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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C04B |
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管理番号 | 1336155 |
異議申立番号 | 異議2017-700273 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-03-15 |
確定日 | 2017-12-01 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6026495号発明「低カーボンMgO-Cれんが」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6026495号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項[1、2]について訂正することを認める。 特許第6026495号の請求項1、2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6026495号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成26年12月7日に特許出願され、平成28年10月21日にその特許権の設定登録がされ、登録後の経緯は以下のとおりである。 平成29年 3月15日付け:特許異議申立人 品川リフラクトリーズ 株式会社による特許異議の申立て 同年 3月28日付け:特許異議申立人 黒崎播磨株式会社による 特許異議の申立て 同年 7月 6日付け:取消理由の通知 同年 9月 6日付け:訂正請求書及び意見書の提出 同年10月10日付け:特許異議申立人 品川リフラクトリーズ 株式会社による意見書の提出 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「合量0?7重量%のピッチ粉及び/または鱗状黒鉛」と記載されているのを、「合量7重量%以下のピッチ粉及び/または鱗状黒鉛」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 明細書の段落【0013】に「合量0?7重量%のピッチ粉及び/または鱗状黒鉛」と記載されているのを、「合量で7重量%以下のピッチ粉及び/または鱗状黒鉛」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、カーボン(C)を含有する「低カーボンMgO-Cレンガ」において、同レンガの主たるカーボン成分であると認められるピッチ粉や鱗状黒鉛の含有量を0重量%、すなわち、カーボンを含有させないことを許容するかのように記載されていた請求項1の記載を明瞭化するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的としている。 また、ピッチ粉や鱗状黒鉛の含有量を7重量%以下とする点は、【0029】に「ピッチ及び/または鱗状黒鉛の添加量は、ピッチと黒鉛の合量で7重量%以下が好ましい。」と記載されており、また、【表1】の全ての実施例がピッチ粉や鱗状黒鉛を含有しているなど、無添加とする点に触れられていないことからみても、明細書に記載された事項であると認められる。 よって、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 次に、訂正事項2は、上記の訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載とを整合させるため、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、訂正前の請求項2は、訂正事項1に係る請求項1の記載を引用する関係にあるから、請求項1、2は、一群の請求項に該当するものである。 したがって、訂正の請求は、この一群の請求項についてされたものである。 (小括) 上述のとおり、上記訂正請求による訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項[1、2]について訂正を認める。 第3 本件特許発明 特許第6026495号の請求項1、2に係る発明(以下「本件特許発明1、2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された以下の事項により特定されるとおりのものと認める。 【請求項1】 マグネシア原料100重量%に対して、外掛けで、合量7重量%以下のピッチ粉及び/または鱗状黒鉛と、外掛けで0.1?10重量%の炭化珪素を添加してなる配合物であって、前記マグネシア原料は、マグネシア原料100重量%に対して粒径1.0mm以上のマグネシアを20?65重量%含有し、なおかつ粒径5.0mm以上の粗大マグネシアの含有量がマグネシア原料100重量%に対して5重量%以上である配合物を用いて得られる低カーボンMgO-Cれんがにおいて、前記炭化珪素の最大粒径が200メッシュ以下であり、かつ粒径が20μm以下の炭化珪素の含量が前記マグネシア原料100重量%に対して7重量%以下であることを特徴とする低カーボンMgO-Cれんが。 【請求項2】 請求項1に記載の低カーボンMgO-Cれんがにおいて、更に前記マグネシア原料100重量%に対して、外掛けで0?5重量%の金属Al粉及び/または0?5重量%の金属Siを添加してなる配合物を用いて得られた請求項1に記載の低カーボンMgO-Cれんが。 第4 取消理由 1.取消理由の概要 当審において、訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (1)「低カーボンMgO-Cれんが」において、ピッチ粉及び/又は鱗状黒鉛の合量が0重量%であることを許容する請求項1及びそれを引用する請求項2に係る本件特許発明1、2は不明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定を満たさない。 (2)ピッチ粉及び/又は鱗状黒鉛の合量が0重量%である「低カーボンMgO-Cれんが」が、本件特許発明1、2の課題を解決し得ることが発明の詳細な説明に記載されていないため、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさない。 2.当審の判断 訂正前の請求項1では、「低カーボンMgO-Cれんが」のピッチ粉及び/又は鱗状黒鉛が合量で「0重量%」になり得ることから、請求項1、2に係る発明は不明確であり、また、同発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではないと判断した。 しかしながら、上記「第2 1.」に記載のとおり、訂正によりピッチ粉及び/又は鱗状黒鉛が合量で「7重量%以下」とされ、0重量%とならない旨が明瞭化された。 したがって、訂正特許請求の範囲は、特許法第36条6項1号及び2号の規定を満たすものである。 ここで、特許異議申立人 品川リフラクトリーズ株式会社は、平成29年10月10日付けの意見書において、「7重量%以下」が「0重量%」を包含するため、訂正特許請求の範囲は、依然として、特許法第36条6項1号及び2号の規定を満たさない旨を主張している。 しかしながら、本件特許発明1、2は「低カーボンMgO-Cれんが」に係る発明であるから、カーボン成分を含むものと解するのが自然であり、発明の詳細な説明を参照しても、ピッチ粉や鱗状黒鉛を含有する実施例しか記載されていないことなどからみて、0重量%なる記載が削除された請求項1において、「7重量%以下」は、「0重量%」、すなわち、ピッチ粉や鱗状黒鉛が無添加となる場合を排除したものと考えられる。 したがって、「7重量%以下」の記載に関する当該異議申立人の主張は採用することができない。 第5 取消理由で採用しなかった特許異議申立理由 1.特許異議申立人 品川リフラクトリーズ株式会社の主張 (1)特許法第29条第2項(同法第113条第2号) 訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?8号証の記載事項に基づき、当業者が容易に想到し得るものである。 甲第1号証:特開昭59-3068号公報 甲第2号証:特開平9-309762号公報 甲第3号証:特開平9-194252号公報 甲第4号証:特開昭57-118067号公報 甲第5号証:「JIS R6001 研削といし用研磨剤の粒度」、 財団法人日本規格協会、平成10年12月31日 甲第6号証:成瀬庸一 他、「転炉に使用したマグ・カボーンれんがの 調査結果」、耐火物35巻300号、1983年、12-16ページ 甲第7号証:祐成史郎 他、「低黒鉛質MgO-Cれんがの取鍋スラグ ラインへの適用」、材料とプロセス、Vol.4、1991年 No.4、 1225ページ 甲第8号証:滝千尋 他、「転炉出鋼口スリーブ用低カーボンMgO-C れんがの開発」、品川技報、No.38、1995年、23-32ページ 以下、異議申立人 品川リフラクトリーズ株式会社から提出された甲第1?8号証を、甲A1?A8号証という。 2.特許異議申立人 黒崎播磨株式会社の主張 (1)特許法第29条第2項(同法第113条第2号) 訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?6号証の記載事項に基づき、当業者が容易に想到し得るものである。 甲第1号証:特開平7-82005号公報 甲第2号証:特開昭58-125659号公報 甲第3号証:特開昭59-3068号公報(甲第A1号証と同じ) 甲第4号証:特開2009-149473号公報 甲第5号証:特開平5-155655号公報 甲第6号証:特許第4124588号公報 以下、特許異議申立人 黒崎播磨株式会社から提出された甲第1?6号証を、甲B1?B6号証という。 3.甲各号証の記載事項 本件特許出願の出願日(平成26年12月7日)前に頒布された刊行物である甲第A1?A8号証及び甲第B1?B6号証のうち、特に甲第A1?A3、B1号証には、以下の記載がある。 (1)甲第A1号証 a「2.特許請求の範囲 マグネシアもしくはマグネシアとスピネルの合量が60?95重量%と、カーボンが3?20重量%と、2?50ミクロンの微粒子を85%以上含む炭化珪素が2?15重量%からなることを特徴とするマグネシア-カーボン-炭珪系耐火物。」 b「即ちこの発明は、特定微粉の特定量の炭化珪素をカーボンと同時添加することによつて、カーボンの酸化による耐火物の品質劣化を防止し、使用による損耗度を減少させることを目的とし・・・」 (第2ページ右下欄第9?12行) c「SiC反応生成物であるSiOガスは煉瓦気孔中でSiO_(2)となり、MgO原料粒子の表面でMgO-SiO_(2)系化合物(耐火物)を生成し気孔を埋める」 (第3ページ右上欄第19行?同左下欄第2行) d「 」 (2)甲第A2号証 e「【請求項1】 マグネシア原料及び1?5重量%未満のカーボン原料からなる耐火性原料100重量%に対して、金属などの易酸化性添加物の含有量が外割で1.5重量%以下であり、かつ硼化物の含有量が外割で0.5重量%以下であることを特徴とする真空脱ガス精錬炉用低カーボン質MgO-C耐火物。 【請求項2】 マグネシア原料及び1?5重量%未満のカーボン原料からなる耐火性原料100重量%に対して、外割でピッチ及び/又はピッチを含むバインダー:0.1?5重量%を含み、金属などの易酸化性添加物の含有量が外割で1.5重量%以下であり、かつ硼化物の含有量が外割で0.5重量%以下であることを特徴とする真空脱ガス精錬炉用低カーボン質MgO-C耐火物。 ・・・ 【請求項4】 前記マグネシア原料として、1mmよりも大きい粒度の含有量が20?70重量%で、かつ5mmよりも大きい粒度の含有量が30重量%以下である原料を使用することを特徴とする請求項1,2又は3に記載の真空脱ガス精錬炉用低カーボン質MgO-C耐火物。」 f「【0049】・・・MgO粒度が粗くなるほど発生亀裂は少なくなっており、耐熱スポーリング性が向上していることが認められる。・・・低カーボン化に際しては、MgOの粗粒度構成を採用することが好ましいことが理解できる。」 g「【0063】・・・本実施例1・・・において、マグネシア原料としては、海水焼結マグネシア(純度:99%,気孔率:2.5%,かさ比重:3.43)と電融マグネシア(純度:99%,気孔率:2.0%,かさ比重:3.52)を混合して使用した。(混合比→上記焼成クリンカー:電融クリンカー=20:80) 【0064】また、カーボン原料としては、100メッシュ以下でカーボン純度:97%の天然鱗状黒鉛及び2mm以下でカーボン純度:99%のピッチコークスを使用した。 【0065】次の表1及び該表1に続く表2に示す配合割合で各原料を配合してMgO-C煉瓦を作成した。なお、表中のマグネシアA?D及びピッチ粉E,Fは、次のとおりのものである。 ・マグネシアA:≦1mm→90wt%,1?5mm→10wt%,>5mm→ 0wt% ・マグネシアB:≦1mm→70wt%,1?5mm→30wt%,>5mm→ 0wt% ・マグネシアC:≦1mm→45wt%,1?5mm→45wt%,>5mm→10wt%・・・」 h「【表1】 」 (3)甲第A3号証 i「【0011】 ・・・SiCはれんが内に浸入したCOガスと反応し、次式(2)及び(3)で示されるような反応によってSiO_(2)を生成する。 SiC+CO→SiO+C ………(2) SiO+CO→SiO_(2)+C ………(3) このようにして生成したSiO_(2 )はガラス皮膜を形成し、Cの酸化防止の役目を果たす。」 (4)甲第B1号証 j「【請求項1】 炭素質材料1?10重量%、窒化チタンまたは/および炭化チタン0.1?3重量%を含有し、残部がマグネシアを主体とする耐火材料よりなることを特徴とする低カ-ボン質マグネシア・カ-ボン系耐火物。」 k「【0004】また、通常のマグネシア・カ-ボンれんがには黒鉛などの炭素質材料が12?25重量%添加されているが、カ-ボンピックアップの心配から炭素質材料が10重量%以下のものが望ましい。しかしながら、炭素質材料が10重量%以下となると、マグネシア質れんがと同様な熱スポ-リングや構造スポ-リングの発生があり十分な耐用が得られない。」 l「【0010】さらに、本発明の低カ-ボン質マグネシア・カ-ボン系耐火物が激しい酸化性雰囲気で使用される場合には、窒化チタンや炭化チタンの酸化防止材としてガラス質材料を添加するとよい。ガラス質材料はホウ酸系、リン酸系、あるいはホウ酸-リン酸系ガラスが適し、ケイ酸系ガラスはスラグ、マグネシアと反応し低融点の成分を生成するので避けた方がよい。」 m「【0014】 【作用】耐火物がマグネシアを主体とする耐火材料と10重量%以下の炭素質材料のみで構成されると、スラグの浸透を十分には抑制できず、構造スポ-リングを生じ易いので、通常100?1000μm程度の粒径のものが使用される黒鉛を数10μmあるいは数μm以下の粒径とすることにより、添加量の少なさを比表面積の増大によってカバ-しようとしても、今度は酸化による消失が激しくなり逆効果となる。しかし、通常の100?1000μm程度の粒径の黒鉛では、10重量%以下の添加では、マグネシア微粒子間からのスラグの浸透を十分に抑制することは出来ない。 【0015】・・・チタンの窒化物や炭化物はスラグに対する濡れ性が著しく小さいために、黒鉛と同様にスラグがれんが内部へ深く浸透することを抑制し、スラグ浸透に伴う構造スポ-リングを防止する。また、炭化チタンや窒化チタンの場合は鋼へのカ-ボンピックアップの心配もなく、しかも、数10μmあるいは数μm以下の粒径で使用しても、耐酸化性が大きいので酸化による消失の恐れも少ない。従って、マグネシアを主体とする耐火材料と10重量%以下の炭素質材料より構成される素材に炭化チタンや窒化チタンを少量添加することにより、非常に良好にスラグの浸透を抑制できる。 【0016】また、チタンの窒化物や炭化物は熱伝導率が10kcal/m・hr・℃以上あり、マグネシアの約4kcal/m・hr・℃に比較して高く、熱スポ-リングに対しても効果が大きい。」 n「【表1】 」 4.当審の判断 (1)異議申立人 品川リフラクトリーズ株式会社の異議申立理由について ア.引用発明1 甲第A1号証の摘記事項aから、甲第A1号証には、「マグネシアが60?95重量%、カーボンが3?20重量%、2?50ミクロンの微粒子を85%以上含む炭化珪素が2?15重量%からなるマグネシア-カーボン-炭珪系耐火物」が記載されている。かかる成分比を、マグネシア原料100重量%として、本件特許発明1の表記に揃えると、「マグネシア原料100重量%に対して、外掛けで、カーボンが3?33重量%、2?50μmの微粒子を85%以上含む炭化珪素が2?25重量%からなるマグネシア-カーボン-炭珪系耐火物」(引用発明1)となる。 イ. 対比・判断 本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「マグネシア-カーボン-炭珪系耐火物」は、本件特許発明1の「MgO-Cれんが」に相当する。また、本件特許発明1におけるピッチ粉や鱗状黒鉛は、カーボンに相当する。 したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。 一致点:「マグネシア原料100重量%に対して、外掛けで、カーボンと、炭化珪素とを所定量含有するMgO-Cれんが。」 相違点1:本件特許発明1は、ピッチ粉及び/又は鱗状黒鉛をマグネシア原料100重量%に対して外掛けで7重量%以下含有する「低カーボン」MgO-Cれんがであるのに対し、引用発明1は、カーボンを3?33重量%含有し、必ずしも「低カーボン」とはいえない点。 相違点2:本件特許発明1は、炭化珪素をマグネシア原料100重量%に対して外掛けで0.1?10重量%含有するのに対し、引用発明1は、炭化珪素が2?25重量%である点。 相違点3:本件特許発明1は、マグネシア原料の粒径を特定しているのに対して、引用発明1では不明な点。 相違点4:本件特許発明1は、「炭化珪素の最大粒径が200メッシュ以下」であり、また、「粒径が20μm以下の炭化珪素の含量がマグネシア原料に対して7重量%以下」であるのに対し、引用発明1は、2?50μmの微粒子を85%以上含む炭化珪素を利用する旨を開示するものの、粒度構成が不明な点。 そこで、まず、上記の相違点1、3について、以下に検討する。 この点について、上記の摘記事項e?hからみて、甲第A2号証は、MgO-Cれんがに含まれるカーボン量を本件特許発明1に特定される範囲まで低減した場合に、マグネシア原料を粗粒化することで、耐熱スポーリング性を高める技術を開示している。そして、耐熱スポーリング性を高めることがれんがに共通する技術課題であることを鑑みると、一見して、当該技術課題を解決するために、引用発明1に含まれるカーボン量が少ない場合に、マグネシア原料を粗粒化することは、当業者であれば容易になし得ることであるとも考えられる。 しかしながら、本件特許発明1は、「炭化珪素をルーツとするガラスは、熱サイクルによって剥離し易い性質がある。それを防止するのが、本発明に係る粗大粒マグネシア原料である。」(【0021】参照)との作用機序の認識に基づいて、「粗大マグネシア原料を配し、粒度構成を適正化すると共に、炭化珪素原料を添加することにより、低カーボンMgO-Cれんがの耐食性と耐熱スポーリング性を損なうことなく、耐構造スポーリング性を高める」(【0022】参照)という効果を奏するのに対し、甲第A2号証は、炭化硅素を含有しない低カーボンMgO-Cれんがを前提とするものであるから、当業者といえども、引用発明1と甲第A2号証に記載の技術的事項を組み合わせることで、耐構造スポーリング性を高めるという本件特許発明1の効果を予測できたとはいえない。 また、甲第A3?A8号証を参照しても、マグネシア原料の粒度構成の調整と炭化珪素の添加により、低カーボンMgO-Cれんがの耐構造スポーリング性が高められることは、記載も示唆もされていない。 そうすると、本件特許発明1は、引用発明1及び甲第A2?A8号証に記載の技術的事項からは当業者が予測し得ない効果を奏するものであるといえる。 したがって、相違点2、4を検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明1及び甲第A2?A8号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるものとはいえない。 また、本件特許発明1に対して金属Al粉や金属Siを追加的に添加した本件特許発明2も、上記の本件特許発明1に係る判断と同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるものではない。 (2)異議申立人 黒崎播磨株式会社の異議申立理由について ア. 引用発明2 甲第B1号証の摘記事項j、nから、甲第B1号証には、実施例5の耐火物として「海水マグネシアクリンカー93.5重量%、天然黒鉛5重量%、窒化チタン1重量%を含有し、粒径1mm以上の海水マグネシアクリンカーが50重量%である、低カ-ボンMgO-C耐火物」が記載されている。かかる成分比を、海水マグネシアクリンカーを100重量%として、本件特許発明1の表記に揃えると、「海水マグネシアクリンカー100重量%に対して、外掛けで、3.4重量%の黒鉛、1.1重量%の窒化チタンを含有し、粒径1mm以上の海水マグネシアクリンカーが海水マグネシアクリンカー100重量%に対して53.5重量%である、低カ-ボンMgO-C耐火物」(引用発明2)となる。 イ. 対比、判断 引用発明2の「海水マグネシアクリンカー」、「耐火物」は、それぞれ本件特許発明1の「マグネシア原料」、「れんが」に相当する。また、引用発明2の「黒鉛」は形状が特定されていないが、前記甲第A2号証の摘記事項g等から見て、鱗状黒鉛又はピッチを利用する蓋然性が高い。 したがって、本件特許発明1と引用発明2とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。 一致点:「マグネシア原料100重量%に対して、外掛けで、7重量%以下の鱗状黒鉛又はピッチを含有し、粒径1mm以上のマグネシア原料をマグネシア原料100重量%に対して20?65重量%含有する、低カ-ボンMgO-C耐火物」 相違点1:本件特許発明1は、「0.1?10重量%の炭化珪素」を含有しその「最大粒径が200メッシュ以下」であり、また、「粒径が20μm以下の炭化珪素の含量がマグネシア原料に対して7重量%以下」であるのに対し、引用発明2は炭化珪素を含有しない点。 相違点2:本件特許発明1は、「粒径5.0mm以上の粗大マグネシアの含有量がマグネシア原料100重量%に対して5重量%以上である」ことを特定するのに対し、引用発明2では、粒径5.0mm以上の粗大マグネシアを含有しない点。 そこで、まず、相違点1について、以下に検討する。 引用発明2は、上記の摘記事項mによれば、低カーボンMgO-Cれんがにおいて、窒化チタン(又は炭化チタン)が、炭素質材料の酸化を抑制するとともに、スラグの浸透を防止することに着目し、耐構造スポーリング性を実現したものである。 ここで、引用発明2は、上記の摘記事項lによれば、窒化チタンの酸化防止材としてガラス質材料の添加が示唆されているものの、ケイ酸系ガラスはスラグ、マグネシアと反応し低融点の成分を生成するので避けた方がよいと記載されている。 これに対し、上記の摘記事項c、iによれば、炭化珪素を含有するれんがにおいては、炭化硅素とCOガスとの反応により、ケイ酸系ガラスが生成される。そうすると、窒化チタンと炭化珪素とが複合添加されることは、引用発明2で回避しようとするケイ酸系ガラスと窒化チタンとの組み合わせを誘発させることになる。 したがって、引用発明2において、炭化珪素をその粒径まで特定して含有させることには阻害要因がある。そして、甲第B2?B6号証に、かかる阻害要因を覆す技術的な記載や示唆は見当たらない。 以上をまとめると、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明2及び甲B2?B6号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるものではない。また、金属Al粉を含有する本件特許発明2についても、同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるものではない。 なお、甲第A1?A8号証、甲B1?甲B6号証に記載された発明を併せて検討しても、本件特許発明1、2は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由や両特許異議申立人による特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に、本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 低カーボンMgO-Cれんが 【技術分野】 【0001】 本発明は、溶融金属容器等に、なかでもVOD鍋スラグラインとか特殊鋼取鍋スラグライン等、鉄鋼用精錬炉に好適に使用される低カーボンMgO-Cれんがに関するものである。 【背景技術】 【0002】 MgO-Cれんがはマグネシアを主成分とすることにより耐食性が良く、カーボンを含有することで耐スポーリング性も良い優れたれんがとされている。転炉を初めとして窯炉全般に広く使用されている。 【0003】 一般的なMgO-Cれんがは,鱗状黒鉛等のカーボン質原料を比較的大量に約10?20%含有するものであって、鱗状黒鉛等の作用で、耐熱スポーリング性、耐構造スポーリング性ともに優れる材料である。ここで、構造スポーリングとは、れんが内部にスラグが侵入して変質層を形成し、背後の原質層との間に、組織差による(熱膨張差、密度差などによる)亀裂を発生し、激しい場合は剥離に至る現象を言う。れんがの耐スポーリング性は、耐熱スポーリング性と耐構造スポーリング性と耐機械的スポーリング性の三つに分類され、本発明は耐構造スポーリング性を改善するものである。 【0004】 カーボン質原料は、前記の利点の他に、MgO-Cれんがの熱伝導率を高め、溶融金属の温度降下の原因となるだけでなく、カーボンピックアップの原因となるというマイナス点もあるので、カーボン含量を下げた低カーボンMgO-Cれんがが要求され広く使用されるようになった。 【0005】 ところが、鱗状黒鉛等を減らしてMgO-Cれんがのカーボン含量を7重量%未満の低いレベルにすると、スポーリングによって剥落し易くなるという問題があることが明らかになって来た。カーボンが少ないことによって熱伝導率が低くなり、熱膨張が大きくなると共にスラグに濡れやすくなるからである。 【0006】 この問題に対して、ピッチ粉を添加することで耐スポーリング性を向上させた低カーボンMgO-Cれんがが数多く開示されている。(例えば、特許文献1,特許文献2) 【0007】 特許文献1,特許文献2に開示されている低カーボンMgO-Cれんがは、耐熱スポーリング性は、略満たされているものの、耐構造スポーリング性の改善は不充分である。 【0008】 低カーボンMgO-Cれんがは、スラグに濡れにくい性質を与えるカーボンの含量が少ないので、短期間の使用でカーボンの不足状態に陥り、スラグが浸透しやすくなって、構造スポーリングを起こすのである。 【0009】 一方、低カーボンMgO-Cれんがに含まれる少量のカーボンを空気中の酸素やスラグ中の鉄酸化物による酸化から守って耐スポーリング性を良好な状態で維持させようと試みられたことがある。カーボンよりも酸素親和力の大きいアルミニウムやシリコンなどの金属や合金を添加するとカーボンの酸化消失は防止される。しかし、MgO-Cれんがに大量の金属類を添加すると、組織が緻密化し耐熱スポーリング性を低下させることが明らかになった。 【0010】 低カーボンMgO-Cれんがの耐構造スポーリング性を改善する方法として特許文献3では窒化チタン、炭化チタンを添加する方法が提案され、特許文献4ではホウ化モリブデンを添加する方法が開示されている。いずれも、添加する物質そのものの濡れにくさに頼ってカーボンの代替をさせようとしているものであって、低カーボンMgO-Cれんがの耐構造スポーリング性の本質的改善法とは言えない。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0011】 【特許文献1】特開平06-321626号公報 【特許文献2】特開平11-322405号公報 【特許文献3】特開平07-82005号公報 【特許文献4】特開平07-82006号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明の課題は低カーボンMgO-Cれんがにおいて、耐食性と耐熱スポーリング性を損なうことなく、耐構造スポーリング性を向上させることを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明は、マグネシア原料100重量部に対して外掛けで、合量で7重量%以下のピッチ粉及び/または鱗状黒鉛が配合されている低カーボンMgO-Cれんがにおいて、前記マグネシア原料の粒度構成を適正化し、更に炭化珪素原料を併用することにより、低カーボンMgO-Cれんがの耐食性と耐熱スポーリング性を損なうことなく、耐構造スポーリング性を向上させることが出来るという新規な知見に基づいて完成させたものである。 【0014】 本発明に係る低カーボンMgO-Cれんがは、粒径1.0mm以上のマグネシア原料を20?65重量%含有し、なおかつ粒径5.0mm以上のマグネシア原料の含有量が5重量%以上であり、マグネシア原料100重量部に対して外掛けで0.1?10重量%の炭化珪素が添加されていることを特徴とする。 【0015】 なお、上記本発明の低カーボンMgO-Cれんがにおける他の好ましい態様の一つにおいては、前記配合物に、前記マグネシア原料100重量部に対して外掛けで、0?5重量%のアルミニウム粉及び/または0?5重量%の金属珪素粉が更に配合されていることを特徴とする。 【0016】 また、本発明の低カーボンMgO-Cれんがにおける他の好ましい態様の一つにおいては、前記炭化珪素の最大粒が1.0mm以下であり、かつ粒径20μm以下の炭化珪素の含量が前記マグネシア原料100重量%に対して7重量%以下であることを特徴とする。 【0017】 本発明による低カーボンMgO-Cれんがは、耐構造スポーリングにおいて優れた効果を示すが、その理由は以下のとおりと考えられる。 【0018】 MgO-Cれんがは、通常のカーボン含量の高いものであれ、本発明に係る低カーボンであれ、取鍋等の炉内側の方が、鉄皮側よりも酸化が激しく、炉内側から順次、溶損もしくはスポーリングよって損傷して行く。 【0019】 本発明の低カーボンMgO-Cれんがにおいて、炭化珪素は融点が高く、スラグに濡れにくいので、低カーボンMgO-Cれんがの耐食性向上に寄与する。又、カーボンに次いで、低熱膨張性と高熱伝導性の特性を有するので低カーボンMgO-Cれんがの耐熱スポーリング性の向上にも寄与する。 【0020】 稼働面においては、まずカーボンが酸化する。カーボンの酸化消失に続いて炭化珪素が酸化する。炭化珪素はSiC+O_(2)→SiO_(2)+Cの酸化反応で二酸化珪素を生成する。二酸化珪素はガラス成分となって低カーボンMgO-Cれんがの保護層として働く。このガラスは緻密であり通気性が低いので、酸化防止の保護層として働く。又、 緻密であるからスラグを浸透させず、変質層の拡大を防止し、耐構造スポーリング性向上に役立つ。 【0021】 炭化珪素をルーツとするガラスは、熱サイクルによって剥離し易い性質がある。それを防止するのが、本発明に係る粗大粒マグネシア原料である。本発明において添加された粗大粒マグネシア原料が、稼働面に形成された保護層をカーボンの残る健全層に鋲付けの如く固定し、前記保護層を長期に亘って機能させると考えられる。 【発明の効果】 【0022】 本発明によれば、粗大マグネシア原料を配し、粒度構成を適正化すると共に、炭化珪素原料を添加することにより、低カーボンMgO-Cれんがの耐食性と耐熱スポーリング性を損なうことなく、耐構造スポーリング性を高めることができた。これにより各種溶融金属容器や二次精錬設備等において、カーボンピックアップを低減すると共に耐火物の耐用を向上させることができる。 【発明を実施するための形態】 【0023】 本発明の低カーボンMgO-Cれんがに使用するマグネシア原料としては、電融マグネシア、海水マグネシア、天然マグネシア等が何れも使用可能である。そして、純度に関しては、不純物による耐食性の低下や過焼結の影響を避けるために95重量%以上の高純度のものを使用するのが望ましい。 【0024】 炭化珪素原料としては、公知の合成原料が使用できる。SiC含量90%以上のものが好ましい。不純物が多い場合、耐熱スポーリング性を低下させるからである。 【0025】 炭化珪素原料の粒度としては、最大粒径1mm以下での添加が好ましい。1mmよりも大きい場合、稼働面でのSiO_(2)生成のスピードが遅いため、構造スポーリング防止効果を発揮し難い。また、20μmより細かいSiCの含量が、マグネシア原料100重量%に対して7重量%を超えると、稼働面から離れた1200℃前後のゾーンにおいて、カーボンが残っている環境下で、SiCが酸化して生成するSiO_(2)の量が多くなり過ぎて、過焼結して耐熱スポーリング性を低下させる原因となる。細かいSiCは活性が高く酸化し易いからである。 【0026】 炭化珪素原料の添加量は、マグネシア原料100重量%に対して0.1?10重量%が好ましい。0.1%以下では添加の効果がない。10重量%以下に制限するのは、SiCの酸化分解によって生成するC(炭素)もカーボンピックアップの原因になるからである。また、炭化珪素原料の適正添加量の目安は、ピッチと鱗状黒鉛の合量からなるカーボン質原料の0.1?3倍である。 【0027】 ピッチは軟化点が350℃以下のものを使用する。350℃より高い場合、組織への拡散が均一でなくなり好ましくない。 【0028】 鱗状黒鉛は100メッシュ以下で、純度90%以上のものが好ましい。 【0029】 ピッチ及び/または鱗状黒鉛の添加量は、ピッチと黒鉛の合量で7重量%以下が好ましい。7重量%より多いとカーボンピックアップの問題発生の恐れを生ずる。 【0030】 本発明の低カーボンMgO-Cれんがには、金属、合金等の金属質原料を添加することもできる。金属質原料は特に限定されるものではないが、Al及び/またはSiの添加が好ましい。添加量はマグネシア原料に対して、外掛けで0?5質量%、好ましくは0.5?3%の範囲内である。5質量%を超えると耐スポーリング性が低下させるので好ましくない。 【0031】 本発明の低カーボンMgO-Cれんがに使用するバインダーは、特に限定するものではないが、一般的にフェノール樹脂が使用できる。室温で液体であれば、レゾール型、ノボラック型いずれも使用できる。その添加量は1?3%である。3%以上では気孔率が大きくなり耐食性が低下する。1%以下では成形性が悪く強度不足となる。 【0032】 このような低カーボンMgO-Cれんがは、従来と同じ方法で製造できる。マグネシア原料にカーボン質原料を加え、必要に応じて金属質原料を添加し、フェノール樹脂等のバインダーを加えて混練し、成形後100?500℃、好ましくは、200?350℃の熱処理をして不焼成れんがとする。 【実施例】 【0033】 以下、本発明の実施例を説明する。 【0034】 試料作製は特殊鋼取鍋用製品製造ラインを用いて行った。表1,2に記載の割合で原料を調合し、高速ミキサーで混練し、230×230×85mmの形状において、真空プレスにより成形した。乾燥はバッチ式ドライヤーにより、最高温度300±10℃で8時間保持により行った。 【0035】 【表1】 【0036】 【表2】 【0037】 炭化珪素の粒径の影響、炭化珪素の添加量の影響、電融マグネシアの粒度構成の影響、金属添加の有無の影響等を調査するため、表1,2に示す調合割合で混練、成形、乾燥し試料を作製した。また、その耐熱スポーリング性、耐食性、及び耐構造スポーリング性の評価も表1,2に示した。 【0038】 耐熱スポーリング性の評価は高周波誘導炉を用いた溶銑浸漬法によって行った。試験方法は次のとおりである。試料形状は、40mm×40mm×230mmとした。実炉での条件に近づけるため、試料をあらかじめコークスブリーズ中で1400℃×3h熱処理した。高周波誘導炉で1500℃に保持した溶銑中に、40mm×40mm×230mmの試片を長手方向に100mmまで浸漬し90秒間保持した後に大気中で90秒間放冷する操作を5回繰り返した。試験後の試片を目視観察し、優劣を下記のように表現した。 ◎:小さな亀裂がある。 ○:大きな亀裂がある。 △:4?5回で剥離した。 ×:1?3回で剥離した。 【0039】 耐食性の評価は高周波誘導炉内張り法によって行った。試験方法は次のとおりである。誘導炉で鋼片を溶解し、1750℃に保持して、VOD鍋スラグ(スラグの塩基度はCaO/SiO_(2)=3)を投入する。30分ごとにスラグを交換しながら6時間保持する。試験後に損耗量を測定した。比較例6の侵食量を100として指数で表示した。数値が小さいほど耐食性に優れることを示している。 【0040】 耐構造スポーリング性の評価は回転式侵食試験炉で、プロパン-酸素バーナーによって行った。試験方法は、厚さ70mmの試料を8個1組で内張りした回転式侵食試験炉を1時間あたり200℃で昇温し1750℃に達した時、スラグを投入した。スラグとして、VOD鍋スラグ(スラグの塩基度はCaO/SiO_(2)=3)を使用した。1750℃で30分間保持してスラグを浸透させた後、自然冷却させた。30分後に1550℃まで急昇温させて30分間保持した。1550℃での加熱30分と冷却30分の操作を5回繰り返した。試験炉の回転速度は4rpmとした。試験温度を1750℃から1550℃に下げたのは、溶損の影響を排除し、構造スポーリングに注目するためである。試験後に試料を切断し、スラグの侵入厚さと、変質層と原層の境界部分に発生する亀裂の大きさを測定し優劣を比較した。スラグ侵入厚さが薄く、亀裂の幅の小さいものが耐構造スポーリング性良好と判定した。 【0041】 耐熱スポーリング性、耐食性、耐構造スポーリング性の評価をまとめて、総合評価として下記のむように表現した。 ◎:優れている。 ○:普通。 ×:悪い。 【0042】 実施例1?5では、マグネシア原料として電融マグネシアを使用し、マグネシアの粒径比率を一定として、添加炭化珪素の粒度を3-1mmから♯2000の範囲で変化させて、その影響を比較した。その結果、炭化珪素の粒度が小さいほど、スラグ侵入厚さが薄く、耐構造スポーリング性が良好であることが分かった。一方、耐熱スポーリング性は炭化珪素の粒度が粗いほど良好である。20μm以下の細かい炭化珪素を多く含む実施例9の耐熱スポーリング性は特に悪い。20μm以下の炭化珪素の含量はマグネシア原料100重量%に対して7重量%以下であることが好ましいと言える。 【0043】 実施例6?9と比較例1?2は炭化珪素の添加量の影響を調査した結果である。 実施例6?9は、炭化珪素の添加量が本発明の範囲内であれば、耐構造スポーリング性が良好であることを示している。炭化珪素を添加していない比較例1は、スラグ侵入厚さが大きく、亀裂の幅も大きい。よって、耐構造スポーリング性が悪いと評価した。炭化珪素添加量の添加量が本発明の範囲外である比較例2は耐食性と耐熱スポーリング性が非常に悪いという結果を示している。 【0044】 実施例3,10,11と比較例3,4,5でマグネシア原料の粒径比率の影響をみることができる。マグネシア原料の粒径比率が本発明の範囲内にある実施例3,10,11は構造スポーリングの試験において変質層と原質層の境界部分に亀裂を発生しなかった。マグネシア原料の粒径比率が本発明の範囲外にある比較例3,4,5では、前記境界部分に亀裂を発生した。比較例3,4,5は本発明の範囲内の炭化珪素原料を含有しても、マグネシア原料の粒径比率が適正でなければ構造スポーリング性が悪いことを示している。 【0045】 スラグ侵入厚さと亀裂の幅を測定する際に、切断面の様子を観察した。実施例3,10,11では、粗大マグネシア原料によって変質層が原質層に鋲付けの如く固定されていた。 【0046】 比較例1,6,7,8のデータを対比すると、炭化珪素原料を添加せずに、1.0mm以上の粗粒の比率を高くしたり、粗大粒を使用するだけでは、耐熱スポーリング性は良くなっても、耐構造スポーリング性は改善されないことが分かる。 【0047】 実施例3,12,13は金属添加の有無について調査した結果である。金属添加の有無に拘わらず、耐熱スポーリング性と耐構造スポーリング性は、ほぼ同程度に良好であった。ただし、耐食性については、僅かながら差が見られ、AlとSi両方の金属を添加した実施例3が最も良好であった。 【0048】 実施例に示したものは、いずれも構造スポーリング性の試験において亀裂の発生が無く、スラグの侵入厚さも薄かったので耐構造スポーリング性が極めて良好と判定した。しかも、本発明の範囲内にある実施例においては耐熱スポーリング性と耐食性の特性も損なわれていない。 【0049】 本発明の実施例3と従来品である比較例1、5、6をA社SUS鍋スラグラインに張り合わせて実炉テストを行った。27ch後の残厚から計算し、損傷速度の比較を行った。その結果を表3に示す。 【0050】 【表3】 【0051】 実炉試験において本発明品は従来品に比べて格段に優れた耐用性を示した。 【産業上の利用可能性】 【0052】 本発明の低カーボンMgO-Cれんがは、VOD鍋スラグラインとか特殊鋼取鍋等の鉄鋼用精錬炉および溶融金属容器に適用可能である。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 マグネシア原料100重量%に対して、外掛けで、合量7重量%以下のピッチ粉及び/または鱗状黒鉛と、外掛けで0.1?10重量%の炭化珪素を添加してなる配合物であって、前記マグネシア原料は、マグネシア原料100重量%に対して粒径1.0mm以上のマグネシアを20?65重量%含有し、なおかつ粒径5.0mm以上の粗大マグネシアの含有量がマグネシア原料100重量%に対して5重量%以上である配合物を用いて得られる低カーボンMgO-Cれんがにおいて、前記炭化珪素の最大粒径が200メッシュ以下であり、かつ粒径が20μm以下の炭化珪素の含量が前記マグネシア原料100重量%に対して7重量%以下であることを特徴とする低カーボンMgO-Cれんが。 【請求項2】 請求項1に記載の低カーボンMgO-Cれんがにおいて、更に前記マグネシア原料100重量%に対して、外掛けで0?5重量%の金属Al粉及び/または0?5重量%の金属Siを添加してなる配合物を用いて得られた請求項1に記載の低カーボンMgO-Cれんが。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-11-20 |
出願番号 | 特願2014-247508(P2014-247508) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C04B)
P 1 651・ 537- YAA (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 佐溝 茂良、立木 林、阪野 誠司、粟野 正明 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 蛭田 敦 |
登録日 | 2016-10-21 |
登録番号 | 特許第6026495号(P6026495) |
権利者 | 株式会社ヨータイ |
発明の名称 | 低カーボンMgO-Cれんが |
代理人 | 特許業務法人英和特許事務所 |
代理人 | 福井 豊明 |