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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B27M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B27M
審判 全部申し立て 2項進歩性  B27M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B27M
管理番号 1344881
異議申立番号 異議2018-700546  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-09 
確定日 2018-10-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6258605号発明「床材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6258605号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6258605号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成25年5月20日に特許出願され、平成29年12月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年7月9日に特許異議申立人岩谷幸祐(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6258605号の請求項1?3の特許に係る発明(以下、「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
1 本件発明1?本件発明3は、甲第1号証または甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。
2 本件発明1?本件発明3は、甲第1号証?甲第5号証に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。
3 本件発明1?本件発明3は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(甲第6号証)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、同法第113条第2号に該当し、取消されるべきである。
4 本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明は、明確ではなく、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取消されるべきである。
5 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?本件発明3を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載していない。従って、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取消されるべきである。

甲第1号証:藤田彰介外2名、“ファイバーボード/パーティクルボードの加工”訂正版、森北出版株式会社、1976年6月10日、p.1-15
甲第2号証:池田修三、千野昭、“各種ハードボードの表面性質”、林産試験場月報、林産試験場、1967年7月、1967年7月号
甲第3号証:特開2009-196188号公報
甲第4号証:特開2008-6727号公報
甲第5号証:特開2009-79427号公報
甲第6号証:特開2014-73587号(特願2012-220728号)

第4 甲号証について
1 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載事項(下線は、決定で付した。以下同じ。)
ア 「3.ハードボード
セミハードボードより強い圧力で熱圧されたもので,強度は高く,二次加工による曲げ・穴あけ等が容易にできる特性があり,広く建築材として使用され・・・ている.」(5頁8?12行)

イ 「(3)単板オーバレイ板 合板に使用されるものと同様な,スライサー単板,ロータリー単板をオーバレイして,木材の持味をより加味したもので,曲げ加工が容易であり,テレビ・ラジオなどのキャビネット類に使用される.」(6頁9?12行)

ウ 「(9)組合せ板 ハードボードと他の材料,すなわち合板,パーティクルボード,合成樹脂板またはインシュレーションボードなどと張り合せたもので,おのおのの特長を生かし,欠点をカバーしたすぐれた材質のボードが得られる。
ハードボードまたは単板オーバレイボードを表面にし,耐水性合板と組み合わせたものは床材に利用され,一般の木材フローリングに比べて幅広のものが得られ,施工性・耐摩耗性にすぐれている.」(7頁13?24行)

エ 「d)表面の状態による分類 ハードボードは,製品表面の状態により分類すれば,つぎの2種類がある.
(1)片面平滑ボード(Screen-back Board) S-1-Sボードと呼ばれ,片面に金網を用いてプレスした網目付ボードで,湿式法により製造されたものである.」(8頁1?5行)

オ 「製造方式には多くの種類があり,ホーミング,乾燥熱圧成板工程で分類すれば,つぎのように大別できる.
・・・・・
(ii )ウエットプレッシング(湿式熱圧)法-製品,片面平滑あるいは両面網目のハードボードまたはセミハードボード」(8頁16?21行)

カ 「第1.5図 ハードボードの製造方式」(9頁)から,ウエットフォミング(ウエットプレッシング方式)は、「抄造」工程、「プレス」工程(乾分30?55%)を経て、「片面平滑(S-1-S)ボード」という製品を得る点が看て取れる。

キ 「3. 成形(ホーミング)工程
この工程は,サイズ処理その他の調整処理を行なったパルプ原質を,湿式法によって大量の水(パルプ濃度1?2%)に分散し,ウエットホーミングマシンによってある程度脱水して厚いマット状のパルプウエットシートにするものと,
・・・・・・
と,大別して2とおりある。 ウエットホーミングマシンには,不連続式(溜め抄き型)減圧脱水型と連続式丸網型(単胴式・双胴式)・長網型の各種のものがあり,一般に含水率65?75%に脱水される.」(12頁2?18行)

ク 「b) ウエットプレッシング(湿式熱圧) ウエットシートをホットプレスにより熱圧乾燥固化し,ハードボードまたはセミハードボードにする。この際水分の排除を容易にするために,片面または両面に金網を当てて熱圧する.」(13頁3?6行)

ケ 「第1.3表 国際連合FAO資料によるファイバーボードの一般的性質」(15頁)から、ハードボードの比重が0.90?1.05である点が看て取れる。

コ 上記ウの「ハードボード・・・を表面にし,耐水性合板と組み合わせたもの」は、2つの板を合わせた合板といえるから、複合合板であるといえる。

(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)のア?コを踏まえると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「複合合板であり、建築材として使用される床材であって、
上記複合合板は、
耐水性合板と、
該耐水性合板の表面にされた、湿式法により製造された片面平滑(S-1-S)ボード(ハードボード)と、を張り合わせ、
上記片面平滑(S-1-S)ボード(ハードボード)は、片面に金網を用いてプレスした網目付ボードである、
床材。」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証の記載事項
ア 「各種ハードボードの表面のブリネル硬さ、ショア硬さ、耐摩耗性、剥離抵抗を測定した結果、ブリネル硬さはボードの平均比重に比例し、耐摩耗性と剥離抵抗はボードの表面比重にほぼ比例することを認めた。」(1枚目左欄1?4行)

イ 「第3図に示すように,ブリネル硬さはボードの平均比重にほぼ比例する。」(4枚目左欄9?10行)

ウ 「第1表 供試材料の種類」(2枚目)から、ハードボードのうち、湿式法で製造された片面平滑(S1S)のハードボードは、メーカー記号A , B ,C ,Dのものであり、平均比重は、0.86?1.02、表面比重は0.96?1.16の範囲にある点が看て取れる。さらに、「第3表 供試材面の硬さ、耐摩耗性、剥離抵抗の試験結果」(5枚目)及び「第1表」からは、湿式法で製造された片面平滑(S1S)のハードボード(メーカー記号A,B,C,D)のブリネル硬さは,1.5?3.3kg/mm^(2)の範囲にある点が、看て取れる。

3 甲第3号証
(1)甲第3号証の記載事項
ア 「【0002】
表層としての木質繊維板と合板基材との積層体からなる木質複合基材は知られており、そのような木質複合基材を基材として用い、その表面に、突き板や化粧シートのような化粧層を積層して床材や内装材のような木質化粧板とすることも知られている。使用する木質繊維板としては、MDF(中密度繊維板)が主に用いられるが、他にハードボードのような木質繊維板も用いられる。合板基材と表面化粧層との間に、このような薄手(通常、1mm以下)の木質繊維板を配置することにより、表面化粧層に割れ等の不都合が生じるのを回避することができる。
【0003】
木質繊維板は、その製造プロセスの関係で、厚さ方向に密度差が生じるのを避けられない。通常、厚さ方向に、高密度層と低密度層と高密度層とが各層間に密度勾配を持ちながらこの順で積層したような構成となる。例えば、MDFの場合、表層である高密度層の密度は、0.9?1.1程度、内層である低密度層の密度は、0.6?1.0程度である。
製造態様によっては、低密度層と高密度層と低密度層とがこの順で厚さ方向に層構造をなす木質繊維板も形成される。」

イ 「【0012】
本発明による木質複合基材の第1の態様は、厚さ方向に密度が異なる木質繊維板を厚さ方向に分割して得られた分割木質繊維板と合板基材との積層体からなる木質複合基材であって、前記分割木質繊維板は木質繊維板を厚さ方向に変則分割して得られた高密度層と低密度層とを有する分割木質繊維板でありかつ樹脂が含浸された分割木質繊維板であることを特徴とする(請求項1)。上記の態様において、前記分割木質繊維板は、その高密度層側が合板基材と接着していてもよく、低密度層側が合板基材と接着していてもよい。」

ウ 「【0023】
なお、本出願の各発明において、使用する木質繊維板は、MDF(中密度繊維板)が好適であるが、他に、ハードボード、HDF(高密度繊維板)のような木質繊維板も用いることができる。また、いずれの木質繊維板を用いる場合も、分割木質繊維板を構成する低密度層は、層全体の密度(平均密度)が0.75g/cm^(3)以下のものであってよい。」

(2)甲第3号証に記載された発明
上記(1)のア?ウを踏まえると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲3発明)
「木質化粧板からなる床材であって、
上記木質化粧板は、
合板基材と、
該合板基材に、表層として積層される木質繊維板(ハードボード)と、
木質繊維板(ハードボード)と合板基材との積層体からなる木質複合基材の表面に積層された化粧層と、を有しており、
上記木質繊維板(ハードボード)は、厚さ方向に密度差が生じている、
床材」

4 甲第4号証
(1)甲第4号証の記載事項
ア 「【請求項1】
基材の表面に木質繊維板を貼り合わせてなる複合基材における前記木質繊維板の表面を平滑化する方法であって、工具として刃体を備えた切削工具を用い、該切削工具を基材側への押し付け力が木質繊維板に生じないように保持し、かつ刃体を木質繊維板の表面に平行方向に移動して、木質繊維板の表面の削り落としを行うことを特徴とする表面平滑化方法。」

イ 「【0002】
合板等を基材とし、その上に厚さ0.2?0.3mm程度の薄突きの意匠用突き板を貼り合わせた床材等の化粧板は知られている。この形態の化粧板では、基材表面の凹凸がその上に貼り付けた意匠用突き板にまで影響を及ぼす場合がある。基材表面に生じる凹凸の要因としては、例えば針葉樹合板の場合、針葉樹材に多く見られる早晩材の硬さの違いによるものや、節、節穴によるものなどがある。突き板表面に基材表面の凹凸の影響が現れると、突き板表面を塗装したときに、凹凸に沿って表面色に濃淡が現れる等の不都合が起こりやすい。
【0003】
それに対処するために、合板基材と表面化粧材(突き板)との間に中質繊維板を挟み込むようにした木質化粧板が提案されている(特許文献1)。この木質化粧板では、表面化粧材の表面性状を中質繊維板に依存できるので、基材となる合板材料にラワン材や針葉樹材のような安価な材料を使用できるという利点がある。」

ウ 「【0012】
本発明の方法において、切削対象物となる複合基材を構成する基材はどのようなものであってもよい。例として、針葉樹合板やラワン合板のような合板材、単板積層材あるいは集積材等が挙げられる。木質繊維板も従来の化粧板(床材等)で用いられている厚さ0.5?3mm程度の木質繊維板をそのまま用いることができ、例として、MDF(中質繊維板)、HB(硬質繊維板)等が挙げられる。」

(2)甲第4号証に記載された事項
上記(1)のア?ウを踏まえると、甲第4号証には、次の事項(以下、「甲第4号証に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲第4号証に記載された事項)
・基材の表面に木質繊維板を貼り合わせてなる複合基材。
・針葉樹合板の場合に、針葉樹材に多く見られる早晩材の硬さの違いや、節、節穴による基材表面の凹凸が、その上に貼り付けた意匠用突き板にまで影響を及ぼす場合があること。
・合板基材と表面化粧材(突き板)との間に中質繊維板を挟み込むようにした木質化粧板。
・木質繊維板の例として、HB(硬質繊維板)が挙げられること。

5 甲第5号証
(1)甲第5号証の記載事項
ア 「【請求項1】
少なくとも表面が硬質な木質基材の表面に、接着層を介して木質薄単板が積層一体化された化粧板であって、
上記接着層は、厚みが30μm以上でかつ75μm以下であり、硬度がタイプAデュロメーターで30°以下となる基材側接着剤で構成され、
上記接着層と木質薄単板との間には紙層が設けられていることを特徴とする化粧板。」

イ 「【0028】
(木質基材)
木質基材は、少なくとも表面が硬質な木質基材で構成されていれば、例えば木材でもよいし、インシュレーションボードやMDF、ハードボード等の木質繊維板でもよいし、合板、パーティクルボードでもよい。」

ウ 「【0030】
また、合板等の表面にMDFやハードボード等の硬質木質基材を貼着してもよい。この場合、MDFやハードボード等は樹脂含浸強化されたものでもよい。」

エ 「【0042】
(木質薄単板)
木質薄単板としては、天然木質材や、これらの積層物をスライスした薄切片を使用することができる。天然木質材は、針葉樹、広葉樹、いわゆる早生樹等、どのようなものでも使用することができる。また、天然木質材の積層物をスライスしたものとは、いわゆる人工突板といわれるものである。」

(2)甲第5号証に記載された事項
上記(1)のア?エを踏まえると、甲第5号証には、次の事項(以下、「甲第5号証に記載された事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲第5号証に記載された事項)
・表面が硬質な木質基材の表面に、接着層を介して木質薄単板が積層一体化された化粧板。
・木質基材として、合板等の表面にハードボードの硬質木質基材を貼着したものでもよいこと。
・木質薄単板として、広葉樹を使用することができること。

6 甲第6号証
(1)甲第6号証の記載事項
ア「【請求項1】
針葉樹板の表面、又は両面に低比重の裏面エンボス層を有した湿式硬質繊維板(ハードボード)接着したことを特徴とする、化粧台板針葉樹複合合板。」

イ「【0003】
又、針葉樹合板を基材とし、その表面に木質繊維板を載置して接着して作られた複合合板3種が知られている。(特許文献1参照)」

ウ「【0005】
針葉樹合板は節等が多く表面に化粧単板、合成樹脂シート、合成樹脂系フイルム、コート紙、アフターコート紙を接着すると、節等欠点が化粧された表面に欠点として出るため、化粧針葉樹合板を作成することは困難であった。針葉樹合板の片面又は両面に湿式硬質繊維板(ハードボード)を接着した化粧台板針葉樹複合合板において、化粧された表面に現れる欠点をカバーする必要があった。
【0006】
本願発明は請求項1に記載のとおり、針葉樹合板の表面又は、表裏面に湿式硬質繊維板(ハードボード)の裏面に出来る湿式裏面エンボス層を針葉樹合板の表面に接着したことを特徴とする、化粧台板針葉樹複合合板である。・・・」

エ「【0011】
裏面の網目跡であるエンボス層・・・」

オ 上記ウから、「針葉樹合板」と「湿式硬質繊維板(ハードボード)」は、いずれも板体であり、これら2つの板が接着され、その表面が化粧された「化粧台板針葉樹複合合板」は、複数の板体で形成されているといえることから、針葉樹合板の片面に湿式硬質繊維板(ハードボード)を接着した化粧台板針葉樹複合合板の表面が化粧されたものも、複合合板からなる板材である。

(2)甲第6号証に記載された発明
上記(1)のア?オを踏まえると、甲第6号証には、次の発明(以下、「甲6先願発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲6先願発明)
「複合合板からなる板材であって、
上記複合合板は、
針葉樹合板と、
該針葉樹合板の片面に接着された湿式硬質繊維板(ハードボード)と、を有し、
表面が化粧されており、
湿式硬質繊維板(ハードボード)の裏面に出来る湿式裏面エンボス層を針葉樹合板の表面に接着し、
上記湿式硬質繊維板(ハードボード)は、裏面に網目跡であるエンボス層が出来ている、
板材。」

第5 判断
1 新規性欠如・進歩性欠如について(29条1項3号29条2項)
(1)甲第1号証を主引例として
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると
甲1発明の「複合合板であり」は、本件発明1の「複合合板からなる」に相当し、
甲1発明の「建築材として使用される床材であって」は、本件発明1の「建築用板材としての床材であって」に相当する。

また、甲1発明の「耐水性合板」は、木質であることは明らかであり、そして、「片面平滑(S-1-S)ボード(ハードボード)」を「表面」にすえる基板であるといえるから、本件発明1の「木質基板」に相当する。

さらに、甲1発明の「湿式法により製造された片面平滑(S-1-S)ボード(ハードボード)」は、本件発明1の「湿式ハードボード」に相当し、また、甲1発明の「耐水性合板」の表面に、「片面平滑(S-1-S)ボード(ハードボード)」があることは、両者が積層している状態のものといえるから、甲1発明の「該耐水性合板の表面にされた、湿式法により製造された片面平滑(S-1-S)ボード(ハードボード)」は、本件発明1の「該木質基板の表面に積層された湿式ハードボード」に相当する。

さらに、甲1発明の「耐水性合板」と「片面平滑(S-1-S)ボード(ハードボード)」とを、「を張り合わせ」ることは、本件発明1の「木質基板」と「湿式ハードボード」とを「互いに接合してなり、」に相当する。

さらに、甲1発明の、製造時に、片面に金網を用いてプレスすることによりボードに付された「網目」の部分は、「凹凸」が形成された「エンボス層」であるといえるから、甲1発明の「片面に金網を用いてプレスした網目付」である点は、本件発明1の「凹凸を形成してなるエンボス層を有」する、に相当する。

そうすると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「複合合板からなる建築用板材としての床材であって、
上記複合合板は、
木質基板と、
該木質基板の表面に積層された湿式ハードボードと、
を互いに接合してなり、
上記湿式ハードボードは、上記軟質面に凹凸を形成してなるエンボス層を有する、
ことを特徴とする床材。」

<相違点1>
複合合板において、本件発明1が、「該湿式ハードボードにおける上記木質基板と反対側の表面に積層された化粧層」を有し、「上記化粧層は、広葉樹の突板からなるものである」のに対して、甲1発明では、そのような特定がなされていない点。
<相違点2>
湿式ハードボードについて、本件発明1では、「一方の主面に硬質面を、他方の主面に上記硬質面よりも軟質の軟質面をそれぞれ備え、上記硬質面を上記化粧層側に向け、上記軟質面を上記木質基板側に向けた状態で、上記木質基板と上記化粧層との間に介在しており」、「上記硬質面は、鉛筆硬度がH?4Hで」あるのに対して、甲1発明では、そのような特定がなされていない点

上記のとおり、本件発明1と甲1発明とは上記の点で相違するので、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。したがって、本件発明1は、新規性を有する。

上記相違点について。
先に、相違点2について検討すると、甲第2号証?甲第5号証のいずれにも、相違点2に係る本件発明1の構成、すなわち、湿式ハードボードについて、一方の主面に硬質面を、他方の主面に上記硬質面よりも軟質の軟質面をそれぞれ備え、上記硬質面を化粧層側に向け、上記軟質面を上記木質基板側に向けた状態で、上記木質基板と化粧層との間に介在させ、上記硬質面について、鉛筆硬度がH?4Hとしたものは、記載も示唆もされていない。
よって、甲1発明に甲第2号証?甲第5号証に記載された発明又は事項を適用しても、相違点2に係る本件発明1の構成に想到することはできない。

申立人は、「化粧層は、床材の表面材となる層であり、表面性状が良好であることが求められるところ、例えば、甲第4号証の記載4-1に示すように、基材表面の凹凸の影響が突き板表面に現れないようにすることは当業者の常套手段に過ぎない。すなわち、当業者であれば、「片面平滑ボード」の平滑面(硬質面)を化粧層側に向けることは当然のことである。」と主張し(申立書15頁23?27行)、
また、「本件特許明細書の段落0022・・・の記載からすれば、本発明に用いられる「湿式ハードボード3」は、JIS A 5905:2003に規定されるような、通常の方法で製造された湿式ハードボードに過ぎないということである。そして、通常の方法で製造された湿式ハードボード(密度が0. 80g/cm^(3)以上)であれば、「鉛筆硬度がH?4H」なる規定を満足するというのであるから、当然のことながら、甲第1号証に記載の「片面平滑ボード」の鉛筆硬度も「H?4H」であると解するほかはない。そもそも、本件特許明細書には「鉛筆硬度」の「H?4H」なる数値限定について臨界的な意義が記載されていないから、この「H?4H」なる数値限定は、湿式ハードボードには硬質面と軟質面とがあるという技術事項を示すに過ぎないと解される。なお、各種ハードボードにおいて、密度が高ければ硬さが高くなることは技術常識である。例えば、甲第2号証の記載2-1および記載2-3に示されるように、湿式ハードボードの表面の硬さは、ボードの平均比重(密度と同義である。)に比例する。」と主張する(申立書16頁13行?17頁5行)。

しかしながら、甲第4号証には、針葉樹合板の場合に、針葉樹材に多く見られる早晩材の硬さの違いや、節、節穴による基材表面の凹凸が、その上に貼り付けた意匠用突き板にまで影響を及ぼす場合があることが示されるだけであるから、「片面平滑ボード」の平滑面(硬質面)を化粧層側に向けることが記載ないしは示唆されているとはいえない。なお、甲第3号証をみると、「前記分割木質繊維板は、その高密度層側が合板基材と接着していてもよく、低密度層側が合板基材と接着していてもよい。」(【0012】)と記載されており、高密度層側が合板基材と接着することも示唆されていることから、「密度」が高い側の面が、必ず化粧層側に位置するように構成されるものではない。
また鉛筆硬度について、本件特許明細書の段落【0022】の記載は「湿式ハードボード3は、軟質面32の反対側に硬質面31を有する。すなわち、上記のように湿式製法により得られた湿式ハードボード3は、高温のプレス型(熱板)によってプレスされた側の面に近い厚み領域を高密度に成形することができる。その結果、湿式ハードボード3における硬質面32は、鉛筆硬度をH?4Hとすることができる。」というものであり、すなわち「鉛筆硬度をH?4Hとすることができる」と記載されているに止まるもので、通常の方法で製造すれば(必ず)「鉛筆硬度がH?4H」となるという記載ではない。よって、申立人の主張に根拠はなく、また他の証拠をみても当該「鉛筆硬度」は示されていない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。

よって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲第2号証?甲第5号証に記載の発明又は事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明又は事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、その特許は特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の構成をすべて含み更に減縮した発明であるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2及び3は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、本件発明2及び3は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明又は事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(2)甲第3号証を主引例として
ア 本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比すると
甲3発明の「木質化粧板」は、「合板基材」と、「木質繊維板(ハードボード)」と、「化粧層」とを有した、すなわち、複合された合板であるといえるから、甲3発明の「木質化粧板からなる」は、本件発明1の「複合合板からなる」に相当する。
また、甲3発明の「床材」は、本件発明1の「床材」に相当し、
甲3発明の「合板基材」は、本件発明1の「木質基板」に相当する。

さらに、甲3発明の「該合板基材に、表層として積層される木質繊維板(ハードボード)」と、本件発明1の「該木質基板の表面に積層された湿式ハードボード」とは、「該木質基板の表面に積層されたハードボード」の点で共通する。

さらに、甲3発明の「木質繊維板(ハードボード)と合板基材との積層体からなる木質複合基材の表面に積層された化粧層と」は、「化粧層」が「木質繊維板(ハードボード)」の「合板基材」がある側とは反対側に積層されていることは明らかであるから、本件発明1の「ハードボードにおける上記木質基板と反対側の表面に積層された化粧層と」に相当する。
さらに、甲3発明の「木質化粧板」において、「合板基材」と「木質繊維板(ハードボード)」と「化粧層」とが積層されていることは、本件発明1の「互いに接合」に相当する。
そうすると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「複合合板からなる床材であって、
上記複合合板は、
木質基板と、
該木質基板の表面に積層されたハードボードと、
該ハードボードにおける上記木質基板と反対側の表面に積層された化粧層と、を互いに接合してなる、
ことを特徴とする床材。」

<相違点1>
床材が、本件発明1では、「建築用板材としての」床材であるのに対して、甲3発明では、そのような特定がなされていない点。
<相違点2>
化粧層が、本件発明1では、「広葉樹の突板からなるものであるの」に対して、甲3発明では、そのような特定がなされていない点。
<相違点3>
ハードボードについて、本件発明1では、「湿式ハードボード」であって、「一方の主面に硬質面を、他方の主面に上記硬質面よりも軟質の軟質面をそれぞれ備え、上記硬質面を上記化粧層側に向け、上記軟質面を上記木質基板側に向けた状態で、上記木質基板と上記化粧層との間に介在しており、上記湿式ハードボードは、上記軟質面に凹凸を形成してなるエンボス層を有し、」、「上記硬質面は、鉛筆硬度がH?4Hで」あるのに対して、甲3発明では、そのような特定がなされていない点

上記のとおり、本件発明1と甲3発明とは上記の点で相違するので、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明ではない。したがって、本件発明1は、新規性を有する。

上記相違点について。
先に、相違点3について検討すると、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証のいずれにも、相違点3に係る本件発明1の構成、すなわち、ハードボードについて、湿式ハードボードであって、一方の主面に硬質面を、他方の主面に上記硬質面よりも軟質の軟質面をそれぞれ備え、上記硬質面を化粧層側に向け、上記軟質面を上記木質基板側に向けた状態で、上記木質基板と化粧層との間に介在させ、上記湿式ハードボードは、上記軟質面に凹凸を形成してなるエンボス層を有し、上記硬質面について、鉛筆硬度がH?4Hとしたものは、記載も示唆もされていない。
よって、甲3発明に甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明又は事項を適用しても、相違点3に係る本件発明1の構成に想到することはできない。

したがって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明、並びに甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載の発明又は事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

申立人は、
「甲第3号証には、ハードボードの種類が「湿式ハードボード」であることが明示されていない点で相違する。しかし、甲第1号証および甲第2号証の記載から明らかなように、「湿式ハードボード」は、一般に「片面平滑ボード(S-1-Sボード)」とも呼ばれるボードであり、多数のメーカーが製造販売している汎用のハードボードである。」と主張し(申立書19頁8-12頁)、
また、「上述(本決定注:本件特許明細書の段落0022に係る記載)のように、「湿式ハードボード」が一般に「片面平滑ボード」とも呼ばれる汎用のハードボードである。してみると、甲第3号証の床材において木質繊維板として汎用の「片面平滑ボード」を用いる際、当業者は、記載3-2に従って、高密度の平滑面を化粧材側に向け、低密度の網目面(エンボス面)を合板(木質基材)側に向けるはずである。」と主張し (申立書19頁24行-20頁1行)、
さらに、「甲第3号証には、記載3-1および記載3-3に示すように、ハードボードを用いることが記載されているものの、「鉛筆硬度」について記載されていない点で相違する。しかし、上述のように、本発明に用いられる「湿式ハードボード3」は、JIS A 5905:2003に規定されるような、通常の方法で製造された湿式ハードボードに過ぎず、そのような通常の方法で製造された湿式ハードボード(密度が0.80g/c m^(3) 以上)であれば、「鉛筆硬度がH?4H」なる規定を満足するというのであるから、当然のことながら、甲第3号証に記載のハードボードの鉛筆硬度も「H ?4H」であると解するほかはない。」と主張する(申立書20頁5-13行)。

しかしながら、甲第3号証には「ハードボード」が「湿式」により製造されたものであることは記載も示唆もされていないのであるから、甲第3号証に記載のハードボードを湿式ハードボードと認定することはできない。なお、「湿式ハードボード」が、「片面平滑ボード(S-1-Sボード)」と呼ばれるボードであり、多数のメーカーが製造販売している汎用のハードボードであるからといって、甲第3号証に記載の「ハードボード」を「湿式ハードボード」と解することはできない。
また、甲第3号証に記載のハードボードは、上記のとおり湿式ハードボードではないのであるから、甲第3号証のハードボードを湿式ハードボードであることを前堤として、化粧材、合板(木質基材)との相対関係や「鉛筆硬度」を検討することはできない。
また鉛筆硬度について、本件特許明細書の段落【0022】の記載は「湿式ハードボード3は、軟質面32の反対側に硬質面31を有する。すなわち、上記のように湿式製法により得られた湿式ハードボード3は、高温のプレス型(熱板)によってプレスされた側の面に近い厚み領域を高密度に成形することができる。その結果、湿式ハードボード3における硬質面32は、鉛筆硬度をH?4Hとすることができる。」というものであり、すなわち「鉛筆硬度をH?4Hとすることができる」と記載されているに止まるもので、通常の方法で製造すれば(必ず)「鉛筆硬度がH?4H」となるという記載ではない。よって、申立人の主張に根拠はなく、また他の証拠をみても当該「鉛筆硬度」は示されていない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。

以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲3発明、並びに、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明又は事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないので、その特許は特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の構成をすべて含み更に減縮した発明であるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2及び3は、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、本件発明2及び3は、甲3発明、並びに、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明又は事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

2 拡大先願について(29条の2)
ア 本件発明1について
本件発明1と甲6先願発明とを対比すると
甲6先願発明の「複合合板からなる板材」と、本件発明1の「複合合板からなる建築用板材としての床材」とは、「複合合板からなる板材」である点で共通する。

また、甲6先願発明の「針葉樹合板と、」は、本件発明1の「木質基板と、」に相当し、
以下、同様に、
甲6先願発明の「湿式硬質繊維板(ハードボード)」は、本件発明1の「湿式ハードボード」に相当し、板体が接着することは、一方の板の表面に他方の板(ボード)が積層することと同じ状況を意味するから、甲6先願発明の「該針葉樹合板の片面に接着された湿式硬質繊維板(ハードボード)と、」は、本件発明1の「該木質基板の表面に積層された湿式ハードボードと、」に相当する。

さらに、甲6先願発明の「複合合板」において、「針葉樹合板の片面に」「湿式硬質繊維板(ハードボード)」が接着され、そして、「表面が化粧されて」いることから、針葉樹合板と湿式硬質繊維板(ハードボード)と、「表面」(化粧がされている部分)との位置関係をみると、湿式硬質繊維板(ハードボード)に対して、「表面」位置している側は、針葉樹合板が位置している側とは反対側であるといえる。
そうすると、甲6先願発明の「表面が化粧されて」いることは、湿式硬質繊維板(ハードボード)の針葉樹合板とは反対側の表面において、化粧されている部分が存在していることといえるから、本件発明1の「該湿式ハードボードにおける上記木質基板と反対側の表面」に「化粧層」が積層されていることに相当する。

さらに、甲6先願発明の「上記湿式硬質繊維板(ハードボード)は、裏面に網目跡であるエンボス層が出来ている、」と、本件発明1の「上記湿式ハードボードは、上記軟質面に凹凸を形成してなるエンボス層を有し、」とは、「網目跡であるエンボス層」が出来ていることが、「凹凸を形成してなるエンボス層」を有することと対応することを踏まえると、「上記湿式ハードボード」は、「凹凸を形成してなるエンボス層を有し、」の点で共通する。

さらに、甲6先願発明の「湿式硬質繊維板(ハードボード)」において、「湿式裏面エンボス層」が出来ている裏面は、「エンボス層」が出来ていることによって、エンボス層が出来ていていない側の面(化粧される側の面)と比べて相対的に軟質となっているといえる。そうすると、「湿式硬質繊維板(ハードボード)」においては、前記裏面は軟質面であるといえ、エンボス層が出来ていない側の面(化粧される側の面)は硬質面であるといえる。よって、甲6先願発明の、裏面に湿式裏面エンボス層が出来きている「湿式硬質繊維板(ハードボード)」は、エンボス層が出来ていない側の面(化粧される側の面)に硬質面を備え、裏面に軟質面を備えているといえる。
また、「湿式硬質繊維板(ハードボード)」における「湿式裏面エンボス層」(すなわち軟質面)は、針葉樹合板の表面に接着されることから、針葉樹合板に向けた状態となっており、また、エンボス層が出来ていない側の面(化粧される側の面)(すなわち硬質面)は、化粧がなされることから化粧層に向けた状態となっており、さらに、「湿式硬質繊維板(ハードボード)」が、針葉樹合板と化粧との間に「接着し」て位置していることから、「湿式硬質繊維板(ハードボード)」は、針葉樹合板と化粧との間に介在しているといえる。
以上のことから、甲6先願発明の「湿式硬質繊維板(ハードボード)の裏面に出来る湿式裏面エンボス層を針葉樹合板の表面に接着し」は、本件発明1の「上記湿式ハードボードは、一方の主面に硬質面を、他方の主面に上記硬質面よりも軟質の軟質面をそれぞれ備え、上記硬質面を上記化粧層側に向け、上記軟質面を上記木質基板側に向けた状態で、上記木質基板と上記化粧層との間に介在しており」に相当する。

そうすると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「複合合板からなる板材であって、
上記複合合板は、
木質基板と、
該木質基板の表面に積層された湿式ハードボードと、
該湿式ハードボードにおける上記木質基板と反対側の表面に積層された化粧層と、を互いに接合してなり、
上記湿式ハードボードは、一方の主面に硬質面を、他方の主面に上記硬質面よりも軟質の軟質面をそれぞれ備え、上記硬質面を上記化粧層側に向け、上記軟質面を上記木質基板側に向けた状態で、上記木質基板と上記化粧層との間に介在しており、
上記湿式ハードボードは、凹凸を形成してなるエンボス層を有する、
ことを特徴とする床材。」

<相違点1>
複合合板からなる板材が、本件発明1では、「建築用板材としての床材」であるのに対して、甲6先願発明では、そのような特定がなされていない点。
<相違点2>
化粧層が、本件発明1では、「広葉樹の突板からなるものである」のに対して、甲6先願発明では、そのような特定がなされていない点。
<相違点3>
湿式ハードボードについて、本件発明1では、「上記硬質面は、鉛筆硬度がH?4Hで」あるのに対して、甲6先願発明では、そのような特定がなされていない点

上記のとおり、本件発明1と甲6先願発明とは上記の点で相違する。
したがって、本件発明1は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(甲第6号証)に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。

申立人は、
「本件特許明細書には、「鉛筆硬度がH?4H」なる規定に関して唯一、段落0022に記載があるだけである。そして、この記載によれば、通常の方法で製造された湿式ハードボードであれば、「鉛筆硬度がH ?4H」なる規定を満足するはずであるから、甲第6号証に記載の発明における「湿式ハードボード」も当然に「鉛筆硬度がH?4H」を満足する。よって、相違点1は、第1発明と甲第6号証に記載の発明との実質的な相違ではない。」及び「前述のように、甲第6号証には、針葉樹合板の表面に化粧単板を貼り付けることが記載されている。化粧単板は、通常、突板であり、従来使用されてきた樹種の多くが広葉樹(ナラ、ブナ、チークなど)であるのは言うまでもない。よって、相違点2も第1発明と甲第6号証に記載の発明との実質的な相違ではない。」と主張する(申立書23頁15?21、23?27行)。

しかしながら、鉛筆硬度について、本件特許明細書の段落【0022】の記載は「湿式ハードボード3は、軟質面32の反対側に硬質面31を有する。すなわち、上記のように湿式製法により得られた湿式ハードボード3は、高温のプレス型(熱板)によってプレスされた側の面に近い厚み領域を高密度に成形することができる。その結果、湿式ハードボード3における硬質面32は、鉛筆硬度をH?4Hとすることができる。」というものであり、すなわち「鉛筆硬度をH?4Hとすることができる」と記載されているに止まるもので、通常の方法で製造すれば(必ず)「鉛筆硬度がH?4H」となるという記載ではない。よって、申立人の主張に根拠はなく、また他の証拠をみても当該「鉛筆硬度」は示されていない。
また、化粧層が広葉樹の突板からなることが周知であるとしても、周知技術があることをもって直ちに甲第6号証に記載されていると同然であるとはいえない。
したがって、甲1発明が甲6先願発明と同一であるという申立人の主張を採用することはできない。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の構成をすべて含み更に減縮した発明であるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし3は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(甲第6号証)に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。

3 記載要件について
(1)明確性要件違反について(36条6項2号関係)
申立人は、本件特許明細書にはその測定方法、測定装置、評価方法などについて一切記載されていない、この鉛筆硬度なる物性値を一義的に測定できない。JAS規格、JIS規格などには、湿式ハードボードの硬質面の「鉛筆硬度」に関する規格は存在しせず、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「上記硬質面は、鉛筆硬度がH?4Hであり」との記載は不明確であることから、本件発明1?3は明確でない旨主張している。(申立書3頁18-19行、24頁15-23行)
しかしながら、特許請求の範囲の請求項1には、「上記湿式ハードボードは、一方の主面に硬質面を、他方の主面に上記硬質面よりも軟質の軟質面をそれぞれ備え、」と記載されていることから、「上記硬質面」とは、「湿式ハードボード」が備える2つの「主面」うち、硬質に形成されている主面である解され、また、「鉛筆硬度がH?4Hであり」とは、「硬度」の測定する基準の中から「鉛筆硬度」という鉛筆の硬度を用いた基準を採用するとともに、硬度の範囲を「H?4H」に規定したものと解される。
したがって、上記「上記硬質面は、鉛筆硬度がH?4Hであ」ることは、「湿式ハードボード」が備える2つの「主面」のうち、硬質に形成されている主面を「鉛筆硬度」の「H?4H」に規定したものであることと理解できるから、当該記載の内容は明確である。
申立人は、本件特許明細書に、測定装置、評価方法などの記載がない点やこの鉛筆硬度なる物性値を一義的に測定できない点を指摘するが、上記のとおり、上記の記載は明確であるから、申立人の主張を採用することはできない。

(2)実施可能要件違反について(36条4項1号関係)
申立人は、本件特許明細書には、「上記硬質面は、鉛筆硬度がH?4Hであり」との条件を満足する湿式ハードボードを備える床材の構成について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないこと等から、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の本件発明1?3を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載していない旨主張している。(申立書3頁19-22行、24頁24行-25頁11行)
しかしながら、本件特許明細書に記載の「上記硬質面は、鉛筆硬度がH?4Hであ」る点は、上記(1)で説示したとおり、「湿式ハードボード」が備える2つの「主面」のうち、硬質に形成されている主面を「鉛筆硬度」の「H?4H」に規定したものであることと理解できる。
また、本件特許明細書の段落【0020】には、「湿式ハードボード3は、例えば以下のようにして製造される。・・・マット状のスラリーの上から熱圧プレスにて、脱水しながら成形し、乾燥させる。例えば約200℃にて数分間、熱をかけながらプレス(熱板)にて圧縮する。以上により、湿式ハードボード3を得ることができる。」と記載され、段落【0022】には、「・・・湿式製法により得られた湿式ハードボード3は、高温のプレス型(熱板)によってプレスされた側の面に近い厚み領域を高密度に成形することができる。その結果、湿式ハードボード3における硬質面32は、鉛筆硬度をH?4Hとすることができる。・・・」と記載され、さらに段落【0023】には、「・・・密度の高い硬質な層と密度の低い軟質な層とが・・・」と記載されており、湿式ハードボードを製造する際に、マット状のスラリーの上から熱圧プレスすることによって、プレスされた側の面に近い厚み領域を高密度に成形することができるとともに、密度が高いと硬質な層が形成されることが記載されている。このような記載を踏まえれば、熱圧プレスの程度を調整すれば、密度の程度に応じて硬質の程度も調整することができるものと解される。また、「鉛筆硬度」が鉛筆の硬さを用いた基準であることから、測定の対象部分と鉛筆の硬さに照らし合わせることでその硬度を測定できることは明らかである。
以上のことから、当業者が本件特許明細書の記載をみれば、湿式ハードボードを一方の主面において硬質の程度を調節し、「鉛筆硬度がH?4H」との規定に入るように製造すること、その主面の硬度を測定することは、可能であるといえる。
したがって、本件特許明細書の記載は、本件特許の本件発明1?3を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

なお、申立人は、「本件特許明細書において、「鉛筆硬度」に関して記載されているのは、「その結果、湿式ハードボード3における硬質面32は、鉛筆硬度をH?4Hとすることができる。一方、軟質面32は、鉛筆硬度としては測定不能な程度に軟らかい。軟質面32の硬度は、例えば軟質繊維板と同程度である。」(段落0022)のみである。この記載からは、「鉛筆硬度」に関する数値限定(H?4H)の技術的意義も、この数値限定によって解決される課題も、この数値限定による効果も、当業者が理解することはできない。」と主張する。(申立書24頁24行-25頁3行)
しかしながら、「鉛筆硬度がH?4H」という規定は、湿式ハードボードの硬質面の硬度を数値限定(H?4H)する意味を有しており、また、本件特許明細書の段落【0004】(【発明が解決しようとする課題】)の「木質基板における化粧層側の面が軟らかすぎると、平滑な意匠面が得られず、意匠性を低下させる要因となるおそれがある。」との記載、及び段落【0013】の「・・・湿式ハードボードを上述のように配置することにより、木質基板の凹凸を効果的に吸収すると共に、意匠面の意匠性を効果的に向上させることができる。」との記載からみて、解決される課題も「木質基板における化粧層側の面が軟らかすぎると、平滑な意匠面が得られず、意匠性を低下させる要因となるおそれがある」ことと理解することができ、そして効果も「木質基板の凹凸を効果的に吸収すると共に、意匠面の意匠性を効果的に向上させることができる」ことと理解することができるものである。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。


第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-10-10 
出願番号 特願2013-105749(P2013-105749)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B27M)
P 1 651・ 536- Y (B27M)
P 1 651・ 113- Y (B27M)
P 1 651・ 121- Y (B27M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 有家 秀郎
西田 秀彦
登録日 2017-12-15 
登録番号 特許第6258605号(P6258605)
権利者 株式会社イクタ
発明の名称 床材  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  

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