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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C07C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C07C
管理番号 1334607
審判番号 無効2015-800178  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-09-09 
確定日 2017-11-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第5568300号発明「フラーレン誘導体の混合物、および電子デバイスにおけるその使用」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許第5568300号の請求項1?57に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、2007年7月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年7月6日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成26年6月27日に特許権の設定登録がなされた(請求項の数57。以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書を「本件特許明細書」といい、特許請求の範囲を「本件特許請求の範囲」という。)。

2 本件特許について、本件特許の利害関係人である、昭和電工株式会社(以下「請求人」という。)から、本件特許請求の範囲の請求項1?57に係る発明の特許を無効にすることを求める旨の無効審判の請求がなされた。
以下に、本件審判の請求以後の経緯を整理して示す。

平成27年 9月 9日付け 審判請求書及び甲第1号証?甲第7号証の提出
平成27年10月29日付け 審判請求書の手続補正書提出(甲第3’号証、甲第4’号証を甲第3号証、甲第4号証の訳文として、甲第6’号証を甲第6号証の訳文として、甲第8号証(甲第7号証(合成実験結果報告書)の作成者の陳述書)を提出)
平成28年 2月 8日付け 審判事件答弁書の提出
平成28年 4月18日付け 審判請求書の手続補正書提出(甲第9,10号証提出)
平成28年 4月18日付け 上申書の提出(請求人側から、甲第11号証提出)
平成28年 4月18日付け 上申書の提出(被請求人側から)
平成28年 5月 6日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人側から)
平成28年 5月 6日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人側から)
平成28年 5月18日付け 上申書の提出(被請求人側から)
平成28年 5月18日 口頭審理の実施
平成28年 6月 8日付け 上申書の提出(請求人側から、甲第12?19号証提出)
平成28年 6月 8日付け 上申書の提出(被請求人側から、乙第1?4号証提出)
平成28年 6月29日付け 上申書の提出(請求人側から、甲第20号証提出)
平成28年 6月29日付け 上申書の提出(被請求人側から、乙第5,6号証提出)
平成28年 7月 8日付け 上申書の提出(請求人側から)
平成28年 7月11日付け 上申書の提出(被請求人側から、乙第7号証提出)

第2 本件発明
本件特許の請求項1?57に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」?「本件発明57」といい、合わせて「本件発明」という。)は、登録時の本件明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?57に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。

【請求項1】
(a)
(i)下記式Iaで表される化合物:
【化1】


(ii)下記式IIaで表される化合物:
【化2】


ここで
yは1であり;
Aはメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(60)フラーレンであり;
A'はメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(70)フラーレンであり;
Xは、アリール、アラルキル、またはチエニルであり;
Yは、未置換のまたは置換されたアルキルであり、該置換は、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキル、アルコキシル、アルケニル、-N(R^(1))_(2)、-C(O)R^(1)、-OC(O)R^(1)、-CO_(2)R^(1)または-N(R^(1))C(O)R^(1)の1つ以上での置換であり、ここで、R^(1)はそれぞれ独立してH、アルキル、アリール、またはアラルキルを表す、
(iii)0%から50%の累計範囲にあるC_(60)およびC_(70)、
(iv)0%から50%の累計範囲にある、yが2または3である式Iaの化合物、およびyが2または3である式IIaの化合物、
(v)0%から3%の累計範囲にある、一つ以上のC_(70)より大きいフラーレンおよび一つ以上のC_(70)より大きいフラーレンの誘導体、ここで、該C_(70)より大きいフラーレンの誘導体は、下記式IIIaの化合物である:
【化3】


A”はメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(70)より大きいフラーレンであり;
Xは、アリール、アラルキル、またはチエニルであり;
Yは、未置換のまたは置換されたアルキルであり、該置換は、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキル、アルコキシル、アルケニル、-N(R^(1))_(2)、-C(O)R^(1)、-OC(O)R^(1)、-CO_(2)R^(1)、または-N(R^(1))C(O)R^(1)の1つ以上での置換であり、ここで、R^(1)はそれぞれ独立してH、アルキル、アリール、またはアラルキルを表す、
(vi)0.001%から5%の累計範囲にある、一つ以上のC_(60)の酸化物、一つ以上のC_(70)の酸化物、一つ以上のC_(60)誘導体の酸化物、および一つ以上のC_(70)誘導体の酸化物、ここで、該C_(60)誘導体の酸化物は前記式Iaの化合物の酸化物であり、該C_(70)誘導体の酸化物は前記式IIaの化合物の酸化物である、および
(vii)0%から5%の累計範囲にある、一つ以上のC_(60)の二量体、一つ以上のC_(70)の二量体、一つ以上のC_(60)誘導体の二量体、および一つ以上のC_(70)誘導体の二量体、ここで、該C_(60)誘導体の二量体は前記式Iaの化合物の二量体であり、該C_(70)誘導体の二量体は前記式IIaの化合物の二量体である、
を含む組成物;あるいは、
(b)
(i)下記式Ibで表される化合物:
【化4】


(ii)下記式IIbで表される化合物:
【化5】


ここで
yは1であり;
Bは-CH_(2)-N(R_(3)’)-C(HR_(1)’)-に結合するC_(60)フラーレンであり;
B’は-CH_(2)-N(R_(3)’)-C(HR_(1)’)-に結合するC_(70)フラーレンであり;
R_(1)’は置換されたアリールであり;さらに
R_(3)’はメチルである、
(iii)0%から50%の累計範囲にあるC_(60)およびC_(70)、
(iv)0%から50%の累計範囲にある、yが2または3である式Ibの化合物、および
yが2または3である式IIbの化合物、
(v)0%から3%の累計範囲にある、一つ以上のC_(70)より大きいフラーレンおよび一つ以上のC_(70)より大きいフラーレンの誘導体、ここで、該C_(70)より大きいフラーレンの誘導体は、下記式IIIbの化合物である:
【化6】


B”は-CH_(2)-N(R_(3)’)-C(HR_(1)’)-に結合するC_(70)より大きいフラーレンであり;
R_(1)’は置換されたアリールであり;さらに
R_(3)’はメチルである、
(vi)0.001%から5%の累計範囲にある、一つ以上のC_(60)の酸化物、一つ以上のC_(70)の酸化物、一つ以上のC_(60)誘導体の酸化物、および一つ以上のC_(70)誘導体の酸化物、ここで、該C_(60)誘導体の酸化物は前記式Ibの化合物の酸化物であり、該C_(70)誘導体の酸化物は前記式IIbの化合物の酸化物である、および
(vii)0%から5%の累計範囲にある、一つ以上のC_(60)の二量体、一つ以上のC_(70)の二量体、一つ以上のC_(60)誘導体の二量体、および一つ以上のC
_(70)誘導体の二量体、ここで、該C_(60)誘導体の二量体は前記式Ibの化合物の二量体であり、該C_(70)誘導体の二量体は前記式IIbの化合物の二量体である、
を含む組成物。
【請求項2】
(a)
(i)下記式Iaの化合物:
【化7】

(ii)下記式IIaの化合物:
【化8】

ここで
yは2であり;
Aはメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(60)フラーレンであり;
A'はメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(70)フラーレンであり;
Xは、アリール、アラルキル、またはチエニルであり;
Yは、未置換のまたは置換されたアルキルであり、該置換は、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキル、アルコキシル、アルケニル、-N(R^(1))_(2)、-C(O)R^(1)、-OC(O)R^(1)、-CO_(2)R^(1)、または-N(R^(1))C(O)R^(1)の1つ以上での置換であり、ここで、R^(1)はそれぞれ独立してH、アルキル、アリール、またはアラルキルを表す、
(iii)0%から50%の累計範囲にある、C_(60)およびC_(70)、
(iv)0%から50%の累計範囲にある、yが1または3である式Iaの化合物、およびyが1または3である式IIaの化合物、
(v)0%から3%の累計範囲にある、一つ以上のC_(70)より大きいフラーレンおよび一つ以上のC_(70)より大きいフラーレンの誘導体、ここで、該C_(70)より大きいフラーレンの誘導体は、下記式IIIaの化合物である:
【化9】


A”はメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(70)より大きいフラーレンであり;
Xは、アリール、アラルキル、またはチエニルであり;
Yは、未置換のまたは置換されたアルキルであり、該置換は、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキル、アルコキシル、アルケニル、-N(R^(1))_(2)、-C(O)R^(1)、-OC(O)R^(1)、-CO_(2)R^(1)、または-N(R^(1))C(O)R^(1)の1つ以上での置換であり、ここで、R^(1)はそれぞれ独立してH、アルキル、アリール、またはアラルキルを表す、
(vi)0.001%から5%の累計範囲にある、一つ以上のC_(60)の酸化物、一つ以上のC_(70)の酸化物、一つ以上のC_(60)誘導体の酸化物、および一つ以上のC_(70)誘導体の酸化物、ここで、該C_(60)誘導体の酸化物は前記式Iaの化合物の酸化物であり、該C_(70)誘導体の酸化物は前記式IIaの化合物の酸化物である、および
(vii)0%から5%の累計範囲にある、一つ以上のC_(60)の二量体、一つ以上のC_(70)の二量体、一つ以上のC_(60)誘導体の二量体、および一つ以上のC_(70)誘導体の二量体、ここで、該C_(60)誘導体の二量体は前記式Iaの化合物の二量体であり、該C_(70)誘導体の二量体は前記式IIaの化合物の二量体である、
を含む組成物、あるいは、
(b)
(i)下記式Ibの化合物:
【化10】


(ii)下記式IIbの化合物:
【化11】


ここで
yは2であり;
Bは-CH_(2)-N(R_(3)’)-C(HR_(1)’)-に結合するC_(60)フラーレンであり;
B’は-CH_(2)-N(R_(3)’)-C(HR_(1)’)-に結合するC_(70)フラーレンであり;
R_(1)’は置換されたアリールであり;さらに
R_(3)’はメチルである、
(iii)0%から50%の累計範囲にある、C_(60)およびC_(70)、
(iv)0%から50%の累計範囲にある、yが1または3である式Ibの化合物、およびyが1または3である式IIbの化合物、
(v)0%から3%の累計範囲にある、一つ以上のC_(70)より大きいフラーレンおよび一つ以上のC_(70)より大きいフラーレンの誘導体、ここで、該C_(70)より大きいフラーレンの誘導体は、下記式IIIbの化合物である:
【化12】


B”は-CH_(2)-N(R_(3)’)-C(HR_(1)’)-に結合するC_(70)より大きいフラーレンであり;
R_(1)’は置換されたアリールであり;さらに
R_(3)’はメチルである、
(vi)0.001%から5%の累計範囲にある、一つ以上のC_(60)の酸化物、一つ以上のC_(70)の酸化物、一つ以上のC_(60)誘導体の酸化物、および一つ以上のC_(70)誘導体の酸化物、ここで、該C_(60)誘導体の酸化物は前記式Ibの化合物の酸化物であり、該C_(70)誘導体の酸化物は前記式IIbの化合物の酸化物である、および
(vii)0%から5%の累計範囲にある、一つ以上のC_(60)の二量体、一つ以上のC_(70)の二量体、一つ以上のC_(60)誘導体の二量体、および一つ以上のC_(70)誘導体の二量体、ここで、該C_(60)誘導体の二量体は前記式Ibの化合物の二量体であり、該C_(70)誘導体の二量体は前記式IIbの化合物の二量体である、
を含む組成物。
【請求項3】
C_(60)およびC_(70)が0.01%から10%の累計範囲にあることを特徴とする、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記yが2または3である式IaまたはIbの化合物、およびyが2または3である式IIaまたはIIbの化合物が、0.01%から5%の累計範囲にあることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記yが1または3である式IaまたはIbの化合物、およびyが1または3である式IIaまたはIIbの化合物が、0.01%から5%の累計範囲にあることを特徴とする、請求項2記載の組成物。
【請求項6】
前記一つ以上のC70より大きいフラーレンおよび一つ以上のC_(70)より大きいフラーレンの誘導体が、0.001%から0.5%の累計範囲にあることを特徴とする、請求項1または2記載の組成物。
【請求項7】
前記一つ以上のC_(60)の二量体、一つ以上のC_(60)誘導体の二量体、一つ以上のC_(70)の二量体および一つ以上のC_(70)誘導体の二量体が、0.001%から2%の累計範囲にあることを特徴とする、請求項1または2記載の組成物。
【請求項8】
C_(60)およびC_(70)が0.1%から5%の累計範囲にあることを特徴とする、請求項1または2記載の組成物。
【請求項9】
前記yが2または3である式IaまたはIbの化合物およびyが2または3である式IIaまたはIIbの化合物が、0.01%から1%の累計範囲にあることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記yが1または3である式IaまたはIbの化合物およびyが1または3である式IIaまたはIIbの化合物が、0.01%から1%の累計範囲にあることを特徴とする、請求項2記載の組成物。
【請求項11】
前記一つ以上のC_(70)より大きいフラーレンおよび一つ以上のC_(70)より大きいフラーレンの誘導体が、累計で0.1%未満であることを特徴とする、請求項1または2記載の組成物。
【請求項12】
前記一つ以上のC_(60)の酸化物、一つ以上のC_(60)誘導体の酸化物、一つ以上のC_(70)の酸化物および一つ以上のC_(70)誘導体の酸化物が、0.01%から1%の累計範囲にあることを特徴とする、請求項1または2記載の組成物。
【請求項13】
前記一つ以上のC_(60)の二量体、一つ以上のC_(60)誘導体の二量体、一つ以上のC_(70)の二量体および一つ以上のC_(70)誘導体の二量体が、0.01%から1%の累計範囲にあることを特徴とする、請求項1または2記載の組成物。
【請求項14】
Xはアリールであることを特徴とする、請求項1?13いずれか1項記載の組成物。
【請求項15】
Xはフェニルまたはチエニルであることを特徴とする、請求項1?13いずれか1項記載の組成物。
【請求項16】
Xがフェニルであることを特徴とする、請求項1?13いずれか1項記載の組成物。
【請求項17】
Yは、未置換の、あるいは一つ以上の-C(O)R^(1)、-OC(O)R^(1)、-CO_(2)R^(1)または-N(R^(1))C(O)R^(1)で置換された、アルキルであり、ここでR^(1)はそれぞれ独立して、H、アルキル、アリール、またはアラルキルを表すことを特徴とする請求項1?16いずれか1項記載の組成物。
【請求項18】
Yは、一つ以上の-C(O)R^(1)、-OC(O)R^(1)または-CO_(2)R^(1)で置換されたC1?C6アルキルであり、ここでR1はそれぞれ独立して、アルキル、アリール、またはアラルキルを表すことを特徴とする、請求項1?16いずれか1項記載の組成物。
【請求項19】
Yは-CO_(2)R^(1)で置換されたC1?C6アルキルであり、ここでR^(1)がアルキルであることを特徴とする、請求項1?16いずれか1項記載の組成物。
【請求項20】
Yが-(CH_(2))_(n)-CO_(2)R^(1)であり、nが1?6の範囲の整数であり、R^(1)がアルキルであることを特徴とする、請求項1?16いずれか1項記載の組成物。
【請求項21】
Yが-(CH_(2))_(3)-CO_(2)CH_(3)であることを特徴とする、請求項1?16いずれか1項記載の組成物。
【請求項22】
Xがフェニルまたはチエニルであり、Yが-CO_(2)R^(1)で置換されたC1?C6アルキルであり、ここでR^(1)がアルキルであることを特徴とする、請求項1?13いずれか1項記載の組成物。
【請求項23】
Xがフェニルであり、Yが-(CH_(2))_(3)-CO_(2)CH_(3)であることを特徴とする、請求項1?13いずれか1項記載の組成物。
【請求項24】
前記式IaまたはIbの化合物の、前記式IIaまたはIIbの化合物に対する重量パーセントの比が、3:1から1:3の範囲内であることを特徴とする、請求項1?23いずれか1項記載の組成物。
【請求項25】
前記式IaまたはIbの化合物の、前記式IIaまたはIIbの化合物に対する重量パーセントの比が、3:1から1:1の範囲内であることを特徴とする、請求項1?23いずれか1項記載の組成物。
【請求項26】
前記式IaまたはIbの化合物の、前記式IIaまたはIIbの化合物に対する重量パーセントの比が、2:1であることを特徴とする、請求項1?23いずれか1項記載の組成物。
【請求項27】
前記式IaまたはIbの化合物および前記式IIaまたはIIbの化合物の重量パーセントの和が該組成物の99重量%以上になるように、前記式IaまたはIbの化合物が該組成物の5重量%から95重量%を構成し、かつ前記式IIaまたはIIbの化合物が該組成物の5重量%から95重量%を構成することを特徴とする、請求項1?23いずれか1項記載の組成物。
【請求項28】
請求項1?27いずれか1項記載の組成物を含む半導体。
【請求項29】
P型半導体をさらに含む請求項28記載の半導体。
【請求項30】
N型半導体およびP型半導体の交互の層をさらに含む、請求項29記載の半導体。
【請求項31】
N型半導体とP型半導体を混合してバルクヘテロ接合を形成することを特徴とする、請求項29記載の半導体。
【請求項32】
前記P型半導体が、共役ポリマー、共役オリゴマー、反復単位の無い共役分子、または半導体ナノ粒子をさらに含むことを特徴とする、請求項29?31いずれか1項記載の半導体。
【請求項33】
前記P型半導体が、縮合または非縮合チオフェン環含有オリゴマーおよびポリマーを含むことを特徴とする、請求項32記載の半導体。
【請求項34】
前記P型半導体が、縮合または非縮合ベンゼン環含有ポリマーを含むことを特徴とする、請求項32記載の半導体。
【請求項35】
前記P型半導体が、縮合または非縮合ピロール環含有ポリマーを含むことを特徴とする、請求項32記載の半導体。
【請求項36】
前記P型半導体が、縮合または非縮合チアゾリン環含有ポリマーを含むことを特徴とする、請求項32記載の半導体。
【請求項37】
前記P型半導体が、縮合または非縮合チアジアゾリン環含有ポリマーを含むことを特徴とする、請求項32記載の半導体。
【請求項38】
前記P型半導体が、縮合または非縮合ピラジン環含有ポリマーを含むことを特徴とする、請求項32記載の半導体。
【請求項39】
前記N型半導体が、請求項1?27に記載されるもの以外の一つ以上のN型半導体をさらに含むことを特徴とする、請求項32記載の半導体。
【請求項40】
エレクトロニクス用途における電子受容体としての請求項1?27いずれか1項記載の材料の使用方法。
【請求項41】
請求項1?27いずれか1項記載の組成物を含む、太陽電池、光検出器、または有機電界効果トランジスタ。
【請求項42】
少なくとも一つのP型半導体とN型半導体として請求項1?27いずれか1項記載の組成物とを含む光活性層を含む、光ダイオード。
【請求項43】
前記P型半導体および前記N型半導体が、混合物の形態で、または、前記N型半導体を含む一つ以上のN型半導体副層および前記P型半導体を含む一つ以上のP型半導体の副層に分かれて、光活性層内に存在することを特徴とする、請求項42記載の光ダイオード。
【請求項44】
前記P型半導体が、共役ポリマー、共役オリゴマー、反復単位の無い共役分子、半導体ナノ粒子からなる群より選択されることを特徴とする、請求項42または43記載の光ダイオード。
【請求項45】
前記P型半導体が、縮合または非縮合チオフェン環含有オリゴマーおよびポリマーからなる群より選択されることを特徴とする、請求項44記載の光ダイオード。
【請求項46】
前記P型半導体が、縮合または非縮合ベンゼン環含有ポリマーからなる群より選択されることを特徴とする、請求項44記載の光ダイオード。
【請求項47】
前記P型半導体が、縮合または非縮合ピロール環含有ポリマーからなる群より選択されることを特徴とする、請求項44記載の光ダイオード。
【請求項48】
前記P型半導体が、縮合または非縮合チアゾリン環含有ポリマーからなる群より選択されることを特徴とする、請求項44記載の光ダイオード。
【請求項49】
前記P型半導体が、縮合または非縮合チアジアゾリン環含有ポリマーからなる群より選択されることを特徴とする、請求項44記載の光ダイオード。
【請求項50】
前記P型半導体が、縮合または非縮合ピラジン環含有ポリマーからなる群より選択されることを特徴とする、請求項44記載の光ダイオード。
【請求項51】
前記P型半導体の重量比が、前記N型半導体の重量比に対して、10:1から1:10の範囲にあることを特徴とする、請求項43?50いずれか1項記載の光ダイオード。
【請求項52】
太陽電池デバイスとして使用されることを特徴とする、請求項43?51いずれか1項記載の光ダイオード。
【請求項53】
請求項43?51いずれか1項記載の光ダイオードを含む、光検出器または光強度計。
【請求項54】
N型半導体として請求項1?27いずれか1項記載の組成物を含む、nチャンネル電界効果トランジスタ。
【請求項55】
P型半導体として請求項1?27いずれか1項記載の組成物を含む、pチャンネル電界効果トランジスタ。
【請求項56】
請求項1?27いずれか1項記載の組成物を含む、時間ゲートホログラフィックイメージング用フィルム。
【請求項57】
溶液処理方法を用いて請求項1?27いずれか1項記載の組成物が組み込まれたデバイス。」

第3 請求の趣旨並びにその主張の概要及び請求人が提出した証拠方法
1 審判請求書、上申書、口頭審理陳述要領書に記載した無効理由の概要

請求人が主張する請求の趣旨は、「特許第5568300号の特許請求の範囲の請求項1?57に係る発明についての特許を無効にする。審判請求費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める。
そして、請求人が主張する無効理由1,2は、概略以下のとおりである(審判請求書7.(1)(3)、第1回口頭審理調書)。

(1)無効理由1
無効理由1は、以下に示すとおりである。
本件特許発明1は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2
無効理由2は、以下に示すとおりである。
本件特許発明1?57は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証(主引例)及び甲第2号証?甲第6号証に記載された発明に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
よって、本件発明1?57の特許が、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

2 請求人の提出した証拠方法
請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。

(1)審判請求書とともに提出した証拠方法
甲第1号証:特開2005-116617号公報
甲第2号証:特開2005-97329号公報
甲第3号証:国際公開2005/058002号
甲第4号証:国際公開2004/073082号
甲第5号証:国際公開03/033403号
甲第6号証:Jan C. Hummelen al., J. Org. Chem., 1995年,60,p.532-538
甲第7号証:五十嵐氏の合成実験結果報告

(2)平成27年10月29日付け手続補正書において提出した証拠方法
甲第3’号証:甲第3号証の訳文として提出(特表2007-520458号公報)
甲第4’号証:甲第4号証の訳文として提出(特表2006-518110号公報)
甲第6’号証:甲第6号証の翻訳文
甲第8号証:甲第7号証の作成者五十嵐氏の陳述書

(3)平成28年4月18日付け手続補正書において提出した証拠方法
甲第9号証:特開平11-295770号公報
甲第10号証:特開2002-110194号公報

(4)平成28年4月18日付け上申書において提出した証拠方法
甲第11号証:S.E.Shaheen 外2名 Applied Physics Letters,2001年2月5日,Vol.78,6 p.841-843

(5)平成28年6月8日付け上申書において提出した証拠方法
甲第12号証:材料科学の基礎 第4号の「有機薄膜太陽電池の基礎」と題する松尾 豊氏を著者とする論文,2011年3月,シグマアルドリッチジャパン株式会社,p.2-11
甲第13号証:R.A.J.Janssen,J.C.Hummelen,N.S.Sariciftci,MRS Bulletin,2005年1月,30,p.33-36
甲第14号証:国際公開2004/073082号
甲第14’号証:甲第14号証の訳文として提出(特表2006-518110号公報)
甲第15号証:特開平9-73180号公報
甲第16号証:Roger Taylor,”Lecture notes on fullerene chemistry”, 1999年,Imperial college Press,表紙、目次、p.137-139,186,187
甲第17号証:「甲第6号証の「PCBMの合成法」の周知程度」と題する、請求人(昭和電工株式会社)が作成したSciFinderによる調査結果
甲第18号証:特開2004-175598号公報
甲第19号証:特開2005-82461号公報

(6)平成28年6月29日付け上申書において提出した証拠方法
甲第20号証:有機合成化学協会編「有機化合物辞典」,1985年11月1日,講談社,p.1006

第4 答弁の趣旨並びにその主張の概要
1 答弁の趣旨並びにその主張
被請求人が主張する答弁の趣旨は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(審判事件答弁書「6.答弁の趣旨」)。
そして、被請求人は請求人が主張する上記無効理由1,2は、審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書、上申書(平成28年4月18日付け)、上申書(平成28年5月18日付け)、上申書(平成28年6月8日付け)、上申書(平成28年6月29日付け)上申書(平成28年7月11日付け)において、いずれも理由がない旨の主張をしていると認める。

2 被請求人の提出した証拠方法
被請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。

(1)平成28年6月8日付け上申書において提出した証拠方法
乙第1号証:日本化学会命名法専門委員会編「化合物命名法-IUPAC勧告に準拠-」,2016年2月1日,東京化学同人,第2版,表紙,p.46,154-155
乙第2号証:D.Hellwinkel,”Systematic Nomenclature of Organic Chemistry, A Directory to Comprehension and Application of its Basic Principles”,2001年,表紙,p.8-9,12-13,32-33
乙第3号証:Roger Taylor,” Lecture notes on fullerene chemistry”, 1999年,Imperial college Press, 表紙,目次,p.137-199頁
乙第4号証:Wienk et al. , Angew. Chem. Int. Ed. 2003年,42,p.3371-3375
乙第5号証:”Inquiry regarding Publication Date of SIAL Material Matters Publication”との件名のTakeshi Kondo(Sigma-Aldrich Japan G.K.)からWzorek,Laura(FOLEY HOAG LLP)に宛てた2016年6月17日付け電子メール
乙第6号証:K.M.Kadish 外1名編 Proceedings of the Symposium On Recent Advances in the Chemistry and Physics of fullerens and Related Materials, The Electrochemical Society, Inc. ,Proceedings Volume 94-24 (1995年3月21日 MIT図書館受入れ)に掲載されたV.Ya.Davydov 外3名,”Separation of Fullerens and Study of their Intermolecular iInteractions with Organic Compounds by Chromatography”, p.1588-1594

(2)平成28年7月11日付け上申書において提出した証拠方法
乙第7号証:日本化学会命名法専門委員会編「化合物命名法-IUPAC勧告に準拠-」,2016年2月1日,東京化学同人,第2版,表紙,p.48

第5 無効理由についての当審の判断
当審は、以下に示すとおり、無効理由1,2には理由がないものと判断する。

1 無効理由1について
(1)請求人提出の各証拠の内容
ア 甲第1号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
1対の電極と、前記1対の電極間に配設された電荷輸送性複素環高分子から成る固体層とを有し、前記固体層が正孔輸送性複素環高分子とフラーレン変性物とを含有することを特徴とする光電変換素子。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)

(イ)「【0005】
この色素増感型太陽電池で用いられている半導体は、酸化チタンなどの光酸化触媒を使用しており、色素がこれにより分解されたり、あるいは併用される電解質は主として電解液が用いられているが、電解液を十分に保持できず、作用電極と対極のすき間から電解液が漏れ出したり揮発したりしてしまうという問題がある。また、電解液の漏れを防ぐための構成が複雑になるという問題がある。
有機材料を用い、電解液を使用しない構成が簡単な太陽電池としては導電性高分子を用いた固体型太陽電池がある。この固体型太陽電池については、例えば非特許文献1において、導電性高分子にポリフェニレンビニレンを用いフラーレン変性物(PCBM)と組み合わせたソーラーセルが報告されており、光電変換効率としては2.5%程度である。
【0006】
導電性高分子を用いた固体型太陽電池である前記非特許文献1記載の導電性高分子ポリフェニレンビニレンとフラーレン変性物(PCBM)と組み合わせたソーラーセルについては、エレクトロルミネッセンスの研究でよく知られているように、構成は比較的簡単ではあるが、ポリフェニレンビニレンは酸化されやすい性質を持っており、耐久性が必要な用途では欠点となり、実用化が困難である。また、光電変換効率は2.5%程度であり、変換効率の向上が必要である。この固体型太陽電池の光電変換効率が低いのは、導電性高分子の電荷輸送能が低いことが1つの原因と考えられ、電荷輸送能の改善が必要である。
【特許文献1】特開2002-335004号公報
【非特許文献1】APPLIED PHYSICS LETTERS Vol.78(2001年)841?843頁」

(ウ)「【0020】
正孔輸送性複素環高分子を作成する一般的な方法としては、酸化重合(化学的)、電解重合、付加重合、縮合重合などが挙げられる。具体的には、例えば、ポリピロール、ポリフランは化学的重合法、ポリビニルカルバゾールは付加重合法がある。ポリチオフェンは塩化鉄などの触媒を用いて酸化重合して、または、電解質溶液中で電気化学的に酸化して得られる。ポリチオフェンで立体規則性に着目した場合、例えば、塩化鉄を触媒に用いて酸化重合して得られるポリチオフェンは、一般に、ランダム重合体が得られ、頭-尾結合は70%程度以下である。さらに立体規則性を高めるためには触媒にゼロ価のPdやNi錯体を用いジブロムチオフェン誘導体のカップリング反応を行なう山本法あるいは、REICH法により製造することができる。
【0021】
次に高分子複合膜から成る固体層3を構成するフラーレン変性物について説明する。フラーレン変性物とは電荷輸送性を示し、フラーレンに種々の官能基を導入したものである。具体的には、フラーレン変性物として、図3及び図4に示すような、ロージャー・テーラーの著書「Lecture notes on fullerene chemistry」(Imperial Colledge Press)に記載されているものを挙げることができる。勿論、これらに限定されるものではない。上記フラーレンとしては、安定性、安全性の点からC60、C70あるいはそれらの混合体が好ましい。つまり、フラーレン変性物としては、C60、C70あるいはそれらの混合体の変性物が好ましい。
【0022】
また、官能基の観点からは、フラーレン変性物としては、エステル基、イミノ基、アルキル基、アラルキル基、チオフェニル基から選ばれた官能基を少なくとも1つ以上含有したものが、溶解性およびエネルギーレベルの最適化の理由で好ましい。
さらに、フラーレン変性物としては、前記ポリチオフェン等の正孔輸送性複素環高分子に含有している官能基と同種の官能基を含有することが、フラーレン変性物と正孔輸送性高分子の接触性、分散性を向上させ、正孔輸送性高分子で吸収された光励起電子がフラーレン変性物に効率よく移動可能となったり、電荷分離状態を沢山つくることが出来るという理由で好ましい。例えば、フラーレン変性物の官能基に含有されているアルキル基とポリチオフェンの官能基に含有されているアルキル基が、ともに同一のアルキル基を含有することがより好ましい。
【0023】
これらのフラーレン変性物はフラーレンに導入する変性基により、溶媒に対する溶解性を向上させたり、フラーレンのHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)レベルを置換基の種類でコントロールさせたりすることにより、導電性高分子を用いた固体型太陽電池の変換効率の向上を可能とする。
フラーレン変性物の作製方法としては変性反応といわれる手法が有効である。例えば、付加反応、置換反応、ラジカル反応、環化付加反応などの方法がある。」

(エ)「【実施例】
【0028】
(実施例1)
分子量57000の立体規則性ポリ-3-ドデシルチオフェン(立体規則性90%)とフラーレン変性物を1:1の重量比となるように秤量し,これに脱水トルエンを添加し、2.5Wt%溶液を調製した。フラーレン変性物にはPCBM(図3参照)を用いた。次いで、この溶液を、スピンコーターを用いて、1500rpm程度の回転で作用電極8であるITOガラス基板上に塗布し、窒素雰囲気下、120℃で10分間熱処理を行い、膜厚100nmの光電変換膜(高分子複合膜から成る固体層3)を作製した。
【0029】
続いて、上述で得られたフラーレン変性物含有ポリチオフェン膜(高分子複合膜から成る固体層3)を具備したITOガラス基板の対極としてフラーレン変性物含有ポリチオフェン膜側にアルミニウムを100 nm蒸着した。光透過性導電層のITOからと対極のアルミニウムからそれぞれリード線を取付けて、本発明の光電変換素子を作成した。なお、素子は、透明ガラス容器にいれシールした。
作製した光電変換素子にソーラーシミュレーターで60mW/cm^(2)の強度の光を照射したところ、η(光電変換効率)は2.1%であり、太陽電池として有用であることがわかった。この素子を1ケ月室温、大気中、暗下で放置後、ソーラーシュミレーターで60mW/cm^(2)の強度の光を照射したところ、η(変換効率)は2.0%であった。
【0030】
(比較例1)
フラーレンの未変性物を用い実施例1と同様に光電変換素子を作製した。得られた光電変換素子にソーラーシミュレーターで60W/cm^(2)の強度の光を照射したところ、η(光電変換効率)は0.001%であり、この素子を1ケ月室温、大気中、暗下で放置後、ソーラーシミュレーターで60mW/cm^(2)の強度の光を照射したところ、η(変換効率)は0.0007%であった。フラーレンの未変性品を用いた素子では、変換効率が低く、更に安定性にも劣ることが明らかとなった。
実施例1および比較例1から明らかなように、作用電極と対極の間に挟持された本発明の高分子複合膜から成る固体層を設けると、長期間安定した光電変換効率を示す光電変換素子を得られる。
【0031】
(実施例2)
実施例1においてポリ-3-ドデシルチオフェンを分子量12万の立体規則性ポリ-3-ヘキシルチオフェン(立体規則性98%)にした以外は実施例1と同様にして、本実施例2の光電変換素子を作成した。光電変換膜の膜厚は200nmであった。
得られた光電変換素子にソーラーシュミレーターで60mW/cm^(2)の強度の光を照射したところ、η(変換効率)は3.1%であり、太陽電池として有用であることがわかった。この素子を1ケ月室温、大気中、暗下で放置後、ソーラーシミュレーターで60mW/cm^(2)の強度の光を照射したところ、η(変換効率)は2.5%であった。
【0032】
実施例1および実施例2より明らかなように、作用電極と対極の間に挟持された正孔輸送性複素環高分子とフラーレン変性物を含有した高分子複合膜から成る固体層を設けることにより、光電変換効率が向上し、長期間安定した光電変換効率を示す光電変換素子を得られることがわかった。また、正孔輸送性複素環高分子の立体規則性が高いほど変換効率も高いと判明した。
【0033】
(実施例3?6)、(比較例2、3)
実施例1においてポリ-3-ドデシルチオフェンとして分子量12万の立体規則性ポリ-3-ドデシルチオフェン(立体規則性96%)を用い、フラーレン変性物の組成比を変えた以外は実施例1と同様にしてセルを作製し、評価した結果を図5の図表に示す。
実施例3?6と比較例2、3から、正孔輸送性複素環高分子とフラーレン変性物の組成比が5wt%以上で95wt%以下の範囲が好ましく、15wt%以上で85wt%以下の範囲が更に好ましことが判明した。
【0034】
(実施例7?9)
実施例2と同様に実験を行い、次のような結果を得た。但し、フラーレン変性物として、NMPF、NMTPF、PPI(図3、図4参照)を用いた。
実施例7 実施例8 実施例9
変性フラーレン NMPF NMTPF PPI
変換効率(%) 2.6 2.8 2.7
実施例7?9からフラーレン変性物において各種の官能基が好ましいと判明した。
【0035】
(実施例10)
実施例2と同様に実験を行った。但し、ポリチオフェンとして、ポリヘキシルイソチオナフテンをもちいた。結果は変換効率1.9%であった。
【0036】
(実施例11?13)
実施例2と同様に実験を行い、次のような結果を得た。但し、フラーレン変性物として、DHMF、PCBH、PCBD(図3、図4参照)を用いた。
実施例11 実施例12 実施例13
変性フラーレン DHMF PCBH PCBD
変換効率(%) 2.9 3.0 2.1
実施例11?13からフラーレン変性物の官能基としては、正孔輸送性複素環高分子に含有している官能基と同種の官能基を含有することが好ましい、特にフラーレン変性物の官能基に含有されているアルキル基と正孔輸送性複素環高分子(ポリチオフェン)の官能基に含有されているアルキル基が、ともに同一のアルキル基を含有することがより好ましいと判明した。
【0037】
(実施例14?16)
実施例2において、立体規則性ポリ-3ドデシルチオフェンの立体規則性を70%、80%、95%に変更し、光電変換膜の膜厚を500nmとした以外は実施例2と同様の方法で本実施の形態に係る光電変換素子を作製した。次のような結果を得た。
実施例14 実施例15 実施例16
立体規則性 70% 80% 95%
変換効率(%) 0.9 2.2 3.3
実施例14?16から立体規則性ポリ-3ドデシルチオフェンの立体規則性としては、80%以上であることが好ましく、特に95%以上がより好ましいと判明した。
また、以上の結果から、光電変換膜の膜厚としては100nmから500nmが好ましく、ポリアルキルチオフェンのアルキル基の炭素数が12より小さいことが好ましいと判明した。
【0038】
(比較例4)
実施例1のドデシルチオフェンをポリジオクチルフェニレンビニレンに代えて、同様に光電変換素子を試作、評価した。60mW/cm^(2)で照射したところ、ηは0.5%であった。1ケ月後に評価したところ、ηは0.1%と大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
光電変換素子は、太陽電池に限らず、光スイッチング装置、センサなどの光電変換装置に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係る光電変換素子の層構成を模式的に示した概念図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る光電変換素子におけるポリマーの結合様式を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る光電変換素子に用いるフラーレン変性物を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る光電変換素子に用いるフラーレン変性物を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る光電変換素子の組成と光電変換効率との関係を示す図表である。」

(オ)「




(カ)「





イ 甲第2号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
フラーレン誘導体と、下記一般式(1)、(2)、又は(3)で表される構造を分子内に有する化合物αとを含有するフラーレン誘導体組成物であって、化合物αに対するフラーレン誘導体の濃度が1mg/mL以上であることを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
-(C=O)-N< (1)
-S(=O)- (2)
-S(=O)_(2)- (3)
【請求項2】
化合物αが、アミド類化合物、スルホキシド類化合物、及びスルホン類化合物よりなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1記載のフラーレン誘導体組成物。
【請求項3】
化合物αが、ドナー数10以上80以下のものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のフラーレン誘導体組成物。
【請求項4】
化合物αが、比誘電率が20以上150以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフラーレン誘導体組成物。
【請求項5】
化合物αが、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルホルムアミド、ホルムアミド、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホン、及びジメチルスルホキシドよりなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水酸化フラーレン組成物。
【請求項6】
フラーレン誘導体が、水酸化フラーレンであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のフラーレン誘導体組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のフラーレン誘導体組成物を含有する塗料を、基材に塗布した後、化合物αを気化させることを特徴とするフラーレン誘導体を含有する塗膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載のフラーレン誘導体組成物から、化合物αを除去することを特徴とするフラーレン誘導体を含有する粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体と特定の化合物とを含有する組成物、及びフラーレン誘導体を含有する塗膜又は粉体の製造方法に関するものである。更に詳しくは、高濃度でフラーレン誘導体を溶解したフラーレン誘導体溶液及びこの溶液を用いた塗膜又は粉体の製造方法に関するものである。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明は、溶媒キャスト法によっても十分な厚みを有するフラーレン類含有塗膜の形成やフラーレン類粉体の製造に用いるのに好適なフラーレン類を高濃度に含有するフラーレン類組成物を提供することを課題とする。」

(ウ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書において、フラーレン誘導体とはフラーレンの炭素原子に有機又は無機の原子団を結合させた化合物をいう。フラーレン誘導体の調製に用いるフラーレンとしては、C_(60)、C_(70)、C_(76)、C_(78)、C_(80)、C_(82)、C_(84)、C_(86)、C_(88)、C_(90)、C_(92)、C_(94)、C_(96)、C_(98)、C_(100)等又はこれら化合物の2量体、3量体等が挙げられる。これら中で、C_(60)、C_(70)、又はこれらの2量体、3量体が好ましい。フラーレンは1種類を単独で用いても、複数種を併用してもよい。複数種を併用する場合には、C_(60)及びC_(70)の混合物を用いるのが好ましい。C_(60)、C_(70)は構造がシンプルであり、一般的に用いられるアーク放電法や燃焼法における生成率が高いため、工業的に必要な量を確保し易い。特にC_(60)は構造が対称であるという利点もある。
【0010】
フラーレン誘導体としては、例えば、水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、ハロゲン(F、Cl、Br、I)化フラーレン、フレロイド、メタノフラーレン等が挙げられる。これらのうち、水素化フラーレン、水酸化フラーレン、又は酸化フラーレン、特に水酸化フラーレンが好ましい。なお、フラーレン誘導体は、1種類を単独で用いても、複数種を併用してもよい。」

(エ)「【0061】
本発明に係るフラーレン誘導体と化合物αとを含有する組成物は、基材上に適度な厚みの塗膜、表面被覆膜を形成させたり、制御された粒径の粉体を形成させることができるので、表面改質、表面保護、紫外線吸収、ラジカル捕捉などの機能を有する部材として、電池、太陽電池、燃料電池、構造材等に利用することができる。」

ウ 甲第3号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、日本語にして以下の事項が記載されている。なお、訳文は請求人が提出したもの(甲3’)を参照して合議体が作成した。
(ア)「[0005]したがって、ラジカル捕捉効率は、置換の増大による活性部位の数の変化、フラーレンケージにおけるひずみの損失による反応性低下、または分子内および/または分子間電子相互作用によるフラーレン反応性部位の電子親和性変化を含めた、多様な要因子、またはこれらの効果の組合わせによって影響されることがある。フラーレンケージにおける付加末端の型および/または数の相異により、フラーレンケージは対する変化し、著しく異なるラジカル捕捉効率を付与しうる。」

(イ)「[0015]1つまたは複数の実施態様では、化合物は、フラーレン環上に2から4個までのC(X)(Z)付加物を含む。
[0016]
1つまたは複数の実施態様では、フラーレンは、約60個から約120個までの炭素原子を含む。フラーレン化合物は、[5,6]フレロイドまたは[6,6]メタノフラーレンでありうる。XおよびZは、異なる。」

(ウ)「[0045]
種々の設定でのラジカル・スカベンジャーとしてのフラーレンの用途として、それは、フラーレンケージの電子親和性、エネルギーひずみ、反応性部位の数、立体利用性などを決定的に変化させることなく、フラーレンゲージのラジカル捕捉特性の高効率を、可能な最高の範囲まで維持するフラーレン誘導体を形成するのに有用である。さらに、それは、ラジカル・スカベンジャー効率の点で、それらのフラーレン基体と有意差があるとは言えない種々の官能性を示す多様な新たなフラーレン誘導体、例えば親油性、親水性または両親媒性フラーレンの形成に対処するフラーレン誘導体中間体を形成するために有用である。
[0046]
メタノ炭素に対する置換基として1つまたは複数の非電子求引基を有する種々のメタノフラーレンが開示される。フラーレンケージ上の電子求引の欠如または減少は、フラーレン分子のフリーラジカル捕捉能力を維持する助けになる。フラーレンの化学的および/または物理的機能は、フラーレンケージの代わりに、メタノ炭素付加物の変態により調節される。変態は、メタノフラーレンの親油性、親水性、両親媒性または他の特性向上用に供される。
[0047]
メタノフラーレンに関して使用される用語の場合、「付加物」については、それは、フラーレンケージにメチレン基を付加させて、シクロプロパン環を形成させることを意味する。シクロプロパニル付加物中の炭素原子は、メタノ炭素と称される。官能基を、メタノ炭素上の利用可能な部位に結合させうる。
[0048]
用語「フラーレン」は、サイズに関係なく5員または6員炭素環の両方を含むいずれかの閉鎖籠炭素化合物を総称するためにここで使用され、そして限定されないが、フラーレンC_(60)、C_(70)、C_(72)、C_(76)、C_(78)、C_(82)、C_(84)、C_(86)、C_(90)、C_(92)、およびC_(94)を含むことが意図される。」

(エ)「[0065]フラーレン誘導体[6,6]-フェニルC_(61)酪酸メチルエステル(PCBM)3は、ジアゾアルカンが1-フェニル-1-(3-メトキシカルボニル)プロピル)ジアゾメタンである、ジアゾアルカン付加反応を通して形成されるフラーレン誘導体の例である。PCBM3のようなシクロプロパニル基材のフラーレン誘導体(メタノフラーレン)のジアゾアルカン付加による合成は、攪拌しながら、ジアゾ化合物およびフラーレンC_(60)を合わせることによって達成されうる。
・・・
[0066]エステル官能基(例えば、化合物3中のメチルエステル)は、図2の反応略図で示される置換経路、図3で示されるトランスエステル化を通して、多量の化合物の都合のよい合成に対処する。PCBM3は、種々の官能性を示す無制限の量の新たなフラーレン誘導体を合成する化学的中間体として使用されうる。化合物3を、最初に、反応段階(a)[水性HCl/ACoH/1,2-ジクロロベンゼン(ODCB)]および(b)[SOCl_(2)/CS_(2)]を使用して、対応の酸塩化物3aに変換させる。その後、酸塩化物3aを、種々の基によって置換して、広範な官能化エステル誘導体を形成する。これの例は、文献から見出されうる(例えば、Hummelenら、J.Org.Chem.1995年、60巻532頁を参照)。したがって、図2では、メチル基を置換して、反応段階(c)[ROH/ピリジン;R=C12]を使用して、C12アルキルエステル4を、あるいは、反応段階(d)[ROH/ピリジン;R=C_(8)H_(17)O_(4)]を使用してポリエチレングリコールエステル5を形成する。代わりに、反応段階(e)[ROH/Bu_(2)SuO/1,2-ジクロロベンゼン/熱]を使用して、PCBM3を、トランスエステル化させて、トランスエステル化化合物6を得る。この方法による化合物4および5を含めた数種の化合物の合成は、下に記述される。」

(オ)「[0073]本発明に使用されるフラーレン分子は、いずれかのフラーレン、好ましくは、一般にC_(60)、C_(70)、C_(72)、C_(76)、C_(78)、C_(82)、C_(84)、C_(86)、C_(90)、C_(92)、およびC_(94)のような合成されたフラーレンでありうる。様々のフラーレンが、異なる用途のために他のものよりいっそう望ましい可能性がある。」

エ 甲第4号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、日本語にして以下の事項が記載されている。なお、訳文は請求人が提出したもの(甲4’)を参照して合議体が作成した。
(ア)「1 少なくとも1つの電子供与性材料と、少なくとも1つのフラーレン誘導体とを含む光活性層を有するフォトダイオードであって、フラーレン誘導体は少なくとも70個の原子の炭素クラスタと、炭素クラスタに結合した少なくとも1つの付加物とを含み、該付加物はフラーレン誘導体が電子供与性材料と適合性を有するように選択されることを特徴とするフォトダイオード。」(Claims 1.)

(イ)「フラーレンは、三次元構造を与える、殆どまたは全て炭素原子の共有結合原子のクラスタ(炭素クラスタとも称される)である。典型的な構造は、多かれ少なかれ球状(「サッカーボール」形状のC60フラーレンおよびさらに楕円形のC70フラーレンなど)および円筒形状(C500およびC540フラーレンなど)である。本発明に従う太陽電池のようなフォトダイオードにおけるフラーレン誘導体のフラーレン部分は、少なくとも70個の原子によって形成されたこのような炭素クラスタを含むいかなるフラーレンであってもよい。実際上の理由で、炭素クラスタを形成する原子の量は、好ましくは960個以下であり、さらに好ましくは、240以下であり、一層さらに好ましくは、96個以下であり、たとえばC_(70)、C_(76)、C_(78)、C_(80)、C_(82)、C_(84)、C_(86)、C_(88)、C_(90)、C_(92)、C_(94)またはC_(96)である。
随意的に、太陽電池のようなフォトダイオードは、いくつかの異なるフラーレン、たとえば、フラーレンと、フラーレンの異なる量の原子および/またはいくつかの異性体との混合物を含む。フォトダイオード中のフラーレンの一部が誘導体化されていないことも可能である。たとえば、実際上の見地から、一群の誘導体化されたフラーレンから本発明に従う電池を製造し、残りの量の未反応フラーレンが依然存在することが好ましいこともある。」(3頁29行?4頁15頁)

オ 甲第5号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(ア)「フラーレンとは、炭素が60個結合したフラーレンC _(60)とその類似物質の総称であり、サッカーボール状分子であるフラーレンC_( 60) 、ラグビーボール状分子であるフラーレンC _(70)をはじめ、炭素数 100以下のものではC_(76) 、C_(78) 、C_(82) 、C_(84) 、C_(90) 、C_(96) が知られている。」
」(1頁7?10行)

(イ)「これらフラーレンは、グラファイトや炭化水素を原料としてレーザー気化法、アーク放電法または燃焼法などによってススを発生させ、これを精製して得られる。ここで、フラーレンC _(60) の分離精製方法として、カラムクロマトグラフィー法、再結晶法、昇華法、超臨界抽出法、力リックスアレーンによる選択的包接沈殿化、溶解度差を利用した手法などが知られている。」(1頁17?22行)

カ 甲第6号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、日本語にして以下の事項が記載されている。なお、訳文は請求人が提出したもの(甲6’)を参照して合議体が作成した。

(ア)「我々は、物理学及び生物学への適用のためのC_(60)の可溶性誘導体の合成及び完全な特徴づけについて述べる。戦略の目的は、クラスターに間接的に結合した官能基を容易に変化させることができるために「モジュール」アプローチをとることであった。官能基は、親水性(例えば、ヒスタミド)又は疎水性(例えば、コレスタノキシ)でありうる。前者は、生物学研究用に、後者は、光検出器及び光ダイオードの製造における光誘導電子輸送効率の改善のための光物理研究用に調整した。重要な中間体であるカルボン酸は、通常の質量分析及び元素分析技術による特徴づけが困難であることが見出された。この問題は、MALDI-MSを用いることにより解決された。当カルボン酸は、重要な中間体である酸塩化物に容易に変換され、これが次に様々な誘導体に変換可能であった。C_(61) クラスターの両異性体([5,6]フレロイド及び[6,6]メタノフラーレン)を調製した。フレロイドの生成により、元の5員環上フェニル(phenyl-over-former pentagon)及び元の六員環上フェニル(phenyl-over-former hexagon)異性体の50:50混合物が生じた可能性もあるが、注目すべきことに、これらそれぞれの異性体の95:5混合物が得られた。フレロイド及びメタノフラーレンは、異なるサイクリックボルタモグラムを示し、前者は後者より34mV正側の電位で還元された。」(1頁要約)

(イ)「序論
C_(60)の官能基化のための多数の反応が存在する^(1-13)。我々のグループでは、これらのうちジアゾアルカンの付加を利用してきた。これらの付加体の一部の生物学的特性^(14-18)並びに材料特性^(19)の発見は、両分野における種々の研究に有用であるという汎用性のあるC_(61) 誘導体の調整の一般的戦略を我々が案出する動機となるものであった。特定の機能、すなわちエレクトロスプレー質量分析用のメタノフラーレンが説明されている^(20)。
そのアプローチは、in situ で生成させることができ、種々の部分(「ハンドル」)^(21)の結合のための、C_(60)化学と適合性がある官能基を有するような安定ジアゾ化合物の調製からなっている。ある程度の思索の後、我々は、以下の構造1の両異性体([5,6]フレロイドF及び[6,6]メタノフラーレンM)に決定した。我々の知る限り^(1)、フレロイドを生成する唯一のアプローチは、非対称ジアゾアルカンの付加である。カルベン付加は、メタノフラーレンのみを生成する^(1)。
フェニル環は、合成に好都合であり、フェニルケトンは、入手がより容易でより頑健であり、そのヒドラゾンは、対応するアルカンアルデヒドヒドラジンより安定である。我々は、トリメチレン鎖に決定した。その理由は、それが溶解性をもたらし、ボールとハンドル(1におけるCOX)との間の柔軟且つ不活性なスペーサーとしての役割を果たすのに十分長いものと我々が推測したことと、市販の化合物の一部でもあったからである。カルボキシ官能基は、最も汎用性があり、C_(60)の求電子性と適合性のある小数のものの1つである。
ここでは我々は、かなり改善された収率をもたらしたジアゾ化合物のin situ での補足の最初の結果を述べる。我々は、メタノフラーレン及びフレロイドの調製に関する十分な実験の詳細を示し、それらの特性の一部の簡単な説明を示す。我々は、架橋炭素上の2種の異なる置換基を有するフレロイドが1つの異性体のみを優先的に形成し、65度でメタノフラーレンへの異性化に対して安定であることも初めて示す。」(1頁左欄1行?2頁左欄16行、緒言)

(エ)「CH_(2)Cl_(2)を用いた溶離の際に、異性体であるビス付加体の混合物を含む留分が収集された。」(537頁左欄11?12行)

キ 甲第7号証の記載事項
2015年7月17日?29日に、昭和電工 先端技術開発研究所(土気)で、昭和電工株式会社 先端技術開発研究所 半導体材料開発グループ研究院 五十嵐 威史によって行われた実験結果であることが陳述された(甲第8号証参照)、[60]PCBMおよび[60]PCBM,[70]PCBM混合物の合成実験結果報告書には、以下のことが述べられている。

(ア)「合成は文献(J.Org.Chem.1995,60,532-538)に記載の方法に従って行った。但し、技術的な観点から実験結果に本質的な影響を及ぼさない範囲で実験条件の変更を行った。また、文献に詳細な記載が無い部分についても一般的な範囲で実験条件を設定した。」(1頁6?8行)

(イ)「3.実験操作」として、【A】[60]PCBMの合成、【B】[60]PCBM,[70]PCBM混合物の合成(C60 1.6mmol、C70 0.4mmol1,2-ジクロロベンゼン100ml溶液を添加)、【C】[60]PCBM酸化物の合成が行われたこと(1頁下から5行?4頁17行)

(ウ)「4.結果」として、「合成に用いた原料および得られたPCBMのHPLCによる分析結果を表1に示す。」とした上で、「原料であるC60およびC60-C70混合物のいずれにもC60酸化物が認められ、反応後の[60]PCBMおよび[60]PCBM-[70]PCBM混合物にも[60]PCBM酸化物が認められた。反応後の[60]PCBM酸化物の含有量は、原料中のC60酸化物の含有量よりも増加しているため、反応中に酸化物が生成していることがわかる。また、PCBMと[60]PCBM酸化物はカラムクロマトグラフィーでの分離が困難であり、文献(J.Org.Chem.1995,60,532-538)に従って合成した[60]PCBMへの[60]PCBM酸化物の混入は不可避であることがわかった。」(4頁19行?5頁4行)

ク 甲第9号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0025】すなわち、この実施の形態3では、図5(a)に示すように、内部に蒸発皿501を備えた真空容器を構成するチャンバ502を用いるようにし、このチャンバ502が真空ポンプ503により内部を真空排気することができる状態とし、また、このチャンバ502に、ガスボンベ504よりアルゴンガスが導入できるように構成した。そして、蒸発皿501上の蒸着源505として、フラーレン粉末を用いるようにした。このフラーレンは、図5(b)に示すように、たとえば60個の炭素511が球状に結合した分子となっているものである。なお、炭素60個からなるフラーレンだけではなく、炭素70個からなるフラーレンの粉末を用いるようにしてもよく、それらの混合体を用いるようにしてもよい。」

ケ 甲第10号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0028】硫酸水素エステル化ポリ水酸化フラーレンの部分エステル化したものの合成は次のようにして行われる。フラーレンの粉末(C60及びC70の混合体)2gを、発煙硫酸30ml中に投じ、窒素雰囲気中で60℃に保ちながら3日間攪拌する。得られた反応物を、氷浴内で冷やした無水ジエチルエーテル中に少しずつ投下する。但し、この場合のジエチルエーテルとしては、脱水処理が行われていないものを用いる。得られた沈殿物を遠心分離で分別し、さらにジエチルエーテルで3回、及びジエチルエーテルとアセトニトリルとを2:1に混合した混合液で2回洗浄した後で、40℃の温度にて減圧下で乾燥させる。以上の工程を経て、硫酸水素エステル化ポリ水酸化フラーレンの部分エステル化したものの合成が行われる。」

コ 甲第11号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第11号証には、日本語にして以下の事項が記載されている。なお、訳文は請求人が平成28年5月6日付口頭審理陳述要領書に記載したものを参照して合議体が作成した。

(ア)「図1は、トルエン又はクロロベンゼンを用いてスピンコートされた、MDMO-PPV(ポリ(2-メトキシ-5-(3^(*),7^(**),ジメチルオクチロキシ)-1,4-フェニレンビニレン)):PCBM(6,6-フェニルC_(61)酪酸メチルエステル)ブレンド膜の表面の原子間力顕微鏡(AFM)像を示す。それらの化合物の分子構造を図2に示す。」(841頁左欄下から3行?右欄4行)

(2)被請求人提出の各証拠の内容
ア 乙第1号証
(ア)「1.2.2 縮合環への橋かけ
オルトおよびペリ縮合の多環化合物(最多数の非集積二重結合をもつもの)に,さらに-CH_(2)-の橋がかかった化合物は,接頭語 methano メタノをつけて命名する。」(155頁)

イ 乙第2号証
(ア)「付加的な架橋を有する多少拡張された縮合系に関して、von Baeyer命名系は全く放棄されている。ここで、炭化水素名の・・・アン(ane)、・・・エン(ene)を、・・・アノ(ano)、・・・エノ(eno)に変換することにより派生する架橋表記が、接頭語として、およびABC順で、元の構造名に加えられる。」(32頁)

ウ 乙第3号証
(ア)「図9.1に示される親化合物はお互いに再編成しない11が、置換されたメチレン架橋を有する6,5-(開口)化合物は、熱的に13、光学的に14、電気化学的に15、または酸触媒反応下で16、熱化学的により安定な6,6-メタノフラーレンに再編成する17,18」(139頁21?最終行)
(イ)「6,5-ホモ-の、6,6-メタノ-フラーレンへの再編成の仮定メカニズム」
(図9.2のタイトル)

エ 乙第4号証
(ア)「[70]PCBM混合物のUV/Vis吸収が、[60]PCBMのUV/Vis吸収とともに、図1に示されている。可視領域における有意に高い吸収係数が、フォトダイオード、光検出器、および光電池での応用に最も関連する。」(3372頁右欄15?19行)

(イ)「PLクエンチング、および関連する電荷発生効率における、劇的な相違は、処理溶媒によるフィルムの形態の変化によって説明される。異なる溶媒が、変化した形態の結果としてフラーレン:PPV光電池の明確に異なる効率をもたらし得ることが示されている[6]。」(3373頁右欄40?45行)

(ウ)「クロロベンゼンからスピンコートされた装置の外部量子効率(EQE;すなわち、電流に変換される入射光子の割合)は0.2を超えず(図4a)、従って対応する[60]PCBM:MDMO-PPV電池のEQE(通常、0.5-0.55の間)よりもかなり低いままである。このことは、大きなメタノ[70]フラーレン領域に起因する、[70]PCBM励起の後の不完全な電荷発生によって理論的に説明できる。一方、ODCBから加工された光起電力装置のEQEは、かなり高く、480nmで0.66の最大値を有する。この値は、最適化された[60]PCBM:MDMO-PPV電池のEQEよりも高く、さらに[70]PCBMによる吸収の増加の結果としてスペクトル応答も有意に広い。」(3374頁左欄20行?右欄6行)

オ 乙第6号証
(ア)「様々な吸着剤および溶出液が、HPLCによってフラーレンを分離および分析するために用いられている。Lichrosorb Diol 吸着剤は、C60、C70およびより高いフラーレン、ならびにそれらの酸化物の分離に最も適している。」 (1588頁8?13行)

(イ)「フラーレンとその酸化物の分離のために最も便利なカラムはn-ヘキサンおよびn-ペンタンを含有する溶出液を用いたLiChrosorb Diol 充?カラムである。このカラムは、C60、C60酸化物、C70、C76、C78、C70酸化物およびC84の分離および分析に使用でき、C60に対する選択性はそれぞれ、1.33、1.53、2.00、2.20、2.27および2.87である。」(1589頁下から5行?1590頁2行)

(ウ)「フラーレン酸化物からのフラーレンの精製のために、活性化アルミナおよびシリカを用いることができる。フラーレン酸化物は溶液からそのような吸着剤に強く吸着し、酸化物がフラーレン試料から除去される。」(1590頁9?13行)

カ 乙第7号証
(ア)「IUPAC1993規則では母体炭化水素名としてannulene アンヌレンが採用された。最多数の非集積二重結合をもち、一般式CnHm又はCnHn+1(n>6)で表される不飽和単環炭化水素は[n]annulene [n]アンヌレンと命名する。」(48頁10?12行)

(3)甲第1号証に記載された発明
ア 前記(1)のア(ウ)での摘記によれば,「フラーレン変性物としては、C60、C70あるいはそれらの混合体の変性物が好ましい」との記載があり、「それらの混合体」とは、文脈からC60とC70の混合体であることが明らかであり、文言上は「C60、C70の混合体の変性物」が記載されているといえる。
そして、「フラーレン変性物について説明する。フラーレン変性物とは電荷輸送性を示し、フラーレンに種々の官能基を導入したものである。」との記載が同段落に記載されているのであるから、「フラーレン変性物」とは、フラーレンに種々の官能基を導入したフラーレン誘導体であるといえる。
そうすると,甲第1号証には,次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「C60のフラーレン誘導体とC70のフラーレン誘導体を含む変性物」

(4)対比・判断
本件発明1に対して
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
前記摘記ア(ウ)及び前記(3)に示されるとおり、甲1発明の「変性物」は、変性物の成分として、C60のフラーレン誘導体とC70のフラーレン誘導体を含むのであるから、組成物であるといえ、本件発明1の「組成物」に該当するので、

「C_(60)のフラーレン誘導体とC_(70)のフラーレン誘導体を含む組成物」という点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1-1:C_(60)フラーレン誘導体とC_(70)のフラーレン誘導体を含む組成物として、本件発明1が「(a)
(i)下記式Iaで表される化合物:
【化1】


(ii)下記式IIaで表される化合物:
【化2】


ここで
yは1であり;
Aはメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(60)フラーレンであり;
A'はメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(70)フラーレンであり;
Xは、アリール、アラルキル、またはチエニルであり;
Yは、未置換のまたは置換されたアルキルであり、該置換は、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキル、アルコキシル、アルケニル、-N(R^(1))_(2)、-C(O)R^(1)、-OC(O)R^(1)、-CO_(2)R^(1)または-N(R^(1))C(O)R^(1)の1つ以上での置換であり、ここで、R^(1)はそれぞれ独立してH、アルキル、アリール、またはアラルキルを表す、
・・・
(vi)0.001%から5%の累計範囲にある、一つ以上のC_(60)の酸化物、一つ以上のC_(70)の酸化物、一つ以上のC_(60)誘導体の酸化物、および一つ以上のC_(70)誘導体の酸化物、ここで、該C_(60)誘導体の酸化物は前記式Iaの化合物の酸化物であり、該C_(70)誘導体の酸化物は前記式IIaの化合物の酸化物である、および
・・・
を含む組成物;あるいは、
(b)
(i)下記式Ibで表される化合物:
【化4】


(ii)下記式IIbで表される化合物:
【化5】


ここで
yは1であり;
Bは-CH_(2)-N(R_(3)’)-C(HR_(1)’)-に結合するC_(60)フラーレンであり;
B’は-CH_(2)-N(R_(3)’)-C(HR_(1)’)-に結合するC_(70)フラーレンであり;
R_(1)’は置換されたアリールであり;さらに
R_(3)’はメチルである、

(vi)・・・一つ以上のC_(60)の酸化物、一つ以上のC_(70)の酸化物、一つ以上のC_(60)誘導体の酸化物、および一つ以上のC_(70)誘導体の酸化物、ここで、該C_(60)誘導体の酸化物は前記式Ibの化合物の酸化物であり、該C_(70)誘導体の酸化物は前記式IIbの化合物の酸化物である、および
・・・を含む組成物」であるのに対して、甲1発明では誘導体の構造が特定されていない点。
相違点1-2:C_(60)フラーレン誘導体とC_(70)のフラーレン誘導体を含む組成物において、本件発明1では、「一つ以上のC_(60)の酸化物、一つ以上のC_(70)の酸化物、一つ以上のC_(60)誘導体の酸化物、および一つ以上のC_(70)誘導体の酸化物、ここで、該C_(60)誘導体の酸化物は前記式Iaの化合物の酸化物であり、該C_(70)誘導体の酸化物は前記式IIaの化合物の酸化物である」あるいは、「一つ以上のC_(60)の酸化物、一つ以上のC_(70)の酸化物、一つ以上のC_(60)誘導体の酸化物、および一つ以上のC_(70)誘導体の酸化物、ここで、該C_(60)誘導体の酸化物は前記式Ibの化合物の酸化物であり、該C_(70)誘導体の酸化物は前記式IIbの化合物の酸化物である」を「0.001%から5%の累計範囲」で含むのに対して、甲1発明ではそれらの酸化物をその累計範囲で含むかどうか明らかでない点

イ 相違点についての検討
(ア)相違点1-1について
a「Aはメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(60)フラーレンであり」「A'はメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(70)フラーレンであり」との特定事項の解釈
当事者間に「Aはメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(60)フラーレン」との本件発明の特定事項の解釈について争いがあるので、この点に関して検討する。

(a)本件発明1の「式Iaで表される化合物」及び「式IIaで表される化合物」における「Aはメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(60)フラーレンであり」「A'はメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(70)フラーレンであり」との特定事項に関しては、本件明細書【0041】【0042】【0043】に「【0041】
メタノフラーレン
本発明のフラーレン誘導体の一例は、下記の一般構造を有するメタノフラーレンである。
【化4】


【0042】
-C(X)(Y)-基はよく知られたジアゾアルカン付加化学によって得られるように、メタノ架橋を介してフラーレンと結合し(W.Andreoni (ed.),The chemical Physics of Fullerenes 10 (and 5) Years Later,257-265,Kluwer,1996.)、XおよびYは、アリール、アルキル、または他の化学基であって、ジアゾアルカン付加を介して、ジアゾアルカン前駆体の修飾によってまたはジアゾアルカン付加後にフラーレン誘導体の修飾によって適当に結合されうる。最も一般的なのは、Xが非置換アリールであり、Yが酪酸-メチル-エステルである分子であって、その分子は一般にPCBMという。モノ付加体誘導体ではnは1であり、ビス付加体誘導体ではnは2であり、以下同様。
【0043】
C_(60)およびC_(70)メタノフラーレン誘導体の混合物は、非修飾C_(60)およびC_(70)フラーレンの混合物を誘導体化することによって調製されうる。たとえば、非修飾C_(60)およびC_(70)フラーレンの混合物を、[60]PCBM、[70]PCBM、および[84]PCBMの調製のためのHummelen et al.J.Org.Chem.1995,60,532 または 米国特許出願公開第2005/0239717号明細書に記載された条件に供することによって、[60]PCBM/[70]PCBMの混合物が調製されうる。Hummelen et al.および米国特許出願公開第2005/0239717号明細書の両方が参照により本開示に含まれる。最終混合物中の[60]PCBMの[70]PCBMに対する比は、誘導体化反応に用いられる出発物質中の、C_(60)フラーレンのC_(70)フラーレンに対する比を調整することによって変化させうる。あるいは、最終混合物中の[60]PCBMの[70]PCBMに対する比は、[60]PCBMおよび[70]PCBMの混合物を、本分野で知られたさまざまな分析的方法に供することによって調整されうる。」との記載がある。

これらの記載を参照すれば、【0041】には、メタノフラーレンの一般構造が示され、【0042】の記載によると、本件発明1には、「C_(60)フラーレンで表されるA」、又は「C_(70)フラーレンで表されるA'」にメタノ架橋として「-C(X)(Y)-」が付加された「メタノフラーレン」が含まれることが理解でき、最も一般的なものとして、Xが非置換アリールで、Yが酪酸-メチル-エステルであるPCBMが該当することが理解できる。

【0043】には、C_(60)およびC_(70)メタノフラーレン誘導体の混合物が、非修飾C_(60)およびC_(70)フラーレンの混合物を誘導体化することによって調製されうること、例示として、非修飾C_(60)およびC_(70)フラーレンの混合物を、[60]PCBM、[70]PCBM、および[84]PCBMの調製のためのHummelen et al.J.Org.Chem.1995,60,532 または 米国特許出願公開第2005/0239717号明細書に記載された条件に供することによって、[60]PCBM/[70]PCBMの混合物が調製されうることの記載がある。
そして、甲第6号証であるHummelen et al.J.Org.Chem.1995,60,532-538の中では[5,6]フレロイドFと[6,6]メタノフラーレンMは区別して論じられており、証拠としては提出されていないが、米国特許出願公開第2005/0239717号明細書も中でも、[5,6]フレロイドと[6,6]メタノフラーレンは区別して論じられ、フラーレン誘導体[6,6]-フェニルC_(61)酪酸メチルエステル(PCBM)が図とともに示されている。

本件明細書においては、[5,6]フレロイドが本件発明から除かれているとの明記はないものの、【0003】の【化1】の[60]PCBMの化学構造式や【0006】の【化2】の[70]PCBMの化学構造式でも、[6,6]の形で記載されていることを考慮すると、PCBMとは本件明細書においては、[6,6]のものと解釈することが妥当である。

そして、本件明細書においては、両方を総称してメタノフラーレンと定義している根拠も他にないため、本件発明1の「式Iaで表される化合物」及び「式IIaで表される化合物」における「Aはメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(60)フラーレンであり」「A'はメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(70)フラーレンであり」との特定事項に関しては、[6,6]メタノフラレ-ンを意図しているものと解釈することが相当である。

(b)一方、被請求人が提出した乙第1号証の「多環化合物(最多数の非集積二重結合をもつもの)に,さらに-CH_(2)-の橋がかかった化合物は,接頭語 methano メタノをつけて命名する」との記載、乙第2号証の「付加的な架橋を有する多少拡張された縮合系に関して、・・・炭化水素名の・・・アン(ane)、・・・エン(ene)を、・・・アノ(ano)、・・・エノ(eno)に変換することにより派生する架橋表記が、接頭語として、およびABC順で、元の構造名に加えられる。」との記載、乙第3号証の「置換されたメチレン架橋を有する6,5-(開口)化合物は、熱的に13、光学的に14、電気化学的に15、または酸触媒反応下で16、熱化学的により安定な6,6-メタノフラーレンに再編成する」との記載、甲第20号証の「1,5-メタノ[10]アヌレン」「1,6-メタノ[10]アヌレン」「1,7-メタノ[12]アヌレン」との記載(アヌレンについては、乙第7号証参照)は、このようなメタノフラーレンであるとの解釈と矛盾するものではない。

(c)一方、請求人は、甲第20号証を提出して、平成28年6月29日付け上申書において、環の一部となった「メチレン」基がメタノと命名されていることから、甲第1号証の図3に構造式が示されている[5,6]フレロイド化合物がメタノ架橋を有していないという理由にはならないと主張しているが(2?3頁)、たとえメタノ架橋を有するC60フラーレンが[5,6]フレロイド化合物を含まないことを直接意味しているとはいえないとしても、本件明細書の記載を考慮すれば、[6,6]のみに限定しているとの解釈が妥当であることは、上記のとおりである。

b 甲第1号証の【0021】段落の誘導体に関して
(a)【0021】には、「次に高分子複合膜から成る固体層3を構成するフラーレン変性物について説明する。フラーレン変性物とは電荷輸送性を示し、フラーレンに種々の官能基を導入したものである。具体的には、フラーレン変性物として、図3及び図4に示すような、ロージャー・テーラーの著書「Lecture notes on fullerene chemistry」(Imperial Colledge Press)に記載されているものを挙げることができる。勿論、これらに限定されるものではない。上記フラーレンとしては、安定性、安全性の点からC60、C70あるいはそれらの混合体が好ましい。つまり、フラーレン変性物としては、C60、C70あるいはそれらの混合体の変性物が好ましい。」と記載されているが、「C60、C70」の「混合体の変性物」として、「フラーレンに種々の官能基を導入したもの」を意味することは理解できるものの、「C60のフラーレン誘導体とC70のフラーレン誘導体を含む組成物」という概念として記載されているといえるだけで、誘導体として個々の「C60のフラーレン誘導体」や「C70のフラーレン誘導体」の化合物が製造できるように記載されているわけではない。
また、具体的記載としても、「図3及び図4に示すような、ロージャー・テーラーの著書「Lecture notes on fullerene chemistry」(Imperial Colledge Press)に記載されているもの」との記載からは、図3及び図4に示されているものが選択肢として理解できるといえる。「これらに限定されるものではない」との記載があっても、官能基として具体的に記載されているに等しいと認定できるのは、図3、図4に挙げられているものであるといえる。
そして、「ロージャー・テーラーの著書「Lecture notes on fullerene chemistry」(Imperial Colledge Press)」に相当する甲第16号証には、図9.1に、Pyrazoline[60]fullereneから熱的に分解して1(6)a-homo[60]fullerene が、光化学的に分解して、1,2?methano[60]fullerreneが形成されることが示されているだけで、乙第3号証には、環状付加物として、9.1?9.136の数多くの化合物が記載されているが、図3,4の例示化合物とも一致しない化合物が記載されているだけである。

(b)したがって、甲第1号証の図3及び図4に記載されている化合物には、本件明細書の上記Iaで表される化合物,上記式IIaで表される化合物,上記Ibで表される化合物,上記式IIbで表される化合物に該当するものも例示されていないのであるから、甲1発明において、フラーレン誘導体の構造として、本件発明1の上記化合物が特定して記載されているに等しいとはいえない。

c したがって、相違点1-1は実質的相違点である。

(イ)相違点1-2について
a 甲第1号証には、フラーレン変性物の製造方法の記載はまったくなく、甲1発明のフラーレン変性物に酸化物が含まれているか、どの程度含まれているかは技術常識を参酌しても不明である。

b 請求人は、甲1発明が本件明細書に記載された甲第6号証の製造方法で製造されたという前提のもと、甲第7号証の実験結果を提出しているが、甲第6号証の製造方法は、甲第1号証に記載されたものではなく、また、【0021】の混合体の変性物の製造方法として記載されたものに等しいとする事情もないので、甲第7号証の実験結果を参酌することはできない。

c また、請求人は、平成28年6月8日付け上申書において、甲第17号証の調査結果及び甲第16号証の参考文献に甲第6号証が挙げられていることを示し、甲第1号証に記載された発明のフラーレン変性物が、甲第6号証の製造方法で作られたものと解するのが自然であると主張しているので(7頁1?29行)、検討する。
甲第17号証の「甲第6号証の「PCBMの合成法」の周知程度」と題する調査結果には、検索方法と検索結果の記載があり、1995?2006年のヒット件数の記載があることが認められるものの、甲第1号証の【0021】の混合体の変性物の製造方法が甲第6号証であったことと上記調査結果に直接の関係はなく、具体的記載のない製造方法が実際どうであったかは全く不明である。
甲第16号証の参考文献に甲第6号証が挙げられているとしても、混合体の変性物の製造方法が記載されているわけでもないのだから、甲第1号証の【0021】の混合体の変性物の製造方法が甲第6号証であったことの根拠とはならない。

d したがって、相違点1-2は実質的相違点である。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということができない。
よって、請求人の主張する無効理由1には、理由がなく、本件発明1についての特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1により無効とすべきものではない。

2 無効理由2について
(1)請求人提出の各証拠の内容
ア 甲第1?11号証の記載事項
無効理由1で摘記したとおりである(1(1)ア?コ参照)。

イ 甲第12号証の記載事項
(ア)「有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率は、1986の1%から進展しなかった。フラーレンにも問題があったからである。有機溶媒に対する溶解度が悪く、電子供与体であるポリマーに対しフラーレンを高濃度で溶かすことができなかった。1995年、AJ.Heegerらの報告により第3のブレイクスルーが訪れた^(10))。溶解性フラーレン誘導体の登場と、導電性高分子とフラーレン誘導体を混ぜ合わせた電荷分離層を形成するバルクヘテロ接合の利用である。J.C.Hummelen.F.Wudlらが開発したPCBM(phenyl C61-butyric acid methyl ester、フェニルC61酪酸メチルエステル・・・)をC60の代わりに用いるとMEH-PPV:PCBM=20%:80%のブレンド溶液の調製が可能になり、これにより電子供与体と電子受容体の比を最適化することができるようになった。・・・2002年、C.J.Brabecはポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)・・・とPCBMを組み合わせて、エネルギー変換効率2.8%を達成したことを報告した^(12))。・・・P3HT-PCBMの組み合わせは、有機薄膜太陽電池の標準材料となった。・・・2006年頃のP3HT:PCBM標準素子の確立以降、新規材料の開発により、さらに変換効率が向上した。」(3頁左欄下から11行?4頁左欄2行)。

ウ 甲第13号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第13号証には、日本語にして以下の事項が記載されている。なお、訳文は請求人が提出したもの(甲13’)を参照して合議体が作成した。
(ア)「最も有望な材料の組み合わせの一つは、ドナーとしての半導体ポリマーとアクセプターとしてのフラーレン(c60誘導体)の混合物である
。」(33頁右欄2?5行)

(イ)「ドナーとして、ポリ[2-メトキシ-5-(3’,7’-ジメチルオクチロキシ)-p-フェニレンビニレン(MDMO-PPV)、および、アクセプターとして、3’-フェニル-3’H-シクロプロパ[1,9][5,6]フラーレン-C60-Ih-3’-酪酸メチルエステル(PCBM)(これらの化合物の構造を図1に示す)ベースにしたバルクヘテロ接合太陽電池において、模擬AM1.5照射下で2.5%を超えるという非常に魅力的な電力変換効率へ向けてのブレークスルーがあった^(7)。)」(33頁右欄18?28行)

(ウ)「結果的に、PCBMの代わりに、[70]PCBM(PCBMに類似するが、C60の代わりにC70を組み込まれたもの)をMDMO-PPVに組み合わせたときに、外部量子効率が50%程度?65%程度まで増加し、また、太陽電池の電流密度は50%増加し、電力変換効率は3.0%まで増大した。」(35頁左欄31?39行)

エ 甲第14号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第14号証には、日本語にして以下の事項が記載されている。なお、訳文は請求人が提出したもの(甲14’)を参照して合議体が作成した。

(ア)「Claims
1. 少なくとも1つの電子供与性材料と、少なくとも1つのフラーレン誘導体とを含む光活性層を有するフォトダイオードであって、フラーレン誘導体は少なくとも70個の原子の炭素クラスタと、炭素クラスタに結合した少なくとも1つの付加物とを含み、該付加物はフラーレン誘導体が電子供与性材料と適合性を有するように選択されることを特徴とするフォトダイオード。」(13頁1?5行)

(イ)「PCBM型の好ましい誘導体には、(メタノ)フラーレンの[6,6]位置で誘導体化された(メタノ)フラーレン、および[5,6]位置で誘導体化された(メタノ)フラーレンが含まれ、これらはフラーロイドまたはホモフラーレンとして知られる。」(7頁9?12行)

オ 甲第15号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第15号証には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 非晶質フラーレンおよびその誘導体の少なくとも一種を含有することを特徴とする光導電体。」

(イ)「【0131】実施例17
本実施例は、本発明を光導電性トナーに適用した例を示す。本発明に用いられるフラーレンは、キャリア発生効率が高いため、トナーへの混合は少量でよく、様々な色のトナーに用いることが出来る。
【0132】即ち、本実施例に用いたフラーレンは、トルエンに溶解した状態から急乾燥しトルエンを気化させる方法によって無定形化したものを用いる。このフラーレンは、C_(70)が80%,C_(60)が20%の組成からなる。」

(ウ)「【0143】実施例21
本実施例は、本発明を可視域の光センサに利用した例について示す。ITO上にAuを蒸着し、その上にビスフェノールZ型ポリカーボネート中に1,1,ビス(4-ジエチルアミノフェニル)-4,4′-ジフェニル-1,3ブタジエンを30wt%分子分散させた電荷輸送膜20μmを形成し、さらにその上にスパッタリングでC_(60)20%、C_(70)75%、その他5%のフラーレン類の膜を設けた。この膜の中性子散乱のスペクトルは5meV以下の領域でボソンピークを示した。」

カ 甲第16号証の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第16号証には、日本語にして以下の事項が記載されている。なお、訳文は請求人が提出したもの(甲16’)を参照して合議体が作成した。
(ア)「図9.1に示した親化合物は互いに変換しないが^(11)、置換メチレン架橋を有する6,5(開口)化合物は、熱的に^(13)、光化学的に^(14)、電気化学的に^(15)、あるいは、酸触媒の下で^(16)、熱化学的に安定な6,6メタノフラーレンに変換する^(17,18)

キ 甲第18号証の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第18号証には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項3】には、「フラーレン類及びフラーレン類一酸化物を含む煤状物質を芳香族炭化水素を含む抽出溶媒と混合して、フラーレン類及びフラーレン類一酸化物を含む抽出液を得る工程Bと、
前記抽出液、前記抽出液から一部の抽出溶媒を留去した濃縮液、または前記抽出液から全部の抽出溶媒を留去して得た固体を、100℃以上で加熱処理する工程Cと、
工程Cで得られた物質をカラム分離しフラーレンを得る工程D、
を有することを特徴とするフラーレン類の精製方法。」

(イ)「【0025】
工程C
フラーレン類及びフラーレン類一酸化物を含む抽出液は、そのまま又は一部濃縮して、あるいは抽出溶媒を全部留去した後、加熱炉19にて100℃以上の温度で加熱処理する。
使用する加熱炉の加熱方法は特に制限はなく、電気炉、燃焼炉等を用いることができる。
加熱の温度は120℃以上が好ましく、130℃以上が更に好ましい。また、1500℃以下が好ましく、1000℃以下が更に好ましい。加熱温度が低すぎるとフラーレン類一酸化物の消費が起こりにくい。加熱温度が高すぎるとエネルギーのロスが大きく、またフラーレン自体が分解する可能性がある。
・・・
【0030】
工程Cにおいて加熱処理する際の、フラーレン類一酸化物の量としては、フラーレン類に対して20モル%以下が好ましく、10モル%以下が更に好ましく、5モル%以下が特に好ましい。フラーレン類一酸化物の含有量が多すぎる場合は、フラーレン類の消費量が大きくなる。また、フラーレン類一酸化物の量の下限は特に限定されないが、フラーレン類に対して0.01モル%以上であるとき本発明を利用することが好適となる。」

ク 甲第19号証の記載事項
(ア)「【請求項1】 少なくとも2種以上のフラーレンを含むフラーレン混合物からC60を分離するフラーレンの精製方法であって、
前記フラーレン混合物及びカリックスアレーンを、該フラーレン混合物及び該カリックスアレーンが可溶で該カリックスアレーンが該C60を包接して形成される包接化合物が難溶又は不溶である第1の溶媒と接触させて、該C60と該カリックスアレーンとの包接化合物を得る第1工程と、
前記第1工程で得た前記包接化合物を、前記C60が可溶で前記カリックスアレーンが難溶又は不溶である第2の溶媒と接触させて、該C60と該カリックスアレーンとに分け、前記第2の溶媒に溶解した前記C60の溶液を分ける第2工程と、
前記第2工程で得た第2の溶媒に溶解した前記C60の溶液を、分離剤で処理して該C60の溶液中の不純物を分離する第3工程とを有することを特徴とするフラーレンの精製方法。」

(イ)「【実施例】
【0054】
燃焼法で製造した煤状物質A75gを不活性ガス、例えば窒素ガスを流通しながら、常圧〔1.013×10^(5 )Pa〕で400℃に加熱して、煤状物質A中の多環状芳香族炭化水素を昇華して、煤状物質Bを得た。この昇華除去工程に用いる装置(以下、昇華装置という)は、窒素ガスを連続的に供給する石英ガラス製の連続型の装置である。なお、昇華装置は、昇華条件に耐え得るものであればよく、バッチ式、固定床型、流動層型、及び連続型等のいずれでもよく、材質は、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス、及びガラス等がある。用いる不活性ガスは、昇華除去工程において、フラーレンと実質的に反応しない気体であり、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、及びこれらの混合物が使用される。
【0055】
昇華除去工程において、昇華装置内に酸素が存在していると、フラーレンと酸素が反応するので、この装置内の酸素の含有量は、10体積%以下、好ましくは5体積%以下、更に好ましくは1体積%以下にする。酸素の含有量が10体積%を超えるとフラーレンの酸化物が生成し易くなる。なお、窒素ガスは、400℃に加熱して昇華装置に供給し、その流通量は、煤状物質1gに対して、1?10000mL/min、好ましくは5?5000mL/minで行う。また、窒素ガスの流通は間欠的であってもよい。」

(2)被請求人提出の各証拠の内容
ア 乙第1?7号証の記載事項
無効理由1で摘記したとおりである(1(2)ア?カ参照)。

(3)甲第1号証に記載された発明
ア 理由1について、前記1(3)に示したとおり、甲第1号証には,次のとおりの甲1発明が記載されているといえる。

「C60のフラーレン誘導体とC70のフラーレン誘導体を含む変性物」

(4)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
1(4)の「ア 対比」で対比検討したとおり、本件発明1と甲1発明とを対比すると、
「C_(60)のフラーレン誘導体とC_(70)のフラーレン誘導体を含む組成物」という点で一致し、前記相違点1-1および前記相違点1-2の点で相違している。

(イ)相違点についての検討
a 相違点1-1について
(a)「Aはメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(60)フラーレンであり」「A'はメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(70)フラーレンであり」との特定事項の解釈については、無効理由1の1(1)アで検討したとおり、[6,6]メタノフラレ-ンを意図しているものと解釈することが相当である。

(b)平成28年6月8日付け上申書において、請求人は、甲第12?15号証を提出して、甲1発明及び周知の技術的事項から相違点1を構成することが容易である旨主張しているので検討する。

(c)甲第12号証は、頒布された刊行物であるかどうかは不明な証拠であるが、最終頁に2011年3月を意味すると考えられる「2011.3」との表記があるところ、「2006年頃」「P3HT-PCBMの組み合わせは、有機薄膜太陽電池の標準材料となった」旨の記載があり、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第13号証には、有望なヘテロ接合太陽電池の材料としては、半導体ポリマーとフラーレン(C60誘導体)の混合物が挙げられること、フラーレン誘導体の材料として、他の材料とともに、[60]PCBMや[70]PCBMが記載されている。
また、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第14号証には、電子供与材料と、電子受容材料としてのフラーレンに基づく、フォトダイオードに関して、[6,6]メタノフラーレンや[5,6]フレロイドの記載があり、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第15号証には、電荷発生効率の良好な光導電体に関して、C70が80%、C60が20%の組成からなる材料を用いること(実施例17)や、C60を20%、C70が75%、その他のフラーレン類(フラーレン誘導体)を5%用いる(実施例21)との記載がある。

(d)これらの証拠を総合すると、C60やC70のフラーレンの溶解性を向上するためにC60フラーレン誘導体やC70フラーレン誘導体が検討されていたこと(甲第12?15号証)、フラーレン誘導体として、フレロイド化合物だけでなくメタノフラーレン化合物も検討されていたこと(甲第14号証)が本件特許の優先日当時の技術常識として理解できる。
そして、甲第1号証の【0021】には、「次に高分子複合膜から成る固体層3を構成するフラーレン変性物について説明する。フラーレン変性物とは電荷輸送性を示し、フラーレンに種々の官能基を導入したものである。」との記載があった上で、「上記フラーレンとしては、安定性、安全性の点からC60、C70あるいはそれらの混合体が好ましい。つまり、フラーレン変性物としては、C60、C70あるいはそれらの混合体の変性物が好ましい。」と記載されていることを考慮すると、フラーレン変性物とは、フラーレンに種々の官能基を導入したつまり、フラーレン誘導体であることが理解できる。

(e)以上のことを考慮すると、甲1発明のC60のフラーレン誘導体とC70のフラーレン誘導体を含む変性物として、本件特許の優先日当時周知であったPCBMを誘導体として選択することは当業者であれば容易に想起できる技術的事項であり、相違点1-1の構成を採用することは容易に想到するものといえる。

b 相違点1-2について
(a)甲第1号証には、フラーレン変性物の記載に関して、フラーレン誘導体の混合物の具体的記載はなく、生成物に含まれる酸化物に関する記載が一切ない上に、その製造方法に関する記載もないことから、含まれる酸化物に関して何らかの示唆を与えるものでもない。

(b)甲第6号証には、[5,6]フレロイド及び[6,6]メタノフラーレンの調製及び電気化学的特性の検討がなされたことは記載されているが、生成物に含まれる酸化物に関する記載がなく、その量を調整することに関する記載もない。

(c)甲第1号証の【0021】に記載された「フラーレン変性物としては、C60、C70あるいはそれらの混合体の変性物が好ましい」との混合体の変性物と、甲第6号証の調製方法を結びつける記載はなく、前記混合体の変性物の製造方法として、C60単独の誘導体の製造方法である甲第6号証のものを採用する動機付けがあるわけではない。

(d)また、甲第7号証の実験結果は、甲第6号証には記載のないC60とC70を4:1のモル比の混合物を合成したものであって、甲第6号証の実験条件を変更したり記載のない部分を特定したものであり(摘記キ(ア)(イ)参照)、完全に甲第6号証の記載に基づいた実験結果であるとはいえない。
甲第7号証では、甲第6号証の実験条件が変更又は特定されており、フラーレン誘導体の酸化物の累計割合は、実験条件に敏感に影響を受けることは明らかである。

(e)そして、甲第6号証以外のどんな製造方法を用いても、甲1発明のC60のフラーレン誘導体とC70のフラーレン誘導体を含む変性物に、酸化物が0.001?5%の累計範囲になるというのであればともかく、そのような立証はなされていないため、甲第6号証の方法で作成された試料に酸化物が生成したからといって、他の方法で製造した場合にもフラーレンの酸化物やフラーレン誘導体の酸化物が含まれているのかは不明であり、甲第6号証は、C60単独の誘導体の製造方法であるから、そもそも誘導体の混合物にどの程度の酸化物が累計量で含まれるかを示唆するものではない。

(f)したがって、甲第7号証の実験結果は、甲第6号証の記載に基づいた追試であるとはいえず、そもそも甲第6号証の製造方法を甲1発明に採用する動機付けがないので、酸化物に関する記載も製造方法の記載もない甲第1号証に記載された発明から、フラーレン誘導体の混合物の酸化物を含めた酸化物が含まれること、およびそれらの酸化物の累計量の数値範囲を本件発明1の範囲とすることは、共に当業者が容易に想到するものとはいえない。

(g)請求人は、平成28年6月8日付け上申書において、甲第18,19号証を提出して、甲1発明及び周知の技術的事項から相違点1-2を構成することが容易である旨主張しているのでさらに検討する。

(h)甲第18号証には、フラーレン類の精製方法において、抽出液を得て、その後濃縮や固化をさせた後の、加熱処理をする工程において、フラーレン類一酸化物を分子量の高い物質に変換してカラム分離することが記載され、その加熱処理する際にフラーレン類一酸化物の量がどの程度存在するのが好ましいかを示す記載があり(摘記キ(イ)参照)、甲第19号証には、少なくとも2種以上のフラーレンを含むフラーレン混合物からC60を分離するフラーレンの精製方法において、C60とカリックスアレーンとの包接化合物を得る第1工程と、第2の溶媒と接触させて、C60とカリックスアレーンとに分け、前記第2の溶媒に溶解した前記C60の溶液を分ける第2工程と、前記第2工程で得た第2の溶媒に溶解した前記C60の溶液を、分離剤で処理して該C60の溶液中の不純物を分離する第3工程を有するものが示され、第1工程より前の煤状物質から多環状芳香族炭化水素を昇華させて除去する昇華除去工程において、昇華装置内に酸素が存在していると、フラーレンと酸素が反応するので、この装置内の酸素の含有量は、10体積%以下、好ましくは5体積%以下、更に好ましくは1体積%以下にすること、酸素の含有量が10体積%を超えるとフラーレンの酸化物が生成し易くなることから、装置内の酸素ガスの割合を制限すべきことに関して述べた記載があるだけである(摘記ク(ア)(イ)参照)。
したがって、甲第18、19号証からみて、フラーレン類を精製して使用すること、フラーレンの酸化物は精製の除去対象であることが読み取れるものの、請求人が主張するような「[60]PCBMを電子受容体として用いる場合において、不純物として生成された[60]PCBMの酸化物を含む、フラーレン及びフラーレン誘導体の酸化物を1%程度含むものを使うことは本件特許の優先日当時において通常行われていることである」ともいえないし、「酸化物を完全には除去できず、1%程度が残留することは[70]PCBMを電子受容体として用いる場合、並びに[60]PCBM及び[70]PCBMを電子受容体として用いる場合においても同様であることは当業者が容易に認識できる」との技術常識が存在していたともいえない。
むしろ、甲第18号証、甲第19号証に加えて乙第6号証の記載によれば、生成したフラーレン類に酸化物が混入していた場合には、精製の除去対象となっており、精製手段を施すことが優先日当時の技術常識であったといえる。

(i)そして、甲1発明において、本件特許の優先日当時の技術常識に基づけば、フラーレン生成過程で酸化物が形成される場合、酸化物を含んだままで精製せずに使用するとはいえないし、わざわざ酸化物をその量にしようとする動機がないのであるから、どのような精製方法で行っても酸化物が累計量で0.001%以上であることが立証されていればともかく、その範囲を0.001%から5%の累計範囲で含むとすることを容易に想到するとはいえない。

(j)したがって、甲1発明において、甲第1号証には、酸化物の存在に関する記載や、製造方法に関する記載が何ら存在していないところ、たとえ甲第6号証、甲第7号証を参照しても、フラーレン誘導体の酸化物を含めた複数の酸化物が特定の範囲含まれているとはいえないし、精製して用いることが本件特許の優先日当時の技術常識であるところ、相違点1-2の酸化物の累計範囲とすることは当業者が容易に想到するとはいえない。

c そうすると、相違点1-1については容易であるとしても、相違点1-2が容易であるとはいえないのであるから、全体として相違点を構成することが容易であるとはいえず、本件発明1の効果を論ずるまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?6号証に記載された発明及び技術常識に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

d 小括
したがって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、本件発明1についての特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由2により無効とすべきものではない。

イ 本件発明2について
(ア) 対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
前記1(1)摘記ア(ウ)及び(3)に示されるとおり、甲1発明の「変性物」は、変性物の成分として、C60のフラーレン誘導体とC70のフラーレン誘導体を含むのであるから、組成物であるといえ、本件発明2の「組成物」に該当するので、

「C_(60)のフラーレン誘導体とC_(70)のフラーレン誘導体を含む組成物」という点で一致し、以下の点で相違している。

相違点2-1:C_(60)フラーレン誘導体とC_(70)のフラーレン誘導体を含む組成物として、本件発明2が「(a)
(i)下記式Iaで表される化合物:
【化7】


(ii)下記式IIaで表される化合物:
【化8】


ここで
yは2であり;
Aはメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(60)フラーレンであり;
A'はメタノ架橋を介して-C(X)(Y)-に結合するC_(70)フラーレンであり;
Xは、アリール、アラルキル、またはチエニルであり;
Yは、未置換のまたは置換されたアルキルであり、該置換は、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキル、アルコキシル、アルケニル、-N(R^(1))_(2)、-C(O)R^(1)、-OC(O)R^(1)、-CO_(2)R^(1)または-N(R^(1))C(O)R^(1)の1つ以上での置換であり、ここで、R^(1)はそれぞれ独立してH、アルキル、アリール、またはアラルキルを表す、
・・・
(vi)0.001%から5%の累計範囲にある、一つ以上のC_(60)の酸化物、一つ以上のC_(70)の酸化物、一つ以上のC_(60)誘導体の酸化物、および一つ以上のC_(70)誘導体の酸化物、ここで、該C_(60)誘導体の酸化物は前記式Iaの化合物の酸化物であり、該C_(70)誘導体の酸化物は前記式IIaの化合物の酸化物である、および
・・・
を含む組成物;あるいは、
(b)
(i)下記式Ibで表される化合物:
【化10】


(ii)下記式IIbで表される化合物:
【化11】


ここで
yは2であり;
Bは-CH_(2)-N(R_(3)’)-C(HR_(1)’)-に結合するC_(60)フラーレンであり;
B’は-CH_(2)-N(R_(3)’)-C(HR_(1)’)-に結合するC_(70)フラーレンであり;
R_(1)’は置換されたアリールであり;さらに
R_(3)’はメチルである、

(vi)・・・一つ以上のC60の酸化物、一つ以上のC70の酸化物、一つ以上のC60誘導体の酸化物、および一つ以上のC70誘導体の酸化物、ここで、該C60誘導体の酸化物は前記式Ibの化合物の酸化物であり、該C70誘導体の酸化物は前記式IIbの化合物の酸化物である、および
・・・を含む組成物」であるのに対して、甲1発明では誘導体の構造が特定されていない点。
相違点2-2:C_(60)フラーレン誘導体とC_(70)のフラーレン誘導体を含む組成物において、本件発明2では、「一つ以上のC_(60)の酸化物、一つ以上のC_(70)の酸化物、一つ以上のC_(60)誘導体の酸化物、および一つ以上のC_(70)誘導体の酸化物、ここで、該C_(60)誘導体の酸化物は前記式Iaの化合物の酸化物であり、該C_(70)誘導体の酸化物は前記式IIaの化合物の酸化物である」あるいは、「一つ以上のC_(60)の酸化物、一つ以上のC_(70)の酸化物、一つ以上のC_(60)誘導体の酸化物、および一つ以上のC_(70)誘導体の酸化物、ここで、該C_(60)誘導体の酸化物は前記式Ibの化合物の酸化物であり、該C_(70)誘導体の酸化物は前記式IIbの化合物の酸化物である」を「0.001%から5%の累計範囲」で含むのに対して、甲1発明ではそれらの酸化物をその累計範囲で含むかどうか明らかでない点

(イ) 相違点についての検討
a 相違点2-1について
本件発明2に関する、相違点2-1は、本件発明1に関する相違点1-1と、本件発明2が式Iaで表される化合物、式IIaで表される化合物、式Ibで表される化合物、式IIbで表される化合物がビス付加体になっている点で相違しており、本件発明2ではそのような特定構造のビス付加体であるのに対して、甲1発明では誘導体の構造が特定されていない点である。
甲第1号証には、フラーレン変性物として、ビス付加体についてはまったく記載がなく、甲第2号証?甲第7号証を検討しても、甲第3号証摘記(イ)、甲第6号証摘記(エ)に、ビス付加体に関する記載はあるものの、甲1発明をビス付加体にする動機付けがない。
また、甲第11?16号証の本件優先日時点での技術常識を参酌しても、ビス付加体に関しての技術常識は読み取れない。

したがって、甲1発明において、相違点2-1の構成を採用することが容易に想到するものとはいえない。

b 相違点2-2について
本件発明2に関する、相違点2-2は、本件発明1に関する相違点1-2と、酸化物となる式Iaで表される化合物、式IIaで表される化合物、式Ibで表される化合物、式IIbで表される化合物がビス付加体である点で相違しており、本件発明2では、そのような特定構造のビス付加体の酸化物も含めて酸化物を「0.001%から5%の累計範囲」で含むのに対して、甲1発明ではそれらの酸化物をその累計範囲で含むかどうか明らかでない点である。

甲第1号証には、ビス付加体については何ら示されておらず、甲第2?7号証,および甲第18、19号証の本件優先日時点での技術常識を参酌してもビス付加体の酸化物に関して記載がないのであるから、本件発明1で検討したように、甲1発明において、製造方法がまったく記載されていないところ、例え甲第6号証、甲第7号証を参照しても、誘導体の酸化物を含めて酸化物を特定の範囲含んでいるとはいえないし、精製して用いることが技術常識であるところ、相違点2-2の累計範囲とすることは当業者が容易に想到するとはいえない。

(ウ)小括
したがって、本件発明2についての特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由2により無効とすべきものではない。

ウ 本件発明3?27について
本件発明3?27は、本件発明1,2の組成物に関して、それらの成分の組成割合や成分となる化合物をさらに特定したものであり、本件発明1,2で検討したとおり、甲第1号証記載の発明、甲第2?6号証記載の発明及び本件発明の優先日時点での技術常識に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

エ 本件発明28?57について
本件発明28?57は、本件発明1?27の組成物の用途又は材料の使用方法をさらに特定したものであり、本件発明1?27で検討したとおり、甲第1号証記載の発明、甲第2?6号証記載の発明及び本件発明の優先日時点での技術常識に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

オ 小括
したがって、本件発明1?57についての特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由2により無効とすべきものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1?57の特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1,2いずれの理由によっても無効すべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって結論のとおり決定する。
 
審理終結日 2016-07-28 
結審通知日 2016-08-01 
審決日 2016-08-23 
出願番号 特願2009-518643(P2009-518643)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (C07C)
P 1 113・ 113- Y (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩井 好子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 中田 とし子
瀬良 聡機
登録日 2014-06-27 
登録番号 特許第5568300号(P5568300)
発明の名称 フラーレン誘導体の混合物、および電子デバイスにおけるその使用  
代理人 樋口 洋  
代理人 小椋 正幸  
代理人 高橋 詔男  
代理人 河野 香  
代理人 荒 則彦  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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