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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01G
審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  A01G
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A01G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01G
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A01G
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01G
審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  A01G
管理番号 1339154
異議申立番号 異議2017-700448  
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-02 
確定日 2018-02-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6031234号発明「山林樹木の挿し木苗生産方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6031234号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-9について訂正することを認める。 特許第6031234号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6031234号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成24年2月27日に特許出願され、平成28年10月28日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対して、特許異議申立人山田宏基(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、平成29年8月16日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年10月19日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、申立人から平成29年12月12日に意見書(以下「申立人意見書」という。)が提出されたものである。


第2 訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「山林樹木の挿し木苗を室内において」と記載されているのを、「スギ又はヒノキの挿し木苗を温室内において」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「方法であって、挿し穂から」と記載されているのを、「方法であって、培地を充填したコンテナに挿し木されたスギ又はヒノキの挿し穂から発根させる工程が温室内において行われ、挿し穂から」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「根伸長工程が行われ」と記載されているのを、「根伸長工程が挿し穂の根部が培地を充填したコンテナに挿入されたまま行われ」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1は、訂正前の「山林樹木」について、その下位概念の「スギ又はヒノキ」に限定し、同じく「室内」を「温室内」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項1は訂正前の「山林樹木」及び「室内」を限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
発明の詳細な説明の【0036】には、「本発明の対象である樹木の種類は限定されないところ、例えばスギ、ヒノキ等を例示することができる。本発明の方法は、スギにおいて好適に適用することができる。」と、【0035】に「発根工程または発根促進工程および根伸長工程はいずれも室内、すなわち屋内施設内で行われるところ、該施設として通常の温室や実験室ならびに恒温室等を挙げることができる。」と記載されていることからみて、訂正事項1は、明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2は、「挿し穂から発根がなされたことが確認された後に、」の前に、「培地を充填したコンテナに挿し木されたスギ又はヒノキの挿し穂から発根させる工程が温室内において行われ、」を加えるものであって、工程の直列的付加を行うものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項2は工程の直列的付加を行うものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
発明の詳細な説明の【0003】には、「施設を用いる方法においては、まず育苗環境を発根に適した条件に保って挿し穂を発根させる工程が必要であるとされている」と、【0026】には、「本発明において、挿し穂を挿し付けするための栽培容器は限定されないが、コンテナ(トレイ)を用いることは均質な育苗の観点から好ましい。すなわち、発根工程および根伸長工程の間、挿し穂の根部が培地を充填したコンテナに挿入されている方法は好ましい。前記コンテナの植え付け部同士が、同一形状である方法はより好ましい。」と、【0035】には、「発根工程または発根促進工程および根伸長工程はいずれも室内、すなわち屋内施設内で行われるところ、該施設として通常の温室や実験室ならびに恒温室等を挙げることができる。」と、【0036】には、「本発明の対象である樹木の種類は限定されないところ、例えばスギ、ヒノキ等を例示することができる。本発明の方法は、スギにおいて好適に適用することができる。」と記載されていることからみて、訂正事項2は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項3は、訂正前の「根伸長工程」について、「根伸長工程が挿し穂の根部が培地を充填したコンテナに挿入されたまま行われ」ることに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項3は、訂正前の「根伸長工程」について限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
発明の詳細な説明の【0026】に、「発根工程および根伸長工程の間、挿し穂の根部が培地を充填したコンテナに挿入されている方法は好ましい。」と記載されていることからみて、訂正事項3は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

(4)一群の請求項について
上記訂正事項1?3にかかる訂正前の請求項1について、請求項2?9はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1?3によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?9に対応する訂正後の請求項1?9は、一群の請求項である。

3 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項1?3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?9についての訂正を認める。


第3 訂正後の請求項1ないし9に係る発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし9に係る発明(以下「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
スギ又はヒノキの挿し木苗を温室内において製造する方法であって、培地を充填したコンテナに挿し木されたスギ又はヒノキの挿し穂から発根させる工程が温室内において行われ、挿し穂から発根がなされたことが確認された後に、根の伸長が促進される工程である根伸長工程が挿し穂の根部が培地を充填したコンテナに挿入されたまま行われ、該根伸長工程は温室内において行われるとともに、温室を構成する外壁である透明素材を透過した光の遮光処理を行わない条件下で行われる方法。
【請求項2】
根伸長工程への変更が、発根が行われた直後に行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
根伸長工程が、肥料が用いられる条件下において行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
挿し穂からの発根が、発根が促進される条件下において行われる、請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
根伸長工程の間、挿し穂の根部が培地を充填したコンテナに挿入されている、請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
少なくとも一つの挿し穂の根部が、該根部の形状を保ったままでコンテナから挿入および抜き取りが可能な、透明または半透明の筒状の容器で覆われている、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
根伸長工程が行われる前に、筒状の透明または半透明の容器に覆われた根部を前記筒状の透明または半透明の容器とともにコンテナから抜き取って発根の状況を確認する工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
挿し穂の中心部から筒状の透明または半透明の容器の内表面までの長さが10mm?30mmである請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
挿し穂に対する根伸長工程が行われる前に、該挿し穂を、載置されていた場所から他の場所に移動し、該挿し穂が載置されていた場所に他の挿し穂を供試して施設利用効率を向上せしめることを含む、請求項1?8のいずれかに記載の方法。」


第4 特許異議の申立てについて
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし9に係る特許に対して、平成29年8月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
(1)本件発明1-2、4-5は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、また、本件発明1-5、9は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号により取り消すべきものである。
(2)本件発明1ないし本件発明9は、特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができないものであるか、あるいは、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第113条第4号により取り消すべきものである。

なお、申立人は、訂正前の請求項1ないし9に係る発明に対して、甲第1号証ないし甲第5号証を提示し、さらに、訂正後の本件発明1ないし9に対し、平成29年12月12日付け意見書において、甲第6号証ないし甲第8号証の2を追加して提示している。

[刊行物]
甲第1号証:特開2008-61602号公報
甲第2号証:実用新案登録第2601708号公報
甲第3号証:小池洋男、「だれでもできる果樹の接ぎ木・さし木・とり木 上手な苗木のつくり方」、社団法人農山漁村文化協会、2010年2月20日、p.40-43
甲第4号証:特開2007-222046号公報
甲第5号証:特開2010-263808号公報
甲第6号証:「HOME GROWN」、[online]、「Grodan社 GROWCUBE(グローキューブ)30L」の頁、インターネット<URL:http://www.world5trading.co.jp/SHOP/gro-007.html>
甲第7号証:「green support」、[online]、「山林苗(杉・ヒノキ)育苗で新たな取り組み」の頁、インターネット<URL:http://www.green-support.com/news11072201.html>
甲第8号証の1:日本森林学会大会発表データベース 第122回日本森林学会大会、[online]、インターネット<URL:http://www.jstage.jst.go.jp/browse/jfsc/122/0/_contents/-char/ja?from=43>
甲第8号証の2:山田健 外3名、国産樹種のコンテナ育苗作業功程、平成23年3月22日、

2 当審の判断
(1)甲号証の記載
ア 甲第1号証
取消理由通知において引用した甲第1号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は決定で付した。以下同様。)
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の挿し木苗の育苗方法に関し、特に挿し木苗を簡易な方法で丈夫に育てる育苗技術に関する。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、培地へ植え込まれた直後の挿し木は、水分を吸収し難く、水ストレスを受けやすく、萎れやすいため、蒸散による水の損失を抑えるために環境雰囲気を低温かつ高湿度に保って養生する必要があるが、それによって以下の問題が生じている。
(1)低温で高湿にするため特殊な環境制御設備が必要であり、設備コストが高額となる。
(2)挿し木が高湿環境下にあるため、カビなどによる病気にかかり易い。
(3)挿し木を高湿環境下で貯蔵することにより、その後の養生・順化工程において挿し木苗が軟弱になり易い。
(4)温室など自然光下で養生する場合は、フィルムで密閉するなどして養生施設内の湿度を高める必要があるが、養生温度環境の制御が難しい。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、挿し木を養生する環境を高湿度に制御することなく簡易な方法によって挿し木苗を養生し丈夫に育てることができる植物の挿し木苗の育苗方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かくして、本発明によれば、植物から採取した挿し木を成型培地へ植え込む工程(a)と、保持部材を用いて複数本の前記挿し木を垂直に保持して養生する工程(b)とを備え、
前記工程(b)において、養生槽内で15?35℃に維持され任意に培養成分を含む養生水に、前記複数本の挿し木を吸水可能な位置まで浸漬させ、かつ前記挿し木の葉が露出する雰囲気の温度を前記養生水よりも低い温度に維持して養生する植物の挿し木苗の育苗方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
植物から採取して培地へ植え込んだ直後の挿し木は、吸水力も弱いために多大なストレスを受けやすい。本発明によれば、このようなストレスの多い挿し木を養生する工程において、挿し木を吸水可能な位置まで養生水に浸漬することにより、養生工程における貯蔵庫内を高湿にすることなく挿し木の萎れを軽減することができる。それに加え、養生環境を低温かつ高湿度に維持するといった特殊で高額な設備が不要であり、設備コストがかからない簡素な装置で挿し木を養生することができる。
また、本発明によれば、低気温制御下では水蒸気飽差を小さくしやすいことから、挿し木の水分蒸散を抑制しやすいという利点を有している。
また、挿し木を常温で養生する場合はある程度の光強度での光照射を必要とするが、本発明では低温雰囲気管理であるため光照射を省略することができ、養生設備を簡素化することができる。
また、複数の養生槽を多段の棚に設置し、各養生槽内の養生水を一箇所の養生水供給原にて加温、浄化および循環させるようにすれば、小さな施設内でも大量の挿し木を養生させることができ、しかも、各養生槽内に面状ヒータを設置するといった方法よりも簡易な設備で養生水を均一な温度に一括制御することができ、効率よく低コストにて養生工程を行なうことができ、さらに挿し木への水分供給も連続的に自然と行なうことができる。
また、養生水によって成型培地中の挿し木の開放端を局所加温処理することにより、開放端からの発根が促進され、短期間(例えば1?5日程度)で発根し、元気な挿し木苗とすることができる。その結果、養生工程後の挿し木苗は吸水能力が活発となっているため屋外環境への順化も早く、育苗期間を短縮することが可能となる。また、挿し木苗の根は成型培地中にあるため、挿し木苗を培地に植え込む際に根が傷付かず、根が傷付くことによって病気にかかるといった問題もない。
また、養生工程を経た挿し木苗を弱光・低温の環境条件下で長期間貯蔵する場合にも、挿し木苗は発根が十分進んでいるため、根に水を補給しさえすれば雰囲気中を高湿度に維持する必要はなく、弱光・低温貯蔵工程において低温の貯蔵庫内を高湿度に維持するといった特殊で高額な設備が不要であり、設備コストを大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の植物の挿し木苗の育苗方法は、植物から採取した挿し木を成型培地へ植え込む挿し木植込み工程(a)と、保持部材を用いて複数本の前記挿し木を垂直に保持して養生する養生工程(b)とを備え、前記工程(b)において、養生槽内で15?35℃に維持され任意に培養成分を含む養生水に、前記複数本の挿し木を吸水可能な位置まで浸漬させ、かつ前記挿し木の葉が露出する雰囲気の温度を前記養生水よりも低い温度に維持して養生することを特徴とする。
本発明が対象とする植物は挿し木苗として適用できる植物であれば特に限定されず、例えばナス、トマト、キュウリ、ピーマン、シシトウ、オクラ、ゴーヤ等の野菜、キク、カーネーション、ガーベラ等の花卉(草本植物)、キョウチクトウ、ウメ、ツバキ、バラ、サクラ、リンゴ、ブドウ、クヌギ、ヤマモモ、アカシア、ユーカリ等の樹木(木本植物)などの植物に本発明は適用できる。
【0009】
本発明において、養生水としては、例えば有害物質を含まない天然水(地下水、湧き水等)や水道水といった水が用いられる。また、養生水は、挿し木の発根を促進させる観点から培養成分を含有してもよい。培養成分としては、一般的に育苗に有効な窒素、リン、カリウム等の成分が挙げられ、例えば大塚化学株式会社製の商品名:大塚ハウス1号および2号等の市販品の培養剤を養生水に適量添加して用いることができる。また、培養成分とは別にベンジルアデニン等の植物生長調節物質を添加してもよい。
【0010】
本発明は、養生工程(b)の後、養生水から引き上げた挿し木苗を培地へ植え込んで栽培する挿し木増殖工程(c)と、前記工程(c)で栽培した植物から新たな挿し木を採取して成型培地へ植え込む挿し木循環植込み工程(d)とをさらに備え、前記工程(b)、(c)および(d)をこの順に繰り返し行なうようにしてもよい。このようにすれば、少ない育苗面積で効率よく挿し木苗を量産することができる。
【0011】
また、本発明は、養生工程(b)の後、養生水から引き上げた挿し木苗を培地へ植え込んで屋外環境に順化させる屋外順化工程(e)をさらに備えてもよい。このようにすれば、急激な環境変化に弱い種類の挿し木苗を屋外環境に順化させることができる。
さらに、本発明は、養生工程(b)の後、養生水から引き上げた挿し木苗を光量および水分補給が調整された貯蔵庫内で所定期間低温で貯蔵する弱光・低温貯蔵工程(f)をさらに備え、弱光・低温貯蔵工程(f)の後、屋外順化工程(e)または挿し木増殖工程(c)に移るようにしてもよい。このようにすれば、屋外順化工程(e)に移す挿し木苗の数量を調整することができ、かつ効率的に挿し木苗を量産することができる。
あるいは、屋外環境に順化しやすい種類の挿し木苗の場合は、養生工程(b)の後、養生水から引き上げた挿し木苗を培地へ植え込み屋外で栽培してもよい。」

(ウ)「【0012】
以下、図1を参照しながら本発明を具体的に説明する。
(挿し木植込み工程)
挿し木植込み工程に際しては、先ず、所望の植物P1から挿し木1となる部分である頂芽、腋芽、若枝等を採取する。このとき、鋭利な刃物で頂芽、腋芽、若枝等を切除することが、できるだけ植物組織にダメージを与えないようにできる上で好ましい。
その後、採取した挿し木1の開放端を成型培地2に植え込む。なお、成型培地2は水や培養液に溶け難いものが好ましく、市販されているものを使用することができる。市販の成型培地としては、例えば、ジフィー社製の商品名:プレフォーマ・ボックスプラグ、グロダン社製の商品名:グローキューブ、株式会社ニッソーグリーン製の商品名:オアシス挿し木培地等が挙げられる。
【0013】
(養生工程)
養生工程に際しては、先の挿し木植込み工程にて形成した複数本の成型培地付き挿し木1を、保持部材11を用いて養生槽12内の養生水Wに垂直に浸漬する。挿し木1を浸漬する養生水Wの温度は、挿し木1の成型培地2中の開放端から発根が促進される温度である前記15?35℃が好ましく、雰囲気温度は、挿し木1の葉からの水分蒸散および呼吸による炭水化物の消耗を抑制する観点から少なくとも養生水の温度よりも低温であることが好ましく、0?20℃がより好ましく、0?15℃が特に好ましい。
養生水Wの温度は、養生槽12内で均一であり、15?35℃の温度範囲に維持されればよいが、挿し木1の種類に応じたより最適な温度に制御することが好ましい。例えば野菜の場合、ナスでは好ましくは25?30℃、より好ましくは27℃、トマトでは好ましくは25?30℃、より好ましくは27℃、キュウリでは好ましくは23?36℃、より好ましくは28℃である。また、樹木の場合、キョウチクトウでは28℃前後である。
なお、養生水の温度が15℃よりも低くなると、植物の種類によっては挿し木の発根が遅くなるか発根しない。よって、その後に培地へ植え込まれた挿し木苗は、発根しても根の生長が遅く、屋外環境への順化にも日数がかかる傾向になる。また、水温が35℃よりも高いと、挿し木が茹で上がり死滅することになる。また、雰囲気温度が0℃よりも低いと挿し木の細胞組織を傷める低温障害を発生し、20℃よりも高いと挿し木が生長してしまい生産調整ができなくなると共に、脆弱な挿し木苗に生育する傾向にある。
【0014】
また、養生工程において、挿し木1へ弱い光を連続的または断続的に照射してもよいが、光照射はなくてもよい。光照射する場合の光源としては、例えば、3波長型白色蛍光灯(FHF32EX-W-H、松下電器産業)等を用いることができ、光量(光合成有効光量子束密度)としては0?30μmolm^(-2)s^(-1)が適当である。
【0015】
挿し木1を養生させる設備や施設は、養生水Wおよび雰囲気温度を上述のような温度範囲に制御できれば特に限定されず、特別な装置は必ずしも必要ない。例えば、養生水Wを溜める養生槽12および挿し木1を垂直に保持しながら吸水可能な位置まで養生水Wに浸漬させる保持部材11は必要であるが、外気温が20℃以下の場所であれば屋外に養生槽を設置し、養生槽内に温度センサ付きヒータを設置するといった簡素な装置構成とすることができる。しかしながら、年間を通して一定範囲に雰囲気温度および水温を維持するためには、空調可能な室内に養生槽12(例えば恒温槽)を設置して挿し木1を養生することが好ましい。
【0016】
本実施形態では、複数の挿し木1およびこれらを保持したプレート状の保持部材11からなる苗保持ユニットUの1つ以上を、図1に示すような養生施設内の養生装置に設置し、養生工程に入る。このとき、1つの保持部材11によって複数の挿し木1を輸送することができ、輸送性に優れる。
この保持部材11としては、例えば水に浮く軽い発泡スチロールやスポンジ等からなるプレートを用いることができ、このプレートの長手方向に延びる一端縁に等間隔に切り込みを形成して挿し木1の茎を挿入できるようにすればよい。あるいは、図2に示すように、保持部材を2種類の部材にて構成してもよい。つまり、1つの切り込みを有する小プレート11aを複数個用意し、各小プレート11aの切り込みに成型培地付き挿し木1を1本挿入し、一方養生槽12内の養生水W上には複数個の孔が開いた基板プレート11bを浮かべておき、この基板プレート11bの各孔に複数の挿し木1を成型培地2の方から落とし込むことにより小プレート11aが基板プレート11bに引っ掛かり、挿し木1は吸水可能に垂直状に保持される。
なお、水面と直上を断熱する保持部材は必ずしも必要ではなく、水温をある程度高めに設定して、気温を低めに設定すれば、挿し木周辺の温度を保持部材があるときと同じにすることができる。その場合、成型培地は、保持トレイなどを用いて水中で固定すればよい。
【0017】
この養生装置は、養生水Wが収容された養生槽12と、養生槽12内に浄化した養生水Wを循環供給し、かつ養生槽12内の養生水Wの温度を制御する養生水制御手段13を備える。養生水制御手段13は、養生槽12内の養生水Wを給排水するための循環パイプと、循環パイプに接続されたポンプおよびフィルタと、養生水Wを15?35℃に制御するヒータとを具備する。また、養生装置を設置する養生施設内には、挿し木1に弱い光を照射する弱光ランプ14と、室内の気温を制御可能な空調設備が備えられている。
【0018】
養生工程において、苗保持ユニットUは養生水W上に浮かび、挿し木1の成型培地2中の開放端が15?35℃の養生水Wに浸かり、挿し木1の葉は養生水よりも低温の0?20℃の空気中に露出している。また、弱光ランプ14からは0?30μmolm^(-2)s^(-1)の光が照射されている。
なお、本発明では、挿し木は吸水可能な位置まで養生水に浸され、挿し木への水分補給は確実に行なわれるため、環境湿度は特に制限されず、湿度を制御する必要はない。よって、低温の空気中を高湿度に維持するといった特殊で高額な設備を省略でき、養生装置を簡素化および低コスト化することができる。
【0019】
本発明において、養生工程は、挿し木1がある程度(5?10本程度)発根したところで終了する。養生工程中に挿し木1を発根させておくことにより、その後に挿し木1を養生水Wから引き上げて培地へ定植させても吸水力を増しているため萎れ難くなり、屋外(大気)環境へ順化し易くなる。
挿し木1を養生水Wへ浸漬してから発根する日数は、植物の種類によって若干異なる。例えば野菜の場合、ナスであれば3?7日、トマトであれば3?7日、キュウリであれば1?3日であることを実験により確認している。また、花卉の場合、キクでは7日程度であることを実験により確認している。また、樹木の場合、キョウチクトウでは10?14日であり、ポプラでは9?13日であることを実験により確認している。
【0020】
この養生工程後、同一の養生槽12内で養生した複数の挿し木苗4(根が生えた挿し木)のうち、全部を挿し木増殖工程に移してもよく、あるいは全部を弱光・低温貯蔵工程に移してもよく、あるいは所定本数ずつを挿し木増殖工程と弱光・低温貯蔵工程に振り分けてもよい。例えば、複数本の挿し木苗4の状態(発根量、葉や茎の色、葉の大きさや茎の太さ等)を観察し、状態の最もよいグループを挿し木増殖工程に移すことが好ましい。
【0021】
(挿し木増殖工程)
挿し木増殖工程では、養生槽12から苗保持ユニットUを取り出し、成型培地2中に根3が生えた挿し木1である挿し木苗4を培地(苗床)5に植え込む。この挿し木増殖工程は、挿し木苗4が丈夫に生長する育苗環境下、例えば、屋外に設置された空調設備を有するビニールハウスといった屋外施設内の培地、あるいは空調設備および照明が備えられた屋内施設内の培地に挿し木苗4を植え込み、挿し木苗4の生長に必要な適度な光と水分を供給し、施設内の気温や湿度を調整することにより行なうことができ、新たな挿し木1を次々採取できるように挿し木苗4を栽培することを目的としている。なお、図1において、符号P2は挿し木増殖工程において生長した植物を表している。」

(エ)「【0026】
(屋外順化工程)
屋外順化工程は、養成工程後または弱光・低温貯蔵工程後の挿し木苗4を培地(苗床)6に植え込んで大気中の屋外環境に順化させ、最終的に挿し木苗4を出荷できる状態にすることを目的としているが、この工程は挿し木苗(植物)の種類や任意の植物に限って行なうようにしてもよい。換言すると、この屋外順化工程は、全ての種類の挿し木苗について行なうことが、植物に急激な環境変化によるストレスを与えない観点から最も好ましいと言えるが、この工程を行なう場合は場所、設備、期間、管理等によるコストがかかるため、植物の種類によってはこの工程を省略しても問題はない。それは、本発明では、養生工程後の挿し木苗は成型培地中に発根しているため、吸水能力が活発化しており、植物の種類によっては直ぐに屋外環境に順化するからである。よって、このような植物については屋外順化工程を経ずとも直ちに出荷を含めた屋外栽培工程に移すことができる。例えば、野菜苗全般では屋外順化工程を省略することができる。
【0027】
屋外順化工程を経ることが好ましい例としては、屋外環境にすぐに順化する(耐える)ことが難しいデリケートな植物や、あるいは比較的高価な植物等の場合が挙げられる。
屋外順化工程を行なう場合は、空調設備を有するビニールハウスなどの施設内の培地6に挿し木苗4を植え込み、定期的に水を散布し、日毎に施設内の気温や湿度を屋外の気温に近づけていく。なお、出荷用ポットに収容した培地6に挿し木苗6を植え込めば、その後の挿し木苗4の出荷が容易となる。
【0028】
屋外順化工程では、屋外環境に耐え得る状態まで挿し木苗を養生し順化させる。その必要日数は、挿し木苗(植物)の種類によって若干異なる。」

(オ)上記(ア)ないし(エ)からみて、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「キョウチクトウ、ウメ、ツバキ、バラ、サクラ、リンゴ、ブドウ、クヌギ、ヤマモモ、アカシア、ユーカリ等の樹木(木本植物)などの植物から採取した挿し木を成型培地へ植え込む工程(a)と、保持部材を用いて複数本の前記挿し木を垂直に保持して養生する工程(b)と、養生工程(b)の後、養生水から引き上げた挿し木苗を培地へ植え込んで栽培する挿し木増殖工程(c)、または、養生水から引き上げた挿し木苗を培地へ植え込んで屋外環境に順化させる屋外順化工程(e)を備え、
前記工程(b)において、空調可能な室内に設置した養生槽内で15?35℃に維持され任意に培養成分を含む養生水に、前記複数本の挿し木を吸水可能な位置まで浸漬させ、かつ前記挿し木の葉が露出する雰囲気の温度を前記養生水よりも低い温度に維持して養生し、
前記工程(c)において、養生槽12から苗保持ユニットUを取り出し、成型培地2中に根3が生えた挿し木1である挿し木苗4を、屋外に設置された空調設備を有するビニールハウスといった屋外施設内、あるいは空調設備および照明が備えられた屋内施設内の培地(苗床)5に植え込み、
前記工程(e)において、養成工程後の挿し木苗4を、空調設備を有するビニールハウスなどの施設内の培地(苗床)6に植え込んで、定期的に水を散布し、日毎に施設内の気温や湿度を屋外の気温に近づけていく、
植物の挿し木苗の育苗方法。」

イ 甲第2号証
取消理由通知において引用した甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本考案は育苗用トレーに係り、とくにフラットなシートに複数の凹部を形成し、それぞれの凹部に培土を充填して育苗を行なうようにした育苗用トレーに関する。
【0002】
【従来の技術】長方形の高分子材料から成るシートを用いて真空成形等の方法で複数の凹部を設け、これらの凹部をそれぞれセルとしてその中に培土を充填して育苗を行なうようにした育苗用トレーが知られている。」

(イ)「【0009】
【実施例】図1および図2は本考案の一実施例に係る育苗用トレーを示すものであって、この育苗用トレーは高分子シートを用いて真空成形によって成形されたものであって、全体として長方形の形状をなしている。そしてトレー上には、その長さ方向に12個の、また幅方向に6個の凹部10が配列されており、合計72個の凹部10が形成されている。これらの凹部10がそれぞれ育苗用のセルを構成するようになっている。」

(ウ)「【0013】またこのトレーには、それぞれの凹部10間に通気孔23、24が形成されている。すなわち外周側に位置する凹部10と隣接する部分には小さな直径の通気孔24が形成されているのに対して、中心側に位置する凹部10間には大きな直径の通気孔23が形成されている。
【0014】またこのようなトレーの凹部10の底部にはそれぞれ図3および図4に示すように、一対の支持用突部27が形成されている。これらの支持用突部27間の部分が排気孔28に構成されており、凹部10内の水の排水を行なうようにしている。」

(エ)「【0015】次にこのような育苗用トレーによる育苗について説明すると、図5に示すように、それぞれの凹部10から成るセル内に培土31を充填するとともに、種子を播き、発芽した苗32を育てる。苗32が所定の大きさになると、凹部10内の苗の根が張って培土が離れない程度に巻付いて根鉢34を形成するようになる。このような根鉢34が形成された苗32がトレーの凹部10から取出されて供給されることになる。」

(オ)「【0017】このトレーの特徴は、従来のトレーにはない通気孔23、24を備えるものである。すなわちトレーの上部であって各凹部10の連結部の表面に通気孔23、24を設定するようにしている。このような通気孔23、24を形成することによって、凹部10内で育成中の幼苗の株間に凹部10の外側から通気が促進される。またトレーの上部の連結部に空間を得ることが可能になる。
【0018】さらには通気孔23、24の孔の数と孔の大小の配列を任意に調整でき、例えば図1および図2に示すように、トレーの外周側においてはその直径が小さくするとともに、トレーの中心側の通気孔の孔の直径を大きくすることが可能になる。
【0019】このような通気孔23、24はさらに水抜きの機能を有するために、連結部に灌水で溜った水や肥料、あるいはまた農薬の液滴をこれらの通気孔23、24を通して排出できる。」

(カ)「【0021】このような育苗用トレーを用いることによって、このトレーの底部から上部に通気孔23、24を通して空気が流通する。従ってトレーの下面であって凹部10の底部の周辺に溜る熱気が容易に抜ける。従って凹部10で育苗中の幼苗が繁茂し、苗の株間に熱気が溜るのを少なくすることが可能になる。
【0022】またこのような通気孔23、24と相まって、周璧部12に設定されているへこみ17、18、19を設けることによって、トレーの連結部の表面への太陽熱の吸収量が低減し、凹部10の下側への熱気の溜りの減少に役立つようになる。また凹部10によって形成される株間の空気の溜りが発生する熱の影響が少なくなり、苗の徒長を抑制する効果がある。さらにはトレーの底部における熱気の影響が減少するために、育苗培土の乾きが和らげられる。
【0023】またトレーの凹部10の連結部の表面に溜る水滴を少なくでき、苗の株間周辺部の湿気の減少に役立つようになる。さらに通気孔23、24が水抜き孔として併用でき、灌水時、あるいは農薬散布時、液体肥料の供給時の各種の液体の滴下を促すことが可能なる。これらの効果の相乗作用によって、トレーの各凹部10においてそれぞれ均一であって徒長の少ない均一な苗の育成が可能になる。」

(キ)「【0024】
【考案の効果】以上のように本考案は、フラットなシートに複数の凹部を形成し、それぞれの凹部に培土を充填して育苗を行なうようにした育苗用トレーにおいて、凹部間においてトレーに通気孔を形成するとともに、トレーの中心側に形成されている通気孔の大きさをトレーの外周側に形成されている通気孔の大きさよりも大きくしたものである。従ってこのようなトレーによれば、その下面に溜った熱気をトレーに形成されている通気孔を通して逃がすことが可能になる。しかも中心側に形成されている通気孔の大きさを外周側に形成されている通気孔の大きさよりも大きくしているために、熱気が溜り易いトレーの下面であってその中央部の熱気をより効果的に放散させることが可能になり、これによってとくにトレーの中央部の周辺における熱気の影響を少なくし、苗の徒長を抑制することが可能になる。従ってそれぞれの凹部においてほぼ均一な苗の育成を行なうことが可能になる。またトレーが高分子シートの成形体から成り、該トレーの外周側に傾斜した周壁部が形成されるとともに、該周壁部の先端側にフランジが形成されている構成によれば、上記周壁部とフランジとによってこのトレーに剛性を付与することが可能になり、トレーが変形しなくなる利点をもたらす。またトレーの上面と周壁部とのエッジの部分に間欠的にへこみが形成されている構成によれば、このような間欠的なへこみによってトレーの剛性をさらに高めることが可能になる。従ってトレーの変形がこのようなへこみによって防止されることになる。」

ウ 甲第3号証
取消理由通知において引用した甲第3号証の40頁の図12をみると、培土を含む鉢にさし木しをすることが看取できる。

エ 甲第4号証
取消理由通知において引用した甲第4号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0024】
(c)優勢樹から挿し穂を採取する工程
一次検定林にて選抜した優勢樹の伐採を秋季から春季にかけて行う。伐木は地表より15cm程のところで行う。切断面はフラットに整えておく。その際やや傾きを持たせ、切り株面に雨露が滞留して腐れなどが起きないようにする。加えて、優勢樹の切り株周辺の不要な草木を整理して、日照を確保する。これらの作業は、すべて切り株面の保全、旺盛な萌芽育成のために必要である。以後、春季から夏季の萌芽発生成長を待つ。翌春季の萌芽発生が早くかつ旺盛な挿し穂を得るためには、秋季に伐木したもののほうが好ましいことを、秋季、冬季、春季の3季の伐木実験によって確認した。
【0025】
春になり萌芽が出て来始めたら、これの整理を行う。これは、好ましい挿し穂をより多く採取するために必要な操作である。整理の主眼は徒長の防止である。萌芽してきた主幹枝が略1mになったところで、頂芽を切り落として側枝の繁茂を助ける。挿し穂の採取は、基本的にこの側枝が主となる。側枝は挿し穂に必要な条件を備えているからである。つまり、挿し木には数量が必要だが、側枝ならば相当量が期待できることによる。
【0026】
挿し穂としては、適度なリグニン化を起こした適度な堅さが必要である。伐木からの萌芽、つまり挿し穂材料はユーカリ属植物に特有の葉柄の無い幼形葉である。適度な堅さは、以後2ヶ月に及ぶ発根培養期間中挿し穂を支えるために必要である。一方で堅過ぎるもの、太すぎるものは、成長が進展しすぎており発根には不適である。
【0027】
挿し穂材料として3?4節の枝葉を切り出す。挿し穂材料を切り出す場合には、その枝葉の健全度、充実度、特に軸の堅さに留意する。この他に軸の太さなども同時に判断し、加えて次回の収穫についても考慮しながら剪定も含めて枝の切り出し作業を行う。特に、発根可能性の高いと見られる根基部になるべく近いものを選定する。採取した枝葉は日照を避け、水分補給、保冷し速やかに移送する。
【0028】
(d)優勢樹の挿し穂から挿し木法によりクローン苗を作製する工程
一次検定林より持ち帰った挿し穂材料は、1節に対葉は半分になるように切除する。挿し穂軸の下部の両面2mmほどを切り開いて、形成層を露出する。このようにして作製した挿し穂は、纏めて1秒ほど殺菌剤にて殺菌する。ついで、挿し穂の挿し軸にホルモンを付与し、順次培地に挿して行く。
【0029】
発根を得るための挿し木後、温度25?30℃、相対湿度75?85%にて、日照を1.5?2ヶ月付与する。この為の温室を発根温室と表記する。発根温室は遮光ネットを用いて日照を調整することが好ましい。日中の環境条件は、常時、人為的に遮光ネットの開閉で調節する。夜間はほぼ外部環境に依存する。遮光ネットの開口率は40?60%にすると、上記温度湿度の範囲に管理可能である。
【0030】
発根温室内の作業として、対葉の処理がある。挿し穂作製時に付いていた対葉は、発根が開始されて、腋から新芽が伸長してくる時期には、その光合成役割を終了して枯れていく。この枯れた対葉(旧葉)を除去する。挿し木の一般的な成長プロセスは、(i)切削軸部のカルス形成、(ii)発根、(iii)新芽形成-地表部の伸長である。
【0031】
発根温室における発根には、約2ヶ月を要する。発根後、温室より出して、クローン苗を作製する苗化プロセスに移行する。挿し穂後1.5ヶ月を経過したクローン苗は、地表部の高さが約10cmとなる。苗化プロセスでは、施肥と灌水を行いながら、外気馴化と苗撫育を進める。この期間は、総合で約10ヶ月である。この苗化プロセスの期間を、以下に示す3期間に分割して、施肥の内容を変えて苗を育成する。
【0032】
(発根促進期間)挿し木をしてから発根する迄の期間は一切の施肥を行わない。温度・湿度・日照等の環境整備のみである。この間に施肥を行わない理由は、施肥により無用な雑菌が繁殖し、切削部にダメージを与えることを避けるためである。
【0033】
(発芽後出芽期間)発根した上で挿し木は自らの出芽を開始する。この時期に初期の施肥を行う。この間は、更に十分な根の伸長を考慮する上で、燐値の高い肥料(窒素:燐:カリウム=9:45:15)を施す。」

オ 甲第5号証
取消理由通知において引用した甲第5号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0010】
ビニールハウスなどの温室内に、一段または複数段の棚を組み、これに複数本の溝状の苗栽培用ピットを設置して、ヘデラを挿し木した育苗ポットを隙間なく並べ、栽培用ピットの片端から水溶液を供給して他端から排水し、排水母管に集めた後、栽培液タンクに戻し、水溶液を循環させることにより、大量かつ長尺物の苗を安定的に育成する。」

カ 甲第6号証
申立人意見書に添付された甲第6号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「世界No.1シェアのグロダン製グローキューブ(GROWCUBE)です。
グローキューブは、1cm角の均一なサイコロ形状のロックウールです。
有機培地や粒状綿に比べ培地内の空気層を確保でき、安定した栽培が可能になります。
水耕栽培の培地としてとても高い品質の培地です。」(1頁下段)

(イ)1頁中段の写真をみると、グローキューブが培地として鉢に入れられたことが看取できる。

キ 甲第7号証
申立人意見書に添付された甲第7号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「山林苗(杉・ヒノキ)育苗で新たな取り組み

有限会社キヨタキナーセリー社長 清瀧様の挑戦

杉やヒノキは大別して実生や挿木にて育苗されています。
母樹の遺伝子を確実に受け継がせ、定植できる苗の高さに育てるには挿木による育苗が一般的です。
今回訪問したキヨタキナーセリー様のビニールハウスでも挿木にて育苗されていました。
2011年7月5日に訪問しました。
6月中旬に挿木をしたものです。
生分解性biopotの導入にあたり、生分解性不織布の目付、口径や高さ、容積等、度重なる打ち合わせで作成した生分解性育苗ポットです(進化の途中です)。
通常、箱挿しした苗は畑に移植され育成、出荷を待ちます。
biopotに直挿しすることで植え変えの作業が省略されます。
植林では、勿論、ポットのまま植栽されます。」(1頁)

ク 甲第8号証の2
申立人意見書に添付された甲第8号証の2には、以下の事項が記載されている。
「森林総研構内コンテナ育苗用ビニルハウスで、スギ、ヒノキについて(1)コンテナ1キャビティ当たり5粒ずつ播種、(2)苗圃で育苗した1年生苗木をコンテナに移植、(3)構内で採穂した挿穂をコンテナに直挿し、という作業を行い、それをビデオ撮影して時間分析し、苗木1本当たりの作業時間を算出した。」(「2.試験方法」の項)
なお、丸囲み数字は括弧で囲んだ数字で表記した。

2 取消理由通知に記載した新規性欠如(29条第1項第3号)・進歩性(29条2項の取消理由について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明において、工程(b)は「空調可能な室内」で、工程(c)は「空調設備を有するビニールハウスといった屋外施設」で、工程(e)は「空調設備を有するビニールハウスなどの施設内」で行われるものであって、挿し木は、「キョウチクトウ、ウメ、ツバキ、バラ、サクラ、リンゴ、ブドウ、クヌギ、ヤマモモ、アカシア、ユーカリ等の樹木(木本植物)などの植物から採取した挿し木」であるから、甲1発明の「植物の挿し木苗の育苗方法」と、本件発明1の「スギ又はヒノキの挿し木苗を温室内において製造する方法」とは、「樹木の挿し木苗を室内において製造する方法」で共通する。
(イ)甲1発明の、「工程(a)」で「成型培地へ植え込」まれた「キョウチクトウ、ウメ、ツバキ、バラ、サクラ、リンゴ、ブドウ、クヌギ、ヤマモモ、アカシア、ユーカリ等の樹木(木本植物)などの植物から採取した挿し木」「を垂直に保持して養生する工程(b)」が「空調可能な室内」で行われることと、本件発明1の「培地を充填したコンテナに挿し木されたスギ又はヒノキの挿し穂から発根させる工程が温室内において行われ」ることとは、「培地に挿し木された樹木の挿し穂から発根させる工程が室内において行われ」ることで共通する。
(ウ)甲1発明において、「挿し木増殖工程(c)」と「屋外順化工程(e)」は、その前の工程である「養生する工程(b)」と比較して、根が伸長していることは明らかであるから、本件発明1の「根伸長工程」に相当する。
(エ)甲1発明において、養生工程を終了して次に移る条件として、甲第1号証には、「本発明において、養生工程は、挿し木1がある程度(5?10本程度)発根したところで終了する。」(上記1(1)ア(ウ))と記載されている。
してみると、上記条件がある以上、通常であれば、養生工程を終了して次の工程に移る前には、上記条件(挿し木1がある程度発根したこと)が満たされたかどうかことを確認することが一般的であるから、甲1発明の「挿し木増殖工程(c)」及び「屋外順化工程(e)」は、本件発明1の「根伸長工程」と同様に、「挿し穂から発根されたことが確認された後」行われるものである。
(オ)甲1発明において、「工程(c)」が「空調設備を有するビニールハウスといった屋外施設内」で行われ、「工程(e)」が「空調設備を有するビニールハウスなどの施設内」で行われることと、本件発明1の「根伸長工程は温室内において行われる」こととは、「根伸長工程は室内において行われる」ことで共通する。
(カ)甲1発明において、「工程(e)」は、「ビニールハウスなどの施設内」で行われるところ、ビニールハウスは、通常、(半)透明なビニールにより壁や屋根が形成されていることから、甲1発明の「工程(e)」と、本件発明1の「温室を構成する外壁である透明素材を透過した光の遮光処理を行わない条件下で行われる」こととは、「室を構成する外壁である透明素材を透過した光の遮光処理を行わない条件下で行われる」ことで共通する。
(キ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「樹木の挿し木苗を室内において製造する方法であって、挿し木された樹木の挿し穂から発根させる工程が室内において行われ、挿し穂から発根がなされたことが確認された後に、根の伸長が促進される工程である根伸長工程が室内において行われるとともに、室を構成する外壁である透明素材を透過した光の遮光処理を行わない条件下で行われる方法。」で一致し、少なくとも次の点で相違している。

(相違点)
甲1発明が、本件発明1の「培地を充填したコンテナに挿し木されたスギ又はヒノキの挿し穂から発根させる工程が温室内において行われ」、「根伸長工程が挿し穂の根部が培地を充填したコンテナに挿入されたまま行われ」る構成を備えていない点。

イ 判断
上記ア(キ)で示した相違点について検討する。
甲1発明は、「培地へ植え込まれた直後の挿し木は、水分を吸収し難く、水ストレスを受けやすく、萎れやすいため、蒸散による水の損失を抑えるために環境雰囲気を低温かつ高湿度に保って養生する必要があるが、それによって以下の問題が生じている。
(1)低温で高湿にするため特殊な環境制御設備が必要であり、設備コストが高額となる。
(2)挿し木が高湿環境下にあるため、カビなどによる病気にかかり易い。
(3)挿し木を高湿環境下で貯蔵することにより、その後の養生・順化工程において挿し木苗が軟弱になり易い。
(4)温室など自然光下で養生する場合は、フィルムで密閉するなどして養生施設内の湿度を高める必要があるが、養生温度環境の制御が難しい。」(上記(1)ア(イ))との課題のもと、
「本発明は、上記課題に鑑み、挿し木を養生する環境を高湿度に制御することなく簡易な方法によって挿し木苗を養生し丈夫に育てることができる植物の挿し木苗の育苗方法を提供することを目的と」(上記(1)ア(イ))して、
工程(b)、つまり、「空調可能な室内に設置した養生槽内で15?35℃に維持され任意に培養成分を含む養生水に、」「保持部材を用いて」「垂直に保持した」「前記複数本の挿し木を吸水可能な位置まで浸漬させ、かつ前記挿し木の葉が露出する雰囲気の温度を前記養生水よりも低い温度に維持して養生する」ことにより、
「挿し木を吸水可能な位置まで養生水に浸漬することにより、養生工程における貯蔵庫内を高湿にすることなく、・・・それに加え、養生環境を低温かつ高湿度に維持するといった特殊で高額な設備が不要であり、設備コストがかからない簡素な装置で挿し木を養生することができる。」(上記(1)ア(イ))等の効果を奏するものである。
したがって、培地を充填したコンテナ等に挿し木をすることが周知または公知の技術であったとしても、甲1発明において、その課題や目的等を勘案することなく挿し木を、養生槽内で、15?35度に維持された養生水を吸水可能な位置まで浸漬させる構成を、培地を充填したコンテナ内に行う構成に代えることは、当業者が容易になし得たことではない。
よって、甲1発明において、本件発明1の上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明と同一ではなく、また、甲1発明、甲第2号証ないし甲第8号証に記載された公知または周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)本件発明2ないし5及び9について
本件発明2ないし5及び9は、本件発明1の構成をすべて含み、さらに減縮したものであるから、上記(1)と同様の判断により、本件発明2、4、5は甲1発明と同一ではなく、また、本件発明2ないし5及び9は、甲1発明、甲第2号証ないし甲第8号証に記載された公知または周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

3 取消理由通知に記載した記載要件違反(実施可能要件違反(36条4項1号)・サポート要件違反(36条6項1号))の取消理由について
(1)申立人の主張
申立人は、記載要件違反について、
「本件発明1では、『根伸長工程は温室内で行われる』こと、『温室を構成する外壁である透明素材を透過した光の遮光処理を行わない』ことを構成要件の一つとする。
しかしながら、明細書の実施例においては『発根後は遮光なし』とされている(表1及び2参照)のみであり、実際に、根伸長工程がどのような温室内で行われているか不明りょうである。また、温室を構成する外壁である透明素材を透過した光の遮光処理をどのようにして行っているかが不明りょうである。光の遮光処理については、本件特許明細書の【0024】には『天候に応じて短期間のみ光を遮蔽することも挿し穂に当たる光が遮蔽されない条件に包含される』と記載されているが、『短期間』とはどの程度の期間を意味するのか不明りょうである。そのため、本件特許明細書の実施例において、【0024】にいう『短期間のみ光を遮蔽』を行ったとしても、どの程度の期間であれば『短期間』といえ、本発明の効果が得られるのか実施例を当業者が読んでも理解できない。また、【0024】の記載から、『短期間』の遮光処理を行う形態も本件特許発明1の技術的範囲に含めることを特許権者は意図していると考えられるところ、どの程度の期間であれば当該『短期間』に該当するのか不明確である。つまり、発明の範囲が不明確である。また、『天候に応じて』とあるが、本件特許発明の効果を得るに際して、どの程度の天候であれば、どの程度の期間遮光が許容されるのか明確でない。遮光処理をする期間によっては本件特許発明の効果が得られない場合もある。
よって、遮光処理について『根伸長工程は温室内において行われるとともに、温室を構成する外壁である透明素材を透過した光の遮光処理を行わない条件下で行われる』ことのみしか特定されていない本願請求項1?9には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許権が設定されている。または、当業者が明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮しても実施できる程度に説明がされているとはいえない。」(特許異議申立書12頁7行?13頁8行)と主張している。

(2)実施可能要件違反について
ア 「根伸長工程」が「温室を構成する外壁である透明素材を透過した光の遮光処理を行わない条件下で行われる」ことについて、発明の詳細な説明には、
「【0023】
(b)第2ステージ
第2ステージは、根伸長工程が行われるステージである。すなわち第2ステージにおいては、根の伸長が促進され、その結果根鉢の形成が促進される。
根伸長工程は光合成を活性化するとともに根の吸水量を増大せしめて、光合成を促進し、同化産物の根部への移行を促進する工程である。この工程は好ましくは、光合成を促進するために挿し穂に当たる光が遮蔽されない条件(遮光処理が行われない)下で、挿し穂に十分に光が当たるようにして行われる。温度および湿度も、適宜光合成に適したものにする。
根伸長工程において、遮光処理は行われずミスト処理は行われる本発明の方法は好ましい。
【0024】
前記挿し穂に当たる光が遮蔽されない条件には、温室内において温室を構成する外壁である透明素材を透過した光を実質的に遮蔽しない環境が包含される。また、天候に応じて、短期間のみ光を遮蔽することも挿し穂に当たる光が遮蔽されない条件に包含される。
発根促進工程において前記のとおりミスト処理による高湿度化処理が行われる場合があるところ、根伸長工程においても天候に応じてミスト処理を行ってもよい。」と記載されていることから、
「光合成を促進するために挿し穂に当たる光が遮蔽されない条件(遮光処理が行われない)下で、挿し穂に十分に光が当たるようにして行われる。」ことであることが理解できる。
ここで、「光が遮蔽されない条件(遮光処理が行われない)下」として、「光を実質的に遮蔽しない環境」であり、「天候に応じて、短期間のみ光を遮蔽すること」も包含されると記載されているものの、温室において、光を遮蔽する「天候」及び「期間」の条件が明確には記載されていない。
しかしながら、光の遮光に関して、さし穂の発根についてではあるが、乙第3号証に「(8)しゃ光設備 さし床の条件として、光は光合成を有利にする意味において重要である。さし木中の、さし穂の光合成が発根に大きく影響していることは知られている。しかし、夏期高温時には、さし床が高温になり、ややもすればさし穂は萎ちょうする。したがって、これを防ぐためには、光条件をあるていど制限しても、さし穂の蒸散を抑えたほうが結果的によい。そこで一般の緑枝ざしでは、ヨシズ、黒寒冷しゃでしゃ光を行なうのがふつうである。」(128頁下段)と記載され、さらに、乙第4号証に「有葉のさし穂でさし木中、十分の光のあたることは光合成により炭水化物や発根促進物質の生成がみられると考えられるから、発根にとって有利なはずである。しかし同時にさし穂の蒸散も促進される。」(104頁)、及び「光がさし穂の発根作用を抑制することについては多くの研究がある。一般に強い光の下では水分条件をよくしても、さし穂の発根がよくない傾向があることから、日よけはさし穂の蒸散抑制以外に光線の発根への害作用を抑制する効果がある。さし穂に全光線をあてるより、遮光して光量を減じたほうが発根率がよく、」(105頁)と記載されているように、植物の成長において、光合成を行うために太陽光が必要であるものの、光量や温度を最適なものとするために、光を遮蔽することは、一般的に行われており、光を遮蔽する「天候」や「期間」ついては、当業者が根を伸長させるために適した条件を適宜選択することは何等困難なことではない。
したがって、上記「天候」及び「期間」について、発明の詳細な説明に明確な条件の記載がなくとも、当業者であれば、上記段落【0023】及び【0024】の記載に基づいて、技術常識を考慮することにより、本件発明を容易に実施することができるといえる。
よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を容易に実施できる程度に記載されているものと認められる。

(3)サポート要件違反について
上記(2)で説示したとおり、本件発明1の「温室を構成する外壁である透明素材を透過した光の遮光処理を行わない条件下で行われる」ことについては、段落【0023】に記載され、また、段落【0023】に記載された「光が遮蔽されない条件(遮光処理が行われない)下」に関し、【0024】に記載された「天候に応じて、短期間のみ光を遮蔽すること」についても、当業者が技術常識を考慮することにより、容易に理解できると認められるから、段落【0023】及び【0024】の記載は、本件発明1の「温室を構成する外壁である透明素材を透過した光の遮光処理を行わない条件下で行われる」ことを、当業者が容易に実施できる程度に記載されている。
してみると、本件発明1の「温室を構成する外壁である透明素材を透過した光の遮光処理を行わない条件下で行われる」ことは、段落【0023】及び【0024】に記載されているといえるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載した事項の範囲内のものと認められる。


第5 むすび
以上のとおりであるから、平成29年8月16日付け取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スギ又はヒノキの挿し木苗を温室内において製造する方法であって、培地を充填したコンテナに挿し木されたスギ又はヒノキの挿し穂から発根させる工程が温室内において行われ、挿し穂から発根がなされたことが確認された後に、根の伸長が促進される工程である根伸長工程が挿し穂の根部が培地を充填したコンテナに挿入されたまま行われ、該根伸長工程は温室内において行われるとともに、温室を構成する外壁である透明素材を透過した光の遮光処理を行わない条件下で行われる方法。
【請求項2】
根伸長工程への変更が、発根が行われた直後に行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
根伸長工程が、肥料が用いられる条件下において行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
挿し穂からの発根が、発根が促進される条件下において行われる、請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
根伸長工程の間、挿し穂の根部が培地を充填したコンテナに挿入されている、請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
少なくとも一つの挿し穂の根部が、該根部の形状を保ったままでコンテナから挿入および抜き取りが可能な、透明または半透明の筒状の容器で覆われている、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
根伸長工程が行われる前に、筒状の透明または半透明の容器に覆われた根部を前記筒状の透明または半透明の容器とともにコンテナから抜き取って発根の状況を確認する工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
挿し穂の中心部から筒状の透明または半透明の容器の内表面までの長さが10mm?30mmである請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
挿し穂に対する根伸長工程が行われる前に、該挿し穂を、載置されていた場所から他の場所に移動し、該挿し穂が載置されていた場所に他の挿し穂を供試して施設利用効率を向上せしめることを含む、請求項1?8のいずれかに記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-02-05 
出願番号 特願2012-39870(P2012-39870)
審決分類 P 1 651・ 841- YAA (A01G)
P 1 651・ 113- YAA (A01G)
P 1 651・ 537- YAA (A01G)
P 1 651・ 851- YAA (A01G)
P 1 651・ 855- YAA (A01G)
P 1 651・ 536- YAA (A01G)
P 1 651・ 854- YAA (A01G)
P 1 651・ 121- YAA (A01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 本村 眞也竹中 靖典  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 西田 秀彦
住田 秀弘
登録日 2016-10-28 
登録番号 特許第6031234号(P6031234)
権利者 住友林業株式会社
発明の名称 山林樹木の挿し木苗生産方法  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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