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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
管理番号 1347160
審判番号 不服2016-15447  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-14 
確定日 2018-12-17 
事件の表示 特願2014-205695「クリーニング用及び布地ケア用洗剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月14日出願公開、特開2015- 91950〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2007年(平成19年)6月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年6月20日、(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2009-510612号の一部を、平成26年10月6日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年10月 6日 :特許出願
平成26年10月 9日 :手続補正書、上申書の提出
平成27年 8月13日付け:拒絶理由の通知
平成28年 1月15日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年 6月10日付け:拒絶査定
平成28年10月14日 :審判請求書の提出
平成29年 7月 7日付け:拒絶理由の通知
平成29年10月11日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 1月23日付け:拒絶理由の通知(最後)及び審尋
平成30年 5月24日 :意見書、手続補正書の提出

以下、平成29年7月7日付けで当審が通知した拒絶理由を「当審拒絶理由」、平成30年1月23日付けで当審が通知した拒絶理由を「最後の拒絶理由」ということがある。
また、平成26年10月9日にされた手続補正を「手続補正A」、平成28年1月15日にされた手続補正を「手続補正B」、平成29年10月11日にされた手続補正を「手続補正C」、平成30年5月24日にされた手続補正を「手続補正D」ということがある。
なお、最後の拒絶理由では、手続補正Cによって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知し、当審拒絶理由で通知した理由II(実施可能要件)及び理由III(サポート要件)の拒絶理由が解消したかの判断については留保して、これらの点について審尋を行った。

2.平成30年5月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の結論]
平成30年5月24日にされた手続補正(手続補正D)を却下する。

[理由]
(1)手続補正Dの内容
ア 手続補正1
本願明細書の段落[0084]の記載を、以下のとおりに補正する。
「[0084]
以下の非限定的な実施例は、本発明において有用な沈着ポリマーを例示している。全ての構成成分は、組成物のモル・パーセントで表わされている。
[表1]



イ 手続補正2
本願明細書の段落[0091]を削除する。

ウ 手続補正3
特許請求の範囲の全文(請求項1?11)を補正する。
当該手続補正3により、請求項1の記載は以下のとおりに補正された。
「[請求項1]
洗剤組成物であって、
(a)前記組成物の0.01重量%?10重量%の有益剤であって、香料マイクロカプセルである有益剤と、
(b)前記組成物の0.1重量%?10重量%の非多糖類系沈着ポリマーであって、1つ以上のカチオン性モノマー単位および1つ以上の非イオン性モノマー単位を含んでなり、
前記沈着ポリマーが、前記モノマーの10重量%未満の遊離モノマー含量を有し、
前記沈着ポリマーが、ポリ(アクリルアミド-コ-ジアリルジメチル塩化アンモニウム)、ポリ(アクリルアミド-メタクリルアミドプロピルトリメチル塩化アンモニウム)、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート-コ-ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルアクリレート-コ-ジメチルアミノエチルメタクリレート)、およびこれらの混合物からなる群から選択される、非多糖類系沈着ポリマーと、
(c)前記組成物の1重量%?25重量%の洗浄性界面活性剤と、
(d)前記組成物の0.0001重量%?20重量%の洗濯補助剤と、
(e)酵素と、
(f)水を含むキャリアの残部と、
を含んでなる、洗剤組成物。」

(2)手続補正Dによる補正前の特許請求の範囲
手続補正Dによる補正前の特許請求の範囲に記載された請求項1?11に係る発明は、手続補正Cにより補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1の記載は以下のとおりである。
「[請求項1]
洗剤組成物であって、
(a)前記組成物の0.01重量%?10重量%の有益剤であって、香料マイクロカプセルである有益剤と、
(b)前記組成物の0.1重量%?10重量%の非多糖類系沈着ポリマーであって、1つ以上のカチオン性モノマー単位および1つ以上の非イオン性モノマー単位を含んでなり、
前記沈着ポリマーが、前記モノマーの10重量%未満の遊離モノマー含量を有し、
前記沈着ポリマーが、ポリ(アクリルアミド-コ-ジアリルジメチル塩化アンモニウム)、ポリ(アクリルアミド-メタクリルアミドプロピルトリメチル塩化アンモニウム)、ポリ(アクリルアミド-コ-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート-コ-ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルアクリレート-コ-ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルアクリレート-コ-メタクリルアミドプロピルトリメチル塩化アンモニウム)、およびこれらの混合物からなる群から選択される、非多糖類系沈着ポリマーと、
(c)前記組成物の1重量%?25重量%の洗浄性界面活性剤と、
(d)前記組成物の0.0001重量%?20重量%の洗濯補助剤と、
(e)酵素と、
(f)水を含むキャリアの残部と、
を含んでなる、洗剤組成物。」

(3)手続補正3について(補正の目的)
事案に鑑み、手続補正3について検討する。
上記請求項1についての補正は、補正前の請求項1に記載されていた発明特定事項である沈着ポリマーの選択肢のうち、「ポリ(アクリルアミド-コ-N,N-ジメチルアミノメタクリレート)」及び「ポリ(ヒドロキシプロピルアクリレート-コ-メタクリルアミドプロピルトリメチル塩化アンモニウム)」を削除するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、手続補正Dによる補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正後発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。

(4)独立特許要件について
実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について(当審拒絶理由の理由IIに対応)
(ア-1)補正後発明の(b)成分について
補正後発明の(b)成分である、10重量%未満の遊離モノマー含量を有する「非多糖類系沈着ポリマー」について、本願明細書の[0059]?[0064]には、1種以上のエチレン系不飽和カチオン性又はアミンのモノマーと、1種以上のエチレン系不飽和非イオン性モノマーとの重合されたモノマー残基を含む非多糖類系カチオン性コポリマーが有用なものとして記載されており、[0065]には、上記沈着ポリマーが処方可能であり、組成物中で安定であるためには、ポリマーに組み入れられるモノマーがコポリマーを形成することが重要であること、及び本明細書の沈着ポリマーは、モノマーの10重量%未満の遊離モノマー含量を有し、好ましくは5重量%未満である旨が記載され、さらに、「沈着ポリマーを含有し、遊離モノマー含量が低い反応生成物を生成するのに好適な合成条件は以下に記述される。」と記載されている。

(ア-2)実施例1?5及び7?9の記載について
しかし、本願明細書において、ポリマーの合成条件が具体的に記載されているのは、[0086]の「実施例1のコポリマーの合成」?[0094]の「実施例9のコポリマーの合成」だけであるところ(当審注:手続補正Dの「手続補正1」及び「手続補正2」により、「実施例6」は削除されている。)、これらの段落のいずれにも、反応生成物に含まれる遊離モノマー含量の測定値が記載されていないから、「実施例1」?「実施例9」の合成条件が、上記[0065]に記載された「遊離モノマー含量が低い(10重量%未満の)反応生成物を生成するのに好適な(沈着ポリマーの)合成条件」であるとは確認できない。
また、[0007]には、透明な等方性液体洗剤を生成できないカチオン性ポリマーの例として、典型的には70%アクリルアミド及び30%ジアリルジアルキル塩化アンモニウム(DADMAC)によって生成されるポリクアテルニウム-7が挙げられており、洗剤組成物中のアニオン性界面活性剤類と相互に作用して沈殿する多量の非反応性DADMACモノマー及びポリ(DADMAC)オリゴマーに起因して、コポリマーが液体洗濯洗剤に組み込まれる時に2相の不透明な生成物を生成することが記載されているが、上記[0086]?[0094]に記載された「実施例1」?「実施例9」の合成条件が、[0007]に記載された公知のカチオン性ポリマーの合成条件とどのような点で異なるのか理解できないから、「実施例1」?「実施例9」の合成条件により、従来技術よりモノマー及びオリゴマーの含有量が少ない生成物が得られるものと解することはできない。
さらに、出願時の技術常識を参酌しても、上記「実施例1」?「実施例9」の合成条件が、未反応のカチオン性モノマー及びカチオン性オリゴマーの含有量の少ない生成物を生成する合成条件であると理解することはできないし、仮に「実施例1」?「実施例9」の合成条件により、未反応のカチオン性モノマー及びカチオン性オリゴマーの含有量の少ない生成物が得られるとしても、「実施例1」?「実施例9」とは異なるカチオン性モノマー及び非イオン性モノマーの種類及び共重合比の組合せを包含する補正後発明の範囲の非多糖類系沈着ポリマーまで、同様の合成条件で製造できるものとは認められない。

(ア-3)実施例10、11について
加えて、[0095]の「実施例10」及び[0096]の「実施例11」には、市販のポリ(ジアリルジメチル塩化アンモニウム-コ-アクリルアミド)を透析した具体例が記載されているが、得られた透析物に含まれる非反応性DADMACモノマー及びポリ(DADMAC)オリゴマーの測定値は記載されていないから、「実施例10」及び「実施例11」の透析条件により、補正後発明の要件を満たすカチオン沈着ポリマーを製造できるとは確認できない。

(ア-4)小活
そうすると、本願の発明の詳細な説明は、出願時の技術常識を参酌しても、補正後発明の主要な構成成分の一つである(b)成分の非多糖類系沈着ポリマーを当業者が製造することができるように記載されているものとすることができない。また、仮に、本願明細書に「実施例」として記載されている沈着ポリマーの具体例が、10重量%未満の遊離モノマー含量を有する補正後発明の(b)成分に相当するものの具体例であったとしても、当該「実施例」とは異なるカチオン性モノマー及び非イオン性モノマーの種類及び共重合比の組合せを有する場合の補正後発明の(b)非多糖類系沈着ポリマーをも製造できるように記載されているものとすることはできない。
よって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が補正後発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとすることができない。

(ア-5)請求人の主張について(その1)
請求人は、平成30年5月24日に提出した意見書の「5.理由2(実施可能要件)」の「(2)イ (II-1)について」の項において、「本願の実施例1?5、および7?9は、『沈着ポリマーおよび低い遊離モノマー含量を含む反応生成物を生成する』ために微調整された、好ましい合成条件を記載しております(段落[0065])。したがって、これらの実施例には、それぞれの反応生成物の特定の遊離モノマー含量は明示されておりませんが、これらの実施例が、明細書に記載されるような低い遊離モノマー含量を含むものであることを、当業者は容易に理解できるものと、出願人は考えます。」と主張しており、また、平成29年10月11日に提出した意見書においても、同様の主張をしている。

(ア-5-1)しかし、上記2.(4)ア(ア-2)「実施例1?5及び7?9の記載について」に記載したとおり、実施例1?5及び7?9のいずれの記載をみても、反応生成物に含まれる遊離モノマー含量の測定値は記載されておらず、上記意見書においても、請求人は遊離モノマー含量の具体的な測定値を明らかにしていないから、依然として、実施例1?5及び7?9の反応生成物が、補正後発明に規定される「モノマーの10%未満の遊離モノマー含量を有」するとの要件を満たすものであると解することはできない。

(ア-5-2)また、上記2.(4)ア(ア-2)「実施例1?5及び7?9の記載について」に記載したとおり、実施例1?5及び7?9の合成条件が、[0007]に記載された公知のカチオン性ポリマーの合成条件とどのような点で異なるのか理解できないから、実施例1?5及び7?9が、「沈着ポリマーおよび低い遊離モノマー含量を含む反応生成物を生成するために微調整された、好ましい合成条件」であるとは理解できない。仮に、「微調整」されているとしても、どのような合成条件を具体的にどのように設定した点が公知の合成条件と実施例1?5及び7?9とでは異なるのか、請求人は具体的に説明していないし、公知の条件で合成した生成物と実施例1?5及び7?9の生成物が、それぞれ実際には何%のモノマー及びオリゴマーを含有しているのかについても、請求人は具体的な数値を示していない。

(ア-5-3)また、上記2.(4)ア(ア-2)「実施例1?5及び7?9の記載について」に記載したとおり、さらに出願時の技術常識を参酌しても、上記実施例1?5及び7?9の合成条件が、未反応のカチオン性モノマー及びカチオン性オリゴマーの含有量の少ない生成物を生成する合成条件であると理解することはできない。請求人は、上記意見書において、「それぞれの反応生成物の特定の遊離モノマー含量は明示されておりませんが、これらの実施例が、明細書に記載されるような低い遊離モノマー含量を含むものであることを、当業者は容易に理解できる」と主張しているが、請求人は「当業者は容易に理解できる」ことの根拠を具体的に説明していない。

(ア-6)請求人の主張について(その2)
請求人は、平成30年5月24日に提出した意見書の「5.理由2(実施可能要件)」の「(2)イ (II-1)について」の項において、「本願の実施例10および11は、市販のポリマーであるメルクワット(登録商標)Sおよびメルクワット(登録商標)2200の透析により形成される、精製されたポリマーを開示しております。透析は、ポリマーを精製し、非反応性モノマーを除去するための公知の技術です。したがって、本願の実施例10および11は、その中に遊離モノマーをほとんど含んでいない、または全く含んでいない精製されたポリマーを開示するものであることを、当業者は容易に理解できるものと考えます。」と主張しており、また、平成29年10月11日に提出した意見書においても、同様の主張をしている。

(ア-6-1)しかし、上記2.(4)ア(ア-3)「実施例10、11について」に記載したとおり、実施例10及び11には、市販のポリ(ジアリルジメチル塩化アンモニウム-コ-アクリルアミド)を透析した具体例が記載されているが、得られた透析物に含まれる非反応性DADMACモノマー及びポリ(DADMAC)オリゴマーの測定値は記載されていないから、実施例10及び11の透析条件により、補正後発明の要件を満たすカチオン沈着ポリマーを製造できるとは確認できない。請求人は、平成29年10月11日に提出した意見書に、透析技術に関する参考文献1を添付し、上記と同様の主張をしているが、当該参考文献1の記載を参酌しても、実施例10及び11に記載された「市販の沈着ポリマー」の商品名と、透析方法の説明だけから、直ちに透析後のモノマー及びオリゴマーの含有量を導き出すことはできないから、請求人の主張は具体的な証拠に裏付けられたものとはいえない。

(ア-7)実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)についてのまとめ
よって、請求人の主張はいずれも採用することができず、本願の発明の詳細な説明は、出願時の技術常識を参酌しても、補正後発明の主要な構成成分の一つである(b)成分の非多糖類系沈着ポリマーを当業者が製造することができるように記載されているものとすることができない。
したがって、手続補正Dによる補正後の本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

イ サポート要件(特許法第36条第6項第1号)について(当審拒絶理由の理由IIIに対応)
(イ-1)補正後発明の課題について
本願明細書[0001]?[0009]等の記載によると、補正後発明は、香料マイクロカプセルである布地ケア有益剤の沈着向上のために選択されたカチオン性沈着ポリマーを含む洗剤組成物であって、上記カチオン性沈着ポリマーは、洗浄作業に干渉せず、また同時に、上記布地ケア有益剤の布地への沈着を向上させ、加えて、アニオン性界面活性剤、洗浄性酵素等の他の成分と相溶性があり、洗浄性酵素により分解されたり、アニオン性界面活性剤と相互に作用してアニオン-カチオン錯体の沈殿を生じて2相の不透明な生成物を生成したりすることがなく、洗剤組成物中で安定したままであるものであり、その結果、優れた洗浄及び布地ケアの効果及び安定性を兼ね備えた洗剤組成物を提供することを課題とする発明であると解される。

(イ-2)補正後発明の(b)成分について
ここで、上記カチオン性沈着ポリマーについて、補正後発明においては、(b)成分として、10重量%未満の遊離モノマー含量を有する所定の「非多糖類系沈着ポリマー」を用いることが特定され、また、本願明細書の[0059]?[0064]には、1種以上のエチレン系不飽和カチオン性又はアミンのモノマーと、1種以上のエチレン系不飽和非イオン性モノマーとの重合されたモノマー残基を含む非多糖類系カチオン性コポリマーが有用なものとして記載されており、[0065]には、上記沈着ポリマーが処方可能であり、組成物中で安定であるためには、ポリマーに組み入れられるモノマーがコポリマーを形成することが重要であること、及び本明細書の沈着ポリマーは、モノマーの10重量%未満の遊離モノマー含量を有し、好ましくは5重量%未満である旨が記載されている。
しかし、上記2.(4)ア「実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について」において検討したとおり、本願明細書には10重量%未満の遊離モノマー含量を有する非多糖類系沈着ポリマーの具体的な製造方法が記載されているとはいえない。

(イ-3)洗剤組成物について
また、[0097]の「実施例12」には、「本発明の洗剤組成物」とされる「表2」が記載されており、「沈着ポリマー」は[0084]の表1から選択されるコポリマー又は表2([0097])から選択される市販のコポリマーの1種以上とすることができること、及び「沈着ポリマー」は0.1?0.4重量%の割合で配合されることが記載されているが、表2の洗剤組成物に相当する具体的な調製例は記載されておらず、表2の洗剤組成物が、実際に「優れた洗浄及び布地ケアの効果及び安定性を兼ね備えた洗剤組成物を提供する」という補正後発明の課題を解決し得るものであることを裏付ける実験データは記載されていない。さらに、従来技術との効果の差異及びその要因を確認できる適切な比較実験のデータも記載されていない。

(イ-4)小活
そうすると、本願明細書には、補正後発明の実施例に相当する具体的な洗剤組成物及びその配合成分の製造方法が記載されているとはいえず、また、本願明細書の記載及び出願時の技術常識を参酌しても、補正後発明に包含される範囲の洗剤組成物により、「優れた洗浄及び布地ケアの効果及び安定性を兼ね備えた洗剤組成物を提供する」という補正後発明の課題を解決し得るものと解することはできない。

(イ-5)請求人の主張について(その1)
請求人は、平成30年5月24日に提出した意見書の「6.理由3(サポート要件)」の項において、「上記理由2において、・・・記載したのと同様に、本願はサポート要件を満たすものと考えます。」と主張している(なお、請求人は、平成29年10月11に提出した意見書においては、サポート要件違反の拒絶理由に対して何ら釈明、反論をしていない。)。

(イ-5-1)しかし、上記2.(4)ア「実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について」に記載したとおり、「理由2」(実施可能要件)についての請求人の主張を参酌しても、本願明細書には、補正後発明の(b)成分である、10重量%未満の遊離モノマー含量を有する「非多糖類系沈着ポリマー」の具体的な製造方法が記載されているとはいえないから、補正後発明が、発明の詳細な説明に実質的に記載されているということはできない。

(イ-6)請求人の主張について(その2)
請求人は、平成30年5月24日に提出した意見書の「6.理由3(サポート要件)」の項において、「『表2の洗剤組成物に相当する具体的な調製例は記載されておらず、表2の洗剤組成物が、実際に『優れた洗浄及び布地ケアの効果及び安定性を兼ね備えた洗剤組成物を提供する』という本願発明の課題を解決し得るものであることを裏付ける実験データは記載されていない』とご認定されていますが、本願明細書に記載の事項(例えば、段落[0039]、[0041]、[0065]?[0068]等)と実施例の記載に基づき、当業者であれば、本願発明がその課題を解決し得るものであると十分に理解するものと考えます。」と主張している。

(イ-6-1)しかし、上記2.(4)イ(イ-3)「洗剤組成物について」に記載したとおり、本願明細書には、表2の洗剤組成物に相当する具体的な調製例は記載されておらず、表2の洗剤組成物が、実際に「優れた洗浄及び布地ケアの効果及び安定性を兼ね備えた洗剤組成物を提供する」という本願発明の課題を解決し得るものであることを裏付ける実験データは記載されていない。さらに、従来技術との効果の差異及びその要因を確認できる適切な比較実験のデータも記載されていない。
また、請求人は、上記意見書においても具体的な実験データを提示しておらず、補正後発明がサポート要件を解消し得る理由を具体的な根拠に基づいて説明していない。

(イ-7)サポート要件(特許法第36条第6項第1号)についてのまとめ
よって、請求人の主張はいずれも採用することができず、本願明細書には、補正後発明の実施例に相当する具体的な洗剤組成物及びその配合成分の製造方法が記載されているとはいえず、また、本願明細書の記載及び出願時の技術常識を参酌しても、補正後発明に包含される範囲の洗剤組成物により、「優れた洗浄及び布地ケアの効果及び安定性を兼ね備えた洗剤組成物を提供する」という補正後発明の課題を解決し得るものと解することはできない。
よって、補正後発明は、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとすることができず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

ウ 独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、補正後発明は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

(5)手続補正Dについてのまとめ
よって、手続補正Dは、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから、他の補正事項について検討するまでもなく、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

3.本願発明について
手続補正Dは、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?11に係る発明は、手続補正Cにより補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)を再掲すると、以下のとおりである。
「[請求項1]
洗剤組成物であって、
(a)前記組成物の0.01重量%?10重量%の有益剤であって、香料マイクロカプセルである有益剤と、
(b)前記組成物の0.1重量%?10重量%の非多糖類系沈着ポリマーであって、1つ以上のカチオン性モノマー単位および1つ以上の非イオン性モノマー単位を含んでなり、
前記沈着ポリマーが、前記モノマーの10重量%未満の遊離モノマー含量を有し、
前記沈着ポリマーが、ポリ(アクリルアミド-コ-ジアリルジメチル塩化アンモニウム)、ポリ(アクリルアミド-メタクリルアミドプロピルトリメチル塩化アンモニウム)、ポリ(アクリルアミド-コ-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート-コ-ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルアクリレート-コ-ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルアクリレート-コ-メタクリルアミドプロピルトリメチル塩化アンモニウム)、およびこれらの混合物からなる群から選択される、非多糖類系沈着ポリマーと、
(c)前記組成物の1重量%?25重量%の洗浄性界面活性剤と、
(d)前記組成物の0.0001重量%?20重量%の洗濯補助剤と、
(e)酵素と、
(f)水を含むキャリアの残部と、
を含んでなる、洗剤組成物。」

4.最後の拒絶理由の概要
(1)平成30年1月23日付けで当審が通知した「最後の拒絶理由」の概要は、以下のとおりである。
理由I(新規事項)
平成29年10月11日付け手続補正書でした補正(手続補正C)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
なお、最後の拒絶理由の「理由」欄に、「理由I(新規事項)平成28年6月29日付け手続補正書でした補正は、・・・特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。」と記載していたが、同拒絶理由の3.(1)に「平成29年10月11日に提出された手続補正書の[手続補正2]により・・・補正された。」と記載したとおり、拒絶対象とした手続補正が、「平成29年10月11日」にされたものであったことは明らかである。また、請求人も、平成30年5月24日に提出した意見書の1.「はじめに」の項において、「拒絶理由通知における『平成28年6月29日付け手続補正書』との記載は、『平成29年10月11日付け手続補正書』の誤記であるものとして、以下意見書を記載しております。」と記載していることから、理由I(新規事項)について」の対象が、「平成29年10月11日付け手続補正書」であったことは、請求人も理解していたと解される。

(2)また、上記1.「手続の経緯」に記載のとおり、当審拒絶理由の理由II及びIIIの判断については留保し、以下のような「審尋」を行った。
「合議体は、平成29年7月7日付け拒絶理由通知書で通知した理由II(実施可能要件)及び理由III(サポート要件)の拒絶理由が解消したかの判断については留保しますが、平成29年10月11日に提出された意見書及び手続補正書によっては、これらは依然として解消されないと考えております。これらの点について、審判請求人のご意見等がありましたら回答してください。」

5.当審拒絶理由の概要
(1)平成29年7月7日付けで当審が通知した「当審拒絶理由」の概要は、以下のとおりである。
理由I(明確性)
本願発明9(手続補正Bにより補正された請求項9)には、「ポリ(アクリルアミド-コ-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート)」という選択肢が重複して記載されているから、特許を受けようとする発明が明確に記載されているとはいえない。よって、本願発明9(手続補正Bにより補正された請求項9)は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由II(実施可能要件)
(II-1)本願明細書段落[0091]には、実施例6のコポリマーの合成例として、「N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート」と、「ヒドロキシプロピルアクリレート」とを共重合成分として用いた合成例が記載されている。これに対して、同段落[0084]の表1(手続補正Aにより補正されたもの)には、実施例6のコポリマーが、「DMAPA」(「N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド」)と「ヒドロキシプロピルアクリレート」とを共重合成分とするものであることが記載されている。そうすると、カチオン性モノマーの化合物名が一致しておらず、いずれの記載が正しいのか明らかでない。
よって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明1?12(手続補正Bにより補正された請求項1?12)を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとすることができない。

(II-2)本願の発明の詳細な説明は、出願時の技術常識を参酌しても、本願発明1(手続補正Bにより補正された請求項1)の主要な構成成分の一つである(b)成分の非多糖類系沈着ポリマーを当業者が製造することができるように記載されているものとすることができない。また、仮に、本願明細書に「実施例」として記載されている沈着ポリマーの具体例が、10重量%未満の遊離モノマー含量を有する本願発明1の(b)成分に相当するものの具体例であったとしても、当該「実施例」とは異なるカチオン性モノマー及び非イオン性モノマーの種類及び共重合比の組合せを有する場合の本願発明1の(b)非多糖類系沈着ポリマーをも製造できるように記載されているものとすることはできない。本願発明1を直接又は間接的に引用して記載されている本願発明2?12(手続補正Bにより補正された請求項2?12)についても同様である。
よって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明1?12を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとすることができない。

理由III(サポート要件)
(III-1)本願明細書には、本願発明1(手続補正Bにより補正された請求項1)の実施例に相当する具体的な洗剤組成物及びその配合成分の製造方法が記載されているとはいえず、また、本願明細書の記載及び出願時の技術常識を参酌しても、本願発明1に包含される範囲の洗剤組成物により、「優れた洗浄及び布地ケアの効果及び安定性を兼ね備えた洗剤組成物を提供する」という本願発明の課題を解決し得るものと解することはできない。本願発明1を直接又は間接的に引用して記載されている本願発明2?12(手続補正Bにより補正された請求項2?12)についても同様である。
よって、本願発明1?12は、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとすることができないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

6.当審の判断
(1)最後の拒絶理由の理由I(新規事項)について
ア 手続補正Cの[手続補正2](本願明細書[0091]の手続補正)について
手続補正Cの[手続補正2]により、[0091]が補正され、「実施例6のコポリマーの合成」で用いられた試薬の一つが、補正前の「N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(8.00g、0.051モル)」から、「N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(8.00g、0.051モル)」に補正された。
そして、請求人は、同日に提出した意見書において、「(d)明細書[0091]段落において、「N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(8.00g、0.051モル)」との誤記を「N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(8.00g、0.051モル)」と訂正しました。この訂正は、明細書[0084]段落の表1において、実施例6でDMAPA(N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)を用いていることに基づくものです。以上の通り、今回行いました補正は、特許請求の範囲の限定的減縮、明瞭でない記載の釈明、または請求項の削除を目的とするものであり、何ら新規事項を追加するものではありませんので、適法な補正であるものと思料します。」と主張している。
そこで、補正前の[0091]の記載と、[0084]の表1の記載について検討する。

イ [0091]の記載について
補正前の[0091]に記載された「N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート」(当審注:[0060]の記載を参酌すると、「DMAM」と略称される化合物である。)は、実在する化合物の名称として問題なくその化学構造を理解できるものであるし、その分子量(C_(8)H_(15)NO_(2)=約157)から同化合物8.00gのモル数を計算すると0.051モルに当たるから、補正前の[0091]における化合物名の記載自体に矛盾は見出せない。また、同段落の前後の記載を参酌しても、補正前の化合物名に誤りがあることは把握できないし、補正前の化合物が「ヒドロキシプロピルアクリレート」と「コポリマーの合成」反応を生じ得ない等の特段の事情があるとも解されない。よって、補正前の[0091]の「実施例6のコポリマーの合成」の記載に誤記があったと直ちに判断することはできない。

ウ [0084]の表1の記載について
[0084]には、「以下の非限定的な実施例は、本発明において有用な沈着ポリマーを例示している。全ての構成成分は、組成物のモル・パーセントで表わされている。」との記載に続き、実施例1?9の各沈着ポリマーのモノマー組成を示した[表1]が記載されており、実施例6については、「ヒドロキシプロピルアクリレート」82.9モル%と、「DMAPA」という化合物17.1モル%からなることが記載されている。当該「DMAPA」は、[0060]の記載を参酌すると、「N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド」であり、「ヒドロキシプロピルアクリレート」とコポリマーを製造することができる化合物であると理解できるから、[0081]の[表1]の記載に誤記があったと直ちに判断することはできない。

エ 補正の適否について
上記のように、補正前の[0091]の記載と、[0081]の[表1]の記載との間に、実施例6のモノマー成分の記載が整合していない問題があることは明らかであるが、両者のいずれが正しい記載であったのかを確定することは困難であり、本願明細書の他の記載及び本願の優先権主張日における技術常識を参酌しても、いずれが正しい記載であったのかは、願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。)の記載から自明な技術的事項ではない。そうすると、上記手続補正Cの[手続補正2]は、[0091]を補正することにより、当初明細書等に記載されていた実施例6とは異なる別のコポリマーの合成方法という技術的事項を、新たに明細書に導入するものに当たるから、新規事項を追加する補正であり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものではない。

オ 請求人の主張について
請求人は、平成29年10月11日に提出した意見書において、上記6.(1)アに記載したように主張しているが、上記のとおり、[0084]の[表1]の記載が正しい記載であり、[0091]の記載が誤記であったという結論は、当初明細書等から自明に導き出されることではないし、請求人も、補正前のいずれの記載は正しくいずれの記載は誤記であったと確定的に判断できる具体的な根拠を示していない。
また、請求人は、平成30年5月24日に提出した意見書の2.「補正の説明」において、「(2)明細書の段落[0084]の表1の実施例6、および段落[0091]を削除しました。これらの補正は、出願当初明細書等の範囲内においてなされたものであるため、補正要件を満たすものと出願人は思料いたします。」と主張し、同意見書の4.(2)「本拒絶理由が解消する理由」において、「今般の手続補正書において、段落[0081]の[表1]の実施例6、および段落[0091]を削除しました。当該補正により、ご指摘の拒絶理由は解消するものと思料いたします。」と主張しているが、請求人は依然として[0084]の[表1]と[0091]のいずれの記載が正しく、いずれの記載が誤記であったと確定的に判断できる具体的な根拠は示しておらず、さらに、手続補正Dは、上記2.「平成30年5月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定」のとおり却下されたから、請求人の主張を参酌しても、上記6.(1)イ?エに記載した記載の不整合の問題を解消することはできない。

カ むすび
以上のとおり、手続補正Cでした[手続補正2]([0091]の補正)は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
よって、他の補正事項について検討するまでもなく、最後の拒絶理由において通知した理由I(新規事項)の拒絶理由は、依然として解消していない。

(2)当審拒絶理由の理由II(実施可能要件)について
ア 当審拒絶理由の理由II(II-1)の概要
当審拒絶理由の理由II(実施可能要件)の(II-1)においては、段落[0091]の実施例6の記載(「N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート」と、「ヒドロキシプロピルアクリレート」との共重合)と、段落[0084]の表1の実施例6の記載(手続補正Aにより補正されたもの、「DMAPA」(「N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド」)と「ヒドロキシプロピルアクリレート」との共重合)との間で、カチオン性モノマーの化合物名が一致しておらず、いずれの記載が正しいのか明らかでない旨を指摘した。

イ 請求人の主張について
これに対して、請求人は、手続補正Cにより、上記6.(1)ア「手続補正Cの[手続補正2](本願明細書[0091]の手続補正)について」に記載したとおりの補正を行い、平成29年10月11日に提出した意見書において、「[0091]段落(実施例6)中のカチオン性モノマーの化合物名の誤記を[0084]段落の表1に基づいて訂正して、カチオン性モノマーの化合物名を一致させました。したがって、ご指摘の拒絶理由は解消されたものと思料します。」と主張している。
しかし、上記6.(1)イ「[0091]の記載について」?同オ「請求人の主張について」において検討したとおり、手続補正Cによる[0091]の補正は、新規事項の追加に当たり、適法な補正とは認められないものであり、手続補正Cによる補正前の[0091]に記載されていた、「N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート」を用いる実施例6のコポリマーの製造条件及び結果が、補正後の「N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド」を用いた場合にも同様の製造条件で実施可能であり、同じ結果が得られるといえる理由について、請求人は具体的に説明していない。
また、請求人は、平成30年5月24日に提出した意見書の5.「理由2(実施可能要件)」の(1)「ア (II-1)について」において、「今般の手続補正書により、実施例6を表1および段落[0091]から削除しておりますので、ご指摘の拒絶理由は解消するものと思料いたします。」と主張しているが、当該主張を参酌しても、「N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート」を用いて実際に「実施例6」をその記載のとおりに実施することができるものと判断できる具体的な根拠は見出せないし、さらに、手続補正Dは、上記2.「平成30年5月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定」のとおり却下されたから、請求人の主張は採用することができない。

ウ 当審拒絶理由の理由II(II-1)についてのまとめ
よって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとすることができないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、当審拒絶理由において通知した理由II(実施可能要件)の(II-1)の拒絶理由は、依然として解消していない。

エ 当審拒絶理由の理由II(II-2)の概要
当審拒絶理由の理由II(実施可能要件)の(II-2)においては、本願の発明の詳細な説明が、本願発明1(手続補正Bにより補正された請求項1)の主要な構成成分の一つである(b)成分の非多糖類系沈着ポリマーを当業者が製造することができるように記載されているものとすることができないことを指摘し、また、仮に、本願明細書に「実施例」として記載されている沈着ポリマーの具体例が、10重量%未満の遊離モノマー含量を有する本願発明1の(b)成分に相当するものの具体例であったとしても、当該「実施例」とは異なるカチオン性モノマー及び非イオン性モノマーの種類及び共重合比の組合せを有する場合の本願発明1の(b)非多糖類系沈着ポリマーをも製造できるように記載されているものとすることはできない旨を指摘した。

オ 請求人の主張について
これに対して、請求人は、手続補正Cにより、上記6.(1)ア「手続補正Cの[手続補正2](本願明細書[0091]の手続補正)について」に記載したとおりの補正を行い、平成29年10月11日に提出した意見書において、「現在の明細書の実施例1?9は、「沈着ポリマーおよび低い遊離モノマー含量を含む反応生成物を生成する」ために微調整された、好ましい合成条件を記載しております(本願明細書[0065]段落)。したがって、これらの実施例には、それぞれの反応生成物の特定の遊離モノマー含量は明示されておりませんが、これらの実施例が、明細書に記載されるような低い遊離モノマー含量を含むものであることを、当業者は容易に理解できるものと考えます。」と主張している。
しかし、手続補正Cにより補正された発明の詳細な説明の記載は、手続補正Dにより補正された発明の詳細な説明の記載と比較して、[0084]及び[0091]の「実施例6」が削除されていないことを除いて一致するものであり、また、本願発明(手続補正Cにより補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明)が、補正後発明よりも沈着ポリマーの選択肢が広いものであることに鑑みると、手続補正Cにより補正された発明の詳細な説明の記載及び本願発明についても、上記2.(4)「独立特許要件について」の「ア 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について」に記載したとおりのことがいえる。

カ 当審拒絶理由の理由II(II-2)についてのまとめ
よって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとすることができないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、当審拒絶理由において通知した理由II(実施可能要件)の(II-2)の拒絶理由は、依然として解消していない。

(3)当審拒絶理由の理由III(サポート要件)について
ア 当審拒絶理由の理由III(サポート要件)の概要
当審拒絶理由の理由III(サポート要件)においては、本願明細書には、本願発明1(手続補正Bにより補正された請求項1)の実施例に相当する具体的な洗剤組成物及びその配合成分の製造方法が記載されているとはいえず、また、本願明細書の記載及び出願時の技術常識を参酌しても、本願発明1に包含される範囲の洗剤組成物により、「優れた洗浄及び布地ケアの効果及び安定性を兼ね備えた洗剤組成物を提供する」という本願発明の課題を解決し得るものと解することはできない旨を指摘した。

イ 請求人の主張について
これに対して、請求人は、手続補正Cにより、上記6.(1)ア「手続補正Cの[手続補正2](本願明細書[0091]の手続補正)について」に記載したとおりの補正を行ったが、平成29年10月11に提出した意見書においては、理由III(サポート要件)の拒絶理由に対して特段の釈明、反論をしなかった。
しかし、手続補正Cにより補正された発明の詳細な説明の記載は、手続補正Dにより補正された発明の詳細な説明の記載と比較して、[0084]及び[0091]の「実施例6」が削除されていないことを除いて一致するものであり、また、本願発明(手続補正Cにより補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明)が、補正後発明よりも沈着ポリマーの選択肢が広いものであることに鑑みると、手続補正Cにより補正された発明の詳細な説明の記載及び本願発明についても、上記2.(4)「独立特許要件について」の「イ サポート要件(特許法第36条第6項第1号)について」に記載したとおりのことがいえる。

ウ 当審拒絶理由の理由III(サポート要件)についてのまとめ
よって、本願発明は、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとすることができないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、当審拒絶理由において通知した理由III(サポート要件)の拒絶理由は、依然として解消していない。

7.むすび
以上のとおり、平成29年10月11日付け手続補正書でした補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。そうすると、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-07-25 
結審通知日 2018-07-27 
審決日 2018-08-07 
出願番号 特願2014-205695(P2014-205695)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C11D)
P 1 8・ 536- WZ (C11D)
P 1 8・ 575- WZ (C11D)
P 1 8・ 561- WZ (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古妻 泰一  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 天野 宏樹
阪▲崎▼ 裕美
発明の名称 クリーニング用及び布地ケア用洗剤組成物  
代理人 中村 行孝  
代理人 出口 智也  
代理人 永井 浩之  
代理人 小島 一真  
代理人 朝倉 悟  
代理人 佐藤 泰和  

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