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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 特123条1項5号  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1338163
異議申立番号 異議2017-701094  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-22 
確定日 2018-03-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6134781号発明「ハードコーティングフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6134781号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6134781号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、2013年5月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年5月25日(4件)及び同年同月27日、共に韓国)を国際出願日とする特許出願であって、平成29年4月28日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、同年11月22日付けで特許異議申立人 加藤 隆登(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1ないし16に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明16」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基、を含むポリロタキサン化合物(a)とバインダー樹脂(b)との間の架橋物を含むハードコーティング層を含み、前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%である、ハードコーティングフィルム。
【請求項2】
前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が45モル%?65モル%である、請求項1に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項3】
前記環状化合物は、α-シクロデキストリンおよびβ-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンからなる群より選ばれた1種以上を含む、請求項1または2に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項4】
前記ラクトン系化合物は、直接結合または炭素数1?10の直鎖または分枝鎖のオキシアルキレン基を介して前記環状化合物に結合された、請求項1?3のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項5】
前記ラクトン系化合物の残基は、下記化学式1の作用基を含む、請求項1?4のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【化3】

(前記化学式1中、mは、2?11の整数であり、nは、1?20の整数である。)
【請求項6】
前記(メタ)アクリレート系化合物は、直接結合、ウレタン結合、エーテル結合、チオエステル結合またはエステル結合を通じて前記ラクトン系化合物の残基に結合された、請求項1?5のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項7】
前記(メタ)アクリレート系化合物の残基は、下記化学式2の作用基を含む、請求項1?6のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【化4】

(前記化学式2中、R_(1)は、水素またはメチルであり、R_(2)は、炭素数1?12の直鎖または分枝鎖のアルキレン基、炭素数4?20のシクロアルキレン基または炭素数6?20のアリーレン基である。)
【請求項8】
前記線状分子は、ポリオキシアルキレン系化合物またはポリラクトン系化合物である、請求項1?7のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項9】
前記線状分子は、1,000?50,000の重量平均分子量を有する、請求項1?8のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項10】
前記封鎖基は、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン基およびピレン基からなる群より選ばれた1種以上の作用基を含む、請求項1?9のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項11】
前記ポリロタキサン化合物は、100,000?800,000の重量平均分子量を有する、請求項1?10のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項12】
前記バインダー樹脂は、ポリシロキサン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂およびウレタン(メタ)アクリレート系樹脂からなる群より選ばれた1種以上の高分子樹脂またはこれらの共重合体を含む、請求項1?11のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項13】
前記ハードコーティング層は、500g荷重下で4H以上の鉛筆硬度を有する、請求項1?12のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項14】
前記ポリロタキサン化合物(a)とバインダー樹脂(b)との間の架橋物に分散している無機微細粒子をさらに含む、請求項1?13のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項15】
前記ハードコーティング層は、1?300μmの厚さを有する、請求項1?14のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。
【請求項16】
前記ハードコーティング層と結合された高分子樹脂基材層をさらに含む、請求項1?15のいずれか一項に記載のハードコーティングフィルム。」


第3 特許異議申立理由の概要

特許異議申立人は、証拠方法として、以下の甲第1ないし8号証を提出し、おおむね次の取消理由(以下、順に、「取消理由1」ないし「取消理由5」という。)を主張している。

・取消理由1(原文新規事項)
本件特許の請求項1ないし16に係る特許は,国際出願日における国際出願の明細書等に記載した事項を超えるものであるから,特許法第113条第5号に該当し、取り消すべきものである。

・取消理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし16に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

・取消理由3(実施可能要件・委任省令要件)
本件特許の請求項1ないし16に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

・取消理由4(新規性)
本件特許発明1ないし16は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものである文献に記載された発明であるから、本件特許発明1ないし16は特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、本件特許の請求項1ないし16に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・取消理由5(進歩性)
本件特許発明1ないし16は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものである文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項1ないし16に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・証拠方法
甲第1号証:特開2011-46917号公報
甲第2号証:最新UV硬化実用便覧、株式会社技術情報協会、2005年8月31日第1版第2刷発行
甲第3号証:特開2009-204725号公報
甲第4号証:特表2015-522662号公報
甲第5号証:特許第5859170号に対する特許異議申立事件(特許異議申立番号:異議2016-700677号)についての平成29年6月22日付けの取消理由通知書(決定の予告)
甲第6号証:SeRM Super Polymer セルムスーパーポリマー ユーザーガイド 2011.09.07 Version アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社 発行
甲第7号証:昭和電工株式会社発行、カレンズAOIのホームページ(www.karenz.jp/ja/aoi/)からの抜粋
甲第8号証:本件特許の出願経過において提出された、平成29年(2017)年2月2日付け審判請求書及びその添付資料である参考資料1

第4 特許異議申立理由についての判断

1 理由1(原文新規事項)について
本件特許発明1の「前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換基が40モル%?70モル%である」との事項について検討する。
本件特許出願当初明細書(外国語書面に擬制される甲第4号証参照。)には、以下の事項が記載されている。
・「【0024】
前記ポリロタキサン化合物で、前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率は、40モル%?70モル%、好ましくは45モル%?65モル%でありうる。
【0025】
前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率が40モル%未満であれば、前記一実施形態のハードコーティングフィルム製造時に十分な架橋反応が起こらず、前記ハードコーティング層が十分な耐スクラッチ性、耐薬品性または耐摩耗性などの機械的物性を確保できないことがあり、またラクトン系化合物の末端に残留しているヒドロキシ作用基が多くなって前記ポリロタキサン化合物の極性(polarity)が高くなることがあり、前記ハードコーティングフィルムの製造過程で使用可能な非極性溶媒(non polar solvent)との相溶性が低くなって最終製品の品質や外観特性が低下することがある。
【0026】
また、前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率が70モル%超過であれば、前記一実施形態のハードコーティングフィルム製造時に過度な架橋反応が起こり、前記ハードコーティング層が十分な弾性や自己治癒能力を確保し難いことがあり、前記ポリロタキサン化合物に導入される(メタ)アクリレート系作用基の比率が高くなって前記ハードコーティングフィルムが十分な自己治癒能力を持ち難いことがあり、前記ハードコーティングフィルムの架橋度が非常に高くなって弾性が低下することがあり[脆性(brittleness)大幅増加]、前記ハードコーティングフィルムの製造過程でコーティング液の安定性も低下することがある。」
・「【0082】
発明を下記実施例でより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容は下記実施例により限定されるのではない。
【0083】
<合成例:ポリロタキサンの合成>
合成例1
カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]50gを反応器に投入した後、Karenz-AOI[2-acryloylethyl isocyanate、Showadenko(株)]4.53g、ジブチル錫ジラウレート[DBTDL、Merck社]20mg、ヒドラキノンモノメチレンエテール(Hydroquinone monomethylene ether)110mgおよびメチルエチルケトン315gを添加して70℃で5時間反応させて、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状化合物として含むポリロタキサンポリマー液(固形分15%)を得た。
【0084】
このようなポリロタキサンポリマー液をn-ヘキサン(n-Hexane)溶媒に落として高分子を沈殿させ、これを濾過して白色の固体高分子(重量平均分子量:500,000)を得ることができた。
【0085】
前記で反応物として使用したポリロタキサンポリマー[A1000]の1H NMRデータは図1のとおりであり、図2のgCOSY NMRスペクトルを通じてポリロタキサンの環状化合物に結合されたカプロラクトンの構造を確認した。
【0086】
そして、前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液に含まれているポリロタキサンの1H NMRは図3のような形態を有する[ピークの強度(intensity)などは異なり得る]。
【0087】
前記図2のNMRデータを通じてポリロタキサンの環状化合物に含まれているカプロラクトン繰り返し単位の数(図1のm+N)が8.05であることを確認し、繰り返し単位数を8と想定すると、図3の7番ピークは、16.00(2H×8)の強度を有することが分かる。
【0088】
そのために、カプロラクトン繰り返し単位の末端が「OH」で100%置換されると、アクリレート作用基と関係する図3の1番ピークは、4.00(2H×2)になるべきであるため、実際測定された1H NMR値を比較してポリロタキサンの環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を求めることができる。
【0089】
前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は46.8%であった。
【0090】
合成例2
カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]50gを反応器に投入した後、Karenz-AOI[2-acryloylethyl isocyanate、Showadenko(株)]9.06g、ジブチル錫ジラウレート[DBTDL、Merck社]20mg、ヒドラキノンモノメチレンエテール110mgおよびメチルエチルケトン315gを添加して70℃で5時間反応させて、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状化合物として含むポリロタキサンポリマー液(固形分15%)を得た。
【0091】
このようなポリロタキサンポリマー液をn-ヘキサン溶媒に落として高分子を沈殿させ、これを濾過して白色の固体高分子(重量平均分子量:500,000)を得ることができた。
【0092】
前記で反応物として使用したポリロタキサンポリマー[A1000]の1H NMRデータは図1のとおりであり、図2のgCOSY NMRスペクトルを通じてポリロタキサンの環状化合物に結合されたカプロラクトンの構造を確認した。
【0093】
そして、前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液に含まれているポリロタキサンの1H NMRは図3のような形態を有する[ピークの強度(intensity)などは異なり得る]。
【0094】
前記図2のNMRデータを通じてポリロタキサンの環状化合物に含まれているカプロラクトン繰り返し単位の数(図1のm+N)が8.05であることを確認し、繰り返し単位数を8と想定すると、図3の7番ピークは、16.00(2H×8)の強度を有することが分かる。
【0095】
そのために、カプロラクトン繰り返し単位の末端が「OH」で100%置換されると、アクリレート作用基と関係する図3の1番ピークは、4.00(2H×2)になるべきであるため、実際測定された1H NMR値を比較してポリロタキサンの環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を求めることができる。
【0096】
前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は60.0%であった。」

本件特許出願明細書の発明の詳細な説明には、上記のとおりの記載があり、それによると、【0088】、【0089】、【0095】、【0096】には、最終的に得られたポリロタキサンポリマー液の置換率として、46.8%、60.0%の例が記載されている。
また、上記の事項は、請求項1の「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物」なる事項と同義であるものと認められ、この事項の技術的意味については、【0024】ないし【0026】に記載されている。
そうすると、本件特許発明1の「前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換基が40モル%?70モル%である」との事項は、本件特許出願当初明細書から導くことができる技術的事項であるから、原文新規事項ということはできない。

よって、取消理由1は理由がない。

2 理由2(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、本件特許発明に関して、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かを検討する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、高い耐スクラッチ性、耐薬品性および耐摩耗性などの優れた機械的物性と共に自己治癒能力を実現することができ、高強度を有しながらフィルムのカール(curl)を最少化することができるハードコーティングフィルムを提供するものである。」
・「【0048】
前記バインダー樹脂の具体的な例としては、ポリシロキサン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート系樹脂、これらの混合物またはこれらの共重合体が挙げられ、好ましくはウレタン(メタ)アクリレート系樹脂を使用することができる。
【0049】
前記バインダー樹脂は、20,000?800,000の重量平均分子量、好ましくは50,000?700,000の重量平均分子量を有することができる。前記バインダー樹脂の重量平均分子量が過度に小さい場合、前記ハードコーティング層が十分な機械的物性や自己治癒能力を持ち難いことがある。また、前記バインダー樹脂の重量平均分子量が過度に大きい場合、前記ハードコーティング層の形態や物性の均質度が低下することがある。
【0050】
前記バインダー樹脂は、バインダー樹脂自体で使用されて前記ハードコーティング層を形成することもでき、前記バインダー樹脂の前駆体、例えば前記バインダー樹脂合成用単量体またはオリゴマーからも形成され得る。
【0051】
前記バインダー樹脂の前駆体は、光硬化過程、つまり、一定の紫外線または可視光線が照射されると、一定の高分子樹脂を形成することができ、バインダー樹脂の前駆体間に架橋反応を起こしたり前記ポリロタキサン化合物と架橋反応を起こして上述した架橋物を形成することもできる。
【0052】
前記バインダー樹脂の前駆体の具体的な例としては、(メタ)アクリレート基、ビニル基、シロキサン基、エポキシ基およびウレタン基からなる群より選ばれた1種以上の作用基を含む単量体またはオリゴマーを含むことができる。
【0053】
そして、前記バインダー樹脂の前駆体として、上述した単量体またはオリゴマー1種を使用してバインダー樹脂を形成することもできるが、上述した単量体またはオリゴマー2種以上を使用してバインダー樹脂を形成することもできる。
【0054】
前記(メタ)アクリレート基を含む単量体の例として、ジペンタエリトリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチレンプロピルトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、またはこれらの2以上の混合物が挙げられる。
【0055】
前記(メタ)アクリレート基を含むオリゴマーの具体的な例としては、(メタ)アクリレート基を2?10個を含むウレタン変性アクリレートオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー、エーテルアクリレートオリゴマーなどが挙げられる。このようなオリゴマーの重量平均分子量は、1,000?10,000でありうる。
【0056】
前記ビニル基を含む単量体の具体的な例としては、ジビニルベンゼン、スチレンパラメチルスチレンなどがある。
【0057】
前記ウレタン基を含む単量体の具体的な例として、(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトン変性(メタ)アクリレートおよびヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレートとポリイソシアネートが反応して得られたウレタンアクリレートなどが挙げられる。」
・「【0058】
一方、前記ハードコーティングフィルムは、前記ポリロタキサン化合物(a)とバインダー樹脂(b)との間の架橋物に分散している無機微細粒子をさらに含むことができる。
【0059】
前記無機微細粒子は、ナノスケールである無機微細粒子、例えば粒径が約100nm以下、または約10?約100nm、または約10?約50nmのナノ微細粒子を含むことができる。前記無機微細粒子の具体的な例としては、シリカ微粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0060】
前記ハードコーティングフィルム、より具体的に前記ハードコーティング層が上述した無機微細粒子を含むすることによって、ハードコーティングフィルムの硬度がより向上することができる。」
・「【発明を実施するための形態】
【0082】
発明を下記実施例でより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容は下記実施例により限定されるのではない。
【0083】
<合成例:ポリロタキサンの合成>
合成例1
カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]50gを反応器に投入した後、Karenz-AOI[2-acryloylethyl isocyanate、Showadenko(株)]4.53g、ジブチル錫ジラウレート[DBTDL、Merck社]20mg、ヒドラキノンモノメチレンエテール(Hydroquinone monomethylene ether)110mgおよびメチルエチルケトン315gを添加して70℃で5時間反応させて、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状化合物として含むポリロタキサンポリマー液(固形分15%)を得た。
【0084】
このようなポリロタキサンポリマー液をn-ヘキサン(n-Hexane)溶媒に落として高分子を沈殿させ、これを濾過して白色の固体高分子(重量平均分子量:500,000)を得ることができた。
【0085】
前記で反応物として使用したポリロタキサンポリマー[A1000]の1H NMRデータは図1のとおりであり、図2のgCOSY NMRスペクトルを通じてポリロタキサンの環状化合物に結合されたカプロラクトンの構造を確認した。
【0086】
そして、前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液に含まれているポリロタキサンの1H NMRは図3のような形態を有する[ピークの強度(intensity)などは異なり得る]。
【0087】
前記図2のNMRデータを通じてポリロタキサンの環状化合物に含まれているカプロラクトン繰り返し単位の数(図1のm+N)が8.05であることを確認し、繰り返し単位数を8と想定すると、図3の7番ピークは、16.00(2H×8)の強度を有することが分かる。
【0088】
そのために、カプロラクトン繰り返し単位の末端が「OH」で100%置換されると、アクリレート作用基と関係する図3の1番ピークは、4.00(2H×2)になるべきであるため、実際測定された1H NMR値を比較してポリロタキサンの環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を求めることができる。
【0089】
前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は46.8%であった。
【0090】
合成例2
カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]50gを反応器に投入した後、Karenz-AOI[2-acryloylethyl isocyanate、Showadenko(株)]9.06g、ジブチル錫ジラウレート[DBTDL、Merck社]20mg、ヒドラキノンモノメチレンエテール110mgおよびメチルエチルケトン315gを添加して70℃で5時間反応させて、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状化合物として含むポリロタキサンポリマー液(固形分15%)を得た。
【0091】
このようなポリロタキサンポリマー液をn-ヘキサン溶媒に落として高分子を沈殿させ、これを濾過して白色の固体高分子(重量平均分子量:500,000)を得ることができた。
【0092】
前記で反応物として使用したポリロタキサンポリマー[A1000]の1H NMRデータは図1のとおりであり、図2のgCOSY NMRスペクトルを通じてポリロタキサンの環状化合物に結合されたカプロラクトンの構造を確認した。
【0093】
そして、前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液に含まれているポリロタキサンの1H NMRは図3のような形態を有する[ピークの強度(intensity)などは異なり得る]。
【0094】
前記図2のNMRデータを通じてポリロタキサンの環状化合物に含まれているカプロラクトン繰り返し単位の数(図1のm+N)が8.05であることを確認し、繰り返し単位数を8と想定すると、図3の7番ピークは、16.00(2H×8)の強度を有することが分かる。
【0095】
そのために、カプロラクトン繰り返し単位の末端が「OH」で100%置換されると、アクリレート作用基と関係する図3の1番ピークは、4.00(2H×2)になるべきであるため、実際測定された1H NMR値を比較してポリロタキサンの環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を求めることができる。
【0096】
前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は60.0%であった。
【0097】
合成例3
100mlのフラスコにカプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]5gを投入した後、2-Isocyanatoethyl acrylate(AOI-VM、Showadenko(株))1.358g、ジブチル錫ジラウレート[DBTDL、Merck社]2mg、ヒドラキノンモノメチレンエテール11mgおよびメチルエチルケトン31.5gを添加して70℃で5時間反応させて、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状化合物として含むポリロタキサンポリマー液(固形分14.79%)を得た。
【0098】
このようなポリロタキサンポリマー液をn-ヘキサン溶媒に落として高分子を沈殿させ、これを濾過して白色の固体高分子を得ることができた。
【0099】
合成例1および2と同様な方法で、最終的に得られたポリロタキサンポリマー液に含まれているポリロタキサンの1H NMRは図3のような形態を有することを確認した[ピークの強度(intensity)などは異なり得る]。
【0100】
また、合成例1および2と同様な方法で、ポリロタキサンの環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を求めた結果、最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は約100%に近接した。
【0101】
<実施例1?2および比較例:光硬化性コーティング組成物およびハードコーティングフィルムの製造>
実施例1
(1)光硬化性コーティング組成物の製造
前記合成例1で得られたポリロタキサン100重量部に対して、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート100重量部、ペンタエリトリトールヘキサアクリレート50重量部、UA-200PA(多官能ウレタンアクリレート、新中村社)50重量部および光重合開始剤であるIrgacure-184 10重量部をメチルエチルケトン、酢酸エチルおよび酢酸ブチルを含む混合溶媒に固形分50%になるように混合して光硬化性コーティング組成物(E1)を製造した。
【0102】
(2)ハードコーティングフィルムの製造
前記で得られた光硬化性コーティング組成物をそれぞれTACフィルム(厚さ40μm)にワイヤーバー(8号)を用いてコーティングした。そして、コーティング物を90℃で2分間乾燥した後、200mJ/cm2の紫外線を5秒間照射して硬化した。そして、前記硬化物を130℃オーブンで5分間加熱処理して5μmの厚さを有するハードコーティングフィルムを製造した。
【0103】
実施例2
(1)光硬化性コーティング組成物の製造
前記合成例2で得られたポリロタキサンを用いた点を除いては、実施例1と同様な方法で光硬化性コーティング組成物(E2)を製造した
(2)ハードコーティングフィルムの製造
前記光硬化性コーティング組成物(E2)を用いた点を除いては、実施例1と同様な方法でハードコーティングフィルムを製造した。
【0104】
比較例
(1)光硬化性コーティング組成物の製造
前記合成例3で得られたポリロタキサンを用いた点を除いては、実施例1と同様な方法で光硬化性コーティング組成物(CE)を製造した
(2)ハードコーティングフィルムの製造
前記光硬化性コーティング組成物(CE)を用いた点を除いては、実施例1と同様な方法でハードコーティングフィルムを製造した。
【0105】
<実験例:コーティングフィルムの物性評価>
前記実施例で得られたコーティングフィルムの物性を下記のように評価した。
【0106】
1.光学的特性:Haze meter(村上社製のHR-10)を用いて光透過度とヘーズを測定した。
【0107】
2.耐スクラッチ特性の測定:スチールウール(steel wool)に一定の荷重をかけて10回往復でスクラッチを作った後、コーティングフィルムの表面を肉眼で観察し、コーティングフィルムの表面にスクラッチが発生しない最大荷重を測定して耐スクラッチ性を評価した。
【0108】
3.カール(Curl)発生の測定:前記製造されたハードコーティングフィルムを10cm×10cmの大きさで切断し、板ガラス上にハードコーティング層が上に向かうように配置した。そして、前記ハードコーティングフィルムの4つの角部が前記板ガラスから離れた高さを測定し、その平均値をカール特性の指標とした。
【0109】
4.硬度:荷重500gで鉛筆硬度を測定した。
【0110】
前記測定結果を下記表1に示した。
【0111】
【表1】

【0112】
前記表1に示されているように、実施例1および2の組成物をそれぞれ用いて製造されたハードコーティングフィルムは、高い透過度を有しながらも低いヘーズを示して優れた外観特性を有し、それぞれ350gfおよび400gfの荷重がかかるスチールウール(Steel wool)に対してもスクラッチがほとんど発生せず、優れた耐スクラッチ特性を有する点が確認された。
【0113】
特に、実施例1および2の組成物を用いて得られたハードコーティングフィルムは、比較例で得られたハードコーティングフィルムに比べて耐スクラッチ性が高いだけでなく、平面に対して巻かれる程度が微々であるため、カールがほとんど発生しないことが示されて、比較例に比べて硬化収縮によるシワやカール(curl)の発生程度が非常に小さいという点を確認することができた。


本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記のとおりの記載があり、それによると、本件特許発明1の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「高い耐スクラッチ性、耐薬品性および耐摩耗性などの優れた機械的物性と共に自己治癒能力を実現することができ、高強度を有しながらフィルムのカール(curl)を最少化することができるハードコーティングフィルムを提供するもの」である(本件特許明細書の【0014】)。

(ア)本件特許発明1の「バインダー樹脂」およびその配合比について
本件特許明細書の【0014】、【0048】ないし【0057】、【0101】ないし【0103】、【0111】表1には、ポリロタキサンと適切な比率で配合されるバインダー樹脂がいずれの場合であっても、製造されたハードコーティングフィルムは、「高い透過度を有しながらも低いヘーズを示して優れた外観特性を有し」、「スクラッチがほとんど発生せず、優れた耐スクラッチ特性を有」し、「比較例で得られたハードコーティングフィルムに比べて耐スクラッチ性が高いだけでなく、平面に対して巻かれる程度が微々であるため、カールがほとんど発生しないことが示されて、比較例に比べて硬化収縮によるシワやカール(curl)の発生程度が非常に小さい」ことが得られることが、具体的な実施例によって示されている。

そうすると、発明の課題の解決には、「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合さらた環状化合物」をポリロタキサンに含ませることに技術的意味があり、バインダー樹脂の種類により多少の影響があるとしても、ポリロタキサンと反応し架橋するバインダー樹脂の種類に応じて適切な比率で配合すれば発明の課題を解決できるものと、当業者は理解できる。
また、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、多官能ウレタンアクリレートのようなバインダー樹脂で効果がある場合に、それ以外のバインダー樹脂では全く効果がないという技術常識もない。

(イ)「(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入された」との事項について
本件特許明細書の【0083】ないし【0113】には、ポリロタキサンとして、「アクリロイル化ポリロタキサン」が記載されており、末端にアクリレート系化合物が導入されたものが記載されている。
そうすると、メタアクリレート系化合物についても、アクリレート系化合物と同様に反応することは、当業者が予想できることである。
してみれば、一般的な(メタ)アクリレート系化合物であれば、発明の課題を解決できるものと当業者は理解できる。

したがって、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであり、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。

また、請求項1を引用する本件特許発明2ないし13、15及び16についても同様である。

(ウ)本件特許発明14の「ポリロタキサン化合物(a)とバインダー樹脂(b)との間の架橋物に分散している無機微細粒をさらに含む」との事項について
本件特許明細書の【0058】ないし【0060】には、「無機微細粒子」について、具体例が挙げられており、ハードコーティング層が無機微細粒子を含むことによって、ハードコーティングフィルムの硬度を向上することができることが記載されている。
そうすると、実施例において無機微細粒子を含むことが記載されていないものの、無機微細粒子をハードコーティング層に含ませることで硬度が向上するものであり、「高い耐スクラッチ性、耐薬品性および耐摩耗性などの優れた機械的物性と共に自己治癒能力を実現することができ、高強度を有しながらフィルムのカール(curl)を最少化すること」との発明の課題を解決することができるから、請求項1を引用する本件特許発明14は、課題を解決することができると当業者が理解できる。
したがって、本件特許発明14は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであり、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
請求項14を引用する本件特許発明15及び16についても同様である。

よって、取消理由2は理由がない。

3 理由3(実施可能要件・委任省令要件)

物の発明について、実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物の生産、使用をすることができる程度の記載を要する。
そこで、本件特許明細書を検討する。

上記第4の2の記載によると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1の発明特定事項である「ポリロタキサン化合物(a)」、「バインダー樹脂(b)」について、それぞれ、どのようなものであり、また、「ポリロタキサン化合物(a)」及び「バインダー樹脂(b)」については、どの程度の量使用するか明確かつ十分に記載されているといえる。

そして、上記第4の2のとおり、発明の課題の解決には、「末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合さらた環状化合物」をポリロタキサンに含ませることに技術的意味があり、バインダー樹脂の種類により多少の影響があるとしても、ポリロタキサンと反応し架橋するバインダー樹脂の種類に応じて適切な比率で配合すれば課題を解決できるものと、当業者は理解するものであり、本件特許明細書の実施例と同程度以上の効果を必ずしも要求されるものではないから、その実施に過度の試行錯誤を要するとはいえない。

したがって、本件特許発明1について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物の生産、使用をすることができる程度の記載があるといえ、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。

また、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1における、「前記環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%である」および「(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入された」ことの数値範囲の技術上の意義、「バインダー樹脂」の技術上の意義、「ポリロタキサン化合物とバインダー樹脂との間の架橋物に分散している無機微細粒をさらに含むこと」の技術上の意義を理解することができるように記載されたものといえる。
以上より、本件特許明細書の記載は、本件特許発明1についての技術的意義が理解できないとまではいえない。
したがって、本件特許明細書の記載は、委任省令要件を満たしていないとはいえない。

また、本件特許発明2ないし16についても請求項1を引用するものであるから本件特許発明1で述べたのと同様である。

よって、取消理由3は理由がない。

5 取消理由4および5(新規性進歩性)

(1) 甲第1号証に記載された事項及び甲第1号証に記載された発明

ア 甲第1号証に記載された事項

甲第1号証には、次の記載がある。

「【請求項2】
(A)光架橋性ポリロタキサン;を有する光架橋組成物であって、
該光架橋性ポリロタキサンは、ポリロタキサンの環状分子が下記式I
(式中、Mは下記式IIで表され、
Xは、炭素数1?8の直鎖状アルキレン基又はアルケニレン基;炭素数3?20の分岐鎖状アルキレン基又はアルケニレン基;前記アルキレン基又はアルケニレン基の一部が-O-結合または-NH-結合で置換されてなるアルキレン基又はアルケニレン基;または前記アルキレン基の水素の一部が、水酸基、カルボキシル基、アシル基、フェニル基、ハロゲン原子からなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されてなるアルキレン基;であり、nは平均値1?10であり、Yは、光重合性基を有する基である)で表される基を有し、前記ポリロタキサンは、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両端に前記環状分子が脱離しないように封鎖基を配置してなる、上記組成物。
【化2】

・・・
【請求項11】
請求項2?9のいずれか1項記載の組成物由来の架橋体。
・・・
【請求項13】
前記架橋体は、光照射により、前記(A)架橋性ポリロタキサンの前記Yを介して架橋される請求項10?12のいずれか1項記載の架橋体。」
「【実施例1】
【0072】
直鎖分子:ポリエチレングリコール(平均分子量3.5万)、環状分子:α-シクロデキストリン(以下、単に「デキストリン」を「CD」と略記する)、封鎖基:アダマンタンアミン基からなるポリロタキサンを、さらにヒドロキシプロピル化した化合物(以下、ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンを「HAPR35」と略記する)を、WO2005-080469(なお、この文献の内容は全て参考として本明細書に組み込まれる)に記載される方法と同様に調製した(α-CD包接率:25%;ヒドロキシプロピル基修飾率:50%;理論水酸基量:9.7mmol/g;ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により平均重量分子量Mw:150,000)。分子量、分子量分布の測定は、TOSOH HLC-8220GPC装置で行った。カラム:TSKガードカラム Super AW-Hと TSKgel Super AWM-H(2本連結)、溶離液:ジメチルスルホキシド/0.01M LiBr、カラムオーブン:50℃、流速:0.5ml/min、試料濃度を約0.2wt/vol%、注入量:20μl、前処理:0.2μmフィルターでろ過、スタンダード分子量:PEO、の条件下で測定した。
【0073】
<1-1.ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンのポリカプロラクトン修飾>
上記で得たヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(HAPR35)5gをε-カプロラクトン22.5gに、80℃温度下で溶解させた混合液を得た。この混合液を、乾燥窒素をブローさせながら110℃で1時間攪拌した後、2-エチルヘキサン酸錫(II)の50wt%キシレン溶液0.16gを加え、130℃で6時間攪拌した。その後、キシレンを添加し、不揮発濃度が約35wt%ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(HAPR35)X-1のキシレン溶液を得た。
得られた修飾ポリロタキサンX-1について、原料HAPR35の理論水酸基量とガスクロマトグラフィー(GC)のモノマー消費量(ほぼ100%)によりポリカプロラクトンの重合度を調べた結果、重合度:4.1であることがわかった。
【0074】
<1-2.ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンへのアクリロイル基導入>
室温まで冷却したポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンX-1のキシレン溶液にジブチルヒドロキシトルエン(重合禁止剤)0.01gを添加した後、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート7.1gを滴下した。40℃で16時間攪拌し、ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンにアクリロイルオキシエチルカルバモイル基を導入したアクリロイル化ポリロタキサンA-1のキシレン溶液を得た。GPC測定により、得られたポリロタキサンの重量平均分子量Mwは55万であった。得られたポリロタキサンA-1において、Yはアクリロイル基(-OC(=O)-CH=CH_(2))であって、第1のスペーサ基は-C(=O)-NH-CH_(2)-CH_(2)であった。」
「【実施例6】
【0079】
<ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンへのアクリロイル基とブチルカルバモイル基の導入>
実施例1の2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート7.1gの代わりに2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート3.5gとブチルイソシアネート2.5gを使用した以外、実施例1と同様にして、修飾ポリロタキサンA-6を作製した。GPC測定により、得られたポリロタキサンの平均重量分子量Mwは59万であった。得られたA-6において、Yはアクリロイル基(-OC(=O)-CH=CH_(2))であって、第1のスペーサ基は-C(=O)-NH-CH_(2)-CH_(2)であって、さらに、Mの一部がブチルカルバモイル基で修飾されたものであった。」
「【0082】
<光架橋性オリゴマーの調製例>
[合成例1]
<メタクリロイル基変性ポリカーボネートの合成>
ポリカーボネートジオール(ポリアルキレンカーボネートジオール96wt%以上、1,5-ペンタンジオール2wt%以下、1,6-ヘキサンジオール2wt%以下の組成からなるポリカーボネート、旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(登録商標)T-5650J、Mn:800)30gに、キシレン18gに溶解した2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製カレンズ(登録商標)MOI)13.3g、ジブチルヒドロキシトルエン(重合禁止剤)0.01g、ジラウリン酸ジブチルすず0.06gをゆっくり滴下し40℃で5時間反応させ、不揮発分71%のメタクリロイル基両末端変性ポリカーボネートオリゴマーB-1を得た。
得られたオリゴマーB-1の平均重量分子量MwをGPCで調べた結果、1270であることがわかった。
【0083】
[合成例2]
<アクリロイル基変性ポリカプロラクトンオリゴマーの合成>
ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(ダイセル化学工業株式会社製プラクセル(登録商標)FA2D)5gをキシレン13.3gに溶解し、ジラウリン酸ジブチルすず0.02gを添加した。この溶液にイソシアヌレート型ヘキサメチレンジイソシアネート(旭化成ケミカルズ株式会社製デュラネート(登録商標)TPA-100)8.3gを添加し、反応させ、不揮発分が50%の分子内に3つのアクリロイル基を有する変性ポリカプロラクトンオリゴマーB-2を得た。
得られたオリゴマーB-2の平均重量分子量MwをGPCで調べた結果、1540であることがわかった。
【0084】
[合成例3]
<メタクリロイル基変性アクリルコポリマーの合成>
撹拌機、還流冷却器及び温度計を備えた反応器に酢酸ブチル9mlを入れ、120℃還流しながら予め調製したブチルアクリレート14g、メチルメタクリレート4g、ヒドロキシエチルメタクリレート2g、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.2gの混合溶液を反応器に2時間かけて滴下した。その後、AIBN0.2gをさらに加え、3時間反応を続けた。室温まで冷却した反応液をヘキサンに注ぎ、沈降した液状物を回収した。回収物に酢酸ブチル20ml、ジブチルヒドロキシトルエン(重合禁止剤)1mg、ジラウリン酸ジブチルすず0.02gを加えて、40℃で攪拌しながら2-メタクリロイルオキシイソシアネートを滴下し、3時間反応させ、不揮発分が約52%の多数のメタクリロイル基を有するアクリルオリゴマー(ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートの共重合体)B-3を得た(1H-NMR分析により)。GPCで分析した結果、平均重量分子量Mwが7,500で、分散Mw/Mnが1.8であっ
た。また1H-NMRの5.7と6.1ppm付近のCH_(2)=C-のHシグナルよりメタクリロイル基が導入されたことが確認された。
【0085】
[合成例4]
<メタクリロイル基変性ポリエチレングリコールオリゴマーの合成>
ポリエチレングリコールメタアクリレート(Aldrich製、Mn:360)2gをキシレン3gに溶解し、ジラウリン酸ジブチルすず0.01gを添加した。この溶液にイソシアヌレート型ヘキサメチレンジイソシアネート(デュラネート(登録商標)TPA-100)1.0gを添加し、反応させ、不揮発分が50%の分子内に3つのメタクリロイル基を有する変性ポリエチレングリコールオリゴマーB-4を得た。
得られたオリゴマーB-4の平均重量分子量MwをGPCで調べた結果、1740であることがわかった。
【0086】
[合成例5]
<アクリロイル基変性ジメチルシロキサン-カプロラクトンブロックコポリマーの合成>
Carbinol (hydroxyl) terminated polydimethylsiloxane caprolactone block polymer) (Azmax製、Mw 5700?6900)4gをトルエンに溶解し、スズ触媒を添加した。この溶液に2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製カレンズAOI(登録商標))0.22gを添加し、反応させ、両末端アクリロイル基変性ジメチルシロキサン-カプロラクトンブロックコポリマーB-5を得た。
得られたオリゴマーB-5の平均重量分子量MwをGPCで調べた結果、7100であることがわかった。」
「【実施例11】
【0089】
<光架橋性ポリロタキサンを有する組成物由来の架橋体の調製>
実施例1で得られたアクリロイル化ポリロタキサンA-1と合成例1で調製したポリカーボネートオリゴマーB-1を固形分重量比2:8、5:5、7:3の比率でブレンドし、光重合開始剤としてIrgacure500を固形分に対し5wt%添加した。
得られた組成物を剥離剤で処理したガラス基板にバーコーターで塗布し、30mW/cm^(2)で90秒紫外線照射後、硬化膜を110℃で1時間乾燥した。この乾燥膜(厚み0.2mm)を剥離し、切り出して試験片を作製した。
また、得られた組成物を黒アクリル板上に0.1mm厚で塗布し、30mW/cm^(2)で90秒紫外線照射後乾燥し、耐傷性試験用の塗布膜を作製した。」
「【0098】
<架橋体の特性>
上記の実施例9?18、及び比較例1?6で作成した試験片を以下の方法によって評価した。
<<耐折性>>
剥離したシート状のフィルムを180°繰り返し折り曲げて、曲げ筋や破断の確認を行った。その結果、5回試験を行い、変化なしを「○」;5回の試験で若干の曲げ筋あるものを「△」;1回の試験で破断したものを「×」とした。結果を表1に示す。
【0099】
<<耐傷性>>
上述において、黒アクリル板上に作製した試験片について、真鍮製ブラシ(毛材行数3行、線径0.15mm)により試験片の塗膜表面を擦傷し、傷つき度合いを目視により観察した。その結果、傷がつかなったものを「○」;わずかに傷はあるが許容レベルであるものを「△」;すぐに傷がついたものを「×」とした。結果を表1に示す。
【0100】
<<ヒステリシスロス>>
上述の試験法によりヒステリシスロスを測定した。
測定例を図2に示す。図2において、(a)は比較例1、(e)は実施例9の結果を示す。また、(b)、(c)及び(d)は実施例11の結果を示し、それぞれ修飾ポリロタキサンA-1:オリゴマーB-1の重量比が2:8、5:5及び7:3のものを示す。なお、図中の矢印は1回目の延伸曲線を示す。
【0101】
また、図2の引張試験は、引張と回復の回数を5回行ったものであり、それらの履歴が示される。
図2の(e)、即ち実施例9は、履歴がほぼ直線であり、引張と回復の回数を5回行ってもほぼ同じ履歴を示すことがわかる。これをヒステリシスロス値にすると6%であり、値が限りなく0に近く、低ヒステリシスロスであることがわかる。
一方、図2の(a)、即ち比較例1は、5回の履歴がまちまちであることがわかる。これをヒステリシスロス値にすると53%であり、満足するヒステリシスロス値とはなっていないことがわかる。
なお、図2の(b)、(c)及び(d)は、(e)に近い履歴を示し、それぞれヒステリシスロス値が23%、21%及び14%であることがわかる。
【0102】
図2のような引張試験の履歴から、ヒステリシスロス値を求めた。その結果を表1に示す。
【0103】
表1は、上述の特性をまとめた表である。表中、「A」は、用いたポリロタキサン種、「B」は用いた架橋性化合物の種、「A:B」は、用いたポリロタキサンと用いた架橋性化合物の固形分重量比、を示す。
【0104】
表1から、比較例1?6、即ち光架橋性化合物のみを用いて得られた架橋フィルムは、耐折性、耐傷性及びヒステリシスロスのすべてを満足するものは得られなかった。
一方、本発明の架橋体、即ち実施例9?18は、耐折性、耐傷性及びヒステリシスロスのすべてを満足していることがわかる。
これらのことから、本発明の光架橋性ポリロタキサン、これを有する組成物、及び該組成物由来の架橋体は、従来のもの(比較例1?6)と比較して有意な効果、即ち耐折性、耐傷性及びヒステリシスロスのすべてにおいて満足した値をもたらすことができる。
【0105】
【表1】


イ 甲第1号証に記載された発明

甲第1号証(以下、「甲1」という。)に記載された事項、特に請求項2、実施例1、合成例1、実施例11に関する記載を整理すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1発明>
「環状分子を貫通する直鎖分子:ポリエチレングリコール(平均分子量3.5万)、環状分子:α-シクロデキストリン、および前記直鎖分子の両末端に配置されて前記環状分子の離脱を防止する封鎖基:アダマンタンアミン基からなるポリロタキサンを、さらにヒドロキシプロピル化し、ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンをポリカプロラクトン修飾し、ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンへアクリロイル基が導入されたアクリロイル化ポリロタキサンA-1とポリカーボネートオリゴマーB-1を固形分重量比2:8、5:5、7:3の比率でブレンドし、光重合開始材としてIrgacure500を固形分に対し5wt%添加した光架橋性ポリロタキサンを有する組成物を、剥離剤で処理したガラス基板に塗布し、紫外線照射により架橋された硬化膜。」

(2)甲1発明との対比・判断

甲1発明の「アクリロイル化ポリロタキサンA-1」、「ポリカーボネートオリゴマーB-1」、「硬化膜」は、それぞれ、本件特許発明1の「ポリロタキサン」、「バインダー樹脂」、「ハードコーティングフィルム」に相当する。
そして、甲1発明の「アクリロイル化ポリロタキサンA-1」における「環状分子:α-シクロデキストリン」、「環状分子を貫通する直鎖分子:ポリエチレングリコール」、「前記直鎖分子の両末端に配置されて前記環状分子の離脱を防止する封鎖基:アダマンタンアミン基」は、それぞれ、本件特許発明1の「ポリロタキサン」における「環状化合物」、「前記環状化合物を貫通する線状分子」、「前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基」に相当する。
甲1発明の「ポリカプロラクトン」は、本件特許発明1の「ラクトン系化合物」に相当する。
甲1発明の「ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンへアクリロイル基が導入された」ものについて、甲1の具体的な記載である「得られたポリロタキサンA-1において、Yはアクリロイル基(-OC(=O)-CH=CH_(2))であって、第1のスペーサ基は-C(=O)-NH-CH_(2)-CH_(2)であった。」との記載からみて、「ポリカプロラクトン」の「末端」へ「アクリロイル基が導入された」ものといえる。
また、一般に、アクリロイル基を含む化合物を「アクリレート系化合物」ということができることから、「ポリカプロラクトン」の「末端」へ「アクリロイル基が導入された」ものは、本件特許発明1の「末端に(メタ)アクリレート系化合物が導入されたラクトン系化合物」に相当する。
甲1発明の「ポリカプロラクトン修飾ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンへアクリロイル基が導入された」ことは、本件特許発明1の「ラクトン系化合物」に「末端に(メタ)アクリレート系化合物が」「導入された」ことに相当する。
甲1発明は、光架橋性ポリロタキサンを有する組成物を紫外線照射により架橋し、硬化膜を形成するものであることから、甲1発明の「架橋された硬化膜」、「硬化膜」は、それぞれ本件特許発明1の「架橋物を含むハードコーティング層」、「ハードコーティングフィルム」に相当する。

したがって、両者は、
「末端に(メタ)アクリレート系化合物が導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基、を含むポリロタキサン化合物(a)とバインダー樹脂(b)との間の架橋物を含むハードコーティング層を含むハードコーティングフィルム。」という点で一致する。

そして、少なくとも次の点で相違する。

<相違点1>

環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率について、本件特許発明1においては、「アクリレート化合物が40モル%?70モル%導入され」、かつ、「ラクトン系化合物の末端置換率が40モル%?70モル%」であるのに対し、甲1発明においては、特定されていない点。

そこで、相違点1について検討する。

甲1には、当該末端置換率について記載や示唆もされていない。
特許異議申立人は、異議申立書の第57頁において、本件の合成例1、2と甲1の実施例6とを対比して、各々のポリロタキサンと2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートの使用量を基に、それらの比率から単純に甲1の実施例6における置換率を「約52%」と算出している。

しかしながら、甲1の実施例1および実施例2において使用されたポリロタキサンは、甲1の【0072】-【0074】に記載があるように、特定の製法で製造することにより得られたポリロタキサンである。
一方、本件特許発明1において使用されたポリロタキサンは、本件特許明細書の【0083】の合成例1、【0090】の合成例2に記載されているように、カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]であり、これは「Advanced Soft Material INC」により市販されている「A1000」なるものであると認められる。
そうすると、甲1のポリロタキサンは、特定の製法によって得られるものであり、本件特許発明1の合成例1および2のポリロタキサン[A1000、Advanced Soft Material INC]ではないことから、甲1の実施例6のポリロタキサンと本件の合成例1、2のポリロタキサンは、同じものではない。
そして、ポリロタキサンの種類が異なれば、ポリロタキサンを構成する線状分子の分子量、環状化合物の数なども異なるのであるから、同様に反応したとしても、得られるアクリレート基の末端置換率も異なるものとなることは、明らかである。
したがって、甲1の実施例6のアクリレート基の置換率を、本件特許発明1の合成例1および2の原料使用量に基づきそのままあてはめて算出することはできない。
よって、甲第1号証には、ラクトン系化合物の末端置換率が「40モル%?70モル%である」ことは記載も示唆もされていない。
そして、当該末端置換率を40?70モル%とすることにより、耐スクラッチ性、耐薬品性、耐磨耗性などの機械的物性が改善することについて、他の甲第2,3、6、7号証に記載されていないし、技術常識でもない。
一方、本件特許発明1においては、ラクトン系化合物の末端置換率が「40モル%?70モル%である」ことにより、高い耐スクラッチ性、耐薬品性、耐摩耗性などの機械的物性が得られることは、本件特許明細書の実施例と比較例を対比することにより明らかである。

したがって、本件特許発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件特許発明2について

本件特許発明2は、請求項1を引用するものであるので、本件特許発明1と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件特許発明3について

本件特許発明3は、請求項1または2を引用するものであるので、本件特許発明1及び2と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件特許発明4について

本件特許発明4は、請求項1ないし3のいずれか一項を引用するものであるので、本件特許発明1ないし3と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件特許発明5について

本件特許発明5は、請求項1ないし4のいずれか一項を引用するものであるので、本件特許発明1ないし4と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ 本件特許発明6について

本件特許発明6は、請求項1ないし5のいずれか一項を引用するものであるので、本件特許発明1ないし5と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

キ 本件特許発明7について

本件特許発明7は、請求項1ないし6のいずれか一項を引用するものであるので、本件特許発明1ないし6と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ク 本件特許発明8について

本件特許発明8は、請求項1ないし7のいずれか一項を引用するものであるので、本件特許発明1ないし7と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ケ 本件特許発明9について

本件特許発明9は、請求項1ないし8のいずれか一項を引用するものであるので、本件特許発明1ないし8と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

コ 本件特許発明10について

本件特許発明10は、請求項1ないし9のいずれか一項を引用するものであるので、本件特許発明1ないし9と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

サ 本件特許発明11について

本件特許発明11は、請求項1ないし10のいずれか一項を引用するものであるので、本件特許発明1ないし10と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない

シ 本件特許発明12について

本件特許発明12は、請求項1ないし11のいずれか一項を引用するものであるので、本件特許発明1ないし11と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ス 本件特許発明13について

本件特許発明13は、請求項1ないし12のいずれか一項を引用するものであるので、本件特許発明1ないし12と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

セ 本件特許発明14について

本件特許発明14は、請求項1ないし13のいずれか一項を引用するものであるので、本件特許発明1ないし13と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ソ 本件特許発明15について

本件特許発明15は、請求項1ないし14のいずれか一項を引用するものであるので、本件特許発明1ないし14と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

タ 本件特許発明16について

本件特許発明16は、請求項1ないし15のいずれか一項を引用するものであるので、本件特許発明1ないし15と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲第2、3、6、7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)取消理由4および5についてのむすび

よって、取消理由4および5は理由がない。

第5 結語

したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし16に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件特許の請求項1ないし16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-02-26 
出願番号 特願2015-506916(P2015-506916)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08J)
P 1 651・ 54- Y (C08J)
P 1 651・ 536- Y (C08J)
P 1 651・ 113- Y (C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 玲奈  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 小野寺 務
長谷部 智寿
登録日 2017-04-28 
登録番号 特許第6134781号(P6134781)
権利者 エルジー・ケム・リミテッド
発明の名称 ハードコーティングフィルム  
代理人 鈴木 敏弘  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

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