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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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異議2016700780 | 審決 | 特許 |
異議2017700456 | 審決 | 特許 |
異議2017700366 | 審決 | 特許 |
異議2018700579 | 審決 | 特許 |
異議2019700012 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 発明同一 C08J |
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管理番号 | 1338142 |
異議申立番号 | 異議2017-701054 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-11-10 |
確定日 | 2018-03-02 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第6123502号発明「熱可塑性樹脂成形品及び熱可塑性樹脂成形品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6123502号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1.本件特許の設定登録までの経緯 本件特許第6123502号に係る出願(特願2013-120487号、以下「本願」という。)は、平成25年6月7日に出願人マツダ株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成29年4月14日に特許権の設定登録(請求項の数10)がされたものである。 2.本件異議申立の趣旨 本件特許につき平成29年11月10日に特許異議申立人木川典子(以下「申立人1」という。)により、また、同日に特許異議申立人望月八千代(以下「申立人2」という。)により、いずれも「特許第6123502号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがそれぞれされた。(以下、各人からの申立てをそれぞれ「申立て1」及び「申立て2」ということがある。) 第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項 本件特許の特許請求の範囲には、請求項1ないし請求項10が記載されており、そのうち請求項1及び7には、以下のとおりの記載がある。 「【請求項1】 炭素繊維を含む熱可塑性樹脂成形品であって、 前記炭素繊維は0.2質量%以上1質量%以下含まれており、 前記炭素繊維の平均長さは0.5mm以上15mm以下であり、 前記熱可塑性樹脂はポリプロピレンであって、カルボキシル基及びカルボニル基の少なくとも一方を有するポリプロピレンを含んでおり、 前記炭素繊維は表面にCl基を有している、熱可塑性樹脂成形品。」 「【請求項7】 炭素繊維と第1の熱可塑性樹脂とを含む第1の樹脂材料と、第2の熱可塑性樹脂を含む第2の樹脂材料とを混練して溶融材料とする工程と、 前記溶融材料を金型内に射出する工程と を備えた熱可塑性樹脂成形品の製造方法であって、 前記第1の樹脂材料に含まれる前記炭素繊維は、平均長さが0.5mm以上15mm以下であって表面にCl基を有しており、 前記第1の熱可塑性樹脂はカルボキシル基及びカルボニル基の少なくとも一方を有するポリプロピレンであり、 前記溶融材料には前記炭素繊維が0.2質量%以上1質量%以下含まれている、熱可塑性樹脂成形品の製造方法。」 (以下、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本件発明1」、請求項7に記載された事項で特定される発明を「本件発明7」という。) 第3 申立人が主張する取消理由 各申立人が主張する取消理由はそれぞれ以下のとおりである。 1.申立人1の取消理由 申立人1は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書1」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第8号証を提示し、具体的な取消理由として、以下の(1)及び(2)が存するとしている。 (1)本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1-1」という。) (2)本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明に甲第2号証ないし甲第8号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1-2」という。) ・申立人1提示の甲号証 甲第1号証:再公表第2010/107022号公報 (平成24年9月20日発行。なお、申立人1は「WO2010/107022」、すなわち「国際公開第2010/107022号」と記載しているが、正確には、国際公開と再公表公報とは別異の刊行物であり、証拠提示されたのは再公表公報であるから、上記のとおり表記・認定する。) 甲第2号証:特開平10-209615号公報 甲第3号証:特開2003-73452号公報 甲第4号証:特開2001-200096号公報 甲第5号証:特開2006-45330号公報 甲第6号証:Polymer-Plastics Technology and Engineering,第47巻(2008年):p.351-357 甲第7号証:特開2009-149823号公報 甲第8号証:特開2006-225467号公報 (以下、上記「甲第1号証」ないし「甲第8号証」をそれぞれ「甲1-1」ないし「甲1-8」と略していう。) 2.申立人2の取消理由 申立人2は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書2」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第13号証を提示し、具体的な取消理由として、以下の(1)及び(2)が存するとしている。 (1)本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、いずれも、甲第1号証に係る出願(以下「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、また、本願と先願とは本願出願時の出願人が同一でなく、さらに、発明者についても同一でないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2-1」という。) (2)本件特許の請求項1及び7に関して、同各項の記載が不備であり、請求項1及び7の各記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないから、請求項1及び7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2-2」という。) ・申立人2提示の甲号証 甲第1号証:特願2014-78311号(特開2015-7216号公報) (優先権主張:平成25年5月30日、特願2013-113883号) 甲第2号証:特開2012-255232号公報 甲第3号証:特開2005-213478号公報 甲第4号証:特開2013-166921号公報(平成25年8月29日公開) 甲第5号証:特開2010-168526号公報 甲第6号証:特開2011-63029号公報 甲第7号証:特開2005-125581号公報 甲第8号証:特開平10-209615号公報 甲第9号証:特開2003-73452号公報) 甲第10-1号証:株式会社三井化学分析センターが2017年10月27日に作成・発行したものと認められる「炭素繊維表面分析」なる表題が付与された実験成績書(報告番号NS17100088) 甲第10-2号証:株式会社三井化学分析センターが2017年10月27日に作成・発行したものと認められる「炭素繊維表面分析」なる表題が付与された実験成績書(報告番号NS17100088)(当審注:甲10-1とは測定試料が相違する。) 甲第11号証:特開2015-123318号公報(平成27年7月6日公開) 甲第12号証:特開2001-81318号公報 甲第13号証:特開2001-200096号公報 (上記のとおり、「甲第1号証」に係る出願を「先願」という。また、以下、「甲第2号証」ないし「甲第9号証」及び「甲第11号証」ないし「甲第13号証」をそれぞれ「甲2-2」ないし「甲2-9」及び「甲2-11」ないし「甲2-13」と略し、「甲第10-1号証」及び「甲第10-2号証」は、併せて「甲2-10」と略していう。) 第4 当審の判断 当審は、 申立人1が主張する上記取消理由1-1及び1-2並びに申立人2が主張する上記取消理由2-1及び2-2についてはいずれも理由がないから、本件の請求項1ないし10に係る発明についての特許はいずれも維持すべきもの、 と判断する。 以下、各取消理由につき、事案に鑑み、取消理由2-2、取消理由1-1及び1-2、取消理由2-1の順で詳述する。 I.取消理由2-2について 申立人2が主張する取消理由2-2は、申立書2の記載(第22頁第7行?第24行)からみて、請求項1及び7の「炭素繊維は表面にCl基を有している」点につき、当該「Cl基」の由来が明確に規定されていないことに基づき、請求項1及び7の記載では、各請求項に記載された事項で特定される発明が明確でないというものと認められる。 しかるに、上記請求項1及び7の「炭素繊維は表面にCl基を有している」との記載は、由来を問わず、炭素繊維の表面にCl基が存在することを規定しているにすぎないものであり、例えば、炭素繊維の表面を塩素化処理したもの及び塩素を含有するサイジング剤により炭素繊維の表面が処理されたもののいずれをも包含するものと理解するのが自然であって、各請求項に記載された事項で特定される発明を不明確化するものとは認められない。 してみると、本件の請求項1及び7の記載では、各請求項に記載された事項で特定される発明が明確であると認められる。 したがって、申立人2が主張する取消理由2-2は、理由がない。 II.取消理由1-1及び1-2について 1.各甲号証の記載事項及び記載された発明 上記取消理由1-1及び1-2は、いずれも本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人1が提示した甲1-1ないし甲1-8に記載された事項の摘示及び当該事項に基づく甲1-1に係る引用発明の認定を行う。 また、複数の異議申立に係る併合審理を行うことに鑑み、申立人2が提示した各甲号証のうち、本願出願前に公知となったものと認められる各甲号証についても、記載事項の概略を摘示する。 なお、各記載事項に付された下線は当審が付したものである。 (1)甲1-1の記載事項及び甲1-1に記載された発明 ア.甲1-1の記載事項 甲1-1には、申立人1が申立書1第9頁第5行ないし第12頁第23行で摘示するとおりの事項を含めて、以下の事項が記載されている。 (a-1) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 第1の樹脂(A1)と反応性官能基を有する第2の樹脂(A2)を溶融混練した溶融混練物(A)、第3の樹脂(B)、および、繊維状充填材(C)を含む繊維強化樹脂組成物であって、各成分の含有量が、第1の樹脂(A1)0.1?75重量%、反応性官能基を有する第2の樹脂(A2)0.1?15重量%、および第3の樹脂(B)10?99.8重量%からなる樹脂組成物100重量部に対し前記繊維状充填材(C)が0.1?300重量部であって、かつ、前記第1の樹脂(A1)と前記第3の樹脂(B)がマトリックス樹脂を形成し、前記第2の樹脂(A2)が該マトリックス樹脂中に粒子状に分散しており、該粒子の数平均粒子径が10?1000nmである繊維強化樹脂組成物。 ・・(中略)・・ 【請求項3】 前記第2の樹脂(A2)の反応性官能基が、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル基の金属塩、エポキシ基、酸無水物基およびオキサゾリン基から選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂組成物。 【請求項4】 前記第1の樹脂(A1)が、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアセタール、スチレン系樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリプロピレンおよびポリエチレンから選ばれる少なくとも1種の樹脂である、請求項1?3のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。 【請求項5】 前記第3の樹脂(B)が、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアセタール、スチレン系樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリプロピレンおよびポリエチレンから選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂である、請求項1?4のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。 ・・(中略)・・ 【請求項8】 前記繊維状充填材(C)が炭素繊維である、請求項1?7のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。 ・・(中略)・・ 【請求項11】 請求項1?10のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物を含む成形材料。 ・・(中略)・・ 【請求項16】 請求項1?10のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物からなる成形品の製造方法であって、前記繊維状充填材(C)を含んだ基材を金型に配置する工程と、前記第3の樹脂(B)を含む樹脂組成物を注入させる工程とを含む成形品の製造方法。 【請求項17】 前記基材に、前記溶融混練物(A)を融着させる工程をさらに含む、請求項16に記載の成形品の製造方法。 【請求項18】 第1の樹脂(A1)および反応性官能基を有する樹脂(A2)を溶融混練して溶融混練物(A)を製造する工程、および前記溶融混練物(A)に、第3の樹脂(B)および繊維状充填材(C)を配合する工程を含む、繊維強化樹脂組成物の製造方法であって 各成分の含有量が、第1の樹脂(A1)0.1?75重量%、反応性官能基を有する第2の樹脂(A2)0.1?15重量%、および第3の樹脂(B)10?99.8重量%からなる樹脂組成物100重量部に対し前記繊維状充填材(C)が0.1?300重量部である繊維強化樹脂組成物の製造方法。 【請求項19】 前記溶融混練物(A)を製造する工程において、第1の樹脂(A1)と第2の樹脂(A2)とを伸張流動させつつ溶融混練する請求項18に記載の繊維強化樹脂組成物の製造方法。」 (a-2) 「【技術分野】 【0001】 本発明は剛性と耐衝撃性のバランスに優れる繊維強化樹脂組成物、成形材料およびその製造方法に関するものである。」 (a-3) 「【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明は剛性と耐衝撃性のバランスに優れる繊維強化樹脂組成物、および成形材料、さらにはその製造方法を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】 発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、分散相を形成する樹脂の配合量が少量でも、分散相の構造を高度に制御することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。 ・・(中略)・・ 【発明の効果】 【0016】 本発明によれば、剛性と耐衝撃性のバランスに優れる繊維強化樹脂組成物を提供することが可能となる。また、本発明の成形材料は、成形性を損なうことなく、成形品とした場合に優れた耐衝撃性および剛性等を兼ね備えるものである。さらには上記成形材料を容易に製造できる製造方法およびこれから得られる成形品をも提供することができる。」 (a-4) 「【0020】 本発明で用いる第1の樹脂(A1)とは、加熱溶融により成形可能な樹脂であれば特に制限されるものではないが、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリスルホン、四フッ化ポリエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリチオエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやABS等のスチレン系樹脂、ゴム質重合体、ポリアルキレンオキサイド等から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。 【0021】 なかでも、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアセタール、スチレン系樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリプロピレンおよびポリエチレンから選ばれる少なくとも1種の樹脂が好ましく用いられる。」 (a-5) 「【0033】 ポリプロピレンの具体例としては、プロピレンの単独重合体またはプロピレンと少なくとも1種のα-オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンなどとの共重合体が挙げられる。 【0034】 α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4ジメチル-1-ヘキセン、1-ノネン、1-オクテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等のプロピレンを除く炭素数2?12のα-オレフィン、が挙げられる。共役ジエンまたは非共役ジエンとしては、ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5-ヘキサジエン等が挙げられる。これらの単量体は、1種類または2種類以上を選択して使用することができる。 【0035】 ポリプロピレン共重合体としては、ランダム共重合体あるいはブロック共重合体を挙げることができる。また、前記以外の単量体を含む共重合体でも良い。 【0036】 好ましいポリプロピレンは、例えば、ポリプロピレン単独重合体、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体などが挙げられる。 【0037】 さらにこれらのポリプロピレンを成形性、耐熱性、靱性、表面性などの必要特性に応じて混合物として用いることも実用上好適である。 【0038】 また、ポリプロピレンは得られる成形品の力学特性を向上させる観点より、変性ポリプロピレンを含むことが好ましい。変性ポリプロピレンとしては、酸変性ポリプロピレン、アミン変性ポリプロピレン、イミン変性ポリプロピレン、フェノール変性ポリプロピレン等が挙げられる。酸変性ポリプロピレンとは、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩、あるいは酸無水物を官能基として含むポリプロピレンである。酸変性ポリプロピレンは、種々の方法で得ることができる。例えば、カルボン酸基、カルボン酸塩基、酸無水物、あるいはカルボン酸エステル基から選ばれる基を有する単量体を、グラフト重合することにより得ることができる。ここで、グラフト重合する単量体としては、たとえば、エチレン系不飽和カルボン酸、またはその無水物、金属塩、エステル等が挙げられる。」 (a-6) 「【0046】 反応性官能基を有する第2の樹脂(A2)は、第1の樹脂(A1)中に存在する官能基と互いに反応する反応性官能基を分子鎖中に有する樹脂である。第2の樹脂(A2)は、ベースとなる樹脂に反応性官能基を導入して得られる。 【0047】 第2の樹脂(A2)のベースとなる樹脂としては、特に制限されないが、例えばポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリスルホン、四フッ化ポリエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリチオエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやABS等のスチレン系樹脂、ゴム質重合体、ポリアルキレンオキサイド等から選ばれ、かつ、前述の第1の樹脂(A1)とは異なる少なくとも1種の樹脂を用いることができる。中でも第2の樹脂(A2)のベースとなる樹脂としては、反応性官能基の導入の容易さから、ポリエチレン、ポリプロピレン樹脂、スチレン系樹脂およびゴム質重合体から選ばれた樹脂がより好ましく、さらに衝撃吸収性付与の観点から、ゴム質重合体がさらに好ましい。 【0048】 ゴム質重合体は、ガラス転移温度が低い重合体を含有し、分子間の一部が共有結合、イオン結合、ファンデルワールス力、絡み合い等により、拘束されている重合体である。ゴム質重合体のガラス転移温度が25℃以下が好ましい。ゴム質重合体としては、例えばポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、該ブロック共重合体の水素添加物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ブタジエン-イソプレン共重合体などのジエン系ゴム;エチレン-プロピレンのランダム共重合体およびブロック共重合体;エチレン-ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体;エチレンとα-オレフィンとの共重合体;エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体などのエチレン-不飽和カルボン酸共重合体;エチレン-アクリル酸エステル、エチレン-メタクリル酸エステルなどのエチレン-不飽和カルボン酸エステル共重合体;不飽和カルボン酸の一部が金属塩である、エチレン-アクリル酸-アクリル酸金属塩、エチレン-メタクリル酸-メタクリル酸金属塩などのエチレン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸金属塩共重合体;アクリル酸エステル-ブタジエン共重合体、例えばブチルアクリレート-ブタジエン共重合体などのアクリル系弾性重合体;エチレン-酢酸ビニルなどのエチレンと脂肪酸ビニルとの共重合体;エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン-プロピレン-ヘキサジエン共重合体などのエチレン-プロピレン非共役ジエン3元共重合体;ブチレン-イソプレン共重合体;塩素化ポリエチレン;ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマーなどの熱可塑性エラストマーなどが好ましい例として挙げられる。 ・・(中略)・・ 【0056】 第2の樹脂(A2)が含有する反応性官能基は、第1の樹脂(A1)中に存在する官能基と互いに反応するものであれば特に制限されないが、好ましくは、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシル基の金属塩、水酸基、エポキシ基、酸無水物基、イソシアネート基、メルカプト基、オキサゾリン基、スルホン酸基等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。この中でもアミノ基、カルボキシル基、カルボキシル基の金属塩、エポキシ基、酸無水物基およびオキサゾリン基から選ばれる基は反応性が高く、しかも分解、架橋などの副反応が少ないため、より好ましく用いられる。 【0057】 酸無水物基をゴム質重合体に導入する場合、その方法としては、公知の技術で行うことができ、特に制限はないが、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水エンディック酸、無水シトラコン酸、1-ブテン-3,4-ジカルボン酸無水物等の酸無水物とゴム質重合体の原料である単量体とを共重合する方法、酸無水物をゴム質重合体にグラフトさせる方法などを用いることができる。 ・・(中略)・・ 【0060】 反応性官能基を有する第2の樹脂(A2)における、一分子鎖当りの官能基の数については、特に制限はないが通常1?10個が好ましく、架橋等の副反応を少なくする為に1?5個が好ましい。」 (a-7) 「【0068】 繊維状充填材(C)としては、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などが挙げられる。これらは中空であってもよい。さらにはこれら繊維状充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これら繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤等で予備処理して使用することは、より優れた機械特性を得る意味において好ましい。 【0069】 上記に示した繊維状充填材のうち、より優れた機械特性を得るためには、炭素繊維またはガラス繊維がより好ましく、炭素繊維が最も好ましい。 【0070】 繊維状充填材(C)は、成形品の力学特性を向上させる観点から、引張弾性率が10GPa以上が好ましく、さらに好ましくは50GPaであり、特に200GPa以上が最も好ましい。引張弾性率が10GPa以上の繊維状充填材(C)を選択することによって繊維強化樹脂組成物の剛性が大幅に向上する。 【0071】 繊維状充填材の表面に、二価以上のエポキシ樹脂、アルコキシシリル基を有する樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリ酢酸ビニル、アイオノマーおよび不飽和ポリエステルから選ばれた、いずれか1つ以上が付着していることが、より優れた機械特性を得るためには好ましい。 【0072】 繊維状充填材(C)の含有量は、(A1)、(A2)および(B)の合計を100重量部とした場合に、0.1?300重量部であることが必要であり、より好ましくは、0.1?100重量部である。含有量が0.1重量部に満たない場合は、繊維状充填材の効果が十分に得られないため好ましくない。また、含有量が300重量部を越える場合は、成形時の流動性が低くなり賦形性が悪くなる傾向があるため好ましくない。」 (a-8) 「【0137】 本発明の成形材料の内、ペレット状の成形材料は射出成形などによる複雑形状の成形性に特に優れ、シート状の成形材料は、プレス成形などによる平面または曲面形状の成形性に特に優れる。 【0138】 ペレット状の成形材料またはシート状の成形材料において、繊維状充填材(C)の繊維長には特に制限は無く、連続繊維、不連続繊維とも好適に用いられる。成形材料の流動性の観点からは、不連続繊維が好ましく用いられる。不連続繊維として用いる場合の繊維状充填材の数平均繊維長は、0.1?50mmであることが好ましく、さらに好ましくは、0.2?30mmである。ここで、繊維状充填材の数平均繊維長の測定方法は、以下のようにして行うことができる。成形品の一部を切り出し、電気炉にて空気中500℃で1時間加熱して樹脂を十分に焼却除去して強化繊維を分離する。分離した強化繊維を、無作為に少なくとも400本以上抽出し、光学顕微鏡にてその長さを1μm単位まで測定して、次式により数平均繊維長(Ln)を求める。 【0139】 数平均繊維長(Ln)=(ΣLi)/Ntotal Li:測定した繊維長さ(i=1、2、3、・・・、n) Ntotal:繊維長さを測定した総本数。 【0140】 一方、繊維状充填材(C)が連続繊維である場合は、得られる成形品中での繊維状充填材(C)の数平均繊維長が長く、耐衝撃性に優れる点で好ましい。」 (a-9) 「【実施例】 【0172】 以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。 【0173】 本実施例および比較例に用いた第1の樹脂(A1)は、以下の通りである。 ・・(中略)・・ (A1-13):融点160℃、MFR=0.5g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度0.910g/cm^(3)のポリプロピレン樹脂100重量部と無水マレイン酸1重量部とラジカル発生剤(パーヘキサ(R)25B:日本油脂(株)製)0.1重量部をドライブレンドし、シリンダー温度230℃で溶融混練して得たポリプロピレン樹脂。 (A1-14):融点160℃、MFR=30g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度0.910g/cm^(3)のポリプロピレン樹脂100重量部とフェノールノボラック「タマノル(R) 1010R」(荒川化学工業(株)製)1重量部とラジカル発生剤(パークミル(R)D:日本油脂(株)製)0.4重量部をドライブレンドし、シリンダー温度200℃で溶融混練して得たポリプロピレン樹脂。 (A1-15):ポリフェニレンスルフィド樹脂「スミカエクセル(R) P5003P」(住友化学(株)製)。 【0174】 同様に、反応性官能基を有する第2の樹脂(A2)は、以下の通りである。 (A2-1):グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体「ボンドファースト(R) BF-7L」(住友化学(株)製)。 (A2-2):無水マレイン酸変性エチレン-1-ブテン共重合体「タフマー(R) MH7020」(三井化学(株)製)。 (A2-3):エチレン-メタクリル酸-メタクリル酸亜鉛塩共重合体「ハイミラン(R)1706」(三井・デュポンポリケミカル(株)製)。 (A2-4):グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体「ボンドファースト(R) BF-7M」(住友化学(株)製)。 (A2-5):グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体?g-PMMA樹脂「モディパー(R)A4200」(日油(株)製)。 【0175】 同様に、第3の樹脂(B)は、以下の通りである。 ・・(中略)・・ (B-13):融点160℃、MFR=0.5g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度0.910g/cm^(3)のポリプロピレン樹脂100重量部と無水マレイン酸1重量部とラジカル発生剤(パーヘキサ(R)25B:日本油脂(株)製)0.1重量部をドライブレンドし、シリンダー温度230℃で溶融混練して得たポリプロピレン樹脂。 (B-14):融点160℃、MFR=30g/10分(230℃、2.16kg荷重)、密度0.910g/cm^(3)のポリプロピレン樹脂100重量部とフェノールノボラック「タマノル(R) 1010R」(荒川化学工業(株)製)1重量部とラジカル発生剤(パークミル(R)D:日本油脂(株)製)0.4重量部をドライブレンドし、シリンダー温度200℃で溶融混練して得たポリプロピレン樹脂。 ・・(中略)・・ 【0176】 同様に、繊維状充填材(C)は、以下の通りである。 (C-1):炭素繊維「トレカ(R) T700S」(東レ(株)製)。O/C 0.05、サイジング剤 芳香族系2官能型エポキシ樹脂。数平均繊維長6mmになるようにカットした。 (C-2):炭素繊維「トレカ(R) T700G」(東レ(株)製)。O/C 0.20、サイジング剤 脂肪族系多官能型エポキシ樹脂。数平均繊維長6mmになるようにカットした。 ・・(中略)・・ 【0190】 参考例1?7、17 ・・(中略)・・ 【0194】 参考例9?14、19?29、30、31 原料を表2、4および5に示す配合組成で混合し、二軸押出機のフィード口に投入した。二軸押出機としては、スクリュー径が30mm、スクリューは2条ネジの2本スクリューのL/D0=45の同方向回転完全噛み合い型二軸押出機(日本製鋼所社製、TEXー30α)を使用した。窒素フローを行いながら、表2、4および5に示すシリンダー温度、スクリュー回転数および押出量で溶融混練を行い、吐出口(L/D_(0)=45)よりストランド状の溶融樹脂を吐出した。その際、原料と共に着色剤を投入し、押出物への着色が最大となる時間を滞留時間として測定し、その滞留時間を表2、4および5に示した。また、スクリュー構成Cとして、L/D_(0)=14、23、30の位置から、それぞれ、Lk/D_(0)=4.0、4.0、5.0としたニーディングディスク先端側の頂部とその後面側の頂部との角度である螺旋角度θが、スクリューの半回転方向に20°としたツイストニーディングディスクを設け、伸張流動しつつ溶融混練するゾーン(伸張流動ゾーン)を形成させた。さらに各伸張流動ゾーンの下流側に、逆スクリューゾーンを設け、各逆スクリューゾーンの長さLr/D_(0)は、順番にLr/D_(0)=0.5、0.5、0.5とした。スクリュー全長に対する伸張流動ゾーンの合計の長さの割合(%)を、(伸張流動ゾーンの合計長さ)÷(スクリュー全長)×100により算出すると、29%であった。ベント真空ゾーンはL/D_(0)=38の位置に設け、ゲージ圧力-0.1MPaで揮発成分の除去を行った。吐出されたストランド状の溶融樹脂を、冷却バスを通過させて冷却し、ペレタイザーにより引取りながら裁断することにより、溶融混練物(A)のペレット状のサンプルを得た。 【0195】 該サンプルを80℃で12時間以上真空乾燥後、射出成形により引張試験片を作製し、モルホロジー観察、引張弾性率および引張破断伸度の評価を行った。溶融混練結果および各種評価結果を表2、4および5に示す。 ・・(中略)・・ 【0203】 【表4】 【0204】 【表5】 【0205】 参考例1?15および19?31では、第1の樹脂(A1)と反応性官能基を有する第2の樹脂(A2)を溶融混練することで、第2の樹脂(A2)からなる粒子の数平均粒子径が10?1000nmの範囲に制御されている。また、第2の樹脂(A2)からなる粒子中に第1の樹脂(A1)と第2の樹脂(A2)の反応により生成した化合物よりなる1?100nmの微粒子を含有し、さらに第2の樹脂(A2)からなる粒子中における微粒子の占める面積を20%以上にすることができている。また引張試験からは、引張速度を大きくするに従い、引張弾性率が低下し、引張破断伸度が増大することも分かる。 ・・(中略)・・ 【0208】 実施例1?28、32?45、74、比較例1、4?23、31 原料を表6、7、10?14に示す配合組成で混合し、二軸押出機のフィード口に投入した。二軸押出機としては、スクリュー径が30mm、スクリューは2条ネジの2本のスクリューのL/D_(0)=35の同方向回転完全噛み合い型二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX-30α)を使用した。窒素フローを行いながら、表6、7、10?14に示すシリンダー温度、スクリュー回転数、押出量で溶融混練を行い、吐出口(L/D_(0)=35)よりストランド状の溶融樹脂を吐出した。その際、原料と共に着色剤を投入し、押出物への着色が最大となる時間を滞留時間として測定し、その滞留時間を表6、7、10?14に示した。また、スクリュー構成Fとして、L/D_(0)=7、16、25の位置から始まる3箇所のニーディングゾーンを設け、各ニーディングゾーンの長さLk/D_(0)は、順番にLk/D_(0)=3.0、3.0、3.0とした。さらに各ニーディングゾーンの下流側に、逆スクリューゾーンを設け、各逆スクリューゾーンの長さLr/D_(0)は、順番にLr/D_(0)=0.5、0.5、0.5とした。また、スクリュー全長に対する前記ニーディングゾーンの合計長さの割合は26%であった。またベント真空ゾーンはL/D_(0)=30の位置に設け、ゲージ圧力-0.1MPaで揮発成分の除去を行った。吐出されたストランド状の溶融樹脂を、冷却バスを通過させて冷却し、ペレタイザーにより引取りながら裁断することにより、繊維強化樹脂組成物のペレット状のサンプルを得た。 【0209】 該サンプルを80℃で12時間以上真空乾燥後、射出成形により曲げ試験片およびシャルピー衝撃試験片を作製し、モルホロジー観察、曲げ弾性率およびシャルピー衝撃強度の評価を行った。溶融混練結果および各種評価結果を表6、7、10?14に示す。 ・・(中略)・・ 【0228】 【表11】 【0229】 1)2)実施例39?42は、それぞれ比較例19?22に対する比 実施例43は、比較例12に対する比 実施例44は、比較例17に対する比 実施例45は、比較例21に対する比 ・・(中略)・・ 【0231】 【表13】 【0232】 【表14】 【0233】 1)2)実施例74は、比較例31に対する比 実施例1?10および14?23より、参考例1?15で作製した溶融混練物(A)は、第2の樹脂(A2)からなる粒子の数平均粒子径が10?1000nmで、かつ、第2の樹脂(A2)からなる粒子内の微粒子の占める面積が20%以上である。該溶融混練物(A)を、第3の樹脂(B)および繊維状充填材(C)に少量添加した繊維強化樹脂組成物では、分散相を形成する樹脂(A2)の含有量が少量でも、分散相の構造が高度に制御されるため、比較例8と同等の剛性を有しながら、耐衝撃性を高くすることができる。 ・・(中略)・・ 【0244】 実施例32?45、74より、各種の第3の樹脂(B)を使用しても、参考例9および19?30で作製した溶融混練物(A)は、第2の樹脂(A2)からなる粒子の数平均粒子径が10?1000nmで、かつ、第2の樹脂(A2)からなる粒子内の微粒子の占める面積が20%以上である。該溶融混練物(A)を、第3の樹脂(B)および繊維状充填材(C)に少量添加した繊維強化樹脂組成物では、分散相を形成する樹脂(A2)の含有量が少量でも、分散相の構造が高度に制御されるため、それぞれ対応する比較例12?22、31と同等の剛性を有しながら、耐衝撃性を高くすることができる。 【0245】 実施例46 表15に示す配合組成で溶融混練物(A)と第3の樹脂(B)を混合し、二軸押出機のフィード口に投入した。二軸押出機としては、スクリュー径が30mm、スクリューは2条ネジの2本のスクリューのL/D_(0)=35の同方向回転完全噛み合い型二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX-30α)を使用した。窒素フローを行いながら、表15に示すシリンダー温度、スクリュー回転数、押出量で溶融混練を行い、吐出口(L/D_(0)=35)よりストランド状の溶融樹脂を吐出した。その際、原料と共に着色剤を投入し、押出物への着色が最大となる時間を滞留時間として測定し、その滞留時間を表15に示した。また、スクリュー構成は実施例1同様Fとした。またベント真空ゾーンはL/D_(0)=30の位置に設け、ゲージ圧力-0.1MPaで揮発成分の除去を行った。吐出されたストランド状の溶融樹脂を、冷却バスを通過させて冷却し、ペレタイザーにより引取りながら裁断することにより、樹脂組成物のペレットを得た。 【0246】 本発明の成形材料は、該樹脂組成物のペレット、炭素繊維束(C)をテルペンフェノール重合体(D)を、表15に示す配合組成になるように、以下の方法により複合化させることにより製造した。 【0247】 130℃加熱されたロール上に、テルペンフェノール重合体(D)を加熱溶融した液体の被膜を形成させた。ロール上に一定した厚みの被膜を形成するためキスコーターを用いた。このロールに連続した炭素繊維束(C)を接触させながら通過させて、炭素繊維束の単位長さあたりに一定量のテルペンフェノール重合体を付着させた。 【0248】 重合体を付着させた炭素繊維を、180℃に加熱された、ベアリングで自由に回転する、一直線上に配置された10本の直径50mmのロールの上下を、交互に通過させた。この操作により、重合体を繊維束の内部まで含浸させ、炭素繊維とテルペンフェノール重合体よりなる連続した複合体を形成した。130℃におけるテルペンフェノール重合体(D)の、せん断速度10^(3)s^(-1)における溶融粘度は、キャピラリーレオメーターによる測定で約10ポイズであった。 【0249】 この連続した複合体を、直径40mmの単軸押出機の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通し、押出機からダイ中に260℃で溶融させた前記溶融混練物(A)と第3の樹脂(B)からなる樹脂組成物を吐出させた。これにより、前記複合体の周囲を前記樹脂組成物で連続的に被覆した。 【0250】 得られた複合体を常温近くまで冷却後、ストランドカッターにより長さ7mm長のペレット状にカットし、射出成形用のサンプルとした。ここまでの成形材料の製造は連続した工程によりなされ、炭素繊維束の引き取り速度は30m/分であった。該サンプルを80℃で12時間以上真空乾燥後、射出成形により曲げ試験片およびシャルピー衝撃試験片を作製し、モルホロジー観察、曲げ弾性率およびシャルピー衝撃強度の評価を行った。各種評価結果を表15に示す。 【0251】 実施例47?51、52?58、60?73 表15?18に示す配合組成で実施例46と同様の方法で、射出成形用サンプルを作製し、各種評価を行った。結果を表15?18に示す。 ・・(中略)・・ 【0260】 【表18】 ・・(中略)・・ 【0264】 実施例60?73より、各種の樹脂を使用しても、参考例9、19?29で作製した第2の樹脂(A2)からなる粒子の数平均粒子径が10?1000nmで、かつ、第2の樹脂(A2)からなる粒子内の微粒子の占める面積が20%以上である溶融混練物(A)を用いた成形材料では、剛性と耐衝撃性のバランスに優れている。 ・・(中略)・・ 【産業上の利用可能性】 【0279】 本発明によれば、剛性と耐衝撃性のバランスに優れる繊維強化樹脂組成物を提供することが可能となる。また、本発明の成形材料は、成形性を損なうことなく、成形品とした場合に優れた耐衝撃性および剛性等を兼ね備えるものである。さらには上記成形材料を容易に製造できる製造方法およびこれから得られる成形品をも提供することができる。」 イ.甲1-1に記載された発明 上記甲1-1には、申立人1が摘示した記載事項及び上記(a-1)ないし(a-9)の各記載(特に下線部参照)からみて、 「ポリプロピレンである第1の樹脂(A1)とカルボキシル基である反応性官能基を有する第2の樹脂(A2)を溶融混練した溶融混練物(A)、ポリプロピレンである第3の樹脂(B)、および、炭素繊維である繊維状充填材(C)を含む繊維強化樹脂組成物であって、各成分の含有量が、第1の樹脂(A1)0.1?75重量%、反応性官能基を有する第2の樹脂(A2)0.1?15重量%、および第3の樹脂(B)10?99.8重量%からなる樹脂組成物100重量部に対し前記繊維状充填材(C)が0.1?300重量部である繊維強化樹脂組成物を成形材料とする成形品。」 に係る発明(以下「甲1発明1」という。)及び 「ポリプロピレンである第1の樹脂(A1)およびカルボキシル基である反応性官能基を有する樹脂(A2)を溶融混練して溶融混練物(A)を製造する工程、 前記溶融混練物(A)に、ポリプロピレンである第3の樹脂(B)および炭素繊維である繊維状充填材(C)を配合し溶融混練する工程を含む方法により製造された繊維強化樹脂組成物を成形材料として、当該成形材料を金型内に射出することにより成形する成形品の製造方法であって、各成分の含有量が、第1の樹脂(A1)0.1?75重量%、反応性官能基を有する第2の樹脂(A2)0.1?15重量%、および第3の樹脂(B)10?99.8重量%からなる樹脂組成物100重量部に対し前記繊維状充填材(C)が0.1?300重量部である繊維強化樹脂組成物からなる成形品の製造方法。」 に係る発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。 (2)甲1-2の記載事項 甲1-2には、申立人1が申立書1第12頁下から第2行ないし第13頁第21行で摘示するとおりの、通常のエポキシ樹脂は、多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物であることに由来して、加水分解性塩素又はハロゲン不純物の塩素を含有していることが記載されている。 (3)甲1-3の記載事項 甲1-3には、申立人1が申立書1第13頁下から第5行ないし第14頁第15行で摘示するとおりの、種々のエポキシ樹脂において、残留塩素が検出されることが記載されている。 (4)甲1-4の記載事項 甲1-4には、申立人1が申立書1第14頁第17行ないし第15頁第13行で摘示するとおりの、ポリプロピレンに対して0.1?1.0重量%の炭素繊維を含有する電磁波シールド筐体の製造に有用な導電性樹脂組成物が記載されている。 (5)甲1-5の記載事項 甲1-5には、申立人1が申立書1第15頁第16行ないし第16頁第10行で摘示するとおりの、熱可塑性樹脂100質量部に対して、炭素繊維1?20質量部及び金属繊維1?20質量部を含有する電磁波シールド用又は電子機器のハウジング用の導電性樹脂組成物が記載されている。 (6)甲1-6の記載事項 甲1-6には、申立人1が申立書1第16頁第13行ないし第26行で指摘するとおりの、炭素短繊維強化ポリプロピレン組成物につき、炭素繊維含有量、炭素繊維長及び成形物のアイゾット衝撃強度の対応関係に係る事項が記載されている。 (7)甲1-7の記載事項 甲1-7には、申立人1が申立書1第17頁第1行ないし第18頁第11行で摘示するとおりの、メタロセン触媒を用いて製造されたポリプロピレン樹脂、プロピレンブロック共重合体及び0.5?20重量%の炭素繊維を含有する自動車外装部品の製造に有用なポリプロピレン系樹脂組成物が記載されている。 (8)甲1-8の記載事項 甲1-8には、申立人1が申立書1第18頁第13行ないし第19頁第16行で摘示するとおりの、ポリプロピレン樹脂100重量部に対して、繊維径が2?15μmで繊維長が1?20mmの炭素繊維0.5?100重量部を含有する車両用部品の製造に有用なポリプロピレン系樹脂組成物が記載されている。 (9)申立人2が提示した各甲号証の記載事項 申立人2が提示した甲号証のうち、本願出願前に公知となったものと認められる各甲号証には、以下の事項が記載されている。 ア.甲2-2の記載事項 甲2-2には、申立人2が申立書2第11頁第6行ないし第13頁第6行で摘示するとおりの、エポキシ樹脂サイジング剤でプレサイジングされた炭素繊維束に、分子内に一部中和されたカルボキシル基を有する変性1-プロペン・1-ブテン共重合物が0.1?8.0質量%付与されてなる炭素繊維束を5?70質量%含有する炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物が記載されている。 イ.甲2-3の記載事項 甲2-3には、申立人2が申立書2第13頁第8行ないし第22行で摘示するとおりの、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどの酸変性ポリオレフィン樹脂及び炭素繊維1?80重量%を含有する繊維強化樹脂組成物が記載されている。 ウ.甲2-5の記載事項 甲2-5には、申立人2が申立書2第14頁第10行ないし最下行で摘示するとおりの、ポリプロピレン樹脂、無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びガラス長繊維を含有するガラス長繊維強化ポリプロピレン複合材料が記載されている。 エ.甲2-6の記載事項 甲2-6には、申立人2が申立書2第15頁第2行ないし第27行で摘示するとおりの、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、不飽和カルボン酸変性オレフィン系重合体及びエポキシ系サイジング剤処理された炭素繊維を含有する炭素繊維強化樹脂組成物が記載されている。 オ.甲2-7の記載事項 甲2-7には、申立人2が申立書2第16頁第1行ないし第15行で摘示するとおりの、不飽和カルボン酸変性オレフィン系重合体及びエポキシ系サイジング剤処理された炭素繊維を含有する炭素繊維強化樹脂組成物(ペレット)が記載されている。 カ.甲2-8の記載事項 甲2-8には、申立人2が申立書2第16頁第17行ないし第17頁第14行で摘示するとおりの、通常のエポキシ樹脂は、多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物であることに由来して加水分解性塩素又はハロゲン不純物の塩素を含有していることが記載されている。(上記甲1-2と同一の文献である。) キ.甲2-9の記載事項 甲2-9には、申立人2が申立書2第17頁第16行ないし第18頁第8行で摘示するとおりの、種々のエポキシ樹脂において残留塩素が検出されることが記載されている。(上記甲1-3と同一の文献である。) ク.甲2-12の記載事項 甲2-12には、申立人2が申立書2第19頁第6行ないし第13行で摘示するとおり、「東レ(株)製トレカT700SC-12K-50C」又は「東レ(株)製トレカT300B-12K-50B」なる商品名の炭素繊維が、平均繊維直径約7μmを有することが記載されている。 ケ.甲2-13の記載事項 甲2-13には、申立人2が申立書2第19頁第15行ないし第20頁第1行で摘示するとおりの、ポリプロピレンに対して0.1?1.0重量%の炭素繊維を含有する電磁波シールド筐体の製造に有用な導電性樹脂組成物が記載されている。(上記甲1-4と同一の文献である。) 2.対比・検討 以下、本件発明1と甲1発明1及び本件発明7と甲1発明2をそれぞれ対比して検討を行う。 (1)甲1発明1に基づく検討 ア.対比 本件発明1と甲1発明1とを対比すると、本件発明1と甲1発明1とは、 「炭素繊維を含む熱可塑性樹脂成形品であって、 前記熱可塑性樹脂はポリプロピレンであって、カルボキシル基及びカルボニル基の少なくとも一方を有するポリプロピレンを含んでいる、熱可塑性樹脂成形品。」 の点で一致し、下記の2点で相違するものといえる。 相違点1:「炭素繊維」の含有量につき、本件発明1では「炭素繊維は0.2質量%以上1質量%以下含まれて」いるのに対して、甲1発明1では「第1の樹脂(A1)・・反応性官能基を有する第2の樹脂(A2)・・および第3の樹脂(B)・・からなる樹脂組成物100重量部に対し前記繊維状充填材(C)が0.1?300重量部である」点 相違点2:「炭素繊維」につき、本件発明1では「炭素繊維の平均長さは0.5mm以上15mm以下であ」るのに対して、甲1発明1では「炭素繊維」の長さにつき特定されていない点 相違点3:「炭素繊維」につき、本件発明1では「炭素繊維は表面にCl基を有している」のに対して、甲1発明1では「炭素繊維」である点 イ.各相違点についての検討 (ア)相違点1について 上記相違点1につき検討すると、本件発明1における「炭素繊維は0.2質量%以上1質量%以下含まれて」いるとの含有量の範囲は、甲1発明1における「樹脂組成物100重量部に対し前記繊維状充填材(C)が0.1?300重量部である」との範囲に一見包含・重複するものと解されるが、本件発明1における炭素繊維の配合目的は、電磁波の遮蔽であるのに対して、甲1発明1における繊維状充填材の配合目的につき検討すると、甲1-1には、甲1発明1の成形品における剛性、耐衝撃性などの機械的特性及びそれらのバランスに関する事項のみであり、当該成形品の電磁波シールド性能又は減衰性能に係る記載又は示唆がなく、実施例に係る記載を検討しても、概して樹脂組成物100重量部に対して炭素繊維などの繊維状充填材を10重量部以上使用した場合のみ(摘示(a-9)参照)であり、例えば1重量部以下を使用するような態様が想定されているものとは認められないから、上記相違点1は、実質的な相違点であるものといえる。 なお、申立人1が提示した甲1-4(甲2-13)及び甲1-5並びに申立人2が提示した甲2-12の各甲号証の記載を検討すると、それぞれ、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂と炭素繊維の0.1?20重量%とを含有する熱可塑性樹脂組成物からなる成形体が電磁波シールド(減衰)性能を有することは記載されているものの、当該電磁波シールド(減衰)性能が偏波方向によりばらつくこと及びそのばらつきを低減化・防止できることを想起し得る事項が記載又は示唆されているものとは認められないから、甲1発明1において、電磁波シールド(減衰)性能が偏波方向によりばらつくこと及びそのばらつきを低減化・防止できることを意図し、炭素繊維を0.2?1質量%含有させるべき動機となる事項が存するものとも認められない。 してみると、甲1発明1において、上記甲1-4(甲2-13)及び甲1-5並びに甲2-12の各甲号証に記載された事項を組み合わせようとすべき動機は存するものではないから、上記相違点1に係る事項は、甲1発明1において当業者が適宜なし得る事項ということはできない。 (イ)相違点2及び3について 上記相違点2及び3については、上記(ア)で説示したとおり、相違点1につき当業者が適宜なし得る事項ということができないのであるから、検討することは要しない。 ウ.本件発明の効果について 本件発明1を含む本件発明の効果につき、本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の特に発明の詳細な説明の記載に基づいてまとめて検討する。 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0002】ないし【0010】)からみて、本件発明は、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含有する熱可塑性樹脂組成物からなる従来技術の電磁波シールド用成形品における水平偏波と垂直偏波とのシールド(減衰)性能のばらつきを抑制することを解決課題とするものと認められ、実施例及び比較例の結果(【0039】ないし【0053】、【図4】)の対比により、変性ポリプロピレン樹脂を使用しない比較例の場合に比して、本件発明に係る実施例の場合に偏波方向の差異に基づく減衰性能の差異の低減化が達成されていることが看取できる。 それに対して、甲1-1には、甲1発明1の成形品における剛性、耐衝撃性などの機械的特性及びそれらのバランスに関する事項のみであり、当該成形品の電磁波シールド性能又は減衰性能に係る記載又は示唆がない。 そして、申立人1が提示した甲1-4(甲2-13)及び甲1-5並びに申立人2が提示した甲2-12の各甲号証の記載を検討しても、それぞれ、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含有する熱可塑性樹脂組成物からなる成形体が電磁波シールド(減衰)性能を有することは記載されているものの、当該電磁波シールド(減衰)性能が偏波方向によりばらつくこと及びそのばらつきを低減化・防止できることを想起し得る事項が記載又は示唆されているものとは認められない。 してみると、甲1発明1において、上記甲1-4(甲2-13)及び甲1-5並びに甲2-12の各甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、甲1発明1の成形品が電磁波シールド(減衰)性能を有することは当業者が予期し得るものと認められるものの、電磁波シールド(減衰)性能に係る偏波方向によるばらつきを低減化・防止できるであろうと当業者が予期し得るものとは認められない。 したがって、本件発明1を含む本件発明は、甲1発明1又は甲1発明1及び上記各甲号証に記載された事項の組合せに基づき当業者が予期し得ない特異な効果を奏しているものと認められる。 エ.小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明1、すなわち甲1-1に記載された発明であるということはできず、また、甲1-1に記載された発明又は甲1-1に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項の組合せに基づいて、当業者が容易に発明することができたものでもない。 (2)甲1発明2に基づく検討 ア.対比 本件発明7と上記甲1発明2とを対比すると、本件発明7と甲1発明2とは、 「炭素繊維と第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とを混練して溶融材料とする工程と、 前記溶融材料を金型内に射出する工程と を備えた熱可塑性樹脂成形品の製造方法であって、 前記第1の熱可塑性樹脂はカルボキシル基及びカルボニル基の少なくとも一方を有するポリプロピレンである、熱可塑性樹脂成形品の製造方法。」 の点で一致し、下記の点で相違するものといえる。 相違点1’:「炭素繊維」の含有量につき、本件発明7では「炭素繊維は0.2質量%以上1質量%以下含まれて」いるのに対して、甲1発明2では「第1の樹脂(A1)・・反応性官能基を有する第2の樹脂(A2)・・および第3の樹脂(B)・・からなる樹脂組成物100重量部に対し前記繊維状充填材(C)が0.1?300重量部である」点 相違点2’:「炭素繊維」につき、本件発明7では「炭素繊維は、平均長さが0.5mm以上15mm以下であって表面にCl基を有して」いるのに対して、甲1発明2では「炭素繊維」であり、長さにつき特定されていない点 相違点4:本件発明7では「炭素繊維と第1の熱可塑性樹脂とを含む第1の樹脂材料と、第2の熱可塑性樹脂を含む第2の樹脂材料とを混練して溶融材料とする工程」であるのに対して、甲1発明2では「カルボン酸基、カルボン酸塩基、酸無水物、あるいはカルボン酸エステル基から選ばれる基を有する酸変性ポリプロピレンなどの第1の樹脂(A1)および反応性官能基を有する樹脂(A2)を溶融混練して溶融混練物(A)を製造する工程、前記溶融混練物(A)に、カルボン酸基、カルボン酸塩基、酸無水物、あるいはカルボン酸エステル基から選ばれる基を有する酸変性ポリプロピレンなどの第3の樹脂(B)およびイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤等で必要に応じて予備処理された炭素繊維などの繊維状充填材(C)を配合し溶融混練する工程」である点 イ.各相違点についての検討 (ア)相違点1’について 上記相違点1’につき検討すると、上記(1)ア.で示した相違点1と同一の事項であるから、上記(1)イ.(ア)で説示した理由と同一の理由により、甲1発明2に対して、実質的な相違点であると共に、他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、甲1発明2に基づき、当業者が適宜なし得ることということはできない。 (イ)相違点2’及び4について 上記相違点2’及び4については、上記(ア)で説示したとおり、相違点1’につき実質的な相違点であると共に、他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、甲1発明2に基づき、当業者が適宜なし得ることということはできないのであるから、検討することは要しない。 ウ.本件発明の効果について 本件発明1を含む本件発明の効果につき、本件特許明細書の特に発明の詳細な説明の記載に基づいて検討すると、上記(1)ウ.で説示したとおり、本件発明は、甲1発明1又は甲1発明1及び上記各甲号証に記載された事項の組合せに基づき当業者が予期し得ない特異な効果を奏しているものと認められるのであるから、本件発明7についても、甲1発明2又は甲1発明2及び上記各甲号証に記載された事項の組合せに基づき当業者が予期し得ない特異な効果を奏しているものと認められる。 エ.小括 以上のとおりであるから、本件発明7は、甲1発明2、すなわち甲1-1に記載された発明であるということはできず、また、甲1-1に記載された発明又は甲1-1に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項の組合せに基づいて、当業者が容易に発明することができたものでもない。 (4)本件発明1及び7に係る対比・検討のまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1及び7は、いずれも、甲1-1に記載された発明(甲1発明1及び甲1発明2)であるということはできず、また、甲1-1に記載された発明又は甲1-1に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項の組合せに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。 3.他の請求項に係る発明について 本件特許の請求項2ないし6に係る発明は、いずれも請求項1に係る本件発明1を引用しているものであり、本件特許の請求項8ないし10に係る発明は、いずれも請求項7に係る本件発明7を引用しているものであるところ、上記2.でそれぞれ説示したとおりの理由により、本件発明1及び7は、いずれも甲1-1に記載された発明(甲1発明1及び甲1発明2)であるということはできず、また、甲1-1に記載された発明又は甲1-1に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項の組合せに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。 したがって、本件特許の請求項2ないし6及び8ないし10に係る発明についても、甲1-1に記載された発明(甲1発明1及び甲1発明2)であるということはできず、また、甲1-1に記載された発明又は甲1-1に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項の組合せに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。 4.取消理由1-1及び1-2に係るまとめ 以上のとおり、本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、いずれも、甲1-1に記載された発明であるということはできず、また、甲1-1に記載された発明又は甲1-1に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項の組合せに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということもできない。 よって、本件の請求項1ないし10に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、取消理由1-1及び1-2は、いずれも理由がない。 III.取消理由2-1について 1.先願又は各甲号証の記載事項及び先願に係る発明 上記取消理由2-1は、本件特許が特許法第29条の2に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人2が提示した先願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「先願明細書等」という。)並びに甲2-4、甲2-10及び甲2-11に記載された事項の摘示及び先願明細書等に記載した発明の認定を行う。 (なお、申立人1が提示した各甲号証及び申立人2が提示した他の各甲号証の記載事項の概略は、上記II.1.で摘示したものを援用する。) なお、各記載事項に付された下線は当審が付したものである。 (1)先願明細書等の記載事項及び先願明細書等に記載した発明 ア.先願明細書等の記載事項 先願明細書等には、申立人2が申立書2第8頁第24行ないし第11頁第4行で摘示するとおりの事項を含めて、以下の事項が記載されている。 (b-1) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)熱可塑性樹脂、 (B)繊維長3?30mmの炭素長繊維0.5?5質量% を含有する、ミリ波の遮蔽性能を有している成形体用の熱可塑性樹脂組成物。 【請求項2】 (A)成分の熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートから選ばれるものである、請求項1記載のミリ波の遮蔽性能を有している成形体用の熱可塑性樹脂組成物。 【請求項3】 (B)成分の炭素長繊維が、炭素繊維を長さ方向に揃えた束ねた状態のものに対して、溶融させた(A)成分の熱可塑性樹脂を含浸させ一体化させたものを3?30mmに切断したものである、請求項1または2記載のミリ波の遮蔽性能を有している成形体用の熱可塑性樹脂組成物。 【請求項4】 ミリ波が、波長1?300GHzの範囲のものである、請求項1?3のいずれか1項記載のミリ波の遮蔽性能を有している成形体用の熱可塑性樹脂組成物。 【請求項5】 請求項1?4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるミリ波の遮蔽性能を有している成形体であって、 前記成形体中に残存する(B)成分の炭素長繊維に由来する炭素繊維の重量平均繊維長が1mm以上であり、 前記成形体の表面抵抗率が1×10^(5)?10^(9)Ω/□の範囲である、ミリ波の遮蔽性能を有している成形体。 【請求項6】 ミリ波レーダ用である請求項5記載のミリ波の遮蔽性能を有している成形体。 【請求項7】 ミリ波レーダの送受信アンテナの保護部材用である請求項5記載のミリ波の遮蔽性能を有している成形体。」 (b-2) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ミリ波レーダ用として適した、ミリ波の遮蔽性能を有している成形体用の熱可塑性樹脂組成物と、それから得られる成形体に関する。 【背景技術】 【0002】 車両の自動運転や衝突防止を目的としてミリ波レーダが利用されている。 ミリ波レーダ装置は、自動車の前面に取り付けられており、電波を送受信するアンテナが組み込まれた高周波モジュール、該電波を制御する制御回路、アンテナおよび制御回路を収納するハウジング、アンテナの電波の送受信を覆うレドームを備えている(特許文献1の背景技術)。 このように構成されたミリ波レーダ装置は、アンテナからミリ波を送受信して、障害物との相対距離や相対速度等を検出することができる。 【0003】 アンテナは、目的とする障害物以外の路面などに反射したものも受信することがあるため、装置の検出精度が低下するおそれがある。 このような問題を解決するため、特許文献1のミリ波レーダ装置では、アンテナと制御回路との間に電波を遮蔽する遮蔽部材を設けている。 前記遮蔽部材は、レドームよりも誘電損失の大きい誘電損失層または磁気損失層のいずれかの層に導電体層を積層させている電波吸収材を使用することが記載されている。 前記誘電損失層は、カーボンナノチューブ、カーボンマイクロコイル、シュンガイトカーボン、カーボンブラック、膨張黒鉛、カーボンファイバーのうちの少なくとも一つから選択されたカーボン材料からなるものが記載されている(段落番号0023)。 前記磁気損失層は、六方晶フェライトからなるものが記載されている(段落番号0023)。 さらに前記誘電損失層または前記磁気損失層は、前記カーボン材料または前記六方晶フェライトよりも高電気抵抗率を有する物質(絶縁性高分子材料または絶縁性無機材料)を含有しているものが好ましいことが記載されている(段落番号0024)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2007-74662号公報 【非特許文献】 【0005】 【非特許文献1】KEC情報,No.225,2013年4月号,p36-41 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は、ミリ波レーダ用として適した、ミリ波の遮蔽性能を有している成形体用の熱可塑性樹脂組成物と、それから得られる成形体を提供することを課題とする。」 (b-3) 「【発明の効果】 【0009】 本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体は、ミリ波の遮蔽性能が優れていることから、特にミリ波レーダの送受信アンテナの保護部材用として適している。 【図面の簡単な説明】 【0010】 【図1】ミリ波の遮蔽性能(電磁波シールド性)の測定方法の説明図。 【図2】実施例および比較例における電磁波シールド性の測定結果を示すグラフ。」 (b-4) 「【0011】 <熱可塑性樹脂組成物> (A)成分の熱可塑性樹脂は特に制限されるものではなく、用途に応じて適宜選択することができる。 (A)成分としては、ポリプロピレン、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、およびこれらの混合物から選ばれるものが好ましい。」 (b-5) 「【0012】 (B)成分の炭素長繊維は、公知のポリアクリロニトリル系、ピッチ系、レーヨン系等からなるものを用いることができるが、ポリアクリロニトリル系の炭素長繊維が好ましい。 ・・(中略)・・ (B)成分の炭素長繊維は、ミリ波の遮蔽性能を高めるため、繊維長が3?30mmであり、繊維長が5?20mmが好ましく、6?15mmがより好ましい。 【0013】 (B)成分の炭素長繊維は、(A)成分と(B)成分との分散性を高めるため、炭素繊維を長さ方向に揃えた束ねた状態のものに溶融させた(A)成分の熱可塑性樹脂を含浸させ一体化させたものを3?30mmに切断したもの(樹脂含浸炭素長繊維束)が好ましい。 ・・(中略)・・ 【0014】 (B)成分として樹脂含浸炭素長繊維束を使用するとき、樹脂含浸炭素長繊維束中の(B)成分の炭素長繊維の含有割合は、10?50質量%が好ましく、10?40質量%がより好ましく、10?30質量%がさらに好ましい。 なお、この場合に樹脂含浸炭素長繊維束に含まれている(A)成分の熱可塑性樹脂は、(A)成分の含有量として計算する。 【0015】 組成物中における(B)成分の炭素長繊維の含有割合は、ミリ波の遮蔽性能を高めるため、0.5?5質量%であり、0.5?3質量%が好ましく、0.8?2質量%がより好ましい。」 (b-6) 「【0017】 <成形体> 本発明の成形体は、上記した熱可塑性樹脂組成物を成形したものであり、形状および大きさなどは用途に応じて選択することができる。 【0018】 本発明の成形体は、ミリ波(所定周波数帯域の電磁波)の遮蔽性能を高めるため、残存する(B)成分の炭素長繊維に由来する炭素繊維の重量平均繊維長が1mm以上であることが好ましく、2mm以上がより好ましく、3mm以上がさらに好ましい。 重量平均繊維長は実施例に記載の方法により測定されるものである。 【0019】 また本発明の成形体は、残存する(B)成分の炭素長繊維に由来する炭素繊維の繊維長が1mm以上のものの含有割合は60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%であることがさらに好ましい。 さらに本発明の成形体は、残存する(B)成分の炭素長繊維に由来する炭素繊維の繊維長が2mm以上のものの含有割合は40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。 【0020】 本発明の成形体は、ミリ波の遮蔽性能を有しているものであり、ミリ波の遮蔽性能を有しているとは、実施例の測定方法で求められるミリ波(所定周波数帯域の電磁波)における電磁波シールド性(放射波の透過阻害性)で評価されるものである。 本発明の成形体における電磁波シールド性は、30dB以上であり、40dB以上であることがより好ましく、50dB以上がさらに好ましい。 本発明におけるミリ波の周波数帯域は、300mm(1GHz)?1mm(300GHz)の範囲であり、20mm(15GHz)?3mm(100GHz)の範囲がより好ましい。 ミリ波の遮蔽性能は、実施例に記載の方法により測定されるものである。 【0021】 本発明の成形体は、前記のように平均残存繊維長が長いことから、(B)成分の含有量が少量であるにも拘わらず、ミリ波の遮蔽性能に加えて導電性も示す。 本発明の成形体の体積抵抗率は1×10^(2)?10^(9)Ω・mの範囲であり、好ましくは1×10^(3)?10^(8)Ω・mの範囲である。 同様に本発明の成形体の表面抵抗率は1×10^(5)?10^(9)Ω/□の範囲であり、好ましくは1×10^(6)?10^(8)Ω/□の範囲である。 【0022】 本発明の成形体は、上記した熱可塑性樹脂組成物を射出成形、プレス成形などの公知の樹脂成形方法を適用して製造することができる。 本発明の成形体は、ミリ波レーダ用として適しており、特にミリ波レーダの送受信アンテナの保護部材用として適している。」 (b-7) 「【実施例】 【0023】 製造例1(樹脂含浸炭素長繊維束の製造) 炭素長繊維(トレカT700SC,引張強度4.9GPa)からなる繊維束(約24000本の繊維の束)を、予備加熱装置による150℃の加熱を経て、クロスヘッドダイに通した。 そのとき、クロスヘッドダイには、2軸押出機,シリンダー温度280℃)から溶融状態のポリプロピレン(サンアロマー(株)製,PMB60A)を供給し、繊維束にポリプロピレンを含浸させた。 その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより所定長さに切断し、長さ8mmのペレット(円柱状成形体)を得た。 炭素長繊維長さは前記ペレット長さと同一となる。このようにして得たペレットは、炭素長繊維が長さ方向にほぼ平行になっていた。 【0024】 実施例1 製造例1により得たペレット(炭素長繊維含有量40質量%)3質量%と、ポリプロピレン樹脂(サンアロマー(株)製,PMB60A)のペレット97質量%を使用し、射出成形機(J-150EII;(株)日本製鋼所製)により、成形温度240℃、金型温度60℃で成形して成形体を得た。 得られた成形体を使用して、表1に示す各測定を実施した。 【0025】 比較例1 製造例により得たペレット(炭素長繊維含有量40質量%)を二軸押出機((株)日本製鋼所;二軸押出機TEX30α)に供給して再度ペレットを成形して、炭素短繊維含有ペレット(円柱状成形体)を得た。 この炭素短繊維含有ペレットと3質量%と、ポリプロピレン樹脂(サンアロマー(株)製 PMB60A)のペレット97質量%を使用し、射出成形機(J-150EII;(株)日本製鋼所製)により、成形温度240℃、金型温度60℃で成形して成形体を得た。 得られた成形体を使用して、表1に示す各測定を実施した。 【0026】 比較例2 製造例により得たペレット(炭素長繊維含有量40質量%)25質量%と、ポリプロピレン樹脂(サンアロマー(株)製 PMB60A)のペレット75質量%を使用し、射出成形機(J-150EII;(株)日本製鋼所製)により、成形温度240℃、金型温度60℃で成形して成形体を得た。 得られた成形体を使用して、表1に示す各測定を実施した。 【0027】 (1)重量平均繊維長 成形品から約3gの試料を切出し、硫酸によりPPを溶解除去して炭素繊維を取り出した。取り出した繊維の一部(500本)から重量平均繊維長を求めた。計算式は、特開2006-274061号公報の〔0044〕、〔0045〕を使用した。 【0028】 (2)電磁波シールド性 図1に示す測定装置を使用した。 上下方向に正対させた1対のアンテナ(広帯域アンテナ;シュワルツベック,BBHA9120A,2-18GHz)11、12の間に測定対象となる成形体10(縦150mm、横150mm、厚み2mm)を保持した。アンテナ12と成形体10の間隔は85mm、成形体10とアンテナ11との間隔は10mmである。 この状態にて、下側のアンテナ12から電磁波(1?18GHz)を放射して、測定対象となる成形体10を透過した電磁波を上側のアンテナ11で受信して、下記式1から電磁波シールド性(放射波の透過阻害性)を求めた。 式1のS_(21)は、透過電磁波と入射電磁波の比を表すSパラメータ(式2)で、ネットワークアナライザにより測定できる。 式1では、電磁波シールド性(dB)を正の値で表すため、Sパラメータの逆数の対数をとった。図1の測定装置では、0?約55dBの範囲が測定可能で、電磁波シールド性が測定上限を超える場合は表1において「>55(dB)」と表記した。 表1に測定結果を示し、電磁波シールド性の変化を図2に示す。 電磁波シールド性=20log(1/|S_(21)|)(単位:dB) (式1) S_(21)=(透過電磁波)/(入射電磁波) (式2) 【0029】 (3)引張強さ(MPa)、引張呼び歪み(%) JIS K7161に準じて引張強さ、引張呼び歪みを測定した。 【0030】 (4)密度 ISO1183に準じて密度を測定した。 【0031】 (5)表面抵抗率及び体積抵抗率 表面抵抗率が5×10^(7)Ω/□以下、体積抵抗率が2×10^(5)Ω・m以下の試料については、低抵抗率計[三菱化学(株)製、ロレスターGP(MCP-T600)]を用い、JIS K7194に準じて表面抵抗率、体積抵抗率を測定した。 表面抵抗率が1×10^(8)Ω/□以上、体積抵抗率が1×10^(4)Ω・m以上の試料は高抵抗率計[三菱化学(株)製、ハイレスターUP(MCP-HT450)]を用い、JIS K6911に準じて表面抵抗率、体積抵抗率を測定した。 なお、例えば表1中、実施例1の「1.1E+07」との表記は「1.1×10^(7)」を示す。 比較例1及び比較例2の「>1.0E+13(Ω/□)」、「>1.0E+9(Ω・m)」は、高抵抗率計の測定上限が、表面抵抗率は1×10^(13)Ω/□、体積抵抗率は1×10^(9)Ω・mであるため、抵抗率がこれらより高いことを表している。 実施例1?3の「5?10E+7(Ω/□)」の記載は、表面抵抗率が低抵抗率計の測定上限より高く、高抵抗率計の測定下限より低いことを表している。 【0032】 【表1】 【0033】 表中、PPはポリプロピレン、CFは炭素繊維を示す。 電磁波シールド性は、数値が大きくなるほどミリ波の遮蔽性能が優れていることを示している。 実施例1と比較例1、実施例3と比較例2の対比から、同量であれば長繊維を使用することで電磁波シールド性を高められることが確認できた。 比較例3では、短繊維の炭素繊維の含有量を増加させることで電磁波シールド性が高められることが確認されたが、比較例3では、実施例1の16倍量以上もの炭素繊維を使用しているにも拘わらず、実施例1の方が電磁波シールド性に優れていた。 比較例4では、炭素長繊維の含有量を増加させると、実施例1?3を超える電磁波シールド性を得られることが確認されたが、この場合も実施例1の16倍量以上もの炭素繊維を使用しており、経済的に不利であるとともに密度が大きく、成形体の軽量化にも不利である。 【0034】 表1および図2に示す周波数帯域は1?18GHzであるが、前記範囲の電磁波シールド性が表1および図2に示す状態であるときには、1?300GHzの周波数帯域においても表皮深さが厚みより十分小さくなることから、炭素繊維配合樹脂が損失媒質として振る舞うので、減衰定数がGHz領域では周波数が高くなるほど大きくなり、高い電磁波シールド性を示すことは知られている。 この事実は、例えば非特許文献1の記載、特にp39-p40にかけての「2.3 損失媒質を利用する電磁遮へい」の記載と「図9 導電材の2層構造の遮へい特性」から確認できる。」 イ.先願明細書等に記載した発明 上記先願明細書等には、上記(b-1)ないし(b-7)の各記載(特に下線部参照)からみて、 「(A)ポリプロピレンである熱可塑性樹脂、 (B)繊維長3?30mmの炭素長繊維0.5?5質量% を含有する、ミリ波の遮蔽性能を有している成形体用の熱可塑性樹脂組成物からなるミリ波の遮蔽性能を有している成形体であって、 前記成形体中に残存する(B)成分の炭素長繊維に由来する炭素繊維の重量平均繊維長が1mm以上であり、 前記成形体の表面抵抗率が1×10^(5)?10^(9)Ω/□の範囲である、ミリ波の遮蔽性能を有している成形体。」 に係る発明(以下「先願発明1」という。)及び 「炭素長繊維からなる繊維束に溶融状態のポリプロピレンを含浸させペレットを得る工程及び当該ペレットとポリプロピレン樹脂を混合し射出成形して成形体を得る工程を含む先願発明1の成形体の製造方法。」 に係る発明(以下「先願発明2」という。)が記載されているといえる。 (2)甲2-4の記載事項 甲2-4には、申立人2が申立書2第13頁下から第4行ないし第14頁第8行で摘示するとおりの、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどの変性ポリプロピレンの添加によるマトリックス樹脂の改質により、炭素繊維とポリプロピレンの界面接着性を向上させる技術が広く公知であることが記載されている。 (3)甲2-10の記載事項 甲2-10は、2通のいずれも株式会社三井化学分析センターが発行したXPSによる炭素繊維製品の表面分析結果に係る実験報告書であり、「トレカT700SC-12K-30E」及び「トレカT700GC-12K-31E」なる2種の製品につき、いずれも表面に塩素を含有することが報告されている。 (4)甲2-11の記載事項 甲2-11には、申立人2が申立書2第18頁最下行ないし第19頁第3行で摘示するとおりの、サンアロマー製「PMB60A」なる商品名のポリプロピレン共重合体がプロピレン-エチレンブロック共重合体であることが記載されている。 2.対比・検討 以下、本件発明1と先願発明1及び本件発明7と先願発明2をそれぞれ対比して検討を行う。 (1)先願発明1に基づく検討 ア.対比 本件発明1と上記先願発明1とを対比すると、本件発明1と先願発明1とは、 「炭素繊維を含む熱可塑性樹脂成形品であって、 前記炭素繊維は0.2質量%以上1質量%以下含まれており、 前記炭素繊維の平均長さは0.5mm以上15mm以下であり、 前記熱可塑性樹脂はポリプロピレンである、熱可塑性樹脂成形品。」 の点で一致し、下記の2点で相違するものといえる。 相違点a:「ポリプロピレン」につき、本件発明1では「カルボキシル基及びカルボニル基の少なくとも一方を有するポリプロピレンを含んで」いるのに対して、先願発明1では当該官能基を有するポリプロピレンを含むことにつき特定されていない点 相違点b:「炭素繊維」につき、本件発明1では「炭素繊維は表面にCl基を有している」のに対して、先願発明1では、「炭素繊維」であり、その表面にCl基を有するか否か不明である点 イ.各相違点についての検討 (ア)相違点aについて 上記相違点aにつき、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載(特に実施例、【図4】)を検討すると、カルボキシル基などの官能基を有する(酸)変性ポリプロピレンの使用の有無により、効果の点で有意な差異が生じているものと認められるから、本件発明1において、カルボキシル基などの官能基を有する(酸)変性ポリプロピレンの使用の有無は、発明の構成に欠くことができない技術事項であるものと認められ、上記相違点aは、実質的な相違点であるものと認められる。 それに対して、甲2-2ないし甲2-7並びに甲1-1にもそれぞれ記載されているとおり、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂及び炭素繊維などの繊維状充填剤を含有する熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂マトリックスと繊維状充填剤との界面接着性などの改善を意図して、カルボキシル基などの官能基を有する(酸)変性ポリプロピレンを使用することは、当業者の周知技術であると認められるものの、電磁波の遮蔽を意図する樹脂組成物において、偏波方向が異なる場合の遮蔽性能の差異の低減化を意図して、(酸)変性ポリプロピレンを使用することまで当業者の周知技術であるとはいえない。 してみると、先願発明1において、上記相違点aは実質的な相違点であり、また、当該相違点aが、上記当業者の周知技術を単に付加することにより解消されるような構成上の微差であると認めることもできない。 (イ)相違点bについて 上記相違点bについては、上記相違点aが実質的な相違点であるから、取消理由2-1の検討において、検討を要しない。 ウ.本件発明1の効果について 本件発明1を含む本件発明の効果につき、本件特許明細書の特に発明の詳細な説明の記載に基づいてまとめて検討する。 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0002】ないし【0010】)からみて、本件発明は、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂と炭素繊維とを含有する熱可塑性樹脂組成物からなる従来技術の電磁波シールド用成形品における水平偏波と垂直偏波とのシールド(減衰)性能のばらつきを抑制することを解決課題とするものと認められ、実施例及び比較例の結果(【0039】ないし【0053】、【図4】)の対比により、変性ポリプロピレン樹脂を使用しない比較例の場合に比して、本件発明に係る実施例の場合に偏波方向の差異に基づく減衰性能の差異の低減化が達成されていることが看取できる。 それに対して、先願明細書等には、先願発明1の成形品において、「ミリ波」なる電磁波シールド(遮蔽)性能に優れることは記載されているものの、当該電磁波シールド(遮蔽)性能が偏波方向によりばらつくこと及びそのばらつきを低減化・防止できることを想起し得る事項が記載又は示唆されているものとは認められない。 してみると、本件発明1を含む本件発明は、先願発明1に基づき当業者が予期し得ない電磁波シールド(減衰)性能に係る偏波方向によるばらつきを低減化・防止できるという特異な効果を奏しているものと認められる。 エ.小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、先願発明1、すなわち先願明細書等に記載された発明と同一であるということはできない。 (3)先願発明2に基づく検討 ア.対比 本件発明7と上記先願発明1を組み合わせた先願発明2とを対比すると、本件発明7と先願発明2とは、 「炭素繊維と第1の熱可塑性樹脂とを含む第1の樹脂材料と、第2の熱可塑性樹脂とを混練して溶融材料とする工程と、 前記溶融材料を金型内に射出する工程と を備えた熱可塑性樹脂成形品の製造方法であって、 前記第1の樹脂材料に含まれる前記炭素繊維の平均長さは0.5mm以上15mm以下であり、 前記第1の熱可塑性樹脂はポリプロピレンであり、 前記溶融材料には前記炭素繊維が0.2質量%以上1質量%以下含まれている、熱可塑性樹脂成形品の製造方法。」 の点で一致し、下記の点で相違するものといえる。 相違点a’:本件発明7では「第1の熱可塑性樹脂はカルボキシル基及びカルボニル基の少なくとも一方を有するポリプロピレン」であるのに対して、先願発明2では「ポリプロピレン」である点 相違点b’:「炭素繊維」につき、本件発明7では「炭素繊維は、・・表面にCl基を有して」いるのに対して、先願発明2では「炭素長繊維」である点 イ.各相違点についての検討 上記相違点a’及びb’につき検討すると、相違点a’及びb’は、それぞれ上記(2)ア.で指摘した相違点a及びbに係る事項と実質的に同一の事項である。 してみると、上記(2)イ.(ア)で説示した理由と同一の理由により、上記相違点a’は、実質的な相違点である。 ウ.本件発明7の効果について 本件発明1を含む本件発明の効果につき、本件特許明細書の特に発明の詳細な説明の記載に基づいて検討すると、上記(2)ウ.で説示したとおり、本件発明は、先願発明1に基づき当業者が予期し得ない特異な効果を奏しているものと認められるのであるから、本件発明7についても、先願発明2に基づき当業者が予期し得ない特異な効果を奏しているものと認められる。 エ.小括 以上のとおりであるから、本件発明7は、先願発明2、すなわち先願明細書等に記載された発明と同一であるということはできない。 (4)本件発明1及び7に係る対比・検討のまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1及び7は、いずれも、先願明細書等に記載された発明(先願発明1及び先願発明2)と同一であるということはできない。 3.他の請求項に係る発明について 本件特許の請求項2ないし6に係る発明は、いずれも請求項1に係る本件発明1を引用しているものであり、本件特許の請求項8ないし10に係る発明は、いずれも請求項7に係る本件発明7を引用しているものであるところ、上記2.でそれぞれ説示したとおりの理由により、本件発明1及び7は、いずれも先願明細書等に記載された発明(先願発明1及び先願発明2)と同一であるということはできない。 したがって、本件特許の請求項2ないし6及び8ないし10に係る発明についても、先願明細書等に記載された発明(先願発明1及び先願発明2)と同一であるということはできない。 4.取消理由2-1に係るまとめ 以上のとおり、本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、いずれも、先願明細書等に記載された発明と同一であるということはできない。 よって、本件の請求項1ないし10に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の2の規定に違反してされたものということはできないから、取消理由2-1は理由がない。 IV.当審の判断のまとめ 以上のとおりであるから、申立人1が主張する取消理由1-1及び1-2並びに申立人2が主張する取消理由2-1及び2-2はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし10に係る発明についての特許は、取り消すことができない。 第5 むすび 以上のとおり、本件特許に係る2件の異議申立において特許異議申立人両者が主張する取消理由はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし10に係る発明についての特許は、取り消すことができない。 ほかに、本件の請求項1ないし10に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-02-22 |
出願番号 | 特願2013-120487(P2013-120487) |
審決分類 |
P
1
651・
161-
Y
(C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J) P 1 651・ 113- Y (C08J) P 1 651・ 537- Y (C08J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 大村 博一 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 小野寺 務 |
登録日 | 2017-04-14 |
登録番号 | 特許第6123502号(P6123502) |
権利者 | マツダ株式会社 |
発明の名称 | 熱可塑性樹脂成形品及び熱可塑性樹脂成形品の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人前田特許事務所 |