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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A45D
管理番号 1339488
審判番号 無効2016-800087  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-07-21 
確定日 2018-04-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第5847904号発明「美容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5847904号(以下、「本件特許」という。)は、平成23年11月16日(以下「本件特許の原出願日」という。)に特許出願された特願2011-250915号の一部を平成26年 9月26日に新たに特許出願した特願2014-197056号に係り、平成27年12月 4日にその請求項1ないし2に係る発明について特許権の設定登録がされ、その後、請求人株式会社ファイブスターから、株式会社MTGを被請求人とする無効審判が請求されたものである。
以下、審判請求以後の経緯を整理して示す。
平成28年 7月21日 本件無効審判審判(無効2016-800087号)
同年11月22日 被請求人による審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)提出
同年12月15日付け 審理事項通知
平成29年 2月 6日 請求人による口頭審理陳述要領書提出
同年 2月 6日 請求人による上申書提出
同年 2月 7日 被請求人による口頭審理陳述要領書提出
同年 2月10日付け 審理事項通知(2)
同年 2月21日 請求人による口頭審理陳述要領書(2)提出
同年 2月21日 被請求人による口頭審理陳述要領書(2)提出
同年 2月21日 第1回口頭審理
同年 3月 3日 請求人による上申書提出
同年 3月 9日 被請求人による上申書提出


第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし2に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明2」という。また、これらをまとめて単に「本件発明」ということがある。)は、その特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された、次のとおりであると認める。
「【請求項1】
基端においてハンドルに抜け止め固定された支持軸と、
前記支持軸の先端側に回転可能に支持された回転体とを備え、その回転体により身体に対して美容的作用を付与するようにした美容器において、
前記回転体は基端側にのみ穴を有し、回転体は、その内部に前記支持軸の先端が位置する非貫通状態で前記支持軸に軸受け部材を介して支持されており、
軸受け部材は、前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされ、
前記軸受け部材からは弾性変形可能な係止爪が突き出るとともに、軸受け部材は係止爪の前記基端側に鍔部を有しており、同係止爪は前記先端側に向かうほど軸受け部材における回転体の回転中心との距離が短くなる斜面を有し、
前記回転体は内周に前記係止爪に係合可能な段差部を有し、前記段差部は前記係止爪の前記基端側に係止されるとともに前記係止爪と前記鍔部との間に位置することを特徴とする美容器。
【請求項2】
前記軸受け部材は合成樹脂製であることを特徴とする請求項1に記載の美容器。」


第3 請求人の主張
1 無効理由の要点
請求人の主張する請求の趣旨は、本件発明1及び2についての特許を無効とするとの審決を求めるものである。そして、その請求の理由の要点は以下のとおりである。

(1)無効理由1(進歩性欠如)
本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、及び、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2(進歩性欠如)
本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、及び、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2 証拠方法
・甲第1号証 :実願平4-79420号(実開平6-36635号)のCD-ROMの写し(以下各書証において写しである旨の表記は省略する。)
・甲第2号証 :登録実用新案第3159255号公報
・甲第3号証 :特開2002-340001号公報
・甲第4号証 :実公平8-9455号公報
・甲第5号証 :初学者のための機械の要素 第3版、理工学社、2003年 7月31日、表紙、40?41頁、56?69頁、奥付
・甲第6号証 :要説機械工学 第4版、理工学社、2004年 3月20日、表紙、68?73頁、奥付
・甲第7号証 :機械設計学1[要素と設計] 改訂版、培風館、1999年11月30日、表紙、186?187頁、236?237頁、242?245頁、奥付
・甲第8号証 :機械の事典、朝倉書店、1980年 9月30日、表紙、394?397頁、奥付
・甲第9号証の1 :米国特許再発行特許発明第19696号明細書
・甲第9号証の2 :甲第9号証の1の翻訳文
・甲第10号証の1:米国特許2011471号明細書
・甲第10号証の2:甲第10号証の1の翻訳文
・甲第11号証 :登録実用新案第3154738号公報
・甲第12号証 :意匠登録第1374522号公報

3 請求人の主張の概要
請求人の主張の概要は以下のとおりである。
(主張1)
「甲1発明における「筒体(15)」は、本件特許発明1における「軸受け部材」に相当すると考えられ、単に、表現上の相違に過ぎないと考えられるが、仮に、「筒体(15)」が「軸受け部材」と表現することができなかったとしても、「筒体(15)」と「軸受け部材」は、共に、支持軸を回転可能に支持するための部材である。
そして、甲第2号証に記載されているように、美容ローラの分野において、回転体を回転可能に支持するために、軸受を介して、支持軸を回転体に回転可能に支持させることは、当業者にとって、容易に発明できることである。
したがって、甲1発明に対して、甲第2号証に記載の事項を適用して、甲1発明に対して、「筒体(15)」の代わりに、軸受を利用することは、当業者にとって、容易に発明できることである。
そして、甲第2号証には、軸受としては、玉軸受、コロ軸受等の転がり軸受、又は、プラスチック軸受、球面滑り軸受、焼結含油軸受等の滑り軸受など、周知の軸受を利用することが望ましい旨が明確に記載されている。
よって、甲1発明に対して、周知の軸受、たとえば、樹脂製の軸受を利用できることは、当業者にとって、容易に発明できることである。
そして、甲1発明には、マッサージ部材(18)の内周に突出部(本件特許発明1における段差部に相当)が存在するため、当該突出部に、軸受が係合されて、回転体に固定するようにすればよいと考えることに、何らの困難性も存在しない。」
(請求書16頁11行?21行)

(主張2)
「甲3ないし4発明(枝番含む)を甲1発明に適用した場合、マッサージ部材(18)の内周に設けられた「突出部」(本件特許発明1の段差部に相当)は、甲3ないし4発明(枝番含む)における弾性係止片(11c)・傾斜面部(32)又は舌片部(12)(「係止爪」に相当)とフランジ(11b)・鍔部(31)又は鍔部(11)(「鍔部」に相当)との間に挟まれて係止されることとなる。
したがって、甲1発明に対して、甲3ないし4発明(枝番含む)のいずれかの発明を適用することで、「軸受け部材からは弾性変形可能な係止爪が突き出ている」との相違点2、「軸受け部材は、係止爪の基端側に鍔部を有しており、係止爪は先端側に向かうほど軸受け部材における回転体の回転中心との距離が短くなる斜面を有している」との相違点3、「回転体の内周には、係止爪に係合可能な段差部を有している」との相違点4、及び、「段差部は係止爪の基端側に係止されるとともに係止爪と鍔部との間に位置する」との相違点5は、たちまち解消し、これにより、本件特許発明1が容易に発明されることとなる。」
(請求書17頁下から5行?18頁8行)

(主張3)
「(1)構成Aに関する相違点
上記1(1)に示した甲1発明の構成a1につき,本件特許発明1では,「A.基端においてハンドルに抜け止め固定された支持軸」との構成を有するのに対して,甲1発明では,「a1.ハンドル(10)の先端部分に固着された支持軸(12)」との構成を有し,支持軸が抜け止めされているか否か不明という点で相違する。
本件特許発明1の構成Aにつき,「基端において」と記載されているのは,「支持軸」の基端(根元部分)を意味するものであるから,構成Aでは,支持軸の根元がハンドルに抜け止め固定されているということを意味する。実際,本件特許発明の図4には,支持軸20がハンドル12に抜け止め固定されている様子が図示されている。
一方,甲第1号証においては,1本の支持軸12がハンドル10の先端部分で固着されているとのみ記載されているに過ぎない。
しかし,甲1発明のように,ハンドル10の先端部に支持軸12を固着することは,言い換えるならば,ハンドル10の先端部の固着部分から支持軸12が抜けないように止められていると言えるので,構成Aと構成a1とは実質的に同一であるといえる。
仮に,構成Aと構成a1とが相違するものであるとしても,ハンドルに対して,支持軸をどのように固定するのかについて,甲1発明のように,固着するのか,あるいは,本件特許発明1のように,抜け止めによって固定するのかは,当業者にとっては,単なる設計事項に過ぎず,甲1発明の支持軸12をハンドル10に抜け止め構造によって固定するように構成することは,当業者にとって容易であると言える。」
(口頭審理陳述要領書3頁12行?下から4行)

(主張4)
「甲1発明の構成e1につき,本件特許発明1では,「E.軸受け部材は、前記回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされ」との構成を有するのに対して,甲1発明では,「e1.筒体(15)は、マッサージ部材(18)の穴とは反対側となる支持軸(12)の先端部分でナット(16)で抜け止めされ」との構成を有し,本件特許発明1では,「軸受け部材」は,「軸受け部材の先端」で「支持軸」に抜け止めされているのに対して,甲1発明では,軸受け部材として機能している「筒体15」は,「支持軸12の先端部分」で「ナット16」によって抜け止めされている点で,文言上は相違している。
・・・(中略)・・・
甲1発明では,筒体15の先端で抜け止めされているのではなく,筒体15の内部に入り込んだところではあるが,支持軸12の先端でナット16によって抜け止めされているという点について,構成Eと表面上は相違しているように見えるが,実質的に見た場合,筒体15の内,下図に示すAの部分が支持軸12を回転可能に支持している部分であるので,Aの部分を軸受であるところの筒体15と考えれば,構成e1につき,「筒体15は、マッサージ部材18の穴とは反対側となる先端で支持軸12に抜け止めされている」と言えるので,構成Eと実質的に同一であると言える。


仮に,構成Eと構成e1とが相違するものであるとしても,筒体15を甲3発明又は甲4発明(枝番含む。以下同様)に置き換えた場合,甲3発明及び甲4発明の軸受け構造から考えて,支持軸の先端に抜け止め部材(甲1発明のナット16や,後述の止め輪など)で抜け止めを行なった場合は,自ずと,軸受け部材の先端で抜け止めされたという構成Eと同様の構成となる。」
(口頭審理陳述要領書3頁下から3行?5頁5行)

(主張5)
「小括
以上が,軸受に関する出願時の技術水準であり,小括すると以下の通りである。
a)軸受の種類として,「すべり軸受」と「転がり軸受」がある。
b)回転軸の周りを回転する回転体を用いる美容器に対して,回転軸と回転体との間に軸受を用いることは,当業者にとって極めて自明なことであるが,請求人としては,その点についての反論が生じないように,甲第2号証を提示している。
c)美容器に用いる場合,軸受は,ハウジングである回転体に固定する必要があるが,当業者にとって,軸受を回転体に固定しなければならないということは極めて自明な事項に過ぎない。
d)回転軸を軸受から抜けないようにしなければならないということは,当業者にとって極めて自明な事項に過ぎない。」
(口頭審理陳述要領書9頁2行?13行)

(主張6)
「被請求人は,軸受を甲1発明に適用することに,動機付けが存在しないという理論を展開しているが,軸受とは,基本的でかつ汎用的な機械要素であるため,当業者は,美容器に用いる軸受として,適宜,適した軸受を選択してくるに過ぎず,甲3又は甲4発明の軸受を当業者が選択してくるということについて,動機付けが存在しないという議論は成立しない。
そして,甲1発明において適した軸受とは何かと考えた場合,マッサージ部材18の内部の突出部に係合することで,マッサージ部18から軸受を抜けないように取り付けることができる係止爪と鍔部とを有する甲3又は甲4発明の軸受を用いればよいと,当業者であれば,容易に想到することができる。
以上のような当業者の発想過程は,極めて自然であり,その論理展開において,何ら困難なところは存在しない。」
(口頭審理陳述要領書9頁下から2行?10頁9行)

(主張7)
「(1)段部17が突出部を乗り越えるという点について
被請求人は,答弁書6頁の下から3行?7頁8行において,筒体15の段部17とマッサージ部材18の突出部との係合構造が成り立つのは,段部17若しくは突出部のいずれかが弾性変形可能であることを前提とすると主張している。
被請求人が主張する弾性変形というのが,どの程度の変形度合いをいっているのか,明確ではないが,少なくとも,ゴム状弾性材料ではないようなプラスチック製品においても,甲1発明のように,突出部を乗り越えさせるような構造は,存在する。
たとえば,手近な例で言えば,ボールペンのキャップなどは,ボールペン側に段差部があり,キャップ側に突出部が設けられているが,キャップ側の突出部をボールペン側の段差部が乗り越えていくことができる。
よって,軸受として機能している筒体15の段部が,甲1発明の突出部を乗り越えるためには,必ずしも,マッサージ部材18は,ゴム状弾性材料でなければならないわけではない。
また,被請求人は,ゴム状弾性材料は,変形しやすい柔らかな素材であるという前提で議論を行なっている。
被請求人の主張では,消しゴムのような堅さのゴムを想定していると感じられるが,ゴムの硬度は,ゴムの種類によって区々であり,たとえば,自動車のタイヤやOリングなどのパッキン類,マウスのトラックボールなどで用いられているゴムであれば,弾性は有するが,比較的堅いゴムであり,そのようなゴムを用いている場合であれば,答弁書13頁の図に記載されているような,マッサージ部材18が軸受から抜けるというような不具合も発生しない。そして,そのようなゴムを用いた場合でも,突出部を乗り越えるように,軸受を設計することは当業者にとって容易である。
(2)マッサージ部材18の材質変更について
甲第1号証では,マッサージ部材18は,ゴム状弾性材料より成るとされているが,甲第2号証の【0022】では,ローラ部として,フェライトインジェクション磁石のように,プラスチック成形磁石が用いられていることが開示されており,甲1発明のマッサージ部材18をゴム状弾性材料以外の堅い材料に変更してもよいことは,当業者にとって,極めて容易である。
したがって,甲1発明のマッサージ部材18を,ゴム状弾性材料に替えて,プラスチック成形のようなゴム材料よりも堅い材料に変更することは,当業者にとって,極めて容易なことである。
そして,甲1発明のマッサージ部材18の材料をゴム材料よりも堅い材料に替えたとしても,甲3発明や甲4発明の軸受には,弾性変形可能な係止爪が存在するため,係止爪が甲1発明の突出部の乗り越えることが可能であり,甲3又は甲4発明の軸受が,マッサージ部材18に取り付けられることとなる。
なお,マッサージ部材18の材料を堅い材料に変更したとしても,甲第2号証の【0022】には表面をシリコンリングにすることが記載されているように,表面をゴム製にすることで,甲1発明の目的を達成させることは,当業者にとって何ら困難なものではなく,マッサージ部材18の材質を変更することができないとの被請求人の主張には理由がない。
なお,本件特許発明では,回転体の材質は限定されていないわけであるから,甲1発明のマッサージ部材18の材質がゴム状弾性材料であったとしても,本件特許発明の回転体と甲1発明のマッサージ部材18とは一致する。
(3)動機付けについて
被請求人は,甲1発明に甲3又は甲4発明を適用することについて動機付けが存在しないと主張している。
その理由として,被請求人は,「甲3及び甲4の技術は「弾性変形しない部材」に装着する軸受けであり,これを甲1発明,すなわち「弾性変形するゴム状弾性材料よりなるマッサージ部材18」に装着する筒体15に代えて使用する理由はなく,動機付けが存在しない。」(答弁書12頁10行?13行),「甲3発明の用途は,「ファクシミリ等の紙送り機構で使用される軸の支承に最適な樹脂製のフランジ付き滑り軸受に関するもの」であり(段落0001),甲4発明は「金属あるいは合成樹脂などの薄板から成る取り付け部材に合成樹脂からなる軸受を固定する」ものであり(1頁右欄最下行の産業上の利用分野),いずれも美容マッサージ器とは技術分野が相違」(答弁書12頁14行?19行)としている。
マッサージ部材18が弾性変形しようがしまいが,すでに述べた通り,軸受は,基本的かつ汎用的な機械要素であるわけであるから,当業者が,甲1発明に対して,甲3又は甲4発明の軸受を適用しようとする動機付けは,存在する。
また,被請求人は,甲3発明及び甲4発明の用途や技術分野について,種々述べることで,動機付けが存在しないことを主張しているが,繰り返しになるが,軸受は基本的かつ汎用的な機械要素であり,甲3及び甲4発明の軸受を甲1発明に適用することにつき,甲3及び4発明の用途や技術分野等を議論したところで,軸受が基本的かつ汎用的な機械要素であるということを凌駕するほどの動機付けの不存在の根拠を見いだすことはできない。
そして実際,甲第3号証の【請求項1】では,フランジ付き滑り軸受とのみされており,また,甲第4号証の【請求項1】でも,軸受の固定方法とのみされており,いずれも用途や使用する技術分野を限定していない。」
(口頭審理陳述要領書10頁13行?12頁16行)

(主張8)
「(4)組み合わせの阻害要因について
答弁書12頁(三)において,マッサージ部材18が軸受から抜けることを根拠として,組み合わせの阻害要因が存在することが述べられており,同13頁の図では,甲1の段部17を甲3の弾性係止片11cに置き換えたときの図を記載している。しかし,同13頁に記載されている図では,甲3発明におけるフランジ11bが意図的に作図から除外されている。
甲3発明にはフランジ11b(本件特許発明1の鍔部に相当)が設けられており,甲4発明にも鍔部11(本件特許発明1の鍔部に相当)が設けられている。
甲3発明はフランジ11bを有し,甲4発明は鍔部11を有しているわけであるから,甲1発明のマッサージ部材18の開口凹み部にフランジ11bや鍔部11が位置することとなる。この点につき,あくまでもデータ上で貼り付けただけのイメージまでではあるが,下記に,甲1発明のマッサージ部材18に,甲3発明の軸受を当てはめたときの様子を図示する。


したがって,仮に,マッサージ部材18が押圧されたとしても,開口凹み部にフランジ11bや鍔部11が存在することで,マッサージ部材18の変形が抑圧されて,甲3発明の弾性係止片11cや甲4発明の舌片12は,押し込まれないこととなり,阻害要因は存在しない。
また,被請求人は,答弁書13頁下から4行?2行において,マッサージ部材18を弾性変形しない構成とすれば,甲1発明の効果を奏さず,目的を達成することができないと主張しているが,マッサージ部材18の内部を堅い材料にして肌に当たる部分のみをゴム製の部材にすることで,甲1発明の目的が達成できることは,当業者にとって明らかであり,阻害要因と言えるほどのものではない。
実際,甲第2号証の【0022】には,ローラ本体部50の側面に,樹脂リング(シリコンリング)6が設けられていることが記載されており,肌に接触する部分を弾性素材にすることは,当業者にとって,何ら困難なものではない。
以上より,甲1発明に対して,甲3及び甲4発明を適用することについての阻害要因が存在するとの被請求人の主張には理由がない。」
(口頭審理陳述要領書12頁17行?15頁8行)

(主張9)
「2 回転体の材質を特定しない場合
・・・(中略)・・・
そして,甲1発明の筒体(15)は矩形の段部(17)を有するものの,軸受として機能しているのは,当業者にとって明らかであるから,軸受が基本的かつ汎用的な機械要素であることを考慮すれば,段部(17)が矩形であるか否かに関係なく,当業者であれば,筒体(15)を甲3又は甲4発明の軸受に置き換えることにつき,動機付けを有するものである。
・・・(中略)・・・
なお、甲3発明又は甲4発明の軸受には,鍔部が存在するため,阻害要因が存在しないことは,平成29年2月6日付けの口頭審理陳述要領書第12頁?15頁「(4)組み合わせの阻害要因について」で述べた通りである。」
(上申書第3頁3行?21行)

(主張10)
「3 回転体の材質を特定する場合
(1)ゴム状弾性材料又は軟質プラスチックの場合
・・・(中略)・・・
そして,軟質のプラスチック製品でマッサージ部材(18)を置き換えた場合,軸受が基本的かつ汎用的な機械要素であるという点を踏まえれば,筒体(15)を甲3又は甲4発明の軸受に置き換えることの動機付けは存在し,ゴム状弾性材料及び硬質のプラスチック製品が撓むという理由が存在したとしても、平成29年2月6日付けの口頭審理陳述要領書第12頁?15頁「(4)組み合わせの阻害要因について」で述べた通り,阻害要因は存在しない。」
(上申書3頁26行?5頁14行)

(主張11)
「3 回転体の材質を特定する場合
(2)硬質のプラスチックの場合
甲1発明のマッサージ部材(18)の材質を硬質のプラスチックに置き換えた場合、剛性の度合いによるが,筒体(15)の段部(17)が矩形であるため、マッサージ部材(18)の突出部を乗り越えることが困難となる可能性がある。
・・・(中略)・・・
そして、段部(17)をテーパー状にしたとしてもマッサージ部材(18)の突出部を乗り越えることができない場合,当業者は,突出部を乗り越えて,軸受をマッサージ部材(18)に挿入することができると,容易に想到することができる。
したがって,硬質のプラスチック製品にマッサージ部材(18)を置き換えた場合,筒体(15)が軸受として機能しているため,軸受が基本的かつ汎用的な機械要素であるということが動機付けになり、さらに,段部(17)が矩形であるため筒体(15)がマッサージ部材(18)に挿入しにくいということが動機付けとなって、甲3発明又は甲4発明を用いればマッサージ部材(18)に挿入しやすくなると当業者であれば容易に考え,筒体(15)を甲3又は甲4発明の軸受に置き換えることについて,容易に想到することができる。」
(上申書5頁18行?6頁19行)

(主張12)
「4 マッサージ部材(18)内の空隙
筒体(15)を甲3発明又は甲4発明の軸受に置き換えた際に、マッサージ部材(18)内の空隙が大きくなるのではないかとの指摘が口頭審理においてなされたが、マッサージ部材(18)内の空隙の大きさは軸受の大きさに応じて、適宜設計すべき事項に過ぎず、また、空隙の大きさに応じて、軸受の大きさを調整することも設計事項に過ぎない。よって、マッサージ部材(18)内の空隙の大きさが、筒体(15)を甲3発明又は甲4発明の軸受に置き換える動機付けの否定や阻害要因となることはない。」
(上申書6頁20行?27行)

(主張13)
「主引用発明と副引用発明との入れ替えた場合の無効理由について
・・・(中略)・・・
一方、プラスチック製(甲第2号証の実施例としては,フェライトインジェクション磁石)のローラ部(5)を有する甲2発明を主引例発明とすることで,回転体の材質による動機付けの不存在及び阻害要因の存在に対する議論を排除した上での議論が可能であり,請求人としては,以下の内容を無効理由として主張する。
以下の主張は,提示する引例文献は,審判請求書内で挙げられた文献であり,審判請求書の要旨を変更する主張であるとは考えないが,もし,審判官合議体において,要旨変更となるとの判断がなされるのであれば,審判官合議体の職権によって,主引用発明と副引用発明とを入れ替えた主張について採用して頂きたく上申する。」
(上申書6頁28行?15頁末行)


第4 被請求人の主張
1 要点
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。

2 被請求人の主張の概要
(主張1)
「b.ところで、甲1の図1(上図)を参照すると、筒体(15)の段部(17)と、マッサージ部材(18)の突出部とは、互いに突出した断面矩形状の部材同士で係合している。
c.具体的には、係合関係にある「筒体(15)の段部(17)」と、「マッサージ部材(18)の突出部」との関係は、「筒体(15)の段部(17)」の外径が、「マッサージ部材(18)の突出部」の内径より大きく、これにより両者を係合している。
そして、このように小径の突出部を、大径の段部(17)より基端側(奥側)に位置させるためには、「段部(17)」あるいは「突出部」のいずれか一方が弾性変形可能な構成となっていることを要する。
すなわち、マッサージ部材(18)を筒体(15)に装着する過程では、段部(17)の先端側と突出部とが接触する状態となるが、その状態から突出部が段部(17)を乗り越えて奥側(図中右側)に移動する必要がある。
d.ここで、段部(17)と突出部の双方ともに弾性変形しない場合には、段部(17)は縮径せず、また突出部も拡径しないことになるから、小径の突出部が大径の段部(17)を乗り越えることができず、突出部を段部(17)よりも奥側に位置させること自体ができない。
また、段部(17)と突出部とがともに弾性変形する構成であれば、段部(17)よりも基端側に突出部を入れ込むことは容易である反面、抜け方向となる反対方向への移動も同様に容易となるため抜けやすく、実用に耐えるとは言い難く、段部17と突出部を形成する意義がない。
e.したがって、甲1発明において、筒体(15)の段部(17)とマッサージ部材(18)の突出部との係合構造が成り立つのは、段部(17)若しくは突出部のいずれかが弾性変形可能であることを前提とする。」
(答弁書5頁下から3行?7頁8行)

(主張2)
「 三.被請求人が主張する甲1発明について
甲1発明は、本件特許発明との対比においては以下のとおり認定されるべきである(下線は被請求人が変更した構成)。
「a1:基端において、ハンドル(10)に抜け止め固定された支持軸(12)と、
b1:支持軸(12)の先端側に回転可能に回転可能に支持されたゴム状弾性材料よりなる弾性変形可能なマッサージ部材(18)とを備え、
c1:そのマッサージ部材(18)により身体に対して美容的作用を付与するようにした美容器において、
d1:マッサージ部材(18)は基端側にのみ穴を有し、マッサージ部材(18)は、その内部に支持軸(12)の先端が位置する非貫通状態で支持軸(12)に筒体(15)を介して支持されており、
e1:筒体(15)は、マッサージ部材(18)の穴とは反対側となる先端で支持軸(12)にナット(16)で抜け止めされ、
f1:筒体(15)からは弾性変形しない段部(17)が突き出ており、
i1:マッサージ部材(18)は内周にゴム状弾性材料よりなる弾性変形可能な段部(17)に係合可能な突出部を有し、
j1:突出部は、段部(17)の基端側に係止される
k1:美容マッサージ器。」

四.本件特許発明1と甲1発明との相違点
本件特許発明1と甲1発明との相違点を被請求人の主張に係る甲1発明に基づいて整理すると、以下のとおりとなる。
(一).相違点1
本件特許発明1では、回転体を回転可能に支持する部材として、軸受け部材を用いているが、甲1発明では、筒体(15)を用いている点。
(二).相違点2
本件特許発明1では、軸受け部材からは弾性変形可能な係止爪が突き出ているのに対して、甲1発明では、筒体(15)からは弾性変形しない段部(17)が突き出ている点。
(三).相違点3
本件特許発明の軸受け部材は、係止爪の基端側に鍔部を有しており、係止爪は先端側に向かうほど軸受け部材における回転体の回転中心との距離が短くなる斜面を有しているが、甲1発明の筒体(15)は、そのような構造を有していない点。
(四).相違点4
本件特許発明1の回転体の内周には、係止爪に係合可能な段差部を有しているのに対して、甲1発明では、ゴム状弾性材料よりなる弾性変形可能なマッサージ部材(18)の内周には弾性変形しない段部(17)に係合可能なゴム状弾性材料よりなる弾性変形可能な突出部を有している点。
(五).相違点5
本件特許発明1では、段差部は、係止爪の基端側に係止されるとともに係止爪を鍔部との間に位置するのに対して、甲1発明はそのような構造を有していない点。」
(答弁書9頁10行?11頁1行)

(主張3)
「f.以上のように、甲3及び甲4の技術は「弾性変形しない部材」に装着する軸受けであり、これを甲1発明、すなわち「弾性変形するゴム状弾性材料よりなるマッサージ部材18」に装着する筒体15に代えて使用する理由はなく、動機付けが存在しない。
g.さらには、甲3発明の用途は「ファクシミリ等の紙送り機構で使用される軸の支承に最適な樹脂製のフランジ付き滑り軸受に関するもの」であり(段落0001)、甲4発明は「金属あるいは合成樹脂などの薄板から成る取付部材に合成樹脂からなる軸受を固定する」ものであり(1頁右欄最下行の産業上の利用分野)、いずれも美容マッサージ器とは技術分野が相違し、この点からも動機付けは存在しない。
(三).組み合わせの阻害要因の存在
a.さらに、甲3発明、甲4発明の軸受けを甲1発明の筒体15に代えて使用すると以下の問題が生じ、明らかな阻害要因が存在する。
b.先に説明したとおり、甲1発明は、マッサージ部材(18)それ自体が弾性変形するゴム状弾性材料によって形成されていることから、マッサージ部材(18)の突出部に係合する筒体(15)の段部(17)は弾性変形しない。
c.一方、甲1発明の筒体(15)に代えて、甲3の弾性係止片或いは甲4の舌片部等を有する軸受けを用いると、マッサージ部材(18)に径方向の圧力が作用した場合、マッサージ部材(18)が弾性変形し、その変形は軸受けの弾性係止片、舌片部等に作用し、これらを径方向内側に押し込むこととなる。
そうすると、押し込まれた弾性係止片、舌片部等はマッサージ部材(18)と係合することができなくなるため、マッサージ部材(18)が軸方向に移動可能となり、軸受けから抜けることになる。」
(答弁書12頁10行?13頁3行)

(主張4)
「(二).しかし、甲1発明のゴム状弾性材料からなるマッサージ部材18に、弾性係止片11c等を備えた軸受け(甲3発明、甲4発明)を使用すると、マッサージ部材が潰れる形に変形した際に弾性係止片11c当も併せて内側に弾性変形し、弾性係止片11c当によるマッサージ部材18の係止ができなくなってマッサージ部材18が軸受けから抜けてしまうため、そのような動機付けが存在しないことは上記したとおりである。
(三).仮に、甲1発明の筒体15に代えて軸受けを使用するとすれば、ゴム状弾性材料からなるマッサージ部材18を係止するためには、甲3発明・甲4発明のような弾性係止片11c当を有する軸受けではなく、弾性変形しない係止用の部材(段部)を有する軸受けを採用すれば足りることである。
(四).その係止用の部材の構成とは、まさに、甲1発明のマッサージ部材18を支持する筒体15に設けられている「弾性変形しない断面矩形状の段部17」であり、かかる弾性変形しない段部17と、弾性変形するマッサージ部材18とを組み合わせてマッサージ部材18を係止する甲1発明の構成は技術的にも合理性がある(段落0006、図1)。
(五).したがって、甲1発明の筒体15に代えて、弾性係止片11c等を備えた軸受け(甲3発明、甲4発明)を適用すること自体に動機付けが存在しないのであるから、これを前提とした変更、すなわち、甲1発明のマッサージ部材18を、ゴム状弾性材料から、内部を硬質の材料で形成してその表面をゴム状弾性材料で覆うといった2層構造に変更するという動機付けも輪を掛けて存在しないことは明らかで有り、技術的にそのような変更は本末転倒である。」
(上申書3頁4行?末行)

(主張5)
「一.請求人は、マッサージ部材18が弾性変形しようがしまいが、軸受けは基本的な機械要素であるから、当業者が甲1発明に甲3又は甲4の軸受けを適用する動機付けは存在すると主張する。
しかし、軸受けが基本的な構成要素であることとと、仮に甲1発明に軸受けを用いるとして、具体的にどのような形状・構成の軸受けを採用するかは全くの別問題である。」
(上申書4頁13行?18行)


第5 無効理由1及び2に対する当審の判断
1 各甲号証に記載された発明等
(1)甲第1号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付与した。以下同様。)
ア「【0001】
【産業上の利用分野】
この考案はゴム状弾性材料より成り円柱状の表面に多数の凹所を形成し皮膚の表面に添って転動させるマッサージ部材を有する美容マッサージ器に関するものである。」

イ「【0002】
【従来の技術】
従来この種の美容マッサージ器では、顔その他の皮膚にマッサージ部材を押し当てて回転する場合凹所の周囲が多少圧縮され弾性変形して凹所内の空気の一部を排出し、続いて皮膚から離れる瞬間皮膚を引っ張るような作用があり、これにより皮膚の汚れを吸い取り、マッサージをやり、血行を良くし、皮膚の活性化を図るものであり、美顔や痩身等のため用いられるものであった。しかしながら、マッサージ部材の表面の弾性変形は極めて僅かであって十分な吸引作用が得られなかった。

【0003】
【考案が解決しようとする課題】
この考案はこの種の美容マッサージ器において十分な吸引作用があって十分な美容作用やマッサージ作用が得られるようにした美容マッサージ器を提供するものである。」

ウ「【0004】
【課題を解決するための手段】
この考案はゴム状弾性材料より成り円柱状の表面に多数の凹所を形成し皮膚の表面に添って転動させるマッサージ部材を有するものにおいて、前記マッサージ部材の各凹所の周囲に外方に僅かに突出した環状突出部が形成してあることを特徴とする美容マッサージ器を提供するものである。
【0005】
【作用】
この考案による美容マッサージ器はマッサージ部材を皮膚に押し当てると環状突出部が容易に弾性変形して凹所内の空気を確実に排出し、かつ離れる場合真空になって皮膚を引っ張り十分な美容作用やマッサージ作用が得られるものである。」

エ「【0006】
【実施例】
以下図面を参照しながらこの考案の実施例について説明する。
図に示すこの考案の一実施例において、10はハンドルで、先端部に両側に延びるようにした1個の軸12が固着してある。この軸の両端部にはねじ13が刻んである。15はこの軸の両端部からそれぞれ回転可能に嵌込んだ筒体で、ナット16をねじ部13に螺合させて抜け止めしてある。
18はほぼ円柱状の表面を有するゴム状弾性を有する材料より成る2個のマッサージ部材で、両側の筒体15の外側にそれぞれ嵌込み筒体の段部17に係合させてある。20はこのマッサージ部材の表面に形成した多数の凹所であり、この各凹所の周囲には例えば0.5mm程度等の僅かに外方に突出させた環状突出部22が形成してある。
【0007】
前述したように構成した美容マッサージ器を使用する場合にはマッサージ部材18を皮膚に押し当てて回転させると環状突出部22が僅かに圧縮された状態で凹所20内の空気が僅かに排出され、かつ離れる場合には環状突出部22が最初の状態に復帰するため凹所20内が真空になり十分な美容作用やマッサージ作用が得られるものである。」

オ「【0008】
この考案は中央部をハンドルに取り付けた軸が貫通する1個のマッサージ部材を有するものにも適用できるものである。
【0009】
【考案の効果】
この考案は前述したように構成してあるから、凹所20の周縁に形成した環状突出部22が圧縮されたり復帰するため、十分な美容作用やマッサージ作用が得られるという効果を有している。」

カ 図1によれば、筒体15の段部17と係合するマッサージ部材には、その基端側に突出部が設けられていることが看取される。

キ 図1によれば、段部17の断面は矩形状であることが看取される。

なお、以下に示す図は、請求人が甲第1号証に部材名等を示す注釈を付与したものであるが、妥当なものと認められるので準じて用いることとする。


上記摘記事項アないしオ並びに認定事項カ及びキを総合すると、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「ハンドルの先端部に両側に延びるように固着された1個の軸12と、
軸12の先端側に回転可能に支持されたマッサージ部材18とを備え、そのマッサージ部材18により美容作用やマッサージ作用を得られるようにした美容マッサージ器において、
マッサージ部材18は、基端側にのみ穴を有し、マッサージ部材18は、その内部に前記軸12の先端が位置する非貫通状態で前記軸に筒体15を介して支持されており、
筒体15は、マッサージ部材18の穴とは反対側となる軸12の先端で抜け止めされ、
筒体15からは断面矩形状の段部17が突き出ており、
マッサージ部材18は内周に段部17に係合可能な突出部を有し、
突出部は、段部17の基端側に係止される、
美容マッサージ器。」

(2)甲第2号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には図面とともに以下の事項が記載されている。
ア「【技術分野】
【0001】
本考案は、磁気を発生するローラによって皮膚、特に顔の皮膚を刺激することによって美容効果を上げることのできるマグネット美容ローラに関する。」

イ「【0014】
さらに、前記ローラ部には、前記ローラ保持部が挿着される挿着孔が形成され、前記ローラ保持部との間にベアリングが設けられて、前記ローラ部が回転自在となるものである。このベアリングとしては、玉軸受、コロ軸受等の転がり軸受、又は、プラスチック軸受、球面滑り軸受、焼結含油軸受等の滑り軸受が望ましい。」

ウ「【考案を実施するための形態】
【0018】
本考案に係るマグネット美容ローラは、柄本体部と、柄本体部に回転自在に保持されるローラ部とによって構成され、前記柄本体部が、使用者によって保持される所定の長さの把持部と、該把持部から該把持部の長さ方向に対して第1の角度で傾斜し且つお互いが第2の角度で開くように前記把持部の一端から延出する一対のローラ保持部とによって構成され、且つ前記ローラ部が、磁石によって形成されると共に前記ローラ保持部のそれぞれにベアリング等の回転保持手段によって回転自在に保持されるものであり、前記ローラ部の側面に、軸方向に所定の間隔で、樹脂リングが配設されるものであり、且つ前記ローラ部の先端部が、球面突出状に形成されるものである。
【実施例】
【0019】
以下、本考案の実施例について、具体的に説明する。本考案に係るマグネット美容ローラ1は、図1に示すように、柄本体部2と、ローラ部5とによって構成される。
【0020】
前記柄本体部2は、本実施例では亜鉛合金によって成形され、図2及び図3に示されるように、使用者によって保持される把持部3と、この把持部3から一方の側に角度αで、例えば手前側に傾斜すると共に、角度βで両側に広がるように延出するローラ保持部4とによって構成され、さらにローラ保持部4は、前記把持部3から分かれて延出する大径部4aと、その先端に一体に形成された小径部4bとによって構成される。この小径部4bには、下記するベアリング8が固着される。また、前記把持部3は、一端側の前記ローラ保持部4の分岐部分から他端側に向けて漸次大きくなるように形成され、持ちやすさを向上させるものである。さらに、把持部3の断面は、この実施例では長円形状に形成されるものであるが、円形であっても良いものである。」

エ「【0022】
前記ローラ部5は、図4に示すように、フェライトインジェクション磁石から円筒状に形成され、一端に球面状に突出する先端部51を一体に具備するローラ本体部50と、このローラ本体部50の側面52に装着された複数の樹脂リング6とによって構成される。この樹脂リング6は、シリコンリングであり、前記側面52の軸方向に所定の間隔で形成された環状溝55に装着されるものである。
【0023】
また、前記ローラ部5のローラ本体部50には、軸方向に形成された小径孔53と大径孔54とが連設され、小径孔53には前記ローラ保持部4の小径部4bが挿通され、大径孔54には前記小径部4bに固着されたベアリング8が挿入され、前記大径孔54の内周面に固定される。これによって、前記ローラ部5は、前記ローラ保持部4に対して回転自在に保持されるものである。
【0024】
以上に説明した構造によって、本考案に係るマグネット美容ローラ1は、把持部3を持ち、ローラ部5を顔などの皮膚に当てて移動させることによって、ローラ部5の凹凸及び磁気によって使用者の皮膚を刺激することができるものである。」

上記摘記事項アないしエを総合すると、甲第2号証には、次の事項(以下、「甲2事項」という。)が記載されていると認める。
<甲2事項>
「ローラ部5の支持軸となるローラ支持部4の小径部4bにベアリング8が固着されて、ベアリング8として転がり軸受又は滑り軸受を用いること。」

(3)甲第3号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である、甲第3号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ファクシミリ等の紙送り機構で使用される軸の支承に最適な樹脂製のフランジ付き滑り軸受に関するものである。」

イ「【0002】
【従来の技術】
ファクシミリの紙送り機構で使用される送りローラの軸は、回転速度がそれほど大きくなく、また、荷重もそれほど大きくないこと、更には、軸受の取り付け部が一般に市販の鋼鈑製の支持板に円形の軸受挿通孔を設けただけの単純構造を採用することが多きことなどから、軸を支承する軸受として、樹脂製のフランジ付き滑り軸受を採用することが多い。
図5乃至図7は、ファクシミリの紙送り機構で使用される従来の樹脂製のフランジ付き滑り軸受を示したものである。」

ウ「【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明に係る樹脂製のフランジ付き滑り軸受は、装置の支持板に貫通形成された軸受挿通孔に嵌合する筒部と、該筒部の基端部外周から半径方向外方に向かって張り出して設けられて前記支持板への当接によって前記筒部の軸方向の位置決めを果たすフランジとを備え、前記筒部に挿通された軸を回転自在に支承する樹脂製のフランジ付き滑り軸受において、前記筒部の外周面には、軸受挿通孔を挿通する際には筒部の内方に弾性変位すると共に、前記軸受挿通孔を通過すると筒部の外方に弾性変位して支持板の前記軸受挿通孔の周縁に当接して、前記筒部の軸受挿通孔からの抜けを防止する弾性係止片を一体形成したことを特徴とする。
【0012】
そして、上記構成によれば、軸受の筒部を支持板の軸受挿通孔に挿入した際、軸受の筒部に一体形成した弾性係止片が軸受挿通孔を通過すると、弾性復元力によって弾性係止片が筒部の外方に突出して、支持板の軸受挿通孔の周縁を係止し、抜け止めを果たす。従って、軸受の支持板への固定に別体の抜け止め用のリングが不要である。また、弾性係止片は、筒部の周壁の一部に形成した小さなもので、弾性変形にそれほど大きな力が必要とならない。そのため、取り付け時に大きな操作力も不要になる。
【0013】
なお、好ましくは、上記の樹脂製のフランジ付き滑り軸受において、前記筒部の外周面に、前記弾性係止片として、前記フランジからの離間距離を相異させた複数組の弾性係止片を装備した構成とするとよい。このようにすると、抜け止めとして有効に機能する弾性係止片が切り替わることで、板厚が異なる複数種の支持板に対して取り付け可能になる。
【0014】
更に、好ましくは、上記の樹脂製のフランジ付き滑り軸受において、前記複数組の弾性係止片の前記フランジからの離間距離を、装置の支持板に使用される市販の鋼鈑板厚の種類に対応させて設定した構成とするとよい。このようにすると、例えばファクシミリやパーソナルコンピュータ用のプリンタの紙送り機構において支持板として使用される市販鋼鈑は、通常、1?3種類に特定されるため、筒部に装備する弾性係止片の種類を不必要に増やさずとも、限られた数種の弾性係止片の装備で、十分な汎用性を確保することができる。
【0015】
更に、好ましくは、上記の樹脂製のフランジ付き滑り軸受において、前記軸受挿通孔が多角形形状に形成されており、前記筒部の外面が前記軸受挿通孔の多角形形状に対応した多角形形状に形成された構成とするとよい。このようにすると、多角形状の軸受挿通孔に嵌合した多角形状の外面を有する樹脂製のフランジ付き滑り軸受により支持板に対する回り止め機能を備えることが可能となる。」

エ「【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る樹脂製のフランジ付き滑り軸受の好適な実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係る樹脂製のフランジ付き滑り軸受の一実施の形態を示したもので、図1は本発明の一実施の形態の樹脂製のフランジ付き滑り軸受の斜視図、図2は図1に示した樹脂製のフランジ付き滑り軸受の縦断面図である。
【0017】
この一実施の形態の樹脂製のフランジ付き滑り軸受11は、ファクシミリ装置の紙送り機構の支持板12に貫通形成された円形の軸受挿通孔12aに嵌合する円筒状の筒部11aと、該筒部11aの基端部外周から半径方向外方に向かって張り出して設けられて前記支持板12への当接によって前記筒部11aの軸方向の位置決めを果たすフランジ11bと、筒部11aの外周に突出する弾性係止片11cとを、合成樹脂により一体成形したもので、筒部11aに挿通された軸を回転自在に支承する。支持板12は、JIS規格に準じた市販の鋼鈑材料のプレス成形によって形成されたものである。
【0018】
弾性係止片11cは、軸受挿通孔12aを挿通する際には筒部11aの内方に弾性変位すると共に、前記軸受挿通孔12aを通過すると筒部11aの外方に弾性復元力によって変位して支持板12の前記軸受挿通孔12aの周縁に先端を当接して、前記筒部11aの軸受挿通孔12aからの抜けを防止する。
【0019】
以上に説明したフランジ付き滑り軸受11では、軸受の筒部11aを支持板12の軸受挿通孔12aに挿入した際、軸受の筒部11aに一体形成した弾性係止片が軸受挿通孔12aを通過すると、弾性復元力によって弾性係止片が筒部11aの外方に突出して、支持板12の軸受挿通孔12aの周縁を係止し、抜け止めを果たす。従って、軸受の支持板12への固定に別体の抜け止め用のリングが不要で、構成部品点数や組立工程数の削減を図ることができる。また、弾性係止片は、筒部11aの周壁の一部に形成した小さなもので、弾性変形にそれほど大きな力が必要とならない。そのため、取り付け時に大きな操作力が不要で、紙送り機構等のコストの低減と組立性の向上を図ることができる。」

オ 図1によれば、弾性係止片11cは、先端側に向かうほど回転中心との距離が短くなる斜面を有していることが看取される。

上記摘記事項アないしエ及び認定事項オを総合すると、甲第3号証には、次の技術事項(以下、「甲3事項」という。)が記載されていると認める。
<甲3事項>
「支持板へ挿通されて固定されるフランジ付き滑り軸受11であって、弾性係止片11cが突出するとともに、
弾性係止片11cの基端側にフランジ11bを有しており、
弾性係止片11cは先端側に向かうほど回転中心との距離が短くなる斜面を有し、
フランジが軸方向の位置決めを行い、弾性係止片11cが支持板に当接することにより抜け止めとして機能する滑り軸受。」

(4)甲第4号証
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には図面とともに以下の事項が記載されている。
ア「〔従来技術〕
従来、薄板から成る取付部材に合成樹脂製軸受を固定する場合は、該軸受の外周面に鍔部を形成し、該鍔部においてビスなどの手段により固定する方法あるいは該軸受を取付部材に圧入固定する方法が採用されている。
しかしながら、前者の固定方法においては、取付部材ならびに軸受の鍔部にビス用の孔を加工する必要があると共にその固定作業は極めて効率が悪いという欠点があり、加えて振動等により該ビスが緩み当該軸受が取付部材から抜け出すという問題もある。
また、後者の固定方法においては、取付部材に形成された孔の径と軸受の外径との差、所謂シメシロが該軸受の内周面に影響を及ぼし、該内周面の内径にバラツキを生ずるという問題がある。
このような問題を解決するために、第9図に示す軸受の固定構造が提案されている。
この固定構造は、円筒部30と該円筒部30の一方の端部外周面に径方向外方に延設された鍔部31と該円筒部30の外周面に該鍔部31と反対側から該鍔部31裏面側に向かって漸次拡径し該鍔部31裏面の近傍まで延設された傾斜面部32と該鍔部31裏面と該傾斜面部32の端面との間に形成された環状溝33とを備えた軸受3と、円孔40を備えた薄板から成る取付部材4からなるもので、該軸受3は該鍔部31と反対側の端部から該取付部材4の円孔40内に挿入され、該軸受3の外周面傾斜面部32を弾性変形させながら該鍔部31裏面が取付部材4に当接するまで押圧され、該軸受3の環状溝33が該取付部材4に嵌合することにより該取付部材4に固定されるものである。
この構成からなる固定構造においては、前述した固定方法に比べ、該軸受の内径にバラツキを生ずるという問題はなく、該軸受の該取付部材への固定作業効率が大幅に向上し、また振動等による軸受の抜け出しという問題も解決される。
〔考案が解決しようとする問題点〕
しかしながら、上述した固定構造では、該軸受3の取付部材4に対する回り止め手段は該軸受3の環状溝33と該環状溝33に嵌合する取付部材4との間の嵌合力によって行われるため、当該嵌合力の変化により取付部材4の円孔40と該軸受3の環状溝33間で回転する恐れがあり、結果として該環状溝33の摩耗を惹起し、早期に該軸受3と取付部材4との間にガタを発生するなどの問題がある。
また、この固定構造では、軸受の外周面に形成した環状溝の幅と同じ肉厚(板厚)を有する取付部材に限定され、異なる肉厚(板厚)の取付部材には対応することができず、取付部材の板厚ごとに軸受を製作しなければならないという経済性の問題もある。
本考案は上述した問題点に鑑み、軸受の取付部材への固定作業の効率が良く、軸受の回り止めも兼ね備え、かつ板厚の異なる取付部材に対しても一つの軸受で対応できる軸受の固定構造を得ることを目的とするものである。
〔問題点を解決するための手段〕
このような問題を解決するために、第9図に示す軸受の固定構造が提案されている。
この固定構造は、円筒部30と該円筒部30の一方の端部外周面に径方向外方に延設された鍔部31と該円筒部30の外周面に該鍔部31と反対側から該鍔部31裏面側に向かって漸次拡径し該鍔部31裏面の近傍まで延設された傾斜面部32と該鍔部31裏面と該傾斜面部32の端面との間に形成された環状溝33とを備えた軸受3と、円孔40を備えた薄板から成る取付部材4からなるもので、該軸受3は該鍔部31と反対側の端部から該取付部材4の円孔40内に挿入され、該軸受3の外周面傾斜面部32を弾性変形させながら該鍔部31裏面が取付部材4に当接するまで押圧され、該軸受3の環状溝33が該取付部材4に嵌合することにより該取付部材4に固定されるものである。」
(2頁3欄3?30行)

イ「1は合成樹脂製の軸受であり、該軸受1は円筒部10と該円筒部10の一方の端部外周面に径方向外方に延設された鍔部11と該円筒部10の外周面に該外周面から鍔部11側に斜方向に延設された1つの舌片部12と該舌片部12の端部に該鍔部11側に向けて延設された係合片部13と該係合片部13に該鍔部11裏面との隙間t1、t2、t3を漸次縮小するように形成された複数個の段部14(本実施例においては3個)とを備えている。
(中略)
さらに該軸受1の鍔部11裏面が取付部材2の板面に当接する位置まで押圧すると、該舌片部12はその弾性により復元し、該舌片部12の端部に形成された係止片部13の段部14が切り欠き溝22の底部21に当接係合し、該軸受1は取付部材2の円孔20に固定される。
上述した固定構造において、該軸受1は係止片部13が取付部材2の円孔20に連なって形成された切欠き溝22に係合することによりその円周方向の回転が阻止されて回り止め手段を形成し、また鍔部11裏面と係止片部13の段部14との隙間に該取付部材2を挟持することによりその軸方向の移動が阻止されて該軸受の抜け止め手段を形成する。」
(2頁4欄35行?3頁5欄32行)

ウ「第6図及び第7図は、本考案の第2の実施例を示すものである。
この実施例は、取付部材2に円孔20と該円孔20に連なる切欠き溝22が相対向して2つ形成されており、軸受1の円筒部10の外周面には端部に係止片部13を備えた舌片部12が相対向して2つ形成されているものである。」
(3頁5欄33?38行)

上記摘記事項のうち、特にアに注目すれば、甲第4号証には、次の技術事項(以下、「甲4-1事項」という)が記載されている。
<甲4-1事項>
「薄板からなる取付部材4に固定する軸受3において、
軸受3からは弾性変形可能な傾斜面部32が突き出るとともに、
軸受3は傾斜面部32の基端側に鍔部31を有しており、
傾斜面部32は先端側に向かうほど縮径する斜面を有し、
鍔部31裏面が取付部材に当接するまで押圧され、軸受3の環状溝33が取付部材4に嵌合することにより固定される軸受3。」

また、上記摘記事項のうち、特にイ及びウに注目すれば、甲第4号証には、次の技術事項(以下、「甲4-2事項」という。)も記載されている。
<甲4-2事項>
「薄板からなる取付部材2に固定する軸受1において、
軸受1から基端側に向けて斜方向に延設された二つの舌片部を備え、
軸受1は舌片部12の基端側に鍔部11を有しており、
鍔部11裏面と舌片部12の端部に形成された係止片部13との隙間に取付部材2を挟持することによりその軸方向の移動が阻止されて軸受の抜け止め手段を形成する軸受1。」

2 本件発明1について
甲1発明の「軸12」が本件発明1の「支持軸」に相当することはその機能、構造から明らかである。以下、同様に「固着」は「固定」に、「マッサージ体18」は「回転体」に、「美容作用を得られるようにした美容マッサージ器」は「美容的作用を付与するようにした美容器」に、「筒体15」は「軸受け部材」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「段部17」と本件発明1の「係止爪」とは、回転体と係合する係止片という限りにおいて共通する。
また、甲1発明の「突出部」は段部17と係合するものであり、段部17の基端側に係止されるという限りにおいて本件発明1の「段差部」と共通する。
したがって、甲1発明と本件発明1とは以下の点で一致する。

<一致点>
「ハンドルに固定された支持軸と、
支持軸の先端側に回転可能に支持された回転体とを備え、その回転体により美容的作用を付与するようにした美容器において、
前記回転体は、基端側にのみ穴を有し、回転体は、その内部に前記支持軸の先端が位置する非貫通状態で前記支持軸に軸受け部材を介して支持されており、
軸受け部材は、回転体の穴とは反対側で抜け止めされ、
軸受け部材からは係止片が突き出ており、
回転体は内周に前記係止片に係合可能な段差部を有し、
段差部は、係止片の基端側に係止される
美容器」

そして、本件発明1と甲1発明とは、以下の5点で相違する。
(相違点1)
本件発明1は、支持軸の基端においてハンドルに抜け止め固定されているのに対し、甲1発明の軸12は、1本の軸が軸の中央部分でハンドルに固定されるものであり、また、抜け止めされているか明らかでない点。

(相違点2)
本件発明1は、軸受け部材は回転体の穴とは反対側となる先端で支持軸に抜け止めされているのに対し、甲1発明は筒体15の先端ではなく軸12の先端で抜け止めされている点。

(相違点3)
本件発明1は、軸受け部材からは弾性変形可能な係止爪が突き出ているのに対し、甲1発明は筒体15から段部17が突き出ているものの弾性変形可能か明らかでない点。

(相違点4)
本件発明1の軸受け部材は係止爪の基端側に鍔部を有しており、係止爪は先端側に向かうほど軸受け部材における回転体の回転中心との距離が短くなる斜面を有しているが、甲1発明は、鍔部を有しておらず、段部は断面矩形状である点。

(相違点5)
本件発明1は、回転体の内周に、係止爪に係合可能な段差部を有し、段差部は係止爪の基端側に係止されるとともに係止爪と鍔部の間に位置するのに対し、甲1発明はマッサージ部材18の内周の基端側に段部と係合する突出部を有しているに留まる点。

3 判断
以下、各相違点について検討する。
事案に鑑み、まず相違点3ないし5を検討する。
(相違点3ないし5について)
(1)甲1発明における筒体15の機能・作用
甲1発明における筒体15は、技術常識を踏まえて合理的に考えれば、軸12に対して回転する機能を有するものであって、その基端から先端でマッサージ部材18を支持する機能を有するものである。
また、段部17は、断面矩形状の形状を有しており、軸方向(筒体の長手方向)に対してはマッサージ部材が抜けないよう支持する機能を有しているものと認められる。
さらに、マッサージ部材が回転する際に、筒体15も軸12に対して回転することから、マッサージ部材18は筒体15と摩擦係合することにより、両者が一体となって回転するものと認められる。

(2)甲3事項における軸受の機能・作用
甲3事項の軸受は、支持板に挿通されて固定される軸受であって、軸を回転可能に支承する機能を有し、フランジが軸方向の位置決めを行い、弾性係止片11cが支持板12に当接することにより抜け止めとして機能するものである。

(3)甲4-1事項及び甲4-2事項における軸受の機能・作用
甲4-1事項の軸受は、取付部材に固定される軸受であって、鍔部31裏面と傾斜面部32の端面との間に形成された環状溝33に取付部材が嵌合することにより軸方向への移動が阻止されて軸受の抜け止め手段を形成するものである。
甲4-2の軸受は、取付部材に固定される軸受であって、鍔部11裏面と係止片部13の段部14との隙間に取付部材を挟持することにより軸方向への移動が阻止されて軸受の抜け止め手段を形成するものである。

(4)軸受によるマッサージ部材の支持について
上記(1)ないし(3)で述べたように、甲1発明の筒体15はその基端から先端の全体でマッサージ部材を支持する機能を有するものであるのに対し、甲3事項並びに甲4-1事項及び甲4-2事項における軸受は、フランジ部(以下、甲3事項の「フランジ」と甲4-1事項及び甲4-2事項の「鍔部」をまとめて「フランジ部」という。)と弾性片(以下、甲3事項の「弾性係止片」と甲4-1事項の「傾斜面部」及び甲4-2事項の「舌片」をまとめて「弾性片」という。)との間に板部材を挟むようにして固定するものであるから、甲3事項並び甲4-1事項及び甲4-2事項における軸受は、軸受の外周の弾性片より先端側で部材を支持するものではない。
また、甲3事項並びに甲4-1事項及び甲4-2事項における軸受が外周の弾性片より先端側で部材を支持しようとすると、部材が弾性片に接触することにより弾性片が内方に変位して、軸受と板部材との係合が解除されるおそれもあることから、甲3事項並びに甲4-1事項及び甲4-2事項の軸受は弾性片より先端側で部材を支持することを想定しているとも言い難い。
そうすると、甲1発明の筒体15はその基端から先端の全体でマッサージ部材を支持するものであるところ、甲3事項並びに甲4-1事項及び甲4-2事項のように、軸受の外周の弾性片より先端側で部材を支持しない軸受を適用すると、弾性片とフランジ部との間だけでマッサージ部材を支持することになるから、マッサージ部材を十分に支持することはできず、それに起因して、マッサージ部材と軸受の摩擦により一体となって回転することから、支持する長さが弾性片とフランジ部との間だけとなることによって、マッサージ部材の回転に軸受けを追従させることが困難となるおそれもある。
そうすると、軸受により部材を支持するという観点から、甲1発明に甲3事項並びに甲4-1事項及び甲4-2事項の軸受を適用する動機付けを欠くものと言わざるを得ない。

<請求人の主張について>
請求人は、「第3 3(主張6)、(主張7)、及び(主張9)ないし(主張11)」にて指摘したように「軸受とは,基本的でかつ汎用的な機械要素であるため,当業者は,美容器に用いる軸受として,適宜,適した軸受を選択してくるに過ぎず,甲3又は甲4発明の軸受を当業者が選択してくるということについて,動機付けが存在しないという議論は成立しない。」、「第3 3(主張8)」にて指摘したように「仮に,マッサージ部材18が押圧されたとしても,開口凹み部にフランジ11bや鍔部11が存在することで,マッサージ部材18の変形が抑圧されて,甲3発明の弾性係止片11cや甲4発明の舌片12は,押し込まれないこととなり,阻害要因は存在しない。」と主張する。


しかしながら、甲1発明における、マッサージ部材の基端部における凹み(平成29年2月6日付け請求人口頭審理陳述要領書第14頁の上図における「開口凹み部」)は、ハンドルと一致した形状を有していることから、マッサージ部材がゴム状弾性であることに起因してマッサージ時ないしマッサージ部材を装着する際にマッサージ部材とハンドルとが干渉しないように設けられたものと認められる。
一方、甲3事項の軸受は、フランジが位置決めとして機能し、甲4-1事項及び甲4-2事項の軸受は鍔部と弾性片との間に挟持するものであるから、これらはフランジ部と部材とが接触することを前提とした軸受である。
そうすると、甲1発明に甲3事項並びに甲4-1事項及び甲4-2事項の軸受を適用すると、甲1発明におけるマッサージ部材の開口凹み部がフランジ部により塞がれてしまうこととなり、甲1発明において、マッサージ部材に開口凹み部を設ける技術的意味を失わせる変更をすることになる。
また、マッサージ部材を十分に支持することはできないことも上述したとおりであって、甲1発明における軸受として甲3事項並びに甲4-1事項及び甲4-2事項の軸受が適しているとも認められない。
さらに、「第3 3(主張12)」にて指摘したように「筒体(15)を甲3発明又は甲4発明の軸受に置き換えた際に、マッサージ部材(18)内の空隙が大きくなるのではないかとの指摘が口頭審理においてなされたが、マッサージ部材(18)内の空隙の大きさは軸受の大きさに応じて、適宜設計すべき事項に過ぎず、また、空隙の大きさに応じて、軸受の大きさを調整することも設計事項に過ぎない。よって、マッサージ部材(18)内の空隙の大きさが、筒体(15)を甲3発明又は甲4発明の軸受に置き換える動機付けの否定や阻害要因となることはならない。」とも主張する。
しかしながら、上述したように、甲3事項並びに甲4-1事項及び甲4-2事項の軸受は、外周の弾性片より先端側で部材を支持することを想定しておらず、弾性片より先端側で部材を支持することは係合が解除されるおそれがあるために、外周の弾性片より先端側で部材を支持することは避けるべき軸受であるから、マッサージ部材を支持するために、軸受の長さを変更するという設計変更が生じる余地がない。
したがって、請求人の主張は採用できるものでない。

なお、「第3 3(主張11)」にて指摘したように「硬質のプラスチック製品にマッサージ部材(18)を置き換えた場合、段部(17)が矩形であるため筒体(15)がマッサージ部材(18)に挿入しにくいということが動機付け」となるとも主張するが、甲1発明におけるマッサージ部材の材質を変更すると、筒体をマッサージ部材に挿入しにくいという問題が生じるのであれば、甲1発明においてマッサージ部材の材質を変更すること自体に動機付けがないと言わざるを得ない。

(5)断面矩形状の段部による抜け止めについて
甲1発明の段部17と、甲3事項並びに甲4-1事項及び甲4-2事項における弾性片とは、その断面により軸方向(筒体の長手方向)に対して抜け止めとして機能するものであるから、段部ないし弾性片の材質、段部ないし弾性片の軸受けにおける径方向高さや、段部ないし弾性片の軸方向面積に応じて、抜け止めとしての効果が変化するものである。
軸方向面積に着目すると、甲1発明は、矩形状の段部で抜け止めさせるのに対し、甲第3号証及び甲第4号証における弾性片は、基端方向に向けて徐々に軸受本体と離間する弾性片であるから、仮に、甲1発明の段部を、甲3事項並びに甲4-1事項及び甲4-2事項における弾性片により置き換えると、弾性片が軸受本体と離間している分、支持される面積が低下するので、抜け止めとしての効果が低下する。
まして、甲第1号証には明示されていないものの、段部17が筒体15の周回りに形成され、また、弾性でない材料から構成されているとも捉えることができ、このような甲1発明の段部を、甲3事項並びに甲4-1事項及び甲4-2事項における弾性片のように軸受の周回りの一部のみに形成された弾性体により置き換えると、抜け止めとしての効果は著しく損なわれることが明らかである。
そうすると、甲1発明に甲3事項並びに甲4-1事項及び甲4-2事項の軸受を適用すると、甲1発明における段部が有する技術的意味を失わせることになる。

(4)及び(5)で述べたように、甲1発明におけるマッサージ部材に対して、甲3事項の軸受を適用することは、甲3事項並びに甲4-1事項及び甲4-2事項の軸受が想定していない使い方をさせるものであって、かつ、甲1発明のマッサージ部材の開口凹み部における干渉を防止する機能及び段部17の抜け止めとしての機能に反する変更を強いるものと言えるから、甲1発明において、相違点3ないし5に係る本件発明1の構成とすることは動機付けを有しておらず、当業者が容易になし得ることとは認められない。

したがって、相違点1,2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2事項ないし甲4-2事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることはできない 。

(6)甲2発明を主発明とする無効理由について
請求人は、第3 3(主張13)において指摘したように、甲第2号証を主引用発明とし、甲第1号証を副引用発明として、主副引用発明を入れ替えた場合の容易想到性を主張している。
これにつき検討するに、まず、請求人も認めるように審判請求書においては、甲第1号証を主引用発明とする容易想到性の主張がされているのみで、甲第2号証を主引用発明とする容易想到性の主張はなされていない。そればかりか、請求人の平成29年2月6日付け口頭審理陳述要領書7頁19?23行には「請求人としては,上記のように,回転体を使用するマッサージ可能な美容器において,軸受を用いることは,当業者にとって極めて自明な事項であるため,あえて,先行技術文献を提示する必要もないのではないかと考えたが,その点について反論が生じないようにするために,甲第2号証を提示して,美容ローラにも軸受が用いられているということを明らかにした次第である。」と記載されており、甲第2号証の副引用発明としての役割を低いものとみなしている。
したがって、甲第2号証を主引用発明とし甲第1号証を副引用発明として容易想到性を主張することは、請求書の「要旨を変更するもの」(特許法第131条の2参照)といわざるを得ない。
そして、審理が相当進行した口頭審理終了後において、甲第2号証を主引用発明とする無効理由を主張する要旨変更を行うことは、被請求人に改めて防御の機会を与える必要があることから、「審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかなもの」(特許法第131条の2第2項柱書)ということはできない。
よって、請求人の平成29年3月3日付け上申書における主引用発明と副引用発明を入れ替える主張は採用し得ない。

4 小括
以上によれば、相違点3ないし5に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得るものとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、甲第1号証ないし甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明することができたものである、とはいえず、本件発明1に係る特許を無効理由1,2によっては無効にすることはできない。

5 本件発明2について
本件発明2は、直接、本件発明1を引用するものであるところ、本件発明1に係る特許を無効理由1,2によっては無効にすることができないことは、上記3にて説示したとおりであるから、本件発明1を引用する本件発明2に係る特許も、無効理由1,2によっては無効にすることはできない。

6 まとめ
以上によれば、本件発明1,2は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである、とはいえないから、本件発明1,2に係る特許は無効理由1,2によっては無効にすることはできない。


第6 むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1,2についての特許を無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-28 
結審通知日 2017-03-31 
審決日 2017-04-11 
出願番号 特願2014-197056(P2014-197056)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A45D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大瀬 円  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 平瀬 知明
宮下 浩次
登録日 2015-12-04 
登録番号 特許第5847904号(P5847904)
発明の名称 美容器  
代理人 冨宅 恵  
代理人 ▲高▼山 嘉成  
代理人 小林 徳夫  

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