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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1341565
審判番号 不服2017-5420  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-17 
確定日 2018-06-19 
事件の表示 特願2015-560662「合成ダイヤモンド光学素子」拒絶査定不服審判事件〔平成26年9月12日国際公開,WO2014/135544,平成28年4月25日国内公表,特表2016-512341〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2015-560662号(以下「本件出願」という。)は特許法184条の3第1項の規定により2014年3月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年3月6日 米国,2013年4月23日 英国)に出願されたものとみなされた特許出願であって,その後の手続の概要は以下のとおりである。
平成27年11月 4日 :手続補正書の提出
平成28年 8月 5日付け:拒絶理由の通知
平成28年11月11日 :意見書の提出
平成28年11月11日 :手続補正書の提出
(この手続補正書による補正を,以下「本件補正」という。)
平成28年12月15日付け:拒絶の査定
(以下「原査定」という。)
平成29年 4月17日 :審判請求書の提出

2 本願発明
本件出願の請求項1-15に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-請求項15に記載された事項により特定されるとおりの,以下のものである(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明15」といい,総称して「本願発明」という。)。
「【請求項1】
光学素子であって,
合成ダイヤモンド材料と,
前記合成ダイヤモンド材料の少なくとも1つの表面内に直接形成された反射防止表面パターンとを有し,
前記光学素子は,室温で測定して10.6μmの波長で0.5cm^(-1)以下の吸収係数を有し,
前記光学素子は,前記少なくとも1つの表面のところに前記光学素子の動作周波数で2%以下の反射率を有し,
前記光学素子は,次の特性のうちの一方又は両方を満たすレーザ誘導損傷しきい値を有し,前記特性は,
前記レーザ誘導損傷しきい値がパルス持続時間を100ns,パルス繰り返し周波数を1?10Hzの範囲として波長10.6μmのパルスレーザを用いて測定して少なくとも30Jcm^(-2)であるという特性,及び
前記レーザ誘導損傷しきい値が波長10.6μmの連続波レーザを用いて測定して少なくとも1MW/cm^(2)であるという特性である,光学素子。

【請求項2】
前記動作周波数は,10.6μm,1.06μm,532nm,355nm,又は266nmの中から選択された1つである,請求項1記載の光学素子。

【請求項3】
前記レーザ誘導損傷しきい値は,前記パルスレーザを用いて測定して少なくとも50Jcm^(-2),少なくとも75Jcm^(-2),少なくとも100Jcm^(-2),少なくとも150Jcm^(-2),又は少なくとも200Jcm^(-2)である,請求項1又は2に記載の光学素子。

【請求項4】
前記レーザ誘導損傷しきい値は,前記連続波レーザを用いて測定して少なくとも5MW/cm^(2),少なくとも10MW/cm^(2),少なくとも20MW/cm^(2),又は少なくとも50MW/cm^(2)である,請求項1?3のうちいずれか一に記載の光学素子。

【請求項5】
前記少なくとも1つの表面のところの前記反射率は,前記光学素子の前記動作周波数で1.5%以下,1%以下,又は0.5%以下である,請求項1?4のうちいずれか一に記載の光学素子。

【請求項6】
前記光学素子は,前記光学素子の前記動作周波数で少なくとも97%,少なくとも98%,又は少なくとも99%の透過率を有する,請求項1?5のうちいずれか一に記載の光学素子。

【請求項7】
前記光学素子は,前方半球中に前記光学素子の前記動作波長で2%以下,1%以下,0.5%以下,又は0.1%以下の積分全散乱量(total integrated scatter:TIS)を有する,請求項1?6のうちいずれか一に記載の光学素子。

【請求項8】
前記光学素子は,室温で測定して10.6μmの波長で0.4cm^(-1)以下,0.3cm^(-1)以下,0.2cm^(-1)以下,0.1cm^(-1)以下,0.07cm^(-1)以下,又は0.05cm^(-1)以下の吸収係数を有する,請求項1?7のうちいずれか一に記載の光学素子。

【請求項9】
前記光学素子は,室温で測定して145GHzにおいて2×10^(-4)以下,10^(-4)以下,5×10^(-5)以下,10^(-5)以下,5×10^(-6)以下,又は10^(-6)以下の誘電損失係数tanδを有する,請求項1?8のうちいずれか一に記載の光学素子。

【請求項10】
前記光学素子は,以下の特性のうちの1つ又は2つ以上を有し,前記特性は,
5mm^(-2)以下,3mm^(-2)以下,1mm^(-2)以下,0.5mm^(-2)以下又は0.1mm^(-2)以下の平均ブラックスポット密度,
任意の3mm^(2)領域内に5個以下,4個以下,3個以下,2個以下,又は1個以下のブラックスポットが存在するようなブラックスポット分布,
2760cm^(-1)?3030cm^(-1)の補正直線背景で測定したときに0.20cm^(-2)以下,0.15cm^(-2)以下,0.10cm^(-2)以下,又は0.05cm^(-2)以下の単位厚さ当たりの積分吸収能,
1800Wm^(-1)K^(-1)以上,1900Wm^(-1)K^(-1)以上,2000Wm^(-1)K^(-1)以上,2100Wm^(-1)K^(-1)以上,又は2200Wm^(-1)K^(-1)以上の熱伝導率,及び
二次イオン質量分析計によって測定して10^(17)cm^(-3)以下,5×10^(16)cm^(-3)以下,10^(16)cm^(-3)以下,5×10^(15)cm^(-3)以下,又は10^(15)cm^(-3)以下のシリコンコンセントレーションである,請求項1?9のうちいずれか一に記載の光学素子。

【請求項11】
前記反射防止表面パターンは,前記合成ダイヤモンド材料の少なくとも1つの表面に,少なくとも50mm^(2),少なくとも100mm^(2),少なくとも200mm^(2),少なくとも300mm^(2),少なくとも500mm^(2),少なくとも700mm^(2),少なくとも1000mm^(2),少なくとも1500mm^(2),少なくとも2000mm^(2),少なくとも3000mm^(2),少なくとも5000mm^(2),少なくとも7000mm^(2),少なくとも10000mm^(2),少なくとも15000mm^(2),又は20000mm^(2)の領域にわたって形成されている,請求項1?10のうちいずれか一に記載の光学素子。

【請求項12】
前記光学素子は,前記領域の少なくとも50%,少なくとも60%,少なくとも70%,少なくとも80%,少なくとも90%,又は少なくとも100%にわたって請求項1?10のうちいずれか一に記載の要件を満たす,請求項11記載の光学素子。

【請求項13】
光学系であって,
請求項1?12のうちいずれか一に記載の光学素子と,
光を少なくとも20kWのパワーで発生させ,前記光学素子を通って前記光を透過させるよう構成された光源とを含む,光学系。

【請求項14】
前記光源は,光を少なくとも25kW,少なくとも30kW,少なくとも35kW,少なくとも40kW,少なくとも45kW,又は少なくとも50kWのパワーで発生させるよう構成されている,請求項13記載の光学系。

【請求項15】
前記光学素子を冷却する冷却系を更に含む,請求項13又は14記載の光学系。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は,以下のとおりである。
(1) 理由1(実施可能要件):本件出願は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
すなわち,本願発明の合成ダイヤモンド光学素子の作製方法について,一応,本件出願の発明の詳細な説明には,反射防止パターンを形成する際のプロセス(【0030】-【0032】)や合成ダイヤモンド材料(【0038】-【0041】)に関する記載がある。しかしながら,本願発明の合成ダイヤモンド光学素子を実際に製造するためには,具体的な製造条件をどのように設定するかが重要であるところ,本件出願の発明の詳細な説明には,具体的な製造条件や実際に製造した実施例は開示されていない。そうしてみると,本願発明の合成ダイヤモンド光学素子を実際に作製するためには,過度の試行錯誤を要するといえる。
したがって,本件出願の発明の詳細な説明の記載は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができない。

(2) 理由2(進歩性):本願発明1-本願発明15は,その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2002-241193号公報
引用文献2:特表2006-507204号公報
引用文献3:国際公開第2011/103630号
引用文献4:特開平11-49596号公報

第2 当合議体の判断
1 理由1について
請求項1の記載からみて,本願発明1は,請求項1に記載された全ての特性,すなわち,[1]室温で測定して10.6μmの波長で0.5cm^(-1)以下の吸収係数を有するという特性,[2]表面のところに光学素子の動作周波数で2%以下の反射率を有するという特性,[3]レーザ誘導損傷しきい値がパルス持続時間を100ns,パルス繰り返し周波数を1?10Hzの範囲として波長10.6μmのパルスレーザを用いて測定して少なくとも30Jcm^(-2)であるという特性,[4]レーザ誘導損傷しきい値が波長10.6μmの連続波レーザを用いて測定して少なくとも1MW/cm^(2)であるという特性,の全てを満たす発明を,発明の範囲に含むものである。また,請求項2-請求項12までの記載内容をも勘案すると,本願発明は,上記[1]-[4]の特性に加えて,請求項2-請求項12に記載された特性の全て(合計で15個)を満たす発明をも,本願発明12として発明の範囲に含むものである。

ここで,本件出願の発明の詳細な説明の,例えば【0027】-【0031】には,一応,イオンエッチング時の酸素ガス流量,チャンバ圧力,ICPパワー等に関するパラメーターが記載されている。そして,これらイオンエッチング時のパラメーターは,イオンエッチングを行おうとする当業者ならば当然考慮すべき(適宜調整すべき)製造条件であるといえる。また,本件出願の発明の詳細な説明の【0038】-【0041】には,多結晶CVDダイヤモンド材料の入手方法等も記載されている。
しかしながら,本件出願の発明の詳細な説明には,本願発明の上記特性を満たす光学素子を具体的に製造した実施例は,1つも開示されていない。また,本件出願の発明の詳細な説明には,本願発明の上記特性と,イオンエッチング時の各製造条件がどのような相関関係にあるのかについても記載がない。例えば,酸素ガス流量は,イオンエッチングに際しての重要な製造条件であるが,本件出願の発明の詳細な説明には,酸素ガス流量の大小が,上記光学特性に対してどのように寄与するのかを説明するような記載はない。このような本件出願の発明の詳細な説明の記載内容では,当業者は,どのような方針に基づいてイオンエッチング時の各製造条件を調整すれば良いのか判らない。したがって,当業者が本願発明の合成ダイヤモンド光学素子を実際に作製するためには,過度の試行錯誤が要求されるといえる。
換言すると,当業者ならば,各製造条件を適宜設定することにより,試行錯誤的に光学素子を製造することは可能である。しかしながら,試行錯誤的に製造された光学素子が本願発明の各特性を満たすかは,都度測定しなければ判らず,また,そこから製造条件との相関関係が容易に導き出せるとも限らない。そうしてみると,このような「試行錯誤」が,当業者に期待しうる程度を超えない範囲内のものであるとまではいえない。
したがって,本件出願の発明の詳細な説明の記載は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができないから,本件出願は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。

2 理由2について
(1) 引用文献1の記載
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ダイヤモンドからなる板状の基板を有し,光を透過させる窓材において,
所定の規則に従って形成された複数のダイヤモンド突部が前記基板と一体的に形成されていることを特徴とする窓材。
【請求項2】 前記複数のダイヤモンド突部は,前記基板の両面に形成されていることを特徴とする請求項1記載の窓材。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,光学部品の中でも特に高い光透過率が要求される窓材,この窓材が適用される光学用窓,および窓材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ダイヤモンドは,広い光波長範囲で物質特有の吸収帯が無く,熱伝導率およびヤング率が常温で物質中最大であること等の優れた特性を有している。このような特性から,例えば特開平9-33704号公報に開示されたようにダイヤモンドは超高真空装置の光透過用窓材として利用されている。これは,かかる窓材には,様々な波長の光に対して透明で高強度の光が透過した際に発生する熱を効率よく逃すことができる高い熱伝導性が要求されるためであり,上記特性を有するダイヤモンドが好適なのである。また,ダイヤモンドは,上記のようにヤング率が高いことから,同一の開口径を持った光学用窓を製作する場合に窓材の厚さが薄くても強度が高く,X線等の透過窓材としても非常に優れた特性を発揮する。
【0003】ところが,ダイヤモンドをこのような用途に適用する場合の問題の一つとして,その表面反射率の高さが挙げられる。ダイヤモンドの屈折率は例えば波長2?20μmでは約2.4程度であり,ダイヤモンド特有の吸収がない波長領域でも,真空中或いは大気中における理論透過率は表面反射の影響で71%と低くなってしまう。表面反射は,光学系の透過率を低下させ,また像のコントラストを劣化させるため,反射防止を行う必要が生じる。
【0004】そして,光学部品の反射防止のために広く用いられているのが,反射防止膜である。素材の反射率をn,薄膜の屈折率をn1,膜厚をdとすると,n1=√n,膜厚d=λ/4のとき,波長λの光に対してその表面は無反射となる。反射防止膜は,この原理を応用したものである。」

ウ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記反射防止膜を利用したダイヤモンド製の窓材には,次のような問題があった。すなわち,一般的に上記のような反射防止膜は耐久性に乏しいことから,耐久性の高いダイヤモンドを使用しても,窓材の光透過率を高い状態で保持することが困難であった。また,反射防止膜は一般的に高強度光の入射など厳しい条件下での使用に耐えられないことから,高い熱伝導性を有するダイヤモンドを折角使用しても,窓材全体としては高強度光に耐えられないものとなってしまう。
【0006】本発明は,上記問題を解決するためになされたものであり,ダイヤモンドが持つ優れた熱伝導性および耐久性を保持しつつ光透過率の向上が実現された窓材,光学用窓,および窓材の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明は,ダイヤモンドからなる板状の基板を有し,光を透過させる窓材において,所定の規則に従って形成された複数のダイヤモンド突部が基板と一体的に形成されていることを特徴とする。
【0008】このように,基板と一体的に複数のダイヤモンド突部を所定の規則に従って形成した構造をとることで,反射防止膜を表面に設けたときと同様に窓材の表面の屈折率を所望の値に調整できることを見出した。」

エ 「【0029】次に,図3(a)?図3(d)の工程図を参照して,窓材10の製造方法を説明する。まず,図3(a)に示すような,表面が{001}面のIb型の単結晶ダイヤモンドからなる基板12を用意する。次に,図3(b)の工程で,基板12上にレジスト層22を形成し,この上に2次元状に円形の遮光板23aが形成されたフォトマスク23を配置する。そして,フォトリソグラフィ技術によって,レジスト層22に,フォトマスク23の遮光板23aに対応する位置にマトリックス状のパターンを形成する。
【0030】その後,図3(c)に示す工程で,エッチング技術によってレジスト層22の上記パターンに対応したマスク24を形成する。さらに,図3(d)に示す工程で,基板12に反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching: RIE)を施す。これにより,基板12と一体的に単結晶ダイヤモンドからなる複数本の円柱状のダイヤモンド突部16が形成され,窓材10が得られる。」
(当合議体注:図3は以下の図である。)


オ 「【0031】また,ダイヤモンド突部16を形成するのに反応性イオンエッチングを用いたのは,隆起状の柱状体を所望の形状に容易に形成できるだけでなく,ダイヤモンド突部16が形成された部分以外を平滑にエッチングすることができるためである。尚,反応性イオンエッチングで用いられる反応ガスは,O_(2)のみ,又は,CF_(4)及びO_(2)を含む混合ガスとすることが好適である。また,混合ガスを用いる場合の体積比は,エッチング速度と得られるエッチング表面の平滑度を考慮して決定されるが,O_(2)の体積分率に対するCF_(4)の体積分率の比を0.5以下とすることが好ましい。
【0032】また,ダイヤモンド突部16を形成するにあたっては,反応性イオンエッチング以外の手法を用いてもよく,例えば,イオンビームエッチング,ECR(電子サイクロトロン共鳴:Electron Cyclotron Resonance)エッチング,ICP(誘導結合プラズマ:Inductive Coupled Plasma)によるエッチング等を用いることができる。
…(省略)…
【0036】[第2実施形態]図5を参照して,本発明の第2実施形態を説明する。同図は,本実施形態の光学用窓80を示す断面図である。本実施形態が第1実施形態と異なるのは,窓材10の構造にある。すなわち,第1実施形態では基板12の一つの面にのみダイヤモンド突部16が形成されていたのに対し,本実施形態では基板12の両面にダイヤモンド突部16が形成されている。このような構成とすることで,波長5μm?100μmの間に,帯域幅100nm以上の波長範囲で透過率がほぼ100%になる波長領域が存在することが実験により判明した。
…(省略)…
【0040】[第4実施形態]次に,図7を参照して,本発明の第4実施形態を説明する。本実施形態が第1実施形態と異なるのは,ダイヤモンド突部16の形成方法である。まず,図7(a)に示す工程で,基板12のダイヤモンド突部を形成すべき部分に,円形のマスク24をマトリックス状に形成する。基板12は,表面の面指数が{100}の単結晶ダイヤモンドである。次に,図7(b)に示す工程で,基板12の表面をエッチングし,マスク24で覆われた部分に円柱状の隆起部14を形成する。ここで,反応性イオンエッチングを用いることで,隆起部14が形成された部分以外を平滑にエッチングすることができる。
【0041】隆起部14を形成した後,図7(c)に示す工程でマスクを除去する。次いで,図7(d)に示す工程で,マイクロ波プラズマCVDなどの気相合成法により隆起部14を核としてダイヤモンドを成長させ,ダイヤモンド突部16を形成する。本実施形態では,ダイヤモンド突部16は{111}面で囲まれた四角錐形状とされている。このように,ダイヤモンド突部16の頭頂部を窄めることにより,ダイヤモンド突部16が円柱や角柱等である場合よりも,窓材10の光透過率を向上できることが実験により判明した。そして,本実施形態のように,一旦エッチングで隆起部14を形成し,この隆起部14を核としてダイヤモンドを気相合成法によって成長させることで,ダイヤモンド突部16を四角錐などの所望の形に制御し易くなる。
…(省略)…
【0043】尚,本実施形態においても,第2実施形態と同様にダイヤモンド突部16を基板12の両面に形成することで,光透過率の向上を図ることができる。」
(当合議体注:図7は以下の図である。)


カ 「【0044】[第5実施形態]次に,図8を参照して,本発明の第5実施形態を説明する。まず,図8(a)に示す工程で,ダイヤモンド突部を形成すべき部分を除いて基板12の表面にマスク24を形成する。マスク24の窓は,マトリックス状に形成されている。そして,図8(b)に示す工程で,マイクロ波プラズマCVD法を用いたダイヤモンド合成技術により,マスク24の窓からダイヤモンドをエピタキシャル成長させて,複数の円柱状の隆起部14を基板12と一体的に形成する。隆起部14を形成した後,図8(c)に示す工程でマスク24を除去する。
【0045】次いで,図8(d)に示す工程で,マイクロ波プラズマCVDなどの気相合成法により隆起部14を核としてダイヤモンドをエピタキシャル成長させ,ダイヤモンド突部16を形成する。本実施形態では,第4実施形態と同様にダイヤモンド突部16は四角錐形状とされている。このため,窓材10の光透過率は高いものとなっている。
…(省略)…
【0047】尚,本実施形態においても,第2実施形態と同様にダイヤモンド突部16を基板12の両面に形成することで,光透過率の向上を図ることができる。」
(当合議体注:図8は以下の図である。)


キ 「【0060】(実施例5)本実施例では,図7で説明した方法によって窓材を作製した。基板は,厚さ0.4mm,直径3mmのIb型の高圧合成単結晶ダイヤモンドとし,表面を(100)面とした。基板にマスクを形成し,エッチング処理によって隆起部を形成し,マスクを溶解除去した後,マイクロ波プラズマCVD法によって隆起部を核としてダイヤモンドのホモエピタキシャル成長を行った。成長条件は,メタン-水素系でメタン濃度8%とし,基板温度930?980℃,チャンバ圧力2×10^(4)Paとし,成長時間を2時間とした。この結果得られたダイヤモンド突部は,(111)面で囲まれた四角錐形状となった。
【0061】そして,波長10.6μmにおける窓材の光透過率をFTIRにより測定したところ,87%に達していることが判明した。
【0062】さらに,同様の方法で窓材の裏面にもダイヤモンド突部を形成したところ,波長10.6μmにおける窓材の光透過率は98%にまで達し,波長10?12μm帯全体にわたって光透過率80%以上となった。
…(省略)…
【0066】(実施例7)本実施例では,図8で説明した方法によって窓材を作製した。基板は,厚さ0.4mm,直径3mmのIb型の高圧合成単結晶ダイヤモンドとし,表面を(100)面とした。まず,基板にマスクを形成し,マイクロ波プラズマCVD法によってダイヤモンドの隆起部をエピタキシャル成長させた。次いで,マスクを溶解除去した後,マイクロ波プラズマCVD法によって隆起部を核としてダイヤモンドのホモエピタキシャル成長を行った。成長条件は,メタン-水素系でメタン濃度8%とし,基板温度930?980℃,チャンバ圧力2×10^(4)Paとし,成長時間を2時間とした。この結果得られたダイヤモンド突部は,(111)面で囲まれた四角錐形状となった。
【0067】そして,波長10.6μmにおける窓材の光透過率をFTIRにより測定したところ,86%に達していることが判明した。
【0068】さらに,同様の方法で窓材の裏面にもダイヤモンド突部を形成したところ,波長10.6μmにおける窓材の光透過率は,96%にまで向上した。」

ク 「【0072】
【発明の効果】以上説明したように,本発明によれば,基板と一体的に複数のダイヤモンド突部を所定の規則に従って形成した構造とされているため,反射防止膜を表面に設けたときと同様に窓材の表面の屈折率を所望の値に調整することができる。断面積が一定である突部を所定の規則に従い形成すると,突部層全体の見かけの屈折率がダイヤモンドの屈折率と大気(真空)の屈折率との中間の値をとる。そこで,突部層の厚さや突部の配置を最適化することで,所望の屈折率を有する突部層を得ることができることを見出した。さらに,円錐や角錘等の断面積が厚さ方向に変化する突部を形成することで,突部層全体の見かけの屈折率は,ダイヤモンドの屈折率から大気(真空)の屈折率へ連続的に変化させることができる。さらに,各ダイヤモンド突部の高さおよび間隔を調整することで,光透過率を所望の値に設定することができる。これにより,本発明の窓材は,反射防止膜を設けること無く,ダイヤモンドが持つ優れた熱伝導性および耐久性を保持しつつ光透過率の高いものとなっている。」

(2) 引用発明
ア 引用発明A
引用文献1の特許請求の範囲(請求項1,請求項2)に記載された窓材に関して,引用文献1の【0036】には,「本実施形態では基板12の両面にダイヤモンド突部16が形成されている。このような構成とすることで,波長5μm?100μmの間に,帯域幅100nm以上の波長範囲で透過率がほぼ100%になる波長領域が存在することが実験により判明した。」と記載されている。そうしてみると,引用文献1には,「光学部品の中でも特に高い光透過率が要求される窓材」(【0001】)として,次の発明が記載されている(以下「引用発明A」という。)。
「 ダイヤモンドからなる板状の基板を有し,光を透過させる窓材において,所定の規則に従って形成された複数のダイヤモンド突部が前記基板と一体的に形成され,
基板の両面にダイヤモンド突部が形成され,
波長5μm?100μmの間に,帯域幅100nm以上の波長範囲で透過率がほぼ100%になる波長領域が存在する,
光学部品の中でも特に高い光透過率が要求される窓材。」

イ 引用発明B
引用文献1には,実施例5(【0060】-【0062】)として,以下の発明も記載されている(以下「引用発明B」という。)。
「 基板は,厚さ0.4mm,直径3mmのIb型の高圧合成単結晶ダイヤモンドとし,表面を(100)面とし,
基板にマスクを形成し,エッチング処理によって隆起部を形成し,マスクを溶解除去した後,マイクロ波プラズマCVD法によって隆起部を核としてダイヤモンドのホモエピタキシャル成長を行い,
得られたダイヤモンド突部は,(111)面で囲まれた四角錐形状となり,
さらに,同様の方法で窓材の裏面にもダイヤモンド突部を形成したところ,波長10.6μmにおける窓材の光透過率は98%にまで達し,波長10?12μm帯全体にわたって光透過率80%以上となった,
光学部品の中でも特に高い光透過率が要求される窓材。」

(3) 引用文献2の記載
本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献2には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものである。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は化学的気相成長(CVD)ダイヤモンド材料,その製造,及びこの材料から得られる光デバイス及び素子に関する。
【背景技術】
【0002】
その独特の要求事項の結果,それに使用する材料に高度の要求を行う多くの光デバイスがある。例えば,高強度のビームが乱されることなく,ある形の隔離を与えるために必要とされる窓を通過する必要がある,レーザ窓,及び光反射器,回折格子,及びエタロンなどの他のデバイスが含まれる。
【0003】
特定の用途に応じて,適切な材料の選択又は製造に役割を果たす重要な特性には,低く均一な複屈折性,均一で高い屈折率,歪みの関数としての低い誘起複屈折性又は屈折率変動,低く均一な光吸収,低く均一な光散乱,高い光(レーザ)損傷閾値,(光素子内の温度変動を最小にする)高い熱伝導率,高度な平行度及び平坦度を有しながら高度の表面研磨を示す加工性,機械的強度,磨耗抵抗性,化学的不活性,及び用途において信頼性のある材料パラメーターの再現性が含まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多くの材料はこれらの要求事項の1つ又は複数を満足するが,多くの用途は1つ以上を必要とし,選択された材料はたいてい妥協であり,最終的な性能を制限する。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば,CVD単結晶ダイヤモンド材料は,室温(公称20℃)で測定するとき,少なくとも1つ,好ましくは少なくとも2つ,より好ましくは少なくとも3つ,さらにより好ましくは少なくとも4つの以下の特性を示す。
…(省略)…
7)少なくとも0.5mm,好ましくは少なくとも0.8mm,さらに好ましくは少なくとも1.2mmの特定の厚さのサンプルが,波長10.6μmで20℃近くで測定して,0.04cm^(-1)未満,好ましくは0.03cm^(-1)未満,さらに好ましくは0.027cm^(-1)未満,さらにより好ましくは0.025cm^(-1)未満の吸光係数を有するような,低く均一な光吸収。
…(省略)…
11)50?100nsの一次パルススパイクを有し,100μm1/eの光点サイズに正規化されたガウスビームプロファイルを用いて,波長10.6μmで,損傷を与える最低の入射ピークエネルギー密度と損傷を与えない最大の入射ピークエネルギー密度の平均が120Jcm^(-2)よりも大きく,好ましくは220Jcm^(-2)よりも大きく,さらに好ましくは320Jcm^(-2)よりも大きく,さらにより好ましくは420Jcm^(-2)よりも大きいような,高いレーザ損傷閾値。」

ウ 「【0043】
これらの独特の材料特性によって性能が可能になる,本発明のCVDダイヤモンド材料から生まれる用途には,
・光学窓-例えば,非常に高い像品質が要求される。窓が圧力を受ける場合の用途において,材料の一定した機械的強度によって設計が容易になる。
・レーザ窓-高強度のビームが乱されずに窓を通過して,ある程度の分離を提供する。例えば局部的な吸収及び熱的に誘起される歪みによってビームが劣化せず,又は窓が恒久的に損傷を受けるのに十分なエネルギーを吸収しないように,レーザビームが窓と相互作用しないことは特に重要である。
・光学反射器-表面が極めて平坦であり,又は非常に正確に規定された表面形状を有し,安定であることが必要である。
・光学屈折器及びレンズ-光透過要素の1個又は両方の面が少なくとも部分的に意図的には平面又は平行ではないが,高い精度で製造しなければならない。
・回折光素子-例えば,ダイヤモンド中又はその上の構造を用いて回折による光ビームの修正を行う。
・エタロン。
・時計ガラス又はジェムストーンなどとしての装飾的な用途。
・高圧高温実験用のアンビル-この用途ではダイヤモンドはアニールされることが好ましい。
が含まれるがこれらに制限されない。」

エ 「【実施例1】
【0095】
本発明の単結晶CVDダイヤモンドの合成に適した基板は以下のように調製することができる。
…(省略)…
【0096】
高温/高圧合成の1b型ダイヤモンドを高圧プレス中で成長させ,基板として基板欠陥を最小にする上述の方法を用いて,すべて{100}面の5mm×5mm平方×厚さ500μmの研磨した板を形成した。この段階で,表面粗さR_(Q)は1nm未満であった。基板は高温ダイヤモンド蝋付けを用いてタングステン基板に取り付けた。これを反応器中に導入し,エッチングと成長サイクルを上述のように開始した。さらに詳細には,
1)2.45GHz反応器に,使用点の精製器を予め設けて,流入ガス流中の意図しない汚染物質を80ppb以下に低減した。
2)263×10^(2)Pa及び基板温度730℃で,15/75/600sccm(秒あたり標準立方センチメートル)のO_(2)/Ar/H_(2)を用いて,原位置での酸素プラズマエッチングを行った。
3)これは,ガス流からO_(2)を除いた水素エッチング中に,中断することなく,移した。
4)これは,炭素源(この場合CH_(4))及びドーパントガスを添加して成長工程に移した。この例では,CH_(4)を36sccmで流し,制御を簡単にするためにH_(2)中100ppmのN_(2)に較正した供給源から提供される1ppmのN_(2)を工程ガス中に存在させた。基板の温度はこの段階で800℃であった。
5)成長期間が完了すると,基板を反応器から取り外し,CVDダイヤモンド層を基板から取り外した。」

オ 「【実施例14】
【0177】
一連の単結晶ダイヤモンドサンプルを実施例1の一般的な方法に従って調製した。この方法の変形は下の表6に示す。合成の後,これらのサンプルは注意深い表面研磨によって光学板として調製され,得られた寸法になる。比較のため,光学研磨を行った光学級の多結晶ダイヤモンドも後続の測定に含めた。
【0178】
【表6】


【0179】
吸収の測定は前に報告したように行った。結果を下の表7に示す。
【表7】



(4) 対比
本願発明1と引用発明Aを対比する。
ア 光学素子
引用発明Aの「窓材」は,「光学部品の中でも特に高い光透過率が要求される窓材」である。したがって,引用発明Aの「窓材」は,本願発明1の「光学素子」に相当する。

イ 合成ダイヤモンド材料
引用発明Aの「窓材」は,「ダイヤモンドからなる板状の基板を有し,光を透過させる窓材において,所定の規則に従って形成された複数のダイヤモンド突部が前記基板と一体的に形成され」たものである。
ここで,引用発明Aの「基板」は「ダイヤモンドからなる」ところ,このダイヤモンドが合成のものである(天然のものでない)ことは,技術常識に照らし明らかである(なお,実施例5(【0060】)においても,「基板」として「Ib型の高圧合成単結晶ダイヤモンド」が使用されている。)。
そうしてみると,引用発明Aの「基板」は,本願発明1の「合成ダイヤモンド材料」に相当する。また,引用発明Aの「窓材」は,本願発明1の「光学素子」の,「合成ダイヤモンド材料」「を有し」という要件を満たす。

ウ 反射防止表面パターン
引用発明Aの「基板」には,「所定の規則に従って形成された複数のダイヤモンド突部が前記基板と一体的に形成され」,かつ,「基板の両面にダイヤモンド突部が形成され」ている。また,引用発明Aの「複数のダイヤモンド突部」は,機能的にみて,反射防止機能を果たすためのものである(【0072】の【発明の効果】の記載からも確認できる事項である。)。
そうしてみると,引用発明Aの「複数のダイヤモンド突部」は,本願発明1の「反射防止表面パターン」に相当する。また,引用発明Aの「窓材」は,本願発明1の「光学素子」の,「前記合成ダイヤモンド材料の少なくとも1つの表面内に直接形成された反射防止表面パターン」「を有し」という要件を満たす。

エ 反射率
引用発明Aの「窓材」は,「波長5μm?100μmの間に,帯域幅100nm以上の波長範囲で透過率がほぼ100%になる波長領域が存在する」ものである。
ここで,引用発明Aの「窓材」は,「光学部品の中でも特に高い光透過率が要求される窓材」であるから,「透過率がほぼ100%になる波長領域」において光を透過させて使用されることが予定された光学部品といえる。また,「透過率がほぼ100%」であるから,反射率はほぼ0%ということになる。
そうしてみると,引用発明Aの「透過率がほぼ100%になる波長領域」は,本願発明1の「動作周波数」に相当する。また,引用発明Aの「窓材」は,本願発明1の「前記光学素子は,前記少なくとも1つの表面のところに前記光学素子の動作周波数で2%以下の反射率を有し」という要件を満たすといえる。

(5) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明Aは,次の構成で一致する。
「 光学素子であって,
合成ダイヤモンド材料と,
前記合成ダイヤモンド材料の少なくとも1つの表面内に直接形成された反射防止表面パターンとを有し,
前記光学素子は,前記少なくとも1つの表面のところに前記光学素子の動作周波数で2%以下の反射率を有する,
光学素子。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明Aは,次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1の「光学素子」は,「室温で測定して10.6μmの波長で0.5cm^(-1)以下の吸収係数を有」するのに対して引用発明Aは,このような特性を具備するとは特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1の「光学素子」は,「次の特性のうちの一方又は両方を満たすレーザ誘導損傷しきい値を有」するのに対して,引用発明Aは,このような特性を具備するとは特定されていない点。
(当合議体注:「次の特性」は,[A]前記レーザ誘導損傷しきい値がパルス持続時間を100ns,パルス繰り返し周波数を1?10Hzの範囲として波長10.6μmのパルスレーザを用いて測定して少なくとも30Jcm^(-2)であるという特性と,[B]前記レーザ誘導損傷しきい値が波長10.6μmの連続波レーザを用いて測定して少なくとも1MW/cm^(2)であるという特性である。)

(6) 判断
相違点1及び相違点2について,まとめて判断する。
引用発明Aの「窓材」は,「光学部品の中でも特に高い光透過率が要求される」ものである。また,引用発明Aの「窓材」が,高強度の光に対し損傷しない方が望ましいことも,自明である(引用文献1の【0002】や引用文献2の【0003】からも理解できる事項である。)。あるいは,引用発明Aのような「窓材」の用途として,高強度の光に対する損傷が小さい(レーザ誘導損傷閾値が大きい)ことが求められるものは,引用文献1が示唆する範囲内のものである。
ところで,引用文献2の【0005】には,「本発明によれば,CVD単結晶ダイヤモンド材料は,室温(公称20℃)で測定するとき,少なくとも1つ,好ましくは少なくとも2つ,より好ましくは少なくとも3つ,さらにより好ましくは少なくとも4つの以下の特性を示す。」として,以下の2つを含む各種特性が示されている。
特性1:「少なくとも0.5mm,好ましくは少なくとも0.8mm,さらに好ましくは少なくとも1.2mmの特定の厚さのサンプルが,波長10.6μmで20℃近くで測定して,0.04cm^(-1)未満,好ましくは0.03cm^(-1)未満,さらに好ましくは0.027cm^(-1)未満,さらにより好ましくは0.025cm^(-1)未満の吸光係数を有するような,低く均一な光吸収」
特性2:「50?100nsの一次パルススパイクを有し,100μm1/eの光点サイズに正規化されたガウスビームプロファイルを用いて,波長10.6μmで,損傷を与える最低の入射ピークエネルギー密度と損傷を与えない最大の入射ピークエネルギー密度の平均が120Jcm^(-2)よりも大きく,好ましくは220Jcm^(-2)よりも大きく,さらに好ましくは320Jcm^(-2)よりも大きく,さらにより好ましくは420Jcm^(-2)よりも大きいような,高いレーザ損傷閾値」
ここで,特性1は,前記相違点1に係る本願発明1の要件を優に満たすものである。また,特性2についても,測定条件において若干の違いはあるとしても,そのレーザ損傷閾値からみて,前記相違点2に係る本願発明1の要件を優に満たすものである。
そして,引用文献1には,単結晶ダイヤモンドの使用例(実施例5)が開示されていることも勘案すると,引用発明Aにおいて,引用文献2に記載された上記特性1及び特性2を示す「CVD単結晶ダイヤモンド材料」を採用することは,引用文献1が示唆する範囲内の事項にすぎない。
あるいは,特性1を満たす「CVD単結晶ダイヤモンド材料」は,光(エネルギー線)の吸収が極めて小さいものであるから,特性2をも満たしうると考えることもでき,引用発明Aにおいて,このような「CVD単結晶ダイヤモンド材料」を採用することも,引用文献1が示唆する範囲内の事項にすぎない。
いずれにせよ,引用発明Aの「基板」として,上記特性1及び特性2を満たす「CVD単結晶ダイヤモンド材料」を採用することにより,前記相違点1及び相違点2に係る本願発明1の構成を具備する「窓材」を得ることは,当業者が容易に発明できたものにすぎない。
なお,引用文献1には,「ダイヤモンド突部」の作製方法として,「反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching: RIE)」(【0030】),「ICP(誘導結合プラズマ:Inductive Coupled Plasma)によるエッチング」(【0032】),「マイクロ波プラズマCVD法」による「ホモエピタキシャル成長」(【0060】)が開示されている。また,引用文献2に記載されたダイヤモンド材料は単結晶であるから,引用文献1に示唆された上記作製方法において,エッチングされた面やホモエピタキシャル成長された面の平滑度を高くすることは,多結晶ダイヤモンド材料等に比して容易である。したがって,当業者ならば,引用文献1に示唆されたこれら作製方法の製造条件を適宜設定することにより,「CVD単結晶ダイヤモンド材料」の結晶性を損なうことなく,当業者に期待しうる程度を超えない範囲内の試行錯誤により「ダイヤモンド突部」を形成することができることは,技術的にみて明らかである。

(7) 効果について
本件出願の発明の詳細な説明には,発明の効果に関する明示的な記載はない。ただし,本件出願の発明の詳細な説明の記載全体を考慮すると,本願発明の効果は,請求項1に記載されたとおりの光学的な特性を具備する光学素子を提供することができることにあると考えられる。
そうしてみると,本願発明の効果は,前記(6)で述べたとおり,引用発明Aにおいて引用文献2に記載された「CVD単結晶ダイヤモンド材料」を採用する当業者が予測可能な範囲内のものにすぎない。

(8) 引用発明Bについて
引用発明Bに基づいて検討しても同様である。
すなわち,引用発明Aの場合と同様の対比により,本願発明1と引用発明Bの相違点として,前記相違点1及び相違点2が見いだされることとなる。
ここで,引用発明Bの「基板」は,「厚さ0.4mm,直径3mmのIb型の高圧合成単結晶ダイヤモンド」であるところ,引用文献2には,引用発明Bの「高圧合成単結晶ダイヤモンド」と同様の合成単結晶ダイヤモンドである,前記(6)で述べたような特性を具備する「CVD単結晶ダイヤモンド材料」が開示されている。
引用発明Bの「高圧合成単結晶ダイヤモンド」に替えて引用文献2に記載された「CVD単結晶ダイヤモンド材料」を採用することは,「光学部品の中でも特に高い光透過率が要求される窓材」を得ようとする当業者における,通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。その余は前記(6)で述べたとおりである。

(9) 小括
本願発明1は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 まとめ
本件出願は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。また,本願発明1は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-18 
結審通知日 2018-01-22 
審決日 2018-02-02 
出願番号 特願2015-560662(P2015-560662)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 536- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 廣田 健介  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 河原 正
樋口 信宏
発明の名称 合成ダイヤモンド光学素子  
代理人 渡邊 誠  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 山本 泰史  
代理人 弟子丸 健  
代理人 松下 満  

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