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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C07K
管理番号 1333055
審判番号 無効2016-800076  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-06-24 
確定日 2017-10-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第5550350号発明「第VIII因子とその誘導体の製造及び精製方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5550350号についての手続の経緯の概要は以下のとおりである。
平成19年2月23日 特許出願
平成26年5月30日 特許権の設定登録
平成28年6月24日 特許無効審判請求
平成28年8月16日 手続補正書
平成28年11月22日 答弁書
平成29年2月27日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成29年3月1日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成29年3月15日 上申書(被請求人)、口頭審理
平成29年3月29日 上申書(請求人及び被請求人)

第2 本件特許発明
本件特許第5550350号の請求項1?4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次のとおりのものである(以下、「本件特許発明1?4」という。)。
「【請求項1】
培養培地中に第VIII因子又は第VIII因子誘導体をコードするcDNAを含有する発現DNAベクターで形質転換された哺乳類宿主細胞から組み換え第VIII因子を生産し、前記第VIII因子を固相支持体に結合された第VIII因子特異的親和性分子を使用して精製する方法であって、
(a)前記哺乳類宿主細胞を、プロテアーゼ阻害活性を有する硫酸化多糖類が補充された培養培地で培養し、前記硫酸化多糖類は、約20,000?約5,000,000Daの分子量を有する硫酸デキストランであり、前記培養培地中の前記硫酸デキストランの量が25mg/L乃至200mg/Lである工程、
(b)限外ろ過を通して前記第VIII因子を含有する培養培地を濃縮し、
(c)前記第VIII因子を免疫親和性クロマトグラフィーにより前記濃縮された培養培地から精製することを含み、ここで、前記親和性クロマトグラフィーは、(i)抗第VIII因子特異抗体が結合されたアガロース及びセファロースを含む固相支持体で充填されたカラム、及び(ii)前記抗体が結合された固相支持体に結合された第VIII因子分子のための緩衝剤、塩、塩化カルシウム、界面活性剤及びエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤を含む方法。
【請求項2】
前記培養培地が動物性タンパク質を含まない培地である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳類宿主細胞がCHO、BHK及びCOS細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記生産された第VIII因子分子の均質性を増加させる方法である、請求項1?3のいずれか1項記載の方法。」

第3 当事者の主張の概要
1.請求人の主張
請求人は、本件特許第5550350号の請求項1ないし4に係る発明について特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、以下のように主張する。
(無効理由)本件特許発明1?4は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
そして、請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:米国特許第5422250号明細書
甲第2号証:J. Biol. Chem., Vol.263, No.13, pp.6352-6362, 1988
甲第3号証:米国公開特許公報第2002/0025556号
甲第4号証:J. Clin. Invest., Vol.82, pp.1236-1243, 1988
甲第5号証:Blood, Vol.85, No.11, pp.3150-3157, 1995
甲第6号証:米国特許第6300100号明細書
甲第7号証:FEBS Lett., Vol.306, pp.243-246, 1992
甲第8号証:Hepatology, The Education Program, pp.429-435, 2005
甲第9号証:Scientific Discussion of EMEA, 2004
甲第10号証:Curr. Sci., Vol.89, No.4, pp.614-622, 2005. 8.
甲第11号証:Sem. Thromb. Hemostasis, Vol.27, No.4, pp.385-394, 2001
甲第12号証:Eur. J. Biochem., Vol.232, pp.19-27, 1995
甲第13号証:Biochem. J., Vol.277, pp.23-31, 1991
甲第14号証:Biotechnol. Bioeng., Vol.87, No.3, pp.400-412, 2004
甲第15号証:米国特許第5851800号
甲第16号証:国際公開第90/02175号
甲第17号証:国際公開第88/05825号
甲第18号証:British Medical Journal, Vol.2, pp.1023-1027, 1956
甲第19号証:PNAS, Vol.85, pp.6132-6136, 1988

なお、平成29年3月15日の口頭審理(以下、「口頭審理」という。)において、平成29年2月27日付け口頭審理陳述要領書における、甲第12号証ないし甲第14号証に記載された事項を根拠として、本件特許の請求項1に記載された溶出緩衝剤の組成が、一般的に、第VIII因子のアフィニティークロマトグラフィー方法で使用されるものであるとする主張は、実質的に請求の理由の要旨を変更する補正であると認められるが、当該主張を審判請求時の請求書に記載しなかったことについての合理的な理由が認められないため、特許法第131条の2第2項の規定の要件を満たしておらず、当該補正を許可しない旨の補正許否の決定がなされた(口頭審理調書参照)。

2.被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張する理由及び提出した証拠によっては、本件特許発明1?4を無効にすることはできないと主張する。
そして、被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。
乙第1号証:Biochem. J., Vol.277, pp.23-31, 1991
乙第2号証:米国特許第5516650号
乙第3号証:コンファクト(登録商標)Fの添付文書
乙第4号証:octanate(登録商標)のカタログ
乙第5号証:33^(rd) Hemophilia Symposium Hamburg 2002, Springer Berlin Heidelberg, 2004, pp 117-134 の「IMMUNATE S/D - A new Factor VIII - von-Willebrand Factor Complex Concentrate」のAbstract(URL: https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-3-642-18260-0_17)
乙第6号証:米国特許第5202253号
乙第7号証:米国特許第5478558号
乙第8号証:Journal of Chromatography A, Vol.1489, pp.39-50, 2017
乙第9号証:Invest Ophthalmol Vis Sci., Vol.41, pp.2648-2657, 2000
乙第10号証:The Journal of Biological Chemistry, Vol.266, No.12, pp.7353-7358, 1991
乙第11号証:甲第7号証の部分訳

第4 甲号証の記載事項
甲第1、8、9号証には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。)。

1.甲第1号証
(甲1-1) 「1.第VIII因子又は第VIII因子のアナログの製造および分離のための方法であって、前記第VIII因子または第VIII因子のアナログを産生し、分泌する真核細胞を培養するステップであって、ここにおいて前記真核細胞は第VIII因子または第VIII因子のアナログをコードする遺伝子を含む、導入された発現ベクターを有し、前記細胞は、継続的に第VIII因子または第VIII因子のアナログの分子を発現する組換えVeto、Hela、WI38、BHK、CHO、COS-7およびMDCK細胞から選ばれる細胞であるステップと、第VIII因子または第VIII因子のアナログを分離するステップであって、ここにおいて、硫酸化されたポリサッカライドを含まない培地での細胞の培養と比較して、第VIII因子または第VIII因子のアナログの産生を増大するのに十分な量の、5,000?700,000の間の分子量を有し、硫酸化の程度が硫黄の重量比で0.5?18重量%であるヘパリン、硫酸デキストランおよびヒドロキシエチルスターチ硫酸から選ばれる硫酸化されたポリサッカライドである少なくとも1つの誘導体が添加された、血清を全く含まない培地中での細胞の培養を含む、ステップとを含む、方法。」(カラム16第1行?第22行)
(甲1-2) 「4.第VIII因子又は第VIII因子のアナログの製造および分離のための方法であって、前記第VIII因子または第VIII因子のアナログを産生し、分泌する真核細胞を培養するステップであって、ここにおいて前記真核細胞は第VIII因子または第VIII因子のアナログをコードする遺伝子を含む、導入された発現ベクターを有し、前記細胞は、継続的に第VIII因子または第VIII因子のアナログの分子を発現するCHO細胞であるステップと、前記細胞により産生された第VIII因子または第VIII因子のアナログを分離するステップであって、ここにおいて、硫酸デキストランを含まない培地での細胞の培養と比較して、第VIII因子または第VIII因子のアナログの産生を増大するのに十分な量の、5,000?700,000の間の分子量を有し、硫酸化の程度が硫黄の重量比で10?18重量%である硫酸デキストランである少なくとも1つの誘導体が添加された、血清を全く含まない培地中での細胞の培養を含む、ステップとを含む、方法。」(カラム16第27行?第45行)
(甲1-3) 「本発明は、ヒト第VIII因子及びヒト第VIII因子のアナログの製造方法に関する。」(カラム1第7行?第9行)
(甲1-4) 「第VIII因子のアナログとは、第VIII因子の活性を有し、幾つかのアミノ酸の削除により第VIII因子から得られた分子、又は、ある種の可能性のある変異を受けたにもかかわらず第VIII因子の主要な活性を保持している分子であると理解されるものである。」(カラム2第3行?第8行)
(甲1-5) 「より具体的には、本発明は、培養培地中第VIII因子又は第VIII因子のアナログを産生する細胞を培養し、第VIII因子又は第VIII因子のアナログを分離する第VIII因子又はそのアナログの製造方法であって、前記培養培地中には少なくとも1つのポリカチオン性の及び/又はポリアニオン性のポリマーを含有していることを特徴とする方法を提供するものである。」(カラム2第32行?第38行)
(甲1-6) 「第VIII因子のアナログのうちでも、特に第VIII因子のアミノ酸第771?1666を欠失したものに対応する、第VIII因子デルタ2を挙げることができ、より詳細には特許EP303,540にその製法が記載されている。」(カラム2第39行?第43行)
(甲1-7) 「実施例2
第VIII因子デルタ2の発現についての硫酸化ポリマーの効果の研究
1)硫酸化デキストラン
硫酸化デキストラン(ファルマシア 分子量;500,000)の用量-効果が行われた。以下の表2も、組換えフォン・ヴィレブランド因子2単位を含む同一の培地を用いて得られたデータを示す。これらの条件下、毎日新しい培地を用いて第3日?第6日に亘る生産サイクルにおいて、その1つのインキュベーション期間(第5日?第6日)に、ELISAでの測定により、組換えフォン・ヴィレブランド因子2単位/mlの存在下で蓄積された活性の最大限2/3に等しい量の第VIII因子デルタ2が得られる。
その上、これらの活性は、リン脂質の非存在下であり、かつ、組換えフォン・ヴィレブランド因子も硫酸化デキストランも含有しない培地中で得られる活性のレベルの2?3倍である。」(カラム10第1行?第20行)
(甲1-8) 「

表2の注
解凍後の継代P24およびMEM HT FCS ND 701121中でP21
6-ウェル・プレート(NUNC製)における37℃での成長及び35℃での産生試験
培地は、24時間ごとに交換した。
ヒト インスリン(HUMAN INS) イーライリリー(ELI LILLY)319KK9B6-ウェル・プレート(NUNC製)
DS:硫酸化デキストラン 分子量:500,000 ファルマシア 17%S
ND:硫酸化デキストランの抗凝固活性のために投与(dose)できない
CNTS:CNTS(CENTRE NATIONAL DE TRANSFUSION SANGUINEり定められた単位
FCS;ウシ胎児血清」(表2)
(甲1-9) 「実施例5
第VIII因子に発現についての硫酸化デキストランの効果の研究
該研究は、完全な第VIII因子の分子を発現するクローンCHO TG 1566-3013を使用して行われる。
図1は、6ウェルプレートにおける第VIII因子の発現についての硫酸化デキストラン(ファルマシア 分子量;500,000)の用量-効果の存在を示す。
2日にわたる生産、D4-D5及びD5-D6について、第VIII因子の生産は、硫酸化デキストランのないコントロールと比較して十分に増加している。域値は、硫酸化デキストラン500mg/lに達した。」(カラム14第60行?カラム15第5行)

2.甲第8号証
(甲8-1) 「

」(表1)

3.甲第9号証
(甲9-1) 「rFVIII KOGENATE(親製品)
rFVIII-SF KOGENATE Bayer(修飾製品);SFはスクロース製剤化を表す」(1/13頁「Abbreviations used in this report」の第5行?第6行)
(甲9-2) 「宿主細胞不純物およびプロセス関連不純物を除去するための精製プロセスは、クロマトグラフィステップと、ウイルス不活性化ステップと、限外ろ過/透析ろ過ステップとからなる。」(2/13頁「Fermentation and purification」の第6行?第7行)
(甲9-3) 「免疫親和性基質
rFVIII-SFの精製に使用される免疫親和性基質は、親製品の精製用に採用されるものと同一である。
プロセス検証について、およびネズミ科の抗体および免疫基質の生成の一貫性のために、十分なデータが提供された。使用された方法の分析的検証は十分である。MAbおよび免疫基質の安定性は十分詳細に実証された。」(4/13頁第27行?第32行)

また、甲第2?7、10?19号証は、それぞれ、以下のとおりのものである。
甲第2?5号証は、フォン・ヴィレブランド因子がプロテアーゼによる第VIII因子切断を保護するという点が、当業界において既知の事実であることを示すための証拠として提出されたものである。
甲第6、7号証は、硫酸デキストランがタンパク質と複合体を形成し、プロテアーゼからの切断を保護するという点が、当業界において既知の事実であることを示すための証拠として提出されたものである。
甲第10号証は、タンパク質の分離・精製を行う際に、クロマトグラフィーの適用前に、限外ろ過等を用いて濃縮を行うことができるという点が、通常の技術者にとって自明であることを示すための証拠として提出されたものである。
甲第11?14号証は、第VIII因子の分離・精製のため、固体支持体に結合された第VIII因子特異的抗体が利用できるという点が、通常の技術者にとって自明であることを示すための証拠として提出されたものである。
甲第15?17号証には、第VIII因子のプロテアーゼによる劣化を防ぐために、細胞培養培地にフォン・ヴィレブランド因子やプロテアーゼ阻害剤を添加することが記載されており、添加剤であるフォン・ヴィレブランド因子やプロテアーゼ阻害剤を除去することが当然であることを示すための証拠として提出されたものである。
甲第18、19号証は、硫酸デキストランが抗凝血活性を有することが従来より広く知られていたことを示すための証拠として提出されたものである。

第5 当審の判断
1.甲第1号証に記載された発明
上記記載事項(甲1-1)?(甲1-3)、(甲1-5)、(甲1-7)?(甲1-9)によると、甲第1号証には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「第VIII因子又は第VIII因子のアナログをコードする遺伝子を含む発現ベクターを組み込んだ真核細胞であって、Veto、Hela、WI38、BHK、CHO、COS-7およびMDCK細胞から選ばれる真核細胞を培養し、第VIII因子又は第VIII因子のアナログを生産および分泌させ、前記第VIII因子又は第VIII因子のアナログを分離する方法であって、
前記真核細胞を、硫酸デキストランが添加された培地で培養し、前記硫酸デキストランは、500,000の分子量を有する硫酸デキストランであり、前記培地中の前記硫酸デキストランの量が250mg/Lであるステップ、
を含む方法。」(以下、「甲1発明」という。)

2.本件特許発明1について
(1)本件特許発明1と甲1発明との対比
上記記載事項(甲1-4)からみて、甲1発明の「第VIII因子のアナログ」は、本件特許発明1の「第VIII因子誘導体」に相当する。
また、甲1発明の「Veto、Hela、WI38、BHK、CHO、COS-7およびMDCK細胞」は、いずれも哺乳類細胞であるから、本件特許発明1の「哺乳類宿主細胞」に相当する。
さらに、物質を精製する方法とは、当該物質を分離する方法に他ならないことが明らかであるから、甲1発明の「分離する方法」は、本件特許発明1の「精製する方法」と、「分離する方法」として共通する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、「培養培地中に第VIII因子又は第VIII因子誘導体をコードするcDNAを含有する発現DNAベクターで形質転換された哺乳類宿主細胞から組み換え第VIII因子を生産し、分離する方法であって、
(a)前記哺乳類宿主細胞を、硫酸化多糖類が補充された培養培地で培養し、前記硫酸化多糖類は、約20,000?約5,000,000Daの分子量を有する硫酸デキストランである工程、
を含む方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)本件特許発明1は、硫酸デキストランがプロテアーゼ阻害活性を有すると特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点
(相違点2)培養培地中の硫酸デキストランの量が、本件特許発明1は、25mg/L乃至200mg/Lであると特定されているのに対し、甲1発明は、250mg/Lである点
(相違点3)本件特許発明1は、第VIII因子を固相支持体に結合された第VIII因子特異的親和性分子を使用して精製する方法であって、
(b)限外ろ過を通して第VIII因子を含有する培養培地を濃縮し、
(c)前記第VIII因子を免疫親和性クロマトグラフィーにより前記濃縮された培養培地から精製することを含み、ここで、前記親和性クロマトグラフィーは、(i)抗第VIII因子特異抗体が結合されたアガロース及びセファロースを含む固相支持体で充填されたカラム、及び(ii)前記抗体が結合された固相支持体に結合された第VIII因子分子のための緩衝剤、塩、塩化カルシウム、界面活性剤及びエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤を含む、
ことにより、前記第VIII因子を固相支持体に結合された第VIII因子特異的親和性分子を使用して精製する工程を含むと特定されているのに対し、甲1発明は、第VIII因子又は第VIII因子のアナログを分離するものである点

(2)相違点についての検討
まず、上記相違点1について検討する。
甲第1号証には、硫酸デキストランがプロテアーゼ阻害活性を有することは記載されていないものの、本件特許発明1において用いられている硫酸デキストランが、「プロテアーゼ阻害活性を有する」という記載は、単に該硫酸デキストランが有する性質を表しているに過ぎず、甲1発明において培地に用いられる硫酸デキストランが、該記載の有無により、本件特許発明1における硫酸デキストランと、培地中の成分として相違するとは認められない。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点に当たらない。

次に、上記相違点2について検討する。
甲第1号証の表2(甲1-8)には、硫酸デキストランを 250?2000mg/Lで添加した例が記載されており、甲1発明において、添加する硫酸デキストランの量をこの250?2000mg/Lの範囲や、その近傍、例えば250mg/Lに近い200mg/L程度としてみることは、当業者が容易になし得ることである。

次に、上記相違点3について検討する。
甲第8号証および甲第9号証には、組換えにより生産された第VIII因子を、限外ろ過や、第VIII因子特異的抗体を用いた免疫親和性クロマトグラフィーにより精製することが記載されている。
しかしながら、該免疫親和性クロマトグラフィーにおいて、本件特許発明1に特定される溶出緩衝剤、すなわち、「(ii)前記抗体が結合された固相支持体に結合された第VIII因子分子のための緩衝剤、塩、塩化カルシウム、界面活性剤及びエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤」を用いることは記載されておらず、また、そのことが自明であると推認することができる記載も存在しない。
したがって、甲1発明において、甲第8号証および第9号証の記載を参考にし、第VIII因子又は第VIII因子のアナログを分離する際に、限外ろ過や、第VIII因子特異的抗体を用いた免疫親和性クロマトグラフィーにより精製することは、当業者が容易に想到し得ることであるといえるものの、その際に、「(ii)前記抗体が結合された固相支持体に結合された第VIII因子分子のための緩衝剤、塩、塩化カルシウム、界面活性剤及びエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤」を用いることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、甲第2?7、10?11、15?19号証にも、免疫親和性クロマトグラフィーにおいて、「(ii)前記抗体が結合された固相支持体に結合された第VIII因子分子のための緩衝剤、塩、塩化カルシウム、界面活性剤及びエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤」を用いることは記載も示唆もされていない。
なお、第3 1.で述べたとおり、甲第12?14号証に記載された事項を根拠として、本件特許の請求項1に記載された溶出緩衝剤の組成が、一般的に、第VIII因子のアフィニティークロマトグラフィー方法で使用されるものであるとする主張は、実質的に請求の理由の要旨を変更する補正であると認められ、特許法第131条の2第2項の規定の要件を満たしていないため、当該補正を許可しない旨の補正許否の決定がなされている。

(3)本件特許発明1の効果について
本件特許明細書の実施例1?5の記載から、本件特許発明1は、哺乳類宿主細胞培養中に放出されるプロテアーゼによる切断から第VIII因子又はその誘導体を保護し、生産された第VIII因子又はその誘導体の均質性を増加させることができるという顕著な効果を奏するといえる。

(4)まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.本件特許発明2?4について
本件特許発明2?4は、本件特許発明に更なる限定を加えた発明であるから、上記2.で述べたように、本件特許発明1が、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2?4も、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由には理由がない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-17 
結審通知日 2017-05-19 
審決日 2017-05-30 
出願番号 特願2009-550781(P2009-550781)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 崇之  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
松田 芳子
登録日 2014-05-30 
登録番号 特許第5550350号(P5550350)
発明の名称 第VIII因子とその誘導体の製造及び精製方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 西島 孝喜  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 浅井 賢治  
代理人 箱田 篤  
代理人 服部 博信  
代理人 星野 貴光  
代理人 山崎 一夫  
代理人 市川 さつき  

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