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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B65B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65B
審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  B65B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B65B
管理番号 1353788
審判番号 無効2017-800087  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-07-06 
確定日 2019-07-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第4194737号発明「薬剤分包用ロールペーパ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、参加人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件無効審判の請求に係る特許4194737号(以下「本件特許」という。)は、平成9年9月22日(優先権主張 平成8年9月20日、平成9年9月19日)に出願した特願平9-257175号(以下「原出願」という。)の一部を、平成10年11月30日に新たな特許出願(特願平10-340008号(以下「分割親出願1」という。))とし、その一部を、平成12年2月10日に新たな特許出願(特願2000-33185号(以下「分割親出願2」という。))とし、さらにその一部を、平成12年6月2日に新たな特許出願(特願2000-166273号、以下「本件特許出願」という。)としたものであって、平成20年10月3日に、本件特許の設定登録がなされたものである。そして、その手続の概要は以下のとおりである。
平成8年9月20日 優先権主張基礎出願1出願
(特願平8-250492号)
平成9年9月19日 優先権主張基礎出願2出願
(特願平9-254891号)
平成9年9月22日 原出願
(特願平9-257175号)
平成10年11月30日 分割親出願1
(特願平10-340008号)
平成12年2月10日 分割親出願2
(特願2000-33185号)
平成12年6月2日 本件特許に係る本件特許出願
(特願2000-166273号)
平成19年7月26日付け 拒絶理由通知
平成19年10月1日 意見書・手続補正書
平成20年3月13日付け 拒絶理由通知
平成20年5月15日 意見書・手続補正書
平成20年10月3日 特許権の設定登録(特許第4194737 号)
平成22年9月7日 訂正審判の請求(訂正2010-3900 95号)
平成22年11月9日付け 訂正2010-390095号審決(請求 認容、確定)
平成29年7月6日 本件特許無効審判の請求(以下本件特許無 効審判請求の審判請求書を「請求書」とい う。)
平成29年10月6日 審判事件答弁書(以下「答弁書」という。 )
平成29年11月27日付け 審理事項通知
平成30年1月15日 請求人口頭審理陳述要領書(以下「請求人 要領書(1)」という。)
平成30年1月15日 被請求人口頭審理陳述要領書(以下「被請 求人要領書(1)」という。)
平成30年1月25日付け 審理事項通知(2)
平成30年2月2日 請求人口頭審理陳述要領書(2)(以下「 請求人要領書(2)」という。)
平成30年2月2日 被請求人口頭審理陳述要領書(2)(以下 「被請求人要領書(2)」という。)
平成30年2月2日 被請求人口頭審理陳述要領書(3)(以下 「被請求人要領書(3)」という。)
平成30年2月9日 請求人口頭審理陳述要領書(3)(以下「 請求人要領書(3)」という。)
平成30年2月9日 第1回口頭審理
平成30年2月23日 請求人上申書(以下「請求人上申書(1) 」という。)
平成30年3月9日 被請求人上申書(以下「被請求人上申書( 1)」という。)
平成30年4月27日 株式会社ネクストによる参加申請書
平成30年5月25日 請求人意見書
平成30年6月11日付け 参加許否の決定(許可)
平成30年7月5日付け 手続中止通知
平成30年8月13日 請求人上申書(以下「請求人上申書(2) 」という。)
平成30年11月8日 請求人上申書(以下「請求人上申書(3) 」という。)
平成30年11月8日 請求取下書(請求人のみ)
平成31年2月13日付け 手続中止解除通知
平成31年2月13日付け 通知書(参加人に対し)
平成31年3月7日 被請求人上申書(以下「被請求人上申書」 (2)という。)
平成31年3月15日 参加人審判事件弁駁書(以下「参加人弁駁 書」という。)

なお、本件特許については、平成29年7月10日に、別途、請求人日進医療器株式会社により特許無効審判(無効2017-800089号)が請求されており、当該無効審判事件については、
特許第4194737号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。」
との審決が、平成30年8月6日に確定した。

以下、本審決において、記載箇所を行数により特定する場合は、空白行を含まない。また、「・・・」は記載の省略を意味し、証拠は、例えば甲第1号証を甲1のように略記する。さらに、甲1等に記載された発明あるいは事項を、それぞれ「甲1発明」、「甲1事項」という。

第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、確定した上記特許無効審判(無効2017-800089号)事件において、平成29年10月6日の訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1及び2にそれぞれ記載された事項により特定されるものであるところ、分説記号を添えて表記すると次のとおりである。

「【請求項1】
A-a. 非回転に支持された支持軸の周りに回転自在に中空軸を設け、
A-b. 中空軸にはモータブレーキを係合させ、
A-c. 中空軸に着脱自在に装着されるロールペーパのシートを送りローラで送り出す給紙部と、
A-d. 2つ折りされたシートの間にホッパから薬剤を投入し、薬剤を投入されたシートを所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールする加熱ローラを有する分包部とを備え、
A-e. ロールペーパの回転角度を検出するために支持軸の片端に角度センサを設け、
A-f. 上記中空軸と上記支持軸の固定支持板間で上記中空軸のずれを検出するずれ検出センサを設け、
A-g. 分包部へのシート送り経路上でシート送り長さを測定する測長センサを設け、
A-h. ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその固定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接する端に設け、
A-i. 角度センサ及び測長センサの信号に基づいてシート張力をロールペーパ径に応じて調整しながら薬剤を分包するようにし、
A-j. さらに角度センサの信号とずれ検出センサの信号との不一致により上記中空軸に着脱自在に装着されたロールペーパと上記中空軸とのずれを検出するようにした薬剤分包装置に用いられ、
B. 中空芯管とその上に薬剤分包用シートをロール状に巻いたロールペーパとから成り、
C. ロールペーパのシートの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与するために、支持軸に設けた角度センサによる回転角度の検出信号と測長センサの検出信号とからシートの巻量が算出可能であって、その角度センサによる検出が可能な位置に複数の磁石を配置し、
D. その磁石をロールペーパと共に回転するように配設して成る
E. 薬剤分包用ロールペーパ。
【請求項2】
F. 前記角度センサをホール素子センサとし、測長センサから基準信号を得てずれを検出することを特徴とする請求項1に記載の薬剤分包用ロールペーパ。」

第3 参加人の主張及び証拠方法
参加人は、「参加人弁駁書」において、「訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2においても、本件事件で請求人(参加人)が主張する無効理由1?5は解消しない。」(第6 1)、及び、「参加人は、本件事件において請求人が提出した本通知書に記載の書面に記載された事項を陳述する。請求人が、本件事件で主張しているとおり、特許第4194737号の訂正前の請求項1ないし2に係る発明についての特許は、無効理由1?5があり、無効とされるべきものである。」(第6 2)と主張している。このことから、上記「本通知書に記載の書面」、すなわち「審判請求書」、「請求人要領書(1)」、「請求人要領書(2)」、「請求人要領書(3)」、「請求人上申書(1)」、「請求人意見書」、「請求人上申書(2)」、及び、「請求人上申書(3)」(平成31年2月13日付け通知書の「2.」)においてした請求人の主張は、参加人においても主張するものということができる。

そうすると、参加人は、「特許第4194737号の請求項1ないし2に係る発明についての特許は無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めるものであり、以下の証拠方法により、次の無効理由を主張するものである。(請求書 第6.)

1.無効理由の概要
参加人が主張する無効理由は、次に示す無効理由1?5であって、これのみである。(第1回口頭審理調書 請求人の欄の4、参加人弁駁書)
(1)無効理由1(特許法第29条第1項第3号)
本件発明は、本件特許出願の分割が、特許法第44条第1項の規定に適合しないから、当該出願の出願日は、同条第2項に規定される「もとの特許出願の時にしたものとみなす」ことはできず現実の出願日である。よって、本件発明は、当該もとの出願の公開公報である甲1発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(2)無効理由2(特許法第29条第2項)
上記(1)に記載したとおり、本件特許出願の出願日は現実の出願日であるから、本件発明は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(3)無効理由3(特許法第17条の2第3項)
本件特許出願についてした平成19年10月1日付け手続補正書(甲5)による補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合しないから、その特許は同法123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
(4)無効理由4(特許法第36条第6項第1号)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないから、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(5)無効理由5(特許法第36条第6項第2号)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないから、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

2.証拠方法
請求書に添付して甲1?12が提出され、請求人要領書(1)に添付して甲13、甲14、及び、甲15の1?3が提出され、請求人要領書(2)に添付して甲16?甲19が提出され、請求人上申書(1)に添付して甲20?25が提出された。
甲1:特開平11-157715号公報
甲2:訂正2010-390095号の審決
甲3:本件特許出願(特願2000-166273号)の願書、明細書、図面及び要約書
甲4:本件特許出願についての平成19年7月26日付け拒絶理由通知
甲5:本件特許出願についての、平成19年10月1日提出の手続補正書
甲6:本件特許出願についての、平成19年10月1日提出の意見書
甲7:J-PlatPatのウェブサイトの特願平09-257175号についての分割出願情報のページ
甲8:原出願(特願平9-257175号)の願書、明細書、図面及び要約書
甲9:本件特許権に係る侵害訴訟(平成28年(ワ)7536号 特許権侵害差止等請求事件)の訴状
甲10:上記本件特許権に係る侵害訴訟の平成28年8月25日提出の訴状訂正申立書
甲11:上記本件特許権に係る侵害訴訟の平成28年12月28日付けの原告準備書面(1)
甲12:上記本件特許権に係る侵害訴訟の平成29年3月31日付けの原告準備書面(2)
甲13:上記本件特許権に係る侵害訴訟の平成29年11月30日付けの被告ら第9準備書面
甲14:平成30年1月10日付け「実験報告書(ダブル)」株式会社ネクスト 川岡重之
甲15の1:平成29年11月27日撮影、株式会社湯山製作所製のCPXIIIs(RenoS:印字装置なし)を撮影した動画
甲15の2:平成29年11月27日撮影、株式会社湯山製作所製のCPXIIIs(RenoS:印字装置なし)を撮影した動画
甲15の3:平成29年11月24日撮影、株式会社湯山製作所製のCPXIIIs(RenoS:印字装置なし)を撮影した動画
甲16:分割親出願2(特願2000-33185号)の願書、明細書、図面及び要約書
甲17:高部眞規子「実務詳説 特許関係訴訟〔第3版〕」一般社団法人金融財政事情研究会、平成28年8月31日第3版第1刷発行、162?165、186?189ページ
甲18:新村出「広辞苑 第六版」株式会社岩波書店、2008年1月11日第六版 第一刷発行、2987及び2988ページ
甲19:平成30年1月15日撮影、株式会社湯山製作所製の薬剤分包用ロールペーパ製品(シングルタイプ、ダブルタイプ)を撮影した写真
甲20:「ユヤマ薬科機器総合カタログ YUYAMA PHARMACEUTICAL EQUIPMENT GENERAL CATALOG vol.5」、2004年9月現在、32?43及び58?63ページ
甲21:「ユヤマ薬科機器総合カタログ YUYAMA PHARMACEUTICAL EQUIPMENT GENERAL CATALOG vol.4」、株式会社湯山製作所他、2001年9月現在、32?47及び58?63ページ
甲22:「小型自動分割分包機 charty シャルティ」パンフレット、株式会社湯山製作所他、2003年9月現在、
甲23:「薬剤自動分割分包機 AX-21 アクス」パンフレット、キャノンライフケアソリューソンズ株式会社、2013年9月現在
甲24:「JISハンドブック 32紙・パルプ(当審注:”32”は、原文は四角囲みされている。)」、財団法人日本規格協会、2007年6月22日第1版第1刷発行、48?49ページ
甲25:紙業タイムス社出版部、「新・紙加工便覧」、株式会社紙業タイムス社、昭和55年11月15日発行、112?113ページ

3.無効理由1?5についての参加人の主張の概要
(1)無効理由1(特許法第29条第1項第3号)について
本件特許出願(特願2000-166273号)は、原出願(特願平9-257175号)を分割出願した、分割親出願1(特願平10-340008号)を分割出願した、分割親出願2(特願2000-33185号)を、さらに分割出願したものである(甲7、以下も参照)。しかし、本件特許明細書に記載された事項のうち、次のア.?キ.に示した事項1?7は、以下の点で、原出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(甲8:以下「原出願当初明細書」という。)に記載された事項の範囲内ではない。
したがって、本件特許に係る出願日はその現実の出願日である平成12年6月2日であるから、本件発明1及び2は、平成11年6月15日に出願公開された原出願の公開公報(特開平11-157715号公報、甲1)に記載された発明、すなわち、甲1発明である。

ア.事項1(原出願当初明細書に記載された実施の形態)
原出願当初明細書には、シート張力の制御方法として、段落【0013】?【0015】に記載された「測長センサのみを用いて直径に応じて段階的にブレーキ力を変化させてシート張力を制御する」方法を用いた実施形態1と、段落【0016】?【0018】で記載される「測長センサ及び角度センサを用いてシート張力を直径に応じて段階的にブレーキ力を変化させる」方法を用いた実施形態2が記載されている。そして、実施形態2は、段落【0046】?【0051】に記載され、【図7】に図示された磁石24が67.5°の間隔で配置されている芯管、又は、【図8】に示す芯管を用いる場合である実施形態2-1と、段落【0052】?【0081】に記載され、【図9】に図示された8個の磁石24が45°の間隔で配置されている芯管を用いる実施形態2-2が記載されている。
一方、本件特許明細書には、シート張力の制御方法の実施例として、段落【0025】?【0038】の途中までは、上記実施形態2-1の芯管を用いた実施形態が記載されているが、当該実施形態は、本件特許明細書の段落【0032】及び【0033】の記載からみて、直径を単純に4段階に分けて、24mm直径が減少する毎にモータブレーキを変化させる、すなわち測長センサのみを使用する態様を包含するものである。
よって、本件特許明細書に記載された上記実施形態は、原出願当初明細書に記載された実施形態1でもなく、実施形態2-1でもなく、磁石の配置が異なる実施形態2-2でもないから、原出願当初明細書に記載された事項の範囲内のものではない。(請求書 第7.5(2)ア?オ)

イ.事項2(「発明の属する技術分野」の欄の拡張 )
発明の属する技術分野が記載された、原出願当初明細書の段落【0001】には、「この発明は、ロールペーパから引き出されるシートの張力をロールペーパ径の変化に応じて段階的に調整するシート張力調整方法に関する。」との記載がある。一方、本件特許明細書の段落【0001】には、発明の属する技術分野について、「この発明は、ロールペーパから引き出されるシートの張力を調整しながら給紙部からシートを送り分包部で薬剤を分包する薬剤分包装置に用いられる薬剤分包用ロールペーパに関する。」と記載されており、原出願当初明細書では「シート張力」は「ロールペーパ」の径の変化に応じて段階的に調整」することが前提とされていたが、本件特許明細書では、シートの張力の調整方法に関する限定は削除され、発明の対象が広がっている。(請求書 第7.5(3)イ)

ウ.事項3(「発明が解決しようとする課題」の欄の拡張)
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】?【0010】の以下の記載は、原出願当初明細書に記載がない。
「【0008】
一方、薬剤分包装置に用いられるロールペーパは、上述したグラシン紙やセロポリ紙の30μm程度の極薄のシートを中空芯管の外周にロール状に巻き付けて形成され、その長さは一般に300?500mとかなり長尺である。このようなロールペーパの巻径の変化を検出する上記巻径検出センサによる方法以外の方法として、ロールペーパを装着する回転支持軸上に支持軸の回転数を検出するセンサを取付ける方法、あるいはロールペーパの中空芯管の端に突出部を設け、突出部に設けたマークを光センサで読取る方法などが考えられる。
【0009】
しかし、回転支持軸上のセンサではロールペーパのシートを繰り出す際の張力の程度によっては回転支持軸と中空芯管との間に回転のずれが生じることがあり、ロールペーパの回転を正確に検出するためにはロールペーパ自身の回転を直接検出する必要があり、回転支持軸上のセンサによる方法は必らずしも適当ではない。
【0010】
又、中空芯管の端に突出部を設ける方法は、上記のような長尺のロールペーパは全体としてかなりの重さとなるため、回転支持軸への装着などの操作が重く、操作時に突出部を周囲の機器に当てて損傷させる虞れがあり、突出部を設ける方法は好ましくない。」(請求書 第7.5(3)ウ(ア))

エ.事項4(「発明が解決しようとする課題」の欄の拡張)
本件特許明細書の段落【0011】の「・・・ロールペーパの直径に応じた適正な張力を安定して給紙部に与え、シートに耳ずれや裂傷が生じたりせずに分包シートで薬剤を分包することのできる薬剤分包装置に用いられ、分包装置の給紙部における角度センサに対し回転角度データを与えることのできる薬剤分包用ロールペーパを提供することを課題とする。」との記載は、対応する当該原出願当初明細書段落【0009】の記載に対して、下線部が加筆されている。(請求書 第7.5(3)ウ(イ))

オ.事項5(発明の作用効果の記載の拡張)
本件特許明細書の段落【0015】の記載は、原出願当初明細書には記載されていない。
「【0015】
この場合、ブレーキ力を段階的に変化させてもその切替えによる張力の変化によって耳ずれや裂傷が生じない範囲内でブレーキ力が変化するようにブレーキ力の各ランクが順次大きい方から小さい方へ切替えられるようになっているから、従来のようにロールペーパの巻径をセンサで直接検出する方式では巻径の不均等な巻きによりブレーキ力のランク切替え直径付近でブレーキ力の各ランクが急激に上下に変動するような不都合はその制御方式の違いにより生じることはない。」(請求書 第7.5(3)エ)

カ.事項6(本件発明1及び2は、原出願当初明細書に記載された事項の範囲内にないこと)
本件発明1の「2つ折りされたシートの間にホッパから薬剤を投入し・・・分包部」における「2つ折りされたシート」は、分包部で2つ折りにされるシートだけでなく、薬剤分包装置外ですでに2つ折りされたシートをも含む表現となっており、かつ、本件特許に係る侵害訴訟においても「2つ折りされたシート」とは、あらかじめ(薬剤分包機外で)2つに折り畳まれたシートと、分包部で2つ折りされるシートの両方を含む文言であると、被請求人は主張している。(甲9、10、12)
しかし、原出願当初明細書の段落【0005】?【0009】には、シート張力調整装置内でシートを2つ折りする従来のシート張力調整法における問題点を解決する旨が記載され、段落【0020】【0021】にも【図1】の薬剤分包機内の分包部の三角板4においてシートが2つ折りされる旨が明記されている。そして、原出願当初明細書では、シートを2つ折りすることに関して上記以外の記載は存在しない。そして、薬剤分包機外においてあらかじめ2つに折り畳まれたシートについての記載も示唆も存在しない。
そうすると、本件発明1の「2つ折りされたシート」は、「薬剤分包機の外であらかじめ2つに折り畳まれたシート」をも包含する表現となっている点で、原出願当初明細書に記載された範囲を超えている。(請求書 第7.5(4)イ)

キ.事項7(本件発明1及び2は、原出願当初明細書に記載された事項の範囲内にないこと)
本件発明1の「角度センサ及び測長センサの信号に基づいてシート張力をロールペーパ径に応じて調整しながら薬剤を分包するようにし」における「ロールペーパ径に応じて調整」は、ロールペーパ径の巻径の段階に応じて調整する場合のみならず、ロールペーパ径に応じて連続的に調整する場合をも含む表現となっている。しかし、原出願当初明細書の特許請求の範囲の請求項1及び3、段落【0001】、【0010】、【0012】、【0014】、【0015】、【0017】の記載から、原出願当初明細書には、巻量の直径に応じて段階的にブレーキ手段のブレーキ力を制御してシート張力を調整する態様しか記載されておらず、原出願当初明細書に記載された範囲を超えている。(請求書 第7.5(4)ウ)

(2)無効理由2(特許法第29条第2項)
本件発明1及び2が、甲1に記載された発明と同一でないとしても、甲1の原出願当初明細書には、上記実施形態1及び2が記載されているので、本件発明1及び2は、甲1に記載された発明から当業者が容易に想到できたものである。(請求書 第7.6)

(3)無効理由3(特許法第17条の2第3項)
本件特許明細書の特許請求の範囲は、本件特許に係る出願の平成19年10月1日提出の手続補正書(甲5)による補正(以下「本件補正」という。)により、本件補正前の「・・・シートを2つ折りしその間にホッパから薬剤を投入し、薬剤を投入されたシートを所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールする加熱ローラを有する分包部とを備え、・・・」との記載は、「2つ折りされたシートの間にホッパから薬剤を投入し、薬剤を投入されたシートを所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールする加熱ローラを有する分包部とを備え、」(下線は当審で付した)と補正された。この「2つ折りされたシートの間にホッパから薬剤を投入し、・・・を有する分包部」との記載は、薬剤投入の際に2つ折りされた(されていればよい)シートをいうことができ、薬剤分包装置外であらかじめ2つ折りされたシートも含まれ得る表現になったから、新たな技術的事項が請求項1に含まれることになる。しかし、本件特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許当初明細書」という。)には「分包部の三角板で2つ折りにされるシート」しか記載されておらず、「あらかじめ2つ折りに畳まれたシート」についての記載は存在しない。そうすると、本件補正によって「薬剤分包機外であらかじめ2つ折りに畳まれたシート」という新たな技術的事項が本件発明1に導入されたことになるので、本件補正は特許法17条の2第3項の規定に違反するものである。
したがって、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。(請求書 第7.7)

(4)無効理由4(特許法第36条第6項第1号)
本件発明1の「2つ折りされたシート」には、「薬剤分包装置外であらかじめ2つ折りに畳まれたシート」を含み得るが、しかし、こうした態様のシートは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。そうすると、本件発明1及び2は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するとはいえず、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により、無効とすべきである。(請求書 第7.8)

(5)無効理由5(特許法第36条第6項第2号)
本件発明1の「2つ折りされたシート」には、「薬剤分包機外であらかじめ2つ折りに畳まれたシート」を含み得るところ、こうした態様のシートは本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないから、請求項に記載された発明を明確に把握できず、権利の及ぶ範囲が第三者に不明確となり不測の不利益を及ぼす状態にある。よって、本件発明1及び2は明確ではなく、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないから、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に規定に該当するから、無効とすべきである。(請求書 第7.9)

第4 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人(参加人)の負担とする、旨の審決を求め、以下の証拠方法を提出し、次の主張をしている。(答弁書 6.)
1.無効理由1?5に係る被請求人の主張の概要
(1)無効理由1(特許法第29条第1項第3号)について
本件特許出願が適法に分割されたものでないと参加人が主張する根拠である、上記事項1?7については、以下ア.?キ.のとおり理由がない。
ア.事項1について
参加人は、原出願当初明細書において実施形態1と実施形態2として記載されていた内容が、本件特許明細書においては、実施形態1かつ実施形態2として、全く別の実施例が記載されていると主張する。そして、その根拠として、段落【0033】を挙げるが、段落【0033】の記載は、原出願当初明細書の実施形態2に相当する実施例を説明するための前提知識として、「単純に4段階に分けるとすると、(160-64)/4=24mm直径が減少する毎にモータブレーキを変化させればよい」という例示的説明を記載したものに過ぎず、シート張力調整のフローの一部として記載されているものではない。よって、上記「実施形態1かつ実施形態2である」との主張がそもそも認められないため、参加人の主張に理由はない。(答弁書 7.第2 3)

イ.事項2について
本件特許明細書の「ロールペーパの径の微妙な変動による影響で制御すべき段階的に選択されるブレーキ力のレベル変動を生じることなく各段階毎に的確にブレーキ力を設定しロールペーパの直径に応じた適正な張力を安定して給紙部に与え」(段落【0011】)等の記載からも明らかなとおり、本件特許明細書においても、シート張力は、ロールペーパの径の変化に応じて段階的に調整されることが前提とされており、原出願当初明細書と本件特許明細書との間で、シート張力の調整方法について変更はない。よって、「発明の対象が広がった」との参加人の主張は、そもそも認められない(答弁書 7.第2 4(1))

ウ.事項3について
本件特許明細書の段落【0008】?【0010】の記載は、分割出願に伴い加筆された背景技術についての記述であって、原出願当初明細書に接した当業者であれば、原出願の出願時の技術常識に照らして、そこに記載されているのと同然であると理解するものであることから、「原出願当初明細書等の記載から自明な事項」といえる。(答弁書 7.第2 4(2))

エ.事項4について
上記ウ.と同様に、段落【0011】のうちの参加人が指摘した記載は、分割出願に伴い加筆された背景技術についての記述であって、原出願当初明細書に接した当業者であれば、原出願の出願時の技術常識に照らして、そこに記載されているのと同然であると理解するものである。(答弁書 7.第2 4(2))

オ.事項5について
本件特許明細書の段落【0015】に記載された「従来のようにロールペーパの巻径をセンサで直接検出する方式」における課題については、原出願当初明細書(甲8)の段落【0005】に、また、本件発明によりその課題が解決される作用効果が生じることは原出願当初明細書(甲8)段落【0107】に、それぞれ記載されている。(答弁書 7.第2 4(3))

カ.事項6について
下記「(3)無効理由3(特許法第17条の2第3項)について」に示すとおり、本件補正は適法であるから、補正後の特許請求の範囲に記載された「2つ折りされたシート」を前提に反論すると、次のとおり、参加人の主張は失当である。
第1に、上記侵害訴訟における原告(被請求人)の主張は、原出願では薬剤分包装置外であらかじめ折り畳まれたロールペーパが含まれなかったところ、分割出願によってそのようなロールペーパが含まれることになったという主張ではないから、当該原告(被請求人)の侵害訴訟における主張を根拠として、分割要件違反であると主張する参加人の主張は失当である。
第2に、参加人は、原出願当初明細書(甲8)段落【0006】【0008】及び【0021】の「2つ折り」との記載を分割要件違反の根拠とするが、これらの記載は、分割出願の前後を通じて実質的な変更はないから(本件特許明細書(甲3)【0005】【0007】及び【0018】)、むしろ分割出願の前後で新たな技術的事項が追加されていないことの根拠となるものであって、分割要件違反の根拠にはならない。
仮に、本件特許発明が薬剤分包装置外であらかじめ折り畳まれていないロールペーパのみに限られるとするならば、分割前も分割後もそのようなロールペーパに限られるだけであって、分割要件違反の問題が生じるものではない。(答弁書 7.第2 5(1)、第4 (6))

キ.事項7について
特許請求の範囲に記載された用語の意味が一義的に定まらない場合は、発明の詳細な説明を参酌して解釈される(「リパーゼ判決」)。
したがって、「ロールペーパ径に応じて調整」の意味が段階的か連続的か不明であるのなら発明の詳細な説明を参酌すればよいところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0011】、【0014】、【0015】、【0022】、【0032】?【0034】、【0037】?【0039】、【0042】には、「ロールペーパ径に応じて調整」に関し、「段階的」に調整をする旨記載されていて、「連続的」に調整することについての記載は存在しない。したがって、本件発明1の「ロール径に応じて調整」とは、「段階的」な調整を意味すると解するのが相当であり、原出願当初明細書(甲8)に記載された範囲内のものである。(答弁書 7.第2 5(2))

(2)無効理由2(特許法第29条第2項)について
上記(1)に示したとおり、本件特許出願は適法に分割されたのであるから、進歩性欠如についての無効理由2もない。(答弁書 7.第3)

(3)無効理由3(特許法第17条の2第3項)について
ア.上記侵害訴訟(甲9、10、12)において、被告(参加人)と原告(被請求人)との間では、本件発明が薬剤分包装置外であらかじめ折り畳まれていないロールペーパのみに限られるのか(参加人の主張)、そのようなロールペーパに限られないのか(被請求人の主張)について争いがあるが、これはあくまで本件補正の前後で保護範囲は変わらないことを前提とした特許発明の技術的範囲についての争いであり、新規事項が追加されたかどうかとは別の問題である。(答弁書 7.第4(1))
イ.参加人が指摘する補正事項は、発明がシートの張力調整方法からロールペーパという物に変わったことに伴い、「シートを2つ折りし」との経時的記載を、「2つ折りされたシート」という状態的記載に補正しただけであり、かかる補正の前後で保護範囲が変わることはない。(答弁書 7.第4(2))
ウ.参加人は、本件特許明細書(甲3)段落【0018】の「三角板4で2つ折りにされた際」との記載を、あらかじめ折り畳まれていないロールペーパのみを指すことを根拠とするが、上記段落【0018】は実施例に関する記載で、かつ、補正の前後を通して何ら変更されていない記載であるから、「三角板4で2つ折りにされた際」があらかじめ折り畳まれていないロールペーパを指すとした場合であっても、本件補正の前後を通して、実施例としてそのようなロールペーパが挙げられているに過ぎず、新規事項追加の根拠にはなり得ない。
すなわち、「三角板4で2つ折り」の「2つ折り」とは、ロールペーパ中心部に長手方向に設けられた折り目に沿い、薬剤を投入するのに適した空隙を設けたV字状の状態に折り曲げることを指す。そして、このような状態にするために、あらかじめ折り畳まれていないロールペーパであればシート中央に折り目をつけて下端としつつも、シート左右端を突き合わせることなく開き、上方を薬剤の投入口とさせる、一方、あらかじめ折り畳まれたロールペーパでは折り畳まれたシートを開くという工程の違いはあるものの、いずれも薬剤分包装置内において、三角板を経たシートがホッパからの薬剤が投入可能な状態に「2つ折り」されていることには変わりがない。(答弁書 7.第4(3))
エ.本件発明は、原出願から本件補正後に至るまで一貫して、薬剤分包装置外であらかじめ折り畳まれていないロールペーパに限られたものではない。すなわち、原出願当初明細書には、特許請求の範囲にあらかじめ折り畳まれたロールペーパを除外する記載はない(分割出願や補正後にもそのような記載はない)。また、参加人が審判請求書21ページで主張するとおり、原出願当初明細書段落【0006】【0008】【0021】には「2つ折り」との記載があるものの、まず、段落【0006】と【0008】における記載は、「発明が解決しようとする課題」の中で、従来の方法における問題点を概括的に説明したものに過ぎず、この記載をもって発明の構成が限定されることなどあり得ない。次に、段落【0021】には「三角板4で2つ折り」という記載があるが、上記のとおり、もとよりあらかじめ折り畳まれていないロールペーパだけでなく、あらかじめ折り畳まれたロールペーパも対象とする記載である。さらに、本発明は、使用によってロールペーパの巻き量が変化してもロールペーパにかかる張力を一定にし、2つ折りされたロールペーパの接着に際して耳ずれなどが生じないようにするものであり、薬剤分包装置においては、分包部において、ロールペーパを中心部に長手方向に設けられた折り目に沿い、薬剤を投入するのに適した空隙を設けた状態に折り曲げ、次に薬剤を投入し、その後、所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールするところ、耳ずれが生じるのは、薬剤投入後のヒートシールの場面であり、あらかじめ折り畳まれていないロールペーパだけでなく、あらかじめ折り畳まれたロールペーパについても同一の問題が生じるのである。また、適切な張力の調整を行うことによってこのような状態を回避できることは薬剤分包装置外であらかじめ折り畳まれているかどうかにかかわらずロールペーパに共通の事項であり、課題解決手段も共通するものといえる。(答弁書 7.第4(4))

(4)無効理由4(特許法第36条第6項第1号)について
参加人の主張に、次のとおり反論する。
第1に、「2つ折りされたシート」とは、薬剤投入時におけるシートの状態が、ロールペーパ中心部に長手方向に設けられた折り目に沿い、薬剤を投入するのに適した空隙を設けたV字の状態に折り曲げられていることに着目した構成要件であり、薬剤分包装置に装着された時点でのシートの状況はこの文言解釈とは関係がない。
第2に、参加人は、「あらかじめ2つに折り畳まれたシート」という文言に対するサポート要件を問題とするようであるが、「2つ折りされたシート」と「あらかじめ2つに折り畳まれたシート」との関係は、サポート要件違反をクリアした後の、技術的範囲論におけるクレーム解釈の問題であって、クレーム解釈によって得られた語義のサポートを問題にするのは、サポート要件の理解を誤ったものである。
第3に、分割出願及び補正の前後を通して、薬剤投入時点においてロールペーパが2つ折りされた状態になっているべきことは明細書から合理的に読み取ることができ、さらに、薬剤投入までに2つ折りにされている限り、2つ折りにされる具体的なタイミングは、本件特許発明の技術思想との関係において特に意味のある事項ではなく、現に何ら限定されていない。特に限定もされていない点のサポートを問題とするのは、発明特定事項以外の事項についてサポートを求めるものであって、特許法の理解を誤ったものである。
よって、参加人の主張には理由がない。(答弁書 7.第5)

(5)無効理由5(特許法第36条第6項第2号)について
参加人の主張に、次のとおり反論する。
第1に「2つ折りされたシート」とは薬剤投入時のシートの状態に着目した構成要件であって、そこに「あらかじめ2つに折り畳まれたシート」が含まれるかという議論には意味がない。「あらかじめ2つに折り畳まれたシート」に関する説明がないからといって明確性要件に関して何らかの問題を生じるわけでもない。
第2に、「2つ折りされたシート」がロールペーパ中心部に長手方向に設けられた折り目に沿い、薬剤を投入するのに適した空隙を設けたV字の状態に折り曲げた状態のシートを指すものであることは、当業者が本件明細書から普通に理解できる事項であり、明確性の問題はない。
よって、参加人の主張には理由がない。(答弁書 7.第6)

2.被請求人が提出した証拠方法
被請求人要領書(1)に添付して乙1?6が提出され、被請求人要領書(2)に添付して乙7?10が提出され、被請求人上申書(1)に添付して乙11の1?18の5が提出された。
乙1:実願昭59-116645号(実開昭61-30608号)のマイクロフィルム
乙2:実公平7-47406号公報
乙3:特開平10-245142号公報
乙4:特開平7-172649号公報
乙5:特開平6-219615号公報
乙6:実願平3-50354号(実開平4-135546号)のCD-ROM
乙7:平成20年5月30日判決言渡、知財高裁、平成18年(行ケ)第10563号 審決取消請求事件判決
乙8:平成22年1月28日判決言渡、知財高裁、平成21年(行ケ)第10175号 審決取消請求事件判決
乙9:平成26年1月16日判決言渡、大阪地裁、平成24年(ワ)第8071号 特許権侵害差止等請求事件判決
乙10:大阪地裁、平成28年(ワ)第7536号 第10回弁論準備手続調書
乙11の1?11の12:1978年製被請求人ダブルタイプ薬剤分包装置「7-21W」の写真
乙12:株式会社ユヤマ、株式会社湯山製作所「ユヤマ価格表 【薬科機器」、昭和59年4月、5ページ
乙13:株式会社タカゾノのウェブサイト(http://www.takazono.co.jp/other_contents/50th/index.html)
乙14:高園産業株式会社、「全自動分割分包機 テアップHP-96R MODEL2」のカタログ、
乙15:株式会社トーショーのウェブサイト(http://www.tosho.cc/aboutus/history.html)
乙16:株式会社トーショー、「Main-TOPRA5001/4001/3001 SR/SRW」カタログ
乙17:小西医療機器株式会社、「自動分割分包機 KC801-K20型」カタログ、昭和62年3月
乙18の1?18の5:「アフター日報(閲覧)」、被請求人作成

第5 当審の判断
1.無効理由1(特許法第29条第1項第3号)についての判断
(1)分割の適否について
ア.事項1について
参加人は、上記第3の3.(1)ア.に示したとおり、大要、「本件特許明細書には、シート張力の制御方法として、段落【0025】?【0038】の途中までに、上記実施形態2-1の芯管を用いた実施形態が記載されているが、当該実施形態は、本件特許明細書の段落【0032】及び【0033】の記載から、直径を単純に4段階に分けて、24mm直径が減少する毎にモータブレーキを変化させる(測長センサのみを使用する第1の実施形態)態様を包含するものである。よって、本件特許明細書に記載された上記実施形態は、原出願当初明細書に記載された実施形態1でもなく、実施形態2-1でもなく、磁石の配置が異なる実施形態2-2でもないから、原出願当初明細書に記載された事項の範囲内のものではない。」と主張している。
しかし、参加人が指摘した本件特許明細書の段落【0025】?【0038】の途中までの記載は、「第1の実施形態の測長センサの信号と、上記回転角度センサの信号とからロールペーパRの包装シートSの操出量を正確に算出してロールペーパRの巻直径の変化に対応したブレーキ力の調整し張力調整を適性に行おうとするもの」(本件特許明細書 段落【0024】)について記載されていて、続いて段落【0039】?【0042】には、「包装シートの繰出量lを繰出す際に(a)のように巻量半径が大きければ角度センサのパルス数は少なく、(b)のように巻量半径が小さければパルス数は多くなる」ことに基づいて、最大径のパルス数が例えば図示のように3、最小径の数が10であれば、パルス数が3?10に変化する過程を、例えば4段階に分けてロールペーパRの直径の変化に対応させて、各直径段階に対応した張力を包装シートSに付与し得る直流電圧をモータブレーキ20へ送りブレーキ力を調整するものが記載されている。
そして、本件特許明細書の段落【0032】?【0038】に記載された「・・・直径を単純に4段階に分けて、24mm直径が減少する毎にモータブレーキを変化させる(測長センサのみを使用する)態様」において算出される、「・・・ロールペーパRの直径が減少する段階を4段階に分けて、最大径から順に径が小さくなる各段階NをN=1,2,3,4と呼ぶこととするとそれぞれの段階での各巻長さの最大長」である「Lmax」の値は、段落【0039】?【0042】において使われていないから、上記【0025】?【0038】の途中までに記載されたものは、本件特許明細書に記載された実施例を説明するための前提となる事項を説明するためのものであって、かつ、当該記載は、原出願当初明細書の段落【0028】?【0033】の途中までに記載されたものと実質的に同じであると理解するのが相当である。そうすると、参加人が主張するような、原出願当初明細書に記載された実施形態1でもなく、実施形態2-1でもないものが本件特許明細書に記載されているとはいえない。
以上のとおりであるから、事項1は、原出願当初明細書に記載した事項の範囲内のものである。

イ.事項2について
本件発明1は、上記第2に示したとおり、要件(A-a)?要件(A-j)を備えた「薬剤分包装置」に用いられる、要件(B)?(D)を備えた「薬剤分包用ロールペーパ」に係るものである。この「薬剤分包用ロールペーパ」は、「中空芯管」とその上に「薬剤分包用シート」をロール状に巻いた「ロールペーパ」とから成り、「中空芯管」には、「薬剤分包装置」の「非回転に支持された「支持軸の片端」に設けられた「角度センサ」(要件(A-a)、(A-e))により検出が可能な位置に「複数の磁石」が配置され、かつ、その検出可能な位置は、「ロールペーパのシートの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与するために、支持軸に設けた角度センサによる回転角度の検出信号と測長センサの検出信号とからシートの巻量が算出可能」な位置(要件(C))である。そして、「薬剤分包用ロールペーパ」が装着される「薬剤分包装置」は、「中空芯管」に設けられた「複数の磁石」の位置を「角度センサにより検出し、測長センサの信号と共に、シート張力をロールペーパ径に応じて調整しながら薬剤を分包するように」(要件(A-i))機能するものである。
上記のように、本件発明1の対象は「薬剤分包用ロールペーパ」であり、「薬剤分包用ロールペーパ」そのものは、「薬剤分包用ロールペーパ」の「複数の磁石」と協働してロールの角度を検出する「角度センサ」を備え、シート張力を調整する「薬剤分包装置」に装着することができるものである。この「薬剤分包装置」のシート張力の調整手法について、本件特許明細書の実施例には、「段階的」にシート張力を調整することが記載されているが、本件発明1の「薬剤分包用ロールペーパ」が、「段階的」にシート張力を調整する「薬剤分包装置」にのみ装着できるのではなく、それ以外の調整手法をとる「薬剤分包装置」にも装着できることは明らかである。
確かに、原出願においては、段落【0001】に「この発明は、ロールペーパから引き出されるシートの張力をロールペーパ径の変化に応じて段階的に調整するシート張力調整方法に関する。」と記載されているが、本件発明1に係る出願は、原出願に記載された事項から、「薬剤分包用ロールペーパ」に係る発明に着目して新たな特許出願としたのであって、本件発明1は、シート張力調整方法に係る発明ではない。そして、原出願は、シート張力調整方法において「段階的」に調整することに特徴を有し、そのことを前提としたものであったが、本件発明1の「薬剤分包用ロールペーパ」は、上述のように、「段階的」にシート張力を調整する「薬剤分包装置」にのみ装着できるのではなく、その構成上、それ以外の調整手法をとる「薬剤分包装置」にも装着できるものであることは明らかである。よって、本件特許明細書の「発明の属する技術分野」の記載において、本件発明1の対象である「薬剤分包用ロールペーパ」について、装着される「薬剤分包装置」がシート張力を「段階的」に調整するものとの限定を要するものとはいえない。
したがって、事項2についての参考人の主張を採用することはできない。

ウ.事項3について
(ア)本件特許明細書の段落【0008】について
原出願当初明細書(甲8)には、「・・・給紙部は水平に支持された支持軸1に芯管Pに薬剤分包用のシートをロール状に巻いたロールペーパRが回転自在に装着され」(段落【0020】)、「薬剤包装装置に使用されるシートの材料として、グラン紙(半透明)、セロポリ紙(透明)等種々のものがある」(段落【0007】)、「シート厚みγ=30μmが用いられている」(段落【0030】)との記載があり、そして、段落【0032】には、「ロールペーパR」の「ロールペーパRの直径が減少する段階を4段階に分けて、最大径から順に径が小さくなる各段階NをN=1,2,3,4と呼ぶこととするとそれぞれの段階での各巻長さの最大長」である「Lmax」として、「562.688(m)」、「376.800(m)」、「221.056(m)」、「95.456(m)」との記載がある。
ここで、芯管Pは、支持軸1に回転自在に装着されるから、中空芯管であるといえる。そして、ロールペーパRの巻長さも、あまり長いとロールペーパの重量が嵩み、あまり短いと、ロールペーパの交換の頻度が多くなるから、上記「Lmax」の数値例から、300m?500m程度のものであるといえる。
さらに、原出願当初明細書には、
「【0048】
なお、上記芯管Pの回転を検出する検出器として上記例では磁石24とホール素子25の組合せとしたが、これ以外にも光センサを用いることもできる。光センサは、発光素子と受光素子から成るものとし、これらをホール素子25と同様に支持軸1(外軸1b)の片端に固定して取り付ける。
【0049】
但し、取付位置は図2のホール素子センサ25より外端寄りに外軸1bのフランジ端の一部を延長し、又は同等の取付座を形成し、これに対応して芯管Pの側端にも突起部を所定の角度ピッチ22.5°で、かつ光センサの発光素子と受光素子で突起部を挾むように設ける。光センサと突起部の数はホール素子センサ25の場合と同様である。」との記載があり、「芯管P」は、上記したとおり、本件発明1の中空芯管といえ、「芯管Pの側端」に設けた「所定の角度ピッチ22.5°」で、かつ「光センサの発行素子と受光素子で突起部を挟むように」設けることは、所定の角度回転したことのマークである突起部を、発光素子と受光素子からなる光センサで読み取ることといえるから、原出願当初明細書には、本件特許明細書の段落【0008】中の「ロールペーパの中空芯管の端に突出部を設け、突出部に設けたマークを光センサで読取る方法」が記載されているといえる。

(イ)本件特許明細書の段落【0009】について
原出願当初明細書には、
「【0022】
図2は給紙部にロールペーパRと芯管Pを装着した状態の主縦断面図である。図示のように、支持軸1はその一端がナットにより支持板11に取付固定された中心軸1aと、これに一体に嵌合された外軸1bと、上記外軸1bの左右両端寄り位置に設けた軸受12、12を介して回転自在に取り付けられる中空軸1cとから成る。
【0023】
13は中心軸1aの片端の軸ヘッド、14は外軸1bの片端のフランジ部である。中空軸1cの反対側端にもフランジ部15が設けられている。上記支持軸1に芯管Pとこれに巻回されたロールペーパRが装着されると中空軸1cにより回転自在に支持されると共に、フランジ部15の内径面に適宜間隔に配置された複数個の磁石16とこれに対向して予め芯管Pの端面円周に沿って配設された強磁性体(鉄部)17に対する吸着力により、装着された芯管PとロールペーパRが中空軸1cに着脱自在に固定される。」との記載がある。よって、「ロールペーパR」は「中空軸1c」に回転自在に支持されるものであるから、「中空軸1c」は本件発明1の「回転支持軸」であるといえる。また、上記(ア)に示したように、芯管Pは、本件発明1の「中空芯管」であるといえる。
さらに、原出願当初明細書には、
「【0071】
しかし、上述した各直流電圧によるモータブレーキ20の回転抵抗が適当でなく、例えばある張力レベルN=2において張力がやや強過ぎたとするとロールペーパRと芯管Pが一体となって強く回転し、例えば磁石16による強磁性体17への吸着固定位置がずれたりすると、ホール素子センサ25による信号は各22.5°の角度ずつのパルス信号を発するが、近接スイッチ26によるパルス信号は上記ずれによって同じ位置で2つが重なり、次の角度位置ではパルス信号が出ないということがある。」との記載もあり、張力の程度によっては、「磁石16による強磁性体17への吸着固定位置がずれたりする」、すなわち、芯管P(中空芯管)と中空軸1c(回転支持軸)とがずれることが記載されている。そうすると、芯管Pと中空軸1cが張力によってずれることがあるのなら、ロールペーパRの回転を正確に検出するためのセンサを、中空軸1c、すなわち回転支持軸に設けることは必ずしも適当でないことが、当業者には理解できる。
そうすると、原出願当初明細書には、本件特許明細書の段落【0009】の事項が記載されているといえる。

(ウ)本件特許明細書段落【0010】について
原出願当初明細書には、次の記載がある。
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
・・・従来のシート張力調整装置では、シートの使用による巻量の変化を径方向に配置した巻径検出センサで段階的に検出する方式を採用しているため、検出センサのランクが切替わる径になると、芯管軸の偏心、シートの重量、巻き歪みなどの原因により電磁ブレーキのブレーキ力ランクが1回転毎に上下に変動するバイブレーション現象が生じる。
【0006】
このため、張力変動によりシートを2つ折りした際にシートの縁部が正確に重ならない、いわゆる頁ずれが生じ、包装不良部分が生じることがある。又、ブレーキ力のランクが急激に変動するため幅方向に裂傷が生じたりすることもある。」
上記段落【0006】の記載では、「張力変動によりシートを2つ折りした際にシートの縁部が正確に重ならない」現象を「頁ずれ」と記載しているが、原出願当初明細書の要約書には、【課題】欄に「給紙部のロールペーパから分包部へシートを送る際にロールペーパの直径が減少するに応じて張力を急激な変動なくスムーズに送り分包作業における耳ずれなどの発生を防止する。」と記載されており、このうち、「耳ずれ」の「耳」の一般的な意味として「織物・紙類または食パンなどの縁」(広辞苑 第六版)の意味もあることからすると、上記「頁ずれ」は「耳ずれ」の明らかな誤記と認められ、シートの縁がずれることを意味するものと解される。
そうすると「シートの重量」は、従来のシート張力調整装置においては、バイブレーション現象が生じた際に、シートの縁がずれたり幅方向への裂傷が生じることの原因となり得るほどの重量であるといえ、相当の重さであることが明らかである。そのような重さを有するロールペーパの中空軸1c(回転支持軸)への装着等はロールペーパ自体が重いから、上記(ア)に記載した突出部を設けたならば、当該突出部を周囲の機器にあてて損傷させる虞れがあることは、当業者には自明である。
よって、原出願当初明細書には、本件特許明細書の段落【0010】に記載された事項が記載されているといえる。

エ.事項4について
原出願当初明細書には、上記ウ(ウ)に摘記した段落【0005】及び【0006】に加え、以下の記載がある。
「【0004】
このため、上記シートロールの径の変化が生じても張力がほぼ一定となるように調整するシート張力調整装置が実公平1-36832号公報により提案されている。この公報によるシート張力調整装置は、シートロールをロール支持筒に着脱自在に嵌合装着し、シートロール側方に複数の巻径検出センサを径方向に配置し、この検出センサの信号によりロール支持筒内部に設けた電磁ブレーキの電磁力を調整してロール径が小さくなるにつれて段階的にブレーキ力を弱めることにより張力を一定となるように調整している。」
「【0009】
この発明は、上記のような従来のシート張力調整方法における問題点に留意して、極薄のシートを巻いたロールペーパの巻状態によるロールペーパ直径の微妙な変動による影響で制御すべき段階的に選択されるブレーキ力のレベル変動を生じることなく各段階毎に的確にブレーキ力を設定しロールペーパの直径に応じた適正な張力を安定して給紙部に与えることのできるシート張力調整方法を提供することを課題とする。」
「【0020】
【実施の形態】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は薬剤分包機の主として給紙部と分包部とを取り出した概略構成図である。給紙部は水平に支持された支持軸1に芯管Pに薬剤分包用のシートをロール状に巻いたロールペーパRが回転自在に装着され、上記ロールペーパRから引き出された包装シートSが送りローラ2、3を通り、次の分包部へ供給されるように形成されている。」
「【0022】
図2は給紙部にロールペーパRと芯管Pを装着した状態の主縦断面図である。図示のように、支持軸1はその一端がナットにより支持板11に取付固定された中心軸1aと、これに一体に嵌合された外軸1bと、上記外軸1bの左右両端寄り位置に設けた軸受12、12を介して回転自在に取り付けられる中空軸1cとから成る。」
「【0044】
給紙部と分包部の構成は図1?図3に示したものを共通に使用し、さらに図2及び図5に示すように、芯管Pに設けた磁石24とホール素子センサ25から成る回転角度センサからの信号、及び近接スイッチ26と突起27から成る包装シートのずれ検出センサからの信号が、図3に示すように、制御回路30へ入力される点が第1実施形態と異なっている。」
「【0046】
図7に示すように、この第2実施形態の芯管Pの内周沿いと支持軸1の片端にそれぞれ設けられる磁石24とホール素子センサ25は、4つの磁石24が1つの基点から67.5°ずつ位置が異なる各4点に配置され、4つのホール素子センサ25は上記基点を通る中心線とこれに直交する中心線上の4つの位置に配置されている。」
「【0052】
第2実施形態の張力調整装置は上記の構成であり、以下その作用について説明する。基本的な作用は、図9に示すように、ロータリエンコーダ32による測長信号に基づいて得られる包装シートの繰出量1と、角度センサであるホール素子センサ25のパルス信号に基づく角度θとによりロールペーパの巻量の状態を検出することである。」

そうすると、原出願当初明細書には、従来の「シートロールの径の変化が生じても張力がほぼ一定となるように調整するシート張力調整装置」において、「シートの使用による巻量の変化を径方向に配置した巻径検出センサで段階的に検出する方式を採用しているため、検出センサのランクが切替わる径になると、芯管軸の偏心、シートの重量、巻き歪みなどの原因により電磁ブレーキのブレーキ力ランクが1回転毎に上下に変動するバイブレーション現象が生じ」、そのために、「張力変動によりシートを2つ折りした際にシートの縁部が正確に重ならない、いわゆる耳ずれ(上記ウ.(ウ)参照)が生じ、包装不良部分が生じることがある。又、ブレーキ力のランクが急激に変動するため幅方向に裂傷が生じたりすることもある」との問題点があり(段落【0004】?【0006】)、「極薄のシートを巻いたロールペーパの巻状態によるロールペーパ直径の微妙な変動による影響で制御すべき段階的に選択されるブレーキ力のレベル変動を生じることなく各段階毎に的確にブレーキ力を設定しロールペーパの直径に応じた適正な張力を安定して給紙部に与えることのできるシート張力調整方法を提供することを課題とする」(段落【0009】)ことが記載されているものといえる。
そして、そのための「実施の形態」として、給紙部と分包部とからなる薬剤分包機であって、給紙部に支持された支持軸1に対して、芯管Pに薬剤分包用のシートをロール状に巻いたロールペーパRが回転自在に装着され、芯管Pに設けた磁石24を検出するための角度センサであるホール素子センサ25を支持軸1にそれぞれ設けるものが、原出願当初明細書には記載されている。(段落【0044】、【0046】、【0052】)
したがって、原出願当初明細書には、シートの縁部がずれたり裂傷が生じることがない薬剤分包装置に用いられ、分包装置の給紙部に支持され、給紙部における支持軸1における角度センサであるホール素子センサ25に対して角度データを与えることのできる磁石24を芯管Pに設けたロールペーパRが記載されているものといえる。
よって、事項4は、原出願当初明細書に記載された事項である。

オ.事項5について
原出願当初明細書には、従来のシート張力の制御について、「・・・シートの使用による巻量の変化を径方向に配置した巻径検出センサで段階的に検出する方式を採用しているため、検出センサのランクが切替わる径になると、芯管軸の偏心、シートの重量、巻き歪みなどの原因により電磁ブレーキのブレーキ力ランクが1回転毎に上下に変動するバイブレーション現象が生じる」ため、「シートを2つ折りした際にシートの縁部が正確に重ならない、いわゆる頁ずれが生じ、包装不良部分が生じることがある。又、ブレーキ力のランクが急激に変動するため幅方向に裂傷が生じたりすることもある。」(段落【0005】、【0006】)との問題点が記載され、また、「次第に減少する巻量長さとそれに対応する直径に適合するブレーキ力を段階的に選択することにより最適な張力調整ができ、直径の微妙な変化によりブレーキ力が上下動するような急激な張力変動がないスムースな張力の調整ができるという利点が得られる」(段落【0107】)との効果についても記載されている。
そして、ロールペーパにおける巻量の変化は、使用に伴って径が小さくなるとの技術常識から、当然、「ブレーキ力の各ランクが順次大きい方から小さい方へ切替えられるようになっている」ことは、原出願当初明細書の記載から明らかな事項であり、そして原出願当初明細書の段落【0033】には、「ロールペーパRの直径が減少する段階を4段階に分けて、最大径から順に径が小さくなる各段階NをN=1,2,3,4と呼ぶことと」したものにおいて、それぞれの段階における、「モータブレーキ20」へ送る「直流電圧」を、「N=1の時 V=25V」「N=2の時 V=16V」「N=3の時 V=12V」「N=4の時 V= 8V」とすることの記載もある。
そうすると、原出願当初明細書には、ブレーキ力の各ランクは、ロールペーパにおける巻量の変化により決定されるから、従来のもののように、ロールペーパの直径の微妙な変化によるバイブレーション現象によって、ブレーキ力が上下するような急激な張力変動が生じないことが、当業者には理解できるし、ブレーキ力の段階数を適当に設定することでブレーキ力のランクの変化に伴うブレーキ力の変動を、シートの縁がずれる等の問題が発生しない程度のものとすることができることは、当業者にとって明らかである。
以上のとおりであるから、事項5は、原出願当初明細書に記載した事項の範囲内のものである。

カ.事項6について
「2つ折りされたシート」との事項に関して、原出願当初明細書には、上記ウ(ウ)に摘記した段落【0005】、【0006】に加え、以下の記載がある。
「【0008】
さらに、シートを2つ折りする位置より上流側に一般には分包紙に印字するためのサーマルプリンタが設けられるが、このサーマルプリンタにおいて印字ドットの欠けや印字装置の残量表示機構が、バイブレーション現象によりランプの耐久性の低下を起こしたりする。」
「【0021】
分包部は、三角板4で2つ折りにされた際にホッパ5から所定量の薬剤が投入された後ミシン目カッタを有する加熱ローラ6により所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールするように設けられている。なお、分包部はこれ以外の構成部材も多数あるが、複雑になるのを避けるため必要な部材のみを示している。」
これらの記載を参酌すると、原出願の課題は、従来のシート張力調整装置でのバイブレーション現象によって、シートが2つ折りされて薬剤が投入される分包部や、サーマルプリンタにより分包紙に印字される箇所で発生する不具合であることが理解できるところ、当該シート張力調整装置を備えた薬剤分包装置に用いられるロールペーパが、ロールペーパに巻かれた段階では、2つ折りにされておらず、巻き戻されて、薬剤分包装置において、2つ折りにされるもの(以下「シングルタイプのロールペーパ」という。)であるか、ロールペーパに巻かれている状態ですでに2つ折りにされているもの(以下「ダブルタイプのロールペーパ」という。)であるかは問題とされていない。よって、段落【0021】に記載の実施例において、分包部で2つ折りにされたシートが、シングルタイプのロールペーパを用いたものと解されるとしても、上記のとおり、ロールペーパがシングルタイプであるかダブルタイプであるかは、当初より原出願の課題との関係で問題とされていないのであるから、「2つ折りされたシート」という記載が原出願当初明細書に記載された範囲を超えているとすることはできない。
したがって、事項6を理由として、本件特許出願の分割が不適法であるとはいえない。

キ.事項7について
(ア)本件発明1について
上記イ.に示したように、本件発明1は、上記第2に示したとおりであり、要件(A-a)?要件(A-j)を備えた「薬剤分包装置」に用いられる、要件(B)?(D)を備えた「薬剤分包用ロールペーパ」である。
したがって、本件発明1の「薬剤分包用ロールペーパ」自体は、要件(B)?要件(D)の構成を備えるものとして把握できるものであって、これらの構成を備えることにより、「薬剤分包装置」に装着すると、角度センサが検出して、シート張力の「調整」が行われる。そのため、「調整」が段階的に行われる「薬剤分包装置」に取り付ければ、その調整は、ロールペーパ径の巻径に応じて段階的に行われることになる。

(イ)原出願当初明細書
原出願当初明細書(甲8)には次の記載がある。
「【0012】
もう1つ別の方法として、非回転に支持された支持軸の周りに回転自在に設けたロール支持筒にブレーキ手段を係合させ、ロール支持筒に装着されたロールペーパから繰り出されるシートの長さを測長センサにより検出すると共にロール支持筒の回転角度を角度センサにより検出し、両センサにより得た所定長さ又は所定回転角度のいずれかを基準とし回転角度又はシート長さの変化により繰出し後のロールペーパ巻量を求め、その巻量の直径に応じて段階的にブレーキ手段のブレーキ力を制御してシート張力を調整することから成るシート張力調整方法を採用することもできる。」
「【0016】
上記第3の発明のシート張力調整方法では、測長センサと角度センサの2つのセンサによる信号検出が前提である。上記2つのセンサによる検出信号を得ると、そのいずれか一方のセンサの所定量を基準として他方のセンサの変化による巻量の変化を直接得ることができる。
【0017】
巻量の変化の所定範囲をロールペーパの巻量直径の変化に予め対応させておけば、巻量の変化を検出するだけでブレーキ力の段階的な制御のレベルを選択することができ、従って巻量の直径に応じてブレーキ力を制御しシート張力を各段階毎に最適な張力に調整することができることとなる。」
「【0020】
【実施の形態】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は薬剤分包機の主として給紙部と分包部とを取り出した概略構成図である。給紙部は水平に支持された支持軸1に芯管Pに薬剤分包用のシートをロール状に巻いたロールペーパRが回転自在に装着され、上記ロールペーパRから引き出された包装シートSが送りローラ2、3を通り、次の分包部へ供給されるように形成されている。
【0021】
分包部は、三角板4で2つ折りにされた際にホッパ5から所定量の薬剤が投入された後ミシン目カッタを有する加熱ローラ6により所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールするように設けられている。なお、分包部はこれ以外の構成部材も多数あるが、複雑になるのを避けるため必要な部材のみを示している。
【0022】
図2は給紙部にロールペーパRと芯管Pを装着した状態の主縦断面図である。図示のように、支持軸1はその一端がナットにより支持板11に取付固定された中心軸1aと、これに一体に嵌合された外軸1bと、上記外軸1bの左右両端寄り位置に設けた軸受12、12を介して回転自在に取り付けられる中空軸1cとから成る。
【0023】
13は中心軸1aの片端の軸ヘッド、14は外軸1bの片端のフランジ部である。中空軸1cの反対側端にもフランジ部15が設けられている。上記支持軸1に芯管Pとこれに巻回されたロールペーパRが装着されると中空軸1cにより回転自在に支持されると共に、フランジ部15の内径面に適宜間隔に配置された複数個の磁石16とこれに対向して予め芯管Pの端面円周に沿って配設された強磁性体(鉄部)17に対する吸着力により、装着された芯管PとロールペーパRが中空軸1cに着脱自在に固定される。
【0024】
上記中空軸1cにはモータブレーキ20が係合し、ロールペーパRから繰り出される包装シートSに適度な張力を付与している。モータブレーキ20は支持板11に取付けられており、図示しない伝動ベルトを介して歯車ユニット21を回転させ、その出力軸上に設けたピニオン22が、フランジ部15の外端面に設けた大歯車23に係合して中空軸1cにブレーキ力を与えるようになっている。
【0025】
モータブレーキ20は、小さな交流モータ(AC)であり、供給電源として直流電圧を加えることによりブレーキ力を与えるように使用される。この場合、後で説明するように、直流電圧の値を4段階に変化させて繰り出される包装シートSの張力の大きさに応じてブレーキ力を変化させる。」
「【0027】
・・・制御回路30は、エンドセンサ31からの信号、送りローラ3に設けられたロータリエンコーダ32からの信号、あるいは加熱ローラ6の軸に連結されるモータ6aの出力軸上でその回転数を計測する回転数カウンタ33からの信号のいずれかによりモータブレーキ20へブレーキ力を与えるための制御指令、及びモータ6aへの制御指令を出力するように構成されている。・・・」
「【0033】
・・・従って、ロータリエンコーダ32からの信号を制御回路30により受信し、測長信号に変換して包装シートSの長さを送りローラ3の位置で検出し、その長さが上記N=1?4の各段階の範囲内にある時は、各段階の範囲内で同じ張力を与えるようにモータブレーキ20へそれぞれの段階に必要な直流電圧を送るように制御信号を送る。」
「【0043】
図5以下に第2実施形態の張力調整装置の構成部材及び作用の説明図等を示す。第2実施形態では、図1?図3の基本構成に下記構成部材を付加することによりさらに高精度の張力調整装置を構成している。
【0044】
給紙部と分包部の構成は図1?図3に示したものを共通に使用し、さらに図2及び図5に示すように、芯管Pに設けた磁石24とホール素子センサ25から成る回転角度センサからの信号、及び近接スイッチ26と突起27から成る包装シートのずれ検出センサからの信号が、図3に示すように、制御回路30へ入力される点が第1実施形態と異なっている。
【0045】
即ち、第1実施形態の測長センサの信号と、上記回転角度センサの信号とからロールペーパRの包装シートSの繰出量を正確に算出してロールペーパRの巻直径の変化に対応したブレーキ力の調整をし張力調整を適正に行おうとするものである。
【0046】
図7に示すように、この第2実施形態の芯管Pの内周沿いと支持軸1の片端にそれぞれ設けられる磁石24とホール素子センサ25は、4つの磁石24が1つの基点から67.5°ずつ位置が異なる各4点に配置され、4つのホール素子センサ25は上記基点を通る中心線とこれに直交する中心線上の4つの位置に配置されている。」
「【0050】
図6は図2の矢視VI-VIから見た側面図であり、主として上記包装シートのずれ検出センサの配置を示すためのものである。この例では支持板11に1つの近接スイッチ26が設けられ、支持軸1の回転する中空軸1c端のフランジ部15に16ケの突起27が形成されている。」
「【0052】
第2実施形態の張力調整装置は上記の構成であり、以下その作用について説明する。基本的な作用は、図9に示すように、ロータリエンコーダ32による測長信号に基づいて得られる包装シートの繰出量lと、角度センサであるホール素子センサ25のパルス信号に基づく角度θとによりロールペーパの巻量の状態を検出することである。」
「【0054】
図示のように、包装シートの繰出量lを繰出す際に(a)のように巻量半径が大きければ角度センサのパルス数は少なく、(b)のように巻量半径が小さければパルス数は多くなる。従って、最大径のパルス数が例えば図示のように3、最小径の数が10であれば、パルス数が3?10に変化する過程を、例えば4段階に分けてロールペーパRの直径の変化に対応させて各直径段階に対応した張力を包装シートSに付与し得る直流電圧をモータブレーキ20へ送りブレーキ力を調整する。」
「【0083】
第2実施形態では、ロータリエンコーダ32により繰出量を検出し、その検出値からロールペーパの巻量を求め、その巻量に対応するホール素子センサ25を用いた角度検出センサのパルス信号により巻量半径を求めてブレーキ力を調整し、かつ近接スイッチ26によるずれ検出センサで芯管Pのフランジ15に対する「ずれ」を検出するようにした・・・」

そうすると、原出願当初明細書には、薬剤分包用ロールペーパについて、次の事項(以下「原出願のロールペーパに係る記載事項」という。)が記載されているといえる。
「非回転に支持された支持軸1の周りに回転自在に中空軸1cを設け、中空軸1cにはモータブレーキ20を係合させ、中空軸1cに着脱自在に装着されるロールペーパRのシートSを送りローラ2及び3で送り出す給紙部と、
2つ折りされたシートSの間にホッパ5から薬剤を投入し、薬剤を投入されたシートSを所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールする加熱ローラ6を有する分包部とを備え、
ロールペーパRの回転角度を検出するために芯管Pに設けた磁石24と支持軸1に設けたホール素子センサ25からなる回転角度センサを設け、上記中空軸1c端のフランジ部15に形成した突起27と上記支持軸1の支持板11に設けた近接スイッチ26からなるずれ検出センサを設け、分包部へのシート送り経路上に設けたローラ3に設けられ、測長信号に変換される信号を出力するロータリエンコーダ32を設け、支持軸1の側端に設けられたフランジ部15の内径面に適宜間隔に配置された複数個の磁石16とこれに対向してあらかじめ芯管Pの端面円周に沿って配設された強磁性体17に対する吸着力により、芯管PとロールペーパRが中空軸1cに着脱自在に固定されるものであり、その固定時に両者は一体に回転するものであり、ホール素子センサ25及びロータリエンコーダ32の信号に基づいてシート張力をロールペーパ径に応じて段階的に調整しながら薬剤を分包するようにし、さらにホール素子センサ25の信号とずれ検出センサの信号との不一致により上記中空軸1cに着脱自在に装着されたロールペーパRと上記中空軸1cとのずれを検出するようにした薬剤分包装置に用いられ、
芯管Pとその上に薬剤分包用シートSをロール状に巻いたロールペーパRとから成り、ロールペーパRのシートSの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与するために、支持軸1に設けたホール素子センサ25による回転角度の検出信号とロータリエンコーダ32の検出信号とからシートSの巻量が算出可能であって、そのホール素子センサ25による検出が可能な位置に磁石24を配置し、その磁石24をロールペーパRと共に回転するように配設して成る薬剤分包用ロールペーパ。」

(ウ)判断
本件発明1の「薬剤分包用ロールペーパ」が、上記原出願のロールペーパに係る記載事項の範囲内のものであるか検討する。
原出願のロールペーパに係る記載事項の「ホール素子センサ25からなる回転角度センサ」は、磁石24よりの磁力を検出することによって、ロールペーパRの回転角度を検出するために支持軸1に設けられたものであるから、本件発明1の「角度センサ」と一致する。
原出願のロールペーパに係る記載事項の「支持板11」は、本件発明1の「固定支持板」と一致する。そして、上記のとおり、原出願のロールペーパに係る記載事項の「中空軸1c」は、本件発明1の「中空軸」に相当することを踏まえると、「上記中空軸1c端のフランジ部15に形成した突起27と上記支持軸1の支持板11に設けた近接スイッチ26からなるずれ検出センサ」は、「中空軸と支持軸の固定支持板間で中空軸1cのずれを検出するずれ検出センサ」と一致する。
原出願のロールペーパに係る記載事項の「分包部へのシート送り経路上に設けたローラ3に設けられ、測長信号に変換される信号を出力するロータリエンコーダ32」は、ロータリエンコーダ32からの信号により、シートを測長できるのであるから、本件発明1の「測長センサ」に一致する。
原出願のロールペーパに係る記載事項の「複数個の磁石16」と、「磁石16」に対向して配設された「強磁性体17」を設けることは、両者の「吸着力」により「芯管PとロールペーパRが中空軸1cに着脱自在に固定されるものであり、「磁石16」は「支持軸1」の端部に設けた「フランジ15の内径面」に設けられ、「強磁性体17」は「芯管Pの端面円周」に設けられるものであり、それぞれ「支持軸1」及び「芯管P」の「端」にあるから、本件発明1の「ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその固定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接する端に設け」たことに一致する。
そうすると、本件発明1の「薬剤分包用ロールペーパ」自体の構成は、原出願当初明細書に記載された「薬剤分包用ロールペーパ」の構成と同じであって、薬剤分包装置側において、シート張力をロールペーパ径に応じた調整が段階的なものであるかどうかにかかわらず、構成上十分に特定されているのであるから、本件発明1は、原出願当初明細書に記載した事項の範囲内のものといえる。
よって、事項7を理由として本件特許に係る出願の分割が不適法なものであるとはいえず、参考人の主張を採用することはできない。

ク.分割の適否についてのまとめ
上記ア.?キ.に示したように、事項1?7を理由として、本件特許出願は原出願の願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内においてしたものではないとはいえないから、本件特許出願は、原出願を適法に分割したものである。
よって、本件特許の出願は、特許法第44条第2項の規定により、原出願の出願日である平成9年9月22日にしたものとみなす。

(2)特許法第29条第1項第3号について
上記(1)ク.に示したように、本件特許の出願は、原出願の出願日である平成9年9月22日にしたものとみなす。
したがって、原出願に係る公開公報である特開平11-157715号公報(甲1)は、平成11年6月15日が出願公開日であるから、本件特許出願前に頒布された刊行物であるとはいえない。
よって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するとはいえない。

(3)無効理由1についてのまとめ
以上に示したとおり、本件発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないとはいえない。そして、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当するから、参加人が主張する無効理由1によって無効とすべきであるとはいえない。

2.無効理由2(特許法第29条第2項)についての判断
(1)分割要件について
上記1.(1)ク.に示したとおり、本件特許出願は、適法に分割されたものであるから、その出願は、原出願の出願日である平成9年9月22日にしたものとみなす。

(2)特許法第29条第2項について
上記1.(2)に示したように、甲1は、本件特許出願日前に頒布された刊行物であるとはいえないから、本件発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものであるとはいえない。

(3)無効理由2についてのまとめ
上記(2)に示したとおりであるから、本件発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許受けたものであるとはいえない。よって本件発明1及び2に係る特許は、特許法第123条第1項第2項の規定に該当するから、参加人が主張する無効理由2によって無効とすべきであるとはいえない。

3.無効理由3(特許法第17条の2第3項)についての判断
(1)本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許当初明細書」という。甲3)に記載された事項
本件特許当初明細書には、以下の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ロールペーパから引き出されるシートの張力を調整しながら給紙部からシートを送り分包部で薬剤を分包する薬剤分包装置に用いられる薬剤分包用ロールペーパに関する。
【0002】
【従来の技術】
薬剤分包装置として、熱融着性分包紙のシートをロール状に巻いたものを回転自在に支持したシート供給部からシートを引き出して移送する移送路にシール装置が設けられ、このシール装置の上流側でシートを2つ折りにすると共にその間に薬剤を供給した後シール装置によりシートを幅方向と両側縁部とを帯状に加熱融着して薬剤を分包するようにしたものが知られている。」
「【0004】
このため、上記シートロールの径が変化が生じても張力がほぼ一定となるように調整するシート張力調整装置が実行平1-36832号公報により提案されている。この公報によるシート張力調整装置は、シートロールをロール支持筒に着脱自在に嵌合装着し、シートロール側方に複数の巻径検出センサを径方向に配置し、この検出センサの信号によりロール支持筒内部に設けた電磁ブレーキの電磁力を調整してロール径が小さくなるにつれて段階的にブレーキ力を弱めることにより張力を一定となるように調整している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述した従来のシート張力調整装置では、シートの使用による巻量の変化を径方向に配置した巻径検出センサで段階的に検出する方式を採用しているため、検出センサのランクが切替わる径になると、芯管軸の偏心、シートの重量、巻き歪みなどの原因により電磁ブレーキのブレーキ力ランクが1回転毎に上下に変動するバイブレーション現象が生じる。このため、張力変動により分包部でシートを2つ折りした際にシートの縁部が正確に重ならない、いわゆる耳ずれが生じ、包装不良部分が生じることがある。
【0006】
又、ブレーキ力のランクが急激に変動するため幅方向に裂傷が生じたりすることもある。検出センサの誤動作の原因は、上記以外にも、光反射式のものを用いていることによるものもある。薬剤包装装置に使用されるシートの材料として、グラシン紙(半透明)、セロポリ紙(透明)等種々のものがあるが、これらシートの端面位置が各層毎に微妙に変化すると反射される反射光の戻りが異なり信号として検出されないため検出精度が悪化したり、特にセロポリ紙では湿度変化による影響が大きいため蛇行巻きされ易く、端面の凹凸が原因で検出精度が悪くなることもある。
【0007】
さらに、シートを分包部で2つ折りする位置より上流側に一般には分包紙に印字するためのサーマルプリンタが設けられているが、このサーマルプリンタにおいて印字ドット欠けや印字装置の残量表示機構のランプが、バイブレーション現象により耐久性の低下を起こしたりする。」
「【0011】
この発明は、上記のような従来の薬剤分包装置における問題点に留意して、極薄のシートを巻いたロールペーパの巻状態によるロールペーパ直径の微妙な変動による影響で制御すべき段階的に選択されるブレーキ力のレベル変動を生じることなく各段階毎に的確にブレーキ力を設定しロールペーパの直径に応じた適正な張力を安定して給紙部に与え、シートに耳ずれや裂傷が生じたりせずに分包シートで薬剤を分包することのできる薬剤分包装置に用いられ、分包装置の給紙部における角度センサに対し回転角度データを与えることのできる薬剤分包用ロールペーパを提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記課題を解決する手段として、非回転に支持された支持軸の周りに回転自在に中空軸を設け、中空軸にはモータブレーキを係合させ、中空軸に着脱自在に装着されるロールペーパのシートを送りローラで送り出す給紙部と、シートを2つ折りしその間にホッパから薬剤を投入し、薬剤を投入されたシートを所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールする加熱ローラを有する分包部とを備え、ロールペーパの回転角度を検出するために支持軸に角度センサを設け、分包部へのシート送り経路上でシート送り長さを測定する測長センサを設け、ロールペーパを上記中空軸に接合回転可能に接合する手段をロールペーパと中空軸が接する端に設け、両センサの信号に基づいてシート張力をロールペーパ径に応じて調整しながら薬剤を分包するようにした薬剤分包装置に用いられ、中空芯管とその上に薬剤分包用シートをロール状に巻いたロールペーパとから成り、ロールペーパのシートの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与するために、支持軸に設けた角度センサでシートの巻量が検出可能な位置に磁石を配置し、その磁石をロールペーパと共に回転するように配設して成る薬剤分包用ロールペーパとしたのである。
【0013】
上記薬剤分包装置では、分包部での分包作用において耳ずれや裂傷が生じないように給紙部から供給されるシートのシート張力を調整して分包作業が行われる。その際、測長センサと角度センサの2つのセンサによる信号検出が前提である。上記2つのセンサによる検出信号を得ると、そのいずれか一方のセンサの所定量を基準として他方のセンサの変化による巻量の変化を直接得る。
【0014】
巻量の変化の所定範囲をロールペーパの巻量直径の変化に予め対応させておけば、巻量の変化を検出するだけでブレーキ力の段階的な制御のレベルを選択することができ、従って巻量の直径に応じてブレーキ力を制御しシート張力を各段階毎に最適な張力に調整することができることとなる。
【0015】
この場合、ブレーキ力を段階的に変化させてもその切替えによる張力の変化によって耳ずれや裂傷が生じない範囲内でブレーキ力が変化するようにブレーキ力の各ランクが順次大きい方から小さい方へ切替えられるようになっているから、従来のようにロールペーパの巻径をセンサで直接検出する方式では巻径の不均等な巻きによりブレーキ力のランク切替え直径付近でブレーキ力の各ランクが急激に上下に変動するような不都合はその制御方式の違いにより生じることはない。」
「【0017】
【実施の形態】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は薬剤分包装置の給紙部と分包部とを取り出した概略構成図である。給紙部は水平に支持された支持軸1に芯管Pに薬剤分包用のシートをロール状に巻いたロールペーパRが回転自在に装着され、上記ロールペーパRから引き出された包装シートSが送りローラ2、3を通り、次の分包部へ供給されるように形成されている。
【0018】
分包部は、三角板4で2つ折りにされた際にホッパ5から所定量の薬剤が投入された後、ミシン目カッタを有する加熱ローラ6により所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールするように設けられている。なお、分包部はこれ以外の構成部材も多数あるが、複雑になるのを避けるため必要な部材のみを示している。」

そうすると、上記摘記から、本件特許当初明細書には、「ロールペーパから引き出されるシートの張力を調整しながら給紙部からシートを送り分包部で薬剤を分包する薬剤分包装置に用いられる薬剤分包用ロールペーパに関する」ものであって、特に、「熱融着性分包紙のシートをロール状に巻いたものを回転自在に支持したシート供給部からシートを引き出して移送する移送路にシール装置が設けられ、このシール装置の上流側でシートを2つ折りにすると共にその間に薬剤を供給した後シール装置によりシートを幅方向と両側縁部とを帯状に加熱融着して薬剤を分包するようにしたもの」に関するものが記載されている。(【0001】、【0002】)
そして、そのような薬剤分包装置において、従来は、「シートロールの径の変化が生じても張力がほぼ一定となるように調整するシート張力調整装置」が提案されていたところ、そのものにおいては、「巻量の変化を径方向に配置した巻径検出センサで段階的に検出する方式を採用しているため、検出センサのランクが切替わる径になると、芯管軸の偏心、シートの重量、巻き歪みなどの原因により電磁ブレーキのブレーキ力ランクが1回転毎に上下に変動するバイブレーション現象が生じる。このため、張力変動により分包部でシートを2つ折りした際にシートの縁部が正確に重ならない、いわゆる耳ずれが生じ、包装不良部分が生じる」、また、「ブレーキ力のランクが急激に変動するため幅方向に裂傷が生じたりすることもある。検出センサの誤動作の原因は、上記以外にも、光反射式のものを用いていることによるものもある。」との課題があった。(【0004】?【0006】)
本件発明は、当該課題を解決するために、「ロールペーパの回転角度を検出するために支持軸に角度センサを設け、分包部へのシート送り経路上でシート送り長さを測定する測長センサを設け、ロールペーパを上記中空軸に接合回転可能に接合する手段をロールペーパと中空軸が接する端に設け、両センサの信号に基づいてシート張力をロールペーパ径に応じて調整しながら薬剤を分包するようにした薬剤分包装置」に用いられる「薬剤分包用ロールペーパ」であって、「中空芯管とその上に薬剤分包用シートをロール状に巻いたロールペーパとから成り、ロールペーパのシートの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与するために、支持軸に設けた角度センサでシートの巻量が検出可能な位置に磁石を配置し、その磁石をロールペーパと共に回転するように配設」したものである。そのような構成としたことにより、「測長センサと角度センサの2つのセンサ」による検出信号を得ると、「そのいずれか一方のセンサの所定量を基準として他方のセンサの変化による巻量の変化を直接得る」ことができるから、巻量の変化の所定範囲をロールペーパの巻量直径の変化に予め対応させておけば、「巻量の変化を検出するだけでブレーキ力の段階的な制御のレベルを選択することができ、巻量の直径に応じてブレーキ力を制御しシート張力を各段階毎に最適な張力に調整することができ」、「ブレーキ力を段階的に変化させてもその切替えによる張力の変化によって耳ずれや裂傷が生じない範囲内でブレーキ力が変化するようにブレーキ力の各ランクが順次大きい方から小さい方へ切替えられるようになっているから、従来のようにロールペーパの巻径をセンサで直接検出する方式では巻径の不均等な巻きによりブレーキ力のランク切替え直径付近でブレーキ力の各ランクが急激に上下に変動するような不都合はその制御方式の違いにより生じることはない」、との格別な作用効果を奏するものである。(【0012】?【0015】)
そして、「実施の形態」として、「芯管Pに薬剤分包用のシートをロール状に巻いたロールペーパR」を「薬剤分包装置」の「給紙部」の「支持軸1」に回転自在装着し、当該「ロールペーパR」から、引き出された「包装シートS」が「分包部」へ供給され、「分包部」において、「包装シートS」は、「三角板4で2つ折りにされた際にホッパ5から所定量の薬剤が投入された後、ミシン目カッタを有する加熱ローラ6により所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシール」されるものが記載されている。(【0017】、【0018】)

(2)判断
上記(1)から理解されるとおり、本件特許当初明細書に記載されている本願の課題は、従来のシート張力調整装置でのバイブレーション現象によって、シートが2つ折りにされて薬剤が投入される分包部で発生する不具合等であることが理解できるところ、当該シート張力調整装置を備えた薬剤分包装置に用いられるロールペーパのタイプが、シングルタイプのロールペーパであるかダブルタイプのロールペーパであるかは、本件特許当初明細書において問題とされていない。そして、このことは、本件発明1に係る請求項中の記載が、本件補正により「シートを2つ折りにし」という記載が「2つ折りにされたシート」とされた後の本件特許明細書においても変わりはない。本件特許当初明細書の「実施の形態」には、シングルタイプのロールペーパを用いた例が記載され、ダブルタイプのロールペーパを用いた例についての明示的な記載はないとしても、上記のとおり、ロールペーパのタイプがシングルタイプであるかダブルタイプであるかは、本願の課題との関係で当初より問題とされていないのであるから、上記「実施の形態」は、単にいずれかのタイプを用いた一例が示されていると解するのが相当である。
そうすると、本件補正により、本件発明1が本件特許当初明細書に明示的な記載のないダブルタイプのものも含み得ると解されるようになったとしても、本件特許当初明細書はロールペーパのタイプは問わないものとして理解されるものであるのだから、本件補正によって、本件発明1が、本件特許当初明細書との関係において、新たな技術的事項が導入されたものとなったとすることはできない。
なお、あらかじめ2つ折りにされたシートがロールに巻かれ、薬剤は、2つ折りにされて重なったシートを開いて、その間隙に投入される、すなわち、ダブルタイプのロールペーパは、本件特許の遡及出願日前に、例えば、特開昭59-115223号公報(2ページ右下欄6?8行、第4図を参照。)、並びに、特開昭54-38887号公報(2ページ右下欄3?7行、第3図を参照。)に記載されているように、ロール紙による薬剤分包装置の技術分野において、周知である。
そして、当該周知のダブルタイプのロールペーパにおいても、2つ折りにされて巻かれたシートを巻き戻して、シートの縁部を開いて空隙を設け、当該空隙に薬剤を投入したならば、投入した薬剤の個々の大きさや個数によっては、折り目の両側のシートの薬剤による膨らみが相違し、当該相違に起因してシートの縁部が正確に重ならない事態、すなわち、「耳ずれ」が生じ得ることは、当業者にとって自明である。そして、「耳ずれ」が生じるのは、分包部において、シートの縁部を重ねるとき、すなわち薬剤をシート縁部が開いた間隙へ投入した後であり、この点、シングルタイプと異なるところはない。したがって、ダブルタイプのロールペーパにおいても、シートにおける不適切な張力変動に起因して、「耳ずれ」が生じ得ることが理解できる。

(3)参加人の主張について
参加人は、被請求人が平成15年頃に発売開始したダブルタイプのロールペーパを使用する薬剤分包装置「charty」のカタログ(甲22)における「従来タイプで発生した紙ズレや、ヒーターローラーへの糊づきを防止するために、新たに採用したオリジナル仕様の2つ折分包紙です。」との記載から、被請求人は、シングルタイプで生じる「耳ずれ」「紙ズレ」を解消するためにダブルタイプのロールペーパを開発したことを自認している、と主張している。(請求人上申書(1) 6(2))
しかし、上記(2)に示したように、ダブルタイプのロールペーパは、本件特許の遡及出願日前において、ロール紙による薬剤分包装置の技術分野において、広く用いられていたとの技術常識を踏まえると、上記甲22の記載の「従来タイプ」が「シングルタイプ」のものであると理解することはできず、むしろ、上記甲22の記載は、従来のダブルタイプのロールペーパにおいて生じていた「紙ズレ」や「ヒータローラへの糊づき」の問題を解決する「新たに採用したオリジナル仕様」を有する「2つ折分包紙」を指すものと理解するのが自然であるから、この点についての参加人の主張は採用できない。

(4)無効理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから本件補正は、特許法第17条の2第3項に適合し、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第123条第1項第1号の規定に該当しないから、参加人が主張する無効理由3によっては、無効とすることはできない。

4.無効理由4(特許法第36条第6項第1号)についての判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、段落【0012】以外について、上記3.(1)に示した事項が記載されている。そして、段落【0012】については、平成20年5月15日付け手続補正書により補正された次の事項が記載されている。(下線は補正箇所で当審で付した。)
「【0012】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記課題を解決する手段として、非回転に支持された支持軸の周りに回転自在に中空軸を設け、中空軸にはモータブレーキを係合させ、中空軸に着脱自在に装着されるロールペーパのシートを送りローラで送り出す給紙部と、シートを2つ折りしその間にホッパから薬剤を投入し、薬剤を投入されたシートを所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールする加熱ローラを有する分包部とを備え、ロールペーパの回転角度を検出するために支持軸に角度センサを設け、分包部へのシート送り経路上でシート送り長さを測定する測長センサを設け、ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその固定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接する端に設け、両センサの信号に基づいてシート張力をロールペーパ径に応じて調整しながら薬剤を分包するようにした薬剤分包装置に用いられ、中空芯管とその上に薬剤分包用シートをロール状に巻いたロールペーパとから成り、ロールペーパのシートの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与するために、支持軸に設けた角度センサによる回転角度の検出信号と測長センサの検出信号とからシートの巻量が算出可能であって、その角度センサによる検出が可能な位置に磁石を配置して成る薬剤分包用ロールペーパとしたのである。」

上記段落【0012】についての補正に係る記載は、補正前の「ロールペーパを上記中空軸に接合回転可能に接合する手段」とあるのを、「ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその固定時に両者を一体に回転させる手段」に補正し、また補正前の「支持軸に設けた角度センサでシートの巻量が検出可能な位置に磁石を配置して成る薬剤分包用ロールペーパ」を、「支持軸に設けた角度センサによる回転角度の検出信号と測長センサの検出信号とからシートの巻量が算出可能であって、その角度センサによる検出が可能な位置に磁石を配置して成る薬剤分包用ロールペーパ」と補正するものであって、いずれの補正事項も、補正前後において、ロールペーパがダブルタイプであるか、シングルタイプであるかとは直接関係しない事項についての補正である。
そして、本件発明1及び2は、「ロールペーパのシートの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与するために、支持軸に設けた角度センサによる回転角度の検出信号と測長センサの検出信号とからシートの巻量が算出可能」との構成を備えたことにより、上記本件発明の課題が解決できることが理解できる。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。
よって、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当しないから、参加人が主張する無効理由4によっては、無効とすることはできない。

5.無効理由5(特許法第36条第6項第2号)についての判断
本件発明1に記載された「2つ折りされたシート」は、「非回転に支持された支持軸の周りに回転自在に中空軸を設け、中空軸にはモータブレーキを係合させ、中空軸に着脱自在に装着されるロールペーパのシートを送りローラで送り出す給紙部と、2つ折りされたシートの間にホッパから薬剤を投入し、薬剤を投入されたシートを所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールする加熱ローラを有する分包部とを備え」るものである。
ここで、本件発明1は「薬剤分包装置」、すなわち「薬剤」を「分包」するものであって、かつ、「分包」とは、「粉薬・丸薬などを一包みずつに分けて包むこと。」(広辞苑 第六版)である。
そうすると、上記本件発明1の「2つ折りされたシートの間にホッパから薬剤を投入し、薬剤を投入されたシートを所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールする」とは、2つ折りされたシールの折り目と、幅方向と両側縁部に加熱ローラによって帯状にヒートシールされた部分によって、薬剤を一包みずつ分けて包むことであり、そして、「2つ折りされたシート」とは、「ホッパから薬剤を投入する」際に、薬剤がシートからこぼれ落ちることのないように、シートの幅方向の中央に長手方向に向けた折り目によって、2つ折りにされた状態のシートのことであると理解できる。
したがって、本件発明1の「2つ折りされたシート」の記載が、第三者に対して不測の不利益を生じるほど、明確ではないとまではいえないから、本件発明1及び2が明確ではないとはいえず、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2項の規定に適合する。
よって、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当しないから、参加人が主張する無効理由5によっては、無効とすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1及び2に係る特許は、参加人が主張する無効理由1?5によっては無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、参加人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-20 
結審通知日 2019-05-22 
審決日 2019-06-13 
出願番号 特願2000-166273(P2000-166273)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (B65B)
P 1 113・ 121- Y (B65B)
P 1 113・ 113- Y (B65B)
P 1 113・ 561- Y (B65B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関谷 一夫山崎 勝司岩田 健一  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 井上 茂夫
久保 克彦
登録日 2008-10-03 
登録番号 特許第4194737号(P4194737)
発明の名称 薬剤分包用ロールペーパ  
代理人 高瀬 亜富  
代理人  
代理人 町野 静  
代理人 村上 友紀  
代理人 飯島 歩  
代理人 吉田 昌司  
代理人 横井 知理  
代理人 真鍋 怜子  
代理人 松下 外  
代理人  
代理人 藤田 知美  
代理人 ▲柳▼下 彰彦  

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