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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1352954
審判番号 不服2018-5324  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-18 
確定日 2019-07-19 
事件の表示 特願2016- 22049「粘着剤層、光学フィルムおよび画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月18日出願公開、特開2016-148848、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月1日(優先権主張平成23年4月27日)に出願した特願2011-240352号の一部を平成28年2月8日に新たな特許出願としたものであって、平成28年12月5日付けで拒絶理由が通知され、平成29年1月27日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年6月29日付けで拒絶理由が通知され、同年8月28日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「補正却下対象手続補正」という。)がなされ、平成30年1月26日付けで補正却下対象手続補正について補正の却下の決定(以下、補正の却下の決定を「補正却下」といい、補正却下の理由を「補正却下理由」という。)されるとともに、拒絶査定(以下、拒絶査定を「原査定」といい、原査定の拒絶の理由を「原査定拒絶理由」という。)がされ、同年4月18日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成30年11月6日付けで刊行物等提出書(以下、「刊行物提出1」といい、刊行物提出1の提出の理由とされた拒絶の理由を「刊行物提出1拒絶理由」という。)が提出され、平成31年1月21日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年2月22日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされ、同年4月23日付けで刊行物等提出書(以下、「刊行物提出2」といい、刊行物提出2の提出の理由とされた拒絶の理由を「刊行物提出2拒絶理由」という。)がなされた。


第2 本件発明
本願請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
画像表示パネルと、画像表示パネル側の面に隆起部を有する前面透明板とを貼り合わせるために用いられる粘着剤層(但し、紫外線照射により活性化され、(メタ)アクリル系共重合体分子内の他の部分または他の(メタ)アクリル系共重合体分子との間で水素ラジカルを引き抜くことが可能な構造を有する(メタ)アクリル酸エステルを含むモノマーの(メタ)アクリル系共重合体を含む粘着剤層を除く)及び偏光板を有する粘着剤層付き偏光板であって、
前記粘着剤層は、アクリル系ブロック共重合体を含まない粘着剤から形成されており、
前記粘着剤が、炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分から形成されるアクリル系ポリマーを含み、
前記炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、およびドデシル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上であり、
前記粘着剤層は、単層であり、
前記粘着剤層の厚みが、30μm?300μmであり、
前記粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が、0.12MPa?1MPaである(但し、周波数1Hz、80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層を除く)、粘着剤層付き偏光板。
【請求項2】
前記粘着剤が、イソシアネート系架橋剤、過酸化物系架橋剤、およびエポキシ系架橋剤からなる群より選ばれる1種以上を含有する請求項1記載の粘着剤層付き偏光板。
【請求項3】
前記粘着剤層が、少なくとも1層のアンダーコート層を介して前記偏光板上に形成されている、請求項1または2記載の粘着剤層付き偏光板。
【請求項4】
前記偏光板が円偏光板である、請求項1?3のいずれかに記載の粘着剤層付き偏光板。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載の粘着剤層付き偏光板を含む画像表示パネルと、画像表示パネル側の面に隆起部を有する前面透明板とを有し、
前記画像表示パネルと前記前面透明板とが、前記粘着剤層付偏光板の粘着剤層を介して貼り合わされている、画像表示装置。
【請求項6】
前記粘着剤層の厚みが、前記前面透明板の隆起部の高さの2倍?20倍である、請求項5記載の画像表示装置。」


第3 原査定拒絶理由、その他の拒絶理由及び補正却下理由の概要
1 原査定拒絶理由
原査定拒絶理由の概要は、以下のとおりのものである。

理由1(進歩性)
この出願の請求項1?7に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由2(明確性)
この出願は、特許請求の範囲の請求項1?7の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

<引用文献等一覧>
引用文献1a:特開2010-163591号公報
引用文献2a:国際公開第2010/044229号(周知技術文献)
引用文献3a:国際公開第2009/113537号(周知技術文献)
引用文献4a:特開2004-78171号公報 (周知技術文献)
引用文献5a:特開2010-39458号公報 (周知技術文献)
引用文献6a:特開2010-262155号公報 (周知技術文献)

2 補正却下理由
補正却下理由の概要は、補正却下対象手続補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものと認められるが、以下の理由1?理由3により、補正却下対象手続補正後の請求項1?6に係る発明は、独立して特許を受けることができない、というものである。

理由1(新規性進歩性)
補正却下対象手続補正による補正後の請求項1、2、5、6に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1bに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。あるいは、これらの発明は、下記の引用文献1bに記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由2(進歩性)
補正却下対象手続補正による補正後の請求項3、4に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由3(明確性)
この出願は、補正却下対象手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

<引用文献等一覧>
引用文献1b:特開2010-72471号公報
引用文献2b:特開2010-163591号公報 (周知技術文献)
引用文献3b:国際公開第2009/113537号(周知技術文献)
引用文献4b:特開2004-78171号公報 (周知技術文献)
引用文献5b:特開2010-39458号公報 (周知技術文献)
引用文献6b:特開2010-262155号公報 (周知技術文献)

3 当審拒絶理由
当審拒絶理由の概要は、以下のとおりのものである。

理由1(進歩性)
本件出願の請求項1?6に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
引用文献1c:特開2008-231358号公報
引用文献2c:特開2007-31506号公報 (周知技術文献)
引用文献3c:国際公開第2009/113537号(周知技術文献)
引用文献4c:特開2008-197309号公報
引用文献5c:本郷有記, 「タッチパネル製造用機能性接着部材」, コンバーテック, 2010年5月15日発行, 2010年5月号, 第87?90頁

4 刊行物提出1拒絶理由
刊行物提出1拒絶理由の概要は、以下のとおりのものである。

理由(進歩性)
本件出願の請求項1?6に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
引用文献1d:特開2008-231358号公報
引用文献2d:特開2010-72471号公報
引用文献3d:特開2007-31506号公報 (周知技術文献)
引用文献4d:国際公開第2009/113537号(周知技術文献)
引用文献5d:特開2008-197309号公報 (周知技術文献)
引用文献6d:本郷有記, 「タッチパネル製造用機能性接着部材」, コンバーテック, 2010年5月15日発行, 2010年5月号, 第87?90頁

5 刊行物提出2拒絶理由
刊行物提出2拒絶理由の概要は、以下のとおりのものである。

理由1(サポート要件)
本件出願は、特許請求の範囲の請求項1?6の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2(明確性)
本件出願は、特許請求の範囲の請求項1?6の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由3(拡大先願)
本件出願の請求項1?6に係る発明は、その優先権主張の日前の特許出願であって、その優先権主張の日後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた引用出願1eの特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその優先権主張の日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
引用出願1e:特願2009-247547号
(特開2011-93977号公報)

第4 引用文献等の記載事項及び引用発明
1 引用出願1
(1)引用出願1の記載事項
刊行物提出2拒絶理由の理由3(拡大先願)に引用された引用出願1eであって、本願優先権主張の日前の平成21年10月28日に出願され、平成23年5月12日に特開2011-93977号公報として出願公開された特願2009-247547号(以下、「引用出願1」という。)の願書に最初に添付された明細書には、図面とともに、以下の記載事項がある。なお、引用出願1に付されていた下線を省き、合議体が引用発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。以下の引用文献においても同様である。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話やモバイル機器などの携帯端末機器の表面保護シートとして用いられる加飾印刷層付き粘着シートとその製造方法、およびそれを用いた携帯端末機器に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に係る両面粘着テープは、額縁状に打ち抜かれたものであるため、粘着剤層と加飾印刷層を厚み方向に重畳する必要があり、無駄にエアギャップが生じ、携帯端末機器類の軽薄化という点においては改良の余地を残している。
【0008】
また、加飾印刷層を施すためには、印刷されたシートの構成部材が必要となるほか、印刷工程が必要となる。加えて、粘着剤でエアギャップを埋め薄膜化を図るには、加飾印刷が施された部分と施されていない部分の境界に生じた微小の段差に追従するように、粘着層に段差追従性能を付与する必要がある。通常、段差に追従させるためにはオートクレーブ処理が行われ、更に工程数が増える上、大掛かりな製造設備が必要となる。また、粘着剤層の貯蔵弾性率によっては気泡が混入するという問題があり、歩留まりが悪くなる可能性がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、携帯端末機器の製造現場において、工程での歩留まり向上、工程数の削減、製造設備の簡素化、携帯端末機器の情報表示部表面の平坦化などに対応することができる加飾印刷層付き粘着シートとその製造方法、および携帯端末機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の加飾印刷層付き粘着シートは、少なくとも一方の面の側にハードコート層が設けられた基材フィルムと、前記基材フィルムの他方の面の側に部分的に設けられた加飾印刷層と、粘着剤層とがこの順に積層されていることを特徴とする。

(中略)

【0015】
本発明の加飾印刷層付き粘着シートは、粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が0.01?0.3MPaであることが好ましい。
【0016】
本発明の加飾印刷層付き粘着シートは、携帯端末機器の表面保護シートとして用いられることが好ましい。

(中略)

【0018】
本発明の携帯端末機器は、前記加飾印刷層付き粘着シートにより、部分的な遮光性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の加飾印刷層付き粘着シートによれば、携帯端末機器の製造現場において、工程での歩留まり向上、工程数の削減、製造設備の簡素化、携帯端末機器の情報表示部表面の平坦化などに対応することができる。
【0020】
本発明の加飾印刷層付き粘着シートの製造方法によれば、薄膜化された加飾印刷層付き粘着シートが得られる。
【0021】
本発明の携帯端末機器によれば、その製造現場において、工程での歩留まり向上、工程数の削減、製造設備の簡素化、携帯端末機器の情報表示部表面の平坦化などに対応することができ、さらに携帯端末機器の軽薄化が可能となる。」

イ 「【0024】
(1) 第一の実施形態
図1は、本発明の加飾印刷層付き粘着シートの第一の実施形態を示す概略断面図である。この実施形態の加飾印刷層付き粘着シート1は、一方の面3aの側にハードコート層2が塗工された基材フィルム3と前記基材フィルム3の他方の面3bの側に部分的に設けられた加飾印刷層4と粘着剤層5とがこの順に積層されている。図1においては額縁状とした印刷パターンを示すが、本発明の加飾印刷層付き粘着シートはこれに限定されず、例えば意匠性を有する印刷パターンであってもよい。
この加飾印刷層付き粘着シート1は、携帯電話やモバイル機器などの携帯端末機器の表面保護シートに適用されるものである。

(中略)

【0040】
加飾印刷層4の厚さは、5μm?30μmが好ましく、7μm?28μmがより好ましく、10μm?25μmが特に好ましい。加飾印刷層4の厚さが5μm以上であれば、十分な隠蔽性が得られ、30μm未満であれば、粘着剤層も厚くする必要がなく、総厚が厚くならないためである。

(中略)

【0042】
粘着剤層5の厚さは、10μm?200μmが好ましく、15μm?150μmがより好ましく、20μm?100μmが特に好ましい。粘着剤層の厚さが10μm以上であれば、加飾印刷層を施すことにより生じた基材フィルムの凹凸面への段差追従性が得られ、200μm未満であれば、粘着剤の染み出しなどによる加工適性が低下しないためである。

(中略)

【0045】
この加飾印刷層付き粘着シート1によれば、面3aの側にハードコート層2が塗工された基材フィルム3と加飾印刷層4と粘着剤層5とがこの順に積層されているので、携帯端末機器の製造において、この加飾印刷層付き粘着シート1を用いることにより、工程での歩留まり向上、工程数削減、携帯端末機器の情報表示部表面の平坦化などに対応することができる。
【0046】
(2) 第二の実施形態
図2は、本発明の加飾印刷層付き粘着シートの第二の実施形態を示す概略断面図であり、図3はその概略平面図である。
この実施形態の加飾印刷層付き粘着シート1’は、ハードコート層2と基材フィルム3と前記基材フィルム3に部分的に設けられた加飾印刷層4と粘着剤層5と剥離シート6とがこの順に積層されている。図2および図3において、加飾印刷層4は額縁状とした印刷パターンを示すが、本発明の加飾印刷層付き粘着シートはこれに限定されず、例えば意匠性を有する印刷パターンであってもよい。
この加飾印刷層付き粘着シート1’は、第一の実施形態と同様に、携帯電話やモバイル機器などの携帯端末機器の表面保護シートに適用されるものである。

(中略)

【0060】
(3)第三の実施形態
図6は、本発明の加飾印刷層付き粘着シートの第三の実施形態を示す概略断面図である。図6において、図1に示した加飾印刷層付き粘着シート1と同じ構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
この加飾印刷層付き粘着シート8は、第一の実施形態と同様に、携帯電話やモバイル機器などの携帯端末機器の表面保護シートに適用される。
【0061】
加飾印刷層付き粘着シート8においては、第二の実施形態の加飾印刷層付き粘着シート1’の構造に加えて、基材フィルム3の面3bの側にハードコート層9が積層されている。
更に、基材フィルムの他方の面3bの側にハードコート層9を介して部分的に加飾印刷層4が設けられている。

(中略)

【0064】
この加飾印刷層付き粘着シート8によれば、第二の実施形態の加飾印刷層付き粘着シート1’に加えて、基材フィルム3の面3bの側にハードコート層9をさらに積層することにより、加飾印刷層付き粘着シート1’の効果に加えて、後述するハードコート層積層工程(工程D)後から粘着剤層積層工程(工程F)までにおける耐カール性を向上させ、最終的に加飾印刷層付き粘着シート8の製造工程における歩留まりを向上させることができる。したがって、加飾印刷層付き粘着シート8の製造工程における歩留まりを向上させるためには、ハードコート層9が、基材フィルム3の面3bの側に設けられることが好ましい。

(中略)

【0073】
本発明の携帯端末機器は、本発明の加飾印刷層付き粘着シートを表面保護シートとして用いたものである。
近年の携帯端末機器の軽薄短小化は、光源と表示パネルとの位置を接近させることになるため、光源からの光がパネルとの間に挟みこまれる粘着層を通って外部に漏れやすくなっており、特に画像端部から光が漏れるとパネルの表示面が見えにくくなるといった不都合を生じさせている。
本発明の加飾印刷層付き粘着シートを表面保護シートとして用いることで、本発明の携帯端末機器は、外部に光が漏れやすい部分に加飾印刷層を設けることにより、部分的な遮光性を有し、上記不都合を解消することができる。」
なお、図1?3、6は、以下のとおりのものである。


ウ 「【実施例】
【0075】
(各種構成部材の作成)
ハードコートフィルム1の作製
紫外線硬化型樹脂(荒川化学工業社製、製品名「ビームセット575CB」、濃度100%、光重合開始剤入り)100重量部に、レベリング剤(ビックケミージャパン社製、製品名「BYK-355」、濃度52%)0.1重量部を加え、プロピレングリコールモノメチルエーテルで希釈して40%濃度の塗布液を調製した。次いで、両面易接着PETフィルム(東洋紡績社製、製品名「コスモシャイン100A4300」、膜厚100μm)の一方の面に、マイヤーバー#12を用いて乾燥後の膜厚が5μmになるように塗布剤を塗布、乾燥し、紫外線を照射(照度230mW/cm、光量230mJ/cm^(2))して硬化させ、ハードコートフィルム1を得た。
【0076】
基材レス粘着シート1の作製
アクリル酸n-ブチル79重量%、アクリル酸メチル20重量%、アクリル酸ヒドロキシエチル1重量%を共重合して得たアクリル酸エステル共重合体(分子量80万、濃度35重量%)100重量部に、トルエン及びキシリレンジイソシアネート系3官能性アダクト体(綜研化学社製、製品名:TD-75、濃度75重量%)を0.1重量部添加し、撹拌して、粘着剤塗布液を調製した。重剥離シート(リンテック社製、製品名「SP-PET38T103-1」、膜厚38μm)の剥離処理面に、ナイフコーターを用いて乾燥後の膜厚が60μmになるように塗布し、乾燥後、軽剥離シート(リンテック社製、製品名「SP-PET381031H」、膜厚38μm)と貼り合わせして、基材レス粘着シート1を得た。
【0077】
基材レス粘着シート2の作製
アクリル酸n-ブチル77重量%、アクリル酸エチル20重量%、アクリル酸3重量%を共重合して得たアクリル酸エステル共重合体(分子量100万、濃度30重量%)100重量部に、トルエン及び金属キレート系硬化剤(綜研化学社製、製品名「M-5A」、濃度4.95%)を4重量部添加し、撹拌して、粘着剤塗布液を調製した。重剥離シート(リンテック社製、製品名「SP-PET38T103-1」、膜厚38μm)の剥離処理面に、ナイフコーターを用いて乾燥後の膜厚が60μmになるように塗布し、乾燥後、軽剥離シート(リンテック社製、製品名「SP-PET381031H」、膜厚38μm)と貼り合わせして、基材レス粘着シート2を得た。
【0078】
(実施例1)
印刷機(リンテック社製、装置名LPM-300)を用いて、ハードコートフィルム1の非コート面にフレキソ印刷方式によるパターン印刷(印刷液:帝国インキ製造社製、製品名:UVFILスクリーンインキ(黒色))を施した。その際、7μmの印刷を3回行い、約21μmの加飾印刷層とした。その上に、軽剥離側剥離シートを剥離した基材レス粘着シート1の粘着面を貼合した。さらに、ダイカットロールを用いて、所定の形状に抜き加工をし、図4に相当する加飾印刷層付き粘着シートを得た。
【0079】
(実施例2)
基材レス粘着シートとして基材レス粘着シート2を用いた以外は実施例1と同様の方法にて加飾印刷層付き粘着シートを得た。
【0080】
実施例1及び実施例2の加飾印刷層付き粘着シートの性状を、以下の試験方法で測定し、結果を表1に示した。
(1) 全光線透過率
実施例で得られた加飾印刷層付き粘着シートの重剥離シートを取り除き、ヘイズメーター(日本電色工(株)製、商品名「NDH2000」)を用いて、JIS K7361-1に準拠して非印刷部分の全光線透過率を測定した。
【0081】
(2) ヘイズ
実施例で得られた加飾印刷層付き粘着シートの重剥離シートを取り除き、ヘイズメーター(日本電色工業(株)製、商品名「NDH2000」)を用いて、JIS K7136に準拠して非印刷部分のヘイズを測定した。
【0082】
(3) 貯蔵弾性率
実施例で得られた基材レス粘着シートの剥離シートを取り除いて複数枚重ね合わせ、厚さ2.0mmのシートサンプルを形成した。形成したシートサンプルを粘弾性測定装置(レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製、商品名「RDAII」)を使用し、測定周波数1Hzにて、23℃における貯蔵弾性率を測定した。
【0083】
(4) 外観
加飾印刷層のエッジ部に気泡がないかを目視確認した。気泡が生じていない場合には○、気泡が生じている場合には×と判定した。外観としては問題ないが、気泡が若干生じている場合は△とした。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示すとおり、基材フィルムの他方の面の側に印刷し、更に、段差追従性能を付与された粘着剤層が塗工された剥離シートからなる基材レス粘着シートを押し付けることにより、エアギャップが埋められ、薄膜化された加飾印刷層付き粘着シートが得られた。特に貯蔵弾性率が0.28MPaである実施例2では気泡が若干生じたのに対し、貯蔵弾性率が0.08MPaである実施例1では気泡が全く生じなかった。」

(2)引用出願1に記載された発明
上記記載事項ウの段落【0084】の【表1】には、実施例2の加飾印刷層付き粘着シートの全光線透過率が90.2%であり、貯蔵弾性率が0.28MPaであることが記載されている。
また、上記記載事項ウの段落【0073】の「本発明の加飾印刷層付き粘着シートを表面保護シートとして用いることで、本発明の携帯端末機器は、外部に光が漏れやすい部分に加飾印刷層を設けることにより、部分的な遮光性を有し、上記不都合を解消することができる。」との記載に基づけば、本発明の実施例2の加飾印刷層付き粘着シートは、携帯端末機器の外部に光が漏れやすい部分に加飾印刷層を設けるために用いられるものといえる。
したがって、記載事項ウに基づけば、引用出願1には、実施例2として、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていたと認められる。
「 基材フィルムの他方の面の側に印刷し、更に、段差追従性能を付与された粘着剤層が塗工された剥離シートからなる基材レス粘着シートを押し付けることにより、エアギャップが埋められ、薄膜化された、加飾印刷層付き粘着シートであって、携帯端末機器の外部に光が漏れやすい部分に加飾印刷層を設けるために用いられるものであり、
アクリル酸n-ブチル77重量%、アクリル酸エチル20重量%、アクリル酸3重量%を共重合して得たアクリル酸エステル共重合体(分子量100万、濃度30重量%)100重量部に、トルエン及び金属キレート系硬化剤を4重量部添加し、撹拌して、粘着剤塗布液を調製し、重剥離シートの剥離処理面に、ナイフコーターを用いて乾燥後の膜厚が60μmになるように塗布し、乾燥後、軽剥離シートと貼り合わせして、基材レス粘着シートを得て、
印刷機を用いて、ハードコートフィルムの非コート面にフレキソ印刷方式によるパターン印刷を施し、約21μmの加飾印刷層とし、その上に、軽剥離側剥離シートを剥離した基材レス粘着シートの粘着面を貼合し、さらに、ダイカットロールを用いて、所定の形状に抜き加工をして得た、加飾印刷層付き粘着シートであり、
加飾印刷層付き粘着シートの重剥離シートを取り除き、ヘイズメーターを用いて、JIS K7361-1に準拠して測定した非印刷部分の全光線透過率が90.2%であり、基材レス粘着シートの剥離シートを取り除いて複数枚重ね合わせ、厚さ2.0mmのシートサンプルを形成し、形成したシートサンプルを粘弾性測定装置を使用し、測定周波数1Hzにて測定した、23℃における貯蔵弾性率が0.28MPaである、加飾印刷層付き粘着シート。」

2 引用文献2
(1)引用文献2の記載事項
当審拒絶理由の理由1(進歩性)に引用された引用文献1cであって、刊行物提出1拒絶理由の理由(進歩性)に引用された引用文献1dでもあり、本願優先権主張の日前の平成20年10月2日に頒布された刊行物である、特開2008-231358号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。

ア 「【請求項1】
少なくとも透明な表面保護パネルと、画像表示パネルとを備えた電子端末用画像表示モジュールであって、
前記表面保護パネルと、画像表示パネルとが、両面粘着シートを介して全面貼付され、
前記両面粘着シートが、周波数1Hz、20℃における動的粘弾スペクトルの損失正接が0.6?1.5であり、かつ80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層を有することを特徴とする電子端末用画像表示モジュール。

(中略)

【請求項7】
少なくとも透明な表面保護パネルと、画像表示パネルとを備えた電子端末用画像表示モジュールにおいて、前記表面保護パネルと前記画像表示パネルとを全面貼付する両面粘着シートであって、前記両面粘着シートが、周波数1Hz、20℃における動的粘弾スペクトルの損失正接が0.6?1.5であり、かつ80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層を有することを特徴とする粘着シート。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話や小型情報端末機などの電子端末用画像表示モジュールおよび該画像表示モジュールに使用する粘着シートに関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、薄型化した際に、表面保護パネルの割れが生じにくく、かつ表面保護パネルを画像表示パネルに貼付した際に混入した気泡がオートクレーブ処理後に抜けやすく、また高温下に放置しても発泡しにくい電子端末用画像表示モジュール、および当該画像表示パネルに使用する全面貼り用粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては、電子端末用画像表示モジュールの表面保護パネルと画像表示パネルとを固着する両面粘着シートが、表面保護パネルの割れを生じにくくし、特定の動的粘弾性スペクトルと貯蔵弾性率を有する粘着剤層が、貼付した際に気泡を混入しにくくし、気泡が混入した場合でもオートクレーブ処理等により排除できるとともに高温下でも気泡の発生を抑制することを見出し、薄型化した際にも表面保護パネルの割れが生じにくく、かつ好適な画像表示が可能な電子端末用画像表示モジュールを実現した。

(中略)

【発明の効果】
【0009】
本発明の電子端末用画像表示モジュールは、画像表示部表面に加わった応力を全面貼りされた粘着剤層で吸収する構造を有するため、表面保護パネルの割れが生じにくい。また、当該粘着剤層は、ガラスや透明樹脂基板により形成される表面保護パネルと、画像表示パネルとの剛体同士の貼り合わせの際にも、気泡混入を低減でき、オートクレーブ処理等により気泡の除去も容易であることから、好適な画像表示が可能な電子端末用画像表示モジュールを実現できる。
【0010】
このため、当該電子端末用画像表示モジュールによれば、各種小型電子端末の更なる薄型化を実現でき、特に携帯電話の薄型化に極めて有用である。」

ウ 「【0015】
[画像表示パネル]
本発明の画像表示モジュールに使用する画像表示パネルは、一般の画像表示装置に使用されているLCDモジュールや有機ELパネルを使用でき、LCDモジュールは入手が容易であることから好適に使用できる。」

エ 「【0016】
[両面粘着シート]
本発明の画像表示モジュールに使用する両面粘着シートは、表面保護パネルと画像表示パネルとを全面貼付する両面粘着シートである。
【0017】
当該両面粘着シートに使用する粘着剤層は、周波数1Hz、20℃における動的粘弾性スペクトルの損失正接が0.6?1.5、好ましくは0.6?1.0であり、80℃の貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上、好ましくは1.0?3.0×10^(5)Paである。粘着剤層の周波数1Hz、20℃における動的粘弾性スペクトルの損失正接が0.6未満の場合は、粘着剤の応力緩和性が低下し気泡が抜けにくくなる。1.5を超える場合は、加工時の粘着剤のはみ出しの原因となる。また80℃の貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Paを下回る場合は、高温放置時に粘着剤層中に気泡が発生しやすい。

(中略)

【0019】
前記粘着剤層には、公知のアクリル系、ゴム系、シリコーン系の粘着樹脂を使用することができる。そのなかでも、反復単位として炭素数2?14のアルキル基を有するアクリル酸エステルに由来する反復単位を含有するアクリル系共重合体が、耐光性・耐熱性・コストの点から好ましい。このようなアクリル系共重合体としては、例えば、n-ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソノニルアクリレート、エチルアクリレート等に由来する反復単位を含むアクリル系共重合体があげられる。また反復単位として、側鎖に水酸基、カルボキシル基、アミノ基などの極性基を有するアクリル酸エステルやその他のビニル系単量体に由来する反復単位を含有するものも好ましい。

(中略)

【0023】
また、粘着剤層の凝集力をあげるために、架橋剤を添加するのが好ましい。架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、キレート系架橋剤、アジリジン系架橋剤等が挙げられる。架橋剤の添加量としては、粘着剤層のゲル分率が25?90%になるよう添加するのが好ましい。さらに好ましいゲル分率は、40?85%である。そのなかでも50?80%が特に好ましい。ゲル分率は、養生後の粘着剤層をトルエン中に浸漬し、24時間放置後に残った不溶分の乾燥後の質量を測定し、元の質量に対する百分率で表す。

(中略)

【0027】
本発明の粘着シートは、芯材を有する両面粘着シートであっても芯材を有さない両面粘着シートであってもよい。芯材を有さない態様の粘着シートは、画像表示モジュールの薄型化に好適であり、また、貼付面に印刷層等による段差がある場合にも当該段差に好適に追従できるため好ましい。一方、芯材を有する態様の粘着シートは、再剥離作業時にも好適に再剥離が可能となるため好ましく、また、画像表示モジュールへの適用時に一定の厚さが必要な場合にも好適に厚みを調整できる。
【0028】
本発明の粘着シートは、厚さが20?300μm、好ましくは30?200μm、より好ましくは40?150μmである。本発明の粘着シートの厚さを50μmを超える厚さにするためには、紫外線等の活性エネルギー線硬化型の固形分100%のモノマー部分重合物を粘着剤層に用いて厚膜化するか、粘着剤層同士を重ね貼り合わせするか、芯材にフィルム基材を用い両面に粘着剤層を設けるなど、で達成できる。」

オ 「【0034】
[画像表示モジュール]
本発明の画像表示モジュールは、その構成中に、少なくとも、透明な表面保護パネルと、画像表示パネルとを有するものである。そして、表面保護パネルと、画像表示パネルとが、両面粘着シートを介して全面貼付された構成の画像表示モジュールである。

(中略)

【0037】
本発明の画像表示モジュールには、必要に応じて他の構成要素が付加されていてもよく、例えば、画像表示パネル3の下層にフレキシブルプリント回路(FPC)基板などが設けられた構成であってもよい。画像表示モジュールがバックライト型の画像表示パネルである場合には、バックライトモジュール5が、図1の構造に付加される(図2)。また、表面保護パネル2の更に表層に表面保護フィルム6が設けられた構成(図3)や、表面保護パネル2の粘着剤と接する面の一部に印刷層7が施された構成(図4)であってもよい。」
なお、図1?4は、以下のとおりのものである。


カ 「【実施例】
【0046】
以下に実施例および比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。

(中略)

【0053】
(実施例1)
上記粘着剤A/100重量部に対し、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製コロネートL-45、固形分45%)を0.7重量部添加し15分攪拌後、シリコーン化合物で片面を剥離処理した厚さ75μmのポリエステルフィルム(以下#75剥離フィルム)上に乾燥後の厚さが50μmになるように塗工して、75℃で5分間乾燥した。得られた粘着シートと、シリコーン化合物で片面を剥離処理した厚さ38μmのポリエステルフィルム(以下#38剥離フィルム)を貼り合わせた。その後23℃で5日間熟成し厚さ50μmの、ゲル分率75%の基材レス粘着シートを得た。
【0054】
(実施例2)
上記粘着剤A/100重量部に対し、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製コロネートL-45、固形分45%)を0.7重量部添加し15分攪拌後、#75剥離フィルム上に乾燥後の厚さが50μmになるように塗工して75℃で5分間乾燥した。得られた粘着シートをローラーで気泡が入らないように2枚貼り合わせ、23℃で5日間熟成し厚さ100μm、ゲル分率75%の基材レス粘着シートを得た。
【0055】
(実施例3)
上記粘着剤B/100重量部に対し、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製コロネートL-45、固形分45%)を0.66重量部添加し15分攪拌後、シリコーン化合物で片面を剥離処理した厚さ75μmのポリエステルフィルム(以下#75剥離フィルム)上に乾燥後の厚さが50μmになるように塗工して、75℃で5分間乾燥した。得られた粘着シートと、シリコーン化合物で片面を剥離処理した厚さ38μmのポリエステルフィルム(以下#38剥離フィルム)を貼り合わせた。その後23℃で5日間熟成し厚さ50μmの、ゲル分率72%の基材レス粘着シートを得た。

(中略)

【0059】
[粘弾性スペクトルの測定]
上記実施例及び比較例で得られた粘着シートを、厚さが2mmになるよう貼り合わせ試験片とし、レオメトリックス社製粘弾性試験機アレス2KSTDに直径7.9mmの平行円盤を装着し、平行円盤に試験片を挟み込み、温度分散法、周波数1Hz、測定温度範囲は-30?100℃で粘弾性スペクトル測定し、20℃の損失正接、80℃の貯蔵弾性率G'を読み取った。」

(2)引用文献2に記載された発明
上記記載事項アに基づけば、引用文献2には、請求項7に係る発明として、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていたと認められる。
「少なくとも透明な表面保護パネルと、画像表示パネルとを備えた電子端末用画像表示モジュールにおいて、前記表面保護パネルと前記画像表示パネルとを全面貼付する両面粘着シートであって、前記両面粘着シートが、周波数1Hz、20℃における動的粘弾スペクトルの損失正接が0.6?1.5であり、かつ80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層を有する粘着シート。」

3 引用文献3
(1)引用文献3の記載事項
原査定拒絶理由の理由1(進歩性)に引用された引用文献1aであって、本願優先権主張の日前の平成22年7月29日に頒布された刊行物である、特開2010-163591号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は透明粘着シート、及びそれを含む画像表示装置に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0009】
液状の硬化性接着剤と比較して製造工程が単純であり、また、透明性などの光学特性、及びシリコーンゲルなどに比べて接着特性に優れることから、透明物質としてアクリル系の粘着シートが検討されている。しかしながら、近年の小型・薄型の画像表示装置に対し、従来のアクリル系粘着シートを適用した場合、画像表示装置における画面の一部分で色が違ったり、明るかったり、暗かったりする現象、すなわち、表示ムラが生じることがあった。特に、画像表示装置における表面保護層が凹凸形状を有し、かかる凹凸形状面に粘着シートが適用される場合、又は、凹凸形状を有する層(例えば、偏光板)が設けられた画像表示ユニットの表示面に粘着シートが適用される場合、この表示ムラの解決が望まれている。また、表示ムラが発生しないことに加えて、高温高湿状態に置かれても画像表示装置における表面保護層、画像表示ユニットの表示面又はタッチパネル(以下、「被着体」ということがある)との界面で気泡や剥がれが発生せず、更に白化することがない、透明粘着シートが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様によると、画像表示装置における表面保護層又はタッチパネルと画像表示ユニットの表示面とを貼付する、又は表面保護層とタッチパネルとを貼付する透明粘着シートであって、
(A)アルキル基の炭素数が4?18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、
(B)ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が50℃以上である極性モノマー、及び
(C)(C-1)下記式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル、又は(C-2)ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が10℃以下である親水性モノマー(ただし、(C-1)成分以外のモノマーであって、(B)成分と(C-2)成分との質量比が4:10?4:1である)、
CH_(2)=C(R)COO-(AO)p-(BO)q-R’・・・(1)
式(1)中、
Aは(CH_(2))rCO、CH_(2)CH_(2)、CH_(2)CH(CH_(3))、CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の基であり、
Bは(CH_(2))rCO、CO(CH_(2))r、CH_(2)CH_(2)、CH_(2)CH(CH_(3))、CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の基であり、
Rは水素又はCH_(3)であり、
R’は、水素、又は置換若しくは未置換のアルキル基若しくはアリール基であり、
p、q、rはそれぞれ1以上の整数である、
を含むモノマーの共重合体を含み、
かかる共重合体は140℃、1.0Hzにおけるtanδが0.13以上であり、且つ25℃、1.0Hzにおける貯蔵弾性率が8.9×10^(4)Pa以下である、透明粘着シートが提供される。
【0011】
本発明の更に別の態様によると、画像表示ユニット、上記透明粘着シート、及び表面保護層を含む、画像表示装置が提供される。

(中略)

【0013】
「25℃、1.0Hzにおける貯蔵弾性率」とは、-60℃?200℃の温度範囲を、5℃/分の昇温速度、及び1.0Hzのせん断モードで粘弾性測定を行った際の25℃における貯蔵弾性率を意味する。

(中略)

【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様として提供される透明粘着シートは、画像表示装置における表面保護層又はタッチパネルと画像表示ユニットの表示面との貼付、又は表面保護層とタッチパネルとの貼付に用いた場合に、表示ムラが生じない。特に、凹凸形状を有している表面保護層に透明粘着シートを適用する場合、又は、凹凸形状を有する層(例えば、偏光板)が設けられた画像表示ユニット表示面に透明粘着シートを適用する場合であっても、表示ムラの発生を防止することができる。
【0018】
また、透明粘着シートは、画像表示装置における表面保護層、画像表示ユニットの表示面又はタッチパネルに貼付した際、高温・高湿環境下でも、それらの界面で気泡が発生しない。更に、画像表示装置における表面保護層又はタッチパネルと画像表示ユニットの表示面との貼付後、表面保護層とタッチパネルとの貼付後における剥がれも抑制できる。
【0019】
更にまた、透明粘着シートは、画像表示装置における白化を防ぐことができる。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一態様として提供される透明粘着シートは、画像表示装置における表面保護層又はタッチパネルと画像表示ユニットの表示面とを貼付する、又は表面保護層とタッチパネルとを貼付するために使用される。ここで、透明粘着シートは、(A)アルキル基の炭素数が4?18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(B)ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が50℃以上である極性モノマー、及び(C)(C-1)下記式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル、又は(C-2)ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が10℃以下である親水性モノマー(ただし、(C-1)成分以外のモノマーであって、(B)成分と(C-2)成分との質量比が4:10?4:1である)
CH_(2)=C(R)COO-(AO)p-(BO)q-R’・・・(1)
(式(1)中、A、B、R、R’、p、qは上記定義の通りである)
を含むモノマーの共重合体を含む。
【0022】
ここで、(A)成分であるアルキル基の炭素数が4?18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、得られる粘着シートに好適な粘着性を与え、被着体に対する濡れ性を良好にすることができる。

(中略)

【0028】
次に、(B)成分であるホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が50℃以上である極性モノマーは、得られる透明粘着シートの凝集力を向上させ、接着性を付与する。よって、得られる透明粘着シートを画像表示装置に適用した際、特に高温下における発泡、剥がれが防止される。

(中略)

【0030】
続いて、(C)成分について説明する。(C)成分は、得られる透明粘着シートの透湿性を制御する。すなわち、上記した(A)成分及び(B)成分に加えて、(C)成分を使用することで、得られる透明粘着シート(共重合体)は、親水性を損なうことなく、高い柔軟性及び接着力を得ることが可能となる。(C)成分としては、下記の(C-1)成分又は(C-2)成分が用いられる。
【0031】
(C-1)成分である(メタ)アクリル酸エステルは、下記式(1)で示される。
CH_(2)=C(R)COO-(AO)p-(BO)q-R’・・・(1)
ここで、式(1)中、
Aは(CH_(2))rCO、CH_(2)CH_(2)、CH_(2)CH(CH_(3))、CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の基であり、得られる透明粘着シートの透湿性制御、及び工業的入手容易性という観点から、CH_(2)CH_(2)又はCH_(2)CH(CH_(3))であることが好ましい。
また、Bは(CH_(2))rCO、CO(CH_(2))r、CH_(2)CH_(2)、CH_(2)CH(CH_(3))、CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の基であり、A同様、得られる透明粘着シートの透湿性制御、及び工業的入手容易性という観点から、CH_(2)CH_(2)又はCH_(2)CH(CH_(3))であることが好ましい。
Rは水素又はCH_(3)である。なお、光重合によって共重合する場合には、重合性の点から、RはHであることが好ましい。
R’は、水素、又は置換若しくは未置換のアルキル基若しくはアリール基であり、かかるアルキル基又はアリール基は直鎖、分岐鎖、環状のいずれであってもよい。ある態様においては、(A)成分との相溶性に優れるアルキル基(具体的には、メチル基、エチル基、ブチル基、オクチル基)が使用される。
p、q、rはそれぞれ1以上の整数である。なお、上限については特に制限はないが、pは10以下、qは10以下、rは5以下、とすることにより(A)成分との相溶性を向上することができる。

(中略)

【0034】
(C-2)成分は、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が10℃以下である親水性モノマーである。ただし、(C-2)成分は、(C-1)成分以外のモノマーであって、(B)成分と(C-2)成分との質量比が4:10?4:1となる量で使用される。(B)成分と(C-2)成分との質量比が4:10?4:1である場合、共重合体の弾性率を低くしながら親水性を維持でき、且つ被着体への接着力を好適に制御することが可能となる。

(中略)

【0037】
上記した(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含むモノマーから得られる共重合体は、140℃、1.0Hzにおけるtanδが0.13以上であり、且つ25℃、1.0Hzにおける貯蔵弾性率が8.9×10^(4)Pa以下である。このような動的粘弾性特性は、本発明の透明粘着シートにおける液晶ムラの観点から重要である。具体的には、透明粘着シートにおける液晶ムラの発現は、共重合体の応力緩和性及び初期残留応力の両方に関係している。

(中略)

【0040】
また、貯蔵弾性率は、張り合わせ時に変形した透明粘着シートの残留応力(初期残留応力)の指標である。この値が8.9×10^(4)Pa以下であれば、表示ムラを抑制することができる。例えば、透明粘着シートを10μm程度の凹凸形状面を有する被着体に張り合わせた場合でも、表示ムラを抑制することが可能となる。さらに、貯蔵弾性率を7.4×10^(4)Pa以下とすれば、より高低差の大きい又は複雑な凹凸形状面を有する被着体に透明粘着シートを張り合わせた場合でも、表示ムラの低減が可能となる。
【0041】
共重合体のtanδ及び貯蔵弾性率は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の種類、分子量、組成を適宜変更することによって調整することができる。例えば、(B)成分を多く用いると貯蔵弾性率は高くなり、(A)成分及び(C)成分の量を多くすると貯蔵弾性率を低くすることができる。また、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含むモノマーの共重合体における分子量を上げると、貯蔵弾性率が高くなる傾向がある。なお、(C)成分は、共重合体のtanδが高くなる場合でも、得られる透明粘着シートの発泡を抑えるという機能を有する。ここで、共重合体のtanδは、後述する架橋剤の量によって調整することができる。具体的には、架橋剤量を増やせばtanδの値が小さくなり、架橋剤量を少なくするとtanδの値は大きくなる。

(中略)

【0048】
上述のモノマーの共重合体は、凝集性を確保するために、架橋剤によって架橋することができる。共重合体が架橋剤を含む場合、その量は、応力緩和性と発泡との点から、上記(A)成分,(B)成分、(C)成分の合計質量100質量部に対して2質量部以下とするのが一般的である。ある態様においては、1質量部以下としてもよい。架橋剤量の下限については、制限はないが、一般的に、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計質量100質量部に対して0.01質量部程度加えると、共重合体の取り扱い性が改善される。
【0049】
また、共重合体は、架橋形成のために、共重合体に架橋構造を形成することができる基(架橋形成可能な基)を含んでいてもよい。架橋形成可能な基としては、多官能イソシアネート、エポキシ、アジリジン化合物等の架橋剤と反応性を有する官能基であればよく、例えば、ヒドロキシル基を挙げることができる。具体的には、共重合体にヒドロキシル基が存在する場合、多官能イソシアネートと反応してウレタン結合による架橋を形成する。このような架橋形成可能な基を共重合体に含ませるためには、モノマー成分として、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレートを使用すればよい。

(中略)

【0052】
共重合体は、上記のモノマー成分を重合開始剤の存在下に重合することで形成することができる。重合方法としては、特に制限はなく、上記モノマーを、通常のラジカル重合法、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合又は塊状重合等に従い重合すればよい。ある態様においては、熱重合開始剤によるラジカル重合方式を採用してもよい。ここで、熱重合開始剤の例としては、過酸化ベンゾイルやt-ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシドやジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネートやジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエートやt-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシドやジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシドの如き有機過酸化物、2,2'-アゾビスイソブチロニトリルや2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)や2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)やジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4'-アゾビス(4-シアノバレリック酸)や2,2'-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]の如きアゾ系化合物等が挙げられる。

(中略)

【0055】
透明性粘着シートの厚さは、画像表示装置への取り付け(画像表示装置における表面保護層又はタッチパネルと画像表示ユニットの表示面との貼付、又は表面保護層とタッチパネルとの貼付)において問題とならない厚さであれば、特に制限はない。例えば、0.025?1mmの厚さとすることができる。透明粘着シートの厚みが厚くなると、被着体(PMMAなどの高分子フィルム又はガラス板等)に対する接着力が高くなる。
【0056】
続いて、上述した透明粘着シートを含む画像表示装置について、図1?4を参照しながら説明する。ここで、画像表示装置は、画像表示ユニット、透明粘着シート、及び表面保護層を含む。画像表示装置に含まれる透明粘着シートは、透明粘着シートにおける内部残留応力が緩和されている。
【0057】
画像表示ユニットは、特に限定されることはなく、反射型又はバックライト型の液晶表示ユニット、プラズマディスプレイユニット、エレクトロルミネセンス(EL)ディスプレイ、電子ペーパーなどの画像表示ユニット等が含まれる。画像表示ユニットの表示面には、追加の層(一層であっても多層であってもよい)、例えば、偏光板(凹凸形状表面を有している場合もある)を設けることができる。また、後述するようなタッチパネルが、画像表示ユニットの表示面に存在していてもよい。
【0058】
表面保護層は、画像表示装置上に配置された際に、最表面に配置される層である。表面保護層は、高分子フィルム、又はガラス板等のみから構成されていてもよいし、他の層とともに複数の層から構成されていてもよい。表面保護層は、画像表示装置の保護フィルムなどとして従来から使用されているものであれば特に制限はなく、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルム、又はガラス板であることができる。フィルム又はガラス板の厚さは、限定されないが、通常、0.1?5mmである。

(中略)

【0061】
図1は、上記した透明粘着シートを含む画像表示装置の一態様の断面図を示す。画像表示装置10は、画像表示ユニット1の表示面上に、透明粘着シート3及び表面保護層4がこの順序で積層された構造を有している。表面保護層4は、連続層5、及び連続層5の下面(透明粘着シート3側)における一部領域に設けられた光遮蔽層6から構成され、表面が凹凸形状となっている。なお、光遮蔽層6は硬化性樹脂組成物の塗布溶液に、着色剤を混入させた液を、スクリーン印刷などの適切な方法で連続層5の所定の領域に塗布し、UV照射などの適切な硬化方法で硬化させることで形成される。透明粘着シート3は、上記表面保護層4の凹凸形状面側に貼付されている。透明粘着シート3は柔軟性を有するので、表面保護層4が凹凸形状を有していても、更には、画像表示ユニットの表示面に凹凸表面形状を有する層(例えば、偏光板)が設けられていたとしても、シート自体の内部残留応力が緩和されており、画像表示装置における表示ムラを防止することができる。また、透明粘着シート3は充分な接着力及び親水性を有しているため、高温高湿環境下でも、画像表示ユニット1の表示面と透明粘着シート3との界面、及び透明粘着シート3と表面保護層4との界面で気泡や剥がれが発生せず、また、白化も生じない。ここで、画像表示装置10は、例えば、上記表面保護層4及び透明粘着シート3からなる積層体2を画像表示ユニット1の表示面に貼り合せることで得られる。」
なお、図1は、以下のとおりのものである。


ウ 「【実施例】
【0066】
以下、実施例を用いて更に詳細に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
1.アクリル系共重合体の調製方法
例1?19
下記表1の記載に従い、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び光重合開始剤としてイルガキュア(商標)651(2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン)(チバ・ジャパン製)0.04質量部をガラス容器中でよく混合し、窒素ガスにて溶存酸素を置換した後、低圧水銀ランプで数分間紫外線を照射して部分的に重合させ、粘度1500cP程度の粘性液体を得た。得られた組成物に架橋剤としてHDDA(1,6-ヘキサンジオールジアクリレート)、及び追加の重合開始剤(イルガキュア651)0.15質量部を加えて、十分に攪拌した。この混合物を真空脱泡した後、剥離処理をした50μm厚のポリエステルフィルム(剥離フィルム)の上に175μm厚になるよう塗工し、重合を阻害する酸素を除去するためにさらに上記剥離フィルムを被せ、両面から低圧水銀ランプで約4分間照射し、透明粘着シートを得た。下記方法に従い、得られたシートのtanδ及び貯蔵弾性率を測定した。
【0068】
貯蔵弾性率及びtanδ(損失正接)(動的粘弾性特性)の測定方法
サンプルの作成:上記方法で作成した透明粘着シートから剥離フィルムを除去し、16枚積層した約3mm厚のシートを7.9mmφの抜き刃で打ち抜いて、円柱状のサンプルを得た。
測定:動的粘弾性特性は、Rheometric Scientific 社製 Advanced Rheometric Expansion System(ARES)を用いた。サンプル固定用じ具は、7.9mmφのパラレルプレートを用い、上記の方法で作成したサンプルをプレートの間に配し、テンションを調整した。動的粘弾性特性の測定は空気中で行い、せん断モード、周波数1.0Hzおいて、-50?200℃で昇温速度5℃/分で測定し、25℃における貯蔵弾性率G’(Pa)、及び140℃におけるtanδ(損失正接)を求めた。
【0069】
【表1】



(2)引用文献3に記載された発明
引用文献3の記載事項アの段落【0010】には、課題を解決手段として、画像表示装置における表面保護層と画像表示ユニットの表示面とを貼付する透明粘着シートが記載されており、記載事項イの段落【0061】には、上記した透明粘着シートを含む画像表示装置の態様が示されている。
上記記載事項に基づけば、引用文献3には、以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていたと認められる。
「画像表示ユニットの表示面上に、透明粘着シート及び表面保護層がこの順序で積層された構造を有している画像表示装置であって、表面保護層は、連続層、及び連続層の下面(透明粘着シート側)における一部領域に設けられた光遮蔽層から構成され、表面が凹凸形状となっている、画像表示装置における表面保護層と画像表示ユニットの表示面とを貼付する透明粘着シートであって、
(A)アルキル基の炭素数が4?18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、
(B)ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が50℃以上である極性モノマー、及び
(C)(C-1)下記式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル、又は(C-2)ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が10℃以下である親水性モノマー(ただし、(C-1)成分以外のモノマーであって、(B)成分と(C-2)成分との質量比が4:10?4:1である)、
CH_(2)=C(R)COO-(AO)p-(BO)q-R’・・・(1)
式(1)中、
Aは(CH_(2))rCO、CH_(2)CH_(2)、CH_(2)CH(CH_(3))、CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の基であり、
Bは(CH_(2))rCO、CO(CH_(2))r、CH_(2)CH_(2)、CH_(2)CH(CH_(3))、CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)からなる群から選ばれる少なくとも1種の基であり、
Rは水素又はCH_(3)であり、
R’は、水素、又は置換若しくは未置換のアルキル基若しくはアリール基であり、
p、q、rはそれぞれ1以上の整数である、
を含むモノマーの共重合体を含み、
かかる共重合体は140℃、1.0Hzにおけるtanδが0.13以上であり、且つ25℃、1.0Hzにおける貯蔵弾性率が8.9×10^(4)Pa以下である、透明粘着シート。」

4 引用文献4
(1)引用文献4の記載事項
補正却下理由の理由1(新規性進歩性)及び理由2(進歩性)に引用された引用文献1bであって、刊行物提出1拒絶理由の理由(進歩性)に引用された引用文献2dでもあり、本願優先権主張の日前の平成22年4月2日に頒布された刊行物である、特開2010-72471号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本開示は透明粘着シート、及びそれを含む画像表示装置に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0008】
透明物質としては、接着剤、シリコーンゲル、粘着剤などが挙げられるが、接着剤は液状を扱うプロセスとなり製造工程が複雑になる点で問題であり、また、シリコーンゲルでは接着力が低いために長期信頼性に問題がある。これに対し、粘着剤はこれらの問題を解決できるため、画像表示装置と保護層カバーを直接貼り合わせる構造には有効である。しかしながら、従来のアクリル酸アルキルエステルとアクリル酸よりなるアクリル系粘着剤等では、粘着剤の塗付厚さが薄くなると表示装置にムラを生じることがあり又、高温・高湿環境下において気泡の発生や粘着剤剥がれを生じることがあった。
そこで、特に、画像表示装置における表面保護層が凹凸形状を有し、かかる凹凸形状面に粘着シートが適用される場合、又は、凹凸形状を有する層(例えば、偏光板)が設けられた画像表示ユニットの表示面に粘着シートが適用される場合、粘着剤の塗付厚さが100μm以下の条件下でも、この表示ムラが発生しないことが望まれている。また、表示ムラが発生しないことに加えて、高温高湿状態に置かれても画像表示装置における表面保護層、画像表示ユニットの表示面又はタッチパネル(以下、「被着体」ということがある)との界面で気泡や剥がれが発生せず、更に白化することがない、透明粘着シートが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のある態様によると、
(1)貯蔵弾性率が、1Hz、80℃において、1.0×10^(4)Pa以下, 1.0×10^(3)Pa以上である粘着シートであって、かつ、(A)脂環式炭化水素樹脂、(B)非結晶性飽和ポリオレフィン樹脂、(C)アクリル基を有する樹脂、及び、(D)前記樹脂の反応を引き起こす開始剤を含み、(A)成分100質量部を基準に(B)成分の量は、10?200質量部であり、(C)成分の量は、10?200質量部であり、(D)成分の量は、0.1?20質量部である透明粘着シートを準備する工程、
(2)前記粘着シートを表面保護層 もしくは タッチパネルに貼り付ける工程、
(3)表面保護層 もしくは タッチパネルを貼り付けた前記粘着シートの反対の面を、画像表示ユニットの表示面に貼り付ける工程、
(4)前記粘着シートの粘着剤を硬化させる工程、
を含む画像表示装置の作製方法が提供される。
【0010】
本開示の更に別の態様によると、 画像表示装置における表面保護層又はタッチパネルと画像表示ユニットの表示面とを貼付する、又は表面保護層とタッチパネルとを貼付する透明粘着シートであって、透明粘着シートは、貯蔵弾性率が、1Hz、80℃において、1.0×10^(4)Pa以下, 1.0×10^(3)Pa以上であり、かつ、(A)脂環式炭化水素樹脂、(B)飽和ポリオレフィン、(C)アクリル基を有する樹脂、及び、(D)前記樹脂の反応を引き起こす開始剤を含み、(A)成分100質量部を基準に(B)成分の量は、10?200質量部であり、(C)成分の量は、10?200質量部であり、(D)成分の量は、0.1?20質量部である透明粘着シートが提供される。
【0011】
また、本開示の更に別の態様によると、画像表示ユニット、上記透明粘着シート、及び表面保護層を含む、画像表示装置が提供される。

(中略)

【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様として提供される作製方法を用いれば、作製された画像表示装置は、1)当該表示面に、表示ムラが生じない、2)高温・高湿環境下でも表面保護層、画像表示ユニットの表示面又はタッチパネルに貼付した際、それらの界面で気泡が発生しない、3)表面保護層又はタッチパネルと画像表示ユニットの表示面との間に貼り付けた粘着性シートの剥がれも抑制できる。」

イ 「【0017】
第1の成分である(A)の脂環式炭化水素樹脂は、低吸水性に優れた樹脂であり、同時に飽和ポリイソブチレン樹脂等の非結晶性飽和ポリオレフィン樹脂に相溶し、硬化前の組成物の室温での貯蔵弾性率をコントロールすることができる。具体的には、粘着付与剤として知られる石油樹脂、テルペン樹脂、ロジン系樹脂およびそれらを水素添加した水素添加樹脂、芳香族と共重合した変性樹脂を挙げることができる。

(中略)

【0023】
第2の成分である(B)の非結晶性飽和ポリオレフィンは、実質的に炭素間二重結合や三重結合を持たないポリオレフィンである。飽和ポリオレフィンに含まれる炭素間結合のうち、90%以上が単結合である。飽和ポリオレフィンの例としては、ポリイソブチレン、ポリα-オレフィン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、水素添加ポリブタジエンおよびこれらとスチレンとのブロック共重合体などが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上で組み合わせて用いてもよい。

(中略)

【0029】
第3の成分である(C)の硬化性樹脂は、硬化前の組成物の流動性を上げ被着体へのぬれ性を上げるとともに被着体の凹凸面に追従し液晶ムラの発生を抑える。しかも、硬化させることで保持力を向上することができる。また、これらの添加量、及び種類により、硬化後の物性を所望の物性に制御することが可能である。
硬化性樹脂(C)は、熱硬化性樹脂、放射線(光)硬化性樹脂のいずれのものであっても良い。
【0030】
硬化性の樹脂(液状モノマー及び/又はオリゴマー)には、例えば、硬化性アクリル化合物として当業者に知られているものがある。ある一形態においては、これらは、アクリレート化ウレタン、アクリレート化エポキシ、α,β-不飽和カルボニル基を有するアミノプラスト誘導体、エチレン性不飽和化合物、少なくとも1個のアクリレート基を有するイソシアヌレート誘導体、少なくとも1個のアクリレート基を有するイソシアネート、およびこれらの混合物からなる群から選択される。
【0031】
硬化性アクリル化合物は、一般に(メタ)アクリロイル基を分子内に有し、分子量70?700、ある一形態においては80?600を有する。通常、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等が含まれる。光硬化性アクリル化合物の具体例には次のものがある。
【0032】
単官能アクリルモノマーの例としては、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート(n-C16)、ステアリル(メタ)アクリレート(n-C18)、アラキル(メタ)アクリレート(n-C20)、ベヘニル(メタ)アクリレート(n-C22)などの直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、イソトリデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソセチル(メタ)アクリレート(iso-C16)、イソステアリル(メタ)アクリレート(iso-C18)、2-オクチルドデカニル(メタ)アクリレート(iso-C20)などの分岐アルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。また、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートなどの脂環式(メタ)アクリレートが挙げられる。またN,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、t-ブチルアクリルアミド、t-オクチルアクリルアミドなどの置換アクリルアミドも挙げることができる。
【0033】
多官能アクリルモノマーの例としては、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、水素添加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、水素添加ポリブタジエンジ(メタ)アクリレート、水素添加イソプレンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、これらのアクリルモノマーに使用される多価のアルコールをウレタン結合でオリゴマー化したアクリレートも使用される。さらにそれらの混合物も使用できる。

(中略)

【0038】
(D)放射線(光)または熱重合開始剤は、0.1?20質量部、ある一形態においては0.5?5質量部の量で含有される。これらの範囲で、アクリルモノマーが重合を良好におこなえ、樹脂組成物の保存安定性も確保できるからである。
【0039】
上記したモノマー成分を上記した組成で用いることで、得られる粘着性シートは、硬化前には、貼付時に十分な追従性を達成でき、硬化後には十分な保持力を有する。このような十分な追従性を有する透明粘着シートを用いることで、凹凸形状を有している表面保護層、又は凹凸形状を有する層(例えば、偏光板)が設けられた画像表示ユニット表示面に透明粘着シートを適用する場合でも、凹凸を吸収することができ、その結果、画像表示装置における表示ムラの発生を防止できる。また、シート自体の厚さにバラツキが存在する場合も、十分な柔軟性を有することから、被着体表面と隙間なく貼り合わせることができ、画像表示装置における表示ムラの発生を防ぐことができる。
【0040】
ここで、粘着シートの追従性は、樹脂組成物の貯蔵弾性率で表すことができる。樹脂組成物の80℃、1Hzでの貯蔵弾性率が1×10^(4)Pa以下であれば、10μm程度の凹凸形状面を有する被着体に粘着シートを張り合わせた場合でも、表示ムラを抑制することができる。さらに、樹脂組成物の80℃、1Hzでの貯蔵弾性率を1×10^(4)Pa以下とすれば、より高低差の大きい又は複雑な凹凸形状面を有する被着体に粘着シートを張り合わせた場合でも、表示ムラの低減が可能となる。また、1.0×10^(3)Pa以上であれば、貼り付け時に、樹脂組成物が漏出することもなく、使用上の不都合を生ずることもない。なお、樹脂組成物の貯蔵弾性率は、A,B,C成分の種類、分子量、組成比を適宜変更することによって調整することができる。

(中略)

【0044】
粘着シートの厚さは、画像表示装置への取り付け(画像表示装置における表面保護層又はタッチパネルと画像表示ユニットの表示面との貼付、又は表面保護層とタッチパネルとの貼付)において問題とならない厚さであれば、特に制限はない。例えば、0.025?1mmの厚さとすることができる。透明粘着シートの厚みが厚くなると、被着体(PMMAなどの高分子フィルム又はガラス板等)に対する接着力が高くなる。
【0045】
続いて、上述した粘着シートを含む画像表示装置について、図1?4を参照しながら説明する。ここで、画像表示装置は、画像表示ユニット、透明粘着シート、及び表面保護層を含む。画像表示装置に含まれる透明粘着シートは、透明粘着シートにおける内部残留応力が緩和されている。
【0046】
画像表示ユニットは、特に限定されることはなく、反射型又はバックライト型の液晶表示ユニット、プラズマディスプレイユニット、エレクトロルミネセンス(EL)ディスプレイ、電子ペーパーなどの画像表示ユニット等が含まれる。画像表示ユニットの表示面には、追加の層(一層であっても多層であってもよい)、例えば、偏光板(凹凸形状表面を有している場合もある)を設けることができる。また、後述するようなタッチパネルが、画像表示ユニットの表示面に存在していてもよい。

(中略)

【0049】
また、表面保護層が複数の層から構成される積層体である場合、透明粘着シート側に、印刷層、ハードコート層、蒸着層などの追加の層が表面保護層の全面もしくは一部の領域に含まれていてもよい。このような追加の層が、表面保護層の一部の領域に形成されている場合には、表面保護層は凹凸形状を有する表面となる。表面保護層の厚さは、かかる追加の層を含めて、全体として、通常、0.1?6mmである。なお、追加の層が、後述のような光遮蔽層として用いる印刷層又は蒸着層である場合、層の厚さは通常10μm以下である。また、他の形態においては、層の厚さは100μm以下、若しくは50μm以下であるのが一般的である。
【0050】
図1は、上記した透明粘着シートを含む画像表示装置の一態様の断面図を示す。画像表示装置10は、画像表示ユニット1の表示面上に、透明粘着シート3及び表面保護層4がこの順序で積層された構造を有している。表面保護層4は、連続層5、及び連続層5の下面(透明粘着シート3側)における一部領域に設けられた光遮蔽層6から構成され、表面が凹凸形状となっている。なお、光遮蔽層6は硬化性樹脂組成物の塗布溶液に、着色剤を混入させた液を、スクリーン印刷などの適切な方法で連続層5の所定の領域に塗布し、UV照射などの適切な硬化方法で硬化させることで形成される。透明粘着シート3は、上記表面保護層4の凹凸形状面側に貼付されている。透明粘着シート3は柔軟性を有するので、表面保護層4が凹凸形状を有していても、更には、画像表示ユニットの表示面に凹凸表面形状を有する層(例えば、偏光板)が設けられていたとしても、シート自体の内部残留応力が緩和されており、画像表示装置における表示ムラを防止することができる。また、透明粘着シート3は充分な接着力及び親水性を有しているため、高温高湿環境下でも、画像表示ユニット1の表示面と透明粘着シート3との界面、及び透明粘着シート3と表面保護層4との界面で気泡や剥がれが発生せず、また、白化も生じない。ここで、画像表示装置10は、上記表面保護層4及び透明粘着シート3からなる積層体2を画像表示ユニット1の表示面に貼り合せることで得られる。」
なお、図1は、以下のとおりのものである。


ウ 「【実施例】
【0055】
以下、実施例を用いて更に詳細に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
1.サンプル作成方法
〔実施例1〕
脂環式炭化水素樹脂として水素添加DCPD系樹脂(エクソンモービル社製 Escorez5340)を100質量部、非結晶性飽和ポリオレフィン樹脂として飽和ポリイソブチレン樹脂(BASF社製 オパノール B100)を17質量部、アクリル基を有する樹脂として紫外線硬化性アクリレート樹脂(新中村化学工業株式会社製 DCP)を50質量部、開始剤として光開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製 TPO)を0.8質量部をトルエンに溶解し、25質量%の溶液を作成した。この溶液を厚み38μmの剥離処理したPETフィルムにコーティングし、100℃のオーブンで30分乾燥した。得られた粘着剤付きフィルムを厚み25μmの剥離処理したPETフィルムでラミネートし、剥離ライナー付き粘着シートを作成した。粘着剤厚み25μmの透明なフィルムを得た。

(中略)

〔実施例4〕
脂環式炭化水素樹脂として水素添加DCPD系樹脂(エクソンモービル社製 Escorez5340)を100質量部、非結晶性飽和ポリオレフィン樹脂として飽和ポリイソブチレン樹脂(BASF社製 オパノール B50)を40質量部、アクリル基を有する樹脂としてトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(大阪有機社製SPBDA-S30)を60質量部、開始剤として 光開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製 TPO)を1.3質量部とした以外は、実施例1に同じ。

(中略)

【0058】
2.評価方法
(1)ムラ試験
評価する粘着シートの剥離フィルムを片面剥がし、0.7mm厚のガラス板(コーニング製#1737)にローラーで空気が入らないように貼りつけ、はみ出した部分をカッターで除去した。一方、市販携帯電話(シャープ製913SH)の全面保護カバーを外して液晶モジュールを表面に出しておく。ガラス板に貼った粘着シートの剥離フィルムを剥がし、粘着面を液晶モジュール側にしてゴムローラーで圧着した。得られたガラス板/粘着シート/液晶モジュール積層体をオートクレーブに入れ、40℃、0.5MPaにて15分間の処理を行った。〔実施例1〕〔実施例2〕〔実施例3〕〔実施例4〕〔実施例5〕〔比較例3〕に関しては、ガラス板側から紫外線(ヒュージョン株式会社製 F300S(Hバルブ使用)、50mJ×20回)を照射した。その後携帯電話の電源を入れ白色画面を表示し、ムラを目視で確認した。結果を表1に示す。表1に示すムラ試験結果において、○は「ムラが観察されない」、×は「強いムラが観察され、実用上問題あり」を意味する。
【0059】
(2)信頼性試験(発泡、はがれ、白化)
評価する粘着シートの剥離フィルムを片面剥がし、0.7mm厚のガラス板(コーニング製#1737)にローラーで空気が入らないように貼りつけ、はみ出した部分をカッターで除去した。一方、0.55mm厚フロートガラス(50x80mm)に粘着剤付き偏光板(サンリッツ製)をゴムローラーで同様に貼り付けた。アクリル板に貼った粘着シートの剥離フィルムを剥がし、粘着面が偏光板に接着するようにゴムローラーを用いて圧着した。得られたガラス板/粘着シート/偏光板/ガラス積層体をオートクレーブに入れ、40℃、0.5MPaにて15分間の処理を行った。〔実施例1〕〔実施例2〕〔実施例3〕〔実施例4〕〔実施例5〕〔比較例3〕に関しては、ガラス板側から紫外線(ヒュージョン株式会社製 F300S(Hバルブ使用)、50mJ×20回)を照射した。室温で12時間放置した後、60℃・90%RHの恒温恒湿器に入れた。3日後に取り出した積層体の外観を目視で確認した。結果を表1に示す。
【0060】
(3)粘弾性測定
粘弾性評価はティ・エイ・インスツルメント社製動的粘弾性測定装置ARESを用いて剪断モード(1Hz)にて行った。剥離フィルムを除去した透明粘着シートを16枚積層したものを、7.9mmφの抜き刃で打ち抜いて試験片とした。-60?200℃で昇温速度5℃/分で測定を行い、このうち25℃および80℃における貯蔵弾性率の値を表1に示した。
【0061】
3.評価結果
【表1】



(2)引用文献4に記載された発明
引用文献4の記載事項ウの表1には、実施例4の25℃における貯蔵弾性率の値が、1.7×10^(5)Paであることが記載されている。また、引用文献4の記載事項イの段落【0050】の「透明粘着シート3は、上記表面保護層4の凹凸形状面側に貼付されている。透明粘着シート3は柔軟性を有するので、表面保護層4が凹凸形状を有していても、更には、画像表示ユニットの表示面に凹凸表面形状を有する層(例えば、偏光板)が設けられていたとしても、シート自体の内部残留応力が緩和されており、画像表示装置における表示ムラを防止することができる。また、透明粘着シート3は充分な接着力及び親水性を有しているため、高温高湿環境下でも、画像表示ユニット1の表示面と透明粘着シート3との界面、及び透明粘着シート3と表面保護層4との界面で気泡や剥がれが発生せず、また、白化も生じない。ここで、画像表示装置10は、上記表面保護層4及び透明粘着シート3からなる積層体2を画像表示ユニット1の表示面に貼り合せることで得られる。」との記載に基づけば、引用文献4の実施例における粘着シートは、表面保護層の凹凸形状面側に貼付されて積層体を形成し、画像表示ユニットの表示面に貼り合わせるために用いられるものといえる。
したがって、上記記載事項ウに基づけば、引用文献4には、実施例4として、以下の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていたと認められる。
「表面保護層の凹凸形状面側に貼付されて積層体を形成し、画像表示ユニットの表示面に貼り合わせるために用いられ、脂環式炭化水素樹脂として水素添加DCPD系樹脂を100質量部、非結晶性飽和ポリオレフィン樹脂として飽和ポリイソブチレン樹脂を40質量部、アクリル基を有する樹脂としてトリシクロデカンジメタノールジアクリレートを60質量部、開始剤として 光開始剤を1.3質量部をトルエンに溶解し、25質量%の溶液を作成し、この溶液を厚み38μmの剥離処理したPETフィルムにコーティングし、100℃のオーブンで30分乾燥し、得られた粘着剤付きフィルムを厚み25μmの剥離処理したPETフィルムでラミネートし、作成した、粘着剤厚み25μmの透明なフィルムである、剥離ライナー付き粘着シートであって、25℃における貯蔵弾性率の値が、1.7×10^(5)Paである剥離ライナー付き粘着シート。」


第5 対比・判断
1 引用発明1との対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と引用発明1を対比する。

(ア)引用発明1の「加飾印刷層付き粘着シート」における「粘着剤層」は、「アクリル酸n-ブチル77重量%、アクリル酸エチル20重量%、アクリル酸3重量%を共重合して得たアクリル酸エステル共重合体(分子量100万、濃度30重量%)100重量部」にトルエン及び金属キレート系硬化剤を添加し、攪拌して調製した「粘着剤塗布液」を、塗布、乾燥して得られるものである。ここで、引用発明1の「アクリル酸n-ブチル77重量%、アクリル酸エチル20重量%、アクリル酸3重量%を共重合して得たアクリル酸エステル共重合体」は、技術的にみて、本件発明1の「粘着剤」に相当する。そして、引用発明1の「アクリル酸n-ブチル」及び「アクリル酸エチル」は、その化学構造からみて、それぞれ、本件発明1の「炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート」の選択肢である、「n-ブチル(メタ)アクリレート」及び「エチル(メタ)アクリレート」に相当する。したがって、引用発明1の「アクリル酸n-ブチル77重量%、アクリル酸エチル20重量%、アクリル酸3重量%を共重合して得たアクリル酸エステル共重合体」は、本件発明の「粘着剤が、炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分から形成されるアクリル系ポリマーを含み、
前記炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、およびドデシル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上」であるとする要件を満たす。
さらに、引用発明1の「粘着剤層」に含まれる「アクリル酸n-ブチル77重量%、アクリル酸エチル20重量%、アクリル酸3重量%を共重合して得たアクリル酸エステル共重合体」は、本件発明1でいう「紫外線照射により活性化され、(メタ)アクリル系共重合体分子内の他の部分または他の(メタ)アクリル系共重合体分子との間で水素ラジカルを引き抜くことが可能な構造を有する(メタ)アクリル酸エステルを含むモノマーの(メタ)アクリル系共重合体」に該当せず、また、ランダム共重合体と理解するのが自然であるから、「アクリル系ブロック共重合体」にも該当しない。したがって、引用発明1の「粘着剤層」は、本件発明1の「粘着剤層(但し、紫外線照射により活性化され、(メタ)アクリル系共重合体分子内の他の部分または他の(メタ)アクリル系共重合体分子との間で水素ラジカルを引き抜くことが可能な構造を有する(メタ)アクリル酸エステルを含むモノマーの(メタ)アクリル系共重合体を含む粘着剤層を除く)」とする要件、及び、「前記粘着剤層は、アクリル系ブロック共重合体を含まない粘着剤から形成されており」とする要件を満たしている。

(イ)引用発明1の「粘着剤層」は、その作製工程からみて、「単層」であることは明らかである。したがって、引用発明1の「粘着剤層」は、本件発明1の「前記粘着剤層は、単層であり」とする要件を満たしている。

(ウ)引用発明1の「粘着剤層」は、「乾燥後の膜厚が60μmになるように塗布」して得られたものである。そうすると、引用発明1の「粘着剤層」は、本件発明1の「前記粘着剤層の厚みが、30μm?300μmであり」とする要件を満たしている。

(エ)引用発明1において、「基材レス粘着シートの剥離シートを取り除いて複数枚重ね合わせ、厚さ2.0mmのシートサンプルを形成し、形成したシートサンプルを粘弾性測定装置を使用し、測定周波数1Hzにて測定した、23℃における貯蔵弾性率」は、厚さ2.0mmの「粘着剤層」シートサンプルの貯蔵弾性率の値と解されるところ、その値は、「0.28MPa」である。そうすると、引用発明1の「粘着剤層」は、本件発明1の「前記粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が、0.12MPa?1MPa」とする要件を満たしている。

(オ)以上より、本件発明1と引用発明1とは、
「粘着剤層(但し、紫外線照射により活性化され、(メタ)アクリル系共重合体分子内の他の部分または他の(メタ)アクリル系共重合体分子との間で水素ラジカルを引き抜くことが可能な構造を有する(メタ)アクリル酸エステルを含むモノマーの(メタ)アクリル系共重合体を含む粘着剤層を除く)粘着剤層であって、
前記粘着剤層は、アクリル系ブロック共重合体を含まない粘着剤から形成されており、
前記粘着剤が、炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分から形成されるアクリル系ポリマーを含み、
前記炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、およびドデシル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上であり、
前記粘着剤層は、単層であり、
前記粘着剤層の厚みが、30μm?300μmであり、
前記粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が、0.12MPa?1MPaである粘着剤層。」の点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点1-1]本件発明1は、「偏光板を有する」粘着剤層「付き偏光板」であって、粘着剤層が「画像表示パネルと、画像表示パネル側の面に隆起部を有する前面透明板とを貼り合わせるために用いられる」とされるのに対し、引用発明1は、「加飾印刷層付き」粘着シートであって、「偏光板」を備えておらず、「携帯端末機器の外部に光が漏れやすい部分に加飾印刷層を設けるために用いられる」とされる点。
[相違点1-2]本件発明1は、「周波数1Hz、80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層」が除かれているのに対し、引用発明1は「周波数1Hz、80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層」が除かれたものであるか、明らかではない点。

イ 判断
上記[相違点1-1]について検討すると、引用発明1は、既に「加飾印刷層」を具備した加飾印刷層付き粘着シートであって、携帯端末機器の外部に光が漏れやすい部分加飾印刷層を設けるために用いられるものである。例えば、特開2007-31506号公報の段落【0093】や、国際公開第2009/113537号の段落[0121]及び段落[0122]に記載されているように、当業者において、粘着剤層付き偏光板が周知技術であったとしても、これらの文献に示される周知技術は、画像表示装置における光学部材又は光学フィルムを得るためのものであるから、引用発明1の、携帯端末機器の外部に光が漏れやすい部分に加飾印刷層を設けるために用いられる加飾印刷層付き粘着シートとは、異なる課題を解決しようとするものであることは明らかである。
そうすると、引用発明1において、加飾印刷層を省き、偏光板を備えるものとすることは、解決しようとする課題を変更することとなるから、上記[相違点1-1]は、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。

また、仮に本件出願の優先権主張を認めることができないとしても、引用発明1は、「加飾印刷層」を携帯端末機器の外部に光が漏れやすい部分に設けるために粘着シートとしたものである。上記のとおり、粘着剤層付き偏光板が周知技術であったとしても、引用発明1において加飾印刷層を省き、偏光板を備えるものとすると、引用発明1が解決しようとする課題が解決できないことなることは明らかである。したがって、引用発明1を、本件発明1の上記[相違点1-1]に係る構成とすることは、当業者であっても、容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおり、[相違点1-1]は実質的な相違点であるから、[相違点1-2]について検討するまでもなく、本件発明1と引用発明1とが、同一の発明ではないことは明らかである。
したがって、本件発明1は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

(2)本件発明2?4
本件発明2?4は、本件発明1と同じ「偏光板を有する」粘着剤層「付き偏光板」であって、粘着剤層が「画像表示パネルと、画像表示パネル側の面に隆起部を有する前面透明板とを貼り合わせるために用いられる」とする要件を具備する発明である。そうすると、本件発明2?4も、本件発明1と同じ理由により、引用発明1と同一の発明ということはできない。

(3)本件発明5
ア 対比
引用出願1の記載事項イの段落【0073】の記載からみて、引用出願1には、「引用発明1の加飾印刷層付き粘着シートを表面保護シートとして用いてなる携帯端末機器。」の発明も記載されている(本件発明5及び6との関係においては、これを「引用発明1」という。)。
そこで、本件発明5と引用発明1を対比する。

(ア)引用発明1の「基材フィルム」である「ハードコートフィルム」は、「約21μmの加飾印刷層」を有している。したがって、引用発明1の「基材フィルム」は、携帯端末機器が設けられる側の面に「隆起部を有する」とする要件を満たしている。

(イ)以上の検討事項及び前記(1)ア(ア)?(エ)の検討事項を総合すると、本件発明5と引用発明1とは、以下の点で相違又は一応相違し、その余の点で一致する。
[相違点1-3]本件発明5は、「偏光板を有する」粘着剤層「付き偏光板」を含む「画像表示パネル」と、「画像表示パネル側の面に隆起部を有する前面透明板」とを有し、「前記画像表示パネルと前記前面透明板とが、前記粘着剤層付偏光板の粘着剤層を介して貼り合わされている」とされるのに対し、引用発明1は、「加飾印刷層付き粘着シートを表面保護シートとして用いてなる携帯端末機器」であって、「偏光板」及び「画像表示パネル側の面に隆起部を有する前面透明板」を備えておらず、粘着シートが「携帯端末機器の外部に光が漏れやすい部分に加飾印刷層を設けるために用いられる」とされる点。
[相違点1-4]本件発明5は、「周波数1Hz、80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層」が除かれているのに対し、引用発明1は「周波数1Hz、80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層」が除かれたものであるか、明らかではない点。

イ 判断
上記[相違点1-3]について検討する。引用発明1の「携帯端末機器の外部に光が漏れやすい部分に加飾印刷層を設けるために用いられるもの」という構成について、引用出願1の段落【0073】(記載事項イ)には、「近年の携帯端末機器の軽薄短小化は、光源と表示パネルとの位置を接近させることになるため、光源からの光がパネルとの間に挟みこまれる粘着層を通って外部に漏れやすくなっており、特に画像端部から光が漏れるとパネルの表示面が見えにくくなるといった不都合を生じさせている。」と記載されている。当該記載に基づけば、引用発明1は、光源と表示パネルとの間に挟み込まれる粘着剤層からの光漏れの問題を、課題とする発明である。そして、引用発明1は、その課題解決のための具体的手段として、内部構成部材に加飾印刷層を施すために、「加飾印刷層付き粘着シート」を光源と表示パネルとの間に配置したものである。
そして、引用発明1において、「携帯端末機器の外部に光が漏れやすい部分に加飾印刷層を設ける」代わりに、「画像表示パネル」自体に加飾印刷層付き粘着シートを設けることとすると、光源からの光がパネルとの間に挟みこまれる粘着層を通って外部に漏れる部分に加飾印刷層が配置されないこととなる。そうすると、携帯端末機器が、「画像表示パネル」を具備することは明らかであり、「画像表示パネル」が「偏光板」を具備することが周知技術であるとしても、引用発明1において、「画像表示パネル」自体に加飾印刷層付き粘着シートを設けることにより、異なる効果を奏することとなる。
したがって、上記[相違点1-3]は、課題解決のための具体的手段における微差であるとはいえない。

ウ むすび
以上のとおり、[相違点1-3]は実質的な相違点であるから、[相違点1-4]について検討するまでもなく、本件発明5と引用発明1とが、同一の発明ではないことは明らかである。
したがって、本件発明5は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

(4)本件発明6
本件発明6は、本件発明5と同じ、「偏光板を有する」粘着剤層「付き偏光板」を含む「画像表示パネル」であって、「前記画像表示パネルと前記前面透明板とが、前記粘着剤層付偏光板の粘着剤層を介して貼り合わされている」とする要件を具備する発明である。そうすると、本件発明6も、本件発明5と同じ理由により、引用発明1と同一の発明ということはできない。

(5)むすび
以上のとおり、本件発明1?6と引用発明1とは、同一の発明ではないから、本件発明1?6は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

2 引用発明2との対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と引用発明2とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点2-1]本件発明1は「偏光板を有する粘着剤層付き偏光板」であるのに対し、引用発明2は「粘着シート」である点。
[相違点2-2]本件発明1は、「画像表示パネル側の面に隆起部を有する」前面透明板を貼り合わせるために用いられるのに対し、引用発明2は、貼り合わせようとする表面保護パネルが画像表示パネル側の面に隆起部を有するとされていない点。
[相違点2-3]本件発明1は、粘着剤層が、「アクリル系ブロック共重合体を含まない粘着剤から形成されており、前記粘着剤が、炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分から形成されるアクリル系ポリマーを含み、前記炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、およびドデシル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上」であり、「紫外線照射により活性化され、(メタ)アクリル系共重合体分子内の他の部分または他の(メタ)アクリル系共重合体分子との間で水素ラジカルを引き抜くことが可能な構造を有する(メタ)アクリル酸エステルを含むモノマーの(メタ)アクリル系共重合体を含む粘着剤層を除く」ものであるのに対し、引用発明2は、このように特定されたものではない点。
[相違点2-4]本件発明1は、粘着剤層が「単層」であるのに対し、引用発明2は、このように特定されたものではない点。
[相違点2-5]本件発明1は、粘着剤層の厚みが「30μm?300μm」であるのに対し、引用発明2は、このように特定されたものではない点。
[相違点2-6]本件発明1は、「粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が0.12MPa?1MPaである(但し、周波数1Hz、80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層を除く)」とされるのに対し、引用発明2は、このように特定されたものではない点。

イ 判断
事案に鑑みて、[相違点2-6]について検討する。
引用発明2は、「80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層を有する」という構成を発明特定事項として具備する。そして、記載事項カの段落【0059】の記載に基づけば、引用文献2において、80℃における貯蔵弾性率は、周波数1Hzで測定されている。
そして、引用文献2の記載事項イの段落【0005】における「本発明が解決しようとする課題は、薄型化した際に、表面保護パネルの割れが生じにくく、かつ表面保護パネルを画像表示パネルに貼付した際に混入した気泡がオートクレーブ処理後に抜けやすく、また高温下に放置しても発泡しにくい電子端末用画像表示モジュール、および当該画像表示パネルに使用する全面貼り用粘着シートを提供することである。」との記載、及び、記載事項エの段落【0017】における「また80℃の貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Paを下回る場合は、高温放置時に粘着剤層中に気泡が発生しやすい。」との記載に基づけば、上記発明特定事項は、引用発明2が課題を解決するために必要な要件であるといえる。そうすると、当業者であっても、引用発明2において、「80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層」を除くとする本件発明1の構成に到るということはできない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件発明2?6
本件発明2?6は、本件発明1と同じ「粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が0.12MPa?1MPaである(但し、周波数1Hz、80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層を除く)」とする要件を具備する発明である。そうすると、本件発明2?6も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明1?6は、当業者であっても、引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、本件発明1?6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

3 引用発明3との対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と引用発明3とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点3-1]本件発明1は「偏光板を有する粘着剤層付き偏光板」であるのに対し、引用発明3は「透明粘着シート」である点。
[相違点3-2]本件発明1は、粘着剤層が、「アクリル系ブロック共重合体を含まない粘着剤から形成されており、前記粘着剤が、炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分から形成されるアクリル系ポリマーを含み、前記炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、およびドデシル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上」であり、「紫外線照射により活性化され、(メタ)アクリル系共重合体分子内の他の部分または他の(メタ)アクリル系共重合体分子との間で水素ラジカルを引き抜くことが可能な構造を有する(メタ)アクリル酸エステルを含むモノマーの(メタ)アクリル系共重合体を含む粘着剤層を除く」ものであるのに対し、引用発明3は、このように特定されたものではない点。
[相違点3-3]本件発明1は、粘着剤層の厚みが「30μm?300μm」であるのに対し、引用発明3は、このように特定されたものではない点。
[相違点3-4]本件発明1は、「粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が0.12MPa?1MPaである(但し、周波数1Hz、80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層を除く)」とされるのに対し、引用発明3は、「25℃、1.0Hzにおける貯蔵弾性率が8.9×10^(4)Pa以下」とされる点。

イ 判断
事案に鑑みて、[相違点3-4]について検討する。
引用発明3は、「25℃、1.0Hzにおける貯蔵弾性率が8.9×10^(4)Pa以下である」とする構成を発明特定事項として具備する。そして、引用文献3の記載事項アの段落【0009】には、発明が解決しようとする課題として、「特に、画像表示装置における表面保護層が凹凸形状を有し、かかる凹凸形状面に粘着シートが適用される場合、又は、凹凸形状を有する層(例えば、偏光板)が設けられた画像表示ユニットの表示面に粘着シートが適用される場合、この表示ムラの解決が望まれている。」と記載されており、引用発明3は、表示ムラの解決を課題としているといえる。そして、引用文献3の記載事項イの段落【0040】には、「貯蔵弾性率は、張り合わせ時に変形した透明粘着シートの残留応力(初期残留応力)の指標である。この値が8.9×10^(4)Pa以下であれば、表示ムラを抑制することができる。例えば、透明粘着シートを10μm程度の凹凸形状面を有する被着体に張り合わせた場合でも、表示ムラを抑制することが可能となる。さらに、貯蔵弾性率を7.4×10^(4)Pa以下とすれば、より高低差の大きい又は複雑な凹凸形状面を有する被着体に透明粘着シートを張り合わせた場合でも、表示ムラの低減が可能となる。」と記載されている。当該記載に基づけば、上記発明特定事項は、引用発明3が課題を解決するために必要な要件であるといえる。そうすると、当業者であっても、引用発明3において、「粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が0.12MPa?1MPaである」とする範囲とする本件発明1の構成に到るということはできない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明3に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件発明2?6
本件発明2?6は、本件発明1と同じ、「粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が0.12MPa?1MPaである(但し、周波数1Hz、80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層を除く)」とする要件を具備する発明である。そうすると、本件発明2?6も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明3に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明1?6は、当業者であっても、引用発明3に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、本件発明1?6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

4 引用発明4との対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と引用発明4とを対比すると、以下の点で相違又は一応相違し、その余の点で一致している。
[相違点4-1]本件発明1は「偏光板を有する粘着剤層付き偏光板」であるのに対し、引用発明4は「剥離ライナー付き粘着シート」である点。
[相違点4-2]本件発明1は、粘着剤が、「炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分から形成されるアクリル系ポリマーを含み、前記炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、およびドデシル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上」であるのに対し、引用発明4は、「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」を含む点。
[相違点4-3]本件発明1は、粘着剤層の厚みが「30μm?300μm」であるのに対し、引用発明4は、粘着剤厚みが「25μm」である点。
[相違点4-4]本件発明1は、「粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が0.12MPa?1MPaである(但し、周波数1Hz、80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層を除く)」とされるのに対し、引用発明4は、「25℃における貯蔵弾性率の値が、1.7×10^(5)Pa」とされるものの、23℃における貯蔵弾性率及び周波数1Hz、80℃における貯蔵弾性率が明らかでない点。

イ 判断
事案に鑑みて[相違点4-2]について検討する。
引用発明4は、「アクリル基を有する樹脂としてトリシクロデカンジメタノールジアクリレート」をトルエンに溶解して溶液を作成し、この溶液をコーティングし、乾燥して得た粘着剤層を、発明特定事項として具備する。そして、引用文献4の記載事項アの段落【0009】には、課題を解決するための手段として、「(2)前記粘着シートを表面保護層 もしくは タッチパネルに貼り付ける工程」、「(3)表面保護層 もしくは タッチパネルを貼り付けた前記粘着シートの反対の面を、画像表示ユニットの表示面に貼り付ける工程」、「(4)前記粘着シートの粘着剤を硬化させる工程」を含む画像表示装置の作製方法が示されている。当該記載に基づけば、引用発明4は、粘着シートを、表面保護層及び画像表示ユニットに貼り合わせた後に、粘着シートの粘着剤を硬化させることを前提としているといえる。そして、引用文献4の記載事項イの段落【0029】における「第3の成分である(C)の硬化性樹脂は、硬化前の組成物の流動性を上げ被着体へのぬれ性を上げるとともに被着体の凹凸面に追従し液晶ムラの発生を抑える。しかも、硬化させることで保持力を向上することができる。」との記載に基づけば、引用発明4における粘着シートは、表面保護層及び画像表示ユニットの表示面に貼り付ける工程の前においては、流動性を上げ被着体へのぬれ性を上げるとともに被着体の凹凸面に追従し液晶ムラの発生を抑えるために、粘着剤を硬化させていない。そうすると、当業者であっても、流動性を上げ被着体へのぬれ性を上げるとともに被着体の凹凸面に追従させるために硬化させずに用いている引用発明4における「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」の代わりに、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートをモノマーとするアクリル系ポリマーを使用する動機付けを見いだすことはできない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明4に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件発明2?4
本件発明2?4は、本件発明1と同じ「粘着剤が、炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分から形成されるアクリル系ポリマーを含み、前記炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、およびドデシル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上」とする要件を具備する発明である。そうすると、本件発明2?4も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明4に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)本件発明5
ア 対比
本件発明5と引用発明4とを対比すると、以下の点で相違又は一応相違し、その余の点で一致している。
[相違点4-5]本件発明5は、「偏光板を有する」粘着剤層「付き偏光板」を含む「画像表示パネル」であって、「前記画像表示パネルと前記前面透明板とが、前記粘着剤層付偏光板の粘着剤層を介して貼り合わされている」のに対し、引用発明4は、「表面保護層の凹凸形状面側に貼付されて積層体を形成し、画像表示ユニットの表示面に貼り合わせるために用いられ」るものの、「剥離ライナー付き」粘着シートである点。
[相違点4-6]本件発明5に係る発明は、粘着剤が、「炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分から形成されるアクリル系ポリマーを含み、前記炭素数1?14のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、およびドデシル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上」であるのに対し、引用発明4は、「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」を含む点。
[相違点4-7]本件発明5に係る発明は、粘着剤層の厚みが「30μm?300μm」であるのに対し、引用発明4は、粘着剤厚みが「25μm」である点。
[相違点4-8]本件発明5に係る発明は、「粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が0.12MPa?1MPaである(但し、周波数1Hz、80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層を除く)」とされるのに対し、引用発明4は、「25℃における貯蔵弾性率の値が、1.7×10^(5)Pa」とされるものの、23℃における貯蔵弾性率及び周波数1Hz、80℃における貯蔵弾性率が明らかでない点。

イ 判断
まず、[相違点4-5]について検討する。
引用発明4は、「アクリル基を有する樹脂としてトリシクロデカンジメタノールジアクリレート」をトルエンに溶解して溶液を作成し、この溶液をコーティングし、乾燥して得た粘着剤層を、発明特定事項として具備する。
引用発明4の「粘着シート」は、「表面保護層の凹凸形状面側に貼付されて積層体を形成し、画像表示ユニットの表示面に貼り合わせるために用いられ」るものであり、引用文献4の記載事項アの段落【0011】にも「画像表示ユニット、上記透明粘着シート、及び表面保護層を含む、画像表示装置」が提供されると記載されている。また、画像表示ユニットとして表面に偏光板を具備するものも、例示するまでもなく、周知技術である。したがって、上記記載及び周知技術に基づけば、引用発明4の「粘着シート」に「偏光板」を有する画像表示ユニットと表面保護層を貼り合わせて、本件発明5の上記[相違点4-5]に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
次に、事案に鑑みて[相違点4-8]について検討すると、引用文献4の記載事項アの段落【0009】には、課題を解決するための手段として、画像表示装置の作製方法が、「(4)前記粘着シートの粘着剤を硬化させる工程」を含むことが記載されている。また、引用文献4の記載事項イの段落【0039】には、「上記したモノマー成分を上記した組成で用いることで、得られる粘着性シートは、硬化前には、貼付時に十分な追従性を達成でき、硬化後には十分な保持力を有する。」と記載されており、上記記載に基づけば、「画像表示ユニット、上記透明粘着シート、及び表面保護層を含む、画像表示装置」とした場合に、十分な保持力を有するためには、モノマー成分を硬化させることが必要であることが理解できる。
そうすると、硬化前において、「25℃における貯蔵弾性率の値が、1.7×10^(5)Pa」であったとしても、「画像表示ユニット、上記透明粘着シート、及び表面保護層を含む、画像表示装置」とした際に、十分な保持力を有するよう粘着シートは硬化され、「粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が0.12MPa?1MPa」とする要件を満たすとは考え難い。
したがって、引用発明4において、本件発明5の[相違点4-5]に係る構成と[相違点4-8]に係る構成の両方を同時に満たすものとすることは、当業者であっても、容易になし得たということはできない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、当業者であっても、引用発明4に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)本件発明6
本件発明6は、本件発明1と同じ「偏光板を有する」粘着剤層「付き偏光板」を含む「画像表示パネル」であって、「前記画像表示パネルと前記前面透明板とが、前記粘着剤層付偏光板の粘着剤層を介して貼り合わされている」という構成及び「粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が0.12MPa?1MPaである(但し、周波数1Hz、80℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(5)Pa以上である粘着剤層を除く)」とする要件を具備する発明である。そうすると、本件発明6も、本件発明5と同じ理由により、当業者であっても、引用発明4に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

(5)むすび
以上のとおり、本件発明1?6は、当業者であっても、引用発明4に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、本件発明1?6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。


第6 原査定についての判断
原査定拒絶理由の理由1(進歩性)について検討すると、前記第5の3に記載したとおり、本件発明1?6は、当業者であっても、原査定拒絶理由の理由1に引用された引用文献1aに記載された発明である引用発明3に基づいて、容易に発明をすることができたものではないから、原査定拒絶理由の理由1によっては、本願を拒絶することはできない。
また、原査定拒絶理由の理由2(明確性)は、本件補正により解消されている。


第7 当審拒絶理由についての判断
当審拒絶理由について検討すると、前記第5の2に記載したとおり、本件発明1?6は、当業者であっても、当審拒絶理由に引用された引用文献1cに記載された発明である引用発明2に基づいて、容易に発明をすることができたものではないから、当審拒絶理由によっても、本願を拒絶することはできない。


第8 その他の拒絶理由についての判断
(1)刊行物提出1拒絶理由のうち、引用文献1dを主引用文献とする拒絶理由については、前記第5の2に記載したとおりであるから、本願を拒絶することはできない。また、刊行物提出1拒絶理由のうち、引用文献2dを主引用文献とする拒絶理由についても、前記第5の4に記載したとおりであり、本願を拒絶することはできない。

(2)刊行物提出2拒絶理由の理由3(拡大先願)については、前記第5の1に記載したとおり、本件発明1?6と、引用出願1に記載された発明である引用発明1とは、同一の発明であるとはいえないから、刊行物提出2拒絶理由の理由3によっては、本願を拒絶することはできない。
また、本件発明1?6は、本件発明が解決しようとする課題を解決できるものであることは明らかであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。
さらに、本件発明1?6の外縁も明確であるから、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていないということもできない。

(3)補正却下理由の理由1(新規性進歩性)及び理由2(進歩性)について検討すると、前記第5の4に記載したとおり、本件発明1?6は、当業者であっても、理由1及び理由2に引用された引用文献1bに記載された発明である引用発明4に基づいて、容易に発明をすることができたものではないから、補正却下理由の理由1及び理由2によっては、本願を拒絶することはできない。
また、補正却下理由の理由3(明確性)は、本件補正により解消されている。


第9 むすび
以上のとおり、原査定拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-09 
出願番号 特願2016-22049(P2016-22049)
審決分類 P 1 8・ 16- WY (G02B)
P 1 8・ 113- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 高松 大
宮澤 浩
発明の名称 粘着剤層、光学フィルムおよび画像表示装置  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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