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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  G03G
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03G
管理番号 1340094
異議申立番号 異議2017-700711  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-24 
確定日 2018-03-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6072326号発明「導電性部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6072326号の明細書、及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6072326号の請求項1乃至4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6072326号の請求項1乃至4に係る特許についての出願は、平成24年3月12日(優先権主張平成23年3月29日)に出願した特願2012-54495号の一部を平成28年2月22日に新たな特許出願としたものであって、平成29年1月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年7月24日に特許異議申立人 星正美により特許異議の申立てがなされ、同年9月7日に手続補正書が提出され、同年10月24日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月26日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という)がなされ、平成30年1月15日付けで訂正の請求を特許異議申立人に通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を設けたが、特許異議申立人から何ら応答がなかったものである。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)乃至(11)のとおりである。(下線は、訂正箇所を示す。以下、同じ。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を下記訂正事項1-1乃至訂正事項1-4の通りに訂正する。
(1-1)訂正事項1-1
「導電性支持体と、該導電性支持体上に設けられた1層の導電層と」の記載を、
「導電性支持体と、該導電性支持体上に設けられた表面層としての1層の導電層と」に訂正する。
(1-2)訂正事項1-2
「式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に水素または炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。」の記載を、
「式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。」に訂正する。
(1-3)訂正事項1-3
「(ii)該未変性のエピクロルヒドリンゴムの、該式(2)で示されるユニット中の塩素原子を、アミン化合物で置換せしめて、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程」の記載を、
「(ii)溶液反応を用いて、該未変性のエピクロルヒドリンゴムの、該式(2)で示されるユニット中の塩素原子を、アミン化合物で置換せしめて、該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程」に訂正する。
(1-4)訂正事項1-4
「該アミン化合物は、1級アミン、2級アミンまたは3級アミンであって、窒素原子に結合している3つの基が、各々独立に、水素原子または炭素数1?8の飽和炭化水素基であり」の記載を、
「該アミン化合物は、3級アミンであって、窒素原子に結合している3つの基が、各々独立に、炭素数1?8の飽和炭化水素基であり」に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0008】の
「本発明の一態様によれば、導電性支持体と、該導電性支持体上に設けられた1層の導電層と、からなる電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材の製造方法であって、
該導電層は、下記式(1)で示されるユニットを有している変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物とアニオンとを含み、」の記載を、
「本発明の一態様によれば、導電性支持体と、該導電性支持体上に設けられた表面層としての1層の導電層と、からなる電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材の製造方法であって、
該導電層は、下記式(1)で示されるユニットを有している変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物とアニオンとを含み、」に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の段落【0010】の
「[式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に水素または炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。]、
該製造方法は、
(i)下記式(2)で示されるユニットを有する未変性のエピクロルヒドリンゴムを用意する工程:」の記載を、
「[式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。]、
該製造方法は、
(i)下記式(2)で示されるユニットを有する未変性のエピクロルヒドリンゴムを用意する工程:」に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の段落【0012】の
「(ii)該未変性のエピクロルヒドリンゴムの、該式(2)で示されるユニット中の塩素原子を、アミン化合物で置換せしめて、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程、および、
(iii)該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を該導電性支持体上にて、温度160℃以上に加熱し、硬化せしめて該導電層を形成する工程、
を有し、
該アミン化合物は、1級アミン、2級アミンまたは3級アミンであって、窒素原子に結合している3つの基が、各々独立に、水素原子または炭素数1?8の飽和炭化水素基であり、かつ、沸点が160℃以下である、導電性部材の製造方法が提供される。」の記載を、
「(ii)溶液反応を用いて、該未変性のエピクロルヒドリンゴムの、該式(2)で示されるユニット中の塩素原子を、アミン化合物で置換せしめて、該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程、および、
(iii)該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を該導電性支持体上にて、温度160℃以上に加熱し、硬化せしめて該導電層を形成する工程、
を有し、
該アミン化合物は、3級アミンであって、窒素原子に結合している3つの基が、各々独立に、炭素数1?8の飽和炭化水素基であり、かつ、沸点が160℃以下である、導電性部材の製造方法が提供される。」に訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の段落【0019】の
「【化2】

式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に水素または炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。」の記載を、
「【化2】

式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。」に訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0031】の
「式(1)で示されるユニットにおいて、R1、R2およびR3は各々独立に水素または炭素数1以上8以下の飽和炭化水素基である。飽和炭化水素基の炭素数が多すぎると、炭素数の増加に伴う分子量の増加により、単位質量あたりのアミン化合物のイオン交換能が低下し、その結果、導電層として求められる導電性が得にくくなる。」の記載を、
「式(1)で示されるユニットにおいて、R1、R2およびR3は各々独立に炭素数1以上8以下の飽和炭化水素基である。飽和炭化水素基の炭素数が多すぎると、炭素数の増加に伴う分子量の増加により、単位質量あたりのアミン化合物のイオン交換能が低下し、その結果、導電層として求められる導電性が得にくくなる。」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0034】の
「アミン化合物による置換方法としては、エピクロルヒドリンゴムが有するアルキレンクロライド部分の塩素原子とアミン化合物の求核置換反応が進行する限りにおいて特に制限はされない。例えば、溶液反応を利用し、エピクロルヒドリンゴムをジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶媒に溶解させ、その後、アミン化合物を添加する手法や、エピクロルヒドリンゴムのゴム練り段階でアミン化合物を添加する手法を用いてもよい。」の記載を、
「アミン化合物による置換方法としては、エピクロルヒドリンゴムが有するアルキレンクロライド部分の塩素原子とアミン化合物の求核置換反応が進行する限りにおいて特に制限はされないが、本発明においては、溶液反応を利用し、エピクロルヒドリンゴムをジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶媒に溶解させ、その後、アミン化合物を添加する手法や、エピクロルヒドリンゴムのゴム練り段階でアミン化合物を添加する手法を用いる。」に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の段落【0035】を削除する。

(9)訂正事項9
明細書の段落【0036】の
「アミン化合物として、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれのアミン化合物も用いることができる。中でも、良好な導電性が得られるので3級アミンからなるアミン化合物を用いることが好ましい。」の記載を、
「アミン化合物として、良好な導電性が得られるので3級アミンからなるアミン化合物を用いる。」に訂正する。

(10)訂正事項10
明細書の段落【0037】の
「導電層中に、エピクロルヒドリンゴムのアルキレンクロライド部分の塩素原子と反応しなかった未反応のアミン化合物が残留している場合、経時的に導電層の表面にブリードしてくる可能性がある。そのため、置換反応後、変性エピクロルヒドリンゴムから未反応のアミン化合物を加熱により気化させて除去することが好ましい。よって、アミン化合物の沸点は、加熱による除去が容易となる200℃以下が好ましく、より好ましくは160℃以下である。以上のような理由からアミン化合物中のR1、R2およびR3は、炭素数1以上8以下の飽和炭化水素基である。」の記載を、
「導電層中に、エピクロルヒドリンゴムのアルキレンクロライド部分の塩素原子と反応しなかった未反応のアミン化合物が残留している場合、経時的に導電層の表面にブリードしてくる可能性がある。そのため、置換反応後、変性エピクロルヒドリンゴムから未反応のアミン化合物を加熱により気化させて除去することが好ましい。よって、アミン化合物の沸点は、加熱による除去が容易となる160℃以下である。以上のような理由からアミン化合物中のR1、R2およびR3は、炭素数1以上8以下の飽和炭化水素基である。」に訂正する。

(11)訂正事項11
明細書の段落【0054】の
「以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、各実施例において、変性エピクロルヒドリンゴム中のヒドリンユニットのアルキレンクロライド部分の塩素原子がアミン化合物によって置換されていることは、プロトンNMRおよびカーボンNMRにより確認した。
また、実施例25?27、実施例34?36および実施例48は、参考例である。」の記載を、
「以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、各実施例において、変性エピクロルヒドリンゴム中のヒドリンユニットのアルキレンクロライド部分の塩素原子がアミン化合物によって置換されていることは、プロトンNMRおよびカーボンNMRにより確認した。
また、実施例25?27、実施例34?36および実施例48は、参考例である。
さらに、実施例1、2、4、5、7、8、10、12、16、18、19、24、30、33は参考例である。
さらにまた、実施例13、45?47、51?54、および、比較例1?3は、参考例である。」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無の適否
(1)訂正事項1について
(1-1)訂正事項1-1について
ア.訂正の目的の適否
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1に記載の「1層の導電層」について、「表面層としての1層の導電層」と具体的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
当該訂正事項1-1に関連する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0004】に「また、導電性部材に対する直流電位の長期に亘る印加、および、導電層に対する繰り返しの応力の印加は、導電性部材内の低分子量成分の導電層の表面へのブリードアウトを促す。導電層の表面への低分子量成分のブリードアウトは、感光体の表面の汚染を招来することとなる。」と記載され、段落【0015】に「図1は本発明に係る導電性部材の概略構成図である。導電性支持体11の外周に導電層12が設けられている。」と記載され、段落【0066】に「帯電ローラNo.1を温度40℃、湿度95%RH環境下にて、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート上に置き、帯電ローラNo.1の両端の芯金の露出部分に対して各々550gfの荷重を加えて、帯電ローラNo.1の導電層の表面をPETシートに押し付けた。この状態を1週間維持したのち、帯電ローラNo.1をPETシート上から除去し、PETシートの表面の帯電ローラNo.1が押し付けられていた部分を光学顕微鏡で観察し、帯電ローラNo.1の導電層からのブリード物の付着状況を観察し、下記表3に記載の基準に基づき評価した。」と記載され、また、願書に添付した図面の【図1】には、導電層12が、導電性支持体11の表面層を構成していることが示されていることから、「1層の導電層」について、「表面層としての1層の導電層」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項1-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項1-1は、「1層の導電層」について、上記ア.で述べたとおり「表面層としての1層の導電層」と具体的に限定しようとするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1-1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(1-2)訂正事項1-2について
ア.訂正の目的の適否
訂正事項1-2は、訂正前の請求項1に記載の「式(1)中、R1、R2およびR3」について、「各々独立に水素または炭素数1?8の飽和炭化水素基」から「各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基」と具体的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
当該訂正事項1-2に関連する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】に「アミン化合物中のR1、R2およびR3は、炭素数1以上8以下の飽和炭化水素基である。」と記載されていることから、「式(1)中、R1、R2およびR3」について、「各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項1-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項1-2は、「式(1)中、R1、R2およびR3」について、上記ア.で述べたとおり「各々独立に水素または炭素数1?8の飽和炭化水素基」から「各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基」と具体的に限定しようとするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1-2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(1-3)訂正事項1-3について
ア.訂正の目的の適否
訂正事項1-3は、訂正前の請求項1に記載の「変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程」について、「溶液反応を用いて」、及び「該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる」と具体的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
当該訂正事項1-3に関連する記載として、「溶液反応を用いて」について、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】に「例えば、溶液反応を利用し、エピクロルヒドリンゴムをジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶媒に溶解させ、その後、アミン化合物を添加する手法や、エピクロルヒドリンゴムのゴム練り段階でアミン化合物を添加する手法を用いてもよい。」と記載されていることから、「変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程」について、「溶液反応を用いて」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
また、段落【0068】に「〔実施例2?12〕原料としてのエピクロルヒドリンゴム、変性に用いたアミン種およびアミンの添加量を表4に記載したように変更した以外は、実施例1に係る変性エピクロルヒドリンゴムNo.1と同様にして変性エピクロルヒドリンゴムNo.2?12を合成した。なお、表4中、原料としてのエピクロヒドリンゴム種のアルファベットは、表5に記載の材料を示す。」及び段落【0069】に「次いで、得られた変性エピクロルヒドリンゴムNo.2?12を用いた以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物No.2?12を調製し、これを用いて帯電ローラNo.2?12を作成した。これらの帯電ローラを実施例1の評価1?4に供した。」と記載されていることから、「変性エピクロルヒドリンゴム」について、「該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項1-3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項1-3は、「変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程」について、上記ア.で述べたとおり「溶液反応を用いて」、及び「該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる」と具体的に限定しようとするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1-3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(1-4)訂正事項1-4について
ア.訂正の目的の適否
訂正事項1-4は、訂正前の請求項1に記載の「アミン化合物」について、「1級アミン、2級アミンまたは3級アミン」から「3級アミン」と具体的に限定し、「窒素原子に結合している3つの基」について、「水素原子または炭素数1?8の飽和炭化水素基」から「炭素数1?8の飽和炭化水素基」と具体的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
当該訂正事項1-4に関連する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0036】に「アミン化合物として、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれのアミン化合物も用いることができる。中でも、良好な導電性が得られるので3級アミンからなるアミン化合物を用いることが好ましい。」と記載され、また、「炭素数1?8の飽和炭化水素基」について、段落【0037】に「以上のような理由からアミン化合物中のR1、R2およびR3は、炭素数1以上8以下の飽和炭化水素基である。」と記載されていることから、「窒素原子に結合している3つの基」について、「炭素数1?8の飽和炭化水素基」とすること、及び「アミン化合物」について、「3級アミン」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項1-4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項1-4は、「アミン化合物」について、上記ア.で述べたとおり「1級アミン、2級アミンまたは3級アミン」から「3級アミン」と具体的に限定し、「窒素原子に結合している3つの基」について、「水素原子または炭素数1?8の飽和炭化水素基」から「炭素数1?8の飽和炭化水素基」と具体的に限定しようとするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1-4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア.訂正の目的の適否
訂正事項2は、上記訂正事項1-1に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
当該訂正事項2に関連する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0004】に「また、導電性部材に対する直流電位の長期に亘る印加、および、導電層に対する繰り返しの応力の印加は、導電性部材内の低分子量成分の導電層の表面へのブリードアウトを促す。導電層の表面への低分子量成分のブリードアウトは、感光体の表面の汚染を招来することとなる。」と記載され、段落【0015】に「図1は本発明に係る導電性部材の概略構成図である。導電性支持体11の外周に導電層12が設けられている。」と記載され、段落【0066】に「帯電ローラNo.1を温度40℃、湿度95%RH環境下にて、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート上に置き、帯電ローラNo.1の両端の芯金の露出部分に対して各々550gfの荷重を加えて、帯電ローラNo.1の導電層の表面をPETシートに押し付けた。この状態を1週間維持したのち、帯電ローラNo.1をPETシート上から除去し、PETシートの表面の帯電ローラNo.1が押し付けられていた部分を光学顕微鏡で観察し、帯電ローラNo.1の導電層からのブリード物の付着状況を観察し、下記表3に記載の基準に基づき評価した。」と記載され、また、願書に添付した図面の【図1】には、導電層12が、導電性支持体11の表面層を構成していることが示されていることから、「1層の導電層」について、「表面層としての1層の導電層」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項2は、「1層の導電層」について、上記ア.で述べたとおり、上記訂正事項1-1に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であって、「表面層としての1層の導電層」と具体的に限定しようとするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3
ア.訂正の目的の適否
訂正事項3は、上記訂正事項1-2に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
当該訂正事項3に関連する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】に「アミン化合物中のR1、R2およびR3は、炭素数1以上8以下の飽和炭化水素基である。」と記載されていることから、「式(1)中、R1、R2およびR3」について、「各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項3は、「式(1)中、R1、R2およびR3」について、上記ア.で述べたとおり、上記訂正事項1-2に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であって、「各々独立に水素または炭素数1?8の飽和炭化水素基」から「各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基」と具体的に限定しようとするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(4)訂正事項4
ア.訂正の目的の適否
訂正事項4は、上記訂正事項1-3、及び訂正事項1-4に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
当該訂正事項4に関連する記載として、「溶液反応を用いて」について、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】に「例えば、溶液反応を利用し、エピクロルヒドリンゴムをジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶媒に溶解させ、その後、アミン化合物を添加する手法や、エピクロルヒドリンゴムのゴム練り段階でアミン化合物を添加する手法を用いてもよい。」と記載されていることから、「変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程」について、「溶液反応を用いて」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
また、「変性エピクロルヒドリンゴム」について、段落【0068】に「〔実施例2?12〕原料としてのエピクロルヒドリンゴム、変性に用いたアミン種およびアミンの添加量を表4に記載したように変更した以外は、実施例1に係る変性エピクロルヒドリンゴムNo.1と同様にして変性エピクロルヒドリンゴムNo.2?12を合成した。なお、表4中、原料としてのエピクロヒドリンゴム種のアルファベットは、表5に記載の材料を示す。」及び段落【0069】に「次いで、得られた変性エピクロルヒドリンゴムNo.2?12を用いた以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物No.2?12を調製し、これを用いて帯電ローラNo.2?12を作成した。これらの帯電ローラを実施例1の評価1?4に供した。」と記載されていることから、「変性エピクロルヒドリンゴム」について、「該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
また、「アミン化合物」について、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0036】に「アミン化合物として、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれのアミン化合物も用いることができる。中でも、良好な導電性が得られるので3級アミンからなるアミン化合物を用いることが好ましい。」と記載され、また、「炭素数1?8の飽和炭化水素基」について、段落【0037】に「以上のような理由からアミン化合物中のR1、R2およびR3は、炭素数1以上8以下の飽和炭化水素基である。」と記載されていることから、「アミン化合物」について、「3級アミン」とすること、及び「窒素原子に結合している3つの基」について、「炭素数1?8の飽和炭化水素基」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項4は、「変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程」について、上記ア.で述べたとおり、上記訂正事項1-3に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であって、「溶液反応を用いて」、及び「該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる」と具体的に限定しようとするものであり、
カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
また、「アミン化合物」について、上記ア.で述べたとおり、上記訂正事項1-4に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であって、「3級アミン」と具体的に限定し、及び「変性エピクロルヒドリンゴム」について、「該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる」と具体的に限定しようとするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(5)訂正事項5
ア.訂正の目的の適否
訂正事項5は、上記訂正事項1-2に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
当該訂正事項5に関連する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】に「アミン化合物中のR1、R2およびR3は、炭素数1以上8以下の飽和炭化水素基である。」と記載されていることから、「式(1)中、R1、R2およびR3」について、「各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項5は、「式(1)中、R1、R2およびR3」について、上記ア.で述べたとおり、上記訂正事項1-2に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であって、「各々独立に水素または炭素数1?8の飽和炭化水素基」から「各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基」と具体的に限定しようとするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(6)訂正事項6
ア.訂正の目的の適否
訂正事項6は、上記訂正事項1-2に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
当該訂正事項6に関連する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】に「アミン化合物中のR1、R2およびR3は、炭素数1以上8以下の飽和炭化水素基である。」と記載されていることから、「式(1)中、R1、R2およびR3」について、「各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項6は、「式(1)中、R1、R2およびR3」について、上記ア.で述べたとおり、上記訂正事項1-2に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であって、「各々独立に水素または炭素数1?8の飽和炭化水素基」から「各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基」と具体的に限定しようとするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(7)訂正事項7
ア.訂正の目的の適否
訂正事項7は、上記訂正事項1-3に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
当該訂正事項7に関連する記載として、「溶液反応を用いて」について、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】に「例えば、溶液反応を利用し、エピクロルヒドリンゴムをジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶媒に溶解させ、その後、アミン化合物を添加する手法や、エピクロルヒドリンゴムのゴム練り段階でアミン化合物を添加する手法を用いてもよい。」と記載されていることから、「変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程」について、「溶液反応を用いて」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項7は、「変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程」について、上記ア.で述べたとおり、上記訂正事項1-3に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であって、「溶液反応を用いて」と具体的に限定しようとするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(8)訂正事項8
ア.訂正の目的の適否
訂正事項8は、上記訂正事項1-3に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
当該訂正事項8に関連する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0035】は、「溶液反応」以外の反応に係る記載であるから、前記段落【0035】を削除することは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項8は、「溶液反応」以外の反応に係る記載である願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0035】を削除するための訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(9)訂正事項9
ア.訂正の目的の適否
訂正事項9は、上記訂正事項1-4に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
当該訂正事項9に関連する記載として、「アミン化合物」について、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0036】に「アミン化合物として、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれのアミン化合物も用いることができる。中でも、良好な導電性が得られるので3級アミンからなるアミン化合物を用いることが好ましい。」と記載されていることから、「アミン化合物」について、「3級アミン」とすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項9は、「アミン化合物」について、上記ア.で述べたとおり、上記訂正事項1-4に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であって、「3級アミン」と具体的に限定しようとするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(10)訂正事項10
ア.訂正の目的の適否
訂正事項10は、請求項1において、「沸点が160℃以下である」と特定されていることとの整合性を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
当該訂正事項10に関連する記載として、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】に「よって、アミン化合物の沸点は、加熱による除去が容易となる200℃以下が好ましく、より好ましくは160℃以下である。」と記載され、上記記載から「200℃以下が好ましく、より好ましくは」との記載を削除するすることは、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項10は、「アミン化合物の沸点」について、請求項1において、「沸点が160℃以下である」と特定されていることとの整合性を図るために、「200℃以下が好ましく、より好ましくは」との記載を削除するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(11)訂正事項11
ア.訂正の目的の適否
訂正事項11は、上記訂正事項1-1乃至1-4に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
訂正事項11は、請求項1に係る発明における「導電性支持体と、該導電性支持体上に設けられた表面層としての1層の導電層」、「式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。」、「(ii)溶液反応を用いて、該未変性のエピクロルヒドリンゴムの、該式(2)で示されるユニット中の塩素原子を、アミン化合物で置換せしめて、該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程」、及び「該アミン化合物は、3級アミンであって、窒素原子に結合している3つの基が、各々独立に、炭素数1?8の飽和炭化水素基であり」との要件を満たさない実施例を参考例とする訂正であるから、願書に添付した明細書に記載された範囲内のものである。
したがって、当該訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ.特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項11は、請求項1に係る発明における「導電性支持体と、該導電性支持体上に設けられた表面層としての1層の導電層」、「式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。」、「(ii)溶液反応を用いて、該未変性のエピクロルヒドリンゴムの、該式(2)で示されるユニット中の塩素原子を、アミン化合物で置換せしめて、該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程」、及び「該アミン化合物は、3級アミンであって、窒素原子に結合している3つの基が、各々独立に、炭素数1?8の飽和炭化水素基であり」との要件を満たさない実施例を参考例とする訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項11は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(12)一群の請求項について
本件訂正前の旧請求項2乃至4は、いずれも旧請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1乃至4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(13)訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕、及び明細書について訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
1.本件特許に係る請求項に記載された事項
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1乃至4に係る発明(以下「本件特許発明1」乃至「本件特許発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
導電性支持体と、該導電性支持体上に設けられた表面層としての1層の導電層と、からなる電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材の製造方法であって、
該導電層は、下記式(1)で示されるユニットを有している変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物とアニオンとを含み、
【化1】

[式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。]、
該製造方法は、
(i)下記式(2)で示されるユニットを有する未変性のエピクロルヒドリンゴムを用意する工程:
【化2】


(ii)溶液反応を用いて、該未変性のエピクロルヒドリンゴムの、該式(2)で示されるユニット中の塩素原子を、アミン化合物で置換せしめて、該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程、および、
(iii)該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を該導電性支持体上にて、温度160℃以上に加熱し、硬化せしめて該導電層を形成する工程、
を有し、
該アミン化合物は、3級アミンであって、窒素原子に結合している3つの基が、各々独立に、炭素数1?8の飽和炭化水素基であり、かつ、沸点が160℃以下である、ことを特徴とする導電性部材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(iii)が、前記式(2)で示されるユニット中の塩素原子と反応しなかった前記アミン化合物を、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物から除去する工程を含む請求項1に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項3】
前記アニオンが、塩素イオンである請求項1または2に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項4】
前記変性エピクロルヒドリンゴムが、さらに、下記式(3)および(4)で示されるユニットを有している請求項1?3のいずれか一項に記載の導電性部材の製造方法:
【化3】

[式(3)中、nは1?3の整数を示す。]、
【化4】

。」


2.取消理由通知の概要
訂正前の請求項1乃至4に係る特許に対して、上記平成29年10月24日付けの取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)理由1:特許法第29条の2
請求項:1?4
証 拠:国際公開第2011/081152号(甲第2号証)

(2)理由2:特許法第36条第6項第1号
請求項1?4に係る発明は、発明の課題を解決できない実施態様を包含するものであるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.各甲号証の記載
(1)甲第2号証
本件特許の優先日前の2009年12月29日に日本特許庁に出願された特願2009-299221号、及び2010年5月31日に日本特許庁に出願された特願2010-124285号に基づく優先権主張を伴い、本件特許の優先日より後に国際公開がされた国際公開2011/081152号(甲第2号証)には、以下の事項が記載されている。
ア.「[請求項1] 一般式(1)で表される単位を、0.1モル%以上30モル%未満含有するポリエーテルゴム。
[化4]

(式中、-Y^(+)R_(n)はオニウムイオンであり、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基または水素、X^(-)は任意の対アニオン、nは1?3の整数を示す。)
[請求項2] 前記一般式(1)中、-Y^(+)R_(n)がアンモニウムイオンであり、nは3である請求項1に記載のポリエーテルゴム。
[請求項3] 前記一般式(1)中、Rが、炭素数1?18のアルキル基である請求項2に記載のポリエーテルゴム。

[請求項7] 請求項1ないし6のいずれか1項に記載のポリエーテルゴムと、架橋剤とを含有するゴム組成物。
[請求項8] 請求項7に記載のゴム組成物を成形、および架橋してなるゴム架橋物。
[請求項9] 請求項8に記載のゴム架橋物を有している導電性部材。」(請求の範囲)
イ.「本発明によれば、導電性付与剤(導電剤)を添加しなくてとも、電気抵抗のばらつきが少なく、電気抵抗値が低く、かつ、連続使用した場合でも電気抵抗値の上昇を抑制する導電性部材、およびその導電性部材の一部を構成するゴム架橋物、ならびにそのゴム架橋物を構成するポリエーテルゴムを含有するゴム組成物が得られる。更に、そのゴム組成物を構成するポリエーテルゴムが得られる。」([0016])
ウ.「一般式(1)で表される単位は、通常、エピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部をオニウムイオン含有基に置換することで得られる。」([0018])
エ.「これらアミン類の具体的な例としては、メチルアミン、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、ベンジルアミン、エタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ノニルフェニルアミン、ピペリジン、トリメチルアミン、n-ブチルジメチルアミン、n-オクチルジメチルアミン、n-ステアリルジメチルアミン、トリブチルアミン、トリビニルアミン、N,N’-ジメチルアニリン、トリエタノールアミン、N,N’-ジメチルエタノールアミン、トリ(2-エトキシエチル)アミンなどを挙げることができる。これらのなかでも、第3級アンモニウムイオン、および第4級アンモニウムイオンが生成し易い、第2級アミン類、および第3級アミン類が好ましく、具体的にはジエチルアミン、ジブチルアミン、ピペリジン、トリメチルアミン、n-ブチルジメチルアミン、n-オクチルジメチルアミン、n-ステアリルジメチルアミン、N,N’-ジメチルアニリン、N,N’-ジメチルエタノールアミンがより好ましい。更に、これらのなかでも、特に、第4級アンモニウムイオンが生成し易い第3級アミン類が好ましく、具体的にはトリメチルアミン、n-ブチルジメチルアミン、n-オクチルジメチルアミン、n-ステアリルジメチルアミン、N,N’-ジメチルアニリン、N,N’-ジメチルエタノールアミンがより好ましい。」([0028])
オ.「ポリエーテルゴム中のエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部を、オニウムイオン含有基に置換する方法としては、前記オニウム化剤と、エピハロヒドリン単量体単位を含有しているポリエーテルゴムとを混合し反応することで、置換することができる。オニウム化剤と、ポリエーテルゴムとの混合方法は、特に限定されず、例えば、ポリエーテルゴムを含む溶液にオニウム化剤を添加し混合する方法、オニウム化剤を含む溶液にポリエーテルゴムを添加し混合する方法、オニウム化剤とポリエーテルゴムの両方を溶液として調製しておき、両溶液を混合する方法、などが挙げられる。これらの場合、ポリエーテルゴムを分散した溶媒中にオニウム化剤を溶解しても良く、オニウム化剤を溶解した溶液にポリエーテルゴムを添加して分散させても良く、ポリエーテルゴムを溶解した溶液にオニウム化剤を分散させても良く、また、オニウム化剤を分散した溶液にポリエーテルゴムを溶解しても良く、オニウム化剤やポリエーテルゴムが溶液に溶解しているか、分散しているかは問わない。また、オニウム化剤とポリエーテルゴムとを溶媒を介せずに混合しても良く、溶媒を介せずに混合した後に溶媒を混合しても良い。これらのなかでも、反応を良好に制御し、かつ、得られる生成物を効率的に分離・回収する観点から、溶液により反応を行うことが好ましく、ポリエーテルゴムが溶解している溶液にオニウム化剤を添加し混合する方法、または、オニウム化剤とポリエーテルゴムの両方を溶液として調製しておき、両溶液を混合する方法が、より好ましい。」([0032])
カ.「溶媒としては、不活性の溶媒が好適に用いられ、非極性であっても極性であっても良い。非極性溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n-ペンタン、n-へキサンなどの鎖状飽和炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式飽和炭化水素;などが挙げられる。極性溶媒としては、テトラヒドロフラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル;酢酸エチル、安息香酸エチルなどのエステル;アセトン、2-ブタノン、アセトフェノンなどのケトン;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒;エタノール、メタノール、水などのプロトン性極性溶媒;などが挙げられる。溶媒としては、これらの混合溶媒も好適に用いられる。これらの溶媒のなかでも、ポリエーテルゴムの溶解性と反応速度制御の観点から、非極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒が好適に用いられるが、ポリエーテルゴムの構造に応じて用いる溶媒の種類と組成を決定することが出来る。通常、ポリエーテルゴムの極性が低い場合、その極性の程度に合わせて、非極性溶媒の割合がより高い混合溶媒を用いるのが好ましく、また、非極性溶媒に対し、極性溶媒が0.1重量%以上、特には0.5重量%以上混合されていることが、反応の速度向上の観点から好ましい。また、極性溶媒の上限は30重量%とすることが好ましい。溶媒の使用量は、特に限定されないが、ポリエーテルゴムの濃度が1?50重量%となるように用いることが好ましく、3?40重量%になるように用いることがより好ましい。」([0033])
キ.「オニウム化反応時に溶媒を用いない場合には、オニウム化剤とポリエーテルゴムとをニ軸混練機などの乾式混練機にて均一に混合・加熱して反応を行い、また、この反応の後、または反応の最中に、必要により未反応のオニウム化剤や揮発性の生成物を脱揮や洗浄により除去してもよい。…」([0036])
ク.「対アニオンのアニオン種は、特に限定されないが、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン;硫酸イオン;亜硫酸イオン;水酸化物イオン;炭酸イオン;炭酸水素イオン;硝酸イオン;酢酸イオン;過塩素酸イオン;リン酸イオン;アルキルオキシイオン;トリフルオロメタンスルホン酸イオン;ビストリフルオロメタンスルホンイミドイオン;ヘキサフルオロリン酸イオン;テトラフルオロホウ酸イオンなどが挙げられる。」([0046])
ケ.「本発明のゴム架橋物は、その特性を活かして、各種工業ゴム製品用材料として有用である。本発明のゴム架橋物は、特に限定はされないが、例えば、複写機や印刷機などに使用される、導電性ロール、導電性ブレード、導電性ベルトなどの導電性部材;靴底やホース用材料;コンベアーベルトやエスカレータのハンドレールなどのベルト用材料;シール、パッキン用材料;などとして用いることができる。特に、本発明のポリエーテルゴムを用いたゴム架橋物は、電気抵抗値が低く、かつ、連続使用した場合でも電気抵抗値の上昇を抑制するものであるため、複写機や印刷機などに使用される導電性部材、特に、導電性ロールに好適に用いることができる。」([0080])
コ.「(製造例2)
(ポリエーテルゴムAの製造)
オートクレーブにエピクロロヒドリン223.5部、アリルグリシジルエーテル27.5部、エチレンオキサイド19.7部、トルエン2585部を入れ、窒素雰囲気下で攪拌しながら内溶液を50℃に昇温し、上記で得た触媒溶液を11.6部添加して反応を開始した。次に、反応開始からエチレンオキサイド129.3部をトルエン302部に溶解した溶液を5時間かけて等速度で連続添加した。また、反応開始後30分毎に触媒溶液を6.2部ずつ、5時間にわたり添加した。次いで、水を15部添加して攪拌し、反応を終了させた。ここに更に、老化防止剤として4,4’-チオビス-(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)の5%トルエン溶液を45部添加し、攪拌した。スチームストリッピングを実施し、上澄み水を除去後、60℃にて真空乾燥し、ポリエーテルゴムA 400部を得た。このポリエーテルゴムAの単量体組成比はエピクロロヒドリン単量体単位40モル%、エチレンオキサイド単量体単位56モル%、アリルグリシジルエーテル単量体単位4モル%であった。また、重量平均分子量は89万、ムーニー粘度は60であった。」([0084])
サ.「(製造例4)
(ポリエーテルゴムCの製造)
オートクレーブにエピクロロヒドリン161.8部、アリルグリシジルエーテル30.7部、エチレンオキサイド26.9部、トルエン2585部を入れ、窒素雰囲気下で攪拌しながら内溶液を50℃に昇温し、上記で得た触媒溶液を11.6部添加して反応を開始した。次に、反応開始からエチレンオキサイド180.6部をトルエン302部に溶解した溶液を5時間かけて等速度で連続添加した。また、反応開始後30分毎に触媒溶液を6.2部ずつ、5時間にわたり添加した。次いで、水を15部添加して攪拌し、反応を終了させた。ここに更に、老化防止剤として4,4’-チオビス-(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)の5%トルエン溶液を45部添加し、攪拌した。スチームストリッピングを実施し、上澄み水を除去後、60℃にて真空乾燥し、ポリエーテルゴムC 400部を得た。このポリエーテルゴムCの単量体組成比はエピクロロヒドリン単量体単位26モル%、エチレンオキサイド単量体単位70モル%、アリルグリシジルエーテル単量体単位4モル%であった。また、重量平均分子量は90万、ムーニー粘度は67であった。」([0086])
シ.「〔実施例1〕
(オニウム化ポリエーテルゴム1の製造)
攪拌機付きガラス反応器に、ポリエーテルゴムA192部と、トルエン1266部とを添加し、50℃にて12時間攪拌してポリエーテルゴムを溶解させた。次に、メタノール73部を添加して、15分間攪拌した。かくして得られたポリエーテルゴム混合物に、n-ブチルジメチルアミン2.9部を添加し、攪拌しながら75℃まで昇温し、75℃にて2時間反応を行った。2時間後、反応溶液を20℃まで冷却して反応を停止した。前記反応溶液1部を、ヘキサン5部と混合し、30分攪拌することによりポリマー相を凝固し、上澄みの有機相を回収した。これをサンプルとして用いGCにてn-ブチルジメチルアミンの反応率を測定したところ75%であった。前記反応溶液を、スチームにて溶媒を留去して凝固した後、真空乾燥することにより、オニウム化ポリエーテルゴム1を、収量190部にて回収した。得られたオニウム化ポリエーテルゴム1のオニウムイオン単位含有率は0.75モル%、重量平均分子量は90万、およびムーニー粘度は59であった。」([0088])
ス.「(ゴム組成物1、およびゴム架橋物1の製造)
バンバリーミキサーに、上記にて得られたオニウム化ポリエーテルゴム1 100部、充填剤としてカーボンブラック(シーストSO、東海カーボン社製)10部、架橋促進助剤としての亜鉛華1号(ZnO#1、正同化学社製)5部、架橋促進助剤としてのステアリン酸0.5部を投入し、50℃で5分間混練後、バンバリーミキサーからゴム組成物を排出させた。次いで、50℃のオープンロールに、このゴム組成物と、架橋剤としての硫黄(サルファックスPMC、鶴見化学工業社製)0.5部、架橋剤としてのモルホリンジスルフィド(バルノックR、大内新興化学工業社製)1部、架橋促進剤としてのテトラエチルチウラムジスルフィド(ノクセラーTET、大内新興化学工業社製)1部、およびジベンゾチアジルジスルフィド(ノクセラーDM、大内新興化学工業社製)1.5部とを投入し、10分間混練後、シート状のゴム組成物1を取出した。このゴム組成物1を、160℃で30分間プレス架橋してゴム架橋物1(試験片1)を作製し、この試験片1について、体積固有抵抗値(23℃、50%RH)などの評価を行った。表1にその結果を示す。」([0089])
セ.上記ア、及びコより、請求項3で特定されるポリエーテルゴムは、ポリエーテルゴムAに対応する。
ソ.上記シの記載からみれば、「ゴム架橋物の製造方法」が記載されているといえる。

以上の記載によれば、甲第2号証には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「複写機、印刷機などに使用される、導電性ロール、導電性ブレード、導電性ベルトなどの導電性部材に用いるゴム架橋物の製造方法であって、
一般式(1)で表される単位を、0.1モル%以上30モル%未満含有するポリエーテルゴム、

(前記一般式(1)中、-Y^(+)R_(n)はエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部をオニウムイオン含有基に置換することで得られるオニウムイオンであり、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基または水素、X^(-)は任意の対アニオン、nは1?3の整数を示し、
前記一般式(1)中、-Y^(+)R_(n)がアンモニウムイオンであり、nは3であり、
前記一般式(1)中、Rが、炭素数1?18のアルキル基であり、
対アニオンは、塩化物イオン、過塩素酸イオン、ビストリフルオロメタンスルホンイミドイオンである。)
と架橋剤とを含有するゴム組成物を成形、および架橋してなるゴム架橋物であって、
ゴム架橋物は、
単量体組成比がエピクロロヒドリン単量体単位40モル%、エチレンオキサイド単量体単位56モル%、アリルグリシジルエーテル単量体単位4モル%であるポリエーテルゴムA192部に、トルエン1266部とを添加し、50℃にて12時間攪拌してポリエーテルゴムを溶解させ、次に、メタノール73部を添加して、15分間攪拌し、かくして得られたポリエーテルゴム混合物に、n-ブチルジメチルアミン2.9部を添加し、攪拌しながら75℃まで昇温し、75℃にて2時間反応を行い、2時間後、反応溶液を20℃まで冷却して反応を停止し、
前記反応溶液を、スチームにて溶媒を留去して凝固した後、真空乾燥することにより、オニウム化ポリエーテルゴム1を、収量190部にて回収し、
バンバリーミキサーに、上記にて得られたオニウム化ポリエーテルゴム1 100部、充填剤としてカーボンブラック(シーストSO、東海カーボン社製)10部、架橋促進助剤としての亜鉛華1号(ZnO#1、正同化学社製)5部、架橋促進助剤としてのステアリン酸0.5部を投入し、50℃で5分間混練後、バンバリーミキサーからゴム組成物を排出させ、次いで、50℃のオープンロールに、このゴム組成物と、架橋剤としての硫黄(サルファックスPMC、鶴見化学工業社製)0.5部、架橋剤としてのモルホリンジスルフィド(バルノックR、大内新興化学工業社製)1部、架橋促進剤としてのテトラエチルチウラムジスルフィド(ノクセラーTET、大内新興化学工業社製)1部、およびジベンゾチアジルジスルフィド(ノクセラーDM、大内新興化学工業社製)1.5部とを投入し、10分間混練後、シート状のゴム組成物1を取出し、このゴム組成物1を、160℃で30分間プレス架橋してゴム架橋物1(試験片1)を作製するゴム架橋物の製造方法。」

(2)甲第3号証
本件特許の優先日前の平成20年3月13日に頒布された特開2008-58633号公報(甲第3号証)には、以下の事項が記載されている。
ア.「【請求項1】
導電性軸体の外周面上に1層以上の被覆層が設けられた導電性ローラであって、
回転させたときの外周面の振れが、軸線方向で50μm以下であり、
ローラとほぼ並行においた測定基準棒とローラの被覆層表面との離間距離Eを両端側(P1、P3)と中央部(P2)でローラ一周分測定し、ローラ回転角θでの測定値をそれぞれE1θ、E3θ、E2θとするとき、そのローラ回転角θでの離間距離差ΔE{=E1θ(またはE3θ)-E2θ}のローラ一周中の最大値と最小値の差(ω値)が30μm以下であることを特徴とする導電性ローラ。

イ.「【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンター、ファクシミリ等に代表される電子写真装置、静電記録装置などの画像形成装置に使用される導電性ローラ、特に帯電ローラ、および導電性ローラの評価方法に関する。」
ウ.「【0044】

実施例1
・ゴムローラの製造
エピクロロヒドリンゴム「エピクロマーCG102」(商品名、ダイソー株式会社製)100質量部、酸化亜鉛(2種、ハクスイテック株式会社製)5質量部、ステアリン酸「ステアリン酸S」(商品名、花王株式会社製)1質量部、カーボンブラック「旭#15」(商品名、旭カーボン株式会社製)5質量部、炭酸カルシウム「シルバーW」(商品名、白石工業株式会社製)40質量部、可塑剤「ポリサイザーP-202」(商品名、セバシン酸系ポリエステル、大日本インキ株式会社製)5質量部、イオン導電剤「KS-555」(商品名、第4級アンモニウム塩、花王株式会社製)2質量部、ジベンゾチアジルジサルファイド「ノクセラーDM」(商品名、大内新興化学株式会社製)1質量部、テトラメチルチウラムモノスルフィド「ノクセラーTS」(商品名、大内新興化学株式会社製)1質量部及び硫黄「サルファックス200S」(商品名、鶴見化学株式会社製)1質量部を、密閉型混練機及びオープンロール機を用いて混練を行なうことにより未加硫のゴム組成物を得た。」
エ.「【0045】
次いで、クロスヘッドダイを備えた70mm押出し機を用い、未加硫ゴム組成物を円柱状に鋼鉄製軸体と共に押出し該鋼鉄製軸体の周上に未加硫ゴムを被覆した。なお、鋼鉄製軸体は、予め接着剤「メタロックU-20」(商品名、東洋化学研究所株式会社製)を塗布された、直径6mm、長さ250mmの、無電解ニッケルメッキを施したものである。この軸体の両端に被覆された未加硫ゴム層をカッター刃にて両端部各10mm相当部分を除去し、軸体を露出させ、ローラ軸受け部分を作成した。その後、熱風炉にて180℃×1h加熱して、導電性弾性層を有するゴムローラを作成した。」
オ.上記アの「導電性軸体」、「被覆層」、及び「導電性ローラ」は、それぞれ、エの「鋼鉄製軸体」、「導電性弾性層」、及び「ゴムローラ」に対応する。
カ.上記ウ、及びエには、エピクロロヒドリンゴム「エピクロマーCG102」(商品名、ダイソー株式会社製)100質量部、酸化亜鉛(2種、ハクスイテック株式会社製)5質量部、ステアリン酸「ステアリン酸S」(商品名、花王株式会社製)1質量部、カーボンブラック「旭#15」(商品名、旭カーボン株式会社製)5質量部、炭酸カルシウム「シルバーW」(商品名、白石工業株式会社製)40質量部、可塑剤「ポリサイザーP-202」(商品名、セバシン酸系ポリエステル、大日本インキ株式会社製)5質量部、イオン導電剤「KS-555」(商品名、第4級アンモニウム塩、花王株式会社製)2質量部、ジベンゾチアジルジサルファイド「ノクセラーDM」(商品名、大内新興化学株式会社製)1質量部、テトラメチルチウラムモノスルフィド「ノクセラーTS」(商品名、大内新興化学株式会社製)1質量部及び硫黄「サルファックス200S」(商品名、鶴見化学株式会社製)1質量部を、密閉型混練機及びオープンロール機を用いて混練を行なうことにより未加硫のゴム組成物を得、
次いで、クロスヘッドダイを備えた70mm押出し機を用い、未加硫ゴム組成物を円柱状に鋼鉄製軸体と共に押出し該鋼鉄製軸体の周上に未加硫ゴムを被覆し、鋼鉄製軸体は、予め接着剤「メタロックU-20」(商品名、東洋化学研究所株式会社製)を塗布された、直径6mm、長さ250mmの、無電解ニッケルメッキを施したものであって、この軸体の両端に被覆された未加硫ゴム層をカッター刃にて両端部各10mm相当部分を除去し、軸体を露出させ、ローラ軸受け部分を作成し、その後、熱風炉にて180℃×1h加熱して作成した、導電性弾性層を有する画像形成装置に使用されるゴムローラの製造方法が記載されているものといえる。

以上の記載によれば、甲第3号証には以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「エピクロロヒドリンゴム「エピクロマーCG102」(商品名、ダイソー株式会社製)100質量部、酸化亜鉛(2種、ハクスイテック株式会社製)5質量部、ステアリン酸「ステアリン酸S」(商品名、花王株式会社製)1質量部、カーボンブラック「旭#15」(商品名、旭カーボン株式会社製)5質量部、炭酸カルシウム「シルバーW」(商品名、白石工業株式会社製)40質量部、可塑剤「ポリサイザーP-202」(商品名、セバシン酸系ポリエステル、大日本インキ株式会社製)5質量部、イオン導電剤「KS-555」(商品名、第4級アンモニウム塩、花王株式会社製)2質量部、ジベンゾチアジルジサルファイド「ノクセラーDM」(商品名、大内新興化学株式会社製)1質量部、テトラメチルチウラムモノスルフィド「ノクセラーTS」(商品名、大内新興化学株式会社製)1質量部及び硫黄「サルファックス200S」(商品名、鶴見化学株式会社製)1質量部を、密閉型混練機及びオープンロール機を用いて混練を行なうことにより未加硫のゴム組成物を得、
次いで、クロスヘッドダイを備えた70mm押出し機を用い、未加硫ゴム組成物を円柱状に鋼鉄製軸体と共に押出し該鋼鉄製軸体の周上に未加硫ゴムを被覆し、鋼鉄製軸体は、予め接着剤「メタロックU-20」(商品名、東洋化学研究所株式会社製)を塗布された、直径6mm、長さ250mmの、無電解ニッケルメッキを施したものであって、この軸体の両端に被覆された未加硫ゴム層をカッター刃にて両端部各10mm相当部分を除去し、軸体を露出させ、ローラ軸受け部分を作成し、その後、熱風炉にて180℃×1h加熱して作成した、導電性弾性層を有する画像形成装置に使用されるゴムローラの製造方法。」

(3)甲第4号証
本件特許の優先日前の平成17年11月17日に頒布された特開2005-321749号公報(甲第4号証)には、以下の事項が記載されている。
ア.「【請求項1】
芯金上に設けられた弾性層上に薄膜を形成した弾性ローラの製造方法において、
弾性層表面に対して所定の間隔をなす距離に全周に開口されたスリット状の吐出口を有するリング塗布ヘッドを使用し、かつ薄膜形成が溶剤系塗布液を該吐出口より吐出して弾性層上に塗布することからなることを特徴とする弾性ローラの製造方法。

【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載の製造方法により製造された弾性ローラを帯電ローラ、現像ローラ、又は帯電ローラと現像ローラとして具備していることを特徴とする電子写真用プロセスカートリッジ。」
イ.「【技術分野】
【0001】
本発明は、LBP(Laser Beam Printer)、複写機及びファクシミリ等のOA機器において、電子写真プロセスを利用した画像形成装置に用いる弾性ローラ(現像ローラ、帯電ローラ等)の製造方法及びその方法により製造された弾性ローラを組み込んでなる電子写真用プロセスカートリッジに関する。」
ウ.「【0068】
参考例1(原料弾性ローラ1の製造)
エピクロルヒドリン・エチレンオキサイド・アリルグリシジルエーテル三元共重合体(GECO)100質量部、酸化亜鉛5質量部、炭酸カルシウム25質量部、エステル系可塑剤15質量部、ステアリン酸1質量部、硫黄1質量部及び添加剤組成物(添加剤組成物:フタル酸ジブトキシエチル100質量部、過塩素酸ジメチル・オクチル・ヒドロキシエチルアンモニウム100質量部及びエポキシ化大豆油20質量部を均一に溶解したもの)2質量部を20℃に温調した加圧ニーダーで15分間混練した混練物に、50℃に温調した2本ロールを用い、加硫促進剤DM(ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド)2質量部及び加硫促進剤TS(テトラメチルチウラムモノスルフィド)0.5質量部を加えて、5分間混練して未加硫ゴム組成物を作製した。
【0069】
次いで、外径6mm、長さ258mmのステンレス棒を芯金とし、この外周に未加硫ゴム組成物を押出成形法により成形し、170℃で15分間加熱加硫した。その後、回転砥石を用いた乾式研磨により、厚み3mm、長さ232mmの導電性弾性層を有する原料弾性ローラ1を作製した(導電性弾性層外径12mm)。

【0071】
参考例2 原料弾性ローラ2の製造
エピクロルヒドリンゴム「エピクロマーCG102」(商品名、ダイソー(株)製)100質量部、MTカーボン「HTC#20」(商品名、新日化カーボン(株)製)5質量部、酸化亜鉛5質量部及びステアリン酸1質量部をオープンロールで30分間混練し、その中に加硫促進剤DM 1質量部、加硫促進剤TS 0.5質量部及び加硫剤としてイオウ1.2質量部を加えて、15分間オープンロールで混練して未加硫ゴム組成物を作製した。
【0072】
次いで、クロスヘッド押出機を用いて上記未加硫ゴム組成物を外径6mm、長さ258mmのステンレス棒の芯金と一体に押出して、芯金の周囲に円筒状の未加硫ゴム組成物を成形した。その後、未加硫ゴム組成物の長さが232mmになるように端部を切断・除去して、未加硫ゴムローラを得た。この未加硫ゴムローラを、予め160℃に加熱した円筒状の加熱部材に5分間回転させながら押し当て加熱加硫を行い、導電性弾性層を有する原料弾性ローラ2を作製した(導電性弾性層の外径はφ8.5mm)。なお、芯金の両端に各1kgの荷重をかけて加熱加硫を行なった。また、原料弾性ローラの弾性層の表面粗さRzjis1994は1.6μmであった。ここで弾性層に用いた弾性材料、エピクロルヒドリンゴムのSP値は9.1である。」
エ.「【0125】
本発明により製造される弾性ローラは、画像形成装置の帯電ローラ、現像ローラのいずれのローラとしても、接触状態の安定性、帯電の均一性が良好となり、極めて良好な画像が得られる。」
オ.上記イ,及びウより、画像形成装置に用いる原料弾性ローラ1の製造方法が記載されているものと認められる。

以上の記載によれば、甲第4号証には以下の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「エピクロルヒドリンゴム「エピクロマーCG102」(商品名、ダイソー(株)製)100質量部、MTカーボン「HTC#20」(商品名、新日化カーボン(株)製)5質量部、酸化亜鉛5質量部及びステアリン酸1質量部をオープンロールで30分間混練し、その中に加硫促進剤DM 1質量部、加硫促進剤TS 0.5質量部及び加硫剤としてイオウ1.2質量部を加えて、15分間オープンロールで混練して未加硫ゴム組成物を作製し、
次いで、クロスヘッド押出機を用いて上記未加硫ゴム組成物を外径6mm、長さ258mmのステンレス棒の芯金と一体に押出して、芯金の周囲に円筒状の未加硫ゴム組成物を成形し、その後、未加硫ゴム組成物の長さが232mmになるように端部を切断・除去して、未加硫ゴムローラを得、この未加硫ゴムローラを、予め160℃に加熱した円筒状の加熱部材に5分間回転させながら押し当て加熱加硫を行い、導電性弾性層を有する原料弾性ローラ2を作製した(導電性弾性層の外径はφ8.5mm)、画像形成装置に用いる原料弾性ローラ1の製造方法。」

(4)甲第5号証
本件特許の優先日前の昭和46年8月24日に頒布された特開昭46-284号公報(甲第5号証)には、以下の事項が記載されている。
ア.「(1) 電子写真印写に適応される印写表面を持つ基体であつて、その表面に構造式が

で、式中Xは塩素、臭素あるいはヨウ素であり、Rはメチル、エチル、および(C_(n)H_(2n)O)_(y)H(yはlから30までの整数、nは1から4までの整数)から独立に選ばれた基であり、mは5から2000までの整数である電導性水分散性重合体を基体の3000平方フイート当り0.5?2.5ポンドを含むことを特徴とする連続電導性被覆膜を待つ基体。
(2) (A)構造式が

で、式中Xは塩素、臭素あるいはヨウ素であり、Rはメチル、エチルおよび(C_(n)H_(2n)O)_(y)H(yはlから30までの整数、nは1から4までの整数)から独立に選ばれた基であり、mは5から2000までの整数である水分散性重合体を5?50重量%含む分散液で、紙の3000平方フイート当り0.5?2.5ボンドの割合の連続被覆膜を形成するように基体を被覆すること:(B)その水分散性重合体の被覆膜を乾燥すること:(C)デンプン、ポリビニルアルコール、ボリブチルアセテートおよびポリブチルスチレンから選ばれたエクステンダーの層を応用すること:および(D)亜鉛、アンチモン、アルミニウムビスマス、カドミウム、水銀、モリブデンおよび鉛の酸化物、ヨウ化物、セレン化物、硫化物、およびテルル化物、セレン、三硫化ヒ素、クロム酸鉛、およびヒ素化カドミウムから選ばれた電子写真用光電導体で再び被覆して最終の電子写真記録構成材を形成させること:の工程を特徴とする電子写真記録構成材の製造方法。」(1頁左欄5行?2頁左上欄4行)
イ.「本発明により、四基化(quaternize)されたポリエピハロヒドリンの重合体が経済的に製造可能で、被覆膜として容易に紙に応用されて、電導性表面を持ち広汎な相対湿度範囲にわたつて電導特性を保持する製品が得られることが発見された。」(2頁右下欄1?5行)
ウ.「構造式Iの電導性水分散性重合体において、Xは塩素であり、Rはメチルであり、mは20から100までの整数であることが好ましい。この重合体はトリアルキルアミンあるいはトリオキシアルキルアミンおよびポリエピハロヒドリンの本質的な完全四基化により容易に調製できる。ポリエピハロヒドリンはポリエピクロロヒドリンであることが好ましく、これはトリメチルアミンで四基化される。重合体は本質的に完全に四基化されることが好ましく、このことは構造式が

であり、式中X、Rおよびmは前述の規定による四基化付加物を80?100%含む重合体を意味する。部分的に四基化されたポリハロヒドリンを試験した結果、四基化の量が70%以下の場合は、紙は必要な電導性に欠けることが発見された。従つて、前述のように、重合体は80?100%四基化されるべきであり、さらに90?100%の四基化が好ましい。
望ましい分子量すなわち約750?300,000の分子量好ましくは2,000?150,000の分子量を持つ四基化ポリエピクロロヒドリンを製造するためには、適当な分子量のポリエピハロヒドリンを選ぶことが必要である。」(2頁右下欄10行?3頁左上欄下から3行)
エ.「基体としては湿潤強度の高い塗被紙あるいは非塗被紙を包含する厚味3?6ミルスの紙が好ましい。他の電導性あるいは半電導性物質例えばセロハンを包含するプラスチツクフイルム類、クロスおよび金属ホイル(例えばアルミニウムおよび銅ホイル)の如き物質も使用される。
好ましくは、水分散性四基化ポリエピハロヒドリンはトリメチルアミンで四基化されたポリエピクロロヒドリンである。」(3頁左下欄8?16行)

(5)甲第6号証
本件特許の優先日前の1981年7月に頒布された「R&Dレポート」No.19『汎用ポリマーの機能化』大河原信監修、シー エム シー(甲第6号証)には、以下の事項が記載されている。
ア.「主鎖中にエーテル結合を持つ汎用の高分子材料には…ポリエピクロロヒドリン(PECH)…などがあり,各々のポリマーはその特性に基づいてそれぞれの分野で使用されている。」(225頁4?8行)
イ.「PECHは第一,第二級アミン類と反応して側鎖に第二または第三級アミノ基を持つポリマー類^(1)?3))を与え,第三級アミンとの反応では側鎖に第四級アンモニウム塩基^(4)?11))を有するポリマーが得られる。…したがってPECHのアミノ化や第四級アンモニウム化により得られたポリマーはカチオン交換樹脂^(12)),無シアンメッキ浴の光沢剤^(10)),固結防止剤^(9)),導電性ポリマー^(4),13)),凝集剤^(11))等への応用が可能である。」(226頁下から13?下から6行)

(6)甲第7号証
本件特許の優先日前の2006年3月2日に頒布された米国特許出願公開第2006/0047054号明細書(甲第7号証)には、以下の事項が記載されている。(なお、括弧内の訳文は、当審が作成した。)
ア.「1 . A polymer compound comprising a polyether backbone and one or more onium cations.
2 . The polymer compound of claim 1 , wherein the onium is selected from the group consisting of imidazolium, 1-alkylimidazolium, benzimidazolium, imidazolinium, pyridinium, piperidinium, pyrazinium, piperazinium, pyrrolium, pyrrolidinium, pyrazolium, diazolium, triazolium, pyridazinium, tetrazolium, amidinium, guanidinium, oxazolium, oxadiazolium, oxatriazolium, thiazolium, thiadiazolium, thiatriazolium, quaternary pyrazolidine, quaternary pyrrolidones, indolium, isoindolium, quinolinium, isoquinolinium, quinazolinium, quinoxalinium, ammonium, sulfonium, phosphonium, oxonium, iodonium, carbonium, derivates thereof, and mixture thereof.

8 . The polymer compound of claim 1 , further comprises Cl^(-) as a counter ion for the onium.

13 . The compound of claim 9 , wherein a structure of the backbone polymer comprises one of the structures shown below, wherein n, x, y, and z are integral numbers:


(1.ポリエーテル主鎖および1つ以上のオニウムカチオンを含む高分子化合物。
2.オニウムが、…アンモニウム…からなる群から選択される、請求項1に記載のポリマー化合物。

8.前記オニウムの対イオンとしてCI^(-)をさらに含む、請求項1に記載の高分子化合物。
13.前記主鎖ポリマーの構造が、以下に示す構造の1つを含み、n、x、y、およびzが整数である、請求項9に記載の化合物。)

イ.「[0001] The present invention relates to onium-modified polymers. Particularly, the present invention relates to onium-modified polyethers and 1-alkylimidazolium-modified polymers. The polymers can exhibit moisture absorbance and enhanced electrical conductivity.」
([0001]本発明は、オニウム変性ポリマーに関する。特に、本発明は、オニウム変性ポリエーテルおよび1-アルキルイミダソリウム変性ポリマーに関する。ポリマーは、吸湿性を示し、電気伝導性を高めることができる。)

ウ.「[0021] The onium-modified polymers are relatively environmentally friendly, and also have many other useful properties for industrial applications. The onium ionic groups, optionally together with the parent polymer, can have some effects on the structure and/or properties of the modified polymers, for example, ionic microdomain formation within the polymer matrix, solubility, dielectric constant, hydrophobic/hydrophilic balance, conductivity, and/or thermoplastic elastomeric properties etc. These properties or combination of these properties can make the polymer suitable for applications in plastic, fiber, rubber, adhesives, coating, and electrical industries. For example, the conductivity properties can make the polymer suitable for use in fuel cells, smart windows, nonlinear optical materials, light-emitting diodes, conducting coatings, sensors, electronic display, and electromagnetic shielding etc. Because of its affinity to water, the polymer may also be useful for tire rubber compounds in improving snow/wet tractions. The polymer can also be used as a coating in packaging materials for reducing moisture. (The electrical current resistance of the polymer has reached ≦10^(4) ohms.) 」
([0021]
オニウム変性ポリマーは、比較的環境にやさしく、また工業用途に多くの他の有用な特性を有する。オニウムイオン基は、場合により親ポリマーと一緒になって、修飾ポリマーの構造および/または特性、例えば、ポリマーマトリックス内のイオン性ミクロドメイン形成、溶解度、誘電率、疎水性/親水性バランス、導電率、および/または熱可塑性エラストマー特性などこれらの特性またはこれらの特性の組み合わせは、ポリマーをプラスチック、繊維、ゴム、接着剤、コーティングおよび電気産業における用途に適したものにすることができる。例えば、導電性は、ポリマーを燃料電池、スマートウィンドウ、非線形光学材料、発光ダイオード、導電性コーティング、センサ、電子ディスプレイ、電磁遮蔽などに使用するのに適したものにすることができる。水に対するその親和性のために、ポリマーはまた、雪/濡れた牽引を改善するタイヤゴム化合物に有用であり得る。このポリマーは、水分を減少させるための包装材料のコーティングとして使用することもできる。(ポリマーの電流抵抗は≦10^(4)オームに達した。))

(7)甲第8号証
本件特許の優先日前の平成16年9月16日に頒布された特開2004-258277号公報(甲第8号証)には、以下の事項が記載されている。
ア.「【請求項1】
一般式(1)で表される第四級アンモニウム塩がイオン導電剤として含有されてなることを特徴とする導電性材料。
【化1】

〔式中、R^(1)?R^(3)はアルキル基であり、同一であっても異なっていてもよい。X^(n-)はn価の陰イオンを表し、nは1または2である。〕」
イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複写機、プリンター等の電子写真装置における、現像ロール、帯電ロール、転写ロール等の導電性部材の構成材料として用いられる導電性材料に関する。」
ウ.「【0016】
前記一般式(1)中、R^(1)?R^(3)で表されるアルキル基は特に限定されないが、R^(1)?R^(3)のいずれか1つは炭素数1?22のアルキル基であり、他の2つは炭素数1?4のアルキル基が好ましい。上記、炭素数1?22のアルキル基のうち、より好ましい範囲としては、炭素数が1?12である。また、該アルキル基の構造は直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。
【0017】
上記、炭素数1?22のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、ベヘニル基等があげられる。また、炭素数1?4のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基があげられる。
【0018】
前記一般式(1)において、X^(n-)で表されるn価の陰イオンとしては特に限定されないが、例えば、F^(-)、Cl^(-)、Br^(-)、I^(-)等のハロゲンイオンや、ClO_(4)^(-)、BF_(4)^(-)、PF_(6)^(-)、SO_(4)^(2-)、HSO_(4)^(-)、CH_(3)SO_(4)^(-)、C_(2)H_(5)SO_(4)^(-)、CH_(3)SO_(3)^(-)、C_(2)H_(5)SO_(3)^(-)、COOH^(-)等の1価または2価の陰イオンがあげられる。

【0020】
本発明の導電性材料に用いられる極性ポリマーとしては、極性を有するものであれば特に限定されなが、例えば、エピクロロヒドリンゴム(以下、「CO」と略記する。)、エピクロロヒドリン-エチレンオキサイド共重合ゴム(以下、「ECO」と略記する。)、アクリロニトリルブタジエンゴム(以下、「NBR」と略記する。)、ポリウレタン、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロロヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合ゴム等があげられ、これらを1種もしくは2種以上混合して用いられる。」
エ.「【0026】
得られた導電性材料は、プレス成形等によりシート状、ロール状またはその他の形状に加工し、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真装置における現像ロール、帯電ロール、転写ロール等の導電性部材の構成材料として用いられる。
【0027】
本発明の導電性材料は、イオン導電剤である第四級アンモニウム塩のN位に、反応活性を有するグリシジル基が結合しており、極性ポリマーとの混練により該グリシジル基と極性ポリマーのNH基、OH基、COOH基等とが架橋反応により結合しているため、極性ポリマーとの相溶性が良好であり、ブルーム、ブリードによるイオン導電剤のしみ出しが改善され、長時間の通電耐久性に優れている。

【0029】
【実施例1】
極性ポリマーであるECO100部に対して、イオン導電剤である下式(2)で表される第四級アンモニウム塩を0.01、0.1、1、5、20部の各配合量となるように添加し、さらに、受酸剤である鉛丹5部及びチオウレア系架橋促進剤(三新化学株式会社 登録商標サンセラー22C)1.5部を添加して、バンバリーミキサーを用いて混練した。
【0030】

【0031】
得られた混練樹脂を、プレス成形して厚み0.7mmの導電性シートを作製した。」
オ.上記エより、プレス成形等によりシート状、ロール状またはその他の形状に加工し、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真装置における現像ロール、帯電ロール、転写ロール等の導電性部材の構成材料として用いられる導電性シートの製造方法であって、極性ポリマーであるECO100部に対して、イオン導電剤である下式(2)で表される第四級アンモニウム塩を0.01、0.1、1、5、20部の各配合量となるように添加し、さらに、受酸剤である鉛丹5部及びチオウレア系架橋促進剤(三新化学株式会社 登録商標サンセラー22C)1.5部を添加して、バンバリーミキサーを用いて混練し、得られた混練樹脂を、プレス成形して厚み0.7mmの導電性シートとした、導電性シートの製造方法が記載されているといえる。

以上の記載によれば、甲第8号証には以下の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「プレス成形等によりシート状、ロール状またはその他の形状に加工し、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真装置における現像ロール、帯電ロール、転写ロール等の導電性部材の構成材料として用いられる導電性シートの製造方法であって、極性ポリマーであるECO(エピクロロヒドリン-エチレンオキサイド共重合ゴム)100部に対して、イオン導電剤である下式(2)で表される第四級アンモニウム塩を0.01、0.1、1、5、20部の各配合量となるように添加し、さらに、受酸剤である鉛丹5部及びチオウレア系架橋促進剤(三新化学株式会社 登録商標サンセラー22C)1.5部を添加して、バンバリーミキサーを用いて混練し、得られた混練樹脂を、プレス成形して厚み0.7mmの導電性シートとした、導電性シートの製造方法。」

(8)甲第9号証
本件特許の優先日前の1997年1月30日に頒布された国際公開第97/03122号(甲第9号証)には、以下の事項が記載されている。
ア.「導電性ゴム材料に、一般にゴム材料の分野で使用されている軟化剤や柔軟剤等を配合すると、硬度を適度の範囲に調整することができるものの、軟化剤などの配合剤がブリ一ドアウトするため、感光体の汚染などの問題が生じる。」(4頁24行?5頁1行)
イ.「[実施例1]
ゴム成分(A)としてエポキシ基含有アクリルゴム、ゴム成分(B)としてNBR及び液状NBR、導電性粒子として導電性カーボンブラック(ケッチェンブラックインタ一ナショナル社製ケッチェンブラックEC)、及びゴム成分(A)の加硫剤(一次加硫剤)としてイソシアヌル酸、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド及びジフェニルウレアを用い、さらに加硫促進剤としてステアリン酸を用いた。
表1に示す配合割合の各成分をバンバリーミキサーに投入して混練し、その際、150℃に加熱してゴム成分(A)のエポキシ基含有アクリルゴムの加硫(一次加硫)を行った。導電性粒子の配合割合は、ゴム成分(B)100部に対して10部となる。
次いで、ゴム成分(B)の加硫剤(二次加硫剤)としてジクミルペルオキシドを表1に示す割合で添加して混練し、混練物を8mmφ×280mmのステンレス鋼製の芯金の回りに押出成形し、160°Cで30分間加熱することにより加硫(二次加硫)して、ロール状の成形品を得た。得られた成形品の表面を研磨して、20mmφ×250mmの導電性ゴムロールを得た。結果を表1に示す。」(22頁4?下から6行)
ウ.「…
5.エポキシ基またはハロゲン原子を分子鎖中に有するゴムが、エピピクロルヒドリンゴム、エピクロルヒドリン-エチレンオキシドゴム、エピクロルヒドリン-プロピレンオキシドゴム、及びエポキシ基含有アクリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも一種のゴムである請求項4記載の導電性ゴム組成物。

31.導電性の芯金の外周面に、ゴム成分(A)の加硫物、ゴム成分(A)とは異なる加硫機構により加硫されたゴム成分(B)の加硫物、及び導電性粒子を含有するゴム被覆層が形成された導電性ゴムロールを備えた画像形成装置。
32.導電性ゴムロールが、帯電ロール、現像ロールまたは転写ロールのうちの少なくとも1つである請求項31記載の画像形成装置。」(請求の範囲)

(9)甲第10号証
本件特許の優先日前の平成13年4月10日に頒布された特開2001-99138号公報(甲第10号証)には、以下の事項が記載されている。
ア.「【請求項1】 導電性支持体、該支持体上の導電性弾性層及び該弾性層上の抵抗層を有する導電性ローラにおいて、
該弾性層が、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、エピクロルヒドリンゴムおよびクロロプレンゴムからなる群より選択される少なくとも一種のゴム、アルキル鎖中にエーテル結合を有するフタル酸エステル誘導体、過塩素酸の第4級アンモニウム塩化合物および脂肪油を含有し、
該アルキル鎖中にエーテル結合を有するフタル酸エステル誘導体、過塩素酸の第4級アンモニウム塩化合物および脂肪油の含有量の合計が、該ゴム100質量部に対して0.1?20質量部であることを特徴とする導電性ローラ。」
イ.「【0009】しかしながら、これら従来のイオン導電剤を用いた場合には、導電剤の分散性は改良されるが、抵抗値の環境変動が大きくなった。例えば、低湿環境では帯電部材の抵抗値が高くなり、高湿環境では抵抗値が低くなる傾向が見られた。また、従来のイオン導電剤を使用した場合には、経時でイオン導電剤が導電性弾性層中からしみ出し(ブリードアウト)、それによって帯電部材の抵抗値が変化することがあった。また、導電性弾性層からしみ出したイオン導電剤が抵抗層の表面まで移行して、帯電部材が接触する電子写真感光体表面に割れを発生させたり、感光体との貼り付きを発生させたりする問題があった。また、抵抗層表面に移行したイオン導電剤によって、帯電部材の表面に現像剤が付着しやすくなり、画像上に帯電部材周期の濃度ムラが発生することがあった。」
ウ.「【0057】帯電部材の導電性弾性層の作製
以下の原料を20℃に温調した加圧ニーダーで15分間混練した。
・エピクロルヒドリン・エチレンオキサイド・アリルグリシジルエーテル三元共
重合体(GECO) 100質量部
・酸化亜鉛 5質量部
・炭酸カルシウム 25質量部
・エステル系可塑剤 15質量部
・ステアリン酸 1質量部
・硫黄 1質量部
・添加剤1 変量
【0058】さらに上記混練物を50℃に温調した2本ロールを用い、加硫促進剤(ベンゾチアジルジスルフィド)2質量部および加硫促進剤(テトラチウラムモノスルフィド)0.5質量部を加えて、5分間混練して導電性コンパウンドを作製した。
【0059】次いで、外径φ6mm、長さ258mmのステンレス棒を導電性支持体(芯金)とし、この外周に前記導電性コンパウンドを押出成形法により成形し、170℃、15分間加熱加硫した。さらに回転砥石を用いた乾式研磨により、厚み3mm、面長232mmの導電性弾性層を有する弾性ローラを作製した(導電性弾性層外径φ12mm)。」

(10)甲第11号証
本件特許の優先日前の1973年に頒布された「日本ゴム協会誌」第46巻第1号44?52頁(甲第11号証)には、以下の事項が記載されている。
ア.「固形ゴム中において、混合した配合剤の添加量が溶解度の限度以上であれば、ゴム中での易動性を示す。これは、時間の経過とともに、ブルーミングやブリード、マイグレイションなどの原因となる。」(44頁左欄2?5行)
イ.「加硫ゴムマトリックスに老化防止剤を固定させれば、ゴム中での薬剤の易動性は停止され、ブルーミングやマイグレイションを起こさない。また、水や溶剤に対する耐抽出性もすぐれるため、耐老化性の持続に対して有利となるであろう。」(44頁右欄8?12行)
ウ.「2 反応性添加剤
ゴム用配合剤に反応基を導入した反応性配合剤を添加加硫することにより、ゴム加硫試料中での配合薬品の易動性を停止させうる。

2.1 反応性可塑剤

2.2 反応性難燃剤

2.3 ゴム用反応性充てん剤としてのソルビン酸活性化反応性炭酸カルシウム

2.4 反応性紫外線劣化防止剤

表1 劣化防止剤の高分子中における易動性の停止
(A)基質高分子と劣化防止剤との化学結合

(B)添加剤としての劣化防止剤の高分子量化

2.5 反応性酸化防止剤」(45頁左欄10行?46頁右欄下から8行)

(11)甲第12号証
本件特許の優先日前の2010年に頒布された「三洋化成ニュース」2010初夏No.460 1?4頁(甲第12号証)には、以下の事項が記載されている。
ア.「ソープフリー化の技術
これまで述べたように、乳化重合で乳化剤は重要な役割を担っているが、乳化剤の選択によってはいくつかの好ましくない点(副作用)が問題となる。副作用の具体例として、乳化剤の遊離によるエマルションの泡立ちや乳化剤のブリードアウトなどがあげられる。
このような乳化剤の副作用は、特に乳化力の高い低分子量の乳化剤によって起こる。そこで、エマルション中の乳化剤の影響をなくすために、ソープフリー化(エマルション中の遊離した乳化剤を少なくする)技術の実用化が進んでいる。
これまでにいくつかのソープフリー化技術が提案されてきた[表4]。これらの中で最も実用化が進んでいるのは反応性乳化剤を用いる方法である。
反応性乳化剤とは
反応性乳化剤とは、分子中にラジカル重合性の二重結合をもった乳化剤である。反応性乳化剤は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS)などの通常の乳化剤と同様に優れた乳化力を有し、乳化重合の初期にはミセルを形成してモノマーが重合する場を提供する。重合時には、反応性乳化剤とモノマーが共重合して反応性乳化剤がポリマー粒子表面に固定化され分散安定化する。重合後、反応性乳化剤は、エマルション中に遊離した状態でほとんど残存しないため、エマルションの泡立ちや乳化剤のブリードアウトが抑制される。」(3頁左欄40行?4頁左欄2行)


第6 当審の判断
1.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)特許法第29条の2について
ア.対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、
(ア)後者のゴム架橋物は、導電性ロールの導電性部材に用いられるものであって、上記「第3 3. (2)甲第3号証 ア.」、及び「第3 3. (9)甲第10号証 ア.」に示されているように、複写機、印刷機分野において、導電性ロールが導電性支持体とその上の導電層からなるものであることは明らかな事項である。そして、後者の「複写機」、「導電性部材」、及び「製造方法」は、ぞれぞれ、前者の「電子写真画像形成装置」「導電層」、及び「製造方法」に相当する。
(イ)後者の「一般式(1)で表される単位を、0.1モル%以上30モル%未満含有するポリエーテルゴム、

(前記一般式(1)中、-Y^(+)R_(n)はエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部をオニウムイオン含有基に置換することで得られるオニウムイオンであり、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基または水素、X^(-)は任意の対アニオン、nは1?3の整数を示し、
前記一般式(1)中、-Y^(+)R_(n)がアンモニウムイオンであり、nは3であり、
前記一般式(1)中、Rが、炭素数1?18のアルキル基であり、
対アニオンは、塩化物イオン、過塩素酸イオン、ビストリフルオロメタンスルホンイミドイオンである。)」は、前者の「下記式(1)で示されるユニットを有している変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物とアニオンとを含み、
【化1】

[式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。]」に相当する。
(ウ)後者の「一般式(1)で表される単位を、0.1モル%以上30モル%未満含有するポリエーテルゴムと、

(前記一般式(1)中、-Y^(+)R_(n)はエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部をオニウムイオン含有基に置換することで得られるオニウムイオンであり、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基または水素、X^(-)は任意の対アニオン、nは1?3の整数を示し、
前記一般式(1)中、-Y^(+)R_(n)がアンモニウムイオンであり、nは3であり、
前記一般式(1)中、Rが、炭素数1?18のアルキル基であり、
対アニオンは、塩化物イオン、過塩素酸イオン、ビストリフルオロメタンスルホンイミドイオンである。)」における、一般式(1)中、-Y^(+)R_(n)はエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部をオニウムイオン含有基に置換することで得られるオニウムイオンであるから、ハロゲン原子の少なくとも一部をオニウムイオン含有基に置換する前の一般式(1)で表されるポリエーテルゴムは、前者の「式(2)で示されるユニットを有する未変性のエピクロルヒドリンゴム
【化2】

」に相当し、また、「未変性のエピクロルヒドリンゴムの、該式(2)で示されるユニット中の塩素原子を、アミン化合物で置換せしめて、該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し」といえる。
(エ)後者は、「単量体組成比がエピクロロヒドリン単量体単位40モル%、エチレンオキサイド単量体単位56モル%、アリルグリシジルエーテル単量体単位4モル%であるポリエーテルゴムAに、トルエン1266部とを添加し、50℃にて12時間攪拌してポリエーテルゴムを溶解させ、次に、メタノール73部を添加して、15分間攪拌し、かくして得られたポリエーテルゴム混合物に、n-ブチルジメチルアミン2.9部を添加し、攪拌しながら75℃まで昇温し、75℃にて2時間反応を行い、2時間後、反応溶液を20℃まで冷却して反応を停止し、前記反応溶液を、スチームにて溶媒を留去して凝固した後、真空乾燥することにより、オニウム化ポリエーテルゴム1を、収量190部にて回収」するものであるから、「溶液反応を用いて」いるといえる。
(オ)後者の「ゴム架橋物」は、「ゴム組成物1を、160℃で30分間プレス架橋して」作製するものであって、上記(ア)より、導電性支持体上に形成されるものであることが明らかであるから、後者の「ゴム架橋物の製造方法」は、「変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を該導電性支持体上にて、温度160℃以上に加熱し、硬化せしめて該導電層を形成する工程」を有するといえる。

したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、
「導電性支持体と、該導電性支持体上に設けられた1層の導電層と、からなる電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材の製造方法であって、
該導電層は、下記式(1)で示されるユニットを有している変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物とアニオンとを含み、
【化1】

[式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。]、
該製造方法は、
(i)下記式(2)で示されるユニットを有する未変性のエピクロルヒドリンゴムを用意する工程:
【化2】


(ii)溶液反応を用いて、該未変性のエピクロルヒドリンゴムの、該式(2)で示されるユニット中の塩素原子を、アミン化合物で置換せしめて、該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程、および、
(iii)該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を該導電性支持体上にて、温度160℃以上に加熱し、硬化せしめて該導電層を形成する工程、
を有する、導電性部材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本件特許発明1が、導電性支持体上に設けられた「表面層」としての1層の導電層を有するのに対し、引用発明1では、そのような事項が特定されていない点。

[相違点2]
本件特許発明1が、「アミン化合物は、3級アミンであって、窒素原子に結合している3つの基が、各々独立に、炭素数1?8の飽和炭化水素基であり、かつ、沸点が160℃以下である」のに対し、引用発明1では、そのような事項が特定されていない点。

イ.相違点についての判断
甲第2号証の当初明細書等には、上記相違点1及び2に係る本件特許発明1の発明特定事項の点について示されていない。
また、上記相違点1及び2に係る本件特許発明1の発明特定事項が周知の技術事項といえる理由もないから、上記相違点1及び2に係る本件特許発明1の発明特定事項が課題解決のための具体化手段における微差ともいえない。
よって、本件特許発明1と甲第2号証に記載されている発明とは、同一とすることはできない。

ウ.本件特許発明2乃至4について
本件特許発明2乃至4は、本件特許発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、本件特許発明2乃至4は、上記イ.と同様の理由により、引用発明1と同一とすることはできない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
上記本件訂正の訂正事項1-3により、本件特許発明1において、「溶液反応を用い」ることが特定された。
そうすると、当該取消理由の対象である「比較例3」は、溶液反応を行っていないものであるから、「比較例3」は、本件特許発明1乃至4に包含されないこととなった。
したがって、本件特許発明1乃至4は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものである。


2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)取消理由通知以外の申立理由
訂正前の請求項1乃至4に係る特許に対して、上記平成29年7月24日付けの特許異議申立書の申立の理由の概要は、以下のとおりである。
ア.特許法第29条第1項第3号(以下「取消理由ア」という。)
請求項:1?4
証 拠:国際公開第2011/081152号(甲第2号証)
イ.特許法第29条第2項(以下「取消理由イ」という。)
請求項:1?4
証 拠:国際公開第2011/081152号(甲第2号証)
周知技術1
ウ.特許法第29条第2項(以下「取消理由ウ」という。)
請求項:1、3、4
証 拠:(甲第3号証)
(甲第4号証)
周知技術2、周知技術3
エ.特許法第29条第2項(以下「取消理由エ」という。)
請求項:1、3、4
証 拠:(甲第8号証)
周知技術2
オ.特許法第36条第6項第1号(以下「取消理由オ」という。)
本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。

(2)本願の優先権主張の適否について
上記取消理由ア及びイを検討するにあたり、本願に係る優先権主張の適否について検討する。
本願は、特願2011-72404号(以下「基礎出願」という。)に基づく優先権を主張するものであるところ、特許異議申立人は、特許異議申立書(5頁27行?7頁下から2行)において、基礎出願の明細書に「アニオン」なる記載がないことにより、本件特許発明1乃至4に対して取消理由ア及びイについて検討する場合の基準日は、優先権主張の効果を得ることはできず、実際の出願日(平成24年3月12日)であるとすべきであることを主張している。
しかし、エピクロルヒドリンゴムに対してアミン化合物変性によるカチオン化により「式(1)」で表される構造を形成した場合、特段の場合(例えば意図的な除去又は他のアニオンへの交換等)を除き、対イオンとしての塩素イオンなるアニオンが系中に存在することは、当業者の技術常識であるものと認められる。
そうすると、基礎出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に接した当業者は、その技術常識に照らして、本件特許発明1乃至4における導電層を構成する変性エピクロルヒドリンゴム(硬化物)中には、対イオンとしてのアニオンが存在するであろうと認識するものであるから、新たな技術的事項が導入されているとまでいうことはできない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
以上のとおりであるから、取消理由ア及びイに係る検討においては、本件特許発明1乃至4については、優先権主張の効果により、優先日(平成23年3月29日)に出願されたものとして、それぞれ検討を行う。

(3)取消理由アについて
本件特許に係る出願は、上記(2)のとおり、優先権主張に係る特願2011-72404号の出願日(優先日、平成23年3月29日)にされたものとみなされる。
そうすると、特許異議申立人が提示した甲第2号証(国際公開第2011/081152号)は、2011年(平成23年)7月7日に(国際)公開されたものであるから、本件特許に係る出願の日前に頒布された刊行物であるということはできない。
したがって、特許異議申立人の甲第2号証に基づく取消理由アに係る主張は、いずれも根拠を欠くものであるから、採用することができない。

(4)取消理由イについて
取消理由イは、甲第2号証を公知文献として、本件特許発明1乃至4の進歩性を否定する主張であるから、上記(3)と同様の理由により、特許異議申立人の甲第2号証に基づく取消理由イに係る主張は、いずれも根拠を欠くものであるから、採用することができない。

(5)取消理由ウについて
ア.甲第3号証と周知技術に基づく進歩性の判断
(ア)対比
本件特許発明1と引用発明2とを対比すると、
後者の「鋼鉄製軸体」、「導電性弾性層」、「画像形成装置に使用されるゴムローラの製造方法」は、それぞれ、前者の「導電性支持体」、「導電層」、「電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材の製造方法」に相当する。
後者の「未加硫のゴム組成物」における「エピクロロヒドリンゴム「エピクロマーCG102」(商品名、ダイソー株式会社製)」は、前者の「下記式(2)で示されるユニットを有する未変性のエピクロルヒドリンゴム:
【化2】

」に相当し、加熱処理を経て、導電性弾性層となるから、後者の「導電性弾性層」と、前者の「導電層」とは、「変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物」を含む点で共通する。
後者の「この軸体の両端に被覆された未加硫ゴム層をカッター刃にて両端部各10mm相当部分を除去し、軸体を露出させ、ローラ軸受け部分を作成し、その後、熱風炉にて180℃×1h加熱して作成」することは、前者の「組成物を該導電性支持体上にて、温度160℃以上に加熱し、硬化せしめて該導電層を形成する工程」に相当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明2とは、
「導電性支持体と、該導電性支持体上に設けられた導電層と、からなる電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材の製造方法であって、
該導電層は、変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物を含み、
該製造方法は、
(i)下記式(2)で示されるユニットを有する未変性のエピクロルヒドリンゴムを用意する工程:
【化2】

、および、
(iii)該エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を該導電性支持体上にて、温度160℃以上に加熱し、硬化せしめて該導電層を形成する工程、
を有する導電性部材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点3]
本件特許発明1の「表面層としての1層の導電層」が、「下記式(1)で示されるユニットを有している」変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物と「アニオン」とを含み、「
【化1】

[式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。]」であるのに対し、引用発明2の導電層は、そのようなものか明らかでない点。

[相違点4]
本件特許発明1は、製造方法が、「(ii)溶液反応を用いて、該未変性のエピクロルヒドリンゴムの、該式(2)で示されるユニット中の塩素原子を、アミン化合物で置換せしめて、該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程」、および、(iii)該「変性」エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を該導電性支持体上にて、温度160℃以上に加熱し、硬化せしめて該導電層を形成する工程、を有し、「該アミン化合物は、3級アミンであって、窒素原子に結合している3つの基が、各々独立に、炭素数1?8の飽和炭化水素基であり、かつ、沸点が160℃以下である」のに対し、引用発明3は、そのようなものか明らかでない点。

(イ)判断
相違点4について検討する。
特許異議申立人が提出した甲第5号証乃至甲第7号証を根拠とする周知技術2(「下記式(1)で示される

変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物とアニオンを含むゴム材料」)、並びに甲第8号証、甲第11号証、及び甲第12号証等を根拠とする周知技術3(「固形ゴム中に含まれる各種配合剤をポリマーに結合させ、ブリードを抑制する手法」)には、上記相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項は記載も示唆もされていない。
また、特許異議申立人が提出したその他の甲号証にも、上記相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項は記載も示唆もされていないし、設計的事項とする理由もない。

そして、本件特許発明1は、上記相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項により、本件特許明細書に記載の「良好な導電性が得られる」(【0036】参照。)という効果を奏するものである。

したがって、上記相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明2、周知技術2、及び周知技術3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

また、本件特許発明3、及び4は、本件特許発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、本件特許発明3、及び4は、引用発明2、周知技術2、及び周知技術3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

イ.甲第4号証と周知技術に基づく進歩性の判断
(ア)対比
本件特許発明1と引用発明3とを対比すると、
後者の「『ステンレス棒』、及び『芯金』」、「導電性弾性層」、「画像形成装置に用いる原料弾性ローラ1の製造方法」は、それぞれ、前者の「導電性支持体」、「導電層」、「電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材の製造方法」に相当する。
後者の「未加硫ゴム組成物」における「エピクロルヒドリンゴム「エピクロマーCG102」(商品名、ダイソー(株)製)」は、前者の「下記式(2)で示されるユニットを有する未変性のエピクロルヒドリンゴム:
【化2】

」に相当し、加熱加硫処理を経て、導電性弾性層となるから、後者の「導電性弾性層」と、前者の「導電層」とは、「変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物」を含む点で共通する。
後者の「クロスヘッド押出機を用いて上記未加硫ゴム組成物を外径6mm、長さ258mmのステンレス棒の芯金と一体に押出して、芯金の周囲に円筒状の未加硫ゴム組成物を成形し、その後、未加硫ゴム組成物の長さが232mmになるように端部を切断・除去して、未加硫ゴムローラを得、この未加硫ゴムローラを、予め160℃に加熱した円筒状の加熱部材に5分間回転させながら押し当て加熱加硫を行い、導電性弾性層を有する原料弾性ローラ2を作製した」ことは、前者の「組成物を該導電性支持体上にて、温度160℃以上に加熱し、硬化せしめて該導電層を形成する工程」に相当する。
したがって、本件特許発明1と引用発明3とは、
「導電性支持体と、該導電性支持体上に設けられた導電層と、からなる電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材の製造方法であって、
該導電層は、変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物を含み、
該製造方法は、
(i)下記式(2)で示されるユニットを有する未変性のエピクロルヒドリンゴムを用意する工程:
【化2】

、および、
(iii)該エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を該導電性支持体上にて、温度160℃以上に加熱し、硬化せしめて該導電層を形成する工程、
を有する導電性部材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点5]
本件特許発明1の「表面層としての1層の導電層」が、「下記式(1)で示されるユニットを有している」変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物と「アニオン」とを含み、「
【化1】

[式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。]」であるのに対し、引用発明3の導電層は、そのようなものか明らかでない点。

[相違点6]
本件特許発明1は、製造方法が、「(ii)溶液反応を用いて、該未変性のエピクロルヒドリンゴムの、該式(2)で示されるユニット中の塩素原子を、アミン化合物で置換せしめて、該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程」、および、(iii)該「変性」エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を該導電性支持体上にて、温度160℃以上に加熱し、硬化せしめて該導電層を形成する工程、を有し、「該アミン化合物は、3級アミンであって、窒素原子に結合している3つの基が、各々独立に、炭素数1?8の飽和炭化水素基であり、かつ、沸点が160℃以下である」のに対し、引用発明3は、そのようなものか明らかでない点。

(イ)判断
上記相違点5、及び相違点6は、それぞれ、上記相違点3、及び相違点4に対応する。
そうすると、上記相違点6に係る本件特許発明1の発明特定事項は、特許異議申立人が提出した甲第5号証乃至甲第7号証を根拠とする周知技術2、並びに甲第8号証、甲第11号証、及び甲第12号証等を根拠とする周知技術3、その他の甲号証にも、記載も示唆もされていないし、設計的事項とする理由もない。

そして、本件特許発明1は、上記相違点6に係る本件特許発明1の発明特定事項により、本件特許明細書に記載の「良好な導電性が得られる」(【0036】参照。)という効果を奏するものである。

したがって、上記相違点5について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明3、周知技術2、及び周知技術3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

また、本件特許発明3、及び4は、本件特許発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、本件特許発明3、及び4は、引用発明3、周知技術2、及び周知技術3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(6)取消理由エについて
ア.対比
本件特許発明1と引用発明4とを対比すると、
後者の「導電性シート」、及び「電子写真装置における現像ロール、帯電ロール、転写ロール等の導電性部材の構成材料として用いられる導電性シートの製造方法」は、それぞれ、前者の「導電層」、及び「電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材の製造方法」に相当する。
後者の「極性ポリマーであるECO(エピクロロヒドリン-エチレンオキサイド共重合ゴム)」は、混練され、プレス成形して、導電性シートとなるものであるから、前者の「未変性のエピクロルヒドリンゴム」に相当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明4とは、
「導電層と、からなる電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材の製造方法であって、
該製造方法は、
(i)未変性のエピクロルヒドリンゴムを用意する工程:
、を有する導電性部材の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点7]
本件特許発明1が、「導電性支持体と、該導電性支持体上に設けられた表面層としての1層の」導電層と、からなる電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材の製造方法であって、
「該導電層は、下記式(1)で示されるユニットを有している変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物とアニオンとを含み、
【化1】

[式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。]」、
該製造方法は、
(i)下記式(2)で示されるユニットを有する未変性のエピクロルヒドリンゴムを用意する工程:
【化2】


「(ii)溶液反応を用いて、該未変性のエピクロルヒドリンゴムの、該式(2)で示されるユニット中の塩素原子を、アミン化合物で置換せしめて、該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程、および、
(iii)該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を該導電性支持体上にて、温度160℃以上に加熱し、硬化せしめて該導電層を形成する工程、
を有し、
該アミン化合物は、3級アミンであって、窒素原子に結合している3つの基が、各々独立に、炭素数1?8の飽和炭化水素基であり、かつ、沸点が160℃以下である」、導電性部材の製造方法であるのに対し、引用発明4は、そのようなものか明らかでない点。

イ.判断
上記相違点7は、上記相違点3、及び相違点4を包含するものである。
そうすると、上記相違点7に係る本件特許発明1の発明特定事項は、特許異議申立人が提出した甲第5号証乃至甲第7号証を根拠とする周知技術2、及びその他の甲号証にも、記載も示唆もされていないし、設計的事項とする理由もない。

そして、本件特許発明1は、上記相違点7に係る本件特許発明1の発明特定事項により、本件特許明細書に記載の「良好な導電性が得られる」(【0036】参照。)という効果を奏するものである。

したがって、本件特許発明1は、引用発明4、及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

また、本件特許発明3、及び4は、本件特許発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、本件特許発明3、及び4は、引用発明4、及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(7)取消理由オについて
本件特許発明2の「工程(iii)が、前記式(2)で示されるユニット中の塩素原子と反応しなかった前記アミン化合物を、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物から除去する工程」について、本件特許明細書には、
「導電層中に、エピクロルヒドリンゴムのアルキレンクロライド部分の塩素原子と反応しなかった未反応のアミン化合物が残留している場合、経時的に導電層の表面にブリードしてくる可能性がある。そのため、置換反応後、変性エピクロルヒドリンゴムから未反応のアミン化合物を加熱により気化させて除去することが好ましい。」(【0037】参照。)
と記載されているから、本件特許発明2の発明特定事項は、本件特許明細書に示されている。
したがって、特許異議申立人の取消理由オに係る主張は、根拠を欠くものであるから、採用することができない。

(8)まとめ
よって、特許異議申立人の本件特許異議の申立てにおける上記取消理由ア乃至オに係る主張は、いずれも採用することができない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1乃至4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1乃至4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。


よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
導電性部材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真装置はさらなる高寿命化が求められてきている。そのため、これまで問題とされてこなかったような、わずかな物性の変化が、長期間の使用によって画像弊害を引き起こす場合がある。特に電気抵抗値の変化は導電性部材の高耐久性には重要な因子となっている。
【0003】
電気抵抗値のムラを改善した導電性部材として、ヒドリンゴムなどの極性ポリマーにイオン導電剤を添加して電気抵抗値を調整してなる導電層を備えた導電性部材が提案されている。しかしながら、イオン導電剤を用いた場合、長期間の使用により導電層中においてイオン導電剤が偏在する場合がある。これは使用時の導電性部材への直流電圧の印加が長期に亘ること、および、導電層が繰り返しの応力を受けることにより、イオン導電剤のイオン交換基がイオン解離し、アニオンとカチオンとが導電層中を移動して偏在することが原因である考えられる。特に、イオン交換基の導電層中における偏在は導電性部材の電気抵抗値を上昇させる。
【0004】
また、導電性部材に対する直流電位の長期に亘る印加、および、導電層に対する繰り返しの応力の印加は、導電性部材内の低分子量成分の導電層の表面へのブリードアウトを促す。導電層の表面への低分子量成分のブリードアウトは、感光体の表面の汚染を招来することとなる。
【0005】
このような課題に対して、特許文献1においては、低添加量で電気抵抗値を低下させることが可能な特定の4級アンモニウム塩をイオン導電剤として用いる、また、特許文献2においては、OH基を有する4級アンモニウム塩を用いる事で、イオン導電剤のブリードとブルームの抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-189894号公報
【特許文献2】特開2001-273815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、特許文献1および特許文献2に係る発明を検討した結果、依然として導電層中における4級アンモニウムイオンおよびアニオンの移動や偏在を避けられず、上記の課題の解決には未だ十分ではないとの認識を得た。そこで、本発明の目的は、長期間の使用によっても電気抵抗値が変化し難い導電性部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、導電性支持体と、該導電性支持体上に設けられた表面層としての1層の導電層と、からなる電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材の製造方法であって、
該導電層は、下記式(1)で示されるユニットを有している変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物とアニオンとを含み、
【0009】
【化1】

【0010】
[式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。]、
該製造方法は、
(i)下記式(2)で示されるユニットを有する未変性のエピクロルヒドリンゴムを用意する工程:
【0011】
【化101】

【0012】
(ii)溶液反応を用いて、該未変性のエピクロルヒドリンゴムの、該式(2)で示されるユニット中の塩素原子を、アミン化合物で置換せしめて、該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程、および、
(iii)該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を該導電性支持体上にて、温度160℃以上に加熱し、硬化せしめて該導電層を形成する工程、
を有し、
該アミン化合物は、3級アミンであって、窒素原子に結合している3つの基が、
各々独立に、炭素数1?8の飽和炭化水素基であり、かつ、沸点が160℃以下である、導電性部材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、長期間の使用によって生じる電気抵抗値の変化を極力低減した導電性部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る導電性部材の断面図である。
【図2】クロスヘッド押出し機の概略図である。
【図3】導電性部材の電気抵抗の測定装置の概略図である。
【図4】電子写真装置の説明図である。
【図5】プロセスカートリッジの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明に係る導電性部材の概略構成図である。導電性支持体11の外周に導電層12が設けられている。
【0016】
本発明に係る導電性部材は、電子写真方式の画像形成装置における帯電部材(帯電ローラ)、現像部材(現像ローラ)、転写部材(転写ローラ)、除電部材や、給紙ローラ等の搬送部材として使用可能である。また、帯電ブレードや転写パッド等の定常的に通電を行う導電性部材に好適である。以下、導電性部材の代表例である帯電ローラ、現像ローラ等によって本発明を説明する。
【0017】
<導電性支持体>
導電性支持体は、支持体を介して帯電ローラの表面に給電するために導電性を有する。導電性支持体は、例えば、炭素鋼合金表面に5μm程度の厚さのニッケルメッキを施した円柱である。導電性支持体を構成する他の材料として、以下のものが挙げられる。鉄、アルミニウム、チタン、銅及びニッケルの如き金属;これらの金属を含むステンレス鋼、ジュラルミン、真鍮及び青銅の如き合金;カーボンブラックや炭素繊維をプラスチックで固めた複合材料。剛直で導電性を示す公知の材料を使用することもできる。また、形状としては円柱形状の他に、中心部分を空洞とした円筒形状とすることもできる。
【0018】
<導電層>
導電層は、下記式(1)で示されるユニットを有している変性エピクロルヒドリンゴムと、アニオンとを含んでいる。
【0019】
【化2】

式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。
【0020】
〔エピクロルヒドリンゴム〕
本発明に係る変性エピクロルヒドリンゴムの原料たるエピクロルヒドリンゴムとは、下記式(2)で示されるエピクロルヒドリンに由来するユニットを有するゴムの総称である。
【0021】
【化3】

【0022】
具体的には、上記式(2)で示されるユニットのみからなる単独重合体、上記式(2)で示されるユニットと下記式(3)で示されるアルキレンオキサイドのユニットとからなるエピクロルヒドリン-アルキレンオキサイド共重合体、更には、上記式(2)、式(3)で示されるユニットに加えて、下記式(4)で示されるアリルグリシジルエーテル由来のユニットを有するエピクロルヒドリン-アルキレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル3元共重合体が挙げられる。
【0023】
【化4】

【0024】
式(3)中、nは1?3の整数を示す。
【0025】
【化5】

【0026】
特に、上記式(2)、式(3)および式(4)で示されるユニットを有する3元共重合体は、アリルグリシジルエーテル由来のユニット中の二重結合部の存在によって、加硫速度や加硫密度の調整を行うことが容易であるため、本発明に係る変性エピクロルヒドリンムとして好適に用いられる。
【0027】
また、式(2)?式(4)で示されるユニットを有するエピクロルヒドリンゴムは、各ユニットのモル比率によって、電気抵抗値及び温湿度環境による電気抵抗値の変動の程度を制御可能である。
【0028】
変性エピクロルヒドリンゴムを電子写真用導電性部材の導電層に含有させる場合、エピクロルヒドリン由来のユニットを19モル%以上75モル%以下、エチレンオキサイド由来のユニットを24モル%以上80モル%以下、アリルグリシジルエーテル由来のユニットを1モル%以上15モル%以下としたものが挙げられる。より好ましいモル比率は、エピクロルヒドリン由来のユニットを19モル%以上45モル%以下、エチレンオキサイド由来のユニットを50モル%以上80モル%以下、アリルグリシジルエーテル由来のユニットを1モル%以上10モル%以下としたものである。このようなモル比率とすることで、電気抵抗値を低くし、かつ温湿度環境による電気抵抗値の変動を抑制することができる。
【0029】
〔変性エピクロルヒドリンゴム〕
本発明に係る変性エピクロルヒドリンゴムは、前記したエピクロルヒドリンゴム中のエピクロルヒドリン由来のユニットの少なくとも1つのユニットが前記式(1)で示されるユニットであるものである。すなわち、本発明に係る変性エピクロルヒドリンゴムは、第四級アンモニウムイオンが分子内に化学的に結合している。
【0030】
導電層は、導電層中に存在するキャリア分子としてのアニオンが導電層中を移動することによりイオン導電性を発現するが、本発明に係る導電層においては、カチオンとしての第四級アンモニウムイオンが、導電層のバインダーである変性エピクロルヒドリンゴムに化学的に結合されているため、キャリアイオンであるアニオンの導電層中における過度な移動が抑制される。その結果、本発明にかかる導電性部材においては、イオン導電性成分が導電層内部から表面への浸みだすこと(ブリード)が抑制される。また、本発明に係る導電性部材を帯電部材として用い、これを感光体と当接して配置させた状態において、帯電部材と感光体との間に高い直流電圧を印加した場合においても、導電層の電気抵抗の上昇が起こりにくい。
【0031】
式(1)で示されるユニットにおいて、R1、R2およびR3は各々独立に炭素数1以上8以下の飽和炭化水素基である。飽和炭化水素基の炭素数が多すぎると、炭素数の増加に伴う分子量の増加により、単位質量あたりのアミン化合物のイオン交換能が低下し、その結果、導電層として求められる導電性が得にくくなる。
【0032】
式(1)で示されるユニットを有する変性エピクロルヒドリンゴムは、未変性のエピクロルヒドリンゴムのユニット中のアルキレンクロライド部位における塩素原子を、アミン化合物の求核置換反応により脱塩素することによって得ることができる。
【0033】
すなわち、帯電部材の弾性層中に、バインダーポリマーとして含有されてなる、優れた電気特性と力学特性を有するエピクロルヒドリンゴムに対して、高分子反応を利用し、イオン導電性を有する第四級アンモニウム基を導入する。尚、イオン交換基を有するイオン導電性モノマーと、ジエン系、或いは、架橋性の官能基を有し、かつ、ガラス転移温度が0℃以下のモノマーからなる共重合体を重合し、得られた共重合体を架橋することによってもゴム弾性を有するイオン導電性部材を得ることは可能である。しかしながら、一般に、イオン交換基を有するイオン導電性モノマーは重合性が低いため、高分子量体を得ることが容易ではなく、その結果、帯電ローラとして必要とされる力学特性が十分に得られない。
【0034】
アミン化合物による置換方法としては、エピクロルヒドリンゴムが有するアルキレンクロライド部分の塩素原子とアミン化合物の求核置換反応が進行する限りにおいて特に制限はされないが、本発明においては、溶液反応を利用し、エピクロルヒドリンゴムをジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶媒に溶解させ、その後、アミン化合物を添加する手法を用いる。
【0035】 (削除)
【0036】
アミン化合物として、良好な導電性が得られるので3級アミンからなるアミン化合物を用いる。
【0037】
導電層中に、エピクロルヒドリンゴムのアルキレンクロライド部分の塩素原子と反応しなかった未反応のアミン化合物が残留している場合、経時的に導電層の表面にブリードしてくる可能性がある。そのため、置換反応後、変性エピクロルヒドリンゴムから未反応のアミン化合物を加熱により気化させて除去することが好ましい。よって、アミン化合物の沸点は、加熱による除去が容易となる160℃以下である。以上のような理由からアミン化合物中のR1、R2およびR3は、炭素数1以上8以下の飽和炭化水素基である。
【0038】
なお、本発明に係る変性エピクロルヒドリンゴムの第四級アンモニウムイオンの存在や第四級アンモニウムのアルキル基の炭素数は、プロトンNMR、カーボンNMR等により確認することが可能である。
【0039】
〔アニオン〕
導電層中に含まれるアニオンは、導電層中を移動することで導電層にイオン導電性を発現させるキャリア分子として機能する。アニオンの種類としては特に限定されず、例えば、塩素イオン、過塩素酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン等が挙げられる。ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオンの構造を下記式(5)に示す。
【0040】
【化6】

【0041】
導電層への所望のアニオンの導入方法としては、例えば、本発明に係る変性エピクロルヒドリンゴムが有する第四級アンモニウムイオンに対して、所望のアニオンをカウンターアニオンとして反応させておく方法がある。すなわち、導電層に含有させるべき所望のカウンターアニオンと第四級アンモニウムイオンとからなる第四級アンモニウム塩基をエピクロルヒドリンゴムに導入した変性エピクロルヒドリンゴムを導電層中に含有させる。これにより、該第四級アンモニウム塩が導電層中でイオン解離し、カウンターアニオンが遊離し、導電層中に、所望のアニオンを存在させることができる。
【0042】
一例として、本発明に係る変性エピクロルヒドリンゴムの合成を、エピクロルヒドリンゴムのアルキレンクロライド部分の塩素原子にアミン化合物を求核置換させて行う場合、エピクロルヒドリンゴムには、カウンターイオンとして塩素イオンを有する第四級アンモニウム塩基が導入される。かかる変性エピクロルヒドリンゴムを導電層中に含有させた場合、第四級アンモニウムン塩基がイオン解離することで、カウンターイオンとしての塩素イオンが遊離し、導電層中にアニオンとしての塩素イオンを存在させることができる。
【0043】
一方、導電層中に過塩素酸イオンまたは上記式(5)で示されるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオンを存在させる方法としては、導電層中にバインダーとして、所望のアニオンがカウンターイオンとして導入された第四級アンモニウム塩基で変性された変性エピクロルヒドリンゴムを用いる方法が挙げられる。
【0044】
所望のアニオンがカウンターイオンとして導入された第四級アンモニウム塩基で変性された変性エピクロルヒドリンゴムは、以下の方法によって調製し得る。すなわち、塩素イオンをカウンターイオンとして有する第四級アンモニウム塩基を導入した変性エピクロルヒドリンゴムを用意する。次いで、この変性エピクロルヒドリンゴムの第四級アンモニウム塩基の塩素イオンをイオン交換反応を利用して所望のアニオンに変換する。こうして、所望のアニオンがカウンターイオンとして導入された第四級アンモニウム塩基で変性された変性エピクロルヒドリンゴムを得ることができる。
【0045】
導電層中における、キャリア分子であるアニオンの存在および定量は、イオン交換反応を利用したアニオンの抽出により検証できる。変性エピクロルヒドリンゴムを塩酸、或いは水酸化ナトリウムの希薄水溶液中で攪拌し、変性エピクロルヒドリンゴム中のアニオンを水溶液中に抽出する。抽出後の水溶液を乾燥し、抽出物を回収後、飛行時間型質量分析装置(TOF-MS)にて質量分析を行うことでアニオンの同定および定量が可能である。なお、アニオンの分子量が高い場合においても、TOF-MS測定においてアニオンを分解させることなく分析できる。さらに、抽出物の誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により元素分析を行い、質量分析の結果と組み合わせることでキャリア分子としてのアニオンの同定および定量はより容易となる。
【0046】
〔導電層の形成〕
導電層の形成方法としては、上記の導電層の原料となるゴム組成物を、例えば、押出し成形、射出成形、圧縮成形の如き公知の方法により成型する方法が挙げられる。また、導電層は、導電性支持体の上に直接形成してもよいし、予めチューブ形状に成形した導電層を導電性支持体上に被覆させることによって形成してもよい。なお、導電層の形成後に導電層の表面を研磨して形状を整えることも好ましい。
【0047】
図2は、クロスヘッドを用いた押出し成形による導電性支持体の周囲への導電層の形成工程の説明図である。不図示の導電性支持体保持容器から順次取り出された導電性支持体11は、複数対の導電性支持体を送る送りローラ23によって、垂直下方向へ間隙なく搬送され、クロスヘッド22へ導入される。一方、未加硫ゴム組成物1は押出機21により導電性支持体の搬送方向に対し垂直方向からクロスヘッド22へ供給され、ここで導電性支持体の周囲を被覆した被覆層としてクロスヘッド22から押し出される。その後、切断除去機25により被覆層を切断して、導電性支持体毎に分断し未加硫ゴムローラ26を得る。
【0048】
導電層は、帯電ローラと電子写真感光体の密着性を確保するために中央部を一番太く、両端部に行くほど細くなるクラウン形状に形成することが好ましい。一般に使用されている帯電ローラは、支持体の両端部に所定の押圧力を与えて電子写真感光体と当接されている。すなわち、中央部の押圧力が小さく、両端部ほど大きくなる。そのために、帯電ローラの真直度が十分であれば問題ないが、十分でない場合には中央部と両端部に対応する画像に濃度ムラが生じてしまう場合がある。クラウン形状は、これを防止するために形成するものである。
【0049】
また、ローラ回転時の当接ニップ幅が均一となるためには、帯電ローラの外径振れは小さい方が好ましい。
【0050】
<電子写真装置>
図4は、本発明に係る導電性部材を帯電ローラとして用いた電子写真装置の概略図である。この電子写真装置は、電子写真感光体301を帯電する帯電ローラ302、露光を行う潜像形成装置308、トナー像に現像する現像装置303、転写材304に転写する転写装置305、電子写真感光体上の転写トナーを回収するクリーニング装置307、トナー像を定着する定着装置306などから構成される。電子写真感光体301は、導電性基体上に感光層を有する回転ドラム型である。
【0051】
電子写真感光体301は矢印の方向に所定の周速度(プロセススピード)で回転駆動される。帯電ローラ302は、電子写真感光体301に所定の力で押圧されることにより接触配置される。帯電ローラ302は、電子写真感光体301の回転に従い従動回転し、帯電用電源313から所定の直流電圧を印加することにより、電子写真感光体301を所定の電位に帯電する。一様に帯電された電子写真感光体301には、画像情報に対応した光308を照射することにより、静電潜像が形成される。
【0052】
電子写真感光体301に接触して配置されている現像ローラ303の表面には、現像剤供給ローラ311によって現像容器309内の現像剤315が供給される。その後、現像剤量規制部材310によって現像ローラ303の表面には、電子写真感光体の帯電電位と同極性に帯電された現像剤の層が形成される。この現像剤を用いて、反転現像により電子写真感光体に形成された静電潜像を現像する。転写装置305は、接触式の転写ローラを有する。電子写真感光体301からトナー像を普通紙などの転写材304に転写する。尚、転写材304は、搬送部材を有する給紙システムにより搬送される。クリーニング装置307は、ブレード型のクリーニング部材、回収容器を有し、転写した後、電子写真感光体301上に残留する転写残トナーを機械的に掻き落として回収する。ここで、現像装置303にて転写残トナーを回収する現像同時クリーニング方式を採用することにより、クリーニング装置307を取り除くことも可能である。定着装置306は、加熱されたロール等で構成され、転写されたトナー像を転写材304に定着し、機外に排出する。312および314は直流電源を示す。
【0053】
<プロセスカートリッジ>
また、図5は本発明に係る導電性部材を帯電ローラ302に適用したプロセスカートリッジの概略断面図である。図5に示すように、本発明に係るプロセスカートリッジは、電子写真感光体301、帯電ローラ302、現像装置303、及び、クリーニング装置307などが一体化され、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されている。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、各実施例において、変性エピクロルヒドリンゴム中のヒドリンユニットのアルキレンクロライド部分の塩素原子がアミン化合物によって置換されていることは、プロトンNMRおよびカーボンNMRにより確認した。
また、実施例25?27、実施例34?36および実施例48は、参考例である。
さらに、実施例1、2、4、5、7、8、10、12、16、18、19、24、30、33は参考例である。
さらにまた、実施例13、45?47、51?54、および、比較例1?3は、参考例である。
【0055】
〔実施例1〕
エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル(EP/EO/AGE)三元共重合体(商品名:エピオン301、ダイソー(株)製)の100gを、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)1000mlに溶解させた。この溶液に、40質量%のメチルアミン水溶液を8g(メチルアミンとして3.2g)加え、窒素雰囲気下、温度50℃で12時間加熱還流した。次いで、反応液を濃縮乾固して、第四級アンモニウムイオンがエピクロルヒドリンユニット部分に導入された、EP/EO/AGE三元共重合体を得た。これを変性エピクロルヒドリンゴムNo.1とする。
【0056】
次に、変性エピクロルヒドリンゴムNo.1の100質量部に対して、表1に示す材料を添加し、オープンロールにて混合し、未加硫ゴム組成物No.1を得た。
【0057】
【表1】

【0058】
一方、直径6mm、長さ258mmのステンレス鋼製の芯金を用意し、その表面に5μm程度のニッケルメッキを施し、導電性支持体を得た。
【0059】
ついで、図2に示す装置を用いて、導電性支持体の外周部を未加硫ゴム組成物No.1で被覆した。その後、熱風炉中において、温度160℃で1時間加熱し、導電性支持体の外周部の未加硫ゴム組成物を硬化させてゴム層となした。その後、ゴム層の両端部を切断し、幅が232mmのゴム層を備えた導電性ローラNo.1を得た。導電性ローラNo.1の導電層を幅広研磨機を用いて、中心外径が8.5mmとなるように研削して、帯電ローラNo.1を得た。この帯電ローラNo.1を下記の評価1?4に供した。
【0060】
〔評価1:導電層中にアニオンの同定〕
帯電ローラNo.1の導電層を削り、塩酸に溶解し、導電層中のアニオンを抽出した。抽出後の塩酸から水を蒸発させて抽出物を回収し、これを飛行時間型質量分析装置(商品名:PHI TRIFT IV、アルバック・ファイ社製)を用いて質量分析し、導電層中の主たるアニオン種を同定した。
【0061】
〔評価2:電気抵抗値の測定〕
図3は本評価で用いた電気抵抗測定装置の概略図を示す。帯電ローラNo.1は、その両端に取り付けられた軸受け31によって回転可能に保持され、前記軸受け31に取り付けられたバネ32によって片側450gfの押し付け圧で外径30mmのアルミニウム製の円柱状ドラム33に圧接されている。
【0062】
次いで、円柱状ドラム33を回転数33rpmで回転駆動させ、帯電ローラNo.1を従動回転させた。外部直流電源34(商品名:Model 610E;TReK社製)により、ドラム33を介して帯電ローラNo.1に、50μAの直流電流が流れるように定電流制御モードで305秒間電圧を印加した。このとき、初期(印加2秒後から5秒間)と300秒後(300秒後から5秒間)の出力電圧をサンプリング周波数100Hzで測定した。
【0063】
初期の出力電圧の平均値をVa(V)、300秒後の出力電圧の平均値をVb(V)とし、初期電圧Vaと電圧変化率Vb/Vaを測定した。測定結果を表3に示す。ここで、Vaは25.2(V)であり良好な導電性を示した。また、Vb/Vaは1.14であり電気抵抗値の変化がほとんどないことがわかる。
【0064】
〔評価3:画像評価〕
帯電ローラNo.1に対して、評価1の電気抵抗測定装置を用いて300μAの直流電流を100分間流した。次いで、帯電ローラNo.1を、レーザープリンタ(商品名:LBP5400、キヤノン(株)製)に帯電ローラとして組み込み、ハーフトーン画像を1枚出力し、当該ハーフトーン画像を目視にて観察し、下記表2に記載の基準で評価した。
【0065】
【表2】

【0066】
〔評価4:ブリード物の付着の有無〕
帯電ローラNo.1を温度40℃、湿度95%RH環境下にて、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート上に置き、帯電ローラNo.1の両端の芯金の露出部分に対して各々550gfの荷重を加えて、帯電ローラNo.1の導電層の表面をPETシートに押し付けた。この状態を1週間維持したのち、帯電ローラNo.1をPETシート上から除去し、PETシートの表面の帯電ローラNo.1が押し付けられていた部分を光学顕微鏡で観察し、帯電ローラNo.1の導電層からのブリード物の付着状況を観察し、下記表3に記載の基準に基づき評価した。
【0067】
【表3】

【0068】
〔実施例2?12〕
原料としてのエピクロルヒドリンゴム、変性に用いたアミン種およびアミンの添加量を表4に記載したように変更した以外は、実施例1に係る変性エピクロルヒドリンゴムNo.1と同様にして変性エピクロルヒドリンゴムNo.2?12を合成した。なお、表4中、原料としてのエピクロヒドリンゴム種のアルファベットは、表5に記載の材料を示す。
【0069】
次いで、得られた変性エピクロルヒドリンゴムNo.2?12を用いた以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物No.2?12を調製し、これを用いて帯電ローラNo.2?12を作成した。これらの帯電ローラを実施例1の評価1?4に供した。
【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
〔実施例13〕
原料としてのエピクロルヒドリンゴムJを100gと、トリエチルアミン8.1gとをオープンロールにて混合して、変性エピクロルヒドリンゴムNo.13を得た。得られた変性エピクロルヒドリンゴムNo.13を用いた以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物No.13を調製し、これを用いて帯電ローラNo.13を作成した。この帯電ローラを実施例1の評価1?4に供した。
【0073】
〔実施例14?44〕
原料としてのエピクロルヒドリンゴム、変性に用いたアミン種およびアミンの添加量を表6に記載したように変更した以外は、実施例1に係る変性エピクロルヒドリンゴムNo.1と同様にして変性エピクロルヒドリンゴムNo.14?44を合成した。
【0074】
次いで、得られた変性エピクロルヒドリンゴムNo.14?44を用いた以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物No.14?44を調製し、これを用いて帯電ローラNo.14?44を作成した。これらの帯電ローラを実施例1の評価1?4に供した。
【0075】
【表6】

【0076】
〔実施例45〕
原料としてのエピクロルヒドリンゴムAを100gと、ジメチルヘキシルアミンを10.3gとをオープンロールにて混合して、変性エピクロルヒドリンゴムNo.45を得た。次いで、下記表7に記載の材料をオープンロールを用いて混合し、未加硫ゴム組成物No.45を得た。
【0077】
【表7】

【0078】
一方、外径6mm、長さ258mmのステンレス鋼製の芯金を用意し、その表面に5μm程度のニッケルメッキを施した。この芯金を、内径8.5mmの筒状金型の中心にセットし、導電性支持体と金型の間に未加硫ゴム組成物No.45を配置した。蒸気加硫缶を使用して、温度160℃の水蒸気中で40分間加熱して、該未加硫ゴム組成物No.45を一次加硫した。次いで、温度150℃の電気オーブンの中で1時間加熱して、ゴム層となした。その後、ゴム層の両端部を切断し、幅が232mmのゴム層を備えた導電性ローラNo.45を得た。この導電性ローラNo.45のゴム層表面を実施例1と同様に研削して帯電ローラNo.45を得た。これを評価1?4に供した。
【0079】
〔実施例46?47〕
実施例45における、原料としてのエピクロルヒドリンゴムAを、エピクロルヒドリンゴムB、または、エピクロルヒドリンゴムCに変更した以外は、実施例45と同様にして変性エピクロルヒドリンゴムNo.46?47を合成した。
【0080】
次いで、得られた変性エピクロルヒドリンゴムNo.46?47を用いた以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物No.46?47を調製し、これを用いて帯電ローラNo.46?47を作成した。これらの帯電ローラを実施例1の評価1?4に供した。
【0081】
〔実施例48〕
原料としてのエピクロルヒドリンゴムJの100gを、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)1000mlに溶解させた。この溶液に、カリウムフタルイミドを31.7g加え、窒素雰囲気下、温度70℃で12時間加熱還流した。
【0082】
反応液に、メタノールを加えて反応物を沈殿させて、未反応のカリウムフタルイミドを除去した。フタルイミドを付加させたエピクロルヒドリンゴムを、再び、N,N-ジメチルホルムアミド1000mlに溶解し、ヒドラジン一水和物11mlを添加して、温度70℃で12時間加熱還流した。反応終了後、反応液にメタノールを加えて反応物を沈殿させ、変性エピクロルヒドリンゴムNo.48を得た。
【0083】
次いで、得られた変性エピクロルヒドリンゴムNo.48を用いた以外は、実施例1と同様にして未加硫ゴム組成物No.48を調製し、これを用いて帯電ローラNo.48を作成した。この帯電ローラを実施例1の評価1?4に供した。
【0084】
〔実施例49〕
実施例3における変性エピクロルヒドリンゴムNo.3を100g、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)1000mlに溶解させた。次に、過塩素酸リチウム11gをDMF10mlに溶解した。上記で得られた2種類のDMF溶液を混合し、2時間攪拌した。混合攪拌後、上記DMF溶液を室温で攪拌されている水中に注ぎ、再沈殿させた。再沈殿と水による洗浄を2回繰り返し、乾燥後、過塩素酸イオン(ClO_(4)^(-))を含む未加硫ゴム組成物No.49を得た。次に、得られた未加硫ゴムNo.49を用いて帯電ローラNo.49を作製した。この帯電ローラを実施例1の評価1?4に供した。
【0085】
〔実施例50〕
実施例49の過塩素酸リチウムの代わりにビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム29gを用いた以外は実施例49と同様にして、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン(TFSI^(-))を含む未加硫ゴム組成物No.50を調製し、これを用いて帯電ローラNo.50を作製した。この帯電ローラを実施例1の評価1?4に供した。
【0086】
〔比較例1〕
下記表8の材料をオープンロールを用いて混合し、未加硫ゴム組成物No.C-1を得た。未加硫ゴム組成物No.C-1を用いた以外は、実施例1と同様にして帯電ローラNo.C-1を作成した。この帯電ローラを実施例1の評価1?4に供した。
【0087】
【表8】

【0088】
〔比較例2〕
比較例1において、テトラエチルアンモニウムクロライドを配合しなかった以外は、比較例1と同様にして未加硫ゴム組成物No.C-2を得た。未加硫ゴム組成物No.C-2を用いた以外は、実施例1と同様にして帯電ローラNo.C-2を作成した。この帯電ローラを実施例1の評価1?4に供した。
【0089】
〔比較例3〕
比較例2において、オープンロールで混合する際に、トリエチルアミンを18g添加した以外は比較例2と同様にして未加硫ゴム組成物No.C-3を得た。未加硫ゴム組成物No.C-3を用いた以外は、実施例1と同様にして帯電ローラNo.C-3を作成した。この帯電ローラを実施例1の評価1?4に供した。
【0090】
上記実施例1?50に係る帯電ローラNo.1?50の評価結果を表9-1?9-2に示す。また、比較例1?3に係る帯電ローラNo.C-1?C-3の評価結果を表9-3に示す。
【0091】
【表9】

【0092】
【表10】

【0093】
【表11】

【0094】
表9-1?9-3からも分かるように、比較例1に係る帯電ローラNo.C-1は、Vaは35.2(V)となり良好な導電性は示すものの、Vb/Vaは3.52となり、通電により抵抗が上昇していた。また、そのため、評価2においては帯電ローラの電気抵抗値の変化が起因と見られる画像不良が発生した。また、評価3の結果、染み出し物が全面において確認された。
【0095】
〔実施例51〕
プライマーを焼き付けた直径6mm、長さ279mmのステンレス鋼製の芯金の周面にプライマー層を焼き付けた。これを導電性支持体に用いると共に、未加硫ゴム組成物No.13を用いて、実施例1に係る導電性ローラNo.1と同様にして導電性ローラNo.51を作成した。但し、ゴム層の厚みを3mm、ゴム層の幅を235mmとした。
【0096】
導電性ローラNo.51を、評価1、2および下記の評価5に供した。
【0097】
〔評価5:画像評価〕
導電性ローラNo.51をレーザープリンタ(商品名:LBP5400、キヤノン(株)製)の現像ローラとして組み込み、シアンのベタ画像、および、ハーフトーン画像を各々1枚出力した。これらを評価画像群aとする。
【0098】
次いで、当該レーザープリンタから、導電性ローラNo.51を取り出し、評価1で用いた電気抵抗測定装置を用いて、導電性ローラNo.51に、400μAの直流電流を120分間流した。再び、導電性ローラNo.51をレーザープリンタ(商品名:LBP5400、キヤノン(株)製)の現像ローラとして組み込み、シアンのベタ画像、および、ハーフトーン画像を各々1枚出力した。これらを評価画像群bとする。評価画像群aと評価画像群bとを目視で観察し、下記の基準で評価した。
A:評価画像群aおよび評価画像群bの間で、濃度に変化が見られなかった。
B:評価画像群aおよび評価画像群bの間で濃度に変化が若干見られた。
C:評価画像群aおよび評価画像群bの間で顕著な濃度変化が見られた。
【0099】
〔実施例52?54〕および〔比較例4〕
未加硫ゴム組成物に用いるポリマー、およびアミンを表10に示すものに変更して、実施例51と同様にして導電性ローラNo.52?54、及びC-4を作成し、評価1、2及び評価5に供した。結果を表11に示す。
【0100】
【表12】

【0101】
【表13】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体と、該導電性支持体上に設けられた表面層としての1層の導電層と、からなる電子写真画像形成装置に用いられる導電性部材の製造方法であって、
該導電層は、下記式(1)で示されるユニットを有している変性エピクロルヒドリンゴムの硬化物とアニオンとを含み、
【化1】

[式(1)中、R1、R2およびR3は、各々独立に炭素数1?8の飽和炭化水素基を示す。]、
該製造方法は、
(i)下記式(2)で示されるユニットを有する未変性のエピクロルヒドリンゴムを用意する工程:
【化2】


(ii)溶液反応を用いて、該未変性のエピクロルヒドリンゴムの、該式(2)で示されるユニット中の塩素原子を、アミン化合物で置換せしめて、該変性エピクロルヒドリンゴムを合成し、次いで、導電層の原料となる、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を得る工程、および、
(iii)該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物を該導電性支持体上にて、温度160℃以上に加熱し、硬化せしめて該導電層を形成する工程、
を有し、
該アミン化合物は、3級アミンであって、窒素原子に結合している3つの基が、各々独立に、炭素数1?8の飽和炭化水素基であり、かつ、沸点が160℃以下である、ことを特徴とする導電性部材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(iii)が、前記式(2)で示されるユニット中の塩素原子と反応しなかった前記アミン化合物を、該変性エピクロルヒドリンゴムを含む組成物から除去する工程を含む請求項1に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項3】
前記アニオンが、塩素イオンである請求項1または2に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項4】
前記変性エピクロルヒドリンゴムが、さらに、下記式(3)および(4)で示されるユニットを有している請求項1?3のいずれか一項に記載の導電性部材の製造方法:
【化3】

[式(3)中、nは1?3の整数を示す。]、
【化4】


 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-15 
出願番号 特願2016-31345(P2016-31345)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G03G)
P 1 651・ 16- YAA (G03G)
P 1 651・ 537- YAA (G03G)
P 1 651・ 113- YAA (G03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中澤 俊彦  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 藤本 義仁
森次 顕
登録日 2017-01-13 
登録番号 特許第6072326号(P6072326)
権利者 キヤノン株式会社
発明の名称 導電性部材の製造方法  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  

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