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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C08L
審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1340097
異議申立番号 異議2017-700691  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-12 
確定日 2018-03-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6062147号発明「ポリアミド樹脂組成物及び成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6062147号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2、4?8〕、3、9について訂正することを認める。 特許第6062147号の請求項2ないし9に係る特許を維持する。 特許第6062147号の請求項1に係る特許についての申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6062147号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成23年12月8日に特許出願され、平成28年12月22日にその特許権の設定登録がされ、平成29年1月18日に特許公報が発行され、その後、その特許について、特許異議申立人東レ株式会社(以下、「申立人」という。)により同年7月12日(受理日、同年7月13日)に特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、当審において同年9月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月1日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)があった。
なお、申立人に対する訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)に対しては、申立人からの応答はなかった。

第2 訂正の適否についての判断

1.本件訂正の内容
本件訂正における請求の趣旨は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし9について訂正することを求める、というものであって、以下の(1)?(9)のとおりである。

(1)訂正事項1
請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
請求項2における
「前記(A)ポリアミドが、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミドである、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。」を、
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、を含有するポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6?30の高級脂肪酸と炭素数6?30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)。」に訂正する。

(3)訂正事項3
請求項3における
「前記式(1)で示される(Y)の範囲が0.05≦(Y)≦0.8である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。」を
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド、であり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、を含有するポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6?30の高級脂肪酸と炭素数6?30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)。」に訂正する。

(4)訂正事項4
請求項4における
「前記ホスフィン酸塩が、下記一般式(I)で表される化合物であり、
前記ジホスフィン酸塩が、下記一般式(II)で表される化合物である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。」を、
「前記ホスフィン酸塩が、下記一般式(I)で表される化合物であり、
前記ジホスフィン酸塩が、下記一般式(II)で表される化合物である、請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。」に訂正する。

(5)訂正事項5
請求項5における
「前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。」を、
「前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部である、請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。」に訂正する。

(6)訂正事項6
請求項6における
「(C)難燃助剤と、
(D)無機充填材1?200と、をさらに含有し、
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部であり、
前記(C)難燃助斉Uの含有量が0.1?30質量部であり、
前記(D)無機充填材の含有量が1?200質量部である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。」を、
「(C)難燃助剤と、
(D)無機充填材と、をさらに含有し、
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部で
あり、
前記(C)難燃助剤の含有量が0.1?30質量部であり、
前記(D)無機充填材の含有量が1?200質量部である、請求項2に記載のポリアミ
ド樹脂組成物。」に訂正する。

(7)訂正事項7
請求項8における
「請求項1乃至7のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。」を、
「請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。」に訂正する。

(8)訂正事項8
請求項9における
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドと、
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物を成形する際に、
前記ポリアミド(A)として、ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドを使用することにより、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・ (1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
成形体の外観を安定化する方法。」を、
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドと、
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物を成形する際に、
前記ポリアミド(A)として、ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドを使用することにより、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・ (1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
成形体の外観を安定化する方法。」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の段落【0013】における
「〔1〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、を含有するポリアミド樹脂組成物。
〔2〕
前記式(1)で示される(Y)の範囲が0.05≦(Y)≦0.8である、前記〔1〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔3〕
前記ホスフィン酸塩が、下記一般式(I)で表される化合物であり、
前記ジホスフィン酸塩が、下記一般式(II)で表される化合物である、前記[1]又は〔2〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
【化1】
一般式(I): (合議体注;一般式(I)の記載は省略する。)
【化2】
一般式(II): (合議体注;一般式(II)の記載は省略する。)

(一般式(I)及び一般式(II)中、
R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ独立して、炭素数1?6のアルキル基、炭素数6?12のアリール基、及び炭素数7?20のアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、
R^(5)は、炭素数1?10のアルキレン基、炭素数6?10のアリーレン基、炭素数7?20のアルキルアリーレン基、及び炭素数7?20のアリールアルキレン基からなる群から選択される基であり、
Mは、カルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)及び亜鉛(イオン)からなる群から選択される金属(イオン)であり、
mは2又は3であり、nは1又は3であり、xは1又は2である。)
〔4〕
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部である、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔5〕
(C)難燃助剤と、
(D)無機充填材1?200と、をさらに含有するポリアミド樹脂組成物であり、
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部であり、
前記(C)難燃助剤の含有量が0.1?30質量部であり、
前記(D)無機充填材の含有量が1?200質量部である、前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔6〕
前記(C)難燃助剤が、ホウ酸亜鉛及び/又は水酸化マグネシウムである、前記〔5〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔7〕
前記〔1〕乃至〔6〕のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。」を、
「〔2〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとがらなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、を含有するポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6?30の高級脂肪酸と炭素数6?30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)。
〔3〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド、であり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、を含有するポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6?30の高級脂肪酸と炭素数6?30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)。
〔4〕
前記ホスフィン酸塩が、下記一般式(I)で表される化合物であり、
前記ジホスフィン酸塩が、下記一般式(II)で表される化合物である、〔2〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
【化1】
一般式(I): (合議体注;一般式(I)の記載は省略する。)
【化2】
一般式(II): (合議体注;一般式(II)の記載は省略する。)
(一般式(I)及び一般式(II)中、
R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ独立して、炭素数1?6のアルキル基、炭素数6?12のアリール基、及び炭素数7?20のアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、
R^(5)は、炭素数1?10のアルキレン基、炭素数6?10のアリーレン基、炭素数7?20のアルキルアリーレン基、及び炭素数7?20のアリールアルキレン基からなる群から選択される基であり、
Mは、カルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)及び亜鉛(イオン)からなる群から選択される金属(イオン)であり、
mは2又は3であり、nは1又は3であり、xは1又は2である。)
〔5〕
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部である、〔2〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔6〕
(C)難燃助剤と、
(D)無機充填材と、をさらに含有し、
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部であり、
前記(C)難燃助剤の含有量が0.1?3O質量部であり、
前記(D)無機充填材の含有量が1?200質量部である、〔2〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔7〕
前記(C)難燃助剤が、ホウ酸亜鉛及び/又は水酸化マグネシウムである、〔6〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔8〕
〔2〕に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。
〔9〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドと、
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物を成形する際に、
前記ポリアミド(A)として、ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドを使用することにより、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
成形体の外観を安定化する方法。」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし8は、請求項2ないし8が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正事項1ないし8についての訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」ごとにされたものである。

(2)訂正事項1についての訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、訂正事項1は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「願書に最初に添付した明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項を追加するものではない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(3)訂正事項2についての訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正の目的について
訂正事項2は、
(i)請求項1を引用する請求項2について、引用関係を解消して独立形式に改めると共に、
(ii)訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項である「(Y) 」の数値範囲を、「-0.3≦(Y)≦0.8」から、「0.05≦(Y)≦0.8」と、より狭い範囲に限定するものである。(ただし、訂正前請求項2は引用形式であるためそこには直接の記載はなく、引用元である請求項1に記載されている。)。
そして、(i)は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものであり、(ii)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する請求項間の引用関係の解消、及び、同第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
「0.05≦(Y)≦0.8」という訂正後の(Y)の数値範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項3に記載されているから、訂正事項2は、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項を追加するものではない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
アのとおり、訂正事項2は、訂正前の請求項2に係る発明を独立形式に改めた上で減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象を変更するものでもない。
したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ 訂正事項2により実質上訂正されることとなる、訂正後の請求項2を引用する訂正後の請求項4ないし8についての訂正も同様である。

(4)訂正事項3についての訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正の目的について
訂正事項3は、
(i)請求項1又は2を引用する訂正前の請求項3を請求項1を引用するものに限定するとともに、引用関係を解消して独立形式に改め、
(ii)訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「(A)」の「ポリアミド」(ただし、訂正前請求項3は引用形式であるためそこには直接の記載はなく、引用元である請求項1に記載されている。)を、
「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」
に限定するものである。

そして、(i)は、特許請求の範囲の減縮及び請求項間の引用関係の解消を目的とするものであり、(ii)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する請求項間の引用関係の解消、及び、同第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
(A)のポリアミドの種類についての訂正に関し、本件特許明細書の【0025】には、「本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドには、本実施形態の目的を損なわない範囲で、・・・ラクタム等を共重合成分として用いることができる。」、【0032】には、「前記ラクタムとしては、例えば、・・・カプロラクタム・・・等が挙げられる。」と記載され、実施例1?8には、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド」に相当する製造例1?8のポリアミドを使用した例が、実施例9には、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」に相当する製造例9のポリアミドを使用した例が記載されている。
よって、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
アのとおり、訂正事項3は、訂正前の請求項3に係る発明を独立形式に改めた上で減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象を変更するものでもない。
したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(4)訂正事項4、5及び7についての訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正の目的について
訂正事項4、5及び7は、訂正前の請求項4、5及び8が、「請求項1乃至3のいずれか一項」、「請求項1乃至4のいずれか一項」、及び、「請求項1乃至7のいずれか一項」を、各々引用していたのを、請求項2のみを引用するものとするための訂正であるので、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項4、5及び7は、訂正前の請求項4、5及び8について、引用請求項を請求項2に限定するための訂正であるので、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項を追加するものではない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
アのとおり、訂正事項4、5及び7は、訂正前の請求項4、5及び8を減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象を変更するものでもない。
したがって、これらの訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(5)訂正事項6についての訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正の目的について
訂正事項6は、
(i)「請求項1乃至5のいずれか一項」を引用する訂正前の請求項6を「請求項2」を引用するものに限定するとともに、
(ii)訂正前の請求項6に係る発明には、発明特定事項として「(D)無機充填材1?200」なる記載があり、本来、「(D)無機充填材」と記載するべきところに、誤って「1?200」が挿入された明らかな誤記があったところ、その記載を、本来の発明特定事項である「(D)無機充填材」に訂正するものである。
そして、(i)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、(ii)は、誤記の訂正を目的とするものであるから、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び同第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項6は、アで記載したとおり、
(i)訂正前の請求項6の引用請求項を請求項2に限定し、
(ii)「(D)無機充填材1?200」を「(D)無機充填材」に訂正するものであるが、
(ii)に関し、訂正前の請求項6には、
「(C)難燃助剤と、
(D)無機充填材1?200と、をさらに含有し、
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部であり、
前記(C)難燃助剤の含有量が0.1?30質量部であり、
前記(D)無機充填材の含有量が1?200質量部である、請求項1乃至4に記載のポリアミド樹脂組成物。」
と記載されており、「(D)無機充填材1?200」の「1?200」が、誤って挿入された誤記であることは、請求項6全体の記載(特に、「前記(D)無機充填材の含有量が1?200質量部である」)から明らかであるので、これを削除することは願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正といえる。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
アのとおり、訂正事項6は、特許請求の範囲の減縮及び明らかな誤記の訂正を目的とするものであって、発明のカテゴリーや対象を変更するものでもない。
したがって、これらの訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ 訂正事項6により実質上訂正されることとなる、訂正後の請求項6を引用する訂正後の請求項7についての訂正も同様である。

(6)訂正事項8についての訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正の目的について
訂正事項8は、
(i)訂正前の請求項9に係る発明の発明特定事項である「(A)」の「ポリアミド」を、
「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」
に限定し、
(ii)「(Y) 」の数値範囲を、「-0.3≦(Y)≦0.8」から、「0.05≦(Y)≦0.8」と、より狭い範囲に限定するものであって、
特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項8に関し、(i)「(A)」の「ポリアミド」についての訂正は、(4)イで訂正事項3について述べたとおり、(ii)の「(Y)」の数値範囲についての訂正は、(3)イで訂正事項2について述べたとおり、これらの訂正は、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるって、新規事項を追加するものではない。
よって、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
アのとおり、訂正事項8は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、発明のカテゴリーや対象を変更するものでもない。
したがって、これらの訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(7)訂正事項9についての訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正の目的について
訂正事項9は、上記訂正事項1?8に係る訂正に伴い訂正される特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項9は、上記訂正事項1?8に係る訂正に伴い訂正される特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であって、訂正事項1?8が、それぞれ、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項を追加するものではないことは(1)?(6)で述べた通りであるから、訂正事項9は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項9は、上記訂正事項1?8に係る訂正に伴い訂正される特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であって、訂正事項1?8は、新規事項を追加するものではないから、訂正事項9は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

エ 願書に添付した明細書の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項9は、特許請求の範囲に記載した全ての請求項に関係しており、本件訂正では、実質的に全ての請求項について訂正を請求している。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。

(8)まとめ
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項ごとにされたものであるし、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項ないし第6項に適合するものであるから、本件訂正を認める。

特許権者は、本件訂正請求において、訂正前の請求項2及び3について、引用関係を解消する訂正(訂正事項2及び3)、及び、請求項3?8について、引用請求項の数を減少する訂正(訂正事項3?7)をしており、また、特許権者は、本件訂正請求書の19頁「ウ 引用関係の解消の求め」の項目において、請求項1;請求項2及びこれを引用する請求項4?8;請求項3;並びに、請求項9について、各々別の訂正単位として扱われることの求めを要求している。そして、本件訂正は認められるので、訂正後の請求項1、〔2、4?8〕、3、9について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件特許の請求項1ないし9に係る発明(それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明9」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、本件訂正の請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】(削除)
【請求項2】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、を含有するポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6?30の高級脂肪酸と炭素数6?30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)。
【請求項3】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド、であり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、を含有するポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6?30の高級脂肪酸と炭素数6?30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)。
【請求項4】
前記ホスフィン酸塩が、下記一般式(I)で表される化合物であり、
前記ジホスフィン酸塩が、下記一般式(II)で表される化合物である、請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【化1】
一般式(I):


【化2】
一般式(II):

(一般式(I)及び一般式(II)中、
R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ独立して、炭素数1?6のアルキル基、炭素数6?12のアリール基、及び炭素数7?20のアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、
R^(5)は、炭素数1?10のアルキレン基、炭素数6?10のアリーレン基、炭素数7?20のアルキルアリーレン基、及び炭素数7?20のアリールアルキレン基からなる群から選択される基であり、
Mは、カルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)及び亜鉛(イオン)からなる群から選択される金属(イオン)であり、
mは2又は3であり、nは1又は3であり、xは1又は2である。)
【請求項5】
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部である、請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
(C)難燃助剤と、
(D)無機充填材と、をさらに含有し、
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部であり、
前記(C)難燃助剤の含有量が0.1?30質量部であり、
前記(D)無機充填材の含有量が1?200質量部である、請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C)難燃助剤が、ホウ酸亜鉛及び/又は水酸化マグネシウムである、請求項6に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。
【請求項9】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドと、
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物を成形する際に、
前記ポリアミド(A)として、ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドを使用することにより、
(Y)=[(EG)-(X)]/[1-(X)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
成形体の外観を安定化する方法。」

なお、これ以降、この異議決定中において、一般式(I)及び(II)の化学式の記載は省略する。
また、以下、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド」を、「(A)のポリアミド」と、
「ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5」を、「(x)の条件」と、
「下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8」(合議体注;式(1)は省略する。)を「式(Y)の条件」と、
「(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩」を、「(B)のホスフィン酸塩」ともいう。


第4 取消理由の概要
当審において平成29年9月28日付けの取消理由通知書で通知した取消理由の概要は次のとおりである。

1.本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2.本件特許は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
3.本件特許の訂正前の請求項1、4、5及び8に係る発明は、甲第2号証を参酌するに、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1号第3号に該当し特許を受けることができないから、本件特許の訂正前の請求項1、4、5及び8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4.本件特許の訂正前の請求項1、4ないし8に係る発明は、甲第2号証を参酌するに、甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許の訂正前の請求項1、4?8に係る発明は、甲第4号証を参酌するに、甲第3号証に記載された発明に甲第1号証及び甲第5号証に示される周知(あるいは公知)技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、いずれも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の訂正前の請求項1、4?8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

<申立人が提出した証拠方法>
甲第1号証:特開2010-37372号公報
甲第2号証:申立人従業員高村元が平成29年6月26日付けで作成した「実験報告書」
甲第3号証:特開2007-182071号公報
甲第4号証:申立人従業員高村元が平成29年6月26日付けで作成した「実験報告書」
甲第5号証:特開2007-23207号公報
甲第6号証:特開2011-12206号公報
甲第7号証:特開2011-99084号公報
甲第8号証:特開2011-100708号公報
甲第9号証:米国特許第6515058号明細書

(以下、それぞれ「甲1」?「甲9」ともいう。)

第5 当審の判断

第5-1 取消理由1(特許法第36条第6項第1号)について
(1)取消理由1の概略
訂正前の本件発明1ないし8に対して通知された取消理由1は、具体的には、概略以下のとおりである。

訂正前の請求項1、3ないし9に係る発明は、いずれも、(A)のポリアミドが、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド」であると特定されており、(A)のポリアミドは、任意の他の共重合成分単位を含み得るものとして特定されている。また、訂正前の請求項1、2、4ないし9に係る発明においては、(A)のポリアミドは、「式(Y)の条件」、つまり、(Y)の値が「-0.3≦(Y)≦0.8」の範囲を満足するものであると特定されている。
しかしながら、発明の詳細な説明に本件発明1ないし9の課題が達成できることが具体的に記載されているのは、「(A)のポリアミド」が、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド」である場合(実施例1?8)か、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」(実施例9)のいずれかに該当する場合の2種のみであって、かつ、(Y)が0.15?0.57の範囲内のもののみである。
そして、実施例1?9から、「(A)のポリアミド」が上記特定の2種のポリアミドのいずれかであって、特定の(Y)の値を有する場合の組成物が、本件発明1?9の課題を解決できると当業者が認識できる場合であっても、(a)と(b)の単位以外の他のポリアミド構成単位についての特定がなく、他の任意の共重合成分が任意の割合で共重合されていてもよい(A)のポリアミド全体についてまで、発明の詳細な説明の記載から、本件発明1の課題を解決できることを理解できないし、また、(Y)が-0.3≦(Y)≦0.8の範囲の全体についてまで、本件特許発明の課題を解決できることを当業者は理解できない。
してみると、訂正前の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、上記本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えて、特許を請求するものである。

(2)本件発明が解決しようとする課題について
本件訂正後の特許明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載(【0007】?【0011】、特に【0011】)、及び、上記第3に記載した特許請求の範囲の記載によれば、本件発明1ないし7が解決しようとする課題は、「過酷な成形条件下において成形した場合においても、成形品の表面外観の安定性が良好で、耐衝撃特性に優れ、且つ、難燃性にも優れるポリアミド樹脂組成物を与えるポリアミド樹脂組成物を提供すること」であると認められるし、本件発明8が解決しようとする課題は、「過酷な成形条件下において成形した場合においても、成形品の表面外観の安定性が良好で、耐衝撃特性に優れ、且つ、難燃性にも優れるポリアミド樹脂組成物を含む成形品を提供すること」であると認められるし、本件発明9が解決しようとする課題は、「過酷な成形条件下において成形した場合においても、ポリアミド樹脂成形品の外観安定性を向上させる方法を提供すること」であると認められる。(以下、本件発明1ないし9が解決しようとする課題を、まとめて、「本件発明の課題」という。)

そこで、以下に、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が本件発明により、これら本件発明の課題を解決できると認識できるかについて検討する。

(3)取消理由1についての判断
訂正後の本件発明2ないし9においては、ポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドが、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド」である特定のポリアミド(本件発明2、4ないし8)、あるいは、該特定のポリアミド、または、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」である、特定の2種のポリアミド(本件発明3及び9)であって、かつ、「式(Y)の条件」が「0.05≦(Y)≦0.8」であるものに限定された。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、(Y)が「全カルボキシル末端基において、イソフタル酸末端基がどれだけ選択的に存在しているかを表す指標」であることが記載され(【0020】)、また、成形品の製造に使用されるポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミドが、特定の2種のいずれかであって、かつ、(Y)が0.15?0.57の範囲内のものが、過酷な成形条件下において成形した場合においても表面外観の安定性が良好で、耐衝撃特性に優れ、且つ、難燃性にも優れる成形品を提供でき、本件発明の課題を解決できることが具体的に示されている。
そして、これら、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、上記の特定の2種のポリアミドであって、かつ、0.05≦(Y)≦0.8の範囲を満足するポリアミド(A)によって、本件発明の課題を解決できることを認識できるといえる。
よって、本件発明2ないし9は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえる。

(4)小括
以上のとおりであるから、訂正後の本件発明2ないし9に係る本件特許について、取消理由1によって取り消すことはできない。


第5-2 取消理由2(特許法第36条第4項第1号)について
(1)取消理由2の概略
訂正前の請求項1ないし9に係る発明に対して通知された取消理由2は、具体的には、概略以下のとおりである。
訂正前の請求項1ないし9に係る発明について、実施可能要件を満足するといえるためには、少なくとも、「(A)のポリアミド」であって、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たすものを、当業者が明細書の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤等を行う必要なく製造できる程度に明細書に記載されている必要があるところ、「(x)の条件」に関しては、本件明細書の記載からは、全カルボン酸成分原料中のイソフタル酸成分の仕込み量を調整することで、(x)の値を調整できることが理解できるが、「式(Y)の条件」を調製するための(EG)(これは、「イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量」で定義される。)の具体的な調整方法については、本件特許明細書の発明の詳細な説明には記載されていないし、その調整方法が、本件特許出願時、当業者に技術常識として知られていたともいえない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載からは、当業者は、(EG)の値に基づいて、「(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)]」((x)はポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率)の式により算出されるものとして定義される(Y)の値の調整方法を理解できないし、(Y)の値の調整方法が本件特許出願時の技術常識として知られていたともいえない。
したがって、訂正前の請求項1ないし9に係る発明で特定されるポリアミドのうち、実施例で具体的に製造された特定のポリアミド以外のものについては、どのようにすれば訂正前の請求項1ないし9に係る発明で特定される、「-0.3≦(Y)≦0.8」あるいは「0.005≦(Y)≦0.8」を満たす任意のポリアミドを製造できるのかを、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が理解できるとはいえない。
よって、発明の詳細な説明は、訂正前の請求項1ないし9に係る発明の全体についてまでは、当業者がそれらの発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(2)取消理由2についての判断
訂正により、本件発明2ないし9の「(A)ポリアミド」は、
「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド」(本件発明2、4ないし8)、あるいは、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」(本件発明3及び9)の組成からなり、
「ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドを使用することにより、
(Y)=[(EG)-(X)]/[1-(X)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」
との条件を満たすものに限定された。

そこで、本件特許の出願時の技術常識を参酌して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が、本件発明2ないし8で特定される上記特定の組成からなる「(A)ポリアミド」であって上記条件(「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」)を満足するもの全体について製造でき、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明2ないし8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるかについて検討する。

「(x)の条件」及び「式(Y)の条件等」を満たす「(A)のポリアミド」の製造方法に関し、本件特許明細書には、以下の記載がある。

「【0021】
(A)ポリアミド中における、全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)と、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)には相関性があり、すなわちブロック化比率(Y)は、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が理論値(x=EG)に対して、どれだけブロック化に移行、すなわちどれだけポリアミド中の6I鎖単位の比率が高くなっており、イソフタル酸末端基比率が高くなっているかを示す指標でもある。
【0022】
従って、式(1)の分母[1-(x)]は、(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸末端基以外の末端基比率であり、上記式(1)の分子[(EG)-(x)]は、理論上のイソフタル酸末端基比率(=イソフタル酸成分比率)との差分イソフタル酸末端基比率、すなわち実際のイソフタル酸末端基比率と理論上のイソフタル酸末端基比率との差分となるため、上記式(1)によりブロック化比率の指標である(Y)を求めることができる。」

「【0038】
((A)ポリアミドの製造方法)
・・・
ポリアミドの製造方法としては、例えば、アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(熱溶融重合法);熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(熱溶融重合・固相重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、析出したプレポリマーをさらにニーダー等の押出機で再び溶融させて重合度を上昇させる方法(プレポリマー・押出重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物、固体塩又は重縮合物を、固体状態を維持したまま重合(固相重合法)させる方法等が挙げられる。
全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)を上記数値範囲内に制御するための方法としては、原料の仕込み量の調整、重合条件の調整が有効である。
上記式(1)におけるブロック化比率の指標となる(Y)を上記数値範囲内に制御するためには、イソフタル酸成分のブロック化を制御することが必要である。具体的には、重合系内で、溶融状態を維持しながら、圧力を適宜調整し、重合温度を好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上としながら、均一混合下において重縮合反応を進め、最終重合内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるような条件下で重合させる熱溶融重合法を用いることにより制御することができる。
【0039】
重合形態としては、特に限定されず・・・。
また、重合装置も特に限定されず・・・。
【0040】
上述したように、(Y)が-0.3≦(Y)≦0.8の範囲となるようにするには、熱溶融重合法によりポリアミドを作製することが好ましく、バッチ式の熱溶融重合法によりポリアミドを作製することがより好ましい。
バッチ式の熱溶融重合法の一例について以下に説明する。
重合温度条件については特に限定されないが、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上である。
例えば、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は水溶液を110?200℃の温度下で攪拌し、約60?90%まで水蒸気を徐々に抜いて加熱濃縮する。
その後、内部圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
その後、水及び/又はガス成分を除きながら、圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)に保ち、内部温度が好ましくは240℃以上、より好ましくは245℃以上に達した時点で、水及び/又はガス成分を除きながら圧力を徐々に抜き、最終内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるように、常圧で又は減圧して重縮合を行う熱溶融重合法を用いることができる。
さらには、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は重縮合物を融点以下の温度で熱重縮合させる固相重合法等も用いることができる。これらの方法は必要に応じて組み合わせてもよい。
・・・
【0042】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミド(ポリアミド共重合体を含む、以下同じ。)の製造においては、所定の触媒を用いることが好ましい。
触媒としては、ポリアミドに用いられる公知のものであれば特に限定されず・・・」

また、本件特許明細書には、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満足する特定の組成からなる「(A)のポリアミド」の具体的な製造実施例として、ポリアミド(A1)?(A9)が記載され(【0086】?【0094】の製造例1?9)、ポリアミド(A1)?(A9)の(x)の値及び(Y)の値についての結果が記載され(以下の【0109】の表1参照。)、比較例に相当する製造実施例として、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件等」のいずれかを満足しないポリアミド(A10)?(A17)が記載され(【0095】?【0102】の製造例10?17)、ポリアミド(A10)?(A17)の(x)の値及び(Y)の値についての結果も記載されている。(以下の【0110】の表2参照。)。

「【0109】

【0110】



本件特許明細書の製造実施例の記載から、特定の組成からなる(A)のポリアミド自体を、当業者が過度の試行錯誤を行う必要なく製造できることは当業者に明らかである。

そこで、特定の組成からなる(A)のポリアミドであって、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満足するものを、当業者が過度の試行錯誤を行う必要なく製造できるかについて検討する。

「(x)の条件」については、本件特許明細書の【0038】に、「全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)を上記数値範囲内に制御するための方法としては、原料の仕込み量の調整・・・が有効である。」と記載されているし、本件特許明細書の表1の実施例1?4(A1?A4)の比較から、全カルボン酸成分原料中のイソフタル酸成分の仕込み量を高めることで、全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が高まるとの結果が示されているから、全カルボン酸成分原料中のイソフタル酸成分の仕込み量を調整することで(x)の値を調整できるといえる。

次に、「式(Y)の条件」については、本件発明1ないし9の「0.05≦(Y)≦0.8」を満たす(A)のポリアミドに関し、本件特許明細書の【0022】には、「式(1)の分母[1-(x)]は、(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸末端基以外の末端基比率であり、上記式(1)の分子[(EG)-(x)]は、理論上のイソフタル酸末端基比率(=イソフタル酸成分比率)との差分イソフタル酸末端基比率、すなわち実際のイソフタル酸末端基比率と理論上のイソフタル酸末端基比率との差分となるため、上記式(1)によりブロック化比率の指標である(Y)を求めることができる」と記載されているから、「(Y)」は、「(x)」と、「(EG)」が決まれば、一義的に定まる値であるといえる。

そして、「(Y)」の調整のための(x)の値については、上述のとおり、全カルボン酸成分原料中のイソフタル酸成分の仕込み量を調整することで(x)の値は調整できるといえるから、以下、「(EG)」の値の調整方法について検討する。

【0038】?【0042】によれば、「(Y)を上記数値範囲内に制御するためには、イソフタル酸成分のブロック化を制御することが必要」(【0038】)と記載され、より具体的には、重合系内で、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は水溶液を110?200℃の温度下で攪拌し、約60?90%まで水蒸気を徐々に抜いて加熱濃縮し、その後、内部圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)になるまで加熱を続け、その後、水及び/又はガス成分を除きながら、圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)に保ち、内部温度が好ましくは240℃以上に達した時点で、水及び/又はガス成分を除きながら圧力を徐々に抜き、最終内部温度が好ましくは250℃以上になるように、常圧で又は減圧して重縮合を行う熱溶融重合法を用いることにより製造できる旨の記載がされている(【0040】;以下、【0040】に記載の製造方法を「段落0040の製造方法」という。)。

ここで、【0021】によれば(Y)は、「ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が理論値(x=EG)に対して、どれだけブロック化に移行、すなわちどれだけポリアミド中の6I鎖単位の比率が高くなっており、イソフタル酸末端基比率が高くなっているかを示す指標」であり、また(Y)の値を算出するための(EG)(=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量)は、ポリアミド共重合体の末端の調整により変化する値であるといえるところ、ポリアミド共重合体の末端調整のための方法として、末端調整剤の存在下でモノマーを重合させることは周知慣用技術である(例えば、特開2006-124669号公報(特許権者の意見書に添付された参考文献1)の【0035】?【0039】、特に、【0039】、特開2002-194210号公報(同参考文献2)の【0022】、特開平11-92657号公報(同参考文献3)の【0009】及び【0010】、特開平3-76755号公報(同参考文献4)の3頁右下欄9?15行、特開2011-219635号公報(同参考文献5)の【0019】、【0020】)し、その際、末端調整剤としてアジピン酸を用いることも周知慣用技術といえる(例えば、参考文献1の【0039】、参考文献3の【0010】、参考文献5の【0020】)。

そして、上述のとおり、本件特許明細書には、具体的な製造例として、特定の組成からなる「(A)ポリアミド」であって、上記「段落0040の製造方法」に合致する製造例1?9の重合方法によって、(Y)の値が、0.15?0.57の範囲のポリアミドA1?A9が得られたことが具体的に記載されており(実施例1?9)、一方、「段落0040の製造方法」に合致しない製造例12?14及び17の重合方法によって得られたポリアミドA12?14及び17では、本件発明の(Y)の範囲を満たさないことが記載されている(比較例3?5及び8)上に、実施例に相当する製造例として、原料モノマーとして0.5モル%過剰のアジピン酸を添加した例である製造例1?4、7?9(実施例1?4、7?9)と、過剰のアジピン酸を添加していない例である製造例5及び6(実施例5及び6)の双方が記載されており、例えば、実施例1(製造例1)と実施例5(製造例5)との比較から、過剰のアジピン酸を添加する(ポリアミドにアジピン酸末端基を導入する)ことにより、イソフタル酸末端基比率(EG)が相対的に減少し、(Y)の値も相対的に小さくなることが理解できる。

そうすると、末端調整剤としてアジピン酸を用いることが周知慣用技術であるとの本件特許出願時の技術常識に照らせば、「段落0040の製造方法」についての説明の記載、及び、過剰のアジピン酸の添加条件を変化させて得られた、(Y)の値が、0.15?0.57の範囲のポリアミドA1?A9の具体的な製造例の記載をあわせみた当業者であれば、「0.05≦(Y)≦0.8」を満たす、上記特定の組成からなる(A)のポリアミドを、過度の試行錯誤を伴わずに製造できるといえる。

よって、本件特許の出願時の技術常識を参酌して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本件発明2ないし9で特定される上記特定の組成からなる「(A)ポリアミド」であって、かつ、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たすものを、過度の試行錯誤を必要とせずに製造できるといえる。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2ないし9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえ、訂正後の本件発明2ないし9に係る本件特許について、取消理由2によって取り消すことはできない。


第4 取消理由3及び4(特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項(同法第113条第2号))
当審において平成29年9月28日付けで通知した取消理由3及び4についての、甲1を主引例とする取消理由3及び4の概要は、(1)に記載するとおりであり、また、甲3を主引例とする取消理由4の概要は、(2)に記載するとおりである。

(1)甲1を主引例とする取消理由3及び4の概要
訂正前の請求項1、4、5及び8に係る発明は、(A)のポリアミドが、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たすのに対して、甲1に記載された発明(甲1-1発明)においては、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たすものであるか不明である点(相違点1)で、両発明は相違するが、甲2である実験報告書の表Cによれば、甲1-1発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる半芳香族共重合ポリアミド樹脂に、(x)及び(Y)の数値が0.16及び-0.18、0.15及び-0.16、並びに、0.18及び-0.21であるものが、それぞれ包含されていることは明らかであり、これは訂正前の請求項1に係る発明における「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たすものであるから、上記相違点は実質的には相違点ではなく、訂正前の請求項1、4、5及び8に係る発明は、甲1に記載された発明である。
さらに、訂正前の訂正前の請求項1、4ないし8に係る発明は、甲1の、ポリアミドの種類及び無機充填材の含有量についての示唆の記載に基づいて、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)甲3を主引例とする取消理由4の概要
訂正前の請求項1に係る発明と甲3に記載の発明(甲3-1発明)とは、以下の2点で相違している。
<相違点1>
訂正前の請求項1に係る発明においては、(A)のポリアミドが、(x)の条件及び(Y)の条件を満たすのに対して、甲3-1発明においては、(x)の条件及び(Y)の条件を満たすものであるか不明である点。
<相違点2>
訂正前の請求項1に係る発明においては、ポリアミド樹脂組成物が「(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩」を「含有する」と特定されているのに対して、甲3-1発明においては、「(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩」は含有しない点。
しかしながら、相違点1については、甲4である実験報告書の表2によれば、甲3-1発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる共重合ポリアミド樹脂に、(x)及び(Y)の数値が0.18及び-0.2であるものが包含されていることは明らかであり、これは本件発明1における「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たすものであるから、相違点1は実質的には相違点ではない。また、相違点2については、甲3-1発明において、ポリアミド樹脂組成物をより難燃性の優れたものとするために、従来から難燃剤として広く使用されていたホスフィン酸塩等(甲1及び甲5)を配合することは当業者が容易になし得ることである。
よって、訂正前の請求項1に係る発明は、甲3に記載された発明、及び、甲1、5に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、訂正前の請求項4ないし8に係る発明も、甲3に記載された発明、及び、甲1、5に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)当審において平成29年9月28日付けで通知した取消理由3及び4についての判断
訂正前の請求項1、4ないし8は、それぞれ、本件訂正により、第3で記載した、訂正後の請求項1、4ないし8に訂正された。
そして、請求項1は、訂正により削除され、また、訂正前の請求項4ないし8に係る発明は、いずれも、訂正により、当審における取消理由3及び4の対象とされていなかった訂正前の請求項3に係る発明の発明特定事項である「0.05≦(Y)≦0.8」を備えるものとなった。
したがって、訂正後の本件発明1、4ないし8について、平成29年9月28日付けで通知した取消理由3及び4によって、取り消すことはできない。


第5 取消理由通知で採用しなかった新規性及び進歩性に関する特許異議申立理由について

第5-1 取消理由通知で採用しなかった新規性についての特許異議申立理由について
申立人は、申立書において、第4(1)で指摘した訂正前の請求項1、4ないし8及び、取消理由通知の対象としていなかった訂正前の請求項2及び9に係る発明について、甲2の実験報告書及び甲6?8の記載事項を参酌すれば、甲1に記載された発明と同一であり、新規性がない旨主張していたが、訂正前の請求項3に係る発明については、新規性に基づく特許異議申立理由は主張していなかった。
そして、本件訂正により、訂正前の請求項4?8のみならず、請求項2及び9に対応する訂正後の請求項2及び9についても、訂正前の請求項3に係る発明の発明特定事項である「0.05≦(Y)≦0.8」を備えるものに訂正された。
したがって、訂正後の本件発明2、4ないし9について、申立人が主張する新規性の特許異議申立理由によって、訂正後の本件発明2及び9に係る特許を取り消すことはできないことは明らかである。

第5-2 甲1を主引例とする進歩性に基づく特許異議申立理由
申立人は、申立書において、本件訂正前の請求項1ないし9に係る発明(それぞれ、本件発明1ないし9に対応するが、請求項1については、本件訂正により削除された。)について、甲2の実験報告書及び甲6?8の記載事項を参酌すれば、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張していたので、以下に検討する。

1.甲1の記載等
(1)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は、合議体が付した。

「【請求項1】
(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)ホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩7?25重量部、(C)メラミンとリン酸から形成される付加物7?25重量部、(D)ホウ酸亜鉛0.8?5.5重量部、(E)無機充填剤15?250重量部、(F)重量平均粒径が5μm以下のタルク0.02?1重量部を配合してなることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
・・・
【請求項3】
(a-1)半芳香族共重合ポリアミド樹脂が、(a1-1)ヘキサメチレンアジパミド単位65?90重量%、(a1-2)ヘキサメチレンイソフタラミド単位5?30重量%および(a1-3)カプロアミド単位1?14重量%の合計100重量%からなり、(a1-2)/(a1-3)の共重合重量比1以上を同時に満たす3元共重合体(ポリアミド66/6I/6)であることを特徴とする請求項2記載のポリアミド樹脂組成物。
・・・
【請求項5】
(E)無機充填剤がガラス繊維・・・から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から4のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物。
・・・
【請求項8】
請求項1から7いずれか記載のポリアミド樹脂組成物を、射出成形、押出成形、ブロー成形の内から選ばれる少なくとも1種の方法で成形してなる成形品。
【請求項9】
成形品が、筐体、外装部品または補強部品であることを特徴とする請求項8記載の成形品。
【請求項10】
成形品が、携帯電話筐体、または電機電子機器筐体であることを特徴とする請求項9記載の成形品。」

「【0004】
本発明は、ノンハロゲン系難燃剤を用いた難燃性ポリアミド樹脂組成物、ならびに、優れた製品外観と高剛性を両立し、かつ優れた成形性を同時に満足し、製品の薄型化に好適なポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。」

「【0007】
・・・本発明の樹脂組成物を用いた成形品は、携帯電話、PHS、液晶テレビ、プラズマディスプレー、PDA、小型テレビ、ラジオ、ノートパソコン、パソコン、マウス、プリンター、スキャナー、メモリ機器、パソコン周辺機器、ビデオデッキ、DVDデッキ、CDデッキ、MDデッキ、DATデッキ、アンプ、カセットデッキ、ポータブルCDプレーヤー、ポータブルMDプレーヤー、カメラ、デジタルカメラ、双眼鏡、顕微鏡、望遠鏡、時計、・・・などの外装部品に特に優れるものである。」

「【0016】
本発明で用いられる(B)ホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩とは、特開平8-73720号公報に記載されているように、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物または金属酸化物を用いて水溶液中で製造されるものであり、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル?n?プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)メチルフェニルホスフィン酸およびジフェニルホスフィン酸などが挙げられる。また、金属成分としては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及び/又は亜鉛イオンを含む金属炭酸塩、金属水酸化物又は金属酸化物が挙げられる。ホスフィン酸塩としてはジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛が挙げられる。特に難燃性、電気特性、ホスフィン酸合成の観点からジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。また、ホスフィン酸塩は必ずしも完全に純粋である必要はなく、未反応物あるいは副生成物が多少残存していても良い。
(B)ホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩は、(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、7?25重量部である必要がある。7重量部以下では難燃性が得られず、25重量部以上では外観が損なわれる。より好ましくは、8?20重量部の範囲である。」

「【0031】
(4)成形品の表面外観
80×80×3(mm)の鏡面磨き角板(フィルムゲート)を射出成形し、得られた角板の表面で蛍光灯の反射像の鮮明度を肉眼観察し、外観性の指標とした。判断基準は以下の通りである。
【0032】
◎:蛍光灯の反射像がかなり明瞭に観察される。
【0033】
○:蛍光灯の反射像がやや不明瞭ながらも観察される。
【0034】
△:蛍光灯の反射像が観察できるが、かなり不明瞭である。
【0035】
×:蛍光灯の反射像が観察できない。」

「【0036】
参考例1 半芳香族共重合ポリアミド樹脂の製造
実施例、ならびに比較例で用いた共重合ポリアミド樹脂は以下の方法で重合した。(a-1)ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の当モル塩、(a-2)ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の当モル塩、および(a-3)ε-カプロラクタムをそれぞれ表に記載の重量比で投入し、投入した全量と同量の純水を加え、重合缶内をN2で置換した後、攪拌しながら加熱を開始し、缶内圧力を最大20kg/cm2に調整しながら最終到達温度を270℃とし反応させた。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。
・・・
【0040】
参考例5 成形品の作成
実施例、ならびに比較例で使用した曲げ弾性率の試験用成形品は次の方法で作成した。ISO1874-2に従い、日精樹脂工業(株)製の射出成形機PS60により、シリンダ温度300℃、金型表面温度100℃、スクリュー回転数150rpm、平行部流速200mm/秒、射出/冷却=20/10秒の条件でISO Type-B規格の試験片を成形した。
【0041】
難燃性測定用の試験片は、同条件、射出/冷却=10/10秒の条件で、12.7×127×1.0(mm)の試験片を射出成形した。
【0042】
離型性測定用の試験片は、同条件、射出/冷却=10/10秒の条件で、図*の試験片を射出成形した。
【0043】
[実施例1]
参考例1に示した重合方法で製造されたヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、重量比がそれぞれ76、16、8重量%である(a-1)半芳香族共重合ポリアミド樹脂を32.5重量部、参考例3に示した重合方法で製造された(a-2)ポリアミド6樹脂を67.5重量部、(B)ホスフィン酸塩[クラリアントジャパン(株)製:商品名 EXOLIT OP1230]を17.5重量部、(C)メラミンとリン酸から生成される付加物[チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製:商品名 melapur200/70]を17.5重量部、(D)ホウ酸亜鉛[ボラックス社製:商品名 Firebreak500]を2.5重量部、(E)ガラス繊維[日本板硝子(株)製:商品名 TP-67]を113重量部、(F)重量平均粒径が2.3μmであるタルク[竹原化学工業(株)製:商品名 タルクMST]を0.08重量部を2軸押出機(東芝機械社製:TEM58)を用いてシリンダ設定温度290℃、スクリュ回転数200rpmの条件下で、(a-1)、(a-2)、(B)、(C)、(D)、(F)をトップフィード(基込めフィード)、(E)をサイドフィードし、溶融混錬した後、ストランド状のガットを成形し、冷却バスで冷却後、カッターで造粒しペレットを得た。得られたペレットを参考例5に示した方法により成形し、前記の測定方法によって諸特性を調べた。その結果を表に示す。
・・・
【0045】
[実施例14、15]
参考例1に示した重合方法で製造されたヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、重量比がそれぞれ表に示す重量%であること以外は実施例1と同様にしてペレット、成形品を得て諸特性を調べた。その結果を表に示す。」

「【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】



(2)甲1-1?甲1-2発明
上記(1)の記載、特に、実施例1、14及び15(【0043】及び【0045】)、表1(【0053】)及び表3(【0055】)によれば、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。

<甲1-1発明>
(a-1)ヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、それぞれの単位の重量比が、76、16、8重量%(実施例1組成)、81、15、4重量%(実施例14組成)及び71、17、12重量%(実施例15組成)のいずれかである、半芳香族共重合ポリアミド樹脂を32.5重量部、(a-2)ポリアミド6樹脂を67.5重量部、(B)ホスフィン酸塩[クラリアントジャパン(株)製:商品名 EXOLIT OP1230]を17.5重量部、(C)メラミンとリン酸から生成される付加物[チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製:商品名 melapur200/70]を17.5重量部、(D)ホウ酸亜鉛[ボラックス社製:商品名 Firebreak500]を2.5重量部、無機充填剤である(E)ガラス繊維[日本板硝子(株)製:商品名 TP-67]を113重量部、(F)重量平均粒径が2.3μmであるタルク[竹原化学工業(株)製:商品名 タルクMST]を0.08重量部を含むポリアミド樹脂組成物。

また、【0031】?【0035】の記載もあわせみれば、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
<甲1-2発明>
(a-1)ヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、それぞれの単位の重量比が、76、16、8重量%(実施例1組成)、81、15、4重量%(実施例14組成)及び71、17、12重量%(実施例15組成)のいずれかである、(a-1)半芳香族共重合ポリアミド樹脂を32.5重量部、(a-2)ポリアミド6樹脂を67.5重量部、(B)ホスフィン酸塩[クラリアントジャパン(株)製:商品名 EXOLIT OP1230]を17.5重量部、(C)メラミンとリン酸から生成される付加物[チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製:商品名 melapur200/70]を17.5重量部、(D)ホウ酸亜鉛[ボラックス社製:商品名 Firebreak500]を2.5重量部、無機充填剤である(E)ガラス繊維[日本板硝子(株)製:商品名 TP-67]を113重量部、(F)重量平均粒径が2.3μmであるタルク[竹原化学工業(株)製:商品名 タルクMST]を0.08重量部を含むポリアミド樹脂組成物を使用して、外観の向上した成形品を製造する方法。

2.対比及び判断
発明特定事項が独立形式で記載されている本件発明2は、同じく独立形式で記載されている本件発明3において、(A)ポリアミドが「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」と特定され、特定の2種のポリアミドのいずれかとされているのに対して、本件発明2では、当該(A)ポリアミドが前者のみに特定されている点のみが異なる発明であって、本件発明2は、本件発明3をさらに限定した発明に相当する。
したがって、事案に鑑み、本件発明2を実質的に含む発明である本件発明3についての対比・判断を先に記載する。

(1)本件発明3
ア 対比
本件発明3と甲1-1発明を対比する。
甲1-1発明における「(a-1)ヘキサメチレンアジパミド単位(PA66)、ヘキサメチレンイソフタラミド単位(PA6I)、カプロアミド単位(PA6)から成り、それぞれの単位の重量比が、76、16、8重量%(実施例1組成)、81、15、4重量%(実施例14組成)及び71、17、12重量%(実施例15組成)のいずれかである、半芳香族共重合ポリアミド樹脂」は、本件発明3における「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド」であって、(A)ポリアミドが、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」のうちの後者である場合に相当する。
また、甲1-1発明における「(B)ホスフィン酸塩[クラリアントジャパン(株)製:商品名 EXOLIT OP1230]」は、ジエチルホスフィン酸アルミニウムである(甲6の【0110】参照。)から、本件発明3の「(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩」に相当する。
そして、甲1-1発明のポリアミド系樹脂組成物は、本件発明3において「除く」とされている、「炭素数6?30の高級脂肪酸と炭素数6?30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩」は含まれていないし、本件発明3のポリアミド樹脂組成物は、(A)のポリアミドと(B)ホスフィン酸塩以外に他のポリアミド樹脂や各種添加剤を含有していてもよいと認められる。

したがって、本件発明3と甲1-1発明は、
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド、であり、
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、を含有する部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6?30の高級脂肪酸と炭素数6?30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)」
で一致し、
以下の点で相違している。

<相違点1>
(A)のポリアミドについて、本件発明3では、
「ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」
を満たすものであることが特定されている(つまり、第3で記載した「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たすものであることが特定されている)のに対して、甲1-1発明では、かかる特定はなされておらず、(A)のポリアミドが、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たすものであるかは不明である点。

イ 判断
相違点1について検討すると、申立人従業員高村元が平成29年6月26日付けで作成した甲2である「実験報告書」の表Cによれば、甲1-1発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる実施例1組成、実施例14組成及び実施例15組成の半芳香族共重合ポリアミド樹脂は、(x)及び(Y)の数値が、実施例1組成では0.16及び-0.18、実施例14組成では0.15及び-0.16、実施例15組成では0.18及び-0.21であり、これらは本件発明1における「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たしていない。
また、甲1-1発明が解決しようとする課題は、甲1の特許請求の範囲の記載及び【0004】の記載からみて、「ノンハロゲン系難燃剤を用いた難燃性ポリアミド樹脂組成物であって、優れた製品外観と高剛性を両立し、かつ優れた成形性を同時に満足し、製品の薄型化に好適なポリアミド樹脂組成物を提供すること」であるが、甲1には、当該課題との関係において、ポリアミド樹脂を、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたものとすることについては記載されていないし、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」において特定される(x)や(Y)の値、(Y)の値の算出のために使用される(EG)の値自体についての記載もない。
そうすると、甲1の記載からは、甲1-1発明において、ポリアミド系樹脂組成物を構成するポリアミドを、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたものとすることは、動機付けられない。
また、申立人が提出した他の各甲号証を参酌しても同様である。

一方、本件特許明細書の表1及び表2の実施例及び比較例の記載によれば、本件発明3のように、ポリアミドとして、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたポリアミド系樹脂組成物とすることで、この範囲外のポリアミドを使用する場合に比べて、本件特許明細書の【0083】で定義されるハイサイクル成形(低温金型を外観安定性使用した高温成形)の外観安定性(これは、外観安定性=(20?30ショットISO試験片のグロス平均値)-(90?100ショットISO試験片のグロス平均値)で表される。)が優れたものとなることが理解でき、この点の効果は、甲1には記載も示唆もなく、甲1の記載からは当業者が予期し得ない効果である。

そうすると、甲1-1発明から、相違点1に係る構成を備えた本件発明3とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。

以上のとおりであるから、本件発明3について、甲1-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2
前述のとおり、本件発明2は、本件発明3において、ポリアミド(A)について特定の2種のポリアミドのいずれかとされていたのを、2種のうちの一方に限定した発明に相当するものであり、本件発明2と甲1-1発明を対比すると、両者は、少なくとも、(1)で記載した相違点1で相違している。
そして、(1)で記載したとおりの理由によって、甲1-1発明から、相違点1に係る構成を備えた本件発明2とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。
よって、本件発明2について、甲1-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明4ないし8
本件発明4ないし8は、本件発明2を直接的又は間接的に引用するものであって、本件発明2における相違点1に係る構成(「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」)をその発明特定事項として備えるものである。
そうすると、本件発明4ないし8は、(2)で記載した本件発明2と同様に判断され、本件発明4ないし8は、甲1-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明9
(1)のアで検討した点を踏まえて本件発明9と甲1-2発明を対比すると、
両者は、
「ポリアミド樹脂組成物を成形する際に、
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドと、
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物を使用する方法。」
で一致し、下記の相違点2で相違する。

<相違点2>
本件発明9は、ポリアミド樹脂組成物を成形する際に、
「ポリアミド(A)として、ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミド」
であって、
「(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」
であるもの(つまり、第3で記載した「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たす(A)ポリアミド)を使用することにより、「成形体の外観を安定化する方法」であるのに対して、甲1-2発明は、(A)のポリアミドが、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たすものであるとの特定はなく、また、「外観の向上した成形品を製造する方法」の発明である点。

相違点2について検討する。
本件特許明細書の【0083】に記載されているとおり、本件発明9の「外観安定性」とは、ハイサイクル成形により得られた成形体(ISO試験片)について、「外観安定性=((1):20?30ショットISO試験片のグロス平均値)-((2):90?100ショットISO試験片のグロス平均値)」の計算式から求められる差の値がより低下することを意味する。一方、甲1-2発明の「外観の向上」とは、甲1の【0031】に記載のとおり、射出成形して得られた鏡面磨き角板(フィルムゲート)の表面で蛍光灯の反射像の鮮明度を肉眼観察することで確認されるものであり、本件発明9と甲1-2発明では、成形体とした場合に改善しようとする対象が異なっており、甲1-2発明からは、本件発明9の「成形体の外観を安定化する方法」は導き出せないし、(1)で記載したとおり、甲1の記載からは、ポリアミド系樹脂組成物を構成するポリアミドを、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたものとすることは動機付けられない。
また、申立人が提出した他の各甲号証を参酌しても同様である。

よって、本件発明9は、甲1-2発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.小括
以上のとおり、本件発明2ないし9について、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。


第5-3 甲3を主引例とする進歩性に基づく特許異議申立理由
申立人は、申立書において、本件訂正前の請求項1ないし3、6、8及び9は、甲4の実験報告書及び甲1、4?8の記載事項を参酌すれば、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張しているので、以下に検討する。

1.甲3の記載等
(1)甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。なお、下線は、合議体が付した。

「【請求項2】
アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する工程を経て電子顕微鏡観察で数平均内径10?80nmの凹部で表面が覆われたアルミニウム合金部品と、 前記アルミニウム合金部品の前記表面に射出成形で固着され、脂肪族ポリアミド樹脂と芳香族ポリアミド樹脂が単純混合されたもの、及び/又は、前記脂肪族ポリアミド樹脂と前記芳香族ポリアミド樹脂が分子的に結合されたものが主な樹脂分組成である熱可塑性合成樹脂組成物部品と
からなる金属樹脂複合体。
・・・
【請求項9】
請求項1?8から選択される1項に記載の金属樹脂複合体において、
前記熱可塑性合成樹脂組成物が、樹脂分組成100質量部に対して充填材1?200質量部が含まれていることを特徴とする金属樹脂複合体。
【請求項10】
請求項9に記載の金属樹脂複合体において、
前記充填材が、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、及びガラス粉から選ばれる1種以上の充填材であることを特徴とする金属樹脂複合体。」

「【0001】
本発明は、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品等に用いられるアルミニウム合金と高強度樹脂の複合体とその製造方法に関する。更に詳しくは、各種機械加工で作られた軽金属合金形状物と熱可塑性合成樹脂を一体化した構造物に関し、各種電子機器、家電製品、医療機器、車両用構造部品、車両搭載用品、建築資材の部品、その他の構造用部品、外装用部品等に用いられる軽金属合金と樹脂の複合体とその製造方法に関する。」
「【0007】
・・・超微細凹部で覆われたアルミニウム合金の形状物を用意してこれを射出成形金型にインサートし、そこへポリアミド樹脂組成物を射出すると、アルミニウム合金部分と成形された樹脂成形物が接合した一体化物が得られることが分かっている。樹脂部分とアルミニウム合金部分との接合力を、ポリアミド系樹脂のコンパウンド、その他の工夫により、更に高めることができないか挑戦した。」

「【0079】
以下、本発明の実施例を実験例に代えて詳記する。実施例で使用した共重合ポリアミド(ブロックポリマー)の製造法と粘度数の測定方法は以下のとおりである。
〔参考例1 共重合ポリアミド(ブロックポリマー)の製造方法〕
それぞれの共重合ポリアミドの原料となるジアミンと酸の等モル塩などの原料をそれぞれの質量比で反応器に投入し、投入した樹脂分全量と同量の純水を加え、重合缶内をN2で置換した後、攪拌しながら加熱を開始し、缶内圧力を最大20kg/cm^(2)に調整しながら最終到達温度を270℃とし反応させた。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られたペレットは95℃熱水中で20時間処理し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のペレットは80℃で50時間以上乾燥した。
〔参考例2 粘度数の測定方法〕
ISO307標準方法に従って96%硫酸での粘度数測定を行った。」

「【0080】
[実施例1]
市販の1.6mm厚のA5052アルミニウム合金板を購入した。・・・18mm×45mmの長方形片多数に切断した。このアルミ合金片の端部に直径2mmφの穴をプレス機で開けた。・・・脱脂材水溶液に5分浸漬し、水洗した。続いて別の槽に1%濃度の塩酸水溶液を用意し・・・浸漬し水洗した。
【0081】
続いて別の槽に1%苛性ソーダ水溶液を用意し・・・浸漬し水洗した。続いて別の槽に1%塩酸水溶液を用意し、・・・浸漬し推薦した。続いて3.5%量の一水和ヒドラジン水溶液・・・中に先ほどの合金片を1分間浸漬し、水洗し・・・乾燥した。・・・翌日、電子顕微鏡「S-4800(日本国東京都、株式会社日立製作所製)」で、10万倍率で観察したところ20?40nm径、数平均内径で25nmの凹部で表面全面が覆われていることを確認した。
【0082】
一方、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成るブロックポリマーを参考例1の方法で合成した。得られた合成樹脂の参考例2記載の方法で測定した粘度数は85ml/gであり、溶融粘度は、フローテスター「CFT-500(日本国京都府、株式会社島津製作所製)にての温度270℃、荷重98.1N(10kgf)の条件下にて380ポイズであった。二軸押出機「TEM-35B(東芝機械株式会社製)」にて、ガラス繊維「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」をサイドフィーダーから添加量が50質量%となるように供給しながら、シリンダー温度280℃で溶融混練してペレット化したポリアミド系樹脂組成物を得た。
【0083】
アルミニウム合金片を保管して2日後、合金片を取り出し、油分等が付着せぬよう手袋で摘まんで射出成形金型にインサートした。射出成形金型の構造図を図1に示したが、図内で1はアルミニウム合金片、2は可動側型板、3は固定側型板、4は樹脂が射出されるキャビティー部、5はピンポイントゲート、6は接合面を示した。射出接合が為されると図2で示す一体化物が得られる。図2で1はアルミニウム合金片(1.6mm×45.0mm×18.0mm)、4は樹脂部(3mm×50mm×10mm)、5はピンポイントゲート、6は接合面(5mm×10mm)である。接合面の面積は0.5cm^(2)であった。金型を閉め、ガラス繊維50%含有の前記ナイロン系樹脂組成物を射出し、図2で示す一体化品を得た。」

(2)甲3-1発明及び甲3-2発明
上記(1)の記載、特に、実施例1(【0080】?【0083】)の記載によれば、甲3には、次の2つの発明が記載されていると認められる。

<甲3-1発明>
「アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%からなる、ISO307標準方法に従った96%硫酸での粘度数が85ml/gで、フローテスター「CFT-500(株式会社島津製作所製)にての温度270℃、荷重98.1N(10kgf)の条件下での溶融粘度が380ポイズのブロックポリマーである共重合ポリアミドと、添加量が50質量%のガラス繊維「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」とからなるポリアミド系樹脂組成物。」

<甲3-2発明>
「ポリアミド系樹脂組成物からの部品を成形する際に、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%からなる、ISO307標準方法に従った96%硫酸での粘度数が85ml/gで、フローテスター「CFT-500(株式会社島津製作所製)にての温度270℃、荷重98.1N(10kgf)の条件下での溶融粘度が380ポイズのブロックポリマーである共重合ポリアミドと、添加量が50質量%のガラス繊維「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」とからなるポリアミド系樹脂組成物を使用する方法。」

2.対比及び判断
第5-2の2.で記載したとおり、本件発明2は、本件発明3をさらに限定した発明に相当する。
したがって、事案に鑑み、本件発明2を実質的に含む発明である本件発明3についての対比・判断を先に記載する。

(1)本件発明3
ア 対比
本件発明3と甲3-1発明を対比する。
甲3-1発明における「アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%からなる、ISO307標準方法に従った96%硫酸での粘度数が85ml/gで、フローテスター「CFT-500(株式会社島津製作所製)にての温度270℃、荷重98.1N(10kgf)の条件下での溶融粘度が380ポイズのブロックポリマーである共重合ポリアミド」は、本件発明1における「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド」であって、(A)ポリアミドが、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」のうちの後者である場合に相当する。
そして、甲3-1発明のポリアミド系樹脂組成物は、本件発明3において「除く」とされている、「炭素数6?30の高級脂肪酸と炭素数6?30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩」は含まれていないし、本件発明3のポリアミド系樹脂組成物は、「ガラス繊維」のような無機充填材を含んでいてもよいと認められる。

したがって、本件発明3と甲3-1発明は、
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド、を含有する部品用ポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6?30の高級脂肪酸と炭素数6?30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)」
で一致し、
以下の点で相違している。

<相違点1’>
(A)のポリアミドについて、本件発明3では、「ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」を満たすものであることが特定されている(つまり、第3で記載した「(x)の条件」及び「式(Y)条件」を満たすものであることが特定されている)のに対して、甲3-1発明では、かかる特定はなされておらず、(A)のポリアミドが、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たすものであるかは不明である点。

<相違点2’>
本件発明3においては、ポリアミド樹脂組成物が「(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩」を「含有する」と特定されているのに対し、甲3-1発明では、「(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩」は含有しない点。

イ 判断
まず、相違点1’について検討すると、申立人従業員高村元が平成29年6月26日付けで作成した甲4である「実験報告書」の表2によれば、甲3-1発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる共重合ポリアミド樹脂に、(x)及び(Y)の数値が0.18及び-0.2であるものが包含されていることは明らかであり、これらは本件発明3における「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たしていない。
また、甲3-1発明が解決しようとする課題は、甲3の特許請求の範囲の記載及び【0007】の記載からみて、「アルミニウム合金と主成分がポリアミド樹脂の熱可塑性合成樹脂組成物との接合強度を強くした、アルミ合金と樹脂の複合体及びその製造方法を提供すること」、及び、「アルミニウム合金と主成分がポリアミド樹脂の熱可塑性合成樹脂組成物との接合するときに生産性が高い、アルミ合金と樹脂の複合体及びその製造方法を提供すること」であるが、甲3には、当該課題との関係において、ポリアミド樹脂を、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたものとすることについては記載されていないし、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」において特定される(x)や(Y)の値、(Y)の値の算出のために使用される(EG)の値自体についての記載もない。
そうすると、甲3の記載からは、甲3-1発明において、部品用ポリアミド系樹脂組成物を構成するポリアミドを、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたものとすることは、動機付けられない。
また、申立人が提出した他の各甲号証を参酌しても同様である。

一方、本件特許明細書の表1及び表2の実施例及び比較例の記載によれば、本件発明3のように、ポリアミドとして、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたポリアミド系樹脂組成物とすることで、この範囲外のポリアミドを使用する場合に比べて、本件特許明細書の【0083】で定義されるハイサイクル成形の外観安定性が優れたものとなることが理解でき、この点の効果は、甲3には記載も示唆もなく、甲3の記載からは当業者が予期し得ない効果である。

そうすると、甲3-1発明から、相違点1’に係る構成を備えた本件発明3とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。

以上のとおりであるから、相違点2’について判断するまでもなく、本件発明3について、甲3-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2
第5-2の2.で記載したとおり、本件発明2は、本件発明3において、ポリアミド(A)について特定の2種のポリアミドのいずれかとされていたのを、2種のうちの一方に限定した発明に相当したものであり、本件発明2と甲3-1発明を対比すると、両者は、少なくとも、(1)で記載した相違点1’で相違している。
そして、(1)で記載したとおりの理由によって、甲3-1発明から、相違点1’に係る構成を備えた本件発明2とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。
よって、本件発明2について、甲3-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明4ないし8
本件発明4ないし8は、本件発明2を直接的又は間接的に引用するものであって、本件発明2における相違点1’に係る構成(「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」)をその発明特定事項として備えるものである。
そうすると、本件発明4ないし8は、(2)で記載した本件発明2と同様に判断され、本件発明4ないし8は、甲3-1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明9
(1)のアで検討した点を踏まえて本件発明9と甲3-2発明を対比すると、両者は、
「ポリアミド樹脂組成物を成形する際に、
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド
を、含有するポリアミド樹脂組成物を使用する方法。」
で一致し、下記の相違点3で相違する。

<相違点3>
本件発明9は、ポリアミド樹脂組成物を成形する際に、
「ポリアミド(A)として、ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミド」
であって、
「(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」
であるもの(つまり、第3で記載した「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たす(A)ポリアミド)を使用することにより、「成形体の外観を安定化する方法」であるのに対して、甲3-2発明は、(A)のポリアミドが、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を満たすものであるとの特定はなく、また、「ポリアミド樹脂組成物を使用する方法」の発明である点。

相違点3について検討する。
本件発明9の「外観安定性」は、本件特許明細書の【0083】に記載されているとおり、ハイサイクル成形により得られた成形体(ISO試験片)について、「外観安定性=((1):20?30ショットISO試験片のグロス平均値)-((2):90?100ショットISO試験片のグロス平均値)」の計算式から求められる差を指標として評価されるものであり、本件発明9は、ハイサイクル成形に基づく外観安定性を改善する方法に関するものであるが、甲3には、本件発明9のように「外観を安定化」することについて、記載も示唆もなく、甲3-2発明からは、本件発明9の「成形体の外観を安定化する方法」は導き出せないし、(1)で記載したとおり、甲3の記載からは、ポリアミド系樹脂組成物を構成するポリアミドを、「(x)の条件」及び「式(Y)の条件」を備えたものとすることは動機付けられない。
また、申立人が提出した他の各甲号証を参酌しても同様である。

よって、本件発明9は、甲3-2発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.小括
以上のとおり、本件発明2ないし9について、甲3に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。


第5-4 明確性違反に基づく特許異議申立理由
申立人は、申立書において、本件訂正前の請求項1ないし9に係る発明(訂正後の本件発明1ないし9に、それぞれ対応するが、請求項1は削除された。)について、本件特許明細書の実施例に記載される(Y)の範囲は0.15?0.57であるから、実施例を参酌しても、何故(Y)を-0.3≦(Y)≦0.8と定めたのか、その理由が不明であり、技術的意味が理解できないから、訂正前の請求項1ないし9に係る発明は明確でないと主張する。
そこで検討すると、訂正後の本件発明2ないし9は、(Y)が0.05≦(Y)≦0.8であるところ、本件特許明細書の【0019】及び【0081】には、(Y)の定義及びその算出の前提となる各種パラメーターの測定法が明確に記載されているし、(Y)の範囲を0.05≦(Y)≦0.8とする点の技術的意味についても、本件特許明細書の【0020】?【0023】)に明確に記載されている。
よって、本件発明2ないし9は明確であるといえ、この点の申立人の主張は採用できない。

また、申立人は、申立書において、本件訂正前の請求項9に係る発明における「成形体の外観を安定化する方法」なる記載は、何を基準として、どの程度成形体の外観が安定化すれば、本件特許の請求項9の技術的範囲に属するのかが明確ではないから、請求項1ないし9に係る発明は明確でないと主張する。
しかしながら、訂正後の請求項9の、「(A):(a)・・・からなる単位と、(b)・・・とからなる単位と、を、含むポリアミドであって、当該(A)ポリアミドが、・・・からなるポリアミド、または、・・・からなるポリアミドと、(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、を、含有するポリアミド樹脂組成物を成形する際に、前記ポリアミド(A)として、・・・(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、かつ、・・・(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドを使用することにより、・・・成形体の外観を安定化する方法。」(「・・・」部分は全体の構造が分かりやすくなるように合議体が省略した。)なる記載によれば、本件発明9が、特定の組成の(A)ポリアミドと(B)とを含有するポリアミド樹脂組成物を成形する際に、(A)ポリアミドとして、特定の(x)値及び(Y)値を満足するものを使用することで、ポリアミド樹脂組成物であって、(A)ポリアミドが特定の(x)値及び(Y)値を満足しないものを使用した場合に比べて、成形体の外観が安定化することに特徴を有する発明であることは明らかであるし、本件特許明細書の【0083】には、成形体の外観安定性の評価方法が明確に記載されており、当業者は、本件発明9の「安定化」が、当該評価方法により得られた評価結果が改善することを意味することを理解できる。
よって、本件発明9は明確であるといえ、この点の申立人の主張も採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明2ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明2ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

さらに、本件発明1に係る特許は、訂正により削除されたため、本件発明1に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリアミド樹脂組成物及び成形品
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、成形加工性、機械物性、耐薬品性に優れていることから、従来から、衣料用、産業資材用、自動車用、電気・電子用又は工業用等の様々な部品材料として広く用いられている。
【0003】
近年、ポリアミド樹脂を用いた成形体は、生産性を向上させるために、成形温度を高くし、金型温度を下げて行うハイサイクル成形条件で成形する場合がある。
また、ポリアミド樹脂は自動車分野で広く採用されているが、このような用途では、使用環境が熱的、力学的に厳しく、特にドアミラー等に代表される自動車外装部品では衝撃特性と、表面外観性との両方を要求される場合が多く、更には難燃性にも優れるポリアミド樹脂材料が要求されているのが現状である。
【0004】
一方、高温条件下で成形を行うと、ポリアミド樹脂の分解が発生したり、流動性変化が生じたりすることにより安定して成形体が得られない場合があるという問題がある。
よって、特に、上述したようなハイサイクル成形時の成形品表面外観の安定性、更には耐衝撃特性を向上させた、過酷な成形条件下においても物性変化が少ないポリアミド樹脂が要求されている。
【0005】
このような要求に応えるため、成形品の表面外観及び機械特性を向上させることができる材料として、イソフタル酸成分を導入したポリアミド66/6Iからなるポリアミドが開示されている(例えば、特許文献1乃至4参照。)。
また、耐衝撃性を改良することができる材料として、テレフタル酸成分と、イソフタル酸成分とを導入したポリアミド6T/6Iからなるポリアミド開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-32976号公報
【特許文献2】特開平6-32980号公報
【特許文献3】特開平7-118522号公報
【特許文献4】特開2000-219808号公報
【特許文献5】特開2000-191771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1乃至4に開示された技術で製造されたポリアミドは、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が、ポリアミド鎖中でブロックに共重合されている比率が高いため、一般的な成形条件下での成形品の表面外観性は改良されるものの、ハイサイクル成形条件のような過酷な成形条件下では、成形表面の外観低下、及び安定性が低下してしまう場合がある。
【0008】
また、特許文献1乃至4に開示された技術で製造されたポリアミドは、弾性率等の機械特性は改良されるものの、前記の通り、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が、ポリアミド鎖中でブロックに共重合されている比率が高いため、そのポリマー構造起因により、すなわちポリアミド鎖中でブロックに共重合されている6I鎖単位の比率が高い構造を有していることにより、耐衝撃特性が低下してしまう場合がある。
【0009】
さらに、前記特許文献5に開示された製造技術で製造されたポリアミドは、耐衝撃特性は改良されるものの、成形表面外観性が低下する問題を有している。
【0010】
上述したように、従来技術で得られるポリアミド66/6Iでは、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が理想的なランダム共重合体に比べて、ブロックに共重合されている比率が高いため、機械特性のバランスを保持しつつ、成形品表面外観の安定性を維持し、耐衝撃特性を向上させることが困難な場合があり、成形品表面外観の安定性、耐衝撃特性に優れ、かつ過酷な成形条件下で成形した場合においても物性変化が少ないポリアミドは未だ知られていないのが実情である。
また、ポリアミドの特徴である、機械特性のバランスを保持しつつ、成形品表面外観の安定性を維持することが困難であり、このようなポリアミドが要望されている。
【0011】
そこで本発明においては、上記事情に鑑み、過酷な成形条件下において成形した場合においても、成形体の表面外観の安定性が良好で、耐衝撃特性に優れ、且つ、難燃性にも優れるポリアミド樹脂組成物と、それを含む成形品とを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記ポリアミド66/6I特有の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位とを含むポリアミドにおいて、ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)の範囲を特定し、かつ、(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量としたときの、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位がブロック化した指標である(Y)、{(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)]}の値の数値範囲を特定したポリアミド(A)と、ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩(B)と、を含有するポリアミド樹脂組成物が、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0013】
〔2〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、を含有するポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6?30の高級脂肪酸と炭素数6?30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)。
〔3〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド、であり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、を含有するポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6?30の高級脂肪酸と炭素数6?30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)。
〔4〕
前記ホスフィン酸塩が、下記一般式(I)で表される化合物であり、
前記ジホスフィン酸塩が、下記一般式(II)で表される化合物である、〔2〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
【化1】

【化2】

(一般式(I)及び一般式(II)中、
R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ独立して、炭素数1?6のアルキル基、炭素数6?12のアリール基、及び炭素数7?20のアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、
R^(5)は、炭素数1?10のアルキレン基、炭素数6?10のアリーレン基、炭素数7?20のアルキルアリーレン基、及び炭素数7?20のアリールアルキレン基からなる群から選択される基であり、
Mは、カルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)及び亜鉛(イオン)からなる群から選択される金属(イオン)であり、
mは2又は3であり、nは1又は3であり、xは1又は2である。)
〔5〕
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部である、〔2〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔6〕
(C)難燃助剤と、
(D)無機充填材と、をさらに含有し、
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部であり、
前記(C)難燃助剤の含有量が0.1?30質量部であり、
前記(D)無機充填材の含有量が1?200質量部である、〔2〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔7〕
前記(C)難燃助剤が、ホウ酸亜鉛及び/又は水酸化マグネシウムである、〔6〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔8〕
〔2〕に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。
〔9〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドと、
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物を成形する際に、
前記ポリアミド(A)として、ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドを使用することにより、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
成形体の外観を安定化する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、過酷な成形条件下において成形した場合においても、表面外観が安定しており、かつ耐衝撃特性、難燃性にも優れるポリアミド樹脂組成物及び成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ブロック化比率(Y)とポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)との関係を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
〔ポリアミド樹脂組成物〕
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、 (Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、を含有するポリアミド樹脂組成物である。
以下、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の構成成分について説明する。
【0018】
((A)ポリアミド)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミド(以下、(A)ポリアミド、ポリアミド(A)、又は単にポリアミドと記載する場合もある。)は、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含む。
当該(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)は、0.05≦(x)≦0.5であり、好ましくは0.05≦(x)≦0.4であり、さらに好ましくは0.05≦(x)≦0.3である。
ここで、(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)とは、ポリアミド中に含まれる(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位の比率を示している。
前記イソフタル酸成分比率(x)が0.05以上であると、ポリアミドの融点、固化温度が抑制され、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の成形体表面外観性が安定的なものとなる。また、イソフタル酸成分比率(x)が0.5以下であるとポリアミドの結晶性の低下を抑制でき、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の成形体において十分な機械的強度が得られる。
【0019】
前記(A)ポリアミドは、下記式(1)で示される(Y)の範囲が、-0.3≦(Y)≦0.8である。
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
式(1)中、(x)は、上述したように、(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率であり、ポリアミド中における(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位の比率を示す。
(EG)は、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2)
【0020】
前記式(1)において、(Y)は、全カルボキシル末端基において、イソフタル酸末端基がどれだけ選択的に存在しているかを表す指標である(以下、「ブロック化比率(Y)」とも表記する。)。
【0021】
(A)ポリアミド中における、全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)と、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)には相関性があり、すなわちブロック化比率(Y)は、ポリアミド66/6I中の6I鎖単位が理論値(x=EG)に対して、どれだけブロック化に移行、すなわちどれだけポリアミド中の6I鎖単位の比率が高くなっており、イソフタル酸末端基比率が高くなっているかを示す指標でもある。
【0022】
従って、前記式(1)の分母[1-(x)]は、(A)ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸末端基以外の末端基比率であり、前記式(1)の分子[(EG)-(x)]は、理論上のイソフタル酸末端基比率(=イソフタル酸成分比率)との差分イソフタル酸末端基比率、すなわち実際のイソフタル酸末端基比率と理論上のイソフタル酸末端基比率との差分となるため、前記式(1)により、ブロック化比率の指標である(Y)を求めることができる。
後述の実施例及び比較例に基づくポリアミドの、前記ブロック化比率(Y)とポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)との関係を表した図を図1に示す。
図1の説明を下記に示す。
横軸:全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)
縦軸:全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)
実線の四角形で囲まれた領域:二つの四角全体により囲まれた領域が0.05≦(x)≦0.5であり、かつ-0.3≦(Y)≦0.8である領域。図1中上側の四角形のみに囲まれた領域が0.05≦(x)≦0.5であり、かつ0.05≦(Y)≦0.8である領域。
一点鎖線:(EG)=(x)
破線量矢印:[(EG)-(x)]と[1-(x)]の関係を示す。
◇:後述する実施例に用いたポリアミド
■:後述する比較例に用いたポリアミド
【0023】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドにおいて、前記ブロック化比率(Y)は-0.3≦(Y)≦0.8であり、好ましくは0.05≦(Y)≦0.8であり、より好ましくは0.05≦(Y)≦0.7であり、さらに好ましくは0.1≦(Y)≦0.6の範囲である。
イソフタル酸成分比率(x)を上記範囲内とし、かつ前記(Y)の範囲を-0.3≦(Y)≦0.8とすることにより、本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、過酷な成形条件下における成形体表面外観の安定性、耐衝撃特性が優れ、成形条件変更による離型性低下が少ないものとなる。
ポリアミド中のイソフタル酸成分比率(x)、イソフタル酸末端基量、及び全カルボキシル末端基量の定量方法は、特に制限されないが、核磁気共鳴法(NMR)により求めることができる。具体的には^(1)H-NMRにより求めることができる。
【0024】
<アジピン酸、イソフタル酸以外の共重合成分>
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドには、本実施形態の目的を損なわない範囲で、アジピン酸、イソフタル酸以外の、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、及びヘキサメチレンジアミン以外の主鎖から分岐した置換基を持つジアミン、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、重縮合可能なアミノ酸、ラクタム等を共重合成分として用いることができる。
【0025】
前記脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、及びジグリコール酸等の炭素数3?20の直鎖又は分岐状飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0026】
前記脂環族ジカルボン酸としては、例えば、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、及び1,3-シクロペンタンジカルボン酸等の、脂環構造の炭素数が3?10である、好ましくは炭素数が5?10である、脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。
脂環族ジカルボン酸は、無置換でも置換基を有していてもよい。
【0027】
前記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、及び5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の、無置換又は種々の置換基で置換された炭素数8?20の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
種々の置換基としては、例えば、炭素数1?6のアルキル基、炭素数6?12のアリール基、炭素数7?20のアリールアルキル基、クロロ基及びブロモ基等のハロゲン基、炭素数3?10のアルキルシリル基、並びにスルホン酸基及びナトリウム塩等のその塩である基等が挙げられる。
【0028】
前記ヘキサメチレンジアミン以外の主鎖から分岐した置換基を持つジアミンとしては、例えば、2-メチルペンタメチレンジアミン(2-メチル-1,5-ジアミノペンタンとも記される。)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルオクタメチレンジアミン、及び2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン等の炭素数3?20の分岐状飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0029】
前記脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、及びトリデカメチレンジアミン等の炭素数2?20の直鎖飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0030】
前記芳香族ジアミンとしては、例えば、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0031】
前記重縮合可能なアミノ酸としては、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等が挙げられる。
【0032】
前記ラクタムとしては、例えば、ブチルラクタム、ピバロラクタム、カプロラクタム、カプリルラクタム、エナントラクタム、ウンデカノラクタム、ドデカノラクタム等が挙げられる。
【0033】
上述したジカルボン酸成分、ジアミン成分、アミノ酸成分、及びラクタム成分は、それぞれ1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0034】
<末端封止剤>
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミド及びその他の共重合成分を重合させたポリアミド共重合体の原料として、分子量調節や耐熱水性向上のために、末端封止剤を更に添加することができる。
例えば、本実施形態に用いるポリアミド、又は上述したポリアミド共重合体を重合する際に、公知の末端封止剤を更に添加することにより、重合量を制御することができる。
【0035】
前記末端封止剤としては、特に限定されないが、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、無水フタル酸等の酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、及びモノアルコール類等が挙げられる。
それらの中でもモノカルボン酸及びモノアミンが好ましい。
これらの末端封止剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
前記末端封止剤として用いられるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するモノカルボン酸であれば特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、及びイソブチル酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸などの脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、及びフェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;等が挙げられる。
これらのモノカルボン酸は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
前記末端封止剤として用いられるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するモノアミンであれば特に限定されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン及びジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン及びジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン及びナフチルアミン等の芳香族モノアミン;等が挙げられる。
これらのモノアミンは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
((A)ポリアミドの製造方法)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドの製造方法としては、上述したようにその他の共重合成分を有するポリアミド共重合体である場合を含めて、前記全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が0.05≦(x)≦0.5であり、上記式(1)におけるブロック化比率の指標である(Y)の範囲が-0.3≦(Y)≦0.8、好ましくは0.05≦(Y)≦0.8となるようなポリアミド(又はポリアミド共重合体)が得られればよい。
ポリアミドの製造方法としては、例えば、アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(熱溶融重合法);熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(熱溶融重合・固相重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、析出したプレポリマーをさらにニーダー等の押出機で再び溶融させて重合度を上昇させる方法(プレポリマー・押出重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物、固体塩又は重縮合物を、固体状態を維持したまま重合(固相重合法)させる方法等が挙げられる。
全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)を上記数値範囲内に制御するための方法としては、原料の仕込み量の調整、重合条件の調整が有効である。
上記式(1)におけるブロック化比率の指標となる(Y)を上記数値範囲内に制御するためには、イソフタル酸成分のブロック化を制御することが必要である。具体的には、重合系内で、溶融状態を維持しながら、圧力を適宜調整し、重合温度を好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上としながら、均一混合下において重縮合反応を進め、最終重合内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるような条件下で重合させる熱溶融重合法を用いることにより制御することができる。
【0039】
重合形態としては、特に限定されず、バッチ式、連続式のいずれでもよい。
また、重合装置も特に限定されず、公知の装置、例えば、オートクレーブ型の反応器、タンブラー型反応器、ニーダー等の押出機型反応器等を用いることができる。
【0040】
上述したように、(Y)が-0.3≦(Y)≦0.8の範囲となるようにするには、熱溶融重合法が好ましく、より好ましくはバッチ式の熱溶融重合法が挙げられる。
バッチ式の熱溶融重合法の一例について以下に説明する。
重合温度条件については特に限定されないが、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上である。
例えば、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は水溶液を110?200℃の温度下で攪拌し、約60?90%まで水蒸気を徐々に抜いて加熱濃縮する。
その後、内部圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
その後、水及び/又はガス成分を除きながら、圧力を約1.5?5.0MPa(ゲージ圧)に保ち、内部温度が好ましくは240℃以上、より好ましくは245℃以上に達した時点で、水及び/又はガス成分を除きながら圧力を徐々に抜き、最終内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるように、常圧で又は減圧して重縮合を行う熱溶融重合法を用いることができる。
さらには、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は重縮合物を融点以下の温度で熱重縮合させる固相重合法等も用いることができる。これらの方法は必要に応じて組み合わせてもよい。
【0041】
ニーダー等の押出型反応機を用いる場合、押出の条件は、減圧度は0?0.07MPa程度が好ましい。
押出温度は、JIS-K7121に準じた示差走査熱量(DSC)測定で求まる融点よりも1?100℃程度高い温度が好ましい。
剪断速度は、100(sec^(-1))以上程度であることが好ましく、平均滞留時間は0.1?15分程度が好ましい。
上記押出条件とすることにより、着色や高分子量化できない等の問題の発生を効果的に抑制できる。
【0042】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミド(ポリアミド共重合体を含む、以下同じ。)の製造においては、所定の触媒を用いることが好ましい。
触媒としては、ポリアミドに用いられる公知のものであれば特に限定されず、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、オルト亜リン酸、ピロ亜リン酸、フェニルホスフィン酸、フェニルホスホン酸、2-メトキシフェニルホスホン酸、2-(2’-ピリジル)エチルホスホン酸、及びそれらの金属塩等が挙げられる。
金属塩の金属としては、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモンなどの金属塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
また、エチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステル等のリン酸エステル類も用いることができる。
【0043】
((A)ポリアミドの物性)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドは、蟻酸溶液粘度(JIS K 6816)が、好ましくは10?30である。
蟻酸溶液粘度が10以上であると、実用上十分な機械的特性を有する成形体が得られ、蟻酸溶液粘度が30以下であると、成形時の流動性が良好なものとなり、表面外観性に優れた成形体が得られる。
【0044】
((B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、前記(A)ポリアミドと、(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩(以下、両者を総称して「(B)ホスフィン酸塩」と略称する場合がある。)と、を含有するポリアミド樹脂組成物である。
ホスフィン酸塩としては、例えば、下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【化3】

ジホスフィン酸塩としては、例えば、下記一般式(II)で表される化合物が挙げられる。
【化4】

一般式(I)及び一般式(II)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ独立して、炭素数1?6のアルキル基、炭素数6?12のアリール基、及び炭素数7?20のアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、R^(5)は、炭素数1?10のアルキレン基炭素数6?10のアリーレン基、炭素数7?20のアルキルアリーレン基、及び炭素数7?20のアリールアルキレン基からなる群から選択される基であり、Mは、カルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)及び亜鉛(イオン)からなる群から選択される金属(イオン)であり、mは2又は3であり、nは1又は3であり、xは1又は2である。
【0045】
本実施形態において、アルキル基としては、直鎖又は分岐状飽和脂肪族基が挙げられる。
本実施形態において、アリール基としては、無置換又は種々の置換基で置換された炭素数6?20の芳香族基を挙げることができ、フェニル基、ベンジル基、o-トルイル基、2,3-キシリル基などが挙げられる。
【0046】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、(B)ホスフィン酸塩を含有することにより、耐熱性、流動性、靭性、低吸水性、及び剛性に優れるポリアミド共重合体の性質を損なうことなく、ポリアミド樹脂組成物としても、耐熱性、流動性、靭性、低吸水性、及び剛性に優れ、さらに難燃性に優れるポリアミド樹脂組成物とすることができる。
また、本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、(B)ホスフィン酸塩を含有しても、耐光性に優れ、ポリアミド樹脂組成物の色調としても優れるものである。
【0047】
本実施形態において用いられる(B)ホスフィン酸塩としては、欧州特許出願公開第699708号公報や特開平8-73720号公報などに記載されているように、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物又は金属酸化物などの金属成分を用いて水溶液中で製造することができる。
これらは、本質的にモノマー性化合物であるが、反応条件に依存して、環境によっては縮合度が1?3のポリマー性ホスフィン酸塩も含まれる。
【0048】
(B)ホスフィン酸塩におけるホスフィン酸及びジホスフィン酸としては、例えば、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル-n-プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸及びジフェニルホスフィン酸などが挙げられる。
【0049】
(B)ホスフィン酸塩における金属イオン成分としては、例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及び亜鉛イオンなどが挙げられる。
【0050】
(B)ホスフィン酸塩としては、例えば、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メチレンビス(メチルホスフィン酸)カルシウム、メチレンビス(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メチレンビス(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メチレンビス(メチルホスフィン酸)亜鉛、フェニレン-1,4-ビス(メチルホスフィン酸)カルシウム、フェニレン-1,4-ビス(メチルホスフィン酸)マグネシウム、フェニレン-1,4-ビス(メチルホスフィン酸)アルミニウム、フェニレン-1,4-ビス(メチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、及びジフェニルホスフィン酸亜鉛などが挙げられる。
これら(B)ホスフィン酸塩を1種類で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
(B)ホスフィン酸塩としては、ポリアミド樹脂組成物の難燃性及び電気特性の観点から、また、ホスフィン酸塩合成の観点から、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、及びジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。
【0052】
(B)ホスフィン酸塩としては、ポリアミド樹脂組成物を成形して得られる成形品の靭性及び剛性などの機械物性並びに成形品外観の点で、(B)ホスフィン酸塩の粒径を100μm以下に粉砕した粉末として用いることが好ましく、50μm以下に粉砕した粉末として用いることがより好ましい。
特に、平均粒径0.5?20μmの粉末状の(B)ホスフィン酸塩を用いると、高い難燃性を発現するポリアミド樹脂組成物を得ることができるばかりでなく、成形品の強度が著しく高くなるのでさらに好ましい。
本実施形態において、平均粒径は、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置や精密粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0053】
(B)ホスフィン酸塩としては、必ずしも完全に純粋である必要はなく、未反応物あるいは副生成物が多少残存していてもよい。
【0054】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、(C)難燃助剤、(D)無機充填材のいずれか、または両方をさらに含有してもよい。
((C)難燃助剤)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、(C)難燃助剤をさらに含有することにより、さらに難燃性に優れるポリアミド樹脂組成物とすることができる。
【0055】
(C)難燃助剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウムなどの酸化アンチモン類;一酸化スズ、二酸化スズなどの酸化スズ類;酸化第二鉄、γ酸化鉄などの酸化鉄類;その他酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化アルミニウム(ベーマイト)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化銅、及び酸化タングステンなどの金属酸化物;水酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物;アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、亜鉛、モリブデン、コバルト、ビスマス、クロム、スズ、アンチモン、ニッケル、銅、及びタングステンなどの金属粉末;炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び炭酸バリウムなどの金属炭酸塩;ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、及びホウ酸アルミニウムなどの金属ホウ酸塩;並びにシリコーン;などが挙げられる。
(C)難燃助剤としては、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化アルミニウム(ベーマイト)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニッケル、酸化銅、及び酸化タングステンなどの金属酸化物;水酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物;アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、亜鉛、モリブデン、コバルト、ビスマス、クロム、スズ、アンチモン、ニッケル、銅、及びタングステンなどの金属粉末;炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び炭酸バリウムなどの金属炭酸塩;ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、及びホウ酸アルミニウムなどの金属ホウ酸塩;並びにシリコーンなどが好ましい。
これら(C)難燃助剤を1種類で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
(B)ホスフィン酸塩とともに用いられる(C)難燃助剤としては、難燃性の観点から、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、水酸化アルミニウム(ベーマイト)、水酸化マグネシウム、及びホウ酸亜鉛などの金属ホウ酸塩などが好ましく、ホウ酸亜鉛及び/又は水酸化マグネシウムであることがより好ましい。
ホウ酸亜鉛としては、より好ましくは、xZnO・yB_(2)O_(3)・zH_(2)O(x>0、y>0、z≧0)で表されるホウ酸亜鉛、さらに好ましくは、2ZnO・3B_(2)O_(3)・3.5H_(2)O、4ZnO・B_(2)O_(3)・H_(2)O、及び2ZnO・3B_(2)O_(3)で表されるホウ酸亜鉛が挙げられる。
これら金属ホウ酸塩はシラン系カップリング剤及びチタネート系カップリング剤なの表面処理剤で処理されていてもよい。
(C)難燃助剤の平均粒径は、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは15μm以下であり、さらに好ましくは7μm以下である。
【0057】
((D)無機充填材)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、(D)無機充填材をさらに含有することにより、靭性及び剛性などの機械物性にさらに優れるポリアミド樹脂組成物とすることができる。
【0058】
本実施形態において用いられる(D)無機充填材としては、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、シリカ、ゼオライト、アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、黄銅、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、鉄、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、及びアパタイトなどが挙げられる。
(D)無機充填材としては、1種類で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
(D)無機充填材としては、剛性及び強度などの観点で、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、炭酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、シリカ、カーボンナノチューブ、グラファイト、フッ化カルシウム、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、及びアパタイトなどが好ましい。
【0060】
(D)無機充填材としては、ガラス繊維や炭素繊維がより好ましく、ガラス繊維や炭素繊維の中でも、数平均繊維径が3?30μmであり、重量平均繊維長が100?750μmであり、重量平均繊維長(L)と数平均繊維径(D)とのアスペクト比(L/D)が10?100であるものが、高い特性を発現するという観点からさらに好ましく用いられる。
また、(D)無機充填材としては、ウォラストナイトがより好ましく、ウォラストナイトの中でも、数平均繊維径が3?30μmであり、重量平均繊維長が10?500μmであり、前記アスペクト比(L/D)が3?100であるものがさらに好ましく用いられる。さらに、(D)無機充填材としては、タルク、マイカ、カオリン、及び窒化珪素などがより好ましく、タルク、マイカ、カオリン、及び窒化珪素などの中でも、数平均繊維径が0.1?3μmであるものがさらに好ましく用いられる。
【0061】
(D)無機充填材の数平均繊維径及び重量平均繊維長の測定は、ポリアミド樹脂組成物の成形品をギ酸などの、ポリアミドが可溶な溶媒で溶解し、得られた不溶成分の中から、例えば100本以上の無機充填材を任意に選択し、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡などで観察し、求めることができる。
【0062】
(各成分の含有量)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物において、ポリアミド樹脂組成物中の(B)ホスフィン酸塩の含有量、及び、任意に添加できる、(C)難燃助剤及び/又は(D)無機充填材の含有量は、特に限定されるものではない。
ポリアミド樹脂組成物中の(B)ホスフィン酸塩の含有量は、(A)ポリアミド100質量部に対して、好ましくは20?90質量部であり、より好ましくは25?80質量部であり、さらに好ましくは30?60質量部である。
(B)ホスフィン酸塩の含有量を20質量部以上とすることにより、難燃性に優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。また、(B)ホスフィン酸塩の含有量を90質量部以下とすることにより、成形加工時の流動性の低下を抑制することができる。さらに剛性などの機械物性や成形品外観の低下を抑制することができる。
【0063】
また、本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、(C)難燃助剤と、(D)無機充填材1?200と、をさらに含有する場合、前記(A)ポリアミド100質量部に対して、前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部であり、前記(C)難燃助剤の含有量が0.1?30質量部であり、前記(D)無機充填材の含有量が1?200質量部であることが好ましい。
ポリアミド樹脂組成物中の(C)難燃助剤の含有量は、(A)ポリアミド100質量部に対して、好ましくは0.1?30質量部であり、より好ましくは1?30質量部であり、さらに好ましくは1?20質量部であり、特に好ましくは2?15質量部である。
(C)難燃助剤を前記範囲で含有することにより、さらに難燃性に優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。また、(C)難燃助剤の含有量を30質量部以下とすることにより、溶融加工時の粘度適切な範囲に制御することができ、押出時のトルクの上昇、成形時の成形性の低下及び成形品外観の低下を抑制することができる。また、剛性などの機械物性に優れるポリアミド共重合体の性質を損なうことなく、剛性などに優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0064】
ポリアミド樹脂組成物中の(D)無機充填材の含有量は、ポリアミド100質量部に対して、好ましくは1?200質量部であり、より好ましくは1?150質量部であり、さらに好ましくは5?150質量部である。
(D)無機充填材を前記範囲で含有することにより、ポリアミド樹脂組成物の靭性及び剛性などの機械物性が良好に向上し、また、(D)無機充填材の含有量を200質量部以下とすることにより、成形性に優れるポリアミド樹脂組成物を得ることができる。
【0065】
(成形性改良剤)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本実施形態の目的を損なわない範囲で、成形性改良剤を添加してもよい。
成形性改良剤としては、特に限定されないが、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、及び高級脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0066】
前記高級脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、エルカ酸、オレイン酸、ラウリン酸、及びモンタン酸等の炭素数8?40の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐状の脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。
これらの中でも、ステアリン酸及びモンタン酸が好ましい。
【0067】
前記高級脂肪酸金属塩とは、前記高級脂肪酸の金属塩である。
金属塩の金属元素としては、元素周期律表の第1,2,3族元素、亜鉛、及びアルミニウム等が好ましく、カルシウム、ナトリウム、カリウム、及びマグネシウム等の、第1,2族元素、並びにアルミニウム等がより好ましい。
高級脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、及びモンタン酸ナトリウム、パルミチン酸カルシウム等が挙げられる。
これらの中でも、モンタン酸の金属塩及びステアリン酸の金属塩が好ましい。
【0068】
前記高級脂肪酸エステルとは、前記高級脂肪酸とアルコールとのエステル化物である。
炭素数8?40の脂肪族カルボン酸と炭素数8?40の脂肪族アルコールとのエステルが好ましい。
脂肪族アルコールとしては、例えば、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、及びラウリルアルコール等が挙げられる。
高級脂肪酸エステルとしては、例えば、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル等が挙げられる。
【0069】
前記高級脂肪酸アミドとは、前記高級脂肪酸のアミド化合物である。
高級脂肪酸アミドとしては、例えば、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスオレイルアミド、N-ステアリルステアリルアミド、N-ステアリルエルカ酸アミド等が挙げられる。
高級脂肪酸アミドとしては、好ましくは、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリルアミド、及びN-ステアリルエルカ酸アミドであり、より好ましくはエチレンビスステアリルアミド及びN-ステアリルエルカ酸アミドである。
【0070】
これらの高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、及び高級脂肪酸アミドは、それぞれ1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0071】
(劣化抑制剤)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本実施形態の目的を損なわない範囲で、熱劣化、熱時の変色防止、耐熱エージング性、及び耐候性の向上を目的に劣化抑制剤を添加してもよい。
劣化抑制剤としては、特に限定されないが、例えば、酢酸銅及びヨウ化銅等の銅化合物;ヒンダードフェノール化合物等のフェノール系安定剤;ホスファイト系安定剤;ヒンダードアミン系安定剤;トリアジン系安定剤;及びイオウ系安定剤等が挙げられる。
これらの劣化抑制剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
(着色剤)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本実施形態の目的を損なわない範囲で、着色剤を添加してもよい。
着色剤としては、特に限定されないが、例えば、ニグロシン等の染料、酸化チタン及びカーボンブラック等の顔料;アルミニウム、着色アルミニウム、ニッケル、スズ、銅、金、銀、白金、酸化鉄、ステンレス、及びチタン等の金属粒子;マイカ製パール顔料、カラーグラファイト、カラーガラス繊維、及びカラーガラスフレーク等のメタリック顔料等が挙げられる。
【0072】
(その他の樹脂)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本実施形態の目的を損なわない範囲で、他の樹脂を添加してもよい。
このような樹脂としては、特に限定されるものではないが、後述する熱可塑性樹脂やゴム成分等が挙げられる。
【0073】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、アタクチックポリスチレン、アイソタクチックポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ナイロン6、66、612等の他のポリアミド(本実施形態に用いるポリアミド以外のポリアミド);
ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のポリエーテル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン等の縮合系樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の含ハロゲンビニル化合物系樹脂;フェノール樹脂;エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0074】
前記ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ネオプレン、ポリスルフィドゴム、チオコールゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SEB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIR)、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンランダム共重合体、水素添加スチレン-ブタジエンランダム共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンランダム共重合体、スチレン-エチレン-ブチレンランダム共重合体、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-(1-ブテン)共重合体、エチレン-(1-ヘキセン)共重合体、エチレン-(1-オクテン)共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)や、ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン-コアシェルゴム(ABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(MBS)、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-スチレン-コアシェルゴム(MAS)、オクチルアクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(MABS)、アルキルアクリレート-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレンコアシェルゴム(AABS)、ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(SBR)、メチルメタクリレート-ブチルアクリレートシロキサンをはじめとするシロキサン含有コアシェルゴム等のコアシェルタイプ等が挙げられる。
これらのゴム成分は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合せて用いてもよい。
【0075】
〔ポリアミド樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態のポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、(A)ポリアミドと(B)ホスフィン酸塩とを混合する方法であれば、特に限定されるものではない。また、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、(C)難燃助剤及び/又は(D)無機充填材をさらに混合する方法が挙げられる。さらに、上述したその他の添加剤をさらに混合してもよい。
(A)ポリアミドと(B)ホスフィン酸塩等との混合方法としては、例えば、(A)ポリアミド共重合体と(B)ホスフィン酸塩と、任意に、(C)難燃助剤及び/又は(D)無機充填材とをヘンシェルミキサーなどを用いて混合し溶融混練機に供給し混練する方法や、単軸又は2軸押出機で(A)ポリアミドと(B)ホスフィン酸塩と、任意に、(C)難燃助剤とを予めヘンシェルミキサーなどを用いて混合したものを溶融混練機に供給し混練した後に、任意に、サイドフィダーから(D)無機充填材を配合する方法などが挙げられる。
ポリアミド樹脂組成物を構成する成分を溶融混練機に供給する方法は、すべての構成成分を同一の供給口に一度に供給してもよいし、構成成分をそれぞれ異なる供給口から供給してもよい。
【0076】
溶融混練の温度は、好ましくは、(A)ポリアミドの融点より1?100℃程度高い温度、より好ましくは10?50℃程度高い温度である。
混練機での剪断速度は100sec^(-1)以上程度であることが好ましく、混練時の平均滞留時間は0.5?5分程度であることが好ましい。
溶融混練を行う装置としては、公知の装置、例えば、単軸又は2軸押出機、バンバリーミキサー、及びミキシングロールなどの溶融混練機が好ましく用いられる。
【0077】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物の製造する際の各成分の配合量は、上述したポリアミド樹脂組成物における各成分の含有量と同様である。
【0078】
〔ポリアミド樹脂組成物の成形品〕
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を成形することにより、所定の成形品が得られる。
成形品を得る方法としては、特に限定されず、公知の成形方法を用いることができる。
例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、及び金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の成形方法が挙げられる。
【0079】
〔用途〕
本実施形態の成形品は、上述したポリアミド樹脂組成物を含み、過酷な成形条件下における成形体の表面外観の安定性、耐衝撃特性、難燃性に優れ、様々な用途に用いることができる。
例えば、自動車分野、電気・電子分野、機械・工業分野、事務機器分野、航空・宇宙分野において、好適に用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
先ず、ポリアミドの構成要素、物性の測定方法、及び特性の評価方法を下記に示す。
〔測定方法〕
<ポリアミドのイソフタル酸成分比率、イソフタル酸末端基、及び全カルボキシル末端基の定量>
ポリアミドを用いて、^(1)H-NMRにより求めた。
溶媒として重硫酸を用いた。
装置は日本電子製、「ECA400型」を用いた。
繰返時間は12秒、積算回数は64回で測定した。
各成分の特性シグナルの積分値より、イソフタル酸成分量、イソフタル酸末端基量、その他のカルボキシ末端基(例えばアジピン酸末端基)量を算出し、これらの値から、全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、及び上記式(1)のパラメータ(Y)をさらに算出した。
【0082】
<蟻酸溶液粘度>
ポリアミドを蟻酸に溶解し、JIS K6810に準じて測定した。
【0083】
<ハイサイクル成形時の外観安定性/グロス値の評価>
装置は日精樹脂(株)製、「FN3000」を用いた。
シリンダー温度を320℃、金型温度を70℃に設定し、射出17秒、冷却20秒の射出成形条件で、ポリアミド又はポリアミド組成物を用いて100ショットまで成形を行い、ISO試験片を得た。
得られた成形体(ISO試験片)の外観安定性は、堀場(株)製、ハンディ光沢度計「IG320」を用いてグロス値を測定し、下記方法により求めた。
外観安定性=((1):20?30ショットISO試験片のグロス平均値)-((2):90?100ショットISO試験片のグロス平均値)
上記の数値差が小さいほど、外観安定性に優れるものと判断した。
なお表1、2中、「(1)-(2)」とは、上記外観安定性の式により算出されるグロス値を示す。
【0084】
<衝撃特性 シャルピー衝撃強さの測定>
上記外観安定性試験で得られた20?25ショットISO試験片を用いて、ISO 179に準じてシャルピー衝撃強さ測定した。
測定値はn=6の平均値とした。
【0085】
<難燃性の評価>
UL94(米国Under Writers Laboratories Incで定められた規格)の方法を用いて測定を行った。なお試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚みは1/32インチ)は射出成形機(日精樹脂(株)製PS40E)にUL試験片の金型(金型温度=80℃)を取り付けて、シリンダー温度=290℃で、ポリアミド樹脂組成物を成形することにより作製した。射出圧力はUL試験片成形する際の完全充填圧力+2%の圧力で行った。難燃等級は、UL94規格(垂直燃焼試験)に準じた。
【0086】
〔(A)ポリアミド〕
<製造例1:ポリアミド(A1)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1237g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩263g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を、内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が245℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で650torrの減圧下に10分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0087】
<製造例2:ポリアミド(A2)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1132g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩368gを用いた。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0088】
<製造例3:ポリアミド(A3)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1044g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩456gを用いた。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0089】
<製造例4:ポリアミド(A4)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩816g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩684gを用いた。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0090】
<製造例5:ポリアミド(A5)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1237g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩263gを用いた。全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を添加しなかった。
その他の条件は、製造例1の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0091】
<製造例6:ポリアミド(A6)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1044g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩456gを用いた。全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を添加しなかった。
その他の条件は、製造例1の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0092】
<製造例7:ポリアミド(A7)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1114g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩386g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が245℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で400torrの減圧下に10分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0093】
<製造例8:ポリアミド(A8)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1114g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩368g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が245℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で650torrの減圧下に20分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は270℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0094】
<製造例9:ポリアミド(A9)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1109g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩368g、εカプロラクタム5g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が245℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で650torrの減圧下に10分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表1に示す。
【0095】
<製造例10:ポリアミド(A10)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1500g、全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が260℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、その後、オートクレーブ内を真空装置で650torrの減圧下に10分維持した。
このとき、重合の最終内部温度は290℃であった。
その後、オートクレーブ内を窒素で加圧し下部紡口(ノズル)から得られたポリマーをストランド状で排出し、水冷、カッティングを行いペレット状にして、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0096】
<製造例11:ポリアミド(A11)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1455g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩45gを用いた。
その他の条件は、製造例10と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0097】
<製造例12:ポリアミド(A12)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1237g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩263g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が260℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次にバルブを閉止し、ヒーターを切り、約8時間かけてオートクレーブの内部温度を常温まで冷却し、蟻酸溶液粘度7のポリアミドを得た。
得られたポリアミドを粉砕した後、内容積10Lのエバポレーターに入れ、窒素気流下、200℃で10時間固相重合した。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0098】
<製造例13:ポリアミド(A13)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩816g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩684gを用いた。
その他の条件は、製造例12と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0099】
<製造例14:ポリアミド(A14)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1220g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩280g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を、内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま2時間、オートクレーブの内部温度が260℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、1時間かけてオートクレーブ内の圧力を1MPaまで下げ、次にバルブを閉止し、ヒーターを切り、約8時間かけてオートクレーブの内部温度を常温まで冷却し、ポリアミドを得た。得られたポリアミドを粉砕した後、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0100】
<製造例15:ポリアミド(A15)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩570g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩930gを用いた。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0101】
<製造例16:ポリアミド(A16)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩570g、及びイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩930gを用いた。
全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を添加しなかった。
その他の条件は、製造例1と同様の方法によりポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0102】
<製造例17:ポリアミド(A17)の製造>
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1237g、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩263g、及び全等モル塩成分に対して0.5モル%過剰のアジピン酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。
この水溶液を内容積5.4Lのオートクレーブに仕込み、窒素置換した。
110?150℃の温度下で前記水溶液を撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。
その後、オートクレーブの内部温度を220℃に昇温した。
このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。
そのまま1時間、オートクレーブの内部温度が260℃になるまで加熱し、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次にバルブを閉止し、ヒーターを切り、約8時間かけてオートクレーブの内部温度を常温まで冷却し、蟻酸溶液粘度7のポリアミドを得た。
得られたポリアミドの全カルボン酸中のイソフタル酸成分比率(x)、全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)、上記式(1)で示されるパラメータ(Y)、蟻酸溶液粘度等のポリマー特性を上記記載の方法により測定及び算出した。これらを下記表2に示す。
【0103】
〔(B)ホスフィン酸塩〕
(B1)特開平08-73720号公報に記載されている製法を参考にして製造した、ジエチルホスフィン酸アルミニウム(DEPAl)。
【0104】
〔(C)難燃助剤〕
(C1)ホウ酸亜鉛(2ZnO・3B_(2)O_(3)・3.5H_(2)O、 U.S.Borax製 商品名 Firebrake(登録商標)ZB)
【0105】
〔(D)無機充填材〕
(D1)ガラス繊維(GF)(日本電気硝子製 商品名 ECS03T275H 平均繊維径10μmφ、カット長3mm)
【0106】
〔実施例1〕
東芝機械社製、TEM35mm2軸押出機(設定温度:前290℃、スクリュー回転数300rpm)を用いて、押出機最上流部に設けられたトップフィード口より製造例1で作成したポリアミド(A1)と、(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩、及び(C)難燃助剤を予めブレンドしたものを供給し、押出し機下流側(トップフィード口より供給された樹脂が十分溶融している状態)のサイドフィード口より(D)無機充填材を供給し、ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。配合量は(A)ポリアミド100質量部に対して、(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩45.0質量部、(C)難燃助剤7.0質量部、及び(D)無機充填材70.0質量部とした。
また、得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、上記記載の方法により成形品を製造し、ハイサイクル成形時の外観安定性、衝撃特性、難燃性の評価を行った。評価結果を下記表1に示す。
【0107】
〔実施例2?9、比較例1?7〕
製造例1のポリアミド(A1)に代えて、上述した製造例2?16のポリアミド(A2)?(A16)を用いた以外は、実施例1に記載した方法でポリアミド樹脂組成物を得た。
また、得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、上記記載の方法により成形品を製造し、ハイサイクル成形時の外観安定性、衝撃特性、難燃性の評価を行った。評価結果を下記表1及び表2に示す。
【0108】
〔比較例8〕
製造例1のポリアミド(A1)に代えて、製造例17のポリアミド(A17)を用いた以外は実施例1と同様に行った。しかしながら溶融粘度が低いため、押出加工性が悪く、ペレット状のポリアミド樹脂組成物を得ることができなかった。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
前記表1に示すように、実施例1?9のポリアミド樹脂組成物の成形品は、いずれも極めて優れた外観安定性、衝撃特性、難燃性を有することが確認された。
一方、(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8の範囲外である比較例3、4、5のポリアミド樹脂組成物の成形品、及び(x)が、0.05≦(x)≦0.5の範囲外である比較例1、2、6、7のポリアミド樹脂組成物の成形品は、表面外観の安定性が大きく低下することが確認された。なお、比較例8では成形品を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のポリアミド樹脂組成物及びこれを用いた成形品は、自動車分野、電気・電子分野、機械・工業分野、事務機器分野、航空・宇宙分野等において、産業上の利用可能性がある。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、を含有するポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6?30の高級脂肪酸と炭素数6?30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)。
【請求項3】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド、であり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドと、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、を含有するポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6?30の高級脂肪酸と炭素数6?30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)。
【請求項4】
前記ホスフィン酸塩が、下記一般式(I)で表される化合物であり、
前記ジホスフィン酸塩が、下記一般式(II)で表される化合物である、請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【化1】

【化2】

(一般式(I)及び一般式(II)中、
R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ独立して、炭素数1?6のアルキル基、炭素数6?12のアリール基、及び炭素数7?20のアリールアルキル基からなる群から選択される基であり、
R^(5)は、炭素数1?10のアルキレン基、炭素数6?10のアリーレン基、炭素数7?20のアルキルアリーレン基、及び炭素数7?20のアリールアルキレン基からなる群から選択される基であり、
Mは、カルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)及び亜鉛(イオン)からなる群から選択される金属(イオン)であり、
mは2又は3であり、nは1又は3であり、xは1又は2である。)
【請求項5】
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部である、請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
(C)難燃助剤と、
(D)無機充填材と、をさらに含有し、
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、
前記(B)ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩の含有量が20?90質量部であり、
前記(C)難燃助剤の含有量が0.1?30質量部であり、
前記(D)無機充填材の含有量が1?200質量部である、請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C)難燃助剤が、ホウ酸亜鉛及び/又は水酸化マグネシウムである、請求項6に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。
【請求項9】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該(A)ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドと、
(B):ホスフィン酸塩及び/又はジホスフィン酸塩と、
を、含有するポリアミド樹脂組成物を成形する際に、
前記ポリアミド(A)として、ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミドを使用することにより、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
成形体の外観を安定化する方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-13 
出願番号 特願2011-268972(P2011-268972)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 853- YAA (C08L)
P 1 651・ 852- YAA (C08L)
P 1 651・ 854- YAA (C08L)
P 1 651・ 851- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡辺 陽子  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 渕野 留香
小柳 健悟
登録日 2016-12-22 
登録番号 特許第6062147号(P6062147)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 ポリアミド樹脂組成物及び成形品  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  
代理人 秋山 祐子  
代理人 江口 昭彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 内藤 和彦  
代理人 秋山 祐子  
代理人 大貫 敏史  

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