• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1337266
審判番号 無効2014-800013  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-01-22 
確定日 2018-02-06 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4094047号「発光装置」の特許無効審判事件についてされた平成27年 4月 6日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成27年(行ケ)第10097号、平成28年 3月 8日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第4094047号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4094047号(以下「本件特許」という。請求項の数は1である。)の請求項1に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
1 本件特許についての手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成19年 8月13日 本件特許出願(特願2007-210888号(特願2004-363534号の分割出願)、優先権主張 平成16年4月27日、平成16年6月21日、平成16年6月30日)
平成20年 3月14日 設定登録
平成26年 1月22日 審判請求
平成26年 4月 7日 審判事件答弁書提出(被請求人)
平成26年 5月28日 審理事項通知
平成26年 7月 2日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成26年 7月 2日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成26年 7月10日 上申書提出(請求人)
平成26年 7月16日 口頭審理
平成26年 7月18日 上申書提出(被請求人)
平成26年 8月 1日 上申書(第2回)提出(請求人)
平成26年 8月 1日 上申書提出(被請求人)
平成26年 8月25日 上申書(第3回)提出(請求人)
平成26年 9月24日 審決の予告
平成26年11月28日 訂正請求書提出(被請求人)
平成26年11月28日 上申書提出(被請求人)
平成27年 1月 7日 上申書(第4回)提出(請求人)
平成27年 2月20日 審判事件答弁書提出(被請求人)
平成27年 4月 6日 審決(訂正を認める。請求成立。以下「前審決」という。)
平成27年 5月15日 知的財産高等裁判所出訴(平成27年(行ケ)第10097号)
平成28年 3月 8日 判決(審決取消。以下「判決」という。)
平成28年 5月30日 上申書(第5回)提出(請求人)
平成28年 8月 5日 審判事件答弁書提出(被請求人)

2 特願2004-363534号(以下「原出願」という。)に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成16年12月15日 特許出願(優先権主張 平成16年4月27日、平成16年6月21日、平成16年6月30日)
平成20年 5月23日 設定登録(特許第4128564号)
平成23年 3月15日 審判請求(無効2011-800043号)
平成23年 5月26日 審判事件答弁書提出(被請求人)
平成23年 8月16日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成23年 8月23日 審判事件上申書提出(被請求人)
平成23年 8月30日 弁駁書提出(請求人)
平成23年 8月30日 口頭審理
平成23年 9月 1日 上申書提出(請求人)
平成23年 9月 7日 審判事件上申書提出(被請求人)
平成23年12月12日 審決(請求成立)
平成24年 1月20日 知的財産高等裁判所出訴(平成24年(行ケ)第10020号)
平成24年 4月18日 訂正審判請求(訂正2012-390050号)
平成25年 1月31日 判決(審決取消し。以下「前判決」という。)
平成25年 3月 4日 上申書提出(請求人)
平成25年 3月11日 審判事件上申書提出(被請求人)
平成25年 3月12日 訂正審判請求(訂正2012-390050号)
の取下げ
平成25年 5月31日 審決(請求成立)

第3 訂正請求について
1 訂正の内容
被請求人が、平成26年11月28日付け訂正請求書で求める訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体であり、」とあるのを、「前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)を除く)であり、」に訂正する。
(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0010】に、「前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体であり、」とあるのを、「前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)を除く)であり、」に訂正する。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1
ア 訂正前の請求項1に係る発明では、赤色蛍光体が「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」であることを特定していたところ、訂正後の請求項1に係る発明では、赤色蛍光体が「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)を除く)」であることを特定するものである。
そうすると、訂正事項1は、赤色蛍光体が取り得る態様から、「Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」を除くことにより、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 本件特許明細書には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。
(ア)「【0012】
Eu^(2+)で付活された蛍光体の特性を詳細に調べたところ、以下(1)?(3)に示す蛍光体は、波長360nm以上420nm未満の近紫外?紫色領域に発光ピークを有する紫色発光素子の励起下における内部量子効率だけでなく、波長420nm以上500nm未満、特に、波長440nm以上500nm未満の青色領域に発光ピークを有する青色発光素子の励起下における内部量子効率も高く、良好なものは、その内部量子効率が90%?100%であることが見出された。

(3)Eu^(2+)で付活され、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物系(ニトリドシリケート系、ニトリドアルミノシリケート系等)の赤色蛍光体、例えば、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)、SrSiN_(2):Eu^(2+)、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)、CaAlSiN_(3):Eu^(2+)、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)等の蛍光体。」
(イ)「【0057】
上記Eu^(2+)で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体は、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する暖色系光、好ましくは610nm以上650nm以下の波長領域に発光ピークを有する赤色系光を放つ蛍光体であり、上述した360nm以上500nm未満の波長領域の励起光下における内部量子効率が高い蛍光体に該当する。より詳細には、組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表されるニトリドアルミノシリケート蛍光体、例えば、図13に示したSrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体やCaAlSiN_(3):Eu_(2+)赤色蛍光体等、組成式(M_(1-x)Eu_(x))SiN_(2)で表されるニトリドシリケート蛍光体、例えば、図12に示したSrSiN_(2):Eu^(2+)赤色蛍光体やCaSiN_(2):Eu^(2+)赤色蛍光体等、組成式(M_(1-x)Eu_(x))_(2)Si_(5)N_(8)で表されるニトリドシリケート蛍光体、例えば、図14に示したSr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)赤色蛍光体、Ca_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)赤色蛍光体又はBa_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)赤色蛍光体等、及び、組成式(M_(1-x)Eu_(x))_(2)Si_(4)AlON_(7)で表されるオクソニトリドアルミノシリケート蛍光体、例えば、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu_(2+)赤色蛍光体等を用いればよい。但し、上記組成式のMは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である。」
(ウ)「【0150】
また、実施例3では、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体を用いた場合を説明したが、組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表される蛍光体であり、Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、xは式0.005≦x≦0.3を満たす数値であれば、特に限定されるものではない。また、緑色蛍光体は上述の実施例で使用した緑色蛍光体に限定されず、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ緑色蛍光体であれば特に限定されない。上記緑色蛍光体に代えて、560nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ黄色蛍光体を用いても良い。なお、発光出力の好ましい、上記緑又は黄色蛍光体は、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体である。
【0151】
なお、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体の特性は、従来の赤色蛍光体、例えば、SrSiN_(2):Eu^(2+)、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)等の窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体と似通っているので、実施例2又は実施例3において、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体に代えて、上記従来の窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体を用いた場合でも、同様の作用効果が認められる。」

ウ 以上の記載によれば、本件訂正後の請求項1に係る発明の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」は、「波長360nm以上420nm未満の近紫外?紫色領域に発光ピークを有する紫色発光素子の励起下における内部量子効率だけでなく、波長420nm以上500nm未満、特に、波長440nm以上500nm未満の青色領域に発光ピークを有する青色発光素子の励起下における内部量子効率も高」い赤色蛍光体としての技術的意義を有するものと認められる。
そして、赤色のニトリドアルミノシリケート系蛍光体として、組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表される蛍光体、組成式(M_(1-x)Eu_(x))_(2)Si_(4)AlON_(7)で表される蛍光体、具体的には、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)蛍光体、CaAlSiN_(3):Eu^(2+)蛍光体、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)蛍光体といった各種組成のものが記載されており、また、上記「組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表される蛍光体であり、Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、xは式0.005≦x≦0.3を満たす数値であれば、特に限定されるものではない」との記載や上記「SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体の特性は、従来の…Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)等の窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体と似通っているので、実施例2又は実施例3において、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体に代えて、上記従来の窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体を用いた場合でも、同様の作用効果が認められる」との記載に照らせば、本件訂正後の請求項1に係る発明において使用される「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」は、赤色のニトリドアルミノシリケート系蛍光体であれば、その組成は問わないものと解され、訂正事項1は、そのような「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」のうち、具体的に列挙された「Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」を除外するものと解される。
そして、除外される「Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」のみが何らかの特有の技術的意義を有するとか、除外後に残った蛍光体のみが何らかの特有の技術的意義を有するなど、本件訂正の前後で、「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」の技術的内容を変更するような事情も見当たらない。
してみると、「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」から「Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」を除くことによって新たな技術的事項が導入されるとはいえず、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。

エ 上記アで述べたとおり、訂正事項1は、赤色蛍光体が取り得る態様から、「Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」を除くものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
ア 訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために、願書に添付した明細書の段落【0010】に、「前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体であり、」とあるのを、「前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)を除く)であり、」に訂正するものである。
そうすると、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 上記(1)ウと同様の理由により、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。

ウ 上記(1)エと同様の理由により、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおり、訂正事項1及び訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮あるいは明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、また、訂正事項1及び訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。

第4 本件訂正発明
1 上記のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを含む蛍光体層と、発光素子とを備え、
前記赤色蛍光体が放つ赤色系の発光成分と、前記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分と、前記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含む発光装置であって、
前記出力光が、白色光であり、
前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)を除く)であり、
前記緑色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活され、かつ、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体であり、
前記発光素子は、440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子であり、
前記蛍光体層に含まれる蛍光体はEu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体のみを含み、
前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上であり、
前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有し、
前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まないことを特徴とする発光装置。」

2 本件訂正発明を分説すると、以下のとおりである。

「(A)赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを含む蛍光体層と、発光素子とを備え、
(B)前記赤色蛍光体が放つ赤色系の発光成分と、前記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分と、前記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含む発光装置であって、
(C)前記出力光が、白色光であり、
(D)前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)を除く)であり、
(E)前記緑色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活され、かつ、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体であり、
(F)前記発光素子は、440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子であり、
(G)前記蛍光体層に含まれる蛍光体はEu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体のみを含み、
(H)前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上であり、
(I)前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有し、
(J)前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない
(K)ことを特徴とする発光装置。」

第5 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 無効理由
(1)無効理由1(サポート要件違反)
ア サポート要件違反その1(審判請求書9頁?10頁、12頁?23頁、口頭審理陳述要領書3頁?8頁、平成26年8月1日付け上申書(第2回)2頁?17頁、平成28年5月30日付け上申書(第5回)8頁?11頁)
(ア)a 本件訂正発明は、構成要件(H)「前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上」とされているものである。

b しかし、発明の詳細な説明には、青色発光素子が放つ光励起下において、「赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上である」発明特定事項についての開示はない。むしろ、ニトリドアルミノシリケート系の窒化物赤色蛍光体は、内部量子効率が80%未満であることが明示されている。
本件訂正発明の課題は、「高い光束と高い演色性とを両立する発光装置、特に、暖色系の白色光を放つ発光装置を提供するものである」ところ、発明の詳細な説明の欄には、窒化物赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上ではなく、80%未満であると記載されているのであるから、かかる記載では当然に、当業者は、本件訂正発明が上記課題を解決できるものと認識できない。
また、本件出願時に「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上である」との当業者の技術常識はない。しかも、内部量子効率が「80%」を境界値として数値限定した意義も明らかでない。

c よって、「特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明に記載された発明で,その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである」とはいえないから、本件訂正発明についての本件訂正明細書の記載はサポート要件を充足しない(審判請求書9頁?10頁、12頁?19頁)。

(イ)a 「内部量子効率が80%以上の赤色蛍光体については,直接記載されていない」にもかかわらず、本件特許は、構成要件(H)において、「前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上であり」と規定するものであるから、「特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明の範囲と対比して,前者の範囲が後者の範囲を超えている」ことは明らかであるから、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の規定を充足するものではない(平成26年8月1日付け上申書(第2回)5頁?6頁)。
b 本件訂正明細書及び図面には量子効率が80%以上の赤色蛍光体を使用した場合における発明については、全く開示がないのであって、「特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明の範囲と対比して,前者の範囲が後者の範囲を超えている」から、本件特許はサポート要件を充足しない(平成26年8月1日付け上申書(第2回)8頁)。
c 当業者の製造条件の最適化は区々であり、かつ多様性がある。したがって、本件特許の出願時、ある製造条件あるいは製造条件群を採用することにより、赤色蛍光体の内部量子効率が正比例をもって向上する技術常識は存在しなかったのであるから、被請求人による「当業者の出願時の技術常識によれば、製造条件の最適化によって赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上とすることができる」との主張は誤りであり、本件訂正明細書には、「製造条件の最適化によって赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上とすることができる」可能性に関する記載があるだけであり、「赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上とする」技術事項の開示はない(平成26年8月1日付け上申書(第2回)14頁?15頁)。

(ウ)本件訂正発明に関しては、発明の詳細な説明において、内部量子効率が60%である「SrAlSiN_(3):Eu^(2+)」が唯一開示されているのみであって、判決77頁の判事事項「本件出願の優先日当時、…蛍光体の内部量子効率をできるだけ高めることは、当業者の技術常識であった」が存在していたとしても、唯一実施例に示された「SrAlSiN_(3):Eu^(2+)」以外の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」について、「蛍光体の内部量子効率を高めることについても、自ずと限界があること」を踏まえると、何故、「内部量子効率を80%以上とする構成」とするのか、発明の詳細な説明の記載及び技術常識から明らかでない(平成28年5月30日付け上申書(第5回)8頁?11頁)。

(エ)よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである(審判請求書10頁)。

イ サポート要件違反その2(審判請求書10頁?11頁、24頁?26頁、口頭審理陳述要領書8頁?11頁)
(ア)本件訂正発明は、構成要件(J)「前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」とされているものであり、また、発明の詳細な説明によれば、「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」とは、「蛍光体層に含まれる蛍光体の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上の蛍光体が、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体であること」を意味する。

(イ)これに対し、実施例1?実施例3は、蛍光体層が「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」(【0052】)構成ではない。
したがって、記載された実施例1?実施例3の全てが、本件訂正発明の実施例ではない。
このように、発明の詳細な説明には、本件訂正発明の実施例の記載はないばかりでなく、蛍光体層を「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」構成にする、すなわち、「蛍光体層に含まれる蛍光体の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上の蛍光体が、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体であること」にする技術的意義、とりわけその「90重量%」についての技術的意義に関する記載は一切ない。

(ウ)よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

ウ 平成28年5月30日付け上申書(第5回)(11頁?12頁)における主張
本件訂正発明の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」とは、オクソニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体、サイアロン系の窒化物蛍光体も包含する意義であり、その具体例の数は万を優に超え無数に近い。
しかるに、本件訂正明細書及び図面には、赤色蛍光体として、「SrAlSiN_(3):Eu^(2+)」が開示されており、内部量子効率が60%であることが開示されているだけであり、他の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」、「オクソニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」、及び「サイアロン系の窒化物蛍光体」については、内部量子効率について開示がない。
したがって、特許請求の範囲に記載された発明が、「オクソニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」及び「サイアロン系の窒化物蛍光体」を含み、しかも「SrAlSiN_(3):Eu^(2+)」以外の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」を含む発明であるとすることは、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
進んで、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく、あるいはその記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。

(2)無効理由2(分割違法による進歩性なし)(審判請求書11頁?12頁、26頁?37頁)
ア 本件訂正発明は、平成16年12月15日付け特許出願(特願2004-363534号)の分割出願(特願2007-210888号)に係るものであるところ、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面には、本件訂正発明の「(H)前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上であり」、「(J)前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」との構成は開示されていない。
してみると、分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内である要件(特許法第44条第1項柱書きの要件)を充足しない。
したがって、本件訂正発明に係る分割出願は、出願日は遡及せず、現実の出願日、すなわち平成19年(2007年)8月13日にしたものとみなされる。

イ しかるに、この分割出願日においては、既に原出願が平成18年(2006年)2月16日付けで特開2006-49799号公報として公開されており、その公開された明細書及び図面には、本件訂正発明と実質的に同一ともいえる先行発明が記載されている。
一方、本件訂正発明と先行発明との、唯一の相違点は、本件訂正発明は、赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上であることを要件とするのに対し、先行発明は赤色蛍光体の内部量子効率が80%未満である、点である。

しかし、「上述した波長領域に発光ピークを有する発光素子と、その発光素子の放つ光の励起下において内部量子効率が低い蛍光体とを備えた発光装置は、発光素子が放つ光エネルギーを効率よく変換できないために、光束が低い発光装置となる。」(【0027】)との記載とともに、「高い光束を放つ発光装置を得るためには、蛍光体層に実質的に含まれる蛍光体の中で、発光素子が放つ光励起下において最も内部量子効率が低い蛍光体は、内部量子効率(絶対値)が、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の蛍光体とする。」(【0054】)との記載によれば、高い光束を放つ発光装置を得るためには、蛍光体の内部量子効率は高い方が好ましく、たとえば「80%以上」と教示しているのであるから、当業者はその動機付けに従って、先行発明において、本件訂正発明の構成要件(H)「青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上であり」とする程度のことは、容易になし得るものであることは明らかである。また、予想される作用効果が格別であるとは到底認められない。

ウ したがって、本件訂正発明は、甲第1号証(特開2006-49799号公報)に記載された発明に基づき当業者が容易に発明できたものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由3(進歩性なし)(審判請求書12頁、37頁?62頁、口頭審理陳述要領書18頁?21頁、平成26年8月25日付け上申書(第3回)2頁?20頁、平成27年1月7日付け上申書(第4回)4頁?18頁)
ア 甲第3号証に記載された発明と本件訂正発明とは、本件訂正発明の構成要件(H)「前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上である」、及び(I)「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有する」点についてそれぞれ、甲第3号証に開示はなく、それらの点においては相違する他は、詳しく説明するまでもなく共通する(審判請求書59頁?60頁)。

イ 本件訂正発明の構成要件(H)について、甲第3号証に記載された発明におけるSr_(2)Si_(4)AlON_(7);Eu^(2+)アルミノシリケート系の酸窒化物(赤色)の内部量子効率を特に80%以上にすることは,当業者が、甲第4号証?甲第6号証に記載の周知技術に基づいて容易に想到し得たことと認められる(審判請求書61頁)。

ウ 本件訂正発明の構成要件(I)については、本件訂正明細書の【0012】?【0013】の記載からして、例示の蛍光体に付属する光学特性を単に規定しただけであるから、格別のものではない(審判請求書60頁)。

エ また構成要件(I)について、甲第3号証の発光装置に使用される蛍光体の発光スペクトルと、反射スペクトルが、図4a、4bに記載されている。蛍光体の反射スペクトルは、蛍光体粒子に吸収されなかった光のスペクトルを表すものであり、蛍光体の励起スペクトルとは表裏一体の関係であり、反射スペクトルは励起スペクトルと概ね反比例の関係にあることは周知の事項である。図4bから、反射率の最小値は300?350nm付近に存在しており、励起スペクトルのピーク波長は350nm付近である事が推定され、450nmよりも短波長側にあるのは確実である。したがって、甲第3号証の発光装置において、450nmに発光ピークを有する青色LEDで蛍光体を励起した場合、蛍光体の励起スペクトルは、青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長側に励起ピークが存在することになることは明らかである(口頭審理陳述要領書20頁?21頁)。

オ 本件訂正発明は、甲第3号証?甲第6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明できたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである(審判請求書62頁)。

カ 甲第3号証において「300?470nmの間に一次放射を示すLEDと、発光領域が490nm?510nmであるEu^(2+)付活の酸窒化物からなる緑色蛍光体と、発光領域が625?640nmであるEu^(2+)のニトリドアルミノシリケート系の赤色蛍光体からなる白色発光装置。」が開示されていることは明白である(平成26年8月25日付け上申書(第3回)7頁)。

キ 甲第3号証には、少なくともニトリドアルミノシリケート系の蛍光体において、カチオンMに関し、「Sr」を「Ca」又は「Ba」に置換できることが開示されているから、訂正請求によって、「Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」を除いたとしても、甲第3号証発明は、ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体としての「Ca_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」及び「Ba_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」を依然として開示するものであり、また、「600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する」ものが格別なものではないから、無効理由3は解消されていない(平成27年1月7日付け上申書(第4回)2頁?7頁)。

2 甲号証
請求人が提出した甲号証及び参考資料は、以下のとおりである。

甲第1号証 :特開2006-49799号公報
甲第2号証 :特願2004-363534号明細書及び図面
甲第3号証 :特開2003-206481号公報
甲第4号証の1:国際公開第2003/080763号
甲第4号証の2:特表2005-520916号公報(甲第4号証の1の訳
文として)
甲第5号証 :特開2003-277746号公報
甲第6号証 :特表2002-531955号公報
甲第7号証 :平成24年(行ケ)第10020号審決取消請求事件判決
参考資料 :平成17年(行ケ)第10042号大合議判決
(以上、審判請求書に添付して提出。)

甲第8号証の1:特開2008-16861号公報
甲第8号証の2:本件特許の出願経過における平成19年9月12日付け拒
絶理由通知
甲第8号証の3:本件特許の出願経過における平成19年10月30日付け
意見書
甲第8号証の4:本件特許の出願経過における平成19年10月30日付け
手続補正書
甲第8号証の5:本件特許の出願経過における平成19年12月21日付け
拒絶理由通知
甲第8号証の6:本件特許の出願経過における平成20年1月31日付け意
見書
甲第8号証の7:本件特許の出願経過における平成20年1月31日付け手
続補正書
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)

甲第9号証 :米国特許第6,670,748号公報
甲第9号証の1:米国特許第6,670,748号公報の部分訳
(以上、平成26年7月10日付け上申書に添付して提出。)

甲第10号証 :窒化物蛍光体製造方法比較表
甲第10号証の1:Journal of Physics and Chemistry of Solids 61(2000
)2001-2006 “Luminescence in Eu^(2+)-doped Ba_(2)Si_(5)N_(8):
fluorescence, thermoluminescence, and upconversion
”、及び抄訳
甲第10号証の2:Journal of Solid State Chemistry 165,19-24(2002)
“Luminescence Properties of Terbium-, Cerium-,
or Europium-Doped α-Sialon Materials”、及び抄訳
甲第10号証の3:Applied Physics Letters Volume 84,Number 26 5404-
5406,28 June 2004 “Eu^(2+)-doped Ca-α-SiAlON: A
yellow phosphor for white light-emitting diodes”
、及び抄訳
甲第10号証の4:Electrochemical and Solid-State Letters, 9(4)
H22-H25 2006 “Luminescence Properties of a Red
Phosphor, CaAlSiN_(3):Eu^(2+), for White Light-Emitting
Diodes”、及び抄訳
甲第10号証の5:Chem. Eur. J.2009,15,5311-5319, “Sr_(5)Al_(5+x)Si_(21-x)
N_(35-x)O_(2+x):Eu^(2+ )(x?0)?A Novel Green Phosphor for
White-Light pcLEDs with Disordered Intergrowth
Structure”、及び抄訳(当審注:タイトル中の記号
「?」は実際には二重波線である。)
甲第10号証の6:Chem. Mater. 2009,21,1595-1601 “SrAlSi_(4)N_(7):Eu^(2+) -
A Nitridoalumosilicate Phosphor for Warm White
Light (pc)LEDs with Edge-Sharing Tetrahedra”、
及び抄訳
参考資料2 :「フリバンセリン事件」平成22年1月28日判決(平
成21年(行ケ)第10033号審決取消請求事件)
(以上、平成26年8月1日付け上申書(第2回)に添付して提出。)

甲第11号証:日亜化学工業株式会社「紫外線発光LED標準仕様書」
(以上、平成26年8月25日付け上申書(第3回)に添付して提出。)

甲第12号証 :特開2002-76434号公報
甲第13号証 :特開2003-124527号公報
甲第14号証の1:米国特許第5998925号公報
甲第14号証の2:米国特許第5998925号公報の抄訳
(以上、平成27年1月7日付け上申書(第4回)に添付して提出。)

甲第15号証 :平成27年(行ケ)第10097号審決取消請求事件における判決
甲第16号証 :三浦登氏見解書(訴訟における甲第38号証)
甲第17号証 :國本崇氏見解書(訴訟における甲第39号証)
甲第18号証 :被請求人による訴訟での第3準備書面
参考資料 :平成26年(行ケ)第10202号審決取消請求事件判決
(以上、平成28年5月30日付け上申書(第5回)に添付して提出。)

第6 被請求人の主張の概要及び証拠方法
1 無効理由
(1)無効理由1(サポート要件違反)について
ア サポート要件違反その1について(平成26年4月7日付け審判事件答弁書2頁?12頁、口頭審理陳述要領書5頁?12頁、平成28年8月5日付け審判事件答弁書2頁?6頁)
(ア)a 本件訂正明細書には,実施形態2として,440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色発光素子と,青色発光素子が放つ光によって励起されて,Eu^(2+)で付活され,かつ,600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体からなる赤色蛍光体と,青色発光素子が放つ光によって励起されて,Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活され,かつ,500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体からなる緑色蛍光体とを含む白色発光装置であって,蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは,青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有し,蛍光体層は,窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まないものが記載されており,高い光束を放つ発光装置を得るためには,蛍光体層に実質的に含まれる蛍光体の中で,青色発光素子が放つ光励起下において最も内部量子効率が低い蛍光体は,内部量子効率(絶対値)が80%以上の蛍光体とすることが開示されている。
そうすると,蛍光体には当然赤色蛍光体が含まれるから,本件訂正明細書には,青色発光素子が放つ光励起下において赤色蛍光体の内部量子効率を80%以上とすることが開示されていることになり,本件訂正発明は,発明の詳細な説明に記載されたものである。

b 仮に明示的な記載がなくても,当業者が技術常識に照らして,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項をも勘案できる。そして,本件訂正明細書の実施例3は,発光層として405nm付近に発光ピークを有する発光を放つ紫色LEDチップを用いているものであるが,製造条件の最適化により,SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体は,1.5倍以上の内部量子効率の改善が可能であることが記載されている。そうすると,請求人が,審判請求書17頁2行?6行において内部量子効率が約58?約76%と指摘する,実施形態2のSrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体についても,当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,同様に,製造条件の最適化により1.5倍以上の内部量子効果の改善が可能であることが記載されているのと同然であると理解する。すなわち,本件訂正明細書には,SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体は,約87%(=58%×1.5)以上の内部量子効率を得ることができることが示唆されている。

c 以上のとおり,本件訂正明細書には,青色発光素子が放つ光励起下において赤色蛍光体の内部量子効率を80%以上とすることが開示又は示唆されているから,本件訂正発明はサポート要件を満たすものである(平成26年4月7日付け審判事件答弁書2頁?8頁)。

(イ)また、赤色蛍光体の内部量子効率を80%以上とすることは,個々の蛍光体の内部量子効率が80%以上であることが望ましい旨の記載や研究段階における赤色蛍光体の内部量子効率が今後の製造条件の最適化によって向上する旨の記載が存在する本件訂正明細書の記載から読み取ることのできることであるから,当業者が出願時の技術常識に照らして本件訂正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである(平成26年4月7日付け審判事件答弁書11頁)。

(ウ)請求人は、判決の77頁の判示事項を摘示して主張しているが、「本件判決は,甲3に接した当業者が,甲3の記載事項を出発点として,甲3発明において,ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体の内部量子効率を80%以上とする構成に容易に想到することができたとはいえないと判示しているのである。そして,一般論として,本件出願の優先日前において,青色発光素子が放つ光励起下におけるニトリドシリケート系の窒化物蛍光体の内部量子効率が80%以上のものを製造できる可能性を技術常識に基づいて想定できることは否定していない。」
前判決が判示することからも、本件出願の明細書の発明の詳細な説明には、当業者が内部量子効率80%以上のニトリドアルミノシリケート系の赤色蛍光体を製造することができる程度の開示が存在するといえる(平成28年8月5日付け審判事件答弁書2頁?6頁)。

イ サポート要件違反その2について(平成26年4月7日付け審判事件答弁書12頁?13頁)
本件訂正明細書には,実施例としては記載されていないものの,実施形態2として,高い光束を放つ発光装置を得るために,蛍光体層に含まれる蛍光体として,窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない構成にするのが好ましいことが開示されている。そうすると,本件訂正明細書には,100℃?150℃の動作温度下及び周囲温度下においても,比較的高い内部量子効率を保持し,かつ,発光スペクトルの波長のピークが短波長側ヘシフトしないという本件訂正発明の課題を解決するために,蛍光体層が窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない構成にすることが開示されている(平成26年4月7日付け審判事件答弁書13頁)。

ウ 平成28年8月5日付け審判事件答弁書(6頁?7頁)における主張
請求人は、本件訂正発明の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」の具体例の数は無数に近いが、本件明細書及び図面には、赤色蛍光体として、「SrAlSiN_(3):Eu^(2+)」が開示されており、内部量子効率が60%であることが開示されているだけだから、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明ではないと主張しているが、「前記のように,本件出願の明細書の発明の詳細な説明には,当業者が内部量子効率80%以上のニトリドアルミノシリケート系の赤色蛍光体を製造することができる程度の開示が存在するといえるのであり,請求人の主張は誤りである。」

(2)無効理由2(分割違法による進歩性なし)について(平成26年4月7日付け審判事件答弁書13頁?14頁)
本件訂正発明が,本件訂正明細書に開示又は示唆され,サポート要件を満たすことは前記(1)のとおりである。
本件訂正発明は,本件訂正明細書と同様,原出願の出願当初の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内のものであって,原出願についての分割の要件を満たしているから,その出願日は原出願の出願日である平成16年12月15日である。
なお,本件特許出願では,出願日(遡及日)を平成16年12月15日として特許査定をしている(乙第3号証)経緯からみても,本件訂正発明が分割要件を満たしていることは明らかである。
以上のとおりであるから,分割違法により進歩性がないとする請求人の主張は,その前提において誤りである(平成26年4月7日付け審判事件答弁書13頁?14頁)。

(3)無効理由3(進歩性なし)について(平成26年4月7日付け審判事件答弁書14頁?22頁、平成26年8月1日付け上申書2頁?8頁、平成26年11月28日付け上申書2頁?22頁、平成27年2月20日付け審判事件答弁書2頁?10頁)
ア 一致点及び相違点の認定について
(ア)審判請求書における甲第3号証に記載された発明の認定は,一つの発明として認定できるか否かを判断することなく,単に甲第3号証における記載を,その記載箇所とともに羅列しただけのものであり,各構成間の関係を明示したものではない(平成26年4月7日付け審判事件答弁書15頁)。
(イ)すなわち,白色LEDとして具体的に開示されているのは,360nmのピーク発光を示すInGaN-チップと,サイアロンSiAl_(2)O_(3)N_(2):Ce^(3+)(4%)の青色蛍光体と,SrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)(4%)の緑色蛍光体と,Sr_(2)Si_(5)N_(8):Euの赤色蛍光体を使用したもののみである。
表3に3種の蛍光体が,表4に7種の蛍光体が示されているが,これらをどのように組み合わせて使用するかの記載はなく,ピーク発光波長400nm及び360nmを有する発光素子の記載しかないから,これらの蛍光体は,紫色又はUV発光素子とともに用いられる,青色,緑色及び赤色の蛍光体と解するのが相当である(平成26年4月7日付け審判事件答弁書16頁?17頁)。
(ウ)以上のことから,少なくとも,請求人が甲第3号証に記載された発明の認定の(D)において,赤色蛍光体を,【表4】に示されている,625?640nmの赤色を発光するSr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)ニトリドシリケート系の酸窒化物(赤色)蛍光体と認定したのは誤りである(平成26年4月7日付け審判事件答弁書18頁)。
(エ)また、本件訂正発明の構成要件(I)「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは,前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有する」も甲第3号証に記載された発明と本件訂正発明との実質的な相違点である(平成26年4月7日付け審判事件答弁書19頁?20頁)。

イ 相違点(内部量子効率が80%以上である赤色蛍光体を採用すること)について
(ア)甲第4号証?甲第6号証に記載の周知技術とはいかなる技術であるのか不明といわざるを得ない(平成26年4月7日付け審判事件答弁書21頁)。
(イ)甲第3号証に記載された発明の赤色蛍光体として請求人が認定しているのはSr_(2)Si_(4)AlON_(7);Eu^(2+)である(これが誤りであることは既に示した。)から,甲第3号証に記載された発明に,甲第4号証?甲第6号証に基づいた技術を適用する動機付けは存在しない。

以上のとおりであるから,甲第3号証?甲第6号証に記載された発明に基づく進歩性についての請求人の主張は当を得ないものである(平成26年4月7日付け審判事件答弁書21頁)。

ウ 平成26年8月1日付け上申書における主張
(ア)請求人が認定した甲第3号証に記載された発明の構成として、構成要件(D)の赤色蛍光体の発光ピークや構成要件(E)の緑色蛍光体の発光ピーク、構成要件(F)「前記発光素子は,440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子である。」が記載されているとはいえない(平成26年8月1日付け上申書2頁?3頁)。
(イ)表4に記載された蛍光体を,青色LEDを備えた白色LEDと結びつける根拠はない(平成26年8月1日付け上申書4頁)。
(ウ)甲第3号証に記載された発明の赤色蛍光体としてSr_(2)Si_(4)AlON_(7);Eu^(2+)を認定することはできない。また赤色蛍光体の量子効率QEについての記載はない(平成26年8月1日付け上申書7頁)。
(エ)構成要件(I)に関し,本件特許出願当時,蛍光体の励起ピークを青色発光素子の放つ光の波長に合わせることで光束を高くすることが技術常識であった。これに対し,本件訂正発明では,蛍光体の励起ピークが青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域にずれていたとしても,蛍光体の内部量子効率が高ければ,高い光束の蛍光体として使用できることを見出したのである。したがって,本件訂正発明の知見を有していない公知技術では,蛍光体の励起ピークが青色発光素子の放つ光の波長より、短波長域に励起ピークを有する蛍光体を,青色発光素子を備えた白色発光装置の蛍光体として採用することはなかったのである。また,ニトリドシリケートについては甲第4号証及び甲第5号証により,青色LEDでも発光効率や量子効率がよいことが知られており,使用されていたが,ニトリドアルミノシリケートは,甲第3号証には,段落【0067】に43%,表3に量子効率が29及び51%と,極めて低いことが記載されているように,量子効率は低いと認識されていたので,紫外領域の励起光を使用することが通常であり,青色領域の励起光を使用することは考えられなかったのである(平成26年8月1日付け上申書5頁?7頁)。

上記(ア)?(エ)等から、請求人の主張は理由がなく,本件訂正発明は,甲第3号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 平成26年11月28日付け上申書における主張
(ア)甲第3号証に記載された発明の赤に発光するニトリド含有蛍光体として、「組成がSr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)で発光領域が625?640nmの蛍光体」を採用しても、本件訂正発明の発明特定事項とはならないから、容易とはいえない(平成26年11月28日付け上申書2頁?3頁)。
(イ)認定された甲第3号証に記載された発明は、甲第3号証の種々の箇所に記載された事項を羅列したものであり、甲第3号証に記載されている事項から把握できる発明の認定として誤っている(平成26年11月28日付け上申書3頁?5頁)。
(ウ)甲第3号証の請求項1の照明ユニットは、甲第3号証の明細書に実施可能に記載されておらず、「引用発明」と認定することはできない(平成26年11月28日付け上申書5頁?6頁)。
(エ)甲第3号証の段落【0057】の記載は極めて不明瞭であって、かかる記載から何らかの技術的事項を認定することは妥当ではない(平成26年11月28日付け上申書6頁?8頁)。
(オ)甲第3号証の表3及び表4に示されている蛍光体については、ピーク発光波長400nm以下の光源と組み合わせることしか開示されていないのであって、青色発光LEDと組み合わせることはできない(平成26年11月28日付け上申書8頁?9頁)。
(カ)認定された甲第3号証に記載された発明において、一方では、「この蛍光体は次の種類:構造…のニトリド、…のオキシニトリド、…のサイアロンから由来する」と、蛍光体は特定のものから由来すると限定しているにもかかわらず、他方では、「白色光を達成するために用いる赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料の中で…蛍光体であり」と、他の蛍光体を使用してもよいことを規定しており、さらなる他方では、上記一方で特定された蛍光体以外の蛍光体が選択肢となることを規定しており、相互の構成が矛盾したものである(平成26年11月28日付け上申書10頁)。
(キ)本件訂正発明は、近紫外又は紫色領域に発光ピークを有する光源にしか使用できないと考えられていた蛍光体を、440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色発光素子と組み合わせることを可能とし、青色発光素子と組み合わせる蛍光体の選択肢を広げるという作用効果を奏する(平成26年11月28日付け上申書10頁?19頁)。
(ク)甲第3号証には、青色発光素子と請求項1あるいは表3及び表4に示された蛍光体とを組み合わせた照明ユニットは開示されていないから、仮に、内部量子効率に着目し得たとしても、360nmないし400nmの領域における内部量子効率を高めることに想到できるにすぎず、青色発光領域の内部量子効率を高めることには想到できない(平成26年11月28日付け上申書20頁?21頁)。
(ケ)本件訂正発明の「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは,前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有」することの技術的意義は、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体は、青色領域における内部量子効率が高いことを見出したことと合わせて、高い光束と高い演色性とを両立する白色光を得るために青色発光素子と組み合わせる蛍光体として、「青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有する」蛍光体を選択可能としたことにあるから、本件訂正発明は、作用効果を含めて、相違点1ないし相違点6を総合的に判断すれば、当業者が容易に想到し得るものではない(平成26年11月28日付け上申書21頁?22頁)。

オ 平成27年2月20日付け審判事件答弁書における主張
(ア)甲第3号証には、ニトリドアルミノシリケート系の赤色蛍光体としては「Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」しか開示されていないのであるから、訂正請求によって、「Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」を除いたという事実のみで、無効理由3は解消されている(平成27年2月20日付け審判事件答弁書2頁?4頁)。
(イ)甲第3号証にニトリドアルミノシリケート系の赤色蛍光体が掲載されているとしても、そのことは甲第3号証に本件訂正発明の「Eu^(2+)で付活されたニトリドアルミノシリケート系の赤色蛍光体や、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された窒化物系の緑色蛍光体は、内部量子効率は高いので、青色発光素子と組み合わせて、高い光束と高い演色性とを両立する白色光を得ることができる」との技術的意義が開示されていることにはならない(平成27年2月20日付け審判事件答弁書7頁?8頁)。
(ウ)内部量子効率に着目し、青色発光素子と組み合わせる蛍光体として、「青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有する特定の蛍光体群」を選択可能とした本件訂正発明の知見は新規であり、本件訂正発明は進歩性を有する(平成27年2月20日付け審判事件答弁書8頁?10頁)。

2 乙号証
被請求人が提出した乙号証及び参考資料は、以下のとおりである。

乙第1号証 :本件特許の出願経過における平成19年9月12日付け拒絶
理由通知
乙第2号証 :本件特許の出願経過における平成19年10月30日付け手
続補正書
乙第3号証 :本件特許の出願経過における特許査定
乙第4号証 :甲第3号証の出願経過における平成19年12月20日付け
拒絶理由通知
乙第5号証 :甲第3号証の出願経過における平成20年3月19日付け手
続補正書
乙第6号証 :甲第3号証の出願経過における平成20年4月8日付け拒絶
査定
乙第7号証 :甲第3号証の出願経過における平成20年7月1日付け手続
補正書
乙第8号証 :甲第3号証の出願経過における平成20年9月4日付け拒絶
理由通知
乙第9号証 :甲第3号証の出願経過における平成20年9月19日付け手
続補正書
乙第10号証:甲第3号証の出願経過における平成20年10月9日付け特
許査定
(以上、平成26年4月7日付け審判事件答弁書に添付して提出。)

乙第11号証:國本崇准教授の見解書(前判決における甲第12号証
乙第12号証:「蛍光体ハンドブック」(昭和62年12月25日),オー
ム社,p.50-59,64-69,74-79,166-175(前判決における甲第
13号証)
乙第13号証:三浦登准教授の見解書(前判決における甲第14号証)
乙第14号証:特許第4659741号公報(前判決における甲第15号証)
乙第15号証:固体物理,vol.35 No.6(2000)p.401-409「窒化物および酸窒
化物蛍光体の合成と光学特性」(前判決における甲第16号
証)
乙第16号証:第53回応用物理学関係連合会講演会 講演予稿集,(2006)
p1557「25p-ZR-11 サイアロン蛍光体の量子効率」(前判決
における甲第18号証)
乙第17号証:Science and Technology of Advanced Materials 8(2007)
p.588-600,“Silicon-based oxynitride and nitride
Phosphors for white LEDs-A review”、及び抄訳
乙第18号証:physica status solidi(a),203,No.11,(2006)p.2712-2717,
“Host lattice materials in the system Ca_(3)N_(2)-AlN-Si_(3)N_(4)
for white light emitting diode”、及び抄訳
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)

乙第19号証:被請求人の技術説明資料
(以上、平成26年7月18日付け上申書に添付して提出。)

乙第20号証:第298回蛍光体同学会講演予稿,(2003.6.20)p.1-4「α-
サイアロン蛍光体 白色LED用新規酸窒化物蛍光体」
乙第21号証:特開2006-49799号公報
乙第22号証:小林洋志著「発光の物理」(2012.6.25)朝倉書店p.46-66
乙第23号証:Journal of the American Ceramic Society, 88[10](2005)
p.2883-2888 “Photoluminescence of Rare-Earth-Doped
Ca-α-SiAlON Phosphors: Composition and Concentration
Dependence”、及び抄訳
乙第24号証:APPLIED PHYSICS LETTERS 91,041908(2007)P.1-3 “Self-
propagating high temperature synthesis of yellow-
emitting Ba_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+) phosphors for white light-
emitting diodes”、及び抄訳
(以上、平成26年8月1日付け上申書に添付して提出。)

乙第25号証:シャープ技報第91号・2005年4月,p.50-53
「InGaN系発光素子励起Smドープ赤色蛍光体」
(以上、平成26年11月28日付け上申書に添付して提出。)

乙第26号証:「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」
の審査基準の改訂について
(以上、平成27年2月20日付け審判事件答弁書に添付して提出。)

第7 当審の判断
1 無効理由1(サポート要件違反)について
上記「第5 請求人の主張の概要及び証拠方法」「1 無効理由」「(1)無効理由1(サポート要件違反)」の「ア サポート要件違反その1」、「イ サポート要件違反その2」、及び「ウ 平成28年5月30日付け上申書(第5回)における主張」について、まとめて検討する。

(1)本件訂正発明の構成要件(H)及び(J)に関し、本件訂正明細書又は図面には、以下の記載がある。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した発光素子と蛍光体とを備えた発光装置には、高い光束と高い演色性とを両立させるものが少ないのが現状である。一方、発光装置に求められる要求は年々多様化しており、特に暖色系の白色光を放つ発光装置の開発が期待されている。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、高い光束と高い演色性とを両立する発光装置、特に、暖色系の白色光を放つ発光装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを含む蛍光体層と、発光素子とを備え、前記赤色蛍光体が放つ赤色系の発光成分と、前記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分と、前記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含む発光装置であって、前記出力光が、白色光であり、前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)を除く)であり、前記緑色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活され、かつ、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体であり、前記発光素子は、440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子であり、前記蛍光体層に含まれる蛍光体はEu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体のみを含み、前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上であり、前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有し、前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない発光装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い光束と高い演色性とを両立する発光装置、特に、暖色系の白色光を放つ発光装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
Eu^(2+)で付活された蛍光体の特性を詳細に調べたところ、以下(1)?(3)に示す蛍光体は、波長360nm以上420nm未満の近紫外?紫色領域に発光ピークを有する紫色発光素子の励起下における内部量子効率だけでなく、波長420nm以上500nm未満、特に、波長440nm以上500nm未満の青色領域に発光ピークを有する青色発光素子の励起下における内部量子効率も高く、良好なものは、その内部量子効率が90%?100%であることが見出された。
(1) Eu^(2+)で付活され、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩系、チオガレート系、アルミン酸塩系及び窒化物系(ニトリドシリケート系やサイアロン系等)の緑色蛍光体、例えば、(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)、SrGa_(2)S_(4):Eu^(2+)、SrAl_(2)O_(4):Eu^(2+)、BaSiN_(2):Eu^(2+)、Sr_(1.5)Al_(3)Si_(9)N_(16):Eu^(2+)等の蛍光体。
(2) Eu^(2+)で付活され、560nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩系、チオガレート系及び窒化物系(ニトリドシリケート系やサイアロン系等)の黄色蛍光体、例えば、(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)、CaGa_(2)S_(4):Eu^(2+)、0.75(Ca_(0.9)Eu_(0.1))O・2.25AlN・3.25Si_(3)N_(4):Eu^(2+)、Ca_(1.5)Al_(3)Si_(9)N_(16):Eu^(2+)、(Sr,Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)、CaSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)、CaSi_(6)AlON_(9):Eu^(2+)等の蛍光体。
(3) Eu^(2+)で付活され、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物系(ニトリドシリケート系、ニトリドアルミノシリケート系等)の赤色蛍光体、例えば、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)、SrSiN_(2):Eu^(2+)、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)、CaAlSiN_(3):Eu^(2+)、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)等の蛍光体。
【0013】
これらの蛍光体の励起スペクトルは、上記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長領域に、多くは波長360nm以上420nm未満の近紫外?紫色領域に励起ピークを有するため、上記青色発光素子の励起下における外部量子効率は必ずしも高くない。しかし内部量子効率は、励起スペクトルから予想される以上に高い70%以上、特に良好な場合は90%?100%であることがわかった。
【0014】
一例として、図12に、SrSiN_(2):Eu^(2+)赤色蛍光体の内部量子効率16、外部量子効率17及び励起スペクトル18を示し、また、参考のため、蛍光体の発光スペクトル19も示した。また、図13?図18には、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体(図13)、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)赤色蛍光体(図14)、(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体(図15)、(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体(図16)、(Sr,Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体(図17)、0.75(Ca_(0.9)Eu_(0.1))O・2.25AlN・3.25Si_(3)N_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体(図18)について、図12と同様に示した。例えば、図16に示した、Eu^(2+)で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体である(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体の外部量子効率は、波長440nmの青色発光素子の励起下において約75%、波長460nmにおいて約67%、波長470nmにおいて約60%である。しかし内部量子効率は、波長440nm以上500nm未満の青色領域において、いずれも励起スペクトルから予想される以上に高い85%以上であり、特に良好な場合は約94%であることがわかった。」

イ 「【0029】
(実施形態1)
本発明の発光装置の一例は、窒化物蛍光体を含む蛍光体層と発光素子とを備え、上記発光素子は、360nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有し、上記窒化物蛍光体は、上記発光素子が放つ光によって励起されて発光し、上記窒化物蛍光体が放つ発光成分を出力光として少なくとも含む発光装置である。また、上記窒化物蛍光体は、Eu^(2+)で付活され、かつ、組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表される蛍光体であり、上記Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、上記xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である。
【0030】
上記発光素子は、電気エネルギーを光に換える光電変換素子であり、360nm以上420nm未満又は420nm以上500nm未満、より好ましくは380nm以上420nm未満又は440nm以上500nm未満のいずれかの波長領域に発光ピークを有する光を放つものであれば特に限定されず、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)、面発光LD、無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、有機EL素子等を用いることができる。
【0031】
なお、発光素子として、GaN系化合物を発光層としたLEDやLDを用いる場合には、高い出力が得られる理由で、好ましくは380nm以上420nm未満、より好ましくは395nm以上415nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ紫色発光素子、又は、好ましくは440nm以上500nm未満、より好ましくは450nm以上480nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子にするとよい。
【0032】
上記出力光は、上記発光素子が放つ発光成分を含むことが好ましい。特に、上記発光素子が、青色系領域に発光ピークを有する発光素子である場合、上記窒化物蛍光体が放つ発光成分と、上記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含めば、より高い演色性を有する白色光が得られ、より好ましい。
【0033】
上記窒化物蛍光体は、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する暖色系光、好ましくは610nm以上650nm以下の波長領域に発光ピークを有する赤色系光を放つ上記組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表される窒化物蛍光体であり、上述した360nm以上500nm未満の波長領域の励起光下における内部量子効率が高い窒化物蛍光体、例えば、図13に示したSrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体やCaAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体等に該当する。」

ウ 「【0039】
(実施形態2)
本発明の発光装置の他の一例としては、上述した実施形態1の蛍光体層に、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活され、かつ、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体を、さらに含む構成にしてもよい。上記緑色蛍光体は、実施形態1で説明した発光素子が放つ光によって励起されて、500nm以上560nm未満の波長領域に、好ましくは510nm以上550nm以下の波長領域、より好ましくは525nm以上550nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ蛍光体であれば、特に限定されない。
【0040】
例えば、青色発光素子を用いる場合、励起スペクトルの最長波長側の励起ピークが420nm以上500nm未満の波長領域にない緑色蛍光体、すなわち、励起スペクトルの最長波長側の励起ピークが420nm未満の波長領域にある緑色蛍光体であっても構わない。
【0041】
上記緑色蛍光体は、上述した360nm以上500nm未満の波長領域の励起光下における内部量子効率が高い蛍光体、例えば、図15に示した(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体等に該当する。この蛍光体を少なくとも含む蛍光体層と、上記発光素子とを少なくとも備えた発光装置は、光エネルギーを効率よく出力するので好ましい。この発光装置は、出力光に含まれる緑色系の発光強度が強くなり、演色性が向上する。また、緑色系光は視感度が高く、光束はより高くなる。特に、蛍光体層に含まれる蛍光体の組み合わせによっては、平均演色評価数(Ra)が90以上の、高い演色性をもつ出力光を得ることが可能である。
【0042】
上記緑色蛍光体を、Eu^(2+)で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体、例えばBaSiN_(2):Eu^(2+)、Sr_(1.5)Al_(3)Si_(9)N_(16):Eu^(2+)、Ca_(1.5)Al_(3)Si_(9)N_(16):Eu^(2+)、CaSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)、SrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)、CaSi_(2)O_(2)N_(2):Eu^(2+)、SrSi_(2)O_(2)N_(2):Eu^(2+)、BaSi_(2)O_(2)N_(2):Eu^(2+)等、Eu^(2+)で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体、例えば(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)、(Ba,Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)等、Eu^(2+)で付活されたチオガレート蛍光体、例えばSrGa_(2)S_(4):Eu^(2+)等、Eu^(2+)で付活されたアルミン酸塩蛍光体、例えばSrAl_(2)O_(4):Eu^(2+)等、Eu^(2+)とMn^(2+)で共付活されたアルミン酸塩蛍光体、例えばBaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+),Mn^(2+)等、Ce^(3+)で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体、例えば、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Ce^(3+)、Ca_(1.5)Al_(3)Si_(9)N_(16):Ce^(3+)、Ca_(2)Si_(5)N_(8):Ce^(3+)等、及び、Ce^(3+)で付活されたガーネット構造を有する蛍光体、例えばY_(3)(Al,Ga)_(5)O_(12):Ce^(3+)、Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)、BaY_(2)SiAl_(4)O_(12):Ce^(3+)、Ca_(3)Sc_(2)Si_(3)O_(12):Ce^(3+)等にすると、上記発光素子の励起下における内部量子効率が高くなり、さらに好ましい。
【0043】
従って、本実施形態の発光装置は、実施形態1の窒化物蛍光体と上記緑色蛍光体とを少なくとも含む蛍光体層と、実施形態1の発光素子とを備え、上記窒化物蛍光体が放つ赤色系の発光成分と上記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分とを出力光に含む発光装置である。」

エ 【0052】
実施形態1?4において、上記蛍光体層に含まれる蛍光体は、高い光束を得るために、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体以外の蛍光体を実質的に含まない構成にするのが好ましく、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない構成にするのが好ましい。上記蛍光体を、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体以外の蛍光体を実質的に含まない構成にするとは、蛍光体層に含まれる蛍光体の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上の蛍光体が、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体であることを意味する。また、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない構成にするとは、蛍光体層に含まれる蛍光体の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上の蛍光体が、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体であることを意味する。上記窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体は、100℃?150℃の動作温度下及び周囲温度下においても、比較的高い内部量子効率を保持し、かつ、発光スペクトルの波長のピークが、例えば前述のアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体又はガーネット構造を有する蛍光体のように短波長側へシフトしない。そのため、上述の構成をした発光装置は、投入電力を増やして励起光強度を強めても、あるいは高温雰囲気下で使用しても、発光色変動が少なく、安定した出力光が得られ好ましい。
【0053】
なお、高い光束を放つ発光装置を得るためには、蛍光体層に実質的に含まれる蛍光体の中で、発光素子が放つ光励起下において最も内部量子効率が低い蛍光体は、内部量子効率(絶対値)が、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の蛍光体とする。」

オ 「【実施例3】
【0124】
本実施例では、実施例1又は2で説明した青色LEDチップ26の代わりに、GaInNを発光層として405nm付近に発光ピークを有する発光を放つ紫色LEDチップを導通搭載して、図24及び図25に示すカード型の照明モジュール光源を作製し、発光特性を評価した。本実施例の出力光は、少なくとも、上記紫色LEDチップが放つ光によって励起されて発光した、蛍光体層3に含まれる蛍光体が放つ光を主体にしてなる混色光である。さらに、この出力光は、蛍光体の種類と量を適宜選択することにより、任意の白色光を得られた。
【0125】
以下、本実施例の蛍光体層3について詳説する。
【0126】
蛍光体層3は、蛍光体を添加したエポキシ樹脂を乾固して形成した。本実施例では、蛍光体として、波長625nm付近に発光ピークを有するSrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体(中心粒径:2.2μm、最大内部量子効率:60%、405nm励起下での内部量子効率:約60%)と、波長535nm付近に発光ピークを有する(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体(中心粒径:15.2μm、最大内部量子効率:97%、405nm励起下での内部量子効率:約97%)と、波長450nm付近に発光ピークを有するBaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)青色蛍光体(中心粒径:8.5μm、最大内部量子効率:約100%、405nm励起下での内部量子効率:約100%)の3種類を用い、エポキシ樹脂には、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂を主成分とするエポキシ樹脂(主材)と、脂環式酸無水物を主成分とするエポキシ樹脂(硬化材)の二液混合型のエポキシ樹脂を用いた。なお、上記SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体は、製造条件が未だ最適化されていないために、内部量子効率は低いが、今後製造条件の最適化によって、1.5倍以上の内部量子効率の改善が可能である。SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体と(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体とBaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)青色蛍光体は、重量割合、約6:11:30で混合し、この混合蛍光体とエポキシ樹脂とは重量割合、約1:3(蛍光体濃度=25重量%)で混合した。」

カ 「【0139】
以下、実施例3及び比較例2で用いた各蛍光体について、製造条件が十分最適化され、最大内部量子効率が100%の蛍光体が得られたと仮定し、この理想的な蛍光体を用いた場合の光束をシミュレーション評価した結果を示す。本シミュレーションでは、図13、図15、図20及び図23から、各蛍光体の405nm励起下における内部量子効率を下記表3に示すように見積もり評価した。」

キ 表3、図13及び図14は、以下のとおりである。


(2)ア 両当事者の主張によれば、発明の詳細な説明における本件訂正発明に対応する記載は、実施の形態2である(請求書16頁、口頭審理陳述要領書(請求人)5頁及び平成26年4月7日付け審判事件答弁書6頁)と解されるので、以下、発明の詳細な説明の実施の形態2に関する記載箇所に、本件訂正発明の構成要件(H)、(J)が記載されているか否か検討する。
イ 上記(1)イないしウの記載によれば、本件訂正明細書には、実施形態2として、赤色系光を放つ組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表される窒化物蛍光体と緑色蛍光体を含む蛍光体層を有し、その緑色蛍光体として窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体を選択できる発光装置が記載されている。
当該実施形態2において、緑色蛍光体として窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体を選択したものは、蛍光体層が「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」ものと理解できることは明らかである。また、上記(1)エの「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない構成にするのが好ましい」との記載から、本件訂正明細書又は図面には、好ましいものとして蛍光体層が「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」構成の発明が記載されているものと認められる。
ウ また、上記(1)エの、「実施形態1?4において」「高い光束を放つ発光装置を得るためには、蛍光体層に実質的に含まれる蛍光体の中で、発光素子が放つ光励起下において最も内部量子効率が低い蛍光体は、内部量子効率(絶対値)が、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の蛍光体とする。」との記載から、本件訂正明細書又は図面には、実施形態2として、高い光束を放つ発光装置を得るために、内部量子効率が80%以上の、赤色系光を放つ組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表される窒化物蛍光体を含む蛍光体層を備えた発明が、当業者が技術的に理解しうる程度に記載されているものと認められる。
エ そして、該発明は、赤色蛍光体として、内部量子効率が「80%以上」と高効率のものを用いることにより、上記(1)アの【0009】に記載の「高い光束と高い演色性とを両立する発光装置、特に、暖色系の白色光を放つ発光装置を提供」するという課題を解決できるものである。
オ そうすると、実施形態2には、該発明の課題を解決するものとして、蛍光体層が含む赤色蛍光体が、「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)を除く)」で、「内部量子効率が80%以上」であり、蛍光体層が「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」構成の発明が記載されている。
よって、発明の詳細な説明の実施の形態2に関する箇所には、本件訂正発明の構成要件(H)及び(J)が記載されているといえる。

(3)ア 請求人は、本件訂正明細書には、「製造条件の最適化によって赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上とすることができる」可能性に関する記載があるだけであり、「赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上とする」技術事項の開示はない旨などを主張する(上記「第5 請求人の主張の概要及び証拠方法」の上記1(1)のア(イ)c、(ウ)、ウを参照。)ので、以下において検討する。

イ 赤色蛍光体の「内部量子効率が80%以上」とすることは、上記(2)オのとおり記載されているものであり、また、
(ア)乙第11号証及び乙第13号証によれば、複数の専門家が、「Eu^(2)_(+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体」は、本件特許の優先日(平成16年4月27日、6月21日、6月30日)における当業者の技術常識に照らせば、明細書の開示内容から内部量子効率が80%以上のものを製造できる可能性を否定していないこと、
(イ)甲第5号証の実施例4(【0046】?【0047】)、実施例9(【0061】?【0062】)には、「ニトリドアルミノシリケート系」ではないものの、量子効率が84.6%のCa_(1.97)Si_(5)N_(8):Eu_(0.03)蛍光体と、86.7%のSr_(1.4)Ca_(0.6)Si_(5)N_(8):Eu蛍光体が記載されており、「ニトリドシリケート蛍光体」で量子効率80%以上の蛍光体を実現していること、
に鑑みれば、本件特許の優先日時点に「Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する」「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体」で「内部量子効率が80%以上」のものが(理論的ないし経験的に)実現できないともいえないので当該主張は失当である。本件特許の優先日における上記技術常識を踏まえれば、技術的に記載されていないとすることはできない。

(ウ)さらに、本件特許の優先日後の2006年3月22日に頒布された刊行物である乙第16号証には、「NIMSでは白色LED用の蛍光体として、…、CaAlSiN_(3):Eu赤色蛍光体^((2))、…等の酸窒化物結晶をホストとする蛍光体を開発した。本研究では、これらの蛍光体の量子効率測定の結果を報告する。」との記載があり、「Table Quantum efficiency of phosphore」と題する表には、CaAlSiN_(3):Euの内部量子効率として、測定波長が450nmで0.87、405nmで0.88であることが記載されている。なお、参考文献(2)は、「広崎他,第65回応用物理学会予稿集:No3,p1238,2p-ZL-12(2004)」である。
乙第16号証の以上の記載によれば、(2004年の応用物理学会で発表したものと同じ蛍光体なのか、あるいは、製造条件を最適化して効率を改善したものなのかは、不明であるが、)CaAlSiN_(3):Eu赤色蛍光体は、実際に80%以上の内部量子効率が得られていることが理解できる。当該蛍光体は、本件訂正明細書で「製造条件の最適化によって、1.5倍以上の内部量子効率の改善が可能である」としている「SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体」とは組成が異なるものの、本件訂正発明の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)を除く)」であるから、上記(2)ウでの、「実施形態2として、高い光束を放つ発光装置を得るために、内部量子効率が80%以上の、赤色系光を放つ組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表される窒化物蛍光体を含む蛍光体層を備えた発明が、当業者が技術的に理解しうる程度に記載されているものと認められる。」との判断と矛盾するものではない。

ウ 請求人は、上申書(第5回)において、本件訂正発明に関しては、発明の詳細な説明において、内部量子効率が60%である「SrAlSiN_(3):Eu^(2+)」が唯一開示されているのみであって、判決77頁の判事事項の技術常識が存在していたとしても、唯一実施例に示された「SrAlSiN_(3):Eu^(2+)」以外の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」について、「蛍光体の内部量子効率を高めることについても、自ずと限界があること」を踏まえると、何故、「内部量子効率を80%以上とする構成」とするのか、発明の詳細な説明の記載及び技術常識から明らかでない旨を主張する(上記「第5 請求人の主張の概要及び証拠方法」の上記1(1)ア(ウ)を参照。)。

しかしながら、判決は、一般論として、本件出願の優先日前において、青色発光素子が放つ光励起下におけるニトリドシリケート系の窒化物蛍光体の内部量子効率が80%以上のものを製造できる可能性を技術常識に基づいて想定できることは否定していない。

エ 請求人は、上申書(第5回)において、本件訂正発明の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」の具体例の数は万を優に超え無数に近いが、本件訂正明細書及び図面には、赤色蛍光体として、「SrAlSiN_(3):Eu^(2+)」が開示されており、内部量子効率が60%であることが開示されているだけであり、他の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」、「オクソニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」、及び「サイアロン系の窒化物蛍光体」については、内部量子効率について開示がない旨主張するとともに、さらに、「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく、あるいはその記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない」と主張する(上記「第5 請求人の主張の概要及び証拠方法」の上記1(1)ウを参照。)。

しかしながら、請求人は、本件特許の優先日の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないことの具体的な根拠を説明しておらず、発明の詳細な説明に、「SrAlSiN_(3):Eu^(2+)」の他の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」、「オクソニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」、及び「サイアロン系の窒化物蛍光体」について、内部量子効率の開示がないとの主張によって、サポート要件を満たしていないということはできない。

(4)したがって、本件訂正明細書又は図面は、本件訂正発明の課題を解決するものとして、赤色蛍光体が、「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)を除く)」で、「内部量子効率が80%以上」であり、蛍光体層が「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」構成の発明が記載されていると認識できるものであり、請求人が主張する無効理由1(サポート要件違反)の上記サポート要件違反その1、その2は、理由がない。

(5)小括
以上のことから、上記サポート要件違反その1、その2により、本件特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとすることはできない。

2 無効理由2(分割違法による進歩性なし)について
上記「第5 請求人の主張の概要及び証拠方法 1 無効理由 (2)無効理由2(分割違法による進歩性なし)」について検討する。

(1)分割要件(特許法第44条第1項柱書きの要件)について
本件訂正発明が、原出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に包含された発明であるか否かについて検討する。

上記1(1)及び(2)で検討したとおり、本件訂正発明は、本件訂正明細書又は図面に記載された発明である。そして、原出願の願書に最初に添付した明細書の【0001】ないし【0008】、【0013】ないし【0161】及び図面の記載は、本件訂正明細書の【0001】ないし【0009】、【0012】ないし【0160】及び図面の記載と実質的に同一である。そうすると、これらの記載からみて、本件訂正発明は、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明であることは明らかである。

したがって、本件訂正発明は、原出願に包含された発明の一部であり、本件出願は、特許法第44条第1項の規定に基づき原出願の一部を新たな出願としたものと認められる。
よって、本件出願は、原出願の適法な分割出願と認められる。

(2)分割違法による進歩性なしについて
上記(1)のとおり、本件出願は、原出願の適法な分割出願と認められるから、本件出願は原出願の時(平成16年12月15日)にしたものとみなされる。したがって、平成18年2月16日に頒布された原出願の公開公報(甲第1号証)は、特許法第29条第1項第3号でいう、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物にはあたらない。
したがって、本件訂正発明は、本件特許の出願前に当業者が甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

以上のことから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないから、請求人が主張する無効理由2(分割違法による進歩性なし)は、理由がない。

3 無効理由3(進歩性なし)について
上記「第5 請求人の主張の概要及び証拠方法 1 無効理由 (3)無効理由3(進歩性なし)」について検討する。

(1)甲第3号証の記載事項
本願の最先の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。

ア 「【請求項1】 光源として少なくとも1つのLEDを備えた照明ユニットであって、このLEDは300?570nmの範囲内で一次放射を発し、この放射はLEDの一次放射にさらされる蛍光体によって部分的に又は完全により長波長の放射に変換され、前記の蛍光体の構造はニトリド又はその誘導体に基づく形式のものにおいて、前記の変換は少なくとも1種の蛍光体を用いて行われ、この蛍光体はカチオンM及び窒化ケイ素又はニトリドの誘導体から誘導され、この蛍光体は430?670nmでのピーク発光の波長で発光し、その際、カチオンは部分的にドーパントD、つまりEu^(2+)又はCe^(3+)により置き換えられており、この場合にカチオンMとして二価の金属Ba、Ca、Srの少なくとも1種及び/又は三価の金属Lu、La、Gd、Yの少なくとも1種が使用され、この蛍光体は次の種類:構造MSi_(3)N_(5)、M_(2)Si_(4)N_(7)、M_(4)Si_(6)N_(11)及びM_(9)Si_(11)N_(23)のニトリド、構造M_(16)Si_(15)O_(6)N_(32)のオキシニトリド、構造MSiAl_(2)O_(3)N_(2)、M_(13)Si_(18)Al_(12)O_(18)N_(36)、MSi_(5)Al_(2)ON_(9)及びM_(3)Si_(5)AlON_(10)のサイアロンから由来することを特徴とする、光源として少なくとも1つのLEDを備えた照明ユニット。
【請求項2】 ドーパントの割合がカチオンの0.5?15mol%である、請求項1記載の照明ユニット。
【請求項3】 Ce^(3+)でドーピングする場合に、付加的ドーパント、つまりPr^(3+)及び/又はTb^(3+)を使用し、この割合はCe^(3+)の割合の高くても30mol%である、請求項1記載の照明ユニット。
【請求項4】 Eu^(2+)でドーピングする場合に、付加的ドーパント、つまりMn^(2+)を使用し、この割合はEu^(2+)の割合の高くても4倍である、請求項1記載の照明ユニット。
【請求項5】 蛍光体中のそれぞれのEu^(2+)イオンは少なくとも2つ又はそれ以上のニトリド-リガンドにより配位されている、請求項1記載の照明ユニット。
【請求項6】 特に白色に発光する照明ユニットを実現するために、複数のニトリド含有蛍光体を一緒に、特に複数のニトリド含有蛍光体だけを使用する、請求項1記載の照明ユニット。
【請求項7】 本発明による蛍光体はシリコーン樹脂内に分散されているか又はLED上に直接塗布されている、請求項1記載の照明ユニット。
【請求項8】 LEDはニトリドベースの半導体デバイスである、請求項1記載の照明ユニット。
【請求項9】 白色光を発生させるために一次発光された放射が360?420nmの波長領域にあり、この一次発光された放射は、変換のために青(430?470nm)、緑(495?540nm)及び赤(特に540?620nm)に最大発光を示す少なくとも3種の蛍光体にさらされる、請求項6記載の照明ユニット。
【請求項10】 白色光を発生させるために一次発光された放射が420?480nmの波長領域にあり、この一次発光された放射は、変換のために緑(495?540nm)及び赤(特に540?620nm)に最大発光を示す少なくとも2種の蛍光体にさらされる、請求項6記載の照明ユニット。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は光源として請求項1の上位概念に記載された少なくとも1つのLEDを備えた照明ユニットに関する。特に、UV又は青色に一次発光するLEDをベースとする可視光又は白色光を発光するLEDである。
【0002】
【従来の技術】例えば白色光を放射する照明ユニットは、現在では主に約460nmで青色に発光するGa(In)N-LEDと、黄色に発光するYAG:Ce^(3+)蛍光体との組み合わせによって実現されている(US 5998925及びEP 862794)。この場合、良好な色再現のためにWO-A 01/08453に記載されたような2種の異なる黄色-蛍光体が使用される。この場合、双方の蛍光体は、その構造が類似している場合であっても、しばしば異なる温度特性を示すことが問題である。公知の例は、黄色に発光するCe-ドープされたY-ガーネット(YAG:Ce)及びそれと比べてより長波長で発光する(Y,Gd)-ガーネットである。これは、運転温度が異なる場合に色座標の変動及び色再現の変化を引き起こす。」

ウ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、運転温度が変化する場合でも高い不変性を特徴とする、光源として請求項1の上位概念に記載の照明ユニットを提供することである。もう一つの課題は、白色に発光しかつ特に高い色再現及び高い効率を有する照明ユニットを提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】前記課題は、請求項1の特徴部により解決される。特に有利な実施態様は、引用形式請求項に記載されている。
【0007】本発明の場合に、LED用の蛍光体として、複数のニトリドベースの蛍光体種類からなる蛍光体が使用される。
【0008】これらは特定の種類のニトリド及びその誘導体のオキシニトリド及びサイアロンである。カチオンM及び窒化ケイ素又はニトリドの誘導体から誘導される蛍光体は、430?670nmのピーク発光の波長で放射し、その際、このカチオンはドーパントD、つまりEu^(2+)又はCe^(3+)により部分的に置き換えられており、カチオンとしてMは二価の金属Ba、Ca、Srの少なくとも1種及び/又は三価の金属Lu、La、Gd、Yの少なくとも1種が使用され、その際、蛍光体は次の種類から由来する:構造MSi_(3)N_(5)、M_(2)Si_(4)N_(7)、M_(4)Si_(6)N_(11)及びM_(9)Si_(11)N_(23)のニトリド、構造M_(16)Si_(15)O_(6)N_(32)のオキシニトリド、構造MSiAl_(2)O_(3)N_(2)、M_(13)Si_(18)Al_(12)O_(18)N_(36)、MSi_(5)Al_(2)ON_(9)及びM_(3)Si_(5)AlON_(10)のサイアロン。
【0009】次の特別な蛍光体が特に有利である:
1. M′M″Si_(4)N_(7):D
その際、M′はSr又はBaそれぞれ単独であるか又は組み合わされており、特にM′は部分的に(20mol%まで)Caにより置き換えられており;M′は二価のイオンである。
【0010】M″はLu単独であるか又はGd及び/又はLaと組み合わされている;M″は三価のイオンである。
【0011】具体的例はSrLuSi_(4)N_(7):Eu^(2+)である。
【0012】2. M′M″Si_(6)N_(11):D
その際、M′はBa_(x)Sr_(3-x)であり、有利にx=1.5;M′は二価である;その際、M″はLu単独であるか又はGd及び/又はLa及び/又はYと組み合わされている;M″は三価である。
【0013】特定の部分までBa^(2+)及びSr^(2+)の量はなお変えることができ(xの値は1.3?1.7の間で変動する)、かつ部分的に(全体量M′の20mol%まで)Ca^(2+)により置き換えられる。
【0014】具体的例はBaLuSi_(6)N_(11):Euである。
【0015】3. M″_(3)Si_(6)N_(11):D
その際、M″はLa単独であるか又はGd及び/又はY及び/又はLuと組み合わされている;M″は三価のイオンである。
【0016】Dは有利にCe^(3+)である。
【0017】具体的例はLa_(3)Si_(6)N_(11):Ceである。
【0018】4. M′_(2)M″_(7)Si_(11)N_(23):D
その際、M′はBa単独であるか又はSrと(50mol%まで)組み合わされている、M″はLa単独であるか又はGd及び/又はLuと組み合わされている。
【0019】具体的例はBa_(2)La_(7)Si_(11)N_(23):Euである。
【0020】5. M″Si_(3)N_(5):D
M″はLa単独であるか又はGd及び/又はLuと組み合わされている。
【0021】その際、DはCeである。
【0022】具体的例はLaSi_(3)N_(5):Ceである。
【0023】さらに、これは特定の種類のオキシニトリド、つまりタイプM″_(16)Si_(15)O_(6)N_(32):Dの種類である。これらは、三価のカチオンM″として、金属La、Gd、Lu又はYの少なくとも1種を使用する。このカチオンはドーパントD、つまりEu^(2+)又はCe^(3+)により部分的に置き換えられている。次の特別な蛍光体が特に有利である:
6. M″_(16)Si_(15)O_(6)N_(32):Ce
その際、M″はLa単独であるか又はGd及び/又はLuと組み合わされている;具体的例はLa_(16)Si_(15)O_(6)N_(32):Ceである。
【0024】さらに、これは特定の種類のサイアロン、つまりタイプMSiAlON:Dの種類である。これらは、二価又は三価のカチオンM″として、金属Ba、Sr、Ca、La、Gd、Lu又はYの少なくとも1種を使用する。このカチオンはドーパントD、つまりEu^(2+)又はCe^(3+)により部分的に置き換えられている。次の特別な蛍光体が特に有利である:
7. M′SiAl_(2)O_(3)N_(2):D
その際、M′はSr単独であるか又はBa及び/又はCa^(2+)と組み合わされている;Baの割合はこの場合に50mol%までであり、Caの割合は20mol%までである。
【0025】具体的例はSrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Euである。
【0026】8. M′_(3)M″_(10)Si_(18)Al_(12)O_(18)N_(36):D
その際、M′はSr単独であるか又はBa及び/又はCaと組み合わされている;Baの割合はこの場合に50mol%までであり、Caの割合は20mol%までである。
【0027】M″はLa単独であるか又はGd及び/又はLuと組み合わされている;有利に、M′はSr^(2+)であり、もしくはM″はLa^(3+)である;具体的例はSr_(3)La_(10)Si_(18)Al_(12)O_(18)N_(36):Euである
【0028】9. M″Si_(5)Al_(2)ON_(9):Ce^(3+)
M″はLa単独であるか又はGd及び/又はLuと組み合わされている;具体的例はLaAl_(2)Si_(5)ON_(9):Ceである。
【0029】10. M″_(3)Si_(5)AlON_(10):Ce^(3+)
M″はLa単独であるか又はGd及び/又はLuと組み合わされている;有利にM″はLa^(3+)である。
【0030】具体的例はLa_(3)Si_(5)AlON_(10):Ceである。」

エ 「【0048】このような化合物は熱的及び化学的に安定である。この光学活性材料を(たとえばLEDの注入樹脂中に)分散さなければならないような適用の場合、この材料のもう一つの利点は、この材料が耐衝撃性であり、ミル内での粉砕プロセスの際にほとんど又は全く損傷されないことである。粉砕プロセスによるこの粒子のこの種の損傷は、他の蛍光体の場合でも効率を低減する
【0049】この材料デサインは、青?深赤までの広い範囲内で特別な発光を示すSi/Al-N-ベースの特定の蛍光体を製造することができる
【0050】このニトリドベースの系の特別な利点は、たとえば白色LEDの実現のために、物理的に似た特性を有する複数のSi/Al-N-ベースの蛍光体を一緒に使用することも可能となる。同じような考察が、極めて頻繁に同様にニトリドベースとする一次光源に関しても通用する、それというのも、この場合一般にInN、GaN及びAlNをベースとする半導体デバイスであるためである。本発明によるSi/Al-N-ベースの蛍光体は、この場合、特に良好に直接塗布される。」(当審注:「デサイン」は「デザイン」の誤記と認められる。

オ 「【0053】LEDのUV線を用いた励起により有色の光源を発生させる他に、特にこれらの蛍光体を用いて白色光が生じることは有利である。これは、一次光源としてUV発光LEDの場合に少なくとも3種の蛍光体を使用して達成され、一次光源として青色発光LEDの場合には少なくとも2種の蛍光体を使用して達成される。
【0054】良好な色再現を示す白色光は、UV-LED(たとえば300?470nmで一次発光)を2種?3種の蛍光体と組み合わせることにより達成され、前記の蛍光体の中で少なくとも1つは本発明によるニトリド含有蛍光体である。
【0055】ニトリド含有蛍光体の著しい利点は、熱い酸、アルカリに対する優れた安定性並びに熱的及び機械的安定性である。
【0056】
【実施例】次に、本発明を複数の実施例を用いて詳細に説明する。
【0057】InGaN-チップを一緒に備えた白色LEDでの使用のために、例えば米国特許第5998925号明細書に記載されたと同様の構造を使用する。この種の白色光のための光源の構造を図1aに例示的に示した。この光源は、第1及び第2の電気接続部2,3を備えた、ピーク発光波長400nmを有するInGaNタイプの半導体デバイス(チップ1)であり、これは光透過性基体容器8中で凹設部9の範囲内に埋め込まれている。接続部3の一方は、ボンディングワイヤ14を介してチップ1と接続されている。この凹設部は壁部7を有し、この壁部7はチップ1の青色一次放射線用のリフレクタとして用いられる。この凹設部9は注入材料5で充填されており、この注入材料5は主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)(80?90質量%)及び蛍光体顔料6(15質量%未満)を含有する。他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である。この蛍光体顔料は、赤及び緑に発光する2種(又はそれ以上)のニトリド含有顔料からなる混合物である。」

カ 「【0060】本発明による蛍光体は表3にまとめられている。これは多様な配位数のサイアロン及びニトリドである。
【0061】図4は、詳細に記載されている多様なニトリド含有蛍光体の典型的な蛍光領域(nm)を示す。これらの蛍光体は青から赤までの広いスペクトルをカバーする。
【0062】図3及び4は波長の関数として多様なニトリド含有蛍光体の発光特性及び反射特性を示す。」(当審注:「図4は」は「表4は」の誤記と認められる。)

キ 「【0063】詳細には、図3aは390nmによる励起の際のサイアロンSrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Ce^(3+)(4%)(つまりカチオンSrに関するCeの割合4mol%)(試験番号TF23A/01)の発光スペクトルを示す。この最大値は青色で466nmであり、平均波長は493nmである。反射率(図3b)は400nmで約R400=60%であり、370nmで約R370=37%である。
【0064】サイアロンTF23A/01の合成を次に例示的に詳細に説明する。
【0065】蛍光体粉末を高温-固体反応により製造する。このために、高純度の出発材料SrCO_(3)、AlN及びSi_(3)N_(4)をモル比1:2:1で混合した。Si_(3)N_(4)の粒度はd_(50)=1.6μm、d_(10)=0.4μm及びd_(90)=3.9μmである。少量のCeO_(2)を、ドーピングの目的で添加し、この場合、相応するモル量のSrCO_(3)を添加した。
【0066】個々の成分を良好に混合させた後、この粉末を約1400℃で約15h還元性の雰囲気(N_(2)/H_(2))中で加熱し、かつ反応させて上記の化合物にした。
【0067】図4は400nmによる励起の際のサイアロンSrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)(4%)(試験番号TF31A/01)の発光スペクトルを示す。この最大値は緑色で534nmであり、平均波長は553nmである。量子効率QEは43%である。反射率(図4b)は400nmで約R400=31%であり、370nmで約R370=22%である。
【0068】図5は、図3及び4からの青及び緑色に発光するサイアロン並びに公知の赤色発光α-サイアロンSr_(2)Si_(5)N_(8):Eu(WO 01/39574参照)を使用した、図1aの実施例による360nmのピーク発光を示すInGaN-チップを用いた一次励起をベースとする白色LEDの発光スペクトルを示す。適当な混合の際に白色点にすぐ近くのx=0.331、y=0.330の色座標を示す。
【0069】これは、発光変換LEDに、この場合、他の温度安定性蛍光体と一緒の蛍光体-混合物に使用するために、ニトリドベースのサイアロンが特に適していることを示す。」

ク 表3、表4、図1及び図4は、以下のとおりである。


(2)甲3発明の認定
ア 上記(1)アの請求項1の記載によれば、甲第3号証には、
「光源として少なくとも1つのLEDを備えた照明ユニットであって、このLEDは300?570nmの範囲内で一次放射を発し、この放射はLEDの一次放射にさらされる蛍光体によって部分的に又は完全により長波長の放射に変換され、前記の蛍光体の構造はニトリド又はその誘導体に基づく形式のものにおいて、前記の変換は少なくとも1種の蛍光体を用いて行われ、この蛍光体はカチオンM及び窒化ケイ素又はニトリドの誘導体から誘導され、この蛍光体は430?670nmでのピーク発光の波長で発光し、その際、カチオンは部分的にドーパントD、つまりEu^(2+)又はCe^(3+)により置き換えられており、この場合にカチオンMとして二価の金属Ba、Ca、Srの少なくとも1種及び/又は三価の金属Lu、La、Gd、Yの少なくとも1種が使用され、この蛍光体は次の種類:構造MSi_(3)N_(5)、M_(2)Si_(4)N_(7)、M_(4)Si_(6)N_(11)及びM_(9)Si_(11)N_(23)のニトリド、構造M_(16)Si_(15)O_(6)N_(32)のオキシニトリド、構造MSiAl_(2)O_(3)N_(2)、M_(13)Si_(18)Al_(12)O_(18)N_(36)、MSi_(5)Al_(2)ON_(9)及びM_(3)Si_(5)AlON_(10)のサイアロンから由来する、
光源として少なくとも1つのLEDを備えた、
照明ユニット。」
が記載されている

イ 上記(1)オの【0057】によれば、LEDは、「白色LEDでの使用のために」、「主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)及び」「赤及び緑に発光する2種」「のニトリド含有顔料」「を含有」し、「他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である」、「凹設部9」に「充填」された「注入材料5」を備えている。

ウ 上記(1)エの「【0048】このような化合物は熱的及び化学的に安定である。…【0049】この材料デサインは、青?深赤までの広い範囲内で特別な発光を示すSi/Al-N-ベースの特定の蛍光体を製造することができる。【0050】このニトリドベースの系の特別な利点は、たとえば白色LEDの実現のために、物理的に似た特性を有する複数のSi/Al-N-ベースの蛍光体を一緒に使用することも可能となる。」との記載や上記(1)オの「【0053】LEDのUV線を用いた励起により有色の光源を発生させる他に、特にこれらの蛍光体を用いて白色光が生じることは有利である。これは、一次光源としてUV発光LEDの場合に少なくとも3種の蛍光体を使用して達成され、一次光源として青色発光LEDの場合には少なくとも2種の蛍光体を使用して達成される。【0054】良好な色再現を示す白色光は、UV-LED(たとえば300?470nmで一次発光)を2種?3種の蛍光体と組み合わせることにより達成され、前記の蛍光体の中で少なくとも1つは本発明によるニトリド含有蛍光体である。【0055】ニトリド含有蛍光体の著しい利点は、熱い酸、アルカリに対する優れた安定性並びに熱的及び機械的安定性である。」との記載、及び、上記(1)オで「赤及び緑に発光する2種(又はそれ以上)のニトリド含有顔料」を使用することが記載されていることなど甲第3号証の全体の記載からみて、白色光を達成するために一緒に用いる赤及び緑に発光する2種のニトリド含有蛍光体としてSi/Al-N-ベースの蛍光体を使用でき、その中で少なくとも1つは(課題を解決する手段としての)本発明によるニトリド含有蛍光体(すなわち、上記(1)アの請求項1に記載された、「カチオンM及び窒化ケイ素又はニトリドの誘導体から誘導され、この蛍光体は430?670nmでのピーク発光の波長で発光し、その際、カチオンは部分的にドーパントD、つまりEu^(2+)又はCe^(3+)により置き換えられており、この場合にカチオンMとして二価の金属Ba、Ca、Srの少なくとも1種及び/又は三価の金属Lu、La、Gd、Yの少なくとも1種が使用され、この蛍光体は次の種類:構造MSi_(3)N_(5)、M_(2)Si_(4)N_(7)、M_(4)Si_(6)N_(11)及びM_(9)Si_(11)N_(23)のニトリド、構造M_(16)Si_(15)O_(6)N_(32)のオキシニトリド、構造MSiAl_(2)O_(3)N_(2)、M_(13)Si_(18)Al_(12)O_(18)N_(36)、MSi_(5)Al_(2)ON_(9)及びM_(3)Si_(5)AlON_(10)のサイアロンから由来」する蛍光体(以下「甲3蛍光体」という。))であることが理解できる(例えば、上記(1)キによれば、甲第3号証には、白色LEDの実施例として、青及び緑の蛍光体として「甲3蛍光体」を使用し、赤色蛍光体としては、(「甲3蛍光体」には含まれていないSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体である、)「公知の赤色発光α-サイアロンSr_(2)Si_(5)N_(8):Eu(WO 01/39574参照。)」を使用している例が記載されている。)。

エ 上記(1)オの【0053】の「一次光源としてUV発光LEDの場合に少なくとも3種の蛍光体を使用して達成され、一次光源として青色発光LEDの場合には少なくとも2種の蛍光体を使用して達成される」との記載によれば、2種の蛍光体を使用する場合に用いられる一次光源は「青色発光LED」である。

オ 上記(1)カ及びクによれば、【実施例】の欄に記載された表3、表4において、赤に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、例えば、組成が「Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」で発光領域が625?640nmの蛍光体が挙げられ、緑に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、例えば、組成が「SrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)」でMax. Em.が497の蛍光体、組成が「SrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)」で発光領域が495?515nmの蛍光体、組成が「SrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)」で発光領域が490?510nmの蛍光体が挙げられている。

カ 上記アないしオによれば、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。

「光源として少なくとも1つのLEDを備えた照明ユニットであって、このLEDは300?570nmの範囲内で一次放射を発し、この放射はLEDの一次放射にさらされる蛍光体によって部分的に又は完全により長波長の放射に変換され、前記の蛍光体の構造はニトリド又はその誘導体に基づく形式のものにおいて、前記の変換は少なくとも1種の蛍光体を用いて行われ、この蛍光体はカチオンM及び窒化ケイ素又はニトリドの誘導体から誘導され、この蛍光体は430?670nmでのピーク発光の波長で発光し、その際、カチオンは部分的にドーパントD、つまりEu^(2+)又はCe^(3+)により置き換えられており、この場合にカチオンMとして二価の金属Ba、Ca、Srの少なくとも1種及び/又は三価の金属Lu、La、Gd、Yの少なくとも1種が使用され、この蛍光体は次の種類:構造MSi_(3)N_(5)、M_(2)Si_(4)N_(7)、M_(4)Si_(6)N_(11)及びM_(9)Si_(11)N_(23)のニトリド、構造M_(16)Si_(15)O_(6)N_(32)のオキシニトリド、構造MSiAl_(2)O_(3)N_(2)、M_(13)Si_(18)Al_(12)O_(18)N_(36)、MSi_(5)Al_(2)ON_(9)及びM_(3)Si_(5)AlON_(10)のサイアロンから由来する、
光源として少なくとも1つのLEDを備え、
前記LEDの白色LEDでの使用のために、主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)及び赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料を含有し、他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である、凹設部に充填された注入材料を備え、
白色光を達成するために一緒に用いる赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料としてSi/Al-N-ベースの蛍光体を使用でき、その中で少なくとも1つは前記少なくとも1種の蛍光体であり、
赤に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、例えば、組成がSr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)で発光領域が625?640nmの蛍光体を選択肢として有し、
緑に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、例えば、組成がSrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)でMax. Em.が497の蛍光体、組成がSrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)で発光領域が495?515nmの蛍光体、組成がSrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)で発光領域が490?510nmの蛍光体を選択肢として有し、
前記光源は、青色発光LEDである、
照明ユニット。」

(3) 対比
本件訂正発明と甲3発明を対比する。

ア 本件訂正発明の「赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを含む蛍光体層と、発光素子とを備え、前記赤色蛍光体が放つ赤色系の発光成分と、前記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分と、前記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含む発光装置であって、前記出力光が、白色光であ」ることと、甲3発明の「白色LEDでの使用のために、主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)及び赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料を含有し、他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である、凹設部に充填された注入材料を備え」、「前記光源は、青色発光LEDである」ことを対比する。
甲3発明の「主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)及び赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料を含有し、他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である、凹設部に充填された注入材料」、「青色発光LED」、「照明ユニット」、「白色LEDでの使用」は、それぞれ、本件訂正発明の「赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを含む蛍光体層」、「発光素子」、「発光装置」、「前記出力光が、白色光であ」ることに相当する。

また、甲3発明は、白色の出力光を得るために、「赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料」と「青色発光LED」とを備えるものであり、赤、緑、青の3色の光から白色の出力光を得るためには、3色全ての光が出力光に含まれる必要があることは明らかであるから、甲3発明の出力光は、「赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料」からの「赤及び緑」の発光成分と、「青色発光LED」が放つ青の発光成分とを含むと認められる。

してみると、両者は相当関係にある。

イ 本件訂正発明の「前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」ことと、甲3発明の「白色LEDでの使用のために、主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)及び赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料を含有し、他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である、凹設部に充填された注入材料を備え」ることを対比する。

甲3発明の「主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)及び赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料を含有し、他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である、凹設部に充填された注入材料」は、上記アで検討したとおり、本件訂正発明の「蛍光体層」に相当する。

甲3発明の「注入材料」が、「主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)及び赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料を含有し、他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である」との事項は、本件訂正発明の「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」との事項に相当する。

してみると、両者は相当関係にある。

ウ 上記ア及びイによれば、本件訂正発明と甲3発明の一致点と相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを含む蛍光体層と、発光素子とを備え、
前記赤色蛍光体が放つ赤色系の発光成分と、前記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分と、前記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含む発光装置であって、
前記出力光が、白色光であり、
前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない発光装置。」

<相違点1>
本件訂正発明の「赤色蛍光体」は、「前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)を除く)であ」るのに対し、甲3発明の「赤」に発光する「ニトリド含有顔料」は、そのようなものであるのか否か不明である点。

<相違点2>
本件訂正発明の「緑色蛍光体」は、「前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活され、かつ、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体であ」るのに対し、甲3発明の「緑」に発光する「ニトリド含有顔料」は、そのようなものであるのか否か不明である点。

<相違点3>
本件訂正発明の「青色発光素子」は、「440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子」であるのに対し、甲3発明の「青色発光LED」は、そのようなものであるのか否か不明である点。

<相違点4>
本件訂正発明の「蛍光体層に含まれる蛍光体」は、「Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体のみを含」むのに対し、甲3発明の「凹設部に充填された注入材料」が含有するニトリド含有顔料がそのようなものか否か不明である点。

<相違点5>
本件訂正発明の「赤色蛍光体」は、「前記青色発光素子が放つ光励起下において」「内部量子効率が80%以上であ」るのに対し、甲3発明の「赤」に発光する「ニトリド含有顔料」がそのようなものか否か不明である点。

<相違点6>
本件訂正発明が「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有」するものであるのに対し、甲3発明がそのようなものか否か不明である点。

(4)判断
以下、上記相違点1ないし6について検討する。

ア 相違点1、2、4、6について
事案に鑑み、相違点2から判断する。

(ア)相違点2について
甲3発明は、緑に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、例えば、組成がSrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)でMax. Em.が497の蛍光体、組成がSrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)で発光領域が495?515nmの蛍光体、組成がSrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)で発光領域が490?510nmの蛍光体を選択肢として有している。
これらの蛍光体は、甲3発明が「少なくとも1種の蛍光体」として用いる「甲3蛍光体」のうちの1つである「構造MSiAl_(2)O_(3)N_(2)」「のサイアロンから由来」する蛍光体にあたるから、甲3発明において、緑に発光するニトリド含有蛍光体として、選択肢の1つである「組成がSrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)で発光領域が495?515nmの蛍光体」を採用することに格別の困難性はない。
当該蛍光体の発光ピークは明らかでないが、その発光領域(「495?515nm」)は、(本件訂正発明の緑色蛍光体が発光ピークを有する波長領域である)「500nm以上560nm未満の波長領域」と相当程度重複しているし、また、甲第3号証の【0067】には同じ「SrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)」の組成のもので、発光ピークが「534nm」(「500nm以上560nm未満の波長領域」内)であるものも記載されている。
そして、「500nm以上560nm未満の波長領域」は緑色の領域として一般的な波長領域であるから、甲3発明において、緑に発光する蛍光体の発光ピークを「500nm以上560nm未満の波長領域」の範囲内とし、相違点2に係る発明特定事項となすことに格別の困難性はない。

(イ)相違点1について
a まず、本件訂正発明の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」の技術的な意味について検討する。

本件訂正明細書には、以下の記載がある。
「【0012】…
(1) Eu^(2+)で付活され、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩系、チオガレート系、アルミン酸塩系及び窒化物系(ニトリドシリケート系やサイアロン系等)の緑色蛍光体、例えば、(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)、SrGa_(2)S_(4):Eu^(2+)、SrAl_(2)O_(4):Eu^(2+)、BaSiN_(2):Eu^(2+)、Sr_(1.5)Al_(3)Si_(9)N_(16):Eu^(2+)等の蛍光体。
(2) Eu^(2+)で付活され、560nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩系、チオガレート系及び窒化物系(ニトリドシリケート系やサイアロン系等)の黄色蛍光体、例えば、(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)、CaGa_(2)S_(4):Eu^(2+)、0.75(Ca_(0.9)Eu_(0.1))O・2.25AlN・3.25Si_(3)N_(4):Eu^(2+)、Ca_(1.5)Al_(3)Si_(9)N_(16):Eu^(2+)、(Sr,Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)、CaSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)、CaSi_(6)AlON_(9):Eu^(2+)等の蛍光体。
(3) Eu^(2+)で付活され、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物系(ニトリドシリケート系、ニトリドアルミノシリケート系等)の赤色蛍光体、例えば、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)、SrSiN_(2):Eu^(2+)、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)、CaAlSiN_(3):Eu^(2+)、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)等の蛍光体。」
上記記載によれば、「窒化物系」の蛍光体は、ニトリドシリケート系、サイアロン系、ニトリドアルミノシリケート系等の窒素を含む蛍光体の意味で使用されているものと解される。
そうすると、「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」とは、N(ニトリド),Al(アルミノ),Si(シリケート)を含む窒化物蛍光体を意味するものと解される。
なお、当該解釈は請求人の主張(口頭審理陳述要領書(請求人)14頁?18頁)及び被請求人の主張(口頭審理陳述要領書(被請求人)4頁?5頁)と合致する。

b 次に、甲3発明が採用し得る蛍光体について検討する。
甲3発明は、「白色光を達成するために一緒に用いる赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料としてSi/Al-N-ベースの蛍光体を使用でき、その中で少なくとも1つは前記少なくとも1種の蛍光体であ」るもの、すなわち「白色光を達成するために一緒に用いる赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料としてSi/Al-N-ベースの蛍光体を使用でき、その中で少なくとも1つは」「甲3蛍光体」であるものである。
そうすると、上記(ア)のとおり、緑に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として「甲3蛍光体」を選択した上であれば、赤に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、「甲3蛍光体」ではないSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体を採用し得ることは当業者が理解できることである。

c 赤に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体としては、甲第3号証(表4)に、組成がSr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)で発光領域が625?640nmの蛍光体が示されている。
ところで、ニトリドシリケート系の窒化物蛍光体において、カチオンである「Sr」の少なくとも一部を「Ba」や「Ca」に置換し得ることは周知の技術事項と認められ、「Sr」の少なくとも一部を「Ba」や「Ca」に置換した蛍光体もまたニトリドシリケート系の窒化物蛍光体として知られている(例えば、甲第3号証の「【請求項1】…この場合にカチオンMとして二価の金属Ba、Ca、Srの少なくとも1種及び/又は三価の金属Lu、La、Gd、Yの少なくとも1種が使用され、この蛍光体は次の種類:構造MSi_(3)N_(5)、M_(2)Si_(4)N_(7)、M_(4)Si_(6)N_(11)及びM_(9)Si_(11)N_(23)のニトリド、構造M_(16)Si_(15)O_(6)N_(32)のオキシニトリド、構造MSiAl_(2)O_(3)N_(2)、M_(13)Si_(18)Al_(12)O_(18)N_(36)、MSi_(5)Al_(2)ON_(9)及びM_(3)Si_(5)AlON_(10)のサイアロンから由来する」及び「【0033】Eu活性化されたサイアロンの他の有望な代表物はα-サイアロンであり、これは式M_(p/2)Si_(12-p-q)Al_(q)N_(16-q):Eu^(2+)に従い、前記式中、MはCa単独であるか又は金属Sr又はMgの少なくとも1種と組み合わされており、qは0?2.5であり、pは0.5?3であり、以後これをGO-サイアロンと表す。」との記載、甲第4号証の「The red phosphor is selected from the group consisting of … and (Sr_(1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu wherein 0≦x<l and 0≦y<l.」(「赤色燐光体は、…、及び(S_(r1-x-y)Ba_(x)Ca_(y))_(2)Si_(5)N_(8):Eu(但し、0≦x<1, 0≦y<1 である。)、からなる群から選択する。」)(7頁15?18行)との記載、並びに甲第5号証の「【0003】…この蛍光体は、M_(X)Si_(Y)N_(Z):Eu(Mは、Ca、Sr、Ba、Znのグループからなるアルカリ土類金属を少なくとも1つ以上含有する。Zは、Z=2/3X+4/3Yで表される)で表される組成を有する蛍光体である。」及び「【0063】実施例9は、蛍光体Sr_(1.4)Ca_(0.6)Si_(5)N_(8):Euである。」との記載を参照。また、この点に関し、本件訂正明細書においても「【0057】…組成式(M_(1-x)Eu_(x))_(2)Si_(4)AlON_(7)で表されるオクソニトリドアルミノシリケート蛍光体、例えば、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)赤色蛍光体等を用いればよい。但し、上記組成式のMは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である。」と、「Sr」が「Ca」や「Ba」に置換可能であることが記載されている。)。
そうすると、甲第3号証に記載の、組成が「Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」のニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体において、「Sr」の少なくとも一部を「Ca」や「Ba」に置換したニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)を除く)」に該当する。)も、当業者であれば理解し得るものと認められる。

d 上記bで検討したとおり、甲3発明は、緑に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として「甲3蛍光体」を選択した上であれば、赤に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、「甲3蛍光体」ではないSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体を採用し得るものである。
したがって、赤に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、上記cで述べた、甲第3号証の組成が「Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」のニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体における「Sr」の少なくとも一部を「Ca」や「Ba」に置換したニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用すること、すなわち、「Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」以外の組成のニトリドアルミノシリケート系の蛍光体を採用することも格別の困難性はないものと認められる。
そしてその際、赤に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体の発光ピークを「600nm以上660nm未満」とすることも、ニトリドアルミノシリケート系の蛍光体において赤色光の発光を「600nm以上660nm未満」程度とすることが甲第3号証(表4には、組成がSr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)で発光領域が625?640nmの蛍光体が記載されている。)に記載されていることに鑑みれば、格別の困難性はないものと認められる。
したがって、相違点1に係る発明特定事項となすことに格別の困難性はない。

(ウ)相違点4について
相違点4に係る発明特定事項は、上記(ア)及び(イ)のとおり、甲3発明において、緑に発光する蛍光体として、組成が「SrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)」の蛍光体を、赤に発光する蛍光体として、組成が「Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」のニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体における「Sr」の少なくとも一部を「Ca」や「Ba」に置換したニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用することで満たされることは明らかである。

(エ)相違点6について
a まず「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有」することの技術上の意義について検討する。

b 発明の詳細な説明には、「【0013】 これらの蛍光体の励起スペクトルは、上記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長領域に、多くは波長360nm以上420nm未満の近紫外?紫色領域に励起ピークを有するため、上記青色発光素子の励起下における外部量子効率は必ずしも高くない。しかし内部量子効率は、励起スペクトルから予想される以上に高い70%以上、特に良好な場合は90%?100%であることがわかった。」、「【0040】 例えば、青色発光素子を用いる場合、励起スペクトルの最長波長側の励起ピークが420nm以上500nm未満の波長領域にない緑色蛍光体、すなわち、励起スペクトルの最長波長側の励起ピークが420nm未満の波長領域にある緑色蛍光体であっても構わない。」との記載、すなわち、青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長領域に励起ピークを有する蛍光体を挙げる記載はあるものの、「励起ピーク」を「青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に」有する構成とすることにより、どのような作用効果等を奏するのか等、その技術上の意義については記載がない。

c そして、一般に、蛍光体を励起するためには、励起光の波長における励起効率がある程度高ければよく、蛍光体の励起スペクトルのピークと励起光の波長は一致するのが好ましいとしても、必ずしも一致させねばならないものでもない。このことは、例えば甲第4号証(5頁16?17行、6頁6?13行、FIG.1?2参照。400nm付近に励起ピークを有する蛍光体を青色LEDで励起している。)や甲第5号証(【0045】、【0058】、【0067】、図3?4、7、9等参照。375nm付近に励起ピークを有する実施例6?7の窒化物蛍光体が波長460nmで励起でき、公知の青色発光ダイオードと組み合わせることができる旨が記載されている。)において、「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有」する構成とすることが行われていることからも明らかである。

また、本件訂正明細書の【0006】には、従来「赤色光を放つSr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体」(当審注:該蛍光体は【0012】に600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する赤色蛍光体として記載されている。)が「青色発光素子」とともに用いられていたことが記載されている。本件の図14によれば、「Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体」は近紫外?紫色領域に励起ピークを有するものであるから、「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有」する構成のものは、本件訂正明細書に従来技術として記載されているものと認められる。
さらに、被請求人も、励起ピークが近紫外にあるSr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体を、励起ピークとは波長が一致しない青色発光素子と組み合わせることが従来知られていたことは認めている(平成26年11月28日付け上申書17頁10?17行)。

そうすると、「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有」することの技術上の意義は、単に、使用する蛍光体に付随する特性を記載した程度のことと認められる。

d 以上を踏まえて、上記相違点6について検討すると、
(a)甲3号証の図4には、組成が「SrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)」の緑色蛍光体の反射率が特に400nm未満の紫外域において小さくなっていることが記載され、反射スペクトルと励起スペクトルは相関があることから、組成が「SrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)」の緑色蛍光体の励起ピークは400nm未満の紫外域にあるものと推定されること、
(b)本件訂正明細書(【0012】及び【0013】)には、Eu^(2+)で付活された窒化物系の緑色蛍光体及び赤色蛍光体の励起ピークは、「青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長領域に、多くは波長360nm以上420nm未満の近紫外?紫色領域」であると記載されていること、
(c)更に、一般に、Eu^(2+)で付活されたニトリドアルミノシリケート系の赤色蛍光体の励起ピークは、青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長領域にあると考えられること、
以上を鑑みれば、上記(ア)及び(イ)のとおり、甲3発明において、緑に発光する蛍光体として、組成が「SrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)」の蛍光体を、赤に発光する蛍光体として、組成が「Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)」のニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体における「Sr」の少なくとも一部を「Ca」や「Ba」に置換したニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用したものは、青色LEDの放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有すると認められる。

e また、必ずしも、青色LEDの放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有するとは限らないとしても、上述のとおり、「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有」することで、格別の作用効果があるとは認められないし、被請求人が平成26年8月1日付け上申書(6頁)で述べているように励起スペクトルのピークは調整可能であるから、蛍光体の励起スペクトルのピークと青色発光LEDの放つ光の波長との関係を如何なるものとするかは、設計事項の域を超えるものではない。

f したがって、相違点6に係る発明特定事項となすことに格別の困難性はない。

イ 相違点3について
甲3発明は光源として「青色発光LED」を用いるところ、青色の領域として「440nm以上500nm未満の波長領域」は一般的な波長領域であり、甲第3号証の「【0002】…白色光を放射する照明ユニットは、現在では主に約460nmで青色に発光するGa(In)N-LEDと、黄色に発光するYAG:Ce^(3+)蛍光体との組み合わせによって実現されている」との記載にみられるように「約460nm」で発光するものが一般的であることに鑑みれば、甲3発明において、「青色発光LED」に「440nm以上500nm未満の波長領域」に発光ピークを有するものを採用することは当業者において格別困難なことではない。

ウ 相違点5について
(ア)甲第5号証の【0012】の「窒化物蛍光体中は、…基本構成元素の他に、原料中に含まれる不純物も残存する。例えば、Co,Mo,Ni,Cu,Feなどである。これらの不純物は、発光輝度を低下させたり、賦活剤の活用を阻害したりする原因にもなるため、できるだけ系外に除去することが好ましい。」、【0035】の「原料のII価のLも、酸化されやすい。…このOは、不純物となり、発光劣化を引き起こすため、極力、系外へ除去することが好ましい。…」との記載などに鑑みると、本件出願の優先日当時、照明ユニットにおいて発光効率を高めるために、不純物の除去等の製造条件の最適化等により、蛍光体の内部量子効率をできるだけ高めることは、当業者の技術常識であったことが認められる。

しかしながら、他方で、不純物の除去等の製造条件の最適化等により、蛍光体の内部量子効率を高めることについても、自ずと限界があることは自明であり、出発点となる内部量子効率の数値が低ければ、上記の最適化等により内部量子効率を80%以上とすることは困難であり、内部量子効率を80%以上とすることができるかどうかは、出発点となる内部量子効率の数値にも大きく依存するものと考えられる。

しかるところ、甲第3号証には、量子効率に関し、【表3】に3種の化合物の「量子効率(QE)」が「29」%、「51」%、「30」%であること、【0067】に、「400nmによる励起の際のサイアロンSrSiAl_(2)O_(3)N_(2 ):Eu^(2+)(4%)(試験番号TF31A/01)」について「量子効率QEは43%である」ことの記載があるだけであり、これ以外には、量子効率、外部量子効率又は内部量子効率について述べた記載はないし、【表4】記載の赤色蛍光体である「Sr_(2)Si_(4 )AlON_(7 ):Eu^(2+)_( )」の内部量子効率についての記載もない。また、甲第3号証には、「Sr_(2)Si_(4 )AlON_(7 ):Eu^(2+ )」の「Sr_(2)」を「Ca」又は「Ba」に置換した蛍光体の内部量子効率についての記載もない。

このほか、甲第3号証の【表4】記載の赤色蛍光体である「Sr_(2)Si_(4 )AlON_(7 ):Eu^(2+)」、さらには「Sr_(2)Si_(4 )AlON_(7 ):Eu^(2+)_( )」の「Sr_(2)」を「Ca」又は「Ba」に置換した蛍光体の内部量子効率がどの程度であるのかをうかがわせる証拠はない。

(イ)一方、甲第3号証の「【0005】…もう一つの課題は、白色に発光しかつ特に高い色再現及び高い効率を有する照明ユニットを提供することである」との記載にみられるように、照明ユニットにおいて効率を高めることは一般的な課題であり、また、請求人が上記「第5 請求人の主張の概要及び証拠方法」「1 無効理由」「(3)無効理由3(進歩性なし)」のキにおいて主張するように、甲第3号証には、少なくともニトリドアルミノシリケート系の蛍光体において、カチオンMに関し、「Sr」を「Ca」又は「Ba」に置換できることが開示されているとしても、甲第3号証に接した当業者が、甲第3号証の記載事項を出発点として、甲3発明において、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7 ):Eu^(2+)蛍光体のSrの少なくとも一部をBaやCaに置換したニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用した上で、さらに、青色発光素子が放つ光励起下におけるその内部量子効率を80%以上とする構成に容易に想到することができたかどうかは別問題である。

(ウ)以上によれば、甲第3号証に接した当業者は、甲3発明において、Sr_(2)Si_(4 )AlON_(7 ):Eu^(2+)蛍光体のSrの少なくとも一部をBaやCaに置換したニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用した上で、さらに、青色発光素子が放つ光励起下におけるその内部量子効率を80%以上とする構成(相違点5に係る本件訂正発明の構成)を容易に想到することができたものと認めることはできない。

エ (4)のまとめ
上記ウで検討したとおり、相違点5に係る本件訂正発明の構成を当業者が容易に想到することができたものと認めることはできない。
したがって、本件訂正発明が、甲第3号証?甲第6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(5)以上のことから、請求人が主張する無効理由3(進歩性なし)は、理由がない。

第8 むすび
以上、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件訂正発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
発光装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物蛍光体と発光素子とを組み合わせてなる発光装置、特に、例えば暖色系の白色光を放つ発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、赤色系光を放つ窒化物蛍光体として、630nm付近の波長領域に発光ピークを有するCaSiN_(2):Eu^(2+)蛍光体が知られている。この蛍光体は、370nm付近の波長領域に励起スペクトルのピークを有し、360nm以上420nm未満の波長領域の近紫外光?紫色系光による励起で高出力の赤色系光を放つため、上記近紫外光?紫色系光を放つ発光素子と組み合わせた発光装置への応用が有望視されている(例えば、非特許文献1参照。)。赤色系光を放つ窒化物蛍光体は、上記CaSiN_(2):Eu^(2+)蛍光体以外にも、例えば、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体(例えば、特許文献1参照。)が見出されている。
【0003】
また、波長500nm以上600nm未満の緑?黄?橙色領域に発光ピークを有する蛍光体として、発光中心イオンにEu^(2+)を含む、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体及びアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体等が知られている。これらの蛍光体は、400nm付近の波長領域に励起ピークを有し、上述の近紫外光?紫色系光による励起によって高出力の緑?黄?橙色系光を放つ。このため、上記近紫外光?紫色系光を放つ発光素子と組み合わせた発光装置への応用が有望視されている。さらに、上記波長領域に発光ピークを有する蛍光体として、発光中心イオンにEu^(2+)を含むチオガレート蛍光体や、Ce^(3+)を含むガーネット構造を有する蛍光体等も知られている(例えば、特許文献2?7参照。)。
【0004】
一方、従来から、波長360nm以上420nm未満の近紫外?紫色領域に発光ピークを有する発光素子(以下、紫色発光素子という。)、又は、波長420nm以上500nm未満の青色領域に発光ピークを有する発光素子(以下、青色発光素子という。)と、上記発光素子が放つ光によって励起する蛍光体とを組み合わせてなる発光装置が知られている(例えば、特許文献6、7参照。)。
【0005】
上記紫色発光素子を用い、かつ、高い光束と高い演色性とを両立させる発光装置には、暖色系の白色光を放つ発光装置として、La_(2)O_(2)S:Eu^(3+)蛍光体やY_(2)O_(2)S:Eu^(3+)蛍光体等の赤色系光を放つ酸硫化物蛍光体を多用した発光装置がある。また、白色光を放つ発光装置として、上記酸硫化物蛍光体と緑?黄?橙色系光を放つ蛍光体とを組み合わせて用いた発光装置や、さらに青色系光を放つ蛍光体を組み合わせた発光装置もある。上記緑?黄?橙色系光を放つ蛍光体としては、Eu^(2+)で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体や硫化亜鉛蛍光体等が用いられ、上記青色系光を放つ蛍光体としては、Eu^(2+)で付活されたアルミン酸塩蛍光体やEu^(2+)で付活されたハロ燐酸塩蛍光体等が用いられている(例えば、特許文献7?9参照。)。
【0006】
上記青色発光素子を用いた発光装置には、暖色系の白色光を放ち、かつ、高い光束と高い演色性とを両立させる発光装置として、赤色系光を放つSr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体やCaS:Eu^(2+)蛍光体を用いた発光装置がある。また、上記赤色蛍光体と他の蛍光体とを組み合わせて用いた発光装置もある。上記他の蛍光体としては、例えば、SrGa_(2)S_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体、SrAl_(2)O_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体及びY_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)黄色蛍光体が知られている(例えば、特許文献10、11参照。)。
【0007】
なお、本発明に関する蛍光体の内部量子効率及び外部量子効率の測定技術については、すでに高精度な測定が可能な技術が確立しており、蛍光ランプ用の一部の蛍光体については、特定の励起波長の光照射下(254nm紫外線励起下)での絶対値が知られている(例えば、非特許文献2参照。)。
【特許文献1】特表2003-515665号公報
【特許文献2】特開2003-124527号公報
【特許文献3】特開2002-363554号公報
【特許文献4】特開2003-203504号公報
【特許文献5】特開2003-206481号公報
【特許文献6】特開平10-242513号公報
【特許文献7】国際公開第02/054502号パンフレット
【特許文献8】国際公開第03/032407号パンフレット
【特許文献9】特開2003-110150号公報
【特許文献10】特表2003-515655号公報
【特許文献11】特開2004-10786号公報
【非特許文献1】上田恭太ほか、「電気化学会第71回大会学術講演予稿集」、電気化学学会、2004年、p.75
【非特許文献2】大久保和明ほか、「照明学会誌」、平成11年、第83巻、第2号、p.87
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した発光素子と蛍光体とを備えた発光装置には、高い光束と高い演色性とを両立させるものが少ないのが現状である。一方、発光装置に求められる要求は年々多様化しており、特に暖色系の白色光を放つ発光装置の開発が期待されている。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、高い光束と高い演色性とを両立する発光装置、特に、暖色系の白色光を放つ発光装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを含む蛍光体層と、発光素子とを備え、前記赤色蛍光体が放つ赤色系の発光成分と、前記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分と、前記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含む発光装置であって、前記出力光が、白色光であり、前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)を除く)であり、前記緑色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活され、かつ、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体であり、前記発光素子は、440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子であり、前記蛍光体層に含まれる蛍光体はEu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体のみを含み、前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上であり、前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有し、前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない発光装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い光束と高い演色性とを両立する発光装置、特に、暖色系の白色光を放つ発光装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
Eu^(2+)で付活された蛍光体の特性を詳細に調べたところ、以下(1)?(3)に示す蛍光体は、波長360nm以上420nm未満の近紫外?紫色領域に発光ピークを有する紫色発光素子の励起下における内部量子効率だけでなく、波長420nm以上500nm未満、特に、波長440nm以上500nm未満の青色領域に発光ピークを有する青色発光素子の励起下における内部量子効率も高く、良好なものは、その内部量子効率が90%?100%であることが見出された。
(1) Eu^(2+)で付活され、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩系、チオガレート系、アルミン酸塩系及び窒化物系(ニトリドシリケート系やサイアロン系等)の緑色蛍光体、例えば、(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)、SrGa_(2)S_(4):Eu^(2+)、SrAl_(2)O_(4):Eu^(2+)、BaSiN_(2):Eu^(2+)、Sr_(1.5)Al_(3)Si_(9)N_(16):Eu^(2+)等の蛍光体。
(2) Eu^(2+)で付活され、560nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩系、チオガレート系及び窒化物系(ニトリドシリケート系やサイアロン系等)の黄色蛍光体、例えば、(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)、CaGa_(2)S_(4):Eu^(2+)、0.75(Ca_(0.9)Eu_(0.1))O・2.25AlN・3.25Si_(3)N_(4):Eu^(2+)、Ca_(1.5)Al_(3)Si_(9)N_(16):Eu^(2+)、(Sr,Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)、CaSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)、CaSi_(6)AlON_(9):Eu^(2+)等の蛍光体。
(3) Eu^(2+)で付活され、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物系(ニトリドシリケート系、ニトリドアルミノシリケート系等)の赤色蛍光体、例えば、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)、SrSiN_(2):Eu^(2+)、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)、CaAlSiN_(3):Eu^(2+)、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)等の蛍光体。
【0013】
これらの蛍光体の励起スペクトルは、上記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長領域に、多くは波長360nm以上420nm未満の近紫外?紫色領域に励起ピークを有するため、上記青色発光素子の励起下における外部量子効率は必ずしも高くない。しかし内部量子効率は、励起スペクトルから予想される以上に高い70%以上、特に良好な場合は90%?100%であることがわかった。
【0014】
一例として、図12に、SrSiN_(2):Eu^(2+)赤色蛍光体の内部量子効率16、外部量子効率17及び励起スペクトル18を示し、また、参考のため、蛍光体の発光スペクトル19も示した。また、図13?図18には、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体(図13)、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)赤色蛍光体(図14)、(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体(図15)、(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体(図16)、(Sr,Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体(図17)、0.75(Ca_(0.9)Eu_(0.1))O・2.25AlN・3.25Si_(3)N_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体(図18)について、図12と同様に示した。例えば、図16に示した、Eu^(2+)で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体である(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体の外部量子効率は、波長440nmの青色発光素子の励起下において約75%、波長460nmにおいて約67%、波長470nmにおいて約60%である。しかし内部量子効率は、波長440nm以上500nm未満の青色領域において、いずれも励起スペクトルから予想される以上に高い85%以上であり、特に良好な場合は約94%であることがわかった。
【0015】
また、上述の蛍光体以外にも、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体は同様の特性をもつことがわかった。一例として、図19?図22に、(Y,Gd)_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)黄色蛍光体(図19)、BaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)青色蛍光体(図20)、Sr_(4)Al_(14)O_(25):Eu^(2+)青緑色蛍光体(図21)、(Sr,Ba)_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)青色蛍光体(図22)について、図12と同様に示した。
【0016】
図12?図22より、各蛍光体の外部量子効率の励起波長依存性は、励起スペクトルの形状と類似し、励起スペクトルのピークよりも長波長の光の励起下において、例えば、上記青色発光素子の励起下において外部量子効率は必ずしも高い数値でないが、内部量子効率は上記青色発光素子の励起下においても高い数値を示すことがわかる。また、図12?図18及び図20?22より、各蛍光体は、上記紫色発光素子の励起下における内部量子効率が高く、良好なものは90%?100%であることもわかる。
【0017】
さらに調べたところ、上記(1)?(3)以外の蛍光体にも、以下(4)及び(5)に示す蛍光体は、上記紫色発光素子の励起下における内部量子効率が高いことがわかった。
(4) Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活され、490nm以上550nm以下の波長領域に発光ピークを有する窒化物系(ニトリドシリケート系、サイアロン系等)の青緑色又は緑色蛍光体、例えば、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Ce^(3+)、SrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)、Ca_(1.5)Al_(3)Si_(9)N_(16):Ce^(3+)等の蛍光体。
(5)Eu^(2+)で付活され、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩系、ハロ燐酸塩系の青緑又は青色蛍光体、例えば、Ba_(3)MgSi_(2)O_(8):Eu^(2+)、(Sr,Ca)_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)等の蛍光体。
【0018】
これらの蛍光体の励起スペクトルは、波長360nm以上420nm未満の近紫外?紫色領域に励起ピークを有するため、上記紫色発光素子の励起下における外部量子効率は高くない。
【0019】
一例として、図23に、従来上記紫色発光素子と組み合わせて多用されているLa_(2)O_(2)S:Eu^(3+)赤色蛍光体の内部量子効率16、外部量子効率17、及び励起スペクトル18を示し、また、参考のため、蛍光体の発光スペクトル19も示した。図23からわかるように、上記La_(2)O_(2)S:Eu^(3+)赤色蛍光体の内部量子効率と外部量子効率は、励起スペクトルのピークが380nm以上420nm未満の紫色領域、しかも、約360?380nm程度以上の励起波長では、励起波長の増加とともに急激に低下する。例えば、励起波長が、380nm以上420nm未満の紫色領域において、励起波長を次第に長くした場合、内部量子効率は、約80%(380nm)、約62%(400nm)、約25%(420nm)と、低い水準で大きく変化する。
【0020】
また、データは省略するが、Y_(2)O_(2)S:Eu^(3+)赤色蛍光体の内部量子効率、外部量子効率及び励起スペクトルは、上述したLa_(2)O_(2)S:Eu^(3+)の内部量子効率、外部量子効率及び励起スペクトルの特性が、短波長側に10?50nmシフトしたものである。
【0021】
すなわち、従来上記紫色発光素子と組み合わせて多用されているLa_(2)O_(2)S:Eu^(3+)赤色蛍光体及びY_(2)O_(2)S:Eu^(3+)赤色蛍光体は、波長360nm以上420nm未満の近紫外?紫色領域、特に波長380nm以上420nm未満の紫色領域に発光ピークを有する発光素子の放つ光を高い変換効率で赤色光に波長変換することが、材料物性上困難な蛍光体であることがわかる。
【0022】
なお、上記La_(2)O_(2)S:Eu^(3+)赤色蛍光体及びY_(2)O_(2)S:Eu^(3+)赤色蛍光体が、上述した内部量子効率の励起波長依存性を示すのは、Eu^(3+)が電荷移動状態(CTS:charge transfer state)を励起状態としており、CTSを経てEu^(3+)の4fエネルギー準位に励起エネルギーが緩和してから発光した場合には、高効率発光し、CTSを経ずにEu^(3+)の直接励起によって発光した場合には、高効率発光しないことに起因する。上記CTSとは、周りの陰イオン(O又はS)からEu^(3+)の方へ電子が1個移った状態のことである。従って、上述したメカニズムに起因して、上記酸硫化物系の赤色蛍光体と発光素子、特に紫色発光素子とを用いて、高光束の発光装置を得ることは難しい。
【0023】
さらに、紫色発光素子を用いて複数種類の蛍光体を励起させる白色発光装置を構成した場合、色バランスとの兼ね合いから、その出力光の強度は、内部量子効率が最も低い蛍光体の内部量子効率と相関関係がある。すなわち、発光装置を構成する蛍光体の中に、内部量子効率の低い蛍光体が1つでもあれば、出力光の強度も低くなり、高光束の白色系光を得ることはできない。
【0024】
ここで、内部量子効率とは、蛍光体に吸収された励起光の量子数に対して、蛍光体から放射される光の量子数の割合を示し、外部量子効率とは、蛍光体を照射する励起光の量子数に対して、蛍光体から放射される光の量子数の割合を示す。つまり、高い量子効率は、励起光が効率よく光変換されていることを表す。量子効率の測定方法は、既に確立されており、上述した非特許文献2に詳しい。
【0025】
内部量子効率が高い蛍光体に吸収された発光素子の放つ光は、効率よく光変換されて放出される。一方、蛍光体に吸収されなかった発光素子の放つ光は、そのまま放出される。そのため、上述した波長領域に発光ピークを有する発光素子と、その発光素子の放つ光の励起下において内部量子効率が高い蛍光体とを備えた発光装置は、光エネルギーを効率よく使用できることになる。従って、上記(1)?(5)の蛍光体と上記発光素子とを、少なくとも組み合わせることによって、高光束かつ高演色の発光装置とすることができる。
【0026】
一方、上述した波長領域に発光ピークを有する発光素子と、その発光素子の放つ光の励起下において内部量子効率が低い蛍光体とを備えた発光装置は、発光素子が放つ光エネルギーを効率よく変換できないために、光束が低い発光装置になる。
【0027】
なお、360nm以上420nm未満の近紫外?紫色領域に発光ピークを有する発光素子と、その発光素子の放つ光の励起下において外部量子効率が低い蛍光体とを備えた発光装置は、視感度が低く光束向上にほとんど関与しない近紫外?紫色領域の光を放つため、蛍光体層の厚みを増やす、蛍光体層中の蛍光体濃度を高める等して、上記発光素子の放つ光を蛍光体に多く吸収させなければ、光束が低い発光装置になる。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0029】
(実施形態1)
本発明の発光装置の一例は、窒化物蛍光体を含む蛍光体層と発光素子とを備え、上記発光素子は、360nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有し、上記窒化物蛍光体は、上記発光素子が放つ光によって励起されて発光し、上記窒化物蛍光体が放つ発光成分を出力光として少なくとも含む発光装置である。また、上記窒化物蛍光体は、Eu^(2+)で付活され、かつ、組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表される蛍光体であり、上記Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、上記xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である。
【0030】
上記発光素子は、電気エネルギーを光に換える光電変換素子であり、360nm以上420nm未満又は420nm以上500nm未満、より好ましくは380nm以上420nm未満又は440nm以上500nm未満のいずれかの波長領域に発光ピークを有する光を放つものであれば特に限定されず、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)、面発光LD、無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、有機EL素子等を用いることができる。
【0031】
なお、発光素子として、GaN系化合物を発光層としたLEDやLDを用いる場合には、高い出力が得られる理由で、好ましくは380nm以上420nm未満、より好ましくは395nm以上415nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ紫色発光素子、又は、好ましくは440nm以上500nm未満、より好ましくは450nm以上480nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子にするとよい。
【0032】
上記出力光は、上記発光素子が放つ発光成分を含むことが好ましい。特に、上記発光素子が、青色系領域に発光ピークを有する発光素子である場合、上記窒化物蛍光体が放つ発光成分と、上記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含めば、より高い演色性を有する白色光が得られ、より好ましい。
【0033】
上記窒化物蛍光体は、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する暖色系光、好ましくは610nm以上650nm以下の波長領域に発光ピークを有する赤色系光を放つ上記組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表される窒化物蛍光体であり、上述した360nm以上500nm未満の波長領域の励起光下における内部量子効率が高い窒化物蛍光体、例えば、図13に示したSrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体やCaAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体等に該当する。
【0034】
内部量子効率が高い窒化物蛍光体を含む蛍光体層と、上記発光素子とを少なくとも備えた発光装置は、光エネルギーを効率よく出力することができる。上記のように構成された発光装置は、暖色系発光成分の強度が強く、特殊演色評価数R9の数値が大きな装置になる。これはLa_(2)O_(2)S:Eu^(3+)蛍光体を用いた従来の発光装置やSr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)蛍光体とYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット):Ce系蛍光体とを組み合わせて用いた従来の発光装置に匹敵する、高い光束と高い演色性とをもつ。
【0035】
本実施形態の発光装置は、上記窒化物蛍光体を含む蛍光体層と、上記発光素子とを少なくとも備えていれば、特に限定されるものではなく、例えば、半導体発光素子、白色発光ダイオード(以下、白色LEDという。)、白色LEDを用いた表示装置及び白色LEDを用いた照明装置等が該当する。より具体的には、白色LEDを用いた表示装置としては、例えば、LED情報表示端末、LED交通信号灯、自動車用のLEDランプ等がある。白色LEDを用いた照明装置としては、例えば、LED屋内外照明灯、車内LED灯、LED非常灯、LED装飾灯等がある。
【0036】
この中でも、上記白色LEDが特に好ましい。一般に従来のLEDは、その発光原理から、特定の波長の光を放つ単色光源の発光素子である。つまり、従来のLEDからは白色系光を放つ発光素子は得られない。これに対して、本実施形態の白色LEDは、例えば、従来のLEDと蛍光体とを組み合わせる方法によって白色蛍光を得ることができる。
【0037】
本実施形態において、上記窒化物蛍光体は、上記元素Mの主成分をSr又はCaとすると、良好な色調と強い発光強度を得られ、より好ましい。なお、主成分をSr又はCaとするとは、元素Mの50原子%以上がSr又はCaのいずれか1つの元素であることをいう。また、元素Mの80原子%以上がSr又はCaのいずれか1つの元素であることが好ましく、元素Mの全原子がSr又はCaのいずれか1つの元素であることがより好ましい。
【0038】
また、上記発光素子は、注入型エレクトロルミネッセンス素子を用いると、強い出力光を放ち、好ましい。注入型エレクトロルミネッセンス素子とは、電界によって電子と正孔を注入し、電子-正孔対を再結合させることによって、電気エネルギーが光エネルギーに変換されて蛍光物質が発光する光電変換素子のことであり、例えば、LED、LD、面発光LD等をいう。特に、上記発光素子に、GaN系の半導体を活性層に含むLEDやLDを用いると、強く安定した出力光を得られ、より好ましい。
【0039】
(実施形態2)
本発明の発光装置の他の一例としては、上述した実施形態1の蛍光体層に、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活され、かつ、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体を、さらに含む構成にしてもよい。上記緑色蛍光体は、実施形態1で説明した発光素子が放つ光によって励起されて、500nm以上560nm未満の波長領域に、好ましくは510nm以上550nm以下の波長領域、より好ましくは525nm以上550nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ蛍光体であれば、特に限定されない。
【0040】
例えば、青色発光素子を用いる場合、励起スペクトルの最長波長側の励起ピークが420nm以上500nm未満の波長領域にない緑色蛍光体、すなわち、励起スペクトルの最長波長側の励起ピークが420nm未満の波長領域にある緑色蛍光体であっても構わない。
【0041】
上記緑色蛍光体は、上述した360nm以上500nm未満の波長領域の励起光下における内部量子効率が高い蛍光体、例えば、図15に示した(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体等に該当する。この蛍光体を少なくとも含む蛍光体層と、上記発光素子とを少なくとも備えた発光装置は、光エネルギーを効率よく出力するので好ましい。この発光装置は、出力光に含まれる緑色系の発光強度が強くなり、演色性が向上する。また、緑色系光は視感度が高く、光束はより高くなる。特に、蛍光体層に含まれる蛍光体の組み合わせによっては、平均演色評価数(Ra)が90以上の、高い演色性をもつ出力光を得ることが可能である。
【0042】
上記緑色蛍光体を、Eu^(2+)で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体、例えばBaSiN_(2):Eu^(2+)、Sr_(1.5)Al_(3)Si_(9)N_(16):Eu^(2+)、Ca_(1.5)Al_(3)Si_(9)N_(16):Eu^(2+)、CaSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)、SrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)、CaSi_(2)O_(2)N_(2):Eu^(2+)、SrSi_(2)O_(2)N_(2):Eu^(2+)、BaSi_(2)O_(2)N_(2):Eu^(2+)等、Eu^(2+)で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体、例えば(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)、(Ba,Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)等、Eu^(2+)で付活されたチオガレート蛍光体、例えばSrGa_(2)S_(4):Eu^(2+)等、Eu^(2+)で付活されたアルミン酸塩蛍光体、例えばSrAl_(2)O_(4):Eu^(2+)等、Eu^(2+)とMn^(2+)で共付活されたアルミン酸塩蛍光体、例えばBaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+),Mn^(2+)等、Ce^(3+)で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体、例えば、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Ce^(3+)、Ca_(1.5)Al_(3)Si_(9)N_(16):Ce^(3+)、Ca_(2)Si_(5)N_(8):Ce^(3+)等、及び、Ce^(3+)で付活されたガーネット構造を有する蛍光体、例えばY_(3)(Al,Ga)_(5)O_(12):Ce^(3+)、Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)、BaY_(2)SiAl_(4)O_(12):Ce^(3+)、Ca_(3)Sc_(2)Si_(3)O_(12):Ce^(3+)等にすると、上記発光素子の励起下における内部量子効率が高くなり、さらに好ましい。
【0043】
従って、本実施形態の発光装置は、実施形態1の窒化物蛍光体と上記緑色蛍光体とを少なくとも含む蛍光体層と、実施形態1の発光素子とを備え、上記窒化物蛍光体が放つ赤色系の発光成分と上記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分とを出力光に含む発光装置である。
【0044】
(実施形態3)
本発明の発光装置のさらに他の一例としては、上述した実施形態1又は実施形態2の蛍光体層に、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活され、かつ、560nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する黄色蛍光体を、さらに含む構成にしてもよい。上記黄色蛍光体は、実施形態1で説明した発光素子が放つ光によって励起されて、560nm以上600nm未満の波長領域に、好ましくは565nm以上580nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ蛍光体であれば、特に限定されない。
【0045】
例えば、青色発光素子を用いる場合、励起スペクトルの最長波長側の励起ピークが420nm以上500nm未満の波長領域にない黄色蛍光体、すなわち、励起スペクトルの最長波長側の励起ピークが420nm未満の波長領域にある黄色蛍光体であっても構わない。
【0046】
上記黄色蛍光体は、上述した360nm以上500nm未満の波長領域の励起光下における内部量子効率が高い蛍光体、例えば、図16に示した(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体、図17に示した(Sr,Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体、図18に示した0.75(Ca_(0.9)Eu_(0.1))O・2.25AlN・3.25Si_(3)N_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体等、及び420nm以上500nm未満の波長領域の励起光下における内部量子効率が高い蛍光体、例えば、図19に示した(Y,Gd)_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)黄色蛍光体等に該当する。この蛍光体を少なくとも含む蛍光体層と、上記発光素子とを少なくとも備えた発光装置は、光エネルギーを効率よく出力するので好ましい。この発光装置は、出力光に含まれる黄色系の発光強度が強くなり、演色性が向上し、特に温色系又は暖色系の発光を放つ発光装置を提供できる。また、黄色系光は比較的視感度が高く、光束は高くなる。特に、蛍光体層の材料設計によっては、Raが90以上の、高い演色性をもつ出力光を得ることが可能である。
【0047】
上記黄色蛍光体を、Eu^(2+)で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体、例えば0.75(Ca_(0.9)Eu_(0.1))O・2.25AlN・3.25Si_(3)N_(4):Eu^(2+)、Ca_(1.5)Al_(3)Si_(9)N_(16):Eu^(2+)、CaSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)、CaSi_(6)AlON_(9):Eu^(2+)等、Eu^(2+)で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体、例えば(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)、(Sr,Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)等、Eu^(2+)で付活されたチオガレート蛍光体、例えばCaGa_(2)S_(4):Eu^(2+)等、及び、Ce^(3+)で付活されたガーネット構造を有する蛍光体、例えば(Y,Gd)_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)等にすると、上記発光素子の励起下における内部量子効率が高くなり、さらに好ましい。
【0048】
従って、本実施形態の発光装置は、実施形態1の窒化物蛍光体と上記黄色蛍光体とを少なくとも含む蛍光体層と、実施形態1の発光素子とを備え、上記窒化物蛍光体が放つ赤色系の発光成分と上記黄色蛍光体が放つ黄色系の発光成分とを出力光に含む発光装置である。
【0049】
(実施形態4)
本発明の発光装置のさらに他の一例としては、上述した実施形態1?3のいずれかに記載された蛍光体層に、Eu^(2+)で付活された、420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色蛍光体を、さらに含む構成にしてもよい。上記青色蛍光体は、実施形態1で説明した発光素子が放つ光によって励起されて、420nm以上500nm未満の波長領域に、演色性と出力の点で、好ましくは440nm以上480nm以下の波長領域に発光ピークを有する蛍光体であれば、特に限定されない。このとき、発光素子は、実施形態1で説明した発光素子であれば特に限定されないが、紫色発光素子を用いれば、蛍光体材料の選択の幅が広がるために、発光装置が放つ光の光色設計がしやすいだけでなく、発光素子の投入電力等の駆動条件によって発光素子が放つ光の波長位置が変動しても出力光に与える影響が少ないので好ましい。
【0050】
上記青色蛍光体は、上述した360nm以上500nm未満、好ましくは360nm以上420nm未満の波長領域の励起光下における内部量子効率が高い蛍光体、例えば、図20に示したBaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)青色蛍光体、図21に示したSr_(4)Al_(14)O_(25):Eu^(2+)青色蛍光体、図22に示した(Sr,Ba)_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)青色蛍光体等に該当する。この蛍光体を含む蛍光体層と、上記発光素子とを少なくとも備えた発光装置は、光エネルギーを効率よく出力するので好ましい。この発光装置は、出力光に含まれる青色系の発光強度が強くなり、演色性が向上し、光束は高くなる。特に、蛍光体層の材料設計によっては、Raが90以上の、高い演色性をもつ出力光を得ることが可能であり、R1?R15の全ての特殊演色評価数が80以上、好ましい場合では85以上、より好ましい場合では90以上の太陽光に近い白色の出力光を得ることが可能である。例えば、BaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)、(Sr,Ba)_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)、Ba_(3)MgSi_(2)O_(8):Eu^(2+)、SrMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)、(Sr,Ca)_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)、Ba_(5)SiO_(4)Cl_(6):Eu^(2+)、BaAl_(8)O_(1.5):Eu^(2+)、Sr_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)、青色蛍光体等を用いることによって、上記高い演色性と特殊演色評価数とをもつ出力光を得ることができる。
【0051】
また、上記青色蛍光体を、Eu^(2+)で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体、例えばSrSiAl_(2)O_(3)N_(2):Eu^(2+)等、Eu^(2+)で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体、例えばBa_(3)MgSi_(2)O_(8):Eu^(2+)、Sr_(3)MgSi_(2)O_(8):Eu^(2+)等、Eu^(2+)で付活されたアルミン酸塩蛍光体、例えばBaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)、BaAl_(8)O_(13):Eu^(2+)、Sr_(4)Al_(14)O_(25):Eu^(2+)等、及びEu^(2+)で付活されたハロ燐酸塩蛍光体、例えばSr_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)、(Sr,Ca)_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)、(Ba,Ca,Mg)_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)等にすると、上記発光素子の励起下における内部量子効率が高くなり、さらに好ましい。
【0052】
実施形態1?4において、上記蛍光体層に含まれる蛍光体は、高い光束を得るために、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体以外の蛍光体を実質的に含まない構成にするのが好ましく、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない構成にするのが好ましい。上記蛍光体を、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体以外の蛍光体を実質的に含まない構成にするとは、蛍光体層に含まれる蛍光体の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上の蛍光体が、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体であることを意味する。また、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない構成にするとは、蛍光体層に含まれる蛍光体の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上の蛍光体が、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体であることを意味する。上記窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体は、100℃?150℃の動作温度下及び周囲温度下においても、比較的高い内部量子効率を保持し、かつ、発光スペクトルの波長のピークが、例えば前述のアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体又はガーネット構造を有する蛍光体のように短波長側へシフトしない。そのため、上述の構成をした発光装置は、投入電力を増やして励起光強度を強めても、あるいは高温雰囲気下で使用しても、発光色変動が少なく、安定した出力光が得られ好ましい。
【0053】
なお、高い光束を放つ発光装置を得るためには、蛍光体層に実質的に含まれる蛍光体の中で、発光素子が放つ光励起下において最も内部量子効率が低い蛍光体は、内部量子効率(絶対値)が、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の蛍光体とする。
【0054】
(実施形態5)
本発明の発光装置のさらに他の一例は、蛍光体を含む蛍光体層と発光素子とを備え、上記発光素子は、360nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有し、上記蛍光体は、上記発光素子が放つ光によって励起されて発光し、上記蛍光体が放つ発光成分を出力光として少なくとも含む発光装置である。また、上記蛍光体は、Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体と、Eu^(2+)で付活され、かつ、500nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体とを含み、上記発光素子が放つ光励起下において、これらの蛍光体の内部量子効率が80%以上である。
【0055】
上記発光素子は、実施形態1で説明した発光素子と同様のものを使用することができる。
【0056】
上記出力光は、上記発光素子が放つ発光成分を含むことが好ましい。特に、上記発光素子が、青色系の波長領域に発光ピークを有する発光素子である場合、上記蛍光体が放つ発光成分と、上記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含めば、より高い演色性を有する白色光が得られ、より好ましい。
【0057】
上記Eu^(2+)で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体は、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する暖色系光、好ましくは610nm以上650nm以下の波長領域に発光ピークを有する赤色系光を放つ蛍光体であり、上述した360nm以上500nm未満の波長領域の励起光下における内部量子効率が高い蛍光体に該当する。より詳細には、組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表されるニトリドアルミノシリケート蛍光体、例えば、図13に示したSrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体やCaAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体等、組成式(M_(1-x)Eu_(x))SiN_(2)で表されるニトリドシリケート蛍光体、例えば、図12に示したSrSiN_(2):Eu^(2+)赤色蛍光体やCaSiN_(2):Eu^(2+)赤色蛍光体等、組成式(M_(1-x)Eu_(x))_(2)Si_(5)N_(8)で表されるニトリドシリケート蛍光体、例えば、図14に示したSr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)赤色蛍光体、Ca_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)赤色蛍光体又はBa_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)赤色蛍光体等、及び、組成式(M_(1-x)Eu_(x))_(2)Si_(4)AlON_(7)で表されるオクソニトリドアルミノシリケート蛍光体、例えば、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)赤色蛍光体等を用いればよい。但し、上記組成式のMは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である。
【0058】
また、上記アルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体は、Eu^(2+)で付活され、かつ、500nm以上600nm未満、好ましくは525nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する蛍光体であり、より詳細には、525nm以上560nm未満の波長領域に、さらに好ましくは530nm以上550nm以下の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体、例えば、図15に示した(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体等、又は、560nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する黄色蛍光体、例えば、図16に示した(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体、図17に示した(Sr,Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体等であり、上述した360nm以上500nm未満の波長領域の励起光下における内部量子効率が高い蛍光体に該当する。
【0059】
上記蛍光体は、上記発光素子が放つ光励起下において、これらの蛍光体の内部量子効率が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。上述のように内部量子効率が高い蛍光体を含む蛍光体層と、上記発光素子とを少なくとも備えた発光装置は、光エネルギーを効率よく出力することができる。また、上記のような窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体を用いて構成された発光装置は、暖色系発光成分の強度が強く、特殊演色評価数R9の数値が大きな装置になる。
【0060】
また、上記構成の発光装置は、信頼性に課題のある硫化物系蛍光体を用いることなく、また、高価な窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体の使用を赤色蛍光体にのみ用いることによって、高光束かつ高演色の白色光源を提供でき、白色光源等の発光装置の低コスト化を図ることができる。
【0061】
本実施形態の発光装置は、上記Eu^(2+)で付活されて赤色光を放つ上記窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体と、Eu^(2+)で付活された上記アルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体とを含む蛍光体層と、上記発光素子とを少なくとも備えていれば、特に限定されるものではなく、例えば、上述した白色LED等が該当する。
【0062】
本実施形態において、前述の組成式で表される窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体は、前述の元素Mの主成分をSr又はCaとすると、良好な色調と強い発光強度を得られ、より好ましい。なお、主成分をSr又はCaとするとは、元素Mの50原子%以上がSr又はCaのいずれか1つの元素であることをいう。また、元素Mの80原子%以上がSr又はCaのいずれか1つの元素であることが好ましく、元素Mの全原子がSr又はCaのいずれか1つの元素であることがより好ましい。
【0063】
また、上記発光素子は、注入型エレクトロルミネッセンス素子を用いると、強い出力光を放ち、好ましい。注入型エレクトロルミネッセンス素子とは、電界によって電子と正孔を注入し、電子-正孔対を再結合させることによって、電気エネルギーが光エネルギーに変換されて蛍光物質が発光する光電変換素子のことであり、例えば、LED、LD、面発光LD等をいう。特に、上記発光素子に、GaN系の半導体を活性層に含むLEDやLDを用いると、強く安定した出力光を得られ、より好ましい。
【0064】
上記アルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体として、Eu^(2+)で付活された、500nm以上560nm未満の波長領域、好ましくは525nm以上560nm未満の波長領域、より好ましくは530nm以上550nm以下の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体、例えば、(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)、(Ba,Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)等を使用することが好ましい。この緑色蛍光体を用いた発光装置は、出力光に含まれる緑色系の発光強度が強くなり、演色性が向上する。また、緑色系光は視感度が高く、光束はより高くなる。特に、蛍光体層に含まれる蛍光体の組み合わせによっては、Raが90以上の、高い演色性をもつ出力光を得ることが可能である。
【0065】
さらに、上記アルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体として、Eu^(2+)で付活された、560nm以上600nm未満の波長領域に、好ましくは565nm以上580nm以下の波長領域に発光ピークを有する黄色蛍光体、例えば、(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)を使用することが好ましい。この黄色蛍光体を用いた発光装置は、出力光に含まれる黄色系の発光強度が強くなり、演色性が向上し、特に温色系又は暖色系の発光を放つ発光装置を提供できる。また、黄色系光は比較的視感度が高く、光束は高くなる。特に、蛍光体層の材料設計によっては、Raが90以上の、高い演色性をもつ出力光を得ることが可能である。また、上記黄色蛍光体に近い蛍光を放つ(Sr,Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体等を使用することも好ましい。
【0066】
本実施形態においては、上記蛍光体層に含まれる前述の赤色蛍光体以外の蛍光体として、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体を実質的に含まないことが好ましい。これにより、発光装置に用いる窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体の使用量を最少限にでき、発光装置の製造コストの低減を図ることができる。また、上記蛍光体層に含まれる前述の赤色蛍光体以外の蛍光体として、硫化物系蛍光体を実質的に含まないことが好ましい。これにより、発光装置の信頼性を高めることができ、例えば、劣化等の経時変化の少ない発光装置を提供できる。
【0067】
なお、実施形態5においても、上記蛍光体層に含まれる蛍光体は、高い光束を得るために、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体以外の蛍光体を実質的に含まない構成にするのが好ましい。また、蛍光体層に実質的に含まれる蛍光体の中で、発光素子が放つ光の励起下において、最も内部量子効率が低い蛍光体の内部量子効率は、80%以上とすることが好ましい。
【0068】
以下、本発明の発光装置の実施形態を、図面を用いて説明する。
【0069】
図1、図2、図3は、本発明の発光装置の一例を示す半導体発光素子の断面図である。
【0070】
図1は、サブマウント素子4の上に、少なくとも1つの発光素子1を導通搭載し、蛍光体2を含む蛍光体層3を兼ねる母材によって封止した構造の半導体発光素子を示す。図2は、リードフレーム5のマウント・リードに設けたカップ6に、少なくとも1つの発光素子1を導通搭載し、さらにカップ6内に蛍光体2を含む蛍光体層3を設け、全体を、例えば樹脂等の封止材7を用いて封止した構造の半導体発光素子を示す。図3は、筐体8内に、少なくとも1つの発光素子1を導通搭載し、さらに蛍光体2を含む蛍光体層3を設けた構造の、チップタイプの半導体発光素子を示す。
【0071】
図1?図3において、発光素子1は電気エネルギーを光に換える光電変換素子であり、360nm以上500nm未満、好ましくは380nm以上420nm未満又は440nm以上500nm未満、より好ましくは395nm以上415nm以下又は450nm以上480nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ発光素子であれば特に限定されず、例えば、LED、LD、面発光LD、無機EL素子、有機EL素子等を用いればよい。特に、半導体発光素子の高出力化のためには、LED又は面発光LDが好ましい。
【0072】
図1?図3において、蛍光体層3は、蛍光体2として、組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表される窒化物蛍光体であり、Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、xは式0.005≦x≦0.3を満たす数値である蛍光体を少なくとも分散させて構成する。
【0073】
蛍光体層3の母材に用いる材料は特に限定されず、一般に透明な、例えばエポキシ樹脂、シリコン樹脂等の樹脂や低融点ガラス等を用いればよい。発光強度の動作時間に伴う低下が少ない発光装置を提供する目的で好ましい上記母材は、シリコン樹脂又は低融点ガラス等の透光性無機材料であり、より好ましくは上記透光性無機材料である。例えば、蛍光体層3の母材に上記透明樹脂を用いた場合、窒化物蛍光体の含有量は5?80重量%が好ましく、10?60重量%がより好ましい。蛍光体層3に含まれる窒化物蛍光体は、上記発光素子1が駆動によって放つ光の一部又は全部を吸収して、赤色系光に変換するため、少なくとも窒化物蛍光体が放つ発光成分を半導体発光素子の出力光として含む。
【0074】
また、蛍光体2として、少なくとも組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表される窒化物蛍光体を含む場合、蛍光体層3は、上記窒化物蛍光体以外の蛍光体をさらに含んでもよいし、含まなくてもよい。例えば、上述した、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活され、360nm以上500nm未満の波長領域の励起光下における内部量子効率が高いアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体、窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、ハロ燐酸塩蛍光体、チオガレート蛍光体等を、以下(1)?(6)に示す組み合わせで用い、発光素子1を360nm以上420nm未満の波長領域に発光ピークを有する紫色発光素子とすると、発光素子1が放つ光によって蛍光体が高効率励起され、複数の蛍光体が放つ光の混色等によって、例えば、白色系光を放つ半導体発光素子になる。
(1) 420nm以上500nm未満、好ましくは440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色蛍光体と、500nm以上560nm未満、好ましくは510nm以上550nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ緑色蛍光体と、560nm以上600nm未満、好ましくは565nm以上580nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ黄色蛍光体と、上記窒化物蛍光体とを含む蛍光体層。
(2) 420nm以上500nm未満、好ましくは440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色蛍光体と、500nm以上560nm未満、好ましくは510nm以上550nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ緑色蛍光体と、上記窒化物蛍光体とを含む蛍光体層。
(3) 420nm以上500nm未満、好ましくは440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色蛍光体と、560nm以上600nm未満、好ましくは565nm以上580nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ黄色蛍光体と、上記窒化物蛍光体とを含む蛍光体層。
(4) 500nm以上560nm未満の波長領域に、好ましくは525nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ緑色蛍光体と、560nm以上600nm未満の波長領域に、好ましくは565nm以上580nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ黄色蛍光体と、上記窒化物蛍光体とを含む蛍光体層。
上記黄色蛍光体と、上記窒化物蛍光体とを含む蛍光体層。
(5) 上記黄色蛍光体と、上記窒化物蛍光体とを含む蛍光体層。
(6) 上記緑色蛍光体と、上記窒化物蛍光体とを含む蛍光体層。
【0075】
また、上記蛍光体を、以下(7)?(9)に示す組み合わせで用い、発光素子1を420nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色発光素子とすると、発光素子1が放つ光と蛍光体が放つ光との混色等によって、白色系光を放つ半導体発光素子になる。
(7) 500nm以上560nm未満の波長領域に、好ましくは525nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ緑色蛍光体と、560nm以上600nm未満の波長領域に、好ましくは565nm以上580nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ黄色蛍光体と、上記窒化物蛍光体とを含む蛍光体層。
(8) 上記黄色蛍光体と、上記窒化物蛍光体とを含む蛍光体層。
(9) 上記緑色蛍光体と、上記窒化物蛍光体とを含む蛍光体層。
【0076】
なお、発光素子を青色発光素子とする場合、上記緑色蛍光体、上記黄色蛍光体としては、Eu^(2+)で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体、Eu^(2+)で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体の他にも、Ce^(3+)で付活されたガーネット構造を有する蛍光体(特に、YAG:Ce系蛍光体)、Eu^(2+)で付活されたチオガレート蛍光体等から広く選択可能である。さらに具体的に説明すると、例えば、SrGa_(2)S_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体、Y_(3)(Al,Ga)_(5)O_(12):Ce^(3+)緑色蛍光体、Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)緑色蛍光体、BaY_(2)SiAl_(4)O_(12):Ce^(3+)緑色蛍光体、Ca_(3)Sc_(2)Si_(3)O_(12):Ce^(3+)緑色蛍光体、(Y,Gd)_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)黄色蛍光体、Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+),Pr^(3+)黄色蛍光体、CaGa_(2)S_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体等が使用できる。
【0077】
あるいは、図1?図3において蛍光体層3は、蛍光体2として、少なくともEu^(2+)で付活されて赤色光を放つ窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体と、Eu^(2+)で付活され、かつ、500nm以上560nm未満又は560nm以上600nm未満のいずれかの波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体とを分散させて構成する。
【0078】
蛍光体層3は、上述した蛍光体層3の母材を用いればよい。また、蛍光体層3に含まれる蛍光体2は、上記発光素子1が放つ光の一部又は全部を吸収して光に変換するため、半導体発光素子の出力光は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体が放つ発光成分と、アルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体が放つ発光成分とを少なくとも含む。
【0079】
また、蛍光体2として、Eu^(2+)で付活されて赤色光を放つ窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体と、Eu^(2+)で付活され、かつ、500nm以上560nm未満又は560nm以上600nm未満のいずれかの波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体とを含む場合も、蛍光体層3は、上記窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体、及びアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体以外の蛍光体をさらに含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0080】
但し、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体や硫化物系蛍光体の使用量を削減する目的では、上記以外の窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体や硫化物系蛍光体を含まないことが好ましい。
【0081】
例えば、上述したEu^(2+)又はCe^(3+)で付活され、360nm以上500nm未満の波長領域の励起下において内部量子効率が高い、アルミン酸塩蛍光体、ハロ燐酸塩蛍光体等と、上記(1)?(6)に示した蛍光体とを組み合わせて用いれば、発光素子1が放つ光によって蛍光体が高効率励起され、複数の蛍光体が放つ光の混色によって、白色系光を放つ半導体発光素子になる。また、上記(7)?(9)に示した蛍光体とを組み合わせて用いれば、発光素子1が放つ光と蛍光体が放つ光との混色によって、白色系光を放つ半導体発光素子になる。
【0082】
本実施形態の半導体発光素子において、上記青色発光素子の励起下における外部量子効率は必ずしも高くないが内部量子効率は高い蛍光体を用いるので、例えば、青色発光素子が放つ光と蛍光体が放つ光の混色によって、所望の白色系光を得ようとした場合、比較的多くの蛍光体を必要とする。従って、所望の白色系光を得ようとすると、必然的に蛍光体層の厚みを増す必要がある。一方、蛍光体層の厚さが増加すると、白色系光の色むらが少ない発光装置になるメリットもある。
【0083】
蛍光体層3を複層又は多層構造として、その一部の層に上記窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体を含む蛍光体層とすれば、本実施形態の半導体発光素子である発光装置の発光の色斑や出力斑を抑制できるので好ましい。
【0084】
なお、Eu^(2+)を発光中心イオンとして含む窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体は、青、緑、黄の可視光を吸収して赤色光に変換するため、上記窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体を含む蛍光体層3を、青色蛍光体、緑色蛍光体、黄色蛍光体のいずれかの蛍光体と上記窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体とを混合して形成すると、上記青、緑、黄色蛍光体の発光も吸収して、上記窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体が赤色光を放つことになる。このため、発光装置の発光色の制御が、蛍光体層の製造工程上の理由で難しくなる。この課題を防ぐため、蛍光体層3を複層又は多層構造とし、上記発光素子1の主光出力面に最も近い層を、赤色光を放つ窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体として、上記青、緑、黄色蛍光体の発光によって励起され難くすることが好ましい。また、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された上記黄色蛍光体は青色系光や緑色系光で励起され、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された上記緑色蛍光体は青色系光で励起されるため、発光色の異なる複種類の蛍光体を混合して蛍光体層3を形成した場合には、前述の課題と同様の課題が生じることになる。この課題を解決するために、本実施形態における半導体発光装置は、蛍光体層3を複層又は多層構造とし、発光素子1の主光出力面から遠い層に、波長の短い光を放つ蛍光体を含む層を構成することが好ましい。
【0085】
本実施形態の半導体発光素子は、上記発光素子と、この発光素子の励起下における内部量子効率が高く、励起光を効率よく赤色系光に変換する窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体を少なくとも含む蛍光体層とを備え、少なくとも上記窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体が放つ赤色系の発光成分を出力光に含む発光装置であり、高い光束と高い演色性とを両立する発光装置、特に暖色系の白色光を放つ発光装置になる。また、上記発光素子が青色発光素子の場合、上記出力光は、上記発光素子が放つ発光成分をさらに含む発光装置となる。
【0086】
図4及び図5は、本発明の発光装置の一例を示す、照明・表示装置の構成の概略図である。図4は、上述の蛍光体2を含む蛍光体層3と発光素子1とを組み合わせた半導体発光素子9を少なくとも1つ用いて構成した照明・表示装置と、その出力光10とを示す。図5は、少なくとも1つの発光素子1と上述の蛍光体2を含む蛍光体層3を組み合わせてなる照明・表示装置と、その出力光10とを示す。発光素子1及び蛍光体層3については、先に説明した半導体発光素子の場合と同様のものを使用できる。また、このような構成の照明・表示装置の作用や効果等についても、先に説明した半導体発光素子の場合と同様である。
【0087】
図6?図11は、上記図4及び図5で概略を示した、本発明の発光装置の実施形態である照明・表示装置を組み込んだ具体例を示す図である。図6は、一体型の発光部11を有する照明モジュール12の斜視図を示す。図7は、複数の発光部11を有する照明モジュール12の斜視図を示す。図8は、発光部11を有し、スイッチ13によってON-OFF制御や光量制御可能な卓上スタンド型の照明装置の斜視図である。図9は、ねじ込み式口金14と、反射板15と、複数の発光部11を有する照明モジュール12を用いて構成した光源としての照明装置の側面図Aと底面図Bである。図10は、発光部11を備えた平板型の画像表示装置の斜視図である。図11は、発光部11を備えたセグメント式の数字表示装置の斜視図である。
【0088】
本実施形態の照明・表示装置は、上記発光素子の励起下における内部量子効率が高い蛍光体を用い、特に赤色系の発光成分の強度が強く、演色性の良好な半導体発光素子を用いて構成しているので、従来の照明・表示装置に対して同等以上に優れた、高い光束と、特に赤色系の発光成分の強度が強く高い演色性とを両立する照明・表示装置になる。
【0089】
(実施例)
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0090】
本実施例では、発光装置として、図24に示すカード型の照明モジュール光源を作製し、発光特性を評価した。図25は、図24の一部断面図である。
【0091】
まず、半導体発光素子21の製造方法を説明する。n型Siウエハー上に、元々、マトリックス状に形成した、Siダイオード素子(サブマウント素子)22の、各々対をなすn電極23とp電極24の上に、マイクロバンブ25を介して、GaInNを発光層として470nm付近に発光ピークを有する発光を放つ青色LEDチップ26を導通搭載した。
【0092】
なお、元々マトリックス状に形成した、各々のSiダイオード素子22の上に、青色LEDチップ26を導通搭載したため、結果として、青色LEDチップ26も、マトリックス状に実装されていることになる。
【0093】
続いて、n電極23とp電極24とを、各々青色LEDチップ26のn電極及びp電極に接続した後、印刷技術を用いて、上記青色LEDチップ26の周辺部に蛍光体2を含む蛍光体層3を形成した。さらに、上記蛍光体層3の上面を研削して平坦化した後、ダイヤモンドカッターを用いて個々に切断分離して半導体発光素子21を形成した。
【0094】
次に、アルミニウム金属基板27(大きさ3cm×3cm、厚さ1mm)上に、第1の絶縁体厚膜28(厚さ75μm)、銅電極29(厚さ約10μm、幅0.5mm)、第2の絶縁体厚膜30(厚さ30μm)、電極パッド31a及び31b(厚さ約10μm、合計64対)を順次積層して放熱性多層基板32を形成した。上記第1の絶縁体厚膜28と上記第2の絶縁体厚膜30は、熱圧着によって形成したアルミナ分散エポキシ樹脂からなる。また、上記銅電極29はエッチング技術によってパターニング形成したものであり、上記電極パッド31a及び31bは、エッチング技術によって形成した給電用のマイナス及びプラスの電極である。なお、第2の絶縁体厚膜30の一部にはコンタクトホールを設け、上記電極パッド31a及び31bは、上記銅電極29を通して給電できるように形成した。
【0095】
次に、半導体発光素子21を放熱性多層基板32上の所定の位置に載置した。このとき、Siダイオード素子22の裏面電極(n電極)33は、Agペーストを用いて電極パッド31aに固着接続し、p電極24上のボンディングパッド部35は、Auワイヤー34を用いて電極パッド31bに接続して、半導体発光素子21に給電できるように形成した。
【0096】
次に、逆円錐筒状の研削穴を有するアルミニウム金属反射板36を、放熱性多層基板32上に、接着剤を用いて接着した。このとき、放熱性多層基板32上の半導体発光素子21は、アルミニウム金属反射板36の研削穴部に収まるように形成した。さらに、半導体発光素子21と研削穴部の全体を包み覆うように、エポキシ樹脂を用いたドーム状のレンズ37を形成し、実施例1の発光装置を得た。
【0097】
図24は、実施例1の発光装置の斜視図である。実施例1では、半導体発光素子21を64個用いてカード型の照明モジュール光源を作製し、発光特性を評価した。
【0098】
実施例1は、銅電極29に、半導体発光素子21を32個直列接続した2つの半導体発光素子群に各々40mA程度、合わせて80mA程度の電流を流すことによって、半導体発光素子21を駆動させ、出力光を得た。この出力光は、上記青色LEDチップ26が放つ光と、この光によって励起されて発光した、蛍光体層3に含まれる蛍光体が放つ光の混色光である。さらに、この出力光は、LEDチップ及び蛍光体の種類と量を適宜選択することにより、任意の白色光を得られた。
【0099】
以下、蛍光体層3について詳説する。
【0100】
蛍光体層3は、蛍光体を添加したエポキシ樹脂を乾固して形成した。実施例1では、蛍光体として、波長625nm付近に発光ピークを有するSrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体(中心粒径:2.2μm、最大内部量子効率:60%)と、波長555nm付近に発光ピークを有する(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体(中心粒径:12.7μm、最大内部量子効率:91%)の2種類を用い、エポキシ樹脂には、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂を主成分とするエポキシ樹脂(主材)と、脂環式酸無水物を主成分とするエポキシ樹脂(硬化材)の二液混合型のエポキシ樹脂を用いた。SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体と(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体とは重量割合、約1:10で混合し、この混合蛍光体とエポキシ樹脂とは重量割合、約1:3(蛍光体濃度=25重量%)で混合した。
【0101】
(比較例1)
蛍光体に波長625nm付近に発光ピークを有するSr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)赤色蛍光体(中心粒径:1.8μm、最大内部量子効率:62%)と、波長560nm付近に発光ピークを有するY_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)黄色蛍光体(中心粒径:17.6μm、最大内部量子効率:98%)の2種類を用いて、カード型の照明モジュール光源を実施例1と同様に作製した。蛍光体層3としては、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)赤色蛍光体とY_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)黄色蛍光体とを重量割合、約1:6で混合し、この混合蛍光体とエポキシ樹脂とを重量割合、約1:14(蛍光体濃度=6.7重量%)で混合したものを用いた。そして実施例1と同様に、半導体発光素子に電流を流すことにより出力光を得て、その発光特性を評価した。
【0102】
蛍光体層3の厚さは、等しい光色(相関色温度約3800K、duv、色度)の白色光を得るため、実施例1が厚さ約500μm、比較例1が厚さ約100μmに形成した。なお、実施例1のSrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体と比較例1のSr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)赤色蛍光体の発光特性は元々類似している。そこで、さらに比較精度を高める目的で、実施例1の蛍光体は、比較例1と出来る限り発光性能の似た緑色蛍光体を選択した。実施例1の(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体と、図15に示した(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体とは、SrとBaの原子比は異なるが、内部量子効率及び外部量子効率の励起波長依存性は類似している。
【0103】
以下、実施例1と比較例1にかかる発光装置の発光特性を説明する。
【0104】
図26、図27に実施例1及び比較例1の発光スペクトルをそれぞれ示した。図26、図27からわかるように、実施例1及び比較例1の発光装置は、よく似た発光スペクトルをもち、いずれも470nm付近と600nm付近に発光ピークを有する白色光、すなわち、青色系光と黄色系光の混色によって白色光を放つ。
【0105】
表1に、実施例1と比較例1の発光装置の発光特性を示す。
【0106】
【表1】

【0107】
表1のduvは白色光の黒体放射軌跡からのずれを示す指数である。Raは平均演色評価数、R9は赤色の特殊演色評価数であり、基準光で見た色を100として、試験光が試験色をどれだけ忠実に再現しているかを表す。
【0108】
ほぼ等しい光色(相関色温度、duv及び色度)の条件下で、実施例1は、470nmの光照射下での発光強度が低い(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体を用いたにも関わらず、比較例1とほぼ等しいRa、R9及び光束を示した。すなわち、実施例1は、高演色性と高光束を両立する従来の発光装置である比較例1と、同等の発光性能を有することがわかった。この理由として、青色LEDの放つ光照射下における、実施例1で用いた蛍光体の内部量子効率が高く、蛍光体に吸収された青色LEDの放つ光が効率良く波長変換されて発光するとともに、吸収されなかった青色LEDの放つ光が効率良く出力されたことが考えられる。
【0109】
なお、発光装置の相関色温度は、上記蛍光体濃度や蛍光体層の厚みを変えることによって任意に調整可能であり、所定の分光分布と所定の内部量子効率を有する少なくとも1つの蛍光体と、透過率が100%の例えば樹脂等の母材とを用いて蛍光体層を構成し、さらに、所定の分光分布を有する一定出力の発光素子を用いて発光装置を構成し、出力光の相関色温度を変えた場合の演色評価数、光束等の発光特性は、シミュレーションによって評価できる。但し、演色評価数だけであれば、内部量子効率の数値は無くてもよく、蛍光体と発光素子の分光分布だけでシミュレーション評価可能である。そこで、上記発光装置の高演色性と高光束を両立する光色を調べるため、実施例1及び比較例1の発光装置が放つ白色光の、duvを0として相関色温度を変えた場合のRaと相対光束の挙動とを、シミュレーションによって評価した。
【0110】
図28に、実施例1及び比較例1の発光装置が放つ白色光の、相関色温度を変えた場合の相対光束を、シミュレーションによって評価した結果を示した。図28から、実施例1及び比較例1は同様の振る舞いを示し、白色光の相関色温度が3000K以上6000K以下、好ましくは3500K以上5000K以下の発光装置を作製した場合、実施例1は、比較例1において相関色温度を3797Kにした場合の光束の95?100%に当たる比較的高い光束を示すことがわかる。なお、上記比較例1の相関色温度を3797Kにした場合の光束は、図28中に実線で示した。
【0111】
また、図29に、実施例1及び比較例1の発光装置が放つ白色光の、相関色温度を変えた場合の相対光束を、シミュレーションによって評価した結果を示した。実施例1及び比較例1は、白色光の相関色温度が2000K以上5000K以下、好ましくは2500K以上4000K以下の発光装置を作製した場合に、Raが80以上の比較的高い数値を示すことがわかる。
【0112】
図28及び図29より、実施例1及び比較例1は、白色光の相関色温度が3000K以上5000K以下、好ましくは3000K以上4500K以下、より好ましくは3500K以上4000K以下の発光装置を作製した場合に、高い光束と高いRaを両立する発光装置を得られることがわかる。
【実施例2】
【0113】
実施例1の(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体を、波長555nm付近に発光ピークを有する蛍光体から、波長535nm付近に発光ピークを有する蛍光体に変更し、duvを0として相関色温度を変化させた発光装置を構成し実施例2とした。
【0114】
図30に、実施例2の放つ白色光のRaをシミュレーションによって評価した結果を示した。図30から、相関色温度の低い発光装置ほど高いRaを示し、相関色温度が2000K以上5000K以下の白色光を放つ発光装置を作製した場合に、Raが80以上を示し、さらに、相対色温度3000K以下の場合には、Raが90以上を示すことがわかる。
【0115】
図31に、実施例2の放つ白色光のR9をシミュレーションによって評価した結果を示した。図31から、相関色温度が2000K以上8000K以下の白色光を放つ発光装置を作製した場合に、R9が40以上の高い数値を示し、2500K以上6500K以下にした場合には約60以上、3000K以上5000K以下にした場合には約80以上の高いR9を示すことがわかる。
【0116】
図32に、実施例2の発光装置が放つ白色光の、相関色温度を変えた場合の相対光束を、シミュレーションによって評価した結果を示した。図32から、実施例2を白色光の相関色温度が2500K以上8000K以下、好ましくは3000K以上5000K以下、より好ましくは3500K以上4500K以下の発光装置を作製した場合に、実施例2は、比較例1において相関色温度を3797Kにした場合の光束の82?85%に当たる比較的高い光束を示すことがわかる。なお、上記比較例1の相関色温度を3797Kにした場合の光束は、図32中に実線で示した。
【0117】
図30?図32より、実施例2の発光装置は、相関色温度が3000K以上5000K以下の白色光を放つ発光装置は、Ra及びR9が80以上であり、かつ、高い光束を両立する、演色性の高い出力光を放つ。さらに、相関色温度が3500K以上4500K以下の場合には、Ra及びR9が82以上であり、かつ、高い光束を両立する、より好ましい演色性の出力光を放ち、特に、相対色温度約4000Kの場合には、Ra及びR9が85以上であり、かつ、より高い光束を両立する、よりいっそう好ましい演色性の出力光を放つ。
【0118】
図33には、特に好ましい相関色温度4000K(duv=0)の暖色系白色光を放つ実施例2の発光装置の、発光スペクトルのシミュレーションデータを示した。この発光スペクトルの場合、色度(x,y)は(0.3805,0.3768)であり、Raが86、R9が95である。この発光スペクトルの形状は、青色LEDによる460?480nmの波長領域の発光ピークと、希土類イオンの5d-4f電子遷移に基づく発光を放つ実施例2の緑色蛍光体による520?550nmの波長領域の発光ピークと、希土類イオンの5d-4f電子遷移に基づく発光を放つ実施例2の赤色蛍光体による610?640nmの波長領域の発光ピークとの強度の比率、460?480nm:520?550nm:610?640nmが、24?28:12?15:16?20である。本発明の好ましい形態の一つは、発光ピークが上記比率の発光スペクトルの形状を有する暖色系白色光を放つことを特徴とする発光装置である。なお、上述の希土類イオンの5d-4f電子遷移に基づく発光を放つ蛍光体とは、主にEu^(2+)又はCe^(3+)の希土類イオンを発光中心イオンとして含む蛍光体を示す。このような蛍光体は、発光ピークの波長が同じ場合、蛍光体母体の種類に関わらず、似通った発光スペクトルの形状になる。
【0119】
また、実施例1の緑色蛍光体を、520?550nmの波長範囲に発光ピークを有する(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体に変更し、560?580nmの波長範囲に発光ピークを有する(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体をさらに加えた場合、シミュレーションによって演色性の高い発光装置を得られることがわかった。例えば、相対色温度3800K、duv=0、色度(0.3897,0.3823)の出力光において、Raが88、R9が72、相対光束が93%であった。
【0120】
実施例1の緑色蛍光体を、さらに短い、例えば520nmの波長領域に発光ピークを有する(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体に変更した場合、duv=0となる光色条件の下で、相関色温度と、Ra、R9及び相対光束との関係を、シミュレーションによって評価した。その結果、緑色蛍光体の発光ピークの波長が短い発光装置ほど、Ra、R9及び相対光束の数値は低くなり、照明装置としての性能が低下することがわかった。例えば、波長520nmに発光ピークを有する緑色蛍光体を用いた場合、相関色温度3800K、duv=0、色度(0.3897,0.3823)では、Raが80、R9が71、相対光束が85%であった。以上より、発光ピークの波長が525nm以上の緑色蛍光体を用いることが好ましい。
【0121】
なお、実施例1及び実施例2は、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体を用いたが、組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表される赤色蛍光体であり、Mは、Mg、Ca、Sr、Ba、及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値であれば、特に限定されるものではない。例えば、CaAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体にも、同様の作用効果が認められる。
【0122】
また、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体の代わりに、例えば、類似の発光特性を示す、公知の窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体、例えば、組成式(M_(1-x)Eu_(x))SiN2あるいは組成式(M_(1-x)Eu_(x))_(2)Si_(5)N_(8)等で表されるニトリドシリケート蛍光体や、組成式(M_(1-x)Eu_(x))_(2)Si_(4)AlON_(7)で表されるオクソニトリドアルミノシリケート蛍光体等を用いた場合でも、同様の作用効果が認められる。但し、上記組成式のMは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である。
【0123】
また、緑色蛍光体及び黄色蛍光体は上述の実施例で使用したものに限定されず、525nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ蛍光体であれば、例えば、420nm未満の波長領域に励起スペクトルの最長波長側の励起ピークを有する蛍光体を使用することもできる。なお、白色LEDに用いられる蛍光体として公知なYAG:Ce系蛍光体、例えば、(Y_(3)(Al,Ga)_(5)O_(12):Ce^(3+)緑色蛍光体、Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)緑色蛍光体、(Y,Gd)_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)黄色蛍光体、Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+),Pr^(3+)黄色蛍光体等を、上記緑色蛍光体又は黄色蛍光体としても、同様の作用効果が認められる。
【実施例3】
【0124】
本実施例では、実施例1又は2で説明した青色LEDチップ26の代わりに、GaInNを発光層として405nm付近に発光ピークを有する発光を放つ紫色LEDチップを導通搭載して、図24及び図25に示すカード型の照明モジュール光源を作製し、発光特性を評価した。本実施例の出力光は、少なくとも、上記紫色LEDチップが放つ光によって励起されて発光した、蛍光体層3に含まれる蛍光体が放つ光を主体にしてなる混色光である。さらに、この出力光は、蛍光体の種類と量を適宜選択することにより、任意の白色光を得られた。
【0125】
以下、本実施例の蛍光体層3について詳説する。
【0126】
蛍光体層3は、蛍光体を添加したエポキシ樹脂を乾固して形成した。本実施例では、蛍光体として、波長625nm付近に発光ピークを有するSrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体(中心粒径:2.2μm、最大内部量子効率:60%、405nm励起下での内部量子効率:約60%)と、波長535nm付近に発光ピークを有する(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体(中心粒径:15.2μm、最大内部量子効率:97%、405nm励起下での内部量子効率:約97%)と、波長450nm付近に発光ピークを有するBaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)青色蛍光体(中心粒径:8.5μm、最大内部量子効率:約100%、405nm励起下での内部量子効率:約100%)の3種類を用い、エポキシ樹脂には、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂を主成分とするエポキシ樹脂(主材)と、脂環式酸無水物を主成分とするエポキシ樹脂(硬化材)の二液混合型のエポキシ樹脂を用いた。なお、上記SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体は、製造条件が未だ最適化されていないために、内部量子効率は低いが、今後製造条件の最適化によって、1.5倍以上の内部量子効率の改善が可能である。SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体と(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体とBaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)青色蛍光体は、重量割合、約6:11:30で混合し、この混合蛍光体とエポキシ樹脂とは重量割合、約1:3(蛍光体濃度=25重量%)で混合した。
【0127】
(比較例2)
蛍光体に波長626nm付近に発光ピークを有するLa_(2)O_(2)S:Eu^(3+)赤色蛍光体(中心粒径:9.3μm、最大内部量子効率:84%、405nm励起下での内部量子効率:約50%)と、波長535nm付近に発光ピークを有する(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体(中心粒径:15.2μm、最大内部量子効率:97%、405nm励起下での内部量子効率:約97%)と、波長450nm付近に発光ピークを有するBaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)青色蛍光体(中心粒径:8.5μm、最大内部量子効率:約100%、405nm励起下での内部量子効率:約100%)の3種類を用いて、カード型の照明モジュール光源を実施例3と同様に作製した。蛍光体層3としては、La_(2)O_(2)S:Eu^(3+)赤色蛍光体と(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体とBaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)青色蛍光とを重量割合、約155:20:33で混合し、この混合蛍光体とエポキシ樹脂とを重量割合、約1:3(蛍光体濃度=25重量%)で混合したものを用いた。そして実施例3と同様に、半導体発光素子に電流を流すことにより出力光を得て、その発光特性を評価した。
【0128】
蛍光体層3の厚さは、等しい光色(相関色温度約3800K、duv、色度)の白色光を得るため、実施例3と比較例2、共に、厚さ約500μmに形成した。
【0129】
以下、実施例3と比較例2にかかる発光装置の発光特性を説明する。
【0130】
図34、図35に実施例3及び比較例2の発光スペクトルをそれぞれ示した。図34、図35からわかるように、実施例3及び比較例2の発光装置は、いずれも405nm付近、450nm付近、535nm付近、625nm付近に発光ピークを有する白色系の光、すなわち、紫色光と青色光と緑色光と赤色光の混色によって白色光を放つ。なお、405nm付近の発光ピークは、上記紫色発光素子の光の漏れであり、450nm付近、535nm付近、及び625nm付近の発光ピークは蛍光体によって、上記紫色光が波長変換された光である。
【0131】
表2に、実施例3と比較例2の発光装置の発光特性を示す。
【0132】
【表2】

【0133】
表2のduvは白色光の黒体放射軌跡からのずれを示す指数である。Raは平均演色評価数、R1?R15は特殊演色評価数であり、基準光で見た色を100として、試験光が試験色をどれだけ忠実に再現しているかを示す。特にR9は、赤色の特殊演色評価数である。
【0134】
蛍光体の製造条件が最適化されておらず、最大内部量子効率が60%と性能の低い赤色蛍光体を用いているにも関わらず、実施例3は、ほぼ等しい光色(相関色温度、duv及び色度)の条件下で、比較例2よりも相対光束が17%高い白色系光を放った。比較例2で用いた赤色蛍光体の最大内部量子効率は83%であり、発光装置の出力効率はさらに約20%改善される可能性はあるが、実施例3で用いた赤色蛍光体の場合では、最大内部量子効率は60%であり、発光装置の白色出力はさらに約65%以上改善できる余地がある。すなわち、理論的にも、最終的には、実施例3の、発光装置の材料構成の方が高い光束の白色系光を放つことになる。
【0135】
また、実施例3の発光装置は、少なくとも上記した蛍光体を組み合わせて、相関色温度3800Kの白色光を放つように構成した場合には、比較例2よりも大きなRaを示した。また、R9だけでなくR1?R15の全ての特殊演色評価数において、比較例2よりも大きな数値が得られた。このことは、実施例3が、演色性の極めて良好な白色光を放つことを示すものである。
【0136】
なお、実施例3の発光装置は、R1?R15の特殊演色評価数の数値が、いずれも80以上の演色性の高い白色光を放つ発光装置であり、太陽光に近い光を放つことを示している。このような発光装置は、特に医療用に適するものであり、例えば内視鏡用等に応用可能なLED光源を提供するとともに、太陽光に近い光の下で診断可能な、優れた内視鏡システムを提供することもできるようになる。
【0137】
以下、上記発光装置の高演色性と高光束を両立する光色を調べるため、実施例3及び比較例2の発光装置が放つ白色光の、duvを0として相関色温度を変えた場合のRaと相対光束の挙動とを、シミュレーションによって評価した結果を説明する。
【0138】
図36に、実施例3及び比較例2の発光装置が放つ白色光の、相関色温度を変えた場合の相対光束を、シミュレーションによって評価した結果を示した。図36から、実施例3の発光装置は、2000K以上12000K以下の広い相関色温度範囲に渡って、比較例2よりも、10?20%程度高い光束の白色光を放つことがわかる。また、実施例3の発光装置は、出力光の相関色温度が2500K以上12000K以下、好ましくは3500K以上7000K以下の発光装置を作製した場合に、比較例2において相関色温度を3792Kにした場合の光束の110?115%レベル以上に相当する比較的高い光束を示すことがわかる。なお、上記比較例2の相関色温度を3792Kにした場合の光束は、図36中に実線で示した。
【0139】
以下、実施例3及び比較例2で用いた各蛍光体について、製造条件が十分最適化され、最大内部量子効率が100%の蛍光体が得られたと仮定し、この理想的な蛍光体を用いた場合の光束をシミュレーション評価した結果を示す。本シミュレーションでは、図13、図15、図20及び図23から、各蛍光体の405nm励起下における内部量子効率を下記表3に示すように見積もり評価した。
【0140】
【表3】

【0141】
図37に、理想的な蛍光体を用いた場合に、実施例3及び比較例2の発光装置が放つ白色光の、相関色温度を変えた場合の相対光束を、シミュレーションによって評価した結果を示した。図37から、実施例3の発光装置において、理想的な蛍光体を用いた場合には、2000K以上12000K以下の広い相関色温度範囲に渡って、比較例2よりも、45?65%程度高い光束の白色光を放つことがわかる。また、白色光の相関色温度が2500K以上12000K以下、好ましくは3500K以上6000K以下の発光装置を作製した場合に、比較例2において相関色温度を3792Kにした場合の光束の150?160%以上に相当する比較的高い光束を示すことがわかる。なお、上記比較例2の相関色温度を3792Kにした場合の光束は、図37中に実線で示した。
【0142】
すなわち、今後のSrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体の高性能化によって、同一の相関色温度の評価の下で、比較例2よりも45?65%程度高い光束を放つ発光装置が得られることが予測できる。
【0143】
また、図38に、実施例3及び比較例2の発光装置が放つ白色光の、相関色温度を変えた場合の平均演色評価数(Ra)を、シミュレーションによって評価した結果を示した。実施例3の発光装置は、白色光の相関色温度が2000K以上12000K以下の広い相関色温度範囲に渡って、90以上の高いRaを示し、好ましくは3000K以上12000K以下の発光装置を作製した場合に、95以上の非常に高いRaを示すことがわかる。
【0144】
図39には、実施例3及び比較例2の発光装置が放つ白色光の、相関色温度を変えた場合の赤色の特殊演色評価数(R9)を、シミュレーションによって評価した結果を示した。相関色温度2500K以上12000K以下の実施例3の発光装置は、比較例2よりも大きなR9の数値を示した。また、白色光の相関色温度が2000K以上12000K以下の広い相関色温度範囲に渡って、30以上の高いR9を示し、3000K以上12000K以下では70以上、3500K以上12000Kでは80以上、5000K以上12000K以下では90以上の高いR9を示し、赤色演色評価数の高い白色光を放つ好ましい発光装置になることがわかる。なお、R9の最大値(96?98)は、6000K以上8000K以下の相関色温度範囲で得ることができた。
【0145】
図36?図38より、実施例3の発光装置は、2000K以上12000K以下の広い相関色温度範囲に渡って、比較例2よりも、高い光束と高いRaの白色光を放つことがわかる。また、白色光の相関色温度が2500K以上12000K以下、好ましくは3500K以上7000K以下、より好ましくは4000K以上5500K以下の発光装置を作製した場合に、高い光束と高いRaを両立する発光装置を得られることがわかる。
【0146】
また、図36?図39より、実施例3の発光装置は、2500K以上12000K以下の広い相関色温度範囲に渡って、比較例2よりも、高い光束と高いR9の白色光を放つことがわかる。また、白色光の相関色温度が3000K以上12000K以下、好ましくは3500K以上12000K以下、より好ましくは5000K以上12000K以下、特に好ましくは6000K以上8000K以下の発光装置を作製した場合に、高い光束と高いR9を両立する発光装置を得られることがわかる。
【0147】
図40には、光束とRaの特に好ましい相関色温度4500K(duv=0)の暖色系白色光を放つ実施例3の発光装置の、発光スペクトルのシミュレーションデータを示した。この発光スペクトルの場合、色度(x,y)は(0.3608,0.3635)であり、Raが96、R1が98、R2及びR6?R8が97、R3、R10及びR11が91、R4及びR14が94、R5、R13及びR15が99、R9及びR12が88である。これより、R1?R15の全ての特殊演色評価数が85以上の演色性の良好な白色光を放つ発光装置を提供できることがわかる。この発光スペクトルの形状は、紫色LEDによる400?410nmの波長領域の発光ピークと、希土類イオンの5d-4f電子遷移に基づく発光を放つ実施例3のRGB蛍光体による440?460nm、520?540nm及び610?640nmの波長領域の発光ピークとの強度の比率、400?410nm:440?460nm:520?540nm:610?640nmが、8?10:12?14:15?17:16?18である。本発明の好ましい形態の一つは、発光ピークが上記比率の発光スペクトルの形状を有する暖色系白色光を放つことを特徴とする発光装置である。なお、上述の希土類イオンの5d-4f電子遷移に基づく発光を放つ蛍光体とは、主にEu^(2+)又はCe^(3+)の希土類イオンを発光中心イオンとして含む蛍光体を示す。このような蛍光体は、発光ピークの波長が同じ場合、蛍光体母体の種類に関わらず、似通った発光スペクトルの形状になる。
【0148】
図41には、光束とRaの特に好ましい相関色温度5500K(duv=0)の白色光を放つ実施例3の発光装置の、発光スペクトルのシミュレーションデータを示した。この発光スペクトルの場合、色度(x,y)は(0.3324,0.3410)であり、Raが96、R1及びR13が98、R2及びR8及びR15が97、R3及びR12が90、R4が92、R5が99、R6が96、R7が95、R9及びR14が94、R10及びR11が91である。すなわち、本発明によれば、R1?R15の全ての特殊演色評価数が90以上の、例えば医療用途に適する、太陽光に近い白色光を放つ発光装置も提供可能である。なお、この発光スペクトルの形状は、紫色LEDによる400?410nmの波長領域の発光ピークと、希土類イオンの5d-4f電子遷移に基づく発光を放つ実施例3のRGB蛍光体による440?460nm、520?540nm及び610?640nmの波長領域における発光ピークとの強度の比率、400?410nm:440?460nm:520?540nm:610?640nmが、4?6:9?11:8?10:7?9である。本発明の好ましい形態の一つは、発光ピークが上記比率の発光スペクトルの形状を有する白色光を放つことを特徴とする発光装置である。
【0149】
実施例3では、紫色LEDと、赤緑青(RGB)の3種類の蛍光体を組み合わせてなり、赤色蛍光体をSrAlSiN_(3):Eu^(2+)とした場合を説明したが、上記紫色LEDと、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)又はCaAlSiN_(3):Eu^(2+)等の上記(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)の組成式で表される蛍光体とを少なくとも組み合わせて構成し、蛍光体の構成を、赤黄緑青(RYGB)の4種類、あるいは、赤黄青(RYB)の3種類等とした場合でも同様の作用と効果が認められる。
【0150】
また、実施例3では、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体を用いた場合を説明したが、組成式(M_(1-x)Eu_(x))AlSiN_(3)で表される蛍光体であり、Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、xは式0.005≦x≦0.3を満たす数値であれば、特に限定されるものではない。また、緑色蛍光体は上述の実施例で使用した緑色蛍光体に限定されず、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ緑色蛍光体であれば特に限定されない。上記緑色蛍光体に代えて、560nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ黄色蛍光体を用いても良い。なお、発光出力の好ましい、上記緑又は黄色蛍光体は、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体である。
【0151】
なお、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体の特性は、従来の赤色蛍光体、例えば、SrSiN_(2):Eu^(2+)、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)等の窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体と似通っているので、実施例2又は実施例3において、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体に代えて、上記従来の窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体を用いた場合でも、同様の作用効果が認められる。
【0152】
以下、参考のために、上述した蛍光体のうち、SrAlSiN_(3):Eu^(2+)、Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)、SrSiN_(2):Eu^(2+)、(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)(発光ピーク:555nm)、(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)(発光ピーク:535nm)、(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)(発光ピーク:520nm)、(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)(発光ピーク:570nm)の製造方法を説明する。なお、Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)黄色蛍光体、La_(2)O_(2)S:Eu^(3+)赤色蛍光体及びBaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)青色蛍光体は、市販のものを用いた。
【0153】
表4、表5に、各蛍光体の製造に用いた原料化合物の重量を示した。
【0154】
【表4】

【0155】
【表5】

【0156】
表4に示した3種類の赤色蛍光体の製造方法を説明する。まず、グローブボックスと乳鉢等を用いて、表4に示した所定の化合物を乾燥窒素雰囲気中で混合し、混合粉末を得た。このとき、反応促進剤(フラックス)は用いなかった。次に、混合粉末をアルミナルツボに仕込み、温度800?1400℃の窒素雰囲気中で2?4時間仮焼成した後、温度1600?1800℃の窒素97%、水素3%雰囲気中で2時間本焼成して、赤色蛍光体を合成した。本焼成後の蛍光体粉末の体色は橙色であった。本焼成の後、解砕、分級、洗浄、乾燥の所定の後処理を施し、赤色蛍光体を得た。
【0157】
次に、表5に示した4種類の緑色蛍光体及び黄色蛍光体の製造方法を説明する。まず、乳鉢を用いて、表5に示した所定の化合物を大気中で混合し、混合粉末を得た。次に、混合粉末をアルミナルツボに仕込み、温度950?1000℃の大気中で2?4時間仮焼成して、仮焼成粉末を得た。この仮焼成粉末に、塩化カルシウム(CaCl_(2))粉末3.620gをフラックスとして添加し混合した後、温度1200?1300℃の窒素97%、水素3%雰囲気中で4時間本焼成して、緑色蛍光体及び黄色蛍光体合成した。なお、本焼成後の蛍光体粉末の体色は緑?黄色であった。本焼成後、解砕、分級、洗浄、乾燥の所定の後処理を施し、緑色蛍光体及び黄色蛍光体を得た。
【産業上の利用可能性】
【0158】
以上説明したように、本発明によれば、高い演色性と高光束を両立する、白色発光を放つ発光装置を提供することができる。特に、暖色系の白色発光を放つ、赤色系発光成分の強度の強いLED光源等の発光装置を提供でき、その工業的価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】本発明の実施形態における半導体発光素子の断面図である。
【図2】本発明の実施形態における半導体発光素子の断面図である。
【図3】本発明の実施形態における半導体発光素子の断面図である。
【図4】本発明の実施形態における照明・表示装置の構成を示す概略図である。
【図5】本発明の実施形態における照明・表示装置の構成を示す概略図である。
【図6】本発明の実施形態における照明モジュールの斜視図である。
【図7】本発明の実施形態における照明モジュールの斜視図である。
【図8】本発明の実施形態における照明装置の斜視図である。
【図9】本発明の実施形態における照明装置の側面図Aと底面図Bである。
【図10】本発明の実施形態における画像表示装置の斜視図である。
【図11】本発明の実施形態における数字表示装置の斜視図である。
【図12】SrSiN_(2):Eu^(2+)赤色蛍光体の発光特性を示す図である。
【図13】SrAlSiN_(3):Eu^(2+)赤色蛍光体の発光特性を示す図である。
【図14】Sr_(2)Si_(5)N_(8):Eu^(2+)赤色蛍光体の発光特性を示す図である。
【図15】(Ba,Sr)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)緑色蛍光体の発光特性を示す図である。
【図16】(Sr,Ba)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体の発光特性を示す図である。
【図17】(Sr,Ca)_(2)SiO_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体の発光特性を示す図である。
【図18】0.75(Ca_(0.9)Eu_(0.1))O・2.25AlN・3.25Si_(3)N_(4):Eu^(2+)黄色蛍光体の発光特性を示す図である。
【図19】(Y,Gd)_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)黄色蛍光体の発光特性を示す図である。
【図20】BaMgAl_(10)O_(17):Eu^(2+)青色蛍光体の発光特性を示す図である。
【図21】Sr_(4)Al_(14)O_(25):Eu^(2+)青緑色蛍光体の発光特性を示す図である。
【図22】(Sr,Ba)_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)青色蛍光体の発光特性を示す図である。
【図23】La_(2)O_(2)S:Eu^(3+)赤色蛍光体の発光特性を示す図である。
【図24】本発明の実施例1における発光装置の斜視図である。
【図25】本発明の実施例1における発光装置の一部断面図である。
【図26】本発明の実施例1における発光装置の発光スペクトルである。
【図27】本発明の比較例1における発光装置の発光スペクトルである。
【図28】本発明の実施例1及び比較例1における、相関色温度と相対光束との関係をシミュレーションした結果を示す図である。
【図29】本発明の実施例1及び比較例1における、相関色温度とRaとの関係をシミュレーションした結果を示す図である。
【図30】本発明の実施例2における、相関色温度とRaとの関係をシミュレーションした結果を示す図である。
【図31】本発明の実施例2における、相関色温度とR9との関係をシミュレーションした結果を示す図である。
【図32】本発明の実施例2における、相関色温度と相対光束との関係をシミュレーションした結果を示す図である。
【図33】本発明の実施例2における発光装置の発光スペクトルである。
【図34】本発明の実施例3における発光装置の発光スペクトルである。
【図35】本発明の比較例2における発光装置の発光スペクトルである。
【図36】本発明の実施例3及び比較例2における、相関色温度と相対光束との関係をシミュレーションした結果を示す図である。
【図37】本発明の実施例3及び比較例2における、理想的な蛍光体を用いた発光装置の相関色温度と相対光束との関係をシミュレーションした結果を示す図である。
【図38】本発明の実施例3及び比較例2における、相関色温度とRaとの関係をシミュレーションした結果を示す図である。
【図39】本発明の実施例3及び比較例2における、相関色温度とR9との関係をシミュレーションした結果を示す図である。
【図40】本発明の実施例3における、相関色温度4500K(duv=0)の暖色系白色光を放つ発光装置の発光スペクトルをシミュレーションした結果を示す図である。
【図41】本発明の実施例3における、相関色温度5500K(duv=0)の暖色系白色光を放つ発光装置の発光スペクトルをシミュレーションした結果を示す図である。
【符号の説明】
【0160】
1 発光素子
2 蛍光体
3 蛍光体層
4 サブマウント素子
5 リードフレーム
6 カップ
7 封止材
8 筐体
9 半導体発光素子
10 出力光
11 発光部
12 照明モジュール
13 スイッチ
14 ねじ込み式口金
15 反射板
16 蛍光体の内部量子効率
17 蛍光体の外部量子効率
18 蛍光体の励起スペクトル
19 蛍光体の発光スペクトル
21 半導体発光素子
22 Siダイオード素子
23 n電極
24 p電極
25 マイクロバンブ
26 青色LEDチップ
27 アルミニウム金属基板
28 第1の絶縁体厚膜
29 銅電極
30 第2の絶縁体厚膜
31a、31b 電極パッド
32 放熱性多層基板
33 裏面電極
34 Auワイヤー
35 ボンディングパッド部
36 アルミニウム金属反射板
37 レンズ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを含む蛍光体層と、発光素子とを備え、
前記赤色蛍光体が放つ赤色系の発光成分と、前記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分と、前記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含む発光装置であって、
前記出力光が、白色光であり、
前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr_(2)Si_(4)AlON_(7):Eu^(2+)を除く)であり、
前記緑色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu^(2+)又はCe^(3+)で付活され、かつ、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体であり、
前記発光素子は、440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子であり、
前記蛍光体層に含まれる蛍光体はEu^(2+)又はCe^(3+)で付活された蛍光体のみを含み、
前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上であり、
前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有し、
前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まないことを特徴とする発光装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-12-12 
結審通知日 2016-12-15 
審決日 2017-01-12 
出願番号 特願2007-210888(P2007-210888)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (H01L)
P 1 113・ 537- YAA (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高椋 健司  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 星野 浩一
恩田 春香
登録日 2008-03-14 
登録番号 特許第4094047号(P4094047)
発明の名称 発光装置  
代理人 ▲廣▼瀬 文雄  
代理人 松本 隆芳  
代理人 松本 隆芳  
代理人 豊岡 静男  
代理人 ▲廣▼瀬 文雄  
代理人 豊岡 静男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ