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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A61F
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61F
管理番号 1331752
審判番号 無効2015-800103  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-04-01 
確定日 2017-09-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第3277180号発明「二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成13年 5月29日 出願(優先権主張、平成12年10月3日)
平成14年 2月 8日 設定登録(特許第3277180号)
平成23年 7月26日 無効審判請求(1)(無効2011-800133号)
平成24年 1月16日付 同審決(1)、不成立、確定
平成23年 9月14日 無効審判請求(2)(無効2011-800174号)
平成24年 3月14日付 同審決(2)、不成立、確定
平成25年 2月22日 無効審判請求(3)(無効2013-800032号)
平成25年 8月30日付 同審決(3)、不成立、確定
平成27年 4月 1日 本件無効審判請求
平成27年 6月19日付 答弁書
平成27年 7月 2日付 審理事項通知(1)
平成27年 8月 6日付 被請求人・口頭審理陳述要領書(1)
平成27年 8月 7日付 請求人・口頭審理陳述要領書(1)
平成27年 8月10日付 審理事項通知(2)
平成27年 8月31日付 両者・口頭審理陳述要領書(2)
平成27年 9月 3日 口頭審理
平成27年 9月17日付 請求人・上申書

各証拠は、「甲第1号証」を「甲1」のように、口頭審理陳述要領書は、「要領書」と略記した。

なお、本審決において、特許法の条文を指摘する際に「特許法」という表記を省略することがある。

第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に、粘着剤を塗着することにより構成した、
ことを特徴とする二重瞼形成用テープ。」

第3 請求人の主張
1 要点
請求人は、本件の請求項1に係る発明についての特許を無効とするとの審決を求めている。
その理由の要点は以下のとおりである。

(1)無効理由1(29条2項)
本件発明1は、甲2(米国特許第4653483号明細書)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、29条2項の規定により特許を受けることができず、本件発明1に係る特許は、123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2(36条6項1号)
本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではないので、本件発明1の記載は、36条6項1号の規定に適合しておらず、本件発明1に係る特許は、123条1項4号に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由3(36条6項2号)
本件発明1は、明確ではないので、本件発明1の記載は、36条6項2号の規定に適合しておらず、本件発明1に係る本件特許は、123条1項4号に該当し、無効とすべきものである。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲1 特許第3277180号公報
甲2 米国特許公報第4653483号公報
甲3 甲第2号証の抄訳
甲4 ジーニアス英和大辞典 平成13年(2001年)4月25日発行、株式会社大修館書店
甲5の1 “3M^(TM) Surgical Tapes”と題する書面(3M社のカタログ)2003年
甲5の2 甲5の1の抄訳
甲6 「技術報告書」と題する書面 作成者:スリーエムヘルスケア株式会社 皮膚創傷ケア製品技術部 甲田昇氏 平成27年1月22日
甲7 「弊社『技術報告書』に関するお問合せの件」と題する書面 作成者:スリーエムヘルスケア株式会社 技術本部 皮膚創傷ケア製品技術部 部長 笠原貴裕氏 平成27年3月10日
甲8 化学大事典8 縮刷版 昭和52年9月20日発行 共立出版株式会社
甲9 最高裁判所平成3年3月8日第二小法廷判決
甲10 最高裁判所調査官解説(民事篇平成3年度28頁?50頁)
甲11 特許判例百選(第4版)(別冊ジュリストNo.209)の第124頁?125頁
甲12 新・注解 特許法【上巻】2011年4月26日発行、株式会社青林書院、第302頁、第658頁
甲13 知財高裁平成22年8月31日判決
甲14 「スリーエム ヘルスケア株式会社の社名変更のお知らせ」と題する書面 作成者:スリーエム ジャパン株式会社、スリーエム ヘルスケア株式会社 代表取締役社長 三村浩一氏 平成27年4月
甲15 「弊社『技術報告書』に関する追加お問合せの件」と題する書面 作成者 :スリーエムジャパン株式会社 ヘルスケアカンパニー 技術本部 皮膚創傷ケア製品技術部 部長 笠原 貴裕氏 作成日 :平成27年8月21日

以上の証拠方法のうち、甲1ないし甲8は、審判請求書(以下、単に「請求書」ということがある。)に添付され、それ以外は、その後提出されたものである。また、これらの証拠方法の成立について、当事者間に争いはない(口頭審理調書の「被請求人」欄1)。

3 主張の概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)無効理由1(29条2項)
本件発明1は、最高裁判決(甲9)に照らし、その文言どおり、発明の要旨を認定すべきである。文言を限定的に解釈して発明の要旨認定を行うことは許されない。
甲2には、上眼瞼に貼付してその皮膚の襞(ひだ)を保つための両面粘着テープ細帯に関する発明が記載されている。
そして、この両面粘着テープ細帯の材料として、ポリエチレンフィルムの両面に低刺激性合成アクリル酸ベースの感圧粘着剤がコーティングされた3M社のNo.1512-3という型番のテープが使用される。
ここで、米国3Mヘルスケア社のカタログ(甲5)によれば、甲2では、3M社の製品番号1512の3インチ幅品(粘着剤がポリエチレンフィルム両面に塗布されたテープ)をカットして、両面粘着テープ細帯が形成されることが分かる。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1では、合成樹脂に「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」ものを用いるのに対し、甲2発明ではこれが特定されていない点
(相違点2)
本件発明1では、「細いテープ状部材に粘着剤を塗着する」のに対し、甲2発明では、ポリエチレンフィルム(基材)の両面にあらかじめ粘着剤が塗着された粘着テープを細くカットして用いており、細いテープ状部材に粘着剤を塗着しているわけではない点
相違点1について検討する。
甲6には、製品番号1512と同一の基材(ポリエチレンフィルム)を用い(甲7)、荷重を使用して所定の長さに延伸した後に荷重を解放した実験結果が示されている。製品番号1512の基材であるポリエチレンフィルムは、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」ことが分かる。
よって、相違点1は実質的な相違点ではない。
仮に、相違点1が実質的なものだとしても、公然実施された発明(製品番号1512の両面粘着テープの基材が「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」ことは公然知られ得る状況であった。)を組み合わせることで当業者が容易に想到できたものである。
相違点2については、予め粘着剤を塗着した合成樹脂の基材(例えばポリエチレン)を細いテープ状部材とするか、細いテープ状部材とした基材に粘着剤を塗着するかという点は、当業者が適宜行う設計事項にすぎない。

(2)無効理由2(36条6項1号)
本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」は、延伸が可能で延伸後も弾性的に収縮する性質を有するありとあらゆる合成樹脂をいうと解釈され得るところ、発明の詳細な説明には、「延伸可能であって、延伸して瞼に貼り付ける状態においても弾性的に復帰しようとする収縮力(瞼に押し当てた場合に弾性的に縮むことでテープ状部材がそれを貼り付けた瞼にくい込みそれ自身の収縮によって二重瞼を形成する程度の収縮力)を有する合成樹脂」しか記載されていない。
「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」には、瞼に貼り付ける準備状態まで延伸すると弾性的に復帰しようとする収縮力を失う合成樹脂や、弾性的に復帰しようとする収縮力はあってもそれ自身の収縮によって二重瞼を形成する程度の収縮力は有しない合成樹脂のように、発明の詳細な説明に記載されていない合成樹脂を包含し、これらによっては、本件発明1の課題を解決できることを認識することはできない。

(3)無効理由3(36条6項2号)
発明の詳細な説明では、延伸の方法・延伸率等の条件は「延伸して瞼に貼り付ける状態(瞼に押し当てた場合)」に限定されている。
他方、本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」は、延伸の方法・延伸率等の条件に関係なく延伸後も弾性的に収縮する性質を有するありとあらゆる合成樹脂を包含し得るから、本件発明1は明確ではない。
本件発明1は、「塗着する」という動作を伴う経時的な要素を含むから、「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」(甲12)に該当し、「構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情」は存在しない。
よって、最高裁判決(平成27年6月5日)の規範により、本件発明1は「発明が明確であること」との要件に適合しない。

第4 被請求人の主張
1 要点
これに対し、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。

2 証拠方法
被請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。これらの証拠方法の成立について、当事者間に争いはない(口頭審理調書の「請求人」欄1)。

乙1 無効2011-800174の審決に対する審決取消訴訟(平成24年(行ケ)第10133号)の判決書
乙2 実願昭61-24573号(実開昭62-136545号)のマイクロフィルム
乙3 無効2013-800032の審決書
乙4 飯村敏明著『特許出願に係る発明の要旨認定とクレーム解釈について』(片山英二先生還暦記念論文集 知的財産法の新しい流れ 35頁ないし51頁)
乙5 相田義明著『「発明の要旨」について』(パテント2011 Vol.64 No.2 89頁ないし94頁)
乙6 特許審査基準
乙7 特開平11-318558号公報
乙8 実用新案登録第3043151号公報
乙9 実公昭51-1986号公報
乙10 廣恵章利・本吉正信著『成形加工技術者のためのプラスチック物性入門』61頁ないし79頁(日本工業新聞社)
乙11 特表平8-505593号公報
乙12 『ストレッチシュリンク包装』(日本梱包工業組合連合会指導教育委員会)
乙13の1ないし3 本件特許の実施品である「メザイク」の引張り試験結果(東京都立産業技術研究センター)
乙14 本件発明の実施品である「メザイク」の写真(写し)
乙15の1 「メザイク」を延伸させた状態、及びサンプルAのテープの写真(写し)
乙15の2 「メザイク」及びサンプルAのテープの仕様書(写し)
乙16の1及び2 「メザイク」を瞼に装着した状態を示す写真(写し)
乙17の1ないし3 サンプルAのテープを瞼に装着する方法及び装着した状態を示す写真(写し)
乙18 特許第4692943号公報
乙19 特公平7-45766号公報
乙20 特公平3-2963号公報

3 主張の概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)無効理由1(29条2項)
本件発明1は、用途が「二重瞼形成用テープ」に限定された「合成樹脂テープ」に係るものであるから、その用語の意味については、明細書及び図面に記載された定義、説明及び技術常識を考慮した上で、上記用途に則して合理的に解釈されるべきである。
請求人は、リパーゼ判決に基づけば、字義どおり要旨認定すべきと主張するが、そのような指摘は、リパーゼ判決(甲9)や、最高裁調査官解説(甲10号)には一切見当たらない。
甲2の美容テープは、単に両面粘着テープで瞼の皮膚同士を折り畳んだ状態で貼り合わせることによって、ひだを固定的に形成するものにすぎない。
甲2においては、本件発明1の特徴である「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」点、すなわち「テープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して瞼に二重瞼のひだを形成する」点について、何ら開示されておらず、また、そうした内容を示唆する記載も存在しない。
甲2は、上瞼を形作る皮膚の三次元的表面形状に適合させるために、長手方向に湾曲した又は弧状のエッジを持たせて幅を変化させたものであり、そうした形状を利用して瞼の整形を行うものであるから、上記形状を延伸させることによって変形させると、同美容テープの上記形状の利用という点が放棄されることになる。甲2は、 延伸等により変形させて使用することのないものとして想定されていることは明らかである。
請求人は、相違点2があるとするが、本件発明1に製造手順が含まれているとは言えず、請求人の主張は前提が誤っている。

(2)無効理由2(36条6項1号)
明細書の段落0008、0009、0032における、二重瞼形成用テープの作用効果に関する記載、乙7?9に示されるような本件出願時の事情に照らせば、本件発明1における「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」は、「延伸させた後にも、瞼にくい込むことにより二重瞼のひだの形成に寄与する弾性的な伸縮性を有する」ことを意味していることは明らかである。
本件発明1の作用効果が、明細書の段落0003の、簡単にきれいな二重瞼を形成でき、瞼に直接二重にするためのひだを形成し、自然な二重を形成でき、二重瞼形成のための操作が安全かつ容易な二重瞼形成用テープを提供する、といった本件発明1の課題と整合していることも明らかである。
乙10は、合成樹脂の一般的な機械的性質(特に引張り特性)について言及するものであり、材料の引張り応力-ひずみ(伸び)曲線図の基本的な形状(タイプ)と、曲線図の各タイプに属する合成樹脂の特徴及び代表例が示されている。
本件発明1の「伸縮性合成樹脂」を当てはめると、引張り強さ(破断時の引張り応力)や引張り弾性率(引張り応力/伸び)が他の合成樹脂と比較して小さく、伸び(破断時の歪み量)が大きい(すなわち、軟らかくて粘り強い)合成樹脂を示す分類Dに属するものである。本件明細書の段落0010に記載した、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」の一例もポリエチレンである。
以上から、本件発明1の「伸縮性合成樹脂」は、「ポリエチレン」を含んだ一定の限られた範囲の合成樹脂を指し示していると解することができる。
本件発明1の記載は、製造方法を含むものではなく、明細書及び図面の記載並びに技術常識を考慮すれば、乙18?20と同様に、単に物の状態を示すことにより構造を特定しているにすぎない。本件発明1が「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」に該当しないことは明らかである。

(3)無効理由3(36条6項2号)
明細書の段落0008には、本件発明1が、「テープ状部材の両端を把持して弾性的に延びた状態になるように引っ張り、その状態でテープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい位置に押し当てて、該粘着剤によりテープ状部材をそこに貼り付け」るものであることが明記されている。このことから、本件発明1が、テープ状部材の両端を把持して引っ張ることにより延伸させるものであって、その際、瞼における(二重瞼の)ひだを形成したい位置に押し当てて、テープ状部材を貼り付けることができる程度の長さに延伸させるものであることは明らかである。
また、上記(2)のとおり、本件発明1における「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」は、「延伸させた後にも、瞼にくい込むことにより二重瞼のひだの形成に寄与する弾性的な伸縮性を有する」ことを意味していることも明らかである。

第5 無効理由1(29条2項)についての当審の判断
1 本件発明
本件発明1は、明細書及び図面の記載からみて、上記第2のとおりと認める。

2 甲2
請求人が提出した証拠である甲2には、「Cosmetic tape, applicator therefor and method」(美容テープ、そのアプリケータ、および方法)に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、括弧内の日本語は、主に請求人による仮訳である。

(ア)第1欄第11?17行
「The present invention relates to precut, preshaped adhesive tape strips or members for application to an upper eyelid to retain a fold in the skin thereof, an applicator device for facilitating placement of such an adhesive member on the skin surface of the eyelid, and a method for use of the tape strip in nonsurgically taking a tuck in loose skin, such as at the upper eyelid.」
(本発明は、上眼瞼に貼付してその皮膚の襞を保つための予めカットされ成形された粘着テープ細帯または部材、そのような粘着部材を眼瞼の皮膚表面に配置しやすくするアプリケ一タデバイス、および上眼瞼などで弛んだ皮膚に非手術的に折り込み(タック)を形成する際のテープ細帯の使用方法に関する。)

(イ)第2欄第46?59行
「The tape strip member has a backing of hypo-allergenic material and adhesive such as to make the strip very thin, very soft and pliable, strong, tear resistant, easily conformed to body contours, non-irritating, and water resistant. The skin of the upper eyelid is folded down over the adhesive strip and attached to the exposed adhesive on the other side of the adhesive strip; and, the folded skin of the upper eyelid folded back upon itself with its edge along the bottom edge of the adhesive strip to form an artificial super tarsal fold which is deeper and higher than the natural fold. The application of the tape strip is facilitated by the use of an applicator device which releasably carries the tape strip to the eyelid.」
(テープ細帯部材は、これが非常に薄くて柔らかく、可撓性と強度があり、破れにくく、身体の輪郭に沿いやすく、低刺激性で、防水性の細帯となるような低刺激性材料の支持体および粘着剤を有する。上眼瞼の皮膚は粘着細帯上に折りだたまれ、粘着細帯の他方の面の露出した粘着剤に付着させられ、次いで上眼瞼の折りだたまれた皮膚はその端縁が粘着細帯の下縁部に沿った状態で該皮膚自体の上に折り返されて、自然な襞よりも深くて位置が高い、人工的な二重瞼が形成される。テープ細帯の貼付は、このテープ細帯を剥離可能に眼瞼に運ぶアプリケ一夕デバイスを用いることで容易になる。)

(ウ)第3欄第43?61行
「Turning first to FIG.5, a simplified drawing through the upper eyelid 10 in conjunction with an eyeball 12 is shown, depicting the desired objective of the present invention; that is, if the natural super tarsal fold in the upper eyelid 10 is replaced by a deeper artificial super tarsal fold, an effective tuck will be taken in the loose skin of the upper eyelid 10. According to the present invention, a very thin strip of double-sided adhesive tape 32 generally less than 1 cm in width and 4 cm in length is attached to the upper eyelid 10 with the bottom edge spaced about 8-12 mm above the ciliary margin 20 and/or the top edge above the fold line of the natural super tarsal fold. The skin above the adhesive strip 32 is then folded down and then back upon itself as shown in FIG. 5 with the bottom edge of the skin aligned along the bottom edge of the tape strip 32. The adhesive strip 32 maintains the deeper and higher artificial super tarsal fold thus formed in the desired position.」
(まず図5を参照すると、眼球12とともに上眼瞼10の簡略図面が示されており、本発明の所望の目的、すなわち、上眼瞼10において自然の二重瞼がより深い人工的二重瞼で置き換えられると上眼瞼10の弛んだ皮膚に効果的な折り込みがとられるということを示している。本発明によると、一般に幅1cm未満、長さ4cm未満の非常に薄い細帯の両面粘着テープ32が、上眼瞼10に、その下縁部は毛様体縁20から約8?12mm上に離間してかつ/またはその上縁部は自然の二重瞼の襲線よりも上にある状態で貼付される。次いで粘着細帯32の上の皮膚は下方に折りだたまれ、次に図5に示すように該皮膚の下縁部がテープ細帯32の下縁部に沿って揃った状態で、該皮膚自体の上に折り返される。粘着細帯32はこのようにして所望の位置に形成された、より深く位置が高い人工的二重瞼を維持する。)

(エ)第5欄第39?53行
「Another example of a strip member 32 suitable for use in the present invention is that made by the Minnesota Mining & Manufacturing Co. (3M) of St. Paul, Minn. under specification No. 1512-3 of August, 1981. In such a 3M tape, the strip material may comprise a backing material of transparent polyethylene film having a thickness of 1.5 mils. The adhesive coating or lamina on each side surface of the backing material may be a hypoallergenic, synthetic, acrylate based pressure sensitive adhesive. The thickness of the backing material and the adhesive lamina on opposite side surfaces thereof may result in a thickness of about 3 mils. The backing material of polyethylene film in the 3M example is generally occlusive and is suitable for use for relatively short periods of time.」
(本発明での使用に適した細帯部材32の別の例は、ミネソタ州セントポールのMinnesota Mining & Manufacturing(3M社)が仕様書番号1512-3 (1981年8月)として製造したものである。そのような3Mテープでは、細帯材は、厚さ1.5ミルの透明ポリエチレンフィルムの支持材を含み得る。この支持材の各表面の粘着剤コーティングまたは薄層は、低刺激性合成アクリル酸ベースの感圧粘着剤であり得る。支持材とその両表面の粘着薄層との厚さは全部で約3ミルであり得る。この3M社の例のポリエチレンフィルムの支持材は、一般には密封型であり、比較的短期間の使用に適している。)

(オ)第5欄第54?62行
「Liner sheet 44 may be a skin bleached two-sided silicone treated polyethylene coated paper of a suitable basis weight.
Examples of strip members 32 as described above comprising a backing material and adhesive lamina may be cut into a shape to provide an elongated strip of varying width with curved or arcuate longitudinal edges to readily conform to the three dimensional contours or shape of the skin forming the upper eyelid.」
(ライナーシート44は、適当な坪量の、外表面殺菌済み両面性シリコーン処理ポリエチレン被覆紙であり得る。
上述した支持材および粘着薄層を備える細帯部材32の諸例は、ある形状に切って、さまざまな幅の湾曲または弧状の長手方向縁部を有する細長い細帯を提供して、上眼瞼を形成する皮膚の三次元的輪郭または形状に容易に沿わせることができる。)

(カ)第6欄第18?30行
「Practice of the method of this invention, namely, attaching one side of an adhesive strip member having adhesive on both sides along one surface of the intended tuck area, folding the skin of the intended tuck area over the adhesive strip and attaching it to the exposed adhesive on the other side of the adhesive strip is facilitated by the use of an applicator device as shown in FIGS. 16, 17 and 18. FIG. 16 is similar to FIG. 7 in the illustration of the pulling back of the loose upper eyelid skin 10 by a finger and positioning of strip member 32 on the eyelid skin surface substantially as shown in FIG. 7. In FIG. 16, the strip member 32 is shown as being applied by an applicator device 70.」
(本発明の方法の実施、すなわち両面に粘着剤を有する粘着細帯部材の一方の面を所期の折り込み領域の一表面に沿って貼付し、所期の折り込み領域の皮膚を該粘着細帯上に折りたたんで該粘着細帯の他方の面の露出した粘着剤に付着させることは、図16?図18に示すように、アプリケ一タデバイスを用いると容易になる。図16は、図7に示すように、弛んだ上眼瞼の皮膚10の後部を指で引いて細帯部材32を上眼瞼の皮膚表面に実質的に配置する説明において図7と類似している。図16は、アプリケ一タデバイス70によって貼付される細帯部材32を示す。)

よって、甲2には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「3M社の仕様書番号1512-3(1981年8月)のポリエチレンフィルムで形成され、湾曲したテープ細帯32に、粘着剤がコーティングされている、二重瞼形成用テープ細帯32。」

3 本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「ポリエチレンフィルム」は本件発明1の「合成樹脂」に相当し、同様に「テープ細帯32」は「細いテープ状部材」に、「コーティングされている」は「塗着することにより構成した」に、相当する。
よって、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。

一致点
「合成樹脂により形成した細いテープ状部材に、粘着剤を塗着することにより構成した、二重瞼形成用テープ。」

相違点
合成樹脂について、本件発明1では「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」が、甲2発明では「3M社の仕様書番号1512-3(1981年8月)のポリエチレンフィルム」である点。

請求人は、「積極的には争わない」(要領書(1)3ページ2(1))ものの、以下の点も、相違点であると主張する(上記第3の3(1))。
本件発明1では、「細いテープ状部材に粘着剤を塗着する」のに対し、刊行物1に記載された発明では、ポリエチレンフィルム(基材)の両面にあらかじめ粘着剤が塗着された粘着テープを細くカットして用いており、細いテープ状部材に粘着剤を塗着しているわけではない点。

検討するに、本件明細書には、以下の記載がある。

「【0010】
【発明の実施の形態】図1は本発明の二重瞼形成用テープの一実施例を示している。この二重瞼形成用テープは、基本的には、弾性的に伸縮する細いテープ状部材1の表裏に粘着剤2を塗着することにより構成することができるものである。」

「【0013】上記二重瞼形成用テープは、図2に示すように、弾性的に伸縮するX方向に任意長のシート状部材11の表裏全面に粘着剤12を塗着すると共に、その幅方向(W方向)両端に粘着性のない把持部13を形成し、これを多数の切断線Lに沿って細片状に切断することにより、極めて容易に製造することができる。」

すなわち、本発明の二重瞼形成用テープは、基本的には、細いテープ状部材1の表裏に粘着剤2を塗着する、すなわち、1本1本の細いテープ状部材に粘着剤を塗着するもの(段落0010)であり、シート状部材11の表裏全面に粘着剤12を塗着し、これを多数の切断線Lに沿って細片状に切断することにより、製造が容易となるもの(段落0013)である。
してみると、本件発明1の「細いテープ状部材に粘着剤を塗着する」とは、「細いテープ状部材に粘着剤を塗着するもの」、「シート状部材に粘着剤を塗着し細片状に切断するもの」、両者を含むと解されるから、相違点であるとの請求人の主張は採用できない。

4 判断
請求人は、本件発明1の要旨認定につき、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」なる要件は、最高裁判決(甲9)に照らし、文言どおりとすべきであり、限定的に解釈することは許されない旨主張しているので、まずこの点を検討する。
最高裁判決は、発明の要旨の認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきとする。

以下、検討する。
「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂の中には、それ以上にほとんど延伸させることができないものや、延伸させることができたとしても、瞼に貼り付けても瞼へのくい込みによってひだが形成されるほどの弾性的な伸縮性を有さないものを含め、多くのものがあり得ることは、技術常識である(乙1の21ページ(3)ア、乙10の図3.6、表3.2)。
本件発明1は、請求項1に記載されているとおり「二重瞼形成用テープ」であるところ、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂のうち、「それ以上にほとんど延伸させることができないものや、延伸させることができたとしても、瞼に貼り付けても瞼へのくい込みによってひだが形成されるほどの弾性的な伸縮性を有さないもの」については、「二重瞼形成」に寄与しないことが、明らかである。
すなわち、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂を、文言どおりと解すると、二重瞼形成に寄与しない合成樹脂をも含むが、請求項1には「二重瞼形成用テープ」との文言もあることから、両者を総合すると、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂とは、「二重瞼形成」に寄与する合成樹脂と解することが相当である。

また、上記最高裁判決の調査官解説(甲10)には、以下の記載がある。
「8 「参酌する」の意味
・・・
本判決は、発明の要旨を認定する過程においては、発明にかかわる技術内容を明らかにするために、発明の詳細な説明や図面の記載に目を通すことは必要であるが、しかし、技術内容を理解した上で発明の要旨となる技術的事項を確定する段階においては、特許請求の範囲の記載を越えて、発明の詳細な説明や図面だけに記載されたところの構成要素を付加してはならないとの理論を示したものであり、この意味において、発明の詳細な説明の記載を参酌することができるのは例外的な場合に限られるとしたものである。
9 例外の場合
・・・
こうしてみると、事案に応じて、どこまで前記特段の事情があるものとすることができるかの点がむしろ重要であり、本判旨の理論の例外的な場合がどこまで及ぶかの点の慎重な洞察が必要であるということになる。
機械の分野での特許請求の範囲の記載は、部材や機能の名称・用語が出願ごとにまちまちで、明細書の発明の詳細な説明や願書添付図面の記載により初めてその意味が理解できる場合が多く、発明の詳細な説明の記載の参酌が許される場合があるのはもちろん、かえってその参酌をしなければならない例が少なくない。」(39?40ページ)

本件においては、特許請求の範囲に記載された「二重瞼形成用テープ」の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」に係る技術内容を明らかにするために、発明の詳細な説明を参酌するのであり、最高裁判決に妥当する。
したがって、本件においては、特許明細書の発明の詳細な説明を参酌することが許される。

「二重瞼形成」について、本件発明1の特許明細書には、以下の記載がある。

「【0008】・・・二重瞼を形成するには、テープ状部材の両端を把持して弾性的に延びた状態になるように引っ張り、その状態でテープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい位置に押し当てて、該粘着剤によりテープ状部材をそこに貼り付け、そのまま両端の把持部を離す。これにより、引っ張った状態にあるテープ状部材が弾性的に縮むが、本来、瞼はその両側に比して中央部が眼球に沿って前方に突出しているので、弾性的に縮んだテープ状部材がそれを貼り付けた瞼にくい込む状態になって、二重瞼のひだが形成される。・・・。
【0009】このようにして、上記テープ状部材は瞼に直接二重にするためのひだを形成するので、前記従来の方法のように、皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡を残したりすることはなく、自然な二重瞼を形成することができ、しかも、テープ状部材の両端を持って引っ張った状態でそれを瞼のひだを形成したい位置に押し付ければよいので、簡単にきれいな二重瞼を形成することができる。・・・。
【0010】
【発明の実施の形態】図1は本発明の二重瞼形成用テープの一実施例を示している。・・・。上記テープ状部材1としては、両端を持って引っ張ったときに伸長し、しかも、弾性的に復帰しようとする収縮力が作用するものであればよいが、特に、延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有するポリエチレン等の合成樹脂により形成するのが望ましい。・・・。」

「【0016】次に、上記構成を有する二重瞼形成用テープによって二重瞼を形成する方法について説明する。図3は、テープ状部材1を、延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂によって構成し、その両端の把持部3を指先で持って引っ張ることにより伸長させた状態、即ち、そのテープ状部材1を瞼に貼り付ける準備状態を示している。この状態では、テープ状部材1が弾性的に復帰しようとする収縮力を持っている。
【0017】次に、このテープ状部材1は、両端を把持して引っ張ったままの状態で、図4に示すように、粘着剤2を塗着した部分を、瞼7におけるひだを形成したい位置に押し当てて、該粘着剤2によりテープ状部材1をそこに貼り付け、そのまま両端の把持部3を離す。これにより、引っ張った状態にあるテープ状部材1が弾性的に縮むが、本来、瞼はその両側に比して中央部が眼球に沿って前方に突出しているので、弾性的に縮んだテープ状部材1がそれを貼り付けた瞼7にくい込む状態になって、二重瞼のひだが形成される。両端の把持部3はひだの形成後に切除する。
【0018】このようにして、上記テープ状部材1は瞼7に直接二重にするためのひだを形成するので、前記従来の方法のように、皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡を残したりすることはなく、自然な二重瞼を形成することができ、しかも、テープ状部材1の両端を持って引っ張った状態でそれを瞼7のひだを形成したい位置に押し付ければよいので、簡単にきれいな二重瞼を形成することができる。・・・。」

これらによれば、本件発明1の特許明細書には、本件発明1の二重瞼形成用テープにより二重瞼を形成する方法について、「テープ状部材の両端を把持して弾性的に延びた状態になるように引っ張り、その状態でテープ状部材を瞼に押し当てて貼り付け、両端の把持部を離すことにより、引っ張った状態にあるテープ状部材が弾性的に縮み、このようにして弾性的に縮んだテープ状部材がこれを貼り付けた瞼にくい込む状態になって二重瞼のひだが形成される」ことが、記載されている。
したがって、特許明細書を参酌すると、本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂とは、「二重瞼形成」に寄与するものであり、「テープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して瞼に二重瞼のひだが形成される」合成樹脂と解すべきである。

次に、甲2発明の「3M社の仕様書番号1512-3(1981年8月)のポリエチレンフィルム」について検討する。
かかるポリエチレンフィルムは、一般的に、延伸後に収縮性を有する(甲6、甲7、甲15)。

甲2には、以下の記載がある。

「本発明によると、一般に幅1cm未満、長さ4cm未満の非常に薄い細帯の両面粘着テープ32が、上眼瞼10に、その下縁部は毛様体縁20から約8?12mm上に離間してかつ/またはその上縁部は自然の二重瞼の襞線よりも上にある状態で貼付される。次いで粘着細帯32の上の皮膚は下方に折りたたまれ、次に図5に示すように該皮膚の下縁部がテープ細帯32の下縁部に沿って揃った状態で、該皮膚自体の上に折り返される。」(上記2.(ウ))

「細帯部材32の諸例は、ある形状に切って、さまざまな幅の湾曲または弧状の長手方向縁部を有する細長い細帯を提供して、上眼瞼を形成する皮膚の三次元的輪郭または形状に容易に沿わせることができる」(上記2.(オ))

「粘着細帯部材の一方の面を所期の折り込み領域の一表面に沿って貼付し、所期の折り込み領域の皮膚を該粘着細帯上に折りたたんで該粘着細帯の他方の面の露出した粘着剤に付着させることは、図16?図18に示すように、アプリケ一タデバイスを用いると容易になる」(上記2.(カ))

かかる記載によれば、甲2発明のポリエチレンフィルムは、延伸することなく、そのままの形状で皮膚に貼付され、貼付後もその形状が維持されることで、二重瞼が形成されるものである。
甲2発明のポリエチレンフィルムは、本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂のように、「テープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して瞼に二重瞼のひだが形成される」合成樹脂であるとは言えない。
甲2発明と本件発明1とは、二重瞼形成についての技術的手段が異なる。
仮に、甲2発明のポリエチレンフィルムを延伸しようとすると、「湾曲または弓形」の形状が失われるから、延伸しようとする動機もない。
かかる相違点を容易想到とすることはできない。

よって、無効理由1によっては、本件発明1に係る特許を無効にすることはできない。

第6 無効理由2(36条6項1号)についての当審の判断
1 前提
特許請求の範囲の記載が、36条6項1号で規定するサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される(知的財産高等裁判所の平成17年(行ケ)第10042号)。
かかる前提について、当事者間に争いはない(口頭審理調書の「両当事者」欄1)。

2 本件明細書の発明の詳細な説明
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような問題を解決し、皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡を残したりすることなく、簡単にきれいな二重瞼を形成できるようにした二重瞼形成用テープまたは糸を提供することにある。本発明の他の課題は、瞼に直接二重にするためのひだを形成し、自然な二重を形成できるようにした二重瞼形成用テープまたは糸を提供することにある。本発明の他の課題は、二重瞼形成のための操作が安全かつ容易な二重瞼形成用テープまたは糸を提供することにある。本発明の他の課題は、上記二重瞼形成用テープをきわめて容易に製造する方法を提供することにある。」

「【0004】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための本発明に係る二重瞼形成用テープは、基本的には、延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に、粘着剤を塗着することにより構成した、ことを特徴とするものである。上記粘着剤は上記テープ状部材の両面または片面に塗着することができる。また、上記二重瞼形成用テープは、両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けることができる。」

「【0008】上記構成を有する二重瞼形成用テープによって二重瞼を形成するには、テープ状部材の両端を把持して弾性的に延びた状態になるように引っ張り、その状態でテープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい位置に押し当てて、該粘着剤によりテープ状部材をそこに貼り付け、そのまま両端の把持部を離す。これにより、引っ張った状態にあるテープ状部材が弾性的に縮むが、本来、瞼はその両側に比して中央部が眼球に沿って前方に突出しているので、弾性的に縮んだテープ状部材がそれを貼り付けた瞼にくい込む状態になって、二重瞼のひだが形成される。両端の不要な部分はその後に切除すればよい。
【0009】このようにして、上記テープ状部材は瞼に直接二重にするためのひだを形成するので、前記従来の方法のように、皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡を残したりすることはなく、自然な二重瞼を形成することができ、しかも、テープ状部材の両端を持って引っ張った状態でそれを瞼のひだを形成したい位置に押し付ければよいので、簡単にきれいな二重瞼を形成することができる。また、上記従来の方法では、瞼の皮膚を接着したり、瞼に片面粘着テープ等を貼り付けたりするとき、自分の操作でひだを作るためにプッシャー等を用いる必要があるが、本発明の二重瞼形成用テープは、それ自身の収縮によって二重瞼を形成するので、上記プッシャー等を用いる必要がなく、二重瞼形成を安全かつ容易に行うことができる。
【0010】
【発明の実施の形態】図1は本発明の二重瞼形成用テープの一実施例を示している。この二重瞼形成用テープは、基本的には、弾性的に伸縮する細いテープ状部材1の表裏に粘着剤2を塗着することにより構成することができるものである。上記テープ状部材1としては、両端を持って引っ張ったときに伸長し、しかも、弾性的に復帰しようとする収縮力が作用するものであればよいが、特に、延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有するポリエチレン等の合成樹脂により形成するのが望ましい。このテープ状部材1は、一般的には幅が1?3mm程度の細い帯状に形成されるが、幅が必ずしもその範囲内である必要はなく、また明確な帯状を形成していなくても差し支えない。更に、上記粘着剤2としては、皮膚用に用いられる各種粘着剤を利用することができる。」

3 検討
本件明細書には、上記2のとおり、本件発明の構成及びその実施例が記載されている。
かかる特性を有する「ポリエチレン等の合成樹脂」は、乙10の分類Dに示されるごとく、ポリエチレンを含む一定の範囲の合成樹脂であることは、明らかであり、この一定の範囲の合成樹脂には、本件特許の出願時に、例えば、「3M社の#1522」が既に汎用品で入手容易なものとして存在する(乙1の13ページ)。
そうすると、当業者においては、本件発明1の構成を採用することにより、皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡を残したりすることなく、簡単にきれいな二重瞼を形成することが困難であった、等の本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められる。

よって、本件発明1に係る本件特許は、36条6項1号で規定するサポート要件に適合する。

請求人は、乙10の分類Dに示される樹脂においては、力をさらに加えなくても合成樹脂が勝手に伸びていくという、フックの法則に従わず、もはや延伸後に復帰しようとする弾性的伸縮性が残されていない領域が存在するから、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」であるとはいえない旨主張する(平成27年9月17日付請求人・上申書17ページ「d」)。
しかしながら、請求人の指摘する該領域において、フックの法則に従わないのは請求人の主張するとおりであるとしても、該領域は、いわば弾性と塑性が混在した領域であって、ほぼ一定力で樹脂が伸びていくが、延伸後に復帰しようとする弾性的伸縮性は残された領域である。このような、ほぼ一定力で樹脂が伸びていくが、延伸後に復帰しようとする弾性的伸縮性は残された領域を有することは、二重瞼形成用テープとして本件発明1の課題を解決できることを認識し得ることの妨げとならないばかりか、フックの法則のみに従うゴムのような材料よりも、二重瞼形成用として適しているとさえ言い得る。したがって、請求人の主張は採用できない。

さらに、請求人は、本件発明1に係る二重瞼形成用テープは「二重瞼を形成する瞼の長さよりも長く」なるように延伸されなければならないところ、被請求人が要領書(2)において主張する「瞼の長さ程度まで無理なく延伸させることができる」程度の延伸では本件発明1の課題を解決できることを認識できないと主張する(平成27年9月17日付請求人・上申書第18?19ぺージ)。
この点、被請求人は少なくとも「瞼の長さ程度まで」と述べたに留まり、「瞼の長さよりも長く」なるよう延伸する態様が想定されていないものではない。また、仮に、「瞼の長さ程度まで」の延伸であっても、二重瞼形成用テープの貼り付け領域は、「二重瞼を形成する瞼の長さよりも長」いことは必ずしも必須ではなく、二重瞼を形成するために必要な長さであれば足るものである。したがって、請求人の主張は採用できない。

以上、無効理由2によっては、本件発明1に係る特許を無効にすることはできない。

第7 無効理由3(36条6項2号)についての当審の判断
1 延伸、伸縮性
上記第5の4で検討したとおり、本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂とは、「テープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して瞼に二重瞼のひだが形成される」合成樹脂と解すべきであるから、本件発明1は明確である。
請求人は、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」は、延伸後も弾性的に収縮する性質を有するあらゆる合成樹脂を包むから、本件発明1は明確ではない旨、主張する。
しかし、上記のとおり、本件発明1の合成樹脂は、「テープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して瞼に二重瞼のひだが形成される」ものであり、上記第6の3で検討したとおり、ポリエチレンを含む一定の範囲の合成樹脂であることは、明らかである。請求人の主張は採用できない。

2 プロダクト・バイ・プロセス
請求人が主張する、本件発明1は「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」に該当するという点につき検討するに、「塗着する」なる特定事項については、上記第5の4で検討した「二重瞼形成」についての記載からみて、本件発明1は「テープ状部材」に「粘着剤」が「塗着」された状態のものであれば、二重瞼を形成しうる。「塗着する」という「動作」が、二重瞼の形成に、技術的意義を有するものではない。
よって、本件発明1は、「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」に当たらない。

3 小括
以上、無効理由3によっては、本件発明1に係る特許を無効にすることはできない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、請求人主張の理由及び証拠方法によっては、本件発明1に係る特許を無効にすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-19 
結審通知日 2015-10-22 
審決日 2015-11-04 
出願番号 特願2001-160951(P2001-160951)
審決分類 P 1 123・ 537- Y (A61F)
P 1 123・ 121- Y (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今村 玲英子  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 渡邊 豊英
千葉 成就
登録日 2002-02-08 
登録番号 特許第3277180号(P3277180)
発明の名称 二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法  
代理人 ▲柳▼下 彰彦  
代理人 伊藤 温  
代理人 ▲柳▼下 彰彦  
代理人 比留川 浩介  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 井上 貴夫  
代理人 林 直生樹  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 伊藤 温  
代理人 山本 真祐子  
代理人 井上 貴夫  
代理人 比留川 浩介  
代理人 重田 英彦  
代理人 山本 真祐子  
代理人 重田 英彦  

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