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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07D
審判 一部無効 2項進歩性  C07D
管理番号 1339543
審判番号 無効2015-800095  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-03-31 
確定日 2018-04-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第2648897号発明「ピリミジン誘導体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は,塩野義製薬株式会社を出願人(以下「被請求人」という。)とし,平成4年5月28日(国内優先権主張 平成3年7月1日)に,名称を「ピリミジン誘導体」とする発明について,特願平4-164009号として特許出願がされたものであって,平成9年5月16日に,特許第2648897号として設定登録がなされた(請求項の数12。以下,その特許を「本件特許」といい,その明細書を「本件特許明細書」という。)。
その後,本件特許について,本件無効審判とは別の請求人から無効審判(無効2014-800022号,以下「先の無効審判」という。)が請求され,平成27年6月29日付けで,「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決が送達され,請求項3,4,7,8を削除する訂正が確定するとともに,その審決取消訴訟が同年7月29日に提起されたものの,訴えが取り下げられたため,上記審決は,同年7月29日付けで確定し,請求項1,2,5,6,9?17に係る訂正も訂正請求書に記載のとおり確定した。

一方,日比野謙一(以下「請求人」という。)から,本件無効審判の請求がなされた。その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年 3月31日 審判請求書・甲第1?32号証提出(請求人)
同年 5月22日 手続補正書(請求人)
同年 6月 5日 上申書(被請求人)
同年 8月 3日 審判事件答弁書・乙第1?55号証提出
(被請求人)
同日 訂正請求書
同年 9月18日 手続補正書(被請求人)
同年10月 2日 上申書(被請求人)
同年10月29日 アストラゼネカ ユーケイ リミテッド
(以下「補助参加人」という。)からの参加申請
同日 上申書・丙第1?7号証(参加人)
同年11月 4日 審判事件弁駁書・甲第33?52号証提出
(請求人)
同年11月11日 意見書(請求人)
同日 手続補正書(請求人)
同年12月11日 参加許否の決定(参加申請の許可)
同年12月16日 訂正拒絶理由通知・職権審理結果通知
同年12月25日 意見書(請求人)
平成28年 1月18日 上申書(被請求人)
同年 2月 8日 審理事項通知書
同年 3月24日 上申書・甲第8-2号証,甲第53?55号証
提出(請求人)
同日 上申書・乙第56?61号証提出(被請求人)
同日 上申書・丙第8?11号証提出(補助参加人)
同年 4月 7日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書・乙第62号証提出
(被請求人)
同日 口頭審理陳述要領書・丙第12号証提出
(補助参加人)
同年 4月15日 上申書・丙第13号証(補助参加人)
同年 4月21日 口頭審理
同日 補正許否の決定
同年 4月22日 上申書・甲第43号証再提出(請求人)
同年 5月 6日 日本ケミファ株式会社(以下「主参加人」という
。)からの参加申請
同年 6月 9日 参加許否の決定(参加申請の許可)
同年 6月21日 審理終結通知書

第2 訂正の適否についての当審の判断
被請求人は,審判長が特許法第134条第1項に規定する訂正を請求するために指定した期間内である平成27年8月3日に訂正請求書を提出して,本件明細書及び本件特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり請求項ごと又は一群の請求項ごとに訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。
一方,本件特許については,上記「第1」で述べたとおり先の無効審判の審決が確定したので,特許法第134条の2第9項で準用する同法第128条の規定により,先の無効審判で請求された訂正後の明細書及び特許請求の範囲により特許権の設定の登録がなされたものとみなされる。
そして,本件訂正は,上記訂正拒絶理由通知で指摘したとおり,その訂正の内容は,先の無効審判で訂正された訂正後の明細書及び特許請求の範囲と同じものである。
そうすると,本件訂正によって,何ら訂正がなされていないこととなる。
したがって,本件訂正は特許法第134条の2第1項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものとも認められない。
よって,本件訂正は認められない。

第3 本件発明
上記「第2」で述べたとおり,本件訂正は認められず,本件特許の請求項1,2,5,9?12に係る発明(以下「本件発明1」,「本件発明2」,「本件発明5」,「本件発明9」?「本件発明12」といい,合わせて「本件発明」という。)は,先の無効審判で訂正された訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2,5,9?12に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。

【請求項1】式(I):
【化1】

(式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
R^(4)は水素またはヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;
Xはアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基;
破線は2重結合の有無を、それぞれ表す。)
で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物。

【請求項2】(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリジン)-5-イル]-(3R、5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸。

【請求項5】式(I):
【化2】
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
R^(4)はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;
Xはメチルスルホニル基により置換されたイミノ基;
破線は2重結合の有無を、それぞれ表す。)
で示される化合物。

【請求項9】式(I):
【化4】
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
R^(4)はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;
Xはメチルスルホニル基により置換されたイミノ基;
破線は2重結合の存在を、それぞれ表す。)
で示される化合物。

【請求項10】式(b)で示される化合物を、(3R)-3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ-5-オキソ-6-トリフェニルホスホラニリデンヘキサン酸誘導体と反応させて式(c)で示される化合物を生成させる工程と、
【化5】

【化6】

式(c)で示される化合物のtert-ブチルジメチルシリル基を離脱することにより式(d)で示される化合物を生成させる工程と、
【化7】

式(d)で示される化合物を還元する工程と、を含む方法によって得られる
式(I):
【化8】

(各式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
R^(4)はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;
Xはアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基;
破線は2重結合の存在;
t-Buはtert-ブチル;
C*は不斉炭素原子を、それぞれ表す。)
で示される、光学活性体化合物。

【請求項11】(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-(3R、5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸のカルシウム塩。

【請求項12】請求項1に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。

第4 請求の趣旨並びにその主張の概要及び請求人が提出した証拠方法,主参加人の主張について
1 審判請求書,審判事件弁駁書,口頭審理陳述要領書,上申書に記載した無効理由の概要
請求人が主張する請求の趣旨は,
「特許第2648897号の請求項1,2,5,9ないし12に係る特許は無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(審判請求書第1頁「6.請求の趣旨」,審判事件弁駁書第2頁「7.理由」の「7-1」の(1)及び(2),第1回口頭審理調書「請求人 1」参照)。
そして,請求人が主張する無効理由は概略以下のとおりである(審判請求書第2頁第2行?第5頁第8行,第53頁第19行?第69頁第15行,平成27年5月22日付け手続補正書「6.補正の内容」,審判事件弁駁書第2頁「7.理由」の「7-1」の(1)及び(2),第24頁下から第11行?第50頁第15行,審理事項通知書「第1 3(1),(2)」,平成28年3月24日付け上申書第16頁下から第8行?第29頁第20行,口頭審理陳述要領書第2頁下から第5行?第27頁末行,第1回口頭審理調書 「請求人 2」参照)。

(1)無効理由1
本件発明1,2,5,9?12は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証(主引用例)及び甲第2号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基いて,本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本件発明1,2,5,9?12の特許は,特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件発明1,2,5,9?12は,従来技術に比較して顕著に高活性であったとはいえないから,当業者が本件発明の課題を解決できるものと理解できず,特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
したがって,本件特許の特許請求の範囲の記載は,平成6年法律第116号附則第6条第2項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成6年改正前特許法」という。)第36条第5項第1号に適合するものではないから,本件発明1,2,5,9?12の特許が同法第36条第5項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであって,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。

(3)補正許否の決定
請求人が審判事件弁駁書でした請求の理由の補正については,特許法第131条の2第2項の規定に基づき,以下のとおり補正許否の決定を行った(第1回口頭審理調書「審判長 2」参照)。
ア 請求項13,15?17に係る特許を無効とするとの補正は,その要旨を変更するものであり,被請求人もその補正に同意しないので,許可しない。
イ 無効理由3?5を追加する補正は,その要旨を変更するものであり,被請求人もその補正に同意しないので,許可しない。

2 請求人の提出した証拠方法
請求人の提出した証拠方法は,以下のとおりである。
(1)審判請求書及び平成27年5月22日付け手続補正書で提出した証拠方法
甲第1号証 特表平3-501613号公報
甲第2号証 特開平1-261377号公報
甲第3号証 「管理課題報告」と題する本件特許権者の内部文書
(DTX-72),1996年8月26日
(先の無効審判の甲第3号証)
甲第4号証 Adrian G. Flinn氏から塩野義製薬株式会社山口氏
あての書面(DTX-175),1997年12月17日
(先の無効審判の甲第4号証)
甲第5号証 「S-4522特許に関するゼネカ社とのこれまでのQ&A」
と題する本件特許権者の内部文書(PTX-0950),
1998年1月30日
(先の無効審判の甲第5号証)
甲第6号証 本件特許の特許出願に係る平成8年8月12日付け意見書
甲第7号証 Bruce D. Rothら, Journal of Medicinal Chemistry,
Vol.34, No.1, p.463-466, 1991 Jan
甲第8号証 F. G. Kathawala, Medicinal Research Reviews,
Vol.11, No.2, p.121-146, 1991 Mar
甲第9号証 佐々木正, 作用分子設計 合成化学者のためのドラッグ
デザイン, 表紙,第123?136頁,奥付,
株式会社南江堂, 1974年5月1日
甲第10号証 駒野徹ら訳, ライフサイエンス 基礎生化学,
表紙,第254?256頁,奥付,
株式会社化学同人, 1987年4月1日
甲第11号証 今堀和友ら監修, 生化学辞典,
表紙,第489?490頁,第1010頁,
株式会社東京化学同人, 1984年4月10日
甲第12号証 Stephen M. Bergeら, Journal of Pharmaceutical
Sciences, Vol.66, No.1, p.1-19, 1977
甲第13号証 Philip L. Gould, International Journal of
Pharmaceutics, Vol.33, p.201-217, 1986
甲第14号証 Scorr M. Grundy, The New England Journal of
Medicine, Vol.319, No.1, p.24-33, 1988
甲第15号証 S. Y. Sitら, Journal of Medicinal Chemistry,
Vol.33, No.11, p.2982-2999, 1990
甲第16号証 G. Beckら, Journal of Medicinal Chemistry,
Vol.33, No.1, p.52-60, 1990
甲第17号証 Yoshio Tsujitaら, Biochimica et Biophysica Acta,
Vol.877, p.50-60, 1986
甲第18号証 N. Balasubramanianら, Journal of Medicinal
Chemistry, Vol.32, No.9, p.2038-2041, 1989
甲第19号証 Rex. A. Parkerら, Journal of Lipid Research,
Vol.31, p.1271-1282, 1990
甲第20号証 Hidetoshi Watanabe, Sankyo Kenkyusho Nempo,
Vol.42, p.117-120, 1990
甲第21号証 Abu T. M. Serajuddinら, Journal of Pharmaceutical
Sciences, Vol.80, No.9, p.830-834, 1991
甲第22号証 井出肇ら, 動脈硬化, Vol.15, No.1, p.83-89, 1987
甲第23号証 藤井節郎ら, 動脈硬化, Vol.13, No.2, p.251-258,
1985
甲第24号証 Stephen T. Mosleyら, Journal of Lipid Research,
Vol.30, p.1411-1420, 1989
甲第25号証 Nobufusa Serizawaら, The Journal of Antibiotics,
Vol.XXXVI, No.5, p.604-607, 1983
甲第26号証 B. D. Rothら, Journal of Medicinal
Chemistry, Vol.33, No.1, p.21-31, 1990
甲第27号証 特開平3-99075号公報
甲第28号証 Hidetoshi Watanabeら, Chemical and Pharmaceutical
Bulletin, Vol.35, No.4, p.1452-1459, 1987
甲第29号証 辻田朋子作成, メチルスルホニル基を有する医薬開発品 の一覧, 2015年3月30日
甲第30号証 カナダ特許第1132610号
甲第31号証 Paul A. Grieco作成, 意見書, 2014年9月17日
(先の無効審判の甲第22号証)
甲第32号証 Donna L. Romero作成, 意見書,
2014年9月20日
(先の無効審判の甲第23号証)

(2)審判事件弁駁書で提出した証拠方法
甲第33号証 岸田有吉ら, 月刊薬事, Vol.33, No.6,
表紙,第1099-1104頁,奥付,
1991年6月1日
甲第34号証 駒井亨ら, 動脈硬化, Vol.18, No.11,
表紙,目次,第1007頁,奥付, 1990
甲第35号証 辻田代史雄, 動脈硬化, Vol.18, No.2,
第165-171頁, 1990
甲第36号証 辻田代史雄, 化学と生物, Vol.28, No.12,
第820-825頁, 1990
甲第37号証 Teiichiro Kogaら, Biochimica et Biophysica Acta,
Vol.1045, p.115-120, 1990
甲第38号証 特表平3-501492号公報
甲第39号証 Y. Tsujita, J. Drug Dev., Vol.3(suppl 1), p.155-159
甲第40号証 遠藤章, 日本農芸化学会誌, Vol.65, No.6,
p.1019-1021, 1991年6月15日
甲第41号証 特開平4-298508号公報
甲第42号証 岸田有吉ら, 薬学雑誌, 第111巻, 第9号,
第469-487頁, 1991年9月25日
甲第43号証 H. Jendralls, Journal of Medicinal Chemistry,
Vol.34, No.10, p.2962-2983, 1991
1991年11月8日筑波大学附属図書館受入
甲第44-1号証 欧州特許出願公開第464845号明細書
甲第44-2号証 特開平4-352767号公報
甲第45-1号証 欧州特許出願公開第465265号明細書
甲第45-2号証 特開平4-230357号公報
甲第46-1号証 欧州特許出願公開476493号明細書
甲第46-2号証 特開平7-2712号公報
甲第47号証 特表平3-505729号公報
甲第48号証 平成3年特許願第188015号明細書
甲第49号証 米国再発行特許発明第37314号明細書
甲第50号証 日本ハム株式会社, 「家畜飼料用乳酸菌」の特許申請
データに関する社内調査のご報告,
平成27年5月29日
甲第51号証 特開昭63-83053号公報
甲第52号証 特開平5-504471号公報

(3)平成28年3月24日付け上申書で提出した証拠方法
甲第8-2号証 村松大輔作成, 検索結果報告書, 2016年3月7日
甲第33号証 奥付をはずして再提出
甲第36号証 奥付を添付して再提出
甲第40号証 表紙を添付して再提出
甲第42号証 表紙を添付して再提出
甲第53号証 廣海啓太郎ら訳, 実験で学ぶ生化学,
表紙,第1?13頁,奥付, 株式会社化学同人,
1981年11月10日
甲第54号証 F. G. Kathawala, Trends in Medicinal Chemistry '88,
Vol.12, p.709-728, 1989
甲第55号証 平成9年(行ケ)第262号判決書

(4)口頭審理陳述要領書で提出した証拠方法
甲第56号証 長瀬博監訳, 最新創薬化学 上巻,
表紙,339,343,424?428,奥付,
株式会社テクノミック, 平成10年8月15日
甲第57号証 津田恭介ら編, 医薬品開発概論, 表紙,
第66?67頁,奥付,
株式会社地人書館, 昭和45年12月1日
甲第58号証 高木敬次郎監訳, ドラッグ デザイン,
表紙,第80?81頁,奥付,
株式会社廣川書店, 昭和52年12月10日
甲第59号証 鍛冶健司ら編, 薬品製造学, 表紙,第8?9頁,
奥付, 株式会社南江堂, 1984年4月20日
甲第60号証 構造活性相関懇話会編, 薬物の構造活性相関,
表紙,第84?85頁,奥付,
株式会社南江堂, 1979年1月10日
甲第61号証 藤田稔夫編, 構造活性相関とドラッグデザイン,
表紙,第4?7頁,奥付,
株式会社化学同人, 1986年2月20日
甲第62号証 森口郁生ら編, 新薬のリードジェネレーション,
表紙,第20?21頁,奥付,
株式会社東京化学同人, 1987年11月20日
甲第63号証 平成21年(行ケ)第10238号判決書

(5)平成28年4月22日付け上申書で提出した証拠方法
甲第43号証 表紙を添付して再提出

3 主参加人の主張について
主参加人は,参加申請書で請求人側に参加する旨述べるのみで,それ以外の主張はしていない。

第5 答弁の趣旨並びにその主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法
1 審判事件答弁書,口頭審理陳述要領書,上申書に記載した答弁の概要
被請求人が主張する答弁の趣旨は,「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(審判事件答弁書第2頁「6 答弁の趣旨」,第1回口頭審理調書「被請求人 1」参照)。
そして,被請求人は請求人が主張する上記無効理由1,2は,審判事件答弁書,平成28年3月24日付け上申書,口頭審理陳述要領書において,いずれも理由がない旨の主張をしていると認める。

2 被請求人の提出した証拠方法
被請求人の提出した証拠方法は,以下のとおりである。

(1)審判事件答弁書で提出した証拠方法
乙第1号証 Thomas A. Pearsonら, Arch. Intern. Med.,
Vol.160, p.459-467, 2000
乙第2号証 Michael H. Davidsonら, The American Journal of
Cardiology, Vol.96, p.556-563, 2005
乙第3号証 Thomas C. Andrewsら, The American Journal of
Medicine, Vol.111, p.185-191, 2001
乙第4号証 William R. Roush作成, 意見書,
2015年1月26日
(先の無効審判の乙第45号証)
乙第5号証 特開平1-294665号公報
乙第6号証 欧州特許出願第330057号のデータ,
NRI Cyber Patent
乙第7号証 米国再発行特許発明第37314号明細書
乙第8号証 米国デラウェア連邦地方裁判所,
Case 1:08-md -01949-JJF Document555,
2010年6月29日
(本件特許の対応米国特許の侵害訴訟第一審判決)
乙第9号証 米国連邦巡回控訴裁判所, ロスバスタチンカルシウム
特許訴訟判決, 2012年12月14日
(本件特許の対応米国特許の侵害訴訟控訴審判決)
乙第10号証 欧州特許出願公開第330057号明細書
乙第11号証 R. Krause, J. Drug Dev., Vol.3(Suppl. 1),
p.255-257, 1990
乙第12号証 森岡裕典作成, ロバスタチンとHR-780の構造式と
CLogPを記載した書面, 平成26年6月4日
(先の無効審判の乙第36号証)
乙第13号証 Thomas M.A. Bocanら, Biochimica et Biophysica Acta,
Vol.1123, p.133-144, 1992
乙第14号証 Eve E. Slaterら, Drugs Vol.36(suppl.3), p.72-82,
1988
乙第15号証 Alfred W. Alberts, The American Journal of
Cardiology, Vol.62, p.10J-15J, 1988
乙第16号証 森岡裕典作成, CI-981のCLogP値を記載した書面,
平成27年7月8日
乙第17号証 D. R. Sliskovicら, Journal of Medicinal Chemistry,
Vol.33, No.1, p.31-38, 1990
乙第18号証 北野裕司作成, 陳述書, 2014年7月10日
(先の無効審判の丙第6号証)
乙第19号証 John I. Germershausen JI, Biochem. Biophys. Res.
Commun., Vol.158, No.3, p.667-675, 1989
乙第20号証 齋藤洋ら編, 医薬品の開発 第9巻,
医薬品の探索[II], 表紙,第107頁,奥付,
株式会社廣川書店, 平成2年9月26日
乙第21号証 「IW SDZ 264-745 VS. IW SDZ 265-129 PHARMACOLOGY」
と題するサンド・アクチエンゲゼルシャフト社の社内文書
乙第22号証 「Aw's (DC) and IW's (IC)」と題する文書
乙第23号証 米国デラウェア連邦地方裁判所, ロスバスタチンカルシ
ウム特許訴訟(MDL No.08-1949)におけるKathawara博士
の証言記録, 表紙,第194?197,
298?301頁, 2009年7月15日
乙第24号証 F. Kathawaraら, 前臨床研究提案書, 第1頁,
1989年6月1日
乙第25号証 米国ニュージャージー州連邦地方裁判所,
Case 1:08-md-01949-JJUF Document 86-2,
2009年3月6日(米国ニュージャージ一連邦地方裁判
所からのKatahawara博士宛の召喚状)
乙第26号証 米国デラウェア連邦地方裁判所, ロスバスタチンカルシ
ウム特許訴訟(MDL No.08-1949)におけるRoush博士の
証言記録, 表紙,第1795?1798頁,
2010年3月3日
乙第27号証 塩野義製薬株式会社 上野元伸作成, 試験報告書,
2015年1月22日
(先の無効審判の乙第49号証)
乙第28号証 特開昭64-29362号公報
乙第29号証 米国特許第4868185号明細書
乙第30号証 塩野義製薬株式会社 杉野健一作成,
甲第1号証実施例11dの化合物のCLogP値を算出した
ChemBioDraw Ultra 13.0の画面, 平成26年6月6日
(先の無効審判の乙第40号証)
乙第31号証 京都大学国際高等教育院特定教授 伊藤信行作成,
意見書, 平成27年1月27日
(先の無効審判の乙第48号証)
乙第32号証 特公昭64-1476号公報
乙第33号証 末吉剛作成, 特公昭64-1476号公報に関する
IPDLの文献番号検索結果
乙第34号証 Fergus McTaggartら, The American Journal of
Cardiology, Vol.87, p.28B-32B, 2001
乙第35号証 クレストール錠○R(審決注:丸文字の中にRである。
以下同じである。)の医薬品インタビューフォーム,
2013年3月
乙第36号証 武城英明, 成人病と生活習慣病, 第33巻,
第11号, 第1398?1402頁,
2003年11月
乙第37号証 Peter H. Jonesら, The American Journal of
Cardiology, Vol.92, p.152-160, 2003
乙第38号証 販売名「Crestor」(ロスバスタチンカルシウム)
錠の全処法情報, アストラゼネカ, 2010年
乙第39号証 Stephen J. Nichollsら, The American Journal of
Cardiology, Vol.105, p.69-76, 2010
乙第40号証 Steven E. Nissenら, JAMA, Vol.295, No.13,
p.1556-1565, 2006
乙第41号証 Tadateru Takayamaら, Circulation Journal,
Vol.73, p.2110-2117, 2009
乙第42号証 クレストール錠2.5mg、クレストール錠5mg、クレストー
ル錠10mgに関する資料, 表紙,目次,第305頁,
アストラゼネカ株式会社
乙第43号証 アストラゼネカ株式会社 非臨床統括部長(氏名不明)
作成, 申請資料の信頼性基準についての陳述書,
平成16年8月30日
(先の無効審判の乙第51号証)
乙第44号証 厚生省医薬安全局審査管理課長, 非臨床薬物動態試験ガ
イドラインについて (医薬審第496号),
平成10年6月26日
乙第45号証 塩野義製薬株式会社 坂本真吾作成,
試験報告書(CYP阻害試験), 2015年1月22日
(先の無効審判の乙第53号証)
乙第46号証 塩野義製薬株式会社 坂本真吾作成,
試験報告書(代謝安定性試験), 2015年1月22日
(先の無効審判の乙第54号証)
乙第47号証 Fank J. Gonzalez, Pharmacological Reviews,
Vol.40, No.4, p.243-288, 1989
乙第48号証 Saleem Ahmadら, Journal of Medicinal Chemistry,
Vol.51, No.9, p.2722-2733, 2008
乙第49号証 David J Newmanら, Future Med. Chem.,
Vol, No.8, p.1415-1427, 2009
乙第50号証 ブリストルマイヤーズスクイブ社の2014年2月1日
時点での開発品(パイプライン)を掲載するインターネッ
ト記事
http://www.bms.com/research/pipeline/
Pages/default.aspx
乙第51号証 医薬品市場へのアクセス2013, 表紙,
「調査概要」の頁, 第22,128頁,奥付,
テスタマーケティング株式会社, 2013年3月27日
乙第52号証 「2012年世界のブロックバスター 抗がん剤15製品
ランクイン 疾患別で最多 ミクス調べ」と題する
ミクスonlineの記事
https://www.mixonline.jp/Article/tabid/55/artid/
44547/Default.aspx
乙第53号証 「2012年世界のブロックバスター(ミクス編集部まと
め)」と題する資料
乙第54号証 C&EN, Vol.91, No.49, 表紙,目次,p.14, 2013
乙第55号証 「Top 100 Most Prescribed, Top Selling Drugs」
と題するMedscapeの記事, 2014年5月13日
http://www.medscape.com/viewarticle/825023_print

(2)平成28年3月24日付け上申書で提出した証拠方法
乙第56号証 判例タイムズ 第360号,
表紙,第148頁,裏表紙,
株式会社判例タイムズ社, 昭和53年6月15日
乙第57号証 森岡裕典作成, 陳述書, 2016年2月29日
乙第58号証 杉田健一作成, 陳述書, 2016年2月25日
乙第59号証 末吉剛作成, 陳述書, 2016年2月29日
乙第60号証 独立行政法人医薬品医療機器総合機構, 審査報告書,
第1,2頁, 平成16年9月30日
乙第61号証 独立行政法人医薬品医療機器総合機構,
ロスバスタチンカルシウムに関する情報のホームページ
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/
GeneralList/2189017F1 2016年3月18日

(3)口頭審理陳述要領書で提出された証拠方法
乙第62号証 平成27年(行ケ)第10105号判決書

第6 補助参加人の主張の概要及び参加人が提出した証拠方法
1 上申書,口頭審理陳述要領書に記載した主張の概要
補助参加人の主張の概要は,
「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(平成27年10月29日付け上申書第2頁「6 上申の趣旨」,第1回口頭審理調書「参加人 2」参照)。
そして,補助参加人は請求人が主張する上記無効理由1,2は,平成27年10月29日付け上申書(以下「補助参加人第1回上申書」という。),平成28年3月24日付け上申書(以下「補助参加人第2回上申書」という。),口頭審理陳述要領書,同年4月15日付け上申書(以下「補助参加人第3回上申書」という。)において,いずれも理由がない旨の主張をしていると認める。

2 補助参加人の提出した証拠方法
補助参加人の提出した証拠方法は,以下のとおりである。

(1)補助参加人第1回上申書で提出した証拠方法
丙第1号証 販売名「Crestor」(ロスバスタチンカルシウム)
錠の全処法情報, 第1?4頁, 2013年8月
丙第2号証 南山堂 医学大辞典 第18版, 表紙,第932,
1493?1494頁,奥付, 株式会社南山堂,
1998年1月16日
丙第3号証 五島雄一郎ら, 医学のあゆみ, 第153巻,
第12号, 第713?740頁,
1990年6月23日
丙第4号証 「CORTELLISTM FOR COMPETITIVE INTELLIGENCE」
と題するパンフレット, トムソン・ロイター社
丙第5号証 データべース「CORTELLISTM 」の検索条件の入力画面
丙第6号証 データべース「CORTELLISTM 」の検索結果
丙第7号証 「THOMSON REUTERS CORTELLISTM COMPETITIVE
INTELLIGENCE QUICK GUIDE SERIES: No.6」
と題するパンフレット, トムソン・ロイター社

(2)補助参加人第2回上申書で提出した証拠方法
丙第8号証 森岡裕典作成, 陳述書, 2016年2月12日
丙第9号証 厚生労働省, 医薬品産業ビジョン2013 資料編,
表紙,目次,第16,20,36頁
丙第10号証 John Pears, 「CRESTOR: The Benefit-Risk
Profile of the Best Statin」と題する資料,
PTX1594-0001, 0002, 0006-0009, 0013-0015, 0055,
0061頁
丙第11号証 厚生労働省ホームページ, 「医薬品産業ビジョン
2013」、「医療機器産業ビジョン2013」
について, 平成25年6月26日
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/
kenkou_iryou/iryou/shinkou/vision._2013.html

(3)口頭審理陳述要領書で提出した証拠方法
丙第12号証 飯村敏明作成, 意見書(特許第2648897号),
平成28年3月25日

(4)補助参加人第3回上申書で提出した証拠方法
丙第13号証 Frank D. King, Medicinal Chemistry;
Principles and Practice, Prefaceのvii?ix頁,
1994

第7 無効理由についての当審の判断
当審は,本件発明1,2,5,9?12に係る特許については,上記無効理由及び証拠によっては無効とすることはできないものと判断する。
その理由は,以下のとおりである。

1 無効理由1について
(1)甲号証の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項
本件特許出願の優先日前に頒布された甲第1号証には,以下の事項が記載されている。
(1a)「1.遊離酸型、またはそのエステルもしくはδ-ラクトン型、或いは適当ならば塩型における式I

式中、R^(1)及びR^(2)は独立に、
不斉炭素原子を含まぬC_(1?6)アルキル;
C_(3?6)シクロアルキル;または

であり、ここで、
mは0、1、2または3であり;
R^(3)は水素、C_(1?3)アルキル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、C_(1?3)アルコキシ、n-ブトキシ、i-ブトキシ、トリフルオロメチル、フルオロ、クロロ、フエノキシまたはベンジルオキシであり;
R^(4)は水素、C_(1?3)アルキル、C_(1?3)アルコキシ、トリフルオロメチル、フルオロ、クロロ、フェノキシまたはベンジルオキシであり;そして
R^(5)は水素、C_(1?2)アルキル、C_(1?2)アルコキシ、フルオロまたはクロロであり;条件として、
多くて、R^(3)及びR^(4)の1つがトリフルオロメチルであり;
多くて、R^(3)及びR^(4)の1つがフエノキシであり;そして
多くて、R^(3)及びR^(4)の1つがベンジルオキシであるものとする;或いは
R^(1)は上に定義したとおりであり、そして
R^(2)はベンジルオキシ;
ペンジルチオ;
-N(R^(8))_(2)、但し、R^(8)は独立に、不斉炭素原子を含まぬC_(1?4)アルキルであるか、または双方のR^(8)は窒素原子と一緒になって、5-、6-または7-員の随時置換されていてもよい環の部分を形成し、該環は随時ヘテロ原子を含んでいてもよい(環B);または
Qであり、ここで、
QはQ’またはQ”であり、ここで、
Q’は複素環式基であり、該基は随時C_(1?2)アルキルまたはC_(1?2)アルコキシで一置換または独立に二置換されていてもよく、そして
Q”はQ”a、但し、Q”aは

式中、R^(3)、R^(4)及びR^(5)は条件も含めて、上に定義したとおりである、
である、または
Q”b、但し、Q”bは

式中、R^(4)及びR^(5)は上に定義したとおりである、
である、であり;
Xはエチレンまたはビニレンであり;そして
Yは式」

式中、R^(6)は水素またはC_(1?3)アルキルであり;そしてR^(7)は水素、エステル基(R^(7)’)またはカチオン(M)である、
の基Y’;式

式中、R^(6)は上に定義したとおりである、
の基Y”;または式

式中、R^(6)及びR^(7)は上に定義したとおりである、
の基Y”’であり:条件として、
Yが基Y”’である場合、
Xはビニレンであり、そして/またはR^(6)はC_(1?3)アルキルであるものとする、
の化合物。」(特許請求の範囲第1項)
(1b)「殊に本化合物は次の試薬において活性を示す:
試験A.3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)還元酵素阻害の試験管内顆粒体評価分析:ヨーロッパ特許第114,027号に記載されている:
試験Aによって次の結果が得られた:
実施例11dの生成物:IC_(50)=0.039μM;
実施例1b)の生成物:IC_(50)=0.026μM;
コンパクチン(Compactin):IC_(50)=1.01μM;
メビノリン(Mevinolin):IC_(50)=0.352μM。
IC_(50)は、HMG-CoA還元酵素活性の50%阻害をもたらすために計算された評価分析系における試験物質の濃度である。試験を0.05μM乃至1000μM間の試験物質の濃度で行った。
試験B.生体内コレステロール生合成阻害試験:ヨーロッパ特許第114,027号に記載されている:
試験Bによって次の結果が得られた:
実施例11dの生成物:ED_(50)=0.04mg/kg;
実施例1b)の生成物:ED_(50)=0.028mg/kg;
コンパクチン:ED_(50)=3.5mg/kg;
メビノリン:ED_(50)=0.41mg/kg。
ED_(50)は、3β-ヒドロキシステロール合成の50%阻害をもたらすために計算された試験物質の投薬量である。試験を0.01mg/kg乃至10mg/kg間の試験投薬量で行った。
上記の試験データは、本化合物がコレステロール生合成における律速酵素、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)の拮抗阻害剤であり、従つて、本化合物はコレステロール生合成の阻害剤であることを示している。従つて、本化合物は動物、例えば哺乳類、特に大きな霊長類の動物における血中コレステロールレベルを降下させる際の用途を示し、過脂肪蛋白血症処置剤及び抗アテローム性動脈硬化剤としての用途を示している。」(第11頁右下欄第9行?第12頁左上欄第13行)
(1c)「実施例1:(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプタン酸、(1,1-ジメチルエチル)エステル;及びナトリウム塩
(R^(1)=インプロピル;R^(2)=ジメチルアミノ;Q=4-フルオロフェニル;X=(E)-CH=CH-;Y=基Y’、但し、R^(4)=H、R^(7)=tert-ブチルまたはNaそして立体配置は3R,5Sである)
[(方法c)(脱保護)及び塩型で回収]

a)脱保護:
CH_(3)CN350ml(審決注:「l」の筆記体である。以下同じである。)に溶解した(3R,5S)-[E]-3,5-ビス[[(1,1-ジメチルエチル)-ジフェニルシリル]オキシ]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-6-ヘプテン酸、1,1-ジメチルエチルエステル(下記参照)14.2gをフッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム、三水和物47.2g、アセトニトリル350ml及び氷酢酸9g(8.6ml)の混合物に加えた。混合物をアルゴン下にて45?50℃で撹拌し、次に65℃で24時間撹拌した。反応混合物を飽和塩化ナトリウム溶液150ml、飽和炭酸ナトリウム溶液200ml及び水1.35L(審決注:「l」の筆記体である。)に注ぎ(添加後のpHをほぼ7.5?8.5にすべきである)、混合物をジエチルエーテルで3回抽出した。ジエチルエーテル抽出液を合液し、水各500mlで3回洗浄し、無水MgSO_(4)上で乾燥し、濾過し、減圧下で蒸発させ、油を得た。粗製の生成物を230-400ASTMシリカゲル上で、溶離剤としてヘキサン:酢酸エチル6:4混合物を用いて、フラッシュクロマトグラフィーにかけた。黄色油が単離されこのものをヘキサンと共に砕解し、淡黄色粉末を得た。(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸、(1,1-ジメチルエチル)エステルが得られた(融点114?116℃;[α]_(D)^(25)=+7.7°、CHCl_(3))
b)加水分解:
上記の工程a)の生成物12.35g、1N NaOH26.0ml及びエタノール150mlを合わせ、室温で3?4時間撹拌した。溶媒を回転蒸発機で蒸発させた。残渣をトルエン約150mlで処理し、トルエンを回転蒸発機で蒸発させた。これをくり返し行い、最終残渣をヘキサン-エーテルの混合物と共に砕解し、淡黄色固体を得た。このものを濾過し、乾燥し、(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプタン酸(審決注:ヘプテン酸の誤記と認める。)ナトリウムを得た(融点231?233℃;[α]_(D)^(25)=+33.3°、c=H_(2)O 1ml中20.625mg)。」(第12頁左下欄第3行?第13頁左上欄第3行)

イ 甲第2号証の記載事項
本件特許出願の優先日前に頒布された甲第2号証には,以下の事項が記載されている。
(2a)「1.一般式

式中、R^(1)はシクロアルキルを表わすか、或いは
アルキルを表わし、該基はハロゲン、シアノ、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオ、トリフルオロメチルスルホニル、アルコキシカルボニルもしくはアシルで、または式-NR^(4)R^(5)、但し、R^(4)及びR^(5)は同一もしくは相異なるものであり、アルキル、アリール、アラルキル、アシル、アルキルスルホニルまたはアリールスルホニルを表わす、
の基で、またはカルバモイル、ジアルキルカルバモイル、スルファモイル、ジアルキルスルファモイル、ヘテロアリール、アリール、アリールオキシ、アリールチオ、アリールスルホニル、アラルコキシ、アラルキルチオもしくはアラルキルスルホニルで置換されていてもよく、最後に述べた置換基のヘテロアリール及びアリール基はハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、アルキル、アルコキシ、アルキルチオまたはアルキルスルホニルからなる同一もしくは相異なる置換基で一置換、二置換または三置換されていてもよく、
R^(2)はヘテロアリールを表わし、該基はハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、アリール、アリールオキシ、アリールチオ、アリールスルホニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオもしくはアルコキシカルボニルまたは式-NR^(4)R^(5)、但し、
R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
の基からなる同一もしくは相異なる基で一置換、二置換または三置換されていてもよく或いはR^(2)はアリールを表わし、該基はアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、アリール、アリールオキシ、アリールチオ、アリールスルホニル、アラルキル、アラルコキシ、アラルキルチオ、アラルキルスルホニル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオ、アルコキシカルボニル、スルファモイル、ジアルキルスルファモイル、カルバモイルもしくはジアルキルカルバモイル、または式
-NR^(4)R^(5)、但し、
R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
の基からなる同一もしくは相異なる基で一置換乃至五置換されていてもよく、
R^(3)は水素を表わすか、
シクロアルキルを表わすか、
アルキルを表わし、該基はハロゲン、シアノ、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオ、トリフルオロメチルスルホニル、アルコキシカルボニルもしくはアシルで、或いは式-NR^(4)R^(5)、但し、
R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
の基で、またはカルバモイル、ジアルキルカルバモイル、スルファモイル、ジアルキルスルファモイル、ヘテロアリール、アリール、アリールオキシ、アリールチオ、アリールスルホニル、アラルコキシ、アラルキルチオもしくはアラルキルスルホニルで置換されていてもよく、最後に述べた置換基のヘテロアリール及びアリール基はハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、アルキル、アルコキシ、アルキルチオまたはアルキルスルホニルからなる同一もしくは相異なる基で一置換、二置換または三置換されていてもよく、または
R^(3)はヘテロアリールを表わし、該基はハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、アリール、アリールオキシ、アリールチオ、アリールスルホニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオもしはアルコキシで、または式-NR^(4)R^(5)、但し、
R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
の基からなる同一もしくは相異なる基で一置換、二置換または三置換されていてもよく、或いは
R^(3)はアリールを表わし、該基はアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、アリール、アリールオキシ、アリールチオ、アリールスルホニル、アラルキル、アラルコキシ、アラルキルチオ、アラルキルスルホニル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオ、アルコキシカルボニル、スルファモイル、ジアルキルスルファモイル、カルバモイルもしくはジアルキルカルボニルで、または式
-NR^(4)R^(5)、但し、
R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
の基からなる同一もしくは相異なる基で一置換乃至五置換されていてもよく、或いは
R^(3)はアルコキシ、アリールオキシ、アラルコキシ、アルキルチオ、アリールチオもしくはアラルキルチオを表わすか、または式-NR^(4)R^(5)、但し、
R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
の基を表わし、
Xは式-CH_(2)-CH_(2)-または-CH=CH-の基を表わし、そして
Aは式

の基を表わし、ここに、
R^(6)は水素またはアルキルを表わし、そして
R^(7)は水素を表わすか、
メチル、アラルキルまたはアリール基を表わすか、或いはカチオンを表わす、
の置換されたピリミジン。」(特許請求の範囲第1項)
(2b)「驚くべきことに、本発明における置換されたピリミジンはHMG-CoA還元酵素(3-ヒドロキシ-3-メチル-グルタリル補酵素A還元酵素)において良好な阻害作用を示す。」(第6頁左下欄第2?5行)
(2c)「R^(7)がカチオンを表わす場合、好ましくは生理学的に許容し得る金属カチオンまたはアンモニウムカチオンを意味する。これに関して、アルカリ金属またはアルカリ土類金属カチオン、例えばナトリウムカチオン、カリウムカチオン、マグネシウムカチオンまたはカルシウムカチオン、及びまたアルミニウムカチオンまたはアンモニウムカチオン、並びにまたアミン、例えばジ低級アルキルアミン(C_(1)?約C_(6))、トリ低級アルキルアミン(C_(1)?約C_(6))、ジベンジルアミン、N、N’-ジベンジルエチレンジアミン、N-ベンジル-β-フェニルエチルアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ジヒドロアビエチルアミン、N、N’-ビス-ジヒドロアビエチルエチレンジアミン、N-低級アルキルピペリジン及び塩の生成に使用し得る他のアミンによる無毒性の置換されたアンモニウムカチオンが好ましい。」(第8頁右上欄第11行?左下欄第7行)
(2d)「一般式(I)の殊に好ましい化合物は、
R^(1)がシクロプロピル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルを表わすか、或いはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、tert-ブチルを表わし、その各々はフッ素、塩素、臭素、シアノ、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル、ベンゾイル、アセチル、ピリジル、ピリミジル、チエニル、フリル、フェニル、フェノキシ、フェニルチオ、フェニルスルホニル、ベンジルオキシ、ベンジルチオまたはベンジルスルホニルで置換されていてもよく、
R^(2)がピリジル、ピリミジル、キノリルまたはイソキノリルを表わし、該基はフッ素、塩素、メチル、メトキシまたはトリフルオロメチルで置換されていてもよく、或いは
R^(2)がフェニルを表わし、該基はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、フェニル、フェノキシ、ベンジル、ベンジルオキシ、フッ素、塩素、臭素、シアノ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニルまたはtert-ブトキシカルボニルからなる同一もしくは相異なる基で一置換、二置換または三置換されていてもよく、
R^(3)が水素、シクロプロピル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルを表わすか、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシルまたはイソヘキシルを表わし、これらの基はフッ素、塩素、臭素、シアノ、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ、イソブチルチオ、tert-ブチルチオ、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、ブチルスルホニル、イソブチルスルホニル、tert-ブチルスルホニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル、ベンゾイル、アセチルもしくはエチルカルボニルで、式-NR^(4)R^(5)、但し、
R^(4)及びR^(5)は同一もしくは相異なるものであり、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、フェニル、ベンジル、アセチル、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニルまたはフェニルスルホニルを表わす、
の基で、またはピリジル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、キノリン、イソキノリン、チエニル、フリル、フェニル、フェノキシ、フェニルチオ、フェニルスルホニル、ベンジルオキシ、ベンジルチオもしくはベンジルスルホニルで置換されていてもよく、上記のへテロアリール及びアリール基はフッ素、塩素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、tert-ブチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ、トリフルオロメチルまたはトリフルオロメトキシで置換されていてもよく、或いは
R^(3)がチエニル、フリル、ピリジル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、オキサシリル、イソキサゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、キノリル、イソキノリル、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリルまたはベンズチアゾリルを表わし、これらの基はフッ素、塩素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ、フェニル、フェノキシ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキンカルボニルまたはtert-ブトキシカルボニルで置換されていてもよく、或いは
R^(3)がフェニルを表わし、該基はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチす、イソプロピルチオ、ブチルチオ、イソブチルチオ、tert-ブチルチオ、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、ブチルスルホニル、イソブチルスルホニル、tert-ブチルスルホニル、フェニル、フェノキシ、フェニルチオ、フェニルスルホニル、ベンジル、ベンジルオキシ、ベンジルチオ、ベンジルスルホニル、フッ素、塩素、臭素、シアン、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニルもしくはtert-ブトキシカルボニルまたは基-NR^(4)R^(5)、但し、R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
からなる同一もしくは相異なる基で一置換、二置換または三置換されていてもよく、或いは
R^(3)がアルコキシ、アリールオキシ、アラルコキシ、アルキルチオ、アリールチオ、アラルキルチオまたは式-NR^(4)R^(5)、但し、R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
の基を表わし」(第10頁左上欄下から第9行?第11頁左下欄第12行)
(2e)「実施例 8
メチルエリスロ-(E)-3,5-ジヒドロキシ-7-[2,6-シメチル-4-(4-フルオロフェニル)-ピリミド-5-イル]-ヘプト-6-エノエート」(第22頁左下欄第12?15行)
(2f)「実施例 15
メチルエリスロ(E)-3,5-ジヒドロキシ-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-メチル-2-フェニル-ピリミド-5-イル]-ヘプト-6-エノエート」(第24頁右上欄第1?5行)
(2g)「実施例 23
メチルエリスロ-(E)-3,5-ジヒドロキシ-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-フェニル-ピリミド-5-イル]-ヘプト-6-エノエート」(第26頁左上欄下から第5行?末行)

ウ 甲第3証の記載事項
「管理課題報告」と題する本件特許権者の内部文書である甲第3号証には,以下の事項が記載されている。
(3a)「[緒言]
HMG-CoA還元酵素阻害剤S-4522はコレステロール低下薬として開発が進められ現在第二相試験が進行中である。その一方、本阻害剤についてはヨーロッパ特許出願の準備が進められており、その特許審査では先行特許化合物であるSDZ-65129(サンド)とHMG-CoA還元酵素酵素阻害活性を比較したデータの提出が必要となっている。これについてはすでにわれわれはS-4522がSDZ-65129の約9倍の強い阻害活性を示すことを報告しているが^(1))、サンドの公開特許公報に記載されているSDZ-65129の阻害活性は対照薬のメビノリン(またはロバスタチン、MSD)の約13.5倍であり^(2))、S-4522が同じメビノニン(審決注:メビノリンの誤記である。)の約2倍^(3))に比し、この特許記載デー夕で比較する限りではSDZ-65129の方が逆に強いということになる。この矛盾する結果は、対照薬剤として用いられたメビノリンの阻害活性(IC_(50)値)がサンドとわれわれとで著しく異なることにあると思われる。すなわち、サンドのメビノリンのIC_(50)値が352nMであるのに対し、われわれのデータは23nMと両者で10倍以上の開きがみられる。実験方法に本質的な違いはないところから、使用したメビノリンの化学的な状態がサンドとわれわれとで異なっている可能性が高い。通常、メビノリンは構造の一部にラクトン環を有するものを指すが、そのままでは無効で、生体内でラクトンが開裂してカルボン酸となり効果を発揮するといわれている。われわれは後者のカルボン酸ナトリウム塩でHMG-CoA還元酵素阻害活性をみているが、サンドの場合は前者でみている可能性が強い。
今回これらの点を明らかにするためS-4522、メビノリンのカルボン酸ナトリウム塩(メビノリンNa)とラクトン体およびSDZ-65129の4化合物について阻害活性を平行試験により比較した。

」(第1頁第1?21行と化学式)
(3b)「[結果および考察]
S-4522、SDZ-65129、メビノリンNaおよびラクトン体のラット肝ミクロソームにおけるHMG-CoA還元酵素阻害活性を下表に示す。

対照薬として用いた2種のメビノリンのうち、メビノリンNaのIC_(50)値は28±9nMで、これは従来の結果(IC_(50)=23nM)^(3))にほぼ近い値であった。これに対しラクトン体は1830±360nMとメビノリンNaのl/60?1/70の活性で、ラクトン化によって阻害活性の著しい低下が見られた。この成績からサンド社のメビノリン(IC_(50)=352nM)がカルボン酸、ラクトン体のいずれかを推測すると、阻害活性でメビノリンNaの約1/13、ラクトン体の約5倍であるところから、活性のより近いラクトン体である可能性が強いと思われた。この時S-4522は14±3nMでメビノリンNaの2倍、またSDZ-65129は31±11nMとほぼ同等であった。先にS-4522がSDZ-65129の約9倍の活性を有することを報告したが、今回の両者の差は約2倍であった。この違いについてはS-4522、SD-65129のIC_(50)値が前回(各7.2nM、65nM)^(1))の値のそれぞれ上下2倍程度の変動であることでもあり、実験の精度等を考慮すればこの差はばらつきの範囲内と解釈される。
以上の結果はサンド社がSDZ-65129の比較時に用いたメビノリンがラクトン体(不活性型)である可能性を強く示唆するもので、S-4522のHMG-CoA還元酵素阻害活性がSDZ-65129よりも強いことに間違いのないことを示した。メビノリンのラクトン体はブロドラッグとしての意味しかないので、in vitroでの酵素阻害活性の評価には活性型のカルボン酸での結果が重要と思われる。」(第2頁第11行?第3頁第5行)

エ 甲第5号証の記載事項
「S-4522特許に関するゼネカ社とのこれまでのQ&A」と題する本件特許権者の内部文書である甲第5号証には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。
(5a)「○2(審決注:丸文字に2である。)2回目回答(サンドとの比較データのバラツキについて.Dec.24,1997)
(1)我々(審決注:塩野義製薬株式会社)の研究者(加藤五郎氏)との相談の結果、我々は、S-4522とサンド-65129(欧州特許公開第367895号明細書(訳注:甲第1号証の対応欧州出願)の実施例1)とを比較している提供可能なデータが、以下に示す4回の測定だけであることを確認しました。

各測定は加藤氏によって監督されましたが、測定4は測定1?3とは別の日に実施されました。したがって、ご覧のように、これらの間には数値の不一致があります。これに関連して、我々は、あなた方(審決注:ゼネカ社)を混乱させてしまい大変申し訳ありません。
測定値が何故変動したのかは加藤氏には不明ですが、彼は、それは許容可能な限界の範囲内であり、アッセイ技術、実験中に行われたピペット操作及び測定、並びに、様々な他の作業に起因する変動といったことによって、少なくとも部分的に説明できると考えています。更に、使用されたサンプル及び試薬(アイソトープ等)、使用された物質のロットにおける違い、酵素源活性の安定性の問題、実験者又は実験室の違いも寄与する要素として考慮可能です。」(第5頁第1?17行)

オ 甲第7号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第7号証には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。
(7a)「HMG-CoA還元酵素阻害薬についての組織選択性と親油性との関係」(第463頁左欄第37?39行)
(7b)「現在、HMG-CoA還元酵素(HMGR)の阻害が高コレステロール血症の患者における血漿中の総コレステロール及びLDLコレステロールの低下に有効な方法であることは十分に確率されている^(1)。しかし、これらの薬剤の長期安全性については未だ立証されていない。・・・近年、種々のHMGR阻害剤の組織(肝)選択性の性質及び有無の両方に関して、また、その作用を肝臓に限定することによって副作用の発現率を低減出来るか否かについて、文献上で多くの議論がなされてきた。・・・組織選択性は主に薬剤の相対的親油性による影響を受け、相対的に親水性の高い化合物が高い肝臓選択性を示すとの説が提示されている^(10)。
我々はこの分野におけるプログラムの過程で構造及び親油性が大きく異なるHMGR阻害剤を用意していたため、この仮説を直接検討することにした。そのため我々は、ラットの肝臓、脾臓及び精巣に由来する組織片中におけるステロール合成阻害能について、幅広い算出された親油性(CLOGP)を有する強力な阻害剤の選択を比較した。これらの研究の結果が本報告の主題である。

(審決注:「2.ブラバスタチ」は,「2.ブラバスタチン」の誤記であり,「3.フルバスタチ」は,「3.フルバスタチン」の誤記である。)
」(第463頁左欄第40行?右欄第25行)
(7c)「

^(a)ジヒドロキシ酸の算出されたlogP(Med Chem Ver3.54)。^(b)ラット肝HMG-CoA還元酵素のミクロソーム画分。参考文献14を参照。・・・」(第464頁TableI)
(7d)「生物学的結果
ロバスタチン、プラバスタチン及びその他のHMG-CoA還元酵素阻害薬の開環ジヒドロキシ酸が血漿中を循環する主要な活性部分であることを示す多くの証拠があることから^(13)、全化合物はこの形で検討を行った。固有の効力の評価として、まずin vitroでミクロソームHMGRを阻害する各化合物の能力を検討した^(14)。その後、肝に対する作用と末梢に対する作用を比較する評価として、ステロールへの[^(14)C]酢酸塩の取り込みに対する化合物の作用を肝臓、牌臓及び精巣に由来する組織片において測定した^(15)。これらの研究の結果の検討から、化合物間で有意の差が存在し、親油性が重要な因子であることが示唆される(表I、化合物を親油性が低い順に示している)。したがって、CLOGP<2の化合物(化合物11、2、4、9及び8)はいずれも組織/肝比>1で示される中程度の組織選択性を有すると考えられる。一般に、CLOGP>2の化合物は、肝臓よりも末梢組織での効力が高い。例外が2つあり、化合物5は肝組織と末梢組織で同等の効力で、化合物3は精巣でのステロール合成を強く阻害するが脾臓での合成は阻害しない。」(第464頁左欄第17行?右欄末行)
(7e)「上記で指摘したとおり、肝臓と他の組織とで選択性が等しくなる『閾値点』は、CLOGP=(審決注:「=」の上に「?」がある記号である。)2である。これより下の場合は、化合物は肝臓に選択的で、これより上の場合は末梢組織に選択的となる。」(第465頁左欄第8?12行)

カ 甲第8号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第8号証には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。
(8a)「HMG-CoA還元酵素阻害剤:高リポタンパク血症の治療における刺激的な進展」(第121頁標題)
(8b)「近年、LDLコレステロールを下げるための効果的かつ安全な治療薬を発見すべく、コレステロールの内因性合成の主要過程を制御するβ-ヒドロキシ-β-メチル-グルタリルCoA還元酵素(HMG-CoA還元酵素,EC1.1.1.34)の強力な阻害剤について多大なる関心が寄せられてきた。コンパクチン(メバスタチン)、CS-514 (プラバスタチン・・・)、メビノリン(ロバスタチン・・・)、及び、シンビノリン(シンバスタチン・・・)といった、構造上非常に互いの関係が深いHMG-CoA還元酵素阻害剤を用いた研究が、動物・人間のどちらにおいても報告されてきた。」(第122頁第14?22行)
(8c)「

」(第123頁Fig.1)
(8d)「インビトロのHMG-CoA還元酵素ミクロゾームアッセイとインビトロのコレステロール生合成アッセイの結果
HMG-CoA還元酵素に対する様々な化合物の阻害能を分析するための初期の研究のすべては,参考文献14に記載されたHMG-CoA還元酵素活性のアッセイを使用し,雄のSparague-Dawleyラットのから調製されたばかりのラット肝ミクロゾーム懸濁液を用いて実施された。」(第133頁第9?14行)
(8e)「表1 ミクロゾームHMG-CoA還元酵素阻害活性の比較

」(第134頁Table1)

キ 甲第9号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第9号証には,以下の事項が記載されている。
(9a)「

」(第134?135頁)
(9b)「「ドラッグデザイン」では上記のようにlogPまたはπが加成性を示すということは非常に便利かつ重要で,ある化合物とたんぱくとの結合を評価しうるのみならず,ある条件下でその化合物の反応点に到達する能力も評価することができ,紙と鉛筆さえあれば,いま合成しようとする作用分子の相対的脂溶性を予測することが可能になる.たとえばジフェニルヒドラミン(7.2)について2個のベンゼン環につき4.26,メチル基に対してはメチル基の0.50から分岐による0.20を差引いた0.30,-OCH_(2)-,-N(CH_(3))_(2)の値は表7.4のπx′(溶液で側鎖が環上に折れ曲っていると考えて)でOCH_(3)の値-0.98(もしπx値を用いると3.64となり実測値の10%誤差内に入る)をそれぞれ用いているが計算値と実測値はよく合っている.
同様の計算をジエチルスチルベストロール(7.3)に用いるとlogPは実測値5.07,計算値5.22^(*)とよく一致する.
以上の計算法にはいろいろアプローチがあるが,どんなアプローチをしてもその値に大差はないという.
表7.5はTute^(3))による表を参考までに示すが芳香族置換体のπx値である.」(第135頁下から第4行?第136頁第7行)

ク 甲第10号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第10号証には,以下の事項が記載されている。
(10a)「14.7 コレステロール生合成
通常,われわれは1日あたりおよそ1.5-2.0gのコレステロールを合成しており,その大部分は肝臓で合成される(1.0-1.5g/日).前に述べたように(第13章「脂質と生体膜」),コレステロールは生体膜を構成するのに用いられ,胆汁酸やステロイドホルモンを合成するために必要である.
コレステロールの合成はかなり複雑で,25の個別の酵素的段階が関与している.この複雑さのために,この経路をかなり簡略にして記した(図14-11参照).」(第254頁第1?8行)

ケ 甲第11号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第11号証には,以下の事項が記載されている。
(11a)「コレステロール[cholesrterol] コレステリンともいう.C_(27)H_(46)O,分子量386.66.最も代表的なステロール.シクロペンタノフェナントレン環のC-3にOH基,C-17に側鎖をもつ.針状晶(エタノールから再結晶),融点149℃,比旋光度[α]_(D)-39°(クロロホルム中).水,アルカリ,酸に不溶,有機溶媒には一般に易溶であるが,石油エーテル,冷アセトン,冷アルコールに難溶.ジギトニンと難溶性の分子化合物をつくる.動物界に広く分布し,特に脳神経組織,副腎,その他の臓器に多量含まれる.細胞の常成分として細胞膜,オルガネラ膜,ミエリン鞘などの構成成分をなずとともに,胆汁,性腺ホルモン,副腎皮質ホルモン,ビタミンDなどの前駆体となる重要な脂質である.総量は体重の約0.2%,通常,コレスタノールや7-デヒドロコレステロールなどを伴って存在している.遊離型のほか一部は脂肪酸のエステルとなっている(→(審決注:別の字体である。以下同じである。)コレステロールエステル),コレステロール代謝の主要臓器は肝である.コレステロール生合成の90%は肝と小腸壁で行われる.アセチル-CoAに始まり,3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA(HMG-CoA),メバロン酸^(*),スクアレン^(*)を経て行われる合成は,HMG-CoAレダクターゼ^(*)によって調節される.つまり,肝細胞では,β-リポタンパク質のレセブターを介して細胞内に入ったコレステロールの量に応じてHMG-CoAレダクターゼの合成制御が行われる結果,コレステロール合成が調節される.」(第489頁右欄第43行?第490頁左欄第11行)
(11b)「ヒドロキシメチルグルタリル-CoAレダクターゼ
[hydoroxymethylglutaryl-CoA reductase] EC1.1.1.88.HMG-CoAレダクターゼと略称される.ヒドロキシメチルグルタリル-CoAをNADPH存在下で還元してメバロン酸^(*)を生成する反応を触媒する酵素,この還元反応は基質のカルボキシル基の一つがアルデヒド基を経由して水酸基にまで還元される2段階反応である.本酵素は,コレステロールや各種ステロイド,テルペン生合成の重要な調節点である(→ステロイドの生合成,テルペンの生合成).したがって種々の環境条件、食餌条件などによって活性が変動する.」(第1010頁左欄下から第9行?右欄第2行)

コ 甲第14号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第14号証には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。
(14a)「

ドリコールは種々の数([n]19から24)のイソプレニル基を含有する。ユビキノン-nの場合、脊椎動物における基の数(n)は、9から10である。HMG-CoA還元酵素阻害剤は、コレステロール合成の律速要因であるHMG-CoAを競合的に阻害する。」(第25頁右欄Figure.2)

サ 甲第16号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第16号証には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。
(16a)「ピリジン及びピリミジン置換3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン(ヘプタン)酸のラクトン2?4を合成した。構造-活性の関連性を広範に探索したところ、インビトロとインビボの両方においてHMG-CoAに対するメビノリン(lb)の阻害活性を超える数種の化合物を発見した。2iによる第1臨床治験(HR780)を準備中である。」(第52頁要約)
(16b)「表I:ラクトン2?4の物理的特性と阻害活性

」(第53頁TableI)
(16c)「一般的に、ピリミジン(2r-w)の構造-活性の関連性は相当するピリジン類(2a-q)のものに匹敵する(例えば2i対2v、2a対2r、2j対2w;表I)。阻害力は複素芳香環の置換パターンに大きく依存している。 我々^(10?12)及び他のもの^(7)は、中央の芳香環の2、4及び6位における置換が強力な生物活性をもたらすことを最近明らかにしている。
しかしながら、置換基を適切に選択することにより、化合物の阻害力は更に3桁増大させることができる。
中央の複素芳香環の2位にイソプロピル基を導入すれば化合物2の生物活性は最大となる(例えば2i対2o、2p、2d及び2a)。メビノリンの極性エステル部分を模倣していると考えられる4位の極性置換基は、高活性を有する化合物をもたらすことが以前に明らかにされている^(7)。
我々のシリーズにおいては、4-(クロロフェニル)及び4-(フルオロフェニル)置換の類縁体が同等に強力な阻害剤である(例えば2a 対 2b、2r 対 2s)。4-(メトキシフェニル)又は4-[(トリフルオロメチル)フェニル]置換は活性の多大な損失をもたらす(2m、2n対2i)。
6位の置換は最適な生物活性のために最も重要であることがわかっている。力価の顕著な上昇は、嵩高のアルキル基の導入によって(例えば2f、2g、2h、2tvs2e、2s)のみならずフェニル部分の使用によって(例えば2i、2j、2k、2v、2w)も得ることができる。」(第55頁右欄第9?30行)
(16d)「他のシリーズのSAR試験^(7)とは異なり、我々は、中央の芳香族環の6位における嵩高の親油性の置換基が合成HMG-CoA還元酵素阻害剤の生物活性に大きく寄与していることを明らかにした。」(第57頁右欄第13?17行)

シ 甲第20号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第20号証には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。
(20a)「4つのHMG-CoA還元酵素阻害剤、プラバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、シンバスタチンの親油性(logP)及び表面張力が計測された。 プラバスタチンはその他の3つと比較して、logPの値が低く、表面張力は高かった。おそらく、このような物理化学的特性が、プラバスタチンの組織選択的な細胞質の摂取の原因といえるだろう。」(第117頁要約)
(20b)「プラバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン及びシンバスタチン(図1)は3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルコエンザイムA(HMG-CoA)還元酵素の効力の強い競合的な阻害剤である。^(1,2))これらの薬剤のうち、肝臓でのコレステロール合成の選択的な抑制という点についてプラバスタチンは他の3つと区別される。このプラバスタチンの組織選択性は、肝臓外の細胞によってあまり効率的に取り込まれないことが原因であるといえる。これらの化合物の構造的な差異を考察すると、6位の水酸基に起因する相対的な疎水性がプラバスタチンの組織選択性に関係しているという仮説が生まれる。この構想を物理化学的に分析するために、4つのHMG-CoA還元酵素阻害剤の分配係数と表面張力を計測し比較した。」(第117頁左欄第1行?右欄第8行)
(20c)「結果と考察
薬剤の生体内における流動の効率を測定する上で、分配係数は最も重要な要因の1つである。表1では、ラクトン型とナトリウム塩型での4つの阻害剤のlogPの値をまとめている。logPの値の順序はどちらの型もプラバスタチン<<メバスタチン<ロバスタチン<シンバスタチンの通りであり、^(8))プラバスタチンが他と比べて親水性であることを示している。
logPが有機化合物に関する付加的な構造上の特性を持っていることは広く知られている。メバスタチンはヘキサヒドロナフタレン環の6位にメチル基をもたないが、ロバスタチンとシンバスタチンは6位のメチル基をもっている。さらに、シンバスタチンはブチリルエステル側の連鎖に付加的なメチル基をもつ。その一方で、プラバスタチンは6位に水酸基をもっている。メチル基の親油性の影響と、水酸基の親水性の影響という観点からみると、観察されたHMG-CoA還元酵素阻害剤のlogPの順番は合理的であるといえるだろう。」(第118頁右欄第8行?第119頁右欄第8行)

ス 甲第24号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第24号証には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。
(24a)「還元酵素阻害薬に考えられる肝外への影響に対する関心は、HMG-CoA還元酵素阻害薬に含まれるロバスタチンとシンバスタチンがイヌにおいて高用量で白内障を引き起こす可能性があるという最近の所見に基づいている。」(第1411頁左欄第9?12行)

セ 甲第57号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第57号証には,以下の事項が記載されている。
(57a)「したがって、天然物中の作用成分の構造が決まれば,その構造を少し変えて,作用がどう変わるかを調べようとする方向がでてくる。 もし,このようにして作られた新しいものに,よりよい薬理作用が見いだされれば医薬品開発となり,たとえそこになんら薬理作用が見いだされなくても,こうした知識を集成し,体系化すればそこに「化学構造と薬理作用との関係」^(3))が成り立つことになり,新たに医薬品を開発する場合の基礎知識として,後述のドラッグデザインをするのに役立ってくる。」(第67頁第22?28行)

ソ 甲第58号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第58号証には,以下の事項が記載されている。
(58a)「4.分子変換操作に続く手続きはまた化学的観点から分化されうること.
a.構造を少しずつ変えた同族化合物の調製.一系列の同族化合物は分子構造を少しずつ連続的に変化させることで得られる.そうすることによって薬物の物理化学的な性質が少しずつ変化し,それに伴って生物活性も少しずつ変化して行くことがある^(54),^(142)(IV節参照).」(第80頁第4行?末行)

(2)甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲第1号証の実施例1(摘記1c参照)には,「(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸ナトリウム塩」を得る製造方法が具体的に記載されており,「(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸ナトリウム塩」は以下の化学式で示される化合物である。


(M=Na)」
そうすると,甲第1号証には,


(M=Na)の化合物」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断
(3-1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明は,
本件発明1の「式(I)」において,
「R^(1)」が「メチル」,「R^(2)」が「4-フルオロフェニル」,「R^(3)」が「1-メチルエチル」(イソプロピル),「R^(4)」が「Na」,「X」がメチル基により置換されたイミノ基,「破線」が二重結合の存在を表す化合物に対応する。
そうすると,本件発明1と甲1発明とは,
両者とも,
「式(I)

(式中,
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
破線は2重結合の有無を,それぞれ表す。)
で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物」である点で一致し,以下の点で相違している。
(1-i)Xが,本件発明1では,アルキルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(1-ii)R^(4)が,本件発明1では,水素またはヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点

イ 相違点の検討
(ア)甲第1号証及び甲第2号証の記載に基づく動機付け
甲1発明は,甲第1号証の特許請求の範囲に記載される,
「式I

」において,
「R^(1)」として「不斉炭素を含まぬC_(1?6)アルキル」である「イソピロピル」を選択し,
「R^(2)」として「-N(R^(8))_(2)、但し、R^(8)は独立に、不斉炭素原子を含まぬC_(1?4)アルキル」である「メチル」を選択し,
「Q」として「Q”」の「Q”a」,すなわち,


」を選択し,その「R^(3)」,「R^(4)」,「R^(5)」のうち,2つが「水素」,1つが「フルオロ」を選択し,
「X」として「ビニレン」を選択し,
「Y」として「

」の「R^(6)」の「水素」,「R^(7)」の「カチオン」である「ナトリウムイオン」を選択したものといえる(摘記1a参照)。
また,甲1発明の化合物は,実施例1b)で得られたものであるから,「HMG-CoA還元酵素」を阻害する薬理活性を有することがデータで裏付けられているものである(摘記1b参照)。一方,甲第1号証の特許請求の範囲に記載される式Iで示される化合物は,甲1発明と同様の薬理活性を有することがすべての範囲で裏付けられているわけではないが,そのような薬理活性が一応期待される化合物として記載されているものといえる。
そこで,本件発明1と甲第1号証の特許請求の範囲に記載された式Iとの関係をみると,本件発明1は,上記式Iの「R^(2)」として「-N(R^(8))_(2)」を選択し,さらに「R^(8)」が甲1発明のように「不斉炭素原子を含まぬC_(1?4)アルキル」である「メチル」ではなく,一方の「R^(8)」としてアルキルスルホニル基(-SO_(2)R’;R’はアルキル基)を選択したものといえるが,このような置換基を選択した化合物は,上記式Iの範囲に含まれてはいない。
そうすると,甲第1号証の式Iに含まれない化合物については,「HMG-CoA還元酵素活性」を阻害する薬理活性を期待することができるとはいえないから,甲1発明の「ジメチルアミノ基」を,式Iの範囲に含まれない選択肢である「-N(CH_(3))(SO_(2)R’)」に置き換える動機付けがあるとはいえない。
次に,甲第2号証には,「一般式

」において,
「R^(1)」として「アルキル」を,
「R^(2)」として「アリール」を,
「R^(3)」として「-NR^(4)R^(5)」で,「R^(4)」,「R^(5)」として「アルキル」,「アルキルスルホニル」を,
「X」として「-CH=CH-」を,
「A」として


」で「R^(6)」として「水素」,「R^(7)」として「カチオン」を,それぞれ選択肢として含むことが記載され(摘記2a参照),さらに「一般式(I)の殊に好ましい化合物」として,
「R^(1)」として「イソプロピル」を,
「R^(2)」として「フェニル」で「フッ素」で一置換されたものを,
「R^(3)」として「-NR^(4)R^(5)」で,「R^(4)」,「R^(5)」として「メチル」,「メチルスルホニル」を,それぞれ選択肢として含むことも記載され(摘記2d参照),「R^(7)」として「カルシウムカチオン」を,選択肢として含むことも記載されている(摘記2c参照)。
甲第2号証の一般式(I)の化合物も,HMG-CoA還元酵素阻害剤を提供するものであって(摘記2b参照),甲第1号証の式Iの化合物と同様,ピリミジン環を基本骨格とし,そのピリミジン環の2,4,6位に置換基を有する化合物である点で共通するものであって,選択する置換基によっては,両者に含まれる化合物が一部重複することもあるが,甲第1号証の式Iの化合物と甲第2号証の一般式(I)の化合物は,上記ピリミジン環の置換基の選択範囲がすべて一致しているわけではなく,それぞれ,別個の化学構造式を有する化合物として特定され,その化学構造式の化合物であることを前提にHMG-CoA還元酵素阻害剤となり得ることが記載されているものといえる。
そして,化合物の構造が異なれば,そのHMG-CoA還元酵素阻害作用が同じになるとはいえないから,甲1発明のジメチルアミノ基の上位概念として,甲第2号証の一般式の「R^(3)」の「-NR^(4)R^(5)」が対応するとしても,甲1発明のジメチルアミノ基を甲第1号証に開示のない置換基に,甲第2号証の記載に基いて置換する動機付けがそもそもあるとはいえない。
加えて,甲第2号証の一般式(I)の化合物における「R^(1)」,「R^(2)」,「R^(3)」は,それぞれきわめて多数の選択肢がある(摘記2a,2d参照)ところ,少なくとも「X」と「A」が甲1発明と同じ構造として具体的に実施例として記載されているのは,実施例8の「メチルエリスロ-(E)-3,5-ジヒドロキシ-7-[2,6-ジメチル-4-(4-フルオロフェニル)-ピリミド-5-イル]-ヘプト-6-エノエート」(R^(3)がメチル),実施例15の「メチルエリスロ(E)-3,5-ジヒドロキシ-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-メチル-ピリミド-5-イル]-ヘプト-6-エノエート」(R^(3)がフェニル),実施例23の「メチルエリスロ-(E)-3,5-ジヒドロキシ-7-[4-(4-フルオロフェニル)6-イソプロピル-2-フェニル-ピリミド-5-イル]-ヘプト-6-エノエート」(R^(3)がフェニル)のみであって(摘記2e,2f,2g参照),「R^(3)」として「-NR^(4)R^(5)」を選択したものは一つも記載されていない。さらに,「-NR^(4)R^(5)」が置換した化合物については,その製造方法もHMG-CoA還元酵素阻害活性の薬理試験も記載されておらず,「-NR^(4)R^(5)」において,「R^(4)」,「R^(5)」として「メチル」と「メチルスルホニル」という特定の組み合わせを選択することの記載もない。
そうすると,甲第2号証に記載される一般式(I)の「R^(3)」として,きわめて多数の選択肢の中から可能性として考え得る置換基というだけの「-NR^(4)R^(5)」で,「R^(4)」,「R^(5)」として「メチル」と「メチルスルホニル(SO_(2)CH_(3))」を選択した化合物が,そもそも技術的な裏付けをもって記載されているともいえず,この記載に基づいて,甲1発明の「ジメチルアミノ基」を,「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換える動機付けがあるとはいえない。

(イ)技術常識に基づく動機付け
甲第10号証,甲第11号証には,コレステロールが大部分は肝臓で合成されることが記載されており(摘記10a,11a参照),さらに,甲第11号証,甲第14号証には,HMG-CoA還元酵素がコレステロールの生合成する反応を触媒することが記載され(摘記10b,14a参照),HMG-CoA還元酵素阻害剤によって,コレステロールの生合成を阻害することが記載されている(摘記14a参照)。
また,甲第7号証は,「肝臓に対するHMGR阻害薬の作用を明確にすることにより副作用発現率を低減できるか否かについて、多くの議論がなされてきた」ことが記載され(摘記7b参照),実際に,甲第24号証には,HMG-CoA還元酵素阻害剤によってイヌで白内障が起きる可能性が示唆されていたことが記載されている(摘記24a参照)。
これらの記載からすれば,コレステロールは肝臓で大部分が合成され,HMG-CoA還元酵素阻害剤がこのコレステロールの生合成を阻害するものであるから,副作用を考慮して肝臓の選択性が高いHMG-CoA還元酵素阻害剤を得ようとすることは,本件優先日当時の技術課題として当業者が認識し得るものとなっていたということはできる。
次に,甲第7号証は,「HMG-CoA還元酵素阻害薬についての組織選択性と親油性との関係」に関する研究論文であって(摘記7a参照),「組織選択性は主に薬剤の相対的親油性による影響を受け、相対的に親水性の高い化合物が高い肝臓選択性を示す」との仮説を検討したものであり(摘記7b参照),「ロバスタチン、プラバスタチン」などの「HMG-CoA還元酵素阻害薬」となる化合物について,「in vitroでミクロソームHMGRを阻害する各化合物の能力を検討し」,「肝に対する作用と末梢に対する作用を比較する評価として、ステロールへの[^(14)C]酢酸塩の取り込みに対する化合物の作用を肝臓、牌臓及び精巣に由来する組織片において測定した」ところ,「親油性が重要な因子」であり,「肝臓と他の組織との選択性が等しい『閾値点』は、CLOGP=2」で,例外はあるものの「これより下の場合は、化合物は肝臓に選択的で、これより上の場合は末梢組織に選択的となる」ことが記載されている(摘記7c,7d,7e参照)。
また,甲第20号証は,4つのHMG-CoA還元酵素阻害剤,プラバスタチン,ロバスタチン,メバスタチン,シンバスタチンの親油性(logP)を測定し,プラバスタチンのlogPの値が低く,その物理化学的特性が,組織選択性的な細胞質の摂取の原因となっていること(摘記20a参照),プラバスタチンが肝臓以外の細胞に効率的に取り込まれず,その組織選択性がヘキサヒドロナフタレン環の6位に水酸基に起因することが記載されている(摘記20b,20c参照)。
そうすると,甲第7号証,甲第20号証の記載からは,例外はあるとしても,HMG-CoA還元酵素阻害剤において親水性の化合物が,肝選択性を高める可能性があることが示唆されているといえ,肝臓の選択性が高いHMG-CoA還元酵素阻害剤を得るために,HMG-CoA還元酵素阻害活性を示す化合物を,親水性という指標で評価し,親水性の高い(logPが2以下)の化合物を選択するという動機づけは本件優先日当時の当業者が認識できたものと一応認めることができる。
その一方,甲第7号証,甲第20号証とも,上述のようにHMG-CoA還元酵素阻害活性がある化合物の親水性を評価したものであるが,HMG-CoA還元酵素阻害活性を示す化合物を親水性とするために,どのような化学構造とすればよいのかについては何ら記載されていない。
甲第9号証には,対象とする化合物のlogP値を理論的に計算できることと,特定の置換基に対応したπx値が示され,合成しようとする化合物の相対的脂溶性などを予測することが可能になることが記載され(摘記9b参照),RとXを置換基とする芳香族置換体において,Xが「3-SO_(2)CH_(3)」(メチルスルホニル基)のπx値が-1.26であることが示されている(摘記9a参照)が,化合物を親水性にするためにメチル基をスルホニルメチル基に変換するという化合物の改変手段が記載されているわけではないし,ここで示されるメチルスルホニル基は芳香族環に直接置換されるものであって,ピリミジン環にアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基(-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))を含む)が置換されている本件発明1とは異なる構造のものである。
そうすると,すでにHMG-CoA還元酵素阻害活性があることがわかっている化合物の親水性を測定し,その中から親水性の高い化合物を選択するという動機づけはあるとしても,甲1発明の特定の置換基を別の置換基に置き換えれば,必ずしもHMG-CoA還元酵素阻害活性を保持するかはわからないのであるから,そもそも,メチルスルホニル基を有する化合物のlogP値が小さくなる(親水性となる)ことのみを根拠として,甲1発明において,親水性とするために,その特定の置換基をメチルスルホニル基と置き換える動機付けがあるとはいえない。
また,医薬化合物の開発において,特定の薬理活性を有する化合物の構造を少しずつ変えてその作用を調べることが一般的に行われているとはいえるが(摘記57a,58a参照),化学構造の変化によってどのような薬理作用の変化が生じるかは不明である以上,甲1発明の化学構造を改変して親水性のHMG-CoA還元酵素阻害剤となる化合物を得ようとするのであれば,少なくともHMG-CoA還元酵素阻害活性が保持される範囲内で親水性となる化合物を得るのが自然である。
甲第16号証には,ピリジン及びピリジン置換3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸のラクトンを合成し,HMG-CoAに対する阻害活性について構造-活性の関連性を調査したこと探索した論文であって(摘記16a参照),そこには,以下の構造式


(Y=N)」(なお,ピリミジン環への置換位置については,表記を統一するために,甲第16号証の記載ではなく,本件発明1の式(I)の-X-R^(1)を2位,-R^(2)を4位,-R^(3)を6位(甲第16号証のR^(3)が2位,R^(2)が4位,R^(1)が4位)に対応するものとして以下論ずる。)において,中央の芳香族環(ピリミジン環)の2,4及び6位における置換が強力な生物活性をもたらすこと(摘記16b,16c参照),6位(R^(1))にイソプロピル基を導入すれば生物活性は最大になること,4位(R^(2))の極性置換基は4-クロロフェニル及び4-フルオロフェニルが強力な阻害剤となること,2位(R^(3))の置換は最適な生物活性のために最も重要で,嵩高のアルキル基の導入のみならずフェニル部分の導入によって力価の顕著な上昇が得られることが記載されている(摘記16c参照)。
そうすると,甲第16号証の記載に接した当業者であれば,甲1発明と同様のピリミジン環の6位がイソプロピル基で,4位が4-フルオロフェニル基で置換された化合物の2位の置換基は嵩高いアルキル基やフェニル環が高い阻害活性を示し,甲第1号証の式Iの「R^(2)」として,「不斉炭素原子を含まぬC_(1?6)アルキル」を選択できること(摘記1a参照)と合わせみて,甲1発明の「ジメチルアミノ基」を,アルキル基やフェニル環に置換することはあっても,甲第1号証,甲第16号証に何ら記載のない「-N(CH_(3))(SO_(2)R’)」に置き換える動機付けがあるとはいえない。また,上記(ア)で述べたとおり,甲第1号証や甲第16号証と関係のない甲第2号証の記載に基づいて,その中から「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」を選択することを想起するともいえない。さらに,甲第16号証には,中央の芳香族環(ピリミジン環)の2位における嵩高の親油性の置換基が合成HMG-CoA還元酵素阻害剤の生物活性に寄与していることが記載されている(摘記16d参照)のであるから,そもそも,甲1発明を親水性にするための置換基や置換部位について何らかの示唆があるものとも認めることができない。
甲第29号証は,本件優先日前に存在するメチルスルホニル基を置換基として有する化合物の検索結果が記載され,甲第30号証にもメチルスルホニル基を置換基として有する化合物が記載されているが,これらはHMG-CoA還元酵素阻害剤であるかも不明であって,また,メチルスルホニル基を置換基とすることでその化合物がどのような性質となるのかも記載されていないから,単に,メチルスルホニル基を置換基として有する化合物が本件優先日前に存在していたからといって,甲1発明のジメチルアミノ基を改変し,そのメチル基をメチルスルホニル基とすることが容易に想到できるわけではない。
さらに,本件優先日前に頒布されたその他の証拠をみても,メチルスルホニル基とメチル基を置き換えることの技術的意義についての記載すらなく,甲1発明の化合物を親水性とするために,甲1発明の2位の「ジメチルアミノ基」を「-N(CH_(3))(SO_(2)R’)」とすることを動機付ける記載は見当たらない。
してみると,仮に,甲1発明の化学構造を改変して親水性の化合物を得ることを当業者が想起したとしても,甲1発明の化合物を親水性とするために,特定の位置(ピリミジン環の2位)に存在する「ジメチルアミノ基」の一方のメチル基のみをメチルスルホニル基(アルキルスルホニル基)に置き換え,「-N(CH_(3))(SO_(2)R’)」とする動機付けがあるとはいえない。

(ウ)まとめ
したがって,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできないから,相違点(1-ii)について検討するまでもなく,本件発明1は甲1発明及び甲第2号証の記載並びに本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

ウ 本件発明1の効果
上記イで述べたとおり,本件発明1は甲1発明及び甲第2号証の記載及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできないが,念のため,効果についても検討する。
本件発明1の効果は,強力なHMG-CoA還元酵素阻害活性を示す有効な薬剤となる化合物を提供することにあるものと認める(本件特許明細書段落【0042】参照)。なお,本件特許明細書でメビノリンナトリウムと対比して高いHMG-CoA還元酵素阻害活性を示すという薬理効果が具体的に裏付けられているのは,本件発明1の遊離酸やヘミカルシウム塩ではなく,化合物(Ia-1)で示されるナトリウム塩であるが,HMG-CoA還元酵素活性の阻害が酵素と阻害剤となる化合物との立体構造的な相互作用によって生じるという作用機序からみて,生体内では塩の形態にかかわらず,すべて同じ化合物として酵素に作用すると考えるのが自然であって,ナトリウム塩が遊離酸やヘミカルシウム塩になったとしても,同様にHMG-CoA還元酵素阻害活性を示すと推認することができ,実際,甲第3号証によれば,ヘミカルシウム塩である「S-4522」もメビノリンナトリウムよりも高いHMG-CoA還元酵素阻害活性を示している(摘記3a,3b参照)から,上記推認が正しいことを裏付けているといえる。
一方,甲第1号証には,甲1発明の化合物がHMG-CoA還元酵素阻害活性を示すことが記載されている(摘記1b参照)ものの,甲1発明において,ピリミジン環の2位の「ジメチルアミノ基」を,式Iの範囲に含まれない「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換えた場合に,HMG-CoA還元酵素阻害活性がどのようになるか記載がない。甲第1号証には,ピリミジン環の2位を「4-モルホリル基」に置換した化合物も記載されているが,これも甲第1号証の式Iの「R^(2)」として「-N(R^(8))_(2)」を選択し,さらに「R^(8)」がその定義にある「双方のR^(8)は窒素原子と一緒になって、5-、6-、7-員の随時置換されていてもよい環の部分を形成し、該環は随時ヘテロ原子を含んでもいてもよい(環B)」から選択されたものであって,「R^(2)」として式Iの範囲に含まれない「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」とした場合に,その活性がどうなるかについては記載がない。
次に,甲第2号証には,上述のとおり,式Iの「R^(3)」として「-NR^(4)R^(5)」を選択し,「R^(4)」,「R^(5)」の選択肢としてメチル,メチルスルホニルが併記されているが,メチル基とメチルスルホニル基が薬理活性として同等の置換基であることを示唆する記載もなく,「R^(3)」として「-NR^(4)R^(5)」を選択した化合物の実施例すら記載されておらず,このような化合物の薬理活性がどうなるかは甲第2号証の記載から予測できるとはいえない。
さらに,甲第16号証には,本件発明1の化合物と同様に,ピリミジン環の6位にイソプロピル基,4位に4-フルオロフェニル基を有する化合物が記載されているが2位の置換はアルキル基かフェニル基であって,「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」は記載がなく,ピリミジン環の6位にイソプロピル基,4位に4-フルオロフェニル基を有する化合物であれば,2位にどのような置換基であっても同様の活性が得られるとはいえない。
そして,薬理活性は,化合物の構造と密接に関連するものであって,薬理活性を有する化合物の置換基を変化させた場合に,当然その薬理活性は変化し,場合によっては,それまで得られていた薬理活性が得られなくなる可能性もあるから,甲第1,2,16号証のみならずその他の証拠の記載を参酌しても,甲1発明のピリミジン環の2位の「ジメチルアミノ基」を,「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換えた化合物のHMG-CoA還元酵素阻害活性がどうなるかは当業者が予測し得たということはできない。

なお,甲第3号証は,被請求人が実施した試験結果をまとめた内部文書であるが,甲1発明である「SDZ-65129」と本件発明1に含まれる「S-4522」とのHMG-CoA還元酵素阻害活性について,メビノリンを比較対象としたデータ相互間に矛盾があったことから,メビノリンNa(開環)及びメビノリン(ラクトン体)とともに,SDZ-65129とS-4522について,HMG-CoA還元酵素阻害活性を同じ条件で比較した試験結果を示したものである(摘記3a,3b参照)。そして,本件特許明細書には,上述のとおり,本件発明1の化合物ではないが,そのナトリウム塩について具体的にHMG-CoA還元酵素阻害活性が記載されており,そのカルシウム塩や遊離酸でも,薬理の作用機序からみて同様のHMG-CoA還元酵素阻害活性を奏すると理解できるものであるから,甲第3号証に示された結果はその理解が正しいことを裏付けるものとして参酌することができるといえる。
そして,甲第3号証に示されたHMG-CoA還元酵素阻害活性(IC_(50)値)は,S-4522が14±3nMであるのに対して,メビノリンNa(開環)が28±9nMであり,本件発明1のカルシウム塩がメビノリンナトリウムの約2倍の活性を有すること,そこに示されたIC_(50)値は平均値で標準誤差の表示もあることからみて(摘記3b参照),同1条件で試験した本件発明1の化合物はメビノリンNaと試験誤差を考慮しても前者がメビノリンNaよりも強力なHMG-CoA還元酵素阻害作用を有する化合物となることを示しているといえる。なお,被請求人と補助参加人(ゼネカ社)とのQ&Aをまとめた甲第5号証の記載(摘記5a参照)をみると,そこに示されるIC_(50)値の測定1?3のの平均値が甲第3号証のIC_(50)値と一致し,実施時期も一致していることからも,甲第3号証で示されたIC_(50)値が複数回の測定の結果の平均とその測定誤差のばらつきの範囲として記載されたものと理解できる。
そうすると,本件発明1のHMG-CoA還元酵素阻害活性がメビノリンナトリウムと対比して高いという薬理活性については,本件特許明細書の記載から推認することができ,かつ甲第3号証もそのことを裏付けているから,本件発明1の効果を否定することはできない。

エ まとめ
以上のとおりであるから,本件発明1は,本件出願(優先日)前に頒布された甲第1号証に記載された発明(主引用発明)及び甲第2号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基いて本件出願(優先日)前に当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3-2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明は,「(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸ナトリウム塩」であるから,
本件発明2と甲1発明とは,
「7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-置換アミノピリミジン)-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸」である点で一致し,以下の点で相違している。
(2-i)ピリミジンの2位のN-メチル-N-置換アミノ基のN-置換基が,本件発明2ではメチルスルホニル基であるのに対し,甲1発明ではメチル基である点
(2-ii)本件発明2では遊離酸であるのに対し,甲1発明ではナトリウム塩である点
(2-iii)旋光性が,本件発明2では右旋性(+)であるのに対し,甲1発明では明らかでない点

イ 相違点の検討
相違点(2-i)は,上記相違点(1-i)に沿って記載し直すと,Xが,本件発明2では,メチルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点となり,相違点(1-i)において,「アルキルスルホニル基」が「メチルスルホニル基」に限定されたものに相当する。
そうすると,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできない以上,さらに限定された相違点(2-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明2は甲1発明及び甲第2号証の記載並びに本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたはいえない。

(3-3)本件発明5について
ア 対比
本件発明5の「式(I)」の化学構造式は,本件発明1の「式(I)」の化学構造式と同じであるから,上記(3-1)アで検討したとおり,甲1発明は,
本件発明5の「式(I)」においても,
「R^(1)」が「メチル」,「R^(2)」が「4-フルオロフェニル」,「R^(3)」が「1-メチルエチル」(イソプロピル),「R^(4)」が「Na」,「X」がメチル基により置換されたイミノ基,「破線」が二重結合の存在を表す化合物に対応する。
そうすると,本件発明5と甲1発明とは,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中,
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
破線は2重結合の有無を,それぞれ表す。)
で示される化合物」である点で一致し,以下の点で相違している。
(5-i)Xが,本件発明5では,メチルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(5-ii)R^(4)が,本件発明5では,ヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点

イ 相違点の検討
相違点(5-i)は,相違点(1-i)において,「アルキルスルホニル基」が「メチルスルホニル基」に限定されたものに相当する。
そうすると,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできない以上,さらに限定された相違点(5-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明5は甲1発明及び甲第2号証の記載並びに本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたといえない。

(3-4)本件発明9について
ア 対比
本件発明9の「式(I)」の化学構造式は,本件発明1の「式(I)」の化学構造式と同じであるから,上記(3-1)アで検討したとおり,甲1発明は,
本件発明9の「式(I)」においても,
「R^(1)」が「メチル」,「R^(2)」が「4-フルオロフェニル」,「R^(3)」が「1-メチルエチル」(イソプロピル),「R^(4)」が「Na」,「X」がメチル基により置換されたイミノ基,「破線」が二重結合の存在を表す化合物に対応する。
そうすると,本件発明9と甲1発明とは,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中,
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
破線は2重結合の存在を,それぞれ表す。)
で示される化合物」である点で一致し,以下の点で相違している。
(9-i)Xが,本件発明9では,メチルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(9-ii)R^(4)が,本件発明9では,ヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点

イ 相違点の検討
相違点(9-i)は,相違点(1-i)において,「アルキルスルホニル基」が「メチルスルホニル基」に限定されたものに相当する。
そうすると,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできない以上,さらに限定された相違点(9-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明9は甲1発明及び甲第2号証の記載並びに本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-5)本件発明10について
ア 対比
本件発明10の「式(I)」の化学構造式は,本件発明1の「式(I)」の化学構造式と不斉炭素原子(C*)の表示があるほかは同じであるから,上記(3-1)アで検討したとおり,甲1発明は,
本件発明10の「式(I)」においては,
「R^(1)」が「メチル」,「R^(2)」が「4-フルオロフェニル」,「R^(3)」が「1-メチルエチル」(イソプロピル),「R^(4)」が「Na」,「X」がメチル基により置換されたイミノ基,「破線」が二重結合の存在を表す化合物であって,C*の不斉炭素原子の光学活性体に対応する。
そうすると,本件発明10と甲1発明とは,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(各式中,
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
破線は2重結合の存在;
C*は不斉炭素原子を,それぞれ表す。)
で示される、光学活性体化合物」である点で一致し,以下の点で相違している。
(10-i)Xが,本件発明10では,アルキルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(10-ii)R^(4)が,本件発明10では,ヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点
(10-iii)光学活性体化合物が,本件発明10では,
「式(b)で示される化合物を,(3R)-3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ-5-オキソ-6-トリフェニルホスホラニリデンヘキサン酸誘導体と反応させて式(c)で示される化合物を生成させる工程と,
(上記式(b)と同じなので化学式は省略する。)
(上記式(c)と同じなので化学式は省略する。)
式(c)で示される化合物のtert-ブチルジメチルシリル基を離脱することにより式(d)で示される化合物を生成させる工程と,
(上記式(d)と同じなので化学式は省略する。)
式(d)で示される化合物を還元する工程と,を含む方法」によって得られるものであるのに対し,甲1発明では,そのような方法によって得られるものであるか明らかでない点

イ 相違点の検討
相違点(10-i)は,相違点(1-i)と実質的に同じであるから,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(10-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明10は甲1発明及び甲第2号証並びに本件優先日当時の技術常識の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-6)本件発明11について
ア 対比
本件発明11と甲1発明とを対比する。
甲1発明は,「(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸ナトリウム塩」であるから,
本件発明11と甲1発明は,
「7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-置換アミノピリミジン)-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸の塩」である点で一致し,以下の点で相違している。
(11-i)ピリミジンの2位のN-メチル-N-置換アミノ基のN-置換基が,本件発明11ではメチルスルホニル基であるのに対し,甲1発明ではメチル基である点
(11-ii)塩が,本件発明11ではカルシウム塩であるのに対し,甲1発明ではナトリウム塩である点
(11-iii)旋光性が,本件発明11では右旋性(+)であるのに対し,甲1発明では明らかでない点

イ 相違点の検討
相違点(11-i)は,上記相違点(1-i)に沿って記載し直すと,Xが,本件発明11では,メチルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点となり,相違点(1-i)において,「アルキルスルホニル基」が「メチルスルホニル基」に限定されたものに相当する。
そうすると,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできない以上,さらに限定された相違点(11-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明11は甲1発明及び甲第2号証の記載並びに本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-7)本件発明12に対して
ア 対比
本件発明12は,「請求項1に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」であるから,上記(3-1)アで検討したとおり,
本件発明12と甲1発明とは,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
破線は2重結合の有無を,それぞれ表す。)
で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物」である点で一致し,以下の点で相違している。
(12-i)Xが,本件発明12では,アルキルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(12-ii)R^(4)が,本件発明12では,水素またはヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点
(12-iii)本件発明12は,該化合物を有効成分として含有するHMG-CoA還元酵素阻害剤であるのに対し,甲1発明は,該化合物を有効成分として含有する剤ではない点

イ 相違点の検討
相違点(12-i)は,相違点(1-i)と実質的に同じであるから,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(12-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明12は甲1発明及び甲第2号証の記載並びに本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)請求人の主張について
ア 請求人の主張の概要
(ア)動機付けについて(審判請求書第57頁下から第13行?第59頁第10行,審判事件弁駁書第31頁第11行?第32頁末行,第34頁第7行?第37頁第30行,平成28年3月24日付け上申書第17頁下から第14行?第23頁第13行,口頭審理陳述要領書第3頁第27行?第11頁第12行)
本件優先日前において,HMG-CoA還元酵素阻害剤の非特異的な組織移行に伴う副作用を回避するため肝選択性を高めることは周知の課題であり,HMG-CoA還元酵素阻害剤の親水性を高めることが肝選択性の向上の手段として注目されていたので,甲1発明をリード化合物として誘導化し,相対的に親水性である化合物を創成することに当業者は十分な動機付けがある。
甲1発明のピリミジン環系HMG-CoA還元酵素阻害剤の化合物において,ピリミジン環の5位のヒドロキシヘプテン酸,4位のパラフルオロフェニル基,6位のイソプロピル基は活性に重要であり,これらの部位は変換部位として適さないことは周知であった(甲第1?8,10,16,25,26号証)ため,化学構造上ピリミジン環の2位のジメチルアミノ基を変換することが必然であった。
すなわち,甲第16号証には,ピリミジン環の4位,6位がそれぞれパラフルオロフェニル,イソプロピルである場合に2位の置換基が違えど高い阻害活性が得られていることが記載されており,甲1発明との相違点は2位の置換基のみであることから,甲1発明から出発した当業者にとって阻害活性を維持しつつ,化合物を親水性とするための置換はピリミジン環の2位しかあり得ない。このことはピリミジン環のみならず,ピロール環やベンゼン環を骨格とするスタチン化合物でも,ヒドロキシヘプテン酸,パラフルオロフェニル基,イソプロピル基が同様に配置されていることからも裏付けられる(甲第26,27,44号証)。また,甲1発明におけるピリミジン環の2位の置換基であるジメチルアミノ基は,甲第16号証において良好であるとされる嵩高の親油性基よりも親水性であるにもかかわらず,これら以上の高い活性を得ていると理解できるのであるから,甲第16号証において,ピリミジン環の2位の置換基が親油性基であることが甲1発明を親水性とすることの阻害要因とはならない。
そして,当業者が甲1発明の化合物を変換する際には,甲1発明の化合物を包含する一般式のHMG-CoA還元酵素阻害剤が記載され,2位の置換基に相当する部分に同じ置換アミノ基が記載されている甲第2号証の記載を参酌し,「殊に好ましい化合物」として記載されているジメチルアミノ基の唯一の上位概念である-NR^(4)R^(5)に着目し,R^(4),R^(5)のアルキル,アリール,アラルキル,アシル,アルキルスルホニルまたはアリールスルホニルの6つの候補から,親水性基のアシル,アルキルスルホニルまたはアリールスルホニルを選択する。
その際には,その活性を維持するために当該化合物の構造を大きく変えないように変換するのが技術常識であり,ジメチルアミノ基の一方のメチル基のみを変換することが自然で,また,立体構造が大きく変化するアリールスルホニルを選択することはなく,メチル基から大きく疎水性を変えることができ,最も親水性であるメチルスルホニル基を選択することは技術常識(甲第56号証)からみて自明である。

(イ)効果について(審判請求書第59頁第11行?第67頁第6行,審判事件弁駁書第37頁第31行?第40頁第19行,口頭審理陳述要領書第11頁第13行?第15頁第5行)
甲第1号証には,ピリミジン環の2位にジメチルアミノ基が置換した甲1発明の化合物が強力なHMG-CoA還元酵素阻害活性を示すことが記載されるとともに,ジメチルアミノ基の代わりに嵩高い4-モルホリニル基に置換した化合物も特に好ましい化合物と記載されている(実施例2b))ので,同様の活性を発揮すると理解できるから,ジメチルアミノ基のメチル基をこれに比較して嵩高いメチルスルホニル基に置換しても活性が維持されると合理的に予測する。
また,甲第2号証にもメチルスルホニル基で置換されたアミノ基をピリミジン環の2位に有する置換ピリミジン環の化合物が殊に好ましい化合物として記載され,それらの化合物が良好なHMG-CoA還元酵素阻害作用を示すことが記載されているから,甲1発明の化合物のピリミジン環の2位のジメチルアミノ基をメチルスルホニル基で置換した化合物が良好なHMG-CoA還元酵素阻害作用を示すことが合理的に予測できる。
本件発明1の化合物は,甲1発明の化合物に対して,9倍ものHMG-CoA還元酵素阻害活性があると審査過程で主張して(甲第6号証),それにより特許を受けたものである。そして,本件特許明細書の記載以外でデータを補充することは許されないが,仮に,信頼できる甲第3?5号証の結果をみれば,その差は2倍程度であり,かつばらつきの大きい試験系であることが理解できるので,両者のIC_(50)値に2倍程度の差があったとしても客観的に有意な差であるとはいえず(甲第31,32号証),顕著な効果とはいえない。
また,上述のとおり,甲第6号証によって意図的に本件発明の効果を実際よりも高くみせるという不誠実な対応によって本件特許を受けたものであって,このようなデータは参酌されるべきではないし,そのような特許の成立過程は本件発明の活性が甲1発明の2倍程度では顕著な効果といえないことを被請求人が自認していたことを示すものである。

本願明細書の実施例の化合物はメビノリンに対して4.4倍のHMG-CoA還元酵素阻害活性を示すことが記載されているが,甲1発明はメビノリンに13.5倍の活性を示し,甲第16号証には,ピリミジン環の2位の置換基以外は本件発明1と共通の骨格を有する化合物(2t,2u,2y,2w)のメビノリンに対する相対活性が一様に高い(2?8倍)ことを示すものであるから,ピリミジン環の2位に親水性基を導入することによりメビノリンに比較して十分高活性となることが予測でき,化合物2tと化合物2u,2v,2wとの比較からみてピリミジン環の2位の置換基が相対的に嵩高にしても,活性は維持されるか3倍程度まで高まることが予測できたので,甲1発明のジメチルアミノ基のメチル基を嵩高いメチルスルホニル基に置換してもこの程度の活性の差は容易に予測できた。また,このことは,甲第44号証にはメチルスルホニル基を有するスタチン系HMG-CoA還元酵素阻害剤がメビノリンNaよりも4倍高い活性を有することが記載されていることからも裏付けられる。
さらに,本願明細書に記載されている表4は測定回数やばらつきを示す指標について何ら記載がなく,またこのHMG-CoA還元酵素阻害活性の試験系はばらつきの大きい試験系であって,単にIC_(50)値がばらつくだけでなく,同様の試験でも活性の強弱が逆転することもあった(甲第7,8,31号証)ので,そもそもメビノリンに対してすら本件発明1が優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有しているのか理解できない。

イ 請求人の主張の検討
(ア)動機付けについて
上記(3)(3-1)イ(イ)で述べたように,HMG-CoA還元酵素阻害活性がある化合物を前提として,その中から親水性の高い化合物を選択するという動機づけはあるとしても,甲1発明の特定の置換基を別の置換基に置き換えれば,必ずしもHMG-CoA還元酵素阻害活性を保持するかはわからないのであるから,メチルスルホニル基を有する化合物のlogP値が小さくなる(親水性となる)ことが当業者に理解できるとしても,甲1発明において,親水性とするために,その特定の置換基をメチルスルホニル基と置き換える動機付けがあるとはいえない。
また,甲1発明を親水性の化合物となるように改変する場合は,少なくとも改変した化合物がHMG-CoA還元酵素阻害活性を有していなければならないから,甲1発明の一部置換基を何らかの親水性をもたらす置換基に置き換えればよいというわけではなく,その置換によってHMG-CoA還元酵素阻害活性に影響を与えないことが必要であるといえる。
そして,上記(3)(3-1)イ(イ)で述べたように,甲第16号証の記載に接した当業者であれば,甲1発明と甲第16号証の記載される活性のある化合物との化学構造上の相違が2位の置換基の違いであること理解するとしても,甲第16号証には,2,4,6位の置換基のいずれも阻害活性に影響し,甲1発明と同様のピリミジン環の6位がイソプロピル基で,4位が4-フルオロフェニル基で置換された化合物の2位の置換基は嵩高いアルキル基やフェニル環が高い活性を示すことが記載されている以上,甲1発明の「ジメチルアミノ基」を,そのようなアルキル基やフェニル環に置換した場合にもHMG-CoA還元酵素阻害活性を有することを理解するだけであって,甲第1号証や甲第16号証に開示のない置換基とした場合でも同様の活性が得られることを理解できるとはいえない。
また,甲第26,27号証にピリミジン骨格とは異なるピロール環やベンゼン環のスタチン化合物において,ヒドロキシヘプテン酸,パラフルオロフェニル基,イソプロピル基が同様に置換されていることが記載されているが,化合物の活性は個別の置換基の配置のみによって決定されるわけではなく,化合物全体の構造によって決定されるものであるから,これらの記載から,甲1発明において,2位の置換基をジメチルアミノ基から甲第16号証に開示のある嵩高いアルキル基やフェニル環以外に変えても同様に活性を有することを理解できるとはいえない。なお,甲第44号証は本件優先日後に頒布された刊行物であり,本件優先日当時の技術常識の根拠とすることができないし,甲第26,27号証と同様の理由により,甲1発明において,2位の置換基がどうなってもHMG-CoA還元酵素阻害活性が保持されることを理解できるとはいえない。
そして,甲第16号証は,化学構造とその活性の関係について検討したものである(摘記16a参照)が,化合物を親水性とするために置換基をどのようにすべきかは記載されておらず,また,甲第2号証の化合物の記載と結びつける示唆もないことは上記(3)(3-1)イ(イ)で述べたとおりである。
次に,甲第2号証の記載についてみると,上記(3)(3-1)イ(ア)で述べたように,甲第2号証の一般式(I)は甲1発明を包含するものではあるが,甲1発明は甲第1号証の特許請求の範囲に記載される式Iで示される一群の化合物の実施例の一つとして記載されたものであって,その式Iは,甲第2号証の式Iと一部重複する範囲はあるとしても別の化学構造式で表される一群の化合物であり,さらに,上記(3)(3-1)イ(ア)で述べたように,甲第2号証の一般式(I)の「殊に好ましい」とされる化合物において,-NR^(4)R^(5)は「R^(3)」のきわめて多数の選択肢の一つとして記載され,このような化合物は一つとして実施例が記載されておらず,その製造方法や薬理活性の記載もないものであるから,そもそも,そのような技術的裏付けのない甲第2号証の記載を根拠に,甲1発明の特定の置換基を置き換えることを当業者が想起できるとはいえない。
そうすると,甲第2号証には,一般式(I)の「R^(3)」として「-NR^(4)R^(5)」が,「R^(4)」と「R^(5)」として「アルキル」と「アルキルスルホニル」が一応選択し得るように記載されてはいるものの,きわめて多数の選択肢の中から可能性として考え得るというだけであって,甲第2号証の記載から,上記の特定の選択肢を選択した化合物を具体的に認識し得るとはいえないから,甲第2号証の記載に基いて,甲1発明のジメチルアミノ基の一方のメチル基のみをアルキルスルホニル基に置き換える動機付けがあるとはいえない。
加えて,化合物の改変をする際に,その活性を維持するために当該化合物の構造を大きく変えないように変換するのが技術常識であるとしても,上述のとおり,その変換によってHMG-CoA還元酵素阻害活性に影響を与えずに,化合物が親水性になるにはどのような化学構造にすべきかという点については本件優先日前に頒布されたいずれの証拠にも記載されていない。甲第56号証は本件優先日後に頒布された刊行物であって,そもそも本件優先日当時の技術常識の根拠とすることができない上に,メチル基とメチルスルホニル基が疎水性を示すπの値に大きな違いがある(メチル基に比べてメチルスルホニル基がより親水性の値となる)ことが理解できるだけで,甲1発明のジメチルメチル基の一方のメチル基のみをメチルスルホニル基に変換することを示唆するものとはいえない。
よって,請求人の主張は採用できない。

(イ)効果について
上記(3)(3-1)ウで述べたように,本件特許明細書の記載から,本件発明1は強力なHMG-CoA還元酵素阻害活性を示す有効な薬剤となる化合物を提供するとの効果を奏するとものといえる。
本件特許明細書の記載されたHMG-CoA還元酵素阻害活性の測定方法は,ラット肝ミクロゾーム溶液と[3^(-14)C]HMG-CoA溶液との混液に被験化合物を混ぜてインキュベートした後,薄層クロマト板に展開し,Rf値が0.45?0.60の部分をかきとり,その比放射能を測定することでメビノリンナトリウム塩の相対活性を100とした場合の相対活性を測定するものである(【0040】?【0041】参照)。そして,同様にラット肝ミクロゾームを使用した試験方法を用いた甲第7号証及び甲第8号証をみると,甲第7号証のロバスタチン(化合物1,メビノリン)とフルバスタチン(化合物3)のIC_(50)は後者が前者の2.5倍であるの(摘記7b参照)に対して,甲第8号証では,ロバスタチンナトリウム塩とフルバスタチン(XU62-320)のIC_(50)は後者が前者の1/10となっており(摘記8c,8e参照),その結果が整合していないが,甲第7,8号証でもラット肝ミクロゾームを使用した試験方法を用いている(摘記7c,7d,8d参照)。そして,乙第31号証(伊藤教授の意見書)によれば,本件優先日当時において,本件特許明細書に記載されたHMG-CoA還元酵素阻害活性の測定方法は,通常使用される一般的なHMG-CoA還元酵素阻害活性の測定方法であったことが理解できる。その上で,本件特許明細書のHMG-CoA還元酵素阻害活性を示す表4をみれば,そこに測定回数やばらつきを示す指標について記載がないとしても,そのことが直ちに表4の結果が信用できないことを意味するわけではなく,本件特許明細書に,同じ条件で測定して,本件発明1はメビノリンナトリウムよりも活性が高いという結果が得られたことが明記されている以上,具体的にその結果が誤りであるとする証拠がない限り,その効果を否定することはできない。
そして,本件発明に顕著な効果があるか否かは,甲1発明及び本件優先日当時の技術常識から本件発明の効果を予測し得たか否かで判断されるべきものであって,必ずしも,甲1発明より高いHMG-CoA還元酵素阻害作用を有する必要はない。
甲1発明において,その置換基を本件発明1の化合物となるようにジメチルアミノ基の一方のメチル基のみをメチルスルホニル基に変換して,同じく強力なHMG-CoA還元酵素阻害作用が得られるか否かは,上記(3)(3-1)ウでも述べたとおり,甲第1,2,16号証のほかその他の証拠を参酌しても当業者が予測し得たとはいえない。なお,甲第44号証には,本件優先日後に頒布された刊行物であるから,本件優先日当時の技術常識の根拠として参酌はできないし,その記載内容をみても上記の効果を予測させるものでもない。
さらに,特許成立の過程で提出された甲第6号証を参酌せずとも,本件発明には,本件特許明細書の記載から推認し得る効果があり,かつそれを甲第3号証で裏付けているから,本件特許の成立の経緯によって,本件発明の効果が否定されるものではない。
よって,請求人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから,本件発明1,2,5,9?12は,本件出願(優先日)前に頒布された甲第1号証に記載された発明(主引用発明)及び甲第2号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基いて本件出願(優先日)前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 無効理由2について
(1)サポート要件について
平成6年改正前特許法第36条第5項は,「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は,明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。
以下,この観点に立って,判断する。

(2)特許請求の範囲の記載
上記「第3」に記載されたとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には以下の事項が記載されている。
(a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルコエンザイムA(HMG-CoA)還元酵素阻害剤に関する。さらに詳しくは、コレステロ-ル生合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素を特異的に阻害し、コレステロ-ルの合成を抑制することにより、高コレステロ-ル血症、高リポタンパク血症、更にはアテロ-ム性動脈硬化症の治療に有効である。
【0002】
【従来の技術】高コレステロ-ル血症はしばしば現れる心臓血管疾患であるアテロ-ム性動脈硬化症の重大な危険因子である。従って、コレステロ-ル合成の中心的酵素である3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAからメバロン酸の合成を触媒するHMG-CoA還元酵素の活性への影響を調べることがアテロ-ム性動脈硬化症を治療するための新規な薬剤を開発するために必要である。このような薬剤としては、カビの代謝産物またはそれを部分的に修飾して得られたメビノリン(米国特許第4,231,938)、プラバスタチン(特開昭59-48418)およびシンバスタチン(米国特許第4,444,784)が、第1世代のHMG-CoA還元酵素阻害剤として知られている。これに対して、最近では、フルバスタチン(F.G.Kathawala et al, 8th Int’l Symp. on Atherosclerosis, Abstract Papers, p.445,Rome(1988))およびBMY22089(英国特許第2,202,846)等の合成HMG-CoA還元酵素阻害剤が開発され第2世代として期待されている。」
(b)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】以上によりコレステロ-ルの生成を抑制することがアテロ-ム性動脈硬化の予防および治療に重要であり、このことを考慮して有用な医薬品の開発が望まれている。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前述の事情を考慮し鋭意研究した結果、下記一般式で示される化合物が優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有することを見出して本発明を完成した。即ち、本発明は式(I):
【化9】

(式中、R^(1)は低級アルキル、アリ-ルまたはアラルキルでありこれらの基はそれぞれ置換されていてもよい;R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立して水素、低級アルキルまたはアリ-ルであり該アルキルおよびアリ-ルはそれぞれ置換されていてもよい;R^(4)は水素、低級アルキルまたは非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン;Xは硫黄、酸素、スルホニル基または置換されていてもよいイミノ基;破線は二重結合の有無をそれぞれ表わす)で示される化合物またはその閉環ラクトン体で示されるHMG-CoA還元酵素阻害剤に関する。」
(c)「【0010】本発明化合物の製造法を以下に示す。
(1)化合物aのカルボン酸エステル基をTHF、エ-テルまたはトルエンなどの不活性溶媒中、LiAlH_(4)またはDIBAL-Hなどの還元剤で還元してアルコ-ルとする。本反応は、-70?50℃、好ましくは室温付近で10分間?10時間、好ましくは30分間?3時間実施される。次いで、塩化メチレンなどの溶媒中、TPAP/4-メチルモルホリン-N-オキサイド、ピリジニウムクロロクロメ-トなどで酸化することにより、アルデヒド体bを生成させる。本反応は0?60℃、好ましくは室温付近で10分間?10時間、好ましくは30分間?3時間実施される。
【化10】

(式中、R^(1)?R^(3)はそれぞれ前記と同意義を有し、Alkylは低級アルキルをそれぞれ意味する。)
【0011】(2)次いで、得られた化合物bを(3R)あるいは(3S) 3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ-5-オキソ-6-トリフェニルホスホラニリデンヘキサン酸誘導体と有機溶媒中、例えば、アセトニトリル、ジエチルエ-テル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等反応させることにより化合物cが得られる。本反応は、1?30時間、好ましくは10?15時間加熱下で行なわれるのが好ましい。
【化11】

(式中、C*は不斉炭素原子、破線は二重結合の有無を意味し、R^(1)?R^(4)はそれぞれ前記と同意義を有する。)
【0012】(3)次いで、化合物cをハロゲン化水素の存在下、有機溶媒中で反応させて、tert-ブチルジメチルシリル基を脱離することにより化合物dを得る。ハロゲン化水素としては、種々のハロゲンが用いられるが、フッ化水素が最も好ましい。また、有機溶媒としては、前工程と同様のものが用いられるが、アセトニトリルが特に好ましい。本反応は、0?60℃、好ましくは室温付近で、0.5?10時間、好ましくは1?2時間反応させる。
【化12】

(式中、C*、破線およびR^(1)?R^(4)はそれぞれ前記と同意義を有する。)
【0013】(4)化合物dを無水条件下、アルコ-ル-有機溶媒の混液中で、ジエチルメトキシボランおよびNaBH_(4)と反応させたのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィ-にて精製して化合物(I)を得る(R^(4):低級アルキル)。本反応は、-100?20℃、好ましくは-85?-70℃の冷却下で、10分?5時間好ましくは30分間?2時間反応させる。アルコ-ルとしては、メタノ-ル、エタノ-ル、プロパノ-ルおよびブタノ-ル等が用いられ、有機溶媒としては、前工程と同様のものが用いられる。更に、所望により得られた化合物を適当なアルコ-ル中、金属水酸化物の水溶液を用いてケン化反応に付すか(R^(4):陽イオン)、またはケン化後、更に酸により中性とし、有機溶媒で抽出する(R^(4):水素)こともできる。ケン化反応は、通常工程により、好ましくは塩基性化合物の存在下、水、アルコ-ル、ジオキサン、アセトンまたはその混合物などの通常の溶媒中で実施することができる。反応温度は0?50℃、好ましくは室温付近で実施するのが好ましい。金属水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび類似のものなどが挙げられる。酸としては、塩酸および硫酸などの無機酸が挙げられる。
【化13】

(式中、C*、破線およびR^(1)?R^(4)はそれぞれ前記と同意義を有する。)更に、得られた化合物(I)を要すれば加熱還流することにより化合物(I)の閉環ラクトン体が得られる。」
(d)「【0017】[実施例]
参考例1
エチル 4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-メチルチオピリミジン-5-カルボキシレ-ト(III-1)およびエチル 4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-メチルスルホニルピリミジン-5-カルボキシレ-ト(III-2)の合成
【化14】

p-フルオロベンズアルデヒド81.81gを特開昭61-40272号明細書記載の方法により反応させて化合物1151.0g(収率:86.7%)を得る。次いで144.68gをHMPA65ml中、S-メチルイソチオウレア・硫酸塩28.24gと共に100℃で22時間撹拌する。次いでエ-テルで抽出し、飽和重曹水、水の順で洗浄し乾燥、溶媒を留去する。シリカゲルカラムクロマトグラフィ-により精製し、化合物226.61g(収率:46.8%)を得る。
【0018】
得られた化合物2にDDQ21.64g(0.095mmol)をベンゼン400ml中加えて30分間撹拌しカラムクロマトグラフィ-にて精製して化合物(III-1)24.31g(収率:91.9%)を得る。
NMR(CDCl_(3))δ:1.10 (t,J=7,3H); 1.31 (d, J=7,6H); 2.61 (s, 3H); 3.18 (hept, J=7, 1H);4.18 (q, J=7, 2H); 7.12 (m, 2H); 7.65 (m, 2H)
【0019】
次いで得られた化合物(III-1)13.28g(0.04mmol)をクロロホルム溶液中で、m-クロロ過安息香酸17.98gを加えて室温で撹拌する。次いで、Na_(2)SO_(3)水、飽和重曹水で処理し乾燥、溶媒を留去し、n-ヘキサンで洗浄すると化合物(III-2)13.93g(95.7%)を得る。
NMR(CDCl_(3))δ:1.16 (t, J=7, 3H); 1.37 (d, J=7, 6H); 3.26 (hept, J=7, 1H); 3.42 (s, 3H)4.28 (q, 2H); 7.18 (m, 2H); 7.76 (m, 2H)
また、該(III-2)は化合物2に過マンガン酸カリウムを反応させて酸化することにより化合物(III-1)を経由することなく得ることができる(参考例3)。
【0020】
参考例2
(III-1)の別途合成方法
化合物2200mg(0.594mmol)をジクロルメタン5mlに溶解し、無水炭酸カリウム0.5g(6.10当量)、ヨウ素166mg(1.1当量)を加えて室温で2.5時間撹拌する。反応後、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液を加えて、エ-テルで抽出、水洗、乾燥する。溶媒を減圧で濃縮して樹脂状の化合物(III-1)166mg(収率:83.6%)を得る。
NMR(CDCl_(3))δ:1.10 (t, 3H, J=7); 1.31 (d, 6H, J=7); 2.61 (s, 3H); 3.17 (heptet, 1H, J=7); 4.18 (q, 2H, J=7); 7.07-7.17 (m, 2H); 7.61-7.69 (m, 2H)
【0021】
参考例3
(III-2)の別途合成方法
化合物21.0g(2.97mmol)を10mlのアセトンに溶解し、過マンガン酸カリウム1.5g(9.48mmol)を加えて、室温で15分間撹拌したのち、酢酸1.0mlを加えて更に室温で30分間撹拌した。反応液に水を加えてエ-テルで抽出、飽和炭酸水素ナトリウム溶液および飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥後溶媒を留去すると化合物(III-2)1.07g(2.94mmol)(収率:99.1%)を結晶として得る。
【0022】
参考例4
エチル 4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノ)ピリミジン-5-カルボキシレ-ト(III-3)およびエチル 4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-ジメチルスルファモイルアミノ)ピリミジン-5-カルボキシレ-ト(III-4)の合成
【化15】

化合物(III-2)52.7g(144mmol)の無水エタノ-ル500ml溶液に氷冷下で5N-メチルアミンエタノ-ル溶液71.9mlを加えて徐々に室温とし1時間撹拌後、溶媒を減圧下で留去し水を加える。次いで、エ-テルで抽出、乾燥し、エ-テルを減圧下で留去すると化合物346.9g(収率:100%)を得る。
融点:85?86℃
元素分析値(%)C_(17)H_(20)N_(3)FO_(2)として
計算値:C,64.34; H,6.35; N,13.24; F,5.99
実験値:C,64.42; H,6.46; N,13.30; F,6.14
【0023】
化合物3370mg(1.213mmol)のDMF5ml溶液に氷冷下、60%NaH60mgを加えて、30分間撹拌後メタンスルホニルクロライド208mgを加えて室温とし、更に2時間撹拌する。次いで、氷水を加えてエ-テルで抽出し、水洗、乾燥する。エ-テルを減圧下、留去し残渣をエ-テル-n-ペンタンにて洗浄し化合物(III-3)322mg(収率:57.6%)を得る。
NMR(CDCl_(3))δ:1.10 (t, J=7,3H); 1.32 (d, J=7,6H); 3.24 (hept, J=7, 1H); 3.52 (s, 3H); 3.60 (s, 3H); 4.19 (q, J=7, 2H); 7.14 (m, 2H); 7.68 (m, 2H)」
(e)【0029】実施例1
(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸ナトリウム(Ia-1)
(1)参考例2で得られた化合物(III-3)322mg、無水トルエン7ml溶液に-74℃にて1.5Mトルエン溶液DIBAL-H1.4mlを滴下し1時間撹拌し、酢酸を加えて、エ-テルで抽出する。有機層を炭酸水素ナトリウム、水で洗浄、乾燥しエ-テルを減圧で留去する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ-(塩化メチレン/エ-テル=20/1)にて精製して、[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノ)ピリミジン-5-イル]メタノ-ル4277mg(収率:96.1%)を得る。
【化17】

【0030】(2)次いで該化合物4277mg、4-メチルモルホリン-N-オキシド190mg、TPAP6mg、粉末モレキュラ-シ-ブ4A1.0gおよび塩化メチレン10mlの懸濁液を2時間撹拌し、不溶物を濾別し、塩化メチレンを約1/3量まで減圧濃縮し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ-(塩化メチレン)にて精製し、4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノ)ピリミジン-5-カルバルデヒド5196mg(収率:71.2%)の結晶を得る。
【化18】

【0031】(3)化合物5190mg、(3R)-3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-5-オキソ-6-トリフェニルホスホラニリデンヘキサン酸メチル(参考例6参照)450mgおよびアセトニトリル5mlの溶液を14時間加熱還流する。アセトニトリルを減圧下で留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマト(塩化メチレン)にて精製し、メチル 7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノ)ピリミジン-5-イル]-(3R)-3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-5-オキソ-(E)-6-ヘプテネ-ト6233mg(収率:71.3%)を飴状物として得る。
【化19】

【0032】(4)化合物616gのアセトニトリル100ml溶液に氷冷下、48%フッ化水素のアセトニトリル溶液(1:19)400mlを滴下し、徐々に室温として1.5時間撹拌する。次いでNaHCO_(3)溶液にて中和し、エ-テルで抽出し、塩化ナトリウム水溶液で洗浄、乾燥する。エ-テルを減圧下で留去し、メチル 7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノ)ピリミジン-5-イル]-(3R)-3-ヒドロキシ-5-オキソ-(E)-6-ヘプテネ-ト713g(収率:100%)を飴状物として得られる。
【化20】

【0033】(5)化合物713gを無水THF溶液350mlおよび無水メタノ-ル90mlに溶解し、-78℃で1M-ジエチルメトキシボラン-THF溶液29.7mlを加えて同温度で30分間撹拌する。更にNaBH_(4)1.3gを加えて3時間撹拌する。酢酸16mlを加えた後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にてpH8とし、エ-テルで抽出、水洗、乾燥する。エ-テルを減圧留去し、得られた残渣にメタノ-ルを加えて減圧濃縮(3回)する。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ-(塩化メチレン/エ-テル=3/1)にて精製し、メチル 7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノ)ピリミジン-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテネ-ト(Ib-1)11.4g(収率:85.2%)を飴状物として得られる。
【化21】

NMR(CDCl_(3))δ:1.27 (d, J=7,6H); 1.53 (m, 2H); 2.47 (d, J=6, 2H); 3.36 (hept, J=2 (H);3.52 (s, 3H); 3.57 (s, 3H); 3.73 (s, 3H); 4.20 (m, 1H); 4.43 (m, 1H); 5.45 (dd, J=5,16, 1H); 6.64 (dd, J=2,16, 1H); 7.09 (m, 2H); 7.64 (m, 2H)
【0034】(6)化合物(Ib-1)11.4gおよびエタノ-ル160ml溶液に氷冷下で0.1N水酸化ナトリウム223mlを加えて徐々に室温とし、1時間撹拌する。溶媒を減圧留去して、残渣にエ-テルを加えて撹拌することにより目的化合物(Ia-1)11.0g(収率:95.0%)を結晶性粉末として得られる。
【化22】

[α]_(D)=+18.9±0.6°(C=1.012, 25.0℃, H_(2)O)NMR(CDCl_(3))δ:1.24 (d, J=7,6H); 1.48 (m, 1H); 1.65 (m, 1H); 2.27 (dd, J=2,6,2H); 3.41(hept, J=7,1H); 3.48 (s, 3H); 3.59 (s, 3H); 3.73 (m, 1H); 4.32 (m, 1H);5.49 (dd, J=7,16, 1H); 6.62 (d, J=16, 1H); 7.19 (m, 2H); 7.56 (m, 2H)」
(f)「【0039】実施例8
化合物(Ia-1)のCa塩の合成方法
化合物(Ia-1)(Na塩)1.50g(3.00mmol)を15mlの水に溶解し、窒素気流下室温で攪拌する。そこへ1mol/L塩化カルシウム水溶液3.00ml(3.00mmol)を3分間かけて滴下する。その後、同温度で2時間攪拌し、析出物を濾取し、水洗、乾燥して粉末状のCa塩1.32gを得る。この化合物は155℃から溶融が始まるが、明確な融点を示さない。
[α]_(D)=+6.3±0.2°(C=2.011, 25.0℃, MeOH)
元素分析値(%)C_(22)H_(27)N_(3)O_(6)SF・0.5Ca・0.5H_(2)Oとして
計算値:C,51.85; H,5.53; N,8.25; F,3.73; Ca,3.93
実測値:C,51.65; H,5.51; N,8.47; F,3.74; Ca,4.07」
(g)「【0040】生物活性評価
[試験例]
HMG-CoA還元酵素阻害作用
(1)ラット肝ミクロゾ-ムの製法
2週間2%コレスチラミンを含む通常食および飲水を自由摂取させたSprague-Dawleyラットを用いて、黒田らの報告((Biochim. Biophys. Acta)、486巻、70頁(1977年)参照)にしたがって精製した。105000×gで遠心分離して得られるミクロゾ-ム分画は15mMニコチンアミドと2mM塩化マグネシウムを含む溶液(100mMリン酸カリウム緩衝溶液中、pH7.4)で1度洗浄したのち、用いた肝重量と同量のニコチンアミドと塩化マグネシウムを含有する緩衝液を加え均一化し、-80℃に冷却し、保存した。
【0041】(2)HMG-CoA還元酵素阻害活性測定法
-80℃で保存したラット肝ミクロゾ-ム100μlを0℃で溶解させ、冷リン酸カリウム緩衝液(100mM、pH7.4)0.7mlで薄め、50mMEDTA溶液(前記リン酸カリウム緩衝液溶液)0.8mlと100mMジチオスレイト-ル溶液(前記リン酸カリウム緩衝液溶液)0.4mlを加え、0℃に保った。このミクロゾ-ム溶液1.675mlに25mMNADPH溶液(前記リン酸カリウム緩衝液溶液)670μlを混じ、この溶液を0.5mM[3^(-14)C]HMG-CoA溶液(3mCi/mmol)670μlに加えた。このミクロゾ-ムとHMG-CoAの混液45μlに被検化合物のナトリウム塩のリン酸カリウム緩衝液溶液5μlを混じ、37℃で30分間インキュベ-トした。冷後、10μlの2N塩酸を加えて、再び37℃で15分間インキュベ-トした。この混合物30μlを0.5mm厚シリカゲル薄層クロマト板(メルク社製 Merck AG、商品名 Art 5744)にアプライし、トルエン-アセトン(1:1)で展開したのち、Rf値が0.45?0.60の部分をかきとり、10mlのシンチレ-ションカクテルを入れたバイアル中に加えてシンチレ-ションカウンタ-で比放射能を測定した。本法により測定したメビノリン(ナトリウム塩)の阻害活性を100とした時の本発明化合物の相対活性を表4に示した。
【0042】
【表4】

以上のように、特に本発明化合物はメビノリンよりも強力なHMG-CoA還元酵素阻害活性を示す有効な薬剤であると考えられる。」

(4)本件発明の課題について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,「コレステロ-ルの生成を抑制することがアテロ-ム性動脈硬化の予防および治療に重要であり、このことを考慮して有用な医薬品の開発が望まれている」ことが記載され,そのような事情を考慮して,下記一般式(I)


(式中、R^(1)は低級アルキル、アリ-ルまたはアラルキルでありこれらの基はそれぞれ置換されていてもよい;R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立して水素、低級アルキルまたはアリ-ルであり該アルキルおよびアリ-ルはそれぞれ置換されていてもよい;R^(4)は水素、低級アルキルまたは非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン;Xは硫黄、酸素、スルホニル基または置換されていてもよいイミノ基;破線は二重結合の有無をそれぞれ表わす)」で示される化合物が優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有することを見出して本発明を完成したことが記載されている(摘記b参照)。
そして,この一般式(I)で示される化合物は,本件発明1,2,5,9?11の化合物を包含するものであり,本件発明1の化合物を有効成分として含むHMG-CoA還元酵素阻害剤が本件発明12であるから,本件発明1,2,5,9?11が解決しようとする課題は,優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物を提供することにあり,本件発明12が解決しようとする課題は,そのような化合物を含むHMG-CoA還元酵素阻害剤の提供にあるものと認める。
そして,発明の詳細な説明には,本件発明が「3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルコエンザイムA(HMG-CoA)還元酵素阻害剤」に関するものであって,このようなHMG-CoA還元酵素阻害剤として,カビの代謝産物またはそれを部分的に修飾して得られたメビノリン,プラバスタチン,シンバスタチンのほかに,フルバスタチン,BMY22089等の合成HMG-CoA還元酵素阻害剤が開発されていることが記載されている(摘記a参照)が,これら既に開発されているHMG-CoA還元酵素阻害剤について何らかの課題があることは記載されていないから,本件発明においては,既に開発されているHMG-CoA還元酵素阻害剤であるメビノリン,プラバスタチン,シンバスタチン,フルバスタチン等よりも優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を必要とするものではなく,「コレステロ-ルの生成を抑制する」医薬品となり得る程度に「優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性」を有する化合物又はその化合物を有効成分として含むHMG-CoA還元酵素阻害剤を提供することを課題にするものと認められる。

(5)対比・判断
本件発明の課題は,上述のように,優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物又はその化合物を含むHMG-CoA還元酵素阻害剤を提供することであるから,本件発明1,2,5,9?11の化合物を得ることができ(製造することができ),かつ,得られた化合物が優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有することが当業者に理解できるように発明の詳細な説明に記載されているかについて以下検討する。

ア 製造について
発明の詳細な説明には,本件発明1に包含される「(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸」の「カルシウム塩」について,出発原料(III-3)から「(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸ナトリウム塩」を製造し,それから「(ヘミ)カルシウム塩」とする具体的な製造方法が実施例1,2として記載されている(摘記e,f参照)。そして,その出発原料である化合物(III-3)の具体的な製造方法も参考例1?4として記載されている(摘記d参照)。
実施例として具体的に記載されている「(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸」の「カルシウム塩」は,本件発明1で示される式(I)のR^(1)がメチル,R^(2)がフッ素により置換されたフェニル,R^(3)がイソプロピル,R^(4)がカルシウムイオン,Xがメチルスルホニル基により置換されたイミノ基,二重結合が有の場合に当たるが,発明の詳細な説明には,式(I)の製造方法について一般的な記載があり,本件発明1においてR^(4)がHになる場合の製造方法も記載されている(摘記c参照)。また,上記一般記載においては,以下の化合物a


」を,出発物質として製造することが記載されており(摘記c参照),これは上記化合物(III-3)に対応するところ,その製造例である参考例1?4の記載を合わせみる(摘記d参照)と,そこに記載された試薬を一部変更することで,式(I)において,R^(1)はメチルのみならずその他の低級アルキルも,R^(2)はフッ素のみならずその他のハロゲンで置換されたフェニルも,R^(3)はイソプロピルのみならずその他の低級アルキルも,Xはメチルスルホニル基のみならずその他のアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基とする化合物を製造できることが当業者に理解できるといえる。
そうすると,本件発明1の化合物は,発明の詳細な説明の記載に基づいて実際に製造すること,すなわち提供することができると当業者が理解できるといえる。
本件発明2,5,9は,上記1(3)(3-2),(3-3),(3-4)でも述べたとおり,本件発明1の式(I)においてその一部を限定した化合物であるから,本件発明1の式(I)に示される範囲で製造できる以上,本件発明2,5,9の化合物も製造できることが当業者に理解できるといえる。
さらに,本件発明10は,特定の製造方法により製造されるものであるが,上述のとおり,その一般的な製造方法が発明の詳細な説明に記載されている(摘記c参照)とともに具体的な実施例も記載されている(摘記e,f参照)から,本件発明10の化合物も製造できることが当業者に理解できるといえる。
さらに,本件発明11は,上記実施例1,2で実際に製造されている(摘記e,f参照)。
したがって,請求項1,2,5,9?11の化合物を製造することができると当業者が理解できる程度に発明の詳細な説明に記載されているといえる。

イ HMG-CoA還元酵素阻害活性について
発明の詳細な説明には,HMG-CoA還元酵素阻害活性の測定方法として,ラット肝ミクロゾーム溶液と[3^(-14)C]HMG-CoA溶液との混液に被験化合物を混ぜてインキュベートした後,薄層クロマト板に展開し,Rf値が0.45?0.60の部分をかきとり,その比放射能を測定することでメビノリンナトリウム塩の相対活性を100とした場合の相対活性を測定する方法が記載されている(摘記g参照)。そして,その測定した結果として,「(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸」の「ナトリウム塩」である化合物(Ia-1)のHMG-CoA還元酵素阻害作用が,メビノリンNaの阻害活性を100とした場合に442の相対活性を有することが記載されている(摘記g参照)。
発明の詳細な説明に記載されている化合物(Ia-1)は,ナトリウム塩であり,遊離酸やヘミカルシウム塩である本件発明1に含まれるものではないが,上記1(3)(3-1)ウでも述べたとおり,薬理の作用機序からみて塩の形態に関わらず,同様の薬効を発揮すると解されるから,ナトリウム塩と同じく,本件発明1も同様のHMG-CoA還元酵素阻害活性を示すと推認することができ,実際,甲第3号証によれば,ヘミカルシウム塩「S-4522」もメビノリンナトリウム塩よりも強力なHMG-CoA還元酵素阻害活性を示している(摘記3a,3b参照)から,上記推認が正しいことを裏付けているといえる。
また,本件発明1は式(I)において,R^(1)は低級アルキル,R^(2)はハロゲンで置換されたフェニル,R^(3)は低級アルキルを,Xはアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基を選択した場合の化合物もその範囲に包含するものであるが,これらの置換基は実施例に示されたR^(1)がメチル,R^(2)がフッ素により置換されたフェニル,R^(3)がイソプロピル,Xがメチルスルホニル基により置換されたイミノ基ときわめて類似したものであって,上述のとおり,化合物(Ia-1)が医薬品となっているメビノリンナトリウムよりも高い活性を有することが示されている以上,化学構造がきわめて類似する本件発明1も,同様のHMG-CoA還元酵素阻害活性を示す化合物となると当業者が理解でき,「コレステロ-ルの生成を抑制する」医薬品となり得る程度に「優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性」を有するということができる。
そうすると,発明の詳細な説明には,本件発明1がその課題を解決できると当業者が理解できる程度に記載されているということができる。
また,本件発明2,5,9?11は本件発明1に包含されるものであるから,同様に,発明の詳細な説明にその課題を解決できると当業者が理解できる程度に記載されているということができる。
さらに,本件発明12は,本件発明1を有効成分として含むHMG-CoA還元酵素阻害剤であるから,同様に,発明の詳細な説明にその課題を解決できると当業者が理解できる程度に記載されているということができる。

(6)請求人の主張について
ア 請求人の主張の概要(平成28年3月24日付け上申書第23頁第14行?第29頁第20行,口頭審理陳述要領書第15頁第6行?第16頁第8行)
本件発明の課題は,「優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物を含むHMG-CoA還元酵素阻害剤を提供すること」にあるが,その「優れた」とは従来技術に対して「優れた」ものである。
そこで,本件発明に最も近い従来技術は甲1発明であるが,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件発明と甲1発明との比較データが記載されていないから,発明の詳細な説明の記載のみからでは課題を解決できることが理解できるとはいえない。
また,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,ミクロソーム画分を使用したHMG-CoA還元酵素阻害活性の測定試験によって本件発明の化合物をナトリウム塩とした場合について,メビノリンナトリウムを比較対象とした相対活性が記載されているが,そこには試験回数やばらつきの指標について記載がないので1回のみの測定結果と理解できるし,阻害活性とはIC_(50)値なのか,最大活性なのか,特定濃度の阻害率なのか不明である。そして,このミクロソーム画分を使用したHMG-CoA還元酵素阻害活性の測定試験はばらつきの大きい試験系であって,IC_(50)値がばらつくだけでなく,同様の試験でも活性の強弱が逆転することもあった(甲7,8,31号証)ので,そもそもメビノリンに対してすら本件発明が優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有しているのかすら理解できない。
一方,甲1発明の化合物は,そのHMG-CoA還元酵素阻害活性のIC_(50)値(摘記1c参照)と甲第8号証に記載されたメビノリンナトリウムのHMG-CoA還元酵素阻害活性のIC_(50)値からみてメビノリンナトリウムの2.6倍のHMG-CoA還元酵素阻害活性があると理解できるところ,本件発明の化合物のHMG-CoA還元酵素阻害活性は,本件特許明細書の表4では4.42倍であるが,甲第3号証に記載された実験では2倍であり,本件発明の化合物が甲1発明よりも阻害活性が優れていると確信を持って認識することはできない。
次に,発明の詳細な説明には,メビノリン,プラバスタチン及びシンバスタチンの第1世代のHMG-CoA還元酵素阻害剤に対して第2世代のフルバスタチン,BMY22089等の合成HMG-CoA還元酵素阻害剤が開発されたことが従来技術として記載されているので,第1世代のメビノリンナトリウムではなく,第2世代のHMG-CoA還元酵素阻害剤よりも「優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性」を有するものである必要がある。
フルバスタチンはメビノリンナトリウムよりも10倍活性が高いことが甲第8号証に記載され,甲第19号証には3.4倍高いことが記載され,甲第15,19号証には,(+)BMY21950(BMY22089の活性型)がロバスタチン(メビノリンナトリウム)に比較し1.4倍活性が高いことが記載されているのに対して,本件発明の化合物は上述のとおりメビノリンナトリウムの4.4倍の活性があると記載されている。
一方,本件発明の化合物は上述のとおり,本件特許明細書にはメビノリンナトリウムの4.4倍のHMG-CoA還元酵素阻害活性があると記載されているが,このデータがばらつきの大きい試験した1回限りのものであり,この結果から,本件発明の化合物がフルバスタチン,BMY21950((BMY22089の活性型)よりも優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物であるというこは当業者が認識することができない。

イ 請求人の主張の検討
発明の詳細な説明には,カビの代謝産物またはそれを部分的に修飾して得られた第1世代のメビノリン,プラバスタチン,シンバスタチンのほかに,第2世代のフルバスタチン,BMY22089等の合成HMG-CoA還元酵素阻害剤などが開発されていることが従来技術として記載されている(摘記a参照)が,この記載は,カビの代謝物やその部分的に修飾して得られた,いわゆる天然化合物系の第1世代のHMG-CoA還元酵素阻害剤に対して,合成系化合物である第2世代のHMG-CoA還元酵素阻害剤が開発されたという意味として解するのが自然であり,上記(4)で述べたとおり,第1世代のHMG-CoA還元酵素阻害剤,第2世代のHMG-CoA還元酵素阻害剤ともHMG-CoA還元酵素阻害活性が低い等何らかの課題があることは記載されていないことからすれば,本件発明の化合物は,既に開発されているHMG-CoA還元酵素阻害剤であるメビノリン,プラバスタチン,シンバスタチン,フルバスタチン等よりも高いHMG-CoA還元酵素阻害活性を必要とするものではなく,「コレステロ-ルの生成を抑制する」医薬品となり得る程度に「優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性」を有する化合物を提供することを課題にするものと認められる。
そうすると,本件発明が甲1発明や第2世代のHMG-CoA還元酵素阻害剤よりも優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物を提供するということが本件発明の課題であることを前提とする請求人の主張はそもそも採用できない。
さらに,上記1(3)(3-1)ウでも述べたとおり,甲第7,8号証ともラット肝ミクロゾームを使用した試験方法を用いているように,本件出願日当時,本件特許明細書に記載されたHMG-CoA還元酵素阻害活性の測定方法がその測定結果にばらつきを生じるとしても,その活性を測定する一般的な方法であったことが理解できる(乙第31号証参照)。その上で,発明の詳細な説明に,本件発明1そのものではないがそのナトリウム塩とメビノリンナトリウムとのHMG-CoA還元酵素阻害活性を示す表4をみれば,その相対活性の指標(IC_(50)値かどうか)や測定結果がどのようなデータから計算されたものか(試験回数やばらつき)が記載されていないとしても,そのことが直ちに表4の結果が信用できないことを意味するわけではなく,少なくとも,両者が同じ条件で測定されて,本件発明1をナトリウム塩としたものがメビノリンナトリウムよりもHMG-CoA還元酵素阻害活性が高いという結果が得られたことが理解できるから,具体的にその結果を否定する証拠も示されていない以上,その結果を信用できないとはいえない。
そして,上記(5)イで述べたとおり,ナトリウム塩が遊離酸やヘミカルシウム塩になったとしても,同様にHMG-CoA還元酵素阻害活性を示すと推認することができ,実際,甲第3号証によれば,ヘミカルシウム塩「S-4522」もメビノリンナトリウム塩よりも強力なHMG-CoA還元酵素阻害活性を示している(摘記3a,3b参照)から,上記推認が正しいことを裏付けているといえる。
よって,請求人の主張は採用できない。

(7)小括
以上のとおり,本件発明1,2,5,9?12に記載された特許を受けようとする発明は,発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえないから,本件特許明細書の特許請求の範囲の記載が平成6年改正前特許法第36条第5項第1号に適合しないとはいえない。

第8 むすび
以上のとおり,本件発明1,2,5,9?12の特許は,特許法第29条の規定に違反してなされたものであるとはいえず,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものであるとはいえない。
また,本件発明1,2,5,9?12の特許の特許請求の範囲の記載は,平成6年改正前特許法第36条第5項第1号に適合しないとはいえず,本件発明1?5,7?12の特許が同法第36条第5項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものとはいえないから,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものであるとはいえない。
したがって,請求人が主張した理由及び証拠によっては,本件発明1,2,5,9?12の特許を,無効とすることはできない。
審判費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-21 
結審通知日 2016-06-23 
審決日 2016-07-05 
出願番号 特願平4-164009
審決分類 P 1 123・ 537- YB (C07D)
P 1 123・ 121- YB (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内藤 伸一  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 瀬良 聡機
中田 とし子
登録日 1997-05-16 
登録番号 特許第2648897号(P2648897)
発明の名称 ピリミジン誘導体  
代理人 松任谷 優子  
代理人 梅田 慎介  
代理人 大野 聖二  
代理人 辻田 朋子  
代理人 辻田 朋子  
代理人 寺地 拓己  
代理人 村松 大輔  
代理人 末吉 剛  
代理人 金本 恵子  
代理人 村松 大輔  

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