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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 発明同一 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1353723
審判番号 不服2018-14468  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-31 
確定日 2019-08-13 
事件の表示 特願2014- 59300「有機半導体膜及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月22日出願公開、特開2015-185620、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月20日の出願であって、平成30年5月9日付けで拒絶理由通知がされ、同年7月13日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出され、同年7月24日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年10月31日に拒絶査定不服審判の請求がされた。
その後、当審において、平成31年4月22日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。また、その理由を「当審拒絶理由」という。)がされ、令和1年6月18日付けで手続補正がされるとともに意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、令和1年6月18日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される発明であり、そのうちの本願発明1、2は、それぞれ以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
チエノアセンである有機半導体を3-クロロチオフェンに溶かして有機半導体溶液を調製する工程1と、
基板表面上に前記有機半導体液を付着する工程2と、
基板表面上の前記有機半導体液から3-クロロチオフェンを蒸発させる工程3と、
を含むチエノアセンの単結晶性有機半導体膜の製造方法。」
「【請求項2】
チエノアセンである有機半導体を3-クロロチオフェンに溶かして有機半導体溶液を調製する工程1と、
基板表面に対して起立する端面を有する接触部材が戴置された基板を準備する工程2と、
工程1で得られた溶液を前記基板に供給して、前記端面と前記基板表面に同時に接触する液滴を形成する工程3と、
工程3で得られた液滴から3-クロロチオフェンを蒸発させる工程4と、
を含むチエノアセンの単結晶性有機半導体膜の製造方法。」

なお、本願発明3?5は、本願発明1又は2を減縮した発明である。

第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献Aについて
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献A(特開2012-243911号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【請求項5】
第一の電極を形成する工程A;
前記第一の電極の上に、p型有機半導体および/またはn型有機半導体、ならびにハンセンの溶解度パラメータが20.6?23.0である特定溶媒を含む混合液を塗布する段階aと、当該塗布された混合液に含まれる前記特定溶媒の一部を乾燥させる段階bと、を含む、電極間層を形成する工程B;および
前記電極間層の上に、第二の電極を形成する工程C;
を含む、有機光電変換素子の製造方法。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機光電変換素子およびその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、有機光電変換素子の光電変換効率を向上させるための手段に関する。」

ウ 「【0016】
以下、本発明の好ましい形態を説明する。本形態は、第一の電極と、第二の電極と、第一の電極および第二の電極の間に存在する電極間層と、を有しする、有機光電変換素子に関する。当該電極間層は、p型有機半導体およびn型有機半導体を含む、少なくとも一層の光電変換層を含む構造を有する。そして、電極間層は、電極間層の全体積に対し、0.03?30g/m^(3)の溶媒を含み、当該溶媒は、ハンセンの溶解度パラメータが20.6?23.0である特定溶媒を含む点に特徴を有する。
【0017】
…(略)…
【0018】
<有機光電変換素子>
図1は、本発明の一実施形態に係る、順層型の有機光電変換素子を模式的に表した断面概略図である。図1の有機光電変換素子10は、基板25上に、第一の電極11、電極間層13、および第二の電極12が順次積層されてなる構成を有する。基板25は、主に、その上の第一の電極11を塗布方式で形成するのを容易にするために任意に設けられる部材である。電極間層13は、正孔輸送層26、光電変換層14、および電子輸送層27から構成され、第一の電極11と第二の電極12との間に、この順で積層されている。
…(略)…
【0033】
[電極間層]
本形態の有機光電変換素子は、上述の第一の電極と、第二の電極との間に、電極間層を含む。当該電極間層は、光電変換層を必須に含み、必要に応じて、正孔輸送層、電子輸送層、電荷再結合層のその他の層をさらに含む。
【0034】
(光電変換層)
光電変換層は、光起電力効果を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換する機能を有する。光電変換層は、光電変換材料として、p型有機半導体およびn型有機半導体を必須む。これらの光電変換材料に光が吸収されると、励起子が発生し、これがpn接合界面において、正孔と電子とに電荷分離される。
…(略)…
【0062】
(電子輸送層)
本形態の電極間層は、必要に応じて電子輸送層を含みうる。電子輸送層は、電子を輸送する機能を有し、かつ正孔を輸送する能力が著しく小さい(例えば、電子の移動度の10分の1以下)という性質を有する。電子輸送層は、光電変換層と陰極との間に設けられ、電子を陰極へと輸送しつつ、正孔の移動を阻止することで、電子と正孔とが再結合するのを防ぐことができる。
【0063】
電子輸送層に用いられる電子輸送材料は、特に制限はなく、本技術分野で使用されうる材料を適宜採用することができる。例えば、…(略)…
【0066】
また、不純物をドープしたn性の高い電子輸送材料も用いることもできる。一例を挙げると、…(略)…などに記載されたものが挙げられる。具体例としては、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン(TPD)や4,4’-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)などの芳香族ジアミン化合物やその誘導体、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、4,4’,4’’-トリス(N-(3-メチルフェニル)N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、ポルフィン、テトラフェニルポルフィン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニウムフタロシアニンオキサイドなどのポリフィリン化合物、トリアゾール誘導体、オキサジザゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アニールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体などを用いることができ、高分子材料では、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、ジアセチレンなどの重合体や、その誘導体などを好ましく用いることができる。なお、これらの電子輸送材料は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、各材料からなる層を2種以上積層させて電子輸送層を構成することも可能である。
…(略)…
【0072】
本形態の有機光電変換素子は、上述の電極間層に、電極間層の全体積に対し、0.03?30g/m^(3)の量の溶媒を含むことを特徴とする。言い換えると、第一の電極と、第二の電極との間に存在する全ての層における溶媒の総量が、第一の電極と、第二の電極との間に存在する全ての層の体積の合計に対し、0.03?30g/m^(3)であることを要する。特に、上記溶媒量が0.03?3g/m^(3)の範囲であることが好ましく、0.03?0.3g/m^(3)の範囲であることがより好ましい。電極間層に含まれる溶媒を上記範囲内とすることにより、優れた光電変換効率を有し、かつ耐熱性にも優れる有機光電変換素子とすることができる。また、このような有機光電変換素子は、耐熱性に加えて、耐光性にも優れる。なお、当該溶媒は、電極間層を塗布方式に形成する場合には、電極間層を構成する材料を溶解または分散させるための溶媒でありうるが、これに制限されない。また、本明細書において、電極間層に含まれる溶媒量は、後述の実施例に記載の測定方法による値を採用する。
【0073】
本形態の有機光電変換素子のうち、図3に示される形態のように、電極間層として、光電変換層、正孔輸送層、電子輸送層、および電荷再結合層の4つの層が存在する場合は、これらの層のうちのいずれか1層のみ、いずれか2層のみ、いずれか3層のみに溶媒が含まれる形態も考えられる。しかしながら、通常、電極間層に含まれる4つの各層は、2つの電極に挟まれ、互いに接触している。よって、仮に製造直後には1層のみに溶媒が含まれていたとしても、当該溶媒は他の層に拡散しうる。したがって、本発明では、電極間層の全体における溶媒量を規定するものとする。
…(略)・・・
【0075】
本形態では、上記溶媒が、ハンセンの溶解度パラメータ(以下、「HSP」と略記する場合がある)が20.6?23.0である特定溶媒(以下、単に「特定溶媒」とも称する)を含む点にも特徴を有する。特に、特定溶媒のHSPが21?22の範囲である形態が好ましい。電極間層に含まれる溶媒が、HSPが20.6?23.0である特定溶媒を含むことにより、優れた光電変換効率を有し、かつ耐熱性にも優れる有機光電変換素子とすることができる。また、このような有機光電変換素子は、耐熱性に加えて、耐光性にも優れる。なお、ハンセンの溶解度パラメーター(HSP)は、…(略)…
【0076】
上記特定溶媒が電極間層に含まれることにより、上記効果が発揮されるメカニズムは定かではないが、HSPが20.6?23.0である特定溶媒は、光電変換層におけるp型有機半導体および/またはn型有機半導体と相溶性に優れる。したがって、製造工程において、p型有機半導体とn型有機半導体とのpn接合界面を良好に形成することができる;あるいは、製造後に接合がpn接合界面を良好に維持することができる、という理由が考えられる。特に、p型有機半導体とn型有機半導体との接合が、バルクヘテロ接合である場合は、p型有機半導体のドメイン(p型共役系高分子の場合はマトリックス)とn型有機半導体のドメインとのミクロ相分離構造が、特定溶媒により良好に形成される;または維持されることが考えられる。ただし、本発明の技術的範囲は、あくまでも特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、上記メカニズムにより限定されるものではない。したがって、本発明の効果が上記メカニズム以外のメカニズムによって生じていたとしても、本発明の技術的範囲は限定的に解釈されるものではない。
【0077】
本形態で使用される特定溶媒は、HSPが20.6?23.0の範囲内にある溶媒であれば特に制限はない。このような特定溶媒としては、例えば、下記化学式3で表される構造を有する溶媒が挙げられる。
【0078】
【化3】

【0079】
式中、Z_(2)は、酸素原子、硫黄原子、-CH=C(CH_(3))-、または-CH=C(C_(2)H_(5))-を表し、
Xは、それぞれ独立して、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)を表し、
Yは、メチル基を表し、
mは、1または2表し、
nは、0または1を表す。
【0080】
上記化学式3で表される溶剤としては、例えば、クロロトルエン、ジクロロトルエン、クロロキシレン、ブロモトルエン、ジブロモトルエン、ブロモキシレン、ブロモエチルベンゼン、フルオロトルエン、フルオロキシレン、ヨードトルエン、ヨードキシレン、クロロチオフェン、ブロモチオフェン、ヨードチオフェン、クロロメチルチオフェン、ブロモメチルチオフェン、およびブロモフランなどが挙げられる。このうち、クロロトルエン、クロロキシレン、ブロモトルエン、ブロモキシレン、クロロチオフェン、ブロモチオフェン、またはブロモフランを用いることが好ましい。
【0081】
より具体的には、2-クロロトルエン、3-クロロトルエン、4-クロロトルエン;3-クロロ-o-キシレン、4-クロロ-o-キシレン、2-クロロ-m-キシレン、4-クロロ-o-キシレン;2-ブロモトルエン、3-ブロモトルエン;3-ブロモ-o-キシレン、4-ブロモ-o-キシレン、2-ブロモ-m-キシレン、4-ブロモ-o-キシレン;2-クロロチオフェン、3-クロロチオフェン;2-ブロモチオフェン、3-ブロモチオフェン;3-ブロモフランが挙げられる。このうち、2-クロロトルエン、3-クロロトルエン、3-クロロ-o-キシレン、4-クロロ-o-キシレン、2-ブロモトルエン、3-ブロモトルエン、3-クロロチオフェン、3-ブロモチオフェン、3-ブロモフランを用いることが好ましい。なお、特定溶媒は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
…(略)…
【0092】
<有機光電変換素子の製造方法>
上述の本形態の有機光電変換素子の製造方法は特に制限はなく、従来公知の手法を適宜参照することにより製造することができる。有機光電変換素子が、第一の電極、光電変換層、および第二の電極の3つの基本部材から構成される場合の製造方法としては、(1)第一の電極、光電変換層、第二の電極の各部材を別々に作製した後、これらを順次積層して、有機光電変換素子を製造する方法;(2)光電変換層を形成した後、光電変換層の一方の面に、第一の電極材料を含む液体を塗布、乾燥し、その後、光電変換層の他方の面に、第二の電極材料を含む液体を塗布、乾燥して有機光電変換素子を製造する方法;(3)第一の電極を形成した後、第一の電極の一方の面に、光電変換材料および溶媒を含む混合液を塗布、乾燥し、その後、光電変換層の表面に第二の電極材料を含む液体を塗布、乾燥して有機光電変換素子を製造する方法;などが挙げられる。これらの方法のうち、操作の容易性の観点から、(3)の方法を用いることが好ましい。
【0093】
すなわち、本発明の有機光電変換素子の製造方法の一形態は、第一の電極を形成する工程A;第一の電極の上に、p型有機半導体および/またはn型有機半導体、ならびにハンセンの溶解度パラメータが20.6?23.0である特定溶媒を含む混合液を塗布する段階aと、当該塗布された混合液に含まれる特定溶媒の一部を乾燥させる段階bと、を含む、電極間層を形成する工程B;および電極間層の上に、第二の電極を形成する工程C;を含む点に特徴を有する。以下、本形態の有機光電変換素子の製造方法の各工程について、詳細に説明する。
【0094】
[工程A]
…(略)…
【0095】
[工程B]
上記工程Aで第一の電極を形成した後、第一の電極上に、電極間層を形成する工程Bを行う。電極間層を形成する工程Bは、第一の電極の上に、p型有機半導体および/またはn型有機半導体、ならびにハンセンの溶解度パラメータが20.6?23.0である特定溶媒を含む混合液を塗布する段階aと、当該塗布された混合液に含まれる特定溶媒の一部を乾燥させる段階bと、を含む。段階aおよびbにより、電極間層に必須に含まれる光電変換層が形成される。ただし、電極間層が、光電変換層以外にも、正孔輸送層、電子輸送層、または電荷再結合層などの他の層を含む場合は、工程Bは、段階aおよびb以外にも、他の層を形成するための工程を含みうる。
【0096】
(段階a)
段階aでは、第一の電極の上に、p型有機半導体および/またはn型有機半導体、ならびにハンセンの溶解度パラメータが20.6?23.0である特定溶媒を含む混合液を塗布する。
【0097】
当該段階aにおいて、p型有機半導体、n型有機半導体、および特定溶媒を含む混合液の調製方法は、特に制限はない。例えば、特定溶媒にp型有機半導体を添加し溶解または分散させた後に、n型有機半導体を添加し溶解または分散させてもよいし;特定溶媒にn型有機半導体を添加し溶解または分散させた後に、p型有機半導体を添加し溶解または分散させてもよいし;特定溶媒にp型有機半導体およびn型有機半導体を同時に添加し溶解または分散させてもよい。また、混合液は、特定溶媒以外の他の溶媒を含んでもよく、当該他の溶媒を添加する順番も特に制限はない。なお、p型有機半導体、n型有機半導体、および特定溶媒の具体的な材料については、上述の有機光電変換素子の各構成の詳細な説明に記載のとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0098】
次に、得られた混合液を第一の電極の上に塗布する。ここで、混合液を塗布する面は、電極間層が光電変換層のみからなる場合は、第一の電極の表面である。一方、電極間層が、光電変換層以外に正孔輸送層、電子輸送層、または電荷再結合層などの他の層を含む場合は、第一の電極または他の層のうちの、いずれかの表面である。」

エ 「【実施例】
【0109】
本発明の作用効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0110】
<有機光電変換素子の作製>
[実施例1]
有機光電変換素子を以下の手順で作製した。なお、以下の操作は、特に断りがない限り窒素雰囲気下で実施した。
…(略)…
【0114】
(電子輸送層)
特開2010-525613号公報に記載の実施例2の方法に準じて電子輸送層を形成した。すなわち、上記で得た積層体をイソプロパノール中で、超音波処理することによって、洗浄した。次いで、イソプロパノール溶液から、ポリエチレンイミンおよびグリセロールプロポキシラートトリグリシジルエーテル(GPTGE)の薄層をブレードコートした。このようにして形成した膜を、加熱して硬化させ電子輸送層を形成した。
【0115】
(光電変換層)
p型有機半導体としてのPSBTDT(下記化学式5)と、n型有機半導体としてのPC60BM(6,6-フェニル-C61-ブチリックアシッドメチルエステル、HOMO:-6.1eV、LUMO:-4.3eV;フロンティアカーボン社製)とを1:0.8の割合で混合し、この混合物を合計濃度が3.0質量%になるようにブロモキシレンに溶解した。得られた溶液をフィルターでろ過した後、上記電子輸送層上に塗布した。これを80℃で2分間乾燥し、乾燥膜厚が約200nmの光電変換層を形成した。」

(2)したがって、上記(1)ア、ウをまとめると、引用文献Aには、次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。

「第一の電極を形成する工程A;
前記第一の電極の上に、p型有機半導体および/またはn型有機半導体、ならびにハンセンの溶解度パラメータが20.6?23.0である特定溶媒を含む混合液を塗布する段階aと、当該塗布された混合液に含まれる前記特定溶媒の一部を乾燥させる段階bと、を含む、電極間層を形成する工程B;および
前記電極間層の上に、第二の電極を形成する工程C;
を含む、有機光電変換素子の製造方法であって、
電極間層には、必須に含まれる光電変換層、及び光電変換層以外に電子輸送層を含み、工程Bは、段階aおよび段階b以外に電子輸送層を形成するための工程を含み、
電子輸送層に用いられる電子輸送材料として、チオフェンなどの重合体や、その誘導体などを用い、
特定溶媒として、3-クロロチオフェンを用い、
HSPが20.6?23.0である特定溶媒は、光電変換層におけるp型有機半導体および/またはn型有機半導体と相溶性に優れるので、当該特定溶媒を含むことにより、優れた光電変換効率を有し、かつ耐熱性にも優れる有機光電変換素子とすることができる、
有機光電変換素子の製造方法。」

(3)また、上記(1)エ及びウの段落【0080】から、引用文献Aに記載の実施例について、以下のことがいえる。
「イソプロパノール溶液から、ポリエチレンイミンおよびGPTGEの薄層をブレードコートして形成した膜を、加熱して硬化させ電子輸送層を形成し、
PSBTDTとPC60BMとを混合し、この混合物を特定溶媒のブロモキシレンに溶解し、上記電子輸送層上に塗布し、乾燥し、光電変換層を形成すること。」

2 引用文献B?Dについて
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献B(特開2007-019382号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【請求項1】
ゲート電極と、
ゲート絶縁層と、
有機単結晶層と、
ソース電極と、
ドレイン電極と
を有し、
前記ゲート電極と前記有機単結晶層との間に前記ゲート絶縁層が挟まれており、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に前記有機単結晶層の少なくとも一部が挟まれており、
前記有機単結晶層は、分割された複数のドメインが存在せず、そしてその表面には凹凸が存在しない単結晶膜からなる、有機半導体トランジスタ。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献C(国際公開第2011/040155号)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「[0027](実施の形態1)
A.実施の形態1の基本工程
本発明の実施の形態1における有機半導体膜の製造方法の基本工程について、図1A、1B、及び図2Aを参照して説明する。この製造方法は塗布法に基づくものであり、基板1、及び端面接触部材2を用いる。すなわち、有機半導体材料及び溶媒を含む原料溶液を、図1Aに示すように、端面接触部材2に接触するように基板1上に供給して、液滴3を形成する。この状態で液滴3を乾燥させることにより、基板1上に有機半導体膜4を形成する。」
「[0031] この乾燥プロセスにおいては、原料溶液の液滴3が接触面2aに付着した状態によって、接触面2aとの接触を介して結晶成長方向を規定する作用が働く。これにより、結晶性の制御効果が得られ、有機半導体材料の分子の配列の規則性が良好になり、電子伝導性(移動度)の向上に寄与するものと考えられる。なお、形成される有機半導体膜4は、多結晶状態であっても結晶性が良好で、十分に良好な半導体特性が得られる。」

(3)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献D(特開2006-216654号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0069】
溶媒中における有機半導体材料の含有量は、用いる溶媒の種類、また、後述する有機半導体材料等の具体的選択によって変わってくるが、塗布によりこれ等液状材料を基板上に適用して、薄膜を形成させるためには、該材料中において有機半導体材料は0.01?10.0質量%、好ましくは0.1?5.0質量%の範囲で溶解していることが好ましい。濃度が高すぎると、基板上の均一な延展ができない、また低すぎると、基板上での液切れによる塗膜のピンホール等が生じやすい。」

3 当審拒絶理由に引用された文献(引用文献1?4、先願1)
(1)当審拒絶理由に引用された引用文献1は、特開2003-238286号公報である。

(2)当審拒絶理由に引用された引用文献2(H. Minemawari et al., Inkjet printing of single-crystal films, Nature 2011, Vol.475, p.364-367)である。

(3)当審拒絶理由に引用された引用文献3(T. Uemura et al., Very High Mobility in Solution-Processed Organic Thin-Film Transistors of Highly Ordered [1]Benzothieno[3,2-b]benzothiophene Derivatives, Applied Physics Express 2(2009)111501-1?111501-3)である。

(4)当審拒絶理由に引用された引用文献4(K. Nakayama et al., Patternable Solution-Crystallized Organic Transistors with High Charge Carrier Mobility, Advanced Materials 2011, Vol.23, p.1626-1629)である。

(5)当審拒絶理由に引用された先願1は、特願2015-504421号(国際公開第2014/136953号)である。

第4 原査定の概要及び原査定についての判断
1 原査定(平成30年7月24日付け拒絶査定)は、請求項9、11、13、14に係る発明について、上記引用文献Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものであり、また、請求項9?14に係る発明について、上記引用文献A?Dに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献等一覧
A.特開2012-243911号公報
B.特開2007-019382号公報
C.国際公開第2011/040155号
D.特開2006-216654号公報

2 令和1年6月18日付け手続き補正において、請求項1(原査定時の請求項9)に係る発明及び請求項2(原査定時の請求項10)に係る発明は、いずれも、「チエノアセンである有機半導体を3-クロロチオフェンに溶かして有機半導体溶液を調製する工程1」を含む「チエノアセンの単結晶性有機半導体膜の製造方法」という構成となっている。

一方、引用発明Aは、上記第3の1(2)のとおり、「特定溶媒を含む混合液を塗布する段階a」を含む、「電極間層を形成する工程B」を含む「有機光電変換素子の製造方法であって、電極間層には、必須に含まれる光電変換層、及び光電変換層以外に電子輸送層を含み、工程Bは、段階aおよび段階b以外に電子輸送層を形成するための工程を含み」、「特定溶媒として、3-クロロチオフェンを用い、HSPが20.6?23.0である特定溶媒は、光電変換層におけるp型有機半導体および/またはn型有機半導体と相溶性に優れるので、当該特定溶媒を含むことにより、優れた光電変換効率を有し、かつ耐熱性にも優れる有機光電変換素子とすることができる、有機光電変換素子の製造方法」であり、「特定溶媒として、3-クロロチオフェン」を用いて、電極間層を形成するものの、電極間層に、「必須に含まれる光電変換層」として、「チエノアセンである有機半導体」を含むものではない。

また、引用発明Aは、「工程Bは、段階aおよび段階b以外に電子輸送層を形成するための工程を含み、電子輸送層に用いられる電子輸送材料として、チオフェンなどの重合体や、その誘導体などを用い」るものの、電子輸送材料として、「チエノアセンである有機半導体」を含むものものでもなく、しかも、「電子輸送層を形成するための工程」において、「特定溶媒として」の「3-クロロチオフェン」を用いるものでもない。
また、上記第3の1(3)のとおり、引用文献Aに記載の実施例において、電子輸送層の形成では、特定溶媒を用いておらず、引用発明Aにおいて、「電子輸送層を形成するための工程」において、「3-クロロチオフェン」を用いることが自明であるとはいえない。

しかも、引用文献Aには、上記第3の1(2)の摘記箇所を含む、明細書、特許請求の範囲及び図面全般を精査しても、「チエノアセンである有機半導体」を含む構成は記載も示唆もされていない。
また、引用文献B?Dにも、「チエノアセンである有機半導体」を含む構成は記載も示唆もされていない。
さらに、引用発明Aのような、チオフェンなどの重合体や、その誘導体などを光電変換層または電子輸送層などに用いた有機光電変換素子の製造方法において、チオフェンなどの重合体や、その誘導体の代わりに、単結晶となりうるチエノアセンを用いることは、それらの結晶状態が異なることから、引用文献B?Dを参照したとしても当業者が容易に想到しうるものとも認められない。

以上のとおりであるから、本願発明1、2は、引用文献Aに記載された発明であるとはいえず、また、本願発明1は、引用文献Aに記載された発明及び引用文献B?Dに記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 そして、本願発明3?5(それぞれ、原査定時の請求項12?14に係る発明)は、本願発明1、2の「チエノアセンである有機半導体を3-クロロチオフェンに溶かして有機半導体溶液を調製する工程1」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1、2と同じ理由により、引用文献Aに記載された発明及び引用文献B?Dに記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第5 当審拒絶理由について
1 理由1(サポート要件)について
当審では、請求項1、9、10には、「チオフェン誘導体の単結晶性有機半導体膜」、請求項9、10には、「チオフェン誘導体である有機半導体」と記載されており、また、請求項5、11には、「有機半導体がポリチオフェン又はチエノアセン」と記載されているものの、単結晶性有機半導体膜や有機半導体が「チエノアセン」であるものにおいては、本願発明の課題を解決できたとしても、それ以外の、ポリマーのチオフェン誘導体においては、前記発明の課題を解決できるとはいえないと考えるべきであり、本願の発明の詳細な説明の記載からは、請求項1、9、10に記載された発明において特定される範囲においてまで、本願発明の課題が解決されることを、発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識からは理解することができず、特許請求の範囲の請求項1、9、10及び請求項1、9、10を引用する請求項2?8、11?16の記載は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識に照らして、当業者が本願明細書に記載された本願発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えているから、請求項1、9、10及び請求項1、9、10を引用する請求項2?8、11?16に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとの拒絶の理由と通知している。
しかしながら、令和1年6月18日付け手続補正により、請求項1(補正前の請求項9)、請求項2(補正前の請求項10)において、「チオフェン誘導体の単結晶性有機半導体膜」、「チオフェン誘導体である有機半導体」が、それぞれ「チエノアセンの単結晶性有機半導体膜」、「チエノアセンである有機半導体」と補正され、補正前の請求項1、5、11は削除された結果、この拒絶の理由は解消した。

2 理由2(進歩性)について
当審では、請求項1?8、15、16について、上記の引用文献1?4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるとの拒絶の理由を通知しており、当審拒絶理由の通知時の請求項1?8、15、16(平成30年7月13日付け手続き補正による補正後の請求項1?8、15、16)は、請求項1に係る発明の発明特定事項「1mm^(2)当たりの面積中に存在するドメイン数が5以下であるチオフェン誘導体の単結晶有機半導体薄膜」を含むものである。
しかしながら、当該請求項1?8、15、16は令和1年6月18日付け手続補正でいずれも削除され、令和1年6月18日付け手続き補正により補正された特許請求の範囲において、請求項1、2は、上記発明特定事項を含まないものとなっている。
したがって、この拒絶理由は解消した。

3 理由3(拡大先願)について
当審では、 請求項1?8、15、16について、その出願前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた上記の日本語特許出願(先願1)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないとの拒絶の理由を通知しているが、当審拒絶理由の通知時の請求項1?8、15、16(平成30年7月13日付け手続き補正による補正後の請求項1?8、15、16)は、「請求項1に係る発明の発明特定事項1mm^(2)当たりの面積中に存在するドメイン数が5以下であるチオフェン誘導体の単結晶」を含むものである。
しかしながら、当該請求項1?8、15、16は令和1年6月18日付け手続補正でいずれも削除され、令和1年6月18日付け手続き補正により補正された特許請求の範囲において、請求項1、2は、上記発明特定事項を含まないものとなっている。
したがって、この拒絶理由は解消した。

第6 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-07-29 
出願番号 特願2014-59300(P2014-59300)
審決分類 P 1 8・ 161- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 113- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 智之宇多川 勉正山 旭  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 恩田 春香
小田 浩
発明の名称 有機半導体膜及びその製造方法  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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