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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 一部申し立て 2項進歩性  B23K
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B23K
管理番号 1338097
異議申立番号 異議2017-700619  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-19 
確定日 2018-01-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6047254号発明「鉛フリーはんだ合金、電子回路基板および電子制御装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6047254号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2-7〕について訂正することを認める。 特許第6047254号の請求項1、2、3、6、7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6047254号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成28年 3月22日に特許出願され、同年11月25日に特許権の設定登録がされ、同年12月21日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1、2、3、6、7に係る特許について、平成29年 6月19日に特許異議申立人大池聞平(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 9月19日付けで取消理由が通知され、これに対し特許権者から同年11月 7日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対し異議申立人から同年12月13日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成29年11月 7日付けで提出された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という)の内容は、以下の訂正事項1?3のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
(1) 訂正事項1
ア 請求項2に
「更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含むこと」とあるのを、
「更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下であること」に訂正する。
イ 請求項2を引用する請求項4?7についても同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
ア 請求項3に
「Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからなり」とあるのを、
「Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを2重量%以上4重量%以下と、Biを3.1重量%以上3.2重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからなり」に訂正する。
イ 請求項3を引用する請求項4?7についても同様に訂正する。

(3) 訂正事項3
ア 明細書の段落【0060】に
「実施例14、15、18、21、22、25から31、参考例1から13、16、17、19、20、23、24」とあるのを、
「実施例14、15、21、22、25から31、参考例1から13、16から20、23、24」に訂正する。
イ 同様に、段落【0061】の【表1】の「実施例18」を「参考例18」に訂正する。
ウ 同様に、段落【0070】の【表3】の「実施例18」を「参考例18」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正前の請求項2は請求項1を引用するものであるから、請求項1の記載に基づき、訂正前の請求項2の「Sbの含有量」及び「Biの含有量」は、それぞれ、「1重量%以上5重量%以下」及び「3.1重量%以上4.5重量%以下」である。
そして、訂正事項1は、請求項2の「Sbの含有量」及び「Biの含有量」を、それぞれ、「2重量%以上4重量%以下」及び「3.1重量%以上3.2重量%以下」と訂正するものであるから、「Sbの含有量」に関しては、訂正前に特定されていた数値範囲が狭まるように上限及び下限の値を訂正するものであり、また、「Biの含有量」に関しては、訂正前に特定されていた数値範囲が狭まるように上限の値を訂正するものであるといえる。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正前の願書に添付した明細書には、以下の記載がある。
「【0025】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、1重量%以上5重量%以下のSbを含有させることができる。この範囲でSbを添加することで、Sn-Ag-Cu系はんだ合金の延伸性を阻害することなくはんだ接合部の亀裂進展抑制効果を向上させることができる。特にSbの含有量を2重量%以上4重量%以下とすると、亀裂進展抑制効果を更に向上させることができる。」
「【0061】
【表1】



上記の記載によれば、訂正後の請求項2に特定される「Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下」との事項は、段落【0025】に明示的に記載されていた事項である。
また、訂正後の請求項2に特定される「Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下」との事項における上限値である「3.2重量%」は、表1の実施例22及び25から31のBiの含有量の数値である。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加には該当しない。
ウ 訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかである。
エ 上記のとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項3の「Sbを1重量%以上5重量%以下・・・含み」との記載における数値範囲が狭まるように上限及び下限の値を訂正して「Sbを2重量%以上4重量%以下・・・含み」とするとともに、訂正前の請求項3の「Biを3.1重量%以上4.5重量%以下・・・含み」との記載における数値範囲が狭まるように上限の値を訂正して「3.1重量%以上3.2重量%以下・・・含み」とするものである(当審注:「・・・」により記載の省略を示す。以下同様である。)。
したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである.
イ 前記(1)イで示した、訂正前の願書に添付した明細書の記載に照らせば、訂正事項2は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加には該当しない。
ウ 訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかである。
エ したがって、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項3について
ア 訂正事項3は、訂正前の明細書に記載されていた「実施例18」が、訂正後の特許請求の範囲に記載した発明の「実施例」ではなくなり、「参考例」になったことを明らかにするものである。
したがって、訂正事項3は、特許請求の範囲の記載と、明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 「実施例18」を「参考例18」と訂正する訂正事項3は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであり、新規事項の追加には該当しない。
ウ 訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかである。
エ したがって、訂正事項3による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 一群の請求項
訂正事項1による訂正前の請求項4?7は、いずれも、請求項2を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものである。
また、訂正事項2による訂正前の請求項4?7は、いずれも、請求項3を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項2によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。
そして、訂正事項3は、明細書の記載において、訂正後の請求項2及び3の実施例でなくなった「実施例18」を、「参考例18」とする訂正であるから、当該訂正事項3による明細書の訂正に係る請求項は、請求項2及び3並びにこれらのいずれかを引用する請求項4?7であるといえる。
よって、訂正前の請求項2?7に対応する訂正後の請求項2?7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であるといえる。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔2?7〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、特許第6047254号の特許に係る請求項1?7に係る発明(以下、本件特許発明1?7という。また、これらを総称して本件特許発明という)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、訂正箇所に下線を付した。

「【請求項1】
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
【請求項2】
更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項3】
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを2重量%以上4重量%以下と、Biを3.1重量%以上3.2重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからなり、
AgとCuとSbとBiとNiとCoのそれぞれの含有量(重量%)が下記式(A)から(D)の全てを満たすことを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
1.6≦Ag含有量+(Cu含有量/0.5)≦5.9 … A
0.85≦(Ag含有量/3)+(Bi含有量/4.5)≦ 2.10 … B
3.6 ≦ Ag含有量+Sb含有量≦ 8.9 … C
0<(Ni含有量/0.25)+(Co含有量/0.25)≦1.19 …D
【請求項4】
更にP、Ga、およびGeの少なくとも1種を合計で0.001重量%以上0.05重量%以下含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項5】
更にFe、Mn、Cr、およびMoの少なくとも1種を合計で0.001重量%以上0.05重量%以下含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部を有することを特徴とする電子回路基板。
【請求項7】
請求項6に記載の電子回路基板を有することを特徴とする電子制御装置。」

2 異議申立の理由の概要
異議申立人は、以下の甲第1号証?甲第4号証を提示し、以下の申立理由1?申立理由4によって、訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2、3、6、7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1) 甲第1号証?甲第4号証
甲第1号証:特願2015-146520号(下記甲第2号証に係る国際特許出願において優先権主張の基礎とされた出願)の願書、並びに願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び要約書
甲第2号証:国際公開第2017/018167号(日本語でされた国際特許出願であるPCT/JP2016/070270についての国際公開)
甲第3号証:特開2014-37005号公報
甲第4号証:国際公開第2014/163167号
(当審注:甲第1号証?甲第4号証を、以下、それぞれ「甲1」?「甲4」という。)

(2) 申立理由1
先願である甲1の明細書における実施例15(甲2の実施例21)のはんだ合金の記載、及び甲1の明細書の段落【0067】?【0070】の記載等からみて、訂正前の請求項1、2、3、6、7に係る発明は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。

(3) 申立理由2
甲3の実施例52、及び段落【0080】?【0082】の記載等からみて、訂正前の請求項1、2、3、6、7に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、当該発明は、同項の規定に違反して特許されたものである。

(4) 申立理由3
訂正前の請求項1、2、3、6、7に係る発明は、甲3に記載の実施例52のはんだ合金に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、訂正前の請求項1、2、3、6、7に係る発明は、甲3に記載の実施例52と、甲4とによって、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(5) 申立理由4
ア 申立理由4-1
請求項1に係る発明における「残部がSnからなる」との記載は、請求項1に記載のAg、Cu、Sb、Bi、Ni、Sn以外の金属をどの程度まで含み得るのかが明らかではなく、請求項1に係る発明は発明の外延が不明確であり、請求項1を引用する請求項2、6、7に係る発明も同様に不明確である。したがって、訂正前の請求項1、2、6、7に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
イ 申立理由4-2
訂正前の請求項6に係る発明は、「鉛フリーはんだ合金を用いて形成される」との製造方法により生産物である電子回路基板を特定するものであり、本件特許出願時において、「はんだ接合部」をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するとも認められないから、請求項6及び請求項6を引用する請求項7に係る発明は明確でない。したがって、訂正前の請求項6、7に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 取消理由の概要
訂正前の請求項2、3、6、7に係る特許に対して平成29年 9月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 請求項2、3、6、7に係る発明は、甲1及び甲2に基づき、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
イ 請求項2、3、6、7に係る発明は、甲3に基づき、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許を受けることができないものである。
ウ 請求項2、3、6、7に係る発明は、甲3及び甲4に基づき、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4 甲1?甲4の記載
以下において、下線は当審にて付した。
(1) 甲1及び甲2について
ア 甲1には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、はんだ合金、ソルダペーストおよび電子回路基板に関し、詳しくは、はんだ合金、そのはんだ合金を含有するソルダペースト、さらに、そのソルダペーストが用いられる電子回路基板に関する。」

「【0011】
本発明の目的は、とりわけ厳しい温度サイクル条件下(例えば、-40?150℃間の温度サイクルなど)においても、優れた耐熱疲労特性を維持できるはんだ合金、そのはんだ合金を含有するソルダペースト、さらに、そのソルダペーストを用いて得られる電子回路基板を提供することにある。」

「【発明の効果】
【0013】
本発明の一観点に係るはんだ合金は、本質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、アンチモンおよびコバルトからなるはんだ合金であって、各成分の含有割合が、上記の所定量となるように設計されており、かつ、ビスマスの含有割合とアンチモンの含有割合との合計が上記の所定量となるように設計されている。
【0014】
そのため、本発明の一観点に係るはんだ合金によれば、とりわけ厳しい温度サイクル条件下(例えば、-40?150℃間の温度サイクルなど)においても、優れた耐熱疲労特性を維持することができる。
・・・
【0016】
また、本発明の電子回路基板は、はんだ付において、本発明のソルダペーストが用いられるので、とりわけ厳しい温度サイクル条件下(例えば、-40?150℃間の温度サイクルなど)においても、優れた耐熱疲労特性を維持することができる。」

「【0029】
ビスマスの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、3.5質量%以上、好ましくは、3.8質量%以上、より好ましくは、4.0質量%以上であり、4.8質量%以下、好ましくは、4.5質量%以下、より好ましくは、4.2質量%以下である。
【0030】
ビスマスの含有割合が上記範囲であり、かつ、ビスマスの含有割合とアンチモンの含有割合との合計が後述する範囲であれば、優れた耐熱疲労特性を得ることができ、とりわけ厳しい温度サイクル条件下においても、接合強度を維持することができる。
【0031】
一方、ビスマスの含有割合が上記下限を下回る場合には、耐熱疲労特性に劣り、また、ビスマスの含有割合が上記上限を上回る場合にも、耐熱疲労特性に劣るという不具合がある。」

「【0057】
そのため、このようなはんだ合金は、好ましくは、ソルダペースト(ソルダペースト接合材)に含有される。
【0058】
具体的には、本発明の他の一観点に係るソルダペーストは、上記したはんだ合金と、フラックスとを含有している。」

「【0067】
また、本発明は、上記のソルダペーストによってはんだ付されているはんだ付部を備える電子回路基板を含んでいる。
【0068】
すなわち、上記のソルダペーストは、例えば、電気・電子機器などのプリント基板の電極と、電子部品とのはんだ付(金属接合)において、好適に用いられる。
【0069】
換言すると、電子回路基板は、電極を有するプリント基板と、電子部品と、電極および電子部品を金属接合するはんだ付部とを備え、はんだ付部が上記のソルダペーストをリフローすることにより形成されている。
【0070】
電子部品としては、特に制限されず、例えば、チップ部品(ICチップなど)、抵抗器、ダイオード、コンデンサ、トランジスタなどの公知の電子部品が挙げられる。
【0071】
そして、このような電子回路基板は、はんだ付において、上記のソルダペーストが用いられるので、とりわけ厳しい温度サイクル条件下(例えば、-40?150℃間の温度サイクルなど)においても、優れた耐熱疲労特性を維持することができる。」

「【0075】
実施例1?20および比較例1?18
・はんだ合金の調製
表1に記載の各金属の粉末を、表1に記載の配合割合でそれぞれ混合し、得られた金属混合物を溶解炉にて溶解および均一化させて、はんだ合金を調製した。
【0076】
また、各実施例および各比較例の配合処方におけるスズ(Sn)の配合割合は、表1に記載の各金属(銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)およびインジウム(In))の配合割合(質量%)を、はんだ合金の総量から差し引いた残部である。なお、表中には、残部を「Bal.」と表記する。
・・・
【0082】
実施例15?16は、実施例1の処方に対して、さらに、Niを配合し、また、Niの含有割合を増減させた処方の例である。」

「【0098】
【表1】



「【0099】
<評価>
各実施例および各比較例において得られたソルダペーストを、チップ部品搭載用プリント基板に印刷して、リフロー法によりチップ部品を実装した。ソルダペーストの印刷膜厚は、厚さ150μmのメタルマスクを用いて調整した。ソルダペーストの印刷後、3216サイズ(3.2mm×1.6mm)のチップ部品を上記プリント基板の所定位置に搭載して、リフロー炉で加熱し、チップ部品を実装した。リフロー条件は、プリヒートを170?190℃、ピーク温度を245℃、220℃以上である時間が45秒間、ピーク温度から200℃までの降温時の冷却速度を3?8℃/秒に設定した。
【0100】
さらに、上記プリント基板を-40℃の環境下で30分間保持し、次いで、150℃の環境下で30分間保持する冷熱サイクル試験に供した。
【0101】
<耐熱疲労特性>
冷熱サイクルを1500、2000、2500、3000サイクル繰り返したプリント基板について、それぞれ3216チップ部品のはんだ部分を切断して、断面を研磨した。研磨後の断面を顕微鏡で観察して、はんだフィレット部に発生した亀裂がフィレット部を完全に横断しているか否かについて評価して、以下の基準によりランク付けした。各サイクルにおける評価チップ数は20個とした。
A:3000サイクル後においても、フィレット部を完全に横断する亀裂が発生しなかった。
B:2500サイクル後において、フィレットを完全に横断する亀裂が発生しなかったが、3000サイクル後において、フィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。
C:2000サイクル後において、フィレットを完全に横断する亀裂が発生しなかったが、2500サイクル後において、フィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。
D:1500サイクル後において、フィレットを完全に横断する亀裂が発生しなかったが、2000サイクル後において、フィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。
E:1500サイクル後において、フィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。」

イ 甲2には、以下の記載がある。
「[0001]
本発明は、はんだ合金、ソルダペーストおよび電子回路基板に関し、詳しくは、はんだ合金、そのはんだ合金を含有するソルダペースト、さらに、そのソルダペーストが用いられる電子回路基板に関する。」

「[0011]
本発明の目的は、とりわけ厳しい温度サイクル条件下(例えば、-40?150℃間の温度サイクルなど)においても、優れた耐熱疲労特性を維持できるはんだ合金、そのはんだ合金を含有するソルダペースト、さらに、そのソルダペーストを用いて得られる電子回路基板を提供することにある。」

「発明の効果
[0013]
本発明の一観点に係るはんだ合金は、本質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、アンチモンおよびコバルトからなるはんだ合金であって、各成分の含有割合が、上記の所定量となるように設計されており、かつ、ビスマスの含有割合とアンチモンの含有割合との合計が上記の所定量となるように設計されている。
[0014]
そのため、本発明の一観点に係るはんだ合金によれば、とりわけ厳しい温度サイクル条件下(例えば、-40?150℃間の温度サイクルなど)においても、優れた耐熱疲労特性を維持することができる。」
・・・
[0016]
また、本発明の電子回路基板は、はんだ付において、本発明のソルダペーストが用いられるので、とりわけ厳しい温度サイクル条件下(例えば、-40?150℃間の温度サイクルなど)においても、優れた耐熱疲労特性を維持することができる。」

「[0029]
ビスマスの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、3.5質量%以上、好ましくは、3.8質量%以上、より好ましくは、4.0質量%以上であり、4.8質量%以下、好ましくは、4.5質量%以下、より好ましくは、4.2質量%以下である。
[0030]
ビスマスの含有割合が上記範囲であり、かつ、ビスマスの含有割合とアンチモンの含有割合との合計が後述する範囲であれば、優れた耐熱疲労特性を得ることができ、とりわけ厳しい温度サイクル条件下においても、接合強度を維持することができる。
[0031]
一方、ビスマスの含有割合が上記下限を下回る場合には、耐熱疲労特性に劣り、また、ビスマスの含有割合が上記上限を上回る場合にも、耐熱疲労特性に劣るという不具合がある。」

「[0057]
そのため、このようなはんだ合金は、好ましくは、ソルダペースト(ソルダペースト接合材)に含有される。
[0058]
具体的には、本発明の他の一観点に係るソルダペーストは、上記したはんだ合金と、フラックスとを含有している。」

「[0067]
また、本発明は、上記のソルダペーストによってはんだ付されているはんだ付部を備える電子回路基板を含んでいる。
[0068]
すなわち、上記のソルダペーストは、例えば、電気・電子機器などのプリント基板の電極と、電子部品とのはんだ付(金属接合)において、好適に用いられる。
[0069]
換言すると、電子回路基板は、電極を有するプリント基板と、電子部品と、電極および電子部品を金属接合するはんだ付部とを備え、はんだ付部が上記のソルダペーストをリフローすることにより形成されている。
[0070]
電子部品としては、特に制限されず、例えば、チップ部品(ICチップなど)、抵抗器、ダイオード、コンデンサ、トランジスタなどの公知の電子部品が挙げられる。
[0071]
そして、このような電子回路基板は、はんだ付において、上記のソルダペーストが用いられるので、とりわけ厳しい温度サイクル条件下(例えば、-40?150℃間の温度サイクルなど)においても、優れた耐熱疲労特性を維持することができる。」

「[0075]
実施例1?31および比較例1?18
・はんだ合金の調製
表1に記載の各金属の粉末を、表1に記載の配合割合でそれぞれ混合し、得られた金属混合物を溶解炉にて溶解および均一化させて、はんだ合金を調製した。
[0076]
また、各実施例および各比較例の配合処方におけるスズ(Sn)の配合割合は、表1に記載の各金属(銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)およびインジウム(In))の配合割合(質量%)を、はんだ合金の総量から差し引いた残部である。なお、表中には、残部を「Bal.」と表記する。
・・・
[0085]
実施例21および24は、実施例1の処方に対して、さらに、Niを配合し、また、Niの含有割合を増減させた処方の例である。」

「[0105]
[表1]



「[0106]
<評価>
各実施例および各比較例において得られたソルダペーストを、チップ部品搭載用プリント基板に印刷して、リフロー法によりチップ部品を実装した。ソルダペーストの印刷膜厚は、厚さ150μmのメタルマスクを用いて調整した。ソルダペーストの印刷後、3216サイズ(3.2mm×1.6mm)のチップ部品を上記プリント基板の所定位置に搭載して、リフロー炉で加熱し、チップ部品を実装した。リフロー条件は、プリヒートを170?190℃、ピーク温度を245℃、220℃以上である時間が45秒間、ピーク温度から200℃までの降温時の冷却速度を3?8℃/秒に設定した。
[0107]
さらに、上記プリント基板を-40℃の環境下で30分間保持し、次いで、150℃の環境下で30分間保持する冷熱サイクル試験に供した。
[0108]
<耐熱疲労特性>
冷熱サイクルを1500、2000、2250、2500、2750、3000サイクル繰り返したプリント基板について、それぞれ3216チップ部品のはんだ部分を切断して、断面を研磨した。研磨後の断面を顕微鏡で観察して、はんだフィレット部に発生した亀裂がフィレット部を完全に横断しているか否かについて評価して、以下の基準によりランク付けした。各サイクルにおける評価チップ数は20個とした。
A:3000サイクル後においても、フィレット部を完全に横断する亀裂が発生しなかった。
B:2750サイクル後において、フィレットを完全に横断する亀裂が発生しなかったが、3000サイクル後において、フィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。
B-:2500サイクル後において、フィレットを完全に横断する亀裂が発生しなかったが、2750サイクル後において、フィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。
C:2250サイクル後において、フィレットを完全に横断する亀裂が発生しなかったが、2500サイクル後において、フィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。
C-:2000サイクル後において、フィレットを完全に横断する亀裂が発生しなかったが、2250サイクル後において、フィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。
D:1500サイクル後において、フィレットを完全に横断する亀裂が発生しなかったが、2000サイクル後において、フィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。
E:1500サイクル後において、フィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。」

ウ 上記ア及びイの摘示によれば、甲1の実施例15と甲2の実施例21は同じはんだ合金に係る実施例である。したがって、このはんだ合金に基づく以下の発明(「先願発明」という)が、甲1及び甲2に共通して記載されていると認められる。
先願発明:
「Agを3.0質量%と、Cuを0.5質量%と、Sbを3.5質量%と、Biを4.0質量%と、Niを0.05質量%と、Coを0.01質量%含み、残部がSnからなる、はんだ合金。」

(2) 甲3について
ア 甲3には、以下の記載がある。
「【0010】
本発明の目的は、低融点であり、耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性に優れ、さらに、ボイド(空隙)の発生を抑制することができるはんだ合金、そのはんだ合金を含有するソルダペースト、および、そのソルダペーストを用いて得られる電子回路基板を提供することにある。」

「【発明の効果】
【0020】
本発明の一観点に係るはんだ合金は、スズ-銀-銅系のはんだ合金において、スズ、銀、銅、ビスマス、ニッケルおよびコバルトを含有し、はんだ合金の総量に対して、銀の含有割合が、2質量%以上4質量%以下であり、ニッケルの含有割合が、0.01質量%以上0.15質量%以下であり、コバルトの含有割合が、0.001質量%以上0.008質量%以下であるため、融点を低く抑えるとともに、優れた耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性を備えることができ、さらに、ボイド(空隙)の発生を抑制することができる。
【0021】
そして、本発明の他の一観点に係るソルダペーストは、上記はんだ合金を含有するので、融点を低く抑えるとともに、優れた耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性を備えることができ、さらに、ボイド(空隙)の発生を抑制することができる。
【0022】
また、本発明のさらに他の一観点に係る電子回路基板は、はんだ付において、上記ソルダペーストが用いられるので、そのはんだ付部において、優れた耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性を備えることができ、さらに、ボイド(空隙)の発生を抑制することができる。」

「【0046】
アンチモンの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、0.1質量%以上、好ましくは、0.2質量%以上、より好ましくは、0.4質量%以上であり、例えば、5.0質量%以下、好ましくは、4.5質量%以下、より好ましくは、4.0質量%以下である。
【0047】
アンチモンの含有割合が上記範囲であれば、強度の向上を図ることができ、また、スズ中に固溶することにより、耐熱性および耐久性の向上を図ることができる。」

「【0049】
また、アンチモンの含有割合が上記範囲である場合、ビスマスの含有割合として、好ましくは、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、0.8質量%以上、より好ましくは、1.2質量%以上であり、例えば、4.2質量%以下、好ましくは、3.5質量%以下、より好ましくは、3.0質量%以下である。」

「【0070】
そのため、このようなはんだ合金は、好ましくは、ソルダペースト(ソルダペースト接合材)に含有される。」

「【0080】
また、本発明は、上記のソルダペーストによるはんだ付部を備える電子回路基板を含んでいる。
【0081】
すなわち、上記のソルダペーストは、例えば、電気・電子機器などの電子回路基板の電極と、電子部品とのはんだ付(金属接合)において、好適に用いられる。
【0082】
電子部品としては、特に制限されず、例えば、抵抗器、ダイオード、コンデンサ、トランジスタなどの公知の電子部品が挙げられる。
【0083】
そして、このような電子回路基板は、はんだ付において、上記のソルダペーストが用いられるので、そのはんだ付部において、優れた耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性を備えることができ、さらに、ボイド(空隙)の発生を抑制することができる。」

「【0087】
実施例1?54および比較例1?20
・はんだ合金の調製
表1?2に記載の各金属の粉末を、表1?3に記載の配合割合でそれぞれ混合し、得られた金属混合物を溶解炉にて溶解および均一化させて、はんだ合金を調製した。各実施例および各比較例の配合処方におけるスズ(Sn)の配合割合は、表1?3に記載の各金属(銀(Ag)、銅(Cu)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co))の配合割合(質量%)を差し引いた残部である。
・・・
【0092】
実施例44?54は、実施例2の処方に対して、Inを配合することなく、さらに、Sbを配合した処方であって、Ag、Bi、Sbの配合割合を実施例34?42に準じて増減させた処方の例である。」

「【0101】
【表2】



「【0103】
評価
各実施例および各比較例において得られたソルダペーストを、下記に従って評価した。その結果を、表4?6に示す。
<耐クラック性(金属間化合物組織の大きさ)>
各実施例および各比較例において得られたソルダペースト0.3gを、厚さ0.3mm、2.5cm四方の銅板の中央部分(約5mm×5mmの領域)に塗布して、こうして得られた試料をリフロー炉で加熱した。リフロー炉による加熱条件は、プリヒートを150?180℃、90秒間とし、ピーク温度を250℃とした。また、220℃以上である時間を120秒間となるように調整し、ピーク温度から200℃まで降温する際の冷却速度を0.5?1.5℃/秒に設定した。なお、このリフロー条件は、一般的なリフローに比べて過酷な条件であって、はんだのスズ中に金属間化合物が析出しやすい条件である。
【0104】
リフローを経た試料を切断して、断面を研磨した。次いで、研磨後の断面を走査型電子顕鏡で観察することにより、リフロー後のはんだ中に析出した金属間化合物組織の大きさを計測して、下記の基準でランク付けした。耐クラック性は、金属間化合物組織の大きさが小さいほど良好である。
【0105】
A:観察される最大組織の大きさが50μm未満であった(耐クラック性が極めて良好である)。
【0106】
B:観察される最大組織の大きさが50μm以上100μm以下であった(耐クラック性が良好である)。
【0107】
C:観察される最大組織の大きさが100μmを超えていた(耐クラック性が不十分である)。
【0108】
・・・
<ボイド抑制>
各実施例および各比較例において得られたソルダペーストを、チップ部品搭載用プリント基板に印刷して、リフロー法によりチップ部品を実装した。ソルダペーストの印刷膜厚は、厚さ150μmのメタルマスクを用いて調整した。ソルダペーストの印刷後、2012サイズ(20mm×12mm)のチップ部品を上記プリント基板の所定位置に搭載して、リフロー炉で加熱し、チップ部品を実装した。リフロー条件は、プリヒートを170?190℃、ピーク温度を245℃、220℃以上である時間を45秒間、ピーク温度から200℃までの降温時の冷却速度を3?8℃/秒に設定した。
【0109】
プリント基板を冷却後、プリント基板上のはんだの表面状態をX線写真で観察して、はんだが形成されている領域に占めるボイドの総面積の割合(ボイドの面積率)を測定した。ボイドの発生状況はプリント基板中20箇所のランドにおけるボイドの面積率の平均値を求めて、下記の基準より評価した。
【0110】
A:ボイドの面積率の平均値が5%以下であって、ボイド発生の抑制効果が極めて良好であった。
【0111】
B:ボイドの面積率の平均値が5%を超過し、7%以下であって、ボイドの抑制効果が良好であった。
【0112】
C:ボイドの面積率の平均値が7%を超過し、ボイド発生の抑制効果が不十分であった。
<耐侵食性(Cu喰われ)>
各実施例および比較例において得られたはんだ合金を、260℃に設定されたはんだ槽中で溶融状態にした。その後、銅配線を有するくし形電極基板を溶融はんだ中に5秒間浸漬した。銅配線を有するくし形電極基板には、JIS Z 3284-1994「ソルダペースト」の附属書3「絶縁抵抗試験」に規定の試験基板「くし形電極基板2形」を用いた。
【0113】
くし形基板を溶融はんだ中に浸漬する操作を繰り返し行って、くし形基板の銅配線のサイズが半減するまでの浸漬回数を測定した。電子回路の信頼性を考慮すると、浸漬回数が4回以上でも銅配線のサイズが半減しないものでなければならない。浸漬回数が4回で半減しないものを「A」、3回以下で半減したものを「C」として評価した。
<耐久性(はんだ寿命)>
各実施例および各比較例において得られたソルダペーストを、チップ部品搭載用プリント基板に印刷して、リフロー法によりチップ部品を実装した。ソルダペーストの印刷膜厚は、厚さ150μmのメタルマスクを用いて調整した。ソルダペーストの印刷後、3216サイズ(32mm×16mm)のチップ部品を上記プリント基板の所定位置に搭載して、リフロー炉で加熱し、チップ部品を実装した。リフロー条件は、プリヒートを170?190℃、ピーク温度を245℃、220℃以上である時間が45秒間、ピーク温度から200℃までの降温時の冷却速度を3?8℃/秒に設定した。
【0114】
さらに、上記プリント基板を-40℃の環境下で30分間保持し、次いで、125℃の環境下で30分間保持する冷熱サイクル試験に供した。
【0115】
冷熱サイクルを1500、2000、2500、2750および3000サイクル繰り返したプリント基板について、それぞれはんだ部分を切断して、断面を研磨した。研磨後の断面をX線写真で観察して、はんだフィレット部に発生した亀裂がフィレット部を完全に横断しているか否かについて評価して、以下の基準によりランク付けした。各サイクルにおける評価チップ数は20個とした。
【0116】
A+:3000サイクルまでフィレット部を完全に横断する亀裂が発生しなかった。
【0117】
A:2751?3000サイクルの間でフィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。
【0118】
A-:2501?2750サイクルの間でフィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。
【0119】
B:2001?2500サイクルの間でフィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。
【0120】
B-:1501?2000サイクルの間でフィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。
【0121】
C:1500サイクル未満でフィレット部を完全に横断する亀裂が発生した。
<総合評価>
「耐クラック性(はんだ組織の大きさ)」、「ボイド抑制」および「耐浸食性(Cu喰われ)」の各評価に対する評点として、評価“A”を2点、評価“B”を1点、評価“C”を0点とした。また、「耐久性(はんだ寿命)」に対する評点として、評価“A+”を5点、評価“A”を4点、評価“A-”を3点、評価“B”を2点、評価“B-”を1点、評価“C”を0点とした。次いで、各評価項目の評点の合計を算出し、表現の合計に基づいて、各実施例および各比較例のソルダペーストを下記の基準によって総合的に評価した。
【0122】
A+:極めて良好(評点合計が10点以上であり、かつ、評価“B”以下の項目を含まない。)
A:良好(評点合計が8点以上であり、「耐久性(はんだ寿命)」の項目で評価“B”以下を含まず、かつ、評価“B-”以下の項目を含まない。)
A-:概ね良好(評点合計が8点以上であり、かつ、評価“B-”以下の項目を含まない。上記総合評価“A”に該当するものを除く。)
B:実用上許容:(評点合計が6点以上であり、かつ、評価“C”の項目を含まない。)
C:不良(評点合計が6点以下であるか、または、評価“C”の項目を1つでも含む。)」

「【0124】
【表5】



イ 上記アの適示のうち、特に実施例44、46、52によれば、甲3には、以下に示す、甲3実施例44発明、甲3実施例46発明、甲3実施例52発明が記載されていると認められる。
(ア) 甲3実施例44発明:
「Agを3.0質量%と、Cuを0.5質量%と、Sbを3.8質量%と、Biを2.0質量%と、Niを0.05質量%と、Coを0.005質量%含み、残部がSnからなる、はんだ合金。」
(イ) 甲3実施例46発明:
「Agを3.0質量%と、Cuを0.5質量%と、Sbを3.0質量%と、Biを2.7質量%と、Niを0.05質量%と、Coを0.005質量%含み、残部がSnからなる、はんだ合金。」
(ウ) 甲3実施例52発明:
「Agを3.0質量%と、Cuを0.5質量%と、Sbを1.5質量%と、Biを3.5質量%と、Niを0.05質量%と、Coを0.005質量%含み、残部がSnからなる、はんだ合金。」

ウ さらに、上記アの適示によれば、甲3には、以下の技術的事項が開示されていると認められる。
(ア) 甲3の段落【0046】及び【0049】によれば、Sbの含有割合が0.1質量%以上5.0質量%以下の範囲である場合は、Biの含有割合の下限に関し、例えば0.5質量%以上、好ましくは0.8質量%以上、より好ましくは1.2質量%以上であり、また、Biの含有割合の上限に関し、例えば4.2質量%以下、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは3.0質量%である。
(イ) 甲3の段落【0046】によれば、Sbのより好ましい含有割合の範囲は、0.4質量%以上4.0質量%以下である。
(ウ) 甲3の実施例に記載されたはんだ合金のうち、実施例44?54は、Ag、Cu、Sb、Bi、Ni及びCoを含み、残部がSnからなるはんだ合金であり、甲3実施例52発明、甲3実施例44発明及び甲3実施例46発明と構成元素が同じである。これらの実施例からは、以下のことが読み取れる。
a 実施例45及び52を対比すると、Bi以外の含有量は、Ag:3.0質量%、Cu:0.5質量%、Sb:1.5質量%、Ni:0.05質量%、Co:0.005質量%で共通している一方、Biの含有量に関し、実施例52は3.5質量%であり、実施例45は2.7質量%となっている点で異なるものである。
評点合計を開示する表5によれば、実施例52は8点であるのに対し、実施例45は9点である。
b Biの含有量に関し、実施例52は3.5質量%であるのに対し、他の実施例は、いずれも、2.7質量%又はそれより小さい値となっている。
c 総合評価を開示する表5によれば、A+となっているのは、Biの含有量が2.7%である実施例47、49及び50のみである。
d 実施例45、46、49、50、53、54を対比すると、Sb以外の含有量は、Ag:3.0質量%、Cu:0.5質量%、Bi:2.7質量%、Ni:0.05質量%、Co:0.005質量%で共通している一方、Sbの含有量に関し0.2質量%?4.5質量%の範囲内で異なるものとなっている。
評点合計を開示する表5によれば、Sbを0.5質量%含有する実施例49及びSbを1.0質量%含有する実施例50が共に10点である一方、実施例49よりもSbの含有量が少ない実施例53(Sbを0.2質量%含有)は8点であり、実施例50よりもSbの含有量が多い実施例45(Sbを1.5質量%含有)、実施例46(Sbを3.0質量%含有)は9点であり、さらにSbの含有量が多い実施例54(Sbを4.5質量%含有)は7点である。

(3) 甲4について
ア 甲4には、以下の記載がある。
「[請求項1]
Ag:1?4質量%、Cu:0.6?0.8質量%、Sb:1?5質量%、Ni:0.01?0.2質量%、残部Snからなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
[請求項2]
さらに、Bi:1.5?5.5質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金。
[請求項3]
さらに、CoおよびFeから選択された元素を少なくとも1種を合計で0.001?0.1質量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の鉛フリーはんだ合金。」

「[0001]
本発明は、温度サイクル特性に優れ、衝突などの衝撃に強い鉛フリーはんだ合金と、車載電子回路装置とに関する。」

「[0019]
本発明において、はんだ合金中に添加したSbは、はんだ合金のSnマトリックス中にSnSbという化合物の形で微細な析出物となり、-40?+125℃の温度サイクルを3000サイクル近く繰り返しても、Snマトリックス中でSnSb金属間化合物の微細析出物の状態を維持することができる。このことにより、セラミックス等の電子部品とはんだ接合部の界面に発生し易いクラックをSnSbの析出物が邪魔する。
[0020]
本発明によれば、上述の温度サイクル試験経過後であっても、Snマトリックス中のSnSb金属間化合物の粒子径は、試験開始前の粒径のSnSb金属間化合物の粒子とほぼ同じ0.6μm以下であり、粗大化が抑制された粒径となる。したがって、はんだ中に部分的にクラックが入っても、微細なSnSb金属間化合物がそのようなクラックの伝播を阻害することで、クラックがはんだの内部に広がることを抑制できる。」

「[0022]
本発明のはんだ合金に添加されるSbが1質量%未満では、Sb量が少なすぎてSnマトリックス中にSbが分散する形態が現れず、さらに固溶強化の効果も現れない。さらに、はんだ接合部のシェア強度も低くなる。また、Sbが5質量%を超えるようなSbの添加では、液相線温度が上昇するので、炎天下のエンジン稼働時等に現れる125℃を超す高温時にSbが再溶融しないので、SnSb金属間化合物の粗大化が進み、はんだ中にクラックが伝播することを抑制することができない。さらに、液相線温度が上がると実装時の温度ピークが上がるので、プリント基板の表面に配線されているCuがはんだ中に溶融して、Cu6Sn5等のSnCuの金属間化合物層がプリント基板とのはんだ付け部に厚く形成され易くなり、プリント基板とはんだ接合部が破壊され易くなる。
したがって、本発明のSbの量は1?5質量%であり、好ましくは3?5質量%である。後述するBiが配合される場合には、Sbの量は3超?5%が好ましい。」

「[0027]
本発明のはんだ合金では、Biを添加することで、さらに温度サイクル特性を向上させることができる。本発明で添加したSbは、SnSb金属間化合物を析出して析出分散強化型の合金を作るだけでなく、原子配列の格子に入り込み、Snと置換することで原子配列の格子を歪ませてSnマトリックスを強化することで、温度サイクル特性を向上させる効果も有している。このときに、はんだ中にBiが入っていると、BiがSbと置き換わるので、さらに温度サイクル特性を向上させることができる。BiはSbより原子量が大きく、原子配列の格子を歪ませる効果が大きいからである。また、Biは、微細なSnSb金属間化合物の形成を妨げることがなく、析出分散強化型のはんだ合金が維持される。
本発明のはんだ合金に添加するBiの量が、1.5質量%未満ではSbとの置換が起き難く、微細なSnSb金属間化合物の量が少なくなるため、温度サイクル向上効果が現れない、また、Biの量が5.5質量%を超えて添加するとはんだ合金自体の延性が低くなって堅く硬く、もろくなるので、振動等でのクラックの成長が早くなってしまう。
本発明のはんだ合金に添加するBiの量は、1.5?5.5質量%が好ましく、より好ましいのは、3?5質量%のときである。さらに好ましくは、3.2?5.0質量%である。」

イ 上記アの適示によれば、甲4には、以下の技術的事項が開示されていると認められる。
(ア) 甲4の請求項1?3によれば、甲4には、Ag:1?4質量%、Cu:0.6?0.8質量%、Sb:1?5質量%、Ni:0.01?0.2質量%、Bi:1.5?5.5質量%、CoおよびFeから選択された元素を少なくとも1種を合計で0.001?0.1質量%含有し、残部Snからなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金が記載されている。
(イ) 甲4の段落[0027]によれば、甲4には、はんだ中のSbが、原子配列の格子に入り込み、Snと置換することで原子配列の格子を歪ませてSnマトリックスを強化することで、温度サイクル特性を向上させる効果を有し、このときにはんだ中にBiが入っていると、BiがSbと置き換わり、BiはSbより原子量が大きく、原子配列の格子を歪ませる効果が大きいため、さらに温度サイクル特性を向上させることができることが記載されている。

5 判断
はんだ合金を構成する元素の含有量の単位に関し、本件特許発明では「重量%」が用いられ、甲1?甲4では「質量%」が用いられているが、両単位の意味する内容は同一であると認められるから、以下においては、本件特許発明における「x重量%」との事項と、甲1?甲4に記載の「x質量%」との事項が、同じ意味であるものとして、検討を行う。

(1) 取消理由通知に記載した取消理由について
ア 特許法第29条の2(拡大先願)
甲1に係る出願は平成27年 7月24日になされたものであるから、本件特許に係る出願の日前の他の特許出願である。また、本件特許に係る出願の時に、本件特許に係る出願の出願人である「株式会社タムラ製作所」と、甲1に係る出願の出願人である「ハリマ化成株式会社」とは同一の者ではなく、本件特許発明の発明者は、先願発明の発明者と同一の者ではない。
そして、前記先願発明は、甲2に記載されるとともに、甲2に係る出願の優先権の主張の基礎とされた先の出願である甲1に記載された発明である。当該先願発明については、特許法第184条の15第2項により読み替える同第41条第3項により、甲2の国際公開日である平成29年2月2日に、甲1に係る出願について出願公開がされたものとみなして、特許法第29条の2本文の規定が適用される。

(ア) 本件特許発明2について
本件特許発明2と、先願発明とを対比する。
先願発明は、Agと、Cuと、Sbと、Biと、Niと、Coを含み、残部がSnからなる、はんだ合金であり、鉛は含まれないから、これは、「鉛フリーはんだ合金」である。したがって、本件特許発明2と、先願発明は、Agと、Cuと、Sbと、Biと、Niと、Coを含み、残部がSnからなる、「鉛フリーはんだ合金」である点で共通する。
Agの含有量に関し、先願発明は「3.0質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「2重量%以上3.1重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Cuの含有量に関し、先願発明は「0.5質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「1重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Sbの含有量に関し、先願発明は「3.5質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「2重量%以上4重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Biの含有量に関し、先願発明は「4.0質量%」であるところ、本件特許発明2で規定される「3.1重量%以上3.2重量%以下」なる数値範囲には包含されない。
Niの含有量に関し、先願発明は「0.05質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「0.01重量%以上0.25重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Coの含有量に関し、先願発明は「0.01質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「0.001重量%以上0.25重量%以下」なる数値範囲に包含される。
上記を総合すると、本件特許発明2と、先願発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを2重量%以上4重量%以下と、Biと、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる鉛フリーはんだ合金。
(相違点1)
Biの含有量に関し、本件特許発明2においては「3.1重量%以上3.2重量%以下」であるのに対し、先願発明においては「4.0質量%」である点

したがって、本件特許発明2は、先願発明と同一ではない。
また、甲1の明細書の段落【0029】には「ビスマスの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、3.5質量%以上・・・である。」と記載されており、また、段落【0031】には「ビスマスの含有割合が上記下限を下回る場合には、耐熱疲労特性に劣・・・るという不具合がある」と記載されているから、先願発明において、ビスマスの含有割合が3.5質量%を下回るようにすると耐熱疲労特性に劣るものと認められる。したがって、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下である本件特許発明2は、Biの含有量が4.0質量%である先願発明と、実質的に同一ではない。
よって、本件特許発明2に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるとはいえない。

(イ) 本件特許発明3について
本件特許発明3は、Agと、Cuと、Sbと、Biと、Niと、Coを含み、残部がSnからなる、鉛フリーはんだ合金であって、各構成元素単独での含有量に関する規定は、本件特許発明2と同じである。
上記(ア)で検討したとおり、本件特許発明2と、先願発明とは、Biの含有量に係る相違点1で相違するものであるから、本件特許発明3についても、先願発明とは、少なくともBiの含有量に係る相違点1で相違するものであり、本件特許発明3は、先願発明と同一ではなく、また、実質的に同一ではない。
したがって、本件特許発明3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるとはいえない。

(ウ) 本件特許発明6、7について
本件特許発明6及び7は、請求項2又は請求項3を引用するものであって、各構成元素単独での含有量に関する規定は、本件特許発明2又は3と同じであるから、上記(ア)及び(イ)の検討からみて、本件特許発明6及び7についても、先願発明と同一ではなく、また、実質的に同一ではない。
したがって、本件特許発明6及び7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるとはいえない。

(エ) 拡大先願に関するまとめ
以上の検討のとおり、本件特許発明2、3、6、7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるとはいえない。

イ 特許法第29条第1項第3号(新規性)
(ア) 本件特許発明2について
本件特許発明2と、甲3実施例52発明とを対比する。
甲3実施例52発明は、Agと、Cuと、Sbと、Biと、Niと、Coを含み、残部がSnからなる、はんだ合金であり、鉛は含まれないから、これは、「鉛フリーはんだ合金」である。したがって、本件特許発明2と、甲3実施例52発明は、Agと、Cuと、Sbと、Biと、Niと、Coを含み、残部がSnからなる、「鉛フリーはんだ合金」である点で共通する。
Agの含有量に関し、甲3実施例52発明は「3.0質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「2重量%以上3.1重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Cuの含有量に関し、甲3実施例52発明は「0.5質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「1重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Sbの含有量に関し、甲3実施例52発明は「1.5質量%」であるところ、本件特許発明2で規定される「2重量%以上4重量%以下」なる数値範囲には包含されない。
Biの含有量に関し、甲3実施例52発明は「3.5質量%」であるところ、本件特許発明2で規定される「3.1重量%以上3.2重量%以下」なる数値範囲には包含されない。
Niの含有量に関し、甲3実施例52発明は「0.05質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「0.01重量%以上0.25重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Coの含有量に関し、甲3実施例52発明は「0.005質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「0.001重量%以上0.25重量%以下」なる数値範囲に包含される。
上記を総合すると、本件特許発明2と、甲3実施例52発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbと、Biと、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる鉛フリーはんだ合金。
(相違点2)
Sbの含有量に関し、本件特許発明2は「2重量%以上4重量%以下」であるのに対し、甲3実施例52発明は「1.5質量%」である点
(相違点3)
Biの含有量に関し、本件特許発明2は「3.1重量%以上3.2重量%以下」であるのに対し、甲3実施例52発明は「3.5質量%」である点

したがって、本件特許発明2は、甲3実施例52発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(イ) 本件特許発明3について
本件特許発明3は、Agと、Cuと、Sbと、Biと、Niと、Coを含み、残部がSnからなる、鉛フリーはんだ合金であって、各構成元素単独での含有量に関する規定は、本件特許発明2と同じである。
上記(ア)で検討したとおり、本件特許発明2と、甲3実施例52発明とは、Sbの含有量に係る相違点2、及び、Biの含有量に係る相違点3の各相違点で相違するものであるから、同様に、本件特許発明3と、甲3実施例52発明とは、少なくとも当該相違点2及び相違点3で相違する。
したがって、本件特許発明3は、甲3実施例52発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(ウ) 本件特許発明6、7について
本件特許発明6及び7は、請求項2又は請求項3を引用するものであって、各構成元素単独での含有量に関する規定は、本件特許発明2又は3と同じである。
したがって、上記(ア)及び(イ)の検討からみて、本件特許発明6及び7についても、甲3実施例52発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(エ) 新規性に関するまとめ
以上の検討のとおり、本件特許発明2、3、6、7は、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえないから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものではない。

ウ 特許法第29条第2項(進歩性)
異議申立人は、特許異議申立書において、甲3の実施例52による引用発明に基づく理由を申し立てていた。その後、平成29年12月13日付けの意見書において、甲3の実施例52による引用発明に基づく理由(当該意見書における「理由A」)とともに、特許権者による訂正の請求に付随して生じた事項に関連するとして、追加的に、甲3の実施例44又は46による引用発明に基づく理由(当該意見書における「理由B」)と、甲4の実施例45又は46による引用発明に基づく理由(当該意見書における「理由C」)を主張している。
追加的に主張された理由のうち、甲3の実施例44又は46による引用発明に基づく理由は、訂正の請求に付随して生じた事項に関連するものと認められるから、以下では、甲3の実施例44、46及び52による引用発明のそれぞれに基づき、進歩性の検討を行う。
(ア) 甲3実施例52発明を主たる引用発明とした場合の本件特許発明2の進歩性について
a 一致点・相違点について
本件特許発明2と、甲3実施例52発明とを対比すると、上記イ(ア)で検討したとおり、両発明は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbと、Biと、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる鉛フリーはんだ合金。
(相違点2)
Sbの含有量に関し、本件特許発明2は「2重量%以上4重量%以下」であるのに対し、甲3実施例52発明は「1.5質量%」である点
(相違点3)
Biの含有量に関し、本件特許発明2は「3.1重量%以上3.2重量%以下」であるのに対し、甲3実施例52発明は「3.5質量%」である点

b 相違点についての検討
(a) 相違点2(Sbの含有量)に関する検討
「Agを3.0質量%と、Cuを0.5質量%と、Sbを1.5質量%と、Biを3.5質量%と、Niを0.05質量%と、Coを0.005質量%含み、残部がSnからなる、はんだ合金」である甲3実施例52発明におけるSbの含有量は、甲3においてSbのより好ましい含有割合の範囲とされた0.4質量%以上4.0質量%以下の範囲内(前記4(2)ウ(イ)を参照)のものとなっているから、甲3実施例52発明において、Sbの含有量を変更しようとする動機付けは直ちに生じない。
また、前記4(2)ウ(ウ)dに示したとおり、甲3からは、Agを3.0質量%と、Cuを0.5質量%と、Biを2.7質量%と、Sbを0.2?4.5質量%と、Niを0.05質量%と、Coを0.005質量%含み、残部がSnからなる、はんだ合金において、Sbの含有量として数値範囲が0.5質量%又は1.0質量%である場合は、他の場合(具体的には、0.2質量%、1.5質量%、3.0質量%、4.5質量%の場合)に比べて高い評点となっていることが読み取れるが、当該はんだ合金は、甲3実施例52発明とはBiの含有量の点で異なっているから、当該はんだ合金のSbの含有量に関する知見を、異なるはんだ合金である甲3実施例52発明に直ちに適用できるとは限らないし、仮に適用できたとしても、当業者は、他の場合に比べて高い評点となっている0.5質量%又は1.0質量%という数値を想到するとみるのが自然であって、本件特許発明2に規定される「Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下」という数値範囲内の数値を想到し得たといえる根拠は何ら存在しない。
したがって、相違点2に係る構成を、当業者が容易に想到し得たということはできない。
(b) 相違点3(Biの含有量)に関する検討
Biの含有量が3.5質量%である甲3実施例52発明において、当業者がBiの含有量を変更しようとする場合には、甲3においてBiの含有量のより好ましい上限とされた「3.0質量%」という数値(前記4(2)ウ(ア)を参照)を想到するか、又は、甲3の実施例44?54の大部分で適用され、総合評価においてA+となり得る程度に良好な特性を発揮することが実験的に裏付けられている「2.7質量%」という数値(前記4(2)ウ(ウ)a?cを参照)を想到するとみるのが自然であって、本件特許発明2に規定される「Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下」という数値範囲内の数値を想到し得たといえる根拠は何ら存在しない。
したがって、相違点3に係る構成を、当業者が容易に想到し得たということはできない。
(c) 甲4を考慮した上での、Sb及びBiの含有量に関する総合的な検討
前記4(3)イによれば、当業者は、甲4に基づき、Agと、Cuと、Biと、Sbと、Niと、Coを含み、残部がSnからなるはんだ合金において、Snマトリックスを強化して温度サイクル特性を向上させるという観点においてSbとBiとが置換可能であるという事項を知得できると認められる。そして、上記(b)で検討したとおり、甲3によれば、Biの含有量に関し、より好ましい上限は「3.0質量%」であり、また、「2.7質量%」である場合にはんだ合金の総合評価がA+になり得るから、甲3実施例52発明において、3.5質量%であるBiの含有量を減少させるとともに1.5質量%であるSbの含有量を増加させる変更を着想し得る可能性はある。
しかしながら、そこから更に進んで、Biの含有量に関し、3.5質量%から相違点2に係る数値範囲である「3.1重量%以上3.2重量%以下」へ減少させつつ、同時に、Sbの含有量に関し、1.5質量%から相違点3に係る数値範囲である「2重量%以上4重量%以下」へ増加させるという具体的な数値範囲への変更を当業者が容易になし得たことであるといえる根拠は存在しないし、そのようなBiを減少させSbを増加させる数値変更が、甲3に記載の発明の目的である「低融点であり、耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性に優れ、さらに、ボイド(空隙)の発生を抑制することができるはんだ合金・・・を提供する」(甲3の段落【0010】)との事項と両立するのかどうかも不明である。
したがって、甲4に開示された技術的事項を考慮に入れたとしても、当業者は、甲3実施例53発明に基づき、相違点2に係る構成である「Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下」及び相違点3に係る構成である「Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下」との事項を想到し得たとはいえない。
(d) したがって、本件特許発明2は、甲3実施例52発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ) 甲3実施例44発明を主たる引用発明とした場合の本件特許発明2の進歩性について
a 一致点・相違点について
本件特許発明2と、甲3実施例44発明とを対比する。
甲3実施例44発明は、Agと、Cuと、Sbと、Biと、Niと、Coを含み、残部がSnからなる、はんだ合金であり、鉛は含まれないから、これは、「鉛フリーはんだ合金」である。したがって、本件特許発明2と、甲3実施例44発明は、Agと、Cuと、Sbと、Biと、Niと、Coを含み、残部がSnからなる、「鉛フリーはんだ合金」である点で共通する。
Agの含有量に関し、甲3実施例44発明は「3.0質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「2重量%以上3.1重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Cuの含有量に関し、甲3実施例44発明は「0.5質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「1重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Sbの含有量に関し、甲3実施例44発明は「3.8質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「2重量%以上4重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Biの含有量に関し、甲3実施例44発明は「2.0質量%」であるところ、本件特許発明2で規定される「3.1重量%以上3.2重量%以下」なる数値範囲には包含されない。
Niの含有量に関し、甲3実施例44発明は「0.05質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「0.01重量%以上0.25重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Coの含有量に関し、甲3実施例44発明は「0.005質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「0.001重量%以上0.25重量%以下」なる数値範囲に包含される。
上記を総合すると、本件特許発明2と、甲3実施例44発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを2重量%以上4重量%以下と、Biと、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる鉛フリーはんだ合金。
(相違点4)
Biの含有量に関し、本件特許発明2は「3.1重量%以上3.2重量%以下」であるのに対し、甲3実施例44発明は「2.0質量%」である点

b 相違点4(Biの含有量)に関する検討
甲3実施例44発明におけるBiの含有量は2.0質量%であり、甲3においてBiのより好ましい含有割合の範囲とされた1.2質量%以上3.0質量%以下の範囲内のものとなっている(前記4(2)ウ(ア)を参照)から、甲3実施例44発明において、Biの含有量を変更しようとする動機付けは直ちに生じない。
また、Biの含有量が2.0質量%である甲3実施例44発明において、当業者がBiの含有量を変更しようとする場合には、甲3においてBiの含有量のより好ましい上限とされた「3.0質量%」という数値以下の範囲(例えば、甲3の実施例44?54の大部分で適用され、総合評価においてA+となり得る程度に良好な特性を発揮することが実験的に裏付けられている「2.7質量%」という数値(前記4(2)ウ(ウ)a?cを参照))を想到するとみるのが自然であって、本件特許発明2に規定される「Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下」という数値範囲内の数値を想到し得たといえる根拠は何ら存在しない。
したがって、相違点4に係る構成を、当業者が容易に想到し得たということはできない。
c 甲4を考慮した上での、Sb及びBiの含有量に関する総合的な検討
前記4(3)イによれば、当業者は、甲4に基づき、Agと、Cuと、Biと、Sbと、Niと、Coを含み、残部がSnからなるはんだ合金において、Snマトリックスを強化して温度サイクル特性を向上させるという観点においてSbとBiとが置換可能であるという事項を知得できると認められる。そして、上記bで検討したとおり、甲3によれば、Biの含有量に関し、「2.7質量%」である場合にはんだ合金の総合評価がA+になり得るから、甲3実施例44発明において、2.0質量%であるBiの含有量を増加させるとともに3.8質量%であるSbの含有量を減少させる変更を着想し得る可能性はある。
しかしながら、そこから更に進んで、Biの含有量が2.0質量%である甲3実施例44発明において、当業者が、甲3においてBiの含有量のより好ましい上限とされた「3.0質量%」という数値を超えて増加させようとする変更を着想し得るという根拠は存在しない。仮に、当業者がそのような変更に着想し得たとしても、相違点4に係る「3.1重量%以上3.2重量%以下」という具体的な数値範囲を想到し得たといえる根拠は何ら存在しないし、更に仮にそのような具体的な数値範囲を想到し得たとしても、そのとき、同時に、Sbの含有量である3.8質量%を、本件特許発明2に規定される「2重量%以上4重量%以下」なる数値範囲内に維持できる程度に減少させることが容易であるといえる根拠は存在しない。しかも、そのような、Biを増加させSbを減少させる数値変更が、甲3に記載の発明の目的である「低融点であり、耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性に優れ、さらに、ボイド(空隙)の発生を抑制することができるはんだ合金・・・を提供する」(甲3の段落【0010】)との事項と両立するのかどうかも不明である。
したがって、甲4に開示された技術的事項を考慮に入れたとしても、当業者は、甲3実施例44発明に基づき、相違点4に係る構成である「Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下」との事項を容易に想到し得たとはいえない。
d したがって、本件特許発明2は、甲3実施例44発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ) 甲3実施例46発明を主たる引用発明とした場合の本件特許発明2の進歩性について
a 一致点・相違点について
本件特許発明2と、甲3実施例46発明とを対比する。
甲3実施例46発明は、Agと、Cuと、Sbと、Biと、Niと、Coを含み、残部がSnからなる、はんだ合金であり、鉛は含まれないから、これは、「鉛フリーはんだ合金」である。したがって、本件特許発明2と、甲3実施例46発明は、Agと、Cuと、Sbと、Biと、Niと、Coを含み、残部がSnからなる、「鉛フリーはんだ合金」である点で共通する。
Agの含有量に関し、甲3実施例46発明は「3.0質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「2重量%以上3.1重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Cuの含有量に関し、甲3実施例46発明は「0.5質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「1重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Sbの含有量に関し、甲3実施例46発明は「3.0質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「2重量%以上4重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Biの含有量に関し、甲3実施例46発明は「2.7質量%」であるところ、本件特許発明2で規定される「3.1重量%以上3.2重量%以下」なる数値範囲には包含されない。
Niの含有量に関し、甲3実施例46発明は「0.05質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「0.01重量%以上0.25重量%以下」なる数値範囲に包含される。
Coの含有量に関し、甲3実施例46発明は「0.005質量%」であるから、本件特許発明2で規定される「0.001重量%以上0.25重量%以下」なる数値範囲に包含される。
上記を総合すると、本件特許発明2と、甲3実施例46発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを2重量%以上4重量%以下と、Biと、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる鉛フリーはんだ合金。
(相違点5)
Biの含有量に関し、本件特許発明2は「3.1重量%以上3.2重量%以下」であるのに対し、甲3実施例46発明は「2.7質量%」である点

b 相違点5(Biの含有量)に関する検討
甲3実施例46発明におけるBiの含有量は2.7質量%であり、これは、甲3においてBiのより好ましい含有割合の範囲とされた1.2質量%以上3.0質量%以下の範囲内のものとなっている(前記4(2)ウ(ア)を参照)ことに加え、甲3の実施例44?54の大部分で適用され、総合評価においてA+となり得る程度に良好な特性を発揮することが実験的に裏付けられている「2.7質量%」という数値(前記4(2)ウ(ウ)a?cを参照)そのものであるから、甲3実施例46発明において、Biの含有量を変更しようとする動機付けは直ちに生じない。
また、Biの含有量が2.7質量%である甲3実施例46発明において、当業者がBiの含有量を変更しようとする場合には、甲3においてBiの含有量のより好ましい上限とされた「3.0質量%」という数値以下の範囲を想到するとみるのが自然であって、本件特許発明2に規定される「Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下」という数値範囲内の数値を想到し得たといえる根拠は何ら存在しない。
したがって、相違点5に係る構成を、当業者が容易に想到し得たということはできない。
c 甲4を考慮した上での、Sb及びBiの含有量に関する総合的な検討
前記4(3)イによれば、当業者は、甲4に基づき、Agと、Cuと、Biと、Sbと、Niと、Coを含み、残部がSnからなるはんだ合金において、Snマトリックスを強化して温度サイクル特性を向上させるという観点においてSbとBiとが置換可能であるという事項を知得できると認められる。
しかしながら、上記bで検討したとおり、甲3実施例46発明におけるBiの含有量は2.7質量%であり、これは、甲3の実施例44?54の大部分で適用され、総合評価においてA+となり得る程度に良好な特性を発揮することが実験的に裏付けられている「2.7質量%」という数値そのものであるから、当業者が、甲4に開示された上記事項を知得できたとしても、甲3実施例46発明において、実験的に裏付けられている「2.7質量%」という数値を、甲3においてBiの含有量のより好ましい上限とされた「3.0質量%」という数値を超えて、更に増加させようとする変更にまでは至らないことが明らかである。仮に、当業者がそのような変更に着想し得たとしても、相違点5に係る「3.1重量%以上3.2重量%以下」という具体的な数値範囲を想到し得たといえる根拠は何ら存在しないし、更に仮にそのような具体的な数値範囲を想到し得たとしても、そのとき、同時に、Sbの含有量である3.0質量%を、本件特許発明2に規定される「2重量%以上4重量%以下」なる数値範囲内に維持できる程度に減少させることが容易であるといえる根拠は存在しない。しかも、そのような、Biを増加させSbを減少させる数値変更が、甲3に記載の発明の目的である「低融点であり、耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性に優れ、さらに、ボイド(空隙)の発生を抑制することができるはんだ合金・・・を提供する」(甲3の段落【0010】)との事項と両立するのかどうかも不明である。
したがって、甲4に開示された技術的事項を考慮に入れたとしても、当業者は、甲3実施例46発明に基づき、相違点5に係る構成である「Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下」との事項を容易に想到し得たとはいえない。
d したがって、本件特許発明2は、甲3実施例46発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ) 本件特許発明3、6、7について
a 本件特許発明3は、Agと、Cuと、Sbと、Biと、Niと、Coを含み、残部がSnからなる、鉛フリーはんだ合金であって、各構成元素単独での含有量に関する規定は、本件特許発明2と同じである。
上記(ア)で検討したとおり、本件特許発明2と、甲3実施例52発明とは、Sbの含有量に係る相違点2、及びBiの含有量に係る相違点3にて相違し、当該相違点に係る構成を当業者が容易に想到し得たということはできず、また、上記(イ)及び(ウ)で検討したとおり、本件特許発明2と、甲3実施例44発明及び甲3実施例46発明とは、それぞれ、Biの含有量に係る相違点4及び相違点5にて相違し、当該相違点に係る構成を当業者が容易に想到し得たということはできないから、本件特許発明3は、甲3実施例52発明、甲3実施例44発明、及び甲3実施例46発明のいずれに基づいたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
b 本件特許発明6及び7は、請求項2又は3を引用するものであって、各構成元素単独での含有量に関する規定は、本件特許発明2又は3と同じであるから、本件特許発明6及び7についても、同様にして、甲3実施例52発明、甲3実施例44発明、及び甲3実施例46発明のいずれに基づいたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ) 進歩性に関するまとめ
以上の検討のとおり、本件特許発明2、3、6、7は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

(2) 異議申立人の意見について
ア 前記(1)ウでも述べたとおり、異議申立人は、平成29年12月13日付けの意見書において、特許権者による訂正の請求に付随して生じた事項に関連するとして、追加的に、甲4の実施例45又は46による引用発明に基づく進歩性欠如の理由(当該意見書における「理由C」)を主張している。
しかしながら、本件特許発明2又は3のはんだ合金と、甲4の実施例45又は46のはんだ合金とを対比すると、その相違点は、Agの含有量のみであるところ、本件特許発明2及び3におけるAgの含有量は本件訂正の前後で変わっていないから、理由Cとして追加的に主張された理由は、本件訂正請求の内容に付随して生じたものではないので、取消理由として採用しない。
イ 異議申立人は、平成29年12月13日付けの意見書において、甲3実施例52発明では、はんだ寿命の評価が「B」、その他の評価が全て「A」であるから、はんだ寿命をさらに改善するために当該合金組成を最適化しようとする動機付けが存在するといえるとし、また、甲3実施例52発明とAg、Cu、NiおよびCoの含有量が同一であり、甲3実施例52発明よりもSb含有量を増加させ、Bi含有量を減少させたものである甲3実施例44発明及び甲3実施例46発明のはんだ合金は、はんだ寿命の評価が「A」に向上している反面、ボイド抑制が「B」に低下していることを踏まえると、Sb含有量を甲3実施例52における1.5%と甲3実施例46における3.0%の間で調整し、Bi含有量を甲3実施例46における2.7%と甲3実施例52における3.5%の間で調整すれば、ボイド抑制効果を低減させることなくはんだ寿命を向上して、これらの評価がいずれも「A」となるはんだ合金を得られると期待できる、と主張している。
しかしながら、甲3実施例52発明において、Sbの含有量を甲3実施例52における1.5質量%と甲3実施例46における3.0質量%の間で調整するとともに、Biの含有量を甲3実施例46における2.7質量%と甲3実施例52における3.5質量%の間で調整することによって、はんだ寿命の評価を「B」から「A」とすることが仮にできたとしても、そのときにボイド抑制の評価を「A」のまま維持できると考えるべき根拠がない。同様に、甲3実施例44発明又は甲3実施例46発明において、Sbの含有量及びBiの含有量を調整し、ボイド抑制の評価を「B」から「A」とすることが仮にできたとしても、そのときにはんだ寿命の評価を「A」のまま維持できると考えるべき根拠がない。そして、はんだ寿命の評価及びボイド抑制の評価を両方とも「A」とさせるためのSb及びBiの含有量の具体的な数値範囲は不明であるから、Sb及びBiの含有量に関し具体的にどのような調整を行えば両評価を「A」とできるのかを当業者が予測し得るとは認められない。
したがって、上記のような調整を行うことで、はんだ寿命及びボイド抑制の評価がいずれも「A」となるはんだ合金を得られると期待できるとする上記主張は採用することができない。

(3) 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
前記2(5)の申立理由4については、取消理由通知において、取消理由として採用しなかった。その理由は以下のとおりである。
ア 申立理由4-1について
異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1に係る発明における「残部がSnからなる」との記載は、請求項1に記載のAg、Cu、Sb、Bi、Ni、Sn以外の金属をどの程度まで含み得るのかが明らかではなく、請求項1に係る発明は発明の外延が不明確であり、請求項1を引用する請求項2、6、7に係る発明も同様に不明確であることを、取消理由として主張した。
しかしながら、請求項1は、末尾が「残部がSnからなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。」とされているから、請求項1に係る発明は、Ag、Cu、Sb、Bi、及びNiを含むとともに、残部がSnからなる鉛フリーはんだ合金であって、他の元素を含まないものであることが、その記載から明らかである。したがって、請求項1に係る発明の外延が不明確であるとはいえない。
また、訂正後の請求項2の記載は、「更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金。」というものであるから、訂正後の請求項2に係る発明は、Ag、Cu、Sb、Bi、Ni、及びCoを含むとともに、残部がSnからなる鉛フリーはんだ合金であって、他の元素を含まないものであることが、その記載から明らかである。したがって、訂正後の請求項2に係る発明の外延が不明確であるとはいえない。
そして、請求項1又は2を引用する請求項6、7に係る発明も、外延が不明確であるとはいえない。
よって、申立理由4-1は、取消理由として採用しない。

イ 申立理由4-2
異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項6に係る発明は、「鉛フリーはんだ合金を用いて形成される」との製造方法により生産物である電子回路基板を特定するものであり、本件特許出願時において、「はんだ接合部」をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するとも認められないから、請求項6及び請求項6を引用する請求項7に係る発明は明確でないことを、取消理由として主張した。
しかしながら、「鉛フリーはんだ合金」等のはんだ合金は、接合に用いられる材料であることが技術常識であって、請求項6の「鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部」という記載は、単に状態を示すことにより構造を特定しているものであるから、製造方法によって電子回路基板を特定したものとは認められない。
よって、申立理由4-2は、取消理由として採用しない。

第4 むすび
したがって、本件特許の請求項1、2、3、6、7に係る特許は、取消理由通知書で通知された取消理由及び特許異議申立書において申立てられた申立理由によって、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1、2、3、6、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
鉛フリーはんだ合金、電子回路基板および電子制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛フリーはんだ合金、並びに当該鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部を有する電子回路基板および電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プリント配線板やシリコンウエハといった基板上に形成される電子回路に電子部品を接合する際には、はんだ合金を用いたはんだ接合方法が採用されている。このはんだ合金には鉛を使用するのが一般的であった。しかし環境負荷の観点からRoHS指令等によって鉛の使用が制限されたため、近年では鉛を含有しない、所謂鉛フリーはんだ合金によるはんだ接合方法が一般的になりつつある。
この鉛フリーはんだ合金としては、例えばSn-Cu系、Sn-Ag-Cu系、Sn-Bi系、Sn-Zn系はんだ合金等がよく知られている。その中でもテレビ、携帯電話等に使用される民生用電子機器や自動車に搭載される車載用電子機器には、Sn-3Ag-0.5Cuはんだ合金が多く使用されている。
鉛フリーはんだ合金は、鉛含有はんだ合金と比較してはんだ付性が多少劣るものの、フラックスやはんだ付装置の改良によってこのはんだ付性の問題はカバーされている。そのため、例えば車載用電子回路基板であっても、自動車の車室内のように寒暖差はあるものの比較的穏やかな環境下に置かれるものにおいては、Sn-3Ag-0.5Cuはんだ合金を用いて形成したはんだ接合部でも大きな問題は生じていない。
【0003】
しかし近年では、例えば電子制御装置に用いられる電子回路基板のように、エンジンコンパートメントやエンジン直載、モーターとの機電一体化といった寒暖差が特に激しく(例えば-30℃から110℃、-40℃から125℃、-40℃から150℃といった寒暖差)、加えて振動負荷を受けるような過酷な環境下での電子回路基板の配置の検討および実用化がなされている。このような寒暖差の非常に激しい環境下では、実装された電子部品と基板との線膨張係数の差によるはんだ接合部の熱変位およびこれに伴う応力が発生し易い。そして寒暖差による塑性変形の繰り返しははんだ接合部に亀裂を引き起こし易く、更に時間の経過と共に繰り返し与えられる応力は上記亀裂の先端付近に集中するため、当該亀裂ははんだ接合部の深部まで横断的に進展し易くなる。このように著しく進展した亀裂は、電子部品と基板上に形成された電子回路との電気的接続の切断を引き起こしてしまう。特に激しい寒暖差に加え電子回路基板に振動が負荷される環境下にあっては、上記亀裂およびその進展は更に発生し易い。
そのため、上述の過酷な環境下に置かれる車載用電子回路基板および電子制御装置が増える中で、十分な亀裂進展抑制効果を発揮し得るSn-Ag-Cu系はんだ合金を用いたソルダペースト組成物への要望は、今後ますます大きくなることが予想される。
【0004】
また、車載用電子回路基板に搭載されるQFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)といった電子部品のリード部分には、従来、Ni/Pd/AuめっきやNi/Auめっきのされた部品が多用されていた。しかし近年の電子部品の低コスト化や基板のダウンサイジング化に伴い、リード部分をSnめっきに替えた電子部品やSnめっきされた下面電極をもつ電子部品の検討および実用化がなされている。
はんだ接合時において、Snめっきされた電子部品は、Snめっきおよびはんだ接合部に含まれるSnとリード部分や前記下面電極に含まれるCuとの相互拡散を発生させ易い。この相互拡散により、はんだ接合部と前記リード部分や前記下面電極との界面付近の領域(以下、本明細書においては「界面付近」という。)にて、金属間化合物であるCu_(3)Sn層が凸凹状に大きく成長する。前記Cu_(3)Sn層は元々硬くて脆い性質を有する上に、凸凹状に大きく成長したCu_(3)Sn層は更に脆くなる。そのため、特に上述の過酷な環境下においては、前記界面付近ははんだ接合部と比較して亀裂が発生し易く、また発生した亀裂はこれを起点として一気に進展するため、電気的短絡が生じ易い。
従って、今後は上述の過酷な環境下でNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品を用いた場合であっても前記界面付近における亀裂進展抑制効果を発揮し得る鉛フリーはんだ合金への要望も大きくなることが予想される。
【0005】
これまでもSn-Ag-Cu系はんだ合金にAgやBiといった元素を添加することによりはんだ接合部の強度とこれに伴う熱疲労特性を向上させ、これにより上記はんだ接合部の亀裂進展を抑制する方法はいくつか開示されている(特許文献1から特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-228685号公報
【特許文献2】特開平9-326554号公報
【特許文献3】特開2000-190090号公報
【特許文献4】特開2000-349433号公報
【特許文献5】特開2008-28413号公報
【特許文献6】国際公開パンフレットWO2009/011341号
【特許文献7】特開2012-81521号公報
【0007】
はんだ合金にBiを添加した場合、Biははんだ合金の原子配列の格子に入り込みSnと置換することで原子配列の格子を歪ませる。これによりSnマトリックスが強化され、合金強度が向上するため、Biの添加によるはんだ亀裂進展特性の一定の向上は見込まれる。
【0008】
しかしBiの添加により高強度化した鉛フリーはんだ合金は延伸性が悪化し、脆性が強まるというデメリットがある。出願人がBiを添加した従来の鉛フリーはんだ合金を用いて基板とチップ抵抗部品とをはんだ接合しこれを寒暖差の激しい環境下に置いたところ、チップ抵抗部品側にあるフィレット部分において、チップ抵抗部品の長手方向に対して約45°の方向から亀裂が直線状に入り電気的短絡が発生した。従って、特に寒暖の差の激しい環境下に置かれる車載用基板においては従来のような高強度化のみでは亀裂進展抑制効果は十分ではなく、高強度化に加え新たな亀裂進展抑制方法の出現が望まれる。
【0009】
またNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品を用いてはんだ接合をした場合、前記界面付近にて金属間化合物であるCu_(3)Sn層が凸凹状に大きく成長するため、この界面付近における亀裂進展の抑制は難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するものであり、寒暖の差が激しく、振動が負荷されるような過酷な環境下においてもはんだ接合部の亀裂進展を抑制でき、且つNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品を用いてはんだ接合をした場合においても前記界面付近における亀裂進展を抑制することのできる鉛フリーはんだ合金、並びに当該鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部を有する電子回路基板および電子制御装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の鉛フリーはんだ合金は、Agを1重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを0.5重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなることをその特徴とする。
【0012】
(2)上記(1)に記載の構成にあって、本発明の鉛フリーはんだ合金は更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含むことをその特徴とする。
【0013】
(3)上記(1)または(2)の構成にあって、Biの含有量は3.1重量%以上4.5重量%以下であることをその特徴とする。
【0014】
(4)また本発明の他の構成として、本発明の鉛フリーはんだ合金は、Agを1重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを0.5重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからなり、AgとCuとSbとBiとNiとCoのそれぞれの含有量(重量%)が下記式(A)から(D)の全てを満たすことをその特徴とする。
1.6≦Ag含有量+(Cu含有量/0.5)≦5.9 … A
0.85≦(Ag含有量/3)+(Bi含有量/4.5)≦ 2.10 …B
3.6 ≦ Ag含有量+Sb含有量≦ 8.9 … C
0<(Ni含有量/0.25)+(Co含有量/0.25)≦1.19 …D
【0015】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1に記載の構成にあって、本発明の鉛フリーはんだ合金は、更にInを6重量%以下含むことをその特徴とする。
【0016】
(6)上記(1)から(5)のいずれか1に記載の構成にあって、本発明の鉛フリーはんだ合金は、更にP、Ga、およびGeの少なくとも1種を合計で0.001重量%以上0.05重量%以下含むことをその特徴とする。
【0017】
(7)上記(1)から(6)のいずれか1に記載の構成にあって、本発明の鉛フリーはんだ合金は、更にFe、Mn、Cr、およびMoの少なくとも1種を合計で0.001重量%以上0.05重量%以下含むことをその特徴とする。
【0018】
(8)本発明の電子回路基板は、上記(1)から(7)のいずれか1に記載の鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部を有することをその特徴とする。
【0019】
(9)本発明の電子制御装置は、上記(8)に記載の電子回路基板を有することをその特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の鉛フリーはんだ合金、並びに当該鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部を有する電子回路基板および電子制御装置は、寒暖の差が激しく、振動が負荷されるような過酷な環境下においてもはんだ接合部の亀裂進展を抑制でき、またNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品を用いてはんだ接合をした場合においても、前記界面付近における亀裂進展を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係り、電子回路基板の一部を表した部分断面図。
【図2】本発明の比較例に係る試験基板において、チップ部品のフィレット部にボイドが発生した断面を表す電子顕微鏡写真。
【図3】本発明の実施例および比較例に係る試験基板において、チップ部品の電極下の領域およびフィレットが形成されている領域を表す、X線透過装置を用いてチップ部品側から撮影した写真。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の鉛フリーはんだ合金、並びに電子回路基板および電子制御装置の一実施形態を詳述する。なお、本発明が以下の実施形態に限定されるものではないことはもとよりである。
【0023】
(1)鉛フリーはんだ合金
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、1重量%以上3.1重量%以下のAgを含有させることができる。Agを添加することにより、鉛フリーはんだ合金のSn粒界中にAg_(3)Sn化合物を析出させ、機械的強度を付与することができる。
但し、Agの含有量が1重量%未満の場合、Ag_(3)Sn化合物の析出が少なく、鉛フリーはんだ合金の機械的強度および耐熱衝撃性が低下するので好ましくない。またAgを3.1重量%を超えて添加しても引っ張り強度は大幅には向上せず、飛躍的な耐熱疲労特性の向上には結びつかない。また高価なAgの含有量を増やすことは経済的に好ましくない。更にAgの含有量が4重量%を超える場合、鉛フリーはんだ合金の延伸性が阻害され、これを用いて形成されるはんだ接合部が電子部品の電極剥離現象を引き起こす虞があるので好ましくない。
またAgの含有量を2重量%以上3.1重量%以下とすると、鉛フリーはんだ合金の強度と延伸性のバランスをより良好にできる。更に好ましいAgの含有量は2.5重量%以上3.1重量%以下である。
【0024】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、1重量%以下のCuを含有させることができる。この範囲でCuを添加することで、電子回路のCuランドに対するCu食われ防止効果を発揮すると共に、Sn粒界中にCu_(6)Sn_(5)化合物を析出させることにより鉛フリーはんだ合金の耐熱衝撃性を向上させることができる。
なお、Cuの含有量を0.5重量%から1重量%とすると良好なCu喰われ防止効果を発揮することができる。特にCuの含有量が0.7重量%以下の場合、Cuランドに対するCu食われ防止効果を発揮することができると共に、溶融時の鉛フリーはんだ合金の粘度を良好な状態に保つことができ、リフロー時におけるボイドの発生を抑制し、形成するはんだ接合部の耐熱衝撃性を向上することができる。更には、溶融した鉛フリーはんだ合金のSn結晶粒界に微細なCu_(6)Sn_(5)が分散することで、Snの結晶方位の変化を抑制し、はんだ接合形状(フィレット形状)の変形を抑制することができる。
なおCuの含有量が1重量%を超えると、はんだ接合部の電子部品および電子回路基板との界面近傍にCu6Sn5化合物が析出し易くなり、接合信頼性やはんだ接合部の延伸性を阻害する虞があるため好ましくない。
【0025】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、1重量%以上5重量%以下のSbを含有させることができる。この範囲でSbを添加することで、Sn-Ag-Cu系はんだ合金の延伸性を阻害することなくはんだ接合部の亀裂進展抑制効果を向上させることができる。特にSbの含有量を2重量%以上4重量%以下とすると、亀裂進展抑制効果を更に向上させることができる。
【0026】
ここで、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝されるという外部応力に耐えるには、鉛フリーはんだ合金の靭性(応力-歪曲線で囲まれた面積の大きさ)を高め、延伸性を良好にし、且つSnマトリックスに固溶する元素を添加して固溶強化をすることが有効であると考えられる。そして、十分な靱性および延伸性を確保しつつ、鉛フリーはんだ合金の固溶強化を行うためにはSbが最適な元素となる。
即ち、実質的に母材(本明細書においては鉛フリーはんだ合金の主要な構成要素を指す。以下同じ。)をSnとする鉛フリーはんだ合金に上記範囲でSbを添加することで、Snの結晶格子の一部がSbに置換され、その結晶格子に歪みが発生する。そのため、このような鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部は、Sn結晶格子の一部のSb置換により前記結晶中の転移に必要なエネルギーが増大してその金属組織が強化される。更には、Sn粒界に微細なSnSb、ε-Ag_(3)(Sn,Sb)化合物が析出することにより、Sn粒界のすべり変形を防止することではんだ接合部に発生する亀裂の進展を抑制し得る。
【0027】
また、Sn-3Ag-0.5Cuはんだ合金に比べ、上記範囲でSbを添加した鉛フリーはんだ合金を用いて形成したはんだ接合部の組織は、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝した後もSn結晶が微細な状態を確保しており、亀裂が進展しにくい構造であることを確認した。これはSn粒界に析出しているSnSb、ε-Ag_(3)(Sn,Sb)化合物が寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝した後においてもはんだ接合部内に微細に分散しているため、Sn結晶の粗大化が抑制されているものと考えられる。即ち、上記範囲内でSbを添加した鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合部は、高温状態ではSnマトリックス中へのSbの固溶が、低温状態ではSnSb、ε-Ag_(3)(Sn,Sb)化合物の析出が起こるため、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝された場合にも、高温下では固溶強化、低温下では析出強化の工程が繰り返されることにより、優れた耐冷熱衝撃性を確保し得ると考えられる。
【0028】
さらに、上記範囲でSbを添加した鉛フリーはんだ合金は、Sn-3Ag-0.5Cuはんだ合金に対して延伸性を低下させずにその強度を向上させることができるため、外部応力に対する十分な靱性を確保でき、残留応力も緩和することができる。
ここで、延伸性の低いはんだ合金を用いて形成されたはんだ接合部を寒暖の差の激しい環境下に置いた場合、繰り返し発生する応力は当該はんだ接合部の電子部品側に蓄積し易くなる。そのため、深部亀裂は電子部品の電極近傍のはんだ接合部にて発生することが多い。この結果、この亀裂近傍の電子部品の電極に応力が集中してしまい、はんだ接合部が電子部品側の電極を剥離してしまう現象が生じ得る。しかし本実施形態のはんだ合金は上記範囲でSbを添加したことにより、Biといったはんだ合金の延伸性に影響を及ぼす元素を含有させてもそれ自体の延伸性が阻害され難く、よって上述のような過酷な環境下に長時間曝された場合であっても電子部品の電極剥離現象をも抑制することができる。
【0029】
但し、Sbの含有量が5重量%を超えると、鉛フリーはんだ合金の溶融温度が上昇してしまい、高温下でSbが再固溶しなくなる。そのため、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝した場合、SnSb、ε-Ag_(3)(Sn,Sb)化合物による析出強化のみが行われるため、時間の経過と共にこれらの金属間化合物が粗大化し、Sn粒界のすべり変形の抑制効果が失効してしまう。またこの場合、鉛フリーはんだ合金の溶融温度の上昇により電子部品の耐熱温度も問題となるため、好ましくない。
【0030】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、0.5重量%以上4.5重量%以下のBiを含有させることができる。本実施形態の鉛フリーはんだ合金の構成であれば、この範囲内でBiを添加することにより、鉛フリーはんだ合金の延伸性に影響を及ぼすことなく、その強度を向上させると共にSb添加により上昇した溶融温度を低下させることができる。即ち、BiもSbと同様にSnマトリックス中へ固溶するため、鉛フリーはんだ合金を更に強化することができる。但し、Biの含有量が4.5重量%を超えると鉛フリーはんだ合金の延伸性を低下させて脆性が強まるため、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝された際、当該鉛フリーはんだ合金により形成されたはんだ接合部には深部亀裂が生じ易くなるため好ましくない。
またBiの含有量を2重量%以上4.5重量%以下とすると、はんだ接合部の強度をより向上させることができる。また後述するNiおよび/またはCoと併用する場合、Biの好ましい含有量は3.1重量%以上4.5重量%以下である。
【0031】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、0.01重量%以上0.25重量%以下のNiを含有させることができる。本実施形態の鉛フリーはんだ合金の構成であれば、この範囲でNiを添加することにより、溶融した鉛フリーはんだ合金中に微細な(Cu,Ni)_(6)Sn_(5)が形成されて母材中に分散するため、はんだ接合部における亀裂の進展を抑制し、更にその耐熱疲労特性を向上させることができる。
また、本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、Ni/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品をはんだ接合する場合であっても、はんだ接合時にNiが前記界面付近に移動して微細な(Cu,Ni)_(6)Sn_(5)を形成するため、その界面付近におけるCu_(3)Sn層の成長を抑制することができ、前記界面付近の亀裂進展抑制効果を向上させることができる。
【0032】
但し、Niの含有量が0.01重量%未満であると、前記金属間化合物の改質効果が不十分となるため、前記界面付近の亀裂抑制効果は十分には得られ難い。またNiの含有量が0.25重量%を超えると、従来のSn-3Ag-0.5Cu合金に比べて過冷却が発生し難くなり、はんだ合金が凝固するタイミングが早くなってしまう。そのため、形成されるはんだ接合部のフィレットでは、はんだ合金の溶融中に外に抜け出ようとしたガスがその中に残ったまま凝固してしまい、フィレット中にガスによる穴(ボイド)が発生してしまうケースが確認される。このフィレット中のボイドは、特に-40℃から140℃、-40℃?150℃といった寒暖差の激しい環境下においてはんだ接合部の耐熱疲労特性を低下させてしまう。
なお、上述の通りNiはフィレット中にボイドを発生し易いものであるが、本実施形態の鉛フリーはんだ合金の構成においては、Niと他の元素との含有量のバランスから、Niを0.25重量%以下含有させても上記ボイドの発生を抑制することができる。
【0033】
またNiの含有量を0.01重量%以上0.15重量%以下とすると良好な前記界面付近の亀裂進展抑制効果および耐熱疲労特性を向上しつつ、ボイド発生の抑制を向上させることができる。
【0034】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、Niに加え0.001重量%以上0.25重量%以下のCoを含有させることができる。本実施形態の鉛フリーはんだ合金の構成であれば、この範囲でCoを添加することにより、Ni添加による上記効果を高めると共に溶融した鉛フリーはんだ合金中に微細な(Cu,Co)_(6)Sn_(5)が形成されて母材中に分散するため、はんだ接合部のクリープ変形の抑制および亀裂の進展を抑制しつつ、特に寒暖差の激しい環境下においてもはんだ接合部の耐熱疲労特性を向上させることができる。
また、本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、Ni/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品をはんだ接合する場合であっても、Ni添加による上記効果を高めると共に、Coがはんだ接合時に前記界面付近に移動して微細な(Cu,Co)_(6)Sn_(5)を形成するため、その界面付近におけるCu_(3)Sn層の成長を抑制することができ、前記界面付近の亀裂進展抑制効果を向上させることができる。
【0035】
但し、Coの含有量が0.001重量%未満であると、前記金属間化合物の改質効果が不十分となるため、前記界面付近の亀裂抑制効果は十分には得られ難い。またCoの含有量が0.25重量%を超えると、従来のSn-3Ag-0.5Cu合金に比べて過冷却が発生し難くなり、はんだ合金が凝固するタイミングが早くなってしまう。そのため、形成されるはんだ接合部のフィレットでは、はんだ合金の溶融中に外に抜け出ようとしたガスがその中に残ったまま凝固してしまい、フィレット中にガスによるボイドが発生してしまうケースが確認される。このフィレット中のボイドは、特に寒暖差の激しい環境下においてはんだ接合部の耐熱疲労特性を低下させてしまう。
なお、上述の通りCoはフィレット中にボイドを発生し易いものであるが、本実施形態の鉛フリーはんだ合金の構成においては、Coと他の元素との含有量のバランスから、Coを0.25重量%以下含有させても上記ボイドの発生を抑制することができる。
【0036】
またCoの含有量を0.001重量%以上0.15重量%以下とすると良好な亀裂進展抑制効果および耐熱疲労特性を向上しつつ、ボイド発生の抑制を向上させることができる。
【0037】
ここで本実施形態の鉛フリーはんだ合金にNiとCoとを併用する場合、AgとCuとSbとBiとNiとCoのそれぞれの含有量(重量%)は下記式(A)から(D)の全てを満たすことが好ましい。
1.6≦Ag含有量+(Cu含有量/0.5)≦5.9 … A
0.85≦(Ag含有量/3)+(Bi含有量/4.5)≦ 2.10 …B
3.6 ≦ Ag含有量+Sb含有量≦ 8.9 … C
0<(Ni含有量/0.25)+(Co含有量/0.25)≦1.19 …D
AgとCuとSbとBiとNiとCoの含有量を上記範囲内とすることで、はんだ接合部の延伸性阻害および脆性増大の抑制、はんだ接合部の強度および熱疲労特性の向上、フィレット中に発生するボイドの抑制、寒暖の差が激しい過酷な環境下におけるはんだ接合部の亀裂進展抑制、Ni/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品のはんだ接合時における前記界面付近の亀裂進展抑制効果のいずれもをバランスよく発揮させることができ、はんだ接合部の信頼性を一層向上させることができる。
【0038】
また本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、6重量%以下のInを含有させることができる。この範囲内でInを添加することにより、Sbの添加により上昇した鉛フリーはんだ合金の溶融温度を低下させると共に亀裂進展抑制効果を向上させることができる。即ち、InもSbと同様にSnマトリックス中へ固溶するため、鉛フリーはんだ合金を更に強化することができるだけでなく、AgSnIn、およびInSb化合物を形成しこれをSn粒界に析出させることでSn粒界のすべり変形を抑制する効果を奏する。
本発明のはんだ合金に添加するInの含有量が6重量%を超えると、鉛フリーはんだ合金の延伸性を阻害すると共に、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝されている間にγ-InSn_(4)が形成され、鉛フリーはんだ合金が自己変形してしまうため好ましくない。
なお、Inのより好ましい含有量は、4重量%以下であり、1重量%から2重量%が特に好ましい。
【0039】
また本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、P、Ga、およびGeの少なくとも1種を0.001重量%以上0.05重量%以下含有させることができる。この範囲内でP、Ga、およびGeの少なくとも1種を添加することにより、鉛フリーはんだ合金の酸化を防止することができる。但し、これらの含有量が0.05重量%を超えると鉛フリーはんだ合金の溶融温度が上昇し、またはんだ接合部にボイドが発生し易くなるため好ましくない。
【0040】
更に本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、Fe、Mn、Cr、およびMoの少なくとも1種を0.001重量%以上0.05重量%以下含有させることができる。この範囲内でFe、Mn、Cr、およびMoの少なくとも1種を添加することにより、鉛フリーはんだ合金の亀裂進展抑制効果を向上させることができる。但し、これらの含有量が0.05重量%を超えると鉛フリーはんだ合金の溶融温度が上昇し、またはんだ接合部にボイドが発生し易くなるため好ましくない。
【0041】
なお、本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、その効果を阻害しない範囲において、他の成分(元素)、例えばCd、Tl、Se、Au、Ti、Si、Al、Mg、Zn等を含有させることができる。また本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、当然ながら不可避不純物も含まれるものである。
【0042】
また本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、その残部はSnからなることが好ましい。なお好ましいSnの含有量は、79.8重量%以上97.49重量%未満である。
【0043】
本実施形態のはんだ接合部の形成は、例えばフロー方法、はんだボールによる実装、ソルダペースト組成物を用いたリフロー方法等、はんだ接合部を形成できるものであればどのような方法を用いても良い。なおその中でも特にソルダペースト組成物を用いたリフロー方法が好ましく用いられる。
【0044】
(2)ソルダペースト組成物
このようなソルダペースト組成物としては、例えば粉末状にした前記鉛フリーはんだ合金とフラックスとを混練しペースト状にすることにより作製される。
【0045】
このようなフラックスとしては、例えば樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスが用いられる。
【0046】
前記樹脂としては、例えばトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等のロジンおよび水添ロジン、重合ロジン、不均一化ロジン、アクリル酸変性ロジン、マレイン酸変性ロジン等のロジン誘導体を含むロジン系樹脂;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸の各種エステル、メタクリル酸の各種エステル、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸のエステル、無水マレイン酸のエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニル等の少なくとも1種のモノマーを重合してなるアクリル樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて用いることができる。
これらの中でもロジン系樹脂、その中でも特に酸変性されたロジンに水素添加をした水添酸変性ロジンが好ましく用いられる。また水添酸変性ロジンとアクリル樹脂の併用も好ましい。
【0047】
前記樹脂の酸価は10mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましく、その配合量はフラックス全量に対して10重量%以上90重量%以下であることが好ましい。
【0048】
前記チキソ剤としては、例えば水素添加ヒマシ油、脂肪酸アマイド類、オキシ脂肪酸類が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記チキソ剤の配合量は、フラックス全量に対して3重量%以上15重量%以下であることが好ましい。
【0049】
前記活性剤としては、例えば有機アミンのハロゲン化水素塩等のアミン塩(無機酸塩や有機酸塩)、有機酸、有機酸塩、有機アミン塩を配合することができる。更に具体的には、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩、酸塩、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記活性剤の配合量は、フラックス全量に対して5重量%以上15重量%以下であることが好ましい。
【0050】
前記溶剤としては、例えばイソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、グリコールエーテル等を使用することができる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記溶剤の配合量は、フラックス全量に対して20重量%以上40重量%以下であることが好ましい。
【0051】
前記フラックスには、鉛フリーはんだ合金の酸化を抑える目的で酸化防止剤を配合することができる。この酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤等が挙げられる。その中でも特にヒンダードフェノール系酸化剤が好ましく用いられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記酸化防止剤の配合量は特に限定されないが、一般的にはフラックス全量に対して0.5重量%以上5重量%程度以下であることが好ましい。
【0052】
前記フラックスには、その他の樹脂、並びにハロゲン、つや消し剤、消泡剤および無機フィラー等の添加剤を加えてもよい。
前記添加剤の配合量は、フラックス全量に対して10重量%以下であることが好ましい。またこれらの更に好ましい配合量はフラックス全量に対して5重量%以下である。
【0053】
前記鉛フリーはんだ合金とフラックスとの配合比率は、はんだ合金:フラックスの比率で65:35から95:5であることが好ましい。より好ましい配合比率は85:15から93:7であり、特に好ましい配合比率は87:13から92:8である。
【0054】
(3)電子回路基板
本実施形態の電子回路基板の構成を図1を用いて説明する。本実施形態の電子回路基板100は、基板1と、絶縁層2と、電極部3と、電子部品4と、はんだ接合体10とを有する。はんだ接合体10は、はんだ接合部6とフラックス残渣7とを有し、電子部品4は、外部電極5と、端部8を有する。
基板1としては、プリント配線板、シリコンウエハ、セラミックパッケージ基板等、電子部品の搭載、実装に用いられるものであればこれらに限らず基板1として使用することができる。
電極部3は、はんだ接合部6を介して電子部品4の外部電極5と電気的に接合している。
またはんだ接合部6は、本実施形態に係るはんだ合金を用いて形成されている。
【0055】
このような構成を有する本実施形態の電子回路基板100は、はんだ接合部6が亀裂進展抑制効果を発揮する合金組成であるため、はんだ接合部6に亀裂が生じた場合であってもその亀裂の進展を抑制し得る。特に電子部品4にNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない場合であっても、はんだ接合部6と電子部品4との界面付近における亀裂進展抑制効果をも発揮することができる。またこれにより電子部品4の電極剥離現象をも抑制することができる。
【0056】
このような電子回路基板100は、例えば以下のように作製される。
先ず、所定のパターンとなるように形成された絶縁層2および電極部3を備えた基板1上に、前記ソルダペースト組成物を上記パターンに従い印刷する。
次いで印刷後の基板1上に電子部品4を実装し、これを230℃から260℃の温度でリフローを行う。このリフローにより基板1上にはんだ接合部6およびフラックス残渣7を有するはんだ接合体10が形成されると共に、基板1と電子部品4とが電気的接合された電子回路基板100が作製される。
【0057】
またこのような電子回路基板100を組み込むことにより、本実施形態の電子制御装置が作製される。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
フラックスの作製
以下の各成分を混練し、実施例および比較例に係るフラックスを得た。
水添酸変性ロジン(製品名:KE-604、荒川化学工業(株)製) 51重量%
硬化ひまし油 6重量%
ドデカン二酸 10重量%(製品名:SL-12、岡村製油(株)製)
マロン酸 1重量%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2重量%
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(製品名:イルガノックス245、BASFジャパン(株)製) 1重量%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 29重量%
【0060】
ソルダペースト組成物の作製
前記フラックス11.0重量%と、表1から表2に記載の各鉛フリーはんだ合金の粉末(粉末粒径20μmから38μm)89.0重量%とを混合し、実施例14、15、21、22、25から31、参考例1から13、16から20、23、24および比較例1から19に係る各ソルダペースト組成物を作製した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
(1)はんだ亀裂試験(-40℃から125℃)
・3.2mm×1.6mmチップ部品(チップA)
3.2mm×1.6mmのサイズのチップ部品(Ni/Snめっき)と、当該サイズのチップ部品を実装できるパターンを有するソルダレジストおよび前記チップ部品を接続する電極(1.6mm×1.2mm)とを備えたガラスエポキシ基板と、同パターンを有する厚さ150μmのメタルマスクを用意した。
前記ガラスエポキシ基板上に前記メタルマスクを用いて各ソルダペースト組成物を印刷し、それぞれ前記チップ部品を搭載した。
その後、リフロー炉(製品名:TNP-538EM、(株)タムラ製作所製)を用いて前記各ガラスエポキシ基板を加熱してそれぞれに前記ガラスエポキシ基板と前記チップ部品とを電気的に接合するはんだ接合部を形成し、前記チップ部品を実装した。この際のリフロー条件は、プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度を245℃とし、200℃以上の時間が65秒間、220℃以上の時間が45秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度を3℃から8℃/秒とし、酸素濃度は1500±500ppmに設定した。
次に、-40℃(30分間)から125℃(30分間)の条件に設定した冷熱衝撃試験装置(製品名:ES-76LMS、日立アプライアンス(株)製)を用い、冷熱衝撃サイクルを1,000、1,500、2,000、2,500、3,000サイクル繰り返す環境下に前記各ガラスエポキシ基板をそれぞれ曝した後これを取り出し、各試験基板を作製した。
次いで各試験基板の対象部分を切り出し、これをエポキシ樹脂(製品名:エポマウント(主剤および硬化剤)、リファインテック(株)製)を用いて封止した。更に湿式研磨機(製品名:TegraPol-25、丸本ストルアス(株)、製)を用いて各試験基板に実装された前記チップ部品の中央断面が分かるような状態とし、形成されたはんだ接合部に発生した亀裂がはんだ接合部を完全に横断して破断に至っているか否かを走査電子顕微鏡(製品名:TM-1000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察し、以下の基準にて評価した。その結果を表3および表4に表す。なお、各冷熱衝撃サイクルにおける評価チップ数は10個とした。
◎:3,000サイクルまではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生しない
○:2,501から3,000サイクルの間ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
△:2,001から2,500サイクルの間ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
×:2,000サイクル未満ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
【0064】
・2.0×1.2mmチップ部品(チップB)
2.0×1.2mmのサイズのチップ部品(Ni/Snめっき)と、当該サイズのチップ部品を実装できるパターンを有するソルダレジストおよび前記チップ部品を接続する電極(1.25mm×1.0mm)とを備えたガラスエポキシ基板を用いた以外は3.2mm×1.6mmチップ部品と同じ条件にて試験基板を作成し、且つ同じ方法にて評価した。その結果を表3および表4に表す。
【0065】
(2)SnめっきSONにおけるはんだ亀裂試験
6mm×5mm×0.8tmmサイズの1.3mmピッチSON(Small Outline Non-leaded package)部品(端子数8ピン、製品名:STL60N3LLH5、STMicroelectronics社製)と、当該SON部品を実装できるパターンを有するソルダレジストおよび前記SON部品を接続する電極(メーカー推奨設計に準拠)とを備えたガラスエポキシ基板と、同パターンを有する厚さ150μmのメタルマスクを用意した。
前記ガラスエポキシ基板上に前記メタルマスクを用いて各ソルダペースト組成物を印刷し、それぞれに前記SON部品を搭載した。その後、冷熱衝撃サイクルを1,000、2,000、3,000サイクル繰り返す環境下に各ガラスエポキシ基板を置く以外は上記はんだ亀裂試験(1)と同じ条件にて前記ガラスエポキシ基板に冷熱衝撃を与え、各試験基板を作製した。
次いで各試験基板の対象部分を切り出し、これをエポキシ樹脂(製品名:エポマウント(主剤および硬化剤)、リファインテック(株)製)を用いて封止した。更に湿式研磨機(製品名:TegraPol-25、丸本ストルアス(株)製)を用いて各試験基板に実装された前記SON部品の中央断面が分かるような状態とし、はんだ接合部に発生した亀裂がはんだ接合部を完全に横断して破断に至っているか否かについて走査電子顕微鏡(製品名:TM-1000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察した。この観察に基づき、はんだ接合部について、はんだ母材(本明細書においてはんだ母材とは、はんだ接合部のうちSON部品の電極の界面およびその付近以外の部分を指す。以下同じ。なお表3および表4においては単に「母材」と表記する。)に発生した亀裂と、はんだ接合部とSON部品の電極の界面(の金属間化合物)に発生した亀裂に分けて以下のように評価した。その結果を表3および表4に表す。なお、各冷熱衝撃サイクルにおける評価SON数は20個とし、SON1個あたりゲート電極の1端子を観察し、合計20端子の断面を確認した。
【0066】
・はんだ母材に発生した亀裂
◎:3,000サイクルまではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生しない
○:2,001から3,000サイクルの間ではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生
△:1,001から2,000サイクルの間ではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生
×:1,000サイクル未満ではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生
【0067】
・はんだ接合部とSON部品の電極の界面に発生した亀裂
◎:3,000サイクルまで前記界面を完全に横断する亀裂が発生しない
○:2,001から3,000サイクルの間で前記界面を完全に横断する亀裂が発生
△:1,001から2,000サイクルの間で前記界面を完全に横断する亀裂が発生
×:1,000サイクル未満で前記界面を完全に横断する亀裂が発生
【0068】
(3)はんだ亀裂試験(-40℃から150℃)
車載用基板等は寒暖差の非常に激しい過酷な環境下に置かれるため、これに用いられるはんだ合金は、このような環境下においても良好な亀裂進展抑制効果を発揮することが求められる。そのため、本実施例に係るはんだ合金がこのようなより過酷な条件下においても当該効果を発揮し得るかどうかを明確にすべく、液槽式冷熱衝撃試験装置を用いて-40℃から150℃の寒暖差におけるはんだ亀裂試験を行った。その条件は以下のとおりである。
先ずはんだ接合部形成後の各ガラスエポキシ基板を-40℃(5分間)から150℃(5分間)の条件に設定した液槽式冷熱衝撃試験装置(製品名:ETAC WINTECH LT80、楠本(株)製)を用いて冷熱衝撃サイクルを1,000、2,000、3,000サイクル繰り返す環境下に曝す以外は上記はんだ亀裂試験(1)と同じ条件にて、3.2×1.6mmチップ部品搭載および2.0×1.2mmチップ部品搭載の各試験基板を作製した。
次いで各試験基板の対象部分を切り出し、これをエポキシ樹脂(製品名:エポマウント(主剤および硬化剤)、リファインテック(株)製)を用いて封止した。更に湿式研磨機(製品名:TegraPol-25、丸本ストルアス(株)、製)を用いて各試験基板に実装された前記チップ部品の中央断面が分かるような状態とし、形成されたはんだ接合部に発生した亀裂がはんだ接合部を完全に横断して破断に至っているか否かを走査電子顕微鏡(製品名:TM-1000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察し、以下の基準にて評価した。その結果を表3および表4に表す。なお、各冷熱衝撃サイクルにおける評価チップ数は10個とした。
◎:3,000サイクルまではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生しない
○:2,001から3,000サイクルの間ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
△:1,001から2,000サイクルの間ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
×:1,000サイクル未満ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
【0069】
(4)ボイド試験
上記はんだ亀裂試験(1)と同じ条件にて、3.2×1.6mmチップ部品搭載および2.0×1.2mmチップ部品搭載の各試験基板を作製した。
次いで各試験基板の表面状態をX線透過装置(製品名:SMX-160E、(株)島津製作所製)で観察し、各試験基板中40箇所のランドにおいて、チップ部品の電極下の領域(図3の破線で囲った領域(a))に占めるボイドの面積率(ボイドの総面積の割合。以下同じ。)とフィレットが形成されている領域(図3の破線で囲った領域(b))に占めるボイドの面積率の平均値を求め、それぞれについて以下のように評価した。その結果を表3および表4に表す。
◎:ボイドの面積率の平均値が3%以下であって、ボイド発生の抑制効果が極めて良好
○:ボイドの面積率の平均値が3%超5%以下であって、ボイド発生の抑制効果が良好
△:ボイドの面積率の平均値が5%超8%以下であって、ボイド発生の抑制効果が十分
×:ボイドの面積率の平均値が8%を超え、ボイド発生の抑制効果が不十分
【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
以上に示す通り、実施例に係る鉛フリーはんだ合金を用いて形成したはんだ接合部は、寒暖の差が激しく振動が負荷されるような過酷な環境下にあっても、そのチップのサイズを問わず、また電極にNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがされているといないとを問わず、はんだ接合部および前記界面付近における亀裂進展抑制効果を発揮し得る。
特に液槽式冷熱衝撃試験装置を用いて寒暖の差を-40℃から150℃とした非常に過酷な環境下においても、実施例のはんだ接合部は良好な亀裂抑制効果を奏することが分かる。
特にNiとCoとを併用した実施例18から実施例31においては、いずれの条件下にあっても良好なはんだ接合部および前記界面付近の亀裂進展抑制効果を発揮し得る。
また、例えば実施例19や実施例22のようにNiやCoを0.25重量%含有させた場合であっても、フィレットにおけるボイドの発生を抑制することができる。
従って、このようなはんだ接合部を有する電子回路基板は車載用電子回路基板といった寒暖差が激しく且つ高い信頼性の求められる電子回路基板にも好適に用いることができる。更にこのような電子回路基板は、より一層高い信頼性が要求される電子制御装置に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 基板
2 絶縁層
3 電極部
4 電子部品
5 外部電極
6 はんだ接合部
7 フラックス残渣
8 端部
10 はんだ接合体
100 電子回路基板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
【請求項2】
更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項3】
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを2重量%以上4重量%以下と、Biを3.1重量%以上3.2重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからなり、AgとCuとSbとBiとNiとCoのそれぞれの含有量(重量%)が下記式(A)から(D)の全てを満たすことを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
1.6≦Ag含有量+(Cu含有量/0.5)≦5.9 … A
0.85≦(Ag含有量/3)+(Bi含有量/4.5)≦ 2.10 … B
3.6 ≦ Ag含有量+Sb含有量≦ 8.9 … C
0<(Ni含有量/0.25)+(Co含有量/0.25)≦1.19 …D
【請求項4】
更にP、Ga、およびGeの少なくとも1種を合計で0.001重量%以上0.05重量%以下含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項5】
更にFe、Mn、Cr、およびMoの少なくとも1種を合計で0.001重量%以上0.05重量%以下含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部を有することを特徴とする電子回路基板。
【請求項7】
請求項6に記載の電子回路基板を有することを特徴とする電子制御装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-01-05 
出願番号 特願2016-57712(P2016-57712)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (B23K)
P 1 652・ 113- YAA (B23K)
P 1 652・ 537- YAA (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川口 由紀子鈴木 葉子  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 ▲辻▼ 弘輔
金 公彦
登録日 2016-11-25 
登録番号 特許第6047254号(P6047254)
権利者 株式会社タムラ製作所
発明の名称 鉛フリーはんだ合金、電子回路基板および電子制御装置  
代理人 太田 洋子  
代理人 太田 洋子  

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