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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 F01L 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 F01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01L |
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管理番号 | 1352571 |
審判番号 | 不服2018-7244 |
総通号数 | 236 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-05-28 |
確定日 | 2019-06-13 |
事件の表示 | 特願2017-38523「弁開閉時期制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年6月8日出願公開、特開2017-101682〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年11月2日(優先権主張平成24年3月2日)に出願した特願2012-242536号の一部を平成29年3月1日に新たな特許出願としたものであって、平成29年11月24日付け(発送日:同年12月5日)で拒絶理由が通知され、平成30年2月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月13日付け(発送日:同年3月20日)で拒絶査定がされ、これに対して同年5月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。 第2 平成30年5月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 平成30年5月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 〔理由〕 1 本願補正発明 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1ないし5について、本件補正前(平成30年2月5日の手続補正書)に、 「【請求項1】 内燃機関のクランクシャフトと同期回転する外部ロータと、前記外部ロータの回転軸芯と同軸芯に配置され前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する内部ロータと、前記外部ロータの径方向に延在する面のうち少なくとも1つの面と対向する位置に設けられるプレートとを備え、 前記外部ロータの外周部から内方に延出する複数の区画部の間に形成される油室を前記内部ロータに形成されたベーン部により分割することで、前記外部ロータに対する前記内部ロータの相対回転位相を遅角側に変化させる遅角室と、前記相対回転位相を進角側に変化させる進角室とが形成されると共に、 前記外部ロータと前記内部ロータとが最遅角位相から最進角位相の間の移動可能な範囲内において相対回転自在に構成され、 前記プレートと、前記外部ロータの前記区画部とを固定する締結部材を備え、 前記遅角室の少なくとも1つ及び前記進角室の少なくとも1つに、前記相対回転位相が前記最遅角位相または前記最進角位相のときに前記ベーン部が当接する保護体が備えられ、 前記区画部側の前記保護体と対向する面に前記保護体の一部が収容される凹みが設けられている弁開閉時期制御装置。 【請求項2】 内燃機関のクランクシャフトと同期回転する外部ロータと、前記外部ロータの回転軸芯と同軸芯に配置され前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する内部ロータと、前記外部ロータの径方向に延在する面のうち少なくとも1つの面と対向する位置に設けられるプレートとを備え、 前記外部ロータの外周部から内方に延出する複数の区画部の間に形成される油室を前記内部ロータに形成されたベーン部により分割することで、前記外部ロータに対する前記内部ロータの相対回転位相を遅角側に変化させる遅角室と、前記相対回転位相を進角側に変化させる進角室とが形成されると共に、 前記外部ロータと前記内部ロータとが最遅角位相から最進角位相の間の移動可能な範囲内において相対回転自在に構成され、 前記プレートと、前記外部ロータの前記区画部とを固定する締結部材を備え、 前記遅角室の少なくとも1つ及び前記進角室の少なくとも1つに、前記相対回転位相が前記最遅角位相または前記最進角位相のときに前記ベーン部が当接する保護体が備えられ、 前記区画部側の前記保護体と対向する面に前記保護体の一部が収容される窪みが設けられている弁開閉時期制御装置。 【請求項3】 内燃機関のクランクシャフトと同期回転する外部ロータと、前記外部ロータの回転軸芯と同軸芯に配置され前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する内部ロータと、前記外部ロータの径方向に延在する面のうち少なくとも1つの面と対向する位置に設けられるプレートとを備え、 前記外部ロータの外周部から内方に延出する複数の区画部の間に形成される油室を前記内部ロータに形成されたベーン部により分割することで、前記外部ロータに対する前記内部ロータの相対回転位相を遅角側に変化させる遅角室と、前記相対回転位相を進角側に変化させる進角室とが形成されると共に、 前記外部ロータと前記内部ロータとが最遅角位相から最進角位相の間の移動可能な範囲内において相対回転自在に構成され、 前記プレートと、前記外部ロータの前記区画部とを固定する締結部材を備え、 前記遅角室の少なくとも1つ及び前記進角室の少なくとも1つに、前記相対回転位相が前記最遅角位相または前記最進角位相のときに前記ベーン部が当接する保護体が備えられ、 前記区画部側の前記保護体と対向する面に前記保護体の一部が収容される切欠きが設けられている弁開閉時期制御装置。 【請求項4】 内燃機関のクランクシャフトと同期回転する外部ロータと、前記外部ロータの回転軸芯と同軸芯に配置され前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する内部ロータと、前記外部ロータの径方向に延在する面のうち少なくとも1つの面と対向する位置に設けられるプレートとを備え、 前記外部ロータの外周部から内方に延出する複数の区画部の間に形成される油室を前記内部ロータに形成されたベーン部により分割することで、前記外部ロータに対する前記内部ロータの相対回転位相を遅角側に変化させる遅角室と、前記相対回転位相を進角側に変化させる進角室とが形成されると共に、 前記外部ロータと前記内部ロータとが最遅角位相から最進角位相の間の移動可能な範囲内において相対回転自在に構成され、 前記プレートと、前記外部ロータの前記区画部とを固定する締結部材を備え、 前記遅角室の少なくとも1つ及び前記進角室の少なくとも1つに、前記相対回転位相が前記最遅角位相または前記最進角位相のときに前記ベーン部が当接する保護体が備えられ、 前記区画部側の前記保護体と対向する面に前記保護体の一部が収容される凹み、窪み、及び切欠きのうちの何れか一つが設けられ、 前記ベーン部側の前記保護体と対向する面に前記保護体の少なくとも一部が収容可能な円弧状部が設けられている弁開閉時期制御装置。 【請求項5】 前記相対回転位相を拘束する拘束機構が、前記最遅角位相及び前記最進角位相を除く前記相対回転位相で前記外部ロータと前記内部ロータとの相対回転を拘束する拘束位置と、この拘束を解除する解除位置とに切換自在な拘束体を備えて構成される請求項1から4のいずれか一項に記載の弁開閉時期制御装置。」 とあったものを、 「【請求項1】 内燃機関のクランクシャフトと同期回転する外部ロータと、前記外部ロータの回転軸芯と同軸芯に配置され前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する内部ロータと、前記外部ロータの径方向に延在する面のうち少なくとも1つの面と対向する位置に設けられるプレートとを備え、 前記外部ロータの外周部から内方に延出する複数の区画部の間に形成される油室を前記内部ロータに形成されたベーン部により分割することで、前記外部ロータに対する前記内部ロータの相対回転位相を遅角側に変化させる遅角室と、前記相対回転位相を進角側に変化させる進角室とが形成されると共に、 前記外部ロータと前記内部ロータとが最遅角位相から最進角位相の間の移動可能な範囲内において相対回転自在に構成され、 前記プレートと、前記外部ロータの前記区画部とを固定する締結部材を備え、 前記遅角室の少なくとも1つ及び前記進角室の少なくとも1つに、前記相対回転位相が前記最遅角位相または前記最進角位相のときに前記ベーン部が当接する保護体が備えられ、 前記区画部側の前記保護体と対向する面に前記保護体の一部が収容される凹みが設けられ、 少なくとも1つの前記保護体は、前記油室を形成する前記内部ロータの周方向に沿った外周面と前記油室を形成する前記外部ロータの周方向に沿った内周面との前記径方向における中間位置よりも径方向内側に位置している弁開閉時期制御装置。 【請求項2】 内燃機関のクランクシャフトと同期回転する外部ロータと、前記外部ロータの回転軸芯と同軸芯に配置され前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する内部ロータと、前記外部ロータの径方向に延在する面のうち少なくとも1つの面と対向する位置に設けられるプレートとを備え、 前記外部ロータの外周部から内方に延出する複数の区画部の間に形成される油室を前記内部ロータに形成されたベーン部により分割することで、前記外部ロータに対する前記内部ロータの相対回転位相を遅角側に変化させる遅角室と、前記相対回転位相を進角側に変化させる進角室とが形成されると共に、 前記外部ロータと前記内部ロータとが最遅角位相から最進角位相の間の移動可能な範囲内において相対回転自在に構成され、 前記プレートと、前記外部ロータの前記区画部とを固定する締結部材を備え、 前記遅角室の少なくとも1つ及び前記進角室の少なくとも1つに、前記相対回転位相が前記最遅角位相または前記最進角位相のときに前記ベーン部が当接する保護体が備えられ、 前記区画部側の前記保護体と対向する面に前記保護体の一部が収容される窪みが設けられ、 少なくとも1つの前記保護体は、前記油室を形成する前記内部ロータの周方向に沿った外周面と前記油室を形成する前記外部ロータの周方向に沿った内周面との前記径方向における中間位置よりも径方向内側に位置している弁開閉時期制御装置。 【請求項3】 内燃機関のクランクシャフトと同期回転する外部ロータと、前記外部ロータの回転軸芯と同軸芯に配置され前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する内部ロータと、前記外部ロータの径方向に延在する面のうち少なくとも1つの面と対向する位置に設けられるプレートとを備え、 前記外部ロータの外周部から内方に延出する複数の区画部の間に形成される油室を前記内部ロータに形成されたベーン部により分割することで、前記外部ロータに対する前記内部ロータの相対回転位相を遅角側に変化させる遅角室と、前記相対回転位相を進角側に変化させる進角室とが形成されると共に、 前記外部ロータと前記内部ロータとが最遅角位相から最進角位相の間の移動可能な範囲内において相対回転自在に構成され、 前記プレートと、前記外部ロータの前記区画部とを固定する締結部材を備え、 前記遅角室の少なくとも1つ及び前記進角室の少なくとも1つに、前記相対回転位相が前記最遅角位相または前記最進角位相のときに前記ベーン部が当接する保護体が備えられ、 前記区画部側の前記保護体と対向する面に前記保護体の一部が収容される切欠きが設けられ、 少なくとも1つの前記保護体は、前記油室を形成する前記内部ロータの周方向に沿った外周面と前記油室を形成する前記外部ロータの周方向に沿った内周面との前記径方向における中間位置よりも径方向内側に位置している弁開閉時期制御装置。 【請求項4】 内燃機関のクランクシャフトと同期回転する外部ロータと、前記外部ロータの回転軸芯と同軸芯に配置され前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する内部ロータと、前記外部ロータの径方向に延在する面のうち少なくとも1つの面と対向する位置に設けられるプレートとを備え、 前記外部ロータの外周部から内方に延出する複数の区画部の間に形成される油室を前記内部ロータに形成されたベーン部により分割することで、前記外部ロータに対する前記内部ロータの相対回転位相を遅角側に変化させる遅角室と、前記相対回転位相を進角側に変化させる進角室とが形成されると共に、 前記外部ロータと前記内部ロータとが最遅角位相から最進角位相の間の移動可能な範囲内において相対回転自在に構成され、 前記プレートと、前記外部ロータの前記区画部とを固定する締結部材を備え、 前記遅角室の少なくとも1つ及び前記進角室の少なくとも1つに、前記相対回転位相が前記最遅角位相または前記最進角位相のときに前記ベーン部が当接する保護体が備えられ、 前記区画部側の前記保護体と対向する面に前記保護体の一部が収容される凹み、窪み、及び切欠きのうちの何れか一つが設けられ、 前記ベーン部側の前記保護体と対向する面に前記保護体の少なくとも一部が収容可能な円弧状部が設けられ、 少なくとも1つの前記保護体は、前記油室を形成する前記内部ロータの周方向に沿った外周面と前記油室を形成する前記外部ロータの周方向に沿った内周面との前記径方向における中間位置よりも径方向内側に位置している弁開閉時期制御装置。 【請求項5】 前記相対回転位相を拘束する拘束機構が、前記最遅角位相及び前記最進角位相を除く前記相対回転位相で前記外部ロータと前記内部ロータとの相対回転を拘束する拘束位置と、この拘束を解除する解除位置とに切換自在な拘束体を備えて構成される請求項1から4のいずれか一項に記載の弁開閉時期制御装置。」 と補正することを含むものである(下線は補正箇所を示すために請求人が付与した。)。 上記補正は、「保護体」について、「少なくとも1つの前記保護体は、前記油室を形成する前記内部ロータの周方向に沿った外周面と前記油室を形成する前記外部ロータの周方向に沿った内周面との前記径方向における中間位置よりも径方向内側に位置している」との限定を付したものであり、かつ、補正前の請求項1ないし5に記載された発明と補正後の請求項1ないし5に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 2 独立特許要件についての検討 上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1ないし5に記載された発明(以下、「本願補正発明1」ないし「本願補正発明5」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。 本件補正後の請求項1ないし4には「少なくとも1つの前記保護体は、前記油室を形成する前記内部ロータの周方向に沿った外周面と前記油室を形成する前記外部ロータの周方向に沿った内周面との前記径方向における中間位置よりも径方向内側に位置している」との記載事項がある。 しかしながら、本願の発明の詳細な説明には、当該記載事項について明示的な記載はされていない。 請求人は、「手続補正書により補正された後の請求項1-4は、図6-図10に基づくものです。」(審判請求書3.(2))と述べているが、当該記載事項は、図6ないし図10の図示内容により十分に支持されていない。 また、一般に、「中間」とは「二つの物事・地点の間。特に、そのまんなか。」(広辞苑)といった意味であるから、「中間位置」は「中間」の「位置」を指すものと解されるが、当該記載事項中の「中間位置」が、「内部ロータの周方向に沿った外周面」と「外部ロータの周方向に沿った内周面」との「間」の位置を意味するのか、「そのまんなか」の位置を意味するのかが明確でない。また、いずれに解したとしても、「中間位置」といえる範囲を特定することはできない。 さらに、「保護体」はある程度の大きさを持っていると理解できるが、「保護体は・・・中間位置よりも径方向内側に位置している」とは、「保護体」の「全体」が「中間位置よりも径方向内側に位置している」のか、「中心部分」が「中間位置よりも径方向内側に位置している」のか、「一部分」が「中間位置よりも径方向内側に位置して」いればよいのかも明確でない。 してみると、当該記載事項と本願の発明の詳細な説明との関係を明確に理解することができないので、当該記載項が本願の発明の詳細な説明に示唆されているともいえない。 したがって、本願補正発明1ないし4及び本願補正発明1ないし4を引用する本願補正発明5は発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項1号の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 また、上記のとおり、当該記載事項中の「中間位置」が、「内部ロータの周方向に沿った外周面」と「外部ロータの周方向に沿った内周面」との「間」の位置を意味するのか、「そのまんなか」の位置を意味するのかが明確でなく、いずれに解したとしても、「中間位置」といえる範囲を特定することはできない。 そして、上記のとおり、「保護体」はある程度の大きさを持っていると理解できるが、「保護体は・・・中間位置よりも径方向内側に位置している」とは、「保護体」の「全体」が「中間位置よりも径方向内側に位置している」のか、「中心部分」が「中間位置よりも径方向内側に位置している」のか、「一部分」が「中間位置よりも径方向内側に位置して」いればよいのかも明確でない。 そうすると、「中間位置」といえる範囲、及び「保護体」の「全体」が「中間位置よりも径方向内側に位置している」のか、「中心部分」が「中間位置よりも径方向内側に位置している」のか、「一部分」が「中間位置よりも径方向内側に位置して」いればよいのかが、発明の詳細な説明の記載をみても不明であるから、本件補正後の請求項1ないし4の「少なくとも1つの前記保護体は、前記油室を形成する前記内部ロータの周方向に沿った外周面と前記油室を形成する前記外部ロータの周方向に沿った内周面との前記径方向における中間位置よりも径方向内側に位置している」との記載事項は明確でない。 したがって、本願補正発明1ないし4及び本願補正発明1ないし4を引用する本願補正発明5は明確でないから、特許法第36条第6項2号の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 3 独立特許要件についての予備的な検討(進歩性について) 次に、本願補正発明1ないし5が、特許法第36条第6項1号及び特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしていると仮定して、本願補正発明1が特許法第29条第2項に規定する要件を満たしているか否か(進歩性)について検討する。 (1)引用文献、引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された特開2011-256772号公報(以下、「引用文献」という。)には、「内燃機関のバルブタイミング可変装置」に関して、図面(特に、図1ないし6を参照。)とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。 ア 「【0036】 図1?図4を参照して、本発明の内燃機関のバルブタイミング可変装置として、これを吸気バルブのバルブタイミングを変更するものとして具体化した一実施形態について説明する。なお、以下において特に明示しない限り単に「バルブタイミング」と記載した場合は、吸気バルブのバルブタイミングを意味することとする。 【0037】 図1に示されるように、内燃機関10の下部には油圧駆動式の各種補機を駆動するための作動油を貯留するオイルパン101が取り付けられている。一方、内燃機関10の上部には吸気バルブ(図示略)を開閉駆動するためのカムシャフト13が設けられるとともに、このカムシャフト13にはそのバルブタイミングを変更するための可変機構20が設けられている。吸気バルブのカムシャフト13にはクランクシャフト11の回転力がチェーン12から可変機構20を介して伝達される。そしてこのように、クランクシャフト11の回転力によってカムシャフト13が回転することにより、同カムシャフト13に形成されたカム(図示略)により吸気バルブが開閉駆動される。なお、オイルパン101に貯留される作動油は、可変機構20を駆動するための油圧を発生する機能の他、内燃機関10の各部を潤滑するための潤滑油としての機能も併せ有している。 【0038】 また、バルブタイミング可変装置は、バルブタイミングを特定の時期に固定するためのロック機構90と、可変機構20及びロック機構90に作動油を供給する作動油供給機構100と、この作動油供給機構100を通じて可変機構20の作動状態、すなわちバルブタイミングを制御する制御装置120とを備えている。 【0039】 作動油供給機構100は、オイルパン101と可変機構20及びロック機構90との間で作動油を給排する複数の油路からなる作動油回路110と、オイルパン101の作動油を汲み上げて作動油回路110に供給する機関駆動式のオイルポンプ102とを含む。この作動油回路110の途中には、可変機構20及びロック機構90に対する作動油の給排状態を制御する流量制御弁103が設けられている。 【0040】 作動油回路110は、供給油路111、排出油路112、進角油路113、遅角油路114、及び解除用油路115により構成されている。供給油路111は、オイルポンプ102から吐出される作動油を流量制御弁103に対して供給する。一方、排出油路112は、可変機構20から流量制御弁103に排出された作動油をオイルパン101に戻す。なお、この排出油路112は、実際には管や孔等の一定の形状を有するものではなく、作動油をオイルパン101に導く上で適した形状を有する内燃機関10の内壁(例えばチェーンケースの内壁等)により構成されている。 【0041】 また、進角油路113及び遅角油路114及び解除用油路115は、それぞれ流量制御弁103と各進角室43及び各遅角室44及び解除室92Aとの間で作動油を流通する。進角油路113及び遅角油路114及び解除用油路115はそれぞれ、進角室43及び遅角室44及び解除室92Aに対してそれぞれ独立して接続されている。 【0042】 また、制御装置120は、クランク角センサ121及びカム角センサ122を含む各種センサの検出信号を取り込み、それら検出信号に基づき機関運転状態に適したバルブタイミングにかかる目標角を設定するとともに、この目標角と実際のバルブタイミングとが一致するように可変機構20を制御する。 【0043】 次に図1及び図2を併せ参照して、可変機構20の構成について説明する。なお、図1の可変機構20は、図2のDA-DA線に沿う断面構造を示している。また、図2は、可変機構20から図1に示されるカバー50(図1参照)を取り外した状態の同可変機構20の平面構造を示す。なお、カムシャフト13及びスプロケット30は同図2に示す回転方向RAに回転するものとする。以下では、可変機構20の軸方向においてカバー50が配置される側を「先端側」、その反対側を「基端側」とし、同機構20の周方向において、回転方向RA側を「進角側」、その反対側を「遅角側」とする。 【0044】 カムシャフト13の先端側に配設された可変機構20は、クランクシャフト11とチェーン12を介して駆動連結されるスプロケット30及びボルト80により同スプロケット30と一体回転可能に締結されるハウジング40及びカバー50を備えている。 【0045】 吸気バルブを開閉駆動するカムシャフト13の先端側には、センターボルト70及び図示しない圧入ピンによってベーンロータ60が一体回転可能に固定されている。このベーンロータ60には、その中心に位置するボス61と同ボス61からカムシャフト13の回転軸Cの径方向外側に延伸する3つのベーン62が設けられている。またこのベーンロータ60に外嵌されるハウジング40には、回転軸Cの径方向内側に延伸してそのボス61の外周面に当接する3つの区画部41が設けられている。このハウジング40の内径には、区画部41により各ベーン62をそれぞれ収容する3つの収容室42が区画形成されている。 【0046】 ハウジング40の各区画部41には、回転軸Cの軸方向に沿って、同区画部41の全体にわたり延伸する貫通孔45がそれぞれ設けられている。この貫通孔45にボルト80を挿入するとともに、同ボルト80をスプロケット30に螺合することにより、スプロケット30及びハウジング40及びカバー50が締結されている。このようにそれぞれの回転体が締結されることにより、スプロケット30及びハウジング40及びカバー50がカムシャフト13に対して一体となって相対回転する。なお、ハウジング40は、組み付け性を考慮して、貫通孔45の内周面とボルト80との外周面との間に僅かながらクリアランスが存在する状態でスプロケット30に締結されている。 【0047】 収容室42内の空間は、カバー50及びスプロケット30により密閉されるとともに、同収容室42に収容されたベーン62によって進角室43及び遅角室44に区画されている。これら進角室43及び遅角室44に対する作動油の給排状態が流量制御弁103を通じて制御されることにより、ハウジング40に対するベーンロータ60の回転位相、すなわちクランクシャフト11に対するカムシャフト13の相対回転位相が変更されて、そのカムシャフト13によって開閉される吸気バルブのバルブタイミングが変更される。 【0048】 次に、可変機構20によるバルブタイミングの変更方法について説明する。 進角室43に対して作動油を供給する一方で遅角室44の作動油を排出することにより、ベーンロータ60がハウジング40に対して上記回転方向RAに回転すると、バルブタイミングが進角される。そして、ベーンロータ60がハウジング40に対して回転方向RAに更に回転してそれ以上回転できない状態となると、バルブタイミングはその可変領域における最進角時期となる。 【0049】 一方、遅角室44に対して作動油を供給する一方で進角室43の作動油を排出することにより、ベーンロータ60がハウジング40に対して回転方向RAと反対方向に回転すると、バルブタイミングは遅角される。そして、ベーンロータ60がハウジング40に対して回転方向RAと反対方向に更に回転してそれ以上回転できない状態となると、バルブタイミングはその可変領域における最遅角時期となる。」 イ 「【0055】 そこで、本実施形態では、ベーン62がハウジング40に当接することを回避すべく、ベーン62をボルト80に当接させてベーンロータ60の回動を規制することにより、バルブタイミングを最遅角時期とするようにしている。同じく、他のベーンを他のボルト80に当接させてベーンロータ60の回動を規制することにより、バルブタイミングを最進角時期とするようにしている。 【0056】 以下、これに関連する構成について図2及び図3を参照して説明する。なお、図3(a)は、3つのベーン62のうち周方向において遅角側の壁面62Aとこれに対向する区画部41の壁面41Aとの間の距離が最も短いベーン62(図2では左上のベーン62)について図2に示す領域Aの一部破断断面図であり、図3(b)は、このベーン62の遅角側の壁面62Aに対向するハウジング40(図2では左下の区画部41)について図2に示す領域Bの一部破断断面図である。 【0057】 図3(a)に示されるように、図2に示す区画部41のA領域では、その基端側の部分において、貫通孔45を画成する区画部41の内壁を切り欠く態様にてボルト80を区画部41から進角側に部分的に露呈させるようにして凹部47が形成されている。また、凹部47は、区画部41の径方向において全体にわたり切り欠かれている。凹部47が形成されない区画部41の部分においては、当然ながらボルト80は貫通孔45から露呈していない。 【0058】 一方、図3(b)に示されるように、図2に示すベーン62のB領域では、その先端側の半分がベーン62の径方向の長さの全体にわたり切り欠かれることにより、その基端側の半分に先の凹部47に嵌めることが可能な凸部63が形成されている。凸部63の周方向における長さは、ベーンロータ60の回動によりベーン62と区画部41とが近接して凸部63が凹部47に嵌まった際、ベーン62の遅角側の壁面62Aが区画部41の進角側の壁面41Aに当接する前に、凸部63がボルト80に当接するように設定されている。 【0059】 このように形成された区画部41及びベーン62にあっては、ベーンロータ60が遅角側に回動すると、ベーン62の凸部63がハウジング40の凹部47に嵌まった後、最終的に凸部63の壁面63Aがボルト80に当接することにより、バルブタイミングが最遅角時期となる。 【0060】 同様に、3つのベーン62のうち、周方向におけるベーン62の進角側の壁面62Bと、これに対向する区画部41の壁面41Bとの間の距離が最も短いベーン62(図2の右上のベーン62)には、凸部63が形成されている。また、このベーン62の進角側の壁面62Bに対向するハウジング40(図2の右下の区画部41)には、凹部47が形成されている。 【0061】 このように形成された区画部41及びベーン62にあっては、ベーンロータ60が進角側に変位し続けると、ベーン62の凸部63がハウジング40の凹部47に嵌まった後、凸部63の壁面63Bがボルト80に当接することにより、バルブタイミングが最進角時期となる。 【0062】 次に図4を参照して、このようにベーン62の凸部63がボルト80に当接する態様のうち、ベーン62の凸部63がボルト80に当接してバルブタイミングが最遅角時期となる態様について詳細に説明する。なお、図4(a)は、ハウジング40とベーンロータ60との相対回転位相が油圧により制御されてバルブタイミングを任意の時期に変更可能な状態を示している。また、図4(b)は、そうした変更を通じてバルブタイミングが最遅角時期となった状態を示している。 【0063】 ここで周方向において、区画部41の壁面41Aとベーン62の壁面62Aとの間の距離を「L1」とし、ボルト80と凸部63の壁面63Aとの間の距離を「L2」とし、ボルト80よりも進角側の区画部41の長さを「L3」とし、凸部63の長さを「L4」とする。 【0064】 図4(a)に示されるように、可変機構20は、ハウジング40(区画部41)及びベーンロータ60(ベーン62)及びボルト80が以下の式により示される関係を満たすようにその形状が設定されている。 【0065】 L1>L2且つL4>L3 このように構成された可変機構20では、ベーンロータ60が遅角側に向けて変位すると、ベーン62の凸部63がハウジング40の凹部47に嵌まる。そして、図4(b)に示されるように、凸部63の壁面63Aがボルト80に当接することにより、バルブタイミングが最遅角時期となるとき、すなわち、ボルト80と凸部63の壁面63Aとの間の距離L2が「0」となるときであっても、ハウジング40とベーン62とが(L1>L2)なる関係を満たすように構成されているため、区画部41の壁面41Aとベーン62の壁面62Aとが当接することはない。 【0066】 換言すれば、ハウジング40とベーンロータ60とはそれらの形状について(L4>L3)なる関係が満たされているため、ベーン62が最も区画部41に近接する位置に変位する場合であっても、ベーン62の壁面62Aが区画部41の壁面41Aに当接するよりも前に、凸部63の壁面63Aがボルト80に当接するようになる。従って、ベーン62の壁面62Aが区画部41の壁面41Aに当接することに起因して、スプロケット30に対してボルト80により締結されたハウジング40が予め設定された位相から遅角側にずれることを回避することができる。 【0067】 同様に、凸部63の壁面63Bがボルト80に当接してバルブタイミングが最進角時期となるため、従って、ベーン62の壁面62Bが区画部41の壁面41Bに当接することに起因して、スプロケット30に対してボルト80により締結されたハウジング40が予め設定された位相から進角側にずれることを回避することができる。 【0068】 ここで、スプロケット30はチェーン12を介してクランクシャフト11に駆動連結され、更にこのスプロケット30に対してボルト80が螺合されているため、ベーンロータ60の回動に伴ってベーン62がボルト80やスプロケット30と当接したとしても、ベーンロータ60とスプロケット30との位相関係が変化することはない。」 ウ 「【0079】 ・上記実施形態では、区画部41をその径方向において全体にわたり切り欠いて凹部47を形成するとともに、ベーン62をその径方向において全体にわたり切り欠いて凸部63を形成するようにしたが、凹部47及び凸部63の形状はこれに限られない。例えば、ベーン62に径方向においてベーン62の長さよりも短い長さの凸部140を形成するとともに、区画部41に凸部140を嵌めることが可能となる程度の長さを切り欠いて凹部130を形成することもできる。こうした構成について、図5及び図6を参照して説明する。なお、図5は、可変機構20からカバー50を取り外した状態の同機構20の平面構造の一部を示し、図6(a)は、図5の領域Cの断面構造を示す一部破断断面図であり、(b)は図5の領域Dの断面構造を示す一部破断断面図である。 【0080】 図5及び図6(a)に示されるように、区画部41は、周方向においてボルト80と同一周上の部分に、ボルト80の径方向における長さよりもわずかかに長い長さ、且つ軸方向における基端側の半分の部分が切り欠かれた凹部130が形成されている。 【0081】 図5及び図6(b)に示されるように、ベーン62は、周方向においてボルト80と同一周上の部分に、凹部130の径方向における長さよりもわずかかに短い長さ、且つ軸方向における先端側の半分の部分が切り欠かれた凸部140が形成されている。 【0082】 このように形成された区画部41及びベーン62にあっては、ベーンロータ60が遅角側に変位し続けると、ベーン62の凸部140がハウジング40の凹部130に嵌まった後、凸部140の壁面140Aがボルト80に当接することにより、バルブタイミングが最遅角時期となる。 【0083】 同様に、可変機構20は、ベーン62の凸部140がボルト80に当接してバルブタイミングが最進角時期となるように構成されているため、ベーン62がハウジング40に当接することにより、ハウジング40が進角側にずれることを回避することができる。こうした構成であっても、上述した(1)?(3)及び(5)?(7)の作用効果を奏することができる。」 エ 上記ア(特に、段落【0044】の記載事項)から、クランクシャフト11とハウジング40は同期回転するといえる。 オ 図3(a)、図4(a)、図4(b)及び図6(a)の図示内容から、区画部41側のボルト80と対向する面に前記ボルト80の一部が収容される凹みが設けられていることが看取できる。 カ 図2及び図5の図示内容から、ボルト80は、収容室42を形成するベーンロータ60の周方向に沿った外周面と前記収容室42を形成する前記ハウジング40の周方向に沿った内周面との前記径方向における間に位置しているといえる。 上記記載事項及び認定事項並びに図1ないし6の図示内容から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「内燃機関10のクランクシャフト11と同期回転するハウジング40と、前記ハウジング40の回転軸芯と同軸芯に配置され前記内燃機関10の吸気バルブを開閉駆動するカムシャフト13と一体回転するベーンロータ60と、前記ハウジング40の径方向に延在する面のうち少なくとも1つの面と対向する位置に設けられるスプロケット30とを備え、 前記ハウジング40の外周部から内方に延出する複数の区画部41の間に形成される収容室42を前記ベーンロータ60に形成されたベーン62により分割することで、前記ハウジング40に対する前記ベーンロータ60の相対回転位相を遅角側に変化させる遅角室44と、前記相対回転位相を進角側に変化させる進角室43とが形成されると共に、 前記ハウジング40と前記ベーンロータ60とが最遅角位相から最進角位相の間の移動可能な範囲内において相対回転自在に構成され、 前記スプロケット30と、前記ハウジング40の前記区画部41とを固定するボルト80を備え、 前記遅角室44の少なくとも1つ及び前記進角室43の少なくとも1つに、前記相対回転位相が前記最遅角位相または前記最進角位相のときに前記ベーン62が当接するボルト80が備えられ、 前記区画部41側の前記ボルト80と対向する面に前記ボルト80の一部が収容される凹みが設けられ、 少なくとも1つの前記ボルト80は、前記収容室42を形成する前記ベーンロータ60の周方向に沿った外周面と前記収容室42を形成する前記ハウジング40の周方向に沿った内周面との前記径方向における間に位置している内燃機関のバルブタイミング可変装置。」 (2)対比・判断 本願補正発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「内燃機関10」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明1の「内燃機関」に相当し、以下同様に、「クランクシャフト11」は「クランクシャフト」に、「ハウジング40」は「外部ロータ」に、「吸気バルブを開閉駆動するカムシャフト13」は「弁開閉用のカムシャフト」に、「一体回転する」は「同期回転する」に、「ベーンロータ60」は「内部ロータ」に、「スプロケット30」は「プレート」に、「区画部41」は「区画部」に、「収容室42」は「油室」に、「ベーン62」は「ベーン部」に、「遅角室44」は「遅角室」に、「進角室43」は「進角室」に、「内燃機関のバルブタイミング可変装置」は「弁開閉時期制御装置」に、それぞれ相当する。 また、「ボルト80」は「締結部材」に相当するとともに、「ボルト80」は区画部41の壁面41Aとべーン62の壁面62Aとが当接することを防ぐものであるから(上記イの段落【0065】を参照。)、「保護体」にも相当する。 そして、引用発明の「少なくとも1つの前記ボルト80は、前記収容室42を形成する前記ベーンロータ60の周方向に沿った外周面と前記収容室42を形成する前記ハウジング40の周方向に沿った内周面との前記径方向における間に位置している」と、本願補正発明1の「少なくとも1つの前記保護体は、前記油室を形成する前記内部ロータの周方向に沿った外周面と前記油室を形成する前記外部ロータの周方向に沿った内周面との前記径方向における中間位置よりも径方向内側に位置している」とは、「少なくとも1つの前記保護体は、前記油室を形成する前記内部ロータの周方向に沿った外周面と前記油室を形成する前記外部ロータの周方向に沿った内周面との前記径方向における間に位置している」という限りにおいて一致している。 したがって、両者の一致点、相違点は、次のとおりである。 〔一致点〕 「内燃機関のクランクシャフトと同期回転する外部ロータと、前記外部ロータの回転軸芯と同軸芯に配置され前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する内部ロータと、前記外部ロータの径方向に延在する面のうち少なくとも1つの面と対向する位置に設けられるプレートとを備え、 前記外部ロータの外周部から内方に延出する複数の区画部の間に形成される油室を前記内部ロータに形成されたベーン部により分割することで、前記外部ロータに対する前記内部ロータの相対回転位相を遅角側に変化させる遅角室と、前記相対回転位相を進角側に変化させる進角室とが形成されると共に、 前記外部ロータと前記内部ロータとが最遅角位相から最進角位相の間の移動可能な範囲内において相対回転自在に構成され、 前記プレートと、前記外部ロータの前記区画部とを固定する締結部材を備え、 前記遅角室の少なくとも1つ及び前記進角室の少なくとも1つに、前記相対回転位相が前記最遅角位相または前記最進角位相のときに前記ベーン部が当接する保護体が備えられ、 前記区画部側の前記保護体と対向する面に前記保護体の一部が収容される凹みが設けられ、 少なくとも1つの前記保護体は、前記油室を形成する前記内部ロータの周方向に沿った外周面と前記油室を形成する前記外部ロータの周方向に沿った内周面との前記径方向における間に位置している弁開閉時期制御装置。」 〔相違点〕 少なくとも1つの保護体に関して、本願補正発明1においては、前記油室を形成する前記内部ロータの周方向に沿った外周面と前記油室を形成する前記外部ロータの周方向に沿った内周面との前記径方向における「中間位置よりも径方向内側」に位置しているのに対して、引用発明においては、前記収容室42を形成する前記ベーンロータ60の周方向に沿った外周面と前記収容室42を形成する前記ハウジング40の周方向に沿った内周面との前記径方向における間に位置している点。 上記相違点について検討する。 保護体を、内部ロータの周方向に沿った外周面と外部ロータの周方向に沿った内周面との径方向における間のどの位置に設けるかは、当業者が適宜に決定し得る設計的事項であるといる。そして、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載をみても、径方向における中間位置よりも径方向内側に設けた点に格別な作用効果を見出すこともできない。 そうすると、引用発明において、上記相違点に係る本願補正発明1の構成とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮により、容易になし得たことである。 請求人は、「請求項1-4に係る弁開閉時期制御装置は、少なくとも1つの保護体を、油室を形成する内部ロータの周方向に沿った外周面と油室を形成する外部ロータの周方向に沿った内周面との径方向における中間位置よりも径方向内側に設け、ベーン部のうち先端側よりも相対的に強度が高く、ベーン部が相対回転する時の接線方向の速度が相対的に小さい基端側と当接させ、ベーン部の変形を抑制しています。」(審判請求書3.(3)) と主張しているが、そのような事項は、本願の発明の詳細な説明には記載されていない。また、ベーン部のうち先端側よりも相対的に強度が高く、ベーン部が相対回転する時の接線方向の速度が相対的に小さい基端側と当接させ、ベーン部の変形を抑制できる点については、当業者であれば予測できる程度の効果に過ぎないので、請求人の主張は採用できない。 したがって、本願補正発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5 むすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成30年2月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、前記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 原査定における拒絶の理由の概要 原査定における拒絶の理由の概要は次のとおりである。 (1)(新規性)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ●理由(1)(新規性)及び理由(2)(進歩性)について 請求項1ないし3に係る発明に対して: 引用文献1(特開2011-256772号公報;本審決の引用文献) 3 引用文献 原査定の拒絶の理由に引用した引用文献1の記載事項、及び引用発明は、前記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明1と引用発明とを対比すると、両者の発明特定事項の相当関係は、前記「第2〔理由〕2(2)」で述べたとおりである。 そうすると、両者は次の点で一致し、相違点は見当たらない。 〔一致点〕 「内燃機関のクランクシャフトと同期回転する外部ロータと、前記外部ロータの回転軸芯と同軸芯に配置され前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する内部ロータと、前記外部ロータの径方向に延在する面のうち少なくとも1つの面と対向する位置に設けられるプレートとを備え、 前記外部ロータの外周部から内方に延出する複数の区画部の間に形成される油室を前記内部ロータに形成されたベーン部により分割することで、前記外部ロータに対する前記内部ロータの相対回転位相を遅角側に変化させる遅角室と、前記相対回転位相を進角側に変化させる進角室とが形成されると共に、 前記外部ロータと前記内部ロータとが最遅角位相から最進角位相の間の移動可能な範囲内において相対回転自在に構成され、 前記プレートと、前記外部ロータの前記区画部とを固定する締結部材を備え、 前記遅角室の少なくとも1つ及び前記進角室の少なくとも1つに、前記相対回転位相が前記最遅角位相または前記最進角位相のときに前記ベーン部が当接する保護体が備えられ、 前記区画部側の前記保護体と対向する面に前記保護体の一部が収容される凹みが設けられている弁開閉時期制御装置。」 5 まとめ したがって、本願発明1は引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-04-05 |
結審通知日 | 2019-04-09 |
審決日 | 2019-04-23 |
出願番号 | 特願2017-38523(P2017-38523) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F01L)
P 1 8・ 575- Z (F01L) P 1 8・ 537- Z (F01L) P 1 8・ 113- Z (F01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 楠永 吉孝、石川 貴志 |
特許庁審判長 |
水野 治彦 |
特許庁審判官 |
金澤 俊郎 鈴木 充 |
発明の名称 | 弁開閉時期制御装置 |
代理人 | 特許業務法人R&C |