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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部無効 2項進歩性  C04B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
管理番号 1343250
審判番号 無効2012-800204  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-12-12 
確定日 2018-02-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3468358号「炭化珪素質複合体及びその製造方法とそれを用いた放熱部品」の特許無効審判事件についてされた平成25年12月24日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項1、7ないし11に係る発明に対する部分の審決取消しの判決(平成26年(行ケ)第10047号、平成27年7月16日)があったので、審決が取り消された部分の請求項に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3468358号の明細書、特許請求の範囲及び図面を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.平成11年10月6日に、名称を「炭化珪素質複合体及びその製造方法とそれを用いた放熱部品」とする発明について本件特許出願(特願平11-285429号)がされ、平成15年9月5日に、特許第3468358号として設定登録を受けた(請求項の数11。以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書および図面を「本件明細書」といい、特許権者である電気化学工業株式会社を「被請求人」という。)。
本件特許について、シーピーエス・テクノロジーズ・コーポレーション(以下、「請求人」という。)から、本件無効審判の請求がされた。
一次審決までの手続の経緯は、以下のとおりである。

平成24年12月12日 審判請求書・甲第1?9号証提出
平成25年 3月22日 答弁書・乙第1号証提出、訂正請求
平成25年 4月 1日 上申書(被請求人)
平成25年 4月12日 手続補正書(被請求人)
平成25年 5月22日付け 審理事項通知書
平成25年 7月11日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成25年 7月18日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成25年 8月 1日 第1回口頭審理、無効理由通知
平成25年 9月 2日 意見書・乙第2?8号証の2提出、訂正請求
平成25年 9月 6日 上申書(請求人)
上申書(被請求人)
平成25年11月 5日 弁駁書
平成25年12月24日付け 一次審決

2.平成26年2月18日に、請求人から、平成25年12月24日にした審決の取り消しを求め、知的財産高等裁判所に訴えが提起され、知的財産高等裁判所において、特許法第181条の規定により、
「1 特許庁が無効2012-800204号事件について平成25年12月24日にした審決のうち,特許第3468358号の請求項1,7ないし11に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。」
との判決(平成26年(行ケ)第10047号、平成27年7月16日判決言渡)がされ、その後確定した。

3.その後の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成28年 2月25日 訂正申立
平成28年 3月14日付け 訂正請求のための期間指定通知
平成28年 3月28日 訂正請求
平成28年 6月10日 弁駁書(請求人)・甲第10?12号証提出

第2 平成25年12月24日付け審決の請求項2ないし6に係る部分の取り消しについて
平成26年(行ケ)第10047号(平成27年7月16日判決言渡)によって、
「1.特許庁が無効2012-800204号事件について平成25年12月24日にした審決のうち、特許第3468358号の請求項1,7ないし11に係る部分を取り消す。
2.原告のその余の請求を棄却する。」
との判決がされ、その後確定した。
ここで、請求項2ないし6と、請求項1、7ないし11とは、一群の請求項を構成する。
そして、訂正の請求がされたそれらの一群の請求項のうち、請求項2ないし6に係る部分は当該判決によって取り消されなかったが、請求項1、7ないし11に係る部分をついては審決の取り消しの判決がされ確定した。
よって、今般、審理を行うに際し、特許法第181条第2項の規定により、上記審決のうち請求項2ないし6に係る部分を取り消す。

第3 平成28年3月28日付けの訂正請求の適否について
1.訂正の請求の要旨
平成25年9月2日付けの訂正(以下、「先の訂正」という。)請求は、平成28年3月28日付けで訂正請求がされたことにより、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなされた。
平成28年3月28日付けの訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の要旨は、「特許第3468358号の明細書および図面を本件訂正請求書に添付した訂正明細書および図面のとおり、訂正後の請求項1乃至11について訂正することを求める。」というものである。

2.訂正の内容
本件訂正の請求は、本件明細書の特許請求の範囲および発明の詳細な説明について、以下に示す訂正を求めるものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体であって、」とあるのを「多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる矩形板状複合体であって、」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、」とあるのを「該矩形板状複合体の面内に他の放熱部品に当該矩形板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記穴部は、前記矩形板状複合体を構成する2組の対辺のうち、1組の対辺のそれぞれに沿って一列にそれぞれ2個以上が配置され、他方の1組の対辺のそれぞれに沿って2個ずつ配置され、」との事項を付加する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「前記2個ずつ配置された4個の穴部は、前記2個以上配置された穴部の両端部の4個の穴部を兼ねており、」との事項を付加する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に「前記2個ずつ配置された穴部のそれぞれの辺に沿った穴部同士の距離が、前記2個以上の穴部が配置された穴部の隣接する穴部同士の距離より大きくなるように配置されており、」との事項を付加する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1に「前記2個ずつの穴部が配置された対辺に平行な方向を穴間方向(X方向)としたとき、前記」との事項を付加する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項1に「穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(x);μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(y);μm)の関係が、50≦C_(x)≦250、且つ-50≦C_(y)≦200である(C_(y)=0を除く)」とあるのを「穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(x);μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(y);μm)の関係が、|C_(x)|≧|C_(y)|、50≦C_(x)≦250、且つ-50≦C_(y)≦200である(C_(y)=0を除く)」と訂正する。

(8)訂正事項8
本件明細書の段落【0012】に「本発明は、多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体であって、板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(x);μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(y);μm)の関係が、50≦C_(x)≦250且つ-50≦C_(y)≦200(C_(y)=0を除く)」とあるのを「本発明は、多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる矩形板状複合体であって、該矩形板状複合体の面内に他の放熱部品に当該矩形板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、前記穴部は、前記矩形板状複合体を構成する2組の対辺のうち、1組の対辺のそれぞれに沿って一列にそれぞれ2個以上が配置され、他方の1組の対辺のそれぞれに沿って2個ずつ配置され、前記2個ずつ配置された4個の穴部は、前記2個以上配置された穴部の両端部の4個の穴部を兼ねており、前記2個ずつ配置された穴部のそれぞれの辺に沿った穴部同士の距離が、前記2個以上の穴部が配置された穴部の隣接する穴部同士の距離より大きくなるように配置されており、前記2個ずつの穴部が配置された対辺に平行な方向を穴間方向(X方向)としたとき、前記穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(x);μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(y);μm)の関係が、|C_(x)|≧|C_(y)|、50≦C_(x)≦250、且つ-50≦C_(y)≦200(C_(y)=0を除く)」と訂正する。

(9)訂正事項9
本件明細書の段落【0031】において、「一般にここで、前記穴間方向(X方向)とは、図9(a)?(d)に例示した、放熱板表面の一方向を示し、Y方向は、前記表面内のX方向と垂直な方向を示している。」とあるのを「一般にここで、前記穴間方向(X方向)とは、図9(a)、(c)、(d)に例示した、放熱板表面の一方向を示し、Y方向は、前記表面内のX方向と垂直な方向を示している。」と訂正する。

(10)訂正事項10
本件明細書の段落【0057】における表2に関し、「金属層の平均厚み(mm)」を「金属層の平均厚み(μm)」と訂正する。

(11)訂正事項11
本件明細書の段落【0062】において、「表1」を「表4」と訂正する。

(12)訂正事項12
本件明細書の段落【0072】において、「〔実施例24?31、比較例3?6〕」を「〔実施例24?26、28、30、31、参考例27、29、比較例3?6〕」と訂正する。

(13)訂正事項13
本件明細書の段落【0073】において、「得られら炭化珪素質複合体は、100×150mm(コーナー部:R3)の形状に外周加工、並びに6箇所に7mmφの穴加工を施した(図9(b)参照)のち、更に、3次元ミルで面加工して、所定の形状、厚さ、反り量を有するいろいろな複合体を作製した。」とあるのを「得られた炭化珪素質複合体は、100×150mm(コーナー部:R3)の形状に外周加工、並びに6箇所に7mmφの穴加工を施した(図9(c)参照)のち、更に、3次元ミルで面加工して、所定の形状、厚さ、反り量を有するいろいろな複合体を作製した。」と訂正する。

(14)訂正事項14
本件明細書の段落【0075】における表9に関し、「実施例27」及び「実施例29」をそれぞれ「参考例27」及び「参考例29」と訂正する。

(15)訂正事項15
本件明細書の段落【0077】において、「比較例29」を「参考例29」と訂正する。

(16)訂正事項16
本件明細書の【図面の簡単な説明】において、「【図9】本発明に係る複合体を例示する平面図。」とあるのを「【図9】本発明に係る複合体を例示する平面図。但し、(b)図は参考例である。」と訂正する。

(17)訂正事項17
図面の図9が

とあるのを

と訂正する。

3.本件訂正の請求についての当審の判断
当審は、上記訂正事項1ないし17は、以下のとおり訂正の目的要件を満たすものであり、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないと判断する。

3-1.各訂正事項についての訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、実質変更の有無について
(1)訂正事項1、2
訂正事項1、2は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「板状複合体」を、「矩形板状複合体」と訂正するものであり、「板状」の形状を「矩形」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項は、本件明細書に添付された図面の【図2】?【図8】に板状複合体に用いる多孔質炭化珪素成形体が、【図9】にそれらの多孔質炭化珪素成形体を用いて製造された板状複合体の例が開示されており、それらが長方形状(すなわち、矩形状)のものであることに基づくものであるから、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項3
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「板状複合体」の有する「4個以上の穴部」の配置を、「矩形板状複合体を構成する2組の対辺のうち、1組の対辺のそれぞれに沿って一列にそれぞれ2個以上が配置され、他方の1組の対辺のそれぞれに沿って2個ずつ配置され」る配置に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項は、本件明細書に添付された図面の【図9】(以下に再掲する。)に例示された板状複合体において、Y方向に伸びる対辺のそれぞれに沿って2?4個の穴部が配置され、X方向に伸びる対辺のそれぞれに沿って2個の穴部が配置されているものがあることに基づくものであるから、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。


(3)訂正事項4
訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「板状複合体」の有する「4個以上の穴部」の配置を、「2個ずつ配置された4個の穴部」が「2個以上配置された穴部の両端部の4個の穴部を兼ねて」いる配置に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項は、本件明細書に添付された図面の【図9】に例示された板状複合体において、X方向に伸びる対辺のそれぞれに沿って配置された2個の穴部(両対辺の合計で4個の穴部)が、Y方向に伸びる対辺のそれぞれに沿って配置された2?4個の穴部の両端部の2個の穴部(両対辺の合計で4個の穴部)でもあるものがあることに基づくものであるから、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項5
訂正事項5は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「板状複合体」の有する「4個以上の穴部」の配置を、「2個ずつ配置された穴部のそれぞれの辺に沿った穴部同士の距離」が「2個以上の穴部が配置された穴部の隣接する穴部同士の距離より大きくなるように配置されて」いる配置に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項は、本件明細書に添付された図面の【図9】に例示された板状複合体において、いずれもX方向に伸びる対辺のそれぞれに沿って配置された2個の穴部同士の距離が、Y方向に伸びる対辺のそれぞれに沿って配置された2?4個の穴部の隣接する穴同士の距離よりも長いことが見て取れるものがあることに基づくものであるから、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項6について
訂正事項6は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「穴間方向(X方向)」が、「2個ずつの穴部が配置された対辺に平行な方向」であることを付加するものである。
ここで、本件明細書をみると、「穴間方向(X方向)」について、「一般にここで、前記穴間方向(X方向)とは、図9(a)?(d)に例示した、放熱板表面の一方向を示し、Y方向は、前記表面内のX方向と垂直な方向を示している。」(段落【0031】)と記載され、本件明細書に添付された図面の【図9】をみると、互いに直交する矢印を付してX方向と、Y方向とが図示された4つの放熱板の例が開示されている。これらの記載事項からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された「穴間方向(X方向)」とは、【図9】に図示されたX方向を一例とするものの、それに限定されるものでなく、他の方向である態様をも含むものと理解される。
そうすると、訂正前の「穴間方向(X方向)」は【図9】に図示されたX方向を含む複数の方向を包含し、いずれの方向であるかが不明であったところ、訂正事項6は、「2個ずつの穴部が配置された対辺に平行な方向を穴間方向(X方向)としたとき、前記」との事項を付加することによって、2個ずつの穴部が配置された対辺に平行な方向を穴間方向(X方向)として明確にしたうえで、その場合における穴間方向(X方向)およびそれに垂直な方向(Y方向)の反り量が規定されるようにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、【図9】に開示された4つの例の板状複合体のうち、左から1、3、4番目の例において、「穴間方向(X方向)」の矢印が、「2個ずつの穴部が配置された対辺に平行な方向」に表示されていることが見て取れるから、「穴間方向(X方向)」が「2個ずつの穴部が配置された対辺に平行な方向」である例は本件明細書および添付図面に記載されていた事項といえる。
そして、本件訂正発明は、訂正事項6のように「穴間方向(X方向)」を限定することによって、その技術分野(炭化珪素複合体を用いた放熱部品)や、解決すべき課題(高熱伝導性を有すると共に、比重が小さく、且つ熱膨張係数がセラミックス基板に近い、反りを有していて放熱部品等に密着性良く接合される複合体及びこれを用いた放熱部品を安価に提供すること(段落【0009】))を変更するともいえない。
そうすると、訂正事項6は、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものともいえない。

[平成28年6月10日付け弁駁書における請求人の主張について]
請求人は、平成28年6月10日付け弁駁書において、訂正事項6は、「穴間方向(X方向)」について、ネジ穴(穴部)との関係性において定められるという新たな定義を導入するものであることを主張している。

ここで、上記知的財産高等裁判所判決(平成26年(行ケ)第10047号)において、特許請求の範囲の記載の明確性に関して、
「(ウ)ところで,本件訂正発明1は,「穴間方向」であるX方向の長さ10cmに対する反り量(C_(x))と,X方向と直交する方向であるY方向における長さ10cmに対する反り量(C_(y))の数値範囲をそれぞれ定め,・・・反り量を規定する上記条件は,本件訂正発明1に係る板状複合体を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定するための条件であると認められる。
ここで,本件訂正明細書の複合体は,特定量の反りを有していて,例えば,放熱板として用いた場合に,セラミック基板を放熱フィン等の放熱部品に密着性良くネジ止め固定することができ,放熱性が安定した,高信頼性のモジュールを形成することができるという効果を奏するものであるところ(段落【0081】),板状複合体(放熱板)を放熱部品に密着性よくネジ止め固定できる長さ10cmに対する反り量であるC_(x)及びC_(y)について異なる数値範囲が規定されている本件訂正発明1において,本件明細書の段落【0035】の記載から,本件訂正発明における好ましい長さ10cmに対する反り量は穴間距離の影響を受けるものと解され,X方向(ひいては,Y方向)が,放熱板表面の一方向であればどの方向であっても他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定できるとは考えられないことからすると,本件訂正発明1が上記作用効果を奏するためには,「穴間方向(X方向)」は,板状複合体のネジ穴または外形との関係でどの方向を示すものであるかが定義されていることを要するものというべきである。」
(第124?125頁.なお、判決文中において、「本件訂正発明」とは先の訂正後の特許請求の範囲に記載された発明を意味する。)、
と判示されるように、本件訂正発明が、他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定され、放熱性が安定した,高信頼性のモジュールが形成される等の効果を奏するためには、本件明細書の記載からみて、「穴間方向(X方向)」が,板状複合体のネジ穴または外形との関係でどの方向を示すものであるか定義されていることを要する。
そして、上記判示事項を踏まえると、訂正事項6は、本件訂正発明がその作用効果を奏するために必要であることが当業者にとって明らかな事項を、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特定して明示するものであって、新たな技術的事項を導入して別の発明を創出するものではない。

また、請求人は、同弁駁書において、「穴間方向(X方向)」をネジ穴(穴部)との関係性において定めることは、平成25年7月18日付け口頭審理陳述要領書、本件特許権に関する特許権侵害差止仮処分命令申立事件(平成24年(ヨ)第22065号)において、被請求人が「反り量が大きい方がX方向で、反り量が小さい方がY方向であり、X方向(Y方向)は一義的に定義できる」と主張していることと整合しないこと等も主張している。
しかしながら、板状複合体がネジ止め固定される場合、反り量は、ネジ止めされる間隔(穴間距離)等の影響を受ける(穴間距離が大きい方が反り量が大きくなる傾向がある)と解され、「反り量」とネジ止めされる間隔(「穴間距離」)との間には関係があるといえる。
また、【図9】においても、実際に、X方向は穴間距離が大きく、Y方向は穴間距離が小さくなっていることが認められる。
したがって、X方向(Y方向)が「反り量」との関係で定義できるとすることと、ネジ止めされる間隔(「穴間距離」)との関係で特定することとが明らかに整合しないとまではいえない。

よって、平成28年6月10日付け弁駁書における請求人の主張は、妥当なものとはいえない。

(6)訂正事項7
訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項1に記載された板状複合体の「穴間方向(X方向)」の長さ10cmに対する反り量(C_(x);μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(y);μm)とを|C_(x)|≧|C_(y)|の条件を満たすものに訂正するものである。

ここで、上記知的財産高等裁判所判決において、当該訂正事項7と同様の訂正事項である平成25年3月22日付け訂正請求における訂正事項1について、
「ア ・・・そうすると,訂正事項1は,特許請求の範囲の請求項1に記載された「穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(x);μm)と,それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(y);μm)の関係」について,C_(x)の絶対値がC_(y)の絶対値以上であるとの限定を加えるものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
イ 本件明細書の段落【0032】(・・・)には,「本発明の複合体から成る放熱板を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定する場合,一般には,放熱板と放熱部品との間に放熱グリス等を介して固定される。このため,Y方向の反り量(C_(y))に関しては,その絶対値が放熱グリス厚より小さいことが好ましい。また,締め付け時の放熱板の変形を考慮した場合,Y方向の反り量(C_(y))はX方向の反り量(C_(x))より小さい方が好ましい。」との記載がある。
ところで,「締め付け時の放熱板の変形を考慮した場合,Y方向の反り量(C_(y))はX方向の反り量(C_(x))より小さい方が好ましい。」との記載を,両反り量を絶対値で比較するものと理解しないとすると,C_(y)が負の場合には,C_(y)が小さい方,すなわち,凹状に反っている量が大きい方が好ましいことを意味することになる。しかしながら,このような理解は技術常識に反することから,上記記載は,Y方向の反り量(C_(y))は,その絶対値が放熱グリス厚より小さいことが好ましいと記載されているのと同様に,Y方向の反り量(C_(y))の絶対値が,X方向の反り量(C_(x))の絶対値より小さい方向が好ましいことを記載したものと理解される。
したがって,本件明細書には,「 穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(x);μm)と,それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(y);μm)の関係」について,|C_(x)|>|C_(y)|の関係が記載されているといえる。
そして,本件明細書の段落【0075】の表9(・・・)には,本件訂正発明の実施例(実施例28)として,・・・,C_(x)=C_(y)の関係が記載されているといえる。
そうすると,本件明細書には,「穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(x);μm)と,それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(y);μm)の関係」について,|C_(x)|≧|C_(y)|の関係が記載されているものと認められる。
したがって,訂正事項1は,願書に添付された明細書に記載した事項の範囲内でされたものであると認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。」
(第86?88頁.なお、判決文中において、「本件訂正発明」とは先の訂正後の特許請求の範囲に記載された発明を意味する。)
と判示され、上記判示事項を踏まえると、訂正事項7は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書に記載した事項の範囲内でされたものであると認められ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(7)訂正事項8
訂正事項8は、特許請求の範囲の訂正と整合させるために、明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正するものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項は、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項1?7について、上記(1)?(6)に記載した理由と同様の理由により、いずれも、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項10?12、14、15
訂正事項10は、明細書の段落【0057】における表2に関し、「金属層の平均厚み(mm)」を「金属層の平均厚み(μm)」と訂正するものである。
ここで、段落【0061】に 表2に掲載された実施例2の型枠の材質を変更した実施例11について、形成される金属層の平均厚みがμm単位(30μm)であることが開示されており、表2の「金属層の平均厚み(mm)」と矛盾し、いずれかの単位系の記載が誤記と推認されること、表1の実施例2の成形体厚みが2.93mmであるところ、それにアルミニウム金属を含浸させる(段落【0055】?【0056】)ことによって、各成形体の表裏面に10倍以上の厚みの層(表面60mm、裏面30mm)を形成できるものとは、技術常識に照らして考えられないことを考慮すると、「金属層の平均厚み(mm)」の単位系の「(mm)」が誤記であることは明らかであるから、訂正事項10は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。

訂正事項11は、明細書の段落【0062】の実施例12?17、比較例2についての「炭化珪素粉末A(…)、炭化珪素粉末B(…)及びシリカゾル(…)を表1の組成で配合し」との記載における「表1」を「表4」と訂正するものであるが、【表1】に実施例12?17、比較例2のデータはなく、炭化珪素粉末A、炭化珪素粉末Bおよびシリカゾルの配合比も何ら開示されていない一方、【表4】には実施例12?17、比較例2のそれらの配合比のデータが開示されており、段落【0062】の「表1」が「表4」の誤記であることは明らかであるから、訂正事項11は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。

訂正事項12、14、15は、明細書の段落【0072】、【0075】、【0077】に記載された「実施例」ないし「比較例」の一部を「参考例」に訂正することによって、明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させるものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

そして、訂正事項10、11は、当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、訂正事項12、14、15は、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、それらいずれの訂正事項も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(なお、訂正事項10?12、14、15は、平成25年3月22日付け訂正請求における訂正事項3?7と同様の訂正事項であり、それらの訂正事項については、一次審決で上記と同様の判断を示しており、上記知的財産高等裁判所判決からみて、その判断について両当事者間に争いはないものと認められる。)

(9)訂正事項9、13、16、17
これらの訂正事項はいずれも、本件明細書に添付された図面である【図9】に係る箇所についてのものであるところ、これらの訂正事項は【図9】に必要な記号((a)?(d))が付されていない不備を訂正し、その訂正に沿って、発明の詳細な説明の対応する記載を訂正するものとも解されることに鑑み、以下、訂正事項17、9、16、13の順で、併せて検討する。

まず、訂正事項17について検討する。
訂正事項17は、本件明細書に添付された図面の【図9】に掲載された4つの炭化珪素複合体の図に「(a)?(d)」の記号を付すものであるが、明細書の段落【0031】に「図9(a)?(d)」との記載があるのに対して、【図9】には4つの炭化珪素複合体の図が掲載されているのみであった不整合を正すものであり、掲載された4つの図の左端から右端へ向かって、順に、(a)、(b)、(c)、(d)とすることは、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項は、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

次に、訂正事項9について検討する。
訂正事項9は、「穴間方向(X方向)」の例として、訂正前に「図9(a)?(d)」が例示されていたところ、訂正事項6によって 「穴間方向(X方向)」が「2個ずつの穴部が配置された対辺に平行な方向」とされたことによって、「穴間方向(X方向)」の例に該当しないものとなった(b)を除外して、「穴間方向(X方向)」の例として、「図9(a)、(c)、(d)」を例示するように訂正するものであって、特許請求の範囲の訂正と整合させるために明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正するものであって明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項は、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

次に、訂正事項16について検討する。
訂正事項16は、本件明細書の【図面の簡単な説明】の【図9】についての説明に「但し、(b)図は参考例である。」との記載を加入するものである。
当該訂正事項16は、訂正事項6の訂正によって実施例でなくなった【図9】の左から2番目の例が実施例でなく参考例であることを、訂正事項17によって付された(a)?(d)の記号の標記に従って記載するものであるから、特許請求の範囲の訂正と整合させるために明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正するものであって明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項は、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

さらに、訂正事項13について検討する。
訂正事項13は、明細書の段落【0073】における「6箇所に7mmφの穴加工を施した(図9(b)参照)」とあるのを「6箇所に7mmφの穴加工を施した(図9(c)参照)」と訂正するものである。
明細書の段落【0073】の記載は、その対象とする例が、図9の左から3番目の例(「6箇所」に「穴」のある例)であるのか、同左から2番目の例(「4箇所」に「穴」のある訂正後の(b)の例)であるのか、のいずれであるのかが明瞭でなかったところ、訂正事項17によって図9に左から(a)?(d)の記号が付されるとともに、訂正事項6の訂正によって同左から2番目の例が実施例でなくなったことに伴い、そのまま((b)のまま)では実施例でない例が実施例である意味となってしまう不合理が起こらないようにし、また、明細書の段落【0073】において、対象とする例が実施例である図9の左から3番目の例であることを明確にするように、記号の変更を行うものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項は、本件明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

そして、訂正事項9、13、16、17に係る訂正により、図9に関する不備は解消し、関連する記載は全体として整合し、明瞭なものとなったといえる。

[平成28年6月10日付け弁駁書における請求人の主張について]
請求人は、平成28年6月10日付け弁駁書において、訂正事項13は、図9の左から2番目の例の実施例であったところを右から2番目の例の実施例とするものであって、実施例を変更するものである等と主張する。

しかしながら、上記のとおり、訂正事項13は、訂正前の段落【0073】において対象とする例が明瞭でなかったものを明確にするものであり、請求人の主張するような「実施例を変更するもの」とはいえない。
そして、当該実施例が右から2番目の、6箇所に穴加工を施したことが見て取れる例のものであり、実施例に示されるとおりの良好な効果(密着性)が奏されたとして、技術的に理解できないなどの不合理な点は何ら認められない。
よって、平成28年6月10日付け弁駁書における請求人の主張は、認められない。

3-2.一群の請求項について
訂正前の請求項7?9は請求項1?6を引用して記載した関係にあり、請求項10は請求項9を、請求項11は請求項9、10を引用して記載した関係にあるから、訂正前の請求項1?11は、一群の請求項であり、訂正事項1ないし7は、それら一群の請求項に係る請求項についての訂正である。
また、訂正事項8?17は、全ての請求項である請求項1?11に係る明細書の記載についての訂正である。

3-3.訂正請求のまとめ
よって、訂正事項1?17は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号?第3号に掲げるいずれかの事項を目的とするものであり、同法同条第3項、第9項により準用する同法第126条第4ないし第6項で規定する要件を満たすものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、平成28年3月28日付けの訂正請求に係る訂正は認められるべきものである。

第4 本件訂正による訂正後の発明
本件審理の対象となる本件特許発明1?11は、本件訂正による訂正後の請求項1?11に記載された事項で特定される以下のとおりのものである(以下、「本件訂正特許発明1?11」という。)。

【請求項1】
多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる矩形板状複合体であって、該矩形板状複合体の面内に他の放熱部品に当該矩形板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、前記穴部は、前記矩形板状複合体を構成する2組の対辺のうち、1組の対辺のそれぞれに沿って一列にそれぞれ2個以上が配置され、他方の1組の対辺のそれぞれに沿って2個ずつ配置され、前記2個ずつ配置された4個の穴部は、前記2個以上配置された穴部の両端部の4個の穴部を兼ねており、前記2個ずつ配置された穴部のそれぞれの辺に沿った穴部同士の距離が、前記2個以上の穴部が配置された穴部の隣接する穴同士の距離より大きくなるように配置されており、前記2個ずつの穴部が配置された対辺に平行な方向を穴間方向(X方向)としたとき、前記穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(Cx;μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(Cy;μm)の関係が、|Cx|≧|Cy|、50≦Cx≦250、且つ-50≦Cy≦200(Cy=0を除く)ことを特徴とする炭化珪素質複合体。

【請求項2】
多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体であって、板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、複合体の表裏両面が平均厚さ10?150μmのアルミニウムを主成分とする金属層で覆われており、しかも表裏の金属層の平均厚みの差が140μm以下であり、複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が30μm以上250μm以下の反りを有することを特徴とする炭化珪素質複合体。

【請求項3】
多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体であって、板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、板状複合体が複合体部分(A)と複合体の少なくとも片面に設けられたアルミニウムを主成分とする金属層(B)とからなり、複合体部分(A)の厚さの平均値(TA;μm)と金属層(B)の両面の厚さの平均値との合計(TB;μm)の比(TA/TB)が5?30であり、複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が30μm以上250μm以下の反りを有することを特徴とする炭化珪素質複合体。

【請求項4】
複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が50?250μmであり、しかも前記金属層(B)の表面側の厚さの平均値(TB1;μm)と裏面側の厚さの平均値(TB2;μm)との差の絶対値(|TB1-TB2|)と、複合体の最大長(L;cm)との積が500以上2500以下であることを特徴とする請求項3記載の炭化珪素質複合体。

【請求項5】
多孔質炭化珪素成形体の少なくとも一主面に段差を設けることを特徴とする請求項3又は請求項4記載の炭化珪素質複合体。

【請求項6】
枠内に2つの多孔質炭化珪素成形体を積層して配置した後、前記枠に鉄板を配置しボルト、ナットで固定してブロックとし、前記ブロックにアルミニウムを主成分とする金属を含浸することで得られる板状複合体であって、板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、当該炭化珪素質複合体が、多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる、2つの板状複合体(C、D)と、アルミニウムを主成分とする金属層(E)とがECEDEの構造で積層してなる複合体であって、板状複合体(C)、(D)の炭素含有量の差が0.5?2.5重量%であり、複合体の主面の長さ10cmに対する反り量が50?250μmであることを特徴とする炭化珪素質複合体。

【請求項7】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5又は請求項6記載の炭化珪素質複合体の製造方法であって、炭化珪素質複合体を温度350℃以上で応力を加えて塑性変形させることにより、反り付けを行うことを特徴とする炭化珪素質複合体の製造方法。

【請求項8】
室温(25℃)から150℃に加熱した際の平均熱膨張係数が9×10-6/K以下であり、室温(25℃)の熱伝導率が150W/mK以上であることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5又は請求項6記載の炭化珪素質複合体。

【請求項9】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5又は請求項6記載の板状の炭化珪素質複合体に半導体搭載用セラミックス基板を接合してなることを特徴とする放熱部品。

【請求項10】
セラミックス基板が窒化アルミニウム及び/又は窒化珪素であることを特徴とする請求項9記載の放熱部品。

【請求項11】
セラミックス基板を接合していない面を、放熱グリースを介して、平面板装着する際に、締め付けトルクが2N以上の条件において、前記面の90%以上が密着することを特徴とする請求項9又は請求項10記載の放熱部品。

第5 本件審判請求の趣旨およびその理由
1.本件審判請求の趣旨およびその理由の概要
請求人は、「特許第3468358号の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め」、概ね次のとおりの無効理由を主張している。

(1)無効理由1
請求項1?3に係る本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、請求項1?11に係る本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証?甲第8号証に記載された発明を適用することによって、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2
請求項1?11に係る本件特許発明は、甲第4号証に記載された発明に甲第1号証?甲第3号証、及び甲第5号証?甲第8号証に記載された発明を適用することによって、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3)無効理由3
請求項1?11に係る本件特許発明は、甲第8号証に記載された発明に甲第1号証?甲第7号証に記載された発明を適用することによって、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(4)無効理由4
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?11に記載の発明特定事項のうち「反り量」について、発明の詳細な説明の記載からは、炭化珪素質複合体の製造条件や製造方法等をどのように制御すれば、斯かる反り量の数値範囲内となる炭化珪素質複合体を得ることができるのか不明確であり、発明の詳細な説明は、これら請求項に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号(当審注:「特許法第36条第4項」の誤記と認める。)又は同条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、上記請求項における「反り量」の定義は不明確であり、特許法第36条第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

なお、本件特許については、その出願時に国内優先権主張がされているが、優先権主張の効果が生じず、特許法第29条の適用については、本件特許の現実の出願日である平成11年10月6日が基準日となることについて、両当事者間に争いはない(上記知的財産高等裁判所判決第8頁)。

2.請求人の提出した証拠方法およびそれらに記載された事項
2-1.証拠方法
請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。
(1)審判請求書に添付して提出
甲第1号証:特開平11-130568号公報
甲第2号証:特開平6-315925号公報
甲第3号証:特開平7-183436号公報
甲第4号証:特開平11-157964号公報
甲第5号証:特開平10-65075号公報
甲第6号証:特開平8-204071号公報
甲第7号証:Mark Occhionero, Richard Adams, and Kevin Fennessy, "A NEW SUBSTATE FOR ELECTRONICS PACKAGING: ALUMINUM-SILICON CARBIDE (AlSiC) COMPOSITES," Proceedings of the Fourth Annual Portable by Design Conference,Electronic Design, March 24-27, 1997 pp 398-403
甲第8号証:Thomas Schutze, Hermann Berg, Martin Hierholzer, "Further Improvements in the Reliability of IGBT Modules," Industry Applications Conference, 1988, Thirty-Third IAS Annual Meeting, 12-15 Oct 1998(当審注:Schutzeの「u」はウムラウトを伴うものである。)
甲第9号証:Mark A. Occhionero 博士の宣誓書

(2)平成28年6月10日付け弁駁書に添付して提出
甲第10号証:特開平4-96355号公報
甲第11号証:特開平11-177002号公報
甲第12号証:特開平7-161863号公報
参考資料1:平成24年(ヨ)第22065号の債権者準備書面(4)
参考資料2:平成26年(行ケ)第10047号の被告準備書面(1)

2-2.甲号証の記載事項
請求人が証拠方法として提出した甲号証には、それぞれ次のとおりの事項が記載されている。

(1)甲第1号証:特開平11-130568号公報
(ア) 発明の属する技術分野
「本発明は,金属或いは合金とセラミックスとからなる複合体(以下,「金属-セラミックス複合体」又は単に「複合体」という)と,それを用いたICパッケージや多層配線基板等の半導体装置のヒートシンクに関する。」(段落【0001】)
(イ) 従来技術
「半導体分野において,LSIの高集積化,高速化のために発熱が増加する傾向にあり,ヒートシンクとして銅等を裏面(回路,半導体搭載面と反対側の面)に設けた,アルミナ,窒化アルミニウム,窒化珪素等のセラミックス基板が用いられている。一般に,半導体素子は熱に弱く,発熱による温度上昇は,半導体回路の誤動作を発生させたり半導体回路の破壊の原因となる。そのため,発生した熱を逃がすためのヒ-トシンクが備えられたパッケージが使用されるのが一般的である。近年,パワートランジスタ等の分野では大電流化に伴い発熱量がいっそう大きくなり,その熱を逃がすヒートシンクに対する要求特性も厳しいものとなってきている。」(段落【0002】)
「ヒートシンクに使用される材料には,先ず高熱伝導性であることが要求される。又,セラミックス基板とヒートシンクの熱膨張差に起因して,加熱接合時や使用時のヒートサイクルによりはんだ部分でのクラック(以下,「はんだクラック」という)やセラミック基板の割れ等が発生することがあるため,熱膨張係数が金属と比べて低く,セラミック基板として使用されるアルミナ,窒化アルミニウム,窒化珪素等に近いことが要求される。更に,軽量化の要求も強い。これらの要求を満たすヒートシンク用材料として,近年,金属-セラミックス複合体が注目されている(特開昭64-83634号公報,特開平9-209058号公報)。」(段落【0003】)
「金属-セラミックス複合体は,セラミック粉,セラミック繊維を成形し,必要な場合にはさらにこれを焼成して作製した多孔質セラミックス構造体を用い,これを所望の型内の空間に配置し,この空間に溶融金属を流し込むことによって,前記多孔質セラミックス構造体に前記金属を含浸し,これを冷却することにより作製する。溶融金属を含浸する方法としては,粉末冶金法に基づく方法,例えば,ダイキャスト法(特表平5-508350号公報)や溶湯鍛造法(まてりあ,第36巻,第1号,1997,40-46ページ)等の圧力鋳造による方法,自発浸透による方法(特開平2-197368号公報)等の各種の方法が知られている。」(段落【0004】)
(ウ) 発明が解決しようとする課題
「また,金属-セラミックス複合体をヒートシンクとして使用する場合,その片面はセラミック基板とはんだ付けされ,他の片面は金属性の放熱フィンとネジ止めがされるのが一般的である。この場合,金属-セラミックス複合体は金属と比較してヤング率が大きいため,IC等に実使用下で発熱により温度が上がると,はんだとの間でひずみが生じ,はんだクラックが発生することがある。また熱膨張差により放熱フィンとの間の密着性が悪くなり,放熱特性が低下するという問題もある。」(段落【0006】)
「更に,金属-セラミックス複合体は金属と比較して固く,加工が難しいため,形状対応性が悪いという問題がある。」(段落【0007】)
「本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果,金属-セラミックス複合体の表面に当該金属の層を設けることにより,メッキ性が良く,塑性ひずみによるはんだクラックの発生や放熱フィンとの密着性の低下が無い,かつ加工性にも優れた金属-セラミックス複合体が得られることを見いだし,本発明を完成するにいたった。」(段落【0008】)
(エ) 問題を解決するための手段
「即ち,本発明は,多孔質セラミックス構造体に金属を含浸してなる複合体であって,該複合体表面全体に前記金属の層を設けてなることを特徴とする複合体であり,好ましくは,前記多孔質セラミックス構造体が炭化珪素,窒化アルミニウム,窒化珪素,アルミナ又はシリカからなる群より選ばれる1種以上からなることを特徴とする複合体である。」(段落【0009】)
「本発明は,金属がアルミニウム又はマグネシウムのいずれかを主成分とすることを特徴とする前記の複合体であり,更に好ましくは,前記多孔質セラミックスが空隙率20?50%の炭化珪素からなり,前記金属がアルミニウムを主成分とすることを特徴とする前記の複合体である。」(段落【0010】)
(オ) 発明の実施の形態
「本発明は,多孔質セラミックス構造体に金属を含浸してなる複合体であって,該複合体表面全体に前記金属の層を設けてなることを特徴とする複合体である。この構造を採用するとき,金属-セラミックス複合体中の金属と表面の金属の層が同一であり,連続的につながっているので,金属-セラミックス複合体と金属層とが形成する界面での金属層の剥離等が起こるのを防止できる効果がある。」(段落【0012】)
「また,表面が低ヤング率の金属層で覆われているため,該金属-セラミックス複合体が,例えばセラミックス基板や放熱フィンとはんだで接合され,ヒートシンクとして用いられた場合に,はんだとの間のひずみが小さくなることから,はんだクラックが発生しにくくなるという効果が得られる。また,放熱フィンとの密着性の低下も少なく,放熱特性が長期に渡り安定して得ることができる。」(段落【0013】)
「更に,本発明の金属-セラミックス複合体は,上記構造を採用することにより,表面に金属層を有しない従来公知の金属-セラミックス複合体と比較して,加工性に富んでいる。例えば,平面研削によりヒートシンクの面加工をする場合には,本発明の金属-セラミックス複合体では,所定寸法より小さめの多孔質セラミックス構造体を用い,金属の層を厚めに設けることで,金属層のみを平面研削するだけで所望寸法の金属-セラミックス複合体を得ることができる。従来のダイヤモンド工具等を必要とするセラミック部分の研削が不必要となる。」(段落【0014】)
「同様に,金属-セラミックス複合体に穴明け加工をする場合には,予め所望寸法よりも大きな穴を有する多孔質セラミックス構造体を用いて,金属の層を厚めに設けることで,従来公知の金属加工法を適用するのみで所望寸法の金属-セラミックス複合体を得ることができる。」(段落【0015】)
「その材質については,得られる金属-セラミックス複合体の熱伝導率の低下を少なく,かつ熱膨張係数をアルミナ,窒化アルミニウム,窒化珪素等のセラミック基板に近づけるということから,高熱伝導でありかつ低熱膨張の炭化珪素,窒化アルミニウム,窒化珪素及びアルミナ等が好適である。又,シリカは,熱伝導率は前記セラミックスよりも小さいが,熱膨張係数が小さいため少ない添加量で金属-シリカ複合体の熱膨張係数をセラミック基板の熱膨張係数に近づけることができるため,複合体としたときの熱伝導率の低下が少なく,前記セラミックスを使用したときと同様の効果を得ることができ,やはり,好ましい。このうち,炭化珪素は粉体自体の熱伝導率がアルミニウムよりも高く,炭化珪素を使用して得られる金属-セラミックス複合体の熱伝導率は金属単味の熱伝導率よりも高くなることから特に好ましい。」(段落【0019】)
「本発明に用いる金属については,本発明の目的を達成し得れば,どのようなものであっても構わないが,高熱伝導性,軽量性を達成する目的から,アルミニウム,マグネシウム等の軽合金又はそれらの合金が好ましい。前記合金についても格別の制限はなく,汎用のアルミニウム合金やマグネシウム合金を用いることができる。アルミニウム合金の場合には,鋳造のしやすさ,高熱伝導性の発現の点から,Si含有量が4?10%のAC2A,AC2B,AC4A,AC4B,AC4C,AC8B,AC4D,AC8C,ADC10,ADC12等のアルミニウム合金が特に好ましい。」(段落【0020】)
「上記のセラミックスと金属の組み合わせに関して,金属としてアルミニウムあるいはアルミニウム系合金,セラミックスとして炭化珪素を用いたアルミニウム-炭化珪素複合体は,軽量,高熱伝導,セラミック基板との熱膨張の適合性の点で特に優れた組合せである。本発明者らは,このアルミニウム-炭化珪素複合体について,いろいろ検討した結果,炭化珪素含有量には本発明の目的を達するのに好適な範囲が存在することを見出し,本発明に至ったものである。即ち,アルミニウム-炭化珪素複合体中の炭化珪素含有量が50体積%以下では熱膨張係数が高くなり,セラミック基板との熱膨張差に起因する前記問題が生じ易くなる。また,セラミックスは高温での熱伝導率が下がるため,80体積%以上では,使用時の温度上昇による熱伝導率の低下が著しくなるという問題が顕著になってくる。従って,アルミニウム-炭化珪素複合体中の炭化珪素含有量は50?80体積%,すなわち,複合体化前の多孔質炭化珪素構造体の気孔率は50?20体積%が好適である。」(段落【0021】)
「本発明の金属-セラミックス複合体を得る方法については,従来公知のいろいろな含浸方法を適用することができるが,複合体表面に金属層を形成させる必要から,圧力鋳造による方法が望ましい。すなわち,ダイキャスト法による場合には,金型のキャビティをプリフォームよりも表面層の分だけ大きめに作ることにより,表面に金属層を持った複合体を容易に作製することができる。又,溶湯鍛造による場合には,鍛造後に金属-セラミックス複合体を,表面に金属層が残るように切り出すことで容易に作製することができる。」(段落【0022】)
「この場合,下地となる複合体表面に存在する金属層の厚さについて,0.5μmから500μmであることが望ましい。0.5μm以下であると部分的にメッキの不均一が生じることがあるし,500μmを超えるとヒートサイクルによりはんだクラックが生じ易くなるからである。」(段落【0024】)
(カ) 実施例
「〔実施例1?5〕表1に示す厚さ3mmの金属-セラミックス複合体を作製し,その熱伝導率,熱膨張係数を測定した。その結果,表1に示すとおりに,表面金属層の有無にかかわらず,高熱伝導で,熱膨張係数がセラミック基板に近い金属-セラミックス複合体が得られることを確認した。」(段落【0026】)
【表1】(段落【0027】)


「〔実施例12,比較例6〕表5に示す,縦100mm,横40mm,厚さ3mmの金属-セラミックス複合体を作製し,それに縦横が同じ大きさで,厚さ20mmのAl板を4隅でネジ止めし,125℃の温度に加熱した。その結果,表面に金属層を設けた金属-セラミックス複合体とAl板の間には隙間は認められなかったが,表面に金属層の無い通常の金属-セラミックス複合体には隙間が生じていた。」(段落【0034】)
【表5】(段落【0035】)

(キ) 発明の効果
「金属-セラミックス複合体の表面に当該金属の層を設けることにより,メッキ性が良く,塑性ひずみによるはんだクラックの発生や放熱フィンとの密着性の低下が無く,かつ加工性にも優れた金属-セラミックス複合体が得られ,特に電子部品の放熱部品として,セラミックス回路基板のヒートシンク材料として好適である。」(段落【0036】)

(2)甲第2号証:特開平6-315925号公報
a 産業上の利用分野
「本発明は,ろう層を介して互いに結合された,熱膨張係数の異なる少なくとも2枚の板からなる基板を変形する方法に関する。」(段落【0001】)
b 従来の技術
「半導体モジュールを,特にパワーエレクトロニクス分野で使用した際に生じる熱による破壊から保護するには,モジュールを冷却体と良好に熱伝導可能に接触させることが必要である。このためにはモジュールの銅支持板は平坦な冷却体に対して凸状に湾曲した面を,有利には球面として有していなければならず,これによりモジュールを当該冷却体上に側方でねじ締めした際,モジュールは機械的応力下に冷却体に押し付けられる。支持板の相応する形を得るには大きな問題が存在する。」(段落【0003】)
「銅とAl_(2 )O_(3) の熱膨張係数は著しく異なることから,各板をろう付けする際に必然的に生じる熱が,Al_(2) O_(3) セラミック及び銅支持板を異なって著しく膨張させる(バイメタル効果)。その結果この構造体が冷却した後もはや意図した平行な銅支持板ではなく,セラミック板の状態に対して凸状に湾曲した銅支持板が存在することになる。この事実は,冷却体への支持板の良好な接触がこの構造体の側面でのみはなお確保されるが,中央部ではまったく接触しないか又は不良な状態で接触するにすぎず,従って熱の放出にはほとんど役に立たないことを意味する。」(段落【0004】)
「凸状に湾曲した,できる限り球面に等しい板構造体を得るには,十分に小さいセラミック板を,凸状に予め変形処理した銅支持板上に軟ろう結合により設け,その結果構造体の冷却後に所望の板構造体を少なくとも近似して生ぜしめることができる。」(段落【0005】)
c 発明が解決しようとする課題
「本発明は,簡単かつ経済的にろう処理によって変形した基板を規定の予め与えられた形にすることのできる方法,及びこの方法を実施するための装置を提供することを課題とする。」(段落【0007】)
d 課題を解決するための手段
「この課題は本発明によれば,基板をプレス皿内で,基板の少なくともプレス皿の表面に隣接する板がプレス皿の予め与えられた形に合わされまたこれにより永久変形が得られるような温度及び圧力にさらすことによって解決される。」(段落【0008】)
「この方法及び方法を実施する装置を用いて,ろう層によって結合された,熱膨張係数の異なる板を,これらが予め与えられた構造体の形に最適に適合され得るように変形することができる。特にAl_(2 )O_(3)からなるセラミック板と軟ろう層により結合された銅からなる支持板を,例えば冷却体に対して凸状の予め与えられた形にすることができる。」(段落【0009】)
「特に,その製造に関しても特に,銅支持板の形を凸状に湾曲した球面として構成することが好ましい。Al_(2 )O_(3) セラミック,ろう層及び支持板からなる構造体を後に,すなわちろう付け終了後に本発明により所望の形に変形し得ることは特に有利である。Al_(2 )O_(3) と銅の膨張係数が異なることから最初の冷却工程後に生じる機械的応力が,本発明による新たな加熱によって著しく減少し,その結果これに伴う材料のひずみが低下する限り,本方法は有利に作用する。」(段落【0010】)
e 実施例
「図5には,構造体が常法で大表面の軟ろう結合材3を冷却した後にどのような状態で存在するかが示されている。大表面の軟ろう結合材3,セラミック板4及び銅板2がその製造前に平行して配列されている場合には,銅(αCu=175×10^(-6))及びAl_(2) O_(3) (αAl_(2)O_(3 )=66×10^(-6 ))がその熱膨張係数α を著しく異にすることによって必然的に,銅支持板2は構造体の冷却後,セラミック板4に対して凹状に変形する。銅板2のこの凹状又はくぼみの発生は,平坦な冷却体8に対する銅板2の良好な熱結合がもはや確保され得ないことを意味する。これに対しろう結合材3の冷却後僅かに凸状に構成された支持板形状は理想的である。それというのも次に支持板2の外面を冷却体8と結合した場合,例えばねじ締め9した場合,特に密の機械的結合,従って相応して良好な熱結合が得られるからである。」(段落【0014】)
「冷却状態でこの僅かに凸状化した支持板形状を得るには,ろう付け前にあっては比較的強く凸状に変形されている支持板2を使用することが提案され,その結果ろう層3を冷却した後銅板2の所望の残留凸面状が存在することになる。この方法は十分に小さいセラミック板4に対してのみ適しており,それは,一層大きなセラミック板4をろう付けする場合,支持板2の凸状の予備変形が大表面のろう層3の冷却後における支持板2の凹状変形を阻止するには不十分であることを実験結果が示しているからである。この場合にも図5に示した不所望の構造体が生じる。更に,小型にしたセラミック板4をろう付けするこの方法は,付加的に相互配線をする必要があることから費用が嵩む。」(段落【0015】)
「図1?図3により本発明の詳しい実施例を説明する。図1は本発明による装置を示すものである。加熱可能の皿14は凸状に前変形された塊状の板からなり,その下面全体にわたって大きい面積で加熱ら線16が施されている。ケーシングの取り付け及び充填まですでに完全に仕上げられ,基板2,3,4を有する使用可能状態の半導体モジュール1は皿14内に配置されている。この場合明確に示すために皿14及び加圧装置10のプレート11の湾曲は著しく誇張して示されている。」(段落【0016】)
「市販のモジュール1の基板2,3,4の銅板2は,銅板2の4つのすべての側面がろう付けされたセラミック板4を越えて突出しており,従って銅板2を冷却体8とねじ締め9するためのモジュール1の横側面でも,また長手側面15でも突出しているように大きい点に注意すべきである。」(段落【0017】)
「銅板2のこの狭い突出長手縁15は変形加圧装置10に対する作用面を構成する。固有の加圧装置10は,皿14に合わせて凸状に構成された下縁12を有する2つの平行に配置されたプレート11からなり,プレートの厚さは銅板2の突出する長手縁15の幅に等しく,またその間隔は,これが半導体モジュール1のセラミック板4に接して滑走し,銅板2の前記長手縁15上に載るように選定されている。」(段落【0018】)
「結合されたプレート11は垂直方向に移動可能に配置されていることから,上方から結合プレート11に作用する力13はプレート11を介して銅支持板2の突出長手縁15に伝達される。」(段落【0019】)
「図3は本発明による方法を使用した後,半導体モジュール1を室温に冷却した後の半導体モジュール1の基板2,3,4を示すものである。基板2,3,4の変形は部分的に戻され,従って全体的には所望の残留凸面状が残り,永続的に固定される。」(段落【0021】)
「具体的な実施例では,寸法94mm×34mm×3mm(長さ×幅×厚さ)の変形すべき銅支持板2及びろう箔3によりろう付けされた寸法61mm×29mm×0635mm のAl_(2 )O_(3) セラミック板4を有する市販のパワー半導体モジュール1を使用した。銅板2とAl_(2) O_(3) セラミック板4との間の厚さ約02mm の軟ろう層3は,融点183℃の組成PbSnAg40/59/1の合金に相当する。この場合ろう3を可塑性にするため130℃?150℃の加熱温度が使用される。実験では特に150℃で加工した。同時に銅板2の長手側面15にかけられた圧力を5秒間維持し,その際銅板2は900μm (加圧方向に対して垂直に測定した)押し曲げられた。加圧装置10,14から取り出し,モジュール1を室温に冷却した際,変形は100μm に戻り,その結果銅支持板2の所望の残留凸面状は永続的に固定される。銅板2を大きい面積の平坦な冷却体8と側方でねじ締め9した際,僅かな機械的応力下に,半導体モジュール1は冷却体8に理想的に熱結合を生じ,従って総体的に最良の熱供給の可能性が保証される。」(段落【0022】)

(3)甲第3号証:特開平7-183436号公報
a 特許請求の範囲
「【請求項1】金属の底板(1)の上面に配設された電気的に絶縁性で熱伝導性の基板(6)と,この基板(6)の上面に配設された半導体チップ(8,9)とを備え,前記底板(1)の下面(2)が凸面状に形成されている半導体モジュールにおいて,底板(1)の上面(5)が平坦状であることを特徴とする半導体モジュール。」
「【請求項2】 底板(1)の下面(2)が縦及び横方向に凸面状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の半導体モジュール。」
「【請求項3】 底板(1)の下面(2)が球面の形状を持っていることを特徴とする請求項2記載の半導体モジュール。」
b 産業上の利用分野
「この発明は,金属の底板の上面に配設された電気的に絶縁性で熱伝導性の基板と,この基板の上面に配設された半導体チップとを備え,前記底板の下面が凸面状に形成されている半導体モジュールに関する。」(段落【0001】)
c 従来の技術
「この種の半導体モジュールは,例えばドイツ連邦共和国特許出願公開第3940933号公報において公知である。底板を凸面状に形成するのは,半導体モジュールの使用中においても底板と冷却体との間の熱接触を良好にするためである。冷却体に対して凸面状に形成された底板はその両端で冷却体にねじ止めされる。これにより底板はその全面にわたって冷却体に接触する。凸面状形成の大きさは,使用中に底板がその中央部に脹らみを生じない程度に選ばれている。」(段落【0002】)
「上記の公報に記載された半導体モジュールにおいては底板はその全面にわたって同一の厚さである。従って冷却体に対して底板の下面を凸面状に変形すると上面においては凹面形状となる。基板と底板との結合もまた半導体チップと基板との結合も多くの場合軟ろう付けにより行われるから,ろうが流動状態にあると流れ出す傾向がある。従って,簡単なろう型では基板並びに半導体チップの簡単な取りつけが不可能である。簡単な取りつけは,底板の凸面度が大きければ大きい程そして底板に取りつけられる部品が多ければ多い程それだけ困難になる。」(段落【0003】)
d 発明が解決しようとする課題
「この発明の課題は,上述の種類の半導体モジュールを,簡単なろう型にて簡単に取りつけが可能で,しかしながら底板と冷却体との間の良好な熱接触が保障されるように構成することにある。」(段落【0004】)
e 課題を解決するための手段
「この課題は,底板の上面が平坦状であることによって解決される。」(段落【0005】)
f 実施例
「この発明を図面に示した実施例を参照して以下に詳細に説明する。なお,図面においては底板の下面における凸面状の湾曲もまた取りつけられる部品の厚さもわかりよくするため誇張して示されている。」(段落【0007】)
「図1において底板は1で示されている。この底板1は一般に熱良伝導性物質,例えば銅からなる。底板1は,冷却体12に対して凸面状の下面2と,平坦状の上面5とを有している。上面5には熱良伝導性で電気絶縁性の基板6が設けられている。この基板6は,通常,酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3) )或いは窒化アルミニウム(AlN)からなり,ろう付け可能な導電路を備えている。基板6は底板1の上面5に軟ろう層7により接合されている。基板6の上面には軟ろう層10,11を介して半導体チップ8,9が固定されている。これらの半導体チップは導電路を介して互いにまた容器端子に接続される。半導体チップ8,9の上面は,通常,ボンディングにより互いにおよび上記の導電路に接続されている。」(段落【0008】)
「モジュールは接続リード,容器及び容器内充填物を備えてから,底板1の両端3,4でねじにより冷却体12にねじ止めされる。その際底板1は変形して,その下面2が平坦状に冷却体12に接する。一方底板1の上面5は凸面状に変形する。ろう付けされた部材間に生ずる機械的応力はろう層7,10及び11により吸収される。」(段落【0010】)
「底板1の長さがその幅よりかなり大きい場合には,底板1の下面2の凸面形成は縦方向だけで充分である。底板1の横方向寸法がかなり大きく,例えば縦方向寸法と同程度の大きさである場合には,底板1の下面2の凸面形成は両方向に行うことが推奨される。この場合下面2は例えば球面の形とされる。」(段落【0011】)
「実際の実施例においては底板1の長さは137mm,横幅は127mmである。その厚さは外周で5mm,中央部の最大厚みは5.4乃至5.5mmである。このようなモジュールは例えば6本のねじにより冷却体12に固定される。」(段落【0012】)

(4)甲第4号証:特開平11-157964号公報
a 特許請求の範囲
「【請求項1】 炭化珪素質多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体であって,相対する主面の炭化珪素量の差が3重量%以下であることを特徴とする板状複合体。」
「【請求項2】室温(25℃)から300℃に加熱した際の反り量が,当該反りが最大となる方向の長さ1mmに対して,5μm以下であることを特徴とする請求項1記載の板状複合体。」
b 発明の属する技術分野
「本発明は,熱伝導特性に優れ,かつ軽量であり,セラミックス基板やICパッケージなどの半導体部品のヒートシンクなどの放熱部品として好適な高熱伝導性複合材料に関する。」(段落【0001】)
c 発明が解決しようとする課題
「更に,上記の課題を解決するため,金属-セラミックス複合体が検討されているが,セラミックス基板に近い熱膨張率を得ようとすると,熱膨張率の低い強化材であるセラミックスの比率を上げる必要がある。しかし,セラミックス成分の比率を上げるには,高い成形圧でプリフォームを成形する必要があり,コストアップに繋がると共に,その後の金属或いは合金の十分な含浸が難しくなるという問題がある。このため,熱膨張率がセラミックス基板に近く,高い熱伝導率を有する金属-セラミックス複合体を安価に提供できる技術の開発が課題となっている。」(段落【0009】)
「一方,上述した複合体をヒートシンク等の放熱部品として用いる場合,回路基板や放熱フィン等と接合して用いるため,その接合部分の平滑度,言い換えると複合体の反りが非常に重要である。例えば,ヒートシンクに適用させる場合,セラミックス基板等の回路基板と半田等により接合するため,ヒートシンクに反りがあると接合界面の厚さが不均一になり,使用時に接合部(半田部分)より剥離等が起こるといった問題や,回路基板に不均一な応力が発生し,回路基板におけるセラミックス等の絶縁層の破壊といった問題が発生する。また,室温で反りが小さく,回路基板との接合が可能な材料であっても,使用下で加熱されて反りを発生する材料の場合には,やはり,接合部からの剥離や回路基板の破壊等の問題がある。」(段落【0010】)
「更に,セラミックス回路基板等は,ヒートシンク等の放熱部品を介して,通常放熱フィン等に接合して用いるが,その場合,ヒートシンクに反りがあると放熱フィン等との接合が不十分となり,半導体素子等から発生した熱を十分に放熱することができず,部品の故障原因となる。」(段落【0011】)
「本発明は,上記の事情に鑑みなされたものであって,高熱伝導性を有すると共に,比重が小さく,且つ熱膨張率がセラミックス基板と同程度に小さく,加えて加熱された際にも反りがない,寸法安定性に優れた高熱伝導性複合体とそれを用いて放熱部品を安価に提供することを目的とするものである。」(段落【0012】)
d 課題を解決するための手段
「本発明者らは,上記目的を達成するため鋭意研究した結果,複合体中の炭化珪素量を厳密に制御することにより,複合体の反りを防止できることを見出し,本発明を完成するに至ったのである。」(段落【0013】)
「即ち,本発明は,炭化珪素質多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体であって,相対する主面の炭化珪素量の差が3重量%以下であることを特徴とする板状複合体である。」(段落【0014】)
「また,本発明は,室温(25℃)から300℃に加熱した際の反り量が,当該反りが最大となる方向の長さ1mmに対して,5μm以下であることを特徴とする前記の板状複合体である。」(段落【0015】)
e 発明の実施の形態
「本発明者らは,基材である金属について種々検討した結果,アルミニウムを主成分とする合金を用いることにより,良好な複合体を製造できることを見いだした。すなわち,本発明の複合体は,炭化珪素質多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなるものである。」(段落【0021】)
「本発明の複合体は,板状であり,しかも相対する主面の炭化珪素量の差が3重量%以下,好ましくは,1重量%以下である。複合体の熱膨張率は,炭化珪素と金属或いは合金の熱膨張率とその含有量により強く支配されているが,このため,前記炭化珪素量の差が3重量%を越えると,複合体の相対する主面の熱膨張率の差が大きくなり,複合体に反りが発生し,ヒートシンク等の放熱部品として用いる場合に,回路基板や放熱フィン等と十分に接合することができなくなってしまうという問題がある。また,板の厚さとしては,例えばヒートシンクに用いる場合に2?10mmである。」(段落【0024】)
「本発明の炭化珪素質複合体は,室温(25℃)から300℃に加熱した際の反り量が,当該反りが最大となる方向の長さ1mmに対して,5μm以下,好ましくは2μm以下である。一般に,ヒートシンク等の放熱部品は,回路基板や放熱フィン等と接合して用いられるため,室温においては,顕著な反りがないものを用いる。しかし,加熱時に反りが発生すると前述したような回路基板の剥離や絶縁層の破壊といった問題が発生する。」(段落【0025】)
「室温(25℃)から300℃に加熱した際の反り量が,当該反りが最大となる方向の長さ1mmに対して,5μmを越えると,回路基板や放熱フィン等と接合する際には,室温では接合状態が均一であっても,実使用下においては,熱サイクル等が付加された場合,回路基板の破壊や放熱特性の低下による半導体素子の故障を引き起こす。」(段落【0026】)
「本発明の複合体は,熱伝導率が150W/(m・K)以上であり,室温の熱膨張率が1×10^(-5)K^(-1) 以下であることが好ましい。」(段落【0028】)
「本発明の複合体は,熱伝導特性に優れ,十分な機械的特性を有し,しかもセラミックス基板と同程度に小さな熱膨張率を有しており,セラミックス回路基板用などのヒートシンクを初めとする放熱部品に用いて好適である。また,本発明の複合体は,密度が3g/cm^(3 )程度と軽量であり,移動用機器に用いる放熱部品として好適である。」(段落【0030】)
「本発明の複合体は,熱伝導特性に優れ,熱膨張率が1×10^(-5)K^(-1)以下と低いので,ヒートシンク等の放熱部品として用いるとき,従来の銅等を用いた場合に比べてセラミックス基板との熱膨張率差が小さくなり,セラミックス基板がその上に搭載される半導体素子の作動時に発生する熱サイクル等によりクラックや割れ等を発生する現象を防止できるので,高い信頼性が要求される電気,自動車等の移動用機器に用いる放熱部品として好適である。そして,本発明の複合体を用いてなる放熱部品は,温度変化があっても反りが非常に少ないので,回路基板や放熱フィンと十分に接合することができ,高い放熱特性を安定して有することができるという効果を有する。」(段落【0031】)
f 実施例
「[実施例1?6]炭化珪素粉末a(太平洋ランダム社製:NG-220,平均粒径:60μm),炭化珪素粉末b(屋久島電工社製:GC-500F,平均粒径:30μm)及びシリカゾル(日産化学社製:スノーテックス)を表1の組成で配合し,攪拌混合機で30分間混合した後,120mm×120mm×5mmの形状に10MPaの圧力でプレスし成形体とした。得られた成形体は,大気雰囲気中,温度1000℃で2時間加熱して,炭化珪素質多孔体を作製した。得られた炭化珪素質多孔体は,その寸法と質量より相対密度を算出した。得られた結果を表1に示す。」(段落【0036】)
「次に,炭化珪素質多孔体を電気炉で,温度800℃に予備加熱し,予め加熱しておいた内径200mmのプレス型内に載置した後,温度850℃に加熱した表1に示す金属の溶湯を鋳込み,100MPaの圧力で2分間プレスして,炭化珪素質多孔体に合金を含浸させた。得られた複合体を含む合金塊は,室温まで冷却したのち,ダイヤモンド加工治具で複合体を削り出した。得られた複合体は,ダイヤモンド加工治具を用いて,熱膨張率測定用試験体A(3mmφ×10mm),試験体B(1.5mmφ×10mm),室温の熱伝導率測定用試験体(10mmφ×3mm),3点曲げ強さ評価用試験体(3mm×4mm×40mm),反り測定用試験体(100mm×50mm×3mm)に研削加工した。また,得られた複合体の相対する主面の上面より試験体C(20mmφ×0.4mm),下面より試験体D(20mmφ×0.4mm)をそれぞれ研削加工して作製した。」(段落【0038】)
「次に,それぞれの試験体を用いて,押し棒式熱膨張計(セイコー電子社製;TMA300)により室温(25℃)から250℃の熱膨張率,レーザーフラッシュ法による室温の熱伝導率(真空理工社製;TC-7000)及び曲げ試験機(島津製作所社製;オートグラフ)による三点曲げ強さを測定した。得られた結果を表2に示す。更に,試験体C,Dを乳鉢で粉砕し,炭素分析計で炭素量を測定し,この炭素量から炭化珪素量を算出した。尚,反り量に関しては,試験体を電気炉中に設置し,温度25℃から300℃に加熱し,マクロメーターでその際の寸法変化を測定し,反り量を算出した。得られた結果を表2に示す。」(段落【0039】)
【表2】(段落【0040】)


「[実施例7、比較例2]炭化珪素粉末a75g、炭化珪素粉末b75g、シリカゾルを固形分量で6g及び純水50gを配合し、攪拌混合機で30分間混合した後、120mm×120mm×5mmの形状の石膏型に流し込み、温度40℃で24時間乾燥して成形体を作製した。尚、比較例2では混合時間を30秒とした。得られた成形体は、大気雰囲気中、温度1000℃で2時間加熱して、炭化珪素質多孔体とした。得られた炭化珪素質多孔体は、20mmφ×5mmの形状に加工して、その寸法と質量より相対密度を算出した。実施例7の相対密度は68%であり、比較例2の相対密度は63%であった。
次に、この炭化珪素質多孔体を、実施例1と同じ方法によりアルミニウム合金を含浸させて炭化珪素質複合体を作製した。得られた複合体は、実施例1と同じ評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【表3】

」(段落【0042】?【0044】)

g 発明の効果
「本発明の複合体は,強化材である炭化珪素質多孔体の含有量及びその分布状態を調整され,その結果,熱伝導率が高く,熱膨張率がセラミックス基板と同程度に小さく,しかも,温度変化を受けても反りが非常に小さいという特徴を有するので,半導体搭載用セラミックス基板と接合して用いるヒートシンクを初めとする放熱部品に好適である。更に,本発明の放熱部品は,前記特徴に加え,高強度で,しかも軽量であることから,電気,自動車等の移動機器等に好適な放熱部品として好適である。」(段落【0049】)

(5)甲第5号証:特開平10-65075号公報
a 特許請求の範囲
「【請求項1】セラミック基板(13)と,前記セラミック基板(13)の両面にAl-Si系ろう材を介してそれぞれ積層接着された第1及び第2アルミニウム板(11,12,31,32,51,52)と,AlSiC系複合材料により形成され前記第1又は第2アルミニウム板(11,12,31,32,51,52)の表面に積層接着されたヒートシンク(14)とを備えたヒートシンク付セラミック回路基板。」
「【請求項2】セラミック基板(13)がAlN,Si_(3)N_(4 )又はAl_(2)O_(3)により形成された請求項1記載のヒートシンク付セラミック回路基板。」
b 発明の属する技術分野
「本発明は,パワーモジュール用基板等の半導体装置のセラミック回路基板に関する。更に詳しくは半導体チップ等の発熱体から発生する熱を放散させるヒートシンクを有するセラミック回路基板に関するものである。」(段落【0001】)
c 発明が解決しようとする課題
「しかし,上記従来のセラミック回路基板は,半導体チップ等の発熱及び非発熱により基板温度が高温と低温との間で繰返し変化すると,セラミック基板と第1及び第2銅板との熱膨張係数が異なり,かつ第1及び第2銅板の変形抵抗が比較的大きいため,セラミック基板にクラックが生じる恐れがあった。本発明の目的は,熱サイクル寿命が長いヒートシンク付セラミック回路基板を提供することにある。」(段落【0003】)
d 課題を解決するための手段
「請求項1に係る発明は,図1に示すように,セラミック基板13と,セラミック基板13の両面にAl-Si系ろう材を介してそれぞれ積層接着された第1及び第2アルミニウム板11,12と,AlSiC系複合材料により形成され第1又は第2アルミニウム板11,12の表面に積層接着されたヒートシンク14とを備えたヒートシンク付セラミック回路基板である。この請求項1に係る回路基板では,第1及び第2アルミニウム板11,12が従来の銅板と比べて変形抵抗が小さいので,回路基板10に熱サイクルを付加してもセラミック基板13にクラックが発生することがない。またヒートシンク14として熱伝導率の高いAlSiC系複合材料を用いたので,放熱特性が向上する。」(段落【0004】)
「請求項2に係る発明は,請求項1に係る発明であって,更に図1に示すように,セラミック基板13がAlN,Si_(3)N_(4) 又はAl_(2)O_(3 )により形成されたことを特徴等する。この請求項2に係る回路基板では,セラミック基板13としてAlNを用いると熱伝導率及び耐熱性が向上し,Si_(3)N_(4) を用いると強度及び耐熱性が向上し,Al_(2)O_(3) を用いると耐熱性が向上する。」(段落【0005】)
e 実施例
「次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。<実施例1>図1に示すように,縦,横及び厚さがそれぞれ60mm,40mm及び0.635mmのAlNにより形成されたセラミック基板13と,縦,横及び厚さがそれぞれ60mm,40mm及び0.4mmのAl合金により形成された第1及び第2アルミニウム板11,12と,縦,横及び厚さがそれぞれ80mm,60mm及び2.0mmのAlSiC系複合材料により形成されたヒートシンク14と,縦,横及び厚さがそれぞれ60mm,40mm及び0.03mmのAl-Si系ろう材(図示せず)とを用意した。第1及び第2アルミニウム板11,12のAl純度はともに99.99重量%であり,ヒートシンク14中のAl合金は88重量%Al-12重量%Si合金であり,
Al-Si系ろう材はAl-7.5重量%Si合金であった。またヒートシンク14中のAl合金の溶解温度範囲は560?600℃であった。」(段落【0016】)
「先ず第1アルミニウム板11の上にAl-Si系ろう材,セラミック基板13,Al-Si系ろう材及び第2アルミニウム板12を重ねた状態で,これらに荷重2kgf/cm^(2 )を加え,真空中で630℃に加熱することにより,セラミック基板13の両面に第1及び第2アルミニウム板11,12を積層接着した。積層接着後,第2アルミニウム板12をエッチング法により所定のパターンの回路とした。次にヒートシンク14の上に第1アルミニウム板11を下側にしたセラミック板13とを重ね,これらに荷重2kgf/cm^(2) を加え,真空中で580℃に加熱してヒートシンク14を第1アルミニウム板11に積層接着し,ヒートシンク付セラミック回路基板10を得た。」(段落【0017】)
「<比較例1>図4に示すように,実施例1のセラミック基板と同形同大にかつ同一材料により形成されたセラミック基板3と,実施例1の第1及び第2アルミニウム板と同形同大の第1及び第2銅板1,2と,実施例1のヒートシンクと同形同大にかつCuにより形成されたヒートシンク4と,縦,横及び厚さがそれぞれ50mm,30mm及び0.1mmのはんだ6とを用意した。先ず第1銅板1の上にセラミック基板3及び第2銅板2を重ねた状態で,これらに荷重0.5kgf/cm^(2) を加え,N_(2) 雰囲気中で1063℃に加熱するDBC法により,第1及び第2銅板1,2をセラミック基板3に積層接着した。第2銅板2をエッチンクにより所定のパターンの回路とした。次にヒートシンク4の上にはんだ6と第1銅板1を下側にしたセラミック基板3とを重ねた状態で,N_(2) ガス及びH_(2) ガスの混合ガス雰囲気中で250℃に加熱してヒートシンク4を第1銅板1に積層接着し,このヒートシンク付セラミック回路基板5を比較例1とした。」(段落【0018】)
「<比較例2>図5に示すように,ヒートシンク7をAlSiC系複合材料により形成し,ヒートシンク7をはんだ6を介して第1銅板1に積層接着する前にヒートシンク7の接着面にNiめっきを施したことを除いて,比較例1と同様に構成し,このヒートシンク付セラミック回路基板9を比較例2とした。」(段落【0019】)
「<比較試験及び評価>実施例1,比較例1及び比較例2の回路基板の反り,熱抵抗及びセラミックスクラックをそれぞれ測定した。
(1)反りの測定
実施例1,比較例1及び比較例2のヒートシンクの下面の反りを3次元測定器でそれぞれ測定した。このときの測定長さは50mmであった。・・・」(段落【0020】)
「・・・実施例1及び比較例2ではヒートシンクの反りが30μmと同一であったのに対し,比較例1ではヒートシンクの反りが実施例1及び比較例2の1.5倍と大きくなっていた。・・・」(段落【0023】)
f 発明の効果
「以上述べたように,本発明によれば,セラミック基板の両面にAl-Si系ろう材を介して第1及び第2アルミニウム板をそれぞれ積層接着し,AlSiC系複合材料により形成されたヒートシンクを第1又は第2アルミニウム板の表面に積層接着したので,この回路基板に熱サイクルを付加しても,従来の銅板と比べて変形抵抗の小さい第1及び第2アルミニウム板がセラミック基板及びアルミニウム板の熱膨張係数の差による歪みを弾性変形して吸収する。この結果,セラミック基板にクラックが発生することはない。またヒートシンクとして熱伝導率の高いAlSiC系複合材料を用いたので,放熱特性が向上する。・・・」(段落【0024】)

(6)甲第6号証:特開平8-204071号公報
a 特許請求の範囲
「【請求項1】放熱板と,この放熱板の外周部に設けられた取着部と,半導体素子を搭載して前記放熱板の中間部に固着された基板と,この基板を包囲するよう前記放熱板の外周に沿うと共に前記取着部と前記中間部との間に立設されたケースと,このケース内に前記基板を封止するよう設けられた合成樹脂製の封止部材とを備える半導体装置において,前記放熱板が,前記基板を固着した中間部と前記ケースを立設した部分との間に変形緩衝部を有することを特徴とする半導体装置。」
b 従来の技術
「このように放熱板6が反ったままの半導体装置を組込み機器の取付け板の平坦面にねじ止めし固定すると,反った放熱板6には強制的に平坦化する方向に力が加わる。また,同時にケース9内の放熱板6上面に固着され同様に反った絶縁基板1,さらに絶縁基板1上面に搭載された半導体素子4にも平坦化する方向に力が加わり,これにより絶縁基板1や半導体素子4がひび割れしたり,破断したり等してしまう虞がある。」(段落【0009】)
c 作用
「上記のように構成された半導体装置は,固着された基板をケースを立設して包囲し封止部材で封止しするようにした放熱板が,基板を固着した中間部とケースを立設した部分との間に変形緩衝部を有しているので,封止を行った際に封止部材の固化にともなう熱収縮で放熱板に反りが生じるが,反りは変形緩衝部によって放熱板の外周部のみが変形して発生し,基板を固着した中間部は変形しない。このため中間部に固着した基板及びこれに搭載した半導体素子は変形せず,製品の歩留が向上し,また機器に組み込みを行う際に反っている外周部には強制的な力が作用するものの中間部には力が作用せず,基板及び半導体素子にひび割れ等の発生がなく,確実に所定の性能が得られ,経時的な性能も良好なものとなる。」(段落【0013】)
d 実施例
「そして絶縁基板21は,Niめっきが施された銅製の方形状の放熱板26の片面に半田付けによって固着されている。なお,27は固着の際の半田層である。」(段落【0017】)
「図5及び図6において,41は窒化アルミニウム等で形成された比較的薄いセラミック製の絶縁基板で,その両面に薄い銅膜42,43が形成されている。この絶縁基板41には,その片面側の銅膜42の表面に複数の半導体素子24が搭載されており,さらに片面側の銅膜42の表面には中央部にターミナル25の片端が固着されている。また絶縁基板41は,Niめっきが施された銅製の長方形状の放熱板44の片面に半田付けによって固着されている。」(段落【0028】)
「次に,第3の実施例であるモジュール化した半導体装置を図7及び図8により説明する。図7は断面図であり,図8は放熱板の斜視図である。」(段落【0037】)
「図7及び図8において,51は窒化アルミニウム等で形成された比較的薄いセラミック製の絶縁基板で,その両面に薄い銅膜52,53が形成されている。この絶縁基板51には,その片面側の銅膜52の表面に複数の半導体素子24が搭載されており,さらに片面側の銅膜52の表面には中央部にターミナル25の片端が固着されている。また絶縁基板51は,Niめっきが施された銅製の矩形状の放熱板54の片面に半田付けによって固着されている。」(段落【0038】)
「この絶縁基板51が固着された放熱板54は,その片面の各辺に沿った外周部に段差55を形成することで変形緩衝部を構成する薄肉部56が設けられており,薄肉部56はその厚さが中間部に比べて薄いものとなっている。さらに放熱板54の薄肉部56の4隅部には,取着部を構成するねじ止め用の取付け孔29が形成されている。」(段落【0039】)
「この固化処理によって封止部材60は熱収縮し,封止部材60が固着したケース57の開口端部には内方に向かう力が作用する。この力により放熱板54は,その外周部に設けられた段差55より外方の変形緩衝部を構成している薄肉部56が変形して反りが生じる。」(段落【0043】)
「この放熱板54の反りは,段差55より外方側の取付け孔29が形成された外周部が反ることによって生じたもので,絶縁基板51が固着された段差55よりも内方側の放熱板54の中間部が反るまでに至っていない。すなわち,放熱板54の中間部は平坦なままであり,このため中間部に固着された絶縁基板51やこれに搭載されている半導体素子24は反ることなく平坦なままとなっている。」(段落【0044】)
「そして,このような半導体装置を図示しない組込み機器の取付け板の平坦面に固定する場合,放熱板54の外周部に形成された取付け孔29を使いねじ止めにより行われる。この放熱板54の取り付けの際に,取付け板へねじを螺着していくことにより取付け孔29が形成された外周部は反りを修正し取付け板に密着するよう強制的に平坦化される。」(段落【0045】)
「これに対し放熱板54の中間部は,その他面側が平坦であるためそのまま取付け板の平坦面に密着し,強制的な形状修正が行われない。それ故,中間部に固着された絶縁基板51や半導体素子24にも形状修正を行うための強制的な力が加わることがない。従って,本実施例においても第1の実施例と同様の作用,効果が得られる。」(段落【0046】)
e 発明の効果
「以上の説明から明らかなように本発明は,固着された基板をケースを立設して包囲し封止部材で封止しするようにした放熱板が,基板を固着した中間部とケースを立設した部分との間に変形緩衝部を有する構成としたことにより,製品の歩留が向上し,機器に組み込みを行った際においても所定の性能が得られ,経時的な性能も良好なものとなる等の効果を奏する。」(段落【0047】)

(7)甲第7号証:Mark Occhionero, Richard Adams, and Kevin Fennessy, "A NEW SUBSTATE FOR ELECTRONICS PACKAGING: ALUMINUM-SILICON CARBIDE (AlSiC) COMPOSITES," Proceedings of the Fourth Annual Portable by Design Conference,Electronic Design, March 24-27, 1997 pp 398-403
(訳文は甲7添付の抄訳による。)
「AlSiC材料の固有の特性は,それを構成する材料成分の特性の組み合わせに由来するものであり,AlSiCの特性は,当該構成成分の比率を変えることによって調整される。IC CTEに適するAlSiC複合体は,50-68体積%のSiC粒子を有する。表1は,SiやGaAs及び従来のパッケージング材料に対するAlSiCの物性を比較したものである。」(2頁右欄5?13行。)
(3頁の表1)
表1:既存のパッケージング,基板及びIC材料と比較したAlSiC材料の特性


(8)甲第8号証:Thomas Schutze, Hermann Berg, Martin Hierholzer, "Further Improvements in the Reliability of IGBT Modules," Industry Applications Conference, 1988, Thirty-Third IAS Annual Meeting, 12-15 Oct 1998(当審注:Schutzeの「u」はウムラウトを伴うものである。)
(訳文は甲8添付の訳文による。)
「ベースプレート
銅は,高熱伝導性,運搬管理の容易性,電気めっき性及び価格の妥当性に関する優位性においてよく知られており,そのため,ベースプレート材として使用されることが多い。欠点としては,300℃を超えると生じる機械的性質の不可逆変化と,セラミック基板との熱膨張率(CTE)の不一致が挙げられる。
したがって,基板とベースプレートとの間のはんだ付けは故障原因となる。これらの材料はCTE が異なるため,熱歪みが起こり,はんだに機械的な歪みが生じる。重負荷サイクルを繰り返すと,はんだ割れが生じ,その結果,チップとベースプレート間の熱インピーダンスが増加する。ある適切な形状によりはんだ付けされたシステム金属とセラミックのバイメタル効果を軽減しようとする努力がなされてきた。図2 の右側に示す機械加工による凸状(bow)形状は,明らかにベースプレートとヒートシンクとの間の熱伝導性を向上させる。
セラミックとのCTEのずれが小さい比較的硬い材料であれば,上記の問題をいずれも解消できる。・・・金属マトリックス複合体(MMC)の材料であるAl/SiCは,高度な剛性と,AlNセラミックに近いCTE(7.3ppm/K)を持ち合わせている。」(2頁左欄。訳文は甲8添付の訳文による。)


(9)甲第9号証:Mark A. Occhionero 博士の宣誓書
「Materials and Methods
Preform :
Electronics grade Green SiC particulate (Panadyne) was used as a raw material.
Powder of the raw material was colloidially mixed and injection molded using a process as described in CPS's patents,・・・. The preforms were not calcined according to the CPS patented process.

Mold and Infiltration of Molten Aluminum:
A mold (30 cm × 30 cm × 7 cm) which consisted of two halves with a single cavity (100 mm × 100 mm × H), was used. H was adjustable to make the required thickness. A preform was placed in the cavity of the mold. After closing the mold with the upper part, the molten aluminum (700℃) was infiltrated into the mold cavity under pressure as shown below.
- Experiment 1 -
Total of 10 AlSiC plates with 100 × 100 mm (L × W) were prepared and analyzed. The camber on the diagonal front and back surfaces (117.8 mm measurement span) was measured to calculate the deflection over 10cm span. 1 sample was cross sectioned to show the effect of the skin thickness difference. 5 samples were cross sectioned for overall thickness and aluminum skin thickness measurements. The other 4 samples were not cross sectioned and retained intact for future measurements if necessary.

- Experiment 2 -
Total of 10 AlSiC plates with 100 x 100 mm (L × W) were prepared and analyzed. The camber on the diagonal front and back surfaces (117.8mm measurement span) was measured to calculate the deflection over 10cm span. 5 samples were cross sectioned for overall thickness and aluminum skin thickness measurements. The other 5 samples were not cross sectioned and retained intact for future measurements if necessary.」
(当審訳: 試料および方法
プリフォーム:
エレクトロニクスグレードの緑色SiC粒子(パナダイン製)を原料として用いた。CPS社の保有特許・・・に記載されている方法を用いて、原料粉末をコロイド状に混合し、射出成形を行った。当該CPS社の特許方法に従い、得られたプリフォームの焼成は行っていない。

モールドおよび溶融アルミニウムの含浸:
2つの空洞(100mm×100mm×H)から構成される金型(30cm×30cm×7cm)を用いた。「H」は、所望の厚さを得るために調節可能である。プリフォームを金型の空洞内に配置し、金型の上部を閉じた後、以下の図に示すように、溶融アルミニウム(700℃)を金型空洞内に侵入させた。
-実験1-
縦横100mm×100mmのAlSiC板を計10個作製し、分析を行った。傾いた前表面および後表面における反りを測定し(117.8mmの測定間隔)、10cmあたりの反りを算出した。表面厚の相違を示すために、1つの試料の断面を切断した。また、全体厚さおよびアルミニウム表面厚さの測定のために、5つの試料の断面を切断した。その他の4つの試料は、断面を切断せずに、今後の追加測定が必要な場合に備えてそのままの状態で保存した。

-実験2-
縦横100mm×100mmのAlSiC板を計10個作製し、分析を行った。傾いた前表面および後表面における反りを測定し(117.8mmの測定幅)、10cmあたりの反りを算出した。全体厚さおよびアルミニウム表面層の厚さの測定のために、5つの試料の断面を切断した。その他の5つの試料は、断面を切断せずに、今後の追加測定が必要な場合に備えてそのままの状態で保存した。)


」(4頁の表)
(当審訳:

)


」(5頁の表)
(当審訳:

)

(10)甲第10号証:特開平4-96355号公報
a 特許請求の範囲
「セラミック基板の一方の面に半導体素子を含む電子部品を取り付け,且つ他方の面に放熱板を接着するものにおいて,前記セラミック基板と放熱板の接着に際し,予め放熱板の反接着面が凸状となるよう反りをもたせたことを特徴とする半導体デバイスの製造方法。」(1頁左欄5行ないし10行)
b 発明の概要
「本発明はセラミック基板の一方側に半導体素子を取り付け,他方側の放熱板を半田付けする半導体デバイスにおいて,放熱板の反接着面側が凸状となるよう予め反りをつけることによって,半田付後の冷却に伴う反りを相殺して熱抵抗を低減したものである。」(1頁右欄3行ないし8行)
発明が解決しようとする課題
「第3図で示すように,セラミック基板1と放熱板3とを加熱装置を用いて半田付けし,その後冷却すると,セラミック基板1と放熱板3との材料の差による熱膨張係数の違いにより,歪みが発生して凹状のδの反りが生じる。この反った状態で放熱フィン6にボルト締して取り付けたとしても,δが大きければ大きい程,両者の接触面積が減少して放熱性が悪くなり,半導体素子の熱抵抗の増大となる問題を有している。」(2頁左上欄9行ないし右上欄2行)
c 課題を解決するための手段と作用
「本発明は,セラミック基板上に電子部品を取り付け,その反対側に放熱板を接着するものにおいて,第1図(a)で示すように予め放熱板の反セラミック基板側にδ_(1)の凸状の反りを形成したものである。このような反りを形成することにより,セラミック基板と放熱板とを加熱装置を用いて半田付けし,その後冷却すると,両材料の熱膨張係数の差により放熱板に反りが発生する。この反りは凹状の反りとなってδ_(1)がδ_(2)に縮小される。」(2頁右上欄4行ないし12行)
d 実施例
「実施例1・・・
(2)放熱板は銅放熱板を用い,・・・第1図(a)で示す凸状の反りδ_(1)=100?110μmを設けた。」(3頁左上欄1行ないし7行)
「実施例2・・・
(2)放熱板は銅放熱板を用い,・・・80?90μmの傾斜をつけて加工した。」(3頁左上欄15行ないし右上欄6行)
「また,この実験によって銅放熱板に与える凸状の反り寸法は,半田付後に生ずる反りに対して10?100μm加算すると好適であることがわかった。すなわち,10μm未満となると,両端を放熱フィンにボルト締めした際に反りが生じて接触面積が減少する。また100μmを超えた場合には,放熱フィンへのボルト締めの際にセラミック基板および実装した半導体素子に歪みを与え,場合によってはそれらに破損するおそれが生ずる。」(3頁左下欄1行ないし9行)
e 発明の効果
「以上のように本発明は,セラミック基板と銅放熱板との半田付けの際に生ずる反りの値に対し,30?40μm余計に凸状となるような反りを銅放熱板にもたせるようにしたものであるから,半田付け時に生じる凹状の反りを吸収し,且つ余分の30?40μmの凸状の反りは,放熱フィンへの取り付け時に吸収されてフラットの状態となり接触面積が増大する。このため樹脂封止後の半導体素子の熱抵抗が大巾に減少する利点を有するものである。」(3頁右下欄2行ないし11行)

(11)甲第11号証:特開平11-177002号公報
a 発明の属する技術分野
「本発明は,筐体に納められた半導体チップを有する半導体装置に関し,特にその放熱性を確保するための製造方法に関する。」(段落【0001】)
b 発明が解決しようとする課題
「前述のように,半導体チップ10で発生した熱は,放熱板16から冷却器26によって吸収されるので,放熱板16と冷却器26の間の熱抵抗は小さいことが望ましい。したがって,グリス層24内に気泡が混入しないようにする必要があり,さらにグリス層24の厚さそのものも,できるだけ薄いことが好ましい。しかし,一般的に放熱板16の熱膨張係数は,絶縁基板12のそれより大きく,ハンダ接合した後冷えると,収縮量の差によって放熱板16は,絶縁基板12が配置された側に凸となるように反る。これによって,放熱板16と冷却器26の間隔が増加し,この部分の熱抵抗が高くなる。従来,この反りを考慮して,放熱板16をあらかじめ逆に反らせて作製し,最終的に冷却器26側に凸となるようにしていた。しかし,放熱板16をあらかじめ反らせて作製するには,そのための工程が必要となるという問題があった。さらに,放熱板16に加工性の良くない材料を用いる場合は,あらかじめ反らせておくこと自体,困難な場合があった。」(段落【0004】)
「本発明は,前述の問題点を解決するためになされたものであり,あらかじめ放熱板を反らした形状に加工せずに,冷却器側,すなわち筐体の外側に向けて凸となる形状を得ることができる半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。」(段落【0005】)
c 発明の実施の形態
「以下,本発明の実施の形態(以下実施形態という)を,図面に従って説明する。図2は,本実施形態の半導体装置の製造方法の説明図である。なお,本実施形態の説明において,図1の装置と同等の構成については,同じ符号を付して説明する。図2(a)は,半導体チップ10を実装した絶縁基板12と放熱板16をハンダにより接合する工程である。放熱板16および絶縁基板12は,ハンダが融解するほどの高温にさらされる。この熱によって放熱板16および絶縁基板12は膨張する。絶縁基板12は,通常半導体チップ10とほぼ同等の熱膨張係数を有する材質であり,これは熱膨張の違いから生じる応力が繰り返しかかることによるハンダ層14の破壊を防止するためである。半導体チップ10を構成する材料は,良く知られているように熱膨張係数が極めて小さい部類に属し,絶縁基板12を構成する材質もこれに合わせて熱膨張係数が小さいものが採用されている。一方,放熱板16は,その機能から熱伝導係数の高い材質が採用されており,このような材料は,一般的には熱膨張係数が比較的高い。したがって,ハンダ付け時の熱により膨張する場合,放熱板16の膨張が絶縁基板12のものより大きい。」(段落【0012】)
「図2(b)は,放熱板16と絶縁基板12をハンダにより接合した後,常温まで冷却した状態を示している。前述のように接合時において,放熱板16がより膨張しているために,常温まで冷却すると,放熱板16の収縮量がより大きくなる。この収縮量の差により,放熱板16は,絶縁基板12が配置される側に凸の状態に反る。」(段落【0013】)
「図2(c)は,絶縁基板12が接合された放熱板16を筐体20の開放面に固定する工程を示している。固定は,常温より高く,ハンダ層14や,ハンダまたは接着剤の層18がハンダの場合の融解温度より低い温度,たとえば120℃程度で行われる。放熱板16は,再び熱膨張するが,筐体20はそれ以上に熱膨張する材質が採用されている。また,筐体20に対する放熱板16の固定は,熱硬化性の接着剤22により行われ,前記の高温環境によって硬化が進む。」(段落【0014】)
「図2(d)は,熱硬化性接着剤22が硬化した後,常温まで冷却された状態を示している。前述のように,筐体20の熱膨張量が放熱板16に比して大きいため,収縮量も大きく,この収縮量の差により放熱板16には,圧縮および筐体20の外側に凸となるような曲げ荷重が作用する。これにより,放熱板16は,図2(d)に示すように,筐体20の外側に凸の状態に反らされる。」(段落【0015】)
「図3は,放熱板16に冷却器26を接合した状態を示している。前述のように放熱板16は,筐体20の外側に凸になるように反った状態であり,絶縁基板12が配置された位置に対応する筐体外側の部分において,冷却器26との間隙が狭くなっている。したがって,この部分のグリス層24は薄く,熱抵抗が小さくなっている。また,放熱板16を冷却器26に押し付ける際,放熱板16の外側の方を冷却器26に押し付けるようにするだけで,放熱板16と冷却器26の間のグリス層24全体を薄くすることができ,さらに空気を容易に押し出すことができるので,気泡の残存が防止され,グリスや気泡による熱抵抗の増加を防止することができる。」(段落【0016】)
「なお,本実施形態においては,放熱板16と筐体20を結合固定する手段として熱硬化性接着剤を用いたが,他の種の接着剤やボルトなどを用いることも可能である。」(段落【0017】)
d 実施例
「次に,本発明の好適な実施例を示す。本実施例においては,前述の実施形態における放熱板16の材料としてAl-SiC(アルミ-シリコンカーバイド)複合材を,筐体20の材料としてPPS(ポリフェニレンサルファイド)を採用する。Al-SiCは,SiC(シリコンカーバイド)の特性を改善した複合材料であり,SiCの空隙にAl(アルミ)を含浸することによって,脆性および熱伝導率を改善したものである。さらに,SiCの熱膨張係数は,絶縁基板12のそれより小さく,Alの熱膨張係数は,絶縁基板のそれより大きい。Al-SiCの熱膨張係数は,AlとSiCの中間的な特性を持ち絶縁基板12のそれに比較的近い。放熱板16の熱膨張係数が絶縁基板12の熱膨張係数に比較的近いことによって,放熱板16と絶縁基板12の間のハンダまたは接着剤の層18にかかる熱膨張の違いから生じる応力を低減することができる。また,熱伝導係数が比較的高いことは,放熱板に要求される基本的な性質であり,Al-SiCはこの要求を満たすことができる。さらに,Al-SiCは降伏応力が高いために,図3などに示されるように放熱板16の中央が最も突出する形状を得ることができる。もし,降伏応力の低い材料であれば,放熱板の端部のみ筐体外側に向けて反り,中央部はハンダ付けの際の筐体内側に向けて凸の形状が残ってしまい,放熱板
が波打ったような形状となる場合もある。このような形状となると,放熱板中央部にへこみができ,冷却器との間隙を小さくすることができない。Al-SiCは,降伏応力が高いので,中央部が最も突出した形状を得ることができる。また,Al-SiCは,高い硬度のためにあらかじめ凸形状に機械加工することなどが困難であるが,本実施例によれば,機械加工によらず筐体外側に凸の形状を得ることができる。言い換えれば,前述の実施形態に示された方法により,放熱板の材料としてAl-SiCを採用することができる。」(段落【0018】)

(12)甲第12号証:特開平7-161863号公報
a 産業上の利用分野
「本発明は,一般に半導体パッケージおよびモジュールに関し,さらに詳しくは,単体ベース構造によって構成される半導体パッケージおよびモジュールに関する。」(段落【0001】)
b 従来の技術
「これまで,高電力スイッチング・モジュールなどの半導体デバイス・モジュールは,モジュールの底部が大きく平坦な打抜き金属のヒートシンクによって構成されてきた。打抜きヒートシンクは,モジュールの残りの構成部品に対する支持を提供し,かつ動作環境ではモジュールとコールド・プレートとの間に熱界面(thermal interface )を提供する。従来の半導体モジュールの平坦な打抜きヒートシンクは,特定の実質的な不利益をもたらす。」(段落【0002】)
c 発明が解決しようとする課題
「さらに,平坦な打抜きヒートシンクは,モジュールの他の部分の熱膨脹率の相違のため,およびモジュールを動作環境のコールド・プレートに取り付けたときに誘発される応力のためにも,反りを生じやすい。モジュールが反っていると,動作環境のコールド・プレートとよく合わない。」(段落【0004】)
d 課題を解決するための手段
「そこで,組立中に複雑な固定治具に依存せず,かつモジュールの底部表面の反りに抵抗する半導体パッケージおよびモジュール構造が必要になる。」(段落【0005】)
e 実施例
「一般に,本発明は,半導体パッケージおよびモジュールを製造する方法および装置を提供する。好適な実施例では,本発明は,電力モジュール用の金属単体閉囲構造つまり箱を提供する。この箱はヒートシンクとして機能し,電力モジュールを構成する構成部品の位置合わせのための一体化スロット,ピン等を設けることができる。したがって,組立中に構成部品を定位置に保持するための複雑な固定治具を必要としない。さらに,ヒートシンクは閉囲構造つまり箱であるので,他の構成部品の熱膨脹率の相違や取付中に誘導される応力による反りに対する抵抗性が非常に高い。したがって,本発明によるモジュールは動作環境のコールド・プレートとよく合い,それによって熱伝導性が改善される。さらに,反りが無いことにより,電力モジュールの故障モードが実質的に低下する。」(段落【0006】)
「さらに詳しく説明すると,本発明の好適な実施例は,成形(molding) および結合(bonding) 工程で金属マトリックス複合材(MMC)とセラミックを結合して,底面と側壁とを有する単体構造の箱を形成することによって達成される。一実施例では,セラミック層が成形多孔質シリコン・カーバイド(SiC)プレフォーム(preform) の底面に形成される。このプレフォームに溶融アルミニウム(Al)を浸透させ,それによってプレフォームを強化し,同時に,新しく形成されたSiC/Al MMCをセラミック層に接合させる。さらに,この構造は,様々なパッケージング工程中に反りに抵抗する非常に高い剛性を持ち,マウント中にコールド・プレートとの緊密な熱接触を達成するためにわずかに凸形に湾曲した底面を有するように設計する。」(段落【0007】)
「単体ベース構造物101の底面は,成形された球状凸形底面106を有する。好適な実施例では,凸性はベース・プレートの対角長における0.245mm の反り未満であり,したがって図面では認識できない。底面106の形状は,平坦な表面上に置かれたときに,構造物がわずかに揺動するように形成される。底面をわずかに凸形に湾曲させる目的は,半導体パッケージと動作環境のコールド・プレートとの間の緊密な熱接触を促進することである。取付中に,パッケージの四隅に掛かる力は,構造物に均等な曲げモーメントを生じる。底面が平坦であると,このモーメントのためにパッケージは中心部が上に湾曲し,底面の中心部とコールド・プレートの取付表面との間に通常エア・ギャップが形成される。空気は熱伝導率が非常に低いので,結果的に得られる実装パッケージは,非常に低い熱伝達を示すことになる。しかし,本発明の好適な実施例に従ってわずかに凸形に湾曲した底面を設けることによって,四隅に掛かる力はパッケージを平坦化するように作用し,取付表面全体の緊密な熱接触が維持される。」(段落【0011】)

第6.被請求人の主張の概要と証拠方法
1.請求人の主張の概要
被請求人は、請求人の主張する理由および証拠によっては本件特許発明を無効とすることはできないと主張している。

2.被請求人の提出した証拠方法
(1)答弁書に添付して提出
乙第1号証:日本工業標準調査会審議、JIS A 5423:2004「住宅屋根用化粧スレート」、財団法人日本規格協会発行、平成16年10月1日

(2)平成25年9月2日付け意見書に添付して提出
乙第2号証:CPS Technologies社のホームページ
(URL:http://www.alsic.com/igbt-baseplates.html)2013年8月16日印刷
乙第3号証:「AlSiC Baseplates for Power IGBT Modules:Design, Performance and Reliability」と題する論文
乙第4号証:電気化学工業(株)製炭化珪素質複合体(アルシンク)写真
乙第5号証の1:特開平10-105915号公報
乙第5号証の2:特開2000-12625号公報
乙第5号証の3:特開平10-250149号公報
乙第5号証の4:特開平11-330308号公報
乙第5号証の5:特開平10-194763号公報
乙第5号証の6:特開平8-91950号公報
乙第5号証の7:特開平6-267535号公報
乙第5号証の8:特開平10-236831号公報
乙第5号証の9:特開平11-97587号公報
乙第5号証の10:特開平9-283472号公報
乙第5号証の11:特開平11-284796号公報
乙第5号証の12:特開2000-31181号公報
乙第5号証の13:特開平11-77365号公報
乙第5号証の14:特開平10-95835号公報
乙第5号証の15:特開平8-59374号公報
乙第5号証の16:特開平10-270504号公報
乙第5号証の17:特開2000-90734号公報
乙第5号証の18:特開2000-15414号公報
乙第5号証の19:特開2009-161433号公報
乙第5号証の20:特開2004-193625号公報
乙第5号証の21:特開平11-186429号公報
乙第5号証の22:特開平4-322819号公報
乙第5号証の23:特開平10-44141号公報
乙第5号証の24:特開平10-167838号公報
乙第5号証の25:特開平9-260545号公報
乙第5号証の26:特開2000-176616号公報
乙第6号証の1:日本工業標準調査会審議、JIS R3206:2003「強化ガラス」、財団法人日本規格協会発行、平成15年5月20日
乙第6号証の2:日本工業標準調査会審議、JIS K6911-1995「熱硬化性プラスチック一般試験方法」、財団法人日本規格協会発行、平成14年3月15日
乙第7号証の1:特開平9-275166号公報
乙第7号証の2:国際公開98/54761号再公表公報
乙第8号証の1:特開2000-31328号公報
乙第8号証の2:特開平10-280082号公報

また、上記乙号証のうち、乙第1号証には、次の事項が記載されている。
「6.5 吸水による反り試験 吸水による反り試験は、試験片の裏面に、図3に示すように、その中心点(O)から二つの対角線の方向に160mm離れた位置に基点(A、A’、B、B’)を設ける。次に図4に示す反りの測定器の支点を対角線上の基点に当て、両基点を結ぶ面と中心点との距離を、目量0.01mmのダイヤルゲージを用いて測定し、これを1回目の測定とする。」(6頁21?24行)


」(図3)


」(図4をみると、住宅屋根用化粧スレートの凹面の中心点(最大凹部)と両基点を結ぶ面との距離が測定されていることが見て取れる。)

第7 当審の判断
当審は、以下のとおり、無効理由1?4のいずれによっても、本件訂正特許発明1?11を無効にすることはできないと判断する。

なお、請求人が一次審決までに提出した証拠は、甲第1号証?甲第9号証であるが、平成28年6月10日付け弁駁書において、請求人は、平成28年3月28日付け訂正請求に対する反論の主張等をするとともに、本件訂正特許発明1、7?11について、新たに甲第10号証?甲第12号証を提出して、以下の新たな無効理由(以下、「無効理由A」という。)の主張を行っている。

無効理由A:本件訂正特許発明1、7?11は、甲第11号証に記載された発明と甲第1?8、10、12号証に記載された発明および周知技術に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

無効理由Aの主張は、本件審判請求理由の要旨を変更するものであり、特許法第131条の2第2項各号のいずれに該当するものでもないから、許可できないが、念のため、併せて検討する。

以下、事案に鑑み、まず本件訂正特許発明全体に係る炭化珪素質複合体の「反り量」について検討した後、本件訂正特許発明1およびその発明を引用する本件訂正特許発明7?11について、無効理由4、1?3を検討し、次に、本件訂正特許発明2?6およびそれらの発明を引用する本件訂正特許発明7?11について、無効理由4、1?3を検討し、さらに、当審で通知した無効理由、平成28年6月10日付け弁駁書での無効理由Aの順で検討する。

1.本件訂正特許発明における炭化珪素質複合体の「反り量」について
「反り量」とはどのような量をいうのかについて、上記知的財産高等裁判所判決には、以下のとおり判示されている。
「(1) 「反り量」の定義(いずれの面についての物理量か)について
ア 原告は,本件訂正発明は,凸面側を測定しても凹面側を測定しても「反り量」が同一になる場合を除いて,「反り量」がいずれの面における物理量であるか不明確であり,かつ,本件明細書は,当業者が本件訂正発明を実施することができる程度に記載されたものではなく,仮に,本件訂正発明の請求項に記載された「反り量」が凸面側の反りの程度のみを示しているとすれば,そのような発明は本件明細書の発明の詳細な説明には記載されていないから,サポート要件違反である旨主張するので,以下において検討する。
イ(ア) 本件訂正発明に係る請求項(請求項1ないし11)の記載は,・・・板状複合体のいずれの面についての「反り量」を規定するものか明示する記載はない。
しかしながら,本件訂正発明の特許請求の範囲には,「多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体であって,板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し,」との記載(請求項1ないし5,7ないし11)又は「枠内に2つの多孔質炭化珪素成形体を積層して配置した後,前記枠に鉄板を配置しボルト,ナットで固定してブロックとし,前記ブロックにアルミニウムを主成分とする金属を含浸することで得られる板状複合体であって,板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し,」との記載(請求項6)があり,これらの記載によれば本件訂正発明に係る請求項には,本件訂正発明の板状複合体が凸面を有するものであることが規定されていることが明らかである。
これに対し,特許請求の範囲の記載(請求項1ないし11)には,本件訂正発明の板状複合体が「凹面」を有するものであること(「凸面」の反対側の面が「凹面」であること)を規定する記載は存しない。
(イ) そこで,本件明細書の記載を参酌すると,本件明細書には,「複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が250μmを超えると,本発明の複合体を放熱部品として用いる場合,回路基板等との接合不良が発生してしまうという問題や,放熱フィン等にネジ止めする際に,過大な曲げ応力が加わり,複合体が破損してしまうという問題が発生する。
一方,この様な複合体からなる放熱部品を組み込んだパワーモジュール等の部品は,放熱フィン等にネジ止めされて用いられる。その場合,パワーモジュール等の部品と放熱フィンの接合面に応力が働くべく,接合面が凸型になっていることが,ネジ止め後の締め付け力が大きく放熱の面より好ましい。このため,複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が50μm未満では,放熱部品等として用いる場合の反り量が不足し,放熱特性に問題が生じることがある。」などの記載(段落【0029】,【0037】,【0041】等)がある。
上記記載からは,本件訂正特許発明の板状複合体を放熱板として用いた場合に,パワーモジュール等の部品と放熱フィンの接合面が,応力が働くべく凸型になっていると,ネジ止め後の締め付け力が大きく,セラミックス基板を放熱フィン等の放熱部品に密着性良くネジ止め固定することができるので,放熱の面で好ましいとされていることが理解され,凸面の反り量が問題とされていることが分かる。
(ウ) 本件明細書の段落【0008】には,「この様な複合体は,放熱部品として用いる場合,回路基板と半田付けして用いられるため,複合体の反り量が大きすぎると半田付けが難しくなる。このため,この様な複合体を放熱部品として用いる場合,所定量以下の反り量に制御する必要がある。」との記載が存するが,このような問題は,板状複合体を放熱部品として用いる場合に,パワーモジュール等の部品と放熱フィンの凸型の接合面の反対側,すなわち,板状複合体が回路基板と接合する面が凹面となる場合に生じる問題であると理解される。ところで,本件明細書の段落【0073】に記載のように,本件訂正特許発明の板状複合体は「三次元ミルで面加工」すること,すなわち,凸面のみを加工することも可能であるところ,前記(ア)記載のとおり,特許請求の範囲の記載(請求項1ないし11)には,本件訂正特許発明の板状複合体が「凹面」を有するものであることを規定する記載は存しないから,本件訂正特許発明は,凸型の接合面の反対側の面が凹面ではない板状複合体を含むものであると認められる。
そうすると,本件訂正明に係る請求項(請求項1ないし11)に記載された「反り量」は,回路基板と半田付けする際に懸念される凹面の「反り量」を規定したものではなく,ネジ止め後の締め付け力が大きく放熱の面で好ましい凸面の反り量を規定したものであると自然に理解されるといえる。」
(第120?122頁.なお、判決文中において、「本件訂正発明」とは先の訂正後の特許請求の範囲に記載された発明を意味する。)

以上によれば、本件訂正特許発明における「反り量」とは、
「回路基板と半田付けする際に懸念される凹面の「反り量」を規定したものではなく,ネジ止め後の締め付け力が大きく放熱の面で好ましい凸面の反り量を規定したもの」と理解される。

2.本件訂正特許発明1およびその発明を引用する本件訂正特許発明7?11について

2-1.無効理由4について
(1)請求人の主張する無効理由4
請求人は、本件訂正特許発明1およびその発明を引用する本件訂正特許発明7?11に係る無効理由4として、概略、次の点を主張している。
ア.反り量の制御手段について
(ア)本件明細書の実施例には、請求項1に規定されている反り量の範囲のものと範囲外のものが混在しており、かかる差異が、どのような要因によってもたらされるものか、本件明細書では何ら説明されていない。
また、請求項1に係る発明において、C_(x)が正、C_(y)が負となる板状の炭化珪素質複合体をどのように製造するのかが不明である。
したがって、請求項1及びそれに従属する請求項における発明特定事項のうち「反り量」について、本件明細書からは、どのように制御すればよいのかが不明である。
また、特定の製造方法或いは製造条件を用いることが必須である場合には、請求項1およびそれに従属する請求項は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

イ.反り量の定義について
(ア)請求項1では、「長さ10cm」に対する反り量を規定しているが、この規定は板状炭化珪素複合体のどの部分を測定したものか不明であり、「他の放熱部材に密着よくネジ止め固定される」という課題を解決できない。
(イ)請求項1に特定される「穴間方向」はどのような事項か不明である。
(ウ)本件訂正特許明細書の段落【0035】の記載をみると、請求項1に特定される反り量の範囲でも好ましくない場合があるととれる。

(2)判断
請求人の主張する無効理由4のうち、「ア.(ア)」は、特許法第36条第4項(実施可能要件)に係る理由であり、「イ.(ア)、(ウ)」は、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る理由であり、「イ.(イ)」は、特許法第36条第6項第2号(明確性要件)に係る理由と認められる。

まず、特許法第36条第6項第2号(明確性要件)に係る理由について検討し、その次に、特許法第36条第4項(実施可能要件)に係る理由と特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る理由について検討する。

ア.特許法第36条第6項第2号(明確性要件)に係る理由について
「穴間方向」とはどのような事項かについて、上記知的財産高等裁判所判決には、以下のとおり判示されている。
「(2) 「反り量」の定義(穴間方向の意義)について
ア 原告は,本件訂正特許発明1の請求項に記載された「穴間方向」の意義は不明確である旨主張するので,以下において検討する。
イ(ア) ・・・
(イ) そこで,本件明細書の記載を参酌すると,本件明細書には,「穴間方向(X方向)」又は「穴間」につき,「一般にここで,前記穴間方向(X方向)とは,図9(a)?(d)に例示した,放熱板表面の一方向を示し,Y方向は,前記表面内のX方向と垂直な方向を示している。」(段落【0031】)との記載がある。
上記記載から,「穴間方向(X方向)」には,図9に例示されたX方向が含まれることは理解できるが,「穴間方向(X方向)」は「放熱板表面の一方向を示」すとしか記載されていないから,図9に例示されたX方向以外にどのような方向が含まれるのか判然としない。
また,図9に例示されたX方向については,穴と穴とを結ぶ直線とX方向を示す直線が明らかにずれているもの(図9の左から2番目の図)があるが,このような場合に穴間方向とX方向がどのような関係にあるのかについては,これを明らかにする記載も見当たらない。
(ウ) ところで,本件訂正発明1は,「穴間方向」であるX方向の長さ10cmに対する反り量(Cx)と,X方向と直交する方向であるY方向における長さ10cmに対する反り量(Cy)の数値範囲をそれぞれ定め,さらに,Cxの絶対値とCyの絶対値の関係を,|Cx|≧|Cy|と定めたものである。
そして,本件明細書の段落【0032】に,「本発明者らは,従来技術における前記課題の解決を図り,いろいろ実験的に検討した結果,反り量(Cx;μm,並びにCy;μm)が前記特定の範囲にあるときに,複合体から成る放熱板を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定することができるという知見を得て,本発明に至ったものである。本発明の複合体から成る放熱板を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定する場合,一般には,放熱板と放熱部品との間に放熱グリス等を介して固定される。
このため,Y方向の反り量(Cy)に関しては,その絶対値が放熱グリス厚より小さいことが好ましい。また,締め付け時の放熱板の変形を考慮した場合,Y方向の反り量(Cy)はX方向の反り量(Cx)より小さい方が好ましい。前記の反り量が前記特定範囲を満足できないときには,必ずしも密着性良く放熱板を他の放熱部品にネジ止め固定することができないことがある。」と記載され,段落【0035】に「また,板状複合体の主面内に他の放熱部品にネジ止め固定できように,穴部を有している場合,その穴間距離が10cm以下の小型形状では,密着性良く放熱板を他の放熱部品にネジ止め固定するためには,複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が100μm以下であることが好ましい。」と記載されているように,反り量を規定する上記条件は,本件訂正発明1に係る板状複合体を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定するための条件であると認められる。
ここで,本件訂正発明の複合体は,特定量の反りを有していて,例えば,放熱板として用いた場合に,セラミックス基板を放熱フィン等の放熱部品に密着性良くネジ止め固定することができ,放熱性が安定した,高信頼性のモジュールを形成することができるという効果を奏するものであるところ(段落【0081】),板状複合体(放熱板)を放熱部品に密着性よくネジ止め固定できる長さ10cmに対する反り量であるCx及びCyについて異なる数値範囲が規定されている本件訂正発明1において,本件明細書の段落【0035】の記載から,本件訂正発明における好ましい長さ10cmに対する反り量は穴間距離の影響を受けるものと解され,X方向(ひいては,Y方向)が,放熱板表面の一方向であればどの方向であっても他の放熱部品と密着性良くネジ止め固定できるとは考えられないことからすると,本件訂正発明1が上記作用効果を奏するためには,「穴間方向(X方向)」は,板状複合体のネジ穴または外形との関係でどの方向を示すものであるかが定義されていることを要するものというべきである。
(エ) しかるに,・・・特許請求の範囲(請求項1)にも,また,本件明細書にも,「穴間方向(X方向)」について,板状複合体のネジ穴または外形との関係でどのような方向をいうものかが明確に記載されていないことから,「穴間方向」であるX方向の長さ10cmに対する反り量(Cx)と,X方向と直交する方向であるY方向における長さ10cmに対する反り量(Cy)の数値範囲をそれぞれ定め,さらに,Cxの絶対値とCyの絶対値の関係を定めた本件訂正発明1の技術的意義を理解できないものにしているといわざるを得ない。
ウ 小括
以上によれば,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)の記載は,明確性を欠き,特許法36条6項2号の規定する要件に違反するものであるといわざるを得ない。・・・」
(第123?126頁.なお、判決文中において、「本件訂正発明」とは先の訂正後の特許請求の範囲に記載された発明を意味する。)

そして、上記判示事項は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、本件無効審判事件において当審を拘束する。

そこで、本件訂正後の請求項1をみると、
上記判示事項において「「穴間方向(X方向)」には,図9に例示されたX方向が含まれることは理解できるが,・・・,図9に例示されたX方向以外にどのような方向が含まれるのか判然としない。」とされた点に関して、「穴間方向(X方向)を、図9(a)、(c)、(d)に例示した、放熱板表面の一方向を示」すものに限定する訂正がされ(訂正事項9)、
上記判示事項において「「穴間方向(X方向)」は,板状複合体のネジ穴または外形との関係でどの方向を示すものであるかが定義されていることを要するものというべき」とされた点に関して、まず、板状複合体の外形を「矩形」に限定する訂正(訂正事項1)をしたうえで、
「前記穴部は、前記矩形板状複合体を構成する2組の対辺のうち、1組の対辺のそれぞれに沿って一列にそれぞれ2個以上が配置され、他方の1組の対辺のそれぞれに沿って2個ずつ配置され、前記2個ずつ配置された4個の穴部は、前記2個以上配置された穴部の両端部の4個の穴部を兼ねており、前記2個ずつ配置された穴部のそれぞれの辺に沿った穴部同士の距離が、前記2個以上の穴部が配置された穴部の隣接する穴部同士の距離より大きくなるように配置されており、前記2個ずつの穴部が配置された対辺に平行な方向を穴間方向(X方向)としたとき」として(訂正事項2?6)、
X方向を「対辺に沿ってそれぞれ2個のネジ穴が配置されている、穴間距離の長い方向」、Y方向を「対辺に沿って2個以上のネジ穴が配置された複合体表面においてX方向と垂直な方向」に限定する訂正がされた。
以上のとおりの訂正によって、「穴間方向(X方向)」は、矩形板状複合体のネジ穴との関係でどの方向を示すものであるかが明らかにされたものといえる。

よって、本件訂正特許発明1で特定されるX方向およびY方向は、外形が矩形に特定された板状体のネジ穴の配置との関係で特定されたことによって明らかとなったといえるから、「穴間方向(X方向)」は明確であり、特許法第36条第6項第2号(明確性要件)に係る「イ.(イ)」は、理由のないものというほかはない。

[平成28年6月10日付け弁駁書における主張について]
請求人は、穴間方向が板状部材の外形との関係で特定されていないため不明確であること等を主張する(弁駁書第8頁参照)。
しかしながら、上記したとおり、訂正請求によって請求項1において、X方向は「対辺に沿って2個のネジ穴が配置されている、穴間距離の長い方向」であり、Y方向は「対辺に沿ってそれぞれ2個以上のネジ穴が配置されている複合体表面においてX方向と垂直な方向」であって、ネジ穴の配置との関係で特定されたところ、それらのネジ穴は矩形板状体の「辺に沿って設けられ」るのであるから、ネジ穴の配置との関係で反り量を特定することは、結局のところ、矩形板状体の外形を構成する辺に沿って反り量を特定することであって、実質的に、反り量が矩形板状体の外形との関係においても特定されたことになるといえる。
よって、穴間方向が板状部材の外形との関係で特定されていないことを理由にして「穴間方向」が不明確であるという請求人の主張は採用できない。

イ.特許法第36条第4項(実施可能要件)及び同条第6項第1号(サポート要件)に係る理由について
請求人は、上記(1)に記載した特許法第36条第4項(実施可能要件)に係る理由(「ア.(ア)」)及び同条第6項第1号(サポート要件)に係る理由(「イ.(ア)、(ウ)」)の主張をしている。
そこで、請求人の主張するこれらの理由について検討する。

a.「ア.(ア)」について(反り量の制御手段)
本件明細書には、反り量を付与する方法について、
(ア)表面と裏面の金属層の平均厚みに差を付けて、熱膨張差を発生させる方法(段落【0035】、【0038】)、
(イ)5層構造において、複合体の炭素珪素含有量を変化させて、熱膨張差を発生させる方法(段落【0040】、【0071】)、
(ウ)炭化珪素複合体を加熱しながら応力を加えて塑性変形させる方法(段落【0042】、【0077】?【0078】)、
が記載されており、これらの方法(手段)を適宜採用して、例えば、金属層を形成[(ア)]した後に塑性加工[(ウ)]する等の手段によって、所定量の反りを付与することができることは、当業者ならば、当然に認識することであって、かかる複数の手段を適宜採用すれば所定量の反り量を得られることは、当業者には明らかである。
また、C_(x)が正、C_(y)が負となる板状の炭化珪素質複合体については、本件訂正明細書の実施例26が該当し、当該実施例の製造方法は、本件訂正明細書の段落【0073】に記載されているから、当業者であれば、それを踏まえて追試することが可能である。
よって、反り量の制御手段や、C_(x)が正、C_(y)が負となる板状の炭化珪素質複合体をどのように製造するのかが不明とはいえず、本件明細書および特許請求の範囲の記載に、請求人が主張する不備はない。

b.「イ.(ア)」について(反り量の定義)
「長さ10cmに対する反り量」が板状炭化珪素複合体のどの部分を測定したものかは、今般の訂正によって、矩形板状複合体の辺に沿ったネジ穴の方向に沿った部分を測定したものであることが明らかである。
そして、「長さ10cmに対する」反り量とは、その文言から明らかなように、「10cmの長さを基準にして換算した反り量」であって、矩形板状の炭化珪素質複合体が、10cmよりも大きいか又は小さいときは、測定した反り量を10cm分の反り量に換算するものといえ、当該反り量は被測定物の中央部と端部の高さの差を測定して求めた最大の反り量によって規定すべきことは当業者にとって自明なことである(例えば、乙第1号証参照。なお、そのような測定は甲第9号証の反りの測定において請求人も行っているものと認められる。)。
そうすると、請求人の主張するような課題を解決できないようなことは起こらず、本件明細書および特許請求の範囲の記載に、請求人が主張する不備はない。

c.「イ.(ウ)」について(請求項1に特定される反り量の範囲で好ましくない場合があるととれること)
請求人は、本件明細書の段落【0035】の記載等から、ネジ止めによる密着性の適する反り量は、炭化珪素複合体の大きさに依存して変化するから、請求項1に特定される反りの範囲の全てに渡って本件特許発明の課題であるネジ止めによる密着性の向上という効果が得られると当業者が認識できないことを主張している。
しかしながら、本件明細書の段落【0035】の記載は、小型形状の板状複合体について、好ましい反り量の態様を記載したに過ぎないから、そのことをもって、本件訂正特許発明1において、特定された反り量の範囲でも、本件特許発明の課題であるネジ止めによる密着性の向上という効果が得られない好ましくないものがあることが明らかとはいえない。

[平成28年6月10日付け弁駁書における主張について]
請求人は、本件訂正特許発明1において、反り量が、ネジ穴の数と、隣接する穴の距離による特定のみで、矩形板状体の外形などの条件は捨象されているため、サポート要件、実施可能要件を満たしていない態様を含むことを主張している(弁駁書9頁参照。)。
しかしながら、上記ア.の[平成28年6月10日付け弁駁書における主張について]にも記載したように、ネジ穴が矩形板状体の「辺に沿って設けられ」ることからみて、ネジ穴の配置との関係で反り量を特定することは、結局のところ、矩形板状体の外形を構成する辺に沿って反り量を特定することにも実質的になるといえる。
よって、反り量が矩形板状体の外形などの条件で特定されていないことを前提にして、サポート要件、実施可能要件を満たしていないという請求人の主張は採用できない。

以上のとおりであって、請求人の主張する特許法第36条第4項(実施可能要件)に係る理由及び同条第6項第1号(サポート要件)に係る理由は、いずれも妥当なものと認められないから、本件訂正特許発明1およびその発明を引用する本件訂正特許発明7?11について、本件訂正後の特許請求の範囲および発明の詳細な説明の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件(サポート要件)及び同条4項に規定する要件(実施可能要件)を満たすものと認められる。

(3)無効理由4についての総括
以上のとおりであって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正特許発明1、7?11を実施できるように明確かつ十分にされており、訂正後の特許請求の範囲の請求項1、7?11に記載された発明は明確であって、しかも、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、これらの発明の範囲にまで拡張ないし一般化して、当業者が当該発明の課題の解決を図ることができると認識できるものである。
よって、本件訂正特許発明1、7?11に係る特許について、無効理由4は理由がない。

2-2.無効理由1について
(1)甲第1号証に記載された発明
上記「第5 2-2(1)」に記載した甲第1号証の記載をみると、段落【0009】?【0010】の事項等からみて、「炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化珪素、アルミナ又はシリカからなる群より選ばれる1種以上からなる多孔質セラミックス構造体に、アルミニウム又はマグネシウムのいずれかを主成分とする金属を含浸してなる複合体であって、該複合体表面全体に前記金属の層を設けてなる・・・複合体」が記載されているといえる。
また、段落【0027】の実施例1および2をみると、セラミックが「炭化珪素」で、金属がアルミニウムを主成分とする金属である「AC4C」ものが記載されている。
そうすると、甲第1号証には、
「炭化珪素からなる多孔質セラミックス構造体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる複合体であって、該複合体表面全体に前記金属の層を設けてなる複合体」の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件訂正特許発明1との対比
本件訂正特許発明1と甲第1号証発明とを対比する。

甲第1号証発明の「炭化珪素からなる多孔質セラミックス構造体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる複合体」は、本件訂正特許発明1の「多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる複合体」に相当する。

また、甲第1号証発明の「複合体」は、甲第1号証の段落【0035】の「縦100mm、横40mm、厚さ3mmの金属-セラミックス複合体」との記載等からみて「矩形板状」であるものを包含するから、本件訂正特許発明1の複合体が「矩形板状」である点は、両者の相違点とならない。

また、本件訂正特許発明1は、アルミニウム合金の表面層の形成の有無を何ら特定するものでないから、甲第1号証発明の「該複合体表面全体に前記金属の層を設けてなる」点は、両者の相違点とならない。

よって、両者は、
「多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる矩形板状複合体」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本件訂正特許発明1は、「矩形板状複合体の面内に他の放熱部品に当該矩形板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し」ているのに対し、甲第1号証発明は、かかる事項を有していない点

相違点2:本件訂正特許発明1は、「穴部は、前記矩形板状複合体を構成する2組の対辺のうち、1組の対辺のそれぞれに沿って一列にそれぞれ2個以上が配置され、他方の1組の対辺のそれぞれに沿って2個ずつ配置され、前記2個ずつ配置された4個の穴部は、前記2個以上配置された穴部の両端部の4個の穴部を兼ねており、前記2個ずつ配置された穴部のそれぞれの辺に沿った穴部同士の距離が、前記2個以上の穴部が配置された穴部の隣接する穴部同士の距離より大きくなるように配置され」ているのに対して、甲第1号証発明は、かかる事項を有していない点

相違点3:本件訂正特許発明1は、「穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(x);μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(y);μm)の関係が、|C_(x)|≧|C_(y)|、50≦C_(x)≦250、且つ-50≦C_(y)≦200である(C_(y)=0を除く)」ものであるのに対し、甲第1号証発明は、かかる事項を有していない点

(3)本件訂正特許発明1についての判断
ア.特許法第29条第1項第3号について
本件訂正特許発明1は、その発明を特定する事項からみて、「他の放熱部品に当該矩形板状複合体の凸面を向けてネジ止めする」ものであり、ネジ止めする穴部のうち、「2個ずつの穴部が配置された対辺に平行な方向」(X方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(x);μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(y);μm)との関係を特定するものであるのに対して、甲第1号証発明は、「金属-セラミックス複合体の表面に当該金属の層を設けることにより、メッキ性が良く、塑性ひずみによるはんだクラックの発生や放熱フィンとの密着性の低下が無い、かつ加工性にも優れた金属-セラミックス複合体」(段落【0008】)を得るものであって、凸面を設けるものではないから、上記相違点1、3の点で、両者は実質的に相違する。
よって、本件訂正特許発明1は、甲第1号証に記載された発明でない。

イ.特許法第29条第2項について
上記ア.に記載した相違点に関し、その他の甲各号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものであるか否かについて検討する。

甲第2?8号証には、「第5 2-2(2)?(8)」に記載した事項からみて、上記知的財産高等裁判所判決(判決第142?170頁の各刊行物についての記載における(イ)ないし(ウ)等参照。)に記載されるように、それぞれ、次の事項が記載されている。

甲第2号証には、(i)半導体モジュールを冷却体と良好に熱伝導可能に接触させるためには、モジュールの「銅支持板」は平坦な冷却体に対して凸状に湾曲した面を、有利には、球面として有していなければならず、これにより、モジュールを冷却体上に側方でネジ締めした際、モジュールが機械的応力下に冷却体に押し付けられ、良好な結合が得られること、(ii)「銅支持板」とセラミックス基板をろう付けすると、銅とセラミックス基板との熱膨張係数が著しく異なることから、この構造体が冷却された後は、銅支持板は、平行ではなく、セラミックス基板に対して凹状に変形すること、(iii)銅支持板及びろう箔によりろう付けされたセラミックス板を有するパワー半導体モジュールを使用した実施例において、これを150℃で加工し、同時に銅支持板にかけられた圧力を5秒間維持した後、加圧装置から取り出して、モジュールを室温に冷却した際、銅支持板の凸状の変形が100μm であったことが開示されていると認められる。
甲第2号証に開示されたヒートシンクは、「銅支持板」であって、AlSiC複合体のヒートシンクではなく、また、モジュールの支持板が「凸状に湾曲した面」、「有利には、球面」であることやモジュールを加圧装置から取り出して冷却した際の「銅支持板」の凸状の変形が100μmであったという実施例が1例記載されているのみであって、反り量を所定の数値範囲に規定することについては開示がなく、まして、ヒートシンクにAlSiC複合体を用いた場合の反り量の程度について開示するものではない。

甲第3号証には、(i)半導体モジュールの使用中においても「金属の底板」と冷却体との間の熱接触を良好にするため、底板を凸面状に形成すること、(ii)「金属の底板」は「例えば銅」からなること、(iii)底板の長さがその幅よりかなり大きい場合には、底板の下面の凸面形成は縦方向だけで充分であるが、底板の横方向寸法がかなり大きく、例えば縦方向寸法と同程度の大きさである場合には、底板の下面の凸面形成は両方向に行うことが推奨され、この場合、下面は例えば球面の形とされること、(iv)実際の実施例においては、底板の長さは137mm、横幅は127mm、厚さは外周で5mm、中央部の最大厚みは5.4ないし5.5mmであったことが開示されていると認められる。
また、甲第3号証に開示されたヒートシンクは、「金属の底板」で「例えば銅」からなるものであって、AlSiC複合体のヒートシンクではなく、また、凸面形成の方向についての開示があるのみで、反り量を所定の数値範囲に規定することについては開示がなく、ヒートシンクにAlSiC複合体を用いた場合の反り量の程度について開示するものではない。

甲第4号証には、(i)炭化珪素質多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体のヒートシンク、(ii)ヒートシンク等の放熱部品は、回路基板や放熱フィン等と接合して用いられるため、室温においては、顕著な反りがないものを用いるが、加熱時に反りが発生すると、回路基板の剥離や絶縁層の破壊といった問題が発生すること、(iii)室温(25℃)から300℃に加熱した際の反り量が、当該反りが最大となる方向の長さ1mm対して、5μmを超えると、回路基板や放熱フィン等と接合する際には、室温では接合状態が均一であっても、実使用下においては、熱サイクル等が付加された場合、回路基板の破壊や放熱特性の低下による故障などの問題が生じること、が開示されているものと認められる。
また、甲第4号証の記載、すなわち、特許請求の範囲の請求項2、段落【0025】、【0026】及び【0039】等の記載からは、甲第4号証に開示された反り量は、室温(25℃)から300℃に加熱した際の、すなわち300℃における反り量であると理解でき、他にこれが室温におけるものであることを認めるに足りる証拠はない。したがって、甲第4号証は、室温におけるAlSiC複合体の反り量の数値範囲を規定するものではなく、むしろ「室温においては顕著な反りがないものを用いる」と記載されているように、室温におけるAlSiC複合体の反り量を規定することについて開示するものでもない。

[平成28年6月10日付け弁駁書における主張について]
請求人は、平成28年6月10日付け弁駁書において、甲第4号証は、マイクロメーターによって測定を行っていることからみて、複合体の室温における反りを測定するものであることを主張している(弁駁書第22頁参照)。
しかしながら、甲第4号証は、室温(25℃)から300℃に加熱した際の反り量を測定しているところ、仮に、300℃から室温まで十分に降温して測定したのでは、300℃での反り量が正確には測定できないため、300℃での加熱後速やかな測定を行っているものと推認される。そうすると、甲第4号証での測定が、室温まで降温した後のものであることが明らかなものとはいえない(そもそも、あらかじめ、複合体に所定量の反りを与えるものでもない。)。
よって、請求人の主張は採用できない。

甲第5号証には、(i)ヒートシンクとしてAlSiC系複合材料を用いた、ヒートシンク付セラミック回路基板、(ii)AlSiC系複合材料により形成したヒートシンクを積層した実施例1及び比較例2のヒートシンク付セラミック回路基板では、ヒートシンクの下面の反りが、30μmm(測定長50mm)であったことが開示されているものと認められる。
また、甲第5号証は、「・・・回路基板では、第1及び第2アルミニウム板11、12が従来の銅板と比べて変形抵抗が小さいので、回路基板10に熱サイクルを付加してもセラミック基板13にクラックが発生することはない。またヒートシンク14として熱伝導率の高いAlSiC系複合材料を用いたので、放熱特性が向上する。」(段落【0004】)、「セラミック基板の両面にAl-Si系ろう材を介して第1及び第2アルミニウム板をそれぞれ積層接着し、AlSiC系複合材料により形成されたヒートシンクを第1又は第2アルミニウム板の表面に積層接着したので、この回路基板に熱サイクルを付加しても、従来の銅板と比べて変形抵抗の小さい第1及び第2アルミニウム板がセラミック基板及びアルミニウム板の熱膨張係数の差による歪みを弾性変形して吸収する。この結果、セラミック基板にクラックが発生することはない。またヒートシンクとして熱伝導率の高いAlSiC系複合材料を用いたので、放熱特性が向上する。」(段落【0024】)とあるように、第1及び第2アルミニウム板を設けたので、セラミックス基板にクラックが発生することがなく、また、ヒートシンクに熱伝導率の高いAlSiC系複合材料を用いたので、放熱特性が向上するとの開示にとどまり、AlSiC系複合材料からなるヒートシンクに積極的に凸状の反りを与えることが開示されているものではない。

甲第6号証には、(i)放熱板が、基板が固着されたその中間部と、外周部と中間部との間にケースを立設した部分との間に「変形緩衝部」を有する半導体装置、(ii)放熱板が銅製である実施例が開示されているものと認められる。しかしながら、甲第6号証は、AlSiC複合体からなる放熱板について記載したものではない上、「半導体装置は、固着された基板をケースを立設して包囲し封止部材で封止しするようにした放熱板が、基板を固着した中間部とケースを立設した部分との間に変形緩衝部を有しているので、封止を行った際に封止部材の固化にともなう熱収縮で放熱板に反りが生じるが、反りは変形緩衝部によって放熱板の外周部のみが変形して発生し、基板を固着した中間部は変形しない。」(段落【0013】)、「この放熱板54の取り付けの際に、取付け板へねじを螺着していくことにより取付け孔29が形成された外周部は反りを修正し取付け板に密着するよう強制的に平坦化される。」(段落【0045】)などと記載されているように、封止部材の固化に伴う熱収縮で生じた放熱板の反りは、変形緩衝部があることにより、外周部のみの変形で止まり、基板を固着した中間部の変形は生じないという作用効果を奏することを開示するものであって、放熱板に積極的に反りを与えることが開示されているとは認められない。

甲第7号証には、「既存のパッケージング、基板及びIC材料と比較したAlSiC材料の特性」が記載されているのみであり、放熱板とそれに反りを与えることに関する記載は存しない。

甲第8号証には、(i)ベースプレート材として使用されることが多い銅は、セラミックス基板との熱膨張率の不一致という欠点を有し、銅製のベースプレートとセラミックス基板とを半田付けすると、両材料の熱膨張率が異なるため熱歪みが起こるなどの問題が生じること、(ii)このようなシステム金属とセラミックスのバイメタル効果を軽減するためには、ベースプレートに機械加工による凸状を付与することが有効であること、(iii)上記(i)の問題は、セラミックスの熱膨張率のずれが小さい比較的硬い材料をベースプレート材として用いれば解消できるところ、Al/SiCは、高度な剛性とセラミックスに近い熱膨張率を持ち合わせていることが開示されているものと認められる。
また 、甲第8号証には、AlSiC複合体からなるベースプレートを凸状に加工することについての記載は存しない。

また、甲第10?12号証についても検討すると、これらの甲各号証には、「第5 2-2(10)?(12)」に記載した事項からみて、上記知的財産高等裁判所判決(判決第170?181頁の甲21、22、23についての記載におけるbないしc等参照。なお、甲21、22、23は、順に、甲第10、11、12号証と同じ刊行物である。)に記載されるように、それぞれ、次の事項が記載されている。

甲第10号証には、(i)セラミックス基板の一方側に半導体素子を取り付け、他方側の放熱板を半田付けする半導体デバイスにおいて、放熱板の反接着面側が凸状となるよう予め反りをつけることによって、半田付後の冷却に伴う反りを相殺して熱抵抗を低減した発明、(ii)その実施例として、放熱板は銅放熱板を用い、100?110μmの凸状の反りを設けた例(実施例1)、放熱板は銅放熱板を用い、80?90μmの傾斜をつけて加工した例(実施例2)、(iii)実験により、銅放熱板に与える凸状の反り寸法は、半田付後に生ずる反りに対して10?100μm加算すると好適であることがわかったこと、(iv)セラミックス基板と銅放熱板との半田付けの際に生ずる反りの値に対し、30?40μm余計に凸状となるような反りを銅放熱板にもたせるようにすると、半田付け時に生じる凹状の反りを吸収し、かつ、余分の30?40μmの凸状の反りは、放熱フィンへの取り付け時に吸収されてフラットの状態となり接触面積が増大することが開示されているものと認められる。
また、甲第10号証に開示された放熱板は、銅放熱板であって、AlSiC複合体からなるものではない。

甲第11号証には、(i)一般的に、放熱板の熱膨張係数は、絶縁基板の熱膨張係数より大きく、半田接合した後冷えると、収縮量の差によって放熱板が反ること、(ii)従来、この反りを考慮して、放熱板をあらかじめ逆に反らせて作製し、最終的に冷却器側に凸となるようにしていたこと、(iii)甲第11号証に記載された発明は、放熱板をあらかじめ反らせて作製するにはそのための工程が必要であり、材料の加工性によってはあらかじめ反らせておくことが困難な場合もあることから、あらかじめ放熱板を反らした形状にせずに、冷却器側に向けて凸となる形状を得ることができる半導体装置の製造方法であること、(iv)実施例として、放熱板の材料として、AlSiC複合材を採用した例が開示されている。
また、甲第11号証は、AlSiC複合材からなる放熱板をあらかじめ反らせておくことを開示するものではなく、とるべき反り量の数値範囲についても何ら開示するものではない。

甲第12号証には、(i)平坦な打抜きヒートシンクは、モジュールの他の部分の熱膨張率の相違及びコールド・プレートに取り付けたときに誘発される応力のため、反りを生じやすいこと、(ii)箱型ヒートシンクは、他の構成部品の熱膨張率の相違や取付中に誘導される応力による反りに対する抵抗性が非常に高いので、コールド・プレートとよく合い、反りが無いことにより、電力モジュールの故障モードが低下すること、(iii)実施例として、コールド・プレートとの緊密な熱接触を達成するためにわずかに凸形に湾曲した底面を有するように設計したAlSiC複合体を用いた箱型ヒートシンク、(iv)成形された球状凸形底面を有する単体ベースプレートの構造物の好適な実施例として、凸性はベース・プレートの対角長における0.245mmの反り未満であることが開示されている。
また、甲第12号証には、ベースプレートの対角長に関する記載はないから、上記凸状が、ベースプレートの底面において、主面の長さ10cmに対してどれほどの反り量を形成したものであるのかは不明であり、他に反り量の具体的な数値に関する記載はないから、甲第12号証は、AlSiC複合体をヒートシンクに用いた場合の反り量の程度について具体的に開示するものではない。

そうすると、甲第1?8号証は、上記知的財産高等裁判所判決(第182頁参照。)に記載されるように、いずれも、室温下のAlSiC複合体にあらかじめ凸状の反りを付与し、かつ、その反り量を所定の数値範囲内に制御することを開示するものではない。

したがって、甲第1号証発明に甲第2?8号証をどのように組み合わせても、甲第1号証発明において、上記相違点1、3に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとは認められない。

また、甲第1?8号証は、いずれも、「室温下のAlSiC複合体にあらかじめ凸状の反りを付与し、かつ、その反り量を所定の数値範囲内に制御すること」を開示するものではなく、新たに提出された甲第10?12号証を併せ考慮しても、その点を当業者が容易に想到し得たことであるとは認められない。

よって、少なくとも、上記相違点1、3に係る本件訂正特許発明1の構成の点は、甲第2?8号証、甲第10?12号証に記載された技術的事項を考慮しても、当業者が容易に想到し得たことといえない。

以上によれば、本件訂正特許発明1は、甲第1?8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲第10?12号証に記載された発明をさらに考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

[平成28年6月10日付け弁駁書における主張について]
請求人は、本件訂正明細書の実施例、比較例をグラフにプロットして、本件訂正特許発明の効果が劇的なものでなく、反り量の数値範囲に意義(臨界的意義)がないことを主張している(弁駁書27頁参照。)。
そこで、当該グラフ(下図参照。)のデータを確認する。
すると、実施例26?30においては、参考例となったものを含め、密着率のデータが93?99%であるのに対して、比較例3?6については45?75%であり、実施例の方が密着率が高く、放冷部材における部品相互の接合が良好に行われることが自然に読み取れるものである(なお、参考例と実施例とは同程度の密着性であるが、参考例は穴間方向(X方向)の意味を明確にするための訂正によって実施例から除外されたものであって、そのような例と本件特許発明が効果において同程度であるとしても、本件訂正特許発明の効果が否定されるものとはいえない。)。
また、実施例のうち、反り量が満たすべき条件の境界線上に位置する例(実施例28)における密着率のデータが最小(93%)であることからも、本件訂正特許発明1において特定される反り量の条件を満たすことによって、放冷部材における部品相互の接合の十分な効果が奏される傾向が合理的に推認できるといえる。
そうすると、本件訂正明細書の実施例、比較例のデータから、本件訂正特許発明の効果は示されているものと理解できる。
よって、本件訂正特許発明の効果、反り量の数値範囲の意義についての請求人の主張は妥当なものとはいえず、採用できない。


ウ.小括
よって、本件訂正特許発明1は、甲第1号証に記載された発明でない。
また、本件訂正特許発明1は、甲第1?8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲第10?12号証に記載された発明をさらに考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件訂正特許発明1を引用する本件訂正特許発明7?11について
本件訂正特許発明1の発明特定事項を有する本件訂正特許発明7?11と甲1発明とをそれぞれ対比すると、少なくとも、これらの発明と甲1発明とは、上記(2)ア.に記載した相違点で相違している。
そうすると、上記(2)イ.で、本件訂正特許発明1の検討において述べた理由と同様の理由により、本件訂正特許発明1の発明特定事項を有する本件訂正特許発明7?11は、甲第1?8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、甲第10?12号証に記載された発明をさらに考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件訂正特許発明1、7?11についての無効理由1の総括
本件訂正特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとも、本件特許発明1、7?11は、甲1発明及び甲第2?8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。
また、甲第10?12号証に記載された発明をさらに考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
よって、本件訂正特許発明1、7?11に係る特許について、無効理由1は理由がない。

2-3.無効理由2について
(1)甲第4号証に記載された発明
上記「第5 2-2(4)」に記載した甲第4号証の記載をみると、「a 特許請求の範囲」の【請求項2】の記載からみて「炭化珪素質多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体であって、相対する主面の炭化珪素量の差が3重量%以下であり、室温(25℃)から300℃に加熱した際の反り量が、当該反りが最大となる方向の長さ1mmに対して、5μm以下である・・・板状複合体。」が記載されている。
また、段落【0028】の記載からみて、当該板状複合体は、「熱伝導率が150W/(m・K)以上であり、室温の熱膨張率が1×10^(-5)K^(-1)以下である」ものといえる。

そうすると、甲第4号証には、
「炭化珪素質多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体であって、室温(25℃)から300℃に加熱した際の反り量が、当該反りが最大となる方向の長さ1mmに対して、5μm以下であり、熱伝導率が150W/(m・K)以上であり、室温の熱膨張率が1×10^(-5)K^(-1)以下である板状複合体」の発明(以下、「甲第4号証発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件訂正特許発明1との対比
本件訂正特許発明1と甲第4号証発明とを対比する。

甲第4号証発明の「炭化珪素質多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体」は、本件特許発明1の「多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる矩形板状複合体であ・・・る炭化珪素質複合体」に相当する。

また、本件訂正特許発明1は、矩形板状複合体の「室温(25℃)から300℃に加熱した際の反り量」、「熱伝導率」ないし「室温の熱膨張率」何ら特定するものでないから、甲第4号証発明の「室温(25℃)から300℃に加熱した際の反り量が、当該反りが最大となる方向の長さ1mmに対して、5μm以下であり、熱伝導率が150W/(m・K)以上であり、室温の熱膨張率が1×10^(-5)K^(-1)以下である」点は、両者の相違点とならない。

よって、両者は、
「多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる矩形板状複合体である炭化珪素質複合体」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点4:本件訂正特許発明1は、「矩形板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し」ているのに対し、甲第4号証発明は、かかる事項を有していない点

相違点5:本件訂正特許発明1は、「穴部は、前記矩形板状複合体を構成する2組の対辺のうち、1組の対辺のそれぞれに沿って一列にそれぞれ2個以上が配置され、他方の1組の対辺のそれぞれに沿って2個ずつ配置され、前記2個ずつ配置された4個の穴部は、前記2個以上配置された穴部の両端部の4個の穴部を兼ねており、前記2個ずつ配置された穴部のそれぞれの辺に沿った穴部同士の距離が、前記2個以上の穴部が配置された穴部の隣接する穴部同士の距離より大きくなるように配置され」ているのに対して、甲第4号証発明は、かかる事項を有していない点

相違点6:本件訂正特許発明1は、「穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(x);μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(y);μm)の関係が、|C_(x)|≧|C_(y)|、50≦C_(x)≦250、且つ-50≦C_(y)≦200である(C_(y)=0を除く)」ものであるのに対し、甲第4号証発明は、かかる事項を有していない点

(3)本件訂正特許発明1についての判断
上記の相違点のうち、まず、相違点4、6について検討する。

無効理由1における相違点の検討(上記「2-2(3)」)において述べたように、甲第1?3号証、甲第5?8号証、甲第10?12号証はいずれも、「室温下のAlSiC複合体にあらかじめ凸状の反りを付与し、かつ、その反り量を所定の数値範囲内に制御すること」を開示するものではない。
さらに、これらの甲各号証は、凸面の反りを所定の方向(X方向、Y方向)の反り量(C_(x)、C_(y))の関係で特定することを開示するものではない。

そうすると、少なくとも、上記相違点4、6に係る本件訂正特許発明1の構成の点は、上記無効理由1における相違点1、3と同様に、甲第1?3号証、甲第5?8号証、甲第10?12号証に記載された技術的事項を考慮しても当業者が容易に想到し得たことといえない。

よって、相違点5についての検討の如何に関わらず、本件訂正特許発明1は、甲第4号証発明および甲第1?3号証、甲第5?8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、甲第10?12号証に記載された発明をさらに考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件訂正特許発明1の発明特定事項を有する本件訂正特許発明7?11との対比・判断
本件訂正特許発明1の発明特定事項を有する本件訂正特許発明7?11と甲第4号証発明とをそれぞれ対比すると、少なくともこれらの発明と甲第4号証発明は上記相違点4?6で相違する。

そうすると、上記(3)で、本件訂正特許発明1について述べた理由と同様の理由により、本件訂正特許発明1の発明特定事項を有する本件訂正特許発明7?11は、甲第4号証発明および甲第1?3号証、甲第5?8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、甲第10?12号証に記載された発明をさらに考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件訂正発明1、7?11についての無効理由2の総括
本件訂正特許発明1、7?11は、甲第4号証発明及び甲第1?3号証、甲第5?8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、甲第10?12号証に記載された発明をさらに考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
よって、本件訂正特許発明1、7?11に係る特許について、無効理由2は理由がない

2-4.無効理由3について
(1)甲第8号証に記載された発明
上記「第5 2-2(8)」に記載した甲第8号証の記載をみると、2頁左欄の図2に係る記載等からみて、上面が平坦で下面が凸面のベースプレートは、ベースプレートとヒートシンクとの間の熱伝導性を向上させることが記載されているといえるから、甲第8号証には、
「上面が平坦で下面が凸面の銅製ベースプレート」の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認められる

(2)本件訂正特許発明1との対比
本件訂正特許発明1と甲第8号証発明とを対比する。

甲第8号証発明の「ベースプレート」、「上面が平坦で下面が凸面」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「板状複合体」、「当該板状複合体の凸面」に相当するから、両者は、
「板状複合体であって、該板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けて固定されるもの」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点7:本件訂正特許発明1は、「矩形板状複合体の面内に他の放熱部品に当該矩形板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し」ているのに対し、甲第8号証発明は、かかる事項を有していない点

相違点8:本件訂正特許発明1は、「穴部は、前記矩形板状複合体を構成する2組の対辺のうち、1組の対辺のそれぞれに沿って一列にそれぞれ2個以上が配置され、他方の1組の対辺のそれぞれに沿って2個ずつ配置され、前記2個ずつ配置された4個の穴部は、前記2個以上配置された穴部の両端部の4個の穴部を兼ねており、前記2個ずつ配置された穴部のそれぞれの辺に沿った穴部同士の距離が、前記2個以上の穴部が配置された穴部の隣接する穴部同士の距離より大きくなるように配置され」ているのに対して、甲第8号証発明は、かかる事項を有していない点

相違点9:本件訂正特許発明1は、「穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(x);μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(y);μm)の関係が、|C_(x)|≧|C_(y)|、50≦C_(x)≦250、且つ-50≦C_(y)≦200である(C_(y)=0を除く)」ものであるのに対し、甲第8号証発明は、かかる事項を有していない点

相違点10:本件訂正特許発明1は、「多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる」ものであるのに対して、甲第8号証発明は、銅製のものである点

(3)本件訂正特許発明1についての判断
上記の相違点のうち、まず、相違点7、9について検討する。

無効理由1における相違点の検討(上記「2-2(3)」)において述べたように、甲第1?7号証、甲第10?12号証はいずれも、「室温下のAlSiC複合体にあらかじめ凸状の反りを付与し、かつ、その反り量を所定の数値範囲内に制御すること」を開示するものではない。

そうすると、少なくとも、上記相違点7、9に係る本件訂正特許発明1の構成の点は、上記無効理由1における相違点1、3と同様に、甲第1?8号証、甲第10?12号証に記載された技術的事項を考慮しても当業者が容易に想到し得たことといえない。

よって、相違点8、10についての検討の如何に関わらず、本件訂正特許発明1は、甲第8号証発明および甲第1?7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、甲第10?12号証に記載された発明をさらに考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件訂正特許発明1の発明特定事項を有する本件訂正特許発明7?11との対比・判断
本件訂正特許発明1の発明特定事項を有する本件訂正特許発明7?11と甲第8号証発明とをそれぞれ対比すると、少なくともこれらの発明と甲第8号証発明は上記相違点7?10で相違する。

そうすると、上記(3)で、本件訂正特許発明1について述べた理由と同様の理由により、本件訂正特許発明1の発明特定事項を有する本件訂正特許発明7?11は、甲第8号証発明および甲第1?7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、甲第10?12号証に記載された発明をさらに考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件訂正発明1、7?11についての無効理由3の総括
本件訂正特許発明1、7?11は、甲第8号証発明及び甲第1?7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、甲第10?12号証に記載された発明をさらに考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
よって、本件訂正特許発明1、7?11に係る特許について、無効理由3は理由がない。

3.本件訂正特許発明2?6およびそれらの発明を引用する本件訂正特許発明7?11について
(なお、本件訂正特許発明2?6およびそれらの発明を引用する本件訂正特許発明7?11は、先の訂正後のそれらの発明と同一である。)

3-1.無効理由4について
無効理由4は、特許法第36条第4項(実施可能要件)、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)及び 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)に係る無効理由であるが、このうち、特許法第36条第6項第2号(明確性要件)に係る無効理由は「穴間方向(X方向)」の不明確性についてのものであるところ、本件訂正特許発明2?6およびそれらの発明を引用する本件訂正特許発明7?11は、「穴間方向(X方向)」を発明特定事項としないものであるから、これらの本件訂正特許発明については、そのような特許法第36条第6項第2号(明確性要件)に係る無効理由は該当しない。
そこで、特許法第36条第4項(実施可能要件)、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る無効理由について検討する。

(1)特許法第36条第4項(実施可能要件)及び同条第6項第1号(サポート要件)に係る理由について
請求人は、本件訂正特許発明2?6およびそれらの発明を引用する本件訂正特許発明7?11に係る無効理由4として、概略、次の点を主張している。
ア.反り量の制御手段について
(ア)請求項2?4、6およびそれらに従属する請求項における発明特定事項のうち「反り量」について、本件明細書からは、どのように制御すればよいのかが不明である。
また、特定の製造方法或いは製造条件を用いることが必須である場合には、請求項2?4、6およびそれらに従属する請求項は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

イ.反り量の定義について
(ア)請求項2?4、6およびそれらに従属する請求項では、「長さ10cm」に対する反り量を規定しているが、この規定は板状炭化珪素複合体のどの部分を測定したものか不明であり、「他の放熱部材に密着よくネジ止め固定される」という課題を解決できない。

a.「ア.(ア)」について(反り量の制御手段)
上記「2.2-1.(2)イ.a.」に記載したとおり、本件明細書には、反り量を付与する方法について、
(ア)表面と裏面の金属層の平均厚みに差を付けて、熱膨張差を発生させる方法(段落【0035】、【0038】)、
(イ)5層構造において、複合体の炭素珪素含有量を変化させて、熱膨張差を発生させる方法(段落【0040】、【0071】)、
(ウ)炭化珪素複合体を加熱しながら応力を加えて塑性変形させる方法(段落【0042】、【0077】?【0078】)、
が記載されており、これら記載された方法(手段)を適宜採用して、所定量の反りを付与することができることは、当業者ならば、当然に認識することであって、かかる複数の手段を適宜採用すれば所定量の反り量を得られることは、当業者には明らかである。
よって、反り量の制御手段が不明とはいえない。

b.「イ.(ア)」について(反り量の定義)
本件請求項2?4、6のようにX方向およびY方向が特定されていない場合については、反り量を測定する方向は「中心点を通過する対角線の方向」であり、2本の対角線方向で測定した反り量のうち大きい数値が反り量として採用されることは当業者にとって自明なことである(例えば、答弁書の第31頁第13?18行、平成25年9月2日付け意見書の第22頁第5?11行、それらにおいて引用される乙第1号証等参照。)。
そして、上記「2.2-1.(2)イ.b.」に記載したとおり、「長さ10cmに対する」反り量とは、その文言から明らかなように、「10cmの長さを基準にして換算した反り量」であって、矩形板状の炭化珪素質複合体が、10cmよりも大きいか又は小さいときは、測定した反り量を10cm分の反り量に換算するものといえ、当該反り量は被測定物の中央部と端部の高さの差を測定して求めた最大の反り量によって規定すべきことは当業者にとって自明なことである(例えば、乙第1号証参照。なお、そのような測定は甲第9号証の反りの測定において請求人も行っているものと認められる。)。
そうすると、請求人の主張するような課題を解決できないようなことは起こらず、本件明細書および特許請求の範囲の記載に、請求人が主張する不備はない。

よって、特許法第36条第4項(実施可能要件)及び同条第6項第1号(サポート要件)に係る無効理由4は、理由がない。

(2)無効理由4についての総括
以上のとおりであって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正特許発明2?6、7?11を実施できるように明確かつ十分にされており、訂正後の特許請求の範囲の請求項2?6、7?11に記載された発明は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、これらの発明の範囲にまで拡張ないし一般化して、当業者が当該発明の課題の解決を図ることができると認識できるものである。
よって、本件訂正特許発明2?6、7?11に係る特許について、無効理由4は理由がない。

3-2.無効理由1について
甲各号証には、「第5 2. 2-2.」に記載したとおりの事項が記載されており、甲第1号証発明は、「2. 2-2.(1)」に記載したとおりのものである。
そこで、甲第1号証発明を主引用発明とする進歩性欠如を理由とする無効理由1について検討する。

(1)本件訂正特許発明2?6について
判断
上記知的財産高等裁判所判決は、本件訂正特許発明2?6についての無効理由1に関して、
「(4) 本件訂正発明2の進歩性について
ア 本件訂正発明2と甲1発明とは,少なくとも,・・・,相違点5(本件訂正発明2は,「複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が30μm以上250μm以下の反りを有」しているのに対し,甲1発明は,かかる事項を有していない点)において相違する。
イ ・・・甲1発明は,金属-セラミックス複合体のヒートシンクには,熱膨張差により放熱フィンとの間の密着性が悪くなり,放熱特性が低下するという問題があるが,かかる問題を金属-セラミックス複合体の表面に当該金属の層を設けることにより解決するものであり,金属-セラミックス複合体を放熱フィンと接合する面において凸型とすること,すなわち,凸状の反りを設けることについては,甲1には何らの記載も示唆もない。
ウ そして,・・・甲1ないし甲8は,いずれも,室温下のAlSiC複合体にあらかじめ凸状の反りを付与し,かつ,その反り量を所定の数値範囲内に制御することを開示するものではないから,甲1発明に甲2ないし甲8をどのように組み合わせても,甲1発明において,相違点5に係る本件訂正発明2の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
エ また,上記のとおり,甲1ないし甲8は,いずれも,「室温下のAlSiC複合体にあらかじめ凸状の反りを付与し,かつ,その反り量を所定の数値範囲内に制御すること」を開示するものではなく,本訴において新たに提出された甲21ないし甲23を併せ考慮しても,上記の点が,本件特許の出願当時,当業者に周知の技術常識であったとは認められない。
すなわち,甲2,甲3,甲8及び甲21には,銅製の放熱部品について,放熱フィンとの良好な密着性を得るために,これと接合する面に反りを付与することや付与する反り量についての開示があり,これらの文献の記載に照らせば,本件特許の出願当時,銅製の放熱部品について,放熱フィンとの良好な密着性を得るために,これと接合する面にあらかじめ反りを付与すること及び付与する反り量を所定の範囲内に制御することは,当業者に周知の技術であったと認められる。
これに対し,AlSiC複合体については,・・・本件特許の出願当時,(i)熱膨張係数をセラミックス基板に近づけ,かつ,高熱伝導性,軽量性を達成するという点で優れた組み合わせの材料であること,(ii)高熱伝導性を有するとともに,比重が小さく,かつ,熱膨張率がセラミックス基板と同程度に小さく,加熱された際にも反りがない,寸法安定性の優れた複合体を得るため,AlSiC複合体の炭化珪素含有量を制御し得ること,(iii)放熱部品(ベースプレート)材として用いる場合,AlSiC複合体は高度な剛性と,AlNセラミックに近い熱膨張率を持ち合わせ,基板と半田付けされた際に,基板との熱膨張率が異なるため,熱歪みが起こるなどの問題を解消できることが,当業者に周知の技術であったと認められるから,AlSiCとは異なり熱膨張係数が大きい,銅製の放熱部品に係る上記周知技術,すなわち,放熱フィンとの良好な密着性を得るために,これと接合する面にあらかじめ反りを付与すること及び付与する反り量を所定の範囲内に制御することが,当然にAlSiC複合体製の放熱部品にも妥当するということはできない。
したがって,甲2,甲3,甲8及び甲21の記載を根拠に,AlSiC複合体製の放熱部品について,放熱フィンとの良好な密着性を得るために,これと接合する面にあらかじめ反りを付与すること及び付与する反り量を所定の範囲内に制御することが本件特許の出願当時の当業者に周知の技術であったと認めることはできない。
そして,原告が本訴において追加提出した甲22には,放熱板の材料としてAlSiC複合材を採用した例が開示されているが,甲22に記載された発明は,放熱板をあらかじめ反らせて作製するにはそのための工程が必要であり,材料の加工性によってはあらかじめ反らせておくことが困難な場合もあることから,あらかじめ放熱板を反らした形状にせずに,冷却器側に向けて凸となる形状を得ることができる半導体装置の製造方法であって,その段落【0018】に,「Al-SiCは,高い硬度のためにあらかじめ凸形状に機械加工することなどが困難であるが,本実施例によれば,機械加工によらず筺体外側に凸の形状を得ることができる。言い換えれば,前述の実施形態に示された方法により,放熱板の材料としてAl-SiCを採用することができる。」と記載されているように,Al-SiC複合材からなる放熱板にあらかじめ反りを付与することを開示するものではない。これに対し,原告が本訴において追加提出した甲23には,実施例として,コールド・プレートとの緊密な熱接触を達成するためにわずかに凸形に湾曲した底面を有するように設計したAlSiC複合体を用いた箱型ヒートシンクが開示されているが,甲23があるからといって,AlSiC複合体製の放熱部品について,放熱フィンとの良好な密着性を得るために,これと接合する面にあらかじめ反りを付与すること及び付与する反り量を所定の範囲内に制御することが本件特許の出願当時の当業者に周知の技術であったとまで認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
オ 原告は,本件特許の出願時,本件訂正発明と同様の目的で,材質を問わず,放熱部品を放熱フィン側に凸状とすること及びその凸形状を制御することは周知技術であったから,その凸形状を具体的にどの程度にするかということは単なる設計事項にすぎない旨主張する。
しかしながら,前記エのとおり,AlSiC複合体製の放熱部品について,銅製の放熱部品と同様に,放熱フィンとの良好な密着性を得るためにこれと接合する面にあらかじめ反りを付与すること及び付与する反り量を所定の範囲内に制御することが,周知技術であったとは認められないから,本件訂正発明の規定する凸形状,すなわち反り量の数値範囲が当業者において適宜定める設計事項にすぎないとはいえない。
カ 以上によれば,本件訂正発明2は,その余の相違点について検討するまでもなく,甲1発明及び甲2ないし甲8に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断に誤りはない。
(5) 本件訂正発明3の進歩性について
本件訂正発明3と甲1発明とは,少なくとも,・・・相違点5(本件訂正発明3は,「複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が30μm以上250μm以下の反りを有」しているのに対し,甲1発明は,かかる事項を有していない点)において相違する。
そして,前記(4)で述べたのと同様の理由により,甲1発明に甲2ないし甲8をどのように組み合わせても,甲1発明において,相違点5に係る本件訂正発明3の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって,本件訂正発明3は,その余の相違点について検討するまでもなく,甲1発明及び甲2ないし甲8に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断に誤りはない。
(6) 本件訂正発明4の進歩性について
本件訂正発明4と甲1発明とは,少なくとも,・・・本件訂正発明4は,「複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が50μm以上250μm以下の反りを有」しているのに対し,甲1発明は,かかる事項を有していない点において相違する。
そして,前記(4)で述べたのと同様の理由により,甲1発明に甲2ないし甲8をどのように組み合わせても,甲1発明において,上記相違点に係る本件訂正発明4の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって,本件訂正発明4は,その余の相違点について検討するまでもなく,甲1発明及び甲2ないし甲8に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断に誤りはない。
(7) 本件訂正発明5の進歩性について
・・・本件訂正発明3の発明特定事項を有する本件訂正発明5と甲1発明とは,少なくとも相違点5において相違し,本件訂正発明4の発明特定事項を有する本件訂正発明5と甲1発明とは,少なくとも,前記(6)記載の相違点において相違する。
そして,前記(4)で述べたのと同様の理由により,甲1発明に甲2ないし甲8をどのように組み合わせても,甲1発明において,上記各相違点に係る本件訂正発明5の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって,本件訂正発明5は,その余の相違点について検討するまでもなく,甲1発明及び甲2ないし甲8に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断に誤りはない。
(8) 本件訂正発明6の進歩性について
本件訂正発明6と甲1発明とは,少なくとも,・・・前記(6)記載の相違点において相違する。
そして,前記(4)で述べたのと同様の理由により,甲1発明に甲2ないし甲8をどのように組み合わせても,甲1発明において,上記相違点に係る本件訂正発明6の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって,本件訂正発明6は,その余の相違点について検討するまでもなく,甲1発明及び甲2ないし甲8に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断に誤りはない。
(9) 小括
以上によれば,本件訂正発明2ないし6に関し,取消事由3に係る原告の主張は理由がない。」
(第182?187頁.なお、判決文中において、「取消事由3」は、無効理由1についての取消事由であり、「本件訂正発明」とは先の訂正後の特許請求の範囲に記載された発明を意味する。)
と、本件訂正特許発明2?6について、無効理由1は理由がないという一次審決の判断を維持する旨を判示する。

そして、上記判示事項は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、本件無効審判事件において当審を拘束する。

よって、本件訂正特許発明2?6について、無効理由1は理由のないものというほかはない。

(2)本件訂正特許発明2?6を引用する本件訂正特許発明7?11について
本件訂正特許発明2?6を引用する本件訂正特許発明7?11は、本件訂正特許発明2?6の発明特定事項を有するから、甲第1号証発明との相違点及び相違点の検討については、上記(1)に本件訂正特許発明2?6について記載したのと同様であって、本件訂正特許発明2?6を引用する本件訂正特許発明7?11についても無効理由1は理由がない。

(3)無効理由1についての総括
以上のとおりであって、本件訂正特許発明2?6、7?11に係る特許について、無効理由1は理由がない。

3-3.無効理由2について
甲第4号証発明は、「2. 2-3.(1)」に記載したとおりのものである。
そこで、甲第4号証発明を主引用発明とする進歩性欠如を理由とする無効理由2について検討する。

(1)本件訂正特許発明2?6について
上記知的財産高等裁判所判決は、本件訂正特許発明2?6についての無効理由2に関して、
「(3) 本件訂正発明2の進歩性について
ア 本件訂正発明2と甲4発明とは,少なくとも,・・・相違点10(本件訂正発明2は,「複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が30μm以上250μm以下の反りを有」しているのに対し,甲4発明は,かかる事項を有していない点)において相違する。
イ ・・・甲4発明の反り量は,室温(25℃)から300℃に加熱した際の,すなわち300℃における反り量であり,室温におけるAlSiC複合体の反り量の数値範囲を規定するものではなく,刊行物4には,室温におけるAlSiC複合体の反り量を規定することについては何ら記載がない。
ウ そして,・・・甲1ないし甲8は,いずれも,室温下のAlSiC複合体にあらかじめ反りを付与し,かつ,その反り量を所定の数値範囲内に制御することを開示するものではないから,甲4発明に甲1ないし甲3及び甲5ないし甲8をどのように組み合わせても,甲4発明において,相違点10に係る本件訂正発明2の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
エ 以上によれば,本件訂正発明2は,その余の相違点について検討するまでもなく,甲4発明と甲1ないし甲3及び甲5ないし甲8に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断に誤りはない。
(4) 本件訂正発明3の進歩性について
本件訂正発明3と甲4発明とは,少なくとも,・・・相違点10(本件訂正発明3は,「複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が30μm以上250μm以下の反りを有」しているのに対し,甲4発明は,かかる事項を有していない点)において相違する。
そして,前記(3)で述べたのと同様の理由により,甲4発明に甲1ないし甲3及び甲5ないし甲8をどのように組み合わせても,甲4発明において,相違点10に係る本件訂正発明3の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって,本件訂正発明3は,その余の相違点について検討するまでもなく,甲4発明と甲1ないし甲3及び甲5ないし甲8に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断に誤りはない。
(5) 本件訂正発明4の進歩性について
本件訂正発明4と甲4発明とは,少なくとも,・・・本件訂正発明4は,「複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が50μm以上250μm以下の反りを有」しているのに対し,甲4発明は,かかる事項を有していない点において相違する。
そして,前記(3)で述べたのと同様の理由により,甲4発明に甲1ないし甲3及び甲5ないし甲8をどのように組み合わせても,甲4発明において,上記相違点に係る本件訂正発明4の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって,本件訂正発明4は,その余の相違点について検討するまでもなく,甲4発明と甲1ないし甲3及び甲5ないし甲8に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断に誤りはない。
(6) 本件訂正発明5の進歩性について
・・・本件訂正発明3の発明特定事項を有する本件訂正発明5と甲4発明とは,少なくとも相違点10において相違し,本件訂正発明4の発明特定事項を有する本件訂正発明5と甲4発明とは,少なくとも,前記(5)記載の相違点において相違する。
そして,前記(3)で述べたのと同様の理由により,甲4発明に甲1ないし甲3及び甲5ないし甲8をどのように組み合わせても,甲4発明において,上記各相違点に係る本件訂正発明5の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって,本件訂正発明5は,その余の相違点について検討するまでもなく,甲4発明と甲1ないし甲3及び甲5ないし甲8に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断に誤りはない。
(7) 本件訂正発明6の進歩性について
本件訂正発明6と甲4発明とは,少なくとも,・・・前記(5)記載の相違点において相違する。
そして,前記(3)で述べたのと同様の理由により,甲4発明に甲1ないし甲3及び甲5ないし甲8をどのように組み合わせても,甲4発明において,上記相違点に係る本件訂正発明6の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって,本件訂正発明6は,その余の相違点について検討するまでもなく,甲4発明と甲1ないし甲3及び甲5ないし甲8に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断に誤りはない。
(8) 小括
以上によれば,本件訂正発明2ないし6に関し,取消事由4に係る原告の主張は理由がない。」
(第187?190頁.なお、判決文中において、「取消事由4」は、無効理由2についての取消事由であり、「本件訂正発明」とは先の訂正後の特許請求の範囲に記載された発明を意味する。)
と、本件訂正特許発明2?6について、無効理由2は理由がないという一次審決の判断を維持する旨を判示する。

そして、上記判示事項は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、本件無効審判事件において当審を拘束する。

よって、本件訂正特許発明2?6について、無効理由2は理由のないものというほかはない。

(2)本件訂正特許発明2?6を引用する本件訂正特許発明7?11について
本件訂正特許発明2?6を引用する本件訂正特許発明7?11は、本件訂正特許発明2?6の発明特定事項を有するから、甲第4号証発明との相違点及び相違点の検討については、上記(1)に本件訂正特許発明2?6について記載したのと同様であって、本件訂正特許発明2?6を引用する本件訂正特許発明7?11についても無効理由2は理由がない。

(3)無効理由2についての総括
以上のとおりであって、本件訂正特許発明2?6、7?11に係る特許について、無効理由2は理由がない。

3-4.無効理由3について
甲第8号証発明は、「2. 2-4.(1)」に記載したとおりのものである。
そこで、甲第8号証発明を主引用発明とする進歩性欠如を理由とする無効理由3について検討する。

(1)本件訂正特許発明2?6について
上記知的財産高等裁判所判決は、本件訂正特許発明2?6についての無効理由3に関して、
「(3) 本件訂正発明2の進歩性について
ア 本件訂正発明2と甲8発明とは,少なくとも,・・・相違点15(本件訂正発明2は,「複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が30μm以上250μm以下の反りを有」しているのに対し,刊行物8に記載された発明は,かかる事項を有していない点)において相違する。
イ ・・・刊行物8は,AlSiC複合体からなるベースプレートについて,これを凸状に加工することを開示するものではない。
ウ そして,・・・甲1ないし甲8は,いずれも,室温下のAlSiC複合体にあらかじめ反りを付与し,かつ,その反り量を所定の数値範囲内に制御することを開示するものではないから,刊行物8に記載された発明に甲1ないし甲7をどのように組み合わせても,刊行物8に記載された発明において,相違点15に係る本件訂正発明2の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
エ 以上によれば,本件訂正発明2は,その余の相違点について検討するまでもなく,刊行物8に記載された発明及び甲1ないし甲7に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断は,結論において誤りはない。
(4) 本件訂正発明3の進歩性について
本件訂正発明3と刊行物8に記載された発明とは,少なくとも,・・・相違点15(本件訂正発明3は,「複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が30μm以上250μm以下の反りを有」しているのに対し,刊行物8に記載された発明は,かかる事項を有していない点)において相違する。
そして,前記(3)で述べたのと同様の理由により,刊行物8に記載された発明に甲1ないし甲7をどのように組み合わせても,刊行物8に記載された発明において,相違点15に係る本件訂正発明3の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって,本件訂正発明3は,その余の相違点について検討するまでもなく,刊行物8に記載された発明及び甲1ないし甲7に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断は,結論において誤りはない。
(5) 本件訂正発明4の進歩性について
本件訂正発明4と刊行物8に記載された発明とは,少なくとも,・・・本件訂正発明4は,「複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が50μm以上250μm以下の反りを有」しているのに対し,刊行物8に記載された発明は,かかる事項を有していない点において相違する。
そして,前記(3)で述べたのと同様の理由により,刊行物8に記載された発明に甲1ないし甲7をどのように組み合わせても,刊行物8に記載された発明において,上記相違点に係る本件訂正発明4の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって,本件訂正発明4は,その余の相違点について検討するまでもなく,刊行物8に記載された発明及び甲1ないし甲7に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断は,結論において誤りはない。
(6) 本件訂正発明5の進歩性について
・・・本件訂正発明3の発明特定事項を有する本件訂正発明5と刊行物8に記載された発明とは,少なくとも相違点15において相違し,本件訂正発明4の発明特定事項を有する本件訂正発明5と刊行物8に記載された発明とは,少なくとも,前記(5)記載の相違点において相違する。
そして,前記(3)で述べたのと同様の理由により,刊行物8に記載された発明に甲1ないし甲7をどのように組み合わせても,刊行物8に記載された発明において,上記各相違点に係る本件訂正発明5の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって,本件訂正発明5は,その余の相違点について検討するまでもなく,刊行物8に記載された発明及び甲1ないし甲7に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断は,結論において誤りはない。
(7) 本件訂正発明6の進歩性について
本件訂正発明6と刊行物8に記載された発明とは,少なくとも,・・・前記(5)記載の相違点において相違する。
そして,前記(3)で述べたのと同様の理由により,刊行物8に記載された発明に甲1ないし甲7をどのように組み合わせても,刊行物8に記載された発明において,上記相違点に係る本件訂正発明6の発明特定事項を備えるようにすることが容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって,本件訂正発明6は,その余の相違点について検討するまでもなく,刊行物8に記載された発明及び甲1ないし甲7に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとは認められないから,この点に係る本件審決の判断は,結論において誤りはない。
(8) 小括
以上によれば,本件訂正発明2ないし6に関し,取消事由5に係る原告の主張は理由がない。」
(第191?194頁.なお、判決文中において、「取消事由5」は、無効理由3についての取消事由であり、「本件訂正発明」とは先の訂正後の特許請求の範囲に記載された発明を意味する。)
と、本件訂正特許発明2?6について、無効理由3は理由がないという一次審決の判断を維持する旨を判示する。

そして、上記判示事項は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、本件無効審判事件において当審を拘束する。

よって、本件訂正特許発明2?6について、無効理由3は理由のないものというほかはない。

(2)本件訂正特許発明2?6を引用する本件訂正特許発明7?11について
本件訂正特許発明2?6を引用する本件訂正特許発明7?11は、本件訂正特許発明2?6の発明特定事項を有するから、甲第8号証発明との相違点及び相違点の検討については、上記(1)に本件訂正特許発明2?6について記載したのと同様であって、本件訂正特許発明2?6を引用する本件訂正特許発明7?11についても無効理由3は理由がない。

(3)無効理由3についての総括
以上のとおりであって、本件訂正特許発明2?6、7?11に係る特許について、無効理由3は理由がない。

4.当審からの無効理由について
当審からの無効理由は、一次審決時の請求項1の発明特定事項を有する請求項9?11についてのものであるが、平成28年3月28日付けの訂正請求がされた本件訂正特許発明1の発明特定事項を有する本件訂正特許発明9?11が斯かる無効理由を有するか否かについて一応検討する。

4-1.本件訂正特許発明1を引用する本件訂正特許発明9?11が甲第4号証に記載された発明および周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるかについて
(1)甲第4号証に記載された発明
甲第4号証には、上記「第5 2-2(4)」に記載した甲第4号証の実施例7をみると、当該実施例7のものが正方形(120mm×120mm)であるところ、反りが対角線上に生じるとすると、X方向,Y方向の反り量はいずれもC_(x)=C_(y)=100/√2=72μmとなるので、
「多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる矩形板状複合体であって、長さ10cm当たりの300℃における反り量がC_(x)=C_(y)=72μmである板状の炭化珪素質複合体にセラミックス基板を接合してなる接合体」の発明(以下、「甲第4号証発明の2」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件訂正特許発明9との対比
本件訂正特許発明9と甲第4号証発明の2とを対比する。

甲第4号証発明の2と本件訂正特許発明9とは、「多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる矩形板状複合体」の点で一致する。

また、甲第4号証発明の2の「板状の炭化珪素質複合体にセラミックス基板を接合してなる接合体」は、本件訂正特許発明9の「板状の炭化珪素質複合体に半導体搭載用セラミックス基板を接合してなる放熱部品」に実質的に相当する。

よって、両者は、
「多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる矩形板状複合体に半導体搭載用セラミックス基板を接合してなる放熱部品」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点11:本件訂正特許発明9は、「矩形板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し」ているのに対し、甲第4号証発明の2は、かかる事項を有していない点
相違点12:本件訂正特許発明9は、「穴部は、前記矩形板状複合体を構成する2組の対辺のうち、1組の対辺のそれぞれに沿って一列にそれぞれ2個以上が配置され、他方の1組の対辺のそれぞれに沿って2個ずつ配置され、前記2個ずつ配置された4個の穴部は、前記2個以上配置された穴部の両端部の4個の穴部を兼ねており、前記2個ずつ配置された穴部のそれぞれの辺に沿った穴部同士の距離が、前記2個以上の穴部が配置された穴部の隣接する穴部同士の距離より大きくなるように配置され」ているのに対して、甲第4号証発明の2は、かかる事項を有していない点

相違点13:本件訂正特許発明9は、「穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(x);μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(y);μm)の関係が、|C_(x)|≧|C_(y)|、50≦C_(x)≦250、且つ-50≦C_(y)≦200である(C_(y)=0を除く)」ものであるのに対し、甲第4号証発明の2は、長さ10cm当たりの300℃における反り量がC_(x)=C_(y)=72μmであるものである点

(3)本件訂正特許発明9についての判断
上記の相違点のうち、まず、相違点13について検討する。

甲第4号証発明の2は、C_(x)=C_(y)=72μmの反りを有することを特定事項とするものであるが、この反り量は、室温(25℃)から300℃に加熱した際の反り量であり、室温におけるAlSiC複合体の反り量の数値範囲を規定するものではなく、むしろ、甲第4号証に、一般に室温において顕著な反りがないものを用いることが記載されているように(段落【0025】等参照。)、室温におけるAlSiC複合体の反り量を規定することについて開示するものではない。
そうすると、甲第4号証には、甲第4号証発明の2において「室温下のAlSiC複合体にあらかじめ凸状の反りを付与し、かつ、その反り量を所定の数値範囲内に制御すること」の動機付けはないし、また、周知技術を考慮しても、甲第4号証に「室温においては顕著な反りがないものを用いる」ことが記載されていることからみて、甲第4号証発明の2において「室温下のAlSiC複合体にあらかじめ凸状の反りを付与し、かつ、その反り量を所定の数値範囲内に制御すること」は、当業者が容易になし得たこととは認められない。

よって、相違点11、12についての検討の如何に関わらず、本件訂正特許発明9は、甲第4号証発明の2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件訂正特許発明10、11の対比・判断
本件訂正特許発明10、11は、本件訂正特許発明9を引用するものであって、本件訂正特許発明9の発明特定事項を有するから、これらの発明と甲第4号証発明の2とをそれぞれ対比すると、少なくとも、上記相違点11?13で相違する。

そうすると、上記(3)で、本件訂正特許発明9について述べた理由と同様の理由により、本件訂正特許発明9の発明特定事項を有する本件訂正特許発明10、11は、甲第4号証発明の2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)小括
よって、本件訂正特許発明9?11は、甲第4号証発明の2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

4-2.記載不備について
当審は、第1回口頭審理において、
「反り量」について、その定義は不明であり、また、発明の詳細な説明は、この「反り量」について、当業者が当該請求項1?11に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、明細書の記載は同法同条第4項に規定する要件を満たしていないから、当該発明は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものであるとの無効理由を通知した。
この無効理由に対して、被請求人は意見書を提出して、反り量の説明を行った。この説明についての判断は、上記1.に記載したとおりであり、当該無効理由は解消した。

4-3.当審からの無効理由についての判断の総括
以上のとおり、本件訂正特許発明1を引用する本件訂正特許発明9?11についての特許は、当審から通知した無効理由によって無効とすることはできない。

5.平成28年6月10日付け弁駁書での無効理由Aについて
(1)甲第11号証に記載された発明
上記「第5 2-2(11)」に記載した甲第11号証の記載をみると、段落【0016】?【0018】の記載等からみて、SiC(シリコンカーバイド)にアルミニウムを含浸してなるAl-SiC(アルミ-シリコンカーバイド)複合体からなる放熱板を他の放熱部品に固定するための特定の反りを有する凸面とすることが記載され、段落【0005】の記載等からみて、あらかじめ放熱板を反らした形状にせずに、冷却器側に向けて凸となる形状を得ることができる半導体装置の製造方法が記載されている。
そうすると、甲第11号証には、
「SiC(シリコンカーバイド)にアルミニウムを含浸してなるAl-SiC(アルミ-シリコンカーバイド)複合体であって、当該複合体は他の放熱部品に固定するための特定の反りの凸面を有し、当該反りは、あらかじめ反らした形状にせずに得られるものである複合体」の発明(以下、「甲第11号証発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件訂正特許発明1と甲第11号証発明との対比
本件訂正特許発明1と甲第11号証発明とを対比する。

甲第11号証発明の「SiC(シリコンカーバイド)にアルミニウムを含浸してなるAl-SiC(アルミ-シリコンカーバイド)複合体」は、本件訂正特許発明1の「多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる矩形板状複合体」に相当する。

甲第11号証発明の「当該複合体は他の放熱部品に固定するための特定の反りの凸面を有」する点は、本件訂正特許発明1の「該矩形板状複合体の面内に他の放熱部品に当該矩形板状複合体の凸面を向けてネジ止めする」点と、「該矩形板状複合体の面内に他の放熱部品に当該矩形板状複合体の凸面を向けて固定する」点で一致する。

そうすると、両者は、
「多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる矩形板状複合体であって、該矩形板状複合体の面内に他の放熱部品に当該矩形板状複合体の凸面を向けて固定する・・・炭化珪素質複合体」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点A1:他の放熱部品に当該矩形板状複合体の凸面を向けて固定することに関し、本件訂正特許発明1は、「ネジ止めするための4個以上の穴部を有し」ているのに対し、甲第11号証発明は、かかる事項を有していない点

相違点A2:本件訂正特許発明1は、「穴部は、前記矩形板状複合体を構成する2組の対辺のうち、1組の対辺のそれぞれに沿って一列にそれぞれ2個以上が配置され、他方の1組の対辺のそれぞれに沿って2個ずつ配置され、前記2個ずつ配置された4個の穴部は、前記2個以上配置された穴部の両端部の4個の穴部を兼ねており、前記2個ずつ配置された穴部のそれぞれの辺に沿った穴部同士の距離が、前記2個以上の穴部が配置された穴部の隣接する穴同士の距離より大きくなるように配置され」ているのに対して、甲第11号証発明は、かかる事項を有していない点

相違点A3:本件訂正特許発明1は、「穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(x);μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(C_(y);μm)の関係が、|C_(x)|≧|C_(y)|、50≦C_(x)≦250、且つ-50≦C_(y)≦200である(C_(y)=0を除く)」ものであるのに対し、甲第11号証発明は、あらかじめ反らした形状にせずに得られる反りを有するものである点

(3)本件訂正特許発明1についての判断
上記の相違点のうち、まず、相違点A3について検討する。

すると、上記「2-2.(3)」に記載したとおり、甲第1?8号証、甲第10、12号証は、いずれも、「室温下のAlSiC複合体にあらかじめ凸状の反りを付与し、かつ、その反り量を所定の数値範囲内に制御すること」を開示するものではない。
さらに、これらの甲各号証は、凸面の反りを所定の方向(X方向、Y方向)の反り量(C_(x)、C_(y))の関係で特定することを開示するものではない。

よって、少なくとも、上記相違点A3に係る本件訂正特許発明1の構成の点は、甲第1?8号証、甲第10?12号証に記載された技術的事項を考慮しても、当業者が容易に想到し得たことといえないし、また、周知技術を考慮しても、甲第11号証に「あらかじめ反らした形状にせず」に行うことが記載されていることからみて、甲第11号証発明において「室温下のAlSiC複合体にあらかじめ凸状の反りを付与し、かつ、その反り量を所定の数値範囲内に制御すること」は、当業者が容易になし得たこととは認められない。

よって、相違点A1、A2についての検討の如何に関わらず、本件訂正特許発明1は、甲第11号証発明及び甲第1?8号証、甲第10、12号証に記載された発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件訂正特許発明1を引用する本件訂正特許発明7?11について
本件訂正特許発明1の発明特定事項を有する本件訂正特許発明7?11と甲第11号証発明とをそれぞれ対比すると、少なくとも、これらの発明と甲第11号証発明とは、上記(2)に記載した相違点A1?A3で相違する。
そうすると、上記(3)で、本件訂正特許発明1について述べた理由と同様の理由により、本件訂正特許発明9の発明特定事項を有する本件訂正特許発明7?11は、甲第11号証発明及び甲第1?8号証、甲第10、12号証に記載された発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)無効理由Aの総括
本件訂正特許発明1、7?11は、甲第11号証発明及び甲第1?8号証、甲第10、12号証に記載された発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

第8 まとめ
以上のとおりであって、本件訂正特許発明1?11についての特許は、請求人の主張する理由および当審から通知した無効理由によっては、無効とすることができない。
その他に、本件訂正特許発明1?11についての特許を無効にすべき理由を発見しない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 ----------------------------------
(参考)本件特許無効審判事件の平成25年12月24日付け審決





































































































































 
発明の名称 (54)【発明の名称】
炭化珪素質複合体及びその製造方法とそれを用いた放熱部品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる矩形板状複合体であって、該矩形板状複合体の面内に他の放熱部品に当該矩形板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、前記穴部は、前記矩形板状複合体を構成する2組の対辺のうち、1組の対辺のそれぞれに沿って一列にそれぞれ2個以上が配置され、他方の1組の対辺のそれぞれに沿って2個ずつ配置され、前記2個ずつ配置された4個の穴部は、前記2個以上配置された穴部の両端部の4個の穴部を兼ねており、前記2個ずつ配置された穴部のそれぞれの辺に沿った穴部同士の距離が、前記2個以上の穴部が配置された穴部の隣接する穴部同士の距離より大きくなるように配置されており、前記2個ずつの穴部が配置された対辺に平行な方向を穴間方向(X方向)としたとき、前記穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(Cx;μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(Cy;μm)の関係が、|Cx|≧|Cy|、50≦Cx≦250、且つ-50≦Cy≦200である(Cy=0を除く)ことを特徴とする炭化珪素質複合体。
【請求項2】
多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体であって、板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、複合体の表裏両面が平均厚さ10?150μmのアルミニウムを主成分とする金属層で覆われており、しかも表裏の金属層の平均厚みの差が140μm以下であり、複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が30μm以上250μm以下の反りを有することを特徴とする炭化珪素質複合体。
【請求項3】
多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体であって、板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、板状複合体が複合体部分(A)と複合体の少なくとも片面に設けられたアルミニウムを主成分とする金属層(B)とからなり、複合体部分(A)の厚さの平均値(TA;μm)と金属層(B)の両面の厚さの平均値との合計(TB;μm)の比(TA/TB)が5?30であり、複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が30μm以上250μm以下の反りを有することを特徴とする炭化珪素質複合体。
【請求項4】
複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が50?250μmであり、しかも前記金属層(B)の表面側の厚さの平均値(TB1;μm)と裏面側の厚さの平均値(TB2;μm)との差の絶対値(|TB1-TB2|)と、複合体の最大長(L;cm)との積が500以上2500以下であることを特徴とする請求項3記載の炭化珪素質複合体。
【請求項5】
多孔質炭化珪素成形体の少なくとも一主面に段差を設けることを特徴とする請求項3又は請求項4記載の炭化珪素質複合体。
【請求項6】
枠内に2つの多孔質炭化珪素成形体を積層して配置した後、前記枠に鉄板を配置しボルト、ナットで固定してブロックとし、前記ブロックにアルミニウムを主成分とする金属を含浸することで得られる板状複合体であって、板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、当該炭化珪素質複合体が、多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる、2つの板状複合体(C、D)と、アルミニウムを主成分とする金属層(E)とがECEDEの構造で積層してなる複合体であって、板状複合体(C)、(D)の炭素含有量の差が0.5?2.5重量%であり、複合体の主面の長さ10cmに対する反り量が50?250μmであることを特徴とする炭化珪素質複合体。
【請求項7】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5又は請求項6記載の炭化珪素質複合体の製造方法であって、炭化珪素質複合体を温度350℃以上で応力を加えて塑性変形させることにより、反り付けを行うことを特徴とする炭化珪素質複合体の製造方法。
【請求項8】
室温(25℃)から150℃に加熱した際の平均熱膨張係数が9×10^(?6)/K以下であり、室温(25℃)の熱伝導率が150W/mK以上であることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5又は請求項6記載の炭化珪素質複合体。
【請求項9】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5又は請求項6記載の板状の炭化珪素質複合体に半導体搭載用セラミックス基板を接合してなることを特徴とする放熱部品。
【請求項10】
セラミックス基板が窒化アルミニウム及び/又は窒化珪素であることを特徴とする請求項9記載の放熱部品。
【請求項11】
セラミックス基板を接合していない面を、放熱グリースを介して、平面板装着する際に、締め付けトルクが2N以上の条件において、前記面の90%以上が密着することを特徴とする請求項9又は請求項10記載の放熱部品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱伝導特性に優れ、かつ軽量であり、セラミックス基板やICパッケージなどの半導体部品のヒートシンクなどの放熱部材として好適な高熱伝導性の炭化珪素質複合材料とその製造方法及びそれを用いた放熱部品に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、半導体分野での半導体素子の大容量化、半導体素子の高集積化が進むに従い、半導体素子から発生した熱エネルギーをいかに効率よく外部に放散させるかが重要な課題となっている。半導体素子は、通常、セラミックス基板等の絶縁性基板に搭載されて用いられる。この場合、半導体素子からの発熱は基板裏面等に設けられるヒートシンクと呼ばれる放熱部品を介して外部に発散させ、半導体素子の動作特性を確保している。
【0003】従来、このヒートシンク材料としては、主に銅(Cu)が用いる。銅は、室温付近の熱伝導率が390W/mKと高いが、熱膨張係数が17×10^(-6)/Kと大きく、セラミックス基板(熱膨張係数:7?8×10^(-6)/K)とヒートシンクの熱膨張差に起因して、加熱接合時や熱サイクルの付加等によりセラミックス基板にクラックや割れ等が生じることがある。従来、セラミックス基板を信頼性が要求される分野に放熱部品として用いる場合には、セラミックス基板と熱膨張係数の差の小さいMo/W等をヒートシンクとして用いていた。
【0004】上述したようなMo/W製ヒートシンクは、信頼性に優れる反面、熱伝導率が150W/mKと低く、放熱特性の面で問題があり、更に、このようなヒートシンクは高価である。このような事情から、近年、銅やアルミニウム合金を無機質繊維または粒子で強化したMMC(Metal Matrix Composite)と略称される金属ーセラミックス複合体が注目されている。このような複合体は、一般には、強化材である無機質繊維あるいは粒子を、あらかじめ成形することでプリフォームを形成し、そのプリフォームの繊維間あるいは粒子間に基材(マトリックス)である金属を溶浸させた複合体である。強化材としては、アルミナ、炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化珪素、シリカ、炭素等のセラミックスが用いられている。しかし、強化材であるセラミックスとマトリックスである合金の濡れ性や界面の反応層等も熱伝導率に大きく寄与する。
【0005】上記の複合体において、熱伝導率を上げようとする場合、強化材及び合金として熱伝導率の高い物質を選択する必要があり、熱膨張係数を下げるためには、熱膨張率の低い強化材を選択する必要がある。このため、炭化珪素-アルミニウム合金の複合体が主に研究されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述したように従来のセラミックス基板とヒートシンクとの接合構造を有する放熱部品において、MoやW等の重金属材料をヒートシンクに用いた場合、放熱部品の重量が重くなると共に、放熱性に関しても必ずしも十分でないという問題がある。一方、比較的軽量で放熱性に優れるCuやAl等をヒートシンクとして用いる場合、セラミックス基板との熱膨張差が大きく、信頼性の高い構造を得るためには、接合構造自体が非常に複雑になってしまい、製造コストの増加や放熱部品としての熱抵抗の増加等を招くといった問題があった。この様なことから、従来のセラミックス基板とヒートシンクの接合構造を有する放熱部品においては、接合構造の簡略化を図り、且つ信頼性や放熱性の向上を図ることが課題とされている。
【0007】一方、上記の課題を解決するため、金属-セラミックス複合体が検討されているが、セラミックス基板に近い熱膨張率を得ようとすると、熱膨張率の低い強化材であるセラミックスの比率を上げる必要がある。セラミックス成分の比率を上げるには、高い成形圧でプリフォームを成形する必要があり、コストアップに繋がると共に、その後の合金の十分な含浸が難しくなるという問題がある。このため、熱膨張率がセラミックス基板に近く、高い熱伝導率を有する金属-セラミックス複合体を安価に提供できる技術の開発が課題としてある。
【0008】更に、この様な複合体は、放熱部品として用いる場合、回路基板と半田付けして用いられるため、複合体の反り量が大きすぎると半田付けが難しくなる。このため、この様な複合体を放熱部品として用いる場合、所定量以下の反り量に制御する必要がある。一方、この様な放熱部品を組み込んだパワーモジュール等の部品は、一般に放熱フィン等にネジ止めされて用いられる。その場合、パワーモジュール等の部品と放熱フィンの接合面に応力が働くべく、接合面が凸型になっていることが、ネジ止め後の締め付け力が大きく放熱の面より好ましい。しかし、従来の金属-セラミックス複合体では、この様に、任意に反り等の形状を付加しようとする場合、後加工により調整するしか方法がなかった。この場合、金属-セラミックス複合体は、非常に硬く、加工費用が高く、部品自体が非常に高価になってしまうという課題があった。
【0009】本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであって、高熱伝導性を有すると共に、比重が小さく、且つ熱膨張係数がセラミックス基板に近い、反りを有していて放熱部品等に密着性良く接合される複合体及びこれを用いた放熱部品を安価に提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、複合体の組成及びその構造を調整することにより、熱膨張係数等の特性及び複合体の形状を制御できることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0011】
【0012】本発明は、多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる矩形板状複合体であって、該矩形板状複合体の面内に他の放熱部品に当該矩形板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、前記穴部は、前記矩形板状複合体を構成する2組の対辺のうち、1組の対辺のそれぞれに沿って一列にそれぞれ2個以上が配置され、他方の1組の対辺のそれぞれに沿って2個ずつ配置され、前記2個ずつ配置された4個の穴部は、前記2個以上配置された穴部の両端部の4個の穴部を兼ねており、前記2個ずつ配置された穴部のそれぞれの辺に沿った穴部同士の距離が、前記2個以上の穴部が配置された穴部の隣接する穴部同士の距離より大きくなるように配置されており、前記2個ずつの穴部が配置された対辺に平行な方向を穴間方向(X方向)としたとき、前記穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(Cx;μm)と、それに垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(Cy;μm)の関係が、|Cx|≧|Cy|、50≦Cx≦250且つ-50≦Cy≦200(Cy=0を除く)であることを特徴とする炭化珪素質複合体である。
【0013】更に、本発明は、多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる板状複合体であって、複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が250μm以下の反りを有し、複合体の表裏両面が平均厚さ10?150μmのアルミニウムを主成分とする金属層で覆われており、しかも表裏の金属層の平均厚みの差が140μm以下であることを特徴とする炭化珪素質複合体である。
【0014】また、本発明は、板状複合体が複合体部分(A)と複合体の少なくとも片面に設けられたアルミニウムを主成分とする金属層(B)とからなり、複合体部分(A)の厚さの平均値(TA;μm)と金属層(B)の両面の厚さの平均値との合計(TB;μm)の比(TA/TB)が5?30であることを特徴とする炭化珪素質複合体である。
【0015】更に、複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が50?250μmであり、しかも前記金属層(B)の表面側の厚さの平均値(TB1;μm)と裏面側の厚さの平均値(TB2;μm)との差の絶対値(|TB1-TB2|)と、複合体の最大長(L;cm)との積が500以上2500以下であることを特徴とする炭化珪素質複合体である。
【0016】更にまた、本発明は、多孔質炭化珪素成形体の少なくとも一主面に段差を設けることを特徴とする炭化珪素質複合体である。
【0017】加えて、本発明は、枠内に2つの多孔質炭化珪素成形体を積層して配置した後、前記枠に鉄板を配置しボルト、ナットで固定してブロックとし、前記ブロックにアルミニウムを主成分とする金属を含浸することで得られる板状複合体であって、板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、当該炭化珪素質複合体が、多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる2つの板状複合体(C、D)と、アルミニウムを主成分とする金属層(E)とがECEDEの構造で積層してなる複合体であって、板状複合体(C)、(D)の炭素含有量の差が0.5?2.5重量%であり、複合体の主面の長さ10cmに対する反り量が50?250μmであることを特徴とする炭化珪素質複合体である。
【0018】また、本発明は、炭化珪素質複合体を温度350℃以上で応力を加えて塑性変形させることにより、反り付けを行うことを特徴とする炭化珪素質複合体の製造方法である。
【0019】更に、本発明は、室温(25℃)から150℃に加熱した際の平均熱膨張係数が9×10^(-6)/K以下であり、室温(25℃)の熱伝導率が150W/mK以上であることを特徴とする炭化珪素質複合体である。
【0020】更にまた、本発明は、板状複合体に半導体搭載用セラミックス基板を接合してなることを特徴とする放熱部品である。
【0021】加えて、本発明は、セラミックス基板が窒化アルミニウム及び/又は窒化珪素であることを特徴とす放熱部品である。
【0022】更に、本発明は、セラミックス基板を接合していない面を、放熱グリースを介して、平面板装着する際に、締め付けトルクが2N以上の条件において、前記面の90%以上が密着することを特徴とする前記の放熱部品である。
【0023】
【発明の実施の形態】金属-セラミックス複合体の熱膨張率は、通常、強化材であるセラミックスと基材である金属の熱膨張率とその配合比で決まる。セラミックスの熱膨張率は金属の熱膨張率に比べかなり小さく、複合体の熱膨張率を下げるには、セラミックスの比率を増やすことが効果がある。一方、金属-セラミックス複合体の熱伝導率も、基本的には、強化材であるセラミックスと基材である金属の熱伝導率とその配合比で決まるが、熱伝導率の場合、強化材と基材との界面の結合状態が大きく寄与する。セラミックスと金属では、一般に金属の方が熱伝導率が高いが、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化硼素(BN)等は、金属と同等以上(300W/mK以上)の理論熱伝導率を有し、熱伝導率向上の点からは、強化材として非常に有望である。しかし、実際に複合体を製造する場合、AlNやBNは高価であり、得られる複合体も高価になってしまう。また、AlNやBNは、大気雰囲気中で酸化され易く、複合体とした場合、強化材であるセラミックスと基材である金属との間に熱伝導率が極めて低いガラス相を形成し易く、その結果、得られる複合体の熱伝導率が低下してしまう。
【0024】本発明者らは、強化材について種々検討した結果、炭化珪素を主成分とするセラミックスが、高熱伝導率と低熱膨張率を兼ね備えた金属-セラミックス複合体を製造するのに適していることを見いだした。
【0025】一方、このような複合体を製造する場合、強化材と金属との濡れ性が緻密な複合体を得るためには重要である。含浸する金属の融点が高いと、含浸時の温度が高くなり、セラミックスが酸化されたり、セラミックスと金属が反応して特性的に好ましくない化合物を形成することがある。更に、基材である金属の融点が高いと、含浸温度が高くなることにより、型材等の材質が限定されてしまうと共に、鋳造コスト自体も増加し、得られる複合体が高価になってしまう。
【0026】本発明者らは、基材である金属について種々検討した結果、アルミニウムを主成分とする合金を用いることにより、良好な複合体を製造できることを見いだした。すなわち、本発明の複合体は、炭化珪素粉末又は炭化珪素質多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなるものである。
【0027】金属-セラミックス複合体の熱膨張率、熱伝導率等の特性は、強化材であるセラミックスと基材である金属の特性とその配合比で決まる。本発明の複合体中の炭化珪素の含有量は、50?80体積%であることが好ましく、更に好ましくは60?70体積%である。炭化珪素の含有量が50体積%未満では、複合体の熱膨張率が高くなり、本発明が目的とする信頼性の高い放熱部品が得られなくなる。また、炭化珪素の含有量を高くすることは、複合体の高熱伝導率、低熱膨張率といった点では有効であるが、80体積%を越えて充填する場合、非常に高い成形圧力を必要とする等の問題があり、得られる金属ーセラミックス複合体のコストが極端に高くなってしまう。
【0028】一方、本発明の炭化珪素質複合体中の金属は、アルミニウムを主成分とする合金であり、好ましくはシリコンを20重量%以下、マグネシウムを5重量%以下含有する。合金中のアルミニウム、シリコン、マグネシウム以外の金属成分に関しては、極端に合金の特性が変化しない範囲であれば銅等も含有することができる。合金中のアルミニウム以外の成分を調整することにより、合金自体の熱伝導率や熱膨張率を変えることができ、得られる複合体の熱膨張率や熱伝導率も調整できる。また、アルミニウム金属にシリコンやマグネシウムが合金化することにより合金の融点低下や高温での溶融金属の粘性低下があり、高温鋳造法等で緻密な複合体が得やすくなる。更に、アルミニウム金属を合金化することにより、金属自体の硬度増加があり、その結果、得られる複合体の強度等の機械的特性が向上する。
【0029】また本発明は、複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が250μm以下の反りを有することを本質的とする。複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が250μmを超えると、本発明の複合体を放熱部品として用いる場合、回路基板等との接合不良が発生してしまうという問題や、放熱フィン等にネジ止めする際に、過大な曲げ応力が加わり、複合体が破損してしまうという問題が発生する。一方、この様な複合体からなる放熱部品を組み込んだパワーモジュール等の部品は、放熱フィン等にネジ止めされて用いられる。その場合、パワーモジュール等の部品と放熱フィンの接合面に応力が働くべく、接合面が凸型になっていることが、ネジ止め後の締め付け力が大きく放熱の面より好ましい。
【0030】本発明の第1の発明は、板状複合体の主面内に他の放熱部品にネジ止め固定できように、4個以上の穴部を有していることである。前記穴の形状については、放熱部品等の大きさにより適宜選択すれば良いが、一般的にはM6?M10のネジが貫通できるサイズであれば良い。穴部の個数については、放熱板の大きさに応じて4個以上の多数個を設けることができるが、3個以下のときには放熱板の全面を他の放熱部品に必ずしも密着させることができない。
【0031】本発明においては、穴間方向(X方向)の長さ10cmに対する反り量(Cx;μm)と前記X方向に垂直な方向(Y方向)の長さ10cmに対する反り量(Cy;μm)とについて、50≦Cx≦250であり、しかも-50≦Cy≦200であることが本質的である。一般にここで、前記穴間方向(X方向)とは、図9(a)、(c)、(d)に例示した、放熱板表面の一方向を示し、Y方向は、前記表面内のX方向と垂直な方向を示している。
【0032】本発明者らは、従来技術における前記課題の解決を図り、いろいろ実験的に検討した結果、反り量(Cx;μm、並びにCy;μm)が前記特定の範囲にあるときに、複合体から成る放熱板を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定することができるという知見を得て、本発明に至ったものである。本発明の複合体から成る放熱板を他の放熱部品に密着性良くネジ止め固定する場合、一般には、放熱板と放熱部品との間に放熱グリス等を介して固定される。このため、Y方向の反り量(Cy)に関しては、その絶対値が放熱グリス厚より小さいことが好ましい。また、締め付け時の放熱板の変形を考慮した場合、Y方向の反り量(Cy)はX方向の反り量(Cx)より小さい方が好ましい。前記の反り量が前記特定範囲を満足できないときには、必ずしも密着性良く放熱板を他の放熱部品にネジ止め固定することができないことがある。
【0033】また、本発明の第2の発明は、板状複合体(A)の両面にアルミニウムを主成分とする合金層(B)が接合してなる板状の複合体である。表面部がアルミニウムを主成分とする合金層で覆われていることにより、表面部を加工する際には、この金属部分の加工ですみ、加工時の負荷を大幅に抑えることができる。表面部に金属-セラミックス複合体があると、その部分のみが硬く、加工が不均一になったり、ダイヤモンド等の高価な加工治具を用いる必要があるためである。また、表面部が金属層であることにより、メッキ処理を行う場合の均一性が向上する。上記理由から、金属層の平均厚さは10μm以上が選択される。
【0034】一方、前記金属層は、アルミニウムを主成分とする金属からなるので、金属-セラミックス複合体部分に比べ、熱膨張係数が大きい。従って、金属層の厚さが増加すると複合体全体の熱膨張係数が大きくなってしまうので、金属層の平均厚さは150μm以下に選択される。
【0035】また、表裏の金属層の平均厚さに差があると、金属層と金属-セラミックス複合体の熱膨張係数の違いに起因して、複合体自体の表裏面の熱膨張差が発生し、その結果、複合体に反りが発生する。この様な、反りは、これが制御されていない場合には、放熱部品等として複合体を用いるときに、回路基板等との接合不良の原因となる。この反り量と表裏の金属層の厚み差には、密接な関係があり、厚み差が140μmを超えると、複合体の反り量が大きくなり過ぎて、放熱部品等として用いるに適当でなくなる。また、板状複合体の主面内に他の放熱部品にネジ止め固定できように、穴部を有している場合、その穴間距離が10cm以下の小型形状では、密着性良く放熱板を他の放熱部品にネジ止め固定するためには、複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が100μm以下であることが好ましい。
【0036】更に、本発明の第4の発明は、板状複合体(A)の厚さの平均値(TA)と、表裏の合金層の厚さの平均値の合計(TB)との比(TA/TB)が5?30である複合体である。TA/TBが5未満では、表面の該合金層の厚さが厚くなり過ぎて、熱膨張率や熱伝導率等の特性が低下してしまう。一方、TA/TBが30を超えると、表面の合金層が薄くなり過ぎ、表面部を機械加工等を行なう場合に、部分的に板状複合体が露出し、加工治具を破損するといった問題や、メッキ特性が低下するといった問題が発生する。また、表面の合金層の厚さを調整して、複合体の形状、具体的には反り量を調整する際にもある程度の合金層厚さが必要となるため、TA/TBは30以下である必要がある。
【0037】また、複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が50?250μmであり、合金層(B)の表面側の厚さの平均値(TB1;μm)と裏面側の厚さの平均値(TB2;μm)の差と複合体の最大長(L;cm)とが500<(TB1-TB2)×L<2500である。複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が250μmを超えると、本発明の複合体を放熱部品として用いる場合、回路基板等との接合不良が発生してしまうという問題や、放熱フィン等にネジ止めする際に、過大な曲げ応力が加わり、複合体が破損してしまうという問題が発生し易い。一方、この様な複合体からなる放熱部品を組み込んだパワーモジュール等の部品は、放熱フィン等にネジ止めされて用いられる。その場合、パワーモジュール等の部品と放熱フィンの接合面に応力が働くべく、接合面が凸型になっていることが、ネジ止め後の締め付け力が大きく放熱の面より好ましい。このため、複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が50μm未満では、放熱部品等として用いる場合の反り量が不足し、放熱特性に問題が生じることがある。
【0038】このような構造の複合体においては、合金層と板状複合体(金属-セラミックス複合体)の熱膨張係数の違いから、表裏の合金層の厚さ差があると、複合体自体の表裏の熱膨張差が発生し、その結果、複合体に反りが発生する。この様な反りは、表裏の合金層の厚み差と板状複合体のサイズに密接な関係があり、表裏の合金層の厚み差が大きくなると、また、板状複合体のサイズが大きくなると大きくなる。(TB1-TB2)×Lが2500を超えると、複合体の反り量が大きくなり過ぎて、また、(TB1-TB2)×Lが500未満では、複合体の反り量が小さくなり過ぎて、放熱部品として用いる場合、上述した様な問題があり好ましくない。
【0039】更に、本発明は、多孔質炭化珪素成形体の少なくとも一主面に段差を設けることを特徴とするものである。前述した様に、この様な構造の複合体においては、表裏の合金層の厚み差により複合体に反りが発生する。段差の形状に関しては、溝等の側面と連結した構造や、窪み等の側面と連結していない構造があり、これらの組み合わせも可能である。段差部の深さに関しては、段差部の面積により異なる。段差部の面積が大きい場合、段差部の平均深さは浅く、段差部の面積が小さい場合、段差部の平均深さは深くする必要がある。このため、所望の表裏の合金層の平均厚み差を付ける為に必要な表裏の段差部の体積差がある。表裏の段差部の体積差については、複合体の体積の3?15%であることが好ましい。3%未満では、表裏の合金層の厚み差が少なく、所望の反り量を得ることができない。また、15%を超えると、表裏の合金層の厚み差が大きくなり、複合体の反り量が大きくなり過ぎて、放熱部品等として用いる場合に回路基板等との接合不良等が起こり好ましくない。また、段差部の面積に関しては、主面の20?80%であることが好ましい。20%未満では、段差部の平均深さを極端に深くする必要があり、複合体の強度等の面より好ましくない。一方、80%を超えると、複合体表面の合金層の厚みむらが大きくなり好ましくない。この段差部は、多孔質炭化珪素成形体の一主面のみに設けても、両面に設けても、表裏の段差部に体積差があれば問題はない。
【0040】加えて、本発明は、枠内に2つの多孔質炭化珪素成形体を積層して配置した後、前記枠に鉄板を配置しボルト、ナットで固定してブロックとし、前記ブロックにアルミニウムを主成分とする金属を含浸することで得られる板状複合体であって、板状複合体の面内に他の放熱部品に当該板状複合体の凸面を向けてネジ止めするための4個以上の穴部を有し、当該炭化珪素質複合体が、多孔質炭化珪素成形体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなる2つの板状複合体(C、D)と、アルミニウムを主成分とする金属層(E)がECEDEの構造で積層してなる複合体であって、板状複合体(C)、(D)の炭素含有量の差が0.5?2.5重量%である。複合体を5層構造にすることにより、板状複合体(C、D)の組成を調整することができ、その結果、複合体に反りを付加することができる。具体的には、板状複合体(C、D)の炭化珪素含有量に相当する炭素含有量の差を0.5?2.5重量%とする。複合体中の炭化珪素含有量が増加するに従い、その熱膨張率は小さくなり、板状複合体Cと板状複合体Dの炭素含有量の差が熱膨張差となり、反りが発生する。炭素含有量の差が0.5重量%未満では、板状複合体Aと板状複合体Bの熱膨張差が小さすぎて、十分な反り量が得られない。また、炭素含有量の差が2.5重量%を超えると、板状複合体Cと板状複合体Dの熱膨張差が大きくなりすぎて、放熱部品等として用いるのに適さなくなる。
【0041】複合体の反り量としては、複合体の主面の長さ10cmに対する反り量が50?250μmであることが好ましい。複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が250μmを超えると、本発明の複合体を放熱部品として用いる場合、回路基板等との接合不良が発生してしまうという問題や、放熱フィン等にネジ止めする際に、過大な曲げ応力が加わり、複合体が破損してしまうという問題が発生する。一方、この様な複合体からなる放熱部品を組み込んだパワーモジュール等の部品は、放熱フィン等にネジ止めされて用いられる。その場合、パワーモジュール等の部品と放熱フィンの接合面に応力が働くべく、接合面が凸型になっていることが、ネジ止め後の締め付け力が大きく放熱の面より好ましい。このため、複合体の主面の長さ10cmに対しての反り量が50μm未満では、放熱部品等として用いる場合の反り量が不足し、本発明の目的を達成できないことがある。
【0042】また本発明は、前記の板状の複合体を350℃以上の温度で主面と垂直な応力を加えて塑性変形させることにより、反り付けを行うことを特徴とする炭化珪素質複合体の製造方法である。前記操作により、前記所望の反り量を有する板状の複合体を容易に得ることができる。この場合、予め所望の形状の内面を有する型に、複合体を押しつける方法が、再現性高く好ましい。尚、350℃未満の温度では、複合体中のアルミニウムを主成分とする金属が、実質的に塑性変形しないので、発明の目的を達しがたい。前記温度の上限については、600℃を越えるとアルミニウム合金の一部が液相を形成し、流動を生じることがあるが、流動を生じる温度まで加熱すると、その冷却時に凝固に伴う変形が生じることがあり好ましくない。
【0043】更に、本発明の複合体の室温(25℃)の熱伝導率は150W/mK以上である。熱伝導率が150W/mK未満では、放熱部品等として用いる場合に十分な放熱特性が得られず、その用途が限定されてしまうという問題がある。
【0044】また、本発明の複合体は、室温(25℃)から150℃に加熱した際の平均熱膨張係数が9×10^(-6)/K以下である。室温(25℃)から150℃に加熱した際の平均熱膨張係数が9×10^(-6)/Kを越えると、パワーモジュール等の放熱部品として用いる場合に、セラミックス基板との熱膨張係数の差が大きくなり過ぎて、加熱接合時や熱サイクル不可等により、セラミックス基板にクラックや割れ等が生じることがあり、信頼性が要求される放熱部品として用いる場合の用途が限定されてしまうという問題がある。
【0045】また、本発明の複合体は、密度が3g/cm^(3)程度と銅等の金属に比べ軽く、放熱部品等として用いる場合、部品の軽量化に有効である。一方、本発明の複合体は、曲げ強度が300MPa以上と高く、放熱部品等として用いるに十分な機械的特性を有している。
【0046】更にまた、本発明は、上述した複合体を用いることを特徴とする放熱部品である。本発明の放熱部品は、熱伝導特性に優れ且つ十分な機械的特性を有しており、ヒートシンク等として用いるに好適である。また、本発明の放熱部品は、密度が3g/cm^(3)程度と軽量であり、移動用機器に用いる放熱部品として好適である。本発明の放熱部品は、熱伝導特性に優れ、平均熱膨張率が9×10^(-6)/K以下と低いためヒートシンク等の放熱部品として用いる場合、従来の銅等を用いた場合に比べ、放熱部品と接合されるセラミックス基板との熱膨張差が小さく、基板上の半導体素子の作動時に発生する熱サイクル等によるセラミックス基板のクラックや割れ等を抑えることができる。このことにより、高い信頼性が要求される電機自動車等の移動用機器に用いる放熱部品として好適である。
【0047】また、半導体素子の集積化や大型化に伴い、これを搭載するセラミックス基板には、高い放熱特性が要求されている。窒化アルミニウム及び窒化珪素基板は、絶縁特性に優れ、放熱特性に優れており、本発明の放熱部品と接合して用いることにより、熱サイクル等の付加によるクラックや割れ等の極めて少ない高信頼性を得ることができる。
【0048】また、本発明の放熱板は、セラミックス基板を接合していない面を、放熱グリースを介して、平面板装着する際に、締め付けトルクが2N以上の条件において、前記面の90%以上が密着する特徴を有し、セラミックス基板上の半導体素子の作動時に発生する熱を速やかに放散することができ、高信頼性のモジュールを形成できる利点がある。
【0049】本発明の複合材の製造方法は、炭化珪素粉末に結合剤としてシリカゾル及び/又はアルミナゾル等を所定量添加混合し、所望の形状に成形する。成形方法は、乾式プレス成形、湿式プレス成形、押し出し成形、鋳込み成形等を用いることができ、必要に応じて保形用バインダーを添加してもよい。また、炭化珪素粉末に関しては、1種類の粉末を用いても良いが、複数の粉末を適宜粒度配合して高密度の成形体を容易に得ることができるので一層好ましい。次に、得られた成形体を、大気中又は窒素等の不活性ガス雰囲気中、温度700?1600℃で仮焼して炭化珪素質多孔体を製造する。一方、炭化珪素粉末に結合材としてシリコン粉末を添加混合して、同様の方法で製造することもできる。更に、炭化珪素質多孔体の製造方法に関しては、炭化珪素粉末やシリコン粉末と炭素粉末の混合粉末を、不活性ガス雰囲気中、温度1600?2200℃で焼成して製造することもできる。
【0050】得られた炭化珪素質多孔体は、所定形状に加工した後、熱衝撃による割れ等を防止するため予め加熱し、融点以上の温度に加熱したアルミニウムを主成分とする溶融金属を高圧で含浸させて複合体とする。複合体の表面の金属層の厚み調整は、炭化珪素質多孔体を加工する際に、表面部に溝等を付加することにより、含浸して得られる複合体の表面の合金層の厚さを調整することができる。また、Al合金の薄板を炭化珪素質多孔体の表面に積層して含浸することによっても調整できる。この場合、多孔体のみならず炭化珪素粉末を用いることもできる。更に、複合体の表面の金属層を機械加工することによっても複合体の表面の金属層の厚みを調整することができる。更に、金型等を利用し、該金型の空隙寸法よりも若干小さな寸法のプリフォームを前記空隙内に配置し、該金型内の前記空隙内に溶融金属を注入する方法によっても作製することができる。金属成分の含浸方法に関しては、特に限定はなく、高圧鋳造法、ダイカスト法等が利用できる。
【0051】
【実施例】以下、実施例、比較例をあげて、本発明を一層詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0052】[実施例1?10、比較例1]炭化珪素粉末A(大平洋ランダム社製:NG-220、平均粒径:60μm)、炭化珪素粉末B(屋久島電工社製:GC-1000F、平均粒径:10μm)及びシリカゾル(日産化学社製:スノーテックス)を表1に示す組成で配合し、攪拌混合機で30分間混合した後、100mm×100mm×5mmの形状に10MPaの圧力で成形した。
【0053】得られた成形体は、大気中、温度850℃で2時間加熱して、炭化珪素質多孔体とした。得られた炭化珪素質多孔体は、20mmφ×5mmの形状に加工して、その寸法と質量より相対密度(嵩密度)を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】次に、得られた炭化珪素質多孔体をダイヤモンド加工治具で表1に示す厚さに加工し、各試料10枚を離型剤を塗布した図1の型枠(材質:炭素鋼)にセットした後、各試料間を離型剤を塗布した0.7mm厚の鉄板で区切り、両端に12mm厚の鉄板を配した後、10mmφのボルト、ナットで固定して、一つのブロックを形成した。
【0056】次に、前記ブロックを電気炉で、温度700℃に予備加熱し、予め加熱しておいた内寸250mmφ×300mmの空隙を有するプレス型内に載置した後、温度850℃に加熱してある、表1に示すアルミニウム金属の溶湯を流し込み、100MPaの圧力で10分間プレスして、炭化珪素質多孔体にアルミニウム金属を含浸させた。得られた複合体を含む金属塊は、室温まで冷却したのち、湿式バンドソーにて切断して型枠を取り出し、更に型枠内から炭化珪素質複合体を離型した。得られた複合体は、ダイヤモンド加工治具を用いて、熱膨張率測定用試験体(3×4×10mm)、室温の熱伝導率測定用試験体(10mmφ×3mm)、3点曲げ強さ評価用試験体(3mm×4mm×40mm)に研削加工した。また、3点曲げ強さ評価用試験体の一部を用い、その断面を顕微鏡で観察し、複合体の表裏の金属層の厚みを9箇所について測定し、平均厚みを算出した。得られた結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】次に、それぞれの試験体を用いて、熱膨張計により室温から250℃の熱膨張率、レーザーフラッシュ法による室温の熱伝導率及び曲げ試験機による3点曲げ強さを測定した。また、3次元変位計により複合体の主面の長さ10cmに対する反り量を測定した。更に、熱伝導率測定用試験体の寸法と重量より、複合体の密度を算出した。得られた結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】上記実施例1?10、比較例1で得られた複合体の外周寸法はいずれも102×102mmであり、試料間の寸法バラツキは0.1mm以下であった。また、複合体の厚みは、各試料とも3.02mmであり、比較例1以外の試料に関しては、面内の厚みバラツキも0.05mm以下であった。
【0061】[実施例11]実施例2の型枠の代わり窒化珪素製の型枠を用い、成形体の一部に10mmφの穴を4カ所設けた。その他は、実施例2と同じ操作で複合体を作製し、得られた複合体の特性評価を行った。含浸後の型枠と複合体の離型は非常に良く、型枠の変形等は認められなかった。複合体の密度は2.98g/cm^(3)であり、表裏の金属層の平均厚さは共に30μmであった。また、熱伝導率は210W/mK、熱膨張係数は7.1×10^(-6)/K、曲げ強さは400MPa、複合体の主面の長さ10cmに対する反り量は40μmであった。複合体の寸法は、101×101mm×3.01mmであり、試料間のバラツキは非常に小さかった。また、成形体に設けた穴部は全て、金属層で満たされており、ハイス鋼のドリルで容易に穴加工を行うことができた。
【0062】[実施例12?17、比較例2]炭化珪素粉末A(大平洋ランダム社製:NG-220、平均粒径:60μm)、炭化珪素粉末B(屋久島電工社製:GC-1000F、平均粒径:10μm)及びシリカゾル(日産化学社製:スノーテックス)を表4の組成で配合し、攪拌混合機で30分間混合した後、180mm×120mm×5mmの形状に10MPaの面圧で成形した。得られた成形体は、大気中、温度850℃で2時間加熱して、炭化珪素質多孔体を作製した。得られた炭化珪素質多孔体は、20mmφ×5mmの形状に加工して、その寸法と質量より相対密度を算出した。得られた結果を表4に示す。
【0063】
【表4】

【0064】次に、得られた炭化珪素質多孔体をダイヤモンド加工治具を用いて表5に示す厚さの平板に加工し、離型剤を塗布した鉄製の厚さ3mmの枠内にプリフォームを表5に示すアルミニウム板と共にセットし、両端に12mm厚の鉄板を配した後10mmφのボルト、ナットで固定してブロックを形成した。次に、このブロックを電気炉で、温度700℃に予備加熱し、予め加熱しておいた250mmφ×300mmHのプレス型に載置した後、温度850℃に加熱した表1に示す合金の溶湯を流し込み、100MPaの圧力で10分間プレスして、炭化珪素質多孔体に合金を含浸させた。得られた炭化珪素質複合体を含む合金塊は、室温まで冷却したのち、ダイヤモンド加工治具で炭化珪素質複合体を削り出した。得られた炭化珪素質複合体は、ダイヤモンド加工治具を用いて、熱膨張率測定用試験体(3×4×10mm)、室温の熱伝導率測定用試験体(10mmφ×3mm)、3点曲げ強度評価用試験体(3mm×4mm×40mm)に研削加工した。また、3点曲げ強度評価用試験体の一部を用い、その断面を顕微鏡で観察し、複合体の表裏の合金層の厚さを9カ所測定し、平均値を算出した。
【0065】
【表5】

【0066】次に、それぞれの試験体を用いて、熱膨張計により室温から250℃の平均熱膨張係数、レーザーフラッシュ法による室温の熱伝導率及び曲げ試験機による3点曲げ強度を測定した。更に、熱伝導率測定用試験体の寸法と重量より、複合体の密度を算出した。得られた結果を表6に示す。また、複合体の表面をロール研摩機で磨き複合体表面の変質層を除去した後、3次元変位計により、複合体の主面の反り量を測定した。得られた結果を表6に示す。
【0067】
【表6】

【0068】[実施例18?22]実施例12の炭化珪素多孔体をダイヤモンド工具を用いて2.95mm厚に加工した後、更に表面部を図2に示す形状で、表7の深さ及び面積となるように加工を施した。得られた加工体を、実施例12と同様の含浸条件で含浸して複合体を作製した。得られた複合体は、実施例12と同様の方法で評価を行なった。その結果を表8に示す。
【0069】
【表7】

【0070】
【表8】

【0071】[実施例23]実施例12、13の炭化珪素多孔体をダイヤモンド工具を用いて1.9mm厚に加工した後、離型剤を塗布した鉄製の厚さ4mmの枠内に実施例12と13のプリフォームをセットし、両端に12mm厚の鉄板を配した後10mmφのボルト、ナットで固定してブロックを形成した。次に、このブロックを、実施例12と同様の含浸条件で含浸して複合体を作製した。得られた複合体は、ダイヤモンドカッターで切断し、その切断面を実態顕微鏡で観察した結果、合金層-複合体層-合金層-複合体層-合金層からなる5層構造となっていた。次に、実施例12と同様の方法で評価を行なった。得られた複合体の密度は2.98g/cm^(3)であり、熱伝導率は200W/mK、熱膨張係数は7.3×10^(-6)/K、曲げ強さは410MPa、複合体の主面の長さ10cmに対する反り量は150μmであった。
【0072】〔実施例24?26、28、30、31、参考例27、29、比較例3?6〕炭化珪素粉末C(大平洋ランダム社製「NG-150」平均粒径:100μm)、炭化珪素粉末B(屋久島電工社製「GC-1000F」平均粒径:10μm)及びシリカゾル(日産化学社製「スノーテックス」)を60:40:3の重量比率で配合し、攪拌混合機で30分間混合した後、105mm×155mm×6mmの形状に10MPaの面圧で成形した。その後、前記の成形体を、大気中、900℃で2時間加熱して、炭化珪素質多孔体を作製した。得られた炭化珪素質多孔体は、20mmφ×5mmの形状に加工して、その寸法と質量より相対密度を算出した結果、66%であった。
【0073】次に、得られた炭化珪素質多孔体をダイヤモンド加工治具を用いて厚さ5mmに加工し、電気炉で、温度700℃に予備加熱し、予め加熱しておいた内径250mm×高さ300mmのプレス型内に載置した後、温度850℃に加熱したアルミニウム合金(ADC-12)の溶湯を流し込み、100MPaの圧力で10分間プレスして、炭化珪素質多孔体に合金を含浸させた。炭化珪素質複合体を含む合金塊を室温まで冷却した後、ダイヤモンド加工治具を用いて炭化珪素質複合体を削り出した。得られた炭化珪素質複合体は、100×150mm(コーナー部:R3)の形状に外周加工、並びに6箇所に7mmφの穴加工を施した(図9(c)参照)のち、更に、3次元ミルで面加工して、所定の形状、厚さ、反り量を有するいろいろな複合体を作製した。
【0074】前記のいろいろな炭化珪素質複合体について、マイクロメーターで厚さ、3次元変位計により反り量を測定し、所望の寸法に加工されていることを確認した。得られた結果を表9に示す。
【0075】
【表9】

【0076】また、前記操作で得たいろいろの複合体について、片面側にシリコングリス(信越化学工業社製)を厚さ50μmとなるように秤量して塗布したのち、厚さ30mmのアクリル板に6Mのネジを用いて3Nの締め付けトルクで取り付けた。1分間放置後、ネジ止めをはずし、シリコングリス塗布面の密着率(面積比率)を測定した。その結果を表9に示す。
【0077】〔実施例32?34〕参考例29で作製した炭化珪素質複合体を、図10に示すSUS-304製の治具にセットし、M10のネジで各種変位量を負荷した後、温度500℃の電気炉で30分間加熱したのち、室温まで冷却して負荷を解放した。得られた複合体の反り量を表10に示す。次に、得られた複合体を実施例24と同様の方法で評価した結果を表10に示す。
【0078】
【表10】

【0079】〔実施例35、36、比較例7〕実施例24で作製した、炭化珪素質複合体に無電解Niメッキ処理を行い、複合体表面に10μm厚のメッキ層を形成した。メッキ処理した複合体表面に100μm厚の半田ペーストをスクリーン印刷し、実施例35ではその上に市販の窒化アルミニウム基板を、実施例36では市販の窒化珪素基板を搭載し、温度300℃のリフロー炉で5分間加熱処理してセラミックス基板を接合させた。尚、比較例7は、銅板を用いて実施例35と同様の手法で、メッキ処理後、窒化アルミニウム基板を接合した。
【0080】次に、これらのセラミックス基板を接合した複合体を用いて、-40℃?150℃の温度幅で3000回のヒートサイクル試験を行った。実施例35及び実施例36は、ヒートサイクル試験後もセラミックス基板の回路間のクラックの発生や回路の剥離は認められなかった。一方、比較例7に関しては、ヒートサイクル30回でセラミックス基板の回路間にクラックが発生した。
【0081】
【発明の効果】本発明の複合体は、炭化珪素質多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸してなることから、複合体の加工コストが低減でき、熱伝導率が高く、平均熱膨張係数がセラミックス基板に近くかつ軽量であるという特徴を有し、半導体搭載用セラミックス基板と接合して用いる放熱部品として、信頼性に優れかつ電機自動車等の移動機器等に好適な放熱部品を安価に提供することができる。加えて、本発明の複合体は、特定量の反りを有していて、例えば、放熱板として用いた場合に、セラミックス基板を放熱フィン等の放熱部品に密着性良くネジ止め固定することができ、放熱性が安定した、従って高信頼性のモジュールを形成することができるという効果があり、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に用いた金型で、平面図と側面図。
【図2】本発明の複合体に用いる多孔質炭化珪素成形体の一例を示す図。
【図3】本発明の複合体に用いる多孔質炭化珪素成形体の他の一例を示す図。
【図4】本発明の複合体に用いる多孔質炭化珪素成形体の他の一例を示す図。
【図5】本発明の複合体に用いる多孔質炭化珪素成形体の他の一例を示す図。
【図6】本発明の複合体に用いる多孔質炭化珪素成形体の他の一例を示す図。
【図7】本発明の複合体に用いる多孔質炭化珪素成形体の他の一例を示す図。
【図8】本発明の複合体に用いる多孔質炭化珪素成形体の他の一例を示す図。
【図9】本発明に係る複合体を例示する平面図。但し、(b)図は参考例である。
【図10】本発明の実施例に用いた治具の説明図。
【図面】










 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-09-04 
結審通知日 2017-09-13 
審決日 2017-09-26 
出願番号 特願平11-285429
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (C04B)
P 1 113・ 536- YAA (C04B)
P 1 113・ 113- YAA (C04B)
P 1 113・ 121- YAA (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 板谷 一弘米田 健志  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 後藤 政博
新居田 知生
登録日 2003-09-05 
登録番号 特許第3468358号(P3468358)
発明の名称 炭化珪素質複合体及びその製造方法とそれを用いた放熱部品  
代理人 柳下 彰彦  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 小栗 久典  
代理人 重森 一輝  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 小栗 久典  
代理人 柳下 彰彦  
代理人 城山 康文  
代理人 小野 誠  

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