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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E04B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  E04B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  E04B
管理番号 1340432
審判番号 無効2015-800217  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-11-26 
確定日 2018-04-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4919449号発明「断熱構造」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4919449号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第4919449号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4919449号(以下「本件特許」という。平成16年8月23日出願、平成24年2月10日登録、請求項の数は3である。)の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明の特許を無効とすることを求める事案である。


第2 手続の経緯
本件審判の経緯は、以下のとおりである。

平成27年11月26日 審判請求
平成28年 2月 4日 審判事件答弁書(同年2月5日受付)
平成28年 3月10日 審理事項通知書
平成28年 4月13日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成28年 4月13日 証拠説明書(請求人)
平成28年 5月11日 口頭審理陳述要領書(被請求人) (同年5月12日受付)
平成28年 5月11日 証拠説明書(被請求人)(同年5月12日受付)
平成28年 5月27日 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
平成28年 5月27日 証拠説明書(2)(請求人)
平成28年 6月 1日 口頭審理
平成28年 6月29日 上申書(被請求人)(同年6月30日受付)
平成28年 6月29日 証拠説明書(2)(被請求人)(同年6月30日受付)
平成28年 7月20日 上申書(請求人)
平成28年 8月 4日 上申書(2)(被請求人)(同年8月5日受付)
平成28年 8月 4日 証拠説明書(3)(被請求人)(同年8月5日受付)
平成28年 8月18日 審決の予告
平成28年10月27日 訂正請求書(同年10月28日受付)
平成28年10月27日 上申書(3)(被請求人)(同年10月28日受付)


第3 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下各請求項に係る発明を「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
面材の屋内側表面上に硬質ウレタンフォーム断熱材を現場発泡スプレー法によって積層してなる、建築物の壁部を断熱する目的で用いられる断熱構造であって、
建築物の柱又は間柱の屋外側に面材が取り付けられ、
面材の屋外側に胴縁を介して外壁材が取り付けられ、
外壁材と面材との間に通気層が形成され、
面材はロール状にすることが可能な軟質性材料からなり、
軟質性材料は透湿性及び防水性を備えた材料であり、
硬質ウレタンフォーム断熱材は、面材の屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより得られ、そして
硬質ウレタンフォーム断熱材は、水を発泡剤として用い、独立気泡率が10%以下でありかつ密度が10?25Kg/m^(3)である低密度連続気泡構造硬質ウレタンフォームである断熱構造。
【請求項2】
軟質性材料が、独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない請求項1記載の断熱構造。
【請求項3】
軟質性材料が紙材、紙材の片面又は両面にプラスチックフィルムをラミネートしたラミネート紙材、フィルム材、繊維シート材、不織布にプラスチックを含浸させた繊維系シート材或は不織布の片面に合成樹脂微多孔質膜を被覆又は積層したシート材から選ぶ一種又はそれ以上である請求項1又は2記載の断熱構造。」


第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、平成28年4月13日付け口頭審理陳述要領書、平成28年5月27日付け口頭審理陳述要領書(2)、第1回口頭審理調書、平成28年7月20日付け上申書を参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第39号証、甲第42号証ないし甲第53号証の3を提出している。なお、甲第40号証及び甲第41号証は取り下げられている(第1回口頭審理調書)。

(1)無効理由1
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
したがって、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
したがって、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由3
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(4)無効理由4
本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(5)無効理由5
本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証及び第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(6)無効理由6
本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、その特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。


2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

なお、被請求人は甲第12号証、甲第28号証ないし甲第30号証の2、甲第35号証、甲第37号証の1、甲第37号証の2の成立を争うとしている(第1回口頭審理調書、平成28年6月29日付け上申書、同年8月4日付け上申書(2)を参照。)が、上記証拠は真正に成立するものと認める。

甲第1号証:「新耐火防火構造・材料等便覧」,新耐火590-592号,認定番号PC030BE-210,新日本法規出版株式会社,平成16年1月14日発行,p.6241-6288-1
甲第2号証:特開平11-343681号公報
甲第3号証:特開平9-123316号公報
甲第4号証:実公平4-28746号公報
甲第5号証:「新耐火防火構造・材料等便覧」,新日本法規出版株式会社,表紙,編集にあたって,凡例,ファイルの使用方法,さしかえ(加除)の特色,追録さしかえ整理一覧表
甲第6号証:ウレタンフォーム工業会(JUFA)概要,日本ウレタンフォーム工業協会,インターネット<http://www.urethane-jp.org/gaiyo/jufa.html>
甲第7号証:「第1編 防耐火構造 第4章 防火構造 第1 外壁(耐力壁)」抜粋,新日本法規出版株式会社,インターネット,<https://www.sn-hoki.co.jp/shop/zmsrc/taika/01_04_01.html>
甲第8号証:「NIPPON AQUA Corporate Profile」,株式会社日本アクア,平成26年
甲第9号証:「AQUAFOAM」のカタログ,株式会社日本アクア,平成26年
甲第10号証:「アキレス断熱材防耐火構造認定一覧」,アキレス株式会社断熱資材販売部,平成19年8月25日
甲第11号証:「耐火防火構造認定書」,認定番号PC030BE-0211,国土交通大臣 林寛子,平成15年1月15日,p.1-7,20,36-38
甲第12号証:「フォームライトSL商品説明」,BASF INOACポリウレタン株式会社,平成15年2月5日
甲第13号証:弁護士山口建章氏作成の、甲第12号証のデータのプロパティに関する「報告書」,平成27年11月24日
甲第14号証:「硬質ウレタンフォーム現場発泡 フォームライトSL」のパンフレット,BASF INOACポリウレタン株式会社
甲第15号証:「現場発泡低密度ウレタンフォーム フォームライトSL」のパンフレット,BASF INOACポリウレタン株式会社、平成16年5月
甲第16号証:「ノンフロン100倍発泡スプレー断熱工法「ソフティセル100」の販売開始について」のニュースリリース,倉敷紡績株式会社,インターネット,<http://www.kurabo.co.jp/news/newsrelease/20030910_204.html>,平成15年9月10日
甲第17号証:「代替フロン販売終了とノンフロン・次世代フロン品への全面切り替え並びにノンフロン・スプレー断熱工法「ソフティセルONE」の販売開始について」のニュースリリース,倉敷紡績株式会社,インターネット,<http://www.kurabo.co.jp/news/newsrelease/20040512_197.html>、平成16年5月12日
甲第18号証:「ノンウレタンスプレーシステム ソフティセルONE」のパンフレット,倉敷紡績株式会社、平成22年9月
甲第19号証:「耐火防火構造認定書」,認定番号PC030BE-0212,国土交通大臣 林寛子,平成15年1月15日,p.1-7,20,36-38
甲第20号証:財団法人建材試験センター作成、倉敷紡績株式会社あての「試験の結果の証明書」,平成21年10月29日,p.1,12
甲第21号証:広辞苑第6版,「積層」の項,株式会社岩波書店,平成20年1月11日
甲第22号証:化工品関連ニュース1999「ノンフロンの水発泡技術を開発 現場吹き付け施工タイプの硬質ウレタンフォーム断熱材「エバーライトNFR」を発売」,株式会社ブリジストン,インターネット,<http://www.bridgestone.CO.jp/corporate/news/pre_2005/d_9907>,平成11年7月7日
甲第23号証:硬質ウレタンフォームの現場施工-現場施工の方法、注意事項など-,日本ウレタンフォーム工業協会,インターネット,<http://www.urethane-jp.org/qa/koushitsu/k-2.htm>,平成27年8月3日
甲第24号証:株式会社日本アクア代表取締役中村文隆氏作成の「陳述書」,平成27年11月25日
甲第25号証:「ノンフロンで100倍発泡 新タイプ硬質PU現場吹付発泡システム PUK グラスウール代替狙う」,フォームタイムズ,p.2,平成10年9月5日
甲第26号証:「発泡材用HCFC141bの全廃について」,日本ウレタン工業協会,インターネット,<http://www.urethane-jp.org/manual/2003/10/hcfc141b.html>,平成15年10月1日
甲第27号証:特開平5-255466号公報
甲第28号証:サン建材株式会社名古屋支店建材課 沖田理樹氏作成の、「フォームライトSL拡販会議議題」,平成14年年6月4日
甲第29号証:「フォームライトSL定例会議議事録」,平成14年12月11日
甲第30号証の1:フォーム断熱株式会社丹波氏作成の「役割分担の再検討について」,平成14年12月11日
甲第30号証の2:「施工日程確認書」,フォーム断熱株式会社,平成14年12月10日
甲第31号証の1:「タイベックハウスラップについて」,旭・デュポンフラッシュスパンプロダクツ株式会社,インターネット,<http://www.tyvek.co.jp/construction/product/housewrap/>,平成27年8月8日
甲第31号証の2:「タイベックハウスラップについて」の「規格」についてのページ,旭・デュポンフラッシュスパンプロダクツ株式会社,インターネット,<http://www.tyvek.co.jp/construction/product/silver/>,平成27年8月8日
甲第31号証の3:「デュポンタイベックハウスラップ(ソフトタイプ)物性表」及び「デュポンタイベックハウスラップ(ハードタイプ)物性表」,旭・デュポンフラッシュスパンプロダクツ株式会社,インターネット,<http://www.tyvek.co.jp/construction/product/housewrap/img/data/bussei.pdf>,平成27年8月8日
甲第32号証:特開2005-15713号公報
甲第33号証:特開2005-325208号公報
甲第34号証:特開2003-261639号公報
甲第35号証:「名古屋支店「フォームライトSL」取組年表」
甲第36号証:中部経済新聞社にて主催・共催の「終了したイベント」一覧、中部経済新聞社,インターネット,<http://www.chukei-news.co.jp/event/old.php>
甲第37号証の1:あいち住宅フェア2002の会場写真
甲第37号証の2:あいち住宅フェア2002の会場写真
甲第38号証:特開2004-232377号公報
甲第39号証:特開2003-277461号公報
甲第42号証:JIS A 6111:^(2004) (「透湿防水シート」平成16年3月20日改正),財団法人日本規格協会,平成16年3月20日
甲第43号証:弁護士山口建章氏作成の「透湿防水シートの販売形態」についての調査結果,平成28年5月19日
甲第44号証:「フォームライトSL製品紹介」,BASF INOACポリウレタン株式会社
甲第45号証:弁護士山口建章氏作成の、甲第44号証のデータのプロパティに関する「報告書」,平成28年5月20日
甲第46号証:株式会社日本アクア従業員沖田理樹氏作成の「陳述書」,平成28年7月19日
甲第47号証:「平成14年度に実施する電話番号の変更」,総務省,インターネット,<http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/tel_number_h14.html>
甲第48号証:伊藤眞,「民事訴訟法」,第4版第1刷,株式会社有斐閣,平成23年12月25日,p.448-449
甲第49号証:秋山幹男 他,「コンメンタール民事訴訟法V」,第1版第1刷,株式会社日本評論社,平成24年8月25日,p.296-299
甲第50号証:秋山幹男 他,「コンメンタール民事訴訟法IV」,第1版第2刷,株式会社日本評論社,平成23年4月1日,p.498-503
甲第51号証:サン建機株式会社代表取締役社長小川勝による、沖田理樹を「西日本営業本部 名古屋支店副支店長」に命ずる旨の辞令,平成17年4月1日
甲第52号証:サン建機株式会社代表取締役社長折口靱負による、沖田理樹を「住宅資材営業本部 名古屋支店建材課長」に命ずる旨の辞令,平成13年4月1日
甲第53号証の1:請求人の従業員が作成したワード文書「原液成分表AQ100」のプロパティ情報
甲第53号証の2:請求人の従業員が作成したワード文書「ソフィテルONE垂直入射吸音率データ2」のプロパティ情報
甲第53号証の3:請求人の従業員が作成したワード文書「30倍発泡品覚書【20120612】」のプロパティ情報


3 請求人の具体的な主張
(1)無効理由1について
ア 甲1発明1
甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されている。
「透湿防水シートの屋内側表面に接して硬質ウレタンフォーム断熱材が配置され、建築物の壁部を断熱する目的で用いられる断熱構造であって、建築物の柱又は間柱の屋外側に透湿防水シートが取り付けられ、透湿防水シートの屋外側に胴縁を介して外装材が取り付けられ、外装材と透湿防水シートとの間に通気層が形成され、透湿防水シートはロール状にすることが可能な軟質性材料からなり、軟質性材料は透湿性及び防水性を備えた材料であり、硬質ウレタンフォーム断熱材は、透湿防水シートの屋内側表面に接して、かつ柱又は間柱の間に得られ、そして硬質ウレタンフォーム断熱材は、密度が10?25kg/m^(3)である低密度硬質ウレタンフォームである断熱構造」
(口頭審理陳述要領書13頁5行ないし15行)

イ 対比
甲1発明1の「透湿防水シート」が「面材」に相当する。
甲1発明1の「外装材」が「外壁材」に相当する。
本件特許発明1と、甲1発明1とは、「面材の屋内側表面に接して硬質ウレタンフォーム断熱材を配置してなる、建築物の壁部を断熱する目的で用いられる断熱構造であって、建築物の柱又は間柱の屋外側に面材が取り付けられ、面材の屋外側に胴縁を介して外壁材が取り付けられ、外壁材と面材との間に通気層が形成され、面材はロール状にすることが可能な軟質性材料からなり、軟質性材料は透湿性及び防水性を備えた材料であり、硬質ウレタンフォーム断熱材は、面材の屋内側表面に接して、かつ柱又は間柱の間に得られ、そして硬質ウレタンフォーム断熱材は、密度が10?25Kg/m^(3)である低密度硬質ウレタンフォームである断熱構造。」の点で一致する。
(口頭審理陳述要領書14頁末行ないし15頁11行)

(ア)相違点1
本件特許発明1の、低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が、面材の表面「上」に「現場発泡スプレー法によって積層」されること、「硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより」得られることに対し、甲1発明1にこの記載がなく、低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が面材の表面に接して配置される点。
(イ)相違点2
本件特許発明1の、低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が、「水を発泡剤として用い」ること、「独立気泡率が10%以下であ」ること、「連続気泡構造」であることに対し、甲1発明1にこの記載がない点 。
(口頭審理陳述要領書15頁13行ないし22行)

ウ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
甲第1号証が策定された当時、すでに木造住宅の外壁に適用される断熱材として「フォームライトSL」(甲15)、「ソフティセル100」(甲16)、「エバーライトNFR」(甲22)といった吹付け低密度ウレタンフォーム断熱材が発売されており、被請求人ら当業者は、これらの断熱材に対し甲第1号証(及びこれと同内容)の防火耐火認定が適用されるとして、ユーザーに利用を促してきた。
今までの被請求人及びウレタンフォーム各社のユーザーへの対応状況からすれば、甲第1号証において「低密度硬質ウレタンフォーム断熱材」が現場発泡スプレー法によって積層される断熱材であることや、硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより得られる断熱材であることが記載されているに等しい。
(口頭審理陳述要領書3頁20行ないし4頁2行)

(イ)相違点2について
a (低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が)水を発泡剤として用いることについて
(a)甲第1号証の作成提出に関与したウレタンフォーム工業会のメンバーなど、硬質ウレタンフォーム断熱材の主要原料メーカーは、平成15年末を期限としていた発泡用フロンガス(HCFC141b)の全廃に向けて準備を進めていた(甲22、甲26)。そして、平成10年ころから甲第1号証の作成当時にかけて、フロンガスによる発泡から水による発泡へと移行するための製品が、すでに開発、販売開始されていた。
(審判請求書24頁16行ないし22行)

(b)被請求人は、日本ウレタン工業会が「ノンフロン化宣言」を実施したのは平成22年1月26日であり、甲1の作成当時、水を発泡剤として用いない硬質ウレタンフォーム断熱材が製造販売されていたことは明らかであると主張する(答弁書14頁)。
しかし、住宅向け吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材においてフロンが使われなくなったのは平成22年1月26日ではない。全てのウレタンフォーム製品においてフロンを全廃することの宣言と、住宅向け吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材でフロンを全廃することとは別のことである。住宅向けの吹付けウレタンフォーム断熱材においてフロン及び代替フロンの使用ができなくなったのは、やはり平成15(2003)年3月末である。
さらに、ノンフロン化宣言、すなわちフロンの使用を全廃することと、水を発泡剤として(発泡剤の一部として)用いているかどうかは、別のことである。本件特許が出願された頃には、発泡剤の少なくとも一部には「水を発泡剤として用い」る状況が到来している(水とフロンの混合発泡である。)。
(口頭審理陳述要領書8頁9行ないし22行)

(c)甲第1号証に接した当業者において、建築物の外壁用の低密度硬質ウレタンフォーム断熱材として、水発泡品が実用化されていることは一般的に知られている技術であったから、甲第1号証に接した当業者は低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が水発泡品も含みうると認識することになる。
(審判請求書24頁24行ないし28行)

(d)したがって、「低密度硬質ウレタンフォーム断熱材」、「熱伝導率:0.038W/m・K以下」、「密度:10kg/m^(3)?25kg/m^(3)」という記載されている事項から、本願出願時における技術常識を参酌することにより、同断熱材が「水を発泡剤として用い」るものであることを導き出せるものであり、これらは記載されているに等しい。
(審判請求書25頁1行ないし6行)

b (低密度硬質ウレタンフォーム断熱材の)独立気泡率が10%以下であることについて
(a)密度が10?25kg/m^(3)である水発泡の連続気泡構造ポリウレタンフォーム断熱材において、独立気泡率が10%以下となることは、出願時において当業者に一般的に知られていた技術ないし経験則である。
したがって、・・・、本願出願時における技術常識を参酌することにより、「独立気泡率が10%以下であ」ることを導き出せるものであり、記載されているに等しい。
(審判請求書28頁13行ないし23行)

(b)熱伝導率の値は、気泡セルの構造によって物理的に決まる面があり、独立気泡率と略比例関係にあるのである。・・・防火耐火構造認定における外壁向け用途の硬質ウレタンフォーム断熱材において、熱伝導率が0.038W/m・K以下と規定されている時は、実際に適用されるのは独立気泡率が10%以下の硬質ウレタンフォームである。
したがって、熱伝導率「0.038W/m・K以下」が記載された断熱材については、独立気泡率が10%以下の硬質ウレタンフォーム断熱材が記載されているに等しい。
(口頭審理陳述要領書5頁2行ないし17行)

(c)被請求人は、乙第22号証を証拠として提出し、密度が10kg/m^(3)?25kg/m^(3)を満たしながら独立気泡率が10%を超えるウレタンフォーム断熱材が現に存在すると主張している。しかし、乙第22号証のどこにも、住宅の外壁用途向け低密度硬質ウレタンフォーム断熱材であるとの記載はない。むしろ段落【0002】【従来の技術】には「一般に硬質ウレタンフォームは有機ポリイソシアネート及びポリオールを主原料としてこれに発泡剤、触媒、整泡剤、難燃剤等を配合した処方を用いて製造され、例えば軽量構造材や保温保冷断熱材等として種々の産業分野において広く利用されている。」と記載されており、住宅の外壁用途向けではないと読み取れる。
また、段落【0021】においては、「上述した発泡剤の中でも特にHCFC-141b単独や、HCFC-141bと水との組合せが好ましく用いられる」と記載されており、乙第22号証の【表1】から【表4】では成分に「HCFC-141b」が含まれている。このフロンは2003年末に全廃されたから、甲1の作成当時、住宅の外壁用途向け低密度硬質ウレタンフォーム断熱材として適用できなかったと読み取れる。
(上申書8頁5行ないし22行)

(d)被請求人は、甲第27号証(特開平5-255466)を示して、「密度23kg/m^(3)(10kg/m^(3)?25kg/m^(3)の範囲に含まれている。)、独立気泡率56%?69%(10%以上の範囲を含んでいる。)の硬質ウレダンプオーム断熱材が示されている」と主張する(10頁21行目から24行目)。しかし、甲第27号証の【表1】で、フォーム密度が10kg/m^(3)?25kg/m^(3)の範囲に含まれている実施例又は比較例には、全て「フロン11」が含まれる。フロン11は「トリクロロフルオロメタン」である(【0017】)。これに対し、【表1】でフロン11を含まない実施例及び比較例は、全て密度が26kg/m^(3)(範囲外)である。つまり、甲第27号証には、甲第1号証に適用することが可能な、独立気泡率が10%を超える密度10kg/m^(3)?25kg/m^(3)の低密度硬質ウレタンフォーム断熱材は記載されていない。
(上申書10頁2行ないし11頁5行)

エ まとめ
本件特許発明1は、特許出願前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、新規性を欠き、本件特許には特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(審判請求書32頁21行ないし24行)


(2)無効理由2について
ア 甲第1号証の表3「透湿防水シート」の欄によれば、透湿防水シートは、厚さ0.17mm以下とされ、材質はポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレンのいずれかであるとされている。
以上から、甲第1号証には、「透湿防水シートは厚さ0.17mm以下とされ、材質はポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレンのいずれかからな」ることが記載されている。
(審判請求書47頁9行ないし14行)

イ 本件特許明細書に記載されている、比較例1及び2において使用されている面材Aおよび面材Bは、「独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない」面材にあたると考えられる。
ここで面材Bの詳細をみると、厚さが0.3mmであり、材質はポリエチレン製である(段落【0033】)。
・・・
甲第1号証の透湿防水シートは、厚さが0.17mmであり、材質はポリエチレンを選択することができる。一般に、樹脂製シートの機械的強度は、材質が同じであれば厚さに比例する。甲第1号証の透湿防水シートは面材Bよりも薄いから、機械的強度はより低いことになる。
・・・
したがって、甲第1号証においては、「独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない」ことは記載されているに等しい事項である。
(審判請求書49頁9行ないし50頁12行)

ウ 本件特許発明2は、特許出願前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、新規性を欠き、本件特許には特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(審判請求書50頁下から3行ないし末行)


(3)無効理由3について
ア 甲1発明1を主引用発明とした場合
(ア)甲1発明1、対比
上記(1)ア、イに記載のとおり。

(イ)相違点についての判断
a 甲第2号証に記載の事項
(a)甲第2号証には次の事項が記載されている。
対象物の表面に「現場発泡スプレー法によって積層してなる、建築物の壁部を断熱する目的で」用いられる硬質ウレタンフォーム断熱材であり、「硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより得られ、そして硬質ウレタンフォーム断熱材は、水を発泡剤として用い、独立気泡率が10%以下であり、かつ密度が10?25kgm^(3)である低密度連続気泡構造硬質ウレタンフォーム」断熱材。
(口頭審理陳述要領書14頁18行ないし23行)

(b)本件特許発明1と甲1発明1の相違点にかかる構成は、・・・、甲第2号証に全て記載されている。
(口頭審理陳述要領書16頁1行ないし2行)

b 甲1発明1に対し甲2記載事項を適用する動機付け
(a)甲第1号証と甲第2号証は、ともに「建築物の壁体の断熱を目的として用いられる吹付け気泡型ポリウレタンフォーム製断熱材」であり、技術分野が同一である。
(口頭審理陳述要領書(2)16頁13行ないし15行)

(b)甲第1号証には、透湿防水シートの施工上の注意点として「6.施工方法」(6276頁)では「張付けはできるだけたるみ、しわのないように取付ける。」とされている。
以上のように、甲第1号証においては、硬質ウレタンフォームの透湿防水シートへの現場吹付けに際し、硬質ウレタンフォームの収縮による透湿防水シートの凹凸により、通気層が塞がってしまうことについての課題が示されている。
・・・現場発泡硬質ウレタンフォーム断熱材の収縮という課題を解決するため、収縮を緩和するためには、ウレタンフォームに占める独立気泡の比率(独立気泡率)を下げ、連続(連通)気泡の比率を上げることが、対策として有効である。このことは本件特許が出願された平成16年当時は勿論のこと、それ以前から、当業者には一般に知られた事項であった。それゆえ、出願当時、甲第1号証に接した当業者が、現場発泡硬質ウレタンフォームの収縮という課題を解決するために最初に検討する事項は、独立気泡率を下げることであった。
・・・甲第2号証には、硬質ウレタンフォームの独立気泡率を10%以下まで低下させた場合の実施例が記載されていた。
しかも、甲第2号証の段落【0022】には、ウレタンフォームを連続気泡構造としているためセルの内圧が大気圧と等しくなりセルの収縮が抑えられるという記載もある。さらに建築物の壁体等に使用される断熱材として使用されることも記載されている(段落【課題】【0001】【0005】)。
したがって、甲第2号証は、上記の課題の解決にあたり真っ先に参照されるべき資料といえるのである。
(審判請求書37頁4行ないし38頁下から4行)

(c)被請求人が、吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材(=独立気泡構造硬質ウレタンフォーム断熱材)を(軟質性材料の)透湿防水シートに直接吹き付けた場合に、通気層を塞いだり・・・とする主張(答弁書8頁)は、・・・甲第1号証の記載から課題を読み取るものであり、その現象が発泡圧や収縮によって生じることも分かっている。そうであれば、甲第1号証に上記課題の示唆があると同じことである。
(口頭審理陳述要領書29頁下から5行ないし30頁1行)

(d)甲第1号証の防火耐火構造認定が頒布される前から、現場吹付け硬質ウレタンフォームの収縮抑制という課題及び通気層の確保という課題は、当業者において広く知られていた事項であった。
特開平9-105182(乙8)に記載されているように、・・・「しかしながら上記従来の通気断熱構法においては、吹付の場合は図5のように防水、防風、透湿性シート32が発泡プラスチック系断熱材35の吹付により波打った状態となって通気層36が確保できないという欠点があった」(段落【0004】)。ここで現場発泡吹付硬質ウレタンは独立気泡構造である(【0023】)。また、特開平10-266377(乙9)に記載されているとおり、「・・・、従来の透湿防水シートは、ウレタン発泡時の圧力や発熱によって、透湿防水シートが通気層側に広がり、通気層をつぶすことがある」(【0024】)という課題があった。・・・したがって、独立気泡構造硬質ウレタンフォーム断熱材を従来の透湿防水シートに直接吹き付けると通気層側に大きなデコボコがついてしまうという課題自体は、本件特許の出願の時点において極めて一般的に知られていたものであり、甲第1号証の構造説明図と構成材料の一覧表を見た当業者は課題を読みとることが可能であった。
(口頭審理陳述要領書(2)17頁18行ないし18頁下から4行)

(e)甲第1号証である防火耐火認定書は、申請にかかる建築物の構造が、建築基準法施行令108条1号及び2号の防火性能に適合し、建築基準法2条8号の防火構造の認定を受けたことを証明するものである。よって甲第1号証には、硬質ウレタンフォーム断熱材の防火性能の確保について課題が示されていた。
・・・甲第2号証では、硬質ウレタンフォーム断熱材の難燃性の向上が課題として挙げられているところ、密度が低い連通気泡型ポリウレタンフォーム断熱材を用いることによって、燃焼時に可燃物の量を少なくすることが可能となるため、日本工業規格に定められた難燃基準のうち最も大きな技術的課題とされている発煙性に合格する断熱材を得ることができるとしている(段落【0005】?【0007】、【0010】、【0011】、【0020】等)。
・・・、現場吹付け硬質ウレタンフォームの防火性能の確保という共通の課題について、甲第1号証と甲第2号証は技術分野も関連し、作用、機能も共通であり、組合せについての示唆があるから、これらの構成を組み合わせることはやはり必然であり、極めて容易であった。
(審判請求書39頁3行ないし19行)

(f)出願当時、住宅の壁部に用いる硬質ウレタンフォーム断熱材の性能として難燃性が重要であることは当業者にとって常識であった。そのことはJIS A 9526(1994)「吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材」の3.11項に「燃焼性」の試験項目が置かれていることから分かる(乙1)。
・・・甲第2号証には「建築物の壁体等に使用される断熱材としては、・・・2)火災時の安全性を保証するための難燃、不燃性能、・・・等の性能も要求されている。」と記載されている(段落【0003】)。
(口頭審理陳述要領書30頁下から3行ないし31頁8行)

(g)甲第1号証の「透湿防水シート」においてはJIS基準の他は厚さと材質のみが規定されているだけである。このことから分かるように、本件特許の出願当時、様々なメーカーの透湿防水シートの中から適宜選択することが可能であり、現に行われてきた。また、本件特許の出願当時、吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材については、密度や独立気泡率といった物性が異なる様々な製品がラインナップされていた。そして、出願前から硬質ウレタンフォーム断熱材を透湿防水シートに直接吹付けることが行われていた 。
したがって、透湿防水シートと吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材をその相性によって組み合わせることは、公知材料の中からの最適材料の選択にすぎない。
(口頭審理陳述要領書26頁9行ないし18行)

(h)被請求人は、・・・、甲1発明と甲2発明とを組み合わせる動機付けがないとして、「甲1発明における独立気泡構造硬質ウレタンフォーム断熱材は、独立気泡内に閉じ込められたフロン等の気体の熱伝導率の低さにより、高い断熱効率を得るものである。したがって、断熱効率を上げるために独立気泡率を上げるという発想はあり得ても、わざわざ独立気泡率を下げて断熱効率の低減を来すような発想はありえない。」と主張する(答弁書23頁)。
しかし、平成10年にポリウレタン化成株式会社が従来の建築物向けグラスウールの代替品として100倍発泡品を開発した例があるように(甲25参照)、実際に断熱効率を下げて新商品を開発することもある。
・・・甲1発明の構成における断熱材に、甲2記載事項の連続気泡構造硬質ウレタンフォーム断熱材を適用することにつき阻害要因はない。
(口頭審理陳述要領書32頁5行ないし末行)

(i)既存の防火耐火構造認定で許容されていない組合せであるから阻害要因になるとする論理も無理がある。新たな材料の組合せによる防火耐火構造を発案した者は、それに合わせて次なる防火耐火構造認定を取得すればよいだけのことであるから、既存の防火耐火構造認定の内容が、それ以降の発明を抑制する機能を果たすことはない。
(口頭審理陳述要領書(2)19頁6行ないし10行)

(ウ)まとめ
本件特許発明1は、甲1発明1に甲2記載事項を適用することで、当業者は容易に発明をすることができたものであるから、進歩性を欠き、本件特許には特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(審判請求書39頁末行ないし40頁3行)

イ 甲1発明2を主引用発明とした場合
(ア)甲1発明2
a 甲第1号証に記載の発明(以下「甲1発明2」という。)について
甲第1号証には以下の発明が記載されている。
「透湿防水シートの屋内側表面上に硬質ウレタンフォーム断熱材を現場発泡スプレー法によって積層してなる、建築物の壁部を断熱する目的で用いられる断熱構造であって、建築物の柱又は間柱の屋外側に透湿防水シートが取り付けられ、透湿防水シートの屋外側に胴縁を介して外装材が取り付けられ、外装材と透湿防水シートとの間に通気層が形成され、透湿防水シートはロール状にすることが可能な軟質性材料からなり、軟質性材料は透湿性及び防水性を備えた材料であり、硬質ウレタンフォーム断熱材は、透湿防水シートの屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより得られ、そして硬質ウレタンフォーム断熱材は、密度が25?55kg/m^(3)である硬質ウレタンフォームである断熱構造」
(口頭審理陳述要領書17頁9行ないし20行)

b 甲第1号証の「吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材」(6244頁)を「ロール状にすることが可能な軟質性材料からな」る「透湿防水シート」とともに用いることについて
(a)甲1の6277頁の「6.施工方法(7)断熱材の取付け」には、断熱材[2](当審注:丸付き数字は[数字]と記載する。以下同様。)「吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材(JIS A9526)」の取付け方法について、「吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材を使用する場合は、断熱材を吹付ける面に透湿防水シート又は構造用面材の下地材がある場合に限る」とされており、断熱材[2]を透湿防水シートに吹付けるという組合せを予定している。
(口頭審理陳述要領書20頁下から4行ないし21頁2行)

(b)甲第1号証には、構造説明図が図1から図28まで、構造材料の組合せパターンが示されているが、いずれも図中に「断熱材」とのみ記載されており、3種類の断熱材のうち、いずれを使用するかについて指定されていない。断熱材は3種類の中から選択できるのである。また、6248頁には「(図中の防湿材及び透湿防水シートは、ない場合もある)」と記載してあることから分かるように、透湿防水シートと組み合わせる・組合せないについても選択できるし、その場合にはこのように明記されている。
そして甲第1号証において当該組合せが特に明文で除外されてもいないのに、かつ「6.施工方法」に明示されていながら、施工難易度の有無等といった観点から構成材料の組合せが制限されるものではない。仮に実務上、透湿防水シートに吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材(JIS A9526)を組み合わせる事例が少なかったとしても、甲第1号証に当該組合せが開示されていること自体には変わりがない。
(口頭審理陳述要領書21頁11行ないし23行)

(c)透湿防水シートは構造用面材を雨水等から守るために外側に配置されているから、透湿防水シートと構造用面材の配置を入れ替えることはできない。つまり透湿防水シートを構造用面材に張り付けてから透湿防水シートへ断熱材を吹き付けるパターンは防火耐火構造認定において許容されていない。
(口頭審理陳述要領書24頁6行ないし10行)

(d)被請求人は、上記の6277頁「6.施工方法」の記載に関連して、「透湿防水シートを、独立気泡構造硬質ウレタンフォーム断熱材の発泡圧や収縮に耐え得る剛性を有するものにする必要がある(より具体的には、透湿防水シート自体を剛性を有するものにする」と主張する(答弁書9頁)。
しかし、甲1の6245頁では、透湿防水シートの仕様は厚さ0.17mm以下とされ、材料はポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレンから選択することと指定されているのであるから、剛性を有するものは選択できない。
(口頭審理陳述要領書23頁10行ないし17行)

(e)被請求人が実用化された例を証拠として提出していないことから分かるとおり、要するに透湿防水シートの方に剛性をもたせるのは無理があるのである。・・・、透湿防水シートは保管、運搬の便宜のためロール状で流通し(甲43)、現場で展開しながら施工される。そのときには凹凸がある木材面にタッカーで張り付けるという作業のための柔軟性が必要なのであり、保形性ないし剛性を有する透湿防水シートは使用されている実例を聞かない。
(口頭審理陳述要領書(2)8頁17行ないし23行)

(f)断熱材[2]を透湿防水シートに吹付けると収縮が生じる可能性あるが、吹付け厚さによっては通気層を塞ぐほど収縮による反りが生じない場合もある(例えば下限の15mmであれば反りは小さいが、105mm厚で吹付ければ収縮の影響は大きい。また、反りの大きさは透湿防水シートが固定されている柱と柱の間隔によって変わる。)。つまり断熱材[2]と透湿防水シートの組合せを一律に禁止することには合理性がないため、組合せが記載されているのである。
(口頭審理陳述要領書25頁8行ないし14行)

(g)乙第8号証に開示されたシートついては「フェルト紙」であるからロールしても割れる等することがない。
次に、乙第9号証に開示されたシートについては、本件特許の明細書の段落【0004】の記載によれば「独立気泡ウレタンフォームの発泡圧で変形しない程の機械的強度を持たない」のであって、ぺらぺらなシート、腰の弱いシート材に分類されるから、ロール状にできないはずがない。
したがって、乙第8号証及び乙第9号証は「ロール状にすることが可能な軟質性材料」でないものの具体例ではないことが明白である。
(口頭審理陳述要領書(2)10頁1行ないし8行)

(イ)対比
本件特許発明1と甲1発明2とを対比する。
甲1発明2の「透湿防水シート」が「面材」に相当する。
甲1発明2の「外装材」が「外壁材」に相当する。
本件特許発明1と、甲1発明2とは、「面材の屋内側表面上に硬質ウレタンフォーム断熱材を現場発泡スプレー法によって積層してなる、建築物の壁部を断熱する目的で用いられる断熱構造であって、建築物の柱又は間柱の屋外側に面材が取り付けられ、面材の屋外側に胴縁を介して外壁材が取り付けられ、外壁材と面材との間に通気層が形成され、面材はロール状にすることが可能な軟質性材料からなり、軟質性材料は透湿性及び防水性を備えた材料であり、硬質ウレタンフォーム断熱材は、面材の屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより得られ、そして硬質ウレタンフォーム断熱材は、硬質ウレタンフォームである断熱構造。」の点で一致する。
(口頭審理陳述要領書17頁下から2行ないし20頁11行)

a 相違点1
本件特許発明1の硬質ウレタンフォーム断熱材が、「水を発泡剤として用い」「独立気泡率が10%以下であ」り、「連続気泡構造」であることに対し、甲1発明2にこの記載がない点。
b 相違点2
本件特許発明1の硬質ウレタンフォーム断熱材が、「密度が10?25Kg/m^(3)である低密度」のものであることに対し、甲1発明2においては、密度が25?55Kg/m^(3)である点。
(口頭審理陳述要領書18頁12行ないし18行)

(ウ)相違点についての判断
a 甲第2号証に記載の事項
(a)上記ア(イ)a(a)を参照。

(b)本件特許発明1と甲1発明2の相違点にかかる構成は、・・・、甲第2号証に全て記載されている。
(口頭審理陳述要領書18頁下から2行ないし末行)

b 甲1発明2に対し甲2記載事項を適用する動機付け
上記ア(イ)bを参照。

(エ)まとめ
本件特許発明1は、甲1発明2に甲2記載事項を適用することで、当業者は容易に発明をすることができたものであるから、進歩性を欠き、本件特許には特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(審判請求書39頁末行ないし40頁3行)


(4)無効理由4について
ア 上記(2)ア、イ及び(3)を参照。

イ 本件特許発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、進歩性を欠き、本件特許には特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(審判請求書51頁3行ないし6行)


(5)無効理由5について
ア 相違点
本件特許発明3の軟質性材料が、「紙材、紙材の片面又は両面にプラスチックフィルムをラミネートしたラミネート紙材、」「繊維シート材、不織布にプラスチックを含浸させた繊維系シート材或は不織布の片面に合成樹脂微多孔質膜を被覆又は積層したシート材から選ぶ一種又はそれ以上」であることに対し、甲1発明1又は2にこの記載がない点。
(審判請求書54頁13行ないし17行)

イ 相違点についての判断
(ア)甲第3号証には、「従来、アスファルト含浸フェルト、フラッシュ紡糸法により得られるポリエチレン製不織布が使用されている。・・・また、不織一布や織編物などに樹脂加工したものも市販されている」(段落【0004】)という記載がある。
これは、相違点の「繊維シート材、不織布にプラスチックを含浸させた繊維系シート材」に相当する。
(審判請求書54頁下から3行ないし55頁3行)

(イ)甲第4号証には、「低通気性不織布1の片面に合成樹脂微多孔膜2がコーティング又はラミネーティングにより形成されてなるものであ」ると記載されている(第2カラムの25行目以下)。
これは、相違点の「不織布の片面に合成樹脂微多孔質膜を被覆又は積層したシート材」に相当する。
(審判請求書55頁5行ないし9行)

(ウ)甲第1号証は建築物の壁体の外壁通気工法を内容とするところ、甲第3号証及び甲第4号証は外壁通気工法のために用いられる透湿防水シートであり、これらは技術分野の関連性がある。
そして、住宅の壁体において好適な透湿防水性を実現するという課題は、甲第1号証と甲第3号証及び甲第4号証との間で課題の共通性がある。
また、甲第1号証におけるフィルム材としての透湿防水シートと、甲第3号証又は甲第4号証に記載されている透湿防水素材は、その作用及び機能は共通している。
さらに、甲第3号証及び甲第4号証の記載内容をみると、木造家屋の外壁通気工法で用いられる透湿・防水性シートであること、家屋用のハウスラップ材であることが記載されており、甲第1号証に組み合わせることの示唆がある。
以上のとおり、甲第1号証と甲第3号証及び甲第4号証は、技術分野の関連性があり、課題が共通し、甲第3号証及び3には甲第1号証に適用する示唆があるから、組合せの動機づけがある。また、甲第1号証と甲第3号証及び甲第4号証に示された透湿防水シートの作用、機能は共通するから置換が容易である。
(審判請求書55頁15行ないし56頁5行)

ウ まとめ
本件特許発明3は、甲第1号証(甲第2号証)、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、進歩性を欠き、本件特許には特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(審判請求書56頁下から4行ないし末行)


(6)無効理由6について
一般的に、建築物の面材に用いられる軟質性材料の強度は、通常は引張強さ、引張伸度、つづら針保持強さ等によって規定される(甲31の3参照)。
したがって、独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合の発泡圧又は収縮圧で変形するか否かという機能・特性により軟質性材料の強度を規定する方法は標準的なものではなく、当業者に慣用されているものでもない。 本件特許発明2の吹付け対象物が軟質性材料とされている以上、ウレタンフォーム断熱材の吹付けに対して全く変形しない(変位ゼロである)ことは考えられない。そうであれば、構成要件Kにおける「変形しない」とは、「変形」が一定の数値範囲内に収まることを指しており、数値等で具体的に示さなければ、発明を特定するための事項としては不十分である。そして変形や凹凸の程度は数値化して表すことが容易な事項である。
ところが、明細書の段落【0035】には、以下のような「若干の」「大きな凹凸」「遮断する恐れ」など、極めて不明確かつ感覚的な基準しか示されておらず、「変形」とはどの程度のことを指すのか意義が不明である。
また、【表1】や【0035】には「枠材反り」という用語が使われているが、【図3】において示されている枠材の、どこがどのように「反る」ことを測定した結果であるのか、明細書において試験・測定方法が記載されていないため、当業者は【表1】に記載された数値が何を表しているのか理解することができない。
したがって、機能・特性等の定義又はその機能・特性等を定量的に決定するための試験・測定方法が示されていない。
そのため、当業者は多数の異なる機械的性質を有する軟質性材料を取り揃えて実験を繰り返さなければ、本件特許発明2がいかなる効果を奏するか検証できず、当業者に過度の追試を強いるものである。
以上から、本件特許は実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)に違反する。
(審判請求書57頁16行ないし58頁下から7行)


第5 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張に対して、概ね以下のとおり反論している(平成28年2月4日付け審判事件答弁書、平成28年5月11日付け口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書、平成28年6月19日付け上申書、平成28年8月4日付け上申書(2)を参照。)。


2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

乙第1号証: JIS A 9526-1994 (「吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材」平成6年2月1日改正),日本規格協会,平成13年7月20日
乙第2号証:「ポリウレタンフォーム全般 【フォーム】吹付け硬質ウレタンフォームノンフロン化宣言とノンフロン識別方法について」,日本ウレタン工業協会,インターネット,<http://www.urethane-jp.org/manual/2010/06/post_10.html>,平成22年6月22日
乙第3号証:本件審判に関連する平成27年(ワ)第2195号で原告(本件請求人)が提出した平成27年11月24日付け「上申書」
乙第4号証:「特別なソフトを使わずにファイルの作成日時を変更する方法は?」,パソコンと家電の豆知識,インターネット,<http://pc-kaden.net/log/eid182.html>
乙第5号証:「Windows :ファイルの更新日時、アクセス日時、作成日時を変更するには?」,教えて!HELPDESK,インターネット,<http://office-qa.com/win/win11.htm>
乙第6号証:「フォームライトSL工法施工マニュアル」,BASF INOACポリウレタン株式会社,平成12年4月1日
乙第7号証:JIS A 9526:^(2006) (「建築物断熱用吹付け硬質ウレタンフォーム」平成18年7月20日改正),財団法人日本規格協会,平成18年7月20日
乙第8号証:特開平9-105182号公報
乙第9号証:特開平10-266377号公報
乙第10号証:「FAQ(よくある質問)」,日本工業標準調査会,インターネット,<http://www.jisc.go.jp/qa/index.html>
乙第11号証:「硬質ポリウレタンフォーム クラボウ クララフォーム-Rの概要」,倉敷紡績株式会社,平成14年10月1日
乙第12号証:「平成17年度 発泡用途フロン対策検討調査報告書」,財団法人建築環境・省エネルギー機構,目次,p.16-21,平成18年3月
乙第13号証:「断熱建材ハンドブック」,断熱建材協議会編,株式会社養賢堂,目次,p.60-63,平成6年4月1日
乙第14号証の1:平成27年(ワ)第2195号で原告(本件請求人)が提出した平成27年1月28日付け「訴状」
乙第14号証の2:平成27年(ワ)第2195号で原告(本件請求人)が提出した平成27年2月12日付け「訴状の訂正書」
乙第14号証の3:平成27年(ワ)第2195号で原告(本件請求人)が提出した平成27年6月15日付け「第1準備書面」
乙第14号証の4:平成27年(ワ)第2195号で原告(本件請求人)が提出した平成27年8月10日付け「第2準備書面」
乙第14号証の5:平成27年(ワ)第2195号で原告(本件請求人)が提出した平成27年10月1日付け「第3準備書面」
乙第14号証の6:平成27年(ワ)第2195号で原告(本件請求人)が提出した平成27年11月24日付け「第4準備書面」
乙第15号証の1:平成27年(ワ)第2195号で被告(本件被請求人)が提出した平成27年3月5日付け「答弁書」
乙第15号証の2:平成27年(ワ)第2195号で被告(本件被請求人)が提出した平成27年4月21日付け「準備書面(1)」
乙第15号証の3:平成27年(ワ)第2195号で被告(本件被請求人)が提出した平成27年年6月16日付け「準備書面(2)」
乙第15号証の4:平成27年(ワ)第2195号で被告(本件被請求人)が提出した平成27年8月10日付け「準備書面(3)」
乙第15号証の5:平成27年(ワ)第2195号で被告(本件被請求人)が提出した平成27年9月30日付け「準備書面(4)」
乙第15号証の6:平成27年(ワ)第2195号で被告(本件被請求人)が提出した平成27年11月24日付け「準備書面(5)」
乙第16号証の1:平成27年(ワ)第2195号で原告(本件請求人)が提出した平成27年1月28日付け「証拠説明書1」
乙第16号証の2:平成27年(ワ)第2195号で原告(本件請求人)が提出した平成27年6月15日付け「証拠説明書2」
乙第16号証の3:平成27年(ワ)第2195号で原告(本件請求人)が提出した平成27年8月10日付け「証拠説明書3」
乙第16号証の4:平成27年(ワ)第2195号で原告(本件請求人)が提出した平成27年10月1日付け「証拠説明書4」
乙第17号証の1:平成27年(ワ)第2195号で被告(本件被請求人)が提出した平成27年6月16日付け「証拠説明書(1)」
乙第17号証の2:平成27年(ワ)第2195号で被告(本件被請求人)が提出した平成27年8月10日付け「証拠説明書(2)」
乙第17号証の3:平成27年(ワ)第2195号で被告(本件被請求人)が提出した平成27年11月25日付け「証拠説明書(3)」
乙第18号証:平成27年(ワ)第2195号で原告(本件請求人)が提出した平成28年3月9日付け「放棄書」
乙第19号証:「ソフティセルONE」のパンフレット,倉敷紡績株式会社、平成17年6月1日
乙第20号証:「快適空間を創る化学の泡 硬質ウレタンフォーム断熱材」,日本ウレタン工業株式会社,平成18年11月
乙第21号証:「硬質ポリウレタンフォーム クラボウ クララフォーム-Rの概要」,倉敷紡績株式会社,平成18年6月1日
乙第22号証:特開2000-26567号公報
乙第23号証:平成20年(行ケ)第10096号の判決
乙第24号証:兼子一 他,「条解民事訴訟法」,第2版第1刷,株式会社弘文堂,平成23年4月15日
乙第25号証:平成27年(ワ)第2195号の第2回口頭弁論調書
乙第26号証:伊藤眞,「民事訴訟法」,第3版再訂版第1刷,株式会社有斐閣,平成18年5月15日,p.498-503


3 被請求人の具体的な主張
(1)無効理由1について
ア 対比について
甲1発明1には、本件特許発明1にいう「面材」に相当する構成は存在しない。本件特許発明1における「面材」は、硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーする対象となるものであり、吹き付けられた硬質ウレタンフォーム断熱材を支持するものであることは明らかである。他方、甲1発明1における「低密度硬質ウレタンフォーム断熱材」はそれ自体が板材であり、柱又は間柱との周囲に隙間が生じないように充てんされる(取り付けられる)ものであるから(甲1・6277頁)、透湿防水シートは、「低密度硬質ウレタンフォーム断熱材」を支持するものではない(「低密度硬質ウレタンフォーム断熱材」は、柱又は間柱によって支持されている。)。請求人は、透湿防水シートに接して硬質ウレタンフォーム断熱材が配置される旨を主張しているが、単に、板材である硬質ウレタンフォーム断熱材が透湿防水シートに接して配置されるというだけでは、当該透湿防水シートが面材としての機能を有しているといえないことは明白である。
したがって、甲1発明1の「透湿防水シート」が「面材」に相当するとの請求人の主張は誤りである。また、請求人は、相違点1について、低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が面材の表面「上」に「現場発泡スプレー法によって積層」されることの記載がない旨主張しているが、甲1発明1においては「面材」は存在しないから、上記相違点は、甲1発明1には、低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が「『透湿防水シート』の表面『上』に」「現場発泡スプレー法によって積層」されることの記載がない、と認定すべきである。
(口頭審理陳述要領書19頁18行ないし20頁16行)

相違点の判断について
(ア)相違点1について
甲1は防火構造の認定内容を記載したものであり、甲1の「6.施工方法」(6276頁及び6277頁)に明確に記載のない施工方法により製造された防火構造は認定対象外となる(すなわち、甲1の性質上、「6.施工方法」の記載は、限定列挙である。)ところ、・・・、甲1の「6.施工方法」には「低密度硬質ウレタンフォーム断熱材」が板材であることを前提とした施工方法のみが記載されている。したがって、甲1の「低密度硬質ウレタンフォーム断熱材」は板材であり、吹付けに係る断熱材は含まれない。
なお、当時低密度連続気泡構造ウレタンフォーム断熱材を吹付けて施工することが行われていることと、当該施工法により施行された防火構造が甲1に記載されていることとは、論理的に無関係であり、したがって、請求人の主張が甲1の記載との関係でおよそ成立する可能性がない、失当の主張であることは明白である。
以上より、甲1には、低密度連続気泡構造硬質ウレタンフォーム断熱材を「現場発泡スプレー法」によって積層してなる断熱構造は記載されていない。
(審判事件答弁書12頁29行ないし13頁4行)

(イ)相違点2について
a 水を発泡剤として用いることについて
(a)単に水を発泡剤として用いる低密度硬質ウレタンフォーム断熱材についての技術が本件特許の出願当時存在していたことは、甲1に水を発泡剤として用いた低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が記載されていることの根拠とならない。請求人は、本件特許の出願当時に、水を発泡剤として用いる低密度硬質ウレタンフォーム断熱材についての技術が存在していたことを挙げるのみで、甲1に水を発泡剤として用いた低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が記載されていることは全く根拠づけられていない。請求人の主張は、本件特許出願当時、低密度硬質ウレタンフォーム断熱材の発泡剤の全てが水に置き換えられたという実情を何ら示すものでもない。
(口頭審理陳述要領書18頁8行ないし17行)

(b)請求人は、日本ウレタン工業会のノンフロン化宣言(乙2)の時期にかかわらず、住宅向けの吹付けウレタンフォーム断熱材においてフロン及び代替フロンの使用ができなくなった時期は、平成15年3月末である旨主張する。
しかしながら、乙2には「ノンフロン化宣言は住宅向けの吹付け硬質ウレタンフォームを対象としたもの」であり、「ノンフロン化目標の時期は2010年8月」と明記されている。したがって、少なくともノンフロン化宣言がされた平成22年(2010年)1月26日時点までは、水を発泡剤として用いない硬質ウレタンフォーム断熱材が製造販売されていたことが明らかである。現に、平成18年3月に公表された財団法人建築環境・省エネルギー機構の「平成17年度発泡用途フロン対策検討調査報告書」(乙12)においては、2005年生産量ベースでの硬質ウレタンフォームのノンフロン化率は、ラミネートボードにおいて70%(すなわち、30%はフロンを用いたものである)、現場発泡において12%(88%はフロンを用いたものである)、現場発泡における吹付においては8%(92%はフロンを用いたものである)であったことが報告されている(乙12・18頁の表2.2.3)。したがって、上記の請求人の主張は明らかな事実誤認である。
(口頭審理陳述要領書18頁19行ないし10頁10行)

b 独立気泡率が10%以下であることについて
(a)熱伝導率が0.038W/m・K以下、密度が10kg/m^(3)?25kg/m^(3)を充たしながら、独立気泡率が10%を超えるウレタンフォーム断熱材は、現に存在する。例えば、「クララフォームR」の「R403」は、熱伝導率0.024W/m・K以上(0.038W/m・K以下の範囲を含んでいる)、密度22kg/m^(3)以上(10kg/m^(3)?25kg/m^(3)の範囲を含んでいる。)、独立気泡率90%以上の硬質ウレタンフォーム断熱材であり(乙21・7頁)、甲1で定められている低密度硬質ウレタンフォーム断熱材の仕様を充たし、かつ、独立気泡率10%を超えるものである。したがって、独立気泡率が10%を超える密度10kg/m^(3)?25kg/m^(3)の低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が存在し得えない、という技術常識は存在しない。
(口頭審理陳述要領書17頁5行ないし16行、平成28年6月29日付け上申書10頁13行ないし14行)

(b)「クララフォームR」「R403」の他にも、密度が10kg/m^(3)?25kg/m^(3)を充たしながら、独立気泡率が10%を超えるウレタンフォーム断熱材は、現に存在する。例えば、特開2000-26567(乙22)には、密度20?40kg/m^(3)以上(10kg/m^(3)?25kg/m^(3)の範囲を含んでいる。)、独立気泡率20%以下(10%以上の範囲を含んでいる。)の硬質ウレタンフォーム断熱材が示されており(乙22【0007】・【0025】・【0033】)、また、特開平5-255466(甲27)には、密度23kg/m^(3)(10kg/m^(3)?25kg/m^(3)の範囲に含まれている。)、独立気泡率56%?69%(10%以上の範囲を含んでいる。)の硬質ウレタンフォーム断熱材が示されている(甲27【0020】)。
したがって、独立気泡率が10%を超える密度10kg/m^(3)?25kg/m^(3)の低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が存在し得えない、という請求人主張の技術常識が存在しないことは明らかである。
(平成28年6月29日付け上申書10頁15行ないし11頁4行)


(2)無効理由2について
甲1には、「透湿防水シート」の機械的強度について、何ら具体的な記載が存在しないのであるから、甲1から「透湿防水シート」の機械的強度に係る構成を特定することは不可能である。
なお、請求人は、甲1の「4.申請仕様の副構成材料」の「透湿防水シート」の厚さ(0.17mm以下)が本件特許の比較例2の「面材B」の厚さ(0.3mm)よりも小さい(薄い)ことを唯一の理由として、甲1の「4.申請仕様の副構成材料」の「透湿防水シート」が「独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない」軟質性材料に該当すると主張するが、既に述べているとおり、透湿防水シートの剛性や機械的強度を厚さのみで特定することはできないから、請求人の主張には理由がない。
(審判事件答弁書24頁22行ないし33行)


(3)無効理由3について
ア 甲1発明1を主引用発明とする場合についての主張
甲1発明1、対比に関する主張について、上記(1)を参照。

イ 甲1発明2を主引用発明とする場合についての主張
甲1発明2、対比に関して、上記(1)に加え、以下の主張がある。

(ア)請求人は、甲1発明2の構成として、透湿防水シートはロール状にすることが可能な軟質性材料からなると認定している。この点、甲1発明2における断熱材は「吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材(JIS A 9526)」の仕様を充たす独立気泡構造硬質ウレタンフォーム断熱材であるが、・・・柔軟な透湿防水シートに対して独立気泡構造硬質ウレタンフォーム断熱材を吹き付けて取り付けることは、甲1には一切開示されていない。仮に、甲1に独立気泡構造硬質ウレタンフォーム断熱材を透湿防水シートに吹き付ける構成が開示されているとしても、かかる構成で想定されている透湿防水シートは、独立気泡構造硬質ウレタンフォーム断熱材の発泡圧や収縮に耐えうる剛性を有するものでなければならない。
よって、甲1には、断熱材として「吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材(JIS A 9526)」を選択し、さらに、「透湿防水シートはロール状にすることが可能な軟質性材料からなる」という構成は開示されておらず、かかる構成を認定するのは誤りである。
(口頭審理陳述要領書21頁10行ないし末行)

(イ)甲1が作成される以前より、乙8や乙9に記載されているように剛性、保形性といった断熱材原液の吹付けに耐え得る物性を有するシートが公知の技術となっていることからも、甲1において断熱材[2]と組み合わされる透湿防水シートは、独立気泡構造型吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材の吹付けに耐え得る剛性、保形性を有するシートである(薄くて剛性、保形性を有するシートが当時公知の技術であり、かつ、かかるシートを用いないと建築基準法に違反しない実用可能な防火構造が作れない。)。
(平成28年6月29日付け上申書7頁15行ないし22行)

(ウ)請求人は、腰の弱い透湿防水シートであっても、吹付け厚さによっては通気層を塞ぐほど収縮により反りが生じない場合があるから、甲1の断熱材[2]と組み合わせられるシートは剛性、保形性のあるものに限定されないなどと主張する。しかしながら、そもそも、硬質ウレタンフォーム断熱材は、実用可能な断熱性能を得るために58mmから132mm程度の厚さで吹き付けられるものであるから(乙20)、請求人の上記主張は現実性に欠ける空論にすぎない。
(平成28年6月29日付け上申書8頁14行ないし20行)

ウ 上記ア、イの場合に共通する(甲1発明の認定、対比を除く)主張
(ア)甲2記載事項
甲2には、透湿性及び防水性を備えた軟質性材料を「面材」とし、そのような軟質性の面材上に硬質ウレタンフォーム断熱材の原液を直接スプレーして発泡させるという・・・点は何ら記載されていない。
(口頭審理陳述要領書20頁20行ないし23行)

(イ)甲1発明1又は2に対し甲2記載事項を適用する動機付け
a 甲2発明は、断熱材及びその製造方法に関する発明である。他方、甲1発明は、その構成が特定されていないが、甲1が「防火構造」の認定に関する内容を記載した書面であることを踏まえれば、防火構造に関する発明であると理解するのが素直である。甲1発明において、断熱材は、柱、・・・、パテ等の10種以上ある構成材料の1つに過ぎない。
したがって、甲1発明と甲2発明の技術分野は、関連するとはいえない。
(審判事件答弁書16頁25行ないし33行)

b 甲1は、建築基準法に基づく、外壁の防火構造の認定内容・・・を個別的に記載したものであって、施工会社や工務店等が建築物の設計や施工に際して認定内容を確認するために用いられるものである。それを超えて、・・・「発明の課題」やその解決方法を記載すべき性質の文書ではなく、また、事実、そのような課題は開示も示唆もされていない。したがって、甲1発明は、何らの課題も有しない。
・・・甲1の「張付けはできるだけたるみ、しわのないように取付ける。」との記載は、通気層が塞がってしまうことについての課題を示すものではない。したがって、甲1は、通気層が塞がってしまうことについての課題を示すものではない。
他方、甲2発明は、吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材について、「発煙係数に合格する断熱材とするため、難燃剤の配合とともに、一般に、ウレタン結合の三量体であるイソシアヌレート構造を分子内に含むイソシアヌレートフォームが使用されている。しかし、・・・水を主たる発泡剤としてフォームを生成させた場合は、・・・、発煙係数に合格する断熱材とすることができない」(甲2【0007】)・・・を課題とする発明である。甲2には、「通気層」に関する課題は一切記載されていない。
以上より、甲1発明も甲2発明も「通気層が塞がる」ことに関する課題を有しない。
(審判事件答弁書16頁36行ないし18頁26行)

c 「通気層が塞がってしまう」可能性のある実用性のない防火構造は建築基準法上「認定」を受けられないから、「認定」内容を記載した甲1には、「通気層が塞がってしまう」可能性のある防火構造は記載されていない。したがって、甲1に記載された事項が「通気層が塞がってしまうこと」についての課題を有する余地はない。
また、請求人が指摘する「通気層が塞がってしまう」との不具合は、軟質性の透湿防水シートと独立気泡構造硬質ウレタンフォーム断熱材を組み合わせた場合に一般的に生じる不具合である。このような主引例とされた公知文献に記載のない一般的な不具合をもって、当業者をして甲1に他の発明を組み合わせることを具体的に動機付けるほどの「課題」が開示されていると評価することはできない。
(口頭審理陳述要領書30頁下から6行ないし31頁6行)

d 請求人は、「出願当時、甲第1号証に接した当業者が、現場発泡硬質ウレタンフォームの収縮という課題を解決するために最初に検討する事項は、独立気泡率を下げることであった。」と主張している(審判請求書・38頁)。しかし、甲1には硬質ウレタンフォーム断熱材の収縮という課題は開示も示唆もされていないし、また、硬質ウレタンフォーム断熱材の収縮への対応は、独立気泡率を下げることではなく、収縮に耐える程の機械的強度を有する下地板材、剛性や保形性を有するシート材を面材とすることにより行われていた・・・のであるから、請求人の上記主張が事実に反することは明らかである。
(審判事件答弁書18頁27行ないし19頁4行)

e 請求人は、乙8や乙9に通気層を塞ぐ課題があったと指摘するが、甲1には、乙8や乙9と異なり、かかる課題が記載されていないのであるから、乙8や乙9の記載を根拠に甲1が通気層を塞ぐ課題を有するとは到底いえない。また、甲2には、通気層が塞がる課題は一切記載も示唆もされていないし、まして、低密度硬質ウレタンフォーム断熱材を用いることにより通気層の塞がりを防ぐという課題は一切記載も示唆もされていない。
(平成28年6月29日付け上申書13頁下から2行ないし14頁6行)

f 甲1は、「発明の課題」やその解決方法を記載すべき性質の文書ではなく、また、事実、そのような課題は開示も示唆もされていない。したがって、甲1発明は、「防火性能の確保」という課題を有しない。・・・。しかし、10種以上の材料で構成される「防火構造」の発明である甲1発明の課題が、防火構造を構成する材料の1つに過ぎない断熱材の有する特性の一部により決定されることなどあり得ない・・・。他方、甲2発明の課題は、・・・、断熱材の発煙係数を抑える(燃焼時の煙の発生量を少なくする)ことである。したがって、甲2発明は、防火性能の確保という課題を有しない。
(審判事件答弁書19頁9行ないし28行)

g 仮に甲1に何らかの断熱作用・機能があるとするならば、当該機能は、柱、間柱、外装材等のそれぞれを組み合わせて、一定の条件を充足する施工方法により完成させた防火構造全体が備える作用・機能であり、甲2発明のような断熱材単独の作用・機能ではない。したがって、甲1に記載された事項と甲2発明とに、引用発明特定事項同士の作用・機能の共通性は認められない。
(平成28年6月29日付け上申書14頁8行ないし13行)

h 請求人は、透湿防水シート及び吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材を相性によって組み合わせることは、公知材料の中からの最適材料の選択にすぎない旨主張する。
しかしながら、・・・甲1には・・・、本件特許発明における軟質性材料からなる面材に硬質ウレタンフォーム原液を直接吹き付ける構成は勿論のこと、かかる技術的思想すら一切開示されていない。単に様々な種類の透湿防水シートや硬質ウレタンフォーム断熱材が存在していたことをもって、当業者がそれらを自由自在に組み合わせることが可能であったとの主張は暴論であるというほかない。
(口頭審理陳述要領書30頁3行ないし13行)

i 甲1発明・・・における・・・断熱材を甲2に記載の吹付け工法によって得られる断熱材に変更することによって、甲1に記載の条件を充足しない材料、断熱材の取付方法等を使用した防火構造となる。かかる防火構造は明確に甲1に係る認定防火構造から除外された防火構造であるから、甲1に記載された事項に甲2発明を適用して、あえて認定外の防火構造を想到することについては、阻害要因がある。
(口頭審理陳述要領書20頁下から3行ないし21頁4行)


(4)無効理由4について
上記(2)を参照。


(5)無効理由5について
ア 甲1発明は「防火構造」に係る発明であるところ、甲3発明及び甲4発明は「透湿防水シート」に係る発明であり、技術分野は一致しない。
(審判事件答弁書26頁10行ないし12行)

イ 甲1発明は何ら課題を有していないから、甲1発明と甲3発明及び甲4発明とに課題の共通性はない。
(審判事件答弁書26頁13行ないし15行)

ウ 防火構造に係る発明である甲1発明と透湿防水シートに係る発明である甲3発明及び甲4発明とに作用・機能の共通性が認められないことはもちろんであるが、加えて、甲1には、「透湿防水シート」の作用又は機能についての記載は存在せず、況して、甲3に記載の「防水性、透湿性および防風性等の各種性能が優れるとともに、それらのバランスに優れ、さらに、低コスト、かつ施工後に高いタッカー強度を発揮することができる。」等の作用・機能(甲3【0032】【発明の効果】)も、甲4に記載の「特に結露を防止する透湿性と空気浸透性及び熱損失を低減せしめる断熱性を兼ね備えた軽量且つ柔軟性に富み、しかも取り扱い易い」等の作用・機能(甲4・2頁右欄15行目)も、一切記載されていないから、この点からも、甲1発明と甲3発明及び甲4発明とに、作用・機能の共通性は認められない。
(審判事件答弁書26頁20行ないし31行)


(6)無効理由6について
本件特許の明細書には、「本発明において用いる面材は、独立気泡ウレタンフォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない軟質性又は可撓性又は柔軟性のもので十分であり…」(【0011】)、「このような面材として、…例えばクラフト紙…例えば…デュポン社製「タイベック」等が好ましく使用される」(【0012】)と記載され、具体的な面材の種類、製品名等を例示しているのであるから、本件特許発明2の実施を可能にするだけの記載が存在することは明らかである。
加えて、本件特許の明細書【0033】から【0040】には、実施例1から4並びに比較例1及び2に使用する硬質ウレタンフォーム断熱材の材料と、面材A及びBについて、具体的に記載されている。そして、実施結果は【表1】に示されているところ、・・・。・・・、【表1】は、本件特許発明1の断熱材に係る構成要件を充足する連続気泡構造硬質ウレタンフォーム原液を面材A又はBにスプレーする実施例1から4については◎又は○の評価ができるのに対し、独立気泡構造硬質ウレタンフォーム原液である「倉敷紡績社製(クララフォームHR300NSG)」を面材A又はBにスプレーする比較例1及び2については×の評価がされることを記載している。かかる記載は、面材A(「透湿防水防風シート(セーレン社製ラミテクト)」)及びB(「アルミニウム箔ラミネートポリエチレン面材(密度:250g/m3、厚み:0.3mm、アルミ箔厚み:7μm)」)が、独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たないことを示すものである。したがって、この点からも、本件特許の明細書には、本件特許発明2の実施を可能にするだけの記載が存在することが明らかである。
(審判事件答弁書27頁26行ないし28頁21行)


第6 訂正請求について
1 訂正請求の内容
被請求人が平成28年10月27日付けで提出した訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲について、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲(以下「本件訂正特許請求の範囲」という。)のとおり訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを請求するものであって、次の事項をその訂正内容とするものである(下線は、訂正箇所を示す。)。
なお、以下、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面を「本件特許明細書」という。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「軟質性材料は透湿性及び防水性を備えた材料であり、」とあるのを、「軟質性材料は透湿性及び防水性を備えた材料であり、かつ独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない材料であり、」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「硬質ウレタンフォーム断熱材は、面材の屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより得られ、そして」とあるのを、「硬質ウレタンフォーム断熱材は、面材の屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより得られ、面材及び柱又は間柱に付着し、そして」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「硬質ウレタンフォーム断熱材は、水を発泡剤として用い、独立気泡率が10%以下でありかつ密度が10?25Kg/m^(3)である低密度連続気泡構造硬質ウレタンフォームである断熱構造。」とあるのを、「硬質ウレタンフォーム断熱材は、水を発泡剤として用い、独立気泡率が10%以下でありかつ密度が10?25Kg/m^(3)である低密度連続気泡構造硬質ウレタンフォームであり、
通気層は、硬質ウレタンフォーム断熱材が付着した面材の凹凸により遮断されない、
断熱構造。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「軟質性材料が、独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない請求項1記載の断熱構造。」とあるのを、「硬質ウレタンフォーム断熱材が水のみを発泡剤として用いる請求項1記載の断熱構造。」に訂正する。


2 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、「軟質性材料」について、「軟質性材料は透湿性及び防水性を備えた材料であ」ることに加えて「独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない材料であ」ることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、訂正前の請求項2に記載されていた事項であるから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、「硬質ウレタンフォーム断熱材」について、硬質ウレタンフォームの原液がスプレーされた結果物としての構造、すなわち、現場発泡スプレー硬質ウレタンフォーム断熱材と「面材及び柱又は間柱」との構造的関係をより明確にするために、「硬質ウレタンフォーム断熱材」が「面材及び柱又は間柱に付着」することを特定するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、「硬質ウレタンフォーム断熱材」について、面材の屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより、「硬質ウレタンフォーム断熱材」が面材の屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に付着した一体構造になることは自明であるから、訂正事項2は訂正前の請求項1の記載から自明の事項であって、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、「通気層」について、「硬質ウレタンフォーム断熱材が付着した面材の凹凸により遮断されない」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3は、本件特許明細書の段落【0035】、【表1】及び【0040】の記載からみて、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであることは明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。

(4)訂正事項4について
訂正前の請求項2が引用する訂正前の請求項1には「硬質ウレタンフォーム断熱材」について「水を発泡剤として用い」と記載され、水以外の発泡剤の併用を可能にする表現であったところ、訂正事項4は、訂正前の請求項2において、「水のみを発泡剤として用いる」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4は、本件特許明細書の段落【0024】の記載からみて、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。

(5)一群の請求項について
本件訂正は、訂正後の請求項1ないし3が訂正請求の対象とされており、一群の請求項毎に請求がされているものであるから、本件訂正は特許法第134条の2第3項の規定に適合する。

(6)独立特許要件について
本件では、訂正前の請求項1ないし3について特許無効審判の対象とされているから、訂正前の請求項1ないし3に係る訂正事項1、3及び4に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。


3 本件訂正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同法第134条の2第3項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合する。
よって、本件訂正を認める。


第7 本件訂正発明
上記第6のとおり、本件訂正を認めるので、本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明(以下「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
面材の屋内側表面上に硬質ウレタンフォーム断熱材を現場発泡スプレー法によって積層してなる、建築物の壁部を断熱する目的で用いられる断熱構造であって、
建築物の柱又は間柱の屋外側に面材が取り付けられ、
面材の屋外側に胴縁を介して外壁材が取り付けられ、
外壁材と面材との間に通気層が形成され、
面材はロール状にすることが可能な軟質性材料からなり、
軟質性材料は透湿性及び防水性を備えた材料であり、かつ独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない材料であり、
硬質ウレタンフォーム断熱材は、面材の屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより得られ、面材及び柱又は間柱に付着し、そして
硬質ウレタンフォーム断熱材は、水を発泡剤として用い、独立気泡率が10%以下でありかつ密度が10?25Kg/m^(3)である低密度連続気泡構造硬質ウレタンフォームであり、
通気層は、硬質ウレタンフォーム断熱材が付着した面材の凹凸により遮断されない、
断熱構造。
【請求項2】
硬質ウレタンフォーム断熱材が水のみを発泡剤として用いる請求項1記載の断熱構造。
【請求項3】
軟質性材料が紙材、紙材の片面又は両面にプラスチックフィルムをラミネートしたラミネート紙材、フィルム材、繊維シート材、不織布にプラスチックを含浸させた繊維系シート材或は不織布の片面に合成樹脂微多孔質膜を被覆又は積層したシート材から選ぶ一種又はそれ以上である請求項1又は2記載の断熱構造。」


第8 無効理由についての当審の判断
請求人の主張する無効理由1ないし6(上記第4を参照。)については、本件訂正発明1ないし3に対して主張されたものとして検討する。

1 各甲号証の記載
(1)甲第1号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。

ア 6241頁に、「認定区分」として「防耐火構造 防火構造 外壁(耐力壁)<30分>」が、「商品名」として「アキレス充てん断熱工法」が、「1.構造名」として「硬質ウレタンフォーム保温板充てん/木繊維混入セメント珪酸カルシウム板表張/せっこうボード裏張/木製軸組造外壁」が記載されている。

イ 表2(6241頁ないし6244頁)に「申請仕様の構成材料」についての説明として、「項目」ごとに、「申請仕様」の説明が記載されている。表2には、下記(ア)ないし(ウ)の記載がある。

(ア)「項目」として、「柱」、「間柱」、「外装材」、「構造用面材」、「内装材」、「断熱材」の記載がある。

(イ)「構造用面材」の説明として、「材料:[1]?[13]の一」の記載とともに、「[1]なし」との記載がある。

(ウ)「断熱材」の説明として、「材料:[1]、[2]又は[3]」との記載とともに、以下の記載がある。

「[2]吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材(JIS A 9526)
厚さ:15?105mm
密度:25kg/m^(3)?55kg/m^(3)
[3]低密度硬質ウレタンフォーム断熱材(熱伝導率:0.038W/m・K以下)
厚さ:20?105mm
密度:10kg/m^(3)?25kg/m^(3)」

ウ 表3(6244頁ないし6247頁)に「申請仕様の副構成材料」についての説明として、「項目」ごとに、「申請仕様」の説明が記載されている。表3には、下記(ア)、(イ)の記載がある。

(ア)「項目」として、「受材」、「通気胴縁」、「透湿防水シート」、「防湿材」、「目地部材」、「外装材留金具」、「留付け材」、「パテ」の記載がある。

(イ)「透湿防水シート」の説明として、「材料:[1]又は[2]」の記載とともに、以下の記載がある。

「[1]透湿防水シート:(JIS A 6111) 厚さ:0.17mm以下
材質:1)、2)又は3)
1)ポリエチレン 2)ポリエステル 3)ポリプロピレン
[2]なし」

エ 6276頁に「6.施工方法」として、下記(ア)ないし(ウ)の記載がある。
(ア)「(3)透湿防水シートを張付ける場合
・透湿防水シートは横張又は縦張とし、重ね代は縦90mm以上、横150mm以上とする。
・断熱材、柱又は間柱への張付けは内幅9.6mm以上、足長10mm以上のステープルで張付ける。(構造用面材を用いた場合は構造用面材に張付ける)
・張付けはできるだけたるみ、しわのないように取付ける。」

(イ)「(5)外装材留金具の取付け
指定された留金具を、通気胴縁に板幅間隔でスクリューくぎ、リングくぎ又はタッピングねじのいずれかを用いて外装材を張付けながら取付ける。
(6)外装材(サイディング)の取付け
・・・
・サイディングの留付けは、留金具にはめ込み張り上げる。」

(ウ)「(7)断熱材の取付け
[1]硬質ウレタンフォーム保温板(JIS A 9511)又は[3]低密度硬質ウレタンフォーム断熱材
・柱又は間柱の内のり寸法に合わせて正確に切断する。
・断熱材は柱又は間柱及び構造用面材(構造用面材を取付けた場合)との周囲に隙間が生じないように充てんする。
・断熱材はずれないように、柱又は間柱及び構造用面材にくぎなどで留付ける。
[2]吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材(JIS A 9526)
・吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材を使用する場合は、断熱材を吹付ける面に透湿防水シート又は構造用面材の下地材がある場合に限る。
・断熱材を吹付ける際は、厚さむらが生じないように下地材に吹付ける。」

オ 図1に「断熱材充てん/外装材横張/せっこうボード裏張/真壁造(欠き込み)」の「構造説明図」として、「透視図」が記載されている。図1は次のものである。



カ 図13に「断熱材充てん/外装材横張/せっこうボード裏張/真壁造(欠き込み)」の「構造説明図」として、「水平断面図」及び「鉛直断面図」が記載されている。図13は次のものである。



キ 図29に「断熱材充てん/外装材横張/せっこうボード裏張/真壁造(欠き込み)」の「施工図」として、「水平断面図」及び「鉛直断面図」が記載されている。図29は次のものである。



ク 上記ア及びエ(ア)ないし(ウ)を踏まえて図1、図13、図29をみると、「外装材」が取付けられている側が屋外側、「内装材」が取付けられている側が屋外側であることは明らかであるから、
(ア)柱又は間柱の屋外側に透湿防水シートが取り付けられていること(特に図1及び上記エ(ア)を参照。)、
(イ)透湿防水シートの屋外側において通気胴縁に取付けられた留金具に外装材が嵌め込み張り上げられていること(特に図1及び上記エ(イ)を参照。)、
(ウ)外装材と透湿防水シートとの間に通気胴縁がスペーサとなって空間が形成されていること(特に図13の水平断面図を参照)、
(エ)断熱材が、柱又は間柱の間に透湿防水シートの屋内側表面上に接して配置されていること(特に図13の水平断面図及び上記エ(ア)を参照。)、
(オ)断熱材が板材であること(特に図1の透視図及び図13の水平断面図を参照。)、
がみてとれる。

ケ 上記アないしクによると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明1」、「甲1発明2」という。)。

(ア)甲1発明1
「柱又は間柱の屋外側に透湿防水シートが取り付けられ、
透湿防水シートの屋外側において通気胴縁に取付けられた留金具に外装材が嵌め込み張り上げられ、
外装材と透湿防水シートとの間に通気胴縁がスペーサとなって空間が形成され、
透湿防水シートは厚さが0.17mm以下、材質がポリエチレン、ポリエステル又はポリプロピレンの透湿防水シートであり、
断熱材が、柱又は間柱の間に透湿防水シートの屋内側表面上に接して配置され、柱又は間柱及び構造用面材にくぎなどで留付けられる板材であって、熱伝導率が0.038W/m・K以下、厚さが20?105mm、密度が10kg/m^(3)?25kg/m^(3)の低密度硬質ウレタンフォーム断熱材である、断熱材充てん/外装材横張/せっこうボード裏張/真壁造(欠き込み)構造。」

(イ)甲1発明2
「柱又は間柱の屋外側に透湿防水シートが取り付けられ、
透湿防水シートの屋外側において通気胴縁に取付けられた留金具に外装材が嵌め込み張り上げられ、
外装材と透湿防水シートとの間に通気胴縁がスペーサとなって空間が形成され、
透湿防水シートは厚さが0.17mm以下、材質がポリエチレン、ポリエステル又はポリプロピレンの透湿防水シートであり、
断熱材が、柱又は間柱の間に透湿防水シートの屋内側表面上に吹き付けて配置され、厚さが15?105mm、密度が25kg/m^(3)?55kg/m^(3)の吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材である、断熱材充てん/外装材横張/せっこうボード裏張/真壁造(欠き込み)構造。」

(2)甲第2号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】 ASTM D 2856によって測定した独立気泡率が10%以下である連通気泡型ポリウレタンフォームからなることを特徴とする連通気泡型ポリウレタンフォーム製断熱材。
【請求項2】 JIS K 7222によって測定した上記連通気泡型ポリウレタンフォームの密度が5?20kg/m^(3)である請求項1記載の連通気泡型ポリウレタンフォーム製断熱材。
【請求項3】 JIS A 1321によって測定した発煙係数が30?150である請求項1又は2記載の連通気泡型ポリウレタンフォーム製断熱材。
【請求項4】 難燃剤を含有していない請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の連通気泡型ポリウレタンフォーム製断熱材。
【請求項5】 水、アミン触媒及びポリオールを含むポリオール成分と、ポリイソシアネート成分とを混合し、発泡させることを特徴とする連通気泡型ポリウレタンフォーム製断熱材の製造方法。
【請求項6】 発泡剤として上記水のみを使用し、上記ポリオールを100重量部とした場合に、上記水は5?50重量部である請求項4記載の連通気泡型ポリウレタンフォーム製断熱材の製造方法。
【請求項7】 吹き付け工法により、上記ポリオール成分と、上記ポリイソシアネート成分とを、所要個所に吹き付け、混合し、発泡させる請求項4又は5記載の連通気泡型ポリウレタンフォーム製断熱材の製造方法。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建築物の壁体等の断熱及び結露防止などを目的として用いられる連通気泡型ポリウレタンフォーム製断熱材及びその製造方法に関する。更に詳述すれば、本発明は、発泡剤としてフッ化炭化水素を使用することなく、且つハロゲン系難燃剤等の難燃剤の配合を必ずしも必要としない連通気泡型ポリウレタンフォーム製断熱材及びその製造方法に関する。
・・・
【0003】また、建築物の壁体等に使用される断熱材としては、1)断熱性を高め、壁面における結露を防止する等の優れた断熱性能が必要とされる他、2)火災時の安全性を保証するための難燃、不燃性能、及び3)長期間の使用に耐える耐久性等の性能も要求されている。これら1)?3)のすべての性能を併せ備える断熱材が最も好ましいとされているが、現用の各種の断熱材にはそれぞれ一長一短があり、作業性及びコスト等を勘案して適宜のものが選択され、使用されている。」

ウ 「【0005】そこで、建築物の壁体等に使用される断熱材としても、硬質ポリウレタンフォームが使用されることが多い。特に、施工現場において、吹き付け工法によって外壁内面等に断熱層を形成する方法は、装置が簡易であって、操作が容易であり、効率的である。また、この硬質ポリウレタンフォームからなる断熱材は、容易に脱落することもなく、優れた耐久性を有している。しかし、日本工業規格に定められた難燃基準、特に、最も大きな技術的課題とされている発煙性に合格する断熱材とするためには、難燃剤の添加等、何らかの対策が必要となる。
【0006】この難燃剤としては、臭素含有ハロゲン化合物、フッ素含有ハロゲン化合物等が使用されており、これによって自己消火性及び難燃性が付与されている。しかし、十分な難燃性を有する断熱材とするためには、これらの難燃剤を多量に配合する必要がある。そして、これらの難燃剤が熱分解して生成するハロゲン化合物によって燃焼速度は抑制されるものの、この揮発性のハロゲン化合物が発煙を助長し、有毒な煙が多量に発生するとの問題がある。このように、難燃剤の配合によって煙の発生が増加するため、規格に定められた発煙係数に合格する断熱材とすることは容易ではない。
【0007】そのため、この発煙係数に合格する断熱材とするため、難燃剤の配合とともに、一般に、ウレタン結合の三量体であるイソシアヌレート構造を分子内に含むイソシアヌレートフォームが使用されている。しかし、その使用が禁止されているフッ化炭化水素ではなく、水を主たる発泡剤としてフォームを生成させた場合は、イソシアネート成分の相当量が水との反応によるウレア結合の生成に消費されてしまう。そして、分子内に化学量論的にイソシアヌレート基を導入することが困難となり、発煙係数に合格する断熱材とすることができないとの問題がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の従来の問題を解決するものであり、発泡剤としてフッ化炭化水素を使用せず、水を主たる発泡剤とし、特に、水のみを発泡剤として、連通気泡を有し、密度の低いポリウレタンフォームからなる断熱材及びその製造方法を提供することを課題とする。」

エ 「【0009】
【課題を解決するための手段】第1発明の連通気泡型ポリウレタンフォーム製断熱材は、ASTM D 2856によって測定した独立気泡率が10%以下である連通気泡型ポリウレタンフォームからなることを特徴とする。
【0010】上記「連通気泡型ポリウレタンフォーム」(以下、「連泡型PUF」という。)は、その独立気泡率が「10%以下」、特に7%以下、更には5%以下であって、連通性が高い。また、そのセル径は0.15?0.3mm、特に0.15?0.25mm、更には0.15?0.2mmであって独立気泡型の硬質ポリウレタンフォームに比べてかなり大きい。そのため、JIS K 7222によって測定した密度が5?30kg/m^(3)、特に、第2発明のように、「5?20kg/m^(3)」、更には5?15kg/m^(3)と非常に低く、言い換えれば、軽量であって、これは燃焼時に可燃物量が少ないことを意味する。
【0011】そのため、第1発明の連泡型PUF製の断熱材を燃焼させた場合、極めて短時間ですべてが燃焼してしまい、温度も大きく上昇することがない。従って、JIS A 1321によって測定した温度時間面積は非常に小さく、炎は実質的に残ることがない。また、特に、その発煙係数を、第3発明のように、「30?150」、特に35?120、更には40?80と非常に小さく抑えることができる。更に、第1発明の連泡型PUF製の断熱材は、第4発明のように、難燃剤を含有していないものとすることができる。この断熱材では、難燃剤が分解して生成する化合物による煙の増加がない。それによって、より発煙係数の小さい断熱材とすることができる。尚、上記の温度時間面積とは、JIS A 1321による難燃性の評価において、排気温度曲線が標準温度曲線を越えている部分の、これら曲線で囲まれた部分の面積のことである。
【0012】第5発明の連通気泡型ポリウレタンフォーム製断熱材の製造方法は、水、アミン触媒及びポリオールを含むポリオール成分と、ポリイソシアネート成分とを混合し、発泡させることを特徴とする。
【0013】第5発明では、発泡剤として上記「水」を用いる。特に、第6発明のように、発泡剤として、この水のみを使用することにより、容易に連通性の高い連泡型PUF製の断熱材とすることができる。この水は、ポリオールを100重量部とした場合に、「5?50重量部」配合することが好ましく、特に10?40重量部、更には15?35重量部とすることがより好ましい。水が5重量部未満では、十分に連通化され、密度の低い連泡型PUFとすることができないため好ましくない。一方、水が40重量部であれば、十分に発泡し、連通化され、これを越えて配合する必要はない。また、第6発明のように、発泡剤として水のみを使用する場合は、フォームの分子内にイソシアヌレート基を導入することなく、優れた難燃性を有する連泡性PUF製の断熱材とすることができる。」

オ 「【0021】第5発明における「混合」及び「発泡」は、通常のポリウレタンフォームの生成におけると同様、所謂、スラブ発泡成形法或いはモールド発泡成形法によって行うことができる。この場合は、工場等において所定の形状の断熱材を成形し、これを施工現場に搬送し、壁体内等に配設して使用することができる。また、この混合、発泡は、特に、第7発明のように、「吹き付け工法」により行うことができる。この吹き付け工法は、壁体等の内表面の所要個所にスプレー工法等によって原料を吹き付けると同時に混合し、発泡させるもので、非常に効率のよい方法である。尚、吹き付け工法では、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とは、通常、体積比で略等量を吹き付け、混合し、発泡させる。」

カ 「【0022】第5発明において得られるポリウレタンフォームは、一定の応力によって座屈し、弾性的に回復することはない。従って、発泡体の性状からみれば硬質ポリウレタンフォームに属するものであるといえる。また、水のみを発泡剤として得られる硬質ポリウレタンフォームは、水とイソシアネートとの化学反応によって発生する二酸化炭素をセルに取り込むことによって生成するが、この二酸化炭素はポリウレタンフォームのセル膜を容易に透過し、大気中に拡散していく速度が大きい。そのため、セルの内圧が負圧となってフォームが収縮する傾向にあり、密度の低いフォームとすることは極めて困難である。一方、本発明においては、フォームを連続気泡構造としているため、セルの内圧が大気圧と等しくなる。それによって、セルの収縮が抑えられ、フォームの密度を大きく低下させることができる。
【0023】また、物質が燃焼するためには、可燃物があり、酸素が供給され、且つ点火源があるとの三要素が必要であるが、本発明では、これらの三要素のうち、特に、可燃物量を低減することが、発煙性の低下に有効な手法であることに着目した。そして、独立気泡率が低く、連通気泡を有する密度の低いポリウレタンフォームとすることにより、その分子内にイソシアヌレート構造を有さないポリウレタンフォームであっても、更には必ずしも難燃剤の配合を要することもなく、優れた難燃性を有し、特に、発煙し難い断熱材を得ることができる。

キ 「【0032】
【発明の効果】第1発明によれば、独立気泡率の低い、連通気泡型の密度の低いポリウレタンフォームを用いることにより、難燃3級に合格し得る優れた難燃性を有する断熱材とすることができる。また、第5発明によれば、発泡剤としてフッ化炭化水素を使用することなく、且つハロゲン系難燃剤等の難燃剤の配合を必ずしも必要とせず、特に、建築物の壁体内面等に、吹き付け工法によって優れた難燃性を有する断熱層を容易に形成することができる。」

ク 上記アないしキによれば、甲第2号証には、次の技術事項が記載されていると認められる(以下「甲2技術」という。)。
「建築物の壁体等の断熱などを目的として、水のみからなる発泡剤と、アミン触媒及びポリオールを含むポリオール成分と、ポリイソシアネート成分とを、壁体等の内表面の所要個所にスプレー工法等によって吹き付けると同時に混合し発泡させることで、独立気泡率が10%以下であり、密度が5?15kg/m^(3)の連通気泡型硬質ポリウレタンフォーム製断熱材を得ること。」

(3)甲第3号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0003】そこで、いわゆる外壁通気工法と呼ばれる工法が開発されている。この外壁通気工法は、屋内側から内装材、防湿材、断熱材、防風材および外壁の順で配設し、防風材と外壁の間に通気層を設ける構造とするものである。この構造において、防風材は、通気層内の冷気が断熱層に侵入して断熱効果が低下するのを防止するために、冷気の侵入を阻止する目的で設けられるものである。また、この防風材は、断熱層で発生した水蒸気を通気層内へ通し外部へ逃がすとともに、結露によって水滴が発生しても断熱材への水滴の浸透を防ぐ等の重要な機能を担うものである。また、未だ外壁が施工されていない建築工事中は、防風材が最も外側に露出されるため、特に断熱材への水滴の浸透を防ぐ機能が重要となる。さらに、この防風材には、良好な施工性を有すること、低コストで製造できることも望まれる。」

イ 「【0004】前記の防風材として、従来、アスファルト含浸フェルト、フラッシュ紡糸法により得られるポリエチレン製不織布が使用されている。また、延伸ポリオレフィンフィルムとポリオレフィン製テープ織物との積層体も提案されている(特開昭63-223249号公報)。また、不織布や織編物などに樹脂加工したものも市販されている。」

ウ 上記ア、イによれば、甲第3号証には、次の技術事項が記載されていると認められる(以下「甲3技術」という。)。
「屋内側から内装材、防湿材、断熱材、防風材および外壁の順で配設する外壁通気工法で用いられる断熱層で発生した水蒸気を通気層内へ通し外部へ逃がすとともに、結露によって水滴が発生しても断熱材への水滴の浸透を防ぐ機能を担う防風材としての、フラッシュ紡糸法により得られるポリエチレン製不織布または不織布や織編物などに樹脂加工したもの。」

(4)甲第4号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている。

ア 「本考案は、家屋用下地シートに関し、特に家屋建築の際に使用する透湿性および断熱性を有する下地シートに関するものである。」(1頁右欄14行なしし16行)

イ 「本考案は・・・、優れた透湿性と断熱性とを兼ね備え、水蒸気による結露の発生を低減し、かつ空気浸透による熱損失を最小限に押さえた軽量で柔軟性に富み、しかも取り扱い易い下地シートの提供を目的としたものである。」

ウ 「第1図は低通気性不織布1の片面に合成樹脂微多孔膜2がコーティング又はラミネーティングにより形成されてなるものであり、・・・、第3図は低通気性不織布1と合成樹脂微多孔膜2を積層しそれにはっ水剤を付与してなるものである。」

エ 上記アないしウによれば、甲第4号証には、次の技術事項が記載されていると認められる(以下「甲4技術」という。)。
「家屋建築の際に使用する透湿性および断熱性を有する家屋用下地シートであって、低通気性不織布1の片面に合成樹脂微多孔膜2がコーティング又はラミネーティングにより形成されてなるものにはっ水剤を付与したもの。」


2 無効理由1について

(1)甲1発明1との対比・判断
本件訂正発明1と甲1発明1とを対比する。
ア 甲1発明1の「透湿防水シート」は面状の材料であることから、本件訂正発明1の「面材」に相当する。

イ 甲1発明1の「柱又は間柱」が建物の柱又は間柱であることは明らかであるから、甲1発明1の「柱又は間柱の屋外側に透湿防水シートが取り付けられ」は、本件訂正発明1の「建築物の柱又は間柱の屋外側に面材が取り付けられ」に相当する。

ウ 甲1発明1の「外装材」は本件訂正発明1の「外壁材」に相当し、以下同様に、「通気胴縁」は「胴縁」に、「空間」は、「通気胴縁がスペーサとなって」「形成され」ることから、「通気層」に相当する。

エ 甲1発明1の「透湿防水シートの屋外側に通気胴縁に取付けられた留金具に外装材が嵌め込み張り上げられ」は、本件訂正発明1の「面材の屋外側において胴縁を介して外壁材が取り付けられ」に相当する。

オ 甲1発明1の「外装材と透湿防水シートとの間に通気胴縁がスペーサとなって空間が形成され」は、本件訂正発明1の「外壁材と面材との間に通気層が形成され」に相当する。

カ 甲1発明1の「透湿防水シートは厚さが0.17mm以下、材質がポリエチレン、ポリエステル又はポリプロピレンの透湿防水シートであり」は、「厚さが0.17mm以下、材質がポリエチレン、ポリエステル又はポリプロピレン」の「透湿防水シート」が、ロール状にすることが可能な軟質性材料であり透湿性及び防水性を備えることは明らかであるから、本件訂正発明1の「面材はロール状にすることが可能な軟質性材料からなり、軟質性材料は透湿性及び防水性を備えた材料であり」に相当する。

キ 甲1発明1の「断熱材が、柱又は間柱の間に透湿防水シートの屋内側表面上に接して配置され、熱伝導率が0.038W/m・K以下、厚さが20?105mm、密度が10kg/m^(3)?25kg/m^(3)の低密度硬質ウレタンフォーム断熱材である」と、本件訂正発明1の「硬質ウレタンフォーム断熱材は、面材の屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより得られ、そして硬質ウレタンフォーム断熱材は、水を発泡剤として用い、独立気泡率が10%以下でありかつ密度が10?25Kg/m^(3)である低密度連続気泡構造硬質ウレタンフォームである」は、「硬質ウレタンフォーム断熱材は、面材の屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に配置され、そして硬質ウレタンフォーム断熱材は、密度が10?25Kg/m^(3)である低密度硬質ウレタンフォームである」で共通する。

ク 甲1発明1の「断熱材」は「柱又は間柱の間に透湿防水シートの屋内側表面上に接して配置され、柱又は間柱及び構造用面材にくぎなどで留付けられる板状であ」るから、当該「断熱材」が「透湿防水シート」に凹凸を形成することはない。したがって、甲1発明1は「通気層は、硬質ウレタンフォーム断熱材が付着した面材の凹凸により遮断されない」との事項を備えている。

ケ 甲1発明1の「断熱材充てん/外装材横張/せっこうボード裏張/真壁造(欠き込み)構造」は、壁を構成する「透湿防水シートの屋内側表面上に接して配置され」る「低密度硬質ウレタンフォーム断熱材」を備えるから、本件訂正発明1の「面材の屋内側表面上に硬質ウレタンフォーム断熱材を現場発泡スプレー法によって積層してなる、建築物の壁部を断熱する目的で用いられる断熱構造」と、「面材の屋内側表面上に硬質ウレタンフォーム断熱材を積層してなる、建築物の壁部を断熱する目的で用いられる断熱構造」で共通する。

コ 以上によれば、両者は以下の点で一致する。

「面材の屋内側表面上に硬質ウレタンフォーム断熱材を積層してなる、建築物の壁部を断熱する目的で用いられる断熱構造であって、
建築物の柱又は間柱の屋外側に面材が取り付けられ、
面材の屋外側に胴縁を介して外壁材が取り付けられ、
外壁材と面材との間に通気層が形成され、
面材はロール状にすることが可能な軟質性材料からなり、軟質性材料は透湿性及び防水性を備えた材料であり、
硬質ウレタンフォーム断熱材は、面材の屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に配置され、そして硬質ウレタンフォーム断熱材は、密度が10?25Kg/m^(3)である低密度硬質ウレタンフォームであり、
通気層は、硬質ウレタンフォーム断熱材が付着した面材の凹凸により遮断されない、
断熱構造。」

サ 他方、両者は以下の点で相違する。

[相違点1]低密度硬質ウレタンフォーム断熱材に関し、
本件訂正発明1が、「面材の屋内側表面上」に「現場発泡スプレー法によって」積層されるものであって、「面材の屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより得られ、面材及び柱又は間柱に付着」するのに対し、
甲1発明1は、柱又は間柱の間に透湿防水シートの屋内側表面上に「接して配置され」る「板材」である点。

[相違点2]低密度硬質ウレタンフォーム断熱材に関し、
本件訂正発明1が、「水を発泡剤として用い、独立気泡率が10%以下であ」る「連続気泡構造」であるのに対し、
甲1発明1にはそのような特定がない点。

[相違点3]面材に関し、
本件訂正発明1が、「独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない材料であ」るのに対し、
甲1発明1にはそのような特定がない点。

シ よって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明とすることはできない。

(2)請求人の主張について
ア 請求人は、甲第1号証が策定された当時、すでに木造住宅の外壁に適用される断熱材として吹付け低密度ウレタンフォーム断熱材が発売されており、被請求人ら当業者は、これらの断熱材に対し甲第1号証と同内容の防火耐火認定が適用されるとして、ユーザーに利用を促してきたから、甲第1号証において「低密度硬質ウレタンフォーム断熱材」が現場発泡スプレー法によって積層される断熱材であることや、硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより得られる断熱材であることが記載されているに等しい旨主張する(上記第4の3(1)ウ(ア)を参照。)。
しかしながら、仮に請求人が主張する事実があったとしても、そのことから直ちに、甲第1号証に現場発泡スプレー法によって施工される低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が記載されているとまではいえないので、請求人の主張は採用できない。

イ 請求人は、建築物の外壁用の低密度硬質ウレタンフォーム断熱材として、水発泡品が実用化されていることは一般的に知られている技術であったから、甲第1号証に接した当業者は低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が水発泡品も含みうると認識することになる旨主張する(上記第4の3(1)ウ(イ)a(c)を参照。)。
しかしながら、甲第1号証の作成当時に水発泡品である低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が実用化されていたとしても、そのことから直ちに、甲第1号証に水発泡品である低密度硬質ウレタンフォーム断熱材が記載されているとまではいえないので、請求人の主張は採用できない。

ウ 請求人は、密度が10?25kg/m^(3)である水発泡の連続気泡構造ポリウレタンフォーム断熱材において、独立気泡率が10%以下となることは、出願時において当業者に一般的に知られていた技術ないし経験則であるので、本願出願時における技術常識を参酌することにより、「独立気泡率が10%以下であ」ることを導き出せるものであり、記載されているに等しい旨主張する(上記第4の3(1)ウ(イ)b(a)を参照。)。
しかしながら、上記主張の裏付けとなる根拠が十分に示されているとはいえないため、請求人の主張は採用できない。

(3)甲1発明2との対比・判断
本件訂正発明1と甲1発明2とを対比する。
ア 甲1発明2の「透湿防水シート」は面状の材料であることから、本件訂正発明1の「面材」に相当する。

イ 甲1発明2の「柱又は間柱」が建物の柱又は間柱であることは明らかであるから、甲1発明2の「柱又は間柱の屋外側に透湿防水シートが取り付けられ」は、本件訂正発明1の「建築物の柱又は間柱の屋外側に面材が取り付けられ」に相当する。

ウ 甲1発明2の「外装材」は本件訂正発明1の「外壁材」に相当し、以下同様に、「通気胴縁」は「胴縁」に、「空間」は、「通気胴縁がスペーサとなって」「形成され」ることから、「通気層」に相当する。

エ 甲1発明2の「透湿防水シートの屋外側において通気胴縁に取付けられた留金具に外装材が嵌め込み張り上げられ」は、本件訂正発明1の「面材の屋外側に胴縁を介して外壁材が取り付けられ」に相当する。

オ 甲1発明2の「外装材と透湿防水シートとの間に通気胴縁がスペーサとなって空間が形成され」は、本件訂正発明1の「外壁材と面材との間に通気層が形成され」に相当する。

カ 甲1発明2の「透湿防水シートは厚さが0.17mm以下、材質がポリエチレン、ポリエステル又はポリプロピレンの透湿防水シートであり」は、「厚さが0.17mm以下、材質がポリエチレン、ポリエステル又はポリプロピレン」の「透湿防水シート」が、ロール状にすることが可能な軟質性材料であり透湿性及び防水性を備えることは明らかであるから、本件訂正発明1の「面材はロール状にすることが可能な軟質性材料からなり、軟質性材料は透湿性及び防水性を備えた材料であり」に相当する。

キ 甲1発明2の「断熱材が、柱又は間柱の間に透湿防水シートの屋内側表面上に吹き付けて配置される」「吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材」は、原液を直接スプレーして発泡され、面材及び柱又は間柱に付着するものであることは当業者にとって明らかであるから、本件訂正発明1の「硬質ウレタンフォーム断熱材は、面材の屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより得られ、面材及び柱又は間柱に付着」することに相当する。

ク 甲1発明2の「断熱材充てん/外装材横張/せっこうボード裏張/真壁造(欠き込み)構造」は、壁を構成する「透湿防水シートの屋内側表面上に吹き付けて配置され」る「低密度硬質ウレタンフォーム断熱材」を備えるから、本件訂正発明1の「面材の屋内側表面上に硬質ウレタンフォーム断熱材を現場発泡スプレー法によって積層してなる、建築物の壁部を断熱する目的で用いられる断熱構造」に相当する。

ケ 以上によれば、両者は以下の点で一致する。

「面材の屋内側表面上に硬質ウレタンフォーム断熱材を現場発泡スプレー法によって積層してなる、建築物の壁部を断熱する目的で用いられる断熱構造であって、
建築物の柱又は間柱の屋外側に面材が取り付けられ、
面材の屋外側に胴縁を介して外壁材が取り付けられ、
外壁材と面材との間に通気層が形成され、
面材はロール状にすることが可能な軟質性材料からなり、軟質性材料は透湿性及び防水性を備えた材料であり、
硬質ウレタンフォーム断熱材は、面材の屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより得られ、面材及び柱又は間柱に付着する、
断熱構造。」

コ 他方、両者は以下の点で相違する。

[相違点4]本件訂正発明1においては、「硬質ウレタンフォーム断熱材は、水を発泡剤として用い、独立気泡率が10%以下でありかつ密度が10?25Kg/m^(3)である低密度連続気泡構造硬質ウレタンフォームであり、通気層は、硬質ウレタンフォーム断熱材が付着した面材の凹凸により遮断されない」のに対し、
甲1発明2では、硬質ウレタンフォーム断熱材は「密度が25kg/m^(3)?55kg/m^(3)」であり、また、通気層が、硬質ウレタンフォーム断熱材が付着した透湿防水シートの凹凸により遮断されないか否か特定がない点。

[相違点5]面材に関し、
本件訂正発明1が、「独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない材料であ」るのに対し、
甲1発明2にはそのような特定がない点。

サ よって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明とすることはできない。

(4)小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、その特許は、無効理由1によって無効とすることはできない。


3 無効理由2について

(1)対比・判断
本件訂正発明2は、本件訂正発明1に従属し、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件訂正発明2と甲1発明1又は2とを対比すると、両者は少なくとも上記2の本件訂正発明1の検討と同様の理由により、本件訂正発明2は、甲第1号証に記載された発明とすることはできない。

(2)小括
以上のとおり、本件訂正発明2は、甲第1号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、その特許は、無効理由2によって無効とすることはできない。


4 無効理由3について

(1)甲1発明1を主引用発明とした場合
ア 対比
上記2(1)サのとおり、本件訂正発明1と甲1発明1は、上記相違点1ないし3で相違する。

イ 判断
(ア)相違点1及び2について
上記相違点1及び2は互いに関連するのでまとめて検討する。

a 甲2技術
甲第2号証には、上記1(2)クで認定したとおりの甲2技術が記載されている。

b 甲1発明1と甲2技術の技術分野について
(a)甲1発明1と甲2技術とは、低密度硬質ウレタンフォーム断熱材を用いた建物の壁体の断熱に関する技術である点で、技術分野が関連する。

(b)また、甲1発明1が防耐火構造に関するものであり(上記1(1)アを参照。)、甲2技術に係る断熱材に関して、甲第2号証に「独立気泡率が低く、連通気泡を有する密度の低いポリウレタンフォームとすることにより、・・・、優れた難燃性を有し」(上記1(2)カの段落【0023】を参照。)、「第1発明によれば、・・・、難燃3級に合格し得る優れた難燃性を有する断熱材とすることができる。また、第5発明によれば、・・・優れた難燃性を有する断熱層を容易に形成することができる」(上記1(2)キの段落【0032】を参照。)との記載があることなどから、甲2技術により得られる断熱材に防耐火構造を構成する用途が想定されていることは明らかであるから、甲1発明1と甲2技術とは、防耐火構造に関する点においても、技術分野が関連している。

c 甲1発明1と甲2技術の課題について
断熱材が防火構造の防火性能に大きく寄与すること、及び、防火性能が高いほど好ましいことは技術常識であるから(例えば甲第2号証の段落【0003】(上記1(2)イ)を参照。)、(低密度硬質ウレタンフォーム)断熱材を用いる甲1発明1が、当該断熱材の防火性能の確保の課題を有することは、当業者にとって明らかである。
一方、甲2技術に係る断熱材に関して、甲第2号証に「独立気泡率が低く、連通気泡を有する密度の低いポリウレタンフォームとすることにより、・・・、優れた難燃性を有し」(上記1(2)カの段落【0023】を参照。)、「第1発明によれば、・・・、難燃3級に合格し得る優れた難燃性を有する断熱材とすることができる。また、第5発明によれば、・・・優れた難燃性を有する断熱層を容易に形成することができる」(上記1(2)キの段落【0032】を参照。)との記載があることからも、甲2技術が防火性能の確保の課題を有することは、当業者にとって明らかである。
したがって、甲1発明1と甲2技術は、防火性能の確保の課題を有する点で共通している。

d 上記b及びcから、甲1発明1と甲2技術とは、技術分野が関連する上、課題が共通することから、甲1発明1に対して甲2技術を採用して、上記相違点1及び2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(イ)相違点3について
次に、上記相違点3について検討する。
上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成について、「独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない」ことは、「厚さが0.17mm以下、材質がポリエチレン、ポリエステル又はポリプロピレン」である甲1発明1の「透湿防水シート」が当然備える性質に過ぎない。してみると、上記相違点3は実質的な相違点ではない。また、そのような性質の透湿防水シートは周知、慣用であるから(例えば、上記第5の3(6)におけるデュポン社製「タイベック」等)、当該構成を相違点として扱うべきとしても、当業者であれば適宜採用し得た構成に過ぎない。

(ウ)被請求人の主張について
a 被請求人は、甲2発明は、断熱材及びその製造方法に関する発明であり、他方、甲1発明は、甲1が「防火構造」の認定に関する内容を記載した書面であることを踏まえれば、防火構造に関する発明であると理解するのが素直であるから、甲1発明と甲2発明の技術分野は、関連するとはいえないと主張する(上記第5の3(3)ウ(イ)aを参照。)。
しかしながら、上記イ(ア)bのとおりであって、被請求人の主張は採用できない。

b 被請求人は、甲1は、「発明の課題」やその解決方法を記載すべき性質の文書ではなく、また、事実、そのような課題は開示も示唆もされていないと主張する(上記第5の3(3)ウ(イ)fを参照。)。
しかしながら、上記イ(ア)cのとおり、甲第1号証に記載がないとしても、技術常識を参酌すれば甲1発明1が断熱材の防火性能の確保の課題を有することは当業者にとって自明であるから、被請求人の主張は採用できない。

c 被請求人は、甲1に何らかの断熱作用・機能があるとするならば、当該機能は、柱、間柱、外装材等のそれぞれを組み合わせて、一定の条件を充足する施工方法により完成させた防火構造全体が備える作用・機能であり、甲2発明のような断熱材単独の作用・機能ではないから、甲1に記載された事項と甲2発明とに、引用発明特定事項同士の作用・機能の共通性は認められないと主張する(上記第5の3(3)ウ(イ)gを参照。)。
しかしながら、甲1発明1に甲2技術を適用する動機付けがあることは、上記イ(ア)b及びcのとおりであって、被請求人の主張は採用できない。

d 被請求人は、本件訂正発明1の「硬質ウレタンフォーム断熱材」は、・・・「透湿性及び防水性を備えた材料であり、かつ独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない材料であ」る・・・「面材・・・に付着」する硬質ウレタンフォーム断熱材であるところ、甲1発明1はかかる硬質ウレタンフォーム断熱材の構成のうち「透湿性及び防水性を備えた材料」を除く構成をいずれも有していないと主張する(平成28年10月27日付け上申書(3)13頁4行ないし13行を参照。)。
しかしながら、上記イ(イ)のとおりであって、被請求人の主張は採用できない。

e 被請求人は、甲2技術は軟質性材料でも透湿防水性を有するシートでもない「厚さ5mmの石綿スレート板」といった剛性の壁体」である面材にスプレーして形成される吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材を組み合わせることを要旨とする技術であると主張する(平成28年10月27日付け上申書(3)14頁17行ないし20行を参照。)。
しかしながら、甲2技術は建築物の壁体等の断熱及び結露防止などを目的として用いられる連通気泡型ポリウレタンフォーム製断熱材に係るものであり、発泡剤としてフッ化炭化水素を使用せず、水を主たる発泡剤とし、特に、水のみを発泡剤として、連通気泡を有し、密度の低いポリウレタンフォームからなる断熱材を提供することを課題とするものであることに鑑みると(上記第8の1(2)イ及びウを参照。)、甲2技術の用途を剛性の壁体に限定すべき理由はない。
したがって、被請求人の主張は採用できない。

f 被請求人は、防火認定を得ている甲1発明1は(断熱材の難燃性如何にかかわりなく)既に十分な防火性能を確保しており更なる防火性能の確保(向上)の課題を有しない・・・甲1発明1が防火認定を得て既に十分な防火性能を確保していることは、甲1発明1と甲2技術との組合せの阻害要因となると主張する(平成28年10月27日付け上申書(3)16頁下から3行ないし17頁6行を参照。)。
しかしながら、防火性能が高いほど好ましいことは技術常識であるから(上記イ(ア)cを参照。)、更なる防火性能の確保(向上)のため、甲1発明1に甲2技術を適用することは当業者にとって格別困難なことではない。
したがって、被請求人の主張は採用できない。

g 被請求人は、「甲1発明は、・・・断熱材を甲2技術記載の断熱材に置き換えると、明確に甲1に係る認定防火構造から除外された防火構造を組成してしまうのであり、あえて認定外の防火構造を想到することについては、阻害要因が認められる」及び「・・・甲1発明1は、吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材を排除しているのであるから、甲1発明1の『低密度硬質ウレタンフォーム断熱材(熱伝導率:0.038W/m・K以下)』を甲1発明1が排除した吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材に置き換えることには阻害要因がある」と主張する(平成28年10月27日付け上申書(3)17頁9行ないし18頁3行を参照。)。
しかしながら、新たな材料の組合せによる防火構造を発案した者は、それに合わせて次なる防火構造認定を取得すればよいだけのことであるから、甲1発明1が防火構造認定を取得していることが、直ちに甲2技術の適用を阻害するものではない。
したがって、被請求人の主張は採用できない。

h 被請求人は、甲1発明1の「板材」である「低密度硬質ウレタンフォーム断熱材(熱伝導率:0.038W/m・K以下)」を、軟質性材料からなる透湿防水シートに吹き付けて形成される吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材に置き換えようとした場合、当時の技術常識であった面材の凹凸による通気層の閉塞の課題(乙8及び乙9)に直面することになるから、・・・阻害要因があると主張する(平成28年10月27日付け上申書(3)18頁4行ないし17行を参照。)。
しかしながら、甲1発明2のように、軟質性材料からなる透湿防水シートに吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材を吹き付けて形成して防火構造認定を取得した事例があることを参酌すると、甲1発明1において、「板材」である上記「低密度硬質ウレタンフォーム断熱材」に代えて、甲2技術の吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材を適用することに阻害要因があるとは認められない。
したがって、被請求人の主張は採用できない。

(エ)小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明1)及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その特許は、無効理由3により無効とすべきものである。


(2)甲1発明2を主引用発明とした場合
ア 対比
上記2(3)コのとおり、本件訂正発明1と甲1発明2は、上記相違点4及び5で相違する。

イ 判断
(ア)相違点4について
上記相違点4について検討する。

a 甲2技術
甲第2号証には、上記1(2)クで認定したとおりの甲2技術が記載されている。

b 甲1発明2と甲2技術の技術分野について
上記(1)イ(ア)b(b)のとおり、甲1発明2と甲2技術とは、防耐火構造に関する点において、技術分野が関連している。
また、甲1発明2と甲2技術とは、建物の壁体に用いられる吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材に関する点においても技術分野が関連している。

c 甲1発明2と甲2技術の課題について
上記(1)イ(ア)cのとおり、甲1発明2と甲2技術は、防火性能の確保の課題を有する点で共通している。

d 上記b及びcから、甲1発明2と甲2技術とは、技術分野が関連する上、課題が共通することから、甲1発明2に対して甲2技術を採用して、上記相違点4に係る本件訂正発明1の硬質ウレタンフォーム断熱材の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、仮に通気層が遮断された場合には通気層として用を為さないことは明白であるから、上記相違点4に係る本件訂正発明1の「通気層は、硬質ウレタンフォーム断熱材が付着した面材の凹凸により遮断されない」という事項は、甲1発明2に対して甲2技術を採用する際に当然に満たすべき事項である。

(イ)相違点5について
次に、上記相違点5について検討する。
上記相違点5に係る本件訂正発明1の構成について、「独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない」ことは、「厚さが0.17mm以下、材質がポリエチレン、ポリエステル又はポリプロピレン」である甲1発明2の「透湿防水シート」が当然備える性質に過ぎない。してみると、上記相違点5は実質的な相違点ではない。また、そのような性質の透湿防水シートは周知、慣用であるから(例えば、上記第5の3(6)におけるデュポン社製「タイベック」等)、当該構成を相違点として扱うべきとしても、当業者であれば適宜採用し得た構成に過ぎない。

(ウ)被請求人の主張について
a 上記2(3)カに関して、被請求人は、乙8や乙9に記載されているように剛性、保形性といった断熱材原液の吹付けに耐え得る物性を有するシートが公知の技術となっていることからも、甲1において断熱材[2]と組み合わされる透湿防水シートは、独立気泡構造型吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材の吹付けに耐え得る剛性、保形性を有するシートであるので、甲1発明2の透湿防水シートはロール状にすることが可能な軟質性材料でない旨主張する(上記第5の3(3)イ(イ)を参照。)。
しかしながら、その材料、厚さの条件に加え、甲1の7276頁、「6.施工方法」、「(3)透湿防水シートを張付ける場合」の「張付けはできるだけたるみ、しわのないように取付ける。」との記載からも、甲1発明2の透湿防水シートは、ロール状にすることが可能な軟質性材料である蓋然性が高いといえる。また、ロール状にすることが可能か否かはシートの剛性によるところ、被請求人が主張する乙8や乙9においては、シートの剛性については何ら記載されていないため、そのような証拠に基づいた主張は採用できない。

b また、上記2(3)カに関して、被請求人は、硬質ウレタンフォーム断熱材は、実用可能な断熱性能を得るために58mmから132mm程度の厚さで吹き付けられるものであるから、腰の弱い透湿防水シートであっても吹付け厚さによっては通気層を塞ぐほど収縮により反りが生じない場合があるから、甲1の断熱材[2]と組み合わせられるシートは剛性、保形性のあるものに限定されないとする請求人の主張は空論である旨主張する(上記第5の3(3)イ(ウ)を参照。)。
しかしながら、上記2(3)カのとおり、甲1発明2の透湿防水シートはロール状にすることが可能な軟質性材料であるから、被請求人の主張は採用できない。

c 被請求人は、独立気泡構造吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材を剛性を持たない透湿防水シートに吹き付けると、収縮現象により面材に大きな凹凸がついて通気層を塞いでしまうという不具合が生じることは当業者であれば当然に認識する技術的事項であり(乙8及び乙9参照)、実際に独立気泡構造吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材を「厚さが0.17mm以下、材質がポリエチレン、ポリエステル又はポリプロピレンの透湿防水シート」と組み合わせて、実用できる防火構造を作るためには当該透湿防水シートが、独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持つことが必須であることもまた、当業者であれば当然に認識する技術的事項であると主張する(平成28年10月27日付け上申書(3)8頁下から4行ないし9頁7行を参照。)。
しかしながら、甲1発明2の「厚さが0.17mm以下、材質がポリエチレン、ポリエステル又はポリプロピレン」である「透湿防水シート」は、周知、慣用のシート(例えば、上記第5の3(6)におけるデュポン社製「タイベック」等)と変わりないものであるから、「独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持つ」という特別な性質を備えるとは認められない。
仮に甲1発明2の当該「透湿防水シート」がそのような特別な性質を備えるとしても、甲2技術の適用にあたり、上記の周知、慣用のシートを適用することは設計事項に過ぎない。
したがって、被請求人の主張は採用できない。

d 甲1発明1に関する上記(1)イ(ウ)のdないしfの主張は、甲1発明2についても主張されているから、甲1発明1の場合と同様に、被請求人の主張は採用できない。

(エ)小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明2)及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その特許は、無効理由3により無効とすべきものである。


5 無効理由4について

(1)甲1発明1を主引用発明とした場合
ア 対比
本件訂正発明2と甲1発明1は、上記相違点1ないし3に加え、以下の点で相違する。

[相違点6]「硬質ウレタンフォーム断熱材」に関して、
本件訂正発明2は、「硬質ウレタンフォーム断熱材が水のみを発泡剤として用いる」のに対して、
甲1発明1は、そのような構成を有するか否か不明な点。

イ 判断
(ア)上記相違点1ないし3に係る本件訂正発明2の構成については、上記4(1)イ(ア)及び(イ)に記載したとおり、甲1発明1に対して甲2技術を採用することで当業者が容易に想到し得たものである。

(イ)上記相違点6に係る本件訂正発明2の構成については、甲2技術が備えているから、甲1発明1に対して甲2技術の当該事項を採用することで当業者が容易に想到し得たものである。

(ウ)小括
以上のとおり、本件訂正発明2は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明1)及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その特許は、無効理由4により無効とすべきものである。


(2)甲1発明2を主引用発明とした場合
ア 対比
本件訂正発明2と甲1発明2は、上記相違点4及び5に加え、以下の点で相違する。

[相違点7]「硬質ウレタンフォーム断熱材」に関して、
本件訂正発明2は、「硬質ウレタンフォーム断熱材が水のみを発泡剤として用いる」のに対して、
甲1発明2は、そのような構成を有するか否か不明な点。

イ 判断
(ア)上記相違点4及び5に係る本件訂正発明2の構成は、上記4(2)イ(ア)及び(イ)に記載したとおり、甲1発明2に対して甲2技術を採用することで当業者が容易に想到し得たものである。

(イ)上記相違点7に係る本件訂正発明2の構成については、甲2技術が備えているから、甲1発明2に対して甲2技術の当該事項を採用することで当業者が容易に想到し得たものである。

(ウ)小括
以上のとおり、本件訂正発明2は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明2)及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その特許は、無効理由4により無効とすべきものである。


6 無効理由5について

(1)甲1発明1を主引用発明とした場合
ア 対比
請求項2を引用する本件訂正発明3と甲1発明1を対比すると、甲1発明1の「透湿防水シート」は、厚さが0.17mm以下であって、材質がポリエチレン、ポリエステル又はポリプロピレンであることから、本件訂正発明3の「フィルム材」に相当するので、甲1発明1は、「軟質性材料が」「フィルム材」「である」との構成を備える。
してみると、本件訂正発明3と甲1発明1とは、上記相違点1ないし3及び6で相違する。

イ 判断
(ア)上記相違点1ないし3及び6に係る本件訂正発明3の構成については、上記4(1)イ(ア)及び(イ)、5(1)イ(イ)のとおり、甲1発明1に対して甲2技術を採用することで当業者が容易に想到し得たものである。

(イ)小括
以上のとおり、本件訂正発明3は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明1)及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その特許は、無効理由5により無効とすべきものである。


(2)甲1発明2を主引用発明とした場合
ア 対比
請求項2を引用する本件訂正発明3と甲1発明2を対比すると、甲1発明2の「透湿防水シート」は、厚さが0.17mm以下であって、材質がポリエチレン、ポリエステル又はポリプロピレンであることから、本件訂正発明3の「フィルム材」に相当するので、甲1発明2は、「軟質性材料が」「フィルム材」「である」との構成を備える。
してみると、本件訂正発明3と甲1発明2とは、上記相違点4、5及び7で相違する。

イ 判断
(ア)上記相違点4、5及び7に係る本件訂正発明3の構成については、上記4(2)イ(ア)及び(イ)、5(2)イ(イ)のとおり、甲1発明2に対して甲2技術を採用することで当業者が容易に想到し得たものである。

(イ)小括
以上のとおり、本件訂正発明3は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明2)及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その特許は、無効理由5により無効とすべきものである。


7 無効理由6について

ア 請求人の主張
独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合の発泡圧又は収縮圧で変形するか否かという機能・特性により軟質性材料の強度を規定する方法は標準的なものではなく、当業者に慣用されているものでもないところ、発明の詳細な説明には、機能・特性等の定義又はその機能・特性等を定量的に決定するための試験・測定方法が示されていない。
そのため、当業者は多数の異なる機械的性質を有する軟質性材料を取り揃えて実験を繰り返さなければ、本件特許発明2がいかなる効果を奏するか検証できず、当業者に過度の追試を強いるものである。
よって、本件特許は実施可能要件に違反する。
(上記第4の3(6)を参照。)

イ 判断
本件特許の明細書には、「本発明において用いる面材は、独立気泡ウレタンフォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない軟質性又は可撓性又は柔軟性のもので十分であり・・・」(【0011】)、「このような面材として、・・・例えばクラフト紙・・・例えば・・・デュポン社製「タイベック」等が好ましく使用される」(【0012】)と記載されており、本件訂正発明1ないし3を実施するための具体的な面材の種類、製品等が例示されていることから、本件特許の発明の詳細な説明には、本件訂正発明1ないし3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。

ウ 小括
以上のとおり、本件特許の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすため、その特許は、無効理由6によって無効とすることはできない。


第9 むすび

以上のとおり、請求人が主張する無効理由3ないし5は、いずれも理由がある。
したがって、本件訂正発明1ないし3についての特許は、無効理由3ないし5によって無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定に従って、結論記載のとおりの負担とする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面材の屋内側表面上に硬質ウレタンフォーム断熱材を現場発泡スプレー法によって積層してなる、建築物の壁部を断熱する目的で用いられる断熱構造であって、
建築物の柱又は間柱の屋外側に面材が取り付けられ、
面材の屋外側に胴縁を介して外壁材が取り付けられ、
外壁材と面材との間に通気層が形成され、
面材はロール状にすることが可能な軟質性材料からなり、
軟質性材料は透湿性及び防水性を備えた材料であり、かつ独立気泡ウレタンフォーム原液を吹き付けた場合に、該フォームの発泡圧又は収縮圧で変形しない程の機械的強度を持たない材料であり、
硬質ウレタンフォーム断熱材は、面材の屋内側表面上にかつ柱又は間柱の間に硬質ウレタンフォームの原液を直接スプレーして発泡させることにより得られ、面材及び柱又は間柱に付着し、そして
硬質ウレタンフォーム断熱材は、水を発泡剤として用い、独立気泡率が10%以下でありかつ密度が10?25Kg/m^(3)である低密度連続気泡構造硬質ウレタンフォームであり、
通気層は、硬質ウレタンフォーム断熱材が付着した面材の凹凸により遮断されない、
断熱構造。
【請求項2】
硬質ウレタンフォーム断熱材が水のみを発泡剤として用いる請求項1記載の断熱構造。
【請求項3】
軟質性材料が紙材、紙材の片面又は両面にプラスチックフィルムをラミネートしたラミネート紙材、フィルム材、繊維シート材、不織布にプラスチックを含浸させた繊維系シート材或は不織布の片面に合成樹脂微多孔質膜を被覆又は積層したシート材から選ぶ一種又はそれ以上である請求項1又は2記載の断熱構造。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-12-28 
結審通知日 2017-01-05 
審決日 2017-01-18 
出願番号 特願2004-242699(P2004-242699)
審決分類 P 1 113・ 113- ZAA (E04B)
P 1 113・ 536- ZAA (E04B)
P 1 113・ 121- ZAA (E04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 洋行鉄 豊郎  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 赤木 啓二
藤田 都志行
登録日 2012-02-10 
登録番号 特許第4919449号(P4919449)
発明の名称 断熱構造  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 古庄 俊哉  
代理人 伊藤 晃  
代理人 古庄 俊哉  
代理人 稲葉 和久  
代理人 平田 省郎  
代理人 伊藤 晃  
代理人 国谷 史朗  
代理人 稲葉 和久  
代理人 山口 建章  
代理人 長谷部 陽平  
代理人 国谷 史朗  
代理人 長谷部 陽平  
代理人 鮫島 睦  
代理人 鮫島 睦  
代理人 平田 省郎  

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