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審決分類 審判 全部申し立て 特39条先願  G02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02F
管理番号 1336148
異議申立番号 異議2016-700225  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-16 
確定日 2017-11-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5789564号発明「液晶表示装置の視認性改善方法,及びそれを用いた液晶表示装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5789564号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-4〕,〔5,6〕,7について訂正することを認める。 特許第5789564号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5789564号の請求項1?7に係る特許についての出願(特願2012-132122号)は,平成21年11月12日を出願日とする特願2009-259054号(以下「原々出願」という。)の一部を,平成23年7月22日に新たな出願とした特願2011-160702号(以下「原出願」という。)について,さらにその一部を,平成24年6月11日に新たな出願としたものであって,平成27年8月7日に特許権の設定登録がなされ,その後,特許異議申立人森川真帆により請求項1乃至7に対して特許異議の申立て(以下「異議申立1」という。)がなされ,また,特許異議申立人北村仁により請求項1乃至7に対して特許異議の申立て(以下「異議申立2」という。)がなされたものである。以後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年10月20日:取消理由通知(同年10月26日発送)
平成28年12月26日:訂正請求書・意見書
平成29年 2月28日:通知書
(同年3月3日発送(異議申立1,2とも))
平成29年 3月30日:意見書(異議申立1)
平成29年 4月 3日:意見書(異議申立2)
平成29年 6月 5日:取消理由通知(決定の予告)
(同年6月9日発送)
平成29年 8月 8日:訂正請求書・意見書
平成29年 9月13日:通知書
(同年9月19日発送(異議申立1,2とも))
平成29年10月16日:意見書(異議申立1)
平成29年10月19日:意見書(異議申立2)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成29年8月8日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は,明細書,特許請求の範囲を訂正明細書,訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?7について訂正することを求めるものであって,以下の訂正事項1?7からなる(以下,訂正事項1?7をまとめて「本件訂正」という。)。
(当審注:下線は,請求人が付したものである。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,
「前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)を配して用いる」
とあるのを,
「前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)を,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いる」
と訂正すること。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の末尾に「前記高分子フィルムの特徴; 直交ニコル間の対角位に前記高分子フィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。」を追加すること。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5において,
「凡そ45度」
とあるのを,
「30?60度」
と訂正すること。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5の末尾に「前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴; 直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。」を追加すること。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6において,
「前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みが25?500μmであることを特徴とする」
とあるのを,
「前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みが38?200μmであり,前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△N)が0.0980?0.1076であることを特徴とする」
と訂正すること。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7において,請求項6への従属を解消するとともに,請求項5を引用する部分を独立した形に書き下して,
「バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,
バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに,
前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを,前記偏光板の吸収軸と前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置。
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。」
と訂正すること。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0012】において
「 即ち,本発明は,以下の(i)?(ix)に係る発明である。
(i)バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに,前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)を配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。
(ii)前記高分子フィルムが配向ポリエステルフィルムであることを特徴とする前記液晶表示装置の視認性改善方法。
(iii)前記高分子フィルムの厚みが25?500μmであることを特徴とする前記液晶表示装置の視認性改善方法。
(iv)前記視認性改善方法を用いたことを特徴とする液晶表示装置。
(v)前記視認性改善方法に用いることを特徴とする高分子フィルム。
(vi)バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに,前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを,前記偏光板の吸収軸と前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。
(vii)前記高分子フィルムの厚みが25?500μmであることを特徴とする前記液晶表示装置の視認性改善方法。
(viii)前記視認性改善方法を用いたことを特徴とする液晶表示装置。
(ix)前記視認性改善方法に用いることを特徴とする高分子フィルム。」
とあるのを
「 即ち,本発明は,以下の(i)?(vii)に係る発明である。
(i)バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに,前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)を,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。
前記高分子フィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記高分子フィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。

(ii)前記高分子フィルムが配向ポリエステルフィルムであることを特徴とする前記液晶表示装置の視認性改善方法。
(iii)前記高分子フィルムの厚みが25?500μmであることを特徴とする前記液晶表示装置の視認性改善方法。
(iv)前記視認性改善方法を用いたことを特徴とする液晶表示装置。
(v)バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに,前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを,前記偏光板の吸収軸と前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。
(vi)前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みが38?200μmであり,
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△N)が0.0980?0.1076であることを特徴とする前記液晶表示装置の視認性改善方法。
(vii)バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,
バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに,
前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを,前記偏光板の吸収軸と前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置。
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。」と訂正する。

2 当審の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的の適否
請求項1に係る訂正事項1は,偏光板と,その視認側に配される高分子フィルムについて,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配することとして,それらの位置関係を限定するものであるから,当該訂正事項は,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項追加の有無
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には,
「【0027】
高分子フィルムを配する際は,偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるようにすることが望ましい。これによりサングラスなどの偏光板がどのような角度であっても高い透過光を得ることができる。なお,上記角度は厳密に45度である必要はなく,本発明の効果を損なわない範囲であれば,必要に応じて適宜調節しても良い。前記角度の好ましい範囲は30?60度,より好ましくは40?50度である。」
との記載があり,当該記載によれば,本件明細書には,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることが記載されている。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
訂正事項1は,上記アのとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的の適否
請求項1に係る訂正事項2は,高分子フィルムについて,その特徴を,直交ニコル間の対角位に前記高分子フィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となるものとして,前記高分子フィルムを限定するものであるから,当該訂正事項は,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項追加の有無
本件明細書には,
「【0020】
本発明では,前記偏光板の視認側に特定範囲のリタデーションを有する高分子フィルムを配することを特徴とする。本発明者は複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状に着目し,本発明の着想を得たものである。すなわち,光源の発光スペクトルと複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状とが相似となることで視認性が顕著に改善することを見出し,本発明に至ったものである。具体的に,本発明の構成により視認性が改善するという効果は以下の技術思想による。」,及び,
「【0044】
また,図3には,Re=8000nmにおいて直交ニコルを透過した光のスペクトルを示す。図中,P(λ)が光源(白色LED)の発光スペクトル,T(λ)が透過光のスペクトルである。透過光スペクトルの包絡線が光源の発光スペクトルの形状に相似となる形状を有していることから,一定となった配向ポリカーボネートフィルムの干渉色は,実効的に光源の発光スペクトルからなることが明らかとなった。また,透過光の強度は光源の強度の1/4になることが確認された。」との記載があり,これらの記載とともに,願書に添付した図面である図3を参照すると,本件明細書には,前記訂正事項2に係る高分子フィルムの特徴が記載されているといえる。
よって,訂正事項2は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
訂正事項2は,上記アのとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的の適否
請求項5に係る訂正事項3は,偏光板の吸収軸と配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角について,訂正前の「凡そ45度」から,訂正後の「30?60度」として,その角度範囲を明確にしたものであるから,当該訂正事項は,特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 新規事項追加の有無
前記(1)イに摘記したとおり,本件明細書の段落【0027】には,偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることが記載されている。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
訂正事項3は,上記アのとおり,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的の適否
請求項5に係る訂正事項4は,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムについて,その特徴を,直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となるものとして,前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを限定するものであるから,当該訂正事項は,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項追加の有無
前記(2)イに摘記したとおり,本件明細書の段落【0020】及び【0044】並びに願書に添付した図面である図3を参照すると,本件明細書には,高分子フィルムの特徴が記載されているところ,本件明細書】には,更に,
「【0028】
本発明に用いられる高分子フィルムの材質は,特に制限されるものではなく任意である。例えば,ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル,ポリカーボネート,ポリスチレン,ポリエーテルエーテルケトン,ポリフェニレンサルファイド,シクロオレフィンポリマー等が例示される。その中でも特に好ましい素材として,ポリカーボネート,及びポリエステルが例示される。これらの樹脂は透明性に優れるとともに,熱的,機械的特性にも優れており,延伸加工によって容易にリタデーションを制御することができる。特に,ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは固有複屈折が大きく,フィルムの厚みが薄くても比較的容易に大きなリタデーションが得られるので,最も好適な素材である。
【0029】
次に,本発明における高分子フィルムは特定の複屈折性を有するため配向フィルムを用いることが望ましいが,その製造方法は,本発明で規定したフィルム特性を満足する限り,特に限定されるものではない。」
との記載があり,前記段落【0020】及び【0044】に記載された高分子フィルムとして配向したポリエチレンテレフタレートが記載されているといえるから,本件明細書には,前記訂正事項4に係る配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴が記載されているといえる。
よって,訂正事項4は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
訂正事項4は,上記アのとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項5
ア 訂正の目的の適否
請求項6に係る訂正事項5は,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムについて,その厚さを訂正前の「25?500μm」から,「38?200μm」へと範囲を狭めるとともに,「配向ポリエチレンテレフタレートフィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△N)が0.0980?0.1076である」ものとして,その屈折率異方性を限定するものであるから,当該訂正事項は,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項追加の有無
本件明細書の段落【0054】には,
「【表1】


との記載があり,当該記載によれば,本件明細書には,前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みが38?200μmであり,前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△N)が0.0980?0.1076であることが記載されている。よって,訂正事項5は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
訂正事項5は,上記アのとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,この訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項5は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(6)訂正事項6
ア 訂正の目的の適否
訂正事項6は,特許請求の範囲の請求項7において,請求項6への従属を解消し,請求項5を引用する部分を独立した形に書き下すとともに,上記訂正事項3及び訂正事項4と同じ訂正をしたものである。
よって,訂正事項6は,特許法第120条の5第2項第4号に掲げる,「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするとともに,前記(3)ア及び(4)アでそれぞれ検討したとおり,特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明,及び特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項6の目的の一つである「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」は,新たな技術事項を導入するものではない。
また,前記訂正事項3及び訂正事項4と同じ訂正についても,前記(3)イ及び(4)イでそれぞれ検討したとおり,新たな技術事項を導入するものではない。
よって,訂正事項6は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
訂正事項6は,上記アのとおり,「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするとともに,明瞭でない記載の釈明,及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから,これらの訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,訂正事項6は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(7)訂正事項7
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4は,明細書の段落0012を,訂正事項1?6に伴って,特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,該訂正は,特許法第120条の5第2項第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項追加の有無
訂正事項7は,明細書の段落0012を,訂正事項1?6に伴って,特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,上記(1)?(6)で検討したとおり,該訂正は,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張,変更の存否
訂正事項7は,明細書の段落0012を,訂正事項1?6に伴って,特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,該訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。よって,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。
エ 願書に添付した明細書の訂正にかかる請求項について
訂正事項7は,明細書の段落0012を,訂正事項1?6に伴って,特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるものであるから,訂正事項7による明細書の訂正にかかる請求項は請求項1?7である。すなわち,訂正事項7は,訂正前の一群の請求項1?4,及び訂正前の一群の請求項5?7を含む全ての請求項を対象とするものであって,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

(8)一群の請求項について
訂正前の請求項1?4は一群の請求項であるところ,訂正事項1,2に係る訂正は,当該一群の請求項ごとに請求されたものである。また,訂正前の請求項5,6は一群の請求項であるところ,訂正事項3?5に係る訂正は,当該一群の請求項ごとに請求されたものである。また,訂正事項6によって,請求項7は他の請求項の記載を引用しないものとなり,引用関係が解消された。よって,本件訂正請求は特許法120条の5第4項の規定に適合する。

(9)むすび
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号,第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項[1?4],[5,6],7について訂正を認める。

第3 訂正発明
上記のとおり,本件訂正が認められたので,本件特許の訂正後の請求項1?7に係る発明は,請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,
バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに,
前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)を,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。
前記高分子フィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記高分子フィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。
【請求項2】
前記高分子フィルムが配向ポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置の視認性改善方法。
【請求項3】
前記高分子フィルムの厚みが25?500μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶表示装置の視認性改善方法。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の視認性改善方法を用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項5】
バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,
バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに,
前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを,前記偏光板の吸収軸と前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。
【請求項6】
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みが38?200μmであり,前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△N)が0.0980?0.1076であることを特徴とする請求項5に記載の液晶表示装置の視認性改善方法。
【請求項7】
バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,
バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに,
前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを,前記偏光板の吸収軸と前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置。
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。」

(以下,順に「訂正発明1」?「訂正発明7」といい,「訂正発明1」?「訂正発明7」を合わせて「訂正発明」という。)

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1?7に係る特許に対して,当審が特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

1 理由1(第29条第2項)
請求項1?7に係る発明は,当業者が甲第1号証?甲第10号証に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
甲第1号証: 特開平6-258634号公報
甲第2号証: 特開2000-208815号公報
甲第3号証: シャープ技報第99号,2009年8月,20?22頁
甲第4号証: 題名「液晶バックライト用の白色LEDの試作に成功」の
発表資料,独立行政法人物質・材料研究機構,
平成20年3月19日記者会において配付
甲第5号証: NEC技報,Vol.60,No.3/2007,
87?90頁
甲第6号証: 特開平10-107325号公報
甲第7号証: 特開平10-242513号公報
甲第8号証: 特開2002-198573号公報
甲第9号証: 特開2003-179259号公報
甲第10号証:特開平9-314782号公報

2 理由2(第39条第2項)
請求項6及び7に係る発明は,それぞれ,本出願と同日の出願である甲第11号証の請求項1及び請求項3に係る発明と同一であり,しかも,甲第11号証に係る発明は既に特許となっており,協議ができないものである。
甲第11号証:特許第4888853号公報

3 理由3(第36条第6項第1号)
本件明細書の段落【0010】に記載された,本件発明が解決しようとする課題は,サングラスなどの偏光板を通して画面を観察した時,その観察角度によらず高度に良好な視認性を確保することができる液晶表示装置を提供することにあり,そのためには,同段落【0026】?【0027】に記載されたとおり,「本発明に用いられる高分子フィルムは,液晶セルの視認側に配した偏光板の視認側に,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して使用される」こと(以下「事項1」という。)と,同段落【0025】に記載されたとおり,「幅広い発光スペクトルを有する白色LEDを光源に用いる」ことを備える必要があるが,本件請求項1?4に係る発明は,上記事項1を備えないので,前記本件発明が解決しようとする課題を解決できるものではなく,請求項1?4の記載は本件明細書に記載されたものではない。

第5 取消理由についての判断
1 理由1について(訂正発明1に対して)
(1)甲1発明
ア 甲第1号証(特開平6-258634号公報)には以下の各記載がある(下線は当審で付加。以下同様。)。

「【請求項1】 2枚の透明基板で液晶層が挾持され,該2枚の透明基板の外側にそれぞれ偏光板が配置され,前記液晶層の一方の面で表示されてなる液晶表示デバイスであって,前記液晶層の表示面側に配置されたフロント側偏光板の前面に位相差板が配置され,該位相差板はその光学軸が前記フロント側偏光板の吸収軸とほぼ35°?55°の角度をなすように配置されると共に,前記位相差板のリターデイションがほぼ4000nm以上の範囲に設定されてなる液晶表示デバイス。」

「【0006】本発明の目的は,偏光めがねをかけた観測者がどの方向から眺めても,表示面が偏った着色にならないで,確実に視認できる液晶表示デバイスを提供することにある。」

「【0009】
【作用】本発明によれば,フロント側偏光板の前面に位相差板を配設し,位相差板の光学軸の方向とフロント側偏光板の吸収軸の方向とのなす角度をほぼ35°?55°にすると共に,そのリターデイションΔn・dをほぼ4000nm以上に設定しているため,位相差板の複屈折性により常光線と異常光線とのあいだの位相のズレが1/4波長となる波長の光が,可視光の全波長領域(380nm?780nm)にわたって多数存在する。すなわち青色波長領域(380?500nm),緑色波長領域(500nm?600nm),赤色波長領域(600nm?780nm)のいずれの波長領域においても,透過率のわるい波長もある反面,透過率のよい波長が存在し,各色領域で,円偏光に近い楕円偏光になる。そのため,一定方向の吸収軸を有する偏光めがねを使用して,液晶表示デバイスをどの方向から見ても表示される色によって表示面が見づらくなったりすることがなく良好に認識することができる。」

「【0010】
【実施例】つぎに,図面を参照しながら本発明を説明する。図1は本発明のTN型液晶表示デバイスを偏光めがねをかけて眺めたばあいの偏光めがねの吸収軸の方向などを示す分解説明図,図2は液晶セルに電界を印加したばあいに,位相差板から出た種々の波長の光の偏光めがねの透過率を表わすグラフである。
【0011】図1において,液晶層が2枚の透明基板に挾持された液晶セル1の両側にフロント側偏光板2およびリア側偏光板3が配設され,表示面側であるフロント側偏光板2の表面側にさらに位相差板4が配設されている。また裏面側には光源5が配設されている。液晶材料としては,たとえばTN液晶が用いられ,両透明基板間で90°のねじれが生じるため,両側の透明基板に設けられるラビング方向は,たとえば図1にA,Bで示されるように90°の方向をなしている。また両偏光板2,3の吸収軸の方向C,Dは図1に示すように,フロント側とリア側とで同じ方向にして,ネガ型TN液晶表示デバイスを構成している。6は偏光めがねを示し,位相差板4の光学軸の方向をE,偏光めがね6の吸収軸の方向をFで示している。位相差板4は,フロント側偏光板2の前に一定の間隙をあけて配置してもよいし,フロント側偏光板2の表面に密着または接着してもよい。また位相差板4の表面をアングレア処理し,乱反射機能をもたせてもよい。こうすることにより液晶表示パネル表面における外光反射による視認性低下を防止する効果がある。位相差板4はたとえばポリカーボネートなどの異常光線と常光線とのあいだで位相差を生じるフィルムからなり,高分子材料が熱延伸され,一軸延伸高分子フィルムに形成されている。また位相差板4は,雲母,人工雲母,水晶などの無機物により作製することもできる。位相遅れ(リターデイション)Rと屈折率ne,noとのあいだには
R=|ne-no|×d=Δn・d
の関係が成り立つ。ここで,dは板材の厚さ,neは異常光線に対する屈折率,noは常光線に対する屈折率である。
【0012】前述のように表示面側に偏光板が配設された液晶表示デバイスでは,フロント側偏光板2から出射した光は,フロント側偏光板の吸収軸の方向と一致する直線偏光となっているが,本発明では位相差板4を配設しているため,位相差板4を透過する際に常光線と異常光線との間に位相のずれが生じ,楕円偏光に変わる。したがって位相差板4を配設することにより,偏光めがね6をかけて液晶表示デバイスを観賞したばあいでも,一般的にはどの方向からでも観賞できる筈である。しかし,光の波長と位相差板の厚さによっては殆ど直線偏光となったり,短軸が短い楕円偏光となったり,また可視光の波長領域は広く,波長によっては見づらい部分が生じ,見る方向によって見づらいばあいが生じる。そこで本発明者らは位相差板の光学軸の方向や厚さを種々変えて鋭意検討を重ねた結果,位相差板4をフロント側偏光板2の表面側に配置すると共に,位相差板4の光学軸方向Eとフロント側偏光板2の吸収軸方向Cとのなす角度(鋭角)αをほぼ35°?55°にし,同時に位相差板のリターデイションΔn・dをほぼ4000nm以上にすることにより,偏光めがねをかけてどの方向から観賞しても良好に視認できることを見出した。
【0013】前述の構成の液晶表示デバイスを製造し,位相差板4をフロント側偏光板2の表面に密着させ,位相差板4の光学軸の方向Eとフロント側偏光板2の吸収軸の方向Cとのなす角度αを,0?90°のあいだで5°または10°ずつ変えると共に,それぞれの角度αに対し,位相差板のリターデイションΔn・dを500?10000nmの範囲で変化させた。それぞれのリターデイションΔn・dの値と角度αのときに,偏光めがね6の吸収軸Fを360°回転させながら,観測者7が目視により液晶表示面の視認特性を測定した。表1にその結果を示す。
【0014】
【表1】

【0015】表1から明らかなように,リターデイションΔn・dがほぼ4000nm以上で,かつ,角度αがほぼ35°?55°の範囲では,偏光めがね6の吸収軸方向Fを360°どの方向に向けても液晶表示面が認識できた。とくにリターデイションが5000nm以上で,かつ,角度αが45°の範囲で認識状態が最も優れており(表1のa),またリターデイションが5000nm以上で,かつ,角度αが40°?50°の範囲でも良好に認識でき,好ましかった(表1のb)。さらにリターデイションが4000nm以上で,かつ,角度αが35°?55°の範囲でもやや視認特性は低下したが認識はできた(表1のc)。また,偏光めがねの角度によっては認識できないものを-で示した。
【0016】本発明ではリターデイションが大きな位相差板を使用しているため,位相差板に入射する直線偏光の波長の違いがわずかであっても,位相差板による常光線と異常光線との位相のズレは大きなものとなり,図2に示すように,位相のズレが1/4波長となる波長の光が可視光の波長領域に多数存在する。そのため,前述の角度αがほぼ35°?55°,位相差板のリターデイションをほぼ4000nm以上にすることにより,偏光めがねをかけてどの方向から見ても,液晶表示デバイスの表示画面を認識することができる。」

「【0020】
【発明の効果】本発明によれば,液晶表示デバイスのフロント側偏光板の前面に,ほぼ4000nm以上のリターデイションを有し,その光学軸が特定方向を向いた位相差板を配置しているため,偏光めがねをかけてどの方向から眺めたばあいでも,可視領域の各色を認識することができ,液晶表示面を明確に認識することができる。その結果,偏光めがねをかけて運転することが多いドライバーなどが,自動車内の計器類を見るばあいでも常に視認することができ,運転に支障をきたすことがない。」

イ 上記各記載から,甲第1号証には,「液表表示デバイス」を「偏光めがねをかけた観測者がどの方向から眺めても,表示面が偏った着色にならない」ようにする方法として,次の発明(以下「甲1A発明」)が記載されているものと認められる。
「2枚の透明基板で液晶層が挾持され,該2枚の透明基板の外側にそれぞれ偏光板が配置され,前記液晶層の一方の面で表示され,裏面側には光源5が配設されてなる液晶表示デバイスにおいて,一定方向の吸収軸を有する偏光めがねを使用して,液晶表示デバイスをどの方向から見ても表示される色によって表示面が見づらくなったりすることがなく良好に認識することができるようにする方法であって,前記液晶層の表示面側に配置されたフロント側偏光板の前面に位相差板を配置し,該位相差板は,たとえばポリカーボネートなどの異常光線と常光線とのあいだで位相差を生じるフィルムからなり,その光学軸が前記フロント側偏光板の吸収軸とほぼ35°?55°の角度をなすように配置すると共に,前記位相差板のリターデイションがほぼ4000nm以上の範囲に設定される,方法。」

ウ また,上記各記載から,甲第1号証には,「液晶表示デバイス」として次の発明(以下「甲1B発明」)が記載されているものと認められる。

「2枚の透明基板で液晶層が挾持され,該2枚の透明基板の外側にそれぞれ偏光板が配置され,前記液晶層の一方の面で表示され,裏面側には光源5が配設されてなる液晶表示デバイスにあって,前記液晶層の表示面側に配置されたフロント側偏光板の前面に位相差板が配置され,該位相差板は,たとえばポリカーボネートなどの異常光線と常光線とのあいだで位相差を生じるフィルムからなり,その光学軸が前記フロント側偏光板の吸収軸とほぼ35°?55°の角度をなすように配置されると共に,前記位相差板のリターデイションがほぼ4000nm以上の範囲に設定され,一定方向の吸収軸を有する偏光めがねを使用して,液晶表示デバイスをどの方向から見ても表示される色によって表示面が見づらくなったりすることがなく良好に認識することができる液晶表示デバイス。」

なお,甲1A発明及び甲1B発明を併せて「甲1発明」という。

(2)対比
ア 甲1A発明の,「2枚の透明基板で液晶層が挾持され」たもの,「前記液晶層の表示面側に配置されたフロント側偏光板」,「裏面側に」「配設され」た「光源5」,及び「液晶表示デバイス」は,それぞれ,訂正発明1の「液晶セル」,「液晶セルの視認側に配した偏光板」,「バックライト光源」,及び「液晶表示装置」に相当する。

イ(ア)甲1A発明の,「前記液晶層の表示面側に配置されたフロント側偏光板の前面に位相差板を配置し,該位相差板は,たとえばポリカーボネートなどの異常光線と常光線とのあいだで位相差を生じるフィルムからなり,その光学軸が前記フロント側偏光板の吸収軸とほぼ35°?55°の角度をなすように配置すると共に,前記位相差板のリターデイションをほぼ4000nm以上の範囲に設定す」ることと,訂正発明1の「前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)を,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いる」こととを対比する。
(イ)甲1A発明の「前記液晶層の表示面側に配置されたフロント側偏光板の前面に」「配置」した「位相差板」であって,「たとえばポリカーボネートなどの異常光線と常光線とのあいだで位相差を生じるフィルムからなり」「リターデイションをほぼ4000nm以上の範囲に設定」したものは,訂正発明1の「前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)」に相当する。
(ウ)甲1A発明の「該位相差板」「の光学軸が前記フロント側偏光板の吸収軸とほぼ35°?55°の角度をなすように配置する」ことは,訂正発明1の「前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いる」ことを対比すると,甲1A発明の「該位相差板」「の光学軸」が「遅相軸」であるとの明記はない一方,訂正発明1の「高分子フィルムの遅相軸」の「遅相軸」が光学的な軸であることは明らかであるから,両者は,「前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの光学的な軸とのなす角が30?60度となるように配して用いる」点で一致する。
(エ)以上から,甲1A発明の,「前記液晶層の表示面側に配置されたフロント側偏光板の前面に位相差板を配置し,該位相差板は,たとえばポリカーボネートなどの異常光線と常光線とのあいだで位相差を生じるフィルムからなり,その光学軸が前記フロント側偏光板の吸収軸とほぼ35°?55°の角度をなすように配置すると共に,前記位相差板のリターデイションをほぼ4000nm以上の範囲に設定す」ることと,訂正発明1の「前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)を,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いる」こととは,「前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)を,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの光学的な軸とのなす角が30?60度となるように配して用いる」点で一致する。

ウ 甲1A発明の「裏面側には光源5が配設されてなる」ことと,訂正発明1の「バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いる」こととは,「バックライト光源を用いる」点で一致する。

エ 甲1A発明の「一定方向の吸収軸を有する偏光めがねを使用して,液晶表示デバイスをどの方向から見ても表示される色によって表示面が見づらくなったりすることがなく良好に認識することができるようにする方法」は,訂正発明1の「液晶表示装置の視認性改善方法」に相当する。

オ よって,甲1A発明と訂正発明1とは,
「バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,
バックライト光源を用いるとともに,
前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)を,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの光学的な軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。」
である点で一致する。

カ 一方,両者は以下の各点で相違する。
《相違点1》
訂正発明1は,「バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いる」のに対して,甲1A発明は,「バックライト光源を用いる」ことに対応する構成は備えるものの,当該「バックライト光源」として用いる光源が「連続的な発光スペクトルを有する」ものであることまでは特定されていない点。

《相違点2》
訂正発明1は,「前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)を,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いる」構成を備えるのに対して,甲1A発明は,「前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)を,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの光学的な軸とのなす角が30?60度となるように配して用いる」ことに対応する構成は備えるものの,前記偏光板の吸収軸とのなす角が30?60度となるようにするのが「前記高分子フィルムの遅相軸」であることが特定されていない点。

《相違点3》
訂正発明1においては,「高分子フィルムの特徴;」として「直交ニコル間の対角位に前記高分子フィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる」と特定されているのに対して,甲1A発明においては,訂正発明1の「高分子フィルム」に対応する「位相差板」が,当該特徴を有することまでは特定されていない点。

(3)判断
ア 相違点1について
(ア)甲1A発明は,「2枚の透明基板で液晶層が挾持され,該2枚の透明基板の外側にそれぞれ偏光板が配置され,前記液晶層の一方の面で表示され,裏面側には光源5が配設されてなる液晶表示デバイスにおいて,一定方向の吸収軸を有する偏光めがねを使用して,液晶表示デバイスをどの方向から見ても表示される色によって表示面が見づらくなったりすることがなく良好に認識することができるようにする方法」であるところ,当該「一定方向の吸収軸を有する偏光めがねを使用して,液晶表示デバイスをどの方向から見ても表示される色によって表示面が見づらくなったりすることがなく良好に認識することができるよう」になる作用に関して,甲第1号証には,前記(1)で摘記した,段落【0009】,段落【0012】,段落【0016】及び段落【0020】に記載があり,これらの記載を総合すると,甲1A発明においては,フロント側偏光板2から出射した直線偏光の光を,位相差板4を透過する際に常光線と異常光線との間に位相にずれを生じさせて,楕円偏光に変えるものであるところ,可視光の波長領域内で,光の波長と位相差板の厚さによっては殆ど直線偏光となったり,短軸が短い楕円偏光となったりすることで,波長によっては見づらい部分が生じ,見る方向によって見づらいばあいが生じるため,位相差板4のリターデイションΔn・dをほぼ4000nm以上に設定し,位相差板の複屈折性により常光線と異常光線とのあいだの位相のズレが1/4波長となる波長の光が,可視光の青色波長領域,緑色波長領域,赤色波長領域のいずれの各色波長領域においても,円偏光に近い楕円偏光になる波長が生ずるようにすることで,各色波長領域において,透過率のわるい波長もある反面,透過率のよい波長が存在するようにして,偏光めがねをかけてどの方向から眺めたばあいでも,可視光の青色波長領域,緑色波長領域,赤色波長領域のいずれの光も見ることができ,液晶表示面を明確に認識することができるようにするものであることがわかる。
ここで,可視領域の各色を認識するには,液晶表示デバイスの裏面側に設けられた光源5が,各色領域において円偏光に近い楕円偏光になる波長の光を,表示に用いうる程度の強さで発していることは当然である。そうでなければ,液晶表示面において当該波長に相当する色を認識できないからである。すなわち,甲1A発明においては,裏面側に配設される光源5が,位相差板4によって楕円偏光にされる波長の光を,表示に用いうる程度の強さで発するものであることを前提としていることは明らかである。

(イ)ところで,本件特許の原々出願時において,液晶表示デバイスの裏面側に配置される光源,いわゆるバックライト光源として,青色発光ダイオードと蛍光体を組み合わせた白色発光ダイオードを用いることは,甲第2号証(段落【0001】,【0010】?【0018】),甲第3号証(20ページ左下欄8?29行),及び甲第5号証(87ページ左下欄2?9行,89ページ右欄最終行?90ページ左欄2行)にそれぞれ記載されているように,周知の技術である。ここで,当該白色発光ダイオードの発光スペクトルが,例えば甲第2号証の図4に示されているとおり,可視光範囲にわたって連続的なものであることも周知の事項であり,可視光範囲の全ての波長の光を,表示に用いうる程度の強さで発するものであるといえるから,上記(ア)で検討した,甲1A発明における「裏面側に配設される光源5」として求められる特性を備えることは明らかである。
そして,当該白色発光ダイオードを用いることにより,小型であり,高効率で低消費電力であり,耐震性に優れ,また鉛フリーであるという有利な効果が奏されることも,前記甲第2号証(段落【0002】)及び甲第3号証(20ページ上欄4?7行),甲第5号証(87ページ左下欄2?9行),甲第6号証(段落【0002】),甲第7号証(段落【0002】),甲第8号証(段落【0002】),及び甲第9号証(段落【0002】)にも記載されているように周知の事項である。

(ウ)それゆえ,当該周知な効果を得ることを企図して,甲1A発明において,前記周知の技術である青色発光ダイオードと蛍光体を組み合わせた白色発光ダイオードを,裏面側に配設される光源5として用いることは,当業者が適宜になし得たことである。そして,上記(イ)のとおり,青色発光ダイオードと蛍光体を組み合わせた白色発光ダイオードが,相違点1に係る「連続的な発光スペクトルを有する光源」であって,甲1A発明における「裏面側に配設される光源5」として求められる特性を備えることから,甲1A発明の,「一定方向の吸収軸を有する偏光めがねを使用して,液晶表示デバイスをどの方向から見ても表示される色によって表示面が見づらくなったりすることがなく良好に認識することができるよう」になる作用が発揮されることは,当業者に自明なことである。

(エ)よって,甲1A発明において,相違点1に係る構成を備えることは,当業者が適宜になし得たことである。

イ 相違点2について
(ア)甲1A発明は,「該位相差板は,たとえばポリカーボネートなどの異常光線と常光線とのあいだで位相差を生じるフィルムからなり,その光学軸が前記フロント側偏光板の吸収軸とほぼ35°?55°の角度をなすように配置する」ものであるところ,一般に,位相差板において,「光学軸」が「遅相軸」を指すことは,以下の周知例にも記載されているように,本件特許の原々出願の出願時において周知の事項である。
したがって,甲1A発明における,「該位相差板は,・・・,その光学軸が前記フロント側偏光板の吸収軸とほぼ35°?55°の角度をなすように配置する」ことは,「位相差板」の遅相軸が「前記フロント側偏光板の吸収軸とほぼ35°?55°の角度をなすように配置する」ことに相当すると解される。そして,当該構成は,相違点2にかかる,「前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)を,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの光学的な軸とのなす角が30?60度となるように配して用いる」ことに相当するといえるから,相違点2は実質的な相違点ではない。

周知例1:特開2000-241625号公報
本件特許の原々出願の出願日前に,日本国内において頒布された刊行物である特開2000-241625号公報には,以下の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】直線偏光フィルム,位相差フィルムなどに代表される光学フィルムは,液晶表示装置を構成する光学部品として重要である。かかる光学フィルムは,3種の光学フィルム,即ち第一光学フィルム(10),第二光学フィルム(20)および第三光学フィルム(30)が積層されている方形の光学フィルム3層積層体チップ(51)として液晶表示装置に組込まれて使用される場合も多い。かかる光学フィルムの液晶表示装置における光学軸の方向,すなわち直線偏光フィルムの吸収軸の方向,位相差フィルムの遅相軸の方向などは目的とする液晶表示装置の表示性能に大きく影響する重要な要素であって,これらが僅かでも設計値と異なっていると,得られる液晶表示装置は目的とする性能を発揮することができない。(以下略)」

周知例2:特開2000-206335号公報
本件特許の原々出願の出願日前に,日本国内において頒布された刊行物である特開2000-206335号公報には,以下の記載がある。
「【0005】この問題を解決するには,二軸配向されている保護フィルムを,その遅相軸方向と複合偏光板を構成する直線偏光板や位相差板の光学軸(吸収軸,遅相軸)の方向とが特定の角度となるように貼着する方法も考えられる。このように二軸配向した保護フィルムが貼着された保護フィルム貼着複合偏光板では複合偏光板の法線方向(L0)から観察して検品する場合には着色も観察されず,検品も容易となる。」

ウ 本件明細書に記載された「干渉色」,「色ムラ」及び「干渉縞」の各用語について
(ア)異議申立1は,本件明細書に記載された「干渉色」,「色ムラ」及び「干渉縞」の各用語について,「色ムラ」と同義であるのは「干渉縞」であり,干渉色と同義であるのは「色付き」であると主張するところ,これに対して,特許権者は,平成28年12月26日に提出した意見書において,当該主張は異議申立人の独自の解釈に過ぎないと反論し,また,当該意見書の9ページ9行?14ページ12行に記載した「試験」をもとに,本件特許発明では干渉縞も色ムラも観測されないと主張しているので,以下,前記各用語の技術的意味について検討する。

(イ)本件明細書には以下の記載がある。
「【0020】
本発明では,前記偏光板の視認側に特定範囲のリタデーションを有する高分子フィルムを配することを特徴とする。本発明者は複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状に着目し,本発明の着想を得たものである。すなわち,光源の発光スペクトルと複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状とが相似となることで視認性が顕著に改善することを見出し,本発明に至ったものである。具体的に,本発明の構成により視認性が改善するという効果は以下の技術思想による。
【0021】
直交する2つの偏光板の間に複屈折性を有する高分子フィルムを配した場合,偏光板から出射した直線偏光が高分子フィルムを通過する際に乱れが生じ,光が透過する。透過した光は高分子フィルムの複屈折と厚さの積であるリタデーションに特有の干渉色を示す。本発明では,連続的な発光スペクトルを有する白色LEDを光源とする。このため,高分子フィルムによっても達成可能な特定のリタデーション範囲に制御することにより,干渉色を示す透過光のスペクトルの包絡線形状が光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。本発明はこれにより視認性の向上を図るに至ったものである。(図3参照)
【0022】
上記効果を奏するために,本発明に用いられる高分子フィルムは,3000?30000nmのリタデーションを有していなければならない。リタデーションが3000nm未満では,サングラスなどの偏光板を通して画面を観察した時,強い干渉色を呈するため,包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し,良好な視認性を確保することができない。好ましいリタデーションの下限値は4500nm,より好ましい下限値は6000nm,更に好ましい下限値は8000nm,より更に好ましい下限値は10000nmである。」

以上の記載によれば,本件発明においては,連続的な発光スペクトルを有する白色LEDを光源として,2つの偏光板(すなわち視認側偏光板とサングラス)の間に設ける複屈折性を有する高分子フィルムのリタデーションが3000nm未満では,強い干渉色を呈するため,良好な視認性を確保することができないところ,当該リタデーションを3000nm以上に制御することにより,干渉色を示す透過光のスペクトルの包絡線形状を光源の発光スペクトルに近似させて,視認性の向上を図るものといえる。
ここで,前記「リタデーションが3000nm未満で」呈される「強い干渉色」とは,包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違して,光源の「白色」とは異なる色が呈されるものであって,当該「干渉色」は,「リタデーションに特有の干渉色」であると解される。

(ウ)本件明細書には,更に以下の記載がある。
「【0048】
実験例2
ここでは,高分子フィルムとして配向ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた例を示す。
・・・(中略)・・・
【0052】
上記の方法で得られた配向PETフィルムの特性を表1に示した。また,これらのフィルムを,青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LEDを光源(日亜化学,NSPW500CS)とする液晶表示装置(液晶セルが2枚の偏光板に挟まれた構成を有する),及び冷陰極管をバックライト光源とする液晶表示装置(液晶セルが2枚の偏光板に挟まれた構成を有する)の上に置き,それぞれサングラスを通して画面を見た時の様子を表2に示した。
【0053】
上記の結果より,作成したフィルムは,白色LEDをバックライト光源として用いた場合には視認性改善効果が得られるものの,冷陰極管をバックライト光源として用いた場合には視認性の改善効果が得られないことが解った。
【0054】
・・・(中略)・・・
【0055】
【表2】



ここで,上記表2中の,「サングラスの向きにより異なる干渉色を呈した。また,フィルムのリタデーションムラに由来する色ムラ,輝度ムラが表示画面内で観察された。」,及び「フィルムのリタデーションムラに由来する,ゆるやかな干渉縞が画面内で観察された。」との記載から,当該「色ムラ」及び「干渉縞」は,「リタデーションムラに由来する」ものであるといえる。そして,当該記載中の「干渉色」は,上記(イ)において検討した「干渉色」と同じく,包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違して,光源の「白色」とは異なる色が呈されるものであって,当該「干渉色」は,「リタデーションに特有の干渉色」であるものといえる。
そうすると,上記「フィルムのリタデーションムラに由来する色ムラ」及び「干渉縞」とは,フィルム自体に,例えばその製造に起因するムラがあり,これに伴ってリタデーションにもムラが生じ,その結果,フィルムの表示面各部分において,「リタデーションに特有の干渉色」が異なる現象が生じ,当該現象が「色ムラ」または「干渉縞」となっているものと理解できる。

エ 相違点3について
(ア)上記ア(ア)で検討したとおり,甲1A発明においては,
フロント側偏光板2から出射した直線偏光の光を,位相差板4を透過する際に常光線と異常光線との間に位相にずれを生じさせて,楕円偏光に変えるものであるところ,可視光の波長領域内で,光の波長と位相差板の厚さによっては殆ど直線偏光となったり,短軸が短い楕円偏光となったりすることで,波長によっては見づらい部分が生じ,見る方向によって見づらいばあいが生じるため,位相差板4のリターデイションΔn・dをほぼ4000nm以上に設定し,位相差板の複屈折性により常光線と異常光線とのあいだの位相のズレが1/4波長となる波長の光が,可視光の青色波長領域,緑色波長領域,赤色波長領域のいずれの各色波長領域においても,円偏光に近い楕円偏光になる波長が生ずるようにすることで,各色波長領域において,透過率のわるい波長もある反面,透過率のよい波長が存在するようにして,偏光めがねをかけてどの方向から眺めたばあいでも,可視光の青色波長領域,緑色波長領域,赤色波長領域のいずれの光も見ることができ,液晶表示面を明確に認識することができるようにするものである。
すなわち,甲1A発明では,可視光の青色波長領域,緑色波長領域及び赤色波長領域の「各色波長領域において,透過率のわるい波長もある反面,透過率のよい波長が存在するようにすることで,偏光めがねをかけてどの方向から眺めたばあいでも,可視光の青色波長領域,緑色波長領域,赤色波長領域のいずれの光も見ることができ」るようにするものであって,可視光の青色波長領域,緑色波長領域,赤色波長領域の光を見られるようにすること,すなわち当該各波長領域において,少なくとも一つ透過率のよい波長が存在すれば足りるものであるといえる。

(イ)一方,上記ア(ア)で検討したとおり,甲1A発明においては,液晶表示デバイスの裏面側に設けられた光源5が,各色領域において円偏光に近い楕円偏光になる波長の光を,表示に用いうる程度の強さで発していることは当然であるといえるが,そのような条件を満たす光源が,必ずしも全波長領域にわたって一様な強度で発光するものでないことは,例えば,青色発光ダイオードと蛍光体を組み合わせた白色発光ダイオードが,甲第2号証の図4に示されている特性を有することからも明らかである。

(ウ)そうすると,例えば,青色発光ダイオードと蛍光体を組み合わせた白色発光ダイオードであって,甲第2号証の図4に示されるスペクトルを有するものを甲1A発明の光源5として用いたものにあっては,可視光の青色波長領域,緑色波長領域,及び赤色波長領域の各波長領域において,少なくとも一つ透過率のよい波長が存在することで,偏光めがねをかけてどの方向から眺めたばあいでも,可視光の青色波長領域,緑色波長領域,赤色波長領域のいずれの光も見ることができるようになるものの,前記透過率の特性曲線により描かれる包絡線が,甲第2号証の図4に示されるスペクトルと相似形になるとまではいえず,また,当該相似形とすることが,当業者が適宜になし得たことともいえない。
例えば,甲第2号証の図4に示されるスペクトル分布の光源に対して,甲第1号証の図2に示される透過特性のものを組み合わせた場合,甲第2号証の図4に示される青色光のピーク波長は460nm程度であるのに対して,甲1号証の図2に示される透過特性において,同波長における透過率は0%に近いものであるから,当該ピーク波長付近以外における青色光はいくらか透過できるとしても,前記ピーク波長の光はほとんど透過できないので,透過する光の特性曲線により描かれる包絡線が,甲第2号証の図4に示されるスペクトルと相似形になるとはいえない。そして,前記ピーク波長付近の光はほとんど透過できないことから,全体として透過する青色光が大きく減じられる結果,透過光全体における青色光の割合が,光源光全体における青色光の割合とは異なり,全体の色バランスについても異なってくることは明らかである。

(エ)これに対して,訂正発明1においては,相違点3に係る構成を備えることで,本件明細書の段落【0021】に記載されているとおり,「すなわち,光源の発光スペクトルと複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状とが相似となることで視認性が顕著に改善することを見出し」たものであり,これにより「包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し,良好な視認性を確保することができない」との課題を解決したものである。そして,このような作用効果は,当業者が容易に予測できたことともいえない。

エ 小括
以上のとおり,相違点3については,当業者が容易に想到できたものとはいえないから,訂正発明1は,甲1A発明,甲第1号証ないし甲第3号証及び甲第5号証ないし甲第9号証に記載された事項,並びに周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 理由1について(訂正発明2,3に対して)
訂正発明2及び訂正発明3は,訂正発明1に係る「液晶表示装置の視認性改善方法」を引用して,訂正発明1を技術的に限定したものである。
そして,上記1で検討したとおり,訂正発明1は,甲1A発明,甲第1号証ないし甲第3号証及び甲第5号証ないし甲第9号証に記載された事項,並びに周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
それゆえ,訂正発明2及び訂正発明3についても甲1A発明,甲第1号証ないし甲第3号証及び甲第5号証ないし甲第9号証に記載された事項,並びに周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 理由1について(訂正発明4に対して)
訂正発明4は,「液晶表示装置における視認改善方法」にかかる発明である訂正発明1?3を,「液晶表示装置」として構成し,物の発明としたものである。
一方,前記1(1)イ,ウに記載したとおり,方法にかかる発明である甲1A発明を,「液晶表示デバイス」として構成し,物の発明としたものが甲1B発明である。
したがって,訂正発明1?3に係る視認性改善方法を用いた液晶表示装置である訂正発明4と,甲1B発明を対比すると,両者の間には,前記相違点1?3と同様な相違点があるものといえる。
そして,前記相違点1?3についての判断は上記1(3)のとおりであって,訂正発明4と甲1B発明の間の,相違点3と同様な相違点についても,同様に,甲1B発明,甲第1号証ないし甲第3号証及び甲第5号証ないし甲第9号証に記載された事項,並びに周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に想到できたものとはいえない。
よって,訂正発明4は,甲1B発明,甲第1号証ないし甲第3号証及び甲第5号証ないし甲第9号証に記載された事項,並びに周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 理由1(訂正発明5)について
(1)訂正発明5
訂正発明5と訂正発明1とは,「3000?30000nmのリタデーションを有する」「フィルム」について,訂正発明1では「高分子フィルム(ただし,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)」であるのに対して,訂正発明5では「配向ポリエチレンテレフタレートフィルム」である点を除いては,同じものである。
(2)対比
上記(1)のとおりであるから,訂正発明5と甲1A発明とを比較すると,両者の間には,前記相違点1のほか,次の相違点4及び相違点5がある。
《相違点4》
訂正発明5は,「前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを,前記偏光板の吸収軸と前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いる」のに対して,甲1A発明は,「前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルムを,前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの光学的な軸とのなす角が30?60度となるように配して用いる」ことに対応する構成は備えるものの,当該「高分子フィルム」が「配向ポリエチレンテレフタレートフィルム」であることまでは特定されていない点。
《相違点5》
訂正発明5においては,「配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴;」として「直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる」と特定されているのに対して,甲1A発明においては,訂正発明1の「配向ポリエチレンテレフタレートフィルム」に対応する「位相差板」が,当該特徴を有することまでは特定されていない点。
(3)判断
ア 相違点1についての判断は,前記1(3)アのとおりである。また,相違点5についての判断は,前記1(3)エと同様である。すなわち,相違点5については,当業者が容易に想到できたものとはいえないから,相違点4について検討するまでもなく,訂正発明5は,甲1A発明,甲第1号証ないし甲第3号証及び甲第5号証ないし甲第9号証に記載された事項,並びに周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 理由1(訂正発明6)について
訂正発明6は,訂正発明5に係る「液晶表示装置の視認性改善方法」を引用して,訂正発明5を技術的に限定したものである。
そして,上記4で検討したとおり,訂正発明5は,甲1A発明,甲第1号証ないし甲第3号証及び甲第5号証ないし甲第9号証に記載された事項,並びに周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
それゆえ,訂正発明6についても甲1A発明,甲第1号証ないし甲第3号証及び甲第5号証ないし甲第9号証に記載された事項,並びに周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6 理由1(訂正発明7)について
訂正発明7は,「液晶表示装置における視認改善方法」にかかる発明である訂正発明5を,「液晶表示装置」として構成し,物の発明としたものである。
一方,前記1(1)イ,ウに記載したとおり,方法にかかる発明である甲1A発明を,「液晶表示デバイス」として構成し,物の発明としたものが甲1B発明である。
したがって,訂正発明5に係る視認性改善方法を用いた液晶表示装置である訂正発明7と,甲1B発明を対比すると,両者の間には,前記相違点1,前記相違点4及び前記相違点5と同様な相違点があるものといえる。
そして,相違点1についての判断は,前記1(3)アのとおりである。また,相違点5についての判断は,前記1(3)エと同様である。すなわち,相違点5については,当業者が容易に想到できたものとはいえないから,訂正発明7と甲1B発明の間の,相違点5と同様な相違点についても,同様に,甲1A発明,甲第1号証ないし甲第3号証及び甲第5号証ないし甲第9号証に記載された事項,並びに周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に想到できたものとはいえない。
よって,相違点4と同様な相違点について検討するまでもなく,訂正発明7は,甲1A発明,甲第1号証ないし甲第3号証及び甲第5号証ないし甲第9号証に記載された事項,並びに周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

7 理由2について(第39条第2項)
(1)訂正発明6及び訂正発明7,並びに請求項6が引用する請求項5に係る発明は,以下のとおりのものである。
「 【請求項6】
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みが38?200μmであり,前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△N)が0.0980?0.1076であることを特徴とする請求項5に記載の液晶表示装置の視認性改善方法。
【請求項7】
バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,
バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに,
前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを,前記偏光板の吸収軸と前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置。
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。」
「 【請求項5】
バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,
バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに,
前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを,前記偏光板の吸収軸と前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。」

(2)一方,甲第11号証にかかる発明のうち,その特許請求の範囲の請求項1及び請求項3に記載されたものは,以下のとおりのものである。
「【請求項1】
バックライト光源と,液晶セルと,液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において,
バックライト光源として蛍光体方式の白色発光ダイオードを用いるとともに,
前記偏光板の視認側に,3000?30000nmのリタデーションを有する厚み25?500μmの配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを,前記偏光板の吸収軸と前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。」
「【請求項3】
請求項1または2に記載の視認性改善方法を用いたことを特徴とする液晶表示装置。」

(3)すなわち,甲第11号証にかかる発明は,上記請求項1に記載された「3000?30000nmのリタデーションを有する厚み25?500μmの配向ポリエチレンテレフタレートフィルム」を備えるところ,上記のとおり,訂正発明6は,「配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みが38?200μmであり,前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△N)が0.0980?0.1076である」との構成を備えることから,少なくとも当該点について両者は相違するものである。

(4)訂正発明7は,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みが25?500μmである旨の限定を備えず,その一方,「前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴; 直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる」との構成を備えるから,これらの点について,甲第11号証の請求項3に記載された発明とは相違するものである。

(5)よって,理由2は本件訂正によって解消されたものである。

8 理由3について(第36条第6項第1号)
(1)前記「第3 訂正発明」に記載したとおり,訂正発明1においては,「前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように」配する点が特定された。訂正発明1に係る構成を全て備える訂正発明2ないし4についても同様である。

(2)そして,本件明細書には,以下の記載がある。
「【0027】
高分子フィルムを配する際は,偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるようにすることが望ましい。これによりサングラスなどの偏光板がどのような角度であっても高い透過光を得ることができる。なお,上記角度は厳密に45度である必要はなく,本発明の効果を損なわない範囲であれば,必要に応じて適宜調節しても良い。前記角度の好ましい範囲は30?60度,より好ましくは40?50度である。」

(3)すなわち,前記特定された点を備えた構成により,本件明細書の段落【0010】に記載された,本件発明が解決しようとする課題が解決できるものといえるから,理由3は訂正によって解消されたものである。

第6 各特許異議申立人の主張について
1 特許異議申立人森川真帆(以下「申立人1」という。)は,平成29年10月16日に提出した意見書において,及び特許異議申立人北村仁(以下「申立人2」という。)は,平成29年10月19日に提出した意見書において,それぞれ以下の主張を行っている。
(1)申立人1の主張
ア 前記第2 1(3)の訂正事項3により,請求項5に「凡そ45度」とあるのを,「30?60度」と訂正しているが,当該訂正は,特許法第120条の5第2項第1号?第4号のいずれを目的とするものではないから,認められるべきものではない。

イ 訂正発明1に加入された,「直交ニコル間の対角位に前記高分子フィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる」との事項は,訂正発明1を実質的に新たに限定するものではなく,また,特許権者が主張する「光源スペクトルの形状」が効いてくるとの知見も,当業者が予測できるものである。

ウ 「相似形」とする範囲が明らかでないから,特許請求の範囲の記載が明確ではない。

エ 訂正発明6に加入された事項は,訂正発明6を実質的に新たに限定するものではない。

(2)申立人2の主張
ア 「相似形」とする範囲が明らかでないから,特許請求の範囲の記載が明確ではない。

イ どのようにすれば,「直交ニコル間の対角位に前記高分子フィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる」のか明細書には一切記載されていないから,本願明細書は特許法第36条第4項第1号の規定を満たさない。

ウ 甲1A発明は,連続的な発光スペクトルを有する光源を用いていると解されるところ,甲1号証の表1にaと評されているものにおいては,リタデーションを最適化することは実際に行われており,その結果,「直交ニコル間の対角位に前記高分子フィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形」となっているものであるから,当該点は相違点とはならない。

2 検討
(1)上記1(1)ウの主張と同(2)アの主張を併せて検討する。
ア 訂正発明1,訂正発明5及び訂正発明7に係る,「前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる」点について,本件明細書においては,図3とともに以下の記載がある。
「【0021】
直交する2つの偏光板の間に複屈折性を有する高分子フィルムを配した場合,偏光板から出射した直線偏光が高分子フィルムを通過する際に乱れが生じ,光が透過する。透過した光は高分子フィルムの複屈折と厚さの積であるリタデーションに特有の干渉色を示す。本発明では,連続的な発光スペクトルを有する白色LEDを光源とする。このため,高分子フィルムによっても達成可能な特定のリタデーション範囲に制御することにより,干渉色を示す透過光のスペクトルの包絡線形状が光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。本発明はこれにより視認性の向上を図るに至ったものである。(図3参照)」
「【0044】
また,図3には,Re=8000nmにおいて直交ニコルを透過した光のスペクトルを示す。図中,P(λ)が光源(白色LED)の発光スペクトル,T(λ)が透過光のスペクトルである。透過光スペクトルの包絡線が光源の発光スペクトルの形状に相似となる形状を有していることから,一定となった配向ポリカーボネートフィルムの干渉色は,実効的に光源の発光スペクトルからなることが明らかとなった。また,透過光の強度は光源の強度の1/4になることが確認された。」
イ ここで,図3は以下のものである。

ウ 上記各記載とともに上記図3を参照すると,図3における横軸(波長)方向の大きさは変えることなく,縦軸(強度)方向のみに着目して,光源(白色LED)の発光スペクトルと,透過光スペクトルの包絡線を比較して,「相似形」であるとしていることは明らかである。

エ さらに,上記ア,イに摘記した事項を見ると,光源の発光スペクトルを連続な曲線とした上(すなわち,上記図3において600nmと700nmとの間にある非連続な部分を除いて)で,これと,透過光スペクトルから描画できる包絡線とを比較して,上記ウのとおりの「相似形」であるか否かを判断しているものと解され,当該判断の方法によれば,例えば,前記第5 1(3)エ(ウ)で例示した,甲第2号証の図4に示されるスペクトル分布の光源に対して,甲第1号証の図2に示される透過特性のものを組み合わせた場合については,当然,前記「相似形」になるとはいえない。

オ よって,訂正発明に係る「相似形」との記載が不明確であるとまではいえない。

(2)上記1(1)アの主張について
前記第2 2(3)アのとおり,訂正事項3は,特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
なお,特許法第120条の5第2項第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」は,同法第17条の2第5項第4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」とは異なり,当該釈明の対象とする事項の制限はない。

(3)上記1(1)イの主張について
例えば,甲第1号証の図2に示される透過特性において,位相差板のリタデーションは5000nmとされているところ,前記第5 1(3)エ(ウ)で例示した,甲第2号証の図4に示されるスペクトル分布の光源に対して,当該甲第1号証の図2に示される透過特性のものを組み合わせた場合については,前述のとおり,光源の青色光のピーク波長における透過率は0%に近いものであるから,透過する光の特性曲線により描かれる包絡線が,甲第2号証の図4に示されるスペクトルと相似形になるとはいえない。
すなわち,単に位相差板(フィルム)のリタデーションを一定値以上にすれば,直ちに,光源光のスペクトルと透過光のスペクトルの包絡線が「相似形」となるとは言えないことは明らかである。
また,申立人1が主張するとおり,一般的性質として,連続的で幅広い発光スペクトルの光が色ムラ・干渉色が比較的生じにくく,また,光の干渉が,透過光・反射光の位相のずれにより,光の特定の波長が強められる結果生じることが,技術常識であるとしても,甲1発明において,光源光のスペクトルと透過光のスペクトルの包絡線を「相似形」とすることまでが当業者にとって容易であるとはいえない。

(4)上記1(1)エの主張について
訂正発明6は,訂正発明5について,配向ポリエチレンテレフタレートフィルムについて,その厚さ及び屈折率異方性を限定するものである。訂正発明6が,訂正発明5と同じ作用・効果(すなわち,訂正発明1と同様の作用・効果)を奏することは明らかである。

(5)上記1(2)イの主張について
ア 本件明細書には以下の記載がある。
「【0033】
高分子フィルムのリタデーションを特定範囲に制御する為には,延伸倍率や延伸温度,フィルムの厚みを適宜設定することにより行なうことができる。例えば,延伸倍率が高いほど,延伸温度が低いほど,フィルムの厚みが厚いほど高いリタデーションを得やすくなる。逆に,延伸倍率が低いほど,延伸温度が高いほど,フィルムの厚みが薄いほど低いリタデーションを得やすくなる。」
「【0037】
<リタデーション>
フィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△N=|Nx-Ny|)とフィルム厚みd(nm)との積(△N×d)で定義されるパラメーターであり,光学的等方性,異方性を示す尺度である。二軸の屈折率の異方性(△N)は,以下の方法により求める。二枚の偏光板を用いて,フィルムの配向軸方向を求め,配向軸方向が直交するように4cm×2cmの長方形を切り出し,測定用サンプルとした。このサンプルについて,直交する二軸の屈折率(Nx,Ny),及び厚さ方向の屈折率(Nz)をアッベ屈折率計(アタゴ社製,NAR-4T)によって求め,前記二軸の屈折率差の絶対値(|Nx-Ny|)を屈折率の異方性(△N)とした。フィルムの厚みd(nm)は電気マイクロメータ(ファインリューフ社製,ミリトロン1245D)を用いて測定し,単位をnmに換算した。屈折率の異方性(△N)とフィルムの厚みd(nm)の積(△N×d)より,リタデーション(Re)を求めた。なお,前記配向軸のうち,より大きい屈折率を示す軸を遅相軸として定義する。」

イ 上記各記載から,所望のリタデーションの高分子フィルムを得ることは,過度の試行錯誤なくなしうることといえ,また,これを用いた透過特性と,光源のスペクトルとの関係についても,シミュレーションのみならず,現物を用いた試験も行うことで,過度の試行錯誤なくなし得ることといえるから,光源の発光スペクトルと,透過光スペクトルの包絡線が「相似形」であるものを得ることは,当業者が困難なくなし得ることといえる。

(6)上記1(2)ウの主張について
当該主張においては,甲1A発明が連続的な発光スペクトルを有する光源を用いていることを前提としているが,前記第5 1(3)ア(ア)で検討したとおり,甲1A発明においては,光源5が,位相差板4によって楕円偏光にされる波長の光を,表示に用いうる程度の強さで発するものであることを前提としているとはいえても,連続的な発光スペクトルを有するとまではいえない。すなわち,前記第5 1(3)ア(イ)で検討したとおり,連続的な発光スペクトルを有する光源は,可視光範囲の全ての波長の光を,表示に用いうる程度の強さで発するものであり,これは,上記甲1A発明の光源5に係る前提を満たすものではあるものの,このことが,直ちに,甲1A発明が連続的な発光スペクトルを有する光源を用いていることを意味するものではない。
そうすると,甲1A発明に係る光源5が連続的な発光スペクトルを有しているとまではいえないから,甲第1号証の表1における「a」評価,すなわち「最も優れて」いる「認識状態」が,訂正発明において,「光源の発光スペクトルと複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状とが相似となることで視認性が顕著に改善」(本件明細書の段落【0020】)したものと同等であるとする根拠が不明である。

3 以上のとおりであるから,各申立人の前記各意見書における主張は採用できない。

第7 平成29年 6月 5日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 異議申立理由
(1)異議申立1における理由2(特許法第29条第2項)
請求項1?7に係る発明は,甲第2号証に記載された発明,及び甲第1,3?10号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)異議申立1における理由5(特許法第36条第6項第1号)
特許明細書の段落【0021】の記載では「高分子フィルムによっても達成可能な特定のリタデーション範囲に制御することにより,干渉色を示す透過光のスペクトルの包絡線形状が光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。本発明はこれにより視認性の向上を図るに至ったものである」としており,請求項1に記載された発明においては,3000nm?30000nmのリタデーションを有するとの特定事項を備えるが,実際に計算すると,リタデーションが小さい領域においては,透過光のスペクトルの包絡線形状が光源の発光スペクトルに近似させることができなくなる。よって,請求項1?7に係る発明は,課題解決ができないものを含む。

(3)異議申立1における理由6(特許法第36条第6項第2号)
請求項5?7に係る発明では,「凡そ45度」と記載されておりその範囲が不明であり,明確性に欠ける。

(4)異議申立2における理由1(特許法第36条第6項第2号)
一般に,「フィルム」は厚さが0.5mm以下であるものをいうが,請求項1,2,4,5,7について,「フィルム」の厚さの定義はなく,その一方,特許明細書においては,厚さが700μmまでのものも実施例として記載されているから,当該「フィルム」がどのような厚みの部材を指すのか明確でない。

(5)異議申立2における理由2(特許法第29条第1項第3号)
請求項1及び4に係る発明は,いずれも甲第1号証に記載されたものである。

(6)異議申立2における理由3(特許法第29条第2項)
請求項1?7に係る発明は,甲第1号証に記載された発明,及び甲第2?5号証の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,また,その効果についても,甲第6?13,16号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に予測できたものである。

2 判断
(1)異議申立1における理由2(特許法第29条第2項)について
仮に,甲第2号証に記載された発明について,甲第1号証に記載された発明を組み合わせることが容易であるとしても,甲第2号証に係る発明と訂正発明との間には,前記第5 1(2)カに記載した相違点3または相違点3

と同様な相違点が残り,当該相違点3または相違点3と同様な相違点は,異議申立1の甲第3?10号証に記載された発明を参照しても,当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(2)異議申立1における理由5(特許法第36条第6項第1号)について
本件訂正により,訂正発明は,「前記高分子フィルムの特徴; 直交ニコル間の対角位に前記高分子フィルムを配してなる直交ニコルを構成し,該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合,前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる」(または配向ポリエチレンテレフタレートフィルムについての同様の構成)との構成を備えたものとなったことから,異議申立1における理由5は解消された。

(3)異議申立1における理由6(特許法第36条第6項第2号)について
本件訂正により,訂正発明5?7は,角度について「30?60度」であるとの構成を備えたものとなったことから,異議申立1における理由6は解消された。

(4)異議申立2における理由1(特許法第36条第6項第1号)について
本件明細書においては,リタデーションを有する部材について,その厚さが,通常フィルムと称される厚さのものからそれよりやや厚いものまでを含むところ,当該厚さ範囲のものを一括して「フィルム」と称していることは明らかである。
それゆえ,異議申立2における理由1はあたらない。

(5)異議申立2における理由2(特許法第29条第1項第3号)について
甲第1号証に記載された発明と,訂正発明との間には,少なくとも前記第5 1(2)カに記載した相違点1,並びに相違点2,3または相違点2,3と同様な相違点があるから,異議申立2における理由2はあたらない。

(6)異議申立2における理由3(特許法第29条第2項)について
甲第1号証に記載された発明と,訂正発明との間には,前記第5 1(2)カに記載した相違点3または相違点3と同様な相違点が存在し,当該相違点3または相違点3と同様な相違点は,異議申立2の甲第2?5号証及び甲第6号証?13,16号証の記載に基づいて,当業者が容易に想到できたものとはいえない。

3 したがって,上記1(1)?(6)の各申立理由はあたらない。

第8 むすび
以上のとおりであるから,異議申立1及び異議申立2のそれぞれの異議申立書に記載された理由によっては,訂正発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に訂正発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
液晶装置の視認性改善方法、及びそれを用いた液晶表示装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、サングラスなどの偏光板を通して画面を観察した時、その観察角度によらず良好な視認性を確保することができる液晶表示装置の視認性改善方法、及びそれを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)の用途が拡大しており、屋外で用いられる各種の表示物にもLCDが利用されている。例えば、車、船、飛行機などの計器盤、車載カーナビゲーション、デジタルカメラ、携帯電話やパソコンなどのモバイル機器、あるいはビル、スーパーなどで用いられるデジタルサイネージなどに利用が広がっている。
【0003】
LCDは液晶セルを2枚の偏光板で挟みこんだ液晶パネルに、外光や、フロントライト、バックライトなどの光源により発生せられた光を透過/遮蔽することによって表示を行なう。バックライト光源としては冷陰極管や熱陰極管などの蛍光管を用いることが一般的である。冷陰極管や熱陰極管などの蛍光灯の分光分布は複数のピークを有する発光スペクトルを示し、これら不連続な発光スペクトルがあわさって白色系の光源が得られる。一方、省エネルギー化の点から消費電力の小さい発光ダイオードを利用することが検討されている。特に、白色発光ダイオード(白色LED)は、蛍光管に比べ連続的で幅広い発光スペクトルを有しており発光効率に優れる。
【0004】
ところで、日差しの強い屋外等の環境では、その眩しさを解消するために、偏光特性を有するサングラスを掛けた状態でLCDを視認する場合がある。この場合、観察者はLCDから射出した直線偏光を有する光を、偏光板を通して視認することとなるため、LCDに内装される偏光板の吸収軸と、サングラスなどの偏光板の吸収軸とがなす角度によっては画面が見えなくなってしまう。
【0005】
上記問題を解決するため、例えば、特許文献1では、LCD表面に位相差(4分の1波長)板を斜めに積層して直線偏光を円偏光に変換して偏光解消する方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、方解石や人工水晶といった高複屈折体を偏光解消素子として使用することで、上記問題を解決することが提案されている。これは、直交(クロスニコル)させた偏光板間に方解石や人工水晶といった高複屈折体を挿入した場合、高いリタデーション(リタデーションとして100000nm超)を有する高複屈折体を透過した光は種々の波長を有する光となるため、これらが干渉しあい白色系の光を呈するようになることを利用したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-352068号公報
【特許文献2】特開平10-10522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、位相差(4分の1波長)板といえども、ある特定の波長領域の光に対してのみ4分の1波長を達成するに過ぎず、広い可視光領域に渡って均一に4分の1波長を達成する材料は得られていない。そのため特許文献1の方法では、十分な視認性改善効果は得られない。
【0009】
さらに、特許文献2の方法では、方解石や人工水晶といった特殊な素材からなる高複屈折体を用いなければならず、液晶表示装置の構成が複雑になり、大画面化や軽量化といった自由度の高い構成を採用し難く、実用性に乏しかった。
【0010】
本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、サングラスなどの偏光板を通して画面を観察した時、その観察角度によらず高度に良好な視認性を確保することができる液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のバックライト光源と特定のリタデーションを有する高分子フィルムとを組み合せて用いることにより、上記問題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下の(i)?(vii)に係る発明である。
(i)バックライト光源と、液晶セルと、液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において、バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに、前記偏光板の視認側に、3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし、配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)を、前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。
前記高分子フィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記高分子フィルムを配してなる直交ニコルを構成し、該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合、前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。
(ii)前記高分子フィルムが配向ポリエステルフィルムであることを特徴とする前記液晶表示装置の視認性改善方法。
(iii)前記高分子フィルムの厚みが25?500μmであることを特徴とする前記液晶表示装置の視認性改善方法。
(iv)前記視認性改善方法を用いたことを特徴とする液晶表示装置。
(v)バックライト光源と、液晶セルと、液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において、バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに、前記偏光板の視認側に、3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを、前記偏光板の吸収軸と前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し、該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合、前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。
(vi)前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みが38?200μmであり、前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△N)が0.0980?0.1076であることを特徴とする前記液晶表示装置の視認性改善方法。
(vii)バックライト光源と、液晶セルと、液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において、
バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに、
前記偏光板の視認側に、3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを、前記偏光板の吸収軸と前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置。
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し、該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合、前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相以形となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法では、連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオード光源において効率よく直線偏光を解消し、光源に近似したスペクトルが得られるため、サングラスなどの偏光板を通して液晶表示画面を観察する際でも、その観察角度によらず良好な視認性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】白色LED光源を用いて観察した、ポリカーボネートフィルムの干渉色である。
【図2】白色LED光源の発光スペクトルを用いて計算した、ポリカーボネートフィルムの干渉色チャートである。
【図3】白色LED光源の発光スペクトルと、Re=8000nmにおいて直交ニコルを透過した光のスペクトルを計算したものである。
【図4】本発明の方法によって得られた液晶表示装置の画面を、サングラスを通して観察した画像である。
【図5】冷陰極管の発光スペクトルと、Re=8000nmにおいて直交ニコルを透過した光のスペクトルを計算したものである。
【図6】冷陰極管の発光スペクトルを用いて計算した、ポリカーボネートフィルムの干渉色チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
一般に、液晶パネルは、バックライト光源に対向する側から画像を表示する側(視認側)に向かう順に、後面モジュール、液晶セルおよび前面モジュールから構成されている。後面モジュールおよび前面モジュールは、一般に、透明基板と、その液晶セル側表面に形成された透明導電膜と、その反対側に配置された偏光板とから構成されている。ここで、偏光板は、後面モジュールでは、バックライト光源に対向する側に配置され、前面モジュールでは、画像を表示する側(視認側)に配置されている。
【0016】
本発明の液晶表示装置(LCD)は少なくとも、バックライト光源と、液晶セルと、液晶セルの視認側に配した偏光板とを構成部材とする。前記のように液晶セルはバックライト光源側と視認側とで2つの偏光板に挟まれて配されるのが一般的であるため、液晶セルの視認側の反対側にも偏光板を配しても構わない。また、これら以外の他の構成、例えばカラーフィルター、レンズフィルム、拡散シート、反射防止フィルムなどを適宜有しても構わない。
【0017】
本発明では、液晶表示装置(LCD)のバックライト光源として白色発光ダイオード(白色LED)を用いることが必要である。白色LEDとは、蛍光体方式、すなわち化合物半導体を使用した青色光、もしくは紫外光を発する発光ダイオードと蛍光体を組み合わせることにより白色を発する素子のことである。その中でも特に、化合物半導体を使用した青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色発光ダイオードは、連続的で幅広い発光スペクトルを有しているとともに発光効率にも優れるため、本発明のバックライト光源として好適である。また、本発明の方法により消費電力の小さい白色LEDを広汎に利用可能になるので、省エネルギー化の効果も奏することが可能となる。
【0018】
なお、赤・緑・青の各色を発するLEDを組み合わせて白色光源として用いる方式も実用化されているが、この方式では発光スペクトルが狭くかつ不連続であるため、本発明の所期の効果を得ることが困難になると予想されるため、好ましくない。
【0019】
また、従来からバックライト光源として広く用いられている冷陰極管や熱陰極管等の蛍光管についても、本発明に使用することは出来ない。なぜなら、これらの光源の発光スペクトルは特定波長にピークを有する不連続な発光スペクトルしか有していないため、このような発光スペクトルから干渉色により白色光を奏するためには、100000nmを超えるリタデーションを有する特殊な無機系素材を用いなければならず、液晶表示装置の装置設計に大きな制約をもたらすことになるからである。
【0020】
本発明では、前記偏光板の視認側に特定範囲のリタデーションを有する高分子フィルムを配することを特徴とする。本発明者は複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状に着目し、本発明の着想を得たものである。すなわち、光源の発光スペクトルと複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状とが相似となることで視認性が顕著に改善することを見出し、本発明に至ったものである。具体的に、本発明の構成により視認性が改善するという効果は以下の技術思想による。
【0021】
直交する2つの偏光板の間に複屈折性を有する高分子フィルムを配した場合、偏光板から出射した直線偏光が高分子フィルムを通過する際に乱れが生じ、光が透過する。透過した光は高分子フィルムの複屈折と厚さの積であるリタデーションに特有の干渉色を示す。本発明では、連続的な発光スペクトルを有する白色LEDを光源とする。このため、高分子フィルムによっても達成可能な特定のリタデーション範囲に制御することにより、干渉色を示す透過光のスペクトルの包絡線形状が光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。本発明はこれにより視認性の向上を図るに至ったものである。(図3参照)
【0022】
上記効果を奏するために、本発明に用いられる高分子フィルムは、3000?30000nmのリタデーションを有していなければならない。リタデーションが3000nm未満では、サングラスなどの偏光板を通して画面を観察した時、強い干渉色を呈するため、包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し、良好な視認性を確保することができない。好ましいリタデーションの下限値は4500nm、より好ましい下限値は6000nm、更に好ましい下限値は8000nm、より更に好ましい下限値は10000nmである。
【0023】
一方、リタデーションの上限は30000nmである。それ以上のリタデーションを有する高分子フィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的に得られないばかりか、フィルムの厚みも相当に厚くなり、工業材料としての取り扱い性が低下するので好ましくない。
【0024】
なお、本発明のリタデーションは、2軸方向の屈折率と厚みを測定して求めることもできるし、KOBRA-21ADH(王子計測機器株式会社)といった市販の自動複屈折測定装置を用いて求めることもできる。
【0025】
本発明は幅広い発光スペクトルを有する白色LEDを光源に用いるため、高分子フィルムのリタデーションを上記範囲に設定することで、比較的簡便な構成のみで透過光のスペクトルの包絡線形状を光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。すなわち、従来技術では不連続な発光スペクトルを有する光源を用いるがために、極めて高いリタデーション(100000nm超)を有する複屈折体を用いなければ、視認性の改善ができなかったところ、連続的な発光スペクトルを有するという白色LED光源の性質を利用して上記のように比較的簡便な構成で視認性を向上させるという特異な効果を奏する。
【0026】
本発明に用いられる高分子フィルムは、液晶セルの視認側に配した偏光板の視認側に、前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して使用される。高分子フィルムを偏光板の視認側に配する方法は、偏光板の最外層に直接に高分子フィルムを積層しても構わないし、他の透明部材を介して配しても構わない。また、液晶表示装置の視認側最表面に高分子フィルムを設置、貼り合わせてもよい。高分子フィルムを直接、または他の透明部材を介して配する際は、粘着層を設けた高分子フィルムを用いることも好ましい態様である。
【0027】
高分子フィルムを配する際は、偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるようにすることが望ましい。これによりサングラスなどの偏光板がどのような角度であっても高い透過光を得ることができる。なお、上記角度は厳密に45度である必要はなく、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて適宜調節しても良い。前記角度の好ましい範囲は30?60度、より好ましくは40?50度である。
【0028】
本発明に用いられる高分子フィルムの材質は、特に制限されるものではなく任意である。例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、シクロオレフィンポリマー等が例示される。その中でも特に好ましい素材として、ポリカーボネート、及びポリエステルが例示される。これらの樹脂は透明性に優れるとともに、熱的、機械的特性にも優れており、延伸加工によって容易にリタデーションを制御することができる。特に、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは固有複屈折が大きく、フィルムの厚みが薄くても比較的容易に大きなリタデーションが得られるので、最も好適な素材である。
【0029】
次に、本発明における高分子フィルムは特定の複屈折性を有するため配向フィルムを用いることが望ましいが、その製造方法は、本発明で規定したフィルム特性を満足する限り、特に限定されるものではない。
【0030】
ポリカーボネートフィルムの場合には、ポリカーボネートを溶融し、シート状に押し出し成型した無配向のシートをガラス転移温度以上の温度において一方向(必要によっては二方向)に延伸して、特定のリタデーションを有する配向ポリカーボネートフィルムを得ることができる。無配向のポリカーボネートシートは市販のものや溶液製膜によって作製したものも好適に用いることができる。
【0031】
また、ポリエステルフィルムの場合には、ポリエステルを溶融し、シート状に押出し成形された無配向ポリエステルをガラス転移温度以上の温度においてテンターで横延伸後、熱処理を施す方法が挙げられる。
【0032】
具体的には、横延伸温度は80?130℃が好ましく、特に好ましくは90?120℃である。また、横延伸倍率は2.5?6.0倍が好ましく、特に好ましくは3.0?5.5倍である。延伸倍率が高すぎると、得られるフィルムの透明性が低下しやすくなる。一方、延伸倍率が低すぎると延伸張力も小さくなるため、得られるフィルムの複屈折が小さくなり、リタデーションが小さくなるので好ましくない。続く熱処理において、処理温度は100?250℃が好ましく、特に好ましくは180?245℃である。
【0033】
高分子フィルムのリタデーションを特定範囲に制御する為には、延伸倍率や延伸温度、フィルムの厚みを適宜設定することにより行なうことができる。例えば、延伸倍率が高いほど、延伸温度が低いほど、フィルムの厚みが厚いほど高いリタデーションを得やすくなる。逆に、延伸倍率が低いほど、延伸温度が高いほど、フィルムの厚みが薄いほど低いリタデーションを得やすくなる。
【0034】
本発明における高分子フィルムは、粘着剤層、離型層、帯電防止層などの当該フィルム上に形成される層との接着性、耐水性、耐薬品性等を改良する目的で、フィルム表面を公知の方法で表面処理、すなわちコロナ放電処理(空気中、窒素中、炭酸ガス中など)や易接着処理を行なってもよい。易接着処理は、公知の各種の方法を用いることができ、フィルム製造工程中で、あるいは一軸または二軸延伸後のフィルムに公知の各種易接着剤を塗布する方法などが好適に採用される。
【0035】
本発明に用いられる高分子フィルムの厚みは任意であるが、25?500μmの範囲であることが好ましい。25μmを下回る厚みのフィルムでも、原理的には3000nm以上のリタデーションを得ることは可能である。しかし、その場合にはフィルムの力学特性の異方性が顕著となり、裂け、破れ等を生じやすくなり、工業材料としての実用性が著しく低下する。特に好ましい厚みの下限は35μmである。一方、500μmを超えるフィルムは非常に剛直であり、高分子フィルム特有のしなやかさが低下し、やはり工業材料としての実用性が低下するので好ましくない。特に好ましいフィルム厚みの上限は350μmである。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0037】
<リタデーション>
フィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△N=|Nx-Ny|)とフィルム厚みd(nm)との積(△N×d)で定義されるパラメーターであり、光学的等方性、異方性を示す尺度である。二軸の屈折率の異方性(△N)は、以下の方法により求める。二枚の偏光板を用いて、フィルムの配向軸方向を求め、配向軸方向が直交するように4cm×2cmの長方形を切り出し、測定用サンプルとした。このサンプルについて、直交する二軸の屈折率(Nx,Ny)、及び厚さ方向の屈折率(Nz)をアッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T)によって求め、前記二軸の屈折率差の絶対値(|Nx-Ny|)を屈折率の異方性(△N)とした。フィルムの厚みd(nm)は電気マイクロメータ(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定し、単位をnmに換算した。屈折率の異方性(△N)とフィルムの厚みd(nm)の積(△N×d)より、リタデーション(Re)を求めた。なお、前記配向軸のうち、より大きい屈折率を示す軸を遅相軸として定義する。
【0038】
実験例1
ここでは、高分子フィルムとしてポリカーボネートフィルムを用いた例を示す。
ポリカーボネート(アルドリッチ社製)を重量比で4倍の塩化メチレンに溶かし、ポリマー溶液を調製した。ポリマー溶液を平滑なガラス板状にナイフコーターで展開し、室温で放置し、溶媒を乾燥させた。その後、ポリカーボネートシートをガラス板より剥がし、90℃の減圧乾燥機中で24時間乾燥させた。得られたポリカーボネートシートからダンベル状にサンプルを切り出した。切り出したシートサンプルをテンシロン(オリエンテック製)を用い、温度160℃程度に加熱し、一軸方向に延伸した。その際の、延伸倍率、延伸速度を調節することで、所望のリタデーションを有する配向ポリカーボネートフィルムを得た。
【0039】
得られた配向ポリカーボネートフィルムの干渉色を観察した。光源には、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色発光ダイオード(日亜化学、NSPW500CS)を用いた。
【0040】
図1には、そのようにして実測された、配向ポリカーボネートフィルムのリタデーションと干渉色の関係を示した。
【0041】
次に、シュミレーションにより配向ポリカーボネートフィルムの干渉色チャートを作成した。
直交ニコル間の対角位に複屈折体を配し、バックライトとして白色光源を用いた場合に直交ニコルを透過する光を干渉色として定義すると、光の透過率は次の式(1)で表される。
I/I_(0)=1/2・sin^(2)(π・Re/λ)・・・(1)
ここで、I_(0)は直交ニコルに入射する光の強度、Iは直交ニコルを透過した光の強度、Reは複屈折体のリタデーション、を示す。このように、透過率(I/I_(0))はリタデーション、光の波長によって変化するため、リタデーションの値に特有の干渉色が観察される。
【0042】
しかしながら、高分子材料は屈折率(特に可視光の短波長領域)の波長分散性が大きく、係る波長分散性は高分子材料により異なる。複屈折に波長依存性が存在すると、複屈折が波長ごとに変化する。そこで、上記式(1)を配向ポリカーボネートに適用する場合は、ポリカーボネート特有の波長分散性を考慮し、本実験例では以下の式(2)を適用した。
I/I_(0)=1/2・sin^(2)(π・f(λ)・Re/λ)・・・(2)
ここで、f(λ)は複屈折の波長分散性を表す関数である。
【0043】
上記式(2)をもとに、配向ポリカーボネートフィルムの複屈折の波長分散性を考慮して干渉色を計算するプログラムを作成し、リタデーションと干渉色の関係を表す干渉色チャートを作成した。図2には、図1に示した白色発光ダイオードの発光スペクトルを用いて計算した、配向ポリカーボネートフィルムの干渉色チャートを示した。図1、図2より実測とシミュレーションで色は一致しており、リタデーション(Re)≧3000nm以上で干渉色の変動は著しく低下し、Re≧8000nm程度では干渉色はほぼ一定となることが判った。
【0044】
また、図3には、Re=8000nmにおいて直交ニコルを透過した光のスペクトルを示す。図中、P(λ)が光源(白色LED)の発光スペクトル、T(λ)が透過光のスペクトルである。透過光スペクトルの包絡線が光源の発光スペクトルの形状に相似となる形状を有していることから、一定となった配向ポリカーボネートフィルムの干渉色は、実効的に光源の発光スペクトルからなることが明らかとなった。また、透過光の強度は光源の強度の1/4になることが確認された。
【0045】
図4は、前記の方法で得た配向ポリカーボネートフィルム(Re=9087nm)を、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LED(日亜化学、NSPW500CS)をバックライト光源とする液晶表示装置(液晶セルが2枚の偏光板に挟まれた構成を有する)の上に置き、偏光サングラスを通して画面を見た時の様子である。液晶表示装置と偏光サングラスの偏光板がなす角度によらず、表示色が変化なく視認できることから、作成したフィルムは、白色LEDをバックライト光源とする液晶表示装置の視認性改善デバイスとして利用できることが確認された。
【0046】
なお、図5には、一般的な冷陰極管の発光スペクトル、及びRe=8000nmにおいて直交ニコルを透過した光のスペクトルを示した。図中、P(λ)が光源の発光スペクトル、T(λ)が透過光のスペクトルである。透過光スペクトルは光源の発光スペクトルの形状を保存しておらず、光源とは異なる透過光色を呈することが示唆された。
【0047】
また、図6には、図5に示した冷陰極管の発光スペクトルを用いて計算した配向ポリカーボネートフィルムの干渉色チャートを示した。図5と図2の比較から、リタデーションに対する干渉色の変動は光源のスペクトルによって大きく異なり、冷陰極管をバックライト光源として用いた場合には本発明の視認性改善効果が得られないことが理解できた。
【0048】
実験例2
ここでは、高分子フィルムとして配向ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた例を示す。
ジメチルテレフタレートを1000部、エチレングリコールを700部、および酢酸マンガン4水塩を0.16部をエステル交換反応缶に仕込み、120?210℃でエステル交換反応を行い、生成するメタノールを留去した。エステル交換反応が終了した時点で三酸価アンチモンを0.13部、正リン酸を0.017部を加え、系内を徐々に減圧にし、75分間で133Paとした。同時に徐々に昇温し、280℃とした。この条件で70分間重縮合反応を実施し、溶融ポリマーを吐出ノズルより水中に押出し固有粘度が0.62dl/gのPET樹脂を得た。
【0049】
固有粘度が0.62dl/gのPET樹脂を水冷却した回転急冷ドラム上にフィルム形成ダイを通して押出し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを幅方向に100℃で4.0倍延伸した後、150℃で熱固定を行い、更に130℃から100℃に冷却しながら、幅方向に3%弛緩処理を行い、厚さ38μmの配向PETフィルム(PETフィルム-1)を得た。
【0050】
また、PETフィルム-1と同様の方法を用い、未延伸フィルムの厚みを変更することにより、厚さ200μmの配向PETフィルム(PETフィルム-2)を得た。
【0051】
PETフィルム-1と同様の方法を用いて作成した未延伸フィルムを、加熱されたロール群および赤外線ヒーターを用いて105℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向(走行方向)に3.4倍延伸して、厚さ700μmの配向PETフィルム(PETフィルム-3)を得た。
【0052】
上記の方法で得られた配向PETフィルムの特性を表1に示した。また、これらのフィルムを、青色発光ダイオードとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LEDを光源(日亜化学、NSPW500CS)とする液晶表示装置(液晶セルが2枚の偏光板に挟まれた構成を有する)、及び冷陰極管をバックライト光源とする液晶表示装置(液晶セルが2枚の偏光板に挟まれた構成を有する)の上に置き、それぞれサングラスを通して画面を見た時の様子を表2に示した。
【0053】
上記の結果より、作成したフィルムは、白色LEDをバックライト光源として用いた場合には視認性改善効果が得られるものの、冷陰極管をバックライト光源として用いた場合には視認性の改善効果が得られないことが解った。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の液晶表示装置の視認性改善方法は、屋外で用いられる液晶表示装置、例えば車、船、飛行機などの計器盤、車載カーナビゲーション、デジタルカメラ、携帯電話やパソコンなどのモバイル機器、あるいはビル、スーパーなどで用いられるデジタルサイネージなどに好適に利用可能である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックライト光源と、液晶セルと、液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において、
バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに、
前記偏光板の視認側に、3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム(ただし、配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを除く)を、前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。
前記高分子フィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記高分子フィルムを配してなる直交ニコルを構成し、該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合、前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。
【請求項2】
前記高分子フィルムが配向ポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置の視認性改善方法。
【請求項3】
前記高分子フィルムの厚みが25?500μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶表示装置の視認性改善方法。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の視認性改善方法を用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項5】
バックライト光源と、液晶セルと、液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において、
バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに、
前記偏光板の視認側に、3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを、前記偏光板の吸収軸と前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し、該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合、前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。
【請求項6】
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みが38?200μmであり、前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△N)が0.0980?0.1076であることを特徴とする請求項5に記載の液晶表示装置の視認性改善方法。
【請求項7】
バックライト光源と、液晶セルと、液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において、
バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する光源を用いるとともに、
前記偏光板の視認側に、3000?30000nmのリタデーションを有する配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを、前記偏光板の吸収軸と前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸とのなす角が30?60度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置。
前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの特徴;
直交ニコル間の対角位に前記配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを配してなる直交ニコルを構成し、該直交ニコルの一方の面から前記バックライト光源の光を照射した場合、前記バックライト光源のスペクトルの形状と前記直交ニコルを透過した光のスペクトルの包絡線とが相似形となる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-11-10 
出願番号 特願2012-132122(P2012-132122)
審決分類 P 1 651・ 4- YAA (G02F)
P 1 651・ 121- YAA (G02F)
P 1 651・ 537- YAA (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤田 都志行  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 恩田 春香
近藤 幸浩
登録日 2015-08-07 
登録番号 特許第5789564号(P5789564)
権利者 東洋紡株式会社 学校法人慶應義塾
発明の名称 液晶表示装置の視認性改善方法、及びそれを用いた液晶表示装置  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 植木 久一  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 植木 久彦  
代理人 特許業務法人コスモ国際特許事務所  
代理人 植木 久彦  
代理人 植木 久一  
代理人 菅河 忠志  
代理人 植木 久彦  
代理人 菅河 忠志  
代理人 植木 久一  
代理人 菅河 忠志  
代理人 伊藤 浩彰  

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