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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
管理番号 1332209
異議申立番号 異議2016-700960  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-05 
確定日 2017-07-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5900913号発明「研磨用組成物、研磨用組成物製造方法および研磨用組成物調製用キット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5900913号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、〔5-8〕について訂正することを認める。 特許第5900913号の請求項5、7ないし15に係る特許を維持する。 特許第5900913号の請求項1ないし4、6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯等

1 本件特許異議の申立てに係る特許

本件特許異議の申立てに係る特許第5900913号は、特許権者である株式会社フジミインコーポレーテッド 外1名より、2014年3月14日(優先権主張 平成25年3月19日、平成25年3月19日、平成25年3月19日、平成25年3月19日 日本国)を国際出願日として、特願2015-506749号として特許出願され、平成28年3月18日、発明の名称を「研磨用組成物、研磨用組成物製造方法および研磨用組成物調製用キット」、請求項の数を「15」として特許権の設定登録を受けたものである。

2 手続の経緯

本件特許に対して、平成28年10月5日、特許異議申立人である古川佳靖(以下、「異議申立人」という)より特許異議の申立てがなされ、平成29年1月17日付けで取消理由が通知され、同年3月21日、特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、これに対し、同年4月28日、異議申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否

上記平成29年3月21日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項を構成する請求項1ないし4、及び請求項5ないし8について訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「前記水溶性ポリマーはビニルアルコール単位を含む、研磨用組成物。」とあるのを、「前記水溶性ポリマーは、ノニオン性の、けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコールである、研磨用組成物。」と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「請求項5または6に記載の研磨用組成物。」とあるのを、「請求項5に記載の研磨用組成物。」と訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「酢酸ビニル単位のモル数の割合が5%?80%である」とあるのを、「酢酸ビニル単位のモル数の割合が10%?27%である」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1ないし4、6について
上記訂正事項1ないし4、6は、それぞれ、請求項1ないし4、6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項において準用する同法第126条5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

(2)訂正事項5について

ア 上記訂正事項5は、訂正前の請求項5において、「水溶性ポリマー」に関し、「ビニルアルコール単位を含む」とだけ限定されていたのを、訂正後の請求項5において、(ビニルアルコール単位を含む)「水溶性ポリマー」が「ノニオン性の」ものであること、及び「けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 上記「ア」で述べたように、上記訂正事項5は、(ビニルアルコール単位を含む)「水溶性ポリマー」を限定的に減縮するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには、該当しない。

ウ 上記訂正事項5に係る、(ビニルアルコール単位を含む)「水溶性ポリマー」が「ノニオン性の」ものであることは、特許明細書の段落【0149】の「上記水溶性ポリマーとしては、凝集物の低減や洗浄性向上等の観点から、ノニオン性の水溶性ポリマーを好ましく採用し得る。」等の記載に基づくものである。また、「けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」に関しては、同段落【0178】の「かかる態様の研磨用組成物において採用し得る水溶性ポリマーの一好適例として、けん化度が95モル%未満(より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは85モル%以下、典型的には80モル%以下)のポリビニルアルコールが挙げられる。このような研磨用組成物の水溶性ポリマーとして用いられるポリビニルアルコールとしては、けん化度が60モル%以上のものが好ましく、65モル%以上(例えば70モル%以上)のものがより好ましい。」等の記載に基づくものであるから、上記訂正事項5は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。

エ 上記訂正事項5は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

オ よって、上記訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項において準用する同法第126条5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

(3)訂正事項7について
上記訂正事項7は、請求項6の削除に伴い、請求項7が引用する請求項を、「請求項5または6」から「請求項5」とするものであり、請求項7が引用する請求項数を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項において準用する同法第126条5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

(4)訂正事項8について

ア 上記訂正事項8は、訂正前の請求項8において、水溶性ポリマーの酢酸ビニル単位のモル数の割合が「5%?80%」であったのを「10%?27%」に、その範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 上記「ア」で述べたように、上記訂正事項8は、水溶性ポリマーの酢酸ビニル単位のモル数の割合の範囲を減縮するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものには、該当しない。

ウ 上記訂正事項8に係る、水溶性ポリマーの酢酸ビニル単位のモル数の割合が「10%?27%」に関し、同段落【0146】の「酢酸ビニル単位を含むポリマーが挙げられる。このような水溶性ポリマーにおいて、全繰返し単位のモル数に占める酢酸ビニル単位のモル数は、典型的には5%以上であり、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましく、20%以上が特に好ましい。」との記載によれば、酢酸ビニル単位のモル数の割合の下限が「10%」で良いことが理解できる。
また、同段落【0323】に記載される「(実施例B1)」で使用された水溶性ポリマーP1は、「ポリビニルアルコール単位73モル%および酢酸ビニル単位27モル%を含む共重合体」であり、酢酸ビニル単位のモル数の割合(下限)が「27%」で良いことが理解できるから、上記訂正事項8は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。

エ 上記訂正事項8は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

オ よって、上記訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項において準用する同法第126条5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

3 小括

上記「2」のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1ないし4、5ないし8ごとに、それぞれについて訂正することを求めるものであり、それらの訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし4〕、〔5ないし8〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし15に係る発明(以下、請求項5に係る発明を項番に対応して「本件発明5」、「本件発明5」に係る特許を「本件特許5」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物であって、
砥粒と水溶性ポリマーと水とを含み、
以下のエッチングレート測定:
(1A)前記水溶性ポリマー0.18質量%およびアンモニア1.3質量%を含み、残部が水からなるエッチングレート測定用薬液LEを用意する;
(2A)表面の自然酸化膜を除去したシリコン基板(縦6cm、横3cm、厚さ775μmの長方形状)を用意し、その質量W0を測定する;
(3A)前記シリコン基板を前記薬液LEに室温にて12時間浸漬する;
(4A)前記薬液LEから前記シリコン基板を取り出し、室温にてNH_(3)(29%):H_(2)O_(2)(31%):超純水=1:1:8(体積比)の洗浄液で10秒間洗浄する;
(5A)洗浄後の前記シリコン基板の質量W1を測定する;および
(6A)前記W0と前記W1との差および前記シリコン基板の比重からエッチングレート(nm/分)を算出する;
に基づくエッチングレートが2.0nm/分以下であり、かつ
以下の砥粒吸着率測定:
(1B)前記研磨用組成物に対して遠心分離処理を行って前記砥粒を沈降させ、その上澄み液の全有機炭素量を測定して、該上澄み液に含まれる有機炭素の総量C1を求める;
(2B)前記研磨用組成物の組成から砥粒を除いた組成の試験液L0を用意し、該試験液L0の全有機炭素量を測定して、上記試験液L0に含まれる有機炭素の総量C0を求める;
(3B)前記C0および前記C1から、次式:
砥粒吸着率(%)=[(C0-C1)/C0]×100;
により砥粒吸着率を算出する;
に基づく砥粒吸着率が20%以下であり、
前記水溶性ポリマーは、ノニオン性の、けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコールである、研磨用組成物。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記水溶性ポリマーは、繰返し単位としてビニルアルコール単位および酢酸ビニル単位を含む分子構造を有する、請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記水溶性ポリマーの分子構造に含まれる全繰返し単位のモル数に占める酢酸ビニル単位のモル数の割合が10%?27%である、請求項7に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物を、砥粒、塩基性化合物、塩基性条件下で加水分解反応性を示す官能基を有する水溶性ポリマーHおよび水を用いて製造する方法であって:
少なくとも前記塩基性化合物を含むA剤を用意する工程;
少なくとも前記水溶性ポリマーHを含むB剤を用意する工程;および
少なくとも前記A剤を含む第1組成物と少なくとも前記B剤を含む第2組成物とを混合することにより、前記砥粒、前記塩基性化合物、前記水溶性ポリマーHおよび水を含み前記塩基性化合物の濃度が0.1モル/L以下である混合物を調製する工程;
を包含し、
前記水溶性ポリマーHは、ビニルアルコール単位を含むポリマーであり、
前記A剤は、前記砥粒と前記塩基性化合物と水とを含む砥粒分散液Cであり、
前記混合物を調製する工程では、前記砥粒分散液Cを希釈して前記第1組成物を調製した後に、該第1組成物と前記第2組成物とを混合する、研磨用組成物製造方法。
【請求項10】
シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物を、砥粒、塩基性化合物、塩基性条件下で加水分解反応性を示す官能基を有する水溶性ポリマーHおよび水を用いて製造する方法であって、
少なくとも前記塩基性化合物を含むA剤を用意する工程;
少なくとも前記水溶性ポリマーHを含むB剤を用意する工程;および
少なくとも前記A剤を含む第1組成物と少なくとも前記B剤を含む第2組成物とを混合することにより、前記砥粒、前記塩基性化合物、前記水溶性ポリマーHおよび水を含み前記砥粒の濃度が3質量%未満である混合物を調製する工程;
を包含し、
前記水溶性ポリマーHは、ビニルアルコール単位を含むポリマーであり、
前記A剤は、前記砥粒と前記塩基性化合物と水とを含む砥粒分散液Cであり、
前記混合物を調製する工程では、前記砥粒分散液Cを希釈して前記第1組成物を調製した後に、該第1組成物と前記第2組成物とを混合する、研磨用組成物製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の製造方法に用いられる研磨用組成物調製用キットであって、
互いに分けて保管される前記A剤と前記B剤とを備える、研磨用組成物調製用キット。
【請求項12】
シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物を、砥粒、塩基性化合物、塩基性条件下で加水分解反応性を示す官能基を有する水溶性ポリマーHおよび水を用いて製造する方法であって、
少なくとも前記塩基性化合物を含むA剤を用意する工程;
少なくとも前記水溶性ポリマーHを含むB剤を用意する工程;
少なくとも前記A剤と前記B剤とを混合して前記塩基性化合物の濃度が0.02モル/Lより高い研磨用組成物原液を調製する工程;および、
前記A剤と前記B剤とを混合してから24時間以内に前記塩基性化合物の濃度が0.02モル/L以下となるまで前記研磨用組成物原液を希釈する工程;
を包含し、
前記水溶性ポリマーHは、ビニルアルコール単位を含むポリマーであり、
前記研磨用組成物原液を希釈する工程では、該原液を体積基準で10倍以上に希釈する、研磨用組成物製造方法。
【請求項13】
シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物を、砥粒、塩基性化合物、塩基性条件下で加水分解反応性を示す官能基を有する水溶性ポリマーHおよび水を用いて製造する方法であって、
少なくとも前記塩基性化合物を含むA剤を用意する工程;
少なくとも前記水溶性ポリマーHを含むB剤を用意する工程;
少なくとも前記A剤と前記B剤とを混合して前記砥粒の含有量が1質量%以上である研磨用組成物原液を調製する工程;および、
前記A剤と前記B剤とを混合してから24時間以内に前記砥粒の含有量が1質量%未満となる濃度まで前記研磨用組成物原液を希釈する工程;
を包含し、
前記水溶性ポリマーHは、ビニルアルコール単位を含むポリマーであり、
前記研磨用組成物原液を希釈する工程では、該原液を体積基準で10倍以上に希釈する、研磨用組成物製造方法。
【請求項14】
前記水溶性ポリマーHは、酢酸ビニル単位のモル数の割合が5%?80%の部分ケン化ビニルアルコールである、請求項12または13に記載の研磨用組成物製造方法。
【請求項15】
請求項12から14のいずれか一項に記載の製造方法に用いられる研磨用組成物調製用キットであって、
互いに分けて保管される前記A剤と前記B剤とを備える、研磨用組成物調製用キット。」

第4 取消理由、及び取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立理由(以下、「申立理由」という。)の概要

1 取消理由の概要

(1)特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号

訂正前の請求項1ないし8に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものでなく、訂正前の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由1」という。)と共に、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「取消理由2」という。)から、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(2)特許法第36条第6項第2号

訂正前の請求項1ないし4に係る発明が、明確でなく、訂正前の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由3」という。)。

(3)特許法第29条第1項第3号

訂正前の請求項1ないし3、5ないし7に係る発明は、下記甲第4号証に記載された発明であると共に、訂正前の請求項1、3ないし5、7、8に係る発明は、下記甲第5号証に記載された発明であり、訂正前の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由4」という。)。

(4)特許法第29条第2項

訂正前の請求項1ないし3、5ないし7に係る発明は、下記甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると共に、訂正前の請求項1、3ないし5、7、8に係る発明は、下記甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由5」という。)。



甲第4号証:特開平11-140427号公報(以下、「甲4」という。)
甲第5号証:特許第4772156号公報(以下、「甲5」という。)

2 取消理由に採用しなかった申立理由の概要

(1)特許法第29条第1項第3号

訂正前の請求項1ないし8に係る発明は、下記甲第1ないし3号証に記載された発明であり、訂正前の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「申立理由1」という。)。

(2)特許法第29条第2項

訂正前の請求項1ないし15に係る発明は、下記甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると共に、訂正前の請求項9ないし15に係る発明は、甲第4、5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項1ないし15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「申立理由2」という。)。

(3)特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号

訂正前の請求項1ないし8に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものでなく、訂正前の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由3」という。)と共に、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「申立理由4」という。)から、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。



甲第1号証:特公昭53-9910号公報(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:特許第5335183号公報(当審注:当該特許公報は、本件優先日前に刊行された刊行物ではないので、当該特許に係る特許出願の公開公報である特開2008-53414号公報の記載事項を参照し、以下、該公開公報を「甲2」とする。)
甲第3号証:特開平11-116942号公報(以下、「甲3」という。)

第5 当審の判断

1 取消理由1及び2(特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号)について

訂正により請求項1ないし4、6に係る発明が削除されたので、本件発明5、7、8について検討する。

研磨用組成物の発明である本件発明5、7、8が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0004】?【0006】の記載よれば、「微小パーティクル(LPD)数やヘイズの低減効果に優れた研磨用組成物を提供」することであるといえる。

これに対し、本件発明5は、エッチングレートが2.0nm/分(以降、単位を省略する)以下、砥粒吸着率を20%以下にすること、及び水溶性ポリマーが、「ノニオン性の、けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」であることを発明特定事項とするものであるが、本件特許明細書の段落【0174】には、「エッチングレートは、砥粒によるメカニカル作用の影響を除いた条件で、水溶性ポリマーがアルカリによる腐食から研磨対象物表面を保護する性能を評価する指標となり得る。エッチングレートがより低いということは、研磨対象物の表面に水溶性ポリマーが吸着し、該表面が塩基性化合物等により化学的にエッチングされる事象を抑制する性能、すなわち研磨対象物の表面を保護する性能がより高いことを示す傾向にある。」ことが記載され、また、同段落【0173】には、「砥粒吸着率が20%以下であることは、研磨用組成物に含まれる水溶性ポリマーのうち大部分(典型的には80質量%超)が砥粒に吸着していない状態にあることを意味する。このように砥粒に吸着していない状態の水溶性ポリマー(以下、フリーポリマーということもある。)は、該ポリマーが砥粒に吸着している場合に比べて研磨対象物の表面へ早く吸着し得ることから、該表面の保護性が高いと考えられる。したがって、フリーポリマーの割合がより高い(砥粒吸着率が低い)研磨用組成物を用いた研磨においては、該研磨用組成物に含まれる水溶性ポリマーがより有効に研磨対象物の表面保護に利用され得る。」ことが記載されており、いずれの指標も、研磨対象物の表面保護性能に関わるものであることが理解され、そして、研磨対象物の表面保護が図れれば、研磨対象物の表面の微小パーティクル(LPD)数やヘイズの低減が図れると解されるから(同段落【0004】)、本件発明5、7、8であれば、上記課題が解決されることについての一応の作用機序が記載されているといえる。
また、同段落【0178】には、「採用し得る水溶性ポリマーの一好適例として、けん化度が95モル%未満(より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは85モル%以下、典型的には80モル%以下)のポリビニルアルコールが挙げられる。このような研磨用組成物の水溶性ポリマーとして用いられるポリビニルアルコールとしては、けん化度が60モル%以上のものが好ましく、65モル%以上(例えば70モル%以上)のものがより好ましい。」と記載され、エッチングレートと砥粒吸着率を特定値以下にするには、本件発明5のけん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコールを用いれば良いことが理解される。
さらに、実際、本件発明5、7、8に関する実施例である実験例2(段落【0323】?【0342】)では、水溶性ポリマーとして、P1:けん化度73モル%の酢酸ビニル単位を含むポリビニルアルコール、P2:けん化度79モル%の酢酸ビニル単位を含むポリビニルアルコール、P3:けん化度80モル%のヘキサン酸ビニル単位を含むポリビニルアルコール、P4:けん化度80モル%のヘキサン酸ビニル単位を含むポリビニルアルコールという4種の、けん化度が73?80モル%の範囲である部分けん化ポリビニルアルコールでエッチングレートが0.8?0.9、砥粒吸着率が0%でヘイズとLPDに関し良好な特性が得られることが示されている。
そして、実施例のけん化度が79、80%の部分けん化ポリビニルアルコールであるP2?P4のエッチングレートの値を参照すると、本件発明5での上限値である2.0に対して十分余裕のある数値であり、けん化度が73?80の間で多少の大小はあるもののエッチングレートで0.8?0.9で一定していることを考慮すると、同段落【0178】で「より好ましくは90モル%以下」とされているけん化度90%のエッチングレートは、比較例のけん化度が98%のポリビニルアルコールP5でのエッチングレートが2.8となることを考慮したとしても、2.0以下であろうことは当業者ならば推察できることであるといえる。また、けん化度が73%の部分けん化ポリビニルアルコールP1でのエッチングレートが0.8であることを考慮すると、73%に近接する70%でもエッチングレートの値が2.0以下となることは当業者ならば推察できることであるといえる。
また、砥粒吸着率が、部分けん化ポリビニルアルコールP1?P4で0%であることを考慮すると、部分けん化ポリビニルアルコールのけん化度が70%、90%でも、砥粒吸着率は、20%を超えないであろうことは当業者ならば推察できることであるといえる。
さらに、特許権者は、平成29年3月21日付け意見書第11頁でけん化度が90%のポリビニルアルコールでも、エッチングレートが2.0以下の1.2、砥粒吸着率が0%で、ヘイズとLPDに関し良好な特性が得られることを示している。

そうすると、水溶性ポリマーが、「けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」であれば、エッチングレートが2.0以下、砥粒吸着率を20%以下であることと併せて、上記実施例等、発明の詳細な説明で、ヘイズとLPDに関する本件発明の課題を解決することの技術的な裏付けがなされているといえるから、エッチングレートが2.0以下、砥粒吸着率を20%以下にすること、及び水溶性ポリマーが、「ノニオン性の、けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」であることを発明特定事項とする本件発明5、7、8を、本件の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるということはできない。
また、水溶性ポリマーが、「ノニオン性の、けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」であることを特定することによって、エッチングレート及び砥粒吸着量を特定値以下とすることに対し、水溶性ポリマーの特定が対応するものとなったから、当業者が本件発明5、7、8を実施するに際して、過度の試行錯誤を強いられるということもないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明5、7、8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないということはできない。

なお、異議申立人は、平成29年4月28日付意見書で、上記の点に関連して、上記実施例(実験例2)での部分けん化ポリビニルアルコールP1?P4は、塩基性の条件下で、砥粒吸着率の測定まで「1時間」置かれることになるから、その間にけん化が進行し、実際、砥粒吸着率を測定している際のけん化度は、本件明細書に記載される「73」、「79」及び「80」という数値とは異なるものであることを主張している。
しかしながら、塩基性の条件下で部分けん化ポリビニルアルコールのけん化が進行していくことは技術的な常識であるから、けん化度を特定する必要がある場合には、けん化度の特定と、実際のけん化度が乖離しないよう、使用する部分けん化ポリビニルアルコールのけん化があまり進行しない状態で、砥粒吸着率の測定等を行うことは当業者にとり明らかなことであるといえる。
そして、塩基性の条件下で、砥粒吸着率の測定まで「1時間」置かれることに関しても、同段落【0343】?【0360】に記載される「実験例3」で用いた部分けん化ポリビニルアルコールの塩基性条件下での加水分解の程度(段落【0360】)、同段落【0361】?【0380】に記載される「実験例4」の実施例D2で用いた部分けん化ポリビニルアルコールの塩基性条件下での加水分解の程度の全体的な傾向を総合すると、加水分解の進行は大きなものではなく、たとえ、「実験例2」でのP1?P4の部分けん化ポリビニルアルコールが、砥粒吸着率の測定の際に、けん化度「73」、「79」及び「80」から多少大きくなっていたとしても、けん化度70モル%?90モル%の範囲にあることは明らかであって、「けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」に関する技術的な裏付けとなるものではないとまではいえない。
さらに、異議申立人は、塩基性条件下での部分けん化ポリビニルアルコールのけん化の進行と、砥粒吸着率との関係を同意見書で強調しているが、本件明細書の段落【0341】【表4】を参照すると、砥粒吸着率は、水溶性ポリマーが、けん化ポリビニルアルコール以外のポリマーP6?P8であれば、その値が20%を超えるが、けん化が完全に進行したポリビニルアルコールP5でも、砥粒吸着率は0%であるから、部分けん化ポリビニルアルコールのけん化が多少進行したとしても、砥粒吸着率の条件が本件発明5の範囲を満たさなくなるということはないことは明らかである。

2 取消理由3(特許法第36条第6項第2号)について

取消理由3は、SP値・平均SP値を発明特定事項に含む訂正前の請求項1ないし4に係る発明が、明確でないというものであったが、訂正前の請求項1ないし4に係る発明が本件訂正で削除されることにより、取消理由3はないものとなった。

3 取消理由4及び5(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について

(1)刊行物に記載された事項

ア 甲4に記載された事項

(4ア)「【請求項1】 アルカリ成分およびコロイダルシリカを含む研磨液中に、炭素長鎖構造を有し、側鎖としてヒドロキシ低級アルコキシ基を有する鎖状炭化水素系高分子を含有するものであることを特徴とする研磨液。
【請求項2】 シリコンの研磨に用いられるものである請求項1に記載の研磨液。
【請求項3】 前記研磨液中に鎖状炭化水素系高分子を0.003?0.1重量%含有する請求項1または2に記載の研磨液。
【請求項4】 前記鎖状炭化水素系高分子がビニルアルコール系重合体または(メタ)アクリル酸系重合体である請求項1?3のいずれかに記載の研磨液。
【請求項5】 前記鎖状炭化水素系高分子がエチレンオキサイド付加ポリビニルアルコールまたは(メタ)アクリル酸ナトリウムと(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステルの共重合体である請求項4に記載の研磨液。」

(4イ)「【0009】本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ヘイズ及び/又はうねり(長周期の凹凸)を改善するのに有効な研磨液、および該研磨液を用いた研磨方法を提供することにある。」

(4ウ)「【0022】まず、本発明を最も特徴付ける水溶性高分子化合物について説明する。本発明では、炭素長鎖構造を有し、側鎖としてヒドロキシ低級アルコキシ基を有する炭素長鎖構造を有する鎖状炭化水素系高分子を研磨液中に添加するところに最大の特徴を有する。
【0023】ここで、上記「ヒドロキシ低級アルコキシ基」における「低級アルコキシ」とは、炭素数が1?6個の直鎖状または分岐状のアルキルオキシ基を意味する。具体的にはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、ペンチル、ヘキシル等が挙げられ、なかでも炭素数が1?4個のもの(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ等)が好ましい。より好ましくは炭素数が1?2個のメトキシ、エトキシであり、更に好ましくはエトキシである。従って、本発明に用いられる「ヒドロキシ低級アルコキシ基」としては、ヒドロキシメトキシ、ヒドロキシエトキシ、ヒドロキシプロポキシ、ヒドロキシイソプロポキシ、ヒドロキシブトキシ、ヒドロキシsec-ブトキシ、ヒドロキシtert-ブトキシ、ヒドロキシペンチル、ヒドロキシヘキシル等が挙げられ、なかでもヒドロキシエトキシの使用が推奨される。
【0024】この様な基からなる側鎖を含む鎖状炭化水素系高分子としては、ビニルアルコール系重合体[ビニルアルコールの単独重合体(ポリビニルアルコール)の他、該ビニルアルコールと他のモノマーとの共重合体、該ビニルアルコール中のヒドロキシ基の一部が変性(ケン化など)した上記単独重合体若しくは共重合体(例えばエチレンオキサイド付加ポリビニルアルコール等)も包含される];(メタ)アクリル酸系重合体{(メタ)アクリル酸の単独重合体[ポリ(メタ)アクリル酸]の他、該(メタ)アクリル酸と他のモノマーとの共重合体、該(メタ)アクリル酸中のカルボキシル基の一部が変性した上記単独重合体若しくは共重合体[例えばポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸ナトリウムと(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステルの共重合体等)も包含される}等が挙げられる。なかでも、エチレンオキサイド付加ポリビニルアルコール、(メタ)アクリル酸ナトリウムと(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステルの共重合体の使用が推奨される。」

(4エ)「【0025】この様な水溶性高分子化合物を研磨液中に添加することにより、研磨速度および研磨面の粗度が著しく向上する理由は以下の様に考えられる。
【0026】一般に、シリコンウェハーのアルカリ性コロイダルシリカによる研磨は「メカノケミカル研磨」と呼ばれており、コロイダルシリカによる機械的研磨作用とアルカリ成分による化学的研磨作用が複合されたものである。機械的作用が支配的である研磨の場合には、研磨速度が遅くなる等の多少の不具合を伴うとしても、研磨圧力を低く設定したり、砥粒の粒子径を小さくする等して研磨面の粗度を改善することができる。これに対してメカノケミカル研磨の場合には、機械的研磨作用と化学的研磨作用の複合作用により研磨が進行するため、アルカリ成分による化学的作用を適切に制御することが、除去速度および面形状を最適化するために重要である。
【0027】アルカリ性コロイダルシリカを用いてシリコンウェハーを研磨した場合、研磨面が非常に疎水的になることは良く知られている。これは、ウェハー最表面に存在するシリコンの末端が水素原子で終結している(即ち、ウェハー最表面には水素原子が存在している)ためと言われている(G. J. Pietsch ,G. S. Higashi,and Y. J. Chabal, Appl. Phys. Lett., Vol. 64, p.3115-3117(1994) )。この様に疎水性の研磨面を、上述した水溶性高分子化合物含有研磨液で研磨した場合は、該化合物中に含まれる親水性部分(基)がシリコンウェハーの表面に存在する水素原子と水素結合し、研磨面が親水性に変化する。その結果、研磨液中のアルカリ成分による化学的作用が緩和され、面のうねりが改善されるものと思料される。上述した親水性官能基のなかでも、とりわけヒドロキシ低級アルコキシ基は、シリコンウェハー表面との作用が適切なものになるため、研磨面のうねり改善効果が顕著になると考えられる。」

(4オ)「【0041】
【実施例】
実施例1
本実施例では、2次研磨に使用する研磨液の種類を種々変更させ、うねりの改善に及ぼす研磨液の影響について調査した。
【0042】まず、1次研磨に当たっては、ラッピングおよびエッチングを施したウェハー(φ150)を、市販の1次研磨用研磨液(ロデール・ニッタ製「Nalco2350 」を水で20倍に希釈したもの)を用い、下記の研磨条件で1次研磨した。
装置 :枚葉式片面研磨機
パッド :ロデール・ニッタ製「SUBA400」(C型スプリング式硬度61)
研磨圧力 :400gf/cm^(2)
定盤回転数 :50rpm
Quill 回転数:40rpm
研磨液流量 :300cm^(3)/min
【0043】このときの研磨速度は0.65μm/min、面粗度はRa=2.45nm、Rmax =21.2nmであった。なお、研磨面の粗度はTOPO3D(ワイコ製)を用い、1mmの領域を約4μmの空間分解能で測定した。
【0044】次に、上記1次研磨を施したウェハーを、表1に示す8種類の水溶性高分子含有研磨液を用いて2次研磨し、そのときの研磨速度および研磨面の粗度を同様に測定した。2次研磨の条件は、研磨液の種類を変えたこと以外は1次研磨と同じである。尚、表1中、No.1?8の研磨液は、平均粒子径50nmのコロイダルシリカをSiO_(2)換算で2重量%含有すると共に、ジエタノールアミンでpHを10.5に調整したアルカリ性コロイダルシリカの中に、表1に示す種々の水溶性高分子が0.004重量%添加されたものである。また、No.9,10は、いずれも市販の仕上げ研磨用研磨液である。尚、比較の為に2次研磨を行わない例(No.11)も実施した。
【0045】2次研磨後、仕上げ研磨を行い、仕上げ研磨後の面粗度を2次研磨のときと同様に測定した。仕上げ研磨条件は次の通りである。
装置 :枚葉式片面研磨機
パッド :ロデール・ニッタ製「UR100」
研磨圧力 :120gf/cm^(2)
定盤回転数 :50rpm
Quill 回転数:40rpm
研磨液流量 :300cm^(3)/min
研磨時間 :15min
研磨液 :市販の仕上げ用研磨液(フジミ・インコーポレーテッド製「Glanzox3900 」の10倍希釈液)
得られた結果を表1に併記する。
【0046】
【表1】



イ 甲5に記載された事項

(5ア)「【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位(a1)、下記一般式(2)で表される構成単位(a2)、及び下記一般式(3)で表される構成単位(a3)を有し、構成単位(a3)の合計が高分子化合物の構成単位中0.001?1.5モル%である高分子化合物、研磨材及び水系媒体を含有するシリコンウエハ用研磨液組成物。
【化1】

〔式中、Rは炭素数1?3のアルキル基であり、Xは分子中にカチオン基を有し且つビニルアルコール低級脂肪酸エステルと共重合可能な不飽和化合物に由来する構成単位である。〕」
「【請求項3】
構成単位(a3)が下記一般式(3-1)で表される化合物及び下記一般式(3-2)で表される化合物から選ばれる化合物に由来するものである請求項1又は2に記載のシリコンウエハ用研磨液組成物。
【化2】

〔式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(7)、R^(8)、R^(9)は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1?3のアルキル基である。X^(1)、Yは、それぞれ独立して、炭素数1?12のアルキレン基、-COOR^(12)-、-CONHR^(12)-、-OCOR^(12)-、および-R^(13)-OCO-R^(12)-から選ばれる基である。ここで、R^(12)、R^(13)は、それぞれ独立して、炭素数1?5のアルキレン基である。R^(4)は水素原子、炭素数1?3のアルキル基、炭素数1?3のヒドロキシアルキル基、又はR^(1)R^(2)C=C(R^(3))-X^(1)-である。R^(5)は水素原子、炭素数1?3のアルキル基、又は炭素数1?3のヒドロキシアルキル基であり、R^(6)は水素原子、炭素数1?3のアルキル基、炭素数1?3のヒドロキシアルキル基、又はベンジル基であり、Z-は陰イオンを示す。R^(10)は水素原子、炭素数1?3のアルキル基、炭素数1?3のヒドロキシアルキル基、又はR^(7)R^(8)C=C(R^(9))-Y-である。R^(11)は水素原子、炭素数1?3のアルキル基、又は炭素数1?3のヒドロキシアルキル基である。〕」

(5イ)「【0016】
本発明は、下記一般式(1)で表される構成単位(a1)、下記一般式(2)で表される構成単位(a2)、及び下記一般式(3)で表される構成単位(a3)を有し、構成単位(a3)の合計が高分子化合物の構成単位中0.001?1.5モル%である高分子化合物(以下「カチオン基を有する高分子化合物」と略する場合もある。)を含むことにより、濃縮液の保存安定性及びシリコンウエハの濡れ性が良好で、研磨直前等に行われる研磨液組成物中の研磨材の凝集物等の除去に用いられるフィルターの目詰まりを低減でき、かつ、高い研磨速度でシリコンウエハの表面の研磨が行えるという知見に基づく。
【0017】
一般に、シリコンウエハの表面やシリカ等の研磨材表面は、アルカリ下では負(マイナス)に帯電している。このため、本発明で使用されるカチオン基を有する高分子化合物は、シリコンウエハの表面に適度に吸着して、良好な濡れ性を発現していると推定される。また、本発明で使用されるカチオン基を有する高分子化合物は、研磨材表面にも吸着し、研磨材を適度に凝集させ、シリコンウエハの表面の良好な濡れ性と相まって、シリコンウエハの高速研磨を可能にしていると推定される。」

(5ウ)「【0084】
(1)研磨液組成物の調製
研磨材(コロイダルシリカ)、カチオン基を有する高分子化合物、28%アンモニア水(キシダ化学(株)試薬特級)、イオン交換水、および必要に応じてその他の高分子化合物又は非イオン性界面活性剤を攪拌混合して、研磨液組成物の濃縮液(pH10.0?11.0(25℃))を得た。各濃縮液中のアンモニアの含有量は0.4重量%である。下記実施例1?43で使用したカチオン基を有する高分子化合物1?11の重合度及び組成は下記表1に示している。
【0085】
高分子化合物1?11は、構成単位(a2)の供給源である単量体化合物と構成単位(a3)の供給源である単量体化合物とを共重合し、得られた共重合体を部分的にケン化することで得た。
【0086】
【表1】

【0087】
(注)表1中の高分子化合物10?11において、各高分子化合物の全構成単位中の、構成単位(a1)、構成単位(a2)および構成単位(a3)の合計は100モル%である。RはCH_(3)であり、構成単位(a2)の供給源である単量体化合物は酢酸ビニルである。構成単位(a3)は、上記一般式(3-1)で表される化合物に由来するものであり、Z^(-)はCl^(-)、X^(1)は-CONHR^(12)-、R^(12)は-(CH_(2))_(3)、R^(1)は-H、R^(2)は-H、R^(3)は-CH_(3)、R^(4)はH、R^(5)はH、R^(6)はHである。ここで、-CONHR^(12)-のCO側が、R3が結合した炭素に結合している。
【0088】
表1中の高分子化合物1?9において、各高分子化合物の全構成単位中の、構成単位(a1)、構成単位(a2)および構成単位(a3)の合計は100モル%である。RはCH_(3)であり、構成単位(a2)の供給源である単量体化合物は酢酸ビニルである。構成単位(a3)は、上記一般式(3-1)で表される化合物に由来するものであり、Z^(-)はCl^(-)、X^(1)は-CH_(2)-、R^(1)は-H、R^(2)は-H、R^(3)は-Hである。R^(4)はR^(1)R^(2)C=C(R^(3))?X^(1)?、R^(5)はH、R^(6)はHである。」

(2)刊行物に記載された発明

ア 甲4に記載された発明

上記摘示事項(4ア)によれば、甲4の特許請求の範囲には、「アルカリ成分およびコロイダルシリカを含む研磨液中に、炭素長鎖構造を有し、側鎖としてヒドロキシ低級アルコキシ基を有する鎖状炭化水素系高分子を含有し、前記鎖状炭化水素系高分子がエチレンオキサイド付加ポリビニルアルコールである、シリコンの研磨に用いられる研磨液。」(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。

イ 甲5に記載された発明

上記摘示事項(5ア)、(5ウ)によれば、甲5の実施例には、「研磨材、カチオン基を有する高分子化合物、アンモニア水、イオン交換水、および必要に応じてその他の高分子化合物又は非イオン性界面活性剤を攪拌混合して得たシリコンウエハ用研磨液組成物の濃縮液」が記載されている。
そして、上記カチオン基を有する高分子化合物としては、「下記一般式(1)で表される構成単位(a1)、下記一般式(2)で表される構成単位(a2)、及び下記一般式(3)で表される構成単位(a3)

」を有する高分子化合物1?11のいずれかであって、高分子化合物1?11における構成単位(a2)中のRはいずれもCH_(3)であって、また、構成単位(a3)はいずれも「下記一般式(3-1)で表される化合物に由来するもの

」であって、高分子化合物1?9では「Z^(-)はCl^(-)、X^(1)は-CH_(2)-、R^(1)は-H、R^(2)は-H、R^(3)は-H、R^(4)はR^(1)R^(2)C=C(R^(3))-X^(1)-、R^(5)はH、R^(6)はH」であり、高分子化合物10?11では「Z^(-)はCl^(-)、X^(1)は-CONHR^(12)-、R^(12)は-(CH_(2))_(3)、R^(1)は-H、R^(2)は-H、R^(3)は-CH_(3)、R^(4)はH、R^(5)はH、R^(6)はHである。ここで、-CONHR^(12)-のCO側が、R^(3)が結合した炭素に結合」しており、さらに、高分子化合物1?11における構造単位(a1)と(a2)の比率、及び、構造単位(a3)の含有量が以下の表のとおりである


」ものが用いられている。

そうすると、甲5には、「研磨材、カチオン基を有する高分子化合物、アンモニア水、イオン交換水、および必要に応じてその他の高分子化合物又は非イオン性界面活性剤を攪拌混合して得たシリコンウエハ用研磨液組成物の濃縮液であって、カチオン基を有する高分子化合物が、下記一般式(1)で表される構成単位(a1)、下記一般式(2)で表される構成単位(a2)、及び下記一般式(3)で表される構成単位(a3)

を有する高分子化合物1?11のいずれかであって、高分子化合物1?11における構成単位(a2)中のRはいずれもCH_(3)であって、また、構成単位(a3)はいずれも「下記一般式(3-1)で表される化合物に由来するもの

」であって、高分子化合物1?9では、Z^(-)はCl^(-)、X^(1)は-CH_(2)-、R^(1)は-H、R^(2)は-H、R^(3)は-H、R^(4)はR^(1)R^(2)C=C(R^(3))-X^(1)-、R^(5)はH、R^(6)はHであり、高分子化合物10?11では、Z^(-)はCl^(-)、X^(1)は-CONHR^(12)-、R^(12)は-(CH_(2))_(3)、R^(1)は-H、R^(2)は-H、R^(3)は-CH_(3)、R^(4)はH、R^(5)はH、R^(6)はHである。ここで、-CONHR^(12)-のCO側が、R^(3)が結合した炭素に結合しており、さらに、高分子化合物1?11における構造単位(a1)と(a2)の比率、及び、構造単位(a3)の含有量が以下の表のとおりである

ものが用いられたシリコンウエハ用研磨液組成物の濃縮液。」(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・検討

ア 甲4発明を主発明とした場合

(ア)本件発明5について

本件発明5と甲4発明とを対比する。
○甲4発明の「シリコンの研磨に用いられる研磨液」は、本件発明5の「シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物」に相当する。

○甲4発明の「エチレンオキサイド付加ポリビニルアルコールである」「側鎖としてヒドロキシ低級アルコキシ基を有する鎖状炭化水素系高分子」は、上記摘示事項(4ウ)で「水溶性高分子化合物」であることが記載されているから、本件発明5の「水溶性ポリマー」に相当する。

○甲4発明は「コロイダルシリカ」が用いられているところ、コロイダルシリカは、通常、水性分散体として用いられるものであるから、甲4発明の研磨液において、溶媒として水が使用されていることは明らかであり、甲4発明と本件発明5とは、「水とを含有」している点で一致するいえる。

そうすると、本件発明5と甲4発明とは、「シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物であって、水溶性ポリマーと水とを含有する、研磨用組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
水溶性ポリマーが、本件発明5では、「以下のエッチングレート測定:
(1A)前記水溶性ポリマー0.18質量%およびアンモニア1.3質量%を含み、残部が水からなるエッチングレート測定用薬液LEを用意する;
(2A)表面の自然酸化膜を除去したシリコン基板(縦6cm、横3cm、厚さ775μmの長方形状)を用意し、その質量W0を測定する;
(3A)前記シリコン基板を前記薬液LEに室温にて12時間浸漬する;
(4A)前記薬液LEから前記シリコン基板を取り出し、室温にてNH_(3)(29%):H_(2)O_(2)(31%):超純水=1:1:8(体積比)の洗浄液で10秒間洗浄する;
(5A)洗浄後の前記シリコン基板の質量W1を測定する;および
(6A)前記W0と前記W1との差および前記シリコン基板の比重からエッチングレート(nm/分)を算出する;
に基づくエッチングレートが2.0nm/分以下であり(当審注:以下、エッチングレート測定の手順の記載を省略する。)、かつ
以下の砥粒吸着率測定:
(1B)前記研磨用組成物に対して遠心分離処理を行って前記砥粒を沈降させ、その上澄み液の全有機炭素量を測定して、該上澄み液に含まれる有機炭素の総量C1を求める;
(2B)前記研磨用組成物の組成から砥粒を除いた組成の試験液L0を用意し、該試験液L0の全有機炭素量を測定して、上記試験液L0に含まれる有機炭素の総量C0を求める;
(3B)前記C0および前記C1から、次式:
砥粒吸着率(%)=[(C0-C1)/C0]×100;
により砥粒吸着率を算出する;
に基づく砥粒吸着率が20%以下であり(当審注:以下、砥粒吸着率測定の手順の記載を省略する。)、」「ノニオン性の、けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコールである」のに対し、甲4発明では、「エチレンオキサイド付加ポリビニルアルコールである」「側鎖としてヒドロキシ低級アルコキシ基を有する鎖状炭化水素系高分子」である点。

(相違点1)について
まず、本件発明5の「ノニオン性の、けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコールである」水溶性ポリマーと、甲4発明の「エチレンオキサイド付加ポリビニルアルコールである」「側鎖としてヒドロキシ低級アルコキシ基を有する鎖状炭化水素系高分子」を対比・検討すると、甲4発明のエチレンオキサイド付加ポリビニルアルコールである、側鎖としてヒドロキシ低級アルコキシ基を有する鎖状炭化水素系高分子は、「部分けん化ポリビニルアルコール」ではないし、けん化度が「70モル%?90モル%」であることは、甲4には、記載されていない。
そして、上記摘示事項(4エ)の段落【0027】の記載によれば、甲4発明の「エチレンオキサイド付加ポリビニルアルコールである、側鎖としてヒドロキシ低級アルコキシ基を有する鎖状炭化水素系高分子」は、研磨時、該高分子中に含まれる親水性部分(ヒドロキシ低級アルコキシ基)がシリコンウェハーの表面に存在する水素原子と水素結合し、研磨面を親水性に変化させ、研磨液中のアルカリ成分による化学的作用を緩和し、面のうねりを改善するもので、ヘイズ及び/又はうねり(長周期の凹凸)を改善するという甲4発明における発明の課題(摘示事項(4イ))を解決するために、上記摘示事項(4ウ)の段落【0022】の記載によれば、甲4発明を最も特徴付ける水溶性高分子とされている。
そうすると、甲4発明の課題を達成するには必須の「エチレンオキサイド付加ポリビニルアルコールである、側鎖としてヒドロキシ低級アルコキシ基を有する鎖状炭化水素系高分子」を「けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」に置換する動機付けが、甲4にあるとはいえないし、「エチレンオキサイド付加ポリビニルアルコールである、側鎖としてヒドロキシ低級アルコキシ基を有する鎖状炭化水素系高分子」を「けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」に置換することを示唆する記載が他の甲号証にあるとはいえない。
一方、本件発明5は、水溶性ポリマーとして、「ノニオン性の、けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」を採用することにより、本件明細書の段落【0006】に記載される(シリコンウエハの研磨において)「LPD数やヘイズの低減効果に優れた研磨用組成物を提供する」ことを達成するという、特にLPD数の低減という、甲4発明とは異質の効果を達成するものである。

したがって、上記(相違点1)の「エッチングレート」及び「砥粒吸着率」について判断するまでもなく、上記(相違点1)は、実質的な相違点となるものであるし、当業者が容易に想到し得るものではないから、本件発明5は、甲4発明であるとはいえないし、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明7、8について

本件発明7、8は、本件発明5の発明特定事項をさらに限定したものであるから、本件発明5と同様に、本件発明7、8は、甲4発明であるとはいえないし、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲5発明を主発明とした場合

(ア)本件発明5について

本件発明5と甲5発明とを対比する。
○甲5発明の「シリコンウエハ用研磨液組成物の濃縮液」は、本件発明5の「シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物」に相当する。

○甲5発明の「研磨材」、「イオン交換水」は、それぞれ、本件発明5の「砥粒」、「水」に相当する。

○甲5発明の「カチオン基を有する高分子化合物」は、ポリビニルアルコール誘導体であり、また、構造単位(a1)であるビニルアルコール単位の割合からして、水溶性であると認められるから、本件発明5の「水溶性ポリマー」に相当するといえる。

したがって、本件発明5と甲5発明とは、「シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物であって、砥粒と水溶性ポリマーと水とを含有する、研磨用組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点2)
水溶性ポリマーが、本件発明5では、「エッチングレートが2.0nm/分以下であり、かつ砥粒吸着率が20%以下であり、」「ノニオン性の、けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコールである」のに対し、甲5発明では、「下記一般式(1)で表される構成単位(a1)、下記一般式(2)で表される構成単位(a2)、及び下記一般式(3)で表される構成単位(a3)

を有する高分子化合物1?11のいずれかであって、高分子化合物1?11における構成単位(a2)中のRはいずれもCH_(3)であって、また、構成単位(a3)はいずれも下記一般式(3-1)で表される化合物に由来するもの

であって、高分子化合物1?9では、Z^(-)はCl^(-)、X^(1)は-CH_(2)-、R^(1)は-H、R^(2)は-H、R^(3)は-H、R^(4)はR^(1)R^(2)C=C(R^(3))-X^(1)-、R^(5)はH、R^(6)はHであり、高分子化合物10?11では、Z^(-)はCl^(-)、X^(1)は-CONHR^(12)-、R^(12)は-(CH_(2))_(3)、R^(1)は-H、R^(2)は-H、R^(3)は-CH_(3)、R^(4)はH、R^(5)はH、R^(6)はHである。ここで、-CONHR^(12)-のCO側が、R^(3)が結合した炭素に結合しており、さらに、高分子化合物1?11における構造単位(a1)と(a2)の比率、及び、構造単位(a3)の含有量が以下の表のとおりである

」が用いられている点。

(相違点2)について
まず、本件発明5の「ノニオン性の、けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコールである」水溶性ポリマーと、甲5発明の「一般式(3)で表される構成単位(a3)(構造式省略)を有する高分子化合物を対比・検討すると、甲5発明の一般式(3)で表される構成単位(a3)(構造式省略)を有する高分子化合物は、「ノニオン性の、部分けん化ポリビニルアルコール」ではない。
そして、上記摘示事項(5イ)の記載によれば、甲5発明のカチオン基(構成単位(a3))を有する高分子化合物は、シリコンウエハの表面に適度に吸着して、良好な濡れ性を発現し、また、研磨材表面にも吸着し、研磨材を適度に凝集させ、シリコンウエハの表面の良好な濡れ性と相まって、シリコンウエハの高速研磨を可能にするという甲5発明における発明の課題を解決するために、甲5発明における必須の高分子化合物である。
そうすると、甲5発明の「一般式(3)で表される構成単位(a3)(構造式省略)を有する高分子化合物」を「けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」に置換する動機付けが甲5にあるとはいえない。
また、「甲5発明の一般式(3)で表される構成単位(a3)(構造式省略)を有する高分子化合物」を「けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」に置換することを示唆する記載が他の甲号証にあるとはいえない。
一方、本件発明5が、水溶性ポリマーとして、「ノニオン性の、けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」を採用することにより、格別の効果を奏するものであることは、上記「ア 甲4発明を主発明とした場合」で述べたとおりである。

したがって、上記(相違点2)の「エッチングレート」及び「砥粒吸着率」について判断するまでもなく、上記(相違点2)は、実質的な相違点となるものであるし、当業者が容易に想到し得るものではないから、本件発明5は、甲5発明であるとはいえないし、甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明7、8について

本件発明7、8は、本件発明5の発明特定事項をさらに限定したものであるから、本件発明5と同様に、本件発明7、8は、甲5発明であるとはいえないし、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 申立理由1及び2(特許法第29条第1項3号及び特許法第29条第2項)について

(1)刊行物に記載された事項

ア 甲1に記載された事項

(1ア)第1頁左欄第34行?右欄第7行
「特許請求の範囲
1 曇りのない半導体表面を、石英、珪酸、珪酸塩、ヘキサフルオロ珪酸塩を含有する研摩剤を用いて研摩することにより製造するに当り、自体公知の第1研摩工程に続いて第2研摩工程を実施し、該工程において第1工程の研摩剤の成分に加えてC-原子3?5個を有する1価アルコールを研摩剤に対して1?10容量%及びポリビニルアルコールを研摩剤に対して0.01?0.5重量%含有する研摩剤を使用することを特徴とする、曇りのない半導体表面の製法。」

(1イ)第1頁右欄第33行?35行
「従って本発明の課題は、曇りのない(ヘイズのない)表面が得られ、それにより半導体表面の質を更に改良する研摩法を示すことである。」

(1ウ)第2頁右欄第12行?第19行
「本発明により使用されるポリビニルアルコールの作用はアルコール性ヒドロキシル基の存在によるので、本発明におけるポリビニルアルコールとは、特定の置換分で変性されたポリビニルアルコールを包含し、ポリビニルエステルを88?100モル%鹸化したものならびにビニルエステルと例えばエチレンとの共重合体を引続き鹸化したものも使用することができる。」

(1エ)第2頁右欄第27行?第3頁左欄第2行
「例1
単結晶の珪素棒を鋸切断して製造された直径50mm及び厚さ350μの丸い珪素の円盤をろうで丸い、平らな特殊鋼製支持板上に接合し、研摩布を張つた研摩機の回転皿上に置き、0.2kp/cm^(2)の圧力を負荷する。回転皿は90U/分の速度で回転する。水ガラス(SiO_(2) 30%)50l及び6結晶水を有する塩化カルシウム25kgから水600l中で製造された研摩剤懸濁液を約25cm^(3)/分で回転皿上に滴下する。約1時間の研摩時間後、珪素の円盤の表面は従来の意味で研摩された。しかしながら、発光灯の下で珪素表面を観察した際に、散光により生じた乳状の曇りが認められた。再び、この円盤を研摩機上に置き、今度は研磨剤懸濁液にブチルアルコール5容量%及び水中の10%のポリビニルアルコール溶液1容量%を添加して研磨工程を6分続行する。この工程後の円盤の再度の試験は散光を生じない表面を示す、即ち円盤表面から反射された発光装置の光線の位置をもはや認めることができない。」

(1オ)第3頁右欄第1行?第12行
「例4
粒度10?40mμの石英粉末50kgを水500l中に浮遊させ、pH値が9.5?10.5になるまでこの懸濁液に苛性ソーダ溶液を添加する。このようにして製造された懸濁液を例1で記載した装置上で直径60mmの丸い珪素の円盤の研摩に使用する。添加量は1分画り30cm^(3)である。研摩時間50分後に研摩を中断し、研摩剤懸濁液にイソブタノール4容量%及び10%のポリビニルアルコール溶液3容量%を添加する。今度は更に7分研摩する。発光装置の光の下での円盤の試験は円盤が曇りがなくなるまで研摩されたことを示す。」

イ 甲2(特開2008-53414号公報)に記載された事項

(2ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨用組成物中のナトリウムイオン及び酢酸イオンのいずれか一方の濃度が10ppb以下であることを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
研磨用組成物中のナトリウムイオン及び酢酸イオンの濃度がそれぞれ10ppb以下であることを特徴とする研磨用組成物。
【請求項3】
水溶性高分子とアルカリと砥粒とを含有する請求項1又は2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて半導体ウエハの表面を研磨することを特徴とする研磨方法。」

(2イ)「【0001】
本発明は、半導体ウエハを研磨する用途で主に使用される研磨用組成物及びその研磨用組成物を用いた研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンウエハ等の半導体ウエハの研磨は予備研磨と仕上げ研磨の二段階に分けて行われる。仕上げ研磨で使用可能な研磨用組成物として、例えば特許文献1,2に記載の研磨用組成物が知られている。特許文献1の研磨用組成物は、水、コロイダルシリカ、ポリアクリルアミドやシゾフィランのような水溶性高分子、及び塩化カリウムのような水溶性塩類を含有している。特許文献2の研磨用組成物は、ナトリウム及び金属含有量が0?200ppmであるコロイダルシリカ、殺細菌剤及び殺生物剤を含有している。」

(2ウ)「【0012】
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子がヒドロキシエチルセルロース又はポリビニルアルコールである場合、さらに言えばヒドロキシエチルセルロースである場合には、それ以外の水溶性高分子を用いた場合に比べて、研磨後のウエハ表面で観察されるヘイズがより大きく低減する。従って、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子は、ヒドロキシエチルセルロース又はポリビニルアルコールであることが好ましく、より好ましくはヒドロキシエチルセルロースである。」

(2エ)「【0017】
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子がポリビニルアルコールである場合、使用されるポリビニルアルコールのケン化度は75%以上であることが好ましく、より好ましくは95%以上である。ケン化度が高くなるにつれて、親水膜によるウエハの研磨速度の低下はより強く抑制される。この点において、研磨用組成物に含まれるポリビニルアルコールのケン化度が75%以上、さらに言えば95%以上であれば、親水膜による研磨速度の低下を強く抑制することができる。」

(2オ)「【0033】
表1の“水溶性高分子”欄中、HEC^(*1)は陽イオン交換処理及び陰イオン交換処理したヒドロキシエチルセルロースを表し、HEC^(*2)は陽イオン交換処理したヒドロキシエチルセルロースを表し、HEC^(*3)は陰イオン交換処理したヒドロキシエチルセルロースを表し、HEC^(*4)は陽イオン交換処理及び陰イオン交換処理していないヒドロキシエチルセルロースを表し、PVA^(*1)は陽イオン交換処理及び陰イオン交換処理したポリビニルアルコールを表し、PVA^(*2)は陽イオン交換処理及び陰イオン交換処理していないポリビニルアルコールす。
・・・(略)・・・
【0036】
表1の“酢酸イオン濃度”欄に示す研磨用組成物中の酢酸イオンの濃度は、キャピラリー電気泳動法により測定したものである。
表1の“LPD”欄には、実施例1?7及び比較例1?7の研磨用組成物を用いて研磨した後のシリコンウエハ表面における65nm以上のサイズのLPDの数を測定した結果を示す。具体的には、まず、予備研磨用組成物としてフジミインコーポレーテッド株式会社製のGLANZOX-2100を用いて表2に示す研磨条件でシリコンウエハを予備研磨した。その後、予備研磨後のシリコンウエハを、仕上げ研磨用組成物として実施例1?7及び比較例1?7の研磨用組成物を用いて表3に示す研磨条件で仕上げ研磨した。仕上げ研磨後のウエハについて、SC-1洗浄(Standard Clean 1)を行ってからケーエルエー・テンコール社製の“SURFSCAN SP1-TBI”を用いて、ウエハ表面当たりの65nm以上のサイズのLPDの数を測定した。
【0037】
表1の“ヘイズ”欄には、実施例1?7及び比較例1?7の研磨用組成物を用いて研磨した後のシリコンウエハ表面におけるヘイズレベルを測定した結果を示す。具体的には、実施例1?7及び比較例1?7の研磨用組成物を用いた仕上げ研磨後のウエハについて、SC-1洗浄を行ってからケーエルエー・テンコール社製の“SURFSCAN SP1-TBI”を用いて、ウエハ表面のヘイズレベルを測定した。
【0038】
【表1】



ウ 甲3に記載された事項

(3ア)「【請求項1】
下記の(a)?(e)を含んでなることを特徴とするシリコン半導体ウェーハの研磨用組成物。
(a)二酸化ケイ素、(b)水、(c)水溶性高分子化合物、(d)塩基性化合物、および(e)アルコール性水酸基を1?10個有する化合物。
【請求項2】
二酸化ケイ素が、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、および沈澱法シリカからなる群から選ばれるものの少なくとも1種類である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
塩基性化合物が、含窒素塩基性化合物から選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項1?2のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
・・・(略)・・・
【請求項7】
水溶性高分子化合物が、セルロース誘導体およびポリビニルアルコールからなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種類である、請求項1?6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。」

(3イ)「【0025】
用いる水溶性高分子化合物は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されないが、一般に、分子量が100,000以上、好ましくは1,000,000以上、の水溶性基を有する高分子化合物である。ここでいう水溶性基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、スルホン酸基、およびその他が挙げられる。このような水溶性高分子化合物は、具体的には、セルロース誘導体およびポリビニルアルコールの少なくとも1種類であることが好ましい。また、セルロース誘導体は、カルボキシメチルセルロ-ス、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、およびカルボキシメチルエチルセルロースからなる群より選ばれる化合物の少なくとも1種類であることが好ましい。一方、ポリビニルアルコールは、平均重合度が200?3,000、けん化度70?100%、の水溶性高分子化合物であることが好ましい。これらの水溶性高分子化合物は任意の割合で併用することもできる。」

(3ウ)「【0042】
【発明の実施の形態】
<研磨用組成物の内容および調製>
まず、研磨材として高純度コロイダルシリカ(一次粒子径0.035μm、二次粒子径0.07μm)を撹拌機を用いて水に分散させて、研磨材濃度5重量%の研磨材分散液を調製した。次いで、予め水で膨潤させておいた、前記研磨材分散液の重量を基準にして0.5重量%のヒドロキシエチルセル口一スを添加し、スラリーを調製した。そして、前記スラリーに、表1に記載した量の塩基性化合物および/またはアルコール性水酸基を1?10個有する化合物を添加して、実施例1?10および比較例1?3の試料を調製した。
【0043】



(2)刊行物(甲1?甲3)に記載された発明

甲1の上記摘示事項(1ア)、(1エ)、甲2の上記摘示事項(2ア)、(2イ)、及び甲3の上記摘示事項(3ア)の記載によれば、甲1ないし甲3には、いずれも本件発明5の記載形式に則れば、「シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物であって、砥粒と水溶性ポリマーと水を含み、前記水溶性ポリマーは、ノニオン性のポリビニルアルコールである、研磨用組成物。」が記載されていることを認めることができる。

そして、甲1?甲3の上記「研磨用組成物」において、上記「水溶性ポリマー」が、それぞれ、甲1の上記摘示事項(1ウ)の記載によれば、「特定の置換分で変性されたポリビニルアルコールを包含し、ポリビニルエステルを88?100モル%鹸化したものならびにビニルエステルと例えばエチレンとの共重合体を引続き鹸化したもの」、甲2の上記摘示事項(2ウ)及び(2エ)の記載によれば、「ヒドロキシエチルセルロース又はポリビニルアルコールとすることができ、ポリビニルアルコールである場合、使用されるポリビニルアルコールのケン化度は75%以上であることが好ましく、より好ましくは95%以上であるもの」、甲3の上記摘示事項(3イ)の記載によれば、「セルロース誘導体およびポリビニルアルコールの少なくとも1種類であることが好ましいとされ、ポリビニルアルコールの場合は、平均重合度が200?3,000、けん化度70?100%、の水溶性高分子化合物であるもの」とされる発明(以下、それぞれ「甲1発明」、「甲2発明」、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・検討

ア 本件発明5について

本件発明5と甲1?甲3発明を対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致しているといえる。

(相違点3)
水溶性ポリマーが、本件発明5では、「エッチングレートが2.0nm/分以下であり、かつ砥粒吸着率が20%以下であり、」「ノニオン性の、けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコールである」のに対し、甲1発明では、「特定の置換分で変性されたポリビニルアルコールを包含し、ポリビニルエステルを88?100モル%鹸化したものならびにビニルエステルと例えばエチレンとの共重合体を引続き鹸化したもの」、甲2発明では、「ヒドロキシエチルセルロース又はポリビニルアルコールとすることができ、ポリビニルアルコールである場合、使用されるポリビニルアルコールのケン化度は75%以上であることが好ましく、より好ましくは95%以上であるもの」、甲3発明では、「セルロース誘導体およびポリビニルアルコールの少なくとも1種類であることが好ましいとされ、ポリビニルアルコールの場合は、平均重合度が200?3,000、けん化度70?100%、の水溶性高分子化合物であるもの」である点。

上記(相違点3)について、以下、検討する。
甲1?3発明と、本件発明5は、部分けん化ポリビニルアルコールのけん化度において、一見、重複している範囲を有している。
しかしながら、甲1発明では、上記摘示事項(1エ)及び(1オ)の実施例では、「ポリビニルアルコール」とのみ記載され、甲1の記載全体を見ても、けん化度に着目し、「ポリビニルアルコール」として通常の形態であるといえる、けん化度100%のポリビニルアルコールではなく、「けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」を用いることが、「実質的」に記載されているとはいえない。
また、甲2発明も、けん化度の範囲は、本件発明5の範囲を含むものの、上記摘示事項(2エ)の「ケン化度が高くなるにつれて、親水膜によるウエハの研磨速度の低下はより強く抑制される。この点において、研磨用組成物に含まれるポリビニルアルコールのケン化度が75%以上、さらに言えば95%以上であれば、親水膜による研磨速度の低下を強く抑制することができる。」との記載によれば、甲2発明は、実質的には、ポリビニルアルコールのけん化度は100%により近いものを指向するものであるし、上記摘示事項(2オ)の段落【0038】【表1】の甲2発明の実施例でも、「PVA(ポリビニルアルコール)」とのみ記載され、甲2の記載全体を見ても、「ポリビニルアルコール」の通常の形態であるといえるけん化度100%のポリビニルアルコールではなく、「けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」を用いることが、「実質的」に記載されているとはいえない。
さらに、甲3発明も、けん化度の範囲は、本件発明5の範囲を含むものの、上記摘示事項(3イ)でポリビニルアルコールは、水溶性高分子の例示として記載されるのみで、上記摘示事項(3ウ)の甲3発明の実施例では、他の水溶性高分子であるヒドロキシエチルセルロースが使用され、甲3の記載全体を見ても、けん化度に着目し、「ポリビニルアルコール」として通常の形態であるけん化度100%のポリビニルアルコールではなく、「けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」を用いることが、「実質的」に記載されているとはいえない。
また、甲1?甲3には、「エッチングレートが2.0nm/分以下であり、かつ砥粒吸着率が20%以下」であることに関しては、記載も示唆もされていない。
そして、本件発明5に対応する実施例(段落【0341】【表4】)の結果によれば、前述した様に甲1?甲3発明で、主として意図されているといえる完全けん化ポリビニルアルコールを用いた研磨用組成物(比較例B1)で、ヘイズ、LPDがそれぞれ「100」、「100」であるのに対し、けん化度73?80%のポリビニルアルコールを用いた研磨用組成物(実施例B1?B5)では、ヘイズ、LPDがそれぞれ「31?40」、「40?43」であり、けん化度73?80%のポリビニルアルコールを用いた研磨用組成物は、完全けん化ポリビニルアルコールを用いた研磨用組成物に比べ、ヘイズ値およびLPD数を大幅に低下させることができるという格別の効果を奏するものである。

したがって、上記相違点3は、実質的な相違点となるものであるし、当業者が容易に想到し得るものではないから、本件発明5は、甲1?甲3発明ではないし、甲1?甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明7、8について

本件発明7、8は、本件発明5の発明特定事項をさらに限定したものであるから、本件発明5と同様に、本件発明7、8は、甲1?甲3発明ではないし、甲1?甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明9?15について

異議申立人は、異議申立書の31頁第1?10行で、甲1?甲5には、本件発明9、10、12、13及び14の「研磨用組成物製造方法」、本件発明11の「本件発明9または10に用いられる研磨用組成物調製用キット」、本件発明15の「本件発明12?14に用いられる研磨用組成物調製用キット」に関する具体的な開示はないことを認めた上で、
『甲1?5にも記載の通り、研磨において塩基条件を採用することは周知であり、本件明細書の【0007】でも認める通り、塩基条件下において加水分解が生じること(さらには、加水分解によりpHの低下が生じること)も周知である。
そうすると、塩基条件下において加水分解の影響を抑えるべく、各成分の混合の順序や濃度等を適宜調整すること、また、組成物の成分をキット化して分離することは、当業者が容易になしうることであり、そのことによる予想外の効果もない。
従って、本件特許発明9?15は、進歩性を欠如する。』と主張している。

しかしながら、本件発明9?15に対するこの主張は、何故、本件発明9?15の各特定事項が、甲1?甲5に記載される事項から容易に想到できるのかを、具体的な根拠に基づいて主張するものではなく、採用することができない。
実際、甲1?甲5には、本件発明9、10、12、13及び14の砥粒、ビニルアルコール単位を含むポリマー、及び塩基性化合物の具体的な混合手順は記載されていないし、さらに、本件発明9、10の「前記砥粒分散液Cを希釈して前記第1組成物を調製した後に、該第1組成物と前記第2組成物とを混合する」点、本件発明12、14の「少なくとも前記A剤と前記B剤とを混合して前記塩基性化合物の濃度が0.02モル/Lより高い研磨用組成物原液を調製する工程;および、前記A剤と前記B剤とを混合してから24時間以内に前記塩基性化合物の濃度が0.02モル/L以下となるまで前記研磨用組成物原液を希釈する工程;を包含し・・・前記研磨用組成物原液を希釈する工程では、該原液を体積基準で10倍以上に希釈する」点、本件発明13、14の「少なくとも前記A剤と前記B剤とを混合して前記砥粒の含有量が1質量%以上である研磨用組成物原液を調製する工程;および、前記A剤と前記B剤とを混合してから24時間以内に前記砥粒の含有量が1質量%未満となる濃度まで前記研磨用組成物原液を希釈する工程;を包含し・・・前記研磨用組成物原液を希釈する工程では、該原液を体積基準で10倍以上に希釈する」点は、単に、塩基性条件下で部分けん化ポリビニルアルコールが加水分解することが知られていたとしても、砥粒、ビニルアルコール単位を含むポリマー、及び塩基性化合物の具体的な混合手順が記載されていない甲1?甲5からは、当業者といえども容易に想到できるものではないことは明らかである。
そして、本件発明9、10、12、13及び14は、これらの「研磨用組成物製造方法」を採用することにより、段落【0358】【表5】、段落【0378】【表6】等に「実施例」として記載されるように、「ヘイズ」及び「LPD」の点で良好な結果を発揮するものである。

したがって、本件発明9、10、12、13及び14は、甲1?甲5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。また、本件発明11は、本件発明9または10に用いられる研磨用組成物調製用キット、本件発明15は、本件発明12?14に用いられる研磨用組成物調製用キットであるから、本件発明9、10、12、13及び14が、甲1?甲5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明11、15も、甲1?甲5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 申立理由3及び4(特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号)について

異議申立人は、異議申立書の29頁第2行?第30頁末行で、申立理由3及び4に関し、『本件発明5では、本件発明の課題に関するパラメータである構成要件E(特定のエッチングレート)及び構成要件F(特定の砥粒吸着率)を規定している。
しかし、本件明細書において具体的に構成要件E及びFを充足する処方として開示されているのは、アンモニアによる特定のpH条件下(pH10.2)で、特定の砥粒(特定の粒径のコロイダルシリカ)、特定のケン化度を有する部分ケン化ポリビニルアルコールを使用した場合のみである(表4)。
砥粒の種類や塩基の種類によって結果は大きく変化するであろうし、ビニルアルコール単位を有していても本件発明の課題を解決できない場合も想定される・・・(略)・・・
また、塩基条件下では、部分ケン化リビニルアルコールを使用した場合でも、組成物の調整後、時間経過とともに、ケン化が進行し・・・(略)・・・その結果、ポリビニルアルコールのケン化が進行したり、ケン化によるpHの低下が生じ、本件発明の課題を解決できなくなる虞がある。
・・・(略)・・・
しかし、本件明細書の【0360】では、研磨直前において酢酸ビニルの加水分解(ケン化)が進行していることを示しているが、そうすると、研磨時には、塩基(アンモニア)で調整したpH(10.2)が大きく低下しているはずである。にもかかわらず、表4には、ヘイズやLPDが優れていたとする結果が示されており、実際に実験を行ったものであるか、甚だ疑問である。
・・・(略)・・・
以上のように、当業者が、本件発明の課題を解決できる組成(又は構成要件E及びFを充足できる組成)を選択するためには過度の試行錯誤を要し、現実的には本件明細書の実施例の処方を超えて課題を解決できる処方を見出すことは困難である。
従って、本件発明5は、いわゆるサポート要件を有さない。また、その裏返しとして、本件明細書は、本件発明5を実施できるように記載されておらず、いわゆる実施可能要件を充足しない。』
『さらに、請求項6?8は、請求項5の従属請求項であり、本件発明6?8も、本件発明1と同じ記載不備を有する。また、同様に、本件明細書は、本件発明6?8を実施できるように記載されていない。』と主張している。

しかしながら、本件発明5では、水溶性ポリマーが、「エッチングレートが2.0nm/分以下であり、かつ砥粒吸着率が20%以下であり、」「ノニオン性の、けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコール」と特定され、この部分けん化ポリビニルアルコールを用いた研磨用組成物が、本件発明の課題を解決できるものであることは、上記「第5」、「1 取消理由1及び2について」で述べたとおりである。
そして、本件発明5には、アンモニアによる特定のpH条件、砥粒の詳細に関する特定はなされていないが、研磨用組成物は、塩基性であればより研磨が進むものの、塩基性でなくとも砥石の存在により研磨が可能なものであるから、アンモニアによる特定のpH条件(塩基性)であることか特定はされていないからといって、本件発明5が、本件発明の課題を解決できないとまではいえない。また、砥粒に関しては、本件発明5で研磨用組成物は「シリコンウエハの研磨」に用いられるものであることが特定されているところ、本件明細書の段落【0076】の記載によれば、シリコンと異なる金属または半金属の砥粒を用いた場合、シリコンウエハにシリコンとは異なる金属または半金属が拡散することによるシリコンウエハとしての電気特性の劣化があるとされ、このシリコンウエハとしての電気特性の劣化を避けることは、当業者にとり明らかであるから、「シリコンウエハの研磨」に用いられる本件発明5の研磨用組成物の砥粒は、実質的には「シリカ粒子」等が用いられているというべきであり、本件発明5で砥粒に関する詳細が特定されていないからといって、本件発明5が、本件発明の課題を解決できないとまではいえない。
また、塩基性条件下で部分けん化ポリビニルアルコールのけん化がさらに生じることが、本件発明5のいわゆるサポート要件及び実施可能要件において大きな問題とならないことも、上記「第5」、「1 取消理由1及び2について」で述べたとおりである。

そうすると、上記申立理由3及び4によっては、本件発明5、及び本件発明5を引用する本件発明7、8について、本件の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるということはできないし、当業者が本件発明5、7、8を実施するに際して、過度の試行錯誤を強いられるということもないから、本件の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明5、7、8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないということはない。

第6 むすび

上記「第5」で検討したとおり、本件特許5、7ないし15は、特許法第29条第1項第3号又は同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、本件特許5、7、8は、同法第36条第4項第1号又は同法同条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1ないし5、及び、上記申立理由1ないし4によっては、本件特許5、7ないし15を取り消すことはできない。
また、他に本件特許5、7ないし15を取り消すべき理由を発見しない。
そして、訂正前の請求項1ないし4、6は、本件訂正請求により削除され、対象となる請求項が存在しないので、訂正前の請求項1ないし4、6に対する特許異議の申立てを却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物であって、
砥粒と水溶性ポリマーと水とを含み、
以下のエッチングレート測定:
(1A)前記水溶性ポリマー0.18質量%およびアンモニア1.3質量%を含み、残部が水からなるエッチングレート測定用薬液LEを用意する;
(2A)表面の自然酸化膜を除去したシリコン基板(縦6cm、横3cm、厚さ775μmの長方形状)を用意し、その質量W0を測定する;
(3A)前記シリコン基板を前記薬液LEに室温にて12時間浸漬する;
(4A)前記薬液LEから前記シリコン基板を取り出し、室温にてNH_(3)(29%):H_(2)O_(2)(31%):超純水=1:1:8(体積比)の洗浄液で10秒間洗浄する;
(5A)洗浄後の前記シリコン基板の質量W1を測定する;および
(6A)前記W0と前記W1との差および前記シリコン基板の比重からエッチングレート(nm/分)を算出する;
に基づくエッチングレートが2.0nm/分以下であり、かつ
以下の砥粒吸着率測定:
(1B)前記研磨用組成物に対して遠心分離処理を行って前記砥粒を沈降させ、その上澄み液の全有機炭素量を測定して、該上澄み液に含まれる有機炭素の総量C1を求める;
(2B)前記研磨用組成物の組成から砥粒を除いた組成の試験液L0を用意し、該試験液L0の全有機炭素量を測定して、上記試験液L0に含まれる有機炭素の総量C0を求める;
(3B)前記C0および前記C1から、次式:
砥粒吸着率(%)=[(C0-C1)/C0]×100;
により砥粒吸着率を算出する;
に基づく砥粒吸着率が20%以下であり、
前記水溶性ポリマーは、ノニオン性の、けん化度70モル%?90モル%の部分けん化ポリビニルアルコールである、研磨用組成物。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記水溶性ポリマーは、繰返し単位としてビニルアルコール単位および酢酸ビニル単位を含む分子構造を有する、請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記水溶性ポリマーの分子構造に含まれる全繰返し単位のモル数に占める酢酸ビニル単位のモル数の割合が10%?27%である、請求項7に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物を、砥粒、塩基性化合物、塩基性条件下で加水分解反応性を示す官能基を有する水溶性ポリマーHおよび水を用いて製造する方法であって:
少なくとも前記塩基性化合物を含むA剤を用意する工程;
少なくとも前記水溶性ポリマーHを含むB剤を用意する工程;および
少なくとも前記A剤を含む第1組成物と少なくとも前記B剤を含む第2組成物とを混合することにより、前記砥粒、前記塩基性化合物、前記水溶性ポリマーHおよび水を含み前記塩基性化合物の濃度が0.1モル/L以下である混合物を調製する工程;
を包含し、
前記水溶性ポリマーHは、ビニルアルコール単位を含むポリマーであり、
前記A剤は、前記砥粒と前記塩基性化合物と水とを含む砥粒分散液Cであり、
前記混合物を調製する工程では、前記砥粒分散液Cを希釈して前記第1組成物を調製した後に、該第1組成物と前記第2組成物とを混合する、研磨用組成物製造方法。
【請求項10】
シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物を、砥粒、塩基性化合物、塩基性条件下で加水分解反応性を示す官能基を有する水溶性ポリマーHおよび水を用いて製造する方法であって、
少なくとも前記塩基性化合物を含むA剤を用意する工程;
少なくとも前記水溶性ポリマーHを含むB剤を用意する工程;および
少なくとも前記A剤を含む第1組成物と少なくとも前記B剤を含む第2組成物とを混合することにより、前記砥粒、前記塩基性化合物、前記水溶性ポリマーHおよび水を含み前記砥粒の濃度が3質量%未満である混合物を調製する工程;
を包含し、
前記水溶性ポリマーHは、ビニルアルコール単位を含むポリマーであり、
前記A剤は、前記砥粒と前記塩基性化合物と水とを含む砥粒分散液Cであり、
前記混合物を調製する工程では、前記砥粒分散液Cを希釈して前記第1組成物を調製した後に、該第1組成物と前記第2組成物とを混合する、研磨用組成物製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の製造方法に用いられる研磨用組成物調製用キットであって、
互いに分けて保管される前記A剤と前記B剤とを備える、研磨用組成物調製用キット。
【請求項12】
シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物を、砥粒、塩基性化合物、塩基性条件下で加水分解反応性を示す官能基を有する水溶性ポリマーHおよび水を用いて製造する方法であって、
少なくとも前記塩基性化合物を含むA剤を用意する工程;
少なくとも前記水溶性ポリマーHを含むB剤を用意する工程;
少なくとも前記A剤と前記B剤とを混合して前記塩基性化合物の濃度が0.02モル/Lより高い研磨用組成物原液を調製する工程;および、
前記A剤と前記B剤とを混合してから24時間以内に前記塩基性化合物の濃度が0.02モル/L以下となるまで前記研磨用組成物原液を希釈する工程;
を包含し、
前記水溶性ポリマーHは、ビニルアルコール単位を含むポリマーであり、
前記研磨用組成物原液を希釈する工程では、該原液を体積基準で10倍以上に希釈する、研磨用組成物製造方法。
【請求項13】
シリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物を、砥粒、塩基性化合物、塩基性条件下で加水分解反応性を示す官能基を有する水溶性ポリマーHおよび水を用いて製造する方法であって、
少なくとも前記塩基性化合物を含むA剤を用意する工程;
少なくとも前記水溶性ポリマーHを含むB剤を用意する工程;
少なくとも前記A剤と前記B剤とを混合して前記砥粒の含有量が1質量%以上である研磨用組成物原液を調製する工程;および、
前記A剤と前記B剤とを混合してから24時間以内に前記砥粒の含有量が1質量%未満となる濃度まで前記研磨用組成物原液を希釈する工程;
を包含し、
前記水溶性ポリマーHは、ビニルアルコール単位を含むポリマーであり、
前記研磨用組成物原液を希釈する工程では、該原液を体積基準で10倍以上に希釈する、研磨用組成物製造方法。
【請求項14】
前記水溶性ポリマーHは、酢酸ビニル単位のモル数の割合が5%?80%の部分ケン化ビニルアルコールである、請求項12または13に記載の研磨用組成物製造方法。
【請求項15】
請求項12から14のいずれか一項に記載の製造方法に用いられる研磨用組成物調製用キットであって、
互いに分けて保管される前記A剤と前記B剤とを備える、研磨用組成物調製用キット。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-07-03 
出願番号 特願2015-506749(P2015-506749)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09K)
P 1 651・ 537- YAA (C09K)
P 1 651・ 113- YAA (C09K)
P 1 651・ 536- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小久保 敦規  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 原 賢一
長部 喜幸
登録日 2016-03-18 
登録番号 特許第5900913号(P5900913)
権利者 株式会社フジミインコーポレーテッド 東亞合成株式会社
発明の名称 研磨用組成物、研磨用組成物製造方法および研磨用組成物調製用キット  
代理人 安部 誠  
代理人 谷 征史  
代理人 安部 誠  
代理人 大井 道子  
代理人 安部 誠  
代理人 谷 征史  
代理人 大井 道子  
代理人 大井 道子  
代理人 谷 征史  

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