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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G01J
管理番号 1341009
審判番号 不服2017-6558  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-08 
確定日 2018-06-08 
事件の表示 特願2015-135696「温度センサ素子及びその製造方法、多重層薄膜サーモパイル及びその製造方法並び放射温度計の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月17日出願公開、特開2015-227880〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)4月26日(優先権主張 平成22年4月26日、平成23年3月2日)を国際出願日として出願した特願2012-512847号の一部を、平成27年7月6日に新たに出願したものであって、平成28年7月29日付けで拒絶理由が通知されたが、指定した期間内に応答がなかったため平成29年2月2日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたところ、同年5月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成29年5月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の結論]
平成29年5月8日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は、請求人が付与したものである。)。

「【請求項1】
有機薄膜の各層薄膜に層サーモパイルを形成し、多重層化して形成した合成サーモパイルを温度感応部に設けた温度センサ素子の製造方法において、有機薄膜の各層薄膜に、それぞれ多重層化のための層薄膜数を想定して作成する各層毎の層サーモパイル形成工程の後、前記各層の必要な箇所に電極導通用の貫通孔を形成する貫通孔作成工程を行い、次に前記各層薄膜を位置合わせして重ねた状態で張り合わせ接合して一枚の多重層薄膜としての合成サーモパイルを形成するように接合する多重層接合工程を行い、その後、各層薄膜に形成した各層サーモパイルが直列接続になるように貫通孔を通して上下層の電極間を導通させる導通工程と、個別の温度センサ素子のヒートシンクを兼ねたアレー基板に、張り合わせ接合された前記多重層薄膜を接合させる基板接合工程と、を行い、その後、各温度センサ素子に分離する素子分離工程を行うことを特徴とする温度センサ素子の製造方法であって、
前記多重層薄膜を構成する各層薄膜の主体がフォトレジスト膜であり、貫通孔は該フォトレジスト膜自体の露光・現像に基づくパターン化により作成したこと、多重層薄膜とは異なる材料の補強用薄膜を前記多重層薄膜に密着形成して、該多重層薄膜を補強したこと、を特徴とする温度センサ素子の製造方法。」


(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
有機薄膜の各層薄膜に層サーモパイルを形成し、多重層化して形成した合成サーモパイルを温度感応部に設けた温度センサ素子の製造方法において、有機薄膜の各層薄膜に、それぞれ多重層化のための層薄膜数を想定して作成する各層毎の層サーモパイル形成工程の後、前記各層の必要な箇所に電極導通用の貫通孔を形成する貫通孔作成工程を行い、次に前記各層薄膜を位置合わせして重ねた状態で張り合わせ接合して一枚の多重層薄膜としての合成サーモパイルを形成するように接合する多重層接合工程を行い、その後、各層薄膜に形成した各層サーモパイルが直列接続になるように貫通孔を通して上下層の電極間を導通させる導通工程と、個別の温度センサ素子のヒートシンクを兼ねたアレー基板に、張り合わせ接合された前記多重層薄膜を接合させる基板接合工程と、を行い、その後、各温度センサ素子に分離する素子分離工程を行うことを特徴とする温度センサ素子の製造方法。」

2 補正の適否
(1) 本件補正の補正事項について
本件補正は、以下の補正事項Aを含むものである。

(補正事項A)請求項1に、「前記多重層薄膜を構成する各層薄膜の主体がフォトレジスト膜であり、貫通孔は該フォトレジスト膜自体の露光・現像に基づくパターン化により作成したこと、多重層薄膜とは異なる材料の補強用薄膜を前記多重層薄膜に密着形成して、該多重層薄膜を補強したこと」を追加する補正。

(2) 新規事項の追加について
当該補正事項Aが、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるか否かを検討する。

ア 本願の当初明細書等に記載された事項
当初明細書等には、温度センサ素子の製造方法に関して、以下の記載がある(下線は当審にて付与した。以下同様。)。

(ア-1) 「【背景技術】
【0002】
(第一の発明について)
サーモパイルは、複数の熱電対を直列に接続して同一の温度差ΔTに対して、センサ出力である熱起電力が大きくなるように構成した熱型センサであり、また温度差センサである。
【0003】
熱型センサには、サーミスタなどの絶対温度センサと熱電対やサーモパイルなどの温度差センサがある。温度差センサは、温度差しか検出しないので、ある点の基準温度に対して他の点の温度差のみを厳密に検出できるゼロ位法が適用できるから高精度の熱形温度センサとなり(特許文献1)、このために耳式体温計などの高精度赤外線温度センサでは、ほとんどサーモパイルが使用されている(特許文献2)所以である。
・・・
【0005】
一般に、抵抗率の大きい熱電材料は、大きなゼーベック係数を有するので、熱電対総数nの個数を増やさないで、サーモパイルの出力を上げる努力もなされ、結局、サーモパイルの出力と内部抵抗rによるS/Nとがトレードオフの関係になり、これらの妥協点でサーモパイルが製作されていた。」

(ア-2) 「【0005】
・・・
(第二の発明について)
本発明者は、先の特許出願に、多重層薄膜サーモパイルの原型である『温度センサ素子及びこれを用いた放射温度計、並びに温度センサ素子の製造方法』を発明した(特願2010-100578)。そこでは、5マイクロメートル程度の薄さの有機材料であるPETフィルム(ポリエチレンテレフタラートフィルム)を層薄膜として利用し、この層薄膜上に熱電材料としてのBiとSbとからなる熱電対を多数直列接続して形成した層サーモパイルを、各層薄膜の貫通孔を介して直列接続して形成する多重層薄膜に形成した合成サーモパイルがあった。しかしながら、PETフィルムを多層に貼り合わせる工程や上下の層サーモパイル同士を導通させるための貫通孔を形成する必要があり、また、導通にも銀ペーストを用いる必要があるなど大量生産上より改善が望まれる点があった。
【0006】
フォトレジスト膜以外の例えば、シリコン酸化膜などの無機材料の物質を各層薄膜として選ぶと、この各層薄膜を形成する工程、フォトレジスト膜を形成する工程、更にフォトレジスト膜を露光してパターン化する工程、フォトレジスト膜をマスクとして各層薄膜をエッチング除去する工程、フォトレジスト膜を除去する工程が必要になり、工程数が極めて多くなり、更にこれらを繰り返して多重層薄膜を構成すると、その多重化分だけその工程が増えて、結局、高価な多重層薄膜サーモパイルになってしまうという問題がある。」

(イ-1) 「【0018】
本発明の請求項1に係わる温度センサ素子の製造方法は、有機薄膜の各層薄膜に層サーモパイルを形成し、多重層化して形成した合成サーモパイルを温度感応部に設けた温度センサ素子の製造方法において、有機薄膜の各層薄膜に、それぞれ多重層化のための層薄膜数を想定して作成する各層毎の層サーモパイル形成工程の後、前記各層の必要な箇所に電極導通用の貫通孔を形成する貫通孔作成工程を行い、次に前記各層薄膜を位置合わせして重ねた状態で張り合わせ接合して一枚の多重層薄膜としての合成サーモパイルを形成するように接合する多重層接合工程を行い、その後、各層薄膜に形成した各層サーモパイルが直列接続になるように貫通孔を通して上下層の電極間を導通させる導通工程と、個別の温度センサ素子のヒートシンクを兼ねたアレー基板に、張り合わせ接合された前記多重層薄膜を接合させる基板接合工程と、を行い、その後、各温度センサ素子に分離する素子分離工程を行うこと、を特徴とするものである。
【0019】
有機薄膜で各層薄膜に層サーモパイルを形成し、多重層化して形成した合成サーモパイルを形成する場合、無機薄膜を用いた従来の技術であるマイクロマシーン技術に使用されるスパッタリングやCVDなどの多層膜形成が困難なことが多い。このためには、独自の多重層膜形成が必要となる。本発明は、PETなどの有機薄膜に層サーモパイルを複数枚形成しておき、これらを張り合わせ接合して、一枚の多重層化した合成サーモパイルを形成して温度センサ素子を作成する製造方法である。」

(イ-2) 「【0044】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項11に係わる多重層薄膜サーモパイルは、空洞により、基板から熱分離されている多重層薄膜がそれぞれの層薄膜から成り立っていること、該層薄膜にそれぞれ層サーモパイルが形成されていること、これらの上下の層薄膜に形成された層サーモパイル同士は、層薄膜に形成された貫通孔を通して直列接続されて、少なくとも1つの合成サーモパイルを構成する多重層薄膜サーモパイルにおいて、多重層薄膜を構成する各層薄膜の主体がフォトレジスト膜であり、貫通孔は該フォトレジスト膜自体の露光・現像に基づくパターン化により作成したこと、多重層薄膜とは異なる材料の補強用薄膜を前記多重層薄膜に密着形成して、該多重層薄膜を補強したこと、を特徴とするものである。
【0045】
基板中または基板の上に形成した空洞により、この基板から熱分離した多重層薄膜のそれぞれの層薄膜に形成されているサーモパイルを、本発明では、層サーモパイルと呼ぶことにしており、これらの層サーモパイルを電気的に直列接続したサーモパイルを合成サーモパイルと呼ぶことにしている。
【0046】
多重層薄膜の主体をフォトレジスト膜で形成することにより、写真の原理を利用するから設計通りの形状、厚みおよび寸法の多重層薄膜が高精度で容易に形成できる。また、貫通孔を、層薄膜となるフォトレジスト膜自体の所定の箇所に、露光・現像によるパターン化により精度良く容易に形成できるので、この層薄膜に形成した貫通孔を通して上下の層サーモパイル同士を容易に導通することができる。サーモパイルの熱電材料のパターン化ばかりで無く、空洞も、更に基板からセンサチップを切り出す場合もフォトリソグラフィでパターン化できるので、画一的な寸法やセンサ特性が得られる。一般に、フォトレジストの薄膜は、電気絶縁性であると共に、有機材料であるから熱伝導率も小さく、このフォトレジストの層薄膜を多重化して、多重層薄膜を形成してあり、それぞれの層薄膜に形成してある層サーモパイルが貫通孔を介して直列接続されて合成サーモパイルを形成している。
・・・
【0050】
各層サーモパイルを構成する熱電対の接続方法として、これらの熱電対を直列や並列、またはこれらを組み合わせた接続にすることもできるが、同一の温度差ΔTの下で、2端子と成る合成サーモパイルの熱起電力を大きくするためには、すべての熱電対を単に直列接続する方が良い。
多重層薄膜として、フォトレジスト膜を用いているので、一般には、薄く弾性のある有機材料であり、架橋構造の形成でも、弛みなどの変形の心配がある。このために、多重層薄膜とは異なる硬い材料の補強用薄膜として、例えば、無機の材料である石英薄膜、アルミナ薄膜、窒化シリコン膜などをスパッタリング堆積させるなどして形成し、空洞により宙に浮いた構造の多重層薄膜の強度を高めるようにすることができる。
基板として、SOI(Silicon On Insulator)基板を用いるとき、このSOI層を補強用薄膜として用いることもできる。SOI層の上にフォトレジスト膜の多重層薄膜を形成し、そこに合成サーモパイルを形成することもできる。」

(ウ-1) 「【発明の効果】
【0072】
・・・
【0074】
本発明の温度センサ素子の製造方法は、各層薄膜を位置合わせして重ねた状態で張り合わせ接合して一枚の多重層薄膜としての合成サーモパイルを形成するように接合する多重層接合工程を含む有機薄膜を主体とした各層薄膜に層サーモパイルと、その多重層化に伴う必要な各工程であり、極めて熱伝導度が小さく、しかも極めて薄く製作できるPETなどの有機薄膜が利用できること、貫通孔も容易に形成できること、素子分離も容易であることなど、高感度で高いS/Nであり、しかも安価な温度センサ素子が容易に提供できるという利点がある。
本発明の温度センサ素子では、上部の層薄膜に形成された貫通孔の周辺に、上部の層薄膜の層サーモパイルの電極を形成しておくと(層サーモパイルの電極の中に貫通孔を形成する形)、導電性接着剤などで容易に層間の導通を得ることができるので、好都合である。

(ウ-2) 「【0079】
本発明の多重層薄膜サーモパイルでは、フォトレジスト膜の多重層薄膜をフォトレジスト膜の材料の選択や補強用薄膜の援助の下に、フォトレジスト膜の多重層薄膜のうち空洞により基板から熱分離した宙に浮いた薄膜である温度感応部が、容易に変形し難いようにすることができるという利点がある。
本発明の多重層薄膜サーモパイルの製造方法は、フォトレジスト膜を主体とした各層薄膜に層サーモパイルと、その多重層化に伴う必要な各工程を含み、フォトレジスト膜は、有機物であることが多く、極めて熱伝導度が小さく、しかも極めて薄く容易に製作できること、フォトレジスト膜であるので貫通孔も高精度で容易に形成できること、予め高精度に形成した空洞を利用した犠牲領域を用いて、温度感応部となる基板から熱分離した多重層薄膜が用意に形成できるので、バラツキの極めて小さく画一的で高感度及び応答速度となること、素子分離も容易であることなど、高いS/Nであり、しかも安価な多重層薄膜サーモパイルが提供できるという利点がある。特に、SOI基板でない安価なシリコン単結晶基板が使用できるので、集積回路を有するコンパクトで安価な多重層薄膜サーモパイルが提供できるという利点がある。
本発明の多重層薄膜サーモパイルでは、フォトレジスト膜で基板から熱分離した多重層薄膜を構成する各層薄膜の主体がフォトレジスト膜であり、貫通孔は、このフォトレジスト膜自体の露光と現像に基づくパターン化により微細で精度が良く、しかも容易に形成できること、また、この貫通孔を通して層サーモパイル同士を容易に直列接続できること、更に、露光・現像によりパターン化できるフォトレジスト膜による多重層薄膜の形成のため工程数が少なくて済むという利点がある。」

(エ) 「【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】 ・・・(第一発明の実施例1)
【図2】 ・・・(第一発明の実施例1)
【図3】 ・・・(第一発明の実施例1)
【図4】 ・・・(第一発明の実施例2)
【図5】 ・・・(第一発明の実施例3)
【図6】 ・・・(第一発明の実施例3)
【図7】 ・・・(第一発明の実施例3)
【図8】 ・・・(第一発明の実施例3)
【図9】 ・・・(第一発明の実施例3)
【図10】 ・・・(第一発明の実施例3)
【図11】 ・・・(第一発明の実施例4)
【図12】 ・・・(第一発明の実施例5)
【図13】本発明の温度センサ素子の各層薄膜に有機薄膜を用いて実施した場合の温度センサ素子の製造方法を説明するための特徴的な工程を示すブロック図である。(第一発明の実施例6)
【図14】 ・・・(第二発明の実施例7)
【図15】 ・・・(第二発明の実施例7)
【図16】 ・・・(第二発明の実施例7)
【図17】 ・・・(第二発明の実施例7)
【図18】 ・・・(第二発明の実施例7)
【図19】 ・・・(第二発明の実施例8)
【図20】 ・・・(第二発明の実施例8)
【図21】 ・・・(第二発明の実施例9)
【図22】 ・・・(第二発明の実施例10)
【図23】 ・・・(第二発明の実施例11)
【図24】 ・・・(第二発明の実施例12)
【図25】 ・・・(第二発明の実施例13)
【図26】本発明の多重層薄膜サーモパイルの製造方法を説明するための特徴的な工程を示すブロック図である。(第二発明の実施例14)」

(オ-1) 「【発明を実施するための形態】
【0090】
以下、本発明の温度センサ素子等の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
(第一発明の実施例)
【実施例1】
【0091】
図1は、本発明の温度センサ素子の概念を説明するための一実施例を示す構成概略図の平面図で、図2は、図1のX-Xにおける横断面概略図であり、熱型赤外線センサ素子として実施した場合である。図1では、熱型赤外線センサ素子として実施した場合であるが、構造が分かりやすいように、受光部7に形成してある赤外線吸収膜25や熱伝導薄膜26を省いて描いてある。また、基板1に薄膜2がメンブレン(ダイアフラム)として、形成されてあり、空洞10を有しているために、熱的に基板1から分離された構造になっている場合である。この薄膜2にサーモパイル3が形成されているが、本発明では、この薄膜2が多重層薄膜15となっており、この多重層薄膜15を構成する各層薄膜12(12A、12B、12C)には、層サーモパイル13(13A、13B、13C)が形成されてあり、それぞれの接着剤27や熱融着などで多重化された上下の層サーモパイル13の熱起電力が大きくなるように、上下層薄膜導通部24を介して直列接続されて、電極端子A21と電極端子B22から外部に出力されるようにしている。
・・・
【0092】
本発明の温度センサ素子を熱型の赤外線センサ素子として利用する場合は、赤外線の受光部7を形成してあり、そこに各層サーモパイル13(13A、13B、13C)がそれぞれ形成されている各層薄膜12(12A、12B、12C)を接合した多重層薄膜15が基板1から空洞10を介して熱的に分離した形状にしている。この各層薄膜12は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜やこれらの混合薄膜などの無機材料から形成することもできるし、PETフィルムのようなプラスチック薄膜などの有機材料から形成することもできる。また、各層サーモパイル13(13A、13B、13C)は、直列接続した複数の薄膜の熱電対6から構成されているが、無機や有機の熱電材料からなる熱電対6で形成することができる。一般には、正と負のゼーベック係数を有する半導体や半金属、さらに金属の薄膜の組み合わせによる薄膜の熱電対6で構成する。
・・・
【0094】
図3(a)に示した熱型赤外線センサ素子の図では、シリコン(Si)単結晶の基板1にCVD(化学的気相成長法)により、シリコン単結晶と同一の熱膨張係数になるように調整したオキシナイトライド薄膜(シリコンの酸化膜と窒化膜との混合膜)を層薄膜12Aとして形成してあり、この層薄膜12Aは、電気的および熱的の絶縁層28となる薄膜の作用もしている場合である。
・・・
【0095】
上述のようにして、本発明の温度センサ素子の熱型の赤外線センサ素子を無機材料の薄膜2で形成した場合には、それぞれの薄膜2を構成する層薄膜12A、12B、12C がCVDなどのより、重ねて堆積できるので、必ずしも接着剤27などは必要がない。そして、公知のフォトリソグラフィーにより、各層薄膜12A、12B、12Cの厚みも、例えば、0.1マイクロメートル(μm)という極めて薄く、また、各層サーモパイル13A、13B、13Cを構成する熱電対6の熱電導体A16と熱電導体B17の厚みと幅もそれぞれ、1μmと2μm程度で極めて小型に形成できる。
【0096】
層薄膜12に絶縁層28を形成した後、その上に層サーモパイル13を形成して多重層薄膜15を形成した方が、層サーモパイル13の熱電導体Aと熱電導体Bの選択性が広がるという利点があり、さらに、絶縁層28は、電気的な絶縁層であるばかりでなく、熱的にも絶縁性を有することが多く、極めて薄い層サーモパイル13を支持するためにも好適である。
・・・
【実施例2】
【0098】
図4は、本発明の温度センサ素子を熱型の赤外線センサ素子として実施した場合で、上述の図2や図3で説明したような無機材料からなる受光部7での温度感応部5としての薄膜2を用いた一実施例を示す構成概略図の平面図である。
・・・
【実施例3】
【0102】
図5は、本発明の温度センサ素子における多重層薄膜15の合成サーモパイル14を構成する各層薄膜12A、12B、12Cに形成する層サーモパイル13A、13B、13Cに分解して合成サーモパイル14を説明するための3つの各層薄膜12A、12B、12Cとその層サーモパイル13A、13B、13Cのパターン図5(a)、図5(b)、図5(c)で、熱型の赤外線センサ素子として実施した場合であり、その一実施例として、各層薄膜12A、12B、12Cに有機薄膜を用いた場合である。図6には、図5に示した層サーモパイル13A、13B、13Cをそれぞれ形成した3つの各層薄膜12A、12B、12Cを重ねて、接着剤27兼絶縁層28を塗布して接合した多重層薄膜15を、基板1にエポキシ系などの接着剤27を利用して接合し、素子分離した温度センサ素子の横断面概略図を示している。ここでは、赤外線吸収膜25、金属膜などの熱伝導薄膜26も示してあり、さらに1個のピン電極32を通る線での横断面概略図にしてあり、外部に赤外線センサ素子からの出力を取り出すための外部電極端子33も取り付けてある例を示している。なお、ピン電極32は、貫通孔11を通して多重層薄膜15を貫くようにしてあり、この貫通孔11には、導電性ペーストのような導電性材料29を満たして、電極23と電気的接触ができるようにしている。
【0103】
PETフィルムなどの有機薄膜を用いた各層薄膜12A、12B、12Cは、その製造工程からして、安価な温度センサ素子である赤外線センサ素子を形成するには、例えば、図7に示すように、各層薄膜12A、12B、12Cに対応するPETフィルムなどの有機薄膜シートに大量に層サーモパイル13A、13B、13Cのアレーを形成しておき、これらを図8に示すように、重ね合わせて多重層薄膜15を形成し、上下層薄膜導通部24を介して熱起電力が足し合わされて大きくなるように直列接続して合成サーモパイル14を形成するようにした方が良い。PETフィルムなどの有機薄膜は、4μm程度の厚みのシートが可能であり、極めて熱伝導率も小さいので、高感度の熱形赤外線センサ素子が作成できる。
【0104】
層サーモパイル13A、13B、13Cを構成する熱電対6の熱電導体A16として、例えば、ビスマス(Bi)を、また、熱電導体B17として、例えば、アンチモン(Sb)を、それぞれのパターンに応じたマスクを通して真空蒸着により、それぞれの層サーモパイル13(13A、13B、13C)をアレー形成することができる。各層薄膜12を重ねて接合形成して多重層薄膜15を形成するために、先ずは、各層薄膜12A、12B、12Cに均一な張力を与えるためとそれぞれの取り扱いを容易にするために枠31を、各層薄膜12A、12B、12Cに、やはりエポキシ系などの接着剤27を利用して張り付けた状態を示すもので、その1つとして、枠31を取り付けた層薄膜12の概略平面図を図7(a)に示してあり、そのX-X線における横断面概略図を図7(b)に示している。なお、図8には、各枠31を取り付けて均一に張った状態の各層薄膜12A、12B、12Cを位置合わせして重ねた状態で、接合して多重層薄膜15を形成するときの横断面概略図を示している。また、エポキシ系などの接着剤27は、重合反応で固化するので、溶媒の蒸発を利用して固化する接着剤とは異なり好適である。もちろん、PETなどの有機薄膜からなる各層薄膜12A、12B、12C同士を熱融着させることもできる。
・・・
【実施例4】
【0107】
図11は、本発明の温度センサ素子に関し、これを赤外線センサ素子として用いて、放射温度計として実施した場合の概念図である。
・・・
【実施例5】
【0109】
図12は、本発明の温度センサ素子の同一の多重層薄膜15に合成サーモパイル14と共に薄膜ヒータ35を形成して熱伝導型センサとして実施した場合の概念図である。
・・・
【実施例6】
【0111】
図13は、本発明の温度センサ素子の各層薄膜に有機薄膜を用いて実施した場合の温度センサ素子の製造方法を説明するための特徴的な工程を示すブロック図である。有機薄膜の各層薄膜に層サーモパイルを形成し、多重層化して形成した合成サーモパイルを温度感応部に設けた温度センサ素子の製造方法において、有機薄膜の各層薄膜に、それぞれ多重層化のための層薄膜数を想定して作成する各層毎の層サーモパイル形成工程、前記各層の必要な箇所に電極導通用の貫通孔を形成する貫通孔作成工程、前記有機薄膜の各層薄膜を重ね合わせて接合する多重層接合工程、各層薄膜に形成した各層サーモパイルが直列接続になるように貫通孔を通して上下層の電極間を導通させる導通工程、個別の温度センサ素子のヒートシンクを兼ねた基板のアレーに前記接合された多重層有機薄膜を接合させる基板接合工程、各温度センサ素子に分離する素子分離工程を少なくとも必要としている。
【0112】
基板1から熱分離した各層薄膜12をPETフィルムのような有機薄膜で形成するときには、無機薄膜のようにCVDを用いて多重層薄膜15を形成することが困難であるために、各層薄膜12(12A、12B、12C)に各層サーモパイル13A、13B、13Cを形成した後、張り合わせて接合した方が、安価な製造方法となる。層サーモパイル形成工程は、上述の実施例で説明したので、ここでは省略する。貫通孔作成工程に関しては、各層薄膜12が電気的に絶縁性であるために、多重層薄膜15を形成するときに各層サーモパイル13A、13B、13Cの上下層の電気的接続が必要で、このために貫通孔11を上下層薄膜導通部24として利用すること、外部に出力を取り出すための外部電極端子33やピン電極32との電気的接触などのために必要になる。なお、PETフィルムなどは、400℃程度に加熱したピンや刃状治具で容易に貫通孔11が形成できるし、パンチなどでの打ち抜きでも貫通孔11が形成できる。多重層接合工程では、エポキシ系の接着剤27を用いたり、熱圧着により熱融着させたりすることもできる。導通工程では、電極23同士やピン電極との電気的接続には、導電性ペーストなどの導電性材料29を用いると良い。基板接合工程では、揮発性のほとんどないエポキシ系の接着剤27が好適である。素子分離工程では、沢山のアレー化した温度センサ素子のアレーが形成されているが、先ずは、多重層薄膜15を加熱刃状治具で切断し、その後、アレー基板41を分離するが、アレー基板結合部42が細く、強度が弱くなるように設計してあるので、プラスチックアレー基板41では、金属刃で容易に切断できるようにしている。
【0113】
上述の実施例では、本発明の温度センサ素子を熱形の赤外線センサ素子として利用した場合を中心に説明してきたが、赤外線センサ素子以外の用途の温度センサとして利用して温度差を高感度に検出する場合は、本発明の温度センサ素子が最適である。例えば、ダイアフラム状やカンチレバ状の基板1から熱分離した薄膜2に、本発明の温度センサ素子と共にマイクロヒータを形成して熱伝導型センサを構成することができる。この熱伝導型センサを用いると、フローセンサ、気圧センサ(真空センサも含む)、水素センサや湿度センサを含むガスセンサ、マイクロヒータを温度走査させて物質のエンタルピ変化を検出するような超小型の熱分析計などとして、高感度で高精度であり、しかも超小型(例えば、温度感応部の寸法が100μm角程度)の熱伝導型センサが提供できる。
【0114】
本発明の温度センサ素子は、本実施例に限定されることはなく、本発明の主旨、作用および効果が同一でありながら、当然、種々の変形がありうることは言うまでもなく、これらはすべて本発明の技術的範囲に属する、」(当審注:【0114】段落の「属する、」が「属する。」の誤記であることは明らかである。)

(オ-2) 「(第二発明の実施例)
【実施例7】
【0115】
図14は、本発明の多重層薄膜サーモパイルの概念を説明するための一実施例を示す構成概略図の平面図で、熱型赤外線センサ素子として実施した場合である。図15は、図14のX-Xにおける横断面概略図である。
フォトレジスト膜からなる多重層薄膜15は、基板1に形成された空洞10を架橋する架橋構造として形成されてあり、空洞10を有しているために、熱的に基板1から分離された構造になっている場合である。この多重層薄膜15を構成するフォトレジスト膜を主体とする各層薄膜12(12A、12B、12C)には、層サーモパイル13(13A、13B、13C)が形成されてあり、上下の層サーモパイル13の熱起電力が大きくなるように、感光性材料であるフォトレジスト膜の特徴を生かしてそれ自体に、露光・現像してパターン化形成した貫通孔11を利用し、上下層薄膜導通部24を介して直列接続されて、全体として合成サーモパイル14が形成されて、電極端子A21と電極端子B22から外部に合成サーモパイル14の熱起電力の基づく信号が出力されるようにしている。多重層薄膜15は、フォトレジスト膜からなる各層薄膜12をスピンコートにより容易に形成できる。このフォトレジスト膜は互いに接着力が大きいので、他の接着剤などは、一般に不要である。
また、フォトレジスト膜は、感光性材料なので、容易に、しかも高精度に、所望の形状にパターン化できるので、端子となる電極、例えば、電極端子A21や電極端子B22を露出させたり、貫通孔11を各層薄膜12に高精度で形成することもできる。なお、各層サーモパイル13の一方の接点A18(例えば、冷接点)は、熱容量の大きいためにヒートシンクとして作用する基板1の上に位置するようにしてあり、他の接点B19(例えば、温接点)は、基板1から熱分離した多重層薄膜15のうち、受光部7で温度感応部5となる架橋構造の中央付近に形成するようにする。本実施例では、受光部7の架橋構造の中央付近が最も高温になるが、この付近を均一な温度にするために金属薄膜や熱電導体などで形成した熱伝導薄膜26を中央付近に形成し、その上に接点B19を配置形成するようにしている。
・・・
【0117】
本実施例の多重層薄膜サーモパイルでは、図14と図15に示すような構造で、基板1に予め形成してある空洞10に亜鉛などの犠牲物質で充填して犠牲領域8を形成し、更に平坦化させておき、改めて、犠牲領域8を含む基板1として使用するものである。そしてこの基板1の上に、必要に応じて補強用薄膜100を形成し、多重層薄膜15として残すフォトレジスト膜をスピンコートなどで形成して、その感光性を利用して貫通孔11を含む高精度なパターンを形成して、各層薄膜12と各層サーモパイル13からなる多重層薄膜15と合成サーモパイル14を形成する。基板1の表面のシリコン酸化膜51が除去された領域と多重層薄膜15との間に露出した領域のエッチング孔37を介して、犠牲領域8(図14と図15には、図示せず空洞11のみ描いてある)をエッチング除去して、空洞10を形成する。
・・・
【0119】
図16(a)に示した熱型赤外線センサ素子の図では、基板1に予め形成してある空洞10を亜鉛などの犠牲領域8の材料で充填したのち平坦化させた基板を用意しておき、この上に、必要に応じて補強用薄膜100を形成しておく。補強用薄膜100としては、シリコン酸化膜などの堅い材料を、1マイクロメートル(μm)程度の厚みに形成すると良い。層薄膜12Aとして、例えば、ポリイミド系のネガ型フォトレジスト膜をスピンコートで形成すると良い。このフォトレジスト膜の層薄膜12Aは、電気的および熱的な絶縁層28となる薄膜の作用もしている。ネガ型フォトレジスト膜からなる各層薄膜12は、露光・現像および熱硬化により、所定のパターン形状に形成できるという利点がある。このとき、上下の層薄膜12を導通させるための貫通孔11も所定の位置に高精度で形成することができる。さらに、その上に熱電対6の一方の熱電導体A16としてビスマス(Bi)薄膜を真空蒸着形成した後、ポジ型レジストのリフトオフを利用してパターン形成して、その上に他方の熱電導体B17としてアンチモン(Sb)薄膜を真空蒸着形成した後、同様にしてパターン化し、層サーモパイル13Aを形成した場合の実施例を示したものである。図16(b)と図16(c)も図16(a)に示した形成の場合と同様で、それぞれ層薄膜12Bと層薄膜12Cを形成して、その上にそれぞれ、熱電材料である熱電導体Aおよび熱電導体Bを形成して層サーモパイル13B、層サーモパイル13Cを形成した場合である。本実施例のように3層の層薄膜12からなる多重層薄膜15を形成する場合は、それぞれの層薄膜12の上に形成した各層サーモパイル13A、13B、13C同士を、層薄膜12に形成した貫通孔11を介する上下層薄膜導通部24を通して直列接続して合成サーモパイル14を形成する。なお、電極23、電極端子A21や電極端子B22は、アルミニウム(Al)や酸化し難い金属である金(Au)などを真空蒸着やスパッタリングで堆積して薄膜を形成しておき、各層薄膜12の構成材料であるネガ型フォトレジスト膜を侵さない剥離液である、例えば、ポジ型フォトレジストを使用して、この金属薄膜をパターン化して形成すると良い。
・・・
【実施例8】
【0123】
図19は、本発明の多重層薄膜サーモパイルを製作する途中段階であり、シリコン単結晶の基板1に空洞10を設けた後に、この空洞10を犠牲領域8の犠牲物質となる亜鉛などの金属を充填したときの基板1の他の一実施例を示す平面概略図(a)とそのY-Yにおける断面概略図(b)で、凹凸9(実際には、ここでは凹部である)を設けて、この上に形成するフォトレジスト膜を主体とした多重層薄膜の実効的な厚みを増加させて、曲げ強度を高めるようにした場合である。
・・・
【実施例9】
【0127】
図21は、本発明の多重層薄膜サーモパイルを説明するための他の一実施例を示す横断面概略図で、実施例の図15や図18に示すように空洞10が基板1内で閉じている場合とは異なり、基板1の厚み方向に貫通した空洞10に犠牲領域8の犠牲物質として亜鉛などを充填した場合である。
・・・
【実施例10】
【0129】
図22は、本発明の多重層薄膜サーモパイルを説明するための他の一実施例を示す横断面概略図で、基板1の上に空洞10を形成してあり、基板1の上方に合成サーモパイル14を有する多重層薄膜15を形成した場合である。
・・・
【0131】
空洞10とその上に形成してある合成サーモパイル14を有するフォトレジスト膜を主体とした多重層薄膜15の形成方法は、例えば、次のようである。先ず、上述の集積回路110や絶対温度センサ34を搭載したシリコン単結晶の基板1の表面のシリコン酸化膜51の上に、将来、犠牲領域8のエッチング除去により空洞10となるはずの所定の形状で、亜鉛、銅やニッケルなどで犠牲物質をメッキなどで形成する。その後、本実施例では、補強用薄膜100として、下部のシリコン酸化膜51を侵さないエッチャントがある硬い材料である、例えば、シリコン窒化膜をスパッタリングなどで基板1表面も含めて堆積させる。このときは基板温度を調整するなどして歪みが緩和するようにすると良い。その後、直ぐに、フォトリソグラフィにより所定の形状に補強用薄膜100をパターン化形成しても良いし、もしくは、多重層薄膜15を形成し、更に上部の絶縁層28をパターン化した後、その多重層薄膜15などのパターンをマスクとして利用して犠牲領域8のエッチング除去と共に、補強用薄膜100を所定の形状にパターン化させても良い。この補強用薄膜100の形成後、各層薄膜12A、12B、12C上に、各層サーモパイル13A、13B、13Cを順次、パターン形成しながら多重化して行き、合成サーモパイル14を作成する。更に、本実施例では、絶縁層28を層薄膜12と同一のフォトレシスト膜で形成している。各層薄膜12A、12B、12Cや絶縁層28のフォトレジスト膜の作成は、平坦の時と同様に、スピンコートによる塗布でも良いし、空洞10の高さが大きい時には、スプレー塗布の方法も利用できる。
・・・
【実施例11】
【0133】
図23は、本発明の多重層薄膜サーモパイルを説明するための他の一実施例を示す平面概略図で、合成サーモパイルと共に薄膜ヒータを形成して熱伝導型センサとして気体などの流体の流れを計測する気体などのフローセンサに適用した場合である。
・・・
【実施例12】
【0136】
図24は、本発明の多重層薄膜サーモパイルを用いて放射温度計を製作した場合の一実施例を示す平面概略図で、多重層薄膜サーモパイルを熱型赤外線センサに適用し、同一の空洞に2個の合成サーモパイル14A、14Bを近接して設けた場合である。
・・・
【実施例13】
【0140】
図25は、本発明の多重層薄膜サーモパイルを用いた放射温度計であり、これをイメージセンサに適用した場合で、その一実施例を示す平面概略図である。多重層薄膜サーモパイルのアレーとして、同一の基板1に合成サーモパイルアレー140を形成した場合である。
・・・
【実施例14】
【0145】
図26は、本発明の多重層薄膜サーモパイルの製造方法を説明するための特徴的な工程を示すブロック図である。
【0146】
基板1に所定の形状の精密な空洞を形成後、犠牲領域8をこの空洞に充填して形成する犠牲領域形成工程、犠牲領域8と基板1とを覆うフォトレジスト膜を塗布するフォトレジスト塗布工程、このフォトレジスト膜を露光しパターン化するパターン化工程、層サーモパイル13を形成する層サーモパイル形成工程、前記フォトレジスト塗布工程から層サーモパイル形成工程までの一連の工程を繰り返し、多重層薄膜15を形成する繰り返し工程およびその後の犠牲領域8を除去する犠牲領域除去工程を含むことを少なくとも必要としている。
・・・
【0152】
本発明のフォトレジスト膜を用いた多重層薄膜サーモパイル及びこれを用いた放射温度計、並びに多重層薄膜サーモパイルの製造方法は、本実施例に限定されることはなく、本発明の主旨、作用および効果が同一でありながら、当然、種々の変形がありうることは言うまでもなく、これらも本発明の技術的範囲に当然属する。」

(カ) 図13は、以下のようなものである。


(キ) 図26は、以下のようなものである。


イ 判断
(ア)明示的な記載について
当初明細書等には、「有機薄膜の各層薄膜に層サーモパイルを形成し、多重層化して形成した合成サーモパイルを温度感応部に設けた温度センサ素子の製造方法において、有機薄膜の各層薄膜に、それぞれ多重層化のための層薄膜数を想定して作成する各層毎の層サーモパイル形成工程の後、前記各層の必要な箇所に電極導通用の貫通孔を形成する貫通孔作成工程を行い、次に前記各層薄膜を位置合わせして重ねた状態で張り合わせ接合して一枚の多重層薄膜としての合成サーモパイルを形成するように接合する多重層接合工程を行い、その後、各層薄膜に形成した各層サーモパイルが直列接続になるように貫通孔を通して上下層の電極間を導通させる導通工程と、個別の温度センサ素子のヒートシンクを兼ねたアレー基板に、張り合わせ接合された前記多重層薄膜を接合させる基板接合工程と、を行い、その後、各温度センサ素子に分離する素子分離工程を行う」製造工程を有する温度センサの製造方法において、「前記多重層薄膜を構成する各層薄膜の主体がフォトレジスト膜であり、貫通孔は該フォトレジスト膜自体の露光・現像に基づくパターン化により作成したこと、多重層薄膜とは異なる材料の補強用薄膜を前記多重層薄膜に密着形成して、該多重層薄膜を補強したこと」についての明示的な記載はない。

(イ)当初明細書等には、【発明を実施するための形態】として、【実施例1】-【実施例6】((オ-1)で摘記した【0090】-【0114】段落及び図1-13)の「第一の発明」と、【実施例7】-【実施例14】((オ-2)で摘記した【0115】-【0152】段落及び図14-26)の「第二の発明」とが記載されている。
ここで、上記「第一の発明」は、「各層サーモパイル13(13A、13B、13C)がそれぞれ形成されている各層薄膜12(12A、12B、12C)を接合した多重層薄膜15」に関するものであり(【0092】段落)、「各層薄膜12は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜やこれらの混合薄膜などの無機材料から形成することもできるし、PETフィルムのようなプラスチック薄膜などの有機材料から形成することもできる」(【0092】段落)ものであって、【実施例1】及び【実施例2】は「無機材料」を用いたものであり、【実施例3】-【実施例6】は「PETフィルムなどの有機薄膜を用いた」ものである。
一方、上記「第二の発明」は、「フォトレジスト膜からなる各層薄膜12をスピンコートにより」「形成」した「多重層薄膜15」に関するものである(【0115】段落)。

(ウ)そして、本件補正前の請求項1に係る発明が、当初明細書等の「第一の発明」の【実施例6】に対応するものであることは明らかである。

(エ)そこで、当初明細書等の「第一の発明」における「PETフィルムのような有機薄膜」が「フォトレジスト膜」を含むこと、及び当初明細書等の「第一の発明」において「貫通孔は該フォトレジスト膜自体の露光・現像に基づくパターン化により作成したこと」が、当初明細書等に明示的に記載されていないことは明らかであるところ、これらの記載が当初明細書等の記載から自明な事項であるかどうかについて、検討する。

a 【実施例6】は、「有機薄膜」として「PETフィルムのような有機薄膜」を用いるものであり(【0112】段落)、「無機薄膜のようにCVDを用いて多重層薄膜15を形成することが困難であるために、各層薄膜12(12A、12B、12C)に各層サーモパイル13A、13B、13Cを形成した後、張り合わせて接合」する方法を採用するものである(【0112】段落)。
また、有機薄膜を用いる場合、貫通孔は「400℃程度に加熱したピンや刃状治具で容易に」形成できるものである(【0112】段落)。

b 一方、本願の当初明細書等において、「フォトレジスト膜」は、「一般には、薄く弾性のある有機材料であり、架橋構造の形成でも、弛みなどの変形の心配がある」ものであって、「空洞により宙に浮いた構造の多重層薄膜の強度を高める」必要があるものである(【0050】段落)。
そして、「フォトレジスト膜を主体とした多重層薄膜15」は、【実施例6】のような「各層薄膜12(12A、12B、12C)に各層サーモパイル13A、13B、13Cを形成した後、張り合わせて接合」することによって形成するのではなく、「基板1の上に、必要に応じて補強用薄膜100を形成し、多重層薄膜15として残すフォトレジスト膜をスピンコートなどで形成して、その感光性を利用して貫通孔11を含む高精度なパターンを形成して、各層薄膜12と各層サーモパイル13からなる多重層薄膜15と合成サーモパイル14を形成する」ものであり(【0117】段落)、「補強用薄膜100の形成後、各層薄膜12A、12B、12C上に、各層サーモパイル13A、13B、13Cを順次、パターン形成しながら多重化して行き、合成サーモパイル14を作成する」ものであり(【0131】段落)、「フォトレジスト塗布工程、このフォトレジスト膜を露光しパターン化するパターン化工程、層サーモパイル13を形成する層サーモパイル形成工程、前記フォトレジスト塗布工程から層サーモパイル形成工程までの一連の工程を繰り返し、多重層薄膜15を形成する繰り返し工程」を有するものである(【0146】段落)。
また、この場合、貫通孔は、「感光性材料であるフォトレジスト膜の特徴を生かしてそれ自体に、露光・現像してパターン化形成」するものである(【0115】段落)。

c 上記a-bから、当初明細書等には、「フォトレジスト膜」を主体とする「第二の発明」と、「第一の発明」における「PETフィルムのような有機薄膜」を主体とするものとでは、多重層薄膜及び貫通孔の形成方法が異なることが、それぞれ別個の実施例として明確に区別して記載されている。
したがって、「第一発明」における「PETフィルムのような有機薄膜」が「フォトレジスト膜」を含むこと、及び当初明細書等の「第一の発明」において「貫通孔は該フォトレジスト膜自体の露光・現像に基づくパターン化により作成したこと」が、当初明細書等の記載から自明な事項であるとはいえない。

(オ)また、以下において、上記(エ)とは逆に、当初明細書等の「フォトレジスト膜」を主体とする「第二の発明」において、「有機薄膜の各層薄膜に層サーモパイルを形成し、多重層化して形成した合成サーモパイルを温度感応部に設けた温度センサ素子の製造方法において、有機薄膜の各層薄膜に、それぞれ多重層化のための層薄膜数を想定して作成する各層毎の層サーモパイル形成工程の後、前記各層の必要な箇所に電極導通用の貫通孔を形成する貫通孔作成工程を行い、次に前記各層薄膜を位置合わせして重ねた状態で張り合わせ接合して一枚の多重層薄膜としての合成サーモパイルを形成するように接合する多重層接合工程を行い、その後、各層薄膜に形成した各層サーモパイルが直列接続になるように貫通孔を通して上下層の電極間を導通させる導通工程と、個別の温度センサ素子のヒートシンクを兼ねたアレー基板に、張り合わせ接合された前記多重層薄膜を接合させる基板接合工程と、を行い、その後、各温度センサ素子に分離する素子分離工程を行う」ことが、当初明細書等の記載から自明な事項であるといえるかどうかについて、検討する。
当初明細書等において、「第二の発明」は、「PETフィルムを多層に貼り合わせる工程や上下の層サーモパイル同士を導通させるための貫通孔を形成する必要があり、…大量生産上より改善が望まれる点があった」ことを解決すべき課題の1つとし((ア-2)で摘記した【0005】段落)、「フォトレジスト膜」を用いることで当該課題を解決するものである。
しかしながら、「フォトレジスト膜」を用いる「第二の発明」において、本件補正後の請求項1に特定されている「前記各層の必要な箇所に電極導通用の貫通孔を形成する貫通孔作成工程を行い、次に前記各層薄膜を位置合わせして重ねた状態で張り合わせ接合して一枚の多重層薄膜としての合成サーモパイルを形成するように接合する多重層接合工程を行」うことは、上記解決しようとする課題と整合するものではない。
したがって、「第二の発明」において、「有機薄膜の各層薄膜に層サーモパイルを形成し、多重層化して形成した合成サーモパイルを温度感応部に設けた温度センサ素子の製造方法において、有機薄膜の各層薄膜に、それぞれ多重層化のための層薄膜数を想定して作成する各層毎の層サーモパイル形成工程の後、前記各層の必要な箇所に電極導通用の貫通孔を形成する貫通孔作成工程を行い、次に前記各層薄膜を位置合わせして重ねた状態で張り合わせ接合して一枚の多重層薄膜としての合成サーモパイルを形成するように接合する多重層接合工程を行い、その後、各層薄膜に形成した各層サーモパイルが直列接続になるように貫通孔を通して上下層の電極間を導通させる導通工程と、個別の温度センサ素子のヒートシンクを兼ねたアレー基板に、張り合わせ接合された前記多重層薄膜を接合させる基板接合工程と、を行い、その後、各温度センサ素子に分離する素子分離工程を行う」ことが、当初明細書等の記載から自明な事項であるとはいえない。

ウ 補正事項Aについての小括
上記ア-イから、当該補正事項Aを含む本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。
したがって、当該補正事項Aは、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである補正事項Aを含むものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年5月8日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-20に係る発明は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1-20に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項2に係る発明(以下「本願発明2」という。)は、以下のとおりのものであり、当審にて分説しA)?G)の見出しを付けた。

「【請求項2】
A)有機薄膜の各層薄膜に層サーモパイルを形成し、多重層化して形成した合成サーモパイルを温度感応部に設けた温度センサ素子において、
B)有機薄膜の各層薄膜に、それぞれ多重層化のための層薄膜数を想定して作成する各層毎の層サーモパイル形成工程の後、
C)前記各層の必要な箇所に電極導通用の貫通孔を形成する貫通孔作成工程を行い、
D)次に前記各層薄膜を位置合わせして重ねた状態で張り合わせ接合して一枚の多重層薄膜としての合成サーモパイルを形成するように接合する多重層接合工程を行い、
E)その後、個別の温度センサ素子のヒートシンクを兼ねたアレー基板に、張り合わせ接合された前記多重層薄膜を接合させる基板接合工程と、各層薄膜に形成した各層サーモパイルが直列接続になるように貫通孔を通して上下層の電極間を導通させる導通工程とを行い、
F)次に各温度センサ素子に分離する素子分離工程を行って製造した
G)ことを特徴とする温度センサ素子。」

第4 原査定の概要
原査定の拒絶の理由である、平成28年7月29日付け拒絶理由通知書に記載された理由の概要は、以下のとおりである。

1 理由1(発明の単一性)について
(略)

2 理由2(明確性)について
・請求項 2?10
(1)請求項2に係る発明は、「温度センサ素子」(物の発明)であるが、当該請求項には、その物の製造方法が記載されているものと認められる。
そして、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、出願人から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。
(2)請求項3の「請求項1又は2に記載の温度センサ素子。」との記載について、請求項1は「温度センサ素子の製造方法」の発明であるから、不明確である。
したがって、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

3 理由3(進歩性)について
請求項1-2、4、6、8に係る発明は引用文献1-4に基づいて、請求項3に係る発明は、引用文献1-5に基づいて、請求項5に係る発明は引用文献1-4、6に基づいて、請求項7に係る発明は引用文献1-4、7に基づいて、それぞれ、当業者であれば容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開昭64-29721号公報
2.特開平02-165025号公報
3.特開平06-260686号公報
4.特開2005-324320号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2000-77804号公報
6.特開2006-203040号公報(周知技術を示す文献)
7.特開2006-105651号公報(周知技術を示す文献)


第5 当審の判断
1 理由2(明確性)について
本願発明2の構成要件A)-F)は、温度センサ素子の製造方法に関する限定であって、完成した温度センサ素子に関してどのような構造的限定を行うものであるのか不明である。
ここで、審判請求書の請求の理由における請求人の主張は、本件補正前の請求項2について、不可能・非実際的事情の主張・立証を行うものではなく、本願の当初明細書等及び本願出願時における当業者の技術常識を勘案しても、本願発明2について、不可能・非実際的事情の存在は認められない。
そして、不可能・非実際的事情の存在が認められない場合において、製造方法の記載によって物を特定しようとする請求項2の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものであるとはいえない。
したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明及び原査定における他の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


第7 附記
1 本願発明2’について
上記第3-第6のとおり、本願は、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであるが、その物の製造方法により特定された物に関する発明である本願発明2に代えて、以下に示す、その物の構造により特定された物の発明である請求項2’に係る発明(以下「本願発明2’」という。却下された本件補正後の請求項2を参照。)について、上記第4の3に示した原査定の拒絶の理由3(進歩性)について、検討する。

「 【請求項2’】
A)有機薄膜の各層薄膜に層サーモパイルが形成され、多重層化して形成されている合成サーモパイルが温度感応部に設けられた温度センサ素子において、
B)前記有機薄膜の各層薄膜の必要な箇所に電極導通用の貫通孔が形成されており、
C)前記各層薄膜を位置合わせして重ねた状態で張り合わせ接合されて一枚の多重層薄膜としての合成サーモパイルが形成され、
D)個別の温度センサ素子のヒートシンクを兼ねたアレー基板に、張り合わせ接合された前記多重層薄膜が接合されており、各層薄膜に形成した各層サーモパイルが直列接続になるように貫通孔を通して上下層の電極間が導通されており、
E)各温度センサ素子に分離されている
F)温度センサ素子。」

なお、却下された本件補正後の請求項2は、以下のとおりのものである。
「【請求項2】
有機薄膜の各層薄膜に層サーモパイルが形成され、多重層化して形成されている合成サーモパイルが温度感応部に設けられた温度センサ素子において、
前記有機薄膜の各層薄膜の必要な箇所に電極導通用の貫通孔が形成されており、
前記各層薄膜を位置合わせして重ねた状態で張り合わせ接合されて一枚の多重層薄膜としての合成サーモパイルが形成され、
個別の温度センサ素子のヒートシンクを兼ねたアレー基板に、張り合わせ接合された前記多重層薄膜が接合されており、各層薄膜に形成した各層サーモパイルが直列接続になるように貫通孔を通して上下層の電極間が導通されており、各温度センサ素子に分離されている温度センサ素子であって、
前記多重層薄膜を構成する各層薄膜の主体がフォトレジスト膜であり、貫通孔は該フォトレジスト膜自体の露光・現像に基づくパターン化により作成したこと、多重層薄膜とは異なる材料の補強用薄膜が前記多重層薄膜に密着形成され、該多重層薄膜が補強されていること、を特徴とする温度センサ素子。」

2 引用文献・引用発明等
(1) 引用文献1
ア 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特開昭64-29721号公報)には、以下の記載がある(下線は当審にて付与した。以下同様。)。

(引1a)「本発明は、サーモパイルの感度を向上せしめる方法に関するものである。」(第1頁左下欄19-20行目)

(引1b)「理論的には、異種の金属の温接点がサーモパイルの感受部に密度高く分布する様に、蒸着法或いはワイヤボンディング法式等でより微細に配置付けられれば、その温接点の数に比例した出力信号が得られる筈である。
一方逆の副作用として熱電対の個々の金属膜の厚さが薄く、狭くなるに従って、製造上の困難性が発生する為に製造コストが高くなる。
又、電気的なる性能も極端に膜厚が薄く、且つその幅が狭くなると有効断面積が小さくなり、充分なる導通性が得られ難くなるとインピーダンスが高くなり、結果的にはサーモパイルの内部抵抗が高くなり、充分なる出力レベルを所定の負荷端子に対して得る事が出来なくなる。
同時に、外部よりのノイズを拾い易く、且つ自己ノイズの発生度も高くなる。
この為に、熱電対の異種の金属膜10及び11の機械的なる寸法は、製造上並びに性能上、下限がある。
従来の平偏なる一枚の絶縁基盤上に配置付けられる熱電対の温接点の数は、限られたサーモパイル型センサの感熱部の面積内では、多くの熱電対を配置付ける事が出来ない。」(第2頁左上欄4行目?同頁右上欄6行目)

(引1c)「第1図は、本発明のサーモパイル型センサの熱電対推を装着した基盤のみの構造を斜視図で示すものである。
中央部に孔13-1を有し、その上面に複数の熱電対を装着した第1層目の基盤B_(1)は、その内孔の外周部に熱電対の温接点部分sを(図面中では12対を)有している。
この数量は従来の方法によるものと変わらないが、第2並びに第3層目の基盤B_(2)、B_(3)に装着されたそれぞれの温接点部の数は9対及び5対が追加される。
即ち従来の熱電対推は、平偏なる絶縁性の基盤上に平面的に配列されていた為に、充分なる熱電対数を得る事が困難で、本発明の場合、模型的にその数量を図面上で比較すると、本発明数/従来数=26/12≒188%と88%も改良される事が判明する。
即ちサーモパイル型センサの感受部の面積を第1図中破線12で示す内部に、第1層第2層第3層の基盤B_(1)、B_(2)、B_(3)を第2図でそれ等を重ね合わせて縦断した面の図を示す如く重ね合わせて、第1基盤B_(1)の開口部13に第2基盤の熱電対推の温接点群が上面から見える様に、更に第2基盤B_(2)の開口部13-2内第3基盤の温接点群が位置付けられる様に重ね合わせ、それぞれの熱電対が電気的には直列に接続される様に、第1層のサーモパイルの端子T_(1)と第2層の端子T_(2)を、又第2層の端子T_(3)と第3層の端子T_(4)をそれぞれ結線し、最後に第1層のT_(0)と第3層のT_(5)を所定の出力端子として適用する。」(第2頁右上欄7行目-同頁左下欄16行目)
当審注:「第2基盤B_(2)の開口部13-2内第3基盤の温接点群が位置付けられる様に重ね合わせ」は、「第2基盤B_(2)の開口部13-2内に第3基盤の温接点群が位置付けられる様に重ね合わせ」の誤記であることは明らかであり、以下そのように読み替える。

(引1d)「次に完成されたサーモパイル型センサの一例を縦断面図で示す。
TO5型頭部に赤外線フィルター31を備えたカン32を用意し、一方ヒートシンク33を備えたヘッダー34に、上述した熱電対推を多層に備えた基盤Bを装着し、それ等がシリーズに結線され、その両端子T_(0)並びにT_(5)がリード線35に接続された状態で、安定化された気体中で封印して完成される。」(第2頁左下欄19行目-右下欄7行目)

(引1e)「絶縁性の材質から構成された基盤B_(1)、B_(2)、B_(3)を第2図に縦断面図を示す様に、それぞれの基盤とその熱電対を構成する異種の金属膜は、極めて薄いものではあるが厚みを有する。」(第3頁左上欄4-7行目)

(引1f)第1図は、以下のようなものである。


イ 引用文献1に記載された発明
上記(引1c)ないし(引1e)の下線部の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
ここで、引用文献1の全体を通して記載されている「熱電対推」が「熱電対堆」の誤記であることは明らかであるから、「熱電対堆」と読み替えた。
なお、引用発明の認定の根拠となった対応する摘記箇所等を付記した。

「中央部に孔13-1を有し、その上面に12対の熱電対を装着した第1層目の基盤B_(1)は、その内孔の外周部に熱電対の温接点部分sを有し(引1c)、
第2並びに第3層目の基盤B_(2)、B_(3)に装着されたそれぞれの温接点部の数は9対及び5対が追加され(引1c)、
第1基盤B_(1)の開口部13に第2基盤の熱電対堆の温接点群が上面から見える様に、更に第2基盤B_(2)の開口部13-2内に第3基盤の温接点群が位置付けられる様に重ね合わせ、それぞれの熱電対が電気的には直列に接続される様に、第1層のサーモパイルの端子T_(1)と第2層の端子T_(2)を、又第2層の端子T_(3)と第3層の端子T_(4)をそれぞれ結線し、最後に第1層のT_(0)と第3層のT_(5)を所定の出力端子として適用され(引1c)、
ヒートシンク33を備えたヘッダー34に、上述した熱電対堆を多層に備えた基盤Bを装着した(引1d)
サーモパイル型センサであって、
絶縁性の材質から構成された基盤B_(1)、B_(2)、B_(3)であり(引1e)、
それぞれの基盤とその熱電対を構成する異種の金属膜は、極めて薄いものではあるが厚みを有する(引1e)
サーモパイル型センサ。」

(2) 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2(特開平02-165025号公報)には、以下の記載がある。

(引2a)「〔発明が解決しようとする課題〕
サーモパイルにおいて、発生する起電力を増大して性能を向上させるには、熱電対の対長を大きくするか、または、熱電対の数を増やすなどが有効な手段である。
しかし、従来の上記のような構造では、上記の手段には限界があった。
すなわち、素子の寸法、つまりシリコンフレーム11の外形寸法を一定に保って、熱電対の数を増やすには、熱電対の寸法を小さくする必要があるが、形成精度に限界があることから、2次元構造を採る限り、熱電対の数にはおのずと限界がある。
なお、素子寸法を大きくすると熱電対の数を増やすことができるが、1つのシリコンウエハからとれる個数が減るとともに、素子のパッケージが大きくなり、素子のコストとパッケージコストが高くなるなどの問題が生ずる。また対長を大きくすることも素子やパッケージを大きくするという同様の問題を生ずることとなる。
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、素子平面寸法を大きくすることなく、より大きな起電力を得ることができるものを提供することを目的とする。
〔課題を解決するための手段〕
本発明のサーモパイルは、直列に接続した熱電対群を複数群薄い絶縁膜を挾んで立体構造に配設し、熱電対群の間の絶縁膜に設けた開口を通して各熱電対群を直列に接続し、直列に接続した熱電対の数を増やしたものである。」(第2頁左上欄20行目-同頁左下欄9行目)

(3) 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3(特開平06-260686号公報)には、以下の記載がある。

(引3a)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】サーモパイルとしての感度を上げるためには、直列接続された熱電対の数を多くすればよい。しかしながら、一定の測定領域内に設けることができる測定用の接合点の数は限られているため、感度をあげようとしても限度があるという問題があった。また、高感度のサーモパイルを実現するためには大面積の測定領域が必要であるため、熱容量が大きくなり測定応答時間が遅くなるという問題があった。
【0004】本発明の目的は、測定領域の面積が小さく高感度で応答時間の速いサーモパイル及びその製造方法を提供することにある。」

(引3b)「【0013】次に本発明の第1の実施例によるサーモパイルの製造方法について図3及び図4を用いて説明する。図3及び図4では、説明の便宜のために、図1(c)に示すB-B′線断面図を代表図として用いることとする。まず、Al_(2)O_(3)からなる約300μm厚の絶縁性基板10上に第1層目の熱電対層12用の銅からなる約500nm厚の銅層30を蒸着又はスパッタリングにより形成する。続いて、銅層30上にレジスト層32を塗布し、銅線14として残存すべき形状にパターニングする(図3(a))。
【0014】次に、パターニングされたレジスト層32をマスクとして銅層30をエッチングして第1層目の熱電対層12の銅線14が形成される(図3(b))。次に、全面に第1層目の熱電対層12用のコンスタンタンからなる約500nm厚のコンスタンタン層34を蒸着又はスパッタリングにより形成する。続いて、コンスタンタン層34上にレジスト層36を塗布し、コンスタンタン線16として残存すべき形状にパターニングする(図3(c))。
【0015】次に、パターニングされたレジスト層36をマスクとしてコンスタンタン層34をエッチングして第1層目の熱電対層12のコンスタンタン線16が形成され、第1層目の熱電対層12が形成される(図3(d))。次に、全面に、例えばSiO_(2)又はSi_(3)N_(4)からなる約1μm厚の絶縁層20を堆積し、表面を平坦化する。続いて、絶縁層20上にレジスト層38を形成し、第1層目の熱電対層12と第2層目の熱電対層22とを接続部分が開口するようにレジスト層38をパターニングする(図3(e))。
【0016】次に、レジスト層38をマスクとして絶縁層20をエッチングして、接続部分にコンタクトホール40を形成する。続いて、全面に第2層目の熱電対層22用の銅からなる約500nm厚の銅層42を蒸着又はスパッタリングにより形成する。このとき、銅層42は、コンタクトホール40を介して第1層目のコンスタンタン線16と接合される(図3(f))。
【0017】続いて、全面にレジスト層44を塗布し、銅線24として残存すべき形状にパターニングする(図3(f))。次に、パターニングされたレジスト層44をマスクとして銅層42をエッチングして第2層目の熱電対層22の銅線24が形成される(図4(a))。続いて、全面に第2層目の熱電対層22用のコンスタンタンからなる約500nm厚のコンスタンタン層46を蒸着又はスパッタリングにより形成する。続いて、コンスタンタン層46上にレジスト層48を塗布し、コンスタンタン線26として残存すべき形状にパターニングする(図4(a))。
【0018】次に、パターニングされたレジスト層48をマスクとしてコンスタンタン層46をエッチングして第2層目の熱電対層22のコンスタンタン線26が形成され、第2層目の熱電対層22が形成される(図4(b))。次に、全面に、例えばSiO_(2)又はSi_(3)N_(4)からなる約300nm厚の絶縁層28を堆積し、表面を平坦化して、サーモパイルを完成する(図4(c))。
【0019】このように本実施例によれば熱電対層を二層化したサーモパイルを容易に製造することができる。」

(引3c)「【0025】さらに、上記実施例では銅線とコンスタンタン線により熱電対を形成したが、他の金属熱電材料により熱電対を形成するようにしてもよい。また、上記実施例では絶縁層に形成したコンタクトホール上に金属層を堆積することにより第1層目の熱電対層と第2層目の熱電対層を接続したが、メッキにより接続してもよいし、ビアホールにより接続してもよい。」

(4) 引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献4(特開2005-324320号公報)には、以下の記載がある。

(引4a)「【0013】
マイクロメカニカル素子を製造する場合、一般には同種の複数個の素子が1つの基板上に形成され、プロセスの最終段階でたいていはソーによりダイシングされる。このとき層構造体の全体が個別化される。本発明の素子の製造プロセスにおいても、ダイシング前にシートを基板後面に被着し、ダイシングの際に層構造体全体を個別化すると有利である。
【0014】
前述したように、本発明の素子は多様な分野で使用することができる。特に有利な利用分野として、圧力センサのほか、流体流量センサ、感熱式加速度センサ(thermischer Beschleinigungsensor)、感熱式ヨーレートセンサ(thermischer Drehratensensor)、感熱式傾角センサ(thermischer Neigungwinkelsensor)、例えばH2センサ用または側方衝突センサ用の断熱気体‐熱伝導センサ、感熱式ケミカルセンサ(thermischer chemischen Sensor)、熱板応用分野(thermische Heizplattenanwendung)、ハイダイナミック温度センサ、湿分センサ、例えば気体センサ用または赤外線カメラ用の赤外線検出器、サーモパイル、または高周波応用分野などが上げられる。」

3 対比・判断
(1) 対比
ア A)、F)について
引用発明の「第1層目の基盤B1」の「12対の熱電対」、「第2層目の基盤B2」の「9対」の「温接点部」を有する「熱電対」及び「第3層目の基盤B3」の「5対」の「温接点部」を有する「熱電対」は、いずれも、それぞれが各基盤上に形成された「熱電対堆」を構成するであるから、本願発明2’の「層サーモパイル」に相当する。
引用発明の「基盤B_(1)、B_(2)、B_(3)」は、「それぞれの基盤とその熱電対を構成する異種の金属膜は、極めて薄いものではあるが厚みを有する」ものであるから、本願発明2’の「各層薄膜」に相当するといえる。
そして、引用発明の「ヒートシンク33を備えたヘッダー34に、上述した熱電対堆を多層に備えた基盤Bを装着したサーモパイル型センサ」は、「熱電対堆を多層に備えた基盤B」が「第1基盤B_(1)の開口部13に第2基盤の熱電対堆の温接点群が上面から見える様に、更に第2基盤B_(2)の開口部13-2内に第3基盤の温接点群が位置付けられる様に重ね合わせ」られたものであるから、本願発明2’の「各層薄膜に層サーモパイルが形成され、多重層化して形成されている合成サーモパイルが温度感応部に設けられた温度センサ素子」に相当する。
したがって、引用発明の「ヒートシンク33を備えたヘッダー34に、上述した熱電対堆を多層に備えた基盤Bを装着したサーモパイル型センサ」と、本願発明2’のA)「有機薄膜の各層薄膜に層サーモパイルが形成され、多重層化して形成されている合成サーモパイルが温度感応部に設けられた温度センサ素子」とは、「各層薄膜に層サーモパイルが形成され、多重層化して形成されている合成サーモパイルが温度感応部に設けられた温度センサ素子」である点で共通する。

イ C)について
引用発明の「第1基盤B_(1)の開口部13に第2基盤の熱電対堆の温接点群が上面から見える様に、更に第2基盤B_(2)の開口部13-2内に第3基盤の温接点群が位置付けられる様に重ね合わせ」ることは、本願発明2’のC)「前記各層薄膜を位置合わせして重ねた状態で張り合わせ接合されて一枚の多重層薄膜としての合成サーモパイルが形成され」ることに相当する。

ウ D)について
引用発明の「ヒートシンク33を備えたヘッダー34」及び「上述した熱電対堆を多層に備えた基盤B」は、それぞれ、本願発明2’の「温度センサ素子のヒートシンクを兼ねたアレー基板」及び「張り合わせ接合された前記多重層薄膜」に相当する。
したがって、引用発明の「ヒートシンク33を備えたヘッダー34に、上述した熱電対堆を多層に備えた基盤B」が「装着」されており、「それぞれの熱電対が電気的には直列に接続される様に、第1層のサーモパイルの端子T_(1)と第2層の端子T_(2)を、又第2層の端子T_(3)と第3層の端子T_(4)をそれぞれ結線」されていることと、本願発明2’のD)「個別の温度センサ素子のヒートシンクを兼ねたアレー基板に、張り合わせ接合された前記多重層薄膜が接合されており、各層薄膜に形成した各層サーモパイルが直列接続になるように貫通孔を通して上下層の電極間が導通されて」いることとは、「温度センサ素子のヒートシンクを兼ねたアレー基板に、張り合わせ接合された前記多重層薄膜が接合されており、各層薄膜に形成した各層サーモパイルが直列接続になるように上下層の電極間が導通されている」点で共通する。

エ 上記ア-ウから、引用発明と本願発明2’とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。

<一致点>
「各層薄膜に層サーモパイルが形成され、多重層化して形成されている合成サーモパイルが温度感応部に設けられた温度センサ素子において、
前記各層薄膜を位置合わせして重ねた状態で張り合わせ接合されて一枚の多重層薄膜としての合成サーモパイルが形成され、
温度センサ素子のヒートシンクを兼ねたアレー基板に、張り合わせ接合された前記多重層薄膜が接合されており、各層薄膜に形成した各層サーモパイルが直列接続になるように上下層の電極間が導通されている、
温度センサ素子。」

<相違点>
(相違点1)各層サーモパイルの導通について、本願発明2’は「各層薄膜の必要な箇所に電極導通用の貫通孔が形成されており」「貫通孔を通して」導通されているのに対して、引用発明では、貫通孔を用いることが特定されていない点。
(相違点2)各層薄膜の材質について、本願発明2’は「有機薄膜」であるのに対して、引用発明は「絶縁性の材質」としか特定していない点。
(相違点3)本願発明2’は、「各温度センサ素子に分離されている」のに対して、引用発明にはそのような特定がない点。

(2) 判断
ア 相違点1について
引用発明において「第1基盤B_(1)の開口部13に第2基盤の熱電対堆の温接点群が上面から見える様に、更に第2基盤B_(2)の開口部13-2内に第3基盤の温接点群が位置付けられる様に重ね合わせ、それぞれの熱電対が電気的には直列に接続される様に、第1層のサーモパイルの端子T_(1)と第2層の端子T_(2)を、又第2層の端子T_(3)と第3層の端子T_(4)をそれぞれ結線し、最後に第1層のT_(0)と第3層のT_(5)を所定の出力端子として適用」するものであり、引用文献1の図1(上記(引1g))も参酌すれば、第1層の端子T_(0)と端子T_(1)、第2層の端子T_(2)と端子T_(3)、第3層の端子T_(4)と端子T5とは、それぞれの層の上面にそれぞれ設けられるものであることは明らかであり、基盤の間の導通をとるための手段として、引用発明が基盤を貫通する貫通孔を有していることは、当業者に自明のことである。
したがって、当該相違点1は、実質的な相違点とはならない。

仮に、引用発明において貫通孔を通して導通をとることが当業者に自明のことではないとしても、上記文献2-3にみられるように、サーモパイルを多層化した温度センサの技術分野において、上層のサーモパイルと下層のサーモパイルとの接続を、貫通孔を通して行うことは、当業者にとって周知の技術的事項であったと認められるため、引用発明においても具体的な導通のための手段として、当該周知の貫通孔を通した導通を採用することで、当該相違点1に係る本願発明2’の構成とすることは、当業者であれば容易に想到しうることである。

イ 相違点2について
一般に、「絶縁性の材質から構成された基盤」として、プラスチック基盤等の有機材料から構成された基盤は、特に例示するまでもなく、周知の材料である。
そして、引用発明において、「絶縁性の材質から構成された基盤」の材質は、「有機材料」であるか「無機材料」であるかの二者択一の選択であり、当該選択肢のうちどちらかを選択することは、引用発明の基盤を具現化するにあたり、当業者が適宜選択すべき事項にすぎない。

ウ 相違点3について
本願発明における「温度センサ素子」が「各温度センサ素子に分離されている」ものであることは、各々の「温度センサ素子」の構造を何ら限定するものではないため、「各温度センサ素子に分離されている」ことが特定されているか否かは、「温度センサ素子」という物の発明において、実質的な相違点とはならない。
仮に、物の発明として、「温度センサ素子」の何らかの構造上の特徴を限定するものであったとしても、上記文献4にみられるように、サーモパイル等のマイクロメカニカル素子を製造する場合、一般には同種の複数個の素子が1つの基板上に形成され、プロセスの最終段階でたいていはソーによりダイシングされる、いわゆる素子分離工程を経て製造されることは、当業者にとって周知の技術的事項である。
そして、引用発明におけるサーモパイル型センサにおいても、素子分離工程を設けて大量生産を行うことで、上記相違点3に係る本願発明2’の構成とすることは、当業者であれば容易に想到しうることである。

エ 本願発明2’の効果について
本願発明2’の効果は、引用発明及び周知の技術的事項から当業者が予測しうる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものではない。

オ 小括
上記ア-エから、本願発明2’は、引用発明自体、又は引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
以上から、本願発明2’は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
 
審理終結日 2018-03-30 
結審通知日 2018-04-04 
審決日 2018-04-18 
出願番号 特願2015-135696(P2015-135696)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01J)
P 1 8・ 561- Z (G01J)
P 1 8・ 537- Z (G01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蔵田 真彦  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 信田 昌男
松岡 智也
発明の名称 温度センサ素子及びその製造方法、多重層薄膜サーモパイル及びその製造方法並び放射温度計の製造方法  
代理人 福森 久夫  
代理人 福森 久夫  

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