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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61B 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61B |
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管理番号 | 1349669 |
異議申立番号 | 異議2018-700380 |
総通号数 | 232 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-04-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-05-08 |
確定日 | 2019-01-22 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6225636号発明「医用画像処理装置及びプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6225636号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり請求項〔1?7〕、8について訂正することを認める。 特許第6225636号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6225636号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成25年10月22日に出願され、平成29年10月20日にその特許権の設定登録がされ、同年11月8日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年5月8日に特許異議申立人木村 靖により特許異議の申立てがされ、当審は同年7月11日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年9月14日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人木村 靖は、同年11月12日に意見書を提出した。 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア、イのとおりである。 ア 一群の請求項〔1?7〕に係る訂正 (ア)請求項1に係る「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段と、前記特定の構造物が位置合わせされた前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と、」を、「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段と、前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と、」と訂正する。 請求項5及び6も請求項1と同様に訂正にする。 あわせてこれらの請求項を引用する請求項2?4、7も同様に訂正する。 すると、これらの訂正は、一群の請求項〔1?7〕に対して請求されたものである。 (イ)発明の詳細な説明の段落【0010】、【0014】及び【0015】の「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段と、前記特定の構造物が位置合わせされた前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と、」を、「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段と、前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と、」と訂正する。 すると、これらの明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1?7〕について請求されたものである。 イ 請求項8に係る訂正 (ア)請求項8に係る「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段、前記特定の構造物が位置合わせされた前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段、」を、「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段、前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段、」と訂正する。 (イ)発明の詳細な説明の段落【0017】の「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段、前記特定の構造物が位置合わせされた前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段、」を「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段、前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段、」と訂正する。 また、発明の詳細な説明の段落【0018】を削除する。 すると、これらの明細書に係る訂正は、請求項8について請求されたものである。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 一群の請求項〔1?7〕に係る訂正について (ア)請求項1?7に係る訂正について 訂正前の請求項1に係る「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段と、前記特定の構造物が位置合わせされた前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と」においては、(a)特定の構造物が強調された強調処理後の第1画像及び第2画像について位置合わせが行われたものを対象として差分画像を生成するものと、(b)特定の構造物が強調されていない第1画像及び第2画像について位置合わせが行われたものを対象として差分画像を生成するものの双方を包含している。 これに対して、訂正後の請求項1に係る「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段と、前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と」とすることで、特定の構造物が強調されていない第1画像及び第2画像について位置合わせが行われたものを対象として差分画像を生成するものに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、当該訂正は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 当該請求項1に係る訂正は、発明の詳細な説明の段落【0052】の、「次いで、制御部21は、求めた各画素の移動量ベクトルに基づいて、過去画像(強調されていない入力過去画像)にワーピング処理(非線形歪み処理)を施す(ステップS12)。…ワーピング処理後、制御部21は、現在画像(強調されていない現在画像)と変形された過去画像の差分をとって差分画像を生成する(ステップS13)。」との記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、新規事項を追加するものではない。 そして、請求項2?6に係る訂正も前記請求項1に係る訂正と同様の訂正であるから、請求項2?6に係る訂正も、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項を含むものでもない。 (イ)発明の詳細な説明の段落【0010】、【0014】及び【0015】の訂正について 発明の詳細な説明の段落【0010】の訂正は、請求項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。そうすると、発明の詳細な説明の段落【0010】の訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 また、発明の詳細な説明の段落【0014】及び【0015】の訂正は、それぞれ、請求項5及び請求項6に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 イ 請求項8に係る訂正について (ア)訂正前の請求項8に係る「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段、前記特定の構造物が位置合わせされた前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段」においては、(a)特定の構造物が強調された強調処理後の第1画像及び第2画像について位置合わせが行われたものを対象として差分画像を生成するものと、(b)特定の構造物が強調されていない第1画像及び第2画像について位置合わせが行われたものを対象として差分画像を生成するものの双方を包含している。 これに対して、訂正後の請求項8に係る発明では、「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段、前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段」とすることで、特定の構造物が強調されていない第1画像及び第2画像について位置合わせが行われたものを対象として差分画像を生成するものに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、当該訂正は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 当該請求項8に係る訂正は、発明の詳細な説明の段落【0052】の、「次いで、制御部21は、求めた各画素の移動量ベクトルに基づいて、過去画像(強調されていない入力過去画像)にワーピング処理(非線形歪み処理)を施す(ステップS12)。…ワーピング処理後、制御部21は、現在画像(強調されていない現在画像)と変形された過去画像の差分をとって差分画像を生成する(ステップS13)。」との記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、新規事項を追加するものではない。 (イ)発明の詳細な説明の段落【0017】【0018】の訂正について 発明の詳細な説明の段落【0017】【0018】の訂正は、請求項8に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。そうすると、発明の詳細な説明の段落【0017】【0018】の訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕、8について訂正することを認める。 3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そのうち本件訂正発明1及び本件訂正発明8は以下のとおりのものであり、当審にて分説してA-L、の見出しを付した。 「【請求項1】 A 同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた第1画像と第2画像のそれぞれに対し、前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段と、 B 前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段と、 C 前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と、 D 前記差分画像を表示する表示手段と、 E 前記被写体を構成する構造物のうち異なる複数の構造物を前記特定の構造物として前記強調処理手段、前記位置合わせ手段、前記差分画像生成手段により生成された複数の前記特定の構造物のそれぞれが位置合わせされた複数の差分画像をユーザー操作に応じて前記表示手段に切り替え表示する表示制御手段と、 F を備える医用画像処理装置。」 「【請求項8】 G コンピューターを、 H 同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた第1画像と第2画像のそれぞれに対し、前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段、 I 前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段、 J 前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段、 K 前記被写体を構成する構造物のうち異なる複数の構造物を前記特定の構造物として前記強調処理手段、前記位置合わせ手段、前記差分画像生成手段により生成された複数の前記特定の構造物のそれぞれが位置合わせされた複数の差分画像をユーザー操作に応じて表示手段に切り替え表示する表示制御手段、 L として機能させるためのプログラム。」 4 取消理由通知に記載した取消理由について (1)取消理由の概要 訂正前の請求項1?8に係る特許に対して、当審が平成30年7月11日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア 請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 イ 請求項1、2、7及び8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項1、2、7及び8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (2)甲号証の記載 ア 甲第1号証について 甲第1号証(特開2005-202675号公報)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審において付与した。以下同じ。) (甲1a)「【0003】 また、医用画像をディジタル化することで従来の銀塩写真では困難であった診断形態の可能性が生まれている。すなわち、従来は患者の経過観察などで異なる時点で撮影されたX線画像を比較する際には、フィルムをシャウカステンに架けて比較読影することが一般的に行われている。 【0004】 一方ディジタル画像データを用いれば、異なる時点で撮影された2枚のディジタル画像を正常な解剖学的構造が一致するよう位置合わせして差分処理を行うことにより差分画像を生成して出力し、この差分画像を元となった1対の画像と比較読影することにより、画像間の変化をより正確に把握することが可能となる。」 (甲1b)「【0018】 <第1実施の形態> 図1は本発明による画像処理装置の構成を示すブロック図である。同図において画像入力部1から入力された撮影時点の異なる少なくとも2つの画像(以下時系列画像と呼ぶ)は、画像処理部3により所定の画像処理が施され、差分処理部4において差分処理が行われて差分画像が生成され、差分画像と共に表示出力部5に出力される。 【0019】 なお、このような画像処理装置は、例えば、その1例としてコンピュータおよびそれに搭載されるソフトウェアの組み合わせを用いて実現される。この場合、図1における各部はソフトウェアモジュール又は特定のハードウェアにより実現することが出来る。以下に各部の動作について詳細に説明する。 【0020】 画像入力部1は所定の指示入力に基づいて、差分処理の対象となる時系列画像を入力する。画像入力部1としては、例えば、ネットワークを介してコンピュータに間接又は直接に接続されたハードディスクや光磁気ディスク等の記憶媒体、ファイルサーバや、医用X線画像を生成する画像撮影装置が該当する。時系列画像は、異なる時点で撮影された同一患者の画像群である。画像入力部1からの時系列画像入力指示は、画像処理装置を操作するユーザの指示あるいは、当該画像処理装置を制御する不図示の制御プログラム等により行われる。 【0021】 図1においてIM1、IM2は画像入力部1から出力された時系列画像であり、本実施の形態においてはIM1を最近に撮影された画像、IM2を過去に撮影された画像とする。これらの画像は画像処理部3に対して出力される。なお、以降の説明ではこれらの画像は胸部正面画像とするが、必ずしもこれに限定されるものではない。 【0022】 画像処理部3は入力した時系列画像IM1およびIM2の各々に対して所定の画像処理を施し、結果をIMp1、IMp2として差分処理部4に出力する。一方画像処理入力部3は処理に先立ち処理条件選択部2から当該処理の条件を入力し、その条件に基づいて処理を行う。 【0023】 処理条件選択部2は画像処理部3における画像処理条件を決定し出力するものである。本実施の形態において、IMp1およびIMp2は(式1)および(式2)で計算される。 IMp1(x,y)=IM1(x,y)×f(IM1a(x,y)) (式1) IMp2(x,y)=IM2(x,y)×f(IM2a(x,y)) (式2) ここで(x,y)は各画像の位置(x,y)を示し例えばIMp1(x,y)は位置(x,y)における画像IMp1の画素値を表す。また、IM1aおよびIM2aはIM1およびIM2に対し平均処理を施して得られた平均画像である。 【0024】 この平均処理としては、注目画素p(x,y)を、p(x,y)を含む所定の範囲の近傍画素の平均値で置き換えてもよいし、或いは所定の帯域通過特性を持つローパスフィルタにより処理を行うようにしてもよい。 【0025】 f(τ)は例えば、図2(a)に示すような入出力特性を持つ関数であり、平均画像の画素値が小さい領域に対してコントラストを強調するよう値が決定されるようになっている。従って、式1および式2に示す処理により入力画像における低輝度(又は低濃度)領域のコントラストが改善される。 【0026】 例えば、胸部正面画像においては、IMp1およびIMp2は元の画像に対して縦隔部分のコントラストが改善されるため、この部分における微小な信号の変化を差分処理により描出することが可能となる。 【0027】 図2(a)においてT1およびT2は処理条件選択部2により決定され、画像処理部3に出力されるが、これらのパラメータは撮影対象となる部位により予め適切な値を処理条件選択部2に設定記憶しておくか、処理の都度ユーザが不図示の入力手段によって設定するようにしてもよい。 【0028】 また、画像処理部3における処理として、式1および式2による計算処理を直接行ってもよいし、f(τ)を予めパラメータT1、T2の組み合わせに応じて複数のルックアップテーブルとして記憶しておき、処理条件選択部2の出力に応じてテーブルを切り替えて用いるようにしてもよい。さらに、このような階調処理特性としては図2(b)に示すようなものを用いてもよい。図2(b)は、画素の値の変化に対して微分連続に変化するため、偽影が生じにくい効果を有するものである。図2(a)(b)いずれの曲線も単調減少しているものである。これにより、入力画像における低輝度(又は低濃度)領域のコントラストが改善される。 【0029】 以上説明した処理により、画像処理部3に対して入力された時系列画像IM1、IM2に対する処理画像IMp1、IMp2が生成されて差分処理部4に出力される。 【0030】 差分処理部4は入力した2組の時系列画像に対して各々差分処理を行い、2つの差分画像S1およびS2を生成出力する。ここで、S1はIM1とIM2、S2はIMp1とIMp2から生成されるものとする。 【0031】 差分処理部4における処理は、2枚のデジタル画像における被写体の位置を重ねて差分処理を行う処理であれば如何様な方法をもちいてもよい。例えば、米国特許第5,359,513号明細書に開示されている様に、2枚のディジタル画像を解剖学的構造が一致するよう位置合わせして差分処理を行うものである。また、被写体の情報を用いずに、処理画像全体が重なるように、処理画像に対して直接位置合わせを行ってもよい。 【0032】 本実施の形態では元の画像に対して画素値の変更処理が行われているため、濃度補正部による濃度補正は必ずしも行う必要はない効果を有する。 【0033】 表示出力部5は画像を表示可能なCRTモニタ、液晶ディスプレイ等の表示装置又は画像の蓄積保存を行う外部記憶装置等である。また、表示出力部5は記憶装置を有し、記憶した処理画像を選択表示する構成とするものである。本実施の形態において表示出力部5は、例えば、液晶ディスプレイとする。図3は表示出力部5において差分画像S1およびS2を表示した様子を示したものであり、同図に示すように、S1およびS2はディスプレイ上に並べて表示される。 【0034】 また、表示出力部5は、例えば、液晶ディスプレイとし、記憶装置(図示せず)に記憶された画像を選択表示する構成をとることも可能である。 【0035】 この場合、画像入力部1に関連付けられた2枚の画像データを複数入力し、処理条件選択部2で処理条件を変更して、画像処理部3での処理を変更した差分画像を生成し、記憶装置(図示せず)に複数の差分画像を記憶する構成とする。 【0036】 ここでS1は画像処理を行う前のIM1およびIM2から生成されているため、従来と同様に肺野部分の差分をよく描出した差分処理画像として表示されるが、S2は縦隔部分を強調した画像から生成された差分画像であるため、S1よりも縦隔部分の差をよく描出した画像となる。 【0037】 このように、これらS1,S2の差分画像を並べて表示することにより、縦隔部分の変化も観察することが可能となる。なお、図3には差分画像の元となる画像は表示されていないが、もちろん同時に表示するようにしてもよい。また、ディスプレイは1台ではなく複数並べた状態で、それぞれのディスプレイに対して差分画像、元画像を表示するように構成してもよい。 【0038】 <第2実施の形態> 第1実施の形態においては、元となる画像に対して階調処理を行い、処理前後の画像から差分画像を生成表示したが、異なる処理を行うようにしてもよい。 【0039】 本実施の形態において、画像処理部3は入力した時系列画像に対し、ボケマスク処理を行い出力する。すなわち、処理後の画像IMp1およびIMp2は IMp1(x,y)=IM1(x,y)+w×[IM1(x,y)-IM1a(x,y)] (式3) IMp2(x,y)=IM2(x,y)+w×[IM2(x,y)-IM2a(x,y)] (式4) により計算される。ここで、重み付け係数wおよび平均画像IM1aおよびIM2aを計算する際のマスクサイズは予め処理条件選択部2に設定されているか、処理の都度ユーザが不図示の入力手段によって設定するようにしてもよい。 【0040】 ボケマスク処理により、入力画像に対して周波数強調処理が行われるが、胸部正面画像の場合は、例えば次のようにしてマスクのサイズを設定することが出来る。すなわち、元の画像IM1、IM2に対して低周波成分を強調するように処理条件選択部2が大きいマスクサイズを選択し、画像処理部2において低周波成分強調画像IMp1およびIMP2を生成する。 【0041】 このようにすると、差分画像S1は通常観察される血管等の構造の差をよく描出するが、一方でS2はより低周波の成分の変化をよく描出することになる。肺疾患において病変部に出現する陰影の多くは淡くコントラストが低いため、低周波の信号を強調してから差分処理を行うことでより変化をよく描出することができるようになる。 【0042】 一方、部位によってより高周波成分を強調したい場合は、マスクサイズを小さくするようにすればよい。これにより、差分画像S2が血管等の微細な構造物の変化をよく描出するようにすることができる。 【0043】 なお、本実施の形態では周波数処理としてボケマスク処理を用いたが、ウェーブレット変換による多重周波数処理等の他の方法によってもよい。この場合は、処理条件選択部2が各周波数帯域に対して設定される重み係数の値を選択することにより、周波数帯域毎に強調を行うことが出来る。 【0044】 他の部分については第1実施の形態と同様であるので説明は省略する。」 ここで、段落【0040】における「IMP2」が「IMp2」の誤記であることは、その前後の記載から明らかである。 (甲1c)「【0051】 <第4実施の形態> 前述した第1乃至第3実施の形態において、出力表示部5には2つの差分画像を並べて表示するようにしたが、本発明による画像処理装置はこれに限定されるものではなく、表示装置上において差分画像S1およびS2を切り替えて表示してもよい。 【0052】 すなわち、図4に示すように、差分画像は同一の表示領域に表示され、S1およびS2のいずれかが表示されるかは、表示切替ボタンを動作させることにより行う。このように構成することで、差分画像表示要する画面上の領域を小さく抑えることができる。 【0053】 <第5実施の形態> 以上説明した第1乃至第4実施の形態において、複数の画像処理条件に基づいて生成された差分画像は同時または切り替えて表示されたが、これに限定されるものではなく複数の差分画像を1つの画像に合成するようにしてもよい。 【0054】 すなわち、表示出力部5にはただ1つの差分画像S0が表示・出力されるようにし、S0は以下のようにしてS1およびS2から生成する。 【0055】 S0(x,y)=w1×S1(x,y)+w2×S2(x,y) (式5) ここで、w1およびw2は各画像に対する重み付け係数であり、合成後の差分画像S0における差分信号の描出結果により予め設定することができる。このように合成により単一の差分画像S0を生成して表示することにより、前述したような複数の画像処理条件により生成された差分を1枚の画像として表示することができる。 【0056】 さらに、上述した重み係数w1およびw2を観察時に変化させて表示させることにより、例えば低周波成分の多い陰影変化から高周波成分の多い対象物の変化を連続的に1つの表示領域内に連続的に表示することが可能となる。 【0057】 また、合成される差分画像は2枚に限定される必要はなく、予め作成し記憶手段(図示しない)に記憶された画像を用いて、例えば式6に示すように、複数の画像処理条件により生成された差分を1枚の画像として表示することもできる。この場合には、記憶手段(図示しない)に記憶された4枚の画像を重み付け加算するものである。 【0058】 S0(x,y)=w1×S1(x,y)+w2×S2(x,y)+w3×S3(x,y)+w4×S4(x,y) (式6) したがって、ディスプレイ上の表示領域が限られている場合でも、変化を描出したい対象物の変化を効率的に観察することが可能となる。 【0059】 <第6の実施の形態> 以上説明した実施の形態においては、元の画像IM1およびIM2に対して画像処理を施したIMp1、IMp2を生成し、2つの差分画像S0およびS1を表示している。しかし、本発明はこれに限定される必要はない。すなわち、IM1、IM2に対して複数の画像処理を施して複数の時系列画像の組(IMp1、IMp2)、(IMq1、IMq2)、…を生成し、各組毎に差分画像を生成してもよい。 【0060】 以上説明したように、本発明による画像処理装置によれば、差分処理に供される時系列に対して観察対象となる構造物の特性に応じた画像処理を施した第2の時系列画像を生成し、これらの時系列画像の組に対して差分処理を行って差分画像を生成することにより、対象物の変化をより効果的に描出した差分画像を得、観察に用いることができる。」 (甲1d)「【0062】 尚、本発明の目的は、実施形態の装置又はシステムの機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記憶した記憶媒体を、装置又はシステムに供給し、その装置又はシステムのコンピュータ(CPU又はMPU等)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読みだして実行することによっても、達成されることは言うまでもない。 【0063】 この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が実施形態の機能を実現することとなり、そのプログラムコードを記憶した記憶媒体及び当該プログラムコードは本発明を構成することとなる。 【0064】 プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、ROM、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード等を用いることができる。 【0065】 また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって実施形態1?6の機能が実現される場合も本発明の実施の態様に含まれることは言うまでもない。 【0066】 さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって実施形態の機能が実現される場合も本発明の実施の態様に含まれることは言うまでもない。 【0067】 このようなプログラム又は当該プログラムを格納した記憶媒体に本発明が適用される場合、当該プログラムは、例えば、上述の図1または図5に示される処理の流れに対応したプログラムコードから構成される。」 したがって、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「IM1、IM2は、患者の経過観察などで異なる時点で撮影され、画像入力部1から出力された時系列画像であり、IM1は最近に撮影された画像、IM2は過去に撮影された画像であり、これらの画像は医用X線画像の胸部正面画像であり、これらの画像は画像処理部3に対して出力され、 画像処理部3は入力した時系列画像IM1およびIM2に対して複数の画像処理を施して複数の時系列画像の組(IMp1、IMp2)、(IMq1、IMq2)、…を生成し、結果を(IMp1、IMp2)、(IMq1、IMq2)、…として差分処理部4に出力し、 差分処理部4における処理は、2枚のデジタル画像を解剖学的構造が一致するよう位置合わせして差分処理を行うものであり、 差分処理部4は入力した複数の時系列画像の組に対して各々差分処理を行い、複数の差分画像S1、S2…を生成出力し、ここでS1はIMp1とIMp2、S2はIMq1とIMq2から生成され、 差分画像が表示出力部5に出力され、 画像処理部3は、胸部正面画像において、低周波成分強調画像IMp1およびIMp2を生成することにより、S1がより低周波の成分の変化をよく描出し、また、高周波成分を強調して、IMq1及びIMq2を生成することにより、差分画像S2が血管等の微細な構造物の変化をよく描出するようにし、 複数の画像処理条件に基づいて生成された差分画像S1及びS2は切り替えて表示される、 医用X線画像の画像処理装置。」 イ 甲第3号証について 甲第3号証(特開2005-176402号公報)には、次の技術事項(以下、「甲第3号証の技術事項」という。)が記載されている。 デジタル化された1組の胸部X線画像について、テンプレートROIに対する正規化相互相関値を最大にするサブ領域を対応するテンプレートROIに「最も良く」マッチする探索領域ROIの中のサブ領域と決定するローカルマッチングを行い(段落【0014】、【0021】-【0023】)、 「最も良く」マッチする探索領域におけるサブ領域の中心の場所の座標(x′,y′)とテンプレート(x,y)の中心の場所の間のx方向とy方向の間の距離をそれぞれシフト値Δx,Δyとし(段落【0031】)、 シフト値Δx,Δyの分布を示すシフトマップを得(段落【0032】、【図10】)、 シフトマップを2次元のn次多項式(n≧2)でフィッティングし、胸部画像の各(x,y)画像に対するΔxとΔyの値を得(段落【0033】-【0036】)、 各(x,y)をもうひとつの画像の対応する点(x+Δx,y+Δy)に変換する、非線形歪み処理をする(段落【0043】)、 画像位置合わせ技術(段落【0011】)。 (3)当審の判断 ア 特許法第36条6項1号について 訂正前の本件特許の請求項1の「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段」と「前記特定の構造物が位置合わせされた前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段」について、差分画像生成手段が差分画像の生成の対象とする「位置合わせされた前記第1画像と前記第2画像」が、(a)特定の構造物が強調された強調処理後の第1画像と第2画像について位置合わせがおこなわれたもの、(b)強調処理されていない第1画像と第2画像について位置合わせが行われたもの、のいずれをも含むと理解できる。しかし、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記(b)の態様については記載されているが、上記(a)の態様については発明の詳細な説明に記載されていないとした。また、請求項2?8についても請求項1と同様に発明の詳細な説明に記載されていないとした。 この点について、請求項1、5、6、8における「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段」の記載を「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段」とし、「前記特定の構造物が位置合わせされた前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段」の記載を「前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段」と訂正された。 これにより、請求項1?8は上記(b)の態様のものに限定されたため、本件訂正発明1?8は発明の詳細な説明に記載されたものとなった。 イ 特許法第29条第2項について (ア)対比 以下、本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。 a 甲1発明の「医用X線画像の画像処理装置」は、本件訂正発明1の「医用画像処理装置」に相当する。 b 甲1発明の「患者の経過観察などで異なる時点で撮影」することは、本件訂正発明1の「同一被写体を異なる時点で撮影する」ことに相当するから、甲1発明の「患者の経過観察などで異なる時点で撮影され、画像入力部1から出力された時系列画像であり、IM1は最近に撮影された画像、IM2は過去に撮影された画像であり、これらの画像は医用X線画像の胸部正面画像であ」る「IM1、IM2」は、本件訂正発明1の「同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた第1画像と第2画像」に相当する。 c 胸部X線画像において後方肋骨のような大きな構造物が低周波成分からなることは技術常識であり、甲1発明の「低周波の成分」には後方肋骨が含まれるから、本件訂正発明1の「前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物」に相当する。また、甲1発明の「高周波成分」である「血管等の微細な構造物」も、本件訂正発明1の「前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物」に相当する。したがって、甲1発明の「低周波の成分」及び「高周波成分」である「血管等の微細な構造物」は、本件訂正発明1の「前記被写体を構成する構造物のうち異なる複数の構造物」に相当する。 d 甲1発明の「低周波成分強調画像IMp1およびIMp2を生成する」、また、「高周波成分を強調して、IMq1及びIMq2を生成する」「画像処理部3」は、本件訂正発明1の「前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段」に相当する。 e 甲1発明の「入力した時系列画像IM1およびIM2に対して複数の画像処理を施して」「生成」された「複数の時系列画像の組(IMp1、IMp2)、(IMq1、IMq2)」は、それぞれ、「低周波成分強調画像IMp1およびIMp2を生成することにより」「低周波の成分の変化をよく描出」した画像、「高周波成分を強調して、IMq1及びIMq2を生成することにより」得られた画像であるから、本件訂正発明1の「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像」に相当する。 また、甲1発明の「2枚のデジタル画像」が「時系列画像の組(IMp1、IMp2)、(IMq1、IMq2)」のことであることは明らかであるから、甲1発明の「2枚のデジタル画像を解剖学的構造が一致するよう位置合わせ」する「差分処理部4」は「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記第1画像と前記第2画像」「の位置合わせを行う位置合わせ手段」に相当する構成を含むと認められる。 すると、甲1発明と本件訂正発明1とは、「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記第1画像と前記第2画像」「の位置合わせを行う位置合わせ手段」を備える点で共通する。 f 甲1発明の「差分処理部4における処理は、2枚のデジタル画像を解剖学的構造が一致するよう位置合わせして差分処理を行うものであり、差分処理部4は入力した複数の時系列画像の組に対して各々差分処理を行い、複数の差分画像S1、S2…を生成出力し、ここでS1はIMp1とIMp2、S2はIMq1とIMq2から生成され」ることは、本件訂正発明1の「差分画像生成手段」が「前記特定の構造物が位置合わせされた」「前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する」ことに相当する。 すると、甲1発明と本件訂正発明1とは、「位置合わせされた前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段」を備える点で共通する。 g 甲1発明の「差分画像が」「出力され」る「表示出力部5」は、本件特許発明1の「前記差分画像を表示する表示手段」に相当する。 h 甲1発明において、複数の画像処理条件に基づいて生成された差分画像の切り替えがユーザーによって行われることは自明であり、また、甲1発明が差分画像を切り替えて表示するための表示制御手段を具備することも自明である。 してみると、甲1発明のユーザーによって「複数の画像処理条件に基づいて生成された差分画像S1及びS2は切り替えて表示される」表示制御手段と、本件訂正発明1の「前記被写体を構成する構造物のうち異なる複数の構造物を前記特定の構造物として前記強調処理手段、前記位置合わせ手段、前記差分画像生成手段により生成された複数の前記特定の構造物のそれぞれが位置合わせされた複数の差分画像をユーザー操作に応じて前記表示手段に切り替え表示する表示制御手段」は、「前記被写体を構成する構造物のうち異なる複数の構造物を前記特定の構造物として前記強調処理手段、前記位置合わせ手段、前記差分画像生成手段により生成された」「複数の差分画像をユーザー操作に応じて前記表示手段に切り替え表示する表示制御手段」で共通する。 そうすると、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の点で一致する。 「 同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた第1画像と第2画像のそれぞれに対し、前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段と、 前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記第1画像と前記第2画像の位置合わせを行う位置合わせ手段と、 前記位置合わせされた前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と、 前記差分画像を表示する表示手段と、 前記被写体を構成する構造物のうち異なる複数の構造物を前記特定の構造物として前記強調処理手段、前記位置合わせ手段、前記差分画像生成手段により生成された複数の差分画像をユーザー操作に応じて前記表示手段に切り替え表示する表示制御手段と、 を備える医用画像処理装置。」 また、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の点で相違する。 (相違点1)本件訂正発明1では、「位置合わせ手段」が、「前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行」うものであるのに対して、甲1発明では、「差分処理部4」が、(IMp1、IMp2)や(IMq1、IMq2)の位置合わせを「2枚のデジタル画像を解剖学的構造が一致するよう位置合わせ」するものである点、すなわち、位置合わせの対象物が、本件訂正発明1では「特定の構造物」であるのに対して、甲1発明では、「解剖学的構造」である点。 (相違点2)位置合わせ手段が位置合わせを行う画像が、本件訂正発明1においては、「特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像」であるに対して、甲1発明においては、低周波の成分または高周波の成分を強調する処理が施された画像である点。 (相違点3)本件訂正発明1は、「前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段」を備えるのに対して、甲1発明は「2枚のデジタル画像を解剖学的構造が一致するよう位置合わせして」「差分処理する」「差分処理部4」を備えるものであって、ここで、「2枚のデジタル画像」が、「低周波成分強調画像IMp1およびIMp2を生成することにより」「低周波の成分の変化をよく描出」し、又は「高周波成分を強調して、IMq1及びIMq2を生成することにより」得られた画像、すなわち、強調処理された画像であり、甲1発明は強調する処理が施された画像を「差分処理する」「差分処理部4」を備える点。 (イ)判断 以下、相違点2について検討する。 前記(2)ア(甲1b)に記載されているように、甲1発明は時系列画像のコントラストが低い領域のコントラストを強調し、コントラストの強調された時系列画像の差分処理を行うことで変化をよく描出しようとするものである(甲第1号証の段落【0026】【0041】)。 そのために、甲1発明では、「画像処理部3」は入力した時系列画像IM1(最近に撮影された画像)およびIM2(過去に撮影された画像)の各々に対して所定の画像処理を施し、強調処理された画像IMp1、IMp2を作成し、当該IMp1、IMp2を「差分処理部4」に出力する。(甲第1号証の段落【0021】【0022】)。 そして、甲1発明においては、「差分処理部4」において、画像を解剖学的構造が一致するよう位置合わせして差分処理を行っている。(甲第1号証の段落【0031】)。 すなわち、甲1発明は低コントラスト部の時間的変化をよく描出するために、まず入力された時系列画像を画像処理部でコントラストを強調する処理が施され、コントラストが強調された画像を位置合わせして、差分画像を取得しようとするものである。 すると、このような、コントラストが強調された時系列画像の位置合わせ及び差分画像の取得をする甲1発明において、特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行うという動機付けはない。 そして、甲第3号証に開示されている位置合わせ技術は、位置合わせの対象の画像が、強調処理された画像であるか、強調処理されていない画像であるかが特定されたものではない。 よって、甲1発明における「差分処理部4」を、「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う」ものとすることは、甲第1号証及び甲第3号証の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たことではない。 したがって、上記相違点1、3について判断するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者であっても、甲1発明及び甲第3号証に記載の技術事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)本件訂正発明2、7について また、本件訂正発明2、7も、本件訂正発明1の「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段」と同一の構成を備えるものであるから、甲1発明と本件訂正発明2、7とは、前記(イ)で検討した相違点2で相違しており、本件訂正発明1と同じ理由により、本件訂正発明2、7は当業者であっても、甲1発明及び甲第3号証に記載の技術事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。 (エ)本件訂正発明8について 甲第1号証には、コンピュータがプログラムを実行することにより実施形態の機能を実現することが開示されている。(甲第1号証の段落【0062】-【0067】(上記(甲1d)にて摘記した事項を参照。) すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1’発明」という。)が記載されている。 「IM1、IM2は、患者の経過観察などで異なる時点で撮影され、画像入力部1から出力された時系列画像であり、IM1は最近に撮影された画像、IM2は過去に撮影された画像であり、これらの画像は医用X線画像の胸部正面画像であり、これらの画像は画像処理部3に対して出力され、 画像処理部3は入力した時系列画像IM1およびIM2に対して複数の画像処理を施して複数の時系列画像の組(IMp1、IMp2)、(IMq1、IMq1)、…を生成し、結果を(IMp1、IMp2)、(IMq1、IMq2)、…として差分処理部4に出力し、 差分処理部4における処理は、2枚のデジタル画像を解剖学的構造が一致するよう位置合わせして差分処理を行うものであり、 差分処理部4は入力した複数の時系列画像の組に対して各々差分処理を行い、複数の差分画像S1、S2…を生成出力し、ここでS1はIMp1とIMp2、S2はIMq1とIMq2から生成され、 差分画像が表示出力部5に出力され、 画像処理部3は、胸部正面画像において、低周波成分強調画像IMp1およびIMp2を生成することにより、S1はより低周波の成分の変化をよく描出し、また、高周波成分を強調して、IMq1及びIMq2を生成することにより、差分画像S2が血管等の微細な構造物の変化をよく描出するようにし、 複数の画像処理条件に基づいて生成された差分画像S1及びS2は切り替えて表示される、 医用X線画像の画像処理装置の機能を実現する、 コンピュータによって実行されるプログラム。」 そして、本件訂正発明8は、本件訂正発明1の「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段」に対応する構成を備えるものであるから、甲1’発明と本件訂正発明8とは、前記(イ)で検討した相違点2で相違しており、本件訂正発明1と同じ理由により、本件訂正発明8は、当業者であっても、甲1’発明及び甲第3号証に記載の技術事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。 5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)甲第1号証、甲第2号証に基く容易想到性について ア 甲第2号証について 甲第2号証(特開2002-324238号公報)には、次の事項が記載されている。 (甲2a)「【0002】 【従来の技術】従来より、同一被写体についての2以上の画像を比較読影して、両画像間の差異を調べ、その差異に基づいて被写体の検査等を行うことが、種々の分野において行われている。 【0003】…また医療分野においては、ある患者の疾患部位について時系列的に撮影された複数枚の放射線画像を医師が比較読影することにより、当該疾患の進行状況や治癒状況を把握して治療方針を検討することが行われている。」 (甲2b)「【0005】そこで、一般的には、比較読影の対象とされる2つの画像間で構造位置(解剖学的特徴位置)を対応させた減算(サブトラクション)処理をはじめとした画像間演算を行って、画像間の差異を抽出・強調することが行われている(特願平11-342900号等)。このように画像間の差異のみが抽出・強調されることにより、読影者に対して画像間の差異を確実に認識させることができるため、進行または治癒する病変部の見落とし等を防止することができると考えられる。 【0006】また、この画像間演算の際に、各画像中に表われた構造物の位置(構造位置)を2つの画像間で対応させる位置合わせを行う必要がある。この位置合わせの技術としては、例えば、2つの画像間で平行移動、回転または拡大・縮小という全体的な位置合わせ(例えばアフィン変換等を用いた線形的な位置合わせ)を行ない、さらに、この全体的な位置合わせがなされた2つの画像のうち一方の画像に多数の小領域である関心領域(テンプレート領域)を設定するとともに、他方の画像に各テンプレート領域にそれぞれ対応する、各テンプレート領域よりも大きい領域の探索領域を設定し、テンプレート領域と対応する探索領域との各組において、テンプレート領域と画像が略一致する、探索領域内の部分領域(対応テンプレート領域)を求め、一方の画像における各テンプレート領域と、他方の画像における各対応テンプレート領域との対応位置関係に基づいて、一方の画像における各テンプレート領域を他方の画像における各対応テンプレート領域に一致させるためのシフト量を求め、求められたシフト量に基づいて、上記全体的な位置合わせがなされた2つの画像に対し、カーブフィッティング(2次元n次多項式,n≧2)による非線形歪変換(ワーピング)を用いた局所的な位置合わせを行なう、2段階の位置合わせ技術(特開平7-37074号、米国特許No.5,982,915)等が知られている。この2段階の位置合わせ技術によれば、2つの画像を比較的良好に位置合わせすることができる。」 (甲2c)「【0007】 【発明が解決しようとする課題】ところで、例えば人体の胸部放射線画像のように、肋骨や背骨等の骨部組織と筋肉や内臓等の軟部組織とが混在した画像において、被写体(人体)の撮影時の体位(立ち位置や向きなど)の変動に応じた位置変動方向が骨部と軟部とで異なる向きを示す場合がある。従来、軟部と骨部とが異なる方向に変動している2つの画像間で、原画像(或いは、原画像の縮小画像、原画像のボケ画像等)を用いて上述したような全体的な位置合わせを行なうと、軟部組織について全体的に位置合わせされた画像が得られていた。しかしながら、軟部に全体的に位置合わせされた画像を用いて上述したような局所的な位置合わせを行なうと、テンプレート領域中に存在している肋骨が対応する探索領域中に存在していない場合があり、その結果、肋骨を位置合わせ指標とする局所的な位置合わせの後に作成されるサブトラクション画像(2つの画像間の差異を抽出・強調することにより得られる画像)中に非常に大きな肋骨の位置ずれアーチファクトが生じてしまうことがあった。 【0008】一方、一般的に軟部に存在している病変部を抽出するためには軟部に精度よく位置合わせされた画像を用いることが望ましく、骨部に存在している病変部を抽出するためには骨部に精度よく位置合わせされた画像を用いることが望ましいとされているため、診察の目的等によっては、サブトラクション画像中に肋骨(骨部)のアーチファクトが表われてしまうこととなっても、全体的な位置合わせを軟部に合わせて行なう方が好ましい場合もある。 【0009】本発明は、上記事情に鑑み、軟部と骨部とが異なる方向に変動している2つの画像間で位置合わせを行なう際に、サブトラクション画像中に表われるアーチファクトを減少させることを可能にするとともに、診察の目的や読影者の要望にあわせた位置合わせを行なうことを可能にした画像の位置合わせ方法および装置を提供することを目的とするものである。」 (甲2d)「【0010】 【課題を解決するための手段】本発明の画像の位置合わせ方法は、同一被写体についての2つの画像間で、2つの画像全体の概略位置合わせを行ない、さらに概略位置合わせがなされた後の2つの画像の局所的位置合わせを行なう画像の位置合わせ方法において、概略位置合わせが、画像中の骨部を重視した位置合わせであることを特徴とするものである。 【0011】また、本発明の画像の位置合わせ方法は、同一被写体についての2つの画像間で、2つの画像全体の概略位置合わせを行ない、さらに概略位置合わせがなされた後の2つの画像の局所的位置合わせを行なう画像の位置合わせ方法において、画像中の骨部を重視した位置合わせと、骨部を重視しない位置合わせとを選択可能とし、選択された位置合わせにより概略位置合わせを行なうことを特徴とするものである。 【0012】ここで、「骨部を重視した位置合わせ」とは、画像中に含まれる骨部以外の組織(陰影)よりも骨部を優先して位置合わせすることを意味するものである。すなわち、骨部に注目して、骨部についてより精度よく位置合わせすることを意味する。また、「骨部を重視しない位置合わせ」とは、結果的に骨部が精度よく位置合わせされるか否かに拘らず、骨部を重視せずに(すなわち、骨部を優先することなく)行なわれる位置合わせを意味するものであり、軟部が優先的に位置合わせされるものもこれに含まれる。」 (甲2e)「【0032】 【発明の実施の形態】以下、本発明の画像の位置合わせ方法および装置の具体的な実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の画像の位置合わせ装置の一実施形態を示す図、図2は異なる時期に撮影された同一被写体の2つの胸部放射線画像を示す図である。 【0033】図2に示した2つの画像は、画像間で画素を対応させたサブトラクション処理を行なって経時サブトラクション画像を取得するための画像であり、同図(1)は過去に撮影された過去画像P1、同図(2)は同一被写体の現在画像P2である。 【0034】位置合わせ装置1は、同一被写体についての2つの画像P1,P2を入力して画像全体の概略位置合わせを行なう概略位置合わせ手段10と、概略位置合わせ手段10によって概略位置合わせがなされた2つの画像P1′,P2を入力してさらに局所的な位置合わせを行なう局所的位置合わせ手段20とを備えた構成である。 【0035】また、位置合わせ装置1には、概略位置合わせ手段10において概略位置合わせを行なう際の位置合わせ機能を選択するために必要な情報を入力するための入力手段と、局所的位置合わせ手段20によって局所的に位置合わせがなされた2つの画像に対してサブトラクション処理を施すサブトラクション手段が接続されている。なお、位置合わせ機能を選択するために必要な情報とは、位置合わせに関する読影者の要望や、診察目的、病変の位置(骨部上或いは軟部上)などを示す情報を意味するものである。 【0036】概略位置合わせ手段10は、骨部を重視して概略位置合わせを行なう骨部重視位置合わせ機能と、骨部を重視しないで概略位置合わせを行なう骨部非重視位置合わせ機能とを備え、入力手段により入力された情報に基づいて、いずれかの位置合わせ機能を選択して概略位置合わせを行なうものである。具体的には、図3に示すように、入力された2つの画像P1,P2それぞれを1/10画像に縮小する画像縮小手段11と、画像縮小手段11により縮小された2つの縮小画像P1s,P2sを入力して第1概略シフト量(a)を算出する第1概略シフト量(a)算出手段12と、入力手段により入力された情報に基づいて位置合わせ機能を選択する位置合わせ機能選択手段13と、位置合わせ機能選択手段13により骨部重視位置合わせ機能が選択されたときに2つの縮小画像P1s,P2sそれぞれの後肋骨強調画像を作成する後肋骨強調画像作成手段14と、2つの後肋骨強調画像P1s′,P2s′を入力して第2概略シフト量(b)を算出する第2概略シフト量(b)算出手段15とを備え、さらに、位置合わせ機能選択手段13において骨部重視位置合わせ機能が選択されているときには第2概略シフト量(b)と過去画像P1を、骨部非重視位置合わせ機能が選択されているときには第1概略シフト量(a)と過去画像P1を入力し、第1概略シフト量(a)または第2概略シフト量(b)に基づいて、過去画像P1全体に対して回転、平行移動および拡大・縮小等のアフィン変換を施す画像変換手段16を備えた構成である。なお、概略位置合わせ手段10に含まれる各手段の作用については後述する。 【0037】局所的位置合わせ手段20は、概略位置合わせ手段10から入力した概略位置合わせがなされた2つの画像P1′,P2に含まれる胸郭の内部において、さらに局所的に位置合わせを行ない、過去画像P1′全体に非線形歪変換(ワーピング)を施してサブトラクション用に位置合わせがなされた2つの画像P1″,P2を得るものである。」 (甲2f)「【0042】…位置合わせ機能選択手段13において骨部非重視位置合わせ機能が選択されている場合には、画像変換手段16が、算出された第1概略シフト量(a)に基づいて過去画像P1に対しアフィン変換を施し、骨部を重視しないで現在画像P2に概略位置合わせされた過去画像P1′を生成する。なお、骨部を重視しないで現在画像P2に概略位置合わせされた過去画像P1′は、軟部を重視して概略位置合わせがなされたものと同等の画像となる。 【0043】一方、位置合わせ機能選択手段13において骨部重視位置合わせ機能が選択されている場合には、後肋骨強調画像作成手段14に2つの縮小画像P1s,P2sが入力され、2つの後肋骨強調画像P1s′,P2s′が作成される。さらに、後肋骨強調画像作成手段14において作成された2つの後肋骨強調画像P1s′,P2s′が第2概略シフト量(b)算出手段15に入力されて、第2概略シフト量(b)が算出される。 【0044】図6は後肋骨強調画像作成手段14において後肋骨強調画像を作成する際の作用を示した図である。なお、ここでは簡単のため、高濃度高画素値の画像として説明するが、実際には高輝度高画素値の画像が用いられることが多い。 【0045】後肋骨強調画像は、特定の方向性を有する直線を検出するマスクを用いて、胸部放射線画像中に含まれている後肋骨の陰影のみを抽出することにより作成される。具体的には、図6に示すように、胸部放射線画像(例えば、過去画像P1の縮小画像P1s)の右側画像R11に存在する後肋骨は60度と90度の方向性を有するものが多く、左側画像L11に存在する後肋骨は120度と90度の方向性を有するものが多いことから、右側画像R11に対しては60度方向のマスクRm1と90度方向のマスクRm2でコンボリューションし、左側画像L11に対しては120度方向のマスクLm1と90度方向のマスクLm2でコンボリューションして、各々0より大きい成分のみにより画像を作成すると、各マスクと同じ方向性を有する陰影のみが抽出された画像R21,R22,L21,L22が得られる。さらに、右側画像R11から得られた2つの画像R21,R22同士、または左側画像L11から得られた2つの画像L21,L22同士を同じ画素位置で画素値を競合させて最も高画素値のものを選択して画像を作成すると、右側画像R11の後肋骨が抽出されたような画像R31と、左側画像L11の後肋骨が抽出されたような画像L31が得られる。さらに、後肋骨が抽出された2つの画像R31,L31を左右あわせることにより、後肋骨強調画像P1s′が作成される。」 (甲2g)「【0049】…位置合わせ機能選択手段13において骨部重視位置合わせ機能が選択されている場合には、画像変換手段16が、算出された第2概略シフト量(b)に基づいて過去画像P1に対しアフィン変換を施し、骨部を重視して現在画像P2に概略位置合わせされた過去画像P1′を生成する。 (甲2h)「【0052】次に、本実施形態による画像位置合わせ装置1の局所的位置合わせ手段20における局所的位置合わせ処理について説明する。図8は局所的位置合わせ処理のフローを示す図である。 【0053】局所的位置合わせ手段20にアフィン変換を施された過去画像P1′および現在画像P2が入力されると、まず、両画像P1′,P2にそれぞれ含まれる胸郭内に多数の局所領域(ROI)が設定されて、ROI毎の局所シフト量を算出するローカルマッチングが行なわれる(ステップS1)。なお、両画像P1′,P2中の胸郭の位置は、既に提案されている種々の胸郭検出技術(特開平8-335271号等)を用いて認識することができる。さらに、ROI毎の局所シフト量をバネ拘束により平滑化(ステップS2)した後に両画像P1′,P2のROIのサイズを1段階小さくして再設定(ステップS3)するとともに、再設定されたROIの中から位置ずれ程度が高いROIを選択(ステップS4)し、選択されたROIに対して再度ローカルマッチングを行なう。この再度ローカルマッチングが行なわれたROIに対してステップS2以降の処理を繰り返し、再度ローカルマッチングを行なって3度目のバネ拘束による局所シフト量の平滑化を行なった後に、局所シフト量の1次近似を行なって過去画像P1′に対して非線形歪変換処理(ワーピング)を施し、現在画像P2に局所的に位置合わせされた過去画像P1″が生成される。以下、局所的位置合わせ処理について詳細に説明する。」 (甲2i)「【0078】上記実施形態の画像の位置合わせ装置および方法によれば、診察の目的等にあわせて骨部重視或いは骨部非重視を選択して概略位置合わせを行なうことができるから、骨部に存在する病変部を抽出したいときには骨部重視を選択し、軟部に存在する病変部を抽出したいときには骨部非重視を選択して、効率的に目的に合わせた位置合わせ精度のサブトラクション画像を得ることができる。」 (甲2j)【図1】 (甲2k)【図2】 (甲2l)【図3】 (甲2m)【図4】 (甲2n)【図6】 (甲2o)【図8】 したがって、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。 「異なる時期に撮影された同一被写体についての2つの胸部放射線画像であるP1(過去画像),P2(現在画像)を入力して画像全体の概略位置合わせを行なう概略位置合わせ手段10と、 概略位置合わせ手段10によって概略位置合わせがなされた2つの画像P1′,P2を入力してさらに局所的な位置合わせを行なう局所的位置合わせ手段20 とを備えた画像位置合わせ装置1において、 前記画像位置合わせ装置1には、概略位置合わせ手段10において概略位置合わせを行なう際の位置合わせ機能を選択するために必要な情報を入力するための入力手段と、局所的位置合わせ手段20によって局所的に位置合わせがなされた2つの画像に対してサブトラクション処理を施すサブトラクション手段が接続されており、 前記概略位置合わせ手段10は、骨部を重視して概略位置合わせを行なう骨部重視位置合わせ機能と、骨部を重視しないで概略位置合わせを行なう骨部非重視位置合わせ機能とを備え、入力手段により入力された情報に基づいて、いずれかの位置合わせ機能を選択して概略位置合わせを行なうものであって、 入力された2つの画像P1,P2それぞれを1/10画像に縮小する画像縮小手段11と、 画像縮小手段11により縮小された2つの縮小画像P1s,P2sを入力して第1概略シフト量(a)を算出する第1概略シフト量(a)算出手段12と、 入力手段により入力された情報に基づいて位置合わせ機能を選択する位置合わせ機能選択手段13と、 位置合わせ機能選択手段13により骨部重視位置合わせ機能が選択されたときに2つの縮小画像P1s,P2sそれぞれの後肋骨強調画像を作成する後肋骨強調画像作成手段14と、 2つの後肋骨強調画像P1s′,P2s′を入力して第2概略シフト量(b)を算出する第2概略シフト量(b)算出手段15 とを備え、 さらに、位置合わせ機能選択手段13において骨部重視位置合わせ機能が選択されているときには第2概略シフト量(b)と過去画像P1を、骨部非重視位置合わせ機能が選択されているときには第1概略シフト量(a)と過去画像P1を入力し、第1概略シフト量(a)または第2概略シフト量(b)に基づいて、過去画像P1全体に対してアフィン変換を施す画像変換手段16を備えており、 前記局所的位置合わせ手段20は、概略位置合わせ手段10から入力した概略位置合わせがなされた2つの画像P1′,P2に含まれる胸郭の内部において、さらに局所的に位置合わせを行ない、過去画像P1′全体に非線形歪変換(ワーピング)を施してサブトラクション用に位置合わせがなされた2つの画像P1″,P2を得る、 画像位置合わせ装置1」 また、前記甲2発明からすると、甲第2号証には、次の技術事項(以下、「甲第2号証の技術事項」という。)が記載されている。 概略位置合わせ手段10において、同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた画像P1(過去画像),P2(現在画像)のそれぞれに対し、画像縮小手段11が1/10画像に縮小して縮小画像P1s,P2sを作成し、作成された縮小画像P1s,P2sから後肋骨強調画像作成手段14は後肋骨強調画像P1s′,P2s′を生成し、第2概略シフト量(b)算出手段15は、後肋骨強調画像P1s′,P2s′を入力して第2概略シフト量(b)を算出し、画像変換手段16により算出された第2概略シフト量(b)に基づいて過去画像P1全体に対してアフィン変換を施すことで、P2(現在画像)に概略位置合わせがなされた画像P1′に変換し、概略位置合わせがなされた2つの画像P1′,P2にさらに局所的に位置合わせを行ない、過去画像P1′全体に非線形歪変換(ワーピング)を施してサブトラクション用に位置合わせがなされた2つの画像P1″,P2を得る、2つの画像間で位置合わせを行う技術。 イ 判断 以下、前記4(3)イ(ア)に挙げた相違点2について検討する。 (ア)本件訂正発明1の位置合わせ(分説Bの発明特定事項)と甲第2号証の技術事項との対比 a 甲第2号証の技術事項における「後肋骨」は本件訂正発明1の「特定の構造物」に相当する。 b 甲第2号証の技術事項における、「後肋骨強調画像P1s′,P2s′を入力して第2概略シフト量(b)を算出し」、「第2概略シフト量(b)に基づいて過去画像P1全体に対してアフィン変換を施すことで、P2(現在画像)に概略位置合わせがなされた画像P1′に変換」することは、後肋骨強調画像から得られた第2概略シフト量に基づいて過去画像P1をP2に位置合わせを行うことであるから、本件訂正発明1の「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う」ことに相当する。 (イ)甲1発明と甲第2号証の技術事項の組み合わせについて a 特許異議申立人は、特許異議申立書の21ページの(ウ-2-9)小括において、「甲第1号証も甲第2号証も、異なる時点において撮影された同一の被写体の医用画像から差分画像を得るという、同一の技術分野のものであるから、」「甲1発明において、時系列画像IM1とIM2について特定の構造物について強調処理を行って得られた画像IMp1とIMp2の位置合わせ結果を用いて、時系列画像IM1とIM2の位置合わせを行い、位置合わせされたIM1とIM2について差分画像S1を得るように構成することは、甲第2号証における記載事項…に基づいて当業者が容易になし得たことである。」と主張している。 ここで、甲第1号証の段落【0036】によれば、甲1発明における、IM1とIM2の差分画像S1は肺野部分の差分をよく描出した画像である。 一方で、甲第2号証の技術事項は、後肋骨の位置合わせをするために後肋骨強調画像を作成することである。また、甲第2号証の段落【0078】によれば、軟部に存在する病変部を抽出したいときには骨部非重視を選択して、サブトラクション画像を得るとある。 そして、甲1発明における差分画像S1は肺野部分の差分をよく描出した画像であって、肺野部分は軟部であり骨部ではない。 すると、そのような肺野部分の差分をよく描出した差分画像S1を得るために、甲第2号証の技術事項である、骨部である後肋骨を位置合わせするための後肋骨強調画像を利用する画像の位置合わせ方法を、甲1発明の差分画像S1を得る際に採用する動機付けはない。 したがって、甲1発明において、「差分処理部4」においてIM1とIM2からS1を作成するために、甲1発明の「差分処理部4」に甲第2号証の技術事項を適用し、本願の相違点2に係る構成とすることは当業者といえども容易に想到し得たことではない。 したがって、上記相違点1、3について判断するまでもなく、本件訂正発明1は甲1発明及び甲第2号証の技術事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。 b 本件訂正発明2、7も、甲1発明と相違点2において相違するものであり、本件訂正発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1発明及び甲第2号証の技術事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。 c 本件訂正発明8は、甲第1号証に記載された、前記甲1’発明と前記相違点2において相違しており、本件訂正発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1’発明及び甲第2号証の技術事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。 (2)甲第2号証と甲第1号証に基く容易想到性について ア 甲号証の記載 (ア)甲第2号証について 甲第2号証には、前記(1)アに示したとおりの甲2発明が記載されている。 (イ)甲第1号証について 甲第1号証には、次の技術事項(以下、「甲第1号証の技術事項」という)が記載されている(前記4(2)ア参照)。 医用X線を生成する画像撮影装置で生成された(【0020】)胸部正面画像である(【0040】)、時系列画像IM1(最近に撮影された画像)およびIM2(過去に撮影された画像)を画像処理部に入力し(【0021】)、 IM1およびIM2に複数の画像処理を施して複数の時系列画像の組(IMp1、IMp2)、(IMq1、IMq2)…を生成し(【0059】)、 結果を(IMp1、IMp2)、(IMq1、IMq2)…として差分処理部に出力し(【0022】)、 差分処理部における処理は、2枚のデジタル画像を解剖学的構造が一致するよう位置合わせし(【0031】)2組の時系列画像に対して各々差分処理を行い差分画像S1、S2…を生成するものであって(【0030】)、 表示出力部に差分画像が出力され(【0033】?【0037】)、 ここで、画像処理部における複数の画像処理では、胸部正面画像において、低周波成分強調画像IMp1およびIMp2を生成することにより、S1がより低周波の成分の変化をよく描出し、また、高周波成分を強調して、IMq1及びIMq2を生成することにより、差分画像S2が血管等の微細な構造物の変化をよく描出するようにし(【0040】?【0042】)、 複数の画像処理条件に基づいて生成された差分画像S1及びS2は、表示切り替えボタンを動作させることにより切り替えて表示される(【0052】、図4)、 医用X線画像の画像処理技術 イ 対比 (ア)本件訂正発明1について 以下、本件訂正発明1と甲2発明とを対比する。 a 甲2発明の「画像位置合わせ装置1」は「異なる時期に撮影された同一被写体についての2つの胸部放射線画像であるP1(過去画像),P2(現在画像)」を位置合わせし、サブトラクション処理する装置であるから、本件訂正発明1の「医用画像処理装置」に相当する。 b 甲2発明の「異なる時期に撮影された同一被写体についての2つの胸部放射線画像であるP1(過去画像),P2(現在画像)」は、本件訂正発明1の「同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた第1画像と第2画像」に相当する。また、甲2発明の「後肋骨」は、本件訂正発明1の「特定の構造物」に相当する。 すると、甲2発明の「同一被写体についての2つの胸部放射線画像であるP1(過去画像),P2(現在画像)」「それぞれを1/10画像に縮小」した「2つの縮小画像P1s,P2sそれぞれの後肋骨強調画像を作成する後肋骨強調画像作成手段14」は、本件訂正発明1の「同一被写体を異なる時点で撮影した第1画像と第2画像のそれぞれに対し、前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段」と、「同一被写体を異なる時点で撮影した画像を入力して、前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段」で共通する。 c 甲2発明の「概略位置合わせ手段10」は、「2つの胸部放射線画像であるP1(過去画像),P2(現在画像)を入力して」、「2つの後肋骨強調画像P1s′,P2s′」から算出された「第2概略シフト量(b)に基づいて」、「概略位置合わせがなされた2つの画像P1′,P2」を生成する手段であることから、本件訂正発明1の「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段」と、「特定の構造物が強調された2つの画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段」で共通する。 d 甲2発明の「サブトラクション手段」は、「概略位置合わせがなされた2つの画像P1′,P2に含まれる胸郭の内部において、さらに局所的に位置合わせを行ない、過去画像P1′全体に非線形歪変換(ワーピング)を施してサブトラクション用に位置合わせがなされた2つの画像P1″,P2」「に対してサブトラクション処理を施」して差分画像を生成するものであり、P1″はP1がP2に位置合わせされて得た画像であって、特定の構造物を強調する処理が施されていないから、本件訂正発明1の「前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段」に相当する。 そうすると、本件訂正発明1と甲2発明とは以下の点で一致する。 「 同一被写体を異なる時点で撮影した画像を入力して、前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段と、 前記特定の構造物が強調された2つの画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段と、 前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と、 を備える医用画像処理装置。」 また、本件訂正発明1と甲2発明とは以下の点で相違する。 (相違点1)「強調処理手段」が「強調処理を施す」「画像」について、本件訂正発明1では、「同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた第1画像と第2画像」であるのに対して、甲2発明では、「入力された2つの画像P1,P2それぞれを1/10画像に縮小」した「2つの縮小画像P1s,P2s」である点。 (相違点2)「位置合わせ手段」の構成について、本件訂正発明1では、「前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて」「前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う」のに対して、甲2発明では、「縮小画像P1s,P2sそれぞれの後肋骨強調画像」「P1s′,P2s′」に基づいて「画像P1(過去画像),P2(現在画像)を入力して画像全体の概略位置合わせを行な」い「概略位置合わせがなされた2つの画像P1′,P2」を生成する点。 (相違点3)本件訂正発明1は、「前記差分画像を表示する表示手段」を備えるのに対して、甲2発明は差分画像を表示する手段を備えるか否かが明らかではない点。 (相違点4)本件訂正発明1は、「前記被写体を構成する構造物のうち異なる複数の構造物を前記特定の構造物として前記強調処理手段、前記位置合わせ手段、前記差分画像生成手段により生成された複数の前記特定の構造物のそれぞれが位置合わせされた複数の差分画像をユーザー操作に応じて前記表示手段に切り替え表示する表示制御手段」を備えるのに対して、甲2発明はそのような表示制御手段を備えていない点。 ウ 判断 以下、相違点4について検討する。 甲2発明は、「骨部重視位置合わせ機能」と「骨部非重視位置合わせ機能」を有しており、「骨部重視位置合わせ機能が選択されたときに2つの縮小画像P1s,P2sそれぞれの後肋骨強調画像を作成する」ものである。 一方、「骨部非重視位置合わせ機能」が選択されたときの甲2発明の動作は、2つの縮小画像P1s,P2sを入力して算出した第1概略シフト量(a)と過去画像P1を入力し、第1概略シフト量(a)に基づいて、過去画像P1全体に対してアフィン変換を施すものであり、後肋骨以外の画像中の構造物を強調する処理を施すものではない。 すると、甲2発明は、本件訂正発明1における、「前記被写体を構成する構造物のうち異なる複数の構造物を前記特定の構造物として前記強調処理手段、前記位置合わせ手段、前記差分画像生成手段により生成された複数の前記特定の構造物のそれぞれが位置合わせされた複数の差分画像」(特に下線部)を生成するものではない。 そして、甲第2号証の段落【0007】によれば、原画像を用いて全体的な位置合わせをすると、軟部組織について全体的に位置合わせされた画像が得られることから、軟部組織を強調した画像を用いてシフト量を算出する動機付けはない。 よって、甲2発明において、甲第1号証の技術事項を参照しても、相違点4に係る本件訂正発明1の発明特定事項が容易に想到できたとはいえない。 エ 小括 したがって、前記ウで検討したとおり、本件訂正発明1は、当業者であっても、甲2発明及び甲第1号証に記載の技術事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。 そして、本件訂正発明2、7も、本件訂正発明1の「前記被写体を構成する構造物のうち異なる複数の構造物を前記特定の構造物として前記強調処理手段、前記位置合わせ手段、前記差分画像生成手段により生成された複数の前記特定の構造物のそれぞれが位置合わせされた複数の差分画像をユーザー操作に応じて前記表示手段に切り替え表示する表示制御手段」と同一の構成を備えるものであるから、本件訂正発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲2発明及び甲第1号証に記載の技術事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。 また、本件訂正発明8は、甲2発明と前記イで示した相違点で相違するから、本件訂正発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲2発明及び甲第1号証に記載の技術事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。 6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論とおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 医用画像処理装置及びプログラム 【技術分野】 【0001】 本発明は、医用画像処理装置及びプログラムに関する。 【背景技術】 【0002】 胸部の診断においては、過去に撮影された胸部X線画像と現在の胸部X線画像とを比較する、所謂比較読影が行われている。 【0003】 この比較読影を支援するために、コンピューターによって、過去に撮影された画像と現在の画像の間の差分をとることで、経時変化のない正常な構造物(人体の解剖学的構造物)を減弱し、異常陰影のように経時変化のあった部分を強調させた差分画像を生成する技術が知られている。 【0004】 しかしながら、胸部X線画像は、3次元の人体胸部を2次元で投影したものである。そのため、撮影時に、正しい体勢である図17(a)に対し、図17(b)に示す被写体の前傾、後傾、体軸周りの回転や、図18に示すX線源の位置のずれ(斜入)が生じると、正しい体勢とは肺野内の骨、血管、その他構造物の位置関係がずれた状態で画像に投影されてしまう。特に、開業医等の小規模な医療施設においては、集団検診のような固定された部位を撮影するわけではないためX線源を動かすことが多く、また、専門の撮影技師の不在によりポジショニングがばらつくことがあり、上述の構造物の位置関係のずれが起こりやすい。2つの画像において肺野内の構造物の位置関係がずれている場合、単に差分をとるだけでは正常な構造も描出されてしまい、アーチファクトとなる。 【0005】 従来、比較する2画像間の位置ずれを補正するために、ローカルマッチング処理及びワーピング処理等によって両画像の位置合わせを行ってから差分をとることが行われている。しかし、上述のような構造物の位置関係のずれが生じた2画像においては、何れの構造物にも合わない位置合わせが行われてしまい、差分画像に全体的に正常構造が描出されてしまい、医師にとって非常に読影しづらいものとなっていた。 【0006】 そこで、例えば、特許文献1には、2つの画像の各点に対応する対象物上の点を求めてその結果から前傾・後傾の角度を推定するとともに、投影画像の特定部分間の距離を測定し、これに基づいて垂直軸回りの角度を推定し、推定した角度と奥行に基づいて一方の画像を変形し、差分画像を生成する技術が記載されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 【特許文献1】特許第3773111号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 特許文献1に記載の技術では、前傾・後傾の角度及び体軸回りの角度を推測して処理を行うものであるため、前傾・後傾及び体軸回りの回転による位置ずれは補正できる。しかし、X線の斜入による位置ずれは補正することができないため、斜入が発生した場合には、医師が注目する領域のアーチファクトは除去できない。また、特許文献1に記載の技術では、画像の一部の情報に基づいて体の傾きを推定しているため、失敗しやすく、医師が注目する領域のアーチファクトが低減された差分画像を安定して供給することができなかった。 【0009】 本発明の課題は、撮影時に被写体の前傾・後傾、体軸周りの回転、X線の斜入等が生じていても、医師が注目する領域のアーチファクトが低減された、読影しやすい差分画像を安定して提供できるようにすることである。 【課題を解決するための手段】 【0010】 上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の医用画像処理装置は、 同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた第1画像と第2画像のそれぞれに対し、前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段と、 前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段と、 前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と、 前記差分画像を表示する表示手段と、 前記被写体を構成する構造物のうち異なる複数の構造物を前記特定の構造物として前記強調処理手段、前記位置合わせ手段、前記差分画像生成手段により生成された複数の前記特定の構造物のそれぞれが位置合わせされた複数の差分画像をユーザー操作に応じて前記表示手段に切り替え表示する表示制御手段と、 を備える。 【0011】 請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、 前記第1画像及び前記第2画像は、胸部X線画像であり、 前記異なる複数の前記特定の構造物には、後方肋骨と、血管及び気管支とが含まれる。 【0012】 請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、 前記強調処理手段は、前記特定の構造物が後方肋骨である場合、前記第1画像及び前記第2画像に対し、縦成分のエッジを強調するフィルター処理を施し、当該フィルター処理を施した画像を元の画像に足し合わせることで後方肋骨を強調する。 【0013】 請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、 前記強調処理手段は、前記特定の構造物が血管及び気管支である場合、前記第1画像及び前記第2画像に対し、肺門から放射状に広がる陰影を強調するフィルター処理を施し当該フィルター処理を施した画像を元の画像に足し合わせるか、又は高周波成分を強調する強調処理を施すことで血管及び気管支を強調する。 【0014】 請求項5に記載の発明の医用画像処理装置は、 同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた第1画像と第2画像のそれぞれに対し、前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段と、 前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段と、 前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と、 を備え、 前記第1画像及び前記第2画像は、胸部X線画像であり、 前記特定の構造物は、後方肋骨、又は、血管及び気管支の何れかであり、 前記強調処理手段は、前記特定の構造物が後方肋骨である場合、前記第1画像及び前記第2画像に対し、縦成分のエッジを強調するフィルター処理を施し、当該フィルター処理を施した画像を元の画像に足し合わせることで後方肋骨を強調する。 【0015】 請求項6に記載の発明の医用画像処理装置は、 同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた第1画像と第2画像のそれぞれに対し、前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段と、 前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段と、 前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と、 を備え、 前記第1画像及び前記第2画像は、胸部X線画像であり、 前記特定の構造物は、後方肋骨、又は、血管及び気管支の何れかであり、 前記強調処理手段は、前記特定の構造物が血管及び気管支である場合、前記第1画像及び前記第2画像に対し、肺門から放射状に広がる陰影を強調するフィルター処理を施し当該フィルター処理を施した画像を元の画像に足し合わせるか、又は高周波成分を強調する強調処理を施すことで血管及び気管支を強調する。 【0016】 請求項7に記載の発明は、請求項1?6の何れか一項に記載の発明において、 前記位置合わせ手段は、前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像にローカルマッチング処理を施すことにより前記第1画像と前記第2画像の対応する位置を特定してそのずれを示す移動量ベクトルを算出し、前記移動量ベクトルに基づいて前記第1画像又は前記第2画像の何れかを変形することにより前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う。 【0017】 請求項8に記載の発明のプログラムは、 コンピューターを、 同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた第1画像と第2画像のそれぞれに対し、前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段、 前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段、 前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段、 前記被写体を構成する構造物のうち異なる複数の構造物を前記特定の構造物として前記強調処理手段、前記位置合わせ手段、前記差分画像生成手段により生成された複数の前記特定の構造物のそれぞれが位置合わせされた複数の差分画像をユーザー操作に応じて表示手段に切り替え表示する表示制御手段、 として機能させる。 【0018】(削除) 【発明の効果】 【0019】 本発明によれば、撮影時に被写体の前傾・後傾、体軸周りの回転、X線の斜入等が生じていても、医師が注目する領域のアーチファクトが低減された、読影しやすい差分画像を安定して提供することが可能となる。 【図面の簡単な説明】 【0020】 【図1】本実施形態に係るX線画像システムの全体構成を示す図である。 【図2】図1の医用画像処理装置の機能的構成を示すブロック図である。 【図3】図1の制御部により実行される差分画像生成処理を示すフローチャートである。 【図4】(a)は、胸部X線画像の現在画像、(b)は、同一被写体の過去画像、(c)は、(a)、(b)を用いて従来の手法による位置合わせ後に生成された差分画像を模式的に示す図である。 【図5】(a)は、前後傾、体軸回転、斜入等がない状態でX線撮影された胸部ファントムの画像、(b)は、(a)と同一の胸部ファントムを12°後傾させてX線撮影した画像である。 【図6】図5(a)、(b)に示す互いに構造物の位置関係がずれた2画像に対して従来のローカルマッチング処理を行ったときのA-A´位置における移動量ベクトルのy座標移動量及びy座標移動量の多項式フィッティングの結果を示すグラフである。 【図7】縦成分強調フィルターの一例を示す図である。 【図8】図3のステップS8における強調処理を説明するための図であり、(a)は原画像、(b)は(a)の原画像に縦成分強調フィルターをかけた画像、(c)は(a)と(b)を足し合わせて生成される後方肋骨の強調画像である。 【図9】図3のステップS8における強調処理の各画像における後方肋骨部分の画素値を模式的に示す図である。 【図10】方向性強調フィルターの一例を示す図である。 【図11】図10に示す各フィルターと注目画素(i,j)とx方向とがなす角度θの範囲の対応関係の一例を示す図である。 【図12】図5(a)、(b)に示す互いの構造物の位置関係がずれた2画像に対して後方肋骨を強調する処理を行ってローカルマッチング処理を行ったときのA-A´位置における移動量ベクトルのy座標移動量及びy座標移動量の多項式フィッティングの結果を示すグラフである。 【図13】図5(a)、(b)に示す互いの構造物の位置関係がずれた2画像に対して血管及び気管支を強調する処理を行ってローカルマッチング処理を行ったときのA-A´位置における移動量ベクトルのy座標移動量及びy座標移動量の多項式フィッティングの結果を示すグラフである。 【図14】本実施形態において位置合わせの対象を後方肋骨としたときに生成される差分画像を模式的に示す図である。 【図15】本実施形態において位置合わせの対象を血管及び気管支としたときに生成される差分画像を模式的に示す図である。 【図16】(a)は、従来の手法で生成された差分画像、(b)は、位置合わせの対象を後方肋骨として本実施形態の手法により生成した差分画像、(c)は、位置合わせの対象を血管及び気管支として本実施形態の手法により生成した差分画像、(d)は、BS処理を行ってから本実施形態の手法により生成した差分画像である。 【図17】(a)は、正常な体勢での撮影を示す図、(b)は、前傾が生じた撮影を示す図である。 【図18】斜入が生じた撮影を示す図である。 【発明を実施するための形態】 【0021】 以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。 【0022】 [X線画像システム100の構成] まず、構成を説明する。 図1に、本実施形態に係るX線画像システム100を示す。X線画像システム100は、開業医やクリニック等の比較的小規模の医療施設に適用されるシステムであり、X線撮影装置1と医用画像処理装置2とが、例えば、LAN(Local Area Network)等の通信ネットワークNによりデータ送受信可能に接続されて構成されている。 【0023】 X線撮影装置1は、FPD(Flat Panel Detector)装置、CR(Computed Radiography)装置等により構成される。X線撮影装置1は、X線源とX線検出器(FPDやCRカセッテ)を有し、これらの間に配置された被写体にX線を照射し、被写体を透過したX線を検出してデジタルの医用画像を生成し、医用画像処理装置2に出力する。なお、医用画像には、患者情報、撮影部位、撮影日等が対応付けられて医用画像処理装置2に出力される。 【0024】 医用画像処理装置2は、X線撮影装置1から入力された医用画像に各種処理を施して読影用に表示する。医用画像処理装置2は、図2に示すように、制御部21、RAM22、記憶部23、操作部24、表示部25、通信部26等を備えて構成されており、各部はバス27により接続されている。 【0025】 制御部21は、CPU(Central Processing Unit)等により構成され、記憶部23に記憶されているシステムプログラムや処理プログラム等の各種プログラムを読み出してRAM22に展開し、展開されたプログラムに従って後述する差分画像生成処理をはじめとする各種処理を実行することで、強調処理手段、位置合わせ手段、差分画像生成手段、表示制御手段として機能する。 【0026】 RAM22は、制御部21により実行制御される各種処理において、記憶部23から読み出された制御部21で実行可能な各種プログラム、入力若しくは出力データ、及びパラメーター等の一時的に記憶するワークエリアを形成する。 【0027】 記憶部23は、HDD(Hard Disk Drive)や半導体の不揮発性メモリー等により構成される。記憶部23には、前述のように各種プログラムやプログラムの実行に必要なデータ(例えば、図7に示す縦成分強調フィルター、図10に示す方向性強調フィルター、図11に示す対応表等)が記憶されている。また、記憶部23には、X線撮影装置1から入力された医用画像及び医用画像処理装置2において生成された差分画像等を患者情報、撮影部位、日付等に対応付けて記憶する画像DB231が設けられている。 【0028】 操作部24は、カーソルキー、数字入力キー、及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードで押下操作されたキーの押下信号とマウスによる操作信号とを、入力信号として制御部21に出力する。 【0029】 表示部25は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)等のモニターを備えて構成されており、制御部21から入力される表示信号の指示に従って、各種画面を表示する。 【0030】 通信部26は、ネットワークインターフェース等により構成され、スイッチングハブを介して通信ネットワークNに接続された外部機器との間でデータの送受信を行う。 【0031】 [X線画像システム100の動作] 次に、X線画像システム100の動作について説明する。 まず、X線撮影装置1において被写体の撮影が行われる。このとき、X線源とX線検出器とが対向する位置となるようにX線源やX線検出器の位置が調整されるとともに、これらの間に被写体部位がポジショニングされて撮影が行われる。被写体部位が胸部である場合は、X線源とX線検出器との間に、被写体の背側がX線源側を向くようにしてポジショニングが行われ、X線撮影が行われる。撮影により得られた医用画像には、患者情報、撮影部位(被写体部位)、撮影日時等が付帯情報として対応付けられて通信ネットワークNを介して医用画像処理装置2に送信される。 【0032】 医用画像処理装置2においては、通信部26によりX線撮影装置1からの医用画像が受信されると、制御部21により、受信された医用画像が患者情報、撮影部位、撮影日時等と対応付けられて画像DB231に記憶されるとともに、表示部25に表示される。受信された医用画像の撮影部位が胸部である場合には、表示部25に受信された医用画像(現在画像という)と併せて差分画像を表示することを指示するための差分画像表示ボタン(図示せず)が表示される。操作部24により差分画像表示ボタンが押下されると、制御部21により、同一患者の胸部の過去画像を選択するための選択欄が表示部25に表示され、操作部24により過去画像が選択されると、制御部21により、画像DB231から選択された過去画像が読み出されるとともに、以下に説明する差分画像生成処理が実行され、現在画像(第1画像)と選択された過去画像(第2画像)の差分画像が生成される。 【0033】 図3に、制御部21により実行される差分画像生成処理のフローチャートを示す。差分画像生成処理は、制御部21と記憶部23に記憶されているプログラムとの協働により実行される。 【0034】 まず、制御部21は、選択された過去画像を処理対象としてRAM22に入力し(ステップS1)、過去画像に対して前処理を行う(ステップS2)。同様に、制御部21は、現在画像を処理対象としてRAM22に入力し(ステップS3)、現在画像に対して前処理を行う(ステップS4)。 前処理としては、例えば、特開2005-176462号公報に記載のように、非線形濃度補正、マトリクスサイズリダクション、コントラスト強調、及び/又はエッジぼかし等の処理が行われる。 【0035】 次いで、制御部21は、グローバルマッチング処理を行って、現在画像と過去画像の肺野領域の大局的な位置合わせを行う(ステップS5)。 グローバルマッチング処理は、例えば、特開2004-164298号公報等に記載されているように、公知の画像処理技術である。グローバルマッチング処理においては、まず、現在画像と過去画像のそれぞれにおいて、肺野領域を抽出する。肺野領域の抽出は、例えば、米国特許第4851954号明細書等に記載されているような公知の画像解析技術によって抽出することができる。次いで、肺野(胸郭)の輪郭上において、特徴となる複数組の対応点を求め、対応点間のシフトベクトル(移動量ベクトル)を計算する。次いで、現在画像又は過去画像の一方(ここでは過去画像とする)をシフトベクトルに基づいてアフィン変換する。これにより、一方の画像の被写体領域である肺野領域が他方の画像の肺野領域に大局的に位置合わせされる。 【0036】 次いで、制御部21は、現在画像の肺野領域において、縦横方向に均等な間隔で、多数のテンプレート関心領域(テンプレートROI)を設定する(ステップS6)。また、制御部21は、過去画像の肺野領域において、縦横方向に均等な間隔で、各テンプレートROIに対応する探索領域(探索ROI)を設定する(ステップS7)。なお、探索ROIのサイズは、テンプレートROIよりも大きい。テンプレートROI、探索ROIのサイズは、実験的経験的に最適なものが用いられる。 【0037】 次いで、制御部21は、過去画像と現在画像のそれぞれに対し、位置合わせの対象とする特定の構造物を強調する処理を行う(ステップS8)。 【0038】 ステップS8は、本実施形態で特徴的な処理である。被写体の前後傾、体軸周りの回転、X線の斜入等が少なくとも一方の画像撮影時に発生し、現在画像と過去画像における肺野内の構造物(例えば、前方肋骨、後方肋骨、血管及び気管支、鎖骨、心臓等の解剖学的構造物)の位置関係がずれている場合、ローカルマッチング処理及びワーピング処理により位置合わせを行ってもいずれの構造物にも合わせることができずに差分画像に正常な構造物が残ってしまうという問題があった。 【0039】 図4(a)に、胸部X線画像の現在画像、図4(b)に、同一被写体の過去画像、図4(c)に、図4(a)、(b)を用いて従来の手法(ローカルマッチング処理の前にステップS8の強調処理を行わない手法)による位置合わせ後に生成された差分画像を模式的に示す。図4(a)?(c)において、Bは後方肋骨、Vは血管及び気管支、Dは病変を示す。図4(a)、(b)に示すように、胸部X線画像においては、特に後方肋骨Bと血管及び気管支Vとが肺野の広い領域を占める目立った構造物であり、現在画像と過去画像の何れかに、被写体の前後傾、体軸周りの回転、又は斜入が生じ、両画像の後方肋骨Bと血管及び気管支Vとの位置関係にずれが生じている場合、何れにも合わない位置合わせが行われてしまい、図4(c)に示すように、差分画像にこれらの構造物が残ってしまい、病変Dが見え難い、非常に読影しづらい画像となっていた。 【0040】 ローカルマッチング処理では、それぞれのテンプレートROIに対し、探索ROI内の最も相関が高い位置を対応する位置として選択する。そして、各テンプレートROIの中心を対応位置の中心に移動するための移動量ベクトルを求め、求めた移動量ベクトルをn次の多項式で近似(多項式フィッティング)することで各画素の移動量ベクトルを算出する。現在画像と過去画像における構造物の位置関係のずれがない場合は、ローカルマッチング処理で正しい対応位置が見つかるため、各構造物に合った位置合わせができる。しかし、現在画像と過去画像における構造物の位置関係にずれが生じている場合、何れの構造物にも合わない位置合わせが行われてしまう。 【0041】 図6に、図5(a)、(b)に示す互いに構造物の位置関係がずれた2画像に対してローカルマッチング処理を行ったときのA-A´位置における移動量ベクトルのy座標移動量及びy座標移動量の多項式フィッティングの結果を示す。なお、図5(a)に示す画像は、前後傾、体軸回転、斜入等なく胸部ファントムをX線撮影した画像(胸部ファントム画像)であり、図5(b)に示す画像は図5(a)と同一ファントムを12°後傾させて撮影した画像である。 【0042】 図5(a)、(b)に示す2画像のように構造物の位置関係にずれが生じている場合、1つのテンプレートROI内に複数の構造物が含まれている箇所では、各構造物によって本来の対応位置は異なる。しかし、ローカルマッチング処理では、各テンプレートROIに対応する探索ROI内で最も相互相関値が高いところをそのテンプレートROIの対応位置として選択するため、各テンプレートROIにおいて特徴的な構造物に基づいて探索ROIから対応位置が選択されることとなる。そのため、肺野全体で総合してみると、テンプレートROI毎に対応させた構造物がまちまちとなり、図6に示すように、場所によって対応位置への移動量ベクトルの大きさや方向にばらつきが生じ、各移動量ベクトルの多項式フィッティングを行って各画素の移動量ベクトルを算出しても、フィッティングの結果が何れの構造物のエッジにも合わないものとなってしまう。例えば、図6には、後方肋骨のエッジ変化、血管及び気管支のエッジ変化を示しているが、フィッティング結果が何れのエッジ変化にも合っていない。その結果、何れの構造物にも合わない位置合わせが行われてしまうこととなる。 【0043】 そこで、ステップS8においては、現在画像と過去画像のそれぞれに対し、位置合わせの対象とする特定の構造物を強調する処理を行って、その構造物が含まれるテンプレートROIにおいてはその構造物の特徴に基づいて対応位置が決定されるように特徴付けを行う。 ここで、胸部X線画像の差分画像において、肺野全体にかかる後方肋骨は特に読影に影響する目立った構造物である。また、血管及び気管支周辺の読影では、血管及び気管支も読影に影響する。そこで、本実施形態においては、位置合わせの対象とする特定の構造物を(A)後方肋骨、(B)血管及び気管支とし、それぞれの構造物を強調する処理を行う。 【0044】 具体的に、(A)後方肋骨を位置合わせの対象とした場合、現在画像と過去画像のそれぞれに対し、図7に示す縦成分強調フィルターをかけ、原画像(図8(a)参照)とこのフィルターをかけた画像(図8(b)参照)とを足し合わせて、後方肋骨の強調画像(図8(c)参照。現在画像と過去画像のそれぞれの強調画像。)を生成する。 図7に示す縦成分強調フィルターは、後方肋骨が上下に等間隔に並ぶという構造的な特徴に基づいて作成されたフィルターであり、フィルターサイズは、後方肋骨のサイズに合ったものとなっている。このフィルターにより、図9の各画像における後方肋骨部分の画素値の概念図に示すように、原画像の後方肋骨のエッジを上下の方向性をつけて強調することができる。このように、縦成分強調フィルターにより、後方肋骨を目立たせるとともに、上下の方向成分を特徴付けて後方肋骨の上下を間違えない特徴を作り出すことによって、臨床現場には存在しないが位置合わせに寄与するオリジナルの画像を作り出すことができる。 【0045】 また、(B)血管及び気管支を位置合わせの対象とした場合、現在画像と過去画像のそれぞれに対し、図10に示す方向性強調フィルターをかけ、原画像と、このフィルターをかけた画像とを足し合わせて血管及び気管支の強調画像(現在画像と過去画像のそれぞれの強調画像)を生成する。 ここで、肺野の血管及び気管支は、図10に示すように、肺門から放射状に広がる構造を有している。方向性強調フィルターは、血管及び気管支のこの特徴に基づいて、起点(肺門)から放射状に広がる構造を強調するフィルターであり、右肺野、左肺野のそれぞれに複数のフィルター(ここではFilterA1?FilterA9)が用意されている(記憶部23に記憶されている)。FilterA1?FilterA9は、図10に示すように、注目画素(i,j)とx方向とがなす角度θの範囲に対応付けられており、注目画素の位置に応じたフィルターが使用される。 なお、図10は、一例として左肺野のフィルターを示しているが、右肺野の各フィルターは左肺野のフィルターの左右を反転したものである。 【0046】 血管を強調する処理は、以下のようにして行われる。 (1)まず、起点となる肺門(Xc、Yc)を設定する。肺門(Xc、Yc)の設定は、表示部25に現在画像、過去画像をそれぞれ表示し、表示された各画像上を医師が操作部24により指定することにより行われる。 (2)次いで、現在画像、過去画像のそれぞれにおいて、注目画素(i,j)と肺門(Xc、Yc)の位置関係を決定する。 具体的には、肺門(Xc、Yc)から注目画素(i,j)へのベクトルV及び角度θ(図10参照)を算出する。 ここで、ベクトルV=(Xc-i,Yc-j) 角度θ=arctan{(Yc-j)/(Xc-i)} (3)角度θの範囲に応じたフィルターをFilterA1?FilterA9の中から選択し、フィルター処理をかける。 (4)フィルター処理をかけた結果値と原画像の画素値を足す。 (5)原画像の全ての画素が終了するまで、注目画素を1画素ずつずらしながら(1)?(4)を繰り返す。 上記の強調処理により、肺門から放射状に広がる構造、即ち、血管を強調した強調画像が得られる。 【0047】 なお、血管及び気管支は骨成分より高周波な成分からなるため、血管及び気管支の強調は、現在画像及び過去画像のそれぞれに対し、骨成分(8mm?20mm)より細かい高周波成分を強調するフィルターをかけることにより行うこととしてもよい。ここで、高周波を強調するフィルターとしては、アンシャープマスクフィルタ、ソーベルフィルター、ラプラシアンフィルター等を用いることができる。また、現在画像及び過去画像のそれぞれをフーリエ変換してハイパスフィルタを通した後、逆フーリエ変換することで高周波成分を強調することで、血管の強調を行うこととしてもよい。 【0048】 次いで、制御部21は、位置合わせの対象となる特定の構造物が強調された現在画像及び過去画像を入力画像としてローカルマッチング処理を実行する(ステップS9)。即ち、特定の構造物が強調された現在画像における各テンプレートROIを、特定の構造物が強調された過去画像の対応する探索ROI内で移動させながら相互相関値R_(i,j)を計算し、相互相関値R_(i,j)が最も高い位置をそのテンプレートROIの対応位置として選択し、テンプレートROIの中心から対応位置の中心への移動量ベクトルを算出する。 なお、相互相関値R_(i,j)は、以下の[数1]により算出することができる。 【数1】 【0049】 次いで、制御部21は、各テンプレートROIに対応する移動量ベクトルの分布をマッピングし(ステップS10)、マッピングした移動量ベクトルをn次多項式を用いてフィッティング(多項式フィッティング)し、各画素の移動量ベクトルを求める(ステップS11)。 【0050】 図12に、上述の図5(a)、(b)に示す互いの構造物の位置関係がずれた2画像に対して後方肋骨を強調する処理を行って、この後方肋骨が強調された2画像に対してローカルマッチング処理を行ったときのA-A´位置における移動量ベクトルのy座標移動量及びy座標移動量の多項式フィッティングの結果を示す。 図12に示すように、多項式フィッティングの結果、後方肋骨のエッジ変化に近いカーブが得られていることがわかる。 【0051】 図13に、上述の図5(a)、(b)に示す互いの構造物の位置関係がずれた2画像に対して血管及び気管支を強調する処理を行って、この血管及び気管支が強調された2画像に対してローカルマッチング処理を行ったときのA-A´位置における移動量ベクトルのy座標移動量及びy座標移動量の多項式フィッティングの結果を示す。 図13に示すように、多項式フィッティングの結果、血管及び気管支のエッジ変化に近いカーブが得られていることがわかる。 なお、図12、図13においては、y座標移動量のみを示しているが、x座標移動量も同様に、それぞれ、後方肋骨の変化に近いカーブ、血管及び気管支の変化に近いカーブが得られる。 【0052】 次いで、制御部21は、求めた各画素の移動量ベクトルに基づいて、過去画像(強調されていない入力過去画像)にワーピング処理(非線形歪み処理)を施す(ステップS12)。ワーピング処理は、例えば、特開2005-176462号公報に記載されているように、公知の画像処理技術である。ワーピング処理後、制御部21は、現在画像(強調されていない現在画像)と変形された過去画像の差分をとって差分画像を生成する(ステップS13)。具体的には、現在画像の各画素の値から過去画像の対応する各画素の値を引くことにより差分画像を生成する。 【0053】 図14に、ステップS13において、位置合わせの対象を後方肋骨としたときに生成される差分画像を模式的に示す。図12のグラフに示したように、位置合わせの対象を後方肋骨として現在画像及び過去画像に後方肋骨の強調処理を行った画像を入力としてローカルマッチング処理及び多項式フィッティングを行った場合、後方肋骨のエッジ変化に近いカーブが得られる。このカーブで表される移動量ベクトルに基づいて過去画像にワーピング処理を行うと、過去画像の後方肋骨が現在画像の後方肋骨に合うように位置合わせされる。よって、現在画像と過去画像の差分画像は、図14に示すように、後方肋骨のアーチファクトが非常に弱まった(消えた)ものとなる。このように、後方肋骨に合った位置合わせを行うことによって、胸部X線画像において特に目立った構造物である後方肋骨が差分画像に現れないようにすることができるので、医師に読影しやすい差分画像を提供することが可能となる。特に、後方肋骨周辺の領域に注目して読影を行う場合に、読影しやすい差分画像を安定して提供することが可能となる。 【0054】 図15に、ステップS13において、位置合わせの対象を血管及び気管支としたときに生成される差分画像を模式的に示す。図13のグラフで示したように、位置合わせの対象を血管及び気管支として現在画像及び過去画像に血管及び気管支の強調処理を行った画像を入力としてローカルマッチング処理及び多項式フィッティングを行った場合、血管及び気管支のエッジ変化に近いカーブが得られる。このカーブで表される移動量ベクトルに基づいて過去画像にワーピング処理を行うと、過去画像の血管及び気管支が現在画像の血管及び気管支に合うように位置合わせされる。よって、現在画像と過去画像の差分画像は、図15に示すように、血管及び気管支のアーチファクトが非常に弱まった(消えた)ものとなる。このように、血管及び気管支に合った位置合わせを行うことによって、胸部X線画像において目立った構造物である血管及び気管支が差分画像に現れないようにすることができるので、特に、血管及び気管支周辺の領域に注目して読影を行う場合に、医師に読影しやすい差分画像を安定して提供することが可能となる。 【0055】 図16(a)?図16(c)に、図5(a)、(b)に示す胸部のファントム画像を入力画像として生成した差分画像を示す。図16(a)は、従来の手法で生成された差分画像を示す。図16(b)は、位置合わせの対象を後方肋骨として本実施形態の手法により生成した差分画像を示す。図16(c)は、位置合わせの対象を血管及び気管支として本実施形態の手法により生成した差分画像を示す。 図16(a)に示すように、従来の手法により生成した差分画像では、後方肋骨、血管及び気管支の双方が残っているおり、アーチファクトとなっている。これに対し、本実施形態で説明した手法によって位置合わせの対象を後方肋骨にして生成した差分画像では、図16(b)に示すように、後方肋骨が非常に弱まっていることがわかる。また、本実施形態で説明した手法によって位置合わせの対象を血管及び気管支にして生成した差分画像では、図16(c)に示すように、血管及び気管支が非常に弱まっていることがわかる。 【0056】 差分画像の生成が終了すると、制御部21は、生成した差分画像を表示部25に表示し(ステップS14)、差分画像生成処理を終了する。 例えば、ステップS14において、制御部21は、まず、後方肋骨に基づく位置合わせを行った(後方肋骨のアーチファクトが弱まった)差分画像を表示部25に表示するとともに、表示切り替えボタンを合わせて表示する。操作部24により表示切り替えボタンが押下されると、制御部21は、表示部25に血管及び気管支に基づく位置合わせを行った(血管及び気管支のアーチファクトが弱まった)差分画像を表示部25に表示する。以降、表示切り替えボタンの押下に応じて、制御部21は、2つの差分画像を切り替え表示する。 このように、後方肋骨のアーチファクトが弱まった差分画像と、血管及び気管支のアーチファクトが弱まった差分画像とを操作部24の操作により切り替え表示できるようにすることで、撮影時に被写体の前傾・後傾、体軸回りの回転、X線の斜入等が生じていても、医師が注目する領域に応じた読影のしやすい差分画像を容易に表示させることができる。 または、後方肋骨のアーチファクトが弱まった差分画像と、血管及び気管支のアーチファクトが弱まった差分画像とを並べて表示することとしてもよい。 【0057】 以上説明したように、医用画像処理装置2によれば、制御部21は、同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた現在画像と過去画像のそれぞれに対し、被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施し、特定の構造物が強調された現在画像及び過去画像に基づいて、現在画像と過去画像における特定の構造物の位置合わせを行う。そして、特定の構造物が位置合わせされた現在画像と過去画像の差分画像を生成する。 【0058】 従って、比較する現在画像と過去画像の何れかの撮影時に被写体の前傾・後傾、体軸周りの回転、X線の斜入等が生じた結果、2つの画像の被写体を構成する構造物の位置関係にずれが生じていても、医師が注目する領域にある特定の構造物、例えば、肺野領域全体に広がる後方肋骨や、或いは血管及び気管支等に合った位置合わせを行って差分画像を生成することができるので、医師が注目する領域にある経時変化のない特定構造物のアーチファクトが低減された、読影しやすい差分画像を安定して提供することが可能となる。 【0059】 また、医用画像処理装置2は、生成された差分画像を表示部25に表示するので、医師の読影のしやすい差分画像をモニターにより提供することができる。 【0060】 また、被写体を構成する構造物のうち、例えば、後方肋骨や血管及び気管支等の異なる複数の構造物を特定の構造物として、これらの特定の構造物のそれぞれが位置合わせされた複数の差分画像を生成し、複数の差分画像をユーザー操作に応じて表示部25に切り替え表示するようにすることで、医師が複数の領域に注目したい場合等に、より一層読影のしやすい態様で差分画像を提供することが可能となる。 【0061】 具体的には、特定の構造物が後方肋骨である場合、現在画像及び過去画像に対し、縦成分のエッジを強調するフィルター処理を施し、当該フィルター処理を施した画像を元の画像に足し合わせることで後方肋骨を強調した画像を生成することができる。 また、特定の構造物が血管及び気管支である場合、現在画像及び過去画像に対し、肺門から放射状に広がる陰影を強調するフィルター処理を施し当該フィルター処理を施した画像を元の画像に足し合わせるか、又は高周波成分を強調する強調処理を施すことで血管及び気管支を強調した画像を生成することができる。 そして、特定の構造物が強調された現在画像及び過去画像にローカルマッチング処理を施すことにより現在画像と過去画像の対応する位置を特定してそのずれを示す移動量ベクトルを算出し、移動量ベクトルに基づいて現在画像又は過去画像の何れかを変形することにより現在画像と過去画像における特定の構造物の位置合わせを行うことができる。 【0062】 なお、上述した本実施形態における記述は、本発明に係る好適な一例であり、これに限定されるものではない。 例えば、上記実施形態においては、位置合わせの対象となる構造物を後方肋骨、血管とし、これらを強調した画像に基づいてローカルマッチング処理を行う場合について説明したが、胸郭、縦隔、横隔膜、鎖骨、心臓、前方肋骨等の他の構造物を位置合わせの対象としてこれらを強調した画像に基づいてローカルマッチング処理を行うこととしてもよい。 【0063】 また、位置合わせの対象を血管及び気管支とする場合には、入力された現在画像及び過去画像に対して、予めBS(Bone Suppression)処理を施しておくことが好ましい。BS処理は、骨を認識し、骨の成分を減弱若しくは骨の成分の濃度を弱める処理である(例えば、http://www.riveraintech.com/products/bone-suppression参照)。胸部X線画像で主な成分である骨成分を予め減弱してから血管及び気管支を強調し、ローカルマッチング?移動量ベクトルのフィッティングを行うことで、より血管及び気管支に合った位置合わせを行うことが可能となる。また、血管及び気管支の成分とともに骨の成分も差分画像から除去することが可能となり、アーチファクトをより一層抑えた差分画像を得ることが可能となる。 【0064】 図16(d)に、図5(a)、(b)に示す胸部のファントム画像を入力画像とし、これにBS処理を施してから差分画像生成処理で血管及び気管支を位置合わせの対象として生成した差分画像を示す。図16(d)に示すように、後方肋骨、血管及び気管支の双方のアーチファクトのない差分画像を得ることができる。 【0065】 また、上記実施形態においては、後方肋骨を位置合わせの対象として生成した差分画像と血管及び気管支を位置合わせの対象として生成した差分画像を生成し、これらをユーザー操作に応じて切り替え表示する場合を例にとり説明したが、予め選択された何れか一方の差分画像のみを生成して表示部25に表示することとしてもよい。 【0066】 また、例えば、上記実施形態においては、X線撮影装置で撮影された胸部X線画像についての差分画像を生成する場合を例にとり説明したが、他のモダリティで撮影された他の部位の撮影画像についての差分画像を生成する場合に適用してもよい。 【0067】 また、上記実施形態においては、現在画像にテンプレートROI、過去画像に探索ROIを設定してローカルマッチング処理を行ったが、現在画像に探索ROI、過去画像にテンプレートROIを設定することとしてもよい。また、上記実施形態においては、過去画像にワーピング処理を施したが、何れの画像に施しても構わない。 【0068】 また、以上の説明では、各処理を実行するためのプログラムを格納したコンピューター読み取り可能な媒体としてHDDや不揮発性メモリーを使用した例を開示したが、この例に限定されない。その他のコンピューター読み取り可能な媒体として、CD-ROM等の可搬型記録媒体を適用することも可能である。また、プログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウェーブ(搬送波)を適用することとしてもよい。 【0069】 その他、X線画像システムを構成する各装置の細部構成及び細部動作に関しても、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。 【符号の説明】 【0070】 100 X線画像システム 1 X線撮影装置 2 医用画像処理装置 21 制御部 22 RAM 23 記憶部 231 画像DB 24 操作部 25 表示部 26 通信部 27 バス (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた第1画像と第2画像のそれぞれに対し、前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段と、 前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段と、 前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と、 前記差分画像を表示する表示手段と、 前記被写体を構成する構造物のうち異なる複数の構造物を前記特定の構造物として前記強調処理手段、前記位置合わせ手段、前記差分画像生成手段により生成された複数の前記特定の構造物のそれぞれが位置合わせされた複数の差分画像をユーザー操作に応じて前記表示手段に切り替え表示する表示制御手段と、 を備える医用画像処理装置。 【請求項2】 前記第1画像及び前記第2画像は、胸部X線画像であり、 前記異なる複数の前記特定の構造物には、後方肋骨と、血管及び気管支とが含まれる請求項1に記載の医用画像処理装置。 【請求項3】 前記強調処理手段は、前記特定の構造物が後方肋骨である場合、前記第1画像及び前記第2画像に対し、縦成分のエッジを強調するフィルター処理を施し、当該フィルター処理を施した画像を元の画像に足し合わせることで後方肋骨を強調する請求項2に記載の医用画像処理装置。 【請求項4】 前記強調処理手段は、前記特定の構造物が血管及び気管支である場合、前記第1画像及び前記第2画像に対し、肺門から放射状に広がる陰影を強調するフィルター処理を施し当該フィルター処理を施した画像を元の画像に足し合わせるか、又は高周波成分を強調する強調処理を施すことで血管及び気管支を強調する請求項2に記載の医用画像処理装置。 【請求項5】 同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた第1画像と第2画像のそれぞれに対し、前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段と、 前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段と、 前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と、 を備え、 前記第1画像及び前記第2画像は、胸部X線画像であり、 前記特定の構造物は、後方肋骨、又は、血管及び気管支の何れかであり、 前記強調処理手段は、前記特定の構造物が後方肋骨である場合、前記第1画像及び前記第2画像に対し、縦成分のエッジを強調するフィルター処理を施し、当該フィルター処理を施した画像を元の画像に足し合わせることで後方肋骨を強調する医用画像処理装置。 【請求項6】 同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた第1画像と第2画像のそれぞれに対し、前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段と、 前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段と、 前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段と、 を備え、 前記第1画像及び前記第2画像は、胸部X線画像であり、 前記特定の構造物は、後方肋骨、又は、血管及び気管支の何れかであり、 前記強調処理手段は、前記特定の構造物が血管及び気管支である場合、前記第1画像及び前記第2画像に対し、肺門から放射状に広がる陰影を強調するフィルター処理を施し当該フィルター処理を施した画像を元の画像に足し合わせるか、又は高周波成分を強調する強調処理を施すことで血管及び気管支を強調する医用画像処理装置。 【請求項7】 前記位置合わせ手段は、前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像にローカルマッチング処理を施すことにより前記第1画像と前記第2画像の対応する位置を特定してそのずれを示す移動量ベクトルを算出し、前記移動量ベクトルに基づいて前記第1画像又は前記第2画像の何れかを変形することにより前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う請求項1?6の何れか一項に記載の医用画像処理装置。 【請求項8】 コンピューターを、 同一被写体を異なる時点で撮影することにより得られた第1画像と第2画像のそれぞれに対し、前記被写体を構成する構造物のうち特定の構造物を強調する処理を施す強調処理手段、 前記特定の構造物が強調された前記第1画像及び前記第2画像に基づいて、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像における前記特定の構造物の位置合わせを行う位置合わせ手段、 前記特定の構造物が位置合わせされた、前記特定の構造物を強調する処理が施されていない前記第1画像と前記第2画像の差分画像を生成する差分画像生成手段、 前記被写体を構成する構造物のうち異なる複数の構造物を前記特定の構造物として前記強調処理手段、前記位置合わせ手段、前記差分画像生成手段により生成された複数の前記特定の構造物のそれぞれが位置合わせされた複数の差分画像をユーザー操作に応じて表示手段に切り替え表示する表示制御手段、 として機能させるためのプログラム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-01-11 |
出願番号 | 特願2013-219093(P2013-219093) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(A61B)
P 1 651・ 113- YAA (A61B) P 1 651・ 121- YAA (A61B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 井上 香緒梨 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
渡戸 正義 三木 隆 |
登録日 | 2017-10-20 |
登録番号 | 特許第6225636号(P6225636) |
権利者 | コニカミノルタ株式会社 |
発明の名称 | 医用画像処理装置及びプログラム |
代理人 | 特許業務法人光陽国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人光陽国際特許事務所 |