるものであって,このナットwは,その本体eの外側周縁部へ複数の溶接用の突起fを突出してある。
【0020】このナットwを,該突起fが成形板材d面に対応するように供給して,図1および図6に示すような,物品加工機Bである抵抗溶接機によって突起fがスポット溶接される。
【0021】そして,前記した整列手段1は,機台4の上部に設けたホッパー5の下部に,回転式の振動コンベアからなるボウル6を設け,このボウル6内に投入されたナットwを,その倒立または縦横の選別と,前記した突起fの向きを一方向に整列して,送出部材7へ送り管8を介して送るもので,送出部材7には,ナットwの突起fの整列有無を検知する検出部材(図示せず)を内蔵してある。
【0022】前記した供給手段2は,整列手段1の送出部材7からシュート3を介して送られたナットwを,一旦,複数個蓄溜して一個ずつ間隔的(溶接の実行毎)に抵抗溶接機Bへ送り込む。
【0023】また,受入部9に送り込まれたナットwは,エアシリンダ等の突き出し部材10における送出杆11の先端部に,そのねじ孔12が係合されて全体が保持され,後記する抵抗溶接機Bの下電極のガイドピンまで送られる。
【0024】前記したシュート3は,整列手段1と供給手段2との間へ着脱自在に設けて,ナットwを内装しつつ搬送するものであって,主体13と,移送空間14と,位置決め部材15とにより基本的に構成される。」
(オ)「【0027】したがって,図3(a)に示すように,ナットwが加工機Bに対して希望する姿勢により移送された場合は,該ナットwの外周縁に形成された突起fによって,該突起fが移送空間14における一側壁に当接したとき,主体13と一側壁との間に前記した位置決め部材15が干渉しない隙間が形成されて,ナットwの移送空間14内の移動が妨げられない。
【0028】しかし,図3(b)に示すように,ナットwが加工機bに対して非正常姿勢により移送された場合は,該ナットwの外周縁に形成された突起fが移送空間14における他側壁に当接し,突起fとは反対側が位置決め部材15に対応して干渉を受けるので,ナットwの移送空間14内の移動が妨げられる,すなわち,移送空間14内の移動ができない。
【0029】そのため,供給手段2における受入部9へ送られることがなく,抵抗溶接機Bにはナットwが供給されない。」
(カ)「【0032】なお,前記した抵抗溶接機Bは,図1および図6に示すように,機体19へ下電極20と上電極21とを対抗するように取り付け,板材d上に供給されたナットwを下電極20より立設させたガイドピン23へ,そのねじ孔12を挿嵌して位置決めした後,上電極21の昇降部材24を操作させて,該上電極21をナットwの上面に対して加圧させて両電極20,21を通電させると,該ナットwが板材dに溶着されて自動車部品cが製造される。」
(キ)図1を参照すると,ナットwを所定位置に停止させるストッパ面が,供給手段2の下方に形成されていることが認められる。
(ク)図6を参照すると,ボウル6は,円形であることが認められる。
上記(ア)ないし(ク)の記載事項より刊行物1には,次の発明(以下「甲14発明」という。)が記載されていると認める。
「円形のボウルに振動を与えてナットwを送出する整列手段1と,この整列手段1からのナットwをストッパ面にあてて所定位置に停止させ,その後,エアシリンダ等の突き出し部材10における送出杆11の先端部をナットwのねじ孔12内に係合させてナットwを目的箇所へ供給する形式のものにおいて,シュート3の位置決め部材15により,ナットwを希望する姿勢に整列させて供給する装置。」

イ.甲15の記載事項及び甲15技術的事項
(ア)第2欄第1行ないし第3欄第3行
「(前略)・・・スポツト溶接機(図示せず)の上下両電極1,2の軸芯に対して適宜角度α其の竪片を傾斜せしめた直角L型の非磁性体供給ヘツド3に竪軸芯に沿つた外側壁面が平面の摺動孔4と横軸芯に沿つた供給ナツトと同じ断面形状の通路溝9とをそれぞれ交叉するよう穿設し,交叉箇所外端部には磁石を其の表面が摺動孔4の外側壁面と同一平面上にあらしめるよう装着して其の外側をボルト8締めし,摺動孔4内には非磁性体製スピンドル5を摺動自在に嵌挿し,スピンドル5には其の中心を貫通して目的ナツトの螺糸孔よりも稍小径の案内棒を嵌着してスピンドルの下降下限に於いて案内棒の下端が下部電極1の芯金1′上端に合致するようなし,通路溝9内には目的のナツト10を案内シュート11を介して導入して成る装置である。従つて導入ナツト群の最前端のものは其の側辺を磁石7に吸引されて摺動孔内に位置することになる。
次に斯くなされた本発明ナツト供給装置の作用に就いて述べるに,下部電極1上に板金工作用12を其のパルト孔に芯金1′を嵌挿してスイツチペタルを踏めば,先ずスピンドル5が下降行程に入り其の下部に設けた案内棒6が第2図に示す如く直下のナツト10孔を貫通して其の下端が芯金1′に接触合致する迄下降する。すると磁石7により吸着係止されていた最前部のナツト10は案内棒に嵌まつた状態のまま押し下げられて磁石7による吸着係止から外脱し,第4図に示す如く案内棒6に沿つて辷り落ち芯金1′に自動的に嵌り込み,板金工作物12のナツト溶接個所に正しく一個だけ供給される,そして此の操作が終りスピンドル5が上昇行程に入つて上限に復帰すれば,第5図に示す如くスピンドル5の直下に次のナツト10′が磁石7に吸着され,該ナツト10′を次の下降行程で芯金上に供給する態勢を完了し,上部電極2が下降して芯金1′に嵌まつているナツト10を工作物12にスポツト溶接して上限に復帰し,工作物を移動すれば又スピンドルが下降する順序を繰り返し,以後電極に連動して下部電極上の工作物にナツトを一個ずつ正確に供給する・・・(後略)」
なお,上記の記載の「螺糸孔」は,技術常識から見て「螺子孔」の誤記と認める。
(イ)上記の記載事項から,甲15には,次の技術的事項(以下「甲15技術的事項」という。)が記載されていると認める。
「スピンドル5の案内棒6をナット10を貫通してナット10を目的箇所へ供給する形式のものにおいて,案内棒6はナット10の螺子孔よりもやや小径に設定すること。」

ウ.甲16の記載事項
(ア)実用新案登録請求の範囲
「傾斜状態とされた螺旋形段部に沿つてガイド溝またはガイド突条を設け,ガイド溝またはガイド突条と交叉する向きにナツトの正常な通過形状を付与したチエツクゲージを設け,チエツクゲージで異常な表裏状態と判定されたナツトが螺旋形段部から滑り落るように前記傾斜状態が設定されていることを特徴とするプロジエクシヨンナツト用パーツフイーダー。」
(イ)甲16の明細書の第2ページ第14行ないし第3ページ第2行
「第1図はパーツフイーダー1の外観図であつて,起振部2の上側にボウル3が設置されている。ボウル3は円形であつてその内周部に螺旋形段部が設けてあり,その終端部から送出用の供給管4が伸びている。第2図は螺旋形段部(以下段部と略称する)5の上部終端付近の拡大平面図であつて,段部5の終端付近は図示のごとく拡幅され,その段部5に沿つてガイド溝6が形成してある。」
(ウ)甲16の明細書第4ページ第9ないし18行
「第7図はガイド溝の代りにガイド突条12が段部5に沿つて設けられている場合であり,ナツトNが裏向きになつていると,ガイド突条12の高さ分だけナツトNが高くなるので,この部分が前述と同様に接触するのである。
第6図および第7図のチエツクゲージは,いわゆる門型の形状であるが,このゲージはナツトの通過を許すか許さないかの役目を果すものであるから,第8図のようなほぼL字型の形状であつてもよい。」

エ.甲20の記載事項及び甲20技術的事項
(ア)第18ページ右下の図3には,振動ボウルホッパフィーダが記載されている。
(イ)第53ページ右欄第13行ないし第54ページ右欄39行
「設計条件ならびに部品との結び付き
中板ホッパフィーダの断面構造を図1に示し,各部の構造とともに設計条件,ならびに中板ホッパフィーダで供給される部品との結び付きについて説明する。
1.ホッパ
・・・(中略)・・・
2.中板
・・・(中略)・・・
3.ゲート
整列された部品のみ通過させるためのゲートの形状は,ちょうど姿ゲージのようなもので,整列された部品のシルエットよりやや大きめの切欠きにしてある.
この方法で問題となるのは,類似形状でサイズが異なるような異種物品が混入している場合である.その大きいものはゲートでひっかかりシュートへ送り出されないが,ゲートの切欠き形状を通過するような小さいものは,整列された部品と同様,シュートへ送り出されるので,そのようなおそれのある部品については,あらかじめ選別しておく必要がある。」
(ウ)上記(イ)の記載事項からみて,甲20には,次の技術的事項(以下「甲20技術的事項」という。)が記載されていると認める。
「中板ホッパフィーダにおいて,ゲートの切欠き形状を通過するような小さいものは,あらかじめ選別しておく必要があること。」

オ.甲31の記載事項及び甲31技術的事項
(ア)甲31の明細書第1ページ第15ないし19行
「この考案は主として溶接ナツト(プロジエクシヨンナツト)の表裏及び大小を選別して整列した後,溶接ナツトの大小に応じて複数の排出口から各々別個に,連続的又は間欠的にスポツト溶接機等へ送給するパーツフイーダのボウルに関する。」
(イ)甲31の明細書第4ページ第8ないし13行
「(前略)・・・第一ガイドプレート41と第一ゲートプレート51と滑降山部17とから,所望向き(例えば裏向き50b)とサイズ(例えばM6以上)とが選別できる配列になつている。すなわち表向き50aとM6未満のナツト50は,ここで下方に落下させる。」
(ウ)甲31の明細書第7ページ下から第2行ないし第8ページ第9行
「滑降山部17においては,ナツトの自重とボウル1の振動により,所望する例えばM6のナツト及びM6の表向き50aのナツトは,滑降山部17の斜面を内側に向かつて滑り落ち,・・・(中略)・・・排除される。一方M6の裏向き50b及びM8以上のナツトは・・・(中略)・・・通過する・・・(中略)・・・。すなわち,ここで裏向き50bでM6及びM8以上のナツトのみが通過され,他は落下される。」
(エ)甲31の明細書第9ページ第6ないし8行
「(前略)・・・チェツクゲート62にて小ナツトM6のみが選択されて排出口6から裏向き状態で,連設するスポツト溶接機等(図示せず)に送給される。」
(オ)甲31の明細書第10ページ第4ないし8行
「チエツクゲート71にて裏向き50bでM8のナツトのみ選別されて排出口7から同様にしてスポツト溶接機等(図示せず)に送給され,他はすべて落下される。」
上記(ア)の記載事項からみて,上記(イ)の「所望する例えばM6のナツト」との記載は,「所望する例えばM6未満のナツト」の誤記と認める。
そして,上記(ア)ないし(オ)の記載事項からみて,甲31には,次の技術的事項(以下「甲31技術的事項」という。)が記載されていると認める。
「プロジェクションナットをスポット溶接機へ送給するパーツフィーダのボウルにおいて,裏向きのM6及びM8ナットを通過させ,M6未満のナット,M8以上のナット並びに表向きのM6及びM8ナットをボウル内に落下させること。」

(2)特許発明2と甲14発明との対比
特許発明2と甲14発明とを対比すると,甲14発明の「ナットw」が特許発明2の「プロジェクションナット」に相当することは明らかであり,以下同様に,「整列手段1」が「パーツフィーダ」に相当し,「エアシリンダ等の突き出し部材10」が「供給ロッド」に相当する。
また,甲14発明において「送出杆11の先端部をナットwのねじ孔12内に係合」させることは,「ガイドロッドをプロジェクションナットのねじ孔内へ挿入」させる点で,特許発明2において「ガイドロッドをプロジェクションナットのねじ孔内へ串刺し状に貫通」させることと共通する。
以上から,特許発明2と甲14発明とは,以下の点で一致及び相違する。

<一致点>
両発明は,
「円形のボウルに振動を与えてプロジェクションナットを送出するパーツフィーダとこのパーツフィーダからのプロジェクションナットをストッパ面に当てて所定位置に停止させ,その後,供給ロッドのガイドロッドをプロジェクションナットのねじ孔内へ挿入させてプロジェクションナットを目的箇所へ供給する形式のプロジェクションナットの供給装置。」
である点。

<相違点1>
特許発明2は,「ガイドロッドをプロジェクションナットのねじ孔内へ串刺し状に貫通」させているのに対して,甲14発明は,「送出杆11の先端部をナットwのねじ孔12内に係合」させている点。

<相違点2>
特許発明2は,「正規寸法よりも大きいプロジェクションナットを排除し正規寸法あるいはそれ以下のプロジェクションナットを通過させる計測手段をパーツフィーダの送出通路に設置し」ているのに対して,甲14発明は,そのような計測手段を備えているかどうか不明な点。

<相違点3>
特許発明2は,「ストッパ面に位置決めされた正規寸法よりも小さいプロジェクションナットを供給ロッドの進出時にその先端部で弾き飛ばすガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されている」のに対して,甲14発明は,送出杆11の先端部の外径がどのように設定されているのか不明な点。

(3)相違点の判断
事案に鑑みて,まず相違点3を検討すると,上記3.(2)で説示するとおり,特許発明2において「ガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定され」と特定されていることの技術的な意味は,正規寸法よりも小さいナットを,ガイドロッドが串刺しにしてしまうことを解決しようとするものであって,ガイドロッドの先端部が確実に干渉してナットを弾き飛ばす作用を実現させようとするものである。
これに対して,ガイドロッドの外径を正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定して,ナットを弾き飛ばすことについて,甲15技術的事項,甲20技術的事項,甲31技術的事項や,その他の甲号証及び乙号証には記載も示唆もない。
すなわち,甲15技術的事項を参照すると,特許発明2のガイドロッドに相当する案内棒6を正規寸法のナット10のねじ孔の内径よりもやや小さく設定することが示されているものの,ガイドロッドの外径を正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定して,ナットを弾き飛ばすことについて記載も示唆もない。
また,甲20技術的事項は,「中板ホッパフィーダにおいて,ゲートの切欠き形状を通過するような小さいものは,あらかじめ選別しておく必要があること。」というものであり,甲31技術的事項は,「プロジェクションナットをスポット溶接機へ送給するパーツフィーダのボウルにおいて,裏向きのM6及びM8ナットを通過させ,M6未満のナット,M8以上のナット並びに表向きのM6及びM8ナットをボウル内に落下させること。」というものであるから,正規寸法よりも小さいプロジェクションナットが混入する課題自体は,本件特許に係る出願時に周知の課題といえる。しかし,甲20技術的事項は,その課題の解決手段として「あらかじめ選別しておく」ことを示唆するものであり,甲31技術的事項は,「M6未満のナット,・・・・・をボウル内に落下させること。」というものであるから,ガイドロッドの外径を正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定して,ナットを弾き飛ばすことについて,甲20技術的事項及び甲31技術的事項には,記載も示唆もない。
さらに,他の甲号証及び乙号証を参照しても,ガイドロッドの外径を正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定して,ナットを弾き飛ばすことについて,記載も示唆もない。
したがって,他の相違点1及び2について検討するまでもなく,特許発明2は,甲14発明,甲15及び16記載の事項並びに甲20及び甲31に示す従来周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

(4)特許発明4について
特許発明4は特許発明3を引用し,特許発明3は特許発明2を引用するところ,上記(3)に示すとおり,特許発明2は,甲14発明,甲15及び16記載の事項並びに甲20及び甲31に示す従来周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできないから,同様に,特許発明4は,甲14ないし16発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

(5)小括
したがって,請求人の主張及び証拠方法によって,無効理由5及び18について,いずれも理由があるものとすることはできない。


第7 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許の請求項1ないし4に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-21 
結審通知日 2016-06-24 
審決日 2016-07-12 
出願番号 特願平8-359913
審決分類 P 1 113・ 537- Y (B23K)
P 1 113・ 121- Y (B23K)
P 1 113・ 111- Y (B23K)
P 1 113・ 112- Y (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横溝 顕範  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 平岩 正一
刈間 宏信
登録日 2002-05-24 
登録番号 特許第3309245号(P3309245)
発明の名称 プロジェクションナットの供給方法とその装置  
代理人 松本 司  
代理人 田上 洋平  
代理人 植松 祐二  
代理人 北山 元章  
代理人 松本 司  
代理人 大江 哲平  
代理人 竹内 宏  
代理人 河部 大輔  
代理人 田上 洋平  
代理人 前田 弘  
代理人 大江 哲平  
代理人 大澤 久志  

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