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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 G01N 審判 一部申し立て 1項2号公然実施 G01N 審判 一部申し立て 2項進歩性 G01N 審判 一部申し立て 1項1号公知 G01N |
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管理番号 | 1338134 |
異議申立番号 | 異議2017-701005 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-10-23 |
確定日 | 2018-02-19 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6119190号発明「分析装置の制御装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6119190号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6119190号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成24年10月30日に特許出願され、平成29年4月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年10月23日付けで特許異議申立人所 智恵子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6119190号の請求項1?5の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものである。そして、本件発明1ないし3は、以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 a) 測定データの保存可能容量の上限値が予め設定された記憶部と、 b) 分析装置を動作させる複数の設定項目のうちの少なくとも1つの設定項目に関してパラメータを使用者に入力させるパラメータ入力手段と、 c) 前記少なくとも1つの設定項目に関するパラメータが入力されると、測定開始前に、前記複数の設定項目のうちの少なくとも一部の設定項目に関するパラメータ及び前記上限値を含む予め決められた数式に基づいて残りの設定項目について入力可能なパラメータの範囲を計算し、所定の形式で使用者に提示する入力可能範囲提示手段と、 を備えることを特徴とする分析装置の制御装置。 【請求項2】 前記分析装置がクロマトグラフであることを特徴とする請求項1に記載の分析装置の制御装置。 【請求項3】 前記分析装置が分光測定装置を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の分析装置の制御装置。」 第3 申立理由の概要 申立人が主張する申立理由の概要は以下のとおりである。 また、申立人は平成29年10月23日付けで検証申出書を提出しており同日付の検証物指示説明書によれば、2006年8月頃購入した株式会社キーエンス製マルチユニット対応データ収集システムNR-500(以下、「検甲1号証」という。)につき、その梱包品の内容形状及び使用形態を明らかにすることとしている。 1 本件発明1は、甲1号証に記載された発明であり、また、甲1号証?甲5号証及び検甲1号証から導き出される事実より、公然知られた又は公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第1?3号に該当し、同項の規定に違反してされたものである。 2 本件発明1は、甲1号証に記載された発明、又は、甲1号証?甲5号証及び検甲1号証の記載から導き出される発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 3 本件発明2及び3は、甲1号証に記載された発明、又は、甲1号証?甲5号証及び検甲1号証の記載から導き出される発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 [証拠方法] 甲1号証 マルチユニット対応 データ収集システム NR-500シリーズユーザーズマニュアル(改訂版) 甲2号証 実験成績証明書(下記の検甲1号証について) 甲3号証 「平成20年度寄贈カタログ」と題する書面 甲4号証 マルチ入力データ収集システムNR-600/500シリーズのカタログ 甲5号証 マルチユニット対応 データ収集システム NR-500シリーズユーザーズマニュアル(3訂3版) 甲6号証 特開平11-326304号公報 甲7号証 特開2000-111537号公報 甲8号証 特開2005-321245号公報 甲9号証 特開2002-232658号公報 検甲1号証 データ収集システムNR-500(2006年8月頃購入) 第4 甲1号証ないし甲5号証及び検甲1号証について 甲1号証ないし甲5号証及び検甲1号証の公知日について、以下、検討する。 1 甲1号証 (1)申立人は、3(4)イ(ア)r(特許異議申立書25頁)において、第4頁の 「改訂履歴 印刷年月日 版数 2005年8月 改訂版」 との記載から、甲1号証は2005年8月に発行されたことが記載されていると主張している。 しかし、上記記載からは、印刷年月日が2005年8月であることが記載されているのみであって、発行された年月日は明らかでない。 (2)申立人は、甲3号証を提出して、証拠説明書において、甲3号証は2009年(平成21年)3月31日に独立行政法人工業所有権情報・研修館が作成したものと説明して、該甲3号証は、甲1号証が少なくとも2008年6月24日以前には頒布された刊行物であること、甲1号証に記載されたデータ収集システムNR-500(以下、単に「NR-500」という。)が少なくとも2008年6月24日以前には製造及び販売されていたことを示していると主張している。 まず、甲3号証には、作成者の記載はなく、作成日についても、右上に「2009.3.31現在」との記載があるのみで、甲3号証の作成者、作成日は、甲3号証の記載から明らかでない。 さらに、甲3号証の「KEYENCE マルチユニット対応 データ収集システム NR-500シリーズ ユーザーズマニュアル 0108-2 96M00361」という記載の「96M00361」と、甲1号証の表紙の右上及び最後の頁の右下の「96M1367」という記載が一致しないから、甲3号証の「KEYENCE マルチユニット対応 データ収集システム NR-500シリーズ ユーザーズマニュアル 0108-2 96M00361」という記載の「96M00361」が甲1号証と同じものを示すとは認められない。 したがって、甲3号証によっても、甲1号証が少なくとも2008年6月24日以前に頒布された刊行物であるとも、甲1号証に記載されたNR-500が少なくとも2008年6月24日以前には製造販売されていたとも認めることはできない。 (3)他に甲1号証の公知日を立証する証拠は提出されていない。 (4)したがって、甲1号証の公知日は、申立人の提出した証拠によっては、認定することができない。 2 検甲1号証 申立人は、検甲1号証について、検証申出書に「2006年8月頃に購入した」としているが、検甲1号証の購入日を立証する証拠は提出されていない。また、検証物指示説明書に記載された検証事項1?8には、検甲1号証の購入日は含まれていないから、検証を行っても、検甲1号証の購入日を認定することができないことは明らかである。 したがって、検甲1号証の公知日は、申立人の提出した証拠によっては、認定することができない。 3 甲2号証 申立人は、2006年8月頃購入したNR-500(検甲1号証)の付属のアプリケーションソフトであるNR-H7WソフトウェアWAVE LOGGER(以下、単に「NR-H7W」という。)をパソコンにインストールし、そこで収集条件の設定を行ったことを説明したものであると主張するが、上記2で検討したとおり、検甲1号証の公知日を認定することができないから、NR-H7Wの公知日も認定することができない。 したがって、甲2号証の実験に用いた検甲1号証に含まれるNR-H7Wの公知日は、申立人の提出した証拠によっては、認定することができない。 4 甲4号証 申立人は、NR-500のカタログである甲4号証により、甲2号証の実験結果が裏付けられるとしており、申立人自身も甲4号証の公知日は、本願の出願よりも後の2015年であるとしていて、甲4号証の公知日を検討する意義はないが、一応、検討する。 甲4号証の最終頁の左下に「Copyright○C 2015 KEYENCE CORPORATION.」(「○C」は、○の中にCが入っている記号を表す。)と記載されているが、この記載のみをもって、甲4号証が2015年に公知になったとは認められない。 したがって、甲4号証の公知日は、申立人の提出した証拠によっては、認定することができない。 5 甲5号証 申立人は、甲5号証は、2016年7月時点のNR-500のユーザーズマニュアルであって、2005年8月当時のNR-500のユーザーズマニュアルの内容と差異がないことを示すと主張するものであって、甲5号証の公知日を検討する意義はないが、一応検討する。 甲5号証の最後から3頁の、 「印刷年月日 版数 2008年6月 初版 2008年10月 2版 2010年4月 改訂1版 ・・・ 2016年7月 3訂3版」 との記載から、甲5号証は2016年7月に発行されたことが記載されていると主張している。 しかし上記記載からは、印刷年月日が2016年7月であることが記載されているのみであって、発行された年月日は明らかでない。 また、他に甲5号証の公知日を立証する証拠は提出されていない。 したがって、甲1号証の公知日は、申立人の提出した証拠によっては、認定することができない。 なお、甲5号証の「改訂履歴」には、2008年6月が「初版」となっており、改訂履歴での改訂版の印刷年月日が2005年8月と記載された甲1号証との関係が不明確である。 第5 当審の判断 以上検討したとおり、甲1、4及び5号証並びにNR-H7Wを含む検甲1号証の公知日を認定することができないから、甲1、4及び5号証が本件特許出願前に頒布された刊行物であるとも、NR-H7Wを含む検甲1号証が公然知られたもの又は実施されたものであるとも認められない。 そうすると、上記第3の申立人が主張する申立理由1?3は、その主引例として甲1号証及び検甲1号証を引用するものであるから、甲1号証の記載内容を調べるまでもなく、また、検甲1号証を検証するまでもなく、理由がない。 第6 申立理由1?3に関する判断 上記のとおり、甲第1号証の公知日を認定することができないが、仮に甲1号証が本件特許出願前に頒布された刊行物であるとして、甲1号証を主引例とする申立理由1?3について、以下、簡潔に検討する。 1 各甲号証に記載された事項 申立人が提出した甲1、2、6?9号証には、以下の事項が記載されている。 (1) 甲1号証に記載された事項 甲1号証に記載されている事項をまとめると、以下の発明が記載されていると認められる。 「測定器や計器からデータや信号をパソコンに収集保存するデータ収集システムであるデータ収集システムNR-500におけるデータ収集、波形確認、レポート作成などを行う付属のアプリケーションソフトウェアWAVE LOGGERをインストールしたパソコンであって、 データ収集前に行う収集条件の設定において、データ収集システムNR-500のデータを収集する収集条件として、収集チャンネル数、設定サンプリング周期などを入力するための手段と、 保存周期、収集チャンネル数、設定サンプリング周期などを変数として保存ファイルサイズを計算する以下(i)又は(ii)の式 (i) ファイルサイズ(kB)=保存周期×収集チャンネル数×4バイト/1024バイト (ii) ファイルサイズ(kB)=(保存周期×CAN以外の収集チャンネル数×4バイト+保存周期×CANユニット1シグナル数×設定サンプリング周期(μs)/CANユニットサンプリング周期(μs)×4バイト)/1024バイト を用いて、保存ファイルサイズを表示する手段と、 を備えたパソコン。」(以下、「甲1発明」という。) そして、甲1号証の10-14頁の「エラーメッセージと対策」には、エラーメッセージが「本件の計測データバッファが一杯になりました。収集を停止しました。」である時の原因が「連続収集時、収集にパソコンでの表示保存が追いついていないため、本体のバッファメモリが足らなくなっています。」であり、対処方法が「サンプリング周期を遅くする、保存周期を短くする、CSV保存ではなく標準形式保存をするか、チャンネル数を減らして下さい。」と記載されている。 (2) 甲2号証について 甲2号証は、検甲1号証の付属のアプリケーションソフトであるNR-H7Wをパソコンにインストールし、そこで収集条件の設定を行ったことを説明したものであり、データ収集システムNR-500につき、以下の(i)?(viii)を示している。 (i)データ収集システムNR-500は、甲1号証と同じ「マルチユニット対応データ収集システムNR-500シリーズユーザーズマニュアル」と題するユーザーズマニュアル、「NR?H7W ソフトウェアWAVE LOGGER」と表示されたコンパクトディスク(以下、単に「NR-H7Wコンパクトディスク」という。)を梱包品として含むこと。 (ii) NR-H7Wコンパクトディスクには、「KEYENCE Copyright(c)2003-2005 KEYENCE CORPORATION All rights reserved. WAVE LOGGER Ver.2.01.00 Data Acquisition Software for NR-500 Series」と表示されており、これをWindows7のパソコンに挿入してインストールしたNR-H7Wでは、「WAVE LOGGER Ver.2.01.00 Copyright (c)2004-2005 KEYENCE CORPORATION」というバージョン情報が表示されること。 (iii)NR-H7Wコンパクトディスクには、甲第1号証と同一のユーザーズフニュアルが収納されていること。 (iv)データ収集システムNR-500は、NR-H7Wにおいて収集条件の設定を行う際には、各チャンネル設定においてチャンネルを設定し、収集チャンネル数を決定した後に、収集条件の設定表示に「120?10000000」などの設定可能な保存周期の数値範囲が表示されること。 (v)データ収集システムNR-500は、これによってデータを収集する前に、NR-H7Wでチャンネル設定を行うにあたり、AD積分時間を変化させた場合には、サンプリング周期の設定可能範囲の表示が変化すること。 (vi)NR-H7Wは、設定可能な範囲として表示される保存周期の範囲内においてその数値を変化させた場合には、収集条件の設定を行う画面において表示される保存ファイルサイズの値が変化すること。 (vii)NR-H7Wにおいては、各チャンネル設定において収集チャンネル数を変化させることによって、設定可能な保存周期の数値範囲の上限として表示される数値が変化すること (viii)NR-H7Wにおいては、設定する収集チャンネル数を変化させることによって設定可能な保存周期の数値範囲の上限の数値は変化するものの、保存周期としてその上限の数値を入力した場合には、表示される保存ファイルサイズの値は、約38.1MByteなどの同一の値となること。 (ix)NR-H7Wは、設定可能な保存周期の数値範囲の上限を越える値が保存周期として入力された場合にはその入力値の文字を、通常の黒色とは異なり、赤色で表示し、そのような数値に設定しないように注意喚起を行うこと。 なお、上の(viii)は、約38.1MByteなどの値が、保存ファイルサイズの上限として予め定められており、保存周期の設定可能範囲の上限として提示された値は、設定した収集チャネル数や、保存ファイルサイズの上限として予め定められた値などを用いて前述の数式から計算されたものであることを示している。 このように、甲第2号証は、NR-H7Wは、設定する保存周期の値が、定まった保存ファイルサイズ(約38.1Mbyteなど)に対応する値を越えることがないように、この定まった保存ファイルサイズや、設定した収集チャンネル数などをもとに、設定可能な保存周期を計算し、その範囲を提示することを示している。 (3)甲6号証に記載された事項 甲6号証には、(i)クロマトグラフ用データ処理装置においては測定者による入力操作の負担を軽減することが求められること、(ii)当該装置の検出器としてフォトダイオードアレイ検出器、PDA検出器等の分光測定装置を用いることが記載されている。 (4)甲7号証に記載された事項 甲7号証には、液体クロマトグラフにおいて保存する記憶装置の記憶媒体には容量があることが記載されている。 (5)甲8号証に記載された事項 甲8号証には、(i)分光光度計として、フォトダイオードアレイ分光光度計があること、(ii)分光光度計において測定途中で測定者等の手を煩わすことなく自動的に測定条件の変更が遂行されることが求められること(iii)測定で得られるデータ量を抑制して、データメモリの使用を効率的に行ってメモリ容量を減らすこと等が記載されている。 (6)甲9号証に記載された事項 甲9号証は、データを蓄積するためのメモリ部の空き容量に基づいてデータを当該空き容量に格納可能かを決めることが記載されている。 2 判断 (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明には、本件発明1の「a) 測定データの保存可能容量の上限値が予め設定された記憶部」及び「c) 前記少なくとも1つの設定項目に関するパラメータが入力されると、測定開始前に、前記複数の設定項目のうちの少なくとも一部の設定項目に関するパラメータ及び前記上限値を含む予め決められた数式に基づいて残りの設定項目について入力可能なパラメータの範囲を計算し、所定の形式で使用者に提示する入力可能範囲提示手段」が記載されていない点で相違する。 イ 相違点の検討 本件発明1は、甲1発明であるとはいえないことから、実質的な相違点である。そして、上記1の各甲号証の摘記事項に鑑みても、甲1発明から、当業者が容易になし得るものではない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、甲1号証には、「予め設定した保存ファイルサイズの範囲と前記入力された収集チャネル数及び設定サンプリング周期などに基づき、上限及び下限の定まった範囲の保存周期を提示するための手段」が記載されているから、本件発明1の 「a) 測定データの保存可能容量の上限値が予め設定された記憶部」及び「c) 前記少なくとも1つの設定項目に関するパラメータが入力されると、測定開始前に、前記複数の設定項目のうちの少なくとも一部の設定項目に関するパラメータ及び前記上限値を含む予め決められた数式に基づいて残りの設定項目について入力可能なパラメータの範囲を計算し、所定の形式で使用者に提示する入力可能範囲提示手段」が記載されている旨主張している。 また、甲2号証には、NR-H7Wは、設定する保存周期の値が、定まった保存ファイルサイズ(約38.1MByteなど)に対応する値を超えることがないように、この定まった保存ファイルサイズや設定した収集チャンネル数などをもとに、設定可能な保存期間を計算し、その範囲を提示することを示しているから、本件発明1の 「a) 測定データの保存可能容量の上限値が予め設定された記憶部」及び「c) 前記少なくとも1つの設定項目に関するパラメータが入力されると、測定開始前に、前記複数の設定項目のうちの少なくとも一部の設定項目に関するパラメータ及び前記上限値を含む予め決められた数式に基づいて残りの設定項目について入力可能なパラメータの範囲を計算し、所定の形式で使用者に提示する入力可能範囲提示手段」が記載されている旨主張している。 まず、甲1号証について検討する。 甲1号証の「保存ファイルサイズ」は、所定の式により計算された値を単に表示しているだけであり、「保存ファイルサイズ」を予め設定する点の記載は認められない。 そして、甲1号証の「保存周期」も単に上限と下限を表示しているだけであって、その上限及び下限が、入力された収集チャネル数及び設定サンプリング周期などに基づき定められている旨の記載も認められない。 逆に、甲1号証には、上記1で摘記したとおり「エラーメッセージと対策」には、「連続収集時、収集にパソコンの表示/保存が追いついていないため、本体のバッファメモリが足りなくなってい」ることを原因として表示される「本体の計測データバッファが一杯になりました。収集を停止」するとのメッセージに対応する対策として、「サンプリング周期を遅くする、保存周期を短くする、CSV保存ではなく標準形式で保存するか、チャンネル数を減らす」との複数の対応策が提示されているにすぎず、ユーザーが、これら複数のユーザー自身が行う必要のある対応策から選択し、本体のバッファメモリを超えないようにしなければならないことが示されている。 一方、本件明細書の【背景技術】及び【発明の解決しようとする課題】に、 「【0006】 記憶部には、前記パラメータの他、測定により取得される測定結果データも保存される。記憶部には物理的容量の限界があることから、測定結果データについても、1度の測定で取得されるデータを保存できる容量の上限値が予め設定されている。 測定結果データの量は測定時間やサンプリングレート等のパラメータによりほぼ予測することが可能である。使用者が全ての設定項目についてパラメータを入力すると、制御装置は、それらのパラメータに基づいて測定を実行した場合に取得される測定結果データの量が予め設定された上限値以下であるか否かを判断する。そして、データ量が上限値を超える場合には、使用者に警告するとともに、パラメータの再入力を促す画面(図2(c))を表示する。」 「【0009】 従来の制御装置では、使用者が種々のパラメータを入力し、それに基づいて計算された測定結果データ量が所定の上限値を超えて警告を受けた場合には、改めて警告を受けないために、使用者がいずれかのパラメータを修正し、それらのパラメータで測定を実行した場合に取得されるデータ量を使用者が自ら計算する必要がある。そのため、測定条件の設定に手間がかかっていた。これは、分光測定装置を備えた液体クロマトグラフに限らず、分析装置全般の制御装置に共通する問題であった。」と記載されているように、甲1号証に記載されている技術は本件発明の従来技術の範疇をでるものではない。 本件発明は、このような従来技術の問題、すなわち甲1号証に記載されている技術の問題を踏まえた上で発明されているものといえ、本件発明の「c) 前記少なくとも1つの設定項目に関するパラメータが入力されると、測定開始前に、前記複数の設定項目のうちの少なくとも一部の設定項目に関するパラメータ及び前記上限値を含む予め決められた数式に基づいて残りの設定項目について入力可能なパラメータの範囲を計算し、所定の形式で使用者に提示する入力可能範囲提示手段」が、甲1号証に記載されておらず、さらに示唆されてもいない。 次に甲2号証について検討する。 甲2号証には、何らかの条件により保存ファイルサイズの上限が定められ、その保存ファイルサイズにより、保存周期の設定可能範囲の上限が提示されているが、この保存ファイルサイズの上限は、測定データの保存可能容量の上限値ではない。また、保存周期の設定可能範囲の上限は、定まったファイルサイズ設定された収集チャンネル数をもとに、設定可能な保存周期を計算し、その範囲を提示しているものの、収集チャンネル数は、保存周期を設定する画面において変更することができないから、収集チャンネル数は入力される少なくとも1つの設定項目に関するパラメータであるとはいえない。そうすると、甲2号証には、本件発明1の 「a) 測定データの保存可能容量の上限値が予め設定された記憶部」及び「c) 前記少なくとも1つの設定項目に関するパラメータが入力されると、測定開始前に、前記複数の設定項目のうちの少なくとも一部の設定項目に関するパラメータ及び前記上限値を含む予め決められた数式に基づいて残りの設定項目について入力可能なパラメータの範囲を計算し、所定の形式で使用者に提示する入力可能範囲提示手段」が記載されているとはいえない。 (2)本件発明2及び3について 本件発明1を引用する本件発明2及び3においても、上記(1)と同様の理由により、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得るものではない。 さらに、甲6号証?甲9号証に記載されている周知技術に鑑みても、本件特許2及び3は当業者が容易になし得たものではない。 3 小括 以上のとおり、仮に甲1号証が本件特許出願前に頒布された刊行物であったとしても、本件発明1?3は、甲1号証に記載された発明であるとはいえないことから、特許法29条第1項第1?3号に該当せず、同項に違反してなされたものではない。そして、本件発明1?3は、甲1号証に記載された発明及び甲6号証?甲9号証に記載されている周知技術に基づいて当業者が容易になし得るものではないことから、特許法第29条第2項に違反してなされたものではない。 第7 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-02-06 |
出願番号 | 特願2012-238543(P2012-238543) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(G01N)
P 1 652・ 113- Y (G01N) P 1 652・ 111- Y (G01N) P 1 652・ 112- Y (G01N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 高田 亜希、田中 秀直 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
福島 浩司 三崎 仁 |
登録日 | 2017-04-07 |
登録番号 | 特許第6119190号(P6119190) |
権利者 | 株式会社島津製作所 |
発明の名称 | 分析装置の制御装置 |
代理人 | 阿久津 好二 |
代理人 | 喜多 俊文 |
代理人 | 江口 裕之 |