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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1333960
審判番号 不服2016-11068  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-22 
確定日 2017-10-25 
事件の表示 特願2014-124512「高圧高温焼結による熱電性能指数(ZT)の影響」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月20日出願公開,特開2014-220506〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2009年1月9日を国際出願日とする出願である特願2011-545335号(以下「原出願」という。)の一部を,平成26年6月17日に新たな特許出願としたものであって,平成26年6月30日に手続補正書と上申書が提出され,平成27年3月10日付けで拒絶理由が通知され,同年9月17日に意見書及び手続補正書が提出され,平成28年3月14日付けで拒絶査定され,同年7月22日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成28年7月22日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理 由]
1 補正の内容
平成28年7月22日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし3を補正して,補正後の請求項1ないし3とするものであって,補正前後の請求項の記載は,各々次のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
半導体の成分の融点よりも高い温度でかつ高くはない圧力で該成分から半導体を合成する工程,
半導体の合成に続いて,該半導体を3.5GPa?6GPaの高圧及び900℃?2500℃の高温に30秒?24時間の時間にわたってさらして,半導体のZTを増大させる工程,並びに
使用圧力及び使用温度で測定した場合にZTが増大した半導体を回収する工程
を含む,半導体のZTを増大させる方法。
【請求項2】
合成された半導体を粉末にする工程,及び
該粉末を半導体のピルに成形する工程
をさらに含む,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記半導体が,約0.05mm?約4mmの平均粒径を有する半導体の出発粉末を含む,請求項1に記載の方法。」

(補正後)
「【請求項1】
半導体の成分の融点よりも高い温度でかつ大気圧から実質的に変更していない圧力で該成分からドーパントを含む半導体を合成する工程,
半導体の合成に続いて,該半導体を3.5GPa?6GPaの高圧及び900℃?2500℃の高温に30秒?24時間の時間にわたってさらす工程,並びに
使用圧力及び使用温度で測定した場合に,高温及び高圧にさらす前の半導体のZTよりも高いZTを有する半導体を回収する工程を含む,方法。
【請求項2】
合成された半導体を粉末にする工程,及び
該粉末を半導体のピルに成形する工程をさらに含む,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記半導体が,約0.05mm?約4mmの平均粒径を有する半導体の出発粉末を含む,請求項1に記載の方法。」

2 補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項1の「高くはない圧力」を,補正後の請求項1の「大気圧から実質的に変更していない圧力」とすること。

(2)補正事項2
補正前の請求項1の「該成分から半導体を合成する」を,補正後の請求項1の「該成分からドーパントを含む半導体を合成する」とすること。

(3)補正事項3
補正前の請求項1の「半導体の合成に続いて,該半導体を3.5GPa?6GPaの高圧及び900℃?2500℃の高温に30秒?24時間の時間にわたってさらして,半導体のZTを増大させる工程,並びに
使用圧力及び使用温度で測定した場合にZTが増大した半導体を回収する工程
を含む,半導体のZTを増大させる方法」を,補正後の請求項1の「半導体の合成に続いて,該半導体を3.5GPa?6GPaの高圧及び900℃?2500℃の高温に30秒?24時間の時間にわたってさらす工程,並びに
使用圧力及び使用温度で測定した場合に,高温及び高圧にさらす前の半導体のZTよりも高いZTを有する半導体を回収する工程を含む,方法」とすること。

3 補正の目的の適否についての検討
・補正事項1について
ア 補正前の請求項1の「高くはない圧力」との記載に対して,拒絶査定が,「本願の請求項1に記載された『高くはない圧力で』とは,どの程度の圧力であれば『高くはない圧力』といえるのか,比較の基準又は程度が不明確な表現であるため,発明の範囲が不明確となっている。」と示したように,補正前の前記記載は,その意味が文理上不明瞭であるといえる。
そこで,補正事項1によって,前記記載の不明瞭さが正されて,その記載本来の意味内容が明らかとなったか,すなわち,補正事項1が,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる,明りょうでない記載の釈明を目的としたものに該当するかについて検討する。

イ 補正事項1により補正された,補正後の請求項1(以下,単に「補正後の請求項1」という。)には,半導体の成分からドーパントを含む半導体を合成する工程において採用され得る圧力について,「大気圧から実質的に変更していない圧力」と記載されているが,補正後の請求項1には,前記記載における「変更」の程度がどれほどであれば「大気圧から実質的に変更してない」ことに該当するかについて記載されておらず,また,この点は,当該技術分野における技術常識を参酌しても,補正後の請求項1の記載からは不明である。
そうすると,補正後の請求項1の記載は,半導体の成分からドーパントを含む半導体を合成する工程で採用され得る圧力の範囲について,当業者が一義的に理解できる程度に,明確に記載したものであるとは認められない。

ウ 進んで,当業者が,本願明細書の記載を参酌することで,補正後の請求項1の記載から,半導体の成分からドーパントを含む半導体を合成する工程において採用され得る圧力の範囲について,一義的に理解できるか否かについて検討する。
(ア)本願明細書には,補正後の請求項1に記載された,半導体の成分からドーパントを含む半導体を合成する工程と,合成された半導体のZTを改善するためのHPHT処理の条件について,以下の記載がある。
a「【0024】
ある実施態様では,半導体のZTを増大させるための方法は,半導体のZTを増大させるのに十分な時間にわたって高圧及び高温にさらされる半導体を備えた反応セルを作成することを含む。次いで,ZTが増大した半導体が反応セルから回収される。ある実施態様では,半導体51は反応セル内に配置される前にペレットに成形される。
【0025】
半導体のZTを増大させるための実施態様では,圧力は約1GPa?約20GPaであり,温度は,処理圧力での半導体の融点の約1/3の温度からその融点よりも約500℃高い温度までの範囲である。別の実施態様では,圧力は約2GPa?約10GPaである。さらに別の実施態様では,圧力は約4GPa?約8GPaである。さらに別の実施態様では,圧力は約4GPaである。
【0026】
ある実施態様の温度範囲は,半導体材料が処理圧力で焼結する温度に近い温度であることができる。これは約600℃?約1300℃であることができる。さらに別の実施態様では,温度は約700℃?約900℃である。あるいはまた,温度は約900℃から処理圧力での半導体の融点に近い温度までの範囲である。幾つかの実施態様では,好ましい温度範囲は,高圧下での半導体の融点から約±400℃であることができる。
【0027】
半導体のZTを増大させそしてその時間を維持する方法の実施態様について,半導体材料としては,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,テルル化鉛スズ,テルル化タリウムスズ,テルル化タリウムゲルマニウム,及びそれらの合金混合物を挙げることができる。さらに別の実施態様では,半導体は,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,及びそれらの合金混合物であることができる。1つの実施態様では,半導体はテルル化鉛であることができる。本明細書及び特許請求の範囲に記載されるHPHT処理又はHPHT焼結条件にさらした場合にZTが増大する混合物のない純粋な又はドープされた半導体の材料又は化合物(それらの合金混合物を含む)は本発明の範囲に含まれると解される。例えば,ドーパントを添加してもよく,このドーパントとしては,例えばBr,Cl,Ga,In,Na,K,Ag,又は基材の導電率及び熱伝導率を変化させるための他の意図的な不純物を挙げることができる。
【0028】
PbTeに関する本明細書に記載の実施態様では,それを製造できるHPHT条件を行わず,Pb元素とTe元素の処理を続けずに,すでに製造したPbTeのZTを改善することが検討される。改善されるべきPbTeは,HPHT処理を行わない方法又はHPHT処理を行う方法によって製造することができる。本明細書で記載される実施態様において使用するためのPbTeの典型的な合成方法は,Pb元素とTe元素を処理装置において混合又は組み合わせる工程,次いで得られた混合物を高くはない圧力(すなわち,上で記載したHPHT条件と比較して大気圧から実質的に変更していない圧力)下で約900℃?約1000℃に加熱し,混合物が溶融して反応しPbTeを形成するようにする工程を含む。PbTeを形成する他の方法も可能である。形成されたPbTeは次に冷却され,続いてそのZTを改善するために本明細書において記載されるHPHT条件にさらされる。」

b「【実施例】
【0036】
[例1]
ドープしていないテルル化鉛(PbTe)を,従来の方法において,化学量論量のPb元素(99.9999%,Alfa-Aesar)とTe元素(99.9999%,Alfa-Aesar)を混合してシリカチューブ内に真空下で密封することにより合成した。次いで,これを930℃の温度に達するよう18時間かけてゆっくりと加熱し,成分を溶融させて混合し反応させた。温度は930℃で2時間保持し,次いで850℃の温度に達するよう6時間かけてゆっくりと冷却し,次いで空気中で室温まで急激に(数分以内で)冷却した。生成した固形物を粉砕し,ふるい分けして粒径が50?100μmの粉末を得た。この粉末を10ksiの圧力下で冷間圧縮によりピルに成形し,高圧のセルに入れてHPHT焼結させるか,又は比較のため,従来の方法において,真空密封されたシリカチューブ内で400℃の温度で12時間焼結させた。HPHT焼結の条件は,表1に記載のとおり,圧力が40?65kBar,温度が1045℃?1175℃そしてソーク時間が10分であった。得られた固体をワイヤEDMカットしてインゴットにし,75K?300Kの温度範囲に対するゼーベック係数,熱伝導率及び電気抵抗率を測定した。
【0037】
表1には,PbTeのピルに適用したHPHT処理が記載されている。従来の方法において焼結したPbTeのデータも比較のために示している。試料2のZT値が最も高く,従来の方法において焼結した材料のZT値が最も低いレベルであったことがわかる。また,より高いZTは特定のHPHT焼結条件によって得られることがわかる。このデータは,最大のZTが得られる最適の時間,温度及び圧力があることを示すものである。
【0038】
【表1】
<途中省略>
【0039】
[例2]
Brドーバントの濃度が1.0×10^(19)/cm^(3)であるPbTe試料を,従来の方法において,例1で記載したのと同じ方法を用いてPbTe_((1-x))Br_(x)の公称化学量論量に従ってPb,Te及びPbBr_(2)(99.999%,Alfa Aesar)を秤量することにより合成した。チューブを950℃の温度に達するよう18時間かけてゆっくりと加熱し,この温度で3時間保持し,次いで室温まで急激に冷却した。
【0040】
HPHT処理されていない焼結材料に関する電子特性のベースライン測定のための従来の方法において焼結した試料を得るために,表2に記載のとおり,合成したBrドープPbTeインゴットを粉末に粉砕し,プレスしてペレットにしそして400又は520℃まで8時間かけて加熱し,その温度で12時間又は20時間保持した後,急速に冷却した。HPHT焼結は例1及び表2に記載されるとおりに行った。
【0041】
表2には,BrをドーピングしたPbTeであって,従来の方法において焼結したものとHPHT焼結したものの条件と結果を記載している。比較のため,ドーピングしていないHPHT処理したPbTeも与えられる(試料E)。従来の焼結法では非常に小さなZT値が得られ,一方で,HPHT処理ではより高いZT値が得られることがこのデータから明らかである。
【0042】
【表2】
<途中省略>
【0043】
表2に記載した試料についての80?300Kの温度範囲における対応データのプロットを図4に示す。示した温度範囲のほぼ全体にわたってHPHT焼結したBrドーピング試料(D)が優れた性能指数を示すことがわかる。
【0044】
[例3]
それぞれ1.0×10^(19)/cm^(3)の濃度でI,In又はGaをドーピングしたPbTe試料を上記のようにして合成した。PbI_(2),InTe又はGaをドーパント源として使用した。I及びGaをドーピングする場合は,反応体を950℃の温度に達するよう18時間かけてゆっくりと加熱し,この温度で3時間保持し,次いで室温まで急激に冷却した。Inをドーピングする場合は,反応体を930℃に達するよう18時間かけてゆっくりと加熱して2時間保持し,次いで5時間かけてゆっくりと850℃まで冷却した後,室温まで急激に冷却した。これらの試料は,段落[0040]に記載されるように400℃に達するよう8時間かけてゆっくりと加熱し,その温度で12時間保持し,次いで室温まで急激に冷却することにより従来の方法において焼結した。これらの試料は,例1に記載したようにして4.0GPaと1045℃で10分間にわたりHPHT焼結した。
【0045】
I,In又はGaをドーピングしたPbTeに関する結果を図5に示す。HPHT処理を行ったドーピングPbTeは,80?300Kの温度範囲のほぼ全体にわたってより大きなZT値を示すことがわかる。
【0046】
[例4]
1.0×10^(19)/cm^(3)の濃度でBrをドーピングしたPbTeの合金組成物すなわちPb_(0.5)Sn_(0.5)Te_(0.5)Se_(0.5)を,これらの元素を真空密封したシリカチューブ内で混合することによって合成した。反応チューブを15時間かけて徐々に950℃まで加熱し,この温度で3時間保持し,次いで室温まで急激に冷却した。得られた組成物を2つの異なるHPHT条件,すなわちA)3.5GPa及び1050℃,並びにB)4.0GPa及び1000℃で焼結した。ZTのグラフを図6に示す。4.0GPa及び1000℃で焼結した試料Bは,80?300Kの温度範囲全体にわたってより大きなZTを有することがわかる。この結果は,所望の結果を得るには的確なHPHT焼結の圧力及び温度が必要であることを示唆するものである。
【0047】
[例5]
0.5,1.0,2.0及び3.0×10^(19)/cm^(3)のレベルでBrをドーピングしたPbTeを段落[0039]に記載したように従来の方法において合成した。3.5GPa及び1000℃で焼結した試料Cを除くすべての試料について,例1において記載したように4.0GPa及び1045℃でHPHT焼結を行なった。図7にプロットした結果は,1.0×10^(19)/cm^(3)のBrドーピングレベルが80?300Kの温度範囲にわたって最適のZTを与えることを示している。さらに,3.5GPa及び1000℃で焼結すると,80?300Kの温度範囲にわたってより高いZT値が得られることが明らかである。」

(イ)前記(ア)aより,本願発明は,HPHT処理を行わない方法によって半導体(PbTe)を合成し,合成された半導体をHPHT条件にさらすことにより,半導体のZTを改善したものと認められる。
そして,前記(ア)aによれば,本願明細書には,前記のHPHT条件における圧力は実施態様では,約1GPa?約20GPaであり,別の実施態様では,約2GPa?約10GPaであり,さらに別の実施態様では,約4GPa?約8GPaであり,さらに別の実施態様では,約4GPaであること,及び半導体の合成における圧力は,前記のHPHT条件における圧力と比較して「大気圧から実質的に変更していない圧力」であることが,それぞれ記載されているが,本願明細書には,前記のHPHT条件における圧力と比較して,「変更」の程度がどれほどであれば「大気圧から実質的に変更してない」ことに該当するかについて記載されておらず,また,この点は,当該技術分野における技術常識を参酌しても,本願明細書における前記の記載から自明とはいえない。
さらに,前記(ア)bによれば,本願明細書に記載の本願発明の実施例(【0036】ないし【0047】)には,半導体(PbTe)の合成を,「シリカチューブ内に真空下で密封することにより合成(真空密封したシリカチューブ内で混合することによって合成)」して行うことが記載されているだけであり,当該技術分野における技術常識を参酌しても,本願発明の実施例の記載から,前記のHPHT条件における圧力と比較して「大気圧から実質的に変更していない圧力」のとり得る範囲が自明であるとはいえない。
そうすると,本願明細書の記載を参酌しても,当業者が,補正後の請求項1における「大気圧から実質的に変更していない圧力」との記載から,半導体の成分からドーパントを含む半導体を合成する工程において採用され得る圧力の範囲について,一義的に理解できるとは認められない。

エ 前記イ及びウより,補正後の請求項1における「大気圧から実質的に変更していない圧力」との記載では,半導体の成分からドーパントを含む半導体を合成する工程で採用され得る圧力の範囲について,当業者が一義的に理解できる程度に,明確に記載されているとは認められないから,補正後の請求項1には,当該請求項に係る発明の構成が明確に記載されているとは認められない。
以上より,補正事項1は,補正前の記載の不明瞭さを正して,その記載本来の意味内容を明らかとすることを目的としたものとは認められないから,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる,明りょうでない記載の釈明を目的としたものとはいえない。

オ また,補正事項1によって補正される前の「高くはない圧力」,及び,補正後の「大気圧から実質的に変更していない圧力」は,いずれも明りょうでない記載であって,その技術的意義(特定しようとする技術的事項の範囲の外延)を明確に把握することができないから,補正事項1による補正の前後において,特許請求の範囲が減縮したか,あるいは拡張されたかを判断することができない。
したがって,補正事項1が,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとは認められない。
さらに,補正事項1が,特許法第17条の2第5項第1号及び第3号に掲げる,請求項の削除又は誤記の訂正を目的とするものに該当しないことも明らかである。
したがって,本件補正は,他の補正要件については検討するもでもなく,特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4 独立特許要件についての検討
仮に,補正事項1を含む本件補正が特許法第17条の2第5項の規定に違反しない場合には,補正前の請求項1の「該成分から半導体を合成する」を,補正後の請求項1の「該成分からドーパントを含む半導体を合成する」とする,補正事項2による補正が,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当することから,補正後の請求項1に係る発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて,以下,予備的に検討する。

(1)補正後の発明
本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)は,本件補正により補正された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
以下,再掲する。

「【請求項1】
半導体の成分の融点よりも高い温度でかつ大気圧から実質的に変更していない圧力で該成分からドーパントを含む半導体を合成する工程,
半導体の合成に続いて,該半導体を3.5GPa?6GPaの高圧及び900℃?2500℃の高温に30秒?24時間の時間にわたってさらす工程,並びに
使用圧力及び使用温度で測定した場合に,高温及び高圧にさらす前の半導体のZTよりも高いZTを有する半導体を回収する工程を含む,方法。」

(2)引用例とその記載事項,及び,引用発明
拒絶査定の理由で引用した,原出願の国際出願日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用例1及び引用例2には,図面とともに次の事項が記載されている。

ア 引用例1:特開2006-310361号公報
(1a)「【請求項1】
一般式R_(x)(M_(y)Si_(1-y))_((100-x))(但し,Rは,Yを含む希土類元素から選ばれた少なくとも一種,Mは,B,C,Al,P,Zn,As,Se,In,Sn,Sb,Te,Pb及びBiから選ばれた少なくとも1種,xは原子%,yは原子比で,20≦x≦50,0.002≦y≦0.5))で表される化合物からなる熱電材料。
【請求項2】
主相が正方晶又は斜方晶の結晶構造を有している請求項1に記載の熱電材料。
【請求項3】
電気伝導度が0.2MS/m以上である請求項1又は請求項2に記載の熱電材料。
【請求項4】
R,M及びSi金属を合金化し,0.01?10GPaで加圧焼結することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の熱電材料の製造方法。
【請求項5】
R,M及びSi金属を合金化し,平均粒径0.1?10μmに粉砕し,次いで0.01?10GPaで加圧焼結することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の熱電材料の製造方法。」

(1b)「【技術分野】
【0001】
本発明は,主として-50℃?100℃の温度領域,一般には室温付近で使用される,ペルチエ効果を利用した冷却装置,温度調節装置や,ゼーベック効果により温度差を用いて発電を行う発電装置,熱起電力を利用した熱電対や温度センサ等に用いられる熱電材料,及びその製造法に関する。」

(1c)「【0004】
他方,熱電発電は,工場,発電所,自動車等の熱機関の廃熱利用による発電,豊富な太陽エネルギーを利用した発電,或いは体温と外気の温度差を利用した熱電発電腕時計等のウエアラブルデバイス等,エネルギーの有効利用を可能にする。さらに,熱起電力が大きく抵抗が小さい熱電材料は,熱電対等高感度の温度センサとしても利用価値が高い。
熱電素子の性能が高いことは,通常,熱起電力(V),ゼーベック係数(α),ペルチエ係数(π),トムソン係数(τ),ネルンスト係数(Q),エッティングスハウゼン係数(P),電気伝導率(σ),出力因子(PF),性能指数(Z),無次元性能指数(ZT)の何れかが高いか,熱伝導率(κ),ローレンツ数(L)電気抵抗率(ρ)が低いことで表すことができる。これらの熱電素子の性能を各種熱電性能という。なお,ゼーベック係数は熱電能とも言う。
【0005】
特に無次元性能指数(ZT)は,ZT=α^(2)σT/κ(ここで,Tは絶対温度である)で表され,熱電冷却における成績係数,熱電発電における変換効率等熱電変換エネルギー効率を決定する重要な要素である。そのため性能指数(Z=α^(2)σ/κ)の値が大きい熱電材料を用いて熱電素子を作製することにより,冷却及び発電の効率を高めることが可能となる。
即ち,熱電材料としては,ゼーベック係数(α)が大きく,電気伝導率(σ)が大きく,したがって出力因子(PF=α^(2)σ)が大きく,熱伝導率(κ)が低い材料が好ましい。また,ゼーベック係数(α)が大きく,電気伝導率と熱伝導率の比σ/κ(=1/TL)が大きい材料が好ましいと言い換えることもできる。
熱電発電の用途では,性能指数はもとより,出力因子の大きい材料が求められる場合がある。性能指数(Z)は,出力因子(PF=α^(2)σ)を熱伝導率(κ)で除した値であって,κが小さいと同じ出力因子であっても,性能指数が大きくなる。しかし,あまりκが小さいと,温度差のある部分に素子を挿入するので,熱抵抗が増大する。これが原因となって,システム全体が大きくなり,資本コストや運転コストが大きくなる問題点があった。」

(1d)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は,主として-50℃?100℃の温度領域で使用した場合,熱電素子としての高い性能が期待できる,即ち,ゼーベック係数(α)が高く,出力因子(PF)の大きな熱電材料及びその製造方法を提供すること,それと同時に,熱電半導体の脆さに起因する上記諸問題,例えば,機械加工性の乏しさを解決し,高い性能指数(Z)及び高い電気伝導度を有する,熱電発電又は熱電冷却用熱電素子用に特に適した熱電材料及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために,本発明者らは,4f元素とSiを主成分とする材料の組成と熱電特性の関係を検討した結果,熱電特性の優れた3元系材料の組成範囲と結晶構造,さらに成形加工特性等に優れた金属的な性質を示す組成とその範囲を見出して,本発明の課題を達成した。同時に,加圧焼結を行うことによって,さらに,微粉砕を行ってから加圧焼結を行うことによって,高い熱電特性を有する材料とする製造法を見出した。」

(1e)「【発明の効果】
【0014】
本発明によると,主として-50℃?100℃の温度領域で,ゼーベック係数(α)が高く,出力因子(PF)が大きく,高い性能指数(Z)及び高い電気伝導度を有する熱電材料を提供することができる。」

(1f)「【0018】
M成分は,B,C,Al,P,Zn,As,Se,In,Sn,Sb,Te,Pb及びBiから選ばれた少なくとも1種である。
本発明の熱電材料中のM成分の含有量は必ずSiの含有量以下である。全体に対するM成分の含有量の範囲は,20≦x≦50,0.002≦y≦0.5のときの,式y(100-x)の範囲を計算することにより求められ,その値は0.1?40原子%となる。
M成分は,主に性能指数(Z)を向上させるために熱伝導度を下げる目的で含有させるが,Siの含有量を超えて含むと電気伝導度が増すことがあるが,ゼーベック係数が低下する。また,M成分がSiサイトにランダムに置換して含有する場合は,特に熱伝導度の低下が顕著となり,性能指数(Z)を初めとする熱電性能が向上する。M成分は全体の0.1原子%未満であると添加効果がなく,40原子%を超えると,ゼーベック係数が低下して性能指数(Z)が低下する。
【0019】
ハンダとの親和性が非常に高いBi,Te,Pb及びSnの4元素を除く各M成分を含有する本発明の熱電材料は,接合にハンダを用いたモジュールにおいて,100℃を超える熱サイクルの激しい用途で特に好ましく用いることができる。なお,M成分の中に10原子%以下であれば,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zr,Nb,Mo,Ag,Cu,Hf,Ta,W等の金属元素が含有されていてもよい。これらの元素は,電気伝導度を上げる目的で,悪影響を与えない範囲で添加することができる。
本発明の熱電材料全体に対するSiの含有量の範囲は,20≦x≦50,0.002≦y≦0.5のときの式(1-y)(100-x)の範囲を計算することによって求められ,その値は25原子%以上,79.84原子%以下である。Siの含有量が25原子%未満であると,ゼーベック係数(α)が極端に悪化する。Siの含有量が79.84原子%を超えると,電気伝導度及びパワーファクタが低下する。特に好ましいSiの含有量の範囲は30原子%以上,70原子%以下である。
【0020】
M成分とSiとの合計の含有量に関しては,50?80原子%,好ましくは60?70原子%である。M成分とSiとの合計の含有量が50原子%未満であると,耐酸化性に乏しく,80原子%を超えると電気伝導度が極端に低下する。
本発明において,一層高いゼーベック係数と耐酸化性を得るためには,熱電材料の主相の結晶構造は正方晶又は斜方晶であることが好ましい。ここに主相とは,本発明の全熱電材料のうち50体積%以上占有する部分のことを言う。主相の結晶構造を決定するのに際しては,X線回折法を用いる。主相の定量的な量比を知るためには,X線解析法とEPMAを組み合わせればよい。」

(1g)「【0031】
(3)成形
上記のようにして得た粉体材料を型に入れ冷間で圧粉成形して,そのまま使用したり,或いは続いて,冷間で圧延,鍛造,衝撃波圧縮成形等を行って成形したりする方法もあるが,多くの場合,50℃以上の温度で熱処理しながら焼結して成形を行う。熱処理雰囲気は非酸化性雰囲気であることが好ましく,アルゴン,ヘリウム等の希ガスや窒素ガス中等の不活性ガス中で,或いは水素ガスを含む還元ガス中で熱処理を行うのが好ましい。500℃以下の温度条件であれば大気中でも可能である。常圧や加圧下の焼結でも,さらには真空中の焼結であってもよい。
【0032】
本発明においては,この熱処理は圧粉成形と同時に行うことが好ましい。熱処理と圧粉成形を同時に行う方法としては,ホットプレス法やHIP(ホットアイソスタティックプレス)法,さらにはSPS(放電プラズマ焼結)法等のような加圧焼結法を用いることができる。なお,加圧効果を顕著とするためには,加熱焼結工程における加圧力を0.01?10GPaが好ましく,0.1?10GPaがより好ましく,2?10GPaが最も好ましい。加圧力が0.01GPa未満であると,加圧の効果が乏しく常圧焼結と熱電特性にほとんど差異がなくなる
加圧焼結を施した場合,格子定数が変化したり,結晶系が変化したりすることがある。強相関系材料の場合,Ceのような4f元素と隣接する非4f電子の元素の相対位置が若干異なることにより,同じ組成でも電子雲の重なり方が変化してc-f混成の仕方が変わり,熱電特性,特にゼーベック係数が向上する場合がある。
【0033】
例えば,Ce_(33)Al_(6)Si_(61)では,溶製した材料とホットプレスした材料の格子定数が異なり,ゼーベック係数は4GPaでホットプレスした材料の方が高い。この時,両者の格子体積を比較すると,ホットプレスした材料の方が,1%程度小さくなっている。
加圧焼結を施すことにより,例えば,従来から知られているCe-Si_(2)元相図から予想される相とは違った高圧相も観察されているが,熱電性能が高い材料の結晶構造は,斜方晶系又は正方晶系の材料である。一般に,4f元素と隣接する非4f元素の距離が短いほど高い相関が生じ,ゼーベック係数が向上する。したがって,加圧焼結を施すことは,熱電性能を向上させることが多いので好ましい。」

(1h)「【0038】
[実施例1]
純度99.9%のCe,純度99.999%のAl及びSiを原子比で10:1:19となるように銅ハース上に仕込み,Ar雰囲気中でアーク溶解して,Ce(Al_(0.05)Si_(0.95))_(2)の組成を有する材料を溶製した。なお,アーク溶解は,溶解後冷えたボタン状材料を銅ハース上でひっくり返して,3度溶解を繰り返すことにより均質化した。次いで,この材料を1080℃で100時間均質化熱処理を施した。さらに,この材料を乳鉢中で約50μm程度の粒径に粉砕し,0.2GPaの圧力で7mmφ×5mmの円筒形に圧粉成形し,これを超高圧HP法で加圧焼結することにより,Ce_(33)(Al_(0.05)Si_(0.95))_(67)熱電材料を作製した。加圧焼結条件は,1250℃,4GPa,300秒間であった。この結晶構造をX線回折法で解析した結果,主相はThSi_(2)型の正方晶系の材料であること判った。この材料の室温での熱電特性は,以下のとおり。
ゼーベック係数(α)は-93μV/K,電気伝導度(σ)は1.2MS/m,熱伝導度(κ)は13W/m・Kであり,無次元性能指数は0.24であった。」

イ 引用発明1
引用例1の上記記載から,引用例1には,以下に記載する発明(以下「引用発明1」という。)が開示されていると認められる。

・引用発明1
「純度99.9%のCe,純度99.999%のAl及びSiを原子比で10:1:19となるように銅ハース上に仕込み,Ar雰囲気中でアーク溶解して,Ce(Al_(0.05)Si_(0.95))_(2)の組成を有する材料を溶製する工程であって,前記アーク溶解は,溶解後冷えたボタン状材料を銅ハース上でひっくり返して,3度溶解を繰り返すことにより均質化する工程,
次いで,この材料を1080℃で100時間均質化熱処理を施す工程,
さらに,この材料を乳鉢中で約50μm程度の粒径に粉砕し,0.2GPaの圧力で7mmφ×5mmの円筒形に圧粉成形し,これを超高圧HP法で加圧焼結することにより,Ce_(33)(Al_(0.05)Si_(0.95))_(67)熱電材料を作製する工程であって,前記加圧焼結の条件は,1250℃,4GPa,300秒間である工程であって,この結晶構造をX線回折法で解析した結果,主相はThSi_(2)型の正方晶系の材料であり,この材料の室温での熱電特性が,ゼーベック係数(α)は-93μV/K,電気伝導度(σ)は1.2MS/m,熱伝導度(κ)は13W/m・Kであり,無次元性能指数は0.24である,方法。」

ウ 引用例2:国際公開第2008/002910号
(2a)「Claims
What is claimed is:
1. A method of increasing the Seebeck coefficient of a semiconductor, comprising:
exposing a semiconductor to elevated pressure and elevated temperature for a time sufficient to increase the Seebeck coefficient of the semiconductor; and
recovering the semiconductor with an increased Seebeek coefficient.
2. The method of claim 1, wherein the elevated pressure ranges from about 1 GPa to 20 GPa and the elevated temperature ranges from about 500℃ to about 2500℃.
3. The method of claim 2, wherein the pressure ranges, from about 2 GPa to about 10 GPa.
4. The method of claim 2, wherein the pressure ranges from about 4 GPa to about 8 GPa.
5. The method of claim 2, wherein the temperature ranges from about a sintering temperature of the semiconductor to about 500℃ above a melting point of the semiconductor at process pressures.
6. The method of claim 2, wherein the temperature ranges from a sintering temperature of the semiconductor to about a melting point of the semiconductor at process pressures.
7. The method of claim 1, wherein the semiconductor is selected from the group consisting of selenides, antimonictes, tellurides, sulfides, germanium compounds, and mixtures thereof.
8. The method of claim 1, wherein the semiconductor is selected from the group consisting of lead selenide, lead sulfide, lead telluride, tin sulfide, tin telluride, and mixtures thereof.
9. The method of claim 1, wherein the semiconductor comprises lead telluride.
10. The method of claim 1, wherein the time is from about 30 seconds to about 24 hours.
11. The method of claim 1, wherein the semiconductor further comprises dopants.
12. The method of claim 1, wherein the time is about 5 minutes to about 30 minutes.
13. The method of claim 1, wherein the semiconductor comprises a semiconductor starting powder, wherein the semiconductor starting powder has an average particle size of about 0.5 mm to about 4 mm.
14. The method of claim 1, wherein prior to exposing the semiconductor to elevated pressure and elevated temperature, the semiconductor comprises a powder, a poiycrystalline mass, one or more discrete single crystals, or a combination thereof.」(引用例1に対応する日本語公報である特表2009-542034号に基づく日本語訳。以下同じ。:【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体のゼーベック係数を高める方法であって,
前記半導体のゼーベック係数を高めるために十分な時間の間,当該半導体を高圧および高温下に曝す工程と,
ゼーベック係数が高まった前記半導体を回収する工程と
を有する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において,前記高圧の範囲は約1GPa?約20GPaで,前記高温の範囲は約500℃?約2500℃である。
【請求項3】
請求項2記載の方法において,前記圧力の範囲は約2GPa?約10GPaである。
【請求項4】
請求項2記載の方法において,前記圧力の範囲は約4GPa?約8GPaである。
【請求項5】
請求項2記載の方法において,前記温度の範囲は,前記半導体の焼結温度にほぼ等しい温度から処理圧力において当該半導体の融点を約500℃超える温度までの範囲である。
【請求項6】
請求項2記載の方法において,前記温度の範囲は,前記半導体の焼結温度から処理圧力において当該半導体の融点にほぼ等しい温度までの範囲である。
【請求項7】
請求項1記載の方法において,前記半導体は,セレン化物,アンチモン化物,テルル化物,硫化物,ゲルマニウム化合物,およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである。
【請求項8】
請求項1記載の方法において,前記半導体は,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである。
【請求項9】
請求項1記載の方法において,前記半導体はテルル化鉛を含有するものである。
【請求項10】
請求項1記載の方法において,前記時間は約30秒間?約24時間である。
【請求項11】
請求項1記載の方法において,前記半導体はドーパントをさらに有するものである。
【請求項12】
請求項1記載の方法において,前記時間は約5分間?約30分間である。
【請求項13】
請求項1記載の方法において,前記半導体は,平均粒径約0.5mm?約4mmの半導体出発粉末を含むものである。
【請求項14】
請求項1記載の方法において,前記半導体を高圧および高温下に曝す工程の前に,当該半導体は,粉末,多結晶塊,1若しくはそれ以上の不連続単結晶,またはこれらの組み合わせを含むものである。」

(2b)「[0003] Measurements of the Seebeck effect are reported as the Seebeck coefficient (α) in units of μV/K (microvolts per Kelvin). The Seebeck coefficient can be defined as the ratio between the open circuit voltage and the temperature difference between two points on a conductor, when a temperature difference exists between those points. The Seebeck coefficient can take either positive or negative values depending upon whether the charge carriers are holes or electrons. The Seebeck coefficient is often referred to as the thermoelectric power or thermopower.
[0004] Good thermoelectric materials should possess Seebeck coefficients with large absolute values, high electrical conductivity (σ, in units of Ω cm), and low thermal conductivity (λ, in units of W/cm K). A high electrical conductivity results in minimizing Jouie heating in the thermoelectric material while a low thermal conductivity helps to maintain large temperature gradients in the material.
[0005] The efficiency of a thermoelectric material is, therefore, described by the thermoelectric figure-of-merit (Z, in units of K^(-1)), which is calculated by the relationship:Z=α^(2)σ/λ. A useful dimensionless figure-of-merit is defined as ZT, where T is temperature (in K), and ZT=α^(2)σT/λ.
[0006] Metals and metal alloys received much interest in the early development of thermoelectric applications, but these materials have a high thermal conductivity. Furthermore, the Seebeck coefficient of most metals is on the order of 10μV/K, or less. Semiconductors were found with Seebeck coefficients greater than 100 μV/K. Generally, semiconductors also possess high electrical conductivity and low thermal conductivity, which further increases Z, and thus increases the efficiency of the thermoelectric material.
[0007] For instance, bismuth telluride(Bi_(2)Te_(3)) and lead telluridc (PbTe) are two commonly used semiconductor thermoelectric materials with optimized Seebeck coefficients greater than 200 μV/K.
[0008] Optimizing the Seebeck coefficient of a material generally involves synthetic methods by which the stoichtometry of the starting material is slightly altered with a dopant material. Often, this leads to a material with an entirely different composition. In addition, there is no easy way to predict the Seebeck coefficient of a specific material composition.
[0009] Accordingly, there remains a need for materials with Seebeck coefficients with large absolute values. In addition, there remains a need for a method to increase the Seebeck coefficient of a material that does not necessarily involve adding dopants to the material. Embodiments herein address these and other needs.」([0003]ゼーベック効果の測定値は,ゼーベック係数(α)として報告され,その単位はμV/K(マイクロボルト/ケルビン)である。ゼーベック係数は,開回路の電圧と,導体の2点間の温度差(当該温度差が存在する場合)との比として定義できる。ゼーベック係数は,電荷担体が正孔か電子かに応じて正の値も負の値にもなる。ゼーベック係数は,熱起電力または熱電力と呼ばれることが多い。
[0004] 良好な熱電材料は,絶対値が大きいゼーベック係数と,高い導電率(σ(Ω cm単位))と,低い熱伝導率(λ(W/cm K単位))とを有すべきである。導電率が高いほど熱電材料のジュール加熱が最小化される一方,熱伝導率が低いほど当該材料中で大きな温度勾配を保つのに役立つ。
[0005] したがって,熱電材料の効率は,Z=α^(2)σ/λで計算される熱電性能指数(Ζ(K^(-1)単位))により記述される。有用な無次元性能指数はΖTと定義され,ここで,Tは温度(K),またZT=α^(2)σT/λである。
[0006] 熱電応用の開発が始まった初期,金属および金属合金は関心を集めたが,それらの材料の熱伝導率は高い。また,大半の金属のゼーベック係数は,10μV/K以下のオーダーである。その後,ゼーベック係数が100μV/Kを超える半導体が見つかった。また一般に,半導体は導電率が高く熱伝導率が低いためΖが高いことから,熱電材料の性能を向上させる。
[0007] 例えば,テルル化ビスマス(Bi_(2)Te_(3))およびテルル化鉛(PbTe)は,200μV/Kを超える最適化されたゼーベック係数を有するものとして一般に使用される半導体熱電材料の2つである。
[0008] 材料のゼーベック係数最適化には,一般に,出発物質の化学量論的作用をドーパント材料でわずかに修正した合成方法が伴う。多くの場合,これにより完全に組成の異なる材料が生まれる。また,特定の材料組成のゼーベック係数を予測する容易な方法もない。
[0009] そのため,ゼーベック係数の絶対値が大きい材料が依然として必要とされている。さらに,必ずしも材料へのドーパント追加を必要とせずに材料のゼーベック係数を向上させる方法も依然として必要とされている。本明細書の実施形態は,以上に述べた必要性等に応えるものである。)

(2c)「G. SUMMARY
[0010] A method of increasing the Seebeck coefficient of a semiconductor includes exposing a semiconductor to elevated pressure and elevated temperature for a time sufficient to increase the Seebeck coefficient of the semiconductor when measured at the pressure of use, and recovering the semiconductor.
[0011] In embodiments, the elevated pressure may range from about 1 GPa to 20 GPa and the elevated temperature may range from about the sintering temperature to about 500 ℃ above the melting point of the semiconductor at process pressures, for example, about 500 ℃ to about 2500 ℃. In still other embodiments, the pressure may range from about 2 GPa to about 10 GPa. In still other embodiments, the pressure may range from about 4 GPa to about 8 GPa, and preferably about 5 GPa,
[0012] In exemplary embodiments, the temperature may range from about the sintering temperature to about 500℃ above the melting point of the semiconductor at process pressures, In other embodiments, the temperature may range from about 900℃ to about the melting point of the semiconductor at the process pressures. Alternatively, the temperature may range from a sintering temperature to about the melting point of the semiconductor at process pressures.
[0013] A semiconductor is a solid material having an electricai conductivity that is between that of a conductor and an insulator, and through which conduction usually takes place by means of holes and electrons. The properties of a semiconductor typically vary with temperature so that their conductivity rises as temperature decreases. In exemplary embodiments, the semiconductor may be selenides, antimonides. tellurides, sulfides, germanium compounds, and mixtures thereof. Dopants may be added and may include, for example, Br, Cl, I, Ga, In, Na, K, Ag, or other intentional impurities to change the electrical or thermal conductivity of the base material. In still other embodiments, the semiconductor may be lead selenide, lead sulfide, lead telluride, tin sulfide, tin telluride, and mixtures thereof. In an exemplary embodiment, the semiconductor is lead telluride.」(G.発明の概要
[0010] 半導体のゼーベック係数を高める方法には,半導体の使用圧力におけるゼーベック係数を高める上で十分な時間の間,当該半導体を高圧および高温下を曝す工程と,当該半導体を回収する工程とが含まれる。
[0011] 実施形態において,前記高圧の範囲は約1GPa?約20GPaであってよく,前記高温の範囲は,前記半導体の焼結温度にほぼ等しい温度から,処理圧力において当該半導体の融点を約500℃超える温度(例えば約500℃?約2500℃)までの範囲であってよい。さらに別の実施形態での圧力の範囲は約2GPa?約10GPaであってよい。さらに別の実施形態での圧力は,約4GPa?約8GPaの範囲であってよく,好ましくは約5GPaである。
[0012] 例示的な実施形態における温度範囲は,前記半導体の焼結温度にほぼ等しい温度から,処理圧力において当該半導体の融点を約500℃超える温度までであってよい。他の実施形態における温度範囲は,約900℃から,処理圧力において当該半導体の融点にほぼ等しい温度までであってよい。あるいは,温度範囲は,前記半導体の焼結温度にほぼ等しい温度から,処理圧力において当該半導体の融点にほぼ等しい温度までであってよい。
[0013] 半導体は,導電体と絶縁体の間の導電率を有した固体材料であり,その電気伝導は,通常,正孔および電子により起こる。半導体の特性は,一般に温度に応じて異なり,導電率は温度低下に伴い上昇する。例示的な実施形態における半導体は,セレン化物,アンチモン化物,テルル化物,硫化物,ゲルマニウム化合物,およびこれらの混合物のうち1若しくはそれ以上であってよい。ドーパントを加えてもよく,そのその例としてはBr,Cl,I,Ga,In,Na,K,Ag,または基材の導電率または熱伝導率を変化させることを目的とした他の不純物などがある。さらに他の実施形態において,前記半導体は,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,およびこれらの混合物とであってよい。例示的な実施形態において,前記半導体はテルル化鉛である。)

(2d)「[0030] For an embodiment of a method to increase and maintain for a period of time the Seebeck coefficient of a semiconductor, the semiconductor material may include lead selenide, lead sulfide, lead telluride (PbTe), tin sulfide, tin telluride, lead tin telluride, thallium tin telluride, thallium germanium telluride, and/or mixtures thereof. Any neat, pure, or doped semiconductor material or compound, including mixtures thereof, which results in increased Seebeck coefficient when subjected to the HPHT treatments or HPHT sintering conditions described and claimed herein, are within the scope of the instant claims. For example, dopants may be added and may include, for example, Br, Cl, I, Ga, In, Na, K, Ag, or other intentional impurities to change the electrical or thermal conductivity of the base material.
[0031] The embodiments described herein relating to PbTe consider improving the Seebeck coefficient of already-created PbTe after HPHT conditions that may have created it have been removed, and not continued processing of elemental Pb and Te. The PbTe that is to be improved may be made by non-HPHT methods or HPHT methods. Exemplary methods of synthesizing PbTe for use in the embodiments described herein include mixing or combining elemental Pb and elemental Te in a processing device, and heating the mixture to approximately 900℃ to about 1000℃ under non-elevated pressure (i.e., a pressure that does not substantially vary from atmospheric pressure as compared to the HPHT conditions described above), so that the mixture melts and reacts to form PbTe, Other methods of forming PbTe are possible. The formed PbTe may then be cooled and subsequently subjected to the HPHT conditions described herein in order to improve its Seebeck coefficient.」([0030]半導体のゼーベック係数を高めて一定期間維持する方法の一実施形態の場合,当該半導体材料には,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛(PbTe),硫化スズ,テルル化スズ,テルル化鉛スズ,テルル化タリウムスズ,テルル化タリウムゲルマニウム,および/またはこれらの混合物を含めることができる。ニートな(溶媒を用いないそのままの),純粋な,またはドープした半導体材料または半導体化合物は,それらの混合物も含め,いずれも本明細書で説明し特許請求の範囲に記載したHPHT処理またはHPHT焼結条件によりゼーベック係数が高まり,本特許請求の範囲内である。例えばドーパントを加えてもよく,その例としてはBr,Cl,I,Ga,In,Na,K,Ag,または基材の導電率または熱伝導率を変化させることを目的とした他の不純物などがある。
[0031] PbTeに関して本明細書で説明する実施形態では,HPHT条件で作製済みのPbTeについて,前記HPHT条件解除後のゼーベック係数の改善を考慮しており,元素PbおよびTeの継続的な処理は行わない。改善すべきPbTeは,非HPHT方法またはHPHT方法のどちらで作製したものであってもよい。本明細書で説明する実施形態に使用するPbTeを合成する例示的な方法としては,元素Pbおよび元素Teを処理装置で混合し若しくは組み合わせ,その混合物を非高圧(上記のHPHT条件と比べて実質的に大気圧と変わらない圧力)下で,約900℃?約1000℃に加熱し,前記混合物を溶融および反応させPbTeを形成させる工程などがある。PbTeを形成するその他の方法も可能である。次に,形成したPbTeを冷却したのち,そのゼーベック係数を改善するため,本明細書で説明するHPHT条件を適用する。)

(2e)「EXAMPLE 2
[0042] Samples of lead telluride were synthesized from high purity lead and tellurium at atmospheric pressure, and then subjected to HPHT conditions. Pressures ranged from about 5 to about 7.5 GPa. The temperatures were either 1050℃ or 1200℃. A treatment time of 10 minutes was used for all samples, and the starting powder had an average particle size of about 0.05 mm to about 0.1 mm. Results for the Seebeck coefficient measured at 300 K are shown in Table 2. 」(実施例2
[0042]高純度の鉛およびテルルからテルル化鉛の試料を大気圧で合成したのち,これにHPHT条件を適用した。圧力範囲は,約5?約7.5GPaであった。温度は1050℃または1200℃であった。処理時間は,すべての試料について10分間で,出発粉末の平均粒径は約0.05mm?約0.1mmであった。300Kでのゼーベック係数の測定結果を,表2に示す。)

(2f)引用例2の第13ページの表2(Table2.)は,圧力増加がゼーベック係数の上昇に及ぼす効果を示す表であって,同表には,以下の事項が記載されている。
・「合成時の状態(Synthesized)」の試料は,圧力,温度,時間は,いずれも「該当せず(N/A)」であって,300Kでのゼーベック係数が,-140μV/Kであること。
・「G」の試料は,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間の処理を行ったものであって,300Kでのゼーベック係数が,-272μV/Kであること。
そうすると,同表の上記記載と,同表についての説明が記載されている上記摘記(2e)の記載とから,同表から,高純度の鉛およびテルルからテルル化鉛の試料を大気圧で合成したのち,平均粒径が約0.05mm?約0.1mmの出発粉末に,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間のHPHT条件による処理を行うことで,300Kでのゼーベック係数が,-272μV/Kとなり,「合成時の状態(Synthesized)」の300Kでのゼーベック係数である-140μV/Kと比べて高まることを読み取ることができる。

エ 引用発明2
引用例2の上記摘記(2a)-(2f)の記載から,引用例2には,以下に記載する,【実施例2】に記載された,試料Gを作製する方法に係る発明(以下「引用発明2」という。)が開示されていると認められる。

・引用発明2
・「高純度の鉛およびテルルから,大気圧で合成した,出発粉末の平均粒径が,約0.05mm?約0.1mmのテルル化鉛の試料を準備する工程と,
前記試料に,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間のHPHT処理をする工程であって,前記HPHT処理によって,300Kでのゼーベック係数を,HPHT処理前の-140μV/Kから,HPHT処理後の-272μV/Kへと,絶対値において増大させる工程と,
を含む,テルル化鉛のゼーベック係数を増大させる方法。」

(3)新規性進歩性についての検討(引用例1を主引例とした場合)
ア 本願補正発明1と引用発明1との対比
(ア)引用例1の上記(1f)の「M成分は,・・・Al・・・である。・・・M成分は,主に性能指数(Z)を向上させるために熱伝導度を下げる目的で含有させる・・・M成分がSiサイトにランダムに置換して含有する場合は,特に熱伝導度の低下が顕著となり,性能指数(Z)を初めとする熱電性能が向上する。」との記載から,引用発明1の「Ce(Al_(0.05)Si_(0.95))_(2)の組成を有する材料」に含まれる「Al」は,「主に性能指数(Z)を向上させるために熱伝導度を下げる目的で含有させる」成分であると理解される。
一方,本願の発明の詳細な説明の「【0011】・・・このドーパントとしては,例えばBr,Cl,Ga,In,Na,K,Ag,又は基材の導電率及び熱伝導率を変化させるための他の意図的な不純物を挙げることができる。」との記載から,本願補正発明1における,「ドーパント」は,「『基材の導電率及び熱伝導率を変化させるための』『意図的な不純物』」であると理解される。
そうすると,引用発明1において「熱伝導度を下げる目的」で意図的に含有させられた不純物といえる「Al」は,本願補正発明1の「ドーパント」に相当する。
さらに,引用発明1の「純度99.9%のCe,純度99.999%のAl及びSiを原子比で10:1:19となるように銅ハース上に仕込み,Ar雰囲気中でアーク溶解して,Ce(Al_(0.05)Si_(0.95))_(2)の組成を有する材料を溶製する工程であって,前記アーク溶解は,溶解後冷えたボタン状材料を銅ハース上でひっくり返して,3度溶解を繰り返すことにより均質化する工程」において,「Ce(Al_(0.05)Si_(0.95))_(2)の組成を有する材料」の成分である「Ce」,「Al」,及び,「Si」は,「Ar雰囲気中でアーク溶解」するものであって,前記「溶解」とは,「とけること。とかすこと。」,「物質が液体中にとけて均一な液体となる現象。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)という程度の意味を有する用語であるから,前記「Ar雰囲気中でアーク溶解」する際の温度は,「Ce」,「Al」,及び,「Si」が均一な液体となる温度,すなわち,これらの成分の融点よりも高い温度といえる。
そして,半導体とは,電気を良く通す導体(良導体)と,電気を通さない絶縁体の中間の性質を備えた材料の総称であって,代表的なものとしてSiが広く知られている。
そうすると,引用発明1の「Ce(Al_(0.05)Si_(0.95))_(2)の組成を有する材料」は,熱電材料としての特性を備えたSiを主成分とする材料であるから,半導体の範疇に含まれる材料といえる。
してみれば,引用発明1の「純度99.9%のCe,純度99.999%のAl及びSiを原子比で10:1:19となるように銅ハース上に仕込み,Ar雰囲気中でアーク溶解して,Ce(Al_(0.05)Si_(0.95))_(2)の組成を有する材料を溶製する工程であって,前記アーク溶解は,溶解後冷えたボタン状材料を銅ハース上でひっくり返して,3度溶解を繰り返すことにより均質化する工程」と,本願補正発明1の「半導体の成分の融点よりも高い温度でかつ大気圧から実質的に変更していない圧力で該成分からドーパントを含む半導体を合成する工程」とは,「半導体の成分の融点よりも高い温度で該成分からドーパントを含む半導体を合成する工程」である点で一致するといえる。

(イ)引用発明1の1250℃の温度,4GPaの圧力,300秒間の時間は,それぞれ,本願補正発明1の「900℃?2500℃の高温」の範囲,「3.5GPa?6GPaの高圧」の範囲,及び,「30秒?24時間の時間」の範囲に含まれる値である。したがって,引用発明1の1250℃,4GPa,300秒間である加圧焼結は,本願補正発明1の半導体の合成に続く,該半導体を3.5GPa?6GPaの高圧及び900℃?2500℃の高温に30秒?24時間の時間にわたってさらす工程に相当する。

(ウ)部材に処理を施した後に,当該部材を回収することは自明な工程であるから,引用発明1もまた,「超高圧HP法で加圧焼結する」工程の後に,「室温での熱電特性が,ゼーベック係数(α)は-93μV/K,電気伝導度(σ)は1.2MS/m,熱伝導度(κ)は13W/m・Kであり,無次元性能指数は0.24である」熱電材料を回収する工程を備えていることは明らかである。
さらに,引用例1の上記摘記(1e)における【発明の効果】の項目の「本発明によると,主として-50℃?100℃の温度領域で,ゼーベック係数(α)が高く,出力因子(PF)が大きく,高い性能指数(Z)及び高い電気伝導度を有する熱電材料を提供することができる。」との記載から,引用発明1において回収される前記熱電材料の,室温における無次元性能指数(ZT)である,0.24は,高い値であると解される。
そうすると,本願補正発明1と,引用発明1は,「高いZTを有する半導体を回収する工程を含む」点で一致するといえる。

したがって,上記の対応関係から,本願補正発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。
<一致点>
「半導体の成分の融点よりも高い温度で該成分からドーパントを含む半導体を合成する工程,
半導体の合成に続いて,該半導体を3.5GPa?6GPaの高圧及び900℃?2500℃の高温に30秒?24時間の時間にわたってさらす工程,並びに
高いZTを有する半導体を回収する工程を含む,方法。」

<相違点>
・相違点1:本願補正発明1では,「大気圧から実質的に変更していない圧力」で,半導体の成分の融点よりも高い温度で該成分からドーパントを含む半導体を合成するのに対して,引用発明1では,Ar雰囲気中でアーク溶解する際の圧力が明らかでない点。

・相違点2:本願補正発明1は,「使用圧力及び使用温度で測定した場合に,高温及び高圧にさらす前の半導体のZTよりも高いZTを有する半導体を回収する工程」を含むのに対して,引用発明1では,これらの測定条件が明示されていない点。

イ 本願補正発明1と引用発明1との相違点についての判断
・相違点1について
上記「補正事項1について」のとおり,本願補正発明1の「大気圧から実質的に変更していない圧力」は,不明瞭な記載であるが,仮に,「大気圧から実質的に変更していない圧力」を,「それを製造できるHPHT条件」との比較において技術的意義を有する特定,すなわち,「後に続く高温及び高圧にさらす工程での高い圧力に比べれば,実質的に大気圧であると認められる圧力」であると解した場合には,アーク溶解は,「3.5GPa?6GPaの高圧」,すなわち,「それを製造できるHPHT条件」よりも遙かに低い圧力で行われることが通常といえるから,上記相違点1は実質的なものとはいえない。
また,仮に,前記「大気圧から実質的に変更していない圧力」が,「限りなく大気圧に近い圧力のみを特定するもの」であると解したとしても,大気圧近傍の圧力でのアーク溶解は周知であるから,引用発明1において,アーク溶解を「限りなく大気圧に近い圧力」で行うことは当業者が適宜なし得たことであり,その効果も当業者が予測する範囲内のものと認められる。
したがって,相違点1は,実質的なものではないか,仮に,相違点であったとしても,引用発明1において,相違点1について,本願補正発明1の構成を採用するとは当業者が容易になし得たことである。

・相違点2について
引用例1における,【技術分野】の項目の「本発明は,主として-50℃?100℃の温度領域,一般には室温付近で使用される,・・・熱電材料,及びその製造法に関する。」(【0001】)との記載,【背景技術】の項目の「特に無次元性能指数(ZT)は,ZT=α^(2)σT/κ(ここで,Tは絶対温度である)で表され,熱電冷却における成績係数,熱電発電における変換効率等熱電変換エネルギー効率を決定する重要な要素である。そのため性能指数(Z=α^(2)σ/κ)の値が大きい熱電材料を用いて熱電素子を作製することにより,冷却及び発電の効率を高めることが可能となる。」(【0005】)との記載,【発明が解決しようとする課題】の項目の「本発明の課題は,主として-50℃?100℃の温度領域で使用した場合,熱電素子としての高い性能が期待できる,・・・高い性能指数(Z)及び高い電気伝導度を有する,熱電発電又は熱電冷却用熱電素子用に特に適した熱電材料及びその製造方法を提供することである。」(【0011】)との記載,及び【発明の効果】の項目の「本発明によると,主として-50℃?100℃の温度領域で,ゼーベック係数(α)が高く,出力因子(PF)が大きく,高い性能指数(Z)及び高い電気伝導度を有する熱電材料を提供することができる。」(【0014】)との記載から,引用発明1は,-50℃?100℃の温度領域,一般には室温付近で使用される熱電材料の性能指数(Z),すなわち,無次元性能指数(ZT)を向上させることを解決すべき課題とした発明であると理解される。
そして,引用例1における,【課題を解決するための手段】の項目の「上記の課題を解決するために,本発明者らは・・・同時に,加圧焼結を行うことによって,さらに,微粉砕を行ってから加圧焼結を行うことによって,高い熱電特性を有する材料とする製造法を見出した。」(【0012】)との記載,及び,【発明を実施するための最良の形態】の項目における「加圧焼結を施すことは,熱電性能を向上させることが多いので好ましい。」(【0033】)との記載から,引用発明1の加圧焼結は,熱電性能の向上を目的とした処理であると理解される。
そうすると,引用発明1の解決すべき課題に照らせば熱電性能の向上を目的とした処理であると理解される引用発明1の加圧焼結工程によって,熱電材料は,前記加圧焼結の条件である,1250℃,4GPa,300秒間にさらす前よりも,前記加圧焼結を経た後において,性能指数(Z),すなわち,無次元性能指数(ZT)が高くなると理解することが自然といえる。
そして,性能指数(Z),すなわち,無次元性能指数(ZT)の値の高低が最も意味を持つのが,使用圧力及び使用温度で測定した場合の値であることは当業者において明らかであるから,引用発明1の「この材料の室温での熱電特性が」との特定が,「使用圧力及び使用温度で測定した場合」を意図したものであることは,当業者に明らかといえる。
したがって,引用発明1の,Ce_(33)(Al_(0.05)Si_(0.95))_(67)熱電材料を,1250℃の温度及び4GPaの圧力に300秒間の時間さらす加圧焼結工程は,使用圧力及び使用温度で測定した場合に,前記温度及び圧力にさらす前のZTよりも高いZTを有する材料を回収することができる工程であると理解できるから,相違点2は実質的なものとはいえない。
また,仮に,引用例1の記載からは,使用圧力及び使用温度で測定した場合の,加圧焼結工程前のZTが,前記加圧焼結工程の後のZTよりも小さいことが理解できないとしても,引用例1の【背景技術】の項目に,「特に無次元性能指数(ZT)は,ZT=α^(2)σT/κ(ここで,Tは絶対温度である)で表され,熱電冷却における成績係数,熱電発電における変換効率等熱電変換エネルギー効率を決定する重要な要素である。そのため性能指数(Z=α^(2)σ/κ)の値が大きい熱電材料を用いて熱電素子を作製することにより,冷却及び発電の効率を高めることが可能となる。」と記載されており,ZTを高めるという動機が存在するから,引用発明1の加圧焼結によって,使用圧力及び使用温度で測定した場合のZTを高めるようにすることは当業者が容易に想到し得たことであり,その効果も当業者が予測する範囲内のものである。
したがって,相違点2は,実質的なものではないか,仮に,相違点であったとしても,引用発明1において,相違点2について,本願補正発明1の構成を採用するとは当業者が容易になし得たことである。

ウ 引用発明1を引用発明とした場合の新規性進歩性の検討のむすび
本願補正発明1は,引用例1に記載された発明であるから,本願補正発明1は,特許法第29条第1項第3号に該当し特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
仮に,本願補正発明1が,引用例1に記載された発明であるとまでは認めることができないとしても,本願補正発明1は,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)新規性進歩性についての検討(引用例2を主引例とした場合)
ア 本願補正発明1と引用発明2との対比
(ア)引用発明2の「大気圧」,「高純度の鉛およびテルル」は,本願補正発明1の「大気圧から実質的に変更していない圧力」,「半導体の成分」に相当する。

(イ)引用発明2の1050℃の温度,5.0GPaの圧力,10分間の時間は,それぞれ,本願補正発明1の「900℃?2500℃の高温」の範囲,「3.5GPa?6GPaの高圧」の範囲,及び,「30秒?24時間の時間」の範囲に含まれる値である。したがって,引用発明2の「5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間のHPHT処理をする工程」は,本願補正発明1の半導体の合成に続く,「該半導体を3.5GPa?6GPaの高圧及び900℃?2500℃の高温に30秒?24時間の時間にわたってさらす工程」に相当する。

(ウ)引用例2の上記摘記(2b)の記載から,引用発明2の「ゼーベック係数」は,「良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値」であると理解されるから,引用発明2の「ゼーベック係数」と,本願補正発明1の「ZT」は,「良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値」である点で一致する。
そして,素子の特性として,使用圧力及び使用温度で測定した場合の特性値が良好であることが望ましいことは当然の要請であるから,引用発明2の「ゼーベック係数」,及び,本願補正発明1の「ZT」は,いずれも,「使用圧力及び使用温度で測定した場合」の測定を特定していることは,技術常識に照らして自然な理解といえる。
さらに,引用発明2は,引用例2の特許請求の範囲に記載された発明の実施例であることから,引用例2の上記摘記(2a)の「【請求項1】半導体のゼーベック係数を高める方法であって,前記半導体のゼーベック係数を高めるために十分な時間の間,当該半導体を高圧および高温下に曝す工程と,ゼーベック係数が高まった前記半導体を回収する工程とを有する方法。」との記載に照らして,引用発明2の「前記試料に,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間のHPHT処理をする工程」が,「半導体を回収する工程」を備えることは明らかといえる。
そうすると,引用発明2と本願補正発明1は,「使用圧力及び使用温度で測定した場合」に,高温及び高圧にさらす前の半導体の「良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値」よりも高い値を有する「半導体を回収する工程」を含む点で共通するといえる。

したがって,上記の対応関係から,本願補正発明1と引用発明2との一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「大気圧から実質的に変更していない圧力で半導体の成分から半導体を合成する工程,
半導体の合成に続いて,該半導体を3.5GPa?6GPaの高圧及び900℃?2500℃の高温に30秒?24時間の時間にわたってさらす工程,並びに
使用圧力及び使用温度で測定した場合に,高温及び高圧にさらす前の半導体の「良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値」よりも高い値を有する半導体を回収する工程を含む,方法。」

<相違点>
・相違点3:本願補正発明1では,「半導体の成分の融点よりも高い温度」で半導体が合成されるのに対して,引用発明2では,合成の際の温度が明示されていない点。

・相違点4:本願補正発明1では,半導体が,「ドーパントを含む」ものであるのに対して,引用発明2では,そのような特定がされていない点。

・相違点5:『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』が,本願補正発明1では,「ZT」であるのに対し,引用発明2では,「ゼーベック係数」である点。

(エ)本願補正発明1と引用発明2との相違点についての判断
・相違点3について
高純度の鉛およびテルルから,テルル化鉛を合成する際に,鉛およびテルルの融点よりも高い温度で両者を溶解し,テルル化鉛を合成することは通常行われていることであるから,相違点3は実質的なものではない。
また,仮に,引用例2の記載から,テルル化鉛の合成が,鉛およびテルルの融点よりも高い温度で両者を溶解して行うものとは理解することができないとしても,材料の合成にあたり,当該材料を構成する成分の融点よりも高い温度で両者を溶解して合成する方法は周知であるから,引用発明2において,相違点3について,本願補正発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

・相違点4について
引用発明2は,引用例2の特許請求の範囲に記載された発明の実施例であるから,引用例2の上記摘記(2a)の「【請求項11】請求項1記載の方法において,前記半導体はドーパントをさらに有するものである。」との記載に照らして,引用発明2の半導体を,「ドーパントを含む」ものとすることは当業者が容易になし得たことである。
そして,引用例2の上記摘記(2c)に「ドーパントを加えてもよく,そのその例としてはBr,Cl,I,Ga,In,Na,K,Ag,または基材の導電率または熱伝導率を変化させることを目的とした他の不純物などがある。」と,また,上記摘記(2d)に「ドープした半導体材料または半導体化合物は,それらの混合物も含め,いずれも本明細書で説明し特許請求の範囲に記載したHPHT処理またはHPHT焼結条件によりゼーベック係数が高まり,本特許請求の範囲内である。」と記載されていることから,引用発明2において,相違点4について,本願補正発明1の構成を採用したことによる効果は,当業者が予測する範囲内のものと認められる。
したがって,引用発明2において,相違点4について,本願補正発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

・相違点5について
引用例2の上記摘記(2b)には,以下の記載がある。
「[0004] 良好な熱電材料は,絶対値が大きいゼーベック係数と,高い導電率(σ(Ω cm単位))と,低い熱伝導率(λ(W/cm K単位))とを有すべきである。導電率が高いほど熱電材料のジュール加熱が最小化される一方,熱伝導率が低いほど当該材料中で大きな温度勾配を保つのに役立つ。[0005] したがって,熱電材料の効率は,Z=α^(2)σ/λで計算される熱電性能指数(Ζ(K^(-1)単位))により記述される。有用な無次元性能指数はΖTと定義され,ここで,Tは温度(K),またZT=α^(2)σT/λである。・・・また一般に,半導体は導電率が高く熱伝導率が低いためΖが高いことから,熱電材料の性能を向上させる・・・本明細書の実施形態は,以上に述べた必要性等に応えるものである。」
そうすると,引用発明2は,半導体のゼーベック係数を増大させる方法に関する発明であるが,引用例2の前記記載を参酌すれば,引用発明2において,ゼーベック係数を増大させる目的は,良好な熱電材料を得るためであると理解することができる。
そして,良好な熱電材料とは,絶対値が大きいゼーベック係数と,高い導電率(σ(Ω cm単位))と,低い熱伝導率(λ(W/cm K単位))とを有すべきであり,かつ,ZT(=α^(2)σT/λ)が有用な無次元性能指数として知られていることは,引用例1の上記【背景技術】の項目の記載からも明らかなように当業者において周知の事項である。
そうすると,当業者であれば,引用例2の上記記載,及び,技術常識を参酌すれば,引用発明2において,ゼーベック係数を増大させるのは,前記ゼーベック係数を増大させることによって,ZTが増大された,良好な熱電材料を得ることを目的としているものと理解できるといえる。
してみれば,引用発明2に記載された,テルル化鉛(PbTe)の300Kでのゼーベック係数を,HPHT処理前の-140μV/Kから,HPHT処理後の-272μV/Kへと,絶対値において増大させる,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間のHPHT処理を含む方法は,当該テルル化鉛(PbTe)のZTを増大させる方法であるとも認められるから,上記相違点5は実質的なものではない。
また,仮に,引用発明2において,テルル化鉛(PbTe)のZTが増大していることが明らかでなく,前記相違点5が実質的なものであったとしても,引用発明2は,そもそも,良好な熱電材料を得ることを目的としていることが,引用例2の前記記載から明らかであるから,当業者であれば,ゼーベック係数の絶対値が,-140μV/Kから,-272μV/Kへと,1.94倍に大きく増大した引用発明2において,α^(2)σT/λによって定義されるZTの値を,前記HPHT処理後に増大せしめることは,当業者が容易になし得たことである。
したがって,相違点5は,実質的なものではないか,仮に,相違点であったとしても,引用発明2において,相違点5について,本願補正発明1の構成を採用するとは当業者が容易になし得たことである。

(オ)引用発明2主引例とした場合の新規性進歩性の検討のむすび
本願補正発明1は,引用例2に記載された発明であるから,本願補正発明1は,特許法第29条第1項第3号に該当し特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
仮に,本願補正発明1が,引用例2に記載された発明であるとまでは認めることができないとしても,本願補正発明1は,引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(カ)審判請求人は,審判請求書の請求の理由において,次のように主張する。
「審査官殿はまた,本願発明と引用文献4について,『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』が,本願補正発明1では「ZT」であるのに対し,引用文献4では「ゼーベック係数の絶対値」である点という相違点があるとされました。しかしその相違点は「実質的なものではない」,「当業者が容易になし得たことである」と認定されました。
しかし,さきの意見書でも説明しましたように,ZTはゼーベック係数(S)と関連するものの,例えば,ゼーベック係数や熱伝導率に影響を及ぼす方法が必然的にZTにも影響を及ぼすというような相関関係はありません。
したがいまして,HPHT処理による半導体材料の性能を評価するものとして,ZTを採用することは,引用文献4に開示されたものと実質的に異なるものであります。」

(キ)そこで,審判請求人の前記主張について検討すると,引用例2の上記摘記(1b)には,以下の記載がある。
「[0004] 良好な熱電材料は,絶対値が大きいゼーベック係数と,高い導電率(σ(Ω cm単位))と,低い熱伝導率(λ(W/cm K単位))とを有すべきである。導電率が高いほど熱電材料のジュール加熱が最小化される一方,熱伝導率が低いほど当該材料中で大きな温度勾配を保つのに役立つ。[0005] したがって,熱電材料の効率は,Z=α^(2)σ/λで計算される熱電性能指数(Ζ(K^(-1)単位))により記述される。有用な無次元性能指数はΖTと定義され,ここで,Tは温度(K),またZT=α^(2)σT/λである。」
そうすると,上記記載に照らして,ZTの値は,ゼーベック係数の二乗(α^(2))と,導電率/熱伝導率(σ/λ)との積に比例することが理解できる。
してみれば,ゼーベック係数の値が変化した場合には,ZTの値もまた変化するといえるから,ゼーベック係数に影響を及ぼす方法は,必然的にZTにも影響を及ぼすといえる。
したがって,「ゼーベック係数や熱伝導率に影響を及ぼす方法が必然的にZTにも影響を及ぼすというような相関関係はありません。」とする審判請求人の前記主張は採用することはできない。
さらに,引用発明2においては,HPHT処理の前後において,HPHT処理前の-140μV/Kから,HPHT処理後の-272μV/Kへと,ゼーベック係数(α)は,1.94倍と増大しているのであるから,引用発明2において,HPHT処理の前後において,ZTの値が増大しなかったというためには,導電率/熱伝導率(σ/λ)の値の変化が,HPHT処理の前後において,前記ゼーベック係数の増大分の二乗の逆数倍と等しいか,それを越える必要があることが明らかである。
しかしながら,材料に処理を加えた場合の,導電率と,熱伝導率の変化の方向が,通常は同じ方向になること(導電率を増大させる処理をすると,当該処理によって,熱伝導率が増大する傾向があること。)は,当業者において周知の事項であるから,HPHT処理の前後における導電率/熱伝導率(σ/λ)の値の変化が,ゼーベック係数(α)の,前記1.94倍という変化による影響を打ち消すほどの大きさになるとは認められない。
したがって,審判請求人の前記主張は採用することができない。

(5)むすび
相違点1ないし5については,以上のとおりであるから,本願補正発明1は,引用例1,又は,引用例2に記載された発明である。
また,仮に,本願補正発明1が,引用例1及び引用例2に記載された発明でないとしても,本願補正発明1は,引用例1に記載された発明又は引用例2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本願補正発明1は,特許法第29条第1項第3号に該当し,あるいは,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 補正の却下の決定のむすび
したがって,前記3のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第5項に掲げる要件を満たすとは認められず,また,仮にそうでないとしても,前記4のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであり,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年7月22日に提出された手続補正書による補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-3に係る発明は,平成27年9月17日に提出された手続補正書によって補正された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-3に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,そのうち請求項1に係る発明に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】
半導体の成分の融点よりも高い温度でかつ高くはない圧力で該成分から半導体を合成する工程,
半導体の合成に続いて,該半導体を3.5GPa?6GPaの高圧及び900℃?2500℃の高温に30秒?24時間の時間にわたってさらして,半導体のZTを増大させる工程,並びに
使用圧力及び使用温度で測定した場合にZTが増大した半導体を回収する工程
を含む,半導体のZTを増大させる方法。」

2 新規性進歩性について
(1)引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用例3として引用された文献は,前記第2の4(2)アの引用例1と同じ文献であるから,当該文献に記載されている事項は,上記「第2 4(2)引用例とその記載事項,及び,引用発明」の項で指摘したとおりである。

(2)当審の判断
ア 本願発明1と引用発明1との対比
(ア)引用発明1の「純度99.9%のCe,純度99.999%のAl及びSiを原子比で10:1:19となるように銅ハース上に仕込み,Ar雰囲気中でアーク溶解して,Ce(Al_(0.05)Si_(0.95))_(2)の組成を有する材料を溶製する工程であって,前記アーク溶解は,溶解後冷えたボタン状材料を銅ハース上でひっくり返して,3度溶解を繰り返すことにより均質化する工程」において,「Ce(Al_(0.05)Si_(0.95))_(2)の組成を有する材料」の成分である「Ce」,「Al」,及び,「Si」は,「Ar雰囲気中でアーク溶解」するものであって,前記「溶解」とは,「とけること。とかすこと。」,「物質が液体中にとけて均一な液体となる現象。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)という程度の意味を有する用語であるから,前記「Ar雰囲気中でアーク溶解」する際の温度は,「Ce」,「Al」,及び,「Si」が均一な液体となる温度,すなわち,これらの成分の融点よりも高い温度といえる。
そして,半導体とは,電気を良く通す導体(良導体)と,電気を通さない絶縁体の中間の性質を備えた材料の総称であって,代表的なものとしてSiが広く知られている。
そうすると,引用発明1の「Ce(Al_(0.05)Si_(0.95))_(2)の組成を有する材料」は,熱電材料としての特性を備えたSiを主成分とする材料であるから,半導体の範疇に含まれる材料といえる。
してみれば,引用発明1の「純度99.9%のCe,純度99.999%のAl及びSiを原子比で10:1:19となるように銅ハース上に仕込み,Ar雰囲気中でアーク溶解して,Ce(Al_(0.05)Si_(0.95))_(2)の組成を有する材料を溶製する工程であって,前記アーク溶解は,溶解後冷えたボタン状材料を銅ハース上でひっくり返して,3度溶解を繰り返すことにより均質化する工程」と,本願発明1の「半導体の成分の融点よりも高い温度でかつ高くはない圧力で該成分から半導体を合成する工程」とは,「半導体の成分の融点よりも高い温度で該成分から半導体を合成する工程」である点で一致するといえる。

(イ)引用発明1の1250℃の温度,4GPaの圧力,300秒間の時間は,それぞれ,本願発明1の「900℃?2500℃の高温」の範囲,「3.5GPa?6GPaの高圧」の範囲,及び,「30秒?24時間の時間」の範囲に含まれる値である。したがって,引用発明1の1250℃,4GPa,300秒間である加圧焼結は,本願発明1の半導体の合成に続く,該半導体を3.5GPa?6GPaの高圧及び900℃?2500℃の高温に30秒?24時間の時間にわたってさらす工程に相当する。
さらに,引用例1の上記摘記(1e)における【発明の効果】の項目の「本発明によると,主として-50℃?100℃の温度領域で,ゼーベック係数(α)が高く,出力因子(PF)が大きく,高い性能指数(Z)及び高い電気伝導度を有する熱電材料を提供することができる。」との記載から,引用発明1において回収される前記熱電材料の,室温における無次元性能指数(ZT)である,0.24は,前記工程の前に比べて増大した値であると解される。
したがって,本願発明1と,引用発明1は,「半導体の合成に続いて,該半導体を3.5GPa?6GPaの高圧及び900℃?2500℃の高温に30秒?24時間の時間にわたってさらして,半導体のZTを増大させる工程」を含む点で一致するといえる。

(ウ)部材に処理を施した後に,当該部材を回収することは自明な工程であるから,引用発明1もまた,「超高圧HP法で加圧焼結する」工程の後に,「室温での熱電特性が,ゼーベック係数(α)は-93μV/K,電気伝導度(σ)は1.2MS/m,熱伝導度(κ)は13W/m・Kであり,無次元性能指数は0.24である」熱電材料を回収する工程を備えていることは明らかである。
そうすると,本願発明1と,引用発明1は,「ZTが増大した半導体を回収する工程を含む,半導体のZTを増大させる方法」点で一致するといえる。

したがって,上記の対応関係から,本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。
<一致点>
「半導体の成分の融点よりも高い温度で該成分から半導体を合成する工程,
半導体の合成に続いて,該半導体を3.5GPa?6GPaの高圧及び900℃?2500℃の高温に30秒?24時間の時間にわたってさらして,半導体のZTを増大させる工程,並びに
ZTが増大した半導体を回収する工程を含む,半導体のZTを増大させる方法。」

<相違点>
・相違点6:本願発明1では,「高くはない圧力」で,半導体の成分の融点よりも高い温度で該成分から半導体を合成するのに対して,引用発明1では,Ar雰囲気中でアーク溶解する際の圧力が明らかでない点。

・相違点7:本願発明1は,「使用圧力及び使用温度で測定した場合に」ZTが増大した半導体を回収する工程を含むのに対して,引用発明1では,これらの測定条件が明示されていない点。

イ 本願発明1と引用発明1との相違点についての判断
・相違点6について
アーク溶解は,「高くはない圧力」で行われることが通常であるから,引用発明1のアーク溶解もまた,「高くはない圧力」で行われるものと認められる。したがって,相違点6は実質的なものとはいえない。
また,仮に,引用発明1のアーク溶解が,「高くはない圧力」で行われたものと解することができなかったとしても,アーク溶解を,「高くはない圧力」で行うことは周知であるから,引用発明1のアーク溶解を「高くはない圧力」で行うことは当業者が適宜なし得たことであり,その効果も当業者が予測する範囲内のものと認められる。
したがって,相違点6は,実質的なものではないか,仮に,相違点であったとしても,引用発明1において,相違点6について,本願発明1の構成を採用するとは当業者が容易になし得たことである。

・相違点7について
引用例1における,【技術分野】の項目の「本発明は,主として-50℃?100℃の温度領域,一般には室温付近で使用される,・・・熱電材料,及びその製造法に関する。」(【0001】)との記載,【背景技術】の項目の「特に無次元性能指数(ZT)は,ZT=α^(2)σT/κ(ここで,Tは絶対温度である)で表され,熱電冷却における成績係数,熱電発電における変換効率等熱電変換エネルギー効率を決定する重要な要素である。そのため性能指数(Z=α^(2)σ/κ)の値が大きい熱電材料を用いて熱電素子を作製することにより,冷却及び発電の効率を高めることが可能となる。」(【0005】)との記載,【発明が解決しようとする課題】の項目の「本発明の課題は,主として-50℃?100℃の温度領域で使用した場合,熱電素子としての高い性能が期待できる,・・・高い性能指数(Z)及び高い電気伝導度を有する,熱電発電又は熱電冷却用熱電素子用に特に適した熱電材料及びその製造方法を提供することである。」(【0011】)との記載,及び【発明の効果】の項目の「本発明によると,主として-50℃?100℃の温度領域で,ゼーベック係数(α)が高く,出力因子(PF)が大きく,高い性能指数(Z)及び高い電気伝導度を有する熱電材料を提供することができる。」(【0014】)との記載から,引用発明1は,-50℃?100℃の温度領域,一般には室温付近で使用される熱電材料の性能指数(Z),すなわち,無次元性能指数(ZT)を向上させることを解決すべき課題とした発明であると理解される。
そして,引用例1における,【課題を解決するための手段】の項目の「上記の課題を解決するために,本発明者らは・・・同時に,加圧焼結を行うことによって,さらに,微粉砕を行ってから加圧焼結を行うことによって,高い熱電特性を有する材料とする製造法を見出した。」(【0012】)との記載,及び,【発明を実施するための最良の形態】の項目における「加圧焼結を施すことは,熱電性能を向上させることが多いので好ましい。」(【0033】)との記載から,引用発明1の加圧焼結は,熱電性能の向上を目的とした処理であると理解される。
そうすると,引用発明1の解決すべき課題に照らせば,引用発明1の熱電性能の向上を目的とした処理である加圧焼結は,前記加圧焼結の条件である,1250℃,4GPa,300秒間にさらす前よりも,前記加圧焼結を経た後の性能指数(Z),すなわち,無次元性能指数(ZT)を高いものとすることを目的とした工程であると理解することが自然といえる。
そして,性能指数(Z),すなわち,無次元性能指数(ZT)の値の高低が最も意味を持つのが,使用圧力及び使用温度で測定した場合の値であることは当業者において明らかであるから,引用発明1の「この材料の室温での熱電特性が」との特定が,「使用圧力及び使用温度で測定した場合」を意図したものであることは,当業者に明らかといえる。
したがって,引用発明1の,Ce_(33)(Al_(0.05)Si_(0.95))_(67)熱電材料を,1250℃の温度及び4GPaの圧力に300秒間の時間さらす加圧焼結工程は,使用圧力及び使用温度で測定した場合に,前記温度及び圧力にさらす前のZTよりも高いZTを有する材料を回収することができる工程であると理解できるから,相違点7は実質的なものとはいえない。
また,仮に,引用例1の記載からは,使用圧力及び使用温度で測定した場合の,加圧焼結工程前のZTが,前記加圧焼結工程の後のZTよりも小さいことが理解できないとしても,引用例1の【背景技術】の項目に,「特に無次元性能指数(ZT)は,ZT=α^(2)σT/κ(ここで,Tは絶対温度である)で表され,熱電冷却における成績係数,熱電発電における変換効率等熱電変換エネルギー効率を決定する重要な要素である。そのため性能指数(Z=α^(2)σ/κ)の値が大きい熱電材料を用いて熱電素子を作製することにより,冷却及び発電の効率を高めることが可能となる。」と記載されており,ZTを高めるという動機が存在するから,引用発明1の加圧焼結によって,使用圧力及び使用温度で測定した場合のZTを高めるようにすることは当業者が容易に想到し得たことであり,その効果も当業者が予測する範囲内のものである。
したがって,相違点7は,実質的なものではないか,仮に,相違点であったとしても,引用発明1において,相違点7について,本願発明1の構成を採用するとは当業者が容易になし得たことである。

新規性進歩性の検討のむすび
本願発明1は,引用例1に記載された発明であるから,本願発明1は,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
仮に,本願発明1が,引用例1に記載された発明であるとまでは認めることができないとしても,本願発明1は,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

3 記載要件(明確性)について
(1)原査定の理由
原査定の拒絶の理由の概要は,次のとおりである。
「3.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

●理由3(明確性)について
・請求項 1
・備考
(2)本願の請求項1には,「該半導体を高圧及び高温にさらす工程」との記載があるが,「高圧及び高温」とは,どの程度の圧力及びどの程度の温度であれば「高圧及び高温」といえるのか,比較の基準又は程度が不明確な表現であるため発明の範囲が不明確となっている。よって,請求項1に係る発明は明確でない。」

(2)当審の判断
本願の請求項1に記載された「高くはない圧力」とは,どの程度の圧力であれば「高くはない圧力」といえるのか,比較の基準又は程度が不明確な表現であるため,発明の範囲が不明確となっている。
したがって,本願の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1に記載された発明であり,あるいは,引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,あるいは,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
さらに,本願の請求項1に係る発明は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-25 
結審通知日 2017-05-30 
審決日 2017-06-12 
出願番号 特願2014-124512(P2014-124512)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 537- Z (H01L)
P 1 8・ 57- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 直也  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 河口 雅英
加藤 浩一
発明の名称 高圧高温焼結による熱電性能指数(ZT)の影響  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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