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審決分類 審判 一部申し立て 発明同一  H05K
管理番号 1348699
異議申立番号 異議2018-700283  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-04 
確定日 2018-12-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6227937号発明「車両用電子制御装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6227937号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6227937号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6227937号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成25年8月30日の出願であって、平成29年10月20日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月8日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1に係る特許について、平成30年4月4日付けで特許異議申立人 野本 裕史 により特許異議の申立てがなされ、同年7月10日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月13日付けで意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人 野本 裕史 から同年11月15日付けで意見書が提出されたものである。


第2 訂正請求による訂正の適否

1.訂正請求の趣旨及び訂正の内容

平成30年9月13日付けの訂正請求の趣旨は、
「特許第6227937号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求める。」
というものである。
そして、上記訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に
「【請求項1】
発熱部品と、
前記発熱部品が実装された基板と、
前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケースと、
を有し、
前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、
前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることを特徴とする車両用電子制御装置。」
と記載されているのを、
「【請求項1】
発熱部品と、
前記発熱部品が実装された基板と、
前記基板に実装されたコネクタと、
前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケースと、
を有し、
前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、
前記基板の第1の実装面には、前記発熱部品及び前記コネクタが実装されており、
前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の前記第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることを特徴とする車両用電子制御装置。」
に訂正する。

(2)訂正事項2

願書に添付した明細書の段落【0010】に
「以上の目的を達成すべく、本発明は、発熱部品と、前記発熱部品が実装された基板と、前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケースと、を有し、前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることを第1の局面とする。」
と記載されているのを、
「以上の目的を達成すべく、本発明は、発熱部品と、前記発熱部品が実装された基板と、前記基板に実装されたコネクタと、前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケースと、を有し、前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、前記基板の第1の実装面には、前記発熱部品及び前記コネクタが実装されており、前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の前記第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることを第1の局面とする。」
と訂正する。

(3)訂正事項3

願書に添付した明細書の段落【0015】に
「本発明の第1の局面における構成によれば、本発明は、発熱部品と、発熱部品が実装された基板と、発熱部品及び基板を収容する収容ケースと、を有し、収容ケースの内部に充填された樹脂により、発熱部品及び基板を収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、発熱部品から所定間隔を設けて発熱部品を覆った状態で基板の第1の実装面に取り付けられると共に、収容ケースの内部に充填された樹脂により収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることにより、発熱部品から発生する熱を効率よく伝熱させて外部に放熱し、局所的に高温になる領域が生じることを抑制することができる。」
と記載されているのを、
「本発明の第1の局面における構成によれば、本発明は、発熱部品と、発熱部品が実装された基板と、基板に実装されたコネクタと、発熱部品及び基板を収容する収容ケースと、を有し、収容ケースの内部に充填された樹脂により、発熱部品及び基板を収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、基板の第1の実装面には、発熱部品及びコネクタが実装されており、発熱部品から所定間隔を設けて発熱部品を覆った状態で基板の第1の実装面に取り付けられると共に、収容ケースの内部に充填された樹脂により収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることにより、発熱部品から発生する熱を効率よく伝熱させて外部に放熱し、局所的に高温になる領域が生じることを抑制することができる。」
と訂正する。


2.訂正の適否の判断

(1)一群の請求項について

訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし5に対応する訂正後の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正事項1

ア.訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る特許発明において、基板にコネクタが実装されていること、及び、基板の第1の実装面に、発熱部品及びコネクタが実装されていることの限定を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ.新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について
本件特許明細書の段落【0028】には、基板30の第1の実装面30aに、発熱部品20、並びにコネクタ70が実装されることが記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、本件訂正前の請求項1について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は課されない。

特許異議の申立てがされていない請求項2ないし5は、請求項1の訂正によって、訂正されることになったものであるから、独立特許要件について検討する必要がある。

ここで、下記「第4」から「第5」で示すように、訂正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものには該当しない。そうすると、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用する訂正後の請求項2ないし5に係る発明は、訂正後の請求項1よりも更に発明特定事項を追加したものであるから、同様の理由により特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものには該当しない。また、訂正後の請求項2ないし5に係る発明が、他に特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由があるとは認められない。よって、訂正後の請求項2ないし5に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(3)訂正事項2

ア.訂正の目的について
訂正事項2は、訂正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるだけのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に揚げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものである。

イ.新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項2は、訂正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるだけのものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ.全ての請求項との関連について
訂正事項2は、訂正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるものであるから、全ての請求項に関連して行われるものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

(4)訂正事項3

ア.訂正の目的について
訂正事項3は、訂正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるだけのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に揚げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものである。

イ.新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項3は、訂正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるだけのものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ.全ての請求項との関連について
訂正事項3は、訂正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるものであるから、全ての請求項に関連して行われるものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。


3.訂正の適否についてのむすび

以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第7項の規定に適合するから、本件訂正を認める。


第3 本件特許発明

本件訂正は、上記「第2」のとおり認められたので、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。

「【請求項1】
発熱部品と、
前記発熱部品が実装された基板と、
前記基板に実装されたコネクタと、
前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケースと、
を有し、
前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、
前記基板の第1の実装面には、前記発熱部品及び前記コネクタが実装されており、
前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の前記第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることを特徴とする車両用電子制御装置。
【請求項2】
前記基板の前記第1の実装面の裏面である第2の実装面に取り付けられ、前記第1の実装面の前記発熱部品が実装される領域に対応する前記第2の実装面の領域を覆うと共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第2の熱拡散カバーを更に備えることを特徴とする請求項1記載の車両用電子制御装置。
【請求項3】
前記第1の熱拡散カバーと前記第2の熱拡散カバーとを前記基板を介して互いに締結する樹脂製の締結部材を更に備えることを特徴とする請求項2記載の車両用電子制御装置。
【請求項4】
前記第1の熱拡散カバー及び前記第2の熱拡散カバーの内部に充填された前記樹脂が、前記基板に実装される他の電子部品に沿いながら前記発熱部品に対して偏在して前記収容ケース内に配置されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の車両用電子制御装置。
【請求項5】
前記収容ケースの熱伝導率は、前記樹脂部の熱伝導率よりも大きいことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の車両用電子制御装置。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について

1.取消理由の概要

当審において、本件訂正前の請求項1に係る特許発明に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)理由1(特許法第29条の2)

本件特許の請求項1に係る発明は、その出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた下記の日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。



先の出願1:PCT/JP2012/075719号(国際公開第2014/054145号)


2.当審の判断

(1)先の出願1の記載

本件特許の出願日前の他の特許出願であり、本件特許の出願後に国際公開された先の出願1の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「電子機器」に関し、図面と共に、以下の事項が記載されている。(下線は当審において付与した。)

ア.「基板と、前記基板の搭載面に設けられた電子部品と、前記基板に設けられて前記電子部品を覆う金属製カバーと、これら基板、電子部品及び金属製カバーを収容するケースと、前記ケース内に充填される封止樹脂と、を備え、
前記封止樹脂が、前記基板及び前記電子備品を埋設し、さらに、前記金属製カバーの内側及び外側の両方に充填されている電子機器。」(請求項1)

イ.「前記金属製カバーが、前記封止樹脂よりも熱伝導率の高い金属によって構成されている請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電子機器。」(請求項6)

ウ.「[背景技術]
[0002]
従来、車両等に搭載される電子機器では、振動対策や放熱対策等のため、例えば特許文献1のように、各種電子部品を基板に搭載した構成をケースに収容した上で、ケース内に樹脂(例えばエポキシ樹脂)を充填して、電子部品や基板を含む電子回路を封止(埋設)している。また、電子機器の回路には、バッテリー等の電源に直接接続され、大電流が流れるもの(電源回路)がある。
このような電源回路を構成する電子部品に大電流が流れることで電子部品周囲の樹脂が過剰に加熱されると、樹脂にクラックが発生することがある。このクラックは、電子部品から樹脂とケースとの界面まで最短距離で直線状に進行する。従来では、このクラックが電子機器の外部に露出しないように、ケースを金属製ケース(例えばアルミケース)としている。」(段落[0002])

エ.「しかしながら、上記従来のようにケースを金属製とした場合、電子機器の重量が重く、また、電子機器の価格が高くなってしまう。
本発明の一態様は、樹脂に生じるクラックの露出を抑制しながら軽量化及び低価格化も図ることが可能な電子機器を提供することを目的とする。」(段落[0004])

オ.「図1,2に示すように、本実施形態の電子機器1は、基板2と、電子部品3と、ケース4と、金属製カバー5と、封止樹脂6とを備えている。」(段落[0015])

カ.「電子部品3は、基板2の搭載面2aに設けられている。本実施形態では、複数種類の電子部品3(3A,3B)が設けられている。
一部の電子部品3Aは、通電により発生する熱が高い電子部品(以下、発熱部品3Aと呼ぶ。)である。
・・・(中略)・・・
他の電子部品3Bは、通電により発熱するものの発生する熱が発熱部品3Aよりも低い電子部品(例えばコンデンサ)である。」(段落[0016])

キ.「ケース4は、エポキシ樹脂等からなる樹脂製ケース4であり、前述した電子部品3及び基板2を収容するように構成されている。本実施形態ではケース4が一方向に開口しており、電子部品3及び基板2をケース4の開口端部4bからケース4内に収容することができる。本実施形態では、基板2がケース4内に収容された状態で基板2の搭載面2aがケース4の底面4aに対向する。」(段落[0017])

ク.「金属製カバー5は、前述した電子部品3及び基板2と同様にケース4に収容され、基板2に設けられた電子部品3を覆っている。
・・・(中略)・・・
本実施形態の金属製カバー5は、複数の電子部品3のうち発熱部品3Aのみを覆っている。」(段落[0018])

ケ.「封止樹脂6は、ケース4内に充填されて基板2及び電子部品3を埋設している。また、封止樹脂6は、金属製カバー5の内側及び外側の両方に充填されている。本実施形態の封止樹脂6は、ポッティングによりケース4の開口端部4bからケース4内に流し込んだ後に硬化(キュア)する硬質ポッティング樹脂である。」(段落[0022])

コ.「そして、本実施形態の電子機器1において、発熱部品3Aに大電流が流れる等して発熱部品3A周囲の封止樹脂6が過剰に加熱された場合には、発熱部品3A周囲の封止樹脂6にクラックが発生する。このクラックが基板2の搭載面2a側の封止樹脂6に発生した場合、クラックは、図3に示すように、発熱部品3Aから離れる方向に進行して金属製カバー5の内面に到達する。」(段落[0024])

サ.「また、本実施形態の電子機器1によれば、金属製カバー5の熱伝導率が封止樹脂6よりも高いため、発熱部品3Aに電流が流れることで金属製カバー5の内側に充填された封止樹脂6が局所的に加熱されても、この熱を金属製カバー5において効率よく拡散できる。これにより、金属製カバー5の外側の封止樹脂6が局所的に過剰に加熱されることを抑えることが可能となる。したがって、金属製カバー5外側の封止樹脂6にクラックが発生することをより確実に抑えることが可能となる。」(段落[0028])

シ.「また、電子機器1を搭載する車両のエンジン(不図示)が駆動している状態では、交流発電機(ACG)104の電圧が発熱部品3Aに常時印加される。」(段落[0029])

上記アないしシ、図1ないし図3、および図5ないし図9から、先の出願1の「電子機器」には以下の事項が記載されている。

・上記ウ、エの記載事項によれば、「車両等に搭載される電子機器」に関する背景技術が開示されるとともに、当該背景技術における課題を解決することが先の出願1の目的である。また、上記シの記載事項によれば、先の出願1に記載の「電子機器1」が「車両」に「搭載」されることが記載されている。よって、先の出願1に記載の「電子機器1」は、「車両に搭載される」ものであると認められる。
・上記ア、オの記載事項によれば、「電子機器1」は、「基板2」と、「電子部品3」と、「ケース4」と、「金属製カバー5」を備えるものである。
・上記カの記載事項によれば、「電子機器1」が備える「電子部品3」は「通電により発生する熱が高い電子部品」である「発熱部品3A」及び通電により発熱するものの発生する熱が発熱部品3Aよりも低い電子部品である「他の電子部品3B」を含むものであり、「基板2の搭載面2aに設けられ」ているものである。
・上記キの記載事項によれば、「ケース4」は「電子部品3及び基板2を収容する」ものである。
・上記ケの記載事項によれば、「封止樹脂6」は、「ケース4内に充填されて基板2及び電子部品3を埋設」しているものである。そして、「封止樹脂6」は、「ケース4内に流し込んだ後に硬化」するものである。
・上記ア、クの記載事項、及び、図1、図3、図5ないし図9によれば、「金属製カバー5」は、「基板に設けられて電子部品を覆う」ものであり、「複数の電子部品3のうち発熱部品3Aのみを覆っ」ているものである。そして、「発熱部品3A」は「基板2の搭載面2aに設けられ」ているものであるから、基板に設けられて「発熱部品3A」を覆う「金属製カバー5」も、基板の「基板2の搭載面2aに設けられ」ているものと認められる。
・上記コの特に「このクラックが基板2の搭載面2a側の封止樹脂6に発生した場合、クラックは、図3に示すように、発熱部品3Aから離れる方向に進行して金属製カバー5の内面に到達する」という記載事項によれば、「発熱部品3A」と「金属製カバー5」との間には封止樹脂6が介在しているものと認められる。
・上記ケの記載事項によれば、「ケース4内に充填」される「封止樹脂6」は、「発熱部品3A」を「覆っ」ている「金属製カバー5の内側及び外側の両方に充填されて」、その後「硬化する」ものである。
・上記イ、サの記載事項によれば、「金属製カバー5」は「封止樹脂よりも熱伝導率の高い金属によって構成され」、「発熱部品3Aに電流が流れることで金属製カバー5の内側に充填された封止樹脂6が局所的に加熱されても、この熱を金属製カバー5において効率よく拡散する」ものである。

よって、先の出願1の当初明細書等には次の発明(以下、「先願発明1」という。)が記載されていると認められる。
「通電により発生する熱が高い電子部品である発熱部品3Aと、
通電により発熱するものの発生する熱が発熱部品3Aよりも低い電子部品である他の電子部品3Bと、
発熱部品3Aと他の電子部品3Bが搭載面2aに設けられた基板2と、
発熱部品3Aと基板2とを収容するケース4と、
を備え、
ケース4の内部に充填され硬化された封止樹脂6により、発熱部品3A及び基板2をケース4内に埋設した、車両に搭載される電子機器1において、
基板の搭載面2aに設けられ、封止樹脂6を介して発熱部品3Aを覆う金属製カバー5であって、ケース4の内部に充填された封止樹脂6が金属製カバー5の内側及び外側の両方に充填されて硬化されるとともに、金属製カバー5が封止樹脂6よりも熱伝導率の高い金属によって構成されることにより、発熱部品3Aに電流が流れることで金属製カバー5の内側に充填された封止樹脂6が局所的に加熱されても、この熱を拡散する金属製カバー5を更に備えた、車両に搭載される電子機器1」


(2)対比・判断

本件特許発明1と先願発明1とを対比する。

・先願発明1の「発熱部品3A」は、通電により発生する熱が高い電子部品であるから、本件特許発明1の「発熱部品」に相当する。
・基板上に部品を「設ける」ことを「実装」すると表現することは当業者にとって一般的なことであるから、先願発明1の「発熱部品3Aが搭載面2aに設けられた基板2」は、本件特許発明1の「発熱部品が実装された基板」に相当する。
・先願発明1の「発熱部品3Aと基板2とを収容するケース4」は、本件特許発明1の「前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケース」に相当する。
・封止樹脂で部品を埋設することは、当該部品を封止することに他ならないから、先願発明1の「ケース4の内部に充填され硬化された封止樹脂6により、発熱部品3A及び基板2をケース4内に埋設」することは、本件特許発明1の「前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止」することに相当する。
・先願発明1の「金属製カバー5」は、「封止樹脂6を介して発熱部品3Aを覆う」ものであるから、「金属製カバー5」と「発熱部品3A」との間には、所定の間隔が設けられていると認められる。また、「金属製カバー5」を基板の搭載面2aに「設ける」ことは、「金属製カバー5」を基板の搭載面2aに「取り付けられる」ことに他ならない。さらに、先願発明1の「ケース4の内部に充填された封止樹脂6が、金属製カバー5の内側及び外側の両方に充填されて硬化され」ることは、「金属製カバー5」がケース4の内部に充填された封止樹脂6によりケース内に封止されることに他ならない。よって、先願発明1の「基板の搭載面2aに設けられ、封止樹脂6を介して発熱部品3Aを覆う金属製カバー5であって、ケース4の内部に充填された封止樹脂6が金属製カバー5の内側及び外側の両方に充填されて硬化されるとともに、金属製カバー5が封止樹脂6よりも熱伝導率の高い金属によって構成されることにより、発熱部品3Aに電流が流れることで金属製カバー5の内側に充填された封止樹脂6が局所的に加熱されても、この熱を拡散する金属製カバー5」は、本件特許発明1の「前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止され、熱を拡散する機能を有した金属製の第1の熱拡散カバー」に相当する。
・先願発明1の「発熱部品3A」、「基板2」、「ケース4」、及び「金属製カバー5」を備えた「車両に搭載される電子機器1」は、本件特許発明1の「発熱部品」、「基板」、「収容ケース」、及び「熱拡散カバー」を備えた「車両用電子制御装置」に相当する。
・本件特許発明1の「基板」は、第1実装面に、発熱部品に加えて「コネクタ」が実装されているものであるのに対し、先願発明1の「基板2」は、「発熱部品3A」に加えて「他の電子部品3B」が設けられてはいるものの、「コネクタ」との特定がされていない点で相違している。

よって、本件特許発明1と先願発明1とは、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「 発熱部品と、
前記発熱部品が実装された基板と、
前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケースと、
を有し、
前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、
前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることを特徴とする車両用電子制御装置」

<相違点>
本件特許発明1の「基板」は、 第1実装面に、発熱部品に加えて「コネクタ」が実装されているものであるのに対し、先願発明1の「基板2」は、「発熱部品3A」に加えて「他の電子部品3B」が設けられてはいるものの、「コネクタ」との特定がされていない点。

よって、本件特許発明1と先願発明1との間には上記のように相違点があるから、本件特許発明1は、先願発明1とは同一ではなく、先の出願1に記載された発明であるとはいえない。


(3)まとめ

以上のとおりであるから、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるということはできない。


第5 特許異議申立人から平成30年11月15日付けで提出された意見書について

特許異議申立人は、平成30年11月15日付けで提出された意見書において、本件訂正後の請求項1について、新たな証拠として甲2ないし甲4を挙げて次のように主張している。

先の出願1には、基板2の搭載面2aに、他の電池部品3Bが設けられることが開示されている。よって、訂正後の請求項1に記載の発明と先の出願1との間の相違点としては、訂正後の請求項1に記載の発明では「コネクタ」と記載されているのに対して、先の出願1では「電子部品」と記載されているに留まるという点で相違するに過ぎない。
そして、電子部品としてコネクタを採用することは甲2ないし甲4に記載されているように周知技術であるから、電子部品3Bとしてコネクタを採用することは具体化手段における微差に過ぎない。
よって、訂正後の請求項1に記載の発明は先の出願1と実質的に同一である。

上記主張について検討する。
先の出願1の段落[0017]には、「本実施形態ではケース4が一方向に開口しており、電子部品3及び基板2をケース4の開口端部4bからケース4内に収容することができる。本実施形態では、基板2がケース4内に収容された状態で基板2の搭載面2aがケース4の底面4aに対向する。」(下線は当審において付与した。)と記載され、段落[0022]には、「封止樹脂6は、ケース4内に充填されて基板2及び電子部品3を埋設している。」と記載されている。また、図1には、図1の上側で開口したケース4内で、基板2の搭載面2aが、図1の下側であるケースの底面に対向して収容されることが図示されている。
これらの記載によれば、ケース4は、図1の上側で示される一方向に開口し、その余の方向で開口していないものである。そして、基板2の搭載面2aに設けられている電子部品3(発熱部品3A及び他の電子部品3B)は、ケース4の開口していない底面に対向した状態で、ケース4内に充填された封止樹脂6により埋設されているものであるから、電子部品3Bはケース外部には露出しないものである。
一方、「コネクタ」は、他の電線等と相互接続するための電子部品であるから、ケース外部に露出して設けられるべきものである。
してみると、特許異議申立人が主張するように、電子部品としてコネクタを採用することが周知技術であったとしても、先の出願1においては外部に露出しないものである電子部品3Bとして、外部に露出するべきものであるコネクタを採用することには、阻害要因があるといえる。

したがって、上記「第4 2.(2)」で前述した「<相違点>」は、具体化手段における微差とはいえず、訂正後の請求項1に記載の発明は、先の出願1と実質的に同一のもということはできないから、特許異議申立人による上記主張は理由がない。


第6 むすび

以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
車両用電子制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電子制御装置に関し、特に、発熱部品を実装した基板を収容ケースに収容すると共に、収容ケース内に樹脂を充填して収容ケース内に基板及び発熱部品を封止する車両用電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動二輪車や自動四輪車等の車両に搭載される車両用電子制御装置においては、その防水機能や防塵機能を確保し耐衝撃性や耐振動性を向上すべく、電子部品を実装した電子回路基板等の構成部品を収容ケースに収容すると共に、収容ケースに収容される構成部品を封止して固定するために収容ケース内に樹脂を充填する構成が採用されている。
【0003】
かかる状況下で、特許文献1は、回路基板と、回路基板を収容した収容ケースと、の間の隙間に樹脂を充填して、収容ケースの内部に回路基板を封止して固定することにより、防水機能や防塵機能を確保し耐衝撃性や耐振動性を向上することを企図した電子制御装置を開示する。かかる構成においては、回路基板上に発熱部品が実装されており、発熱部品から発生した熱は、収容ケース内に充填された樹脂を介して収容ケースに伝わり、収容ケースより外部に放熱される。
【0004】
また、車両用電子制御装置に要求される機能は高度化しており、発熱部品が多数実装されることがある。かかる発熱部品としては、例えば、モータを駆動するための駆動回路において、回路基板上に密集して実装されるスイッチング素子が挙げられる。このようなスイッチング素子としては、一般的にはFET(Field-Effect Transistor)を用いることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-35106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1の構成においては、回路基板上に実装された発熱部品から発生した熱は、収容ケース内に充填された樹脂を介して収容ケースに伝わり、収容ケースより外部に放熱されため、電子制御装置における温度上昇を抑制することができるものであるが、収容ケース内に充填された樹脂が伝熱できる熱量を超える熱量を発熱部品で生じることがあり、その結果、収容ケース内に充填された樹脂に熱が籠ることにより局所的に高温になる領域が生じる傾向があることが判明した。
【0007】
また、かかる傾向は、発熱素子が高速にスイッチング動作されるFET等であるとより顕著となり、特に、複数のFETが密集した状態で回路基板に実装されることが多い現状では、モータ等を駆動している際に複数のFETから生じた熱により温度が上昇し易く、局所的に高温になる領域が生じる傾向が甚だ顕著なものとなる。
【0008】
つまり、現状では、スイッチング素子等の発熱部品において発生する熱により、局所的に高温になる領域が生じることを確実に抑制できる新規な構成の車両用電子制御装置の実現が待望された状況にある。
【0009】
本発明は、以上の検討を経てなされたもので、発熱部品から発生する熱を効率よく伝熱させて外部に放熱することにより、局所的に高温になる領域が生じることを抑制できる車両用電子制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成すべく、本発明は、発熱部品と、前記発熱部品が実装された基板と、前記基板に実装されたコネクタと、前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケースと、を有し、前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、前記基板の第1の実装面には、前記発熱部品及び前記コネクタが実装されており、前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の前記第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることを第1の局面とする。
【0011】
また本発明は、かかる第1の局面に加えて、前記基板の前記第1の実装面の裏面である第2の実装面に取り付けられ、前記第1の実装面の前記発熱部品が実装される領域に対応する前記第2の実装面の領域を覆うと共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第2の熱拡散カバーを更に備えることを第2の局面とする。
【0012】
また本発明は、かかる第2の局面に加えて、前記第1の熱拡散カバーと前記第2の熱拡散カバーとを前記基板を介して互いに締結する樹脂製の締結部材を更に備えることを第3の局面とする。
【0013】
また本発明は、かかる第1から第3の局面のいずれかに加えて、前記第1の熱拡散カバー及び前記第1の熱拡散カバーの内部に充填された前記樹脂が、前記基板に実装される他の電子部品に沿いながら前記発熱部品に対して偏在して前記収容ケース内に配置されることを第4の局面とする。
【0014】
また本発明は、かかる第1から第3の局面のいずれかに加えて、前記収容ケースの熱伝導率は、前記樹脂部の熱伝導率よりも大きいことを第5の局面とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の局面における構成によれば、本発明は、発熱部品と、発熱部品が実装された基板と、基板に実装されたコネクタと、発熱部品及び基板を収容する収容ケースと、を有し、収容ケースの内部に充填された樹脂により、発熱部品及び基板を収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、基板の第1の実装面には、発熱部品及びコネクタが実装されており、発熱部品から所定間隔を設けて発熱部品を覆った状態で基板の第1の実装面に取り付けられると共に、収容ケースの内部に充填された樹脂により収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることにより、発熱部品から発生する熱を効率よく伝熱させて外部に放熱し、局所的に高温になる領域が生じることを抑制することができる。
【0016】
ここで、第1の熱拡散カバーと発熱部品との間隔が離間し過ぎていると、局所的に高温となる領域が生じる課題を解決できない。このため、予めシミュレーション等に基づいて、熱拡散カバーが無い状態で局所的に高温となる範囲内に熱拡散カバーを載設する。これにより、第1の熱拡散カバーが発熱部品で発生する熱を受熱すると共に、金属製の第1の熱拡散カバーの高い熱伝導率を以て、熱をその周囲のポッティング樹脂に拡散的に伝熱することができる。よって、第1の熱拡散カバーの周囲の温度が拡散的に上昇される一方で、第1の熱拡散カバー内の温度を下げることができ、局所的に高温になる領域を実用的に減少することができる。
【0017】
また、本発明の第2の局面における構成によれば、基板の第1の実装面の裏面である第2の実装面に取り付けられ、第1の実装面の発熱部品が実装される領域に対応する第2の実装面の領域を覆うと共に、収容ケースの内部に充填された樹脂により収容ケース内に封止される金属製の第2の熱拡散カバーを更に備えることにより、第1の実装面に実装された発熱部品で発生し、基板を介して第2の実装面に伝熱された熱を、第1の熱拡散カバーにおける作用と同様に効率よく伝熱させて外部に放熱し、局所的に高温になる領域が生じることを確実に抑制することができる。
【0018】
また、本発明の第3の局面によれば、第1の熱拡散カバーと第2の熱拡散カバーとを基板を介して互いに締結する樹脂製の締結部材を更に備えることにより、半田付けせずに第1の熱拡散カバーと第2の熱拡散カバーとを基板に取り付けることができるので、基板に半田付けするためのレイアウトの検討や半田付けのための基板のスペースが不要になって、電子部品の実装及び回路パターンの引き回しに自由度を持たせることができると共に、金属製の第1の熱拡散カバー及び第2の熱拡散カバーを加締めにより基板に取り付けないので、加締める際に第1の熱拡散カバー及び第2の熱拡散カバーから生じる金属粉により、基板上の回路が短絡する等の事象が生じる可能性を低減することができる。
【0019】
また、本発明の第4の局面によれば、第1の熱拡散カバー及び第1の熱拡散カバーの内部に充填された樹脂が、基板に実装される他の電子部品に沿いながら発熱部品に対して偏在して収容ケース内に配置されることにより、耐熱性の低い他の電子部品を避けて伝熱領域を増大することができ、耐熱性の低い他の電子部品に放射される熱量を低減することができる。
【0020】
また、本発明の第5の局面によれば、収容ケースの熱伝導率が、樹脂部の熱伝導率よりも大きく設定されることにより、収容ケースは、熱拡散カバー及び樹脂部を介して、発熱部品で生じた熱を効率よく拡散的に受熱して、収容ケースの外部により確実に放熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1(a)は、本発明の第1の実施形態における車両用電子制御装置を示す斜視図であり、その収容ケースの一部を破断した状態で示し、図1(b)は、その熱拡散カバーを取り除いた状態で示す図1(a)の部分拡大図である。
【図2】図1のその収容ケースの一部を破断した状態でのA-A断面図である。
【図3】図3(a)は、本実施形態における車両用電子制御装置の発熱部品で生じた熱が外部に伝熱する様子を示す模式図であり、位置的には図2に相当する。また、図3(b)は、本実施形態における車両用電子制御装置の熱拡散カバーにより発熱部品を覆った状態での発熱部品の周囲の温度分布を示す上面図であり、図3(c)は、本実施形態における車両用電子制御装置の熱拡散カバーにより発熱部品を覆っていない状態での発熱部品の周囲の温度分布を示す上面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態における車両用電子制御装置のその収容ケースの一部を破断した状態での断面図であり、位置的には図2に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を適宜参照して、本発明の各実施形態における車両用電子制御装置につき、詳細に説明する。なお、図中、x軸、y軸及びz軸は、3軸直交座標系を成し、z軸の方向が上下方向に対応するものとする。
【0023】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態における車両用電子制御装置につき、図面を適宜参照しながら、以下詳細に説明する。
【0024】
<車両用電子制御装置の構成>
まず、本実施形態における車両用電子制御装置の構成につき、図1及び図2を参照しながら、以下詳細に説明する。
【0025】
図1(a)は、本実施形態における車両用電子制御装置を示す斜視図であり、その収容ケースの一部を破断した状態で示し、図1(b)は、その熱拡散カバーを取り除いた状態で示す図1(a)の部分拡大図である。また、図2は、図1のその収容ケースの一部を破断した状態でのA-A断面図である。なお、図1(a)及び図1(b)では、説明の便宜上、発熱部品及びコネクタ以外の電子部品及び樹脂部の図示を省略し、図2では、説明の便宜上、熱拡散カバーの内部の樹脂部の図示を省略している。
【0026】
図1及び図2に示すように、本実施形態における車両用電子制御装置10は、発熱部品20と、基板30と、収容ケース40と、熱拡散カバー50と、樹脂部60と、コネクタ70と、を主として備える。
【0027】
発熱部品20は、典型的には駆動回路を構成する複数のFET等のスイッチング素子から成る。発熱部品20は、図示を省略するモータ等を駆動する際にスイッチング動作することにより発熱する。つまり、発熱部品20は、その動作時に発熱するものであり、かつ図1(b)に示すように密集して基板30の第1の実装面30aに半田付け等により複数実装されているため、かかる発熱部品20が実装される領域は、その動作時に高温になり易い。
【0028】
基板30は、典型的にはガラスエポキシ基板等の回路基板であり、第1の実装面30aと、第1の実装面30aの裏面である第2の実装面30bと、を有している。第1の実装面30aには、複数の電子部品13a及び13b、発熱部品20、並びにコネクタ70が実装されていると共に、発熱部品20を覆う熱拡散カバー50が取り付けられている。一方で、第2の実装面30bには、複数の電子部品13cが実装されている。第1の実装面30aに実装される電子部品13aは、第1の実装面30aに実装される発熱部品20及び電子部品13b、並びに第2の実装面30bに実装される電子部品13cよりも上下方向の高さが高い背高部品である。
【0029】
収容ケース40は、典型的には樹脂製であり、電子部品13a、13b及び13c、発熱部品20、基板30、熱拡散カバー50、並びにコネクタ70の一部を収容している。収容ケース40は、外部に開放した開口部41を一端に有した袋状になっており、開口部41からコネクタ70の一部が外部に突出している。収容ケース40のy軸の方向の中央部には、開口部41からx軸の正方向に向かって延在する高頂壁部42が設けられ、高頂壁部42の下方には、背高部品であるコンデンサ等の電子部品13aが配置される。収容ケース40の高頂壁部42以外の上壁部は高頂壁部42よりも高さの低い低頂壁部43になっており、低頂壁部43の下方には、電子部品13aに比べて各々低背化された発熱部品20、電子部品13b及び電子部品13cが配置される。これにより車両用電子制御装置10を小型化すると共に、樹脂部60の容積を低減することができる。
【0030】
熱拡散カバー50は、典型的には鉄等の金属製であり、発熱部品20から所定間隔を設けて発熱部品20を覆った状態で、基板30の第1の実装面30aに半田付け等で取り付けられている。
【0031】
より詳しくは、熱拡散カバー50は、下方が開放された直方体状の箱型部材であり、発熱部品20を収納するための凹部51と、凹部51の周囲に設けられる4つの側壁部52a、52b、52c及び52dと、4つの側壁部52a、52b、52c及び52dの下端部53a、53b、53c及び53dより更に下方に延設され、基板30に形成されている図示を省略する複数の孔部に対応して嵌装されて基板30に半田付け等で固定される複数の脚部54と、4つの側壁部52a、52b、52c及び52dの隣接するもの同士の間に対応して各々形成された複数の隙間部55と、天板部56と、を有している。凹部51は、4つの側壁部52a、52b、52c及び52、並びに天板部56により画成される。また、熱拡散カバー50を基板30に取り付けた際に、熱拡散カバー50の下端部53a、53b、53c及び53dと、基板30の第1の実装面30aと、の間には複数の隙間部90が各々形成される。隙間部55及び隙間部90は、熱拡散カバー50の内部に樹脂を流入させるために設けられている。
【0032】
なお、熱拡散カバー50は、直方体状の箱型に限らず、発熱部品20から所定の間隔を設けて発熱部品20を覆うことができるような任意の形状に設定してもよい。また、熱拡散カバー50には、熱拡散カバー50の内部に樹脂が流入し易いように、隙間部55及び隙間部90に加えて、熱拡散カバー50の外部と内部とを連通する貫通孔や切欠きを天板部56等に設けてもよい。
【0033】
樹脂部60は、収容ケース40の内部に充填された流動性を有する樹脂材料が熱拡散カバー50の内部及び外部に流れ込んだ後に硬化することにより形成される。この際、収容ケース40の内部に充填された流動性を有する樹脂材料は、熱拡散カバー50の隙間部55及び隙間部90から熱拡散カバー50の内部に流入する。樹脂部60は、熱拡散カバー50により覆われた発熱部品20を熱拡散カバー50の内部に封止して固定すると共に、電子部品13a、13b及び13c、基板30、熱拡散カバー50、並びにコネクタ70の一部を収容ケース40の内部に封止して固定する。
【0034】
ここで、熱拡散カバー50の形状や発熱部品20と熱拡散カバー50との間の間隔は、発熱部品20と熱拡散カバー50とが直接接触した部分が生じないように、発熱部品20と熱拡散カバー50との間に必ず樹脂部60を介在させた構成が実現されるように設定される。更に、樹脂製の樹脂部60、樹脂製の収容ケース40及び金属製の熱拡散カバー50の各々の熱伝導率は、熱拡散カバー50の熱伝導率が一番大きくなるように設定されている。
【0035】
これにより、発熱部品20で生じた熱が、その周辺に不要に籠もらず、熱拡散カバー50内部の樹脂部60を介して熱拡散カバー50に向かって拡散的に伝熱されて、熱拡散カバー50内部の樹脂部60に再び伝熱することを抑制された態様で熱拡散カバー50自体の部材内部を伝熱しながら、熱拡散カバー50を介して熱拡散カバー50と収容ケース40との間の樹脂部60に伝熱し、熱拡散カバー50と収容ケース40との間の樹脂部60を介して収容ケース40に拡散的に伝熱した後に、収容ケース40の外部に放熱されることができる。
【0036】
また、樹脂製の樹脂部60及び樹脂製の収容ケース40の各々の熱伝導率は、収容ケース40の熱伝導率が樹脂部60の熱伝導率よりも大きくなるように設定されることが好ましい。これにより、収容ケース40は、熱拡散カバー50及び樹脂部60を介して、発熱部品20で生じた熱を効率よく拡散的に受熱して、収容ケース40の外部により確実に放熱することができる。
【0037】
また、熱拡散カバー50の形状や発熱部品20と熱拡散カバー50との間の間隔は、熱拡散カバー50が無い状態で、第1の実装面30a側の所定温度以上の高温になる箇所を予めシミュレーションや実測により把握し、このように把握した高温になる箇所から伝熱させるべき領域を見定めて設定されるものである。
【0038】
具体的には、熱拡散カバー50の天板部56と発熱部品20との間には、所定の間隔r1が設けられている。熱拡散カバー50の側壁部52aと発熱部品20との間には、所定の間隔r2が設けられていると共に、熱拡散カバー50の側壁部52cと発熱部品20との間には、所定の間隔r3が設けられている。ここで、これらの間隔r1、r2及びr3の間には、間隔r1<間隔r2<間隔r3となる関係があって、熱拡散カバー50及びその内部の樹脂部60が、発熱素子20を覆ってそれからx軸の正方向側に、電子部品13aに沿って偏在していることが好ましい。例えば、発熱素子20に対してy軸の正方向側に配置される電子部品13aが、耐熱性が相対的に低い電子部品だとすれば、このように間隔r1、r2及びr3の間の大きさの大小関係が設定されて熱拡散カバー50及びその内部の樹脂部60が偏在することにより、発熱部品20で生じた熱が、熱拡散カバー50内部の樹脂部60を介して、発熱部品20の周辺に不要に籠もらないように、かつ、電子部品13aを避けるかのように、x軸の正方向側にその伝熱領域を増大された態様で伝熱していきながら熱拡散カバー50に伝熱し、熱拡散カバー50自体の部材内部を伝熱しながら熱拡散カバー50から、収容ケース40と熱拡散カバー50との間の樹脂部60を介して収容ケース40に伝熱して、収容ケース40の外部に放熱されることができる。つまり、発熱素子20に近接した電子部品13aに対して放熱される熱量をより低減することができ、また、電子部品13aよりも発熱素子20から離間した電子部品13bに対して放熱される熱量もより低減することができる。
【0039】
なお、熱拡散カバー50の側壁部52bと発熱部品20との間、及び熱拡散カバー50の側壁部52dと発熱部品20との間には、図示を省略する所定の間隔が設けられていることはもちろんである。
【0040】
コネクタ70は、図示を省略する相手側コネクタが嵌合する凹部である嵌合部70aを有すると共に、長板上の金属部材を折り曲げて形成され、コネクタ70の外部に一部が突出する接続端子71を備える。コネクタ70は、接続端子71が基板30に半田付けされた状態で、基板30の第1の実装面30aに実装されている。つまり、接続端子71は、一端が基板30に形成された図示を省略するスルーホールに挿入されて半田付けされると共に、他端が嵌合部70aで露出して相手側コネクタの図示を省略する接続端子等に接続可能になっている。
【0041】
<車両用電子制御装置の組み立て方法>
次に、本実施形態における車両用電子制御装置10の組み立て方法につき、図1及び図2を参照しながら、以下詳細に説明する。
【0042】
まず、基板30の第1の実装面30aに発熱部品20及び電子部品13a及び13bを半田付け等により実装すると共に、基板30の第2の実装面30bに電子部品13cを半田付け等により実装する。
【0043】
次に、熱拡散カバー50により発熱部品20を覆った状態で、熱拡散カバー50の複数の脚部54を基板30の第1の実装面30aの複数の孔部に各々対応して嵌装した後これらを基板30に半田付けし、熱拡散カバー50を基板30に取り付ける。なお、熱拡散カバー50の基板30への取り付けは、半田付けに限らず、締結や加締め等の取付け構造を用いてもよい。
【0044】
併せて、基板30に対してコネクタ70の接続端子71を半田付けして、コネクタ70を基板30に実装する。
【0045】
次に、電子部品13a、13b及び13c、発熱部品20並びにコネクタ70を実装すると共に熱拡散カバー50を取り付けた基板30を、収容ケース40の開口部41から収容ケース40の内部に収容する。
【0046】
最後に、開口部41から収容ケース40の内部に流動性を有する樹脂材料を流入させて充填した後に硬化させることにより、熱拡散カバー50により発熱部品20を覆った状態で、電子部品13a、13b及び13c、発熱部品20、基板30、熱拡散カバー50、並びにコネクタ70の一部を、収容ケース40内に封止して固定する。この際、収容ケース40の内部に充填された流動性を有する樹脂材料は、熱拡散カバー50の隙間部55及び隙間部90より熱拡散カバー50の内部にも流入して硬化することにより、発熱部品20を熱拡散カバー50の内部に封止して固定する。
【0047】
<発熱部品が発熱した際の発熱状態>
次に、本実施形態における車両用電子制御装置10における発熱部品20が発熱した際の発熱状態につき、更に図3をも参照しながら、以下詳細に説明する。
【0048】
図3(a)は、本実施形態における車両用電子制御装置の発熱部品で生じた熱が外部に伝熱する様子を示す模式図であり、位置的には図2に相当する。また、図3(b)は、本実施形態における車両用電子制御装置の熱拡散カバーにより発熱部品を覆った状態での発熱部品の周囲の温度分布を示す上面図であり、図3(c)は、本実施形態における車両用電子制御装置の熱拡散カバーにより発熱部品を覆っていない状態での発熱部品の周囲の温度分布を示す上面図である。なお、図3(a)では、説明の便宜上、発熱部品20、基板30、熱拡散カバー50及び非発熱部品80のみを示し、図3(b)及び図3(c)では、発熱部品20、基板30及び熱拡散カバー50のみを示している。
【0049】
図3(a)に示すように、発熱部品20で生じた熱は、図3(a)の矢印D1で示すように放射状に熱拡散カバー50内部の樹脂部60を伝熱し、熱拡散カバー50に到達する。この際、熱拡散カバー50内部の樹脂部60に対する発熱部品20の接触面積は、基板30に対する発熱部品20の接触面積よりも相対的に大きいため、発熱部品20で生じた熱が基板30に伝熱される割合は相対的に低い。なお、図3(a)中では、説明の便宜上、下方に向く伝熱は図示を省略している。
【0050】
熱拡散カバー50に到達した熱は、図3(a)の矢印D2で示すように熱拡散カバー50自体の部材内部を伝熱する。この際、熱拡散カバー50内部の樹脂部60の熱伝導率は熱拡散カバー50の熱伝導率よりも低いため、熱拡散カバー50自体の部材内部を伝熱する熱が熱拡散カバー50内部の樹脂部60に再び伝熱されることは、確実に抑制されている。
【0051】
熱拡散カバー50自体の部材内部を伝熱する熱は、図3(a)の矢印D3で示すように熱拡散カバー50から熱拡散カバー50外部の樹脂部60に放射状に伝熱し、収容ケース40に到達する。
【0052】
そして、収容ケース40に到達した熱は、収容ケース40の外部に放熱される。この際、収容ケース40が受熱する熱は、発熱部品20で生じた熱が熱拡散カバー50内部の樹脂部60、熱拡散カバー50及び熱拡散カバー50外部の樹脂部60を介して拡散的に伝熱されてきたものであるため、収容ケース40の外部に放熱される熱は、熱拡散カバー50の外部に存在する電子部品13a及び13b等の非発熱部品80に対して集中的に放熱されることはなく、非発熱部品80に対して与える熱影響を低減することができる。
【0053】
次に、車両用電子制御装置10の発熱部品20が発熱した場合の温度分布について、図3(b)及び図3(c)を参照して、詳細に説明する。
【0054】
ここで、図3(b)及び図3(c)において、温度t1、t2、t3…の順番に等温度差で温度が高くなっていることを示す。また、図3(b)と図3(c)とは、熱拡散カバー50の有無以外は、同一条件で発熱部品20を発熱させた際の温度分布を示す。
【0055】
発熱部品20を熱拡散カバー50で覆った図3(b)に示す車両用電子制御装置10では、発熱部品20に近づくほど温度が上昇するものの、その温度分布は熱拡散カバー50の配置領域に対応して相対的に均等化されており、発熱部品20が実装されている最も温度の高い領域の温度はt5程度である。
【0056】
一方で、発熱部品20を熱拡散カバー50で覆わない図3(c)に示す車両用電子制御装置では、発熱部品20に近づくほど温度が急峻に上昇して、発熱部品20が実装されている最も温度の高い領域の温度はt10である。
【0057】
以上より、温度t5は温度t10よりも低温度であるため、発熱部品20を熱拡散カバー50で覆う場合には、発熱部品20を熱拡散カバー50で覆わない場合に比較して、発熱部品20が発熱した際の熱を拡散しながら伝熱して均等化し、車両用電子制御装置10の最高温度を低下させることができていることが分かる。なお、図3(b)及び図3(c)は、基板30の第1の実装面30aについての温度分布を示すが、基板30の第2の実装面30bについての温度分布の傾向も同様であった。
【0058】
以上の本実施形態の構成によれば、発熱部品20と、発熱部品20が実装された基板30と、発熱部品20及び基板30を収容する収容ケース40と、を有し、収容ケース40の内部に充填された樹脂部60により、発熱部品20及び基板30を収容ケース40内に封止する車両用電子制御装置10において、発熱部品20から所定間隔を設けて発熱部品20を覆った状態で基板30の第1の実装面30aに取り付けられると共に、収容ケース40の内部に充填された樹脂部60により収容ケース40内に封止される金属製の熱拡散カバー50を更に備えることにより、発熱部品20から発生する熱を効率よく伝熱させて外部に放熱し、局所的に高温になる領域が生じることを抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態の構成によれば、熱拡散カバー50及び熱拡散カバー50内部に充填された樹脂部60が、基板30に実装される他の電子部品13aに沿いながら発熱部品20に対して偏在して収容ケース40内に配置されることにより、耐熱性の低い他の電子部品13aを避けて伝熱領域を増大することができ、耐熱性の低い他の電子部品13aに放射される熱量を低減することができる。
【0060】
また、本実施形態の構成によれば、収容ケース40の熱伝導率が、樹脂部60の熱伝導率よりも大きく設定されていることにより、収容ケース40は、熱拡散カバー50及び樹脂部60を介して、発熱部品20で生じた熱を効率よく拡散的に受熱して、収容ケース40の外部により確実に放熱することができる。
【0061】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態における車両用電子制御装置につき、図面を適宜参照しながら、以下詳細に説明する。
<車両用電子制御装置の構成>
まず、本実施形態における車両用電子制御装置の構成につき、図4を参照しながら、以下詳細に説明する。
【0062】
図4は、本実施形態における車両用電子制御装置のその収容ケースの一部を破断した状態での断面図であり、位置的には図2に相当する。
【0063】
図4に示すように、本実施形態における車両用電子制御装置100においては、第1の実施形態における車両用電子制御装置10における熱拡散カバー50の代わりに、熱拡散カバー110及び熱拡散カバー120を設けたことが主たる相違点である。よって、本実施形態においては、かかる相違点に着目して説明することとし、第1の実施形態と同一な構成要素には同一符号を付して、その説明を適宜省略又は簡略化する。なお、図4では、説明の便宜上、熱拡散カバー110の内部及び熱拡散カバー120の内部の樹脂部60の図示を省略している。
【0064】
本実施形態における車両用電子制御装置100は、発熱部品20と、基板30と、収容ケース40と、樹脂部60と、コネクタ70と、熱拡散カバー110及び120と、締結部材130と、を主に備える。
【0065】
熱拡散カバー110は、典型的には鉄等の金属製で、下方が開放された直方体状の箱型部材であり、発熱部品20から所定間隔を設けて発熱部品20を覆うものであるが、締結部材130により基板30の第1の実装面30aに取り付けられていることが、車両用電子制御装置10における熱拡散カバー50の構成と相違するものである。つまり、熱拡散カバー110は、その天板部56に締結部材130を挿通するための板厚方向に貫通する貫通孔111が形成されていること以外は、車両用電子制御装置10における熱拡散カバー50の構成と同一である。
【0066】
熱拡散カバー120は、熱拡散カバー110と同様に典型的には鉄等の金属製の直方体状の箱型部材であるが、発熱部品20を実装した第1の実装面30aの領域に対応する第2の実装面30bの領域を覆った状態で、締結部材130により第2の実装面30bに取り付けられている。かかる熱拡散カバー120は、発熱部品20を実装した第1の実装面30aの領域を、上方から下方に見て第2の実装面30bに投影した投影領域を覆った状態で、第2の実装面30bに取り付けられている。ここで、熱拡散カバー120により覆われる領域は、かかる投影領域に一致する場合に限らず、図4に示すように、かかる投影領域を含んでいればそれよりも大きい領域であってもよい。
【0067】
より詳しくは、熱拡散カバー120は、上方が開放された直方体状の箱型部材であり、凹部121と、凹部121の周囲に設けられる4つの側壁部122a、122b、122c及び122dと、4つの側壁部122a、122b、122c及び122dの上端部123a、123b、123c及び123dより更に上方に延設され、基板30に形成されている図示を省略する複数の孔部に対応して嵌装される複数の脚部124と、4つの側壁部122a、122b、122c及び122dの隣接するもの同士の間に対応して各々形成された複数の隙間部125と、底板部126と、を有している。凹部121は、4つの側壁部122a、122b、122c及び122d、並びに底板部126により画成される。また、熱拡散カバー120を基板30に取り付けた際に、熱拡散カバー120の上端部123a、123b、123c及び123dと、基板30の第2の実装面30bと、の間には複数の隙間部190が各々形成される。隙間部125及び隙間部190は、熱拡散カバー120の内部に樹脂を流入させるために設けられている。底板部126には、締結部材130を挿通するための板厚方向に貫通する貫通孔127が形成されている。
【0068】
熱拡散カバー120を基板30の第2の実装面30bに取り付けた際の熱拡散カバー120の第2の実装面30bからの高さh2は、第2の実装面30bに発熱部品20を実装していないため、熱拡散カバー110を基板30の第1の実装面30aに取り付けた際の熱拡散カバー110の第1の実装面30aからの高さh1よりも低く設定される。これにより、基板30の第2の実装面30bと収容ケース40との間隔を小さくすることができるので、車両用電子制御装置10を小型化することができる。なお、熱拡散カバー120内では、別の発熱部品等の電子部品が基板30の第2の実装面30bに実装されていてもよい。また、熱拡散カバー120は、熱拡散カバー110と同じ材料製であることがコスト面等の利点が大きいが、収容ケース40及び樹脂部60の熱伝導率よりも熱伝導率が大きいものであれば、熱拡散カバー110の金属材料とは異種の金属材料を用いて形成してもよい。
【0069】
樹脂部60は、収容ケース40の内部に充填された流動性を有する樹脂材料が熱拡散カバー110及び熱拡散カバー120の内部及び外部に流れ込んだ後に硬化することにより形成される。この際、収容ケース40の内部に充填された流動性を有する樹脂材料は、熱拡散カバー110の隙間部55及び隙間部90から熱拡散カバー110の内部に流入すると共に、熱拡散カバー120の隙間部125及び隙間部190から熱拡散カバー120の内部に流入する。樹脂部60は、熱拡散カバー110により覆われた発熱部品20を熱拡散カバー110の内部に封止して固定すると共に、電子部品13a、13b及び13c、基板30、コネクタ70、熱拡散カバー110、熱拡散カバー120、並びにコネクタ70の一部を、収容ケース40の内部に封止して固定する。
【0070】
締結部材130は、典型的には樹脂製であり、一端に貫通孔127の径より大きな径を有する頭部130aを有すると共に、他端に締結部130bを有している。締結部材130は、熱拡散カバー110に形成された貫通孔111、基板に形成された図示を省略する貫通孔、及び熱拡散カバー120に形成された貫通孔127に挿通されて、頭部130aが熱拡散カバー120の貫通孔127の周りの底板部126に当接された状態で、締結部130bが圧入や螺合等により熱拡散カバー110の貫通孔111の周りの天板部56と締結されることにより、熱拡散カバー110と熱拡散カバー120とを基板30に対して固定する。また、締結部材130の熱伝導率は、樹脂部60の熱伝導率と同程度に設定され、熱拡散カバー110及び熱拡散カバー120の各々の熱伝導率よりも小さく設定される。
【0071】
<車両用電子制御装置の組み立て方法>
次に、本実施形態における車両用電子制御装置100の組み立て方法につき、図4を参照しながら、以下詳細に説明する。なお、本実施形態における車両用電子制御装置の組み立て方法において、第1の実施形態における車両用電子制御装置の組み立て方法と同一である工程については、その説明を省略又は簡略化する。
【0072】
まず、基板30の第1の実装面30aに発熱部品20及び電子部品13a及び13bを半田付け等により実装すると共に、基板30の第2の実装面30bに電子部品13cを半田付け等により実装した後で、発熱部品20を実装した第1の実装面30aの領域を、上方から下方に見て第2の実装面30bに投影した投影領域を、熱拡散カバー120で覆った状態で、熱拡散カバー110と熱拡散カバー120とを基板30を介して締結部材130により基板30に取り付ける。
【0073】
具体的には、熱拡散カバー120の貫通孔127に対して、熱拡散カバー120の外方より締結部材130の締結部130bを挿通する。
【0074】
続いて、熱拡散カバー110の貫通孔111に対して、熱拡散カバー110の内部より、貫通孔127及び基板の貫通孔を順次挿通した締結部材130の締結部130bを、締結部材130の頭部130aが熱拡散カバー120の貫通孔127の周りの底板部126に当接するまで挿通する。
【0075】
この際、締結部材130の締結部130bを、圧入や螺合等により熱拡散カバー110の貫通孔111の周りの天板部56と締結することにより、熱拡散カバー110と熱拡散カバー120とを基板30に対して固定して取り付ける。
【0076】
次に、コネクタ70を実装すると共に電子部品13a、13b及び13c、発熱部品20、熱拡散カバー110並びに熱拡散カバー120を取り付けた基板30を、収容ケース40の開口部41から収容ケース40の内部に収容する。
【0077】
最後に、開口部41から収容ケース40の内部に樹脂材料を流入させて充填した後に硬化させることにより、熱拡散カバー110により発熱部品20を覆うと共に熱拡散カバー120により前述の投影領域を覆った状態で、電子部品13a、13b及び13c、発熱部品20、基板30、熱拡散カバー110及び熱拡散カバー120、並びにコネクタ70の一部を、収容ケース40内に封止して固定する。この際、収容ケース40の内部に充填された流動性を有する樹脂材料は、熱拡散カバー110の隙間部55及び隙間部90より熱拡散カバー110の内部に流入して硬化することにより、発熱部品20を熱拡散カバー110の内部に封止する。なお、熱拡散カバー120内で、別の発熱部品等の電子部品が基板30の第2の実装面30bに実装されている場合には、同様に、かかる電子部品も熱拡散カバー120の内部に封止する。
【0078】
<発熱部品が発熱した際の発熱状態>
次に、本実施形態における車両用電子制御装置100における発熱部品20が発熱した際の発熱状態につき、以下詳細に説明する。
【0079】
本実施形態における車両用電子制御装置100の発熱部品20が発熱した際の発熱状態の様子は、図3(a)を参照しながら説明した内容と同様であると共に、車両用電子制御装置100の発熱部品20が発熱した場合の温度分布は、図3(b)を参照しながら説明した内容と同様である。
【0080】
但し、本実施形態における車両用電子制御装置100では、熱拡散カバー110に加えて熱拡散カバー120が設けられているため、発熱部品20が発熱した際の熱を、基板30を介して熱拡散カバー120内部の樹脂部60にも伝熱する。このように熱拡散カバー120内部の樹脂部60に伝熱された熱は、熱拡散カバー120に向かって拡散的に伝熱して、熱拡散カバー120内部の樹脂部60に再び伝熱することを抑制された態様で熱拡散カバー120自体の部材内部を伝熱しながら、熱拡散カバー120を介して熱拡散カバー120と収容ケース40との間の樹脂部60に伝熱し、熱拡散カバー120と収容ケース40との間の樹脂部60を介して収容ケース40に拡散的に伝熱した後に、収容ケース40の外部に放熱される。これにより、発熱部品20が発熱した際の熱を、基板30を挟んでより拡散しながら伝熱して均等化し、車両用電子制御装置10の最高温をより低下させることができる。ここで、締結部材130の熱伝導率は、樹脂部60の熱伝導率と同程度に設定され、熱拡散カバー110及び熱拡散カバー120の各々の熱伝導率よりも小さく設定されているため、発熱部品20が発熱した際の熱を拡散して均等化する際に、不要な熱影響を及ぼさない。また、熱拡散カバー120内で、別の発熱部品等の電子部品が基板30の第2の実装面30bに実装されている場合にも、同様に、発熱部品20等が発熱した際の熱をより拡散して均等化し、車両用電子制御装置10の最高温をより低下させることができることはもちろんである。
【0081】
なお、本実施の形態において、熱拡散カバー120の内部には発熱部品を実装していないが、熱拡散カバー110の内部と熱拡散カバー120の内部との両方に発熱部品が各々実装されるようにしてもよい。
【0082】
以上の本実施形態の構成によれば、第1の実施形態の効果に加えて、基板30の第1の実装面30aの裏面である第2の実装面30bに取り付けられ、第1の実装面30aの発熱部品20が実装される領域に対応する第2の実装面30bの領域を覆うと共に、収容ケース40の内部に充填された樹脂部60により収容ケース40内に封止される金属製の熱拡散カバー120を更に備えることにより、第1の実装面30aに実装された発熱部品20で発生し、基板を介して第2の実装面30bに伝熱された熱を、効率よく伝熱させて外部に放熱し、局所的に高温になる領域が生じることを確実に抑制することができる。
【0083】
また、本実施形態の構成によれば、熱拡散カバー110と熱拡散カバー120とを基板30を介して互いに締結する樹脂製の締結部材130を更に備えることにより、半田付けせずに熱拡散カバー110と熱拡散カバー120とを基板30に取り付けることができるので、基板30に半田付けするためのレイアウトの検討や半田付けのための基板のスペースが不要になって電子部品の実装及び回路パターンの引き回しに自由度を持たせることができると共に、金属製の熱拡散カバー110及び熱拡散カバー120を加締めにより基板に取り付けないので、加締める際に熱拡散カバーから生じる金属粉により基板上の回路が短絡する等の事象が生じる可能性を低減することができる。
【0084】
なお、本発明は、部材の種類、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように、本発明は、発熱部品から発生する熱を効率よく伝熱させて外部に放熱することにより、局所的に高温になる領域が生じることを抑制できる車両用電子制御装置を提供することができるものであり、その汎用普遍的な性格から自動二輪車等の車両用の電子制御装置に広く適用され得るものと期待される。
【符号の説明】
【0086】
10…車両用電子制御装置
13a、13b、13c…電子部品
20…発熱部品
30…基板
30a…第1の実装面
30b…第2の実装面
40…収容ケース
41…開口部
42…高頂壁部
43…低頂壁部
45…底板部
50…熱拡散カバー
51…凹部
52a、52b、52c、52d…側壁部
53a、53b、53c、53d…下端部
54…脚部
55…隙間部
70…コネクタ
70a…嵌合部
71…接続端子
80…非発熱部品
90…隙間部
100…車両用電子制御装置
110…熱拡散カバー
111…貫通孔
120…熱拡散カバー
121…凹部
122a、122b、122c、122d…側壁部
123a、123b、123c、123d…上端部
124…脚部
125…隙間部
126…底板部
127…貫通孔
130…締結部材
130a…頭部
130b…締結部
190…隙間部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱部品と、
前記発熱部品が実装された基板と、
前記基板に実装されたコネクタと、
前記発熱部品及び前記基板を収容する収容ケースと、
を有し、
前記収容ケースの内部に充填された樹脂により、前記発熱部品及び前記基板を前記収容ケース内に封止する車両用電子制御装置において、
前記基板の第1の実装面には、前記発熱部品及び前記コネクタが実装されており、
前記発熱部品から所定間隔を設けて前記発熱部品を覆った状態で前記基板の前記第1の実装面に取り付けられると共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第1の熱拡散カバーを更に備えることを特徴とする車両用電子制御装置。
【請求項2】
前記基板の前記第1の実装面の裏面である第2の実装面に取り付けられ、前記第1の実装面の前記発熱部品が実装される領域に対応する前記第2の実装面の領域を覆うと共に、前記収容ケースの内部に充填された前記樹脂により前記収容ケース内に封止される金属製の第2の熱拡散カバーを更に備えることを特徴とする請求項1記載の車両用電子制御装置。
【請求項3】
前記第1の熱拡散カバーと前記第2の熱拡散カバーとを前記基板を介して互いに締結する樹脂製の締結部材を更に備えることを特徴とする請求項2記載の車両用電子制御装置。
【請求項4】
前記第1の熱拡散カバー及び前記第2の熱拡散カバーの内部に充填された前記樹脂が、前記基板に実装される他の電子部品に沿いながら前記発熱部品に対して偏在して前記収容ケース内に配置されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の車両用電子制御装置。
【請求項5】
前記収容ケースの熱伝導率は、前記樹脂部の熱伝導率よりも大きいことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の車両用電子制御装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-07 
出願番号 特願2013-180064(P2013-180064)
審決分類 P 1 652・ 161- YAA (H05K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久松 和之  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 酒井 朋広
田中 慎太郎
登録日 2017-10-20 
登録番号 特許第6227937号(P6227937)
権利者 株式会社ケーヒン
発明の名称 車両用電子制御装置  
代理人 川本 学  
代理人 川本 学  

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